1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十九年三月十七日(火曜日)
午前十時四十二分開議
出席委員
委員長 濱野 清吾君
理事 鍛冶 良作君 理事 唐澤 俊樹君
理事 小金 義照君 理事 小島 徹三君
理事 三田村武夫君 理事 神近 市子君
理事 坂本 泰良君 理事 細迫 兼光君
大竹 太郎君 亀山 孝一君
四宮 久吉君 田村 良平君
野原 覺君 竹谷源太郎君
志賀 義雄君
出席国務大臣
法 務 大 臣 賀屋 興宣君
出席政府委員
検 事
(民事局長) 平賀 健太君
検 事
(刑事局長) 竹内 壽平君
委員外の出席者
検 事
(刑事局参事
官) 長島 敦君
専 門 員 櫻井 芳一君
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三月十七日
委員田村良平君及び松井政吉君辞任につき、そ
の補欠として原健三郎君及び野原覺君が議長の
指名で委員に選任された。
同日
委員原健三郎君及び野原覺君辞任につき、その
補欠として田村良平君及び松井政吉君が議長の
指名で委員に選任された。
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三月十三日
暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正す
る法律案(内閣提出第九号)
不動産登記法の一部を改正する法律案(内閣提
出第五八号)(参議院送付)
同月十六日
民事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出
第一三四号)(予)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第一二
八号)
暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正す
る法律案(内閣提出第九号)
民事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出
第一三四号)(予)
法務行政及び検察行政に関する件
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/0
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001・濱野清吾
○濱野委員長 これより会議を開きます。
暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/1
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002・濱野清吾
○濱野委員長 政府より提案の理由の説明を求めます。賀屋法務大臣。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/2
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003・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。近年における暴力犯罪の実情を見まするに、その数において依然減少の傾向を示さないばかりでなく、特にいわゆる暴力団、すなわちばく徒、暴力テキヤ、青少年不良団、売春、麻薬暴力団その他の暴力的不良団体の構成員またはその仲間ともいうべき人々による悪質な暴力犯罪が増加の傾向を示しておりますことはきわめて憂慮にたえないところであります。もとより政府におきましては、このような事態に対処するため、さきに昭和三十三年には刑法等の一部改正について、また、同三十七年には銃砲刀剣数等所持取締法の一部改正について、それぞれ国会の御審議をわずらわし、法律としてこれらを逐次実施に移しますとともに、法の運用面におきましても、関係政府機関において緊密な連携のもとに暴力犯罪の防圧に努力してまいっているのであります。しかしながら、いわゆる暴力団の構成員等が依然として常習的に暴行、傷害等の暴力犯罪を繰り返し、また、その犯行の手段としてしばしば拳銃、日本刀等きわめて危険な凶器を用いていることは顕著な事実でありまして、この際、この種の社会不安を惹起する暴力犯罪に対して、より一そう強力かつ適切な対策を講ずるために必要な法改正を行ないますことは、単に強い世論にこたえるというばかりでなく、国家の刑政から見ましても、きわめて緊要なことと考えられるのであります。これが本法案を提出することといたしました理由であります。
この法律案の骨子は次のとおりであります。
第一点は、銃砲または刀剣類を用いる傷害を特別の犯罪類型として一般の傷害罪より重く処罰する規定を新設しようとすることであります。この規定を設けます理由は、銃砲または刀剣類を用いる傷害がきわめて高度の危険性を持つ悪質な犯罪であるばかりでなく、すでに述べましたように、この種の危険な傷害が暴力団の構成員等によって多く犯されている実情から見ましても、当面、特にその必要性が認められるからであります。なお、本罪については、その犯罪の性質にかんがみ、未遂罪を処罰するとともに、日本国民の行なう国外犯をも処罰することが相当と考えられますので、その趣旨の規定を設けることといたしたのであります。
第二点は、常習的暴力行為に関する規定を整備、強化しようとすることであります。すなわち、現行の暴力行為等処罰に関する法律第一条第二項に規定されている常習的暴力行為に対する法定刑を引き上げるとともに、現在でも右の常習的暴力行為に含まれている暴行、脅迫、器物損壊のほかに、新たに、これに刑法第二百四条の傷害を加え、傷害を含む常習犯について通常の傷害界より重い刑を定めたことであります。その趣旨は、暴力団の構成員等の多くが暴行、脅迫、器物損壊のみならず傷害をも含めた暴力犯罪を常習的に繰り返している現状にかんがみ、一面において、この種の常習犯に対する法定刑を引き上げその強力な防止をはかるとともに、他面、この棒の常習犯人に対して相当期間にわたる適切な矯正処遇等の措置を講じその改善更生をはかることが、当面最も緊要と考えられるからであります。
最後に、裁判所法の一部改正は、右に申し述べました暴力行為等処罰に関する法律の一部改正によりまして、短期一年以上の懲役に当たることとなる罪にかかる事件については、事案の性質等にかんがみ、地方裁判所は原則として一人の裁判官でこれを取り扱うこととしようとするものであります。
以上が暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案の趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/3
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004・濱野清吾
○濱野委員長 次に、政府委員より逐条説明を求めます。竹内刑事局長。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/4
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005・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案につきまして、逐条的説明をさせていただきます。
第一は、暴力行為等処罰に関する法律の一部改正でございます。
その第一条関係についてまず申し上げます。刑法第二百八条第一項を第二百八条に改めることになっておりますのは、昭和二十二年の刑法改正によって第二百八条第二項は削られているので、当時本法第一条第一項についても、右改正に伴って条文の整理をすべきであったと考えるのでございますが、本法改正のこの機会にその整理を行なおうとするものであり、本法の第一条第二項を削りましたのは、これを第一条ノ三に含めて規定したために整理を行なったものでございます。
第一条ノニについて申し上げます。本条は、新設の規定でございます。まず、その第一項でございますが、これは銃砲または刀剣類を用いる傷害が高度の危険性を持つ悪質な犯罪であるばかりでなく、現在この種の危険な傷害が、いわゆる暴力団の構成員等によって多く犯されている実情にかんがみ、これを特別の犯罪類型として、通常の傷害罪より重くしようとする趣旨の規定でございます。本罪の行為は「銃砲又ハ刀剣類ヲ用ヒテ人ノ身体ヲ傷害」することでございます。ここにいう「銃砲」または「刀剣類」とは、銃砲刀剣類等所持取締法第二条にいう「銃砲」または「刀剣類」とその内容を同じくするものでございます。「用ヒテ」とありますのは、その本来の用法に従って使用することをいうのでありまして、銃砲にあっては弾丸を発射すること、刀剣類にありましては「刃」または「切先」によって切りまたは突くことを意味するのであります。したがって、銃身で殴打しまたは日本刀で峰打ちを加えるようなことは、「用ヒテ」には当たらないと思います。学説及び判例は、刑法第二百四条の傷害罪について暴行の結果的加重犯の場合を含むと解していますが、本条の罪はこれと異なり、銃砲または刀剣類を用いるという特殊な方法による故意の傷害罪として規定したものであり、あとで述べますように本条第二項においてその未遂罪を罰することとしておりますのも、本罪が故意犯であることを前提としているのであります。実際上も、銃砲または刀剣類をその本来の用法に従って使用しながら傷害の故意を欠くという場合はないものと考えられるのでございます。本罪についての法定刑を一年以上十年以下の懲役というふうにいたしまして、一般の傷害罪の法定刑よりも重く規定しましたのは、前に述べましたような本罪の特殊性、すなわち、人の身体に対し重大な傷害を加え、ひいては死の結果をも招来する可能性が大であることを考慮したためでございます。
本条第二項は、第一項の罪の未遂罪を処罰する趣旨の規定でございます。前述のような第一項の罪の特殊性にかんがみれば、いやしくも銃砲または刀剣類を用いて人の身体を傷害しようとした者は、たとえ傷害の結果が発生しなかった場合にも、未遂犯として処罰するのが相当であると考えられます。もし未遂犯処罰の規定を置かなければ、たまたま未遂に終わったということで、刑法第二百八条の暴行罪または現行の暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項によって処罰されることになりますが、これは、相当ではないと考えられるのでございます。
本条第三項は、刑法第三条において刑法第二百四条(傷害)の罪が日本国民の国外犯とされていることとの均衡上、日本国民が国外で犯した本条第一項及び第二項の罪をも国外犯として処罰する趣旨の規定でございます。
次に第一条ノ三について御説明いたします。本条は、常習的暴力行為に関する規定を整備、強化しようとするものであります。現行の暴力行為等処罰に関する法律第一条第二項も常習的暴力行為に関する規定でありますが、判例はこの規定の解釈といたしまして、それが暴行、脅迫、器物損壊のそれぞれの常習犯を規定したものでありますとともに、暴行、脅迫、器物損壊の罪を包括した暴力行為をも規定したものとしているのでございます。この改正案は、この判例の見解を基礎として立案したものでございます。
改正の要点は、従来の常習的暴力行為に対する法定刑を引き上げたこと及び右の常習的暴力行為の中に新たに刑法第二百四条(傷害)を加え、傷害を含む常習的暴力行為についてより重い法定刑を定めたことの二点であります。新たに傷害を加えましたのは、暴力団の構成員等がしばしば暴行、脅迫または器物損壊の罪とともに傷害の罪をも反覆累行している事実を考慮したためでありますが、理論上も傷害はしばしば暴行の結果的加重犯として成立するものでありますから、これを加えることが相当であると考えるからでございます。
本条にいう「常習」とは、本条が掲げる傷害、暴行、脅迫または器物損壊の各個の罪の常習性のみをさすのではなく、これらの犯罪行為を包括した暴力行為を反覆累行ずる習癖をも意味するものでありまして、右習癖のあらわれとしてなされた行為は数個であっても、包括して集合的一罪となるのであります。
本条の罪については、場合を二つに分け、それぞれについて法定刑を定めているのでありまして、その一つは、「人ヲ傷害シタルモノナルトキ」すなわち本条の常習犯が、刑法第二百四条(傷害)の罪のみからなる場合または第二百四条の罪と第二百八条(暴行)の罪、第二百二十二条(脅迫)の罪もしくは第二百六十一条(器物損壊)の罪とからなる場合であって、これらの場合には、法定刑は一年以上十年以下の懲役でございます。その二は、「其ノ他ノ場合」すなわち、本条の常習犯が傷害の罪を含まず、暴行、脅迫、器物損壊罪のいずれかの一または二以上からなる場合であって、その場合の法定刑は三月以上五年以下の懲役でございます。
右のように重い法定刑を定めました理由は、この種常習犯は、たとえたまたまあらわれた犯罪自体は軽微なものでありましても、習癖に基づく暴力行為の反覆という悪質な犯罪であるのみならず、特に暴力団の構成員等によって多く犯されて平和な市民生活に著しい不安をもたらしている現状にかんがみますと、重い法定刑をもってのぞむことによってその強力な防遏をはかる必要がありますとともに、他方、この種常習犯人に対しましては、相当期間にわたって、犯罪習癖の矯正、環境の是正、仮釈放後の保護観察等の適切な矯正、保護の措置を講じなければその改善更生を期し得ないと考えられるからでございます。
第二の改正は、裁判所法の一部改正でございます。
暴力行為等処罰に関する法律の一部改正によりまして、短期一年以上の懲役に当たることとなる同法第一条ノ二第一項もしくは第二項または第一条ノ三の罪にかかる事件を、裁判所法第二十六条第二項第二号の地方裁判所の裁判官の合議体で取り扱うべき事件、いわゆる法定合議事件から除外することとしようとする趣旨の規定であります。その理由は、この種事案は、その性質等にかんがみまして、通常、審理が容易であること、審判の迅速をはかる必要があること等の点から、通常の傷害の罪と同様に取り扱うことが相当であるからでございます。
第三は、附則についてでございますが、附則の第一項は、本法がその公布の日から起算して二十日を経過した日から施行されることを明らかにしたものにすぎないものでございます。第二項は、罰則に関する経過規定でありまして、改正前にした行為については改正後においても新法を適用せず、旧法を適用することを明らかにしたものでございます。
以上をもちまして、逐条説明を終わります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/5
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006・濱野清吾
○濱野委員長 次に、予備審査のため昨十六日付託されました民事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/6
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007・濱野清吾
○濱野委員長 政府より提案理由の説明を求めます。賀屋法務大臣。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/7
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008・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 ただいま議題となりました民事訴訟法の一部を改正する法律案につきまして、提案の理由を説明いたします。
