1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十年六月九日(木曜日)
午前十時四十分開議
出席委員
委員長 中村三之丞君
理事 大石 武一君 理事 大橋 武夫君
理事 山下 春江君 理事 山花 秀雄君
理事 吉川 兼光君
植村 武一君 臼井 莊一君
亀山 孝一君 小島 徹三君
床次 徳二君 森山 欽司君
横井 太郎君 亘 四郎君
越智 茂君 加藤鐐五郎君
倉石 忠雄君 小林 郁君
野澤 清人君 八田 貞義君
岡本 隆一君 多賀谷真稔君
滝井 義高君 長谷川 保君
横錢 重吉君 受田 新吉君
神田 大作君 堂森 芳夫君
山口シヅエ君 山下 榮二君
出席公述人
珪肺労災病院長 大西 清治君
日本石炭鉱業経
営者協議会専務
理事 早川 勝君
労災審議会長社
会保障審議会委
員 清水 玄君
日本鉱業協会総
務部長 北里 忠雄君
全日本金属鉱山
労働組合連合会
常任中央執行委
員 能見 修君
委員外の出席者
専 門 員 川井 章知君
専 門 員 引地亮太郎君
専 門 員 浜口金一郎君
専 門 員 山本 正世君
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本日の公聴会で意見を聞いた案件
けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護
法案について
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/0
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001・中村三之丞
○中村委員長 これよりけい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法案についての社会労働委員会公聴会を開会いたします。
この際公述人の皆さんに一言ごあいさつを申し上げます。本日は御多用中にもかかわらず、当公聴会に公述人として御出席下さいましたことにつきましては、委員一同を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。本案は重要法案でございますので、審査に万全を期すべきであるとの委員会の意思によりまして、本日公聴会を開き、公述人の皆さん方に御足労願った次第でございます。公述人におかれましては、本問題につきまして、あらゆる角度から忌憚のない御意見を御発表下さいますようお願いいたします。ただ時間の都合上、公述の時間はお一人十五分程度といたしますが、公述のあとに委員諸君から質問があると思いますから、その際も忌憚なくお答えを願いたいと思います。
なお、念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、公述人の方々が発言なさいます際は、委員長の許可を得なければなりませんし、発言の内容につきましては、意見を聞こうとする問題の範囲を越えてはならないことになっております。また、委員は公述人の方々に質疑をすることができますが、公述人の方々は、委員に質疑をすることはできません。以上お含みおきを願いたいと存じます。
次に、公述人の皆さまが御発言の際は、劈頭に職業または所属団体名並びに御氏名をお述べ願いたいと存じます。なお発言の順位は、勝手ながら委員長においてきめさせていただきます。
それでは、まず大西公述人に御発言をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/1
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002・大西清治
○大西公述人 本日けい肺法案の御審議に当りまして、公聴会を開催せられ、私、公述人の一人として出席を命ぜられましたことは、長年この問題に関係して参りました私といたしまして、まことに光栄に存ずる次第でございます。つきましては、全般的な角度から、一応私の考えていることを、御参考までに申し述べさせていただきたいと存じます。
けい肺問題に関しましては、御承知のごとく過去相当長期にわたりまして、いろいろの角度から論議されて参ったのであります。なかんずく、終戦直後労働基準法が施行せられまして、労働者の福利厚生の問題に政府が新たな角度から種々手をお打ちになられたのでありまして、けい肺問題も、これがため、かなり大きい角度からクローズ・アップされて参ったのでございます。まことにけい肺患者は、過去十数年の間、地下産業の犠牲者としまして、まさに悲惨な待遇のもとにいたわけでありますが、労働基準法施行以来、けい肺患者は、国の設けられました専門の施設に収容せられ、労働者災害補償保険法に基きまして、相当程度厚き療養の手が差し伸べられておりますことは、患者にとって、まさに大いなる福音であると思っておるのでございます。
しかるところ、従来の労災法の扱いは、労働基準法の線にのっとりまして、療養期間は三カ年という制約があることは御承知の通りであります。本病は、元来きわめて長期にわたる慢性的な経過をとらざるを得ない疾患でありますために、三年間という制約のある療養期間内におきましては、十分その療養の効果を期待することは困難な状況にあるわけでございます。私どもが、過去六年間、約三百二十五名の患者について実際の治療に当りました経験から申しましても、三年間の制約期限内において、われわれが意図し、考え、またやらんとする治療法をあらゆる角度から実施するには、きわめて短期間に過ぎるという感じに追い込められていたのであります。いま少しく治療が継続でき得れば、患者にとって、その苦痛をある程度軽減できるであろうと思われる場合におきましても、遺憾ながら法律の制約に基いて、きわめて重態な患者を退院せしめざるを得ない状況にあったのであります。これらの事実からいたしまして、療養期間の三年というあの法律上の制限は、旧工場法の制限をそのまま受け継いできたにすぎないのであり、また旧工場法が制定せられた当時においては、かくのごとき長期にわたる疾患がその療養の対象となるというがごときことは、夢想だにしなかったのであります。従って、療養期間三年というあの定め方は、旧工場法時代の考えをそのまま受け継いでいるにすぎないので、現在のごとく、けい肺がその扶助の対象となるという場合におきましては、なかなかこの三年という法律上の制約に基いて、十分に治療の効果を発揮することができないというのが実情であるわけでございます。そこで、われわれは過去数年間、実際に患者の治療に当りました体験からいたしまして、療養期間をいま少しく延長し得ることができましたならば、患者が受ける福音の大なることはもちろんのこと、また直接診療の担当に当るわれわれといたしましても、心置きなく治療を施すことができると考え、念願いたしておったのであります。幸いにして今回の法律案の内容として、特に療養期間の延長が事実上認められたということは、けい肺問題といたしましては、その核心に触れたきわめて適切なる措置と、われわれは心から感謝いたしておる次第で、おそらく全国数万の患者は、これに基いて非常に大きな感激の心を持っておるものと存じている次第でございます。そういう意味において、私は今回御審議になっておられます法案それ自体については、心から敬意と賛成の意を表するものでございまして、どうぞ一日も早くこの原案の御審議が終了せられまして、法の恩恵が数千人の患者にもたらされることを念願してやまないのでございます。
なお、法案自体は、私にとっても多少の意見はもとより持っておるのでありますが、大局的な見地からいたしますれば、これは将来の問題、ないしまた将来行政上の運営の点にでき得る限りの御考慮、御配慮を願うことといたしまして、法案それ自体に対しまして、私、全面的に賛成の立場をとり、またその意見であることを申し述べておきたいと存じます。私は、労働大臣の任命に基きまして、過去数年間けい肺対策審議会にも、委員として関係をいたしておるのでありまして、今日までに十数回の会議を開催し、また実際にけい肺問題について、各委員の御検討、御研究を願っておったのであります。この審議会の経過を顧みますと、もちろん労働大臣より正式に法律要綱案として審議を受けましたのは、本年最近のことでありますが、それまでは、審議会自体の立場からいたしまして、およそけい肺対策上問題となるべき各般の事項、すなわち予防、診断、厚生、粉塵恕限度の問題等の専門的の角度から、各般の事項についていろいろと検討して参ったのであります。その当時におきましては、もとより全委員が全会一致、この問題についての意見が整ったとは考えられぬのでありますが、本年、最近開催いたしました数回の審議会は、直接労働大臣より法律案要綱に基いてその諮問を受けたのでありまして、これについていろいろ審議を重ねたのでありまして、おのずから使用者代表、労働者代表は、おのおの立場の異なった意見は持っておられたのでありますが、究極において、本法案がすみやかに立案せられることについて、全会一致をもって賛成をすることに決定いたしました。これはまさに画期的な決定でなかったかと考えられる次第でありまして、今後ともその線に沿って、審議会はなお一そう具体的な実際上の問題について、いろいろ調査研究を継続し、本法案の実施後における諸般の問題について、少しでも改善し得るような方向へと、審議会自体も研究を進めていかなければならないと考えている次第でございます。
最後に、私はけい肺労災病院長といたしまして、現在もなお多数のけい肺患者を日夜預かっておる責任上、患者の要望がどの点にあるかということも、つけ加えてこの際申し述べさせていただきたいと思うのであります。現在、私どもに入院しております患者は九十三名に達しております。そのことごとくは、日々の療養を受けながら、どういうことが一番彼らにとって心にかかるかと申しますと、療養期間の打ち切られた後における彼らの私生活が、どういうふうになるかという点において、彼らは一番心配をいたしておるやに思われる次第でございます。三年の療養期間は、長きがごとくして、たちまちにして経過いたすような実情でありますので、打ち切り補償をもらった後における彼らの実際上の生活に、最も彼らは深い関心を持っておりまして、療養期間の延長ということについては、心から念願しておるのが患者の心理でございます。現在の取扱いといたしましては、労災法等の打ち切り補償を受けた後において、実際疾病がなお治療を要する段階であるにかかわらず、しからば、いかなる方法によって治療を受けるかと申しますと、自費で治療を受けることは別問題といたしまして、他の社会保障の線に沿って治療を継続するためには、わずかに健康保険による以外には手がない、ないしまた国民健康保険による以外には手がない。そのいずれにいたしましても、療養期間の制約がすぐさま参るわけでありまして、ほとんど手をこまねいて、自分の生命が日夜ろうそくのごとく消えうせるのを待つのみという現状にあるのでございます。どうかこの患者の念願も十分おくみ取り願いまして、本法のすみやかな制定について、いま一段と御尽力を願いたいというのが、私の心からの念願でございます。
以上をもちまして、一応の公述を終ることにいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/2
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003・中村三之丞
○中村委員長 早川公述人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/3
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004・早川勝
○早川公述人 私は、石炭の経営者団体であります日本石炭鉱業経営者協議会の専務理事をいたしております。その関係上、使用者の立場から、この法案につきまして若干の意見を申し上げたいと思います。
けい肺病につきましては、病気が病気でございますので、使用者、経営者といたしましても、非常な関心を払い、配慮いたしてきておるわけでありますが、実は過去何年かの間、そのけい肺に関する取扱いが立法化されることにつきましては、次に申し上げます理由で反対をしてきておったわけであります。
それは、このけい肺という病気の診断等につきまして、まだ医学上ほんとうの定説がない、あるいは解明ができていない部分がかなりある。そういうふうに医学的、専門的な立場でもなっておりますので、これをもし、そういう点が不分明なままで法律で一応取扱いを強制することになりますと、現場においてその取扱いが区々になりましたり、いろいろ行き過ぎやトラブルがございましたり、現場の混乱、ごたごたが起るということを非常に心配するのであります。
もう一つの点につきましては、実はこれの全国的、全産業的な数字がなかなか把握できない。一体どういう人間がどういう場所に働いておるか、数はどのくらいであるか、あるいはどういう患者が発生するのか、将来どういうふうになるのかという数字の把握が明瞭でございませんから、従って使用者として、これをかりに法制化の結果、ある特殊の配慮をして費用を持つということになりますれば、一体これはどんな金額になるのかということが見当がつかないと、見当がつかないことをきめるわけに行かないじゃないかという立場から、実は反対しておりました。そうして、もっと明確に基礎的な問題をはっきりさせて、その上でどう措置するかということに行くべきであるから、十分な調査研究をなさるべき段階である。従って、これを立法化するということについては、時期尚早であるという考えを実は持続しておりました。
ところが、昨年の暮れごろから、政府の方でこれを法案として提出されるという御用意があるように伺いました。本年になりましても、そういうことになって参りまして、政府の責任において、そういう諸般の事情からこれを法制化する手続をとられるということでありますならば、私はそれにつきまして、意見をこの際お聞き願いたいと思うのでございます。
実は、御存じでございましょうが、現行の労働基準法及びこの内容を受け持っておりまする労災保険法によりまして、使用者の補償責任といいますものは、療養、休業の補償、打ち切りの補償をいたしまして、そこで免責される建前になっておると存じます。ことに三年間の休業中の給料の補償をいたします。また療養の補償もいたします。さらに三年たってもなおらないときには、打ち切りの補償料を御存じのように千二百日分支給することになっております。この千二百日分と申しますのは、前の工場法におきましては五百四十日分でございます。五百四十日分というのは、およそほぼ三年間の収入に見合う分——六〇%でございますが、しかし工場法時代には、年を三百六十五日べったりということでなくて、休日を差し引いた数で立てられたのが、計算の基礎になっておるように聞いております。しかし、今度の労働基準法におきましては、一年中三百六十五日分の計算といたしまして、ほぼ六年に近い金額を千二百日分と立てまして、これを打ち切り補償として支給しておるわけでございます。それらは、すべて使用者の負担によって行われておるわけでございます。それでそのことは、かりに使用者側に過失がないということがはっきりしておりましても、すなわち無過失の場合でも、そういう賠償をするという建前から基準法ができておると存じます。
しかし、もしここに今回のけい肺法案によりまして、同種類の責任を使用者側の上に課すということでございますれば、これは基準法がとっておりますそういう根本的な建前に矛盾することになりますし、また屋上屋を重ねるということに相なりますので、これはやはりあくまでも基準法というものとは違った一つの社会政策的な見地——実は人道上の問題であるというふうに私も思っておりますが、人道上の問題としては、実は使用者としては、一応基準法において責任は免除されているわけであります。しかし病気が病気だけに、スーパー・ヒューマニティの問題として、超人道上の問題としてこれを見るということで、そういう配慮であるとするならば、これを基準法とは違った建前で、そういう病気にかかった労働者の生活を救済するという趣旨をはっきりとされたいと思うのであります。労働保護法というよりも、むしろ社会立法に属するものでないかとさえも思うのでございますが、とにかくそういう趣旨、建前というものを明確にする必要があろうかと存じます。このけい肺法が、そのような角度から、しかも国の責任において労働者の救済をはかるという建前をとっていただきます以上は、その趣旨において一貫した立場を貫いていただきたいと思います。
従って、この現在出ております法案を見ますと、費用の負担関係につきまして、これは政府が事業主体でございますが、負担を使用者にも課するということになります。それにつきましては、筋が通らないように思うのでございます。従って、この使用者というものにつきましての負担の点につきましては、十分御考慮願いまして、この法律の性格なり、趣旨、建前から、やはり国が負担するという点を明らかにしていただきたいと思うのであります。ことに、このことにつきましては、私どもも直接間接に政府の責任者の方から、これは生活保護法的なものであるということも伺いましたし、またこれは全額国が持つべきものであろうというお話も聞いておるわけでございます。いろいろと政府部内の御事情もあろうかとは思いますけれども、この国会におきましては、その筋道を明らかに通していただきたいと存じます。
なお、この法律が実施されるに当りましては、私どもとしても、事業を運営していきます者の立場から、若干の意見を申し上げたいと思います。それは粉塵作業に従事しておる者の中から、こういう病人が出てくるわけでございますが、それはいろいろと原因がありますし、またその現場の条件、体質の問題もございましょうが、従って起り得る病気の程度とか形態が、必ずしも一律でないのでございます。従って、法律の運用に当りましては、画一的なふうにならないように、特にその点は配慮を願いたいと思います。
また、ある段階に症状が達しました病人につきましては、その仕事からほかの仕事へ移すようになっております。配置転換することになっておりますが、これにつきましても、なかなか現場の事情、特に最近の経済事情もございますが、現場の実情からしましても、そういう病気にかかっておる人を、ほかの作業場に移すということについては、事実非常に困難な場合が多いと思うのでございます。それにつきましては、政府としても、この法案の中で触れてはございますが、どうしても本人がそのからだの状態に適応する、また作業の能力にも適応する職場をその事業場内で見つけられない場合には、政府の職業安定機関において、ほんとうに病人の将来の生活を見てやるんだというふうな受け入れの態勢を確立していただきたいと思います。それがなければ、その病気にかかった従業員の将来は、心配でならぬだろうと思うのであります。
なお、これは相当大きな規模の実施の事業になろうかと存じますが、この方の専門のお医者さんは少いと聞いております。従って、診断機構を早く確立されまして、そしてそれによって最も公正厳密な診断をしていただきまして、かりにも、ただ単にいろいろな感情上の問題、個人的な利害の問題で物事が進められるのでなく、あくまできちんとした医学的な権威ある判定をされることを、特に現場の混乱を除くために、お願いしたいと思います。
実は、肺結核という病気にかかります、またこのけい肺にかかります、一緒になりますと、非常にめんどうなことになるのであります。しかし、肺結核だけの病人につきまして申し上げますと、御存じのように、休業の方の給付は一年半、療養の方の給付は三年ということになっておりますが、このけい肺の方につきますと、三年間休業も療養も見て、さらに別の角度からではございましょうが、二年見るということになりますので、取扱いが非常に違うのでございます。純粋の結核病とけい肺との間の処遇が、うんと違うことになりますので、それで、こういうことを言うのは、少しはばかることかも存じませんけれども、そういう病気、ことに肺結核にかかっているような人が、有利な方に自分が入りたいということから、現場で必要以上に混乱が起っては相ならぬと思います。これは相当厳正な立場で認定されることを望むものでございます。
要するに、先ほど来申し上げましたが、私の意見といたしましては、これが政府の責任において実施されるなれば、この筋を通して性格を明瞭にし、その性格、建前の線に沿った筋を一貫していただきたい。こういうのが私の意見でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/4
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005・中村三之丞
○中村委員長 これにて公述人の公述は終りました。
次に、委員より質疑の通告がございます。順次これを許しますが、午後は一時から公聴会を再開することになっておりますし、質疑の通告が四人ございますから、どうかそのおつもりでお願いいたします。森山委員。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/5
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006・森山欽司
○森山委員 大西博士にまずお伺いいたしたいと思います。大西博士は、けい肺についてどの程度の、どのくらいの間御関係になっておられるのか、お伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/6
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007・大西清治
○大西公述人 私、けい肺に直接公的に関係いたしましたのは、大体大正七年が当初であったと思っております。それ以後今日に至るまで、多少の断続はございますが、ほぼ継続的にこの問題に関係して参ったと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/7
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008・森山欽司
○森山委員 そうすると、鉱業法とか工場法というものが明治の終りに創定されまして、鉱夫扶助規則とかあるいは工場法によります労働災害という問題について、その実施の当初から御研究になられ、特に昭和五年以降、けい肺病が一応職業病として認められましてから、ずっと医師の立場においてこれに関係しておられるということを聞きまして、私は大西博士が最もこの問題について、労使双方の立場を離れて、中立的な立場で公平な御意見を伺うことができる方であると考えて、これからあなたの御公述についての御質疑を申し上げたいと思います。
私はほかに事故がありまして、公聴会に少しおくれたのであります。承わりますと、大西公述人の陳述は、きわめて簡単なものであったそうであります。おそらく私がお伺いいたしたいと思う事項については、お話がなかったのじゃないかというふうに考えます。そこで、私はまず第一番目に、あとの公述人の早川さんが、この法律は労働者保護立法であるというよりは、社会立法的あるいは労働省の責任者の言われたところによれば生活保護法であるというようなことを言われている、そういうことなら賛成であって、またそういうことであるならば、国が全額を負担して筋を通してもらいたいというようなお話がございました。こういう御意見について、大西博士は、長い間職業病に対する国家の政策という見地から見て特にけい肺というものが、昭和五年に職業病の一部として認められてから今日まで、ずっとこれに携わっておる第一人者として、どういう御見解をお持ちになるか、一つ率直なところを承わりたいと存ずる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/8
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009・大西清治
○大西公述人 私に対する森山議員の御質問に対しお答え申し上げます。
旧工場法が制定されましたときにおいても、いやしくも業務上の負傷並びに疾病については、使用者の全責任において、いわゆる無過失賠償的な責任においてこれを扶助し、また補償すべきであるという原則は打ち立てられていたのであります。今日労働基準法においても、その線が貫かれておりますことは当然でございます。ただ、先刻の公述の際にも申し上げましたごとく、法律の制定は、ある意味において一つの制約は当然に伴ってくると思うのであります。ということは、いかに業務上の疾病であっても、無制限に使用者の責任において療養を継続しなければならぬことは、理想ではあるが、現実の姿においては、かなり実行上いろいろ問題となり、考慮すべき点があろうと思います。この意味において、無過失賠償的な責任に対して、ある一つの期限を付するということは、法の建前上当然であろうと存じまして、旧工場法におきましてもその線が貫かれ、また労働基準法並びに労災法においても、その形が守られているわけでございます。しかしながら、今回の対象となりましたけい肺症は、今申し上げましたごとく、工場法ないし基準法、労災法が考えられましたごとき、三カ年でもって大体片がつくといったような疾病とは、よほど趣きを異にいたしておりますので、この疾病に対する原則を五カ年延長すべきであるか、十カ年延長すべきであるかは、実際上の問題として別個の角度から検討すべきであろうと思います。しかし、理念はどこまでもやはり業務上の疾病であります以上、精神はやはり使用者の責任として取り扱うべきが当然であろうというふうに今でも考えておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/9
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010・森山欽司
○森山委員 その点に関する大西博士の中立的な御意見と、早川公述人の御意見とは、非常に基本的に食い違っておるということがわかりました。
