1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十一年三月一日(木曜日)
午前十一時三分開会
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委員の異動
二月二十九日委員川村松助君及び平林
太一君辞任につき、その補欠として大
屋晋三君及び松野鶴平君を議長におい
て指名した。
本日委員松野鶴平君辞任につき、その
補欠として野村吉三郎君を議長におい
て指名した。
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出席者は左の通り。
委員長 高田なほ子君
理事
井上 清一君
一松 定吉君
亀田 得治君
宮城タマヨ君
委員
岩沢 忠恭君
野村吉三郎君
小林 亦治君
中山 福藏君
政府委員
法務政務次官 松原 一彦君
事務局側
常任委員会専門
員 西村 高兄君
説明員
最高裁判所長官
代理者
(事務総局家庭
局長) 宇田川潤四郎君
参考人
東京家庭裁判所
調停委員 大浜 英子君
専修大学講師 田辺 繁子君
東京家庭裁判所
調停委員 森川 静雄君
東京家庭裁判所
調査官 平野 博君
東京家庭裁判所
調査官 鮫島 竜男君
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本日の会議に付した案件
○接収不動産に関する借地借家臨時処
理法案(衆議院提出)(第二十三回
国会継続)
○家事審判法の一部を改正する法律案
(内閣提出、衆議院送付)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/0
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001・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) これより法務委員会を開会いたします。
議事に入ります前に、委員の変更について御報告をいたします。二月二十九日付川村松助さん、平林太一さんが辞任せられまして、大屋晋三さん、松野鶴平さんが補欠におなりになられました。三月一日付松野鶴平さんが辞任なされまして、野村吉三郎さんが補欠になられました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/1
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002・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) まず接収不動産に関する借地借家臨時処理法案を議題にいたします。法務委員会における法案審査の経過等につきまして、調査室長の西村専門員から御説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/2
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003・西村高兄
○専門員(西村高兄君) さきの第二十二回国会以降今国会まで審査を継続いたしました接収不動産に関する借地借家臨時処理法案につきまして、だいぶこれは長くなりましたので、立案の趣旨並びに審議の経過を御命令により御説明を申し上げます。
終戦直後進駐いたしました連合国占領軍が、その軍に供用するための不動産接収が行われましたとき、現行の一般法でこれを処理することが適当でありませんでしたので、政府は昭和二十年にポッダム勅令で土地工作物使用令を制定いたしましたが、接収行為にいろいろの態様がございまして、あるいは直接軍に不動産の占有を移す急速な必要上、事実行為が法律行為に先行して、その上の権利者が無視されたままになっておりましたり、あるいはまた防空のため建物を疎開した跡地をさらに接収するのに、その借地権者等現実の使用者を顧慮するいとまなく、土地所有者との直接の折衝によって権利関係を定めてしまったり、接収の継続中に借地期間が切れまして、その更新等の手続が事実上不可能のため従前の法律ではその権利を主張することができなくなったりいたしました事例がはなはだ多くありました事情を考えますと、右の政令だけでは、現在の法律秩序の維持、具体的に申しますれば借地権等の法的保護に欠くところがありますことはいなむことができないのであります。
そこでこの不当に消滅したり、相剋の生じております権利関係を調整いたしますための善後措置といたしまして、特別法の制定を必要とし、この目的を達する立法の構想もいろいろありますが、この法案といたしましては、原則として終戦直後にできました罹災都市借地借家臨時処理法を踏襲することにいたしまして、そのおもな規定と同趣旨の規定を設けたり、あるいは準用することにいたしたりしております。すなわちこの立法によりまして、接収当時借地しておりました者は、接収解除後その土地の優先借り受けができることにいたしました。この優先借り受けの申し出を拒否される場合もあるわけでございますが、それはきわめて少い場合に限られております。しかしこの優先借り受けによりまして、善意で、正当に不動産の上に権利を設定いたしました者が、その権利を侵害されることは、これまた適当でないことは当然でございますので、これらの利害の相反する権利関係を、接収当時の賃借人保護優先を建前としつつ調整する規定になっております。なおまた防空のため建物を疎開した跡地を、さらに接収された場合にもこの法案の諸規定を準用いたしまして、その土地の賃借人に保護の手を伸ばしております。
ところでこれと題名を同じくする法案は、衆議院の法務委員会で立案されまして、第十三国会から第十九国会まで継続審査されましたが、この法案では、接収当時建物だけを賃借しておりまして、その建物が滅失した場合にも接収解除後もとの土地で借地権を主張することができることになっており、つまり保護される範囲がもっと広汎でございましたのですが、十九国会ではこれを削除することにいたしまして、体裁を改めて現在の法案の内容となって衆議院を通過いたしました。これがさらに二十一国会の衆議院解散のときまで継続審査されまして、審査未了となり、第二十二国会に再提出して衆議院を通過の上、本院において今国会まで審査を継続して参ったものでございます。二十二国会におきましても、法務省からいろいろ意見を聞いておりますし、若干の質疑を行いましたけれども、本院での実質的な審議は、主として第十九国会で行われました。すなわち衆議院の法務委員会の方々からのお話、それから法制局、法務省、調達庁等の各方面からの説明を聞きまして、また日本弁護士連合会、全国接収借地借家復権期成同盟会、東京接収不動産所有者連盟、それから日本弁護士連合会は反対の御意見でございますけれども、なお弁護士の方で法案を支持する方がいらっしゃいますので、そういう方面のお話も参考にいたしました。
これらの審議の内容といたしましては、番号をつけて申しますと、一、この立法によって元の借地人、借家人を保護することによって、現在の所有者等善意の転得者に不測の損害を与えるということ。二、この立法をしなければ終戦後の急激な土地の値上りが土地所有者に多くの利益を与えるばかりでなく、接収という不可抗力によりまして、その土地の上の借地権、借家権等がその権利者に何ら補償または正当に更新する機会を与えることなく消滅して、更地の状態での所有権が確立するということ。三、この法案による所有権の制限は、公共の福祉のためということよりも、当事者間の利害調整の色彩が強いものであるけれども、これは憲法上の疑義を生じないだろうかという問題、四、この立法により当事者の一方に著しく損害を与える場合に、法律不遡及の原則との関係を考えないでもいいだろうか。五、この法律の効力の発生が接収解除という不確定なものを条件としているため、権利関係の不安定が将来も長く続くという法理的な問題。六、借地人の保護に厚く、借家人がほとんど保護されないという公平の問題。七、借地権復元の条件として、所有者などに支払われる「相当な借地条件」、「相当な対価」、これが条文に載つているわけでございますが、その「相当な」という意味に、いわゆる権利金が含まれるかどうか、これにより事実上借地人の優先賃借が不可能となり、この立案の趣旨が没却されてしまわないだろうか、あるいはまた所有者に不当な損害を与えるととになるか、そのいずれかになる場合の公平の問題。八、これほど全国的な問題である戦争の犠牲を、当事者間のみで調整するということよりも、政府として補償方法に具体的な誠意を示すべきではなかろうかという構想。こんなようなことが質疑の主要点でございました。そしてこれらの理由が勘案されました上、本法務委員会として、各党派の方のお話合いで修正案も用意されたようでございましたけれども、これは正式の審議には上せられませんでした。その後調達庁の調査もだんだん進捗いたして参りまして、全国に及ぶ接収不動産の実情もようやく判明して参りましたけれども、本法案としましては、法務省とか日本弁護士連合会、そういうところは終始反対の立場をとっておりますし、右の質疑の内容にも見られております通り、根本的に法律的な検討を要するものがなお多く残されているものと思われる次第でございます。
大体以上がこの法案の立案の趣旨、並びにただいままでの審議の経過の概要でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/3
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004・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) 別に御異議がございませんでしたら、本案につきましては本日はこの程度にいたしまして、次の議題に移りたいと存じます。御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/4
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005・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) 御異議ないと認めます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/5
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006・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) それでは次に家事審判法の一部を改正する法律案を議題といたします。本日は五名の参考人の方々から本案に対する御意見をお伺いすることになっております。
参考人の方々には大へん御多忙中のところ、本委員会のために特に御出席をいただきまして、まことにありがとう存じます。御承じの通り本法律案は家事審判法による審判または調停で定められました義務の履行状況にかんがみ、その実効を期するための法案でございまして、衆議院におきましては、その一部を修正の上参議院に送付されているのでございます。本日は皆様の御忌憚のない御意見を承わらせていただきまして、本案審査の重要な参考にしたい、こういうふうに考えておるものでございます。
なお、参考人の方々にまことに恐縮でございますが、時間の都合等もございますので、大体発言時間を十五分というふうなところにめどをおいてお願いを申し上げたい、こういうふうに考えるわけでございます。
なお、委員の方々に申し上げますが、参考人に対します質疑は、後刻一括してお願いすることにいたしたいと存じますので、あらかじめ御了承をお願いいたします。
それでは最初に東京家庭裁判所調停委員の大浜英子さんにお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/6
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007・大浜英子
