1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十三年三月二十四日(月曜日)
午後二時三十三分開会
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出席者は左の通り。
委員長 青山 正一君
理事
大川 光三君
一松 定吉君
宮城タマヨ君
委員
秋山俊一郎君
雨森 常夫君
斎藤 昇君
亀田 得治君
藤原 道子君
辻 武壽君
国務大臣
法 務 大 臣 唐澤 俊樹君
政府委員
法務政務次官 横川 信夫君
法務省刑事局長 竹内 壽平君
事務局側
常任委員会専門
員 西村 高兄君
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本日の会議に付した案付
○連合審査会開会の件
○刑法の一部を改正する法律案(内閣
送付、予備審査)
○刑事訴訟法の一部を改正する法律案
(内閣送付、予備審査)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/0
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001・青山正一
○委員長(青山正一君) 本日の委員会を開会いたします。
初めに、連合審査会開会についてお諮りいたします。先刻の委員長及び理事打合会において御協議願ったのでありますが、ただいま外務委員会に予備審査になっております人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約の締結について承認を求めるの件につきまして、連合審査会開会の申し入れをすることにいたしたいと存じますが、さよう決することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/1
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002・青山正一
○委員長(青山正一君) 御異議ないと認めます。委員長は直ちに外務委員長にこの旨申し入れを行います。
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/2
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003・青山正一
○委員長(青山正一君) 本日の委員会に刑法の一部を改正する法律案、刑事訴訟法の一部を改正する法律案、両案を一括して議題といたします。まず、提案理由の説明を求めます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/3
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004・唐澤俊樹
○国務大臣(唐澤俊樹君) まず、刑法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
この法律案はあっせん贈収賄に関する部分と暴力取締りに関する部分とからなっておりますので、まず、あっせん贈収賄に関する部分について申し上げます。
事新しく申し上げるまでもなく、刑法の贈収賄罪は、収賄する公務員の職務またはこれと密接に関係する事項について賄賂が授受された場合に、これを処罰するにとどまるものであります。従いまして、たとえ、公務員が不正な依頼を受けて多額の金品を収受したとしても、それが自己の職務行為の対価ではなく、職務権限を有する他の公務員にあっせんすることの謝礼である場合には、犯罪とならないのであります。このような刑法の不備を補い、あっせん収賄をも処罰することにいたすべきであるという意見は、わが国においてもかなり古くから主張され、昭和十五年に発表された改正刑法仮案、昭和十六年に政府の提出した刑法中改正法律案、昭和二十九年及び昭和三十二年に議員から提出された刑法の一部を改正する法律案などには、あっせん収賄及びこれに対応する贈賄を処罰する規定が見られ、また、戦時中の特例としてではありますが、戦時刑事特別法は、官公署の職員に関するあっせん贈収賄罪を規定しておりました。最近に至り、再びあっせん贈収賄罪に関する規定を刑法中に加えることにより、一そう公務員の綱記粛正をはかるべきであるという世論が高まって参ったのでありますが、政府におきましても、同様の観点からその立法の必要を認めまして、鋭意その研究を遂げました結果、ここにようやくその成案を得た次第であります。
この法律案中、いわゆるあっせん収賄罪に関する規定は、第百九十七条ノ四でございまして、これによりますと、公務員が、請託を受けて、他の公務員に職務上不正の行為をさせまたは相当の行為をさせないようにあっせんすること、またはしたことの報酬として、賄賂を収受し、またはこれを要求若しくは約束したときは、処罰を受ける趣旨のことが定められております。世上いわゆるあっせん収賄行為と呼ばれるものは、たとえそれが非難すべきことであるにしましても、その事柄の性質と今まで全く放任されていたことにかんがみまして、細大漏らさずすべて一挙に処罰の対象として規定するようなことは、刑罰に過大の役割をしいるものでありまして、その効果に疑問がありますばかりでなく、かえってさまざまの危険な副作用を伴うおそれがありますので、むしろ漸進的に事を運ぶのが最も適当であると考えたのであります。そこでまず、これらの行為のうち、何人にも明白に悪質と見られる行為にその対象を限定して乱用のおそれを戒しめ、特に誤まった嫌疑によって取り返しのつかない損害を生ずることのないよう配慮したものであります。そのため、すでに刑法で用いならされている明確な概念によることとし、解釈上の疑義が生じないように努めたのであります。
これによって、悪質なあっせん贈収賄を一掃し得るばかりでなく、広くこの種の行為に対する警鐘となって犯罪の防遏に好影響をもたらすことは期して待つべきものがあると確信いたしております。
