1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十九年三月十日(火曜日)
午前十時三十六分開議
出席委員
委員長 濱野 清吾君
理事 鍛冶 良作君 理事 小金 義照君
理事 小島 徹三君 理事 三田村武夫君
理事 神近 市子君 理事 細迫 兼光君
大竹 太郎君 亀山 孝一君
坂村 吉正君 四宮 久吉君
中川 一郎君 馬場 元治君
服部 安司君 井伊 誠一君
竹谷源太郎君
出席政府委員
法務政務次官 天埜 良吉君
検 事
(刑事局長) 竹内 壽平君
委員外の出席者
検 事
(刑事局総務課
長) 辻 辰三郎君
専 門 員 櫻井 芳一君
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三月六日
鉄道公安職員の職務に関する法律を廃止する法
律案(中村順造君提出、参法第九号)(予)
同月七日
青森県鶴田町に法務局出張所設置に関する請願
(竹内黎一君紹介)(第一一〇三号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案(内
閣提出第一一四号)
刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第一二
八号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/0
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001・濱野清吾
○濱野委員長 これより会議を開きます。
逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案及び刑法の一部を改正する法律案の両案を一括議題といたします。
前会に引き続き質疑を行ないます。質疑の通告がございます。鍛冶良作君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/1
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002・鍛冶良作
○鍛冶委員 こまかいことから逐条的に疑問のところを聞いて、はっきりしておきたいと思います。
第一条の四号ですが、「この法律において「逃亡犯罪人」とは、引渡犯罪について請求国の刑事に関する手続が行なわれた者」、この手続とはどういうことを具体的にさしているのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/2
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003・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 ただいまお尋ねの請求国における刑事手続でございますが、これは捜査、公判手続、刑の執行手続等すべて含むのでございますが、内偵査察中というような程度のものでは刑事手続に関する手続が現に行なわれているというふうには見得られないというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/3
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004・鍛冶良作
○鍛冶委員 逮捕状が出ておるということが前提でないかと思いますが、その点はどうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/4
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005・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 手続が行なわれているかどうかを請求を受けた国で判断をするのでございますから、現に司法官憲の発した逮捕状が出ているというようなことは、明らかに手続が行なわれていることを証明する材料としまして一番正確に判断し得る資料でございますので、逮捕状が出ておるということが必ず必要だというのではございませんけれども、それが一つの有力な証拠になることはあります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/5
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006・鍛冶良作
○鍛冶委員 私は日本の法律をもとにして言うからかもしれませんが、逮捕の必要はないが取り調べてみたい、こんなようなことでかりに請求してきたとすれば、それに応じなければならぬかどうか、疑問じゃないかと思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/6
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007・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおりでございまして、これから取り調べたいと思うということであります場合には、相当な用意がなければなりませんし、その用意は、われわれのほうから見ましても刑事手続が行なわれていると見得るだけのものでなければならぬ、かように考えます。したがいまして、形式的に逮捕状が出てから後の場合に限定されるかという解釈は無理かと思いますけれども、逮捕状が出ているという、その逮捕状の写しを示されるというようなことが、刑事手続が現に行なわれていることをわれわれとして確認し得る方法でございますので、仰せのように、まだ逮捕状が出ていないが、向こうとしてはこれから取り調べたいと思っているのだという程度では、いまだ手続が行なわれているという認定はしにくいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/7
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008・鍛冶良作
○鍛冶委員 次に第二条の第一号であります。「引渡犯罪が政治犯罪であるとき。」これは政治犯罪であれば引き渡さない、こういうことになるわけですね。たいへんな規定だと思うのですが、そこで第一審に承りたいのは、政治的犯罪とはいかなるものをさしているのか、この点明瞭にしていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/8
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009・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 政治犯罪とはどういうものをさすかということは、前回の御審議の際にも一応お答えを申し上げたのでございますが、その内容を申し上げる前に、まず政治犯罪を引き渡さないという原則でございますが、これは国際法上一つの慣例となっておるのでございまして、日本とアメリカとの間に結ばれました逃亡犯罪人引渡条約におきましてもそのことは明示されておりますし、諸外国間にある犯罪人引渡条約にもほとんど例外なく書いてございますし、各国の犯罪人引渡法の国内法を見ましても、みなこれが規定されておるのでございまして、そういう意味において、政治犯罪人の不引き渡しということは国際法上の一つの原則である、かように理解をしておるのでございます。
さて、そこで政治犯罪の内容でございますけれども、これを抽象的に申しますならば、特定の国の政治的秩序を侵害する犯罪であるというふうに申し上げることができようかと思います。しかしながら、政治的秩序の内容につきましては、国際的に一致した見解というものはいまだないように私どもは思うのでございます。われわれ、学説上の意見をここで御紹介申し上げますと、政治犯罪には純粋の政治犯罪と相対的な政治犯罪とがあるとされております。この純粋政治犯罪と申しますのは、反逆の企図、トリズンでございますが、反逆の企図、革命またはクーデターの陰謀といったようなもっぱら政治的秩序を侵害する行為がそれであるといわれておりますし、このような行為につきましては、条約上も、各国の国内法におきましても、慣例上も、これは引き渡さないということにこの点は一致しておるのであります。そこで一致してない、解釈の分かれておりますのは後者のいわゆる相対的政治犯罪というものについてでございます。この相対的政治犯罪は、政治的秩序の侵害に関連いたしまして一般の刑法犯を犯しておるようなものをいうのでございます。このような場合にはどうかといいますと、おおむね引き渡さないというのが例になっておるようでございます。各国の立法例について申し上げますと、相対的政治犯罪のうちのあるものにつきましては、引き渡しを行ない得る旨の規定を置いておるものもございます。これはたとえばベルギーの一八三三年の犯罪人引渡法などを見まするとそうなっております。
いずれにいたしましても、その犯罪が政治犯罪であるかどうかということをきめます決定権は、引き渡しの請求を受けた国にあるとされております。この点は一致いたしております。でございますので、純粋の政治犯罪につきましては引き渡さないとはっきり通例としてなっておりますが、相対的政治犯罪の場合には、諸般の事情をしんしゃくいたしまして、健全な常識をもって政治犯罪に当たるかどうかを判断するほかないと思うのでございます。
ただ、一般の傾向としまして、相対的政治犯罪につきましては引き渡す範囲を広めていこうという動きが、最近の世界の立法例の中にむしろだんだん認められるように思うのでございまして、このことはハーバード条約という——これは条約になっておりませんが、ハーバード条約案の第五条の二項でそういう趣旨のことが規定されておる。これなどが一つのあらわれかと思うのでございます。
以上、雑然と申し上げましたが、そういう状況になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/9
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010・鍛冶良作
○鍛冶委員 いろいろ例が考えられますが、第一に問題になりますのは思想犯ですね。いま日本の法律ではなくなったが、たとえば前の刑法で、私有財産制度を否認する議論をしたりもしくは著書をあらわした、そういうもの
はどうなります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/10
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011・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 ただいまお示し