この法律案の趣旨は、手形金または小切手金等の支払いを求める訴訟の迅速な処理とその判決の執行力の強化等をはかり、それによって手形及び小切手の信用を高めるため、民事訴訟法に所要の改正を加えようとするものであります。
次に、この法律案の要点を申し上げますと、第一点は、手形金及びこれに付帯する年六分の割合の遅延損害金の請求を目的とする訴えについて、手形訴訟という特別の手続を認めたことであります。手形金の請求は、手形の法律上の性格にかんがみましても、また、その経済取引上の機能にかんがみましても、正当に手形の振り出し等がなされた以上、迅速に決済されるべきものでありますので、訴訟及び強制執行の面におきましては、特別の取り扱いをする必要があります。そのため、第一に、手形金の支払いの請求を目的とする訴えは、手形の支払い地の裁判所にも提起することができるものとしております。第二に、原告が手形金等の請求について手形訴訟による審理裁判を求めたときは、その証拠調べを書証に制限し、文書の真否または手形の呈示に関する事実についてのみ当事者尋問を許すものとしております。第三に、手形訴訟において原告の請求の当否についてした判決に対しては、敗訴の当事者から一定の期間内に異議を申し立てることができるものとしております。またその場合、裁判所は、通常の手続により引き続き原告の請求の当否につき審理をした上、手形訴訟の判決を認可しまたは取り消すべきものとしております。
第二点は、小切手金及びこれに付帯する年六分の割合の遅延損害金の請求を目的とする訴えについて、ただいま申し述べました手形訴訟と同様の小切手訴訟により処理すべきものとしたことであります。
第三点は、手形金及び小切手金等の請求に関する原告勝訴の判決につきましては、裁判所は、職権で仮執行の宣言を付すべきものとしたことであります。また、その判決に対し控訴の提起または異議の申し立てがあった場合において、強制執行の停止を命ずることができるのは、原判決の取り消し変更の原因となるべき事情について疎明があったときに限るものとしたことであります。
第四点は、手形金または小切手金等の支払いを求める督促手続につきましては、支払い命令に対し異議の申し立てがあった場合において、手形訴訟または小切手訴訟による審理裁判を行なうことができるものとしたことであります。さらに、督促手続の管轄裁判所につきましても、また、仮執行宣言つきの支払命令に対し異議の申し立てがあった場合における強制執行の停止につきましても、手形訴訟と同様としたことであります。
第五点は、この法律は、昭和四十年一月一日から施行することとし、これに伴う経過措置を定めるとともに、民事訴訟用印紙法について所要の整理をすることとしております。
以上がこの法律案の概要であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに可決されるよう希望いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/8
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009・濱野清吾
○濱野委員長 次に、政府委員より逐条説明を求めます。平賀民事局長。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/9
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010・平賀健太
○平賀政府委員 ただいま議題となっております民事訴訟法中の改正規定につきまして、逐条の御説明を申し上げます。
まず、目録の改正及び編名の追加でありますが、「第五編ノ二」として「手形訴訟及小切手訴訟ニ関スル特則」を加えるのに伴いまして、目録を改正し、かつ、編名を追加しようとするものであります。
次に、「書記」及び「裁判所書記」の用語の改正でありますが、裁判所法等の一部を改正する法律(昭和二十四年法律第百七十七号)第一条によりまして従来の裁判所書記及び書記の名称を裁判所書記官に改められ、また、同法附則第四項により、他の法令中「裁判所書記」とあるのは「裁判所書記官」と読みかえるものとされましたが、この際、民事訴訟法中「書記」及び「裁判所書記」を「裁判所書記官」に改めることといたしました。なお、同様の理由によりまして第五百三十一条第二項中「地方裁判所書記」とありますのを「地方裁判所ノ裁判所書記官」に改めることといたしております。
次は、第六条であります。本条は、手形金額、小切手金額及び遡求金額の支払い請求のごとき、手形または小切手による金銭の支払い請求を目的とする訴えの管轄裁判所として、支払い地の裁判所を加え、この種の訴えの提起を容易にし、かつ義務者の保護をもはかろうとするものであります。支払い地の土地管轄は、通常の手続による訴え及び手形訴訟または小切手訴訟による訴えに共通するものであります。なお、訴訟物の価格による第一審裁判所の事物管轄は従来どおりであります。
次は、第二十一条及び第二十七条の改正であります。本条は、第六条において定めた支払い地の土地管轄につき、併合請求の裁判籍及び専属管轄の定めのある場合における任意管轄等の排除の点で、他の任意管轄と同様の規制を加えようとするものであります。第二十一条の改正の結果、手形金額等の支払い請求に付帯する損害賠償等の請求は、支払い地の裁判所に訴えることができることとなるわけであります。
次は第五十条第二項であります。本条第二項後段の追加は、第四百五十二条の規定による異議の取り下げまたは取り下げの同意につき、準禁治産者または後見人が保佐人または後見監督人から特別の授権を得ることを要するとするものであります。民法第十二条第一項第四号または同法第八百四十六条により訴訟提起の同意があった場合におきましても、無能力者の保護をはかるため、右の訴訟行為については特別の授権を要することとする趣旨であります。
次は第八十一条第二項であります。本条第二項中第四号を第五号とし、新たに第四号を加えます改正は、第四百五十二条の規定による異議の取り下げまたは取り下げの同意につき、訴訟代理人が当事者から特別の委任を受けることを要するとするものであります。訴訟代理人が第一審の委任を受けた場合におきましても、訴訟を判決によらないで終了させる右の訴訟行為については特別の委任を要することとする趣旨であります。
次は第百九十六条であります。本条第三項中「前二項」を「前三項」に改め、新たに第二項を加えますこの改正は、手形金額、小切手金額または遡求金額の支払いの請求及びこれに付帯する年六分の割合の損害賠償の請求に関する判決については、裁判所は、職権で仮執行の宣言を付し、かつ原則として無担保の仮執行の宣言をなすべきことを定めるものであります。現行法の第百九十六条第一項は、仮執行宣言の要否及び債権者が仮執行のため担保を供すべきかいなかを、もっぱら裁判所の裁量にかからしめておりますが、右の請求に関する原告勝訴の判決には必ず執行力を付与する必要があるからであります。
次は第百九十六条ノ二の新しい規定の追加でありますが、本条は、仮執行の宣言及び仮執行免脱の宣言に関する裁判の脱漏があった場合の措置に関して定めようとするものであります。現行法においては、これに関する規定を欠いておりますため解釈上の疑義が生じておりますので、本条第一項において、この種の裁判の脱漏は、裁判所が職権でまたは申し立てにより決定をもって補充すべきものとし、また本条第二項において、その裁判の手続の細目につき、第百九十四条第二項の規定を準用することとしております。
次は第百九十七条であります。これは第百九十六条ノ二を追加することに伴う条文の整理であります。
次は飛びまして第四百三十一条第二項でございます。本条第二項は、手形金額、小切手金額または遡求金額等の支払い請求及びこれに付帯する損害賠償等の請求に関する督促手続の管轄裁判所として、支払い地の裁判所を加え、この種の請求に関する支払い命令の申し立てを容易にしようとするものであります。
次は第四百四十四条であります。本条第一項は、手形訴訟による審理及び裁判を求めることができる請求の範囲を定めたものであります。すなわち、手形金額及び遡求金額等の支払い請求のごとき、手形による金銭の支払いの請求と、これらの請求に付帯する年六分の法定利率の損害賠償の請求についてのみ、手形訴訟による審理裁判を求めることができるとする趣旨であります。なお、手形法に定められている法定利息の請求権は、当然に右の手形による金銭の支払い請求に含まれます。
本条第二項は、原告が手形訴訟による審理及び裁判を求めるためには、訴状にその旨の申述を記載しなければならないとするものでありまして、この記載は、その訴訟が手形訴訟として審理裁判されるための適法要件であります。なお、訴状にこの記載が欠けているときは、その訴訟は当然に通常訴訟として審理裁判されることになります。
次は第四百四十五条であります。本条は、簡易迅速な処理を旨とする手形訴訟におきましては、その訴訟手続をできるだけ単純なものとする必要がありますので、訴訟が手形訴訟により審理されている間は、反訴を提起することができないとするものであります。
次は第四百四十六条であります。本条は、手形訴訟の証拠制限に関する規定であります。本条第一項は、手形訴訟においては、原則として文書の証拠調べを行なう書証のみが許されるものとし、他の証拠調べ、たとえば、証人尋問、検証、鑑定等を許さないことを明らかにするものであります。
本条第二項は、書証の対象となる文書につきましても、その提出命令または送付嘱託が許されず、当事者の提出する文書についてのみ証拠調べをすることができるものとし、また、書証の手続中においてされる筆跡または印影の対照の用に供する文書その他の物件についても、右と同様とするものであります。
本条第三項は、第一項の証拠制限の例外として、文書の真否及び手形の呈示に関する事実については、申し立てによる当事者尋問を認めるという趣旨であります。
本条第四項は、嘱託による証拠調べ及び第二百六十二条の規定による調査の嘱託を禁ずるものであります。
以上の証拠制限は、手形訴訟事件を簡易迅速に処理することを目的とするものであって、その理由は、手形上の権利の確実性がきわめて高度であるという手形の法的性格、及び実際の訴訟においても、手形上の権利者の勝訴率がきわめて商いという経験的事実とにかんがみまして、無用な人的抗弁の提出による訴訟の遅延を防止することにあるわけであります。
なお、本条第五項は、裁判所が職権で調査すべき事項については以上の証拠制限の規定が適用されないことを注意的に定めたものであります。
次は第四百四十七条であります。本条第一項は、手形訴訟による訴えを提起した原告に対し、手形訴訟の口頭弁論終結前において、手形訴訟を取りやめて通常の手続へ移行させ得る権能を認めたものであります。その結果、証拠制限のために手形訴訟では原告勝訴の見込みがないとき、あるいは被告が原告主張の事実を争っていないため通常訴訟で処理しても変わりがないときなど、手形訴訟を経由するとかえって全体としての訴訟の完結が遅延する場合には、原告は通常訴訟を訴訟提起後でも選択できることとなるわけであります。
本条第二項は、手形訴訟から通常の手続への移行の効果は、原告が裁判所に対してした申述のときにおいて生じ、したがって、裁判所はそのとき以後いつでも通常の手続による審理を開始することができますが、被告が期日においてすでに了知している場合を除き、裁判所は通常の手続への移行の事実を直ちに被告に通知しなければならないとするものであります。この通知は、被告に対し通常の手続における応訴の準備をする機会を与えるために必要であります。
本条第三項は、手形訴訟が通常の手続に移行しました場合において、すでに手形訴訟のために指定されていた期日は通常の手続のために指定された期日とみなすものでありまして、裁判所があらためて期日を指定し直す必要のないことを明らかにしたにすぎないのであります。
次は第四百四十八条であります。本条は、手形訴訟が通常の手続に移行した後における口頭弁論の終結時期について定めたものであります。すなわち、手形訴訟が通常の手続に移行しました場合において、被告が口頭弁論で原告の主張した事実を争わず、その他何らの防御方法をも提出していないときは、裁判所は、通常の手続に移行した事実が被告に通知される前でありましても、口頭弁論を終結することができるとするものであります。この規定は、被告が手形訴訟において原告主張の事実の否認その他の防御方法を提出して原告の請求を争っている限り、手形訴訟が通常の手続に移行した後において、その事実が被告に通知され、かつ新期日が開かれなければ口頭弁論を終結することができないという理論を前提としております。そして、本条を設けました理由は、現在の手形金請求訴訟事件のうち相当数のものが被告欠席のまま何らの防御方法も提出されることなく処理されている実情にかんがみまして、このような場合には、手形訴訟から通常訴訟に移行した後、直ちに通常訴訟の口頭弁論を終結しても、口頭弁論の再開申請ができる以上、被告に与える不利益は少ないし、訴訟の迅速な処理上も適当であるからであります。
次は第四百四十九条であります。本条第一項は、手形訴訟による審理裁判を求められない請求については、これを判決で却下すべきものとし、かつ、このような判決をする場合に、必ずしも口頭弁論を経ることを要しないとするものであります。原告はこの判決に対して控訴を提起することはできないのでありますが、本条第二項により判決の送達後二週間内に当該請求につき、通常の手続による訴えを提起し直しますと、第二百三十五条の適用については、その訴えは手形訴訟による前訴の提起のときに提起されたものとみなされ、これにより時効中断等の効果は前訴の提起のときにさかのぼることとなるのであります。
なお、本条は、訴えを却下される前ならば、原告が手形訴訟を通常訴訟へ移行させることを妨げるものではございません。
次は第四百五十条であります。本条は、手形訴訟の終局判決に対して直接控訴を提起することができるのは、一般的訴訟要件が欠けていることを理由とする訴え却下の判決に限るものとし、その他の終局判決に対しては控訴を提起することができないとするものであります。手形訴訟においては、証拠を制限して審理するので、さらに第一審で証拠の制限のない審理を行なう道を認めるべきだからである。
第四百五十一条は、手形訴訟の終局判決に対する原則的な不服申し立ての方法を定めたものであります。すなわち、手形訴訟の終局判決に対しては、訴えを却下した判決を除き、判決の送達後二週間の不変期間内に、その判決をした第一審裁判所に異議の申し立てをし、証拠制限のない通常の手続による審理及び裁判を求めることができるとするものであります。証拠制限のために立証できなかった正当な主張につき、通常の手続でその立証をする機会を与える必要があるからであります。この異議の申し立ては、本条ただし書きにより、右の二週間の期間前でもすることができます。
第四百五十二条の第一項は、通常の手続による第一審の終局判決があるまでならば第四百五十一条の異議の取り下げが許されるとするものであり、異議の取り下げによって、通常は手形訴訟の判決が確定することになります。
第二項は、当事者が一たん申し立てた異議を取り下げるにつきましては、相手方の同意が必要であるとしています。手形訴訟で敗訴した当事者の一方から異議が申し立てられますと、異議を申し立てない当事者にとっても、その主張につき通常の手続による審理の機会が与えられることになりますので、一方的な異議の取り下げを認めることは相当でないからであります。
第三項は、異議の取り下げについて、訴えの取り下げに関する規定のうち必要なものを準用するものであります。
第四百五十三条は、上訴権放棄の規定にならいまして、第四百五十一条の異議の申し立て権を放棄することを認め、あわせてその方式を定めたものであります。
