1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十三年三月二十五日(火曜日)
午前十時三十八分開議
出席委員
委員長 町村 金五君
理事 高橋 禎一君 理事 林 博君
理事 福井 盛太君 理事 三田村武夫君
理事 横井 太郎君 理事 菊地養之輔君
小島 徹三君 世耕 弘一君
徳安 實藏君 長井 源君
横川 重次君 猪俣 浩三君
佐竹 晴記君 武藤運十郎君
出席国務大臣
法 務 大 臣 唐澤 俊樹君
出席政府委員
検 事 竹内 壽平君
(刑事局長)
委員外の出席者
専 門 員 小木 貞一君
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三月二十日
委員小島徹三君、徳安實藏君、長井源君及び横
井太郎君辞任につき、その補欠として秋田大助
君、小笠原三九郎君、遠藤三郎君及び高碕達之
助君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員秋田大助君、小笠原三九郎君、遠藤三郎君
及び高碕達之助君辞任につき、その補欠として
小島徹三君、徳安實藏君、長井源君及び横井太
郎君が議長の指名で委員に選任された。
同月二十五日
委員古屋貞雄君辞任につき、その補欠として風
見章君が議長の指名で委員に選任された。
同月二十五日
横井太郎君が理事に補欠当選した。
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三月二十日
刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第一三
一号)
同月二十四日
企業担保法案(内閣提出第七〇号)(参議院送
付)
の審査を本委員会に付託された。
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三月十八日
外国人登録事務費全額国庫負担に関する陳情書
(第六二七号)
恩赦廃止に関する陳情書
(第七
〇一号)
を本委員会に参考送付された。
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本日の会議に付した案件
理事の互選
刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第一三
一号)
刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出
第一三二号)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/0
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001・町村金五
○町村委員長 これより会議を開きます。
この際、現事の補欠選任についてお諮りいたします。すなわち、委員の異動に伴い理事が一名欠員となっておりますので、その補欠を先例により委員長より指名するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/1
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002・町村金五
○町村委員長 御異議なければ、理事に横井太郎君を御指名申し上げます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/2
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003・町村金五
○町村委員長 次に、刑法の一部を改正する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案、右両案を一括議題といたし、提案理由の説明を聴取いたします。唐澤法務大臣。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/3
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004・唐澤俊樹
○唐澤国務大臣 刑法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
この法律案は、あっせん贈収賄に関する部分と暴力取締りに関する部分とからなっておりますので、まず、あっせん贈収賄に関する部分について申し上げます。
