1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十五年二月十日(水曜日)
午前十時四十一分開議
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議事日程 第五号
昭和三十五年二月十日
午前十時開議
第一 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の締結について承認を求めるの件及び日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の締結について承認を求めるの件(趣旨説明)
第二 農地被買収者問題調査会設置法案(趣旨説明)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/0
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001・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。
―――――・―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/1
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002・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。
この際お諮りいたします。津島壽一君から、海外旅行のため、十三日間請暇の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/2
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003・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。よって許可することに決しました。
―――――・―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/3
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004・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) この際、日程に追加して人事官の任命に関する件を議題とすることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/4
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005・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
内閣から、国家公務員法第五条第一項の規定により、入江誠一郎君を人事官に任命することについて本院の同意を求めて参りました。本件に同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/5
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006・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本件は全会一致をもって同意することに決しました。
―――――・―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/6
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007・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) この際、日程に追加して、原子力委員会委員の任命に関する件を議題とすることに御異議ございませんか。
〔一異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/7
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008・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
内閣から、原子力委員会設置法第八条第一項の規定により、木原均君を原子力委員会委員に任命することについて、本院の同意を求めて参りました。本件に同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/8
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009・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本件は全会一致をもって同意することに決しました。
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/9
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010・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) この際、日程に追加して、労働保険審査会委員の任命に関する件を議題とすることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/10
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011・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
内閣から、労働保険審査官及び労働一保険審査会法第二十七条第一項の規定により、百田正弘君を労働保険審査会委員に任命することについて、本院の同意を求めて参りました。本件に同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/11
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012・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本件は全会一致をもって同意することに決しました。
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/12
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013・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 日程第一、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の締結について承認を求めるの件及び日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の締結について承認を求めるの件(趣旨説明)。
両件について、国会法第五十六条の二の規定により、提出者からその趣旨説明を求めます。藤山国務大臣。
〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/13
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014・藤山愛一郎
○国務大臣(藤山愛一郎君) 去る一月十九日にワシントンにおいて署名いたしました「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」の締結について御承認を求めるの件に関し、趣旨の御説明をいたします。
安全保障条約の改正は、歴代内閣の重要な外交上の懸案でありましたが、昭和三十二年、岸総理とアイゼンハワー大統領との会談によりこれが改正の端緒が開かれ、さらに昭和三斗三年九月、私が故ダレス国務長官に対し改正交渉の開始を正式に申し入れ、同十月これが改正の交渉を開始し、自来交渉を進めました結果、本年初め完全な妥結に達し、去る一月十九日ワシントンにおいて調印の運びとなった次第であります。
いま条約の重要な改正点について御説明申し上げれば、次の通りでございます。
第一は、日米間の安全保障体制と国際連合との関係を明確にしたことであります。すなわち、新条約は、日米両国が国連憲章を尊重し、国際連合を強化するため努力すべき旨を規定するとともに、両国が憲章の目的と原則に従って行動すべきことを明らかにしております。従って、新条約に基づく実力措置は、外部よりの侵略のない限り絶対に発動することはないのでありまして、純粋に防衛的性格を有するものであります。新条約は、国連憲章のワク内において、これを補完するための取りきめであり、これによって侵略の発生を防止し、日本及び極東の安全と平和の維持に寄与することを目的とするものであります。
第二は、米国の日本防衛援助義務を明定したことであります。すなわち、この条約は、日本の施政下にある領域に対して外部から武力攻撃が加えられた場合には、米国は日本とともに共通の危険に対処するよう行動すべき旨を規定しているのであります。なお、沖縄等現在日本の施政下にない領域は条約地域より除外されていますが、将来返還を見れば自動的に条約地域に編入されることは申すまでもありません。それまでの間に万一南方諸島に対して武力攻撃が行なわれるような場合には、日本政府として同胞の福祉のためにはできる限りのことをなすべき旨を本条約付属の合意議事録で明らかにいたしております。
第三は、条約の実施全般を日米間の協議の基礎の上に置き、特に重要な事項すなわち米軍の配置及び装備の重要な変更並びに戦闘作戦行動のための施設、区域の使用については、別に交換公文をもって、事前の協議にかからしめることとした点であります。これらの事項につきましては、米国が日本政府の意に反した行動を決してとらないことは、今次交渉の過程においても明確に了解されていたところでありますが、条約の署名に際し、アイゼンハワー大統領が重ねて岸首相にその旨を確認しましたことは、過般の日米共同コミュニケに明らかな通りであります。
第四点は、従来日米間に存在した安全保障体制を、広範な政治経済上の協力関係の基礎の上に置いたことであります。日米両国間には、現在すでに政治経済上の協力のための強固な基盤が存在するのでありますが、今後ますますこの方面の協力を進めることが日米双方の利益であることは、あらためて申すまでもありません。
最後に第五点は、条約の有効期間について明確な定めをしたことであります。すなわち、まずこの条約は、国際連合自身による安全保障措置ができたと両国政府が認める時まで効力を有するものとし、次に、条約の発効後十年たてば、いずれの締約国も一年の予告をもって条約を廃棄できることとしたのであります。このように条約に終期を設けるとともに、他面、安全保障における国家間の協力関係というものにはある程度の安定性が必要でありますので、前述のような期間の定め方をした次第であります。
なお、本条約には、さらに二つの交換公文が付属しております。一つは、いわゆる吉田・アチソン交換公文等に関するものであり、他は、相互防衛援助協定に関するものであります。朝鮮動乱に対する国際連合の措置は現在なお継続しておりますので、わが国としては、当然これに対して従来通り協力すべきであり、また、安保条約の切りかえによって相互防衛援助協定が影響されるようなことのないようにする必要がありますので、この二つの公文を取りかわした次第であります。
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次に、現行行政協定にかわる「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」について御説明申し上げます。
新しい協定は、行政協定を母体としてこれに従来の運営の経験とNATO協定等の先例を参考としつつ改善を加えたものでありまして、次にそのおもな改正点につき申し上げたいと思います。
第一に、行政協定においては、従来米軍は施設内のみならず施設外においても一定の権利を有することとなっておりましたが、今回、施設外においては、両政府間の協議により、原則として、日本政府が関係法令の範囲内で必要な措置をとるように改めました。
第二に、米国の軍人、軍属、家族の出入国については、日本政府が米軍人、軍属の送出を要請し、または旧軍人、旧軍属、家族に退去命令を出したときは、アメリカ側は、これらの者を日本から送出することにつき新たに責任を負うこととなりました。
第三に、関税及び税関検査の規定に関しては、軍人であっても部隊として行動していない場合は税関検査の対象となることとし、また、軍事郵便局の取り扱う郵便物の税関検査免除は、これを公用のものに限ることといたしました。
第四に、米軍のための労働に関しては、雇用はすべて日本政府を通ずる間接雇用を原則とする建前をとるとともに、いわゆる保安解雇の問題についても妥当な解決の方法を講じました。
第五に、いわゆる特殊契約者については、米軍は、日本側と協議の後、初めてこれを指名し得ることとし、また、指名後も不適格な業者は指名を取り消し得ることといたしました。
第六に、民事請求権に関する規定につきましては、国有財産に対する物的損害に関する請求権の相互放棄は、自衛隊用の財産に対するもののみに限り、その他の政府財産の場合は補償を受けることとし、また、損害請求の原因となった行為が公務執行中であったかいなかの判定は、日本国民から選定される仲裁人が行なうことに改めました。
最後に、いわゆる防衛分担金条項は新協定から削除いたしたのであります。
以上を通観いたしますに、新しい協定は相当大幅な改善を含んでおり、駐留軍の地位を規定する協定としては、外国間の類似の協定に比較し、全体として決して遜色なきものと確信いたします。
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第二次大戦後、人類の希望に反して、世界には、東西の冷戦を背景とし、多くの国際紛争が惹起されました。わが国は、民主主義国家として再生し、自由主義陣営の一員として、この世界的趨勢の影響を受けつつ現在に至ったのでありますが、わが国が今後も平和のうちに民族の発展をはからんとするためには、安全保障上の措置をゆるがせにすることを決して許さないというのが現実の客観情勢であります。現在国際連合の平和維持機構としての力は、遺憾ながらいまだ不十分であると言わざるを得ません。よって、国際連合の平和維持機能を補完するため、国連憲章の認める安全保障措置を講ずる要がありますが、わが国と共通の信条と目的を持つ米国との間の安全保障措置を継続するのが最も適当と信ずるものであります。
