1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十五年三月十一日(金曜日)
午前十時三十一分会議
出席委員
委員長 小澤佐重喜君
理事 井出一太郎君 理事 岩本 信行君
理事 大久保武雄君 理事 櫻内 義雄君
理事 椎熊 三郎君 理事 西村 力弥君
理事 松本 七郎君 理事 竹谷源太郎君
安倍晋太郎君 愛知 揆一君
秋田 大助君 天野 光晴君
池田正之輔君 石坂 繁君
鍛冶 良作君 鴨田 宗一君
賀屋 興宣君 小林かなえ君
田中 龍夫君 田中 正巳君
渡海元三郎君 床次 徳二君
野田 武夫君 服部 安司君
福家 俊一君 古井 喜實君
保科善四郎君 毛利 松平君
山下 春江君 飛鳥田一雄君
石橋 政嗣君 岡田 春夫君
黒田 寿男君 田中 稔男君
戸叶 里子君 中井徳次郎君
穗積 七郎君 森島 守人君
横路 節雄君 大貫 大八君
堤 ツルヨ君
出席国務大臣
内閣総理大臣 岸 信介君
外 務 大 臣 藤山愛一郎君
出席政府委員
法制局長官 林 修三君
外務政務次官 小林 絹治君
外務大臣官房審
議官 下田 武三君
外務事務官
(条約局長) 高橋 通敏君
委員外の出席者
専 門 員 佐藤 敏人君
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三月十日
日米安全保障条約改定に伴う米軍船舶の航行等
による漁業損害補償に関する請願(田口長治郎
君紹介)(第九九三号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び
安全保障条約の締結について承認を求めるの件
(条約第一号)
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び
安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び
に日本国における合衆国軍隊の地位に関する協
定の締結について承認を求めるの件(条約第二
号)
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び
安全保障条約等の締結に伴う関係法令の整理に
関する法律案(内閣提出第六五号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/0
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001・小澤佐重喜
○小澤委員長 これより会議を開きます。
内閣提出の、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等の締結に伴う関係法令の整理に関する法律案を議題といたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/1
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002・小澤佐重喜
○小澤委員長 まず、法案の趣旨について政府の説明を求めます。藤山外務大臣。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/2
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003・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等の締結に伴う関係法令の整理に関する法律案の提案理由を説明いたします。
この法律は、題名の示す通り、現行の安全保障条約及び行政協定にかわる新安全保障条約及び地位協定の締結に伴い、わが国内の関係法令の整理を行なうものでありますが、条約、協定の締結に伴う関係法令の整理は、条約、協定の実施という共通の目的のために行なわれるのであり、また、その内容も、大部分が引用されている条約、協定の名称変更という共通の事項でありますので、これら関係法令の改正を一括取りまとめて、これを一本の法律案にいたしたものであります。
この法律案の内容といたしましては、改正される法律三十一件及びポツダム政令一件に及んでおりますが、大部分は関係法令中に引用されている条約及び協定の名称変更等にかかる技術的なものであります。
現行行政協定の規定が実質的に改められることに伴う関係国内法の実体的な改正といたしましては、一、新しい地位協定第十一条の税関検査に関する規定の改定に伴う関税法等特例法の一部改正、二、地位協定第十二条第四項の規定により、PX等、米国の歳出外諸機関の労務が、原則として、いわゆる間接雇用になることに伴う調達庁設置法、国家公務員法等一部改正法、駐留軍労務者支払特例法及び特別調達資金設置令の一部改正、三、地位協定第十四条にいう米軍のための特殊契約者について新たに指定要件が加えられたことに伴う所一得税法等特例法の一部改正、並びに、四、地位協定第十八条の民事上の請求権の処理に関する規定が改められたことに伴う調達庁設置法及び民事特別法の一部改正がそのおもなものであります。
以上の実質的改正のほかは、いずれも題名の変更または法令中の用語の定義の統一等の形式的改正でありますが、なお、附則につきましても、いずれも、現行行政協定から新地位協定に切りかわることに伴つて、旧法下においてなされた行為等につき新法下でも引き続き同様な規制を行なうため、または罰則を従前通り適用するための経過措置を定めたものであります。
以上説明いたしましたように、この法律案は、新条約及び新協定の締結に伴い、関係法令の整理を行なうものでございます。何とぞ本案につきまして、慎重御審議の上、すみやかに御賛成あらんことをお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/3
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004・小澤佐重喜
○小澤委員長 これにて提案理由の説明は終了いたしました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/4
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005・小澤佐重喜
○小澤委員長 引き続き、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の締結について承認を求めるの件、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の締結について承認を求めるの件、及び、ただいま提案理由の説明を聴取いたしました日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等の締結に伴う関係法令の整理に関する法律案、以上の各案件を一括して議題といたし、質疑を行ないます。石坂繁君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/5
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006・石坂繁
○石坂委員 安保条約の改定問題は、内外に対しまして重大なる影響のある問題でありまするだけに、これにいろいろの議論があるのは、まことにやむを得ないことだと考えております。われわれは、国会におきまして十分の審議を尽くしまして、われわれ自体も認識を深めますとともに、国民の皆さん方にも十分納得していただきたいのでありますが、私はかような趣旨をもちまして政府の所信を伺いたいと存じます。
さて、先日の愛知委員の総括的質問によりまして、重要な点が質疑応答されたのでございますが、そのおもなる点は、第一は、条約の改定に至るまでの経過、第三は、現下の世界情勢の判断についての政府の考え方、第三は、安全保障の必要性、第四は、改正の必要と、改正条約は基本的に防衛的性格の条約である、かような点は一応御答弁があったのであります。さらにまた、極東の意義及び範囲につきましても、政府の統一的見解を明らかにされたのでありまして、私も一応これを承つたのであります。
ところで、これらの点に関連いたしまして、冒頭にまず伺つておきたいことは、政府は、現在の国際情勢は雪解けの段階に入つたという認識のもとに立っておられるようでありますが、この雪解けの時期に入っておると判断しておられる現在におきまして、しかも条約の改定をやられましたということにつきましては、それ相当の改定の意義がなければならないと考えるのであります。私は、この安保改定の根本的意義に関しまして、また、この時期に改定されました理由につきまして、まず総理の御所見を伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/6
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007・岸信介
○岸国務大臣 日本が終始世界の平和を念願して平和外交を推進しておることは、御承知の通りであります。この意味において、昨年来、東西両陣営の首脳者会談の機会が設けられ、東西間の問題を話し合いによって解決しようという機運が動いてきておることは、私は非常に望ましいことであると思います。しかし、問題は、東西間の懸案というものを話し合いで解決しようという機運が動いておりますけれども、その解決が行なわれて、真の雪解けがきておるわけではないことも、現在の国際情勢としてはっきりと認識しなければならないのでございます。こういう際におきまして、われわれ自由主義の立場を堅持しておる国々が十分に理解と協力の関係を強めていくことは、東西間の話し合いを有効に成立せしめる上から申しましても望ましいことでございます。安保体制は、言うまでもなく、今回新たに作ろうというものではないのでありまして、現在日米の間に協力関係を設けて、そうして日本の安全のために作っておる体制でございます。これが成立の当時から幾多の不合理な点を包蔵しており、その後における日本の国際的地位や、あるいは国力の向上とともに、これを対等なものに改め、そうして日本の自主性を持った、日本の意思がこれに反映していくようなものにするということは、私は、日米の今後の協力関係を一そう緊密にする上からも望ましいことであり、日本としても多年の国民の要望でございますから、これを実現することは適当なことである、こう考えるわけであります。言うまでもなく、安保体制は、現在ありますものも、今度作りますものも、純然たる防衛的なものでありまして、これによって、われわれは、現在のわれわれが望んでおる世界平和の方向と少しも矛盾するところのものはないと確信しておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/7
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008・石坂繁
○石坂委員 ところで、国民の一部には、西両陣営の頂点である米ソのいずれかの陣営の一方にくみした、本条約のごとき政治的条約を結ぶことは、それだけ東西の関係を激化させる結果になるのではないかと危惧しておる向きもあるようであります。そこで、日本の政府といたしましては、ただいまも総理の御説明がありましたけれども、今度の日米安保条約がそういう性質のものではないということを、国際法的に、あるいはまた、実証的にこれを詳細に説明する必要があるのではないかと考えるのであります。私といたしましては、単に条約文に、平和の維持であるとか、あるいは国連憲章の条章とかいうものを援用するだけでは、国民のこのような危惧の念を一掃するには不十分ではないかと考えるのでありますから、政府のなお一そう親切なる御解明をお願いいたしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/8
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009・岸信介