事新しく申し上げるまでもなく、刑法の贈収賄罪は、収賄する公務員の職務またはこれと密接に関係する事項についてわいろが授受された場合に、これを処罰するにとどまるものであります。従いまして、たとい公務員が不正な依頼を受けて多額の金品を収受したとしても、それが自己の職務行為の対価ではなく、職務権限を有する他の公務員にあっせんすることの謝礼である場合には、犯罪とならないのであります。このような刑法の不備を補い、あっせん収賄をも処罰することにいたすべきであるという意見は、わが国においてもかなり古くから主張され、昭和十五年に発表された改正刑法仮案、昭和十六年に政府の提出した刑法中改正法律案、昭和二十九年及び昭和三十二年に議員から提出された刑法の一部を改正する法律案などには、あっせん収賄及びこれに対応する贈賄を処罰する規定が見られ、また、戦時中の特例としてではありますが、戦時刑事特別法は、官公署の職員に関するあっせん贈収賄罪を規定しておりました。最近に至り、再びあっせん贈収賄罪に関する規定を刑法中に加えることにより一そう公務員の綱紀粛正をはかるべきであるという世論が高まって参ったのでありますが、政府におきましても、同様の観点からその立法の必要を認めまして、鋭意その研究を遂げました結果、ここにようやくその成案を得た次第であります。
この法律案中、いわゆるあっせん収賄罪に関する規定は、第百九十七条ノ四でございまして、これによりますと、公務員が、請託を受けて、他の公務員に職務上不正の行為をさせまたは相当の行為をさせないようにあっせんすること、またはしたことの報酬として、わいろを収受し、またはこれを要求もしくは約束したときは、処罰を受ける趣旨のことが定められております。世上いわゆるあっせん収賄行為と呼ばれるものは、たといそれが非難すベきこたとであるにしましても、その事柄の性質と、今まで全く放任されていたこととにかんがみまして、細大漏らさずすべて一挙に処罰の対象として規定するようなことは、刑罰に過大の役割をしいるものでありまして、その効果に疑問がありますばかりでなく、かえってさまざまの危険な副作用を伴うおそれがありますので、むしろ漸進的に事を運ぶのが最も適当であると考えたのであります。そこで、まず、これらの行為のうち、何人にも明白に悪質と見られる行為にその対象を限定して、乱用のおそれを戒め、特に誤まった嫌疑によって取り返しのつかない損害を生ずることのないよう配慮したものであります。そのため、すでに刑法で用いならされている明確な概念によることとし、解釈上の疑義が生じないように努めたのであります。
これによって、悪質なあっせん贈収賄を一掃し得るばかりでなく、広くこの種の行為に対す警鐘となって犯罪の防遏に好影響をもたらすことは期して待つべきものがあると確信いたしております。
次にその要点について申し上げます。
一、公務員のあらゆるあっせん収賄行為を取締りの対象とすることなく、他の公務員にその職務上の義務違反行為をさせるようにあっせんし、またはあっせんしたときだけを処罰しようとするものであります。
二、すでに職務違反行為のあっせんを要件といたしました以上、これに関する収賄はそれだけで違法な行為であることが明らかでありますので、公務員があっせんに際してその地位を利用することを犯罪の成立要件としなかったのでありますが、この点は、地位の利用という必ずしも明確でない概念を避け、犯罪の成否が裁判官や捜査官の主観によって左右されるのを防ぐ趣旨をも含んでおります。
三、あっせんの事前に請託が行われることを要件とすることによって対象の明確化をはかり、また、あっせん贈収賄罪の特質にかんがみ、実費等を除いた報酬だけがわいろとなることを明らかにいたしました。
なお、あっせん収賄に関する規定のほかに、第百九十八条第二項として、これに対応する贈賄を処罪する規定を設け、別に第四条を改正して、国外で犯されたあっせん収賄罪をも処罰することといたしました。
次に暴力取締りに関する部分について申し上げます。
近時各地に多数発生を見た、いわゆる暴力団、愚連隊等による殺傷暴力事犯の実情にかんがみまして、これが取締り処理の適正を期するため、所要の改正を加えようとするものでありまして、その要点について申し上げますと、
一、被害者を令しむ証人、参考人またはこれらの親族に対するいわゆるお礼参りの行為として行われる面会強請及び強談威迫の行為を新たに処罰し得ることとしようとするものであります。
二、強姦罪、強制わいせつ罪等は現在親告罪とされておりますが、それらの罪を二人以上の者が現場において共同して犯した場合のいわゆる輪姦的形態によるものにつきましては、これを親告罪とはしないこととしようとするものであります。
三、いわゆる持凶器集合罪ともいうべきものを新たに処罰することとし、二人以上の者が、他人の生命、身体または財産に対して共同して害を加える目的で集合しました場合に、凶器を準備して集合した者、凶器の準備があることを知って集合した者または凶器を準備しもしくはその準備があることを知って集合させた者を処罰しようとするものであります。
四、現在親告罪とされております器物損壊罪及び私文書毀棄罪を非親告罪としようとするものであります。
