1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十九年五月十四日(木曜日)
午前十時三十八分開議
出席委員
委員長 濱野 清吾君
理事 鍛冶 良作君 理事 小金 義照君
理事 小島 徹三君 理事 三田村武夫君
理事 横山 利秋君
上村千一郎君 大石 八治君
大竹 太郎君 亀山 孝一君
坂村 吉正君 四宮 久吉君
田村 良平君 塚田 徹君
登坂重次郎君 中垣 國男君
古川 丈吉君 湊 徹郎君
森下 元晴君 井伊 誠一君
神近 市子君 中嶋 英夫君
松井 政吉君 山本 幸一君
竹谷源太郎君
出席政府委員
法務政務次官 天埜 良吉君
検 事
(民事局長) 平賀 健太君
委員外の出席者
検 事
(刑事局刑事課
長) 羽山 忠弘君
専 門 員 高橋 勝好君
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五月十三日
委員久保田鶴松君辞任につき、その補欠として
中嶋英夫君が議長の指名で委員に選任された。
同月十四日
委員河本敏夫君、坂村吉正君、篠田弘作君、中
川一郎君、服部安司君及び早川崇君辞任につき、
その補欠として、塚田徹君、寺島隆太郎君、亀
山孝一君、大石八治君、登坂重次郎君及び湊徹
郎君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員大石八治君、亀山孝一君、塚田徹君、登坂
重次郎君及び湊徹郎君辞任につき、その補欠と
して中川一郎君、篠田弘作君、河本敏夫君、服
部安司君及び早川崇君が議長の指名で委員に選
任された。
―――――――――――――
本日の会議に付した案件
遺言の方式の準拠法に関する法律案(内閣提出
第一二七号)(参議院送付)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/0
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001・濱野清吾
○濱野委員長 これより会議を開きます。
遺言の方式の準拠法に関する法律案を議題といたします。
前会に引き続き質疑を許します。井伊誠一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/1
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002・井伊誠一
○井伊委員 遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約が批准される、それに対応しての国内法として、いまの遺言方式の準拠法に関する法律案、これが出されておるわけでありますが、この遺言方式に関する法律の抵触に関する条約、これに加盟をしておるものが十二カ国といわれていますが、批准をしているのが三カ国であって、わが国がこれに批准を与えれば四カ国になる。こういうようなことに承っておるのでありますが、この条約に参加をした国々はそれぞれこういうような国内法があろうと思うのですが、それぞれすでにもう、こういう日本のただいま出されておりますような準拠法というものはできておるわけでございましょうか。その点をお伺いしたいのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/2
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003・平賀健太
○平賀政府委員 ただいまお尋ねの点につきましては、私ども、イギリスがすでにこの条約をもとにして国内法を制定しておることを承知いたしております。この条約に加盟した国としましては、イギリスのほかにオーストリア、ユーゴスラビアがあるわけでありますが、ユーゴスラビアとオーストリアの国内立法につきましては、私ども、まだ資料を入手いたしておりません。しかし、この条約に加盟します諸国は、いずれ国内法を改めまして、その条約の趣旨に沿った法律を制定することになると思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/3
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004・井伊誠一
○井伊委員 この各国の承認をいたしましたところの条約と、いま提出されましたところの準拠法に関する法律そのものとの間には矛盾、抵触をするような事態はないでしょうか。この点をお伺いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/4
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005・平賀健太
○平賀政府委員 この法律案は、条約をもとにいたしておりますので、矛盾することはないと信じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/5
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006・井伊誠一
○井伊委員 では少しく内容についてお伺いしたいと思うのですが、この三条の三号の「遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法律」、この国籍を有した国の法律ということについては、はっきりさせる意味で特に第六条が設けられてあると思うのでありますが、しかし、国籍を有した国ということの判定をする根拠法、これは日本の国籍法によって日本が判定をする、こういうことになるのでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/6
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007・平賀健太
○平賀政府委員 第二条の二号には、「国籍を有した国の法律」というふうに仰せのとおりあるのでございますが、ある国の国籍を有しておるという場合に、その国の国籍を有しておるかどうかはその国の国籍法によってきまる、そういう解釈になると思うのでございます。たとえば遺言した遺言者がかりにアメリカ人であるといたしますと、アメリカの本国法であるアメリカの法律によってしたということでありますれば、その者がアメリカの国籍を有していたかどうかということは、アメリカの国籍法によってきまる。そういうことを前提にいたしておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/7
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008・井伊誠一
○井伊委員 アメリカの国籍を有するというアメリカの国籍法を根拠にするというのでありますが、それをさように判定する根拠はどうなんでありますか。アメリカの国籍法によるのだということはどうなんでありましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/8
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009・平賀健太
○平賀政府委員 この法律が運用になりますのは、これは日本の裁判所において問題になった場合でありますから、日本の裁判所が、その問題になった時点におきまして、遺言者がアメリカ国民であってアメリカの方式によって遺言したという主張をされますれば、その遺言者がアメリカの国籍を有したかどうかを判断するのは日本の裁判所でございますけれども、アメリカの国籍法に従いましてそれはアメリカ国民であるかどうかということを判断することになるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/9
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010・井伊誠一
○井伊委員 これが条約に加盟していないところの国の場合においては、この判定をする場合は条約に加盟しない国の国籍法を使う、そういうような判定は結局効力があるのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/10