○岸国務大臣 今日の世界の情勢から見まして、何らの安全保障の体制をとらず、無防備のまま、そういう体制なしに中立的な立場をとることによってその国の安全が保障されるという状態ではない。われわれは、一番の理想としては、平和機構である国連において安全保障の体制ができて、これにすべての国がその国の安全を託して、そうして不当な侵略が行なわれないということが一番理想であることは、言うを待ちません。そういう機構のないときにおいて、しからば一国がどういうふうに自分の安全を守るかということは、それぞれの国の置かれておる客観的の情勢、四囲の状況からりその国が自主的にきめるものでありまして、あるいは、その国が非常に大きな財政上の支出をして、自分自身でもって他から一切の侵略を受けないように防衛を固めることのできるような態勢にあるということであれば、そういうことも考えられましょう。しかし、現在の状況から言うと、一国だけで自分の国が他からどういう場合においても侵略されないような態勢をとり得る国というものは、世界でも非常に少ないのであって、そういう国々が、自分の安全を保障するために、数カ国あるいは二国でもって安全保障の体制を作っておるということは、世界の各地に見られる情勢でございまして、たくさんのそういう機構が行なわれておることは、これは当然であります。今申します国連の理想的なものができるまでの中間的の措置としては、そういうことはやむを得ないことである。日本が平和条約の後において全然無防備な状態である場合に、アメリカとの間に現在の安保条約を結んで、そして一切アメリカの軍事力によって日本の安全を保障するという体制をとったことも、そういうことに基因しておると思います。しかしながら、これは日本といたしまして全然防衛力を持っておらなかった時代、また、日本の国際的地位が全然なかったときで、国力も戦前に比して戦後まだ十分な回復をしておらないときの条約として、やむを得なかったでありましょうが、そういう状態でありますから、日本が独立国として、また、国連の有力なメンバーの一つとして活動しておる今日から見ますると、いかにもこれが不十分であり、今申しましたような体制をとることは、世界の至るところにあることでございますけれども、その世界の至るところにある条約に比しましても、日本の地位というものがきわめて不合理な立場におかれておる現行の安保体制を、今回合理的に改正していく。これによってわれわれが初めて安保体制を作るわけでもなければ、現在あるところの安保体制の性格を、一部の人が非難しているように変えていくわけではございません。その本質は、あくまでも国連憲章の平和維持、また、不当な侵略があった場合においてこれを排除するという、純防衛的なものでありまして、それを一歩も出るものではない。従来、その体制について日本の意思というものが全然認められておらなかったのを、今度は、合理的に、日本の独立国としての意思を主張することができるように改めようとするものにほかならぬのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/9
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010・石坂繁
○石坂委員 ただいまの総理の御答弁のごとく、現行安保条約が占領下において結ばれたものであり、従いまして、いろいろの不備と不合理があったので、それが改正されたのであるけれども、しかし、その防衛的性格である点は一歩も変わっておらないと言われるところは、私はよく了承いたします。
ところで、なお国民のうちには、この改正によりまして日本が戦争に巻き込まれはしないかという危惧を持っておる者があるのであります。これはきわめて重大な国民の関心事であり、また大切な点でございますので、本条約が防衛的性格のもので、軍事同盟ではないということ、あるいはまた、戦争に巻き込まれはしないかという危惧の念につきまして、政府の一そう明確な御解明をお願いいたしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/10
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011・岸信介
○岸国務大臣 本条約の各条章をごらん下さると明瞭になるのでございますが、日本が自衛力を発動し、あるいは日本に駐留せしめておるところの米軍が行動するという場合は、日本に対して武力攻撃が加えられたわけであります。この場合においては、国連憲章の五十一条にも明らかなように、独立国はこれに対して個別的集団的自衛権を発動し得る事態がきた場合におきましては、日本は当然これを実力をもって排除する措置をとり、日本に駐留しておる米軍もまた、日本と同時にこれに対してこれを排除する行動をとるわけでございます。しこうして、もう一つ、他から不正な侵略、武力攻撃を加えられたときに、日本がこれを武力を用いて排除するということは、独立国として当然であって、これをもって、戦争に巻き込まれる危険がある、そういう場合に、武力攻撃を受けても、手をあげて侵略者の思うままにまかして、民族の破滅を来たすということは、これは断じて許せないことである。もう一つ、戦争に巻き込まれる危険として指摘されるところのものは、日本に駐留しておる米軍が、極東の国際的安全と平和が侵されておる場合において、日本の基地を使用してこれに対抗するという場合があげられております。これも、現在の条約におきましても全然同じでありますが、現在の場合におきましては、アメリカ軍の行動については、日本政府としては何らの意思表示ができないのであります。アメリカの思うままに行動ができるわけでございます。そういう現行の状態において、あるいは日本が知らない間にそういう事態が引き起こされるというような危険もあるのでありますが、今回の条約においては、そういう場合においては、事前協議の対象として、日本に事前に協議して、日本の承諾を得ない限りは米軍は行動できないというふうに、制約が設けられております。これだけ現在の安保条約の体制よりも会合理化されて、今回の改正によって、従来非難されているような条項が合理的に改められたと思います。しこうして、極東の安全と平和というものが、世間におきましては、何か日本の安全と平和に全然無関係なことに米軍が行動するように想像している人がありますが、日本の平和と安全というものは、今の国際情勢から見まして、極東の安全と平和というものと非常に密接な関係を持っております。また、ある場合においては、これは、不可分でございます。あるいはその関係の非常に薄い場合もありましょう。従って、米軍が出動する場合におきまして、極東の平和と安全というものと日本の平和と安全が不可分であるような場合におきましては、われわれはこれに対して承諾を与え、日本の安全を守るということは、私は当然であると思う。しかし、そういうことに非常に縁遠い問題であるというような場合におきましては、日本は日本としての立場から、それに対して拒否するということによって、不必要に戦争に巻き込まれるところの危険が、現在の安保体制よりも著しく改善されるものである、かように考えております。従って、いかなる場合においても、われわれの方から積極的に——米軍といえども、そうであります。米軍がやる場合におきましても、現実に他から武力攻撃が加えられて、これに対してこれを排除する。日本は、極東の平和と安全が日本の平和と安全にいかに緊密な関係があるといいましても、日本の自衛隊が日本の領域外に出て行動することは、これは一切許せないのでありますから、そういう場合において、駐留している米軍が、日本の基地を使用してそうしてこれを排除するということは、あくまでも防衛的であり、日本の安全の上からいって適当なことであって、これによって、一部にいわれているような戦争に巻き込まれる危険があるということは、私は間違っておる、こう思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/11
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012・石坂繁
○石坂委員 私といたしましては、総理の答弁は了承いたしました。
さらに進みまして、今回の新条約は、日本が自衛力増強の義務を課せられたものではないか、こういうふうな疑問があるのであります。現にこの点を指摘して非難しておる者もあり、この点につきましては、当国会におきましても、他の場所で論議されておるようであります。すなわち、新条約第三条の規定は、締約国は、自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持し発展させると定められておるのでありますが、この規定によりまして、わが国の自衛力の増強が義務化されるのではないか、わが国が軍国主義に導かれるのではないか、こういうふうな疑問を持っておる者があるのであります。その限りにおきまして、新条約は、現行条約に比較いたしまして、わが国の義務が加重されて、改悪になるのではないか、こういう疑問もあり得ると思います。この点につきまして総理の見解を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/12
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013・岸信介
○岸国務大臣 条約第三条の規定は、アメリカにおけるバンデンバーグ決議といわれるものの精神を取り入れてございます。アメリカが他の国と相互防衛の条約を結ぶ場合においては、少なくとも相手国が自分の国を自分で守るという意思を明らかにし、またそれについての努力をしている国とでなければ、そういう条約は結ばないという建前が、アメリカのとってきている建前であります。従って、こうした条約につついては、いろいろとこの趣旨を盛り込んだ規定を設けております。しかし、今回の条約第三条も、他の同種の、似通った条約のこの種の規定とは、字句等におきましても、特別な憲法の規定を持っておる日本としまして、十分注意して設けているのであります。そうして、これは言うまでもなく、日本が独立国として日本の国を守る、これに必要な防衛力を、国力、国情に応じて漸増するという国防会議の基本方針にのっとって、日本としてはできるだけの力を持って日本みずから守るのだという意思をもって、またその意図のもとに努力していることは当然でありますから、その事柄をこの規定において明らかにしたわけであります。それぞれの能力を維持し発展するというのにつきましては、それぞれのうち、日本のこの能力の維持発展につきましては、日本が自主的にきめるものである、アメリカのこの能力を維持発展することは、これはアメリカが自主的にきめることであるということを明瞭ならしめっておるのであります。そうして、今申しましたように、日本としては、国力、国情に応じて効果的な防衛力を漸増していくという方針にのっとって従来もやって参っておりますし、今後もその方針でやるということにつきましては、何ら変わっておらないのであります。その通りにやっていくつもりであります。しかして、具体的に年々どういうふうに増強していくか、あるいは維持していくかということにつきましては、もちろん、過去におきましても、われわれは、決して、毎年どれだけふやさなければならぬということの義務を負ったものでもなければ、今後においてもそういうものを負うものではありません。あくまで国力、国情に応じて日本はこの能力を自主的に維持し発展するのであります。こういう意味において、この条文によって新たな防衛力増強の義務を加重せられたものであるというような考え方は、全然間違っておるのでありまして、われわれのやっていくことにつきましては、従来と何ら変わらないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/13
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014・石坂繁
○石坂委員 条約第三条が、バンデンバーグ決議の趣旨を取り入れられたものであるということ、及び今回の条約が、その表題から見、また表現の言葉からいたしまして、非常にやわらかく配慮されておるという点は、十分に私も推察いたしております。
