1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十三年三月六日(木曜日)
午前十一時十二分開議
出席委員
委員長 町村 金五君
理事 高橋 禎一君 理事 林 博君
理事 福井 盛太君 理事 三田村武夫君
理事 横井 太郎君 理事 猪俣 浩三君
理事 菊地養之輔君
犬養 健君 小島 徹三君
小林かなえ君 徳安 實藏君
長井 源君 古島 義英君
横川 重次君 青野 武一君
佐竹 晴記君 田中幾三郎君
古屋 貞雄君 武藤運十郎君
吉田 賢一君
出席国務大臣
法 務 大 臣 唐澤 俊樹君
出席政府委員
警 視 監
(警察庁刑事部
長) 中川 董治君
検 事
(刑事局長) 竹内 壽平君
法務事務官
(矯正局長) 渡部 善信君
委員外の出席者
最高裁判所事務
総長 五鬼上堅磐君
判 事
(最高裁判所事
務総局人事局
長) 鈴木 忠一君
判 事
(最高裁判所事
務総局刑事局
長) 江里口清雄君
専 門 員 小木 貞一君
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三月五日
委員神近市子君辞任につき、その補欠として辻
原弘市君が議長の指名で委員に選任された。
同月六日
委員風見章君辞任につき、その補欠として古屋
貞雄君が議長の指名で委員に選任された。
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本日の会議に付した案件
売春防止法の一部を改正する法律案(内閣提出
第五〇号)
婦人補導院法案(内閣提出第五一号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/0
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001・町村金五
○町村委員長 ただいまより会議を開きます。
売春防止法の一部を改正する法律案及び婦人補導院法案を一括議題といたします。
発言の通告がありますので、順次これを許します。猪俣浩三君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/1
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002・猪俣浩三
○猪俣委員 これは最高裁判所側及び法務省側にお尋ねしたいと思いますが、いわゆる裁判所の調査官問題で相当波紋を国会に与えたのであります。私どもの第一国会以来の経験といたしまして、裁判所と政府が法務委員会で全く意見の食い違った議論をなさったということがない。ちょっと異様の姿であったのであります。ただ、大原則として、私はさようなことは不都合だとも何とも思いません。裁判所は国権のやはり一部をになっておる独立の機関であるがゆえに、国家の最高機関である国会に対しその意見を開陳するということは何らはばかるところはないと思う。ただ、こういう政府提案の法案に関連いたしまして、その法案を修正するやいなやという点に関連いたしまして、国務担当の二つの独立した司法権と行政権との見解が対立して国会に現われるということが異例であったと思う。そこで、どういうわけでこういう事情になったのか、もう少し詳しく私どもお聞きしたいと思うのです。それは、先般私が申しましたように、裁判所側においても私どもとしては了解のできない態度であったからであります。と申しますのは、この売春禁止法案を社会党が出して以来、この問題については触れてきたはずであるのに対しまして、裁判所側からは国会に対して何らの意見の開陳がなかった。私どもは今国会で突如として裁判所側の意向がわかったという次第である。しかし、政府部内においてはあるいは切瑳琢磨しておったかも存じませんが、その辺の事情がよくわからない。何かなまのままで委員会で両機関が議論を戦わすような形に見えた。そこで、この裁判所という一つの国家機関系統と、それから政府という行政機関系統とが互いに法案について話し合うというのは、一体どういう機関でどういうふうに話し合うのであるか、それから、その裁判所側なりの意見が政府の提案に盛られない場合において、どういう機関を通じてそれが裁判所側の意向として出るのが常道であろうか、そういう点につきましても、もう少し裁判所側なり法務省側なりから、その交渉された経過、及びどういう機関でどういうふうに交渉し合ったか、そうしていよいよ国会で裁判所の意向が明らかになる前に、国家機関内部において一体どれだけの話し合いが進められておったのであるか、もう少し具体的にお話しを願いたい。これは最高裁判所側からも法務省側からもお話し願いたい。そうして、将来こういう問題はどう一体出てくるか、裁判所側と政府側との意見が全く対立して、そうして法案の提出権は政府にある、それに対して裁判所側からそれと違った修正を出そうとする際にはどういう一体手続を経ることが適当と考えられるか、そういうことを、今後のあることも予想いたしまして、忌憚のない御意見を承わらぬと、今まで異例に属することでありましたために、委員会も困惑を来たしておるわけであります。その今までの交渉経過及び交渉した機関、それから、その結論が一体どうなったのか、委員会へ修正意見を出される前に裁判所はその旨を法務省、政府にちゃんと通知してあったのかどうか、しからずして突如として委員会へ対立意見が出てきたのであるかどうか、今後かような裁判所という独立機関が自分らの意思を法案に表現する際にはどういう手続をすることが適当であろうか、そういうことに対しての両者の御意見を承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/2
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003・五鬼上堅磐
○五鬼上最高裁判所説明員 私どもとしては、司法の運営に関係のある法案の場合には大体法務省の方で立案されるようで、それに対して事務的にはいろいろ法務省との間に意見がかわされ、またこちらの意見を申し上げ、さらにそれが法制審議会などで——法制審議会には委員が裁判所側から出ておりますからして、そういうことを申し述べるというのが従来の例で、大体において意見が一致して、そうして政府提案となって法案が出てくるようなわけなんであります。そこで、これの経過はあとで御説明を申し上げますが、ごく一般的なことを申しますと、私どもとしては、裁判所側の意見と政府側の意見とがどうしても合わないという場合には、これはやはり司法の運営に関する法案等を御審議されておる当法務委員会に向って、国会法の七十何条かに基いて委員会の御許可を得て、そして裁判所の運営についてもしこういうような法案ができるというような結果を来たすということを私どもは申し上げるのであって法案の修正をどうとかこうとかいうことは考えていないのでありまして、ただ言葉の上からあるいはこういうふうに修正をしてほしいとかいうことで希望は申し述べたと思いますけれども、私どもの方ではそこまでは考えてないのであります。要するに、この国権の最高機関たる国会に向って、やはり司法の運営については、実情はこうである、もし将来こうなったらこうなるということは十分御認識願いたい、そういう意味において私どもはあるいは政府とは異なった意見を申し上げる場合はあると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/3
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004・竹内壽平
○竹内政府委員 司法に関連いたします法案を政府原案として国会に提出いたします場合におきましては、もとより法務省が独断専行いたすのではございませんで、最高裁判所の事務当局の担当の部長と、たとえば刑事法でございますならば刑事局と私どもの刑事局との間に事務折衝を重ねまして、大体の御了解を取りつけるのでございます。もしも御了解がどうしても得られない場合には、法案として出し得ない場合もあるのではないかと思います。現に、三年来懸案となっておりました法律扶助の法案のごときも、最高裁判所との問の意見の調整ができませんために、ついに提案を見るに至らなかった実例もございまして、実際問題といたしましては、御了解を得ることなしには提案をした実例はないと私は思います。この売春防止法一部改正に関しましても、多少の行き違いはございましたが、法務省の私ども当局といたしましては、御不満のあることは了承しておりましたけれども、この案を提出することについて、大体了解を得ておったもの、かように判断をしておったのでございまして、その点、この国会の審議の過程において、そういう意見があたかも対立するような形で現われましたことは、はなはだ私としては遺憾に存ずるのでございますが、さように了解をいたしております。
今後こういう問題が起った場合にどうすべきであるかという点につきましては、これは、政府部内と申しましても、文部省と法務省という関係ではございませんで、政府全体と裁判所とは相対立する関係になっておりますし、立法府とも同様な関係において対立するのでございまして、法務省と文部省あるいはその他の関係各省との間の意見の調整とはおのずから異なるのでございます。ただ、非常に重要なことは、最高裁判所と法務省との間に刑事司法立法に関しまして根本的に意見が一致しない場合には、それでは法案提出は永久に不可能であるかという問題があるのでございますけれども、事柄の性質上、さようにぎりぎりの線で全く意見が対立して相いれないというようなことはあろうはずはないのでございまして、大体、刑事司法ということは、やはり学問の裏づけ、科学的な裏づけのもとに議論をされる事柄でございますので、理屈としましてはそういう場合も考えられるのでございますけれども、実際問題といたしましては、お互いに論議をいたします過程におきましておのずから意見の一致を見ることと思うのでございまして、今後の運用にそのために非常な支障を来たすということはないというふうに考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/4
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005・猪俣浩三
○猪俣委員 最高裁判所側が法務省に対してこの調査官の問題を言って正式に交渉を始められたのはいつなんでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/5
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006・江里口清雄