次にその要点について申し上げます。
一、公務員のあらゆるあっせん収賄行為を取締りの対象とすることなく、他の公務員にその職務上の義務違反行為をさせるようにあっせんし、または、あっせんしたときだけを処罰しようとするものであります。
二、すでに職務違反行為のあっせんを要件といたしました以上、これに関する収賄は、それだけで違法な行為であることが明らかでありますので、公務員があっせんに際して、その地位を利用することを犯罪の成立要件としなかったのでありますが、この点は、地位の利用という必ずしも明確でない概念を避け、犯罪の成否が裁判官や捜査官の主観によって左右されるのを防ぐ趣旨をも含んでおります。
三、あっせんの事前に請託が行われることを要件とすることによって対象の明確化をはかり、また、あっせん贈収賄罪の特質にかんがみ、実費等を除いた報酬だけが賄賂となること明らかにいたしました。
なお、あっせん収賄に関する規定のほかに、第百九十八条第二項としてこれに対応する贈賄を処罰する規定を設け、別に第四条を改正して国外で犯されたあっせん収賄罪をも処罰することといたしました。
次に、暴力取締に関する部分について申し上げます。
近時各地に発生を見た、いわゆる暴力団、愚連隊等による殺傷暴力事犯の実情にかんがみまして、これが収締り処理の適正を期するため、所要の改正を加えようとするものでありまして、その要点について申し上げますと、
一、被害者を含む証人、参考人又はこれらの親族に対するいわゆるお礼参りの行為として行われる面会強請及び強談威迫の行為を新たに処罰し得ることとしようとするものであります。
二、強姦罪、強制わいせつ罪等は現在親告罪とされておりますが、それらの罪を二人以上の者が現場において共同して犯かした場合のいわゆる輪姦的形態によるものにつきましては、これを親告罪とはしないこととしようとするものであります。
三、いわゆる持兇器集合罪ともいうべきものを新たに処罰することとし、二人以上の者が、他人の生命、身体または財産に対して共同して害を加える目的で集合しました場合に、兇器を準備して集合した者、兇器の準備があることを知って集合した者または兇器を準備しもしくはその準備があることを知って集合させた者を処罰しようとするものであります。
四、現在親告罪とされております器物損壊罪及び私文書毀棄罪を非親告罪としようとするものであります。
以上が刑法の一部を改正する法律案の趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願い申し上げます。
次に、刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
最近における暴力事犯に関する刑事手続の運用の実績にかんがみますとき、被害者を含め証人等の保護その他の観点から見まして、刑事訴訟法中二、三の点につき改正を要すると認められるものがあります。
この法律案は、この要請に応ずるものといたしまして、司法中、保釈、緊急逮捕及び証人尋問等に関する規定につきまして所要の改正を加え、暴力事犯に対する刑罰法令の適正、かつ、迅速な適用実現をはかり、もって刑法の一部を改正する法律案並びにさきに提案いたしました証人等の被害についての給付に関する法律案と相まってこの種事犯に対処しようとするものであります。
以下この法律案の要点について申し上げます。
一、いわゆる権利保釈の除外事由の一として、現行法は、被告人が被害者等に対して害を加えまたは畏怖させるようないわゆるお礼参りの行為をすると疑うに足りる十分な理由がある場合を掲げておりますが、その対象を若干拡大して、被害者等の親族を加えることといたしますとともに、疑うに足りる十分な理由とあるのを、疑うに足りる相当な理由に改めようとするものであります。これに関連しまして、保釈または勾留の執行停止の取り消し事由についても改正を加えることといたしました。
二、暴行罪及び脅迫罪は、その法定刑が懲役二年以下と定められ、現行法上、緊急逮捕をなし得る罪には当らないこととなっておりますが、現下暴力事犯の実情にかんがみ、これらの罪を新たに緊急逮捕し得る罪として規定しようとするものであります。
三、公判期日または公判期日外における証人尋問に際しまして、被告人の立ち会いを一定の要件のもとに制限し得ることとしようとするものであります。すなわち、証人が被告人の面前では圧迫を受けて十分な供述をすることができないと認められる場合には、弁護人が立ち会っているときに限り、その供述中被告人を退席させることができるものといたしますとともに、退席させました場合には、供述終了後、被告人に証言を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならないものとしようとするものであります。
以上が刑事訴訟法の一部を改正する法律案の趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますよう、お願い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/4
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005・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、両案について、それぞれ逐条説明を求めます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/5
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006・竹内壽平
○政府委員(竹内壽平君) お手元に資料の一部として御配付申し上げてあります逐条説明書に基きまして、なるべく簡単に御説明をいたしたいと思います。
まず便宜上、刑法の一部を改正する法律案の方から申し上げたいと思いますが、同法律案は、あっせん収賄に関する部分と、暴力関係の部分とに分れておりますので、まずあっせん贈収賄の関係部分から御説明を申し上げたいと思います。