次に、今回の法案について、医学的の見地から見ました大西博士の御見解を承わりたいのであります。第三条の第二項には、これは本委員会でも非常に論議されたところでありますが、けい肺健康診断を三年以内ごとに一回使用者が行わなければならないとなっております。これに対し、労働者側は、三年では少し長過ぎるから、もう少し短縮してもらいたい、一年に一回ぐらいしてもらいたいと言っておる。本委員会におきましては、従来の基準法上の健康診断が年に二回行われることになっておるので、それとの関連を考えれば、もう少しこの期間を短縮できるのではないかという意見がございました。そういうことでもございますので、特に結核との合併症のような場合については、三年以内ごとに一回、事実上は三年に一回ということではいかがかと思われますので、この点についての医学的な見地から、一体三年以内ごとに一回というこの規定についての大西博士の御見解を承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/10
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011・大西清治
○大西公述人 原案の第三条第二項の、三年に一回健康診断を受くべきものとする規定についての私の見解いかんという御質問でございますが、元来けい肺症は、非常に慢性な経過をたどる疾病であるのであります。それが、けい肺の特徴であるわけであります。従って、他に合併症のない場合、三年に一回の健康診断、しかもその一回の健康診断が、いわゆるけい肺健康診断としての内容が充実された健康診断でありました場合においては、一応十分であろうと考えます。しかし、けい肺症には、ややもすれば結核が合併しやすいという他の一面があるのでございます。申すまでもなく、結核はきわめてその変化が急速に現われてくる可能性のある疾病であります。従って、結核の合併した場合においても、なおかつ三年に一回の健康診断で十分であるということは、少しく考えざるを得ないかと存ずるのであります。しかしながら、法案の第三項等において、第二症度、あるいは第三症度にかかっておると決定された場合においては、一年以内に一回けい肺健康診断が行えるということがあるわけでありますので、結核が合併した場合においては、大部分この第三項の実施によって救われると思います。ただ私の懸念するところは、結核のきわめて初期の発現があった場合においては、この三年に一回の回数の健康診断においては、ややもすると見のがされる心配がないとはいわれない。そういう心配を持っておるのでございます。しかし、法は最低の基準を示すのが原則でありますので、この点については、一応法の実施に当って十分の御考慮が払われれば、その間の心配も相当程度救われるのではないかと考えるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/11
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012・森山欽司
○森山委員 大西博士は、三年以内ごとに一回というのは、第三項によって救われるものを除いて、結核等の会併症の場合については、気の毒な不十分な状況にもなるが、法の運用でもって何とかなると言われましたが、長い間この種の仕事をしておられる大西博士としては、その点何か成案がおありになるのでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/12
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013・大西清治
○大西公述人 ということは、基準法の規定に基きましても、粉塵作業その他有害作業者に対しては、年二回の健康診断を実施せよということが規定されているわけであります。基準法の健康診断の中には、レントゲン撮影も間接でよろしいとは存じますが、ともかく命ぜられていると思います。肺核の診断は、間接撮影によってもある程度は発見され得るのです、微細なディテールの変化は困難がありますが、ある程度結核は基準法の健康診断によっても発見し得ると思うのです。そういう点について、粉塵作業者に対する基準法の健康診断は、けい肺という角度からも、その診断の結果を詳細に考慮しろといった行政上の措置がとられましたならば、ただいま私が申し上げましたような心配の一つも、少くなるかと思うわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/13
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014・森山欽司
○森山委員 それは、法で規定した方がよりよいということは、否定しないわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/14
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015・大西清治
○大西公述人 そうであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/15
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016・森山欽司
○森山委員 いま一つお伺いいたしますが、第八条の第一項第二号に「けい肺第二症度のけい肺にかかっていると決定された者で、粉じん作業に従事した期間が五年以内であり、かつ、エックス線写真の像が第二型に該当するもの」第三号に「粉じん作業に従事した期間が十年以内」というふうに、作業転換をやらせる者の基準がこれに書いてあるわけでございます。この五年とか十年という期間を、こういう法律に書くことが適当かどうか。実際問題として、こういう数字が出てくる、こういうものは、法に書くよりは、医学の進歩もありますから、私は規則等に書いたらどうかと思いますが、大西博士の御見解を承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/16
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017・大西清治
○大西公述人 ただいまの御質問に対する私の考えは、なるほど五年ないし十年といったような一つの条件をはっきり規定していただくということは、実際問題の取扱い上疑義が生じないので、非常に都合がよいと思います。しかしながら、けい肺症のごとき慢性的な経過を本体とする疾病を対象として考慮を払わなければならぬ場合において、五年以内という規定ないし十年以内という規定によって、医学的な判断が惑わされるおそれも、ときには出てくるという心配があるわけでございます。しかし、これは実際の立法技術の問題で、私どもにはよくわかりませんが、そういう困難にぶつかる場合も、ときによってあるという心配はいたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/17
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018・森山欽司
○森山委員 法律で五年とか十年というように書きますと、のっぴきならなくなるという場合が想定されるということは事実でございますね。
それからもう二項ばかり大西博士に伺いたいのですが、けい肺対策審議会の答申には、けい肺にかかって離職または作業転換を行なった場合に、その後の健康管理について要望事項の一つにあげられている。また就労対策については、すみやかに強力に実施に移すことが同じくあげられております。前者の健康管理の問題については、この法案には全く明文がない。後者については、第三十八条に規定はありますが、労働大臣は、この委員会で、法を適用した後に、地域的に事情がわかってから取りかかるということも言われております。あなたは、けい肺対策審議会の会長をしておられると聞いておりますので、これについて、どういうふうに思われるか、御意見を承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/18
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019・大西清治
○大西公述人 お答え申し上げます。けい肺対策審議会が労働大臣の諮問に対し御答申を申し上げるに際し、各委員の意見を十分に尊重し、異なった意見の少くとも最大公約数を求める意味において、答申の原案について、私いろいろ苦心をいたしたのでありまして、特に要望事項としては、でき得る限り、本文の中に明記することに多少の遠慮を感じました事項を、要望事項として盛り上げるという形に私持って参ったつもりでございます。従って要望事項の中には、それぞれ使用者側の御意見、労働者の御意見等を、大体において網羅しているつもりでございます。ただいま御質問の、配置転換後における健康管理の点について、特に要望されたことは、労働者側の熱心な御主張があったのであります。申し上げるまでもなく、健康管理というものは、ただ一回の健康診断において、十分その効果を期待し得るというものではございません。たとい粉塵職場から離れ、現実に軽微なる労働職場についたといたしましても、過去における粉塵職場の影響が、やはり長年にわたって継続されるものといたしましたならば、その後における彼らの健康管理も、当然に疾病の事前的な考慮が必要だろうと思います。私は、個人としては、これが本法案に取り入れられていないということに対して、大いに心配はいたしておりますが、ぜひとも行政運営の面において、この点についても十分労働省御当局に御配慮を願いたいと思う次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/19
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020・森山欽司
○森山委員 作業転換を行なった場合の健康管理というだけでなくして、離職した場合を含めて、その後の健康管理をしてくれという要望事項であったというふうに記憶しているのですが、これについて、全然明文がない。ところが、全国で北海道、秋田、栃木、岡山、福岡の各県が多いということは、二十三年以来のけい肺措置要綱実施で判明いたしておりまして、現に労災病院が専門病棟建設中でありますから、労働省としては地域がわかっているわけです。やる気があれば、ある程度できるという点もあるんじゃないかと思う。これは労働省の問題ですから、政府の方に今度話をしてみたいと思います。
健康管理の問題で、離職者には、けい肺にかかったということを決定することを請求する権利を第六条で認めている。少くとも離職者について健康診断の請求権を認める必要があるかと思いますが、大西博士はいかがに考えられますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/20
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021・大西清治
○大西公述人 病気に対する心配は、本人が最も熱烈であることは、申し上げるまでもないのでありまして、過去において粉塵作業の経歴があり、また過去においてけい肺第一型の診断を受けたというような現実の事態に遭遇している労働者であれば、離職後も、やはり自分が今後けい肺にかかるのじゃないかという心配が、絶えず去らないのではないかと思われるのであります。従って、ただいま御質問の事実については、私もさような心配を持っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/21
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022・森山欽司
○森山委員 それからこの法案には、栄養補給とか、家族見舞人の旅費支給とかいうような規定がない。特に、けい肺労災病院の院長をしておられるようでありますが、この栄養補給について、あなたの個人的な御意見を承わりたい。休業保障を、会社によっては百パーセント追加支給している場合もございますが、法の上では六〇%。けい肺入院患者、あるいは自宅療養している者等に、栄養補給ということはきわめて重大じゃないかと考えておりますが、この辺のところも、今度の立法については触れられておらないのでありますが、それについての御見解を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/22
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023・大西清治
○大西公述人 けい肺患者に対し栄養補給の必要のあることは、当然でございまして、いやしくもけい肺症が消耗性の疾患であります以上、栄養をでき得る限り回復せしめるということは、治療の前段階としては、必然的な事項であろうと私は考えまして、私のお預かり申し上げている病院におきましては、全患者に対して、予算の許す限度において、栄養の点は考慮を払うことを施療方針の第一といたしております。厚生省関係の国立病院に対しては、大体一日二千四百カロリーを基準にしておりますが、私の病院においては、二千七百カロリーを一応の基準として、でき得る限りの栄養をとる方針をとり、またこれを現実に実行いたしておるのであります。しかしながら、この栄養問題は、けい肺症なるがゆえに特にどういう点の栄養が必要か、このけい肺症と栄養との相関関係において特定の関連性があるかということになると、どうも医学的には、まだこれを立証すべき根拠がないのであって、私は、けい肺症が全面的に消耗性の疾患なるがゆえに、患者に対して栄養をでき得る限りとらせるということは、そういう関係からして考えているのであります。しかし、栄養をでき得る限りとらしめて、疾病の発病を予防する、いわゆる予防の意味において栄養を必要とするという点は、また問題が別個になりますが、やはり同様な意味で、けい肺と栄養との特殊関係を前提として考えることは、なかなかむずかしいと思うのであります。ただ、身体的な抵抗力が減弱した場合において、疾病の発病が、ややもすれば早期に現われるということは、これは生物界の原則でありますので、でき得る限り栄養をとるということが疾病の予防であり、疾病の治療の段階の面から見ても必要であるということは、一般論的な言い方としては、私は非常に正しいと思うのですが、そのけい肺症の特殊性ということについては、学問的な見地からすれば、よほど説明に困難な点があるのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/23
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024・中村三之丞
○中村委員長 森山君、もう一問でお終りを願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/24
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025・森山欽司
○森山委員 法律で規定するについては、なかなか問題があろうというふうなことであろうと了承いたします。
そこで最後に一つ、私も議員といたしまして、また労働委員といたしまして、昭和二十六年以来、この問題に関係して参りました。鬼怒川のけい肺労災病院も、建築されて間もなくからずっと今日まで、ときどきお伺いしておるわけであります。そのつど、けい肺労災病院の運営について、院長とかあるいは患者さんの方々からいろいろお話を伺います。この際、けい肺労災病院を経営される責任者といたしまして、けい肺労災病院の実情について、今日国会の場面においてお話ししたいことがあれば、申し述べていただきたいと思います。これは私の大西博士に対する最後の質問であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/25
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026・大西清治
○大西公述人 まことにけっこうな機会を与えていただいて、感謝にたえない次第でございますが、時間もございませんので、ただ一言申し述べさせていただきたいことは、けい肺法が、何ゆえに制定される必要性があったかという点からいたしましても、これを専門とする病院がいかに必要か、国家的な見地において、これが経営とその内外の設備の充足を必要とするかということは、申し上げるまでもないと思うのであります。この点において、私は、労働省の御当局に、いま一段とけい肺労災病院の設備の充足方について、特定の御配慮を希望せざるを得ないということでございます。
この程度で終っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/26
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027・中村三之丞
○中村委員長 長谷川保君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/27
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028・長谷川保
○長谷川(保)委員 大西先生に伺いたいのでありますが、今度けい肺法ができますと、御承知のように、今までの三年の療養期間が五年ということになるわけでありますが、私は全然しろうとでございますけれども、先般来の本委員会におきまする審議によって、けい肺病というものは、ほとんど治療ができない、ただ現状をより悪くしないだけの治療をするというふうに伺ったのであります。五年になったといたしまして、なるほど三年よりも、療養期間は長くなってよろしいわけでありますが、その二年延びるということで、お医者さんの立場といたしまして、今までよりも特別治療方法に適当な、よりいい方法ができるというようなことになるのでありましょうか、その点を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/28
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029・大西清治
○大西公述人 お答え申し上げます。現在私どもの病院で、けい肺患者を全国的に収容いたしております過去六年間の経験を持っておりますが、実際に病院に収容し、また労災法の規定によって療養し得る期間は、法律では三年となっておりますが、実は私の病院に入ってくる場合においては、もう相当期間経過した患者が入ってくる。従って、院内に収容して現実に療養を施し得る期間は、あまり長くはないわけです。その期間内において、たとえば結核を合併した場合に、ストマイ、パスの化学療法が、今日のところ相当効果のあることは御承知の通りでありまして、けい肺結核の場合においても、もうこれが唯一の治療法となっておるのであります。ところが、一回りを行いますのに、最低六カ月かかって、わずかに一回りの療養が済むわけです。この一回りの治療でもって、けい肺結核がどれだけよくなるかと申しますと、普通の結核であれば、その程度で相当の効果が期待できるのですが、しかしけい肺結核となりますと、けい肺という最も困難なる病的変化を常時持った上に、結核が合併しておりますので、ただ一回りの化学療法では、なかなか期待する効果が現われてこない。二回り、三回りといって、継続的に化学療法も継続しなければならぬ。ところが、一回り半くらいでもって、現在の三年という期限に到達する場合が非常に多いので、二年の延長をいただきましたならば、その治療においても、われわれは一そう完全を期することができる。また単純なけい肺につきましても、現在最も的確にして、いわゆるきめ手的な治療はございません。しかし過去数年の間に、私の病院においても、なるほどこれならば、現在考えられている治療に比べると非常に効果的だという治療方法も発見して参ったわけです。現に私は、今こういう方法もやりたいと思いながら、実は予算の関係上、その機会もものにすることができず、やり得ずして、ただ残念に思っておる治療法もあるわけです。今後、治療期間が二カ年延長せられ、また予算の面においても相当御援助いただきましたならば、この最新の治療方法も十分に実施できると私は思います。
また薬物的な注射薬的な方面においても、現在これならば相当期待し得るという方法があるのでありますが、非常にコスト・バールで、予算の点からして私遠慮しておるわけです。この点につきましても、御援助願うことができましたならば、私はどしどしやってみたい。そうして、少しでも彼らにその治療効果を上げさせてやりたいという念願を持っておるわけで、そういう意味で、今の治療の面にも非常にプラスになる、こう確信いたしておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/29
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030・長谷川保
○長谷川(保)委員 先生の病院では、たとえば肺切除というような手術によって結核をなおすと同じように、第三症度あるいは第四症度の患者を、外科手術で治療するという方法はやっていらっしゃらないのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/30
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031・大西清治
○大西公述人 普通の結核に対して、外科的な治療法が格段の進歩をいたし、また非常に治療効果を上げているということは、御承知の通りであります。ところが、けい肺という素地に結核が合併したけい肺結核なるものは、非常な特質がございまして、外科的治療はほとんどやってはいけないといった考えを持たざるを得ないような過去の数例の経験があるのです。これは私の病院内ではございませんが、他の病院でそういう経験があったので、私の方針としても、また一般のけい肺専門家の意見としても、けい肺に結核を合併した場合は、むしろ外科的治療は禁忌である、行なってはいけない症例であるといった考え方が大部分であります。従って、私の病院では行なってはおりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/31
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032・長谷川保
○長谷川(保)委員 そこで、大西先生にお伺いしたいことは、今度の法制を見ますと、三年あるいは毎年けい肺の健康診断をするということになるわけでありますが、この法律を施行するに当りまして、日本の現状に、おきまして、それを専門に診断できる医師数は足りるのか、足りないのか。足りないといたしますれば、それを満たすまでに、つまりけい肺の診断ができるような訓練、再教育をするのに、どれくらいの期間がかかるのか、それを承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/32
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033・大西清治
○大西公述人 けい肺の専門家は少いというのが現実でございます。しかし、けい肺の診断という分野におきましては、これを専門的に診断を下し得る人は、放射線の専門家であって、一応けい肺の写真の読影の経験があれば、まず間違いなく診断ができると思います。放射線の専門家というものは、最近相当数に及んでおります。また放射線学会におきましても、けい肺問題が強く取上げられておりまして、各放射線の専門家は、けい肺の診断にかなりの関心を持ちつつあるわけです。だから、この診断を行う医師の数という点においては、もちろん十分ではございませんが、各方面に関連をつけて、しかも労働省の方で十分これに対する専門的な資料を御準備いただき、さらにその上に、ある段階に講習会等を開催していただいたならば、所期の専門家を動員することは必ずしも不可能でない、こういうふうに考えておる次第であります。しかし、何名不足し、またこれを充足するのに何年かかるかということは、ちょっと予測しがたいのですが、要は、労働省が十分の予算を取っていただいて、あるいは講習会の開催、あるいは専門的資料の配付というようなことについて格段の御尽力を払っていただいたならば、その点の心配は、やがて解消すると思っておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/33
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034・中村三之丞
○中村委員長 山花秀雄君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/34
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035・山花秀雄
○山花委員 簡単に一、二点お伺いいたします。大西公述人にお尋ねいたします。私どもこの病気に関しては、しろうとで全然わかりませんけれども、一般に伝えられるところによりますと、けい肺というものは、不治の病だということであります。第一症度、第二症度というふうに分類されておりますが、どの程度の症状から、俗にいう不治の病ということになっておるか、お伺いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/35
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036・大西清治
