1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十九年二月十七日(水曜日)
午前十時二十八分開議
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議事日程 第十号
昭和二十九年二月十七日
午前十時開議
第一 警察法案及び警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案(趣旨説明)
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001・河井彌八
○議長(河井彌八君) 諸般の報告は朗読を省略いたします。
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002・河井彌八
○議長(河井彌八君) これより本日の会議を開きます。
日程第一、警察法案及び警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案。(趣旨説明)
両案につきましては、特に本会議において内閣より趣旨説明を聽取する必要がある旨の議院運営委員会の決定で、ございました。これより犬養国務大臣の趣旨説明を求めます。犬養国務大臣。
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/2
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003・犬養健
○国務大臣(犬養健君) 今回提出いたしました警察法案につきまして、提案の理由並びにその内容の概略を御説明いたします。
現行の警察法は、戦後旬々にして占領政策の一環として施行せられたものでありまして、戦前の我が警察制度を根本的に改革して民主警察の理想を高揚した点においては、確かに劃期的な意義を有してはおりますが、何分にも忽忙の間に当時の国際事情を反映しつつ制定せられましたため、我が国情に適しないところが多く、その運用の結果に徴しましても、いささか非能率にして不経済の欠陥を免れず、而してかかる欠陥を是正するために早晩抜本的な改正の肝要であることは、つとに世人の広く認めるところでありました。即ち現在の警察制度は国家地方警察と市町村自治体警察との二本建となつておりますが、町村を管轄する国家地方警察は国家的性格に過ぎて自治的要素を欠除し、都市を管轄する自治体警察は完全自治に過ぎて国家的性格に欠くるところがあり、これを要するに都市と町村において、性格の相異なる警察が存在しているという結果になつているのであります。而してこのことは、元来国家的性格と地方的性格とを兼ね有すべき近代警察事務の運営にとつて、それ自体適合せざるものを内蔵している結果となつているのであります。更に市町村自治体警察は、治安の対象地域が近時とみに広くなりつつあるにかかわらず、おのおのの市町村単位において独立しているのでありまして、この細分化された警察組織の下においては警察運営の責任も又多数に分割され、従つて、その有機的活動は著しく阻害されているのであります。勿論従来といえども、これらの警察相互間におきましては、或いは人事の交流によつて意思の疏通を図り、或いは援助の協定を互いに行なつて連絡調整を密にする等、それぞれ努めて参つたのではありますが、何と申しましても、制度自体が内蔵する欠陥の前には、運用の妙にも限界がありましてために警察単位の分割より生ずる盲点の存在が、警察の効率的運営をみずから傷けて参つた次第であります。且つこの欠陥は、国の治安に対する責任の不明確という点にも大きく影響しておりますことは、近年頻発する種々の事件に関連して国民の記憶の新たなところであると存じます。更に一方行財政改革の見地に立ちますならば、国家地方警察と市町村自治体警察との施設及び人員が互いに重複していることは、国民にとつては複雑、且つ不経済な負担となつているのでありまして、この面よりするも制度の根本的刷新の要は、今や社会の輿論であると申しても過言ではありません。
併しながら、現行制度における如上の弊を改めるに当りまして、警察の民主的な運営、言い換えれば国民の警察運営に対する干与はこれを依然として保障すべきは勿論のことでありまして、この民主的な保障の基盤の上に、治安任務遂行の能率化と責任の明確化との二つの懸案の解決を図つたものが今般の法律案の骨子となつている次第であります。
先ず、この法律案の内容について主要な点を申上げますならば、
第一に、公安委員会制度を存置いたしたことであります。即ち警察の管理と運営の民主的保障を確保するため、中央、地方を通じて公安委員会制度を置きまして、警察を管理せしめることといたしたのであります。即ち中央においては、内閣総理大臣の所轄の下に国家公安委員会を、又地方においては都道府県知事の所轄の下に都道府県公安委員会を置き、それぞれ国民を代表する委員からなる会議体の機関によつて、警察庁又は都道府県警察を管理せしめることといたし、以て警察の民主的な管理運営を確保いたし、且つ、警察の政治的中立性を維持することといたしたのでございます。なおこの際、公安委員に広く有為の人材を得るため、その資格の制限を大幅に緩和し、その制限は警察と検察の職業的前歴者のみに限ることといたしました。
第二には、警察を府県警察に一本化したことでございます。即ち、警察の能率的運営を保持するため、現在の国家地方警察及び市町村自治体警察は共にこれを廃止して、新たに都道府県警察を置くこととしたのであります。この理由については冒頭に詳しく述べましたので省略することといたしますが、ここに一言申加えたいのは、大都市の警察についての処置であります。大都市警察につきましては、従来から種々議論の存するところでありますが、結論においてこれを府県と並立させることは、大都市とその周辺地区とを遮断せしめ、このために警察対象としての両地区の一体性を阻害し、警察運営の有機的活動に著しい障害を来たすのみならず、財政的にも極めて不経済な結果となりますので、これを今般は府県警察に一元化する必要を認めた次第であります。
第三に、府県警察の内容であります。即ち都道府県警察については、国家的要請に基く最小限の制約を除いて、能う限りこれに自治体警察としての性格を具備せしめることとしたのであります。即ち都道府県警察の性格は、申すまでもなく地方公共団体たる都道府県の機関としての警察であり、言い換えればこれは都道府県自治体の警察でありまして、知事の所轄の下にある都道府県公安委員会が全面的にこれを管理いたし、その管理の下に警察本部長が職務を行うのであります。従つてその職員は、原則として地方公務員の身分を有するものでありまして且つ警察に要する経費については、一定の国家的な警察活動に必要な経費を国が支弁するほかは、原則として府県の負担といたすのであります。又、都道府県警察の諸般の組織や職員の人事管理その他の行政管理事項は、いずれも都道府県の条例で定めることといたし、これらの警察行政は、都道府県の議会における審議を通じて常に住民の公然たる批判の前に置かれ、而して住民の批判に制約される次第でありましてこの作用によつて自治体警察の特長と美点とを具備せしめたのであります。而してこの精神に立脚いたしまして、都道府県警察は、国家的な警察事務に限つて中央の警察庁の指揮監督を受けるものといたし、その事項は法律に明記いたしまして、以て警察の中央集権化のことがないよう十分の配慮をいたしたのであります。而してこれがため警察本部長と極く少数の警視正以上の首脳職員は、これを国家公務員といたし、これらは警察庁長官が国家公安委員会の意見を聞いて任免することとし、他面この任免に対して、管理者たる都道府県公安委員会は懲戒罷免に関する勧告権を行使し得ることといたし、以て両者の権能につき均衡あらしめたものであります。なお都の警視総監の任免は、特にその地位の重要性に鑑み、内閣総理大臣が国家公安委員会の意見を聞いて任命することとし、これに対する懲戒罷免の勧告権の所在は、他の道府県の場合と同様にいたしたのであります。
第四には、中央の警察機構のことであります。即ち中央の警察管理機関たる国家公安委員会の委員長は国務大臣を以て充てることとし、国家公安委員会はその管理の下に警察庁を置いて国の公安にかかわる警察運営を掌り、警察の教養、通信、鑑識、統計及び装備に関する事項を統轄し、並びに警察行政に関する調整を行わしめることにいたしたのであります。更に、国家公安委員会は、委員長及び五人の委員を以て組織することとし、委員長は国務大臣を以てこれに充てることといたしましたが、この委員長は会議に際して表決には加わらず、従つて国家公安委員会が政治的中立性を保つところの会議体である現在の性格は、今般の改正によつてもこれを一貫して堅持せしめているのであります。同時に委員長として新たに国務大臣が加わることにより、政府の治安に対する国家的な考え方が国家公安委員会の中正な判断によつて濾過せられた上、警察運営の上に具現されるようにいたしました。かくのごとくにして政府の治安責任と警察の政治的中立性との調和を図つたものであります。又警察庁は国家公安委員会の管理の下に、極めて特定の国家的な警察事務を所掌し、而してこれに関しては都道府県警察を指揮監督することといたしましたが、その事務の範囲は上述のごとく最小限の列挙事項のみに限定したのであります。従つて個々の一般犯罪の捜査のごときは、これを中央の権限から除くことにいたしたのであります。なお警察庁長官は政府の治安責任を明確にするため、内閣総理大臣が国家公安委員会の意見を聞いて任免することといたしましたが、他面これに対しては国家公安委員会が、長官の懲戒罷免に関する勧告権を行使し得ることは、道府県公安委員会の権限の場合と同様であります。
なおこの改正が実施せられます場合は、機構の簡素化により警察職員の数において三万人、経費において約九十億円を減少し得る予定であります。又この改正の実施に伴い、国家地方警察職員も、市町村自治体警察職員も、共にその身分に変更を生ずる結果となりますが、この場合も努めて新機構への受入れの円滑を期するため、職員の身分を保障すると共に、俸給の減額となるものについては、その差額について調整の措置を講じ、且つ恩給、退職手当についても、従来の在職年数はすべて通算することといたしまして、これら誠実な職員の生活に不安を与えざるよう万全の配慮を払つております。而して従来の国家地方警察と自治体警察とがその用に供しておりました財産の移転につきましても、制度の切替えに伴い支障を来たすことのないよう、すべて国と都道府県並びに市町村との当事者相互間の協議により譲渡を行うものといたしまして、特別の事情のあるものについては債務を継承し、又はこれを有償とする等の措置を講じ得ることといたしました。なお、本法案が幸いにして成立いたしました上は、これを来たる七月一日に施行する所存でございます。
以上、本法案提出の理由及びその内容の概要を申上げた次第であります。何とぞ慎重御審議の上速かに御可決あらんことをお願いいたします。(拍手)
次に、今般提案いたしました警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案の提案の理由を申上げます。
本法律案の提案の理由は、今般提案いたしました警察法案と関連いたしまして関係法令の規定を整理し、これに伴い所要の経過措置を定める必要があるためであります。
この整理の方針といたしましては、関係法令中の関係事項について、警察法案の規定上当然に整理改正を要するものを改めることといたしました。経過措置につきましては、警察法案の規定及び本法律案による整理に対応して必要な規定を設けることといたした次第であります。
何とぞ御審議のほどをお願い申上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/3
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004・河井彌八
○議長(河井彌八君) 只今の趣旨説明に対し質疑の通告がございます。順次発言を許します。松岡平市君。
〔松岡平市君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/4
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005・松岡平市
○松岡平市君 与党たる自由党を代表いたしまして二、三の質問を試みたいと存じます。
質問の第一は、警察法改正の理由、目的は何かということをお尋ねいたしたいのであります。占領下における諸法令の制定、諸制度の革新について、多くこれについてはいろいろな論議がございますが、少くとも警察制度においては、この小さな日本で一千六百余の独立した小警察に寸断した自治体警察の創設を強要された。これを極めて善意に解釈いたしましたとしても、広大な地域の中に分散しているアメリカの都市警察の方式を、極めて狭小な相接続し合つている日本の都市町村に当てはめようとする明らかに誤つた方式であつた。若しこれを悪意に解するならば、民主主義、地方自治制度に名をかつて、警察の寸断によるその無力化、経費の濫費、延いては日本国力の弱体化を企てた連合国軍の占領方策なりとも断じ得る底の制度であつたことは、識者のひとしく認めておるところであります。(「質問じやない、賛成討論だ」と呼ぶ者あり)町村警察の強制が解かれるや、その九割近くが直ちに自治警察を返上してしまつた事実が一切を証明し尽しておるのであります。新らしい日本を作るために、新らしい思い切つた法令、制度が一応必要であつたということはもとより認めなければなりませんし、それらが新日本の構成に貢献したことも少くないのでありまするが、現実の日本の状況に鑑みてどうしても国情に相応しない制度等は、一日も速かにこれを是正し、日本再建の確固たる基盤を見出さなければならんということは、国民のひとしく希望しておることと信じます。自由党がその警察制度改革要綱に盛つたものも、要するにかかる立脚点に立つたものにほかならないのでありまするが、政府の提案した警察法案に関しましては、政府は専ら治安対策の一環として警察法の改正を企て、警察力の能率化を図ることが、この際必要な治安対策であるかのような感を世上に与えているように考えられます。治安対策の根本義は、もとより各般の施策を以て国民生活の安定を図ることであり、警察法の改正のごときは、ただ現下日本の実情に相応するように、占領下の制度を是正するものであるという我々の警察制度改革要綱の精神は、権力による治安確保に重点を置いているかのような感を国民に抱かしておるこの政府の提案と、相当に距離があるように考えられまするが、これは何故であるか。本法案の真の目的に鑑みて副総理から御答弁をして頂きたいと思います。
次に、今次の警察制度改正について警察国家への復元という世論が一部に起つているが、これが何に起因するか伺いたい。(「特高警察の復活だ」と呼ぶ者あり)警察という重要制度の改革であるために、反対の少くないことも当然であろうし、我々といたしましては、ただ観念的理想論の立場から、非民主的とか逆コースとかいうような比判や反対には、あえて動揺を感じないけれども、国民のまじめな分子の間に、真個にこの新制度によつて、いわゆる警察国家に立返るという危惧を抱くものがあるとすれば、これには我々として重大な関心を持たざるを得ないのであります。政府としてこの点に関して果して国民を納得せしむるに足る説明をなし得るか、極めて不安に堪えません。(「疑獄事件の解決がつかんじやないか」と呼ぶ者あり)国民は過去における警察活動に対する堪えがたい嫌悪の情を持つております。曾つての警察のごときものを再現せしむることは、もとより我々も反対するところであり、今回の改正が決して然らざる点は、政府が特に明らかにしなければならないところであります。治安任務遂行の能率化と責任の明確化という二つの懸案の解決の前に、民主的な保障の基盤というものは十分に確立されているかどうか。能率的な、そうして責任の明確化した警察組織が確立せられる半面には、中央集権であり、警察国家への復帰である。警察が思想の弾圧に使われ、或いは政治警察化するという非難に対して、政府は具体的にその実体を説明して、世論の誤解を解く責任があると思うのであります。民主的管理の保障として、中央地方を通じて公安委員会を存置し、民主的警察の運営の保障を図つておると言うが、この公安委員会は、果して十分この趣旨に副い得るものであるかどうか。能率化と責任の明確化、そうして民主的運営というものの融合点が、本法案において如何に按排せられておるかということを明らかにして頂きたい。そして過去における警察活動の基盤がどんなものであつたか。今日の法制下における警察が、果して政治警察化したり、又は国民の思想に対して弾圧を加えたりすることがあり得るような法的基礎をなお残しておるかどうかということについて、法務大臣から納得の行く説明をお伺いいたしたいのであります。
第三には、中央集権というものと民主主義否定の論議についてお尋ねいたしたいのであります。今回の警察法の改正は、専ら中央集権化を図つており、これは地方自治の否定、民主主義の否認であるという論があります。市町村自治体警察を廃正し、一方国家地方警察をも廃止して、新たに都道府県警察を設置すると言うけれども、実際は国家警察に統一するものであり、地方自治の否定、又延いては民主主義の否定であると言うのでありますが、これは新たにできる都道府県警察に対する性格の説明が不十分である結果と考えます。民主主義は地方分権でなければならんという議論は、占領当初の連合軍当局が用いた日本国家寸断のための言語魔術であると私は考えておる。かような論議を分析するまでもなく、日本の国情から考えて中央集権と地方分権とは、いずれにも偏せず両者が調和を保つ必要のあることは論を待たないところであります。殊に警察行政はその特殊性から考えて、国家性と地方性とを適当に調和する措置がとられなければならないのでありますが、府県警察の性格について、その主要職員の任免等にも関連してこの間の事情が明らかになるように御説明をお願いいたしたいと思います。
なお、この問題と一連の問題として、今回の警察法は曾つての国会に提出未審議のままとなつておつた法案と異なつて、府県単位に徹底して五大都市に関する特例を認めておりませんが、これはどういう理由でありますか。大都市側の自治体警察廃止反対論者の中には、これは憲法違反であるというような極論さえもしておる者もあるようでありますが、それらには別に答える必要はないといたしましても、政府としてはこの際、地方制度調査会における論議とその経過を明らかにして、五大都市に市警を置く必要のないという確固たる信念を明らかにして頂きたいと思います。
第四は、治安責任の明確化の問題について、政府の所信をお尋ねいたします。犬養法相の説明を待つまでもなく、治安責任の明確化ということは、本改革の二大支柱の一つであります。政府の言うところの治安責任の明確化について、私はいささか疑問を持つものであります。現行の警察制度においては、政府は治安に関して責任を負い得ない体制になつておることは御承知の通りであります。国から完全に独立した自治体警察については勿論のこと、国家地方警察についても、その運営管理について政府は何らの権限もない状態でありました。余りにも不合理な制度に対して、内閣総理大臣の指示権というような一部改正が行われましたが、それらはいずれも制度の根幹に触るるもののないままに今日に至つておるものでありまして、今回の改正におきましても都道府県警察に対する指揮は、ただ国家的事件にのみ限定して都道府県警察の責任は、原則として都道府県の公安委員会にあるということになつておりまするが、責任の明確化を謳わるるには、政府はいささか率直性を欠いておらるるのじやないかと考えられますが、如何でございましようか。従来不明確な制度の下においても地方警察の問題について国会が取上げ、その答弁を政府として行なつておりまするが、これはいささか奇異なことであると私は考えるのであります。現在の制度下においては、中央政府は警察の問題については直接責任がないにもかかわらず、国会に答弁したり、陳謝したりしておるが、権限のないところに責任の生ずる道理はないのであります。国会が政府に対して問題とすることも、又政府が自分の責任であるかのように答弁することも、現在の警察制度の上からは不可解なことだと私は考えるのでありますが、これについて今まで別段怪しまれていないようなのは、これも又不思議であると私は考える。今回の改正においても、地方に起つた警察に関する事件については、本質的には現在と同様であると思いますが、もとより警察における政治的中立性の尊重が極めて大切であるということは言を待ちません。と言つて他面、国家における治安に対する政府の責任を明確にするということも、又同時に、民主的国家の責任内閣制の建前から言つて極めて重要な政治的原理の一つであると信ずるのであります。この二つの原理の調和のために、必要な場合政府は大胆率直でなければならないはずでありますが、この改正案では、政府は恐らくは世論の誤解を恐れた結果であると思いますが、依然あいまい模糊のうちに事を処理しておりながら、責任の明確化を云々していると思われまするか、この点、政府の御見解をお聞きしたい。事警察に関する問題は、たとえ地方の警察の小さな問題であつても、これが国会に取上げられて論議せらるるということは、極めて必要なことであると思うのでありまするが、かかる中途半端なあり方の下で、地方の警察に関することで政府には責任もなく、答弁の資格もないという法理的状態にあることは、議会政治における一種の不具であると考えらるるが、政府は治安責任の明確化については更に検討を加え、単に国家的事件に対する中央指揮というだけでなく、警察全般に関して堂々その責任を議会に負い得る体制を講ずべきものではないかと思うのでありまするが、この点について特に緒方副総理の御答弁をお願いいたしたいと思います。
最後に、本改正の実施によつて、職員の数において三万人、経費において約九十億円の節約を図り得るというのでありまするが、今回の行政整理のしわ寄せを、本法律によつて専ら警察職員、なかんずく自治体警察職員に課せんとするものであるという説が行われているのでありまするが、(「その通り」と呼ぶ者あり)この点について、若し然らざるものであるならば、然らざるゆえんを明らかにして頂きたい。警察職員にとつては、その国警たると自警たるとを問わず、改正の結果生ずる待遇その他諸般の問題には、深い不安の念を抱いているに違いないのでありますが、給与その他の措置に関しては法案の中にも詳細規定があり、法相の説明によつても一応の納得を得られたことと思うのでありまするが、三万人の整理、九十億の節約については、その具体的措置がもとより法案にも示されておらず、説明にもないのでありますが、職員各位にその面においても不安と動揺を与える必要のないだけの対策があるかどうか、この機会に政府は明らかにして頂きたいのであります。現下の社会情勢に鑑みて、警察職員全般の後顧の憂いなき献身的な職務の執行を期待せざるを得ないとき、制度の大改変が行われるのであり、これらの諸君に別段の不安の念を抱くことなくして新制度に赴かしめなければならんという政府の責任上から、懇切なる御答弁を期待いたします。
以上、現在問題とせられておる諸点の主なるものに関して政府の所信をお尋ねしたのでありまするが、今回の制度の改正が、現下の我が国情において最も喫緊止むを得ざる底の改正で、これこそは我が国再建の重要基盤の一つであることに思いをいたし、世論の一部にある誤解を正し、真の意味の民主警察のあり方につきまして正しい方向を与え、法改正の趣旨と制度の内容については、詳細の説明をして、国民に不安と危惧を与えることを避けつつ、政府が確固たる自信を持つて改むべきを改むるこの警察改革に邁進せられんことを希望して私の質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/5
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006・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
第一の御質問は、警察法の改正の目的はどこにあるのかという御趣旨のように承わりましたが、警察法の、警察制度の改正につきまして、御指摘のごとく単に警察力の強化によつてのみ治安対策とする、ごとき愚を冒してはならないのは言うまでもないのであります。治安対策は政府の総合政策によつてのみ完全を期し得る。かように考えております。
次に、警察国家再現の虞れはないかという御質問でありまするが、この法案による制度の改正に当りましては、飽くまで民主警察の理念を基調といたし、警察の管理と運営の民主的な保障を基盤といたして治安任務遂行の能率化と責任の明確化を図つておるのでありまして、警察権の執行の制限を変更したり拡大したりしようとするものではないのであります。この改正によりまして、警察官が職権を濫用したり、人権が蹂躪されるというような心配はないと政府では確信をいたしております。
次に、警察行政の中央集権と地方分権に関して、政府の見解を明らかにせよという御質問でありまするが、警察行政におきましては、中央集権と地方分権とを適当に調和せしめることが極めて重要でありまして、現行制度の完全地方分権に過ぎておる制度を改革いたしまして、府県警察を新たに創設いたしたのが今回の法案であります。地方制度調査会の答申は、今回政府の提案いたしました制度の改正の骨子と全く同様の趣旨でありまするが、ただ五大市の市警の問題につきましては、今回の制度改正におきましては、その設置を認めなかつたのでございます。今回の法案におきましては、能率的、経済的な運営のためと、一体的警察運営のために、その単位を府県に一元化することがどうしても必要であると考えた結果によるのでありまして、地方制度調査会におきましては、その答申は、主として警察事務の配分という地方制度上の立場から検討された結論でありまして治安上の見地から検討した場合におきましては、おのずから異なつた結論が出ることも止むを得ないということは御了承頂けると考えます。
次に、政府の治安責任が甚だ不明確ではないかという御質問でありまするが、従来の警察制度の下におきましては、御指摘のごとく極めて不明確な点があつたことは事実であります。今回の改正におきましては、治安の責任の明確化を図つたのでありまして、政治的中立性の確保と地方自治の尊重との間に適当な調和を図つたのであります。要しまするに、今回の改正におきましては、国会の厳しい批判を受けながら政府の責任を明確にするというところに重点を置いたつもりでございます。
以上お答えをいたします。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/6
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007・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申上げます。
