1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十九年五月二十六日(水曜日)
午前十時二十二分開会
—————————————
出席者は左の通り。
委員長 郡 祐一君
理事
上原 正吉君
宮城タマヨ君
亀田 得治君
委員
青木 一男君
大谷 贇雄君
小野 義夫君
楠見 義男君
中山 福藏君
三橋八次郎君
小林 亦治君
棚橋 小虎君
一松 定吉君
羽仁 五郎君
国務大臣
国 務 大 臣 木村篤太郎君
政府委員
法制局第二部長 野木 新一君
保安政務次官 前田 正男君
保安庁次長 増原 恵吉君
保安庁長官官房
長 上村健太郎君
事務局側
常任委員会専門
員 西村 高兄君
常任委員会専門
員 堀 真道君
—————————————
本日の会議に付した事件
○日米相互防衛援助協定等に伴う秘密
保護法案(内閣提出、衆議院送付)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/0
-
001・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 只今より委員会を開会いたします。
日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法案を議題に供します。本案につきましては昨日を以て質疑を終局しておりますので、これより直ちに討論に入ります。御意見のおありの方は賛否を明らかにしてお述べを願います。
なお念のために申上げますが、討論の御発言時間は、昨日御決定願いましたところによりまして、一会派十五分以内でお願いいたします。又修正案、附帯決議案を御提出の方は、討論中にお出しを願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/1
-
002・一松定吉
○一松定吉君 私は本法案に対しましては、その立法の趣旨には賛成でありますが、ただその修辞等が少しく不明確な点がありまするし、少しく範囲が広過ぎているとかというような点がありまするところをよくしぼつて明確にしたいというような立場から、本案に対しましては修正の動議を提出いたします。
先ず私が修正したいという点だけを申上げますが、お手許に配付してありまする私のこの本法案に対します対照表を御覧を賜わりますと、私の申上げることが一層明瞭になろうと思います。
先ず第一条につきまして、第一条のうちの第一項第二項、これにつきましては別に修正も何もございません。
第三項のうちの一号です。これは御承知の通りに、原案には「日米相互防衛援助協定等に基き、アメリカ合衆国政府から供与される装備品等について左に掲げる事項」とありますが「される」という語句は、英訳等からすれば、現在もうすでにされているというようなものも含むという意見もありますが、普通一般人に周知せしむる意味から、やはり日本語の文法に従いまして、未来とか、というようなものは含まない。すでにもう供与されているものについて秘密を保護する必要があるのだという政府の答弁を採用いたしまして、「アメリカ合衆国政府から供与された」、かように修正をいたしたいのでございます。
同じく第二号の、「供与される情報」とありまするのを、「供与された情報」と、かように修正をいたしたいのでございます。
それから第二条につきましては修正はございません。
第三条は、第一項の中の第一号、これはこのままにいたしまして、第三条の一項の第二号、御承知の通り原案では「防衛秘密で、通常不当な方法によらなければ探知し、又は収集することができないようなものを他人に漏らした者」とありますが、この用語は少しく不明確でありまするから、これを明確にする意味におきまして私は「わが国の安全を害する目的をもつて、防衛秘密を他人に漏らした者」とかようにこれを修正をいたしたいのでございます。
それからその第三条の第三号は、原案では「業務により知得し、又は領有した防衛秘密を他人に漏らした者」とありまするこの「業務」という文字が、どうも不明確でありまするので、これは余り又広く何でもかんでも業務をやつている者はとなりますと、非常に立法者の趣旨にも反するように思いましたので、私はこれを防衛秘密を取扱うことに関係のある者にしぼりたいという意味におきまして、その関係ある者と、関係はなくてもその秘密を知得、若しくは領有したものとにこう二つに分けて、そうしてこれの区分をすることが穏当であると、かように考えまして、原案の「業務により知得し、又は領有した防衛秘密を他人に漏らした者」というのを二つに分けまして、その修正の第三号といたしまして、「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者で、その業務により知得し、又は領有した防衛秘密を他人に漏らしたもの」これは十年でもよろしい。併しながら、その防衛秘密を取扱うことを業務とする者でなくて、ただ何らかの機会に防衛秘密を知つた、その者が他人に漏らしたときは、防衛秘密を取扱う者が漏らしたより情状が軽いのであるからして、これは科刑を軽くする、半分にする、こういう意味におきまして、さような者は五年以下の懲役に処するという、この第三号で今申上げましたように業務に関係ある者を罰して、そうして別に二項を設けまして、第二項には、業務に関係ない者は五年以下の懲役に処するということを一項これは加えたのでございます。こういたしますると、今非常に世間で問題になつております、例えば裁判官とか、弁護士とか、或いは検事、警察官とか、或いは国会議員が国会の決議によつてそういう工場を視察して秘密を領得するというようなものは、いわゆるこれを漏らしたとしても十年以下の懲役でなくて五年以下の懲役と、こういうふうに二つに分けることが必要だと思つてこの修正をいたしたのでございます。
それからその次の第四条は、今と同じように原案には「業務により」とありますのを、第三条の「業務により」ということを修正したのと同じ意味におきまして「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者でその業務により」かように修正いたしたいのであります。そうして科刑の点は同じようにやはり、「二年以下の禁こ又は五万円以下の罰金」こういうふうに修正し、なお第四条に第二項を入れます。それはつまり業務により知得し、若しくは領有したものを過失により漏らしたのですが、そういう業務等によつて漏らした者以外に、第三条第二項を設けましたように、そういうような防衛秘密に関係のない者が漏らしたときにはどうするか、そこでこれはそういう場合にはやはりこれを過失によつて漏らしてもこれを処罰しなければならない。そうかと言つて一般に誰でもが過失によつて漏らしたときに罰するということは、これは政府当局の考えてもいないところであるという御説明でありますので、又私どももそこまで範囲を拡げて罰するということはよくないと思います。やはりここに「前項に掲げる者を除き、」即ち業務に関係ある者を除き、「業務により知得し、又は領有した防衛秘密を」かようにいたしました。一般国民が全部包含しないということになつて業務により知得し若しくは領有した秘密ということになるのでありますから、即ち新聞記者とか或いは裁判官、検事、警察官、或いは国会議員というような、そういう業務によつて知得した者が過失によつて漏らしたときには、これを業務によつて知得した者が過失によつて漏らしたときよりも刑を軽くする必要があるということで、「一年以下の禁こ又は三万円以下の罰金に処する。」というように、かようにこれを修正補足いたしたのであります。
それから第五条の第一項は、これはこのままでありまして、これに原案の二項と一項との間に新たに二項を設けまして、原案の二項を三項に繰下げて、そうして二項は、「第三条第二項の罪の陰謀をした者は、三年以下の懲役に処する。」これはつまり業務に従事しておる者が陰謀をした場合は五年以下であるが、業務によらないで知つておる者が陰謀をしたときは三年以下の懲役、即ち第三条の五年以下の懲役に処せられたこの仲間が謀議をしたときには三年以下の懲役に処する。そこで業務に従事する者の陰謀は五年、そうでなかつた者は三年以下、かように区別をいたしたのであります。それから第五条の原案には「第三条第一項の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者」とあるのは、これは原案では第二項であつたけれども、修正案では第三項に繰下げまして、原案で「前項」とあるのは即ち第五条の第一項で第三条第一項の罪を犯した者は五年以下とあるのを、私のほうでは三年以下という第二項を中に入れましたから、第一項と同様とすると、即ち第三条第一項の罪を陰謀した者と同じようにこれがなりますので、こういうふうにしてずつと繰下げたのであります。あとはずつと原案の通りであります。