○江里口最高裁判所説明員 昨年の四月、売春対策審議会で保安処分が審議されつつある機会におきまして、最高裁判所といたしましては、地方裁判所に調査官がなければ保安処分の円満な遂行が行われないという建前から、直ちに案を作りまして、法務省の方の立法の御参考にしていただきたいということで申し送っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/6
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007・猪俣浩三
○猪俣委員 あなた方の出した文書を見れば、正式の区要望は、昭和三十二年十二月二十八日、最高裁判所事務総長五鬼上堅磐の名において事務次官殿として、「売春防止法の一部を改正する法律案について当裁判所裁判官会議の議決に基き、当裁判所の意見を送付し、貴省の善処を要望します。」、こういう文書が出ているのですが、公式の交渉はこれからじゃなかったのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/7
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008・江里口清雄
○江里口最高裁判所説明員 裁判所調査官の問題は、その経過をちょっと申し上げますと、現在のような案が昨年の八月の終りに私たちの方に申し入れされたのでございます。そしてそれは売春対策審議会の幹事会の前々口くらいだったと思います。その前に、私たちの方では、先ほども申し上げました通り、四月にこの調査官の必要性を裁判所側の案といたしまして法務省の方に御参考にしていただくようにお送りしておったのでありますが、お取り上げにならない。そこで、最高裁判所といたしましては、その幹事会におきまして、八月の末でございましたか、調査官はぜひ必要だということを申し上げたのでございますが、四月一日の執行に間に合わないというような御意見でありました。それで、昨年の九月に、売春対策審議会の委員会におきましても同様な意見を述べたのでありますが、これも四月一日の執行に間に合わないというような御意見であったのでございます。そこで、裁判所といたしましては、それでは法務省の原案のままで現在の刑事訴訟法並びに刑事規則にのっとって必要な情状調査等がな、されるかどうかという点につきまして、九月、十月、十一月と徐々に検討いたしたのでございますが、どうも現行法のもとにおいては無理があるようだ、やはり正式に調査官を置くか、家庭裁判所の調査官を使えるというような規定を置かなければ、どうしても無理があるというふうに考えられましたので、昨年の十二月の末、ただいま猪俣委員の仰せられましたような書面でさらに重ねて正式に要望をいたしたわけでありますが、これに対して何らのお返事もなくて法案を提出され、当委員会で御審議の始まった後の二月の十九日付の書面で、それは取り入れないというような御返事をいただいたようなわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/8
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009・猪俣浩三
○猪俣委員 私ども官庁内部のことはよくわかりませんが、売春審議会のとき出したそれは、当の相手が法務省じゃないですから、法務省の人たちと話し合ったというようなことが、さっきはっきりしませんが、幹事会というのですか、一体法務省のどういう官職の人と、それから最高裁判所側のどういう官職の人とがどの程度の話をされたのか、それが一点、それから、この三十二年十二月二十八日に公文書で五鬼上事務総長から法務事務次官あてに出した文書、ただ文書を出しっぱなしになったのか、あるいは、大臣その他次官あるいは刑事局長、そういう人たちと最高裁判所の事務総長その他の人たちとが何かひざをまじえていろいろな方面を検討したというようなことがあるのか、片方は文書を出しっぱなし、片方もそれに対して一カ月も二カ月もたってからだめだという文書で突き返してきたというのであるか、その辺が僕らにはちょっとわからぬのです。
実情はどうなんですか、その幹事会というのは何なんです。下っぱの事務官ばかりが話し合ってそれは筋が通らぬ。それだから、こういう重要なものを幹事会に諮ったというのは、裁判所側からどういう人が出て、法務省からはどういう人たちが出て、どの程度の一体懇談をしたわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/9
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010・江里口清雄
○江里口最高裁判所説明員 幹事会と申し上げましたのは、売春対策審議会の幹事会でございます。その席には、委員の馬場次官もおいででございましたし、それから法務省の刑事局長、担当課長も列席しておられました。それから、裁判所側からは、私が幹事でございますので、私が列席しておりました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/10
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011・猪俣浩三
○猪俣委員 すると、それは売春対策審議会の委員としての法務省の役人とお話しになった。まあ実質的に言えば同じことであろうが、形式的に言って、法務省の人たちと特に最高裁判所として折衝をしたということにそれがなるのかどうか、ちょっと私は疑問だと思うのですがね。それは売春審議会の委員として委員同士で話し合ったということはわかりますが、政府代表、これは法務省といったって政府の代表なんですから、政府代表の法務省と最高裁判所とが一体正式にこの問題に取り組んで協議なさったごとがあるのかどうか、その点を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/11
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012・江里口清雄
○江里口最高裁判所説明員 この問題は、実は、昭和二十七年に保護観察制度、執行猶予者に保護観察をつけるという問題のときに、裁判所側では、この保安処分の一つである保護観察をつけるについては裁判所調査官による判決前調質が必要であるということで、法制審議会で論議されたことがあったのでございます。その際は、法制審議会の刑事法部会で一般問題として検討すべき事案であるという附帯決議がついておるのでございます。それから、その後、売春対策協議会、これは審議会の四年ほど前でございますが、その際におきましても、元来この成人の売春婦の事件は家庭裁判所でやるのが相当であるというような意見がその際に出たのでございますが、そのときに、裁判所といたしましては、成人の売春婦は地方裁判所で取り扱うべきである、その場合におきましても、地方裁判所で取り扱うについては、家庭裁判所の調査官と同じように地方裁判所に調査官を置いて、この事件を情状調査等を詳細にして審理をする、この調査官が地方裁判所に必要だということを申しておったのでございますが、その後裁判所側では、まあ正式の交渉ということはしておりませんが、事あるごとに裁判所の意向というものを、この調査官の調査の必要性ということは意見を述べておって、その点は十分法務省側でもこの裁判所の意見は知っておられるというふうに私たちは思っておりましたし、また法務省側ではこの調査官を置くことについては反対であるという強い反対を私たちは感得いたしておったのでございます。昨年の暮れに書面を差し出す際に、私は直接に法務省の刑事局長をおたずねして、実はこういう点について裁判所から正式に要望書をお出しする、御考慮いただきたいということは申し上げておりました。そうして書面を差し上げたのでございますが、それ以後具体的に交渉はいたしておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/12
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013・猪俣浩三
○猪俣委員 アメリカのニューヨークの婦人裁判所みたいに売春婦それ自体を裁判することを専門の裁判所がありますならば、調査官というものと相当調和して解決できると思うのだ。だから、その意味において、私どもは家庭裁判所でこれを取り扱ったらどうかということを四、五年前から提案いたしておったのだが、全然最高裁判所は御配慮なされなかった態度である。普通の刑事裁判所にまかしておいて、そうして調査官だけ活用するということは、現在の日本の刑罰体系、刑事訴訟体系等より異例な取扱いになりまするので、重大な、法律議論としてもいろいろな議論ができると思う。ですから、そういう点をほんとうにまじめに国会に実現をさせようという御意思であったのならば、法制審議会にかけてもう少し審議してもらうなり、あるいは法務省のそれぞれの当局者と数回の懇談を重ねるなり、もう少し熱意をもってやらなければいけなかったのじゃなかろうかと考える。あなたの今の答弁でも、ただあなたが去年の暮れ正式の文書をもって持っていっただけの話で、どうも法務省側と懇談をしなかった。ゆっくりひざをまじえていろいろの問題について熟慮をした形跡が見られない。ただ売春防止法にちょっと一条入れればすぐできることだというような態度で、国会の答弁もそんなようになっておられますが、私はそこに非常な食い違いがあったと考える。これは私どもとしてははなはだ遺憾だと存じます。これは売春防止法をちょっといじくってすぐ解決せられる問題じゃなくて、大きな法体系から検討してかからなければ、日本の弾劾裁判制度というものはその一角からくずれるおそれさえある重要問題だから、これは法務省が慎重な態度をとっておられることは当然だと思うのです。しかし、こういう制度は相当いい制度だと思うがゆえに、私どもはこの実現はほんとうにいいことだと思うのです。しかし、それに対して裁判所はあまりにどうも積極的に熱意をもっておやりになっておったと思われない。そうして突如として委員会にこういう重大修正案をされたのではないかと思われるのです。これは将来もあることでありますが、私どもは十分その辺御留意願いたいと思う。
それから、法務省側にお尋ねいたしますが、この裁判所側の調査官制度、これは諸外国にもあることです。しかし、諸外国の制度が直ちに日本の裁判制度の中に取り入れられるかどうかは、これはまた非常に検討を要しますけれども、しかし、裁判所の側の考えておること、これは相当私は合理性があることだと思います。これに対して一顧にも値しないというような御態度であるのであるか、この裁判所の意見に対して今後どういうふうに法務省側は態度をとっていこうとせられるのであるか、今後の調査官制度をめぐりましての法務省の御態度をお尋ねいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/13