大体副総理から、殆んど全部お答えになりましたが、主務大臣としまして余り簡略するのも如何かと思いますから、重複することを御承知の上で、よくお聞きを願いたいと思います。
従来の占領政策中にできました警察法におきましては、いいところもありまして国民に親しみやすい警察という感じを与えたことは確かに功績であつたと思います。併し御承知のように、警察というものは、ただ親しみやすいお巡りさんというだけでは、任務が果されないのでありまして、しつかり犯罪を防止してもらいたい。しつかり犯人を捕まえて、住民が枕を高うし眠らしてもらいたい。こういう別の課題があるのでありまして、(「汚職を捕まえたらいいじやないか」と呼ぶ者あり)言い換えれば、この双方矛盾した要素を持たなければならんところが警察法制定のむずかしい点でございます。つまり警察は、しりかりしてもらいたい。併し余りしつかりし過ぎちやこわい。こういう二つの課題を調整させることが、平たく申せばこの警察法制定の苦心の中心であつたのでございます。警察国家になるのじやないかという心配を相当の知識人まで持つているように思うから、政府はもつと詳細にその誤解を解くようにという御任意でございました。この誤解の一つは、やはり国警一本化になるのじやないかという誤解から出ているのではないかと思います。先ほど提案理由で申上げましたように、今度は国警も自治警も共に廃止いたしまして府県一本にいたすのでございます。その理由の一つは、御承知と思いますが、近年犯罪か複雑化いたしまして都市で犯罪が行われれば、その犯罪者は農村地方へ逃げる。農村で行われた犯罪者は都市へ逃げ込むというわけでありまして、警察単位が分割されておりますと、どうも相互の連絡協調だけではうまく行かない部分がありまして、これが異論の批判の的となつておるようなわけでありますから、今度は府県警察一本にいたしたのであります。併しながら中央から地方の警察に指令する事項は、法律案をお読み願つて頂きたいのでありますが、ほんの法律には極めて限定された最小限度にいたしまして、あとは地方に任せる。こういう態度をとつているのでございます。地方に任した部分につきましても、予算にからんでは府県会の公然たる議論の批判の的になりますし、若し警察国家的なことを行う警察官は、先ほど申しましたように府県の公安委員会から忽ち懲戒罷免の勧告を受けまして、これは新聞にも出ますし、輿論にさらされて、なかなかやりにくくなるというところに自然の制約があると存じます。(「任命権があるじやないか、長官に」「勧告だけじや駄目だよ」と呼ぶ者あり)
それから地方制度調査会の答申をどういうふうに扱つたか。副総理からお話になつたようでありますが、なお附言して申上げます。当局におきましては、地方制度調査会の答申は、五大都市を府県と並立させよという決議のほかは全部取入れました。尤もこの五大都市の問題は地方制度調査会の行政部会では、五大都市を独立して認めないほうがいいという決議になつておりますので、当局の態度はこの点についても、全然地方制度調査会の意見を真向から反対したというわけでもないのでございます。今申上げたように九分九厘までは地方制度調査会の答申をそのまま受入れたわけでございます。
最後に、政府の治安責任が依然不明確ではないか。この問題でございますが、御承知のように近年いろいろの事件が昨年起りまして、誰が一体最高責任をとるのか。私は御指示のようにたびたび議場に出まして、責任問題についても弁明し、或いは国会に了解を求めるというようなことをやつておりますが、実は私自身の担当大臣としての責任も余りはつきりしていないわけでございます。そこで今度はその点を勘案いたしまして、国務大臣を以て国家公安委員長を兼ねることといたしましたが、これは昨年の改進党の原案とも偶然合うわけでございます。ただ松岡さんの御指摘がありましたのは、それじや国務大臣たる国家公安委員長がもつと権限を持つてはどうだ、少しそこを遠慮し過ぎるのじやないかというお話でありましたが、余り国務大臣が国家公安委員長として万事、自分の思うように采配するということになりますと、やはり国民の心理が警察国家だというふうになりますので、先ほどの松岡さんの御注意も勘案いたしまして、この点は或る制約を国家公安委員長の権限のうちに加えた次第でございます。
もう一つ御心配の点があつたのでありますが、それは警察職員の身分或いは整理の方法、その他俸給の方法をどうやるか詳しく述べろということでございました。御承知のように今般の改革に際しまして国警自警ともに身分が変ります。御指示のように四年間に三万人減少させることになつております。これは政府の行政整理の根本政策にも順応したものでございます。ただ一時に余り減らしますと、警察の効率にも関係いたしますし、又職員の心理状態にも不安を与えますので、初年度は一万人、二年、三年のうちに一万五千人、最後の四年目に五千人減らしますが、これは御承知のように警察の事務というものは非常につらいものでございまして、自然退職者が毎年数千人あるのでございます。この自然退職者の数とも勘案いたしまして無理のない合理的な基準によつて整理をいたし、特に今の自治警察の職員のほうへしわ寄せして、そつちを目立たないようにだんだん多く退職させるというようなことは、これは全く不合理なことになりますので極力この点を公平にやるつもりでございます。又御承知のように今自治警の職員と国警の職員は給与が大分違います。多い所では一万何千円違うと思います。そういう点は今度どうするか。府県単位の警察になりますと、府県職員としての給与の水準を一応きめます。ところが勿論今の自治警の諸君の月給は、府県職員とし工のその水準より多いのでありまして、その差額は全額調整金を以て別に賄うことにいたしますが、併し恩給は改正がないときと同じ方法で通算して不安を与えないようにいたすつもりでございますから、この点は御了承を願いたいと存じます。
以上お答えをいたします。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/7
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008・河井彌八
○議長(河井彌八君) 小林武治君。
〔小林武治君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/8
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009・小林武治
○小林武治君 私は只今議題となりました警察法改正案につきまして政府に対し若干の質疑をいたします。
終戦後、警察機構が根本的に解体されたことは、日本を過度の警察国家から解放させることを目的としたものでありまして、その考え方は一応諒とすべきものがあつたのでありまするが、併しその実施されたものは、或いは警察民主化の美名に隠れ極端にこれを細分化し、或いはこれを支離滅裂とし、殆んど警察の機能を弱体化させたということはまぎれもない事実であるのでありまして、このために国民は生命財産の保全にすら不安を感じたことは我々の記憶に新たなるところであります。政府はこれらにつきまして過般来若干の修正をいたしたのでありまするが、なおこれは姑息の域を脱しないのであります。即ち国家警察と地方自治体警察との間には何らの有機的連繋もなく、国家的事件に対する協力の欠如、或いは広い地域に亘る犯罪捜査上の不手際等、幾多の欠陥を露呈しているのであります。なお又自治体警察のごときは、ややもすれば公安委員会等の無為無策のため民主化とは名のみにして却つて警察長らの独善官僚化を招いているものもあるのでございます。選挙の取締り或いは地方的スキヤンダルの摘発等につきましても、徒らに事なかれ主義に堕しているきらいがあると思われるのでございます。又地方の理事者に勇断がないために自治警察職員の待遇の行き過ぎとか、或いは機構の水ぶくれ、或いは又一般経費の放漫等のために地方の財政は危殆に瀕しているのも一つの事実であるのであります。又自治警のために警察官の異動、交流等が不円滑である。或いは人事に対して理事者の優柔不断等のために、警察業務のような特に相当な肉体的条件と精神的気魄とを必要とする組織におきまして却つて動脈硬化的現象さえ見られるのであります。私はこれらの観点からしまして、このたびの政府の改正案は大筋としては一応これを諒とするものであります。併しながらこれが改正に当りましては飽くまでも慎重を期すべきことは勿論のことでありまして、徒らな復古や復元は最もこれを戒めなければなりません。即ち世人が最も恐れておるのは、往年の警察国家の再現であるのであります。
私は、かかる懸念からして先ず第一にお尋ねいたしたいことは、権力の過度の集中の問題であります。警察組織を或る程度集中し、その規律、活動を規制することはもとより必要なことであるのでありまするが、その過度集中は特にこれを戒めなければならんと思うのであります。即ち終戦後の日本の政治組織というものは国家権力の分散によるチエツク・アンド・バランスの方式を採用したと言われておるのでありまするが、実際におきましては、総理大臣に権力が極端に集中しておるということは周知の事実であるのであります。而も、この警察法の改正によりまして更に権力を集中せしむるきらいがないか。こういうことであるのでございます。即ち、国家公安委員会の委員長に、総理が自由に任免し得る国務大臣を充てるがごときこと、又警察庁長官や警視総監等の任免につきまして単に国家公安委員会の意見を聞くにとどめるようなことは、にわかに賛意を表し得ないところでありまするが、あえてこの挙に出なければならないとするならば、その理由につきましてとくと政府の御所見を伺つておきたいのであります。
なおこれに関連しまして府県警察等に対しましては、でき得る限りの自主性を与え、政府の指揮監督権を最小限度にとどむべきはもとよりでありまして、警察法等におきましても、これらの問題につきまして政府の自由認定の範囲はこれを十分に規制する必要があると存ずるのであります。
第二に、戦後の警察民主化は、その弊はともかくとして、只今もお話のありましたように、警察を平明化し、明朗化し、又これを開放して、住民をして親しむべきものとした功績はこれを認めなければならんのでありまして、従つて、この長所、美点は、あくまでこれを存置助長すべきであるのでありまするが、これがためのいわば保障とも言うべき公安委員会の活用は本案の眼目でなければなりません。(「そうだ」と呼ぶ者あり)然るに、国家公安委員会にしても、又府県公安委員会にしても、ややともすればこれは単なる飾り物であり、警察民主化を見せかけるための道具ではないかというような印象もなきにしもあらずであります。もとより、公安委員会の資格制限を撤廃して広く有識者を任用し、警察長の任命、その他警察の運営等につきましても、公安委員会の活用、又その自主独立性等につき更に一段の工夫があつて然るべきものと思うのであります。
更に、第三は、警察機構の問題であります。警察組織を簡素化するということは、こたびの改正の一つの狙いであつたと思うのでありまするが、今日の案におきましては、国家機構としてなお七つの管区警察局を設置することに相成つておるのでありまするが、かかる中二階的存在が果して必要であるか。その理由についても承わつておきたいのでございます。
第四は、警察費の問題であります。即ち今次の警察法改正は、警察経費の合理化、効率化もその目的の一つとするものであるのでありまするが、府県警察の設置に当りまして経費の算定に適正を欠くようなことがありましたならば、警察機能に重大なる支障を及ぼす虞れがあると思うのでありまするが、これに対して果して十分なる財政的裏付けをしているかどうかということを伺いたいのであります。
なおこの際念のため伺つておきたいことは、府県警察設置に関連いたしまして、政府は今後府県の性格を変更するような意図があるかどうか。こういうことであるのでありまして、若しその意図ありとすれば、大要如何なることを考えておられるかということを伺つておきたいのであります。
なお次の第五は、この警察法改正案におきまして、今後政府は警察を往年の政治警察、思想警察に堕せしめないため如何なる心構えをしておられるかということであるのであります。前述いたしましたように、警察制度の改正で国民が最も恐れておりますことは、個人の政治活動や思想に対する不当の弾圧であります。我々の懸念いたしまするのは、戦後の警察官は、戦前に比べまして、却つてますます専門化しておるのではないかと思うのであります。一般警察官は別といたしましても、警察首脳部につきましては、戦前或いは以前におきましては、他の分野との人事交流も行われ、幾分一般常識の注入も行われたのでありまするが、戦後におきましては、警察首脳部はますます専門化され、その狭小なる視野と過度の職業意識とは、ややともすれば警察の反動化、又官僚化が憂慮されるのであります。即ちこれが防止につきましては、単に法律文の上でなくて、政府はよほどの用意と施策があつて然るべきと思うのでありまするが、私はそれらのものの一端としましても、全国の警察関係諸学校の教育内容につきまして、単に警察官の訓練にとどまらず、広く一般的社会的関係の常識、知識を涵養する特別の工夫も必要であろうと思うのでありまするが、これらの点につきましての御所見を伺つておきたいのであります。
なお第六に伺つておきたいのは、警察法の改正案の七十条にありまする総理大臣の緊急事態の布告の問題であるのでありまするが、これは国家公安委員会の委員長に国務大臣を充てることに、いろいろの異論があるのにも鑑みまして、この事態の布告を単に国家公安委員会の勧告に待つばかりでなく、緊急の場合にはその事後承諾を以ても、これをなし得ることにするという必要があるかないかということを伺つておきたいのであります。
更に第七としましては、警察官の給与の問題であります。只今お話がありましたように、現在自治体警察と国家警察との間におきましては、その給与に著しい不均衡のあることは公知の事実であります。これが是正は必須のことでありまするが、事はいやしくも警察官の士気にも関係することであり、如何に調整さるるか、その方針も承わつておきたいのであります。只今のお話では、自治体警察の高いものは何らかの調整を施すと言われておるのでありまするが、数年前の同僚が今日におきまして非常な給料の差額があるというこの低いほうの部面に対しては如何お考えになつておるか。このことも伺つておきたいのであります。
私は最後に、本日総理がおられませんから、やむを得ず副総理に伺つておきたいのであります。即ち治安の確保につきましては、警察の能力につきましてはおのずから限界があるのでありまして、それにはどうしても政治或いは社会の元を正さなければならんと思うのであります。即ち、政治への国民の不信が如何に悪影響を治安に及ぼすかということはわかり切つた問題であるのであります。昨今国会内外に取沙汰されておるがごとき事態は、誠に我我の遺憾とするところであります。治安の基盤は常に政治の公明であり、又その清潔さでなければならんと思うのであります。最近の事態に対しまして、又これらのことに対して政府は如何に考え、又これに如何に対処されんとしておるか。その所信をお伺いいたしておきたいと思うのであります。
以上を以ちまして、私の質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/9
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010・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
第一の御質問は、本改正案によると、総理大臣に過度に権力が集中しやしないかという御質問でございまするが、今回の改正によりまして警察権がすべて総理大臣の手中に握られてしまう虞れということは政府としては考えておりません。警察行政につきましては、その中立性を維持する建前から、総理大臣の所轄の下に会議機関としての国家公安委員会を置きまして、警察を管理せしめておるのでありまして、総理大臣がみずから警察権を掌握するものでないことは、これは御了承の通りであります。委員長を国務大臣を以て充てる趣旨も、一つには、国家公安委員の意思が内閣の行う行政にもよく反映し、内閣の治安に関する最高の責任の遂行に遺憾なからしめる、又その半面、政府の治安に対する国家的な考え方が、国家公安委員の中正な判断によつて濾過せられた上、警察の運営の上に具現されるようにしたのでありまして、総理大臣が警察権を一手に掌握して、強大な権力を振おうという意図は全然持つていないのでございます。
それから改正案によると、警察が政治警察、思想警察に逆戻りすることを、国民は恐れておるという御質問であります。この改正につきましては、警察の政治的中立性を保障するためには、特に慎重な配慮をいたしておるのでありまして、御心配になりますようなことは全然ないと考えております。
それから最後に、治安の確保のため、警察力には限界があるが、政治の公明についてどう考えておるかという御質問であります。もとより治安の確保を警察力のみに依存するという考えは毛頭持つておりません。民生の安定充実ということは、治安の確保の上からも最も重要なことであり、政府といたしましても、これを政治の基調にしておるような次第であります。又政治が公明に行われなければならないということにつきましては、小林さんの御意見と全然同一の所信を持つております。
以上お答え申上げます。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/10
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011・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えをいたします。
先ず最初に、公安委員会制度というものは、形はきれいだけれども、飾り物になりやすい。その点をどういうふうに今度按排しているかという御質問でありましたが、如何にもこれは根本的ないろいろ問題を控えております。説をなすものによれば、日本人が一体委員会制度というものをうまく運用できるかという根本的な問題もあるようでございますが、併し一方においては、絶えず国会からも御批判がありますように、中央集権化の過度の行き過ぎということに制約を与えるのは、何といたしましても、国民が選んだ公安委員会がチエツクするというこの作用は、やはり存置すべきであるという結論に達したのでございます。併し御指摘のように、従来公安委員会の人たちの資格の制限が厳し過ぎまして、例えば二十何年前にちよつと官吏をしても、もう公安委員になれないというのでは、余り厳し過ぎるのではないか。結論としては、よく悪口を言うのでありますが、公安委員はお医者さんと宗教家だけになつてしまう。勿論お医者さんも宗教家も、公安委員として非常に立派な人が多く、私も敬意を表しておりますが、警察にとつてけむたい存在になるということになりますと、やはり別の角度から、別の社会から経験のある人を採り入れたほうがいいのじやないか。こういう意味で今般公安委員の資格を拡げました。ただ警察官と検察官の前歴のある人に関しては、これはやはり遠慮したほうがいいだろう。こういうことになりまして、こういう方面から、小林さんの御心配の点を是正いたしたいと思つております。
それから副総理もお答えになつたようでございますが、中央集権化を小林さんは御心配になりましてその結果として、総理大臣が警察長官を任命するときに、国家公安委員会の意見だけを聞いて、地方の公安委員会の意見を聞かないというようなことでは、どうなんだろうか。こういうような意味に承わりました。この点いろいろ衆議院でも御質問があつたのでありますが、私はこの国家公安委員会が、人事について警察長官或いは総理大臣に発言します根底としまして、絶えず地方の公安委員会と定期的な連絡会を開いてもらうようにいたしたいと思います。地方の公安委員会の御意見だけでいいのではないか、殊に警察本部長の任免については、そのほうがいいのじやないかという御意見も一部にあるのでありますが、忌憚なく申上げますと、地方の人は、郷土愛が強くて非常に結構なんでありますが、ついその立場からだけ人材をお選びになりますが、近代警察事務というものは、国家全体に拡がる部分もありますので、国家全体の立場から、何県の本部長はこういう人がいいのではないかという立場からの発言も必要だと思いまして、かようにいたした次第でございます。
それから順序が少し狂うかも知れませんが、警察の能率化のためには、機構の簡素化が必要である。然るに管区警察局、前の管区本部を依然として置くのはどういうわけであるか。こういう御質問でありまして、これも昨年来の懸案でございます。この管区本部、今度の名前で管区警察局というものを依然残すのは、屋上屋だというようなお感じを持つかたも少くないのでありますが、これは御承知のように、近年の暴力主義的破壊活動の状態を見ましても、一つ場所でだけ起るとは限らない兆候がありまして、いわゆる同時多発的な騒乱事件というものを、治安の責任の立場からは予想してかかるということが、国民に対する責任だと思います。又この間の風水害のようにほうぼうの県に同時に襲うというような場合には、県単位だけの指令事務ではうまく行きませんので、例えば佐賀県に騒乱事件が起る、大水害が起る、長崎県に、お前、応援に行つてくれという場合、長崎県も長崎県が可愛いですから、自分は成るべくここを守りたい。こういうことになるのでありまして、それを、いや、やはり行つてくれ、長崎にはそういうことは起らんと思うという認定は、中央からでは少し手が届くには遠いのでありまして、その数県を中間ブロツクとして持つておる中心のステーシヨンというものが必要だと思うのでございます。この意味で通信、鑑識、教育のブロツク・センター、殊に有線、無線の警察通信というものが、これは警察の命でありますが、そのセンターを管区本部、今度の管区警察局に持たせよう。こういう考えでございまして、実は屋上屋ということにはなつてないと考えておる次第でございます。
それから今度の改正によつて、警察首脳部がだんだん専門化す。どの役所でもそういう傾向が実はありますが、そうやつて結局官僚化してしまつて、それでは動けなくなるのではないか。これは全く私も御同感でございます。ここで例を引くのはどうかと思いますが、戦前、戦争中の日本の軍人の教育というものが専門化しまして、社会人として通用しにくい人が少からずできたということを手本として、十分考えなければならないと思うのでございます。私はアメリカの或る工業大学でサイエンテイストが余りに専門化するのを防ぐために、ハウス・オブ・ヒユーマニテイーという教室がありまして、そこで劇だとか音楽だとか、いろいろなものを習わなければならないという制度があるのを知つて、深く感動をいたしたわけであります。警察のほうでも、初めての警察官になる初任教養の期間が従来は六カ月でありましたのを、今度から一年にしたいと思います。又警察大学の幹部教育も六カ月から一年にする。それは先ず人間として、街の国民に親しみやすい人間を作る。そしてその人間らしい人間になつたものの分担が警察事務である。こういう順序でやるような方針を長官初めとつております。なかなか口で言うほど実はうまく行かないかも知れませんが、これは全力を挙げてその方向へ持つて行きたいと思つております。
それから国務大臣を以て国家公安委員長に充てる問題について、小林さんは松岡さんと御反対の方角の御心配をなすつておられるのでありますが、その意味で先ほどお答えしましたように、責任の明確化という点において国務大臣を以て国家公安委員長に充てましたけれども、この国務大臣が国家公安委員長になつて、何でも実際上指令してしまうというのでは、これは御心配が御尤もとなりますので、いろいろ批評はありますけれども、あえてこの国家公安委員長は表決権を持ちません。委員間の賛否同数の場合に初めて採決権を持つようにして権限に制約を与えた次第でございます。
それから警察官の給与、今まで高い自治警が府県警察となつても、依然として差の部分は全額調整金として保障する、それはわかるが、低いほうはどうするのかというお話でありますが、これは結局ベース・アツプによつて、高いほうの人に迫つ付いて行くという作用以外にはちよつと方法がないのでありまして、誠にお気の毒であるが、旧国警の職員にはべース・アツプを楽しみにして頂くほか方法がないと思います。
それから緊急事態の手続について内閣総理大臣が国家公安委員会の勧告を待たずに非常事態の時はやつて、あとで事後的に承諾を求めてもいいではないか。緊急事態の如何によつては、そういうほうがいいと思われるものもなきにしもあらずでございますが、やはりこれは、人心の安定という意味からも、国民が選んだ国家の公安委員会の勧告によつて内閣総理大臣が非常事態を布告するというだけの、その手間を惜しまないほうが民主主義ではないかと思つております。
以上お答えを申上げます。(拍手)
〔国務大臣塚田十一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/11
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012・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) 警察法の改正と地方財政との関係についてお答え申上げます。
今度の改正によりまして府県に新らしく追加で需要が増加すると考えられますものは、総額で三百十五億という算定になつております。そのうち市町村のほうがなくなりますので、市町村から移管できますものが二百十億程度あると考えられますので、新たに百五億を二十九年度の財政計画の中に追加で見込んでいるわけであります。その中に、先ほどからお話のありました恩給費の増加六億、給与の調整のための十四億、退職金の引当七億五千万円、それらのものも含んでありますので、一応これでやつて行けるのではないか。こういう考え方をいたしております。
〔小林武治君発言の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/12
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013・河井彌八
○議長(河井彌八君) 小林君、何ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/13
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014・小林武治
○小林武治君 只今、府県の性格をどうするか。こういうことについてのお答えを願いたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/14
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015・河井彌八
○議長(河井彌八君) 小林君の登壇を求めます。
〔小林武治君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/15