それから第六条の自首減免のところは、これもただ「第三項又は前条第一項若しくは第二項」と、第二項を加えたから原案に少し加えた点を挿入しただけで変りはございません。
そこで第七条を設けまして、この法律を適用するに当りまして、これを拡大解釈をするようなことがあつて、そうして国民に迷惑をかける、若しくは国民の人権を不当に侵害するようなことがあつてはおもしろくないという親心を以ちましてこれをこの第七条に取入れて、この法を運用するものは成るたけこの法を狭義に解釈して、国民の基本的人権を害することのないようにということを挿入して、運用者の注意を促す規定を入れたのであります。そういたしまして、ここで問題になりましたのは皆さん御承知の通り不当という文字をこれは不当ということは私はどうも範囲が茫漠としておつて、拡張解釈の虞れがあるからということで、これは私は不当という文字を不法ということに変える、ほうが適当でないかと一旦考えたのでありますが、併しながら不法という文字と不当という文字とその範囲が広狭の差がありまして、不当よりも不法のほうが範囲が少し狭い、それではのがれるものがある。例えばよく例を挙げます色仕かけで秘密を探るとか、酒を飲ませて探るとか或いは相手方を欺罔して探るとかいうことは、いわゆる不法ではないが不当である。そういうふうにそれが取締りから逸脱しては困るからということで、関係方面からも又他の委員の諸君からもその点の意見もありましたので、これはやはり原案通りにいたしますことにして、不法を不当ということにやはり元の通りにいたしたのでありますが、但し第三条の二号の不当ということはこれは先刻申しましたように、これを簡素にするためにそれを修正しましたから、不当というものが第二号にはなくなつたのであります。そこで第一号の不当という文字を使う代りに、その第七条に今申上げましたように、解釈を拡大してそうして人権を侵害するようなことのないようにということを七条に設けて、この第三条の第一号の不当という文字はそのままにいたしたのでございます。
それからいま一つ私が皆さんの御了解を得ておきたいことは、第二条に「防衛秘密について、標記を附し、関係者に通知する等防衛秘密の保護上必要な措置を講ずるものとする。」ということはいいが、これは関係者に通知するだけであつて、国民一般にこの防衛秘密についてこれを周知徹底せしむるということもやはり設けて、親心を用いて国民が奇禍に触れないようにするのがよかろうという考えを持ちまして一般国民にそれを周知せしむる方法を一つ講じたいということを考えましたが、本文に入れることはどうだかという非難の声も聞きましたので、その点は取り止めまして、附帯決議をつけることを考えておるのであります。その意味から附帯決議案を読み上げますならば、
附帯決議(案)
政府は、防衛秘密の保持と矛盾しない範囲において、防衛秘密の保護の趣旨を一般国民に周知させることに努め、いやしくも一般国民をして不注意のうちにこの法律に定める罪を犯すに至らしめ又は不当に一般国民の言論、出版その他の表現の自由を抑圧するがごとき事態を招来せしめないように、特段の考慮を払うことを要望する。
かように附帯決議を付けまして今申しました第二条の修正を取やめてこの附帯決議によつて一般に周知徹底せしめる方法をとつて、国民をして不慮の災厄にかからないようにしたいという親心でこういう附帯決議を付けることを考え出したのであります。
こういうことでございますからして、どうか皆様もすでにMSAを通過せしめておりまする以上は、それと表裏一体となりまする本法につきましては、一つ速かにこれを可決せしめて、その運用をあやまりなからしむるようにいたしたいと、かように考えて私は本案に賛成すると同時に、修正案を提出した理由でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/2
-
003・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 引続き討論を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/3
-
004・青木一男
○青木一男君 私は自由党の代表いたしまして、只今一松委員の述べられた修正案に賛成し、残余の原案に賛成し、又只今一松委員の述べられた附帯決議に賛成するものであります。以下簡単にその理由を申し述べます。
この法案は、MSA協定に基いてアメリカ合衆国政府から、我がほうに供与される装備品又は情報についてその秘密の漏せつを防止することを目的としておるのでございます。日米相互防衛援助協定第三条において、かくのごとき秘密の漏せつ又はその危険を防止することを両国政府間で申合せておるのでございます。アメリカ政府としては、日本に供与した装備品等から、軍事上の秘密が漏れることは、自国の国家安全のために堪えがたいことでありまするから、かくのごとき条約のできたことは当然と考えます。我がほうといたしましては、その条約に基く義務を履行するということは、国際信義の上から申上げて当然のことであります。しかのみならず、この取締法をどうするということは、単にアメリカとの条約に基く約束を履行するということのほかに、我が国の国家の安全を確保するという点から考えましても、これは当然の立法であると思うのでございます。その二つの見地からこの法案が立案されたことは、極めて緊急必要の措置と考えまするので、私はこの法案に賛成する次第でございます。
この法案に対しては、委員会においても、委員或いは公述人の方々からいろいろな意見が述べられておつて、中にはこの法案が憲法違反ではないか、或いは憲法違反の疑いがあるのではないかというような意見も出たのでございますが、私はさようには考えません。憲法違反論の第一の根拠は、憲法第九条との関係でございます。即ち我が国が戦争放棄し、武力を放棄した以上は、軍事秘密というものはないのであつて、この法律は憲法違反ではないかという疑問があつたのでございますが、憲法第九条は国家の自衛権を否認するものではないのでありまして、国家の安全を図るために自衛力の漸増を図るということは、我が国の国家の方針としてすでに決定しておるところでございまして、その線に副つて、必要なる防衛秘密の保護を図ることは何ら憲法に違反するところではないのであります。
次に憲法違反論の第二の根拠に、憲法第三章の国民の基本的人権との関係でございます。即ち言論出版その他の表現の自由、或いは学問の自由と憲法に保障されたるところの基本的人権を、この法律によつて侵害するのではないかというような議論でございますが、この点は憲法に保障したる基本的人権というものは、無制限ではないのでございまして、憲法第十三条に規定してありますごとく、公共の福祉等の均衡から必要なる制約を受けるということは、これは当然のことでございまして、今日までの立法の沿革、実例から見ても、この点は疑いがないのでございます。問題は、今回法律の狙うところの、国家の安全を図るがためにかくのごとき秘密保護の規定を置くことが必要かどうかという、その認識にかかつて来るのであります。私は先ほど申した通り、これは当然必要なる措置と考える次第であります。
世間のこの法律に対する反対論の多くは、そういうような憲法問題というよりは、むしろ運用についての懸念から来ておるものと考えます。それは戦時中の軍機保護法等の運用が非常に濫用されまして、国民の人権を侵害し、幾多の悪い先例が起りましたので、そういうことからして、今度も又同じような濫用が行われるのではないかと、こういうことを予想しての反対論であるのであります。併しながら戦時中の軍機保護法のごときは、特異なる政治環境の下において、又法律の内容から言つても、非常に特殊なる立法下にこれは立法された法律でございまして、今度の法律とは全く違うのでございます。当時は政府を超越した絶対権を持つておるような軍という組織があり、その背景の下に軍機保護法の運用が行われたのでございますが、今日は、政府から離れた軍なんという組織はないのでございまして、同じような運用が行われることは予想されないのでございます。又法律の内容から考えましても、軍機保護法は、その取締りの対象たる事犯の範囲が極めて応汎で、殆んど無制限、而も陸海軍大臣がまるでこれを勝手にきめるというような組織になつておつたのでありますが、今回はさようでなく法律の示す通りアメリカ合衆国政府から供与されたる装備品又は情報にその範囲が限定されているのでございます。
