1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十一年三月六日(火曜日)
午前十一時十九分開議
出席委員
委員長 佐々木秀世君
理事 大坪 保雄君 理事 中川 俊思君
理事 野澤 清人君 理事 滝井 義高君
植村 武一君 加藤鐐五郎君
亀山 孝一君 草野一郎平君
熊谷 憲一君 小島 徹三君
小林 郁君 中村三之丞君
中山 マサ君 坊 秀男君
亘 四郎君 阿部 五郎君
井堀 繁雄君 岡本 隆一君
栗原 俊夫君 堂森 芳夫君
八木 一男君 山口シヅエ君
中原 健次君
出席国務大臣
労 働 大 臣 倉石 忠雄君
出席政府委員
労働政務次官 武藤 常介君
労働事務官
(大臣官房総務
課長) 村上 茂利君
労働基準監督官
(労働基準局
長) 富樫 總一君
労働事務官
(職業安定局
長) 江下 孝君
委員外の出席者
労働基準監督官
(労働基準局
労災補償課長) 松永 正男君
労働事務官
(職業安定局
失業保険課長) 和田 勝美君
専 門 員 川井 章知君
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三月六日
委員大橋武夫君及び中村梅吉君辞任につき、そ
の補欠として高岡大輔君及び坊秀男君が議長の
指名で委員に選任された。
同日
委員高岡大輔君辞任につき、その補欠として大
橋武夫君が議長の指名で委員に選任された。
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本日の会議に付した案件
労働保険審査官及び労働保険審査会法案(内閣
提出第四八号)
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001・佐々木秀世
○佐々木委員長 これより会議を開きます。
労働保険審査官及び労働保険審査会法案を議題とし、質疑に入ります。発言の通告がありますので順次これを許します。岡本隆一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/1
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002・岡本隆一
○岡本委員 今度のこの法律の一番大きな点は地方の労働者災害補償審査会と労働者災害保険審査会、この三つのものをなくして、中央の労働保険審査会一本にしてくれというような内容でありますが、それについて従来各都道府県にあった労災の補償審査会あるいは労災の保険審査会がどれくらいの程度の数の審査を取扱っておられたか、まずそれから伺ってみたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/2
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003・倉石忠雄
○倉石国務大臣 政府委員から答弁いたさせます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/3
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004・富樫總一
○富樫(總)政府委員 従来の実績を申し上げますと、最新の統計に出ているのは昭和二十九年度でございますが、昭和二十九年度におきましては、第一次に監督署長の処分に不服で労災審査官に審査を請求する段階におきまして、年間約三千件余りでございます。そしてその三千件の審査官の決定にさらに不服がありまして審査会に持ち出された件数が、一年間に全国で約二百件でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/4
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005・岡本隆一
○岡本委員 それでは今度新たに設けようとしておられるところの中央の労働保険審査会の機構でありますが、委員三人のほかに、事務局はどのようなものを用意されるつもりか、お伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/5
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006・村上茂利
○村上(茂)政府委員 新たに設置されます労働保険審査会の庶務を扱う機構といたしましては、労働省の大臣官房総務課において庶務を扱うということにいたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/6
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007・岡本隆一
○岡本委員 それではこの労働保険審査会が独自の機構を持ち、独自の働きをもって審査をやっていくという方針はとらないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/7
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008・村上茂利
○村上(茂)政府委員 審査会の事務局の機構につきましては、率直に申し上げますと、この審査会法案要綱を関係の審議会に諮問いたしました際に、その答申といたしまして、特に社会保障制度審議会でございますが、審議会から、機構の独立性を保持するために事務局の機構についても特段の考慮を払うようにという趣旨の要望がございました。その審査会の独立性保持のためには事務局もある程度の独立ということが必要かとも存ぜられますが、この官房総務課で取り扱いますのは、本来労災保険につきましては労働基準局、それから失業保険につきましては職業安定局がその監督的機能を持っておるのでございますが、官房総務課は特にそういう機能を持ちませんで、総合調整的な事務を扱うものでございますので、官房総務課においてこの事務を処理するのが適当ではなかろうか、かように考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/8
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009・岡本隆一
○岡本委員 今度の法改正に当ってわれわれの最も案じるのは、非常に中央集権的な、官僚的なものになってしまいはしないかという点なのです。今までの三者構成の地方の審査会というものがなくなって、今度は、総理大臣ということになっておりますが、実際上は労働大臣が任命されると思いますが、その労働大臣がきめたところの三人の委員によってその処理が行われる、こういうことになって参りますと——なるほど労災補償審査会の方はこれは使用主と従業員とですから、だから政府は第三者の立場でやるということが言えますが、労働保険審査会になって参りますと、これは政府が保険者なのです。この保険者であるところの政府が任命したところの三人の委員によって裁定が行われるということになりますと、公正な第三者の立場におけるところの審査というものが私は行われないと思います。もしも労災保険の財政が窮迫してきたというふうな場合でありますと、できるだけ金を出さないようにしよう、そのためにはその政府の意向をくんだところの審査が行われていくというふうな観点から、まず第一には、財政的な面でもってできるだけ異議の申し立てを却下していこうとするというような意図が生まれてくるようなことがあってはならない、そういう公正なものにしなければならないという点において、保険者が選んだところの委員によって審査が行われるというところに、この法の構成に矛盾があると思うのです。その辺について大臣はどういうふうにお考えになるか、今度は一つ大臣のお考えを承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/9
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010・倉石忠雄
