1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十九年五月十四日(木曜日)
午前十時五十八分開議
出席委員
委員長 田口長治郎君
理事 井村 重雄君 理事 小沢 辰男君
理事 亀山 孝一君 理事 澁谷 直藏君
理事 田中 正巳君 理事 河野 正君
理事 小林 進君 理事 長谷川 保君
浦野 幸男君 大坪 保雄君
熊谷 義雄君 小宮山重四郎君
竹内 黎一君 地崎宇三郎君
中野 四郎君 西岡 武夫君
西村 英一君 橋本龍太郎君
渡邊 良夫君 亘 四郎君
伊藤よし子君 滝井 義高君
八木 一男君 八木 昇君
山口シヅエ君 山田 耻目君
本島百合子君 谷口善太郎君
出席国務大臣
厚 生 大 臣 小林 武治君
出席政府委員
厚生事務官
(大臣官房長) 梅本 純正君
委員外の出席者
参議院議員 柳岡 秋夫君
専 門 員 安中 忠雄君
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本日の会議に付した案件
原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を
改正する法律案(中村順造君外四名提出、参法
第一四号)(予)
社会保障研究所法案(内閣提出第一〇七号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/0
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001・田口長治郎
○田口委員長 これより会議を開きます。
中村順造君外四名提出の原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/1
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002・田口長治郎
○田口委員長 提案理由の説明を聴取いたします。柳岡秋夫君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/2
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003・柳岡秋夫
○柳岡参議院議員 ただいま議題となりました原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を改正する法律案につきまして、その提案の理由を御説明申し上げます。
昭和二十年の戦争末期に投下された原子爆弾により、広島、長崎は一瞬にして焦土と化し、多くの人命は奪い去られ、家、財産は、ことごとく灰じんに帰するという人類史上未曽有の惨禍がもたらされたのであります。幸いにして一命を取りとめた者も、原爆の被爆という一生ぬぐい去ることのできない宿命をになわされ、あるいは原爆熱線による痛ましい傷痕のゆえに悲嘆にくれ、あるいは放射能の影響による造血機能障害、原爆後障害に悩まされるなど、病苦、貧困、孤独の苦痛にあえぎながら生きてまいったのであります。なかんずく、原子爆弾が残した放射能障害は、一生被爆者につきまとい、これがため、白血病、貧血症等の発病の不安、生命の不安と焦燥に常時おののきながら勤労しなければならないということが、被爆者のすべてに通ずる社会的活動における制約となっているのであります。加うるに、被爆に基因する白血病、ガン等による死亡があとを断たないというまことに憂慮すべき状況なのであります。
これらの悲しむべき不幸の原因が、当時予測もできなかった原子爆弾の被爆に基づくものであることにかんがみ、昭和三十二年に主として原爆症を中心とした医療について現行の原子爆弾被爆者の医療等に関する法律が制定されたのであります。しかしながら原爆をこうむった被爆者の肉体的、精神的障害はいまなおぬぐい去ることはできないのであります。したがいまして、これら被爆者の置かれている心身上の不安を除去するため、被爆者に対する措置も、その健康面及び精神面の特殊な状態に適応すべく一そうの拡充がはかられるべきであると考えるのであります。
次に、この法律案の内容の概要を御説明申し上げます。
第一は、被爆者に月額二千円を限度として健康手当を支給することであります。被爆者は、一般人に比して労働能力の減損が著しく、かつ、原爆症への絶えざる不安のもとに勤労しなければならないのであります。したがいまして、被爆者の健康を維持増進させるために、健康手当を支給することといたしたのであります。この健康手当は、被爆者が医療手当を受けている間は、支給しないということにいたしております。
第二は、医療手当の月額の限度の引き上げと所得制度の撤廃であります。医療手当は、昭和三十五年の改正によって新たに加えられたものでありまして、認定被爆者が医療の給付を受けている期間中毎月二千円を限度として支給することとなっておりますが、この月額を五千円に引き上げるとともに、医療手当にかかわる所得制度を撤廃することにより、これら被爆者が安じて医療を受けることができることといたしたのであります。
第三は、被爆者が健康診断または医療を受けるために日本国有鉄道の鉄道、自動車または連絡船に乗車または乗船する場合には、無賃取り扱いとすることであります。これによって被爆者が容易に健康診断または医療を受けることができることとしようとするものであります。これに要する経費につきましては、国が負担することといたしました。
第四は、被爆者が死亡した場合に、その葬祭を行なう者に対して、弔慰料として三万円を支給することであります。ただし、その死亡が原子爆弾の傷害作用に関連しないものであることが明らかである場合には、支給しないことといたしております。
なお、この弔慰料は、この法律の施行前に被爆者が死亡した場合にも、昭和四十年四月一日から支給することといたしております。
第五は、右のような措置を講ずることによりいわゆる医療法から援護法に移行するものとして、法律の題名を原子爆弾被爆者援護法に改めたことであります。
以上のほか、原子爆弾被爆者医療審議会の名称及び権限を改めるとともに、委員の数を十名増加し、また、都道府県が設置する原子爆弾被爆者相談所の費用の一部を国が補助することとし、さらに、認定被爆者について所得税法上の障害者控除が受けられるようにする等、被爆者の援護に関して必要な措置を講ずることといたしております。
原爆の被爆という悲惨な災害をこうむったこれら被爆者の苦境を救済することは、いまや人道上放置することのできない問題であると考えるのであります。しかも、近時、わが国の経済力の回復に伴って、軍人恩給の復活に関する恩給法の改正、戦傷病者戦没者遺族等援護法、引揚者給付金等支給法、戦没者等の妻に対する特別給付金支給法が制定され、今国会には旧金鵄勲章年金受給者に関する特別措置法案が提案されるなど、戦争犠牲者に対する救済の立法が次々となされつつある今日、被爆者に対する右のような措置を講ずることはおそきに失しても早きに過ぎることはないものと確信する次第であります。
また、このように被爆者に対する援護を一そう拡充すべきであるという考えは、ひとり発議者のみならず、昭和三十八年十二月七日の東京地方裁判所の判決の理由の中に見ることができるのであります。すなわち、同裁判所は、これら被爆者に対する救済についての国の責任について、次のように述べているのであります。
「現に本件に関するものとしては「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」があるが、この程度のものでは、とうてい原子爆弾による被爆者に対する救済、救援にならないことは、明らかである。国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き、傷害を負わせ、不安な生活に追い込んだのである。しかも、その被害の甚大なことは、とうてい一般災害の比ではない。被告(国)がこれに鑑み、十分な救済策を執るべきことは、多言を要しないであろう。しかしながら、それはもはや裁判所の職責ではなくて、立法府である国会及び行政府である内閣において果さなければならない職責である。しかも、そういう手続によってこそ、原爆被爆者全般に対する救済策を講ずることができるのであって、そこに立法及び立法に基づく行政の存在理由がある。終戦後十数年を経て、高度の経済成長をとげたわが国において、国家財政上これが不可能であるとはとうてい考えられない。われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにおられないのである」と、このように述べております。
幸い、今国会において、両院で原爆被爆者援護強化に関する決議の可決を見ているのでありまして、必ずや、被爆者の援護をはかろうとするこの法律案の趣旨に御賛同くださるものと確信する次第であります。
以上がこの法律案の提案の理由及び内容の概要であります。
何とぞ、御審議の上、すみやかに御可決せられますようお願い申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/3
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004・田口長治郎
○田口委員長 本案に対する質疑は後日に譲ることといたします。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/4
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005・田口長治郎
○田口委員長 内閣提出の社会保障研究所法案を議題とし、審査を進めます。
質疑の申し出がありますので、これを許します。河野正君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/5
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006・河野正