それから処罰の内容につきましても、軍機保護法では、この秘密漏せつに対しては、無条件、無制限に処罰しておりますが、本法では、スパイの目的又は不当、不法の手段で実行した場合に限つて処罰するのであります。秘密漏せつの点についても、大体においてスパイ行為をやるとか、或いは不当の手段で防衛秘密を漏らすというような、反国家性、反社会性の行為だけを意識的にやる場合に本法に触れるのでございまして、善良なる国民が知らない問に法を侵すというようなことにはなつておらないのでございます。ただ防衛秘密を取扱う業者その他業務によつて知得した防衛秘密を過失によつて他人に漏らしたという場合、これだけが悪意がなく処罰される唯一の例外でございますが、こういう特殊なる職務権限のある者に対して、或る程度の注意義務を課しましたことは止むを得ないと思うのであります。その他一般人が不注意又は過失によつて処罰を受けるというようなことはないのでございます。
又、多くの人々の懸念したような、新聞報道関係者等が、「業務により」という、これに該当するのではないかという懸念があつたのでございますが、この点は委員会でも明らかにされたごとく、幾多の立法例或いは学説等においてすでに定説があるのでありまして、職務権限に基いて当然知り得る地位にある場合が「この業務により」ということに該当するのであるからして、報道関係者はこれに含まれないことは明瞭となつているのであります。その懸念はないのでございます。
それから今回一松委員の提案にかかる修正案でございますが、これは今御説明のありましたごとく、大体法文の不明瞭な点を明確にするというのが修正案の第一の目的である。刑罰法規でありますから、解釈上疑義があるようなものを明瞭にすることは、極めて必要なる修正でありまして、この点は私どもも全然同感に存ずる次第でございます。
それから第二点は、処罰の程度についての均衡論でございますが、これは原案においては、例えば国家の安全を申することを目的としてやつたというような、純然たるスパイ行為とその他の場合とも百じような処罰になつておりましたのを、分けたのはその一例でございまして、これは極めて合理的な改正であろうと思うのであります。
それから第三点は、最後の第七条として追加された本法の将来拡張して解釈されて、人権を不当に侵害するようなことはないようにという警告規定でございますが、これは先ほど御説明になりましたことく、第三条の第一項第一号の「不当」という文字を存置したことの救済規定が立法の直接の動機であるのでございます。只今述べられたことく、「不法」ということであつては明らかに多くの不都合の行為が漏れますので、これはどうしても「不当」でなくてはならないのでございますが、併し「不当」という言葉は「不法」という言葉よりも範囲が広く、或いは濫用される慮れがないとも期しがたいので、この第七条という、特に警告の規定を加えたことは、これ又妥当であると信ずるのでございます。
そういう意味におきまして、私はこの政府原案の立法趣旨、並びに修正案の趣旨、いずれも賛成の意思を表示して私の討論を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/4
-
005・楠見義男
○楠見義男君 私は只今議題となつておりまする日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法案に対しまして、一松議員の御提案にかかる修正案に賛成し、修正部分を除く衆議院の送付原案に賛成並びに私は一松委員の御提案の附帯決議案に賛成するものでございます。以下時間の制約もございまするから、簡単にその賛成理由を申述べたいと存じます。
私は本法案のよつて来たるところの、いわゆるMSA協定に対しましては、我が新憲法との関係において、疑義少からざる理由を以ちまして反対した一人でございますが、我々と意見を同じくする一部の反対にもかかわりませず、すでに両院多数の同意を以てMSA協定が成立いたしました以上、その協定の義務として必要とする本法案については、協定が成立したという事実を前提として考えますれば、他の一般法案と同様に、我々はできるだけ法案を慎重審議し、いわゆる参議院らしい態度を以てできるだけよりよい法律にせんとする態度をとることが妥当と考えた次第でございます。この観点に立つて冒頭に申上げましたような結論に達したわけでございます。
元来この種の法案は、その運用如何は国民の基本的人権に非常に大きな関係があるばかりでなく、過去の経験に徴しましても、ややもすれば濫用の虞れなしとは断じがたいのでありまして、従つてこの見地から日本新聞協会を初めとして、国民の間に種々疑念、懸念するところの少くないのも誠に理由の存することであり、このゆえに又われわれも極めて慎重審議を重ねた次第でございますが、本法案を通じて各所にいろいろと疑点を生じた次第でありまして、先ず第一に、第一条第三項に、いわゆる公になつているという字句、或いはこれと第二条の防衛秘密に標記を附し、或いはその他の措置との関係に始まり、第三条における「不当な方法」の意味乃至その適用の限界、或いは業務の意義等、委員各位から極めて真剣な質疑が行われましたのも以上の理由に基くものと考えるわけであります。殊に第三条の「不当な方法」の問題につきましては、私も率直に言つて「不法の方法」と改めるほうが、その法律適用の適正を期し、濫用を未然に防止するとの観点からいたしますれば、より優れたものと考えたものでありますが、併し一面において「不法の方法」に修正することによつて、民間人で本法の適用対象とすることを相当と認められる、防衛秘密業務に従事するものに対する買収、或いは通常スパイ行為に随伴するいわゆる色仕かけの方法とか、或いはその他の方法による探知、収集が本法の適用外に置かれることの不都合が生じるのでありまして、かかる不都合な事態が十分予見されまする以上、止むを得ず原案に賛成せざるを得なくなつたのでありますが、この限度以上の拡大解釈は現に慎まるべきものであると考えられます。この意味において修正案に第七条として新らしい規定が挿入されましたことは、真に適切な措置と私は考えるのであります。
次に第三条第一項、第二号の原案を更に精密に分類いたしまして、目的罪として残し、新たに修正案による第二項として取扱うこととした点、又原案第三号の業務を同様に精密に分類いたしまして、本来防衛秘密を取扱うことを業務とし、従つて責任、又は当然重かるべき業務によるとは言いながら、右の本来の業務によらざる、言わば第二義的に取扱わるべきもの等を区分し、後者を修正案の第二項に包含する措置をとつたことも、又極めて常識的な穏当な修正と考える次第であります。更に以上の点に伴つて、第四条第五条、第六条を修正いたしましたことは、第一条の「供与される」という字句を「供与された」という字句に改めて明白にいたしましたことと同様に、いずれも妥当な修正として賛意を表したいところであります。
以上が修正案に賛成する理由でありますが、なおこれと合せ私は、以下申述べますような希望を、本案に賛成するに当つて附帯して特に強く申述べておきたいと思うのであります。それは本法案が長時間をかけて、而も慎重審議の対象となりましたのも、前に申述べましたようなふうに、法律の運用に濫用の虞れありとするからでありまして、この点は必ずしも理由なしとしないことは、過去の事例に徴しても明らかであります。幸い修正案におきまして第七条が挿入されましたけれども、なお本法の運用上の濫用を完全且つ未然に防止し、以て国民をして不安の念を抱かしめざるように、以下申述べますような構想を以て本法運用上の必要な規定の法制化を図ることについて政府は今後真剣に検討努力いたされたいと思うのであります。我々はこの法律が適正に運用されることを常に注意深く監視いたしたいと存じまするが、同時にその運用の如何によりましては、今申上げますようなことについて是非我々自身もその立法化に積極的に考慮をいたしたいということを申上げたいのであります。