○倉石国務大臣 御指摘の点は私どもも立案に当りまして慎重に検討いたしましたところでございますが、御承知のように、原案によりますと、委員の任命は国会の同意を得ていたします。それからまた最終決定いたします前にそれぞれ労災保険、失業保険、けい肺ごとに各二人の関係労使代表者を委嘱いたしましてその意見を十分に聞きまして、その意見を尊重して最終的の審査会の決定をいたす、こういうふうにただいま御指摘のようなことのないように十分労使双方の意見を聞く機構をとっておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/10
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011・岡本隆一
○岡本委員 一応はそういうふうな制度があるというお言葉でありますけれども、私はこの制度というものはそういう非難を免れるための方便がとられている、こういうふうな考え方が成立しないこともないと思うのです。ということは、この国会の同意を得て内閣総理大臣が任命した三人の委員というのは、非常に高級な国家公務員になっているのです。しかもそれは三年間の任期になっているのです。だから、これは公務員といえともきわめて地位の不安定な公務員なんです。こういうふうな地位の非常に不安定な公務員は、今度は自分がその任期三年がたって委員でなくなったならば、やはりもう一度任命してもらわなければ困るという不安があるのです。それでなければ月額六万円、七万円という報酬から離れるのです。しかもこれは年間二百件というような件数を扱おうとすれば——今までの実績によればですけれども、年間二百件くるのです。二百件という件数がくるといえば、これは非常に忙しい。これを満足にやっていこうと思えば非常に三人の委員が大車輪でやっていかなければ、この二百件をさばき切れないと思うのです。もしものんびりとさばいてやっていけるということになれば全くの机上審理になって、これは血も涙もない審理になってしまうと思うのです。十分条理を尽した審理をやろうと思えば、この二百件の審査をやっていくには相当の機構とそれから相当な努力とをもってしなければ、その二百件の審理はできないと思うのです。そうすると、それに専従的に従事している、ほかに全然職業もないというふうな委員が、今度は三年たったらやめさせられるんだということになってくると、やはりその地位の保全ということを考えると私は思うのです。だから労働大臣の顔色を見ると思うのです。そこで、保険者の顔色ばっかり見ようとするところの委員によってさばかれるところの審査がどういう審査になってくるかということは、これはおのずから明らかなことだと思うのです。そこで、その非難を免れる方便として今度あなたは、今言っていられるところの労使のそれぞれの関係者、労使の代表を選んでやることを設けてあるというふうにおっしゃるのです。しかしながら、これは意見を述べることができるとなっておりますが、意見を聞かなければならないということになっていないのです。審査会を必ず開く、どの審査の場合にも必ず審査会を開くという制度にはなっていないと思うのです。その辺についてあなたの御意見を承わりたいのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/11
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012・倉石忠雄
○倉石国務大臣 この審査会の委員は、社会保険審査会の例にならって、同じような方法をとったわけでありまして、私どもといたしましては、学識経験のある相当な人物をこの審査会の委員にいたしまして、ただいま御指摘のような特に片寄った判定を下すようなことのない、りッぱな人物を推薦をして、議会において承認をいただきたいと思っておるのでありまして、制度そのものは社会保険審査会の例にならったわけであります。
なお労働省の立場といたしましては、労働災害を防ぎ、労働者の健康を保持することがわれわれの使命でございますから、こういう審査会にかかって参ります異議について、ことさらに労働側の不利になるようなことをわれわれの方から要望することは断じてないのでありますから、その点は岡本さんもどうぞ労働省の立場を御了承願いたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/12
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013・岡本隆一
○岡本委員 それではこの制度の根本的な問題についてお尋ねしたいと思います。労災保険というものは、労務管理の一つの手段としてこれがある、つまり労働者が仕事の途中でけがをした場合に、その使用主と労働者との間に補償の問題をめぐって紛争が起る、それを仲裁し、うまくまとめていく、こういうふうな機関として労災保険の制度があるのか、あるいは事業に従事しつつ不具になった、廃疾になったというふうな人の将来を保障してやるという、社会保障の一環としてこの労災保険という制度があるのか、どういうふうに御認識になっていらっしゃるか、一つ大臣のお考えを承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/13
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014・倉石忠雄
○倉石国務大臣 御承知のように、この労働保険というものは、経営者の無過失責任を保険でまかなう、こういう建前でございますから、いわゆる社会保障といわれるものとはその点若干違うかもしれません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/14
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015・岡本隆一
○岡本委員 経営者が無過失でもって大きな賠償を払わなければならない、その危険を防止するために作ったのだ、それではこれは経営者の立場に立って、経営者の保護のために行われている法律なのですか。大臣の今のお言葉だと、そういうふうに聞えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/15
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016・倉石忠雄
○倉石国務大臣 御承知のように、経営者の負担において労働災害保険をやっておりますが、経営者の利益を保護するためにやっているのではないのであって、経営側の無過失責任によって生じたる災害については、保険によって労働者を守る、こういうのが労災保険の建前であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/16
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017・岡本隆一
○岡本委員 大臣の今のお言葉でありますと、これは明らかに社会保障の一環だと思います。つまり労働者というものは、労務に従事中の負傷その他の事故に対しては、当然完全な補償が行われて、そして後顧の憂いなく安心して仕事ができるということを念願してこの法律というものは作られておると私は思います。そういう建前から参りますと、先ほどの問題に戻って参りますけれども、選ばれてくる委員の任命いかんによって、労働者が不利になるようなことがあってはならないと思います。だから保険経済に左右されて——ということは、保険者が任命すると、勢い保険者の意思の反映がどうしても委員に分てくるから、その委員によって取り扱うのは、その災害を受けた者の一生を左右するような重大な問題です。たとえは仕事の途中で足一本失ってしまった。それが業務上か業務上でないかというふうなことを裁定すそ場合に、それか業務上であると認定されるか、されないかというただ一つのことは、これはその人か生涯食えなくなるか、人間らしい生活ができるか、できないということをきわめるところの重要な問題なんです。そういう重要な裁定をされるところの委員会というものは、これは保険者の立場というものを全然無視した、ほんとうに厳正中立の立場においてその裁定が出なければならないと思うのです。そういう意味において、政府が任命する、これは政府機関の一つであるというふうなものによって裁定が行われるということは、非常な不合理が行われると思うのでありますが、それについて大臣のお考えを伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/17