の例などは、破防法の規定などとの関連から考えてみますると、やはり政治犯罪に当たるというように解釈されるではないかと思うのでございます。そうなりますと、引き渡さないというふうに解せられると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/11
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012・鍛冶良作
○鍛冶委員 その次に問題になりますのは、判断は被請求国の裁判所の判断でございましょうが、本人の意思というものはどの程度までいれられますか。私は政治犯だ、国へ帰れば政治犯でやられます、ぜひ願いますと言ってきたそのときに、そういうことをこっちで判断はするのですが、そう言わなければ問題にならぬか知らぬが、言うたからといって何でもかんでも問題になるものでもない。そこはなかなかデリケートではないかと思われるのですが、それらはいかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/12
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013・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これはいわゆる政治亡命との関連におきまして非常にデリケートな問題ではございますが、われわれとしましては、はっきりと考えておかなければならぬ点だと思うのでございますが、まず、もちろん本人が申し出なければ、政治犯罪として本国地で刑事手続が行なわれているかどうかということも明らかではございませんので、その点はまず本人の申し出に待つ場合が多いと思うのでございますが、かりに本人が、自分は訴追をされておるのだ、そして訴追の内容の罪はこういう罪だということを申しまして、その罪自体が純粋の政治犯罪でありますれば、問題なくこれは引き渡さないことになりますし、相対的政治犯罪とでも言いますか、罪は殺人罪でありましても、その殺人の根拠となりますのは本国の現政府の要人を殺害しようとして未遂に終わった事件、あるいは殺した事件とか、罪そのものは刑法犯であるという場合、本人は自分はこういう罪だと言う。だから、いまお説のような申し出があった場合に、被請求国であるわが国といたしましては、本人が述べておるからといってそれをみな真に受ける性質のものではないわけです。これは中身について十分検討しなければなりません。そのために二つの点で検討の余地を残しておるわけです。
一つは、まず外交的な判断で、裁判所の審判にかけます前に、引き渡すことが相当であるかどうかということを考慮いたします。その段階でわかる限りのことは調べまして、考慮いたしまして、これは引き渡すべきものであるという判断に立った場合は審判にかけるわけであります。審判にかけまして、引き渡すべきものとの判断を受けまして後におきましても、もう一回法務大臣は諸般の高度の政治的な判断を下すことによって最終的な決定をする。こういうことになっておりますので、二回にわたって判断をする余地を法律上残してあります。その間におきましてできる限りの調査をいたすのでございます。それによって、先ほど申しましたように、高度の法律的な健全な常識によって判断するほかないのでございますが、その他諸般の政治情勢をも考えて最終的にきめることになると思います。ただ本人がそう言ったからといって、直ちにそれを政治犯罪と見るかどうかは問題でありますし、さらに引き続きまして政治犯罪ではないにしても、亡命を認めるかどうかという第二段の入管令上の問題、この二つあるかと思います。それらはすべて十分な健全な常識によって判断をしなければならないと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/13
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014・鍛冶良作
○鍛冶委員 そこで、先ほど言ったように、逮捕状でも出ておればこれは一番明瞭でございます。逮捕状は出ておらぬけれども国に行けば逮捕されるのだ、かようなことを言うてきたときに、そうかといって捨てておくわけにもいくまいが、実際は本国で問題が起こったりすると迷惑しごくなことですから、なるべくそこをきちんとしためどをつける必要があるのじゃありませんか、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/14
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015・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 現在本国で刑事手続が行なわれていると見られない場合、国に帰れば処罰されるかもしれぬという場合には、この引渡法上の問題ではないのでございまして、この場合はもっぱら入管令上の問題になるわけであります。いわゆる政治亡命ということかどうかという問題だと思います。しかし、政治亡命のものの考え方も、政治犯罪人を引き渡さないという原則の考え方も、根は同じでございますので、入管令の運用におきましても、この引渡法と同じ精神のもとに、やはり健全な常識で判断をするということになろうかと思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/15
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016・鍛冶良作
○鍛冶委員 なるほどそうです。言うたのだけれども請求してこないのだから。いま言われたように政治犯罪ならば、逮捕状が出ておって、さらに引き渡しの要求があっても渡さぬというくらいだから。そこで、そうか、それじゃ亡命犯人ならばかわいそうだとか、考えてやらなければならぬといって、ほかの犯罪と違った取り扱いをせられるだろうということになる。そこで問題が起こるのだと思うのですが、たとえばこの前の周何がしなどのときは、本国に行けば殺される、だからひとつ助けてくれ、こういうようなときに、ほんとうはあとで調べてみてそういうのならば、これはある程度同情すべきところもあるだろうが、何のために言うたかわからないものを、たいへんあなた方も御迷惑千万だったろうと思うのです。ああいうときに、どういうことでけじめをつけてやられるか、この際、われわれも大いに考えておきたいと思うのですが、御所見を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/16
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017・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 実はこの政治亡命者の取り扱いにつきましては、周氏の問題のときも御質問等もありまして、法務大臣あるいは入管局長から、どう取り扱うかということについてお答えをいたしておるのでございますが、入管当局の現在までの考え方は、密入国者が亡命をしたいというような申し出がありました場合に、その申し出を現在までのところ受け入れまして亡命者として取り扱った例はないようでございます。
しかしながら、そういう申し出をしておる者に対して、密入国でありますので強制退去ということに処分はなるわけでございますが、その退去先につきましては、本人がそう言っておるものを、迫害を受けるであろう本国へ送還するというようなことは人道上の立場からすべきでないという立場をとって、仕向け地を変えるというような強制退去の処置をとってきたのが今日までの入管のとってきた態度でございます。しかし、その背後にありますのは、政治亡命ということよりも、主として人道的な見地からそういうふうな処置をとってきたように私ども観察されるのでございますが、やはりこの政治亡命者をどう取り扱うかということは、入管令上としましても犯罪人引き渡しの問題と同根でございますので、同じ立場で国としては考え、その認定等につきましても、入管の審査手続だけで、そのような程度の審査だけでいいのかどうか、もっときちんとした審査をした上できめるべきであるかどうかという問題があります。
現にアメリカにおきましては、入管令上の問題はいわゆる移民局、エミグレーションのほうで処置をいたしておりますけれども、亡命の申し出がありました場合にはエミグレーションの調査ではなくて、FBIの調査によりまして、調査の結果、これは亡命を認めるべきであるということが明らかになりますと、今度は亡命者として国として処置する、こういう処置をとっているようでございまして、その審査に非常に慎重な手続を経ております。そういう点につきまして、日本にはまだ制度的にそういう点が確立されておりませんけれども、運用の面におきましては、法務大臣の指揮下に、一方においてはエミグレーション、一方においては検察庁というような組織を持っておりますので、運用としてやろうと思えばやれぬことはないわけでございます。それらの点につきましては早急に見解の統一をはかりまして、いずれ適当な機会に法務省、大臣としての統一見解をきめて申し上げるようにいたしたい、かように事務的にはいま準備を進めておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/17
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018・鍛冶良作
○鍛冶委員 ほんとうに政治犯罪者として亡命する価値のある行動をとってきた者ならば、それは慎重にやった上で本人をかばう手続をやられることは人道上の立場でこれはいいと思う。けれども、そうじゃないのに、かってにやって、それにこっちがひっかかって、そうか、それは亡命だといってやってやられて、その結果が本国と日本との間にまずいものができるということになると迷惑千万なものがあるのだ。そう言えば、調べてみるからと言えばそれだけではありますが、ほんとうに亡命の者を調べるのは大事でありますけれども、そうでない者を調べて歩いて、もし間違った判断をすればその責任をとらなければならぬ。ここらはやはり、本人がそれを言うたからといって、これこれぐらいのものがなくてはそういうものに手をつけぬでいいという、一つの慣例なり制度なりを設ける必要がありはしないかと思いますが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/18
