1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十九年三月十二日(木曜日)
午前十時二十六分開議
出席委員
委員長 濱野 清吾君
理事 鍛冶 良作君 理事 唐澤 俊樹君
理事 小金 義照君 理事 小島 徹三君
理事 細迫 兼光君
大竹 太郎君 四宮 久吉君
千葉 三郎君 中垣 國男君
中川 一郎君 馬場 元治君
井伊 誠一君 山本 幸一君
竹谷源太郎君 志賀 義雄君
出席政府委員
法務政務次官 天埜 良吉君
検 事
(刑事局長) 竹内 壽平君
委員外の出席者
検 事
(検事局参事
官) 長島 敦君
専 門 員 櫻井 芳一君
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三月十一日
委員山本幸一君辞任につき、その補決として和
田博雄君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員和田博雄君辞任につき、その補決として山
本幸一君が議長の指名で委員に選任された。
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本日の会議に付した案件
刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第一二
八号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/0
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001・濱野清吾
○濱野委員長 これより会議を開きます。
刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。
前会に引き続き質疑を行ないます。大竹太郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/1
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002・大竹太郎
○大竹委員 この前、二百二十五条ノ二の前段についてお聞きしたのでありますが、どうもまだ納得できない点がありますので、さらにお聞きをいたしたいと思うのであります。
この間の御答弁によりますと、「近親其他」の点について、被拐取者の安否を憂慮しないような場合でも、「近親其他」であれば本罪の適用があるというふうに御答弁になっておりますし、また一方では、たとえ同情して金を出しても、「近親其他」に該当しない場合には本罪の適用がないというふうに御答弁になっておると思うのでありますが、そういたしますと、この「近親其他」という概念、それから「安否ヲ憂慮スル者」というこの概念を、よほどはっきりさせておかないと、本条の適用において非常に問題が起きるんじゃないかというふうに考えるのでありますが、この近親というものは、それなら民法の七百二十五条ですかに規定しております親族と一体どういう関係になるとお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/2
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003・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 御疑念の点、先般の私どものお答えに対しましてはっきりしない点があったかと思いますが、さらに詳しく御質問いただきまして解明してまいりたいと思います。
まず近親ということばでございますか、これは民法のいわゆる親族の範囲、そういうものに限定をしておらないのでございまして、したがいまして、親族ということばを使わないで近親ということばを使ったのでございますが、近親とは直系尊属、直系卑属、配偶者、兄弟姉妹、こういうものが近親の中に入りますことは常識上の当然でございます。そのほかこれに準ずる血縁の近い親族を申すわけでございまして、必ずしも被拐取者、つまり被害者と起居をともにしておる必要はないと思うのでございます。しかしながら、被害者の不幸をほんとうに親身になって、わがことのように心配をして、その無事の帰還を心から願っておるというような立場にある血縁関係の身近な者をさす、こういうふうに考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/3
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004・大竹太郎
○大竹委員 それはわかっておりますが、それなら「其他」はどうなるのでありますか。それでは「其他」までみんな入れておしまいになったのじゃないかと思うのですが、その点はどうなるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/4
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005・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 近親というので、血縁関係を中心としていま申し上げましたが、この血縁関係の近親に準ずるようなものが「其他」でございまして、血縁以外その他一般の人全部を含むという意味ではございません。したがいまして、たとえばこの前もちょっと申し上げたのでございますが、近親以外の者であって、ほんとうに被害者の安否を親身になって心配をするようなその他の者はどういう者であろうかということにつきまして、先般めのと、古いことばでございますが、乳母のようなものを申し上げたわけでございますが、そのほか里親とか、一緒に住まっておる学校の先生とかいったようなもの、あるいは全然他人でございますけれども、起居をともにしておる雇い主と雇い人、この雇い人が特に未成年者であるような場合などにつきましては、親同様にこの雇い主が保護監督をしておるかと思いますが、そういうような関係にあります者はこの近親に準ずるその他の者の中に入る、かように考えるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/5
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006・大竹太郎
○大竹委員 それで、先ほどの質問の後段の点に入りたいのでありますが、この前の御説明だと、たとえば同情をして金を出した、たしかこの前は新聞社と松下さんの例をあげられたと思うのでありますが、そういうような人で、たとえば金を同情して出したというような場合にはこれに入らないとおっしゃるのでありますが、その点、そういう者も含めていいのじゃないですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/6
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007・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 そういうお考え方もあろうかと存じますが、そうなりますと非常に範囲が広くなるのでございまして、いわゆる身のしろ金を目的とした誘拐ということばを、実質的にこの中身を分解して考えてみますと、いま仰せになったようなそういう立場の人に、同情を禁じ得ないで黙っておれなくていろいろ発言をされます松下さんの立場とか、あるいは新聞社といったような立場の方までは、もし親身になって心配するという身のしろ金本来の実質的な意味においてこれを理解しようとしますと、それはその親身になって心配している人に同感を禁じ得ないということであって、親身になって心配している人というふうに見ますことは、やや範囲が広くなり過ぎる。やはり、身のしろ金の目的の犯罪がほんとうに悪質な犯罪だというのは、そういう親身になって心配しているその心痛を悪用して、利用して金を取ってやろうという考えにある。そういう考えからこの犯罪を犯されるところに悪質性が認められるのでございまして、もしもいま仰せのように範囲を非常に広げまして、だれでも心配している人ならいいじゃないかというふうになってまいりますと、こういう問題につきましてはほとんど日本じゅうで心配しない人はないと申してもいいくらいに、特殊な人は別として、だれでも心配をするのでございまして、その心配をよく考えてみますと、それはその親身になって心配している人に同情を禁じ得ないという心配のほうが主であって、犯罪という立場から見ますと、そういうものは除外して考えるのが身のしろ金の犯罪の本質で、急所はそこにあるのじゃないかというふうに考えまして、範囲をある程度限定しているという意味でございます。従来、この「近親其他」ということばがございませんでも、解釈としましては、憂慮しておるのに乗じということばからおのずからそういう限定が出てくると解釈されておるので、これは諸外国の立法例についての解釈を見ましてもそうなっております。そのことをさらに明らかにする意味で、「近親其他」ということをつけ加えることによって、一そう解釈上疑義のないものにしたにすぎないのでございます。したがいまして、「近親其他」という文字がかりにないと、対象者はだれでも入るかのごとくに見えますけれども、そうではなくて、やはり親身になって心配しているそういう一部の人に限定されてみなされるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/7
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008・大竹太郎
○大竹委員 それではいまのことから関連してお尋ねしたいのですが、そうすると、「憂慮二乗ジテ共財物ヲ」と、与りなっている。その財物は、もちろん近親その他の財物というふうに解釈することになると思うのでありますが、「共財物」でなくて、私はいまのような場合を入れるとすれば「其」という字は要らぬということになると思うのでありますが、たとえばこういうような場合はどうなりますか。金を要求された。だけれども、その人はたまたまそれだけの金を持っておらない。それでいまの松下さんとか新聞社、あるいは隣の人でもよろしいですが、その金を出してやったというような場合はどうなりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/8