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014・竹内壽平
○竹内政府委員 裁判所側の御提示になっております調査官制度というのは、私どもは決して軽視をいたしておらないのでございまして、御議論の存しますところ、それはそれなりに理由のあることと信じております。ただ、先ほど来お示しの通り、この売春防止法の補導処分といたしましてこの問題を一挙に解決することにつきましては若干の疑問を感じておるだけでございまして、これは将来におきましてすみやかに検討すべき重要な案件だ、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/14
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015・猪俣浩三
○猪俣委員 大体了承できましたが、まあ最高裁判所側のような修正をするということになりますと、相当予算の裏づけもなければならず、今突如としてこれを出されるというようなことは、裁判所はあまりに不なれと申しますか、あるいは少し子供つぼいと申しますか、もう少しおとなになっていただきたいというふうにも考えられる。慎重にしていただきませんと、せっかくのいい制度が取り上げられないことに相なりますので、これは希望として申し上げておきます。それから、法務省側も、いろいろの疑問点がありましても、これは非常に画期的な法律であるだけに、画期的な裁判制度というものがやはりなければならぬと思います。十分に御検討いただきたいと存じます。これは希望として申し上げておきます。
次に、売春防止法の点について一、二お尋ねいたしたいと思います。
私の質問いたしまする趣旨は、たとえば婦人相談員とか婦人補導員とか申します人の人選というものが非常に重大であり、この人を誤りますると、全くの有名無実なことになって、せっかくの画期的な法案が何にもならぬことになります。これは、ただ通り一ぺんの、たとえば今までありますように、どうも保護司とかなんとかいう人たちは町のボスみたいなのがみななって、そうして自分の政治活動に利用するというような傾向も相当あった。そういうものになりますと、これは仏作って魂入れずで、意味のないことになってしまう。こういう特殊婦人を善導しようという者は、確固たる信念、それこそ宗教的な信念を持って立ち上っていくような人でなければならぬと思う。もちろんそういう人が多数あるとは想像できません。先般新聞に伝えられましたあの墨田におきますアリの町か何かに二十七才の若さで亡くなられました大学教授の令嬢がありました。ああいうような方が多数いられるわけではないと思いますが、それに人生の意義を見出して、それに打ち込むような人という標準で選んでいただかぬと、あれは町の財産家だとか、やれここの大物だとか、顔役だとか、そういうような観点で選ばれると、これは全く何にもならぬことが起る。私は先般上海に参りまして、上海で婦人労働教習所というのを見てきました。これは要するに補導員でありますが、もう徹底したものでありまして、そこの所長というのは二十五、六の婦人だと思いましたが、三十過ぎの方でした。ほんのおかっぱのような少女に見受けられる。そこで、こんな女が所長としてやれるのかと思っておりましたところが、上海の市政府の堂々たる役人もたくさん来ておりましたけれども、この人の説明が一番熱が入っていて、一番論理整然として、私は賛嘆おくあたわざるものがありました。こういう人を発見することは容易でありません。私は、この補導員とか婦人相談員というものは、通り一ぺんの者でなしに、学歴はなくてもいい、それに人生の意義を見出して打ち込むような情熱と知性と、そうして人生に対する直摯なる熱意を持っておる人を選んでいただきたいと思う。そういう観点から、一体婦人補導員というものはどういう資格の者をどういうふうにして採用されるのであるか、この点をお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/15
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016・渡部善信
○渡部(善)政府委員 猪俣委員仰せのごとく、この補導員がほんとうの力を発揮するかいなかは、その人を得ることにあると私も考えております。実は、この補導員の職員が、三施設全部で七十五名、一施設について二十五名ということになっておるのでございます。かような施設は、刑務所と異なりまして、管理が非常にむずかしいのでございます。従いまして、われわれといたしましては、一人に一人というくらいの陣容を実はほしいのでございますけれども、これは言うべくして実際問題としてはなかなか実現ができないで、ようやく二十五名という数になったのでございますが、この二十五名の職員をもってこの初めての試みである補導をほんとうにうまくやっていくためには、一人々々が二人前、三人前の仕事をしてもらわなければ、とうていこの仕事はできないと私は思っております。そこで、この人選につきましては私も一番頭を悩ましておるのでございます。実のところ、そのような新しい試みの職員は、新しい観点から、今までのさような刑務所臭とかあるいは少年院臭というようなもののないほんとうに真新しい感覚の人を迎えたいというふうにも考えます。考えますが、また、一方、かような売春婦を取り扱った経験のある——この経験というものは私は尊いと思うのでございます。現在、少年院におきましても、また女子の刑務所におきましても、かような売春の経験者が相当数入っておるのでございます。これらの人たちを日夜補導しております女子の刑務所あるいは女子の少年院におけるこれらの職員の体験というものは、私は十二分に今度の補填員の補導の面にも生かしていきたいという気持を持っておるわけでございます。そこで、これらの職員の経験、そして新しい感覚の人たちのこの熱情というものを織りまぜて今後の婦人補導員を運営していったらいいのではないかということを考えまして、実は現在各女子刑務所並びに女子の少年院の職員の中から最も適当とする者を目下推薦させております。これを選考いたしまして、そして中央の研修所と地方の研修所がございますが、中央の研修所にこれらの職員を適当な者を集めまして、そしてこれに、大体一カ月の目標を立てておるのでありますが、研修をいたしまして、職場に送りたい、かように考えておるわけでございます。
なお、新しい職員を迎えるにつきましても、婦人団体あるいは宗教団体あらゆる面から適当な方の推薦を受けて、そしてこれを新しく研修所においてよく教養をいたしました上で当ってもらいたい、かように考えている次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/16
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017・猪俣浩三
○猪俣委員 そうすると、この婦人補導員の身分は国家公務員でありますかどうか。その直接の管轄庁、行政庁はどこになっておりますか。それから、これになる資格は何か試験でもするのであるかどうか。そういうことについて一つ伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/17
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018・渡部善信
○渡部(善)政府委員 この補導院は私のところの矯正局で管轄をすることに法務省ではなっております。そこで、この職員の資格でございますが、国家公務員でございます。この採用につきましては、現在のところ今の新制高等学校卒業以上の教育程度を受けた者ということを目標にいたしております。それから、なお、あまり若い人では工合が悪いと思いますので、三十才以上の女子を中心として現在考えております。この人の待遇でございますが、これは矯正職員、公安職員としての待遇を受けることになっております。ただ、ここで問題は、それらの人たちの、ことに院長等の待遇でございますが、これは特に行政管理庁の方にもお願いいたしまして、公安職としては一番最高の一等職というところに格づけをしてもらっております。三つのうち全部私は一等職を持ちたいと思いましたけれども、それは職員の関係から無理だということでございまして、福岡だけは二等職ということになっておりますけれども、東京、大阪は一等職の格づけをしていただいております。しかし、実際上さような一等職に値いするような人選を得たならば、福岡におきましても暫定的に一等職を認めるということも確約を得ておるわけでございます。何とかさようなりっぱな人を迎えたいということを念願しておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/18
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019・猪俣浩三
○猪俣委員 先ほど、局長のお話でも、広く婦人団体その他にも働きかけて人的資源を探し出すというお話がありましたが、これは大へんけっこうなことだと思うのです。この法案を通します際には、御存じのように全国の婦人体団が非常に熱心に涙ぐましい活動をなさったのでありまして、従って、これが実現した以上は、ある程度のやはり責任も婦人団体にもあるかと存じます。そうすると、その中に、ほんとうに献身的に、全くの宗教的信念に基いて、この不幸な女を救済せんとする熱意に燃えておる人も相当あるはずです。これは話は違いますが、先般、大学の教授の奥さんが、子供さんはみなそれぞれ片づけて、全くひまになった、何とかしてお役に立つことをしたいという申し出がありまして、家庭裁判所の調停委員に私は推薦をいたしました。りっぱな御婦人であります。有名な学者の奥さんであります。とにかくこうやって子供たちはみな成長し、この余生を何か人生に寄与したいという熱意に燃えている方も相当あると思うのであります。そこで、何とかしてそういう人たちを掘り出して、要するに一片の官僚的な官吏のメカニズムにおどるような一員では何にもならない。ほんとうに熱意を持って、熱情を持ってこの仕事に意義を見出すような人があると私は思うのです。そういう人たちならば、人数は少くとも、予算は少くとも、相当の成果をあげると思います。それを、普通の役人根性で、ただ勤務時間が過ぎればいいような人たち、月給をただもらいたいというような人たちでは、これはほとんど成果はあげ得ないと思う。一にかかってこの補導員の人格に帰する問題じゃないか。この制度が有終の美をなすかなさぬかは、一にかかってそこにあると思いますので、それは一片の官吏登用みたいな形でなしに、広く宗教団体や婦人団体に働きかけられまして、さような篤志家を見出されるということが、難事業でありましても大切な根本ではないかと思いますので、くれぐれもこれはお願い申し上げます。
