1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十三年四月十七日(木曜日)
午前十時三十七分開議
出席委員
委員長 町村 金五君
理事 高橋 禎一君 理事 林 博君
理事 福井 盛太君 理事 三田村武夫君
理事 横井 太郎君 理事 青野 武一君
犬養 健君 小島 徹三君
小林かなえ君 徳安 實藏君
長井 源君 横川 重次君
猪俣 浩三君 佐竹 晴記君
出席政府委員
法務政務次官 横川 信夫君
検 事
(民事局長心
得) 平賀 健太君
委員外の出席者
判 事
(最高裁判所事
務総局総務局
長) 関根 小郷君
判 事
(最高裁判所事
務総局総務局総
務課長) 海部 安昌君
参 考 人
(石田弁工業株
式会社社長) 石田謙一郎君
参 考 人
(早稲田大学教
授) 大野 實雄君
参 考 人
(日本化薬株式
会社社長) 原 安三郎君
参 考 人
(日本興業銀行
常務取締役) 日高 輝君
専 門 員 小木 貞一君
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本日の会議に付した案件
企業担保法案(内閣提出第七〇号)(参議院送
付)
裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内
閣提出第八一号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/0
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001・町村金五
○町村委員長 これより会議を開きます。
企業担保法案を議題といたします。
本日は、前会の決定によりまして、参考人として、石田弁工業株式会社社部石田謙一郎君、早稲田大学教授大野実雄君、日本化薬社長原安三郎君、日本興業銀行常務取締役日高輝君、以上四名の方々に御出席を願っております。
この際本日御出席の参考人各位に一言申し上げます。御承知の通り、目下当委員会におきましては企業担保法案を審議中でございますが、今回参考人各位の御出席を願いましたのは、本法案に対する各位の貴重な御意見を承わることによりまして本委員会の審議に資せんとするものでございまして、委員会といたしましては多大の参考になることを期待いたしておる次第でございます。各位におかれましては忌憚のない御意見を御開陳下さいますようお願いいたします。本日は御多用中のところ貴重な時間をおさき下さいまして、まことにありがとうございました。あつく御礼申し上げます。
なお、議事の順序を申し上げますと、初めに参考人各位より順次御意見を御開陳願うこととし、それが終りましてから委員各位の御質疑に入ることにいたしたいと存じます。なお、参考人各位の御意見の御開陳の時間は、議事の都合上、一人十五分程度にお願いをいたします。
それではこれより参考人各位より順次御意見を開陳していただくようにお願いいたします。石田参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/1
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002・石田謙一郎
○石田参考人 私の方は中小企業の立場からこの企業担保法の問題を考えておるのでありますが、実は今の財団の抵当制度というものは非常に複雑であるというふうにわれわれ自体もすでに考えておるのであります。そして、担保の目的とするためには、非常に複雑な手続と、それに伴ういろいろな費用がたくさん要るというので、中小企業の立場でも非常に困っておるのであります。しかも、これらの財団の抵当制度というものは、それを利用するところの企業というものの種類が相当限定されている、それから財団を作り上げるところの物件の範囲がやはり同様に制限されている、こんなようないろいろな欠点があるというので、われわれ自体も実は困っておったわけであります。
しかし、今回はからずも企業担保法というものができた。これはイギリスの制度だそうでありますが、そういうものを取り入れたところの新しい制度ができた。これは、私どもが考えても、経済というものの自然的な動きから要求されたものであり、けっこうなことだというふうに考えておるのであります。
ただ、しかし、これが利用される場合に、果してしからばわれわれ中小企業の立場ではどうかということになりますと、こういうふうな制度はけっこうではあるのでありまするが、今の制度ではちょっと中小企業にまでは非常にむずかしいのではないか。やはりこれは、ある限定されたもの、この法案に盛られておるところの社債を対象とする大企業と申しますか、公認会計士を使っておるところというのでありますから、当然大企業になりまするが、これらの会社をまず対象とするということが当然これは妥当じゃないかというふうに考えておるわけであります。そして、なぜそれでは中小企業の立場からはまだ無理じゃないかという点でありまするが、御承知のように、本来銀行に資金がたくさんあり、銀行が中小企業に対して十分な資金を提供することができれば、中小企業に対してもこの制度はやがて利用できると思うのでありまするが、議員の皆さんが御承知のように、現状の銀行その他の機関というものは、中小企業、得に中規模企業に対する資金というものはなかなか十分な貸し出しをいたしておりません。中小企業対象の資金というものが、中小企業金融公庫でさえも、平均最高では一千万円、そして特別な場合に三千万円というふうに限定されておる例を見ましても、資金量を相当必要とする中規模企業に対しての資金の貸し出しというものが、各銀行からの貸し出しで十分まかなえる時代にはまだなっておらないのであります。そして、その場合に、やはり中小企業は、たくさんの銀行から少しずつ金を借りるとか、あるいはまたそれ以外の町の金融、あるいは高利の特殊な金融に依存する場合が多いのであります。そして、中小企業のいろいろな悲劇のもとは、銀行その他でなく、むしろ高利金融その他による場合の悲劇が多いのであります。この企業担保法がもしそのような形の場合に実行されますならば、今度の企業担保法に盛られたように、企業をあるがままの姿、動いておる企業の姿のまま担保にするということになりますと、そういうふうな公正ならざる貸主から見ますと、非常に興味もあると同時に、機会を利用して乗っ取りその他の被害が出る危険が非常に多いわけであります。こんな点から考えますと、将来資金が潤沢になり、かつて戦前にありましたように一つの銀行でその企業に十分まかない得る時代が来ますならば、やはりこの企業担保法の精神を生かした、しかしもう少し簡易なものが中小企業にも必要じゃないかと思います。しかしながら、現状ではちょっとむずかしいのではないか。それで、法案の通りの、社債を担保とし、そして公認会計士を使っておりまする大企業に対してするという今の制度がやはり妥当だ、私どもはこのように考えて今日までこの法案がいろいろ議論されておりますときにお願いをしてきたのでありますが、幸いにそのようになったことについては、われわれ中小企業としても大へんけっこうだというふうに考えております。
ただし、今後においては、今私が申し上げましたように、当然中小企業にも将来の金融の潤沢な動きが見られ、そして一つの銀行でしかも正しい金利で中小企業の資金が十分まかなえるような時期が来るならば、この法案の精神を骨子としたところの、これにのっとった中小企業向けの企業担保制度が持たれるか、あるいはこの制度がもう少しゆるくなり、どちらかの形になってほしいというふうには考えておるのでありまして、これは、日本の経済事情がよく変っていくに従って、それに伴ってやってほしい、このように考えておるわけであります。
私どもは、このような見地から、今回の法案に対しては、法案が規定する社債その他というふうなものを対象とし、その企業の規模においても相当大きいということについて、われわれ中小企業の意見をいれていただいたことについてお礼を申し上げるわけであります。そして、この法案の成立については賛成をいたすものであります。
以上、簡単でございますが、私ども中小企業の立場から本法案に対して意見を申し述べた次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/2
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003・町村金五
○町村委員長 原安三郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/3
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004・原安三郎
○原参考人 この法案は、従来財団を担保として金を借りておりましたものを、会社の総財産に対してこれを振りかえとして金を出す、借りる、こういう状態でございます。元来、この制度は、明治三十八年に日本の財団組織に関する財団抵当法ができましたときに、同じく財団担保付社債の抵当信託法というものができました。同じような法律が並行してできましたときに、この財団がもっと拡張して、今のような一々財団組織でなく、今度の法律に盛られてありまする企業の全財産を担保にする、総財産を担保にするというような制度に進んでもよかったかもしれなかったのですが、当時の法制の考え方が、大体大陸的といいますか、ドイツを中心とした一連の法制のもとに動いておりましたので、それから約五十年、財団担保付による社債の発行または借入金が行われておるようなわけであります。
これは皆さん御承知のように、英国では、総財産を担保とするというのでございますから、運行されておる財産の現状においてその企業の財産を担保にするということでございますので、これを浮動担保、こういうふうな言葉を使って、フローティング・チャージということで処理されておりました。それは長い間英国では使われておるものではございますが、これは企業にとって非常にやりいい。借金もしいいし、また、金をお貸しになる方も、考え方としては、また実行面においても、非常にやりよくなるのではないか、こう私は考えております。
ことに、違っております点は、従来の財団組織ということに非常に手数がかかりますし、費用がかかりますし、時間もかかりますし、そのために各企業体は絶えず一人か二人の係員を置く、また入れかえの問題のときにも一々こまかい登記——建物で言えば登記をして、そのあとで建築の保存登記をして抵当権の設定をする、変化のあるごとに差しかえをやるのに非常に不便なことがあります。費用と時間と能力の上において損がありますが、これが一つのこの制度による救済で、その点においては非常に簡素化されるわけなんです。
もう一つ、これは御存じの通り、最近の企業が非常に複雑化して参りました。大企業といわず小企業といわず、科学の進歩その他のいろいろの変化のために、めまぐるしい財産上の変化が製造設備その他に起って参ります。これが大へん取扱い上もむずかしいことに相なっておりまするが、それを会社総財産といたしますと簡単に参りますのと、もう一つは、従来は不動産、機械などという一連の登記をすることによって決定しておりまするものだけが大体において——無形の権利も財団の目的には入れられておりまするけれども、その他、得意先とか、企業者の分別とかあるいは努力とか力というものもこの企業担保法では一応見られる、こういうことで、その点では非常に広く相なります。すなわち、仕事の簡素化、経費の節減のほかに、従来の固定資産または不動産、機械などを中心にしておりました財団よりも、もっと広い意味の担保がここにできるわけであります。債権者側もその点では非常に安心であり、有利でないかと考えております。