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009・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 その場合は二つ見方があると思います。当該憂慮しておる人は金がないために自分の金が出せないということでございますが、松下さんがかりに出してくれる、松下さんの金ではありますけれども、それを犯人に渡すときには、自分が松下さんから借りてでも、とにかく自分の責任において出すという形の事実関係と見ますれば、「其」という中に入ると思います。しかし、憂慮しております当の相手方は全然金がないので出せませんということが明白であって、それとは関係なく、第三者の松下さんが、わしが出します、こういったような場合には、ここには該当しない。そのかわり、それはまた場合によりましては恐喝になる場合があるかと思いますし、また一案によりましては、強盗になる可能性は少ないかと思いますが、他の罪になることは、これはもちろん否定するものではございませんが、本罪の要求の対象にはならない、こういうことに私ども解しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/9
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010・大竹太郎
○大竹委員 本罪というのは二百二十五条ノ二の一項ですか、二項ですか。私は、いまのような場合も少なくとも二項のほうの成立を認めてもいいと思うのですが、その点はどうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/10
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011・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 ちょっと私、「其」のほうに頭を置き過ぎて申しましたが、二項の要求非のほうには「要求スル行為」となっておりまして、犯人としましては、当該憂慮しておる者から取ってやろうということで要求をしようとしたわけでございますから、その結果出した人は松下さんでありましても、「其財物」ではないですけれども、「要求スル行為」という中には入るわけでございますから、結局二項のほうの「要求スル行為」として同じ処罰を受ける、こういうことになると思います。「其」ではございませんけれども、「要求スル行為」の中に入ります。したがいまして、その場合には処罰をされる、こういうことになります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/11
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012・大竹太郎
○大竹委員 いまの要求する場合は入るようですが、それなら交付せしめた場合はどうなんですか。二項のほうは、「其財物ヲ交付セシメ又ハ之ヲ要求スル行為ヲ」云々とありますが、だから松下さんが出してくれた場合は……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/12
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013・長島敦
○長島説明員 ただいまの点でございますが、「之ヲ要求スル行為」と書いてございまして「之」と申しますのは、その財物の交付を、要求する行為ということになるわけでございます。したがいまして、金を持ってない親に対しまして身のしろ金を出せという要求をいたしますと、その金のない親の財物の交付を要求する行為をしたということになりまして、これに当たるわけでございます。したがいまして、この二項におきましては、引火に財物の交付を受けた場合、受けなくてもその要求をした場合、同列に扱いまして同じように処罰しておるわけであります。したがいまして、ただいまの点はそれで解決できるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/13
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014・大竹太郎
○大竹委員 それではその点はもう一度御答弁をあとでよく整理いたしましてお聞きするかもしれませんが、あまり長くなりますから、そのくらいにいたします。
それでは今度は財物の問題でありますが、これは説明にいろいろ書いてございますけれども、このうちに財産上の利益というものは含まれない、そしてそういう場合はほとんど起こらないと思うので、こういうふうに財物というふうにしたというように御説明になっておるのでありますが、そういうようなことは幾らでも起こり得ると思うのでありますが、その点もう一度財物ということにした点についての御説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/14
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015・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは財物交付という点に限定をいたしたのでございまして、仰せのように財物以外の財産上上の利益を得る目的でやる場合も、実際問題としてはたくさんあると思うのでございますが、それは本非のような重い身のしろ金目的の非というのには当たらないで、そのような目的の場合には、現行法の二百二十五条の営利誘拐の非を構成いたしますことはもちろんでございますし、それに基づいて要求する行為が恐喝罪ということになる、これも争いのないところで、これも全然野放しというのではないのでございますが、重い無期懲役まで持っていく重罪として考えました場合に、財産上の利益、たとえば相手方に債務の免除を求めるとか、あるいは新たに債権を設定するとか、あるいは労務の提供を求めるといったような財物以外の財産上の利益に当たるものでございますが、このような安否を憂慮しておる者から、憂慮しておるのにつけ込んで犯人が取ろうというときに、債務の免除とか債権の設定とか労務の提供とか、そんななまぬるいことではなくて、ずばり金をよこせ、こうくるのが通常の形態でございますので、あまり範囲が広くなると、刑を重くしていくということにつきましてまた難点が出てまいりますので、財物というふうにしぼりをかけまして刑を重くするという立法技術的な考慮をいたしたわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/15
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016・大竹太郎
○大竹委員 まあ一応わからぬではないですけれども、これはいずれにしても子供でありますが、一定の行為を要求して、それをしなければ子供はどうなるかわからぬぞと言うというところに悪質な点があるのだろうと思いますが、そういう意味から言いますと、いわゆる財物ということにものを限る必要は私はないように思うのでありまして、債務の免除とか、債権の譲渡なんということは、事実上起こり得ないと思うのでありますが、たとえば政治家の子供をつかまえまして、この法案に反対しなければこの子供を殺すぞとか、あるいは家業家の子供をつかまえて、お前が社長をやめなければこの子供をどうするぞとかいうような事案は私は幾らでも起こり得ると思うのであります。そういうものを含めないということは私は変だと思うのでありますか、その点どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/16
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017・長島敦
○長島説明員 お答え申し上げます。なかなかこれはむずかしいところでございまして、いろいろな考え方があると思うのでございますが、今回ねらっておりますのは、いわゆる身のしろ金誘拐というところをねらったわけでございまして、身のしろ金誘拐ということになりますと、やはりこの案にございますように、安否をほんとうに憂慮する者から取るということでございまして、財産上の利益ということになってまいりますと、必ずしもそういう関係は出てまいりませんで、たとえば先ほどの例にございましたように、積務を免除してもらう、積務を設定する、あるいは労務を提供してもらうというようなことになりますと、被害者と申しますか、それと拐取者というものはお互いに知っておるわけでございまして、だれが誘拐をしてだれが要求しているのだということが相互にわかっておるわけでございます。そういう事態でございますと、もちろん警察にも届け出ることができますし、いわばその犯人もすぐ検挙ができるというような形でございまして、身のしろ金誘拐の場合は、子供が誘拐されてどこへ連れて行かれるかわからない、だれが連れて行ったかわからない。そこでいわば脅迫状が舞い込んできて、ほんとうに心配する。こういうようなのが典型的な身のしろ金誘拐でございまして、そこへ集中いたしまして非常に重い刑をきめておるわけでございまして、これが広がってまいりますと、なかなかこれだけの刑は盛れ切れなくなってくる面があるわけでございます。