○河野(正)委員 ただいま議題となりました社会保障研究所法案に関連をいたしまして若干の質疑を行ない、そして大臣はじめ当局者側の御見解を承ってまいりたいと考えます。
御承知のように、憲法第二十五条におきましては、健康で文化的な生活を行なう権利というものを規定いたしておるのでございます。したがって、そういう意味から申し上げましても、社会保障制度というものがきわめて重要な意味を持つということは、当然のことであろうというように考えます。元来、この社会保障制度というものは、国民生活の実情、あるいはまた国民の諸要求、さらには先進国でございます西欧諸国の水準との関連、あるいは経済成長との関係、そういったもろもろの実情の上に立って社会保障というものが論ぜられ、かつ実行されなければならぬということは、これまた当然のことであるというように考えております。したがって、私どもも、この社会保障研究所法案の提案そのものには異論をはさむものではないのでございますけれども、その社会保障についての概念、特に冒頭に私が御指摘申し上げましたように国民生活の問題、あるいは国民の諸要求の問題、あるいはまた先進諸国の水準とどういう関連を持っておるのか、あるいは今日池田内閣が言っております経済成長との関連の中で、社会保障というものがどういうふうに位置づけされるのか、こういうようなことを考えてまいりますと、要は、わが国におきます社会保障のあり方についてという点が私はきわめて重要ではなかろうか、かように考えるわけでございます。
そこで、この法案審議に入ります前提として、大臣からもこの際率直に、わが国の今後の社会保障のあり方についての御所見を承ってまいりたい、かように存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/6
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007・小林進
○小林国務大臣 いわゆる近代的の社会保障というふうな考え方も、日本においては遺憾ながら戦後の問題でありまして、したがって、社会保障というものが世間に唱えられ、その必要が認められてきたのでありますが、そのときどきの必要によって事柄、施策が行なわれてきておった、こういうことでありますので、これらの基礎的な研究、あるいは相互調整、あるいは体系化というようなことがきわめて不十分であったのでありまして、社会保障そのものは、国民の生活を保障するということが根本でありまして、抽象的に申せば、いまお話しのように、憲法二十五条の健康にして文化的な生活を営む権利がある、したがって、その権利を保障するということが社会保障の根本的な理念であるのでございます。ただ、憲法にこういう規定がありますが、生活というものは常に前進をするものであって、いわば流動的なもので固定した観念はない。すなわち、経済成長、国民所得の向上に従って常に前進をしなければならぬ。国内的にはそういう要素があります。また国際的には、外国の生活水準というものがあって、われわれの生活水準にまさっているものがあれば、常にこれに対して追いつく、こういうふうな考え方を持たなければならぬのでありまして、要は、憲法二十五条の精神を実現するということが社会保障の根本原理であろう、こういうふうに思うのであります。したがって、いま申すように、これらの憲法二十五条の規定の内容もきわめて弾、力的、流動的であって、常に前進を遂げなければならぬ、こういうふうに考えておるのでございます。そういうふうな意味が、私は社会保障であるというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/7
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008・河野正
○河野(正)委員 いま私も御指摘を申し上げましたように、この社会保障を論ずる際には、今日国民の生活の実態——いま大臣から、生活というものは流動するものだというふうなお答えもございましたが、そういう国民生活の実態、あるいはまた先進諸国の水準というものがどういう実態であるのか、この点についても大臣からお答えがあったわけでございますが、それと関連をして、やはりいま池田内閣のとっております政策というものは高度経済成長政策でございますので、そういう経済成長との関連というものを無視していくわけにはまいらぬ、かように考えるわけでございます。そういうもろもろの条件の上に立って社会保障というものが論じられなければならぬ。そういう点から一つだけ取り上げてまいりたいと思いますのは、この社会保障に関します予算の増勢率を一例として取り上げてまいりたいと思いますが、これを具体的に検討してまいりますと、三十六年度予算におきます社会保障費の増勢率というものは三六・六%、三十七年度におきましては二〇・三%、三十八年度におきましては二二・四%、三十九年度におきましては一九・二%、これはいずれも当初予算についての数字でございますけれども、このような増勢率を振り返ってまいりますと、ややともいたしますと、その上昇カーブというものがだんだんとゆるやかになりつつある一つの現況というものがございます。
そこで、先ほど大臣から若干お答えがございましたように、私も御指摘を申し上げたのでございますけれども、国民生活というものがだんだん進歩していく、あるいは先進諸国の社会保障水準というものも進歩していく、あるいは日本におきましては経済成長ということで経済というものがだんだんと上昇していく、一方この社会保障に関します予算の上昇率というものは、むしろ下降線をたどりつつあるということでありますと、この数字の上からは、ややともいたしますならば、この社会保障に関します一つの具体的な方向というものが、やや弱まりつつあるというふうな考え方が実は成り立たぬでもないというふうに、この数字からうかがい知ることができるのでございます。今度提案されました社会保障研究所法案というものも、社会保障制度というものが、今日の国民生活の実態の中からも、あるいは先進諸国の傾向の中からも、あるいはまた経済成長という日本経済の実態の中からも、今後きわめて重大な要素を持ってくる、そういうたてまえから社会保障というものを重視しなければならぬ、そういうたてまえから今度の法案が提案されたというふうに私ども理解し、またその意味におきまして私どもも異論を差しはさむものではございません。ところが、過去三、四年の予算の実情を見てまいりますと、私どもの納得するような数字というものが示されておらぬというような感じを持つわけでございます。これはもう一例でございますけれども、こういう数字から見て、はたしてこの社会保障の前進というものが、この社会保障研究所法案をお出しになるような熱意のもとにおきますところの——もちろんこれは、増勢率はあるわけですから、私どもは熱意がないということは申し上げませんけれども、ただ社会保障というものが非常に重大である、重大な要素を持っている、そういう意味で社会保障研究所法案を提案するのだ、そういう熱意のもとにおきますいまの日本の社会保障に対するとりきめ方というものが、はたして適当であるかどうかという感じを、この数字から私どもは持たざるを得ないのでございます。そういう点についてどういうふうにお考えでございますか、ひとつ率直にお聞かせいただきたい、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/8
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009・小林進
○小林国務大臣 これは単に、予算の表面からだけでの判断はなかなかむずかしいのであります。実は最近における公共投資というものが非常に伸びてきているために、予算全体としては比率が若干鈍化している、こういうことは言えるのでありますが、私は絶対的な前進はしているのだというふうに考えております。ことに戦争前までの社会保障というのは、いわば昔で言う社会対策というもので、主として社会福祉、要するにからだ等にマイナスを背負っているもの、あるいは貧之で生活できないもの、あるいは子供の保育に欠けるもの、こういうふうな条件のもの、非常に不満足な状態のものを対象としておりましたが、いわゆる今日の社会保障はそういうものに限定することなく、全国民を対象としての社会保障、すなわち、従来、医療保障あるいは所得保障というふうなものは今日のような考えがなかったのでございます。
それから、もう一つ私が申し上たいのは、いまのは主として直接の生活問題でありますが、戦後の一番大きな問題としております生活環境というものを整備しなければ、人間の健康的にして文化的な生活はできないということでありまして、いまのようなごみとか、し尿処理とか、下水とか、あるいは川その他の汚濁の状態というものも、私は大きく見て一つの社会保障だと思う。すなわち、人の生活を健全化する基本的な要件じゃないか。このことが、私は社会保障ということばに入れていっていいかどうかわかりませんが、いまの憲法二十五条の生活を保障するためには、環境を浄化する、整備するということが非常な大きな要素として浮かび上がってきておるのでありまして、広義に申せば、単なる個々人の生活そのものの保障ということと同時に、生活の環境をよくするということに非常に大きな重点が指向されなけれなければならぬというのでありまして、私は広義に言えば、いまやっておるようなごみとか、し尿処理とか、下水とか、こういう問題も、社会保障あるいは生活保障と申しますか、そういう範疇に当然入るべきものだと思う。ところが、この方面のものはいわゆる社会保障の経費に入っておらない。しかし三十九年度等においても、この方面の国家の支出というものは相当大幅に伸びてきておる。こういうふうな環境と個々の生活、この両面を全うすることが私は広義の社会保障と思う。そういう意味においては予算面の幅は相当伸びてきておる、またこの両面において伸ばさなければならぬ、こういうふうに考えております。いまお話しのように、単なる狭義の社会保障という面では、公共投資が非常にふえておるために若干鈍化の傾向がありますが、大きく広く見れば、広義の面からいけば相当にこの数字が変わってくる、私はこういうふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/9