第四百五十四条の第一項は、第四百五十一条の異議申し立ての方式を定めたものであって、書面によってしなければならないとするものであります。本条第二項は、異議申し立ての書面に準備書面の役を兼ねさせることができるものとし、本条第三項は、異議申し立ての書面を相手方に送達して異議申し立ての事実を通知するものとしております。
第四百五十五条は、第四百五十一条の異議申し立て期間の徒過等の理由で異議が不適法であり、かつ、その欠缺が補正できないものでありますときは、目頭弁論を経なくても判決で異議を却下することができることとしております。元来、異議が不適法であれば却下されることは当然でありますが、本条は、必ずしも口頭弁論を経ることを要しない場合を定めたものであります。
第四百五十六条は、手形訴訟の判決に対し適法な異議が申し立てられた場合の効果を定めたものであります。すなわち、適法な異議の申し立てがありますと、訴訟は手形訴訟の口頭弁論終結前の程度に復するものとして、裁判所は、引き続き原告の請求の当否について通常の手続により審理裁判すべきものとしております。この効果は、敗訴した当事者のいずれか一方が異議を申し立てれば生ずるものであって、控訴の場合における不服申し立ての限度及び不利益変更の禁止は存しないのであります。なお、異議の申し立てがあっても手形訴訟の判決の効力は失われません。
第四百五十七条は、手形訴訟の判決と異議申し立て後にされるべき通常手続の判決との関係を明らかにしたものであります。第一項は、異議の申し立て後において第一審裁判所が通常の手続によって審理をした結果、訴えについての判断が手形訴訟の判決の結論と一致しますときは、手形訴訟の判決を認可するという形で、裁判所の判断を示すべきものとしております。手形訴訟の判決の結論と異議申し立て後の第一審裁判所の判決の結論が一致します場合に、あらためて原告の請求の当否について判決をし直すとしますと、強制執行の基本となる債務名義が二個存在することになりかねないからであります。本条第一項ただし書きは、手形訴訟の判決の手続が法律に違背し、その判決が適法に存在していないと認められる場合には、たとえ手形訴訟の判決の結論と異議申し立て後の第一審裁判所の判決の結論が一致しても、第一審裁判所は必ず手形訴訟の判決を取り消すべきものとする趣旨であります。
第二項は、異議申し立て後の第一審裁判所が通常の手続により審理した結果、手形訴訟の判決と一致した結論に到達しないときは、あらためて訴えについての判断を示す新判決をしなければならないこととし、かつ、その新判決においては、手形訴訟の判決を取り消すべきこととしたのであります。
第四百五十八条は、訴訟費用の裁判に関して第九十五条及び第百九十五条第二項の特則を定めたものであります。すなわち、手形訴訟の判決に対し適法な異議の申し立てがあった場合には、訴訟は手形訴訟の口頭弁論終結前の程度に復し、通常の手続に接続するのでありますが、本条第一項は、手形訴訟における訴訟費用と異議申し立て後の通常手続の訴訟費用とを分離し、手形訴訟の判決でした訴訟費用の裁判を認可して異議申し立て後の通常手続の訴訟費用の負担につき別個の裁判をすることができるようにしたものであります。また、第一項は、異議を不適法として却下する場合に、異議申し立て後の訴訟費用の負担についてのみ裁判すべきことをも定めております。
第二項は、手形訴訟の判決において訴訟費用の負担の裁判を脱漏した場合に、第百九十五条第二項により、その訴訟費用の負担につき裁判することを前提として、手形訴訟の判決に対し異議の申し立てがあったときは、その訴訟費用の裁判が効力を失い、第一審裁判所が第一審の総費用について裁判をし直すために、同条第三項の規定を準用することとしたものであります。
第四百五十九条は、第三百九十一条と同趣旨の規定であります。
第四百六十条は、異議を却下した判決に対し控訴が提起され、控訴審においてその判決が取り消される場合におきましては、その事件について第一審裁判所の審理からやり直す必要があるので、控訴裁判所は必ず事件を第一審裁判所に差し戻すべきものとしたのでありまして、第三百八十八条と同趣旨の規定であります。
第四百六十一条は、第三百五十六条の規定による起訴前の和解において、和解がととのわない場合に認められる訴訟開始の申し立ての際、手形訴訟による審理及び裁判を求めることができるものとし、その場合に、手形訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述をなすべき時期を定めたものであります。
第四百六十二条は、支払い命令に対する異議を経由して訴訟となる手形金請求事件が多数にのぼる現在の実情にかんがみ、このような事件についても、手形訴訟による審理及び裁判を求めることができるようにしますため、本条第一項において、手形訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、支払い命令申し立ての際にしなければならないこととしております。
第二項は、右の申述がありましたときは、その旨を支払い命令に付記して債務者に通知すべきこととしたものであります。
第三項は、支払い命令に対し仮執行の宣言が付せられると、右の申述はなかったものとみなすこととする規定であります。この規定により、支払い命令に仮執行の宣言が付された後の異議申し立ての結果提起されたものとみなされる訴えは、通常の手続による訴えとなるのであります。支払い命令に対する異議の申し立ては、仮執行の宣言が付される前のものが大部分であって、仮執行宣言つき支払い命令には手形訴訟の仮執行宣言つき判決と同じような機能を与えることができますので、本条では、仮執行宣言前の異議の場合に限って手形訴訟による訴えの提起を認めることとしております。
第四百六十三条は、小切手金額及び遡求金額等の支払い請求のような、小切手による金銭の支払いの請求と、これらの請求に付帯する年六分の法定利率の損害賠償の請求については、小切手訴訟による審理及び裁判を求めることができることとし、小切手訴訟に関しては手形訴訟に関する規定をすべて準用するものとしております。
第四百六十四条ないし第四百九十六条は条文の整理であります。
第四百九十八条は、手形訴訟及び小切手訴訟の判決の確定時期及びこれらの判決に対する異議申し立てによる確定遮断の効力につき、通常訴訟の判決の確定時期及び上訴による確定遮断の効力と同様の定めをしようとするものであります。
第五百十二条ノ二、第一項前段は、手形金または小切手金等の請求につき言い渡された仮執行覚書つきの終局判決に対し、控訴の提起があった場合における強制執行の停止には、原判決の取り消し変更の原因となるべき事情の疎明が必要であるとするものであります。その理由は、手形及び小切手の有する法的性格及び経済的機能にかんがみ、手形上または小切手上の権利者に対し迅速な強制執行による満足を得させる必要がありますが、他面、義務者の救済を考慮するとしても、現行法の第五百十二条が控訴の提起に伴う強制執行の停止をほぼ無条件で許すこととしておりますため、右の必要に反することとなりますので、手形上または小切手上の権利の存在の確実性がきわめて高度であることにかんがみまして、強制執行の停止の要件として、原判決の取り消し変更の原因となるべき事情についての疎明を要求し、その停止が真に必要と考えられる場合についてのみこれを認めるのが相当であるからであります。
第一項後段は、右の執行停止の裁判は口頭弁論を経ないですることができるものとし、また、その裁判に対しては不服の申し立てを許さないものとしますため、第五百条第三項の規定の準用を定めているものであります。
第二項は、手形訴訟もしくは小切手訴訟の仮執行宣言つき終局判決に対し異議の申し立てがあった場合、及び、手形金もしくは小切手金等の請求につき発せられた仮執行宣言つき支払い命令に対し異議の申し立てがありました場合においても、強制執行の停止の関係において本条第一項と同様とするものであります。
第三項は、本条第一項において控訴の提起等の場合の強制執行の停止について原判決の取り消し変更の原因となるべき事情の疎明を要求する点にかんがみまして、その疎明を容易にしますため、訴訟記録が原裁判所にございます間は、原裁判所においても強制執行の停止を命ずる裁判をすることができるようにしたものであります。
第六百七条は、条文の整理であります。
附則の第一項は、この法律の施行期日を定めたものであります。
第二項は、この法律により手形訴訟及び小切手訴訟が設けられることに伴います経過措置を定めたものであります。
第三項は、この法律により手形訴訟及び小切手訴訟が設けられることに伴い、民事訴訟用印紙法に所要の改正をか、えるものであります。その第一条は、裁判所書記を裁判所書記官に改めるものであります。第四条ノ二は、手形訴訟または小切手訴訟による審理裁判を求められないものとして却下の判決を受けた請求について、通常の手続による訴えを所定の期間内に提起し直した場合に、その訴状には、あらためて印紙を貼用することを要しないとするものであります。第六条ノ三は、手形訴訟または小切手訴訟の終局判決に対する異議の申し立て書に貼用すべき印紙の額を定めたものであります。
以上をもって御説明を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/10
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011・濱野清吾
○濱野委員長 以上をもちまして、両案に対する提案理由並びに逐条説明は終わりました。
両案に対する質疑は後日に譲ることといたします。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/11
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012・濱野清吾
○濱野委員長 次に、刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。
前回に引き続き質疑を許します。神近市子君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/12
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013・神近市子
○神近委員 局長にちょっとお伺いしたいのですが、この間都内で強盗を働いた三人の少年がございましたね。それが刑事処分相当として回されたことがあったのです。それが今度は試験観察という形をとることになったということであったのですけれども、試験観察というものがどういう性格のものであるかということを説明してください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/13
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014・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 私も新聞でいま御質問の点を承知いたしたのでございまして、直接検察庁から詳しい事情を伺っておらないのでございますが、仰せのようにあの事件は、検察庁としては、刑事処分ということで異例なことであったと思うのでございます。新聞でもそのことを報道したわけであったのですが、裁判所のほうは、いわゆる逆送手続をとらないで試験観察というような処置をとったというのが報道でございます。その試験観察をとったかどうかという確実なことは私承知いたしませんが、いわゆる試験観察とはどういうものかということにつきましては、私の承知しておることを申し上げてみたいと思います。
これは、家庭裁判所が審判を開始するか、あるいは開始しないか、そういう手続が二つございます。その二つの手続をとります前段階としまして、試みにどういう状態であるかということを一応見て、その結果いかんによりましては、不処分ではなく審判を開始して、その審判を開始した後に、あるいは逆送ということになるかもしれませんし、あるいは保護処分ということになるかもしれませんが、いずれにいたしましても、審判を開始する以前の段階としまして、裁判所調査官による試験観察と言いますか、一種の観察期間、その問の状況を調べた上で判断をしよう、こういう手続のようでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/14
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015・神近市子
○神近委員 それは少年法に規定があるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/15
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016・濱野清吾
○濱野委員長 ちょっと速記をとめて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/16
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017・濱野清吾
○濱野委員長 速記を始めて。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/17
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018・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは少年法に試験観察のことはたしか規定があったと思っております。いま条文を見まして、わかりましたらまたお答えをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/18
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019・神近市子
○神近委員 いま委員長からしかられましたけれども、私どもは、この問題は広範にわたる問題を含んでいると考えるわけです。前に質問なさった方も、その要旨はお尋ねになっていたようでしたけれども、今度の三人の子供たちについてこの決定が行なわれるということには私は異議はないのです。この三少年については、そんなにこの決定が不当だとは考えていないのです。ただ、こういうケースがこれからも出てくるのではないかと思うので、それが明文化されているかということをお尋ねしてみたわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/19
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020・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 突然の御質問であったので、私ちょっと勘違いをしておりましたので、訂正させていただきます。
少年法第二十五条の第一項には「家庭裁判所は、第二十四条第一項〔保護処分の決定〕の保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付することができる。」という規定がございまして、これがいわゆる試験観察であると思うのでございます。そういたしますと、私は保護処分の開始決定前の段階の保護観察のようなものを試験観察というふうに先ほどお答え申し上げたわけでございますが、事実上そういうこともやっておられるようでございますけれども、その法規のたてまえとしては、一応二十四条で、審判を開始した後に、最終の保護処分をするかどうかをきめるまでの間の中間処分として規定してあるようでございまして、それが法律にいういわゆる試験観察である。まあそういうものは事実上の行為でございますので、開始前におきましてもそういうことをなさる場合があり得ると思うのでございます。私はちょっと前のほうの分だけをお答え申し上げましたが、法規のたてまえからいたしますと、開始決定をしてから後の、保護処分をするかどうかをきめるまでの中間的な処分としていまのような試験観察をするようなととが法律上認められておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/20