○参考人(大浜英子君) ただいま御紹介いただきました大浜でございます。衆議院の法務委員会で修正されて通りました家事審判法の御審議に当りまして、私は修正されました個所、つまり十五条の二の「権利者の申出」によりというその文字を原案通りに戻していただきたい、これを切に望むものでございます。私は調停委員として実務に携わっている者でございますけれども、実は調停委員をしております者は、みなこの審判法で定められた家事債務について、履行を確保するにはどうしたらいいか、そのことについて非常にいつでも頭を悩ましているのでございます。ところが過日衆議院に提出されましたところの原案を伝え聞きまして、私どもは、私どもが長年願っておりましたところのそれが可能なのかと思ってほっとしたのでございますが、それが修正されたということを聞きまして、それでは骨抜きになってしまって何にもならないだろうというふうに考えたわけなんでございます。それで、私ども東京家庭裁判所の調停委員から成っておりますところの参調会で、過日この法務委員会の皆様に陳情書をお出ししたような次第でございます。幸いに委員長がお取り上げ下さいまして、皆様のお手元にそれをお届けいただきましたので、すでにごらんいただいていることと思います。
私はここで家庭裁判所という裁判所に対して、私ども調停委員みんなが考えておりますところの家庭裁判所のあり方あるいは家庭裁判所の使命、そういったようなことを申し上げまして、皆様にお考えをいただき、そしてそういうような使命を持っておりますところの家庭裁判所が向うところの方向には、今日ここで御審議願いますところの家事審判法というものはどうあらねばならぬかということをお考えいただきたいと、こう思って出たようなわけでございます。家庭裁判所という裁判所は、申すまでもなく、特殊の任務あるいは使命というものを持っているものだと、こういうふうに私ども家庭裁判所で実務に当っている者は、考えているようなわけでございます。特殊の任務あるいは使命と申しますのは、家庭裁判所というのは家族間の問題、ことに人間というものを対象にして、その人間でもって作っているところの健全な家庭というものの生活を維持するために、紛争が起った場合に、どういうふうに解決したらよいか、どういうふうに解決するのが円満なのか、こういうようなことを常に考えておりますので、法律というものがもちろん一番大きなものさしになることは当り前でございますけれども、それに加えて、現実の社会の環境の中にあるところの道徳とかあるいは社会正義、そういったものが法律と並んで非常に重要なものだ、重要なものさしだ、むしろ法律が現実の生活の中でもってどんなふうに守られているか、人々の家庭生活が家庭裁判所の審判あるいは調停できめましたことに対しましてどうなっているか、どう守られているか、そういうようなことに非常に大きな関心を持っているのでございます。ここにおいでになります委員の皆様方にこんなことを申し上げるのは大へん恐縮なんでございますが、親子とか夫婦、そういったような者の争いは、理屈というよりも、あるいは法律というようなことよりも、感情が大へん大きな障害となっておりまして、これをほぐすこと、これが一番大きな調停委員としての仕事でございまして、対立して、それから憎み合っているような感情をほごすためには、いろいろの面からの、たとえば心理的とかあるいは精神分析とか、いわゆるケースーワークの努力がなされる。やっとそういうふうな努力の後に、ほごされた感情でもって相手の立場を考え、そして初めて調停というものが成り立つたのでございます。そして今日人間関係の争いというものは、こういうような方向でもって解決しなければならないというようなことが、日本の家庭裁判所だけの問題でなくって、外国でもこういうような方向に向っていることは皆様すでに御承知のことと思います。で、慰謝料が幾らとか、あるいは財産分与のものがどれだけときまりますのも、結局、程度の差はございますけれども、いろいろないきさつを経て、調停の結果冷静になって感情の調整ができた、その当事者のどちらもが納得の上でもって、そして納得で支払うべきものは支払うというようなことになるのでございますが、義務者というのはだれに言われなくても支払うに違いないというような筋合いのもの、またそういうふうに持っていくのが調停ということの本筋だと私ども考えているようなわけでございます。ところが御承知のように、慰謝料あるいは財産分与とか申しますものは、金額も相当大きくまとまりますし、よく分割払いというようなものが多くなるような実情なのでございます。ことに扶養料とか生活費というようなもので、毎月払いというようなことになりますと、とかく支払わない。ことに慰謝料の分割払いなどと申しますと、まあ、きめたあのときは、なるほどと思ってきめたのだけれども、そのうちにほかに必要なことができたとか、あるいは別れた妻にやるのが惜しくなって出ししぶる、こういうような事実があるのはよく私どもが知っているところでございます。他人に借りたお金を返すのと違いまして、慰謝料というものはかつて家族であったもの、また現に自分の家族とつながる者に対しまして、しかもそれがすでに愛情がさめた者に対して支払うお金というものは、非常に感情的になりがちなものでございます。どぶに捨てても慰謝料なんかやるか、というふうなことを、そういう感情的な言葉をよく私たち調停中に聞くことがあるのでございますけれども、こういうような感情で、一たんきめた支払い義務を履行しない人が相当にたくさんあるということは、過日家庭裁判所が出しておりますところの履行状態の資料をごらんになってもおわかりいただけますので、ここにどうしても履行確保ということをしなければならないというような切実な願いは、全国の家庭裁判所全体の問題なのでございます。しかも履行の状況はどうか、つまり支払うべきその義務者が支払っているかどうかという調査、そしてもし支払っていなければ支払うように勧告をする、注意をする、こういうことを進んで家庭裁判所がすれば、その履行確保ということは、相当完全に行われるのじゃないか。しかも平和のうちにその履行を確保するということが成功することは疑いのないところだと、私は現実に問題にぶつかっておりまして思うのでございます。家庭裁判所の特殊な任務というのは、普通の裁判所のようにお互いが対立して、証拠を出し合ってどっちが勝った、どっちが負けたというのをきめるのでなくって、先ほども申し上げましたように、お互いの感情を調整して、両方が納得して事をおさめる、家族の間の争いは、勝ったり負けたり、そういうことをきめるのでなく、紛争をやめて、新しい人生を歩み出すための調整、こういうようなところが家庭裁判所と普通の裁判所との違うところで、ここに家庭裁判所の特色があると、こういうふうに私は了解しているのでございます。
この了解がもし間違っていないのでございましたら、家庭裁判所は普通の裁判所と違う行き方をしてよいのではないか、こう思うわけでございます。つまりケース・ワークをとり入れたところのアフター・ケア、これこそ家庭裁判所の特色だ、こう言えると思います。御承知のように、家族の間の問題についての家事債務ということを、強制執行というような強い力を用いることは、かえって紛争を深めることでございます。それで強制執行以外の努力をもって解決しなければならない、解決したい、これが家庭裁判所に携わつております者の全部の願いでして、ここに家庭裁判所というものが生まれた理由もあるのだ、こういうふうに信じております。強過ぎることをせずに、しかも悪質の不履行者に対して権利者を保護する道、これが今のところアフター・ケアということにあるのではないかと、こう思うのでございます。こういう意味で、衆議院でもって修正されましたところの、「権利者の申出」によるという文字は、ぜひここで御修正を願いたい。そうして家庭裁判所としての使命が果せるように、皆様のお力によってできますように、私は切に望むものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/7
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008・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) ありがとうございました。次に専修大学講師の田邊繁子さんにお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/8
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009・田辺繁子
○参考人(田辺繁子君) 私に意見を述べます機会をお与え下さいましてありがとうございます。
私もやはり衆議院の修正いたしました権利者の申し出により初めて家庭裁判所が調査などができるというその修正は、ほんとうに法律がせっかくもしできますならば、骨抜きになるのでないかと思います。なぜかと申しますと、せんだっても申しましたが、ほんとうに困っている人たちの程度というものは非常なものでございまして、私よく飛び込んで来る方にお会いいたしまして、たとえば子供が学校へ行くのだが、学校へ行く費用がないとかおっしゃいますので、母子福祉資金の貸付ということが行われておりますが、御存じありませんかと申しますと、私は新聞も取れませんと。ラジオなんかでもってこの間も言っておりましたがと申しますと、ラジオを置きますと生活保護がいただけなくなりますというふうな訴えがあるのでございまして、ほんとうに啓蒙とか宣伝とかいろいろなことをいたしましても、今日あえいで苦しんでいる方たちには、どうしても達しないのでございますから、ほんとうに根本的にこちらが——私は家庭裁判所の調停員を六年やっておりましたが——非常にあとを引いて気になる事件というのがございますので、あれは払ってもらっているかしらというような気持のものは、進んで職権で調べるようにしなければ、ほんとうの家庭裁判所の趣旨を徹底することはできないのじゃないかと思っております。
第二に私が申し上げたいのは、家庭裁判所できめられましたところの権利というものは、一般の権利と異りまして、非常に権利者の方が弱い立場に立つのでございます。一例を申し上げますと、家庭裁判所で子供の養育費を毎月二千円もらえるようになった、十五日にはもらいに行きますというようなことがございましても、まあ私の知っているその人はいつも参ります。そういたしますと、直ってしまったおめかけが、まるで犬に水をぶつけるように、ばり雑言で、水をぶつけるようなことをいたしまして、払ってくれない。そういうことを繰り返し繰り返ししながらも、何とか救って下さる方法はないかと言って来られますが、私がしておりましたころは、まだ調査官制度が発達しておりませんでして、困っておりますうちに、ついに女性というものは、自分の権利を主張いたしますのに、何か障害があったり抵抗があったりいたしますと、今までのあきらめなさいとか、女は黙っていらっしゃいとか、女は忍従していればいいのだとかというような、家族制度的な長い習性につきまとわれてしまいまして、ついには泣き寝入りしてしまうのでございます。皆さん御存じのように、売春に走っている人たちの七〇%までが子供を一人あるいは五人も持っているところの離婚した人、あるいは未亡人であるということを御存じ下さいましても、いかに私どもの保護というものが、こういう面で十分でなく、あきらめて転落している人が相当数あるということが、わかるのではないかと思うのでございます。