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010・河野正
○河野(正)委員 いま大臣からお答えいただきましたように、広い意味におきましては、生活環境の整備、浄化というような問題が一つの社会保障という範疇に入ることを私どもはあえて否定するものではございません。でありますけれども、やはりその中心となるものは、国民の生活を安定させるという機能を持たざるを得ないというふうに私どもは考えるものでございます。そこで、なるほどいま大臣がお答えのように、公共投資、生活環境整備、かねがね大臣が、ごみ、汚物あるいはし尿処理の問題等につきまして重要な関心を持っておられますことにつきましては、私ども非常に敬意を表してまいりました。そういうような公共投資の面ももちろんございます。と同時に、そういう意味から申し上げますと、減税政策、税金をだんだん減らしていくというような政策も、やはり広い意味におきましては生活安定に役立つわけでございますし、これまた私は広い意味における社会保障の一環的な政策ではなかろうかというふうに考えます。そこで、広い意味では、なるほど大臣御指摘のように公共投資の面もございましょう、あるいはいま私があらためて指摘いたしましたような減税政策の面もございましょう。こういうような政策もあると思いますけれども、やはり直接の問題というものは、国民生活を安定させるということが中心にならなければならぬと私どもは考えるのでございます。そういう意味では私ども、大臣のお答えを全面的に否定するものではございませんけれども、この三本の柱の中心となるものはやはり国民生活の安定である、それを補おうとされるものが、いま大臣がおっしゃいました生活環境の整備等の公共投資でございましょうし、また一つは、減税政策というような問題であろうかと考えます。そういう意味では一理かもしれませんけれども、社会保障費の増勢率がだんだん低下するということはやはり一考を要する問題ではなかろうか。そこで、この数字だけで私ども大臣の熱意を疑うものではございませんけれども、やはりその点が社会保障の中心とならなければならぬ。もちろん、公共投資その他の面でいろいろと補っていただいているという点については、私ども敬意を表します。けれども、やはり重点的な問題は、国民生活を安定させる、いわゆる社会保障費の予算の増勢率というものが非常に大きな指標になると私どもは考えるわけでございまして、そういう意味では、今後、生活を安定させるための社会保障費の増勢という点につきましては、特に御努力を願わなければならぬ問題ではなかろうか。もちろん、このことは、私どもが大臣に対してとやかく申し上げるわけではございません。ですけれども、私どもの感じとしてはその点が特に今後とも努力を願っていくべき点ではなかろうか、こういうふうに感じますので、それらの点について、今後いろいろ御努力願う御所見等をお漏らし願えれば幸いだと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/10
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011・小林進
○小林国務大臣 これはいやおうなしに、相当驚くべき増加を今後来たすべき内容も現に包含しておるのでありまして、たとえばただいま提案しておる厚生年金の関係、あるいは国民年金の関係、あるいは国民健康保険の家族、世帯主給付の引き上げ、こういう、要するに一般の社会保障、これは相当に伸びるということを、むしろ政府部内としては非常な財政上の大きな圧迫になることを心配しているくらい、ことしののび方が多少鈍化したということであっても必ずこれは伸びるというふうに思っておりますし、いまのこれらに対する国庫負担の問題等もこのまま推移をすることはできない、こういうことも含んでおります。それからなお、いままでの、いわゆるからだにマイナスを背負った人たちに対する施策というものがまだ非常におくれておるのでありまして、この方面のことが、私は次の年度等においてもまた相当な増加を見込まざるを得ないと思うのでありまして、いずれにいたしましても社会保障費の増加が鈍化するような傾向にはなり得ない。したがって、実は大蔵当局等、財政当局が非常な心配をしておるような伸び方が、もういままでの施策の中にも入っておるし、ことに身体障害者とか、精薄者とか、あるいは精神病者とか、こういう方々に対する政府の支出が相当に大きく増大する、また増大するのが当然である、こういうふうに私は考えておりまして、お話しのようにこれらの伸びがさらに大幅になるであろうし、またならなければならない、そういうつもりで努力をいたすわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/11
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012・河野正
○河野(正)委員 今後とも社会保障の発展進歩のために、いろいろと積極的な御努力を願うという御方針でございますので、私どももそういう点に対しましては敬意を表しますと同時に、ひとつ今後とも格段の御努力をお願い申し上げておきたいと考えております。
先ほどからいろいろ御指摘をいたしてまいりましたように、当面は、いろいろ大臣からもお答えございましたような国民生活の実態というような点から、社会保障の発展というものを考えていかなければならぬ。同時に、一方におきましては、やはり先進諸国の水準というものを目標として、それにすみやかに追いつくような努力をしていかなければならぬということは当然だと考えるわけでございます。そこで、そのような先進諸国の水準に追いつくためには、年々歳々どのような努力が具体的に行なわれるべきなのか。それはさっき申し上げましたような予算の問題もあろうかと考えます。そういうような努力がどのような形で行なわれれば、はたして先進諸国の水準に追いつくことができるのか。また先進諸国の水準に追いつくために努力しなければならぬということは、大臣からも先ほどからお答えがあったのでございますから、私どもそれについてとやかく申し上げるわけではございませんけれども、それならば、やはり先進諸国に追いつくためには具体的にどういう努力を行なうべきか、また時間的には、大体どのぐらいの時間をかすならば先進諸国に追いつくことができるのか。そういう目標なり指標というものはあってもいいのではないか。ただ無原則に先進諸国の水準に追いつくんだ、そういうような抽象的なことではやはり困ると思うので、具体的にどういう努力をすれば、どのぐらいの期間で先進諸国の水準に追いつくことができるのか、そういう指標というものがあってもよかろうと私は思うのです。そういう点について、ひとつ大臣に具体的な腹案等がございますならばお聞かせ願えればけっこうだ、かように思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/12
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013・小林進
○小林国務大臣 これは私どもの所管ではございませんが、国全体の経済発展そのものを先進諸国並みにするということは、経済企画庁が年次計画をおつくりになって、いまのところ四十五年がすべての目標になって、そしてそのときにその水準に追いつけるような年次計画をおつくりになっておりまして、内容等につきましては私どももよく存じませんが、企画庁が所管してこれをやっておられる。私どもの社会保障も、それに応じてその中へ盛り込んで、そしてこれらも四十五年までには先進諸国のような社会保障というものを招来しよう、こういうふうな考え方を持ってやっております。これをやるにつきましては、これは抽象論でありますが、何といたしましても国民所得をふやすことが第一の目的で、所得をふやすためには生産を上げるということが必要でありまして、私どもは予算の編成等にあたりましても、社会保障というのはよく御存じのように再分配の問題でありますから、再分配をするには国民所得全体を上げるということ以外にありません。そのためには生産性を高めるということが必要でありまして、私ども予算の編成をやっておりましても、まだなかなか日本は貧乏だということを痛切に感ずるのでありまして、私どもはいまの再分配を受ける立場においていろいろの協議をしておりまして、その調整をするのが政府の役目、こういうことになっておりまして、抽象論で恐縮でありますが、生産を増して国民所得全体をふやす、これで初めて再分配の分け前が私どもにももらえる、こういうように考えておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/13
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014・河野正