その構想と申しますのは、秘密保護法の、この法律の運営上の必要機関として防衛秘密審査会、これは仮称でありますが、防衛秘密審査会を先ず設けること、この法律所定の罪は内閣総理大臣の請求を待つて論ずることとし、内閣総理大臣が右の請求をするに当つては、あらかじめその事案を審査会にかけてその意見をきかなければならないこととすること、その次には、審査会の構成でありますが、審査会は先ず内閣総理大臣の所轄の下に総理府の附属機関としておかれること、審査会は内閣官房長官を会長とし、おおむね次の者を以てその委員に充てること、第一に法務省人権擁護局長、第二に外務省国際協力局長、又は条約局長、第三に日本弁護士連合会の会長の推薦する弁護士一人、右のほか学識経験者として二人、大体考えられますることは、日本新聞協会の推薦する新聞界代表一名、放送協会の推薦する放送報道関係の代表者一名、こういうような委員の方々を以て構成する審議会、この審議会の意見を聞いて総理大臣が請求をし、その請求を以て本法所定の罪を論ずる、こういうような構想でありますが、この点は今申上げましたような趣旨において十分政府もお考えになつて頂きたい。この構想は、できれば本法案に対する修正としても考えたこともあるのでありますが、事は我が国司法制度に大きな関係を持つ極めて重大なことであり、今日会期切迫の折柄、直ちに修正案として法文化することは万一の過誤を犯す虞れなしとしないので、実は遠慮をいたしたのでありますが、又せめてこの委員会の附帯決議として各位の全体の御賛成をもお願いしたいとすら考えたこともあるのでありますが、機がまだ十分熟しておりませんので、止むを得ず希望意見とするにとどめた次第でございます。重ねて政府の今後の善処方を要望いたしたいと存じます。
以上を以ちまして私の討論を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/5
-
006・棚橋小虎
○棚橋小虎君 私はこの法案に対しましては、修正案にも反対の態度を表明するものであります。
この秘密保護法はMSA協定第三条に基く義務によつてなされたところのものでありまして、いわばMSA協定の申し子というようなものであります。ところがその基本となつておりますところのMSA協定というものは、その援助を受けるためには、合衆国との間に結ばれた多角的双務協定に基き、軍事的義務を日本が遂行しなければならん。又自国の防衛力と自由世界の防衛力を発展させるために、一般経済情勢の許す限りの貢献をすること、又自国の防衛力を発展させるために必要な合理的措置をとること、こういうような苛酷な条件を以ちまして、我が国の再軍備を直接間接に強要しておる協定でありまして、この点において、私どもはこの協定に反対をいたしておるものであります。従いましてこの協定に基きまして制定されまするところの、この秘密保護法なるものに対しましては、基本的に反対の態度を持ち続けておるものであるということが我々の態度の根本になつておるのであります。
更に、この法案は過日副総理に対しまして私はこういうことを質問いたしました。この法案によつては、アメリカから供与される武器の秘密を保護するということが目的であるが、将来我が国において更に武器等に関していろいろな発明ができた場合に、その発明の秘密を保護するためには改めて何らかの立法がなされるのではないかということを質問をいたしたところが、まだその点については十分に研究をしておらんという御答弁でありました。併しながらすでにアメリカからの貸与武器に対してこういう立法ができました以上は、それとの均衡上におきまして我が国の発明した武器においても更に別の立法を作るか、或いは何らかの方法によつてその秘密保護ということが当然望まれて来るということが明らかなことであると考えるのであります。そうするならば次第にそういうふうにいろいろなものについて秘密の範囲が拡大され、なお自衛力が漸増いたしますにつれて、いろいろ秘密の範囲が拡大され、多くなりまして、更に戦前、又戦争中のような陰欝なる社会状態が現出することは、これは必然の帰結であると考えられるのでありまして、そういう点におきまして、私どもはこのいわゆる端緒をなすところのこの法案に対しましては反対せざるを得ないのであります。
これが私どもがこの法案に対しまする基本的な態度でありますが、併し私どもは、この最善とするところはかような法案を作らないということでありますけれども、併しそれができない場合には、次善の策といたしましてできるだけこれに対しまして大きな修正を加えまして、そうしてこれを、修正案を通過させるということも場合によつてはよんどころない態度であるかと考えまして、私は修正案の作成に対しましては或る程度協力をいたしたものであります。併しながら只今一松委員からして提案されましたような修正案につきましては賛成をいたすことができないのであります。本法案は初めから非常にあいまい模糊たる字句が使つてありまして、これを適用する場合においてはいろいろの疑義を生じ、又拡大解釈をされるということも考えられておつたのでありまして、修正案におきましては、こういう点を明確にして、疑義のないようにするというために努力をいたしたのでありまして、或る点はそういう努力の跡が認められるのでありますが、併しなお依然として、たくさんの不明確の点を残しておるのであります。例えば、この第一条の三項における「公になつていないものをいう。」というような非常に明白を欠いた字句がそのまま残されておるのであります。なお第三条の第一項におきましては、「不当な方法で、」ということがこのまま残されております。これは修正案の作成の上におきましては、「不当」という代りに「不法」という文字を使つてこの点をはつきりさせるべきであるという議論が強かつたのでありますが、遂にこの「不当」という字はそのまま残されておる状態であります。「業務により」という点は、やや判明、はつきりいたしましたのがせめてもの取柄でありますけれども、かようにたくさんのあいまいなる字句がそのまま残されておる以上は、今後これが実際に実施される場合におきましては、たくさんの疑義を生じ、不当に拡大解釈をされて、この言論、報道等の権利、自由を圧迫することが大きいものであると考えられますので、私はこの案につきましては賛成することができないのであります。
なお、この修正案の第三条の一項の一般漏洩罪、それから第四条第一項の過失漏洩罪に対する条文の追加等に、挿入によりまして、或る意味におきましては、条文の体裁上から申せば、非常に整つたような形になつたようでありましたが、併し適用の範囲は、これによつてむしろ原案よりも拡げられたような点も考えられるのでありまして、その点においても、私どもはこの修正案を承認することはできないのであります。
更にいわゆる検閲制度でありますが、こういうふうに非常に疑点のある法文をそのまま実施されますというと、今後言論或いは報道機関等に従事する人たちが、この法文の適用について疑いを抱いて、いろいろ取締りの当局と、事前にその意向を問い合せなければならんというような事態が必ず起つて参りましよう。そういうふうになつて参りますというと、いわゆる検閲制度の復活ということと五十歩百歩でありまして、遠からずして検閲制度というものが復活して来ることは、これ又見やすい道理であると考とえられるのであります。この点に対しましても、私どもはこの法案が、最後にはいわゆる憲法違反の法律となることも考えられるのでありまして、こういう点におきましても賛成をいたすことができないのであります。
以上のような次第によりまして、私はできるならばこの修正案に賛成をいたしたいと考えておつたのでありますけれども、この程度の修正を以ていたしましては、私どもが根本的にMSA協定に反対している基本的態度を崩すことができないのであります。この修正案に対しましては反対をいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/6
-
007・郡祐一
○委員長(郡祐一君) ちよつと速記をとめて。
[速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/7
-
008・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 速記を始めて。
暫時休憩いたします。
午前十一時十六分休憩
—————・—————
午前十一時三十八分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/8
-