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021・神近市子
○神近委員 御説明のときに、いままでのは量刑が十分でないということ、そしてこれを重くすることによってこの種の犯罪を少なくするつもりだという御説明があって、前に刑を重くすることによってこういうふうな身のしろ金を目的とした犯罪を少なくするというようなことをお尋ねになっていたようでしたけれど、私どももその点は非常に意見が同じであります。というのは、刑を強化したことだけでは、知能的な人はこの犯罪には、いままで私どもが聞いたところによれば、あんまりないのです。たとえば雅樹ちゃん殺しの人は知識段階に属する人だと思うのですけれど、あとは暴力団であるような人たち、それから知能の非常に低い範囲の人たちに限られているように考えるのです。ですから私は、刑の強化だけでこの目的が十分に果たされるかどうかというようなことを考えているのですけれど、そのほかの方法としては、局長がヒントをお持ちになるなら、どういうことが並行的に行なわれなければならないかということを案としてお持ちになるなら、ちょっと伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/21
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022・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのように、犯罪を防遏する方法としまして、法定刑を引き上げること、これは一般予防の効果と申しまするが、そういうことだけで、これが犯罪の防止に役立つ唯一の方法であるというふうに私どもも考えていないのでございまして、この種の身のしろ金目的の誘拐罪のようなものは、特に先生御心配の点、私も同感でございます。こういう事件は、犯罪が起こったならば的確にすみやかに検挙をいたしまして、それ相当な処罰をする、一件も未検挙事件というものはないのだというような検察態勢と申しますか、捜査態勢が、将来のこの種の事件の発生を防遏するのに非常に役に立つ的確な方法だというふうに、私はかねがね思っております。しかし、それならば、将来の犯罪を防遏するために的確な刑罰を盛るのに現行法がちょうどいいかどうかということが、今回提案をいたしておりますところでございまして、手段といたしましては、刑を上げるだけが唯一の解決策ではございませんが、刑を上げることもまた大切なことであるというふうに、この種の事件に関します限り、私はそういうふうに思っておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/22
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023・神近市子
○神近委員 古展ちゃんの事件の起こったのは、下谷あたりの小公園ですね。そのすぐあとで、その公園でやはり子供が連れていかれた事件があったのですけれど、そういうことから都市公園法というものにちょっと注意されて、私もあれをざっと読んでみたのですけれど、大公園だと住宅から遠いから、たとえば日比谷公園とか上野公園とか芝公園とかいうところは、おとながついていきます。だけれど、区の中の小さな公園なんかに行きますと、子供たちが任意に遊んでいて、おとなはあまりいない。あなたがもし各般の事情を考え合わせるべきだとお考えになっているとすれば、子供の遊び場を何とが立法化する。たとえば監視人を置くという点が一番大事なことですけれど、そういう方法はできないものかということを、あなたはどういうふうにお考えになるか、その立法化はできないものかということをお尋ねしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/23
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024・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 確かに仰せのように、公園で子供が安全に遊べるような方法、そういうものを講ずる必要があろうかと思うのでございますが、その公園の管理に関するそういう面での法改正ということも場合によりましては必要かと思うのでございますが、刑法の改正という点になりますと、犯罪は公園だけでは起こっていないので、学校の帰りとか、子供が自由に歩ける場合、子供に限りません、おとなでも被害者がございますので、そういう点をいろいろ考えてみますると、いろいろな面で手当てをしていかなければならぬと思いますが、何と申しましても、肝心なものは、身のしろ金目的の誘拐罪そのものにどうメスを入れていくかということが重要であろうと思うのでございます。今回の立法は、そういう点に中心を置いた刑法の一部改正ということでございまして、ただいま仰せのような点も決して私ども軽視しているわけではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/24
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025・神近市子
○神近委員 刑法の一部を改正する法律案に入りますけれども、近親その他被拐取者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、被拐取者を収受したる者は、二年以上の有期懲役に処するという点ですけれど、ある意味で刑を重くすることによってこういう犯罪の発生を防ごうとするのが趣旨でしょう。そうすると、身のしろ金目的の被拐取者の収受という、第四項ですけれど、これは、たとえばいま暴力団の場合の法案がきょう出ておりますけれど、その犯人に関係のある周囲というものは限られていると思うのです。それで犯罪が起こってから受け取るというのでなく、犯罪を起こす者も、ある計画を持って、なあに、もてあませばあすこへ持っていくというふうなつながりを感じている。それを見ているほうでも、ある意味で、これは両方つうつうだというふうに考えていいのじゃないかと思うのです。そのあとで誘拐した子供を受け取る人ですね。あまり法律用語というものはやっかいで表現ができないのですけれども、これは私は少し軽過ぎはしないか。この収受した者が二年以上の有期刑というのは、これはほとんど同罪に近い刑罰をやってもいいと思うのです。そうすれば誘拐した者がもてあましたときに、持っていくところがないというようなことを考えれば、子供の場合は子供も安全だし、それを抑制する効果は非常にあるのじゃないか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/25
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026・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 よくわかりました。仰せの点はむしろ二百二十五条ノ二の共犯になる場合でございまして、仰せのような収受罪になる場合ではないのでございます。収受罪になる場合は、全然二百二十五条ノ二とは関係なく、あとになって全く関係のない者がそういう目的で収受をした場合を重く罰しようということでございまして、つうつうのような場合で、暴力団の一人であろうというようなことで初めから意思の連絡があるというふうに思われます場合は、収受罪のほうでなくて、二百二十五条ノ二の誘拐罪のほうの共犯になる、こういう解釈でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/26
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027・神近市子
○神近委員 それからこの二百二十五条ですけれど、「営利、猥褻又ハ結婚ノ目的ヲ以テ人ヲ略取又ハ誘拐シタル者」、この規定ですけれど、これは二百二十九条と関連がございますか、略奪結婚という問題ですけれど。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/27
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028・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは関係がございまして、結婚の目的で誘拐した場合には親告罪ということでございまして、被害者のほうから告訴が出ませんと訴追ができない関係になっております。ただし、その場合に絶対だめかというと、そうではなくて、ただし書きがついておりまして、結婚をしてしまえばそれができなくなりますが、その結婚はむろん無効でありましょうし、また取り消しの裁判が確定をした後でありますれば、もしどうしても罰してもらいたいというならば、そういう手続をとってから後に告訴すべきである、こういうことが二百二十九条に書いてあるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/28
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029・神近市子
○神近委員 この問題を私がこだわるのは、僻村に行きますと、まだ略奪結婚と昔言っていたことが残っていないとも限らないのです。何だかこの間朝日新聞のなにを読んでみると、松永安左工門という人も略奪結婚というふうに書いてある。あれが僻村に行きますとまだ幾らか残っておるところがあるかもしれない。そういう場合に、合意ということが言えると思うのですけれど、こういうようなことでおどすべきでないというのが私の考え方なんです。二百二十九条を読んでみますと、それはずいぶん緩和されてあります。ですから、この二百二十五条はそれと関連しておりますか、この宥恕効果がありますかということを一応お確かめしておるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/29
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030・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 二百二十五条は現行法の規定でございまして、御承知のように営利目的、わいせつ目的、結婚目的、三つの目的で人の誘拐をした場合、その中で結婚目的で誘拐した者については親告罪であるということが二百二十九条に規定してございます。それで二百二十五条と二百二十九条との関係はおわかりいただけると思うのでございますが、親告罪にしたということは緩和をしたというふうにお考えのようでございますけれども、私はそういうふうに思ってないのでございまして、これはむしろ被害者の立場を考慮して親告罪にしておるだけであります。被害者がけしからぬというお考えでございまして告訴をしてくれば、何らこれは営利目的の誘拐と結婚目的の誘拐との間に差別はないのみならず、法定刑も同じ刑がきめてあります。したがって、告訴を待って論ずるという親告罪という規定は、これは被告のほうの、つまり犯人のほうの情状をくんでやっているのじゃなくて、被害者の立場を考慮しておる。結婚目的でございますから、もちろす婦人が犯人である場合には相手は男でございましょうし、男が犯人である場合には相手は女でございましょう、あとの場合が大部分だと思いますが、そうすると、婦人の立場というものを考慮して親告罪ということにして、婦人の意思を尊重して処罰するかどうかをきめていくという立場をとっただけで、緩和しているのじゃございません。そういうふうに私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/30
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031・濱野清吾
○濱野委員長 刑法改正案に対する質疑は、都合により一時中断いたします。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/31
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032・濱野清吾
○濱野委員長 この際、法務行政及び検察行政に関する件について調査を進めます。
質疑を許します。野原覺君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/32
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033・野原覺
○野原(覺)委員 質問の前に委員長並びに法務委員の皆さんに敬意を表したいと思います。お聞きいたしますと、法務行政に関する質問は毎週金曜日が定例だそうでございます。ところが、今週の金曜日はお休みでございまして、実は緊急にお尋ねしたいことがありまして、来週の金曜までということになるといかがかと思いましてお願いをいたしましたところ、さっそく予定を変更してお取り上げくださったことに対して、私は心から委員長並びに委員の皆さんにお礼を申し上げたいと思うのであります。
第一に御質問したいことは、わが党の社会党の委員諸君が本委員会において再三にわたってお尋ねをされておる近江絹絲の事件であります。これは法務大臣も御承知のように、近江絹絲事件というのは昭和三十七年の十月に近江絹絲の株主境野清雄氏が告発をした事件、その告発の中身は、これまた法務大臣御承知でございましょう、近江絹絲の前社長の丹波秀伯さんが経理担当重役の西村さんと結託をいたしまして、昭和三十二年の七月から三十六年の六月にかけて一億二千七十万円の横領をしておる。そのことが大阪地検に告発をされて、大阪地検はその後鋭意捜査に当たっておると私は承っておるのであります。私自身も、先月の終わりでございましたが、大阪地検の井嶋検事正、それから卜部特捜部長検事にも会って若干そのお話は承っておるのでありますが、三十七年の十月といえば、いまから一年半前の告発でございまするから、その後捜査は一体どうなっておるのか、その後の捜査の進展——速記録によりますと、刑事局長は選挙等があったのでどうも捜査が進捗しなかった、こういうことも言われておるように思います。しかし、選挙が終わってからもうかなり日数もたっておることでもございまするから、近江絹絲のその後の捜査状況はどうなっておるのか、この点を最初にお聞きしたいと思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/33
