1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十年六月十日(金曜日)
午前十時五十分開議
出席委員
委員長 世耕 弘一君
理事 山本 粂吉君 理事 三田村武夫君
理事 福井 盛太君 理事 田中幾三郎君
椎名 隆君 高橋 禎一君
長井 源君 林 博君
生田 宏一君 船田 中君
猪俣 浩三君 佐竹 晴記君
細田 綱吉君 吉田 賢一君
出席政府委員
法務政務次官 小泉 純也君
検 事
(民事局長) 村上 朝一君
委員外の出席者
専 門 員 村 教三君
専 門 員 小木 貞一君
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本日の会議に付した案件
商法の一部を改正する法律案(内閣提出第二七
号)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/0
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001・世耕弘一
○世耕委員長 これより法務委員会を開会いたします。
この際政府に要求いたします。本日から特に商法その他の政府提出の法案を逐次審議することになっておりますから、何とぞ定刻までに御出席をお願いいたします。なお委員諸君にも相当質問がおありになるように承わっておりますから、当日御担当の委員諸君にも定刻御出席、質疑を進められんことをお願い申し上げます。
これより商法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。質疑は通告順によって許可いたします。山本粂吉君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/1
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002・山本粂吉
○山本(粂)委員 私は本委員会に政府から提案になっておる商法の一部を改正する法律案に関して、まず現行商法全般についての政府の所信を伺い、最後に改正案の内容について二、三質疑をいたしたいと存じます。
まず第一に、最近会社の数が激増しておりますが、その会社の資本金、それから従業員の数、こういう点から実態を調査してみると、何十億という資本を擁しており、何千人という従業員を持っておる会社あり、そうかと思うと、わずかに一万円以下の資本の会社もあり、実に雑多であるが、現在日本にある会社で資本金の最高はどれくらいか、資本金の最低はどれくらいであるか、どういう形態になっているか、もしおわかりであれば大体の御説明を承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/2
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003・村上朝一
○村上(朝)政府委員 ただいまあります株式会社の中で資本金額の最も多いのは、三百十八億の電源開発株式会社であります。最小のものは資本金五千円の株式会社もあるのであります。なおこの機会に御参考までに株式会社の資本別の大体の数を申し上げますと、これは二十九年三月現在でありますが、百万円以下のものが、会社の数にいたしまして約十三万四千、全体の七三・七%を占めております。五百万円までが約三万五千、一千万円までが八千五百、五千万円までが約三百、一億までが五百四十二社、十億までが六百四十八社、十億をこえるものが百四社、こういう数字になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/3
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004・山本粂吉
○山本(粂)委員 実に会社の実態が、今承わるように、最高は三百十八億、最低は五千円程度の会社も存在する、こういう実態から考えたときに、資本金数百億というような会社も、資本金一万に満たないというような会社も、現行商法そのままを同一律に適用するということはどうかと思う。商法を適用する場合において、なるほど法の保護を受ける法人に、資本金の多少によって区別をつけるということは、一応どうかと思われることもあるけれども、会社経営の実態の面から考えて、また経済活動の実態から考えてみたときに、どうも三百数十億の資本を持っておる会社も、今どきの金で一万円未満の会社も、同じ法律の適用をしなければならぬということに何か割り切れないものが、われわれ実務家として考えられるのだが、これは非常に大きな問題だと思うが、政府当局においてこれに対する何らかの考えを持っておるかどうか、それを承わっておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/4
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005・村上朝一
○村上(朝)政府委員 まことに御意見の通りでありまして、本来株式会社という制度は、大規模な企業の経営に当る必要から生じたものでありまして、勢い多数の株主の存在を予定しておるわけであります。その特質に応じた法的規制が行われているわけであります。今ありますような一万円以下あるいは十万、二十万という程度の小企業につきまして、数億、数百億の資本を擁する大会社と同じ法的規制のもとに置くということは、その必要がないのみならず、かえって弊害も起ると思えるのであります。この点につきましては、大小あらゆる規模の企業を通じて同じ株式会社形態をとることを自由に放任しておくということが適当でないという見解は、法制審議会の商法部会におきましても、多数の委員から述べられておりまして、これらについて各委員の所見の開陳もあったのでありますが、それではどこで線を引き、またその線以下の会社はどういう形態をとるべきであるかというような具体的な構想についてまだ十分論議を尽す段階になっておりませんので、結論を得ておりませんけれども、今後引き続いて審議されます法制審議会商法部会の最も根本的な議題の一つとして予定されておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/5
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006・山本粂吉
○山本(粂)委員 われわれの考えておることと大体同様の御意見のように拝聴したのですが、これは世界的な面から考えてみても、日本の現行法の建前は、商法の規定からもともと独法系になっておった、それが占領行政下における資本導入の関係から、日本の商法の会社法の一部が改正せられて、英米法系のものになってきた。けれどもその際に会社法の適用の範囲について、今申し上げた非常に大きな資本を擁する事業、非常に多くの資本を必要とする事業、中には小額資本でもやれるという事業等々があって、種々雑多の会社の内容になってくるのであるから、従って商法の適用範囲についてもやはり再検討する必要があったであろう、それなくして漫然改正が行われてしまったから、今日いろいろな議論が行われるのだろうと思うけれども、これは一朝一夕に解決できる問題ではないので、十分一つ御検討を願って、実社会の実情に即した適用のできるような一つの法的処置を講じてもらいたいということがわれわれの希望なのであります。
そこでまず現行法の上において、そういう根本的な問題はしばらくおくとしても、現行法の二、三の改正によってなお便宜な取扱いができるのではないだろうか。たとえば一株の株式の額面の問題でも、現在の商法では五百円になっておるけれども、古くから存在する会社は一株が五十円になって、今でもそのままである。ところが取引の実態は、御承知の通り今どき五十円株十株の五百円を単位にして取引は行われていない。証券取引所の取扱いについても五千円単位で行われておる。また現在の貨幣価値の上から考えても、経済の実態から考えてみても大体一株五千円、ちょうど五十円株の百倍、こういうふうに改めて、そして株式の簡素化をはかるということが必要になってくるのではないだろうか。現在の五百円ということはあまりに低きに失するので、急速な改正を要する問題ではないか。
第二に、無記名株券を発行している会社は、これは問題がない。記名式の株券を発行している会社で数億、数十億あるいは数百億の資本を擁している会社は、株主総会の手続のために要する費用その他人間を使う経常費、それから株式係の人間を多く使うために要する経常費等々が、やはり生産貨物の生産コストに重大な影響を与えるということは御承知の通りである。こういうような点は現行法の改正によって救済ができると私は思うのだが、これらに対する政府の所見を伺っておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/6
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007・村上朝一