これは私がこの企業担保法を見まして感じたところでございますが、これは実は私関係しまして——関係というのは、いろいろお世話をやいております関係から数年前からこの問題に携わっておりましたが、財界関係あるいは産業関係では一日も早くこの法律のできることを希望しております。しかしながら、これにつきまして、金融業者の関係では、非常に広い意味であり、また、その財産の保持などについて、その当時の——数年前の話でありますが、その当時の考え方では、一体企業家がちゃんとこれをうまく守って担保の目的を遠成するようにしてくれるかどうか、途中でこれを抜き売りするとか、あるいはまたその営業権の一部を勝手に讓渡するとか、債権者に非常に不安を与えるような行為があっては困る、であればやはり財団のように縛っておく方がいいという考え方で、これは、言ってみれば、日本人のその当時における経済常識と申しますか、経済道徳と申しますか、経営道徳という点についてまだ欠けるところがあるのじゃないか、こういうところが、終戦後のこんとん時代で、経済界にも、またその他の社会にも精神的に整っていない時代でありましたから、議論がございました。もう一つは、この制度は英国などでは相当長く行われておりまするが、日本では何となく新しい制度のように感じられたので、一応お互いに研究し合おうじゃないか、こういう話で、企業者側は企業者側で、また、金融業者側は、それぞれの機関を通じ、または別にこの問題に対して人をおやりいただいて、そして数年間の検討を経たものでございます。でございますから、この法律制定についての民間の意見が起りました数年前の当初は、金融業者側にはこの法律の制定に何となく不安を感じておった。また、もう一つは、すでにある担保付の制度というものがどうなるか、こういうことに対しても御不安を持っておられたようでありました。しかし、この場合に、これは別段に従来の担保付貸付に対するものにかわるものではないわけでもありましょうし、また、同時に、将来はわかりませんが、この法律制定の当初一応広い意味の法文をもって規制して、あるいはきめておいていただけば、実行に伴って筋を通し、そうしてその間に慣行なり習慣なりもでき、また企業家に対する一部の不安のあった金融業者もよくわかる、こういうふうに考えますが、これの制定についてずいぶん金融業者ともお話合いをいたしましたわけです。そうして、それは、今日に至ってはずいぶんこまかい検討を経ました上、海外の実際の情勢、及び、日本では数年前では実行尚早ということでありましたが、現在尚早でなくなって、実行期に入った、しかし、新しい制度でございますから、追って実行の面において現われてくるいろいろな欠陥を補正し合おうということでいくことになって、いよいよ今度御審議にかかっておるわけであります。これは特に数年前から、あるいはさかのぼればもっと前からでございますが、問題になっておったのは、今申し上げました企業の複雑化した問題と、また先を早くきめるという問題で、企業家関係ではこの法律の制定を実に首を長くして数年間待っておりましたわけなんであります。今度は幸いに皆さんの御熱心なる御討議を経ておりますことを大へん喜んでおるわけでありますが、一日も早くこれを法制化しまして、実行によって、また修正すべきことが起れば、実際面からかえていくということによってやっていきたい、かよう考えておるわけであります。
法制上のこまかい問題につきましては、私、法律関係の者ではございませんが、従来この法律に対しての財界の要望並びに金融業者との間で、いろいろ金融業者の御心配の点を解明いたしましたことなどについてのいきさつも加えて、この法律をぜひ一日も早く実行に移していただくことを希望いたしたいのであります。参考人が希望を申し上げることはなにでありますが、この法律を早く日本で行うことが、産業界またはこれから起ってくる複雑な経済界の実行面において非常に役立つのであろうと考えておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/4
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005・町村金五
○町村委員長 日高輝君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/5
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006・日高輝
○日高参考人 御指名をいただきました日高でございます。私は、企業の立場と金融機関の立場をひっくるめにいたしまして、この二つの間に成立するでありましょう信用取引が円滑に行われるための担保制度として、本企業担保法がいかに考えられるかというような角度から私見を述べさせていただきたいと存じます。
ただいま石田、原両参考人からお話がございましたように、在来のといいますか、既存の財団担保に付随しておりまするいろいろな欠陥が本担保制度によって除かれるというような意味合いから、また、基本的には、現在の担保制度が今日の経済界の実情にもはやそぐわなくなってきておるおそれもありまして、根本的に検討せられねばならない時期に来ておるというような意味から、財団担保の欠陥を補完するという意味でこの企業担保制度が御審議いただけますことは、きわめて意義の深いことと存じておるわけであります。
しかしながら、この企業担保法案につきましても若干の弱点はあることが免れないわけでありまして、私の考えますところでは、その弱点は、第一に、企業担保権の設立のあとにおきましても、客体財産が、ただいま原参考人のお話にありましたように、浮動の状態であるということから、企業の所有からはずれたものにつきましては追及力がないという点であります。また、第二は、企業の所有財産につきましても、質権、抵当権その他の権利の対象となったものに対しましては、これに劣後するという点がございます。さらに、第三には、重要財産が脱落するのを防ぐためにその処分制限をはかるといったような措置が、本法案におきましては講ぜられておらないといったようなことから、実質的には担保力としては幾らか弱いものである、在来の意味の担保ということではなくて、申せば担保提供の予約のようなものである、あるいは無担保に近いもののように観念せられるというふうに思われるわけであります。ただいまもお話にございましたように、この法案の母法となっておりまする英国の浮動担保につきましては、ここで詳しく申し上げるだけの知識もないわけでございますが、何分にも、英国の実情といたしましては、その国民性からも、経済道義に厚いことは定評のあるところでもございまするし、また、社債当座貸し越しというようなものを除きましては、外部負債に依存する企業はほとんどないといったような状態でございますのに対しまして、わが国の場合におきましては、外部負債への依存度がこれと比較にならないほど高い。従って、わが国の企業はおしなべていわゆるオーバー・ボローイングの状態にある。英国では取引銀行は一企業一銀行主義が建前となっておるのに対しまして、わが国におきましては、金融機関の資力がいまだ十分でないという関係もあり、また、危険を分散するといったような目的のためにも、大きな資金需要に対しましては協調融資のような形をとるのが通例でございます。従いまして、金融機関の数は通常一企業が数行ないし十数行の取引関係を持っておるというようなことから、担保関係が著しく錯綜をして参るという実情にございますわけであります。その他、英国におきましては、会社の定款などで厳格な借り入れ限度をきめておる、また、借り入れ限度をこえての借り入れは無効である、また、そのために提供せられた担保自体も無効であるというようなことになっておるのに対しまして、日本におきましては、御承知の通り、さような制限がないわけでございます。また、その運用の状況を見てみましても、その大半が特定担保と企業担保とを併用しております。しかも、そのほとんどが、ほかに担保を担供しないといった契約、いわゆる担保制限約款なるものをつけております。また、時としては、関係会社の保証をとる、このようなことはわが国でも行われておりますが、とにもかくにも、いろいろな手段を重ね合せ、かつ結びつけまして、企業担保の妙味を発揮している状況でございます。従いまして、単に浮動担保だけを用いているということは今日ではむしろ例外と申してもいいような状況のように承知をいたしているわけであります。このように、経済界の実態自体が英国とわが国とでは相違があるわけでございます。その安定性におきましても、また企業の地位におきましても、一般的には遺憾ながら英国の方が幾らか上位にあるのではないかというふうに思っているわけでございますが、それにもかかわらず、本企業担保法案は、ただいま申し上げました英国の浮動担保をいわばより一段純化をし、しかもその効力を弱めた形になっている。企業担保と従来の財団担保との間には相当な隔たりがあるわけでございます。この隔たりを隔たりとして認識せられておればよろしいのでございますが、これが認識せられておらないような心配を私どもは感ずるわけであります。
繰り返して申し上げますならば、企業担保の内容は企業の総財産をひっくるめにいたしまして担保とするということから、名目的にはとかく担保力の堅確なかつ強大なものであるように思われやすいのでございますが、同時に、ただいま申し上げましたように、この実行につきましては多分の疑問が持たれ、また弱い担保力であるというふうにも観念できるわけでございますので、この二つの担保の間には相当な隔たりがあるわけであります。従いまして、その隔たりがないようなふうに誤解をされますと、そこからいろいろな弊害が生じてくる心配を私どもとしては感ずるわけであります。従って、このような弊害を招来いたしませんように考えて参りますためには、本企業担保法の実施に際しまして、現在のわが国の社会経済的基盤ないしは法律的基盤にのっとりまして、信用取引の疎通をよりはかり、かつその混乱を避けるという意味から、その対象を当然のことながら高度の信用のある企業に限定をし、また、本法案にもございますように、その対象を原則としては社債に限定するという趣旨につきましては、まことに当を得たことであろうというふうに考えるわけであります。言葉を変えて申しますならば、わが国でも高度の信用のあります企業があるわけであります。これらの企業に対しまして、一律一体に在来の財団担保を強制するということは、酷に過ぎると申しますか、重きに失するおそれがありますので、その限りにおきまして、本企業担保の制定はまことにけっこうなことである、また、実際このような高度の信用のあります企業につきましては、本担保の制度が財団担保にはるかにまさるということも事実であろうと存ずるわけであります。ただ、社債につきましては御案内のように、不特定多数の社債権者がございますので、これらの社債権者を保護いたしまする見地からも、受託会社といたしましては、当然のことながら、担保その他につきまして、社債権者を優先すると申しますか、社債権者を侵さないという建前をくずすことができません。従いまして、企業担保付社債を発行いたしました企業につきましては、金融機関が融資その他の取引をいたします際には、実際上は担保をいただくことができなくなるわけであります。と申しますことは、裏を返して申せば、実際には無担保貸付ができる程度に信用度の高い企業で初めて企業担保付社債が発行できる、こういうことに相なるかと思うわけでございまして、このような見地からも、この運用につきましてはきわめて慎重な配慮を必要とするように存ずるわけでございます。
