1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和三十三年三月六日(木曜日)
午後一時四十一分開会
—————————————
出席者は左の通り。
委員長 青山 正一君
理事
大川 光三君
一松 定吉君
棚橋 小虎君
宮城タマヨ君
委員
秋山俊一郎君
大谷 瑩潤君
斎藤 昇君
亀田 得治君
辻 武壽君
政府委員
法務政務次官 横川 信夫君
法務省民事局
長心得 平賀 健太君
事務局側
常任委員会専
門員 西村 高兄君
参考人
法 学 博 士 水島 広雄君
東京大学法学部
教授 加藤 一郎君
日本興業銀行取
締役総務部長 竹俣 高敏君
八幡製鉄株式会
社常務取締役 山口 貞一君
—————————————
本日の会議に付した案件
○企業担保法案(内閣提出)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/0
-
001・青山正一
○委員長(青山正一君) 本日の委員会を開会いたします。
企業担保法案を議題といたします。本日は、これにつきまして、参考人の方々から御意見をお伺いいたしたいと存じます。申し上げるまでもなく、同法案の内容となっております企業担保制度は金融の取引の上におきまして画期的な立法でございまして、企業担保権の実行手続等、法律解釈上の重要な事項はもとより、適用企業の種類、担保権の対象物、債権の範囲等、幾多の基本的重要問題を含んでおりますので、経済界に与える影響も大きいことと存じます。本日は、これらの問題につきまして、権威者の方々から、また、金融、産業界の代表の方々から十分な御意見を伺いまして、当委員会の審査の資とすることにいたしたいと存じます。
参考人の方々におかれましては、日ごろ御多忙中にもかかわりませず、当委員会の意を了とせられまして御出席いただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼申し上げます。それではこれより御意見をお伺いいたしたいと存じますが、企業担保法案につきまして、それぞれのお立場から御自由にお話ししていただきたいと存じます。なお、時間の関係もございますので、お一人三十分程度にお願いいたしたいと存じます。また、委員の方々に申し上げますが、質疑は、参考人の方々のお話が全部終りましてから承わることといたしたいと存じますので、この点御了承願いたいと存じます。それでは初めに水島広雄君からお願いいたします。
ちょっと速記をとめて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/1
-
002・青山正一
○委員長(青山正一君) 速記を始めて。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/2
-
003・水島広雄
○参考人(水島広雄君) それでは、ただいま委員長に重ねて念を押させていただきまして、この法案の主として学問的な部分ということに回答を制限さしていただきましたので、これから若干私の意見を申し上げることにいたします。
ただいま委員長のお話の通り、この企業担保法案は、わが国の法制史上まさに画期的のものであります。従って、経済界に及ぼす影響もまた少からざるものがあると思われますが、私はなぜこれが画期的であるかという点から、この法案についてイギリスの母法を若干お話させていただいて、比較考証しまして、この法案の結論に対する意見を述べさせてもらいたいと思います。
まず、今までわが国の債権の担保というものは大陸法系のドイツ、フランスの確定主義、いわゆる物が確定しなければ担保にならぬというふうな、ごく通常観念の一物一権主義をとって参ったのでありますが、これは明治三十八年から、日本の日露戦争が終って、もう日本が大体産業の興隆を目ざしたときから、こういうような担保物の確定主義が債権の担保となって集合物の形をとって採択してきているのでありますが、自来明治三十八年から今日半世紀がたってもまだこういうふうな非常にプリミティブな法律でやってきているわけでありますが、一方産業がだんだん発達しまして、その中には信用度の高い産業会社も出て参りました。そこで、こういうふうな会社にとりまして、今までのような非常に古いプリミティブなああいう一物一権主義と申しますか、一々物について登記をしてあるいはそれが担保からはずれる場合も債権者の承諾を要し、また、これにも登記を要するというような煩瑣な手続を果して必要とするであろうかどうかというふうな反省期に法律の面でも到着したように思われるのであります。ところが、一方諸外国の例を見ますと、すでにドイツにおきましても、第一次大戦後の賠償問題については、こういうふうなすべての財産に対して担保権を及ぼすというふうなことが見られたのでありまして、皆さん御承知の通り、これは例のドーズ案、それについてはすべてのものが担保になるというようなことで、例のロンドン条約においてもこういう傾向が見られたのであります。一方、最もこういう古い法律を固執する国であるドイツにおきましても、こういうような行き詰った観念について、集合動産担保でさえも認めようとするような傾向がもう相当前からあったわけであります。皆さん御承知の通り、例のドイツの帝国議会のカイナート議員が二十一名をひきいてああいう画期的な集合動産担保制度というふうなものを提唱しまして、その議員は破れましたけれども、国会ではその一部をとっております。そして日本でもこの影響がありまして、製造中の船舶の抵当というふうな形になって、日本でもそういう立法を見たのであります。これはドイツのことでありますが、ひるがえって英米におきましても、やはりこういう担保物を固定しないというふうな考え方が盛んでありまして、この法案のもととなっているイギリス、これについて申し上げますというと、御承知の通り、これは担保物が浮動しておりまして、そして会社に一定の信用を与えて、担保物を浮動さした以上、会社が営業能力がなくなる。たとえば会社が企業を停止してしまうとか、あるいは履行遅滞に陥ったとかいったような場合には、これを固定させましてもとの担保いわゆる固定担保に変更する。それまでは、もう会社に信用を与えた以上、また、会社もそれにこたえる以上、経営の通常の過程に従って自由に物を処分してもいいんじゃないか。そうすれば産業側でも非常な手続の簡素化にもなり、また、担保物がそれだけ広く含まれますから、それだけ信用をたくさん受けることができる、こういうふうな利点がありまして、イギリスでは一八七〇年以来社債について盛んに用いられておるのであります。そうしまして社債のほか、特殊の例外もありますが、主として社債でやっておりまして、アメリカにもこれに似た制度があるのであります。ブランケット・モーゲージと申しまして、アメリカの学者は、イギリスのフローティング・チャージと酷似しているというようなことを声を大にして叫んでおります。こういうふうに英米の進んだ、資本主義国家としては非常に進んだ考え方が今度取り入れられまして、この法律となったわけでありますが、私はこの法案の実体法規を三、四日前から拝見さしていただいたのですが、私はこの法案がイギリスとほとんどまあ八O%似ておる、母法をそのままとっておる。ただ違うところは、イギリスでは処分制限というふうなことを、会社総財産のうちで特にこれだけは残しておかぬと、債権者が困るのじゃないかというふうな特定担保についての、特定物権についての処分制限を認めておりますが、この法案ではそういうものを抹消しておりますが、これなんかも、もとの形と言えば、大体高度の信用ある会社ということで、もとの形をとれば、ほんとうは、本来はそういうものが要らないのでありまして、この法案の方が何だかイギリスの母法に比べてすっきりしているというふうな感じを受けるのであります。
なお、この法案についての母法の考え方というものをもっと詳しく御説明さしていただきたいのですが、制限時間三十分でありますので、ごく概略で、この法案の、今から逐条的に私はちょっと説明さしていただきたいのですが、まず、株式会社ということに限って、社債ということに限ったということは、この法案に対して非常に私は賛意を表したいのであります。もともとイギリスも事の起りは社債の担保でやったのであります。従って、この点は信用のある会社の社債ということに勢い、実際問題がそうなんでありますから、これは私は第一条は非常にもっともなことだと思います。
それから第二の効力の問題ですが、これも優先権を一般の債権者に対して持つということは、これは担保の性質上、当然のことでありまして、この点も問題がないと思います。
それから担保権の設定を要式行為にして、公正証書によったということも、これもこういうふうな大きな債権に対する正確性の意味から賛意を表することができると思います。
それから今までと違いまして、これは企業そのものを担保にするというふうな考え方に近いのであります。で、企業そのものを担保にすると言いますと、こいつは大陸法的と申しますか、ドイツ流と申しますか、概念から言いますというと、企業というものは担保にならぬ。ところが、イギリスのような実際的な見地から法律を解釈する国におきましては、これはむしろアーニングスを主とする企業収入というものを担保にするのだという見方からいたしまして、これは今までの不動産登記でなく、物を主体とするのじゃないというふうな考え方から、会社の登記簿に登記して、しかも画一に対抗要件とか成立要件とかいうような争いにつきましては、これを一本に成立要件にしてしまう。そしてとにかく会社の登記簿に持ってくる。ここは、従来の担保というものは、大体物です。ここに企業担保は物権とするとございますが、物権とは、こういうふうな法律は漁業法にもたしかあったと思いますが、漁業法もやはり不動産を準用していると思います。これだけはとにかく企業そのものを担保とするというふうな見方に、もちろんのれんとかいうふうな、企業財産に含まないようなもの、こういうものは除いていますが、できるだけ企業を担保にするというふうな観念から会社登記簿に登記をし、しかも成立要件にしたということは、最も妥当な措置だと思います。
それから順位の問題、こういうふうなものもこれも「数個の企業担保権相互の順位は、その登記の前後による。」というふうな案になっておりますが、これも物権の性質からいえば当然のことでありまして、別に異論をはさむ余地はないと思います。
それから次は他の担保権との関係でありますが、本法案は、やはり母法に忠実になっておりまして、企業担保を早く設定しておいても、あとから設定した抵当権者の方が勝つ、登記の前後でなく、権利の種類によって分けている。物全体に対して登記をしたあとで、あるいは特定物を対象とする抵当権が設定された後は、その登記があとであっても、先の企業担保権に優先するというふうなことになっておりますが、これは一般と特定との関係を考える、あるいは特定と、物が浮動しているところの関係を考えると、登記の前後でなく、物の特定という権利の対象物によって、こういう差が生じてくることは、これは私は当然のことだと思います。母法もこうなっておりますし、本法案のこの趣旨も、私は非常に当を得たものと解しております。
それから会社の合併でございますが、この点についても、本法案はいずれも企業担保を設定している会社で、どちらかに合併したときの、どちらの会社の企業担保が優先するかどうかわからぬというふうな問題がありますので、あらかじめ企業担保権者間に順位の協定をしなくちゃ合併ができないといって、非常に親切な規定を置いて下すっておりますが、これはイギリスではこういうものはありません。これは判例がそのままそういうことを自然に解決してくれているものですから、こういうことはありませんが、日本の場合にはこういうふうな問題が、一体どういう順位になるのか。どっちが早く権利を取得することができるのかというふうな問題になりますので、立案者がこういう親切な規定を置いて下すったことについては十分敬意を表します。
それから合併の無効、こういうことについては企業担保権者が提起することができることは、これは問題ありませんが、その他本法案に必要な実体規定を第九条において十分引用されておいて下すっているので、この本法案の実体規定というものは、私は全幅的に当を得た法律案であるというふうに考えております。
それからこの実行については、イギリスにおいてはこういうふうな浮動担保自体の成文法は、判例国でありますからもちろんございませんし、あるいはこのように浮動担保自体についての、組織立った判例を分解することも非常に困難でありまして、立案者の方々がこういうふうに日本の企業担保をなす場合に、詳細に実行について規定をして下すったことについては、私は非常にこれはありがたい、非常に行き届いた措置だと思っており、また、全幅の賛意を表するものであります。
以上によりまして、私が学問的に、また、時間も十分ございませんでしたが、母法並びに現在の経済状態、あるいは古い今までの日本の法律の不便を除くという意味におきまして、本法案については全幅の賛意を表するものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/3
-
004・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、加藤一郎君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/4
-
005・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) 私は東京大学で民法を専門にやっておりますものでございまして、そういう立場からこの法案についての考えを述べさせていただきたいと存じます。
最初に、二つお断わりしておきたいと存じますが、私は、この法案の立案過程におきまして、法制審議会にかかります前に、民法部会、それから民法部会の財産法小委員会でこの法案が審議されたのでありますが、そのときに幹事として関係をしておりましたので、その点を御了承願いたいと存じます。