次に私は、たびたび衆議院でも申されておりますが、家事事件を特別に扱うのはおかしいというような問題がよく出ておりましたが、権利の主張を保護するということは、家事事件であっても、民事の普通の裁判所の事件であっても、同じようにすべき問題ではないかと思います。皆様もよく芝居なんかでごらんなさいますように、借りた人たちが食べられなくなっておりましても、執達吏が参りまして、なべかままでもひっさらっていくというようなことは、しょっちゅう見せられてきたことなんでございますから、そういうふうに民事事件では、今その人が払えなくなっておりましても、たとえばそれが他人のためにした保証でありましても、家蔵さえもとられてしまうというくらいに権利は保護されておりますが、またこの権利が保護されているという面において、世間においての経済上の取引の安全もあるんだと私は感ずるのでございます。ことに先ほど申し上げましたように、家事事件の権利者が非常に弱い立場におりますというような面からも特別に保護をして、この権利というものの主張が十分に達せられるようにしなければ、家庭裁判所の存立の意義がないのではないかと思いますので、やはり職権をもって心配な事件は調べて上げて、私といたしますと、ほかのイギリスなどでは全部を調べているのでございます。たとえば一年に二万件ある、それを調べるのは大へんだというようなことをお考えになるかと思いますが、一年に、同時に東京家庭裁判所に二万件発生するのではなくて、あちこちの裁判所に漸次に発生するのでございますから、履行期が過ぎた事件については、自動的に調べるということができると私自身は思うのでございます。ぜひそれを調べていただきまして、そうして不履行がございますときには「履行を勧告することができる。」というのでは不十分だと思います。不履行がありましたならば必ず権利の保護の意味で履行の勧告をしなければならないというふうに、参議院では考えていただきたいと思うのでございます。「履行を勧告することができる。」ということになっておりますと、私は十分に保護されないんではないか。と申しますのは、何と申しますか、人は神様のようにわからないのでございますから、片方の権利者が困っているということが十分に裁判所にわからない場合がやはり起るのではないか。
それともう一つ、「履行を勧告することができる。」ということになっておりますことで権利者が保護されないばかりでなく、裁判所というものがみずからいたしました審判とかあるいは調停の結果をみずから侮る結果を生ずるのではないかと思うのであります。ずいぶん月日を費して、二万円なら二万円を払えるであろうという目安をつけてきめた事件に、たとえば申し出されたり、あるいは職権で調べたときに「勧告することができる。」の程度で、まあ今は勧告ができないというような立場をとりますと、もし勧告されないというような場合は、裁判所が自分の所信をまげてしまうことになるのではないか。十分に保護の努力をしていないと思います。
それでこのことはもう一つこういう面を持っております。東京家庭裁判所なんかではあまりそういうことを聞きませんが、地方のいなかの方へ参りますと、大がい当事者は、裁判をしている判事さんあるいは調停委員たちのどちらかと顔見知りであるという場合が多いようでございます。ですから私の事件はこうこうだったけれども、私でなくて相手方の調停委員さんが親類続きであったのでこんなに負けましたというようなことは、ちょっと東京を踏み出しますと至るところで聞くのでございます。ですからほんとうにもう必死の叫びで申し出でておりますのに、私の取り立てに勧告もして下さいませんでしたというような事実が、そういう小さな村とか都市で起りました場合には、やはりあの裁判官はあっち方だったのです、あの調停委員さんはやはりあっち方だったのですというようなことになりますと、裁判所の不信の問題がほんとうにここに起ってくるんではないか。それが何といいましても弱い者は卑屈になっておりまして、裏裏と考えるような立場に泣かされておりますから、そんな声が起りますことは裁判所の威信のためにも不幸であると思います。
これは最近ある地方の都市に参りましたら、離婚はふえているのに裁判所の事件が減っているという事実に直面いたしまして、調停委員さんや所長さんがみな心配している。家庭裁判所の事件が二つあれば一つまでが取れない、不成功に終っているというようなことが、もり町中に広がっているのではないか。それであんな所へ打ったってだめだと言って、来ないという事実がこの数字の減少に現われているのではないかということを、この一カ月ほど前に大へん深刻な心配して私は語られたのでございます。ですから裁判所のきめたことが行われないとか、勧告を手心するというような面は、絶対に裁判所の権威を保つゆえんではないと私は深く信じておりますので、この点必ず不履行があった場合は勧告をしていただきたい。それでもし相手方がそのとき応じられないような、たとえば長わずらいをしていて応じられないとか、いろんな事情がありましたならば、そのとき相手方は裁判所に了解を求めてくるだろうと思います。そのときお考えになって、当事者にもまかってもらうという努力を裁判所はして下さるべきではないか。そのように考えているのでございます。
それから家庭裁判所の事件でもう一つ申し上げたいのは、私は専修大学で講義いたします都合上、毎年調停の統計なんかは非常に詳しく調べているのでございますが、驚くなかれ、扱います事件の半数までは何ももらっていないか、未解決に終っているのでございます。
それから地方の家庭裁判所などでは、家風に合わないとか、ほんとうにこれといったこともないのに、八割くらいまでが追い返されたりしております。戸籍を入れておりますと離婚となりますし入れておりませんと内縁解消という問題で扱われておりますが、そういうふうに一年以内で追い返されておりますような事件は、もう絶対に何ももらっていないのが圧倒的に多いのでございます。ですから女中でも一年もおりましたならば、お手伝いさんにもお礼かなんかをして送るのに、大がい皆さんも御存じのように、この事件の八割までは夫の不貞というような、妻側には非常に悲しい、夫の方には悪いことによって起る争いの調停、審判でございますのに、その結果は何ももらっていない。あるいはもらいましても、五万円以下、一万、三万というのが圧倒的に多い数を示しておりまして、家庭裁判所においては、ほんとうに営々として糟糠の妻がしたところの内助というもの、あるいは子供の養育費というもの、あるいはそれによって侵害を受けた慰謝料というようなものの正当な評価を今まで絶対にしていらっしゃらないと考えられるのでございます。このことはこの支払いが十分に行われないということを見通していらっしゃる、あるいは分割がむずかしいならば一時といえば、低賃金、低サラリーを受けております日本人の支払い能力に限度があるので、仕方なくまた下げていらっしゃる。このようにして女性の人権が侵害されておるのでございますから、ここにもし確固たる履行確保の額が開かれますならば、やはり裁判官も所信をもって相当と思われる額をきめて下さるのではないかと思われるのであります。
以上申し上げました理由によりまして、この「申出」というところを取っていただいて、勧告をすべきであるという強い線を出していただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/9
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010・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) ありがとうございました。
次に東京家庭裁判所調停委員の森川静雄さんにお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/10
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011・森川静雄
○参考人(森川静雄君) 私は家庭裁判所の調停委員を相当長くやっております。今日では調査官丁という制度ができまして、前よりは多少緩和されておる気配はあるのであります。私が扱いました事件でたった一つ、こういう法案があったならばとこう感じましたことがありますので一例として話させていただきます。
これは正妻以外に二号さんでありましたが、子供がありました。そうして捨てられたのです。そこで私が調停委員といたしまして、月二千円という額できめたのであります。先ほど大浜先生の言われましたように、感情のもつれというものをまず調整いたしました後に、金額をきめるのでありまして、お互いに納得づくであります。従ってその支払というものは、私どもの考え方では当然に履行されておるものと信じ切ったのであります。ところが人の習性というものは、一たんきまったことが三カ月たち、半年たちするうちに支払うことがばかくさくなる。いつとはなしにこれが支払いの時期がおくれてくるようになりました。この人は自分が胸をわずらいまして仕事がなかったために私のところへ泣きついてきた。で実は家庭裁判所というものは事後処理にまで入ってよろしいだろうかどうかと理論的に私は疑問を持ちました。しかしながら実情はいかにも気の毒であります。従ってやむを得ず強制執行の手段に訴えたらよかろうというのでやらしてみたのであります。もうすでにそのときは七、八カ月たったあとであります。よくよくのことで泣き込んできたのであります。そこで手続を教えまして強制執行をやりました。ところが驚くなかれ行方がわからない。仕方がなしにずいぶん調査いたしました。やっと大森のアパートにいるということがわかりました。そこで強制執行いたしましたらわずかに売得金七千円でありまして、これで泣き寝入りにならざるを得ない。子供が義務教育を受けるまで毎月二千円という調停であった。七千円で泣き寝入りができますか。再び泣きついてきました。でやむを得ずこれはこれ以上裁判所が関与するということは法文にはないのだ、これではならんというのであらためてもう一ぺん申し立てをさせました。そこで相手方を呼びましてじゅんじゅんと前のことを説き、あなたは納得したじゃないか。しかもあなたの子が毎日飯を食わなければならぬのです。わずか二千円、これだけを支払わんために自分の子供が目に見えなくとも悲惨な状態になってしまう。ところが経済事情が許さんとかというてなかなか言うことをききません。やむを得ずその人の妻を呼び出しまして実情を訴えて、やっとこの奥さんからまたぼちぼち支払ってもらうことにいたしました。私がこの事後処理に関係しましてからすでに四年経過いたしました。いよいよ行き詰まってしまった。それでも支払わない。で奥さんと相談いたしまして、どうにもこれでは長い間やっていけん。しかも裁判所からこう呼び出しを受けてはかなわん。こういうことで本人とよく相談いたしましたあと、それでは今後四万円に達するまで毎月払ってくれ。それで打ち切りましょうということでやっとこれはケリをつけました。しかしながらかくのごときあやふやな解決では私は済まされんと思います。今日統計をごらんになりまして、衆議院でも問題になっておりましたが実際にくれないのはわずかな率じゃないか、一〇%程度に過ぎんじゃないかという議論も承わりました。しかしながら普通の民事事件におきましては、これは強制執行によってとれなければとれなくても執行不能の調書をもって利益の方から差し引くことができて税金を免れることができます。しかしながら家庭裁判所の問題になりますれば一日ももらわないならば死ぬのであります。社会制度が、もう少し社会保障というものが強化されておりまするならばこれはまた別でございます。しかしながら今日の状態におきましては実際に食うに困る、もう死ぬよりほかには手がないという人たちが、この一〇%の中の一人なんであります。これを見殺しにしてはならん。家庭裁判所というものが事後処理にまで関与しなければならんという、私ども実務を扱いました者の声が大きくなりましてこの法案になっているのであります。衆議院におきましては寄託の問題と過料の問題に議論が集中されたようであります。勧告の問題につきましてはこれは当り前だろうというふうに議事録を拝見いたしますと見られるのであります。にもかかわらずそれには修正をされているのであります。なぜ裁判所が職権をもって勧告するのがいけないのでありましょうか。なるほど履行命令という強い命令ならばこれは権利者の申し出、当り前でありましょう。しかしながら勧告をするぐらいは、権利者の申し出がなくても裁判所独自の立場から職権によってこれを調査し、勧告するということぐらい当り前ではあるまいかと私は考えるのであります。こういう意味におきまして私はこの修正案は反対なんであります。この法案に賛成して下さるならば無修正でこのまま原案通りの法律として通過さしていただきたいことを私どもは心から念願するものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/11
