1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十四年一月二十七日(火曜日)
午後三時三分開議
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議事日程 第七号
昭和三十四年一月二十七日
午後三時開議
第一 国務大臣の演説に関する件
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/0
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001・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御報告いたします。
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去る十四日、議長は、皇居において、天皇陛下に拝謁し、また、東宮仮御所において、皇太子殿下にお目にかかり、皇太子殿下納采の儀につき、賀詞を奉呈いたしましたところ、天皇陛下並びに皇太子殿下から、御懇篤な御言葉を賜わりました。
その他諸般の報告は、朗読を省略いたします。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/1
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002・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。
議員文教委員長竹中勝男君は、昨二十六日逝去せられました。まことに痛惜哀悼の至りにたえません。
中野文門君から発言を求められました。この際、発言を許します。中野文門君。
〔中野文門君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/2
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003・中野文門
○中野文門君 ただいま議長から御報告のありました通り、文教委員長竹中勝男君は、昨二十六日、京都において狭心症のため急逝されました。同僚議員としてまことに痛惜にたえません。ここに同君の生前を想起し、つつしんで哀悼の意を表するものであります。
竹中君は、明治三十一年長崎県に生まれ、同志社大学を卒業の後、北米シカゴ大学の大学院で社会学を専攻され、マスター・オブ・アーツの学位を得られ、さらに、ローチェスタ神学校に学んで神学修士の称号を得られたのであります。なお、昭和二年から三カ年間、東京帝国大学文学部大学院において研鑽を積まれました上、昭和四年、母校同志社大学の教授に招聘せられましたが、自来、昭和二十八年まで実に四分の一世紀にわたる長い歳月を、学究として、教育者として終始せられたのであります。同志社大学においては社会学科の主任教授として、社会学、社会政策等を担当され、その深奥な学識と明快透徹な講義は、学生の信望はもちろんのこと、同僚教授の尊敬を一身に集めておられたのでありますが、その間、文学部長として、あるいは評議員として大学の行政に参与され、また、日本社会学会、日本社会政策学会等の理事、幹事として、これらの学会の発展に努力されましたほか、学究としての業績もまことにめざましいものがあり、昭和二十六年には、「社会福祉研究」により文学博士の学位を受けられましたし、その著書等も十数種の多きに達しておりますが、昭和二十八年、推されて参議院議員に当選の後も、同大学の講師及び評議員として今日に至っておられるのであります。
竹中君は、本院においては、社会労働委員、外務委員として、きわめて精励閣格勤、その豊富な経験と卓越した識見をもって、労働、厚生関係の各種の法案や外務関係の案件の審議に当られましたほか、社会保障制度審議会委員、日本ユネスコ国内委員会委員として活躍されました。特に昨年六月、文教委員長に就任以来、よく衆議をまとめ、身をもって委員会運営の円滑な推進に努力されましたことは、各位のひとしく御承知の通りであります。
竹中君は、人となり温厚篤実、事に当つて真摯、人に対しては常に温容をもって接せられ、まことに長者の風格をしのばせるものがありました。従って、君は、何人からも敬愛され、信頼される人柄でありましたので、平素から公私ともにすこぶる御多端でありましたが、最近は、特に京都の御自宅と東京との間の往復も頻繁であった模様でありますから、おそらくその過労が病魔の侵すところとなつたのでありましょう。今突如として幽明境を隔て、もはや再び君の温顔をこの議場に拝見することのできなくなりましたことは、まことに悲しみにたえないところであります。
今や内外の諸情勢ますます多端でありまして、国会の責務もまたいよいよ重大ならんとするときに当り、竹中君のごとき円熟有能の士を失いましたことは、ひとり本院のためのみならず、国家のためにも痛恨きわまりないことであります。
ここに同君の御逝去に対し、つつしんで哀悼の辞を捧げますとともに、衷心より御冥福をお祈りする次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/3
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004・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) お諮りいたします。竹中勝男君に対し、院議をもって弔詞を贈呈することとし、その弔詞は議長に一任せられたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/4
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005・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
議長において起草いたしました弔詞を朗読いたします。
〔総員起立〕
参議院は議員文教委員長正五位勲三等竹中勝男君の長逝に対しましてつつしんで哀悼の意を表しうやうやしく弔詞をささげます。
弔詞の贈呈方は、議長において取り計らいます。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/5
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006・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 日程第一、国務大臣の演説に関する件。
内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、世耕国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。岸内閣総理大臣。
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/6
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007・岸信介