なお、社債の点につきまして若干触れさせていただきたいと思います。本年三月末日現在におきまする全国社債の発行残高は、政府保証債、地方債、金融債を除きまして、三千四百六十九億余りでございます。その内訳は、担保付社債が千八百十六億余り、残りの千六百五十三億がいわゆる従来のゼネラル・モーゲージ付社債であります。そのうち、電力社債が千二百六十九億、約千二百七十億でございまして、残りの三百八十三億と申しますものが、電力債を除きましたその他のゼネラル・モーゲージ付の社債でございます。この発行残高は長期資金全体のおよそ二割ないし二割五分を占めておるかと思うわけでございまして、社債が長期資金調達の上におきまする役割が相当なウエートを持っておるということは、ただいま申しましたことからもおわかりいただけるかと思う次第でございます。なお、担保付社債のうちその九五%程度のものがいわゆる財団担保でございます。詳しく申し上げますと、工場財団、工業財団、鉄道財団、企業財団、漁業財団、道路交通事業財団、これらの財団を組成いたしまして担保といたしたものであります。船舶並びに不動産を担保といたしましたものが約五%程度ございますわけであります。なお、担保付社債信託法の定めるところによりますると、社債の担保の種類といたしましては、ただいま申し上げましたもののほかに、株式質が制定されておりまするが、これは、株式の持っておりまする本質から、その担保価格に変動が多いといったようなこと、ないしは担保としてはほかの財団に比べて弱いといったような意味からでございましょうか、現在のところ株式質の社債は現存いたしておりません。ただ、今申し上げましたような観点から、この株式質を物上担保とする社債につきましては、発行に際しまして主務大臣の認可を必要とするように現定されておるわけであります。
概略私どもの考え方を申し上げ、かつ社債につきましての現在の状況を申し上げましたが、お二方の参考人の方と同じように、私どもも本法案が御審議をいただきまして成立いたしますことを待望いたしておりますことを付言いたしまして、私のお話を終りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/6
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007・町村金五
○町村委員長 大野参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/7
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008・大野實雄
○大野参考人 企業担保法案につきましては、この法案の趣旨に賛成をいたします。その理由を申し上げますが、この法案の試案が昭和二十九年にできました当時、早稲田大学あてに民事局長村上さんから意見の照会がありまして、その当時私ども学内で数人寄りましてこの試案について検討をいたしたわけでございます。そしてその結論を法務省民事局長あてに提出してございまして、その当時の回答と、ただい注拝見いたしました担保法案、これとを比較対照いたしまして少し意見を申し上げたいと思います。
試案の第一条を見ますと、そこには企業を一体として担保の目的に供する、こういう文句が出ておったわけであります。試案でございますからお手元の資料と違っておると思いますが、試案の第一条には、株式会社による企業を一体として担保の目的とすることにより云々とございましたが、企業を一体としてという言葉は、企業という言葉が実は学問的にいろいろな複雑な意味を持っておりまして、完全に説明がつかない、きわめて懐疑的なことでございましたから、はっきりと企業財産、こういうふうに直していただきたいというように注文を出したわけであります。ところが、法案の第一条を拝見いたしますと、「株式会社の総財産、」こういうふうに、英法のオール・プロパティという言葉をそのまま使っておられますので、第一条については私どもの意見はそのまま法案に採用していただいた、こう考えております。
それから、試案の中にはございませんが、企業担保権を設定するということは、社債の発行であり、場合によっては企業の賃貸借とか経営の委任とかいう行為にも匹敵するような、あるいは営業の譲渡というようなものに匹敵する重要な行為でありますので、取締役会の権限にするのか、あるいは株主総会あるいは総会の特別決議を要するのかということが法案自体では不明確でございますので、どちらでも、私どもの考えとしましては取締役会の権限となって一向差しつかえないと思いましたが、明白にしていただきたい。それは、商法の二百九十六条に、社債発行についてさえ取締役会の権限に属するということがうたってございますので、いわんや、企業担保権の設定というような行為については、この法案なり、あるいは商法なり、いずれかの法律に持っていって、はっきりと取締役会の権限に属するのだということをうたっていただきたかったというのが第二でございます。
第三には、試案の第十一条の関係でございますのが、試案の第十一条の第二項、三項等に、会社が合併をした場合に、企業担保権者が別段の定めをしないときには、企業担保権を同順位にするというような規定があったわけでございまして、そのときに、単なる別段の定ではなくて、これは企業担保権者が何者かある場合でございますから、同意とか、定めではなくて協定という言葉を使っていただきたいということを申し上げたのです。ところが、法案の第八条の第二項に、「順位に関する企業担保権者間の協定がなければ、合併をすることができない。」、協定という言葉を使っていただきましたので、この点も私どものお願いしたことが採用になって、うれしく思っておるわけでございます。
なお、早稲田大学としましては、試案の第十二条に譲渡については云々という規定があって、それについて若干疑問を持って意見も出したのでございますが、この点は法案からは削除になっておるようでございます。第六条に関係してくることだと思いますが、法案に現われていないので、特約をつけるというような問題で解決し得るんじゃないかと私ども考えておりますので、この点につきましては別に異論は持っておりません。
それから、第五点としまして、試案の第四十八条に強制管理の場合の利益配当に閲する規定があったわけでございますが、強制管理という方法は避けておられますので、私どものお願いした点もそれで解消しているかと存じます。
法案につきましては、長い間審議をなさって練られたりっぱな法案でありますので、別にとやかく申し上げることはございませんですが、ただ、この企業担保制度全体について若干私見を述べさせていただきますと、もう少し積極的な意味を持たしてもいいんじゃなかったか。御承知のように、浮動担保というものは非常にあやふやな弱い担保でございますが、第一条に「物権とする。」とありますけれども、本来の物権と違って、排他性とか優先性とか、あるいはその他の点で固有の物権とはかなり違った弱い物権になっておるわけなのでございますが、そういうものを併用して大企業について金融の道をもっと迅速に平易にしていくということは、日本の経済界にとって非常に意義のあることだと存ずるのでありますが、こういうことはやはり中小企業についてもぜひ国会で取り上げて立案していただきたい。イギリス的な大企業のための浮動担保の制度もございますが、たとえばフランスの担保制度を見ますと、非常に中小企業を対象とした営業財産法というものが発展しておるのでございまして、あわせて日本の大中小の産業のためにこうした進歩的な立法をぜひやっていただきたいというような感じを持っておるわけでございます。
簡単でございますが、私の意見はこれで終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/8
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009・町村金五
○町村委員長 これにて参考人の意見の開陳は終りました。
この際緊急の案件もございますので、それを済ませますまで、恐縮でございまするが参考人各位には暫時お待ち下さるようお願いいたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/9
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010・町村金五
○町村委員長 それでは、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。
別に御質疑もないようでありますから、本案についての質疑はこれにて終局することといたします。
本案に対しまして自由民主党及び日本社会党の共同提案にかかる修正案が提出されております。この際その趣旨説明を求めます。高橋禎一君。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/10
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011・高橋禎一
○高橋(禎)委員 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案に対する修正案は、お手元に配布してある印刷物の内容の通りでありますが、この修正案を提出いたしました理由について簡単に御説明申し上げますと、政府原案の附則には、この法律は本年四月一日から施行するとなっておるのでありますが、すでに今日に至りましたので、これを四月一日に遡及して適用する必要がありますので、この法律案といたしましては、公布の日から施行し、本年四月一日から適用する、このように附則を修正しようとするものであります。
どうぞ御賛成をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/11
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012・町村金五
○町村委員長 これにて趣旨説明は終りました。
別に討論の通告もないようでありますから、直ちに採決に入ります。本案を修正案通り修正議決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/12
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013・町村金五
○町村委員長 起立総員。よって、本案は修正案通り修正議決せられました。なお、本案についての委員会報告書の作成等につきましては委員長に御一任下さるようにお願いいたします。御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/13
