1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十三年四月十五日(火曜日)
午前十時三十二分開会
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出席者は左の通り。
委員長 青山 正一君
理事
大川 光三君
一松 定吉君
棚橋 小虎君
宮城タマヨ君
委員
雨森 常夫君
小林 英三君
赤松 常子君
亀田 得治君
辻 武壽君
国務大臣
法 務 大 臣 唐澤 俊樹君
政府委員
法務政務次官 横川 信夫君
法務省刑事局長 竹内 壽平君
事務局側
常任委員会専門
員 西村 高兄君
参考人
弁 護 士 植松 圭太君
弁 護 士 森長英三郎君
一橋大学教授 植松 正君
東京大学教授 團藤 重光君
最高検察庁検事 安平 政吉君
日本労働組合総
評議会法規対策
部長 神鳥 日吉君
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本日の会議に付した案件
○刑法の一部を改正する法律案(内閣
提出、衆議院送付)
○刑事訴訟法の一部を改正する法律案
(内閣提出、衆議院送付)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/0
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001・青山正一
○委員長(青山正一君) 本日の委員会を開会いたします。
刑法の一部を改正する法律案並びに刑事訴訟法の一部を改正する法律案、この二つの案を議題といたします。本日は、この両法律案につきまして、参考人の方々から御意見をお伺いいたしたいと存じます。
申し上げるまでもなく、両法律案は、現内閣の標榜する政治目標のうち、最も重要な政策の一つとされております。汚職の防止と暴力の追放に関する施策の具体的現われでございますが、あっせん収賄罪につきましては、昭和十六年以来数度の立案にもかかわらず、戦時の特例を除いては、今日まで日の目を見るに至らなかったといういわくつきの立法でございます。これが今回装いを新たにいたしまして、提案されたわけでございますが、その内容につきましては、あっせん収賄罪の構成要件の規定の仕方、議員の政治活動に対する影響、あるいはまた、第三者供賄を処罰していない点等々、幾多の吟味を要する問題があるようでございます。また、暴力取締り関係につきましては、輪姦的犯罪や、厳物損壊罪等を非親告罪とし、新たに持凶器集合罪を設け、権利保釈を制限し、公判廷における被告人の退廷措置を講ずる等、多くの重要な改正がなされておりますが、これらの内容はもとより、運用の面におきましても、国民の自由権との関連におきまして注目すべき問題を含んでいるように考えられます。
以上の問題につきましては、本日各界権威方者の方々から十分な御意見を伺いまして、当委員会の審査の資といたしたいと存じます。
参考人の方々におかせられましては、日ごろ御繁忙中のところ、本委員会の意のあるところを了とせられまして御出席いただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼申し上げます。
それではこれより御意見を伺うことにいたしますが、それぞれのお立場から自由にお話し願いたいと存じます。なお、時間の関係上、お一人約二十分程度にてお願いいたします。
それから参考人の方の御意見が全部済みましてから、委員の方々の質疑に入りたいと存しますので、この点御了承おき願います。
弁護士の植松圭太君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/1
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002・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 今回の刑法並びに刑事訴訟法の一部改正案につきましては、すでに衆識員でも審議されております。皆様ももう十分研究を積まれたことと思いますので、本日せっかくお呼び出しをこうむりましても、御参考に供するような意見を持ち合せていないということをあらかじめおわび申し上げたいと思います。しかし、在野法曹の一員としまして、多少意見を持っておりますので、御参考のために私見を申し上げまして、責めを果したいと思います。時間の制約もありますので、問題のある点のみにとどめたいと思います。
まず、刑法の改正案の中のいわゆるあっせん収賄罪を取り上げて申しますと、かつて国会に提案された法案及び改正刑法の仮案では、公務員の職務全般の行為を対象としているのでありまするが、今回の法案は御承知の通りに、不正な行為をさせまたは相当な行為をさせないという二点にしぼられていますので、この点一歩後退したということが言えるのであります。すべて公務員は、その地位にふさわしい経済生活の保障がありまするがゆえに、一私人から報酬を受けて公務員に対するあっせん行為をするというようなことは、その本分にもとるものでありますから、あっせん収賄罪におきましても、一般公務員の贈収賄罪と同様に、職務全般にわたりましてこれを取り締る規定を設けて、そうして公務員のブローカー的の活動を完封するということが理想であるのであります。今回の法案のように、職務行為を限定してこれを対象とするということは、かなり世間でいういわゆる穴があるのでありまして、このあっせん収賄の今までの現われた形態から見ますると、行政官庁の行政処分であります。その行政処分の多くは裁量処分でありまするから、この裁量処分には不正とかあるいは不相当とかいう判断を下し得ない場合が多いのであります。一例を専売公社のするたばこ小売店の許可にとりますると、同時に諸条件を満たした甲、乙の二人の申請があった場合には、そのいずれに許可しましても不当であるとかあるいは不相当であるというような問題がないのであります。ところが、この場合に、甲は、公務員のあっせんで許可を得たので報酬を支払ったとしましても、この法案では処罰ができないことになります。それではすべての公務員の職務行為をあっせん収賄罪の対象としたらよいかと申しますると、これに対してもまた反対の理由が成り立つのであります。公務員の中でも、国や地方自治体で任命される普通の意味の公務員と、国会または地方議会の議員のごとく、選挙民の公選によるものとがあります。国民の公選によってその地位を得るところの議員は、選挙民との結びつきが密接であります関係におきまして、他の官公吏とその出発を異にしているのでありますから、これを他の公務員と同様に律するということはできないのであります。往年、議員が選挙民の依頼によつてあっせん行為をすることは当然のサービスぐらいに世間で考えまして、ほとんど常識視されてきているのであります。また、議員のあっせんそのものは、事柄によりますると、かえって国民対公務員の間のあつれきを未然に防ぎ、または、これを緩和するの役割を果しているものも多々あるのであります。かかる場合に、車代とか、多大の労を謝するために幾ばくかの謝礼をするぐらいのことは、世間の常識として黙過されてきたのであります。従って、これらを一挙にして根絶するということは、種々の弊害を伴うおそれがあります。この点に問題があると思うのであります。しかし、近ごろの事情から見まして、これを野放しにしておくということは、政界、官界を腐敗させることになりますから、悪質なものあるいは重要なものを取り締る必要があることは、論のないところであります。ここにおきまして、今回の法案を検討いたしますると、前に申し上げましたような欠陥がありまするけれども、これをそれではいかにしてしぼるかということになりますると、非常に技術的にむずかしい問題があるのであります。世間では、今回のこの法案をざる法案だと評しております。確かにそういうことも言えまするが、今日まで、理想案として何回も国会に出されましても、これが実現していないのであります。その意味におきまして、今日の法案は、欠陥はあるが、なきにまさると言うことはできるのであります。この意味におきまして、私は、理想論からいえば反対でありまするが、現実の問題としましては、これに賛成する意見を持っております。申すまでもなく、欠陥はありましても、この法案が法律化せられた場合には、一度嫌疑の行為があって、そして、これが検挙または起訴されますると、終局には無罪となったとしましても、公務員としては、その疑いを受けたということ自体において名誉に影響することが多大なのであります。従って、いわゆるいたずらにあっせんの請託をすることがないようになることもありましょうし、また、あっせんの請託を拒絶する理由にもなる点におきまして、私は大きな意義があると思うのであります。この案につきましては、その他、まあ字句的に申しますると、字句的ばかりではありませんが、請託の有無とか、報酬という字句の要否、その他、第三者供賄の規定の存否というような点に問題もありまするが、この点は省略させていただきます。
次に現行法中の親告罪となっておりまするところの器物損壊罪、私文書毀棄罪、それから、強制わいせつ、強姦、準強姦及び、これらの未遂犯の中で最近しばしば起りまする輪姦形態の犯罪を非親告罪としようとする法案について申し上げますると、器物損壊及び私文書毀棄の両罪を非親告罪に切りかえるということは、近時の犯罪傾向からしまして、私は適切であると考えております。問題は、強制わいせつ、強姦、準強姦の犯罪であります。この種の犯罪を親告罪にしましたのは、被害者の名誉を重んじ、公判審理によりましてこの事実が世間に知れ渡りますると、被害者本人の名誉が棄損され、精神上の苦痛を増すことを顧慮したのであります。従って、この極犯罪が一人で行われたいわゆる普通の場合と、二人以上が共同して同一場所で行われたいわゆる輪姦形態とを区別しまして、一つを親告罪とし、他を非親告罪とするということは、その理由に乏しいと思うのであります。このいずれの場合におきましても、被害者が婦女子である以上は、羞恥心から告訴をしない場合が非常に多いのでありまして、従って、告訴がないと処罰ができないという結果になりますので、この種犯罪は増加するおそれがあるのであります。従って、このような犯罪を防止する面からは非親告罪にしたいところでありまするが、また、その反面には、被害者の立場をも考慮せねばなりません。そこで、最高裁判所は、暴力のみを切り離して、暴力行為取締りに関する法律で処罰することを適法とした判例がありまするが、あまり解釈としてはすっきりしていないのであります。のみならず、被害者の名誉保護の面でも十分とは言えませんし、また、犯罪の一般予防の立場から言いましても効果が非常に薄弱であるのであります。しかしながら、この種輪姦形態の犯罪が頻発しまする最近の趨勢に対処するには、これを非親告罪とするのほかはないと私も思うのであります。そこで、この場合に、被害者の名誉の顧慮すなわちこれを保護するという対策を立てなければならないと思うのであります。これは、私のちょっと一時の思いつきでありまするが、被害者の住所地を遠く離れたところの裁判所でこの事件を処理する。これは現在の刑事訴訟法の十九条に移送の手続がありまするが、これは多少また完備していない点があります。それからまた、このような犯罪を新聞とか雑誌へ記事を載せることを厳禁するというような特別の措置をとることが考えられるのであります。
次に、刑法の百五条ノ二としまして、被告人らが捜査もしくは審判に必要な知識を有すると認められる者、たとえば、証人、参考人とかいうような者、またはその親族に対してその事件に関してゆえなく面会を強請しまたは強談威迫の行為をしたときはこれを処罰するという規定を新設する案は、いわゆるお礼参りを禁止するもので、時節柄やむを得ない案だと思います。
次に、刑法の二百八条ノ二としまして、凶器による集合罪を新設する件でありますが、これは最近しばしば起った博徒や暴力団等の勢力争いから、なぐり込み等を事前に防止し、または人心の不安を取り除くことを企画するのであります。これもまた、私は時節柄適切な案として賛成いたします。ただ、この運用におきまして、凶器の解釈を誤まりまして、純粋な労働争議とか、政治活動を弾圧するというような非難のないようにしなければならぬということを感ずるのであります。
次は、刑事訴訟法の改正案に移るのでございますが、まず、権利保釈に関する刑事訴訟法の第八十九条のいわゆる除外理由を列挙したその一つとして、第五号にありまする中に、「知識を有すると認められる者」の下に「若しくはその親族」という字句を加える点につきましては、異存はございません。「充分な理由」とあるのを「相当な理由」に改める点にはかなり反対論があるのであります。元来、刑事被告人は有罪の判決があるまでは無罪であるのであります。従って、みだりに被告人の自由権を制限侵奪すべきでないことは論を待ちません。従って、被疑者や判決前の被告人は原則として身体の自由を拘束しないで取り調べるべきであります。この観点に立ちまして、勾留中の被告人に対する保釈の請求があった場合には、刑事訴訟法の八十九条の一号ないし六号に該当するほかは、これを許可せねばならないことが、同条の冒頭に規定されているのであります。同条の第五号にある「疑うに足りる充分な理由」とあるのを「相当な理由」に改めることによって、保釈不許可になる率が上ってくるので実質的には権利保釈を狭める結果になるのであります。しかしながら、実際問題としまして、「充分な理由」としますると、常識上勾留を必要とする場合、または被害者が恐怖感にかられておる場合に釈放することは妥当とは言えません。この場合に「充分な理由」の証明はなかなか検察官としても困難なことを私らも知っておるのであります。もし検察官が保釈反対を乱用するのじゃないかというような疑いを持つ場合もありましょうが、しかしながら、かような場合には、裁判官の認定で、疑うに足る相当の理由がないとして、検察官の意見にかかわらず、保釈を許すことができるのでありますから、この点の乱用のおそれは防止できるであろうと思います。要するに、被告人の権利も尊重しなければなりませんが、それ以上に被害者を保護し、お礼参りをする等を未然に防ぐことが治安の上におきまして看過できない点であると思うのであります。
それから緊急逮捕の問題がありますが、これは新聞などで見ますると、あるいはこれは審議の必要はないじゃないかという点におきまして、この点は省略いたしまして、あとでまた御質疑がありましたら意見を申し上げることといたします。
次は、刑事訴訟法の三百四条の二としまして、裁判所の証人尋問に際し、証人が被告人の面前では圧迫を受けて十分な供述ができないと認めたとき弁護人の在廷を条件としまして被告人を退廷させる、そうして証人尋問を行なって、その供述が済んだあとに被告人を入廷させて、これに証言の要旨を告げ、そうして証人に対し、さらに尋問する機会を与える、こういう改正でありまするが、これは憲法の第三十七条の第二項に「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。」と規定されておる点にかんがみまして、憲法に抵触するのじゃないかという疑義があるのであります。最高裁判所はこれに似た事案に対して、憲法の違反ではないという解釈を与えておりますので、かりにこの法案を、この問題から阻止しましても、あまり実益のない問題であります。凶悪犯罪の場合とかに、証人が被告人の面前で証言をすることによって後難をおそれ、出頭をしなかったような例もあります。出頭しましても、真実の証言を得られない場合が往々あるのでありまするので、これでは正しい裁判ができない結果になりますので、事件によりましては、この方法をとる必要が実際の面にあるのでありまして、そういう点からいきますと、法案は実益があるということになるのであります。なお、ここでわれわれが考えておくべきことは、知っておくべきことでありますが、旧憲法時代に、このような規定がないときでも裁判所は被告人を退廷させまして、証人を喚問したというようなことをやった例は、きわめて少いのであります。従って、今後も、こういうことはそうないとは思います。しかしながら、法律としてできました以上は、これが必ずしも乱用ないということは言えませんので、私は理想としましては、被告人の同意を得てするということがいいと思いますけれども、これではまあ実際運用の面で困ると思いますので、少くとも弁護人の意見を聞いてするというようにしたらどうかという、私は考えをもっております。
はなはだ簡単でございましたが以上をもちまして私の意見を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/2
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003・青山正一
○委員長(青山正一君) どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/3
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004・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、参考人、弁護士の森長英三郎君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/4
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005・森長英三郎
○参考人(森長英三郎君) 私は労働法を研究しており、また、多年労働問題に関する各種の事件に関与してきたという経験者の立場から、意見を申し上げたいと思います。
今回の刑法並びに刑事訴訟法の改正案の問題点は、非常に多岐にわたっていると思いますが、私は今言ったような立場から、これが労働運動との関連において、特に考えるべき点を申し上げたいと思います。
そこで、まず、今度の改正案の各条文を、ここに掲げられたような条文とすることが適当かどうか、法律体系上、たとえば集合罪は暴行罪の予備だからその次に掲げる、あるいはお礼参りの規定は、証拠隠滅の章に掲げる、そういうことが適当かいなか、こういう点については、学界においては多くの異論があろうと思います。これはむしろ暴力行為取締法の中に定むべきことである、それを特に刑法の中に規定したのはなぜかという問題があるわけであります。これについて私は直接聞いておりませんが、法制審議会における法務当局の見解は、暴力行為取締法の立法趣旨、それからその後の実際の運用にかんがみて、これを暴力行為取締法の中に規定することは適当でない、だから刑法の中に定めるのだ、こういうようなことを言っておるのであります。私は、どうもこのあたりにこの改正案の秘密がひそんでおるような感じがするのであります。それでは暴力行為取締法の立法趣旨は何か。ここに当時の江木法相の答弁を書いてきましたが、時間がないから読みません。大日本帝国議会史第十六巻千百五十四ページから五ページにわたって掲げられております。これは周知のように、この暴力行為取締法は、博徒とか、そういう種類の暴力団を取り締るものである。そうして農民運動とか、労働運動とか、水平運動とか、そういうものを取り締る意思は毛頭持っておらないのであるということを言明しておるのであります。江木法相自身は団体的背景を持って暴行・脅迫をなすことを、その団員が常習としてするがごとき団体を対象とする、こう言っておるのであります。ところが、このようなはっきりした言明にもかかわらず、この法律ができたのは大正十五年四月でありますが、その年の五月十日、京都府に起った農民組合の事件にさっそく適用しておるのであります。そうしてこの農民組合の事件は、その後、大審院までスピード裁判で同年中にいき、そうして同年の十一月二十二日に判例となったのでありますが、この判例を見ると、正当な団体であっても暴力行為取締法を適用すると、こう言っておるのであります。そうしてこういう判例が出ましたから、戦前におきましては、治安維持法と並んで、暴力行為取締法は労働運動、農民運動等を弾圧する法規となったのであります。ところが、戦後はどうかと申しますと、戦後もやはり相変らずであります。最高裁は三度これについて判決を出しておりますが、戦前の大審院の判例を踏襲しておるにすぎないのであります。そうして実際、まあ戦後は農民運動はあまりありませんが、労働運動については、この暴力行為取締法がどんどんと適用されておるのであります。ここに持ってきております最高裁判所事務総局刑事局編集の刑事裁判資料というのによりますと、この二十六号では、労働運動に対して暴力行為取締法を適用したのが二十四例中八例ある。また、大衆運動——いろいろな大衆運動に対して暴力行為取締法を適用したのは十一例中六例ある。また、この四十八号によりますと、労働運動に対して暴力行為取締法を適用したのは、四十三例中十七例まである。この同じ五十五号を見ますと、労働争議に対して暴力行為取締法を適用したのは、十五例中五例、それから大衆運動に対して暴力行為取締法を適用したのは十五例中五例ある。このように戦後においても、戦前と変らないで、暴力行為取締法はどんどんと労働運動に対して適用されておるのであります。そこへまあ今度の法律案が出てきたというわけであります。こういう立法趣旨——暴力行為取締法の立法趣旨並びにその後の運営から見て、この改正案を本来暴力行為取締法の中に入れるべきだということで暴力行為取締法の中に入れると、弾圧立法だと言って非常に反撃をいたしております。だから刑法の中に入れたのではなかろうかということを私は考えたのであります。
そこで各条文を見てみますが、第一に、刑法二百八条ノ二を見たいと思います。この二百八条ノ二は、私の見るところでは、また、私の同僚たちと研究したところでは、あまりにもばく然とした構成要件であるという結論であったのであります。どういう点がばく然としておるかと申しますと、第一に「兇器」という言葉があります。この「兇器」は非常に広い意味の凶器と、狭い意味の凶器と、二つにわかれておる。しかし、この改正案の親類筋である暴力行為取締法、あるいは盗犯防止法等では、広い意味の凶器と解釈されておる。広い意味の凶器とする場合に、たとえばステッキが凶器になるという学説もあるし、ならないという学説もある。そういうステッキについてまで争われておるのであります。このように、凶器の概念が広く解釈されるとするならば、また当然解釈されることになるのでありますが、非常に危険である。新聞等でこれに反対する意見として出ておるように、たとえば旗ざおというようなものまでも凶器と解釈されるおそれは十分にあると私は考えるのであります。
それから次は「兇器ヲ準備シ」とありますが、「準備シ」という概念も非常にばく然としておるように思うのであります。所持ではない、「準備」である。そして解釈を見ますと、その集合の場所に必ずしも凶器が存在していなくてもいい、他の場所に凶器が存在している、その場合でも「準備」に当る場合があるというように、こう言っておる。非常に広く解釈されるおそれがあるわけです。ですから、これもやはり一つの乱用の危険を持つ言葉であろうと思うのであります。
それからその次に、「準備アルコトヲ知テ集合シタ」知って集合したという言葉がまた非常に問題であろうと思うのであります。知るとか知らぬとかいうことは、人の内心の問題である。ですから、もしある人が検挙された場合は、お前は知っていただろうということで拷問を誘発する、強制を誘発するというような危険があるのであります。
こういうように、この二百八条ノ二の中心的な文句について、すべて非常にばく然としており、非常に乱用の危険がある。これは労働組合等で、おれたちに適用してくるのではなかろうか、暴力行為取締法の過去の例から見て、自分たちに適用されるのではないかと言って心配するのは、まことに無理もないこと、当然のことと私は第三者として見ておるのであります。
大体この二百八条ノ二は、暴行の予備ともいえるものであります。この暴行の予備ともいえる程度のものを強盗罪の予備と同じ二年以下の懲役に処するということはあまりにもひどくはなかろうか。その他の指導的の者は三年以下の懲役、強盗罪の予備よりもさらに重い。そういう重い刑罰をこの集合自体に課する必要があろうかということをまず私は疑問に感ずるのであります。ただ、どうしても、たとえば別府事件のようなものに対処するために、こういう条文が必要だとするのならば、私は先ほど申しました「兇器ヲ準備シ又ハ其準備アルコトヲ知テ集合シタル者」というところを、銃砲刀剣等を所持し、集合したる者について、その所持した者を処罰するという程度の修正をなすべきではなかろうか。まあその程度の修正をして下さるならば、やむを得ないものとして同意してよかろう、そういうように考えます。しかし、このままではとうてい賛成するわけにはいかないのであります。
次に、刑法二百六十三条の第二項、つまり私文書毀棄、器物損壊を非親告罪とする点であります。労働運動におきましては、器物損壊とか、私文書毀棄とかいうことはしばしば起るのであります。社長の塀にビラを張った。これは器物損壊だ、暴力行為取締法に違反するといって広島高裁はかって裁判しております。こういう場合、またあるいは、社長との団体交渉において、労働組合の代表者が激高して卓をたたく、灰ざらがこわれる、これまた器物損壊とせられるのであります。こういう場合に、果してこれを非親告罪とすべきかどうか、私は疑問に感じます。こういうものは非常に軽微な問題であります。こういう軽微な問題は、その処分を個人の自由な意思にまかそうという従来の立法趣旨に私は賛成であります。労働組合においてはいろいろ今後の問題もある、おれも悪かった、これは一つ内済にしようというようなときに、警察とか検察の方で、いやそうはいかぬ、これは取り上げてやるんだといって労使関係をさらに混乱させる、私はそういう行き方は賛成できない。やはり個人の意思にまかしていい程度のものは意思にまかすべきだ、そこまで官憲がのさばるべきでない、私はそういうように思います。
輪姦という問題は労働運動には関係ありません。しかし、ここにおいても官憲というものがだんだんとのさばってきておる権力思想というものを私はそこに感じる。そういう意味において、この私文書毀棄あるいは器物損壊を非親告罪とすることとともに、この輪姦の非親告罪とすることに反対するのあでります。
次に、刑訴二百十条第一項の緊急逮捕のことでありますが、私はこれは憲法違反である。これに関する最高裁の違反でないという判例も全くおざなりの、話にならない判例だと思っております。そういう意味から、これをさらに暴行・脅迫にまで拡張し、労働組合運動はすべて緊急逮捕の対象となるというような改正には反対なのでありますが、幸い衆議院においては削除されたそうでありますから、これ以上のことは申し上げません。
次に、刑法第百五条ノ二、お礼参りの改正点でありますが、これは労働運動には直接関係ないように見えるのでありますが、実際はそうでないのです。たとえば、労働関係の事件が裁判になった場合に、組合が組合員にほんとうのことを言えといって決議する、あるいはそういう申し合せをする。そういうことがこの条文に引っかからないだろうか。会社の人はこう言った、悪い意味でございますが、どうも偽証をするということがしばしばあるわけです。会社の証人が偽証をしておる。その場合にほんとうのことを言えと、あるいはあとで、お前偽証したじゃないかと言ってなじる。そういうことは往々にして労働運動にもあることであります。あるいは常にあるといってもいいくらいのことであります。ですから百五条ノ二も、どうも労働運動にも関係ありそうに思う。そしてこの百五条ノ二も脅迫に至らない面会強請あるいは強談威迫というものを処罰するというのでありますが、私はそこまで処罰というものの範囲を広げるべきかどうかということに疑問を感ずる。こういうようにだんだんと処罰の範囲を広げていくと、われわれの日常行動も処罰の対象にならないものはないというように狭められていく。狭められていくということは、同時に官僚のばっこになり、民主政治がこわれるもとになる。そういう意味において、私はこの百五条ノ二に対しても疑問に感ずるのであります。
それから証人尋問に関する点でありますが、これは先ほど植松圭太さんが申された点と私は同感なのでありますが、衆議院の修正案では、「弁護人の意見を聴き」となっておりますが、私は、これをさらに、弁護人の同意を要するというように持っていっていただかないと、どうも憲法違反の疑いがあると思うのであります。もちろんこれに関する最高裁なりあるいはその他の裁判例はたくさんあるのでありますが、裁判所は自分の都合のいいように判例を作るので、この点は裁判所の意見に従うべきではない。やはり国会が独自の立場から憲法違反かどうかということを考えるべきだろうと思います。そういう点において、私はこの規定を残すならば、弁護人の同意を要件とするというような規定にして残していただきたいと思うのであります。