○村上(朝)政府委員 前回の商法の改正の際一株の額面が五十円から五百円に引き上げられたのでありますが、その際、改正法施行前からあります会社につきましては、従来通り五十円の額面をそのまま置かれましたために、現在大部分の会社が額面一株五十円ということで、ただいまの経済の実情に沿わないことになっておることはまさに御指摘の通りであります。前回改正の際に、かような旧法によって成立した株式会社の五百円未満の額面の株式を五百円以上の株式とするための手続を施行法の第十条において規定いたしたのでありますが、この施行法十条の規定による額面の引き上げということは、実際にはほとんど行われていないのであります。昨年あたりからこの額面引き上げ問題が一時非常にやかましく論議されたのでありますが、一体この施行法十条のように各会社でそれぞれ額面引き上げをするという会社の自治にまかせておいたのでは、いろいろな関係から容易に額面の引き上げがむずかしい、法律をもって一律に一株の額面の最低額を、現在取引単位は百株とされておりますのが普通でありますので、現在の五十円額面の百倍すなわち五千円に改めて、一定の日を限って全国のすべての会社の株式の金額を一斉に五千円に改めたものとみなして、百株券を一株券にみなして処理してはどうかというような意見が相当有力に唱えられたのであります。法制審議会の商法部会におきましても、実はこの問題につきましては数回にわたりまして検討を加えたのでありますが、まずこの額面金額の引き上げは、主として株式事務の簡素化等の会社の便宜のために認めようとするのであります。かような措置を望まない会社にまで強制することは、現段階においてはどうであろうかという意見が一つございました。また額面の引き上げは大会社についてはなるほどその通りであるが、現状においては小さな会社もあるので、これらを一律に今直ちに額面を引き上げることは時宜に適しておるものであるかどうか。株式会社の資本の最低額に限界を設けるという措置とあわせて行うべきではないかという反対論、それからまた証券業者の方面からは、額面引き上げの心理的効果として、一時大衆の投資意欲を減退させるおそれはないかというような反対論もございました。また額面を引き上げますと、かりに五十円を五千円に引き上げるということにいたしますと、百株未満の端株を持っておる株主に対する措置をどうするか、これを会社で買い取ってまとめて処分するというような措置をかりにとるといたしましても、買い取りのために会社によっては相当莫大な資金が必要であって、かえって会社の財政の基礎を危うくするのではないかというような疑問、それからまた技術的に、この引き上げを行いまする際に一斉に旧株券を会社に提供させて新しい株券と取りかえるというような措置をとりますと、新しい株券の発行のために相当の費用が要るのみならず、一時その会社の株式の取引が停止されることも考えなければならぬというようなことで、それでは百株券という表示のままで一株券と読みかえて一時流通させるということも考えられることでございますが、それは取引上非常な誤解を招いて危険ではないかということも危惧されるわけであります。以上いろいろの問題がございまして、ついにこの法案の成案を得ますまでにこの問題につきましての結論を得るに至らなかった次第でございます。しかしながら先ほども申し上げました株式会社の規模というものと、あわせまして最低資本及び最低額面額をどういう線に持ってくるべきかということは、これまた今後商法部会における審議の重要な課題になっておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/7
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008・山本粂吉
○山本(粂)委員 大体そういう御議論があっただろうとは想像にかたくないし、またそれが常識なんであります。私もこの点についてはいろいろな意見を持っておるのだが、大体一株の額面をどうするか、どう決定するか、これは通貨価値が安定していればいい。また通貨の呼称、為替レートの切りかえ等ともにらみ合せなければならない。もし将来、あまり遠からざる機会に為替レートの切りかえが行われ、あるいは通貨の切りかえが行われて、現在の百円を一円とする、一万円を百円とする昔に返るようなことがないとも言えない。それから今のままで何十億という億とか、万とか、千とか、少くとも百円というような単位の呼び方、こういう呼び方のままで、日本の経済が今後行くのかどうかということともにらみ合せなければならぬ。従って、一株の額面をただちに五千円とすることが適当であるとも言えない。そこにいろいろそういう面の議論があろうとは思うけれども、少くとも現在の商法の規定下において、実務の面から、会社経営者があまり多くの負担をこういう面にかけないでいけるような処置だけは必要じゃないか。そうすることか結局物の生産コストを下げるゆえんであり、やはり物価を下げる一つの役割を演ずるものだ、こういう意味合いにおいて御考慮を願いたい、こう考えておるのです。これは十分一つ御検討を願って、適当な機会に改正されることを希望しておきます。
それから、現在無記名株の場合には公告で何することによって手続が非常に簡易に行われることになっております。記名式の株式を発行している会社では、やはり株主総会招集等、手続一切商法の規定に基いてやらなければならぬ。これが一棟五十円で、百数十億の資本を擁しておる大資本会社ということになってくると、その株主総会一回開くために要する費用というものは莫大なものになってくる。金額はしばらくおくとしても、そういう手続をするため使っておる人間の経費というものは大へんなものです。株主総会を開く直接の費用、通知代、印刷代、紙代はそう莫大なものでないかもわからないけれども、株主の名義の書きかえ、株主総会の通知その他の手続に要する人件費、これを考えてくるとなまやさしいものではない。これはみな会社の経常費として、そうして生産原価に影響を持つことになるのであるから、これは非常に多数の株式、つまり一定数の株式を有する会社においては、記名式の株式を発行している場合といえども、公告の制度によって株主総会の招集ができるという便宜規定を置くことはどうだろうか。それでどういう弊害が起るだろう。もし弊害が起って、どうしてもそれでいかぬというならやむを得ないけれども、大した弊害が起らないで、利益の方が多いということになれば、無記名株を発行した場合と同様の取り扱いをしてもいいのではないかということが考えられるが、この点に対する政府の所信を承わっておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/8
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009・村上朝一
○村上(朝)政府委員 株主総会の招集等に多額の費用がかかるということは会社経営のために決してよいことではないのでありまして、なるべく少額の経費と簡易な手続によって株主総会の招集が行われることが望ましいのであります。ただ株式会社におきまして、株主総会における議決権の行使ということは、株主が経営に参加するための最も重要な機会でありますので、その前提をなしております総会招集の通知を受ける権利というものは、これは取締役その他の専横に対して株主の利益を擁護するというような意味合いからも、はたしていかがであろうかと考えられるのであります。新聞公告等によりまして一般に通知するということも、むろん会社によって公告する新聞というものはさまっておるのでありますから、株主が注意深く見ておれば公告も目に触れるわけでありますが、だれしも一つの新聞を一回も欠かさず見ているということはなかなか容易なことではないのであります。さような意味から、総会招集の通知というものは、ただいまの段階において、これを廃止して公告をもってかえるということは困難ではないか、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/9
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010・山本粂吉
○山本(粂)委員 そういうことももちろん考えられるが、無記名式株券を発行している場合は公告でできる。またそれ以外にない。その場合だって、無記名の株を持っている者が株主権を行使するチャンスを逃がしてよいかといえば、逃がしては悪い。なるほど理屈を言えば、無記名式の株を持っている人は、公告以外通知の方法がないということは初めから承知の上だろうから、注意深くすれば法律の保護を受けるに何ら欠陥がないという議論も成り立つわけです。そうだとすれば、記名式の株券の場合であっても、株主権擁護のためにこういう莫大な費用をかけること一本やりで、他に方法がないのだ、今のような状態のほかに株主擁護の方法がないのだから、いかに莫大な費用がかかろうが、手数がかかろうが人件費がかかろうがどうもいたし方がない、そういえばあとは平行線で議論にならぬだろうが、これも一株の額面の是正、実情に即した額面にするということとにらみ合せて、やっぱりこの点についても一つ御考慮をわずらわさなければならぬじゃないか、私はそう考える。さらに御一考を願いたいと思うのであります。
それから、せっかくこのたび商法を改正する機会を与えられたんだから、どうしてこういう点に御留意にならなかったかということなんです。それは、現行法の改正の際に取締役の任期が二年になっちゃった。監査役は一年。監査役は毎年改選しなければならない。旧商法によれば、取締役は三年、監査役は二年。これを一年と二年に短縮した理由。それは理屈はいろいろあるでしょう、学者に言わせればいろいろ議論があるでしょうが、取締役を三年、監査役を二年にしておいても私は何ら弊害がないと思う。これはもと通りの任期に改めた方がむしろ毎年監査役を改選しなければならねというような繁雑さをなくすではないか、こう思うのだが、政府としてはどうお考えになっているか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/10
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011・村上朝一