○国務大臣(岸信介君) 第三十一回国会の休会明けに臨み、昭和三十四年度予算を提出して国会の審議を求めるに際し、私は、当面する内外の諸情勢と、これに対処する所信を明らかにしたいと思います。
国民がひとしくお待ちしていました皇太子殿下の御婚儀が近くとり行われますことに対し、私は、心からお喜びの言葉を申し上げたいと存じます。皇太子殿下は、伸びゆくわが国の希望の象徴であられます。全国民の胸に抱いているこの喜びが同胞親愛のきずなとなって、明るい次の時代が築かれることを期待してやみません。
施政の方針を述べるに当り、まず、私は、さきの国会が変則のままに推移したことについて深く遺憾の意を表します。
申すまでもなく、緊張する国際間にあつて、よくわが国の自立をはかり、福祉国家を築き上げることは、わが国の民主政治に課せられた使命であります私は、この見地に立って、さきに日本社会党の鈴木委員長と率直な意見の交換を偉い、自民、社会の両党が、その政策を異にするところはあつても、議会政治という共通の場において、寛容と互譲の精神に立脚した話し合いを進め、もって国政運営の実をあげることを誓い合つたのであります。
私は、今般再び自由民主党の総裁に選ばれたに際し、反省すべきは反省し、党内、閣内の結束を固め、議会政治の信用を回復し、ここに思いを新たにして国政の推進に当ることにより、積極的に責任を果す決意であります。
最近、多年にわたる貴重な試練の結果ようやく樹立された二大政党制に疑いを抱く者が一部にあるのでありますが、二大政党制こそは憲政の常道を確立するものと、私は固く信ずるのであります。もとより、政府、与党に反省すべきものもありますが、社会主義政党の世路を労働者階級を主導力とする階級政党であるべきであるとし、その目的達成のためには社会経済の機能を麻痺させるようなストライキをも辞さないと揚言する政治的主張のありますことは、厳に戒心を要するところであります。(拍手、発言する者あり)政治は、高い理想を追いつつも、国の安全と国民生活の向上に責任を持つべきであつて、現実を無視して足元を踏みはずすことは許されないのであります。われわれは、いかなる場合においても、秩序のうちに着実な進歩を求めるものであります。そこには、少からぬ忍耐を必要とし、一見回り道と思われる経路をたどらなければならないこともありますが、このような努力なくしては、民主主義政治の進展は期せられないと信ずるのであります。私は、両党がもろもろの政策の是非を論ずる前に、このような反議会政治思想の動きに明確に対決する基本的立場を堅持し、民主主義のよりよき発展を見出す共通の場としての国会の権威をいよいよ発揚してゆくことを深く期するものであります。(拍手)
最近の国際情勢を顧みますと、各国首脳の不断の努力にもかかわらず、東西両陣営相互互の不信の念は依然根強く、その対立関係はいまだ解消を見るに至っておりません。他方、科学の急速な進歩は、ついに、人類の活動を宇宙にまで広げましたが、大国間においてこれを平和目的にのみ利用する保証はいまだなく、今日到達し得た科学技術は、一たびその目的を誤まれば、直ちに人類の破滅を招くこととなります。このような世界の現状において、われわれは、単に手をつかねて平和を望むような消極的態度をとることなく、建設的かつ具体的な努力によって、世界平和の維持と促進に貢献しなければなりません。このような使命に基き、わが国は、世界の安全保障機構としての国際連合に協力し、核実験の禁止、中近東等の局地的紛争の解決等に関して積極的な努力を払つてきたのであります。
かくのごときわが平和外交の目標は、人間の自由と尊厳を基調として国民の福祉を増進しようとする自由民主主義国家の理念と秩序の維持発展にあるのであります。国民の一部に、わが外交の方向を中立主義に求むべきであるとする主張がありますが、このような政策は、わが国を孤立化し、ひいては共産陣営に巻き込む結果を招くこととなるのであります。いわんや、当初からこれを積極的に意図するもののありますことは、特に警戒を要守るところであります。従って、わが国は、このような中立主義をとらず、みずからの安全を保障するに当り、志を同じくする自由民主主義諸国と固く提携し、国際社会における信義を貫きたい考えであります。わが国が日米安全保障条約を締結したゆえんもここにあったのであります。しかしながら、その締結後七年を経過した今日、わが国の自衛力の漸増と内外情勢の推移に伴い、これに合理的な調整を加え、日米両国が対等の協力者としてその義務と責任を明らかにすべき段階に到達しましたので、政府は、国民の納得と支持を得て、米国との交渉を進めたい考えであります。
翻つて、世界各国との国交は、年を追つてその範囲を広げ、かつ、緊密の度を加えて参りました。特に、インドネシア、イラン、インド、フィリピン各国の元首を初め、海外諸国からの指導的人物の来訪により、これら諸国との親善関係は一段と深められたのであります。また、かねてから政府が重要視してきた東南アジア諸国等の経済開発については、今後、技術と資金の両面において協力の道を広げることとし、一そうその促進に努める方針であります。
昨年五月以来、日中間の貿易が中絶しておりますのは、双方にとつてまことに不幸なことであります。双方がいたずらに過去の経緯にとらわれることなく、互いにその政治的立場を理解しつつ、通商の再開を望むものであります。
わが経済界は、調整の過程にあった一年を送つて、明るい展望を持つ新しい年を迎えることができました。すなわち、政府のとつた適切な諸施策が企業の自主的な努力と相待って、経済の基調は、昨年秋ごろから次第に回復に向うに至りました。本年においては、さらに世界経済の新たな動向に伴う輸出の伸びが見込まれるのでありますが、国内経済が再び行き過ぎにならないよう、投資と消費に堅実な態度が望まれるのであります。政府は、このような見地から、底の浅いといわれるわが国経済の安定した成長とその体質の改善をはかり、もって国民生活の向上と雇用の増大を期し、確固たる経済基盤の上に立つた福祉国家を実現することに一そう力を注ぐ方針であります。
明年度の予算と財政投融資計画は、このような基本方針に基き、財政の健全性を堅持することにより、通貨価値の維持と国際収支の安定を確保するとともに、かねての公約に従い、減税の実施、国民年金の創設、文教施設の充実、道路港湾の整備等の重要施策を積極的に推進することに重点を置きました。
予算の内容の詳細については、関係閣僚の演説に譲り、私は施策のおもなるものについて述べたいと思います。
まず、国民の税負担を軽減するため、国税、地方税を通じ、初年度五百三十億円、平年度七百億円をこえる減税を行うことといたしました。これにより、所得税、事業税、物品税、入場税等について、特に大衆負担が軽減されることとなり、この面からも国民生活が明るさを増すことを期しているのであります。なお、中央、地方を通ずる今後の税制のあり方については、国民各層の意見をも徴し、その改善合理化をはかる所存であります。
わが国経済の特質から考えて、輸出の増大をはかることは経済成長の基本的な要件であります。昨年末実施された西欧諸国の通貨の交換性の回復によって、輸出競争が一そう激化することが避けがたい現段階においては、わが国産業が、自由と責任の原則にのつとり、みずから生産性の向上と経営の合理化に努めることが必要であります。政府としても、資金面において海外市場開拓の基盤を強固にし、また、輸出取引秩序を確立して過当競争を防止するなど、輸出振興のための施策を一そう積極的に進める方針であります。なお、中小企業については、税制上及び金融上助成の措置をさらに強化することといたしました。