○大西公述人 第一症度ないし第四症度という分類が、今日の原案にございますが、これは当然に必要があると思うのでありまして、いやしくも国家の補償の対象となるものについては、疾病に基いて労働能力が何%以上の減退を示したものがその補償の対象になるというのが、私は社会保障の原則であり労災補償の原則であろうと思うのであります。しかるに、健康診断を行なった場合においては、あらゆる段階のものが発見されてくるわけであります。そこで、発見されました段階を分類する必要も、そこから生まれてくるわけでありまして、その結果、第一症度ないし第四症度という分類が当然に必要になったと考えられます。しかし、実際に現実に治療の対象となり、補償の目的としなければならぬという段階の疾病を持っておるのは、おそらく第四症度が全部、例外として第三症度に該当するものも入ってくると思いますが、まず第四症度が全部であります。しかしながら、治療を行なってどの程度軽快し、よくなるかということになりますと、レントゲンによる第一型の変化が起きた以上は、この変化そのものは、いかなる治療を施しても、今日の段階では消失し、または軽くなるということはあり得ない、そういったような性質の変化でございます。その意味において、けい肺は不治であるという概念を与えたことになるのじゃないかと思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/36
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037・山花秀雄
○山花委員 私どもにはちょっとわかりませんけれども、この前の労働委員会で、どなたか委員の方が、何かけい肺に関しては、アメリカで新薬が発見された。その新薬は、非常に高くて使用できない。しかし、もし使用すれば、不治の病という言葉は消されるのではなかろうかというふうなお話があったのでありますが、これは単なる話であるか、真実であるかという点は、私どもわかりません。大西公述人はこの道の専門家でありますので、あるいはそういう事実があるかどうかという点について、われわれよりよく知っておられるのではなかろうかと思いますので、お尋ねをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/37
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038・大西清治
○大西公述人 ただいまの御質問は、おそらく三年ほど前にコーチゾンという薬がけい肺にきくという事実がありました、この話じゃないかと思うのです。これは、アメリカでも、もちろんけい肺症にコーチゾンを使ったという報告をしております。しかしそれとは別個に、私の病院自体が初めてコーチゾンによってけい肺がある程度軽快するという事実を医学的に発見し、これを学会に報告したようなわけであります。これは、私その後労働省の特別の御配慮で、できる限り患者にこの高価薬も使用し得るようにいたしまして、現在も、ときによってこれを使用して、いささかでも治療効果を上げておるというのが現状でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/38
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039・山花秀雄
○山花委員 もう一つお伺いしたいのですが、この法律案によりますと、適用範囲がいろいろ記載されておりますけれども、造船関係の電気熔接が適用範囲からはずされておるのであります。先生の専門的見地から、これは入れるべき性質のものであるかどうか、おわかりになっておりましたら、お示しを願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/39
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040・大西清治
○大西公述人 電気熔接工にけい肺が出るということは、事実でございます。すでに発見せられた事例が二、三あると思います。しかし、電気熔接工の作業というものは、そうたくさんあるわけでないと思うのです。今後実際に本法の適用の必要性があるということになれば、おそらく労働省においても十分の考慮を払い、またこの省令なり政令の改正によって、本法の適用が受け得るような御考慮はしていただけると思っておるのであります。現在の段階においては、法の適用を必要とする程度まで該当労働者の数またはその危険性が、確定的には把握されていないと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/40
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041・山花秀雄
○山花委員 電気熔接からけい肺患者が出るということはあるという公述人のお話でございましたが、これは検診でもどんどんやれば、おそらくどんどん発見されるのではないかというふうに私どもは想像しております。何か外国の文献によりますと、百分の三の比率でけい肺患者がこの種の業種から出ておるということが示されておるということを、私はちょっと聞いたのでありますが、やはりこの道の権威者である大西公述人の方で、さようなことをお聞きになったかどうか。百分の三ということになりますと、ほかの業種に比較して、重い軽いという点がどういう比重になりますか、一つお聞かせを願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/41
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042・大西清治
○大西公述人 百分の三発見されたという事実は、私は遺憾ながら聞いておりません。おそらくアメリカで研究した報告に、そういう事実があったのじゃないかと思います。日本におきましては、電気熔接工というものは、その作業に用いる熔接の電極の中にけい酸質が含有されておりまして、それが熔接の電極が千何百度に加熱いたしましたときに、粉塵となって発散する、それを吸入してけい肺が起るのであります。理屈はわかるのでありますが、いまだ日本では、広範囲にわたって集団検診も行われておりませんので、百分の三の罹患率であるか、あるいはそれ以下であるかということは、実はまだ把握されておらないのです。ただ、われわれが概念的に考えたところでは、あまり多くはない。従っておそらく労働省においても、今直ちに本法を適用する事業場というふうには、一応お考えにならなかったのではないか、こういうふうに思っておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/42
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043・山花秀雄
○山花委員 時間がありませんので、あと一問だけ早川公述人にお尋ねをしたいと思います。
ただいま早川公述人の公述の内容を聞いておりますと、今度の政府原案に対して、率直に申し上げますと反対だというふうな意向に、私どもには聞えたのでございます。早川公述人のお考えは、これは労働保護法と社会立法とでも申しましょうか、それとの折衷案のようなにおいがする、しかしながら、これは労働基準法その他の一応の免責規定を過ぎ去ってしまって、率直に言うと、もう資本家の負担すべきところではない段階に来ておるのではないか、こういうような御意見のように伺いましたが、もう一度その点、この政府原案に対して、われわれの考え方としては、大体こういう点で反対だというふうにお示しを願えば、われわれが審議する過程においてもやりよいと思うのです。
それからもう一つは、けい肺のこの法案に、外傷性脊髄障害に関するという二つのものがくっついておるのですが、これはわれわれの聞く範囲によりますと、政府当局では、経営者団体の意向をくんで、相当苦心をしてこういう法律案を作成したというふうに聞いておるのですが、その間についても、一つ経営者の立場としてのお考えをお示し願えば、審議の過程に非常に参考になると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/43
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044・早川勝
○早川公述人 ただいまお尋ねの、この法案に対する私の意見をもう一度繰り返して要旨を申し上げますと、先ほども申し上げましたが、療養期間が三年経過してもなお治癒しないという病人に対しては、千二百日、およそ六年間分に当るところの打ち切り補償を支給して、法律上自後一切の補償責任が免ぜられておるというのが、現在の法律の建前でございます。これは無過失賠償責任の立場というふうになっております。それで、それ以上のことを事業主につけ加えるということであれば、それは責任限界を越えたものである、こう考えるのでございます。しかも、先ほども他の公述人からのお話もございましたが、この病気は、もともとその職業に関連して起ったものでございます。それは確かにそうでございますが、しかし、今の法律の社会におきまして、そういうふうに限界を越えてしまっておる。もしそれが事業主の責任において問題を解決すべきであるというならば、私は基準法にさかのぼってその論議が尽されるべきであると思うのでございます。しかし、それでは問題がなかなか解決もしないし、基準法の一般原則という点もございますし、この病人はなおらない人も現実にある、それを見捨てるわけにいかないから、そこでこれは国が配慮をする、こういうふうになってきたものと存ずるのでございます。従って私どもは、それ自体の問題としては、先ほど申し上げましたように、現場の混乱が起るんじゃないかとか、あるいはもっと計数的な基礎を十分に調査研究する必要があるのじゃないか、従って時期尚早であるという立場をとっておりましたけれども、国として、そのあたたかい配慮をそういう盲点的なところへさして手を伸べる、政府の責任においてそれをされるということであれば、われわれは何をか言わんやでございます。その意味におきまして、私どもはこれを断わる理由はない、こういう立場に立っておるのでございます。
それからなお、費用の負担についてでございますけれども、これは清水先生を会長とするところの労災審議会におきましても、大臣に対する答申において、人道的見地より、政府においても十分なる考慮を払うことを至当とするという見解を議事録及び答申に加えておりますし、またさらに、現在の経済情勢の中で、非常に経済上の負担に耐えかねる事業もございましょう、そういう立場も考慮されまして、この委員会の一定の意見として、国庫負担率を大幅に増す、全額国庫負担を主張する意見もあるということを付帯いたしました要望事項もついておるわけでございます。これは公益、労、使で公式に組織した労災審議会の公式の意見でございますので、つけ加えて申し上げておきます。
なお、外傷性脊髄障害のことにつきましてでございますが、この病気といいますか、この症状は、まことに気の毒な状態でございます。これも治療の方法がない病気でございます。ただ、純粋な法律技術の上から申しますと、この法案の中に、外傷性脊髄症のものが入ってきておりますのは、何か木に竹を継いだような感じが実はするのでございます。しかし、このけい肺病といい、外傷性脊髄障害による症状といい、これが現代の医学において治療する方法がないということについて、こういうふうに取り上げられておることとは、私どもとしても、納得しておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/44
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045・中村三之丞
○中村委員長 堂森芳夫君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/45
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046・堂森芳夫
○堂森委員 大西先生に伺いますが、けい肺という病気がもし予防できるならば、このような法律は要らないと思います。先生は、こういう方面の大家でございますが、たとえば、この具体的な数字を、きちっとしてでなくてけっこうですが、従来職場別にいろいろ集団検診をおやりになっておられたことが必ずあると思います。そういう場合に、どれくらいのパーセンテージで、ある職場なら職場でけい肺患者が出てきたかというようなことを、記憶しておられましたら、お話し願いたいと思います。もちろん、そういう場合に、勤続年限であるとか、いろいろ条件によって違うのでありましょうが、そういう御経験が必ずあると思います。そういうことをお話し願いたい、こう思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/46
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047・大西清治
○大西公述人 せっかくの御質問でございますが、現在、私この集団検診の仕事に直接タッチいたしておらない立場でございまして、私が現在申し上げる数字がありとすれば、それは労働省労働衛生課が行なっております集団検診に関する結果だけを手に入れているというにすぎないので、かえって間違った数字を申し上げてはいけませんから、その点は一つ労働省側から御説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/47
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048・堂森芳夫
○堂森委員 それではやむを得ません。しからば、けい肺というものに対しまして、将来学問の進歩によって、予防は絶対に不可能なのであるかどうか、あるいは可能なものであるかということについて、御意見を伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/48
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049・大西清治
○大西公述人 予防は、理論的にある程度までは可能である。ある程度と申しますのは、要するに、予防技術が、現段階においてもある程度の効果を上げておる、さらに将来予防技術が相当研究せられて、より一そう効果的な予防方法が技術的、医学的に判断されるならば、より一そうの予防効果が期待できると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/49
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050・堂森芳夫
○堂森委員 もう時間もありませんから他の方面で一点伺っておきたいのですが、大西先生は、さっき公述の際に、あなたの病院における患者の人たちの第一の最大の希望は、療養期間が非常に短かいから、長く療養ができるようにということである、こういうふうにおっしゃったように思うのであります。そうしますと、大西先生の病院におきまして、過去数年間でけっこうですが、入院して療養しておるけい肺の患者たちが、どのような経過をたどってきているか、大体の傾向といいますか、そういうものを一つお話しを願いたいと思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/50
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051・大西清治
○大西公述人 現在けい肺労災病院に、今日まで各地方からけい肺患者としてお預かり申し上げた数は、全体で約三百二十五名に達しております。そのうち最近なお入院中の患者は約九十名、従って二百何中名かは、すでに退院をいたしたわけでございます。その退院者について、いろいろ検討をいたしたことがあるのでございます。私の病院に一度収容して退院したその後、いわば、今日最高の治療をある期間受けしめて、そして退院せしめたという患者についてみましても、発病後五カ年以内に、すでに四分の一は死亡しておるのです。他の約四分の一は、軽労働に従事しております。他の四分の一、すなわち大ざっぱに見まして全患者の半数は、見かけ上、治療によって体力がある程度回復し、病気に対する考えもある程度緩和され、また事実上臨床的にも症状がある程度よくなっておるというふうな経過がたどり得るのではないか。入院期間内においては、相当その効果の結果が顕著に現われてくるのですが、一たび退院しますと、彼らの生活は非常に不規則になり、また周囲の影響によりまして、非常に悪い経過をたどります。だから、病院に長く収容しておるということは、この病気の療養の点からいって、私は第一義的に大事なことではないかというように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/51
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052・中村三之丞
○中村委員長 多賀谷真稔君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/52
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053・多賀谷真稔
○多賀谷委員 大西先生に一、二点お伺いいたしたいと思います。
先ほど健康診断の問題で、三年に一回ということに対しまする御意見を拝聴したわけでありますが、さらにそれに引き続きまして、診断医が不足していないかという御意見を承わったわけであります。そこで、われわれが政府に対して、なぜ三年に一回にしたのかということを質問した際に、いろいろ理由もありましたが、診断医が不足であるという理由もその中にはあげられていると思いますが、講習会あるいはその他のいろいろな資料を配ること等による研究によりまして、年一回は、診断を行おうとすれば、大体診断医は間に合うものかどうか、お聞かせ願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/53
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054・大西清治
○大西公述人 現在の専門家の数から見まして、一回の講習会と相当広範な専門的な資料を労働省において御準備していただきさえすれば、私ども一回の健康診断の結果を判定するのに、まずまず可能ではないかというふうに思うのです。しかし、十分ということを申し上げることはできない。すでに昨年、御承知の通り厚生省が結核の実態調査をやりました。この結核の実態調査は、調査項目において、また診断の範囲において、きわめて広範な部面にわたっているわけであります。そうしてレントゲンの読影にいたしましても、かなり専門的な技術を要求されておるのでありまして、その対象が五万数千人に及んでおったわけです。しかし、まずまず診断の技術者の不足を感ぜずに、予定通りの期間内に予定通りの成果を上げたという経験があるのです。その事実からいたしましても、必ずしも専門家が不足しているがゆえに、こういう制度の実行がなかなか困難であるというようなことは、一応心配はいたしておりますが、努力いかんによっては、そう心配するほどでもないというふうに考えられます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/54
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055・多賀谷真稔
○多賀谷委員 そういたしますと、年一回行うということにしても、それほど技術者の不足を感ずることはない、かように考えてよろしいでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/55
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056・大西清治
○大西公述人 全部についての年一回の健康診断は、その対象となる人員数をちょっと覚えておりませんが、しかし十数百あるいはそれ以上の数になってくると、あるいは困難ではないかと思います。(「二十七万」と呼ぶ者あり)一カ年に二十七万を対象として現在の専門家を総動員すれば——厚生省の例を上げてはなはだ失礼ですが、結核については、あのときは専門家を一カ所にカン詰めにして、朝から晩まで読影に当ったのですが、そういう非常手段をとれば可能だということで、常態においては、もちろん非常な困難があると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/56
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057・多賀谷真稔
○多賀谷委員 では次に、第八条に作業転換という項目がございますが、作業転換を行えるような患者で、至急作業転換を要するというような状態になったときには、当然補償をすべきものであると考えますが、それについて、長い間労災あるいは工場法当時からずっとタッチされております先生から御意見を承わりたいと思います。もう少し具体的に申し上げますと、労働能力は現実には喪失していないけれども、その作業にそのままついていると、労働能力の喪失があるという状態があるわけでありまして、今の基準法その他から見ますと、新しい類型に入るもので、このような病態にある者に対しまして、補償は考えられると思いますけれども、どういうように考えられるか御意見を承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/57
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058・大西清治
○大西公述人 配置転換の処置は、予防的な見地から方法が考えられているのではないかと思うのです。従って、この配置転換をするという対象も、予防的な意味で必要な段階になった場合に配置転換をするという扱いをしていると思います。従って、補償問題との関連性においては、私は医学的な意味において御意見を申し上げることが、どうもむずかしいと思う。ということは、配置転換という場合は、医学的根拠に基いていないのです。配置転換は、予防的な意味という目的のために行われる。しかし、私の経験上、意見を言えという御要求でありましたならば、まさしく賃金の減退を招来して参る場合が、非常に多いと思います。しかし、それはある期間内、すなわち他の職場に転換して、その職場になれる期間だけが、賃金低下が非常に著しいと思うのです。だから、その期間内に対する賃金補償の意味から補償を行うというのは、社会政策的の意味からいっても、非常に必要であり、またよい施策だと考えられます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/58
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059・多賀谷真稔
○多賀谷委員 早川公述人に二点ほどお尋ねしたいと思いますが、この法律施行によりまして——実は法律の方は、民主党と自由党の方で修正になりまして、使用者及び政府は二分の一ずつということになったわけです。原案にあります三分の二の負担でもけっこうですが、どのくらい保険料が上ると計算になっているのか、石炭産業だけでけっこうですから、お聞かせ願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/59
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060・早川勝
○早川公述人 実は計数の基礎が私どもにはわからないのであります。それで労災保険のやつにくっつけて割りつけますとどれくらいになるかという見当がつかないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/60
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061・多賀谷真稔
○多賀谷委員 実はこの委員会でも、打ち切り補償の問題がいろいろ論議されているわけです。そこで私たちは、せっかく法律ができているのに、三年で打ち切るということは遺憾ではないかという質問をしているのです。もちろん打ち切り補償ということと解雇というものは、必ずしも一致したものではないのですが、労働省の方では、こういう法律ができたから、使用者の方も十分自覚をして、この法律の精神に沿って、おそらく解雇とかあるいは社宅を追い出すということはないだろう、こういうことをおっしゃっているわけです。私どもは、そういう点を非常に心配しているものですからお尋ねしいのですが、あなたの方の業界では、今度は二年余分に療養、休養の給付が受けられるわけですが、やはり解雇その他の処置をされるであろうか、あるいはまた、この法の精神に沿って解雇を二年間は延ばすという御処置をなさるつもりであるか、あるいはまた、決定はしておらなくても、経営者協議会としてはどういうお考えであるか、その点をお聞かせ願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/61
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062・早川勝
○早川公述人 この点については、まだきまっておりません。しかし、またきめるべきものでもないと思っております。法律論だけで申し上げますと、この法律は、基準法、労災法とは全然別個の観点であるというふうな説明を聞いておりますので、千二百日に及ぶ打ち切り補償が済む、そのあとからこの法律が適用されるという法の内容になっておりますので、現実の取扱いは、現場でやるより仕方がない、こう考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/62
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063・多賀谷真稔
○多賀谷委員 今の千二百日が六カ年にわたるという計算を出されているのですが、どうも私どもその計算の基礎がわかりません。なるほど働かない休日にももらうわけですが、割る方の基礎は当然日数で割るのですから、どうもその点がはっきりしないわけです。どうして六カ年になるというのか、一つお示し願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/63