ところで、さらに条約第三条の文言につきまして、これはどなたか政府委員からの答弁でけっこうでありますが、二、三伺っておきたいと、思います。この第三条のうちに「能力」という言葉が使われております。条約の本文ではキャパシティーズ、複数になっておりますが、この能力、すなわち、キャパシティあるいはキャパシティーズという意味は、どういう意味に解釈すればよろしいのであるか、御説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/14
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015・高橋通敏
○高橋(通)政府委員 お答え申し上げます。「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力」これをキャパシティといっておりますが、これはもちろん、軍事力を中心とした能力でございます。ただ、軍事力のみではないということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/15
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016・石坂繁
○石坂委員 軍事力を中心としたものであるが、軍事力だけではないという御説明であります。それならば、なお確かめておきたいことは、この能力と、憲法第九条第二項の戦力との比較は、どういうふうになるのか。戦力不所持の建前をとっておるわが憲法の原則との関係を御説明願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/16
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017・林修三
○林(修)政府委員 これは第三条に書いてございます通りに、「憲法上の規定に従うことを条件として、」ということになっております。従いまして、私どもといたしましては、憲法第九条第二項において保持を認められている範囲の自衛力、実力、もちろんこの範囲以上のものを増強することは憲法上できないわけでございますし、また、それ以上のものを保持するというようなことをここで宣言したわけでもないわけでございまして、当然に日本の持つべき、あるいは持ち得る能力、軍事的な能力——能力は軍事的のもののみでないということを今条約局長が申し上げましたけれども、その中の軍事的な問題になりますれば、当然憲法九条二項で認められた範囲内、かように考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/17
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018・石坂繁
○石坂委員 先ほど総理の答弁のうちにも、この条約の文言は、他の類似の条約の文言と多少違っておる、こういうふうな趣旨のお答えがあったのでありますが、なるほど、この条項は、NATOの第三条と同じ文言のようであります。しかし他の諸条約、すなわち、米華条約、米韓条約、米比条約、あるいはSEATO及びANZUS等のそれぞれの第二条とは多少違っておる。その相違点は、「武力攻撃に抵抗するための個別的及び集団的能力」となっておるのであります。本条約第三条の「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力」というのは、今私が指摘いたしましたように、武力攻撃に抵抗するための個別的及び集団的能力、かように解してよろしいのか、あるいはそうではいけないのか、これを解明していただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/18
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019・林修三
○林(修)政府委員 この点は、ただいま御指摘の通りに、米韓、米比あるいはSEATO、ANZUS、それからNATOとも違った表現をとっております。今NATOと大体同様であると仰せられましたけれども、NATOとも、ごらんになれば違った表現をとっているはずでございます。第一の点は、憲法上の規定に従うことを条件とする云々と入っているのが、今度のわが安保条約の一つの特色だと思います。もう一つは、ただいま仰せられましたように、ほかの相互防衛援助条約では、個別的または集団的能力という言葉になっております。この点をわざわざ除いたのは、やはり日本の憲法の特殊性などから私ども考えたわけでございまして、個別的は別問題といたしまして、集団的能力、コレクティブ・キャパシティという言葉は、たとえばNATOなどでも使ってございます。ほかの相互防衛援助条約でも使ってございます。これはやはりNATOの例をとってみれば、つまりNATO加盟国全体を打って一貫とした一つの防衛力、そういう意味ではないかとわれわれ考えるわけであります。そういたしますと、やはり個々の国自体、自分を守る能力を越えて、一つのNATO諸国全体を打って一貫とした集団的防衛力、こういうことの意味を持つということを、それぞれの国が宣言しておるわけでございます。そこまでいくと、やはりこれは日本の憲法の上で問題になるのではないかと私ども考えまして、ここのところにつきましては、それぞれの国が、それぞれの自国の防衛のための必要な能力をそれぞれ維持していく、そういう点にとどめるのがほんとうではなかろうか、そういう意味で、今の個別的または集団的能力という表現を除いてあるわけでございます。それと同時に、これは英文で申しますと、たとえば、ほかの相互防衛援助条約では、みなキャパシティというのは単数で出ております。インディビジュアル・オア・コレクティブ・キャパシティとなっております。これを特にキャパシティーズと複数にした点も、それぞれが、それぞれの自分の国を守るに必要な能力を維持し、発展する、そういう趣旨を表わすつもりでやったわけでございます。この点は、相当ほかの相互防衛援助条約とは違ったニュアンスを持たせる、そういうつもりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/19
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020・石坂繁
○石坂委員 条約局長及び法制局長官の説明自体はわかりました。しかし、このお二方の説明を聞いておりましても、あるいは軍事力を中心として——軍事力だけじゃない、あるいはまた、憲法第九条第二項の許された範囲においての能力、こういうふうな説明があったのであります。従いまして、この説明自体、はなはだ不明確な内容を持っておる。この第三条の内容が不明確であるという点は、この説明によりましては払拭できないのでありまして、従いまして、私はさらにお伺いいたしたいのは、この不明確な内容を持っておるという点について、具体的な限界線をきめておくということが後日のために必要ではないか、こういうふうに考えるのでありまして、この点においてアメリカとの間に了解し合っておられるのか、あるいはまた、この具体的の限界線ということについて、アメリカ側に対して何らかの措置をとっておられるのであるかどうか、これは外務大臣から伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/20
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021・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 自衛力の内容につきましては、それぞれの国がきめることでございまして、従って、それをどういうふうにきめていくかということは、その国、それぞれのきめて参るところでございます。それでは一体、自衛力というのはどの程度のものであるかということになりますと、これは国際社会におきまして、持っておりますいろいろな現在の情勢等もにらみ合わせてきめねばならぬことは当然でありまりして、従いまして、そういう意味においてどこに線を引くかというようなことは、そのときどきの事情によって、むろん変わってくることは当然でございます。でございますから、日本が日本としての自衛を、しかも、それは経済的な、あるいは社会的ないろいろな制約の上においてきめていくことでありまして、何らかそういうものを、線を引いて、ここまでやるんだという約束をいたしてはおらないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/21
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022・石坂繁
○石坂委員 ただいまの外務大臣の答弁でありましても、後日いろいろ問題を起こしゃせぬかという懸念は、なお私の念頭から去らぬのでありますけれども、この問題につきましての押し問答は差し控えます。
さらに進みまして、条約第五条の関係であります。これも、日本の施政下にある領域その他でいろいろ論議された点でありますが、私はこの第五条の条項は権利の規定であるか、義務の規定であるか、こういう観点からお伺いいたしたいのであります。御承知の通りに、個別的自衛権も集団的自衛権も国際法上の固有の権利でありまして、義務を課するものでないということは、私はさように了解いたしております。国連憲章第五十一条もこれを認め、また本条約の前文にも、両国が国際連合憲章に定める個別的または集団的自衛の固有の権利を有しているということを確認しておる。ところが、第五条には、「共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」とうたっておるだけであります。これは、日米両国が、それぞれの個別的自衛権行使の義務を、この条約によって義務づけることを規定したものであるか、または集団的自衛権の発動、すなわち、日米共同防衛の義務を規定したものであるか、そのいずれであるかということを明確にしていただきたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/22
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023・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 第五条におきまして、独立国として、国連憲章において集団自衛権と個別的な自衛権を持っているということは、今御指摘の通りでございます。ただ、アメリカは集団自衛権を持っておりますけれども、日本としては、集団自衛権を行使するわけに参らぬことは、また当然であります。そこで今回の場合におきまして、いずれか自国の平和と安全を危うくするものであることを認めた場合、当然日本の自衛権が発動いたします。これは今お話しのように、日本自身として、国際的に認められた権利でございます。そういうものをお互いに発動し合うということを宣言いたしたものでありますから、何ら新しく加重された義務を負うわけではございません。お互いに、その発生し得べき権利を確認し合ったというのでありますから、それ以上の義務を負ったというものではないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/23
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024・石坂繁
○石坂委員 日米共同防衛という点は、この条文との関係でどういうふうに考えておられますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/24
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025・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 今申し上げましたように、そういう事態におきまして、日本は日本自体の個別的自衛権を発動する、アメリカは個別的自衛権及び集団的自衛権を発動いたします。それを共同に行なうことが、同じ発動するということを約束いたしておるのであります。その約束の限りにおいて義務でありますけれども、何ら、持っております権利に加重する義務を加えられたものではないということを申し上げたのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/25