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014・町村金五
○町村委員長 御異議なければ、さよう取り計らいます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/14
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015・町村金五
○町村委員長 それでは、これから参考人に対する質疑を許します。猪俣浩三君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/15
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016・猪俣浩三
○猪俣委員 これは各参考人の方々から御意見を承わりたいと思うのであります。
日本の資本主義制度の発展は、企業組織を複雑強化いたして参りまして、在来の民法の抵当権では律し得ない経済状態が発展して、本法のような立案が行われるようになったと思うのであります。そこで、企業の独占化に伴いまする弊害というものは、この担保法案を通じましてもやはり心配せられる点がありますので、一、二お尋ねしたいと思います。
この担保法案は、今申し上げました民法のいわゆる交換価値、一物の交換価値及び特定の目的物の「特定」の趣旨と全く違いました新しい試みでありまして、在来の抵当物権の観念から相当逸脱しているものであります。そこにいるいろの問題があろうか思うので、第一に考えられますことは、かような担保法は社債を発行する株式会社
に限られているということになると、ほとんど中小企業には何の恩典もない
のじゃなかろうか。この法案が成立したことによって中小企業がどういう影響を受けるであろうかということであります。かえって、この担保権設定が容易になったために資本が大企業に集中いたしまして、さなきだに金融難に悩んでおります中小企業の方に回されることが少くなるんじゃなかろうかというようなことが一つ考えられる。つまり、本法と中小企業の金融緩和ということについて、どういう関係になりましょうか、各参考人の御意見を承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/16
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017・日高輝
○日高参考人 先ほど石田参考人からお話がございましたように、中小企業金融の疏通は、なかなか意に満たない現状ではございますが、それのよって来たりますゆえんは、資金量が少いということではないと思うのであります。現に、政府機関その他で中小企業金融の疎通をはかっておいでになることを考えあわせますると、資金量の多い少いということだけで中小企業金融の疎通が測定されるということではないと考えるわけであります。むしろ、中小企業の企業自体の力、信用力、担保、こういったものが金融疎通の一つの大きなてこになるのではないかと考えておるわけでございます。従いまして、いささか余談に相なりますが、信用保証制度その他の考え方が行われておりまして、それによって企業自体の力の弱さを補っておるというのが現状であろうかと思うわけでございます。かような考え方から申し上げますと、本企業担保が直ちに中小企業金融の問題と関連を持って参るとは私は考えません。むしろ、先ほど申し上げましたように、本企業担保は、在来の担保、財団担保と無担保との間に位しまして、その間のギャップを埋めていく性格のものであろうかと考えますがゆえに、中小企業金融の疎通に本企業担保制度が直接の関連を持つというふうには考えられないのではないかと存ずるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/17
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018・猪俣浩三
○猪俣委員 いま一つの問題は、ただいま経済の立て直しのために金融の引き締めをやっているはずであります。放漫な設備投資のために、神武景気など一ぺんに吹き飛ばして、経済の不況を来たし、入超を来たしており、外貨のドルが非常に少くなった。そこで金融引き締め政策をとっていると思うのであります。そういう際にこういう法案が出まして、なるほど安直に非常に簡単に担保を設定せられ、社債も相当発行せられると思う。大企業に相当の金融をするには非常に妙案でありましょうが、現在の日本の経済状態とも勘案しなければならぬのじゃないか。これは、全国銀行協会連合会の業務部長であります安原米四郎という人が、法律時報に、はやそういうふうなことを書いている。もちろんこれはこの法案が昭和二十九年に法務省から発表された当時の所感でありますが、その当時よりも今日はなお金融問題については考慮すべき時期じゃないか。そういう際に、非常に簡単にこういう企業担保法によって社債がどんどん発行せられるということは、日本の経済状態にマッチするものであるかどうか、その点についての所見を承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/18
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019・原安三郎
○原参考人 お答えいたします。これは結局金融業者の立場から申し上げた方がいいのでしょうが、今度の問題は、企業が金が要る場合には、担保村財団、工場財団の設定をするということだったのですが、それにかわってこの法律による担保の手段によるわけであります。従って、さっきも日高参考人から話がありましたが、金融業者は、金融の法律でありますから相当慎重にやらなければいけない。というのは、金を借りる方も慎重でなくちゃなりませんが、貸す万も慎重でなくちゃなりませんので、担保制度の財団組織にかえるに新しくこの制度をもってしたことにより、金融上相当用意周到の金貸しが行われるわけであります。そういう意味においては窮屈になる。今お話しの御心配の点ではイージーな担保だから簡単に金が借りられるだろう、こういうことでありますが、これは金に御存じのようにワクがありまして、ワクというのは、日本の大きな資金のリザーヴがきまっておりますから、むしろ厳格に総債務者を取りきめていく。ただ、イージーということは、登録税はかからなかったり、または手数も要しなかったりするのであって、その財産の運営について信用のある人、その人の信用を担保にする、あるいは得意先が担保になり、のれんが担保になるということですから、ますますその意味では窮屈な担保になるのではないか。このためにどんどんとその方面に金が借りられるということは、私はないと思います。
それから、もう一つ、これは前の御質問にもございましたが、この制度が一歩行われますと、今は社債を根本にしておりますけれども、将来は借入金まで及ぼすことができるわけであります。借りる方も貸す方も両方の側が訓練をいたしまして、いい慣行ができ、これは私たちはそういう心配はないと思っております。今、金を貸しておる金融業者は何となく現在の経済人に一応の不安を持っておる。まだ英国ほど発達していない、成長していないという心配を持っておりますが、法律が一度できますと、これによってワクがずっと広がっていくのじゃないか。やはりほんとうに信用すべき状態であるものもわかるわけでございますから、中小企業までも及ぶ。現在社債という点に債務の種類が限定されておりますが、そういう面に考えが及ぶことで、これが永久に大企業だけとか、あるいは大きな政府企業というだけには考えなくてもいいのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/19
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020・猪俣浩三
○猪俣委員 私どもはしろうとでありまして、実際はわかりませんが、ただ一点心配になることは、この法案によりますと、総財産についての担保が非常に浮動性を持っておりまして、全く在来の物権の確定性というものと全く違った観念に立っておりますが、そうなりますと、ある銀行なら銀行にある会社がこの企業担保法に基いて総財産を担保に入れたとなると、結局その債務が超過するようなことも考えられまして、ある甲の銀行にこういう総財産について担保をつけたとなると、小口の短期の金融につきまして他の乙あるいは丙の銀行から融資するということは非常に困難になるのじゃなかろうか。そこで、企業担保法に基く担保をつけた特定の銀行とのみ取引をやる、そういう現象が起きてきて、要するに銀行融資の系列化というものが起ってきわせぬか。これは主として独占資本の金融支配ということが現われてくるのでありますが、それを促進するような形で出てきやせぬか。なぜならば、質権、抵当権を設定いたしましても、結局総財産に対して押えつけられているとしますと、そんな企業担保に入っているような会社に対してはわれわれの銀行では融資ができないということが起ってくることは必至だと思う。そういうことで、短期かつ少額の引取が一つの銀行とのみ行われるという傾向が生じやせぬかどうか。そうして、そういうことが結局金融の系列化として銀行支配を強めることになって、そこに弊害が生じやせぬか。こういうことに対するお見通しを承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/20
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021・原安三郎
○原参考人 これも私から申し上げさせていただきます。これは参考人のどなたからも御説明がございませんでしたが、英国の実情などは、お説のように、やはり系列化とか、そういうことを計画したのではありませんけれども、大体銀行は長期にわたって、ひどいのは何百年間、同じ銀行の一行で取引しているというような形になっておるようです。でありますから、その点で、系列化をわざわざしたり、統制したのではありませんけれども、長い間の会社の内容を知っておるというようなわけで、自然一つの企業に対して一行または数行でやっておるというのが英国にはあるそうですが、長い間にそういうものができ上ったのだと思います。今の御質問につきましては、私、考えますのに、そういうやり方も一つのやり方じゃないかと思います。すなわち、金融業者はある一つの事業に対して一行あるか数行であるかが、内容をすっかり知ってどこまでもめんどうを見る、こういう形の場合は、むしろその方がいいのではないかと思います。私は、その意味で、金を借りる方の側で、仕事をする方の側でございますが、あまりに銀行さんの御都合、ふところを見て、かけずり回ることはよくないと思っておるわけですが、金融の関係では、今後のこの法律の運用でなく、債権者側、債務者側の見方によってこれは変ってこようと思いますが、ただいま御心配になった点は、金を借りる方の側が、一行でめんどうを見てくれるかどうかということを確かめて、一行だけにたよるか、あるいは数行きめておくか、あるいはお説のように、いつどこで断わられるかもわからぬから数を多くしておくか、これは金を借りる方の側の考え方でいいのではないか。もしそれが、借りるはずであったのが急に借りられなくなった、それでは困るじゃないかということになる場合は、これは債権者あるいは債務者の側の見通し違いとか、相談の誤まりである。金融業者並びに経営者としての関係ではかくのごときことがあってはいけないわけなんです。でありますから、お説のようにやはり企業を経営していく場合に、債務の総額を使っても、いわゆる総額全体に対して担保が足りなくて、債務の方がオーバーしている状態で金を借りるようなことに持っていくとすれば、何かそこに運営上あと余裕をとった方法をつけなければ運営者としては不安なんですから、これは、その場合には、経営する人、債務者になる人、あるいは債権者になる者、金を貸す者の側の考え方は初めから同じなんで、この法律ができたためにそういうことになる情勢が強くなるということの心配は私はないと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/21