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016・小林武治
○小林武治君 只今私は、府県警察の設置に関連しまして、政府は府県の性格を変更する意図があるか、又そういう意図があれば、どういうことを考えておられるかということをお伺いしているのでありますが、この点についてのお答えを願いたいと思います。
〔国務大臣塚田十一郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/16
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017・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) 今度の警察制度の改正と府県の性格をどうするかということは、直接には関係はございません。ただ併し、最近いろいろ国の行政機構改革、それからして今、連年の地方財政の赤字、そういうような状態をいろいろ見ました今日、府県の現在の性格というものに何がしかの変更を加えなければならないのではないだろうかという考え方は持つております。併し問題が非常に重大でありますので、これは引続いて地方制度調査会の御意向を聞いた上で考えてみたい。こういうことにいたしております。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/17
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018・河井彌八
○議長(河井彌八君) 若木勝藏君。
〔若木勝藏君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/18
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019・若木勝藏
○若木勝藏君 私は日本社会党を代表いたしまして、警察法案に対し吉田総理並びに関係大臣に二、三の質問をしようとするものであります。
〔議長退席、仮議長着席〕
過ぐる第十五国会で、政府は占領政策是正の方途として、警察法の改正案を提案したのでありましたが、これは国会は勿論、関係諸団体、一般世論の猛烈な反対に会いまして、その通過も危ぶまれておつた、その節たまたまあの不当解散によつて流産したことは、御承知の通りでございます。
今回は、当時の案に多少改訂を加えまして再度提案したのでありますが、その内容は、単に二、三肩替りした点があるだけでありましで、前回の案にも増して警察の中央集権の強化が見られるのであります。従いまして民主主義の一切を断圧、制限し、戦前のような警察国家が再現される要素を多分に持つていることは、前回同様なのであります。
政府は、近来占領政策の是正に籍口して、持ち前の保守反動の政策を実現しようとしていることは、蔽うべからざるものありと考えられるのであります。我が国の民主主義の生命ともいうべき各種の法律、各種の制度を次々と改廃して、戦前の国家体制に復元しつつあることは、幾多の事例によつて明らかなところであります。即ち、憲法の解釈をほしいままにして保安隊を創設したのでありますが、これが今まさに自衛隊に改変され、名実共に軍隊の実現を図ろうとしているのであります。すでに労働三法の改悪と破防法の制定は、労働者の労働基本権、国民の基本的人権を脅やかしておりますし、更に全国選挙管理委員会を廃止いたしまして選挙管理権を政府が握り、地方財政委員会を廃止して、政府の諮問機関とし、今又、地方自治の骨を抜く行政の機構改革を行わんとしておるのであります。
このようなことは、右手に陸海空軍の実権を握つて権力支配を固め、左手に選挙管理権を押えて、政権の維持に備え、腹中に地方自治を併呑して中央の支配をほしいままにしようとすることでありまして、まさに軍国主義的独裁政治に移行せんとすることを示すものであると言わなければなりません。(拍手)
私は先日ニユーヨーク・タイムスに、「最近の日本は急速調に占領中に禁止され或いは望ましくないと考えられていた諸制度を復活する方向に動いている。逆コースの傾向として占領下に確立された地方自治制度は徐々に廃止され、中央集権化の傾向が強くなつている。県知事の中央政府任命制度を復活しようとする動き、或いは今議会に提出されようとしている自治体警察廃止の警察制度改正案などはそれである。経済界でも、解体された財閥が復活し、旧制度に戻ろうとする動きが目立つている。社会生活の面では神道の復興に逆コースが見られる云々」というような、日本の逆コースに関する論評が出ているということを知つたのでありますが、昨日の読売新聞にも、今回の警察法案並びに教職員の政治活動制限法案についてアメリカの各新聞が広く頁を割いて紹介論評しておる。その論評は、概して吉田政府の措置を非難したものであるということが報道されておるのでありまするが、このように政府の作りつつあるところの体制が日本の反動化として国際的にも輿論の高まつていることは、現下の国際情勢上我々の重視しなければならないところであると思うのであります。
今回政府の提案した警察法案は、現行法制定の精神を抹殺してしまつているのであります。御承知の通り戦前、戦時を通じて持つておつた我が国の警察は、世界にも稀に見る中央集権化された軍隊的、封建的なものであつたのでありまして、国民のこうむつた迷惑や受難は枚挙にいとまのないほどであります。現行法はこういう警察を解体して真に民主的な警察とすることに努めたのであります。然るに改正案は、政府が警察権力を握つて何でも自由自在にすることができるようになつているのでありましてその点において旧制度以上のものがあると見られるのであります。今回の改正は一方には強力な権力を持つ保安隊と連繋いたしまして、一方では教育の中立維持の法案によつて教職員の教育活動を極度に制限し、教育基本法の精神を蹂躪して戦前のごとく教育を国家統制の下に置いて、国家主義的愛国心を吹き込むことと並んで、この独裁体制の完璧を築こうとするところに改正の動機があるのでないかとの疑問を抱くものであります。その点について伺いたいのであります。これは更にニクソン副大統領の言明からも推測されるように、アメリカの世界政策の破綻、転換によりまして対日政策が占領当初の非軍事化、民主化の方針から、防衛基地日本の建設に変り、講和後においては、安保条約、行政協定、果てはMSA援助に構想されるように、憲法改正、再軍備の要請の気配を見るに至りまして、吉田内閣の諸政策はこれに従属する一遂に出ておる点、又曾つて欧洲における独裁国家の下にあつた警察が、自由主義を弾圧し、思想、言論の自由、学問の自由等の剥奪或いは制限に駆使されておつた歴史的事実に照し合せまして、一層その感を深くするものであります。
吉田総理はこれまでしばしば憲法は改正しない、再軍備はしないと言つておられますが、それが本当に空言でなかつたならば、政府の政策は新憲法による平和国家の建設に向つて立案され、諸制度の改廃はこの基軸に立つて行われなければならないはずであります。この意味におきまして、特に国民の権利と自由を保護する警察制度は、少くともイギリスに見るように、住民の意思を反映することを基本原理とすることに十分な考慮が払われなければならないのであります。これこそは戦後十年、もはや新憲法の下に民主的教養と経験を積んだ国民大衆の良識の望んでやまないところであります。然るに今回の改正案は、政府の施政方針から見ましても、又法案の構想から見ましても、場合によつては民主主義日本の性格の変更に一役買う警察法であるかに見えるのでありますが、この点について吉田総理の所見をお尋ねしたいのであります。
私は更にこの点を本案の内容について所管の犬養法務大臣にお尋ねしたいのであります。
先ず第一に、今回の改正におきまして、現行警察法にあつた前文を抹殺したことであります。御承知の通り前文には、国民のために人間の自由の理想を保障する日本国憲法の精神と地方自治の真義を推進する観点から、国会は国民に属する民主的権威の組織を確立する目的を以てここに警察法を制定すると要旨を掲げているのでありますが、これこそは過去の封建国家の支柱となつていた警察権力を排除して、新憲法に基く民主国家の建設に、明確にして具体的な指標を打立てたものであると考えるものであります。政府は今側の改正を機会にこの前文を削除したのでありますが、その真意は民主政治を嫌つて地方分権を弱め、漸次中央集権の国家体制に移行せんがため、民主的な警察の否定を標榜したものと判断せられるのであります。特に地方自治の真義を推進するという重要事項を捨てて顧みないことは、この間の消息を最も雄弁に語つているものと思うのであります。このことは、従来弱小町村がその財政負担に堪えかねて警察の維持を放棄しようとした際、自由党政府は財政を援助してこれを育成するという途をとらず、これをよいことにして国警に吸収することに専念し、当初千五百六十四あつた自治体警察が、現在僅かに四百一に減つておる事実に照しまして、その意図のほどがはつきりと現われるのであります。これに対し主務大臣の所見をお尋ねしたいのであります。
第二に、私は警察機構について伺いたいのであります。今回の改正における警察機構の要点とするところは、中央機構として国務大臣を委員長とする国家公安委員会を置きまして、国家公安委員会の管理の下に警察庁を置き、内閣総理大臣の任命するその長官は、警察庁の所管事務について都道府県警察を指揮監督するようになつているのであります。次に地方機構としては、都道府県に都道府県警察を置いて国家地方警察と市町村自治体警察を廃止することになつており、都道府県の警察長は国家公務員として警察庁長官がこれを任命し、又都の警察長即ち警視総監は内閣総理大臣が任命する仕組になつているのであります。即ちこれを通覧いたしまするというと、重要人事を掌握するところの総理大臣、国家公安委員長の国務大臣、都道府県警察を指揮監督する長官、国家公務員の警察長というように中央地方を通じまして、縦の一線に貫かれた見事な中央集権の機構ができ上つておるのであります。政府は今回の改正で、国家地方警察を廃止して、新たに都道府県警察を設けて、警察管理の民主的保障を保持したと、如何にも民主的警察制度であるかのごとく見せかけているが、これは都道府県警察という名称から来る感じによつてごまかしておるだけであつて、その実態は人事権の所在から見ましてもわかる通り、明らかな国警一本化にほかならないのであります。(拍手)民主的な警察制度の根幹をなす公安委員会が人事権を持たずして、政府の人事統制に服したり、委員長が国務大臣によつて占められたりしておるような仕組で、どうして警察の民主的運営ができるでありましようか。私は今回の改正案は官僚支配に基く、この強い中央一本化の機構からできておることを考えるとき、いよいよ政府が地方分権を弱め、中央集権の国家体制に移行せんとするため、民主的警察の抹消を図りつつあるのではないかとの感を抱くものでありますが、法務大臣の所見を伺いたいのであります。(拍手)
第三に、私は今回の警察機構からすれば、警察が政党化する虞れのあることが看取されるのであります。申すまでもなく、警察は社会全体のためのものであつて、政府や一党一派のためのものでないのであります。そのためには、飽くまでも民主的な権威として存在するものでなければならないのであります。この点について、現行法ですら警察の根幹をなす公安委員が、内閣総理大臣や知事に選任させるという、政党の支配に陥り易い傾向を持つているのに、改正案では、従来の方針に大きな変更を加えまして、国家公安委員会の委員長に国務大臣を充て、更に委員の資格の制限を緩和して政党勢力の進出の途を開いておるのであります。時の政府の国務大臣が国家公安委員長の席に坐つて、警察の行政管理、運営管理に当るということになりますると、政府与党以外から出ているところの知事の一挙手一投足が監視されまして、その活動は大幅な制限を受けることになりまして、警察が地方自治の真義を推進するどころか、地方の行政は全く政府の手中に落ちてしまうことは明白であります。更に、中央に警察庁をおき、内閣総理大臣の任命する長官が、治安事務について府県警察を指揮監督する場合に、権限の濫用を防ぐため、その所掌する職務を法律に明記して制限を加えたとしているのであります。この点は法務大臣は特に力を入れて、先ほど提案理由を説明したようでありまするが、併しこの列記されたところの十二の事項について検討してみまするというと、「地方の静穏を害するおそれのある騒乱に係る事案」とか、「前各号に掲げるものの外、警察行政に関する調整に関すること」、こういうふうなことがありまして拡張解釈をいたしますれば、警察行政のすべてを、時の政府の一手におさめることができるようになつているのであります。これに加えまして、政府は流産した前回の法案の構想であつた警察大臣を置くことや国家公安管理会を設けることをやめて、改正案では如何にも民主的にしたと見せかけているのでありますが、これは国務大臣の警察庁長官が、国務大臣の公安委員長に肩代りしたに過ぎないのであります。むしろ職務の範囲から考えますれば、却つて政党の支配が強化されたことになるのであります。政府が如何に技巧を弄して警察を壟断しようとしているかが、はつきりと私は窺われるのであります。(拍手)
次に、今回の改正で、警察庁長官、都道府県警察の長或いはこれに相当する警視正以上の高級職員が国家公務員であり、而もその任免は総理大臣を根幹として一元的に行われることは重視しなければならないことであります。こうなりますれば、時の政府が自由に使うことのできる警察となりまして、戦前に内務大臣、警保局長の命令一下、全国に張りめぐらされました警察網によつて、思想、言論の自由を弾圧したあの忌わしい状態と、又与党勢力の拡張の上から反対党の圧殺のために行われた悪辣な選挙干渉、更に反対党の市町村理事者の追出しや、政府与党に波及する汚職事件のもみ消しに使われた警察等が再現することは明らかであります。(拍手)現在において、すでに教職員の思想調査であるとか、青年団や公務員の思想、行動などの調査が頻々として各所に起つている事実、或いは文部省でさえ教職員のこの思想、行動の調査を始めておる。こういうふう、なことは民主制度或いは現行警察法の精神を無視しているところの現警察の動向を示したものでありまして、改正法案に基く、やがて来るべき警察の本性を示唆しておるものであると断ぜざるを得ないのであります。社会全体のための警察として不偏不党且つ公平中正を旨とするところの警察が政党化するくらい国を害するものはないのであります。今回の改正案は、以上各方面の観点から検討してみまして、警察が政府の私兵化するところの要素を多分に持つているように考えられるのでありますが、政府が真に我が国の将来を思うならば、このような改正案を撤回し、むしろ公安委員を公選にする等、現行法の不備を補うような、民主的な組織を持つ警察制度の実現を図るべきであると思うのでありまするが、これに対する法務大臣の所見を伺いたいのであります。
第四に、私は自治体警察の廃止について伺いたいのであります。今回の改正に当つて政府は警察が地方自治の真義を推進するということを没却しているのであります。これは地方自治の確立を図つて民主政治の基盤に培うということを放棄したも同然のことでありまして、政府が如何に本法案を以て民主的警察制度の確立を図つたと称しても、それは単なるお題目に過ぎないのでありまして、根本において狙いが狂つているのであります。元来治安の確保というものは、昔のように権力支配の強い警察の下に、国民の行動を監視し、これを取締るといつたところに求めることができるものではないのであります。国家そのものが国際間にも独立国家として堂々たる地位を占め、その政治においても経済においても、国民の生活が真に正しく豊かに保障される民主主義の確立するところに存するものであり、従つて警察のあり方も、又この間にありまして国民の自覚を通じて、その希望と期待に副い得るものでなければならないと思うのであります。現行法は前文にも明確になつている通りこの精神に立つているのであります。
かかる観点からいたしまして、私は自治体警察こそ、最もよくこの精神を具現する組織であると思うのであります。と同時に優秀なイギリスの制度に学ぶべき多くのものあることを考えるものであります。併しながら民主主義は、先進国の例にも見るように、一朝一夕にして達成されるものではありません。特に我が国のごとく、永年封建制度に馴らされておつたものが、にわかに民主主義を体得し民主的制度の運営に習熟し得るものではないのでありまして、これは相当の時をかけて育成しなければならないのであります。特に警察制度のごときは、旧時代のあり方から脱皮することは、他と比較にならない努力を要するものであります。然るに政府はこの努力を捨てて、民主主義の不理解から、一気に封建の昔に帰らんとする保守反動の一派が、自治体警察は能率が挙がらない上に責任が明確でない、経費もかかるとして、自治体警察の廃止を叫んでいる声に乗つて、治安確保の要諦は民生の安定にあることを弁えず、厖大な再軍備予算を組んで、国民を塗炭の苦しみに追い込み、これを敵に廻わして取締るがごとき、権力集中の警察を作ろうとしていることは、本末を誤るも甚だしいと言わなければなりません。(拍手)併し政府は、都道府県警察は最も能率のよい、経済的な自治体警察であると抗弁するかも知れませんが、それは全くのごまかしでありまして、重要な人事権を持たない案山子のような公安委員会が、どうして都道府県警察を健全な自警として運営できるでありましようか。今回の案では、その機構から見まして、明らかに国警の地方組織であります。而してこれは都道府県の性格を国の出先機関に変更し、更に知事を官選にする構想と一連の繋がりを持つものでありまして、行政の中央集権化、権力の集中化の布石としたところに狙いがあると断ぜざるを得ないのであります。(拍手)
この点に対して法務大臣の所見をお尋ねしたいのであります。
最後に、私は塚田自治庁長官に伺いたいのであります。現行法の前文にも、警察は、地方自治の真義を推進するための制度であることを明らかにしているように、地方住民の福祉を主眼とする地方行政において、住民の保護の任に当り、これと密着するところの自警を放棄することのできないことは、従来自警を廃止するには住民の投票を必要とすると規定しておつたことから考えても首肯されるところであります。従いまして、自警は自治体の固有事務でなければならない性質のものであると思うのであります。この点において、民主制度の発達しているイギリスにおいて地方公共の秩序の維持は、地方自治団体の固有事務であり、自治体警察を以て本体とし、住民固有の権利を守ろうとしていることは、地方自治の本旨に副うものであると考えるものであります。
大臣は自治庁長官として、住民の日常生活に直結し、交通の安全、青少年の保護、衛生、教育、災害救助等、一般自治行政に緊密な連繋を持つている自警を廃止して、責任を持つて自治行政を推進することができるとの信念をお持ちであるか。この点についてお尋ねしたいのであります。
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/19
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020・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
警察法の改正につきまして、いろいろ御批判を承わりましたが、政府の構想につきましては、法務大臣の法案についての説明、又先ほど来私から説明いたしましたところに、もう大体尽していると思いますので、重ねて申上げません。これを要しまするに、政府といたしましては、現在の治安状況に照し、警察の能率化、責任の明確化を期する上において止むを得ない結論といたしまして、今回の改正案を立案したような次第でございます。
ただ御意見の中に、政府は右に警察、左に保安隊を持つて、何か独裁政権を作ろうとする意図があるのではないかというようなお話がありましたが、そういう考えは勿論政府にございません。現在の国会におきましては、憲法の下に弾劾権を持つておりまして、政府の非違に対しましては、国会はこれを弾劾することができる。又仮にその弾劾権を行いませんでも、四年ごとに或いは六年ごとに総選挙がある。その制度の下におきまして、お話になるような独裁権の確立というような心配は絶対にない。(拍手)
今日の民主主義の下におきましても、政府といたしましては、やはり国会の基盤の上に、その行政権を行いまする責任を果しまする上には、何といたしましても政府の信ずる制度と権限を持つ必要がある。この警察の運営につきましては、勿論政府といたし十全の注意は払わなければなりませんけれども、併しながら、私はこの警察法の改正あるが故に、政府が何か非常な独裁的なことを行うであろうというふうにお考えになるのは、これは国会みずから卑下なさり過ぎるのではないか。かように考えます。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/20
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021・犬養健
○国君大臣(犬養健君) お答えをいたします。
先ず第一に、現行法にあつた前文を削除したのはどういうわけか、あの前文には、民主主義理念が非常によく謳つてあるではないか、こういう御質問でございます。これは主として法制局の立法技術の問題にもなりますけれども、(「技術じやない」と呼ぶ者あり)我我の考えとしましては、成るべくこれからできる新らしい法律には前文というものはやめて行こう。こういう考えがございます。そういう意味におきましてこの前文を削除いたしまして、御異論があるかも知れませんが、我々としては、第一章総則のうちの第一条、第二条にこれを移植して語つてあるつもりでございます。
それから自治警察をだんだんこう栄養不良にして、いよいよ参つたときに国警に取上げるという方法をとつて来たのではないかということでございますが、勿論そういう考えはございません。そうして今、国警も自治警も共に廃止しまして府県警察にする場合に、果してこの自治警のほうが栄養失調で、もう参つておるかと申しますと、比較してみますると、給与その他ではむしろ栄養のいいのは自治警察でありまして、その栄養を落さないで、旧国警側の栄養の少いのは暫らく我慢してベース・アツプを待つ。こういう方法をとつておる状態からも自治警が栄養失調である、計画的な政府のそれは犯罪行為だということは、少し御批評が当らないのではないかと思うのでございます。
それからこの警察庁長官は総理大臣が国家公安委員会の意見を聞いてきめ、警察本部長は警察庁長官が国家公安委員会の意見を聞いてきめて、一本筋に縦に警察国家の大骨が通つているのではないかということでございます。これはつまり警察本部長というのは、見知らぬ他郷に赴任するのでありまして、そこにはその府県の伝統気風を熱愛する府県民が待つて眼を見張つて監視しております。更に先ほど申上げましたように、予算に関しては府県会の、これは各党派網羅しておる議員が公然と府県民の前で警察のなすところを批判いたします。又先ほども申上げましたように、地方の公安委員会は気に入らないとあれば、いつでも懲戒罷免の勧告権を発動することができます。そうすれば輿論の表象である新聞はこれを書き立て、不埒な行跡のある警察本部長というものは、その他郷において居たたまれない。多勢の府県民の中に一人入つているのでありますから、郷に入れば郷に従えということを呑み込んで行きませんとなかなか勤まらないのでありまして、油断のできないものでございます。この輿論の厳正な批判というものを勘定にお入れにならないから、そういう御質問が起るかと思います。
それから今度公安委員の資格の制限を緩和するというのは、政党の支配を強くして行く下心ではないだろうかという御心配でございます。これは警察法の中に謳つてございますが、中央の国家公安委員会の委員は、同一政党に属する者は二人だけにしてあります。それから地方は一人だけにしてございます。こういうわけで余り同じ政党員が幅を利かすということは十分注意深く制約してあるつもりでございますから、さよう御承知を願いたいと思います。
それから各都道府県の警察本部長と警視正の若干名が国家公務員になるということ、これが警察国家の本筋を暴露しておるものではないか。こういう御趣旨であつたろうと思います。これは先ほど申上げましたように、今度御審議を願います警察改正案の第五条として法律に明記して、中央の警察庁が扱う業務を極めて限定してございます。これは法律に書いて印刷して皆様を通して国民に約束する中央警察庁の任務制限でございまして、これを守らなければ我々は政府としての責任は保てないと思います。さて大仕掛の破壊活動や各県に亘る大風水害とかその他の災害、こういうものを扱います場合は国家的な事務として、本部長並びに一県大体四人ぐらいが国家公務員になりますが、それが国家的事務を担当いたしまして、あと御心配の一般犯罪や何かは全部地方色に染まつた地方の警官にやつてもらうのでございます。
こういうふうに区分してございますから、いろいろそれは御意見の立場が違いますから、難癖をおつけになれば、それはたくさんございましよう。(「難癖とは何だ」と呼ぶ者あり)私どもは又私どもの立場がら自己の信ずる道を申上げる次第でございます。(「何が難癖だ」「難癖とは何だ」と呼ぶ者あり)
それから自治警察を廃して、地方自治の推進が十分できるかということでございますが、これは誤解に基くものと思います。というのは今度は自治体警察を廃して国警一本にするとは誰も申しておりませんのでございますから、国警並びに自治警を共に廃して、府県一本の単位の警察にいたすのでございます。これは自治体たる府県の機関たる警察になるわけでございますから、自治体警察を廃止するとは申せないと思います。
最後に、都道府県警察は府県の性格の変更や知事官選の構想とひそかに関連があるのじやないか。こういうことでございますが、知事官選の暁を想像して警察法案を練つたことは曾つてございません。これは明言申上げたいと思います。(拍手)
〔国務大臣塚田十一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/21
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022・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) お答え申上げます。
国の或る行政事務をどの団体のどの段階においてやらせるかということを、私はいろいろな観点からやはり検討しなければならないと思うのでありまして、今までの警察は御指摘のような形でやつて参つたのでありますが、やつて来あた経験に徴して、いろいろ警察本来の目的に適当でない点があるというのでこの改革を考えたのでありまして、私は、警察事務には自治団体的な性格があると同時に国家的な性格もある、そこで今度あたりのやり方が一等適当であるのじやないかという考え方をいたしておるのでありまして、それだからと言つて自治行政ができなくなる。そういうような考え方はいたしておりません。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/22