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026・石坂繁
○石坂委員 これは字句の問題になりますけれども、第五条に「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処する」云々となっております。憲法上の規定及び手続に従うというこの言葉は、どういうふうに理解したらよろしいのであろうか。戦争放棄を日本の憲法は宣言いたしております。従いまして、開戦手続の規定のない日本国憲法のもとにおきまして、この手続に従うというのはどういう意味か。結局、防衛出動を規定しておりますのは自衛隊法の第七十六条にあるだけでありまして、憲法の規定にはないのであります。これは第三条には、「憲法上の規定に従う」ということがうたってあります。第八条にも、憲法上の規定に従う——これは批准の問題でありますから、憲法の規定に従って批准するのは当然でありますが、この第三条及び第八条の表現に、さらに規定及び手続に従う、こういう言葉が付加されてありますから、これをいかに理解すべきか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/26
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027・林修三
○林(修)政府委員 この点は、御案内の通りに、実は米韓とか米比、あるいはSEATO等には、それぞれ「憲法上の手続に従って」云々という言葉が入っております。これは他の相互防衛援助条約を見ますと、憲法上の手続という言葉だけになっておるわけでございます。これはそれぞれの国の憲法の規定等を見ますと、今おっしゃいました、あるいは戦争宣言、あるいは開戦宣言というようなことにつきましての憲法上の手続というものをさしておるもんだと思うわけであります。ただ、これを日本の場合にとってみますと、今おっしゃいました通りに、そういう意味における憲法上の手続はございません。従いまして、わが国の場合におきまりしては、そのかわりにまた第九条という規定がございまして、おのずから、自衛行動をするについても、その限界があるわけでございます。そういうところから考えまして、特にこの新安保条約におきましては憲法上の規定という言葉を入れたわけでございまして、これは主としてわが国の場合をさして考えているわけでございます。憲法上の手続の方は、ただいまおっしゃいました通りに、わが国に対しては、直ちにこれをもって適用する規定はございませんけれども、主としてアメリカの憲法の規定等を想定して考えたわけでございます。もちろん、わが国の自衛隊の防衛出動の要件は、自衛隊法七十六条にきまっております。これは文字通りの憲法上の規定でも、憲法上の手続でもございませんけれども、もちろんこの条約は、そういう自衛隊法の手続を経ることを排除する趣旨ではないわけであります。そういうものを含めて考えておるわけでございますが、ここで憲法上の規定と憲法上の手続と二つ考えましたのは、日米それぞれの憲法の規定を考えて入れたものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/27
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028・石坂繁
○石坂委員 そういたしますと、憲法上の手続に従うということは、アメリカでは必要であるが、日本では必要がない、こういうふうな結論になりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/28
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029・林修三
○林(修)政府委員 日本の憲法には、いわゆるこういうことについての、はっきりした、憲法に手続規定はないわけでございまして、これは御案内の通りだと思います。むしろ全体として、憲法の規定、第九条あるいは前文というものの趣旨から、日本がおのずからなし得る行動については、制約があるわけでございます。そういう制約の範囲内においてやるということを、これは憲法上の規定という言葉で表わした考えでございます。
それから自衛隊法の問題は、これは文字通りの憲法上の手続ではございません。しかし、この条約は、当然にそれぞれの国内法の規定に従って、それぞれの国が行動をとることを排除する趣旨ではもちろんないわけでございまして、当然、日本が自衛権を行使する場合には、この防衛出動に関する自衛隊法の規定を適用してやる、こういうことは当然考えられているわけでございます。しかし、ここでいうそれは、文字通りの憲法上の規定、手続ではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/29
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030・石坂繁
○石坂委員 字句の問題とはいいながら、私は、ただいまの法制局長官の説明はどうも納得できないのです。もしこれを今のような説明で申しますならば、規定及び趣旨に従うと書くならば日本の憲法には合うかもしれぬ。手続も、私は念のために憲法を最初からずっと見てみたのですけれども、ないのです。自衛隊法第七十六条は、もちろん御説の通り、直接の憲法の規定でないということは明瞭でございます。だから、この手続に従うということは、日本国においては、これはないのだというふうな結論になりはしませんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/30
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031・林修三
○林(修)政府委員 私も、実はそういう趣旨で申し上げたわけでございまして、これは他の相互防衛援助条約を見ますと、すべて憲法上の手続という言葉だけで書いてございます。これはそれぞれの国が、いわゆる戦争宣言をする等について、上院あるいは国会の承認を得るというような手続がそれぞれの憲法にあるわけでございます。そういうものを受けて、実はほかのものはあるわけであります。しかし、わが国の場合は、憲法上の手続では足りないわけでございます。憲法にはっきりした手続の規定はないわけでございます。従って、憲法上の規定という言葉を入れまして、日本の自衛行動をする範囲は、もちろん憲法の第九条あるいは前文の趣旨を受けまして、その範囲内においてするものである、そういう趣旨で日本の場合を考えまして、憲法上の規定という、ほかの条約にない言葉を入れたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/31
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032・石坂繁
○石坂委員 少し質問を飛ばしまして、事前協議の問題について簡単に伺いたいのでありますが、事前協議の条項をなぜ交換文でうたい、さらにそれを受けて、共同コミュニケに譲って条約に入れなかったかという点は、いろいろ議論されて参った点であります。この点について、なお私も、私の理解のためにお伺いいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/32
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033・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 事前協議の問題を交換公文にいたしましたことは、御承知の通り、第六条とあわせて読んでいただくことではありますけれども、この条約の運営にあたりましていろいろ協議をして参ります、その中で特定の問題について抽出して、特に事前に協議するということを明らかにさせる意味において、われわれとしては、交換公文にそういうものを摘出して書きますことが適当であろうという考えを持ってやったわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/33
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034・石坂繁
○石坂委員 これは政府委員から伺えばいいのでありますが、私の聞いておるところでは、アメリカとイギリスの間の条約で、アメリカ軍がイギリスの基地において核兵器を使用すること、及び在英アメリカ軍のイギリス以外への作戦行動につきそれぞれ事前協議をする旨の了解ができておるということを承っております。さような了解のありやなしや、及びこれに対して米英はどういう書面上の取りきめをしておるかお伺いいたしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/34
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035・高橋通敏
○高橋(通)政府委員 ただいま御指摘のような双方の約束があることは事実でございます。形式といたしましては、双方の首脳間のコミュニケという形で行なわれていると思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/35
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036・石坂繁
○石坂委員 なお、私は中立政策についてお伺いいたしたいのであります。
最近、中ソ両国が、いろいろな形で、わが国が中立の立場をとるようにということを呼びかけて参っております。これは明らかに内政干渉でありますが、内政干渉の問題につきましては、私は別途に論ずることにいたしまして、この中立論に対しまして、国内におきましてもあたかもこれに呼応するがごとき議論があるのでありまして、日本が積極的に中立政策をとれば日米安全保障条約は不必要だ、こういう議論になっておるのであります。これは国民にとりまして、この点を明快にいたしておきませんと、今後の日本の進むべき道にいろいろの支障を来たす、かようなことが考えられます。私の理解するところでは、そもそも中立主義の成り立ちますための最低限度の条件といたしましては、何としてもその国に、中立を守る自主独往の決意が国民の門に確固としておること、第二は、その国の地理、歴史、経済、戦略等の諸条件が、中立を維持する上にふさわしいということであります。第三は、その国の中立化について関係諸国の利害関係が一致しておるという、この三つの点が、中立政策をとる上の最低限の条件であると私は考えるのであります。かような点から考えまして、現在の日本の立場、日本の国内事情及び日本の国際的立場において、中立政策をとることの不可能のゆえんを、この際特に明確にいたしていただきたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/36
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037・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 日本が、今日中立政策をとるというようなことは事実上、ただいま御指摘のありましたような意味からいいましても不可能であること、むろんだと思います。たとえば、日本を取り巻く各国におきまして、日本の国を中立に置くような事情にあるかといいますれば、私どもは、それによって日本の国の安全を守り得る状況下にはないと考えております。従いまして、われわれとしては、志を同じゅうする国とともに相提携して、自分の国を守っていかなければならぬのは当然のことであります。しかも、中立条約を認めるためには、日本国自体としても、過去の中立国の例を見ましても非常に大きな決意と負担とを持って参らなければならぬのでありまして、日本国民として日本の安全を守る決意がかりにありましても、今日の国際情勢の中で、それを守り通すだけの方法をとることが非常に困難であることは、スイスが、予算の四〇%以上も使いまして、しかも核武装もし、また、徴兵的な制度もしいてやらなければならぬというような事情から見ましても、当然われわれとして、今日そうした政策が国民生活の上においてとれないことは明らかであり、経済上にもとれないことは明らかでありまして、私どもにとりましては、そういう中立政策というものは空想にすぎないのであるということをかたく信じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/37