農林漁業の生産力の持続的向上と経営の安定をはかることは、わが国農政の基調であります。政府は、土地改良等、生産条件の整備に努めるなど農林漁業全般について各般の施策を進めることとしております。しかしながら、今日の零細経営が、工業技術の進歩や流通経済の発展の趨勢の中にあつて、よく安定を保ち、その近代化をはかり得るようにするには、根本的には、広
い視野に立つた総合的な検討が必要であります。政府は、わが国において占める農林漁業の大きな役割とその特性にかんがみ、新たに調査会を設け、農林漁業に関する基本政策を確立いたしたいと考えております。
産業経済発展の基盤を強化するため、総投資額一兆円に及ぶ道路整備五カ年計画を強力に推進するほか、新たに東海道鉄道新幹線と首都高速道路の建設を計画し、これを実施に移すことといたしました。さらに、港湾緊急整備のため特別会計を設け、輸出専用の埠頭を新設するとともに、石油、鉄鋼、石炭等、重要産業に関連のある港湾の整備を急ぐことといたしました。また、治山治水対策の緊要性にかんがみ、関係予算を増額するとともに、災害の早期復旧には特段の配意をいたしております。
消費水準が上昇して国民生活が年とともに安定した方向をたどつている反面に、低所得階層の生活は一般水準との開きが大きくなり、加えて、老齢人口が目立って増加していることなどはく見のがすことのできないところであります。社会保障制度の確立は、このような傾向にもかんがみ、政府が最も力をいたしてきたところであります。政府は、醵出制を基本とする包括的な国民年金法の制定により、老齢、障害、母子等の年金を創設することとし、とりあえず、明年度においては、無醵出制の年金を発足させることといたしました。また、国民健康保険は、順調に普及を見ているところでありますが、さきに旅立した新法律の実施によって、医療保険未加入者約千六百万人の早期加入を期し、かつ、その内容の充実をはかりたい考えであります。この国民年金制度の実施と国民皆保険の達成により、わが国の社会保障制度の基礎は確立されることとなります。しかし、社会保障制度の充実は、今後膨大な財政負担を伴うものであり、国民一人々々の懸命な努力に待たなければその実をあげ得ないのであります、この際、特に国民諸君の深い理解によって、本制度がいよいよ堅実に発展することを期待してやみません。
多年にわたる懸案であったいわゆるすし詰め学級や危険校舎の解消は、これを五カ年計画をもって達成するほか、文教諸施設を整備し、教職員を充実することといたしました。また、道徳教育を振興し、基礎学力を高めるため、教育内容の改善を行い、義務教育の刷新充実をはかることとしたのであります。これと並んで、科学技術振興の長期かつ総合的な政策を樹立し、技術者の養成と施設の拡充に意を用い、世界の科学の進展におくれないように努めたい考えであります。
なお、昨年来勤務評定の実施をめぐり、教育界にまことに憂慮すべき事態が発生したのでありますが、教職員の良識ある行動と国民の協力とにより、今日においては、大部分の府県においてこれが実施を見るに至つたのであります。私は、本制度の趣旨がなお一そうよく理解され、教育秩序の確立によって教育界が一そう明るくなることを期待してやみません。
青少年が明るい希望に燃えて心身の修練に励む機会を与え、その健全な育成をはかることは、かねて私が重視してきたところであります。貧困によって勉学の機会を与えられない有為の青少年のため進学保障の育英制度をさらに推し進めるとともに、新たに全国から選抜された青年を海外に派遣して、その国際的視野を広める道を開き、また、国立中央青年の家の設置を初め、青少年活動のための施設の整備を行うこととしたのであります。
わが国の労働運動は、逐年健全化の道をたどつてきておりますが、なお一部に、かなり未成熟な面が見られることは事実であります。政府は、今後とも健全な労働慣行と労働秩序の確立をはかるため、さらに一そうの努力をいたす考えでありまして、公共の福祉を無視するがごとき労働運動については、きぜんたる態度をもって臨む決意であります。
雇用問題は、最近ようやく落ちつきの傾向を見せており、今後に為ける経済活動の着実な上昇によって逐次改善の方向に進むものと思われますが、労働人口の増加にもかんがみ、特に、公共事業と財政投融資の増大によって積極的な雇用の拡大を期したい考えであります。また、最低賃金制度、中小企業退職金共済制度、産業災害防止計画等、諸般の施策を総合的に推進することにより、主として日の当らない中小企業従業員の労働条件を改善し、その福祉を増進いたしたいのであります。
最近、社会の一部において、法秩序を無視し、国会を軽視して、議会外の勢力によって社会変革を遂げようとする反民主主義的勢力や集団による暴力が、公共の福祉を侵害していることは、青少年の非行化の傾向とともに深く憂慮すべきところであります。かかる事態にかんがみ、政府は、さきに警察官職務執行法の改正を提案したのでありますが、その提案の時期、方法等において十分意を尽し得なかったことを率直に認めるものであります。しかし、このような社会事情はなお解消していないので、政府は、国民世論の動向を慎重に見きわめつつ、国民の自由と規律が一切の暴力的支配から守られることを念願し、国民の理解を得てこれが検討を引き続き行うこととしているのであります。
最後に、私は一言いたしたいと存じます。一部極端な分子が、外交、教育、労働等の各分野にわたり、イデオロギー一点ばりの公式論を振り回して、国家と民族との思想的な基礎をおびやかす傾向のありますことを、私は深く憂うるものであります。すなわち、科学や産業技術が日進月歩の勢いをもって進展している今日、このような古い公式的な階級闘争論によって国論が分断されることがあるとすれば、わが国は、世界の進運からひとり取り残されることとなるのであります。世界各国の趨勢は、その政治形態は別として、いずれも生々はつらつとして、その国力の充実増進に全力を傾注しているのであります。私は、この変転する世界情勢のさなかにあつて、わが国民が、民族的自覚と誇りとをもって、世界の平和と人類の福祉に貢献することを、心から期待するものであります。
以上、所信の一端を述べ、国民諸君の一段の理解と協力を切望してやみません。(拍手)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/7
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008・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 藤山外務大臣。
〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/8
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009・藤山愛一郎
○国務大臣(藤山愛一郎君) 第三十一回通常国会の再開に際しまして、政府の外交方針を明らかにいたしたいと思います。
