1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十三年三月六日(木曜日)午後一
時三十九分開会
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出席者は左の通り。
委員長 河野 謙三君
理事
木内 四郎君
西川甚五郎君
小笠原二三男君
平林 剛君
委員
青木 一男君
岡崎 真一君
木暮武太夫君
左藤 義詮君
上田国太郎君
宮澤 喜一君
山本 米治君
荒木正三郎君
栗山 良夫君
小林 孝平君
杉山 昌作君
前田 久吉君
政府委員
大蔵政務次官 白井 勇君
大蔵省管財局長 賀屋 正雄君
事務局側
常任委員会専門
員 木村常次郎君
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本日の会議に付した案件
○接収貴金属等の処理に関する法律案
(内閣提出、衆議院送付)(第二十
七回国会継続)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/0
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001・河野謙三
○委員長(河野謙三君) それではこれより委員会を開きます。
まず、接収貴金属等の処理に関する法律案を議題として、大蔵省当局より説明を聴取いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/1
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002・賀屋正雄
○政府委員(賀屋正雄君) ただいま議題となっております接収貴金属等の処理に関する法律案につきまして御説明を申し上げたいと思います。
説明をいたします順序といたしまして、まず第一に接収の経緯、第二に接収の法律的の性格、第三に特別な立法をすることの必要性、第四に法案の概要等この四つに分けて申し上げたいと存じます。
まず最初に、接収の経緯について申し上げます。戦後連合国占領軍によって接収されまして、その後平和条約の発効とともに日本政府に引き渡されました金、銀、白金、ダイヤモンド等時価にして約七百三十億円ほどのものが現存日本銀行及び造幣局の金庫に保管されておるのでございます。お手元に資料としてお配りをいたしておきました表の中に、「保管貴金属等の数量及び評価額調」というのがございます。これをごらんいただきますと、接収貴金属の種類ごとの数量と金額がどれほどあるかということが明瞭になるわけでございます。連合国の占領軍は、終戦直後の昭和二十年九月から二十五年の五月にかけまして、直接行動によりましてこれらの貴金属やダイヤモンドを持っておりますもの、すなわち国、日本銀行、戦時中の貴金属回収機関、そして一般民間の会社や個人から、無償で、しかも強制的にこれらのものを占領軍の管理下に移したのであります。その接収のいきさつを次に述べたいと存じます。
まず、国が接収を受けました貴金属等は、旧陸海軍や、軍需省が、戦時中に軍用資材として持っていたものが大部分であります。その他国の分としましては、貴金属特別会計が対外決済のために買い入れておりました金や、造幣局特別会計が貨幣、あるいは勲章用の素材として持っておりました金、銀等が含まれておったのであります。また日本銀行は主として通貨に対する金準備として持っておりましたところの傘を接収されたのであります。
次に、戦時中政府は金、銀やダイヤモンドを国民から回収いたしまして、戦争遂行の用に供しますために地方公共団体を通じて啓発、宣伝を行ないまして、広く一般国民からこれらの貴金属を政府へ売却するように慫慂をいたしたのであります。金の回収は昭和十三年ごろ、銀、白金、ダイヤモンドの回収は昭和十九年から行われたのでありまして、これに対する代価は当時の価格ですでに支払われているのであります。そしてこれらの貴金属等の買い上げの事務は、中火物資活用協会を通じて行われたのでございます。これらの回収機関に集められました貴金属等の一部は国家目的に使用されたのでありますが、終戦後まだそのように政府に引き渡されていないものがあったのでありまして、これが占領軍によって接収されたわけであります。それから一般民間の分といたしましては、貴金属やダイヤモンドの売買加工業者、あるいはこれらのものを原料として使用していた製造業者が持っておりましたもの、その他一部には個人として持っておりましたものが接収せられたのであります。
