1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和三十五年三月二十二日(火曜日)
午前十時四十三分開議
出席委員
委員長 瀬戸山三男君
理事 鍛冶 良作君 理事 小島 徹三君
理事 小林かなえ君 理事 田中伊三次君
理事 福井 盛太君 理事 坂本 泰良君
理事 田中幾三郎君
綾部健太郎君 一萬田尚登君
薄田 美朝君 高橋 禎一君
竹山祐太郎君 中村 梅吉君
濱田 正信君 阿部 五郎君
大貫 大八君
出席国務大臣
法 務 大 臣 井野 碩哉君
出席政府委員
法務政務次官 中村 寅太君
検 事
(刑事局長) 竹内 壽平君
委員外の出席者
検 事
(刑事局参事
官) 高橋 勝好君
判 事
(最高裁判所事
務総局総務局総
務課長) 長井 澄君
判 事
(最高裁判所事
務総局人事局
長) 守田 直君
専 門 員 小木 貞一君
—————————————
三月二十二日
委員中崎敏君辞任につき、その補欠として大貫
大八が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員大貫大八君辞任につき、その補欠として中
崎敏君が議長の指名で委員に選任された。
—————————————
三月二十一日
裁判所法の一部を改正する法律案(内閣提出第一
〇七号)
同月十九日
裁判所書記官及び調査官の勤務時間延長反対等
に関する請願(黒田寿男君紹介)(第一二三一
号)
同(石橋政嗣君紹介)(第一三〇六号)
同外五件(石橋政嗣君紹介)(第一三〇七号)
同外一件(石橋政嗣君紹介)(第一三〇八号)
同(石橋政嗣君紹介)(第一三〇九号)
同(菊地養之輔君紹介)(第一三一〇号)
同(菊地養之輔君紹介)(第一三一一号)
同(菊地養之輔君紹介)(第一三一二号)
同外二件(菊地養之輔君紹介)(第一三一三
号)
同外一件(菊地養之輔君紹介)(第一三一四
号)
同(菊地養之輔君紹介)(第一三一五号)
同外二件(菊地養之輔君紹介)(第一三一六
号)
同外二件(菊地養之輔君紹介)(第一三一七
号)
同(志賀義雄君紹介)(第一三一八号)
同(志賀義雄君紹介)(第一三一九号)
同外八件(志賀義雄君紹介)(第一三二〇号)
同外四件(志賀義雄君紹介)(第一三二一号)
同外一件(志賀義雄君紹介)(第一三二二号)
同(和田博雄君紹介)(第一三二三号)
同(和田博雄君紹介)(第一三二四号)
同外四件(井岡大治君紹介)(第一四四四号)
同外十件(坂本泰良君紹介)(第一四四五号)
悪質泥酔犯罪者に対する保安処分法制定促進に
関する請願(賀屋興宣君紹介)(第一二六三
号)
同(床次徳二君紹介)(第一二九九号)
同(松永東君紹介)(第一三〇〇号)
同(山口シヅエ君紹介)(第一三七三号)
同(保利茂君紹介)(第一三九四号)
は本委員会に付託された。
—————————————
本日の会議に付した案件
裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内
閣提出第二七号)
裁判所法の一部を改正する法律案(内閣提出第
一〇七号)
刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第八〇
号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/0
-
001・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 これより会議を開きます。
裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本案につきましては、去る十五日質疑を終局いたしております。
これより討論に入る順序でありますが、別に討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。
裁判所職員定員法の一部を改正する法律案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/1
-
002・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 起立総員。よって、本案は原案の通り可決されました。(拍手)
ただいま可決いたしました法律案の委員会報告書の作成につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/2
-
003・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 異議なしと認め、さように決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/3
-
004・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 次に、裁判所法の一部を改正する法律案を議題といたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/4
-
005・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 まず提案理由の説明を聴取することといたします。中村法務政務次官。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/5
-
006・中村寅太
○中村政府委員 裁判所法の一部を改正する法律案について、その趣旨を説明いたします。
この法律案は、裁判所法第六十条を改正して、裁判所書記官は、従来の職務のほかに、裁判所の事件に関し、裁判官の命を受けて、裁判官の行なう法令及び判例の調査その他必要な事項の調査を補助する職務をも行なうものとしようとするものであります。
裁判所書記官は、裁判事務についての補助的機関であって、その職務の重要であることは申すまでもありませんが、最高裁判所においては、かねてから、その任用資格を高めるとともに、研修制度を整備する等裁判所書記官の学識、能力の涵養に努めて参りました結果、最近における裁判所書記官の素質の向上は著しいものがあると認められるに至りました。しかるところ、近年、裁判所に係属する事件の増加に伴い、裁判官の精励努力にもかかわらず、訴訟の遅延を見るに至り、その解消が刻下の急務とされておりますことは御承知の通りであります。そこで、政府におきましては、最高裁判所とともに慎重検討の結果、裁判官について任用資格等の関係からその大幅な増員が期待できない現状のもとにおきましては、事件の審理及び裁判の適正迅速化をはかり、人権保障の実をあげるための方策の一つとして、素質、能力の向上した裁判所書記官をして、その従来の職務に付随して、事件に関し、裁判官の命を受けて、法令及び判例の調査その他の裁判官の行なう調査を補助させるのを適当とするとの結論に達し、ここにこの法律案を提出した次第であります。
何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/6
-
007・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 これにて提案理由の説明は終わりました。
本件に関する質疑は次会に譲ります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/7