過去一カ年間の国際情勢を顧みます。れば、戦後久しきにわたる東西両陣営の対立は、根本的には何ら緩和しておらず、世界は依然として東西両陣営の力の均衡の上に立って平和が保たれている状態であります。他方、その間における科学技術の急速な進歩発展は、ついに、人類がその活動を宇宙に広げる可能性をも予想せしめるに至つたのでありますが、同時に、大量破壊兵器の発達は、もし一たび人類がその進路を誤まつて、かくも発展した科学技術を乱用するに至りますれば、人類の破滅をもたらす危険性をも招来しているのであります。このような認識が世界一般に行われるようになつた結果、全面的戦争を回避しようとする機運は強くなりつつあるものと考えられるのであります。
しかしながら、両陣営は依然として、相互の不信感に基き、思想戦、経済競争等を通じて勢力拡大に専念しております結果、局地的な形においては、武力をも背景とした紛争の種が随所にまかれているのであります。過去一カ年を回顧いたしますれば、中近東の騒擾、台湾海峡の紛争等に加えて、さらにベルリン問題の再燃等、局地的な形による東西間の抗争は相次いで起つておるのでありまして、類似の紛争が今後とも他に起り得ないとは、何人も断定いたしかねる情勢であります。かかる情勢のもとにおいて、東西両勢力の指導的国家の間に、あとう限りすべてを話し合いによって解決しようとする機運が高まりつつありますことはまことに当然な次第であり、巨頭会談ないし外相会議開催の試みも、この意味において、当然歓迎せらるべきものであります。しかして、このような話し合いが実を結ぶために最も必要なことは、関係各国が具体的かつ建設的な解決策を持ち寄り、相互の信頼と互譲の精神をもって話し合いを行うことでありまして、かかる用意のない限り、この種会談は常に空虚な宣伝に終るでありましょう。
わが外交の基調は、世界平和確保のための建設的な努力を通じて国民の福祉と安寧をはかることにあるのでありますが、このような平和外交を推進するについては、まず第一に、すべての国際問題は平和的手段によってのみ解決すべきであると考えるのであります。けだし、真の平和は平和的手段によってのみ達成し得るのでありまして、武力をもって事を処理しようとすれば、必ずや他の武力を誘発し、とどまるところを知らないでありましょう。
次に、たとえ武力の行使を伴わずとも、その方法のいかんを問わず、いやしくも他国の内政に干渉し、またその秩序を乱し、あるいはその敵意や悪意をそそるがごとき行動は、相互に厳にこれを慎しむべきものと考えるのであります。以上の二点は、相互に他人の立場を尊重し合いつつ平和的に問題を解決するという、民主主義の根本理念をそのまま国際社会に適用するものにほかならず、国際民主主義とも称すべきものであります。また、これこそ、わが国平和外交の本旨でありまして、世界の安全と福祉を保障すべき機関としての国際連合もまた、実にこのような精神に出でるものであります。私は、各国がかかる精神に徹しますならば、世界の平和はおのずから招来されるものと固く信ずるのであります。
ここに、私は、政府か当面する重要外交問題につき、一言いたしたいと思うのであります。
申すまでもなく、国際連合は、世界の平和と安全の支柱として大きな意義と価値とを有するものでありまして、加盟国ひいては全世界の安全がもつぱら国際連合によって保障ざれることが最も望ましい次第であります。しかしながら、他面、現下の国際情勢を反映し、国際連合が、大国の拒否権行使によってしばしば多数者の意思の実現をはばまれ、また、緊急事態に際して迅速かつ有効な措置をとり得ぬ欠陥があることも、広く認められているところであります。かかる欠陥が是正され、国際連合が真の平和維持機構として確立されるまでは、加盟国は、国連に協力しつつも、みずからの努力と責任によって自己の平和と安全とを保障する必要が存するのであります。わが国が米国との安全保障条約によってその防衛を達成しようとするゆえんも、ここにあるのであります。
思うに、わが国の中立を唱え、あるいは集団的不可侵条約の締結によってわが国の安全を保障すべしとの意見は、いずれも今日の世界の情勢を無視する観念論にすぎないのであります。けだし、国家が中立国たることによってその安全を保障するためには、その国にとり、右を可能とする政治上、経済上、地理上及び軍事上の具体的条件を必要とするのでありまして、遺憾ながら、東西両陣営が相対立し、しかも東亜の各地に、御承知のごとき不安定な政治経済情勢が支配しております今日、かかる政策をとることは、わが国の安全を達成するゆえんではないのであります。(拍手、発言する者あり)また、東西両陣営にわたる集団的不可侵条約によりわが国の安全を確保しようとする考えにつきましては、一般軍縮問題についても、奇襲防止問題についても、東西間に何らの実効的な話し合いの成立しておりません現状においては、不可侵条約の美名も、具体的保障措置を伴わざる限り、容易に国家の安全をゆだね得ないのであります。このことは、わが国自身過去の歴史においても経験したところであります。
政府が、戦後わが国が国際社会に復帰するに当り、わが国の自衛力もきわめて不十分な状況のもとにおいて、米国政府との間に現行日米安全保障条約を締結いたしましたのは、このような考慮によるものでありますが、同条約は、自来七年間、今日までわが国の安全保障の軸として、よくその使命を果してきたのであります。しかしながら、その間わが国力も漸次回復するとともに、自衛力の漸増も行われ、国際社会におけるわが国の地位も向上して参りました結果、現行安全保障条約に合理的な修正を加える必要が一般に痛感されて参つたのであります。米国政府が、この点に十分の理解を示し、今次改定交渉に応ずるに至りましたことは、同国がわが国の自主性をあらためて確認し、対等の協力者としてその立場を尊重しつつ、相ともに、極東、ひいては世界の平和維持に貢献しようとする意図を示すものであると考えるのであります。
われわれは、わが国の置かれている国際的環境を冷静かつ現実的に判断するとともに、みずから果すべき責務は進んで果すという熱意と覚悟とが必要なのであります。政府といたしましては、本件交渉を進めるに当り、国民各位の声を十分に反映しつつ、早期にこれが妥結をはかる所存でありますが、この点、各位の十分なる御理解を期待する次第であります。
次に、共産圏諸国とわが国との関係について一言いたしたいと思います。もとより、自由民主主義国たるわが国といたしましては、国際共産主義の浸透は、断じてこれを容認し得ないところであります。しかしながら、このことは決して共産主義諸国との友好関係を無視ないし軽視しようとするものではないのであります。すなわち政府は、共産圏諸国との間にも、相互の立場を尊重しつつ、平和的な関係を維持増進することに努めたいと考えるのでありまして、これが、ひいては東西間の一般的緊張緩和に資することを期待する次第であります。
わが国とソ連との間には、すでに国交が回復され、通商貿易の道も開かれ、実績を重ねつつあるのでありまするが、ソ連政府が、今日なお、わが国の領土に関する正当な要求を認めません結果、平和条約の締結がおくれており、またこれを理由にして、北海道近海漁業問題に関し話し合いを拒否しておりますことは、まことに遺憾であります。