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064・早川勝
○早川公述人 結局平均賃金の六割でございます。普通に療養する間は一年を三百六十日といたしまして、それに三分の二をかけたのであります。そういう算式技術を使っているのですが、役所の数字ですから、その方からお聞きになるのが妥当と思います。私の承知している限りを申しますと二百四十日になります。ところが二年三年四年と先の分もまとめて支給するわけでございますから、金利計算があるのだそうです。それを一般市中銀行の慣行の年利三分というので前払いする場合には、利子を引く計算になっている。そうすると、一年目に二百四十日分、二年目が二百三十三日、三年目が二百二十六日、四年目が二百二十日、五年目が二百十三日分、六年目が二百七日分になりまして、合計千三百三十九日になります。そういう計算の式になっておりまして、等級の第一級がそれによってできておりまして、それと見合って千二百日分がきまっているというふうになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/64
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065・滝井義高
○滝井委員 大西先生にお尋ねしますが、長年けい肺病を扱われておりまして、結核とけい肺の合併の状況は、大体どういう状態になっているか。第二に、三症度までのもので一応職場転換をしていくという場合に、それが四症度に進行する状態——非常に進行はないと言われておりますが、過去の御経験から、どういう程度か、パーセントでもわかれば、この二点をお尋ねしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/65
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066・大西清治
○大西公述人 結核の合併は、けい肺症におきましては、まことに不幸な問題となるのであります。結核がけい肺に合併する、言葉ではただ合併と言われておりますが、われわれがレントゲン医学的に診断する場合に、あるいは臨床学的にこれを診断する場合に、普通の結核と普通のけい肺とが、相独立して単に重なっているという状態ではないのであって、けい肺が主体となったその病的組織の中に、結核が飛び込んだといったような格好に組織学的にはなるのです。だからして、けい肺に結核が合併した場合には、むしろ私はけい肺結核という一つの独立した疾患としてこれを取り扱い、また医学的にも考える必要があるのじゃないか。また治療の面からいたしましても、普通の結核を治療する場合と、けい肺結核を治療する場合は、非常に状態が違ってくるというところも、実はそういうところから来るのだろうと私は思われるのであります。
次に、第三症度から第四症度に移り変る割合がどうであるかということでございますが、これは長期にわたって観察した事例が、わが国ではまだどうもあまり多数ございません。労働省においては、巡回検診の資料は数万に及んだ資料を持っておりますが、これは継続的に毎年同じ人間について五年六年というような長期にわたっての集団検診は行なっておりませんので、長期間の経過が、およそ何%になって第三から第四に移るかという的確な資料は、実は私も持っていないのです。ただ経験的に申し上げますと、第三から第四に移る場合においては、たとえば心肺機能が高度に悪くなった、そういう場合に扱うようになっております。これは当然でありまして、ただその心肺機能がどの程度進行するかというと、これはけい肺の進行とは別個に、心肺機能の低下ということは割合著しく、しかも比較的短かい期間内に進行する。たとえば、一年以内に進行するという事例は、かなり多いと私は考えております。従って、第三症度から第四症度に移り変るのは、多分全けい肺患者のうちで、一割や二割は一年前後で移り変る可能性もあるだろう、こう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/66
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067・滝井義高
○滝井委員 その次に、現在先生の病院で取り扱われておるけい肺患者の中で、自費患者——すでに労災保険が切れて、そして打ち切り補償をもらった、その自分の金でやられておる患者がどのくらいおられるのか。それから開会前にお尋ねしたのですが、生活保護の患者はない、こういうお言葉ですが、そういうこともあわせて御説明願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/67
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068・大西清治
○大西公述人 労災法に基く三年間の療養期間が経過いたしましても、なお本人の症状が医学的にどうもまだ心配だという場合には、お前帰ればもう必ずや経過が悪くなるからといって、一応勧告します。しかしながら、経費の支出面がないわけで、そこでいろいろ研究いたしました結果、そういう場合には、私の方で現在はやむを得ず健康保険に切りかえさせております。しかしその場合は、当然健保の受診権を持っているという前提でなければ、この切りかえもできない。健保の受診権は、一病について一カ年半というような制約がありまして、すでに過去においてそれを使い尽しておれば、その切りかえもできないのです。その切りかえ可能なケースで健保に切りかえておりますが、現在二名おります。しかしその場合は、けい肺ないしはけい肺結核という診断では、健保の基金でもって全面的にカットされますので、遺憾ながらわれわれは、慢性気管支カタルというような異なった病名でもって申請せざるを得ない現状にあるわけであります。
それから、生活保護の申請も、私、ある非常に気の毒な事例に遭遇いたしまして、関係方面の役場その他にずいぶん運動もし、了解をするように交渉してみたのですが、一応打ち切り補償という相当まとまった金額を国家からもらっているということによって、その後の生活保護は全然資格がないといって受け付けてくれないのです。そして、残念ながらその事例は一つもございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/68
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069・滝井義高
○滝井委員 今ちょっと重大な発言がありましたが、健康保険に切りかえられるということですが、今まで労災で取り扱っておって、それを健康保険に切りかえられるというのは、これは現在診療所において労災と健康保険との問題は移行型があって非常にむずかしい問題をはらんでおるところですが、こういうように打ち切り補償を行われた後に、その患者がどうにもしようがない状態になってきておるというときに、健康保険で慢性の気管支カタルとかあるいは肺結核みたいな名前をつけて、さらに治療しなければならない事態が現実にあるということは、私はこれは考えなければならない問題を、すでにここに持っておると思う。この取扱いについては、またいずれ私たちの方で厚生当局にお尋ねしたいと思います。
その次に先生にお尋ねいたしたいのは、三症度までの者は職場転換の勧告を受けることになるわけでありますが、この三症度までの決定を受けた者は、労働大臣の御答弁においても、これは病気であると言明をせられておるわけです。そうしますと、さいぜんも多賀谷委員から言っておりましたが、病気ではあるが労働能力は落ちていない、そういう状態だと、三症度までの者が病気であるという認定を下すならば、職場転換は私は療養だと思う。もしそのままそこに置いておけば、その人は死ぬということは確実なんです。先日も私言ったのですが、労働能率が落ちていないということは、その患者が、客観的に見て落ちていないのであって、これをもっと精密に、たとえば、けい肺の精密検査である挙上試験とか、いろいろ心肺機能の調査をやってみれば、他の健康人ならば十回ものをあげた場合に、どうきがしないのでも、その人は十回あげれば、おそらくどうきがしてきているわけです。明らかに肺そのものに器質的な変化が起ってきておる、あるいは機能の上においても変化が起ってきておる。これは病気なんです。たとえば、開放性の結核患者がおって、客観的には毎日健康で働いておる、しかも労働能率は落ちていない。ところが、その患者をその職場に置いておけば、この人の病気が進行するばかりでなくして、同じ職場の人にその菌をばらまいていく、こういう社会的な害悪を流すわけです。従って、この人は、客観的にいえば労働能率は落ちていないが、これをその職場に置くことによって害毒を流し、本人の将来も、さらに空洞が広がって、その人がほんとうに不治の病になる。これをピック・アップして、職場の転換でなく、療養所に入れて療養してもらわなければならぬ、こういうことだと思う。これは超ヒューマニズムの形をとるならば、職場転換は療養だと思う。そうだとすれば、これが病気であり、しかも職場転換が療養だということになれば、それはさいぜん先生も言われておりましたが、とにかく新しい職を覚えるまでの労働賃金の差は見なければならぬという一つの進歩的な思想が出てきておると思うのです。そういう点で、これは療養だと思う。その点、療養だということになれば、これはわれわれが大きく考えを変えなければならぬ点が出てくるのです。
もっと突っ込んで申し上げますならば、結核で外科手術をやってなおった。ところが、これは社会復帰させたのでは大へんだというので、ある程度の職業訓練をアフター・ケアでやる、あるいはコロニーの状態で、家族とともにひっくるめて一つの状態に持っていくということは、これは明らかにいわば一つの療養の形態をとった広い意味の医学的な処置だと思う。こういうものについては、やはりわれわれは、けい肺と同じような考えで取扱いをしていかなければならぬと思う。やはりけい肺患者の職場転換をするということは療養だ、こういう考え方を私どもは持たなければならぬと思いますが、先生は——それは療養じゃなくて、単に普通の意味の職場転換だ、だから賃金の補償も何もする必要はない、こういうことになるわけです。坑内で働いておる人が坑外に転換する場合において、その人の賃金の状態はがらり違ってくる。こういう見地から、専門的な先生方の見解を聞いておかなければならぬところだと思うのですが、その点いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/69
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070・大西清治
○大西公述人 すでに病気かどうかということ、これは考え方によると思うのです。ドイツの災害保険法などには、ドイツの災害保険法において、疾病とは何ぞやという定義がちゃんとある。その条件としては、労働能力が少くとも一〇%以上減退したものという条件を法律でもって明記してございます。このように本法のごとく、あるいは労災法のごとく、基準法のごとく、国家補償的な制度ないしまた社会保障的な制度の運営の形態が保険制度をとった場合には、その客体となるべき相手の病気は、やはり一つの定義のワク内に押し込めてこなければ運営ができないと思うのです。それを単に医学的な病気という定義の範疇にまで広げるということは、この法の運営上困難だろうと思うのです。すなわち、医学的な定義と法律的な定義とそこにあって、ある一つのギャップが出てくるのは当然じゃないか。私ども、今の先生の御意見は、医学的には疾病という範疇に入ると思います。しかし、これが法律的に果して疾病という範疇になり得るかということについては、御意見の相違と申しましょうか、私はそこに違った範囲というものがおのずから出てくるというふうに思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/70
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071・滝井義高
○滝井委員 なぜそういう主張をしますかというと、たとえば三症度の決定を受けます、そうしますと、その人は職場転換をしなければならない形が出てくる。この前もあったのですが、この法律が、いわば首切りの形で用いられるおそれがあるというのは、そういうところなのです。たとえば、君はもう三症度のけい肺の審査を受けたのだ、君はこの職場におることはできない、だから君は職場転換だ、こういう形が出てくるおそれがある。もし、そういう形でこれが用いられるおそれがあるならば、今度は労働者の側においては、こういうことも言えるわけです。私は三症度と言われました、しかし私はどうも心臓のどうきが激しくて、もう三症度と言われたのでお先まっくらで、あしたから仕事かできません、こうなると、この人は四症度と言えるわけです、三症度と決定されて、あすからどうも私は仕事ができません、坑内の仕事は全くできない、ここらで一つ療養させてもらわなければと、こういう強い要求を本人がしてきて、心肺機能というものは、なかなか客観的に見るわけにいかない場合が出てくる。自覚症というものが、やはり大きく審査医の決定を左右するわけです。そうしますと、それは四症度にいく可能性が十分ある。その人は、ここで今度は傷病手当金をもらい、同時に打ち切り補償も三年まではもらえる形ができ、さらにあとの二年間もそういう形で治療ができる形が出てくるのです。これは二症度までならば、そういうことはありませんが、三症度というと、心肺機能が軽い程度にあるのですから、それから先は主観の問題になってくることになる。こういうところに微妙なところがある。両方から利用できる形が出てきている。事業主は、これをもって首切りの一つの口実となし得るし、労働者の場合にも、これを一つの療養の口実とし得るというように、三症度のぎりぎりのところの問題は、微妙な問題をはらんでおる。そういう点を心配するのです。これがある程度五年という期限を切って、事業主と労働者との間で取り組まれた形で論議が進められるということになれば、非常に問題点がそこにあることになるのです。こういう点、その方の専門家でもあるし、けい肺対策審議会の会長さんもされておられるので、ちょっと御意見を承わっておきたいと思うわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/71
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072・大西清治
○大西公述人 ただいまの御質問の御心配は、もちろん私も同感でございます。従って、本法の運営に当って、本法に規定せられておりますごとく、けい肺診査医の制度が設けられております。そうしてまた、このけい肺の決定に対する苦情申請の道も開かれております。それからさらに、第一回の健康診断は、国みずからが行うという建前にもなり、そして当分の間は地方労働基準局長に各使用者が行なった健康診断の資料は一応提出をしろという扱いも行なっておるという慎重さをとっているというところが、今御意見としてお述べになりました第三症度であるかあるいは第四症度であるかのぎりぎり結着のせとぎわの扱いいかんによって、まさに右にするか左にするかというむずかしい事例が出てくると思います。それについては、そういう制度を百パーセント運営して、個々のケース、ケースを慎重に判断を下して、労働者が不当に不利な待遇を受けないように考慮していかなければならぬと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/72
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073・滝井義高
○滝井委員 早川先生にちょっとお尋ねいたしたいのですが、さいぜん多賀谷さんの質問に対して、三年の打ち切り補償が行われた後の状態等については、これは現実の取り扱いで現場でやられるのだ、こういう御答弁があった。私、今までの結核の取り扱いを見て、実は心配するのですが、結核は、たとえば大手筋の炭鉱等におきましては、一年半の傷病手当金をやり、それから三年間は療養の給付をやる。そうしますと、もうそれでおっぽり出される形が多く出ておるわけです。なるほど、これはそれぞれの職場における結核対策という問題もあると思うのですが、しかし、一つの職場で開放性のそういう重態な患者をおっぽり出すことによって、自己の職場には結核患者がなくなるかもしれませんけれども、日本全体の結核対策から考えたならば、それはむしろ結核を社会的にはどんどんばらまく形を作っておるという状態で、日本の結核は、非常に死亡率は減ったけれども、結核患者は、むしろ要入院者が百三十万もふえておるということは、むしろそういう利己的な事業主自体の状態があずかって力があると私は見ておる。こういう点について、ここにけい肺というものが、今度の修正では事業主が二分の一、国が二分の一という形で二カ年ヒューマニズムの立場で見ることになった。個々の現場の取り扱いでやられるということでなしに、この際大乗的の見地から今後の状態を見れば、私は健康診断等も普及すれば、これを見るにしても、そう多い数ではないと思います。従って、これは石炭の方の協議会の専務理事とせられまして、人道的立場から、あと二カ年間は社宅におらせたり、解雇せられないということで、社宅をもらったり、ガラをもらったり、相当恩典に浴する。そういう見地から、今度三分の二の負担が、修正で二分の一ということになったのであるから、二カ年間解雇せずに、厚生的面の恩恵はやろうというぐらいの人道的見地から、太っ腹の御意見は出ないものでしょうか、この点を一つお伺いしたい。現場といっても、現場になれば、今までの結核の状態から見ても、傷病手当金の切れたときが縁の切れ目になって、傷病手当金が切れると同時に大がい死んでいっております。こういう点から、やはりこれは結核ほど数は多くないのでありますから、まあまあ一つ炭鉱の事業主の団体の方で、そういう温情は持てないかという点なのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/73
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074・早川勝
○早川公述人 少し冷やかな言い方になるかもしれませんが、議論といたしますれば、肺結核患者のような、まことに気の毒なむずかしい病人につきましては、これをしまいまで長期にわたって私企業、個々の企業がかかえておれるものかどうか。理屈としては出てくるわけでありますが、そういう者こそ、社会あるいは国がかかえて安定するように持っていくのが、これがほんとうの行き方だいうことを考えておるのであります。今お話しのように、現実の問題としては、これはどうなりますか、会社々々によって取り扱いがございますので、これによってのみ確実にいくということはきめられないのではないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/74
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075・中村三之丞
○中村委員長 森山君、早川公述人に御質問があるそうですが、簡単にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/75
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076・森山欽司
○森山委員 先ほど早川さんは、政府の責任者がこの法律は生活保護法のようなものであると言ったというふうに伺いましたが、その政府の責任者とはだれですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/76
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077・早川勝
○早川公述人 非公式の席上でありますから——申し上げなければなりませんか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/77
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078・森山欽司
○森山委員 言っていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/78
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079・早川勝
○早川公述人 それは労働省の事務次官からそのことを伺っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/79
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080・森山欽司
○森山委員 先ほど早川公述人は、法律的責任の限界としては基準法であって、その基準法の特別法としてけい肺法を作るとすれば、基準法の原則にさかのぼって議論しなければならない、その立場においては反対である。こういうふうにおっしゃったと思いますが、それでよろしゅうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/80
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081・早川勝
○早川公述人 ただいまの御質問でありますが、その意味においては反対であるという点は、どういう点でございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/81
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082・森山欽司
○森山委員 けい肺法については、ただいまたとえば療養期間は三年ということになっておる、これを二年延期するのだ。これは五年という形で延期することにしたらいいという主張もございます。この法律はそうなっていない。基準法の無過失損害賠償理論の上に立って——今お話を伺えば、斎藤労働事務次官が、三年の上に二年という木に竹を継いだような形で、いわゆる生活保護法的に計五年になっておるということですが、この法案に対する各方面の考え方の中には、この三年プラス二年という木に竹を継いだようにして五年にしなくても、労働基準法の線に沿って五年にすべきである、こういう考え方がある。従って、この法律で規定する二年を、たとえば療養給付という言葉を使ってありますが、これは療養補償という考え方で行くべきであるという議論があるわけであります。そういうことで、特別的な考え方で行くということについて、そういうことについては、基準法の原則にさかのぼって論議しなければならないというあなたのお説は、反対なのではないか、こういうことであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/82
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083・早川勝
○早川公述人 その通りでございます。事柄はそこにさかのぼって論議する問題でございますし、私としては反対でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/83
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084・森山欽司
○森山委員 そこで法的責任の限界は、現在の基準法の線によるということですが、その法的責任限界以上のものについて、これを二年なら二年延長するということは、今日の石炭業界は非常に不況でございますが、つい二、三年前までの石炭業界の実情をもってしても、経済的に不可能な状況にあったか、また現にあるかということについて、お伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/84
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085・早川勝
○早川公述人 現実に、仰せられます通り、実に石炭業界は今日は崩壊寸前といいますか、その中に足を踏み込んでおる状態でありますので、出費がふえるということについては、ほんとうにつらい立場でございます。これは率直にそういう状況になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/85
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086・森山欽司
○森山委員 つい二、三年前は……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/86
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087・早川勝
○早川公述人 二、三年前といいますか、昭和二十七年の夏過ぎから、急速に炭況は悪化の一途をたどっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/87
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088・森山欽司
○森山委員 夏前だったらやれますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/88
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089・早川勝
○早川公述人 それは事業にもよりますが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/89
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090・森山欽司
○森山委員 石炭の場合です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/90