○河野(正)委員 ただいま大臣から、大体政府全体としての、いまの施策のテンポからいって四十五年度には世界先進諸国の水準に追いつくことができるだろう、こういうお答えでございます。ところが、いろいろ学者等の意見を承っておりますと、先進諸国の水準に追いつくには、いまから大体十年くらい要するのではなかろうか、こういうお話があるわけでございます。いずれにいたしましても、私どもも、それは四十五年度といいますとあと六、七年でございますし、十年より六、七年のほうが早いわけでございますからそれに越したことはございませんけれども、それがから念仏に終わるようなことになると困るのであって、せっかくそういう長期的な計画をおつくりになるならば、実行のできる計画というものをつくっていただかなければならぬ。世界におきます先進諸国の社会保障の水準というものも、やはり私は年々歳々進歩していると思うのです。現状の水準についてこの五年、六年で追いつくのか、あるいはまた世界先進諸国の水準というものがどんどん進んでいくわけですから、それらの点も兼ね合わせて何年で追いつくことができるのか。世界の先進諸国の水準というものが上がる。しかし日本の水準の上がるテンポというものが非常に早い、伸長率というものが高いので、そういう意味でこの五、六年で追いつくということでございますならば、私、非常にけっこうなことだと思う。ですけれども、学者の皆さん方の御意見を聞いてみますると、いまのテンポでは大体十年くらいかかるのではないかというふうな御指摘もございます。そこで、その学者が心配しておりますような十年というものが、この五、六年で達成されるのかどうか、この点を私どもちょっと心配いたすわけでございます。もし学者がそういう杞憂を持っておるといたしましても、実際にはできるのだというふうな確固たる御所信でございますならば、私どもも敬意を表するにやぶさかでございません。ですから、その点について率直にお答えをいただきたい、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/14
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015・小林進
○小林国務大臣 これはいま御指摘のように、先進諸国も、日本ほどの伸びはないが毎年多少伸びております。したがって、われわれが到達した時分にはもっと先に行っている、こういうことは当然考えられるのでありまして、政府がこの計画を立てておるのは、過去の年次、大体三十二年でありますが、そのときの水準というものを一定させまして、それを目標として四十五年に到達せしめる、こういうことでありますから、学者の言っている年次とか、そういうものと多少の食い違いがある。したがって、この時点において追いつくには十年かかる、こういうふうな議論も当然出てくるのでありまして、政府の目標とズレがあるという議論が出てくるのではないか、こう考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/15
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016・河野正
○河野(正)委員 私どもも先進国の水準に一刻も早く到達することが望ましいわけですから、その点については、私どもも、五、六年だとか十年ということは申し上げません。できますれば、五年あるいは四年という短期間で先進諸国の水準に追いつくような積極的な施策を進められることは、私どもは強く期待をいたします。そういう意味で、ひとつぜひ今後とも大臣の積極的な御努力をお願いしておきたいと考えます。
それからさらに、日本の社会保障の実態でございますが、日本の社会保障の実態というものを振り返ってまいりますと、やはり社会保険を中心として日本の社会保障というものが発展をしてきた、こういう経緯がございます。しかしながら、社会保険だけで社会保障のすべての目的というものが達せられるというふうには考えるわけにまいらぬというふうに考えるのでございます。なるほど防貧制度といたしましては、社会保険というものが有力な手段として役立ってまいった、このことは私どもも否定するものでございません。ところが、特に低所得者、収入の非常に少ない階層、こういう階層に対しましては、社会保険だけで問題を解決するということには相ならぬと思うのでございます。ところが、日本の今日までの社会保障の発展の歴史を振り返ってまいりますと、社会保険というものを中心として発展してきた、こういういきさつがございますけれども、それだけでこの社会保障のすべての問題を解決することはできないことだといたしますならば、むしろ今後日本の社会保障の進め方としては、社会保険以外の施策というものを重点的に進める必要があるのではなかろうか。もちろん、社会保険というものを中心として社会保障が発展をしてきた、こういう政府の努力に対して私どもがとやかく申し上げるのではございません。なるほど今日まで、日本の社会保障の発展の中で、社会保険が中心となって果たしてまいりました役割りというものは、非常に大だということは私どもも理解をいたしますけれども、それだけで社会保障のすべての問題を解決することができないというふうにいたしますならば、日本の今後の社会保障の問題を解決する新しい使命としては、社会保険以外の諸施策に力を注ぐべきではなかろうか。そういうことによって、社会保障の制度の中にいろいろなでこぼこがございます。その地ならしをする施策というものが、むしろ今後社会保険以外の施策に力点を置くことによって、そういう社会保障の中におきまするでこぼこの是正というものをはかっていくべきではなかろうか、こういうことは実は考えるわけでございます。そういう意味で、今後政府としてどのような方針で臨んでまいろうというふうにお考えになっておるのか。この点は、社会保障制度の中におきます均衡を保っていく、全般的な水準をはかっていくという意味におきまして、私は非常に重大な点ではなかろうかというふうに考えますがゆえに、この際ひとつ、そういういろいろの力を注いでいく、やっていくべき方向というものがございますならば、あわせてお答えをいただいてまいりたい、かように存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/16
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017・小林進
○小林国務大臣 社会保険の考え方を組み合わせて日本の社会保障ができておることは事実でございますが、しかし、それだけではありません。たとえば生活保護で一千億も出しておるのは、これは完全な社会保障でありまして、社会保険ではありません。また国民年金のうちの福祉年金なども、これは一つも社会保険ではございません。全部社会保障、すなわち税金によってまかなわれておる。また国民健康保険にしましても、政府が現にもう三割三分余の補助をしております。これは社会保険に対して社会保障を組み合わせておる。また、いま御審議を願う厚生年金にしましても現に一割五分、あるいは私立学校共済、あるいは農林漁業団体共済も、現に一割五分の給付の補助をしております。こういうことでありまして、いわゆる社会保険だけではやっておらないということをおわかりくださることと思うのでありますが、そういうふうに社会保険といわゆる税金による部分とをかみ合わせて、全体として社会保険、社会保障が行なわれておる、こういうことでありまして、いまのように医療扶助とかあるいは生活保護とか、あるいは国民福祉年金、こういうものはすべて社会保障だけの観念で行なわれておる、他のほうは両者が組み合わされてできておる、そういうことで、社会保険だけで行なっているのではなくて、今後の方向としては、やはり私は、日本に十分財政力があれば、社会保障というものを、もっと社会保障的な部分を伸ばすほうがいいと思いまするが、そういう都合もあって、いまでは社会保険と社会保障的なものとが組み合わされてやっておる。私はやはり、当分この形で日本としては社会保障制度全体を推し進めるのが適当ではないか、相当将来長くそれが維持されるかどうかは別にしまして、当分いまのような関係を維持して、そして社会保障的の部分をできるだけ少しでも増していく、こういう方向に持っていくべきではないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/17
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018・河野正
○河野(正)委員 多少ことばの足りなかった点もございますけれども、もちろん、いま大臣からもお答えがございましたように、私ども、いま日本の社会保障というものが社会保険だけだというふうにも指摘申し上げたのでございません。ただ、日本の社会保障の発展の過程を見てまいりますると、やはり社会保険というものが中心になって発展してきた、こういう過程があるわけでございます。そういう意味でございますから、したがって、やはりこの社会保障全体の前進をはかっていくためには、むしろ今後は、社会保険もそうでございますけれども、他の政策というものにも特に力を注いでいかなければ、全般の水準の引き上げということがむずかしいのではなかろうか、こういう意味で御指摘を申し上げたのでございますから、そういうように御理解をいただきたいと思うのでございます。
特に、社会保険一つを取り上げてまいりましても、いままでは被用者を中心として制度というものが発展をいたしてまいりました。ことばをかえて申し上げますると、一つの労働政策、それから社会政策の一環として社会保障、とりわけ社会保険というものが取り上げられてまいったという歴史と経緯がございます。ところが、欧米先進国に比べまして、わが国は自営業者あるいはまた農民というものが非常に多い現況にございます。ところが、社会保険の実態を見てまいりましても、この被用者保険の場合と、農民や自営業者等が参加いたしておりまする国民健康保険というような、同じ医療保険の中でも、それぞれ給付内容というものが違っておりますし、また給付内容に優劣がございますことは御案内のとおりでございます。もちろん、今日までいろいろと政府もその給付内容の改善について御努力願ってまいりましたことに対しましては、私どもも敬意を表します。しかしながら、やはり現実にそういう給付内容におきまして優劣がございますし、でこぼこがございますることは、これはもう御承知のとおりでございます。ところが、先ほどから御指摘申し上げまするように、すみやかに、できるだけ早く欧米の先進諸国の水準までに到達する努力を払っていかなければならぬ。ところが、欧米先進国と比較をして、日本の場合には自営業者が多い、あるいはまた農民が多い、しかも自営業者あるいは農民というものは、被用者保険と違って非常に劣悪な状態に置かれておるということでございますので、やはり先進諸国の水準に引き上げるという努力をしなければならぬ。ところがそれについては、いま申し上げまするように悪条件が重なっておるわけですね。欧米先進諸国よりも、自営業者が多かったり、あるいはまた劣悪な条件のもとに置かれている農民が多かったりということで悪条件が重なっておりますので、そういう意味から私どもは、先ほどちょっと指摘申し上げましたように、諸先進国の水準に到達するまでにはかなり時間がかかるのではないだろうかというような心配も、実はそういう点から申し上げてきたつもりでございます。ところが、それらの点については、すみやかに是正するための努力を払ってまいりたいということでございますので、そういう今後の御努力に私どもも期待する以外にはないと思うのでございますが、いま申し上げまするように、悪条件が重なっておるという現実というものは、私どもも否定することはできないというように考えるのであります。そこで、やはり今後欧米先進国の水準まで引き上げるためには、そういう悪条件というものを克服していかなければならぬ、そういう点を十分頭に入れて施策というものを推進していかなければならぬ、そういう意味では、国の財政的な国庫負担と申しますか、援助と申しますか、そういうものについてもやはり考慮に入れていただかなければならぬことは当然だと思うのです。それなくしては、この悪条件は私は克服するわけにはまいらぬであろうというふうに考えるわけでございます。