○村上(朝)政府委員 取締役、監査役の任期は、現行法の二年と一年はあまりに短か過ぎる、これを旧法のごとく延長すべきであるという意見は、多くの方面から出ておるのでありまして、もとより法制審議会におきましてもこれを検討することになっておるのでありますが、一面改正商法が総会の権限を縮小して取締役会の制度をとり、その権限を旧法に比して大幅に拡大しましたことと相待って、なるべく株主による取締役、監査役就任の機会を頻繁にすべきである。これは旧法の通り延長することは時期尚早であるという、主として学界方面からの有力な反対意見もありまして、今回の改正案が新株引受権に関する、特に緊急を要する問題、そのほかは各方面に比較的異論のない問題を取り上げました関係上、今回の改正案におきましては、見送りになったわけであります。もとよりこの点今後検討いたすつもりでおります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/11
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012・山本粂吉
○山本(粂)委員 それは学界その他からいろいろ議論のあることは私も承知しております。これは会社の実態から考えて、二年、一年を三年、二年にするということは議論の余地はない。これを三年、二年を二年、一年にしたからどうこうというようなことは、これはくっつけの理屈にすぎない。実際の実務上、毎年々々監査役を改選しなければならぬということは、今の複雑多岐な経済活動をしなければならぬ会社には、せめて三年くらいの任期がなければどんな堪能の人であっても、なかなかそう思うように仕事ができるものではない。だから私は実際はただ手続上の問題だといえばそれまでだが、やはり法律の上においても、実態に即したように、取締役は三年、監査役は二年という元の程度に改めた方が実態に即する。これは法理論の上から理屈を言うのではない。実際の実務の上から私はそうすべきであると考えておりますから、ただいま政府のおっしゃられるように十分検討の上で、適当の機会にやはりこの点についても一つ改正されんことを希望しておきます。
それからもう一つ伺っておきたいことは、最近会社設立が非常に多くなって、会社数の多いのには実に驚くのでありますが、どうも危なっかしい会社の設立の仕方が多い。ことに泡沫的な会社の設立が相当多く行われておる。そしてそのために良民が苦しめられておることもまた実際である。そのためにいろいろな刑事上の問題が起り、また民事上の争いが裁判所に絶えないことは御承知の通り。これを取り締ることについて、一体政府当局は実際の問題としてどういう取扱いの処置を行なっておるか、それをまず一つ伺っておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/12
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013・村上朝一
○村上(朝)政府委員 いわゆる泡沫会社といわれております、当初から実質的には充実した資金を持たない株式会社が乱設されておるという傾向は、御指摘の通りあるのでありますけれども、まず商法におきましては、いわゆる預合の罪というもので、金融機関と通謀してのこれらの行為を処罰しておりますほか、預合の罪に該当しない場合でも、単なる見せ金で会社設立を行なったというような場合に、設立登記以後直ちに金を引き出して個人の用途に充てる、あるいは個人の債務の償還に充てるというようなことがありますれば、取締役についての背任横領等の犯罪が成立するわけであります。しかしかような背任横領等の犯罪が起きてからこれを取り締るのでは、会社と取引をする一般公衆の受ける迷惑を未然に防止することがむずかしいのでありまして、かような見せ金による会社の設立ということを未然に防ぐ方法を考える必要があるということは、私どももかねてより検討しておるのであります。昭和十三年の改正の際にも預け合い防止のために、数カ条の規定が設けられたのでありますが、これのみによっては未然に防止できない現状にあるのであります。この点につきまして、事は刑事政策にも関連いたしますので、刑事局方面とかねて打ち合せをしておるのであります。今後法制審議会商法部会における審議の進行と相待ちまして、会社篇の罰則の再検討ということも刑事局の方と連絡をとって、また検察庁その他の方面の実務上の意見も参照いたしまして進めていきたい、かように考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/13
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014・山本粂吉
○山本(粂)委員 それから見せ金によっていろいろな犯罪が起っておることは私も承知しておる。一年間を通じてどのくらいの犯罪が行われておるか、その実数をお持ちでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/14
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015・世耕弘一
○世耕委員長 局長にお願いいたしますが、速記がとりにくいのと、委員が聞きとりにくいそうですから、御高声に御発言を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/15
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016・村上朝一
○村上(朝)政府委員 預け合い関係の商法違反事件として受理されました事件数を、刑事局の調査によりまして申し上げますと、昭和二十七年には受理人員が九名で起訴が四名、不起訴が五名ということになっております。二十八年には報告を受理した人員が九名で起訴が一名、不起訴が零。二十九年には報告を受理した人員が十九名、起訴した件数が十九名という報告になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/16
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017・山本粂吉
○山本(粂)委員 これは実際の九牛の一毛で、氷山の一角どころじゃなくて、これは放任しておくといっても過言でないと思う。そんなことじゃない。そのために良民が苦しんでおることは相当のことなんです。だからこの点について何かこれは処置を講じなければいけない。犯罪の捜査が困難だとか、預合の罪になるのか、単なる見せ金でそこまでいかないのか等の調査がとうていできないんだ。だから泡沫会社ができて、そのために国民が苦しんでも、どうも今のところ仕方がないのだということではいけない。どうしてもこれをやはり防止していかなければならない。そこで未然防止の策としてどういう処置をとるか、そのために法律の改正を必要とするなら法律の改正をして何とかしなければいけないと思う。一年間を通じて、昭和二十八年度に受理人員九件、起訴が一件しかない。そういうふうに全く泡沫会社というものがないならまことにけっこうなことで、御同慶にたえないのだが、日本国中に預合の罪に問われるような行為をしたものは、たった九件しかないんだということは、これは無ということになるので、そんなことじゃない。実態に合っておらない。そうすると、どっかに欠陥がある。つまりさようなものにメスを入れるような機関がないのか、調査ができないのか、法的根拠が薄弱なのか、あるいは犯罪捜査の経費が足りなくてできないというのか、何か理由がなければならぬ。その理由を発見してこれを防止するということが、やはり建前上必要だ、こう思うのだが、それらに対する政府の所見を承わっておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/17
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018・村上朝一
○村上(朝)政府委員 泡沫会社の設立による弊害を防止するためには、刑事局方面との打ち合せ、話し合いの結果によりますと、現行法だけではどうも万全でない、何とか立法措置を考える必要があるということで話し合っておるわけでありますが、このいわゆる見せ金による設立をチェックする立法措置というものが、具体的には非常にむずかしい問題があるようでありまして、行き過ぎになりますと、善良なる株式会社の設立の際に集められた資金をある期間寝かしておかなければならぬということになる、そうなりますと、これまたその会社にとっては非常に不利益なことになりますので、どういう構想で立法措置をとるかということを寄り寄り研究中でございまして、まだ具体的に申し上げる段階に達しておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/18
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019・山本粂吉
○山本(粂)委員 政府においても未然防止のために何らかの方法を講じなければならぬ、しかも現行法では不十分だ、できない、それだから二十八年度、二十九年度においてもまるきり無にひとしいような犯罪検挙しかできておらない、どうしてもこれは立法措置が必要である。これは今おっしゃられるように、この立法措置というものは実際問題としてなかなかむずかしいかもしれないが、しかし考えようによっては、要するに銀行に会社設立のための払い込み資金が預託せられる、その預託せられた金がどこへどういうふうに行ったかということさえ明らかにされ得れば、泡沫会社の防止はむずかしくない。その点に対する研究を積んでいきさえすれば泡沫会社の防止ということはそうむずかしくない、この点について御研究になったことがあるかどうか、承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/19
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020・村上朝一