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018・倉石忠雄
○倉石国務大臣 政府はどこまでも公平な第三者的立場に立っておるのでございますから、御承知のように労災はすべて使用者の負担でありまして、その使用者が委員を任命するということになれは、今御指摘のような心配もあるかもしれませんが、そうではないのでして、政府が国会の承認を得て任命をする、こういうのでありますから、ただいまのような御心配はなく、厳正公平にこれは正しい判定を下すことをわれわれは期待をいたしてこういう制度を作ろうとしているのでありまして、現在の組織でも、御承知のように三者の構成であっても、最終的に御不満な場合には裁判に訴えて解決をいたしているのでありますが、今度の制度の方が、政府の任命でしかも労働側経営側の事情をよく聞いて裁定をする、こういうことの方がかえって公平を保たれるのではないか、こういうふうに考え、なお理想的だと思ってこういう案を出しているわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/18
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019・岡本隆一
○岡本委員 大臣はどうも思い違いをしているんじゃないかと思う。なるほど労災補償の審査については、使用主と労働者との間に立って政府は第三者的立場をとれると思う。労災保険というものは、使用主が負担して保険を掛けておって、政府が保険者なんですだからそういう災害の補償というものは全部政府が支払うのです。だから政府は第三者の立場でなくて、やはり保険者である。その保険者が任命して、しかもその地位はきわめて不安定であるというところに問題かあるわけです。だからそういう点で必ずしもその裁定が公正であると言えないということなんです。それから裁判官の場合でありますと、これは終身保障されており、政府がかってに首切れない、そういうふうな身分の安定があるから公正な裁判ができる。身分の安定のないところに公正な裁判というものは不可能だということを私は言いたいのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/19
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020・倉石忠雄
○倉石国務大臣 そこのところにどうも食い違いがあるようでありますが、私どもは国会の承認も求めて審査官になっていただく人は、きわめてりっぱな、社会的にもこの方ならば信頼できると思われるような万、功成り名遂げたような人をお願いするわけでありまして、人間のやることでありますから、いろいろけちをつけられる場合はやむを得ないかもしれませんが、なるほど政府がこの任命をいたしますけれども、この審査官を任命いたしますことによって、政府がなるべく保険金を支払わないようにするのではないだろうかという御心配のような今の御質疑と思われるのでありますが、私ども政府の立場で、そういうことを今伺って実は自分の耳を疑うようなことなんでありまして、そういうことは毛頭考えておりません。どうか一つその点は御安心を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/20
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021・滝井義高
○滝井委員 なかなか重大なところでありますから、関連してちょっと質問させていただきます。なるほど三名の任命される委員は、二十七条で非常に人格が高潔で労働問題に関する識見があって、法律または労働保険に関する学識経験のある人を両院の同意を得て内閣総理大臣が任命することになっておるわけなんです。こういう点については非常にいいことだとは思いますが、やはり労災保険の運営の主体が政府自体であるという点に一つの問題がある。なるほど保険料というものは事業主が全額払っております。しかしこういう疾病なり負傷が業務上のものであるかどうか、労働者側がいろいろな異議を申請してきた場合に、その裁断を下すということは、これは労働者を守るという見地が非常に労災保険の立法の趣旨からいってあると思うのです。ところが現在の日本のこういう社会保険あるいは労災保険というものはどれもみな赤字に悩んでおる、この現場をやはり無視することはできないのです。今回健康保険法の審査が行われておりますが、健康保険法の立法の趣旨と今度出てきておるこの労働保険審査官及び審査会法の立法の条文の文句まで非常によく似ているのです。こういうことはやはり一連の日本の社会保険諸立法に対する赤字対策のニュアンスというものが一貫して流れてき、しかもその一貫して流れておる赤字対策の中に、同時に赤字対策に籍口して非常に中央集権的な、あるいは言葉は悪いが官僚統制的なニュアンスというものが出ておることは事実です。これは条文を比較してみると一字一句違わない文句が、ある。健康保険法の改正の中に出てくる文句と、労働保険審査会並びに審査官の中に出てくる文句と同じ文句が、これは同じ法制局で作ったものだからかもしれませんが、あるのです。その底流の中にそういうことがあるということはこれを隠すことのできない事実です。そうだとしますと、保険経済というものを守るために保険者と政府の意向というものがきわめて強く出てくることは確実なんです。しかもその出てくる委員の俸給というものは七万二千円なんです。これは内閣官房副長官、公正取引委員会の委員と労働保険審査会委員の給料というものは同じなんです。この七万二千円の給料をもらうということは、その人が確実に職が安定したことを意味するのです。そうしますと、なるほど一年間にここに出てくるものは二百件かそこらでしょう。しかしこれは二百件をどういう工合に審査するかによって、これは労働大臣なり基準監督局長というものがちゃんとその委員の状態を見て、あいつはどうも、政府の労災保険の赤字がこういう状態であるにもかかわらず、親の心子知らずということで、この次はやはりやられないとも限らないということはあり得る。これは岡本さんの指摘した通り、人間である限りはやはりあり得る。そういう点についてこういうりっぱな学識経験者、しかも人格の高い人を任命するというこの方法については、私たちは今の段階ではこういう方法しかないだろうということは考えられるのです。ただそこは一まつの杞憂があるということ、それはどうしてかというと、さいぜん申しましたように、健康保険法の一連の改正とこれとあまりに似通っておるところに、まああつものにこりてなますを吹くという杞憂かもしれません。しかしこの杞憂は私ども国会議員がそういう杞憂を抱くと同じように、労働者というものはますますその杞憂を持つのです。私のところへも労働者からそういう杞憂がたくさん来ております。この点の解明というものを政府自身が保険者である限りにおいては、やはりはっきりとすべきだし、健康保険なりあるいは労災保険を適用する勤労階級が納得する線を政府はここで打ち出してやらなければいけないと思うのです。そういう点をもう少し明白にしていただかなければならない。
もう一つは、社会保障かどうかという点です。これは大事なんです。憲法二十五条とこの関係は大体どうなるのだということなんです。この二点をもう少し明白にしていただく必要がある。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/21
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022・倉石忠雄
○倉石国務大臣 何か誤解があるのではないかと思うのですが、健康保険法の改正案とこれと文句が似ているという御指摘がありましたが、文句そのものは私は覚えておりませんけれども、労災保険の方は御承知のように使用者側一辺倒の負担でありまして、現在の労災保険会計は御承知のように黒字というか、非常にゆとりがありまして、もし不足を生ずる場合においては、税率を引き上げて使用者の負担を増すだけでありまして、国庫がこれに対してどうこうするという必要がないことがこの法の建前でございまから、御了解がいくところだと思います。