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038・石坂繁
○石坂委員 中立論に関連いたしまして、いわゆるロカルノ方式による日本の集団安全保障を主張する者がありますが、このロカルノ方式による集団安全保障についての政府の見解をお伺いいたしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/38
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039・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 条約が締結されまして、関係国の間、たとえば、よく社会党の方の言われるように、ソ連、中共、日本、アメリカ、この四つでもって何らか条約を作って、そうしてやったらいいじゃないかという御議論がございます。しかし、私どもは、条約を紙の上で書きますことは簡単でございます。しかし、実際に日本の上安全が守れるか守れないかということは大きな問題でありまして、過去の歴史から見まして、現状において、まだその条約によってわれわれは安心していけるという確信を持っておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/39
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040・石坂繁
○石坂委員 さらに進みまして、条約の期限の問題についてお伺いいたしたいのであります。この条約は、十カ年の期限、さらに、十カ年の期限が過ぎましたあと一カ年の通告で終わる。結局十一カ年間は、日本はこの条約に拘束されなければならぬという条約であります。現在の国際情勢は、雪解けの段階に入ったとはいわれながら、なお変転きわまりなきものがあると私は考えております。かような考えをもっていたしますれば、今日の国際情勢に処して、日本が十一年間同じ条約に拘束されるということは適当でないじゃないか、あるいは米韓、米華、米比条約等の反共国期間の一カ年の取りきめの方が適当ではなかったかという説もあります。もっとも、条約のうちには二十年の条約、無期限条約、あるいは中ソ同盟のごとく、三十年の長期にわたる条約もあるのでありますけれども、それらの条約のできた当時と現在の状況は、国際情勢はすでに著しい変化をしております。この際において、本条約の十年間の期間というものは、はたして適当であるかどうか、政府のこれに対する見解をお伺いいたしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/40
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041・藤山愛一郎
○藤山国務大臣 友好国の間にこの種条約を締結いたしますことは、ある程度信頼関係の上に立って、安定的なものでなければならぬのでありまして、かりに一年ごとにこれが更改され、廃棄されるというものでは、ほんとうの国の安定的な防衛を考えるわけには参りません。従って、そうした米韓、米タイ等の条約をまねるわけにはいかぬと私どもは考えております。しからば、今日の時代において、どの程度の年限が適当であるかということが問題になると思います。御指摘のように、中ソ友好同盟条約は三十年でございます。また、共産圏の中のワルソー条約が二十年でございます。NATOも二十年でございます。しかしながら、今日の国際的な情勢もいろいろ変化しておる時代でございますし、われわれは、それを十年と見ることが、まず一番長からず短からず、適当なことではないかと思います。同時に、この条約にも書いてございますように、国連において極東の平和に対する何らかの措置をとりましたときには、これを解消するということも書いてございますので、私どもとしては、これが一番適当な年限だ、こう考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/41
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042・石坂繁
○石坂委員 外務大臣は、参議院の予算委員会に御出席の都合があるそうでございますから、外務大臣に対する質問はこの程度でよろしゅうございます。
それでは、質問を続けて参りますが、この条約によりまして、日本とアメリカの共同防衛をいたします場合の指揮権についてであります。日米共同防衛を行なう場合に、米軍と日本の自衛隊が、統一された指揮権のもとに、共同動作をせねばならぬ場合が当然に予想されるのであります。この点につきましては、NATO、ワルソー条約及び米韓条約等については統一司令部を持っておるようであります。アメリカとフィリピンの条約においては、安全保障問題を相互に協議する、いわゆる軍事委員会が置かれております。米華条約では、連絡委員会というものが置かれておるようでありますが、日本の場合に、指揮権を統一して、最高司令部を置かれる予定であるか置かれないつもりであるか、また、この問題と関連いたしまして、憲法上、最高司令部を設置することはできないとの見解をとっておられるのであるかどうか。なおまた、統一した最高司令部を置かないで、どうして共同防御をすることができるか。この置かない場合、適宜有効に、相互の連絡協力をどういうふうな方法でやられるお考えであるか、この点をお伺いいたしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/42
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043・岸信介
○岸国務大臣 私どもは、日本の自衛隊に関する限り、日本がこれに対して指揮命令の権限を持っており、アメリカ軍についてはアメリカ側が持っておる。そうして作戦行動につきましては、両方の間で、十分協議をして連絡をとっていく。統一司令部というようなことは、実は考えておりません。
憲法上、そういうことができるのかどうかという問題に関しましては、いろいろ議論があるようでありますが、実際上、この条約の建前から申しまして、今申したように、指揮権は別々に持つという建前で、その間における連絡は、十分に両方で協議することは協議し、連絡をとっていく、そうして行動していくという考えでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/43
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044・石坂繁
○石坂委員 沖縄の問題について、一、二お伺いいたしたいと思います。
今回の安保改定に際しまして、国民一般は、わが国が潜在的主権を持っておる沖縄諸島につきましては、大きな関心を寄せておったのであります。しかるに、沖縄は、新条約の第五条で日本国の施政権のもとにある領域に含まれない。従って、防衛区域に入っておらないということになるようでありますが、この点につきまして、沖縄同胞の失望は、私はかなり大きいと思うのであります。なぜこれを除外されたかの理由について御説明願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/44
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045・岸信介
○岸国務大臣 今度の条約の、いわゆる条約区域としましては、日本の施政下にある領域に限るということを明瞭にいたしております。従って、施政権を持たない沖縄が、この条約の区域に入っておらないということは、御指摘の通りであります。これは、沖縄につきましては施政権を一切アメリカが持っておりまして、その中には、アメリカが防衛するところは、アメリカが責任を持ってやる建前になっております。そうして、われわれが、この施政権の回復ということについては、従来一貫して、国民的要望としてこれをアメリカ側とも機会あるごとに交渉して参っておる問題であることは、御承知の通りであります。従って、その施政権が返れば、当然、条約の解釈として、施政下にある領域としてこれを含むことになるのでありますが、施政権がアメリカに一切渡されておる限りにおいては、これはアメリカが全責任を持って防衛する。そうして、その間のことにつきましては、合意議事録におきまして、日本としては従来のようにここに潜在主権を持っておるのであるから、その住民の平和と幸福については非常な強い関心を持っており、従って、もしも不幸にして他から侵略されるというようなことがあった場合においては、アメリカが責任をもって防衛するけれども、われわれとしては、この住民の福祉について協力すべき、また行動すべき事柄については、日本政府として当然やるということについての合意議事録を作ったわけでございます。沖縄についてのこの条約との関係は、以上申したようなことになっておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/45
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046・石坂繁
○石坂委員 沖縄の同胞に対しまして、われわれといたしましては、日本が独自にその福祉の増進と安全をはからなければならないということは、同胞すべての念願であろうと思うのであります。ただいま総理大臣は、沖縄の問題については、合意議事録にそれを明らかにしておる、こう言われるのでありますが、なるほど合意議事録におきまして「日本国がこれらの諸島に対する潜在的主権を有しているので、これらの諸島民の安全に対し日本国の政府及び国民の有する強い関心を強調したいと思う。」これは日本国が「強調したいと思う。」という表現をされただけであります。また「島民の福祉のために執ることのできる措置を合衆国とともに検討する意図を有する。」これは合意議事録の文言であります。しかるに、ただいま明らかにされましたことは、「条約交渉の過程において討議の対象とされなかった」というこのことだけは、合意議事録においてすこぶる明瞭であります。私は、この合意議事録で「交渉の過程において討議の対象とされなかった」ということに対しまして、いささか失望をいたしておるのでありますが、この後、政府といたしましては、当然のことでありますけれども、沖縄の施政権返還について、積極的に交渉をなさるべきだと思うのでありますが、これに対する総理の御決意を伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/46
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047・岸信介
○岸国務大臣 沖縄が、平和条約の規定によりまして、アメリカに施政権が渡されておるという事態は、これは日本国民のひとしく一日も早くその施政権を回復すべきであるという熱望、また沖縄におけるところの住民の念願であることも、私どもよく承知をいたしており、また、ここの住民が日本人であるということから考えましても、日本政府として、従来といえども、これが施政権の回復につきましては努力をいたして参っておりますが、今後といえども、これについて全力をあげていくべきことは当然であると思います。私は、この意味において、施政権の回復の問題は、そういう国民の念願でありまして、政府がアメリカ側に対しても主張して参っておるところでありますが、ただそれだけでは私は済まないと思います。従って、やはり事実上として、日本自体ができ得る、日本政府ができ得ることは、進んでいき、そして、これに実際上事実を重ねていくことが必要である。最近の西表島の開発等につきでまして、日本政府みずからも、このアメリカ政府の計画に対して協力していく、形式的にはそうなっておりますが、実質的にはむしろ日本が主体となって、これが開発をはかっておるという事実、こういうことを現実に重ねていって、そうして、住民の念願なりあるいは日本国民の要望というものを現実に実現していくという努力を、今後といえども重ねていくつもりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/47