では次に、この接収の意図はどこにあったかということを申し上げますと、当初におきましては、昭和二十年十月九日付の総司令部渉外局の発表に、散逸しないように保管するということが書いてあるのでありますが、そのようにもっぱらあとの処分の実行を確保するという必要上、強制管理したものであったと思われるのでありまして、最終の意図がどこにあったかということは必ずしもこの発表によっては明瞭でなかったのであります。また昭和二十年の十二月七日にポーレー大使が公式声明を発表いたしましたが、その声明の中に次のようなことが述べられてあるのであります。それは、これらの貴金属等は、その処分についての決定がされるまでの間保管するために、合衆国造幣廠に輸送されなければならない。しかしてこれらの貴金属等を合衆国に輸送することは後日それを占領費のために使用するか、輸入品のために使用するか、もしくは賠償のために使用するか、または返還するかを決定することについて何らの影響を及ぼすものではない、こういうことが言明されておるのであります。従いまして接収の意図といたしましては、この声明の中に述べられておりますようなことが考えられておったということが推測できるのであります。さらに極東委員会決定の対日貿易十六原則というのがございますが、これは昭和二十二年の七月二十四日に出ておりますが、その十六のC項に、このようなことが書いてあります。すなわち、「金、銀その他の貴金属及び貴石、宝石のストックで明らかに日本の所有のものと立証されたものは終局的には賠償物件として処理すべきものである」と書いてあるのであります。従いまして、この時期におきましては、これらの貴金属を賠償に充当するという意図が強かったように推測されるのでありますが、しかしながら執行機関でありますところの最高司令官の決定といたしましては、このことは取り上げられなかったのであります。そうして昭和二十七年四月五日付の総司令部の大蔵省あて覚書によりまして、平和条約発効後、民間所有の財産であることが判明した個々の物件を返還する計画を立てることが認められるといたしまして、平和条約の発効とともに日本政府にこれらの貴金属を返還して参ったのであります。
以上がまあ推測せられます接収の意図でありますが、次に連合国占領軍がこれらの貴金属に対して管理中どういう措置をとったかということについて簡単に申し上げたいと存じます。
連合国占領軍は接収後一部のインゴットと美術品を除きまして、大部分の貴金属等を溶解かあるいはまた混合をいたしました。また日本国内に解除をして来たものもあります。あるいはまた米本国または第八軍の中央購買局で売却いたしまして、そのかわり、売却代金を、平和条約の発効とともに日本政府に引き渡したものもあります。それから、日本軍が戦時中占領地域から略奪いたしましたものと占領軍が認めたものは、英、蘭、仏等に対しまして返還する措置を行なっておるのであります。従いまして、これらの行為によりまして、連合国占領軍の占領中に接収した貴金属の数量は相当量減少いたしておりますし、また、現存するものにつきましても、あるいは形状が変っておりましたり、また代替物、かわりのものが入っておるというようなことがございまして、接収されたときのそのままの状態ではなく、その間に若干の変化を来たしておるのであります。このような状態で、平和条約の発効とともに、これらの貴金属が日本政府に返還されたわけでございます。日本政府は、これらの連合国占領軍から引き渡しを受けました貴金属等を、日本政府は、引き渡しを受けたときと全く同じ状態において、現在まで日本銀行あるいは造幣局におきまして厳重に保管をいたしておるのでありますが、ただ唯一の例外がございます。それは、御承知のように、わが国が国際通貨基金へ加盟いたします際に、日本銀行に対しまして、金十五トン五百七十五キログラムを返還いたしまして、これを政府が購入いたしまして、国際通貨基金に現物出資いたしたのでございます。これが唯一の例外でありまして、これ以外には、全く現物は変化をいたしておらないのであります。
以上申し上げましたような経緯によって、現在政府は、これらの接収貴金属を管理いたしておるのであります。
次に、接収の法律的性格について若干申し述べたいと存じます。接収の経緯等につきましては、以上御説明いたした通りでありますが、接収の法律的性格につきまして、現所有者の所有権がどのようになっておるかという点が問題でありまして、その点について御説明を申し上げたいと存じます。
まず、連合国占領軍の覚書によっても、接収は没収でないと解されるのであります。連合国占領軍は、その接収した貴金属等の処分方法として、いろいろなことを考えておったようでありますことは、先ほど引用いたしましたポーレー大使の公式声明、あるいは極東委員会の対日貿易十六原則によっても明らかでありますが、結局、これらの処分の方法は、最終的にはどのようにも決定されなかったのであります。このように、処分が留保されておりました接収貴金属が、先ほど申しましたように、昭和二十七年の四月五日付の総司令部の覚書によって、日本政府に引き渡されたのでありますから、法律的に申しますれば、単に連合国占領軍による強制管理が数年間行われておったというだけでありまして、接収貴金属等の所有者の所有権自体には何らの恩響がなかったと言うことができると思うのであります。換言いたしますれば、占有権は連合国占領軍に移転いたしたのでありますが、所有権については、接収される以前と同じ状態にあったというふうに解釈せられるのであります。これを国際法の立場から見てみましても、いわゆるヘーグの陸戦法規第四十六条に、所有権は「之ヲ尊重スヘシ。私有財産ハ、之ヲ没収スルコトヲ得ス」という規定があるのであります。従いまして、連合国占領軍も、国の所有するものを除きまして、私有財産であるところの接収貴金属等を没収することは、法律的にはできないのであります。そうして、現実にも、連合国占領軍は、接収貴金属等を没収しないで、講和条約発効とともに日本政府に返還して参ったのでありますから、これらの貴金属等の上には、接収された者の所有権が今なお存続しておるとうふうに見ざるを得ないわけでございます。