なお、財産上の利益以外の各種の問題があるわけでございますが、これはわが国の現行刑法におきまして、略取、誘拐につきましては、未成年者の略取、誘拐とか、財産的な利益を目的とする営利誘拐とか、国外移送誘拐でございますとか、あるいはわいせつ、結婚というような、そういった目的の誘拐だけを処罰しておりまして、おとなに対しての誘拐はこういう目的がたければもちろん罰せられないということになっております。さような関係がございますので、この機会に身のしろ金誘拐ということのワクを非常に広めてまいりますと、実は簡単な改正ではまいらなくなるのでございまして、略取、誘拐の全般について再検討が必要になってまいるわけでございます。さような状況でございまして、いま一応条項の整理と言いますか、ほんとうの意味の身のしろ金誘拐というところへ集中してこのような規定をつくった、こういうようなわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/17
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018・大竹太郎
○大竹委員 さらにその点でお伺いしたいのですが、たしかこの改正刑法の草案では代償という字を使っておるのでありますし、たしか最高十五年の懲役ということになっておると思うのでありますが、この間もお聞きいたしましたように、この刑法の全面改正との関係についてはどういうようにお考えになっておりますか。私は、先ほど例をあげましたような点からいたしましても、代償ということばの意味するものは、さっき例をあげたようなものとほとんど内容が同じことでありますので、当然含めるべきものだと思うのでありますが、その点いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/18
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019・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのように、準備草案におきましては釈放の代償ということばを使っております。このことばは、おそらくドイツの現行刑法の用語を大いに参考にしてこういう案ができてきたものと思いますが、そのほかの国におきましても、釈放の代償という対価関係に立つ要求行為を、そういう目的をやはり身のしろ金目的の中に掲げてある立法例もあるのでございまして、これを私どももむげに排斥しようとするのではございませんが、この釈放の代償という用語につきましては、釈放の代償という意味からいたしまして、釈放の対価だけを意味するのであるか、誘拐に関連して要求される一切の金銭あるいは金銭以上の先ほどおことばのございました財産上の利益、そういうものまでも入ってくるのではないか、そこの点が代償ということばからははなはだ明確を欠くわけでございまして、そこで準備草案の三百二条につきまして理由書が書いてございますが、この理由書を執筆いたしました中野次雄判事の理由のところをごらんいただきますとわかるのでございますが、代償というのは、釈放の反対給付を意味し、その限りにおいて財物の交付その他あらゆる行為がこれに該当する、こういうふうな解釈をしております。さらにいま申しましたように、必ずしも経済的利益の供与に限られないというふうなことばも使っております。
そこで釈放の代償として財物を要求する目的というふうにして、その他の利益が広く含まれるという点を防ぐということももちろん考えられるのでございますけれども、そう対価関係に立つことが明らかであるといたしますると、対価関係に立たないで、つまり被拐取者、被害者を殺してしまってから後に要求をしたような場合とか、あるいは初めから釈放するつもりはないのであって、金を出さなければ子供の生命を保障しないというような言い方をするばかりでなく、真実そういうつもりで要求をしたような場合がはずれてしまうという心配がここに出てくるのであります。そういう意味では狭くなってしまうのでございますが、他面、それでは狭いだけかというと、必要以上に広くなる面もあるのでございまして、けさの新聞にも出ておってごらんいただいたと思うのでございますが、たとえば夫婦別れをしたような場合に、子供を一方の者が誘拐をしてしまって身のしろ金のようなものを要求してくる。そういったような場合に、これは子供の安全というような点からいうと、ほんとうの子供でありますから、子供に危害が及んでくるなんということは相手方はあまり感じないわけなんで、客観的に感じないというのが常識なんでありまして、そういったようなものは入れる必要はないと思うのでございますが、身のしろ金の代償ということばを使えばそういうものも入ってくるということになりますと、やはり身のしろ金要求の罪というものをよく考えてみますと、そんなものははずしてしまったほうがいいんじゃないか。でありますから、現に外国の立法例では、親族関係でやる場合は除くのだ、親が誘拐する場合は除くのだという立法例を置いている国さえあるくらいでありまして、そういうことをいろいろ考えますと、この面で広く見過ぎるわけでございます。
そこで一面では狭く、一面では広いというようなことが、釈放の代償ということばを使いますと起こってまいりますので、やはり実質的にどこが悪いのだというところを煮詰めまして、そうすると、やはり親身になって憂慮しておる者から金を、取ろう、こういうところが問題の急所であるというふうに見まして、実質的な規定の仕方をいたしたわけでございます。用語としましては簡潔でございますし、一見すこぶるいいのでございますが、 さて解釈、運用という面になって、まいりますと、いま申したように一面において狭く、一面において広くなり過ぎる、こういう欠点を含んでおりますので、あえて準備草案の表現とは変えた表現の仕方をいたしたのであります。この点は準備草案との関係で法制審議会でも一応議論していただきましたが、てまえみそのようなことを申し上げて恐縮でございますが、やはり原案のほうが実質的でいいということでこの原案が絶対多数で支持されたようないきさつもございますことを申し上げまして、いまの御質問の答えにいたしたいと思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/19
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020・大竹太郎
○大竹委員 そうすると、この点については準備草案を変えたということに了承してよろしゅうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/20
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021・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 さようでございます。準備草案の考え方をこの点につきましては変えて、実質的でこのほうがよりよい表現であるという観点に立ちまして立案をいたしました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/21
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022・大竹太郎
○大竹委員 それではその次をお聞きしたいのでありますか、この罪につきましては未遂と予備、何方を罰しておるのでありますが、この非は未遂と予備の区別はなかなかむずかしい面があると思うのでありますが、その点についてお答えをいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/22
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023・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 御承知のとおり、未遂罪と申しますのは、犯罪行為に着手をしてその目的を遂げなかった場合が未遂罪になるわけでございます。予備罪は、犯罪の準備行為をいうのでありまして、まだ着手に至らない以前の段階をいうのでございます。観念的にはそういうふうに理解されておりまして、それではその犯罪行為の着手というのはどういうものをいうのかということになりますと、一般には犯罪の構成要件の一部に当たるような行為に出る、あるいはそれに接着した行為に出ることをもって着手、かように解釈されておりまして、この点は窃盗罪につきましても、すべての罪につきましても、多数の判例が出ておりまして、解釈に疑義はないと思うのでございます。したがいまして、この場合の未遂罪につきましても、従来の判例、学説によって明確に区別ができるのでございます。ただ予備につきましては、予備罪を罰しますのは、まだ犯罪に至らない前段階でございますので、刑法はかなり慎重な態度をとっておりまして、御承知のように放火、強盗、殺人とか通貨偽造のようなきわめて重い罪につきまして、予備罪を独立の非として罰することにいたしておるのでございます。強盗は御承知のように五年以上十五年以下という重い罪でございますが、これに予備を設けており、殺人は死刑、無期もしくは三年以上という、重い罪につきまして予備を設けておるのでございます。身のしろ金目的の誘拐は三年以上無期という、これまた重い罪でございまして、予備を設けております。それらの非と比較して、決して予備罪を設けることが刑法の全体系から見まして不当ではないと思うのでございます。それのみならず、単に当不当の問題だけでなくて、この種の罪の特殊性といたしまして、最近の身のしろ金目的の誘拐罪の実態を見てまいりますと、多数の者が参画して、かなり綿密な計画のもとに実行に及ぶというような場合が多いのでございます。もしこの予備罪を罰することにいたしまして、予備の段階でもし検挙ができますならば、その実行を未然に防ぐことができるのでありますし、さらに、この予備罪があって、もし仲間割れがして、犯罪実行の着手前に自首して出てまいるというような者がありますれば、一そう犯罪の検挙が実行の未然にできるわけでございまして、防遏に貢献するところが多いと思います。したがいまして、そういうような場合には減免、つまり刑を減軽し、あるいは場合によっては免除するというような刑事政策的な考慮も立法上いたしまして、罪を何とか未然に防止するという措置を講ずる必要があると思うのでございます。そういう意味からして、こういう予備を設けることはきわめて適切な措置であるというふうに考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/23