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012・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) ありがとうございました。次に東京家庭裁判所調査官の平野博さんにお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/12
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013・平野博
○参考人(平野博君) 私東京家庭裁判所の調査官をいたしておりますが、実は担当は少年部の方を担当いたしておりまして少年事件を扱っております。家事事件につきましては今まで全然経験がございませんので、この改正案の内容について意見を申し上げることは私としては遠慮申し上げたいのであります。はなはだ勝手でありますが意見を述べることは差し控えたいと思います。ただ家庭裁判所の調査官といたしまして、一言だけこの法案に調査官が関係がございますので、調査官のごとについて一言申し上げたいと思います。
この改正案の骨子であります家事債務の履行確保につきまして、いずれこの法案が実施の暁になりますと、実務上は家事係の調査官がこの仕事の相当広い範囲を担当することになるだろうと思います。これは非常に仕事としては大切な、大へんな仕事なんでありますが、しかし現在の家事係調査官の実力から見ますと、このような事務の処理は十分になし得る、十分にこういうような仕事にたえ得ると思うのであります。従いまして調査官の能力の上からいうと、この法の改正につきましては何ら心配するところはないと申せると思うのであります。私の見るところでは私ども家庭裁判所には少年係の調査官と家事係の調査官と二つ並んでいるわけであります。家事係の調査官、少年係の調査官もこの能力においてはまったく甲乙がないのであります。それにもかかわらず少年係の調査官の方は、もしあとで説明の機会を与えていただきますならば申し上げたいと思うのでありますが、相当高度なケース・ワークの権能を与えられておるのであります。この仕事の内容のある部分にはレフェリーがやってもしかるべきような相当高度なケース・ワークの仕事を与えられております。しかも何ら支障なく相当能率的にやっておるのであります。そういうようなことから考えますと、現在の家事係の調査官というのはむしろ相当実力を持っておって、しかも法のうしろだてがないために十分に実力を発揮できないでおるというのが実情であります。このような法のうしろだてができまして、履行確保というようなことが実現されますと、家事調査官といたしましても、十分その力を発揮しまして、この法の円滑な運用ができるということになると思うのであります。その点家庭裁判所の調査官といたしまして、保証する意味で一言申し上げておきたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/13
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014・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) ありがとうございました。次に東京家庭裁判所調査官の鮫島竜男さんにお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/14
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015・鮫島竜男
○参考人(鮫島竜男君) 私は東京家庭裁判所におきまして家事係の調査官をいたしております。今回問題になっております履行確保の問題につきましては、全国の家庭裁判所の調査官が扱う面が非常に多い。しかもまた全国の家庭裁判所の調査官がこの問題に対して非常に苦労しているのであります。そういう場合におきまして、調査官に対してこういう調査官の意見を述べさしていただく機会を与えていただきましたことを非常にありがたく御礼申し上げます。
家庭裁判所で一番問題になるのは離婚事件でございます。東京の家庭裁判所におきまして調停事件、昨年は五千四百九十四件、そのうち離婚事件としまして千九百五十一件、それから婚約とか内縁とか、合計八百五十二件、それを加えますと二千八百三件になります。そうしますと、調停事件の半数以上六〇%というものが離婚事件になるわけでございます。それから扶養の事件が大体百円十件ですから、今度履行確保の問題が起りますのは大体こういうような離婚事件、扶養事件から起ってくる問題に生ずるわけなんでございますが、ここにおいてこの離婚ということについて私の考えていることを述べさしていただきますと、まず第一に家庭裁判所におきまして、離婚という言葉を使わないということであります。離婚事件は、ここに記録を持っておりますけれども、家庭裁判所に離婚といって持ってきても、家庭裁判所では事件名として離婚ということを言わないのであります。それは夫婦関係調整と言うのであります。というのはなぜかといいますと、離婚ということを事件名にうたいますと、これはもうその事件が離婚するのだというようなことになると、その相手方に対して非常に悪い印象を与えます。ですからそういう点を気をつけるために夫婦関係調整、なるべく調整をする。そうして調整した結果離婚するということがその夫婦のためになる、あるいは夫婦がその離婚に同意するというような場合、初めて離婚ということが結論的に出てくるわけでございます。ここに問題があるのでございまして、家庭裁判所の離婚といいますけれども、これは要するに人間関係の調整なんでございます。ヒューマン・リレーションのアジャストメントなんであります。このことが問題の出発点になると思うのでありますが、離婚事件の目的というものが何になるかと申しますと、決して調停調書に署名するということ、あるいは離婚判決に署名するということでは私はないと思うのであります。そういうことで離婚の判決に署名するということにおいて法律的には問題が解決しますけれども、ヒューマン・リレーション・アジャストメントは必ずしもそれはできないわけであります。これは何かと言いますと、離婚の問題は三つ考えなければならないと思います。それは離婚の家庭裁判所の中に問題が起ってくる前に起っている問題、それから裁判所の中に入ってきてからいろいろ手続上に起るところの問題、最後に、離婚が済んでしまったあとにおいて起るところの問題、この三つがあると思います。そうして訴訟におきましては、その離婚事件の裁判所に起ってくる前に起ったいろいろな問題、たとえば妻に不貞があったとか夫に不貞があったとかあるいは遺棄があったとか、それがあったかなかったかというようなことを法廷でもってお互いに論じ合い争って、それが不貞な行為であるとなれば、裁判官がそれを判決するわけであります。ところがそれで問題が解決する事件としない事件とがあると思うのであります。たとえば民法七百七十条の離婚原因の中に、生死が三任以上不明というような場合、あるいは精神病で回復の見込がないというような問題、これは訴訟でやらなければ扱われません。相手がいない場合において調停のしようがないわけであります。また相手が精神病である場合においては、それは意思能力がないのですから調停の対象にならないわけです。ですからそういう事件というものは離婚判決することによってもう解決してしまうわけであります。ところがそうじゃなくて遺棄とかあるいは不貞というような行為の問題になりますと、これは要するに家庭裁判所の調停で扱わなければならないのがほとんどでありますが、それは裁判所の中に持ってきて、そうして不貞があったとかなかったということを争って、それでもって不貞があったから離婚するというのじゃなくして、その婚姻というものを一つの生きものと考えまして、その婚姻が果して死んでいるのかどうかということの診断をするわけであります。そうしましてその離婚の手続中において争ったりするということは、結局その夫婦関係をますます悪くする。ですからそこにケース・ワーク的な感覚も要るし、非常な慎重な手続きをふまなければならないわけです。そういうような手続をふんで、あとでたとえば離婚になったといった場合、それでその夫婦たちは問題が解決してはいないわけであります。そのあとに問題が残っているわけです。家庭裁判所の扱い方、特にケース・ワーク的な観念における問題の扱い方、言いかえますと人間関係の間の調整、ヒューマン・リレーションのアジャストメントというものにおいては、その最後まで見てやらなければその調整とか人間関係の解決というものはできないわけであります。
これを少し変ったお医者さんの立場から見ますと、離婚というのは外科手術であります。お医者さんが外科手術しまして、あなたもう外科手術済んだからお帰りなさいという人はいないと思うのであります。やっぱりしばらくの間病院に入院させておいて、その予後を見て、これならばもう大丈夫だということで初めて帰宅させるわけであります。離婚という問題はそれと同じでありまして外科手術でありますから、アメリカにおきましては、離婚が成立しますと、これは言葉は悪いのでございますけれども、保護観察に付していろいろな世話をしております。それは二カ年間ぐらい見ていて、そうしていろいろな経済上の問題ばかりでなく、その人間関係の調整ということも調査官というような立場の人が見てやっております。日本ではいろいろにアメリカとは事情が違いますから、そういうような離婚が成立したあとまで人間関係の調整までする必要はないと思いますけれども、その日本で今問題になりますのは、結局その生活の問題についてはほうっておかれない状態にある、それで家庭裁判所に起ってくるいろいろな問題というものは、法律あるいはルールなんかでもってきめていないいろいろな問題が発生してくるわけであります。そうしますというと、たとえばお金を払わないからといって家庭裁判所に訴えてきます。それは法律がないから私のところでは扱いませんとはそれは言われないわけです。その人の生活に、もう今日の生活に響いてきている問題を、家庭裁判所ではそういうのは法規がないからではすみません。そういう問題がたくさんありまして、結局そういうものが訴えられてきますと、裁判官がお会いになる場合もあるし、あるいは書記官が会われることもありますけれども、大体そういうことを扱うのに最も適しているというのはやはり調査官ということになりまして、われわれのところにその事件が、そういう問題が回ってくるわけであります。それで法規にないからと言ってすみませんので……、ですけれども、たとえばその夫が金を払わないといった場合に、その夫に対して裁判所が連絡するということを非常にわれわれは警戒しているわけです。法規がないのだから、あなた払っていませんかという手紙を出すことすらわれわれは非常にちゅうちょをするわけであります。どうして裁判所にそういう権限があるのかと開き直られたときにはわれわれほんとうに困るわけであります。ですからはがき一枚書くにしても、裁判所という名前のない、たとえば私書函あたりの番号の入った封筒を使うとか、それからあるいは電話をかけますような場合も交換手の人に、こちら家庭裁判所であるということを言わないでおって下さいよと言って、そうして向うに電話をして、そうして内容の話し合いを進める、非常に注意してやっているわけであります。しかし、それでもなお問題が解決しない。家庭裁判所において困難な事件ということをよく言うのでありますけれども、家庭裁判所で困難な事件というのは何かと言いますと、法律的に非常にむずかしい問題とか、あるいは当事者が非常に対立している事件とかということじゃないのであります。家庭裁判所でいつも困難な事件というのは、当事者が不誠意な事件、家庭裁判所に協力してくれない事件、このちょっと例をあげますと、夫婦が争っておりますと、妻の方が家庭裁判所に調停を出します、そうしますと、夫は何だ裁判所に訴えたと言って怒っちゃう、それですから裁判所が呼び出しを出しても来ません。それは地方のようにまだこう県庁とか裁判所というものが相当まだ威力を持っておるわけでありますけれども、東京あたり裁判所といったってあまり威力がないわけであります。大きな官庁がたくさんありますから、何だこんなものというようなことで投げられてしまう、私がいつか言ったことがありまして、何かはがきが参りましたよというようなことがある。そういうような状態で当事者が出てこなければ調停はできない、仕方がないから結局調査官行って呼び出してくれと言われます。調査官は非常に迷惑なんです。調査官というのは、このごろは非常に優秀な人がたくさん入ってきています。そうして、しかむ法律職でない文科方面の心理学であるとか、経済学というような、そういうような門戸を広げておりますから、去年おととしあたりは東京でも一流の大学の一流の学生が入ってきております。それが家庭裁判所へ入ってきますと、呼び出させるわけです。これはいやでいやでしょうがない。呼び出しというのは、地方裁判所あたりでは小使さんがやる仕事ですけれども、これをやらなければ調停ができないということで、われわれそれを引き受けているわけであります。ですからこれは昔の司法制度で言ったら全然説明がつかないので、呼び出しというのは事実の調査のうちに入らないでしょうと開き直ってもいいかもしれない、ところがこれをケース・ワークの観念で説明すればりっぱに説明つくわけであります。要するに両方とも夫婦が争っていれば当事者が困っているのでありますから、ですから調査官が出て行って家庭裁判所の扱い方をよく説明して、そうして、あなたも非常に困っておるんだから、それを手助けして何とか解決してあげるんだということをよく説明しますと、向うが逆にこっちにとっついてきて、非常に力にして、あなたについていけば問題を解決してくれるということで、家庭裁判所に調査官を慕って出てくるというようなことをやっておるわけです。これは非常に困難なことであります。このような履行確保の問題につきましても、こういうような事件当事者の不誠意な事件というものは実に扱いにくい。