次に、あっせん収賄罪の点でありますが、この問題は、私は特別に研究をしておりません。また、特別の経験があるというわけでもありませんので、この点に関する意見は御遠慮したいと思います。ただ、あっせん収賄罪を新しく設けることが、何らかの改善になるということは私もわかるのであります。しかし、このあっせん収賄罪が何らかの改善になるということと、他の暴力に関する立法が労働運動の弾圧に転化しやすいということと、はかりにかけてみた場合、いずれをとるかというときは、私はあっせん収賄罪はけっこうだけれども、もう一回国会を延ばして、そうしてこの際、暴力行為取締法とともに、つまり国会を通過させない、取りやめにする、この法律案を全部取りやめにするという考え方に賛成なのであります。
大体この程度にしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/5
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006・青山正一
○委員長(青山正一君) どうもありがとうございました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/6
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007・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、一橋大学教授植松正君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/7
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008・植松正
○参考人(植松正君) 刑法の一部改正法律案の方の、前の方から順次重点的に申し上げようと存じます。
まず、百五条ノ二という条文であります。すなわち刑事事件に関する強談威迫を取り締ろうとする規定でありますが、これは法務当局から出た資料を特に当委員会からちょうだいいたしまして、数字的な統計上の問題を見てみますと、やはり相当取締りの必要があるということをよく理解することができます。で、立法の必要があるものと考えます。ことに私の身近なものの経験から申しましても、著名な事件の鑑定人が、いろいろ脅迫とかあるいはこの種の行為を受けたということを聞知いたしておりますので、そういう面から考えましても立法の必要を感じます。構成要件の立て方としては、刑事被告事件の捜査、審判ということに限っておりますので、まずまず私は労働争議等に悪用される危険はあまり考えられないというふうに思いますので、この点の心配は、本条に関しては持っておりません。
その次に、第二といたしまして、百八十条の第二項の規定を新設することであります。すなわち、輪姦その他の行為につきまして、これを非親告罪にするという改正点であります。元来、親告罪というものを設けました理由は、大体二つに分けることができると思うのでありますが、その一つは言うまでもなく、訴追によりまして被害者がかえって迷惑をする、こういう場合、迷惑をするおそれがあるというときに被害者の意思を尊重しようという立法理由によるものであります。強姦罪等は、この理由によっておることは申すまでもありません。第二は、後に出て参ります器物損壊等に関する場合なんですが、これはまあ事犯が軽微であるとか、犯罪の性質上違法性があまり強くない、要するに、軽微な事犯だから被害者の意思に従ってそれを大いに尊重しようという考えによって親告罪としたものであると思います。こういう二種類を考えるときに、強姦罪等は第一の種類に属しますのですが、第一の種類、すなわち訴追により被害者が迷惑するかどうかという点を考慮するという点から申しますと、これは世人一般に権利意識というものがどの程度に高まってきておるかということに大いに関係があると思うのですが、これからの立法としては、漸次そういう種類の親告罪は減らして、いやしくも侵害を受けたならば法の保護を受け、そして同種の犯罪のなくなるように、いわゆる泣き寝入り的な行為はなくなる方向にもっていくのがいいのではないかと考えております。もとより、だからといって強姦罪全部について親告罪をなくしてしまうということは、現状においては行き過ぎでありますが、この法案にありますような場合を考慮に入れますと、親告罪の範囲をある程度狭めていくという立法の方向は正しいものを持っているように思います。これは申すまでもなく、強姦罪も致傷、致死等になれば、現在でも非親告罪になるのでありますから、その被害が相当大きくなって、被害者の意思というものよりも公安の維持の方により重きを置かなければならないという場合には、当然親告罪を親告罪でなくすという方向にいくべきだと思います。この意味では本条の立法において、大体において賛意を表していいものと思うのであります。
次に、大きな問題であるいわゆるあっせん収賄罪、法案の百九十七条ノ四という条文についてであります。これはもう非常に世上にいろいろ論議もされておることでありますので、私は多少違った面、今まであまり言わなかった面とか、そういうような点を考えてみて申し上げようと思うのですが、根本的に申せば、理想からははなはだ遠いということなんで、その意味では決してこの程度で満足すべき気持は持たないのであります。では、この規定を置いた方がいいであろうか、置かない方がかえっていいだろうかということが次に問題になると思うのですが、これは当局の説明によれば、といいますか、正式のところの説明ではないかもしれませんが、私が伝聞するところによれば、今後の立法上、もっとあっせん収賄罪を厳重に取り締る立法をする上の一つの橋頭堡になるのではなかろうか、こういうようなことが世上にいわれております。そういう役をするとすれば、まあこの程度でいくより仕方がないのかもしれない、この程度に私は結論的には考えております。こまかい点について、若干御参考になることを申し上げるといたしますと、根本的には、私は今回の法案のような法文よりは、昭和十六年第七十六帝国議会に提出された法律案の本条に相当する条文のような立法を非常に望んでおるのであります。この公務員がその地位を利用しというようなところに問題があるようですが、一応それを除きましてはほとんど無制限であります。改正刑法の仮案にあるのよりもこの昭和十六年の案の方がより厳格であるということになるでありましょう。その昭和十六年の案が、今まで出た案では一番いい、これに近いものを私としては望んでおるわけであります。それを念頭に置きまして、今回の法案の内容を少しく検討いたしてみますというと、これは世上一般にいわれておりますように、請託という点、これはもちろん不作為、なさしめざるという意味も含めて簡単に不正行為と私は申しておきますが、不正行為という点、それから第三に報酬という点、この三つの点に大きな穴があるといわれております。これはまことにその通りだと思うのですが、この法文そのものを見て、配付いただきました書類による説明とは違ったことを私は一つ感じますので、それを御参考に供したいのですが、それは請託の内容についてであります。それは立案当局の御意見として、私が配付書類から理解するところによりますと、請託の内容は、不正なことをしてくれということを必要としないのだ、そうでない場合でもいいという御趣旨のように理解しておりますが、どうも私がこの条文を読みますと、そういうふうに読めない。私のように感ずる人もたくさんおるであろう。してみますと、将来これが法律となりました場合には、法律は立案者と無関係に独走いたします。独立の生きものとして解釈されることになりますので、私のような解釈も出てきはしないか、出てきはしないかでなくて、私とすれば、私だけの個人の意見とすれば、そういう解釈になるのだと言いたくなるのです。これはもちろん反対の御意見もあろうと思うのですが、私の読み方というのはこんなふうに読むのですが、この「公務員請託ヲ受ケ」というのが結局「不正ノ行為ヲ為サシメ又ハ相当ノ行為ヲ為サザラシム可ク斡旋ヲ為スコト」こういうふうにひっかかってくるので、現行法の百九十七条の後段にあるような、単純な場合とは違って、請託の内容が当然その「行為ヲ為サザラシム可ク」というのに関係してくる、そっちからはね返って影響を受けてくると思われる。従って、不正行為をさせるような請託がなければ本条の罪が成立しないと、私はまあ読みたくなるわけなのです。そこで、おそらく従来、ここに配付の判例にもありますが、最高裁判所の判例あるいは大審院だったかと思いますが、とにかくわが国の最高裁判所の判例の示すところでは、これは現行法の百九十七条の一項の後段というものの解釈でありますから、あとに不正行為をさせるというような要件がついておりません関係上、その請託というのは別段特別な制限はない、こういうことに判例はなっておる、それでけっこうだと思うのですが、この新しい法案の条文では、云々の「行為ヲ為サザラシム可ク」あるいは「幹旋」をするというようにかかって参りますので、請託ということの内容がおのずから制限を受けて、何か不正なことをやってくれという請託でなければならないようにどうしても読める。その結果は、配付いただいた書類の説明よりは、もっと制限的に、不正の行為をしてくれという請託がなければ成立しないということに私の解釈ではなってくるように思う。その点御研究をいただきたいと思う。それでいいものかどうか。私は、根本的には、立案当局のような解釈としても理想ではないので、もっと厳重に罰したいという考えだった、おそらく立案当局も厳重に罰したいけれども、いろいろなことを考慮してこうなすったことだと思いますが、そういうわけでありますから、あまり制限されたくない、しかるに私のような読み方をすると、大へん百九十七条ノ四が制限的になって参りまして、ますますざるの穴が大きくなるということになりやしないかと、こう思うのであります。でこの請託が全部かかってくるので、請託だけがあるというならそれほど重大なことではないのですが、不正行為、報酬とか、そういう点にかかってくるというところに問題があるように思うのであります。また、報酬というようなことも、これも一応いろいろな機会に御説明を伺ったところでは、どうも正当な実費までももらえないというのでは困るというのが、かような文言を置いた理由のように承知しております。御承知のごとく、現在の刑法百九十七条の、通常のごく一般的な収賄罪におきましては、何らの要件もおかれていないわけであります。もとよりあっせん収賄は一般の収賄よりは特別の場合であるから、何かもう少し条件をつけて、罰する場合を狭くしようというお考えが出てくることもよくわかるのでありますけれども、しかしながら、あまり制限をつけると取締りの実効が上らないということになるわけであります。で、むしろ昭和十六年の案程度がいいというのは、現在の一般の収賄罪には何も制限はつけていない、つまり報酬としてもらうというようなことは要件ではないわけであります。どんな実質のものであっても、わいろといえる程度のものであってはいけない、これが一般の収賄罪についての規定であります。そういうふうにしておくことが、訴訟の上の立証上容易であるばかりでなく、取締りの上で非常に明瞭であります。また、法を守る上からいっても明瞭であります。報酬以外の何か実費ならもらってもいいということが、私は政治の実際行動にうといのでよくわかりませんが、そういうことならもらってもいいとすることが大へん弊害を招くのではないかと思うので、そういう制限が何もないように、要するに、公務員たるものがその廉潔性を保持していくためには、わいろのような利益を受けてはならないと、こういう思想を端的に現わす規定であることの方が望ましい、こういうことは言えると思うのであります。私としてはさような感じを抱いておるわけであります。しかし、結論的には、いわゆるこれが橋頭堡になるようであれば、まあなきにまさるとして置くこともよいと思うが、しかし、果してなきにまさるかということについては、私も自信はございません。
もう一つ、あっせん収賄に関しては、諸国の立法例におきましては、そう厳重に罰しておりませんし、収賄罪全体として、わが国の規定は諸外国よりかなり厳重であります。こんなに厳重なんだから、もうこれ以上厳重にする必要はないだろうという御意見もあろうかと思うのですが、立法というものは、その国の社会生活の実情というものに合うように行わなければならないものであります。たとえば、大へん妙な例でありますが、近親相姦であるとか、動物に対する姦淫的行為であるとかいうようなものは、わが国ではずっと以前から処罰しておりませんが、これを罰している立法例は諸国に多い。それは日本ではそういうものを罰しなくとも、そういう心配がないという実情にあるということからいって、決して諸外国が立法しておるから立法すべきだとは考えられないのであります。反対に収賄罪のごときは、とかく東洋の諸国におきましては、情実にからんだ行為が多いために、わが国について申せば、浪花節的という言葉がよく言われますが、いわゆる義理人情、ごく低い意味の義理人情あるいは親分、顔といったものがものを言う生活環境にありますので、かようなところでは、わいろ罪のごときも相当厳重に取り締る立法を置くことが社会の実情に沿う、こういう意味において、諸外国の立法例に比べれば、現在においてすら相当厳重でありますが、もっと厳重にすることがよりよいものと考えます。
次に、二百八条ノ二、持凶器集合罪というべき条文でありますが、これにつきましては、私として大体賛成であります。ただいま森長さんがおっしゃったような労働運動についての御異論も伺ってみればしごくごもっともと思うのですが、労働運動等につきましても、これはつまりいやしくも暴力を用いることは許さぬということが根本原則にあるという考えから申しますと、まあそこには限度があるのであって、この程度の立法をすることを、根本的な思想としては私は賛成であります。これに自由が列挙されていない、法益として生命、身体、財産というのがあって、自由があがっていない、たとえば逮捕監禁というようなことは、どうも普通は身体に対する罪とは言えないので、自由に対する罪でありますから、それは除かれる御趣旨であろうかと思うのですが、私はむしろ自由なども入れた方がいいのじゃないか。そういたしますと、それこそ労働運動にからんで困るのじゃないかということが反対論として考えられるのですが、しかし、労働争議におきまして逮捕監禁に近いような、あるいは構成要件としてはぴったりそれに当てはまるような行為が、これはもう労働争議そのものの性質上違法でも何でもない、当然に起ってくるということも私よくわかります。わかりますが、それはそういう程度のものであれば、いわゆる正当行為としてもっと大きな理論で許されるわけでありますから、理論的には、自由というものをこれに加えましても心配はないと考えます。ただ、運用の上でどうも不当な運用が行われるのじゃないかという御心配があるならば、それはまた格別でありますが、法律家としてのただ理論からいえば自由を入れたい、こう考えるわけであります。
それから同条の第二項でありますが、第二項につきましては……第二項に入ります前に、ちょっと申しますと、第一項のさっき凶器の問題について森長さんのおっしゃったことですが、これはごもっともなんで、どうも凶器の観念がばく然としている、あまり広く解釈されると困るということは私も感じます。私は通常凶器を用法上の凶器というのと、性質上の凶器というふうに分けて考えておりますが、性質上の凶器、人を殺傷するために作られたものというようなものは当然これに入れるべきだと思うのですが、用法上の凶器にまで行くということになると、手ぬぐい一本も人の首をくくれるわけですし、さっきおっしゃったステッキなども問題になるわけですから、一体そこまでこれを厳重に持っていく必要があるだろうかということについて疑問を持ちますので若干しぼりをかけたい、こういう感じを抱きます。
さて第二項につきまして、これはよけいな疑問かもしれないのですが、ちょっと字句の上で気になりますのは、第二項の「人ヲ集合セシメタル者」という言葉なんですが、御趣旨はよくわかるのですが、この言葉だけにこだわって考えてみますと、たとえばこういう行為を、つまり第一項のような行為を教唆するというのはやはり集合せしめるということになるのじゃないか。そうすると、教唆の中に、たとえば親分が子分に集まれと命じたような教唆であれば、それは刑を加重するという事由が相当にあるのですが、本来教唆というものは、一般的には、刑法では正犯に準ずとはなっておりますけれども、それは法定刑が準ずるというだけのことであって、実際の裁判では、多くの場合、教唆は実行よりも軽い情状であると考えられておるわけであります。で、その方が重くなるということになると少し困りはしないか、「集合セシメタル」という言葉にはどうもそれまで入れて読むことも可能であるという点に多少こだわりを感じます。もう少し進めば、幇助でも、「セシメル」ということに当ると言えないこともなさそうな感じもしてくるというような点で、何かこの「セシメタル」という言葉が刑の重いこととからんで考えますと、少し気になる言葉であるということを申し上げたいと思います。
それからその次の、二百六十三条の次に一項を加えるという、つまり私文書毀棄、器物損壊等が親告罪でなくなるように改正しようということでありますが、これは先ほど親告罪の二種類ということを申し上げましたのですが、その第二の種類、つまり被害が軽微である、犯罪の性質上違法性があまり強くない、こういう種類の行為であるがために親告罪になっている場合だと考えます。従って、このような場合には、しいてこれを非親告罪にすることには必ずしも賛成できない。被害者の意思ということを相当尊重する立法の方が、私としては原則的には望ましいと思うのであります。しかしながら、当局の御説明にあるようないろいろな事案を考慮に入れますと、これを非親告罪にしてもっと取り締ろうというお考えもしごくもっともかと存じますので、必ずしも、どうしても反対だというほどではない、まあ割り切っていえばどちらでもよかろうということになりましょうか、その程度に考えるものであります。
次に、刑事訴訟法の問題でありますが、すでに時間を超過しておりますしいたしますので、ごく簡単に一言だけ申し上げますが、これにつきましては、私は大体判例の考えておるような考え方で考えますので、今回の立案された法案は憲法上の問題は大体たくみに避けていると考えていいんじゃないか、従って、この通りの改正を行うことに賛成していいものと思うのであります。
超過いたしましたことをおわびいたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/8
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009・青山正一
○委員長(青山正一君) これにて午前の参考人の方々の御意見は全部終了いたしました。御質疑のある方は、順次御発言願いたいと存じます。
なお、政府より唐澤法務大臣、政府委員として竹内刑事局長、説明員として神谷刑事局参事官、辻刑事局参事官、この四角の方が御出席になっておられます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/9
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010・亀田得治
○亀田得治君 最初に、植松教授にお伺いいたします。
私もこのあっせん収賄罪に関する条文のいわゆる請託という点について、非常に疑問を持っておるわけです。で先ほど御説明がありましたように、提案者の方では、判例等を引用されるわけですが、それは現行法に関する判例であるから、単にものを頼むということでいいのだというふうなことが出るのであって、ここでこういうふうに職務上不正の行為というしぼりをかけてきた場合には、当然請託というものは、そういう内容のものであるべきだと、そのことがいい悪いは別として、法文上はどうしてもそういうふうに私は感じておるのです。しかし、そういうふうになりますと、請託自体がなかなか立証困難という問題にぶち当るわけですが、これは参議院の法務委員会としては、これから十分そういう点の検討もしなければならないわけですが、請託をこのまま条文では、植松さんが先ほどおっしゃったような意味になると、そうでなく、政府側の説明のような意味にしたいという場合には、この点をどう修正したらいいか、そういう点についてのまあ一つのきっちりとした条文でなくてもいいのですが、何か考え等がありましたらお聞かせ願いたいと思います。
それからもう一点は、昭和十六年の法案等では、例の地位を利用してということだけがしぼりであった、あとは何もない。私も作るのであればそれでいいと思う一人でありますが、今回はいろいろな事情でこういう原案が出ておりますが、この原案で行きますと、文字通りこの文章をたどって行きますと、結局地位を利用しない場合ですね。公務員として行動しない場合でも、一応百九十七条ノ四に該当する、幾ら読んでもそういうふうに私はとれるのですが、公務員の身分のある人が、こういう行動をとった場合には処罰すると、地位を利用しと書かなくても、最小限度たとえば公務員としてというふうな文字でも入っておれば、これははっきりしてきますが、そうでなければ、どういう資格で行動いたしましても、公務員であるものが、こういうことをやれば全部一応引っかかる。それが引っかからないように解釈をするためには、たとえば、刑法三十五条の違法性阻却の問題、たとえば弁護士、会計士といったような場合には、そういうものを持ち出してくると、何か別個なことでそれは救われるのであって、一応この条文では非常な疑義があるというふうに私は解釈しておるのです。そういう公務員としてとか、あるいは地位を利用していたとかというそういうしぼりをこの上にさらに置くことがいいか悪いか、これは別個の問題として、法案自体としては、その点で非常に疑義を残しておるのではないか、こういうふうに感じておるのですが、その点、先ほどお触れになりませんでしたが、一つ御見解を御参考にお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/10
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011・植松正
○参考人(植松正君) 私は今の「公務員請託ヲ受ケ」をどう直したらいいかというのは、後段がありますと、ちょっと直し方を今まで用意して考えておりませんので、この場で話を伺った限りでは、急にはどう直したらいいかということを思いつきません。
それから公務員としてと、こういうふうにいたしますと、どうしても公務員がその職務権限内で行うように読めるようになりそうに思うのでこれがどうも不適当ではないかと思うのです。どうしたらいいかということにつきましては、なお十分時間をかけて考えてみないと、今にわかに解答いたしかねます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/11
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012・亀田得治
○亀田得治君 どういうふうに直すかは別といたしまして、この公務員としてとか、地位を利用してとかいう字句がありませんかと、私が言ったように疑問が出てくる、この点はどういうふうにお考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/12
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013・植松正
○参考人(植松正君) それは確かにおっしゃるように疑問があると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/13
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014・大川光三
○大川光三君 これは関連いたしまして、植松先生にお伺いをいたしますが、ただいま亀田委員から、公務員としてという文字を入れることによって地位利用という点を、多少表面化しているというような御意見であったと思うのでありますが、多少私その点につきましては、「公務員請託ヲ受ケ」というだけでも、その「公務員」とこう呼びかけております以上、そこには当然地位利用ということが内在しているのではないか、かように考えるのですがいかがでしょうか。あるいは亀田委員の言われるように、「して」とするか、その他の表現を用いるか、用いなくても「公務員」こう呼びかければ特別そこに地位利用ということは内面的にひそんでいるのではないか、こう考えるのですが、いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/14
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015・植松正
○参考人(植松正君) ただいまの御疑問は、結局、公務員がその地位を利用してという文句はなくても、あったと同じ解釈になるということであるとしますと、必ずしもそうはならないのじゃないか、むしろ公務員たるものは他の公務員をしてこれこれのことをさせてはならぬということになって参りまして、法文の解釈としては、「地位ヲ利用シ」というのはなくても同じだということにはならないのじゃないくと私には感ぜられます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/15
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016・大川光三
○大川光三君 もう一つ簡単に伺いますが、結局今度のあっせん収賄罪は請託、不正行為、報酬という三つでしぼりをかけているという先生のお説でございますが、それではもしこの構成要件があまりにも厳格過ぎるということで、昭和十六年案のように地位利用ということを表に出した場合、果してこの法律の取扱いはどちらがはっきりしているだろうか、地位利用ということにもいろいろ私は立証上の困難が伴うと思うのでありまして、たとえば、国会議員であり、かつて官吏であった人が、昔の官吏のよしみで官公庁の公務員に物を頼むという場合には、これは国会議員という地位を利用するのじゃなしに、昔のよしみということで物を頼んでいる、あるいは議員である人が自分の親戚である諸官庁の公務員に物を頼むという場合には、たまたまその人が議員であっても、それは議員の地位を利用するんじゃなしに、親族関係を利用するのだというような場合もあり得ると思う。そこで、昭和十六年案のように、地位利用ということをはっきり表に出しますと、かえってまた、立証上の困難が伴い、むしろ請託ということでしぼった方が私ははっきりするのじゃないかという感じがあるのでございますが、いかがでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/16
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017・植松正
○参考人(植松正君) 今、地位利用になるかならないかという区別すべきケースとしておあげになった、前の古い公務員としての関係とか、あるいは親族とかというものは、もとよりその方が同時に国会議員であっても、地位利用ということにはならないものと思います。で、地位利用という法文にいたしましても、それはもちろん疑問があるし、その言葉があいまいだというので問題になっているのですから、地位利用という言葉そのままでいいかどうかなお検討を要するでございましょうが、今おっしゃるような疑問は、一応地位利用という言葉を置けば解決されているのじゃないか。ただ国会議員としての地位を利用しているが、親族関係も利用しているという二重の場合もあろうと思います。その点、不明朗な場合もきっと起るだろうと思いますが、いずれか主たるものに割り切れれば、そのときははっきり意味を汲み取ることができると思うのであります。「請託ヲ受ケ」ということになりますと、これに反していわゆる正直者が損をするといったようなことも問題になるのじゃないか。私は「請託ヲ受ケ」だけで、下の方が要件がないならば、まあ「請託」はあってもこれはかまわないじゃないかと思っておるのでありますが、下の方のほかの要件と組み合せますと、大へんこれがあるがために穴が大きくなる、こう思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/17
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018・亀田得治
○亀田得治君 暴力関係の規定ですが、提案者の方では、これは暴力団を対象にしておるものである、まあざっくばらんにいってそういう説明が何回も繰り返されております。そこで、私の考えではこう思うのですが、そういう考え方が間違いかどうかお答え願いたいわけですが、もしそういうことならば、この際、暴力取締法というふうな特別法規を作ってもらいたい。あるいはそれは現在の暴力行為取締法の修正としてやってもいいのですが、それをも含めてむしろ暴力団取締法というものをはっきり出してもらう。そしてその法律の中では、まず、犯罪の主体である暴力団あるいはそれに暴力団とまではいかない若干類似のものもあるかもしれませんが、そういうものについての性格なり、要件というものははっきり書く。それから暴力団が普通使うところの手段方法というものは大体予定されておるわけですから、そういうことも具体的に、できれば例示的に書いていく。多少法文の体裁が悪くなっても、そういうふうなものをむしろつくるべきじゃないか。そうして私は、その特別法では相当刑などは重いものであってもいいと思う。そういうふうにすれば、法文自体の内容からして、労働運動等に悪用されるといったような心配も解消するわけですが、そういう体裁ですね、その考え方などについての一つお考えを聞きたいのです。これは森長さんと、それからおついでに植松さんの方も若干御見解をお聞かせ願えたらけっこうだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/18