○村上(朝)政府委員 一たん払い込まれまして銀行に預金されました場合に、その預金を引き出すこと自体は自由に行われる必要があるわけでありますが、引き出された後どういう方面に使われておるかということを調べて参りますれば、いわゆる泡沫会社の場合にはあるいは背任罪になり、あるいは横領罪になる場合があろうかと思います。ただ背任なり横領という段階に行ってからでは、その会社と取引関係に立つ第三者の保護が十分でないのでありまして、背任、横領等の刑法の罪名以外に何らかもう一歩手前でこれを抑制する立法措置がないかということをただいま検討中なのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/20
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021・山本粂吉
○山本(粂)委員 総括的な質問として最後にもう一つ伺っておくが、現在の商法の規定によると、御承知のように、会社の経営を担当する役員すなわち取締役は株主でなくてもよいことになっておる。資本と経営とを分離するという考え方からすると、その道のべテランを会社の役員にして、そして会社目的に沿うようなりっぱな経営をしてもらう必要のあることは私もわかります。そういう見地に立って、株主でない者でも取締役になる資格のあることを商法では認められておるのだが、今度はその反面において弊害もある。そういうことで、ある会社のごときは株主でない重役ばかりというようなことになって、そこで会社がうまくいっているので、いよいよ新株を発行して、これを十倍もの大きな会社に資本増加をする、ところが従来の株主は現在払い込み能力はない、そこで会社経営の任に当っている株主でない取締役が、新株をほとんど全部引き受けてしまって、そしていつのまにかその会社が新しい重役のものになってしまって、苦心して株金を払い込んで、会社の将来を楽しみにしていたもとの株主は、ほんとうの不在株主になってしまったというような例もある。そういうようなことであるから、これは非常にむずかしいことだと思うけれども、何らかこれに制限を加えて、そしていわゆる会社の資本構成をしておる株主が、そういう資本に関係のない取締役によってこうむる損害を防止するようなことも、一面においては必要になってきておる。りっぱな経営者を得ようとすることにきゅうきゅうとして、今度は資本系統の株主が阻害されてしまうような弊害もある。これに対する救済策というか、何らかここに一つ法的措置を必要とするじゃないかと私は思うのだが、御所見を承わっておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/21
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022・村上朝一
○村上(朝)政府委員 ただいま御指摘になりましたような取締役が株主の利益を無視して私欲をはかるという弊害が、現実に少くないことは御意見の通りでございまして、これにつきましては、現行法は昭和二十五年の改正前の商法と違いまして、株主でない者が取締役になり得るということになりましたこととは必ずしも関係がないのではないか、かように考えるのであります。かような弊害は、取締役が株主でなければならぬという旧法のもとにおきましても同様にあったことでありまして、ただ名義上だけ取締役をやっておる間だけ株を持たせるというような例も多々あったのであります。そこで、さらに根本的に会社の機関でありますところの株主総会と取締役会、監査役、この相互の機関の構成なり、職務権限について再検討の必要があるのではないかということが考えられるのであります。昭和二十五年の改正におきましては、総会の権限を縮少するとともに、取締役会の制度をとってその権限を拡張し、また業務執行機関を取締役会と代表取締役に二分して、取締役会を代表取締役の監督機関といたしました。また監査役の業務監査をやめて会計監査のみにしたのであります。ところが改正商法実施後の実績を見ますと、取締役会の構成なり運用、あるいは会社の業務執行の方法等につきましては、取締役会が代表取締役の業務執行を監査するという機能がほとんど営み得ないないのであります。また少数株主の権利というものも、改正によりまして相当強化されたのでありますが、少数株主権による取締役会の監督、あるいは代表取締役に対する監督ということも、あまり実効を上げていないようでありまして、結局旧法に比較いたしまして、取締役会あるいは代表取締役の業務執行というものが、ほとんど有力な監督者がないというようなことになっておる次第であります。その間に取締役の不正行為の介入する余地のあることは、容易に想像できるのであります。他面、監査役というものも、旧法における業務監査という制度のもとにおきましても、監査役というものは有名無実であるという非難があったのでありますが、改正法において会計監査という仕事だけになった後におきましても、会計監査の能力がないのじゃないかというような批判もありまして、株主のために常時取締役会なり代表取締役を監査する機関というものを、さらに考え直す必要はないかという問題があります。これらも会社の機関の構成をどうするかという問題として、今後審議、研究せらるべき重要な問題の一つとなっておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/22
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023・山本粂吉
○山本(粂)委員 そこで、今回の商法の改正点の問題について二、三質疑をいたしまして、私の質問を終るのでありますが、今度の改正案の内容は、大体において異論のないことでありますから、大した問題はないと思うのだが、まず第一に、新株引受権に関する定款の記載の仕方、どういうふうな記載の実例になっておるのか、まずそれを伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/23
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024・村上朝一
○村上(朝)政府委員 その点につきましては、お手元にお配りいたしてあります商法改正に関する資料の六十三ページに掲げておきましたが、株主に新株引受権があるとして、無制限に株主の新株引受権を認めております会社が、これは東京の日本橋の登記所に登記してあります、一千万円以上の株式会社についての調査でありますが、無制限に新株の引受権を認めておりますのが三・九%、株主の新株引受権を認めながら、制限つきであって、しかもその制限が数量で明示されておりますものが約三%、取締役会にその制限をまかせておるもの、すなわち株主は新株引受権がある、しかし取締役会がその一部を公募することができるというふうに、取締役会にその制限を一任しておりますのが約五〇%、一方株主には新株引受権がないと定めてありますのが、無条件にないというのがO・三%、原則としてないが、取締役会で与えることができるとしておりますもののうち、ないことが特に明示してありますものが五・九%で、ないことが黙示的でありますものが約二八・六%、こういう実情になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/24
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025・山本粂吉
○山本(粂)委員 定款記載の実情は大体わかりましたが、そこで後日疑義が起ってはいけないと思うからお尋ねをして、速記録に明らかにしておきたいと思うのですが、株主に対する新株引受権の有無は、取締役会に一任するという定款の規定は、有効かどうか伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/25
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026・村上朝一
○村上(朝)政府委員 この改正法施行後に、そういう定款の規定を置いたといたしますと、もとより無効ではないのでありますが、法律の趣旨と同じことになるわけであります。有効ではありますか、結局結果におきましては、そういう定款の規定がなかった場合と同様になるかと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/26
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027・山本粂吉
○山本(粂)委員 そうすると、取締役会の決議をもって、新株引受権を与えることができるという規定とどう違いますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/27
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028・村上朝一
○村上(朝)政府委員 もし定款の規定として、株主の新株引受権の有無を取締役会に一任すると規定いたしたとしますと、取締役会が株主に新株引受権を与えることができるというのと、結果において同じ趣旨になるかと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/28
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029・山本粂吉
○山本(粂)委員 そこでこの改正案が施行される以前に、株主は新株引受権を有するという定款の規定があったとして、今度それを変更して、そして株主の新株引受権は取締役会においてこれを定めるとか、取締役会の決議によって与えることができるとかいうふうに、株主の権利を取締役会において変更する、現行法の規定の上でできている定款を、改正商法施行によってそういうふうに変更する、そういうことは一体可能か。可能だとすれば、株主の権利を何か侵害するようにも思われる。しかし株主総会の特別決議を必要とするのだから、定款の変更は、大多数の意見がそうだとすれば、株主の権利を侵害することにはならないかもしれないけれども、つまり法的根拠の上から、株主の既得権を侵害するような結果になると思われる節があるのだが、御所見を承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/29