それで最後に、この履行確保の不誠意な事件というものを申し上げてみますと、ここに持って来ておりますけれども、この事例は、夫の出征前に夫婦が結婚して、夫は出征をしていた、そしてその間妻は夫の実家でもって百姓を手伝っておって、まあそれで夫の帰りを楽しみにして待って、そうして夫が帰って来たのでありますけれども、夫の愛情がもとのようにならない。それから妻はその農業を手伝っておるようなことで非常に体をこわして、そうして結核になってしまった、結核になってしまったので夫から捨てられた。現在私はことしになりまして百八十五件ぐらい調査命令を受けておりますが、そのうちに履行確保の事件が十件来ております。十件来ておりますうち四件は病気です。これは病気で、結核が二件です。病院に入っておって、そうしてまあ医療保護を受けている人も受けていない人もありますが、とにかく調停でもってきまったこの幾ら払うというそれをたよりにこの人は生活しているわけです。これを払ってくれないというのは、この人の生活に、生きるということに直接響いてくる、これを私たちが扱うわけですけれども、どうしても払ってくれない。私たちはこういうような問題になりましたときにどうしていいかわからない。結局私たちは、よく冗談に言いますけれども、とにかく誠意を持って相手方に払うべくその人に言いますけれども、それでもどうしても払わない場合があります。その場合にはしようがないから、法律的には私たちはやらなくてもいいことを、あなたに気の毒だからやっておる、最大限のことをやっておるんですから、これ以上はどうぞ国会に行って下さい、国会議員の方を知っておられますか、そうして事情を訴えて下さいと、よく私たちは冗談に言います。そういうふうな扱いをしながら、ともかく誠意を持ってその事件を扱う、誠意を持って払うように相手に訴えるというようなことを、われわれはもう年中やっているわけであります。事例はたくさんありますけれども、少し長くなりますけれども、それについて何らの法律的根拠がないというととは、調査官としても非常に励みにならない、うしろにバックしてもらうものがないということが非常にわれわれの悩みであります。しかし今度このような法案を幸いにして通していただきますれば、われわれは勢いを得てこの事件に、こういうような問題の解決に当りますが、どうか一つお願いしたいことは、調査官というものは決して役人と言いましてもケース・ワーカーと言いまして、決して権力でもっていろいろな仕事をしているわけではないのであります。こういうような家庭の問題を権力でもってするということは下の下であって、一つも解決になりません。ただこの家庭裁判所というのは公平裁判所であると思いますけれども、要するにバランスがとれていない。要するに男と女との間にバランスがとれていない、そのバランスをとってやるというのが裁判所の仕事でありますけれども、ところが裁判所の側とそれからまたその義務者との間にまたバランスがとれていない、そのバランスをとるように、こういうような法律を作っていただきたい。そういうように努力しているところでありますのでこの当事者の申出により、というようなこと、この修正は私、少し言葉が過ぎるかもしれませんけれども、これは家庭裁判所特に裁判所の中でのこの事務を扱っております調査官に対する不信任の表示であると私は思います。お前たちが信頼できないから、だから、こういうふうにしか私たちにはとれない。われわれはこのアジャストメントにほんとうに使命を感じて、努力しているところにこういうような水をさされるということは非常に私たちとしては納得がいかないわけです。
最後にもう一点、この離婚の事件というのは人間関係を調整するものであるとするならば、そうして問題の発端から、その夫婦の持っている問題の発端から最後までそれを解決しようとするならば、これは当然に裁判所がそういうものを調査して、申出がなくても調査をしてそうしてこの問題の解決をはかるということを努力すべきものであろうと思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/15
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016・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) ありがとうございました。
以上をもちまして参考人の意見の陳述が終ったわけでありますが、参考人に対しまして御質疑のおありの方は御質疑願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/16
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017・一松定吉
○一松定吉君 参考人の方の御意見よくわかりました。私もあなた方と全く同意見を持っておりますが、衆議院の「権利者の申出があるときは、」という文字を入れたということは、私も不適当だと思っております。そこでこの衆議院の修正の文字を取り除けたときに、この十五条の二の活用はどうなるか、このままにしておいてあなた方の御意見に沿うようなことであればけっこうです。私はこのままにしておいてはいかぬと思う。「権利者の申出があるときは、」というものを取り除くとどうなるかというと「勧告することができる」とありますが、半面解釈からすると勧告せぬでもいい。勧告せぬでもいいということになると、先刻皆様方のお話を承わっておると、一つこれは勧告しなければならぬなと思っても勧告してもいいけれどもせんでもいい、また権利者の方ではあまりほったらかしておいても困るから早く何とか勧告してもらってもいいと思っても、裁判所では勧告できるのですから、勧告しようとしまいと裁判所の勝手だと、こういうふうになるわけですが、それでよろしいのですか。任意規定でよろしいですか。もしあなた方の積極的な御意見であるならば、家庭裁判所は、審判で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対して、その義務の履行を勧告しなければならぬ、こうすれば問題はない。あなた方の御意見はそういうような家庭裁判所では適当な時期に呼んで、これは勧告しなければならないかと思ったときは必ず勧告しなければならぬのだということにした方があなた方の御趣旨を達成するのではないか、そこをお聞きしたい。それが一つ。
いま一つ、十五条の三のことについては一向御意見がないようであります。十五条の二の御意見だけのようであったが、十五条の三に同じように「権利者の申立により、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をなすべきことを命ずることができる。」命ずることができるが、命ぜぬでもいい。これもこのままだとすると、家庭裁判所の任意規定で、あなた方のお話を承わっていると、こういう場合には命じなければならぬということの方がいいと思うのだがそのことについて何の御意見もなかったが、その二点について一つまず大浜さんや田邊さんの御婦人の方の御意見を承わって、その次に森川さん、平野さん、鮫島さんの御意見をこの二点について承わっておきたい。私は今あなた方の御意見通りとすれば、十五条の二は履行を勧告しなければならぬ、こうした方がよくはないか。「申出があるときは、」ということは削る、それから十五条の三は義務の履行をなすべきを命じなければならぬ、こうした方がよくはないか。第十五条の二をそういうように強くするということはそれは当りまえである。「その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認める」怠った者があり、かつ相当であるならば裁判所はできるのではなくて、しなければならぬという方がよくはないかと私はこう考えておりますが、その二つの点について今申し上げた順序によって御意見の御発表を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/17
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018・大浜英子
○参考人(大浜英子君) ただいまの一松先生の御意見大へんごもっともだと思いますけれども、私はそこは家庭裁判所を信じていただきたい。信ずるというところの立場に立ちますときに、十五条の二も、十五条の三もでございますけれどもできる。できればただいま鮫島さんもお話しになりましたけれども、調査官、調停委員あるいは判事というものができるのですから、その権利者の立場を保護しないはずはない。それは家庭裁判所の任務であり、使命であって、その方向に非常に大きな努力をいたしておりますので、「できる。」でよろしいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/18
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019・田辺繁子
○参考人(田辺繁子君) 私は十五条の二のところは先ほど申し上げましたように、必ず勧告をしなければならないと存じております。それから十五条の三も「相当と認めるときは、」という字を生かしますと、私は命じなければならないのだと思うのですが、そうしてまたもう一つ「権利者の申立により、」にもう一つプラスして、あるいは職権により、を入れていただきたいと衆議院でも申したのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/19
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020・森川静雄
○参考人(森川静雄君) 一松先生の御意見、私ども実はそうさしていただきたいのでございます。しかしながら大浜先生の言われましたように、今の裁判所のあり方というものは非常に何と申しますか、誠実に皆様の御期待に沿うように誠意をもって動いております。そこでそういう強い言葉を使っていただかなくても、そういう目的は達し得られると考えるのであります。しかも強い意味で入れますと、ここに裁判所というものはくぎづけになります。どうしても調査しなければならぬことになります。そうすると今の人員ではどうかという問題が起きてきます。また予算の問題というものもからんできます。そういう点で私どもは一応この案でも私どもの考えておる目的は達し得られる、十分達し得られると信じておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/20