繰り返して申し上げれば、この条約は、国連憲章に従って武力の不行使を定め、かつ、条約地域を日本の施政下にある領域に限定し、日本が攻撃されない限り決して発動を見ないこととしている点よりして、他のいかなる国をも脅威しない全く防衛的性格のものであります。そうしてまた、この条約は、その発動を見るがごとき事態を生ぜず、すべての国と平和のうちに共存することを可能ならしめることを、その真の目的としているものであります。政府といたしましては、新条約による安全保障体制を基礎として、後顧の憂いなく国運の進展を期し、この基盤の上に平和外交の推進に一そうの努力を傾注いたしたい所存であります。
以上が日米安全保障条約関係二案件について御承認を求めるの件についての趣旨でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/14
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015・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。小柳牧衞君。
〔小柳牧衞君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/15
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016・小柳牧衞
○小柳牧衞君 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま提案せられましたいわゆる安保条約及び付属協定につきまして、総理大臣並びに外務大臣に質問いたとたいと存じます。
今回の安保条約改定につきましては、すでに前国会以来あらゆる角度から論議を重ねられておりますので、その反復を避け、この際は、特に今回の改正における最も大きな特色である経済協力の問題、すなわち、軍事関係はもとよりきわめて重要ではありまするが、わが国の経済自立、国民の生活に直接関係の多い経済協力の問題について、まず質問をいたしたいと存じます。
昨年来の米ソ両首脳会談以来、世界は、東西両陣営の雪解けに対しては、ばく然としたものではありまするが、一種の期待を持ち始めております。すなわち、フルシチョフ首相の国連議場における軍備撤廃の提案、ソ連最高会議における外交演説、あるいは軍備撤廃の用意ありとの声明などから、ソ連の平和共存の意向をくみ取り、当面の緊張緩和べの傾向を推測しているのであります。確かに、これら一連の言葉がそのまま実行に移されるならば、世界の緊張緩和はその実証の一歩を踏み出すことになるでありましょう。しかしながら、戦後、国際緊張を醸成してきた東西間の諸問題の解決は、決して容易なことではなく、それには長い歳月に正わたる困難な、しんほう強い交渉を要することと思われます。欧州における二つのドイツ、東洋における二つの中国、二つの朝鮮を、いかに平和的に処理することができるか。緊張緩和の実証は、まずこのあたりから示されなくてはなりません。ことに注意となければならないことは、ソ連の平和共存の真意がどこにあるかということであります。フルシチョフ首相は平和共存を繰り返し説いておりますが、二つの世界の根本思想はとうてい相いれないものがありますのみならず、その平和共存は、相互の立場を尊重し、理解と友好に基づくものではなく、二つの世界の間の力の関係の変化と、ソ連軍事科学水準の高まりを理由とするもののようでございます。すなわち、現在ではソ連を初めとする共産主義諸国の力は増大し、西方陣営より力において優位にあるから、相手国は力による抵抗をあきらめよ、というような考え方が共存論の背後にひそんでいるのではないかと思われます。しかも、共存とは、二つの世界を仕切っている壁を取り除くことではなくして、共産主義諸国は一致団結して自由主義諸国と競争し、これに勝利をおさめようというのであります。このような共産圏の強固な団結に対しましては、自由主義国も十分な協力体制を維持し、自由主義の主張を貫いていく努力をすべきことが、国際情勢のなまなましい現実であると言わなければなりません。(拍手)ことに、経済問題については、第二十一回共産党大会において、フルシチヨフ首相は、「経済こそ社会主義と資本主義の平和な競争が展開される重要な舞台である、」、「われわれの関心は、歴史的短期間にこの競争に勝つことである」と演説しております。今や経済的競争は平和共存の重要なる舞台となり、軍事的脅威が緩和されればされるほど、両陣営間の競争は経済問題に移行してくるのであります。
このように、共産圏側における平和共存が、力の威圧と対抗的経済力の強化にあるとするならば、自由主義側においても経済的協力の緊密化にさらに努力しなければならないことは、当然と言わなければなりません。今回の安保条約改定に際し、経済協力に関する規定が新たに設けられたことは、私はこの理由からだけでも安保条約を改定した意義があったと思うものであります。私は、今回の経済協力に関する規定の新設により、アメリカにおける日本品の排斥、または目下問題となっている対日輸入制限の問題のごときも、解決の糸口が見出されるであろうし、また、わが国の国土総合開発や産業の近代化のためにも、いわば、わが国の経済自立のために多大の便宜が得られることと思います。さらに進んでは、アジアにおける経済開発あるいは貿易の増大についても一そう裨益する方途が講ぜられなければならないと思うのでありますが、今回の改正による経済協力の規定の新設は、はたしてかような趣旨のもとになされたものであるか、また具体的方法、たとえば経済協力委員会ともいうべきものを設けるのであるか、その推進せんとする構想についてお伺いいたしたいと思うのであります。
ソ連のいわゆる経済協力は、共産圏諸国の経済発展に対する協力として始められましたが、その後、中近東を中心として自由主義諸国内部の低開発国に対する援助も活発となり、さらに一九五五年のバンドン会議以降は東南アジアに対しても積極的に進出してきているのであります。すなわち、低利か参つ長期の借款を、借入国の通貨または物資で返済することを認めるという非常に有利な条件で供与し、あるいは大量の技術者を派遣するなど、資本主義国に見られるようなコマーシャル・ベースにとらわれることなく、国際政治に有利な地位を占めるための効果的な経済協力を行なっているのであります。申すまでもなく、低開発国、とりわけ東南アジア諸国の経済発展と貿易の拡大ということは、世界の平和と住民の福祉繁栄を根本理念とするということに大きな意義を持っているものであります。この意味において、同じく東洋に国をなすわれわれとしては、低開発国の発展に協かする必要性はますます緊要になって参ったと言わなければなりません。
わが国も、ここ数年来、海外投資、長期信用供与、技術協力、その他種々の経済協力を行なって参りましたが、その規模はいまだ小さく、今後大いにその推進が期待されるのであります。ソ連を初めとする共産圏諸国はもとより、欧米先進国は、すでにそれぞれ特徴を持った経済協力を推進しているのでありまして、わが国も同様その特色を生かした経済協力を大いに推進する必要があると思うのであります。ただ、従来から言われていた「日本の技術とアメリカの資本による東南アジアの援助」という考え方については、もっと積極的な民間投資をはかるべきだという意見も有力になって参っております。また、先進諸国の貿易自由化が進められるにつれて、低開発国の貿易はさらに後退を余儀なくされ、経済協力の必要性はますます増大するものと思われるのであります。政府は、低開発国、特に東南アジア諸国との経済協力について、世界の平和と相互の繁栄の趣旨に基づいて、いかなる積極的な施策を考慮しておられるか、お伺いいたしたいのであります。
次に、行政協定の改定についてお伺いいたします。今回の改定協定が非常な改善であったことは、世人の認めるところであります。もし新協定が安保条約と切り離して結ばれたといたしましたならば、安保条約に反対する諸君も、この新協定にはあえて反対しないだろうと思うのであります。すなわち、軍関係者の地位や特権を制約し、不良外人の取り締まり等を容易にしたことや、調達方式を間接方式に切りかえ、経済条件や労働条件が十分尊重されるようになったことや、あるいは民事請求権すなわち補償方式を全面的に改正して、従来たびたび問題となった公務中とか公務外とかの問題も有利に解決を見たことなど、この協定が国民の日常生活と直接結びつくものだけに、その改善は国民多数の納得するところと思うのであります。
このように、新協定は、従来しばしば比較されておりました北大西洋協定、とほぼ同じ基準にまで改善されたのでありまするが、軍隊の駐留、国情あるいは社会条件の違いから、とかく誤解や摩擦を起こしがちなものでありますので、新協定について国民の理解を一そう深めるとともに、できる限り事故あるいは紛争の発生をあらかじめ防ぐへきでありますが、政府はこの際、今回の行政協定改定により、国民の日常生活にいかなる影響があるかということを明確にするとともに、これが実価にあたっての所信を明らかにしていただきたいと思うのであります。最後に、今回のソ連の覚書についてでありまするが、日ソ共同宣言で約束されている歯舞、色丹の引き渡しを拒否する態度に出たということは、もとより国際信義にもとる理不尽のふるまいであります。この引き渡し拒否の問題は別といたしましても、わが国が自由主義陣営と一そう強固なる団結をはからんとすることに対してソ連が快く思わないのは当然予想されることであります。今回の覚書により、わが国外交の基本方針にいささかのゆるぎがあってはならないのはもちろんであると同時に、将来起こるであろういろいろの問題に対しても、ますますわが国の外交の基本方針を明確にし、その態度を堅持さるることを強く要望いたしまして、私の質問を終わります。
〔拍手)
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/16
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017・岸信介
○国務大臣(岸信介君) お答えをいたします。経済協力の必要性については、小柳議員の御意見の通りでございます。今回の新条約の調印にあたりましても、いわゆる経済協力の点については特に条約中に明文を置いて、今後一そうの経済協力を進めていくという趣旨を明らかにいたしております。そうしてその経済協力をしていかなければならない日米間の問題を考えますというと、大きく分けて二つあると思うのです。一つは日米間の直接の経済交流の問題であります。貿易の状況も近年非常に改善せられまして、日本の対米輸出が黒字になっておることは御承知の通りでありますが、同時に、そういうふうに急激に日本の貿易が伸びましたため、アメリカ側においていろいろ日本中に対する輸入制限の問題やあるいは関税の問題等が論議されておるというような事態から考えましても、日米間の貿易を今後安定した基礎の上に拡大していくということが両国の利益であり、繁栄に資するゆえんでありますから、そういう方法について具体的に話を進めていくとか、あるいは外資の導入の問題であるとか、いろいろ日米間に存する従来からの関係を一そう緊密にしていく問題があると同時に、将来安定した協力を作り上げていく。さらに、最近世界の問題になっておりますいわゆる低開発地域の開発について、先進工業国が協力してこの開発に力を用いるというこの情勢に応じまして、また、日本自身が非常な強い関心を持っております東南アジア地域に対する開発につきましても、さらに一そう日米が具体的に協力関係を深めていく必要があると思います。こういう必要を満たすことが日米の経済協力の主題になると思います。そうして、それをやっていく上におきましては、政府間において外交のチャンネルを通じて常時両方が協議をすると同時に、また民間レベルにおいてもこれが適当な機構を設けて常時協議し連絡していくということが望ましい、そういうことについて今後政府としても検討を加えて参りたい、かように考えております。東南アジアの経済開発につきましては、すでに日本としては、従来も、あるいは賠償を通じ、あるいは長期の信用供与の方法により、延べ取引の方法というような、いろいろな方法によりましてこれに協力をいたしておりますが、さらにこれらの地域における経済基盤を強化するためには、一そう積極的にこれを進めていく必要があると思います。政府といたしましても、今回の予算で、この東南アジアを中心とした海外経済協力の基金を実際に運用していくという考えを持っておりますし、あるいは国際的の第二世銀初め、そうした意味を持った国際機関に積極的に出資をし協力をするという態勢をとっております。私は、日米の経済協力が具体化するとともに、一そうこれが積極化されていくことが当然であり、また、そういうふうに努力をしたいと思います。
行政協定の問題につきましては、御趣旨のような意味において、従来の行政協定が日本にとつて非常に不利であった、これらの点を具体的に改めたのでありますが、内容につきましては外務大臣よりお答えを申し上げます。
ソ連の覚書につきましては、すでに日本政府としてソ連の反省を求める回答を出しておりますが、御指摘のように、私どもは、この安保条約はあくまでも平和的な防衛的な意味でありまして、ソ連の覚書に示されておるごときは、全くこの新しい条約をしいて曲解したというふうに解釈せざるを得ないほど、私はこの趣旨が誤解されておると思うのであります。これについて反省を求めると同時に、領土問題等につきましては、すでに日ソ共同宣言に明らかになっておることを一方的に改めることが国際信義に反しておるということは、これは何人もきわめて明瞭なことでありまして、おそらくその点においては、共産党の諸君といえども、この理論は私は御理解いただけると、かように思っております。日本政府の考えは回答にきわめて明瞭に出ております。(拍手)
〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/17
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018・藤山愛一郎
○国務大臣(藤山愛一郎君) 行政協定の改定にあたりましては、小柳議員が御指摘になりましたように、国民生活に直接つながっております関係が多いものでありますから、できるだけ過去におきまする紛争あるいはいろいろ起こりました問題等を勘案しながら、同時に、外国において行なわれております類似の協定等、たとえばNATO協定等に範をとりまして、そうしてそれらの問題につきまして十分参酌しながら今回の新協定を作ったわけであります。従いまして、今回の協定は相当改善されておるわけでございますが、なお、これらの実施にあたりましては十分注意をして参りたいと存じます。(拍手)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/18