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024・大竹太郎
○大竹委員 それじゃ次に刑罰について一、二お聞きしたいと思うのでありますが、上限を無期としてあるわけでございますか、ほかの犯罪では、ことにこの個人法益の侵害の点から考えますと、強盗傷害よりほかにないように私は思うのでありますが、もちろん、この誘拐罪におきましても、殺したとか、あるいはけがを、させたという場合は、当然そのほうの併合非で罰していいわけでありますので、おそらくは、この普通の身のしろ金目的の誘拐罪というものでは、誘拐しただけという、この二百二十五条ノ二の一項でありますか、このような場合には無期というもの言い渡す余地がないように思うのでありますか、その点はどうなのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/24
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025・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この身のしろ金月内の誘拐に無期というような法定刑をつけますことの当否の問題と、さてつけた場合に裁判所がはたして言い渡すであろうかという問題と二つあるわけでございますが、もしこの無期という刑が必ずしも適当な刑でない、重過ぎる法定刑だということになりますれば、裁判所はおそらく言い渡さないであろうと思うのでございます。しかしながら、この罪につきましては、各国とも、それぞれ国内事情もあると思いますが、この罪については死刑まで規定しております国も二、三にとどまらないと思いますし、無期の刑を盛っている国も、これまた少なくないのでございまして、こういう諸外国の立法例を見てみましても、日本で新たに見のしろ金を目的の誘拐という罪を新設いたします場合に、無期刑を持ってくることか法理念として非常に非常識的な重い刑であるというふうには、とうてい考えられないと思うのでございます。のみならず、先般も申し上げましたように、この罪の性質は、なるほど誘拐非でございますけれども、これは被害者の生命身体の安全という面に対する極度の危惧の念を抱かされる罪である。そういう意味において生命身体の安全ということに対する危殆犯と申しますか、そういう面も持っておるとともに、これはまた強盗的な行為にもつながる財産犯的な要素も多分に含んでおる。被害法益はすこぶる複雑な対応的な問題であると思うのであります。これは、すんなりと常識的に申しますと、殺人、強盗といったような重い罪の中間といいまするか、強盗の重いようなもの、こういう感じのする犯罪のように思うのでございます。そういうふうに見てまいりますと、強盗罪の五年から十五年という、この十五年を無期まで持ってまいりますことは決して不当ではないと思うのでございます。それじゃ、五年のところを三年に下げておるじゃないかという御議論もあるかと思いますが、これには私どもにも理由がございますが、要するに無期という刑をここに法定いたしますことは、決してこの罪に関する限りは不当ではないのみならず、いまの刑法の——いまの刑法は刑が全体的に軽いという非難があるのでございますが、現行刑法の全体系の中にこれを差し込んでみました場合でも、必ずしもこれがアンバランスの法定刑であるというふうには思えないのでございます。そこで、この点につきましても法制審議会で議論がございました。無期は重過ぎるんじゃないか——無期を重過ぎるという意味は、いまの刑法体系全体が軽いので、特にこれだけに無期を持ってくることが重いんだという議論もありますし、いろいろございましたが、結局、これは法制審議会の段階におきましても、多数の意見でこれは無期を置くのが相当だということに結論としてはなったわけでございますので、無期を置くということは今の改正におきましても重要なポイントであろうかと思っておるのであります。
〔委員長退席、小島委員長代理着席〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/25
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026・大竹太郎
○大竹委員 それから自首減免の規定でありますが、これは刑法の四十二条の一項とはどういう関係になりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/26
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027・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 刑法の四十一条の自首は、第一項にございますように、「罪ヲ犯シ未タ官二発覚セサル前自首シタル者」こうありまして、もうすでに官に発覚して捜査中であります場合には、ここの法律上の四十二条の自首には当たらないわけでございます。しかし、情状としてはもちろん参酌されますのでございますけれども、予備罪の場合に、実行に着手前に自首したときには、この四十二条の自首でなくて、もう犯罪は捜査しておるわけであります。そういう場合もあり得る。そういう場合でありましても、実行に着手前に自首してくれば、そのときは四十二条と同じような減免の規定を適用しよう、こういう趣旨でございまして、四十二条以上に広範な自首減軽の考慮を払っておるというふうに理解される。私はそういうつもりで理解しておりますが、そらく解釈もそういうことになろうかと思っておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/27
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028・大竹太郎
○大竹委員 それではいまのこの本案の自首の場合は、四十二条の一項の場合の要件も具備しているときには、四十二条の一項も適用になるのですか、ならぬのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/28
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029・長島敦
○長島説明員 ここに置いておりますのは予備罪についての特別の自首の規定でございまして、ちょうど内乱罪につきましても、暴動が起こる前に自首した場合の規定がございますけれども、あれと同じ性質でございまして、刑法総則の四十二条の特例を実は定めておりますので、こちらの予備の自首減免の規定が優先的に適用になる、これだけが適用になるというふうに解釈しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/29
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030・大竹太郎
○大竹委員 それでは最後に、先ほどちょっと聞き落とした点をいま一つだけお聞きして質問を終わりたいと思うのであります。
そういたしますと、先ほどの財物の問題でありますが、普通の財産非の財物の規定が書物その他に戦っておりますが、財産罪の財物、窃盗とか、強盗の財物と同じに解釈してよろしいですか、どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/30
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031・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおりで
ございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/31
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032・大竹太郎
○大竹委員 質問を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/32
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033・小島徹三
○小島委員長代理 井伊誠一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/33
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034・井伊誠一
○井伊委員 今度いわゆる身のしろ金目的の誘拐を特に取り上げて、本国会に提案をされるようになりましたのは、どういう事情からでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/34
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035・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この点は前回も一度御説明を申し上げたかと存ずるのでございますが、御承知のように身のしろ金目的の誘拐という犯罪は、戦前には私の記憶いたします限りでは一件もなかったように思うのでございますが、戦後こういう犯罪が日本にも出てまいりまして、世の心ある方々の注意を喚起してきたわけでございますが、その後これはあとを断ちませんで、毎年数件あったように思うのでございますが、しかし最近になりまして昨年、一昨年あたり、最近二、三年の間かなり頻発しておるのでございます。それで私どもも、この点につきましては刑法改正の機会に、もちろん準備草案にもこの規定がございますし、検討をしてつくればいいんじゃないかというような気持ちも初めのうちはしておったのでございますが、ところが最近頻発しておる事情にかんがみまして、戦後この種の事件の三十数例につきまして中身を検討してみますと、これはこの前申し上げましたように非常に危険な模倣性の強い、子供を持つ親の身になってみますると、これは容易ならない不安を引き起こす性質の犯罪でございまして、特にこれが未検挙になっております場合には、いまだに町かど、停車場等に参りますと、吉展ちゃんのあどけない子供の写真が街頭で目におりきになると思うのでございますが、こういう状況を見てまいりますと、一種の社会不安と申しますか、そういうものをかもし出しているように私は看取する次第でございまして、刑法改正の作業が今後数年を要するということになりますと、その間これを放置することは刑事政策的に見ましてもとうていできないという確信を持つに至りまして、実は刑法改正の際までのつなぎと申しますか、その間だけでも身のしろ金についての問題だけにつきましても穴を埋めて、世相に対処して国民に安心をしていただくような立法措置を講ずる義務がある、かように感じておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/35