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021・平野博
○参考人(平野博君) 特別にありません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/21
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022・鮫島竜男
○参考人(鮫島竜男君) 「することができる。」というのは法律上の用語で、ここに任意裁量があるかどうかという問題でございましょう。英語を出すのも何ですが、メイとイズ・エーブル・ツーとの違いで、権限があるというふうに解釈すればこれでもいいのじゃないか。内容におきましては、しなければならない、実際の扱いにおいてはしなければならないでやっていると思います。それどころじゃなくて現在法規がなくても現在われわれは実際誠意をもってやっておるわけでありますから、私はそのする権限があるという意味において解していただければいいのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/22
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023・田辺繁子
○参考人(田辺繁子君) 私はやはり文章といたしましては相当と認めるときは義務の履行をなすべきことを命じなければならないと、こう強く線を出しておいて、もしも権利者の方で今払えないという事情にあるときは相当と認めないときでありますから命令を発しなければいいのじゃないかと思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/23
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024・一松定吉
○一松定吉君 これは、つまり今あなた方のお話を承わって家庭裁判所の性質からそこの自由裁量権を裁判所にまかせるという御趣旨はごもっともだと思います。けれども私は大浜さんの御意見が正しいと思う。すなわち裁判所をほったらかしておくようなことではいかぬ、そこまでせっかくやったのに不貞の夫が不履行なことをやるという時分に、裁判所はもうあの男を勧告したってだめだからほったらかしておけというような考えを持たせるようなときがないとは限らない。これは人間ですから、家庭裁判所の裁判官も。そういうときに、債権者は泣き寝入りをしてやってくれればいいな、やってくれればいいなと思っても裁判所はやってくれない、そのときの救済法はそうでなければならない、義務の履行は勧告することができる、もし十五条の二によって家庭裁判所がそれをしなかった場合には公告の申立ができると、何とかそこに救済の方法がなければいかぬ。それから十五条の三にしても今田邊さんの言われたように、相当と認めるときには勧告しなければならぬ、相当と認めなければ裁判所は勧告せんでもいいのですから、そこはやはり裁判所に一つの義務づけておくということが家庭裁判の結論をつける意味において効果があると私はこう思うのだがね。しかしあなた方は今までこういう法文がなくてほんとうに何とかしたい、何とかしたいと思っておったけれども、その根拠がなかったから陰になり陰になり問題にならないようなふうに自分のいろんな積極的な行動をやっておったのに、今度はこれだけできれば一歩前進だというならそれでもいいですよ、しかしそうでなくて、ほんとうにあなた方が家庭裁判の効果をあらしめようとするならば十五条の二に勧告しなければならない、それは裁判所の職権でやるのですからこれは勧告をすることがいいと思ったときには、それは十五条の二でも勧告せんでもいい、つまり義務の履行状況を調査した結果、十五条の二によって調査した結果これは勧告することがいいと思ったときには勧告しなければならない、調査した結果どうも勧告せんでもいいと思えばそれはほったらかしてもいいと思いますけれども、十五条の三はいわゆる田邊さんの言われるように必要があるとき、しかも相当と認めるとき、それでもしてもよければせんでもいいということはどうだ、やはり不履行をし、かつ裁判所が相当と認めるときで、しかも権利者からどうかやって下さいという、こういう原因が三つ重なっておるならば、もうその程度においては命じなければならぬということの方がよくはないかと私は思うのですけれども、しかしあなた方は直接こういうことに御関係になっていらっしゃる方ばかりですから、それはそこまで厳格に義務づけんでも家庭裁判所はこの程度で十分目的を達するのだからということならば私は何にも申し上げませんけれども、やるならそこまでおやりになった方がよくはなかろうかと思って御意見を承わったのでありますから、しかしこれは私の意見でありますからして、ただ皆さんの御意見を参考のために承わるにとどめておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/24
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025・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) 大浜さんございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/25
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026・大浜英子
○参考人(大浜英子君) 大へん一松先生の御意見、家庭裁判所に対して御親切で、私ども非常に感謝するところでございます。けれども、先ほどもたびたび申し上げましたように、この人間と人間との非常に強い感情でもって争っておりますことをまとめるのでございますから、家庭裁判所も命ずることができるのだ、職権でやってのけるのだというような感じを当事者に与えないで、こういうふうにするのがお互いの仕合せであり、お互いがあらためてその紛争を処理して新しく生きていく道にもなるのだからというような、そういうような納得というような上に立った方がかえってよくいくのじゃないかと思うのでございます。ことに金銭の支払いなんというようなことになりますと、何か感情がそこにございますと、払わなければならない、払おうと思っていてもついしゃくにさわるというようなことも起りがちでございますから、やはりそういう強さというものを加えない方が大へんよろしいと私は思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/26
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027・田辺繁子
○参考人(田辺繁子君) 大浜さんに質問させていただいていいものでございましょうか。(笑声)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/27
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028・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) ちょっと速記をとめて下さい。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/28
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029・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) 速記をつけて下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/29
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030・宮城タマヨ
○宮城タマヨ君 五人の参考人の先生方から、この私どもが家事審判法案を審議いたしますにつきまして、大へんいい参考になります事柄をお述べいただきましてありがとうございました。私はことにこの上伺いたいと思っておりますことは、皆様方からもたびたび出ました弱いところの権利者の権利の主張を保護してやらなければならぬという立場に立ちまして、ことに私は問題にしたいと思いますことは、これが母である権利者、その連れております子供というものは、言ってみればこれは国家が義務として保護してやらなければならない弱い子供なんでございます。そこで私が伺いたいことは、子供を中心にして皆様方のお取扱いになっておりますそのケース・ワークについてでございますが、第一番に平野先生においでいただきましたこの折りに、この少年法によって守られております少年たちが家庭環境が非常に悪い、そこで家庭環境の調整をしなければならないというようなことで、家事事件をお起しになるようなことがたびたびございましょうかということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/30
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031・平野博
○参考人(平野博君) ただいま宮城先生からお尋ねのございました少年事件を扱っておって、それに関連して家事事件として扱えるような事件があるかないか、あるいはそれを扱っておるかどうかというふうなことでございました。実はこの調査官はもともと先ほど申しましたように従前は、家事調査官、少年調査官と二つに分れておりまして、それが一昨年十月でございますか、名前を家庭裁判所調査官という工合に統一されたのであります。それは、ただいま宮城先生のおっしゃいましたような家事事件、少年事件に関連したような事件が、調査官を一本とすることによってうまく扱えるのじゃないかというふうな見通しもあって、それも一つの理由で一元化されたのだろうと思うのであります。また、われわれ少年の方を扱っております調査官としましても、絶えず今おっしやいましたような点についても関心をもち、注意をもってやっておるのであります。申すまでもなく、この少年事件の温床といいますか、破壊された家庭から非行少年を生むということは、これはもう定説であります。それで、われわれとしましては、絶えずそういう点注意はいたしております。現に非行少年を調べてみますと、たとえば父母が、両親が事実上の離婚の状態にある少年は、父親の方に行っていいか、母親の方に行っていいかわからないというふうなことで、家庭生活が安定しないで非行に陥るという場合が非常に多いのでありまして、そういう場合、われわれといたしましては、さっそく家事の調査官の方に連絡いたしまして、家事の事件としてそれを取り扱っていただくというようなことをしなければならないのであります。ただ、現実を申し上げますというと、そういう事件にはたびたびぶつかるのでありますが、実際の取扱いは数が多くないのであります。これは非常に残念なことでありますが、いろいろな制約がございまして……。その制約の一、二を申し上げますと、そういう場合にわれわれが遭遇しましても、家事事件の方はやはり当事者の申し立てが前提になりますので、なかなかこちらで考えて、こうしたらよかろうと思いましても、それが申し立てにならないような場合がございまして、うまく運べないというようなこともあります。それからもう一つ、これは実務上非常に支障になることなんでありますが、少年事件の方は迅速な処理を必要とします。非常に短い期間に処理いたさなければなりません。ことに身柄事件のような、身柄を拘束しております場合には、二週間という制限がございまして、その間に処理するということになっております。そういうふうな関係で、ただいま御注意のありましたようなことはいつも心にとめておりながら、実際扱う場合は非常に少い、非常に残念なことであります。それからこの家事調査官と少年調査官が一本になりまして、ぼつぼつこの家事調査官の方から少年調査官になり、あるいは少年調査官の方から家事調査官になる、人事の交流がぼつぼつ出てきております。お互いに両方面に練達した調査官が出ますというと、ただいまおつしやいましたような扱いがまた一そう円滑に行われるのじゃないかと思うのでありますが、ただいまの段階では、そういうことに非常に関心をもちながら十分なところまでは行っておらないというのが実情でございます。お答え申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/31