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023・小林英三
○仮議長(小林英三君) 松澤兼人君。
(「ちよつと待つた」「今の発言取消せ」「一々質問したのが難癖じや国会は成り立たんぞ」「議員の質問に対して難癖とは何だ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し。)
〔松澤兼人君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/23
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024・松澤兼人
○松澤兼人君 私は日本社会党を代表して、今回提案になりました警察法改正案に対し重要な点について質問いたしたいと存じます。
我々はこの警察法の改正の問題につきましては反対の立場をとつているのでありまして、その質問に際しましても多少意見がましいことを申上げることは、これは決して……、当然であります。只今犬養法務大臣が若木君の質問に対して、意見の異なるところは異なるところとしてこれに率直に答弁をすればいいのに、議員の発言に対して徒らに難癖をつけるというようなお考えで答弁されるということは、我々としては誠に遺憾に堪えないのであります。(拍手、「その通り」と呼ぶ者あり)曾つて犬養法務大臣も、国家警察の弾圧を受けた経験のあるあなたが、今国務大臣としてそういう考え方から警察法の問題を論じられるならば、我々はこの犬養法務大臣の答弁に対しましても信頼することができないという結論を持たなければならないのであります。(「その通り」「そうだ」と呼ぶ者あり)曾つて自由主義者として犬養法務大臣がとつて来られた行動に対しても、議員の言論に対して難癖をつけるというようなことは、率直に取消されるのが当然であろうと考えるのであります。(拍手)
我々は最近の政府の方針を見ておりますと、漸次、反動、逆コースの方向に進みつつあるように考えるのであります。即ち政府はMSAの受入れと再軍備を究極の目標とする保守反動の態勢を固めるために一つ一つの立法や法律の改正を積み上げているとしか思えないのであります。
今国会に提案されようとしている教員の政治活動禁止の問題といい、この警察法の改正といい、一連の逆コース的な立法は、国民固有の人権と自由とを制限し、憲法を明らかに空文化しようとするものと言わなければならないのであります。政府は形式的に憲法を改正しないと言つておりますけれども、憲法の内容が一つ一つ政府の方針によつて崩されているのが現状でありまして、我々としては、飽くまでも憲法を守り、その中に盛られている精神を死守しなければならないと考えているのであります。政府の真の意図は、究極において憲法を改正しようと考えているのではないか。国民の基本的人権をかかる警察法の下におきまして如何にしてこれを守ろうとするのか。総理大臣の基本的な、明確なる答弁を要求するものであります。
現行警察法は、戦前の警察国家の独善を是正するために警察権力を分断し、民主化することを目的として制定されたものでありまして、その根本的な精神は、「国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去する」ことを目標としているのであります。敗戦日本の国民が、その再建に当つて、何よりも必要なことは、一切の軍国主義的傾向や、その萌芽を抑制することにあるのであります。現行警察法の前文において、「国民のために人間の自由の理想を保障する日本国憲法の精神に従い、又、地方自治の真義を推進する観点から、……人間の尊厳を最高度に確保し、個人の権利と自由を保護するために、国民に属する民主的権威の組織を確立する目的を以て、ここにこの警察法を制定する。」と述べているのであります。現行警察法の精神は、警察を封建的勢力の基礎となることから守り、軍国主義の復活を阻止することにあつたのであります。国民による、国民のための、国民の警察を確立することが真の民主警察の性格でなければならないのであります。然るに、改正警察法は、大幅な権限を総理大臣に附与して、警察権力をその一手に掌握せしめようとしているのであります。これはあたかも国家総動員法に基く大権委任と同様であると言わなければならないのであります。政府は今後国民の権利と自由を如何にして守らんとするのか。世上いわゆる警察国家再現と批判しているが、政府はこれに対して如何に考えているのか。吉田内閣総理大臣は、曾つて斎藤国警長官を罷免しようとして、国家公安委員会の反撃に会つてこれを実行することができなかつたのであります。改正警察法の下におきましては、いわゆる警察庁長官を自由に罷免することができる強大な権限を持つことになるわけであります。総理大臣の率直なる答弁を要求したいのであります。
政府は治安の確保と、その責任の明確化を図ることを改正の一つの理由としているのでありますが、力があり、能率的な警察を作ることは、権力的な警察組織を作ることとは異なつたものでなければなりません。警察行政としては、治安の確保以外に、一般国民との間に、日常密接な連絡をとつて行われる各般の警察事務があるのであります。これは警察と国民との間の融和と理解に基く協力によつてのみ達成されるものであります。暴動や騒擾等に対処するために強力な権力的、全国家的警察組織を作ることによつて、逆に日常一般の警察事務を軽視し、国民の不平と不満を買うばかりでなく、警察を以前のごとき暴力的、弾圧的なものにすることによつて警察と国民とを対立せしめようとする危険が極めて大きいと言わなければなりません。警察は民主的であり、国民の協力と理解を得てこそ能率を上げ、暴動や騒擾に対処する真の治安力となるのであります。能率的な警察の美名に隠れて権力的警察を再現した場合、政府は国民の協力と理解を如何にして達成しようとするのであるか。愛せられる警察と、恐れられる警察と、果していずれが能率的であるかを伺いたいのであります。(拍手)
改正法によれば、国家公安委員長には国務大臣を以て充て、国家公安委員会の権限を縮小して、総理大臣は形式的に国家公安委員会の意見を聞くのみで警察庁長官を任命し、都の警視総監は同じく総理大臣が国家公安委員会の意見を聞くのみにてこれを任命し、更に府県警察本部長は、警察庁長官が国家公安委員会の意見を聞くのみにて任命することになつているのであります。かくして国家公安委員会は、総理大臣又は警察庁長官から形式的に意見を聞かれるだけでありまして、これに反し拒否の意見を申出ることすらできず、これまでの警察の民主的運営に参画して来た公安委員会の権限を否定し去つているのであります。従つて総理大臣の意思と権力とは、都道府県の警察は言うに及ばず、町村の末端における地方警察職員に至るまで一貫して徹底するのであります。政府は戦前の警察行政に比較して優るとも劣らない支配力を地方に対して持つこになるのであります。現在の政府は政党内閣であります。従つて政党の支配は、警察系統を通じて、内閣から派出所に至るまで徹底するのでありましてまさに政治警察の復活そのものと言わなければならないのであります。曾つて敗戦以前、高等警察や特高警察によつて政治的干渉や思想的弾圧を受けて参りました我々といたしましては、かかる警察の運営を想像してみるだけで、身の毛のよだつものを感ぜざるを得ないのであります。今や国民の全部が新憲法の下においてすら、故なくして政治的に弾圧され、故なくして思想的に抑圧される危険にさらされなければならないのであります。敗戦後僅かに八カ年、民主主義を楽しんで参りました日本国民は、再び一切の自由と権利とを剥奪され、警察権力の圧制に泣かなければならないのであります。政府はこの警察法の下、如何にして民主主義と国民の権利を保障しようとするのか、明確なる答弁を願いたいのであります。(拍手)
政府は又自治警の非能率を理由として警察法の改正をしようとしているのでありますが、政府が地方自治確立のために必要なる財源を与えず、民主的自治警察の正常なる運営を阻害していることが根本的な問題であります。国家財政のしわを挙げて地方におつかぶせている現状は、地方自治をして名目だけのものとし、警察の維持運営にも事欠く結果をもたらしているのであります。自治体警察の充実はその財源的裏付が必要であり、これを与えずして自治警の能率、非能率を論ずることは、本末顛倒も甚だしいと言わなければならないのであります。我々は一定規模以上の地方公共団体に対しては、財源的措置を講じて民主的警察の維持管理に当らしめることが適当であると思うのでありますが、政府の意向を承わりたい。
なお、一定の地方公共団体において、その長が住民の利益と福祉のために一定の行政措置をなさんとする場合に、警察権力がこれと異なる措置をとることも当然考えられるのでありますが、市町村行政権と警察権とが対立競合した場合、これを調整するために政府は如何なる方法をとらんとするのか、伺いたいのであります。
民主主義は一日にして達成されるものでないことは言うまでもありません。農民に土地を与え、労働者に労働権を与え、教育委員会設置によつて教育を不当なる行政の支配から守り、警察行政の分断と民主化によつて、警察国家再現の危険から守ろうとする敗戦後の日本国民は、今日においても民主主義の積上げと、憲法擁護の決意をしているのであります。サーベルと豚箱の権力警察は戦争の土台であります。戦争の悪夢から覚めた日本国民は、平和な自治警察を育成し、これを充実することによつて残虐な権力警察の再現を阻止し得られると考えているのであります。然るに、政府はみずから一切の権力政治の根源である警察制度を復活しようとして、警察法の全面的改悪を提案しているのであります。国民に権力の手かせ足かせをはめることによつて、再軍備と憲法改正のための道を用意するのではないかと疑わざるを得ないのであります。改正に至つた経緯と、その信念について詳細に伺いたいのであります。
次に、法案の内容に立入つて重要と思われる点について質問いたしたいと思います。
第一に、現行警察法は新憲法と一体をなしているのでありまして、治安の維持は主権を有する国民の責任であつて、警察官はこの国民、即ち地方公共団体の住民に代つて治安の維持に当るという大原則に基いているのであります。然るに改正法によれば、主権者たる国民の治安維持の責任が大幅に制限され、国家権力に基く警察制度に変えて行こうとしているのであります。これは明らかに旧憲法時代の、主権は天皇にあるという思想に基くものと言わなければなりません。一般大衆の統制外に立つ行政長官を長とする高度に中央集権化された警察官僚制度を設置することは、近代全体主義独裁制の顕著な特徴であると言われておりますが、これに対する総理大臣のお考えを承わりたい。主権在民の精神がこの改正法によつて制限されることになるのではないか、所見を伺いたいのであります。
第二に、現行警察法には、警察法制定の理由と信念が前文として掲げられているのであります。これは先ほど若木議員から質問されているところによつて明らかでありますが、この前文は、警察制度が権力によつて濫用されてはならないという大鉄則を設けているのでありまして、今回の改正にこれを強いて外した理由はどうでありましようか。これは単なる法制技術の問題であると法務大臣はお答えになつたのでありますが、果して警察制度運用の根幹である問題と法制技術の問題と、いずれを重しとお考えになるのであるか、重ねて承わりたいのであります。(拍手)
第三に、公安委員会の委員の資格として現行法には、「日本国憲法施行の日以後において日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」は委員になることはできない旨の規定があるのであります。改正法においてこれを削除したのでありますが、今後かかる者が委員になる危険が相当にあると考えるのでありますが、これを外された理由を承わりたい。
第四に、警察定員の問題であります。警察庁の警察定員については法律を以て定め、地方警察職員については条例を以て定めることになつております。最初現行法におきましては、明らかに警察法自体の中に一定の枠を設けていたのでありますが、これを外し、他の法律又は条例に委ねているその理由はどういうところにあるのであるか。若しも警察法自体の中に一定の枠を置かず、警察の定員を他の法律又は条例に譲るとするならば、容易に増加することの危険があるのではないか。この点を伺いたい。
第五に、法案によれば、市町村有警察施設も、警察の用に供する場合には無償で使用することができるようになつているのでありますが、市町村が警察を我がものと思えばこそ、困難なる財政の中から新らしい庁舎を建築し、又はその他の施設を設けたのでありますが、そのために住民もこれに協力して参つたのでありますが、住民の意思を反映しない警察にこれを無償で取上げられることは、市町村の財産権の侵害となると考えるのでありますが、かかるものについては要求によつて代価を支払う措置を講ずることが必要であると考えるのであります。これらの点について御所見を承わりたいのであります。
次に、大達文部大臣に伺いたいのであります。大達文政は最近著しく反動的性格を露骨に表わして参りました。(拍手)明らかに教育に対する行政支配を強行しようとしているように見られるのであります。昨日も日教組の人々と文部大臣は会見されて、いろいろと交渉なり或いは協議なり、申入れなりが行われたのでありますが、とかくの評判のある十二月二十三日の局長通達は、この反動大達文政の一つの現われと考えられているのでありまして、言論機関もこれに対してはいろいろと論議しているのであります。文部大臣はこの際これを取消し、教育に対する政党支配の疑惑を一掃すべきではないかと思うのでありますが、御所見を承わりたいのであります。
又、茨城県その他において行われておりますところのいわゆる思想調査におきまして、警察権力を利用して行なつているという噂があります。又その事実があるのであります。(「事実だ」と呼ぶ者あり)果してこういうことがあつたのであるかどうか、明確なる御答弁を承わりたいのであります。(「責任をとりなさい」と呼ぶ者あり)
更に、大臣は文教を司る者として、今回の警察法の改正は民主主義に逆行するものであり、学校教育法に謳われている日本教育の新精神にもとるものであると思うが、警察が教育に介入し、教育の思想や生活実態を調査し、探索することが教育上悪影響を与えるのではないかと思うのでありますが、これに対する御所見を承わりたいのであります。
最後に、塚田自治庁長官に承わりたいのは、塚田自治庁長官は過般の予算委員会におきまして知事の官選の意向を明らかにされたのであります。(「昨日もしやべつた」と呼ぶ者あり)これに関連して私は次のことを承わりたい。知事の官選を果して政府の考えとして考慮しているのかどうか。官選に切替えられるとすれば、その切替えの時期はいつ頃これをなそうとするのか。現行府県制の下においては知事を官選にすることは憲法違反であると考えるのであるが、この点について伺いたい。(「フアツシヨ政治だ」と呼ぶ者あり)府県の性格、機能を変えて、国の出先機関としてこれを認め、その長たる知事を任命しようというのが塚田国務大臣のお考えのようであるが、果してそうであるかどうか。かかる場合には府県はすでにいわゆる府県たる性格を喪失して、完全な地方公共団体とは言えないと思うが、その際にいわゆる今日の府県議会は依然として存置するのであるかどうか。この点を伺いたいのであります。
以上を以て私の質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/24
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025・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) 警察法の改正、或いは教員の政治活動制限に関する法律等、これらのものは憲法の基本的人権を侵すものではないかという御質問であると伺いました。(「憲法違反だよ」と呼ぶ者あり)今回の警察法の改正は、民主警察の理念を基調にして、治安任務遂行の能率化と責任の明確化を期し、我が国情に適合した警察制度を確立せんとしておるものでありますることは、先ほど来たびたび繰返して申上げた通りでございます。又政府は学校教育の政治的中立性を維持するため、今回所要の立法措置を講じたものでありまして、いずれも憲法の精神に何ら反するものではないと考えております。又憲法の保障する基本的人権を擁護こそすれ、これを侵害する意図は毛頭ございません。
なお、これに関連して警察法改正等はいわゆる民主精神を冒涜するものではないかという御意見でありましたが、国会が国権の最高機関として確立せられておりまする以上、そういう心配は無用であろうと考えます。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/25
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026・犬養健
○国務大臣(犬養健君) 先ほど私の答弁中言い過ぎの点がありまして、御注意を受けてみますと、反対論に対する敬意を欠いている点がございますから取消します。
それから、お答えを申上げますが、先ず第一に、能率と力に偏つた警察は、国民の協力が前提であるのに、それを失いはしないか。こういう御質問でございます。先ほども申上げましたように、能率の向上化ということも確かに一面において図つておりますが、能率だけに頼る警察というものに対する疑惑は私も持つているつもりでございます。例えば能率本位だけにすれば、公安委員会などの議を経るということはまだるつこしいという思想も湧くのでありますが、それだけの手間をかけるということが、私どもも民主主義の本意と思いまして、国民から選ばれた公安委員会がその意味で警察にとつて、ときにけむたい監視役の存在になるということをむしろ希望しているのでございます。それで戦前には御承知のように治安維持法、これは思想取締をやりました。治安警察法、これは集会や結社や言論の取締をやりました。行政執行法、これは検束、よく言う盥廻しというようなことの行われたのはこれでございますが、こういうものが濫用のきらいがあつたことは確かに認めざるを得ないと思います。で、戦後におきましては、こういうものを全部廃止いたしまして、(「今復活しているじやないか」と呼ぶ者あり)現在警察官の活動の基準になりますのは、警察官等職務執行法及び新らしい刑事訴訟法でありまして、これは御承知のように十分警察官の職務濫用を国会において御修正にもなり、御監視にもなつてできたものでございますから、この基準の上に十分気を付けて警察官の行動の規範として参りたいと思います。
それからもう一つ、現行法にあつた前文を削除したのは、民主的な理念のいい点を除いたのは、単に法制上の技術で以て除いたというのでは、民主精神と法制技術とどつちを重んじているか。こういう御質問でございます。如何にも前文を削除したままで知らん顔をすれば、そういうお叱りが当てはまると思いますけれども、私たちの立場としては、第一章総則のうちの第一条、第二条に移植したつもりでございます。
それから次の御質問は、現行法は日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者の公安委員の資格がないということにしているのに、改正案でこれを除いたら、今後こういう人たちが公安委員に入る危険があるのではないか。こういう御質問でございます。この御心配は一応御尤もでございますが、これはよく考えてみますると、明瞭な欠格事由としての判断がなかなかむずかしいのでございまして、結局これは公安委員という者は、国会又は議会の同意を得て任命されるのでありますから、国会又は議会の議員の良識を待つて、これらの人が当然任命されることはないであろう、こういう幅を持たしたわけでございます。
それから警察官の定員について、改正案によると、警察庁の定員は法律で定めて、地方の定員は地方条例で定めることになつている。現行法のごとく法律の中へ明記すべきではないかと、こういう御議論でございます。現行法におきましても、自治体警察職員の定員は条例で定めております。今回の案においても、府県の地が警察職員の定員は条例で定めることになつておりますが、これは府県の意思を尊重した結果でございます。但し、全体の警察官の定員というものは、その基準を政令で定めることにいたしております。さよう御承知を願いたいと存じます。
それからもう一つ、これは相当重大な問題だと思いますが、市町村警察の施設を引続き警察の用に供する場合に無償で使用することになつているが、市町村からの要求があれば有償とすべきではないか、こういう問題でございます。これは御質疑の趣旨がちよつと私わかりかねる部分があるのでありますが、市町村のほうから言い出したら全部それを呑めという御質疑ならば、多少そこは私どもの考えと食い違うのでありますが、併しそうでない御趣旨ならば、御趣旨に副つたつもりでいるのでございます。即ち双方、府県市町村と国と話合いをしまして、そうして話合いの上で、どうもこれはただで捲き上げてはお気の毒だという場合は有償にする。例えば、前に国から建物を市町村がもらつて、今度は府県に警察が移行する場合は、もともと国から差上げたのでありますから、これは政府の考えとしては無償にしてもらおう。併し市町村で借金で作つたものを、府県警察になるからと言つて無償でそれをもらつてしまうということは、これはおだやかでありませんので、お話合いの上、これは全部の場合恐らく有償になるものと信じます。併し建前は双方のお話合いの上ということにしてあります。
折角育てて来た自治体警察を廃止するのは時代に逆行するものである。果して自治体の能率上どんな欠陥があつても、今度の改正はどうしてこういうことをしたのか。こういうことでございますが、能率化だけで府県単位にしたわけではございません。いろいろの場合の、近来の犯罪の質、それから犯罪の広さというものを考えまして、小さい単位に分割された警察では犯罪を防止し犯罪をつかまえるということがなかなかまだるつこく、或いはうやむやになる虞れがありますので、それでは犯罪をなくして、枕を高くさせてくれという国民の要望にも副いかねる。こういう意味におきまして、国警も自治警も共に廃止して府県警察にする。府県警察というのは、たびたび申上げましたように、自治体たる府県の機関の警察、こういうふうに考えておるのでありまして、決して自治体警察を頭からやめたい。こういうふうには考えておりません。冒頭に申上げましたように、自治体警察が何と言つても親しみやすい警官というものを生んでくれた功績者でありまして、このよい面は飽くまでも活かして行きたいと存じております。
以上お答えをいたします。(拍手)
〔国務大臣大達茂雄君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/26
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027・大達茂雄
○国務大臣(大達茂雄君) お答え申上げます。
お尋ねは三つの点についてのお尋ねと拝聴いたしました。
〔仮議長退席、議長着席〕
第一点は、昨年の十二月二十三日付の初中局長通牒、これを撤回する意思があるかどうか、こういうお尋ねでありますが、これはすでに松澤さんはその通牒を御覧になつていると思うのでありますが、これは決して教員の思想調査を依頼した通牒ではありません。学校の内部における中立性を侵すような教育が行われているということについて、(「それが思想調査だ」と呼ぶ者あり)新聞等に頻りに記事を散見するが、その真相を詳しく教えてもらいたい、報告してもらいたい。こういう意味の通牒であります。これは文部省として、学校における教育が果して政治的の中立性が保たれているかどうかということに関心を持つことは当然のことでありまして、従つてこの通牒も極めて当然のことであると思うのであります。従つてこれを撤回する意思はありません。
それからその次には、近頃警察官が教職員の思想調査をしているというようなことが頻りと言われているが、それについてどう考えるか。或いは又文部省はどういう関係があるかという意味のお尋ねのように伺つたのでありますが、これは警察官の行動につきましては、文部省としては何ら関知するところはありません。これは理の当然であります。(「理の当然とは何だ」と呼ぶ者あり)
それから第三番目のお尋ねでありますが、この提案された警察法の改正、これは民主主義に反し、我が国の教育に悪影響を及ぼすものであると思うが、どう考えるか、こういう御質疑の御趣旨のようであります。私は御意見は御意見といたしまして、この警察法の改正案が民主主義に反するものとは思つておりません。(拍手)
〔国務大臣塚田十一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/27
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028・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) 府県の性格を変えるという考え方は政府のもうきまつた考え方かという御質問であります。それはしばしばの機会に申上げているように、そうではございません。とにかく府県の制度の場合にも、今までやつて来た実情に照らして、もう少し何か考えてみる余地はないのかという感じを持つておりますので、地方制度調査会に、引続いて府県制というものの本質的な検討をお願いしたいと、こういう考え方であります。そういう状態でありますので、只今切替え時期はいつか、又国の出先機関にするのか、そのときには地方議会はどうなるのかというような点については、只今お答え申上げる段階ではありませんが、ただこの現行憲法との関係をどういう工合に観念しているのかということでありますが、これもしばしばの機会に法制局長官その他から申上げているのでありますが、現行憲法は御承知のように九十三条の第二項に、地方公共団体の長は、住民の直接選挙によると書いてあり、そうして地方自治法の第一条の二に、地方公共団体というもののうち、普通地方公共団体というものに都道府県と市町村があると書いてあるのでありまして、従つて都道府県の長が公選によるという考え方は、この自治法の第一条の二にむしろ直接根拠があるのでありまして、これは都道府県というものをどう概念するかによつては、必ずしも憲法を改正しなければならないという性格のものではないのじやないか。こういうように一応考えているわけであります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/28
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029・河井彌八
○議長(河井彌八君) 一松定吉君。
〔一松定吉君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/29