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011・平賀健太
○平賀政府委員 この法律には、その点はもう当然のこととして出しておりませんが、この条約の第六条の後段の規定を見ますと、「この条約は、関係者の国籍又は前議条による準拠法が締約国の国籍又は法律でない場合においても、適用する。」ということになっておりまして、この法律案について申し上げますと、第三条で準拠法が五つあがっておりますが、その準拠法は締約国の法律でなくても差しつかえないわけでございます。そういう関係で、締約国ではない他の国の国民がその本国の法律に従って遺言をするということがあり得るわけでございます。その場合に、その者がその国の国籍を有したかどうかということをやはり日本の裁判所で判断をする必要が生ずる場合が起こり得るわけでございます。その場合も、先ほど申し上げましたのと同じように、やはりその国の国籍法に照らしまして、はたしてその国籍を有していたかどうかということを認定をするということに相なるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/11
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012・井伊誠一
○井伊委員 国籍の問題は、日本の国籍法に根拠があるというわけでありますが、現実の問題として沖繩――これは県とはいまは言っていないだろうと思うのですが、沖繩におけるところの島民、それから歯舞、色丹島、そこにおけるところの住民、その国籍というものはどういうふうになっておるのでありましょうか。これは法務委員会でお聞きするよりも外務委員会のほうなのかもしれませんけれども、その点をひとつお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/12
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013・平賀健太
○平賀政府委員 沖繩の問題でございますが、従来の政府の解釈といたしましては、現に沖繩に住んでおる沖繩の人たち、あるいは本土のほうにも沖繩に本籍を持っていられる方がいるわけでございますが、そういう方たちはすべて日本国民であるという解釈なのでございます。法務省におきますところの国籍の取り扱いなんかも全部そういうことで処理いたしております。したがいまして、沖繩の人――沖繩の人というのがすこぶる不正確なのでございますが、沖繩に現在住所を持って住んでおる人という意味にもとられますし、あるいは沖繩生まれの人、沖繩出身の人という意味にもとれます。それから沖繩に本籍がある人という意味にもとれますが、そういう人たちを全部含めまして、本国法ということになれば日本の法律、遺言の方式でございますから民法でございますが、日本の民法が本国法、本国の法律ということになるわけでございます。
それから歯舞、色丹の話でございますが、現在歯舞、色丹には現実に日本人は住んでいないと思うのでございます。歯舞、色丹の人ということは、要するにここで以前生まれた人であるとか以前住んでおった人であるとかあるいはそこにまだ本籍が置いたままの人という意味だろうと思うのですが、そういう人々につきましても、もちろん日本国民でございます。本国、その国籍を有した国の法律といえば日本の民法、日本法ということに相なると考える次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/13
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014・井伊誠一
○井伊委員 そうしますと、これらの沖繩と申しますのは、沖繩地域だけでなく、その地域に住んでおるとか、従来そこに籍があるという意味の沖繩島民、そういたしますと、それに対する適用法はいまなお国籍法に基づいてその国籍が定められておる、そういうことになるわけでございますか。また、そのまま歯舞、色丹のごときは全然変わりはなくて、従来どおりこれも他に国籍が移ったという事実がない。そのままで日本の国籍を有するもの、こういうふうになっておるわけでしょうか。これが適用される法律というのは要するにいまの国籍法ということになるのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/14
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015・平賀健太
○平賀政府委員 ただいま仰せのとおりでございまして、沖繩の、いわゆるいろいろな意味がございますが、沖繩の人とか歯舞、色丹の人という人々につきましても、国籍が問題になる場合には、日本の国籍法によって国籍がきまるわけでございます。日本の国籍法によって日本国籍を持っている以上は日本国民でございまして、本国の法律という場合には日本の民法ということになると考えるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/15
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016・井伊誠一
○井伊委員 第二条の三号のほうで「遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法律」この「地の法律」ということは、一つの国の中に州、地方によってその取り扱いが違うような場合を予想して、こういう「地」ということば――国の法律ではなく地の法律となっておるのは、やはりそういう場合を予想してのことでありましょうか。地というのは、その地をも含みあるいは国をも含むという意味に解せられるのでありましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/16
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017・平賀健太
○平賀政府委員 この地ということばを使ったのは、そういう意味も確かにございます。この法律案におきましても、二号を除きましてはみな地の用語を使っております。「住所を有した地の法律」「常居所を有した地の法律」「所在地法」のように、現実行法令もやはりそういう用語を使ってございまして、本国の法律が問題になる場合に限ってその国の法律、本国法というふうに印しておりまして、従来の国際私法の慣例語としましても、こういう地という用語を使っておるのでございます。実益といたしましては、ただいま仰せのように、その国の法律で幾つかに分かれておる、地域によって法律が違う場合なんかには、国とやったのでは意味があいまいになるわけでございますから、地とやっておきますと、その点が非常に明確になるという実益は確かにあるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/17
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018・井伊誠一
○井伊委員 この場合における「住所を有した地」については、第七条のところに関連があって「遺言者が特定の地に住所を有したかどうか」、それが判然をしないときか、それを判定する根拠は「その地の法律によって定める。」こういう場合はどういうあれであろうか。その地について、これが住所地であるといっておる一つの意見というか、主張がその中にある。ところが、他のほうでは、またそうではないというような、その地を判定するのに争いがあるというような場合に、その地の法律によると、その地というのは何をその地といわれるのか。もし他のほうに違った意見があって、ここが住所地であるということになりましたならば、その地というのは一つではない。ただ一度できまるというのではなくて、二つの場合も三つの場合も、やはり争いがあれば、そういうふうになって、この場合では定まりかねるような気もするのですが、この辺はどうなんでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/18
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019・平賀健太