-
008・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 次に、刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。
質疑を継続いたします。質疑の通告がありますので、これを許します。大貫大八君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/8
-
009・大貫大八
○大貫委員 二、三お伺いしたいのですが、この二百三十五条の二の今度の「他人ノ不動産ヲ侵奪シタル者」というこの侵奪という意味はどういうことなのか、これはおそらく何回かこの委員会で説明があったものと思いまするが、一応この侵奪というものを明確にもう一度お伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/9
-
010・竹内壽平
○竹内政府委員 よんどころない要務のために大へん遅参をいたしまして、心からおわびを申し上げます。
ただいま御質疑の侵奪の意義でございますが、侵奪と申しますのは、不法領得の意思を持ちまして不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己の支配下に移すことでございます。実質的には窃盗罪における窃取と同じ意味でございますが、不動産について窃取という観念を入れる余地がないということで、不動産につきまして窃取にかわる用語として侵奪という字を用いまして、その趣旨を表わしたつもりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/10
-
011・大貫大八
○大貫委員 動産に対する窃取、窃盗というのは、ひそかに他人の所有権を侵し、占有を侵して、自己の占有にする不法領得の意思を持って自己の支配下に置くというのが窃取と思うのです。ところが、不動産のごときは、ひそかに他人のものを自己の支配下に置くということはできないので、少なくとも公然とこれは占有するということになると思うのですが、窃取という観念と侵奪とはだいぶ違うのじゃないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/11
-
012・竹内壽平
○竹内政府委員 窃取ということの本来の意味は、仰せのように、窃という字はひそかにという意義、内容を含んでおると思いますが、法律用語としてこれを理解します場合には、ひそかに盗み取る場合はもちろんのこと、公然と被害者の面前においてその被害者の占有を排除して、これを自己の支配下に移すという行為がありますと、やはり窃取ということに理解をいたすわけでございます。込み合っている電車の中で腕時計をむしりとられたというような場合は、それは自分の腕時計だといって言葉をかけているのだけれども、込み合っていて動きがとれないために持っていかれてしまったというような場合も、やはり窃取ということで窃盗罪の成立を認めておるのでございますし、この解釈は、判例におきましてもすでに明らかにされておるところであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/12
-
013・大貫大八
○大貫委員 たとえば、所有者の面前で持ってくるというようなことは、普通の場合には私はないと思います。そういう場合には、大体これは強盗になるか恐喝になるか、そういうふうなことになると思うのです。窃取、窃盗というのは、本来はやはり読んで字のごとく、所有者に気づかれないように他人のものを取るというのが私は窃盗の本質じゃないか、こういうふうに思うのです。なぜそんなことを申し上げるかというと、公然他人の支配を侵すというような場合には、時効の問題との関連が出てくると思うのです。そういう点で私は窃取をつまりひそかに取るということで、公然とやるのとは違うのじゃないかという気がするのですが、どうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/13
-
014・竹内壽平
○竹内政府委員 ただいま仰せのようなひそかにということを窃盗罪の要件というふうに考える学説もありますし、現に大正四年十月の大審院判例にはその趣旨を判示をした判例もあったわけでありますが、多くの学説は必ずしもひそかにということを要件としないのであって、今私が御説明申し上げましたような趣旨に解しておるのでございますが、最近、昭和三十一年四月の最高裁の判例におきましてははっきりとその点を述べておりまして、ひそかにということは窃盗罪の要件ではないというふうに申しておるのでございます。多数の学説が申しておりますように、また先ほど私が御説明申し上げましたように、ひそかにということは窃盗罪の要件には現在では理解されていないというのが解釈の現状でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/14
-
015・大貫大八
○大貫委員 そういたしますと、民法百六十二条第一項の所有権の取得時効については、所有の意思をもって平穏かつ公然に二十年間占有すると取得時効によって所有権を取得するわけです。こういう取得時効の権利というその占有を始めるときに公然で平穏であればよろしいのであって、あるいはそれが他人の所有権、占有権を侵す意思があって占有を始めた場合でも、百六十二条の一項には当てはまると思う。二項のいわゆる善意無過失十年の時効の場合は別ですけれども、一項の方の平穏かつ公然、この要件ならば、これは二十年たてば取得時効で所有権を取得する、この権利を一体侵害するようなことにもなるのじゃないでしょうか、こういう民法上の権利として認められておると思うのですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/15
-
016・竹内壽平
○竹内政府委員 仰せの通り民法百六十二条の解釈といたしましては、私もそのように解しておるのでございまして、従いまして、侵奪によって他人の不動産を不法領得いたしました状態が二十年間平穏かつ公然と続けられたということになりますと、百六十二条の第一項の規定によりまして、その所有権を取得することになると思うのでございます。そこで、侵奪罪の解釈といたしまして、不法侵奪が行なわれて、しかも長期間にわたりましてその侵奪の状態がここに現実にあるということになりますと、この百六十二条の規定の趣旨等を考えまして、その侵奪された不動産に対して所有者が取り返すような行為をします場合には、その所有者につきましても新たなる不法侵奪罪が成立することがあり得ることになるわけでございます。そういうように解釈をいたしておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/16
-
017・大貫大八