次に、これらの点につきまして、御参考までに、学者がどういうふうな見解をとっておるかという点を御説明いたしますと、第十六国会の衆議院の行政監察特別委員会におきまして接収貴金属等の調査が行われたのでありますが、そのときに、同委員会に参考人として横田喜三郎教授が出席されたのでありますが、同教授が述べられております言葉に、接収は、日本銀行の「地下金庫に保管するために引渡したというだけで、没収とも何とも言っていませんから、やはり保管するために引渡しただけだというのが適当だと思う」。それからアメリカが接収貴金属等を政府に引き渡すについては、「アメリカが管理した、その管理を解くというだけで、どこまでもアメリカの方では保管していたという建前と解釈しなければならないと思う」と述べております。またさらに、接収貴金属等の所有権については、「法律的な状態としては、あくまで最終的な決定は未決定のまま保管していた。そして、それを今度返してやるというのですから、保管される以前と同じ形で返されたものと見るのが至当であろうと思います」、こういうふうに述べられておるのでありまして、これらの御発言によりましても、接収は没収ではなくして、接収貴金属等に対する所有権は終始元の所有者が持っておったものであるというふうに解されるのであります。
以上御説明いたしましたように、接収貴金属等については、元の所有者の所有権を認めないわけにはいかないのでありますが、一部にこういう意見があります。すなわち、戦時中に国策に協力して貴金属やダイヤモンドを政府に売却した者との権衡上、これらの接収貴金属等は国に帰属させるべきではないかという御意見であります。こういう御意見も、国民感情といたしましては、ある程度首肯できるのでありますが、法律的には、戦時中貴金属やダイヤモンド等を政府に売却いたしました者等は、先ほども申しましたように、それ相当の対価を得て売却いたしたのでありまして、戦後無償で強制的に占有を奪われはいたしましたものの、所有権者であることは否定することができない被接収者の接収貴金属とは趣を異にしておるのでありまして、これらのものを国に帰属させるということは、財産権の尊重に関する憲法二十九条の規定にも抵触するものであるというふうに考えるわけであります。
以上が接収の法律的な性格でありますが、次に接収貴金属等については、元の所有者の所有権を認めるといたしましても、そのためになぜ特別な立法が必要であろうかという点について御説明をいたしたいと存じます。
先に申し上げました通り、連合国占領軍はその管理中に保管の必要上からいたしまして、一部のインゴット及び美術品を除きまして、大部分の貴金属を溶解したり、混合いたしたり、あるいはまた一部の貴金属等を米本国やあるいは第八軍中央購買局等で売却いたしまして、その売却代金を日本政府に引き渡したものもありますし、あるいは日本国内で産業上の必要に基きまして解除をいたしたものもありますし、あるいは旧日本軍が略奪したものであると認めましたものは、被略奪国に返還するいったようないろいろの措置を行なっておるのでありまして、従いまして、わが国が講和条約の発効とともに、連合国占領軍から引き渡しを受けました貴金属等は、接収が行われました当時の貴金属と比較いたしましても数量は少くなっておるのでありまして、また形状も変っておりますし、種類も異なっておるという場合もあるわけでございます。このような状態にあります接収貴金属等を民法の規定だけで処理いたしますことは、きわめて繁雑な結果と相なるのであります。と申しますのは、接収貴金属等は大部分民法にいう混和した状態にあるのでありまして、接収された者全体の共有物というふうに観念することができるのでありますが、実際問題といたしまして、それを分割するということは、容易なことではありません。民法の規定によりますと、接収された者全部がその分割方法を協議いたしまして、協議が整わないときは裁判所に請求して分割する、こういうことになっております。しかもこの場合、各被接収者の持ち分がはっきり挙証できません場合は、民法二百五十条の規定によりまして、各共有者の持ち分は相等しいものと推定する、そうして返還を行うことになっております。このように所有権が存する限り、あくまでこれを返還するという建前をとっておりますが、実際問題として、接収貴金属等は数量がきわめて膨大な上、接収が行われましてからすでに十年あまりの歳月がたっておりますので、事実関係の公正な判断もなかなかむずかしいといわなければならないのであります。そこで接収貴金属等の処理につきまして、特にこの法律を作りまして、最も実情に即した方法によりまして、かつ接収貴金属等処理審議会というようなものを設けまして、各委員の衆知を集めまして、公正な判断に基いて迅速、適正な処理を行う必要がある、かように考えまして、特別の法律を立案いたしたわけであります。
さらにまた特別立法の必要性といたしましては、戦時中貴金属等の買い上げ機関でありました交易営団あるいは中央物資活用協会が保有いたしておりました貴金属やダイヤモンドのように、形式上はこの所有権は、これらの買い上げ機関にあるわけでありますが、実質上は所有権は国にある。つまり回収の手続き上、その機関にとどまっておる間に接収されたものであって、実質的には国に帰属させるべきものであると考えられますので、この点を明らかにするためにも、このような特別立法が必要と相なるわけであります。