冒頭の第四条第三号中、第百九十七条ノ三を第百九十条ノ四に改めるという部分でございますが、第四条の改正は、国外で犯されたあっせん収賄罪をも処罰することとするためでございます。
次に、第百九十七条ノ四を第百九十七条ノ五とし、第百九十七条ノ三の次に次の一条を加えるという部分でございます。百九十七条ノ四が実質的な規定になりますが、この第百九十七条ノ四は、新たにあっせん収賄を処罰する趣旨の規定でございまして、本条が新設されました結果、賄賂の没収に関する現行法第百九十七条ノ四は第百九十七条ノ五に繰り下げられ、あっせん収賄の場合の賄賂にも同条が適用されるということを考えているのでございます。そこで、百九十七条の新設規定、百九十七条ノ四について若干内容を御説明申し上げます。
第一には、あっせん収賄罪は公務員という身分を有する者を犯罪の主体とする身分犯でございます。第三者から請託を受けることと、他の公務員にその職務上不正の行為をさせ、または相当の行為をさせないようにあっせんをすること、またはあっせんしたことの報酬としてわいろを収受、要求または約束をする、その二つを要件とするのでございます。なお、本条で「公務員」とか「他の公務員」とか申しますのは、いずれも刑法第七条に定義されております通り、「官吏、公吏、法令ニ依リ公務ニ従事スル議員、委員其他ノ職員」をさすのでありますが、他の法令によって公務員と見なされる者も含まれるのであります。
第二に請託の意味でありますが、請託とは、ある事項に関する依頼をいうのでありまして、本条においては、あっせんの依頼をさすのであります。あっせんを受ける他の公務員の職務権限に属する事項に関するあっせんの依頼であれば足りるのでありまして、他の公務員に不正の行為をさせるようにあっせんすることをその内容としていなくてもいい、かように考えるのでございます。請託は、あっせん行為の前に行われる必要がございますが、将来あっせんすることについてわいろの授受がありました場合には、少くともこれと同時に請託が行われなければならない。なお請託に明示のものと黙示のものとがあることは言うまでもございません。
第三に、あっせんの意味でありますが、あっせんと申しますのは、一定の事項についてある人とその相手方との間に仲介の労をとることであります。本条におきましては、他の公務員の職務権限に属する一定の事項について、第三者のために有利な取扱いをしてもらうようにあっせんすることをいうのであります。ただ、本条の罪が成立いたしますためには、そのあっせんが他の公務員に職務上不正の行為をさせ、または相当の行為をさせないことを内容とするものであることが要件とされておりますから、他の公務員にもともと正当な職務を執行させることを内容とするあっせんは、本条の取締りから除かれるのであります。
次に、不正の行為をさせまたは相当の行為をさせないというのは、どういう意味かという点でございますが、公務員としての職務上の義務にそむいた積極的または消極的な行為、法律用語で申しますならば作為または不作為をさせることであります。従いまして、あっせんの内容となりました事項が不正行為であうかどうかは、それがあっせんを受ける公務員の職務上の義務に違反するかどうかによって判断されるのであります。なお、本条によりましてあっせん収賄が処罰されますのは、不正行為のあっせんが行われた場合だけでなく、将来このようなあっせんが行われる場合をも含むのでありますし、また、過去にこのようなあっせんをしたことについて贈収賄が行われました場合には、あっせんの結果現実に不正行為が行われたかどうかにかかわらず、本罪が成立すると考えます。
次に、報酬の意味でありますが、報酬というのは、一定の行為をすることまたはしたことの対価でありまして、その行為に必要な費用を除いものであります。本条におきましては、不正行為のあっせんに対する謝礼のみを意味するのでありまして、車馬賃その他の実費を含みませんが、謝礼と実費と区別できないときは、その全体がわいろというふうに解されるのであります。
次に、ここに書いてございませんが、この本来の保護法益について一言申し上げておきたいと思います。あっせん贈収賄罪の法益につきましては、わいろ、罪の法益と全く同じものでありまして、公務の公正と公務員の廉潔との双方がその法益になるものと考えております。本条におきまして不正行為のあっせんを要件といたしましたのは、他の公務員についてではありますが、その職務の公正を担保しようとする趣旨でございますし、また、一般国民よりも持に進退を慎しむことの要求される公務員の身分犯といたしましたのは、公務員の廉潔を保持しようとするためでございます。
次に、百九十八条の次に一項を加える、そうして「百九十七条ノ四二規定スル賄賂ヲ供与シ又ハ其申込若クハ約束ヲ為シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ三千円以下ノ罰金二処ス」この関係でございますが、これは百九十八条の第二項が追加されましたのは、あっせん収賄に対応する贈賄を処罰する趣旨でありまして、百九十八条そのものに加えないで、その二項といたしましたのは、法体系の関係から一項と区別するためでございます。
次に、暴力関係について御説明を申し上げます。
まず最初に、第百五条でございます。「本章ノ罪」を「前二条ノ罪」に改めるという部分でございます。これは第百五条の規定は、従来通り第百三条及び第百四条の各罪について適用がございますが、第百五条の二の罪には適用されないことを明らかにしようとするものであります。本改正案におきましては、第百五条の次に第百五条ノ二として、刑事被告事件の証人等に対する面会強請または強談威迫の行為を処罰する規定を新設することにしておりまして、この第百五条ノ二の罪につきましては、その罪質等からいたしまして、第百五条の規定の適用を排除することが適当と考えられるのでございます。