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034・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 近江絹絲事件につきましては、たびたび御質問をいただきまして、そのつど、いま御質問の点につきましてもかなりお答えを申し上げてまいったと思っておるのでございますが、御承知のように、近江絹絲事件はこれに関連する事件を入れますと三つでございまして、一つはいま仰せの昭和三十七年十月五日に告発になっております業務上横領等の事件でございます。もう一つは、昨三十八年十一月四日に追告発が出ておりますいわゆるタコ配等の事件、商法違反の事件がございます。それから、これはいまの業務上横領あるいは商法違反と関連があるかどうかはわかりませんが、同会社の株主総会に松葉会の一部の者が入ってまいりまして、いわゆる総会荒らしと言いますか、俗にそういうふうに申しております総会事件が昨年の十二月に起こっておるのでございまして、大阪地検当局といたしましては、すでに告発を受けました事件、それから最近になって追告発を受けました事件、それからいまの総会荒らしの事件等を全体的な視野で見て捜査をいたしておるようでございます。社会党の議員の先生方が現地へ御調査においでになった際に、現地でも御説明を申し上げたそうでございますが、この事件は相当むずかしい事件のようでございますけれども、だからといって告訴事件、告発事件そのものについていなやの回答をするというだけでなくて、裁判官と違いまして、検察官といたしましては、捜査の過程におきまして告訴人としてお気づきにならない面でありましても、捜査官の目で犯罪の容疑があればそれをもやるというのが検察官の職責であろうと思います。そういう観点に立ちまして、事件をしっかり握って何とか事件が推移するかどうかというような点を絶えず検討して今日に至っておるやに聞いておるのでありまして、こまかい内容について、どういうふうにどういう順序で捜査しているかというようなことは、捜査内容に属しますので、この席で申し上げることは適当でございませんので控えさせていただきますが、鋭意捜査をいたしておりますことはどうぞ信じていただきまして御了承いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/34
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035・野原覺
○野原(覺)委員 私が先ほど申し上げましたように、実は私、大阪地検に参りまして卜部特捜部長、それから井嶋検事正にお会いをしていろいろお話は承ったのです。そのとき卜部特捜部長検事が申したことは、近く捜査は完了いたします、この捜査は終局に近づいてきておる、こういうことを申しておるわけですが、この辺はいかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/35
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036・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 私はさようには承知いたしておらないのでございます。特捜部長がどういうふうに申されたか存じませんが、私ども、現地の検察庁のほうから伺っておりますところでは、近く捜査が完了するというふうにはまだ私は伺っておらないのでございまして、目下捜査継続中というふうに私は承知しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/36
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037・野原覺
○野原(覺)委員 目下継続中は継続中ですけれども、近く完了するつもりだ、そういうことを言っておるのです。そこでお伺いしたいことは、いま刑事局長のお話にもありましたように、この事件は業務上横領、それからタコ配、商法違反の問題、それから先ほど言った、これは派生的な事件だと思いますが、松葉会の問題、この関連性があるからというので捜査をされることは捜査当局の御自由でありますけれども、三十七年の十月に告発したのは業務上横領について告発をしている。この点についてはかなり事実をつかんでおられると私どもは思うのです。業務上の横領の事実はあるのかないのか、こまかいことは捜査の過程でもありまするからあなたのほうも答弁は困難かと思いますけれども、一体業務上の横領の事実はあるのかないのか、一体その金額はどのくらいなんだということは、これは法務委員会で御答弁になっても何ら差しつかえなかろうと私は思うのですが、いかがです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/37
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038・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この事件が終結されております場合には、社会の耳目を聳動した事件でもありましょうし、またこの委員会でもしばしば質問をされました重要な事件でございますので、ある程度御説明を申し上げることは私どもの職責だと考えておりますが、ただいまこれはまだ検察庁としてはいなやの結論を出しておらない段階でありまして、これがあるのかないのかというようなことを私がこの席で申し上げますことは、私としましては職責の外にあることであろうというふうに考えておるのでございまして、もう少し事態の推移を見守っていきたいというのが私の気持ちでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/38
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039・野原覺
○野原(覺)委員 あなたがそういう答弁を何回となく繰り返されるので、実は私は委員の皆さんにお願いをして質問に立ったのです。この点は天下の人が非常に大きな疑惑を持っておる。たとえば業務上の横領は一億二千七十万円で告発をしておりますけれども、地検の調べでは業務上の横領金額は一億四千万円だという人もあるわけです。そうしてこの一億四千万円という金は、近江絹絲が三十二年に人権争議をやったために、その人権争議のあと始末として重役室の仮払いになっておる。その仮払いがその後会計法上も何ら清算をされていない。仮払いのままになっておる。こういうことは大阪地検でも明らかにしておりますよ。あなたがそういうことについてはどうしてもお触れになりたがらないから、天下の人が非常な疑惑を持ってきておる。どういう疑惑を持ってきたかというと、法務大臣、よくお聞き願いたいのですが、あなたが責任者でありますから。横領金額の一億二千万円が一億四千万円、地検の調べでは一億四千万円と言っておる人もありますが、告発は一億二千万円だ、このうち五千八百万円が政界に献金をしたというじゃありませんか。この政界献金が介在するために、刑事局長並びに法務大臣はこの事件に対して積極的な手を打たぬというじゃありませんか。法務大臣いかがですか。政界献金が介在するから、あなたはこの事件については捜査当局に対して強硬な——ほんとういえばあなたがなぜ一年半もこんな事件をほうっておくのだ、告発した境野清雄氏は憤慨しておりますよ。おれが併発して一年半になるのに——それはなるほど起訴、不起訴の決定は検察庁にある。捜査を慎重にしなければならぬことはわかりますけれども、なぜこれを明らかにしないかといえば、政界献金がある、その政界献金の金額は五千八百万円だ。この五千八百万円の政界献金にうっかり発言をしたり手をつけたりするとたいへんなことになるかもわからぬという懸念が賀屋さんの頭の中に何かあるのじゃありませんか。法務大臣いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/39
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040・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 近江絹絲の事件につきましてただいまのお話でございますが、横領があったとかなんとかいうことは、はっきりしますれば、それは検察当局のいよいよ最後の決定したところであります。いまそれがどうであるかというようなことを検察陣が捜査をいたしておる段階でありますので、横領があった、何があったといまの段階で断定すべき時期ではないのでありまして、いまさようなことを断定して申し上げることは、私はとるべき態度ではないと思うのであります。検察陣の捜査につきましては、この問題に限らず、きわめて敏速に正確に事が運びますようにわれわれは指示しておりまして、ただいま仰せのように捜査をとめるとか、そんなことは決してございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/40
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041・野原覺
○野原(覺)委員 あってはたいへんなんです。日本の司法の威信、検察庁の威信のために、これはたいへんなことなんです。そこでお尋ねいたしたいことは、五千八百万円の政界、言論界並びに労働組合工作費、この五千八百万円のうち二千万円は労働組合を骨抜きにするために使った工作費、残りの三千八百万円は政界と言論界に対するところの献金、この点はどうなっておりますか。これは地検でははっきり言っておりますよ。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/41
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042・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 捜査の段階でございまして、そういうことを断定して申し上げるわけには参らぬのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/42
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043・野原覺
○野原(覺)委員 捜査の段階であるにかかわらず、すでに商業新聞その他の報道機関がこれを報道し、地検では申しておるじゃありませんか。その疑いがあるということを申しておる。だから私は、最終的なものがなくても、そういう疑いがないのですかと言っておる。その一億数千万円の横領の金のうちからとにかく五千八百万円、機密費というのか何というのか知りませんが、政界、言論界及び労働組合の工作費に使ったという事実が出ておるでしょう。それはないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/43
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044・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 ないとかあるとかきまったときは捜査の結論が出たときです。途中で、責任のある当局者が、あるとかないとか、そういうことを決して申し上げるべきものじゃないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/44
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045・野原覺
○野原(覺)委員 あなたはそういうことを仰せになるわけですが、言っておりますよ、井嶋検事正と卜部特捜部長検事は。法務委員会で幾ら質問をしても、あなたのところでそれを言わないだけであって、大阪の地検では五千八百万円の嫌疑についてははっきりさしておるじゃありませんか。そのうち二千万円は労働組合骨抜き工作費だ、三千八百万円が政界、言論界に献金だと言っておりますよ。この言っていることを否定になりますか。法務大臣いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/45
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046・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 さような嫌疑があるとか、そういうふうに考えた人はあるかもしれません。検察当局がそう断定していることは決してないと思います。断定してないものを当局者があるとかないとか言うことは、私は不穏当だと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/46
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047・野原覺
○野原(覺)委員 捜査が継続中でございますから、最終的なそうであったという断定の結論ではないにしても、その疑いが出ておることは事実でしょう。刑事局長いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/47
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048・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 捜査中の具体的な事件につきまして、公の場所で、捜査を担当しておりません私どもが中間的にいろいろ申し上げることは適当でないということは、私繰り返し委員会で申し上げてきておるわけでございます。そういう意味で、これは大臣の仰せのとおり、捜査について一言も指図がましいことは申しておらないのでございます。もし申しておるとすれば、しっかりやれ、早くやれということを申しておるだけであって、他意がないのでございます。ただ、いま現場のほうで検事が説明しておるじゃないかというおことばでございましたが、私は、これはほんとうを申しますと心外に存ずるのでございまして、先生方を信頼し捜査当局の方がある程度の説明をなさったと思うのでございます。私は、先生方がそれによって御承知を願ったこと、これを公にしていただくという趣旨ならば、おそらく検察当局はそういう説明をしなかったであろうと思うのでございまして、先生方が御説明を聞いたことをいろいろお話しになったので新聞にも報道されたやに伺っておるのでございます。別にそのことをどうこう言うのじゃございませんが、どうか信頼をして申し上げたことは、ひとつ信頼を受けていただきたいと思うのでございます。捜査が完結しましたときには、私どもの許される範囲において御説明をするのに決してやぶさかではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/48
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049・鍛冶良作
○鍛冶委員 議事進行。他の議案の審議中に、何か特別なことがあると言われるので、私はどんな重要なことだろうと思って聞いておったのだ。大臣なり刑事局長がみずから携わったことに対して質問されるならば、それはなんだろうけれども、人のやったことをここで幾ら聞いてみたって、それは答弁できるものじゃないじゃありませんか。審議の途中でこういうことを言うのははなはだ困る、やめてもらいましょう。そしてもとのあたりまえの審議に戻してもらいます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/49
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050・野原覺