009・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 休憩前に引続いて討論を続行いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/9
-
010・亀田得治
○亀田得治君 私は社会党第四控室を代表いたしまして、本修正案を含めて、原案全部に反対の意見を表明いたしたいと存じます。
反対の理由は非常にたくさんあるわけでございますが、時間が大変短いので、要点をまとめて申上げてみたいと存じます。その第一点は、この法律は明らかに日本の憲法に違反をしておる法律である、こういう点でございます。これはいろいろな角度から申上げなければならない問題ですが、単的に言いまして、この秘密兵器を使うところの保安隊なり、或いは新らしくは自衛隊、この組織そのものが、日本の憲法第九条とは相矛盾するものである。このことは殆んど世間の常識になつておるのでありまするが、ただ吉田内閣だけが憲法第九条とは矛盾しない、こういうことで突撥ねて来ておるのでございます。ただこの点に関しては憲法の段階で論議をいたしておりますると、問題がいささか明確を欠くのでございまするけれども、例えば憲法第九条が作られました結果、憲法制定直後の刑法の改正の際にいわゆる刑法の外患に関する規定、これを大部分整理して削除してしまつておるのでございます。つまり日本にはもう軍隊いわゆる外国の侵入に対して組織的抵抗力を発揮するようなそういう組織は持たないのだ、こういうことが憲法第九条を更に刑法の面からも確認をいたしました。その結果憲法の第九条に関連いたしまして刑法の外患に関する規定というものが削除され、従いまして今日の日本の刑法の下におきましてはいわゆる軍隊組織、組織的な外国に対する抵抗力というものは法の対象にはなつておらない、こういうわけなんであります。このことは私委員会におきましても法制局長官の意見を聞きましたけれども、明確な答えが得られたい。得られないはずなんですね。実際は憲法の制定並びにそれに引続くところの刑法の改正のときにおいては、いわゆる軍隊組織というものは日本の法律上からはこれを抹殺する。そういう立場に立つておやりになつたことはこれは間違いないのですから、憲法の今の段階で論議をいたしておりますると、事甚だ水掛け論のようになるのでありまするが、この刑法の改正の問題に関連して問題を一段下げて論じ合つて見ますると、答えがはつきり出て来ないのが当り前だと考える。こういうわけで、私はこの自衛隊なり保安隊というものが、日本の憲法上或いは法律体系上許されない、私生児のごときものであるとするならば、それに持たすところの兵器、又兵器の秘密を保護する、こういうことは何ら法律上保護されるべき利益ではないと私は考えるのです。そういう法律上保護されない利益、これを守ろうというのがこの秘密保護法でございまするから、そういう面から言いましても、この法案というものは明らかに憲法違反の法律であるといわなければなりません。
第二の点は、こういう法律ができますと、憲法上保障されておりまする国民の基本的人権、いわゆる表現の自由、こういうものが直接制限されることは、これは政府自身も認めておるのでございます。ただ政府といたしましてはさような基本的人権を制限する根拠といたしまして、一方憲法のけうでは公共の福祉ということが書かれておる。この公共の福祉の上からいつて必要だということであるならば、たとえ基本的人権といえどもこれを制限することができるのであると、こういう解釈を下しておるのでございます。併しながらこの問題は私ぶ委員会において佐藤法制局長官とも論議をいたした際に、法制局長官自身たとえ公共の福祉ということを理由とするといたしましても、それは最小限度のものでなければならないという意味のことを答えておる。私はこれは正しいと思う。その限りにおきましては正しい。ところがその最小限度ということの具体的な適用が実はこの際に問題になつて参るのでございます。政府は公共の福祉にれいて最小限度の立場でこの法案を出した。こう主張されるのでございまするけれども、私どもの立場から見るならば、決して最小限度の立場をとつて政府がこの法案を出しているということは考えられない。この点は恐らく提案をされるときには政府はそのようにお考えであつたかも知れませんが、私どもが委員会において質疑を通じまして我々の考え、政府の考えを検討して見ますると、これが必ずしも最小限度ではい。こういう点がいろいろな点で実は明らかになつて来ておるのでございます。最小限度ということはいろいろな点で問題になるでしようが、例えばいやしくも法律上最小限度というためにはこれ以外にはとるべき手段がない。こういうことが一つの条件とならなければなりません。これ以外にはとるべき手段がないということが……。そういう角度からこの秘密保護法というものを検討してみたい。そういたしますると私は先ず保安庁の役人がこの本法で対象になつておる秘密を取扱うのであるから、この範囲内で問題が処理できないか。このことが先ず検討されなければならない問題である。現在保安庁法によりますと、保安庁の役人が秘密を漏らした場合には一年以下の刑罰或いは三万円以下の罰金、こういうことになつておりまするが、これでは軽過ぎる。この点をもつと厳重にしてやればこれで行けるのではないかどうか。こういう点の検討というものが十分なされないままに実はこの法案が出ておるのでございます。この委員会に政府の方が参りますると、これは最小限度だといつておりまするが、その出発点において保安庁法の改正だけでこれが果して目的が達せられないかどうか。こういう点の真剣な取組んだところの検討がなされたとは私は質疑を通じて感じない。こういう点が一つの問題でしよう。
或いは法律上止むを得ずいろいろな立法をするという場合には、その危険性というものが眼前に迫つておる。こういうことも一つの問題でしよう。例えば憲法の段階でこういう問題を論議いたしておりますと、余りはつきりしないのでありますが、現行法の例を引いてみまするならば、刑法の正当防衛なり緊急避難の規定、これなどは公共の福祉と国民の基本的人権の関係を判断する場合における一つの大きな私は資料であろうかと存ずる。緊急避難なり正当防衛の際には、明らかにこれは行為者が相手方に対して身体なり自由に対して損害を与える、或いは財産に対して損害を与える、法律はその行動を是認するわけですね。是認する代りにその行動者に対しましては厳重な条件というものを課しておる。危険が眼前に迫つていてどうしてもその行動をとらざるを得ない。こういうことが一つの条件になつておる。或いは同じようなことはほかのことでもございましよう。例えば憲法上保護されておるところの土地の所有権、これに対しまして公の立場から政府がこれを収用する。こういうことが土地収用法において認められておりまするが、この際におきましても土地収用法は個人の財産権と公の立場の調和というものにつきまして三つの角度から厳重な制限を加えておることは私が改めて申上げるまでもなく、こういう刑法なり或いは民法における規定、或いは土地収用法におけるところの厳重な規定、これらを根拠にして考えまするならば、いやしくも公共の福祉によつて国民の基本的人権に影響を及ぼすような立法をやろうとする場合には、他に手段がない、眼前に危険が迫つている、少くともこの二つというものは絶対的な条件であろうかと私は考える。ところがこの被害法益につきまして我々が委員会において検討した結果によりましても、眼前に危険は一つも迫つておらない。現に保安庁が目標としているところの品物、これはまだ手に入つておらない。一部船につきましては古い協定によりまして現在手に入つておりまするが、これに関しては今までは行政上の措置で以て事が足りた。保安庁の答弁によつて明確なんです。行政上の措置で片付いて来たのであるが、それで不十分であつてその結果こういう大きな失態が起きたというような説明はなかつた。そうして見まするならば、すでに手に入つた僅かなものを対象にして見ても、或いはこれからどのようなものが来るかわからない、そういう状態において漠然と何か公共の福祉というようなものをここに持ち出されて、そうして本法のごときものを作られますることは、私はこれは明らかにいわゆる公共の福祉の濫用であると考えるのでございます。例えば教育二法案或いはスト規制法、あの法案自身の賛否は別といたしまして、ああいう法案が問題に国会でなりました場合には、少くとも政府のほうにおきましては電産炭労の現実的なストライキの問題、或いは当つているかいないかは別として教育二法案につきましては二十六の偏向教育の事例というものを具体的な根拠として説明をされたのでございます。私は立法の態度といたしましてはそれが当然であろうと思うのでございまするが、この秘密保護法の審議に当りましては、そのような具体的な根拠はない。ただ政府といたしましてはこのようなものがなければ安心がいかないだろうという、そういう漠然たる危惧からこれが出ているのでございます。私はこういうふうな立場からいたしましても本法というものは明らかに公共の福祉の濫用であり、そういう面からも憲法を無視した、憲法に反するところの立法でなかろうかと考えておるのでございます。