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030・一松定吉
○一松定吉君 私は改進党を代表いたしまして、警察法のこの法案に関しまする疑義を質したいと思うのであります。
先ず、今回のこの警察法の改正案は、現行の警察法と大分変つて改正されておるのであるが、その骨子は、つまり公安委員の権限を縮小した事実や中央集権的の警察制度の強化、そうして総理大臣の権限が拡張され、自治警が廃止されたということに重点がおかれておるようであります。この点につきまして、今まで質問せられておりまする諸君の質問に対する閣僚諸君のお答えは、国家警察を再び起す意味はないのだ或いは民主主義を破壊する考えはないのだと、こういうようなお答えをしておりまするが、我々は政府が国家警察再現をやるというために、政府がかような法案を出したのであると断言はいたしません。又政府がこういうようなことをやるのは、民主主義を破壊するものであると、政府は思うて出したのかというようなことを言うのではありません。問題は、この法案そのものの運用の結果から見れば、国家警察再現になるのではないか、この法案を運用することによつて、即ち民主主義を破壊する結果になるではないかと、こういうことを質問するのであります。(拍手)でありますから、あなたがたの国家警察再現のつもりでやるのだとか、民主主義破壊のためにやるのだとかいうような考えはないという御答弁は、質問者の質問には当らないのです。結果から見れば、こうなるじやないか、これは警察国家再現になるではないか、これは民主主義破壊になるではないかと、こういう質問でありまするから、それはならんのだとお答えになれば、何故にならんのだということを明らかにして、そうして我々と意見の相違をするところは、どれがいいかということは、国民の判断に待つよりほか途はない。こういうことになるのであります。
先ず、私は一体この法案は国家警察再現になるんだ。私は結果から見ればそうなるということを考えるのであります。(拍手)なぜそうなるか。総理大臣が国家公安委員を任命するについて両議院の同意を得て任命する。これは民主的でありましよう。又そうであるけれども、今度はいわゆる警察庁長官を任命するのはどうするかというと、それはいわゆる国家公安委員会の意見を求めて任命する。で、国家公安委員会がこの人物はようございませんという意見を付けても、それは意見を聞いたからいいじやないかというて、総理大臣が自分の思う人を任命することができる。又今度は、府県のいわゆる警察本部長を任命するのには、この総理大臣から任命せられた警察庁長官が、府県のいわゆる警察本部長を任命する。それも意見を開くけれども、その意見に従わんでもいいのであつて、意見に従わなければならんということはないのだから、意見に従わないで警察本部長を任命する。又警察本部長が今度は都道府県の公安委員会の意見を求めて、その他の警察署長だとかその他の警視以上の者を任命する。でありますから、結局のところ、今まで質問者の言われたように、上は国務大臣から下は警察署長に至るまで、終始一貫していわゆる総理大臣の任免権というものがずつと続いておるではないかと、こういうことです。(拍手)続いておるということは、即ち結果から見れば、昔の内務省警保局長がベル一本押せば、全国の警察官が起ち上つたと同じ結果になるではないか。そうすると、これは警察国家再現ということになつたと言われてもいたし方ないではないか、それはどうですか。こういうことを質問するんです。そういうようなことになつておると、然らばそれに対しては、民主主義の性質は取込んであるのだと、犬養法相は仰せになつた。どういうことかというと、公安委員会というものがいわゆる罷免権を持つておるではないか。成るほど罷免権を持つておりますが、その罷免権をいわゆる勧告をしたときに、罷免権の勧告です、勧告をしたときに、総理大臣やその他の者が勧告に応ずる義務があるということが、この規定にあれば、あなたのおつしやるようになる。(拍手)そうでしよう。勧告はしたけれど、俺はその勧告に応じないということになると、いわゆる勧告というものは、ただ空理空論にすぎない、空理を弄しておるということになるんだから、何らの価値がない、こういうことになる。こういう点がいわゆる国家警察再現になるのではないか。こう言うんです。
公安委員の中に国務大臣を入れる。而も国務大臣がその長であるということは、改進党がそういうことを言つておるじやないか。成るほど去年の二月三日の選挙に関する書物の中に、それを書いておるんですね。これは併し、改進党の幹部の一人である私が言いますが、菅野和太郎君が選挙委員会の席上で書面を出して言つたことが、検討も何もせずに、そのまま印刷にされたんだから、その印刷はお前のほうが出した印刷だから、いわゆる改進党はそういう主張だと仰せになれば、これは私は議論はいたしません。けれどもそのときにやつたことと、今日の改進党の考えとは必ずしも一つではない。常にあなたがたのおつしやる通り、政治は時期によつて変転するものである、性格は変るものである。(拍手、笑声)このことをお考えになれば、改進党のその選挙に関する冊子の中に書いてあつたから、改進党がやつているんだからいいとかいうんではなくて、国務大臣を公安委員会の一体委員長にするということがいいのか悪いのかということを今論議しておる。
国家公安委員というものは、御承知の通りに、いわゆる自分が政治活動をすることはできないというようなことがある。そうしてこれに対してはちやんと法文で制限を与えておる。十条の3、「委員は、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。」ということになつておる。そうすると、このいわゆる法案の中の国務大臣というのは、一体これは政党員でありますか、ありませんか。(拍手)政党員である、自由党の政党員であるいわゆる国務大臣がこの国家公安委員になるということになると、この十条の三項に抵触するが、これはどうなる……。(「自縄自縛だ」と呼ぶ者あり)そうすると、政党員でないなら、政党員以外の、例えば木村君みたいな人がこれになるということは、成るほど政党員ではないが、併しながらそれは総理大臣から睨まれれば、直ちにやめなければならないという地位にある人、こういう人が国家公安委員になつておつては、これは総理大臣の意見に反して行動することはできんでありましよう。そういうことがよくないと言うんです。
又、国務大臣は議決権を持たないから、国家公安委員会を覊束をしないと、あなたはおつしやるが、それは間違いですよ、あなた。それはですね、いわゆる第十一条の二項を御覧になれば、あなたのさつき御引用になつた「可否同数のときは、委員長の決するところによる。」という、これは議決権です。五人で、二人二人の同数のときには自分が決裁するんですから、議決権を持つんですから、やはりこの国務大臣によつて議決権が左右されるということになる。それがよくないと言うんです。(拍手)
そういうようなことから考えて見てですね。これは即ち総理大臣の思う存分に全国の警察官を動かすことができるということになるから、それでは警察国家の再現ということになるのではないか、結果から見ればですよ。そういうことを考えてやつたんじやないということであれば、それは認識不足で、ここまで考えなければならなかつた。ここまで考えないでそれをやつたということは、あなた方に責任があるわけだから、これは一つ考えてもらわなければならん。そういうようなことを考えてみると、私どもは実にこれは本当に重大な問題です。(「その通り」と呼ぶ者あり)あなたも御承知の通りに、いわゆる大政翼賛会というのがありましたね、近衛内閣に……。それで政党を解消してしまつて全国の政党員が大政翼賛会の党員になつてしまつた。そうして近衛総理大臣の思う通りに全国の政治をすべてやる、こういうことになつておる。だからして政党は解消してしまつた。そのときに敢然として立つたのが私どもで、(「いいぞ」と呼ぶ者あり、拍手)私どもはそれはいわゆる憲法違反だということで立つたために、我々は不幸にして選挙のとき非推薦になつてしまつた。だから非常な弾圧を受けた。推薦された人は頻りに当選された、当選確実になつたが、我々は非推薦として弾圧を受けた。弾圧の中を切抜けて生きて今日に至つておる。(拍手)あなたには御存じでございましようが、田中内閣の時の鈴木内務大臣がどういうことをなさいましたか。大変な選挙干渉をして、そうして国会の再開から四日間停会をして、そうして鈴木さんに対して不信任の決議をしたことは覚えていらつしやるか。或いは品川弥二郎氏の選挙干渉、こういうようなことに警察権を一本に握つて総理大臣が自由にやるということになると、こういうようなつまり政治的な行動が自由になり、思想的な弾圧ということも自由になるから、これではいわゆる民主主義に反するではないか、自治の破壊ではないか、こういうことを言うのです。それは自治の破壊ではないのだ、それは民主主義の存置だというならば、一つ何故にそれは民主主義の破壊にならんかということを説明しなければ本当の説明にはなりませんよ。私どもはそういう意味においてこの法案に対しては相当の疑義を持つておるからして、この疑義を一つ正してもらいたい。
それからその次に、私が犬養法相の御列挙に相成りました事柄について少しくあなたにお尋ねしてみたいのは、国民の関与というものを排斥したようなことはない、公安委員会が存置してあるじやないか、公安委員が管理権を持つておるじやないか。あなたのおつしやる通り、そう書いてありますね。ところが、その管理権を持つておるその公安委員の職員というものは制限されて思う通りにならない。自分がやろうと思つたときに警察本部長が、警察庁長官が言うことを聞かなかつたらどうするか。お前が言うことを聞かないから罷免を勧告すると言つて勧告したけれども、その勧告に応じなかつたならば、この公安委員会というものは空位を擁しておるだけで何らの仕事ができないということになる。これはいわゆる民主主義或いは自治というものを尊重しておるということではなくて、形の上ではそういうふうに見えるけれども、本当は空つぽであるということになるではないか、こういうような点。
それからその次には、能う限り自治警察を尊重するのだ、府県も自治体ではないか。成るほど府県も自治体であります。府県も自治体であるが、府県は国の行政の八割をやつておるところの国の一つの機関であつて、殆んど地方の市町村と違うところの自治体である。全く国の行政をやつておる。こういうところにおけるところの自治というものは、自治体ということを尊重しておるということは言えないじやありませんか、そういう点についても一つ私はあなたの御考慮を願いたい。費用は原則として大部分が府県が持つておるからとおつしやるが、それは府県は費用を持たされておることは喜ばしいことではなくて有難迷惑なんですよ。だから費用を持つて思う通りにやれないから、これに大いに自治体の人々が不満を持つて今日大活動しておるという実情なんです。人事権を持つておる。成るほど人事権を持つておるけれども、それは下のほうの人事権であつて、警視以上の者は国家公務員であつて、そうしてこれらの地方の人が介入できない。地方の人がやるのは巡査、巡査部長だけで、そういう者は上官からぱつと睨まれればどうにも身動きができないような立場におる人です。人事権はあつても下級の警察官が上官から睨まれれば身動きができないというような実情であるならば、これらのことも必ずしも自治を尊重しておるということにはならん。こういうことになるのであります。
それからいわゆる自治警察を認むるということになると非常な弊害があるのだ、ボスが入るじやないか。ボスは同じことで、府県一本でもこれはやはりボスはあるのだ。然らばいわゆる援助がうまく行かんじやないか。援助がうまく行かなかつたら、うまく行けるようにその法律を、その点を改めればいいのだ。人事の交流も思う通りに行かないというが、思う通りにやればいい。責任が不明確だ。責任は不明確じやありません。自治警察には公安委員会があり、いわゆる警察本部長が責任を持つ。その責任が総理に対して責任がないじやないか。副総理は行政権は政府が持つのだ、だから責任は政府が持たなければいかんというて、あなたは憲法を御引用になつた。その通りである。その通りであるが、そのいわゆる行政権は政府が持つておるのであるが、その持つておる政府は政令によつて地方にこれを移して地方費でやらせることができることは御承知でありましよう。だからして、地方が責任を持つ、総理が責任を持つ。第一次の責任は地方、第二次の責任は総理ということになれば責任の所在は明らかである。こういう点をいろいろ理窟を付けて今度の法案を、これをいい法案であると御主張になることは私どもはその点については納得ができない。ただ、施設が重複するではないか、自治警察と国家警察若しくは府県警察と施設が重複するではないか、こういうことをおつしやるが、成るほど重複はしますが、重複することによつて民衆の福利増進が図られれば重複は問題ではない。社会の輿論が一本化しておるではないかと犬養法相はおつしやつておりますが、一本化しておりませんよ。あなたも新聞は毎日御覧になつておりましようが、朝日新聞の一月十八日、毎日新聞の一月十五日、産業経済新聞の一月十二日、大阪読売の一月十六日、大阪新聞の一月十日、東京新聞の一月十四日の論説は、全部今度のこの警察法に反対しておりますよ。(拍手)そういうことを御覧になつていなければ、ただ政府の味方をするようなかたは、これは一本化しなければいかんということになるが、それは今までの弊害のあるところを是正をして弊害のないようにするということに力を入れれば私はいいと思うのであります。一体化を欠く、財政上不都合だとおつしやるが、成るほど一体化は、よく連絡を緊密にするような法文に改めてこれをやれば、財政上二十五億儲かるのだとおつしやるが、我々はこれについては内容がよくわかりませんから、一体どういうわけで二十五億が浮くのか明らかにしてもらいたい。要はこういうような問題は国民の福利を増進し、自治権を尊重するというような政治が行われることが政治の要諦であつて、民の心を以て政治をするということでないと本当の政治ではない。ただ権力を持つて権力を握つてやるということは、先刻もお話があつたように、いわゆる国家公安委員会の改正によつて陸海空を統帥する。その統帥権を総理が握る。大臣は自由に任免する、国会は解散する、警察は一本にする。こういうようになつて来ると、本当にこれは以前あつたところの、天皇陛下より以上の大権を握るのであつてこれこそ大変であるということを国民一般が心配しておるのだから、我々はそういう意味において、こういうような、いわゆる総理が一本に警察権を握るということはいけないから、これらの点を一つ十分に考えて、私どもは悪いところは是正することは賛成ですよ。併しながら、こういうようなところまで進んで根本的に自治を破壊し、根本的に民衆の権利を阻害するというようなことは我々は大いに考慮しなければならないと思うのでありますが、その点についての関係大臣の御説明を承わりたいのであります。
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/30
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031・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
政府は飽くまでも地方自治を尊重する建前でおります。(「答弁にならないよ」と呼ぶ者あり)今回警察法の改正案を提出いたしましたが、それは警察事務の公益的性格から考えまして、府県単位の警察にするほうが能率的によろしいということを考えてその都道府県警察は、併しながら知事の所轄する都道府県公安委員会が全面的にこれを管理いたすことになつております。それは私が説明するまでもない。又国家的な警察事務で中央の警察庁の指図監言を受けなければならんものにつきましては、その事項を法律に明記いたしまして、警察権の中央集権を防ぐべき配慮をいたしておるのでありまして、この点は私国家警察になる心配はない。かように考えております。併しそれはそう言つても、結果から見て国家警察になるんじやないかとお考えでありまするが、私はならんと思います。これは戦時中或いは戦争前のことをお考えになりましていわゆる羮に懲りて膾を吹く、すべてが元のものに逆行する、逆行するとお考えになつておりまするが、これは我々の努力によりまして十分に防ぎ得ると政府では考えております。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/31
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032・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えいたします。
一松さんの御質問の御題旨は、第一に、警察というものは治安維持ばかりでなく常に中立的でなくてはいけない、それだのに、これは上から下まで一本の命令系統が一貫しているのではないか。その証拠には国家公安委員長が国務大臣を以てこれに充てられて、任命やなんか、意見は聞くが聞きつぱなしで済むんじやないか、これが一番心配だと、こういうようなお話でございました。(「うまく行つていないじやないか」と呼ぶ者あり)そこで先ず国家公安委員の問題でございますが、特に御指摘になりまして、改正案の第十条の第二に、「委員は、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。」、これは今でも遵守するつもりでこう書いた次第であります。御承知のように国家公安委員の中には社会党の方もおられます。而も非常に立派な意見を持つておられまして、常に我々と協調していい御忠告を受けているようなわけでありまして、中立を保つているということにいささかの疑念も差し挟んでおりません。そこで問題は、その公安委員の上になぜ国務大臣の公安委員長を置いたか、こういう問題でございます。これは別の理由からでもございまして、先ほど松岡議員の御質問にもございましたように、近来いろいろな事件が起るけれども、責任が明確でないじやないか、政府の誰が一体この責任を負うのか。成るほど私は担当大臣でございますが、責任者というには少しずれているわけでございます。近来いろいろ起る事件に対して責任の明確化というここも確かに国民に対する責務と考えまして、務大臣を以て委員長に充てたわけでございます。これは先ほどお言葉もありましたが、改進党がそういう意見だからそうしたと申上げたのではないのでありまして、政府以外にも昨年の改進党のごときもこういうことをお考えになつた方がおられるところからみると、あながち独断でもないと思うという意味のことを申上げた次第でありまして、本年も改進党の中には依然としてこの主張を強くしておる方が現に私に御忠告をしておられるような次第であります。そこで委員長はどうするか。これは御承知のように委員長はできるだけ政治的な動きをしませんように投票権を剥奪いたしたのであります。併し委員会というものは御承知のように会議制でございますから、賛否同数のときは、それつぱなしに閉会というのは、委員会の体をなさないことは一松さんすでに御承知の通りでございます。誰かがそこにこの採決をしなければならん。そのときに初めて委員長が採決権を持つという制約を与えておる次第でございます。
それから国民の関与はちやんとしてあるというのは嘘だ、公安委員会にしても罷免勧告権を持つているけれども、勧告するだけで、言いつぱなしじやないか。成るほど法律の文章の上ではそうでございますが、しばしば申上げますように、現在の輿論というものはやはり恐ろしいのでありまして、警察本部長の罷免勧告を受けたということはすぐ新聞にも出ます。輿論もやかましくなりますので、事実その府県の人ばかりが住んでいるところに警察隊長が中央から派遣されておりますのですから、他国に、他郷に入つておる一官吏に過ぎませんので、輿論の反撃を受けてはうまく仕事が参りません。その輿論の制約というものを、失礼ではございますが、私は一松さんより大きく見ている。その意見の差になると思うのでございます。
それから人事交流をやつたり、互いに連絡協調をやつても、それはやれるのをやれないと言つておるのはどういうわけかというお話でございますが、これは私より経験に富んでいる一松さんのほうがよく御承知でありまして、お互いに一緒にこういう問題で苦労したこともありますが、人事の交流とか、互いの連絡協調ということは限度がありまして、運用の妙と申しますが、人のやる運用の妙には限度がありまして、さればこそしばしばほかの部門においても行政制度の改革、制度の改革ということを、何年か弊害が溜りますときに行いますのは、そういう意味かと思うのでございます。
それから五大都市の問題でございますが、これはいろいろ議論がございます。折角あそこまで育つた、大都市に何十万という人の住んでいるその人が育てた警察を府県単位にしてしまうということは、これは行き過ぎではないか。こういう御議論を殆んど毎日陳情その他で伺つておるのでございます。然るにそれにもかかわらず、私があえて五大都市を特別単位といたさないことにいたしましたのは、輿論の大部分もそういうふうになつておると思うのでありますが、近来の、たびたび申上げますように、近項の犯罪は複雑化しまして、大都会の中で起つた犯罪を犯した犯罪者は農村に遁がれ、農村で起つた犯罪の当人は大都会に入るというふうで、警察単位の分割がありますとうまく参りません。それが先ほどのお話のように、連絡さえすればよろしいではないかというのでありますが、命令系統の違う二つの仕事がうまく行くということはなかなか事実上参りません。従つて府県単位の大きい、而も自治体の上に乗つた単位にしようというのが改革の趣旨でございます。
なお、五大都市を独立させないのとさせるのとでは、約二十億から二十五億の経費の違いがございますが、これの詳しい御説明は委員会に譲らしてもらいたいと思います。(拍手)
〔国務大臣塚田十一郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/32
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033・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) 私に対するお尋ねは、主としてこの今度の警察法改正の考え方が、地方自治がうまく繋がるかという点であつたかと思うのでありますが、これは行政事務の点からどういう事務を地方自治団体の事務にし、どういう事務を国家事務にするかということもいろいろ問題があるのでありますが、私は警察事務は、先ほども申上げましたように、国家的な性格を帯びた分と、自治団体的な性格を帯びた分と両方あると、こういうふうに考えておりますので、従つて両面の性格を帯びておるものを、今まで非常に自治体的性格の強いやり方でやつて来て、幾つかの欠陥が出たので、その欠陥を是正するために今度の形が比較的妥当なのではないか。従つてその意味においては警察事務の地方自治団体的な扱い方というものは、今度の形にするのが正しいのじやないかと、こういう考え方をいたしております。自治体の行政事務であるから、必ずしもこういう形式にと、そういうようにはなかなか参らないのではないかと、こういう考え方でおるわけであります。(拍手)
〔一松定吉君発言の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/33
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034・河井彌八
○議長(河井彌八君) 一松君、何ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/34
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035・一松定吉
○一松定吉君 まだ時間ありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/35
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036・河井彌八
○議長(河井彌八君) 一分間あります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/36
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037・一松定吉
○一松定吉君 一分では……。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/37
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038・河井彌八
○議長(河井彌八君) 加瀬完君。
〔加瀬完君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/38
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039・加瀬完
○加瀬完君 法務大臣の言葉巧みな御説明を承わつておりましても、それはいずれも方法の末梢の点でありまして、その背後にある意図というものを質問しておる点に対しましては、何ら答えにもなつておりませんので、以下若干質問をいたすものでございます。改正案要綱によりますと、「個人の権利と自由を保障し公共の安全と秩序を保持する民主警察の理念を基調として警察管理の民主的保障を確保すると共に、我が国情に即した警察組織により治安の保持とその責任の明確化を図る、」こうその目的が示されておるのであります。これを現行法の、「国民のために人間の自由の理想を保障する日本国憲法の精神に従い、又、地方自治の真義を推進する観点から……、個人と社会の責任の自覚を通じて人間の尊厳を最高度に確保し、個人の権利と自由を保護するために、国民に属する民主的権威の組織を確立する。この目的と比較いたしまするときに、著しい相違と疑問を発見するのであります。第一の点は、法のよつて立つ基盤であります。現行法は、国民のために人間の自由の理想を保障する日本国憲法の精神と、地方自治の真義の推進と、この二つのコンクリートされたものを基盤としておりますのに対し、改正法は、民主警察の理念として、個人の権利と自由の保障、公共の安全と秩序の保持のこの二目標を基調といたしております。
そこで、疑問の一つは、改正案は公共の安全と秩序、このことに新らしい大きい重点を置いていることになりますので、この新らしい公共の安全秩序の重点が、権利と自由の保障を従属化して行くことは自然の勢いとなります。そうしてその公共からは地方自治体をオミツトしているわけでありますから、公共の福祉に対する判断が、政府の独善のみによつて進められるということになりかねないのであります。そうなりますると、生命、自由及び幸福追求の国民の権利、思想、良心の自由、信教の自由、集会、結社、言論の自由、又学問の自由まで、国民が憲法によつて保障されております諸権利が、公共の安全と秩序を保持する、こういう行政理由によりまして拘束侵犯されて参ることは必然であります。少くとも現行法よりも人権侵犯の傾向に向いておることは事実であります。