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036・井伊誠一
○井伊委員 ただいまの御説明では、この種の犯罪が近年になってから多くなってきた、こういうことでありますがおそらくは、ただ多くなったというだけでなくて、その身のしろ金を目的とするところの誘拐というものはさまざまなむずかしいものを内包しておって、そうして誘拐の方法などについても著しく危険なものをはらんできており、被誘拐者に対する身柄を危険にするような性質も含まれている。そういうものを、今度その身を案じているところの人たちのその憂慮に乗じてやるという、その性質とあわせて、こういうものが多数起まる傾向がある。こういうことにあるように説明を受けたわけでありますが、実際どうでございましょうか、これがたくさん出てくるというような傾向が何か具体的にあらわれておるのでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/36
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037・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この種の犯罪が非常にたくさん発生しているというような事態ではございません。ございませんが、統計を見ますると、先ほど申しましたように、ここ二、三年来かなりふえていることはもう間違いのない統計が示している数字でございます。趣旨説明あるいはこの前のときにもちょっと申したかと思うのでございますが、単にふえているだけでなくて、中身が非常に計画的な、数人ないしもっと多数の人で綿密な計画のもとに行なわれる事例が何件もございますし、最も私どもが心配されますことは、三十一例を調べたのでございますけれども、その中で殺されておりますのが六例ございます。それから殺されそこなったという、未遂に終わっておりますのが一件、それから殺しはしませんが——殺した中にもあったのでございますが、子供がやかましく言っちゃ困るものですから、それに麻酔薬、睡眠薬を飲ませまして、発見されたときにはほとんど重態の状態になっておったというような事例も四件あるのでございます。こういうことを見るにつけ、親の身になってみれば、これは生きたここちはないわけなんで、自分が殺されるような思いがすることは御承知のとおりでございます。そしてまたこの種の犯罪はやはり模倣性が非常に強いのでございまして、新聞で書き立てているせいだというふうにのみは言えないのでございます。現に犯人としてつかまって取り調べを受けた者の供述しておるところを見ましても、実はリンドバーグ事件をまねて、ヒントを得てやりました、あるいは雅樹ちゃん事件にヒントを得たとかいうようなことを述べておるのがこれまた数例ございます。それからまた、こういうような事件につきまして、非常に社会の動揺が激しいことを裏書きするものだと私は思いますのは、この問題が起こったときに、国会においていろいろ御質問や御議論が出たことを私統計的にずっと日を追って調べておりますが、何回となく衆議院、参議院でも御議論になっておられますし、昭和三十年のときには、がまんし切れぬということで参議院の中山法務委員長が当時御自分で立案をいたしまして特別法を提案されたといういきさつもありますことは御承知のとおりでございますし、これにからんで新聞論調は、もちろん新聞の中でいろいろな方の意見が発表されておるのでございます。ところが、こういう事案でありますのに、ひるがえって現行法を見ますると、現行法の二百二十五条の営利誘拐でやるよりほかしょうがない。営利誘拐というものは一年以上十年以下の懲役でございます。身のしろ金目的の誘拐も営利誘拐の一極でございますので、現行法で処罰するとすれば、それでやるよりしょうがない。それから身のしろ金を要求いたしますには、私は場合によっては強盗になる場合もあると思うのでございますけれども、判例はなかなか強盗に踏み切れない。一件も強盗で処断したことはございません。やはり恐喝罪ということでございまして、このような危険な犯罪に対処する現行法の規定は何と申しましても不合理でございますし、これでは刑法の一般他戒の効果は望めない現状でございます。これは先ほど申しましたように、刑法改正の際にこれを是正するか、いまこれをやってつなぎをしていくかということが問題でございます。私どもは、いま立案をいたしまして、刑法改正までのつなぎをしていきたい、かように考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/37
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038・井伊誠一
○井伊委員 この取り急がれますところのあれというものは、刑法の全面的な改正のときまでは待たれないのは、必ずこういう事態はどんどん出てくる、こういうようなふうにお考えになっておられるわけなんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/38
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039・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 最近二、三年の傾向は、激増ということばはややオーバーかもしれませんが、少なくとも戦後一件、二件というふうに発生したものが集中して起こっておる。この現象は、目をおおうことができない現実の姿でございまして、今後に対処するためには、やはりこの際立案しておいたほうがいいというふうに思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/39
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040・井伊誠一
○井伊委員 まあ、統計の上にも、この傾向がいままでそうたくさんあるというふうには見えないと思うのです。いまのお話でも、そういままでたくさんあるというわけではない。これからも模倣であるとか、何かそういうものが多く出る、そういうふうに御観察になるようでありますが、私はこのほうだけ、全面的に見て、その上でかような二百二十五条ノ二その他の点を考えられるということは、これは必要なことだと思うのですけれども、このことが法の他の条章との関係においてあまり行き過ぎじゃないかということを考えるのであります。何か特別に、全体を見ましても、これらのいまの数人共同してやるというような計画的な傾向がある、略取の方法が危険な、ほとんど他の強盗あるいは強盗にも似たようなものにまでそれがいく、そういうようなものは、数人共同の計画的なものが出てくるということは、これはあえてこの種の犯罪にとどまらず、だんだん社会的な生活が複雑になってくるにつれて知的な行為が行なわれるということは、これは当然の傾向だと思う。別なところからこれはきておるのだと思うのです。数人共同というような傾向がある、計画的になる、そういうものは社会のほうで、こういう誘拐というような、単にこれを誘惑していくというやり方でなくて、これを暴力を用いてまでやっていくという略取のやり方、これをやはり防ぐというか——計画をするところのものが数人になる。もともとこれは営利誘拐の場合におきましても、暴力を用いる者こそあるいは少なかったかもしれないけれども、たくさんの人たちが共同してやるという形は、いままでもこの種のものにはつきものであると私は思うのです。必ずそれに対して共同者があり、誘拐しておいて、それをどういうふうにしてかくまうか、あるいはこれを他のほうに持っていって、あるいは営利のためにこれを他に売るとかいうことがありましょうから、共同者が多いということは前にもあったことです。今度の場合は、そういうことよりは、やはり略取のやり方が残酷な、狂暴なことをあえてしてもとるというその方向がつまり数人共同と言われる眼目なんではないか、こう私は思うのです。そうすると、これは近親その他心配をしている人たちの憂慮に乗ずるということにはならないのであって、これは一つのしかけでありまして、略取者のほうの仕事でありますから、完全にそれを略取することによって、だれかれがその生命とかその自由とかいうものを拘束しておいて、それでそのかわりに代償を得ようとしておるものでありますから、その者を初めからその生命やその自由をなくしてしまうということが眼目ではない。やはり代償というものを目標としておるものに相違ない。でありますから、この数人共同のやり方というようなもの、あるいは計画的だというようなことは、略取のほうのやり方が過酷になる、残酷になる、あるいは狂暴になるということに関係があるのであって、私は、こういう事柄が傾向としていまだんだん多くなっていることはあろうと思うのですけれども、これはあえて近親その他被拐取者の憂慮につけ込むというほうの材料としましては、こういうことはあまり問題にならないのじゃないかというふうに思うのであります。また、こういうことの傾向はあろうと思うのでありますけれども、数もだんだん出てくると思うのでありますけれども、これは直ちに本条を設けようとするところの理由には私はならないと思うのであります。
〔小島委員長代理退席、鍛冶委員長代理着席〕