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022・猪俣浩三
○猪俣委員 あなたと議論しても仕方がないのですが、われわれは、資本の集中独占化というものに対しては賛成しない。しかるに、近ごろほとんど銀行というものが相当企業経営にまで乗り出してきておる。そして、マルクスが指摘したような独占資本主義の欠点である金融支配ということが日本に現われてきておる。これはそういうことに拍車をかけるのではなかろうかという心配が私どもにはある。そこで、そういう心配がないとおっしゃれば、そのように承わっておきますが、なお、総財産を担保に入れて、もしそれが弁済できないときには究極においては、競売その他で処理されるわけであります。そうすると、結局実際問題としては金融をやった銀行の管理ということが非常にたくさんになってくるのではなかろうか。銀行がある会社を乗っ取るにはまことにこれは便利である法律措置になるのではなかろうか。銀行に限らず、何かそこにある会社の乗り取りを計画するような者は、まずこの総財産について担保権を設定しておく、そうしてその法の実行として完全に乗っ取る、こういう銀行その他の会社乗り取りに、あるいは銀行その他が企業そのものを自分の支配下に置くに非常に便利な法案と化するおそれがあるのではなかろうか。粒々辛苦いたしまして、これから大いに発展させようと思っておりましても、資金が必要であるか、あるいは何らかのことで社債を発行しても、完全にそれが履行できないということになると、総財産ぐるみ取られてしまう。ことに、法務省の二十九年度の試案のようにのれんとか営業権というものが目的物にはなっておりませんけれども、結局において、そしてまた政府委員の答弁では、そういうものを入れなくても、総財産を処分できるなら、結局のれんなどというものはくっついてくるのだ、こういう御答弁になっておりますが、そうしますと、この企業担保によりまして、ある会社を乗っ取るにはまことに便利だ、法律が助成してくれるというような形になるのじゃなかろうか。要するに、独占形態がだんだん大企業中心に転化していく、それを助長するような法案ではなかろうという心配があるわけであります。それについての御感想を承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/22
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023・日高輝
○日高参考人 お答えを申し上げます。御質問のように総財産を担保に提供いたすわけでございますが、これは、担保の実行の時期はどういうときであるかということを御説明申し上げますと、お答えになるかと考えるわけであります。社債につきまして元利払いというようなものができない、あるいはその他の特約事項を履行しないといったようなことが起りましたときに、社債権者集会の決議に基きまして担保の実行というようなことの取り運びに相なるかと存ずるわけであります。金融機関と申しますものはきわめて憶病なものでございまして、担保の実行をいたす段階と申しますことは企業自体が非常にまずくなって、その経営が混乱を来たすといったぎりぎりのところでないと、今申し上げましたような実行の段階には入らないと思うわけであります。従いまして、そのように混乱を来たし、また力の弱まったものを乗っ取ってみようという考え方にはなかなかなりにくいのではないだろうかというふうに思うわけであります。また、そのような考え方がもしありといたしますならば、企業担保の制度によりませんでも、現行の財団担保におきましても同じようなことが申せるのではないか。現在行われておりまする財団担保は、そのほとんどが工場設備その他の全部をあげて財団を作っておる。ただ、たなおろしの資産でございますとか、短期資金でございますとか、そういったものは御案内のように財団の担保の中には含まれません。しかし、それを除きましては、有形資産は全部財団の中に入っておるのが通例でございまするので、財団担保におきましても、もしもそういう意図をもって働きかけるということでございますれば、できないことはない。そういう意味では、企業担保であるがゆえによりそういうことが行いやすいということには相ならないのではないかというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/23
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024・猪俣浩三
○猪俣委員 特殊の大企業だけを目当てにするように思われるのですが、そうなれば、現在富士製鉄や八幡に行われておりまするゼネラル・モーゲージという制度を拡張していけば、それでいいんじゃなかろうか。もしこれを一般の会社ということになれば、中小企業の会社にうるおいをもたらさなければならぬ。そういう制度にしなければならぬ。中小企業のことについては石田さんがお見えになってからまたお尋ねしたいと思うのですが、社債ということに限らず、二十九年に法務省で発表されたものは、社債その他政令に定むる債務となっておった。その政令に定むる債務というものをとったことが、それがけっこうであったと日高さんはおっしゃるのであるが、しかし、そのかわり、社債を発行するような会社に限られてしまうことに相なる。中小企業までにも及ぼすとなるならば、やはり政府のもとの原案にあったような、政令に定むる債務というようなものまでも被担保債権にしませんならば、中小企業は全部ここからはみ出てしまって、何の恩典も受けないということになるのであります。それですからどうせ社債というような大企業だけを目的とするならば、今のこのゼネモといわれる制度を拡張すればいいんじゃないか、こうも思われるのですが、それらの諸点について承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/24
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025・日高輝
○日高参考人 ゼネラル・モーゲージの拡張のお話がただいまございましたが、御案内のように、ゼネラル・モーゲージと申しますものは、特別の法律によりまして、特殊の債権者に対して会社の総財産について優先的支払いを受け得る担保制度であると承知をいたしております。従いまして、今お話にございましたような特殊の債権者に対してという点につきましては、企業担保につきましても同じことが申せるのではないかというふうに考えるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/25
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026・猪俣浩三
○猪俣委員 これは今度逆の方向になるかも存じませんが、近来われわれの目には銀行の不正融資ということが非常に目立ってきました。今隣りの部屋では千葉銀行問題をやっておる。私も千葉銀行問題の事件に弁護士として関係しておりますが、相当目に余ることをやっておる。その他金融機関の不正融資ということが相当私の耳に入っておるのであります。そこで、銀行もほんとうにその営業本位に堅固におかかえになればいいけれども、結局、その首脳部の間にいかがわしい人物がおりますと、それと会社か何かを持っているやはりいかがわしい人物と結合いたしますと、どうもこの総財産を担保にするというようなことから簡単に融資して、そうしていわゆる不正融資がかえってこの法律ができたために容易にできるようなことがありはせぬか、こういうことに対してどういう御感想があるか。さような心配は絶対にないんだということになりますか。というのは、いやこれは大企業だけじゃなくて中小企業にも株式会社となっておるとすればいいんだということになると、中小企業だって社債を発行する、そうしてある銀行の頭取なり専務と結託して担保をつけるというようなことが起るのではないかと思います。そういう心配がないものであるか、あるのか。この法律ができて後に、私ども実務上実はわからぬので、あまりに不正融資の問題が耳に入りますので、それを助長するような法案になつちゃならぬと考えます。それについての御意見を承わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/26
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027・日高輝
○日高参考人 お答えを申し上げる資格がないかと思いますが、あえて申し上げます。ただいまのお話は、法律自体の問題ではございませんで、運用の問題ではないかと考えるわけでございます。お話のように、生き馬の目を抜くような人間がたくさんおりますので、そういう人たちが巧みに打ち合せをとってやろうとなされるならば、あえて企業担保だけの問題ではないというふうに私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/27
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028・猪俣浩三
○猪俣委員 これは、人さえ殺せるんですから、やろうと思えば何でもやれる。合法的な目を装うて、やりやすくなる。ことに、今度刑法の改正案として出ましたあっせん収賄罪は、不正な行為をやらなければ処罰できない。法律に基いてやったということになれば、みな不正じゃないと弁解ができるわけです。法律がなければ、これはちょっと背任とか問題だということになる。総財産を担保に入れるとは何事だということになるのですが、法律に基いてやったとなれば。あっせん収賄罪の政府の今度通りました法案では、これは処罰できない。
そこで、もう一つお尋ねしたいことは、結局そういうことはめったにないにしましても、今言ったようにインチキなことができるとしますれば、結局抵当権の実行ということになりまして、今でも競売については競売ブローカーというものがおって、裁判所でも非常に手を焼いている。一体、こういうことが盛んに行われて、今度は企業全体の競売だということになると、相当大物のブローカーが出て相当活躍するのではなかろうか、そういう御心配があるか、ないか。原さんなんか非常に百戦練摩の士であるから、どうですか、そういう御心配はありませんか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/28