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019・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 佐忠多隆君。
〔佐多忠隆君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/19
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020・佐多忠隆
○佐多忠隆君 ここに提案されました新安保条約と協定について、私は日本社会党を代表し、数個の基本的問題を質問をいたします。
一九六〇年代を迎えて、世界は明らかに新しい胎動を始めております。年初より頻繁に行なわれつつある東西首脳の多角的な訪問、話し合い、五月にパリで行なわれるはずの東西首脳会談、引き続く首脳間の交互訪問、三月十五日からジュネーヴで開かれる東西十カ国軍縮会議等々、冷戦の雪解けは徐々にではあるが進みつつあります。世界はもちろん、日本は特に従来の硬直した外交政策を再検討しなければならない段階に当面して参りました。そして、われわれは今や大きな選択の前に立たされたのです。一つは、力の均衡と同盟政策を国際政治の不動の原理とし、軍備をあくまで独立と安全の最後のよりどころとする、これまで通りの国家観にしがみつき、その方向に日本の将来をゆだねる道であります。他は、おびただしい惨害と犠牲を経て生まれた新憲法の画期的理想を、この戦後最大の転機に際して、あらためて世界に高く掲げ、その実現のために全力を傾ける道であります。(拍手)岸内閣が、最近の国際的な流れに逆らって、前者の道を選び、新安保条約等をここに提案したことに対して、われわれは痛憤を感じ、遺憾の意を表するものであります。
この立場から、まず第一に、岸首相と藤山外相に、新条約の性格についてお尋ねをいたします。
現行の安保条約は、アメリカの陸海空軍が日本に駐留することを許す駐留軍協定であり、この駐日米軍に日本国内の施設と区域の使用を許す基地貸与協定であります。新条約は、この点を第六条にそのまま残しながら、これにさらに二つのことを新たに加えました。一つは、第三条にいう武力の維持発展を約束することであります。他は、第五条にいう相互防衛義務を負うことであります。これは、バンデンバーグ決議の趣旨を取り入れ、米比、米華、米韓、NATO、アンザス、SEATO等の相互防衛条約のひな形にならった日米相互防衛条約であり、軍事同盟にほかなりません。(拍手)日本がアメリカと軍事的運命協同体を結ぶことであります。新条約の基本的性格はこれだとわれわれは思うのであるが、岸首相、藤山外相はどう考えられるか。
第二に、武力の維持発展についてお尋ねをいたします。
新条約第三条によって、日本は、中国、ソ連の武力と対決をし、アメリカと共同して軍事行動ができる能力、すなわち戦力を維持発展せしめねばならなくなります。このために、軍備は今後飛躍的に発展させられることとなります。圧縮に非常な努力をしたにかかわらず、防衛庁の経費は三十五年度には百二十八億もふえております。なお、このほかにロッキード買い入れを主とする国庫債務負担行為として新たに九百十八億が見積もられ、さらに艦艇建造のため継続費として六十五億が計上されております。これに、来年度からはさらに第二次長期防衛計画が加わることは必至であります。昨年の七月、赤城長官が発表したところによりますと、陸上十八万人、海上十六万五千トン、航空七百機(二十個中隊)、ナイキ四個大隊、ホーク四個大隊の誘導弾部隊の設置を目標として、四十年度末までに達成する予定だといわれます。時あたかも米国の対日軍事援助は大幅に減らされる形勢でありますから、防衛庁費はますます膨張をせざるを得ません。四十年度には三千億に、すなわち現在の倍に達するだろうと見られております。これが国民の真の福祉のために必要な教育、文化、治山治水、社会保障等の経費を圧迫することは、火を見るよりも明らかであります。(拍手)他方、増税をやり、赤字公債を発行せざるを得なくなることが憂えられます。これらの趨勢を、赤城防衛庁長官は、佐藤蔵相はどう見通しておられるのか、詳細に御説明願いたい。岸首相は、藤山外相は、これでも、新条約によって軍備拡張の義務を負うものではないと言い張れると思うのかどうか、正直にお答え願いたい。幾らかでも武力を持つこと自体が憲法違反であるが、この武力も、事ここに至っては憲法違反であることがいよいよ明々白々となります。新条約は明らかにこの違反を犯しております。岸首相は、これをどう弁解されるのですか。もっとも、条約は、憲法の規定に従ってと言って、言葉の上では隠れみのを用意しておりますが、事実はごまかせません。本来、武力を持つこと自体が憲法違反ですから、憲法の規定に従って武力を維持発展するなどという芸当はできるはずがありません。問題は、憲法の規定と武力の保持とのいずれをとるかです。憲法の規定にのっとって武力の発展をやめさせ、これを縮小し、廃止に持っていくか、それとも、憲法に違反して武力を維持し発展させるか、そのいずれか一つを選ぶ以外に道はないのです。新条約は後者を、すなわち憲法違反の道をとっているとしか思えません。岸首相はこれをどう弁解されるのですか。岸首相は、軍備拡張をまず新条約で外から義務づけ、これを既成事実とした上に、新条約批准後に、いよいよ今度は憲法改定に踏み出すとも伝えられております。岸首相の心境はどうなのか、率直に述べられたい。
第三に、新条約の最大の眼目ともいうべき日米両国の相互防衛について、岸首相と藤山外相にお尋ねをいたします。
新条約第五条の規定によれば、日本に対する武力攻撃に対して米軍が出動すると同様に、米国に対する武力攻撃はわが国の平和と安全を危うくするものと認め、共通の危険に対処するために、日本軍が米軍と共同して軍事行動をとることを義務づけられていると思われるが、どうですか。もし、そうだとすれば、それは前文にいう集団的自衛の権利に基づくものであるのかどうか。まず、その集団的自衛権なるものについてお尋ねをいたしたい。集団的自衛権とは一体何であって、それは国連憲章の中でどんな地位を占めていると思われるのか。集団的自衛権なるものは、現行憲法のもとにおける日本にあるのか、ないのか、これまではどう考えられていたのか、新安保条約ではこれをどう扱われようとするのか。集団的自衛とは、武力攻撃を受けた国と密接な関係にある国が、その密接な関係のゆえに、この武力攻撃を自国に対するものと同様とみなして、攻撃を加えた国に反撃を加える権利であります。より正確には、他国を守る正当防衛の権利とでもいうべきものでしょう。これは国連憲章で初めて取り入れられ作り出された概念であります。憲法第九条から見れば、わが国も権利としての自衛権を持ってはいるが、これを広げて集団的自衛権まで持っていくことは全く無謀であり誤りてあります。従って、政府も初めはこの集団的自衛権によらなかったと思います。しかるに、集団的自衛権をいつのまにかこっそり取り入れ、新条約の前文では、日本も米国とともに集団的自衛の固有の権利を持っておることをみずから堂々と認めるに至りました。いつから政府はこのように態度を変えたのか。むしろ従前の態度が正しいのであって、態度を変えた条約はまさしく憲法に違反しているではないか。新条約で相互防衛を約束せねばならぬ必要上、かかる憲法違反をあえてしたのではないのか。それとも、日本は集団的自衛権の行使は認められないが、その権能自体は認められるとでも言おうとするのか。不可解千万と言わざるを得ません。(拍手)憲法によって戦争そのものを放棄したはずの日本が、この集団的自衛権をよりどころにして、第五条ではあからさまに米国との共同作戦を義務づけております。これが憲法違反でなくて何でありますか。なるほど、攻撃される区域は日本の施政下にある領域に限られ、行動は憲法上の規定と手続に従うように定められております。しかし、条約の字づら通りに事態が運ぶかどうかを具体的に知るには、日米両国の極東における戦略態勢の現実から判断する以外にありません。そこで、赤城防衛庁長官はこの点を詳細にここに示されたい。私がかすかに知り得るところによれば、アメリカの現在の極東戦略は、対中ソ周辺戦略態勢であり、フィ、リピン、台湾、韓国、日本が、アメリカの対中ソ前線基地であると同時に、中ソの原爆攻撃力を吸収する役目を負わされておるといわれております。日本にいる駐留米軍は、日本を守るためだけでなく、いわゆる極東の平和と安全を維持するためのものであります。そしてハワイにある太平洋軍司令官の直接指揮を受け、極東最大のミサイル基地といわれる沖縄を扇のかなめに、韓国、台湾、フィリピンなどにいる米軍と一体となって、極東戦略に従って行動する軍隊です。在日米軍は、台湾海峡や朝鮮の三十八度線などで戦争が起こったときは、当然ハワイの太平洋軍司令官の命を受けて出動することになります。それは、ここ数年の歴史的事実が明らかに示した通りであります。とすれば、日本基地からそういう目的で出撃するはずになっている米軍に対し、相手国である中国、北鮮、ソ連等からも報復攻撃がかけられることは当然予想されます。ここに至れば、駐留米軍と相互防衛義務を負う日本は、自動的に参戦をせざるを得ません。日米共同作戦で相手国の根拠地をたたくということで、海外派兵が行なわれないとは限りません。防衛地域がいわゆる日本の施政下にある領域に限定されているといないとにかかわらず、必ず起こってくる戦略のきびしい定めであります。しかも、相手国が攻撃をかけてきたら初めて出動するのではなくて、相手国が攻撃をかけてくるから先制攻撃をかける必要があるとの名目さえつけば、いかなる国、地域にも、日米両軍の出動、自衛隊の海外派兵が可能になってくることは、これまでのたくさんの戦争の歴史が教える通りであります。特に、ミサイル、ロケット戦争時代の今日では、先制攻撃が一番有力な有効な戦略だと、軍事専門家は一致して指摘をしております。これがいわゆる日本の施政下の領域における相互防衛同盟の実体であります。また、第五条では、自国の憲法上の規定と手続に従って行動することになっております。これは、どろいう意味、内容を持っておるのか。一体、日本国憲法から見て、自衛隊の海外派兵を岸首相はどう考えられるのか。政府のこれまでの見解を見ると、原則としてはできないと言いながらも、吉田内閣時代には、公務員の海外出張としての出動ならば違憲にならないと言い、岸内閣では、沖縄に対しては施政権はないが潜在主権があるのだから、これが侵された場合に出動することは違憲ではないとか、または、準国連警察軍として自衛隊が出動することは、警察行動であって、武力の行使、戦争行為にならないから違憲ではないとまで言っております。憲法の規定と手続に従う行動などとは、ざるで水をすくう類にほかなりません。これができるのは、そつのない岸首相だけでしょう。もともと憲法第九条は、侵略たると自衛たるとを問わず、一切の戦争を放棄し、戦力の保持を禁止しているのでありますから、日米相互防衛の行動が憲法の規定と手続に従ってできるはずがありません。これを定めた新条約は、まごうかたなく、明らかに憲法違反であります。(拍手)
第四に、日米両国の協議についてお尋ねをいたします。
第四条に、両国は、この条約の実施に関して随時に協議すると定めておりますが、だれが何を協議するのか。何を目的に協議するのか。協議してどうしようというのか。藤山外相に詳しい説明を求めます。考えられることは、第六条などで定めている駐留米軍の配置や装備計画、同時に、新条約で米軍と共同作戦をすることになる自衛隊の配置や装備計画でしょう。また、第三条で定められている防衛力の増強なども重要な議題となるでしょう。その協議の前提として、極東の軍事情勢とか政治状況の評価、その土に立っていろいろ想定される作戦計画などが常時話し合われると思います。そもそも安保条約の改定に着手する前提として設けられたいわゆる日米安保委員会は何を協議したのですか。極東の軍事情勢、在日米軍の配置、装備、自衛隊の配置、装備が、昭和三十二年八月から三十三年の八月末までに、六回にわたって論議をされております。それに続いて、あのおそるべき金門・馬祖の大戦闘が起こったのであります。アメリカは、台湾海峡に史上空前の破壊力を――これは、当時のロンドン・タイムスの表現でありますが、史上最大の破壊力を集結した。これに対してソ連のフルシチヨフ首相は、急遽北京に飛び来たり、あわや米台中ソの全面戦争、原水爆戦争に展開せんとし、われわれを戦慄せしめました。しかも、日本の横須賀や佐世保が、厚木や岩国が、アメリカの海空軍の基地としてフルに使われております。日米安保委員会の協議に参加したのは、日本側から藤山外相と防衛庁長官、アメリカ側から太平洋軍司令官スタンプ大将、後にフェルト大将、駐日米軍司令官スミス中将、後にバーンズ中将、それにマッカーサー大使などであります。それと並行して、防衛庁と在日米軍事顧問団、自衛隊統幕部と在日米軍参謀部を初め、日米両軍の各級機関で、同種の会合が常時行なわれていたと伝えられております。また、共同作戦計画のもとに日米両軍の合同演習もしばしば行なわれたといわれております。この間の事情を、藤山外相と赤城長官から国民の前にここに詳しく発表をしていただきたい。新条約で新たに設けられる安全保障協議委員会貝会は、あのときの会をいよいよ大っぴらに設置するものにほかならないと思うがどうか。これはNATOにも、SEATOにも、アンザスにも、米比、米華、米韓相互防衛条約のいずれにも、その類を見ないほど軍事色の濃いものと思われるがどうか。協議は、極東の平和と安全が脅かされていると認めるときにも行なわれると定められております。これは具体的にどんな場合をいうのか。また、日本国の安全が脅かされていると認められるときも協議するという。現行条約の内乱条項をそのまま残して、内攻にまでアメリカを干渉せしめようというのか。これが自主性を回復したといわれる親条約の正体であります。全くあきれてものが言えません。
次に、いわゆる極東についてお尋ねをいたします。政府は極東について、中国の一部と沿海州を含むとの従来の見解を改めて、これを除くことに統一見解をきめたと言います。しかるに、昨日、岸首相は見解を改めたものではないと言い張ります。改めたことは厳然たる事実であります。それを明言されたい。それでなければ、岸首相の食言をどこまでも追及いたします。さらに、なぜ改めなければならなくなったのか、その理由を明示されたい。改められた新見解は、いまだアメリカ側と統一された見解ではないと、きょうのアメリカからの電報は報じております。両者の意見の確定を、いつどんな方法でやるのか、この点をごまかすことなく明言されたい。中ソ両国の領有している地域は、これを極東に含まないとの趣旨からすれば、千島を含ませることは誤りというべきであります。千島も含むという首相の答弁は訂正すべきではないか。これに関連して金門・馬祖等、中国沿岸の島峡をどう考えるのか。これらが問題になって参ります。このような重大な疑問を抱かせる政府の責任はきわめて大きい。その根本原因は、日本の安全を保障すべき安保条約に、日本以外の、あいまいな極東なる地域を含め、これに駐日米軍の出動を許そうとするからであります。しかも、極東の平和は、本来日本が独自に外交の力でやるべきもので、遠く離れたアメリカの軍事力にたより、これを介入させるべきものでは断じてありません。従って、少なくとも極東の平和と安全は、日米安保条約から削らるべきであると思いますが、どうですか。この一点から見ましても、日米安保体制は、あらためて根本的に再検討すべきときであると思いますが、岸首相はどう考えられるか。