それから次に申上げたいことは、この修正点に関する点でございます。成るほど修正点に関しましてはいろいろ一松委員を中心とされて御努力されました結果、一、二点原案よりもよくなつておる点がございまするけれども、併しながらこれは甚だ微温的な修正にしかなつておりません。本質的に先ず防衛業務に関係のあるところの保安庁の職員、これみずからが一番大きな責任を以てこの問題には当らなければならないのだ、そういう立場からの修正というものはここには出て参つておらないのでございます。私は防衛業務に直接関係のある人たち、或いはいわゆる悪質なスパイ行為をやる諸君、こういうものを対象にしたところの修正案でありまするならば、たとえそれが不十分なものでありましても、或いは相当考慮されたのではないかと思うのでございまするが、各委員の御努力にもかかわらずこの程度の結果にしかなりませんでしたので、これは私は党に対してもいろいろ経過を説明いたしたのでありまするが、結局了解を得ることができませんで、修正案を含めた原案に反対せざるを得ない、こういう結論に到達したような次第でございます。でその中で私が特に今後甚だ不安に感じまする点は二つあるのでございます。
その第一点は、本法の第三条第一項第一号の「不当」という観点がいろいろ論議がありましたけれども、結局修正をされないで原案のままに活かされておる点でございます。恐らくこの点は今後この法律の運用に当りまして時の政府が反動的な行き方をしたり、或いは社会が変つて来ますると、この条項というものは私どもの国民にとりまして甚だ不可解な、甚だ我々にとつて圧迫になるところの条項になつて来るであろうと危惧をいたします。
第二の点は、普通の漏洩罪の点でありまするが、この点が見ようによりましては原案よりもむしろ広いのではないか。罰則の点は幾らか軽減されたわけでございまするけれども、解釈、運用の仕方によりましては原案よりも悪くなるのではないか。そういう点が実は懸念をされる次第でございます。この漏洩罪の規定で行きますると、私どもが友人の間でなにげなくしやべつたり或いは聞いたりしておることが悪者を以てとられますると、この漏洩罪に引つかからないとも限らない。そういう虞れのある点は条項になつて来ておることを私は甚だ遺憾とするものでございます。
修正案の細かい点につきましては時間がありませんのでこの程度で省略をいたしたいと思いまするが、最後にこの法律の運用の問題でございます。私どもはこの法律ができまして、そうしてこれが陽の目を見て来る。これは私は戦後の日本の新らしいデモクラシーに対する一つの危機であると実は感ずるのでございます。この法律自身が対象にしておるところの品物は限定された僅かなものでございまするけれども、こういう考え方が正規の法律とつてここに現われて来るこのこと自身が、今後の日本の社会に対して大きな影響を及ぼすと感ずるのでございます。それはどういう点かといいますと、私どもは新憲法の下におきましては一切のことを知る権利を持つておる。公の事柄に関しては一切のことを知るべき権利を持つておる。個人の秘密とか、そういうものについては逆に憲法は個人の権利として厳重にその秘密を守ることを命ずると共に、いやしくも我々の納税の対象となつておるすべての事柄に関しましては知るべき権利を持つているんですね。このことがこの秘密保護法によりまして新らしく、一部分でありまするが、知つてはならない部分がここに出て来るわけなんです。こういう意味で事柄は小さいようでございまするが、考え方といたしまして甚だここに今後これが拡がつて行く危険性を実は感ずる。私が委員会におきまして、例えば憲兵制度の問題についてお聞きをいたしました。これは世間がみんな危惧しておることでございます。昨日も私は総理に対する最終質問をいたしまして、総理は憲兵制度復活の意図はない。こういうふうにたびたびおつしやつておられますが、然らば具体的にいわゆる警務官というものが自分たちの内部だけの捜査のことに専念をして、民間のいろいろな問題については手を出さない、こういうことが法律上明確にされておりますれば、その総理の考え方というものを私どもはそのままに受取れるのでございまするけれども、例えば自衛隊法第九十六条の第三項、あれによりますると、民間人の秘密保護法違反事件、これに対して警務官がタッチできる規定になつている。これは質疑の段階においても、九十六条第三項そのものとしては、民間の秘密保健法違反事件にも警務官がタッチできる、こういうことを認められた。と同時に、その政府委員は、併し政令によつてそういう事件については普通の警察に任す方針だと、こう言われるのでありまするけれども、私どもはそういう重大な権限上の問題を、若し保安庁の人が内部で反対をしたならば、結局はそのような政令は成立しないのではないか。従つて法律の条文通りに警務官というものがこの秘密保護法に関する民間人を取調べて来る、こういう事態が私必ず予想されるわけなんであります。そういうことが一つ、二つとこう崩れて行きますと、いつの間にかあの陰鬱な憲兵制度というものがここに全容を現わして来ることになる。
時間がもうすでに幾らか超過して参りましたから、私はこの程度で委員会における討論は終了させて頂きまして、なお、詳細は本会議における反対討論の際に申述べたいと存じますが、なお、最後に重ねてこれはお詫びを申上げなければならないのでありまするけれども、本法律の審議の過程におきまして私も修正私案を出し、勿論これは党の了解を得なかつたものであることは申上げて出したわけでございまするが、そうして又実体的な点でなく、運用上の点なんかについての私の修正意見の一部も一松委員において取入れて頂いたのでありまするけれども、只今申上げましたような立場から、結局全部に反対せざるを得ない、こういう点を申上げまして私の反対討論を終る次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/10
-
011・羽仁五郎
○羽仁五郎君 私は政府原案並びに修正案について反対をいたさざるを得ないものであります。
あらゆる法律に関しまして、それがどうしてもなくてはならないものだということと、そしてその法律が濫用される虞れのないものだということがなければ、そういう法律を通過させてはならない。私はなかんずくこの法務委員会の壁にはそのことは常に書いてあると思うんです。法務委員会の特に負うている重大な使命から、それが是非ともなければならない法律であるか、そしてそれが濫用の虞れのないものであるかということが明らかでなければ、法務委員会の門を通ることは許されないと私は思う。第三には、その法律が防がなければならない眼前の危険というものがあるか。第四には、その法が取締ろうとしているところのものは明確な概念として確立されているか。最後にあらゆる法はそれによつて不当な取扱を受けた人々を救うことができるか、明確な概念がないということは、世論も、又この委員会でもしばしば繰返されて批判されたところです。それからこの不当な取扱を受けて特に救うことができないというのは、人に向つてスパイという名を付けるということは容易なことではありません。そこに失われた名誉というものは容易に救済されるものではない。而も識見極めて高邁な人に対して、識見極めて低劣な政府が、ともすればこれに向つてスパイという言葉を投げつけるということは日本の悲しい歴史です。その名誉というものは永久に救われるものではない。我々の学問上の先輩、或いは言論界の先輩、或いは我々の友人が、その人格、識見において我々に勝ち優つている人々に向つて、日本国政府はスパイという名を負わせる、これは永久に許されることのできないことです。ですから本法案のようなものが只今法務委員会を通過するということは、私は許されないことだと思う。