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029・原安三郎
○原参考人 百戦練摩でもありませんが、この企業担保は、先ほど申し上げました通り、産業界では大いに希望していると申し上げているのですが、これはおもしろい見方があるのでございまして、これは私銀行側の建前のことを申し上げますけれども、今まで銀行側で抵当権を財団に設定したものが現在では八千幾つあって、そのうちで、それを差し押えしたりあるいは競売実行の手続をしたものが四百幾つあって、実際に行なったのは二十七、八か三十足らずというものが法務省から示されておる数字でございます。銀行の立場から言えば、銀行が担保に取ったものは、ほんとうは換価しやすいものでなくてはならぬ、こういうことなのです。処分の方から言うと、一ぺんに処分ができて、一つのグループで売れる、そうしてまた、それを買い取った人たちがばらばらでなく運営するということも便利なこともあるのです。今あなたの御心配になっておる点は、今度は私の方の企業家の立場、あるいは経営者の立場から、そういうことになっては困るじゃないか、どんどん売られてしまうじゃないか、こういう御心配があるのですが、この方は、債務者の方には今のような情勢でいけば不利なのです。しかし、債務者は目標をきめて金を借りて仕事をするということに相なっておりますから、これは成功する方が多くて、不成功の場合が今申し上げたように非常に少いのですね。あるいは見込み違いとか、あるいは経営の方針が非常にまずかったとかいうようなことから、これは八千の場合に三十足らず、二十八、九くらいが処分されて実行されてしまっておるのですが、そんなふうに、金を借りて成功する方が多いというふうになっておるわけでありますから、そういう不幸な目にあうことの方を想像して、そうしてこの企業担保をこわがるということは、むしろ債務者側には一人もいない。すなわち、見込み違いで処分をされるのです。
しかし、御心配になっていらっしゃいます、仕事はちゃんと進んでおるのに、債権者の側でそれを乗っ取るとか、またはじゃまするとか、いい仕事だから横取りしようとかいうことの考えでやられることが、この企業担保法のあるがためにかえって助成されはしないか、促進されはしないかという心配について、私たちは、今お話したように、債権者と債務者との両方の相談合いでやっておる仕事でありますから、そういう例外的の場合の心配をもってこの法律の制定を見送るかということは、あるいはいい方の利益が多くて、そういう場合のおそれが少いというふうに見ておる。また、そういうものがあってはならぬので、一つもそういうことなく、見込み通り借金を返して仕事を完遂するということが目標でございますから、その目標のほんとうに成功するということの方で私たちは進めていきたい。万一そういう場合が起るかもしれぬという心配で、千に一つ、万に一つの方でこわがることは、こういう場合のふん切りがつかないことに相なりますから、今のような心配をしないで、この法律の制定を希望しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/29
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030・猪俣浩三
○猪俣委員 これは大野先生にちょっとお尋ねしたいのですが、あなたが諮問を受けられました昭和二十九年の法務省の民事局参事官室の試案というものには、被担保債権として政令に定むる債務というものが入っておる。これが今度、社債だけに変りました。それと、いま一つは担保権の目的として、営業権、のれん等も一切含むということになって、いたのが、今度の原案では、のれんというようなものは含まない、結局動産、不動産の集合体ということになって、先ほど申しましたように、のれんなんというものは総財産を取れば自然にくっついていくから、そういうものは目的物にしないでもよろしいというような政府の答弁であります。こういうことについて、この前の昭和二十九年ごろの案と現在の政府案と、この被担保債権及び担保権の目的について非常に広狭があるわけですが、あなたの学問的立場から見て、どちらの方がいいとお考えになられますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/30
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031・大野實雄
○大野参考人 お答えいたします。この総財産というのは、オール・プロパティとかオール・アセッツ、こういう言葉だといたしますと、おそらくグッドウィルというものは含まれているというのがイギリス法では普通だろうと思います。ただ、エステートという言葉を使った場合にグッドウィルが入らないというような判例があるように思いますが、ただ、これは第一条の解釈の問題になりますので、私個人の考えだけを申し述べさせていただきたいと思いますが、企業とか企業財産というものは、単なる物だけでなくて、やはり人というものを考えなければならない。ですから、優秀な技術者がそろっておるとか、優秀な経営者がそろっておるということは、無形ではありますが、やはり一つの威力になってくるのでありまして、総財産というものを、言葉は非常に——日本語として財産というと物のように見えますが、やはりそういった人的な要素といものは不可欠な要素のように思うわけであります。これは、たとえばフランスの営業質などでありますと、そののれんを除いたのでは動産抵当、フランスにおける営業質というものは成り立たないのである、それくらいにはっきり規定しておるのでありまして、私どもの解釈といたしましては、当然総財産の中にはのれんは含めて考えるのが正しいのではないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/31
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032・猪俣浩三
○猪俣委員 これは政府に聞きますが、政府はそういう解釈をとっておらぬ。というのは、二十九年の試案をわざわざ変えたところでわかる。二十九年の試案では政令に定むる債務というものが入っておったのが、入っていない。それから、営業権、そういうものを全部引っくるめての担保の目的であるということも今度は直しておるようでありまして、のれんは含まないのだと政府は答弁しております。
そこで、今先生がおっしゃったように、企業ということになれば、動産、不動産のほかに、人的資源がある。それから、営業権、商標権、そういうものを引っくるめてでなければ企業ということにならぬ。ところが、動産、不動産の集合だけをいうのだと言うから、企業担保法という名前が大体ちょっと間違っておるのではないか。会社の総財産に対する担保法、こういうものが正確で、企業担保法というのは企業を担保にするように考えられるのですが、政府の原案及び説明を見ると、企業ではないですね。動産、不動産——ただ未払いの資本金などが入るのか入らないのか、政府に聞いてみないとわかりませんが、大野先生は政府の原案で未払い資本金などは入るものと御解釈ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/32
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033・大野實雄
○大野参考人 日本の場合には未払い込みという制度は現在のところないのではないかと思いますので、その必要はないと思うのですけれども、イギリスのことは私詳しく存じませんが、場合によっては英法の場合でも未払い込み資本というものが財産に入ってくる、払い込みが決定すれば財産の中に入るというふうにおそらく解釈されるように思うのですけれども、どうも自信ございませんですから…。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/33
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034・猪俣浩三
○猪俣委員 いま一点大野先生に伺いたいのですがこの総財産を担保にしても、自由に民法の抵当権・質権はほかの債権者のために設定できるようになっておる。しかもこの総財産の担保権者は優先弁済の権能がないわけであります。そうしますと、この法案によって担保権を設定しておりましても、動産、不動産の大部分を他の債権者のために民法の担保権を設定するというようなことも想定できるかと思います。そういう場合に、今度は日高さんの側になって考えるのですが、債権者は一体どういうことになりますか。イギリスの判例によりますれば、企業運営上どうしても欠くべからざるもの、企業を運営していくために、たとえばできた商品をどうしても売らなければ企業ができない。そういうものはできた製品を売却してもいいけれども、そうじゃないものは、企業担保法によって担保をつけた以上は、売買してはならぬという判例が確立しておるようでありますが、そういう判例が確立しておりますならば、イギリス人というのは非常に判例を重んずる人種ですからいいのですが、日本においては、法案それ自体、全部これは甲乙の両当事者の協定に待っておるようなことです。一体、そういうことで、また、イギリスのようにゼントルマンでない、そう言っては失礼だけれども、日本の実業家もあるようでありますから、これを法的にある程度の譲渡の制限を置いた方が妥当であるかどうか、大野先生の御見解を承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/34
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035・大野實雄
○大野参考人 質権、抵当権を設定しまして、特定担保を設定いたします場合には無償でするわけではなくて、やはりその対価というものは企業に入ってくるわけでございますから、そういうものを把握して、全体として企業担保に入ってくるのであります。姿は変りますけれども、やはりそういう対価が得られるという点で、企業担保が大した悪影響を受けないように私は考えておるわけでございます。それから、特約の点でございますが、それは債務者側と債権者側とでおそらく協議いたしまして、そういう特約をした場合に、それにある条項を入れて、それに対して物権的な条項を加えていく。たとえば、違反したら抵当権の実行をするとかいうような条項を加えていくというような方法も、法文自体にはありませんですけれども、なくても、それは両当事者間の契約でやっていかれるように私は考えておるのでございますが、お答えになりましたかどうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/35
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036・猪俣浩三