次に、中国大陸との関係について所見を申し述べたいと思います。中共が中国大陸に政権を掌握して以来、相当の時日も経過しております結果、中共の問題が世界政治においてを重要な問題となりつつあることは、御承知の通りであります。由来、わが国と中国大陸とは、一経済的にも、文化的にも、密接な関係にあり、従って相互に貿易を行うのが自然の状態であり、またこれによって双方に利益がもたらされるのであります。しこうして、本来、これらの交流関係は、双方が互いに善意をもって相手方の立場を尊重し合うならば、国交の有無にかかわりなく、これを維持し発展せしめ得るはずであると信ずるものであります。事実、わが国と中共との貿易は、昨年五月まで逐次伸長して参つたのでありますが、その後、中共側がこれを断絶した結果、自来今日まで貿易は再開されるに至っておりません。しかしながら、政府といたしましては、日中貿易の促進が相互の経済的利益に合致するゆえんであると信じますがゆえに、わが国としても自主的立場を捨てることなく、今後とも現状打開に努力する所存であります。私は、中共側におきましても、この際、相互にその政治的理念と秩序とを尊重するとの建前のもとに、日中貿易の促進と善隣関係の樹立に資するよう、すみやかに現在の障害除去に努めることを希望するものであります。
韓国との関係につきましては、御承知のごとく、両国政府は、過去久しきにわたり、漁業区域、船舶、文化財、在日韓国人の法的地位及び請求権等、両国間の懸案について、意見の交換ないし討議を行なって参つたのであります。右のうち、特に漁業区域に関する韓国側のいわゆる李ラインに関する主張は、それが従来の国際通念に反するものであり、またわが国民生活にも至大の影響を与えるべきものであることにかんがみ、政府は、単にわが国民の利益に合致するのみならず、世界の良識ある人々を納得せしめ得るような公正妥当な方法で解決すべく、忍耐強く努力する所存でありまして、本件解決こそ自余の案件解決の鍵となるべきものであります。交渉はいまだ所期の進展を示すには至っておりませんが、これらの努力は決してむだではなく、相互の信頼感の回復に必ずや役立つものと考えるのであります。
次に、わが経済外交上の重要な問題について、政府の見解と方針を申し述べたいと思うのであります。
最近の国際経済において、最も注目すべき出来事は、昨年末、欧州主要諸国が一斉にその通貨の交換性を回復する措置をとつたことであります。これらの措置は、基本的には貿易及び為替の自由化の方向に沿うものであり、またポンド、マルク等の西欧通貨が、ますます国際通貨としての信用と機能を増大し、世界貿易がそれだけ増進されると考えられる限りにおきまして、わが国としてもその将来に対する意義を高く評価したいと思うのであります。しかしながら、今回の措置により、西欧諸国が遠からず貿易を完全に自由にするであろうと考えることは、いささか早計でありまして、このことは、関係諸国政府が交換性回復の措置をとるに当りまして、貿易管理は当分これを従来通り維持する方針である旨表明していることからも、うかがわれるところであります。現にこれらの国においては、今なおわが国の輸出に対する差別的な輸入制限が続けられており、特にわが繊維製品、雑貨等については、今後とも相当な貿易障壁に当面することが予想されるのであります。もとより政府としては、いかなる地域においても、わが輸出産品が受ける待遇につき、今後とも外交交渉を通じてその改善に努力する所存でありますが、同時に、この際、わが国貿易の将来の発展を期するため、国際経済の趨勢に沿って各国との貿易を相互に拡大することにより、通商自由の方向に進むべく、内外の経済施策を検討する要があると考えるのであります。
幸いに、各国における貿易上の諸制限や差別的待遇を撤廃することを目的とするガットの総会が、本年秋、東京において開催される運びになりましたが、この東京総会が、国際貿易の拡大と世界経済の繁栄に一時期を画するものになることを期待するものであります。
さらに、経済外交の一環といたしまして、この数年来とみに重要性を増しつつあります対外経済協力の問題について一言いたします。経済的に立ちおくれた諸国の開発が、国際貿易の増大と世界政治の安定に必要なことは申すまでもありませんが、特に、アジア、中近東、アフリカ諸国との緊密なる提携を重視するわが国といたしましては、右地域の経済的、社会的発展につき応分の寄与を行いますことは、その平和外交の重要な任務であると考えるのであります。以上のごとき観点から、政府はこれら諸国の要望にこたえ、各種技術センターの設置に着手するほか、経済及び技術協力を通じ、諸国の経済開発計画に一そう協力する所存であります。また本年発足いたしました国際連合特別基金の理事国として、世界の低開発国の開発事業に協力するとともに、コロンボ計画に対しても一そう積極的に参加をいたす方針であります。
最近、わが海外移住者が受入国において果しております経済上の役割が、特に高く評価されつつありますことは、まことに意義の深いことでありまして、政府といたしましては、今後とも海外移住を推進する方針であります。このため、移住協定の締結等を通じ、ますます中南米諸国との友好関係増進に努めるとともに、内外の体制を整備して海外移住を計画的に振興いたす所存であります。
文化の交流は、わが国民と諸外国国民の相互理解を深めるとともに、これら諸国との友好親善関係の増進に寄与するところ大でありますので、政府としては、できる限り民間における外国との文化交流を促進いたしたいと考えておるのであります。
かくして、諸国民の間における真に平和的な気運の醸成をはかることは、世界平和の維持に資するゆえんでもありますから、私は、広く人的、知的交流を促進することを、わが平和外交の一環として、今後とも推進して参りたいと考えております。
以上、私は、わが国の当面する外交上の重要な問題と、それに処する政府の方針を率直に披瀝いたした次第でございます。
私は、かねがね、一国の外交の成否は、その方針が国民の願望と必要に沿うものであるかどうか、また、政府が外交を進めますに当つて、十分国民の理解と支持を受けているかどうかにかかっていることを痛感しているものであります。さきに外交政策の基調として述べましたところは、ひっきょう、国の安全を守り、国民生活の経済的、社会的基礎を固めるごとにあり、これは、とりもなおさず国民の福祉全般を増進することにほかならないと信ずるものであります。
私は、わが国外交の衝にある身として、常にこの点に思いをいたし、広く国民各位の意思を反映し、国民全体の福祉に直結する民主的外交を行うことを念願するものであります。ここに私は、政府のかかる方針について、各位の深い御理解と御支援とを重ねてお願いする次第であります。(拍手)
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010・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 佐藤大蔵大臣。
〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/10
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011・佐藤榮作
○国務大臣(佐藤榮作君) ここに昭和三十四年度予算を提出するに当りまして、わが国の当面する内外の経済情勢と、これに対処すべき政府の財政金融政策の基本方針を明らかにし、予算の概要を説明いたしたいと存じます。