それからまた、被拐取者が殺害をされる、あるいは生死不明となる、あるいは睡眠薬の使用というような事例が出てくる。こういうことも結局は財産目的のために誘拐をしておいて、誘拐した者の扱いが、これを生かしておく、傷つけないでおく、だれもいかにこういう犯罪をやるとしても無目的ではないので、財産を目的としておるとするならば、こういう者を傷つけたり殺したりするというようにして、あるいは意思のあるなしにかかわらず、生死不明のように結果がなるというようなことは、この扱いをどういうふうにして有効にするかという拐取者の計らいがこういうふうにだんだん知的になってくる結果、最後においては自分がおそろしくなればあるいは殺すというようなこともあり得るのでありましょうけれども、初めから殺すというようなあれではもちろんないわけです。あるいは睡眠薬の使用というようなものも、これはきわめて現代的な傾向でありましょうが、これは何のためでありますか、とにかく被拐取者に睡眠薬を与えるということでありますから、それもさまざまな場合があろうと思う。あるいはいつまでも生かしておくというためには、やはり自分の活動を続けるという上に、騒がしく音を出したり、泣き叫ばれたりなんかすると困る。だから睡眠薬を与えて眠らしておいたほうがいいという場合もあり得ると思う。これは睡眠薬を用いて、そのために結局殺してしまうとかいうようなことではおそらくないのですから、何のために睡眠薬を使用するか。要はそれを用いて完全に対価を得るということを目的として、その間世間に知られず、それが完全に帰せるような、しかし帰せるというのは、被略取者を帰すという意思まではないかもしれぬけれども、大体においては、それをタマにしてというか、そういうことにして取りたいというのは結局財物であるというあれからこういうことが行なわれるのであって、こういうことがだんだん強くなってくるというのは、前の数人共同的に遂行せられる傾向とか、計画的に事が運ばれるという傾向とかあって、件数も多くなれば、あるいは殺害をされるという事実も出ると思います。生死不明あるいは睡眠薬の使用というものも出てくるかもしれぬが、これらのことはいずれもそれを目的としたものではなくて、本来はそうはしたくはないけれども、タマを大事にしておこうということ、それから世間に早く知れてそれが台なしにされてしまうことのないようにする計らいに近代的なさまざまな知識が加わって、こういうふうになると私には思われるわけです。ですから、このごろの傾向としまして、こういうふうになってくるということがありましても、それはこういうものが多くなってくるというようなことでなければ、この点を特に取り上げて急遽この法律を設定しなければならぬというふうには考えないのでありますが、どうでございましょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/40
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041・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 御質問に十分お答えできるかどうか、あるいは的のはずれたお答えになることを実はおそれるのでございますけれども、先生の御質問は、結局いろいろな技術、いろいろな社会の進歩が行なわれてくると、犯罪も非常に複雑になってくるのであって、何もこの誘拐に限ったことではないんじゃないか、だとすれば、特にこういう法律をつくらなくてもそういう事態に対処する方法があるのじゃないか、それは犯罪一般について言えることであって、そうだとすれば、特にこの法律をつくる必要についての疑惑を払拭し得ないという御趣旨だというふうに私ただいま理解をいたしたわけでございます。この理解は間違っておるかもしれませんが、仰せのように犯罪が巧妙化し、複雑化してくることは、誘拐に限ったことではございません。すべて、窃盗のようなもの一つとりましても、昔の窃盗とただいまの窃盗とは、規模も中身もやり方もいろいろなものが違ってきておって、悪質化してきておるということは、これはもう否定しがたい事実であろうと思います。ただ、犯罪学的にこういう身のしろ金目的の誘拐というものを見てまいりますと、やはり特殊な類型をなすものでございまして、この身のしろ金目的の誘拐自体について、さらに近代文明の、つまり交通機関が発達してきた、自動車がたくさんあるといったようなことなどから、一そう悪質なものになり、被害者の方にとってみますと、一そうがまんできないような事情がここにできてくる。こういうことになるのだと思うのでございまして、先生の見方とその点で、犯罪学的にこういう特殊な類型というものを重視するか重視しないかというところで見解が分かれるかとは存じますが、この身のしろ金目的の誘拐というものは、私どもが発明をしてここへ刑法の規定に盛ろうというのじゃございませんで、これは世界的にもう一つの学問的にも実際的にもそういう類型があって、その種の類型は特殊なものであって、幾ら体系的に説明をしようとしましても、単に個人の自由を法益とする犯罪だというような見方じゃなくて、さらにそれは生命ともつながるものであり、それからまた強盗のような財産犯ともつながる特殊な複雑な法益を対象とした犯罪である、こういうような犯罪学的に特殊な類型、こういうもので理解をされておるのでございます。そういう理解のもとに立ってこの犯罪を見た場合に、現行法に欠くるところがあるかという点を考察してみますと、これははなはだ欠くるところがあるということば識者のひとしく認めるところでございます。いまのこの問題を取り上げるかどうかということにつきまして、法制審議会の学者並びに学識経験者の意見において、これを取り上げることについてだれも異論を申す人はないのでございまして、むしろ取り上げることがおそかったというぐらいに言う方の意見のほうが強かったことを申し上げておきたいと思います。しかしながら、取り上げたといたしましても、やはりその取り上げ方、それじゃそれをどういうふうに法文の上に、立法政策の上に規定をしていくかということについては、いろいろ御議論も存するかと存じます。しかし、これは取り上げないでおいて、ほかのところでまかなっていけるのじゃないかということにつきましては、いま申しましたように、まかない切れないのだというのがほとんど致した——私は一人も異論を唱えた人はなかったと思うのでございますが、そういう状態でございます。それで先生は、これは人質にしておいて金を取るという犯罪じゃないか、それは私もそう思うのでございますが、人質にとって物を取る、それから人質も何もとらないで黙って物をとる、こういう行為は窃盗でございます。おどし上げて、暴力を加えて物を取る、これは強盗でございます。ですから、物を取るにもいろいろな形の取り方があるわけでございますが、人情の機微につけ込んで、言うなれば、これはむしり取るという取り方なんですね。そういう取り方の犯罪学的な類型というものを考えますと、やはり身のしろ金目的の誘拐という罪はそういう範疇に入る犯罪類型だと思うのでございまして、やはりこれは特別な規定を設けてそれに対処するという必要があるのでございます。
そこで先生も、来件が多くなってくるというならばこれは別だというお話でございましたが、統計を簡単に申し上げますと、先ほど申しましたように、戦前にはこういう犯罪はございませんでした。昭和二十一年に一つの犯罪が行なわれまして、これは一人の犯人が二つの事件を犯しておるのでありますが、事件としては一件あったわけでございます。二十二年、二十三年、二十四年にはございませんでしたが、二十五年に一件ございました。二十六年にはございませんで、二十七年に一件ございました。二十八年、二十九年にはございませんが、三十年に一件ございました。これはトニー谷の事件というので有名でございまして、このとき先ほど申しました中山福蔵先生が、がまんできぬというので御自分で立案されて、参議院に法案を提案なすったのでございますが、そういう動機になった事件が発生いたしております。それから三十一年に一件、三十二年には四件発生いたしております。三十三年は一件でございまして、三十四年はありませんでした。三十五年には四件発生しております。三十六年に二件、三十七年に二件、三十八年には七件発生をいたしておるのでございます。この七件の中の一つが御承知の吉展ちゃん事件というのでございまして、これはいまだに犯人も検挙されませんし、吉展ちゃんも生きて帰ってきておりません。いまもって生死不明の状況にあるのでございます。この三十八年の吉展ちゃん事件を契機といたしまして、この問題がいろいろな角度から取り上げられたのでございまして、やはりこの刑法という面に戻って考えてみますと、先ほど申したように、現行の刑法は一年以上十年以下の営利誘拐の罪と恐喝の罪と、この二つでもしかりにこういう事件がありましても処理するほかないということになりますと、やはりこれは寸足らず、このような犯罪に対しましてはもっと重い刑で対処していかなければならぬということがうかがわれるのでございます。特に昨三十八年は一挙に多数出てきたということ、そして吉展ちゃん事件が未検挙でありますということは、さらにこの種の平作を誘発するおそれも多分にあるのでございますし、西ドイツあたりでも、アメリカの暴力団がこういうものに関与するというような傾向をいち早く看取しまして、そういう意味での立法対策を講じたいきさつもございます。日本におきましてそういうものがないとも限らないのでございますし、今後に備えましても、この立法はどうしても必要であろうというふうに思う次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/41
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042・井伊誠一
