1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十五年四月十三日(水曜日)
午前十時四十二分開議
出席委員
委員長 福田 一君
理事 淺香 忠雄君 理事 高橋 禎一君
理事 前田 正男君 理事 石橋 政嗣君
理事 石山 權作君 理事 田万 廣文君
生田 宏一君 内海 安吉君
始関 伊平君 富田 健治君
橋本 正之君 保科善四郎君
山口 好一君 久保田 豊君
杉山元治郎君 中原 健次君
中村 時雄君
出席政府委員
建設政務次官 大沢 雄一君
建設事務官
(大臣官房長) 鬼丸 勝之君
建設事務官
(計画局長) 關盛 吉雄君
委員外の出席者
参 考 人
(国土総合開発
審議会会長) 飯沼 一省君
参 考 人
(全国農民連盟
書記長) 中村吉次郎君
専 門 員 安倍 三郎君
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四月十三日
委員塚本三郎君辞任につき、その補欠として中
村時雄君が議長の指名で委員に選任された。
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本日の会議に付した案件
建設省設置法の一部を改正する法律案(内閣提
出第九二号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/0
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001・福田一
○福田委員長 これより会議を開きます。
建設省設置法の一部を改正する法律案を議題とし、参考人より意見を聴取することといたします。本日御出席されております参考人の方は、飯沼一省君及び中村吉次郎君の両君であります。
この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。本日は御多忙中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。何とぞ本案につきましてそれぞれの立場から忌憚のない御意見をお述べ下されば幸いと存じます。
それではこれより御意見を承ることといたしますが、時間の都合により御意見の開陳は約十五分程度にお願いをいたします。なお委員より参考人に対する質疑は御意見を承った後に行なうことといたします。
それでは飯沼一省君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/1
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002・飯沼一省
○飯沼参考人 建設省設置法の一部を改正して、公共用地取得制度調査会というものを設置しようという案につきまして、私の考えを申し上げます。
土地収用の問題は、公共事業というものと私権の保護ということ、この二つを調整していかなければならぬ使命を持っておるわけでありますが、昔の土地収用法はどちらか申しますと、公共事業を執行していくという点にややもすれば重きを置かれたように見えるのでありますが、現行の土地収用法はその点非常にこまかい心づかいをされまして、私権の尊重、これを保護していくということにできるだけの措置を講ぜられましたことは、私は大へんけっこうな立法であって、この精神はどこまでも持ち続けていかなければならぬと考えております。ただ土地収用法も施行後十年の歳月を経まして、いろいろと運用の上に経験を積み重ねて参ったのでありますが、多少の手直しをいたしまして、さらにりっぱな法律としてこの新しい精神を生かしていくことが必要なのではないかということを私は考えます。
私も、実は新しい法律ができまして以来今日まで東京都の収用委員会の委員をいたしておりますが、いろいろ事件を扱いまして感じましたことを二、三申し上げてみますると、まず第一に考えますことは、割合に収用委員会に持ち込まれる件数が少ないということであります。それでは事業がないのかと申しますと、決してそうではない。東京都のごときはたくさんの事業をかかえておりながら、しかもなお収用委員会に持ち込まれる件数が少ないのでありまして、起業者としましてはできるだけ円満な話し合いで問題を片づけていこうというお考えを持ってやっておられるのだろうと思うのでありましてできればそれが一番望ましいことでありますけれども、問題によりましては二年、三年、長いのになりますと六年、七年というような長い年月の間、これではどうか、これではどうかという交渉が繰り返されておるようなわけであります。毎年東京都の都市計画審議会にも、年度末になりますと年度割りの変更という問題がぞろぞろ出て参ります。どうして予定された年度内にこれができなかったのかということを尋ねますと、いずれも用地の取得権ということがおもな理由のようでございます。何か起業者の方に現在の土地収用法が使いにくいというような点があるのかどうか、われわれとしてはこれを検討してみる必要があるのではなかろうかということを考えるわけでございます。よく聞く話でありますが、収用委員会に裁決を申請するとなるといろいろのむずかしい書類を作らなければならぬ、これがなかなか大へんであるというような話も聞きます。個人の権利を収奪することでありますから、できるだけこまかい正確な書類を作らなければならぬということは当然のことでありますけれども、起業者の側からいえばもう少しその辺に改めてもいい点があるのではなかろうかというような疑問が持たれておるわけでありますから、その辺につきましても私どもとしては再検討の必要があるのではなかろうかと考えます。
第二は損失補償の問題でありますが、どれだけの金額を収用する土地の値段として決定したらいいかということは、収用委員会として常に最も苦心するところでありますが、これがなかなか収用委員会として頭を痛める問題でありまして、起業者の方から幾ら幾らという申請がある。被収用者の方からはこれこれという要求があります。その範囲内で収用委員会としては決定するわけでありますが、どの辺できめたらいいかということがむずかしい。鑑定人に鑑定を頼みます。しかしその鑑定人三人あれば三様の鑑定が出るわけであります。何かもう少し権威を持った土地の値段というものがきまらぬものだろうか、オーソライズされた地価をきめるような方法が考えられないものかどうかということをわれわれは常に考えておるわけであります。また起業者の方なども、どうせ収用委員会に持ち込めば値段が高くなるにきまっているというような先入観がありまして、そんなことがまた収用法を適用することをちゅうちょさせる一つの原因になっておるのではなかろうかというようなことも考えられるのでございまして、損失補償の基準あるいは標準、そういうようなものについてさらに一段の検討をしていただきたいと私どもは考えておるわけでございます。
それからもう一つは、収用委員会の事務局の問題でありますが、これは今日の法律では、各都道府県の部局にその事務局を命ずるようなことになっております。従って都道府県の職員が収用委員会の仕事を兼ねてやっておるわけでありますけれども、どうもこれでは不十分のように思います。もちろん府県によりまして非常に公共事業の分量の多いところもありますし、また少ないところもある。少ないところでは、従って収用委員会に持ち込まれる事件というようなものが少ないのでありますから、それほどのこともないかもしれませんけれども、事業量の多い都道府県におきましては、今日のやり方ではどうも不十分ではなかろうか。都道府県の職員でありますから、都道府県の都合によって始終更迭がある。せっかく収用法の運用になれたと思う時分には、また都合によって変わってしまうというようなことでありまして、収用委員会としては常にその問題に苦しんでおるわけであります。収用法そのものもなかなかむずかしい。しかも関連するところ公法あり、私法あり、実体法、手続法、いろいろの問題に関連いたしまして、これを運用していく上には、この問題につきまして十分な研究をした者でなければなかなかむずかしいように思うのでありまして、今日の制度ではどうもその点不十分なように思います。りっぱな裁決をしようといたしますれば、どうしてもしっかりした事務局を持ちませんければ、りっぱな裁決をすることがむずかしいと考えるわけでございます。
こまかい点につきましては、いろいろ問題があると思うのでありまして、今日ここでそれを一々申し上げることはできませんが、実は各都道府県の収用委員会が連絡協議会というものを作りまして毎年研究会を開いております。それからまた裁決事例などももうすでに百数十件に上っておりますので、これらを研究して反省をするような機関を設けておるわけでありますが、研究いたして参りますと、なかなかいろいろと問題が出て参ります。各都道府県の収用委員会が、どういうような改正意見を持っておるかというようなことにつきましても、実は全国収用委員会連絡協議会がただいま照会して取りまとめ中でございますので、いずれこういうような制度調査会ができましたならば、そういう調査会にも一つごらんを願いまして、この土地収用法というものをさらにりっぱな制度としていただきたいと実は私どもは考えておる次第でございます。
なおまたお尋ねがございましたら、それによりまして私の考えを申し上げる次第でありますが、一応この辺で終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/2
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003・福田一
○福田委員長 どうもありがとうございました。次に中村吉次郎君にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/3
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004・中村吉次郎
○中村参考人 私は主として被収用者たる農民の立場から申し上げたいと思います。