それから、いま一点。これは婦人相談員でありますが、これはどういう方法で選任され、どういう資格の者になって、どのくらいの人数を予定しておるか、その直接の管轄官庁はどこであるか、それを一つお話し願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/19
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020・渡部善信
○渡部(善)政府委員 婦人相談員の方は、いわゆる更生保護の衝に当られる方でございまして、法務省の関係ではなくて厚生省関係のお仕事をなさる方だと私は考えておるわけでございまして、この婦人相談員の方々の充実につきましては、厚生省の方で非常に力こぶを入れておやりになっておるようでございますが、実情につきましては私よく存じませんので、厚生省の方でお聞き取りを願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/20
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021・猪俣浩三
○猪俣委員 そうすると、婦人相談所は厚生省の管轄である。そこで、この婦人相談員と婦人補導員との間にはどういう連絡をなさっておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/21
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022・渡部善信
○渡部(善)政府委員 これは、実はわれわれの願いといたしましては、婦人補導院の在院期間が六カ月ということにつきましては、実は非常にあきたらないものを持っておるわけでございまして、この六カ月の間で完全に補導の目的を達するということ、もちろんそのつもりでやるわけでございますが、なかなか六ヵ月間でこの目的を達するということは、実際問題としては困難だと思っております。そこで、私は、この在院期間ばかりでなくて、これを過ぎてから後決してその援護の手がとぎれるようなことがあってはならない、補導院における補導はそれらの婦人たちの更生の第一歩であるということを一つ力強く植え付けたいということを考えておるわけでございます。従いまして、この婦人補導院の六カ月の期間が短かいわけではありますが、この時期にその基礎づけをいたしまして、在院期間中から外部との間の連絡をつけたいと私は思っております。現在矯正施設におきまして特殊面接員の制度を置いております。これは、広く外部の方々、宗教家の方々、あるいは婦人団体その他の非常に関心をお持ちの方々の御援助を得ておるわけでございますが、この婦人補導院におきましてはこの特殊面接員の制度を百パーセントあるいは百二十パーセントに利用いたしたいと思っております。そのような特殊面接員の方々の中に婦人補導員の方もなっていただきたいと思っております。そして、この六カ月を過ぎました際には、すぐに住居の問題、あるいは就職の問題、すぐさまかかってくる問題が当面いたしておるのでございまして、そのときには時を移さず厚生省の更生保護の手に移るように、そこに何らの間隙もなくしてスムーズに乗り移っていくような方法を講じたいと思っております。従いまして、今後厚生省関係の婦人補導員その他更生施設との連絡というのは一番緊密にとっていかなければならないものと考えております。さように厚生省の方にもお願い申し上げておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/22
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023・猪俣浩三
○猪俣委員 あともう簡単に済みますが、これは、私が自分で答えを出して、その答案がいいかどうか御判定願いたいと思いますが、どうも売春防止法及び犯罪者予防更生法、更生緊急保護法、いろいろの法律がございまして、相当こんがらかっていますが、売春防止法の第五条に違反した者の取扱い等を、考えてみますと、まず警察から検事に送られる。検事から便宜主義に基いて起訴しないという場合にこれは保護観察というものに付するものかどうか。それから、起訴した場合には裁判になります。裁判になって有罪判決になる。無罪になればもちろんあれですが、有罪判決になる。そうすると、執行猶予がつくのとつかぬのがあって、執行猶予がつかないのは別として、執行猶予がつくとここに補導処分ということが現われる。こういうふうに私理解するのですが、そういう取扱いになりましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/23
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024・竹内壽平
○竹内政府委員 大体お尋ねの通りでございます。警察から検察庁に送致されました場合に、検察庁は調べをいたしまして、便宜主義によって起訴猶予にする場合が相当多数あると思います。その場合に保護観察を付することができるかどうかという点については、これは現行法のもとではできないのでございます。ただ、保護観察はいたしませんけれども、更生緊急保護法によりまして、必要なる保護更生の措置をとることができることに法律で定めております。そうして、公判請求をいたしました場合に、裁判所の判断によりまして、あるいは執行猶予になり、あるいは執行猶予付の保護観察になり、あるいは今回の新しい制度による執行猶予付の補導処分というような裁判がなされると思うのでございます。
ついでながら申し上げますと、過去の売春防止法五条に相当する都道府県の条例違反、つまり勧誘等の行為でございますが、この種の事件は年間約八千件検察庁においては受理いたしておりますが、公判請求を見ておりますのはそのうちの一%の八十人前後のようでございます。そういたしますと、これらの八十人の処分が、今までは補導処分というものがありませんために、あるいは執行猶予になり、あるいはそのうちのまたきわめて少い部分が実刑を科せられておると思いますが、この制度ができますことによって、実刑を科せられる者は補導処分に付せられる率が多くなってくるのではないかというふうに考えるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/24
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025・猪俣浩三
○猪俣委員 いま一点で終りたいと思います。こまかいことはいろいろありますけれども、これはまあ大体よく研究すればわかると思うのです。法務大臣もおいでになっておりますのでお尋ねいたしますが、売春防止法は一面できました。ところが、一面、先般ここで問題になりましたが、非常に性的問題を取り扱った映画などがたくさんある。その一つとしてエロ本、まあ戦時中ならばわいせつ本として発売禁止になったり処罰されたりするようなものが堂々として店頭に陳列されておる。これは、憲法の、意思の表現の自由を尊重するというような建前からすれば、むやみに取り締ることは感心いたしませんけれども、公共の福祉からいたしまして、このエロ本やエロ雑誌がどんなに青少年の魂を腐敗さしておるか。一方ではこういうものが許されておって一方では売春行為だけは処罰する。一方、挑発しておいて、挑発に乗った者は今度はひっかかるというようなことではいけないのじゃないか。そこで、一体こういうわいせつ本というようなものに対しまして、このままでいいのであるかどうか。私は、先般ローマへ参りましたとき、あれは歓楽の都と聞いておりましたが、エロ本やエロ絵画というものに対しては非常に厳重な取締りをやっておるということを聞いて実は驚いたのです。これは売春行為それ自体よりも害毒を流すことがひどいとして、売春行為それ自体よりもエロ本やエロ絵画に対しては峻厳な刑罰をもって臨んでおるということを聞いて参りました。私は、終戦後非常に性の解放ということになって、あれはいいことかもしれませんが、あんまり解放し過ぎてしまって、どうもこれでは自分たちの子供たちに気の毒だと思うのです。彼ら青少年に対して気の毒だと思うのです。一方では売春街は絶滅させる、一方では性行為を興奮させるようなものが町にはんらんしている。これは実に矛盾したる行為であるのみならず、子供たちを切り刻むものではないかと私は考える。店頭で小学生や中学生までがみなエロ本を立ち読みしております。こういうことに対しまして、政府は、このままでいいとお考えになっているのであるか、何かそこに一つ取締りの必要があるとお考えになっているのであるか、その点をお聞かせ願いたいと思うのです。これは売春防止法実施に伴いまする必然的な命題の一つではなかろうかと考えますので、政府の御方針を承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/25
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026・竹内壽平
○竹内政府委員 わいせつの文書図画が市場にはんらんという言葉を使ってもいいほどに広く行われておりますことは、猪俣委員の御指摘の通りでございまして、これはまことに寒心にたえない事象であると考えます。戦後、新憲法のもとに、検閲を許さぬというようなことにもなりましたし、その他表現の自由が強く主張されましたために、自由の名においてこの種のわいせつ文書図画がはんらんして参ったのでございますが、これに対しましては、取締り当局としましては、公共の福祉の立場から敢然とこれの取締りに当ったのでございます。自来この考え方を少しも変えておらず、終始熱心に取締りを励行しておるのが現状でございますが、さらに、この売春防止法との関連におきまして、将来の完全正実施を保障する意味からいたしましても、これが取締りにはまた新たな考えをもってさらに一そう励行すべきものの考えておるのでございまして、この点ぬかりなく処置いたしたいと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/26
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027・猪俣浩三
○猪俣委員 私は、現行法でも相当処罰される事案じゃないかと思われるのですが、どうもこれはやはり人権尊重、表現の自由などから遠慮があるのかも存じませんが、あまりにひどい内容のものが野ざらしになっているような感じがします。何かこれに対して今特別な立法を考えるというようなお考えを法務省はお持ち合せないのでしょうか。現行法でもできると思いますけれども、今の刑事訴訟法の段階では多少むずかしい点も出てくるかと思いますが、何かこれを補強するような意味の立法行為のお考えがあるのかないのか、それを承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/27