以上五点について、岸首相以下関係大臣の率直にして真摯な答弁を求めるものであります。(拍手)
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/20
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021・岸信介
○国務大臣(岸信介君) お答えをいたします。
第一は、本条約の本旨はどこにあるのか、バンデンバーグ決議や、あるいは相互防衛協定を含んでおる規定があるから、これは軍事条約じゃないかというふうな御質問であったと思います。軍事同盟とか軍事条約という言葉自身は、きわめて私は不明瞭であると思います。ただ、私どもは、この条約にもそういう防衛に関する規定がございます。確かに防衛をやるということは軍事的な協力はあることは当然でありますが、ただ、いわゆる軍事協約とか軍事条約とかいわれるものは、そういう防衛的な性質ではなくして、攻撃的な意味を持っておるがごと(解釈されるところに、非常な誤解があるのであります。そういう性格を全然持っておらずして、平和を維持し、防衛的なものであるということが、その本旨でございます。バンデンバーグ決議の趣旨を取り入れた条項におきましても、われわれは、われわれの防衛力の増強につきましては、あくまでも日本の憲法と、またわれわれの自主的立場から、国力と国情に応じてこれを増強するという従来の方針を何ら変更するものではありません効(拍手)耕しい義務を負うものではございません。また、いわゆる相互防衛と申しましても、他の相互防衛をきめておる条約等と違って、この条約の適用範囲は日本の領土に限っておりまして、いわゆる条約地域というものは日本の施政下にある領土内に限っております。そこの米軍の基地が攻撃される場合だけでありますから、われわれは他の意味の相互防衛協定とは全然性格が違っておるということを明らかにしておきます。(拍手)
本条約を結んだために、将来防衛費が非常に拡大するのではないかという御心配の御意見がございましたが、具体的には関係大臣からお答え申し上げますが、私どもはそういう考えを持っておりません。あくまでも日本の防衛力につきましては、先ほどから申し上げておるように、国力と国情に応じてこれを漸増するという方針を堅持するつもりでおります。
次に、この条約は憲法違反ではないかという御質問であります。私どもは、この憲法九条の規定におきましても、第九条の一項において自衛権を持っておることは、これは解釈上何ら疑いないと思います。従って、その自衛権を裏づけるに必要な最小限度の実力は、やはり自衛権がある以上は持つということ、それは二項に禁止しておる戦力には入らないという解釈は正しいと考えております。
また、新安保条約を結んだら憲法改正をするのではないかという御質問でありますが、憲法の改正問題に関しましては、御承知のように憲法調査会においていろいろな審議をいたしております。その結論を持って政府としては善処する考えでありまして、安保条約の改正によって必然的に憲法を改正しなければならぬということは絶対にございません。
次に、個別的自衛権と集団的自衛権に関する御質問でございます。実は集団的自衛権という観念につきましては、学者の間にいろいろと議論がありまして、広狭の差があると思います。しかし、問題の要点、中心的な問題は、自国と密接な関係にある他の国が侵略された場合に、これを自国が侵害されたと同じような立場から、その侵略されておる他国にまで出かけていってこれを防衛するということが、集団的自衛権の中心的の問題になると思います。そういうものは、日本憲法においてそういうことができないことはこれは当然でありまして、そういう意味における集団安全保障というものはないのでございます。(「具体的に言え」と呼ぶ者あり)ただ一般的に、今申しますように、集団安全保障ということが、侵略を受けた場合に他のものと協力してこれを防衛するというような広い意味に用いられる場合において、これが日本も持っておることはこれは当然であります。われわれは、今回の条約の五条によるところの、われわれの自衛権の発動はあくまでも日本の領土内に限っておりますから、これは個別的自衛権で解釈すべきものであると、かように考えております。
協議の問題につきましては外務大臣よりお答え申し上げます。(拍手、「答弁を忘れてるぞ」「極東の範囲の問題はどうした」と呼ぶ者あり)
極東の範囲の問題についてお答えします。これにつきましてはその趣旨は、フィリピン以北、日本の周辺ということが政府の統一した見解でございます。ただ、具体的にいろいろのなにをおあげになりまして、これが入るか入らないかというふうな議論になりますというと、本来、極東というのは地域的なばく然とした観念であることは、これは当然であります。われわれはあくまでも、今申しましたフィリピン以北、日本の周辺という意味で解釈をいたしております。その意味において、具体的に、従来聞かれておりました沿海州であるとか、あるいは中国の問題に関しましては、私どもこれを含まないものだと解釈します。千島の問題につきましては、これは地理的に申しまして日本の周辺ということ、並びに、この歯舞、色丹、国後、択捉等につきましては、日本が固有的な領土として従来主張しておる、日本そのものであるという観念に立っておりますから、そういう意味において、われわれは日本の周辺のうちに入れて解釈をしてきておるわけでございます。(拍手)
〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/21
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022・藤山愛一郎
○国務大臣(藤山愛一郎君) 今回の条約は、友好国との間に緊密な連絡をとって、友好裏にすべての条約の運営をやっていくというのが本旨でございます。従いまして、条約の運営にあたってあらゆる問題について協議をしていくということが精神であること、もちろんでございます。従いまして、先ほど御指摘になりました四条の協議等につきましても、ごく一般的な問題についての協議、そういう問題も含まれていること、むろんでございます。国際情勢の見通し等についてもお互いに意見の交換をして参りますことは、こうした運営について非常に有益な友好的な運営に相なろうかと思うのであります。
それに関連しまして、お話のありましたように、過去の日米安保委員会はどういう協議をしたかという御質問がございました。日米安保委員会は御指摘の通り六回にわたって会議を開いております。そのつどプレス・リリーズをいたしておりますので、大体御了承をいただいておると思うのでありますけれども、この話し合いについては極東の情勢等につきまして意見を交換いたしております。また、安保条約の改定問題等につきましても意見の交換をいたしております。なお、軍事的なお互いの問題についても話し合いをいたしておるようなわけでありまして、友好裏にこれらの話をやりますことが、今回の条約の運営における一番大事な点だと、こう考えております。(拍手、「だめだ、だめだ、答弁やり直しだ、全部」「そんなことじゃ国民はわからないよ」「議長はそんな答弁で納得すると思っているか」と呼ぶ者あり)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/22
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023・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 藤山外務大臣から答弁の補足があります。藤山外務大臣。
〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍手]発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/23
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024・藤山愛一郎
○国務大臣(藤山愛一郎君) ただいま極東の地域につきましては総理の説明された通りでありまして、政府の統一見解でございます。これは日本の自主的解釈でありまするが、アメリカにもこういう話は前からやっておりますので異存はないと考えております。(「全然抽象的でわからないよ」と呼ぶ者あり)
〔国務大臣赤城宗徳君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/24
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025・赤城宗徳
○国務大臣(赤城宗徳君) お答えいたします。佐多議員が安全保障条約は軍事同盟だと、こういうふうにきめつけておるのは、私はいささか違っておると思います。これは総理大臣からも答弁がありましたが、いわゆる軍事同盟は攻守同盟であります。アメリカが参戦した場合に日本も参戦するとか、アメリカの地域に問題が起きたときに日本がそこまで出て行って守るとか、攻めるとか、こういうような性格を持ったのが軍事同盟であります。今度の安全保障条約によりましては、先ほど総理が説明申し上げましたように、日本の領域内における武力行為があった場合であります。でありまするから、憲法の範囲内におきまして、外へ出るということもなければ、あるいは攻めるというようなこともない。そういうことでありまするから、私は、これは軍事同盟ときめつけるのはいささか違っておると思います。
従って、今度の安保条約第三条によりまして、日本の防衛力をこの条約によってふやすということを義務づけられておるのじゃないかと、こういうことでありまするけれども、それぞれの国の状態に応じて防衛力を維持発展すると、こういうふうにきめられておるわけでありますので、日本といたしましては、国防会議の方針に従って、日本の国力、国情に応じて漸進的に漸増していくと、こういうような方針でありまして、今度の安保条約によりましてこの方針が別に変わったということにもなっておりません。
それから、本年の防衛費予算が百二十八億円増額しているじゃないかと、こういうことでありますが、これは御承知のように、防衛分担金の百十一億が防衛費の方へ回ったのであります。総額といたしましては九億の増でありまして、国民所得に対しましては一四%、予算の総額に対しましては九・八%という、戦後最も低い防衛負担であります。また、この防衛予算がふえたかふえないかと、こういう標準は、私は税金を負担する面から見なければいかぬと思います。タックス・ペイヤーから見まするならば防衛庁費は九億ふえただけであると、こういうふうに御了解を願いたいと思います。なお、しからば、国庫債務負担行為において、ロッキードの方で六百九十八億円ふえているじゃないか、こういうものがだんだん予算化していく場合に非常に大きな防衛費になるのじゃないかと、こういう御質問であります。この点につきましては、これは一年にやるわけでないことは申し上げるまでもありません。四カ年間にこれを予算化していきまするし、そういう場合におきましても、国力、国情に応じ、また民生安定を害さないと、こういうにらみ合いの上におきまして勘案していくことが、これは政府の責任であると思います。そういう意味におきまして、民生を害するような予算は組んでいかないという方針であります。
第五の御質問で、アメリカの極東戦略を説明しろということでありますが、これは御無理だと思いますので、私からは説明できません。ただ、私の考え方から申し上げますならば、この世界の軍備というようなものが、戦争をする目的であると、こういう目的とはよほど違っておると私は考えます。この世界の軍備、世界の国防というものは、世界大戦を起こさないというこの抑制力、戦争の抑制力に変わっておるという意味に私は了解しております。従って、日本の自衛隊といたしましても、あえて戦争を起こしかけるということでなくて、戦争が起こらないように、お話のように、自動的に参戦するなんということはありませんで、極力、戦争の抑制力、戦争が起こらないことに協力すると、こういうことに日本の自衛隊というものもあるというふうに御了解を願いたいと思います。
それから、日米安全保障委員会におきまして作戦等の協議をしたのが、こういうことでございますが、作戦などの協議などはいたしておりません。軍事情勢等の話し合いはいたしております。従って、金門・馬祖に出動することなどをこの委員会できめたなどということは、これは無根の事実でございます。(拍手)
〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/25
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026・佐藤榮作
○国務大臣(佐藤榮作君) 防衛費がかさんで参りまして他の必要なる支出を抑制するようなことになるのではないかというお尋ねでございます。ただいま防衛庁長官からお答えいたしましたように、ことしの防衛関係費は、わずかに九億の増でございます。防衛庁関係はお話のように百二十五億でございます。ところで、防衛庁関係は、三十四年度は百五十九億の増であります。三十三年度は百九十一億の増であります。過去二年の増加に比べてみますと、ことしは百二十五億であったということは、非常に圧縮した結果でございます。さらにまた、ロッキードの債務負担行為が非常にふえているということでございますが、この債務負担行為のうちからロッキードにかかわりますものを除きますと、例年の債務負担行為と遜色がございません。また、このロッキードの債務負担行為につきましては、ただいまお答えいたしましたように、三十六年度以降四カ年の間にこれを予算化するのでございます。基本的には、総理並びに防衛庁長官が申しましたように、わが国の防衛力増強の基本方針は、国力、国情に応じてこれを漸増するのでございます。必要なる社会保障費、あるいは国土保全の経費であるとか、あるいは減税であるとか、その他必要なる経費等とにらみ合わして、適当にこれを予算化して参るつもりでございますので、ただいま御心配のようなことは避ける考えでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/26