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048・石坂繁
○石坂委員 沖縄に対するただいまの総理の御答弁を、私ははなはだ多とするものであります。この後一そうの御配慮を願いたいと思います。
そこで、なお進みまして、経済的協力について、若干お伺いいたしたいのであります。世間、この問題に対しまして説をなす者は、この種の条約に経済事項を加えることは本筋じゃない、元来経済関係は、通商航海条約あるいは友好条約等で善処すべき問題であって、この条約で特に経済事項を挿入いたしたものは、この条約が軍事的性格を持っておる、それをカムフラージュするものである、かように説をなす者があるのでありますが、これははなはだ条約の精神を歪曲された議論であると、私自身はかように考えておるのであります。しかしながら、これは明らかにしておく必要があるのでありますから、この点について、総理の明確なる解明をお願いいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/48
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049・岸信介
○岸国務大臣 今度の新しい安保条約が、一部において軍事同盟であるというふうな議論がございますが、これは経済協力の規定があるといなとにかかわらず、そういう性格のものではないのであります。あくまでも私どもは、これは国連憲章にいうところの、不当な武力攻撃に対処してこれを排除するという純防衛的なものでございまして、かくのごときものを軍事同盟というような表現をすることは、これは実体を誤るものであると考えております。しかしてこの条約において、経済協力に関する規定を第二条に設けたのであります。前文にもその趣旨をうたっておりますが、言うまでもなく、この条約は、日本の平和と安全を基礎に、日米の協力によって、われわれの立場からいえば、日本の繁栄を期し、それによって日本の国民の福祉を増進していくという、このことが考え方の基本でございます。こういう意味から申すというと、単に不当に侵略された場合の防衛についてのことだけではなくして、さらに政治、経済全般にわたって日米の間に協力関係を樹立するということが、真の平和と幸福をもたらすゆえんであるという見地から、この条項を特に置いたわけでございまして、決してこの条項を置いたから軍事同盟でないのだとか、あるいは置かなければどうなるという意味ではなくして、本質的にこの条約は軍事同盟ではない。さらにわれわれは、真にこれが念願いたしておるところの——平和と国民の繁栄福祉を念願する以上は、経済に関する協力についての約束をすることが適当であると、かように考えたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/49
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050・石坂繁
○石坂委員 経済協力につきましても、先日愛知委員から御質問がございましたが、愛知委員の指摘されました要旨は第一は、両方の輸出、輸入の貿易上の摩擦の除去、第二は、両国の関税政策の上において相協力し、調整し合うこと、第三は、資本の交流、すなわち、米資の導入、そうして低開発地域の開発の協力、かようなことを指摘されておりまして、これに対しまして総理は、大体において賛成の趣旨を答弁されております。私は、愛知委員のこの意見には全く同感でございます。この経済協力の諸問題につきましては、共同コミュニケの第三項に、かなりいろいろ意見を交換されております。従いまして、総理はすでにこの経済協力についての御構想をお持ちであろうと思う。ことに東南アジア低開発地帯においての経済協力、これが開発につきましては、年来総理は非常な熱意をもってやってこられたことでございます。もっとも、経済協力という問題の具体的の構想は、なかなか簡単に言い切れるものではないと思いますけれども、この具体的の構想についての今日の総理のお考えをお伺いしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/50
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051・岸信介
○岸国務大臣 経済協力のことにつきましては、今御質疑中にもありましたように、先般愛知委員の質問にも答えましたところであります。これを大きく考えてみると、日米間の相互の経済的交流に関する協力の問題と、それから国際間において日米が経済的な協力をするという問題と、二つあろうと思います。
日米間の貿易関係につきましては、御承知のように、最近非常に改善されまして、戦後多年日本の輸入超過であったものが、昨年は輸出超過になっておりまして、全体の額もふえております。これは非常にけっこうなことでありますが、同時に、この関係においていろいろ摩擦が起こっておる事態がございますことも、御承知の通りであります。今後円滑にこれを安定した基礎で拡大していく上においては、日米が両方の事情を十分に知り合い、また協議して、スムーズにやっていく必要があろうと思います。また、外資の導入についても、従来相当な効果を上げておりますが、さらにこれを一そう日本の経済の発展に役立つように、必要な外資の導入であるとか、あるいは技術の導入であるとかいうようなものについて、従来の、ただ単に一企業と向こうの資本、あるいは企業との間の話し合いということでなしに、日米の全体の立場から考えていく必要があろうと思います。
それから国際的の問題につきましては、最近御承知の通り、ヨーロッパ共同市場というようなものができて、これとの関係、域外の関係をどうするかというような問題については、日米共通の利害関係を持っておる点が少なくないと思います。現にワシントンで開かれておるところの会議に日本が参加していくという問題につきましても、こういう点が現実に現われておる。それから低開発地域の開発の問題、特にわれわれが非常に強い関心を持っておる東南アジアの開発についての問題がございます。従来、資金はアメリカから、技術は日本から、そうして現地の労力なりを使って、そこの資源を開発するというふうなことが、ごく素朴にいわれておりますが、私は必ずしもそういうふうな関係には考えておらないのであります。私の考えは、むしろこういう地域に対する開発については、先進工業国がそれぞれの能力を出し合って共同してやっていくことが、一番望ましい。従って、私はかつて東南アジア開発基金というような構想を述べたのでございますが、その考え方は、要するに、一国の資本ということが非常に明瞭であり、何かそこに政治的意図があり、もしくはいわゆるひもつきというような感じを与える場合においては、これらの新興国家において、いわゆる民族主義の盛んなところにおいては受け入れにくい。従って、その資金とかあるいは協力というものを、できるだけ中立的な、ニュートライズする必要があるじゃないかという意味において、そういう資金を作りたい、協力をしたいという考え方を持っております。
最近における第二世銀の設立に対して日本が参加し、相当な出資もしていくというような、この第二世銀の考え方というものは、考え方として、私どもはそういう意味において大いに日本も協力していきたい。こういう点に関して日米が話をしていく、協力していく上におきまして、特にあの共同声明の上にも現われておるように、私は、この問題について、相当にアイゼンハワー大統領といろいろと意見の交換をしたのでありますが、特に日米の間において継続的に協議する必要がある、ただわれわれが会ったときにこういうものを話すということでなしに、何らか継続的に懇談をしていく、協議をしていく必要があるということを申し述べまして、アイゼンハワーもこれに同意を表しておるのであります。どういう形において継続的に協議していくかという問題は、いろいろの点から考究をいたしております。政府レベルにおいては、従来外交チャンネルを通じて、日米間の経済的問題についてはきわめて緊密にいっております。しかし、民間のレベルにおいて、何らかそういう機構といいますか、仕組みが考えられるということが望ましいじゃないか。全権として参りました足立日商会頭も、そういう意味において、アメリカとカナダとの間にそういう民間レベルにおける協議の機関があり、またアメリカとメキシコとの間にもある、そういう実例について資料を持ってき、それの実績等についても目下検討をして、日米の間で、民間レベルにおいてそういう話し合いを継続的にすることのできるようなことを第一段に考えようというような構想が、今検討されております。政府としても、そういうものが民間のレベルにおいてできるということは非常にけっこうなことであり、また、そういうことができさるように促進をして参りたい。そうして実際に携わっておる民間において、そういうことを継続的に話し合うということになれば、一つは、たとえば貿易問題につきましても、いろいろなアメリカの産業に不当な影響を及ぼすということで、関税の障壁を設けるとか、日本品の数量を制限するとかいうような問題が、事前に——そういうことが国会等の問題にならない前に、それらの機関において懇談され、そういう傾向があるという場合に、日米でこれに対する対策をあらかじめ講ずるというようなことになれば、日米間の経済協力をスムーズにする上からいっても、私は非常に効果のあることだと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/51
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052・石坂繁
○石坂委員 日米間の経済協力について、継続的に話し合いをしていくことが必要だという総理の御見解、なお、私もお聞きしたいと思ったのですが、ただいま伝えられている足立構想についての総理のお考えも表明されましたので、その点は重ねてお尋ねいたしませんが、大へんけっこうなことだと思います。
そこで、この第二条関係の規定の内容につきまして、二つ、三つお伺いいたしたいと思います。
第一は、第二条の規定の中に、日米両国の国際経済政策の食い違いを除くということがうたわれております。これは一体どういうふうに理解すればよろしいのであろうか。つまり、米国の自由主義経済政策に対するわが国の統制——といっては少し行き過ぎかもしれませんが、外貨の割当制度であるとか、あるいは輸入制限の制度であるとか、あるいは国内的に申しますと、農産物に対する、たとえば食糧管理制度であるとか、こういうふうなことを、ここでいういわゆる「くい違い」といっておるのであるかどうかという点が一点であります。
第二は、「くい違いを除く」という言葉が使われておりますが、その除く方向は一体どうなのか。日本の国際経済政策のあり方を米国のそれに合わせる方向に向かって除いていくのか、それとも、わが国の特殊性が十分に尊重され、米国側からわが国の指向する方向に向かって取り除くということになるのか、これが第二点であります。
第三点は、「くい違いを除くことに努め、」ということが書いてあります。これは拘束力があるのかどうか、単なる努力目標を示したものか、それとも、そのために具体的な方策の話し合いがあるのかどうか。たとえば、貿易の自由化を一定期間内に全面的に推し進めるというようなことまで話が具体的に進んでおるのかどうか。
この三点についてお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/52