疑問の二は、個人の見方であります。民主警察の理念、警察管理の民主的保障と新改正法案は美辞を連ねてはおりますが、現行法の個人と社会の自覚を信ずることもなく、自治と自律の住民良心をも一切抹殺いたしまして、国家権力を主体として警察機構を構成しようといたしておることはこれ又事実であります。そうなりますと、個人はかように軽視されてもよいかという問題が起るのであります。憲法十三条の、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で、最大の尊重をされる国民の権利、こういうものは公共の福祉にも反せず、みずからの意思でもなく、しかくかように政府から軽視されるということになりますと、その理由は何でありましようか。かくのごとく改正法案の示す民主警察の理念は現行法とは甚だしい隔りがあるのでありますが、日本国憲法の精神に従つた現行法以上改正法案が、如上の点におきまして個人の権利に忠実である理由を憲法の条章ごとに明確にされたいのであります。
第二の相違は、法の目的であります。現行法は人間の尊厳を最高度に確保する、こういうことを最大の目的としておるのに比べまして、改正法案は治安の保持と責任の明確化を謳つているのであります。そこで疑問の一つは、誰のための治安か、誰のための、誰に対する責任かという点であります。又今、治安は保たれておらないのか、責任は明確になつてはおらないのか。こういう点であります。申すまでもなく国民のための治安であり、国民に対し責任があるのであります。そうであるならば国民が今警察に要望しようとしておりますことは、もつと一層人権を尊重してもらいたいということであります。(拍手)国民は各所に物議を醸しておる思想調査、警察官の過剰行為、人権の侵害、こういうことに悩んでおります。法務大臣にお見せする物があります。これであります。これはあなたが答弁された過日の国鉄事件における宮生君が一番下に著けておりました物、これは警察官の暴力がかくのごとく人権を侵害した証跡でございます。宮生雅人君の診断書によれば、「宮生雅人、後頭部裂創、長さ四センチ、幅一・五センチ、傷因、鈍器様の物にて殴打されたものと認められる。」こうあるのであります。然るにこれに対しまして警視庁の調査報告を見ますると、宮生はもみ合いの際負傷したものと認めらる。警視庁の隊員の負傷に対しましては制圧行為の際労組員の旗竿等による殴打暴行によるもので、七日九名、五日三名、四日一名計十三名の負傷者を出した。警察官の負傷調査は実に綿密でありますけれども、相手方に対しましては何も調査をしておらないのであります。傷についての鑑識もしておりません。併しながら事実は同日の毎日新聞の夕刊にはつきりと示しておるのであります。且つ又あなたの答弁に至つては、「誰かが傷を受けたことでございますので、この点について再三繰返して報告を求めたのでありますが、警官がこの二人を殴つたための傷という報告は一つも出ておりません。」法務大臣の筆法を以てするならば、警官に、誰か殴つた者はいないか、ありません、そうだろう、責任はないな、こういうことが警察官の……、こういう筆法で処断をされようとするならば、一体警察官の過剰行為というものがいつとがめの対象になることでございましようか。国民の人権保障は如何様にして成立するでございましようか。(拍手)治安の保持と責任の明確化の名の下に警察界に能率主義がはびこりまして権力主義となり、更に中央集権主義が更にこれに拍車をかけましてマツカーサー書簡の、最も強大な武器は中央政府が行使した思想警察及び憲兵隊に対する絶対的な権力、こういつた警察国家の再現に国民は戦々兢々としておるのであります。強盗であろうと暴徒であろうと、人間としての価値を尊重することは、権力を持つ者の第一の義務であります。この点人権を能率に置き替えた理由を説明されたいのであります。
第三の相違は組織であります。現行法は、「国民に属する民主的権威の組織」の確立を志し、住民自治の精神と住民管理の方針とを貫いております。中央と地方と不統一と不均衡はあつたといたしましても、自治警察の精神は高く評価さるべきものと信じます。旧警察の解体によりまして、我々は国民の自由をやつとのこと取り返したのであります。そうして今後この生命財産等の基本的人権を保障するためには、警察が完全に国民に管理されておらなければならないはずであります。然るを自治警と称して、人事権を政府が強固に把握し、民意を代表する公安委員と称しながら、国務大臣の委員長に支配権を握らせ、これでは政府警察でありましても、国民警察とは言われないのであります。国家という政府の意思だけが存在をいたしまして、主権者であるべき我々国民の意思は差し挾まる余地がないのであります。そこで又疑問に突き当るのでありますが、国情に即した、その国情とは現行憲法とは如何なる関係になるのか、どう考えておられるかということであります。理論的には国情に即したとは、より憲法的なということでなければならないはずであります。すると憲法に最も忠実に編まれた現行法を、国情に即さないものとの判断の上に立つて改正法案が出されたということに大きな矛盾があるのであります。又国情に即したということは憲法には関係なく、そのときどきの政府の情勢判断によりましてきめられるといたしまするならば、一体国民は何をよりどころに生活をするのでありましようか。法治国とは言われない結果を来たすことになるのであります。
更に大きな疑問は、政府は国情が憲法をさえ変形解釈、拡張解釈、異説解釈をとらねばならないほど変化したもの、或いは変化するものとして認めているという事実であります。戦力なき軍隊、直接侵略に対する自衛権、こういつた言葉が、憲法制定をした人の口から出ておるのであります。政府は今やMSAを受入れ、アメリカ国防次官ナツシユの言葉によるならば、我々が日本にやらせようとする、日本列島を守るに足る軍というものを、義務として受けようとしていることも事実であります。特にMSA五百十一条(a)項の六条件に関し、岡崎外務大臣は中間報告におきまして、これらはMSA援助を受ける国のすべて受諾する義務である。我が国も受諾して差支えない。こう言つている見解からいたしましても、その五項の「防衛能力を増大するために必要な一切の合理的な措置」をとる義務、これをも当然受入れて行く方針であろうと思います。国情の変化というのは、MSA受入れのためか。この受入れのために、警察は国家統制され、軍機保護法がもくろまれ、教育の中立法案が強行され、知事の官選が意図されるということになるのではないかという点に深い疑惑を持つものであります。
憲法という国の基本法をも踏み越えて、国民の意思にもかかわりなく進行される。こういう一連の動きを、如何に政府が陳弁いたしましても、民主的運営と言うのは当らないのであります。国民はそんなに馬鹿ではありません。国民は予備隊が保安隊となり、自衛隊と変化して行くことに非常な不安を持つているのであります。「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることの」なき決意、こういう憲法の規定を決して忘れておるのではありません。政府の言う国情の変化が濃度を増して参りまするならば、「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに」生きる権利というものを、国民はますます主張することでありましよう。そういうときに政府は、憲法の示すこの平和、この独立、個人の自由、これらの日本の政治目的の示す行動までも、国情の変化による公安維持という目標で国家統制をする意図があるのではないか。もう一度言うならば、国情の変化というのは一体何か、思想統制、政治活動の制限をする意図があるのではないか。こういう点を総理大臣にお答え頂きたいのであります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/39
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040・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
現行法に基本的人権の保障とあるのを、今回の改正案に「公共の安全」ということに置き替えたのはどういうわけであるかという御質問でありましたが、「個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持」すべき警察の責務につきましては、現行法といささかも変りはないのでありまして、警察がその任務を能率的に遂行することこそ、個人の権利を擁護するゆえんであると私どもは解釈いたしておるのであります。個人の権利と自由の保護と公共の安全と、秩序の維持、これは表裏をなしておるものであつて、決して矛盾をしておるものでは、ございません。
それから最後にお尋ねになりました国情の変化ということにつきましては、MSAに結び付けて、何かこの警察法の改正が、将来再軍備を予期する憲法の改正或いは再軍備に備えるものであるかのごとき御示唆でありましたけれども、この警察法の改正に関して、国情の変化と申しておりますのは事情の変化でありまして、この治安の現状に鑑みまして改正を企てた点がある。そのことを申しておるのでありまして、別にMSAと直接の結び付きばないのであります。その点をお答え申上げます。
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/40
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041・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申上げます。
先ず第一に、只今副総理よりもお答え申上げましたが、この警察法を改正する案文を作るに当りまして、勿論個人の自由、権利というものは念頭に置いたつもりでございます。勿論これは憲法にも保障されておることでございますが、同時に私どもは、その憲法の他の条章において個人の自由、権利は保障するが、但しこれは公共の福祉にもとらない枠の中であるという憲法の条文も同時に頭に置いて、公共の安全、福祉のための警察法を考えた次第でございます。
御指摘のように、警察というものは初め発生論から言いますと、自分の家を守る、それから隣り近所を一緒に守る、それから町を守り、広くは市を守るというように発生して来たものでありまして、この発生的な原因、つまり人民のための警察というこの考えは除いてはならないと思います。併しながら同時に只今の擾乱事件、犯罪事件というものは非常に複雑になりましたし、殊に擾乱事件は或る場合には国際的な色彩も帯びているのでありまして、この前も御説明いたしたかと存じますが、東京において起りました或る大きな擾乱事件、パリに同月に起りました或る擾乱事件とは、その構成分子と使つている物品とが揆を一にしているようなわけでありまして、治安当局から言えば、そういう広く国際性を帯びて来た破壊活動というようなものを頭に置いて、個人の枕を高うして眠らせるという責任も生じる。その点において昔と違いまして、警察が国家的性格を持ち、国家の広い立場から、何県何県はこうしてもらいたいという、非常の場合の極く限つた指令というものは持たざるを得ないのではないか。こういうふうに考えているのでございます。この意味におきまして近来犯罪が複雑化し、犯罪の動きが広域化し、広い地域に亘つて来た、その国情に照らしまして警察の仕組を変えたと、こう申上げた次第でございます。
それから最後に、国鉄の入口で以て国鉄労組の人が大勢集つて、その場合に怪我人が出た「シヤツも確かに拝見いたしました。宮生雅人君が怪我されたことも事実でありました。私は国警或いは警視庁に対して、怪我の原因はどうだ、それは勝手に自分で怪我したらしい、そうか、というようなそんな簡単なことを私考えておりません。成るほど五種類ほどの報告を集約して申上げますと、その報告によりますならば、宮生君は国警の隊長のうしろから組みつかれたことになつておりますが、併し一方誰も自分の後頭部を自分で殴る人はないのであります。何か原因があるのではないか、これは只今でも厳正に調査いたしでいる次第でございます。決してこれは宮生君のほうだけの責任だと断定して、それでよかつたと、そういう簡単な気持で私は警察を監督してはいないつもりでございます。ただ結論としまして、ああいう双方でもみ合つたことでございますから、どう怪我したにしろ、この怪我の加害者というのはなかなかわかりません。これはどうしてもあれだけ人数が多いとわからないということがやはり真相になるものと思いますが、その結論としては、再びこういうことのないように厳重に注意をする。その注意も上べでなく、本当に注意をするということが一番肝要であると心得ております。併し調査は打ち切つておりません。さよう御承知を願いたいと思います。
〔加瀬完君発言の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/41
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042・河井彌八
○議長(河井彌八君) 加瀬完君。
〔加瀬完君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/42
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043・加瀬完
○加瀬完君 大騒擾というものを予想されまして、破壊活動というものを予想されまして、そのために破壊活動の制約の前に個人の人権が非常に侵害される危険というものを我々は恐れるのであります。その点を承わりたい。
もう一点は、大騒擾というものに備えるためと、個人の幸福というもの、一番幸福というものに密接な関係のあつた自治警察というものを廃止することと、どちらが一体国家としては考えなければならない道か。こういう点であります。
第三点は、今宮生君のことについて御答弁がありましたが、私はあなたがお答えになりました当日の速記録によりまして、お答えなされた通りのことを言つているのであります。その中には、はつきりと誰かが傷をつけたことでございましようが、この点再三繰返して報告を求めたのでありますが、警官がこの二人を殴つたための傷という報告は一つも出ておりません。併しながら後頭部の傷で、棍棒様のもので殴られたということがはつきりとしておれば、この原因について調べなくて、それでいいかということを聞いておるのであります。それほど法務大臣は人権というものに対しての尊重さを欠いておる。こういう考えで警察法というものの改正というものももくろまれることになりましては、先ほど言いました個人の幸福というものが非常に軽視されることにはならないか。そういう点であります。
〔国務大臣、犬養健君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/43
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044・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申上げます。
言葉の足りない点があつたかと思いますが、大体大仕掛の擾乱に備えるための目的で自治警を廃止するとは申しておりません。市町村単位の自治警を廃するというのは、警察単位が細分化されると、複雑且つ犯罪対象が広域化した近代社会においては不適当である。近代社会に合うように府県の広さまで拡げた、こう申上げたのでございます。勿論大仕掛の擾乱に備えるために個人の権利がどうなつてもいいというようなことは考えておりません。
それから途中で申上げるのでありますが、宮生雅人君の問題は、最後に私は、「併しなお調査いたすつもりでございます」と、こう申しておるのでございます。それから、そのときに国警の隊長のうしろから宮生君が首を締めたように申上げたかも知れませんが、これは警視庁の予備隊の第二隊長のうしろから宮生君が飛びつかれたという報告を受けたのを読み上げた次第であります。
要するに近代の特殊な産物として同時多発的な擾乱事件というものはしばしば予想されるのでありまして、それに対処するように警察の機構を変えたのでありますが、併しそのために個人の尊厳、個人の権利というものを犠牲にしているということになりますならば、大体こういう擾乱や犯罪は土地の住民の協力を得ませんとうまく参りません。これは体験に照らして明らかでございます。従つて警察が能率を挙げるということは、好かれる警察になるということが半面大事でありまして、この点は犯罪捜査に携つたいやしくも経験あるすべての警察官が私に直接体験談を申す次第でありまして、この点は十分尊重しておるつもりでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/44
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045・河井彌八
○議長(河井彌八君) 議事の都合により、これにて暫時休憩いたします。
午後二時六分休憩
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午後六時二分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/45
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046・河井彌八
○議長(河井彌八君) 休憩前に引続きこれより会議を開きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/46
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047・高田なほ子
○高田なほ子君 私はこの際、茨城県における教員の思想調査に関する緊急質問の動議を提出いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/47
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048・天田勝正
○天田勝正君 私は只今の高田なほ子君の動議に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/48
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049・河井彌八
○議長(河井彌八君) 高田君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/49
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050・河井彌八
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。よつてこれより発言を許します。高田なほ子君。
〔高田なほ子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/50
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051・高田なほ子
○高田なほ子君 教員に対する思想調査が警官によりまして全国的に行われておりますことが今日重大な社会問題になつております折柄、又々茨城県下中小学校教職員に対して秘密裡に行われました思想傾向及び教育の傾向に対する調査は、豈図らんや、教育の不当な支配排除の責任を持つ文部省当局自身の秘密指令に基く全国的調査であることが明白になりました。盗人を捕えて見れば我が子なりというような深い悲しみと憤りを以て、以下総理大臣、犬養法相、大達文相に対しまして、日本社会党を代表いたしまして若干の質問を申上げたいと思うものでございます。(拍手)
昨年の暮、十二月の二十三日付を以て、「教育の中立性が確保されていない事例の調査について」文部省初等中等教育局長緒方信一名、各都道府県教育委員会教育長宛、文発第九三九号の指令は、教育の実情調査に名をかりた悪質陰険な文部省の秘密行政を暴露したものでございます。即ち「特定の立場に偏した内容を持つ教材資料を使つている事例、特定政党の政治的主張を児童生徒の頭に印象付けようとしている事例、一部の利害関係や特定の政治的立場によつて教育を利用し、ゆがめている事例、その他教育の中立が維持されていない事例について詳細且つ具体的資料を添えて報告されたい」というのでありますが、これは言うごとき単なる教育事例の調査では断じてございません。教育的事例とは、決して偶発又は突発的なものではなく、明らかに教育効果そのものの一部を意味するものであつて、この効果の対象として挙げられるものは、教師自体の教育活動、即ちこの内容をなす教育者個人の思想そのものであることは言を待ちません。従つてこの種の調査は、明らかに教員の思想調査を対象とした最も卑劣、悪質なやり方と言わなければなりません。而も当の茨城県神谷教育長は、文部省の指令に前置きしまして、無用な刺戟を与えないよう極秘裡に調査報告することを命じ、更にこれら調査資料に対して、高校長或いは出張所長の私見をも附加えることが明記され、全く二重三重の特高的な指令を発し、而もこの報告は逐次集計を見つつあるというお話でございます、お上の命令を後生大事と守り、この重大な秘密調査を当然と心得る官僚根性によつて、教師の無心の行動は出張所長等の眼鏡の色工合によつては如何ようにも色付けられ、如何ようにも報告され、如何ようにも切捨て得られるものでございます。文部省特製の秘密警察は、全国の教育者をさながら思想犯的容疑者として、真昼間教室の中でも、自由自在に活殺の権を振うことができるという誠に恐るべき権力支配でございます。現に本日、朝日新聞の「声」欄には、警官による思想調査の行われた青森県下の一高等学校生徒が、「口つぐむ先生」という見出しで、授業中でさえ満足にものを言わなくなつた先生、面白くなくなつた授業の内容、今取扱われている第二次世界戦争の教材は先生みずからが、参考書を見なさいとか、ここは説明を省くとかいうように、殆んど情熱を失つた教師の姿を通して、この背後の暗い圧力を敏感に児童が指摘している点を我々は見逃すことは断じてできないのでございます。汚職と疑獄で汚れた吉田内閣の文部行政は、かくて純真な教師や児童の良心を裁く権利をどれだけ持つているというのでございましよう。(拍手)教育の中立性を法で規定しようとするがごときは、まさに説教強盗のやり口に類似する教育自演の姿であるとさえ断ぜざるを得ないのでございます。(拍手)
吉田首相にお尋ねをいたします。御病気であられます由でございますから、緒方副総理に代つて御答弁をお願いしたいと思うのでございます。憲法に保障された思想及び良心の自由、学問の自由、言論の自由は、人類に許された特権であつて、何人もこれを侵すことはできないはずでございます。かかる人間性の喪失を強いる不当な思想の圧迫が現実に行われていることそれ自体が、全く憲法違反の事実であると断ぜざるを得ませんが、少くとも法治国家における民主主義の原則として、この現実に対する憲法を守らなければならない義務を持つて吉田首相の政治的責任を明確に質したいと思うものでございます。更に曾つての戦犯、特高プレーンによる大達文相、田中、緒方氏を枢軸とする文部行政によつて、およそ平和教育の確立を望むことは不可能ではないでしようか。(拍手)この際平和国家百年の計を樹立するために、文部大臣の更迭をお考えになることはできないのでしようか。国民の良識を代表いたしまして、この際、篤とこの点をお尋ねをいたします。(拍手)
次に文部大臣にお尋ねをいたします。文化の振興に対する調査とはおよそ似ても似つかないこの思想調査の指示は、一体どこから出ているものでございましよう。二月十四日の読売新聞の記事によれば、緒方局長は大臣と相談してやつたと言い、大臣は知らないと突つぱねていますが、この指示系統を明確にしてその責任の所在を明らかにすべきでありましよう。お尋ねをいたします。
次にかかる調査を指示しました真の目的はどこにあつたのでしよう。提出予定の教育中立維持法案は、国内の輿論が筆を揃えてごうごうたる反対をし、昨日読売新聞の報道によれば、遠くアメリカの各新聞紙も相当の紙数を割いて非難し、世界教員組合連合は非民主主義的法案に対しまして強くこれに反対する抗議電報を吉田首省に宛てて打つていると伝えていますが、かかる悪法通過を合理化する手段としての政治的効果をねらつたものではないでしようか。或いは一文も金をかけずして教員を沈黙させる効果をねらおうとしたものではないのでしようか。考える自由を奪うことそれ自体を目的としたものではないのでしようか。改めてその目的を明確に示してほしいと思います。更にかかる思想的調査は如何なる法律によつても今日許さるべき筋合のものではないのであつて、仮に百歩下つて文部大臣の権限としても、文部省設置法第五条の第二項においてはその権限が明示され、教育委員会の報告書提出の範囲も又法は明らかにその範囲を明記して、行政上、運営上の指揮監督権を制約しているのでありますが、一体この指令は如何なる法的根拠に基いて出されましたものか、詳しくここに示してほしいと思うものでございます。更に調査内容の解釈は如何ようにも解釈されると思うのでありますが、なかんずく第二項、「特定政党の政治的主張を児童の頭に印象付けようとしている事例のごときは、一体どうして調べようというのでしよう。人一人の教員の一言一句をとらえるか、若しくは対象児童を訊問し判定しなければ、到底把握できない事例でありますが故に、これを実行するためには厳重なスパイ組織が必要となつて来るが、文部省はどのようにしてかかる特高的組織を動かそうとしているのか、何者によつてかかる事例を把握しようとするのか、その計画及び具体的方法を明らかに公表してもらいたいものでございます。
文相の地教委育成は、よもやこの機能を果すための方途として、その役割を分担さしているのではないでしようか。去る一月十一日全国地方教育委員会協議会はその議題内容において、政府の日教組政治活動に対する動向を取上げ、組合の運動方針に対する対策が仔細に述べられ、その結論として、現行法に照らしてこれに反対した教員に対しては断固たる処分に出るという、緊急連絡の事項を述べられておりますが、ここに試みにこの問題を御参考までに発表してみたいと思うのでございます。
二月一日発。
(1)日教組の実力行使防止に対し、前条の趣旨を各市町村教委に十分に周知徹底させ、急速に対策準備態勢を整えるため、役員会、その他適当な方法を講ずること。
(2)送付のプリントは、各都市分まで発送することとし、町村には貴方よりプリントして流すこと。
(3)万一にも全国いずれの地教委たりとも弱化することのないよう協調すること。