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019・森長英三郎
○参考人(森長英三郎君) ただいまの御意見に対しては、私は賛成であります。ただ、暴力団の定義というものを非常に乱用されないように、厳密に書かなければならないと思います。たとえば、江木法相が第五十一帝国議会で、暴力行為取締法について、こういうものに適用するのだと言われておる、そういうのは若干参考になると思います。たとえば、そこで言われておることは、繰り返して申しますと、暴行・脅迫をその団員がなすことを常習とするような団体と、こういうようなことを言われておる。まあここまで言われると、労働運動なんかには適用されないのではないか。まあ昔、行政執行法というのがあって、ずいぶん乱用されたことがありますが、今日では、その程度までに乱用されることもないのではなかろうかと、若干疑義はありますけれども、考える次第であります。ですから、団体の定義さえはっきりするならば、そういう立法に対して私は賛成であります。ただ、前回申し上げなかったのでありますが、私も暴力行為というものを憎むことにおいて人後に落ちないのであります。ただ、労働運動なんかにおいて派生した暴力行為——そういうものを普通の刑法犯以上に取り締る必要があろうか。この改正案について言えば、従来の旧刑法以上に重く、広く処罰する必要があろうか、ということを考えておるものであるということをつけ加えたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/19
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020・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 私は、先ほど森長さんの御意見もありましたが、ちょっと考えが違っております。また、質問の御趣旨で、この暴力団という言葉を入れて特別法にしたらどうか——まあ特別法ということは承わりませんでしたが、暴力団という言葉を入れたらどうかということでありますが、これは暴力団という何も特殊な団体があるわけではないのでありますから、それではほとんど取締りということはできなくなると思います。私は要するに、例をあげますれば、普通暴力団ではなくても、たとえば博徒の団体であるとか、その他密輸団なんかで、密告した者に対して復讐をするとかというような、そういう場合にもこれは適用していいのでありますから、私はやはりこの改正案の通りでけっこうだと思うのであります。
それからこの規定が、必ずしもこの労働争議の場合には適用してはいけないということも私は言えないと思うのであります。幾ら労働争議でありましても、労働争議の目的を越えて、凶器を携えて大ぜい集まっておるということになりますれば、その社会の人心を非常に害するのであります。のみならず、またこういうことによって非常に被害の大きい結果を予防する意味におきましても、私はこの法案は活用されていいと思うのであります。必ずしも労働運動だから何をしてもいいというわけではないのでありますから、やはりこの法文に当れば、私は十分これを活用してさしつかえないという考えを持っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/20
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021・亀田得治
○亀田得治君 植松教授の御見解はどうですか、その点について。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/21
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022・植松正
○参考人(植松正君) 特別法に移すということは、ただいまの森長さんの御意見にもございましたが、二百八条ノ二につきましては、あるいはその方が適切かと思います。そして特別法に移すならば、今の御意見のように、定義を掲げることも体裁上おかしくなる。そういう意味では亀田さんのおっしゃるような立法を行うことも大へんいいのじゃないかと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/22
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023・亀田得治
○亀田得治君 時間がありませんからもう一点お聞きしますが、現行法でですね、いわゆる私どもが聞いておる、あるいは実際にぶつかる暴力団の取締り、これに対して非常に支障がある、法律的に。私はあまりそういうふうに考えていないんです。それでそれよりも、実際はこの暴力、まあ植松弁護士からの暴力団の範囲というものははなはだ不明確だとおっしゃったのだが、まあそういう点もあります。ありますが、一応考えられるものがあるわけですね。そういう諸君との末端の警察との結びつきですね、こういうものがやっぱり相当あるわけです。相当非難が高まってくるとほっておけぬからというて、ときどきまあ手入れをする。しかし、していても平生からのそういうつながり等がある。そのために徹底的なことができない。私はこれが一番のガンだと思っているんです。そういう点さえはっきり警察等が態度をして、そうして現在の刑法なりあるいは暴力行為取締法なりそのほかまあ銃砲等についてもいろいろな特別立法がある。そういうものをほんとうに活用していけば、十分私は間に合うと思っているんですが、実際はそういう結びつき、これは四、五日前にも、たとえば大阪の警察の監察官をしておる人がばくちを見のがしておったということで即日逮捕された。これはまあちょっとたくさんの中の一例ですね、そういうことは。私はその点が、むしろ現状としては一番大きな問題ではないか。そういうことをすっきりやって、なおかつ、いろいろりっぱな警察官がやってみたけれども、法律的にこことここが足らないということになれば、これは私ども立法もけっこうだと思うのですが、その辺に、それはこの個々の条文のこまかい点は別として、基本的に非常に大きな疑問を持っているんです。まあ森長さんと植松教授の御見解を一つ最後にお聞きしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/23
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024・森長英三郎
○参考人(森長英三郎君) 暴力団と警察との結びつきについては私も聞いております。しかし、具体的に調査をしておりませんので、ここで確定的には申し上げません。しかしただいま亀田委員の申されたように、警察の方で取締りをサボっておる。そしていろいろのその暴力事件を起しておるのではないかということは、私も同様に考えるのであります。ただ、暴力団の中にも大きいのと小さいのとありまして、大きいほど結びつきが強いように聞いております。ですから、非常に小さい小物ですね、そういうものを取り締るための法律のような感じが、この法律案を見てするわけですね。まあそういうように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/24
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025・植松正
○参考人(植松正君) その警察と暴力団との特別な結びつきがどの程度にあるのかということは、私はよく事情を存じません。あるものも想像の上ではあるだろうと思いますし、そういう関係なく、きれいにやっているのもあるんだろうと想像いたすのであります。ただ、警察官その他の公務員が取締りを十分したいと思う場合に、現行法でも何とか運用できるのかもしれないのですが、はっきりした法律の裏ずけがないと、非常に行動しにくいという場合も相当あるだろうと思うのであります。その意味では、この種の立法が存在することによって、一そう活発に活動できるということになるんじゃないかと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/25
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026・大川光三
○大川光三君 植松弁護士さんに伺いますが、先ほどの御説明の中で、亀田委員の御質問に対して、場合によっては、労働運動に持凶器集合罪等を適用してもいいのだ、こういうふうに割り切ったお考えを拝しました。私ども結論的にはそうなると思いますけれども、表からこの持凶器集合罪が労働運動に適用してもいいということには多少疑問を持つのでありまして、むしろ一体、大衆運動または労働運動というものがこの法律の条文にいうておりまするように、他人の生命、身体または財産に対して害を加える目的で集合するというときにはもはや労働運動じゃないのです、労働運動を逸脱したものであって、それは正常なる労働運動とは私は認められぬとかように思う。また、いわゆる凶器を準備する労働運動というものが一体あるだろうか、大衆運動というものがあるだろうか。もしそれは凶器を利用したり、人の生命、身体、財産に危害を加えるという目的をもって集まるということならば大衆運動にあらず、労働運動にあらず、その意味からこの法規は適用されてしかるべきだと私は考えておるのでありますが、その点に関する植松弁護士さんにお考えを伺っておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/26
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027・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 私も同様な意見を持っております。労働運動と申しましても、正しい労働運動ならば何も凶器まで持って集まる必要はない。従って、労働運動の名前を持っておりましても、凶器を持って集まり、しかもそれが他人の生命、身体、財産に害を与える目的であるということになれば、形は労働運動でも、私はやはりこの法案によって取り締ってけっこうだと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/27
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028・棚橋小虎
○棚橋小虎君 植松参考人に、あっせん収賄罪のことについてお伺いしたいのでありますが、御両所ともこのあっせん収賄罪は非常に不満足なものであるけれども、将来の橋頭堡としてこの際認めていきたい、こういうふうな御意見でありましたが、その点は私も同じ考えを持っておるわけであります。ただしかし、それにしましても、この原案というものはあまりにお粗末で穴が多過ぎる、こう思うのでありまして、これをどういうふうにしていくならば幾らかでも有効な、また、官吏の、公務員の純潔性、また、公務の執行の公正ということを担保することができるかということを考えまするときに、ここに一つ「請託ヲ受ケ」ということが構成要件になっておるようでありまするけれども、もし一人の公務員が他の公務員に対して職務上不正な行為をなさしめまた相当な行為をなさざらしむべくあっせんをして金をもらったけれども、それに対しては請託がなかったあるいは請託を立証することができないというような場合には、みなこういうものは罪にならぬことになってしまうのでありますが、この「請託ヲ受ケ」ということが私は非常に問題があると思うのですが、先ほども植松教授のお話では、この条文からいうと、請託の内容というものは不正の行為をなさしめまたは相当な行為をなさざらしめないということをやはりある程度まで内容にしていなければならぬだろうというようなお話もあったのでありますが、私もそう思う。その際、「請託ヲ受ケ」ということを削ってしまえば、公務員がほかの公務員に対して職務上不正な行為をなさしたり、あるいは相当な行為をなさしめない、そうして金をもらったということになれば、これはみな有罪になるわけですが、こういう点について「請託ヲ受ケ」ということは、これはこの条文では一番の大きな穴であると私は考えておりますが、その点についてどうお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/28
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029・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 私は先ほども申し上げましたが、理想論から言いますれば、公務員が職務行為全般にわたってしたいのであります。しかし、これでは、従来りっぱな法案が出ましても通過しないので、通過させるためにこれは作られたものでありまして、漸進主義をとったものでありまして、この点においてこの規定を、今度の法案を是認するとしますれば、「請託ヲ受ケ」ということが私はあってけっこうだと思うのです。それは、普通のこういうあっせん行為は、請託なくしてするということはきわめてまれなのであります。よけいなおせっかいをするということはほとんどないといっていいくらいなものであります。そういう意味におきまして、私は、この「請託ヲ受ケ」ということは、このような限定した公務員の行為にすることは、一向あって差しつかえないと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/29
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030・植松正
○参考人(植松正君) 私は、根本的にこの要件をいろいろつけない方に賛成だということを最初に申しました意味から申しましても、「請託ヲ受ケ」を取るという御意見にはもちろん賛成であります。そうしてただいま植松弁護士からのお話を参考いたしますと、請託のないようなあっせん収賄というものは事実上きわめてまれであるということであります。私もおそらくそうだろうと、事情にうといのですが想像いたします。そうであるとすれば、実際は請託がありながら、立証できないために無罪になるということが非常に多くなるのではないか。それがいわゆる正直者が損をするというケースだと思うのです。その意味では、結論は今植松弁護士のおっしゃったのとは全然逆になりますが、かえって「請託ヲ受ケ」というのを取った方がいい。置いておくと、実際は請託を受けていながら、それが立証できないために無罪になるということならばなおさら取るべきだ、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/30
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031・棚橋小虎
○棚橋小虎君 植松弁護士にもう一ぺんお伺いしたいのですが、これは議論ではありませんけれども、実際問題として請託を受けなければ、こういうあっせんをするということはおそらくないという御意見だったと思いますが、しかし、世の中はそうではないので、悪質な者ほど請託がなくても、人のところに事件が起っているということを知ると、そうするとそこへ飛び込んでいって、こっちの方からいろいろあっせんをやって、そうして報酬を要求する、こういうことは世間に悪い者ほどあるのです。そういう者が皆これによってのがれてしまうのでありますが、この点はいかがお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/31
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032・植松圭太
○参考人(植松圭太君) そういうことがなきにしもあらずでございますが、しかし、公務員である限りは、そう私は極端な例は少いのじゃないかと思うのであります。理想からいいますれば、先ほど申し上げましたように、公務員の全職務行為についてするということが理想でありますけれども、制限するからには、私はやはり請託という行為は、文字がありましても結局運用の面においては大した差異はない、先ほど、ただ捜査官が請託行為があるかどうか、それがないがゆえに犯罪が成立しないということの御意見がありましたが、それも確かにその通りでございます。しかしながら、実際におきましては、大部分がこの請託というものが結果には出てくるのが多いのであります。この規定が残らず公務員の職務行為を取り締るというのならば、これを除いてもけっこうですが、私はこの請託ということがありましても、まあ先ほど申し上げましたように、なきにまさるという意味で私は賛成した次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/32
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033・棚橋小虎
○棚橋小虎君 それはそれだけにしておきまして、もう一つお尋ねをしたいと思うことは、やはり両植松参考人にお伺いしますが、弁護士とか計理士とかいうものが公務員を兼ねておる場合に、これが弁護士として人に依頼を受ける、請託を受けるということになります。また、計理士として人に請託をされて、そうして他の公務員に対してあっせんをした、こういった場合には、これは正当の業務としてやったことなのでございますが、これを違法性を阻却することになりますか、どうか。この点をちょっとお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/33
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034・植松圭太
○参考人(植松圭太君) それは今の御質問の趣旨は、結論的にはその地位を利用ということになるか、ならぬかということに実質的にはなるのでありまして、この法案には、地位を利用ということはありませんが、しかしながら、兼ねておりまして、それが公務員ということを自覚してやりますれば、かりに弁護士でありましても、あるいは計理士でありましても、やはりこの法案に触れるというように私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/34
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035・植松正
○参考人(植松正君) 公務員たる資格に無関係であれば、本条にいうところの「公務員請託ヲ受ケ」という公務員というのにはならないと思います。で、先ほど、前に御質問のありました地位を利用しというのがあるのと同じかという点につきましては、これは違うと思うのですが、特に地位を利用しませんでも、公務員であれば、公務員たる資格に関係しておる限り本条に当る。しかし、今の設例のように、公務員たる資格に何ら関係のない別個の行為ということになれば、刑法のいわゆる正当行為の理論を待つまでもなく、この本条の構成要件に当らないものだろうと私は考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/35
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036・棚橋小虎
○棚橋小虎君 もう一つお尋ねしたいと思いますが、現在の収賄罪には、一方では第三者供賄罪というものがあるわけでありますが、あっせん収賄罪には、第三者供賄罪というものはない。そうしますというと、このあっせん収賄罪のほんとうの目的を達するには、非常に大きなこれが抜け道になっているだろうと思いますが、第三者供賄罪というものについては、どういうふうにお考えになっておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/36
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037・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 第三者供賄の規定はむろんあった方がいいのでありまするが、しかし、先ほども申し上げましたように、今回の法案は内容をきわめて限定しておるのであります。まあ同じことを申し上げますが、なきにまさるという意味で私は賛成したのでありますが、第三者供賄というものは、まあ普通の公務員ではきわめて少いのであります。ただ、従来の事例からしますると、まあ議員にすれば国会、地方議会の議員が自分で金をもらわないで、自分の選挙区の学校に寄付さすというようなことがあるのでありまするが、このような場合、第三者供賄の規定があれば取り締れるということにはなります。その結果は、議員が自分が今度選挙に立つ場合に非常に有利になるというような場合を取り締り得るのでありますから、それはあればけっこうでありまするが、ただ、そういうことはきわめて少いのであるから、その規定を設けるほどならば、むしろ公務員の職務行為全般にわたってあっせん収賄罪を実施さす、そういう方がいいと私は思うのであります。ただ、今申し上げましたことは、いわゆる理想案でありまして、むろん理想案としましては、第三者収賄の規定も必要だということに考えるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/37
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038・植松正
○参考人(植松正君) 私の意見も今の御意見とあまり違いはございません。第三者にわいろを供する罪を罰せないというと、これが大へん大きな抜け穴になるとすれば、もちろんこれをふさぐのが正しい、ふさぐ方がいいと考えます。しかしながら、現在の情勢上、今度の法案程度のことさえなかなか立案が困難であり、提案することも困難であったということをいろいろ仄聞しておりますので、とてもそこまで考える余地がないだろうと、こういう意味において、そのことはあまり問題にしなかったのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/38
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039・棚橋小虎
○棚橋小虎君 森長さんに一つお伺いしたいのでありますが、器物損壊罪は、これを親告罪からはずすということは賛成できないという御意見でありまして、これは私は同感いたしておるわけであります。ところが、ちょっと考えますと、器物損壊というのはとにかく他人の財物を毀損することでありますからして、ちょうど窃盗などと同じで、やっぱり他人の財物に損害を与えることになるわけです。窃盗は親告罪でないから、すぐに検挙ができるわけでありますが、やはりそれと同じく器物損壊罪も親告罪でなくてもよさそうに思える。ところが、従来この器物損壊罪というものは親告罪として規定されておって、たくさんの立法例でもまた親告罪となっておるものが多いのでありますが、それには何か器物損壊罪を親告罪にするのが適当であるというような相当の理由があるんじゃないかと、こう私は考えますが、そういう点をお調べになったことがございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/39
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040・森長英三郎
○参考人(森長英三郎君) 今の御質問の点は私もよく研究しておりません。むしろ植松教授の方が研究されておると思います。ただ従来、これに対する解説等を見ると、すべて軽微だということで片づけておるわけです。器物の中にも非常に値の高いものもあるだろうし、また、灰ざらのごとき小さなものもあると思います。しかし、いずれにしても、建物よりははるかに軽微である。そういうものをこわしたからといって、一々警察が踏み込むことはよろしくない。個人の自由の意思にまかしておいて、それが民主主義社会における私生活をかえって保護する面ではないだろうかという点に、これを親告罪とした理由があろうと思います。その理由は私はもっともだと思う。そう考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/40
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041・棚橋小虎
○棚橋小虎君 植松先生にその点何かお考えがありましたらお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/41
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042・植松正
○参考人(植松正君) どうも特別の研究をしたということもございませんが、やはり被害が軽微であるということが、これを親告罪にした主要な理由だと思います。それはいろいろな形態があります。単なる器物損壊でありましても、その数が多くなれば決して軽微とは言えないわけですが、一応刑法として考えておりますのは、個人の法益に対する罪であるという面から考えておりますので、まあ多くの場合、そう大きな被害がない。ほんとうに大きい被害があった場合には、その被害者が告訴すればこれを保護するという程度でいいんではないか。今例にあがりました灰ざらをこわしたという程度なら、相手方のやりようによっては何も告訴はしない、こういうことになって、それでちょうどしいのではないかというのが、この種の犯罪が親告罪になっている理由だと思います。ことに現行法では、暴行罪が親告罪でなくなったわけでありますけれども、これは御承知のように、戦前の改正前におきましては、これは親告罪であった暴行罪とのつり合いから考えますと、暴行よりはずっと軽い情状のものであります。器物に対するのですから……。この意味でこれを非親告罪にしておいたということには、暴行罪とのつり合いからいっても当然のことであったと思うのです。現在になれば暴行罪が親告罪でなくなりましたから、その点は除かれたわけでありますが、結局は被害が軽い、だから被害者の意思を尊重しよう、こういう考えだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/42
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043・赤松常子
○赤松常子君 簡単に植松教授にちょっとお教え願いたいと思うのでございますが、先ほど、進んだ国の中にはこういうあっせん収賄罪を作る必要のない状態の国もあるとおっしゃっておりました。でも進んだ国の中にも、公務員の腐敗堕落している国もあるように私も聞いておりますのですが、その辺のもうちょっと詳しい御解明がいただきたいと思うのです。こういうことを作る必要のないほど社会の良識が発達しているのか、しかし、今申しますように、進んだ国でも腐敗堕落している官吏のある国もある、そういう国はどうなっているのか。
それからもう一つ、日本が今こういうことを作らにゃならぬということはほんとうに悲しいことなんですが、こういう程度のあっせん収賄罪のある国国がもしおわかりでしたらお教え願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/43
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044・植松正
○参考人(植松正君) その国情によりましてということを申し上げましたので、それは進んだ国はというふうに御解釈になってもあるいはいいかと思いますが、相当文化とか良識とかいう点で進んでいると考えられる、たとえばイギリスのようなところでも、ときどきは著名な疑獄事件もないわけではないように——具体的にどういう事件があったということまで覚えておりませんが、そう感じております。従って、ないというわけではありませんけれども、相対的に見まして、非常にその立法の必要を感ずるような社会生活をしておる国と、そうでない国とある、こういう意味で、わが国では大いに必要なんではないかということを申したのです。