ただいま飯沼さんから土地収用法の目的を申されましてその通りでございますが、財産権と公益目的の公共事業との調整をはかるということは、結局それは補償をどうするかということにしぼられてくる場合が多いと思うのですが、いずれにしましても、土地収用制度がどうであっても、あるいは公共事業がどういうようなものであっても、具体的には国民にとっては一方的に土地を、あるいはその他の財産を取られてしまうということにほかならないと思うのです。その損失の補償についても、土地収用法でこまかく規定されてありますが、農業の場合はそれが非常に違ってくるわけであります。たとえば一町歩耕作しておる場合に五分の一の土地を収用された。それは五分の一の財産を失うことでありますけれども、農家の経営にとってみますと、それは農業経営を破壊してしまって、農業経営が成り立たたなくなってしまうというような、非常に重大な条件が奪い取られてしまうわけであります。法律によりますと、その買収価格というものは、先ほど御意見も出ましたが、近傍類地の取引価格で買収するとか、あるいはその使用の損失の場合には近傍類地の地代あるいは借賃等で標準をきめるということになっておりますが、農地の場合は必ずしもそういうわけにいかない場合が、その補償だけでは解決しない場合が出てくる。そこで八十二条の一項ですか、かえ地という問題がございますけれども、このかえ地にしましても、大体土地というものは代替性がないと見てよろしいのではないかと思います。そういうことを考えますと、農業者にとっては非常に重大な問題になるわけでございます。私どもはそういう問題を考えながら、今回の土地収用法の改正あるいは調査会等の問題についても、意見を出してみたいと思うのであります。
時間がございませんから簡単に申し上げますが、農業経営が成り立たなくなっていく場合には、ここにお配りいただきました「土地収用制度対策について」という印刷物にも生活再建ということが書いてありますが、この生活再建をも含めて補償するということも考えられておるようですが、多くの農民が、土地を離れて他の事業についた場合、数年たったあとを見ますと、大体ニコヨンに転落しておりまして、土地を失って他に転業した農民が、生活を満足にやっておるという場合は非常に例が少ないのであります。そういうことも考えなければならぬと思うのであります。それから土地を買収するというだけではなくして、たとえば土地の使用権、電柱が立つとか、そういう場合の補償にしましても、まだ十分になっておらない。私どもは最近電柱敷地の問題についてここ十年ばかり対策を立ててきておりますが、大体払われないところが非常に多かった。また請求をしなければ払わない。また会社にしましても、どれだけ払っているかということを公表しないという状態でありました。しかもその土地の使用というものは、地代といいますか、土地占有面積の土地資本利子というような考え方に立って今日まできたのであります。私ども今日この電柱の敷地の使用のことについては労力損、つまりじゃま料というものを計算いたしまして、これを会社側あるいは電電公社にも認めていただいております。こういうことは昔は地主が許可すればそういう買収もできたし、土地の使用もできたわけですが、今日は農地法によりまして耕作権が確立されておりますから、そういう建前からいっても、土地の収用ということは、昔のように簡単にいくものじゃない。昔地主制度がありましたときには、農地の収用はきわめて簡単にできたわけですが、今日自作農を中心としたところの農地制度のもとでは、これは農業経営の根底をくずすことになりますから、非常にむずかしいということは当然のことであると思います。ことに最近農林省の基本問題調査会におきましても、農業経営を営むには一町五反から二町歩の経営面積がなければ、農業経営は成り立たないという結論を出しておる。そういう日本の農家の零細経営の中で、土地を五畝にしても一反にしてもこれを取られるということは、大へんな問題であるということを認識しなければならないと思います。
それから最近土地の収用が非常に困難になってきたということが問題になっているようでありますが、これはおそらく二十六年に新しい収用法ができてからのことだろうと思います。しかし私どもは、土地の収用が非常に困難になってきているということも、そういう耕作権が確立しているということから離れては考えられないということだろうと思います。それから農業経営の実態から見ても、そうやすやすと農地を収用できるということはむずかしい。それから農地でなくても、一般の土地、ことに市街地の隣接地におきましてはものすごく土地が暴騰しておる。こういう中で土地を価格によって現実に取り上げるということはなかなかむずかしい場合がある。これをやすやすとやろうということになりますると、公権力の乱用とかあるいは財産権を軽視するというようなゆゆしい問題も起ころうかと私は思うのであります。大体農民は非常に権力に対して弱いのでありまして、ここに私どもいただきました土地収用法の改正の三点というのをあげられておりますが、補償額決定前に起業者の土地使用権を認めてくれとか、あるいは収用の手続を簡素化するとか、あるいは収用委員会の方の運営を改善するというようなこともございますけれども、農民は、一例を申し上げますと、内容証明の手紙一本来ますと、もう参ってしまう。あるいは起業者の会社の社員が土地収用法にかけるぞと言って驚かしただけで参ってしまう。そういうのが現状であります。そしてまた憲法二十九条の財産権に対する自覚が足らない。
最近私どもは高圧線下の調査を進めておりますが、特に二十六年以降のものをピック・アップして五件だけ集計してみますと、たとえば地上の送電線の下の農地の私有財産の一部を侵害されていると私どもは認めます。また一部においては、会社から補償は出されておりますが、これを施行する場合に口頭をもって了解を得たのが五〇%、それから文書であるのはわずか一二%で、あとは何ら了解はないというのが三七%何ぼという程度であります。それから高圧線の建設当時に、事前通告があったのが二五%、了解をとりに来たのが四九・六%、あとは一九・七%、つまり二〇%というものは何らの連絡もなく無断でやられている。それからこれに対して異議を申し立てたのが二六%、何も異議申し立てをしないのが六四%というように、権利に対する自覚はまだ農民はないし、こういうものはかなわないというようなあきらめで今日まできている。これが二十六年に改正されたあとの実情であるわけです。
それから補償の価格問題にしましても、実際は力関係によって決定されている場合が非常に多いのであります。ただいま収用委員会にかけるとどうしても補償価格が高くなるというお話もございましたが、われわれの見るところでは必ずしもそうではないのであって、やはり腕ずくで強いところによけい払われる。そうして権利の自覚を持たない農民の方は、公権力のもとにある起業者側に対抗する場合には、非常に弱い立場に置かれているというふうに思っております。それから二十六年以降九年間におきまして、農地が収用されているのが件数にして二十万といわれておりますが、その中で裁決まで持ち込んだのは百四件でありまして、私どもは決して困難な実情にあるということは考えておらないわけであります。
もう一つは、困難になっている例は、たとえば私どもが直接関係した場合でも、補償というものは法律によりまして個別支払いの原則に立っていることでしょうが、非常に不公平に支払われている。同じ土地にありながら、おとなしくその権力に応じた者は安く買い取られる。最後までがんばった者はその数倍の値段で買い取られるというように、非常に不公平な場合がある。それを公表せずに内密で個々別々の折衝を今日までしてきている。これが爆発しまして、不平等に対する憤慨というのが、収用を困難ならしめている場合が非常に多いのであります。たとえばさっき申しました高圧線の走る鉄塔の場合におきましても、実にまちまちで、五倍から六倍も違う価格で同じ隣同士の農民に支払いをしている。あるいは共産党のたんぼがありますと、そこをよけていくとか、公共事業として堂々たるやり方ではない。そこに農民が反撃して問題を起こした地帯もあるわけであります。それから一方では、高圧線下の補償を出しておりながら、その同じ県下において出しておらない。つまり農民が強く要求すれば払ってやるというような状態であります。全国の高圧線下は今まで一億五千万坪に近いといわれておりますが、これがおそらくほとんど無償で農民の権利品か侵害されているわけであります。
それから次に困難にならしめている事例を申しますと、起業者の側の態度が農民の権利を非常に無視したやり方をしておる。多くは無責任な下請業者によってこれが施行されている場合が多いのであります。それはたとえば電力会社の下請業者が農道を破壊する。そしてもう歩けなくしてしまう。その場合にも何ら旧に戻さない。会社に文句を言えば、それは下請会社の責任だ、下請会社に行けば会社の責任だと放任する。こういうことが事業の進展をかえっておくらせておる。あるいは、最近の例ですが、道路工事をやっておる。コールタールか何か知らぬが劇物を水田に流した。水田の利用権というものは村民にあるわけですから、それで魚が死んで二千万円の損害だということを県当局に訴えても、その責任をとらないというような非常に無責任な態度が、公益事業を困難ならしめているのではないか。
それからまた公共事業の場合に、予算ができたからこれはどうしてもやらなくちゃならぬというように、予算が先にできて、それをがむしゃらに強行するという場合がありますし、また予算の方で実際しろうとが見ても合理的じゃないというようなことでも、工事のコストが安いために安上がり主義で地元の意見を無視して工事が進められる場合、非常に不平不満が出る場合があります。ですから、先ほど飯沼さんも申されましたけれども、もっと当初の計画というものがりっぱでなくちゃならぬ、あるいは当初の計画が発展された以後において、ある力によって、あるいは利権やあるいは政治力によって変更されるという場合には、これが非常に問題が起こるわけです。そういう例が最近もあるわけであります。やはりこういう計画というものは科学的にも、また公正にそして権威ある機関を一つ作って、たとえば土地収用法を改正する前に、先ほど申されたように収用委員会の事務局を充実するとか、あるいは計画におけるところの公正で権威ある機関、たとえば審議会のようなものを設置して、これに諮問して、正しい答申を得てから実行するとか、もっと慎重さをもっていったらどうかというふうに私どもは考えるわけです。
私どもは今の土地収用法を改正してもらいたくないのでありますけれども、その調査会ができてどうなるかわかりませんが、この調査会についても一言最後に申し上げたいと思います。調査会というものを見ますと、建設大臣の諮問によって答申をされるわけですが、各省に建議する。私どもは建議というものは非常に弱いものだと思っておりますけれども、この場合調査会の建議というものは非常に強力なものになるのじゃないかということをおそれるのであります。従ってこの調査会というものは、やはり憲法の二十九条にのっとって公有土地の取得をすることを容易にするということだけでなくして、国民の財産を正当に補償することを重要な課題として検討してもらわなければならぬと思います。