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032・宮城タマヨ
○宮城タマヨ君 その点よくわかりましたが、大事な点でございますから、十分に私ども法務委員としても考えたいと思っております。いま一つ、少年法の二十四条の二項に、少年保護処分に合わせまして、家庭環境の調整をするということでございますが、これは実行されておりますか、いかがでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/32
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033・平野博
○参考人(平野博君) ただいまの二十四条二項、これはいわば少年事件の方のアフター・ケアとでも申しますか、アフター・ケアの場合、少年法で規定しておりますのは二、三ございますが、ただいま御指摘の二十四条の二項もその一つであります。これは保護処分にいたしました場合に、保護観察所に家庭環境の調整その他について裁判所から指示することができるとなっておりますが、これは相当行われております。先ほど申しましたように、裁判所で扱っておる期間が短いというものですから、裁判所においては十分なお世話ができない。しかし、保護観察に付したあとで、十分に家庭事情をみてもらい、少年には就職さしてもらい、親の方には生活保護法の適用を考えてもらいたいというように、具体的な資料をつけまして、保護観察所の方に保護観察処分にするとか、あるいは少年院に入れる場合ももちろんございます。そういうはっきりした指示をつけまして保護処分に付しております。これは相当事例がございます。ただ、保護観察処分あるいは少年院送致一本になっておりまして、その中で、そういう指示をした場合の統計がございませんので、数字をつけて申し上げることはできませんが、相当数があります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/33
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034・宮城タマヨ
○宮城タマヨ君 田辺先生にお伺いしたいのでございますが、長い間調停委員としてお働きいただきました間に、調停委員がアフター・ケアの問題に今までタッチなさっておりましようか、おりましたらどの程度のことでございましたかというととでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/34
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035・田辺繁子
○参考人(田辺繁子君) 私は昭和二十八年までやっておりまして、調査官ができましたのより、できない前の方におもにおりましたわけでございますが、そのときのことを思いますと、ほんとうにアフター・ケアに身を入れてしてお上げすることができなかったと思うのでございます。たとえば調停委員をいたしておりますときに、その日の配給のお米を売ってから出て来たというような調停の事件なんか、夫から子供の養育費とか、あとどうなるとか、やはり心配なんでございます。でも心配していただけに打ち過ぎてしまつたことも多かったのでございますが、やはり廊下なんかへ来て下さいまして、会いたいと言って下さいますというと、裁判官の方と御相談いたしまして、もう一度相手のその人を呼び出すというようなことはたびたびしてお上げしていたと思うのでございますけれども、でもやはり呼び出してもなかなか来ないとか、そういうようなことが繰り返されております間に、私いつも思いますのは、裁判所というものを女の人が見限ってしまって、言って来なくなってしまった事件の方が多かったと思うのでございます。ですから、私はそこを非常に重視しておりまして、やはり職権をもって調べられるような法律が出なかったらだめじゃないかと思います。そうして私この二、三日来、ほんとうに困っている方の声をこういうところに陳情していただいたらいいじゃないかと思いまして、家庭裁判所の調停委員さんにお会いして、困っておる方を知らないかということをずいぶん聞いたのでございますけれども、皆さんが、「さあ」とおっしゃるだけでございます。そういたしますと、みなあきらめておられるのが実態です。その方に泣きついて来る人はよっぽどなんでございます。あきらめておる人が大部分じゃないか。ですからそういう実態は、調査官のところへ来ておるかもしれませんが、調停委員がつかめないような、し放しになっておることが多いとにらんでおるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/35
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036・宮城タマヨ
○宮城タマヨ君 その点について鮫島先生から一つお答え願いたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/36
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037・鮫島竜男
○参考人(鮫島竜男君) 私のところには事件を持って来ておりますから、裁判官の許可を得まして、当事者が承諾しますならば、いつでもこちらに出向いてもらうようにすることができると思います。事件はたくさん持っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/37
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038・小林亦治
○小林亦治君 私は鮫島調査官でも平野さんでも、どなたでもけっこうなんですが、今日おいでになった方々ばかりによって家庭事件をお扱いいただけるならまことにけっこうなんでありますけれども、全国の調停委員とか、あるいは調査官でまれには熱心でない方もなくはないので、そこで一松さんと大浜さんとの御意見を伺って気がついたのでありますけれども、十五条の二、勧告することを得る、得ると規定して、申し出があった場合には必ず勧告しなければならぬという規定の明記が必要ではないかと、こう思うのです。中にはひねくれ者がありまして、勧告せられたために払わぬならぬなどというような者もまれにはある実例を知っておりますが、そういう者をかれこれ按配して、これは勧告した方がよろしいと裁量される向きに対しては勧告をなさる、どうも勧告してむくれられては因るから、こいつはよそうといったような場合がある、なおまた事務の繁忙によってうっかりしておって出さない、つまりなまけておったような場合もあります。そういう場合は権利者の方から勧告を求むる申立がありましょうから、必ずその場合は勧告しなければならないというように、十五条の二と三をそういうふうに改正した方がなお完璧ではないかと思われるのですが、鮫島さんいかがでしょうか、そういうふうにした方が熱心ならざる調査官に対しても適正なる改正になる。それから得るということを規定しておりますれば、先ほど申し上げましたように、どうもあいつは勧告したがためにむくれるやつだから、あいつはよそうとかというような幅がそこにできまして、一種の行政なんでございますから、ただ得るだけで切ってしまうと、あまりにもどうもわれわれの白紙委任が大き過ぎる、皆々様のような神様に近い方々ばかりとは思いませんので、そうなったら一そう明確を、適正を期されるのではないかと思うのですが、実務上からの御意見を一つ伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/38
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039・鮫島竜男
○参考人(鮫島竜男君) 非常に私たちの仕事を後援していただくという意味において非常にありがたい御発言だと考えます。今、先生がおっしゃいましたことと、それからもう一つ申出によるということと、この二つは同じような背景があると思うのです。それは申出によらないで裁判所が、具体的に言いますと、調査官が調査するということは弊害があるのじゃないかということは、はっきり言いますと、調査官というのが勝手なことをするのじゃないかというような御心配があるというふうに解釈できないでもない。それからまた今、先生がおつしゃいましたことも、調査官の中になまけている者があったら困るから、むしろそのことはすべきであるというふうになさった方がいいのじゃないか。私は調査官にはそういう人はいないと思うのであります。みんな非常にすぐれた人が全国におりますし、なまけていたりするような人はいないと思いますけれども、私の希望することは、要するにわれわれは誠心誠意困っている人を救うのに努力している、それをこの国会の方で認めていただきまして、そうして大いにやれということを励ましていただくことが、全国のこういうものを扱っている家庭裁判所の職員、具体的に特に調査官あたりがどれだけ励みになるか、われわれのやっていることは法律的に認められているのだ、われわれのやっていることは正しいのだ、われわれは社会のためにいいことをやっているのだということを公けに認めていただくことがわれわれの非常に励みになると思います。ですから、そういうなまけ者がおるかもしれぬから、もっと強い言葉を使えというような問題は、政府委員の方にも一つお伺いしていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/39
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040・宮城タマヨ
○宮城タマヨ君 ちょっと私も黙っていられなくなりましたから、もう一度発言さしていただきます。私この間ヨーロッパ全体を回りまして、それ以前にはアメリカも見て参りましたが、私は諸外国を見まして、やはり私日本のこの制度の上においても、それから人材を集めて仕事をしていらっしゃるということにおいても、諸外国に負けていないと思って見てきました。その点において、現場の皆様方にもお礼を申し上げたいと思ったんでございますが、しかしその欠けております点は、実に外国はきつい法律をもって履行確保を実行しておるということ、そのことだけは日本に欠けておるので、どうしてもこれは履行確保をきびしくやっていただいて、私は田辺参考人と同じような意見でございまして、まだどこをどういうふうにするかという法案についてのことは今後の問題ですけれども、とにかく弱い者を守る、ことに弱い女性を、そしてその女性のかかえております子供を守るということについて、どうしてもここに強いものを打ち立てたいという私意見を持っております。ですけれども、実際面においては決して小林委員の御心配なさることはございませんと思つております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/40
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041・鮫島竜男
○参考人(鮫島竜男君) 調査官がなまけているかどうかという問題でなくて、そこまで御心配していただくんでございましたら、私たちは国会の要望に沿いまして、最大限の努力は、今までもしておりますが、今後もするつもりでございますから、法文のせねばならぬというような点についての技術的の問題につきましては、ここに宇田川局長がおられますから、そういうような点でそちらの方からお聞き下さるということがございましたら仕合せだと思います。裁判所としては、そういうような御要望に沿うて最善の努力をすることは、今までもしておりますが、今後もいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/41