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091・早川勝
○早川公述人 石炭産業が全部よかったとは申せませんし、それは個別にはいろいろ問題があろうと思います。それよりも、私が申し上げておるのは、法律の性格なり建前の立場から申し上げておるのですが、現実に使用者負担ということでございますれば、現在は特にひどい影響が、ことに中小炭鉱なんかには現われるのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/91
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092・森山欽司
○森山委員 最後に一言。それで、結局早川公述人の話は、国として配慮すれば何をかいわんやということは、そのために全額国庫負担にしてくれということですが、この法案は、政府提出は三分の一国庫負担、それから与党及び自由党との間の予算の変更によりまして、二分の一負担となった。これで一応、今日議論になった二分の一国庫負担という線でこの法律がこのまま行われるということになっても、なお反対である、こういうことでございますか。それとも、これなら政府が立法手続をとることを了承する、反対ではないという程度ですか、この程度はやむを得ないというお考えであるか、その辺のところを、一つはっきり伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/92
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093・早川勝
○早川公述人 現在、今日の段階においては反対であるとは申しておりません。ただ現場において、診断をめぐった問題は、先ほどからも展開されたようなこともございますし、また実際の計数の基礎を押えて、どんな状態になるのかというような不安を持っておりますので、基礎的な考え方としては、なお不安を持っております。しかし、国がかかる厚い配慮をしようという立場に立ってこられました以上は、私の方としては、そういう不安がございますし、そうしてまた、時期尚早であるという意見も実は内部にも相当ございまして、この法案そのものは、負担関係についてはなお私どもは強く要望はいたしますけれども、法律としてでき上るということにつきましては、やむを得ないといいますと少し適切でないかもしれませんが、そういう状態が起っても、私としては、実施することについては協力はいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/93
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094・森山欽司
○森山委員 結局は賛成するわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/94
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095・中村三之丞
○中村委員長 午前中はこの程度にとどめ、午後一時半まで休憩いたします。
午後零時四十六分休憩
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午後二時一分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/95
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096・中村三之丞
○中村委員長 休憩前に引き続きまして、社会労働委員会公聴会を再開いたします。
この際、公述人の皆様方にごあいさつ申し上げます。
本日は御多用中にもかかわらず、当公聴会に公述人として御出席下さいましたことに対しまして、委員一同を代表して厚くお礼を申し上げます。公述につきましては、ただ時間の都合上、お一人十五分程度といたしたいと存じますが、公述人のあとに委員諸君から質疑があると思いますから、その際忌憚なくお答えを願いたいと存じます。
それでは、まず清水公述人に御発言をお願いいたします。清水公述人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/96
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097・清水玄
○清水公述人 私は労使いずれでもありませんで、おそらくけい肺病院を経営しております労災協会をやっておりますような関係からのお招きかと思いますが、実はけい肺については専門家でありませんので、詳しいことを存じません。ごく大体のことを申し上げたいと思います。
けい肺の患者が非常にお気の毒な状態でありますことは、御承知の通りでありまして、それについて保護をするということは、まことにけっこうなことと思うのであります。今回、特別の立法をされまして、特別の保護を加えられるということは、まことに適当なことと考えるのであります。外部の力によりまして脊髄を障害された患者の方々も、同様に非常にお気の毒な状態でありますので、これまた同時にあわせて特別立法をされますということ、これも適当と考えるわけであります。従いまして、この際この法律をすみやかに成立させられますことは、私としては非常にけっこうなことと考えております。もちろん、今は大まかな話でありまして、法案の内容につきましては、実は私もよく存じませんが、こまかい点につきましては、いろいろと論議があると思います。大体論といたしまして、特別にこういう非常に気の毒な人があることに対して、特別の保護を加えるということは、まことにけっこうなことと考えております。
この際、希望的の意見でありますが、この法案に関連しまして一、二申し上げたいと思います。一つは、この法案がけい肺症の患者と脊髄損傷の患者の特別立法でありますが、実は程度の差こそありますが、長い間の結核の人とか、あるいは外傷性神経症の人とか精神病というようなもので、職務上そういうふうな病気に長くかかっておる方についても、やはりこの法案にありますような保護が必要じゃないかと考えるのであります。この法案によりますと、打ち切り補償が出まして、あと何年間か延長して給付をされるということでありますが、おそらくそういうことは、今申し上げた人についても同様な事情があると思いますので、要するに、すべてそういう傷病が転帰に至るまで保護をするということが、最も適当な方法であると考えるのでありますが、現状におきましては、財政の都合その他やむを得ませんので、今の法案の程度で、これまたやむを得ぬと思うのであります。実際問題は別として、できますならば、将来そういう方向に行くべきものだと考えております。御承知のように、社会保障制度審議会でかつて政府に勧告をしております中には、そういうふうな業務上の傷病につきましては、すべて転帰まで療養の給付もするし、休業の補償金も出すようにということになっております。そういう意味で、今の法律案にしましても、そこまで何とかしていってもらいたい。これは希望意見でございます。と同時に、こういうものにつきましては、一時金で打ち切り補償、そのあと何年間かやるということで、あるいは場合によりますと、これが本人にとって非常に有利な場合もあり得るかと思いますし、場合によりますと、その先が困るという場合もありますが、これまたすべて外国でもやっておりますように、また今の社会保障制度審議会の勧告にもありますように、やはり将来は年金制度ということに切りかえてやっていただくことが本来ではないかと考えます。
それから、けい肺症につきましては、御承知の通りずいぶん全国に広く患者があるらしいのでございます。現状におきましては、これの収容施設、福利施設等、はなはだ貧弱だと思うのであります。従いまして、これの収容及び福利の施設、就労のための各種の施設、こういうものを、さらに一そう国としてやっていただくことが必要であろうと考えます。でありませんと、実は少数の人だけがけい肺病院に入る、あるいは傷痍者訓練所で訓練を受けたが、そのあとはどうにもならぬということでありましょう、それでは実ははなはだ不徹底であると考える。その点は、もちろん財政との関係もあるわけでありますが、将来この福利施設については、十分な拡充ということをお考え願いたいものだと考えます。
それから、次に国庫の負担でございますが、今度の法案によりますと、三分の一国庫が負担する、これは見ようによりますと、大へんけっこうだと思います。ところが、このけい肺症は、実は結核が一緒のが多いそうでありまして、これも先刻申しました社会保障制度審議会の勧告でありますが、これによりますと、一般の場合にはその程度でけっこうと思いますが、結核については五割国が負担する、こういうことになっておりますので、そういう点から見ますと、あるいは今の三分の一負担というのが必ずしも適当かどうか、これまた考える余地があるのではないかと思います。ただし、これも現状におきましては、国家財政の関係もありますので、今すぐにどうということは、おそらく望み得ないことでもありましょうし、今すぐにどうしたらいいかということも考えられないわけでありますが、これまたそういうふうな方向ということをお考え願いたいと思います。
大体、私が一応考えておりますことは、そういうことでありますが、今申しましたように、法案全体としては、特別立法がされますことは、こういう悲惨な人々のためにけっこうなことと考える次第であります。
はなはだ簡単でありますが、一応公述を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/97
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098・中村三之丞
○中村委員長 清水公述人は、二時半以後御用事があるということでございますので、事情やむを得ないと思いますので、まず清水公述人に御質問のおありの方は、この際お願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/98
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099・森山欽司
○森山委員 今、お話の中で、けい肺病と同様な病気として神経症とか結核だとかあげられましたが、その他幾つかございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/99
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100・清水玄
○清水公述人 私、今申し上げましたのは、職業によりまして結核になる場合、それが長引いた場合、それから外傷性神経症、これまた職業によってなるというような場合が主であろうと思います。ただし、程度は今申し上げましたように多少違いがありますので、これまたやむを得ないと思います。大体そんなものだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/100
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101・森山欽司
○森山委員 労災審議会の会長さんをやっておられるそうでございますが、そういうものに補償をいたしますと、やはりけい肺以上の金がかかるような、非常に莫大な金がかかるようなものでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/101
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102・清水玄
○清水公述人 大体同じ程度ではないかと思うのであります。ただ、結局これは私が申しましたように、将来ずっと補償を継続した場合に、どれだけ罹災後生存するかという問題ではないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/102
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103・森山欽司
○森山委員 お金がどの程度かかるか、たとえば予算が、要する金がどの程度よけい食うか。先般来脊髄障害について調べてみましたところ、けい肺に比べれば、ごくわずかしかない。ですから、結核の場合は別にいたしまして、神経症というようなものは、外傷性脊髄障害に比べて、同様にきわめてごくわずかなものではないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/103
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104・清水玄
○清水公述人 正確な統計を持っておりませんが、おそらく外傷性神経症とか非常に診断がつきにくいものが、実際にはもっと多いのではないかと思うのであります。今の脊髄損傷に比べて、もっと多いであろうと思います。と申しますのは、審査会がありますが、そういう審査会でよく出てきますのが、この外傷性神経症の問題であります。相当多数あるのではないかと思いますが、これは統計がございませんので、わかりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/104
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105・森山欽司
○森山委員 将来、補償について年金制度を考えるべきだというお話は、非常に興味ある御意見でございます。それについて、今この法案で問題になっておりますのは、打ち切り補償後二年間給付をするという法の建前、従来の労働基準法とは別で、法の性格からして違っておるわけです、労働基準法の特別法的なものではなく、労働基準法とは別途の法律的な立て方だ。それについては、どういうふうにお考えになるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/105
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106・清水玄
○清水公述人 初めに申し上げましたように、特に重篤なる症状でありますので、特別の保護を加えるということは、けっこうなことではないか、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/106
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107・森山欽司
○森山委員 そういうことじゃなく、特別な保護は加えるのですが、それが労働基準法の法体系の中において今までの三年を五年にするというのでなくして、今までの三年に、基準法はすなわち無過失損害賠償という理論の上に立ってやっておるのですが、あとの二年というものは無過失損害賠償のようなものの上に立たないで、労働省の事務次官は、これを生活保護法的なものだと言っておる。そういう形でやったということについて、あなたはどうお考えか、御見解を承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/107
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108・清水玄
○清水公述人 これは考え方の問題と思うのでありますが、私個人として考えれば、一つの考え方としては、もちろんそれも労災補償といいますか、つまり賠償責任の一部分と考えることもできると思うのです。しかし、これは考え方の問題でありますので、労災補償の体系としては打ち切り補償があるから、それであとは余分な方法だということも考えられると思うのであります。現状では、少くとも打ち切り補償という形は、これは年金にかわるものとしてある形であります。従って、年金補償の形でない限りにおいては、打ち切り補償は賠償の責任の最終段階、そういうふうになります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/108
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109・森山欽司
○森山委員 ただ、私が申し上げるのは、工場法、鉱業法施行以来、業務上の障害に対してやる給付は補償という概念、無過失損害賠償理論の上に打ち立てられておる。今回のけい肺及び外傷脊髄障害については、これはそうでないのだ、生活保護法だという、そういう考え方はおかしくはなかろうか。ことに、あなたの御職歴が、労災審議会の会長をしておられるということから、理論的におかしくないだろうか。この理論が違うことは、現実には差が出てくることになりますが、あなたがそういう立場にあるだけに、そういう点に特に御関心を持っておられはせぬかと思ってお伺いしたのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/109
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110・清水玄
○清水公述人 この点は、先ほども申し上げたように、もちろんこれを労災の補償の体系の中に入れるとすれば、今の二つだけ入れるのはちょっとおかしい。けい肺と脊髄損傷のこの二つだけ入れるのはおかしいので、結局広く入れてこなければ、責任が二、三になるとも考えますから、おかしいんじゃないかという気はいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/110
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111・中村三之丞
○中村委員長 ほかに清水公述人に対する御質問はございませんか。
それでは北里公述人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/111
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112・北里忠雄
○北里公述人 ただいま御指名を受けました北里でございます。私は金属鉱山に関係いたしておりますので、使用者の立場から、この法案に対する意見を申し上げたいと思います。時間の関係もございますので、要約して申し上げます。本日は少しかぜを引いておりまして、からだの調子が悪くて大へんお聞き苦しいと思いますが、あらかじめ御了承願いたいと思います。
本日御出席の先生方は、大体金属鉱山の今までけい肺に対していろいろ対策を講じて参りましたことについて、御承知のことと思われますので、そういう点は省略させていただきまして、この法案をもとにしての意見を申し上げたいと思います。私どもといたしましては、これまで数次にわたって申し上げましたように、現在けい肺の問題については、医学的にも非常にはっきりしない点が多々あり、これは世界各国においても、研究の課題になっておるやに聞いておるのであります。そういうように、この法案の決定のかぎである症状についてそういう状態でありますので、そういう問題が解明せられない間にこの法律が実施されるということについては、非常な不安を感じておったのであります。また、現在日本におけるけい肺患者の数等におきましても、金属鉱山においては、大部分の健康診断によってほぼ明らかになっておりますけれども、まだこれとても、全体的にその実態が把握されておらぬというような実情でございまして、法の保護の対象になる労働者の数もはなはだ不明瞭である、こういうような観点から、法律実施に必要にして、かつ十分な条件が備わらない間に立法されるということが、果してどうであろうかというような点から、われわれは時期尚早であろうということを主張して参ったのであります。それは、御承知の通りであろうと思いますが、しかしながら、各般の諸情勢等も考えられますので、そういう点から見て、この法案に対しては、一応けい肺対策審議会においても、使用者側としては立法化を了承したというような経緯をたどっておる実情であります。
そこで、この法案について、私どもが感ぜられますことは、まず第一に、この法案に筋の通っていない点があるのじゃないかというふうに思われるのであります。その一つは、法案の性格であろうと思います。ただいま森山先生からも重ねて御質問があったようでありますが、これについては、すでに午前中早川公述人からも公述されたようでございますから、詳細なことは省略いたしますけれども、法案の形は、保護主体が一応政府になっておることは明らかであります。それにもかかわらず、費用の点については、国は三分の一を負担して事業主が三分の二といったように、その大部分が事業主に賦課されるということは、政府の救済すべきこの疾病に対して、事業主に責任を転嫁しておるような形がとられておると思うのであります。こういう点については、どうも筋が通っていないのじゃないか。基準法と別個の法律であり、これをこえた法律であるというしばしばの説明と思い合せてみますと、どうしても納得がいかないことと思っております。
なお、われわれが実情として申し上げたいのは、ここに現われておりますのは表面的な給付でありまして、このほかに事業主が負担しなければならぬ費用というものは、莫大なものがあると思うのであります。一例を申し上げてみたいと思うのでありますけれども、たとえば、ここに規定してあります健康診断の費用にいたしましても、その方法によっては、ただいま申し上げましたような結果に相なるのであります。というのは、鉱山その他山間僻陬の地にありますような粉塵作業場を持っております事業場も、この対象になるわけでありますけれども、そういうところでけい肺を満足に診断し得るような装置なり、あるいはその能力のある医者が近在にいるということは、ほとんどまれであると思うのであります。そういうことになりますと、労働者は、練達の医者にかかるために遠隔の地に診断を受けに行くというふうな場合も、しばしばあろうかと思います。これに対して、会社側としては賃金の補償問題があり、また出張旅費の問題等も起ってくるわけであります。また、かりにその現場において巡回検診等でもって健康診断を受けましても、そのレントゲンに合うような電圧のものがないということになると、これについての施設も備えなければならぬ。さらに、多数の医者あるいは助手等がおいでになれば、その宿泊であるとかのめんどうを見る労力と費用というものは、相当なものに上っておることを経験いたしております。大体、今までの実例によりますと、機能検査までやりまして、一日三十名がせいぜいだと言われております。これも、診断をする人の数にもよりますが、そういう状況でありますので、多数の粉塵作業労働者を診断するためには、おそらく相当日数滞在しなければ終了しないというふうに思うのであります。こういう点は、金属鉱山について見ますと、特に中小企業に対して、はなはだしい経費の負担を負わせることになるのであります。
それから第二の点は、二カ年の延長期間に対して、療養給付あるいは休業給付の支給をすることになっておりますが、これとても、実際療養中のものが山をおりるというふうなこともないではありませんけれども、そのまま社宅に居住する、またそこの福利厚生施設を利用する、またその家族もおるというようなことになりますと、それに要する経費というものは、また相当なものに上るわけであります。かれこれそういう水面以下にあります経費を総合いたしますと、今、国が全額国庫負担されましても、おそらくそれに相当する、あるいはそれ以上の経費を事業主が持つというふうな結果になるだろうと想像いたしております。従いまして、脆弱な基盤に立ちます中小企業の実情を考えますと、そういう面からも、私は全額国庫負担をしてもらいたい、また性格的には、するのが当然ではないかということを強く要望いたしたいのでございます。
第二の問題は、適用の問題でございます。本法案を見ますと、適用事業場は、一応粉塵作業場を持っておるところというふうに規定してございます。それも、定義として粉塵作業という中に別表として掲げてあるだけでありまして、特段に一条を設けて、適用範囲が他の労働立法のようにきめられておる法律ではないようでございます。しかしながら、この法律を考えますと、これはけい肺に対する特別立法でありまして、ただ粉塵作業場を持っておるからこれに対して適用され、しかも、その結果は負担を負わされるということは、少し趣旨が違うのじゃないかと思うのであります。これはおそらく保険財政といったような意味合いから、その範囲を拡大されているのじゃないかと思うのでございますが、これは労働省からの確かな説明を受けておりませんので、私の想像にすぎないとお考えいただきたいと思います。しかしながら、この粉塵作業場は非常に多岐にわたっており、また広範にわたっておると思うのであります。その中でも、粉塵が発生しておりましても、けい肺の発生しない作業場もあり、また低けい酸の粉塵を発生する作業場もあり、また予防装置が完全であって、けい肺の発生しない作業場等もございまして、一がいに粉塵作業場、しかもそれが遊離けい酸を飛散する作業場であるからといって、全部が適用対象になるというふうなことは、少し機械的ではないかと思います。従って、そういうけい肺を発生することのない場所、あるいは将来発生するおそれのない粉塵作業場を持っておる事業場に対しては、私はこの法施行の時から、当然適用除外をさるべきものと考えておるのであります。たとえば、金属鉱山に例をとって申し上げますと、石灰石あるいは石膏あるいは石綿、水銀というふうな業種は、一応鉱業法の鉱物の採掘ではございますけれども、ただいま申し上げたように、今までにけい肺の一人も発生しない事業場でございます。また将来も、岩石その他の分析によって、科学的にその可能性がないということが立証されておるものであります。そういうものに、なぜ最初から適用をされるのかということに、非常な疑問を持つわけであります。