それからこのあとの構成の問題ですが、これはこの委員会でも問題になったようでございますけれども、公法、私法の学者とか、あるいは土地評価の実務家とか、収用委員会の代表というものをお入れになるそうでございますけれども、私どもは被収用者としての立場に立つ農民、農業の側からも一つ代表を入れてほしいというお願いをしたいと思います。これは被収用者という立場のみでなくして、農地の受益者というのは個人でございますけれども、やはり個人が受益者であっても、収用全体が公共のためであるという観点から、たとえば地主の土地を買収した際もこれは公共性があると判例に示されておる。また今日、私どもは食糧統制の継続を支持しているものですが、食糧統制というものは公共のために私有財産を用いられておる、こういう立場からしますと、農業というものは、単にそういう他の事業と違って、多分に公共的な立場を持たされておるという点で、農民の利益代表というものをこの調査会の委員の中に加えてもらいたいということをお願いしておきたいと思います。
時間がございませんので、飛び飛びに申し上げましたが、あとでまた御質問にお答えいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/4
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005・福田一
○福田委員長 これにて両参考人の御意見の開陳は終わりました。
これより質疑を許します。中村時雄君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/5
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006・中村時雄
○中村(時)委員 飯沼さん並びに中村さん、本日参考人としていらっしゃって下すって御苦労さんでございます。
まず最初に飯沼さんに二、三点お尋ねしたいのですが、時間の関係もあったので、非常に抽象的になって具体的な実例がちっとも出ておらなかったので、その点から二、三お尋ねしてみたい、こう思っているわけです。当初お話しになられましたまず第一点の公共事業、またそれに伴うところの私権の尊重、この二つの問題を加味していって、最近十年ばかりたった今日におけるところの土地収用法に対しての考え方がいろいろ出てくるのではないか、こういうお考え方のようであります。その第一点としてのお考え方は、収用委員会に持ち込まれる件数が非常に少ない、こういう御発言をされたのでありますが、そこで一つお尋ねしたいのは、たとえばその委員会に持ち込まれた結果においても、二、三年のものもあればあるいは六、七年のものもある、こういうお話があったのでありますが、それが大体全体として見た場合における比例、何%くらいの立場を占めておるものか、あるいはその実例は大体どういうところにあるのか、これをまず第一にお聞きしてみたいと思っているのですが、おわかりでありましたら、一つ参考までにお聞かせ願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/6
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007・飯沼一省
○飯沼参考人 一々の実例についての資料を今ちょっと手元に持ち合わせておりませんけれども、最近東京で収用委員会で裁決いたしました例は、目黒駅前の広場の問題でございます。これは都市計画事業として執行することが、昭和二十六、七年ごろからきまっておったのではないかと思います。それですから、それから考えますと六、七年あるいはそれ以上になるかもしれませんが、そういうような状態です。大体において、なるべく起業者としては円満に仕事をやっていきたい、地元の協力を求めつつ仕事をやりたい、これは無理からぬことで、それが最も望ましい方法ではあろうと思いますけれども、しかしこういうふうに仕事を始めてから年月がたちますと、ただいまも中村さんがお話しになりましたように、初めに協力した人に対する起業者の補償と、それから最後まで残っていよいよ収用委員会の裁決ということで損失補償をいたしますものとの間の、非常な不権衡ということが起こって参ります。結局ごね得というような、いわゆる世間でいわれておる言葉がそのまま行なわれておるような、非常な不公平が起こって参るわけでありまして、何とかその辺にうまい方法がないかということを私どもは考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/7
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008・中村時雄
○中村(時)委員 今のお考え方からいきますと、この場合は農地ではないのですね。ですから市街地の問題と農地とはおのずから考え方の相違がある程度あると思うのです。ということは、農地の場合には、ほんとうに先ほど中村吉次郎さんからもおっしゃったように、被取得者の方からくるところのものは、生活権まで含めて問題の土地を渡さなくちゃならぬという行き方になっておる。この基本的な問題は、市街地においても同様でありますけれども、市街地の中には、確かに投機的にこれを考えている人もたくさんいらっしゃると思うのです。その投機的に考えているということは、これは公共の事業に相反するという一つの考え方も打ち出されるであろう、このように考えられるわけです。中にはそれを商売にしておる人もあるであろうし、中にはブローカーもおるであろうし、世相のいかんではいろいろの条件が生み出されてくる。そこにあなた方の土地収用委員というものの識見なり、あるいはその感覚が最も重要な判定を下していく行き方になってくるわけです。しかし逆に農地の問題はおのずと異なった問題があろう、こう私は思うわけです。そういう点に対して、農地と市街地を同様に考えるなれば、起業者の基本というものは大体二つの考え方がある。一つは確かに純然として公共用地としてまさしく次の生産に伴うところのプラス面を作ろうという考え方と、同時に、先ほど中村さんもおっしゃいましたが、予算を立てておいて格安のもので作っていこう。あるいはまた事業体なんかがその中に入っておりますが——事業体というのは御存じのように株式会社です。そういうようなものはやはり基本的には利潤が伴わなかったなれば、これはあくまでも行なわないという行き方がある。そういう観点があるという建前から見て、市街地と農業地というものとはおのずから基本的には異なった線が打ち出されてくるのではないだろうか、こう思うのですが、それに対してどういうお考え方を持っていらっしゃるか、お聞きしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/8
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009・飯沼一省
○飯沼参考人 お話のように、市街地と農村とはおのずから問題が違ってくると私も思っております。市街地、ことに人口の集中の激しい市街地におきましては、お話の通り土地というものが、場合によりまして投機の対象になっておる。これが非常に地価をつり上げまして、それがためにまた公共事業の用地取得難の一つの原因がそういうところにもあろうと考えます。お話の生活再建の問題、これもしかし市街地においても決してないわけではないのでありまして、これはやはりできることならば、土地を収用される人が、将来の生活に差しつかえないような方途を講ずべきであろうと思いますけれども、土地収用法でどこまでその問題に触れていくことができるか。問題によりましては、ある程度は土地収用法でも考えられるけれども、さらにそれ以上の問題になりますと、また何か別な制度等によって考えていかなければならぬ問題が起こってこようかと、市街地については私考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/9
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010・中村時雄
○中村(時)委員 お手元に、東京都あたりで農地の問題に関していろいろの問題を惹起している実例というものは相当ありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/10
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011・飯沼一省
○飯沼参考人 農地についてはあまりございません。ただしかし先ほど中村さんもお話になりました送電線の架線下に対して損失補償をした、裁決をいたしました例が一件あると思います。そのほかは大体みな市街地の中ということになっておったと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/11
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012・中村時雄
○中村(時)委員 もしできましたら、送電線なりあるいは高圧線の問題に関して一件あったとおっしゃいますが、その補償の方法とか、あるいは交渉の過程とか、あるいはそういう取り上げた内容を一度御報告を願ったら一番いいのじゃないかと思うのです。お手元になければ、はなはだ失礼なんですけれども、あとで書類にしてでもいただければけっこうだと思うわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/12
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013・飯沼一省
○飯沼参考人 裁決をいたしました裁決がございますから、それでよろしゅうございましたら、あとからお送りいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/13
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014・中村時雄