顧みれば、昭和三十三年のわが国経済は、世界経済の停滞を反映して、おおむね伸び悩みの状態を続けて参りました。しかしながら、最近における世界の経済及び貿易の情勢は、アメリカの景気回復を契機として好転の気配がうかがわれ、わが国経済を取り巻く環境はようやく明るさを加えて参っております。これとともに、国内経済の動向も、一部になお若干の問題を残してはおりますものの、漸次停滞から着実な上昇に転じつつあります。国際収支も引き紡ぎ黒字基調を維持し、昨年末における外貨準備高は八億六千百万ドルに回復いたしました。私は、この間における国民各位の御努力に対し、深甚なる敬意を表するものであります。
このように内外の経済情勢には好転のきざしが見られるのでありますが、なお対内的にも対外的にも取り組まなければならない問題が多々あると存じます。
戦後、わが国経済は急速な成長を遂げて参りましたが、その成長は、ともすれば国内需要の過度の膨張を伴いやすく、国際収支の悪化をめぐつて幾たびか経済の大幅な変動を経験してきたのであります。また、その成長の内容も、経済の各部門にわたって、必ずしも均衡のとれたものであるとは言いがたいのであります。他面、西欧諸国における通貨の交換性回復にも見られるごとく、国際競争は、より自由な基盤の上に今後ますます激しくなることと予想されるのであります。これらを考えあわせますと、経済の急激な変動を避け、その安定的な成長を進めるよう常に心がけるとともに、経済の体質を、このような国際環境に十分対処し得る健全なものにしなければならないことを痛感いたすのであります。すなわち、経済の安定成長とその質的改善が、わが国当面の経済政策の基本となるべきであると信ずるものであります。
次に、昭和三十四年度における財政政策について申し述べます。
まず、経済の安定成長を期するため、長期にわたり通貨価値の安定を確保することを第一義として、財政の健全性を堅持することといたしました。これがため、一般会計の規模は、租税収入その他の普通歳入と経済基盤強化資金の使用とによって支弁し得る範囲にとどめるとともに、財政投融資においても、新規原資のほかは、合理的な限度において繰り越し資金を使用し、民間資金の活用をはかることといたしております。
次に、経済の質的改善に資するため、国民生活の安定向上と経済基盤の充実強化をはかることを主眼とし、減税の実施、国民年金制度の創設、道路及び港湾の整備拡充並びに公立文教施設の整備充実等の重要施策を推進することといたしました。
このような方針のもとに編成いたしました昭和三十四年度の財政の規模は、一般会計予算においては、歳入歳出とも一兆四千百九十二億円でありまして、昭和三十三年度予算に対し九百八十億円の増加となり、財政投融資計画においては五千百九十八億円でありまして、昭和三十三年度当初計画に対し一千二百三億円、改定計画に対しては八百四十五億円の増加となっております。これは経済の健全な成長を財政の面から着実に実現していくために必要なものであり、また、経済の発展に歩調を合せた適度なものであると確信いたします。
以下、政府が特に重点を置きました重要施策について申し上げます。
まず、中央、地方を通ずる減税を中心とする税制の改正であります。
この減税は、低額所得層の負担軽減を通じて、国民生活の安定向上と中小企業の経営の改善をはかることを主眼としたものであります。
所得税につきましては、扶養控除を引き上げるとともに、最低税率の適用範囲を拡大することといたしております。この改正により、たとえば、夫婦と子供三人の五人家族の給与所得者の場合、所得税を課されない限度が、現在の約二十七万円から約三十三万円に引き上げられるなど、低額所得者の負担は著しく軽減されるのであります。このほか、退職所得の特別控除額の大幅な引き上げ、物品税及び入場税の軽減合理化を行うことといたしております。
次に、地方税につきましては、特に中小企業の税負担の軽減をはかるため、個人事業税の基礎控除を、現行十二万円から二十万円に引き上げ、法人事業税の税率を引き下げるとともに、所得税の減税に伴う住民税の軽減、固定資産税の免税点の引き上げ等をはかることといたしております。
以上の改正により、初年度におきましては、国税四百三十二億円、地方税百一億円、計五百三十三億円の減税となり、また、平年度におきましては、国税四百八十八億円、地方税二百二十九億円、計七百十七億円の減税となるものと見込まれるのであります。
このような減税を行う反面、最近の経済情勢に即応して、租税上の各種特別措置について所要の整備合理化をはかるとともに、道路整備の財源に充てるため揮発油税の引き上げを行うなど、各般の要請にこたえて税制の改正を行うことといたしております。なお、租税と一般の債権との関係の合理的調整をはかる等のため、国税徴収法を全面的に改めることといたしております。
しかしながら、税制につきましては、経済の推移等に照らし、なお解決を要する問題が少くないのであります。企業課税のあり方並びに国及び地方団体を通ずる税体系の確立の問題は、その最も大きなものでありまして、政府といたしましては、この際、法律により税制調査会を設置し、広く各界の意見を求めて、これらの問題の解決をはかりたい所存であります。
次にも社会保障の充実に努めたことであります。
民生の安定向上が、社会的にも経済的にも重要な意義を持つことは言うまでもないところであります。政府は、今回新たに老齢・障害・母子の三年金の制度を創設することといたしましたが、昭和三十四年度におきましては、これらを無醵出の援護年金として支給を開始することとし、所要額百十億円を計上しております。また、国民皆保険計画の推進、児童保護、結核対策、失業対策、住宅建設等、各般にわたりそれぞれ相当の増額を行い、社会保障の充実を期することといたしております。
次に、経済発展のための基礎部門の整備拡充であります。昭和三十四年度におきましては、道路、港湾の整備を中心に大幅に経費を増額計上いたしました。すなわち、道路整備につきましては、昭和三十三年度以降五カ年間に総額一兆円に達する資金を投入することとし、昭和三十四年度は、この計画に即して、一般会計において二百九十五億円を増額いたしたのであります。港湾につきましては四十八億円を増額計上しているのでありますが、このうち、特に輸出、石油、鉄鋼、石炭等にかかる特定港湾については、今回新たに特定港湾施設工事特別会計を設け、その急速な整備を行うことといたしております。
このほか、治山治水、災害復旧等につきましても、それぞれ事業の重点的遂行に必要な予算措置を講ずることとし、また、電力、輸送等、基礎部門の開発につきましては、既定計画の遂行に必要な資金措置を講ずることといたしました。
次に、農林漁業につきましては、そのわが国経済に占める地位の重要性にかんがみ、昭和三十四年度においても格別の配意をいたしたのであります。すなわち従来に引き続き生産基盤の充実と流通の改善とに重点を置いて、その振興をはかることとしております。これがため、土地改良、開拓、林道開発、漁港整備等の事業に約五十五億円を増額するほか、農林漁業金融公庫の融資ワクを拡大し、また、農林水産物の流通改善のために各種の措置を予定しているのであります。なお、わが国農林漁業の基本問題につき、新たに調査会を設けて検討を進めることといたしております。