次に、第百五条ノ二でございますが、これはいわゆるお礼参りの行為であります。刑事被告事件の被害者、証人等に対する面会強請または強談威迫の行為を処罰する趣旨の規定でございます。刑事被告事件の証人に対するお礼参り行為として、それが暴行、脅迫等の罪に当るものにつきましては、現行法によって処罰し得ることはもちろんでございますが、脅迫、暴行等の程度に達しない威迫行為につきましては適切な処罰規定が欠けております。そのため証人等の保護に欠けるところが少くございませんとともに、刑事司法の適正な運用に十全を期しがたいうらみがあるのでございます。そこで、暴行、脅迫の程度に達しない証人等に対する面会強請、または強談威迫の行為を新たに処罰することにいたしたのでございます。用語の説明を申し上げますと、「刑事被告事件」とありますのは、すでに公訴を提起され、裁判所に係属しているものばかりではなく、捜査中のものをも含む趣旨でございます。「知識ヲ有スト認メラルル者」と申しますのは、客観的な諸般の状況から合理的に判断して知識を有していると認められる者を申すのでございます。次に「面会ヲ強請シ」とありますのは、相手方において面会の意思がないことを知りながら、しいて面会を求めることをいうのでありまして、「強談」というのは、他人に対し言語をもってしいて自己の要求に応ずべきことを迫る行為をさすのでございます。また、「威迫」と申しますのは、他人に対し、言語、挙動をもって気勢を示し、不安困惑の念を生ぜしめる行為を申すのであります。
なお、法定刑はいずれも一年以下の懲役、または二百円、これは罰金等臨時措置法第三条第一項の規定によりまして一万円となるわけでございますが、二百円以下の罰金でございます。
次に「第百八十条に次の一項を加える。」この規定はいわゆる輪姦的形態において犯された強姦罪を非親告罪とする趣旨の規定でございます。現行法の第百八十条は「前四条ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ諭ス」とのみ規定しておりまして、前四条すなわち第百七十六条ないし百七十九条の罪、これは強制猥褻罪、強姦罪、準強制猥褻強姦罪及びこれらの罪の未遂罪でございますが、これを親告罪としております。しかし、これらの罪は風俗に対する罪でありますとともに、個人の身体及び人格を侵害する暴力的犯罪たる色彩を帯びているものでありまして、特にこれが輪姦的形態において犯される場合には、その暴力的犯罪としての凶悪性が著しく強度でありまして、もはやその訴追を被害者の利益のみによって左右することは適当でないと考えられるのでございます。一方被害者におきまして、内心その処罰を望んでおりましても、犯人による報復をおそれて告訴することをちゅうちょしたり、あるいは告訴の取り消しを余儀なくされる場合がありまして、いわゆる泣き寝入りとなる場合が多いと考えられまするので、輪姦的形態において犯されたこれらの罪を非親告罪としてかような悪質事犯の真に処罰すべさものは直ちに処罰し得ることとするため、この第二項の規定を設けた次第でございます。
「二人以上現場ニ於テ共同シテ犯シタル」という意味でございますが、二人以上の犯人の間に共同実行の意思があって、かつ、犯行現場において共同実行の事実があります場合はもちろんでございますが、さらに犯人の間に共同実行の意思があり、かつ、それらの犯人が何人かによって覚知され得る状態で犯行現場に現在することによってその犯行に加功する場合、見張りのような場合をも含む趣旨でございます。
次に、第二百八条ノ二でございます。第二百八条ノ二は、他人の生命等に害を加えることを目的とする凶器の準備を伴う集合行為を処罰する趣旨の規定でございます。最近、いわゆる暴力団等の勢力争い等に関連いたしまして、なぐり込みなどのために相当数の人員が集合し、人心に著しく不安の念を抱かしめ、治安上憂慮すべき事態を惹起した事件が相次いで発生いたしたのでありますが、これを検挙、処罰すべき適切な規定がございませんため、その取締りに困難を来たしている実情にかんがみまして新設したものでございます。
まず第一項は、二人以上の者が、他人の生命、身体または財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合におきまして、凶器を準備しまたはその準備があることを知って集合した者を処罰する規定であります。
右の集合した者としては、何人かの集合させる行為に応じて集合した場合と、そのような集合させる行為がなく、集合しようとする者が互いに相談の上集合した場合とが考えられるのでありますが、そのいずれの場合にも成立すると考えるのでございます。
第二項は、第一項の場合において凶器を準備し、またはその準備があることを知って集合させた者がある場合に、この者を特に重く処罰する規定でございます。従って、第二項の罪の法定刑は二年以下の懲役または五百円、これも罰金等臨時措置法第三条事一項によりまして五十倍の二万五千円となるわけでございますが、五百円でありますけれども、第二項の罪の法定刑は三年以下の懲役となっております。
なお、若干字句の御説明を申し上げますと、「他人ノ生命、身体又ハ財産ニ対シ共同シテ害ヲ加フル目的」と申しますのは、殺人、暴行、傷害、建造物損壊、器物損壊等の加害行為を共同して実行する目的をいうのでございます。
また、ここに「凶器」とありますのは、人の生命、身体等に害を加えるのに使用されるような器具を申すのであります。また、ここに「準備」というのは凶器が目的とする加害行為に使用し得る状態におかれていることを申すのでありまして、また「準備アルコトヲ知テ」というのは、凶器が右のような状態におかれていることを認識していることをいうのでございます。