現にこの本委員会が終末に近ずきました五月十七日に、日本の大新聞の一つはその社説を以て「世論はこぞつてこの悪法に反対したが、自由党とこれに同調する改進党二十一名の欠席戦術によつて採決」を見た、この法案が如何に危険なものであるかは衆議院において通過の際に自由党の方がみずから「この法律の運用には、よく気をつけて、いやしくも言論の自由をおさえるような結果になつてはいけない」と言つて指摘しております。同じ日のいま一つの新聞は、「このごろ漫画や一口ばなしには”極秘”のハンコ屋が繁盛するとか、口をふさぐマスクやクチビルをはさむセンタクバサミがよく売れるとか、「シーツ」といつてお互いに口をつぐむとか、そうした種類のものが多い。これはMAS協定による防衛秘密保護法案に対する抗議や憤りの庶民感情を反映したものである。ふざけたように見えても、そこには深い怒りが盛られており、あきらめに似たやるせない思いも秘められている。秘密保護法案は世論の反対もよそに衆院を通過した」、「この国会は”悪法国会”の感があるが、その中でも最も暗い陰気な法律」がこれであるといつて指摘しております。私はこの法律案に対して反対せざるを得ない八つの理由を、時間の制限がありますので、簡単に申述べます。
その第一は、この種の法律案は時に逆行するものです。時の動きというものは絶えず秘密を公けにして行くものである。それを時に逆行して、或るものを捉えてこれを秘密と言い、そしてそれに関係する人を罰しようとする、歴史は絶えず秘密を公けにして行くんです。こういう種類の法律案というものは、元来人間の手で作ることを許されるものではありません。それだからこういう法律によつて必ずヒューマニティーに逆行するような悲劇が起つて来る。今までの古い世界には、こういう法律によつて守らなければならないものがあつたんですが、併し刻々に世界はもつと進歩して、こうした片々たる軍事上の秘密などによつて社会が守り得るものじやない時代になりつつある。現に参考人としてお見え下すつた言論界の代表の方も、新聞というものの使命が、絶えず秘密を公けにするということにあるのが、これを禁止すれば言論の進歩というものもないということを切言されました。そして国会自身の使命というものも、権力を持つている政府が隠そうとしているものを国民の前に明らかにするということが最高の使命である。殊に科学学問の使令というものは、秘密を秘密でないものにして行くということにその使命がれることは申上げるまでもない。こういうふうに古い時代にあつてはこうして立法というものが行われていた。又世界の多くの国には今日もこういう立法が平然として行われているけれども、併し根本的に考えてみれば実に人間のなすことを許されない、時に逆行する立法と言わざるを得ない。これは決して単に抽象論でないということはこの法案の第一条ですか、第二条ですかに現われて来る。公けにされていない古のというものがいろいろな不安を与えていることでよくわかる。公けにされていないものが絶えず公けになつて行くのです。従つて政府は公けになつていないものを明らかにするために、責任上非常に周密な科学研究所というようなものを持たれて、世界の学問雑誌というものを絶えず研究されて、いやしくも公けになつて行くものはどんどん秘密から外して行くという努力をされなければならない。これが果してなされているかどうか。我々は必ずしもにわかに信ずることはできません。
それから第二に法律上少しおかしいことが生じて来るというのは、その検挙されたときだはまだ公けになつていなかつたかも知れないが、裁判の過程において公けになつて行くものが多々あると思う。これは勿論裁判所において妥当な処置をとられると思いますが、併しそこで与えられたところの国民におけるところの害、不名誉というようなものは決して救われることのできないものです。そして又絶えず秘密にされているものが公けにされて行くということに対して、それを罰しようとする法律があることは、国民にとつて大きな自由な活動を圧迫するものとならざるを得ない。実際今日は国際情勢が刻々に変りつつある。そして戦争によつて問題を解決しようとした時代から、外交によつて解決しようとしている。そして第三次の世界大戦が起れば世界は破滅するであろうという状態に入つている。従つて高邁な識見を有する人々が、いわゆる国と国との対立に基く秘密というようなものよりも、もつと高い見地で世界の平和を確立しようという努力をされている方は最近も多多あります。オツペンハイマー博士のごときはその一人である。オツペンハイマー博士を迫害しようとするような性質の線に本法律案は立つているのですが、オツペンハイマー博士を迫害しようとするような力を世界の輿論は許さないのです。いわゆるそれぞれの国が互いに対立することによつて、持つているところの秘密というものが暴露されることによつて、その国にとつては悲劇があるかも知れないが、世界の平和にとつては利益がある。従つてこの種の法律によつて取締ろうとしても、そうした高邁な政治的な見識を持つた人は決してこれに服しない。この法律は時に逆行し、それによつて殉教者を製造するに過ぎない。これが私の反対の第一の理由です。
第二の理由は、現在日本に本来の意味における軍事的秘密がないということは、政府は我々の質疑に向つて繰返して答弁されたところです。本来の意味における軍事的秘密がないと言いながら、それに似たようなものを取締るのに刑罰を以てするということは許されません。日本は敗戦によつて数年に亙つて占領せられていた国です。そこにどういう種類の秘密があり得ましようか。而もこの法律案の基礎になつておりますところの日米相互防衛協定というものの附属書Bというものが明らかにしておりますように、アメリカが日本に何かを貸そうというのは、その基礎となるものは外交上の条件で貸す、供与するだけのものです。外交上の条件でその秘密がばれたならば飽くまで追究しなければならないというようなものを貸すことは国際儀礼に反します。外交上の協定に基いて貸すものですから、それが壊れたり、或いはその秘密が漏れたりしても誠に申わけなかつたという程度のものしかお互いに貸したり借りたりはしないことが礼儀です。とんでもない秘密を借りて、そして日本の国を犠牲にして償うようなものを借りるべきでもないし、貸すべきでもない。これは附属書Bが明らかにそのことを書いております。従つて重大なる秘密が日本に供与される理由がありません。そして現在の状況はどうであるかと言えば、五月十五日に保安庁官房長がここで証言せられましたように、保安隊においては秘密は一つもない。このことがよくそのことを語つております。保安庁、保安隊に秘密が一つもないというくらいですから、何ですか海上保安隊というのか、それからこう空の関係というようなものでも、僅かにレーダーで敵味方を識別するものだとか、どなたがお聞きになつても、それによつて人を十年五年とかいう刑罰に合せなければならない程度の秘密というものはないのです。現在日本に秘密がないのに、その秘密を保護しようとしているということは、私はどうしても納得することができないのです。
第三に私が反対せざるを得ない理由は、すでに亀田委員からもお述べになりましたが、このような法律を制定しなければならない眼前明白な危険がないからです。むしろ現在日本にあるもので眼前明白な危険は民主主義の崩壊だ。こういう法律案を作ることによつて民主主義が崩れて行くということのほうが国会が重大なる関心を持たなければならない、遥かに重大なる危険です。そして軍国主義が跋扈するのではないか、憲兵制度が跋扈するのではないか、国民が国家社会のことをすべて知るべき権利が崩壊する危険に瀕しておるのではないか、そのほうが重大なる危険です。そしてその危険をこの立法は増そうとしておる。日本にスパイがおるか、敗戦によつて数年間占領せられた現在のこのような日本に、国際的にこういうようなスパイが活動していたと判断することは笑うべきことです。現にこの法律案よりもつと或る意味において高度の法律案であるいわゆる日米安全保障条約案に伴う行政協定による刑事特別法、日本に現在おるアメリカ軍のほうが遥かに重大なる秘密を持つておると思いますが、これに対してスパイ活動をしておるものはございません。刑事特別法違反の実例があるかと言つて政府に伺いましたところ、四件お挙げになりました。それぞれ実に笑うべき事件であります。料理屋で米軍将校がB29の話をした、或いは何であるというようなことは時間がないので、一々如何に笑うべきものであるかを立証することができないのは残念に思いますが、政府はみずからおわかりであると思います。こういうように現在眼前明白な危険はないのです。従つて本法律案は一体何をなそうとしておるものであるか、禁ずべき何ものもない、又明白な危険もない、然るにこういう法律案を作るというその意図はどこにあるか。