○中村(時)委員 それから先ほどの問題で、収用委員会に持ち込まれました件数が非常に少ない、こういうお話があったわけですが、この問題に関して土地収用委員会に持ち込まれないことということは、どういうことかと言ったら、あなたのお考え方からいきますと、現行の土地収用法が使われないということになるのか。あるいは使われないというよりも、土地収用法に欠点があって使われないというお考え方なのか。現在の土地収用法があるわけですね。その土地収用法のどこかに欠点があって、そのために持ち込んでこないのだというお考え方なのか。それから土地収用法そのものの中の運用が悪いために、そういうことが持ち込まれないのか。そういう考え方が出てくるわけです。そこでそのどちらの方が重点になっているかをお聞きしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/14
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015・飯沼一省
○飯沼参考人 どうもちょっとはかりにかけようがありませんけれども、私は両方あるのじゃないかと思います。その辺を両検討をすべきではなかろうか、こういうことを申し上げたつもりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/15
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016・中村時雄
○中村(時)委員 たとえば、これは中村さんも先ほど言ったように、私はどちらかといえば農地に関しましては、逆に土地収用法に欠点があるものでなくて、運用の中からいろいろ問題が出るのじゃないか、こう思う点があるのです。先ほど中村吉次郎さんの方からも話が出ましたが、電力会社におけるところの問題を取り上げましても、権利者に無断で耕地に立ち入りをしておるとか、あるいは同一地域内の同一条件にあるものにまちまちの補償をしてみておるとか、そういうようなところから農民のいろいろな感情が爆発して、実際には思い通りにはかどらないという条件が多々出てくると思う。これは何も土地収用法自身に欠陥があるのじゃなくて、その運用の仕方、運用にあずかった当事者がそのような不合理ないろいろな運用をしておるから、逆に被収用者であるところの農民の方からはそれに反発する行為となって現われてくる。その中からいろいろな摩擦、あるいはそれが非常に延滞するとかいうような問題が基本的には生まれてくるのじゃないか、このように考えられてくるわけです。私が今言っていることは、農村を中心にして考えた場合には、主としてそういうような問題が起こりやすいという条件を当事者みずからが作っている。すなわち土地収用法における運用の仕方がまずいのであるのではないかと考えられるのですが、それに対して飯沼さんと中村さんとにこれはお聞きをしておきたいと思う。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/16
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017・中村吉次郎
○中村参考人 私は土地収用法を変えなければならないというのは、農地の場合にはないのではないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/17
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018・飯沼一省
○飯沼参考人 ただいまのお尋ねは、土地収用法はりっぱな法律で、もうあれ以上変える必要はない。もっぱら運用が悪いのではないか、こういうお尋ねのようでありますけれども、むろんその運用の面において改めていかなければならぬ点はあろうと思いますけれども、しかし制度そのもの、法律の条文そのものについても、やはり考えてみるべき点があるのではないか、私はこういうふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/18
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019・中村時雄
○中村(時)委員 私が今言っているのは、実際の、今中村参考人からお話のあった電気事業を一つの例にとったわけです。そこで法律の内容そのものというよりも、今のあの話からいきますと、運用の面に欠陥が最も大きく打ち出されてきておるのじゃないか、こう思うわけです。運用の面にありとするならば、土地収用法そのものは何も改定する必要はないのじゃないか、こういう結論になってくるわけです。ところが飯沼さんのおっしゃることは、その法律的な内容にまで云々をしなくちゃならぬじゃないか、こういうお考えであるということは、少なくとも土地収用法そのものをいじるということで、運用よりもそちらに重点があるのじゃないかという考え方になってくると思うのですが、それに対して、それではどういう個所をどういうようにお考えになっていらっしゃるか。あなたは専門家ですから、その点の一つの明確な考え方を持っていらっしゃると思う。その点を明確にしていただければ幸いだと思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/19
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020・飯沼一省
○飯沼参考人 先ほども申し上げましたが、たとえば起業者の側から申しまして、収用委員会の裁決に持ち込むということになると、何か非常にむずかしい——いろいろ書類を作らなければならぬというような点で、つい収用委員会に持ち込むことをちゅうちょさせる、おっくうになる、できるならそういうむずかしいことをせずに、話し合いでまとめよう、まとめようという努力を何年もかかって続けさせるということになりはしないか。そういう点で、私はその点についてはあの法律をもう一ぺん検討してみてもいいのではなかろうか、こういうふうに考えます。
それから東京都についてよく起こる問題ですけれども、たとえば都市計画事業については手続が二つに分かれておるわけです。一つは収用の区域、収用の時期などについては書類を作って建設省に持っていきまして、建設大臣の裁定を受けなければならない。それから損失補償については東京都の収用委員会に裁決を申請しなければならぬというような、二通りの手続をさせるようなことになっております。これは一例でありますけれども、そういうような点ももう少し単純なといいますか、二通りの書類を作って二通りの手続をしていかなければならぬというような制度も、この際やはり検討をしていただいたらいいのではないか、こういうふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/20
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021・中村時雄
○中村(時)委員 あなたのおっしゃることをせんじ詰めれば書類の問題だということになりますと、一つお尋ねしておきたいが、それでは土地収用法の目的について改められようとされるという考え方なのか、あるいは主体の問題を取り上げようとしていらっしゃるのか、あるいは補償の問題を取り上げようとしているのか、あるいは手続の問題を取り上げようとしていらっしゃるのか、おのずからいろいろあると思うのですが、今のお考え方からいきますと、その中で手続の問題を主体に考えて土地収用法の内容を変えていきたい、こういうお考え方になるというように解釈するわけですが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/21
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022・飯沼一省
○飯沼参考人 お尋ねが、収用委員会に持ち込む件数が少ない原因は何であろうかという問題でありましたので、私は今手続の問題を申し上げたのですけれども、一番初めに申し上げました通り、問題は、たとえば損失補償の問題でありますとか、事務局の問題でありますとか、なおこまかい点に入りますれば問題はたくさんあると私は思います。先ほども申し上げました裁決事例研究会をわれわれ開いておりますけれども、これなどに出て参ります問題は、こまかく入ればたくさんあるのです。われわれのわからないむずかしい問題にもぶつかるわけでありまして、これらについて十分に検討する必要があるということを申し上げましたので、決してこれは手続ばかりの問題ではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/22
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023・中村時雄
○中村(時)委員 目的は大体帰一するわけなんです。目的はそのままでよろしい。そうすると残るのは、大ざっぱに分けますと、今言ったように手続の問題と主体性の問題と補償の問題と、こういうように分かれて参るわけですね、土地収用法の内容を見れば。その中で、今裁決に持ち込まれる件数が少ないということは、そのうちの運用の問題に中心があるのじゃないかということを言ったわけです。それに伴って、運用の問題も確かにある、しかしそれ以外に内容の問題も入るのだ、こういう御答弁があったわけです。そこで内容の問題といたしますと、どこがどうなんだといえば、一番大きく取り上げられていらっしゃるのが書類の問題になってきているわけなんです。そこで、その書類の問題に集約して一、二点お尋ねしたいのですが、大体この現行土地収用法の三条で厳格に制限されているものがあるのですね。ぴちっと制限されているわけです。あなた方の考えていることは、その範囲内をいろいろ変えていこうとされるのか、あるいはこれを広げようとされるのか、どちらを意味していらっしゃるのですか。今の三条は御存じでいらっしゃいましょう。あなたは専門家ですから内容は申しませんけれども、それを内容を規制していって厳格にしようとされるのか、あるいはそうでなく、もう一歩この三条を広げて幅をとろうというお考え方を持っていらっしゃるのか、この点をお尋ねしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/23
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024・飯沼一省
○飯沼参考人 三条というのは、土地を収用し得る事業の種類を掲げた規定でございますね。私は日本の制度は割合広くいろいろな事業について土地収用を認めた制度の一つではないかと思うのでありまして、あれ以上私は今日のところ別に広げる必要ありとは考えておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/24