そこで、今後この全般的な日本の社会保障の前進をはかっていくためには、いま申し上げまするようなでこぼこのございまする、陥没いたしておりまする階層と申しますか、そういう面について特に国が財政的な負担を重点的に考える、こういうふうにならなければ、力の弱い階層はいつまでも低い水準に置かれる、それから、力の強い階層におきましては、制度というものは比較的に発展をするということで、ますます断層が広がっていく可能性が出てくると思うのです。そういう意味で、今後の社会保障を推進していく際におきまする財政的な方向について、いまの点については十二分な御配慮を願わなければならぬ点ではなかろうか、そういうことを考えるわけでございます。そういう意味では、今後国保の育成等の面もございます。給付の改善等もございます。それらの点について、今後どのような熱意を持って臨んでまいられようといたしまするか、そういう腹づもりにつきましてもこの際お聞きをいたしておきたい、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/18
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019・小林進
○小林国務大臣 ただいま御指摘のように、いわゆる中小企業あるいは農漁民等が主として加入しておる国保の財政的の基礎が非常に薄弱だということで、御承知のように健康保険には一五%しか補助しておらぬのに、国保関係には特に現在でも三三・五%というふうな補助金を政府から出しておる。ことに私どもは、これからの給付改善に要する費用は、これを被保険者の負担に待つということはきわめて困難な事情にあると思うのでありまして、御承知のように昨年十月から世帯主を七割給付にしましたが、その二割増加分の負担も四分の三は国庫負担になっておる、また来年一月からやる家族の七割給付に対する負担増についても、四分の三は国庫負担にしておる、こういうことでありまして、個人負担を軽くする十分の配慮をいたしておるのであります。また、昨年は、国保の保険料の負担が低所得者に過重である、こういうことからいたしまして、年所得九万円以下の方々に減免するために、昨年四十何億というふうな補助金も出しておるのでありまして、国保に対するいまのような配慮は、私は、十分とは申しませんが、できるだけのことを政府も配慮いたしておるのでありまして、いま申す家族の七割給付にいたしましても、そういうふうなことが当分行なわれる、こういうことであります。また、国民年金にいたしましても、御承知のように、厚生年金には政府の補助は一五%でありまするが、国民年金には三〇%の補助をしておる。要するに、被保険者の所得が比較的低いということに対する配慮は、政府も相当いたしております。これらの国民年金も、いま申すような厚生年金の引き上げに伴って、当然昭和四十一年にはこれらの改定も行なわれなければならぬ。その際においても、いわゆる負担増に対する政府負担というものは、私は相当に増さなければなるまい。すなわち、これらの給付の改善に要する費用は、どうも国庫負担の増加という方向に行かざるを得ない、こういうふうに考えておるのでありまして、要するに、国民健康保険にしましても国民年金にしましても、使用者に対するものとは非常に違った大きな国庫負担をしているいまのこの傾向は、今後も続かざるを得ないというふうに私は考えておるので、いまお話のような面につきまして、政府は非常な配慮をしているということを申し上げておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/19
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020・河野正
○河野(正)委員 いま大臣からお答えがございましたように、この社会保障の全般的な前進をはかっていくためには、陥没帯がございますが、この陥没帯を埋めていく努力がなされなければならない。具体的にはやはり財政処置というものが重要な要素を持っておるわけですから、そういう意味で今日までいろいろと御努力願った点につきましては、私どもも異論はございません。しかしながら、全面的な社会保障の前進をはかっていくためには、いま申し上げますように、陥没帯を埋めていく努力が重点的になされなければならぬ。そういう意味で今後とも格段の財政的な処置、あるいはまた努力というものが望ましいわけでございますので、さらに格段の御努力を願いたい、かように考えます。
そこで、日本の社会保障を語っていくためには、医療保険というものを無視するわけにはまいらない。そういうことに関連して、一、二点だけお尋ねを申し上げておきたいと思うのでございます。
それは、先般出されました中央医療協議会の答申について、きょうはそのことが私どもの論点ではございませんので、いろいろ申し上げたいとは思いませんけれども、その中で私どもが感じてまいりましたことは、完全な医療保障を達成していくためには、被保険者の面の問題もございます。なおまた、医療を担当する側の問題も解決しなければ、私は、完全な医療保障と申しますか、医療保険の解決はあり得ないというふうに考えざるを得ないと思います。ところが、今度中央医療協議会の答申の中で、医療費八%の引き上げというものが答申をされておるわけでございますけれども、過去三カ年間の物件費というものは約三〇%つり上がっておる、人件費は一五%の上昇率を示している。そういうことを見てまいりますると、八%の引き上げが適当であるのかどうか。そういうことでは医療経営というものが破綻することを防ぎ得る数字でないのではなかろうかということになりますると、医療保障と申しますか、医療保険の使命を完全に達成していくという意味においては片手落ちになっておるのではなかろうか。これは使用者の面の解決と同時に、診療担当者側の解決をはかって、初めて医療保険の完全な使命達成というものが期せられるわけでございますから、そういう意味では、八%の医療費の是正ではたして医療保険の完全な使命達成がはかられるのかどうか、私どもは若干疑問を持たざるを得ませんし、この八%引き上げについては、私どももむしろ心外だというふうに考えるわけでございまするが、その点についてはどのようにお考えになるか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/20
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021・小林進
○小林国務大臣 私は医療協議会の協議の内容等につきましては十分な知識を持っておりません。しかし、あれだけの時間をかけて十分に御相談の上でああいう結論を出されておるのでありまして、これはいろいろの方の見方によってそれぞれ御意見があろうかと思いますが、私は、あの際としてはいま申すような物件費、人件費等が主として一応の標準にならざるを得ない、これは医業の実態というものがよくわからない、こういう一つの欠陥があるのであります。いま医療担当が五分五分、あるいは四分六になるといわれております診療所の経営の実態というものが長い間わからない、調査ができない、こういう事態もありますので、経営自体についての基礎資料が整っておらない。したがって、あるいは私が想像するところでは、いまお話しのような増加があっても、医療機関においてはその幾分を従来のほうの関係でもって吸収できるのだ、こういう考え方で結論的には八%をお出しになった、こういうふうに思うのであります。私どもとしてはやはり、この際に申し上げておきたいのでありますが、国民経済の中における医療費というもののあり方と、また診療機関の経営の実態というものにつきましてはどうしても調査をしてみたい、そしてその資料に従っていわゆる適正化問題は解決をしたい、こういう考え方を持っておりまして、とりあえずはとにかく緊急の問題として医療協では八%程度、こういう答申を出されておりますので、その向きに従っていろいろな検討をしておる、こういうところでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/21
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022・河野正