○大貫委員 どうも動産の場合と違って、不動産というのは、占有の場合でも公然ととにかく行なわれることだと思うのです。やはり公然と行なわれて、そこに何らの実力、たとえば暴行、脅迫というようなものが伴ってない、こういう場合なんでしょう。暴行、脅迫の伴っておる場合はいわゆる強盗罪の第二項が適用される、こういう考え方でしょう。そうしますと、暴行、脅迫が伴ってないのですから、他人の所有を侵したからといって直ちに犯罪だということでなしに、所有者は民事上の回復がたやすくできるわけですね。どうもその辺がちょっと行き過ぎじゃないかという気がするのです。動産の窃盗と違って、不動産の場合は公然と行なわれるのだから、そこで暴行、脅迫があればそこに違法性があるけれども、暴行、脅迫がなく、公然と他人の所有権なり占有権を侵すというのは、何らかの法律的な根拠があると思うのです。侵す方にも何かの言い分があると思う。だから直ちに民事上でこれは所有者に回復をさしてよろしいのじゃないですか。そこらのところがちょっと了解がいかないのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/17
-
018・竹内壽平
○竹内政府委員 ただいま仰せの点でございますが、不動産の場合はその不動産がほかへみずから移動する性質のものではございませんので、民事訴訟等によりまして回復することはさまで困難ではないだろうというのが、本来窃盗罪の中に不動産を含めないという解釈が出てきた一つの実質的な理由であったようにも思うのでございますが、この困難ということは、法律上はなるほど民事訴訟を起こして回復の訴えをするわけでございますが、現実にはこの民事の訴訟も権利者が期待するほどそう簡単には運ばないばかりでなく、さらに侵奪されました土地が次々と第三者に事実上転々としていくということで、その権利関係はきわめて複雑なものになってしまう場合が少なくないのでございます。そういう事実関係を見ますと、回復は必ずしも容易であるというふうには言い切れないのでございます。この事実関係を直視いたしますときには、最近学者が不動産窃盗を解釈的にも認めようというような機運がだいぶ出てきておりますのもそういうことから出ると思うのでございますが、そういたしますと、やはり不動産につきましても侵奪という形態の犯罪を考えなければ、不動産の保護に十分でないというふうに考えられるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/18
-
019・大貫大八
○大貫委員 なるほど侵奪された不動産というものが事実上は転々と第三者に渡るということも予想できますが、しかしそれは、回復しようと思えば、たとえば民事訴訟を起こす場合に、仮処分をやって、要するに占有の移転禁止をやればよろしいのです。そのための仮処分制度だと思う。民事法で相当認められておる権利を、自力救済というような考え方が多分に侵奪罪にあるのじゃないか。占有を侵された場合には、民事訴訟なんかまだるっこいかいから、すぐ告訴をする、そういうことによって回復するという、いかにも民事訴訟の秩序というものが乱れて、逆に自力救済に一歩進めるような危険があるのじゃないかというふうにすら私は心配されるのですが、特にこの点いかがでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/19
-
020・竹内壽平
○竹内政府委員 自力救済ということは、本来権利者の固有の権利であって、刑法の規定を待たないという考え方もあるわけでございます。先般御披露申し上げたと思いますが、いわゆる梅田村事件という大阪の駅前の不法占拠にからむ事件がありましたが、これは一種の自力救済を裁判所が認めまして、事件を無罪にしたわけでございますが、このようなことは、検察官としましては、やはり自力救済ではなく、法の秩序に従っていかなければならぬということで、事件を起訴にしたわけであります。裁判所は、法律的には正当防衛と判断しましたが、実体的には自力救済という趣旨のように私どもには判決が読めるわけであります。そういうことで無罪にいたしたのであります。そういう実態があることは先生もお認めいただけると思うのであります。私どもとしては、刑事的な影響によって、民事の法律関係が左右されるというようなことは毛頭意図しておらないのでございます。だからこそこの種の刑事立法と合わせて民事的な特別な手続も検討はいたしましたが、これと関係をつけて立法するというような方法を避けまして、もっぱら刑事罰だけでこの問題に対処することにいたしたわけであります。この規定ができましたことによって、民事の法律関係を左右するとか、あるいは今仰せのような自力救済というような風潮を助長するというような趣旨ではございませんし、またこの規定から申しましても、たとえば動産につきましても民事的な占有回復の訴え等はあるわけでございますが、やはり動産が窃盗の対象として窃盗罪で刑罰的にも保護されておると同じ意味で、不動産も同様な保護を与えるにすぎないのであります。御懸念のような点は解釈的にも出てこないと思いますし、私どもの立法の意図もそういうところにはさらにないのであります。むしろ自力救済というような形を広く承認しますことは、私どもの立場からしますと適当でないのでありまして、法によって保護されるという形にすべきものだ、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/20
-
021・大貫大八
○大貫委員 立法者の意図には、そんなことは毛頭ないと思います。そんなことは疑っておりませんけれども、一たび法律が出ますと、運用の面において必ずそういう問題が出てくると思うのです。特に今でも民事上の救済を何か刑事問題にして、たとえば借金を払わぬ、詐欺じゃないか、告訴して取ろう、こういうことをやろうとする傾向がなかなか強いのです。その場合昔ほどではありませんけれども、末端の警察官なんかにごく懇意なのがおると、その刑事に頼んで、債務者を引っぱってきて、お前は借金を払わぬ、詐欺じゃないかというようなことで、警察官が債権者の代理みたいなことで債務の支払いを受けるというような事例もまだまだ地方などにはあるのであります。従って、こんな法律が出ますと、立法者の意思とは反して、いろいろな弊害が出てくると思うのです。特に動産と不動産の違いがあり、動産の場合は、なるほど民事上占有の権利を回復するということはもちろんできることになっておりまするけれども、実際は転々として捕促できないのです。一たびたとえば時計なら時計を盗まれると、それが転々としてどこへ行ってしまうかわからぬ。それなればこそ、やはり民事上の保護だけでは足りませんから、特に刑法上の保護ということが強力に打ち出されなければなりませんけれども、不動産の場合は、占有を侵されましても、究極的にいって所有権は侵されないと思う。所有権は要するに登記をしなければ第三者に対抗できないのですから、結局これは、登記までしてしまうということになれば、文書偽造や何かの問題で、別個の犯罪がまたあるのですから、登記をしない場合、事実上の支配関係にあるというものを処罰するのが本条の目的だと思うのです。そういたしますと、動産の場合とはだいぶ違うのですね。だからどうもちょっと行き過ぎのような気がするのです。権利の保護という点から見ますと、動産の所有者と不動産の所有者では、権利の回復というのは格段の違いがあるのですから、ここまで処罰をするという必要が私はどうも納得できないのです。暴行、脅迫というようなことで、いわゆる強盗罪で罰する以外に、非常に民事的に権利関係の争いのあるものを、一方的に侵奪罪ということで処分することは、非常な弊害が出てくるのじゃないか。特殊な例はあります。なるほどけしからぬのはあります。もうふてぶてしく人の土地に家を建ててしまったり、そういう特殊な例はありますけれども、それは私はきわめてまれな例だと思う。そういうまれな例のためにこういう改正をして、そしてこれが一たび法律となって出ると、むしろ運用の面で、先ほどから申し上げたようないろいろな弊害が出てくると思うのですが、その点いかがでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/21