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028・竹内壽平
○竹内政府委員 これは私どもの手元で検討いたしたのでございますが、いろいろ表現の自由との関連性におきまして、立法いたしますことはわいせつ文書並びにそれに類似の行為を取り締るには役立ちますが、他面においてまた基本的人権の損傷にもなるおそれがあるのでございまして、立法技術上も非常にむずかしいと考えております。それで、さしあたりといたしましては現行法を活用するという考えになっておりまして、今直ちにこれに対する取締まり立法は考えておらないのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/28
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029・猪俣浩三
○猪俣委員 政府は暴力追放に対して相当警察で力をお入れになって、私はこれは相当効果をあげていると思うのです。町のダニみたいのが相当減少してきている。池袋、新宿なども非常に朗らかになってきたと思うのであります。だから、現行法のもとにおいて、政府がその決意があれば、相当私は粛正できるんじゃないかと思う。そこで、今立法をお考えにならぬ、これは、なるほどいろいろ考えられます、めんどうな問題だと思います。正私どもも名案がないのでありますが、ただこういうわいせつ、何らの芸術性もない、何らの意味もない、ただ売らんかなの劣情を挑発するようなものに対しては、私は現行法で十分できると思いますので、これは法務省が中心となり、厳重に励行していただきたい。なお警察庁からもおいでになっておりますので、中川さんの御意見も承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/29
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030・中川董治
○中川政府委員 御指摘の点は全く同感に考えておりまして、現行法では、刑法百七十五条の犯罪という点があるわけですが、これにつきましては、警視庁でもそうですが、全国の警察におきまして周密に視察いたしまして、この犯罪を摘発いたしたいと思います。それから、現行法としては、刑法の百七十五条のほかに、地方公共団体におかれまして、たとえば映画館について未成年者はこの映画は見せないようにするというようなことについて地方公共団体等も規制をいたしている向きもございますので、そういう点も活用いたして努力して参りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/30
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031・町村金五
○町村委員長 三田村君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/31
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032・三田村武夫
○三田村委員 先ほどの猪俣委員の御質疑、御発言に関連して、一言最高裁側にお尋ねしておきたいと思います。お尋ねというよりも、むしろ御注意願いたいと思う。私は率直に申しますが、決して悪意や悪感をもって申し上げるのじゃないのです。先ほど来問題になっておりますように、全国の注視の焦点になっておる売春防止法の完全実施に関しまして、それに必要な二法案が当委員会で審議されておるのです。しかも、二十八日の委員会では、真正面から最高裁判所と法務省の意見が対立した。法務省で現場の手当をして裁判所に送る、裁判所であとの法的処置をされるのでありますが、最高裁側の意見を聞いていると、どうも今の原案のままじゃ困るというような御意見が非常に強かったのです。私は、両当局がここでお互いにその主張、意見を譲らず、いつまでも論議を重ねられることはまことに遺憾だと思いましたから、どうか一つ両当局十分意見の調整をして、この次の委員会までにはまとまった意見で出ていただきたいということを申し上げたのであります。
それはそれとして、十分御連絡があったと思いますが、はなはだ遺憾なことは、その翌日の朝の新聞に出た最高裁の態度であります。これは、ごらんになっておると思いますが、朝日新聞と毎日新聞がここにあります。これは信用のある新聞で、私はうそを書いていると思いませんが、朝日新聞の一日の第一面には大きく出ております。「根拠欠く法務省 売春法の争い 最高裁、反論を発表」、そして、二十八日の委員会で両者その主張を譲らなかった、特に最高裁は同日夕刻記者会見を求めて法務省の主張は根拠のない、反対のための反対としか考えられず理解に苦しむと激しく反論した見解とこれまでのいきさつを公表したところに出ております。これは、全国の国民が見た記事であります。同じ記事がやはり毎日新聞にも出ております。調整は望み薄——これも、四月一日から完全実施となる売春防止法の運用に重大な支障を来たすのではないかと注目されていたが、二十八日の衆院法務委ではこの対立がますます明白となり、最高裁当局は同日夕特に記者会見を行い、法務省の修正反対は全く根拠がないもので、だめにする反対討論だときめつけた、こう書いてあるのです。私ははなはだ遺憾千万だと思います。ここで御意見を述べられることは、先ほど五鬼上事務総長の御意見の通り、私は十分御意見を述べていただいたらいいと思う。御意見を伺った上で、二十八日の委員会でも申し上げた通り、当委員会は、憲法に定められた国権の最高機関として立法を管掌しているのでありますから、委員会は委員会独自の考えはまとめますが、その際に、何か大きな世論を刺激するようなこういうことをことさらに記者会見を求めて御発表になる真意が一体どこにあるんだということを私はお尋ねいたしたいのであります。
田中長官はしばしば訓示して、訓示の中で、裁判所の職員、裁判官は世の雑音にまどうな、雑音に耳をかすなということをしばしば述べておられます。私は、ある意味において、裁判の権威を保つ上においてけっこうなことだと思いますが、そのいわゆる雑音の中には、学者の意見もあり、言論人の言論もあり、文化人の意見も入っていると私は理解しておったのであります。そういう厳粛な態度をお持ちになっておる最高裁当局が、ことさらに今法案を審査している委員会以外に発言の機会を求めて、裁判所の見解なるものを堂々と公表され、特に記者会見を求めて、そこで最高裁判所の態度を表明されるということは、すなわち、その目的といいますか、意思といいますか、それは、一般の国民に最高裁の主張の方が正しいんだということを理解、納得せしめるための処置であったのだろうと考えるのであります。私は、主張は主張として十分尊重もし、尊敬の念を持っておりますが、最高裁判所が特にその言葉の中で——私はしばしば聞いたのでありますが、これは、裁判官会議できめたことだという言葉がついているのであります。裁判官会議というものは、裁判所内部の機構については最高の権威でありましょう。そうでなければ裁判所の内部の秩序は保たれません。司法行政は正しく運営されません。それはわかりますが、裁判官会議の決議そのものが行政府を牽制し立法府を牽制するということは、これは日本の新憲法のもと、国政の運用上あり得ないことであります。もとよりそういう意味での御発言ではないと思いますが、かりにもし小しでも最高裁判所が、これは裁判官会議できめた意思だという絶対の立場からこういう表現をなさったとすれば、私は、事は簡単ではないという気がするのであります。一つ、事務総長がおいでになっておりますから、この特に記者会見を求めて、裁判所の見解なるものを、この法案審議をやっているこの委員会以外のところで国民に訴えるか、大衆に訴えるかという訴える態度をおとりになったその理由、その立場、それについてお伺いいたしておきたいのであります。さきに申しましたように、田中長官は、しばしば雑音に耳をかすなと言われました。私は、あえてこれが雑音だとは申しません。けれども、雑音に耳をかすなということは、裁判の厳粛を保っていくという長官の意思であることはよくわかるのであります。それなら、一体新聞記者を集めて、特に記者会見をしてレクチュアしてこういう記事を作っておる。これは全国民が見ているんです。あたかもこのために、売春防止法が四月一日から施行されるが、完全実施がうまくいくかどうか、大きな疑問だと新聞は書いてある。その点の真意、その点のほんとうのお気持をこの際伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/32
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033・五鬼上堅磐
○五鬼上最高裁判所説明員 この問題は、実は二十七日に参議院において裁判所の意見を求められて、そのときに、裁判所の方としてはこういう意見を持っておるということを申し上げたのであります。それが新聞の方で非常に取り上げられて、一体最高裁判所はどういう意見なんだということを聞いて参りますものですから、こういう場合に、やはりある一つの新聞社だけに申し上げるより、裁判所及び法務省に記者クラブがございますから、記者クラブの方みんなに同じように、こういういきさつだ、こういう考えだということを申し上げた方がよかろうというようなところから、実は私その場にいなかったのですが、そういう関係で新聞記者に発表といいますか、説明したところが、そういう記事になって出たと思うのであります。その結果については、ただいま三田村委員の御発言に対して、私ども十分反省いたしたいと思います。ただ、私どもの方といたしましては、裁判所の裁判があるとか、あるいはいろいろな行事があるというようなことについては、一記者クラブを通じてどの新聞社にも同じように材料を提供しております。ある一部の新聞社にというようなことはいたしておらないのであります。
また、今裁判官会議の問題がありましたが、裁判官会議は、司法行政運営の裁判官会議であります。外部に対して、いわんや行政権に干与するとか立法の問題に干与するとかいうことは毛頭考えておりません。どうか、将来もそういうことですから、御安心願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/33
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034・三田村武夫