○野原(覺)委員 そういう御意見が出るかもしれませんが、この種の問題は、実はくさいものにふたをしますと国民の疑惑を生んでいくわけなのです。ですから刑事局長が言われるように、なるほど私ども個人的に信頼して発表されたことを君らがすぐ新聞に発表したじゃないかということでありますけれども、私どもは、これは捜査の過程におけるところの疑いとして申しておるだけである。ですから、捜査の過程でありましょうとも、疑いは疑いとして発表し、国民がこれに批判を加えていくということは何ら差しつかえない。具体的な個人の名前が出ない限り名誉棄損も何も生じないでありましょう。あなたのお説によれば、捜査が終了しなければ法務委員会でこの種のことについて審議できないということになりますと、なるほど捜査の秘密ということはありますけれども、国政審査の上からいってこれは問題があります。私はやはり法務行政という国政審査の面でお尋ねをしておるわけです。
そこで、これはタコ配についても御答弁になれませんか。タコ配は六億五千五百万円だと言う人もあれば、二億数千万円だと言う人もあるのですが、この辺もまだ発表の段階じゃないのですか、これをお聞きしておきましょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/50
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051・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおりでございまして、ただいま申し上げる段階ではないと心得ております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/51
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052・野原覺
○野原(覺)委員 では、私が緊急にこの質問に立った最も大事な点にこれから触れたいと思う。これは町のうわさですけれども、井嶋検事正と卜部特捜部長検事は近々転勤をする、こういううわさが大阪で出ておるわけです。これは事実ですか、法務大臣いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/52
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053・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 捜査当局が捜査の段階で、どうも黒らしいとか白らしいとかいろいろ思うことはございましょう。初め思ったことがそのままいくわけでもないし、いろいろ考えはあると思います。ただいま横領があったとかないとかいう事実が確定してないのでございます。確定すれば結論が出るわけでございます。そういうものを、このくらいの横領があったとかなんとかこういう席で申しますことは、もしなかったら当事者に対してはたいへんな名誉その他を傷つけることになります。社会を誤解におとしいれて非常な悪い結果が出ると思います。最後的にきまらないものを軽々に申し上げることはかえってよろしくない、こういう考え方でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/53
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054・野原覺
○野原(覺)委員 私のお尋ねは、近く検事正、特捜部長検事は転勤のうわさがあるようだが、それは事実かと聞いておるのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/54
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055・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 人事異動は行ないますが、いつ行なってだれが何するか、ちっともまだ私の頭の中にはございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/55
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056・野原覺
○野原(覺)委員 委員長とのお約束もありますから、できるだけ簡潔に、これで終わりたいと思いますが、この問題は実はいろんなうわさにうわさを生んで、そうして私どもが最も遺憾にたえないのは政界献金なのです。政治家というのはけしからぬじゃないか、こういうことも言われておる。それから労働組合側としてもはなはだ迷惑をしておる。二千万円労働組合を骨抜きにするための工作費だなんということも出されてきておる。ですから、この問題は検察庁の威信のためにもすみやかに事態をはっきりさしてもらいたい。これは一千七年の十月からの事件なのです。三十七年十月からの事件がいまだにはっきりしないということでありますから、国民は疑惑を持ってくるわけなんです、献金等が中に介在しておりますから。ですから、これは法務大臣から承っておきますが、捜査の過程でございますから、私もこれ以上はお尋ねをいたしませんが、これは近くあなたのほうとしては、この捜査の指揮を進行さして、そしてこの事態は国民の前に明確ならしめる、そういう決意をお持ちかどうか、決してこれをあいまいにすることがあってはならぬと思うのです。いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/56
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057・賀屋興宣
○賀屋国務大臣 捜査はなるべく早く完了するようにつとめます。そうして捜査が完了しましたならば、明らかにすべき事態は明らかにしまして、世間でよく事態の真相がわかるようにいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/57
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058・野原覺
○野原(覺)委員 事態の真相が明らかになるまでは、この事件を担当された検事正並びに特捜部長検事の異動は慎むべきだ、そういうことをやると、なお一そう国民が疑惑を持ってくる。これは検察界の威信のためにも、検事正と特捜部長がこれをやってきた以上、この両者にこの事件の結着がつくまではがんばらせる、こういう方針をとられるように要望いたしておきます。これで終わります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/58
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059・濱野清吾
○濱野委員長 刑法の一部を改正する法律案に対する質疑を続行いたします。神近市子君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/59
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060・神近市子
○神近委員 質問を続行しますけれども、二百二十六条に、国外に移送する目的で略取あるいは誘拐した者は、という項目があるのですけれども、これはおとなを想定しておられるのか、あるいは子供にこういう事実があるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/60
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061・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この第二百二十六条は、おとなも子供も両方を想定した条文でございます。しかしながら、事件といたしましては最近一件も報告がないのでございまして、これは捜査が不十分のために発見ができないのかもしれませんが、私どもの感じとしましては、国外移送目的の誘拐というのはあまり起こっていないのじゃないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/61
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062・神近市子
○神近委員 それはおとなもですか。戦前には、たとえば香港向けというのは九州地方では非常に盛んだったのです。今日戦争後はそれはもうあまりないのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/62
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063・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 おとなも含むのでございますが、戦前には、そういうことを私も聞いて承知しておりますが、戦後には、私どものいままで調査したところでは、そういう事件は報告されていないようでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/63
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064・神近市子
○神近委員 このごろいろいろ外国にはフランク・シナトラの息子の誘拐というふうな事件が起っております。私どもは、あの事件なんかは何かおとなの取引のようなものに感じるのです。だけれども、この法律は主として子供の場合を想定してあるので、私はその意味でさっきから局長にお願いしておるように、法律一本で取り締まってこれが万々というような考え方でなく、もっと広範にわたって、どうしたら子供たちを守ることができるか、さっき公園の監視のお話を申し上げたのはその意味でございまして、子供をもう少し中心的に考えていただきたいというのが私の質問の要旨でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/64
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065・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せの趣旨はよくわかります。ごもっともに存ずるのでございますが、この二百二十五条ノ二という規定、これが今度の改正の非常に重要な部分でございますが、この条文からいたしまして、ここでは子供だけではなくて、子供はもちろん含みますが、おとなも含むというふうに規定されておるわけでございます。事件を見ましても、子供の事件が多いのでございますが、少年をこえた成年が被害者になっておる事件も少なくないのでありまして、外国の立法例などでは、特に幼児、少年だけを対象とした、こういう身のしろ金目的の誘拐罪を規定した国がございますが、その少年につきましても、幼児だけに限定するか、あるいは十六歳以下に限定するか、十八歳以下に限定するかというような、立法例はいろいろ多岐にわたっておりますけれども、そういうふうに年齢を制限して規定をいたしますると、年齢が一つ上であったために、下と上とで非常な違いが起こってくるということは、この罪の性質から申しまして区別がないにもかかわらず、対象者の年齢のちょっとした違いで非常に取り扱いが違ってくるということは適当でございませんので、最近のこの種の犯罪の傾向等をよく観察いたしまして、諸外国の立法例でも、子供だけでなくておとなを含めての犯罪立法例、これもかなり、半々くらいはあるわけでありまして、そういうような傾向をよく見まして、今回の改正をいたしたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/65
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066・神近市子
○神近委員 何だか外国の立法例を見ると、死刑までついていますね。それから日本の場合ここで無期ということが出ていますけれども、表現が違うのか、七十五年というふうな刑もある。それは無期というふうなことを意味するのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/66
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067・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 外国の立法例には、仰せのように死刑まで規定した国も二、三あるわけでございます。大体において無期とか、懲役二十年とか、非常に重い刑を規定しておる国が多いのでございます。いま仰せのように七十年とか七十五年というふうなのは、これは法律のたてまえが違いまして、わかりやすく申しますならば、日本では併合罪というふうな場合には、長期の一倍半を重い刑として、その範囲内で刑を盛るということが刑法の規定に書いてございますが、国によりましては、併合罪の規定を、全部寄せ算で足していくような構造の刑の盛り方をきめておる国がございます。そういう国でありますと、七十五年とか百年というふうな刑が出てくるわけでございますが、そういう刑はどちらかというと古い形の刑法の規定のしかたでございまして、ただいまの新しい近代刑法におきましては、そういうような刑期の定め方はしてないのが普通でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/67
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068・神近市子
○神近委員 大体において話はわかったと思うのですけれども、おとなの場合と子供——二、三日前に一人子供が殺された事件があったのですけれど、子供の四つ、五つ、幼稚園くらいまでは別に社会的には何の意味もその生命は持っていない。だけれど、命というものはやはり根本だと思うのです。だから、そういうものを自分たちの取引の対象にするということは、どんな極刑であってもいいだろうと思うのです。無期というのは非常に強いわけだと思うのですけれど、たとえば二、三日前に殺したものとか、あるいは吉展ちゃんの問題とかいうようなものは、どの程度まで想定されますか。というのは、私がここでお確かめしたいのは、法律が古くなってくると立法の意味が失われてしまって、これがまたもとに戻るということも考えられるからです。それをひとつ伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/68
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069・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのように、裁判所で科せられます刑は、日本でもそうでございますが、外国でもそうでありまして、だんだん軽くなるという傾向は否定しがたいのでございます。いま身のしろ金目的の誘拐という罪につきましては、刑法がどういう規定をしておりましょうとも、犯罪学的な類型と申しますか、そういう犯罪という面から見ますると、法律的には刑法の営利誘拐の一つの加重類型というふうに私ども考えておりますが、犯罪類型からしますと、単なる営利誘拐と身のしろ金目的の誘拐とは性質がかなり違っておるわけでございます。私、前にここで申し上げたわけでございますが、これはその誘拐された者の自由権と言いますか、そういうものが被害法益、つまり保護しなければならない法益が主になっておるのでございますけれども、他面、その被害者の生命、身体の安全と言いますか、そういうものが危険にさらされておる、そういう危険から保護してやらなければならぬという法益があるわけでございます。それからまた、それらの親たち、親類、そういう者が、もしそういうようなことになった場合にどういう目にあっておるだろうか、監督者とか保護者とかそういう者の心配、心痛というものを何とかして保護していかなければならぬ。こういう保護法益もありますし、それからまた、それは犯人にしてみれば、それを種にして金にしようというわけでございますから、財産犯的な性格も持っておるというわけで、この身のしろ金目的の誘拐罪というのは、誘拐罪の中の一つではございますけれども、単なる営利誘拐とは違いまして、非常に複雑な保護法益を対象とした構造の犯罪であるというふうに思っておるのでございます。そこで、この種の犯罪につきましては、日本の裁判所もかなりきびしい態度で臨んできておりまして、もし被害者が誘拐の過程において殺されてしまっておる、それはもう大部分殺人という処罰を受けておりますが、殺人の刑になる場合には死刑の判決を受けておるものも数件ございます。それから有期懲役になりましても、十年以上の重い刑に処せられておるものが大部分でございまして、日本の裁判所でも、この種の事件につきましては法律の許す限りの重い刑が科せられておるのが現状でございます。