○平賀政府委員 ただいまお尋ねの点が実際上問題になる場合を考えてみますと、要するに遺言者が死亡いたしまして、遺言の効力が問題になるわけでございます。その遺言の有効を主張する当事者のほうで、これは遺言者は、たとえばイギリス本国に住所を持っておったんだ、住所地であるイギリスの法律に従って遺言をしたのであるという主張をするわけであります。そうしますと、被告のほうでは、相手方のほうでは、いや、そうではない、イギリスに住所はなかったんだという主張をするということに仮定いたしました場合に、はたしてイギリス本国に住所があったかどうかという点が問題になるわけでございます。その場合に、裁判所におきましては、イギリスに住所があったかどうかその住所の観念はイギリス法にいう住所を基準にいたしまして、イギリス法にいう住所がはたしてイギリスにあったかどうかということを判断をする、そういう趣旨でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/19
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020・井伊誠一
○井伊委員 なお、ちょっとわかりかねるのですが、住所地が、ただ一つの地だけがかりにイギリスにあるという場合には、イギリスで、これをイギリス法によってこの住所があったかどうかを判定する。こういうわけですけれども、他にもあるという場合には、争われておるような場合には、そのイギリス法でない別な法によってやるというのならば、イギリス法のほうはどういうふうになるのか。ただ一つのものだけであれば、それはただ一本にイギリス法による、こういうことできまるでありましょうけれども、争うているときには次々にそれを確かめるという、その本国法を尋ねて、そして住所地を、本国法ではないが、その住所地と思われるところの国の法律を尋ねていって検討するということになるのかその辺がまだちょっとわかりませんので……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/20
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021・平賀健太
○平賀政府委員 ただいま仰せのとおりでありまして、イギリス法によればイギリス法の住所がある。しかし、同時にフランス法によればフランス法による住所がフランスにもあるという事態が生じるわけでございます。イギリス法とフランス法にいう住所の観念が非常に違うものでございますから、イギリスにもイギリス法の住所がある、フランスにもフランス法による住所があるという場合はあり得るわけでございます。そういう場合には、この二条の三号の「住所を有した地」は二つあると言っていいことになるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/21
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022・井伊誠一
○井伊委員 それでは、この四号のところで、その「遺言の成立又は死亡の当時」における、これはたびたび御質問もあったわけですが、「常居所を有した地の法律」この常居所というのは従来の日本の法律においてはこういうことばはなかったと思います。おそらくはこの条約のほうでは常居所等に当たるものが出ておる。そして、その趣意に合わせるように新しい概念と新しいことばがここにできておるんだ、こう思うのでありますが、これは御説明によりますと、常居所と住所は従来の日本の考えておる住所という考え方に近いということになりますが、生活の本拠と常居所ですから、違うといえば違うでしょうけれども、そこが非常に相寄っておってわかりにくい。住所の意味にとってもいいというようなお考えであるように伺ったのでありますが、そういうことになりますと、国際関係から必要に迫られて常居所という一つの概念を国内法の中に持ってきましたならば、国内法の各種の法律に関連して錯雑したものができないでありましょうか。そこのところが、やはり住所でもいいのだというようことではおそらくこれは適合しますまい。すでに国内法の中にこういう常居所という文字を使ってくるとすれば、他のほうにもこれが用いられるということが逐次出てくるのではないかと思われるのでありますが、そこのところでこの概念を統一しておくわけにはいかないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/22
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023・平賀健太
○平賀政府委員 この法律案におきまして、こういう新しい常居所ということばを使いましたのは、前回にも申し上げたとおりでございますが、要するに条約の趣旨を忠実に国内法に移すということでもちまして、この常居所というのは非常に新しいことばでございますけれども、原語を一番忠実に日本語に直すとすれば、こういうことばにしたほうがよくはなかろうかということで選んだわけでございます。ただいま仰せのように、日本法の住所と、民法その他で言っておりますところの住所という用語が、これは客観的な要素を非常に重く見るという解釈でございますので、この法律案にいう常居所と非常に似た概念、あるいは全く同じだと言ってもいいかもしれないと思うのでございます。そういう関係で、それならぱ住所と言ってもいいわけでございますが、そういたしますと、この三号で住所ということばが別に出てまいりまして、この三号の住所というのは、七条ではっきり規定がございますように、問題になりました国の国内法にいう住所だということで、これは非常にまちまちのものでございます。そういう関係でもちまして、この四号は、条約に忠実でありたいということと一時に、日本の民法なんかにいう住所ということばと三号のこの住所ということばは、同じことばが使われておりまして混乱をいたします関係で、どうしても四号のほうは新しいことばを使ったほうがいい、これが条約にも忠実であるゆえんであるということでこういうふうにいたしたのでございます。ただ、その実質は日本法にいう住所とほとんど似ている、あまり変わらないというふうに考えていいかと思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/23
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024・井伊誠一
○井伊委員 そうすると、常居所という文字、これはやはり居所と常住が重なっておる、続いておるというような概念でありますが、この使い方は、やはりこの遺言方式の準拠法そのものにだけ使われるという――この場合においてはそうだと思うのですが、他の法の場合において、住所と同じ意味だというようなので、これが他の法でもそういうような解釈がだんだん使われるというような心配はないのですか。遺言方式の準拠法にだけこれが使われるのだ、こう解していいのでしょうか。その辺のところが、次第次第に常居所という文字が他の法律に取り入れられればこれは文句はないわけですが、それはおそらく住所と似たものであって、他のほうにも影響するから、これを常居所という文字を使って改正していくという機会はなかなかないのじゃないかと思いますが、この常居所というのは、そうすれば遺言方式の準拠法にだけ用いられるもの、こう解していいでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/24
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025・平賀健太
○平賀政府委員 ただいま仰せのとおりに考えます。日本の国内法としましては、住所でございますとか、居所でございますとか それからどちらかというと通俗めいておりますが、現住所などということばも使われますし、もうすでに国内的にはいろいろな用語もございますので、この常居所というものはほかの法律に使われるということはほとんどないと考えます。ただ、国際私法関係におきましては、最近の条約なんかにおきましても常居所ということばが非常に出てまいります関係で、国際私法関係の法律につきましては、これが用いられる可能性は大いにあるわけでございますが、普通の国内法においては、この常居所ということばが使われるということは、ほとんどあるまいと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/25