それから第二には、私は民法が専門でございますので、この中の実体規定について意見を申し上げたい。で、手続規定の方は、私の専門外でございますので、省かせていただきたいと存じます。
まず第一に、この立法のねらいと申しますか、それがどの点にあるかというところから始めてみたいのであります。第一に、この法案が考えられましたのは、現在における財団抵当の制度が非常に複雑なものになってきている、実際に利用する場合に不便であるというところが、一つの出発点であったと考えられます。で、財団抵当の登記をするような場合に、非常に膨大な書類が要る、そのために費用、時間などもかかるということでございまして、その点で何かこれを簡素化する必要があるのではないか。それと同時に、財団抵当におきましては、現在、多分七種類くらいの財団抵当があると存じますが、いずれにいたしましても、その事業の範囲が限定されております。たとえば工業財団、鉄道財団というふうに限定されているで、事業の範囲を拡張すれば、これを一般化することができますけれども、それはなかなか今の財団抵当の拡充ということでは技術的に困難な点もある、そこで一般的に、企業全体を担保にし得るような送を開いた方か便宜ではなかろうか、そういうつまり現在の財団抵当の簡素化という点、それからその一般化という点が、一つの出発点であったと思われるのであります。
さらにその点に関連いたしまして、現在いわゆるゼネラル・モーゲージという制度が、たとえば日鉄廃止法の付則であるとか、あるいは公益事業会における電気事業会社であるとか、そういうものについて認められております。このゼネラル・モーゲージ、いわば契約における先取特権、一般先取特権というような性質のものだと思いますが、これがそういう根本的な法律で行われている、それを何か一般化したらいいのではなかろうか、特に日鉄廃止法などが、今その限りで生き残っているというのは、技術的におかしな点もあるし、その期限ももう切れそうになっている、そういう点が、あわせてこの問題を考える出発点の一つだったと思われます。
次に第二点といたしましては、その場合に、ただ技術的に簡単な方法を作るということだけでなしに、実質的に見まして会社の総財産をつかまえるということが、意味があるのではないか。これは今、水島さんも御説明になりましたが、たとえばイギリスのフローティング・チャージのように、会社の総財産をつかまえるといたしますと、その担保価値を十分に把握することができるのではないか、現在の財団抵当も、そういう趣旨から一応出発しておる、個々に分解すれば、価値の少いものでありましても、それをまとめて一つの企業体として見れば、それにプラス・アルファの価値が出てくる、そういうことから出てきておるわけですが、それが会社の総財産を企業として、実体としてつかまえるということになれば、実質上も非常に意味のあることである、そういう点が考えられたわけだと思われます。
なおそれに関連いたしまして、現在中小企業においては十分な担保制度というものがない。で、その点にも、できればこの制度を及ぼしてはどうかという考え方もあったようであります。ただこの点は、非常に困難が伴いまして、企業担保のような、比較的効力の弱い担保制度を使うということになりますと、やはり信用力の高い株式会社のようなものでなければ困るのではないか。そこで、さしあたっては中小企業にまで押し及ぼすということは、今度の法案では実現されておりませんけれども、そういうことも一つの考慮——出発点の中には考えられていた点だと思われます。
で、今申しました二つの点——。つまり第一に、財団抵当の欠陥を補う、それから第二には、会社の総財産を一体として把握する、この二つの点が、この法案のねらいといっていいと思われます。
そこで次に、第二段といたしまして、この法案の内容に入って考えたいと存じます。
まず第一には、企業担保権の設定の問題であります。この設定に関しての、その中の第一の問題は、企業担保を設定し得るものを何にするか、現在の法案では、それを株式会社に限っております。この点につきましては、もっとそれを一般化してもいいのではないか。中小企業に押し及ぼすべきだという考え方があると同時に、他方では、信用力の高い会社でなければ困る、資本金が何億とかいうような大会社に限るべきではないかという議論もあったようであります。で、確かに高度の信用力があるものでなければ困るという点はございまして、まあその点で株式会社というような、いわば企業の客観性の強いものにこれを限定する、で、株式会社になれば、その財産関係、総財産の範囲というようなものも比較的明確であろう、そういう意味でこの法案は株式会社に限っているわけであります。
で、問題になる点は、その資本金の制限を置くべきかという点でございますが、これは株式会社の中で、資本金の点でそれを二つに分けるというようなことは、法理論としても、技術としても非常に困難な点がある。で、もし信用のない株式会社などが入ってきて困るというのであれば、それを銀行その他の金融機関の方で、自主的に選択をして設定を進めていけばいいのではないか。法律としてそこに何か株式会社の中で部類を分けるということは、非常に困難であると思われますので、現在のように株式会社に限ったということでいいのではないかと思っております。
次に、設定についての第二の問題は、被担保債権の範囲でございます。この点は、現在の法案によりますと、社債に限られている。社債ということは、結局それが担保附社債の形になりまして、企業担保のついた社債が、担保附社債信託法によって出されるということであります。で、そのほかに、一定の範囲の借入金というものを被担保債権にすることを認めるかが問題になるわけであります。で、最初に出ました民事局参事官室試案によりますと、一定の範囲の借入金も入るというような法案も作られております。しかし、その点を考えてみますと、一つには、一般の借入金に企業担保がつけられるということになりますと、そこで担保価値が一応全面的に把握されるおそれがある。そうすると、他方の、企業担保を持たない一般債権者というものは非常に不利な立場に立つことになる。たとえば、高利貸しが企業担保を取ってしまいますと、ほかの一般債権者は非常に困る。で、企業担保を考えます場合には、企業担保をとる方の有利なことも考えなければなりませんが、逆にそれによって不利な立場になる一般債権者のことも考える必要がある。そういう意味で一般の借入金につけることは非常に問題であります。で、この法案では、結局日本開発銀行の一定の融資についてだけ附則の二項で例外を設けまして、そのほかには借入金を被担保債権としないことにしております。
まあそのほか、借入金につけるとなりますと、この企業担保がつかなければ金を貸さない、安心できないから金を貸さないというようなことになって、無担保貸付というものが非常に少くなるんじゃないか、そうして金融界を混乱させるんじゃないかという考慮もあると思われますし、また、それを社債に限るという点においては、社債は長期の資金であって、一般大衆というものが相手になっている、そういう意味での一種の公益性といいますか、そういうものもあるので、社債に限るということには理論的な意義というものも認められるのではないか、まあそういうように考えられますので、社債に限定するということにも私は賛成でございます。
こまかい点は省略いたしまして、今の設定に続いて、大きい第二の問題といたしまして、担保の目的の範囲がどこまで及ぶかという点がございます。この点は、法案の二条におきまして「現に会社に属する総財産」という表現を使っておりまして、新しく設定後に会社の財産に属したものは当然担保の範囲に入る、逆に、出たものには及ばないということになっております。つまり、その意味で財産の範囲が浮動するわけでありまして、浮動担保、あるいは英語でいうフローティング・チャージというような言葉がそこに当てはまるわけであります。結局、そのときどきの状態において担保価値を把握していく、それが確定するのは最後の実行段階に入った差し押えのときでありまして、結局最後には、差し押えのときの現存財産というものによって担保されるという形になるわけです。
この点で問題になりますのは、会社から出ていった財産に追及力を認めるべきかどうかという点でございます。たとえば、その会社の最も中心となるような工場、あるいはその中の非常に重要な機械というようなものをよそに売られてしまっては困る。そこで、そういう重要財産については、何か処分を制限する道が必要ではないかということが、これは金融機関の方から要望された点であります。この点においては、かりに追及力を持たせるということになりますと、それを会社登記簿だけに登記したのでは不十分である、やはり個々の財産に登記をしまして、公示をしておかないと、取引をした相手方が、あとになって、あれは処分が制限されていたということでは困るわけであります。従って、もし追及力を認めるとなれば、やはり個々の登記をする必要があるだろう。そういたしますと、現在の財団抵当、あるいはその他の特定担保と結局ダブることになります。つまり、企業全体に企業担保をつけると同時に、個々の財産についても特定担保がついたのと同じような形になるわけでありまして、もう、それをやりたければ、特定担保と併用すればできるわけでございます。もっとも、特定担保と別々にやるのは厄介だから、これを一緒にして企業担保という形にして、両方の効果を持たせた方が便利じゃないかという議論もあったようであります。しかし、それは、本来は特定担保の持つべき機能でありまして、それを一緒にすると、またこの会社の重要な財産を全部書き上げて、以前の財団抵当のように、やはり複雑な手続をとるようになるのではないか。また、企業担保の性質からして、そういう特定担保的な機能をあわせて持たせるのはすっきりしないのではなかろうか。で、やはり企業担保は企業の総財産をとらえるということですっきりさせまして、特に必要がある場合にはそういう特定担保を併用する道で十分ではないか。それがまた、企業担保をその性質に従って働かせるということにもなるのではないかと思われます。まあその点で、確かに財産を処分されると不安だという点は残るかと思われますが、しかし、先ほどのように、設定者は信用力の高い株式会社に限る、しかも被担保債権は社債に限っておりますから、株式会社の中でも特に信用度の高いものでなければ実際問題としては企業担保がつかないわけであります。で、理論的に申せば、社債を発行することは、株式会社ならどれでもできるわけでありますけれども、その引き受け手がございませんから、結局大きな信用力のあるものに限られる、そうだとすれば、何も一々の個々の財産を企業担保でしばる必要もないのではないか。かりに押えるとするならば、それは物権的な効力を持ち追及力を持つものでなくても、債権的な特約で十分ではないか。現在でもいわゆるネガティブ・クローズという形で、債権的に処分禁止の特約をして、よそに売ったときには期限の利益を喪失するというようなことが行われておるようでありまして、そういうことで制限すれば十分ではないか。そういうことで以前の試案には、重要な財産の処分制限のような規定があったのでありますが、この法案ではその点をすっきりさせまして、特定財産とは関係ないということになっております。この点は私は企業担保の性質からして賛成でございます。
目的の範囲についての次の問題は、いわゆるのれん代というような無形の利益がそこに入ってくるかどうかという問題であります。確かに企業として活動しておりますと、個々の財産をプラスした以上の無形の利益というものがここに生じてくる。で、この企業担保の利点の一つとして、そういうのれん代まで範囲に入れることができるのだということがあげられております。しかし、この点は、法律的に把握するのは非常に困難な点でありまして、たとえば実際に競売をいたしますときに、それを幾らに評価するかというようなことは非常にむずかしい。また、形のあるようなないようなものでありまして、それを法律的に把握することは非常に困難であります。この点も以前の試案におきましては、営業に付随する一切の経済上の利益というような表現で、それを含むような形がとられていたのでありますが、これは法的には非常にむずかしい問題でございまして、今度の法案からはそういう表現は抜けております。しかし、これは企業を一体としてかりに処分をするというような場合には、当然事実上考慮されてくる問題でございまして、法律的には形の上に現われていなくても、実際問題としてはそういうものも考慮されてくるだろうと思われるのであります。
次に、内容の大きな第三の問題といたしまして、企業担保権の効力をどうすべきかということがございます。この点では、まず第一に、この法律で総財産を清算するときに優先権を持つという形がとられております。法案の二条二項におきましては、個々の強制執行、競売というような場合には、これは優先権がない。もしそこに優先権を持たせるとなりますと、他の一般債権者は全然そこから配当を受けられない。巨額の企業担保が優先してきますと、一般債権者が取れないことになりますから、この点は当然のことだろうと思われます。たとえば、会社が破産したとか、あるいはみずから社債権者が総財産についての企業担保を実行するとかいう場合に優先権を持つことになるわけです。
その第二に、実体法的な内容、この効力といたしましては、まず一般債権者に優先するということが二条一項に書かれております。この点は企業担保権を設ける以上、一般債権者に優先させることは当然のことでありますけれども、しかし、弱小一般債権者を害することはないかという点は、やはり常に考える必要がある。その点で先ほどのように、一般の借入金はこれで担保することができない、社債に限定するという方法がとられたのでありまして、その点は先ほども申しましたように賛成であります。そのように一般債権者には優先いたしますが、逆に他の担保権者には負けるという形になっております。六条、七条あたりであります。そういたしますと、あとから担保権をつけられたとしましても、その担保権に負けることになりまして、企業担保といってもまあ大して大きな効力を持たないのじゃないかという問題が逆に出て参ります。たとえば、担保つきの社債というので安心して買ってみたところが、実は企業担保といってもそれほど効力の強いものではなかった、そういう意味で一般の社債権者を害することがないかという心配もあるわけでございます。