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030・村上朝一
○村上(朝)政府委員 ただいまお尋ねのような疑問が生ずることは当然予想されるのであります。疑義を避けるために附則の第四項におきまして「この法律の施行前に定めた株主の新株の引受権に関する定款の規定は、この法律の旅行の際における会社が発行する株式の総数のうち未発行の部分について、その効力を有する。ただし、その定款の規定を廃止し、又は変更することを妨げない。」、かような規定を設けたのであります。まず本文におきましては、新法施行前に定めてあります株主は新株引受権を有するという定款の規定は、新法施行の際における未発行部分だけについて有効であるということを認めますと同時に、その定款の規定も定款変更の手続によりまして、これを廃止または変更することは可能であるということにしたのであります。この株主の新株引受権につきましては従来非常に対立した考えがあるのでありまして、これは株主のいわゆる固有権であるとか、絶対に定款をもってしても奪うことのできない権利であるというような極端な議論をする方もあったのであります。その根拠の一つは、株主の新株引受権に関する事項が、現行法におきまして定款の絶対的記載事項とされておることにあったのでありますが、改正法におきましては絶対的記載事項にいたしておりませんし、今後は、さような定款変更をもってしても奪うことのできない固有権であるというような詳論は出ないのではないか、かように考えておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/30
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031・山本粂吉
○山本(粂)委員 大体そういうことになると思うのでありますが、そこでお尋ねしておきたいことは、株主以外の第三者に新株引受権を与える場合、この間から問題になっているのだが、理由を開示しなければならぬ。ここにいう理由を開示するということは実際としてどういうふうにすればいいのか。理由開示が足るとか足らぬとか、内容が理由開示になっているとかなっていないとかいうようなことで争いが起る可能性が多分にあり、またそういう実例もある。であるからこれをはっきりさせておく必要がある。法文の上では「理由ヲ開示スルコトヲ要ス」とあるが、しなかったらどうなるか。それは直ちに問題になるのであるから、まずその理由とは一体どういうものか、一体どういうことを開示すればいいのか、これを明らかにしてもらいたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/31
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032・村上朝一
○村上(朝)政府委員 新株引受権を持っておるものに対しましては、商法の規定によりまして均等発行でない、つまり他の株主よりも有利な価額で発行することかできることになっておりますが、御承知のように新株引受権を持つものに対しましては時価にかかわらず額面で割り当てるということがほとんど慣行のように行われておるわけであります。従いまして新株引受権を持つものが株主だけである場合には、株主が新株において得たところは旧株において失っておるのでありまして、損得はこの限りにおいてはないといえるのでありますが、株主以外の者に新株引受権を与えまして、これを時価よりも安い額面で発行するというようなことがありますと、直ちに株主の利益を害することになるわけであります。従いまして、先ほど山本委員からも御指摘になりましたような、取締役が自分勝手に、自分たちあるいは縁故者に新株の割当をしてしまうというような弊害が非常にあったのでありますが、この改正法におきましては、株主以外の者に対して新株引受権を与えるのは必要やむを得ない場合だけに限定すべきであるという建前に立ったのであります。従いまして株主総会におきましてこの理由を開示いたします際には、株主以外の者に新株の引受権を与える理由を開示するだけでは足りないのでありまして、与えることを必要とする理由を開示しなければならないということにいたしたのであります。で、一体どういう場合が株主以外の者に新株の引受権を与えることを必要とする場合であるかと申しますと、一つは他から融資を受けます場合に、株式を持たせて事業に参加させることが融資の条件になっておるというような場合があるわけでございます。そういう場合に、たとえば本年の年末、銀行から何千万円の融資を受けなければならぬという場合に、融資をしてくれる銀行に対しては何株の新株の引受権を与える必要があるというようなことを総会で説明いたしまして、総会の承認を求めるわけであります。また外資を導入いたします際にも、株式を持つことによってある程度経営に参加することを外資が入ってくる要件とされる場合がありまして、そういう場合に第三者に引受権を与えるという道がないと外資が入りにくいという事情がありますので、そういう場合には、やはり具体的にどういう方面からどの程度の資金の融通を受けるが、それについては新株の引受権を与えないと外資は入ってこないというような具体的理由を説明して、総会の承認を受けるわけであります。理想を申しますと、株主の権利を擁護し、取締役の専横といいますか、横暴を阻止いたしますためには、具体的にだれに何株与える必要があるかというところまで総会に公告して、総会の承認を求めるというところまでいくのが徹底するのでありますが、経済界の方々の御意見を伺いますと、そこまで具体的に表示できない場合が多い。たとえば先ほど申しましたように、年末に、ある銀行から融資を受ける予定にしておっても、その銀行からは融資を受けられなくて、別の銀行から借りなければならぬという場合も起きてくるので、その都度株主総会を開いて決議のやり直しをしてもらうということも大へんな手数であるというようなことで、その新株引受権を与えるべきものの氏名を具体的に承認を受けるというところまでは要求していないのでありますが、要するに新株の引受権を与えなければならない理由を開示するわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/32
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033・山本粂吉
○山本(粂)委員 大体わかったのですが、どうも法文を読んだだけでは一般に疑問が起る。そこで一つ具体的に承わっておきたいと思う。今の御説明によると、某銀行より一億円の融資を受くる必要あり、よってこれに対して額面をもって何百万株を某銀行に与え、そうして融資を受けて会社の内容の充実をはかりたい、そのために某銀行に株式を割り当てるんだ、こういう理由開示でいいのか、また某氏あるいは某々氏に株式を特ってもらって、会社の経営に当ってもらうことが当会社の再生の上においてぜひとも必要である、よって某々氏らに額面をもって株の引き受けをしてもらって、そうして会社の経営に当ってもらう、そのために株を割り当てる、こういうように某々氏、某々銀行、それに対する株数それから発行する額面の価額等さえ明示すればその程度でよろしいのか、それとも某々氏とか某々銀行とかいうのじゃいけないのか。先ほどの政府委員の説明によると、実際問題として、たとえば三菱銀行から借りようとしたが、富士銀行よりでなければ借りられないというような場合もある。甲という人を予定しておったところが、どうしても入ってくれないで、乙という人が入ってくるということもあり得るので、人間を特定するというのでは実際上運営に困りますから、そこまで明示しないでも必要な理由開示になる、こう解釈してよろしいのか、それらの点を一応御説明願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/33
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034・村上朝一
○村上(朝)政府委員 某銀行から融資を受ける、その銀行に対して新株引受権を与えるという場合には、その某銀行というのは融資をしてくれる銀行をさしておるわけであります。年末に融資をしてくれる銀行に引受権を与えるということでありますから、その程度で十分ではないかと考えます。それから某々氏に株を持ってもらって、経営に参加してもらう必要がある場合には、果してその某氏という人が、その会社とどういう関係の人であるのか、結局何ら特定の方法がない。さきの場合はその会社にある時期に融資をするということで特定せられるわけでありますが、だれであるか全然わからないということでは、総会もおそらく納得いたしますまいし、理由の開示として十分ではないんじゃないか、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/34
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035・山本粂吉
○山本(粂)委員 そういうふうに御説明を伺うとおかしくなる。銀行だってどこの銀行が投資するかわからない。融資した銀行に新株引受権を与える、だから特定できるとおっしゃるなら、某々氏といっても、融資した人間に引き受けを与えるということと同じことじゃないですか。融資しない人間に引き受けを与えはしない。会社に融資をしてくれるものに引受権を与えるのだといえば、それで特定するんじゃないですか。それでは特定にならぬというのですか、そこをはっきりしてもらいたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/35