それからこういう立法云々ということになりますと、もう法務省の立案当局から、皆様並びに私どもに配付になりましたものに翻訳で全部載っておりまして、これ以外に漏れがないとは申しません、あるかないか調べてみたわけではありませんが、おおむね当局がよく調べて出してくれたものと思います。ことに当局で、最初は、これほどに調べがついていなかったようですのに、国会にかかるころまでにはこんなにたくさんお調べになったというところで、これについてごらん願えば、立法がどうなっているかということがおわかりになると思いますが、概して申しまして、相当こまかく、何と申しますか、総括的に厳重に取り締るという規定はそう多くない、その意味では、私が厳重なることを望むのは諸外国の立法例と合せるわけではない、それとは全然別に、わが国の国情ではどうもそういうことが必要なんじゃないか、その国情ということの重点は、顔がものを言う、そうして金品をもらうと大へん低級な意味における義理人情を感ずるのが日本人の従来の慣習であるという点だと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/44
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045・亀田得治
○亀田得治君 関連して。諸外国の立法の中で、たとえばイギリスの汚職防止法ですか、ああいうものではまあ刑期などは別として、公職からの追放、こういう点を規定しているわけです。二回重ねてやると永久に選挙等は出れない、これが私は一番効果的じゃないのかと思っておるのですが、多少の罰金とか多少の刑期でも、これは裁判によってどうにでもなりますからね。やはり地位そのもの、公務員としての不適格ということを、社会的にはもちろんいろいろ批判はあるでしょうが、制度的にもそういう点を明確にする、これが一番大きな刑罰じゃないかと思うのですが、こういう事案については、そういう点はどういうふうにお考えでしょうか。私は、それがないことがむしろ一番甘やかしておる、ある意味では軽いと思うのです、ほかのことは幾ら規定してあっても。その点どうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/45
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046・植松正
○参考人(植松正君) これはこの種のわいろ罪ばかりでなく、よくたとえば、有毒物質を含んだ食品を売ったというふうな場合に営業停止、これが一番業者にとって痛いのであります。同じような意味で、公務員のこの種の犯罪に対しては、今おっしゃるような処置ができればもちろん一番いい、一番効果的な制裁であるということはいえますけれども、現行刑法の改正案として事を考えます限りにおきましては、刑法では、一定の制裁が現に法定されておりますので、その点をにわかに動かしまして、ここに新しい制裁を設けるということは、今一部改正という状態でやることは不適当じゃないか。もしそういうことをぜひやりたいということなれば、来たるべき刑法全体の改正において、そういう点、考慮するか、あるいはそういう種類の制裁は刑法に盛るのが不適当であると考えて別個の立法をするか、そのいずれかではなかろうか。少くとも現在の一部改正では、そこまでやることは行き過ぎになるのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/46
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047・大川光三
○大川光三君 ただいまの亀田委員の公職の追放ということには私どもも結論的に全く同感なんであります。ただ、御承知の通りに、公職選挙法の第十一条で、特に選挙法以外の刑罰を受けても議員というものは資格を失わないのだという選挙法の規定で、これはしぼっておる。ところが、弁護士法を見ますというと、弁護士が禁固何カ月ですか、以上の刑に処せられたら弁護士はできない。役人もそういう破廉恥罪で罪を犯せば役人はできないのだというきわめて厳格な規定があるのです。厳格な規定というよりは私は当然の刑だと思う。その意味からいきますと、選挙法が特に公選による議員に対して寛大に過ぎるのじゃないか、かように思うのですが、その点いかがでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/47
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048・植松正
○参考人(植松正君) 公職選挙法の規定が、今のような意味で寛大過ぎはしないかとおっしゃるなら私もそうだろうと思います。それはまた、別個にそちらの方の改正のことを国会でお考え願いたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/48
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049・大川光三
○大川光三君 私、最後に一つ伺いたいと存じますのは、百五条ノ二のいわゆるお礼参りを禁止するという法案でございますが、この法案をよく読んでみますと、先ほど植松先生がおっしゃったように、これが独走すると、思いもよらぬ方面にいくのじゃないかということが考えられます。弁護士の植松先生もこの点は一つお聞き取りを願いたいのでありますが、御承知の通りに、この条文には「自己若クハ他人ノ刑事被告事件」について云々と、こう書いておりまして、この他人とは、どの範囲かということになりますと、たとえば、弁護士の場合、新聞記者の場合等もやはり他人という中には広く含まれると思います。ところが、新聞記者諸君がニュース源取材のために刑事被告事件についての証人等にたって面会を求める場合がある、執拗に面会を求められる場合があると思います。また、弁護士の場合でございますと、やはり証人等に対して、ぜひ会っておかなければ、公判準備ができないという場合もございまして、特に証人に対して強く面会を要望する場合も起って参りますし、また、法廷におきまして、特に反対尋問の場合には、証人自身はそれは言いたくないと考えておっても、これを無理やりに真実を発見するために食い下っていって、追及していって、結局、強談威迫の行為にまで達することが私はままあると考えるのでございまして、なかんずく証人が、これは明らかに偽証しておるのだというようなことを弁護人が考えますと、これはあくまでも食い下っていく、その間、言葉の上にも、態度の上にも、ここにいわれる強談威迫の行為というところまで進む場合がなきにしもあらずでございますが、こういう場合に、新聞記者の取材のため、あるいは弁護人が証人に会い、法廷で反対尋問をいたす場合、果してこの法規が適用されるかどうかということが疑問の第一点でございます。
もう一つついでに伺っておきたいのですが、この条文によりますと、現に刑事被告事件が係属しておる場合、あるいはすでに起訴されておる場合、いわゆる刑事被告事件に限っておるのでございますが、私は、この必要性においては、被疑事件のいわゆる証人に対しても同様にこの法案の趣旨が、適用されていかなければならぬと同時に、判決確定後におけるお礼参りということも、将来の防犯政策の上からいきますと、私は必要だと思う。ところが、この法律はいわゆる被疑事件についての証人の規定なく、判決確定後における証人に対する面会の強請、強談威迫の行為は適用されない、こういうことに解釈されると思うのでございますが、果して刑事被告事件だけに限るべきか、あるいはただいま申しますように、いま少しく範囲を広める必要があるかないかという、この二点についてお伺いをいたしたいと思います。これは両先生から一つ伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/49
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050・植松圭太
○参考人(植松圭太君) まず初めの御質問の「自己若クハ他人」という字句でございますが、「自己」は疑問はありませんが、「他人」というのは、この法案の趣旨は、たとえばある博徒であるとか、あるいは暴力団というような場合に、被告人でなく、その仲間の者がこういう強談威迫をする、あるいは面会を強請するというような趣旨で作られたものであろうと思いまして、弁護人が、裁判官あるいは検察官に面会を求めるというような場合には、そこまで私は立法の趣旨を広げる考えでないというふうに考えております。ことに、これは、私の考えでは、この規定を設ける趣旨は、検察官、警察官もしくは裁判官というようなものに対して面会を強請するとか、強談威迫をすることによって職務を安心してとることができないというような危険を防止する趣旨で作られたものであろうと思いますので、従って、弁護人が、かりに証人の喚問のときに、いろいろ詳細な説明を求めましても、これは証言そのものに疑義がある場合、これを尋問するということは、憲法の、いわゆる被告人が証人に対して十分の尋問の機会を与えるという趣旨におきまして、弁護人も当然のことでありますから、そういう場合は含まないものと考えております。
それからもう一点は、「刑事被告事件ノ捜査」となっております。これはお説の通りに、必ずしも被告事件、刑事訴訟法にいういわゆる被告人ということだけに限らなくても、被疑者にしましても、これは当然含めていいという趣旨に考えておりますが、私はよく、この法務当局の立案の趣旨が、刑事被告事件ということを、そういう広い意味に解釈されたものかどうか、ちょっとその点わからないのですが、必要性からいいましたら御質問の趣旨の通りだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/50
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051・植松正
○参考人(植松正君) ただいまの第一点の被疑事件を含ますべきだというお話ですが、これは現行法の百四条に「刑事被告事件」という文句がございます。そうしてそれの解釈につきましては、大体まあ、あまり異論は今日ではなくなっていると思いますが、その通説によりますと、刑事被告事件というのは、被疑事件も入るのだ、こう解釈されておりますので、新しい法案における百五条ノ二の刑事被告事件についてもその解釈がそのまま当てはまることになると思います。私自身の説としては、幾らかもっと制限的な解釈も加えてはおりますけれども、それは個人のことに属しますので、大体通説であり、裁判所の判例とするところでは、この被疑事件も入ると、かようなことになっておると存じますので、その点、御心配はないものと思います。ただし、後の方の判決確定後はどうなるのかということは、もとよりおっしゃる通り、それにはこの条文は及ばないのでありまして、判決確定後の強談威迫等の行為に対しては、本条で取り締るということはできない、それは狭過ぎるのではないかという今の御意見ですが、これはまあ狭過ぎるか、広過ぎるかは論理的な問題ではありませんで、実際面と照らし合して考えなければならないことでありますが、おそらくは強談威迫程度の行為はむしろあまりなくて、暴行とか脅迫になるようなものがそういう場合には起ってくるのじゃないか、そうしてその場合については、刑法にりっぱな暴行罪、脅迫罪がございますので、それで取り締れるということであって、その程度でいいんではなかろうか、それ以外に暴行・脅迫にはならないものが強談威迫になるようなことが判決確定後に相当あるということならば、また考えなければならぬことだと思うのでありますが、そういうふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/51
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052・大川光三
○大川光三君 ちょっと、ただいまの御答弁の後段の方はよくわかりましたが、新聞記者あるいは弁護士等が証人に対して面談するという点についての御見解を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/52
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053・植松正
○参考人(植松正君) どうも失礼いたしました、一つ申し落しまして。これは新聞記者等あるいは弁護士であっても、いわゆる本条に当る強談威迫をするということは、やはり自由権の侵害であってできない、こういうように根本的には考えます。しかしながら、同じ程度の面会の強要をいたしましても、刑事被告人であった者とか、何かその仲間のような者が来て、ゆえなく求める場合と、弁護士とか新聞記者というものが、一定の目的をもって求める場合とでは、おのずからそこに解釈上、差は出てくると思います。つまり簡単に言えば、弁護士あるいは新聞記者等の場合には、ある程度ゆるく解釈される、なぜゆるく解釈するかは、結局ある程度の強さをもって面会を強要するということは、それらの職業に伴う正当行為である。まあ、刑法の条文そのままで申しますならば、正当業務行為の中に入ると考えてよろしいかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/53
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054・大川光三
○大川光三君 ちょっと植松弁護士さんに伺いますが、先ほどの御答弁の中に、百五条ノ二の条文は、例のお礼参りの問題でございまして、その条文の中に、「自己若クハ他人ノ刑事被告事件ノ捜査若クハ審判ニ必要ナル知識ヲ有スト認メラルル者又ハ其ノ親族ニ対シ」いわゆる証人等に対しての面談を強請、強談威迫の行為があります。そこで、先生ちょっと御説明があったかもしれませんが、そういう証人等に対して、弁護士または新聞記者等が強く面会を求めたときに、果して本条の適用があるかどうか、こういうお尋ねをいたしたのでありますが、今植松先生から、教授から大体御答弁いただきましたけれども、その点についてもう一回伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/54
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055・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 私ちょっと先ほどの質問の趣旨を取り違えて申し上げましたが、むろん幾ら弁護士でありましても、新聞記者でありましても、その程度問題で、強談威迫になるかということは、やはり具体的の問題だろうと思うのであります。ただ、この規定の趣旨は、この「被告事件ノ捜査若クハ審判ニ必要ナル知識ヲ有スト認メラルル者」ということになっておりますので、これらの者が他人の圧迫を受けて、職務上不安を受けるということが取締りの趣旨であると思います。その点におきまして、弁護人だから必ずしもならぬとか、新聞記者だからなら由という趣旨ではなく、ただ、そういう危険があり、また、その程度いかんによりまして、やはりこの本条を適用し得る場合もあると思います。
それから、ちょっと立ちましたついでに申し上げますが、先ほど私文書毀棄とかそのほか器物損壊の場合でありますが、これは刑法の制定当時と今日とでは、非常に経済組織が違っておりまして、たとえば大工場の非常な機械でも、スイッチ一つこわされましても工場一つとまってしまうということがあります。また、飲料水の取締りの刑法の規定がありますが、この場合でも、ただ器物を損壊して飲料物の供給に支障を来たすという場合に、この飲料水に対する現行の刑法では取り締り得ない場合があります。このような場合を常に親告罪にしておくということは、今日の社会情勢から見ましても適当でないと考えますので、立ちましたついでに申し上げたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/55
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056・亀田得治
○亀田得治君 ちょっと関連して。ただいま植松弁護士さんのおっしゃったような事例ですね、そういう問題はやはりそれをそのものとしてもし必要があれば立法化していく、現行法でも業務妨害とか、そういうことでいける場合が多いだろうと思いますが、いけない場合であっても、それをただ、ついでにほかの条文を借りてくる、こういうふうなことじゃなしに、そういう必要性があれば、それはむしろ器物損壊罪のようなちっぽけのようなものでなしに、もっと、被害も大きいのですから、大胆な規定をむしろ別個に、設けていく、その捜査の過程においての研究であればこれは別個ですが、どう立法するかという立場においては、若干違った観点で扱うべきじゃないか、そういうことのために、この刑法の一番終りにある器物損壊罪なんかを使うということはちょっと邪道のように思うのですがね。ちょうど強姦罪に対して告訴がないということで暴力行為でやる、これはまあ実情としては一応認めておりますけれども、お互いに。しかし、ものそのものに対して直接ぶつかっていく態度じゃないということは、これはだれだって見ているので、私は今の点で、どうも若干その点が納得いかないのですが、どうでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/56
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057・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 他の刑法の規定で取り締り得ない場合にこのいわゆる器物損壊、たとえば建造物損壊の場合、これは明らかに建造物の規定がありますけれども、建造物とも言えないし、また、業務妨害程度のものも器物損壊として取り締らなくちゃならぬ場合が相当あると思います。その場合に、その器物が、ただ、きわめて軽微な場合で、被害者にとって大きな問題でない場合には親告罪にしておく必要がありますが、そうでない場合には、やはりこれを非親告罪としませんと、告訴したからといって、また、これに対して非常に迫害を受けるというようなことになりますと、告訴することにつきましてちゅうちょするというような場合もありますので、その意味におきまして、私はやはりこれを非親告罪にしておく必要があると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/57
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058・亀田得治
○亀田得治君 まあ、議論をするつもりもありませんけれども非常に私はそれは大事なことだと思うのです。お示しのような事例があちらこちらに非常にたくさんある。ちょっとした器物損壊のために大きな社会的に影響を及ぼす、業務全体に影響する、そういうことが非常にたくさんあつた。そうして、しかも、それが現行法で取り締り得ないというような場合は別ですが、私は比較的それは事例が少いのだと思うのですが、しかし、この刑法で規定している現在の毀棄罪は、これはもう非常にざらにたくさんあるわけですね。日常茶飯事。だから、そういうわけですから、少数のことのためにたくさんの人が不安を覚えるというふうな格好には私は持っていくべきじゃないと思うのですね。親告罪という制度そのものを全部否定してしまう立場なら別ですが、そうでは私はないと思います、現状では。どうでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/58
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059・植松圭太
○参考人(植松圭太君) 私はやはりきわめて軽微なものならば、かりに告訴しましても微罪として起訴しない場合もありますし、お話のように、きわめて財産的価値が大きいとか、あるいは、その他社会の見地に立ちまして大きいような場合に、これを告訴しないからといって、起訴できないというようにすることは、やはり刑事政策上いけないというような考えを持っておりますので、これを非親告罪にした方がいいという意見でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/59
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060・青山正一
○委員長(青山正一君) ほかに御質疑もないようでございますので、これにて午前の部は終了することにいたしたいと存じます。
参考人の方々に一応ごあいさつ申し上げます。本日は長時間にわたりまして、いろいろ貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会の審査のため、きわめて有意義な御意見をお伺いいたしましたことを厚く御礼申し上げます。
午後一時三十分まで休憩いたします。
午後零時五十九分休憩
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午後一時五十五分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/60
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061・青山正一
○委員長(青山正一君) 休憩前に引き続き、これより委員会を再開いたします。
刑法の一部を改正する法律案並びに刑事訴訟法の一部を改正する法律案につきまして、午後の部の参考人の方から、御意見をお伺いいたしたいと存じます。
参考人の方々におかれましては、日ごろ御繁忙中のところ御出席下さいまして、まことにありがとうございます。参考のために、前もって両案の問題点をお届けいたしてございますが、これにとらわれることなく、各位のお立場から、自由にお始め下さってけっこうでございます。なお、時間の関係もございますので、お一人約二十分程度にお話し下さいますようお願いいたします。
それから参考人の御意見が全部終りましてから、委員の方々の質疑に入りたいと存じますので、この点、御了承願いたいと存じます。
参考人東京大学教授團藤重光君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/61
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062・團藤重光
○参考人(團藤重光君) 團藤重光でございます。
まずあっせん収賄の関係でございますが、これはまあなかなかむずかしい問題でございまして、広過ぎてもならず、狭過ぎてもならず、どこに線を引くかということは相当慎重に考えなきゃならない問題でございます。そういう意味におきまして、結論的に申しますというと、私はこの政府案に大体において賛成でございます。これ以上広げると、何でもかんでもあっせん収賄を押えることができるようにするということになりますというと、構成要件として非常にばく然としたものになる。でその結果はいわゆるねらい撃ちが可能になって参りまして、たとえば、何のだれそれのことをすこしいじめてやろうという場合に、すこし洗って見ればひっかかるようなものがすぐ出てくるということであっては、これは刑法の構成要件のきめ方としては、はなはだまずいのであります。そういう意味で相当にしぼりをかけた形で、あっせん収賄の規定を置くというこの政府原案の考え方には、根本的な考え方としましては、私賛成でございます。ただ、こまかい点を申し上げますというと、やはり疑問が全然ないわけではないと思うのでありまして、特にこの請託の点でございますが、この「請託ヲ受ケ」とあることによって、これが実質的に適正なしぼりとなるならばこれはけっこうなことだと思うのでありますけれども、必ずしも実質的な、適正なしぼりにはならないで、そして捜査をし、また、裁判所で事実認定をする上から申しますというと、むしろじゃまになる点がいろいろ出てくるのではないか。一般の収賄罪でございますというと、これはその公務員の職務に関してわいろを収受する、こういう考え方でありますから、従って、特にこの事項を特定して、こういうことをしてほしいというようなことで、請託があって、そして収賄をしたということになりますというと、それだけ違法性が強くなる、職務を曲げる可能性が濃厚になるという意味で、違法性が強くなるわけであります。従って、一般の収賄罪について、請託ということを刑を加重する要件としたり、あるいは、特に犯罪の成立の要件にするということは、これは十分に意味のあることでありますが、このあっせん収賄罪は、初めから事柄は特定しているのであります。「職務上不正ノ行為ヲ為サシメ又ハ相当ノ行為ヲ為サザラシム可ク斡旋ヲ為スコト又ハ為シタルコトノ報酬トシテ賄賂ヲ収受」すると、こういうことになっておりますので、初めから事柄は特定いたしております。それ以上、さらに請託という要件をつけてしぼりをかけるということは必ずしも理由のあるしぼり方ではないように存じます。そういう意味において、この請託要件は、もし可能ならば、落した方が一そうよくなるのでなかろうかと思うのであります。
しかし、そういう点をのけまして全体としますというと、大体、あっせん収賄、また、それに対応するところの贈賄に関する規定は、ほぼこの線で妥当であるように存じます。
それから、この関係で、第三者供賄罪の点が問題になるわけでありますが、これは理屈から申しますというと、やはりここまで広げるのがほんとうであろうと思います。ただ、一般の収賄罪につきましても、第三者供賄罪はそう動いていないようでありますので、今最初からそこまで手を広げないでも、さしあたりここから出発して、そうして、その運用状況を見た上で、将来第三者供賄まで処罰の範囲を広げると、こういうことでよろしかろうと思います。これまた、政府案に賛成いたすのであります。
それから、次に暴力関係でございますが、これは、現在なお、暴力事犯が日本に跡を断たない、跡を断たないどころか、ますます横行しているということは、これははなはだ日本社会として不名誉な話であります。この暴力事犯というものがどういうところから出て参りますか、これはいろいろ原因があることと思うのでありまして、一筋なわでいけるものではございませんが、しかし、日本社会における封建的な要素とでも申しますか、昔ながらの親分子分の関係というものが、今なお根を張っているということは日本の社会、文化のあらゆる面における近代化の方向に、非常なじゃまをしているように思うのであります。そういう意味で、これはぜひとも根本的にこれを絶滅させるような方策を講じなければならない。で、むろん罰則の一つや二つでもって、そういうことが解決できるものではありませんが、しかし、表面に現われたところの現象を罰則で押えるということも、その一環として考える必要があるわけであります。そういう意味において、また政府が、この暴力事犯に対する罰則を考慮されましたことは、非常に適切なことであったと思うのであります。
で、問題は、これが他のいろいろな方面に乱用あるいは悪用されやしないかということでございます。この点は、法制審議会の刑事法部会におきましても、一番問題にされた点でございまして、最初の当局から示されましたところの原案によりますというと、凶器を携帯する、あるいは準備する、こういうことが客観的な構成要件の中に入っておりませんで、単なる主観的な要素として、凶器を持って、生命、身体、財産に対して害を加える目的で集合したものといったような趣旨の規定になっておりまして、これで参りますというと、客観的な行為自体としては集合行為、それだけであります。で、これは憲法の保障いたしますところの集会の自由というものから考えまして、根本的に考え直さなければならないのじゃないか、こういうわけで、私もその原案に対して強く反対を主張いたしました一人でございます。
そうして、それじゃどうすればいいかというと、これは非常にむずかしいのでありますが、凶器を実際にどこかにはっきりと準備しているということ、これを構成要件の中に入れることがうまくいけば、これは比較的乱用のおそれが少いのじゃないか、そういたしますというと、単なる集合ではなくして、集合という形態にプラス凶器の準備、こういうことがあるわけでありまして、こうなればよほどよくなるのではないか、そういう趣旨において、私は、法制審議会の刑事法部会ではこういう案に賛成いたしたのであります。