それからまた失業保険の方でも同様に、御承知のようにこれは潤沢なる資金を持っております。健康保険の赤字対策の問題は私どもは所管外でございますから、このことには触れませんが、そういうものとは全然性質を異にしておるのでありますから、その点に対して一部労働側で御不安があるならば、どうか一つ、その点滝井、岡本両氏から十分解明されたいのであります。政府の意図するところはそういうところにはないのでありまして、これはこういうふうにすることで公平に行われ、りっぱに行われるという建前で考えておりますだけでありまして、別にほかに他意は少しもございません。どうぞその点御了承をいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/22
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023・富樫總一
○富樫(總)政府委員 法律論でございますから私から御答弁いたします。この労災保険は、申すまでもなく先ほどから、大臣が申し上げておりますように、第一次的には労働基準法に基く使用者の無過失責任というものに根源を発しておるわけであります。その基準法というものは、この無過失責任を含めて、憲法上は第二十七条の二項に掲げております。一つの会社が一度に災害が起って、何百万円、何千万円という損害が出る、これではつぶれるから、そういうものはふだんから保険料を出し合って、それは政府が管掌してやる。ですから憲法の法律の筋道からいうと、二十七条の方に当てはまる。ただ経済的あるいは相手方の労働者の保護ということにつきましては、社会性も相当あるから、あるいはこの憲法を離れて、社会保障という理論を含めて、その意味をきわめて広義に解釈するならば、あるいは社会保障というふうに呼ぶ学者もあるようでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/23
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024・岡本隆一
○岡本委員 経済的な問題としては、あるいは大臣は財政にゆとりがあるから杞憂だとおっしゃるかもしれませんけれども、もし財的にゆとりがあるならば、やはりいろいろな労災の事故に対して行われるところの補償の給付というものは、必ずしも十分にいっていないと思いますから、そういう面において引き上げの考慮をするというようなことをしていただいてもいいと私は思います。それでもしも給付をよくしてやって、そのために将来財的に窮迫してくるというような時期がないとも限らないと思うのです。賃金とか何とかでありますと、組合その他によって団結してやりますから要求が強い、要求が強いから勢い給与は引き上げられていくのです。ところが労災でやられて不具になった、廃疾になったというふうな人はちりぢりばらばらなんです。しかもその人たちには、自分たちの給付の引き上げを要求するような力もなければ能力もないのです。従ってそういう人たちに対する給付の引き上げとか増額とかいうものは忘れられがちになる。だから、そういう点はあなた方も声なき声を十分考慮して、仕事のために不自由なからだになって、しかも食うや食わずの生活をしていかなければならぬという人のことをよく考えて今後保険の運営をやっていただかなければならないということです。そこで、もし財政的な窮迫が来たとすれば、保険者の意向がくまれず、この審理の運営が公平でないというようなおそれも出てくるということが一つ。その次に私が憂えるのは、審査が事務的になり過ぎるということを心配する。この審査に出てくる場合のものは大がい却下されているのです。却下されるというものの中には、大臣も御承知だろうと思うのですが、いわゆる外傷神経症というものがあります。別の名をレンテン・ノイローゼとでも言いましょうか、つまり補償制度とかそういう社会保障制度が進歩して参りますと、自分はこの障害がある限り補償を受け取る権利があるのだというようなことから、今度は逆に神経症になってなかなかなおらない。これは、その人自体主観的にはなおりたいと思っているのだけれども、潜在意識のどこかに補償が受けられるという気持があるので、それが一種の妙な脅迫観念になって障害がなかなかなおらないのです。だからとんでもないところが痛んだり、からだが不自由になったりする。それは一つの制度が生む病気であって、必ずしもその人個人の不心得が生んでいる病気ではないのです。ですから、それは現実にある文明病の一種なんです。そういうような外傷神経症というものは、全部却下されている。しかしその人たちは賠償をとりたいのですから、それでなおらない。だからこれは一つの制度が生み、文明が生んだ不幸な人なんです。だからといって私は、その外傷神経症に対して補償せよと言うのではありません。けれども、外傷神経症であるかないかという判定というものは非常に困難なんです。そのことは、実際の仕事に当っておられる基準局の方はよく御存知だと思うのです。その困難な判定をやっていくに当って、私はやはり百八の中の一人でも真実に悪い人が補償を受けられないというふうなことがあってはかわいそうだと思うのです。だからこの審査というものは、やはり厳重に綿密に、手を尽して審査をしなければ気の毒な人が出てくると思う。そういう意味においては、この審査会で年に二百件も扱うということは、私は不可能に近いと思う。もしも年に二百件も扱うといわれるなら、これは全く一片の事務処理に終る。これも外傷神経症、これも外傷神経症だ、全部そんなことで血も涙もなくはねていくと思います。とにかくそれの診断に当ったすべての医師について聞く、またその本人も呼び出してその事情をよく聞く、あるいは事業主またその周辺の人に、その患者の日ごろの生活態度等いろいろなことについて聞いて、總合的に判断をしなければならないと思う。そうでないとこれは血も涙もないようにぽんぽん簡単に処理されていく心配がある。そして血も涙もない連中ほど事務能力がきわめていいということになるのでは困る。これは事務が渋滞して、どうもこんな機構じゃとても審査できません、もっと事務機構をふやしてもらいたい、もっとこのためには出張をしなければならない、旅費も要ります、日当も要りますというふうなことにならなければ、私はこの法のよってもって生れてきた精神というものは完全に生きてこないと思います。そういう意味において、私は今の大臣の任命ではどうしても公正な運営が期待されないという点を心配するのであります。私の言う意味はわかっていただけますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/24
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025・倉石忠雄
○倉石国務大臣 非常に該博な御知識を拝聴いたしまして、私どももこの機構を運営するのに、ほんとうに考えさせられることが多うございました。そこでこの障害を受けました人たちについての保護のことでございますが、政府はただいま御指摘のような、弱い立場に置かれた労働者の保護については、ただいまお話のようなことのないように、広い意味の社会保障と先ほど局長は申し上げましたが、そういう意味については、私とも政府といたしまして、ことに労働省は力の許す限りそういうことに力を用いて参るつもりでございますが、後の方の技術的な問題につきましては、政府委員の方からお答えいたさせます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/25
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026・富樫總一
○富樫(總)政府委員 仰せのように非常にむずかしい事案もあるのでありますが、全体といたしまして、三千件の大部分が圧倒的に審査官の段階で関係者が納得して解決されております。残り二百件が審査会にかかるのでありますが、今回の扱いにおきましては、審査官の段階において労使の代表委員が参画いたしますので、私どもの期待としては、審査会に残る二百件は、今度の新制度で審査官の段階でそのうち相当部分が解決されるのではなかろうか。それから従来の審査会制度が法的制度として十分な各種の規定が抜けておりますものを、今回の法案におきましては、審査会が必要に応じまして、あるいは関係者の申し立てによりまして参考人を呼ぶ、関係人を呼ぶ、あるいは医師の診断を受けさせるというふうに、法律制度的にそういう公正を期する制度を保障的に設けてあるのであります。どうかいたしますと、従来の地力、ことにありまする三者構成制度が、公正を欠くと申しますか、何か妥協的に、ある県の審査会はこれを業務上と認める、あるところの審査会は業務外と認めた、そこで打ち切りになってどうにもならないというのが中央におきましてそういう参考人、関係人、医師の診断ということをかみ合せまして、各府県ばらばらの扱いのないようにする、ここに相当の進歩、改善があるというふうに私ども考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/26