○猪俣委員 それから、もう一点。先生がさっきおっしゃったと思うのですが、株主総会との関係ですが、営業権を譲渡するような場合には株主総会の特別決議が現在の商法で必要でありますが、政府の答弁のように、全財産が移ればのれんも移るのだ、営業権も全部移るのだ、随伴するのだというようなことになりますならば、そういうものを、今の商法の規定と全く違って、そういう手続を経ないでやっていって、一体これでいいかどうか。学問的に考おえになってどうでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/36
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037・大野實雄
○大野参考人 商法二百九十六条の規定でありますが、社債の発行については取締役会でやっていかれる「会社ハ取締役会ノ決議ニ依リ社債ヲ募集スルコトヲ得」というこの規定でございまして、二百四十五条等を見ますと、経営の委任、営業の全部または重要な一部の譲渡について、総会の特別決議によるという商法の建前になっておるのでございますけれども、私ども、これを業務執行の重要なものとしまして、取締取役会でおやりになりましても、十分経営の全貌を把握しておる方たちの会議体で決せられるならば、それでもいいと考えておるのです。ただ、影響するところは最悪の場合を考えますと、営業譲渡と同じような、強制的に権利を停止して、競売のときも考えておるのでありますので、最悪の場合を考えますと、株主総会の権限にした方がいいと思うのでありますが、大体、企業担保という場合において、最悪の場合を考えるということ自体が不愉快なことなんでありまして、そうありたくないというのがこの法律のねらいだ、こう解釈して参りますと、取締役会の決議事項とされて一向差しつかえないと思うのです。ただ、二百九十六条の関係で、どこかでそれをはっきりうたわれた方がいいように私は考えておるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/37
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038・猪俣浩三
○猪俣委員 実は、全部見ますと、非常に簡単に担保金融ができる。これはいいことかも存じませんが、そこに私どもの心配する資本の集中の悪傾向が起る。しかもそれが、株主総会の三分の二というような厳重な制約もなしに、取締役会といっても、やっぱり頭取とか専務とかいう実力者、常勤が支配してしまうでしょうが、そういう者によってこれがいとも簡単にやられるということになりますと、どうも千葉銀行の古荘氏みたいなのが頭取をやっておると、とても危ないと思うのです。そこで、実はその心配がいささかこの法案の規定の中にあるのではなかろうか、こう思うのでありますが、これは議論になりますし、政府への質問になると思いますので、私はこれで質問を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/38
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039・町村金五
○町村委員長 長井源君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/39
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040・長井源
○長井委員 簡単にお答えを二、三願いたいと思います。
実際問題として、いかがでございましょう、この企業担保権を金融業者の方で取りましても、こういう浮動担保でありますので、別に工場財団担保なり特定財産の担保を取るというように、実際はそういうことになるようなことはありませんでしょうか。日高さんいかがでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/40
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041・日高輝
○日高参考人 見通しの問題になりますので、大へんお答えがむずかしいのでございますが、先ほども申し上げましたように、社債につきまして企業担保がつけられましたときには、社債権者を侵さないという考え方から、自余の貸付、融資その他につきまして特定担保をつけて参るということは行われないだろうと思います。企業の信用程度が低いというようなことになりますと、そのようなときに特定担保をつけなければ金融の道がはかられないといったような困難さが出てくるということは、何か予言できるような感じがいたしますが、そこら辺になりますと、見通しの問題になりますので、はっきり申し上げかねるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/41
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042・長井源
○長井委員 そういうことになりますと、今お話のありましたように、きわめて信用度の高い、きわめて限られたものになると思うのですが、もし実業界にこういうふうな担保制度が非常に要望されておるというならば、なるほど今後の実績を見た上のことになるかもしれませんが、もう少し広げてやるというようなことになるのではないか、こう思われます。実際、金を貸す方は、ただいまお話のありましたように、きわめて憶病にお貸しになりますから、この点についてはあまりに適用範囲が狭いのではないかと思われますので、一応見通しをお聞きしたわけであります。
これは社債だけということに限られたわけでございますが、これを一般債権、長期の貸付等に広げていった方がいいのではないかと考えられます。現在の段階では、日本の経済界の基盤等も考慮して、そこまでもいかないような答弁を政府はいたしておるのでありますが、これを一般長期債権にまでやっていったらどうかということについて、原さん、いかがでございましょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/42
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043・原安三郎
○原参考人 私はやはり広く中小企業にもこれが援用できる事態の早く来たらんことを希望しております。借入金の面まで進めていきたいと思いますが、やはり新しくできます法律に債権者側、金融業者側も相当不安を持っていらっしゃいます。われわれ集まっておる数人では、こういう問題にいつも債務者側の不履行とかあるいは不始末ということは考えてもみないことでありますが、金融業者の心配はごもっともな点があります。一応この法律ができましたら、早く運用の面においていいものができ、ある程度まで経済人としての考え方がはっきり債権、債務者側にわかるような条件に持っていきたい。法律を作りませんと、そういうことに対する心組みなり、運用面から来るいろいろな欠点、長所がわかりませんから、追ってそういうふうになることを希望しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/43
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044・長井源
○長井委員 石田さん、いろいろと中小企業でお骨折りをあずかっておるようでございますが、この問題は中小企業に今のところでは重要な関係がないように思いますが、先刻の話では、この法案の成立を非常に御希望になっておいでになる。この法案の実施状況いかんによって中小企業にも及ぼしたいこういう御意見でございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/44
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045・石田謙一郎
○石田参考人 私、さっきそのことも申し上げたのでございます。実は、日高参考人から、中小企業に金を貸すことについては現在の情勢ではむしろ中小企業者の側に問題がある、信用度が低いとか、その他いろいろな問題があるというお話で、まことにごもっともだと思うのであります。しかし、この問題は、実は、われわれ中小企業者側からしますと、いろいろな点で考えさせられるものがあるということは、戦後十数年の今日においても中小企業者は生産性が非常に低い。極端な例では三七、八%という例がある。そのために賃金も三〇%ないし四〇%というような低い例があるのであります。これは最低賃金の問題でも取り上げられておるのであります。こうなった原因は、果して戦前もそうであったかというと、これは違うのであります。やはり、戦後十数年の間に、日本が輸出をやらなければならないために基幹産業を育成するという大きな命題があって、全部の力を日本の基幹産業である大企業に注いだ。そして、どうやら十分ではないまでも世界の市場で競争ができるようになった。中小企業はこの間置き去りにされて、わずかここ一年のうちにようやくどうやら助成の手を差し伸べられてきた。このために、戦前はやはりひどいとは申しながらも賃金の格差は三割くらいしかなかった。極端な例でも、大企業を一〇〇としますれば六割、それが三〇%というひどい差になったのはそういう原因がある。それから、敗戦の当時においては、財産税というような形で、中小企業者は持っておるものをほとんど持っていかれてしまって、そうして企業を維持するのが精一ぱいだ、こういう点から来たので、日高参考人の御意見はもっともでありますが、そういった原因を考えていただいて、今後あたたかい気持で見ていっていただきたいと思います。その点からすると、私どもは、この企業担保法が将来中小企業にも適用されるようになりたいと思う。というのは、これは生きている企業の姿をそのまま担保の対象にするのであります。中小企業は、物件その他というよりも、むしろやはりその中心になる人の問題、経営者の問題が主体、それからやはり信用とのれんというものが土台になると思います。むしろこういう点に力を入れていただかないと、物件担保だけではお金を拝借しにくいのであります。そんな点から、私は、このような、フローティング・チャージという形でありますが、イギリス式の信用を土台とした担保の方法は、むしろわれわれ中小企業者こそ望ましいと思うのであります。ただ、望ましくはあるけれども、現実にお金を拝借する場合に、中小企業金融公庫もあるというお話でありますが、これも三千万が最高限度です。三千万と申しますと、戦前の指数から申せばせいぜい五万円から十万円の間であります。このような額しか最高でもない。今日の中小企業、ことに中規模企業では、この資金量では足らない。一カ月三千万ないし四千万の生産をやって売買しておる中小企業がたくさんございます。こういう点でもまだまだ問題がずいぶんあるのじゃないか。ただし、今申し上げたように、企業ののれん、技術、信用あるいは経営者の経営力というようなものを中心とするところの中小企業にとっては、今回の社債を中心としたところの担保法を土台としまして、将来中小企業にも適用されるという姿がぜひ望ましい。そのためにはやはり試みの期間が要るのではないか。そんな点から、まずさしあたり大企業に試み、社債というものを対象にしてやっていただく。この点から企業に十分信用が置けるという形が出ましたならば、いろいろ中小企業にも及ぼしていただきたい。その場合には、あくまでもこれは公正な銀行その他の金融機関を対象とするものであって、高利その他の個人的な金融機関を対象とするものではないので、それらの機関も十分資金を出せるような形をぜひとっていただくようにお願いしたい、このように考えておるので、私はむしろそういう前提でこの法案の成立を中小企業者の立場から望んだわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/45