次に、文教及び科学技術の振興について申し述べます。教育水準の向上と、健全な次の世代の育成のためには、教育環境の整備改善をはかることがきわめて重要であります。これがため、いわゆるすし詰め教室の解消等を昭和三十四年度以降五カ年間で実施する計画を立て、教員数の充足と文教施設の整備を遂行することとし、義務教育費国庫負担金、文教施設費等、各般にわたり相当の増額を行うことといたしました。また、科学技術の振興につきましては、既定計画により原子力関係機関の研究施設の整備を進めるほか、基礎的研究部門を整備充実するための国立学校運営費等の増額、各省試験研究機関における研究要員の待遇改善、民間の研究に対する助成等の措置を通じて、各分野における均衡ある進展を期することといたしております。
次に、中小企業につきましては、そのわが国産業における役割と特質とにかんがみ、国民金融公庫及び中小企業金融公庫において、合せて一千五百五十五億円の貸付を予定し、これに必要な資金措置を講ずるほか、商工組合中央金庫に対する政府出資を増加するなど、中小企業金融の一そうの円滑化をはかるとともに、これら三機関の貸出利率の引き下げを行い、減税と相待って、その経営の改善に資することといたしました。さらに、中小企業設備近代化のだめの経費を増額いたしますほか、新たに中小企業退職金共済制度を創設し、経営の安定と従業員の福祉の増進をはかることといたしております。次に、輸出振興が経済の安定成長のため欠くべからざる条件である点にかんがみ、昭和三十四年度におきましても、輸出増進のための経費及び資金の確保には特に留意いたしております。すなわち、国連特別基金への加入、技術援助の強化等に要する経費を計上するほか、日本輸出入銀行に対する財政資金の供給に格段の配慮をいたしているのであります。
次に、地方財政について申し述べます。地方財政は、ここ数年来の国、地方を通ずる健全化の努力等によりまして、全体としては著しく改善されてきております。昭和三十四年度におきましては、地方税の減税を予定する一方、地方財政の基礎をさらに強化するため、地方交付税の率を一%引き上げて二八・五%とし、昭和三十二年度精算分を含め、地方交付税交付金を二百四十六億円増額計上するほか、地方団体の起債のワクを拡大するとともに、その資金の重点的な配分をはかることといたしております。これらの措置により、地方団体の行政水準の向上と住民福祉の増大が推進されることと存じますが、地方団体におきましても、この際さらに経費使用の合理化をはかり、財政の一そうの健全化に努められるよう希望いたします。
なおこの際、昭和三十四年度予算と同時に提出いたしました昭和三十三年度一般会計予算補正について一言申し述べます。今回の補正は、義務教育費国庫負担金、災害復旧費等の義務的経費の追加を主たる内容とするものでありまして、その総額は百十八億円であります。その財源といたしましては、砂糖消費税、関税等の自然増収及び専売益金の増加等をもってこれに充てることといたしております。これにより昭和三十三年度一般会計予算の歳入歳出の総額は、それぞれ一兆三千三百三十億円となるのであります。
以上、予算に関連する重要施策について申し述べましたが、次に金融政策について一言いたします。
経済の安定成長と質的改善をはかるためには、申すまでもなく国民貯蓄の増強が必要とされるのでありますが、同時に、投資の量と質とを常に適正に保つことがきわめて重要であります。投資の適正化は、まず民間経済の自主的な調整に待つべきものと考えられるのでありまして、そのためには、企業が堅実な投資態度を持するとともに、金融機関が、真にその健全性、合理性を発揮することが肝要であります。
本年度に引き続き昭和三十四年度においても、財政は相当の撒布超過となる見込みでありますが、これは資金需給の緩和により、金利水準の低下と金融機関の日本銀行依存の是正とをもたらし、金融の正常化を招来する好機であると信じます。私はこの際、金融機関に対し、その資産構成の健全化、支払い準備の充実、経営の合理化等に努めるとともに、過当競争を排除し、融資の適正化をはかるよう協調を保つことを、強く要請いたすもりであります。政府といたしましても、常に経済情勢の推移に留意し、日本銀行の金融調節機能の弾力的な運用と相待って、財政金融を通じて適切な調整に遺憾なきを期する所存であります。
また、私は、企業が自己資本の充実に努め、長期資金はできる限り増資または社債によってこれを調達するなど、企業の自主性の確保と経営の安定とに心がけるよう希望いたします。政府といたしましても、再評価積立金の資本組み入れの促進をはかり、増資登録税の軽減を行うなど、企業資本の充実を一そう推進いたしたいと考えております。
次に、為替政策の基本的方向について申し述べます。
今般わが国は、国際通貨基金及び国際復興開発銀行の出資増加に際し、特別増額割当を受ける見込みでありますが、これは、わが国経済発展の実績に徴し、世界経済におけるその重要な役割が信認されたからにほかならないものと考えます。申すまでもなく、国際通貨基金の目的とするところは、為替及び貿易の自由化と、国際協調による世界貿易の拡大、世界経済の繁栄にあるのであります。すでに西欧諸国においても、通貨の交換性を回復して、着着とこの方向に進みつつあるのでありまして、わが国としても、このような基本的動向に即して、今後の為替及び貿易政策を進めて参ることが必要であると存じます。この際、政府は、為替管理のあり方等につきまして、単に技術的な問題にとどまらず、より広い見地に立って、根本的に検討して参りたいと考えます。同時にまた、このような為替及び貿易の自由化の傾向により、国際競争がますます激化するものと予想されることは、先にも申し述べた通りでありまして、われわれとしては、従来に増して輸出増強への努力を傾ける必要があると存じます。
以上のような自由化と国際競争の激化という情勢を考えますと、やはり輸出増強をはかり、外貨準備を着実に増大させていくことが肝要であり、また、通貨価値の安定を政策の基本として堅持することが、いよいよ必要となってくることを痛感するのであります。私は、わが国経済がこのような基盤の上に発展して参りますならば、世界経済の中にあつて、その前途はまことに明るいものがあると信じて疑わないのであります。以上、わが国の当面する内外の経済情勢と、政府の財政金融政策の基本方針を明らかにするとともに、予算の概要を説明いたしました。私は、ここに提出いたしました予算を中軸とする財政経済の諸施策が、経済の健全な成長を進め、希望に満ちたわが国の将来を約束するものであることを確信いたします。
今や海外諸国における自由化と合理化への機運は、まことに注目に値するものがあります。わが国もこのような国際的動向に歩調を合せつつ、自由と責任の原則に基く民間経済の自主的な活動を基礎として、経済の発展に努めて参らねばなりません。政府といたしましては、国民のはつらつとした創意と工夫とを十分に生かしつつ、国民経済の均衡ある発展のために合理的調整を行い、もって国民生活の安定と雇用の増大を着実に推進して参る所存であります。
何とぞ政府のこの方針を了とせられ、全幅の御協力を賜わるよう切望する次第であります。(拍手)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/11
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012・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 世耕国務大臣。