それにいたしましても、身のしろ金目的の誘拐罪というのは、現在の刑法からいいますと営利誘拐というものの中に入れるよりほかしようがないわけでございます。営利誘拐というのは一年以上十年以下という刑でございます。金を取ろうとすると、それは恐喝だということになりまして、これは十年以下の懲役、両方の罪の併合罪だということになりますと、十五年以下で裁判するよりしようがない。そういうことになっておりまして、現状はどうしても帯に短しという感じがいたすわけでございます。その辺を整備いたしましてこの種の犯罪に対処しよう、そこで無期という刑がどうしてもここへ出てくるということになるわけであります。これは私ども考えまして相当な法定刑だというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/69
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070・濱野清吾
○濱野委員長 鍛冶君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/70
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071・鍛冶良作
○鍛冶委員 二、三、ちょっと疑問のところをお尋ねしたいと思います。
二百二十五条の「営利、猥褻又ハ結婚ノ目的」この「営利」と二百二十五条ノ二との区別を明らかにしてもらいたい。二百二十五条ノ二も、目的は違うかもしらぬが、金を取ろうということが目的ですね。「財物ヲ交付セシムル」これは営利の目的だろうと思います。二百二十五条も営利であり、二百二十玉条ノ二も営利である。この二つの区別をここでひとつ明瞭にしておいてもらいたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/71
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072・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 二百二十五条の営利目的の誘拐と二百二十五条ノ二の身のしろ金目的の誘拐は、営利という点では同じ罪でございます。それで二百二十五条ノ二は、営利目的の誘拐の中の情状の重い罪、こういうふうに私は考えておるのでございます。ただ、御承知のように二百二十五条のできました明治四十年代には、身のしろ金目的の誘拐なんというものはございませんでした。のみならず、戦前においても、私の承知する限りでは一件もなかったように思うのでございます。戦後の犯罪でございます。したがって、当時の立法趣旨としましては、この営利の目的というのは、被害者そのものを金にするという趣旨の営利でございます。つまり、よく女を売春婦に売り飛ばして、その金をもうける、こういうものの大部分が営利目的であったのでございますが、戦後の身のしろ金目的の誘拐罪が出てきますと、現行法でまかなうとすれば、この二百二十五条の拡張解釈と言いますか、そういう点でまかなうほかしようがないので、幾つかの判例も二百二十五条に当たるという解釈をしておるのでございまして、現状から申しますと、身のしろ金目的の誘拐というのは、やはり二百二十五条の営利目的の誘拐に当たる、こういうことになるわけであります。これは刑法の体系から申しますとそういうことでございますが、刑事学的な類型と申しますか、犯罪の性質をよく見てみますると、先ほど神近先生にお答え申し上げましたように、普通の営利目的の誘拐と身のしろ金目的の誘拐とは非常に性質が違っている。片方はただそれに利得がついておるという誘拐罪にすぎないのでありますが、身のしろ金目的の誘拐罪は、一つは、生命、身体の生命犯というものの危険罪、これと営利誘拐罪、それからもう一つは、強盗や何かに近い財産犯にもまたがる、そういう特殊なきわめて危険な類型の犯罪である。これは犯罪学的に分類をいたしますと、かなり違った性質の犯罪というふうに今日では考えられておるのでございます。しかし、刑法の体系上から申しますと、仰せのとおり営利目的の誘拐罪が一般法でありまして、身のしろ金目的の誘拐罪はその加重類型である、かようにいま理解をしております。その本質は、いま申したように犯罪学的に見て非常に違った危険な犯罪である、こういうふうに思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/72
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073・鍛冶良作
○鍛冶委員 次に、二百二十五条ノ二に、「近親其他被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ憂慮ニ乗ジテ」と、こう書いてある。なかなかどうも、いわゆるしぼりの上にしぼりをかけてあるようだが、これほどのしぼりをかけなければならぬ必要があるかどうかということが疑問になるのです。「安否ヲ憂慮スル者ノ」として、「憂慮ニ乗ジテ其」ということはなくてもいいのではなかろうか。どうあってもなくてはならぬとおっしゃるその点を聞きたいのです。この間新聞で見ておりますると、女の子が殺された。二日もうちをあけておるのに、親はこれを不審にも思わなかった。それは知能の足らぬ子供であるから、ちょいちょいうちをあけるというので気にしなかった。これらは「安否ヲ憂慮スル者」の中に入るか知らぬが、ここの第二の「憂慮」というところまで人らぬと思うのです。こういうような場合には、これがかりに身のしろ金を要求したとすれば、本条から抜けることになりはせぬかと思うのです。私はこの次の「憂慮ニ乗ジテ」というのがなくても本法の目的は達せられるのではないかと思うのですが、どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/73
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074・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 この「憂慮ニ乗ジテ」ということばは、御承知のように、準詐欺罪の二百四十八条にそういう用語例がございます。「未成年者ノ知慮浅薄又ハ人ノ心神耗弱に乗シテ其財物ヲ交付セシメ」、この「乗シテ」ということばが、そのときの準詐欺罪の解釈として、学説、通説と申しますか、それの解釈は、利用してとか、つけ込んでという意味になっております。そこでその解釈は、今回の「近親其他被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ憂慮ニ乗ジテ」という「乗ジテ」も、憂慮につけ込んで、憂慮を利用してというふうに解釈されるわけでございます。
そこで、いまの「乗ジテ」というのが、場合によっては要らないのじゃないかという点でございます。この点は実は私ども学問的な見地からもずいぶん検討いたしたのでございますが、はなはだ僭越でございますけれども、御参考にちょっと申し上げて御理解を得たいと思うのです。外国の立法例も私ずいぶん見たのでございますが、ドイツ刑法の二百三十九条のaという条文でございますが、「人身引渡の代価に身代金を要求するために」と書いてあります。これが一九六二年のドイツ刑法草案、ただいま西ドイツの国会で審議中の法案でございますが、これには「被害者の安全に関する他人の憂慮を恐喝の目的に利用するために」というふうに書き直しております。この「恐喝の目的に利用するために」という書き方は、まさに「憂慮ニ乗ジテ」ということばに相当するのでございまして、なぜこの現行法をいまのような「憂慮ニ乗ジテ」というふうに書き直さなければいかぬかということがドイツの学会でも非常に論議をされておりまして、その結果こういう結論になったことがドイツ刑法の一九六二年の草案の理由書に詳しく出ております。
その意味で御紹介申し上げるわけでございますが、その草案の理由書によりますと、「現行法の欠陥は、行為の目的の記述が広すぎる、かつ無色でありすぎる。」ということを指摘しておりまして、「行為の目的は、単に監護権者への被害者の返還またはその約束に対する財産上の利益の獲得という終局目標のみを実体とするものではなくして、行為によって監護者に子供の安全に関する不安を生ぜしめ、かつそのことによって監護者をして犯人の利益に財産上の処分を行なうことに傾けしめるような中間目標をも実体とするものである。」この中間目標のところが構成要件の実体になっておるんだということを指摘しておるのでございまして、そういう意味で、この草案は、被害者の安全に関する憂慮の利用を恐喝の目的の中の構成要件としてあげることによって、この行為がその目的をうまく表現しているんだ。翻訳でございますのでちょっとおわかりにくかったと思いますが、要するに、終局目標だけではなくて、中間目標も構成要件の中身になっておるんだということを、ドイツでも論じた末に、ここへ結論が到達したということがるる書いてございまして、そこいら辺を私どものほうでもいろいろしんしゃくいたしますと、過不足なく身のしろ金目的の誘拐罪を規定いたしますのには、この「乗ジテ」ということばがないと適当でないということで、法制審議会の段階でもだいぶ学者が議論いたしたのでございます。やはりこれは要るということに落ちついたわけでございます。この点は、私自信を持って「乗ジテ」を入れたほうがいいというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/74
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075・鍛冶良作
○鍛冶委員 私もそう思いますが、「乗ジテ」と書いてあるばかりに、のがれる者が出るのではないかということを心配して御質問いたしたのでありますが、あなたの御説明で了解いたします。
その次に、この間も問題になりましたが、その下にあります「其財物」であります。これはこう読んでみますると、「近親其他被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ」「財物」と読めるんです。ところが、この間から聞いていると、そういう意味ではなく、「憂慮スル者」から「財物ヲ」こういうことのようですね。ほんとうのねらいは、これを読んでみると、「憂慮スル者ノ」「財物」、言いかえれば、憂慮する者の所有物もしくは占有物、こう読めるのですが、この間から聞いているように、そうではなくて、所有物であろうが借りてこようが、もっと言えば、とっさの免れに盗んでこようが、その者から物を取ればいいんだということになる。「其財物」ということでは意味があらわれておらぬように思いますが、この点はいかがでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/75
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076・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 仰せのとおり、条文の書き方としましては、「其」があります以上は、「憂慮スル者ノ」所有財物だというのが普通考えられるのでございます。しかし、所有財物——民法的には、憂慮している者の所有権はないにいたしましても、憂慮している者が差し出しますその財物が、他人から借りてきたものでも、とにかく自分で借りるだけの力があって、第三者から出さして渡した場合には「其財物」の中に含めて考えるべきことが適当だということを解釈上申し上げたのであります。
条文の書き方としては、仰せのとおり、たてまえは「其」という字がある限り、無関係な第三者の財物は入らないということがそれではっきりすると思うのでございます。もし「其」がございませんと、そこは無制限に解釈が広がっていくおそれがある、私は起こらぬと思います。「其」がなくても、同じように解釈されるのだろうとは思いますが、現行法に、さきに申し上げました準詐欺罪に「其」という字がありますので、それと同じ解釈をしますと、それをなくしますと、今度はあくまでも広いのだという反対解釈がそこに起こってくるわけでありまして、現行法の解釈としましては、準詐欺罪の「其」と同じように、これにも「其」を入れて、解釈は同じだというふうにしておくことが、疑いを起こさないで、刑法の規定のしかたとしては適当だ。もし準詐欺罪の規定の「其」を削り、こちらのほうも「其」を削るということで、解釈としてはそうなるのだということでございますれば、これは一向差しつかえないと思います。準詐欺罪というのは二百四十八条の規定にあるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/76
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077・鍛冶良作
○鍛冶委員 これはやはりいまおっしゃった準詐欺罪というのも同じ意味ですか。これはだれが見ても「其財物ヲ」というと、未成年者または心神耗弱者の所有物もしくは占有物と読めるのです。むしろ私は、これは持って回るかしれませんが、憂慮に乗じてその者より財物、こう言ったほうが一番明確じゃないか。その者から財物を交付せしめる、こうあるのがほんとうだろうと思うのです。そう直したらどうか。それからこの「其」というのをとったらどうなるか、もう一ぺんひとつ。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/77
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078・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 その者よりというふうにいたしますと、ただいま先生の御質問のお気持ちによく合う表現だと思うのでございます。しかし、それはただ手段がその者の手から出てくるというだけであって、所有関係がはっきりしないわけで、だれのものでもいいわけですね。盗んできたものをやってもいいし、何でもいいということになるので、それでは立法の趣旨から言いまして広過ぎるのじゃないか。つまり第三者のほうにずっと広くいくという、ただその者のチャンネルを通せばいいということになるわけで、そういう意味でちょっと広過ぎるのじゃないかという気がいたします。