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053・岸信介
○岸国務大臣 その条項は、各国が国内的にとる国内政策を直接にここでもって制約するとか、制限するとかいう考えは、もちろんないのでございます。従って、日本が日本の立場から、日本の国内産業の特殊性から、保護政策をある産業に対してとるとか、あるいはそのものを国際競争にまかすわけにいかないから、それに対して輸入の制限の措置をとるというような、具体的の産業政策を拘束するという意味は持っておりません。そして今の国際競争において、資本、物資の交流をなるべく自由にし、なるべくこれをいわゆる自由企業の立場でもって繁栄を来たしていくというのは、日米両国がとっておる経済政策の基本の考え方でありまして、世界の各国がそういうふうな考えのもとに国際貿易を拡大していくことは、きわめて望ましいことであり、日本の立場からも、アメリカの立場からも、とっていくべき考え方である、こう思います。今の自由化の問題につきましても、そういう意味において、われわれは、この貿易・為替の自由化という問題を大きな見地から考えておるわけでございますが、今回この条約を締結し、また会談する際に、自由化について、期限であるとか、あるいはある特定の物資をどうするとかいうような話し合いをいたしたわけでは絶対にございませんで、日本の事情によりまして、日本が考えて適当な処置をとることは当然であると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/53
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054・石坂繁
○石坂委員 経済協力、特に経済の自由化等につきましては、なおいろいろお伺いしたい点があるのでありますけれども、これは他日に譲ることをお許しを願いたいと思います。ことに自由化の結果、弱い基盤を持っておる日本の農林漁業に対するしわ寄せに対しましては、これはいずれ農林大臣にお尋ねいたしたいと思いますので、留保をいたさせていただきたいと思います。
ただこの際、一点、もちろん総理といたしましても、十分の配意をお持ちであると思いまするけれども、この自由化の趨勢は必至であると思われる状況でありますけれども、これを実現いたしました場合に、当然予想されることは、わが国の産業のうちの弱い体質の産業、弱い基盤を持っておる産業にしわ寄せがくることは必至であります。すなわち、ただいま申し上げました農林水産業のごとき、あるいは中小企業のごとき、従いまして、これらのものを犠牲にいたしまして貿易自由化をするわけには参らぬと思うのであります。これに対しましての総理の考えを伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/54
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055・岸信介
○岸国務大臣 お話の通り、貿易・為替の自由化は、今国際的の趨勢でございまして、特に日本のように貿易に依存する度の強い国といたしましては、やはりこの国際的趨勢に順応して自由化することが、日本経済の全体から見ても利益であり、またそうすることが適当であると思います。しかし、その場合において、御指摘がありましたように、経済基盤の弱い産業が国際的な競争にさらされて、そこに非常にしわ寄せがいき、産業上の不況を来たし、あるいはそのために非常な大きな打撃を受けるというようなことにつきましては、政府としても十分な留意をすべきことは当然であります。従って、自由化々々々と申しますけれども、すべての物資をことごとく自由化するということでもなければ、すべてのものを裸で国際競争の荒波にさらすということではございません。品目につきましても、そういう意味において自由に考えなければならぬ。たとえば農林大臣がお答え申し上げておるように、日本の立場からいって、主食を自由化するというような考え方は毛頭持っておらぬし、また、酪農業の振興をはからなければならない日本の農業の立場から見て、非常におくれておる酪農業を、大きな地域を持っており、すでに進んでおる酪農業と競争させるというようなことは、絶対に考えられない。また、この中小企業に及ぼす影響につきましても、いろいろ考えなければならぬ。原材料の輸入を自由にすることによっては、むしろ中小企業が利益するような部分も——従来割当制度のために、大企業だけが輸入ができて、中小企業がそれの恩典にあずかれなかったというような場合において、自由化することによって、利益を得るものもあります。同時に、製品等の輸入をやりますと、中小企業は非常な打撃を受けると思います。従って、これらの品目をどういうふうに選択していくか、また段階はどういうふうにしていくか、またそれの及ぼす影響を緩和するための処置をどういうふうに講ずるかというようなことについては、十分慎重に対策を立てて自由化するわけでありまして、自由化々々々といって一律に無準備でやるようなことは、絶対にいたす考えはないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/55
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056・石坂繁
○石坂委員 自由化に対しまして、無準備でなしに、慎重にやるつもりだという趣旨の総理の答弁は、十分に了承いたしました。委員長、だいぶ時間がかかりましたか、なるべく急ぎますから、もうしばらく中共問題について、二、三お伺いをいたしたいと思います。この新安保条約の締結を契機といたしまして、日米関係が新しい段階に入ったことはもちろんでありますが、これは単に日米関係ばかりでなしに、日本の外交路線が新段階に入ったと申し上げてもよろしいかと思います。この意味におきまして、中共に対する対策も、これを契機といたしまして、新しく展開すべきではないかと私は考えております。申し上げるまでもなく、日本と中国との関係は、二千年以上の長い歴史的のつながりを持っておるし、地理的に申しましてもきわめて近いところであります。歴史的には、漢民族の文化を土台として、日本の文化は育てられてきたと申し上げてもよろしいのであります。いわゆる同種同文の国であり、また唇歯輔車の間柄であるといわれて参りました。いわば、これは近い親戚が隣同士に住んでおるというような間柄ではないかと思われます。かような関係にあった中国と、たとい一時けんかをいたしましても、いつまでも背中を向けているわけには参らないと思います。国内にも、今や日本は中共に対して政府対政府の交渉を開始すべきだという議論もございます。この新安保条約を契機といたしまして、一体政府は中共対策をどういうふうにお考えになっておるか。これは十分国民にも知らせたい問題だと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/56
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057・岸信介
○岸国務大臣 中国大陸と日本との関係につきましては、石坂委員の御指摘になりましたように、非常に緊密な、長い歴史的の関係があり、いろいろな意味において非常に深い関係にあると思います。従って日本国民がいまだに中国に対して非常な親近感を持っていることは、言うを待たないのであります。この意味において、現在の状況に対して、それを非常に不満と考えておるのはもっともだと思います。私どももまた現在の状況に甘んじておるものでは絶対にないのであります。ただ、中国大陸を支配しておる中華人民共和国のとっておる政治的理念なり、政治体制というものと、われわれが考えておる政治理念なり、また、とっておるところの政治体制とは異なっております。どいう政治理念をとり、政治体制をとるかということは、これはそれぞれの国の国民が決定する問題でありまして、私どもの意見とは違っておりますけれども、それをもって、そのとっておることがけしからぬとか、あるいはそれを変えさせようというようなことは、私ども毛頭考えるべきものじゃないと思います。お互いが、今日、いわゆる東西両陣営に分かれておって、今申すように政治体制なり、政治理念を異にいたしておりますが、その間において、お互いがお互いの立場を十分に理解し、尊重し、これを相侵さず、干渉しない、そうして、お互いの間のそれぞれの友好関係、親善関係を進めていく、それがいわゆる平和共存といわれる考え方であると私は思います。中共と日本との間におきましても、私は、そういう立場においてお互いが考えていかなければ、とうてい両方の関係というものは打開できないと思います。
そこで、問題は、これは中共の立場から見ると当然でありましょうが、やはり中共の立場としては、いわゆる政治問題と経済の問題は不可分であるから、経済の問題、あるいは両国における文化交流とかいうようなものをなにするためには、政治的の関係を作り上げ、政治的の問題を解決するということを考えておるという主張が、中共側からは当然出ております。しかし、同時に、政治問題ということになりますと、問題は、国際的に日本の置かれておる立場というものには、一つの非常な困難がある。その一つは、われわれは、中国との間の戦争を終結するために、中華民国との間に平和条約を結び、これとの間に平和友好の関係を進めております。しこうして、中華民国と中華人民共和国との間は、相いれない主張でこれが争っておるという事実は、これまた御承知の通りであります。この関係が何らか整理されずして、直ちに中共との間に今日、日本が政治的な関係を持つということには非常な困難があります。また、この問題は、ただ日本がそういうふうに承認しておる、あるいはそれとの間に平和友好の関係が結ばれておるというだけではなくして、また、われわれが入っており、これによって世界の平和を増進しようとしておる国連そのものにおいて、この問題の扱いについては、まだ決しかねておる。すなわち、中国の代表権の問題としていろいろ論ぜられておることが、これでございます。今日においては、中華民国政府が代表して国連に加盟しております。そうして、これが安保理事会の常任理事国の一つである。こういう立場をそのまま存しておいて、直ちに政治的の問題を解決するということは、これはとうていできない立場にあると思います。従って、そういう国際的な関係を調整して、一日も早く中国大陸との間に、国民的な念願でもある友好関係を樹立していくように努力することは、われわれ従来も努めてきたつもりでありますが、今後も努力していかなければならぬことであります。しかし、それとこの安保条約を改定するか、しないかという問題とを結び合わして、改定すればとうていできない問題である、それをするために改定をやめるべきである、あるいは中共側からの、これを改定することは中国を敵視する政策の現われであって、これはけしからぬというふうな言動というものは——私が先ほど申し上げたように、両国がとっておる立場、あるいは外交政策なり、あるいはその国の政治体制というものに対しては、お互いがその立場を理解し、尊重し合う、われわれが、都合が悪いからといって、中ソの同盟条約はけしからぬというような攻撃をしてみたって始まらないことでありますし、私どもは、そういう考えは毛頭ない。そうして、その立場は、そういう状態としてお互いが尊重し合って、友好関係をどういうように開くかという立場をとることが必要である、私は、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/57
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058・石坂繁
○石坂委員 日本と中華民国との関係からいたしまして、対中共問題を進めていくことの容易でないことは、私も推察いたしております。しかし、私は、この安保条約を結べば中共関係がよくなるとか悪くなるとか、あるいは、これをやめればよくなるとか、そういう立場で論じておるのではないのでありますから、この点は、誤解もありませんでしょうけれども、誤解のないようにつけ加えておきます。