で、凶器というのが、一体どの範囲のものをさすのか、これによっていろいろ問題が出てくると思うのでありますが、同じ一本の棒でありましても、その使い方によっては凶器になる、使い方によっては凶器とは考えられないということもあるので、この凶器というものを純粋に客観的に限界づけるということは、私の考えではかなり困難があるように思うのであります。ある程度その行為者の主観的なものを考えませんというと、凶器の限界がはっきり出てこないのじゃないか、こういうふうなことは、刑法のほかの条文でもいろいろあることでありまして、早い話が贈収賄罪の場合のわいろの概念にいたしましても、純粋に客観的には金品そのものでありますが、それをどういうふうに扱うかということでわいろ性を帯びてくる、同じ一つの物体でありましても、それをどういうふうに使う意図を持っているかということによって、凶器になるという関係があると思うのであります。しかし、むろん凶器ということには、ある客観的な限界がなければならないので、どんなものでも凶器になる、たとえば針一本であっても、それをどこか急所に刺せば致命傷を与えるから、これは凶器だ、こういうふうなことはおそらく言えないのではないか。しかし、また、その限界に当るものについては、相当に問題はあろうと思うのです。そういう意味で、決してこの凶器ということについて問題がないわけじゃありませんが、しかし、それが乱用にわたらないように、別の面で、考えていく、構成要件としてはこれで満足して、そうして捜査の過程において、乱用が行われないように監視する、その手段を考えていく、こういうのが妥当な行き方ではないかと思うのであります。たとえば、どういうことを考えているのかと申しますと、現行犯処分なら現行犯処分というものを例にとって考えますというと、現行犯処分というのは、これは沿革的に申しますと、明白な犯罪ということからきているのでありまして、犯罪性があることは非常にはっきりしている。また、その事実があったことが明々白々で、だれも疑いをいれる余地がない、こういう種類の場合に、特別の令状なくして行政処分ができると、こういう考え方であります。で、労働争議なりあるいはそれに類似した場合でありますというと、その違法性の点について相当に問題がある。そういう問題がある場合についてはこれは犯罪が成立しているということについて明々白々だとは決して言えないのであります。そういう種類の場合には、何もこういう種類の規定に限らず、およそどういうふうな罰則につきましても、私は現行犯処分は許されないのじゃないかと、こういう考え方を持っているのであります。これはまあ一つの例として申し上げたにすぎないのでありますが、乱用の面を考えますというと、ほかの、現在ありますところの規定にもいろいろと問題の規定はございます。で、この規定についても、決して私は乱用のおそれが全然ないとは申しませんが、しかし、それは別の面から押えていくべきである、そして何とかしてこの暴力事犯というものを押えていくということを考えなければならないので、そういう意味において、この規定はぜひ成立さしたいように考えるのであります。
共同強姦あるいは器物損壊罪等を親告罪でなくするというような点におきましても、私はやはり同様の趣旨から、この政府原案に賛成してよろしいように思います。
次に、刑事訴訟法の関係でございますが、ここにちょうだいいたしましたプリントには、緊急逮捕の拡張の可否の点もあがっておりますが、おそらくこの点は一応問題がなくなったのではないかと思いますので、この点は省きまして、その他の点について申し上げます。
まず、権利保釈の制限を強化する点でありますが、せっかく権利保釈の規定を置きながら、これがだんだんに制限が強くなっていくということは、私非常に残念に思うのでありまして、そういう意味では、私は昭和二十八年の改正自体について非常に疑問を持っているのでありますが、しかし、昭和二十八年程度に広がった現在において、さらにこの程度の拡張を考えるかどうかという点につきましては、先ほど暴力事犯全体についての私の立場を申し上げてみました。それと同じ趣旨において、この程度の改正はやはりやむを得ないと思うのであります。「充分な理由」ということを「相当な理由」に改めるということは、これまた、かなり大きな改正でございますが、しかし、もし現在通り、「充分な理由」としておいて、そして実際の必要上、運用の面においてある程度ゆるやかな運用をやっていくと、こういうことがもし起って参りますというと、私はその方がおそろしいと思うのであります。と申しますのは、御承知の通り、緊急逮捕の規定には十分な嫌疑があることを特に要求いたしております。通常逮捕の相当な嫌疑と区別して、ここに十分な嫌疑ということを要件にしておる。それは緊急逮捕は特に厳格でなきゃならないという趣旨であることは言うまでもございません。ところで、もしこの八十九条の五号を現在通り、「充分な理由」としたままで、運用上適当にやっていくと、こういうことでありますというと「充分な理由」と「相当な理由」との区別があいまいになってくる。そうなってきますというと、それがひいては緊急逮捕の運用の上にも響いてこないとも限りません。「充分な」ということも「相当な」ということもそんなに違わないんだ、こういうことになっては困りますので、こちらの方はこれを改正するだけの根拠のあることでありますから、これははっきりと「「相当な理由」に改める。」こういうふうにするのが適当であろうと存じます。
それから被告人の証人尋問中の退席の点につきましては、これは憲法三十七条の本来の精神から申しますならば、これは公判廷において、被告人がおりますその面前において証人尋問を行なって、そして被告人に、勝手にその公判廷の席において証人に対する尋問、特に反対尋問の機会を与える、被告人の公判廷における反対尋問にさらす、こういうことが必要であろうと思うのであります。憲法三十七条の本来の趣旨はそういうところにあると思うのです。しかしながら、これも必ずしも絶対的なものでないのでありまして、弁護人がついている事件でありますというと、弁護人が被告人のことを十分に保護してやる職責を持っているわけでありますから、このような立法措置をとりましても、被告人に特に重大な不利益にはならないのじゃないか、特に弁護人の意見があらかじめ聞かれることになれば、なおさらそうであろうと思います。ただこの点については、普通の代理と申しますのは、これはいわゆる法律行為について考えられますことでありまして、その法律行為の効果が本人に及ぶと、こういう形で代理が考えられる、ところが、証人を尋問するということは、これは事実行為でありまして、法律行為ではありせんから、本来の意味における代理ということはないと思います。で先ほど申しましたように、弁護人が被告人に全面的にかわって弁護権を行使する立場に置かれていると、こういうことから、そういうふうに反対尋問については弁護人がかわって行えるのだ、こういうことが言えるのではないか、従って、それは事実行為でありますから、実際に弁護人が被告人の立場に立って十分に反対尋問ができるということが必要な要件であります。従って、こういう規定が適切に動くためには、弁護人と被告人あるいは起訴前においては被疑者等の間に接見が十分に行える、被告人と十分に打ち合せをして、こまかい点まで弁護人がのみ込んだ上で法廷に立つと、こういうことができるのでなければ、反対尋問を被告人にかわって行うということは無意味になって参りますから、そういう点の運用上の工夫は十分にしなければならないと思います。憲法三十七条というものを背景に置いて、刑訴法二百八十一条の二というものを解釈し、また、運用していくわけでありますからして、そういうふうにしなければならないということは、これはこの刑訴法の条文の上にそうはっきり出ておりませんが、解釈上当然にそういうことになると思うのであります。大体、要点だけ申し上げました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/62
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063・青山正一
○委員長(青山正一君) どうもありがとうございました。
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064・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、最高検察庁検事安平政吉君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/64
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065・安平政吉
○参考人(安平政吉君) 安平であります。
まず、あっせん収賄罪関係について申し述べます。
〔委員長退席、理事一松定吉君着席〕
その第一点といたしまして、あっせん収賄防止の根本策について一、二申します。この種行為が好ましくないものであることは言うまでもありませんが、さりとてあっせん行為をすべて処罰の対象としてみましたところで、直ちにこのような行為を絶滅し得るものではありますまい。そこで、要は、これらの行為のうち、悪質のものに対しては刑罰をもって遇すべきこととなるでありましょう。が、単に刑罰の網を広げるということだけで事は十全に解決しますまい。汚職行為ないしあっせん収賄行為防止の根本策というがごときは、しょせんは広くこの種非行のよって来たる社会的、経済的並びに政治的の面よりの諸要因、原因を克明に探求して、一つ一つそれらの原因を排除していくよりほかないのでございまして、それにいたしましても、いま少しく公務員や国民一般の道義心を高揚させなければならないように思われるのであります。
次に、第二点、あっせん収賄罪の構成要件に関する所見を申し上げます。一はまず、「請託ヲ受ケテ」こういう点でありますが、これはしぼり過ぎであるとの意見もありますが、私は必ずしもそうとは考えておりません。けだし請託を受けないあっせん行為というものは観念的には考えられましても、実際に発生するあっせん行為には多く請託がつきものでありますし、また、この点の立証も実務上必ずしも困難ではないと考えられたのであります。請託の立証ができないような事件は、事実といたしましても、あっせん行為と見ることができないのが常のようにも思われるのであります。
次に、「其職務上不正ノ行為ヲ為サシメ又ハ相当ノ行為ヲ為サザラシム可ク斡旋ヲ為スコト又ハ為シタルコト」の点についてでありまするが、あっせんの内容をかように「不正ノ行為」にしぼったことは、従来の諸案と異なる点でありまして、この点から処罰の範囲が相当に狭くなったことは明らかであります。また、そのためにわれわれ検察庁の一部に異論があったことも事実であります。しかし、この案以前の案におきましては、右のかわりに公務員「其ノ地位ヲ利用シ」ということが要件とされていたのでありますが、この言葉は、実務上解釈適用がきわめて困難とされておりまして、そこでそのかわりに、右のような要件が取り入れられたと見られるのでありまして、そのため構成要件がいささか明瞭となって、かつ真に悪質なものを処罰する趣旨がはっきりとしてきたものといえるのじゃないかと思うのであります。私など実は、個人的には、従来別の方策、方途を考えていたのでありますが、これはよく考えてみますると、一挙に処罰の対象の範囲を広げなくても、まずさしあたり第一段階といたしまして、このような案をひとまず実施することもまた一策ではないか、かようにこのごろ考えるに至っておるのであります。
次に、「報酬トシテ」の点でありますが、この文句がこれまたしぼり過ぎになっているといわれているようでありますが、私は、必ずしもそのように考えておりません。けだし、この案におきまして「職務ニ関スル不正ノ利益」の範囲を一歩こえて「賄賂」という言葉が用いられておるのでありまして、この使い方には不合理はないと思いますが、その不法性への紐帯——ひもですが、紐帯を示す意味で、そこで「報酬トシテ」という言葉が用いられたと考えられるし、また、あっせん収賄の場合は、通常の収賄の場合と異なりまして、実際に実費を必要とすることもあり得るので、実費はわいろに含ましめない意味で、あえてこの言葉が用いられたものかと考えるからであります。いずれにいたしましても、「報酬」でなければわいろにならない趣旨でありまして、この考え方は適切妥当と思われるのであります。
さらにこの「賄賂」の文句についてでありますが、従来の諸案のように、「地位ノ利用」という一種の職務連関の要件がないのに、「賄賂」という用語を用いることは適当でないとする意見があるようであります。なるほど、この「地位ノ利用の要件」があれば、直接に「職務ニ関シ」という点をはみ出してもわいろ性はありますが、これがないのにわいろというのはおかしいとする考え方は一応もっとものようでありますが、しかし、わいろと申します観念は、必ずしもこの「地位ノ利用」の場合だけに限られた現象、事象ではなく、いやしくも公務員が何らかの不正行為に関連して不正な利益を得れば、それはわいろの範疇に入れて考えることも可能なのでありますからして、従って、ここに「賄賂」という言葉を用いることも一向差しつかえない、こう考えておる次第であります。
なお、案の百九十八条第二項につきましては、案の百九十七条ノ四の裏でありますから、これにつきましては、別段に付加することはないと思うのであります。
それから第三点、第三者供賄罪の処罰の要否について一言申し述べますが、本法案には、第三者供賄を処罰する旨の規定がありません。法制審議会ではこれを設くべきであるという意見がありました。確かにわれわれ実務に関係しておる一人といたしましても、これがないということは、抜け穴の感がないではないのであります。実を申せば、私どもなど一個の意見でありますが、欲を申せば、第三者供賄の規定があるにしくはないと存じておるのであります。しかしながら、これを過去既往のわが国の検察の実績に徴しまするに、昭和十六年の第三者供賄罪の規定が設けられるまでに、この点の規定がなかったために実務上困ったという顕著な事例はないのであります。また、昭和十六年の立法後も、この規定を適用して起訴いたしました事件はわずか数件、たしか四件だったと思いますが、その程度にすぎないようであります。それでこの際欲を出しまして、一挙に第三者供賄も刑罰の範囲に入れる、そうむごくしなくとも、運用の実績に照らしまして、ひとまずこの段階は実施しまして、どうしても今まではそうでなかったが、現在においてはその必要があるのだ、将来においては必要が出てきたと、こういう段階に至りまして、この点の立法を考えておそくはないのであります。かように存じておる次第であります。
次に、その二の暴力関係の立法について申し上げます。
まず第一点、政府の最重要政策の一つであるといわれております暴力追放関係について申し述べます。申すまでもなく、暴力追放には、その根源となる社会的環境の浄化、経済的諸条件の改善等、あらゆる角度からその要因を排除するに足る適切なる施策が講ぜられなければなりませんが、また、一般警戒の意味におきまして、この種諸取締り法令を整備し、強化することも確かに重要な一策と考えられるのであります。すなわち、今次の暴力対策関係の法案はこの趣旨に出たものと思料されるのでありまして、その要旨とするところは、現下暴力事犯の取締り上最も緊急事と考えられる被害者等の保護ということと、暴力団等によるこの種事犯の迅速確実な検挙の実施を基調としているものでありまして、まことにこれは時宜を得た法案と考えておる次第であります。
次に第二点、輪姦的形態によりますところの強姦罪並びに器物損壊等の非親告罪化等の問題につきまして一言いたします。強姦、強制わいせつ等の罪は、風俗に対する罪でありますとともに、個人の身体及び人格を侵害する暴力的犯罪の色彩を帯びております。特にこれらの罪が、いわゆる輪姦的形態において犯される場合には、その暴力的犯罪としての凶悪性が著しく強度でありまして、その訴追を被害者の利益のみによって左右することは適当でありません。一方、被害者におきまして、内心では犯罪人の処罰を望んでおりましても、加害者等の報復をおそれて告訴することをちゅうちょしたり、あるいは告訴取り消しを余儀なくされたりいたしまして、いわゆる世の中には泣き寝入りとなる場合が決して少くないのであります。また、器物損壊罪及び私文書毀棄罪は、暴力的犯罪といたしまして最も単純かつ典型的なものでありまして、現下その取締りの必要性が痛感されるにかかわらず、被害者がこれまた犯人による報復をおそれ、あるいは個々の事案としては比較的軽微である等の理由から、告訴せず、あるいは告訴を取り消す場合が多いために、処罰できないというような実情がしばしば見受けられるのであります。そこで、本法案が、輪姦的形態による強姦罪、器物損壊罪等を非親告罪とすることにいたしておりますのは、前申しましたごとき実情にかんがみまして、これらの悪質な暴力事犯の取締りの実効を期するとともに、被害者の保護という見地からいたしまして、これはまことに適切な立法処置と考える次第であります。
次に第三点、いわゆる凶器を持つ持凶器集合罪についてでありますが、最近いわゆる暴力団等の対立抗争に基因する殺傷事犯が各地に発生いたしまして、これに関連いたしまして、いわゆるなぐり込み等のために相当数の暴力的徒輩が集合相対し、善良なる市民に著しく不安を感ぜしむる事態を惹起しておるのであります。これを検挙、処罰せなければならぬ場合に逢着するのでありますが、必ずしも適切な処罰規定が見当りませんために、その取締りに相当困難を来たしている実情にあるのであります。本法案第二百八条ノ二の規定は、まさしく右のような実情にかんがみまして、かような事犯を規制するために設けられたものでありまして、最近における暴力団等の殺傷事犯を迅速かつ確実に防渇するために必要かつ適切な規定と考えられるのであります。なお、同規定の構成要件からいたしまして、世のある一部の方から懸念されておりますこの規定が正当なる労働運動等を対象としているものではなかろうかというような——この方面に適用せられるがための立法でないことは、ほとんどこれは申すまでもない点であろうと思うのであります。
次に第四点に、権利保釈の制限強化についてでありますが、それが刑事訴訟法第八十九条第五号は権利保釈の除外事由の一つでありますが、そのうちに、云々「行為をすると疑うに足りる充分な理由」と、こういうふうに規定されておりますがために、運用の実際面におきましては、本号に該当する事由を疎明することが非常に困難でありまして、従来ほとんど活用されていない実情にあるのであります。そこで、いわゆるお礼参りをすると疑うに足りる相当な理由がある場合には保釈を許さないこととすることによりまして、被害者らの生活の平穏を確保するとともに、これらの者が安んじて証言できるようにして、刑事司法の適正な運用を期する必要があるのであります。いわゆるお礼参り行為の対象に被害者等本人ばかりではなく、親族を加えようとするのも、この法案においてそういう意図が含まれておりますのも、右と同様な理由に基くものでありまして、この点に関する今回の改正は、われわれの方面から見まして、被害者の保護、それからして刑事司法の適正なる運用、確保の両面からいたしまして、どうしてもこれはやはり必要だ、かように存ずる次第であります。
第五点、暴行・脅迫罪を緊急逮捕し得る罪に加えることについてでありますが、暴行・脅迫の罪に当る事犯は、これは暴力事犯の典型的なものでありまして、この種事犯につきましては、犯罪発生後すみやかに犯人の身柄を確保することによりまして、初めてその取締りの目的を達し得るのでありますが、両罪の法定刑は、御承知の通り、いずれも最高限が懲役二年でありまして、現行法のもとにおきましては緊急逮捕が許されないために、その検挙、取締りに実は支障を来たすという場合が少くないのであります。本法案におきまして、これらの罪を犯した者についても緊急逮捕できることにしておりますのは、暴力事犯取締りの実効を期するために必要かつ適切なる措置と考えるのであります。
なお、罪状の重い犯罪につきまして緊急逮捕の規定は、必ずしも憲法に違反しないとする最高裁判所の判例があります。昭和三十年十二月十四日の大法廷の判決でありますかがありまして、暴行または脅迫罪を緊急逮捕できる罪に加えることも右の判例の趣旨からいたしまして、必ずしも違憲ではないとわれわれは考えておる次第であります。
最後に第六点といたしまして、被告人の退廷に関する規定についてでありますが、刑事事件、特に暴力事犯の被害者、目撃者等の証人は、被告人の面前で真実を供述した場合、被告人等にによってあとでしっぺい返し、報復されることをおそれて証人として出頭せず、あるいは出頭しても、被告人の面前では十分な供述をなし得ない場合が少くないのであります。そこで、これら被害者等の人権を擁護するとともに、証人をして十分な証言をなさしむることによりまして、刑罰権の適正かつ迅速な実現をはかる必要があろうと思うのであります。すなわち、本法案第二百八十一条の二及び同三百四条の二の規定は、右のような必要性に基くものと思料されるのでありまして、一方、この規定の内容を検討してみますると、弁護人が立ち会っておりますこと、それからして、供述終了後に被告人にその証言の要旨を告知して、その証人を尋問する機会を与えることを、要件としておるのでありますからして、これまた、実質上必ずしも憲法によって保障されております被告人の証人に対する反対尋問権を喪失せしむるのではない。その点も十分考慮されておると考えるのであります。
〔理事一松定吉君退席、委員長着席〕
事案の真相を明らかにして、刑罰権を適正かつ迅速に実現するためと、それからして被害等の保護を全うするためにこれまたやむを得ない一つの実情に即した立法として是認せられなければならない筋合いであると存ずる次第であります。
以上、はなはだ簡単でありますが、私見の一端を述べた次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/65
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066・青山正一
○委員長(青山正一君) どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/66
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067・青山正一
○委員長(青山正一君) 次に、神鳥日吉君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/67
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068・神鳥日吉
○参考人(神鳥日吉君) 私は、今度の刑法の一部改正について、組合の立場からいろいろとお話をしてみたいと思うわけです。
あっせん収賄罪についてはさておきまして、暴力団の追放という言葉でもって貫かれております今度の刑法の一部改正について、確かに暴力団は追放しなければいけないし、そしてまた、これを取り締ることも、きびしくやらなければならないというふうにも感ずるわけです。しかし、暴力団は、単なる刑法を用いて処罰することによってこれがなくなるわけではありません。こういったことは、暴力団が存在するということについては、これは一つの社会悪であり、また、一つの政治的な貧困から来ていると考えられるわけです。ですから、こういった暴力団に対する政治的なものとして取り扱わなければならない点から考えると、暴力団やぐれん隊に、いわゆる一定の職を与えるという形でもってやらなければ、単に刑罰をもってこれをなくそうとしても、おそらく暴力団やぐれん隊という、その性質から見ましても、それだけでは非常に狂暴化する危険もあるのではないか、このように考えられるわけであります。
いま一つ、私の考えますことに、この百五条や、二百八条、二百六十三条の、この三つの改正個所についても考えられることは、これは暴力という名において貫かれておるけれども、最近の組合運動に対する刑事事件等を総合して考えてみますときに、これが拡大解釈をされたり、あるいは乱用される危険を多分に含んでおります。このことは、しばしば労働組合としては運動の中で経験しておりますし、過去の「暴力行為等処罰に関スル法律」につきましても、制定当時においては、これを労働運動や農民運動に適用しないということが明らかにされておりましたけれども、これが最近に至っては、その適用が非常に顕著に現われてきておる、こういう点から、私どもは暴力団を取り締るという法案を、一般国民を社会秩序の上から規制するところの一般刑法の中で、暴力団等を取り締るという形において入れられることは、あたかも国民を暴力団やぐれん隊と同じような扱いをしておる考えと見受けられるのであります。ですから、そういう点では私どもは、別個な形でもって法案を一つの範囲を限って、こういった暴力団やぐれん隊を取り締る法案を別個に整備することについて反対をするものではありませんけれども、今言ったように、国民すべてを暴力団やぐれん隊と同じような形でもって規制しようというところに、私どもは労働組合運動についても、拡大適用される大きな危険性を持っておる、このように考えられるわけであります。
百五条についての改正の面から見ましても、これについて私どもはいろいろな形でもって、今までお礼参りを禁止するという形では、確かにお礼参りというようなことはいやなことでありますから、特に禁止をしなければいけないと考えるわけでありますけれども、今までの労働争議の中で、いろいろその過程の中で逮捕や勾留が行われます。そうしますと、それを今度は組合側はこれに対する抗議をやったり、あるいは陳情をしたりいたします。そうして場合によっては、それらの関係する人々に面会を申し入れて、これらの釈放の要請をしたり、あるいは必要な措置をとることがあります。そうすると向う側では、このことについて、あまり快しといたしません。ですから、そういう面で、この面会を強要し、あるいは強談威迫を行うという形の中では、ある程度の面会を強要する場合もあります。そういうことが組合運動と結びつけて行われておることと、暴力団を取り締るという形においてのお礼参りというものとは、おのずから性格が異なりますけれども、法の文面では、そういうものが別個に存在いたしません。ですから、そういう場合には、特にわれわれの面で、運動と合せて正しい形でもって事実を明らかにするために、そういう事件で逮捕、勾留が起きても、それを明らかにするための行動ですら、この条文に引っかかって制約をされる、こういうことを非常に私どもは危険に思うわけであります。
それからもう一つは、これは新聞記者等が、やはり菅生事件などに見られるように、いろいろと事件の直相や何かでかけ回ることがありますが、その際でもやはり若干こういった面がないとは言い切れないのではないか、そういうふうに考えられますし、弁護士の、またそういう立場からの調査等も、これによって阻害されるのではないか、こういうふうに考えてみますときに、お礼参りという一つの暴力団体が行うこういった行為が、われわれの正しい直実を求め、または正しいことに対する抗議までも制約する形になる、このように私は思って、このことについては、非常に懸念をしているところであります。
それから次に、二百八条でありますけれども、この持凶器集合罪については、一般刑法の中でうたわれることに私どもは強く反対をしているわけでありますが、ここにありますように、「目的ヲ以テ集合シタル場合」、次に「兇器ヲ準備シ、又ハ其準備アルコトヲ知テ人ヲ集合セシメタル者ハ」ということになっておりますけれども、凶器の認定や、それから凶器を持っておるこういった暴力団やぐれん隊が集まるにいたしましても、昔のように凶器をかついだり、あるいは竹やりや、それからなぎなたを持ってやってきたりするような暴力団の集合というものが、現在あり得るのかどうか、私はこういうことはおそらく何年に一回か、あるいはあるかもしれませんけれども、そういうものは、今の世の中でありますから存在し得ない。持っているか持っていないかということについて、このことの認定は、先に立っておる警官が主観的にそれを判断をして措置することになれば、集合したそのものが、一つの犯罪の構成要件になっていることについては、今後の私ども組合運動について非常に危惧するものであります。私どもは労働組合というものは、多くの者が団結と統一という場の中で守られており、自分の生活権を守るために組織されておりますけれども、労働運動というのは一人という存在はありませんし、必ず常に集団的に組織されます。ですから、そういう場合に、集合しているそのときに凶器を持っておるかいないかということについては、非常に認定は、先ほどから申し上げますように、警察官の主観でもって直ちにやられる。そうしますと、その時点においてとにかく捜査をし、逮捕をするということになりますと、あとで釈放されても、その時点におけるわれわれの集合の目的、そういうものは、すべてなくなってしまうわけであります。ですから、私どもはわれわれの目的遂行のために集合した場合でも、これが拡大乱用される危険があるし、そしてまた、凶器というもののはっきりした認定がこれは主観的に行われる。ですからナイフ一つ持っておっても、そのことが、ナイフで鉛筆削りをしているときは鉛筆削りでありますけれども、それを持って行動をすれば命も断つことになりますし、そういったものまで凶器として認定をされないという保証はありません。ですから、そういう面で、この凶器の認定についても、また、凶器を持っているか、持っていないかということが明らかにされて集合がされるようなことは、現在の実情の中では、社会の中ではあり得ないだろうし、やはりこういうものを持って集まる暴力団やぐれん隊にいたしましても、私は外から見えるような凶器を持っては集まらないだろう。そうすれば、そういう形の中で警察官は主観的に集合したそのものを捜査し、手入れをし、そして逮捕をすることも許されるとすれば、大へんなことになると考えるわけです。それから多くの場合でありますけれども、メーデー事件のときか何かでありますけれども、プラカードの柄までが凶器として扱われた例があるのであります。そういう点から考えますと、プラカードを持ってやりますけれども、もみ合ったりなんかすると、プラカードのワクだけになったような場合、こういう時でもやはり何かそこにあるとすれば、そういったものまで凶器の指定を受けるような結果になるので、非常に労働運動については危険視しなければならない、こういうふうに考えるわけであります。ですから、このことについては、私は先ほど来申し上げるように、別な暴力団とぐれん隊を規制する別個の法律の中で規制すべきであって、こういった一般刑法として国民を規制する法律の中に、この種非常に危険な要素を持っておる、拡大乱用の要素を持っているこの種法律については、非常に私どもの運動の面から危惧しておる次第であります。