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019・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおり、いまアメリカのFBIの調査のことを申し上げましたが、どこの国でも亡命を認めようという場合には、そういうきわめて慎重な手続で、その失態など、過誤なからんことを期しているわけでございます。参考になりますのは、一九五一年の難民の地位に関する条約というのがありまして、これがある程度亡命の概念をはっきりさせた条約でございますが、これなども、もちろん日本はまだこれに加盟いたしておらぬのでございますが、もしも亡命を認めるということになりますと、難民条約のほうから申しますと、もちろんそういうものは密入国というような形で多くの場合は出てくるのでございます。そうしまして、もし入管令で密入国は強制退去ということになりますと、これは刑事罰にもかかるわけでございます。その刑事罰を科せないということでなければ保護にもならないわけでございますので、難民条約は、そういう場合には刑事罰を科せないようにせよというような規定もございます。その辺の国内法上の関係等もありまして、政治亡命を国として認めるという場合には、なお手続上補充すべきものもあろうかと思いますし、特に認定にあたっての慎重な態度というものが、特別に何らかの形ではっきりさせませんと、いま仰せのような過誤をおかすおそれもないとは言えないと思いますので、これは慎重を要する問題だと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/19
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020・鍛冶良作
○鍛冶委員 いまここであなたと議論していてもしようがないが、やはりある程度の、ここらまでの、何というか、少なくとも証明ができぬでも、信ずべき何らかのものがないものに対しては取り合わぬというようなくらいにしておかぬと、とんだ迷惑を背負わなければならぬと思います。これは、いずれまた御研究願っておきましょう。
それから、小さいことですが、引き渡すときには、これは同じく二条の四号と五号との関係ですが、日本国の法令によって死刑または無期もしくは長期三年以上の懲役または禁錮に処せられるものでなかったら渡さぬでもいいということです。ところが五号へいくと、日本国の法令によって逃亡犯罪人に刑罰を科し、またはこれを執行することができないとある。三年以上でなかったらやれぬというのに、三年以上であって、それで日本国では刑罰を科さない、もしくは執行することができない、そんなことはあり得ることですか。これは両立していないような規定のように思われますが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/20
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021・辻辰三郎
○辻説明員 ただいまの第二条の四号の要件でございますが、これは、この二条の冒頭にございますように、国内に引渡条約がない場合を前提として規定いたしておるわけでありまして、引渡条約ができました場合に、この四号と異なった条約が定められることができることを、この冒頭で、「引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。」ということで四号をはずしております。そういう場合に、この五号のほうが、かりにその条約で、長期三年以上の懲役または禁錮に当たらない罪でありましても、条約の上で引渡犯罪ということができる場合があるわけでございまして、その関係におきましても、この五号というものは意義のあるものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/21
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022・鍛冶良作
○鍛冶委員 この二条の九号ですが、「逃亡犯罪人が日本国民であるとき。」、これは外国で罪を犯してきた日本人、その場合外国から請求があった。外国の法律でいえば三年以上の懲役に処すべきものだといって請求した。そのときでも日本国民であるといって拒否できるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/22
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023・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおりでございまして、これは自国民保護の原則と申しまして、日本の法律で国外犯に定められている罪が非常に広くあります。場合によりましては、証拠さえよこしてくれれば、日本でみずから裁判をして処罰をするという道も開かれているのでございまして、これは自国民である場合には拒否することがあり得るということ、これは各国とも、政治犯罪人を引き渡さないのと同じように、自国民については引き渡さないことがあり得るということは、自国民保護の原則として一般慣例上認められておる原則でございます。一〇鍛冶委員 それは、ただおれの国民だからどんな悪いことをしてもやらぬといって、罪にしないということがあると、法律上の観点からどうもおもしろくないと思う。犯罪はこっちで処罰するということに考えられるのですが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/23
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024・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 考え方としましては、外国に引き渡して、外国の裁判にかけなくても、日本の裁判所で、日本で裁判できるという刑法の規定を前提といたしまして、何も外国でやってきた者も、日本人だから全部帳消しにしてやるという意味ではなくて、外国に引き渡さないでも、自分の手で処罰すべきものは処罰するということを前提とした自国民保護の原則と申しますか、そういうことで自国民については例外を認める、こういうことでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/24
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025・鍛冶良作
○鍛冶委員 そうでなければいかぬと思うのです。そうすると、引き渡せない、そのかわり犯罪の実情をそちらで調べておったら、調書なり何なりを送ってくれ、こういうことでなければならぬと思うが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/25
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026・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 外交交渉の過程におきまして、仰せのように処置するわけでございますが、もし日本の法律では罪にならないというような場合には、今度は政治的考慮を施して、それは日本の法律では罪にならぬから引き渡せないということもあるわけです。それからまた、日本の法律でも罰せられるものでありまして、国内犯に規定されているものなら、資料をよこせ、そうすればわがほうで処罰する、こういうことで、双方了解して話し合いがつく、こういうことになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/26
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027・鍛冶良作
○鍛冶委員 これは実例がありませんか。たとえば外国で殺人犯を犯してきた、そして日本へ戻ってきた。それでわが国において殺人を犯したのだから、処罰せんならぬから返してくれというときに、それはおれのほうで処罰しますから、お返ししませんが、処罰する。こういうことはあり得ることだと思うが、そういう実例はいかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/27
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028・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 戦後におきましてはそういう実例はございません。戦前におきましては幾つかの日本人を引き渡した例も実はあるわけでございまして、その犯罪事実等はよくわからないのでございますが、戦後におきましては、少なくとも私の記憶しておる限りではそういう実例は一件もございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/28
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029・鍛冶良作
○鍛冶委員 引き渡した例があるというのですが、それはどういうときに引き渡さなければならぬのですか。それがわからぬから私はこういう質問をしておるのです。ただいたずらに日本人だからやらぬというだけでは、社会正義から済まぬと思う。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/29
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030・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは古い統計でございますが、ちょっと昔の状況を調べてみたわけでございます。外国から犯罪人の引き渡しの要求があった事件といたしまして、外国へ犯罪人の引き渡しをした例でございますが、年月日等もはっきりいたさないのでございますけれども、アメリカ合衆国へ十件引き渡した件数がいままで統計の上にあらわれております。そのうちでアメリカ人が七人、日本国民が一人、中華民国人が二人というのがあります。この十人のうちで一人日本人が入っておる。この日本人をどういういきさつで自国民保護の原則があるにもかかわらず、昔引き渡したかということは、ちょっと事情をつまびらかにいたしませんが、そういう例がございます。その他ロシア、イギリス、ポルトガル、スペイン、ドイツ、中華民国、朝鮮というような例がいままでは二十五件、人数にいたしまして二十八人あるのでございますが、そのうちで自国民を引き渡しましたのは、アメリカ合衆国に引き渡したのが一件一人あるだけで、その他みな日本におります外国人でございまして、ロシアの場合には三件四人ございましたが、これはみなロシア人でございまして、本国の要求で本国人を日本から引き渡したのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/30