それから「其」という字をつけるかつけぬかという問題は、現行法のもとにおいての一部改正でございますので、やはり二百四十八条に「其」というのがございますのはいまごらんいただいたと思うのでございますが、「其財物ヲ交付セシメ」、この「其財物」というのとやはり歩調を合わせておくほうがいいので、もし全面改正の機会にこの「其」もはずしてしまうということになりますと、仰せのように「其」をはずしても、やはりいまの先生の気持ちにわりあい合い、かつ私が説明したところと近い解釈がそこにおのずから出てくるのじゃないかと思うのでございます。御参考までに申し上げますが、準備草案では、同じ規定がございますけれども、「其」が抜けておるわけなんです。それはおそらく全体的にそういうものを整備して「其」を抜かしておるのだと思うのです。しかし、おそらく解釈は「其」があってもなくても同じような解釈になるという前提に立っておると思うのでございます。先生のおっしゃるようにそのチャンネルさえ、その当人から取ればいいのだということですと、やや財物の所有権との関係において広くなり過ぎやしないかという感じがいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/78
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079・鍛冶良作
○鍛冶委員 そうすると、所有、占有はもちろん入りますね。そのほかのものでも、その者から通じていけばやはりこの中へ入ると解釈してよろしゅうございますね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/79
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080・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 憂慮する者が、ことばは適当でないかもしれませんが、支配し得る、管理し得る状態において入手した財物であれば入るという解釈をとってよろしいかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/80
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081・鍛冶良作
○鍛冶委員 その次に、ここで私考えたのですが、これは憂慮に乗じたという上悪質を重く罰する規定でありますので当然ですが、考えられるのは、私は今後暴力行為のところでも聞こうと思っているのですが、世の中がだんだん変わってきますと、手段方法にどうも悪いものがこれから出てきやせぬか。略取、誘拐、蔵匿等すべて入るわけですが、これに対して科学的な残虐きわまる方法によってやる、科学的方法で略取を巧妙にやる、かようなことは想像できぬでもないと思うのです。そういうような場合に、いまないならいいかしらぬが、特に重く罰するということを私は考えておく必要がないかと思いますが、この点はいかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/81
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082・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これは一つの立法政策上の重大問題でございまして、仰せのように手段方法がだんだん悪質化し、大規模化していくということは、あらゆる犯罪現象について見られるところでございます。そこで、従来の刑法はそういう場合にどういう立法的な立場をとるかと申しますと、三つございます。一つは一般の標準型の犯罪をまずきめまして、それの加重類型をきめる。一般の犯罪は営利誘拐でございまして、身のしろ金目的の誘拐はその加重類型、こうなります。一般の犯罪には標準型の犯罪の刑をきめておいて、加重類型の場合には重くする、こういうやり方。その加重類型の考え方でございますが、結果が非常に重大なものを生ずるということを条件にして加重類型を定めるのと、いまおっしゃる手段方法に凶器とか毒物とか爆薬、そういうものを利用することによって危険の可能性が非常に大であるというところに着目いたしまして、そういう手段方法をもってやる犯罪は加重類型になる、こういう見方をする。加重類型の場合にもそういう見方をする。さらにまた犯罪のコンビネーションでございますが、結合犯的な形で加重類型を考える、たとえば身のしろ金目的のものには生命、身体の安全の危険性ということが背後にあるのでございますが、もし殺してしまった場合には死刑に処するとかいうふうに、死刑と身のしろ金目的とを結びつけて、そして重い刑をつけるといったような重くするやり方がある。それが一つの分け方。
もう一つは、総則の規定の中に、いまでも常習的な行為に出た場合には重くするとか、累犯になる場合には重くするとか、併合罪になる場合には重くする、そういう規定がございますが、そういう総則の中にある特殊な加重事情というものを明記し、各本条の罪にその総則がかぶってきますので、それで加重するやり方と、立法政策としてはいろいろやり方があり、外国の立法例から見ましても、私のいま申したあらゆるものをとっておるのがあるわけであります。大体の傾向としましては、結果の重くなったことに着目をして加重するという傾向から、手段方法の危険性に着目して重くするというようなやり方、そういうやり方にだんだん移行しておるのじゃないかという感じが——これは感じでございますが、いたしております。いずれにいたしましても、加重類型というものは、刑法の中に好むと好まざるにかかわらず加えていかざるを得ないのが刑事立法政策の問題であろうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/82
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083・鍛冶良作
○鍛冶委員 これは将来とも大いに立法上考えてもらわなければならぬが、いまのところ、それでは裁判所の情状裁量の点でまかなってもらう、こういうことで考えてよいかと思います。それからいま出ましたが、誘拐をした結果死にいたした場合、これはこの中に入れるべきものじゃないですか、入っておらぬ。強盗のところでさえ強盗致死傷した場合に重く罰して、当然この中に入らなければならぬと思うが、入っておらぬのはどういうわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/83
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084・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 これはそういう考えも確かにあるわけなんで、私ども立案の段階及び法制審議会の段階で議論をしたところでございますが、身のしろ金目的の誘拐に無期という刑が重過ぎる、しかしながら何とか重い刑を盛るというために、傷害を犯した場合、傷害と身のしろ金誘拐とが結合犯の形で出てきた場合に無期を入れたらどうかという議論も法制審議会でございましたが、これは現行法から言いますと、傷害を犯した場合は十年以下の懲役でございまして、強盗が傷害を犯しますと、これはまた重い刑になりますが、もうすでに身のしろ金目的の誘拐が無期という刑を入れておけば、傷害の場合はそれでまかなえるのじゃないかということが一つと、それから殺人罪で故意犯の場合には、百九十九条の殺人罪の規定が併合罪の形で適用されますので、死刑、無期、三年以上の有期刑ということになりますので、死刑という法定刑が出てくるわけであります。したがって、生命犯を同時に犯した場合には何とか現行法でまかなえるということが一つの理由で入れることをやめたのでございます。
それからもう一つの理由は、これを入れていきますと、逮捕、監禁で人を殺した場合とか、いろいろそういう場合との権衡の問題がありますし、人を殺したのならば、結婚目的で誘拐した場合だって、人を殺した場合の加重類型を考えてもいいではないか、わいせつ目的の場合も同じだということで、営利誘拐の罪全体について、そういう規定をかぶるような規定をつくる必要が同時にまた権衡上起こってくると思うのでございます。そうなりますと、刑法の一部改正の問題ではなく、刑法全面改正の際に考慮すべき問題ということになる。今回は必要にして最小限度の改正というところに頭を置きましたものですから、考えは一応いたしましたけれども、そこまで手を伸ばさないほうがこの改正としては適当であろうということになったわけでございまして、仰せのように、そういう加重類型を考えるという考え方は確かにございまして、私どもも検討いたしたわけであったのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/84
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085・鍛冶良作
○鍛冶委員 結果においては同じだろうと思いまするが、殺人罪では無期または死刑、ところが強盗死傷罪に至りましては、致死罪ですね、これも無期または死刑でございます。同一ではあるが、強盗の場合には強盗で死に至らしめたということで特に重く罰しておる。結果は同じになりますよ。なるが、そういうふうに規定しておる。普通の殺人罪よりかまだ悪いという意味だろうと私には思われます。そこから考えると、この場合はそれよりもっと悪いのです。これはむしろ発覚を隠滅せんがために殺すことが多いのです。そうしてみると、結果においては同じかは知らぬが、その場合は特に極悪の重罪を科すべきものだという観念を入れる必要はあると思いますが、その必要はないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/85
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086・竹内壽平
○竹内(壽)政府委員 強盗の例をお出しになりましたが、刑法二百四十条の強盗致死傷、傷をつけた場合ですね、これは無期または七年以上ということになります。ところが「死二致シタルトキハ死刑又ハ無期」、そこに「死ニ致シタル」という場合の解釈としましては、御承知のように故意犯も含むという解釈になっております。したがって、傷害の意思で傷害の結果死にいたしたという場合も入りますが、殺すという強盗殺人の場合も入るわけでございまして、もし、いま結合犯としてつくろうという議論が法制審議会で出ましたのは、故意犯の傷害についてのみ規定をしようという御議論でございまして、そういたしますと、いまの二百四十条との関係で、これは故意犯だけじゃなくて、故意犯も含む、故意犯の結果の死んだ場合も含むというような解釈になるおそれがありはしないか。おそれはないという議論もございましたが、そういうような点に多少疑問があるということがほかの委員のほうからも主張されまして、結局だめになったわけでございまするが、この二百四十条と、今度はいま想定されます結合犯とを考えてみますと、故意の場合には先ほど申したように死刑、殺人罪が併合罪の形で適用されますのでいいと思います。それで故意でない傷害の場合には無期または七年以上ということで、すでにこの罪に無期という刑がありますから、傷害罪の場合は無期と十年以下の懲役との併合罪になるわけでございますから、無期でいくわけでございます。この点も差しつかえない。そうすると、問題は傷害致死の場合はどうなるかという点でございますが、傷害致死は二年以上の有期懲役というのが現行法でございます。そして有期懲役でございますから十五年までありまして、本罪は無期までつけてありますので、こういうものも大体この含んでおる構成要件だということに御理解を願いますと、しいてそこで結合犯を考えなくてもいいじゃないかというふうに思うのでございますが、いかがなものでございましょうか、私どもの考えはそういうことであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/86
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087・鍛冶良作
○鍛冶委員 結局、この間の埼玉県の狭山事件なんかも死刑言い渡しがあったのですが、そういうことになりませんか。私の言いたいのは、普通の殺人罪より重いのだ。結果は、それは殺人罪になると死刑よりないのだから死刑へいくか知らぬが、この場合には特に重いのだということで、強盗致死罪ですか、同じように極悪だぞということを印象づけるために死刑に処す、こういうふうに置いたほうがいいのじゃないか、こういうことです。とくとひとつ御考慮を願いたいと思います。
だんだん時間がなくなりましたので、まだありますが、それはこの次に時間があったら申すことにいたしまして、ひとつ最後に二百二十九条ですか、ちょっとわからぬところがあるのです。これを読んでみますと「第二百二十四条ノ罪、」未成年者の誘拐ですね、「第二百二十五条ノ罪」これはさっき言った営利誘拐、結婚の目的「及ビ此等ノ罪ヲ幇助スル目的ヲ以テ犯シタル第二百二十七条第一項ノ罪、」これは幇助の目的をもって収受または蔵匿したる場合、「同条第三項ノ罪」こういうことですね。同条第三項といいますと、「営利又ハ猥褻ノ目的ヲ以テ被拐取者又ハ被売者ヲ収受シタル者」こういうことですね。その営利収受者の罪または未遂の罪は「営利ノ目的ニ出テサル場合ニ限リ」、営利の収受罪に営利の目的に出でざる場合とは考えられません。これは全部営利だからこの第三項の罪になるのでしょう。それに営利の目的に出でざる場合なんということはあり得べからざることと思われますが、その点伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/87
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088・長島敦
○長島説明員 御指摘の条文でございますが、二百二十四条の場合には、これはもちろん営利の目的がないわけでございますから、問題はございません。それから二百二十五条でございますが、これは営利のほかにわいせつ目的、結婚目的が入っております。したがいまして、わいせつ、結婚の場合には告訴が必要だということになってまいります。その次に、これらの罪を幇助する目的をもって犯した二百二十七条第一項の罪というのは、結局未成年者誘拐及びわいせつ、結婚目的誘拐を幇助する目的で、もって収受した場合、これが親告罪になるわけでございます。その次に同条第三項の罪とございますのは、ただいま御指摘のように「営利又ハ猥褻ノ目的ヲ以テ」というわいせつ目的がそこに入っておりますので、結局このわいせつ目的をもって被拐取者を収受した場合、これがこの親告罪になるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/88
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089・鍛冶良作
○鍛冶委員 どうも聞いておって非常に苦しいようですね。何かもっと明瞭にあらわしようがありそうに思うのですが、われわれは法律家として、営利罪と書いていながら営利の目的でないということはないと思う。
きょうは一時を過ぎましたので、この程度でやめます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/89
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090・濱野清吾
○濱野委員長 本日はこの程度で散会いたします。
午後一時十二分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X01519640317/90
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