以上が本法律案を企画、立案いたしました経緯と、その根本の理由でございますが、以下簡単にこの法律案の中身の概要について御説明をいたしたいと思いますが、これもお手元にお配りいたしておきましたが、縦書きになっております表の中に、接収貴金属等の処理に関する法律案の概要という表がございますが、これに簡単に全貌を表わしております。一条、二条等は目的あるいは定義等の規定でありますが、実質的な規定は五条以下でございまして、まず最初に、五条に返還請求に関する規定が設けられております。返還請求につきましては、貴金属等の接収されましたものは、この法律施行後、五ヵ月以内に返還請求書を大蔵大臣に提出することができることになっておるのであります。ただこの被接収者は必ずしもその貴金属の所有者とは常に一致するというふうには考えられませんので、接収を受けたものが返還請求をしない場合には、所有権を持っておる所有者が返還請求をするわけでありますが、その請求をなし得る期間は七ヵ月以内となっております。たとえばどういう場合かと申しますと、銀塊の所有者が精製業者に精製を委託しておりました場合に接収されたという場合には、原則として被接収者でありますところの精製業者が返還請求するわけでありますが、そのものが返還請求をしない場合には、精製を委託した所有者が返還請求をするということになっておるわけであります。この返還請求がありました場合に、今度は政府としましては接収事実があったかどうか、接収事実についての認定を行うわけでございます。それが次の第六条の規定でございます。すなわち返還請求書が提出されますと、大蔵大臣は領収書、連合国占領軍の記録等の証拠資料に基きまして、だれが何を幾ら接収されたかということを認定するわけでありますが、この場合には大蔵大臣は接収貴金属等処理審議会に付議いたしまして、その議決に基いて認定を行うことになっておるのであります。
次に返還の方法でありますが、これは第八条から十条までの規定が返還の方法についての規定でありまして、認定された接収貴金属等が現在大蔵大臣が保管しておる貴金属等のうちでどの物であるかを識別をすることができる物、すなわち特定物につきましてはその物を返還することになっておるのでありまして、これが第八条であります。
しかしながら先ほども申しましたように、連合国占領軍によって溶解されておりますような場合の不特定物につきましては、第九条に規定しておりますところの方法によって返還いたすのでありますが、この第九条はごらんいただきます通り、非常に長い条文でまた読みにくい条文になっておりますが、簡単にその要旨な御説明いたしますと、接収貴金属等の個数または評価額を限度として保管貴金属のうち接収されました貴金属と同一でふる可能性のある物、あるいは接収されました物の代替物あるいはそれが売られた場合には代償といったような物である可能性のあります物を——可能性と申しますのは不特定でありますからそういうわけでございますが、そういったものをそれぞれ接収貴金属等の個数と評価額に按分して返還するというのがこの不特定物の返還の場合の原則でありまして、第九条のうち第一号はごちゃごちゃと書いてありますが、保管貴金属のうち接収貴金属と種類も形状もそれから品位も重量もひとしいものがある場合にはその物を返還するという規定であります。たとえて申し上げますと、貨幣の場合のように鋳造国、どこの国の貨幣であるか、あるいは金種、つまり表示されております金高等が同一であります場合は、重量がごくわずかな量、たとえ一致しておりませんでも、社会通念上種類、形状、品位、重量が同一であると認められるような物はその物を返還することになるわけでございます。ただこの場合同一であるという認定を受けました者が数人ありまして、ところがその物がその数に合わないという場合におきましては、その認定を受けた者の間で按分してこれを配分するということに相なりまして、その場合不足分が出て参りますが、その不足分はこの第九条の四号でもって返還を受けることになるわけでございます。それから認定された物と同じ物がない場合には、その認定された物の評価額によりまして、やはりこの四号が適用されるわけでございます。
第二号の場合は、これは種類と形状はわかっておりますが、品位あるいは重量のどちらかがわからないという場合の規定でありまして、たとえば金のカップでもりまして、こういう形、あるいは重さが一キログラムというふうに認定されましたが、果してどういう品位の物であるかということがわからない場合には、保管しております貴金属の中にあります物の中で同じ形、同じ重量の金のカップのうちで一番低い品位の物を接収されたと擬制いたしまして、その評価額に応じて同じ形状、重量の金のカップを返還いたすわけでありまして、またそれで満足されない場合、あるいは金のカップが全くないというような場合にはまた第四号でもって返還を受けるということになるわけであります。
それから第三号は品位と重量の両方がわからないという場合でありまして、今申しました例で申しますと、金のカップの形状とそれから個数は認定されましたが、品位と重量が不明という場合には、保管しております金のカップのうちやはり最低の品位、最低の重量を持っておる物を接収されたものと擬制いたしまして、その評価額に応じて同じ形状の金のカップを返還し、これで満たされないときに第四号を適用する、こういう規定であります。