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031・鍛冶良作
○鍛冶委員 いまのはおそらく共同正犯の一人で、他の者はアメリカで起訴して調べられておるのだから、それと一緒に調べなければいかぬというのできたのじゃないかと思う。これは御返事にならぬでもいいが、もし今日共同正犯の一人である当の日本人についても、ほかの者も来るから日本人もよこしてもらわなければならぬと言うてきたら、それはいかぬというて断わりますか。それともそれはやむを得ぬものだといっておやりになりますか。いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/31
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032・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 アメリカは属地主義と申しますか、アメリカとの条約におきましては、そういう点を考慮いたしまして、「締約国ハ本条約ノ条款ニ因リ互ニ其臣民ヲ引渡スノ義務ナキモノトス」と、こういう自国民引き渡しの原則をきめておりますが、「但其引渡ヲ至当ト認ムルトキハ之ヲ引渡スコトヲ得ヘシ」というようなただし書きがついておりまして、この条約がありますために、いま仰せのような共犯だとかなんとかいうようなことであるいは引き渡すようなことになったのだろうと思いますけれども、今日この条約は生きておりますが、さて、そういうような場合に、われわれが求められたとしたらどう処置するかということにつきましては、慎重に考慮いたしましてきめることになろうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/32
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033・鍛冶良作
○鍛冶委員 それはその程度にしておきましょう。しかし、将来これは十分考えておかなければならぬ問題じゃないかと思われます。
その次に、第三条の二号ですが、「請求国から日本国が行なう同種の請求に応ずべき旨の保証」これはどういう形のものなんですか。何か証書を一枚入れるだけですか、それともどういうことですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/33
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034・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは口頭でもいいというのではなくて、これは通常行なわれます国際慣例上認められておる外交文書、いわゆる口上書と申しますものによりまして、その請求をいたしますとともに、その請求の中に同種の犯罪について相互主義の原則によるものであるということを明らかにしてもらう、そういう外交文書の交換によって相互主義の保証を承認することになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/34
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035・鍛冶良作
○鍛冶委員 これは国によって違うのですか、それとも外国の形式は大体一定しておるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/35
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036・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これはあまり経験もございませんのでわかりませんが、外務省から私どもが伺っておりますところによりますと、外交文書として認められる形式の文書によるということは、これは世界一致したことでございますが、中身の形式を保証のしかたを別の文書で保証するというようなやり方、あるいは請求書そのものの中に書き込むというやり方、そういう点はきまった形式というものはないように伺っております。しかし、外交文書の中でそれを明らかにするということは、これはきまった一つの国際慣例であるというふうに承知いたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/36
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037・鍛冶良作
○鍛冶委員 ここで思い出されますのは費用の点です。これはあとのほうに費用を償わせると書いてあるだけですが、費用も、もちろんそちらで要っただけは負担しますというようなことを一札入れるのじゃないのですか。そうでなかったら、費用の保証はどういうことでとられますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/37
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038・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 費用の点につきましては、やはり国際慣例といたしまして請求国が費用を負担する、こういうことでございます。したがいまして、先般、スイス国から日本人の身柄の引き渡しを受けて、正式に外交文書で受け取ってまいりましたが、スイス国まで日本官憲を派遣いたしまして、身柄を引き取って、令状を執行し、日本へ連れて帰った、この費用は全部日本国の負担でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/38
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039・鍛冶良作
○鍛冶委員 それはもちろん請求国が負担しなければならぬが、その負担をいたしますということを、やはり言わなければいかぬでしょう、ここでいう保証と同じように。これはたいへん手数がかかるものだろうと思うのです。拘禁しなければならぬし、調べなければならぬし、その間食わしておかなければならぬし、たいへんなものだと思う。この費用は払わなければならぬと、どこかあとのほうにあったと思いますが、私の考えたのは、保証のときに、あなたのほうで費やされた費用は当然私のほうで負担します、こういう文句をこの中に入れるのではなかろうかと思って聞いたのです。それが別ならば、何か費用の担保があるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/39
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040・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは条約のほうにはっきり明記してあるわけでございまして、日米犯罪人引渡条約の第八条には「被告人ノ逮捕監禁訊問及ヒ送致ノ費用ハ其引渡ヲ請求シタル政府ニ於テ之ヲ支弁スヘシ」こう書いてございます。これは条約の場合でございますが、条約のない場合につきましては、国際慣例によってその費用の分担をきめるということでございます。国際慣例によりますると、やはり条約と同じように、費用は請求国の負担ということでございまして、話し合いの結果、スイスの例を申し上げますと、向こうで身柄を勾留し、審判をして、引き渡しを承認してくれておるわけであります。その間にかかりました費用は、スイス国が日本に請求せずに、それは国際協力で自分のほうの負担でやるということでございまして、わがほうとしましては、身柄の引き渡しを受けた日から以後の分を日本国で負担する、こういう扱いになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/40
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041・鍛冶良作
○鍛冶委員 それはスイスだって相当費用をかけるだろうと思うが、費用はその国で負担するというのがどこかにあったと思うが、スイスのようにりっぱに言うてくれればいいですが、迷惑千万だ、費用を償ってくれと言いそうなものだと思うのです。それと同時に、それじゃ請求するならば、それまでの費用をどうしてくれるかという、保証書と同じで、費用は必ずわが国で負担しますということを書いてやらなければいかぬのじゃないですか。そうでなく、国際法上何か認められるというならどうか知りませんが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/41
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042・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおりでございますが、スイス国に請求をいたしました際には、スイス国はわがほうに非常に協力的でございまして、いまのような点は一切要求せぬということでございまして、費用はお取りにならなかった。しかしながら、先ほど読みました条約によりますると、その費用は請求国が全部負担するということになっておりますので、その他の国との国際礼譲に基づく身柄の引き渡しを受ける場合には、その国における裁判手続に要した費用をわがほうで負担するという場合もあり得ると思うのでございますが、スイス国との場合におきましては、スイス国は請求をせず、また私のほうでも支払っておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/42
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043・鍛冶良作
○鍛冶委員 そうすると、もしも外国から日本へ言ってきたら、日本でも費用は請求しませんか、それともしますか、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/43