このように、つまり一方では一般債権者を害しないか、他方では効力が弱いために社債権者の信頼を害することがないか、両面からの問題がございまして、企業担保は悪くいたしますと、帯に短かしたすきに長しということになるおそれもあるのでありまして、その点のまあ一番妥協点と申しますか、その点のバランスをとりますために、現在のように一般債権者には優先するが、ほかの担保権者には負けるという、比較的弱い効力を持たせている。そして先ほど申しました追及力というものも認めていないというような結果になっております。そういたしますと、企業担保というものも何か一つの気安め的なものにすぎないので、それほど期待するほど大きな効力を持つものではないということになるかもしれません。そういう点で、これは契約による一種の一般の先取特権的な働きを持つ、そういう意味で物権と申しましても物権性は非常に弱いということになると思われます一もっとも、企業担保相互の間では順位の先の方が優先をいたしますから、その意味での一種の排他性というものも備えておりますし、また、その順位をあとで変更する、譲渡、放棄という形で変更するという道も開かれております。
以上申しましたのが大体法案の内容の重点だと思われます。
最後に、それではこの企業担保をどう考えたらいいかということに移ることにいたします。
先ほども申しましたように、一方では一般債権者との関係、他方では社債権者がどれだけ力を持つかということの関係、ちょうどその中間に企業担保がはさまっておるような形でありまして、あまり強くすることもできないし、弱くすることもできない。そういう意味で、現在の法案程度にするのが、妥協点として一番いいところではないかと思っておるのであります。それと同時に、追及力というような点では、取引の安全、企業から物を買うものの取引の安全ということも考えなければなりません。そういういろいろな利害関係を考えますと、私はこの法案の全体の考え方に賛成であります。ただ問題になりますのは、もう少し範囲を広げる必要があるのではないか。たとえば、現在適当な担保制度のない中小企業に広げるとか、社債に限らず一般の借入金に広げるという点も考えられるのでありまして、この制度を利用してみて、もし非常に成果が上がる、うまくいくというのであれば、そういうことも考えられるかと思われます。しかし、これはそう容易に広げるわけにもいかないのでありまして、かりに信用力のないものが、これを利用して、結局債権者に最後には満足を与えないというようなことになったということになれば、この制度というものは逆に行われなくなってしまう。そういう意味で、最初はやはり非常に慎重な態度で出発して、その実際の利用方法を見て、ほんとうにうまくいく確信が持てたときに範囲を広げるという問題も出てくる。そういう順序になると思いますので、そう簡単にこれを広げるわけにはいかない。うまくいけば広げると言っておりましても、なかなかこれを広げることは困難であろう。もし中小企業のために何か担保制度が必要であるというのであれば、これとまた違った不動産制度とか、あるいはそういう方法でいくのが適当ではないだろうか。企業担保を中小企業にまで広げるというのは相当の危険性があるのではないかと私は考えておるのであります。
一応これで終らせていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/5
-
006・青山正一
○委員長(青山正一君) どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/6
-
007・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、金融界の日本興業銀行取締役総務部長竹俣高敏君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/7
-
008・竹俣高敏
○参考人(竹俣高敏君) ただいままで法律学者の方からの御説明がございましたのでございますが、私は法律的にはしろうとでございます。ただ実際家といたしまして、どういうふうにこの法案を考えるかということを申し上げてみたいと思います。
きわめて通俗的には、金融をお受けになる事業会社側の立場から言うならば、簡便であって、安易であるという点から賛成である。あるいは金融業者側は、ただいま加藤教授が御指摘になられたように、帯に短かしたすきに長し、あるいは気安め的といったような性格もあるといったようなことに不安をいだきまして消極的であるといったような、そういう当面の利害にとらわれての意見というものをここで申し上げても意味がないと存じますが、ここではむしろそれを両方ひっくるめました、いわば事業金融が円滑にいくための担保利度といたしまして、この企業担保法というものがどのように考えられるかといったような点を私なりに御批評申し上げてみたいと、こう存じます。
本論に入りまする前に、大体物的担保といったようなものをどのように考えておるかと申しますると、これは申すまでもないことでございまするが、借入金が、当時は予測できなかったような事故によりまして、不測の事故によって、支払いがうまくいかなくなったといったような場合に、その際差し入れておりまする物的担保を、その物的担保によって弁済を確保するというようなこと。そのような方法を講ずることによって金融を円滑にするというのが大体担保の制度であろうかと存じまするが、不測の事態が起きて、いよいよ担保の実行といったような場合に、伝家の宝刀を抜いてみたところが、快刀乱麻を断つ切れ味どころではなくて、さびておったとか、竹光であったということであったのでは、これは担保の意味が減殺されるというか、ほとんどないというように考えられるわけでございまするが、現実に、従来担保といって物権を特定いたしておりました場合でも、現実の場合にはいろいろ法律的には保護されておりまするが、実際問題としてはいろいろ抜けてしまって百パーセント担保権の実行といったようなことが行い得ないのが実情であろうかと思います。いわんや物権そのものが特定されておりませんで、フロートしておるというような場合には、現在ありまするいろいろな担保に比べて非常に弱いものであると、加藤教授のお言葉の、たとえば気休め的な性格といったようなものがそこに出て参るわけでございまするが、特に金融機関、銀行といったようなものが担保権の実行を確保をするということは、相当機が熟してからと申しまするか、むしろ常識的にはおそきに過ぎるといったようなときに初めて始めるわけでございます。と申しまするのは、銀行が担保権を実行するということは相手方に対して相当の不利と申しまするかを与えることになりまするので、それは慎重に慎重を重ねて、がまんできるだけがまんをして最後にやるということになります。従いまして、その間にその雲行きといったようなことが当然あるわけでございまするので、従来の特定担保でさえも抜けるといったようなことがございます。従いまして、企業担保のような、合法的に会社の所有からはずれたもの、あるいは会社の所有でございましても、他に、他の抵当権その他の対象になりましたものに、追及権が及ばないということになっておりますので、担保力といったような点から申しますると、非常に薄弱なるものであるというふうに考えざるを得ないと存じます。でございまするから、若干言い過ぎかどうかは存じませんが、いわば従来の意味での担保というものではなくて、担保提供の予約のようなものであるというようにも考えられます。あるいは非常に無担保に近いものであるというようにも考えられるのではないかと存じます。こういうような性格を本来企業担保というものが保有いたしておりまするので、これは昨年のたしか六月ごろでございまするか、経団連の要望意見の中にも、もう少し強い性格を入れてほしいという要望書が出ておったようでございます。たとえていうならば、高度の信用力というものがどうしてもこの企業担保の場合には前提となるので、一定基準以上にそれを限定したい。これは先ほど法律学者のお話で、一定基準以上の信用力ありといったようなことを法律的にきめることの困難さ、法律技術的なむずかしさということと、それからそういうことはむしろ金融機関で自主的にきめたらばよろしいのではないかというふうな議論のために、これは本法案では御採用になっておりません。落ちて、しまったわけであります。
それから次に、有力なる財産が抜けていくということに対する不安を除きたいということで、財産の譲渡あるいは処分に対して、これを特約でもって制限するような道を開いてほしいということが、そのときの経済団体連合会からの要望書の中にあるわけでございまするが、これも企業担保本来の形と申しまするか、から、そういうことは非常にむずかしいということで、これも本法案には御採用になっておられないわけでございます。ある意味でいえば、イギリスの母法よりももっとすっきりした形でそういうものは落ちてしまったという形に相なっておるわけでございます。
以上のように、担保といたしましてはきわめて薄弱なと申しまするか、特に金融業者側から見ればきわめて不備なものであるというふうに考えざるを得ないのでございまするが、それにもかかわらず、イギリスにおいてこういうような種類の担保制度が発達したのはどういうわけであろうかということを御参考に申し上げてみたいのでございまするが、御承知のように、イギリスは、わが国におけるような法律制度とはだいぶ違っておるのでございまして、わが国でいうならば、たとえば物権が非常に重きをなしておる。それに対し債権は非常に弱い。にもかかわらず、イギリスにおいてはその債権が相当程度に強いといったような、そういう法律的な基盤、あるいはそれは登記制度にも現われておるわけでございまするが、そういうような基盤が非常に違う。それから経済的に考えますると、日本の経済は一般に底が浅いといったような言い方がされまするが、イギリスの経済力というものは相当強く、従って各企業の力といったようなものも根強いというふうに考えられる。従って、担保力にたよって金融するというような点は、少くて済むというような事情もあろうかと思います。さらに、これは世界的にイギリス人か経済道義に厚い。日本人か経済道義に薄いとは申しませんが、かなり、わが国の場合は生き馬の目を抜くような場合がしばしばございまするので、残念なからイギリス人のそういう経済道義の厚いということを認めざるを得ないと存じます。
それから、これは金融のやり方でございまするが、一社一行主義、一つの会社は一つの銀行を取引先といたしております。従いまして、今のように、かりに薄弱な担保をつけておきましても、その問題の起こる起き方は少いということも言えるのであります。ところが、わが国におきましては、これは資力が少いので、大会社に対して金融をおつけするという場合には、一行でなかなかそのよくするところでなく、いわゆるシンジケートあるいは協調融資というようなことで、数行ないしは十数行でもって金融をするということになりまするので、そこに担保の問題が輻湊いたしております。これが非常に違う。それから、会社の借り入れ能力、何かボローイング・パウァーというのだそうでございますが、会社の借り入れ能力というものがイギリスにおいては非常にはっきりしておる。イギリスの会社は付随定款というもので取締役の行使できまする借り入れ能力に一定の制限を加えておる。たとえていいまするならば、株主総会の事前の同意かない限りは、払込資本金を上回って借り入れを行なってはならないという規定をいたしておるのか通例でございまするが、もし取締役かこういうような制限を越えて借り入れをしたといったような場合には、権限を越えたものということで、これは無効でございまして、貸出人はその貸出金の返済を要求するごとかできません。また、受領いたしました担保自体も無効となるというようなことでございまするので、かりに証書の中で借入制限約款というものをかりに設けない場合でも、このような付随定款の面で、従来の債権者、前の債権者は一応の保護を受けるといったような制度になっておりまして、わが国の法律的あるいは社会的、経済的な基盤というものが非常に違っておる。そういう違った基盤の上に初めてこのような企業、英国で申しますとフローティング・チャージ、浮動担保というものが発達したのもむべなるかなと思われるのでございまするので、わが国においてこういうような企業担保を作り上げて、それに相当の実際的な期待をかけまするならば、今申し上げましたような法律とは別にと申しますか、法律と並んでと申しますか、そういうような基盤を作り上げるということが実際的には必要であろうかと思います。しかもイギリスにおきましては、こういうような基盤があるにもかかわらず、現実にこのフローティング・チャージをつけておりまする場合に、単独にフローティング・チャージだけをつけておるということはむしろ例外に属しまして、他の特定担保、フィックスト・モーゲージですかを設定した上で、浮動担保とあわせて使っておる、おもにこれは土地でございますが、土地を特定担保に取り、そのほかを浮動担保でもって押えて、併用によるというようなことをやっておりますが、しかもさらにその上に、ほかに担保を提供をしないと申しまするか、いわゆる担保制限約款というものをそれにあわせて使っておる。それから借り入れ制限——先ほどは借り入れ能力という点で申し上げましたが、借り入れ制限約款というようなものをやり、また、場合によっては関係会社、親会社等の保証を徴しておるというようなことで、かなり慎重なる態度をもってこのフローティング・チャージを適用しておるというのが実情のようでございます。