-
022・竹内壽平
○竹内政府委員 御心配の点はごもっともとも考えますが、広く不法占拠を罰するということにいたしますと、取り締まり上は非常に便利な面もありますが、ただいま大貫委員の仰せのような心配もまた一面出てくるわけでございまして、これを窃盗と同じ類型の犯罪として規定をいたしますならば、不都合にわたる部分を極力避けつつ、大貫委員も御指摘のような、非常にけしからぬ場合に適用を見るということに相なるかと思うのでございます。特に広く不法占拠罪を罰するということでなく、窃盗的な類型の侵奪罪のみを罰するということにいたしまして、権利関係の不明のために引き続いて占拠しておるというようなものは対象外にしてしまったのでございまして、立法の立案の意思も、そういうところの危険なる運用に陥らないように特に心を配った形式で立案をいたしたのでございます。
なお、初めに仰せになりました警察その他現場の一線に当たっております法の執行官が、いわゆる債務不履行の事件をあたかも詐欺というようなことで手軽に扱う、それと同じように、本件の不法占拠のようなものが、すぐ不動産侵奪だというようなことで、刑罰的に執行面に強く出てくるのじゃないかという御懸念でございます。そういう懸念もないではございませんし、従いまして、この法案が成立いたしました暁におきましては、この運用について詳細な運用方針を明らかにいたし、過誤なきを期したい所存でございます。
なお、一面、私どもの承知しておりますところによりますと、大貫委員のような御心配の向きも少なからずあるとともに、その反対に、最近は警察が、ほんとうに刑事犯に触れるような事態だと思われる案件につきましても、それは民事事件だから警察は不介入であるというようなことで、被害者にしてみますると、当然刑罰法規によって保護され得るようなものにつきましても、民事事件に不介入というようなことを口実にして避けてしまうよなう傾向が強く出ておるので困るという声もまた同時に相当強くあるわけでございます。要はその辺の適正な運用が行なわれてない実情でございます。そこで、これの運用につきましては、先ほど申しましたように、運用方針によってはっきりと、逸脱のないように、また権利の保護に欠けるところのないように指示をいたして、運用の過誤なきを期したい所存でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/22
-
023・大貫大八
○大貫委員 地方には非常に境界の不明確な土地がたくさんあるのです。それは非常に多いのですが、その境界に争いがある場合に、自分の所有地であるという確信のもとに家を建てたり何かした場合には、本条の適用はどうなりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/23
-
024・竹内壽平
○竹内政府委員 ただいまのような設例の場合におきましては、不法領得の意思を認めることができませんので、犯意がないということになりまして、不法侵奪には当たらないと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/24
-
025・大貫大八
○大貫委員 ところが実際にはそう簡単にはいかぬと思います。事実上は、かりに境界の争いがあって、甲の方はこちらだ、乙の方はこちらだといって争っておるときに、強引に片方が自分の境界を主張して、その主張の線内に建ててしまった、こういう場合には、法律解釈からいうと、必ずしも全然境界を知らずに争いのないところにやった場合と違って、不法領得の意思がないのだと主張しても、不法領得の意思があるのだと認められることの方が多いのじゃないかという気もするのです。そういう争いを知りながらあえて土地を侵奪したとかなんとかいう結果になりませんか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/25
-
026・竹内壽平
○竹内政府委員 事実の認定の問題になるわけでございますが、争いがあるということを知っているだけではいけないのでございまして、他人の土地であることを知ってあえてそこに家を建てるということでないと不法領得の意思があるとは言えないと思います。従いまして、そういう場合、もしその争いになっておる境界に前から境界標のようなものがあって、それを取りはずすことによってそういうことをしたという場合には、侵奪罪にはなりませんが、境界標を損壊したというときには二百六十二条の二で処罰される場合がありますし、境界を明確にしてしまうというようなところまで至らない場合に、もし境界標だけをこわしてしまったというような場合には、普通の器物損壊罪で処罰されるというようなことになります。今のような事例も多多あるということからいたしまして、侵奪罪の未遂にはならないが、境界標の損壊というだけの場合もあり得ますので、あわせて二百六十二条の二の立案をいたしたようなわけでございます。そのような点につきましては解釈上窃盗と同じような考え方でありますので、その点は、運用の面におきましては割合疑義がない扱いと思いますから、犯意のないものを処罰するというようなことは起こり得ないというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/26
-
027・大貫大八
○大貫委員 ところが、今のは民有地関係のことですが、地方に行きますと、国有地あるいは公有地、それから俗にいわれている青地、そういう所在不明の土地が今でもなかなか多いのです。その場合、自分の土地でないということだけは知っている。その人が、その青地なら青地——これは長年ほったらかしておるのだし、だれの所有地だかわからぬ、そこへ自分の家を建ててしまえとか、耕してしまえというような場合には、本条の適用になるのかどうか。そういう場合でも本条の適用があるということになりますと、先ほど申し上げました民法百六十二条の一項なり二項なりで一方において民事上の権利を認めておきながら、一方において刑法上の処罰をするというような非常な不都合な結果が生ずるのですが、そういう場合どうなるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/27
-
028・竹内壽平