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026・井伊誠一
○井伊委員 第二条第五号の不動産に関する遺言については、不動産の所在地法に適合しておるかどうかできめるということでございますが、この意味は、ある一つの遺言の中に不動産に関する部分もあり、しからざる部分もある、そういう場合もあり得ると思うのですが、この場合において、不動産に関する条項がその中にあれば、直ちにその遺言書ですか、遺言自体の方式に関しては、不動産の所在地法一つに適合してくれば、それでその遺言全体を方式に適合したもの、こう見る意味でありましょうか。それともこれは混合して、遺言の中に動産に関するものもあれば、不動産に関するものもある、その他のものがある場合に、不動産の所在地法を適用するという場合は、いかなる形式で遺言がなされたときのことをいうのか、この点がちょっとわかりかねるのですが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/26
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027・平賀健太
○平賀政府委員 ただいま仰せのように、ある遺言の中で動産に関するものもある、債権に関するものもある、不動産に関するものもあるというような場合でございますと、この不動産に関する部分のみについては、その不動産の所在地法によっておれば、その部分は方式上有効であるということでございます。不動産の所在地の法律によっておるからというので、動産に関する部分、あるいは債権その他の財産権に関する部分もそれに伴って有効になるというわけでございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/27
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028・井伊誠一
○井伊委員 いまの場合でありますが、そういう特別な不動産に関する遺言がなされたという場合、特別にそれを扱う利益というものは、これはどういうところにあるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/28
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029・平賀健太
○平賀政府委員 これは日本の国際私法ではそういうことは言っておりませんが、諸国の国際私法の中で、不動産に関する遺言については不動産所在地の法律が定める方式によらなければならぬというような規定を持っておる国があるわけでございます。そういう関係で、実際遺言をする人が不動産所在地の法律に従って遺言をするという場合が多く考えられるわけであります。ほかの一号から四号までに掲げてある方式にはかなっていないけれども、不動産所在地の法律だけにはかなっておる、そういう希有な場合だと思うのでありますが、そういう場合にはやはり救ってやっていいのじゃないかということで、不動産所在地の法律に従った遺言がしてあれば、不動産に関する遺言については方式上有効としてやろうということでこの五号が加わったのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/29
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030・井伊誠一
○井伊委員 くどいようでありますけれども、不動産が各国に分散しておるような場合、したがって所在地法というものが変わるだろうと思うのですが、それは幾つあっても、その一つの所在地法でいいというわけでしょうか。各国が触れておれば、その不動産についてそれぞれの所在地法に適合していなければならぬということになるのでしょうかどうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/30
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031・平賀健太
○平賀政府委員 それは仰せのとおりでございまして、甲という国にある不動産については甲国の法律、それから乙という国にある不動産については乙国の法律、そういう意味でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/31
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032・井伊誠一
○井伊委員 第四条について、「二人以上の者が同一の証書でした遺言の方式」、この場合にもやはり第二条の規定が適用されるというわけでありますか。二人以上の者が、おのおの甲乙丙丁がそれぞれの第二条の規定の一つに適合するということになるのでありましょうか。これは一括してどれか一つ、だれか一人、そういうものがここの第三条に当たればいいというのでありましょうか。その点をお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/32
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033・平賀健太
○平賀政府委員 ただいまお尋ねの件は、二人以上、たとえば夫婦が共同遺言をしたという場合に、夫と妻が国籍が違う、夫は甲という国の国民であるし、妻は乙という国の国民である。そういう場合には、この第二条の第二号の関係によりまして本国法が問題になる場合でございますれば、これは甲国の法律、乙国の法律、双方の方式に合っていなくてはならぬということになろうかと思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/33
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034・井伊誠一
○井伊委員 たとえばわが国の法では共同遺言というものを認めていない。そういうときに、ただいまのような渉外関係のある共同遺言がなされたという場合に、いまのようにして当事者がそれぞれの国、それぞれの人、その人たちの準拠法がこの法律の第二条に適合すれば、それらのものは方式として完全だ、そういうふうになるのでありますが、そうなりましたときには、法律にはこれを認めないことになっておる場合に、日本はその点は認めるということになるのでありましょうか。その点はどういうのですか、発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/34
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035・平賀健太
○平賀政府委員 それは前回も申し上げたわけでございますが、第四条は、方式の問題としては第二条に掲げてあるいずれかの法律に適合しておれば方式上は有効であるというだけのことでございまして、ただ共同遺書を許すか許さないかという根本問題があるわけでございます。共同遺言を許すか許さぬかという問題は、これは一体方式の問題なのか、それとも遺言の内容の問題なのかという根本問題がございまして、この条約並びにこの法律案では、その点は何も言ってないのでございまして、これは要するに各国の国際私法にまかせるということでございます。日本の国際私法によりますと、従来の考え方からいきますと、共同遺言を許すか許さぬかという問題は、方式の問題ではなくて遺言の内容の問題である。でありますから、遺言の内容につきましては、その遺言が日本の裁判所で問題になりますれば法例の規定が適用になりまして、その遺言がかりに相続に関する遺言でございますと、これは相続の準拠法、すなわち遺言者の本国法ということになるわけでございます。遺言をした人が日本人でございますと、日本民法によって事が判断されるわけでございます。そうしますと、日本民法では、先ほど仰せのように共同遺言を禁止いたしておりますので、その遺言は内容的には無効である、方式上は有効であると言い得るかもしれませんが、内容的には無効であるということになるわけでございます。そういうわけで、この四条は、方式に関する限りにおいてはこの法律の二条が適用になるけれども、それがはたして有効かどうかということは、共同遺言を許すか許さぬかというその問題を、これは一体方式の問題と見るべきか、遺言の実質の問題と見るべきかという問題がございます関係で、四条の規定があるからといって直ちに共同遺言が許されるということにはならないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/35