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027・佐々木秀世
○佐々木委員長 岡本君に申し上げますが、大臣は正十二時にちょっと所用がございますので、午後の質問にお願いしたいと思います。
滝井君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/27
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028・滝井義高
○滝井委員 ちょっと資料の要求をいたします。先ほど岡本さんの質問に対して、第一次の不服審査が三千件出たということでしたが、それを全国都道府県別に一つ出していただきたい。そして、たとえばAという県で五十件出た、それがどういう工合に労働保険審査会の方に上っていったのかというのを、労災保険と失業保険に分けてぜひお願いします。あすこの委員会の始まる前までに一つお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/28
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029・佐々木秀世
○佐々木委員長 午前中はこの程度にとどめ、午後二時まで休憩いたします。
午後零時二分休憩
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午後三時十二分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/29
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030・佐々木秀世
○佐々木委員長 休憩前に引き続きまして会議を再開いたします。
午前中の質疑を続行いたします。岡本隆一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/30
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031・岡本隆一
○岡本委員 この際、提案理由の説明書の中に「中央の審査機関がないために審査の統一ある運出に欠ける点がありました」という言葉がございますが、これをもう少し具体的に御説明願いたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/31
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032・富樫總一
○富樫(總)政府委員 いろいろ雑多な事例がございまして一々ここで申し上げかねるのでありますが、たとえばある病気につきまして一般的にはこれは業務上とは認められていない、大体府県の審査会でもそういうふうに見ておる、ところがある県の審査会におきましては、その審議の過程は私存じませんが、あるいは実際問題としての同情論といったようなものがかみ合されるせいか、それが業務上になる、あるいは一体普通重役は雇用労働者かというような問題になると、これもまた一般的には会社重役は雇用労働者じゃない、そういうようなものが何か理屈をつけて雇用労働者になるというようなことが、かねてから始終問題になっておる、こういうことでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/32
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033・佐々木秀世
○佐々木委員長 ちょっと速記をとめて下さい。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/33
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034・佐々木秀世
○佐々木委員長 それでは暫時休憩いたします。
午後三時十七分休憩
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午後三時四十九分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/34
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035・中川俊思
○中川委員長代理 休憩前に引き続き会議を再開いたします。
質疑を続行いたします。岡本君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/35
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036・岡本隆一
○岡本委員 先ほどの御答弁で、非常にケースが多いのを各都道府県の委員会でもってまちまちな裁定を下す、その間に一貫性あるいは統一がないから、それを統一したい、こういうふうな御意見です。なるほどそれはわかるのです。だからこちらの府県では却下され、それと同じケースがこっちでは取り上げられるようなことがあってはいかぬから、ある一貫性を持たすような統合機関がほしい、そういう意味においての機関を設けることには私はちっとも反対いたしません。そういう意味において、中央にそういうふうな一つの統合をするような、一つの統制を保つための機関としての委員会をお作りになることは私も賛成なんです。しかしながらそれを作るために今度は被保険者、受傷した人が、たとい三人でも五人でも非常な不利益を負うようなことがあってはならない。そのためには地方に在来あった審査会をなぜ残しておけないのか。
〔中川委員長代理退席、 委員長着席〕
それを残しておいてそこで十分意見を聞いてやるべきだ。ただ事務官の事務的な処理でもって片づけて、それで不服のある者は中央審査会に申請するということになりますと、不服の申し立てをいたしましても、現実に手を失い足を失って歩くのも不自由なんですから、生活はむずかしいのです、生活上貧しい者がどうして旅費を工面するのか、どうして宿賃を工面するのか。そして東京へ出て参りましても、今度は自分の口では、そういう委員の人に会って十分意見を述べるだけの能力を持たない。そういう人のために、だからこそ裁判だって弁護士があるんです。実際役所に来て大きな建物に入って、大きないすの前にでんとすわっているえらい人の前に出れば、縮み上って声が出ないというのが実態なんです。日本人の中にはまだ官尊民卑の考え方がしみ込んでいる。あなたらの前でそこそこにものが言えるのは、私ら程度になってやっとなんです。そうでもなければなかなかあなた方にものを言える人はいないんです。前に出たらからだがふるえるんですよ。そういうようなかわいそうな人が今度は地力で、はねられたら取りつくしまがない。東京に出なければならぬが、それでは泣き寝入りになってしまう。それを申請して、しかもそれを却下されたら裁判まで持っていくというのはなかなかの心臓で、そういう人だったらおそらく大臣みたいになれるのです。そういう意味においては私は地方の審査会をなくするということには絶対反対なんです。なぜ地方の審査会をなくされるか、それでもって十分親切な審査がやっていけるという御自信があるなれば、どういう点でもってそういうことができるかということを一つお聞かせ願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/36
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037・富樫總一