もちろんわが国にも先ほどお話かございましたように、これに似たような担保制度がございまして、たとえて言うならば、電力会社のゼネラル・モーゲージ、一般担保、あるいは先ほど申し上げました日鉄廃止法によるところのゼネラル・モーゲージというようなものもございます。しかし、これをよく考えてみますならば、電気関係の法律によって、電気事業会社は国家の監督その他を受けておる、そのそういう基盤に安心いたしまして、セネラル・モーゲージ——一般担保を金融機関がつけて、それに満足しておるわけでございまするし、日鉄廃止法にいたしましても、日本製鉄株式会社法のときにその重要なる財産の移動その他はやはり政府の関与するところであるといったようなことかございましたので、それに安んじてこういう担保制度が日本においても行われておったのでございまして、やはりそういう基盤といったようなものはないがしろにはできないのではないかと、こう存じます。このように、基盤が現在においては、相当違っておりまするわが国にこういう制度を移し植えまして、外国におけるような効果を期待いたしましても、それはむしろ無理ではないであろうかと存じます。基盤がだいぶ日本の場合は弱いのでございまするし、しかもこの法案自身が母法よりもずっとすっきりしておる、理想に過ぎておるような点から申しまするならば、その実際の適用は英国におけるよりも必然的に制限された適用ということに現実問題としては相なるのではないであろうかと存じます。従いまして、先ほど来学問的には特に画期的な法律である、これは考え方といたしましてはまさに画期的な法律であろうかと存じまするが、実行の面から申しますると、あるいは実際の面から申しますならば、この企業担保法によってわが国の担保制度というものが非常に伸び、非常に完備されたものになったんだというふうに考えるのは少し早まり過ぎておるのではないであろうかというふうに私は実は考えておるのでございます。従来の財団担保というものがあまりにも繁雑に過ぎると言われておりまする半面、今回の企業担保というものはその繁雑さをいかにして除くかというところに重点が置かれたということ、このことはもちろんけっこうなことではございまするが、手続を簡略にするということと同時に、担保としての本来の本質的なものがどうも抜けて落ちてしまっておるというように考えられまして、あまりにも両方が少し極端なものが二つ並んだような気がいたします。すなわち、非常に繁雑で重苦しい財団担保という一つの制度と、片っ方は少しすっきりし過ぎた、従ってまた、実効が多分に疑われるような企業担保といったようなものの二つがここに併存するような形になりそうである。従って、そこに大きなギャップがある。このギャップを本来ならば埋めなければならない。むしろ私どもは国会にそういうものをお埋め願いたいというふうにお願いしたわけです。従来はこの企業担保がございませんから、その軽い方の面から言うならば無担保という制度がある。片っ方に非常に重い財団担保というものがございます。むろんこの間にはそれ以上のギャップがございます。しかし、このギャップというものは非常にはっきりいたしておりまして、はっきりそこにギャップがあるということが感せられるわけでございまするが、今度の企業担保と財団担保との間のギャップというものは、そのギャップがギャップとして認識せられないようなおそれがそこにひそんでおるように私には思われるのでございます。なぜかと申しますると、企業担保の内容は、先ほどもお話が出ましたように、企業全体であるということで、むしろ非常に担保力があるのではないかというようにも一応観念できまするが、同時に実行段階になりますると、それは急激にやせてほろぼろ落ちていってしまって非常に担保力がないので、むしろ無担保に近いというようなふうに観念するものが出て参る。従いまして、企業担保に対する担保内容の見方に非常な幅がございまするので、私に言わせれば、相当のギャップが財団担保との間にありながら、現実の一般社会ではそのギャップがないかのごとくに感ぜられ、従って、本来ならば企業担保ではむずかしいはずの金融を無理に企業担保によってとり行いたいという意欲を引き出すといいまするか、そういうものを誘発するおそれがあるというふうに私は存じます。まあしかし、このように申し上げましても、わが国もかりに経済的な底が浅い、底力が少いとは申しながら、わが国といえども近代的工業国家になっておりまして、信用力のきわめて大なる企業も幾つか存在するということは当然でございます。従いまして、この非常に高度な信用力のあるところの企業に対して一律に財団担保をしいるということは、これはむしろ重きに失するというか、酷に失するということもあるのは当然でございます。従って、その限りにおいて企業担保がよさを発揮するということは私どもも十分認めておるわけでございまするが、ただここで申し上げたいことは、その適用し得る範囲が現実問題として残念ながらきわめて小さい。適用範囲があまり広くないというふうに感ぜざるを得ないわけでございます。この法律案によりますると、社債の担保ということに限定されておるわけでございまするが、わが国の経済的なというか、金融的な秩序というような観点から社債優先、不特定多数の社債権者を保護する、そういうようなことによって社債をより育てていくというような観点から、社債の担保をむしろ優先し、社債の担保は侵さないということを建前にいたしております。従いまして、企業担保つきで発行されました社債、そういう会社に対しましては、一般の銀行は担保を取って金を貸すということにいたしますると、貸出しに担保を取りますと、当然これは従来の担保を取ることになりますので、従って企業担保がついております社債を侵すことになりますので、これはやることができません。従って無担保で融資をするということに相なります。裏返して申しまするならば、無担保貸しができる程度に信用度の高い会社にして初めて企業担保附社債というものがつけ得るというように相なるかと存じます。
以上のように、適用範囲もあまり広くございませんし、それに十分の期待が、一般法ではございまするが、期待しにくいので、私が考えまするには、わが国の担保制度の改善のむしろ本筋といったようなものは、財団担保の簡素化、合理化といったようなことにより多くのものがあるのではないかと思われます。もし現在のままでもって企業担保の適用範囲を無理に広げるというようなことをいたしますると、信用制度がむしろ破壊されてしまう。結局担保権の実行のときに期待したようなことが裏切られまするので、その貸借関係が非常にまずい形になり、それが尾を引きまして、その後の信用取引といったようなものを阻害するということに相なるかと存じます。かつて社債浄化運動というようなことが行われまして、担保附社債に原則としてするというようなことが行われましたのも、その前に無担保社債というものが出て、しかもそれがそれぞれ破綻をいたしまして、社債権者に不測の損害を及ぼし、ひいては信用取引全体にまずさを及ぼしたということのために、社債浄化運動ということによって担保附社債が原則になったのでございまするが、こういったことをやはり私は想起せざるを得ないわけでございます。まあこういうようなことは、金融業者自身が大いに心すべきことではございまするが、同時に、資金をお借り入れになられまする産業会社側も、当面の手続の安易さとかいったようなことだけにおとらわれになりませんで、むしろ長い目で健全な信用制度の確立ということに御協力いただければ、非常に幸いではないかと存じます。
そこで、最後に締めくくりのようなことを申し上げまするならば、本法案に対しまして、私は率直に申し上げまして、もろ手を上げて非常にいいものだからといって賛成申し上げる気には残念ながらなりません。むしろ、担保制度といたしましては、実際上の効果が少な過ぎるように思われまするし、適用のいかんによりましては、先ほどのギャップをギャップと感じないといったようなことから、場合によっては弊害さえ出るようなこともおもんばかられまするので、そういうことも心配されるわけでございまするが、わが国における一部の特に高度なる信用力のある企業にとっては財団担保よりまさるということ、このこと自身もまた否定することはできない事実でございます。従って、その限りにおきまして本法案の意味があるのであろう、こういうように限定して考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/8
-
009・青山正一
○委員長(青山正一君) どうもありがとうございました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/9
-
010・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、産業界の八幡製鉄株式会社常務取締役山口貞一君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/10
-
011・山口貞一
○参考人(山口貞一君) 山口でございます。御指名によりまして、産業界の一部に籍を置いております一員といたしまして、主として産業側から見ましたこの法案に対する所見の一端を述べさせていただきたいと存じます。すでに御三方それぞれの角度から御発言がございましたので、私がおしゃべりしようと思います趣旨の一部にも、若干重複する点もあるかとも存じますが、お聞き流しいただきたいと思います。
在来、産業金融、特に産業長期金融の担保の制度といたしまして、非常に広く利用せられておりますのは、先ほど来話が出ております財団担保制度でございますが、この制度を実際に利用いたします産業の側から申しますと、必ずしも十分な法制ではありませんで、いろいろな面における欠点を見出すことができると思うのでございます。特に、企業のうちでもある程度以上の規模に達しまして、設備の内容が非常に複雑化して参ったというものにつきまして、その短所と申しますか、欠点を痛感せられる次第でございます。
まず第一番に、財団担保制度は、これを利用いたしますにつきまして、これも先ほど来一部お話がございましたが、その手数が非常に繁雑である。従ってまた、多額の費用を要するということがあるわけでございます。
まず、手続の点から申してみますと、財団を組成いたしますにつきましては、財団の内容をなしております物件、それぞれ登記、登録を要するものにつきましては、全部登記済みでなければいかないと、こういうことが、まず必要になって参りますわけでございます。ところが、まあ小さい会社は別といたしまして、相当な規模に達しました大会社、大工場につきましての実情を申し上げますと、工場の建物その他の不動産につきましては、これを売却いたしますとか、あるいは特定担保を設定いたしますとかいうふうな必要にでも迫られません限りは、建設が完了いたしましたから直ちに保存登記をするということはむしろ少いわけでございまして、多くは未登記のままで、その必要があるまで放置しておくということが、いい悪いは別問題といたしまして、実情に相なっておるわけでございます。財団を組成いたしますためには、まずこれらに保存登記を全部完了しなければならないといったことに相なります。
次に、財団目録というものを作りまして、非常に詳細な内容を羅列いたしました目録を作成いたしますわけですが、この目録に記載いたします物件は、登記の制度のあるものにつきましては、必ず現状と登記簿面が一致していなければいかないということが絶対的の要請に相なっております。ところが、実情から申し上げてみますというと、登記簿面と現況というものは必ずしも一致していないと申しますよりも、一致していない場合の方が相当多いということに相なりまするので、財団を組成いたしますためには、まず登記簿面を現状に合うように表示の変更登記をしてからでなければ財団を組成できないと、こういうふうなことになります。そういたしまして、それらの組成物件が現状と合うことが確認せられなければ財団目録はできないわけでありますが、すでに財団を組成いたしまして、その後に、その内容について変更が起って参りましたときには、これまた、登記制度のあるものにつきましては、一々そのつど登記の変更をいたしまして、実情に合うように運んでいかなければならないということでございまして、これがなかなか、私どもは経験がございませんが、経験のある会社につきまして聞くところによりますと、相当繁雑なことに相なっておる。企業か生きて活動して参ります限りは、固定設備的の内容についても刻々変化いたして参りますことは、むしろ当然のことでございまして、そのつど一々こういった繁雑な手続をしなければならないということが、組成後においても起って参るわけでございます。
若干具体的に申し上げてみますと、少し旧聞に属するわけですが、昭和二十五年ごろに、通産省で、その年度に社債を発行いたします三十社について、財団組成に要した日数と申しまするか、期間の調査をせられたようでありますが、その結果を伺いますところによりますというと、大体三カ月ないするというものが最も多い、これに次いでは一年以上も要するというものも相当ある、こういうことに相なっております。さらに、ちょうどその時分に、経団連におきましても同じような調査をせられましたようでございますが、この結果も大体似たり寄ったりなことで、六カ月内外を要するというものが普通であるといいますか、最も多い、これに次いでは一年以上を要するものも相当ある、まあこういうことになっております。いささか手前の方のことになりますが、私どもの会社で、現状に応じてかりに全工場に財団を組成いたしまして、これに抵当権を設定するとすれば、大体どれくらいな期間を要するか、これはまあ自信のある数字ではないかもしれませんが、大体事務当局で推算いたしましたところでは、延べ人員で約五万人くらい、期間といたしまして一年半くらいは必要だ、まあこういったことを申しております。まあこれらから推察いただきましても、いかに財団を組成すること自体が相当な繁雑な手続を要するのだということの御推察がつくのじゃないかと思いますが、さらに組成した後にも、毎年と申しますか、刻々その内容の変化に対しても、いろいろな繁雑な手続が要請せられておる、こういうことに相なっております。