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036・井伊誠一
○井伊委員 第五条のところでございますが、遺言の方式の制限、この中にはたとえば遺言者の年齢それから国籍その他の人的資格、こういうものがそれによっての制限だと思うのですが、その他の人的資格によるところの制限、こういうものはどういうものをさすのであろうか。というのは、「方式の範囲に属するものとする。」とありますから、その方式の範囲に入るというものをはっきりしなければ、たとえばここに年齢とか国籍とかありますが、その他の人的資格による遺言方式の制限というのは、たとえばどういうものを示されるわけでありましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/36
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037・平賀健太
○平賀政府委員 外国の民法の例を見ますと、たとえばオーストリアの民法でありますが、準禁治産者は自筆証書の遺言はできない、準禁治産者が遺言をする場合には必ず公正証書によってしなければならぬという例があるわけでございます。それから未成年者は自筆証書の遺言ができない。あるいは前回申し上げましたように、国籍の点につきましては、たとえばオランダ人は、本国でなくて外国で遺言する場合には自筆証書でやってはいけない、そういう例があるわけでございます。例示といたしまして年齢、国籍だけをあげてございますが、その他の人的資格といった例の中には準禁治産者というものがあるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/37
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038・井伊誠一
○井伊委員 この第六条のうちに「その国の規則に従い遺言者が属した地方の法律を、そのような規則がないときは遺言者が最も密接な関係を有した地方の法律を、遺言者が国籍を有した国の法律とする。」この地方の法律というのは、この判断をする者は日本の裁判所であろうと思うのですが、そういう場合に「密接な関係を有した地方」というもの、その根拠はどういうふうにしてこれを日本では判断をするのでありましょうか。
それからさらに、こういう場合のあれは、条約締結をやりましたその国のうちでかような実際が起こり得るようなふうになっておるのでしょうか。これは加盟国の中には法律上こんな問題が起きましょうかどうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/38
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039・平賀健太
○平賀政府委員 加盟国の中ですぐ考えられますのはイギリスでございまして、イギリスでございますと、御承知のとおりにイングランドとスコットランドとが同じ大ブリテンの中にあるわけでございますけれども、法律は違うわけでございます。それから海外に植民地がございますが、その植民地もまた違った法律が行なわれておる。たとえば同じイギリス人のしました遺言が日本の裁判所で問題になった場合に、そのイギリス人はイギリス本国の法律でございますけれども、イギリスの法律がそういうふうにイングランド、スコットランド、香港、その他の海外の植民地によって分かれておりまして、それぞれ法律が違っておる場合に、どれを持ってくるかというわけでございます。その場合に、「最も密接な関係を有した地方の法律」ということになるわけでございますから、一番密接だと考えられますのは、そこに住所がある地方の法律、たとえば日本に長年住んでおるという場合でございますと、最後の住所がどこにあったかあるいは生まれた場所がどこにあったか、あるいはまたそこにたくさん財産が置いてある、あるいはそこに近親者がたくさん住んでおって、行ったり来たりしておる、いろいろな事情があり得るわけでございます。そういうすべての事情を総合しまして、どこが一番密接な関係を持っておるだろうかということで判断いたしていくということになるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/39
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040・井伊誠一
○井伊委員 いまの場合でありますが、第二条のごとき、あるいは第三条のごとき、こういうのは条約加盟国の間ではみなこれを了承しておるわけでありますが、大ブリテンのいまの本国と地方において法律が違う、それに対してその国の規則にかりにない、特にどこそこと判定するような規則がない場合は、いま言うように、日本だけでもって諸般の事情等を総合して、最も密接な関係ということを認定する、それでその国のその地方の法律をもって本国法とするということでございますが、これはたとえば英国をただいま言われたのでありますが、大ブリテンでは、こういう場合に異議は起きないのでありましょうか。その効力につきまして、これは条約の中に、このとおりに密接な関係を有する地方とかいうもので判断する、こう認めるのは、やはり日本なら日本でこういう判断をすればそれでいいということ、大ブリテンのほうではどうなっておりますか、それはわかりませんけれども、やはりこれでもってきまる。そのほかは英国においては、つまり加盟国においては、そういう場合に効力がないとか反対するというようなことがこの条文からいって起きないのでありましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/40
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041・平賀健太
○平賀政府委員 一般に、この法律の場合に限らず、国際私法の事件におきましては、外国の法律が適用になる場合が多いわけでございますが、その場合に、その当該の外国から異議が出るというようなことは普通は考えられないわけでございます。それで外国の法律のことでございますので、あるいはよくわからないというようなことで、誤った適用をするということもなきにしもあらずでございますけれども、普通の場合は、外国の裁判所がやった裁判でございまして、ただその適用を誤ったとかいうようなことだけで異議が起こるということはないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/41
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042・井伊誠一
○井伊委員 附則のほうの第二項で、「この法律は、この法律の施行前に成立した遺言についても、適用する。」この点はよくわかるのでありますが、「ただし、遺言者がこの法律の施行前に死亡した場合には、その遺言については、なお従前の例による。」この従前の例によるということは、この準拠法によらない、そういう趣意に解するわけでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/42
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043・平賀健太
○平賀政府委員 仰せのとおりであります。従前の例と申しますと、現行の法令の規定によりまして、遺言の方式の有効、無効をきめていくという趣旨でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/43