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044・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 それはそのときの話し合いによりまして、スイスのような場合にばかりいくとは必ずしも限りませんが、そこは相互主義でございますから、わがほうで金を取るという場合には、今度は向こうからもらうときにも、わがほうで払うということになる。それが相互主義でございますから、やはりそこは話し合いの結果きまると思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/44
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045・鍛冶良作
○鍛冶委員 次は第四条の二及び三ですが、渡すべきか渡すべからざるかは、被請求国の判断にまかせることになっておるようですね。そこで考えられるのは、何でもかんでもおれのほうで渡さぬと言っていいものかどうか。もし渡さぬと言ったとき、それはひどいじゃないか、ぜひ渡してもらわなければならぬと抗議を申し込んでもよさそうな場合がありはせぬかと思われるのですが、それとも、いずれの国も一切被請求国の自由裁量にまかせるというので、そういうことは一切文句は言えないのだという慣例なりその他があるのか、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/45
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046・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 条約がございます場合には、条約でこまかくきめてあります。条約のございません場合には、被請求国の自由なる裁量によってきまる、かように考えるのでございます。しかしながら、その自由裁量が国際的な礼譲あるいは法律的な常識、そういったようなものに反する程度にそれを逸脱しておると思われるような自由裁量は、やはりまた国際信用に関係してくる。それで礼譲軽視、礼譲べつ視という問題にも派生してまいりますので、そこは自由裁量でございますけれども、おのずからそこに一つの限界があることは私どもとしては考えなければならぬわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/46
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047・鍛冶良作
○鍛冶委員 これも、この法律は、外国から請求されたときに、日本でとるべき態度について書いてあるのだからいいようなものの、これを悪くあべこべに考えてみて、日本が外国に請求をした。外国はそんなものをやらぬと言ったときには、引渡法ではそういうことになっておるからといって泣き寝いりすべきものか。それとも、いや、ひどいじゃないか——外交交渉でやることは何ですが、私、いま聞くのは法律的な話です。そういうことが言えそうにも思われますが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/47
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048・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおりでございまして、そういうことは言えそうなことなんでございますから、私どもとしましては、その場合に法務大臣はどういうことを標準で考慮するであろうかということを一応考えてみておるわけでありますが、その点をいささか例をあげて申し上げますと、たとえば請求国が、わが国による未承認国ないしは国交未回復国であるかないかということによって違ってくると思います。また請求国が、逃亡犯罪人の国籍国である、または当該犯罪の犯罪地図であるかというような点。それから当該犯罪がわが国において裁判権を行使し得るものである場合において、これを行使しないことが相当であると思うような点。また当該犯罪の性質はどういう性質の犯罪であるか、たとえば政治犯罪には当たらないというふうに判断をされるといたしましても、これに準ずるような性質のものではないかどうかというような点。それから、わが国と請求国とでは、法律的な評価が極端に異なるものではないかどうか。これはそういう場合も国によりましてはあり得るのでございます。さらに当該犯罪が請求国の遡及効を認めた法令によって処罰の対象とされるものではないかどうか。これは国際慣例と申しますよりも、一つの自然法的な刑罰の大原則でございまして、遡及効によって処罰をするために犯罪人を引き渡すということをやりますれば、わがほうとしては拒否するということは当然なことであろうかと思います。また逃亡犯罪人が刑の確定者である、そういう場合において、確定刑が罰金刑とかその他比較的軽い犯罪であるような場合でないかどうかというような点。また、逃亡犯罪人にかかる請求国の刑事手続が特に人権保障に欠けるものではないかどうか。また、将来わが国から請求国に対して同種の引き渡しの請求を行なうことがあり得るであろうかというような点なども考えまして、最終的に法務大臣が決定をされる。決定の標準といたしましては、右申しましたような諸点が一応問題とされるのではないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/48
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049・鍛冶良作
○鍛冶委員 第五条ですが、これはすべて東京高等検察庁及び東京高等裁判所の管轄になる、これはどういう根拠から出てきたのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/49
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050・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この問題は、いわば政府の責任でやることでございます。事柄の性質がそうでございますが、外交問題ということになると、日本の場合には東京ですべて行なわれるのでございまして、手近なところの裁判所を選ぶ。事この問題に関しましては、専属に東京高等裁判所を管轄裁判所と定めるのが、事務を迅速に運ぶ上におきましても、事務手続を敏速に、連絡をよくしていくためにもそれが相当である。また事件数というものはほとんど数えるくらいしかないわけでございますので、特に東京高等裁判所を専属管轄としたわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/50
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051・鍛冶良作
○鍛冶委員 外交交渉上の便宜ですかね。そうすると、九州におる者でも、東京から出て行ってしかるべくやらなければならぬということになって、はなはだめんどうがありはせぬかと思いますが、それにはかえられませんか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/51
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052・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 国内的に見ますと、仰せのような多少の不便はあるわけでございますが、問題の重点は外国と日本政府との関係がございますので、もし引き渡すべき逃亡犯罪人が九州にいるといたしますれば、東京に呼び出して東京で審判をする。これは国内的にはやや不便でございますけれども、やむを得ない最小限度の規制というふうに考えておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/52
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053・鍛冶良作
○鍛冶委員 これはこまかいことですが、第八条の審査の請求及び審査の手続ですが、これは身柄をどうするか、ここではわからないのですが、まず身柄を押えてからでないといかぬのじゃないかと思いますが、その点はいかがでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/53
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054・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのように、まず引き渡すかどうかをきめる前に、引き渡す対象である身柄が確保されていることが大事な問題でございますが、引渡条約があって、その条件その他がはっきりいたしております場合には、仮拘禁状ということで、まだ正式な審判がかかる前に、外交交渉の段階で身柄の所在が確認されますと、仮拘禁ということで一応身柄を確保するという措置をとることにいたし、その後拘禁状に切りかえて審判に持っていくという手続がとられるわけでございますが、条約のない場合におきましては、そこまでやりますことは人権上やや問題があるばかりでなく、手続といたしまして、条約の場合と違って、はたして身柄の確認は得られましても、その次の段階で相互主義の保証が得られるかどうか、その相互主義の保証を取りつけますために外交交渉にかなり手間どることも予想されるわけで、そういうことを考えますと、どうしても仮拘禁ということで長期にわたっての拘禁を余儀なくされますことは人権上問題でございます。そこで相互保証の外交取りきめが完成した段階で拘禁状を出す。しかも拘禁状を出さなくてもなお身柄が万全に確保されるという見通しがつく場合には、検察官の責任で在宅を許すことができるというような道を開いて、身柄の確保は大事なことでございますけれども、それは検察官の判断にある程度まかしてある、こういうことにいたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/54
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055・鍛冶良作
○鍛冶委員 そうすると、被請求犯人がわかった。それじゃ、これはなるほど調べなければならぬということになったら、そこで保証書を要求する。その間にだいぶ時間がありまして、それで逃亡したりすると、こっちに責任があるようだが、そういう場合でも仮拘禁ぐらいするのじゃないですか、どうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/55