次に、これから御想像がつくかと思いますが、財団を組成して抵当権を設定いたしますためには、小さいものは別といたしまして、相当規模以上のものに相なりますというと、多額の費用を要するということでございます。第一番に、今申し上げました未登記の不動産を保存登記をしなければならないということが必要になってくるわけ下ありますが、これがためには、登記税といたしまして、財産価額の千分の六でありますかの登記税は、どうしても登記税だけで必要だ。かりに百億円の保存登記をしますといたしますと、六千万円の登記税を払わなければならない。それから、財団ができ上りまして、これに抵当権を設定いたしますためには、債権額に応じてこれまた登記税を必要といたすわけでございますが、これが千分の一・五、かりに債権額が二百億円であると仮定いたしますれば、三千万円の登記税を必要とする。これはまあ税金の面ではっきり計算のつくものでございますが、財団組成、財団目録を作成いたします過程における人件費あるいは物件費といったものにつきましては、ちょっと推算いたします基礎がないわけでございますが、これもなかなか軽視できない数字に上るのではないかと思います。これも私どもの数字は、ほんの御参考のためでございますが、最近に一応そろばんを置かしてみました数字をここで御披露申してみますというと、弊社の先ほど申しました全体の工場財団を設定するための推算で、債権額は、現在の長期借入金が社債を含めて約二百七十億ありますから、これを大体標準といたしましてざっとはじいてみますというと、未登記の建物の保存登記をいたしますために五千四百万円、それから財団に対して二百七十億の抵当権を設定する登記料が約四千万円、それから人件費は先ほどのような計算にいたしまして七千五百万円、その他に消耗品あるいは図面の作成等の物件費と申しますか、諸雑費として約三百万円、合計いたしまして一億七千二百万円ばかりが必要だ、こういう計算になります。それから、そのほかに、これは私どもの会社だけの特異の例かとも存じますが、われわれのような、鉄筋の建物等が非常に多くて、火災の危険の少い会社におきましては、工場建物、あるいは機械等につきましても、火災保険を全部つけないで、自家保険的な取り運びをいたしております。これは財団を組成いたしますとなりますと、必ず火災保険に付保せらるべきものは付保することを要請せられますが、これは一回限りではありません。毎年それだけ必要になると考えるのであります。これは、今の数字で、保険料だけが年額として約一億五千万円、初年度の費用一億七千万円を加えますと、三億二、三千万円というふうな計算になるわけでございます。実際上の経験を持たない計算でございますから、必ずしも正確とは言えないと思いますが、およそ財団の組成というものがいかに不経済なものであるかということの御推察はつくのではないかと存じております。もちろん、この費用といたしましては、かような出費、まあ税金につきましては若干考え方があろうかと思いますけれども、大部分は何と申しますか不生産的な出費、ロスということであり、国家的に申しましてもセーブできる場合はセーブした方がいいといったような、不生産的な部分も相当含んでおるやに考えられますので、費用といたしましては、できる限りかような出費はセーブいたしまして実効が上ることに相なるならば非常に喜ばしいのではないかということを多年考えてく私どもの会社だけでなく、産業界といたしまして、財団担保と並列して、企業担保のごときものが何とか実現することを要望して参るということに対する一番関心の深い理由というのは、今のテスト費用の点ではないかと存じております。
それから第三に、これはほかの方からも御発言があったかと思いますが、財団担保は、その担保の範囲が非常に限定せられておる。法律上といたしましても、個々の抵当法のある企業に限られておるのみならず、たとえば工場抵当法に例をとりましても、工場抵当法で列挙せられておる物件だげが工場財団組成の内容をなして、その他のものはその中に含まれない。例を申し上げますれば、おそらく土地、建物、構築物、機械設備といった、いわゆる有形固定資産に限定せられておるわけでございます。有形固定資産の集積、この内容をなしておる評価の合計額が、一応財団の担保の価額として、それの何がけかを担保価額というふうに取り扱われておるのが例じゃないかと思うわけでございますが、今申しましたような土地とか、建物とか、いわゆる有形固定資産の総合が会社の実質的な中心をなしておるわけじゃございませんので、その他に先ほどお話のありました無形の資産、ことに有形のうちでも運転資産の機械その他の流動的なものが相当企業の資産としては大きな部分を占めておりますので、財団をかりに組成いたしましても、その価額というものは、企業の全体の実体的な価値から見ますれば、非常に内輪なものになるのではないか。これをまあ担保として提供いたしますということになりますれば、たとえば金融を調達いたしますにつきましても、資金の用途から見ても、あるいは商法上の制約からいっても、この程度までは社債を発行してもいい、また、ぜひ発行したいということになりましても、担保の価額の不足というために財団の金融が阻害せられてくるという場合も起り得るかと存ずるわけでございます。
大体まあ以上の三点が財団担保の産業の側から見ました大きな欠点、特にある程度以上の複雑な企業の側から見ました欠点と申し得るわけでございますが、一方今度の企業担保法の長所と申しますのは、この点が直ちにその長所になるというふうに考えていいのではないかと存じます。繰り返して申しますれば、企業担保を設定いたしますのは、きわめて簡素な手続でございまして、極端に言いますれば、当事者の意見が一致すればきようにでも企業担保権は設定できるというふうな非常に簡素なことになっておるということ。第二には、費用は、先ほど来申しましたようなものの中で、登録税の一部を除きましては、全然費用らしい費用も要しないで組成ができるということが第二。それから担保の範囲につきましても、流動的な資産はもとより、無形資産も含まれる意味において総財産ということに相なりますので、担保価値と申しますか、というものも広く大きくなって参るので、事業上における産業側としての便益が多い。かようなことが長所に相なるかと存じます。もちろん、この財団抵当の不便、欠点につきましては、別段昨今始まったことではなくして、ずいぶん以前からも問題に相なっておりますので、戦前におきましても、先ほどどなたかからお話がございました一部の特殊法人につきましてはゼネラル・モーゲージ、いわゆるゼネモと称する制度によって社債に対してはその適用をするということが行われておりまして、終戦後につきましては、多くのこれらの適用を受けておりました特殊法人は消滅いたしましたわけでございますが、これも当時私どもの記憶に残っております会社だけをあげましても、日本発送電、帝国礦発、帝国石油、帝国燃料、東拓、日本製鉄といったようなところがそういうゼネラル・モーゲージの適用を受けて、支障なく社債の調達をいたして参ったかと思います。終戦後に特殊法人の多くが消滅いたしましたが、これも先ほどお話がございました日本発送電の後身である九電力会社につきましては、公益事業会という別の法令によりまして、ゼネラル・モーゲージの制度だけは温存せられておる。また、日本製鉄の後身であります第二会社につきましても、変則な形であるが別途の法則によって今日までは温存されておるということになっておりますので、決して企業担保法というものは奇想天外な構想に基いて今日突如として現われたというのではなくして、すでに二十年内外以前からきわめて一部の企業にではございますが、ゼネラル・モーゲージというその前身と考えていいような法制によって適用せられて、今日まで何らの支障もなく、これを債権者の側から申しても債務者の側から申しましても、非常に重宝な制度として運営せられて参っておる、かような制度が単にごく限られた一部の企業だけではなく、許されるならばある制約は必要かと存じますけれども、広くこれを漸次適用の範囲を広げていくということが財団担保の欠陥を補正するという意味でも望ましいのではないかということの要請がある。一方、ゼネラル・モーゲージ制度はきわめて簡単な法制でございまして、わずか一条文からしかなっておりませんで、これらは現在支障なく行われてはおりますが、法律上の性格がどういうものであるかということのあいまいさに対して批判がある。ことに実行手続については全然法律上の規定がないといったような欠陥も一部から指摘いたされましてこれも何とか格好のついたものに発展解消していくべきではないかといったような批判もあり、要請もあるわけでございますので、この両面の要請が一丸となって今日お手元に出ております企業担保法という法案として生まれてきたというふうに考えていいのではないかと思います。
それでは、財団担保は複雑であるならば、これを何とか簡素化するような方向で進めていくということで実際上の面に適合ができないかという御意見も先ほどあったようでございますが、これももちろん私どもとしてはその方向についても従来たびたび要請を続けて参ったわけでございます。数年前に経団連におきましても、担保制度改正委員会というものができまして、私ども関係いたしておりましたが、そこらで現在の財団担保制度についての簡素化についての要望意見も出ましたわけで、そこで、法務省の方でもいろいろ御検討をいただいたわけで、若干の修正はできましたわけでございますが、私ども詳しいことは存じませんけれども、財団抵当担保法というものの本質的な性格からいって、これ以上簡素化するということはほとんど不可能であるというふうなことに相なって参ったと伺っております。それで経団連といたしましても、これだけでは産業の方の要請を満たすことができないので、何とかゼネラル・モーゲージの制度を拡充したような一般担保法といいますか、企業担保法というようなものをぜひ一つ計画していただきたいということを財団制度改正の要望と並行いたしまして法務省の方へ申し出まして、おそらくは今回の法案の発端と申しますか、契機になったのではないかと思いますが、その後法務省におきましても、いろいろ財界方面の意見もお聞きいただきまして、いろんな努力を尽されまして、今日国会へ提案せられるというふうな運びになりましたわけでございます。
以上申し上げましたように、産業界といたしましては、どうしても財団抵当法と無担保との中間に今申したような新しい企業担保法といったようなものがぜひほしいということは、昨今から起りました要望ではございませんで、繰り返して申しまするように、多年の間そういった要望を続けて参りまして、ようやく今日いろいろ御検当を願いました結果、法案としてでき上り、幸いに法制審議会の方も通過いたしまして国会へ提案せられた、かような運びに相なったと承知いたしております。ので、ぜひ一つ、今申し上げましたような事情を十分御理解いただきまして、御協賛を経て、一日も早くこの法案が実施に移されるということを念願してやまない次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/11
-
012・青山正一
○委員長(青山正一君) どうもありがとうございました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/12
-
013・青山正一
○委員長(青山正一君) 参考人の方々からの御意見はこれにて全部終了いたしました。
質疑に入りたいと存じます。御質疑の方はどうか御発言下さい。なお、政府から平賀民事局長、香川第三課長がお見えになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/13
-
014・棚橋小虎
○棚橋小虎君 参考人の方々からして詳しいお話を聞きまして、いろいろ質問いたしたいと思う点もあるのでありますけれども、その点につきましては大部分解明されたようで大へんにありがたく思いました。
そこで、一つ水島さんと加藤さんにお伺いしたいと思うのでありますが、この担保権の実行のことでありますけれども、この一括競売あるいは一括売却、こういうような場合はこれは特別でありますけれども、必ずしも適当な競売があると、その企業に対して適当な競売者がある、あるいはそれを買い受けるものがあるということはきまっておりませんので、相当の多くの場合に個別に適宜の方法によって処分するというような方法がとられるのではないか、こう思のであります。そうなりますというと、せっかく有力な企業が解体されるということになるのでありまして、国民経済から見ましたらばこれは大きな損失だと考えるわけであります。そこで、この抵当権の実行の方法といたしましては、この企業を存続、維持さして、そうして抵当権者の利益を確保するというような方法が考えられてもいいのではないかというふうに考えますが、その点についてはどういうふうにお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/14
-
015・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 今の御質問は、企業担保をするという趣旨からの御質問としてはしごくもっともなことだと思いますが、実際今おっしゃったように学者もその点を非常に強調しておって、実は御承知の通り、ミューレル・エルツバッパなんかも、やはり今おっしゃったような企業の維持ということを盛んに唱えておりまして、それから執行の面においても、イギリスなんかでは、おっしゃったように、強制管理として企業を維持していくと、こういうふうな考え方をとっております。