第四号は今申しました以上三号の規定によって返還されないか、あるいはまた一部分しか返還されない、そのために不足額が生じたという場合には、溶解して作られた地金あるいは代替の地金あるいは代償の地金あるいはまた一部分は預金の形になっている物もあるわけでありますが、こういったものはその不足分をやはりこれも按分して返還する、これでもなお不足分が生じた場合は、これはもう仕方がないというわけで、それについては返還をすることができない。大体こういうことになっておりまして、条文は非常に読みにくい条文になっておりますが、趣旨はそういう趣旨でございます。
以上のように返還をいたすわけでありますが、認定でありますとか、返還の決定の通知を受けました者は不服があります場合が当然予想されるわけでありまして、これらのものは通知が到達した日から一ヵ月以内に大蔵大臣に不服の申し立てをすることができるということになっております。これが七条、十三条の規定であります。
次に国庫の帰属と書いてありますが、十一条、十四条の関係であります。これは返還請求がなかったり、あるいは認定数量が保管数量より少い場合のように返還することができない貴金属等につきましては、これは国庫に帰属するということになっております。また返還の通知がありましても、その通知のあった日から五年以内に現実に受け取られないという貴金属等につきましては、やはり国に帰属させるという規定であります。
次に十五条でありますが、これは不特定物が返還になりました場合における私権の調整に関する規定でありまして、たとえば銀線を接収されて、実際には銀塊が返還されたというような、つまり形が変っておったという場合、その不特定物たる銀塊の上にもとの所有権その他の物権が存続するということを規定したものであります。
次に、納付金に関する規定で十六条、十九条でありますが、貴金属等の返還を受ける民間の者からは、接収貴金属等の管理費用等として返還される貴金属の時価の一割を納付金として国が徴収するということにいたしております。
次は、戦時中の回収貴金属等に関する特例でありまして、二十条、二十一条でありますが、以上は一般的な取扱いでございますが、例外として戦時中政府の委託を受けて交易営団等が回収しました貴金属等は約百十六億あるわけでありますが、これは国に帰属させまして、その代り交易営団等が戦時中回収に当りまして供出者に支払いました代金、あるい手数料、加工費等、約四億と推計されますが、これらをその回収に当った機関に交付する、こういう例外的な規定を設けております。
次は、接収貴金属等処理審議会に関する規定で、二十二条から二十五条でございますが、接収貴金属等の処理に当りましては、特に慎重を期する必要がありますので、学識経験者やあるいは各省事務次官等をもって構成する接収貴金属等処理審議会を設けまして、認定、返還、不服の申し立てに対する決定、その他の処理についての重要事項は、すベて審議会に付議いたしまして、その議決に基いて処理を行うということになっております。
最後に、一般会計に所属する貴金属等の処理、これは付則の第五項に規定してあるのでありますが、国に返還または帰属する賞金属等で、一般会計に所属するものは、貴金属特別会計に移管いたしまして、その使途は将来の決定にゆだねるということといたしておるのであります。
大体以上がこの法律案の概要でございます。接収が行われましてからすでに十数年を経過いたしておりますし、政府が連合国占領軍から接収貴金属の引き渡しを受けましてからすでに六年の年月がたっているわけでありますが、いつまでもこの接収貴金属に関する法律関係を不安定なままの状態におくことは、私ども決して当を得たものとは考えておらないのでありますし、また経済的に考えましても、現在日本銀行の金庫にはどれくらいの金があるかと申しますと、国内産金の十三年分に相当するものがあるわけでありまして、それから銀は九年分、それから白金は現在の一年分の輸入量に相当するものがあります。それからダイヤモンドは十六万一千カラットというような膨大な貴金属が保管されておるのでありまして、このような貴重な価値を有する接収貴金属を長年にわたっていたずらに死蔵しておきますことは、国家経済的に見ましても非常な損失ではないかと考えるわけでありまして、政府といたしましては、戦後処理の一環といたしまして、接収貴金属の処理を一日も早く行いたいと考えておる次第であります。どうかよろしく法案を御審議をいただきまして、一日もすみやかに御可決をいただきたいというふうに存ずる次第でございます。
以上でもって私の御説明を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/2
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003・河野謙三
○委員長(河野謙三君) 引き続いて質疑を行います。御質疑のある方はどうぞ。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/3
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004・平林剛