それから次の二百六十三条のことでありますが、これは関連する二百五十九条と二百六十一条、いわゆる私文書毀棄罪と器物損壊罪でありますが、これについて従来の親告罪にすべきである、非親告罪にされた場合に多くの問題が組合運動の中に起きてくる、こういったことを申し上げたいと思うのであります。従来は、団体交渉をしても、集合をしても、これが大衆という形の中で行われますので、うしろから押されてガラスを割ることもありますし、それからまた、団体交渉の席上で、灰ざらが落ちて割れたりするようなこともありますし、いろいろな面で相手の出方によっては、非常に正常な団体交渉ができないようになった場合に、一つや二つ、ガラスの一枚か二枚こわれるようなことも、しばしばございました。しかし、これは言いかえれば、労使関係のことでありますから、内輪けんかしても灰ざらが割れることもありますし、それからガラスもこわれることもあります。しかし、そういった形の中で、今までは大体処理されてきておるのでありますけれども、これが非親告告罪ということになりますと、そのことで、われわれは逮捕されたり、あるは呼び出しを受けいたりして罪に問われなければなりませんし、そうしますと、われわれの正常な組合活動の中で若干の行き過ぎ等で相手の出方によって起きたそのことも、常に刑法に問われる形になるのであります。ですからこういった形のものは、従来通りに、私ども労働運動の立場から考えれば、親告罪にすべきではないか。これが私はこういった流れの中で、全部今お話ししましたものがすべて暴力団等の取締り上ぜひ必要だという形でもって修正がなされようとしている点について、非常に国民の立場からも、労働運動、農民運動、平和運動を進める立場から見ましても、この種のものが拡大乱用されて、われわれの正当な、いわゆる組合活動なり、生活を守るというわれわれの立場を法律をもって踏みにじろうとするのじゃないか、こういうふうにしか考えられないものであります。ですから、こういう点について私どもは強く反対をしなければならないし、反対をしてきておるところであります。従来の二、三の例を見ましても、今まではいろいろと労働運動に対する刑事弾圧は、ややもするとストライキとか、あるいは集合した際に、接触点においていろいろな行為が行われて、公務執行妨害であるとか、威力業務妨害であるとか、それから建物侵入罪であるとか、器物損壊罪であるとかというような形のものが起きておったわけであります。そうしてこの種のものがあったわけでありますけれども、最近の二十八年ごから暴力行為等処罰ニ関スル法律の適用が多くなってきておる。それからまた、昨年来の戦いの中から見ますと、いわゆる労働運動や、それから平和運動に全然無関係の法律を通用して刑事弾圧が下されておる。このことは、すでに新潟の闘争で鉄道営業法が適用されたり、それからまた、砂川事件で刑特法が適用されたり、それからまた、最近の事例としては、中央郵便局におけるところの郵便法の七十九条が適用されるような経過を見ましても、今度の刑法の一部改正が、組合運動に適用しない、そういったことを適用することは間違いである、いろいろな方が言われておりますけれども、従来の経緯から見まして、この法律がひとり歩きをするようになりますれば、必ずわれわれの上に大きな制限を加え、あるいは条文の上からも拡大解釈をされて、多くの弾圧が加えられることが予想されるわけで、こういったことについて従来のいろいろな例についても、それからまた、一つ一つの警察権の乱用と思われるような事例についても、たくさん私どもは例を持っておりますので、そういった点で、そういった過去の、戦前の警察官の行き過ぎ等から見ても、この刑法が将来にわたって私どもの運動を大きく阻害し、阻害するだけじゃなくて、弾圧にまで発展をする危険も多分に持っておると考えておるわけであります。ですから、私どもは暴力を取締りるという形であれば、特に暴力団やぐれん隊という形の規制をした上で別個の法律を作るべきであって、刑法の一部改正という形になれば、それは大きく国民の中に投げかけて、そして長い年月を通じても、またと改正をすることのないように慎重に行うべきである。そしてまた、一つ一つの出てくる事案によって刑法がそのつどそのつど改正されるというようなことは、これは許されないことではないか、このように考えるわけであります。
最後に、あっせん収賄罪でありますけれども、あっせん収賄罪については、岸首相が暴力、汚職、貧乏を追放するという形で、特に両事案にしぼったことについての配慮は私は十分わかるわけでありますけれども、このあっせん収賄罪という法律の条文の中でほんとうに取り締ることができるのかどうなのか、こういうふうに考えてみますと、そのことはただ刑法の改正をした、こういった気安めに終ってしまうのではないか、いわゆる犯罪構成要件の立証がこの中で非常に困難ではないかということも考えられますし、また、先ほど来話がされておりますように、第三者供賄についても規定がはっきりしていない。この規定でもってほんとうに汚職を追放することができるのかどうか、もっともっと国民の立場から申しますならば、公務員の高級官僚や各種会議のその地位にある議員、こういった方々については、少くとも日本の政治にあずかる人々であり、中央の政治にあずかる人々である。そういう点からでは、私はもう少しそれらの政治責任というものについてもきびしい取締りが必要ではないか。この種のことでもって私はそれでは、ない方がいいのか、こういうようなことになるかもわかりませんが、私は、ないよりはましだというような、こういった汚職追放の刑法の改正については、これは大へん国政の最高を預かる国会において考えますときに、小市民的に、あるいはある方がましだろう、ない方がいいだろうという形でなくて、もっともっとすっきりした、そしてまた、それらの不正が根絶するように、法律の上からも強く規制をすべきではないか。それからこういった形のものでもってある部分的な制約をしたところのあっせん収賄罪という形になりますと、そのほかのものはどうなるのかということになりますと、これだけの条文でもって取り締られて、すべての汚職が追放できるとは考えません。かえって私は、これ以外のものは汚職にならないのだという考え方から汚職がふえる形になる、こういうふうにしか考えられないし、それからまた、政府は、汚職を追放するといって、これだけの条文でもって一つの国民に対して欺満する形にもなるのではないか、このように考えるわけであります。ですから、私は少くともこういった刑法の一部改正については、あっせん収賄罪なりあるいは暴力を取り締る各条なり、これらについては慎重に審議をして、そうして何も急いでこれらが成立を見なければならない要件というものはない。私はもっとこのあっせん収賄罪にしても、汚職をなくする刑法上の取扱いについても、広く国民の中に投げかけて、そうして皆で討議をする。そうしてその罪悪を国民から見守らせるという形の中においても、国民の中で、あるいは各階層で汚職をなくする刑法の問題が論議される、そのことの方が、より汚職をなくすことにもなるので、暴力、汚職をなくすという形の中で、今度の刑法の一部改正が出されましたけれども、お話はけっこうであるけれども、確かにそのようになければならないけれども、今度の改正については、あまりにもわれわれとしては暴力の取締りという名において組合運動についての弾圧が予想せられ、それからまた、汚職をなくすという形で狭い範囲のあっせん収賄罪という、こういった形の中で、事実これが取り締られるのかどうか、こういったことを考えてみますときに、私どもはもっともっと慎重に刑法の一部改正についてはなさるべきであると考えるわけであります。
刑事訴訟法の一部改正については、これについては緊急逮捕の範囲が削除されましたので、組合運動の面から懸念するという形のものは、「弁護人の意見を聴き、」という点が、何かと意見を聞くだけであろうと思いますし、手続上の問題であり、裁判官が認定を下す問題であるかもわかりませんけれども、これらについては、私どもはできればもう少し強い形で「弁護人の同意を求めて、」という形になればなおいいのではないか、このように考えますし、その他について「充分な理由」を「相当な理由」というふうに、手続上の問題としてなっておりましたけれども、これについては、あれはたしかこの前改正を見たばかりではないかと思うので、今ここであらためて改正の要はないというふうに考えております。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/68
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069・青山正一
○委員長(青山正一君) これにて参考人の方の御意見は全部終了いたしました。御質疑の方は、順次御発言を願います。
なお、唐澤法務大臣、政府委員として竹内刑事局長、説明員として辻参事官、神谷参事官、この四名の方が御出席になっておられます。
ちょっと申し上げておきたいと思いますが、團藤参考人はやむを得ない用事のため、三時五十分までに退席しなければなりませんので、團藤参考人に対する質疑を先に済ませていただくように特にお願いいたしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/69
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070・亀田得治
○亀田得治君 それでは團藤さんに先にお尋ねいたします。
先生は法制審議会の有力なメンバーですから、やはり審議会に出席されまして議論された関係上、審議会の結論というものにやはりとらわれる点もあろうかと思うのですが、そうじゃなしに、一つざっくばらんに先生自身の見解としてお聞かせ願いたいと思うのです。法制審議会の結論は結論として、私どもまた別個にお聞きしておるわけですから、その点お願いしたいと思います。
最初に、請託の点でありますが、先ほどの先生の御意見ですと、これはない方がいいという御意見でありましたが、私もその点は同感です。それでこの法文の解釈でありますが、今までは請託という文字が刑法の収賄罪で使われておりますが、その点に関する判例等の解釈は、特に内容的に不正な事柄というものを含む必要がないというふうになっておるようです。ただ、その判例、私も詳しくは研究をしておりませんが、今までそういう判例が出ました前提としては、現在までの刑法の条文において、普通の職務に関する収賄、そのことについての請託という関係でありますので、私は判例の結論というものはそれで正しいと思うのですが、ところが、今回のあっせん収賄罪そのものは、内容的に、「職務上不正ノ行為」云々と、こういうふうに強くしぼってきておるわけですね。そうしてみれば、本体そのものが今までの収賄罪の規定と違うわけですから、今までの判例がそうだから、この百九十七条ノ四の新しい規定においても、請託というものは内容的に、不正なものも含む必要がないのだと、そういうふうにはいけないと思うのです。でそういう立場から考えますと、すなおに読めば、ここの請託というものは当然あとに書いてあることから、その本体の請託でなければ私は意味をなさねと思うのです。そういうように私はこの点解釈しておるのですが、そうなりますと、このあっせん収賄罪に対して請託ということがあることが非常な大きなしぼりにますますなってくるわけです。そのことの立証ということが必要になれば、だからその点のよしあしは別として、だからといって、この法文の解釈を提案者が説明しておるような解釈が正しいかどうかということは私は別だと思うのですね。法文自体をすなおに読めば、やはりこの請託というものは下の方の本体そのものがそこにかかってくる、これが正しいのではないかというふうに考えておりますが、この点に対する見解をまずお聞きしたいわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/70
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071・團藤重光
○参考人(團藤重光君) 実質的に申しますと、私も亀田議員のおっしゃるのと大体同じようなことになると思うのですが、ただ、条文の解釈として特にそこまで限定をつけなければならないかどうか、単なる論理解釈だけならば文字通りとって、この請託には不正であることを要しないと見ることができると思うのですね。実質的に申しますというと、請託を受けてさせたり、させなかったりさせるのですから、そういう意味で両方が一致することが多いだろうと思います。しかし、条文の解釈としてそこまでいけるかどうか、なお、私研究を十分その点に突き詰めておりませんから、十分の自信を持って申し上げることはできませんが、さしあたりは、当局の御解釈でいいのじゃないか、解釈としてはいいのじゃないかと思うのです。ただ、実質的に見ると、おそらくこの両方が一致する場合しか考えられないのじゃないか、実際問題として出てきたのがそういう意味で大きなしぼりになってくる、まあなければない方がいい成文ではないだろうか、そういう意味で申し上げておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/71
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072・亀田得治
○亀田得治君 もう一つ、これは午前中もちょっとお聞きした点ですが、昭和十六年のときの法案のような、公務員がその地位を利用して云々と、あとはしぼりがない、そういうことにはこれがなっておらないわけですが、この条文自体だけを白紙で見れば、公務員は以下に書いてあるような行動をしてはならないのだと、それだけにしか私は読めないと思うのですね。その公務員が個人の立場で行動しようが、あるいは弁護士としての立場で行動しようが、そういうことはこの条文自体から私は出てこないように思うのです。ところが、提案者の方ではそうではない、公務員としての立場での行動というふうに解釈しているようです。だからまあ地位を利用してというのと、実質的には大して変りはないのだというような説明等もされているようですが、しかし、それはどうもいろいろせんさくをして、実際上はそういう場合にだけ適当するのだとか、そういうことなどであって、条文自体としては、そういうふうなものにしようというのであれば、もし地位を利用してというのが少し下の方にしぼる条件がたくさんあるのに、さらにそういうものを加えちゃ大へんだという考慮があるとすれば、たとえば公務員として以下のことをやった、何かそういうのが一つ入りませんと、この条文自体からは、当然にこの公務員としての問題だけが扱われるのだということは、私は出てこないと考えるわけですが、その点の解釈はどうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/72
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073・團藤重光
○参考人(團藤重光君) 私もその点について、最初かなり疑問を持っておったんですが、いろいろ考えてみますと、「賄賂」という文句が使ってあるのですね。わいろということになれば、純然たる私人の立場において金品を授受するというのが概念上入らないのじゃないか、「賄賂」という言葉があることによっておのずから公務員という地位になってなきゃいけないということが出てくるのじゃないか。それでおっしゃいますように、公務員の地位を利用するということになればこれは非常なしぼりになりますが、これは強過ぎると思うのですが、公務員というしぼりにしている、そうなりますと、公務員としての地位においてやったんだということを立証しなければならない。そういう立証の困難が多少多くなるのじゃないか、それで「賄賂」という言葉を使ってある以上は、公務員としてでないということがもし被告人側によって立証されれば、犯罪を構成したいと思います。そういうことが言えない限りは、犯罪構成するということになると、ちょっと挙証責任が転換されたと申しますか、その言葉は正確かどうかわかりませんが、被告人が積極的に公務員としての地位においてしたのじゃないということが言われる限りは、わいろ性が認められないのじゃないかという工合に見ますれば、案において、この案がやや強い案じゃないか、私自身も公務員として案を考えてみたことがあるのですが、そういう意味において私は主張しなかったのであります。かえってこの方が適切なる取締りができるのではないか、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/73
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074・亀田得治
○亀田得治君 そのしぼり方の程度の問題を私は今言っているわけじゃないので、しぼり方としては、私はむしろ公務員が公務員としてやったあっせん行為、これに対する報酬、これは全部処罰するというふうに、この職務上不正の行為云々というようなことは、そういうことは全部省いてしまって、むしろそういうふうに考えておるので、この条文をもっとしぼりをかけようという意味で申し上げているのじゃないのです。むしろ考え方は逆なんですが、法文自体がどうも政府が説明しておるようなふうに読むのが少し無理なところがあるのじゃないかという気がしているのです。なるほど「賄賂」ということが書かれておるわけですが、しかしまあ普通わいろといえば、公務員が何か自分が判を押してそれに対してわいろを取ると、そういうことがわいろなんで、この場合は自分は何もせんで、ほかの者について走り回って金銭の授受をするわけですから、これはすでに言うてみれば、わいろの概念が若干広がっているわけですね。だからそういう何といいますか、そういう意味のわいろだと思いますからね、だからそれだけで果して公務員として以外の行為、これは当然除外されるとはどうも出てこぬというふには思うのですが、それじゃ弁護士とか会計士とかそういう諸君はどうか、その立場でやった場合、これは当然刑法三十五条の規定で免責されていくというふうに、一応そういう門をくぐらなければ放免されないのじゃないか、これならばともかく公務員の地位を持っておる者ならば、どんな理由があろうともこういう行動をしてはならない、私はその考え方も一理があると思うのです。公務員の立場を厳格に解する場合には、いやそんな解釈にならぬ。当然政府のような解釈になるとおっしゃる方もあるのだが、それは大体公務員ということの職責といいますか、平生の行為自体に対する考え方の違いがやはりそこに出てきておるのであって、これは裁判官のものの見方によって私はどうなるかわからぬのですが、ですからそういう疑いのあるようなことであれば、公務員としてという一字を入れたって、それによって非常なしぼりがかかるというのじゃない、むしろこれはしぼりがかかり過ぎてをるのですから、少くとも条文を作る以上はそういう点は明確であるべきじゃないかと思っているのですが、もう一度その辺の疑問について。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/74
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075・團藤重光
○参考人(團藤重光君) 仮案の規定であるとか、戦時特別刑法に出て参りましたああいう規定は私はあまり賛成しませんので、一方では地位を利用するという範囲が非常にはっきりしないのでございますね、どの程度まできたら利用したと言えるのか、利用という言葉は非常にあいまいでありまして、それも戦時刑法あたりならばこれはやむを得ないと思いますが、平時ならば、やはり合法的な活動の範囲と違法な活動との限界をはっきり限界づけるということが非常に大事なことであって、私はそういう意味で、前に出てきましたあの案にはどうも賛成しがたいのであります。どうしてもやはりこの不正あるいは相当ならざるというふうな言葉でしぼりをかける必要があるのじゃないか。そうなって参りました場合に、なるほど亀田委員のおっしゃいます通り、多少の問題があると思うのですが、私ここからは結局考え方の違いかもしれませんが、わいろといいますのは、やはり純然たる個人の問のことじゃないのだ、純然たる個人の間の金品の授受はどういう意味においてもわいろというものにならないのじゃないか、何らかの職務あるいは地位というものと関連がある場合に初めてわいろ性を帯びてくるので、亀田委員のおっしゃいましたように、確かにわいろという概念自体が今までの刑法の概念より広がってきております。それは確かでありますけれども、しかし、それにもかかわらず、やはり「賄賂」という言葉を使う以上は、公務員の地位と無関係のものは含まない、これは私当然のことじゃないかと思うんです。で公務員としてという文句を入れますと、やはりその点の立証を積極的にしなきゃならぬ、犯罪事実を書きます際に、やはり公務員としてということを書くわけですから、その点の証拠関係も必要になってくるのであります。かえってそれは適当じゃないんじゃないか。亀田委員のおっしゃいますように、あとの方を非常にゆるめてしまえば、それは一つの行き方だと思いますが、私は、それはどうも限界が不明確になるがゆえに賛成いたしかねるのであります。であとの方にこういうようなしぼりをかける以上は、前の方はこれでいいんじゃないか、「賄賂」ということで一定のワクがありますからして、そこでおのずからその限界が出てくるのじゃないかと、私はそのように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/75
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076・亀田得治
○亀田得治君 それから請託の点ですが、大部分の場合には、私が御質問したように、両者が一致するだろうというふうにお答えになったわけですが、法文の解釈としては、一致しない場合でもやはりこのあっせん収賄罪成立の請託を見ていいという御見解ですか、一体それは理由は、どういうことでそういう御見解になるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/76
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077・團藤重光
○参考人(團藤重光君) 請託をするのは、その公務員でない贈賄側が請託を起す、そうして請託を受けて公務員が他の公務員に不正な行為をさせる、で従って、よろしく頼む、この件についてよろしく頼むということを贈賄側が言って、公務員が承知したというので他に不正な行為をやらせるようにあっせんする。請託をすることの内容には不正なことは入っておらない。この件についてはよろしく頼むというだけのことであって、別に不正なことをしてくれとは請託しておらないという、こういう場合でも、これから除外するという根拠は私は積極的に出てこないと思うんです。で少くとも、従来の刑法のほかの規定に関する限りは、特にそういう限界が、この限定がないものと考えられてきたわけでありますから、どうもこの句点だけについて実際上一致する場合が多いだろういう理由だけで、論理的にも一致しなければならないんじゃないかということは出てこないんじゃないか。で先ほど申し上げましたように、私なおこの点十分突き詰めた研究をいたしておりませんので、あるいは将来考え方を変えるかもしれませんが、さしあたり現在の考えとしましては、どうもこれを限定するだけの根拠がないように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/77
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078・大川光三
○大川光三君 先ほどから亀田委員御質問のように、この請託という中には不正の行為をさすということが含まれておるかどうかということについて、実は午前の参考人に出られました植松先生からも、この条文を静かに読んでみると、請託という中には不正の行為をさすという内容が含まれておるというようにしか読みとれない。こういうような御解釈です。そこでただいま先生のお話を伺って考えますることは、不正のことをしてくれという請託をする場合と、ただ正しいことをしてもらう意味で請託をする場合と、二つあると思う。そうしますと、その次の条文でありまするいわゆるあっせん贈賄者の処罰についてこれは考慮しなければならない、もしこの請託というものが不正の行為をさすということを含んでおるのであれば、その意味においてのあっせん贈賄者を厳罰にするということはわかりますけれども、請託をしたその人は正しいことを一つお願いしたいというにとどまっておるということになりますると、あっせん贈賄罪の処罰の関係において、一応矛盾を来たしてこないだろうか、あるいはあっせん贈賄について、その過程の面において非常な甲乙をつけなければならぬじゃないかという観念がありますが、その点いかがでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/78
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079・團藤重光
○参考人(團藤重光君) 私は、午前中の植松教授の御意見を伺っておりませんので、どういう根拠でそういう御解釈になりましたか、私それを反駁することはできないのでありますが、あるいは一つの学説として、そういうことも十分に可能であろうかとも思っておりますが、私はどうも、その点の区別がないように思うのでありまして、その点から申しますと、贈賄側の刑罰につきまして、この一般の贈賄と刑を区別していくという点、多少の疑問は私もやはりあるように存じておりますが、ただ、わいろの観念が従来よりも広がってきまして、普通の贈収賄とはやや罪質が変っているのじゃないか、そういう点からしてこの百九十七条ノ四の方は単純収賄と同じ刑罰でありますが、贈賄側の方がやや軽い刑になっておりますことも全然理解できないこともないと存じております。私も法制審議会の刑事法部会では、贈賄側について、一般の贈賄と同じ刑にしてはどうかということも申してみたのでありますが、いろいろ考えまして、多少罪質が違う点があるのじゃないか、そういう点から刑のニュアンスが出てくるということもさしあたりは一つの案として十分に考えられることで、そういうことで私は賛成したわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/79
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080・亀田得治
○亀田得治君 次は、暴力関係の規定ですが、先ほどからまあ神鳥参考人の方から御意見のあった点ですが、私もこの暴力団のような存在が非常にたくさんある、はなはだしく私ども遺憾に思っております。しかし、これをほんとうにほかに迷惑をかけないで適当な立法措置をやろうというのであれば、例の暴力行為等取締法をこの際全面的に検討して、そうしてあの中に必要なものを全部織り込んでいくとか、あるいはもうあれを廃止してしまって新しく暴力団取締法とというふうなもの、名称は多少まだあるかもしれませんが、そういうものをはっきり作って、そうしてそういう団体の定義なり、あるいは暴力団のやはり手口というものは大体経験でわかっておるわけですから、そういうものを具体的に詳細に書いていく、そうして刑としては私は相当重くてもいいと思うのです。もちろんそれだけで問題が処理できるものじゃないのですが、刑としては重くてもいい、そうしませんと、どうも無理なような気がする、刑法の中に入れるとすれば、場合によっては、これが一般の人にも適用があるかもしれないという考慮を払うから、どうしたってそんな重いものはできない、中途半端ですね、私はこんな程度のものを一つや二つ刑法の中に入れても大した効果はないと実は考えている一人です。実際はそういうわけで、暴力行為取締法等では、たとえば集団的に、常習的に暴行、脅迫等をやる、これがまさにねらいですね、そういうような点をもっと浮き彫りにしてもらいたい。それから毀棄罪等の問題でもそういう方法でやられる、毀棄罪は親告罪からはずすとか、こういうふうにやってもらえば、労働運動者の方でもこの問題についてそんなに私は神経質にならないと思うのですがね。今からじゃはなはだこれはおそいとおっしゃるかもしれませんが、どうも事柄の性質上、何かそういうことの方が正しいのではないかという感じがどうしても基本的にぬぐえないわけですが、どうでしょう。時間があればその方がいいのだとか、いろいろ御意見があろうと思いますが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/80