以上が刑法の一部を改正する法律案の趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決下さいますようお願い申し上げます。
次に、刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、その趣旨を説明いたします。
最近における暴力事犯に関する刑事手続の運用の実績にかんがみますとき、被害者を含め証人等の保護その他の観点から見まして、刑事訴訟法中二、三の点につき改正を要すると認められるものがあります。
この法律案は、この要請に応ずるものといたしまして、同法中、保釈、緊急逮捕及び証人尋問等に関する規定につきまして所要の改正を加え、暴力事犯に対する刑罰法令の適正かつ迅速な適用実現をはかり、もって刑法の一部を改正する法律案並びにさきに提案いたしました証人等の被害についての給付に関する法律案と相待ってこの種事犯に対処しようとするものであります。
以下この法律案の要点について申し上げます。
一、いわゆる権利保釈の除外事由の一として、現行法は、被告人が被害者等に対して害を加えまたは畏怖させるようないわゆるお礼参りの行為をすると疑うに足りる十分な理由がある場合を掲げておりますが、その対象を若干拡大して、被害者等の親族を加えることといたしますとともに、疑うに足りる十分な理由とあるのを疑うに足りる相当な理由に改めようとするものであります。これに関連しまして、保釈または勾留の執行停止の取り消し事由についても改正を加えることといたしました。
二、暴行罪及び脅迫罪は、その法定刑が懲役二年以下と定められ、現行法上緊急逮捕をなし得る罪には当らないこととなっておりますが、現下暴力事犯の実情にかんがみ、これらの罪を新たに緊急逮捕し得る罪として規定しようとするものであります。
三、公判期日または公判期日外における証人尋問に際しまして、被告人の立ち会いを一定の要件のもとに制限し得ることとしようとするものであります。すなわち、証人が被告人の面前では圧迫を受けて十分な供述をすることができないと認められる場合には、弁護人が立ち会っているときに限り、その供述中被告人を退席させることができるものといたしますとともに、退席させました場合には、供述終了後、被告人に証言を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならないものとしようとするものであります。
以上が刑事訴訟法の一部を改正する法律案の趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決下さいますようお願い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/4
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005・町村金五
○町村委員長 これにて提案理由の説明は終りました。
次に、ただいまの両案につきまして補足説明を聴取いたします。竹内政府委員。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/5
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006・竹内壽平
○竹内政府委員 両法案の逐条説明を申し上げたいと思います。
まず、刑法の一部を改正する法律案でございますが、これはいわゆるあっせん贈収賄関係と暴力関係とに分れておりますので、便宜あっせん贈収賄の関係から逐条説明を申し上げます。
まず、第四条の改正でございますが、これは国外で犯されたあっせん収賄罪をも処罰することとするためでございます。
第百九十七条の四は、新たにあっせん収賄を処罰する趣旨の規定でございます。なお、本条が新設されました結果、わいろの沒収に関する現行法第百九十七条の四は百九十七条の五に繰り下げられまして、あっせん収賄の場合のわいろにも同条が適用されるのでございます。
次に、あっせん収賄罪の内容につきまして補足説明をいたします。
まず、あっせん収賄罪は、公務員という身分を有する者を犯罪の主体とする身分犯でございます。第一に、第三者から請託を受けること、第二に、他の公務員にその職務上不正の行為をさせ、または相当の行為をさせないようにあっせんすること、またはあっせんをしたことの報酬としてわいろを収受、要求または約束することの二つを要件とするのでございます。なお、本条で「公務員」とか「他の公務員」とか申しますのは、いずれも刑法第七条に定義されております通り「官吏、公吏、法令二依リ公務二従事スル議員、委員其他ノ職員」をさすのでございますが、その他の法令によりまして公務員とみなされる者をも含むことは当然でございます。