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027・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 佐多忠隆君。
〔佐多忠隆君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/27
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028・佐多忠隆
○佐多忠隆君 私が総理や外務大臣にお尋ねをした重要な問題について、重要な点をすべてそらしてしまって、何ら具体的なお答えになっていないことを、私はまことに遺憾に思います。特に極東の範囲についてでありますが、申し上げるまでもなく、条約適用区域、条約区域、あるいはそれに関連をいたしました軍の活動範囲、出動地域等々は、明確に規定されておらなければならないはずであります。それにもかかわらず、それがいわゆる「大体」「いろいろ」等のばく然とした、常識としてすら許せないようなばく然とした言葉のもとに乱用をされていることに、事の原因があると思うのであります。
従って、あらためて聞きますが、総理大臣も、外務大臣も、これまでは、極東とはフィリピン以北、日本周辺の地域、しかもそれには沿海州、中国沿岸、中国の一部を含むということを明瞭に答弁をいたしております。しかも、条約に調印されたときまで、いや、つい数日前までも、その答弁を繰り返しておられたことは事実であります。しかるにもかかわらず、一昨日の横路衆議院議員の質問に対して答弁に窮せられた結果、ついに見解を変えて中国の一部と沿海州は含まないのだと、あらためて見解を変えられた。これは明瞭な見解の変更であります。しかも、調印をするときには何らそのことが明確になっていなかった見解であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/28
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029・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 佐多君、時間です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/29
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030・佐多忠隆
○佐多忠隆君(続) さればこそ、アメリカからのきのうの電報によれば、これらのことはいまだアメリカと了解に達していないのだ、アメリカの関知せざるところであるということを明瞭に言っております。かるがゆえに外務大臣は、私たちは自主的にそう思うのですと、ごまかしておるにすぎない。条約の区域はそういうごまかしであっては絶対にならないと思うのであります。(拍手)従って、ここであらためて総理にお聞きしたい。今変えられた見解はアメリカとの間に完全に合意されておるものかどうか。もし合意されていないとするのならば、今後どういう手段方法で、いつ、それを合意されようとするのか。さらに、そういう合意のできていない条約であるならば、それは不完全なものであるから、調印を取り消して、あらためて再検討することが絶対に必要であるが、総理は、そういう手段方法をとらないのかどうか。
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/30
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031・岸信介
○国務大臣(岸信介君) 極東の範囲ということは、先ほどもお答え申し上げましたように、現在の条約にもございますが、本来、極東という言葉自身の意味から申しますと、ばく然としておる地域をさしておることはこれは世界の常識であります。しかし、問題は、この条約の本来の趣旨から、極東というのをこの条約においてどういうふうに使っているかということが問題になるのだろうと思います。そこで、われわれは、これをフィリピン以北、日本の周辺海域を含んでの周辺、こういうふうに解釈をいたしております。この間につきましては、日米の間に特に合意をしたということはございませんが、条約の交渉の過程において、日米の間に意見の相違はないと私は承知いたしております。(発言する者多し)また、今日まで、この問題に関してこれは今も申し上げるように、現行の条約においてもその言葉が使われておるのでありますから、特に今度の条約において変更したという性質のものではないのであります。こういう意味において、特別にその点についての具体的の合意というものはないが、しかし、その間において日米の間に意見の相違はないのであります。私は、そういう意味において、この調印を取り消してさらに再検討する意思があるかという御質問に対しましては、そういう意思は絶対に持っておらないということは明瞭に申し上げておきます。(拍手、発言する者多し)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/31
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032・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 相馬助治君。
〔相馬助治君登壇、拍手]発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/32
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033・相馬助治
○相馬助治君 ただいま議題となりました新安保条約について、私は民主社会党を代表して若干の質問をいたしたいと存じます。
この新条約が純粋に防衛的性格のものであって外部から侵略のない限り実力措置は絶対にあり得ない旨を政府は強調しておりまするけれども、問題は、この条約は、岸内閣の政治生命を越えて、将来十年の長きにわたって決定的な効力を持っておるという事実でありまするし、実に日本民族の運命を左右するものであるというこのことを着目しなければならないと、かように感じます。しかも、問題なのは、この一つの新安保条約に対しまして、国民自体はどういうふうに見ているかということです。政府並びに自民党は、日本の平和を守り、国の発展と国民の幸福のためには、この条約が絶対に必要だと強調します。野党は、ただいまの佐多氏の質問にも明らかでありまするように、これこそ日米新軍事同盟であって、このことは新たなるところの戦争の淵に日本民族を追い込む危険性があるということを指摘いたしておるのであります。この間に立って一体国民はいずれに耳を傾けるべきか、いずれを信ずべきか、その判断に苦しんでおることは、岸首相御承知の通りです。質問せんとする私は、私の基本的な立場を申し上げるならば、新安保条約は、政府の強弁にもかかわらず、ソ連、中共との関係一つを見ても、むしろ現行安保条約よりはおそるべき危険を包蔵しているということを直感します。従いまして、同時に、あくまで慎重にこれは国会で審議されなければならない性質のものだということを私は考えます。自民党並びに岸内閣に同情的な国民の一部は、せっかく調印まで済ませたことだから今さら引っ込みもつくまいという立場を当然とろうと思います。しかし、問題は、多くの良識ある国民は、米国との国際信義に反することをおそれるよりも、日本の国それ自体の安全と平和、国民の幸福と繁栄を、より重大な問題とします。(拍手)また、われわれはこれを問題としなければなりません。戦争の暗い影を意識しながら、この国会の審議を不安のうちに見守っている国民に対しましても、どうか首相は十分納得のいくとろのわれわれに対する答弁を行なっていただきたいし、また、おそまきではあるけれども、ソ連に対しても、中共に対しても、率直に日本の立場を説明して了解を取りつけるだけの政治的な勇気ある行動をしないならば、本条約を簡単にわれわれはここで批准するわけに参らないということを指摘しておかなければなりません。
要するに、岸政府は今回、国会を通じて国民の前にこの条約の真髄が何であるかを知らしめる義務があるし、しかもまた、岸さん自身は、外交の要諦は勇敢に現案を直視することであるということを反省されたいと、かように私は思うのです。
お聞きしたい第一の点は、大体こんな時期にあのような内容を持っているところの新安保改定をなぜ急いでやらなければならなかったのであるか。つまり安保改定の緊急性について伺いたいのです。言うまでもなく、現在の安保条約は、占領行政上朝鮮戦争の遺産であって、元来が臨時的、過渡的、不平等な性格を持っています。従って、これを改憲することを私はむげに反対はいたしません。これは早晩、改定なり、そうしてまた、思うように改定できなかったならば、当然これは段階的に解消すべき筋のものであるからであります。しかし、問題なのは、こういう重大な条約の改正にあたっては、当面、責任者として総理大臣は、国際情勢の動向、改廃の及ぼす日本に対する影響、米国、中国、ソ連、こういう関係に対する考察、国民自身がこれをどういうふうに受け入れるか、多方面の認識の上に立たなければならないと思います。ところが、岸首相、これを助ける藤山外相は、特に国民に対するRRは全然これはなっていない。自民党自身もまた輪をかけたように、不思議なことに、国民の前に今事で真実を知らせようとする努力は若干足らなかったのではないかと思うのです。よい悪いを論ずるのではない、よい悪いにかかわらず、要り真実を判断する材料を与える責任が政府にはあるということを、ここで申しておるのです。大体岸内閣のやってきた外交政策は、そうして、今般のこの改正は、対内的人気取りが動機でありましで、十五ヵ月前にまあ改定の話し合いを持っていき、そして改定が近隣諸国に与える影響を顧慮することなく、国民の動向をしざいに知ることなく、こうしで秘密独善のうち
に今日を迎えたのです。で、私どもはたびたび岸政府に向かって、交渉を凝結し、そしで調印強行をしばらくやめて、少なくとも五月中旬に予定される東西四巨頭会談の成り行きを見守り、
一方、国論の統一をはかり、対中ソ外交の打開に努力して、しかる後この調印をするならする、しないならしない、かようなる手段に訴えるべきごとを指摘していました。しかし、ここに議案となって提案になったこの段階において私が承りたいことは、すなわち、新条約の緊急性、そして、しかもこれに関連して国際情勢をどう考えるのか。今が一番タイミングが合っていると岸さんがお考えになっているならば、さように国民の納得するような説明をお聞きしたい。六月二十日ごろアイゼンハワー大統領が来るということでありますが、その機会、にまた再検討する意思があるかどうか。そしてさっき問題になった極東の問題や何かについて話し合う用意があるかないか。そういうことも含めて第一点の質問にお答え願いたい。
質問の第二点は、われわれが今日解釈に苦しんでいる改定の方向です。外相の説明によれば改善されたと申しておりますが、これはさっぱり改善されていない。もちろん今の世界平和というものは米ソ両陣営の力のバランスの上に成り立っていることを国民の多数は知っています。従いまして、反米にこり固まった一部の矯激論者がこの安保条約を一方的に無条件にけとばせなんということを言っても、そうそう国民は調子つきません。それは良識をもって見ています。しかしながら、問題は、現行の基地貸与の性格を持つ条約から前進して、三条においては防衛力の維持増強の約束をしています。五条においては、アメリカ軍に対する攻撃に対しての共同防衛の約束をしています。六条においては、ただいま問題になりましたが、極東の平和のために、安全のためにと称して、海外出撃のために日本の基地を米軍に便宜を供与することを規定しています。これらは一体改悪なのですか、改正なのでしょうか。それがただいま外相の提案説明にあるように、日本が発意して、日本が頼んで作り上げた改定であるというのであるから、若干これは考えざるを得ない。やぶをつついてヘビを出すとはこのことであって、かようなるばかげた外交はやめてくれと国民の一部は言っていることを、岸さんは知っているかどうか。(拍手)知っているとするならば、この際改定がなぜ必要なのだ、それでこれが明らかに改正なのだ、しかも国際情勢上こうすることがやむを得なかったのだというようなことを含めて、一つ国民の納得のいくような答弁を願いたい。特に極東の問題について、佐多さんはまだ不満でしょう、国民の多くはまだこれで不満だと思うのです。けさの朝日新聞の天声人語に、「バカ陽気のかげんか、極東がふくれたり縮んだり」とひやかしている。これは国内で一部ジャーナリストのひやかしている問題でありますけれども、国際信義上実にこれは重大な問題である。従いまして、この問題を含めて、なぜこれが改正であるか、積極的に説明をお願いしたい。
第三に尋ねたいことは、今度の改正によって、ただいま申しましたけれども、かえって、欠点を除去したと申しておりますけれども、米軍の海外出動に関するもの、特に第二の米軍の装備の変更に関するものについては、私はどうにもわけがわからない。それはどういうことかと申しまするならば、一体、事前協議というけれども、結局戦争ばのんきな“ものでないのであるからして、これは非常に厳粛なものであると同時に力関係です。で、実質的に今度の事前協議が現行条約とどこが変わっているのだ。まるきり変わっていない、改悪されていると私は指摘をいたします。もともと私は、アメリカが国連憲章に反して武力風格の国だなどという前提に立っているのではありません。そういうことでなくて、まじめに考えてみて、どうにも今度の事前協議というものが一体われわれには理解できないし、しかもこれに関連して私は、岸さんが国民に納得をさせるならば、はっきり言ってもらいたい、どういうことかというと、アメリカが台湾で中共と事をかまえたり、ソ連と一朝事ある場合には、文句なしにわれわれはアメリカと命を一つにするのだ。ここで戦死するのだ。みんなして玉砕するんだということならば、私どもは反対だし、とんだ迷惑なことですけれども、もしそうであるなら、これは、はっきりとマクミランやアデナウアーがこういうことについてかなり正直に言っているように、自信を持ってあなたは民衆に説くべきです。岸さんがこれは頭のよいことは定評があるが、最も定評のある悪い点は、かつてのセシル・ブラウン記者との対談で、はしなくも本質の一端を暴露したごとくに、一方に対しては、アメリカに対して一辺倒の言質を与えておきながら、国民に対しては、さもさもアメリカに対して自主性を持っているかのごとく説きたてているこの態度なんです。こういうことを考えるならば、どうか一つ、あなたがなぜこういう軍事同盟的なものに割り切らざるを得なかったか、このことを正直に自信を持って国民の前に説いてもらいたい。