○富樫(總)政府委員 まことにごもっともな御意見でございます。一方におきましてまず監督署長が決定をして、それから審査官の段階、さらに地方の審査会、今度は中央、こういたしましてようやく終結する、場合によってはさらに裁判所に行って第一審、第二審とやる。行政救済の段階だけで、監督署長、審査官、審査会、こういうふうに重なりますことはかえっていかがかと思われます。在来の他のそういう行政救済の段階では全部が二審制ということになっております。そこで監督署といたしましては事務的あるいは法制的な扱いをいたしますれば、この他に例のないものを他の例と同じことにすればよかったのでありますが、ただいま岡本先生の仰せられるようなことも考えまして、そこで審査官の段階にこの労使の代表委員をつけまして、この人方に弁護士の役割りをしていただく、従来三千件のうち二千八百件までは弁護士がつかずに審査官のところで全部承服されておったのを、全部代表参与といいますか、俗にいうと弁護士のような人もついていく、そういたしますれば審査会で残った二百件を相当そこで解決されるだろう、そういうふうに、普通の行政救済機関の扱いに先生のような配慮を加えた形でやっていきたい、そこは一つ御了承をいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/37
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038・岡本隆一
○岡本委員 そう何段階にもなると非常にめんどうだということはわかりますが、だから私は審査官の審査のときにそれを審査会としろという考え方を持っております。あなたはその場合審査官のときには労使双方の代表者の意見を徴することができるような制度になっておるからそれでいいじゃないかというお考え、ところがこの法文を見ますと、なるほど審査官は審査の請求を受理したときには関係者及びその労使双方の代表者に対して通知をしなければならないという審査官は義務を負うております。しかしながら意見を聞かなければならないという義務は負うてない。つまり通知を受けたところの審査官に対して意見を述べることができると書いてあるここに大きな穴があると思います。また私が言いましたら、これは知って作った穴だ、まあ落し穴だと私は言うのです。私らを一ぱいかけようというところでしょうが、でもこんなことで私らは一ぱいかからぬですよ。そこで弁護士の役を勤める人があるとあなたはおっしゃる。けれども審査会から通知を受けても来てくれと言わなければいかさま出しゃばりのように出ていくことはありませんわ、出ていっても審査官はいやな顔をしますわ、こいつ何しに来たんだ。二度、三度いやな顔をされたら出ていく気にはなりません。また世の中にそれほど御親切過ぎるほどの人はない、だから勢い通知を受けたからといっても、通知はほったらかしということになります。しかも無報酬でしょう。これは現在の審査会の委員にもあなた方は報酬は出しておられないでしょう、私調べてきたが、報酬は全然出ていないのですよ。交通費の実費だけより出てないのです。年一回忘年会か何かやってちょっとごあいさつされる程度にとどまっておるようです。しかしながらそれでも公益委員も労使代表の委員も熱心に審査に当っております。やはりその人たちが人道主義というものを持っておるからだろうと思います。会議へ一回出席すれば半日つぶれる。しかも二、三件審理するだけで半日つぶれる、半日顔も知らない人のために一生懸命いろいろ複雑なことを考えて、しかもそれでもって交通費の実費だけで、全然無報酬で毎月きちんと出て審議をやっているのです。私はこの審査に関係している人から無報酬だということを聞いてびっくりしたんです。しかしながら無報酬であってもきちんと出席して非常に熱心な審査が行われている模様を知って、私はなるほど人道地に落ちずだ、ほんとうにそう思った。そういうふうなりっぱな制度があるのにそれをなくしちゃって、そうして来たい者は勝手に来なさい、意見があるなら言うて来なさい、聞きましょう、こういうようなことであっては傷ついた人たちが、その中にはほんとうに気の毒な人があると思うのです。少くも業務中か業務に近い状態においてけがをして、その判定がまぎらわしいという審査なんだから、できるだけあたたかい心をもって審査をし、そうして請求が却下される場合でもやはり十分得心させて、あなたは取り上げてあげたいけれど、しかしながらこれはこういう理由だから工合が悪いのだということをよく納得させた上で却下すべきだと思うのです。そういう意味において地方の審査会というものは、どうしても円滑な運営のためには残さなければならないと思うのですが、どういうわけですかそれでもまだなくそうという考えに燃え立っておられますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/38
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039・富樫總一
○富樫(總)政府委員 中央に審査会を設けて統制するということに御賛成いただき、かつまたその場合に何段階になってもまずいだろうということもわかるというふうに仰せいただきまして、大へん心強く感ずるわけでございまが、ここに書いてあることは、通知をする、来るなら来なさい、意見を述べるなら聞いてやろう、そういうような心持で書いたのではございません。できるだけ意見を聞いてやる。ただこの法律上、従来は二百件にしほられておった事案でございますれば別ですけれども、今回は審査会の段階において扱うのでございます。従って三十件ということにつきまして、きわめて軽微でわかり切った事案というようなものがずいぶんあると思います。そういうものについては一々意見を述べる義務をそういう方々にかけろということは、私どもとしていかがかと考えるのでございます。ですから法律的にかちっと書くと逆にそういうむだな拘束をかけることになる。ただ心持は決して来るなら来いといったようないばった心持ではございませんで、仰せのような心持でございまするので、その心持は一つ法律で縛れという形でなく、政令なりあるいは議事規則なり、そういうところでぎこちなさのないような審理手続で、仰せの趣旨を十分に盛り込みたい、こういう考えすでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/39
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040・岡本隆一
○岡本委員 そういたしますと今あなたが言ったように、議事規則なりあるいはその他の方法でもって意見が十分聞けるようにするというふうな御意見でありますが、それがこの法文のどこに明示されているか、一つ御指摘願いたいのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/40
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041・富樫總一
○富樫(總)政府委員 法的に申しますると政令なり何なりでこまかく書こうということは各条文にもございまするが、締めくくりといたしまして二十三条に、「この章に定めるもののほか、審査の手続に関し必要な事項は、政令で定める。」ここに総括的に根拠規定を置いて、今のような心持をそういうところに表現した、こういうことであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/41
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042・岡本隆一
○岡本委員 この法律を通じて一番重要な問題は、私が今まで申し述べておる点だと思います。だから「この章に定めるもののほか、審査の手続に関し必要な事項は、政令で定める。」というふうな漠とした形でもって表現されたのでは、これは指摘されたからここに逃げたけれども、指摘されなければこれはほおかぶりになったと私は思う。だからこれをもっとはっきり明文化していただかなければ、私たちはこれは満足することができないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/42
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043・滝井義高