次に、「請託」と申しますのは、ある事項に関する依頼をいうのでありまして、本条におきましてはあっせんの依頼をさすのであります。あっせんを受ける他の公務員の職務権限に属する事項に関するあっせんの依頼であれば足りるのでありまして、他の公務員に不正の行為をさせるようにあっせんすることをその内容としていなくてもよいというふうに解するのでございます。請託はあっせん行為の前に行われる必要がございますが、将来あっせんすることについてわいろの授受がありました場合には、少くともこれと同時に請託が行われなければならないと解するのであります。なお、請託につきましては、明示のものと黙示のものとありますことは言うまでもございません。
次に、「斡旋」という語でございますが、これは一定の事項についてある人とその相手方との間に仲介の労をとることであります。本条におきましては、他の公務員の職務権限に属する一定の事項につきまして第三者のために有利な取扱いをしてもらうようにあっせんすることを申すのであります。ただ、本条の罪が成立するためには、そのあっせんが他の公務員に職務上不正な行為をさせまたは相当の行為をさせないことを内容とするものであることが要件とされておりますから、他の公務員にもともと正当な職務執行をさせることを内容とするあっせんにつきましては、本条による取締りから徐かれるのであります。次に、不正の行為をさせまたは相当な行為をさせないと申しますのは、公務員としての職務上の業務にそむいた積極的または消極的な行為——法律用語で申しますならば作為または不作為でありますが——をさせることであります。従って、あっせんの内容となった事柄が不正行為であるかどうかは、それがあっせんを受ける公務員の職務上の義務に違反するかどうかによって判断されるわけであります。
なお、本条によってあっせん収賄が処罰されますのは、不正行為のあっせんが行われた場合だけではなく、将来このようなあっせんが行われる場合をも含むのでありまして、また、過去にこのようなあっせんをしたことについて贈収賄が行われました場合には、あっせんの結果現実に不正行為が行われたかどうかにかかわらず本罪が成立すると解するのであります。
次に、「報酬」という語でありますが、報酬と申しますのは、一定の行為をすること、またはしたことの対価でありまして、その行為に必要な費用を除いたものをいうのであります。本条におきましては、不正行為のあっせんに対する謝礼のみを意味するのであって、車馬賃その他の実費を含まないのであります。
次に、第百九十八条に第二項が追加されましたのは、あっせん収賄に対応する贈賄またはその申し込み、もしくは約束を処罰するためであります。贈賄は収賄の裏側でありますから、本項の罪が成立するためには、贈賄者の側から見て、あっせん収賄罪と同じ要件の存在することが必要であります。
次に、暴力関係について補足説明を申し上げます。第百五条中「本章ノ罪」を「前二条ノ罪」に改めるということの部分の改正は、第百五条の規定は、従来通り第百三条及び第百四条の各罪について適用がありますが、新たに設ける第百五条ノ二の罪には適用されないことを明らかにしようとするものであります。
次に、第百五条ノ二でございますが、刑事被告事件の証人等に対する、いわゆるお礼参りの行為である面会強請または強談威迫の行為を処罰する趣旨の規定でございます。刑事被告事件の証人等に対するお礼参り行為として、それが暴行、脅迫等の罪に当るものにつきましては現行法によって処罰し得ることはもちろんでございますが、脅迫、暴行等の程度に達しない威圧行為につきましては適切な処罰規定がなく、そのため証人等の保護に欠けるところが少くないのでありまして、刑事司法の適正な運用に十全を期しがたいうらみがあるのでございます。そこで、暴行、脅迫の程度に達しない証人等に対する面会強請または強談威迫の行為を新たに処罰することとしたのであります。
この規定によって処罰されることとなります面会強請または強談威迫の行為は、自己もしくは他人の刑事被告事件の捜査もしくは審判に必要な知識を有すると認められる者またはその親族に対し、当該事件に関してなされたことを必要とするのであります。ここに「刑事被告事件」と申しますのは、すでに公訴を提起され裁判所に係属している事件だけではなくて、捜査中のものをも含む趣旨でございます。「知識ヲ有スト認メラルル者」とありますのは、客観的な諸般の状況から合理的に判断して、知識を有していると認められる者をいうのであります。「面会ヲ強請シ」とありますのは、相手方において面会の意思がないことを知りながら、しいて面会を求めることをいうのでありまして、「強談」とは、他人に対し、言語をもって、しいて自己の要求に応ずるべきことを迫る行為をさすのであります。また、「威迫」と申しますのは、他人に対し、言語、挙動をもって気勢を示し、不安困惑の念を生ぜしめる行為をいうのであります。
なお、法定刑は、いずれも一年以下の懲役または二百円以下の罰金でございます。