われわれの次の質問は、このたびのソ連の申し入れに対しましては、わが党は強くこれに抗議をいたしました。また、この種の問題に対しては、ソ連といえど顧慮することなく、われわれは断固として民族のこの意思というものを尊重されるべきだと思います。しかし、問題は、こういう条約ができるということになれば、当然ソ連や中共が黙って見ているはずがないということは、これは常識であります。しかも、また、こういう体制でしかけられて、これらのものが黙って見ているわけのない証拠が、今度の一つのソ連の攻撃です。問題は中国です。中国がより私はこの安保問題に対して重要な警戒をもって見ていると思うのです。今後この中共がどのような態度に出て来るとあなたはお考えになり、どのような予測をされているか。そうしてこの際、何か積極的に手を打つ構想があるかどうか。この点を一つ私は伺っておきた請いと思うのであります。
事前協議の第二の点の米軍の装備について、核兵器、ミサイル等を協議の対象にしてありまするが、これは不思議なことです。もともと岸内閣は、核兵器持ち込みは絶対反対だと言っている。反対だと言っているならば、こんな協議の対象にする必要はない。協議の対象にしたということは、事と次第によっては、事前協議によって、核兵器、ミサイルを日本の国に持ち込む意図があるということを、これは予告していることは明瞭です。これは実に疑問と言わざるを得ない。なぜこんなことになったのか、その間の経緯というものを私は説明を聞きたいと思うのです。
なお、時間もありませんが、最後にどうしても聞きたいことは、そうしてこれはあらゆる論者によって論じられたので、私は質問とともに一つの提案を用意しております。十年の期間の問題です。大衆の賢明な判断というものは、どうしてもここ数年間に予想される国際情勢の変動、兵器と戦略体制の革命的な変化、こういうことを考慮して、十年は長いと、こう言い切っている。これは実に軍事専門家その他の専門的な見解と、くしくも一致している。なぜ十年という固定期間がこの際必要なのか。これを一つお聞きしたいと思うのでございます。
私は次に、池田さんにお尋ねをしたい。自民党の代表が経済問題について首相に聞きましたが、深くこれについてお答えにならないところを見ると、あまりこれは深く触れたくはないのかもしれない。そこで私は、方向を変えて池田さんにお尋ねをするわけなのでありますが、この条約によって前文及び二条に経済的協力を定めておりまするけれども、一体実際にこの条約の改定によって日本に経済的ないかなる利益がもたらされるかという問題です。昨年の十月の十三日、ダグラス・マッカーサー大使が日本と米国との相互依存について横浜で演説をしている。そこでは、軍事的な協定よりも経済的な協定をしてお互いに発展していこうというようなことを述べており、岸政府はこれを受けて、新条約締結を機会に、日米の経済関係を飛躍的に好転せしめて、日本の民生の安定を守るのだと言っている。そうして今度の代表にも、経済関係の代表を連れて参られたようです。ところが、結果的には、今はっきりしていることは、経済的な実効が何一つわれわれには不明にして読み取れない。そういう意味で、一体実質的にいかなる利益のあるどのような取りきめが行なわれたかお聞きしたいのです。特に私は首相に追加して伺いたいことは、一体、日米経済協力会議の議がどこでふつ飛んでしまったのか、向こうが希望されたのか、こちらが遠慮をしたのか、将来の懸案として残っているのか、この点についてお尋ねをしたいのでありますが、池田さんに聞きたいことは、この問題を契機にするところの「国際経済政策におけるくい違いを除く」と規定していることは、一体具体的に何を意味するかという問題と、しかも今回どろなわ式に貿易の自由化政策を掲げておりまするけれども、この政策が、明らかに軍事産業、独占資本の利益に奉仕することは明瞭であるが、逆に日本の中小企業や農業に対しましては非常に大きな負担を与えることが論ぜられており、かつまた実証されんとしておるのであります。かような意味合いから、われわれは、現在の岸内閣の経済閣僚の有力者として、この貿易自由化の問題を中心として、一体、本協定との経済的関連をいかように把握するか、承りたいのです。最後に池田さんに尋ねたいことは、先般、一月五日初閣議後に、中共との国交回復の話し合いを調印後にやらなければならないという卓見をあなたは表明されました。そして、かっさいを受けたのです。いよいよ調印されました。あなたはどのような具体的案をもって、この中共問題に当たらんとするのか、この際、その構想を承っておきたいと思います。(拍手)
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手]発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/33
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034・岸信介
○国務大臣(岸信介君) 第一点は、今日の国際情勢全般から見て、この改定はそう急ぐ必要はないじゃないか、これを急いでやる理由がどこにあるかという御質問でございました。国際情勢の分析につきましては、過般来、本会議場におきまして私の所信を申し述べて参ったのであります。今日、東西両陣営が相対立しており、その間の懸案を話し合いによって解決しようという情勢が生まれてきていることは、私ども非常に世界平和を願う上からいって望ましいことであり、これを進めていかなければならない。しかし、懸案の事項の多くのものが、なかなか短い期間にこれが解決するという情勢ではない。この間において両陣営とも、おのおの共産圏は共産圏として強い団結のもとに立ち、自由主義の国々も強固な協力関係を作って、そして話し合いに臨んでいく、こういう情勢に立っていることは、御承知の通りであります。私どもはこの意味において、自由主義国の間の連繋協力をとる体制として、安保条約というものの体制が現在あるのでございます。しこうして、この現行法につきましては、今、相馬委員も御指摘になったように、成立の当時から、ての不平等性であるとか、あるいはアメリカ一方によってやって日本の自主任が認められておらないというようなことが、ずいぶん論ぜられて、たとえば自主性の問題について、あるいは核兵器の持ち込みを認めないと私が言明しておることに対して、一体、現行の安保条約においてはそういう根拠になるような規定もないじゃないか、どういう点で拒否するのだというふうなここも論議されたことは、御承知の通りであります。そうして一日も早くこれを対等性を持った、また日本の自主性を持った条約に変更しなければならぬこいうことは、国会におきましても、私は野党の諸君から常に強く要望されてきたことであります。これに対して、政府としてはこれが検討を進め、こういう重要な問題でございますから、長年の間この問題に関しては、日本両国において相当の機関において話し合ってきた。その結論を得たのが今日のわれわれが調印したこの条約でございます。従って、日米の協力を明確に定めた、そうして対等の立場におい、日米の協力を明らかにしたところの条約を作ることが、国際情勢に反しておるということは、これは現実の国際情勢を理解するならば、決して反しておるものではない。かように考えます。また、この不平等性を一日も早く改めたいということは国民の多数の要望であることを確信いたしておるものでございます。次に、改定の方向について極東の安全と平和あるいは相互防衛義務、バンデンバーグ決議等に関連して、これはいい方に改められておらないじゃないかという御質問でございました。極東の安全と平和という言葉は、実は現行の条約にもそのままあるのであります。日本にある米軍の基地から、極東の安全と平和が他から侵害された場合において、米軍が出動し得るということは、現在の条約にもそのままあるのであります。ただ、その場合において、日本の自主性というものは一つも認められない、日本の意思を問わず、米軍は勝手にできるように現行法はなっております。この問題は、先ほど来論議されているように、日本の安全と平和、日本が不当に戦争に巻き込まれるような危険があるのではないかという国民の懸念も考えまして、これを事前協議の対象として、日本は自主的に、日本の平和と安全に関係のないような場合におきましてはこれを拒否していくという根拠を明らかにいたしたものでございます。それからバンデンバーグ決議という、新たな実質的な義務を負うたものでない、憲法の範囲内ということも明瞭にしておりますし、われわれの防衛力の増張は、従来しばしば言っているように、国力と国情に応じて漸増するという基本方針を自主的にきめるものでありまして、この条約によって新たな義務を負うものでないことを申しております。また、相互防衛義務にいたしましても、この条約の条約地域は日本の施政下にある領土だけに限っておりまして、日本が本来自衛権を持っておる範囲内のものでありまして、決してこれによって日本がいろいろな危険を負担すると考えることは適当でないと、かように思います。極東の意義に関しましては、先ほど佐多議員の御質問にお答えいたした通りでございます。
次に、極東の問題に関して、日米が軍命協同体的な考えに立つのではないかという御質問でございましたが、この条約は、言うまでもなく、日本の領土が他から不当に侵略されないということを、それを防衛するための条約であり、それと不可分の関係に立つような極東の平和と安全を確保することに寄与するという意味でございまして、米軍が出ていく場合においても、日本の自主的立場から日本が拒否する場合もございますし、決して一切のことをあげて日米が運命協同体になるという意味ではございません。
ソ連の覚書に対しましては、相馬議員も政府がこれに対して回答を出しておるような趣旨において御了承のようでございますが、私どもは、やはり日本の外交政策や安全保障体制というものを自主的な立場から作り、また、この領土の問題については、すでに共同宣言にあることを守っていくということが、両国の信義の上から当然であり、また、友好親善を進めていく上において、そういうことに対しては、両国ともに相侵さず、相干渉せずに、そうして理解を進めていくということは、私は国際平和の上から最も望ましいことである。今日、いわゆる東西両陣営の間の話し合いと申しましても、両方の立場をおのおの尊重し、そうしてこれは相侵されないということが基本になっておるのでありまして、一方が一方に対して自分たちの体制を押しつけようとするような考えであるならばこれは絶対に世界平和はこないのでありまして、そういう意味において、共産圏とのわれわれの交渉は、今後日本の立場というものはきわめてこれではっきりいたして参るわけでありまして、その立場に立って、私どもはソ連や中共に対しましても十分理解を進めていくように努力をしたいと思います。
核兵器の持ち込みにつきましては、しばしば言明をいたしておる通り、私どもは、この事前協議におきましても、これははっきりと拒否する考えでございます。
さらに、十年間の期間の問題につきましては、この種の条約をごらんいただきますというといろいろな先例がございます。あるいは三十年とかあるいは二十年とかという長いものもありますし、あるいは一年というような非常な短期のものもございます。私どもは、今回のこの条約というものは、やはり理想として、国連における安全保障機構ができることがわれわれは望ましいことであり、これにできるように力を尽くす。しかし、それができない間においての補完的な意味においてこの条約を作っておるわけでありまして、しかも、こういう条約の性格から申しまして、一定の安定した期間を持つことが望ましいという見地から、まあ十年ということを、数学的に十年はいいが八年じゃどうだというふうなことは、これはまあ大体常識的な立場から十年ということを相当だと考えたわけであります。
それから、経済協力についての両方の協力する機構についてどう考えておるかというお話でございます。この点は、アイゼンハワー大統領と私との会談の際にも、日米の間における経済協力を進めていくためには、継続的に両方が協議するような機構を考える必要があるということを申して、大統領も大体それに賛意を表しております。私どもは、一面においてアメリカの特殊の国情もございます。また、日本のこういうものに対する特殊の事情もございまするので、一面に政府のレベルにおける交渉なり協議をどういうふうに進めていくか、また、それを裏づけるような民間の機構をどういうふうに考えるか、ということを現在検討いたして参っております。将来において、具体的な方法を、両国の状況に応じた適当な方法をとっていきたい、かように思っております。(拍手)
〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/34
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035・池田勇人
○国務大臣(池田勇人君) お答え申し上げます。
御質問の第十点は、安全保障条約第二条の国際経済政策における食い違いを除き、両国間の経済協力を促進する、こういうことでございます。御承知の通り、ただいまは日米通商航海条約によりまして、その精神にのっとり、通商並びに経済協力を進めていっております。最近におきましては、われわれの願望でありましたアメリカ合衆国への輸出超過、こういうことも実現されまして、昨年のごときは前年に比べて五割の輸出の増に相なっておるのであります。こういうふうに両国間の経済協力は非常に進んでいっておるのであります。しからば、今経済政策における食い違いがあるからという問題になりますると“根本的にはございません。根本的にはございませんが、しかし、両国間には、必ずしも、しさいな点に利害が一致しておりません。あるいは関税政策、貿易政策等でございまするが、こういうものを将来にわたって除いていって、両国間の経済緊密を強化しようというのが安全保障条約の精神であるのであります。
御質問の第二の、貿易の自由化と今度の条約とは関係があるか。これは関係がございません。貿易自由化は、日本の経済を今後ますます強力にして、そうして世界貿易の発展に貢献するためにぜひ必要な問題であるのであります。従いまして、本協定とは関係なしにわれわれは進めていきたいと考えております。
次に、日中貿易についての今年初めにおける私の談話でございます。私は、従来から、日中並びに日ソの貿易を拡大するということは念願しておるのであります。この気持は、外務大臣の善隣外交のあの言葉と同一でございます。(拍手)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/35
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036・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 石田次男君。