それから、この前の本法案にも、そういうふうな強制管理の面が、いわゆる法務省の参事官室の試案として出されたものにも、強制管理の規定があったのでありますが、これは金融業者側の要望もありまして、たしかはずされたように聞いておりますが、おそらくこれは実際を私はよく存じませんものですから、この法案が第一次参事官室の試案が発表されたときにも、今御質問のような点に私も、当局者に案を見せていただいたときにお諮りもし、また、御質問も申し上げたんですが、結局今おっしゃったような点は、むしろ一括の任意の売却というふうなことの方が、相当実際問題としてそういう方法がとられるんじゃないか。そうすると、企業というものはおそらくそのまま引き継がれるというような格好で、あまり分解されて、個々のものに価値が下ってしまうというような、経済上の不利益はないんじゃないかというふうなことを伺い、また、それを了として私も、これはどうもそういうところで企業の維持をはかれるんじゃないかなあ、というふうに考えている次第であります。イギリス、ドイツなんかは、ドイツはちょっと法律が違いますが、イギリスなんかでは、やっぱり強制管理的なもの、いわゆる管理人を選んでやっていくというふうな考え方をとっております。レシーバーと申します。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/15
-
016・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) 強制管理の問題でございますが、これは企業という点からいたしますと、御質問のようにその点が問題になるわけでございますが、実際問題として、強制管理の規定を置きましてもどれくらい動くかということが疑問ではないか。これは、先ほども、金融機関の側としては担保の実行はおそきに過ぎるというきらいがあるという御説明もございましたけれども、おそらく、企業担保付の社債が払われないということになれば、その世話をしておられる銀行などの方でも非常にいろいろな手段を尽して企業の、まあ改善をはかるように努力をされる、まあ最後、どうしてもうまくいかなくなったんで実行段階に入るということになるんじゃないか。そういたしますと、そこでまたあらためて強制管理という制度を置きましても、実際には行われにくいんで、むしろそのときには、企業としてはストップするのに近いような状態になっている、もう最後のところでおそらく実行が行われるんじゃないか。そういたしますと、強制管理の規定を置きましても、おそらく行われないだろうし、いたずらに規定だけ複雑になって、かえって妙な法案になるんじゃないか。まあ経団連の方からも、強制管理の規定はやめた方がいいというような意見書も出ておりますが、大体そういう御意見が多かったようでありまして、その点で試案から現在の法案にと変ってきているんだろうと思っております。
それからなお、売却——任意売却というようなことになれば、企業が解体するんじゃないかというような心配がある、というような御質問でございましたが、この点、任意売却と申しましても、結局高く売るためには、何か一つの単位をもって売るのがいいんで、ばらばらに機械を売るということはおそらくないんじゃないか。まあ大きな企業でありますから、一括して売るということは非常にむずかしい場合もありますので、ある工場をそれじゃどこに売ろうと、また、こっちの工場はどこに売ろうというような形でおそらく任意売却が行われるんで、それで企業が解体するという心配は必ずしもないのではないか。その点は管財人——おそらく相当有能な方を選ばなければならないと思うんですが、管財人の手腕によってその点の効果がはかられるんじゃないかと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/16
-
017・棚橋小虎
○棚橋小虎君 その点に対する企業者の立場として、八幡製鉄所の方にお伺いしたいと思うのでありますが、企業者としては、現在この法案は、中小企業に対してはあまり目標に置いておらないかとも思うのでありますが、しかし、中小企業なんかの場合においては、やはりそういうことが企業者としては望まれておることではないかということも考えられますし、また、この方法によるときには相当経済的にも企業を存続さして有利な条件に回復することもできるんじゃないかというふうに考えられますが、その点はどういうふうにお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/17
-
018・山口貞一
○参考人(山口貞一君) 実は最後の処理の場合につきましては、おそらく非常にケースが実際問題としては少いのではないかということで、私の方も正直申し上げますと、あまり多くの関心を持っていないわけなんでございますが、大体いろいろ経団連で金融機関を交えてこの問題に対する意見の討議をいたしました経過について伺っておりますところでは、実際問題といたしましては、先ほどどなたかの御発言がありましたように、最終で一括あるいは任意処分の措置に出るんだ、そこに至るまでの段階には、おそらくこれの適用を受けるような程度の企業であるならば、なるべく整理更生の道を十分に実際問題として検討せられるのではなかろうかと、その上で万策尽きて処分をするというふうなことになるならば、必ずしもさような繁雑な法律上から強制管理といったような規定を設けないでも、おのずから現実にその段階は実際問題として解決せられるのではなかろうかというふうな意見が相当強くて、かような形にして、参事官室試案にありました強制管理という方法は省いて、強制競売その他の方法によるということになったんじゃないかと私たち承知いたしております。
それから、中小企業に対するというお話がございましたが、もちろん私ども産業界といたしましては、金融の方のお考え方は別といたしまして、かような法案が非常に適用の範囲に制約がつけられるということを好むわけではございません。でき得るならばいい趣旨であり、非常にうまく運営ができるということであるならば、一躍してというわけには参りかねましょう、順次段階を経てということになりましょうが、なるべく広く適用を受けて、場合によっては中小企業に及んでもそれで差しつかえないんじゃないか。むしろそういうことも望ましいんじゃないかというふうに考えております。何か英国の法制も必ずしも大企業に限っておるわけではありませんので、相当中小の程度にもフローティング・チャージというものが利用せられておるということを考えますれば、発展の帰結といたしましては、将来いつかの時期にはさような形になるということが望まれるかと存じます。しかし何さま、先ほど来何回かお言葉が出ましたように、非常に画期的な法制で新しい担保制度というものが生まれ出るということにつきましては、在来の秩序、あるいは金融機関の方におけるお立場、御判断等によりまして、直ちにこの際、中小企業へ適用していくということについては、そう急には望まれない。しかし、やはり法案の基礎というものが一応できておりませんと、さような情勢を誘致することは、ともかく、全然そういうことが望まれないということになりますので、私たちは決して大企業だけが適用を受けたいからこの法案が一日も早くということを申しておるわけではありませんので、段階としてはさような結果に相なるかもしれませんが、将来としては、もし弊害がなく、円滑に運営できるならば、中小企業にも及ぼすということは非常に望ましいことではないかと存じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/18
-
019・棚橋小虎
○棚橋小虎君 先ほど竹俣さんもおっしゃっておりましたが、この企業担保の目的となっております財団といいますか、総財産というものは、非常に浮動なものであって、これは担保権を設定した後にその財団から離脱した財産などに対しては追及ができないということになっているわけでありますが、また実際、中には債権者を害する目的で、故意に債権者の知らぬ間に主要な財産をほかへ譲渡するという不誠実な債務者がないということは必ずしも保証ができないのでありますが、そういう点については、何らかの措置を講ずる必要があるのじゃないかと、こういうふうに思いますが、その点いかがでございますか、水島さんにお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/19
-
020・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 御質問の趣旨ですが、企業を担保とするこの法律の建前から申しますと、おっしゃった点も一応の理屈かと思いますが、イギリスの、私はごく学問的にしか存じませんが、イギリスなんかの制度を昨年見てきましたところで、これはイギリス人に直接聞いた言葉なんですが、実際に相手方に信用を与えておりまして、そうしてその企業が順調に進んでおるという場合に、担保の目的物が会社から去っていく企業のときは必ず商品の売買、工場の改築とか、あるいは機械の入れかえとか、これはもうしょっちゅう起ることなんですが、この場合イギリス人はおもしろいことを言っておりますが、相手方を信用してそれだけの社債を引き受け、あるいは金を貸した場合に去っていく財産と同じものが、同じ価格のものが原則として入ってくる。物を売る、債権が入ってくる。機械を取りかえると新しい機械が入ってくる。だから一ぺん信用を与えただけで去っていっても、それの対価、これは英語ではコンシダレーションと申しますが、その対価が入ってくる以上、何ら債権者は差しつかえないじゃないか、だから物を売って物が債権に変る、その債権は確実に取れる、有形から無形の債権に変ってくる、あるいはそういうふうに一ぺん信用を与えた以上は、それが実際良心に従ってやっていけば何ら債権者は差しつかえないじゃないか。そこでこの企業担保の真髄というものは何にあるかというと、やはり信用に返ってくるのでありまして、社債の担保にこれが使われるということも、やはり社債権者というものは一般大衆が原則でありますが、この場合必ずトラスティーといって信託会社が信託、いわゆる信任ですね。信託会社が入っておりますから、その信託会社が社債権者から信用されておるのですから、必ずこの社債の場合の担保にでもコンフィデンスといいますか、信任関係、トラストが必ず横たわっているわけであります。そこでこの信任を受けて債権者——トラスティーというのは、善良なる管理者の注意を持ってしょっちゅう企業を監視しているわけですから、この企業担保いわゆるフローティング・チャージというものの真底には企業か通常の状態において、オーディナリ・コース——通常の状態において行われることを前提とするという判決がある、これが根本精神。だから、その通常の範囲において行われるという限り、会社も財産が去っていってもその対価、同等……、経済人ですから通常は同等、それ以上でないともうかりませんから、去っていった対価と同等もしくは同量価値以上のものを取得するのであるから、会社がオーディナリ・コースの場合は何ら心配ないじゃないか、こういう考え方がありまして、それに加えて社債の場合にはトラスティーが原則として入っておりますから、受託者がその信任にこたえて常に会社の企業がオーディナリ・コースを踏みはずさないかどうかということをしょっちゅう監視しておるわけであります。でありますから、従って御質問の趣旨は、あるいはイギリスにおいてはそういうふうなことで差しつかえないといいますが、日本においてもまあどなたか発言がありましたように、企業が高度にならないとなかなか受託もしにくい。受託をした以上は信託会社は善管義務でもって、それ以上の注意をもってしょっちゅう企業を監視するということになるかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/20
-
021・棚橋小虎
○棚橋小虎君 これは主として加藤さんにお伺いしたいと思います。この企業担保法というものは、社債を発行しておるところの会社、それからして附則の特例で認められておる金融を受けておるところの会社、そういう大企業がこの恩典を受けることになるかと思うので、中小企業はこの恩典に均霑することができないような、実際上そうなっておると思うのでありますが、これは初めからして中小企業というものは目標にしておらなかったわけなんですか。何か中小企業の方に推し広げるについては実際上実施上、困難があるというところでやっておらないことになるのでありますか。その点をちょっと伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/21
-
022・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) ただいまの点は立案過程でも考えられた点だと思うのでございますが、実際問題として中小企業における要求と、それから大企業における要求とはかなり違う点もあるのじゃないか。中小企業の担保の道は、私個人の考えでは、今の企業担保をそのまま持っていくことは相当無理があるので、もし中小企業に押し及ぼそうとするならば、これを何らかの形で変形をして、もう少し財産の把握というものを強くするとか何か別の技術を使わないと無理な点もあるのじゃないか。で、まあこういう担保制度がどういうふうに行われるかということがわからない状態で、いきなり中小企業にこれを持っていくことは相当危険がある。まず大企業でこういうことをやってみまして、その実施の経過によってまた中小企業に適用するか、あるいは適用するとすればどういうふうに変形をするか、あるいはこれでなくて、別のもう少し形の変った形で担保化の道を開くというようなことを考えていかなければならない、まあ私個人としては考えております。この中小企業の担保ということは、各国でも非常に問題になっている非常にむずかしい問題だと思うので、技術的に困難が伴いますので、今度の法案では相当早い段階から一応あきらめているような形だったと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/22