私の主張いたしたいことは、今までのように、ただ静観的態度をとって押し進むということは適当じゃないのじゃないか、従って、一応この安保条約の批准を見た後に、新しく中共に対する対策を進めるべき時期ではなかろうか、こういう点から申し上げておるのであります。中共のことを一番知っておるのは、やはり日本人である。欧米人は、われわれほど、漢民族なり中共のことはわからぬのじゃないか、こういうふうに考えております。むしろ、日本が中に立って、たとえば、アメリカと中共の間を取り持つ——という言葉は語弊があるかもしれませんけれども、さような趣旨で働きかける、こういうふうなことが必要じゃないかと思います。なるほど、安保条約によりまして、中共は非常に神経過敏になっておりますことが新聞紙等によりまして伝えられております。かような態度も、これは内政干渉という面もあるのでありますけれども、しかし、支那事変以来、中国への出兵で、日本は中国の民衆の生命財産に非常な損害を与えたことは事実であります。中国の民衆がそれらによって受けた印象、被害というものは、まだ忘れられておらないと思います。そこで、もし何らかの意図を持った人がありまして、日本はこの条約によって再軍備する、そうして中共を攻めてくるかもしれない、こういうふうなことで中共の民衆をあおるならば、あるいは中共の民衆の日本に対する考えはかわる、あるいは日本に対してそうじゃないかと思うかもしれません。支那事変の原因がいかようにありましょうとも、現在、さようなことを利用いたしまして日本に対する敵視政策をとるならば、国民は、あるいは一応そういうふうに動くかもしれない。しかし、これに対しまして、日本といたしましては、いたずらに静観の態度をとるばかりでなく、中国六億五千万の民衆を味方にするつもりで、その気持を含めまして、これから誠意と熱意を持って、謙虚な気持で対処いたしますならば、この困難な情勢の打開もできやせぬか、こういうふうに考えるのであります。かような点について、政府はその意思がおありかどうか、伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/58
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059・岸信介
○岸国務大臣 従来、静観と申しておりますことも、私どもは、日中の関係を現在のままでいいと考え、あるいは、これを放置しておるというような意味では毛頭なかったのであります。御承知のように、国民の大多数が非常な親近感を持っておることも事実であり、また、日支事変において中国の人民に非常に迷惑をかけたということに対して、国民的に、謙虚な気持でそのことを反省し、また、遺憾に考えておる者も多数あると私は思います。同時に、中共の最近におけるような態度等に対して、内政干渉であるとか、あるいは、それは不当であるというような意見も、国民の間に相当あるわけでございます。そういうことを激発することは——日中の間を、結局において平和的に友好関係を作っていかなければならぬという見地から申すと、そういう、感情にかられたような、また、一部の人々が使嗾してどうのというようなことで激発することは、両国のためにとらないところであるということで、ある程度の、お互いが反省し、お互いが冷静にものを判断する期間を持つ必要があるという意味において、静観ということを申したわけでございます。しかし、今、石坂委員のお話のように、また、私がかねて念願しているように、日中の間のこういう状態が長く続くことは、両方のために、また、世界平和のために望ましいことでない、こう考えます。また、中国については、長い歴史からいい、また、民族的な近さから申しまして、日本が最も認識が深く、欧米の人々のこれに対する認識は十分でない点がたくさんあると思います。そういう意味において、中共に対する考え方について、日本が、そうした特別な、徹底した認識に基づいての意見を国際的に反映せしめるように努力すべきことは、これは、私は、日本が自主的に進んでやるべきものである、この点についても、石坂委員と同じ考えを持っております。また、将来に向かって、われわれが謙虚な気持において日中の関係を調整していかなければならないということも、今、私が申し上げた意味からも御推察できると思いますが、政府としても十分考えて参って、これを調整していきたい、こう思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/59
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060・石坂繁
○石坂委員 本日は、安保改定の問題を中心といたしまして、総理の国際情勢に対するいろいろの見解、また、中共に対する総理の見解を承ったのでありまして、私は、それらの問題につきましての自余の質問は省略いたします。
ただ、最後に一点、総理に所信をお伺いいたしたいと思いますことは、現下の内外の情勢においてこの難局を担当しておられる岸総理の政治的信念いかんという問題であります。総理が、かねて民主主義のルールにのっとり、日本の民主主義の育成に努力いたしておられますることは、私のかねてはなはだ多といたしておるところで、敬意を払っております。申し上げるまでもなく、民主主義の基盤というのは、これはシュプレマシー・オブ・ロー、法の優位と社会秩序の保たれるということであると思います。これなくしては、民主主義は立って参りません。これがなければ、善良なる市民の基本的人権も守られず、また、国の繁栄のあり得る道理はないのであります。しかるに、最近の国内の情勢をながめてみまするときに、私は、法秩序の維持あるいは社会秩序の維持というようなものに対して、これが非常に軽視されておる現象のあることを、私自身はなはだ憂慮いたしております。私は、かような観点におきまして、この後、総理の一段の御決意を要望いたすのであります。たとえば、請願に名をかって、平穏な市民の生活に妨げを来たす、かような印象を受ける行動さえあるのでありまして、これが、ことに安保改定の問題について行なわれる。安保それ自体に対しての論議は、私は、これは論議するのは当然であろうと思いまするけれども、しかし、おのずと、それには方法がなければならぬ。法の秩序と社会秩序を認めなければならない。かような状態が長く続きますることは、私ども、国家の前途のためにはなはだ憂慮にたえないのであります。
さらに、教育の面を見まするときに、私は、百年の大計であるべき日本の教育の前途に、深憂を抱かざるを得ないのであります。私は、終戦後ひそかに思い浮かべましたことは、ドイツのフィヒテのことであります。ベルリンがナポレオン軍に占領され、ナポレオン軍のラッパの音がちまたに響き、窓の下にはナポレオン軍の軍靴の音を聞きながら、フィヒテはあの「ドイツ国民に告ぐ」という大演説を、いつかなひるまず、十四回も続けてやっております。これはドイツ国民を感奮興起せしめ、また、これが西ドイツ復興の精神的基調の一つとなっておることは、むべなるかなと思っておるのでありますが、戦後、わが教育界に一人のフィヒテが出てこなかったことを、私は、はなはだ心さびしく思ったのであります。しかしながら、これはこのまま、われわれは教育の問題を真剣に考えざるを得ないのであります。(発言する者あり)今、社会党の席から、自民党が悪いのだという声が聞こえておりますけれども、われわれは、かような内外の情勢のもとにあって、みずからの反省を深くしなければならぬということは十分に考えております。今日、国家の現状及び前途を考えるがゆえに、われわれは深く反省をしなければならない。そうして、その反省の上に立って、われわれ保守政党、保守政治家が国家の重きに任ずるにあらざれば、今日の国家の前途をいかにせんという、そういう感じを持たざるを得ないのであります。どうか、岸総理は、かねての信念に立ち、民主政治を育成することによって、日本の民族と国家の繁栄を期していただきたいのでありますが、私は、日本民族の間に、民族意識の高揚と愛国心の高揚こそは、どうしても必要なことである、そうして、その根底をなすものには、偉大なる政治家が、真に国を思い、民を思い、民の悲しみをもって悲しみとし、百姓のために哭すという、この情熱と愛情をもって進んでいただきたいということが、私の切望であります。この機会におきまして、私のこの切望を吐露いたし、あわせて総理のこの点に関する御信念のほどを伺って、私の質問を終わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/60
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061・岸信介
○岸国務大臣 新しい憲法のもとにおいて、真に平和な、自由な国民生活を確保し、その全体の福祉と繁栄を増していくために、われわれは民主政治を完成していくことが必要であるということは、今、石坂委員のお話しの通りであります。このために、法秩序を守るということ、また、国会が国権の最高機関として、あらゆる国政について、あらゆる重要な国民の生活に関係があり、その将来の運命を決するような問題について、われわれが冷静に、あらゆる点から、国民の要望なりあるいは意向を体して十分な審議を尽くして、そうして、国民のために適当な方策を決定していくという、この建前を、私はあくまでも貫いていく必要があると思います。私は、この点において、従来、二大政党の育成のために、私自身の考えを述べたこともございます。お互いの主張は違うとしても、国会を場として、その審議を通じてお互いの信念を国民の前に明らかにするという態度、これ自身によって国民の国会に対する十分な理解と、政治に対する信頼というものを作り上げていかなければ、民主政治を完成する上においていろいろな忌まわしい事態が起こるという意味において、二大政党論を従来も唱えており、二大政党が健全に発達していくことを念願してきておるのも、そこにあるわけであります。われわれは、いかなる場合においても、民主政治を守るという意味から、国会の権威と国会の機能というものを、今後といえども十分に発揮するようにしなければならぬ、かように考えております。
安保条約の問題につきましても、この意味において、国会を通じて十分に審議して、そして国民の前にお互いの所信を明らかにして国民の理解を深め、その支持のもとにこれが承認を求める、批准を求めるということを申しておるのも、その意味でございます。
さらに、国の真の民主政治を完成し、また、国の繁栄を期していくために、国民の間に正しい愛国心、祖国を愛し、祖国の繁栄を願うところの考え、また、民族の将来を思うての民族的な意識を高めなければいかぬということにつきましては、私も同感でございます。ただ、従来、愛国心とかあるいは民族精神とかというようなことを言うと、戦前の行き過ぎた偏した考えから、ややともすると、そういうことが非常に間違っておるような考えをもって非難する人がありますけれども、世界に国をなしており、民族として共通の歴史と共通の民族的意識を持っておる者が、正しい民族精神、正しい愛国心を持つことは当然であって、これを涵養することが教育の要諦でなければならないと私は強く考えております。私は、そういう意味において、国政に当たっておる場合におきまして、私自身も全力をあげて、至りませんけれども尽くすつもりでありまして、同愚の方々のあらゆる面からの御支持、御協力をお願いする次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/61
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062・石坂繁
○石坂委員 留保の分を除きまして、私の質問はこれで終了いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/62
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063・小澤佐重喜
○小澤委員長 次会は来たる十五日午前十時より開会することといたしまして、本日は、これにて散会いたします。
午後零時三十四分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103404961X00619600311/63
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