○竹内政府委員 公有地あるいは青地のような所など、いやしくも自分のものでないという認識をもってその土地に入って不法領得の意思の発現と見られるような侵奪行為がそこに行なわれたということになりますれば、本条の適用を見ますことは当然でございます。今例示されました青地でございますか、そういう土地もいろいろニュアンスがあると思いますが、管理が完全でないというだけでございますと、その完全でないという事実関係からして、そこへ入ってきて使うことも一般に認められておるのだというところまでなり、この管理の不完全さがそういう態様の青地でございますれば、これはそこへ入っていって耕したからといって、それをもって侵奪だという事実の認定は困難だと思います。ただ、管理、看守が不完全であるというにとどまって、だれでも入ってきて耕していい土地でない、そういうような青地というようなものがあるといたしますれば、その青地に入っていって家を建てるなりあるいは自分のものとして利用するような利用の仕方でその土地を占拠するというようなことになりますと、やはり本条の適用を見ることになると思います。しかし、そういう状態で不法占拠をいたしましたものの、被害者側が何らそれに異議をとどめずしてそれがずっと続いているということになりますと、またその占有事実が事実として法律的な保護を受けることは、先ほど民法の規定の御説明をいただきました際のお説の通りでございまして、それが長く続きまして、二十年になりますれば時効取得ということになりますことは当然でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/28
-
029・大貫大八
○大貫委員 どうもその辺が、非常に運用の面で問題が出てくると思うのです。これは青地と称するような、ほんとうにだれのものだかわからぬという土地が、今なお地方には相当あるのです。しかもその公団というのが非常に不完全です。今の日本にある公団というのは、これは航空写真でも明確にしてあれば別ですけれども、そういう地籍整理がきわめて今日本は不完全です。そういたしますと、知らずして公有地を耕したり、家を建てた場合には、不法領得の意思がないから犯罪は成立しないとしても、たとえば自分の土地でないことだけは知っている。自分の土地ではない、だれの土地だかわからぬ、そういうものを耕し、あるいは家を建てるということが、これもそういう場合すぐ本条が適用されるとなると非常に問題になって、いわゆる民を網する法律になるきらいがあると思う。そういう点ではゆゆしき問題だと思うのですか、どうでしょうか。運用の面でうまくいきましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/29
-
030・竹内壽平
○竹内政府委員 侵奪ということで窃盗と同じ類型に構成要件がしぼられておりますために、世間で多く言われておりますいわゆる不動産の土地の不法占拠という不法侵害の状態のすべてが入るのではなくて、その中の積極的にやった侵奪行為の場合だけが罰せられるのでございます。今の青地のようなものが、そういう場合にどういう事実認定を受けますか、これはケース、バイ・ケースできめなければならぬ事柄でございます。青地というようなものは相当たくさんあるということでありますけれども、それでは突き詰めて考えてみまして、いわゆる土地等の不動産の占有離脱物というようなものがあるだろうかということを考えてみますと、動産については占有離脱物というのはあるわけでありますが、不動産は管理が不十分であるために一見だれのものだかわからぬというようなことになって見えるだけであって、やはり占有を離脱したような不動産があるということは、ちょっと抽象的な考え方でございますが、考え及ばないような状態でございます。ただ入会権を持っているようなものとか、あるいは共有の土地でも入会的な性質のものとか、地方に行きますと、その性格で、なかなかはっきりと持つ持ち方が幾らもあると思いますので、その事案に即して妥当な解釈をしなければならぬと思いますが、御懸念のような点は、おそらく起こってこないのではなかろうかというのが私どもの考えであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/30
-
031・大貫大八
○大貫委員 ところが、ほんとうはこういう法律が出ますと、私は非常にそういう心配をするのです。というのは、青地というのは意外に多いのです。多いといっても面積の多いのはありませんよ。もちろん青地が一町歩も二町歩もあるというような、そういう例はありませんが、要するに畑のふちとか、道路のふち、そういうところに細長いようなので、公図の上では青地となっているのが非常に多いのです。面積は狭いのです。狭いだけに深刻なのです。ですから、畑なんかは、事実上はもう青地がないくらいにまで削ってしまって耕しておるという例は、地方にはたくさんあるのです。そういうものを一々、青地まで削ってしまった百姓を、お前は侵奪したぞというようなことでやられてはかなわぬことだと思う。しかも、それは普通の状態じゃないのです。ところが農村なんかでは深刻な政党的な争いとか、そういうものが出てきますと、どんな部落に行っても三百代言が必ずおるのです。六法全書を常に開いて、そうして理屈を言う。そういうのが非常に害毒を流す。非常に平穏なうちに青地がいつの間にか削られると、あらを見つけ出して告訴をするとか、逆にそういうことを種に恐喝をするということだってこれは起こり得ることです。ほんとうに大した面積じゃないですが、それをしゃくし定木に侵奪罪が成立するのだとやられては、これは大へんな問題になってくると思うのです。先ほど申しました民を網する法律になるのですが、こういう点について、立法者の意思としてはどう考えますか。そういうものまで一々何でも取り上げる意思なのか。これは結局運用の問題になってきますけれども、そういう弊害が非常に予想されるのですが、そういうことに対して何か明確にする方法はないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/31
-
032・竹内壽平
○竹内政府委員 ただいまの点は、仰せのように運用の問題だと私どもも考えます。先ほど申しましたように、運用方針につきましては遺憾のない措置をとる考えでございますが、現実の運用につきましても、たとえば強盗的な形で行なわれた侵奪につきましても、一部の検察庁では法律解釈上そうなるのだという考えもないではありませんが、大部分の検察庁では、法律解釈上は強盗でいけるということは百も承知だけれども、刑が五年以上というような非常に重い点等を考慮いたしまして、強盗として取り上げないで、他の罪で処理する。やはり実態に即した量刑をするということが検察のほんとうの適正な運用でございまして、今のような畑の一部にある小さな青地、それの一種の侵奪行為が理論的に成立いたしましたとしましても、それをもってすぐ二百三十五条の二でびしびしやるというようなことは、われわれの運用方針でもそんなことはとうてい書きませんが、現実に書かなくても、検察庁ではそのような事案を一々しゃくし定木に取り上げて検挙、処罰するというようなことはもう絶対行なわれない、もっとけしからぬやつを取り締まるのにこういう法律が活用されるというふうに私は確信いたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/32
-
033・大貫大八
○大貫委員 そういう保証は何もないと思うのです。実は運用の面でそういう非常識なことはしないであろうということですが、末端へ参りますと、実際の運用はそうじゃないのです。そういう保証が何もないということなのです。そこで検察官の場合はそんなに問題はないのですけれども、末端の警察なんかで乱用されることが必ず起こってくると思う。ですから、その点はどうしても条文的に何かできないとすれば、運用の面で特に注意をしていただきたいと思うのです。