〔石田次男君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/36
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037・石田次男
○石田次男君 私は、ただいま行なわれました、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の締結について承認を求めるの件ほか一件に関する趣旨説明を承り、ここに本案が、世界及び東洋における平和並びに日本の安全をめぐって、種々の問題を提起いたしており、かつ、これからの日本の国家的民族的命運を制する大きな課題であることにかんがみ、きわめて限られた時間ではありますが、国民諸氏の声を声として、若干の質問を行ないたいと思います。
まず、条約文中の極東の解釈についてでありますが、政府の統一見解は、中国沿岸と沿海州を除く、こういうことでありますが、日本側の一方的見解では条約とは言えないのであります。この見解は、衆議院予算委員会の席上に初めて打ち出されたものでありまして、わが国の一方的見解であると思うのであります。この見解によりまして、はたしてアメリカを拘束することができるのか。また、近い将来、日米合同の統一見解たらしめることができるのであるかどうかを、まず最初に首相にお伺いいたします。
次に、藤山外相にお伺いいたします。現在、日本はMSA協定によりまして、防衛力漸増の義務を負っております。また、ここに新条約第三条にバンデンバーグ決議条項を盛り込んだことによりまして、はっきりと防衛力を増強する義務を負うと考えられます。すると、わが国の防衛能力の決定は、日本側の自主的な決定のほかに、少なくとも極東の平和と安全の維持に必要であると考えるアメリカ側の意向にも束縛されまして、軍事的にも経済的にも相当自主性を失って、アメリカに支配され隷属させられるという重大結果を生むことになるのでありますが、このことは条約の対等性を主張なさる今までの政府の説明と違ってくると思わざるを得ません。この点の疑問をぜひ明らかにしていただきたいのであります。
次に、新条約第三条は、「憲法上の規定に従うことを条件として」、そううたってはおりますものの、その骨子におきましては、相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持し発展させることを規定しておるのであります。ゆえにこの規定は、直接または間接にアメリカに対する防衛力の援助を義務づけられたことでありまして、海外派兵や他国に対する武力攻撃があり得ないといたしましても、他国に対する防衛力援助それ自体がすでに現行憲法違反ではないか、このように世論は追及しているのであります。よってこれに対する外相の所見をお伺いいたします。また、この第三条が存在することによりまして、一朝有事の際には、日本国とかかわりのない、いわゆる極東におけるアメリカと第三国間の紛争に対して、わが国の自衛能力が直接または間接に海外へ進出することを余儀なくされるのではないか、それによってわが国が機械的に戦火に巻き込まれる羽目にならないか、これが国民全体の最大の心配であります。ゆえに、本日のこの席上において、国民全体が納得できるように、外務大臣の明快なる御答弁をお願いするものであります。しかして、その事態を憲法第九条との関連においてどのように説明されるのか、あわせてお伺いをいたします。
次に、事前協議についてお伺いします。総理は、協議のときノーという場合には、アメリカは、日本のノーに反して行動し得ない。岸・アイク会談でもこの点を再確認したと、こう言っておられる。これは単に両者の善意に基づいた了解であるというのであっては、事前協議の意味は全く空虚となり、将来何の役にも立たないのであります。この重要事項が条約本文であえて明らかにされなかったということについて、国民が非常に大きな疑問を抱いていることは周知の通りであります。また、アメリカ側の世論と国防省筋は、拒否を義務として認めるものではない、このように述べているとも伝えられておるのであります。よって総理にお伺いいたします。日本のノーという意思表示に対して、アメリカは拳約上行動できない法的義務を負うのかどうか、お答えを、法的義務は存在する、法的義務は存在しない、この二つのうちの一つでお願いいたします。
次に、外相に、施設、区域新協定ついてお伺いします。過去八年間の事実が示しておりますように、ふだんは条約よりも行政協定の方が国民生活に密接な利害関係を持っていたのであります。新協定では、旧協定にあった海上事故の補償を除外しておりますが、このために、将来種々の問題を起こすおそれが十分にございます。前より改善したといいましても、こうした種類のいろいろな問題が起こってくることは必至でありまして、今まで通り国民の被害は絶えないにきまっているのであります。よって、この協定につきまして、必要に応じた改善のために、今後長く何らかの交渉を継続し得る余地があるのかどうかを伺いたい。もし交渉継続はできないとあれば、それは外務当局の手抜かりと考えざるを得ませんが、いかがでございましょうか。
また、条約期限でありますが、軍事科学の進歩は、今の一年が昔の一世紀に相当するものであります。過去十年の歴史を見ましても、一々例をあげるまでもなく、外交事情、戦略事情の変化は大へんでございます。こうした中で十年据え置きは、全く、よく政府がおっしゃる現実に合いません。外相の所見はいかがでございますか。また、続いて外相にお伺いいたします一対共産圏諸国との外交と通商とについてでございますが、その中でも、特に中共とは、同じ東洋に隣り合わせた日本の宿命として、絶対に打開をはかっていかなければならない必要があるのであります。これがまた日本の安全を保障する一つの大道でもあります。(拍手)過般来、政府も若干これに触れておられました。よって、その具体的な方針と内容があるのかどうか、あるならば、ここではっきりと示していただきたい。また、相手は、安保改定は外交と通商を阻害する、こう言っておるのであります。それはたとえ政略的な意図の発言であるといたしましても、新条約に対する共産圏の誤解を解こうとする政府の努力が不足しているのは納得できないのであります。その端的な現われが、去る五日のソ連覚書への回答の際、山田外務次官とフェドレンコ大使との二時間余にわたるあのやりとりにもよく出ていたではございませんか。この外交と通商とに対する有害性を今後どう処理していかれるのか、そこを教えていただきたいと存じます。
次に、防衛庁長官にお伺いいたします。長官は去る六日に、大戦はまず起こらぬが、局地戦は起こらないという保障はない。日本は島国だから、空からの直接侵略をはね返す必要がある。そのためにロッキードを採用した。こうおっしゃっておられましたが、あなたが長である防衛庁では、極東のソ連空軍は四千機、中共は三千五百機、北鮮八百機、国府軍でさえ六百機を持っていると発表しております。これでは、すぐ時代おくれになるロッキードの二百や三百で侵略をはね返すも何もないでありましょう。ロッキードこそ、まさに一九六〇年代のまことに高価な竹やりではございませんか刀直接軍備は日本では無理でありましょう。いかがですか。むしろ軍備をアメリカにまかせて、おくれているレーダー網の新装などに頭を切りかえるべきではございませんか。
これに関連して首相に伺います。今、明らかにしたように、ロッキード等は明らかにむだでございます。国家予算の一割もこんな調子で防衛費に使っているのでは、これは全く捨て金であります。この防衛費こそ思い切り削減いたしまして、これで社会保障費、国土建設費等の内政の重要面に回し、よりその方面を充実すべきであります。いかがでございましょう。
また、首相にお伺いいたします。安保体制があるからといって、軍機保護法、防諜法、徴兵制度、警職法、これらを実施しないことを確約していただきたい。これは国民諸氏の熱望でございます。
最後に、首相にお伺いします。安保条約は、日本の安全を絶対的に保障する力はございません。ただ、米・ソ・中共間の平和だけが真に日本の安全を保障するものであります。米ソ関係が悪化すれば、たと、え安保条約が百あっても、逆に双刃の剣となりまして、わが国の存在を脅かすでありましょう。政府は、将来国連による安全保障ができることを望んでおられるのでありますから、将来この条約を必要としない国際情勢、これを作らんがために、はたして政府は、今後どのように国連等において働きかけていくのか、その方策を具体的に国民に示していただきたいのであります。
以上で私の質問を終わりといたします。(拍手)
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/37
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038・岸信介
○国務大臣(岸信介君) お答えをいたします。極東の意義につきましては、先ほどお答えを申し上げました通。でありましてこの点について、先ほどもお答え申し上げましたように、日米間において見解の相違はございません。
次に、事前協議の意義につきまして、日本が拒否した場合に、アメリカがこれに反した行動ができないということは、条約上の解釈として当然出てくるのかどうかという御質問であります。これは条約上の解釈として当然出てくるととろであります。
警職法や防諜法などを、これと関連して将来やらないということを明瞭にしろという御質問であります。私は、警職法であるとかあるいは秘密保護法とかいうような問題が必要であるかどうか、またそれを制定する場合において、どういうふうに慎重にやらなければならぬかというようなことは、日本が日本の国内の情勢とにらみ合わせて別個に考えるべきものであって、この安保条約とその間に関連があって、安保条約をやれば当然やらなければなら、ぬとか、あるいは安保条約をやって、将来そういうものは絶対にやらないのだというようなことを、ここで明瞭にすることはできないので、やはり国内の情勢を見て自主的に慎重に考えるべきものである、こうお答えをするほかはないと思います。
それから、条約を必要としない情勢、いわゆる世界の雪解けを進めていくのにこれが必要であり、日本が大いに積極的に努力すべきものである。私もさように考えております。それには、やはり国連を中心にしての問題が一番具体的であると思います。国連を通じまして、あるいは問題になっておるこの軍縮問題あるいは核兵器の問題等については、日本が従来進んでいろんな提案もいたしておりますし、協力用いたしております。また、この東西両陣営の間の問題から、ひいて局地的な紛争等が各地に起こる場合において、国連を通じてこれらを平和的に解決するという努力も従来やっておりますが、こういうことを一そう進めていく、日本が重要な国連のメンバーの一員として、あらゆる機会にこれを努力していくようにいたしたいと、かように考えております。(拍手)
〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍手]発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/38
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039・藤山愛一郎
○国務大臣(藤山愛一郎君) MSA協定によっても、あるいは今回の条約改正によっても、日本が防衛能力を決定するのに自主的に決定することができない何か義務を負ったんじゃないかというふうな御質問であると思いますが、防衛力を維持発展させるということは、それぞれの国が自主的に決定するものでありまして、決してアメリカに束縛されることにはなっておりません。
次に、海外にやむを得ず出て行くようなことが起こってくるのではないのかということだと思います。今回の場合におきまして、日本が攻撃されましたときは、日本自身がこれに対処していくわけでありますけれども、条約の区域が日本の施政下にある領域に限られておりますし、またそういうことのために海外に行くことは必要ないのでありまして、憲法上にも何らの差しつかえはございません。
それから、この行政協定を改定するにあたって十分に注意をしてやりたか、ことに十八条等の問題についての御質問であったと思います。行政協定はむろん国民生活に密着しております問題を取り扱っておるのでありますから、十分これが改定に対しては注意をいたしました。先ほど御質問のありました十八条の海事補償の関係の問題でございます。この問題は、われわれとしてNATO協定を参考にいたしまして、それにのっとって今度の改定をいたしたのであります。この方が全面的に有利であること申すまでもございません。ただ海事上の問題につきましては、日本の特殊事情といたしまして、ノリあるいは定置網等の問題がございます。従って、これは陸上の扱い方と同じ扱いでいけるのでありまして、いわゆる海事審判という大きなワクの中で扱わないでも参れるわけでありますから、この点については、零細企業者等の立場を考えますれば、陸上処置で今後扱って参りたいということであります。その細部のいかなる手続をするかというふうな点については、ただいまアメリカと実施面の方で打ち合わせを進めて参ることにいたしております。
十年の期限につきましては、総理からたびたび御説明がありました通りでありまして、私どもは、この種条約を友好国と結びますのには、一定の安定的な期限が必要であると信じておりまして、十年が現在においては適当であるというふうに考えております。
中共との関係がこの安保体制を結ぶことによって何か影響を受けるのではないか、またそうでないとしても、中共の問題については十分関心を持っていくべきではないか、誤解を解くべきものは解いていったらどうかという御質問の趣意だと思います。私ども中共との関係を調整いたして参りますことは、ぜひとも将来にわたってやって参らなければならぬことであります。また中共側も反省してもらう必要がありますし、日本側においても反省することは反省しながら、お互いに相互に反省をしながら考えて参りますことが、一番大事であろうかと思うのであります。そういう意味において、外交方針の演説にも触れておきましたので、御了承願いたいと思います。(拍手)
〔国務大臣赤城宗徳君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/39
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040・赤城宗徳
○国務大臣(赤城宗徳君) お答えいたします。