次に、「第二百六十三条に次の一項を加え、第二百六十四条を削る。」「前項ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ズ」の部分でございますが、現行法の第二百六十四条は「第二百五十九条、第二百六十一条及ヒ前条ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ス」かように規定しております。第二百五十九条は私文書毀棄罪、第二百六十一条は器物損壊罪、第二百六十三条は信書隠匿罪でございますが、この各罪を親告罪としているのであります。この第二百六十四条を削りまして、第二百六十三条に第二項として、「前項ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ズ」と規定をいたしますことによって、第二百六十三条の罪のみを親告罪として残し、第二百五十九条及び第二百六十一条の罪を非親告罪とする趣旨でございます。私文書毀棄及び器物損壊罪は、暴力的行為が犯罪として表面化する最も単純かつ典型的な罪でありますとともに、暴力事犯中の多数を占めており、ただいまその取締りの必要性が痛感されておるのにかかわらず、被害者が犯人による報復をおそれ、あるいは個々の事案としては比較的軽微であるため告訴をしなかったりあるいは告訴を取り消す場合が多いのでございまして、その結果処罰できない実情にありますので、この種の事犯取締りの徹底をはかるための改正でございます。
附則の第一項は、本法が、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行されることを明らかにしたものでございます。第二項は、これはもう例文的に書かれるのでございます。第三項は、罰金等臨時措置法第三条第一項の規定が、本法による改正後の刑法第百五条ノ二、これは面会強請の罪でございますが、百九十八条第二項、あっせん贈賄罪、第二百八条ノ二第一項、集合罪の各罪について規定しております罰金についても適用されることを明らかにしたものでございます。
次に、刑事訴訟法の一部を改正する法律案の逐条説明を申し上げます。
改正の「第八十九条第五号中「知識を有すると認められる者」の下に「若しくはその親族」を加え、「充分な理由」を「相当な理由」に改める。」点でございますが、本条は、いわゆる権利保釈の除外事由の一つであります現行法第八十九条第五号に修正を施したものでございます。すなわち、同号におきましては、従来被告人が行うおそれのある行為の対象が「被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者」に限られておりましたのを、その範囲を拡張して、これ以外に「その親族」を加え、かつ同号所定の疑いの程度を若干緩和して、「充分な理由」を「相当な理由」に改めようとするものでございます。元来本号は、将来の事項についてその発生を疑うに足りる十分な理由のあることの疎明を要するとする点におきまして、それ自体かたきを求めるきらいがありますので、いわゆるお礼参りをすると疑うに足りる「相当な理由」があれば、かような暴力行為を行う危険な者は保釈を許さないことにすることによりまして、善良な市民である被害者等が安んじて生活できるようにし、かつ、その証言を確保することによって刑事司法の適正な実現を期する必要があるのでございます。
また、いわゆるお礼参りの対象に被害者等の「親族」を加える理由は、被害者等の親族に対してお礼参りが行われた事件も相当数発生しております。そのため被害者等が自己の親族に危害が及ぶことをおそれて、証人として十分な供述をなし得ない場合も多い実情にかんがみまして、これを加えることとしたのでございます。
次に、「第九十六条第一項第四号中「知識を有すると認められる者」の下に「若しくはその親族」を加える。」改正でございます。本条は、保釈及び勾留の執行停止の取り消し事由を規定した現行法第九十六条第二項を改めることにしたものでありますか、本条の改正は、第八十九条第五号の、いわゆるお礼参りの対象として被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者以外に「その親族」を新たに加えたことによりまして均衡を保たせる趣旨でございます。
次に、第二百十条第項中に新たに「刑法第二百八条若しくは第二百二十二条の罪」を加える点の改正でございます。本条は、現行法第二百十条第一項所定の、いわゆる緊急逮捕をなし得る罪の範囲を改めまして、現行法の規定する「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」のほかに「刑法第二百八条若しくは第二百二十二条の罪」を加える趣旨でございますが、刑法第二百八条、これは暴行罪または第二百二十二条脅迫罪に当る事犯は、いわゆる暴力事犯の典型的なものでありまして、この種の事犯については、犯罪発生後すみやかに被疑者の身柄を確保し、迅速に捜査活動を開始することによって、初めてよくその取締りの目的を達し得るのでありますが、現行法のもとにおいては、暴行罪または脅迫罪の法定刑の上限がいずれも懲役二年でありますため、これに当る事犯の被疑者については、いわゆる緊急逮捕が許されないのであります。そのめた検挙、取締りに支障を来たす場合が少くないのでありまして、そこで暴力事犯鎮圧の実効を期するためには、これらの罪を犯した被疑者についても緊急逮捕をなし得るものとする必要があるのでございまして、そういう趣旨で本条の改正をいたそうとするものでございます。
次は、第二百八十一条の二でございます。本条は、新たに設ける罪の第三百四条の二とともに、いわゆる暴力事犯等の証人尋問に際しまして、証人をして十分な供述をなさしめるため、証人の供述中に一定の要件のもとに被告人の立ち会いを制限しようとするものでございます。