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056・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは対象になります者は外国人でございますので、その外国人が国外に逃亡するということになりますと、港、空港というところでございまして、その場合には入国管理がちゃんとありますので、そういう方面の事実上の手配というようなことはもちろんなされると思いますが、また、日本人の場合と違いまして偽名をして外国へ旅行に出てしまうということは、外国人の場合にはなかなか困難でございます。したがって、外国人の国外への逃亡ということは、日本の場合には、ヨーロッパ諸国と違って非常に困難な状況になっておるので、そういう点も考慮いたしまして、身柄確保の万全を期することは当然でございますが、そのために必ず令状をもって身柄を拘束せねばならぬというふうにしますことは、適当でないというふうに考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/56
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057・鍛冶良作
○鍛冶委員 よろしゅうございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/57
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058・濱野清吾
○濱野委員長 この際おはかりいたします。
ただいま議題となっております二案のうち、逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案について質疑を終了いたしたいと存じますが、これに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/58
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059・濱野清吾
○濱野委員長 御異議なしと認めます。よって、本案に対する質疑はこれにて終局いたしました。
刑法の一部を改正する法律案に対する質疑を続行いたします。大竹太郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/59
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060・大竹太郎
○大竹委員 まず概括的なことを一、二点最初にお尋ねをいたしたいと思うのでありますが、まず最初に、刑法の全面的な改正が近く行なわれるというふうに聞いておるわけでありますが、特にこの誘拐の点について緊急に改正しなければならなくなったという事情、またいままでの例から申しますと、こういうような一部の改正につきましては特別法の形、ことに刑法の全面的な改正が行なわれるというような面から見て、暫定的な措置ということになると思うのでありますが、そういうような場合には特別法の形で立法するというのがいままでの例と言いますか、多く見られる例であったように思うのでありますが、この緊急性の点とそれから特別法によらずに刑法の改正という形でやったという二点をまずお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/60
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061・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 ただいまお尋ねの点でございますが、御疑問の点はまことにごもっともでございます。実は今回の身のしろ金目的の誘拐罪というものは、これは本来営利誘拐の特別加重類型でございますので、本来ならばもちろん刑法に規定する性質の罪でございます。しかしながら、刑法を直すという問題は、ただいま全面改正の作業を鋭意進めてはおるのです。進めてはおりますけれども、現在の全面改正の、法制審議会の進捗状況を見ますと、この法制審議会は昨年五月に発足したのでございますけれども、そのときも会長から、急いでやってもらいたい、少なくとも三年くらいには答申をしていただきたいということを申し添えたわけでございましたが、
〔委員長退席、三田村委員長代理着席〕
この三年という期間は、審議に当たっております委員の方々からすれば、それは短か過ぎるという意見も当時あったくらいでございますが、いずれにしましても三年というのは政府側で要求した年限でございますし、さらに国会審議ということを考えますと、これは数年をもちましても、はたして刑法の全面改正が日の目を見るに至るかどうかということは疑問であるわけでございまして、そういう点を考えますと、刑法全面改正の機会に身のしろ金目的の誘拐についてももちろん考えるのでございますけれども、その時期まで待てるかどうかということが問題でございます。
一方、緊急性の問題でございますが、身のしろ金誘拐という犯罪は、戦前におきましては、私どもの承知しております限りでは一件もなかったように思うのでございますが、戦後社会の大きな変動に伴いまして、外国でしばしば発生しておりますようなこの種の犯罪が日本でも発生を見るに至りまして、その後、年間多数発生しているわけではございませんが、一、二件ずつ発生しておったように思うのでございます。しかるところ、昭和三十年だったと思いますが、また著名な身のしろ金誘拐事件が発生いたしまして、そのときは議員立法の形で、幼児についての身のしろ金要求罪を重く罰しようという法律案が参議院に提案された次第でございます。ところが、昭和三十七年、八年というこの最近二年ばかりの実情を見てみますと、何か急に増加をしてまいったようでございまして、私どもの調査した統計表を見ましても、どうもその集中度が多くなってきておる。これではとうてい刑法改正の時期まで待つことは、世の不安を一掃する上から申しまして適当でないということを痛感をいたしたわけでございます。その前提に立ちまして、私どもとしては戦後発生いたしました身のしろ金誘拐事件の、未検挙のものは実態がわかりかねるのでございますけれども、検挙になりましたものにつきましてこまかく内容を分析してみましたところ、先般も申し上げましたように、非常に戦慄すべき犯罪であるというようなことと、それから増加の傾向、しかもそれが組織化されるということ、また外国の事例等を模倣する模倣性の強い犯罪であること等をいろいろ考えてまいりますと、もはや一日も猶予できぬという感じを持ったのでございます。
一方、御承知のとおり、昨年はいわゆる吉展ちゃん事件というものが発生いたしまして、これはいまだに検挙になっておりませんが、この社会に与えました影響というものは非常に重大なものでございまして、国会におきましては、委員会はもとより、本会議におきましても、皆さま方の非常な熱烈な御質問等によって、この問題に対する注意を喚起されたのでございますが、言論界におきましても筆をあげてこの問題に殺到し、また当の被害者のおことばなどは新聞にもその当時報道されたのでございますが、全く涙なしには聞けない状況、国をあげてこの問題に同情を惜しまなかったのでございます。こういったような社会状況を背景といたしまして、寸刻も猶予がならぬというふうに考えまして、今回の立案をいたしたのでございます。
仰せのように、こういうつなぎの立法といたしましては、特別法でやるという考え方ももちろんあるかと思うのであります。しかし、特別法と申しますのは、何と申しましても臨時法的なものでございます。罪が刑法犯でございますれば、刑法の体系の中におさめますことが一般予防の見地から申しましても、罪の性質を明確にいたしますためにも、やはり刑法に盛るべきものは刑法に盛るのが、刑罰法令としましてはそのところを得たものでございます。特別法によるか、刑法の一部改正によるかということは、私どもとしましても慎重に検討いたしましたが、やはりこの罪の性質から申しまして、全面改正の際は全面改正の方向に乗り移るといたしましても、特別法でなく、臨時法的なものじゃなく、事柄は恒久法でございますので、やはり刑法にその立場を得て、その刑法の全体系の中の一つとして改正をいたしますのが時宜に適したものとの結論に達しまして、あえて特別法という方法によらないで、刑法の一部改正ということでいたした次第でございます。
刑法の一部改正ということになりますと、おのずから全体系の中の一部でございますので、そういう方面の制約を受けることはもちろんでございますし、他の同種の罪とのバランスというような点も検討しなければならぬ、そういう制約も受けるのでございますが、他面また、刑法に規定しましたことによって、この罪の重大性というものが明確になるという利点もあるのでございまして、彼此考覈いたしました結果、特別法によらないで刑法の一部改正による、かような次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/61
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062・大竹太郎
○大竹委員 それでは重ねてその点でひとつお聞きしたいのでありますが、いまのお話の緊急性という問題は大体わかったのであります。刑法の一部改正のほうがよろしいということもわかったのでありますが、そういたしますと、全面改正を待っておれないということで、一口に言えば全面改正をこの部分だけ早くやったというふうに了解してよろしいですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/62
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063・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この身のしろ金誘拐につきましては、この部分だけ早くやったと申しても一向差しつかえないと思いますが、誘拐罪全体といたしましては、なおその他の営利誘拐、わいせつ誘拐、国外誘拐等につきまして法定刑等について検討すべきものがあると考えております。申すならば、そういう誘拐罪全体を重くいたしまして、さらに身のしろ金誘拐については加重類型として重い刑をもってくるのが刑法の体系としてはおさまりがいいのでございますが、営利誘拐だけを、三十三章の罪を全般的に引き上げますと、これに類似しております逮捕監禁の罪であるとか、強姦の罪であるとか、そういったような罪との関係で、やはりそれも直していかぬとバランスがとれぬということになりますと、これは結局全面改正ということになりますので、営利誘拐の中で真に必要な最小限度の改正ということを考えまして、それでここへはめ込むことによりまして罪の性質もはっきりいたしますし、従来の判例、通説等によって確立いたしました解釈というものも、すべて今度の新しい規定に適用していけるというような便宜も、また二面においてございます。この便宜と申しますのは、やはり刑罰法令としましては解釈に疑義がないということが必要なことでございますので、そういう点を考慮いたしますと、この部分に関する限りは、新しく一歩進んで早目に改正を遂げた、こういうふうに言っていいと思いますが、営利誘拐全体としましてはなお検討の余地がある、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/63