次に、第百八十条第二項は、いわゆる輪姦的形態において犯された強姦罪等を非親告罪とする趣旨の規定でございます。現行法の第百八十条は「前四条ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ス」とのみ規定しておりまして、前四条、すなわち第百七十六条ないし第百七十九条の罪、これは強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ強姦罪及びこれらの罪の未遂罪を親告罪としておるのでありますが、これらの罪は風俗に対する罪でありますとともに、個人の身体及び人格を侵害する暴力的犯罪たる色彩を帯びているものであります。特にこれが輪姦的形態において犯される場合には、その暴力的犯罪としての凶悪性が著しく強度でありまして、もはやその訴追を被害者の利益のみによって左右することは適当でないと考えられるのであります。一方、被害者において内心その処罰を望んでいても、犯人による報復を恐れて、告訴することをちゅうちょしたり、あるいは告訴の取り消しを余儀なくされ、いわゆる泣き寝入りとなる場合も多いと考えられるので、輪姦的形態において犯されたこれらの罪を非親告罪といたしまして、かかる悪質事犯の真に処罰すべきものは直ちに処罰し得ることとするために、この第二項の規定を設けたのであります。
ここに、「二人以上現場二於テ共同シテ犯シタル」という意味でありますが、これは、二人以上の犯人の間に共同実行の意思があり、かつ犯行現場において共同実行の事実がある場合はもちろんでございまして、犯人の間に共同実行の意思があり、かつそれらの犯人が何人かによって覚知され得る状態で、犯行現場に現在することによってその犯行に加功する場合、つまり見張りをしておるような場合をも含む趣旨であります。
「前四条ノ罪」とは、前に申しましたごとく、百七十六条ないし百七十九条の罪をさすのであります。それから、「前項ノ例ヲ用ヒス」とは、前項すなわち第一項の適用を排除し、告訴を待って論ずるものとはしないという意味であります。
次に、第二百八条ノ二は、他人の生命等に害を加えることを目的とする、凶器の準備を伴う集合行為を処罰する趣旨の規定であります。最近、いわゆる暴力団等の勢力争い等に関連して、なぐり込み等のため相当数の人員が集合し、人心に著しく不安の念を抱かしめ、治安上憂慮すべき事態を惹超した事件が相次いで発生いたしておりますが、これを検挙、処罰すべき適切な規定がございませんため、その取締りに困難を来している実情にかんがみまして、新設したものであります。
この罪の保護法益は、主として個人の生命、身体または財産でありますが、公共的な社会生活の平穏をも保護法益とすることができると思うのであります。
第一項は、二人以上の者が、他人の生命、身体または財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合におきまして、凶器を準備し、またはその準備があることを知って集合した者を処罰する規定であります。
右の集合した者といたしましては、何人かの集合させる行為に応じて集合した場合と、そのような集合させる行為がなくて、集合しようとする者が互いに相談の上集合した場合とが考えられるのでありますが、そのいずれの場合にも成立し得ると考えております。
また、第一項の罪が成立するためには、その集合が他人の生命、身体または財産に対し共同して害を加えることを目的としてなされることが必要であることはもちろんでございますが、なおそのほかに、その集合した者が凶器を準備し、またはその準備があることを知って集合したことが必要でございます。従いまして、右のごとき目的で集合した者のうち、凶器を準備しまたはその準備があることを知って集合した者についてのみ第一項の罪が成立すると解するのであります。
ここに「他人ノ生命、身体又ハ財産二対シ共同シテ害ヲ加フル目的」とありますのは、殺人、暴行、傷害、建造物損壊、器物損壊等の加害行為を共同して実行する目的をいうのであります。また、「凶器」と申しますのは、人の生命、身体等に害を加えるのに使用されるような器具をいうのであります。また、「準備」と申しますのは、凶器が目的とする加害行為に使用し得る状態に置かれていることをいうのでありまして、「準備アルコトヲ知テ」というのは、凶器が右のごとき状態に置かれていることを認識していることをいうのであります。
第二項は、第一項の場合におきまして、凶器を準備しまたはその準備があることを知って集合させた者を特に重く処罰する規定でございます。すなわち、二人以上の者が他人の生命、身体または財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、その集合が何人かの集合させる行為に応じてなされたものでありますときは、その集合させた者が凶器を準備しまたはその準備があることを知って集合させた場合に、その者を特に重く処罰する趣旨でございます。従って、第一項の罪の法定刑は二年以下の懲役または五百円以下の罰金でありますが、第二項の罪の法定刑は三年以下の懲役でございます。