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036・村上朝一
○村上(朝)政府委員 私あるいは御質問の趣旨を聞き違えたかもしれません。某々氏に新株引受権を与えるという場合に、その某氏なる者が会社に必要な資金を融資をしてくれる人であるということでありますれば、おのずからその融資をしてくれる人ということで特定し得ることになります。それで十分である、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/36
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037・山本粂吉
○山本(粂)委員 結論として、理由開示の場合に、有効なる理由開示というのには、少くともその第三者に特定し、もしくは特定され得る状態にまで開示しなければ、必要なる理由開示にはならない、こう承わってよろしいか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/37
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038・村上朝一
○村上(朝)政府委員 その通りであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/38
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039・山本粂吉
○山本(粂)委員 大体理由開示の問題は明らかになったようでございますが、株主以外の者に新株引受権を与える場合には、特別決議が必要になる。株主に対する場合は普通株主総会でいいということになっておる。これは何か特別の理由があるんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/39
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040・村上朝一
○村上(朝)政府委員 先ほど申し上げましたように、株主以外の者に新株引受権を与えまして、有利な条件で新株を発行するということは、直ちに株主の利益を害することは明瞭なので、——もっともその結果必要な融資が得られて、長い目で見れば株主にとって有利であるという場合もあるかもしれませんが、これがみだりに株主以外の者に与えられますと、株価の低落その他の形において直接株主の利益と衝突することになるわけであります。これを普通決議でいいということにいたしますと、従来の実情から見まして、株主総会の普通決議には定足数等もございませんし、とかく取締役等が株主総会を容易に支配し得る傾向があるのであります。この点につきましては、もし株主総会の決議を取締役の意思によって支配し得るという会社があるといたしますと、株主に対する新株引受権の有無を取締役に一任して、取締役に強い権限を認めました反面、株主の利益擁護は十分でないといううらみがありますので、定足数等の厳重な要件のある特別決議の形をとることが妥当であろう、かように考えた次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/40
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041・山本粂吉
○山本(粂)委員 おそらくそうだろうと思うのですが、せんじ詰めれば、株主擁護のために、会社としては普通株主総会よりも経費、手数等を要する特別決議にしておいて、株主を擁護していくのだ、こういうのでありましょうから、そういう必要性から特別決議が必要だという議論と、その必要はないじゃないか、たとえば新株引受権を定款で規定して、そういう場合にもやはり特別決議を必要とするということでは少し繁雑ではないか、普通決議でいいのではないか、定款で第三者に与えることを規定しておるというような議論も起り得ると思いますが、これは実際問題としては太して実益のある問題ではないと思うけれども、一応それらに対する御見解を承わっておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/41
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042・村上朝一
○村上(朝)政府委員 株主以外の者に対する新株引受権の定めを定款に入れるといたしますと、定款の性質上勢いきわめて抽象的なものにならざるを得ないと思うのであります。むしろ株主の保護のために必要なのは、具体的な場合果して新株引受権を与えることが必要であるかどうかということの判断でありまして、そのためには抽象的な定款の定めだけでは株主の保護は十分でないのではないかという理由で、その場合について特別決議ということにいたしたのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/42
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043・山本粂吉
○山本(粂)委員 新株引受、新株割当の場合起ってくるのは、端株の問題で、五十円株のような場合は大した金額でないから大した問題にならないかもしれませんが、一株の金額が五千円、しかも非常な実質価値のある株で、市場価格が額面の二倍も三倍もしているというような場合も理論的には想像できる。そういう場合の端株の処理ということは、株主にとってはなかなか重要な利害関係が伴うわけであります。端株の処理というものは、新株割当の場合実際どういうふうに行われておりますか、もしわかっていたら承わっておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/43
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044・村上朝一
○村上(朝)政府委員 その点につきましては、配付しました商法改正に関する資料の七十ページに実例をあげてございます。これは会社に照会していただいた回答文によるものでありますが、最も多いのは端株の処理を取締役に一任するということを定款に定めておる場合が百四十四社のうち三十六社ございます。その次に多いのは、端株についてはこれを公募するというものが二十五社でございます。それから証券会社に一括引き受けさせるというのが二十三社、その他端株の処理を最も厳格にいたしまして、端株を売却して売却代金と払い込み金額との差額を株主に支払うということをやっておりますのが百四十四社のうち一社であります。かような実情になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/44
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045・山本粂吉
○山本(粂)委員 この表を見ると、取締役に一任というのが一番多い。その場合に一任された取締役会はこれをどう処置されておるのが実情でありますか、それを承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/45
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046・村上朝一
○村上(朝)政府委員 この資料の註のところに書いてございますように、これは照会を出しました会社の回答をそのままの内容で分類しましたので、表現の方法は違うが、実質はどうもダブっているというものもあるいはあるかと思うのであります。取締役会に一任する結果、取締役会でそれを証券会社に一括引き受けさせているものもございましょうし、また公募するという形をとっておるのもあるだろうと存じます。公募するという形で回答してきたものは公募の方に入れておりますし、取締会一任という形で回答してきたのはその方に入れておるわけであります。改正法におきましては、少くとも取締役なりあるいは縁故者に引受権を与えるというような措置はとれないことになるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/46
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047・山本粂吉
○山本(粂)委員 大体私の質問はこれで終るのですが、最後に、現行法の改正の際に、旧商法では外資導入の点について不十分である。そこで英米の商法の規定にならって日本の商法を大改正した。大改正をする必要性はいろいろあったろうけれども、大きな理由の一つに外資導入ということがあった。そこでこういう非常に広範な商法の改正を行なった。その結果商法をここまで改正して二十六年から施行して今日に至っておるのだが、商法の改正によって外資導入がどういう実態になったか、どの程度の外資導入ができておるのか、実態をつかんでおきたいので、おわかりであったら御説明願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/47
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048・村上朝一