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046・長井源
○長井委員 私どもは中小企業の日本産業における重要性を認めておりますし、しかもまた、現状においては中小企業の金融こそほんとうは願っておるというわけでありますので、堅実な経営をしておりますいわゆる信用ある中小企業者に対しては、ここに提案されておりますような法制も考えてみなければならぬというふうに考えておるようなわけでございます。業者の方におかれましても、いろいろな点に関して私どもの方にこれに引き続くような法案の基礎をいろいろ御考究願ってお示し願いたい、こう考えておりますので、よろしく願います。
今度出ておりますこの法案には、御承知の通り、特別の先取特権、質権、抵当権は、あとからつけましてもこれは優先するということになっておりますが、こういうことになりますと、今も猪俣君のお話がありましたが、信用ある実業家は別でございますけれども、日本の経済基盤はまだまだ動揺をいたしておりますから、企業担保で金を借りておいて、中身を抜いてしまう、簡単に言えばそういう方法もできないことはないようなことが予測されますが、もし財産を担保として金融を受けるというような場合には、企業担保権者の同意を得る、承認を得るというふうにした方が手がたいのではないかと思います。この点に関しまして、実際問題で原さんいかがでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/46
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047・原安三郎
○原参考人 これは私たちも常識的にいろいろ考えたわけなんですけれども、この企業担保権は、物権であるか債権であるか、ちょっとわからぬようなものでありますから、こういうものでやはり債権的の特約を債権者と債務者との間に取り結んでいただいて、こういう種類の重要財産を処分するときには了解を得るということはできるのじゃないかと思います。それが不履行であれば追及ができますから、救済の方法とかそういうことが心配になるとか、そんなことをするかもしれぬという債務者であれば、そういうことによって債権者が今の勝手な抜き売り確保あるいは営業権の一部譲渡などを押えることができるのではないか、こういうように思われます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/47
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048・長井源
○長井委員 登記をいたしますときに特約を登記に現わしておいたらどうかと思いますが、そういう場合に、実際に不都合がございましょうか。いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/48
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049・原安三郎
○原参考人 これは、登記をしない、債権契約の公正証書でやるという程度で…。これは、株式会社登記簿に載ると、やはり信用に関係しますが、しかし、これは当事者の考え方でございますね。工場財団を設定して、そして登記をする場合もあります。しかし、あまりそれが多くなりますと——個々の財産はできません。債権契約ですから、登記をしない方が信用には影響しませんけれども…。債務者としてはそれを希望するだろうと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/49
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050・長井源
○長井委員 先刻話が出ておりましたのれんの問題ですが、企業担保となりますと総財産ということになりますので、営業権というものが別に遊離をしておるというか別個になっておって、ただ有体財産のみ処分するということになると、実際実行というようなことは好ましくないことでありますけれども、そういう場合に、営業権だけ残ってしまうというようなことになると、担保権の内容がきわめて弱くなると思いますが、日高さん、いかがでしょう。たとえば三越なら三越という大きな企業体を担保にするという場合に、三越の建物やその他はみな処分の対象になるけれども、三越という名はそのままで営業は存続するということになりますと、きわめて弱くなると思います。それは金融される方の側になったら特に注意されることになると思いますが、いかがでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/50
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051・日高輝
○日高参考人 御質問が法律的でございますので、非常にお答えがむずかしいのでございますが、私どもの実際的な考え方を申し上げますると、今お話しのようなときには、三越と申しまする商標なり営業権なり、こういうものが一緒に総財産として移っていくのだ、こういうふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/51
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052・長井源
○長井委員 その点は、実は提案者の政府の方では、そういうものは入らないと言っておるのでございますが、これはほかの法律の関係もございましてちょっと複雑でございますけれども、金融業者としては今お話しのような御意見向はあるだろう、こう想像しておるわけでございます。
それから、一つ大野先生にお尋ねするのですけれども、登記をしまして、これは対抗要件主義から来るわけでございますけれども、登記をいたしました上で、あとから担保権をつけた場合にそれが優先する、こういうことは登記の公示力その他でちょっと今までの考え方と混淆を来たしてくるのですが、法律的にどういうことになるのでございましょうか、お教え願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/52
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053・大野實雄
○大野参考人 つまり、排他性のない物権を認めるということになるのですから、物権としてはきわめて風変りな物権ということになってくるかと思うのです。しかし、それが浮動担保の浮動担保たる点なのじゃないかと私思うのですけれども、それが廃業とか解散とか何とかいうことで固定した場合には、やはり本来の物権の姿を回復してくるわけでございますから、もっとも優劣はございますけれども、やはり浮動担保というものを採用する以上は、そういう力の弱い、排他性のきわめて薄弱な物権を認める必要があるのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/53
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054・長井源
○長井委員 社会的情勢からそういう必要があるのじゃないかというふうに受け取れますが、今までの法律のうちでこういうふうな種類のものが何かございましたでしょうか。私ども不勉強でございますので、もしお気づきでございましたら…。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/54
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055・大野實雄
○大野参考人 それは、ないと思います。ただ理由なく質権、抵当権を設定して——しかも、相当大きなものになると思いますから、一つの機械にしましても何億円というものを抵当権の設定をするというような場合を考えてみますと、やはり企業としてはそれを踏み台にして飛躍していこう、そうして収益をあげていこうということで金融をつけているのだろうと思いますから、それを助長してやりませんと、浮動担保を認めた趣旨というものが、やはりそがれてくるというふうに考えるのです。それで金融を受けた対価が入って参ります。その対価はやはり総財産に入って参るわけでありますから、形は多少変って参りますし、物権というものからいきますと、きわめて物権的な力の薄弱な権利でありますが、最後の段階にいけば本来の姿を取り戻すというような考え方で、やはり物権的な性質というものは与えられているように私は思うわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/55
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056・長井源
○長井委員 それは将来勉強してみなければならぬ問題で、日本の担保なり物権の得喪変更等に関する登記の制度、そういうものとの間に一つの新しい考え方が入って参ると思います。なお、この問題は将来に影響を残すと考えておりますので、いろいろ御教示をお願いいたしたいと思います。
会社更生との関係はいかがになりましょうか。破産状態に立ち至りましたような場合は別でございますけれども、会社更生法によりまして実行直前に更生するというような場合には、企業担保法としては更生会社に移行するというふうなことになりましょうか。この節はいかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/56
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057・大野實雄
○大野参考人 ちょっと私わかりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/57
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058・町村金五
○町村委員長 それでは、これで質疑は終了いたしました。
参考人各位には御多忙中きわめて長時間にわたり委員会の審議に御協力下さいまして、まことにありがとうございました。
本日はこれにて散会いたします。
午後零時三十九分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102805206X02719580417/58
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