○三田村委員 五鬼上事務総長の御答弁、よくわかりますが、私は特に率直に申します。朝新聞を見て、実に不愉快な感を禁じ得なかったのであります。なぜかなれば、ここに江里口刑事局長、竹内刑事局長がおられますが、二十八日には両君もここで火を吐くような理論闘争をやられたのです。聞いておれなかったから、ここでそういう議論はやめてほしい、同じ政府内部の機関であるから、両者の意見がまとまるときにはまとめてきてもらいたい、まとまらないときには、ここは立法府だから、独自の見解で法案の審議をやり、法案の取扱いを考える、こう申し上げておいたんです。ところが、ことさらにその日の夕刻、新聞記者を集めてこういうことを発表される。どこに真意があるかわからぬ。私は、日本の裁判所というものは、ほんとうに国民信頼の焦点として、いつまでも法の殿堂として、信頼の中に置くことが絶対必要だ、そういう観点から申し上げるのです。裁判所が新聞記者を集めて、おれたちの意見はこうだ、法務省の意見は根も葉もないんだ、こういうことをと言われたのでは、検察行政を含めて司法の運営について何かしらん暗い影を国民は受け取りやしないかということをおそれるのであります。今事務総長の御意見でわかりましたが、将来十分一つこの点は御注意願いたいと思います。
これだけ申し上げて、私の発言を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/34
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035・町村金五
○町村委員長 吉田賢一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/35
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036・吉田賢一
○吉田(賢)委員 私は二、三の点につきまして補足的に御質疑をしておきたいと思うのであります。
第一は、だんだん各委員からきょう御質問になりました調査官制度の問題をめぐって、法務省と最高裁の見解等が相当食い違っておる点につきましては、私はあくまでも白紙の態度で臨んでおります。従って、この委員会といたしましては、この際冷静に、白紙の立場に立ってこの問題は検討しておくべき価値がある、また必要のある事柄、であると、こう考えておるのであります。
そこで、私は、なおこれにつきまして一、二伺いたいことがあります。法務省におきましては、この補導処分の法律上の性質はどういうふうにお考えになっておるのでございましょうか。一種の刑罰処分として、執行猶予に処せられた売春婦人に言い渡す処分、こういう性格を持ったものというお考えなのかどうか。この点について一つ御所見をお伺いしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/36
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037・竹内壽平
○竹内政府委員 補導処分は保安処分であるというふうに考えております。これは、さきに売春防止法が可決されます際に、参議院の法務委員会から特に附帯決議として、保安処分を考慮すべしという論がございましたし、さらにはまた、別途売春対策審議会におきましても、五条違反の成年女子に対する補導処分を考慮すべしという答申がなされておるのでございまして、その趣旨をすべてくみまして立案されたものでございます。名前は補導処分と申しておりますが、これは保安処分に当るものでありまして、刑罰ではない、五条の違反を犯した場合に、自由刑に処して、その自由刑を執行猶予される場合、補導処分に付せられるのでございますが、これは、五条違反という犯罪を手がかりとして補導処分を言い渡すことを規定したものでございます。従いまして、科せられます自由刑は、これは刑罰でございますけれども、それとともに科せられる補導処分は、少年保護の保護措置と同じ内容の、売春婦を保護更生させるということを目的とした保安処分であります。さように理解いたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/37
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038・吉田賢一
○吉田(賢)委員 すでに刑の執行を猶予せられる処分を受けた者、自由を与えられる者が、刑罰にあらざる拘束を受けるということは、この点についてやはり一つの矛盾を持つものではないであろうか、これは前々会に私が伺った点にも関連するのでありますが、この点についてはやはり特殊な性質を持ったもののようにも考えられるのであります。もし刑罰でないとするならば、やはり強制収容するというところに少し理論的な矛盾も生じてくるのではないか。こう思いますが、その点、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/38
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039・竹内壽平
○竹内政府委員 吉田委員の御疑念の点は、理解するにかたくないのでございます。なるほど、補導処分ということになりますると、起訴されます案件はすべてこれ補導処分の方へ持っていこうということになるかのごとく見えるのでございまして、そうだといたしますならば、現行法のもとにおいて、罰金という刑もあり、執行猶予という刑もあり、あるいは執行猶予に保護観察という処分もありというこの実情が、この立法によりまして、そういうニュアンスが消えてしまって、一挙に補導処分にいく、補導処分は強制収容を伴う措置でございますので、そういうこことになりますならば、何か重い負担を売春婦にかけるのではなかろうかという御疑念が生ずることは、一応理解されるところでございますし、また世にもそういう疑念を抱かれる向きも少くないと思うのでございます。この点につきまして、やはり五条違反の罪がどのように運用されるものであるかということの理解の上に議論をいたしませんと、おわかりにくいかと思うのでございますが、五条違反に相当する罪は、現行法のもとにおきましては、各都道府県の売春条例等に勧告等の行為を処罰したものがあるのでございまして、決して五条違反は新しい罪ではないのでございますが、一応この種の勧誘罪を拾ってみますると、年間約八千件検察庁において受理をいたしております。そのうちでほとんど大半は起訴猶予ということになっておりまするが、その他の、先ほどもちょっと触れましたが、このうちで公判請求をされておりますのは八十名内外でございます。これは一般の起訴率に比べて非常に低いのでございますが、従来とても売春婦の保護更生、ということは意を用いておるのでございます。それで、この八十名の公判請求を受けました者が、現在どのように裁判所において裁判されておるかということの実態は、おそらくは執行猶予もございましょうし、あるいは実刑になりました者も少数ながらあるかと思います。その他保護観察に付せられた者もあると思いますが、このような公判請求を受けなければならぬような者がおそらくはこの補導処分の対象になっていく、つまり実刑に科せらるべき者を、補導処分という保安処分ができました以上は、この保安処分によって保護更生の道をはかってやろうというのが、この法案のねらいでございますので、運用と相待ちまして、この法案の趣旨を生かしていきたいというふうに考えておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/39
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040・吉田賢一
○吉田(賢)委員 すでに保安処分として補導処分をなさる、これは刑罰の処分でない、こういうことでありましたならば、むしろ少年法の保護事件についての処分がこれに最も近似するものである。この点は今の御説明によってもやや明らかになったのでありまするが、そうといたしますると、一そう現実的な、いろいろ要請される必要事項をでできるだけ取り入れて運営するということが一つの重大な問題になってくるんではないでありましょうか。刑罰処分として、一つの刑訴あるいは刑罰法規の体系にそぐわないような種々の考慮も必要であるかわかりませんけれども、少年法の運用の実例によってみましても、またこの法規の立法の経緯によってみましても、やはり重点は運用にあるということになるようにどうも考えられる。さすれば、運用に適切必要な条件を満たすということが、むしろ論ぜらるべき眼目でなければなりません。立法の問題、法体系の問題を議論するというよりも、運用の方にこれは価値を持つべき問題ではないであろうかこういうふうに特に考えさせられるのであります。特にこの保安処分の対象が拡大し、範囲が拡大し等々しまする最近の法律制度の趨勢から考えてみましても、また売春防止法という画期的なこういう新しい法律制度の実体から考えましても、やはり帰するところは、いかに運営するかという運営面に重点があると私は思いまするので、さすれば、運営上どうすることが最も適当であるか、欠けた条件はないであろうか、こういうことに私は考え及ぼしていくべきではないかと思います。そうなって参りますると、やはり調査管制度がいいか悪いか、これはなお別にいたしまして、十七条の補導処分か直ちに何らの憂い、心配がない、完全であるというふうには、普通だれも思っておりませんし、あなたのだんだんの御説明、御答弁によっても、その趣旨はうかがい得るのであります。やはりそういう面から考えてみますると、現実の必要から、調査官制度もしくは調査官に類似する何らかの制度によって、この運営の全きを期するということが必要でないか、こういうふうにも考えさせられるのであります。これは、ちょっと議論が飛躍するかもわかりませんけれども、私は運営に重点を置いて考えるときには、運用の完全を期する何らかの制度を考えねばならぬのじゃないか、こういう点から申し上げておるのであります。これはどういうふうにお考えになりましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/40
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041・竹内壽平