○河野(正)委員 私どもはそのことをきょう取り上げることが主目的でございませんから、いろいろ追及しようと思いませんけれども、しかしやはり先ほど来指摘いたしました過去三カ年間におきまする物件費の上昇率が三〇%である、あるいはまた人件費の上昇率というものが約一五%の率である、こういう現実の数字というものはやはり無視できぬというふうに私ども考えます。そういう意味から、はたしてこの八%の引き上げで今日のそういう医業経営というものが維持できるかできぬかということが私はやはり——それがすべてではございませんけれども、医療保険、医療保障の使命を完全に達成していくということと非常に強い関連を持っていくわけです。そういう意味から私どもは、この中央医療協議会の答申につきましては、若干の疑念を持たざるを得ないというふうに考えます。もちろんそれがきょうの本旨でございませんから、いずれ別の機会にいろいろと論議をいたしたいと思いまするけれども、そういう私どもの意見のあることをきょうはひとつ強く訴えておきたいと思います。
それからもう一つは、このたびの、いずれまあ秋の臨時国会等でこの医療費是正が行なわれると思いますけれども、しばしば大臣からも緊急是正ということばが使われてまいりました。ところがこの中央医療協議会で答申が行なわれたのでございまするけれども、この答申が行なわれる間におきまして中央医療懇談会が開催をされまして十数カ月、それからまた、大臣が中央医療協議会に諮問されまして以来十数カ月、こういう審議で、非常に長い時間をかけた。そういう長い時間をかけて答申が出されてはたして緊急是正ということばが適切であるのかどうか。一年以上かかって緊急是正ということばが適切であるのかどうか。これは大臣もしばしばこの委員会で緊急是正緊急是正とおっしゃったのですけれども、どうもそういう意味からいいますと、緊急是正ということばはナンセンスではなかろうかというふうな感じを持ちます。やはり私ども先ほどから申しますように、日本の社会保障の前進、発展というものの中で医療保険が果たしてまいりました役割りというものが、日本の場合は非常に大きいわけでございます。社会保障の発展の過程の中で医療保険が果たしてまいった使命というものは、非常に大きかった。ところが、非常に大きかった医療保険の実態というものがいまのような実態でいいのかどうか。私どもはその点に対しましても非常に疑問を持たざるを得ないというのが率直な意見でございます。やはり緊急是正であるとするならば緊急に是正してもらうということが望ましいと思う。そうしなければ、もうこの際緊急是正の緊急ということばはひとつ御訂正になったほうが適切ではなかろうかと考えます。これはもうきょうは社会保障研究所法案の法案審議でございますからいろいろ申し上げませんけれども、やはり社会保障を私どもが論議する場合には、医療保障、医療保険という問題についても私どもは非常に重大な関心を持たざるを得ない。そういう意味で、若干いま申し上げましたような一、二の点をきょうは取り上げてまいったわけでございます。いずれまた別の機会にいろいろとこの点については論議いたしたいと思いまするけれども、この社会保障を論議する場合には、いま申し上げますような問題もあるいは軽視するわけにまいらぬ。そういう意味から取り上げたのでございまして、医業経営という問題につきましても、過去いろいろ日医と大臣との間で問題でございましたことを、私どもは十二分に承知いたしております。ですけれども、やはり大臣というものは医療行政に対します最高の責任者でございますから、日本国民の健康を守る、そのための医業経営を守っていくという立場から、ひとつ今後とも格段の努力を願ってまいりたい、かように考えます。特にいま申し上げますように、一年間もかかって緊急是正というような表現では、私どもも非常に困る。緊急是正ならもう少し緊急是正らしく、ことばどおりにひとつ早急に解決するという努力がはかられるべきだったというふうに私どもは強く考えます。そういう意味で、今後の医療問題についての大臣の態度というものを率直にお聞かせいただきたい、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/22
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023・小林進
○小林国務大臣 医療費につきましても、医療費のあるべき姿というものが考えられるのでありまして、これを私どもは適正化、こう称しておったのでありますが、適正化をする必要がある、それをできるだけ早い機会にしたい。しかし適正化をするには資料が不足だ。資料が備わっておらない。こういうことからして、——しかし資料はいつ備わるのだ、備わるのを待つだけの余裕がない、できるだけ早く直さなければならぬ、こういうことで、緊急ということばを使って、そして私は医療費の手直しをしたい。こういうことで出発したのでありますが、いろいろの事情で延びてしまって緊急じゃなくなった、こういうことが言われるのでありますが、いわゆることばとして、私は適正化ということで直すことはいまの段階においてできない、したがってやむなく、さような人件費やら物件費等の値上がりにある程度対応する是正をしたいという意味でこのことばを使ったわけでありまして、非常にことばが伸びてしまっておかしなことになっておりますが、お話のようにやっぱりできるだく早い機会に適正な措置をとるべきである、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/23
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024・河野正
○河野(正)委員 そこで時間の制約がございますので、法案そのものについてお尋ねを申し上げたい、かように考えます。
今度の社会保障研究所法案の目的とするものが、社会保障に関する基礎的なかつ総合的調査研究を行なう、こういうところに目的があることが示されておるわけでございます。今日まで社会保障に関係いたしましては、内閣に社会保障制度審議会がございまして、いろいろ厚生大臣の諮問に応じて答申をしてまいる制度がございますことは御案内のとおりでございます。そういう社会保障の制度に関しまする審議会たる社会保障制度審議会と、今度設立が予想されております社会保障研究所なるものとの関連性がどのような点にあるのか。社会保障制度審議会におきましても、制度に対しまする審議をやるわけですから、当然この研究所そのものとの関連というものが生じてまいるであろうというように私ども理解をするわけでございます。そこで今日内閣にございます——私もその審議会の一員でございますが、社会保障制度審議会と、今後設立が予想されております社会保障研究所なるものとがどういう関連を持つのか、その辺の事情もひとつお聞かせをいただきたい、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/24
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025・梅本純正
○梅本政府委員 ただいまの御質問でございますが、社会保障制度審議会は、社会保障に関します基本的な問題の調査審議を行なうということになっておりますが、これは個々の社会保障制度につきましても、いろいろ具体的にその良否を判断されております。これに対しまして本研究所は、そういうふうな調査審議が行なわれます際に必要な基礎資料をできるだけ提供するというふうな意味におきまして、一方は個々の具体的な制度について価値判断をされる機関であり、この研究所におきましてはもっと基礎的な、いわゆる学問的な研究をする、そして社会保障制度審議会に資料を提供するということでございます。ちなみに、社会保障制度審議会の先般の勧告におきまして、「社会保障制度を計画的、組織的に確立するためには、まずもって有力な調査研究機関の設置を提唱する。」という勧告を受けたわけでございます。本研究所はその勧告に基づきました部面も含めまして設立をお願いしている次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/25
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026・河野正
○河野(正)委員 その基礎的、総合的調査研究を行なうということが研究所の主たる使命であり目的であるということは、これは提案理由に書いてあるわけですから、われわれはとやかく申し上げるわけではございませんけれども、これと社会保障制度に関しまする審議機関というべき内閣の社会保障制度審議会というものは、やはり関連性があったほうが能率的であるし、また社会保障全般の前進をはかっていくためにも好都合であろうというふうに私ども考えます。そこで基礎的な総合的な調査研究を行なうということでございますが、それならば具体的にはどのような研究部門を設けて、そして調査研究を行なおうとせられておるのか。特にこの社会保障制度審議会の答申によりましても「当審議会は、かねて社会保障研究所の設置を要望してきたが、本案はその趣旨にそうものとして了承する。ただし、その運営については、研究所の権威を高め、かつ、その独立性を保つよう配慮するとともに、近い将来、相当多額の基金を持つ制度に移行させるよう予算措置を講ずることを強く要望する。」というような答申が出ておるわけでございます。そこで、やはりつくっていただく以上は、研究所の権威を高め、かつ独立性を保つようにしなければ私は意味がないと考えます。これが何か厚生省の施策を推進する御用機関であるというようなことでは、これは実際つくっていただいても私どもは納得するわけにはまいらぬのです。つくる以上はやはり中立性を保持して、権威あるものとして、日本の国民のための社会保障の全般的な発展をはかっていく、そういうことが基調にならなければならぬと思うのです。ところが基金も持たないというようなことで、はたして中立性が保持でき、かつまた独自な立場でこの十二分な基礎的、総合的研究調査というものが可能であるかどうか。これは私は、先般も千葉大学中山教授の例のにせ診断書の問題のときにも、当委員会でいろいろ論議をいたしたのでありますけれども、やはり予算がないと、ややもすると調査研究というものがマンネリズムに陥ってしまう、あるいは十分な研究ができませんので、そこでせっかくこういう法律をつくりましても所期の目的を達成することができないというようなことに終わる危険性が多分にあると思う。そういう意味で、この社会保障制度審議会の答申をなぜ尊重されなかったのか、特に基金の問題です。この点についてひとつ率直に、私どもせっかくこの社会保障研究所をつくる以上は、所期の目的を達成するということがきわめて望ましいし、また私どもその点に強い期待を持つわけでございますので、そういう意味におきましては、この社会保障制度審議会の答申が生かされなかったということにつきましては、私どもも非常に遺憾に感ずるのでございますが、その点はいかがでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/26