○井伊委員 この統計の示すところでは、そういうものは最近の傾向では多くなりつつある、こういう程度のものでありますが、これはちょうど前の刑法の準備草案が出ております。それに基づいて法制審議会のほうではこの扱いを早くからやはり検討をしておられるということなんでしょうが、吉展ちゃん事件のときには、まだこの一件というものはそういうふうに重要視されていなかったのではないかと思うのですが、おそらくはこの準備草案の中には代償目的の誘拐ということで三百二条のところに規定してある。ただいま他の方の御質問によって、これとは犯罪の性質が異なるということで全面的にこの準備草案のとられておる考え方というものを変えたようにおっしゃるのですが、いつごろからそういうことが出てきたのでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/42
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043・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この準備草案は、もう吉展ちゃん事件の以前に発表をいたしておるのでございまして、これは吉展ちゃ事件とは関係なく、諸外国の立法例等を参酌いたしまして案ができておるわけでございますが、この準備草案のまたもとになりました刑法仮案というのにも身のしろ金の問題は論議されておるのでございまして、これは非常に財産犯というところにウエートを置きましたために、この身のしろ金を要求する行為を強盗をもって論ずる、こういうふうに書いてございます。というふうで、日本におきましても、もう昭和の初めごろから身のしろ金目的の誘拐という一つの犯罪類型を学者の間では論議をし、実務家の間でも論議をしてまいったのでございます。そういう意味で、この準備草案というのはその成果をそこへ結集したものだと私は考えておるのでございますが、先ほどお答え申し上げましたのは、性質が違うから変えたというのじゃなくて、同じ性質のものでございますけれども、身柄を釈放する代償として金を要求するという書き方をいたしますると、先ほど申しましたように、一面において狭くなるし、他面において不必要なものまで入ってくるという広い解釈をすることになって、実態からはずれたものになるおそれがある。そこで実態に即してあの三百二条を書きかえ、読みかえていくとしたならばどういう規定がいいかということが、今回の立法では、憂慮する者に対してその憂慮に乗じて財物を要求する、こういうふうな書き方に変えたわけでございまして、実態は同じでございますが、表現を異にしたのは、いま言ったような解釈上狭過ぎたり広過ぎたりといったような過不足が出てまいりますので、その過不足のない、失態に即した急所をついた立法形式実現はないかということで研究を遂げました結果、こういうところに落ちついたわけでございます。そういうふうに御了承をいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/43
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044・井伊誠一
○井伊委員 ここにお配りをいただいた事例集の中の二十四号市件というのが、いま東京地裁の裁判にかかっておると思うのですが、この事件は具体的には出ておりませんけれども、他のほうの関係と対照してみると、例の島津貴子さんの誘拐与件だと思うのです。これがこの例の中の最近のものでありますが、こういうものが急遽この法律案を上程せられるというような動機になったのではないのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/44
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045・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この市外は昨年の九月二十七日に発生した事件でございます。私どもの立案の準備というものはその辺から急遽やって間に合うような立案のものではございませんで、私どもはもう一年も二年も前から慎重に案を練っておったのでございます。この市外は案をつくっておる過程に発生したにすぎないのでありまして、この一件を動機として立案を急いだわけではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/45
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046・井伊誠一
○井伊委員 深くこだわるわけではありませんけれども、結局法制審議会にかかっておる。すでにもう全面的改正をはかっておられるのだろうと思うのですが、そのもととなるところのものが、おそらく改正刑法準備草案だと思うのですね。このところにはあえていまのようなものがかかっていないんじゃないかというふうに私は思います。そうしますと、いまの、つまり二年も三年も前からかかっておられる、こういうものについて研究しておられるのですから、その準備をされたところのものが、いま法制審議会にかかりましても、これは——たしか法制審議会のメンバーは最近きまったんじゃないでしょうか。そこで、これにかかります前のものが、この原案がこの改正刑法準備草案だ、こういうふうにしますと、その中には、いまのようなお話のものが出ていないと思いますが、それでもやはり出ておったのでありますか。このものを改めた、いまのいわゆる身のしろ金を目標とするところの誘拐などというようなものも原案の中に入っておるのでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/46
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047・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 ちょっとお尋ねの趣旨がわかりかねますが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/47
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048・井伊誠一
○井伊委員 というと、はなはだあれですけれども、このものが法制審議会の審議のもとになる原案なんだと思っておるわけです。こういうふうになりましたら、これがそのまま出ておるのではないかと思うのです。準備草案そのものが出ておるのじゃないか。そのところには、やはりいまの身のしろ金目的の誘拐というようなふうにはなっていないで、そして、それは個人の自由を害するところのものとして、これは代償目的の誘拐ということでここには出ておるのですね。だから、そういうもので出ておるのであって、そのときにはまだそういう身のしろ金を目的とする誘拐というようなことでは出ていないのではないかと思うのですが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/48
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049・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 御質問の趣旨がいろいろわかりました。この準備一案の三百二条でございますが、これはいわゆる身のしろ金目的の誘拐罪の規定でございます。これを身のしろ金ということばで、外国語でランソンとかランスンとかいうことばがありますですね。そういうことばで規定しておるものもありますし、そのことばにかえて釈放の代償、リウォードというような形で規定しておる立法例もありますし、いまお手元に御審議を賜っておりますような形式の表現で立案されておる立法例あるいは草案もございます。これはいろいろな表現の方式がございますが、要するにこの三百二条といい、ただいま御審議を願っております二百二十五条ノ二の一項の規定といい、すべてこれは身のしろ金目的の誘拐罪という範疇に入る犯罪でございまして、根は同じことでございます。それで、法制審議会のことでおことばがございましたので簡単にちょっと申し上げておきますが、昨年の五月に法制審議会の総会を開きまして、そのときにこの準備草案も参考資料として各委員に御審議の資料に差し上げてございます。しかしながら、この準備草案は政府、つまり法務省側の原案であるという趣旨で差し上げたものではございませんで、これも貴重な参考だと思いますので、これも参考にしていただき、さらに外国の立法例等も参酌していい刑法をつくっていただきたいのだという趣旨のことが、当時の審議会長から委員に要望されておるのでございます。
その後法制審議会におきましては、これだけの法典の答申をしますためには、刑事法部会というのがありますが、そのほかに特別のこの法典の審議のための特別刑法部会というものをつくる必要があるということで、それをつくることになりまして、さらに特別刑法部会におきましては、これに五つの小委員会を設けまして、各小委員会に委員が配置されまして、各小委員会が分担して審議に当たっておるということでございまして、昨年の五月、特別刑法部会が発足し、自来今日まで各委員会とも七回以上委員会を開いて審議をいたしておるのでございます。もちろんこの準備草案は一つの貴重な資料、重要な資料でございますが、だからといってこれが原案だというのではございません。
それで、なぜその特別刑法部会を設けて、刑事法部会をそのままにしてあるかと申しますと、この立案作業の過程におきましても、緊急に刑法の一部を改正するというような問題は常に起こってくる可能性があるわけでございまして、現にそのときも、またこの作業の過程におきましても、そういう必要があれば刑事法部会にかけまして刑法の一部改正というようなことで作業していかなければならぬ場合もあり得るということを申しているわけでございます。昨年御審議を賜りました没収の特別手続の規定のごときものも、場合によりましては、没収制度そのものを刑法の一部改正で早い段階に直さなければならぬかもしれないと思いますし、この営利誘拐の問題につきましても、やはりその当時予想しておったわけでございまして、事務当局としては、その当時もすでに研究し、外国の立法例も調査し、いまの法制審議会とは別個の立場で研究をいたしておったような次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/49