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044・井伊誠一
○井伊委員 もう私は終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/44
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045・小島徹三
○小島委員 関連して。さっきの話ですが、日本の裁判所で有効だと判断したけれども、その遺言の不動産が外国にある、そこで執行する場合、そこの国では単なる異議ということでなく、執行する場合に何も争いはないのですか問題はないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/45
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046・平賀健太
○平賀政府委員 日本の裁判所で有効とされた。ところが、たとえば遺贈の対象になっておるところの財産がほかの国にあるというような場合には、現実の問題として、そのほかの国で執行されるということになると思うのでありますが、その国が締約国の一つでありますれば、やはりこれを同じ原則によってやりますので、その遺言が方式上無効になるということはないわけであります。もし非締約国でありますと、法律が違っておるという関係で、その国では無効とされるという可能性はなきにしもあらずでございます。したがいまして、実際問題として当該の財産については遺言の執行ができないというような事態も起こり得る可能性はあるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/46
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047・濱野清吾
○濱野委員長 横山君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/47
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048・横山利秋
○横山委員 私は、こまかいことはさておくとして、この法案を通じて見まして痛感されるのは、一体この法律案の積極的な必要性というものがどうもぴんとこないのであります。一体この法律をどうしても出さなければならない積極的な必要性というのはどういうことなのか、聞かしていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/48
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049・平賀健太
○平賀政府委員 本法は、要するに遺言をしたいと思う人が遺言をしやすくする、遺言が方式上無効になるというような事態をできる限り防ごうという必要からでございます。現在のように、この条約が成立していない前におきましては、各国の法律がそれぞれまちまちでございまして、ある人が遺言をしました場合に、ある国ではその遺言は有効だが、ほかの国では無効であるというような事態が起こり得るわけでございます。それを避けたい、できる限り遺言の方式の準拠法というものを世界的に統一いたしまして、一たん遺言をすれば、それはこの条約に基づく国内法に従って遺言をすれば、どこの国にいってもその遺言は有効にしてあげたいというのがこの条約並びにこの法律の趣旨であります。そういう関係で、私どもとしましては、この法律はきわめて有益な、必要な法律だと思う実わけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/49
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050・横山利秋
○横山委員 私は理屈を言っておるのじゃないのです。世界を回って、ブラジルで遺言をするとか、そういうことは一千万人のうちの一人か二人くらいではなかろうか。現にこの法律を制定しなければならぬという具体的事例がどこにあったか。われわれの目の前にあまりどうもないような気がする。一千万人に一人か何かということのために、どうしてもやらなければならぬことであるかどうか。たとえば具体事例があったら聞かしていただきたい。ここにこういう問題があって、それが話題になって、それはこの法律をつくらなければとても救済せられなかったという具体的必要性というものがほんとうにあるのかないのか。世界各国で批准をやっておるから、日本もおつき合いしなければならぬというなら、もうとっくにILO条約は批准されておるはずです。肝心かなめのILO条約がいつまでたっても批准されずにおいて、これは一千万人に一人というのは語弊があるかもしれませんが、これは私は何度か、こういうような関係で材料はないかどこかにこれに抵触して困っておる人はないかといって、どんなに人に聞いても、さあ、さあ、さあ、お芝居の文句みたいなものである。どこに一体必要があったということなんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/50
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051・平賀健太
○平賀政府委員 必要の有無というお話でございますが、やはり必要があればこそ、すでに明治三十一年以来現行法があるわけでございます。それでそれをよりよくしたいというだけのことでございまして、なお、必要から申しますと、これは現実の問題としては、日本人がアメリカにたくさん行っております。これはずっと以前に行った人もおるわけでございますが、すでに日本国籍を失なってアメリカ国籍単一になっておる人もございますし、その他二重国籍のままにしている人もあるわけでございますが、そういう人で、アメリカにも財産がある、日本にも財産があるというのがあるわけでございます。遺言をして、日本にある財産に関してはやはり日本の裁判所で問題になる可能性があるわけでございまして、現実に日本人に関しましても、この法律が必要な場合が起こり得るのでございます。それからひとりこれは日本人だけの問題ではございませんで、外国人のしました遺言が日本の裁判所で問題になるという可能性も大いにあり得るわけでございまして、そういう見地からいきましても、現行の法例のあの簡単な規定では不十分なので、どうしてもより完備した、しかもこういう統一された原則のもとにつくられたこういう法律がぜひとも必要であると私どもは考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/51
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052・横山利秋
○横山委員 私は実際問題を論じ、あなたは理論問題を論じておるにすぎない。理論問題を論じて、こういうことをやっていくに都合がいい、あり得ることを想像してきめていくということは、それは悪いとは言わぬ。悪いとは言わぬけれども、もっと実益のある話かと私は聞いている。私が聞いているのは、現にこういうことがあったとか、これでぐあいが悪いのだということは、この法案を立案されるにあたって現実問題というものを議論されたのであろうかどうか。具体的事例を検討して、こういう不ぐあいがあるから、いま直ちにやらなければならぬという理由があったのかどうか。ただ、どなたか向こうへ行って、これは理論上当然だということだけの話のように聞こえてしょうがない。もしそうであるならば、かりに理論上の問題としてこの条約を批准し、そしてこの法律は単独法です。どうも私の聞いた話では、こういう国際私法の単独法というものはまことに珍しいそうですが、そこまでやるくらいだったら、理論上の問題だったら、まだやることはありはせぬかそう思う。だから具体的にどういう事案が現にあり、かつてそれがまずかったという問題があるのかどうかと伺っている。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/52
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053・平賀健太