○平林剛君 この法律案の提案説明を前の国会で受けて、だいぶん古い話になったので、今すぐ、説明を聞いても具体的な質疑ということははなはだ困難に感じますから、きょうは若干の資料の要求をいたしておきまして、後日この資料の提出がございましたならば、その際に政府と質疑を行いたいと思います。
そこで、ただいま御説明のありました中で、今後の審議に必要なものとして、第一にはこの接収の法律的性格を検討するために、先ほど御説明のあったポーレー大使の公式な言明、それから極東委員会対日貿易十六原則の内容、国際法規における関係、これらを一つ文書にして御提出を願いたい。
それから第二に、管理中占領軍がとられた措置のこまかい点を知りたいと存じますから、司令部が管理中売却をしてその代金を日本に渡したものが幾らあるとか、それから旧日本軍が占領軍として外国にあったとき略奪したと認められるもので、イギリス、フランス等に返却したものがどれだけあるかなど、こまかい点について具体的な数字があればこれを一つ示してもらいたい。
もう一つ、第三はこの接収を受けた金、銀、ダイヤモンド、白金等における時価が、今日返還をせられるとすれば重大な関係を持つことになりますから、大体接収された当時の時価と今日までの時価の変動について一覧にしてもらいたい。それは大した変動はないと思いますけれども、最初から今日まで大体年を追うてどの程度の変動があるかということも知りたいので、これを一つ一覧でわかるようにして提出を願いたい。
それから第四に、これは私が調べればわかるのでありますが、だいぶん古い話になりましたから政府で一つ提出を願いたいのは、衆議院における修正案が提出をせられました。全部でなくてもよいから、政府提案と修正案との対比といいますか、要綱でけっこうでありますからそれを御提出願いたい。
それから第五に、この接収貴金属の取扱いに関して、われわれ仄聞するところでは幾多の不正事件があったはずである。今日まで衆議院の行政監察特別委員会ではいろいろ議論をせられておりますけれども、各議員にも参考のために、検討しなければなりませんから、これを列記して一つの文書にまとめてもらいたい。
まだそのほかありますが、きょうのところはとりあえずそれだけの資料の提出を求めたいと思います。で、次回またそのことに関して政府から御説明願いたいという要望をいたしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/4
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005・河野謙三
○委員長(河野謙三君) ただいま平林委員から要求の資料は全部ととのいますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/5
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006・賀屋正雄
○政府委員(賀屋正雄君) ただいま御要求の資料は早速調整いたしまして御提出いたしたいと思います。
ただ一点、貴金属の価格の変動でございますが、これは単価がどのように変っておるかということでございますか……、それから不正事件というのは私どもはないというふうに考えておるのでありますが、これは噂に上っておる不正事件、よく新聞だとか雑誌等に出ましたものの説明でございますか、説明と申しますか、そういう事件を列記すればよろしゅうございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/6
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007・平林剛
○平林剛君 その不正事件についてはまあ噂に上ったもの、それから衆議院においても各委員から指摘をされたもので、政府の承知されておるものがある。聞いた話でもけっこうです。とにかく五つ六つあるからそれを全部列記して下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/7
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008・河野謙三
○委員長(河野謙三君) 速記をとめて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/8
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009・河野謙三
○委員長(河野謙三君) 速記をつけて。
先ほどの平林委員要求の資料に対しまして、政府当局から重ねて御答弁願います。出せるか出せないか、どういうものは出せるか、はっきりして下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/9
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010・賀屋正雄
○政府委員(賀屋正雄君) お答え申し上げます。小林委員の御要求の資料ほとんどお出しできるかと思いますが、最後の不正事件の点でございますが、これは御承知のように衆議院の行政監察特別委員会でも問題になったことがございますので、そこで取り上げられました問題等につきまして、どういう点が問題になったかというような点をまとめてお出ししたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/10