-
023・大川光三
○大川光三君 先ほど参考人各位からお立場お立場に立ってきわめて適切有益な御意見を伺いまして、私どもの疑問といたしております点はある程度まで十分納得することができたのでございますが、なお二、三疑問点をお伺いいたしたいと思います。
最初に、水島さんにお伺いをいたしますが、水島さんは主として学問的な範囲に局限されましてのお説でございました。そこで私どもが一番疑問に考えておりますることは、この法案が御承知の通りに、企業担保法だと名をつけられておる。ところが、第一条のその内容を見てみますると、結局総財産を一体としての担保である。いわば株式会社の総財産担保権というようにも考えられますので、一体、企業の概念と、総財産を一体としてということとどう違うのですか。これを一つ学問的にお教えを願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/23
-
024・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 私が企業担保と名づけたとおっしゃいましたのですが、もと法務省の案では、これは一般担保法という名前であったかと思います。実際ゼネラル・モアゲージという言葉が日本ではよく使われております。アメリカやイギリスではこの言葉は通用いたしません。アメリカにはどういう学問の字引を見てもありませんし、イギリスではゼネラル・モアゲージと言ってもこれは通じませんので、一般担保法という場合に、ゼネラル・モアゲージという言葉が英米法の言葉で申しますと通用しませんし、フローティング・チャージのこういう、企業を担保とする場合には、アンダーティキング、企業という言葉をそのままイギリス人は使っております。そこで企業を担保にした場合に、ゼネラル・コンディション・オブ・モアゲージ、いわゆる財産がすべて担保になった状態であるというふうに、アンダーティキングの担保、いわゆる企業担保をそういうふうに形容しているわけであります。従って、日本のだれかがこれは一般担保という方がいいだろうというふうになってお訳しになったかもしれませんけれども、この言葉は外国では通じませんので、それで私はよく通じますように、あるいはイギリス人がよく使っておるように、アンダーティキング、いわゆる企業と言った方がいいのじゃないかと言って、法務省の当局の方に申し上げて、多分一般担保法を企業担保法に直していただいたわけなんですが、そこで、英米法はそうなんですが、企業という言葉、これは学問的に申しますと、企業という言葉は、元来私の記憶では中小工業はこれは入らないのです。企業という、ウンターネームングあるいはウンターネーメン、企業という言葉を大陸法的に訳しますと、冒険からきた言葉である。だから元来企業という言葉は中小企業というものは入りません。企業という言葉は、あえて中小という言葉をくっつけるならば、学問的に中小企業、こう頭に中小という言葉をつけないと、企業ということは成り立ってこないと思うのであります。私は企業という本来の意味は、冒険貸借の非常に大企業である。しかもそういうふうなところから、いつの間にか中小企業にも、企業の概念が一般化しましたときに、中小企業というふうに、企業というものを小さいものにも及ぼす言葉が発生したのじゃないかと、こういうふうに考えておりますが、この企業を学問的に申しますと、これは御承知の通り、大体イギリスやアメリカではプラグマティズムの法思想がありまして、実際主義なのであります。従って、ああいう大陸的な概念法学というものがあまり通用しませんので、企業というものを法律的にどう解釈するのかということになると、勢い大陸法的なオーストリアとか、ドイツの学説を借りなければいけないのでありますが、ドイツの学説についてはもう大川議員は御存じの通り、イザイ、オッピコファーとかいうドイツ、オーストリアの学者が、企業というものは物とそれから精神との一体だ。前には物全体だという考え方から進んで、物プラスのエネルギーとか、あるいは物プラスの精神だとかいうふうなメンタリズムだとか、あるいはエネルギー説、こんなところまでもう企業概念は発達しておりますので、こういうドイツやオーストリアの企業学説をそのままこの企業担保の意味に持っていきますと、これは担保になりません。エネルギーとか精神とかいうふうなものは担保になりませんので、従って、こういう総財産を一体とかいうふうなこの中で覆う総財産は、法律的に把握できる財産である。さっき加藤教授がおっしゃいました事実関係、のれんとか得意先とか、こういう事実関係を含んで法律的に財産と見られるものの一体というふうに立案当局者が書き改められたのではないか。前は経済上の利益とかいって、フランスの営業質と同じように、フランスは御承知の通り、営業質は全部得意先とかのれんというものが、これが企業の中枢になっております。だからフランスの営業質は、のれんというものと商号というものが、この二つが企業の本体になっている。これは、日本の法律は大陸法的にとっております。従って除いておりますから、ここの総財産という意味は、日本では企業担保という名前は、これはイギリス流のアンダーティキングであり、従って、ここの総財産というのは独法流の総財産というふうに、事実関係あるいは得意先とかいう非法律的な、法律的に把握できない非法律的な事実関係を除いたものの総財産というふうに理解していただけばこの一条はおわかりかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/24
-
025・大川光三
○大川光三君 そういたしますと、結局英国流で考えますと、有機的な企業組織体全体がいわゆる企業なんですね。それと本案にいう総財産を一体としてというのは、多少意味が違ってくる、こういうふうに解釈しているわけでございますね。説明では、いわゆる強制執行の対象になるものだという、積極財産の総和というものがいわゆる総財産を一体として——こういう解釈でよろしいでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/25
-
026・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 私はそれでいいと思います。ただ、のれんをイギリスは含んでおりますけれども、日本はのれんを含まない、事実関係を含まない。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/26
-
027・大川光三
○大川光三君 それからごらんの通りに、この法案では、担保権を実行いたしまする原因は何であるかという、担保権実行の原因と申しますか、それが明記されていない。常識的には債務の不履行があったとか、あるいは特約によって期限の利益を失おうとするときに担保権を実行するのだということはわかりますが、この点について、英国あたりでは特に担保権実行の原因を明記しているというふうに伺っているのですが、その点を一つ御説明いただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/27
-
028・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 今の御質問ですが、イギリスでは企業担保の実行の原因は、これは長い間の、一八七〇年からこういうものを認めたのですが、そのときの原因がずっと判例になってきておりまして、三つの原因がある。それは判例で今一番ポピュラーにあげられているのは、営業がとまったとき、それから解散があったとき、それからレシーバー、いわゆる管理人の選任があったとき、この三つの場合は、ビジネスはもうオーディナリー・コースじゃない、ここで悪化したのだというわけで、これは固定原因、すなわちフィックスまたはクリスターライズ、この三つの原因は、その企業が利潤を生むことがない、プロフィットを生むことがない。利益を生ずることがなくて失費がかさむばかりである。そういう考え方である。それから今あげました三つの原因が、判例で築き上げられた長い間の固定の原因でありましたけれども、最近はもっとほかに、今おっしゃった元金や利息が遅滞したとき、ディレーしたときというふうなことをちゃんとトラスト・ディード、信託証書に書いてあります。従って、さっきの三つに、あるいは元利の遅滞というようなことを加えてやっておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/28
-
029・大川光三
○大川光三君 そこで、担保権実行の点につきましては法案がきわめて詳細かつ親切にいろいろな規定を置いたということについて、水島さんの方ではこれは非常にありがたいことだというお説だった。ところが、たまたま担保権の実行の原因についてここに明記しないということはこれでよろしいのでしょうか。あるいは親切さに竿頭一歩を進めて、やはりそういうことは列記するのがいいのでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/29
-
030・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 今の原因を、この法案からフィックスの原因が除かれておるということなんでございますが、これは当事者が社債を発行する会社、いわゆる委託会社とその社債の発行に介在する信託会社との間の任意の契約によって自由に契約をして、それこそ弾力性のある原因をきめさせた方がいいのじゃないかと思いますので、私は日本の場合は法案からはずした方がいいか、こういうふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/30
-
031・大川光三
○大川光三君 先ほど棚橋委員からの御質問がございましたが、いわゆる一挙に強制執行に持っていかずに、その中途の段階として強制管理をやるということは、英国ではどうなっておるのでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/31
-
032・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 今の御質問なんですが、イギリスではたしか私の調べました範囲——これはあまり私は長く向うにいなかったものですから、お断わりしなくちゃいけないのですが、私の言うことが絶対であるかどうかということは疑問があるのでございますが、ただ調べてきた範囲の事柄に限定いたしますと、これはやはりさっき竹俣さんがおっしゃったように、イギリスは大体信任のお互いに厚い国ですから、それは国民性なんですが、大きな会社でも、大体メイン・バンクと申しますか、主取引銀行が大体やっておりますが、それに対して、資金が足らぬとまに大きな会社には、補助的に二、三の銀行がこれを応援しているような格好になっております。従って、会社に対しては、銀行はそういう信任関係が成り立っておりますから、とことんまで面倒をみまして、私の調べました例を見ますと、今次大戦のときは、イギリ
スは非常に企業を大事にしましたから、今次の大戦のときはたしか十五、六年は皆かかっておると思います。日本だと、すぐもう執行だということになりかねないのでしょうか、イギリスは、今度の大戦のときは大体十五、六年ぐらい会社のリオーガニゼーションと申しますか、あるいはリコンストラクションと申しますか、会社の更生に努めております。最も長い例では三十年くらいかかって会社を更生させた例もございます。今次の大戦が入っておるものですから、十五、六年が標準になっておりますが、向うの専門家の意見では、それは今次の第二次大戦のためにそんなに企業を大事にして長くしたのだが、平均はどれくらいかと言いましたら、平均は数年だろう、五、六年だろうということを言っておりました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/32
-
033・大川光三
○大川光三君 また水島さんにはあとで関連することがあるかもしれませんが、一応水島さんに対する質問を打ち切りまして、今度は加藤さんに伺いたいと思います。
先ほど御説明の中で、結局総財産を一体として把握するというところに担保価値が上回るのだ、こういうお説でございました。そこで、たまたまのれんなどがいわゆる強制執行の対象になる積極財産というものだけが総財産に含まれておるということになりますと、いわゆるのれんなどはこれは入ってこないということになる。そうすると、のれんが一応入らないにもかかわらず、これを一体として把握して担保価額が上るのだというようなあなたの御説明、ちょっとわかりにくかったのですが、そこを再び御説明願えないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/33
-
034・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) こののれんというものが、法律的に言ってどういう形でとらえられるかということは技術的に非常にむずかしい問題だと思うのでございますが、今の場合にも最後の執行の段階に入ったときに、一括競売するときには企業を一体として評価をするわけであります。その場合には、売る財産は有体物とか、特許権とか、そういう目に見えたものになるわけですが、結局それを一括して売るようなときには、おのずからそこに全体の総和を上回るような価値というものが出てくるのではないか。ですから、法律的に言えば、つまり現在わが国一般の法則としてのれんというものを、つまり一種の権利として法制化しておりませんから、それをつかまえることは非常にむずかしいので、除いてはおりますけれども、事実問題として実際の評価、あるいは競売価額というような点ではそういうものが現われてくるのじゃないか。事実上それを排斥したという意味でもない。それはおのずから伴なってくるものだと私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/34