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025・中村時雄
○中村(時)委員 そうするとその範囲内としても、その全部の事業に現行法より簡易な手続で収用させる考え方を持っていらっしゃる、こういうことになるわけですか。その点明確に一つお願いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/25
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026・飯沼一省
○飯沼参考人 私はただ収用委員会の委員として、収用法の運用に当たっておって感じたことを申し上げたのでありまして、別に私が法律を作るわけでも改めるわけでもありません。ただ私の感じとしましては、どこまでも個人の権利というものは尊重しなければならない。これは今日の制度では大へんけっこうな制度だと私は思います。しかし、さればといってまた公共事業も一面において大事な仕事である。これが執行されなければ、国の生活、都市の生活というものがうまくいくはずがないのでありますから、これも執行できるように、実現できるような方法がとられなければならない。要は、この両者をどういうふうにして調整していくかという点にあると思うわけでありまして、先ほど中村さんのお述べになりましたような、個人が非常に苦しんで、生活上の苦痛を受けなければならぬというような状態をできるだけなくしていくということについては、私も中村さんと同じような考えを持っているわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/26
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027・中村時雄
○中村(時)委員 最後に一点だけ。ともかく話が非常に私権の尊重ということを主体に考えていらっしゃるようにも聞えるし、逆にまた公共事業体というものを中心に考えているようにも聞えるし、そこらのところが非常にむずかしいニュアンスになってくるわけなんです。起業体としてはやはり公共事業というものを主体に考えたいというのは当然だろうと思うのですが、片方生活権擁護の立場から見れば、実際問題としては私権の尊重ということが中心になってくる。この両者が相待っていろいろな問題を起こしてくる。これは基本的な問題です。
そこで最後に飯沼さんにお尋ねするわけなんですが、私たちは新憲法の精神に基づいて、土地収用法の規定をやはり順守するということを原則的な立場に考えていくべき筋合いのものじゃないか、こう思うわけなんです。それさえはっきりしておれば、おのずからまたかりに改定するにしても、部分的な一つの方向が確立されてくると思うのです。そういう立場から、あなたは収用委員をしていらっしゃる方なんですから、その点で一つ明確にお答えを願っておきたい、こう思うわけなんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/27
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028・飯沼一省
○飯沼参考人 個人の権利を尊重しなければならぬということは、全くお話の通り私も同じ考えでございます。しかし個人の権利を尊重するのあまり、公共事業ができなくなるというのではまた困る。たびたび同じことを繰り返して申し上げるようですけれども、問題はやはり両者を調整していかなければならぬという点に、私は土地収用法の趣旨があるのではないかと思うのであります。私は決して個人の権利を軽視してよろしいと申し上げるわけでもありませんし、また公共事業ができなければ、それで仕方がないじゃないかというようなことを申し上げるわけではありません。要はどういうふうにしたならば、この両者がうまく調整されて、公共事業も執行され、個人の権利も侵害されないようにしていくことができるかという点を、土地収用法の運用の目的にしておる、それをねらいとしておる、こういうふうに考えるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/28
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029・中村時雄
○中村(時)委員 土地収用法が改正になったのは、結局それをねらいにして内容というものを作り上げているわけなんです。だからこの土地収用法の内容そのものは、これでよろしいという考え方になるのです。今言ったように起業者と私権の尊重というものが考えられた結果において、新しく土地収用法というものが改正されてきた。だから内容的にはそれがはっきりしているわけです。それで実際そういうような結果からきて、あなた方の収用委員会がこの法案を骨子にしておいてやっていかれるということなんです。ところがそれでもなおかつまた実際にやってみたら、こういうような欠陥が現われてきたのではないかというようなお考え方がありとするならば、それは一体どこの個所がどうなっておるのかということを実は私はお聞きしたがったわけです。しかしそこへくると、今言ったように土地収用法に対するところの公共事業体は尊重いたします、私権も尊重いたします、その内容としてそれが一番むずかしいところでありますというお話だけになってしまうのです。その両方尊重するという建前があったからこそ、旧土地収用法というものを新しく切りかえていった。そして内容を整えてきた。その内容を整えてきたものの原則は、私はこれが一番正しいのじゃないかという見方をしておる一人なんです。だからあとのことは部分的な問題として現われるのであって、内容でなくして運用に問題がありはしないか。それであれば、今の現行法をそのままにして運用部面を規制していくためにはどうすればいいかということを、さしずめやってみる必要があるのではないかという考え方になってくるわけです。ところが実際のところは、そこまでいきますと今言った土地収用法に基づくところの起業者の問題と私権の問題というものを並列させていって、非常にむずかしいという議論になってしまって、さっぱり前にいかないのでありますが、まあそれはそれといたしまして、少なくとも委員の一人としてそれがいけないということになれば、今言ったように調整してみたがうまくいかないから、どういうふうなところがどうなるかということを今後においてははっきり打ち出して、研究会でもけっこうですが、そのことを私どものところにも御通知願いたいわけです。一応飯沼さんに対して参考意見をお聞きすることはこれをもって終わりますが、今言ったようにその点だけは今後土地収用委員会の委員のお一人として、ぜひ明確な態度をもって臨んでいただきたいと思うわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/29
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030・福田一
○福田委員長 次に田万廣文君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/30
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031・田万廣文
○田万委員 簡単にお尋ねしたいと思います。実はもうすでに御承知の通り、今この委員会にかかっておる建設省設置法の一部を改正する法律案の中で、土地収用法の調査会を作るかどうかということが根本的な問題であろうと思うのです。これには反対と賛成の両論があると私は思うのですが、一番問題になる焦点は、私どもの承知しておるところでは、今度の法案が出る際にあたって、起業者側の諸君から相当土地収用をかけておると長くなるから、これを一つ早くやりたい、そこで補償価格の決定がなされる前に、実際の使用収益、占有関係というものを起業者の方で早く先取したいといいますか、とにかく先にいただいておく、補償の問題はあとにする、事業が早くできるために早く取っておくということが正当かどうかということを調査することが、大きな目的であろうと思うのです。そういうことの議論が出たとも聞いておりますが、これについてその方面の権威者である飯沼さんの御意見並びに全国農民連盟書記長の中村さんから、御意見を承りたいと思います。おそらく私はその点が根本問題になると思いますので、できるだけ詳しく教えていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/31
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032・飯沼一省
○飯沼参考人 私個人の考えを申し上げます。私はどういうやり方でそれをなさろうというのか、詳しいやり方を伺っておりませんけれども、私の想像するところでは、どうもそれまでの必要はないのではないか。そういう制度が認められれば、土地の所有者が非常に弱い立場に立ちます。早く裁決をして仕事ができ得るようにする方法は他にないわけではありませんから、そういう方法をとれば、必ずしも今のような制度を考える必要はないのではないかと私個人としては考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/32
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033・中村吉次郎
○中村参考人 先ほど時間がなかったから私、意見を非常に省略いたしましたが、大体この土地収用法を改正するという意見が起業者側から出ておるということを聞いて、私も非常に不満を持っておる。起業者は言うなれば加害者で、被収用者は大体被害者であります。従って手続を簡素にするということも、あとの裁決を迅速にするというようなことも、とにかく時間を少なくかけてやるということは、結局被害者によけい被害をかけるという問題にしかならないと私も思います。被収用者にしましても、好んでいわゆるごね得というようなことよりも、やはり自分たちの将来に対する不安とか、生活上の問題があるからこそ問題が起こる。あるいは不平等とか、それに対する反感もありましょうが、感情的な問題とかあるいは銭もうけにやるというようなことは、国民全体から見ればほとんど数にならないほどだろうと思います。土地のブローカー以外はそういうことはほとんどない。そうして加害者たる起業者が——こういうような補償というものが最後の建前といいますか、それを唯一の憲法に認められておる奪い取られ、収奪される者の最後の権利として補償というものが要求されておるのであって、これを決定する前に起業者が土地の使用権を獲得するということは、本末転倒しておるのではないかと思います。