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011・栗山良夫
○栗山良夫君 今の小林委員の資料要求に、私もせっかくの機会ですからもう一つ追加をしたいと思います。それはおそらく終戦後相当これは問題になった点ですから、民間の所有者はそれぞれ大蔵省へ熱心な返還要求の陳情があったことと私は思います。従って大蔵省当局に陳情のあった団体、それからその陳情のあった回数、あるいは年月ですか、そういうようなものがありましたら一覧表を一つ出していただきたい、そういうものが出せるかどうか。たとえばあなたの方から前もっていただきました書類にも、民間所有者の業種別件数ということの一覧表があります。これは日数が全部書いてあります。私が見ただけでもこの中に相当熱心に返還の運動をされたことがあることは、まぎれもない事実です。現に私の方も一冊持っておりますけれども、こういうものがありますから、従って大蔵省へおそらくいっているだろうと思う、そういうものをまとめて表にしていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/11
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012・賀屋正雄
○政府委員(賀屋正雄君) 私が知っております範囲では、たとえば個人等から自分のものを返してほしいという陳情は受けておらないようでございますが、よく過去の資料等を調べまして、何かそういった趣旨のものがありますれば、お出ししたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/12
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013・栗山良夫
○栗山良夫君 ただいまのは、私はあなたがその職員に就かれてからのことを申しておるのじゃなくして、前からのを申しておるわけですから、これははっきりあるのですよ、国会にも請願がたくさん出たこともありましょうし、われわれ個人としても特定の人から陳情を受けたこともあるし、ですから本家本元の大蔵省当局に何もないということはないわけなんです。だからその点は一つ明確に出していただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/13
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014・賀屋正雄
○政府委員(賀屋正雄君) よく調べまして、ありましたらお出ししたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/14
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015・河野謙三
○委員長(河野謙三君) 私から政府にちょっとお聞きしますが、今の資料は明日には間に合いますか。もし間に合わなければどの資料が間に合って、どの資料が間に合わぬかということをあらかじめお示し願わぬと、明日引き続きこの法案を審議することになりますから。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/15
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016・賀屋正雄
○政府委員(賀屋正雄君) 明日は午前中くらいでよろしゅうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/16
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017・河野謙三
○委員長(河野謙三君) 全部そろいますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/17
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018・賀屋正雄
○政府委員(賀屋正雄君) 全部そろうと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/18
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019・河野謙三
○委員長(河野謙三君) 他に御質疑ございませんか。——他に御質疑がなければ、本案の質疑は本日はこの程度にとどめます。
次回は明七日午後一時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後二時三十九分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102814629X01019580306/19
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