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081・團藤重光
○参考人(團藤重光君) これはなかなかむずかしい問題で、暴力団というものは一体どういう形で押えるかということは、これは立法府として極端にむずかしい問題であろうと思うのです。おっしゃいますように、その現象形態をいろいろとらえて、こういう行為、こういう行為というふうにあげられそうなんでありますが、いよいよ筆をとってやってみるというと、それは非常に困難なのでありまして、それは法制審議会に、刑事法部会より前に御承知の法務省の内部で小野特別顧問を中心に、刑法改正準備会というのがありまして、ここでもいろいろその点の検討が行われたのでありますが、これは非常にむずかしいのであります。刑事法部会では、今御指摘の暴力行為取締法の、あの中に規定を入れたらどうだという意見も出ました。その点も検討されたのですが、あれもまた昔から相当いわくつきの法律なんでありまして、あれに入れたから乱用のおそれがないということが果していえるかどうか。むしろ今までの実績から見て、あれに入れたら、なお初めから色がついてしまうのではないかということも心配になるくらいです。むしろ刑法の中に、特別に色をつけないで入れた方がいいのではないかということで、この気持の上じゃ亀田さんとむしろ同じ気持だと思うのでありますが、この形としては、むしろこの方が弊害が少くて済むのではないかというような気持を私自身は持ったのです。むろん最後に検討していいものができればけっこうなんでありますが、今まで自分でいろいろ工夫して見まして、その経験で申しますというと、ちょっとやそっとでこれはいいというような、安心だというような規定はできにくいのではないか。そこまでいうことは少し言い過ぎかもしれませんが、さしあたりこの程度のもので、むろんこれで押えるものは九牛の一毛であって、決してこれによって暴力団体が影をひそめるようなものではないと思うのだが、しかし、ある程度のものは、これで押えることができるのではないか。むろんこういう罰則以外に、他の方面の政策が必要なのは当然のことでありますが、一方ではこれで押えていく、そして一方では適当な施策を行なっていくということで、両方相待って少しでも目的に近づくことができるのではないか、大体そういうふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/81
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082・亀田得治
○亀田得治君 まあたとえば、暴力団ということの定義ということになると、大へんむずかしいと思うのですが、大した正業も持たないで、そして団体の背景をもって、そして暴行とか脅迫とか、そういうことを主たる目的としてやっているものというふうなことになってくれば、これはもうだいぶ性格が出てくるわけです。そのくらいではもちろんいかぬと思うのですが、いや、おれはほかの職業も、ちゃんと持っているのだとか、いろいろなものが出てくると思います。しかし、その境目にあるものまでこれは全部取り上げなくてもいいと思うのですね。やはり何といったって大きな暴力組織のもとというものは、やはりそういう割合はっきりしているのではないかと思います。性格づけようと思えば。そうすると、労働団体などと目的においてこれははっきり区別されてきますからね、それに対して相当な規定を設けてもらっても弊害も起らぬと思うのですよ。まあその辺は一つ私どもの気持としては、実際はこの法案に関連してそういう点を検討して、まとまるものならむしろそういう形でいきたいと思っておるくらいなんですが、しかし、これもなかなか皆さんのような専門家がやってもなかなかいい知恵が簡単には出てこぬというのですから、時間がかかるでしょうが、十分これは研究をしてもらいたいと思います。
そこで、次の質問ですが、刑事訴訟法の中で、例の被告人を退廷させるという問題ですね。これはこまかい点をお尋ねするといろいろ問題はたくさんあるわけですが、ともかく私どもの法廷における経験からいっても、非常に問題のある場合には、裁判長が法廷の指揮権の範囲内で適当にこれはやはり処理をしてきておるわけです。当然そのときには、弁護人の意見も聞いたりいろいろやっているわけですね。だから、私はその辺にまかしておいていいのじゃないかと実際は思っておるのです。まあ憲法の三十七条ですか、それとの関係もこれはもちろんありますが、まあともかく法廷から被告人がおらぬようになったというふうなことは、ちょうど何かあき家で騒いでいるような感じでして、だからこういうことを刑事訴訟法の表に堂々と出してくるということは、私は非常に間違ったことだと思うのですがね。やむを得ない場合には訴訟指揮で実際上若干やられ、最高裁もそれは実際認めておるわけですから、もう少しこういう点は慎重に審議すべきなのじゃないかと思う。一ぺんここへ出てしまいますと、そういう考え方というものがくずれてくると思うのですね。現在までの刑訴を見ても、まあ公判廷外で被告人がおらないところで適当に審理を進めるというようなことも例外的には若干あります。しかし、それは公判廷ということは避けておる。私は公判廷だけは、条文の上にまでこういうふうに出してくるということになりますと、何かそこに一つの質的な変化というようなものが始まったんでは非常にやはり問題だと思うのですが、その点、一体どういうふうにお考えでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/82
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083・團藤重光
○参考人(團藤重光君) まあ運用で適当にやるというのは、やはりその被告人が騒いでしょうがないとかいうふうな場合、あるいは傍聴人に対しては、これは規則の方で退廷させることができますが、被告人自身を、騒ぎもしないのに、まああとのお礼参りのことを考慮して退廷させるということは、これは御承知のように、運用ではいけないわけで、それがどの程度必要であるか、もしそう必要でなければ、私むろんこういう規定には絶対反対なのでありますが、どうもやはり徹底的にこの際お礼参りを押えるというためには、この程度の規定を置くことはやむを得ないじゃないか。で、弁護人に対する考え方が、おそらく従来よりもっと強くなってくるのじゃないかと思うのですが、英米法では御承知のように、弁護人がいれば、全面的に被告人のかわりになるというふうな考え方のようでありまして、従来の弁護人は包括的な代理権を持っているのだというだけの理論構成じゃ、ここまでのことは出てこないと思うのですが、弁護人が全面的に被告人にかわって弁護をするのだという英米法流の考え方を取り入れますならば、まあその点が根本的に従来と違ってきた点だと言えば言えるかもしれませんが、しかし、被告人の実質的な利益を害しない限りはこれはやむを得ないのじゃないか。やはり先ほどの暴力団を何とかしてこの際絶滅させようという大きな目的の前は、これは特殊の関係においての例外でありますからして、両方を比較しますというと、そちらの方をまあのんでいかざるを得ないじゃないか。私も決して進んでこれに賛成するというような気持は法制審議会の審議の際にも持っておらなかったのですが、しかし、事柄の軽重を考えますと、こういう特定の事項についてこの程度に譲歩するということはやむを得ないじゃないか、こういうふうに考えたのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/83
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084・大川光三
○大川光三君 簡単に二つの点をお伺いいたしますが、ただいま問題になりました被告人の退席の問題でありますが、衆議院の修正では、弁護人の意見を聞くということに歩み寄ると、私はこれは大へんよかったと思う。ところが、先ほど神鳥さんの御意見では、一歩を進めて、弁護人の同意を得ようというところまでいくべきだという御意見でございましたが、どうも同意というところまでいきますと、裁判所の訴訟指揮という面にも非常な制約をするというふうに考えますが、いわゆる意見を聞くということをもって十分か、あるいは同意ということまで強くいかなければならぬだろうかということに関する先生の御意見をまず伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/84
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085・團藤重光
○参考人(團藤重光君) 先ほど申し上げましたように、この規定の運用は憲法三十七条というものを頭に置いて考えなければならないことであって、従って、ただいま大川委員の仰せになりましたように、裁判長が訴訟指揮を行なっていきます場合にも、やはり憲法三十七条の精神にのっとってやっていかなければならない。従って、弁護人に聞かせるだけでは不十分だ、こういう場合にこの規定を動かすということは、これは憲法の精神に合わないことでありまして、その点は、裁判所あるいは裁判長の訴訟指揮に信頼していくという以外にないんじゃなかろうかというふうに存じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/85
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086・大川光三
○大川光三君 刑法の二百八条ノ二のいわゆる持凶器集合について伺いますが、条文の解釈でございますが、どうもこの条文全体が私ははっきりいたしておらぬという感じはいたしますが、そのうちで「兇器ヲ準備シ」とございますが、「兇器ヲ準備シ」ということは、集合場所のいわゆる現場になくてもいいという解釈でございましょうか。あるいは現場に、集合場所に凶器が準備される、いわゆる集合場所に凶器を所持しておるというように解すべきかどかという疑問でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/86
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087・團藤重光
○参考人(團藤重光君) これは準備という言葉からいたしまして、この目的のための準備でなければならない。従って、ある程度の場所的な関連は必要だろうと思うのであります。それが必ずしも集合の場所にあるということは要件でない。場合によっては犯行場所に近いところに置いておく、その方がかえって目的に合致する、こういうこともございましょうし、おそらく解釈としても、集合の場所に限らないということになるように存じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/87
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088・亀田得治
○亀田得治君 それでは安平さんに若干お尋ねいたします。
まず、請託の点ですが、先ほどの御意見では、請託があった方がいいという結論のようだったと思うのですが、御意見の中でもおっしゃっておったように、ほとんどあっせん収賄の場合には請託行為というものがあるのじゃないか、こういうふうに言われておったと思うのです。私も大体そう思います。だからほとんどあるわけですから、特にそういうことを要件にしなくともいいのじゃないかと思うわけなんです。ともかく、請託以下のここに書いてある事柄自体を取り締る、こういうことで十分なんじゃないか。ただ、請託を入れることによって、検察官、まあ安平さんの方が今度立証責任が重くなるだけですね。だからほとんどあるのだから、むしろ私はそんなことは要らぬことじゃないかという感じをもっているのですが、どうしてああいう御意見が出たのかお聞きしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/88
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089・安平政吉
○参考人(安平政吉君) ただいま亀田委員のおっしゃいました点でありますが、われわれ検察の方に携わっておる者が、こういう種類の非行を糾弾するという点から申しますと、これはもちろん事務処理といたしましては、請託なんということが条件になっていない方が仕事はやりやすい、そういう意味で、単に比較的立証の点をたやすくして、しかも刑罰権を広くこの種類の非行に対して行使するという点から申しますれば、これはざっくばらんに申し上げますと、もちろん請託なんということが条件にならなくともいいのであります。その意味におきまして、古くからありました昭和十五年までのわが国の日本刑法改正仮案とか、あるいは昭和十六年の何でありましたか、ああいうふうな、なるべく条件、制約をつけない方が好ましい、現にそういうようなことを主張する検察の者も相当にあるわけであります。ただ、しかし、一つ考えてみなければなりませんのは、先ほどもちょっと申しておきましたが、刑罰権というものの広げ方でありますが、もともとこの収賄罪の本質については、相当問題があるようでありますが、ともかくも過去の歴史的事実それから構成の発達段階に徴しまして、いわゆるあっせん収賄ということはひとまず刑罰権の外にはずされておった。そのはずされておりました理由は、古くから伝えられております職務の執行の公正の担保という見地からして、必ずしも連関性がないのじゃないかというようなこともありまして、ひとます今までのわいろ罪の範疇から一応理論的にはずされておったのであります。しかし、だんだん考えてみますと、わいろ罪の本質には、また一面に公職、ことに公務員というものは不正の金はつかんではならないのだ、身はどこまでも公職に奉じているのだから、その廉直性は保持しなければならないという論旨が古くから通用しておるのであります。さればこそ昭和十六年のときも、また、このたび汚職追放というようなことが叫ばれまして、公職の廉直性というものはどこまでも保持しなければならぬということから、ここにあっせん収賄の立法というものが出て参った。さように考えて見ますと、これはなかったものをある意味において新しく作るのでありますから、相当の制約を認めまして、必要やむを得ない、きわめて悪質のもののみひとまず刑罰権の対象にするということが考え方として浮んで参る。これはそういうふうな意味で、この請託ということを付加することによりまして、いわゆるあっせん収賄行為のうちで特に悪性と見られる一つの条件として請託関係というものをここに取り入れて、広い範囲からのあっせん行為からピック・アップいたしまして、一段階にして、悪性分子の加わったもののみをここに処罰の対象にするということはやむを得ないのじゃないか。特に、われわれお互いに国家生活をいたしておりますと、刑罰権というものはよほど考えて、むやみやたらに拡張すべきでなく、その前提としての不法性を制約しなければならぬのでありまして、ことに新憲法のもとにおきましては、人権の擁護ということがやかましいので、古くから刑罰権というものは必要やむを得ないときでなければならぬという思想はあったので、いわんや新憲法のもとにおきまして、国民の権利というものが極度に、なるべく制約をせずして、そうして基本的人権というものは力強く援護するという時代、そういう思想の支配する当世におきましては、理論上、刑罰権は出て参りますけれども、そのうちで特に悪質のもののみに限定して、ひとまずこういう段階の程度の立法に承服するということもこれまたやむを得ないのじゃないか、こういうふうに考えておりますので、そういう意味で、先ほど申しました、ここに当局が案をこしらえるに際して、請託ということを入れることによりまして、一種の悪質分子の加わったものを条件とするというふうに方向を決定せられたのも、まずやむを得ないのではないかと、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/89
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090・亀田得治
○亀田得治君 こういう案ができる以前でしたら、あなたの方も私はもう少し違った意見があるだろうと思うのですが、あまり政府案を支持されるようなことをことさらに言う必要はないと思うのですよ。やはりあなたに来てもらったのは、実際の検察の立場から見ての批判というものを私どもは聞きたいのです。そういう立場で一つざっくばらんにやってもらいたいと思います。
それで、やはりこういう立法を国民も要望しておる。これは、今まで収賄関係の事件があったところが、現行法ではやれなかった、だから一つ、もうちょっとはっきりしたものを作ってくれ、こういうことなんですね、出発点は。だからそうなってみれば、これができたら、過去に振り返ってみて、もう少しこれが早くあればあの事件はのがさなくても済んだ、少くとも一つや二つはそういうことが言えるものでなければ私はだめだと思うのです。やっぱりこれができても、いや、過去に問題になったあれは、これからいってもだめなんだ、こんなものじゃもう何も意味がない。だからここでお聞きするわけですがね。例の復金事件ですね、元農林大臣某氏の事件です。それが二審までは有罪であったが、最高裁に来て、結局昨年の三月二十八日、無罪になったわけですね。これはあっせん収賄罪という規定がないためになったようです。あなたが直接御担当ですから御記憶でしょうが、しかし、今度作られるようなあっせん収賄罪、こういうものであっては、やはりあの事件はつかまえられぬのじゃないですか。つまり職務上不正の行為をさせる云々というふうな条件がついておりますから。ところが、あの事件自体を見ても、これは融資を頼んでさせたということであって、金庫が金を貸すのはこれは商売だから、別に裏ではどんなことを考えておっても、表向きは、いや私の方はなるほど口はきいてもらったけれども、しかし、これは金を貸しただけです、こういうことになっちまえば、この法律では、私は元農林大臣のその復金事件でも結局無罪だと思うのですが、あなたはどういう見解を持たれますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/90
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091・安平政吉
○参考人(安平政吉君) なかなかむずかしい問題でございますが、今まで私経験は浅いのでありますけれども、実際わいろ罪の現実、実態というものを見ておりまするに、むろん請託ということがなくても、理論上、公務員、官公吏がその職務に関連いたしましてわいろをつかめば収賄罪、贈賄罪が成立するのであります。しかし、実際のわいろ罪を見ておりますと、多くは何がしの依頼、お願いというものがあるのであります。全然依頼その他の何がないにかかわらず、わいろを取るということはまず世の中にはないのでありまして、そういうふうに考えて参りますと、現実のわいろ罪は、多くは請託関係がある場合に限って検察は事実として訴追している場合が多いのであります。この点は大体私のみならず、多くの者が認めるところであろうと思いますが、ただ亀田委員御質問の復金事件その他について、もし請託関係ということを要件とするにおいては、ああいうようないわゆるあっせんの場合は一体どうなるかという点でありますが、これは私は近い判例の方から申しますと、一つ経験の方から申し上げますが、名前はなるべくあげたくありませんが、いわゆる昭電事件と称せられるその一つの分派として一番新しい、第一審判決がありました。それを読んでつくづく思ったのであります。実はこの一番新しい昭電事件につきまして、検察官、検事の方で控訴いたしましたのは、そのわいろを収受した事柄が、いわゆる職務に関係しておるかどうかという点について、第一審判決は関係していないというふうに見ますし、それからわれわれの方では、いやそれは一種の職務関渉行為ではないかというので、その点の法律点を争う意味で控訴いたしたのであります。ところが、控訴審の第二審の判決を見ますというと、その点を判断せずに、いま一つの、たしかこれは私の記憶が間違っておりましたらあとで訂正いたしますが、そういう法律問題を抜きにしまして、もっぱら事実問題で特にこれこれの依頼を受けて、そのために金円を収受したとは認められない。一種の政治献金であったのだ、つまり請託に基いてその金を渡したのではないのだというような事実問題で片づけられまして、法律問題を抜きにして第二審判決がきまったようなことになって、われわれあぜんとしたのでありますが、しかし、いやしくも権威ある、ことに東京あたりの高等裁判所が、しさいに長い間かかりまして事案を調べたあげくそういうふうに判断して、これに対して上告するということになりますれば、憲法違反とかあるいは判例の背反か、あるいは法律解釈に関する重要なる誤認か、あるいは事実誤認、その他事実認定に関する著しく正義に反する事案がないと、上告しても見込みが立ちませんので、そのまま見送ってしまう。相当に訴訟を長い間かかってやりましたが、いわんや判決に現われたところでは、認定においてそういうふうに認定されておるのでありますから、それで見送るということで、その分につきましてはケリがついた、こういう事案があるのでありますが、さように考えて参りますと、先ほど冒頭申しましたように、実際これこれの容疑者がわいろならわいろを取ってそしてそれがためにわれわれの方ではがまんすることができずして、やむなく糾弾のむちを打つべきものとしているので、何といってもある意味の要請があって、それに原因されて金銭が授受されておるという関係がなければ、ちょっと実際問題としてわいろ罪にならないと思うのであります、ほんとうの、本格的の、そういう意味で、いわんやあっせん収賄というようなことは本来の、普通の収賄とちょっと線をそらしました、何と申しましょうか、職務関連性という点から申しますと、希薄な場面でありますから、こういうような希薄な場面をあらためて立法に取り入れるにつきましては、普通のわいろ罪と違うちょっと質の濃度なものがなければならぬと思いますので、そう考えれば、このわいろ罪に関して請託ということを取り上げておられるのは、私正直に申しまして、必ずしも不都合ではないのではないかというふうに考えておる次第であります。
お説の刑罰権を広くするという点につきましては、これは必要はないのでありますから、しかし、実際上相当に処罰価値がある、また、相当に悪質なものと見受けられる案件についてその限度のあっせん収賄罪は処罰に値する、こういうことに考えますと、要請、請託ということを条件に加えるのは必ずしも不都合ではない、こういうふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/91
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092・亀田得治
○亀田得治君 なかなか論旨明確ではないですね。やはり何ですよ、請託という事実認定が破れて、そのために結局は第二審判決で昭電事件が無罪になったということは、私は請託ということがあることが非常にじゃまになっておるという一つのむしろ証拠だと思うのですよ。だからこれはどのようにあなたがいろいろ説明されても、事実そういう判決になっておるわけですからはっきりしておると思います。これがあることがじゃまになっておることははっきりしております。
でお聞きしたいのは、先ほどもちょっと、私復金の事件のことを申し上げたのですが、その点にはお答えにならないで、昭電事件のことをおっしゃったわけですが、昭電事件の場合でも、その当時には、あっせん収賄罪の規定がないから、それで現在の刑法の収賄罪の規定で扱っておるわけですが、私はそこに相当無理があると思う。本来はあっせん行為なんでしょう。だからそれを現在の刑法でやろうとするから非常な無理がある。その点はどういうふうに安平さん、お考えになっておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/92
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093・安平政吉
○参考人(安平政吉君) その点について、私は個人的にこういうふうに考えております。これは、大審院の古い判例から御検討下さるとわかることですが、たしか旧大審院の第三刑事部あたりの見解であります。職務関連ということにつきまして相当に拡張した見解を持っておったのであります。文書偽造罪とか、公務執行妨害罪の方面におきましては、職務に関するかどうかという関連問題は、旧大審院では判例は厳格でありました。これに反しまして、わいろ罪方面におきましては、さすがに旧大審院もその不法性を認めまして、相当に職務関連ということを広げてそうして取り締るという傾向が見えておったのであります。その一番広がりの伸びていきました時代の判例は、関連ということをもう一つ言葉をかえまして職務に関渉しておったという、関渉という言葉を判例は使っておりまして、こういうように大審院が関渉という言葉まで出しまして普通の職務に関係しておる、関連しておるということをもう一つ広めまして、これは何と申しましょうか、その古い判例はたくさんありませんが、たしかその判例が一、二ありましたか、その判例によりますと、今日われわれがいわゆるあっせんいたしますが、自分の職務と直接に関係がないが、その地位その他のものを利用しまして、他の関係の範囲の職務に依頼その他のことをなした、その報酬として利益を取得した、今日率直に申しますというとあっせんに相当する事柄を、今申しました職務に関渉ということに置きかえまして称しておる例があるのであります。これを今日の観念にいたしますと、はっきり申さば、むしろあっせん行為だと見るべき事柄を旧大審院当時のもとにおきましては、職務に広い意味の関連、関渉という言葉であります。はなはだおそれ入りますが、これはドイツ語でイン・アンツアインシュラーゲントという言葉の翻訳されたものと考えられるのでありまして、それは職務に包み隠されている、含まれている、包摂されているという、そういうような広い意味であります。そこでこの職務に関するかどうかということを広く解釈いたしました職務関渉行為の、なおかつ職務に関する行為の一つの種類である、こういうような点から旧大審院が判例を下して処罰の対象としておったのでありますが、ことにこの判例を学者が批評しまして、たしか私の記憶が間違いなければ、故美濃部博士がこれは非常にいい判例だ、いいが、もう一つ進んで申せば、職務に関渉することさえも必要はないので、公務員たるものはもともと金によって買収されちゃならないのだからというような見地から申せば、もう一歩進んでもいいのだということまで、たしか美濃部博士は論文の上において述べておられました。そういうような判例が相当に職務関連の範囲を広げて解釈いたしておりますし、わが国の公法の関係の権威であらせられました美濃部博士のごときも、それ以上に学説的にそれを支持しておられた例もあったのでありまして、そういうような状態におきまして、今日あっせん収賄罪は、その事例は既往のところあまりありませんでしたが、やはり直接間接一脈自分の職務に連関関係を持っておる事柄に対してわいろを取ったという事実があります以上、昭電事件がこれに当るかどうか、御判断におまかせしますが、そういうふうに考えて起訴なり、訴追なりに至ったというのが当時の法律解釈また取締りの必要性、こういう点から申しまして、私はまずやむを得ないできごとであったのじゃないか、いなむしろ忠実に公務員の非行を糾弾するという態度から申せば、そういうような判例もあったことでありますから、一種の職務関連行為として処罰の対象としたというのは、これはむしろ当然であったのではないか、かように考えておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/93
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094・亀田得治