次に、二百六十二条の二の境界標のことについてお尋ねします。「境界標ヲ損壊、移動若クハ除去シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ土地ノ境界ヲ認識スルコト能ハザルニ至ラシメタル者」、これは五年以下の懲役という制裁があるのですが、先ほども申しましたように、現在の日本の土地関係、不動産関係については、地籍整理というものが完全にできておりませんので、非常に不明確です。現在境界標などというしっかりしたもののあるのはほとんどないといってもよろしい。都会地においての分譲地などでは永久的な境界標をぶち込むというようなところもまれにはあると思うのですが、特に農村などで、畑の境界、山の境界、こういうものに境界標などのあるものはほとんどないと言ってもいいくらいです。ですから、突如としてこういう法律を出したねらいはどこにあるのか。私は何か別な伏線があるように思われるのですが、それをお尋ねします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/33
-
034・竹内壽平
○竹内政府委員 これは二百三十五条の二の不動産侵奪罪と法益その他は異なりますが、不動産保護の一環といたしまして、二百三十五条の二を補充する意味におきましてこの規定を設けたのでございますが、この規定は古く改正刑法仮案の中にもこれと同種の規定がございますし、諸外国の立法例においてもほとんどすべての国においてこの種の規定を設けておるのでございます。もちろん外国が設けておるから日本も設けなければならぬという筋合いではございませんが、やはり境界を不明確にするということが侵奪への足がかりになるのでございますし、日本の幾多の民事訴訟を見ましても、やはり境界争い、あるいはそういうことに起因する訴訟もまた多いのでございまして、また境界のためにはおじいさんの代から三代にわたって争っておるというような事例も地方にはあるやに伺っております。そういう意味で、やはりこの関心というものは境界というところにあるようでございまして、不動産侵奪罪を設けようという機会でございますので、世界各国の立法例にならい、かつ、改正刑法仮案の規定をも取り入れまして遺憾なきを期したのでございまして、何ら伏線とか、ほかに他意あるものではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/34
-
035・大貫大八
○大貫委員 ところが、今おっしゃる外国にたくさんの立法例があるというその参考の文書も配ってあるようでございますけれども、これは外国といっても、権利思想が非常に発達し、個人主義的な思想の発達した国々においては、日本人などとは違って、歴史的に権利に対する考え方が非常に違うんです。そこは非常に合理的だと思う。だから、私は外国へ行ってみませんけれども、少なくとも境界なんかについては明確なものがあるから、そういう必要上からできたと思う。それだけの沿革があると思う。そういう立法がなされるのにはそれだけの根拠があると思う。ただ、外国にあるから日本でもというんじゃ少し納得がいかない。日本の現状なんというものは——これは中国もそうですが、私は戦前の中国は若干知っていますけれども、戦前の中国と日本はやはりその点は非常にあいまいです。しかし、当時満州国時代においては、あいまいな地籍の整理に非常な努力をしまして、全土を航空写真で明確にしましたが、これは国がつぶれてしまった。日本などはかっての満州国よりおくれておりまして、地籍の関係というのはきわめて不明確です。不明確であるだけに、はっきりした境界標というものが立っておるのは、都会地はいざ知らず、いなかなどではほとんどないと言ってもよろしい。特にいなかにおける町、たとえば地方の小都市、私の方で言えば宇都宮程度の都市、こういう市街地ですから境界標を明確に打っているととろなんかほんとうに数えるほどしかありません。いわんや農村へ行くと、畑や山には全くありません。従って、一たび境界争いが発生しますと、非常な苦労をします。ですから、裁判なんかでも、境界というものを裁判所はついにつかむことができずして、争点の真中に線を引いて、これが境界だというような判決を下すのがほとんど大部分であります。そんなふうに社会的に境界標というものがきわめてまれなのに、二百三十五条の二はしばらく別としましても、二百六十二条の二の境界標に関する処罰規定というのは、実情に合わないと私は思うのです。だから、私は勘ぐるのです。ねらいが別なのじゃないかと思うのですが、何かおありになるのじゃないですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/35
-
036・竹内壽平
○竹内政府委員 特にねらいというようなものは私どもは意識もいたしておらないのでございます。仰せのように、地方には境界標のない土地が多いというお話でございますけれども、なるほど外国と違って日本は登記制度あるいは土地台帳の制度が実施されましたのは近年に属することでございますが、裁判によって境界がはっきりいたしました場合は、そこに境界標が作られるということも考えられますし、また新たに分譲しますところにつきましては境界標をはっきりつけるのでございまして、境界を明らかにしていくという考え方は、土地台帳の制度あるいは登記制度等と関連をしまして、だんだん事実はそういう方向に向かっているわけでございます。従いまして、このような規定を設けて、境界標のありますものにつきましては保護していこうという考えでございますが、仰せのように境界標が全然ないということならば、この二百六十二条の二は適用の余地がないわけでございます。しかし、この規定にもありますように、小さい川の水流が境界になっておるというふうに皆が考えておる、その水流を夜ひそかに変えてしまうというようなことをやったり、あるいは境界として植えられておる樹木を引き抜いてしまうことによりましてわからなくしてしまうというような事例は、地方におきましては絶無ではないようでございます。そういうものを含めましてこの規定を設けておるのでございますが、境界標が全然ないもの、あるいはそういう境界標に当たるものが全然ないものにつきましては、この規定を適用する余地は全然ございませんので、そういうものが危険に瀕するというようなことは御懸念に及ばない筋合いだというふうに考えるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/36
-
037・大貫大八
○大貫委員 私は少し回りくどい質問をしましたから、ずばり言いましょう。本条のねらいというのは、米軍基地をねらいとしているのじゃないですか。今境界標が明確になっているのはおそらく米軍基地くらいのものでしょう。これは特に米軍基地を保護するというか、そういうねらいで本条を設けたのじゃないですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/37
-
038・竹内壽平
○竹内政府委員 さようなことは、立案の過程におきましても、法制審議会の議論におきましても、全然出たこともないのでございまして、私どもは全くそういうことは意図いたしておりませんし、考えてもおらないのでございます。純粋に国内の土地の境界について、改正刑法仮案にもこれを全く同種の規定がありますし、諸外国の立法例にも、不動産侵奪罪の規定を置かない国につきましても、境界標の問題につきましてはどの国も規定しておる。この一般の原則に従いまして、せっかく不動産侵奪について規定を設ける機会でございますので、補充的な意味においてこの規定を立案したのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/38