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027・梅本純正
○梅本政府委員 まず前段の御質問に答えながら基金の問題につきましてお答え申し上げます。
その独立性を保つということにつきまして、この社会保障研究所なるものをいかなる性格のものとするかということは、この立案に際しまして相当議論をしたわけであります。考えられますことは、役所の付属機関にするという考え方がございます。厚生省にいろいろ試験研究機関を持っておりますが、大体付属機関という形にしておりますので、これと同じように付属機関にするかということも考えたのでありますが、これは、現在厚生省が持っております試験研究機関に比べまして、もっと基礎的な調査研究を行なう、いわゆる学問的な性格が強いという点に着目いたしまして、これを付属機関にせずに、独立性のより強い特殊法人とすることが適当であるというふうに判断したわけでございます。
そこで、ついででございますが、この特殊法人とすることによりまして、給与その他の事業運用面におきまして、付属機関その他よりも弾力的な活動ができるというふうに考えましたことと、それからまた、あとで関連いたしますが、財政的な問題におきましても、国連その他国際機関からの援助の受け入れあるいは民間資金等の活用をはかるということも付属機関では困難でございますので、特殊法人としてやったほうが適切であるというふうに考えたわけであります。それからまた、一方別の方面から独立性を保つという意味で、民間団体としてはどうかということも検討したのでありますが、この研究所におきましては、研究員としまして、国立大学の研究員の方方との人事交流も考えておかなければならぬというふうな点を考えまして、すぐれた人材を得るためには、完全に民間団体にしてしまった場合に、例の公務員の通算が切れるとかいろいろの問題がございまして、民間団体と付属機関の両者勘案をしまして、やはり特殊法人がいいという性格をきめたわけであります。このきめるに際しましては、先生おっしゃいましたいわゆる独立性と中立性を保つという点につきまして配慮を払ったつもりでございます。
それから、そういう性格をきめまして、財源の問題でございますが、おっしゃったとおり、金なくして研究所がうまくいった例は過去にあまりございませんので、何と申しましても、やはり財源の点が問題になりますが、これにつきまして、ほかの研究所がやっております出資金の方式がございますし、また一面におきましては、こういう種類のものにつきまして、財団的な基礎のない特殊法人といたしまして例をあげてみますと、日本学校給食会あるいは年金福祉事業団、愛知用水公団、いわゆる機能法人といわれる形式があるわけでございます。いろいろ予算要求その他の点もございましたが、その二つの方式がございますので、その研究所につきましては、出資金ということの方式をとりましてその運用利子によってまかなっていくという方式をとりませんで、全額国庫補助によって運営をしていきたいということで、この出資金方式をとらなかったわけでございます。この点、社会保障制度審議会でこの法案を審議願いましたときに、先ほどのような御趣旨の答申をいただきましたので、今後の問題としまして十分検討いたしてまいりたいと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/27
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028・河野正
○河野(正)委員 この研究所の独立性と申しますか、中立性と申しますか、そういう意味でいろいろ御検討を願った点についてはけっこうでございますけれども、大体類似の特殊法人としては日本原子力研究所、理化学研究所、アジア経済研究所、日本労働協会、国民生活研究所といったような特殊法人がたくさんございます。いずれも政府出資がございまして、そういう基金がございまして運用が行なわれておる。ところがいま官房長がお答えになりましたこの社会保障研究所におきましては、全額国庫補助でまかなっていきたいということですが、これは恒久的な予算措置ではございませんから、しからば毎年毎年一体幾ら金が出てくるかということにつきましても、これは財政当局との交渉によってきめられていく。これは厚生省としては大体腹づもりもございましょう、大体見通しもあろうかと思いますけれども、しかしそれは非常に不安定なものであります。そういう不安定な財政の裏づけで、はたして長期的な計画的研究というものが可能であるのかどうか。やはり長期的、計画的な調査研究をしていこうとすれば、財政の見通しというものがなければならぬ。ところがそれは厚生省としては見通しがあるとおっしゃるかもしれぬけれども、しかし、それは非常に不安定な見通しであって、極端に申し上げますと、全然認められぬ、これは極端な話ですけれども、そういうことになった場合には、長期的な計画的な研究というものが中断をするということも場合によってはあり得るわけですね。でございますから、やはりこの長期的な計画的な研究調査を行なっていくというためには、常に財政上の心配がないということが望ましいし、またそうあることが一番正しいというふうに私どもは判断せざるを得ないと思うのです。そのためには先ほど私が申しましたように、結局金がない。さきの千葉大におきます中山教授でありませんけれども、研究費が足らぬためについ、にせ診断書をつくって研究所が寄付金をもらったというふうな過去の苦い経験もございます。もちろんこういう場合には、研究所法案の中にも、各条文を見ますといろいろ規制がございます。でございますけれども、そういう不正事件ということでなくても、やはりそういう財政の裏づけがないために、つい中立性なり独立性というものが侵されるような調査研究が行なわれるということになりますと、せっかくの社会保障制度全般の前進、発展をはかっていこうというきわめてりっぱな目的なり使命で誕生いたしまする研究所というものが結局ゆがめられてしまうということになるわけでございますから、私どもはせっかく設立をされたといたしますならば、やはり社会保障研究所の真の使命なり目的というものが完全に達成されるという方向で運営されることが非常に望ましいわけでございますし、これは過去の日本労働協会が設立される際におきましても、中立性という問題がこの委員会におきましても非常に論議されたというふうに仄聞をいたしております。これは日本労働協会と今度の社会保障研究所なるものとは性格も若干違いますから、あるいはそういう危険性というものはやや薄いかと思いますけれども、しかしやはり国民のための社会保障制度でございますので、そういう意味でもこの研究所の中立性なり独立性というものが財政のために侵されるということは、私どもは非常に残念に思うわけです。そういう意味で、この社会保障制度審議会の答申にございますように、財政の確立をはかって、そして安心をして長期かつ計画的な調査研究ができるようにはかっていくことがきわめて望ましいし、そのことがむしろ正しいというふうに私どもは判断をいたします。そういう意味で、この審議会の答申もあることでございますし、今後そういうことで御努力願えるかどうか。願えぬといたしますならば、私はせっかく審議会でもそういう多額の基金の設立がされることが望ましいという答申をいたしておるわけでございますから、答申というものを無視するという結果にも相なってまいるというふうに考えます。ですから、そういう点についてどのようにお考えでありますか、この際ひとつお聞かせをいただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/28
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029・梅本純正
○梅本政府委員 ただいまの先生のおっしゃることは、まことにごもっともなことでございます。しかし、何ぶんにもこういう研究所を新しく創設するということにつきましては、先生御承知のように予算的にも法制的にも、最初のスタートでございますので、いままでの実績で御承知のように、なかなか不十分な点ばかりでございまして、一応一歩を踏み出したという点におきまして、この辺のところはこういうことでスタートをさせていただきまして、先ほど申しました社会保障制度審議会の勧告もございますし、そういう点十分意を体しまして今後努力してまいりたいというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/29
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030・河野正