私は本法律案に対する第四の反対理由として、本法律案は憲法に違反するからであります。この法律案が如何に憲法に違反するものであるかは、政府みずからよく御承知である、そのためにこの法律案をあらゆる場合にしぼろうと努力をされておる。そして又与党がこれをしぼる御努力をなさつておる。明らかに若しこの法律案が軍機保護法に近づくならば明瞭な憲法違反です、これが行政府の内部の秘密保持ということに行くならば、憲法違反の疑いを免かれることができるか知れない。併しながら本法律案提出に当つて木村長官は本法案よりも遥かに大きなものをお考えになつております。そして又委員会における御説明の際にも只今のところはこれでいいが、併し行く行くはもう少し広くしたい。どういうふうに広くされるのかというと、作戦であるとか、動員であるとか、防衛計画であるとか……。そういうものまで入れて来たときはこれはまさに軍機保護法であります。そういう方向を持つているところにこの法律案が憲法違庁であることが明らかであります。
なお、この法律案が憲法違反であろことをみずから示していることは、この本法律案の立法が絶えず動揺しています。これは政府の御説明の場合にもそうでありますが、本法律案によつて触れた人が裁判になる場合に公開裁判の原則が守られるだろうか、守られないだろうかという点についても政府の答弁は常に動揺しておられる。そしてこの秘密が本当に漏れないようにして件こうとするならば、結局死刑といううとが出て来るのはこれは当り前です。ですから秘密主義というもので行くならば、これは死刑というところまで行かなければならなくなつてしまう。ところが本法律案についてそういう死刑ということに行くという考えはおありにならないだろうと思う。でこのいわゆる軍事上の戦術とか戦略とかいうようなものよりも政治のほうが上でなければならないという点についても、政府は動揺しておられる。最後に、こうした法案が大事か、憲法が大事かというときに、政府は、例えば憲法の保障している黙秘権というものは、本法などよりも、遥かに高いものであるということはお認めになりましたが、併しながらこの法律案というものは、そういうものを保障し得るかどうかということについて、多大の疑問がございます。
反対の第五の理由は、本法律案が必ず濫用されるからです。これはこの講和条約発効に伴つて、甚だ恥ずべき法律を我々は国会通過を見たのでありますが、これは戦争中に日本がやつた裁判で、不当な裁判は、講和条約発効後に再審査しろという法律であります。これは裁判所も非常にこれに対しては苦しい思いをされたのです。どういうような事件があつたかというと、これはいずれも、いわゆる軍機保護法、国防保安法関係の事件です。ですから、この秘密保護法のようなものは、裁判所に裁判の公正を失わせる、最も恐るべき濫用の弊害があるのです。そうしてこれらが言論の自由、国会の審議、又学問研究というものを圧迫することは、すでに他の委員からも申されました。
私の反対理由の第六は、本法律案は、殆んど何らの効果がなかろうということです。これは一松委員からも御指摘になりましたが、至るところに穴がある。穴だらけの法律案である。本当に秘密を探ろうとするものならば、こういう法律案では絶対に取締ることはできない。いわんや、若し今日スパイというものがあるならば、その技術は恐らく日本の防衛庁なり、警察或いは検察という、過去におけるサード・デイグリーで万事をやつて来たような、そういう機構に対して、遥かに進んだ機構です。ですからこういうような法律案というものは、それこそ遥かに下のほうの機構であつて、もつと高い考え方から、こういう法律案は全く役に立たない。穴だらけの法律で、而もその穴を塞ごうとすれば、憲法違反の虞れが生じて来る。
それで私は最後に、どうか我が国があの敗戦の中から新らしく生まれ変つた我が国を守るというならば、その国を美しいことにすることが第一です。日本の防衛というものが、自衛隊の防衛出動なんかによつて守られるとは、国民は誰も信じておりません。現にこの間北海道で暴風雨があつたときに、海上保安隊の船はいわゆる転進された。昔の、戦争中にあつたように退却を称して転進と言つたという言葉まで挙げていますが、国を本当に守るというのには、やはり本当にその国が、国民生活が安定されている国でなければならないのです。最近の、第二次世界大戦当時の例を考えてみましても、最後に国を守るものは軍ではなくて、国民のレジスタンスです。国民がみずからレジスタンスに立ち上がるに値いするような国を作るということが第一です。で、これはこの間の朝鮮戦争で捕虜になり、併しその後アメリカに帰つて凱旋将軍のように迎えられたデイーン少将が、最近発表された著書がある。その著書の中に軍というものも、場合によつては民主主義のシヨー・ウインドーとなることができるのだ。而もそれには軍の兵隊が自分たちは何を守るかという意識がはつきりしていなければならない。私が捕えられた間に見た共産軍の兵士というものはそれを持つておる。我々はそれ以上のものを示さない限り、民主主義のシヨー・ウインドーとなることはできないと言つておる。我々が日本において努力しなければならないことも国民生活が第一である。国民みずからが国を守る、それが第一である。そして外交上においては、ややもすれば軍事上の秘密などによつて、いわゆる戦争というような方向によつて国を守るのではなくて、外交によつて、世界の平和によつて、我が国の将来の安全と幸福を図るという方向に向うべきであります。
以上七点に基きまして私は本法案並びに修正案に反対をいたすものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/11
-
012・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 以上を以ちまして討論は終局いたしましたので、これより採決に入ります。
先ず討論中に提出されました一松君の修正案全部を問題に供します。本修正案に賛成の諸君の御挙手を願います。
[賛成者挙手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/12
-
013・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 多数と認めます。よつて一松君提出の修正案は可決せられました。
次に、只今可決せられました修正の部分を除く原案全部を問題に供します。修正部分を除く原案に賛成の諸君の御挙手を願います。
〔賛成者挙手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/13
-
014・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 多数と認めます。よつて本案は多数を以て修正議決すべきものと決定いたしました。
次に、討論中一松君より提出されました附帯決議案を問題に供します。本附帯決議案を委員会の附帯決議とすることに賛成の諸君の御挙手を願います。
〔賛成者挙手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/14
-
015・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 多数と認めます。よつて一松君提出の附帯決議案は可決せられました。
なお、例によりまして本会議における委員長の口頭報告の内容その他は、便宜委員長に御一任願います。
本案を修正議決することに賛成の諸君の御署名を願います。
多数意見者署名
小野 義夫 上原 正吉
大谷 贇雄 宮城タマヨ
一松 定吉 楠見 義男
中山 福藏 青木 一男発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/15
-
016・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 次回は明二十七日午前十時から開会することにいたし、本日はこれを以て散会いたします。
午後零時二十五分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915206X04619540526/16
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。