ところが、労働省当局の御説明によりますと、一応初年度においては、粉塵作業場は全部健康診断をして、けい肺があるかないか洗ってみる、それから三年目にさらに事業主の負担において健康診断を行なって、その期間にけい肺患者が発生していないという事実があれば、そのときに適用を初めて除外する、こういうふうなことになっておりますが、けい肺患者のないところが、三年間負担金率の適用事業場ということになって、その費用を納めるというふうなことは、非常な矛盾ではないかと思うのであります。それならば、けい肺が、もしかりにそういうところに発生したときに、適用事業の中にこれを入れるということでもおそくはないのでありまして、最初から全部にかけることは、ことに中小企業に対しては過酷であろうというふうに思います。今申し上げましたことは、健康診断の作業場にも適用があると思いますが、健康診断の方も、法案にありますように、今の粉塵作業場の規定とは違って、若干しぼられておるようでございますけれども、やはりただいまのように、けい肺の発生しない粉塵作業場に対して健康診断を行うということは、私は国費をいたずらに乱費することにもなり、事業主に無用の出費をさせるというふうなことになりますので、そういう点についても、同様な配慮をお願いいたしたいというふうに思います。
それからさらに、けい肺は御承知のように、塵肺あるいは肺結核等と、初期の状態におきましては、これは練達な医者でも、レントゲンの診断が非常に困難な病気だといわれております。そういうふうな特殊な症状であるこのけい肺に対して、法案によりますと、基準局長が一応使用者からレントゲン写真なり、あるいは書面を提出させて、それを地方のけい肺診査医に診断または審査をさせて、そして症状を決定する、こういうことになっております。ところが、そういう医学的に非常に判別のつきにくい病気でございますので、ともすれば、けい肺でないものがけい肺になる、あるいはけい肺であるものがけい肺でないといったようなことも起りましょう。われわれがここで懸念いたしますのは、適用範囲を拡大するために、けい肺でないものがけい肺ということになって、いわば行政権によって適用範囲が伸縮自在になる。その結果は、事業主に義務を課するというふうなことになりますと、これは非常にゆゆしい問題ではないかと思うのであります。こういう点についても、やはり適用範囲の明確化と、それから適用除外の申請の道を、法律の実施当初から講ぜられておくことが私は必要であろうかと考えましたので、以上申し上げた次第であります。
それから、少し話がこまかくなりまして恐縮でございますけれども、次に、健康診断の受診義務が第三条の第五項にきめられております。その中に、正当な理由があれば、労働者は使用者の健康診断を受けなくてもよろしいという文句があります。そしてそのただし書きに、本人の希望する医者を自由に選択することができるというふうなことがきめられております。おそらくそのただし書きの方は、基準法の五十二条の第三項でございましたか、それと同様な規定がありますので、それが用いられておるものと、私は察しておるのでありますけれども、しかしこの法案には、症状の決定に対して、労働者は異議の申し立てをすることができるということになっております。そうすると、何がゆえに医師の自由選択を労働者に認める必要があるか。このために、労使間にいろいろトラブルが起ることが予想されます。また先ほど申し上げましたように、けい肺診断の能力のある医者にかかるということになると、やはり遠隔の地に行かなければならぬというふうな場合も往々にしてありますので、作業の面にも支障を来すというふうなこともあり得るのであります。そこで、使用者が指定した医者にかかっても、もしそれに不服があるならば、申し立てをすればいいのであります。特にトラブルを起すような規定を、基準法にあるからといってここに持ち込むことは私はないと思います。こういう点から申しまして、一応使用者の指定医にかかって、正当な理由があれば、もちろんこれは他の医者にかかり得るというふうに修正されることが、しかるべきではなかろうかと考えております。
次に、監督官の権限でございますが、基準監督官が坑内に入って粉塵の測定をやる、あるいは検査をやるということが、四十八条に規定をしてございます。これの説明は、先ほど申しました適用範囲の除外をするために、粉塵の測定なり検査をやるのであるということでありますけれども、鉱山保安法には、御承知の通り、鉱務監督官という専門のエンジニアの官吏がおられまして、そういう人々が一応粉塵のそういう測定なり、検査を現実にやっておるのであります。そういたしますと、けい肺のために、基準監督官が同じようなことをやられるということは、企業にとって二重の監督を受けることになりますので、非常な迷惑をこうむるということになります。だから、そういうことであるならば、鉱務監督にその権限をゆだねて、その結果を基準局長が判断されても差しつかえないというふうにわれわれは考えております。
なお、これについて非常に不思議なことは、処罰規定がついております。この粉塵測定を拒否したとすれば、五十三条の第二号により、五千円以下の罰金に処する、こういうことになっております。ところが、適用除外を受ける鉱山なんかが、その測定をやられることを拒否するというふうなことは、常識的に考えられないのであります。監督を厳重にするということならば、あるいはいやがるような人たちもいるかもしれませんけれども、その義務を免脱してやるという調査をするのに、それを拒否するというふうなことは考えられない。それに対して罰金を課すというふうなことは、非常な矛盾であろうと思います。こういうふうなことは、この法の性質からいいましても、除外されてしかるべきではないかというふうに思います。
大体、以上この法律の筋の通らないと思いました点を申し上げたのでありますが、これからは角度を変えて、この法律が一体企業にどういう影響を及ぼすであろうかということを申し上げたいと思います。
企業の影響につきましては、前にも触れましたように、事業主としては、相当の経費をこの法案以外にも負わなければならないということは、おわかりだと思いますが、けい肺患者の一人当りの一年間の所要経費が一体どれくらいになるかということを、御参考までに数字で申し上げたいと思います。私どもが推算をいたしましたところによりますと、労災保険で企業が負担をしております費用の概算ば、約百七十一万円でございます。これは療養、休業、打ち切り、この三つの補償を合せたものでございます。これは正確には百七十万九千九百十円でありますが、百七十一万円と申し上げます。それからこの法案によって使用主が負担する金額は、療養、休業、転換とこの三つで、大体四十三万円程度でございます。これは使用主負担三分の二ということで計算いたしました。それで両方合計いたしまして約二百十四万円程度に相なります。そのほか金属鉱山では、法定外の給付をいたしております。それが一人当り平均大体九万でございます。これは一人当り一カ月でございますが、ちょうど今労災とけい肺法と両方の経費を申し上げましたので、それに対照できる法定外の給付でございます。それで、最初は労災法の負担で、次はけい肺法のこの法案の負担でありまして、それから最後のは、けい肺協定によって金属鉱山が給付しております法定外の恩恵的な給付でございます。これはまたあとで御不審がございますれば幾らでもお答えいたしますが、大体そんなふうな数字が私どもの推算で出ております。このほか福利厚生費等がかかるのでございますけれども、それらは計算の方法が困難でございますので、金額的にここで申し上げることはできないのでございます。
ただいま申し上げましたように、法による経費の負担、あるいは恩恵的に支給をしております経費の負担は一人当りにいたしましても相当な金額に上っております。これらの金額は、企業としては非常な犠牲を払って負担をしておるものでございまして、特に中小企業に対しては、先ほども申し上げましたように、甚大な影響を及ぼすものと考えられます。
それから、この法律に負担金としてこまかい規定がございますが、その負担金の規定の中で、保険関係の成立していない適用事業については、政府が給付を行なったときにそのつど徴収するというふうな条文になっております。ところが、そのつど徴収するということは、実際問題として私は非常に困難なことであろうと想像されますし、またそういう零細な企業に対して、給付をしたから即金で払えといったふうなやり方は、少し過酷ではないかと思います。なお、徴収の方法につきましても延納制度は認められておりますけれども、分割の制度が認められていないというふうなことも、御考慮をいただきたいと思う点でございます。
それからさらに、その負担金を計算いたします基礎になる賃金総額でありますが、これは労災法と同じ規定になっておるようでありますけれども、すべての賃金が入っております。しかし、けい肺の性質から申しまして、たとい粉塵作業でありましても、日雇い夫であるとか、あるいは短期の臨時夫であるとかいったような者の賃金までもこれに加えて、その負担金の計算基礎にするということは、不合理ではないかと思うのであります。それは、適用事業の方で申し上げた理由と同じでございます。ただいま申し上げましたように、経済的な影響としても、この法が少からず甚大なものがあるのであります。
それから、第二の問題として、労使の紛争の原因になるということを指摘いたしたいのでございます。労務管理上の影響と申しますか、この法律ができることによって、労使間にトラブルを起す可能性があると思います。先ほども申し上げましたように、健康診断につきましても、自由に労働者が選択ができるということになると、無理に遠いところの医者にかかるといったようなことが起ることも今後考えられますので、そういったような場合に、それを使用者が拒むというふうな事態が起りますと、いたずらに紛争を起すことも予想されます。
それからさらに、この法案によりますと、第一症度の該当者、つまり基準局長が症状決定をされて、その症状決定を全部使用者に通知をする。その通知をしたものを労働省に遅滞なくさらに通知をするというようなことになっておりますが、そういうふうになりますと、この法には別段直接関係はないわけでありますが——関係がないと申しますと語弊がありますけれども、いわゆる補償の対象になっていないというふうな者まで通知を受けることになるわけであります。これはILOの取りきめなり、あるいは欧米の実際の例を聞きましても、そういう軽度のけい肺患者については、一応労働者には通知をしないというふうなことになっておるようでございます。これも労働者に対して、ショックを与えるというふうなことも考えられます。また反面軽いけい肺患者にいろいろな語弊が伴うことがあるのであります。この詳細については、ここで多く触れませんが、そういうふうなことがあり得ると思います。
次に、作業転換でございますが、この法案では、一応勧告によって転換をすることになっております。ところが、現在の企業の実情なり社会の状態から見ましても、こういうけい肺罹患者が、容易に他に就職の機会を得られようということは考えられないことだと思います。従って企業としては、できるだけ作業場内における転換を努力はいたしますけれども、どうしてもやむを得ず職がないというときには、この規定にありますように、国の機関によって職業あっせんなり職業補導の道を講じてもらわなければならぬと思うのです。そのときに、果してわれわれが期待するようなあっせんが実現できるかということであります。そういうことになりますと、労使間にそのしりがきまして、またこれがいたずらな紛争を巻き起すというふうな結果に相なるわけであります。それで、どうしてもこの法の施行の前提といたしましては、転換の受け入れ態勢を確立するということでなければならぬと思うのであります。
さらに、けい肺合併症について申し上げます。第二条の第二項に、けい肺結核合併症は、第四症度として一番重い取扱いを受けております。これは医学的にいろいろ議論のあるところだと思いますが、この表現を見ますと、第四型のレントゲン所見を示して、かつ活動性の肺結核を合併したものというふうに規定してございます。しかるに、この第四型のレントゲン所見というのは、肺結核には通常見られる写真像であるようでございまして、これは同じ職場で発生いたします単純な肺結核と一番重く取り扱われる合併症との間に、はなはだしい不均衡が起ると思うわけであります。法案にいたしましても、条件取扱い等が、合併症は最も重いものとして扱われますので、そういうことになりますと、労務管理の上から見ると、はなはだ不都合な結果が起ってくるのであります。最近、聞くところによりますと、非常に軽いけい肺患者が、防塵を怠って、わざわざ結核なり、あるいはけい肺なり、別なものに合併するような傾向がある。そういたしますと、この法律ができることによって、そういう傾向が助長されはしないかといったような懸念が起って参るのであります。本法が、けい肺患者を守るという精神とは逆に、けい肺患者を作るといった悪法に転換されるというふうなことが、もしかりにあるとするならば、これは将来非常に大きな問題を残すものと私は考えておるのでございます。
こまかいことを取りまぜて申し上げましたが、これを要しますに、私どもの立場といたしましては、全額国庫負担において本法のけい肺なり、脊髄障害なりの救済の道を講じていただく、なお本法の施行に際しましては、先ほど申し上げましたように、適用範囲を厳格にいたしまして、特に中小企業に対する経済的な影響なり、また労務管理上の影響をできる限り最小限度にとどめられるように、切に御配慮をいただきたいと思うわけであります。
大へんおわかりにくかったかと思いますが、これで公述を終らせていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/112
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113・中村三之丞
○中村委員長 次に能見公述人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/113
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114・能見修
○能見公述人 ただいま御紹介にあずかりました能見でございます。昭和二十三年四月、当時の金属鉱山復興会議の議長の名におきまして、国会にけい肺病撲滅の対策として、その主軸をけい肺法によるべき旨の建議がなされましてより、この二十二国会に至りますまで、さかのぼっては過ぐる十九国会で各党の御賛同をいただきまして、このたびのけい肺及び外傷性脊髄障害に対する特別の保護措置が講ぜられる段階に至ったことに対しまして、私たち昭和二十一年五月、栃木県の足尾銅山の町民大会におきまして、けい肺病を撲滅するための運動を開始することを決議いたしましてより、今日まで約十年の経過を見ておりますが、一日も早くこの日の来ることを期待いたしておりました私たち金属鉱山労働者並びにその家族、あるいは近くは関係産業の多くの労働者を代表いたしまして、心から感謝の意を表明いたしたいと思います。
御存じのように、労働災害並びに職業病につきましては、労働基準法を受けて労働者災害補償保険法が、すべてこれをまかなっておったのでありますが、残念なことには、けい肺病は現在の法令の範囲ではどうしても解決することができない。それは予防、治療、診断、補償というものが、すべて現在の労働保護立法の範囲では認められていかない範囲のいろいろ特殊な条件を持っているというふうに考えております。そこで私たちは、早くからこの問題につきまして、何とか、予防から補償に至りますまでの総合的な特別の法律によりまして、しかも、その法律に基いたいろいろな努力によって、このけい肺病が一日も早く少くなり、ついにはこの地上からなくなっていくというようなところまで努力していただきたいという立場から、いろいろ私たちの要請なり要望をいたしてきたのでありますが、たまたまこのたび政府が出されました立法措置につきまして、本日意見を求められましたので、かかる立場から、この法律に基いて意見を申し述べさせていただきたいと考えております。
まず第一に、この法律の趣旨と目的であります。けい肺病の悲惨な実態が、少くとも社会的に認められる段階に至りまして、その御理解によりまして、人道的な観点からこの病気を解決していかなければならぬ、いわゆるこれを撲滅していかなければならぬという第一歩の立法措置が発議されるに至ったのでありますけれども、たまたまこの立法の趣旨が、国民的なヒューマニズムの所産であるということからして、国民医療の立場で、これを扱っていこう、しかもそれを法律的に体系づけていこうとされますところに、私どもは問題を持っております。それは、立法に対する必要性の動機がそのまま立法の根拠になっているということが、非常に注目されているわけですが、そのために、従来——これは現在日本では、労働者保護立法として労働基準法でこの職業病を扱っておりますけれども、とにかく職業病の特別保護にいたしましても、社会的な取扱いということが非常に問題になってくるのではないかというふうになりますし、しかも、職業病自体の根本的な性格をゆがめる心配があり、なおかつ、取扱い上の観念にあいまいさを残してきておるというふうに判断いたしております。けい肺はあくまで業務に基因する疾病でありますから、社会的にこの職業病をどのように扱うかということが、今回、従来の労働者保護立法から一歩前進いたしました条件の中において、どのような性格を持ったものに決定づけられるかということが、非常に大きな問題でありますから、たまたま従来の無過失賠償責任で、使用者が一切の損害賠償を行なっているという現実から、さらに飛躍をいたしまして、今度は国庫が二分の一の経費負担において、この保護に対して援助を加えていくという立場になっておると私たちは思うのでありますけれども、そういう国庫負担という問題、あるいはこれが特別保護措置であるからという考え方、こういうものが、たまたまこの職業病の社会的な取扱いに対して、非常に誤まった方向を指向しつつあるのではないかということを心配いたしております。従いまして、この立法に当りましては、国会で社会的な職業病の取扱いがどうあるべきかということについて、いろいろ御議論いただきたいというようにお願いいたします。
なお、この法律の目的は、いわゆるけい肺にかかった労働者の病勢の悪化を防止することが主たる目的になっております。しかし、けい肺は、一たんかかりますと不治であるということ、これはけい肺が第一型のエキス線所見を示したとしても、生涯その労働者には、この器質の障害がつきまとっていくのでありますから、これはそれがたまたま療養を必要とするかしないかということだけの違いでありまして、何としても唯一の方法は、けい肺にかからさないような予防の方法を考えていかなければならないのではないかというふうに考えます。従いまして、この目的の中に、現実に可能な範囲の予防に対する努力の方法を明らかにしていただきたい、こういうふうに考えております。具体的なことにつきましては、後ほど意見として申し述べます。
次に、法律の第二章からの問題ですが、まずけい肺健康診断につきましては、附則の二項で、使用者が行いますところの第三条第二項または第四項についてのこの法律施行後の最初のけい肺健康診断を、都道府県の労働基準局長が行う。すなわち、これは政府が行うということになると思うのですが、この法律におきましては、粉塵作業所の範囲の設定の問題ということについて、少くともけい肺で一番問題になります遊離けい酸の濃度、あるいは粉塵の量の問題、そういう問題が考慮されないままに、すなわち粉塵の危険恕限度というものが基準となって粉塵作業所の範囲というものが設定されていないというような面から考えまして、現在政府が提案されておりますこの粉塵作業所の別表二の範囲でありますけれども、この範囲において、少くとも政府が一つの目的とされております日本の全粉塵作業所の中で、けい肺健康診断を必要とする粉塵作業所の範囲を設定されようという目的でありますから、政府が行われる最初の一回目のけい肺健康診断は、少くとも別表一に基いた範囲で、しかも精密に検診を行なっていただいて、その結果に基き、順次この常時使用者が行うけい肺健康診断の範囲というものを設定していただくべきではないかというように考えております。
次に、使用者が行うけい肺健康診断の方法並びに範囲でありますけれども、けい肺にいまだかかっていない者並びに第一症度の者につきましては、三年に一回のけい肺健康診断というようになっておりますが、先ほど申し上げましたように、粉塵の濃度の問題とか、あるいは粉塵の危険恕限度というような一つの危険に対する基準というものが設定されていない現実の法律の運用におきましては、やはり一年に一回は、症度の有無にかかわらず、また軽度の、粉塵にかかっているいないというようなことにかかわらず、粉塵作業に従事している設定されました範囲内の労働者の健康診断というものは、年に一回実施していただくべきじゃないかというように考えます。この点につきましては、特に——私、医者ではないのですが、けい肺と最も因果関係があります結核につきまして、たまたま三年に一回のけい肺健康診断の間に結核に罹患いたしまして、その結核に罹患したことが、結果的に基準法の第五十二条に基いた健康診断の結果発見されて、しかもそれによって結核ということで処理されていく。ところが、後ほど申し上げたいと思うのですが、諸外国におきましても、粉塵職場における結核というものは、すべて業務上の疾病として取り扱っておるという一つの論拠が、やはり学問的に現在論ぜられてきておるという事実もありますし、そういう結核だということで処理されてしまう危険が非常に多いというように思います。ことに、かつてのあの石炭の企業整備のときにおきまして、結核ということで処理されました労働者の中に、相当数の、しかも相当程度の高いけい肺結核にかかっておる労働者がいたという事実が明らかにされております。このような関係から、原則としては、この粉塵作業に従事する労働者のけい肺診断は、年に一回行うということにしていただきたいというように考えております。
なお、粉塵作業場を離職いたしました労働者の取扱いについてでございますが、これはこの法律の施行によりまして、第三症度、第二症度のけい肺労働者が、作業の転換を相当多く求められておるわけですが、その場合、第三症度の全部という形に一応なっておりますように、第三症度に至りますと、非常に力もあり、しかも健康が外見的に衰えていないというように見られましても、体力的に非常に他のいろいろな疾病の攻撃に対しては抵抗が弱いというような事実も、私たちはいろいろ経験いたしております。ある鉱山の労働者は、坑内から坑外に転換して、日射の激しいところで運搬作業をしていたために、三日でついに労働をすることができないというような状態に立ち至った実例もありますので、結核の罹患の心配、あるいは進行性であるというような点の考慮から、何とかこのけい肺健康診断が、定期的に離職労働者にも実施されるような方法をとっていただきたいというように考えております。便法といたしましては、国立病院ないし労災病院で、これらの患者が年に一回なり二年に一回なり、とにかく健康診断が受けられるのだという便法を講じていただくようにしてはどうかというように考えております。
次は作業の転換であります。この作業の転換は、私が申し上げるまでもなく、この病勢の悪化を防止するための、この法律のきわめて重要な対策措置の問題点だというように考えておりますが、いろいろこの配置転換、作業転換をする労働者に対する条件というものは、私たち労働者の立場からいいますと、あるのでございますけれども、何といいましても、作業を転換することによって、特に金属鉱山等で、坑内外の賃金に一対一・四ないし一・五というような差がある現実においては、転換をすることによって、賃金が非常に安くなってくるということが一番心配の種でもあり、また現実的な問題でもあります。さらに、この賃金が下るということと、それから一つの会社に入って、その会社から再び他の会社に回されていくということが非常に心配で、雇用の問題等が、この作業転換に対する労働者の考え方として、非常に大きな問題になっております。従いまして、私たち労働者の立場では、次のような考え方を持っております。従来の労働基準法ないし労働者災害補償保険法では、具体的にこの作業転換等に対する一つの補償というような考え方が今までありませんでした。従って、この法律では、けい肺患者の作業の転換ということを考えられたことによりまして、一つの新しい、作業転換時の補償ということが考えられるのではないかというように考えております。従いまして、これの条件は、労働者の賃金差の問題、あるいは作業の転換を行いますことによって、進行するものとしないものというような条件があること、それらの問題をあれやこれや総合いたしまして、結局転換時の補償というものを、現在きわめて理論的に体系づけられております労働者災害補償保険法の障害補償に相応した範囲内の考え方に立って、この転換時の補償というものを設定していただきたいというように考えておりますし、政府が出されております三十日分の給付は、私たちの判断では、何としてもこれが理屈に合わない条件でされておる。もちろん、立法の趣旨にも関係した基本的な問題から発した取扱いだというふうに思えますけれども、私たちとしては、何とかしてこれに理論的な、しかも新しい補償の体系を見出していただきたいというように考えております。
次に、この法では、作業転換は、命令ではなくして勧告になっておりますけれども、この法律上の勧告は、既往の労使間におきましては、命令と何ら変らない条件を持っておるということをわれわれは心配いたしております。従いまして、先ほども使用者代表の北里公述人の方からも言われましたように、現在健康であっても労働市場というものがないというような現状、さらに、それが企業内におきまして、きわめて狭い範囲で転換場所が求められていっているという現実、こういうような問題を考えますと、労働者は、このけい肺からからだを守るために、作業の転換をしなければならぬということは、実際わかるわけなんです。わかるけれども、先に立つものが、やはりきょう現在の生活だということになってくるのでありまして、十分に労働者の意思を参酌していただくと同時に、これに対する自後の救済対策といいますか、就労対策というものを、この法律の中に出ておりますように、何とか一つ現実的にその就労施設を与えるというような姿にしていただきたいというように考えております。それで、私たちの考えでは、少くとも政府が作られる就労施設以外には、おそらくけい肺患者には作業場はないというように断定いたしたいと思うのですが、そういう場合に、たまたま国がその作業場を、けい肺労働者を持つ使用者に便宜を供与しているという立場から、国の施設に収容されるけい肺労働者の雇用関係は、そのまま——私は三菱ですが、三菱であれば、三菱に雇用の関係を置いたまま就労施設に収容させるような方法をとっていただきたいと考えております。そこで労働者は、雇用問題並びに賃金差の問題等を、作業転換に対する考え方として、非常に深刻に考えておりますので、十分に御配慮のほどをお願いしたいというように考えます。