○河野(正)委員 さらに、今回の社会保障研究所法案の提案の理由にも、この社会保障研究所が一つの仕事として社会保障に関しまする海外の資料を集め、そして先進諸国の実情の把握につとめると同時に、経済、社会、法制等広く関係専門学者の力を結集していきたい、こういうふうな趣旨が示されております。実は先ほど官房長のほうからも、この研究所の性格を決定する際にも、やはり広く優秀な学者というものをこの研究所に結集していきたい、そういう意味から特殊法人という性格がきめられたのだというふうなお答えもございました。ところが、実は原子力研究所法の際にもそういう実態があったのでございますけれども、やはり優秀な原子力研究に従事をする少壮の職員というものを集めたいというようなことで、実は原子力研究所の場合にも性格づけが行なわれたというように私は仄聞をいたしております。ところが実際に、なるほど設立するときはそういうことでいろいろ性格づけが行なわれておるわけでございますけれども、実際に発足すると、必ずしもそういう形で運営されない。そこで職員が非常に不満を持って、やめたい、あるいはまた研究意欲というものを喪失するというような点がなかったでもないようでございます。私はないというように断定はいたしません。ですから、優秀な経済学者であるとかあるいは社会学の研究者なりそれぞれの専門家を集めるためには、やはり特殊法人がよろしいというふうな性格づけはけっこうでございますけれども、はたして優秀な人が非常に意欲を持ってそういうような調査研究に従事することができるような形になり得るのかどうか、これはここでぜひ腹づもりをつくっていかぬと、せっかくそういう気持ちで設立をいたしましても、あとはなかなか財政当局から給与その他の点について締めつけられて、結局設立当時の精神というものが生かされぬという点が実は過去にあるわけです。そうしますと、せっかく国民のための社会保障全般の前進発展というものを考えていこうということで設立される社会保障研究所でございますけれども、ところがいまのようなかっこうで、この所期の目的を達成することができないというふうな結果も当然私は考えられ得ると思うのです。そういう意味で、この際私はここで腹づもりというものを明確にしていただかぬと、あとでいろいろトラブルが起こる原因になると思うのです。その点についてはいろいろ厚生省当局も御検討願っておると思うのですけれども、この際そういう腹づもりについても率直にお聞かせいただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/30
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031・小林進
○小林国務大臣 これは河野委員がおっしゃったとおりでございまして、自然科学の研究であればだんだん形にあらわれる。こういう人文科学系の研究というものは、よほど気をつけなければできたときの目的が果たされない。自然どこかへその精神が消えてしまう。こういう心配があるのでありまして、私どものほうはどこの研究所も自然科学的な研究が多いのでありますが、こういうふうなものは今度初めてでありまして、よほどこの運営には気を付けなければならない。したがって予算等の要求も、形にあらわれないだけにきわめて困難であります。自然科学のほうなら、機械とか設備とかいろいろな関係がありますが、こういうものはいわばおもに紙とペンで、あるいは勉強で、本で、資料でやれる、こういうことでありますから、私どももよほど初めから考えをしっかりきめてこの運営に当たらなければならぬ。お話のようなことは十分配慮してまいりたい。実はこういうような問題は厚生省としては初めての事柄であります。それだけに注意をしなければなりませんし、予算要求等についても気をつけなければならぬ。そういうことで、せっかくつくるのでありますから、十分な機能が発揮できるように厚生省としても十分力を入れたい、また政府もそのように努力するということでいきたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/31
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032・河野正
○河野(正)委員 いろいろ大臣の適切なお答えがございましたから、あらためていろいろ申し上げようとは思いませんけれども、ただ、私どもはいままで特殊法人の運営の実態を見てまいりまして、一番問題でございますのは、特殊法人という性格づけをする場合には、やはりそういう性格づけをしなければ優秀な人材を集めることができないということで、そういうことをうたい文句として実は設立される。ところが実際に発足いたしますと、大蔵省等の締めつけもあって、なかなか思うように職員の処遇ができないというのが実情でございます。そこでつい研究意欲をなくしてしまう。さっきも大臣が御心配になっているように、特に人文科学系でございますから、なかなか目に見えない。そういう目に見えない仕事の中で、研究意欲をなくすということは重大な結果が出てくると思います。自然科学の場合は形の中で出てきますから、意欲をなくしますと、直ちに形の上で示されるということでございますけれども、人文科学の場合は、形で見えませんから、そういう部門の中で意欲をなくすというと、結果的にはとてつもない結果が出てくる。これは国民のために不幸だと思うのです。ところが御承知のように、今度の法案の二十五条におきましては「研究所は、その役員及び職員に対する給与及び退職手当の支給の基準を定めようとするときは、厚生大臣の承認を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」ということでございますけれども、実際にはやはりこれは大蔵省の規制というものがあると思うのです。そこで非常に大きな問題が起こってくるのです。
〔委員長退席、井村委員長代理着席〕
この点については一本にお考えになっておりますか。これはころばぬ先のつえということばがございますが、やはり私はこの際はっきり御見解を承っておいたほうが非常に適切だろうと考えます。そういう意味でそういう点についてひとつお答えを願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/32
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033・梅本純正
○梅本政府委員 ただいまの御質問でございますが、ことしの予算におきましても、そういう点も十分おもんぱかりまして、所長並びに理事、監事その他研究員につきましては、現在の大学の教授、助教授そういうクラスと給与を合わせまして、われわれといたしましては十分にその給与の面については考えたつもりでございます。先生御指摘のように、この法律全般の財政的な面につきまして大蔵大臣に協議するようになっております。大蔵大臣のチェックが相当あるのではないかというふうにお考えでございますけれども、われわれといたしましては、戦後に発達してきました社会保障制度につきまして、やはり基礎的な研究の不足ということにつきまして、日常いろいろ政策を立案し、制度を改変するときに不十分な点を感じておりますので、われわれ十分熱意を持ちましてこの予算の獲得、それから研究がスムーズに行なわれるように、われわれ官房といたしましては全力をあげてこれをバックアップしていきたいという気持ちでおりますので、ひとつ今後努力を十分重ねてまいっていきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/33
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034・河野正
○河野(正)委員 実は特殊法人の職員の処遇問題については、厚生省とあまり関係ございませんけれども、当委員会においてはいままで重大な関心があったわけです。しばしば特殊法人の職員の処遇については当委員会でも問題になって、そうしていろいろ論議が重ねられてまいりまして、非常に複雑な事情があるわけなんです。ところが、今度厚生省も一枚加わって特殊法人をつくられたわけでございますから、これは将来また厚生省の問題でなくて、労働問題として出てくる可能性があると思うのです。これはもう私どもは非常に頭を痛めておるのですよ。公務員でもない、民間でもない、労働三権は与えられておるけれども、処遇については大蔵省からチェックされるというような問題で、労働問題としてはこの問題は非常に重大な要素というものを含んでおると思うのです。そこで、おそらく私は将来この研究所の職員の処遇等の問題については、労働問題として取り上げられる危険性というものがあるように実は予想されるのです。そこでやはりこれはよほど腹づもりをきめていただいておかないと、いま何でもないような気持ちでも、実際だんだんこれが発足して一年、二年たってまいりますと、いろいろな問題が起こってくる可能性なり危険性というものがあるというふうに私ども判断をいたしております。ですから、私どもここでもういろいろ申し上げようとは思いませんけれども、しかしいままで当委員会において特殊法人の職員の処遇問題についてはしばしば論議されている。でございますから、厚生省でもこの職員の処遇問題については将来大蔵省から相当強い締めつけがあるということをひとつ十分念頭に入れて今後対処していかないと、これは当委員会でも非常に問題が起こってくると思うのです。先ほど申し上げましたように、ころばぬ先のつえということでございますので、私は国会で取り上げたわけでありますから、ひとつその点については大臣も十分念頭に入れて、所長以下職員の処遇については御検討を願いたい、こういうふうに考えるのであります。
時間がまいりましたから、その点について大臣の率直な腹づもりをお聞かせ願って、一応私は本日の質問を終わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/34
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035・小林進
○小林国務大臣 ただいまの御注意につきましては、十分ひとつ配意をいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/35
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036・井村重雄
○井村委員長代理 本日は、これにて散会いたします。
午後零時四十三分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104604410X04219640514/36
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