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064・大竹太郎
○大竹委員 それではその次にお聞きしたいのでありますが、この提案理由の説明を拝見いたしますと、結局、身のしろ金要求の犯罪については特に罪を重くして、こういう犯罪を起こさせないようにするということに尽きると思うのでありますが、一体罪を重くすることによってその犯罪をなくするというものの考え方、刑法上のものの考え方、これはもちろんそういうものの考え方もあるでしょうけれども、何かいままでにも例があるでしょうが、実例をもって示していただきたいと思いますし、私の申しますことは、すべての犯罪で、どの犯罪も少なくするということは一つの刑法の考え方でなければならない。そうすると、今度の刑法の改正におきましても、すべての犯罪について罪を重くするというものの考え方に立たなければ、私はやはり一貫したものの考え方にならぬように思うのですが、そういう点についてはどうお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/64
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065・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 それは立法政策といたしましても、刑事政策といたしましても、非常に重要な問題を含んだ御質問でございまして、簡単に一言をもってお答えはしにくいのでございますが、特にこの犯罪に限って申し上げますと、この犯罪は営利誘拐という罪、これは個人の自由を主として保護の法益とする犯罪でございますが、身のしろ金目的の誘拐につきましては、これは生命の危険ということから始まりまして、それにつけ込んで金を取るというつまり財産犯、生命犯から財産犯にまでまたがった犯罪だと思うのでございます。そういう特殊な犯罪でございますので、しかも犯人の心情がきわめて卑劣きわまるものであるということもさることながら、被害者側に非常な不安を与える犯罪だということが、この罪の特徴をなしておるように思うのでございます。そのことは同時に社会不安につながるのでございまして、実例をもってお示しを申し上げるわけでございますが、これは非常に模倣性が強くて、著名な事件などがございますと、すぐそれに続いてそれらしい犯罪が行なわれる。現につかまってきた犯人が、その犯罪の動機としまして、そういった著名事件にヒントを得たということを申しておるのであります。やはり模倣性があるということは、これは疑うべからざる事実でございます。そうしますと、こういう模倣性を断ち切って、こういう犯罪を未然に防いで参りますためには、いろいろな手がございます。刑を重くすることばかりがこれを防ぐ唯一の方法ではない。むしろ、犯罪が行なわれましたならば、適確にすみやかにこれを検挙して、適正な刑をもって処断すべきものは処断していくというところに、犯罪を打ち切る一つの有力な手がかりがあると思うのでございますが、だからといって、模倣性があるということは、やはり刑を軽視しておる、刑が軽いというところにもまた一原因があることは、これは学者が疑わないところでございまして、この罪に関して外国の立法例等、学者の意見等を聞いてみましても、日本の営利誘拐は一年以上千年以下という刑になっておりますが、身のしろ金誘拐もまた営利誘拐で現行法のもとでは処断するほかない。金を取ればこれは恐喝であるというのでは、これはとうてい身のしろ金目的の罪をまかなうのには法定刑といたしましても軽過ぎるということは、これはもう学者の一致している点でございまして、この点から見ますると、やはり刑を重くする必要があると思うのでございます。
それから、刑事政策的考慮を考えてみますると、刑は重くするだけではなくて、やはりこの誘拐されました被害者を無事に取り戻すということがこの罪におきましてはきわめて重要なことでございますが、捜査に当たります者は、何とかして犯人をつかまえると同時に被害者を安全に取り戻すということに、捜査のある程度の犠牲は払っても、そういうことに心がけて捜査に当たっておることは、いままでの例で御承知のとおりでございますが、これを法律的にもそういう道を開いておく必要があるのではないか。刑は重くする、しかしながら身柄を安全な場所に解放すれば刑を減軽してやる。また共犯者の仲間割れ等で、早くこういうことは悪いと気がついて申し出てきたものについては、場合によっては免除もしてやる。こういった政策的考慮を立法的に解決していくということがこの種の犯罪を未然に防止するために役立つ。つまり、未然防止と発生した場合の刑を重くしていく、この両面からこの種の犯罪を防遏していくことが効果的な方法ではないかというふうに考えておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/65
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066・大竹太郎
○大竹委員 それで、いままでのこの種の犯罪に対する処罰のあり方でありますが、もちろん近親者の非常な憂慮ということについて評価しなければならぬわけでありますけれども、いままでの実例から見て、被誘拐者の身体に対する傷害とか、もちろん殺人とかいうような場合もあるわけでありますが、そういうような場合には、いままでの規定によっても、殺人とか傷害の併合罪とかいうことで、今度の新しい規定と同じくらいな効果はある。ただ、普通の誘拐罪では無期ということは、なかなか新しいこの条文によっても適用できない、その点はどうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/66
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067・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは現行法では一年以上十年以下という罪でございますので、いま仰せのように、被害者を殺してしまったという場合には、殺人罪と営利誘拐罪との併合罪ということで、重い殺人罪の刑に従って死刑の判決を受けた例も二、三件にとどまらないわけでございますが、そういう点で、生命犯につきましては、殺さないまでも傷害を与えて致死、つまり犯意はないが死んでしまったといったような事態も、傷害致死その他の刑法の規定とこの誘拐罪の規定と相まって重い刑を盛ることができると思うのでございますが、死んだかどうかわからない、あるいは生きて取り戻すことができた、そうして金もとったという場合だけを考えてみますと、一年以上十年以下の刑と現行法の十年以下の恐喝というこの二つの罪では、この罪を律するのにはあまりに軽過ぎる。これでは刑法の威嚇的な効力というものは希薄である、急所をついてないという感じはいなみがたいように思うのでございます。それでは、こういう刑ができたならば裁判所は場合によっては無期を言い渡すであろうかということでございますが、法律がそういうふうに改正をされまして、真にこの事件にぴったりの事犯が出てまいりまして、また情状によりましては、私は無期の刑を言い渡すのに裁判所は決して勇気がないというふうには思わないのでございまして、そういう事例もないとは言えない、あり得ると私は考えております。でございますから、やはりこの点は立法的に手当てをしていく必要があると考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/67
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068・大竹太郎
○大竹委員 それでは重ねていまの点をひとつお聞きしたいのですが、たしか強盗なんかは結果的加重の規定があるようでありますが、この営利誘拐犯罪についても、そういうようなきめ方をしたほうが、むしろこういうような全面的な改正よりも一時的な法律の改正を取り扱うのにはよろしいように思うのですが、その点はどうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/68
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069・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 その点はまず大事な点でございまして、法制審議会の審議の段階におきましても、ただいま御質問のような御意見が学者の中から出まして、現行の政府原案におきましては、生命犯と誘拐とのくっついた、いわゆる結合犯でございますが、そういうものは考えておりませんで、犯との結びつきのほうは考えました。先ほど申しましたように、生命犯と自由を保護するのと、それから財産、この三つにまたがった身のしろ金目的の誘拐罪でございますので、生命犯との結合の部分を書く必要があるというふうに考えられることはごもっともでございます。ただ、よく内容を考えてみますと、被害者の親族にしてみますと、両親等にしてみますと、殺されるのじゃないだろうか、いまごろは睡眠薬を飲まされてひどい目にあっているんじゃないだろうかという、この不安は非常に重大でございますけれども、誘拐の内容として、必ず傷害をするとか、必ず命をとるとかいうことは必然的な内容をなしていないように思うのであります。そういうことが理論的に言えるのと、もう一つは、先ほど申しましたように、殺せば殺人との併合罪になる、傷害をすれば傷害罪との併合罪になる、傷害致死になれば傷害致死との併合罪になる。こういうふうに、刑のほうではこの規定が無期懲役まであるのと相まって、十分法定刑としてはまかなえる。これに反しまして財産のほうはどうかといいますと、身のしろ金目的の誘拐というものは、結局金を取るのが目的なんでありますから、誘拐がいかにも手段になっておる。そうすると、金を取った行為は、これはいまの判例でいきますと恐喝罪でございます。これは場合によっては強盗というふうな見方もできぬことはありません。しかし強盗であるか、恐喝であるかということは、いまこれを規定をいたしませんと、現行法ではどっちかにまかなうわけで、判例は、どっちかというと恐喝のほうにいくわけでございますが、そこを、それでは刑が軽過ぎるというので、金を取った行為、取ろうとした行為、これをすべて身のしろ金目的の誘拐と同じように評価をいたしまして、三年以上無期という重い刑の一罪にきめましたので、金を取るほうは必然的な結果でございますので、これは新しく規定を設ける必要があると思います。これは手段、結果の関係だと思っております。ところが、いまの生命のほうにつきましては、必然的な理論的な、必ず殺すというふうに理解すべき——被害者の親にしてみれば非常にそういう感じを持つということは言えるのでございますが、犯人の側から見れば、必ず殺すという必然性を持っていないという点と、法定刑が十分あるというその両方から、そのほうを割愛しまして、最小限度の改正という意味でそちらのほうには手を広げなかったのでございます。しかし、その点は法制審議会でも非常に議論の存しましたところでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/69