次に、「第二百六十三条に次の一項を加え、第二百六十四条を削る。」、「前項ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ズ」という部分の改正でございますが、これは、第二百六十三条、つまり信書隠匿の罪のみを親告罪として、第二百五十九条及び第二百六十一条の私文書毀棄罪と器物損壊罪を非親告罪とする趣旨であります。私文書毀棄罪と器物損壊罪は、暴力的行為が犯罪として表面化する最も単純かつ典型的な罪でありますとともに、暴力事犯中の多数を占めております。現下その取締りの必要性が痛感されるにもかかわらず、被害者が犯人による報復をおそれ、あるいは個々の事案としましては比較的軽微でありますために、告訴をせず、あるいは告訴を取り消す場合が多く、その結果処罰できない実情にありますので、その種事犯の取締りの徹底をはかりますために、改正をしようとするものであります。
次に、附則の第二項でございますが、「この法律の施行前の行為については、なお従前の例による。」という点でございます。従来親告罪でありました強制わいせつ強姦、準強制わいせつ強姦罪及びこれらの罪の未遂罪、並びに私文書毀棄罪及び器物損壊罪に当る行為が本法施行前になされたものにつきましては、なお親告罪として取り扱う趣旨を明らかにしたものであります。
附則第三項は、罰金等臨時措置法第三条第一項の規定が、本法による改正後の各罪について規定している罰金につきましても適用されることを明らかにしたものであります。罰金等臨時措置法第三条第一項によりますと、刑法の罪、このうちで百五十二条の罪を除くのでありますが、これにつきまして定めた罰金については、それぞれその多額の五十倍に相当する額をもってその多額とすることとされておるのでございまして、従いまして、第百五条ノ二の罰金二百円というのは罰金一万円ということであります。それから、第百九十八条第二項の罰金三千円とありますのは、罰金十五万円、第二百八条ノ二第一項の罰金五百円は罰金二万五千円となるわけでございます。
次に、刑事訴訟法の一部を改正する法律案につきまして逐条説明を申し上げます。
まず、八十九条の改正でございますが、本条は、いわゆる権利保釈の除外事由の一つでありまする第八十九条第五号に修正を施したものでございます。すなわち、第五号につきましては、従来被告人が行うおそれのある行為の対象が「被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者」に限られておりましたのを、その範囲を拡張いたしまして、これ以外に、「その親族」を加え、かつ、同号所定の疑いの程度を若干緩和して、「充分な理由」を「相当な理由」に改めようとするものでございます。
元来、本号は、将来の事項についてその発生を疑うに足りる十分な理由のあることを疎明を必要とする点におきまして、それ自体難きを求めるきらいがあるのでございます。いわゆるお礼参りをすると疑うに足りる相当な理由があれば、かような暴力行為を行う危険な者は保釈を許さないことによりまして、善良な市民である被害者らが安んじて生活できるようにし、かつその証言を確保することによりまして、刑事司法の適正な実現を期する必要があるのでございます。
また、いわゆるお礼参りの対象に被害者等の親族を加えることにいたしました理由は、被害者等の親族に対してお礼参りが行われた事件も相当数発生しております。そのため、被害者等が自己の親族に危害が及ぶことをおそれまして、証人として十分な供述をなし得ない場合も多い実情にかんがみ、これを加えることにしたのでございます。
「充分な理由」と「相当な理由」の差異につきましては、現行法第百九十九条第一、二項、これは通常逮捕の要件でございますが、及び第二百十条第一項、これは緊急逮捕の要件でございますが、それにその区別が見られるのでありますが、「充分な理由」というのは、「相当な理由」よりも一そう疑いの程度の高い場合をいうのでありまして、「相当な理由」の場合は、「充分な理由」の場合ほど強い根拠は必要でないと思うのでございます。しかし、裁判所または裁判官の主観的判断では足りないのであって、疑いを抱くについて客観的妥当性を持つ理由が要求されることは当然でございます。
次に、九十六条第一項第四号の改正でございます。本条は保釈及び勾留の執行停止の取消し事由を規定した現行法を改めようとするものでありまして、その改正点は、「その親族」を加えることによって、第八十九条五号に「その親族」を加えたことと均衡を保たせる趣旨でございます。