○竹内政府委員 仰せの通り、この問題は運用のいかんにかかってくると思うのでございまして、売春防止法の第一条の目的趣旨、これをよく理解した運用が特に望まれる次第でございます。そういたしますると、この問題が、一応この売春防止法において四月一日からは刑事罰が発動されるわけでございますし、さらにはまた、御審議を得ておりますこの補導処分も同時に動くということになりました場合に、事件を刑事手続に乗せて運用するということになりますと、それを推進します検察官の職務というものは非常に重要なものになると思うのでございます。もしもこの法案のねらっているところを誤まって、運用を違った方向に持っていきますならば、この売春防止法の刑罰法規は全く死文となってしまうのでございます。そこで、今までの統計的な実績等から見ますると、五条違反という罪は非常に軽い、どちらかといえば軽犯罪的な種類に属する罪でございます。こういう罪を規定して、それに補導処分ということになるのでございますけれども、これはあくまでも補導処分への手がかりと見られるような罪だと思うのでございます。そういたしますると、約八千名からの年間の受理件数があるわけでございますが、こういうものの処理は、おそらくは相当多数——大部分と申してもいいのではないかと思いますが、そういうものは検事の手元において起訴猶予、かつその起訴猶予は保護更生ということを裏づけとした起訴猶予処分によって処理されていくものと思うのでございます。かりに二千四百三十人について調査した実績によりますと、検挙の回数が初回である、一回目であるというのがそのうちの半分以下の一千名でございまして、二回から五回というのが千百十九名もある、六回から十回というのが百七十九名、十一回以上というのが七十二名もあるといったような実情でございます。非常に習慣性を持ったものでございます。そういう者の処遇につきまして、まず第一には、保護更生ということを裏づけとした起訴猶予処分がなされると思いますが、さらに公判請求に参りました場合にも、罰金というような処置はなるべく避けるべきでありましょう。多くは保護観察付の執行猶予、あるいは真にはしにも棒にもかからぬといったような種類の者が補導院へ入る執行猶予付の補導処分というようなことになろうかと思うのでございますが、おそらくはそういう趣旨の運用方針が強く打ち出されまして、問題の円満な解決をはかると思うのでございます。公判に回りましたものは、補導処分という制度がここにできるのでございますが、それでは、その大部分を占める起訴猶予になります者の保護更生の措置はどうかと申しますと、この二部改正法におきましては、起訴猶予になります場合にも、緊急更生保護法によりまして保護更正の道が与えられるんだということを法律上はっきりさしておりますほかに、運用の面といたしましては、検察庁に保護更生の相談室というものを、現在も六カ所持っておりますが、さらここれを十四カ所に拡充いたしまして、そこで保護観察官あるいは婦人相談員、婦人警官といったようなこの道の方々のお集まりを願って、検察運営とそういう保護更生とを有機的に結びつけて、起訴猶予の段階における保護更生についても、補導処分におけるそういう強力なものはございませんけれども、なお情の軽いものに対しましては、簡単な野放しということではなくして、あるいは帰住の指導をしたり、あるいは入寮の手続をしてやったり、そのほか若干の給付をしてやったり、相談に乗ってやったりといったような、いわゆる婦人相談所でやっておりますような事業をも結びつけまして、真に有効適切な運用をはかって参りたいというふうに考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/41
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042・吉田賢一
○吉田(賢)委員 刑罰の処分ではなくして保安処分であるということでありますならば、たとえば改正刑法の草案等によっても見られますように、条件付の宣告猶予の、言い渡しというようなこともあるいは考えられるのでありまするが、そういったことはいろいろと法案成立の過程で御議論になったやに私も聞いたのでございまするが、かなり広い範囲におきまして、現実の必要を満たす、こういうような観点から運用していくということに非常に重点が置かれてくると思います。そこで、一方運用いかんということがこの法律の生命でありますから、従って、法律上の性質がそうういうものであるとするならば、やはりこの成年の売春婦の五条違反者の処遇につきましては、今日の社会がいろんな角度から考えておるということもぜひ私は取り入れていかねばなるまいと思うのであります。たとえば、一般の犯罪よりも一そう社会的原因が多い、みずから持っておる身心の原因が多い、こういうような点から考えてみましても、これに対しまして補導処分を言い渡すときには、普通の犯罪事件を扱う裁判所におきまして容易に手の届かないような、あらゆる材料がぜひとも必要である。そこで調査官の制度の問題が表へ出てきたものと私は思うのであります。しかしながら、これに対して反対の論拠は、やはり刑罰法規、法体系の理論とか、組み立てとか、他への影響とか、こういった面がいろいろ出されておるようであります。これは、あなたの力でも今後御検討になるようでありますが、いずれにいたしましても、このような必要を満たすというためには、やはり調査官制度そのものかいなやは別といたしまして、少くともそれに類似するものは積極的にこれを設置するという方向へ指向するということでないと、私は、今後この運用の完璧を期するときがこないのではないかということを心配します。といいますのは、すでに四月になりましたら全面実施になりますし、また、五条違反というものは今お述べになったような件数もあるか存じませんが、五条違反の件数につきましても、これはあるいは減るかもわからないと考えられる。といいますのは、最近におきましては、たとえばコール・ガールとか言われておるようでありますが、あるいはまた文書によりますと黄緑とかいう字句を使っておるようであります。要するに街頭においてそでを引くとかいったような姿態のものは影がうせちまうのだ、こういうことも一面言われておる際であります。従って、私は、この法の運用につきましては、積極的にこの裁判の受け入れ体制、裁判所の補導処分をなすことについての条件の完全を期するという方へあらゆる努力を積極的にするという志向のもとに今後の御検討をしていただかなければ、今の検察庁の手で、今の警察の手で集まった材料を出せばそれでいいんだという程度の考え方では、この法の運用は全うできないので、結果は、補導員があきらあるようになりはしないかということを心配します。抜け道は別にできているのであります。黄緑——コール・ガールができ、また黒線ができるかもわからぬ、こういうようなことがありますので、そういう幾多のてんめんする条件を集約してみますと、やはりこの法律の運用の完全を期するために、調査官もしくはそれに類似するものを設置することによって、実際の補導処分をなすについての資料を裁判官は現実に握ることができる、こういうふうに考えざるを得ないと思うのであります。そういう志向のもとにだんだんと御調査、御検討になる必要があるのではないかと思うのです。さりとて、私は直ちに今最高裁の持っている意見に同調しながらあなたにものを言うというのではなしに、私は、現実の必要から、すでにあなたの方で補導処分が保安処分であるというような法律上の性格を明確にせられる以上は、一そうこの現実的必要の緊急性というか、重要性を考えますので、特に申し上げるのであります。そういう志向のもとに、これは進んで調査検討などをしていただくべきではないだろうか、こういうふうに思います。これが刑罰処分であるということであるならば、また議論がさらに複雑になりますけれども、そうでないということであるならば、少年法の運用等の実例によりましても、私はこういう考え方が正しいんでないか、こう思いますので、その点につきまして法務省の今後の志向——これはあなたにお聞きすることか、大臣に聞くことか、どっちが適当かわかりませんけれども、いずれにいたしましても、名前のいかんは別といたしまして、これを補強するにしかるべき相当の制度を新たに創設していくというくらいな積極的な志向がないと、この運営の完全を期することができないと思うのであります。この点、いかがです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/42
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043・竹内壽平
○竹内政府委員 ただいまの御意見は、全く私も同感でございまして、今後すみやかにただいま御指示のような志向のもとに研究をさしていただきたいと思っております。とりあえずの問題といたしましては、もちろん警察や検事がかき集めてきた資料だけでは不十分でございます。先ほど婦人相談室の話を申しましたが、そこに参りましたものにつきましては、いわゆる生活経歴、あるいは医学上、社会学上、心理学上のいろいろな角度から集めた経歴書をすでに持っているわけであります。何回も何回も検挙されてきておりまして、ついには公判請求というようなものにつきましては、東京に関します限りは、ほとんど生活経歴のようなものはできているのでございまして、こういうものを活用することによって、一応裁判の資料としましては提供し得るものと考えておるのでございますが、今申しましたように、確かにそういう資料を必要とするのでございますので、それを最高裁判所の言われる調査官という形で実現をいたしますかどうかは、これはおっしゃる通り御議論のあるところと思います。それはそれとして、とにかく研究をするということにいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/43
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044・吉田賢一
○吉田(賢)委員 時間もありませんので、こまかいことは割愛しましてごく簡単に伺っておきますが、この実際の運営につきまして、今一点触れましたが、今売春の傾向が漸次非常に複雑な形をたどりつつあります。五条違反というのは、現実におきましてはだんだん姿を消すと思うのであります。私も昨日ちょっと新橋付近のことについて、いろいろ裏へ回って人に聞いたのでありますが、いろいろな形で工夫されて、黄緑あるいはその次のいろいろな方法もできておるようでありますので、五条違反というものは今後漸減するような傾向もあるのではないか、こういうことも考えますので、これに対しましては、法務省の意向というよりもむしろ警察当局の御意見を伺いたいのでありますが、これはいろいろな手を次々と打っていきつつあるということを念頭に置いて取締り等の万全の対策を講ずること及び従来の姿がもうすでに新しい姿に進みつつある、従来の姿の五条というものを仮定しまして、その現実に立ちましてこの制度を設けた、法律を作ったのでありますが、その現実がすでに違った形へ転化して、進んで別の方法正で売春が行われようという傾向がだんだん起っております。この点につきましては、今後立法上、運営上取締り等々各般からこれは十分な対策を講じなければならぬ、こう思いますが、この点いかがです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/44