○亀田得治君 まああっせん収賄罪のないときには、そういうふうに法律の解釈を広めて、そうしておやりになったと、まあこれのよしあしはいろいろ見方によって違うと思います。たとえそういう必要性があっても、法律の拡張解釈の限度があるのじゃないかとか、そういういろいろな批判等もありますが、ともかく、その点は別として、従来すなおに見ればこれはあっせん収賄行為である、まあ普通常識的に考えられるあっせん収賄行為だ、そういうものも、この従来の普通の収賄の規定でやろうとしたところに相当な無理がある。従って、無罪になる、こういう事件が相当出ておる。ところが、しかし、国民はそういう内部の法律論などはあまりわからぬから、あれだけ金もらってどうしてだろう、こう不思議に思っておるわけですね。従って、このあっせん収賄罪を今度作る以上は、その今まで逃げたものが今度はちゃんと拾えるような、そういう内容のものじゃなければいかぬのです。ところが、このあっせん収賄罪ができても私はなかなか拾えないと思うのですよ。先ほどの、元農林大臣の復金事件の融資の問題等を見ても、それはただ口をきいて融資をさせたというだけであって、直ちに職務上不正の行為といとうこで私は引っかからぬと思うのですが、それでは国民の期待に何ら報いることにならぬわけです。そこを言うておるわけです。しかも今までの収賄罪の規定を適用すれば、まあ「職務ニ関シ」ということに入るという認定になれば、いろいろな条件がついておらぬからそれは広くいけるわけですね、「職務ニ関シ」という点さえ裁判所で是認されれば。ところが、今度はこの法案のように、たくさんの条件がついておるから、今までは簡単にやれたものすらが場合によっちゃやれないケースができるのじゃないか。逆に、今度こういう法律ができたために、こういう法律ができている以上は、いわゆるあっせん収賄的なものである以上は、今までの刑法の条文じゃなしに、今度は新しいこの条文で検察庁が取り扱うことになるでしょう。かえって悪くなる面ができるのじゃないか、そういう意味では。その点、どういうふうにお考えでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/94
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095・安平政吉
○参考人(安平政吉君) 亀田委員の御質問、ごもっともの点も多々あるのであります。実際この請託ということを条件とするがゆえに、その点の立証その他証拠関係が困難で、何人が見てもこれはいわゆるあっせん行為だと、そういうふうに見られる案件が訴追の対象となり得ないという懸念が出てくるのじゃないかと、このお説はまことに一応ごもっともであると、かように思うのであります。実際第一線におきまして、この種の事案を捜査糾弾するということになりますと、ことに現在のような刑事訴訟のもとにおきましては、これは相当に訴追の範囲から見送らざるを得ないというケースが、それは実際問題として出てくることはないとは保証できないのでありますが、ただしかし先ほど私の申しておりますように、実際起訴価値があります、これは何人が考えてもこのあっせん行為はこれは不問に付するわけにはいかない、どうしても刑罰のむちを一つ置かなければならぬと、こういうような起訴に値しまする案件ということになりますれば、実際上相当手を尽せば、そこに何がしの具体的のこういうことを一つお願いしたいとか何とかいうそれが出てくると思うのでありまして、そんなことしなくてもいいじゃないかと、こういうふうな立法をして下されば、これはまことにわれわれとして仕事は楽でありますが、そんなよけいな心配をしなくてもいいから、率直にそんな条件はなしにして、仕事は楽にした方がいいじゃないか、そういうことをはっきりいえばいいじゃないか、こういう御趣旨ならば私はまた何事も申さないのであります。ただしかし、先ほど申しますように、これは要らぬ心配かもしれませんけれども、相当に不法性を帯びる、どうしても刑罰をちょうだいせんければならぬというようなあっせん行為ということになりますれば、実際問題としても、そこに請託があるのですから、そういうようなことを条件とせられる方が今日の点から申しまして相当ではないかと、こういうふうに考えておる次第であります。率直に申しましてそんなことは心配要らぬ、おれたちが、そういう条件をつけなくても、あっせん行為を取り締る立法をしてやるから、そんな先走った心配をする必要がない、こういうお説でありますなら、私はつつしんでそれに賛成する。何も好んでそういう条件をつけて下さいということは申しておりません。御苦心はよくわかります。実は非常にありがたいお説でありまして、もしそういうことができますならば、何も私苦しんでこれだけのことを申し上げません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/95
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096・大川光三
○大川光三君 先ほど器物損壊罪、私文書毀棄罪ということについて賛成であるという結論的な御意見を伺いましたが、ただ私のここで疑問になりますることは、なるほど器物損壊罪、私文書毀棄罪というものは、これは軽微な犯罪です。しかしながら、非常に多い犯罪であります。そこでいよいよこの法の運用に当って、捜査の面であるいは検挙の面で非常に手数がかかる。その結果、あるいはねらい撃ち的に事件を処理して、結局非親告罪にしたことがかえって法規を空文化するおそれはないか。言いかえますると、検察陣営の態度いかん、準備いかんということについての御意見を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/96
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097・安平政吉
○参考人(安平政吉君) この何はただいまおっしゃいます通り、罪質としましては必ずしも重くありませんが、御指摘になりました通り、非常に多い犯罪であります。おそらく立法に取り入れられましたのもこれが大へんに多いという点が相当に深刻に認識せられたのではないかと思います。一つこの点について、私ふだんから考えておりますことを指摘したいのでありますが、日本の人間は、こう言っちゃはなはだ失礼でありますが、お互いに泣き寝入り、あきらめが非常にいいので、仏法の教えを長い間受けてきましたためか、これは一つの災難だあるいはまた、長い物には巻かれろ、あるいは環境には順応せんければならぬといういろいろな分子がありまして、あきらめの何が相当深刻で、この点は、ヨーロッパなんかでは少々何せられたにかかわらず、敢然として闘争の態度に出るというのと非常に違っておる。わが国のこれは国民性のいい方面でありますが、同時に、悪い方面である。そういうことをいたしますから、今度はぐれん隊なり、そういう暴力を振うものは、どしどし人は弱いものだという見地から立ち向う。ここに一々具体的な例は、時間の関係上紹介しませんが、そんな例がたくさんにありまして、要するに、今日軽微なために泣き寝入りになっております事件が全国的に大へんに多い。ときによりますれば、そういうことを見のがすために、人身売買ということさえもあまり荒立てるというと、あとのしっぺ返しがおそろしいというので、泣き寝入りしておるのです。自分のところの板あるいはガラス窓一つをこわされましても、それを表ざたにするとたたりがおそろしいというので泣き寝入りをしておる。こういう事例が現に法務省あたりで全国的に調査したところ、非常にたくさん出て参る。これは軽微なるがゆえにあるいは国民があきらめるからそれでほっておくという筋合いじゃない。やはりここに法務当局眼をつけまして、この大衆が非常に困る、迷惑する、これは正義の点、あるいは法律秩序の見地から放任することができないという点を認識されまして、この親告の線からはずされたということは、私はこれもやむを得ぬ一つの処置ではないかとこう思うのでありますが、ただ、ただいまおっしゃいました、そうするというと、検察の方ではどうなるかという点がありますが、ちょっとその点をはっきりと、御質問の点を把握するのに困難性を感じたのでありますが、要するに、私の申しますのは、罪質が軽微でありますけれども、被害の数が大へんに多くて、これが今日集団的に暴力行為がはびこる重要な社会的の温床をなしております。そのよって来たるところは告訴権を断念する、あきらめてしまうということにありますので、今日正面に集団的暴力行為に対して早急に取締りの手を伸ばすということになりますれば、これはそのよって来たる直接の原因であります告訴しないというその点を十分配慮いたしまして、非親告罪として、客観的に見まして、その質におきましてあるいはその参加の犯人の数におきまして、相当に被害の重大なものに対しまして糾弾しなければならぬ、その点に対して必ずしも告訴を必要としないということは、これは必要な措置ではないか、こう考えているのですが、あまりに多いのです。実際ここに持っておりますが、一々読むのは略しますが、窓一枚こわされた、着物を傷つけられた——世の中を見ますというと、現に私なんかでも被害を相当に個人的には受けている。私自身もそれを警察に告訴する、それがありません。私自身も泣き寝入りしているような状態であります。これは実情を御認識下さればやむを得ぬことじゃないか、こう思っている次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/97
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098・大川光三
○大川光三君 私の先ほどお尋ねいたしましたのは、さように数が多い。そこで一々警察が職権でこれを調査になって立件するということについて、警察官が非常なたくさんの仕事を持ち込まれるのじゃないか、こう思うのです、一例を申しますと、御承知の選挙が始まりますと、ポスターを張る。これは選挙法の保護がありますけれども、選挙前にたとえば国会報告演説会、時局批判演説会ということで、非常に多くの紙を張る。ところが、それが選挙に接近しております場合には、一晩にしてそのビラが全部なくなっている、あるいは甲のビラの上に乙のビラがぴしゃっと張られている。これはすべて私文書毀棄罪に該当してくるのじゃないか。そうすると、警察は一々それを御調査になって調べなければならぬというので、非常に仕事がふえてくるということで検察陣営の用意いかんと聞くのはそこなんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/98
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099・安平政吉
○参考人(安平政吉君) よくわかりました。私、第一線の捜査、それから訴追の責任の担当をいたしておりませんので、そこのところはお含みおき願いたいと思います。ただ、最高検の公判部長としてやっておりまして、そういう点の認識しか持っておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/99
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100・青山正一
○委員長(青山正一君) 安平さん、返答は簡単明瞭に一つお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/100
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101・安平政吉
○参考人(安平政吉君) そこで、選挙事犯ということはしばらくこの立法からちょっと除外します。ここでは普通一般の器物損壊であります。普通一般の点になりますと、これはもちろん警察には手の限度がありますから、やはりたくさん出てきたときには、その中の重要なものから手をつけまして、どうしても手の及ばないのはあと回しになる、仕方なしに。その点は現地を担当している者がしかるべくやると思います。ただ、御配慮は大へんありがたいのでありますが、そこのところは、現地を担当している者がしかるべくやっていきまして、大事の選挙を取り締らなければならぬものを放擲するとか、あるいはまた、これを選挙の方に持ってくるとか、そういうことはわれわれちょっと想像していないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/101
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102・亀田得治
○亀田得治君 関連して。安平さんが四件ほど何かこわされたがほってある。私はこれははなはだ最高検の検事としておかしいと思うのです。それは告訴するしないは自由ですけれども、自由だが、この政府の原案に賛成する人であれば、これは少くとも告訴してなければならない。それで、それはおそらく、まあ忙しいとか、ほっておけということでなっているのだろうが、しかし、そういうことが日常たくさんあるわけなんです、あっちこっちに。僕らも知らぬうちにだれかの方へ迷惑をかけておるかもしれぬですよ、それを何か因縁つけられて、警察なんかが関与してくるようなことは、これはやはり常道でないと思う。だから私はぐれん隊とか、そうした常習的に飲食店なんか荒してあばれていくそんなような者に対しては、だからこれを私は要件をはっきりして、そういう毀棄罪については非親告罪にしたらいいですよ。ところが、この刑法でいけば、もう全部、一応全部そうなるわけです、これは。なるのですから、そこなんですよ、ところが、あなた自身が四件も経験があるのにほったらかしになっているぐらいだから、私はやはりそういう状態でこれが非親告化されるということは、ちょっとこれはもう少し検討の余地があると思うのです。まあその方が結論的には正しいかもしらぬが、これを一たん非親告化して、どうもまずかったから、もう一ぺん親告罪にする、そんなおかしな、みっともないことはできませんから、もう少しこれは検討の余地があるのじゃないかというふうに思っておるのです。暴力団の必要があれば、それはもう急いで早く、常習的なそういう毀棄行為なんかは親告罪からはずすようにしてもらっていいと思いますが、そこはどうなんですかね、実情から考えたら、あなたの行為自身からいって、これはちょっと早いように思うのですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/102
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103・安平政吉
○参考人(安平政吉君) 具体的の例を出しましたから、おそれ入りますが、簡単に……。実は私のところに、入口にずっと道路にこういう大きい二尺四角の石を二十三枚ばかりずっと——私ども坂を上ったところに往んでおるのですが、ところが、ちょうど隣に不良少年がおりまして、それが憤慨した。というのは、私が夜おそく役所から自動車で入るのを見ている。ところが、不良少年のお父さんは某会社の社長でありますが、社長にして自動車がない。ところが、役人をしているあいつは自動車を持っている、そして石の階段を二十幾つも登る、これがしゃくにさわったのであります。これがけしからぬというので石をひっくり返してしまった、一晩のうちに。夜の十二時ごろから朝の三時までかかりましてその石をよそへ持って行って、一晩のうちになくしてしまった、こういうことが二、三回あったのであります。しかし、何と申しましても、隣の子供でありますからして、まだ年端もいかないそんな隣の子供が幾ら石を持って行ったところで、これは告訴に忍びないと思います。私は夫婦の間では告訴しない、親族の間では告訴しない、こういう道徳は今の訴訟法の中でも生きておると思います。隣の子供さんを告訴するということはできませんし、それであきらめております。そうしてあきらめておりますと、申しわけないと感じたのでありますか、また、ある晩には、ずっと石をもとに並べておる。ただしその石がさんざんこわされておる、もう見られない姿になっておる。これでいろいろ考えさせられまして、世の中は、人間の精神というものはむずかしいものである。ときには手を出さなければならないし、手を出しては悪いし、結局手を出さなかったのがいいと思いましたが、ただ、本立法に関する限りは、一つ私この席で申し上げておきたいのは、これは必ずしもこの問題ではありませんが、そっちの方で、軽犯罪あるいは暴力罪、その方へ持っていったらいいじゃないかという先ほどの意見がありました。この問題じゃないかもしれませんが、しかし、どっちかといいますと、私なんかの考えておりますのは、刑罰法規というものは、現実に適用して、人を処罰することを目的としているものではない。相なるべくは刑罰法規はこしらえましてもなおかつ使いたくない。殺人犯や死刑犯の刑罰法規を見ても特にしかりであります。にもかかわらず、刑罰法規を設けますのは、犯行が起らない前に、こういうことはこういうことになるからしてよほどつつしまなければならぬということを、一般国民の大衆の前に、一種の法律道徳として教えておくという、何と申しましょうか、古くからの一般警戒の意味で、そういうふうに刑法の場面において取り扱う、こういうふうに考えております。この事件なんかも、本件のような軽微な告訴をはずすということにつきましても、やはりそういう点で立法的に大きいねらいがある。事が起らない前に、そういう犯罪についても、告訴がなくても処罰され得るのでありますからつつしまなければならぬ。こういう法律道徳規則を国民大衆に植えつけておく、これが今日の暴力的取締りの重要なる刑事政策的手段である、かように考えておりますので、私の経験と少し矛盾していることになりましたが、まあその点は……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/103
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104・亀田得治
○亀田得治君 まあこのくらいにしておきましょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/104
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105・大川光三
○大川光三君 神鳥さん、せっかく来ていただいておりますので、一つだけ聞かせていただきたい。先ほどの御意見のうちに、暴力関係の立法については、これが拡大乱用の要素を多分に持っている、こういう結論的な御意見でございましたが、言われまする拡大乱用の要素をもってそれがいわゆる労働組合運動の弾圧に利用される疑いがあるというのであれば、どういう点が弾圧に利用される疑いがあるのか、具体的な御意見を伺いたい。実は私、労働問題は全くしろうとでございますので、専門家のあなたからその点をお伺いいたしたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/105
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106・神鳥日吉
○参考人(神鳥日吉君) 今安平参考人の方からお話がありましたように、刑罰を課したくないので、そういった形で道徳的なものを良心的に避けることだと言われましたし、それから告訴しないでおることが多いので、非親告罪にしなければならないというようなことから見まして、私は何か組合運動の中でたくさん出てきているのですけれども、法の運用を誤まったり、罰にならないものを引っぱったりするのが最近あまりにも多いのです。この事例だけでもたくさんあるのですが、これは端的な例ですが、佐賀県教組の問題につきましても、これは組合でもって休暇戦術をやることをきめた。そして幹部の人が休暇戦術をきめたことを組合員に説得をした。そのことが地公法に抵触をして、教唆扇動したということになっているわけです。こうしますと、法の運用を誤まって、何でもかんでも組合のすることは気が好かないのでしょっぴいてしまえという形のもの、そういった傾向が非常に強く最近は出ております。これは最近の中郵の問題でもそうです。中央郵便局の問題ですが、これにしましても、とにかくあれは争議行為でなくて、郵便法の七十九条に違反するという形でもって、七十名に上る取り調べをしております。取り調べをしたことについて私たちは文句を言うのではないのですが、その中央郵便局は、どうしてあの時点でああしなければならなかったかということで組合の指導者や当局側は、参考人に呼んでいない。そうしますと、何か多くを引っぱれば、そのうちに警察の意図する者が二、三人でも出るのじゃないか、今後そういうことをやらせないためにも、そういうことをやるのがより大切なんだという考え方しか持てなくなる。それから第一製本の、これは小さな事件でありますけれども、これには暴力団と申し上げると語弊があるかもしれませんが、非常にそういう人が前にいて、うしろに警察官がいて、その上に機動隊を持ってきて、出荷阻止で工場の中で寝ておる組合員を、夜明けでありますからまだ朝早うございます。そういうときに先の戦列をたたきこわして、そしてゴボウ抜きに組合員を引っぱり出したという事例がございます。これは警察の見ておる前で行われている。だから犯罪を作る、あるいは罰を課する意思が目的ではないかもしれませんけれども、最近の動きの中ではすべての組合の行うことは犯罪祝している。こういった傾向が強く出ている。だから集合罪にしましても、そういう面から見ると組合は何でも抗議といえば集まる、大会、要求といえば集まります。そのときに凶器を持っておるのかおらないのかということはわからないわけですよ。実は僕はこの持凶器集合罪というけれども、わざわざ竹やり等を持って集まる者はいない。パチンコを持ったり、あるいは飛び出しナイフを持っていたりあるいはしようとすれば暴力団等は隠して持っていくかもしれません。ところが、組合員が集まって集合している静止の状態においてそれが集合罪に問われる。凶器を持っているか持っていないかは調べてつかまえてやってみなければこれは出てこない。そういうことになりますと、われわれはこれを持っているか持っていないかわからないから、幹部を引っぱってそれで連れていかれてやったのでは、その集合の目的を達成することはできない。こういうことが多分に出てきますし、一線の警察官は、何か最近組合が暴力化しているというふうに考えるかもしれませんけれども、われわれが感じておる点では、とにかく一つのデモ隊に行っても、一列の警察官は腕を組んでいる。二列目がその一例の間から足でもってけっている。けるとけられたということで何をけるかということでけり返すと、これが公務執行妨害でやられている。それからまた、うまい人は、二線目におる人が一線目におる人の間から、前から来るやつを突っつく。警棒を使ったということを言うと、すぐそれを入れかえる。こういう点を、私は常に警察官との接触でよく見ておる。そうすると、大衆はやられて、何をやるかということになってやり返すと、警察官だけはいい子になって、われわれは常に公務執行妨害でやられている。だから何か組合が集まった行動をとるという形になると、一人ではありませんし、必ず集団的な行動になる。そういう面から集団的な行動になった場合に、凶器を持っているか持っていないかということははっきりしない。はっきりしないけれども、一線の警察官は今申しましたように、挑戦的でありますから、そういう面で私たちの集合しているものを、凶器を持っているかもわからぬという形でやれば、組合員のだれかが飛び出しナイフを持っているかもしれないのです。それが皮をむく飛び出しナイフかもしれないが、それが持凶器集合罪に引っかけられる危険がある。それを持っているか持っていないかという認定をするのは現地の警察官であるとすれば、弾圧の目的でもって出てきた警察官は、それを直ちにその目的を遂行させるためにそういうことが出てくる危険も多分にあるので、私どもは、この持凶器集合罪という形の中で、この法条だけでは非常に拡大の危険があるし、一線の警察官等が、今安平参考人のおっしゃたように、この罪を課したくないのだというような考え方で法の適用が現在なされていない多くの問題が起きておる。こういう点から考えますと、特に私どもは集合罪についても非常に危険視しております。それから特に、親告罪を非親告罪にする点でありますが、これは暴力団等の問題でもって泣き寝入りが多い。泣き寝入りが多いというけれども、これは泣き寝入りをしないようにやはり指導していかなければならないというので、たとえば暴力団とかぐれん隊とかいうのは、一回くらいブタ箱に入る方が箔がつくと言われておるくらいですね。だから、まるで箔をつけに行くみたいな形でもって中に入って、もうわずかな期間で出てきてしまう。そのことでもって、この事犯を親告罪にしたり、非親告罪にすることでもって単にそれが取り締れるのかどうか。私どもの方から言いますと、目的は労働組合運動の方にあるのではないか、こういう工合にしか見えないのです。告訴もできないような弱い人をそれを警察でもってやるということになると、そのことが今度何の根拠でということがここに立証し、明らかにされずにやられるという形になると、非常に危険があって、警察側のでっち上げる形にも強く通じてくる。こういうことから考えますと、組合の幹部がちょいちょい引っぱられて、その事実認定がついて、無罪になって帰ってくるかもわかりませんけれども、いろいろな面で出てくるのではないか。だから私どもはこういった形のものが、軽率に単にぐれん隊がやるからということだけで親告罪を非親告罪にしたところで、事犯というものは解決する問題ではないので、もっと大衆が泣き寝入りをしないような形にいくことが必要なんで、そのことの方がより必要な問題であるし、また、そういった行為は一回はつかまえることができても、二回目出てきて、なおさらひどいことにもなる。だから、そういうことだけで、私どもは解決つくとは思わないので、ぜひ一つ良識ある国会の場で審議されておるのでありますから、私どもとしては、こういった拡大解決の憂いのある今度の刑法の一部改正は、もうしばらく十分な討議の中で国民にも投げかけて、事例等を引き合わした上で、今後あやまちのない刑法にしていただきたい。ぐれん隊だけを対象に、国民や労働運動までぐれん隊視されることは、私はどうしても了承できないし、最近の警察官の組合に対する多くの事例を見ましても、最近の点では、去年の暮れから今年の春にかけて大へん刑事弾圧がふえておりますが、これは組合活動の面から非常に残念だと思うし、刑事免責やら、民事免責はありますけれども、法の適用を結局誤まって適用しているとしか見えませんけれども、何のために労働組合に刑事免責あるいは民事免責があるのか、最近ではわからないくらいまでに多くの刑事事犯が出てきておる。こういうことを考えますときに、今度の集合罪にしても、それから親告罪を非親告罪にするということについても、非常に危惧の念が強いわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/106
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107・大川光三
○大川光三君 いろいろ具体的な例をあげての御説明でございまして、神鳥さんの言わんとせられるところはよく了承いたしました。しかし、私ども立法府におります者といたしましては、必ずしも労働運動を、労働組合運動を対象にのみ考えておらぬのでありますし、一例を申し上げまするならば、問題の持凶器集合罪なども御承知の通りに、人の生命、身体、財産に危害を加うる目的をもって集合する、こういう大きな一つの要件を掲げております。私はしろうとでございますけれども、正常なる労働運動にはかような目的は決してないのでありまするから、そういう面でこの法規が強く構成要件で目的罪といたしておる点から考えまして、そう神経過敏になって御懸念される必要はなかろうと、私は第三者の立場でそのように考えておるわけでございます。また、先ほど例におあげになりました全逓争議と申しますかについて、郵便法第七十九条を適用するのだ、そのことが即本改正案においても拡大乱用の要素がある事例になるというように伺いましたけれども、私は郵便法第七十九条の刑罰法規は、これは独立して現存いたしておるのでありまするから、正常な労働運動に対して七十九条はこれに介入する余地は少しもない。もしあるとするならば、その労働運動が行き過ぎておる、いわゆる不当労働争議にまで進展したというときに、私はやはり七十九条の発動が起ってくるだろう、かように考えておるのでございまして、御意見のほどはよく了承いたしておりまするので、われわれといたしましては、決して一方に片寄らず、至公至平な立場でこの法律の審議を進めていきたい、かように考えておりますので、御了承いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102815206X02719580415/107
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108・青山正一
○委員長(青山正一君) ほかに御質疑もないようでありますので、これにて終了することにいたしたいと存じます。
参考人の方に一言ごあいさつ申し上げますが、本日は長時間にわたりまして、きわめて貴重な御意見をお聞かせ下さいまして、まことにありがとうございます。本委員会の審査のため、きわめて有益でありましたことを厚く御礼申し上げます。
本日は、これにて散会いたします。
午後四時五十一分散会
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