次に、第二百十条一項の改正でございます。本条は、現行法第二百十条第一項所定の、いわゆる緊急逮捕をなし得る罪の範囲を改めまして、現行法の規定する「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」以外に、「刑法第二百八条若しくは第二百二十二条の罪」を新たに加えたものであります。刑法第二百八条暴行の罪、または第二百二十二条脅迫の罪に当る事犯は、いわゆる暴力事犯の典型的なものでありまして、この種の事犯につきましては、犯罪発生後すみやかに被疑者の身柄を確保し、迅速に捜査活動を開始することによって、初めてよくその取締りの目的を達し得るのでありますが、現行法のもとにおきましては、暴行罪または脅迫罪の法定刑の上限がいずれも懲役二年でありますため、これに当る事犯の被疑者については、いわゆる緊急逮捕が許されておらないのであります。そのために検挙、取締りに支障を来たす場合が少くないのでありまして、そこで、暴力事犯鎮圧の実効を期するためには、これらの罪を犯した被疑者についても緊急逮捕をなし得るものとする必要があるのでありまして、本条の改正はかような理由によるものであります。
次に、第二百八十一条の二の改正でございます。本条は、新たに設ける第三百四条の二とともに、いわゆる暴力事犯等の証人尋問に際して、証人をして十分な供述をなさしめるため、証人の供述中一定の要件のもとに被告人の立ち会いを制限しようとするものでございます。
暴力事犯の被害者、目撃者その他の証人にあっては、被告人の面前において真実を供述することによって被告人またはこれと特別の関係を有する者によって報復されることをおそれて、証人として出頭しなかったり、あるいは証人として出頭いたしましても被告人の面前では十分な供述をなし得ない場合が少くないのであります。そのため、訴訟の遅延を招き、さらには公判審理に重大な支障を生じたような事例も少くないのでございます。そこで、証人の基本的人権を擁護するとともに、証人をして十分な証言をなさしめることによって、刑罰権の適正かつ迅速な実現に資するため、憲法によって保障された被告人の証人に対する反対尋問権を害しない限度におきまして、証人尋問の際における被告人の立ち会いを制限する必要があるのでございます。本条の新設はかような理由によるものでありまして、本条は、公判期日外における証人尋問の場合について規定したものであります。第三百四条の二は公判期日における証人尋問に関する規定でございます。本条によりまして裁判所が証人の供述中被告人を退席させることができるための要件として、証人が被告人の面前においては圧迫を受け十分な供述をすることができないと認められる場合であること、及び弁護人が立ち会っている場合であること、この二つの要件を必要とするのであります。さらに、証人の供述終了後被告人に証言の要旨を告知すること、及び被告人にその証人を尋問する機会を与えること、こういう二つの手続を必ず覆踐しなければならないのであります。
本条にいう「公判期日外における証人尋問」と申しますのは、公判準備として裁判所が行う公判期日外における証人尋問のことをさすのでありまして、それは裁判所内で行う場合と裁判所外で行う場合とを問わないのであります。「圧迫を受け」といいますのは、現行法第二百二十七条におけると同様に、これは有形のものであると無形のものであるとを問わない。また積極的な圧迫が加えられることも必要でない。証人が圧迫を感じ十分な供述ができないと認められれば足りるものと解しておるのでございます。
第三百四条は、ただいま申し上げたところと内容におきまして全く同じでございますので、説明を省略いたします。
次に、附則でございますが、附則の第二号、「この法律による改正後の刑事訴訟法第二百十条第一項の規定ば、この法律の施行前に刑法第二百八条又は第二百二十二条の罪を犯した者の逮捕についても、適用されるものとする。」こうあります。これは、手続法につきましては遡及して適用を見るのが原則となっておりますので、このような規定を設けなくても解釈によって十分まかない得るわけでございますが、事柄の重要性にかんがみまして、特に明文を設けてこの点を明らかにしたのでございます。
以上説明を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/6
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007・町村金五
○町村委員長 これにて補足説明は終りました。
質疑は次会に行うことといたし、本日はこれにて散会いたします。
午前十一時二十七分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X01519580325/7
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