次に、療養給付及び休業給付の問題であります。国会でもしばしば問題になっておるというように聞いておりますが、今度新しく療養は補償でなくて給付という形になっております。こういうような問題は、私たちは、やはり立法の趣旨に問題を発したものであるというふうに考えておりますので、立法の趣旨においてそういうものを明らかにしていただいて、少くとも初期要領の社会的取扱いとして、療養の補償の考え方というものを生かしていただきたいというように考えております。そこで、この二年間の延長の問題でありますが、これは竹に木を継いだという言葉も、先ほど出ておりましたけれども、そのような形で私たちの同僚が保護をされていくことになりますが、やはり初期要領の理念というものに立って、何とかこういう考え方は排除していただきたいというように思います。これは初期要領の将来に対する大きな問題を残しておるのではないかというように私は考えますので、これらの根拠を明らかにしていただきたいというように考えます。現在の休業給付は六〇%ということになっておりますが、私たち労働者の立場では、理由を申し上げれば、理由はいろいろあるのですが、それを一応省略いたしまして、とにかく現実的に百分の八十の休業補償費というものを法的に確保していたたきたいということを申し上げます。これは現に金属鉱山等におきましては、百分の八十といわず、百分の百までこれが補償され、しかもこれが——私もいろいろ調査してみたのですが、金属鉱山だけではありません、けい肺を持つ各経営の中におきましては、百分の八十から百分の百という条件が出されておりますし、それのスライドについても認められておるという現状であります。けい肺で床にふしております患者が強く要望をいたしておる点でございますので、十分に一つお聞き取りいただきたいというように考えます。
それから、費用の負担でございますが、このたび国庫より二分の一のこの法律に対する経費が負担されることになりまして、私たちも非常に喜んでおるのでございますけれども、けい肺病の対策処置は、先ほども申し上げましたように、予防から補償に至りますまで、非常に特殊な条件と広い範囲の対策を必要とし、必然的にこの経費の負担というものがかさんで参りますので、国庫の負担についても、大幅に一つ御配慮いただきたいというように考えております。
それから、けい肺審議会及び診査医の問題でありますが、けい肺診査医は、現在非常勤でありますけれども、それを最も近い将来常勤制にしていただきたい、そして必要な関係職員を増員いたしまして、診断機構の確立について十分に配慮をいただきたいというように考えております。
次に、これは附帯する意見でございますが、先ほど目的のところで申し上げましたように、現在予防の措置につきましては、金属鉱山、石炭鉱山におきましては、金属鉱山保安規則並びに石炭鉱山保安規則によって、しかもその他の工場につきましては労働基準法によりまして、この予防の措置が行われておるのでございますが、何といたしましても、けい肺は技術的予防と医学的予防という総合的対策の実施がなければ、けい肺病をなくするための方向というものが出てこないのではないかというように、われわれはしろうとの立場ではありますけれども判断いたしております。私も中央鉱山保安協議会にも出席をさせていただいておりますし、労働省のけい肺対策審議会にも出席させていただいておるのでありますけれども、何としてもその委員会の場の空気というものは、ここで申し上げていいかどうかわかりませんが、私は違った面があるのではないかというように考えます。従って、その中でいろいろ検討をされます同じ一つの粉塵防除の対策にいたしましても、なかなか異なった角度で問題が進められていっておるというようなことが考えられますし、何といたしましても、これは技術面、医学的総合的な予防の措置を講ぜなければならないと思いますので、この法律に現在努力が可能な一つの計画を立てていただきたい。いろいろ現在の行政上、ないことかもしれませんけれども、現在やっております通産省と労働省の一つの連絡機関と、逐年この予防措置がだんだん改善されていくような企画立案をする一つの機関を、何とかこの法律によって作り上げていただきたいというように考えております。
次に、平均賃金のスライド制の問題でありますが、十六国会におきましては、休業補償のみがスライド制を認められ、他の遺族補償、打ち切り補償等については、これらが認められておりません。この平均賃金のスライドについては、現在のような情勢でありますと、さして問題にならないように考えられますけれども、けい肺はきわめて慢性的な経過をたどる疾病といたしまして、いつの時期にこれが第四症度、いわゆる法律の保護を受ける段階に至をかもわからないというような条件から、現在この平均賃金のスライドについて、けい肺患者からも、いろいろ強く要望されておるのでありますけれども、理論的にも、休業補償のみをスライドすることは、ちょっと合わないのではないかとわれわれも考えておりますし、何とかこの際、平均賃金のスライド制を労働基準法の改正によって達成していただきたいということをお願いいたします。
次に、この法律にはないのでありますけれども、今日のこの大きな一つの転機に対して、すでに打ち切り補償を受けて終っているという患者も相当あるように思いますので、このけい肺法を作ってほしいという長い間の私たちの希望、また期待いたしておりましたことをいろいろ御了察いただきまして、従前の患者の取扱いについても、何とか御配慮をいただきたいというように考えております。
さらに、この法律は、おそらく特別保護措置として、基準法を上回る条件でございますけれども、各企業の労使間におきましては、団体協約におきまして、それぞれけい肺に対する特別の取扱い措置を講じておりますので、この法律がそれらの団体協約に影響しないという条件を、この法律に明らかにしていただきたいというように考えております。
以上、私の意見を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/114
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115・中村三之丞
○中村委員長 これで公述人の公述は終ったのでございますが、次に委員諸君より質疑の通告がありますので、順次これを許します。森山欽司君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/115
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116・森山欽司
○森山委員 きょうは北里公述人から、経営者側の本法に対する詳細なる御意見をお伺いすることができまして、審議の過程におきまして非常に参考となりましたことを、厚く感謝をいたします。そこで、北里公述人からお話がありました事項のうち、まだ私として理解できない面について、御説明を願いたいと思うわけでございます。
この法案の第三条の五項に、経営者の指定した医師のけい肺健康診断等を労働者が希望しない場合、正当な理由があればそれは認められる、これはトラブルを起すというお話がございました。しかしその前に、健康診断を広く行う場合、遠隔地の特に中小企業のような場合には、医者がないというようなお話があったわけでございます。そのトラブルを起すということと、なかなか適当な医者がないということから、そういうところでは、けい肺でもけい肺じゃないといって判断してしまう方の機会が多いのであって、トラブルを起す側は、むしろ経営者の方にあるのではないかと私は考えるのでありますが、北里公述人の御意見を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/116
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117・北里忠雄
○北里公述人 ただいまの御質問に対して、お答えを申し上げたいと思いますが、ただいまのお話のように、鉱山等僻陬の地にありますところでは、近在に適当な医者がない、それで遠隔の地まで出かけて労働者が健康診断を受けなければならぬ、そういう場合が確かにあり得ると思います。そこで、そういうときに、もしかりに労働者の方で、適当な医者が近在にないのだから受けぬというときには、私は正当な理由があるのだと思います。ところが、会社側で適当な医者を指定し、あるいは事業場に招致して、その場所で健康診断を行うというときに、自分はその医者はいやだ、ほかの医者に行くんだというような、自由勝手な気持で希望して、そのところに行かれるということでは、非常に困る事態が起るのではないか、そういうことを申し上げたのでございます。経営者側の方で、そういう悪意でわざわざけい肺の診断ができないような医者を連れてきて、そのために経営者側のやり方がまずいからトラブルが起るのではないかというような危惧を、今先生は持たれておるようでございますが、私どもは、そういうふうなことはないということを確信をいたしておりますので、一応客観的に見て、そういったような事情が起り得るということを、先ほど来申し上げて御判断をいただいたわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/117
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118・森山欽司
○森山委員 従来のけい肺の取扱いについて見ますと、各工場、事業場、鉱山等におきまして、先ほどお話がありましたように、けい肺であると非常に金がかかる、だから、けい肺であっても、そうじゃないんだ、いや、けい肺だというようなことで、ごてた例が多多あるわけであります。そういう従来の経過から見て、むしろあなたのおっしゃる労働者が乱用するということよりも、経営者がけい肺じゃないと言う場合の方が、今までは事例が多かったのではないかと思って申し上げたわけです。そこで、この問題については、ちょうど基準局長も傍聴しておいでのようですが、そういうことがないような御措置について、次回の委員会で承わりたいと思います。
それから、先ほどけい肺患者一人当りに要する所要計費は非常に大きい、労災関係百七十一万、この特別保護法で四十三万、法定外の給付が九万もあるということですが、これは患者一人当りでございますね。従って、このけい肺診断を受けなければならない二十七万人の人一人当りということになると、大体幾らぐらいになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/118
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119・北里忠雄
○北里公述人 ただいま先生のおっしゃいましたのは、健康診断の費用でございますね。先ほど私が申し上げましたのは、けい肺にかかって療養し、それから休業して、そうして労災保険の関係では打ち切り補償を受けたものを大体推算いたしたのでございます。それをこまかく症度別に分けて計算ができないことはないのでございますけれども、非常にめんどうな計算になりますので、一応最高どれくらいかかるかということを見た数字でございます。それから、先ほど申し上げましたように……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/119
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120・森山欽司
○森山委員 けい肺にかからない者一人当りは……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/120
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121・北里忠雄
○北里公述人 これは休業しなければ、労災補償の対象になりませんから、たとえば第一症度、今までの第一度といった軽度のものは、場合によっては配置転換をするというようなことも起りましょうが、しかし、この法の対象にはなりませんので、健康診断を受けるような場合に、この法律によると、三分の二だけの費用がかかるのです。だからその点は、ただいま申し上げた数字とは全然別の面だと思いますが、それでおわかりでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/121
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122・森山欽司
○森山委員 私がお聞きしようとしましたのは、けい肺患者一人当りの所要経費であったが、しかし、その所要経費を負担するのは、たとえば労災保険の場合、労災保険全体でございます。従って、このけい肺に関係する労働者全体が分担する、金を分担して払う。ただし、それは会社が全部負担しておるわけです。そういう意味の所要経費を知りたかったのです。ただ、先般労働省のお答えによりますと、労災保険が、たとえば金属鉱山の場合は一円について三銭二厘ですね。それが本法の施行によって三銭五厘ぐらいになる、こういうお話があったので、労災上のわく内に入るとしても、大した負担の額にならないのじゃないか、こういう印象を私ども受けたのです。それをあなた方の方は、患者一人当り百七十一万と四十三万、九万と言われますが、これはいかにも金がかかるような印象を受ける。何事でも、言い方でだいぶ違うのじゃないかという感じを受けたから、お聞きしたわけです。
もう一つお尋ねしたいのですが、けい肺合併症と単純結核の間に、はなはだしい不均衡がある。特に最近は、軽い結核にかかっている者が防塵を怠って合併症とする傾向がある、この法律は逆にけい肺結核を増加する結果にもなりかねない、こういうふうにおっしゃっておるわけであります。そういうことがあると、私どもは非常に大へんだと考えておるのでございます。またこのけい肺に関係あるけい肺対策委員会という労働組合の方々の意見の中に、第四症度に粉塵作業者の肺結核の取扱いを追加する、けい肺結核ではなくても、全部これと同じように取り扱ってもらいたいというような意見も出ておる。どうもそういうような点を、悪い場合には裏書きするようなことにもなりかねないような要望も出ておるのでございます。一体、そんなことがあるのかと考える。そこで、そういう傾向があるかどうか、能見公述人から、この点について意見を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/122
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123・能見修
○能見公述人 これは私たちが現在医学的に聞いておりますところでは、二つの意見が出ておるというふうに聞いております。一つは、最も軽いけい肺にかかって結核が合併したものについては、これを業務上の範疇に入れていいかどうかというような問題も、意見として出されておりますし、一つの方向といたしましては、第四症度の中に肺結核の取扱いを規定すべきだという意見も出ておったように聞いております。二十九年の十月二十六日にけい肺対策審議会が、小坂労働大臣に対して、対策上の問題点についていろいろ検討した中間報告をいたしておりますけれども、その際診断専門部会におきまして、粉塵作業者の肺結核についての条件を、けい肺に合併した肺結核として取り扱うような方向が出されております。これはまあ技術的にはいろいろな表現が出ておりますが、そのような結論が出ておりまして、私も審議会におきまして、診断部会等にいろいろそれらの質問をいたしましたけれども、結局この問題は、当然学問的にも考えていかなければならない問題であるということを申されておりました。そういう関係で、非常に軽いけい肺に結核がかかったものを、業務上として取り扱うべきでないというような意見の方向とは全く逆に、そういう意見も出ておりまして、私どもが事実職場におきまして、いろいろな問題を取り扱っておりますけれども、その中には非常に多くの、結核と断定されて、しかも健康保険法の一年六カ月の給付を傷病手当金を受けまして、ついには行くところがないという労働者の、粉塵の経験等の動機から、いろいろ専門的にけい肺病の精密検査をしていただきますと、その中には多くのけい肺結核の患者が出てきておるというようなこともございまして、現実的に非常に手のかかる問題として扱われておりますけれども、これはひとえにこの粉塵作業所の肺結核が、そういう法律上の取扱いを受けない、業務上の疾病としてみなされないというところに問題があると思います。諸外国の例をスイスその他にいろいろとってみますと、オーストリアもそうでございますが、私たちがそれらの文献を見せていただいております範囲でも、この粉塵作業に従事する労働者の肺結核は、業務上の疾病として取り扱われておるというのが大方のようでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/123
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124・森山欽司
○森山委員 それから、最近軽い結核患者が防塵を怠って合併症とする傾向もあるという北里公述人の話について……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/124
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125・能見修
○能見公述人 私は、今ここで公述人として参りましたので、実はその質問を差し控えておったのですか、そういうことは、聞くところによるとということでありますけれども、聞かれておられる範囲で、一つそういうことを実はお聞かせ願わないと、これは労働者の立場では、非常に重大な発言だというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/125
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126・森山欽司
○森山委員 そういうことはないと言うのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/126
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127・能見修
○能見公述人 われわれは、ないということに自信を持っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/127
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128・森山欽司
○森山委員 それでは、最後に北里公述人にお伺いしたいと思います。本日の公述は、非常に参考となる点が多々ございました。法案審議の過程において、必要ある事項について、現在の法案の範囲内において労働省より納得のいく御説明がない限りは、それに適当な修正その他の措置を、本委員会としてもとるにやぶさかでないものであるのであります。ところで、このけい肺及び外傷性脊髄障害に関する特別法案がついに国会に提出されました。顧みますと昭和二十七年二月、この労働委員会におきまして、けい肺対策小委員会が設けられまして、あなたもその小委員会の参考人として御出席されました。その当時あなたは、そういう必要がないという御意見であったわけでございます。その後昭和二十八年におきましても、けい肺に関係ある各業界において二十八年の八月に、そういう法案は時期尚早であるということを言われておった。さらに金属鉱山、特にそれはあなたの御関係のある鉱業協会の御意見は、時期尚早というよりも、金属鉱業の特殊事情から、その必要が認められないとはっきり言い切っておられ、昭和三十年の六月に至りまして、ついにこの法案が成立せんとしておるわけでございます。この法案の成立を迎えるに当って、終始反対してこられましたあなたとしては、どういう御関心をお持ちになっておるか、この際その御心境を御披瀝願いたい。もとより、あなたは鉱業協会という経営者の団体の取りまとめの要職におありになる方である。各経営者のお立場にはないわけであります。いずれにしても、そういう経営者の方々の御意見を代弁されるあなたとして、お考えをこの際申し述べていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/128
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129・北里忠雄
○北里公述人 一言でお答え申し上げます。非常に感慨無量でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/129
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130・中村三之丞
○中村委員長 受田新吉君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/130
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131・受田新吉
○受田委員 北里さんの御説と能見さんの御説を聞かせいただいたのでございますが、私たちも審査の上に非常に有力な参考意見をお与えいただいて感謝にたえません。そこで、御両者にごくかいつまんだお尋ねをいたしたいと思います。
それは、私たちが今審査の途中で、いろいろ問題点にぶつかっておるわけでありますが、特に北里さんにお尋ねいたしたいのは、先ほどの御意見の中に、経営者側から考えて、この法律案の中身について、あまり賛意を表する点がなかったように思うのであります。それで、今森山さんからお尋ねされた部分以外の点でお尋ね申し上げたいのは、経営者側が労務者に対して、けい肺にかかった患者に対する財政負担が多過ぎる、できればこういうものは国庫の全額負担にしてもらった方がいいんだという御意見があったと思います。この点は、一応筋としては通りますが、会社も、けい肺患者が発生するような条件の中で会社経営をやっておられる。すなわち、そうした人道的立場から、犠牲者が出ることを覚悟した企業形態を持っておられる会社だと私は思うのです。しかるがゆえに、いかに予防法を講じても犠牲者が出るような企業を営んでおられる経営者側といたしましては、その会社の経営方針といたしましても、全額国庫負担にしてもらって、会社はこうした犠牲者である患者の負担の部分は一切まっぴらだという考え方は、私は考え方としては、少し人道にはずれていないかと思うのであります。できれば、そうしたいかなる方途を講じても犠牲者の出る、しかも人命を損傷するという重大なる作業をやる労務者を持っておる会社といたしましては、基本的には、そうした人々に対する深い尊敬と、その人々に対する豊かなあたたかい愛情を持った気持で抱いてやるという考え方を持っていかなければならないのじゃないかというように感ずるのであります。従って、会社の生産費というものの中には、けい肺にかかられる人々に対する特殊の保護対策の費用が、当然計上されていなければならないと思うし、またそれを前提として考えた経営をされなければならないのじゃないかと思います。現に、おもなる粉塵作業を含む企業をやっておられる経営者側にいたしましても、相当の収益を上げておられ、利潤の獲得においても、他の類似の企業体やその他の企業と比較しても、遜色のない収益を上げておられる企業体が多いのであります。従って、一人当りの負担額が百数十万円、二百万円を越え、さらに法定外の負担も九万円ある。こういうような数字で非常に印象を大きくさせるというよりは、そうしたこまかいことについて心を配るというお気持をもって経営される余裕はないのであろうか。わけても、第八条の作業転換のごときにおきましても、今の北里さんのお言葉をお借りしますと、けい肺にかかり、この法律に定めてある作業転換の勧告を受ける対象になった患者に対しては、これをできるだけ会社内でそのかわりの仕事を見つけてやらなければならないということになるのでありますが、今お話の中には、同じ事業場内における作業転換ということは非常に困難である、従って、努力はするが、第九条に基く国家としての職業紹介や職業補導に御依頼しなければならないようになると思うというようなお言葉があったと思うのでありますが、私はこの法案の精神は、同じ事業場における仕事の範囲内でできる作業転換ということが第一義であって、やむを得ない場合に第九条の適用がされるというふうに解釈しておるわけです。ところが、その第一義的なものが非常に困難であるという前提のもとに立つと、もう第九条の適用が大多数になって、国家はそれらの人々を大幅に引き受けてやらなければならないという結果が起ると思うのです。これについては、第八条の適用が事実上はなはだしく困難であって、第九条に回さなければならぬという事態であるならば、われわれとしましても、また立法者の立場から、さらに大きな検討を加えなければならぬと思いますが、同じ事業場内における作業転換が、何らかの名目をもってしても可能性が薄いということは、北里さんの関係していらっしゃる以外の方面にも、同様な事情があるのでございましょうか、お伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/131
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132・北里忠雄