-
039・大貫大八
○大貫委員 それじゃ法務大臣にお伺いしますが、今の刑事局長の御説明を法務大臣もお聞きになっているでしょうけれども、諸外国のことをよく例に出されておりますが、先ほど申し上げましたように、諸外国ではそういう立法をするのはするだけの一つの社会的な根拠があると思う。つまり権利思想が非常に発達し、地籍整理が発達して、境界というものが非常に明確になっているから、従ってその境界標を保護するという立法がそこになされていくと思う。日本にはそういう社会的な基礎がないのです。今大臣もいなかにお帰りになればよくおわかりになると思う。いなかにそんな境界なんかが明確になっておる土地がありますか。ないと思うのです。畑だって山だってありません。市街地だってありません。そのない事実の上に特別に「境界標ヲ損壊」云々という条項を設けるというのは、刑事局長はそういう意図は毛頭ないと言うが、やはり米軍基地を保護するという考え方が織り込まれているのじゃないですか。要するに、境界標が明確で、しかもいつも基地についての問題が次々と起こっております。境界標を移動するような事案も出ておる。だからそれを取り締まるということがねらいで本条を設けるようになったのじゃないですか。これは大臣に一つ伺っておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/39
-
040・井野碩哉
○井野国務大臣 ただいま刑事局長からお答えいたしましたように、そういう意図は毛頭ないことは、すでに刑法の改正仮案の当時からこの問題は問題になりましたが、そのときは米軍基地の問題なんかはほとんどその委員会でも議論が出たことがございませんし、また外国の立法例にあるから必ずしも日本にとらなければならぬということでないことは、これは大貫委員の仰せの通りであります。いろいろな事情もありますから、そういう点は考慮していかなければならぬと思いますが、いなかにおいて標識がなければ、これは刑事局長の言うように全然適用がないのでありますし、標識のある都会地でありますとか、またいなかにおいても標識を設ける場合にはこの規定が適用になるということでございますから、決して米軍基地をねらってこの立法をするという狭い気持で立法したわけではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/40
-
041・大貫大八
○大貫委員 大臣のおっしゃるのがほんとうだとすれば、これはこういう改正をする必要がない。時期尚早だと思う。もっと日本国内に境界に対する観念がはっきりしてきて、境界標というものが必ず土地に設けられるようになって初めてこういう条文を入れればよろしいのであって、米軍基地がねらいでないとすれば、これは置く必要がない、私はこういう意見を持っております。これは見解ですから、あとで討論でもされるときにわが党の方からもそういう討論がされると思うのです。
そこで刑事局長にまた戻ってお尋ねしますが、境界争いの場合に、実際一番多いのは、山の境界なんかでは境木というものが明確なところもあるのですが、明確でないのが多い。しかもいつの間にか知らぬ間に境木が植えられておるというような場合がある。そうすると片方ではこんなばかなことはないといって引っこ抜いてしまう。そういう子供のけんかのようなのが深刻な境界争いに発展する例が非常に多い。これが一々境界標を損壊、移動したというようなことで処罰を受けるようなことになったら、私は大へんだと思う。早い者が勝ちで、勝手に、ひそかに境界木を植えてしまって、そうして片方が怒って引っこ抜いた、すぐ本条が適用されるとなると、これは大へんなことになるが、そういう場合どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/41
-
042・竹内壽平
○竹内政府委員 仰せのような場合には、保護される境界標が抜かれたというふうには理解できないようでございまして、もちろんここにいう境界標は、裁判の結果真実の境界とされたその境界を必ずしもさすわけじゃございませんが、一応当事者なり、あるいは当事者の争いのある場合もありますので、当事者だけのものではございませんけれども、一応境界としての事実として承認されておるようなものが保護されるのでありまして、争いになっておるために抜いたり、さしたりしたような境界を問題にいたしておるのではございません。そういうような場合に、もし境界標を毀損したとかいうことがあれば、この二百六十二条の二ではなくて、前の器物損壊罪で処罰される場合があり得るかと思いますが、本条の適用を受ける場合ではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/42
-
043・大貫大八
○大貫委員 それではこの点を明確にしていきたいのですが、ここの境界標というのは、大体客観的に一応境界標として認められておるもの、つまり蓋然性というか、一応あの境界は正しいのだということが当事者にも承認されておるものについて言うておるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/43
-
044・竹内壽平
○竹内政府委員 ただいまのお説の通りでございまして、そういう客観性を持った境界標をさすわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/44
-
045・大貫大八
○大貫委員 これは刑罰ですか、制裁が少し重きに過ぎませんか。「五年以下ノ懲役又ハ」云々、罰金は二万五千円になりますか。器物損壊、これは「三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金」云々ということになっています。これとの比較をいたしてみますと、少し重きに過ぎるように思うのですが、どうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/45
-
046・竹内壽平
○竹内政府委員 器物毀棄は三年以下の懲役または五百円、——五百円が五十倍になるわけでございますが、本条は五年以下または千円以下で、その千円を五十倍の五万円にすると重くなっております。器物の方は器物の効用を失なわせるということの罪でございますが、従って、器物の効用ということ、器物そのものが保護法益になっておるのでありますけれども、本条の方は器物そのものじゃなくて、境界を不明にするという、そのことが法益になっておるわけであります。従って、その間にこの程度の法定刑の差異を設けますことは当然であるということで、法制審議会におきましても異論のないところであったわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/46
-
047・大貫大八