○平賀政府委員 事案は現にあると思うのでございます。現実におきましても遺言したいという人が多数いると思いますが、たとえば、たまたまその人が外国にも財産を持っておる、日本にも財産を持っておる、そしてどこの国に行っても有効な遺言をしておきたいという場合には、この法律に従って遺骨をしておきます限りは、少なくとも締約国のどこへ行ってもこれは大手を振って通れる遺言ができるわけでございます。現実にそういう必要があるわけでございます。ただ、この法律のたてまえとしましては、これは要するに裁判規範と申しますか裁判所で問題になった場合にほんとうにこれがものを言うわけでございまして、従来でも遺言は多数ございますけれども、裁判所で問題になる遺言はそう多くないと思うのでございます。そしてアメリカにも日本人がたくさんかつて行っておるわけでございますが、そういう人たちの遺言がやはり多数あったことだろうと私想像するのでございます。ただ裁判所では問題にならなかったかもしれませんけれども、遺言は相当あると考えなくちゃならぬのでございます。そういう関係で、たまたまいままでに裁判所でこういう問題が問題にならなかったからというだけでもって、こういう法律があまり必要がないということは言えないのでございます。やはり今後に備えまして、これからでも遺言をしようという人が遺言をしやすくするという実益は大いにある。まあILOの話が出ましたけれども、ILOとこれとはまた別の面で別の意味におきまして、この条約に日本が加盟し、こういう法律をつくるということがきわめて適切であるというふうに私どもは考えておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/53
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054・横山利秋
○横山委員 怠慢ですよ。こういう法律をつくるのに、裁判所でこの種の遺言について国際的な裁判になったという事例はないのですか、あっても調べなかったのですかどちらです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/54
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055・平賀健太
○平賀政府委員 この点につきましては、日本の裁判所で問題になったケースは私あまりよく承知いたしません。(横山委員「勉強しなかったのですか」と呼ぶ)一応調査いたしましたが、現行法が不備であるためにどうにもならぬというようなケースは、私まだ存じません。ただ、日本で遺言をなしたその遺言が外国の裁判所で問題になっておるという場合もあり得るわけでございます。(横山委員「あり得るではいけない、具体的な話を聞かしてくれと言っておるのです」と呼ぶ)ただ、法律というものは、将来起こり得るいろいろな場合を予想し、また現実に起こり得る場合があり得るわけでございますので、その必要に基づいて制定されるものでございまして、いままで日本の裁判所にそういう事件がなかったからといって、必要ないということには決してならぬだろうと思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/55
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056・横山利秋
○横山委員 私は、こいねがわくは今後こういう法律を制定するに際しては、現実に即して私どものようなしろうとにもわかるように、現にこういう問題があったからこれは困るのだ、こういう場合においては支障があるのだという積極的な必要性というものを例示をされるように希望したいのです。
逆に聞きますけれども、先ほども言ったんですが、この種の条約を批准し、それから法律をつくるとするならば、国際私法関係でこのほかにまだ条約を批准し、法律をつくらなければならぬものがあるでしょう。それはどんなものがありますか。そしてそれらはなぜ一緒に出さないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/56
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057・平賀健太
○平賀政府委員 これは前会にも申し上げたのでございますが、法例の規定がもう非常に古い法律でございまして、これの改正をいま検討いたしておるのでございます。ところが、いま仰せのように、最近におきましては、ヘーグの会議におきましても採択された条約が幾つかございます。これも十分検討した上でこれに加盟し、これに即応する国内法を制定していきたいというふうに考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/57
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058・横山利秋
○横山委員 ひとつ関連して、この間の読売新聞に載ったことについて伺いたいのですが、これは国際的な問題じゃないけれども、遺言に関して、非常に読売が大きく取り上げたんですが、おばあさんが遺言で、わしが死んだらお骨を海に流してくれ、こういう遺言をしたので、大田区の田丸明彦さんが家族と一緒に、平和島の平和橋欄干から、お母さんら家族三人立ち会いのもとにおばあさんの遺骨の入った骨つぼを、桐の箱の中に入れ、ふろしきに包んで広い海に流したのですが、それが翌日昼前、同橋から約六百メートル離れた大森六の一、日本特殊鋼会社前の岸壁に流れついて、同社の従業員が拾って大森署に届けた。中にあった火葬証明書などから千賀実さんの遺骨とわかった。こういう記事が載っておるのを、私はこの遺言に関する法律を調べているうちに、ふと何げなく見たわけであります。長岡外史という人が、自分が死んだら富士山の頂上から骨をまいてくれと言ったという有名な話を問いておりますが、この種の遺言というものは、おばあさんの切なる要望によって、家族一同がみんなそろって、おばあさんよ、なむあみだぶつと言って橋の欄干から骨つぼを落とした。これが刑法百九十条により三年以下の懲役だとかあるいは港則法二十四条で「何人も、湾内又は港の境界外一方メートル以内の水面においては、みだりに、バラスト、廃油、石炭から、ごみその他これに類する廃物を捨ててはならない。」とか、軽犯罪法第一条第二十七項でも、「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」と規定されておるから、この田丸さんは三年以下の懲役だとかあるいは港則法、軽犯罪法によって処分される可能性があるということを聞いたのであります。ここにちょっと書いてあるわけでありますが、こんなことが実際問題として法律の示すところでありますか、参考のために伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/58
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059・平賀健太
○平賀政府委員 ただいま仰せの新聞記事にそういう記事が出ておるのでありますが、民法で遺言と申します場合、これはやはり意思表示でございまして、ある法律効果の発生を目的にしておるわけでございます。そういう意味で自分のお骨は海洋に捨ててくれということは、これは法律効果を目的にしているものではございませんの実で、民法でいっている遺言とは実質的に言えないわけではあります。それからまた、この法律案の審議で問題になっておりますように、遺言には方式がございまして、民法の定めた方式を備えていなければ、それは有効な遺言ではないわけであります。いずれにおきましても、法律的な意味における遺言、民法にいう遺言ではないだろうと思うのでございます。自分が死んだら毎日お灯明をあげてくれというのと同じことでございまして、これは俗には、日常生活の上ではおばあさんの遺言というふうに申しますけれども、法律的には意味がないというように思うのであります。民事的に申しますとそういうことであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/59
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060・横山利秋