なおこの補償につきましても、私どもは突っ込んで申し上げませんでしたが、金銭で支払うことが原則になっておるということ、農地の場合は金銭だけでは解決されない、生活の補償をしたことにならないと私どもは思うわけであります。かえ地をやるにしましても、地理的にも非常に不便なところに入植するとか、あるいは全然土地の違ったものをかえ地として与えられたとしても、農民は決して喜ぶものではないのでありますから、こういう補償の方法についても、現行法についてすら私どもは満足に思わないわけでありますが、それが起業者からこういう要求が出て、そうして調査会が生まれるということになりますと、将来に対して非常に不安を抱かざるを得ないのでありまして、この点も十分御検討願いたいと思います。
またついででありますから申し上げますが、いい例もあるわけでありまして、私が聞いたところでは、大分に夜明ダムができましたときに、夜明ダムのいかだ師の補償をするのに、トラック業者に転業さして補償したことがありますが、そうしますと、いかだを今まで流しておったときよりも、トラック輸送に転業した方が収益が上がって、生活がかえって向上したという例があるわけであります。そういう非常に補償の仕方がいい場合があるということもわれわれの今後の参考にして、そうしてもっと積極的に国民の生活を守るという立場で補償をしていただきたいということをお願いすると同時に、また今後の研究課題として考えなければならぬのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/33
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034・田万廣文
○田万委員 けっこうな御意見をお聞かせいただいて私どもは非常にうれしいわけです。というのは、飯沼さんも中村さんも補償価格の決定前に強制的に収益利用関係を、きつい言葉でいえば剥奪するといいますか、そういうことをやろうという起業者側の——全部が全部の起業者側であるかどうか知りませんが、とにかくそういう大勢を制しておる起業者側諸君の考え方というものはあまり感心しないという御意見だったので、非常に私満足するのですが、飯沼さんのお話の中に、そういうことをやらなくても、ほかに方法はないことはない、こういうちょっと短い文句ですけれどもお話があったのですが、飯沼さんの、ほかに方法はないことはないという、その方法はどういう方法が考えられておるわけでしょうか、一つ聞かしていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/34
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035・飯沼一省
○飯沼参考人 先ほど私が最初に事務局の強化のことを申し上げました。それなども私は一つの方法だと思います。それから今日各府県によって事情は違うかもしれませんけれども、収用委員会を開きます回数ですが、東京などは問題がかかって参りますと、大体毎週一回ずつ開いております。しかしこれなどももっとひんぱんに開き得るような方法を考えられないことはないのではなかろうか。それから問題を準備するのに、先ほど申し上げました事務局が問題になるわけであります。事務局を強化することによりまして、問題を早く片づけるということを私、頭に入れながらお話を申し上げたわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/35
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036・田万廣文
○田万委員 実際問題をお尋ねするのですが、示談で起業者と収用される側の諸君との話し合いの結果できた補償価格と、収用委員会において裁決された補償価格との関係はどういうふうになっておりましょうか。時期的な問題もありましょうけれども、どちらが有利に解決されておるか。いわゆる有利というのは、剥奪される方の、被害者側の、被収用者の立場からいってどうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/36
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037・飯沼一省
○飯沼参考人 正確な数字を私今記憶しておりませんけれども、起業者の申請額通りできまった例もございます。それから起業者の申請と被収用者の申し立てとの中間をそうでないものはとっておるわけであります。これはおそらく建設省御当局の方はお調べがおありだろうと思いますけれども、どのくらいの割合になりますか、ちょっとその正確な数字は私わかりませんが、時期のズレ、これは何ともいたし方がございません。収用法によりますと、損失の補償は裁決のときの価格を標準としてきめるように、こうなっておりますから、三年間かかれば三年間の値上がりを見ないわけには参りません。五年かかればその間の値上がりを見ないわけには参りませんので、自然初めの円満に妥結した場合の金額と、裁決できめた補償金額との間には非常な差が出てくる、こういうことになると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/37
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038・田万廣文
○田万委員 おそらく今のお話の結果から考えると、土地収用法でケリをつけたときの補償価格の方が、示談で起業者と被収用者と話をつけた金額よりも高いと思うのでありますが、そう承ってよろしゅうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/38
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039・飯沼一省
○飯沼参考人 ちょっと私今数字でもってお答えを申し上げることができませんけれども……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/39
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040・田万廣文
○田万委員 大体のところでいいです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/40
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041・飯沼一省
○飯沼参考人 それは収用裁決に持ち込む前に協議が整った場合の金額のことでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/41
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042・田万廣文
○田万委員 そうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/42
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043・飯沼一省
○飯沼参考人 それと裁決によってきまった補償金額との問題。それは大体その間に相当の年数がたっておりますから、やはり裁決によった補償金額は高くなるのではないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/43
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044・田万廣文
○田万委員 先ほどお話の中に、いろいろ正直者はばかを見るとか、あるいは弱い者は損をするとか、表現の仕方はいろいろあろうけれども、時期的に早く解決したものは、概して安い補償額で済んでおる。あなたの先ほどの御発言を利用すればごね得だ、ごねたやつは得しておるのだ。正直に受けた方は安い補償額でこれが済んでおるということです。私はそういうことであってはいかぬと思う。正直者がばかを見ない、弱い者かほんとうに法律の保護のもとに適正な補償を受けるということでなければ、私はよくないと思う。現実の今までの土地収用の実態を見ますと、私よりはその衝に当たっておられる専門の方である飯沼さんの方が詳しく御承知だと思うのですが、とにかく、中村さんからもお話があったが、土地収用という言葉は一つの大きな権力を持った言葉に聞こえるわけです。公共のために、公共事業だ、それだけで頭からがんと一発食らわせられて、どんなに反対してもこれはかなわぬのだということで、精神的にも物質的にも非常な損害を弱い人たちが受けておるのが実態であろうと思うのです。そういう精神状態において、起業者側からいうならば手をかえ品をかえて安く、自分の方は費用を少なくしてその目的の事業を完成したい。これは出す方は少ない方がいい、取る方はよけいの方がいいというのが人情でございましょうから、必要以上に起業者の方が弱い立場の被収用者の諸君に、公共事業のために、公共の利益のためであるということでおおいかぶさっておったのが、今までの実態であろうと私は考えるのですが、具体的にいろいろな事件を取り扱われた立場における飯沼さんのお考えを伺いたい。先ほど中村さんからも言われておりましたが、そういう実態がやはりあるのでしょう、どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/44
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045・飯沼一省
○飯沼参考人 収用委員会は、新しい法律になりましてから——非常に民主的な法律に改まったわけでありますが、われわれ収用委員会の委員としましても、被収用者からは書面でもって意見を出していただき、またさらに収用委員会を開きまして、起業者と土地収用の関係人一緒に来てもらいまして、その機会にまた意見を聞いておるわけであります。だから、土地所有者の側は、十分にその自分の意見を述べる機会というものは与えられておるわけであります。われわれ収用委員会を開きます心がまえとしても、できるだけそういう、何といいますか、一方において起業者が公権を振り回す、土地所有者の方が非常に弱い立場に立たされるというようなことのないように、十分に土地所有者が自分の考えておられることを述べられるように、また起業者との間の意思が十分に疎通し得るようにということを心がけまして、会議の運営をいたしておるわけでありまして、その点は私は前の法律に比べまして、今日大へんけっこうな制度だと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/45