-
035・大川光三
○大川光三君 それからこれは特に先生に伺うのですが、第二条の条文の解釈でございます。「企業担保権者は、現に会社に属する総財産につき、他の債権者に先だって、債権の弁済を受けることができる。」という原則をまずきめてある。ところが、この第二項において「前項の規定は、会社の財産に対する強制執行又は担保権の実行としての競売の場合には、適用しない。」ということですね。この点について、先ほどはいわゆる他の弱小債権者を害してはならぬから、一応これは除外例を置くべきだという御説明であったと伺いましたが、そこで、第二項の場合に、会社の財産に対する強制執行という、この会社の総財産に対する強制執行というようなことはあり得ることでございましょうかどうかという問題です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/35
-
036・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) 強制執行は、これは個々の財産に対する強制執行でありまして、かりにそれが全部足して会社の総財産に対する強制執行という形になりましても、それはつまり個々の強制執行の和にすぎないのでありまして、やはりここには入らない。入らないと申しますか、その場合にも優先権を持たないわけであります。ですから、もしやりたいと思えば、そのときに企業担保権の方で別に企業担保を実行するという手段をとればいいわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/36
-
037・大川光三
○大川光三君 そうしますと、第二項の「前項の規定は、会社の財産に対する強制執行」、これは企業担保権者以外の第三者がやる場合でしょうね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/37
-
038・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) そうでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/38
-
039・大川光三
○大川光三君 そういたしますと、結局企業担保権者といたしましては、自分みずからが企業担保権を実行するという以外には優先権というものは行使できないことになります。企業担保権者みずからが担保権を実行するというときには、総財産に対する担保権を実行するというときには、これは優先権がある。第三者が強制執行を個々の財産でやったときあるいは全体に第三者が一齊に全財産に強制執行をしても企業担保権者は優先権がないのだ、こういう解釈になるのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/39
-
040・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) この実行の方は、私は実は専門外なのでよく存じないのですが、破産の場合には、これは総財産の総清算として優先権を持つことになるのじゃないかと思ったのですが、ちょっと専門外ですのではっきり正確にはお答えできかねます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/40
-
041・大川光三
○大川光三君 これは加藤さん、あるいは水島さんに対するお尋ねになるかもしれませんですが、まあこの社債償還期限の到来前にですね、起債会社が解散したというような場合に、企業担保権の実行ができるかどうか。こういう点がちょっと不明瞭でございますので、まあ特約があれば別でございましょうけれども、その点を一応伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/41
-
042・水島広雄
○参考人(水島広雄君) 普通信託証書には期限の利益の喪失の条項を入れておりまして、破産、解散皆各国とも入れているようでございますから、日本でもおそらく信託証書には期限の利益の喪失の条項を入れているだろうと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/42
-
043・大川光三
○大川光三君 加藤さんにお伺いいたしますが、たとえば会社が企業担保権を設定するという場合において、会社内部の意思決定というものはどういう方法でやるべきか。あるいは営業を譲渡する場合等には特にまあ取締役会の決議とか、あるいは株主総会の特別決議というようなことが規定されているんですが、いやしくも会社の総財産が将来処分されるというような企業担保権の設定について、会社の意思決定はどういう機関でやるべきかという問題でございます。これも加藤さんまたは水島さんどちらからでもけっこうでございますが、お教えを願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/43
-
044・加藤一郎
○参考人(加藤一郎君) これは重要なことでありますから、まあ株主総会の決議を要するというような考え方もあると思いますが、普通の借入金について今株主総会の決議を要するということはないわけでございますね。企業担保の場合に特にまたそれが必要だということもないと思いますので、重要なことですから、取締役会にはかけるということになると思いますが、株主総会の決議は要らないのじゃないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/44
-
045・大川光三
○大川光三君 次に竹俣さんにお尋ねをいたします。先ほど金融業者の立場からきわめて私どもにはよくわかる御説明をいただいたことを感謝いたします。
そこでただ一つ伺いたいのでございますが、こういう企業担保権というようなものが日本へ導入されて参ります結果、一般銀行が信用貸しをやる、あるいは割引手形をやるということに支障を来たさないだろうかという問題であります。申しかえますと、企業担保法によって総財産がすべて企業担保の目的になってしまう。そういたしますと、従前金融業者として信用貸しをやった、あるいは割引手形をやったということが、たまたま総財産が企業担保の目的になったということで、従前のような信用貸しとか、割引手形がやりにくいのではなかろうかという疑問があるのですが、いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/45
-
046・竹俣高敏
○参考人(竹俣高敏君) お答え申し上げます。将来のことでございますので、必ずしも当るかどうかわかりませんが、私ども実際の立場から考えますると、金融は設備資金の借り入れに対しましては固定財産が見合いである。それから運転資金と申しますか、短期資金の借り入れに対しましては、むしろ流動資産が見合いになっていたというのが常識でございます。従いまして、御質問のように、設備長期資金のためにかりに総財産が一応担保になったといたしますると、短期運転資金を貸します場合にそれが失われているということで不安を感ずるということはあろうかと思います。もしそうなれば、やはり若干まずいといいますか、弊害が出るのではないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/46
-
047・大川光三
○大川光三君 この新法案提案の一つの理由として、従前の財団担保を設定するのに手数と費用が非常にかかるんだということであります。しかし、金を出す銀行側から申しますと、金融業者から申しますと、かりに企業担保権というきわめて力の弱い担保権をとる場合には、特にあらためて重要財産にはいわゆる抵当をとるとかという在来の特定担保をおとりになるということになるでしょうね、いかがでしょうか。いわば企業担保のほかに不動産なら不動産、あるいは工場財団に別にまた担保を請求、要求するということになるのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/47
-
048・竹俣高敏
○参考人(竹俣高敏君) 先ほどもちょっと触れましたが、実例といたしまして、イギリスの場合にはほとんどがその併用をいたしております。大ていは土地をとっているようでございます。それにあわせてフローティング・チャージをつけているということでございますので、日本の場合もそういう例が出てくるのではないかと思います。しかし、非常に高度な信用力のある場合、たとえて申しますと、イギリスにおいても、アメリカにおきましても、無担保社債というものがございますので、それに匹敵するようなものにおいてはそういう併用がないということもあり得るかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/48
-
049・大川光三
○大川光三君 最後に、山口さんにお伺いいたしますが、先ほどのいわゆる財団を組成するために非常な費用がかかるということを特に数字を示されまして、その点はよくわかったのでありますが、と申して、この総財産を一体として企業担保権を設定するという以外に、重要財産をその企業総財産から除外しておくということについての何か必要性はないでしょうか。企業担保権は総財産を一体として担保権を設定いたしますね。また、いわゆる金を借りようといういわゆる側から申しますと、もう一切がっさい担保にとられるよりも、重要財産は自由に別にしておくという必要がないでしょうか。もちろんこれは法律から見ますと、一たん設定しておれば自由にそれは浮かせるのでありますけれども、そこには何か一つの背信行為的なものがあると思いますので、いわゆる重要財産を特に除外するということについての法律規定を設けておく必要はなかろうかと、こう思うのですが、一つ産業人の立場から御意見を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/49
-
050・山口貞一
○参考人(山口貞一君) 御趣旨は一応もっともなわけですが、お答えするのに非常に困るわけなんですが、もちろん産業の、企業の立場といたしましては、今委員から御質問がありましたように、重要な財産は自由処分に残されておいて、その他の財産だけを総括して担保に入れて十分な金融が調達できるということであれば、もちろんさようなことも望ましいと思いますが、日本の現状におきましては、遺憾ながらまだ企業が相当自己資力に対して多額の借入金、特に長期設備資金を必要とする段階にある限りは、やはりこれをどうすれば円滑に調達できるかということが先に立って参りますわけで、理論上、気持の上における希望は別といたしまして、実際問題といたしましては、今おっしゃったような形にもっていくということは非常に困難なのではないかというふうに思うのであります。お答えになりましたかどうか……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/50
-
051・大川光三
○大川光三君 私の質問もきわめて常識的なことなんですが、なぜかように申しますかというと、たとえば、十億の債務を持っておる、しかし、それに対して総財産が百億あるといたしますね、そうすると、十億の債務不履行のために百億の総財産がいわゆる強制執行を受けねばならぬという場合も予想できると思う。それについて、あるいは財産の一部競売をこれはやればいいわけですけれども、原則としては総財産についてのまず競売開始をやるわけですね。そうすると、そのある会社の機能というものは全部とまってしまわなければならないという不都合がございますので、何かそれに対する救済の道を考えておかなければいかぬのじゃないかという点でこの点を伺ったのでありますが、山口さんのほかに、他の諸先生でもけっこうですが、この点についての御見解を伺いたいのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/51
-
052・山口貞一
○参考人(山口貞一君) 理論としては今のようなことはあり得ると思いますが、これは実際問題といたしますれば、かりに百億の総財産がある場合に十億、わずか一割の債権のために強引に強制執行をするということは常識から言っても、また、良識ある金融機関の側から言ってもさようなことは事実問題としては起り得ないのじゃないか。自然、理論としては今のようなことは考えられるかと思いますけれども、実際問題としては私どもさようなことにあまり大きな不安をこの法案について持つ必要はないのじゃないかと一応考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/52
-
053・青山正一
○委員長(青山正一君) ほかに御発言もないようでございますから、これにて終了することにいたしたいと思います。
参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げたいと思います。本日は長時間にわたりまして、貴重な御意見など詳細にお聞かせいただきましてまことにありがとうございました。当委員会の審査のため、きわめて有益な御意見を伺いましたことを厚く御礼申し上げます。
それではこれにて散会いたします。
午後四時十四分散会
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X01319580306/53
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。