○滝井委員 今の問題に関連して………。この事業主及び関係労働者の代表が意見を述べる方法なんでありますが今気持としては十分意見を述べるようにするんだ、こういう御説明があったのですが、具体的にどういう工合にして意見を述べるようなす法をお考えになっておるのか。
それから同時に関係労働者なり事業主が意見を述べに行ったような場合には、相当へんぴな田舎の事業場から、福岡なら福岡の県庁の所在地、基準監督署のある所まで行くについては、旅費日当等がいるのです。意見を述べさせるからにはそういうものは当然あなたの方でお支払いにならなければならぬと思う。これに関係する予算は二百八十二方五千円くらいの人件費が労働保険審査会の予算としてあったと思うのですが、もうちょっと具体的なところを同時に御説明いただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/43
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044・富樫總一
○富樫(總)政府委員 従来はしぼられた二百件の事件だけでございましたが、今回は最初の段階から、労使の代表参与の方に参画していただくということで、実際のやり方につきまして、よほど能率的に扱わなければならないということで、実は苦心いたしておる次第でございます。一件々々ごとに一々期日をきめて何するということでございましたら、その参与員の方々は、かりに多少の旅費が支給されてもとても困るだろう、実際問題といたしましての心持としては、大体県によって件数が多いところ、少いところもございますが、審査官と打ち合わされまして月に二回なら二回定例日をきめて、そのときに三件なら三件、五件なら五件というものについて説明して御意見を聞きながら何する。ただ事案が——従来裁判でいいますと判例のないようなもの、これは問題だというようなものは、特別においで願って話を聞く、こういうような扱いにでもしないというと、実際関係者の方々にあまり負担がかかり過ぎるというような苦心を今しておるような次第でございます。
それから予算につきましては先ほど岡本先生がおっしゃいましたような工合で、財政上はなはだ遺憾でございますが、人道的な立場からの御協力を願っておるような次第であります。これは従来とも非常に心苦しく感じておりました。今後機会あるごとに何らかの措置をするよう努力いたしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/44
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045・滝井義高
○滝井委員 大臣、今お聞きのように、結局参与の形で事業主の二名の委員なりあるいは関係労働者の代表二名の方が意見を述べるのは、今の御説明ではヒューマニズムの見地で無料だということですね、これでは画竜点睛を欠いているわけですね。これは大臣何とかこういう立法をされるからには考えていただかなければ私はできないことだと思うのですがどうですか。この点結局二百八十二万五千円というのは特別職の三人の十カ月分の給料で何にもほかにないように思うのです。そうしますとこれは大へんなことで、岡本君がさいぜんかちるる御指摘になっておるように、これはただあるだけのことで意見を聞いても聞かなくてもいいので、これはもう審査官の独断でみんなやられてしまう可能性が十分今の点から出ておるわけです。これは何とか大臣の善処をするという御言明をいただかなければ大へんなことだと思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/45
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046・倉石忠雄
○倉石国務大臣 まことにごもっともなことでございますが、御承知のようにこの原案にあります中央の審査官に審査の場合においでを願う労使の方々については旅費等用意をいたしてあるわけでありまして、政府委員より今申し上げましたのは、地方の審査官の場合に参考に出て来ていただく方は従来と同じような扱いで大した手当も差し上げられなかった、こういうことでございます。なおこういう点は私ども次の機会には、そもそも労災その他審議会の問題につきましては、私どもも基本的にこういう制度はしっかりしたものにしなければいけないという考えでありますから、だんだんと御指摘のような点を改善して参りたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/46
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047・岡本隆一
○岡本委員 今度はこういう制度に変えたいというふうな御意向をお持ちになってこの案をお作りになるときに、現在地すで委員をしていられる方の御意見をお聞きになったでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/47
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048・村上茂利
○村上(茂)政府委員 この法案につきましては、労働省にございます関係の四つの審議会、すなわち職業安定審議会、労働基準審議会、労災保険審議会、けい肺審議会、この四つの審議会に諮問いたしました。さらに内閣に置かれております社会保障制度、審議会にも諮問いたしたわけでございます。この五つの審議会を通じまして各種の意見を拝聴したわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/48
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049・岡本隆一
○岡本委員 五つの審議会にお聞きにはなったけれども、当該の委員の方の意向はお聞きになっていない。そこで私はこういう制度について、やはりその制度を動かしている人が一番事情をよく知っていると思うのです。何といってもそれは社会保障審議会か何審議会か知りませんが、そういうふうな方よりもやはり実際それに日々タッチしている人が一番よく知っていると思う。だから一応そういう人の意見も聞いてみられる必要があった。
さらにもう一つ意地の悪いことを申しますが、さんざん今までただで使うておいて、それであしたからお前ら用がないということで全然意見を聞かぬのでお払い箱なんです。これは考え方によればずいぶん失礼な話だし、また同時にこの人たちの今までの労苦とか、あるいはその人たちの人格とかいうものを全然無視した話だと思うのです。あらかじめ一ぺん、こういうふうなことも考えているがあなた方はどうお思いになるでしょう。ただでずいぶん来てもらって御苦労さんでしたが、今までの方がいいとお思いになるか、あるいは私はこうした方が運営上いいと思うのですが、あなた方はどうですかというようなことは当然あなた方はお聞きになって、その上で案をお作りになるのが筋道であり、またそこにほんとうの道義というものも私はあると思うのですが、それについて、委員の人は実際上これは寝耳に水なんです。通知を受けてあっとびっくりなんです。そういうことについてあなた方はどういうふうにお考えになっていらっしゃるのでしょうか、一つ御意見を承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/49
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050・村上茂利
○村上(茂)政府委員 御質問の点まことにごもっともでございますが、私どもといたしましてはおもな県につきまして内々意向を調査するということはいたしておりますが、特に中央の審査会の関係につきましては、審議会の委員であって審査会の委員をされておる方もございましたので、そういう方々の御意向も考えまして、その及ぼす影響といったものについての御意見を拝聴したい、こういうふうに考えていろいろ御意見を承わったわけでございます。なお使いっぱなしでぽいと捨てるというような非人情なことはどうかというお話でございますが、気持といたしましてはそういう点は十分了承で去るのでありますが、ただ制度の改廃に当ってのむのでございますので、そういった際にはしかるべくできるだけの措置をいたしたい、かように存じておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/50