○村上(朝)政府委員 外資導入ということは、商法の改正以外の要素もむろん関係して参りますので、商法改正の結果であるということは直ちに申せないのでありますが、株式なり、あるいはその他の会社の持ち分の取得という形で昭和二十五年の後半期以後入って参りました外資の件数、数量、投資額等を申し上げます。まず昭和二十五年の六月から十二月までに、件数にいたしまして八十九件、株式数にして千五百五十六万株、投資額にして八億三千七百万円、それから二十六年中に、件数で三百八十四件、株式数で五千百十三万株、投資額で四十六億三百万円、昭和二十七年が、件数で千八百五十三件、株式数で四千二百六十八万四千株、投資額で三十五億三千七百万円、二十八年が、件数で二千六百二十八件、株式数で三千六百十二万八千株、投資額で二十六億四千五百万円、二十九年になりましてからは、これは一月から十月までの数字でありますが、二千九百七十九件、株式数で二千五百三十八万株、投資額で十八億五千四百万円、かような数字になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/48
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049・山本粂吉
○山本(粂)委員 わかりました。私の質問はこれをもって終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/49
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050・世耕弘一
○世耕委員長 それでは午前の会議はこの程度にとどめまして、午後は一時から再開いたします。
午後零時十八分休憩
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午後一時十八分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/50
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051・世耕弘一
○世耕委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
質疑を続行いたします。田中幾三郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/51
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052・田中幾三郎
○田中(幾)委員 今回の商法の一部を改正する法律案におきましては八つの事項に限定いたしまして提出をされておるのでありますが、これ以外にたとえば株式の譲渡に関する規定を初め、先ほど山本委員の額面の問題その他幾多の改正すべき点があろうと思うのであります。法務省民事局発行の商法改正に関する意見集によりましても多くの要望があるようでありますが、特に今回は急いだので定款の記載事項に関する点を中心としてお出しになったのでありましょうが、それら以外の改正の問題点についてはいかようにお考えになっておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/52
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053・村上朝一
○村上(朝)政府委員 商法全般ことに会社法につきましては前回の改正について占領下の特殊事情のもとにおいて立案された関係もございまして、わが国の経済下の実情に沿わないということで、施行当時からすでにいろいろな改正意見が出ておるのであります。お配りいたしました意見集にありますように、二十七年の十二月、法務事務次官から学界、経済界、法曹界その他各方面に改正意見を照会しまして、その提出されました意見を分類いたしてみたのでありますが、大きな項目だけでも約九十項目にわたるわけであります。それでこういう国民の経済生活の基本に関する重要な法律でございますから、これを軽率に改正案を出すということはいかがかと考えられますので、昨年の七月に法制審議会に、あらためて商法改正についての具体案を作ることを諮問されました。自来商法部会を開きまして、商法学者及び経済界の方々、その他在朝在野の法曹の方々に御参加願いまして、これらの問題を逐次検討いたしておるわけなんです。そのうち今回の提案に取り上げられておりますのは、新株引受権に関する問題、これは特に緊急を要するという趣旨で取り上げたのでありますが、そのほかは要望のあります意見のうち比較的異論の少いもので、しかも他への影響が比較的少いというようなものを取り上げた関係上、これだけの項目になったわけであります。その他の改正意見につきましても、すべての点にわたりまして法制審議会で十分検討をいたすことになっております。
これまでにすでに検討いたしました問題としましては、今回提案されております問題のほかに、たとえば額面株式の引き上げの問題であるとか、あるいは公認会計士の監査を受ける会社について、監査役の会計監査というものをどうするかというような証券取引法と商法との調整の問題等も取り上げて議論をしたのであります。なおそのほか改正法以外の点につきましても、一九二四年にブラッセルで締結されました船荷証券に関する規定の統一に関する条約というのがございまして、日本もそれに留保付で調印をしておるのでありますが、まだ批准はされておりません。この船荷証券統一条約を批准して、これに従って海商法の規定を改めるべきではないかという議論も出まして、その点も検討したのでありますが、午前中にも申し上げましたような事情で、今回の法案に取り上げてあります問題以外につきましては、商法部会で結論に達するまでに至らなかったというような事情になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/53
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054・田中幾三郎
○田中(幾)委員 そうすると、今回提出されました以外の、ただいま拝承いたしました事項については、この次の国会にでも、整理できる分がありましたならば提出されるおつもりでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/54
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055・村上朝一
○村上(朝)政府委員 商法の改正、特に海商法改正につきましても、
午前中も問題になりましたいわゆる大企業と中小企業に別の組織を採用するという構想、これが一番根本的な問題でありまして、そういう根本問題に触れて参りますと、全篇にわたる改正が必要になって参ります。ところが一面海商法全部の根本的な改正にはやはり相当長い期間を要すると考えますので、その間緊急を要する改正要望のあります点は、逐次検討いたして参りまして、結論を得次第部分的な改正案として御審議を願う考えであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/55
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056・田中幾三郎
○田中(幾)委員 総括的な質問につきましては午前中に山本委員から御指摘がありましたので、私は二、三今回の改正点についてお尋ねいたしたいと思います。現行法の百六十六条には、特定の第三者に新株の引受権を認めるかどうか、「特定ノ第三者」という用語を使っております。今回の改正案を見ますと、「株主以外ノ者」こういう用語に変ってきておりますが、これは特別に用語を変える必要があったのでしょうか。またこの用語によって内容も違うのでありましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/56
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057・村上朝一
○村上(朝)政府委員 現行法の百六十六条第一項第五号で使っております「特定ノ第三者」という言葉につきましては、実施の当時から非常に解釈上疑義が多くて、いろいろな学説があったのであります。たとえば従業員、取引先というような言葉が「特定ノ第三者」という要件に該当するかどうか。その他「特定ノ第三者」とはどの範囲のものを言うのかということについて、十人の学者がありますと十色に分れるといっても過言でないほど意見が分れたのであります。そういういきさつもございますので、今度の改正案では「特定ノ第三者」という言葉を使うことを避けたのであります。それでは今度の「株主以外ノ者」という言葉と意味が違うかという点でありますが、「株主以外ノ者」という言葉は、文字通り株主を除いた者であります。ただ株主が、たとえば取締役の資格において、あるいは従業員の資格において、あるいは取引先の資格において引受権を与えられるというときには、「株主以外ノ者」に対する引受権ということになり、株主が株主たる資格において与えられる引受権が株主の新株引受権、つまり株主の新株引受権でないものを「株主以外ノ者」の新株引受権、こういう工合に考えて立案しておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/57
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058・田中幾三郎
○田中(幾)委員 午前中に問題になりました必要理由の開示でありますが、新株引受権を必要とする理由、これは今の「特定ノ第三者」ということを明らかにして、さらに何ゆえに新株を与えなければならないかという具体的な理由、それを明示して説明しなければならぬという規定でありますかどうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/58