○大貫委員 今そういう区別をされたのですが、しかし、これは「境界標ヲ損壊、移動若クハ除去シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ土地ノ境界ヲ認識スルコト能ハザルニ至ラシメタル者」となっておるのですが、境界自体は全く不明になるということはないのじゃないか。やっぱり物が中心になるのじゃないか。境界標とか、境界のつかとか、木とか、そういうものが損壊し、除去されても境界そのものがあとになって全然わからなくなるということは実際上はあり得ないのじゃないか。だからやはり刑法二百六十一条の器物、あれが重点になるんじゃないか。形を変えるという、それを処断するので、変えたがゆえに境界が全く不明になるというようなことは、ちょっと想像がつかぬのですが、どうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/47
-
048・竹内壽平
○竹内政府委員 全然不明になってしまうというところまで不明の規正を理解することは困難でございますが、しかし、その境界標以外の方法で、その他のものを利用することによってもとの境界標があった当時の状態がわかる程度にまで不明にするということは、少なくともこの規定を理解します上において必要であるというのが、私どものこの条文の解釈でございます。しかし、境界標だけを除去したりあるいは損壊したということがありましても、境界そのものが少しも不明になっていないというような場合でありますれば、これはもとより本条の適用を見ないのでありまして、単に境界標を損壊したということによりまして、二百六十一条の方でいくわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/48
-
049・大貫大八
○大貫委員 けっこうです。これで打ち切ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/49
-
050・坂本泰良
○坂本委員 関連して。——外国の例ですが、それを見ますと、三年以下になっておるようです。今大貫委員の言われた重きに失するというのに対して、外国の例もそうだというので、私ちょっと見ましたら、二年以下とか、三年以下になっておるのです。ですから五年以下にされた根拠は、外国を例にするなら、三年以下くらいにしなければならぬと思いますが、まだほかに根拠があるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/50
-
051・竹内壽平
○竹内政府委員 外国の立法形式が各国によりまして非常に違いますので、一がいに言えないのでありますが、たとえば窃盗につきまして、旧刑法にありましたように、凶器を持っている窃盗は重く処罰したり、あるいは偶発的にやった窃盗は軽く処罰したりという、いろいろな類型の窃盗罪がありましたが、それを現行刑法になります際に、窃盗は二百三十五条一木にまとめてしまいまして、そのかわり非常に情の重い、それこそ凶器を持っていたような場合の窃盗のようなものから、ほんとうに偶発的な窃盗に至るまでひとしく二百三十五条で律するという意味で最高十年以下ということにいたしたわけであります。このように弾力性を持たした日本刑法になっております。そういうことからいたしまして、動産についてと同じように、不動産侵奪についても、やはり十年以下ということにいたしたのでございますが、こういうことで、たとえばドイツ刑法のようなものをごらんいただくとわかりますが、お手元に差し上げました資料四の「ドイツ刑法」、第十九章「窃盗及び横領の罪」として、四ページのところでございますが、二百四十二条「他人の動産を奪った者は、窃盗の故をもって、軽懲役に処する。」ということになっておりまして、これは軽懲役でございますので五年以下ということにこの窃盗罪もなるわけでございます。その同じ二十三章の二百七十四条の二項を見ますと、これがやや二百六十二条の二に相当する規定でございますが、未遂までも罰するというふうに規定しておりますが、これは軽懲役に処するということで、ほとんどこの窃盗と同じ法定刑ということになっております。これは各国それぞれ事情がありますので違うのでございますが、先ほど申した改正刑法仮案は、やはりこの境界を不明ならしめる罪につきまして懲役五年ということになっております。これは仮案の四百五十六条でございますが、六法全書にも載っておりますので、ごらんいただけばわかりますが、さような次第で、もちろんこの仮案がそうなっているからそうしたというのではなくて、やはり憲法三十一条との関係等をよく見まして法定刑を考えたのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/51
-
052・坂本泰良
○坂本委員 四百何条ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/52
-
053・竹内壽平
○竹内政府委員 四百五十六条でございます。「界標ヲ損壊、移動若ハ除去シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ土地ノ境界ヲ認識スルコト能ハザルニ至ラシメタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金二処ス」仮案は二千円となっておりますのを、慎重に検討しました結果、罰金刑につきましては千円ということで、他の条文とのバランスをとってございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/53
-
054・坂本泰良
○坂本委員 どうもドイツ刑法だけをやっておるようですが、その次のフランス刑法の三百八十九条では、二年以上五年以下の拘禁及び五万フラン以上云々とありますね。それからさっきのイタリア刑法では、六百三十一条の侵奪で、三年以下の懲役及び一万リラ以下の罰金に処するということになっているから、外国の例ではドイツの例が一番重い。五年というのはドイツの刑法だけで、それを金科玉条にして、刑法改正仮案もドイツ刑法並びにドイツ刑法の仮案を基礎にしてできているわけですから、ほかの立法例を考えたらもっと軽くなってもいいように考えられますね。そういう点を考えると重きに失する、こういうように考えられるのですが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/54
-
055・竹内壽平
○竹内政府委員 先ほど申しましたように、各国それぞれ立法形式が違っておりまして、たとえば今御指摘のイタリア刑法は、窃盗罪について三年以下の懲役ということになっておりますが、窃盗のいろいろな類型を分けまして、重い場合、軽い場合、いろいろあるわけですが、そういうものをわが刑法は一括して一条にまとめたために最高十年までやったといういきさつになっております。大体それと歩調を合わせまして、全面改正の場合には全体的に考えますけれども、一部改正の本条文につきましては、他の罰条との刑の権衡をも考えながら立案いたしたのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/55
-
056・瀬戸山三男
○瀬戸山委員長 本日はこの程度で散会いたします。
午後零時十七分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103405206X01319600322/56
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。