○北里公述人 ただいまお話しの、前のことでございますけれども、私が申し上げました数字が、非常に印象を大きくするために申し上げたようなお話でございましたけれども、私ども、実は全体の数字も持っておりますけれども、先ほどもちょっと申しましたように、この算定方法は、仮定がいろいろございますので、非常にめんどうなのであります。それで、率直簡明におわかりいただくには、一人当りの経費が一番端的ではないかということで申し上げたのでございまして、これを症度別その他打ち切り補償を除いたあとの給付ではどうなるかということで細分いたしますと、際限なくいろいろな計算が出ると思います。そういう意味で申し上げたことを御承知おきいただきたいと思います。
それから、けい肺に対する費用は、当然生産費の中に織り込んでいなければならぬじゃないかということでございますが、金属鉱山は、御承知の通り二十二年以来、けい肺協定を実は労使の間に結んでおります。それによって、できる限りの救済措置を講じているわけでございます。予防の面におきましても同様でございますけれども、そういうことをいたしておりますことは、結局病気した気の毒な人を放置できないという経営者側のヒューマニズムから現れたものでありまして、他産業の方でもそういう事例はあるかと思いますけれども、特に金属鉱山では、手前みそになりますが、終戦後そういうことをやってきておることを御承知おきをいただきたいと思うのでございます。
それから、第二の問題の作業転換で、会社側が第一義的にやらなければならぬじゃないかということは、ごもっともでございます。従来も金属鉱山では、早期発見をいたしまして、できる限り職場内で転換をやっております。ここで一々具体的な例を申し上げるいとまもございませんけれども、統計的にもそれが現われております。おそらく今後本法が施行されましても、他産業におかれてもやはり同様、できるだけ企業内で吸収していくというふうなことは努力せられると、私は確信をいたしております。しかし、どうしても職場転換ができない場合には、先ほど申し上げたように、やはり強力な受け入れ態勢が政府の方にないと、非常に不安でございまして、これは経営者のみならず、労働者の方においても同様であろうと思います。そういう点は、ただ条文だけで、これが空文化することのないように、一つ実効を上げていただきたいということをお願い申し上げたのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/132
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133・受田新吉
○受田委員 今、能見さんから、現在企業体ごとに行われておる団体協約を、この法律制度後も一応これを確認してもらいたい、できればそれを法文にうたってもらいたいという御意見があったわけでございますが、この点は、北里さんの方としても、御了承に相なる点でございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/133
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134・北里忠雄
○北里公述人 ただいまの問題は、金属鉱山では、今約二十ばかりのけい肺協定を持っておる企業がございますが、それはその企業の労使でもって締結いたしておりますので、ここでその企業を代表してどうするということを申し上げかねるのでございます。おそらく私は、そういうふうなことはないだろうと思っておりますけれども、それは各企業の経営者の考えることでございますから……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/134
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135・受田新吉
○受田委員 このけい肺は、予防措置が、基本的には解決の頂点になると思いますが、予防のための全努力が、会社側といたしましても十分に考えられておると思います。しかし、この法律案にも、その問題についてもっと積極的にこれを規定すべきではないかという声が、委員間にもしばしば発せられておるのでありますが、この予防の徹底、患者を発生せしめないというためには、いかに費用が多くかかってもやぶさかでないという基本的な考え方に、経営者はお立ちになっておられると思います。この点について、たとえば、岩石をこわすのにさく岩機を使う場合に、十分粉塵の発散を防ぐような水をどんどん使うとか、あるいはマスクも非常に精密なものを用いさせて、また作業能率が低下してでも、やはり生命を守るという方面へ重点を置くように徹底せる予防措置を、企業体といたしましてお考えになっておられるか。作業能率を増すために、そういうところが多少でもゆるんでいたとしたならば、これは非常に重大な人道上の問題になってくるのでありますから、この点、予防に対する努力の度合いというものが、患者の発生を防ぐことになると思うのであります。この点について、経営者側として、予防に対する基本的な考え方において、この法律などにも、もう少し何か、今能見参考人から申されたような、両者間の、たとえば通産省と労働者との共管的な機関などを設けて当るというようなことはどうであろうかというふうに思っておるのでありますが、そういうところへの熱情もお持ちでありましょうか、お伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/135
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136・北里忠雄
○北里公述人 私どもも、けい肺の根本対策は、発生の原因を根絶するということであろうと思います。もっと突き詰めて申しますれば、粉塵そのものについて、もっとわれわれが研究して、それを排除するということに尽きると思うのでありますが、金属鉱山では、坑内坑外両方とも、粉塵作業場については特に予防の強化をはかって参っております。その一つの具体的な現われといたしましては、二十四年に鉱山保安法が施行されてから、一そうこの乾式さく岩機を湿式化いたしまして、さく岩機の中心に給水をするような装置になっております中心給水さく岩機でもって岩を掘る。そうすると粉塵が立たないというふうなことで、ほとんど全鉱山が今そのさく岩機を使っております。これは鉱山保安局の非常に熱心な行政指導に待つところが大きいと思うのでありますが、業者も、そのためには非常な費用を投じて、ただいまそれが完成されておる時期でございます。なお、マスクにつきましても、各個所にマスクを備え付けて、それを励行させております。それで、先ほど御懸念のような、予防することによって作業能率が低下するというふうなことは、私は逆であろうと思うのであります。予防することによって、作業能率はますます増進し、それからけい肺患者がそれによって発生しないということが、やはり経営者の負担を将来軽くすることにもなりますので、予防というものは、そういう意味からいいましても、たとい法律の強制を待たなくても、経営者の一つの本能的なものとして、私は力を入れるものと考えております。また今日までも、ただいま申し上げましたような非常な熱意を持ってやっております。今業界の中でも、粉塵防止対策委員会というものを数年前から持っておりまして、各業界の技術者を動員して、そこでいろいろ技術的な検討を続けておるような状況でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/136
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137・受田新吉
○受田委員 能見さんにお尋ねしたいのですが、実際に従事しておる方々の場合、仕事に精を出そうとする熱情の余り、たとえば、マスクを用いることがめんどうになって、それをはずして仕事をするとかいうような、そうした作業能率増進のために予防に事を欠くような事態が、現実に起るようなことはないでしょうか。あるいは企業体、経営者の側が能率増進のために、ある程度の仕事の進捗をはかるために、一つの目標を置いて、その目標のために、そうした予防措置に十全を期することができないような実際の結果的な問題が起りはしないか、この点をちょっとお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/137
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138・能見修
○能見公述人 この場合、二つあると思うのです。一つは、ああいう強度の高い労働に、現在の防具が適切であるかどうかという問題があると思います。もう一つには、やはり現在の作業の体系が、能率賃金というものを前提にしております。ですから、どうしても一つの工程を自分が一日の労働時間のうちに消化してしまわないと賃金になりませんから、そういうことが、結局第一番に申し上げました防具の適切であるかどうかという問題に関係してきまして、苦しいから、一日の労働量を仕立てるために、マスクをはずして、そうして一日の生産量を確保しなければならぬというようなことが、往々にしてあるようにわれわれ考えております。そういう面で、結局これはうらはらの問題というよりも、基本的にやはり能率賃金というか、請負制というものが問題になってくるのではないかというように考えます。
それからもう一つ、現在さく岩機の湿式化、散水の問題等につきましても、機械は湿式化されておるということが、通産省からも自信ある御答弁になっておりますけれども、それを行う給水の問題について、現在やはりいろいろ経営者の経費の捻出問題もあって、私はまだそれがすべて十分に解決されておるというようには思っていないのです。たとえば水槽、タンク、これは何キロというタンクがあるのですが、タンクに坑内の自然水を入れながら、そうしてさく岩機を湿式化していく作業を行なっておるというようなことがあります。これは労働者自体には、やはり一日の過程の中で、相当大きなファクターになっておることは事実です。それが結果的には、やはり一日の労働としては、賃金に見合う仕事をしておるという労働者自体の問題が私はあると思います。基本的な問題として、労働者が無理をしておる条件があるのじゃないかというふうに、われわれは判断しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/138
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139・受田新吉
○受田委員 これで質問を終らしていただきますが、不治の病にかかることがわかっておる作業に従事する人々というものは、これはほんとうにわれわれは悲壮なものだと思うのです。いかに予防を講じても、何人かはその病気になる、一ぺんかかったらなおらない病気だ、廃人になるのだ、こうした運命がわかった仕事に従事する、これは人生の悲劇だと思うのです。この悲劇の中に飛び込む従業員というものは、もちろん生命の尊重を守るためには、最善を尽すでありましょうが、やはり能率を増進するためには、ちょっと目の前にすぐその影響があるわけではないので、マスクをはずしてやるとかいうようなことも、自然に起ってくると思います。そういう場合に、作業の労務管理をされる方々は、君はマスクをはずしているけれども大いに注意せよ、そうして非常に重いさく岩機をかかえてやる人、あるいはからだにそうした粉塵を防ぐ防具をつけているために作業能率が多少低下する、これは海水にもぐる潜水夫だって陸上の勤務よりは非常に能率がおそいようになっているのですが、そういうのは当然能率が低下されるような形で計算に入れた作業進捗度というものを考えていくように労務管理がされる必要はないか。これは今能見さんのお説によりますと、ときには能率増進のためにはマスクをはずすことがあるんだということ、そのことが非常に重大な事態だと思うのです。私は幾つか法案の審査をいたしましたが、けい肺に関するこの法律案ほど悲壮な法律案には、初めて触れておるのです。それは、いかに予防を講じても、なお罹病者があり、しかも、それは一つの特殊な職業病として運命づけられているのだという、そういう運命の前に立っても、なおその作業に志願をして労務に従事しようという人々に対しては、これは高い見地から、人間としての最高の礼を尽した尊敬と信頼をささげる立場から、この労務者に向っていかなければならぬと思うのです。この点につきまして、北里さんのような今の鉱業界を代表しておられる立場の、経営の衝に当っておる方々を通じて、経営者側のこのけい肺に対する敬虔な気持と、そうして今お言葉の中にあって非常に喜んでおるのですけれども、予防によってこのけい肺の患者が一人も発生しないことが、また会社の利益にもなり、またそれに対する治療費その他の節約にもなるんだという、その意味からの御熱意を伺って喜んでおるのであります。でき得べくんば、この日本の国からは、けい肺に対する非常な熱情が、経営者側からも労務者側からも双方から寄せられて、世界に類を見ないところの、けい肺患者を持たない国になったという、この法律が制定されようとする段階において、そういう一大前進の基地としてこれを考えていきたいと思うのですが、この点、せっかく政府もこうした一つの前進基地としてこれを出しておるのでありますから、不備な点はわれわれとして党派をこえてこれを修正し、また経営者側も労務者側の方々も、このけい肺を防ぐためには最善を尽すという立場に持っていかなければいかぬと思うのです。こういう点につきまして、願わくは十全の御協力を願いたいと思います。これをもって終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/139
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140・中村三之丞
○中村委員長 長谷川保君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/140
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141・長谷川保
○長谷川(保)委員 能見さんに一点伺いたいのでありますが、先ほどのお話の中に、休業給付を百分の八十にしてほしい、また金属鉱山の例は百分の八十から百というところが現にあるんだというように伺ったのであります。あなたの属する全金属鉱山の労働組合で、多分こういうことは労働協約としてかちとっておられると思いますが、全体から見まして、百分の六十をこえた給付をかちとっておられるところが、どれくらいございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/141
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142・能見修
○能見公述人 お答え申し上げます。具体的な調査の数字を、実は現在のところ持っておりませんが、私たち労働者の自主的な一つの意思に基きまして、労働組合けい肺対策委員会というのを組織いたしております。それは約十単産入っておりますが、それらの単産の内容をいろいろ聞いてみますと、非常に取扱いというものが厚く行われております。この百分の八十から百というのは、これは大きなところが主体となると思いますけれども、実際にはそれが支給されているのです。ただ問題は、石膏とかそれから鋳物等の中小企業の労働者の取扱いについては、それがよく掌握できておりませんが、少くても大きな企業体では、百分の百という条件が大方であろうというふうに考えております。なお、これはひとりけい肺だけではないというようにわれわれは判断いたしておりますが、そういうような方向でやっておりますので、この際立法に当って、何とかそのような条件まで認めていっていただきたい。特に、今具体的な例をお話し申し上げますと、鬼怒川の病院に入院いたしております患者は、それぞれ異なった産業からけい肺を持って入っておりますが、これらの患者の取扱いが、片方では、経営者がそういうことで百分の八十から百まで取り扱い、その間スライド制を認めておる、それから片方では百分の六十だ。そしてその百分の六十になる人の方が、往々にして平均賃金も低い。そのけい肺の発見といいますか、診断確定の条件というものが、それぞれ確立された診断の機関を通じてやれないものですから、非常に安い平均賃金に、現在の平均賃金の算定の仕方ではなってしまう。こういうようなところへ加えてそういうことがあるものですから、病院内では、とかくそのような問題がトラブルの材料になり得るような情勢があるということを申し上げておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/142
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143・長谷川保
○長谷川(保)委員 北里さんに一点伺いたいのであります。先ほどの同僚委員の質問でありますが、予防設備であります。湿式のさく岩機を使うという場合に、タンクやパイピングやいろいろ設備が要ると思うのでありますが、それらについて現在——私、この点、今までこの関係でないので、知りませんので教えていただきたいのでありますが、国の方からの補助金はありましょうか、あるいは補助金はないのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/143
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144・北里忠雄
○北里公述人 私が今承知しております範囲では、補助金はないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/144
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145・中村三之丞
○中村委員長 多賀谷真稔君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/145
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146・多賀谷真稔
○多賀谷委員 公述人に一、二点お伺いいたします。先ほど能見公述人から申されました、ことに委員会に要望がありました点について、この法律によって従来の労働条件が低下してはならないというような条項を入れてもらいたいということの要望があったわけですが、それに対して、受田委員から北里さんに対して質問がありました。その際に北里さんは、これは各企業の労使双方の問題であるから、その協定に待つべきものであろう、おそらくそういうことはないと考える、こういうお話でありました。基準法では、御存じのように、この法律によって労働条件を低下してはならぬという規定があるわけですが、私たちは、議員立法としてはこの前そういう条項を入れておきました。しかし、もう現在のような状態になって、政府が作る労働保護法は、最低の基準であるということは十分わかっておるのだから、そういうことを入れる必要もないのではないかという気持を持っておったわけですが、しかし、今のお話のように、労使双方の問題であるからそれに待つのだ、おそらくそういうことはないであろう、こういうようなお話でありますと、これはまた入れておかなければならないかと考えるわけでありますが、鉱業協会としては、そういうことば絶対にない、かように考えられておるかどうか、お尋ねいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/146
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147・北里忠雄
○北里公述人 ただいまの質問でございますが、私どもの立場といたしましては、各経営者に対して、まだ法律ができない前に、そういう事態が起ったならばという仮定の上に立って、どうするかといったようなことを確かめたこともございませんので、私は常識的に考えて、基準法のああいう規定もあることでございますから、そういうことはおそらくないであろうというふうにお答えを申し上げたのでございます。いずれ法律ができましたならば、そのときは、また経営者としてもいろいろ考えることだろうと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/147
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148・多賀谷真稔
○多賀谷委員 この点につきましては、労働条件が、同一の労働条件とは何かといいますと、これまたなかなかむずかしい問題でありまして、ここで想定して考えるだけでも、かなり問題の困難さがあると思うのですが、どうも最も関係の深い鉱業協会でもそういうお考えであると、われわれも、これは入れておかなければならぬかという感じを強うするわけであります。ことに協会では、けい肺協定によって百分の百——三年間でありますが、あるいは百分の八十という協定を結ばれたところが多いのでありますので、その感を深うするわけであります。
続いてお尋ねいたしますが、これは能見公述人と北里公述人からお伺いいたしたいと思います。作業転換をやりまして、ことに坑内から坑外に上る場合に、坑外では大体どのような職種に配置転換をされておるか、従来の例でどういう職種が多いのか、お聞かせ願いたいと思います。またその場合の賃金の差はどの程度であるのか、これをお伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/148
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149・能見修
○能見公述人 私が知る範囲でお答え申し上げます。坑内から坑外へ出る人は、選鉱のチプラーがありますが、そのチプラーに関連する鉱車の運搬夫があります。それから坑外の材料運搬というようなのをやる人が、これは非常に少いと思いますが、あります。その他、ふろたきをやったり、番人をやったり、それから労務のいわゆる外勤、社宅管理とかなんとかいうようなことで使われて転換した者もあります。それから坑内から坑外に転換いたしますのは、やはり坑内の事務所の雑務をやったり何かしているという範囲で、私の判断では、その範囲が非常に狭いのじゃないかというように考えております。
次に、賃金につきましては、やはり内外賃金という最初からの基準賃金自体が一対一・五ないし一対一・四というような差を持っておりますから、それ自体においても、坑内と坑外とでは基本的に違うわけです。それに加えて、現在転換した患者が、重労働に向けられておるというととは少いように私は考えておりますので、そういうところから、賃金としては非常に差が出ておるように考えます。
それから、ここでもう一つ、余分になるかもわかりませんが、申し上げておきたいのは、この鉱山労働者の配置転換の、いわゆる就職といいますか、転職といいますか、転職の条件を見てみますと、いろいろ事業所で不都合解雇等をやられた労働者が、けい肺を持っておりながら、そういう人が、行くところがないものですから、隧道掘さくの掘進夫になって働いておるとか、それから定年になった人々でも、やはりそういう方向が、就職の場としてはどうしても指向されているというような事実がかなりあります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/149
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150・多賀谷真稔
○多賀谷委員 そういたしますと、今の点はわかりましたが、先ほど、けい肺に要する費用をお話し下さいました。これは、メタル・マイニングは、いろいろ企業によって違うでしょうし、またその出てくる鉱石によって違うと思うのですが、労務費はコストの中で大体どのくらいを占めておるのか、一般的でよろしゅうございますから……。それからけい肺患者に要する費用は、その労務費の中でどのくらいを占めておるのか。これは福利厚生を含めて、けい肺に対してどういうようになっておるか、これをお聞かせ願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/150
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151・北里忠雄
○北里公述人 ただいまの労務費としましては、一般的に申しますと、大体コスト中の三八%ないし四〇%を占めております。それから福利厚生費は、一カ月一人当り約六千円かかっております。これは法定福利費あるいは法定外福利費を合せまして約六千円とお考えいただいていいと思います。その中で、けい肺に関する費用がどのくらいかということになりますと、ちょっと計算が出ておりませんけれども、かなりの数字だろうと思いますが、ただいま持ち合せておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/151
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152・多賀谷真稔
○多賀谷委員 では、けい肺協定がありましたら、労使の方で、すみやかな機会にこの委員会に提出していただきたい、かように考えるわけです。審議に非常に参考になりますので、ぜひお願いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/152
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153・中村三之丞
○中村委員長 次会は明日午前十時半より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後四時十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102204423X00119550609/153
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