暴力事犯の被害者、目撃者その他の証人にありましては、被告人の面前において真実を供述することによって、被告人またはこれと特別の関係を有する者によって報復されることをおそれて、証人として出頭しなかったり、あるいは証人として出頭はいたしましても、被告人の面前では十分な供述をなし得ない場合が少くないのでございます。そのため訴訟の遅延を招く、さらには公判審理に重大な支障を生じた事例も少くないのでございます。そこで証人の基本的人権を擁護するとともに、証人をして十分な証言を行わしめることによって刑罰権の適正かつ迅速な実現に資するために、憲法によって保障された被告人の証人に対する反対尋問権を害しない限度におきまして、証人尋問の際における被告人の立ち会いを制限する必要があると考えるのでございます。本条の新設は、かような理由によるものでありまして、本条は、公判期日外における証人尋問の場合について規定したものであり、第三百四条の二は、公判期日における証人尋問に関する規定でございます。この規定の中で、「公判期日外における証人尋問」と申しますのは、公判準備として裁判所が行われる公判期日外における証人尋問をいうのであります。裁判所内において行う場合と、裁判所以外で行う場合とを問わないのでございます。「圧迫を受け」ということでございますが、これは現行法第二百二十七条におけると同様、有形たると無形たるとを問わず、また、積極的な圧迫が加えられることも必要ではないと解されるのでございます。要するに、証人が圧迫を感じ、十分な供述ができないものと認められれば足りるのでございます。
次に、第三百四条の二でございますが、先ほども申しましたように、本条は、新たに設ける第二百八十一条の二と全く同趣旨の規定でありまして、同条が公判期日外における証人尋問の場合についての規定であるに対しまして、本条は、公判期日における証人尋問の場合について規定したものでございます。従って、本条を新設する理由、規定の解釈等は、第二百八十一条の二の場合と全く同様でございます。
附則につきまして、附則の第二項でございますが、手続法につきましては、遡及して適用をするというのが原則でございますので、このような規定を設けなくても解釈によってまかない得るわけでありますが、事柄の重要性にかんがみまして、特に明文を設けて、その点を明らかにした次第でございます。
以上、逐条説明を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/6
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007・青山正一
○委員長(青山正一君) 両案の基本的問題等について御質疑などございましたら、この際御発言下さい。
なお本日は、唐澤法務大臣、横川法務政務次官、竹内刑事局長のほかに、神谷、辻両説明員が御出席なさっておられます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/7
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008・大川光三
○大川光三君 ただいま議題となりました刑法の一部を改正する法律案の中で、私はまず、あっせん収賄罪の構成要件に関連いたしまして法務大臣にお伺いをいたします。
今回新たに設けられまする刑法第百九十七条ノ四の条文を見ますると、「公務員請託ヲ受ケ他ノ公務員ヲシテ其職務上不正ノ行為ヲ為サシメ又ハ相当ノ行為ヲ為サザラシム可ク斡旋ヲ為スコト又ハ為シタルコトノ報酬トシテ賄賂ヲ収受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シタルトキハ三年以下ノ懲役ニ処ス」とありまして、この法案は多くしぼりがかけられております。すなわち、請託を受け、不正行為をさせ、また相当の行為をさせないようにあっせんする。そうして報酬としてのわいろを収受することでありまして、しかも請託と不正行為はともにあっせん収賄罪の構成要件になっております。従って、この要件のうちいずれを欠いても犯罪は成立しない、現行刑法に定めます他の収賄罪は、請託は犯罪になるかならないかの、それを左右する構成要件ではなくして、刑が重くなるという加重条件にすぎないのに、今度のあっせん収賄罪に限って請託が構成要件にされております。また、他の公務員に働きかけて不正の行為をさせる、または相当の行為をさせないようにあっせんした場合でなければ犯罪が成立しないことになりました。従いまして、諸官庁の公務員が不正行為をしない限り、幾らわいろをもらっても罪にならないということになります。一般の収賄罪が不正行為をなすといなとにかかわらず、犯罪が成立するのに比べまして、このあっせん収賄罪は罪にならない、範囲があまりにも広過ぎると考えられるのであります。すなわち請託でしぼり、その上を不正行為でしぼり、さらに報酬としてのわいろでしぼっておりまして、まさに二重、三重、がんじがらめにしぼり過ぎているというきらいがあるのでありまして、かように法案自体としても、この規定は手も足も出ないような感じがいたしますが、かように手も足も出ないような法律によって、果して悪質の収賄者の取締り、またいわれておる汚職追放の目的が完全に達せられるかどうかということにつきまして、懸念なきを得ないのでございます。よって私は、ここに法務大臣に対しまして、この法案が請託と不正行為を犯罪の構成要件とせられましたこの立法趣旨をお伺いいたしたいのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/8
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009・唐澤俊樹
○国務大臣(唐澤俊樹君) 本法案中、あっせん収賄罪に関しまして、あまりに構成要件が厳格過ぎて、この法律が適用されるようになっても、所期の目的を十分に達しられないのではないかという御懸念に基くお尋ねでございました。この点につきましては、世上でいろいろと御批判がございまするし、また、過般の本会議におきましても、いろいろと御批評を賜わった次第でございます。その際にもお答え申し上げた通りでございまして、このあっせん収賄に関する規定は、非常に立法技術上立案のむずかしい条文とされております。わが国におきましても、久しい以前から学者、専門家の間に非常に論議を尽しておられる問題でございまするが、なかなか学者、専門家の間でも意見の一致を見ないようなむずかしい問題でございまするが、そのために各方面からのいろいろの案が提示されておるにもかかわらず、今日まで制定の機運に至らなかったようなことは御承知の通りであります。