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045・中川董治
○中川政府委員 将来の見通しの問題については、今吉田委員が御指摘になったことも十分考えられますので、私どもとしては、この五条の違反の態様という点も、よくお話の点も念頭において捜査するつもりでおります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/45
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046・吉田賢一
○吉田(賢)委員 それでは二条だけ伺っておくことにしましょう。婦人補導院関係の問題につきましては、これは問題がずいぶんたくさんございます。ことに二条の運用ということは、これは重大な問題で、これは各方面から十分論議しなくちゃならぬと思いますが、矯正局長も六ヵ月で補導の完全を期することはできないということはもうすでにみずから告白しておられるのであります。これはやはり生活指導、職業補導、及び身心の改善、こういうような面等につきまして、これはよほどの覚悟でやらねば目的を達しない。入って一ヵ月はおそらくおどおどしているだろう。うちの家族のことも心配するであろう。生活が一変するのであるし、それを六カ月の間に人間も変え、身心の状態も変え、職業の教育もされる、生活指導もされる、社会に復帰できるような人間を作り上げようということは、神わざでなければ私はできないと考えておるのであります。でありまするので、これは新しく何らかの方法をとらねば、法は死法に化するものと私は固く信じております。これは、私の申し上げることが間遠っておるのかあるいは図星を指摘しておるかということは、実績が将来証明すると思いますけれども、これらの点につきましては希望しておきます。これだけではどうにもならぬということを固く信じておりますので、法務大臣におかれましては、せっかく予算、制度、法律等々の運用の完全を期するためには何らかそういうことの事前の対策でも講ずるか何かしなければ、この婦人補導院というものも死物になってしまうということを考えるのであります。この点について法務大臣の御覚悟をちょっと聞いておきたい、こう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/46
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047・唐澤俊樹
○唐澤国務大臣 ただいま吉田委員からの御意見、私も全く同感でございます。一応法律は整備いたしましたけれども、この法が果して円滑に運用されまして、その効果を発揮するかどうかということにつきましては多大の心配を持っておるわけでございます。ことに、ただいま御指摘になりました点などは十分注意いたしまして、将来あやまちのなきを期し、法の運用に当りたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/47
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048・町村金五
○町村委員長 他の御質疑はありませんか。——なければ、両案に対する質疑は以上をもって終局することにいたします。
これより討論に入ります。討論の通告がありませんので、直ちに採決いたします。売春防止法の一部を改正する法律案及び婦人補導院法案の両案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/48
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049・町村金五
○町村委員長 起立総員。よって、両案は原案の通り可決いたしました。
次に、ただいま可決せられました売春防止法の一部を改正する法律案に関し、自由民主党及び日本社会党の共同提案による決議案が提出されております。趣旨の説明を求めます。岡橋禎一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/49
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050・高橋禎一
○高橋(禎)委員 提案者を代表いたしまして決議案文の朗読及び趣旨の説明をいたしたいと思います。
附帯決議(案)
売春防止法(本改正案を含む。)の立法趣旨にかんがみ、政府は、裁判所等の意見をさんしやくして、補導処分制度の運用に関し、可及的速かに、裁判所調査官制度を調査、検討すべきである。
右決議する。
これが決議の案文でございます。
続いて、この決議案提出の趣旨を簡単に御説明申し上げます。
売春防止法の完全実施を目前に控えまして、政府は本国会に売春防止法の一部を改正する法律案と婦人補導院法案を提出いたしました。よって、本委員会においてその議審をいたして参ったのでありますが、その審議の過程におきまして、裁判所の調査官制度をめぐって法務省側の意見と最高裁判所の意見とが対立いたしました。なぜこのようなことになったかと申しますと、これは要するに、裁判所調査官制度を刑事手続に取り入れるかいなかについてまだまだその結論を得るところまで研究が十分遂げられていないことを意味するものと思うのであります。申し上げるまでもなく、裁判所調査官制度を採用すべきかどうかという問題は、これは非常に意味のある問題であります。しかしながら、またむずかしい問題であるとも考えるのであります。そこで、外国の制度の中にもいろいろと参考にすることもあるでありましょうし、また現行制度のもとにおける刑罰体系、裁判所の職分、刑事訴訟の構造等から根本的に検討して参る必要もあろうかと考えるのであります。このようにこの問題は非常に深い意味があるものでありまして、今まで本委員会での法務省または最高裁判所の考え方を聞きましても、まだまだいずれとも最終的な結論を出すまでに熟しておるものとは考えられないのが現状と思うのであります。従いまして、今の段階におきましては、政府は責任を持ってこの問題を調査研究してその結論を出すことに資すべきであると信じます。その検討のやり方といたしまして、最高裁判所の意見を十分しんしゃくすべきものであると信ずるのであります。なぜかと申しますと、裁判手続の実際の衝に当るのは裁判所でありますから、裁判所の意見というものが非常に実情に即したものがあるはずでございます。もちろん最高裁判所の意見に盲従すべきものであると申すのではありません。また最高裁判所の意見と相違があるからというので政府の立法措置がはばまれるというようなことも、あるべきはずではないと思います。しかしながら、最高裁判所の意見は、さっき申し上げましたような立場にあるものでございますから、十分参酌され尊重さるべきであると信じます。そして、そのような態度で、ほかに、あるいは実務家なり学者の見解なり、またさらに国民の世論等をも正しく生かして、そうしてよき結論を出そうという態度に政府は出らるべきものとわれわれは主張するものであります。それに、いま一つ、これはやはり今国会において大きく取り上げられた問題でございますから、可及的すみやかにこの措置を講ぜらるべきであるというのが、われわれのまた願望でもあるのであります。
かような意味におきまして本決議案を提出するのでありますから、何とぞ御審議の上御賛成あらんことをお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/50
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051・町村金五
○町村委員長 以上で附帯決議案文の朗読及び趣旨説明は終りました。
討論の通告がありますから、これを許します。菊地養之輔君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/51
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052・菊地養之輔
○菊地委員 私は、日本社会党を代表して、附帯決議に対して賛成の意を表します。
ただいまの高橋君の趣旨に対しましては全面的な賛成を表するものでございますが、ただ、この際希望を申し上げておきたいと思うのであります。
第一は、本法案を施行するに際してきわめて予算が少いということであります。法務省の要求した額の一割二分しか予算が決定しておらない。これではほんとうの完全実施が困難ではないか。これに対して当局は万全の策を立てて予算の獲得のために今後も努力をしなければならぬということをお考え願いたいということであります。
第二は、補導員の問題は猪俣委員もとくに申されましたが、これが非常に大切なことは言うまでもございません。先ほど当局のお話では、刑務所に長くいた人を補導員に採用したいというのでその推薦方を依頼しているというお話がございましたが、これもまた適切な方法であるかもしれません。しかしながら、長く囚人を扱った考え方でこの婦女を補導するということになりますと、大きな誤まりを犯すこととなると思うのであります。明るい補導をするために、補導員に対しましては適切な方法を立て、本法の実行に万全の方法を十分お考え願いたいということを希望いたしまして、賛成の意を表するものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/52
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053・町村金五
○町村委員長 これにて討論は終局いたしました。
採決いたします。本附帯決議案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/53
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054・町村金五
○町村委員長 起立総員。よって、本附帯決議案は可決されました。
なお、ただいま議決せられました両法律案の委員会報告書の作成及び附帯決議の送付等につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/54
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055・町村金五
○町村委員長 御異議なしと認めます。さよう決しました。
本日はこれにて散会いたします。
午後一時五分散会
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01119580306/55
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