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050・井伊誠一
○井伊委員 この法律案は、法制審議会におきましては、この趣旨のものについては全面的な賛成のように承ったのですが、どういうところが全面的でない、反対のところであったのでございましょうか。それは科刑が重過ぎるじゃないか、そういう意味の反対があるのでございますか。二百二十五条ノ二、そのほか関連した刑罰が重いということでの反対意見があったわけでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/50
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051・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 お答えを申し上げますが、今回の法案につきまして事前に刑事法部会の答申を得たわけでございますが、その刑事法部会の審議の過程におきまして、二百二十五条ノ二の一項の規定に「無期又ハ三年以上」ということになっております。この無期刑を置くことにつきまして、この無期が重いという意見があったことを先ほど申し上げたわけでございますが、この無期を置くことについて重いという理由にはいろいろございまして、現在の三十三章に規定しております略取及び誘拐の罪の未成年者誘拐その他営利、わいせつ、結婚目的による誘拐、国外移送の誘拐、人身売買等ございますね、これらの規定全体の刑がすでに軽いのじゃないか、その軽い中にはめ込む身のしろ金目的の誘拐が重いことはわかるのだけれども、ほかの刑との関係、特に国外移送の誘拐等との関係において、身のしろ金目的がぐっとずば抜けて刑が重く見えるのが口立ち過ぎる。それで体系のバランスの点からいって、この無期という刑は重いのではないかという意見とか、それからいまの私どもは生命犯、人の安全という点については一種の危険な犯罪だという——それ自体の生命を殺す、人を殺すとか障害するとかいう実害犯ではなくて、一種のそういうことが行なわれる危険性のある犯罪だという推定的な立場に立って、この問題は今回の改正では取り上げなかったのでございますが、そういうものもあわせて規定をして、そしてその中に無期を入れるということにして、この身のしろ金目的の誘拐だけは有期懲役くらいでおさめておいたほうがいいんじゃないかという議論があったり、いろいろしたわけでございますが、結局、これは慎重審議の結果、やはり今回は一部改正でもありますし、最小限度の改正ということになりました場合に、あれも直し、これも直しということになれば非常に範囲の広いものを直すことになるので、現に全面改正の作業をやっているさなかに、一方の部会で一部改正をやるというのに幅の広い改正をやるということでは、時間的な余裕もございませんし、適当でないということで、やはりいろいろ考えても、結局は、やるべきことはやらなければなりませんし、必用なことでありますので、政府の原案どおり無期を置くということがいいということで、多数でこれは可決されたような経緯がありました。そういうことでちょっと申し上げたわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/51
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052・井伊誠一
○井伊委員 その点につきまして法制審議会の審議の議事録というものをひとつこちらのほうに示していただきたいと思うのであります。どうかお願いします。
なお、この二百二十五条ノ二の一項の条文を見ますと、「近親其他被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ憂慮ニ乗ジテ共財物ヲ交付セシムル目的ヲ以テ人ヲ略取又ハ誘拐シタル者」、こういうことでありますが、これによりますれば、略収、誘拐の着手前にこの目的というものがあったというものに限るようでございますが、この点はいかがでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/52
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053・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 そのとおりでございます。略取、誘拐をします犯人が、いまお読みになりましたように長いのでありますが、そういう目的をもって略取、誘拐をする必要がある場合で、そういう目的のない略取、誘拐はそれに当たらないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/53
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054・井伊誠一
○井伊委員 この略取、誘拐の意思が、略取、誘拐してしまったその後に生じて実行をするという場合は、これはどういうところにありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/54
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055・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 そういう場合もあり得るわけでございます。初めは単なるわいせつ目的で誘拐したとか、あるいは未成年者を誘拐した。こういう犯人が、後になってそれを奇貨として身のしろ金を取ってやろうという犯意を起こして、そしてその心配をしておる人に向かって金を出せという脅迫、強要をする。こういう行為があった場合、それはこの二百二十五条ノ二の第二項の罪に当たるわけでございます。したがいまして、この「人ヲ略取又ハ誘拐シタル者」の中には、初めからそういう目的で誘拐した者が入るのはもちろんでございます。それが大部分でございますが、そうではなくて、そういう目的がなくてその他の誘拐の罪を犯した者が、あとになってそういう目的を抱くようになりました場合も含まれるという趣旨で、第二項はできておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/55
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056・井伊誠一
○井伊委員 その第二項によって、いまのようにこれを同罪とするということでありますが、その目的がなくて誘拐をし、そうしてそのままになっておるところのものは、もちろんこのところにははまらないで、どういうふうになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/56
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057・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 お話のような場合におきましては、これにはもちろん当たらないわけでございまして、未成年者の場合でございますれば現行法の二百二十四条に当たりますし、それから営利、わいせつまたは結婚の目的ということになりますれば、現行法の二百二十五条に当たるということになります。それから国外に移送する目的でやった場合には二百二十六条に当たる。こういうことで、この二百二十五条ノ二には当たらないということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/57
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058・井伊誠一
○井伊委員 いまありますこの二百二十四条の未成年、あるいは未成年、成年にかかわらず、営利、わいせつ、結婚を目的としたもの、そういうもの事例でもこういう事例は起きないのでしょうか。単純なる個人の自由というものを侵害するだけの意味である人を誘拐する、あるいは誘拐をして軟禁するといったような場合は……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/58
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059・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 それは事実問題としては仰せのようにあり得るわけでございますが、未成年でない大人の単純な誘拐というものは、現行法では誘拐罪としては処罰しない。そのかわり軟禁をしておるというようなことになりますれば、場合によっては監禁罪になるとか、あるいはそういう状態を利用して金を要求いたしますれば、脅迫、恐喝罪になるとか、いろいろその他の刑法の規定に触れる場合はあると思いますので、それらの規定によりまして処断をする。誘拐罪としましては、成年の単純な誘拐というものはないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/59
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060・井伊誠一
○井伊委員 この辺で、あとは次回に讓ることにいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/60
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061・鍛冶良作
○鍛冶委員長代理 本日の議事はこの程度といたしまして、次会は明十三日午前十時理事会、十時半委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後零時十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01319640312/61
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