(4)各会長は、当該県市町村教委が、耳日教組対策準備態勢完了次第、その旨本部に略号を以て打電連絡すること。略号(〇一何々地教委)本文(準備態勢完了す。何何県地教委会長)
更に「教員の政治活動禁止に際して反対論者から出ると予想される反論及びこの反論に対する解答、」これは以下十五項目に亘つて、こういうふうに政治的傾向を持つところの言論武装を整えておるという事実は、何としても見のがすことができない事実でございます。
更にこの地教委は一月十一日附を以て、これに対しまして教員の一斉休暇に対する処理方針の事例を挙げておりますが、先ずこの処罰方法として「一般に警告的注意を促し、それでも聞かない場合には、行為を未然に防ぐか、期限付で職場に復帰することを勧奨し、これに違反し、応じない者に対しては、特別の反応がない限り、地公法第三十七条違反と解し処断すべき旨を申渡し、期限経過後は、一般の者は解雇し、首謀者は解雇すると共に地公法第六十一条の罰則適用をする。罰則適用については検事の起訴を第一とするにより法務省検事局との連絡をつけることを原則とする。個々のケースについては検事に向つて告訴告発の手続をとり、検事の発動を公式に要求する要がある」と述べられて、明らかに教員組合の運動に対しまして権力を以てこれを弾圧する、誠に政治的行き過ぎをあえてしておるのでありますが、ここに教育の中立性を主張される政府は、この行き過ぎた職権を笠に着た政治活動に対する地教委の行動に対して、文相は如何なる見解を持ち、如何なる方途を以て教育の中立性を守らんとするか。明確にお答え願いたいのでございます。
最後に法務大臣にお尋ねをいたします。三たび法務大臣にお尋ねをすることを、私はこの席より悲しむものであります。法相は当時の問題については、その責任の所在を明らかにされ、これが排除に対して折角の努力をされて来ておられますが、遺憾ながら法相の言われる注意の徹底だけでは、どうしても期しがたいのではないでしようか。教員組合を抑圧し教員の政治活動を弾圧するために、すでに文部省は地方教育委員会、或いは警察当局、或いは旧内務官僚等々と巧妙密接な連絡をとりながら着々所期の目的の方向に進みつつあるやに聞いております。このことについては単なる行き過ぎとか陳謝とかいうものとは、いささか本質的な性格が違つているものでございますが故に、私は心こもる法相の御答弁に対して甚だ執拗ではございますけれども、いまひとたび、教育の中立性の維持を破壊いたしました警官の職権濫用について如何なる措置をとられるや明確にお示しを願いまして、私の質問を終りたいと思うものでございます。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/51
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052・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えいたします。
政府はその対象の教員であると何であるとにかかわらず、憲法に保障されております思想、学問、言論等の自由を拘束する考えは毛頭持つておりません。(「やつておるじやないか」と呼ぶ者あり)茨城県において教員の思想調査をやつた。文部省の局長の通牒によつてこれを指令したというお話でありまするが、それは私の承知しておるところでは、学校の教育事例を報告さしたことはありまするけれども、教員その人の思想を拘束する意味において調査を命じたことはないのでございます。
それから大達文部大臣、その他文部省の次官、局長を更迭する意思がないか。これはお答えするまでもないと思いまするが、そういう意思は少しも持つておりません。(拍手)
〔国務大臣大達茂雄君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/52
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053・大達茂雄
○国務大臣(大達茂雄君) 文部省から出しました「教育の中立性が保持されていない事例の調査について、」こういう通達に対しまして、いろいろの点から御質問がありました。先ず第一に先日の読売新聞の記事として、この通達に関係して初中局長と私の談話とは食い違いをしておる。こういう点を御指摘になりまして、どういうわけかというお尋ねがありました。これは実は私は、私の談としてあそこに掲げられましたものは、あれは私はその晩に新聞記者の人に会つていないのであります。翌朝になつて電話がかかつて来たということは、私は休んでおりましたから、承知いたしましたが、私としては何も話はしておりません。初等中等局長の談として出ましたことは、あれが間違いのない本当であります。勿論この通牒を出すことについては、私は初めから承知をしておる。むしろ私が初中局長に言いつけて出させた通牒であります。それから違うのは、新聞記事が信用できないということを申上げた。
それからその次は、通牒の目的がどういう目的から出したか、こういうお尋ねでありましたが、只今高田さんは、その通牒の全文をお読みになつて、ここで御朗読になつたのでありますが、その通牒の初めのところに書いてあります。ここをお読みにならなかつたかと思いますが、こういうことが書いてある。「近時、新聞等に、学校内において教育の中立性を阻害するがごとき事例が報ぜられておるが、その実情を承知いたしたい」云々という字句があります。これがこの通牒を出した目的であります。新聞等にいろいろの事例が報告されておる。これは私どもとしましては、これは教育に関する極めて重大な事柄でありますから、勿論これを無関心に実情を調べないでおるという立場はとり得ないのであります。従つてこれについて報告を求めたのであります。
それからその次の御質問は、然らばこの通牒はどういう一体必要で、どういう法律的根拠を以て出されたものか。こういうお尋ねであります。これは今高田さんがお読みになつた文部省設置法並びに教育委員会法をお読みになつたものが、即ちこの法律的な根拠であります。文部省設置法第五条によりますと、文部大臣の権限として、「教育委員会、都道府県知事その他の地方公共団体の機関及び大学に対し、報告書、資料等の提出を求めること。」これが文部大臣の権限として明らかに規定してある。(拍手)それから次に教育委員会法におきましても、教育委員会法の第五十五条に、「文部大臣は、都道府県委員会及び地方委員会に対し、各所轄区域の教育に関する年報その他必要な報告書を提出させることができる。」こういうことが書いてありますことは、極めて明瞭に文部大臣がその報告を求める権限のあることを法律がはつきりさせておるのであります。そこでこういうことは、法律が書いておる事自体が、文部大臣がかような事実について、かような事例について、無関心でおつてはならぬということを意味すると思うのであります。私は文部大臣が、かような重大な事例が果してあるとするならば、それを何も調査することなしに、手をこまねいて無関心で見ておるということは、文部大臣としては極めて怠慢であり、極めて無責任である。かように考えておるのであります。(拍手)
それからその次に、然らば調査は一体どういうことを調査するためであつたか。こういうお尋ねでありました。これは高田君がお読み上げになりました通り、「特定の立場に偏した内容を有する教材、資料を使用している事例又は特定の政党の政治的主張を映して児童、生徒の脳裡に印しようとしている事例、その他一部の利害関係や特売の政治的立場等によつて教育を利用し歪曲しておる事例」これが調査の報告を求めた内容であります。ことごとくこれは教育の実情に関係することであります。先生の思想調査ということは、この通牒の文句から御覧になればはつきりするように、何も先生個々の思想調査ということは出て来ないはずであります。文部省としては、この書類を先ほど高田君は、何か秘密な、内密な命令を出したなどと言つておられるけれども、これは文部省が、何も秘密な書類として出したことはありません。先ほど申上げるように、文部省として当然出すべき、受取るべき報告でありますから、これは全国の都道府県委員会に一般に流したのであります。これはたまたま茨城県においてあなたがたによつて、これを非常な問題として摘発されたのでありますが、事態は只今申上げるようなことであつて、これを教員の思想調査なりということは、これは明らかにこじつけであります。私はこれは文部大臣として当然なすべきことをなしたというだけでありまして、これはかような論議が巻き起り、如何にもものものしいようなふうにお取扱いになる。これは私としては、実は不可解な事柄であります。殊に先ほど文部省が警察を使つて思相調査をしておるというような意味の御発言があつたようでありますが、文部省が警察を使う立場でないことは、これは申上げるまでもないようにわかつたことであります。文部省はこの警察官の行動に何らタツチするものではありません。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/53
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054・犬養健
○国務大臣(犬養健君) 再三に亘る高田さんの御質問でございますが、警察官が教員の思想調査をやつたのではないかという御質問がたびたびありましたが、こういう方針は全く中央の当局ではとつておりません。併し大勢おりまする末端の第一線のことでございますから、或いは行き過ぎがあるのじやないかというので、あれ以後念入りに調査をいたしております。若干の報告も参つておりますが、あとでこれは御報告申上げます。そこで若しも行き過ぎが明らかであるという警察官に対しては適当な措置をいたしたいと考えております。そこで今まで参りました報告のうち、高田さんからの御質問ではなかつたかとも思いますが、多少誤解の向きもありますので、手許に入りました行き違いの事件の報告を申上げたいと思います。それは鹿児島県で教員の鞄をあけて調べたのではないかという事件がありまして、私の耳にも入りました。早速これはいろいろな手で調査いたしたのでありますが、只今私どもの判明いたした点は、これは鞄の盗難届がありまして、中身を調査いたしましたら、非合法的な機関紙その他が出て参りましたので、この鞄の持主の教員に届けたと、これが思想調査ということで報告が行つているようでございます。それから、もう一つ、やはり鹿児島県の事件で、学校教員の名簿を借り受けて、いろいろ調べたらしいというので、これも調べたのでありますが、これは窃盗事件の届出がありまして、その被疑者らしいと思われる人の息子さんが学校教員をしておるというので、このお父さんの住所番地を調べるために、警察の者が学校に行きまして、職員名簿から番地を書き抜いた。この問題の行き違いがあるようでございます。その他鹿児島県と鳥取県、この場合は、警察官がいろいろ雑談に事かりていろいろな思想調査をしたではないかというお話が耳に入りましたので、これは調べましたところが、この鹿児島県と鳥取県の場合は、警察官は隣りの人だつたり、或いはすぐ近所の人で、一緒に飯を食つたり、お茶を飲んだりする仲間で、そのとき雑談で、これは思想調査を係とする警察官でも何でもないのでありますが、そういう問題に触れた。これが思想調査と言われているようなふうでございます。
私の手許に参つた報告をありのまま報告いたしたわけでありますが、併し先ほど申上げましたように、このほかに行き過ぎの場合がありましたならば善処いたしたいと思います。
なお、もう一つ誤解のありますのは、破壊活動、殊に地下運動の方面で御承知と思いますが、しばしば日教組を経営管理せよという秘密文書が出ておることは御承知と思いますが、こういう問題につきましては、治安の責任上関心を持つておることは当然でございますけれども、これらの真相を調べますのは、それらの非合法的の情報、機関紙、雑誌、パンフレット等を収集して調べておりまして、このために個々の教員の思想を調べる必要もなし、ほかの方法で十分やつておりますので、誤解のないようにお願いいたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/54
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055・河井彌八
○議長(河井彌八君) 大達文部大臣から、答弁の補足をするために発言を求められました。発言を許可いたします。大達国務大臣。
〔国務大臣大達茂雄君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/55
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056・大達茂雄
○国務大臣(大達茂雄君) 一点、最後の点を漏らしましたので申上げます。
全教委と私は記憶しておりますが、全国の教育委員会の何か協議会でありますか、どういう団体でありますか、私は全教委という名前で覚えて、正確な名前は知りません。全教委の方面から、地教委、各地方の教育委員会のほうに何らかの通達といいますか、書面を流した。これは実は私、今朝の新聞によりまして私も承知をいたしたのであります。私自身は、これには何ら知るところはありません。ただ日教組のほうで、今度の教育立法に関係して、それに反対するいわゆる実力行使として全国的に何割かずつの賜暇闘争をする。こういうことが頻りと言われておりますので、恐らくはそれに対して、それぞれの教育委員会というものの立場がありますから、その関係でそういう書類が出されたものではないか。こういうふうに私は思つて実は今朝の新聞を読んだのでありますが、それ以上私は、この問題については直接関知はしておりません。(拍手)
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/56
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057・天田勝正
○天田勝正君 私はこの際、造船汚職に関する緊急質問の動議を提出いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/57
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058・藤田進
○藤田進君 私は只今の天田君の動議に賛成をいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/58
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059・河井彌八
○議長(河井彌八君) 天田君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/59
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060・河井彌八
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。よつてこれより発言を許します。天田勝正君。
〔天田勝正君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/60
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061・天田勝正
○天田勝正君 私は日本社会党第二控室を代表いたしまして、この極めて忌むべき造船汚職に関しまして若干の質疑を試みたいと思うのでありまするが、私はかような忌むべき事柄について、大声疾呼するつもりもなく、徒らに個人攻撃をするつもりもございません。ただ私は、お互い全国民が、不肖天田を含めました我々に国政を信託されたその国民に、かような問題を国会で論議しなければならん事態に至りましたこのことについて、深く国民にお詫びしつつ、ここに質問をいたしたいと思うのであります。政府におかれましても、私の質問の言葉が足らないかも知れません。私の足らざる言葉は笑つて済ませましようけれども、かような汚職が政界に波及して参つたという事態に鑑みますならば、私の足らざるところを補いつつ、全国民に一点の疑いも残さざるよう、懇切なる答弁を先ず以て要求いたしたいのであります。
昨日の夕刊以降、新聞、ラジオは、この造船汚職が遂に政界に拡大して参つたことを伝えております。即ち自由党の現副幹事長であります有田二郎君の逮捕の許諾が、検察庁を通じて衆議院に要求せられたという内容のものであります。それに附属いたしまして、有田氏個人の自宅は勿論、新聞の伝えるところ真なりといたしますならば、驚くなかれ、この国会の附属機関でありますところの議員会館すらも捜索を受けたと伝えられているので、実に由々しき大事と言わざるを得ないのであります。
翻つて我が国今日の汚職の状態を見まするに、昨年来毎日の新聞で汚職記事の載つておらない日とてはないのであります。鳥の鳴かない日はあればとて(笑声)官界の腐敗、政界の堕落を伝えない日とてはない状態であります。ただ造船汚職だけについて考えましても、私が一月以降収集いたしました記事におきましても、実にここに持参いたしたような厖大な記事が集まるので、而もこれに関連いたしまして、検挙され、或いは逮捕され、起訴されたと伝えられる人は、昨日の有田氏を加えまするならば二十六名の多きに及んでおるのであります。その詳細を細かく申上げる時間的余裕がございませんので、私はこれらを省きまするが、有田氏一つをとらえて見ましても、実に同氏は政党内閣としてのその基盤である自由党の副幹事長という重責におられ、曾つては吉田内閣の政務次官、或いは委員長等もいたされたと承知いたしております。
かような事実から判断いたしまするならば、以下総理はこの綱紀粛正の問題についてどう考えておられるか。即ちその一点は、吉田内閣の閣僚及び前閣僚又は与党幹部多数が、造船利子補給の問題のみならず、計画造船獲得につきまして、いわゆる国から特別な利益を受けているところの会社の幹部をしているということが伝えられているのであります。極く簡略にその抜き書だけを申上げて見まするならば、太平洋海運については極く最近まで小笠原大蔵大臣が取締役をされ、又新日本海運については大野国務大臣が取締役、監査役は有田二郎氏、新日本汽船につきましては、社長が過日まで厚生大臣であられました山縣勝見君、今最も問題になつておりまする山下汽船でありますが、これは甚だ言うことを憚りまするけれども、本院の予算委員長である青木一男君であります。明治海運は、これ又吉田内閣の元農林大臣であつた内田信也氏がその会長をなさつておられる。協立汽船、これ又曾つての大蔵大臣であつた向井忠晴君、昨日来問題になつております有田君については、このほかに名村造船の取締役をされておると伝えられておるのであります。又このほかにタンカーの利子補給について、元来修正案の初めにおきましても、なお第八次までを適用するということにはなつておりましたものが、いつの間にやら七次後期までこれを繰上げて利子を支給するということに再修正をいたしたそうでありまして、ここに大きな疑惑があるのでありますが、この繰上げいたしましたタンカーの三隻の造船は播磨造船であります。これ又曾つての通産大臣でありました横尾龍氏が社長であつたことは皆さん御案内の通りであります。これらをことごとく述べますれば、時間がございませんので私は先に進みまするが、かように多くの吉田内閣の前閣僚現閣僚等が、この問題が起きてからはあわてふためきまして、或いは辞職したかも知れませんけれども、少くとも計画造船利子補給を決定した当時の責任者であつたことは、もはや否定しがたいのでありましてかような状態をこのままに置いて、到底政界の粛正、官界の粛正はなし得ないと信ずるのでありまするが、(拍手)総理に代つての副総理は、これに対して如何なる所見をお持ちになり、更に又類似の会社等について今後如何なる処置をとられんといたすのでありますか。ここをはつきりと申して頂きたいと思うのであります。
更に又、去る衆議院の予算委員会におきまして、吉田総理は、小笠原大蔵大臣が閣僚になられて太平洋海運の社長にそのままとどまるということについて許可を与えたということをば、大蔵大臣みずからが答弁されておるところでありまするが、かような許可を与えるとは、その政治責任は如何相成るのでありまするか。これ又伺いたいと思うのであります。吉田内閣の綱紀粛正とこの汚職と対照いたしまして、今後如何なる政治責任をとろうといたすのでありますか。これ又詳しく承わりたいと思うのであります。
次には、大蔵大臣にお尋ねいたしますが、今総理に尋ぬると同様な趣旨で、あなたは太平洋海運についてはその職務に直接関係がないから、総理の許可を得て職にとどまつたと言うておるのであります。奇怪至極であります。実に造船利子補給のごとき、或いはこれに類似するところの財政支出は、他の大臣よりも最も大蔵大臣に関連が深いことは、これは常識であります。然るにその職にそのままおつて、この厖大なる国家の税金を支出することを決定いたしたところの、そのあなたの所存とは如何なるものであるか。これ又所見を承わりたいと思うのであります。(拍手)
更に又、去る十三日、我が国の最大の労働組合の団体である総評の幹事会は、この汚職事件が片が付かなければ、自分たちの勤労所得税は納めるに値いしないが故にこれを拒否する。而もただ拒否するのではなくして、これを合法的に供託をして置くということを決定いたしたのであります。誠に私に言わしむるならば、当然な処置と思うのであります。この当然な処置を単に総評だけでなくして全国の労働組合、或いは一般勤労大衆がことごとく政府に税金を納めずして供託をするという処置をとつた場合に、一体日本の財政は如何処置なさるのであるか。或いは又その事態に立至つた場合の責任を如何考えておられるのであるか。この点をば明確に承わりたいと思うのであります。
更に質したいことはございまするが、時間がありませんので、次には石井運輸大臣にお伺いいたします。二月二日の衆議院法務委員会におきまして、議員の質問に答えたあなたは、壷井官房長等のスキャンダル、これらについては全く寝耳に水である。従つて検察庁の取調べが確定したならば適当に処置をすると言うておるのであります。私は誠に不可思議至極と言わざるを得ない。なぜかと言いまするならば、政治的責任とは、一体司直の手、検察当局の決定があつてあとでなければできないことではなくして、刑事事件に発展いたす以前において、政治家は国民の模範となりますためには、何よりも自己を正しく、自己を厳正にしなければならんというこの原則からいたしましても、司直の手の延びざるときに十分部下の戒飭をいたし、これに適当な処置をとらなければならないと思うのでありまするが、何らの処置をとられないのは如何なるお考えであるか。又今後運輸省の幹部は絶対に一〇〇%白である。且つ又曾つて我が党の相馬議員の質問に対してあなたは、自分は一〇〇%潔白であると言われましたけれども、今日でもここに明確に一〇〇%潔白であるということを言い得るかどうか。この点についても承わりたいと思うのであります。
更に、衆議院三派共同修正に当りまして、修正案はよいと思つて賛成をいたした旨を答えられておるのであります。今日かかる世の疑惑を招きました汚職事件が発生するに至りまして、かような疑惑を招く利子補給等はこの際一切打切るの準備があられるかどうか。これ又承わりたいと思うのであります。
次には、法務大臣に二点をお伺いいたしまして、私はその質問を終りたいと思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/61
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062・河井彌八
○議長(河井彌八君) 天田君、時間が来ました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/62
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063・天田勝正
○天田勝正君(続) 公職選挙法の百九十九条は、候補者が自分の属する政党か或いは政治団体に対して寄附ができるほかには、すべて国会議員については国と特別の利益を伴う契約の当事者は寄附できない。又これに関連して匿名者の寄附はできないということを規定いたしておるのであります。ところがこの利子補給については造船会社等から多額の金品が贈られておりますことは明瞭であります。(「時間々々」と呼ぶ者あり)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/63
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064・河井彌八
○議長(河井彌八君) 天田君、天田君時間が参りました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/64
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065・天田勝正
○天田勝正君(続) かような公職選挙法違反の疑いのある点について、その罰則でありまする……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/65
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066・河井彌八
○議長(河井彌八君) 天田君、時間が来ました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/66
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067・天田勝正
○天田勝正君(続) 二百四十八条等の関係をどう適用され、どう指図されたか。更に又、簡略に申上げますが、同じく二百条の関係と二百四十九条等の罰則の適用について如何考えられ、今後如何にこの造船汚職と関連して、あなたはその所管大臣として粛正に何の準備を以て当られんといたしておりまするか。この点をお伺いいたしまして、私の質問を終らして頂きます。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/67
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068・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えいたします。