この規定を作るに当りまして、あっせん収賄罪をことごとく処罰の対象にして、一挙に網羅的にこれを処罰するという考え方と、それではこの規定では非常に危ない、一歩運用を誤まれば、善良なる公務員の活動を窒息させてしまい、ひいては検察ファッショの危険すらあるという非常な慎重論もございました。学者の間に、この規定をするについては、一応何らかの形で制限をしなければ危かろうというお考えがあるのは、その後者を代表するものでございます。御承知のように、去る昭和十五年に発表になっておりまする改正刑法仮案の中に含まれておりますあっせん収賄罪の案を見ましても一つのしぼりがかかっております。すなわち、あっせん収賄行為のうちで、相手方に要求してわいろを取った場合だけを処罰の対象といたしておるのでございます。これは当時の論議の模様を承わってみますると、やはり一切のあっせん収賄行為を処罰するということは少し広きに失すると、何らかの形でしぼりをかける、制限をして、そしてその制限内の行為だけを処罰するという趣旨から、以上のような規定を立案されたというふうに承わっております。この改正刑法仮案中の一案も、非常な有力な案として私どもも慎重に検討してみたのでございますが、今日の学者、専門家の間では、要求して取った場合と、しからざる場合とを区別するということがあまりに合理的でないというような意見もございまして、そして今ごらんのような、政府案のような一つの制限を考えてこれを提案することになったのでございます。この提案につきましては、先ほどるる大川委員から御説示のありましたように、不正の作為、不作為をさせるという大きなしぼりがかかっておる。そのほかにあるいは「請託ヲ受ケ」、あるいは「報酬トシテ」というようなしぼりがあるではないかというお言葉でございまして、その通りでございます。私どもは「請託ヲ受ケ」というしぼりは、それほどの大きなしぼりとは考えておりません。一般の収賄罪は請託を受けずに、職務上の行為について贈収賄の行われることが非常に多いのでございますが、これはいわゆるあっせんをして、そうして収賄する場合でございまするから、もう十中八、九請託を受けておりまして、そしてこれの立証の問題もございますけれども、しかし、あっせんをした事実、わいろの授受された事実を証明するのでございますから、その際に請託を受けておるという証明をすることはさまで困難ではないと、かように一応考えておまりす。
それからして「報酬」という文字が入りましたのは、昭和十六年、政府案が当時の国会にかかりまして、当時の貴族院では可決をされましたけれども、衆議院で否決されました。そのときに実費とどうして区別するかと、公務員、ことに議員が公務上のことを頼まれて、そしてときには郷里からわざわざ東京まで出てきていろいろ世話をする。それには実費も要る。これが一切あっせん収賄罪の対象になる。少くともその疑いを受けて、そうして裁判上の問題になったんでは、名誉を重んずる議員として致命的な傷を受けるというような非常な強い反対がございまして、そのために報酬として受けた部分だけは対象となるけれども、実費は省かれるということを明瞭にいたしたつもりでございます。
最後に、この不正の作為、不作為をした場合に限るという点は、お言葉の通り、これは大きなしぼりになっておると考えます。そのためにあっせん収賄行為のうちでこの規定から漏れるものがあることはお言葉の通りでございます。しかしながら、この法律は非常に立案のむずかしい法律であり、ことにわが国では初めての試みでございます。諸国の立法例を見ましてもまちまちでございます。そういうような事情にかんがみまして、取りあえずあっせん収賄行為のうち、世人がだれが見ても明白に悪質だというものをまず処罰をする、そうして理論的にいろいろ足りない部分がありましても、それはこの法律案を実施に移してみまして、そうしてその成績によりまして、さらに二段に考えて修正をしていったらば、それが最も穏健であるという考え方から、かような条文を作ったのでございます。これは私が申し上げる必要もないことでございますが、わが刑法におけるわいろ罪に関する規定が、過去の沿革を見ましても漸を追うて進んでおるようでございまして、このあっせん収賄罪に関する規定も新しい試みでございまするから、まず漸を追うて進んで参りたいと、かような考えで立案をいたした次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/9
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010・大川光三
○大川光三君 ただいまの御説明で立法の趣旨はよく了承をいたしました。仰せの通りに、このあっせん収賄罪は、多年の間生まれるべくして生まれ得なかったむずかしい問題でございまして、おそらく法案を作られるのについて、相当な立法技術上の困難のあったことは、お察しするのでありますが、ただ、今御説明のうちで、一つの構成要件でありまする「請託ヲ受ケ」ということは、おそらく私は請託を受けずして他の公務員に働きかけて不正の行為のあっせんをさすということは、これは実際問題としてあり得ない。しかしながら、一たんこの請託を構成要件にいたしますると、御承知の通りに、立証の面で非常な困難を来たす場合が多かろうと考えるのでございまして、従前の判例等によりましても、常に請託の立証はむずかしい。そこで請託を受けたとみなすのだというようなことを状況証拠によってきめておるのでありまするから、こういう立証のむずかしい構成要件をここへつけたということについて、私はなお疑問を残すのであります。