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051・岡本隆一
○岡本委員 なお最後に一点お聞きしておきたいのですが、先ほども滝井君が言われましたが予算の問題です。事務費が百十三万円、人件費が二百八十二万円である。ところで二百件が中央に集まって参りまして、それをまじめに審査しようとするのに、これでもって妥当であるかどうか。逆にいいますと、この事務費を見ると、審査をしようとするのにどういう審査でやっていこうという計画かというあなた方の構想がわかると思うのです。全然意見を聞く気がないのです。少くも個々のケースを聞くのに、たとえは、職場で倒れたとします。その倒れたことが業務上か業務上でないか、倒れてどんと頭を打って意識を失った。そうして二、三日して死んだというふうな事件があったとしましょうか。かりに見た医師がそれを最初に脳出血というふうに診断をつけたとします。そうするとそれは業務上でなくなるのです。しかし脳震盪という診断をつけたら業務上になるのです。仕事をしていてすべってとんと倒れたというのであれば、かりに過失であろうと業務士になる。そういうことになると、そのときに診断した医帥、あるいは医師を転々として二人、三人と変えたとするならば、そのすべての医師からその診察した当時の状況を詳しく聞かなければならぬ。その次には当時現場にいました目撃者に倒れたときの状況をまたよく聞かなければならないと思うのです。頭を打ったか打たないかということが非常に大きなキー・ポイントになると思う。そうして死体解剖をしてあれば問題はないのでありますが、死体解剖をしてなければ——事実すべってこけてぽんと頭を打ちますと、スイカのたなを落したように脳が断裂するのです。脳が断裂しますと、そのために脳軟化症を起して脳出血と同じ症状でこんこんと眠ってしまうのです。さあこれはどっちかということを認定するのには非常な金がかかると思います。たとえば一件だけだって大勢の人を呼んでくるのに旅費がかかる、出張すれは出張旅費がかかる。それ一件だってやはり十万や二十万の金は吹っ飛ぶと思うのです。だから百十三万の金で何件の事実審理をやる腹なのか私にはわからないのです。少くも二百件について事実審理をやれば、この中の半分がかりに審査のために直接関係者の意見を徴するために必要な金が要るとしても、わずか五十万円の金では、何件についてそういう審理ができるかということです。だからこの金額から見ていくと、これはすべて書数審理だけで終るのだ、事実審理なんか全然やる気がないのだということをはっきり示していると思うのです。そこで問題を逆に振り返っていきますが、第一回の労働基準局の決定に対して不服だというので地方の審査官にかかる、審査官はろくすっぽほかの人の意見も聞かずにぽんとはねた、今度は中央で書面だけであっさり片づけられるというようなことで、その中にまじって事実ほんとうに補償しなければならない気の毒な人が、一片の官僚の無慈悲な識定のために、遺族が泣かなければならない、あるいは一生不具で困らなければならないということが出てくると思うのです。死んでしまえばあとの生活の問題はないかもしれませんが、かりにそれで中風と同じような状態になった、半身不随になったというようなときにはどうする一そういう点あなた方は、事務の簡素化というとどうしたら簡単に処理できるかということだけをお考えになって、実際の個々のケースをどうして親切に取り扱ってやろうかというあたたか味がないように思うのです。その辺について労働大臣はどうお思いになりますか、一つお考えを承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/51
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052・倉石忠雄
○倉石国務大臣 政府委員からお答えいたさせます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/52
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053・村上茂利
○村上(茂)政府委員 ただいま予算の点につきまして、いろいろ御指摘がございましたが、お話の点は二つに分れると思うのであります。第一の段階といたしましては審査官の段階でございます。ただいまお話のように、事故が発生いたしまして、それが業務上であるか業務外であるかといった問題が起りますのは、審査官の段階であるかと存じますが、そういった点につきまして予算的に見ますと、従来ありました制度でございますので、従来の実績に基きまして、予算としてはほぼ従来同様の予算が来年度も組まれておるわけであります。問題になりますのは、今回新たに設置されます中央の審査会の問題であろうかと存じますが、中央にその事案についての再審査の請求がございました場合に、証人あるいは鑑定人が出頭して鑑定をしていただいたり、あるいは証言していただくということもありましょうし、あるいは現地調査のために審査会のために審査会の委員が直接出向いて調査をするというような案件もあるかと存じます。一応予算的にはそういったいろいろのケースを予定いたしまして、証人喚問旅費とかあるいは日当旅費とか、そういった旅費も若干でございますが、計上いたしておるわけであります。なお予算的にはこれは十二カ月の計算でございません。年度の当初からこの審査会が発足することは、困難であると存じますので、施行期日を政令で別に定める、こういうことにいたしておりますので、十二カ月予算としますれば若干少い、かように思われる点がございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/53
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054・岡本隆一
○岡本委員 これは十カ月でしよう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/54
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055・村上茂利
○村上(茂)政府委員 一応十カ月ということで、予算を編成いたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/55
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056・岡本隆一
○岡本委員 問題は地方で審査会がなくなると、勢い中央へ不服が持ち込まれたときに、旅費日当が非常に膨大なものになってくる。だから地方でもって十分意を尽して、中央へ出てくるものは少くしなければならない、それからまた中央でもって十分意を尽すためには、地方でもって審査会の制度を残さなければならないという考え方を私は持つのです。この今度の法案によりますと、地方での従来の審査会というものはなくなる。私は中央で審査会をお持ちになるのは決して反対はいたしません。しかしながら地方の審査会をなくすということは反対なんです。だから私の方の党では、これは残してもらいたいという意向を持っておりますので、修正の意見を出したいと思うのですが、その節には、労働省の方も原案を固執するという狭量な態度に出られないで、心よく民の声を聞くという雅量を持っていただきたいということをお願いしておいて、私の質問を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/56
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057・佐々木秀世
○佐々木委員長 次会は明七日午前十時より理事会、十時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後四時二十六分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102404410X01319560306/57
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