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059・村上朝一
○村上(朝)政府委員 御意見の通り、新株引受権を与えることを必要とする具体的な理由を説明しなければならぬ、そういう趣旨であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/59
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060・田中幾三郎
○田中(幾)委員 もしこの場合に必要理由の開示をしないで、株主総会が決議をしたということになりますと、これはどういう結果になりましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/60
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061・村上朝一
○村上(朝)政府委員 法律に要求されております理由の開示をせずに総会が決議をしたという場合には、商法の二百四十七条にあります総会の決議の方法が、法令に違反したということになりますので、決議取り消しの理由になると考えられます。ただ決議取り消しの判決が確定いたしましても、その結果は、新株引受権のないものに、あたかも新株引受権のあるものと同様に、一般の公募価格よりも有利な条件で株式を発行したということになりまして、不公正発行による取締役の責任と、それからもし第三者が取締役と通謀してそれを安く引き受けたと認められる場合でありますと、その株主に対して公募価格との差額の追徴がされるわけであります。そういう結果にはなりますが、新株発行自体が無効になるということはないと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/61
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062・田中幾三郎
○田中(幾)委員 改正条文の二百八十条ノニの五号でありますが、「新株ノ引受権ヲ与フベキ者」そうすると、この取締役会は、新株の引受権を与うべきものをきめれば、結局与えないものもきまるわけでありますが、この法律の改正案の趣旨によりますと、定款に規定があっても、株主以外のものに株式引受権を認めるということは、特別決議を要する。反対に裏面から非常に厚く株主擁護の立場から、こういうふうにしている、こういうのであります。ところで、この新株引受権を原則的に株主に認めるか認めないかということは、意見が分れておるようでありますけれども、この意見集によりましても、大阪商工会議所とか、あるいは関西経済連合会というような、こういう実務家、経済界の方では、原則としては引受権を認めない、取締役会によって与えるのだというふうにとっておるが、どうもわれわれから見れば、取締役会に、新株を与えるか与えないかという権限を認めて、どうも会社の経営に当る大株主の権限を非常に強く見てあるように考えられるのです。そういうことになりますと、反対に株主に対して新株引受権を認めないということを取締役会で勝手に決議をされた場合には、その決議に服さなければならぬわけでして、非常に株主の権利の擁護に薄い点がありはしないか。そこで株主以外のものに株券を与える場合には、こういう厳重な規定をしているのでありますが、与えないという決議をするには、やはりこれは厳重な総会なりその他の決議の要件を規定しておかなければ、勝手に取締役会でこれは与えないというようなことをやられたのでは困るのですから、やる場合にはいいですけれども、新株引受権を認めないという決議をするときには、一定の厳重な要件のもとに行うべきではないか、そうでなければ株主の保護にならぬ。株主の権利を侵される危険性がずいぶんある。しかし先日も学界の意見も聞きまして、実際問題としては大体与えておる、こういうのでありますけれども、やはりその点が一定の法規で株主の擁護をしておく必要があるのではないかと存ずるのでありますが、この点に対するお考えを承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/62
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063・村上朝一
○村上(朝)政府委員 御指摘のように、この問題は非常に意見の分れた問題でありまして、株主の新株引受権に関する事項を定款の絶対的記載事項から落すことについてはほとんど異論がなかったにもかかわらず、それでは原則として株主の引受権を認めて、例外としてそれを排除し得る道を開くか、あるいは原則として与えないで、取締役会が与え得るという建前をとるかという点については、ほとんど両方の意見が半々という状態であります。法制審議会におきましてもその点を非常に議論されたのでありまして、原則としては株主に新株引受権があるという建前をとりましても、そのままでは授権資本制の妙味を発揮することができない、非常に窮屈なことになります。会社の資産及び事業の状況、あるいは市場の状況を見て、株主に引き受けさせるのが適当であるか、一般市場から公募するのが適当であるかというような点は、取締役会の判断にまかせることが、取締役会を信頼する限り、その方が妥当なわけであります。従いまして、実例を見ましても、ほとんど例外なく、定款の上で新株引受権があるという原則をとりましても、取締役会でそれを排除する道を開いている。むろん若干の例外はありますけれども、一般的な法規といたしましては、新株引受権ありという原則をとりました場合には、それを取締役会の決議で排除し得る道を開いておく必要があるわけです。一面取締役会が株主に新株引受権を与えるか与えないかをその権限できめるということにいたしましても、これは定款をもって原則を引受権ありということに規定することは、改正法でも認めておりますが、もし取締役会に全然一任することが不安であるという株主の意思であれば、定款に規定することは、従前通りできるわけであります。原則として引受権ありとして、取締役会で排除し得るという規定を置くのと、実質においてはこの改正案はほとんど差はないんじゃないか。むしろ、原則として引受権ありとして、取締役会の決議なりあるいは定款で排除し得るという建前をとりますと、その排除の仕方についてまたいろいろな紛争が起きるおそれがあるんじゃないかというようなことも考えましてかような案を立案したのであります。与えない場合には厳重な手続を必要とすることが、株主保護に適するんじゃないかということでありますが、株主に新株引受権を与えるというそれ自体は、株主にとって必ずしも有利とはいえないのであります。株主に新株引受権がないということになりますと、公募されるわけでありますから、時価相当の財産が会社にふえてくるわけです。会社の財産がふえるということは、それだけ株主の利益に帰するわけであります。ただ株主の利益が害されるおそれがあるのは、株主以外のものに引受権が与えられて、しかもそれが時価よりも安い価格で発行されるということなんです。その方を厳重に規制いたしますならば、株主に新株引受権を与えないということについて取締役会の権限をさらに抑制する措置を講じなくても、必ずしも取締役が株主の利益を無視する行動に出るおそれはないんじゃないか、かように考えるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/63
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064・田中幾三郎
○田中(幾)委員 新株引受権は株主の権利であって、義務でない、私はかように考える。ですから、これを引き受けても利益にならぬ場合は、権利を放棄すればよいのであります。問題は新株を引き受けることによって直接に株主が利益を得るという場合は、これは非常に利害関係が大きいわけであります。そういう場合に、第三者に与えるあるいはほかの公募をとるとかいうようなことで、固有の株主に引受権が来ないという場合、直接に損害をこうむるわけでありますから、そういう場合にその株主に新株引受権を与えないということを取締役会で決議された場合に、すぐその決議で株主は損失をこうむるわけであります。そういうことを擁護するために、もらう方の場合はこれは受ける方ですから大いに歓迎しますが、反対に引受権を剥奪する、やらないという場合には、やはり取締役会の専断では保護に薄いのではないか。私は引受権があるとかないとかいうことをきめろというのではない。どっちでもいいのです。元からあるという建前のもとに与えるという方向に進んでもよろしい、ないのを与えるという方向に進んでもよい、どっちでもよいのでありますが、とにかく株主たるがゆえに新株を引き受ける権利があるというのが一般の常識でありますから、これを害さないためには、やはり取締役会だけの独断の決議にまかすのはどうも少し保護に薄いように思うので、私は非常にこの点を懸念しておるわけでありますが、局長の御意見がそういうふうならば、一応それはそれでありますけれども、これはほかの方々の意見も聞いて、私はこの点に重心を置いて今回の改正案を検討したいと考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/64
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065・世耕弘一
○世耕委員長 本日はこの程度にとどめ、次会は公報をもってお知らせいたします。
これにて散会いたします。
午後一時四十三分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102205206X01719550610/65
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