ソ連に相当な飛行機があり、中共にもあるから、攻められたら何にもならぬから、ロッキードなんかやめにしたらどうだ、軍備はアメリカにまかせておけばいい、こういう御質問でございます。私は、日本の国土、日本の国民、この平和と安全は、やはり日本みずからが守るという意思が確立しなければ、そうしてまた、その方法をとらなければ、やはり国際的な信頼というものもこれはあり得ないと思います。そういう意味で、日本自体が守るという体制を整えたい、こういうことでありますが、その中で御指摘のように、やはり空に対する防備ということが日本として一番必要だろうと思うのであります。これも外へ攻めていくということでなくて、迎撃機で、迎え撃つものでありますし、性能としても非常にいいものでございます。これは日本ばかりでなく、カナダも、西独も、あるいはオランダ、ベルギー等においても、ロッキードを採用しております。しかし、お話のように、これが民生安定の上に害になるというようなことは極力避けなければならないと思います。しかし、りっぱな機能を備えているものをもって日本みずからが守ると、こういう体制を備えて参りたい、こう考えております。(拍手)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/40
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041・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 佐藤尚武君。
〔佐藤尚武君登壇、拍手]発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/41
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042・佐藤尚武
○佐藤尚武君 私は、参議院同志会総会の意向を体しまして、現に問題となっております新安保条約並びにこれに付属しておりまする協定等の承認について、総理大臣並びに外務大臣に対しまして、二、三の点について質問をいたしたいと思うものであります。
この条約ないし付属の協定等につきましては、いずれ委員会の審議に付せられることと思いまするので、その内容の詳細の点につきましては、当該委員会において審議の際に私も意見を開陳する機会を持ちたいと思うのであります。従いまして、本日はこれらの個々の問題に触れることは避けまして、本条約締結の大綱についてのみお尋ね申し上げたいと存ずるものであります。
私は、根本問題として、日米両国間の安保条約の存続を必要と考えておるものでありまするが、今次の条約改定を機として、安保条約の存続に関し、国論が真っ二つに割れておるという形を呈しておりまするのは、まことに遺憾にた、えないところであります。しかし、国論の統一を欠いておるのが現実であるとしまするならば、この現実の上に立って、条約の改定ないしは存続そのものに対して論ずる必要があるのであります。しかちば、今、存続に反対する論者の根拠はいずれにあるのか、また条約の存続に賛成する人たちの論拠はどこにあるかということ、こ根本問題を明らかにして、そうして国論の帰趨を誤わなからしめることが、この際、政府としての最も重要な責務であると考えるのであります。政府は、はたしてそういう問題についてどういう考えをお持ちであるか、根本論としてお伺いしたいと思うのであります。
私の見るところをもってしまするならば、賛否両論の分かれ目は、現下の国際情勢に対する判断のいかんにかかっておると思うのであります。条約に対する反対論の多くは、中立論にその根拠を置いているのでありまするが、この中立体制は、またソ連、中共の日本に強要するところでもあります。さらに進んで、ソ連、中共は、他の諸国とともに、日本の中立を尊重する用意があるということまで通告してきております。もちろんわれわれといたしましても、この二国の中立尊重の約言にのみたよることはできないのであって、米英仏その他カナダ、豪州等の太平洋に重要な利害を有する関係各国の保障もまた絶対必要となってくるのであります。また、これら諸国の保障ばかりでなく、違反者が出た場合にどうするか、違反者の出た場合、自余の国々が協力して侵略者を懲らし、かくして中立を維持するのでなければ、日本の安全はとうてい保たれますまい。しかるに現在の国際情勢下におきましては、この種の強固な中立体制の実現というものは不可能事と断ぜざるを得ません。また、中立論の前提条件は、安保条約の解消、米駐留軍の撤退であることを指摘せねばなりません。駐留軍撤退の後、いまだに自衛力の貧弱なわが日本が、かりに不完全な中立体制のもとに置かれ、ソ連、中共両国の保護にのみたよるというような羽目に陥ったとするならば、その結果は何でありましょうか。問わずして明らかであります。その場合、自主独立の日本は立ちどころに霧散してしまい、赤化された日本が残るのみでありましょう。(拍手)はたしてしからば、言ふところの中立論なるものは容共論であり、赤化論に通するものと考えられます。その点、政府はどういうようにお考えになるか、伺いたい。
私は、何も好んで、世界赤化のまぼろしをまぶたに浮かべ、みずから画いた幽霊におびえておるものではありません。現実の上に立って論ずるばかりであります。しからば現実とは何か。第二次大戦の数年前、すでにバルト三国は赤化されたではないか。大戦の終局に近づいてポーランドがまず第一にやり玉にあげられ、ソビエト化されておる。次いでルーマニア、ブルガリア、チェコ等も同じ運命をたどったのであります。みなソビエトによって赤化されたのであります。今日では世界の情勢は少しく緩和し、世間ではいわゆる雪解け気分を謳歌する向きもあります。昨年九月フルシチョフ首相の米国訪問の際、アイゼンハワー大統領との打ち解けた話しぶりによりまして、緩和された雰囲気がかもし出されたのであります。こういう雪解け気分は決して悪いことではなく、私自身もこれを歓迎するものではありますが、さりとて、手放しで喜び、安心するわけには参りかねます。なぜならば、両首脳者の会談によって、終戦後長期間にわたっての米ソ両国のわだかまりが多少緩和されたのは事実であるとしても、冷戦の底に横たわっている氷は一つも解けていないから、私はそう言わなければならぬと言うのであります。(拍手)もしフルシチョフ首相が心から世界の雪解けを欲するものであれば、三年前のハンガリー事件の際、あの際の青年たちの自由復活運動に対して加えた弾圧は、これはソビエトのあやまちであったということを自認し、これを矯正する手段を講じなければならなかったはずのものであります。しかるを、事ここに出でず、今日まで弾圧が解消されていないというのであってみれば、フ首相の言にはこれを裏づける実績が伴っていないと言わざるを得ません。(拍手)いわんや向ソ一辺倒の政策に終始しておる中共の最近チベットに加えた武力干渉に至りましては、それこそが雪解けとは全く逆行した政策の現われと言わざるを得ないのであります。
新条約の締結に際し、ソ連は日本に対して、その驚くべき発達を遂げたロケット、核兵器の脅威をほのめかし、そうして本条約の侵略的傾向を指摘して、その締結を阻止せんとしております。この条約は言うまでもなく、外国の侵略を受けたときに初めて発動するものであり、みじんも他国を侵略する意図に出ていないものであることは申すまでもないことでありましょう。加うるに、世界平和の維持機構であり、日本も加盟しておるところの国際連合の憲章を尊重し、その原則のワクの中で結ばれた条約であることが明確に規定されておるところから見ましても、本条約は平和的防御的の性格に終始するものであるということがわかるのであります。
世界随一を誇る超強大ロケットをもってこの国に脅威を加えんとするがごとき言動、これはまことに言語道断の措置と言わざるを得ません。なるほど、強力なロケット、核兵器の正確な一撃によってこの日本が潰滅させられるであろうことは、今日では疑いの余地はありません。しかし同時に明らかなことは、日本の潰滅は一日本の潰滅にとどまらないのであって、日本に加えられたる一撃は直ちに世界戦争にまで発展することを意味します。その結果、攻撃を受けた世界戦争となった場合に攻撃を受けた国が重大な損害を受けるということは、これはまぬがれないところでありましょうが、これと同時に、長路国もまた、いずれの道、無傷で残り得ようなどとはとうてい考えられないことであります。こうなれば、日本潰滅の日はすなわち世界破滅の日でもありましょう。このことはもはや疑問をさしはさむ余地のないところであり、世界平和維持の重大責任を背負う世界の大政治家たちが、このようなわかり切ったあやまちを犯そうなどとはとうてい考えられないところであります。ある国々がロケット兵器で自国の安全をはからんとすると同じく、日本はまた日本なりに、自国に最も適した方法をもって自国の安全を確保せんとするのは当然の措置と言わなければなりません。(拍手)本条約はかくのごとき見地において締結せられたものと思われるのであるが、はたしてそうであるか。政府のかねて強調するごとく、本条約は自国を脅かされた場合を考慮して自国を防衛せんとするものであり、かつまた国際連合憲章のワク内で締結したものであると、これは政府累次の説明にそうなっておるのでありまするが、もしそうであるとしたならば、国民の大多数も本条約締結の動機を理解し、これに対して賛同を惜しまないであろうことを信ずるものであります。しかしそのためには、政府は一そうの努力をもって国民に対する啓蒙運動を強力に進める必要があると思うのでありますが、政府ははたしてどういうふうにお考えでありましょうか。日本をめぐってのこれら最も重要なる国際情勢について、総理大臣及び外務大臣の御見解を伺いたいと思うものであります。(拍手)
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/42
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043・岸信介
○国務大臣(岸信介君) お答えをいたします。
安保条約の改定に関しまして国論が分かれておる。これを統一する必要があり、そのためには政府として十分に本条約成立の意義を国民に納得できるようにPRをやるべきであるというお考えに対しましては、われわれも全然同感でありまして、今回のこの提案にあたりましても、国会において十分御審議を尽くしていただいて、こういう重要な事柄でございますから、与野党ともに十分に審議の効率をはかりながら一切の審議を尽くすというこの方法によりまして、国会を通じて国民の納得を進めていくようにしなければならぬと思います。この条約の賛否の分かれる前提として、いわゆる国際情勢の認識を異にしておるという点を御指摘になりましたが、私も全然そう思うのであります。また、中立政策、中立論というものが反対する人々によって唱えられており、その方法によって安保体制をなくすべきであるという議論がございますが、安保条約によって、現在の不備の条約によってすら、過去十年に近い間、日本の安全と平和が守られ、そうして日本の経済が繁栄し、国民の生活が向上してきたことから考えましても、私は安保体制というものをなくするということは、日本にとってそういうことをすべきものではない。ことにいわんや、いわゆる中立論ということが共産主義の国々から唱えられておりまして、いろいろ日本の国内に対しても働きかけておられるのでありますが、今日の国際情勢の現実から見て、いわゆる中立政策というものが実際にその効果をあげることのできないということは、世界の各国においての、中立政策をとっておる国々の実情を見ましてもはっきりしておりますし、ことに共産主義の国々からそういうことを日本に働きかけておりますけれども、一方、共産主義の国々のうちにおいて中立政策をとろうとするような国に対しましては、それに対して強圧が加えられておって、それは共産主義の国々の団結を弱めるものとして、これに対してはソ連等が従来強く反対してきておることも現実でございます。こういうことから見ましても、中立政策を中共産主義の国々が自由主義の国々に対して働きかけておる真意がどこにあるかということは、十分に私は理解すべきものだと思います。本条約は、あくまでも国連憲章を尊重し、そのワク内において定められておることは、この条約の各所にそのことが明瞭にされております。明瞭にされておるのみならず、日本は国際連合の一員として、現実に今日まで国際連合憲章の精神にのっとって世界の平和を進めるためにあらゆる努力をしてきております。実績を示しております。今日大事なことは、私どもただ口に平和論を唱えたりあるいはいろいろの理想を説くだけではなくして、それを現実にいろいろな問題において実践していく、そこに世界の人々が安心を持ち得る。ただ、そういう理論を説くだけでは、私は決して世界の平和が来るものだとは思わないのであります。
こういう意味におきまして、この条約はあくまでも平和的のものであり、防衛的のものであり、国際連合憲章のワク内において定められておるものであり、また日本は、そういう意味において、過去においても実践をしてきておるが、将来においても平和を守るという崇高な目的に向かって積極的な努力をするものであるということを、十分一つ国民に理解していただくように、今後も政府として努力するつもりでおります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/43
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044・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) これにて質疑の通告者の発言は全部終了いたしました。質疑は終了したものと認めます。
議事の都合により、本日はこれにて延会いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/44
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045・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
次会の議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午後一時三十分散会
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○本日の会議に付した案件
一、請暇の件
一、人事官の任命に関する件
一、原子力委員会委員の任命に関する件
一、労働保険審査会委員の任命に関する件
一、日程第一 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の締結について承認を求めるの件及び日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の締結について承認を求めるの件(趣旨説明)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103415254X00619600210/45
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