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046・田万廣文
○田万委員 ちょっと私の尋ね方がまずかったので、誤解を受けたと思うのですが、土地収用委員会にかかってからの話もさることながら、土地収用委員会にかけて話を済ますのじゃなくてそれ以前の示談で起業者と被収用者とが折衝をして話をつけた場合、実際問題として価格が概して安い。そこにやはり起業者の圧力というものが、公共事業、公共の利益という非常にきれいな、強い権力的な言葉の前に、農民なり一般の市民の人が弱い立場になっておるという姿、これは委員会外の問題ですよ、そういう姿があるということを、あなたは御承知であろうと思うのですがいかがですかということを聞いたわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/46
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047・飯沼一省
○飯沼参考人 私も、今日は起業者の立場におりませんのでよくわかりませんけれども、しかし今日のお役人の方方はよほどその点は、やはり昔とは違いまして、考えておられるのではないかと思うのでございます。それで補償価格の点につきましても、何べんか交渉のたびごとに金額をあげて交渉しておられるのです。決して頭から、初めから一本やりで、これだけはすぐ収用法だぞというようなことではなしに、これではどうか、これではどうかと言って、何回も補償金額について、増額をした金額で交渉しておられる跡が見えます。そういうような点から申しまして、必ずしも私は、そう一方的に公権を振りかざして臨んでおるというふうなことではないのではなかろうかと想像しておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/47
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048・田万廣文
○田万委員 最後に一点だけ、中村さんにお尋ねしたいと思います。先ほど農業関係における土地収用の問題についていろいろ詳細な御説明を受けました。私も農民組合の非常に盛んな香川県の出身でございます。しかし最近電力事業関係の方々その他に対して、いろいろ農民が非常に問題が多いわけです。土地収用ということに関連して、農民が結束して立ち上がらなければいかぬ場合が多々あるのでございますけれども、非常に弱いですね。自分の権利を、ぶつぶつ陰では声を出しておるけれども、実際に団結してその戦いをやろうというようなことは、非常に少ない。非常に権力に弱いという立場において、今度の建設省設置法の一部改正、土地収用法の改正をしようという目的のもとに調査会が設けられようとする際において、先ほど申し上げた一番危険な点があるのでございますが、その他の点について、土地収用法についてこういうふうにしてもらいたい、ああいうふうにしてもらいたいという、農民関係の代表的なあなたの希望ですね、これがございましたら、この際承っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/48
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049・中村吉次郎
○中村参考人 ただいま電力関係のお話がございましたが、これは一つ実例を申し上げたいと思いますが、今電力の線は、たとえば東京から高崎までの中間で、電線が非常に多いのです。熊谷市で四、五年前に調査したこともありますが、たとえば一軒の農家が八枚たんぼを持っておりますが、その八枚のたんぼで、一枚も電柱のないたんぼはない。非常にこれは被害を受けておるわけです。それで多いところは、一枚の中に五本以上立っておる。耕作の田植えその他なわ張りも何もできない。もちろん非常に作業のじゃまをしておるわけです。これは農民に聞けば、すべてが電柱を取っ払ってもらいたいということです。そのたくさんの電線が走っている中で、たとえば警察の電話が二本走っておる。こういうものは一本に集約しようとすればできるのではないかということも考えられるわけです。
それからまず工事の際に、電力会社はみんな下請業者に工事させる。それで踏み荒らされるものもありますが、踏み荒らし料というもので金を若干渡して、何とはなしにそれを補償料ということにしてしまっておるということでございまして、電柱の補償料を払っておらない。これは私ども十年間この問題を取り上げておりますが、会社としても払おうという意思がない。ただ電電公社は非常に誠意を持ってやっておりますが、その金額についてはまだ不満でございます。
それからたとえば鉄塔なり、それを立てる際に、お隣の愛媛県の例でございますが、新居浜の火力発電所から西条に行く七十数本の鉄塔を立てる際に、一軒々々の農家に対して個別に折衝しておる。あれは鉄塔を立てるために買収するのですが、おとなしい人には四千五百円ぐらいで買収しておる。ところがごねたところには七万円払う。それをあなたが一番高く買っているからということで、絶対に人に口外するな。ところがそれがあとでばれて大きな問題になっておる。これは法律の運用論以前の問題でありまして、きわめて前時代的なやり方をやっておる。この愛媛県の問題は、最後には土地収用委員会にかけられたのですが、結局これは県庁の土木課長のあっせんによって示談で解決した。この課長は、前に県の農政課長をしていた人で、農業に対して非常に理解のあった人、つまり農業に理解のある人がやれば、また電力会社にしろ非常に理解があれば、それは農民も納得できるし、そういう際には、たとえば農業団体も農民の団体もありますから、そういうものに相談して、そうして個別支払いの原則はありますけれども、そういうものはやはりまとまった団体としての話し合いを進めておけば、もっとスムーズにいくことがあるのじゃないか。つまり昔のようにだましていこう。先生がおっしゃったように、弱い者には、つまり正直者には安く払って、ごねたやつにはよけい払って、それでも総括として支払いを少なくしようという経営の方法を公共事業体が持っているということは、非常に困るのではないか。
もう一つは、この間前橋の郊外でもそれがあったのですが、これは国鉄の高圧線ですが、支払いをいたしまして、それで結局、こういう支払いを五百五十万円支払ったのですけれども、同じ国鉄の、ああいう公共事業体でありながら、群馬県の渋川付近の国鉄の高圧線には支払いをしておらない。そういう問題もあって、私どもは補償額決定以前に起業者に土地収用を認めるというのですから、すでに既設のものに当然払うべきものを払わずにおって、農民はそういう公共事業体を信用できないわけなんです。ですから、やはり信用できる公共事業体であってもらいたい。
それからもっと工事そのものに公共事業体が責任を持ってもらわぬというと——たとえば、これは地方の土建屋がやるわけでございまして、前橋の国鉄の問題にしましても、農民が少し立ち上がりましたら、土方がスコップを持っておどしにかけたとか、かけようとしておるというふうな情報さえわれわれも聞くくらいで、結局そういう事件は起こらなかったのですが、とにかく土建業者が暴力的な圧力をかけるというような事実があるわけであります。そういうことを起業者が無責任な下請会社にやらせるというところに、大体問題があると思うのであります。
それから電柱の問題では、高圧線の下に山林がある場合、それを伐採するのですが、こういうことはすべて無断で伐採するわけであります。そして伐採する際には、伐採したあとの事後報告によって切ってしまう。これは伐採する専門家がおりまして、肉体的にも相当頑強な人が来て暴力的におどかしていく。非常に民主的な法律のもとでさえも、そういう暴力的におどかされている事例があるのですから、やはり私どもは今回の起業者側から出された三項目に非常に不安を持っておるわけであります。ことにお役所仕事というのは手ぬるいということになっておるわけでありますけれども、早く片づけたいということは、やはり農民にとって非常に不利になる条件が出てくると思いますので、重ねてこれを申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/49
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050・福田一
○福田委員長 久保田豊君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/50
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051・久保田豊
○久保田(豊)委員 両御参考人に一点だけ私はお聞きしておきたいと思います。今ここに出ておるのは、土地収用法の改正ということで出ておりますが、私どもは実際にやってみますと、たくさんの事例が出てくるのですが、今実際にぶつかった問題は、土地収用法そのものの問題ではないと思うのです。つまり公共用の土地取得全体をどううまくやるかということがやはり問題だと思うのです。こういう観点から、問題はいろいろ複雑ですが、私は三つの問題点がしぼられると思うのです。
一つは、公共起業体の態度が、今お話がありましたように、もらった資料を見ますと、文章では実に統一してあります。ところが実際に末端へ現われてくるのはばらばらです。今私のところで例の弾丸道路ですか、あれの問題が出ております。それの補償のやり方等を見ましてもめちゃめちゃでありまして、強いところとか、コネのあるところはよけい払うが、そうでないおとなしいところは踏んだりけったりで、それがすぐ隣であっても平気でそういうことをやるわけです。ですから、文章で書いてあっても何にもならない。補償基準というものを鉄道で書いておったって、大して役に立ちません。ですから、私は実際にこういうことに対する起業者の態度といいますか、補償方針といいますか、こういうものをほんとうにきちっとした統一したものにするということが、問題点の解決を楽にする一つだと思うのです。この点が問題の一つであります。