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070・大竹太郎
○大竹委員 それではこの条文について、こまかい点を一、二点お聞きいたしたいと思うのであります。
この条文を見ますと、まず、「近親其他被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ憂慮二乗ジ」、こうなっているのでありますが、この「近親其他」、特に「其他」でありますが、結論として、この「被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル」、現にした者はすべてこの「其他」の中に入る、こう解釈してよろしいでしょうか、その点はどうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/70
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071・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 「近親其他」ということばをかりに除いて読んでいただきますと、「被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ憂慮ニ乗ジテ」と、こうございます。そこで安否を憂慮する者の憂慮に乗ずるような場合は、それはだれであろうと、どなたでもいいというふうに書いてあるのが外国の立法例でございます。したがって、だれでもいいということになるのですが、しかし、真に安否を憂慮しておる、そうしてその憂慮に乗じてやろうという場合の、そういう人は一体どういう人であるかといいますと、それは単にそういう立場の人を同情する第三者までも広く言っているのではないのでありまして、「憂慮ニ乗ジテ」という書き方によりましておのずからそこにはその人の範囲は制限されてまいりまして、言うなれば、親身になって心配する人だけがその対象になるように、外国の立法例ではそこに制限を置いておらぬにかかわらず、解釈としましてはそういうふうに限定されて解釈されております。でございますから、「近親其他」という文字がなくても、そういう解釈に日本でもなると思いますが、現に行なわれておる外国の解釈をできるだけ立法的にあらわしていきたいという意味で、そういう真に親身になって心配する人という意味で、「近親其他」ということばを入れることによってその意味がなお一そうはっきりする。こういうふうに考えまして「近親其他」ということばを入れたわけでございますが、「其他」というのは近親または近親に準ずる人というのでありまして、赤の他人、一切の人をみな「其他」の中へ含むという趣旨ではございません。これはこの四つの字がなくても近親並びに近親に準ずる人だけがそれに入るということで、安否を憂慮する者はこれはたくさんあります。しかし、その「憂慮ニ乗ジテ」ということばを入れることによって、単に同情して憂慮しておる人は除外されるというのが解釈上当然出てくるのでございます。その当然出てくる解釈をなお一そう明文としてはっきりさせるために「近親其他」という文字を書いたのでございます。この「近親其他」というのは、近親とその他一般の人というのではなくて、近親または近親に準ずるような人、こういう意味のように読んでいただければ一そうけっこうだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/71
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072・大竹太郎
○大竹委員 それではその点について二つだけお聞きしたいのですが、そうすると、たとえば近親でも安否を憂慮しない者はこれに入らないのかどうかという点と、それから、いまおのずからこの憂慮ということで入るとおっしゃったのですけれども、現にあとの条文その他からいたしますと、赤の他人でも現にこの金を要求されて出したというような場合があり得ると思うのでありますが、そういう場合には赤の他人でも入ると思うのですけれども、その点はどういうことになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/72
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073・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この二百二十五条ノ二の一項の規定は誘拐の規定でございますが、これは目的罪でございますから犯人の主観的な要件である。したがって憂慮しておる者、真に親身になって憂慮しておる者、その憂慮につけ込んで金を取ってやろうという目的さえあればいいわけであって、そういうふうに信じて、そういう動機でやっておればいいわけでございますから、たまたま犯人が考えておる親族、あの父親という人はそういう人だと思ってやってやろうと思ったのですが、その父親が、いずくんぞ知らん、何も憂慮しておらなかったというような、客観的に犯意の食い違いがありましても、これは誘拐罪二百二十五条の二の一項が成立することは、解釈上、疑いのないところでございます。
一方、今度はそのあとのほうの要求罪のほうでございますが、これが「憂慮スル者ノ憂慮ニ乗ジテ其財物ヲ交付セシメ」、この「憂慮ニ乗ジテ」という場合でございまして、これは憂慮してない者から取った場合にはどうかということになりますけれども、犯人の主観としては、あれは憂慮しておる者だと思っておった。ところが、たまたまその人は憂慮してない人であったり、あるいは人違いであったりといったような場合には、この要求罪は成立しないことになるのかという点がございますが、それでは犯罪の性質からいっておかしいわけなので、要求罪としましては、たまたま憂慮してなかったというのがありましても、近親その他の人で客観的に見て憂慮すると思われる人に向かってやった場合には、それは要求罪は成立するという解釈になるように立案をいたしたつもりでございます。そういうふうに解釈されると思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/73
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074・大竹太郎
○大竹委員 その次のほうは、「近親其他」の中へ入らぬが、一般的に見れば第三者的な立場にある人でも、する特殊の関係にあって、その人間から財物を交付せしめた場合には、第二項のほうに入ることになるのじゃないですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/74
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075・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 それはそうではございませんで、やはりこの二項のほうも「近親其他被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ憂慮ニ乗ジテ」とありますので、それは真に親身になって憂慮しておる者というのはおのずから限定されるということは第一項の場合と同じでございます。したがって、客観的にある程度そういう立場の人でありますれば、たまたまそういう人が憂慮してなくても犯罪が成立するということは先ほどお答えしたとおりでありますが、そうでなくて、他人であって同情して憂慮しておるにすぎない者は入らぬというふうに解しております。たとえば吉展ちゃん事件で某新聞社が非常に憂慮して新聞に書いた。それじゃあの新聞社にひとつ金を要求してやれというので新聞社に向かって要求をした。新聞社が、おつかなくて身柄を返してもらおうと思って金を出したか、あるいは何らかの取材をするのに便利だと思って出したかは別として、これはたとえでございますが、かりに金を出したとする。そのときの新聞社のようなものが他人でございますね。そういうものがこの二項の方で入るかというと、それは入りません。そんなに「其他」というものは広く解すべきではなくて、やはり近親その他それに準ずる者ということでございます。したがって、他人でありましても、乳母のような、めのととしてその子を一緒に連れて歩いているようなおばさんに向かって要求した場合には、準ずるという立場に入るかと思いますが、松下さんが非常に心配して、おれが引き受けてやるというようなことで新聞で発表なさいましたが、それじゃその松下さんに向かって要求した場合には入るかというと、その松下さんは窮境に同情している方でございますけれども、ここにいう憂慮する者であってその憂慮に乗じて取ろうというその要求には該当しない、こういうふうに解しておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/75
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076・三田村武夫
○三田村委員長代理 本日の議事はこの程度にいたします。
次会は来たる十二日午前十時より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後零時十六分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01219640310/76
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