〔国務大臣世耕弘一君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/12
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013・世耕弘一
○国務大臣(世耕弘一君) ここに、昭和三十四年度を迎えるに当りまして、最近における内外経済情勢と、これに対処すべき経済運営の基本方針を明らかにいたしまして、国民各位の深い御理解と御協力を得たいと存じます。
まず、わが国の経済の最近の動向を顧みますと、一昨年春、緊急総合対策を実施いたしまして以来、経済は調整過程に入つたのでありますが、ようやく昨年秋口ごろから好転のきざしを見せ始めまして、その後、今日に至るまで、おおむね予測通り順調な足取りで推移して参ってきておるのであります。すなわち、消費は緩慢ながら伸び続け、輸出は次第に停滞状態を脱して上昇傾向に転じてきたものと思われます。設備投資は、若干の低下はありましたが、在庫投資は上昇に転じ、さらに財政支出も増加しております。これ
ら内外の需要の増大によりまして、鉱工業生産は、大部分の業種が増産に転じ、出荷もこれと並んで増加し、物価は全般的に見れば下げどまりから強含みの傾向となっているのであります。
翻つて海外の経済情勢を見ますると、まず米国の経済は、昨年春ごろから立ち直りのきざしを見せ始め、その後急速に回復いたしまして、経済の基調は依然として上昇的であります。
次に、西欧経済は、目下のところ景気調整期にありまするが、各国政府の景気回復策と輸出の立ち直りを背景として、遠からず上昇に転ずるものと期待いたしております。
他方、後進諸国について見ますと、依然沈滞状態を脱しておりませんが、本年の後半には、次第に先進諸国の景気回復の影響も及んでくるものと思われます。
このように、海外の経済情勢には、今後好転の期待がかけられるほか、国際的な経済協調や後進諸国に対する援助の積極化が予想されますので、本年の世界貿易は、昨年よりやや拡大に向うものと思われます。もっとも、わが国の輸出市場をめぐる諸情勢を展望いたしますると、日本品に対する制限運動や、後進諸国に対する西欧、ソ連、中共の激しい進出など、楽観を許さない要素があり、また欧州共同市場の発足や為替自由化などの新たな事態が生じておりますので、わが国の輸出増進のためには、なお一段の努力を必要とすると思われます。
以上述べましたような内外の諸情勢を勘案いたしまして、本年は、さきに策定いたしました長期経済計画の構想に基きつつ、適度な経済成長とわが国経済の質的改善をはかることを経済運営の基本方針とする考えであります。すなわち、民間経済の成長力に財政の適度な働きを加えることによって、経済の安定的成長をはかり、あわせて、日本経済のうちにひそむ質的な欠陥を是正していきたいと存じます。
このような見地から、本年度におきましては、輸出の振興、経済協力の推進など、国際的な経済交流の一そうの拡大をはかることを初めとして、道路、港湾、輸送など、産業の基盤強化に役立つ公共事業投資を拡充したいと考えております。また、産業秩序の確立、企業資本の充実、金融の正常化などにつきましては一政府といたしましても逐次所要の対策を樹立推進して参りたいと存じます。
さらに経済の均衡ある発展をはかるために、農林水産業につきましては、生産基盤の整備拡充と近代化を着実に推進するとともに、中小企業につきましては、一そうその組織化、近代化を推進いたしまして、わが国産業構造の弱い面を強化するように努力したいと存じます。
このほか、経済の発展におくれないように、民生と雇用の両面につきましては特別の配慮をいたすことといたしまして、国民年金や減税の実施を初めとして、経済成長に伴う雇用の増大、雇用状態の質的改善などに努めたいと考えております。
ただいま申し述べて参りました経済運営の基本方針によりまして経済を運営して参りますならば、昭和三十四年度の主要経済指標はおおよそ次のごときものになると考えられます。
すなわち貿易及び国際収支につきましては、為替ベースで輸入は二十九億ドル、輸出は三十億ドル程度と見込まれます。国際収支は、貿易外収支を考慮いたしますると、実質で約一億六千万ドルの黒字が期待されるのであります。また、個人消費支出は堅実な伸びを示し、財政支出も増大するほか、民間設備投資はやや減退するといたしましても、在庫投資及び住宅投資は増加し、需要は全体として増加が見込まれております。かくして、鉱工業生産水準は、昭和三十三年度に比べて六・二%程度の上昇になるものと考えられます。(「しつかり読め」「質問する者の身にもなってみろ」と呼ぶ者あり、笑声)
物価は、内外の需要の拡大はありまするが、まだ相当に供給の余力が存在することを勘案いたしまするならば、おおむね強含み、横ばい程度に推移するものと思われます。
この結果、昭和三十四年度の国民総生産は約十兆七千六百億となり、昭和三十三年度に比較して、実質五・五%程度の経済の成長を見ることになります。この国民総生産の規模は、長期経済計画が想定しておりまする昭和三十四年度の水準と、ほとんど隔たりのないものと考えられます。
以上、私は、内外経済情勢と今後の経済運営の基本方針について、あらまし申し述べましたのでありますが、今後この方針を推進することによりまして、長期経済計画が指向するわが国の経済の安定成長と基盤の確立は、必ずや達成できるものと信じておるものであります。なお、日本の経済が過去におきまして、大幅な景気変動によりにがい経験を繰り返してきた事実にかんがみまして、特に政府といたしましては、経済動向の推移に応じ、財政、金融及び産業各般の施策を、適時、弾力的に運営していく所存であります。つきましては、今後とも国民各位の一そうの御協力をお願いしてやまない次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/13
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014・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) ただいまの演説に対し、質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/14
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015・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
次会は明日午前十時より開会いたします。議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午後四時三十七分散会
○本日の会議に付した案件
一、故議員文教委員長竹中勝男君に対する追悼の辞
一、故議員文教委員長竹中勝男君に対し弔詞贈呈の件
一、日程第一国務大臣の演説に関する件
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103115254X00819590127/15
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