もう一つはどこににあるかというと、これは何といっても土地の値上がりといいますか、あるいはその期待ですね。こういうことが今各地に、農村といわず都市といわず非常に大きいのですが、この原因についてはいろいろあります。需要が非常に多いとか、ブローカーが非常にあれだとか、あるいは農民の方からいえば、農民はそういうことによって土地を転用していくという傾向がなきにしもあらずであります。そういう理由はいろいろありますけれども、この土地の値上がりをどう合理的に抑制していくかということが、第二の問題点だと思うのであります。
第三の問題点は生活保護の問題です。この生活保護の問題は非常に複雑であります。農民の場合でも一人々々違って参ります。また地区々々によりまして、あるいは土地がつぶれるからかえ地をよこせという場合もありますし、あるいはその他の土地改良をやるという場合もありますし、あるいはそうでなくて、今までやった土地改良のしりぬぐいをどうしてくれるかという問題もありますし、あるいは都市近傍等においてはむしろもう一歩進んで区画整理をやる、区画整理のやり方に非常な不満を持っておる。いろいろな問題がありますが、非常に複雑であります。複雑でありますが、いずれにしましてもこの問題の解決をするということなくしては、公共的な土地の取得といいますか、そういうことはうまく参りません。
この三つの問題を統一的にどう解決するかということが、私は当面の基本的な問題だろうと思うのです。そういう点について、問題を土地収用法というふうに非常にワクを狭くしぼってやるところにやはり問題がある。こういう形でやっても問題は解決しない。こういう基本的な問題の調整のつかない限り、うまくいかないというふうに私は見ておる。今の時点でこういう問題をしぼって重点を置くのはこの三つだと思います。この問題が片づかない限り、土地収用法の問題を幾らいじってみても、絶対に問題の解決にはならない。形の上では公共起業体の方が非常に仕事がやりやすくなりますけれども、今の一般的な情勢からいうと、むしろ問題が深刻化して、かえって困難な問題にぶつかる可能性の方が多いのではないかというふうに思うのですが、以上三点についての解決策として、皆さんの今までの御経験なり何なりから、何らか具体的なお考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/51
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052・飯沼一省
○飯沼参考人 ただいまお述べになりました問題は非常にむずかしい問題でありますが、非常にむずかしい問題であるにかかわらず、どうも日本の国ではあまり研究されておらなかったのではなかろうかと思います。今度の問題になっております公共用地取得制度調査会等におきましても、そういうような問題に触れていただきたいと実は考えておるわけであります。
土地の値上がりの問題、これは日本ばかりでなしに、世界各国みなそうでありまして、ことに都市の公共事業については悩んでおるようでありまして、いろいろの方策を考えておるように思います。たとえばアメリカなどでは受益者負担の制度が非常に発達しておりまして、ある公共事業、たとえば道路なら道路をつけることによって周囲の土地が値上がりをすると、その付近の土地に対し受益者負担をかけるというような制度をとっておるということを聞いております。それからドイツ系の都市では、土地の値上がりを防止するのにどういう方法をとっておるかと申しますと、一つは都市内の人口密度をある程度抑制していく。場所によっては一階、二階の建物、独立家屋しか許さない、高層な建物を許さない区域を設けておる。さらにその外側には農業地帯もしくは森林地帯のようなものを設けまして、そこは夏の小屋程度の簡単な建物しか許さない、そういう地帯を設けるというようなことで地価の値上がりを抑制していくという方法をとっております。もう一つは、土地の公有ということを非常に広くやっておるようであります。ほかの都市もおそらくそうであろうと思いますけれども、オーストリアのウイーン市などでは、これは第一次大戦後の報告を見ますと、市の区域内の四分の一くらいはほとんど市が持っておる。そして市が直接土地を所有することによって、他の市の土地の値上がりをある程度コントロールすることができる。公共事業もその土地を提供してやることもできますし、あるいはまたその土地が該当しない場合には、それをかえ地として提供して、そして仕事をするということで、土地の値上がりを防止しておるという話を聞いております。各国ともこの問題には悩んでおるようでありまして、日本でも何らかこれらの点について、どこかで研究をしていただく必要があるのではなかろうかということを私は考えております。
それから生活保護といいますか、生活再建の問題といいますか、これも区画整理というような方法、都市計画の面でもございますが、しかしそればかりでなしに、なおいい方法が考えられぬものかどうかということを私考えておりまして、でき得るならば今度できます調査会等においても、それらの問題に私は触れていただきたいように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/52
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053・中村吉次郎
○中村参考人 ただいまの問題、非常に大きな問題だと思いますが、根本的には農業者の場合には零細でございまして、これが半畝でも一畝でも土地を減らされるということは、非常に大きな打撃になるわけでございます。
第一の公共事業体の態度、これは私ども非常に憤慨する場合が多いのですが、公共事業体としては農民の団結というのですか、それを非常におそれておるわけです。そこでむしろ農民を分裂さして、農民同士を争わして、問題を有利に運ぼうという根本的態度があるから、こういう非常にばらばらの行き方をやっておられると思うのですが、こういうやり方では今では通らないと思うのです。それからわれわれ被収用者の側としては、常に農民同士で団結をして、そうしてお互いに平等の補償を獲得するという方向に進まなければならぬと思うのですが、公共事業体としてもそういう公平な態度で臨んで、むしろそういう農民をだましたような者に対しては、少なくともそういう公共事業体としての公権力をかさに着て乱用したという場合には、何か懲罰を与えてもいいのじゃないかと思うのです。それから市町村という自治体がありますが、やはり自治体等を単位として被収用者側の組織を作って、そして公共事業体と交渉して、横の連絡をオープンにやっていくということをしなければ、とうてい公正な事業の推進はできない。そしてこの方がかえって問題を早く解決するのじゃないか、こう私どもは思っておる。
それから土地の値上がりは、自然的な値上がりと投機的な値上がりとあると思うのですが、投機的な値上がりというものは、あくまで政治的に抑制して、いわゆるブローカー等の存在を押えなければならぬと私ども思うわけであります。今日のような状態では、つまりそういう投機的な値上がりのために問題を起こしておるという例が非常にあると思うのです。ですからたとえば課税の方法もありますし、そういう点で抑制していかなくちゃならぬ。これは何も公共事業を進めるためのみでなく、やはり住宅難もそこから起こるし、いろいろな農業経営の面も、土地の負担が多くなるということで、土地の値上がりということはやはり政治的にも押える段階じゃないかと私どもは思います。
それから生活の保護ですが、これは先ほども申し上げましたが、やはり積極的に保護するということをしなければ、正当な補償をしたから生活保護されているのだという考え方ではやはりだめで、一時金を農民に与えたからといって生活保護にはならぬと私どもは思います。むしろ今零細農と申しましたが、非常に日本の農業は人口を減らさなければならぬ段階になっておりますから、こういうときに農業の人口を他の産業に就業させるというような国の計画があって、それと伴って農民が土地を失う場合には、他の産業へ転業就業できるようなことに国の政治が動けば、農民は必ずしも土地の補償ということで生涯その利子で生活するということがなくて、働きながら獲得する。さっき夜明ダムの例を申し上げましたが、ああいうような積極的な方法が必要ではないか。そしてそうすることによって農業の人口がそれだけ減れば、その取られた農地の半分残ったのをあとに残った農民が使えば、あとに残された農業者の経営もよくなっていくという、むしろ一挙両得の政策が大きな国の政治で打ち出される必要があるのではないか。農地は一応保護されているというけれども、都市計画その他の公共事業の前には全く——これはすべてほかの法律が優先しておるものですから、実際は農地の保護はされていない。やはり農地の保護ということも考えながら公共事業を考える。私どもしろうとでよくわかりませんが、たとえば東海道を行く道と山間部を行く道とあるということを聞いておりますが、東海道を走れば美田を全部つぶすわけです。ところが山間部をもし走る道ができますと、今まで開発されない土地が開発され、農地にならなかったところに農地が生まれてくる、あるいは酪農ができる、林木を搬出できるとか、いろいろな産業上の利得もある。だから国はむしろそういうような大きなところに経費をかけて、その公共事業が名実ともに被収用者側に利益になるよう進めていくことが必要ではないかと思います。私見でございますが一応簡単に申し上げました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/53
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054・福田一
○福田委員長 これにて両参考人の御意見の開陳は終わりました。
参考人各位には種々有益な御意見を開陳していただきまして、まことにどうもありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
次会は明十四日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後零時二十九分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404889X02819600413/54
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