それといま一つ、先ほど刑事局長から御説明がありましたうちで、報酬の問題でございますが、もし報酬と実費とが区別できないときには報酬とみなすのだと、こういうような御説明だったと記憶いたしますが、これまた大へん将来ややこしい問題で、どの程度は報酬で、どの程度が実費なのか、実費と報酬と区別できなければそれは報酬とみなすのだというところに、私は一つの無理があると考える。もともと私は報酬という一つのしぼりをかけるよりは、もうわいろを受け取ってはいけないのだということにするのも一つの考え方だと思いまするけれども、報酬の解釈について、実費と報酬とが判明しないときには報酬と見るというところに、今後この法律の運用の面で非常にむずかしい問題が起るのじゃないかと、かように考えるのでございまして、この二点を、いま一応御説明をいただきたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/10
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011・竹内壽平
○政府委員(竹内壽平君) 大臣から御説明がございましたように、この「請託ヲ受ケ」というのは確かにしぼりでございますが、実務といたしましては、これが非常に立証が困難だというふうには実は考えておらないのでございます。なるほど現実に運用の面で請託ということを受けた場合には、まあ加重条件になっておりますので、単純収賄で起訴される場合が多いのでございますけれども、しかし、最近発生しております重要な涜職事件をしさいに検討してみますと、請託は起訴されておりませんでも、判決にもすべて請託がいつどこで、どういう機会にされたかということが詳しく出ておるのでございます。これはまた一つには、わいろ性を決定いたします材料でもあるわけでございまして、捜査機関の側から申しますると、請託のはっきりしないような事件というものは、すでにわいろ罪として薄い事件になってしまうのでございまして、起訴はいたしませんでも、請託関係は詳細に事件の中には現われておるというのが現状でございます。従いまして、しぼりではございますけれども、捜査に当りまして非常に重大な支障を生ずることはないというのが、法制審議会等におきまする検察側の意見でございます。
それから、また、「報酬トシテ賄賂」という点でございますが、わいろ罪は――わいろと普通申しておりますのは、刑法の本を見ましても、いずれも職務に関して、その対価として交付される不法の利益であるということになっておりますし、判決もそういう趣旨の判決をいたしております。報酬という文字をそのまま使った判例もございます。で、「賄賂」といっておるのは、「賄賂」と書くだけで報酬あるいは不法の利益という趣旨が出てくるのでございますので、特に「報酬」という文字は不要のようにも考えられるのでありますが、これは単純職務に関するいわゆる収賄舞と違って、あっせん行為というのは、あっちこっちかけずり回るということが必然的な行為の過程として考えられるわけでございます。それに伴う実費というものは、判例の趣旨からいいましても、必ずしも不法の利益とはいえないのであります。従って、この関係は明確にしておいた方がいいではないかという議論が強くございまして、ことに昭和十六年の国会審議の経過等にもかんがみまして「報酬トシテ」ということにして、実費を除外いたしたのでございます。ただ、先ほど御説明いたしましたように、実費と報酬とが分明でない場合は、やはり報酬として見られるという趣旨の説明を申し上げました。これは選挙法の供与罪につきまして同様な問題があるのでございまして、理論といたしましては、これはもうどこまでも究明して、実費と報酬とを峻別して、その報酬の分についてのみ罰せられるべき筋合だと思うのでございますが、まあ報酬を、実費をも含めて報酬を提供したというような場合には、これの区別のしようがないというときには、判例の言葉をかりて申しまするならば、その不法性が全部に及んでくる、こういう意味で、まあ判例の趣旨を体しますると、そういう場合には、実費をも報酬の中に含めて解釈せざるを得ないであろう、こういう趣旨から、さように先ほど御説明を申し上げた次第でございますが、ただ御質疑の中に、なるほど実費だ実費だというが、社会通念上実費とは見られないような非常に高額な実費だというものがあったとしたならばそれはいかがなものであろうかという点につきましては、これは実費か報酬かという問題ではなくして事実認定の問題になってくるかと思います。大体そのように考えている次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/11
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012・大川光三
○大川光三君 いろいろこの法案につきましてはお尋ねいたしたい点もございますが、本日は時間の関係もございますので、この程度にとどめまして、次の委員会に引き続いて質問をいたしたいと存じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/12
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013・青山正一
○委員長(青山正一君) 両案についての本日の審査は、この程度にとどめたいと存じます。
なお次回は、三月三十一日、月曜日、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案、裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案、検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案、以上四案の質疑を行います。
それでは本日はこれにて散会いたします。
午後三時四十五分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02019580324/13
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