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042・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) それで私最後に二、三点お伺いしたいと思うのですが、ただいまの方々の御質問は決して裁判官に疑義を持ったり、それからその職責を怠っておるのではないかというような、こういう前提のもとに私は質問をされたのではない、こういうように考えております。ただ裁判官がどのように誠意を尽しても解決することができない、また不履行というおそれが十分にある、こういう観点から質問をせられたように思うのです。
そこで田辺さんにお伺いをしたいんですが、私も田辺さんの御意見を非常に強い御参考意見として伺ったわけでございますが、実際捨てられた哀れな女の立場がどんなに弱いものであるか、その弱い女、そして言葉は過ぎるかもしれませんが、全然法律的な知識も何にもない方、そういう方がここに申出があるときだけ、その場合だけ勧告はするということになった場合に、果して現場のそうした婦人が申立をする一体能力、実際申立をすることができるかどうか、この点について知れる限りお願いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/42
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043・田辺繁子
○参考人(田辺繁子君) 先ほども申し上げましたように、もうほんとうに驚くばかりそういう方は社会につながっていないんでございます。自分が困ったならば、何か児童相談所とか、民生委員さんとか、そういうような何か助けていただけるというようなところがあるであろうというふうにも頭が働きませんで、ただもう困ってどんどん追い詰められていらっしゃるんでございまして、ラジオとか、そういうふうな啓蒙宣伝とか、この間もおっしゃいましたが、そんなものにはとても手が届きません。そうして売春婦の方、そういうふうな方にもお目にかかったこともございますけれども、自棄的になっておしまいになって、結局売春のところに行けば自分の体を持って行けば金が取れる、金融機関というふうに……転落していらっしゃる事実も見たわけでございます。ですから不可能だと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/43
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044・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) 森川参考人にちょっとお尋ねをしたいんですが、先ほどの御陳述の中にございましたが、義務を履行しないで、行方をくらましてしまう、こういうことは私どももよく伺うことでございます。実例が非常に多いのです。そこで、住居地以外に行方をくらますような場合に対する制裁というものは当然必要であるように考えられますが、また同時に財産を隠匿してしまうような場合もある、こうした場合に適当な方法、現在の今のままでそうした予防策ができるかどうか、こういう点についてお伺いをしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/44
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045・森川静雄
○参考人(森川静雄君) 今の行方をくらましたときには、実は私の場合は警察にお願いしたのであります。ここまでやりますと一応行方はつかめます。それからもう一つ、遠地に行きましたときには、これもやはり警察にお願いしましてその居所を確かめました。そして、その管轄の家庭裁判所に呼び出してもらいまして、そして実はやってもらうと、こういう方法もとるのであります。それからどうしても、どんな方法をとっても払わないというような場合は、これはどうも今のところでは、もう私どもが気長く勧告するよりほかには仕方がないという状態でございます。実は先ほど申し上げました例で申し上げますと、強制執行をやりましたために、あと非常に硬化されまして、なかなかこの感情というものを融和させますまでに非常な努力をいたしました。実は私はあきないでこれを四年間続けたんであります。これをやりますと、結局、何とか始末がつけられるのであります。この点はやはり調査官と調停委員というもの、裁判所です、やはり一緒になりまして、その人を救うという気持以外には今のところもう救済の方法はないと、こう考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/45
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046・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) もう一点お尋ねをいたしたいのですが、森川さんは先ほどこういう発言をされておりました。予算も大へん少いことであるし、裁判官の数も少い。だから勧告をしなければならないということにすると、現在の機構、人員ではなかなか大へんであろうと、こういうふうにおっしゃいました。これはごもっともなお話でございますが、私はかりにこの裁判の性格が十分に発揮でき、そして弱い人がちっとも苦しまないように救い上げ、そしてその義務の履行を完全にするためには相当に機構という問題についても変えなければならない点があるのではないかと思いますので、予算のことは一応ここに抜いて、現在の機構をどういうふうにしたならばより理想的な方向に行くか、こういう点を鮫島さん、田辺さん、大浜さんと、簡単に承わらしていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/46
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047・鮫島竜男
○参考人(鮫島竜男君) ちょっとその財産の隠匿と機構の問題とひっくるめてお答えさせていただきたいと思いますが、離婚事件があって、履行確保をしなければならないというような問題を含んでいるような事件については、調査官が調査をしなければならない。決定をする前にそこまで持って行くと非常にはっきりすると思います。先ほど申し上げましたように、アメリカでは子供のある離婚事件は、調査官が必ず調査しなければならないということを法律でもってうたっている州がどんどんふえております。それと同じように、日本においては子供の問題よりもその生活の問題の方が困っているわけですから、調停が成立します前に、調査官をして財産の実態を調査しておく、そして、それを記録にでもとめておくと、そういうことをしますれば、隠匿ということもできなくなります。それからまた履行確保をしなければならないということがだんだん少くなります。そういうことは法律なり、ルールなりに規定していただきますというと非常に有力なものになります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/47
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048・大浜英子
○参考人(大浜英子君) 私は、ねばならないとすることに反対するのでなくて、もしも国会の方でそうして下さるのでしたら、それはないことよりもと思うのでございます。今、委員長さんのお尋ねの機構の問題でございますけれども、結局、こういうことは非常に気長にしませんとどうにもならないことなんでございます。それでそれをやっております間の一時的な保護というものを、権利者を保護する一時的の何かの施設なり、何かの制度というものを作ることによって、気長に権利者の義務を果させるようにする、こういうような何かが講じられれば、私は実行できると、こう思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/48
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049・田辺繁子
○参考人(田辺繁子君) イギリスの例なんかを見て参りますと、とにかく、調査官というのでございましょうか、プロベーション・オフィサーと申しますものが、そういう離婚事件の家庭を非常によく調べて、その子供との間の調整その他非常に一生懸命にやっております。そうして履行確保は一週間払いでございますから、二週間たつと、もうたずねて行って、履行確保のために一生懸命骨を折るのでございます。それはどうしても調査官というものを十分に充実さして数をふやしていただかなければならないのでございますが、この間も諏訪地方に参りますと、裁判所に調査官がおりませんので——ほんとうに私全部に行き渡っているのだと思っておりましたが——。そうでございますから、その本人が来て財産がありませんといえば、それを信じてするより仕方がないということを、女の調停委員さんが私に非常に訴えられましたので、この際全国に調査官というものを十分行き渡らしていただいて、その活動を十分にしていただきたいということが一点と、それからこれは長い封建思想の結果でございまして、わが国の社会では、女の人が泣いていたり、苦しんでいたり、子供にしわ寄せされているということが取り上げられない傾向にある社会でございます。ですから裁判官にいたしましても、調停委員にいたしましても、今までの男子本位の家族制度的な感覚で、たとえば嫁のなりでそんなことをするとは何だというような感覚を持っている人がまだ相当あると思いますので、学力なんかと別に、そういうふうな感覚を十分吟味した裁判官及び調停委員というものの採用にもう全力をあげていただかなければ、家庭裁判というものは公平には行われないということを考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/49
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050・森川静雄
○参考人(森川静雄君) 今まで前の方が言われましたので、もう私の言うことはございません。尽きております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415206X00719560301/50
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051・高田なほ子
○委員長(高田なほ子君) 他に御発言がなければ、参考人に対する質疑は尽きたものと認めます。
参考人の方にごあいさつを申し上げます。本日は大へん長時間にわたりまして、種々有益な、また直接困難な事件に携わられた、涙の出るような御体験も披瀝されまして、まことに有益な御意見を伺わしていただきまして、どうもありがとうございました。大へん審議の上に重要な役に立たしていただけたことを重ねてお礼を申し上げたいと存じます。
なお、本日は特に全国の未亡人団体協議会会長の涌井まつさんのお名前で、委員長あてに未亡人の、特に離婚母子家庭の実情にかんがみて、法案の審議については慎重な審議をされたい、こういう趣旨の陳情書がございました。また同じように全国地域婦人団体連絡協議会理事長の山高しげりさんのお名前で、委員長あてに同趣旨の陳情書が参りまして、衆議院における一部修正は、元の原案に直していただいた方が実情に即す、こういうような同趣旨の陳情書も参っておりますので、私どもは慎重審議いたしまして、よい結果を生むことにお互いに努力さしてもらいたいと思います。まことにどうもありがとうございました。
本日はこれをもって散会いたします。
午後一時一分散会
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