造船疑獄云々ということについて、屡々お述べになりましたが、これはまだ全貌が少しもはつきりしておりません。ただこれに関連いたしまして、これら船会社等の役員が閣僚或いは党の主要な地位にあることをどう思うかという御意見でありましたが、これは政府といたしましては、できるだけ各界の知識を持つておることを望ましいと考えまして、直接監督の責任に当る者以外は総理大臣の許可を得れば、在職のまま大臣の責任をとることを今まで認められて参つておる。その慣例に従つて幾人かの閣僚が会社の役員のまま大臣の職にあつたことは事実であります。併し私の記憶にして間違つていなければ、昨年の計画造船の割当につきましては、太平洋汽船、或いは新日本汽船というようなものは、その関係者が内閣におるために、運輸省において特に考えを持ちまして、この両会社に対して割当をしなかつた。それほどに当局におきましては注意をしておる。本来計画造船というものは、これは今日の日本の海運界に対しまする対策といたしまして必要な政策で、決して不正でもなければ情実でもない。ただこの政策を遂行いたしまする上に当局が公正であり、且つ今の割当等に特別な配慮を用いることは必要であります。それは今までの事例といたしましては、十分に厳密に調査をやり、且つ先ほど申上げましたように、政府に関係のものはこれを除くというほどの配慮をいたして参つたのでございまして、その点御了承をお願いいたす次第であります。
〔国務大臣小笠原三九郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/68
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069・小笠原三九郎
○国務大臣(小笠原三九郎君) お答えいたします。
このことは過日も申上げましたが、私が第四次吉田内閣の農林大臣になつたときに極洋捕鯨株式会社と、太平洋海運株式会社の両方の社長をいたしておつたのであります。農林大臣でありまするから、直接な関係があるところより極洋捕鯨株式会社は即日辞職いたしましたけれども、太平洋海運株式会社は何ら職務上の関係がないから引続き許可を得てやつておつたのであります。勿論太平洋海運は普通船舶会社の一つでありまして、何ら特別の取扱いを受けておりません。又融資等についても開銀等から一定基準に基いて貸出を受けておるのであつて、職務上何ら私は関係はないと思うのでありますが、併しかりそめにもこれが今日、今おつしやつたような議論の種となるがごときことはどうかと、こう考えましたので、昨年の九月、責任者たる社長を辞したのでありまするが、取締役が残つておりましたので、併せてこれも辞したような次第であります。従つて私は政治道徳上何ら差支えないと考えております。
それから納税のことでありまするが、私は納税は国民の重大なる義務であつて、例えば造船汚職等の風聞がありましても、まだその全貌も明らかにならんうちに、国民みずから遵法精神を乱すがごときは余りに他を責むるに急であつて、みずからなすことをなさん。こういうことになるので、誠に遺憾千万であると存じます。良識ある国民は、かようなことをなさらんことを私は固く信じております。(拍手)
〔国務大臣石井光次郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/69
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070・石井光次郎
○国務大臣(石井光次郎君) お答えします。
運輸省の中に訴追された人があります。これに対して部下を戒飭をなぜしないかということでございます。私は先ほど挙げられました委員会において今調べ中でありまするから、その事態を見て処置しますと、その通り申上げました。起訴されましたので、休職にいたしまして、そうして後任を本日発表したのは御承知の通りでございますが、同時に、数日前部下を集めまして、部下の局長、又官房の課長連を集めまして、我々は交通行政の中枢におるものであつて、それに、こういういろいろな問題で、世間の疑惑を受けておる中に、もやもやしているような感じであるが、我々は一層自粛自戒して、そうして且つ又、ぼんやりして、仕事をしないようなことのないように、ちやんと仕事をきちんとやり、又積極的にやるものはどんどんやるべしということを注意をいたしたのでございます。
又、部下にこれから一〇〇%白であるということが断言できるかということでございます。私ども仕事の上のことは責任持ちますが、それから湧き出て来る別の途の問題は、私どもが若し知つておれば、そういう人たちを使うわけはないのでございまするから、私は、今は、私の部下はみな白と思つております。私自身が一〇〇%白であると断言できるかとおつしやいますが、はつきり白であると断言申上げます。(拍手)
それから最後に利子補給の問題についてお尋ねでありましたが、二派修正案に、我々の原案が三派によつて修正されましたのに対して、私がこれに賛成したと言つておつたが、その通りでよいのか、利子補給を打切る考えはないかというお話でございましたが、私一は海運界の現状から考えまして、利子補給は続けてやるべきものだと確信をいたしておりまして、打切る考えはございません。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/70
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071・犬養健
○国務大臣(犬養健君) 公職選挙法第百九十九条と第二百四十八条の適用関係について当局の解釈を申上げたいと思います。
衆議院議員及び参議院議員の選挙に関しまして、国と請負その他特別の利益を伴うような契約の当事者が寄附をすることは、公職選挙法第百九十九条によつて禁ぜられておりますので、若しこの規定に違反して寄附をした場合には、公職選挙法第二百四十八条の罰則か適用されるわけでございます。併しながら、右罰則が適用されるためには、次に申上げます二つの条件、即ち第一には、寄附をする者が国と請負その他特別の利益を伴う契約の当事者である。第二には、それが衆議院議員及び参議院議員の選挙に関して寄附をしたと、この二つの条件を満たすことが必要でございます。従つて、寄附者が右の二つの条件に該当すれば、公職選挙法第百九十九条、第二百四十八条の罰則が適用されるのでありますが、右二つの条件が満たされているかどうかということは、具体的事件について捜査した上でなければ、確定的に、或いは一概にここで申上げられないのでございます。
次に、公職選挙法第二百条に違反した場合に、その罰則として第二百四十九条が適用されると思うがどうかと、こういう御質問でございました。公職選挙法第二百条は、御承知のように、何人も、選挙に関し、前条、即ち第百九十九条各号に掲げる者に対して寄附を勧誘し又は要求してはならない。又、何人も、前条各号に掲げるもの、並びに外国人、外国法人及び外国の団体から寄附を受けてはならない」という旨の規定をしているのでございまして、この規定に違反して、寄附を勧誘し、要求し、又は受けた場合に、公職選挙法第二百四十九条の罰則が適用されるわけでございます。併しながらこの場合にも、その相手方が第百九十九条の二号に該当するかどうかは、前にお答えいたしましたような条件を満たすことが必要でございまして、その条件を満たすか否かは、具体的事件について捜査をいたした上でないと、確定的なお答えができないと存じます。(拍手)
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/71
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072・菊川孝夫
○菊川孝夫君 私はこの際、疑獄事件政界波及に関する緊急質問の動議を提出いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/72
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073・天田勝正
○天田勝正君 私は只今の菊川君の動議に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/73
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074・河井彌八
○議長(河井彌八君) 菊川君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/74
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075・河井彌八
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。よつてこれより発言を許します。菊川孝夫君。
〔菊川孝夫君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/75
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076・菊川孝夫
○菊川孝夫君 私は社会党第四控室を代表いたしまして、造船疑獄の政界波及について、緒方副総理以下関係大臣に質問いたしたいと存じます。
政界が今日のごとく国民の不信を買つたことは、日本の政治史上未曾有であると思うのであります。事態を一体ここまで落し込んでしまつたのは、五カ年間に亘つて政権を担当して来た吉田内閣の政治が、そういうことを発生するような政治をやつて来たのであつて、政治的な責任が極めて重大であろうと思うのであります。そして、今、かねてから、とかくの風評があり、良識ある自由党員の諸君でさえも顰蹙しておつたところの有田二郎君、而も与党である自由党の副幹事長の要職にあり、曾つては衆議院の常任委員長であるとか政務次官の要職にあつた有田二郎君について、東京地検から逮捕許諾の請求が出て参りまして、漸く事件の核心に触れて来ようとして参つたのであります。昨夜のラジオを聞き、今朝の新聞を見た全国民は、当然来たるべきものが来たとして溜飲を下げると共に、自由党政府に対しまして憤激に沸き返つていると思うのであります。(拍手)耐乏生活を説くところの吉田内閣の与党の大幹部が、耐乏予算を審議している国会のまつただ中で、疑獄事件の政界第一号として逮捕されようとして、引続いて閣僚にも飛び火するのではないかという風評専らであるときに、国民は、「政府こそが先ず顔を洗つて出直せ、政府こそ国民の前に謝罪すべきである。」そういう声が起るのは当然だと思うのであります。(「そうだ」「もう起つているよ」と呼ぶ者あり)政府は何のかんばせあつて国民にまみえんとするか。緒方副総理から、政府を代表して、本議場を通じてこの点を先ず第一に明らかにして頂きたい。
質問の第二点は、一、二の閣僚に対してすでに捜査の手が伸びておつて、或いはその所属運転手の足取りが調べられているということさえあるのでありますが、この真相は一体どうであるか。又、副総理として、確信を以て、いやしくも閣僚に関する限り、せめて閣僚に関する限りは、さような疑惑を受くる者は断じてないと言明できるかどうか。(「そこだ」と呼ぶ者あり)その言明をされたあとで、若しも閣僚に逮捕請求が来たということになつたら、極めて重大だと思うのでありますが、今日は少くとも本議場から国民に向つて、それだけの言明だけはすべき段階に来ていると思うのでありますが、この点、はつきり言明願いたいと思う。(拍手)
次に尋ねたいのは、今こそ、こういうもみ消し運動であるとか、司法権に対する干渉等の陰謀は絶対に排撃をいたしまして、政府、与党は申すまでもなく、野党も協力をいたしまして若しも疑惑に包まれている者が仮にあるとするならば、みずから繩を打つて、そうして送り込むと、こういう積極的態度に出まして、国民の政界に対する信頼を回復するように努力しなければならん段階に来ていると、こう思うのでありますが、政府としてそれだけの決意があるかどうかという点について御答弁をお願いしたいと思います。
次に、犬養法務大臣に伺いたいのでありますけれども、有田君逮捕許諾請求によつて先ず自由党が衝撃を受けたことは、これは想像にかたくございません。もう想像に余るものがございます。(拍手)又、三党協定によつて無謀な利子補給法を成立せしめました他の政党も狼狽をしておることも、これも想像にかたくないと思うのであります。(拍手)従つて、これらの方面から、ものすごい政治的な圧力が、手を替え品を替えて司法当局に対して加わつて来ることも、大体想像しなければならんと思う。又事実動いていると思うのでありますが、法務大臣は敢然としてそれらを排除してそうして徹底的に糺明するところの決意があるか。できたかどうか。その点を先ず第一にお答えを願いたい。(拍手)
次に、もうすでに政治の動きに非常に鋭敏な、機敏な財界方面からは、疑獄事件の発展によつて吉田内閣が崩壊することを見越しまして、せめて二十九年度の総予算案が国会を通過するまではちよつと検挙の手をゆるめてもらいたいというような関係方面に対する策動があると言いますけれども、法務大臣はそういう点を承知しているかどうか。この点を伺いたいのであります。
法務大臣は積極的に、こういう激務に追われながら、法の権威を守り、社会悪追及のために取組んでいるところの検察官に対しては、鼓舞激励をいたしまして、そうして且つあなたはその肩となつて、一つ妨害或いは策動からこれらの検察官を守つてやるということが、あなたの重要な責任であると思うのでありますけれども、若しもこの検察官に対しましていわゆる忠ならんとするならば、国家に忠ならんとするならば、あなたは政界の弧児といわれた当時に拾い上げられた吉田総理に対する恩義にこれは背くことになる。吉田内閣崩壊に導くことになると思うのでありますが、あなたは今や忠と孝との挟み打ちに会つていると思いますが、(笑声)敢然としてこれを守り抜く決意があるかどうか。この点を本議場からはつきり御言明願いたいと思うのであります。(拍手)
次に運輸大臣に一つお伺いしたい。それは、開銀の融資の残額が今総額として三千二百四十億ある。その中で造船融資は九百三十億で、これは二八%以上になつておるのであります。而も一般に対しましては利子は七分五厘であるにもかかわらず、造船は六分五厘、七分五厘を六分五厘として、而も六分五厘のうちで三分だけは国家財政で補給をされている。造船資金の又三割は市中銀行から借入れて、これに対しても一割一分と五分との差額がやはりこれも補償をされておる。国家が補償しているのでありますが、而も焦げ付いた場合にはこれは政府が補償する。一体、企業におきましては、第一番には先ず借入金をやる。金がなければ借入金でやる。次は社債を発行する。それから増資をするといつて、自己の努力がされて、そうして、それもできないときには国家財政から補償をするということも緊急の場合止むを得ないと思うのでありますが、海運会社においてはそんな努力は一切されていない。試みに例を挙げてみますると、朝鮮ブームで輸送船であるとか貨物船が有頂天になつたときには、今問題になつている船会社は、いずれも三割、四割の高率配当を行なつているのであります。こういうときこそ社内保留に先ず振向けるべきだ。にもかかわらず、そういうことはやつていない。又、現に欠損を出しているところの会社、例えば一流会社の郵船にいたしましても、一昨年の九月期における交際費はどれだけ使つてあるかというと、五千七百万円交際費に計上してある。又、三井船舶でも昨年の三月期には五千八百万円に上つておつて、これは従業員が千六百人あつてその給料と大体おつかつな交際費を使つているのであります。赤字を出している会社がこのような交際費を使うということに先ず疑惑が向けられるのは当然であります。而も今の答弁の中にあつた新日本汽船という山縣前厚生大臣の関係会社は、これはもう開銀から金を借りることが非常に上手でありまして、ここ三、四期のうちに見違えるばかり立派な船を整えたのであります。そうしてこの会社は、一昨年の九月期に、驚くなかれ郵船以上に七千二百万円の交際費を使つているのであります。これらの交際費は、計画造船を獲得するために、政界であるとか官界に向つてばら撤かれておらないと幾ら抗弁しても、それは誰でも信用しないと思うのであります。こういう点につきまして、運輸大臣といたしまして、貴重な国民の血税で賄われるところの財政資金を融資する以上は、その融資を受ける会社が先ず自発的に、国民から非難を受けるような経営状態でない立派な経営状態、又謙虚な経営を続けなければならんと思う。而も開銀融資の第一の条件は、経営者の能力であるとか、資産、信用状態という。その経営能力は、赤字を出しておりながら厖大な交際費を使つておるような会社が、果して経営能力があると言い得るかどうか。これらについて何ら考慮をされないところに今日疑獄事件の発生のちやんと溝があつたわけであります。こういう厖大な財政資金で利子の補給を受ける。又一方では交際費を使う船会社を控えている。こういう好餌の前には、政界におきましてとにかく融資を斡旋することにかけてはまさに親譲りの天才だと言われている有田二郎君が見逃されるはずはない。先ず第一番に飛んで行つて、名村造船について、これは開銀が拒否している。これは怪しいから何とかしなければならないというので、開銀が異論を唱えているのに、運輸省が決定いたしまして、そうして名村造船に五億四千万円の融資をやつている。これで以て頭をはねたという疑いで今日逮捕許諾の要求がされているのであります。而も開銀融資の決定は誰がするかということを調べてみますると、やはり最終的決定はこれは開銀総裁、今や政商気どりにさえなつているところの小林中君が最終的決定を独裁的にやり得る仕組になつている。それから運輸省の決定は、運輸省がこれに対して賛成するか反対するかの決定は、最終的には運輸大臣が行い得ることになつているのであります。従つて造船海運合理化審議会のごときは、これは方針、原則だけを決定するのでありまして、実施面においては運輸大臣と而も開銀総裁によつて幾らでもできることになつている。そうしてその前にはこういう好餌がぶら下がつているのでありまするからして、どうしてもこういう政界の融資斡旋の猛者という連中がこれに飛びつくのは当り前だ。而も開銀の担当理事に質問いたしてみますると、国会議員の方々もこの融資に向つてはたびたびおいでになります。この名前を言うことは控えたいけれども、たびたびおいでになりますと言つて、国会議員の運動の激しさ、而もこれは三党協定によつて利子補給法案を通した方面が、これは強く運動することはわかり切つていると思うのでありますが、こういう要素をどうして断ち切るか、あなたは……。具体的に、ただここで局長や部長を集めまして、もう起らんようにしようというような訓示を与えるだけでは納まらないのでありますが、こういう根源を断ち切るために如何なる努力をしようとするか。ここからはつきりと、謝罪を含めて、国民に謝罪を含めて私はその対策を言明すべきだと思うのでありますが、この点についてはつきりと御答弁を承わりたい。
第二の点は、このように、国民は税金が高い、中小企業は金詰りで困つている、金を廻してもらいたいと言つて叫んでいるときに、それらへ廻すほうの金は何とかかんとか言つて切られて、なかなか廻つて来ないのであります。ところが造船会社だけは、国策の線だという名目の下に莫大な利子補給の恩恵を受けて、而も今年は、今度は予算にその補給の予算がないというのでありまするからして、だから、これは一体どうするのかと調べてみましたならば、開銀におきまして、この船会社への三分の政府の補給については、船会社の出世証文としてこれは残しておくのだという、ところがその船会社においては、これをいずれも決算において未払利子として立てているような良心的な船会社は一つもないのであります。このようにして国民の血税が無駄使いをされておつて、而も担当大臣としてあなたの最も信頼すべき官房長まで引つ張られている。こういう事態になつて、一体あなたは運輸大臣として、どうして国民に申訳するか。社会の一般的な情勢から眺めまして、余りにも一部の者だけが暖衣飽食に耽つているということになるのでありますが、こういう状態に対しまして反撥が起るのは当り前だ。而も責任者として如何なる責任を感じておられるかということを、はつきりとこの壇上から御答弁を願いたいと思います。
以上で私の質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/76
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077・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
今回の疑獄に、内閣から一人の紐付きも出さないということを断言できるかという御質問、これは極めて重大な御発言でありまするが、私は断じてそういうことはないということをここで断言いたします。(拍手、「あつたらどうする」と呼ぶ者あり)それから政府といたしましては、こういう際にこそ、政局の前途に対する自信をゆるがすことなく、一意予算案の通過、重大法案の実現に直進いたしたい。さように考えております。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/77
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078・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申上げます。
いわゆる造船に関する不正事件について、政治界とか財界から検察庁に圧迫があるのじやないか。そういうことは断じてございません。検察庁には御承知のように正義感の強い官吏が集まつておりまして、そういう不当な圧迫をすればすぐ反応が現われますから、どうか検察庁を御注意願いたいと思います。必ずそういうことは出て参らないという確信を持つております。いやしくも不正のある限り、党派の区別なく不正行為、違法行為があれば、厳正公平な態度で捜査をいたす所存であります。(拍手)
〔国務大臣石井光次郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/78
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079・石井光次郎
○国務大臣(石井光次郎君) お答えいたします。
船会社が、いろいろ便宜を受けておる、損失補償、利子補給、融資。その通りでございます。戦争前の非常な日本の海運界が世界に秀でておつた時分でも、航路補助もあれば、損失補償もあり、利子補給もあつたのでございます。又御存じのように戦時補償が打切られて、何もかも自己資本を持たずに出立いたしまして、日本の海運界といたしましても世界の海運界と争つて行くためには、どうしても今日のような状態にありますと、利子補給をせざるを得んことになりまして、昨年皆さん方の御審議を経てきめたようなわけでございますが、同時に申上げておきたいことは、各船会社が、いろいろたくさんの交際費を使つておるお話がございましたが、私どものほうといたしましては、今度利子補給をするようになりましたから監査をすることができるようになつたのでありまするが、それ以前におきましては、そこまでやつていいかどうかの問題が相当法律上も残つておると思うのでございます。併し実際上の問題といたしまして、交際費がそこの資本、その営業の状態に比較しまして非常に多いというようなことは、好ましくないことは当然でございます。私ども今、監査を始めておるのでございますから、これによつて十分これらの点は留意をいたして行くつもりでございます。
それから、この事件に伴つて根本的な対策はあるかというお話でございます。こういうおかしな問題が起らないようにはどうしたらいいかということでございますが、この造船融資につきましても、第一次から第九次に至るまでだんだんといろいろ選考方針も変つて参りました。どうかしてみんなの明るい人の中でこれが決定されるようにという方策を順次とつて参つたのでございますが、昨年春の九次の前期の場合におきましては、運輸省におきましていろいろな点から見ましたる調査をいたしまして、決定するものの約倍数くらいな船を書き出しまして開銀のほうに廻して、開銀のほうでその中から実際の数を決定いたしまして、そうして私どもと相談をして最後の決定をいたしたのでございます。今度は更にそれをもう少しみんなの意見を加えた状態できめたいと思いまして、運輸省と開銀とそれから市中銀行が、いろいろな資料を持つて集まつてきめようじやないかということを私は持出したのでございましたが、市中銀行はいろいろな取引先の関係があつて、或る所がいい、或る所がいかんというのは、非常に商売上の影響がありまするからと断わられましたので、私どもとそれから開銀と別々に調査をやりまして、それを持寄つて話合つて、そうして最後の決定をするというようなことで、私どもは、これは今までやつた中で一番よかつた方法だと思うております。ところがまあこんな問題が起りましたので非常に残念でございますが、この根本の行き方そのものには、私は間違いないと思うております。
更に私どもは、これをよくするためにはどうしたらいいかという問題は、只今私が申しましたように市中銀行の人たちも加えたらどうかということが考えられたら、これも加えることをやる。それから、造船合理化審議会が非常に漠たる範囲においてものをきめておるから、あれは何にもならないということも言われましたが、その点、非常に漠たる範囲をきめてあるのでございます。これをもう少し具体的にそこできめられるような方法が考えられないか。余り具体的になり過ぎると非常にそこに妙な結果になつても困ると思いまして、そういう問題等も考えまして、第十次造船には更にいい状態に持つて行きたいと思うております。
それから最後に、お尋ねにありました利子補給をどんどんしておる。開銀の利子の今度下つたのを、それは出世証文になつておる。こういうふうな状態におるからこそいろいろな問題が起るのだということでございますが、私はこの利子補給の本体をお考え願いたいと思うのでございます。利子補給を何のためにやるかということは、皆さん方が十分御審議の上で御承知の通りでございますから、私どもはこの利子補給は続けて行きたいということを申添えておきます。そうしてそれが正しく立派な方法によつてやられるような意味におきまして、今後一層の努力を期することを申上げておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/79
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080・河井彌八
○議長(河井彌八君) 次会の議事日程は、決定次第公報を以て御通知いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午後七時二十九分散会
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○本日の会議に付した事件
一、日程第一 警察法案及び警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案(趣旨説明)
一、茨城県における教員の思想調査に関する緊急質問
一、造船汚職に関する緊急質問
一、疑獄事件政界波及に関する緊急質問発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101915254X01019540217/80
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