○横山委員 民事的にはわかったが、刑事的にはどうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/60
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061・羽山忠弘
○羽山説明員 お答えいたします。ただいまの新聞の記事はその当時読みまして承知いたしております。その記事によりますと、書類送検になったというふうに善いてございますが、まだ検察庁に来ておりません。昨日照会いたしましたところ、まだしばらくかかるようでございます。これがどういう罰則に該当するかあるいは全然該当しないものであるかというようなことは、もうしばらく事実関係を調べた上でお答え申し上げたい、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/61
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062・横山利秋
○横山委員 あなたが慎重な答弁をされる意味は那辺にあるかわからないけれども、民事的に見れば、おばあさんが死んだら、わしはお墓はきらいだから海へ流してくれというおばあさんの奇特な気持ちを家族がくんで、そしてなむあみだぶつ、なむあみだぶつと言って橋の欄干から、平和橋という名前までたいへんいい橋なんですが、流した。その家族の気持ちを警察では死体遺棄罪――これは死体じゃないです、骨つぼだから。それから、こともあろうに港則法三十四条にいうバラスト、廃油、石炭がら、ごみその他これに類する廃物と目して、そうして家族を罰するとか、軽犯罪法によるところのごみだとか、鳥獣の死体その他の汚物または廃物と、お骨を見たりするがごときは言語道断であって、家族の心情、おばあさんの奇特な気持ちをじゅうりんするにひとしいまことに形式的な論議である。こう思うのですが、あなたはどう思いますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/62
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063・羽山忠弘
○羽山説明員 あらためて申し上げるまでもありませんが、信教の自由ということは憲法に保障されておるわけでございます。その信教の自由の中には宗教的行為の自由というようなことを含むわけでございます。したがいまして、どういう埋葬のしかたをするかというようなことは、憲法上は原則として自由であるわけでございますが、これもやはり一般の宗教感情と申しますか、公の秩序、善良の風俗という観点から判断いたしました慣習に従った礼意を失わないということが必要であるわけでございまして、その観点から刑法の百九十条におきましては、「死体、遺骨、遺髪又ハ棺内ニ蔵置シタル物ヲ損壊、遺棄又ハ領得シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ処ス」、こういうことになっておるわけでございます。したがいまして、遺骨を川に流すというようなことがどういう判断になるかという問題でございますが、それは具体的な事情をもう少しよく調査いたしまして、はたして本件の行為が公の秩序、善良の風俗という観点から見ました慣習に従って死体または遺骨というものに対して礼意を失ったかどうかということによって決定される問題である、こういうふうに考えるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/63
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064・横山利秋
○横山委員 おばあさんの奇特な志によって家族がそろってなむあみだぶつと唱えながら海洋に流して、手を合わせておがんだというのが死体遺棄罪だとかあるいは侮辱だとかになるはずがないじゃないか。家族がみんなそういうようなことを考えてやったことについて、あなたは問わず語りに判断を物語っておるような気がするけれども、その点は、これら家族の人たちに対して、しゃくし定木に刑法だとか港則法だとか軽犯罪法だとかそのような法律を適用するのはいかがかと思うが、どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/64
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065・羽山忠弘
○羽山説明員 まだ本件においてどういう条文を適用するかをきめておるわけじゃないわけでございます。ただ、法律でございますが、たとえば最高裁判所の昭和二十四年十一月二十六日の判例によりますると、この事案におきましては、死体を床下に埋めまして毎日お灯明をおげておった、そういうふうに宗教的な行為は一生実懸命やっておっても、それはやはり死体遺棄罪になるのだ、それは慣習に従った礼意を失っておるという判断が下されておるわけでございます。これは仮定論でございますので、あまり申し上げるのは適当でないと思うのでありますが、本件におきましても、たとえば棄てられた遺骨が浜辺に流れつきまして、一般の人が踏みつけるというような可能性がないわけではないと思うのでございまして、そういう事態がはたしてこの刑法のたてまえから是認できるかどうかというような事実問題がまだ残っておるというわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/65
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066・横山利秋
○横山委員 ここでは火葬をきちんとして、そして見つかった場合のために、ちゃんと火葬許可証を入れておいたというのは善意なる意味であって、それは御想像できますね。もしもそれを入れてなかったならば何か怪しげな気持ちもあるが、見つかった場合においては、ちゃんと火葬もいたしました、火葬の許可証もございますといってやったのであって、床下に死体を隠して上からなむあみだぶつと言っておるのとは全然話が違うのです。問題は、そういうように死体をほったらかしにしておるとか、あるいは埋めて知らぬ顔をしておるというような、犯意があったとみなすかどうかということですが、その点はどういう判断ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/66
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067・羽山忠弘
○羽山説明員 お尋ねのとおり、善意であったろうとは想像いたすのでございますが、その他の点につきましては、もうしばらく検討さしていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/67
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068・横山利秋
○横山委員 あなたはなかなか慎重に答弁されておりますが、それでは善意を持って扱われるというふうに判断をいたしたいと思いますが、その辺だけ聞いて、私の質問を終わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/68
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069・羽山忠弘
○羽山説明員 ただいま申し上げましたように、善意であろうということは想像でございまして、もうしばらく検討さしていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/69
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070・濱野清吾
○濱野委員長 これにて質疑は終了いたしました。
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/70
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071・濱野清吾
○濱野委員長 これより討論に入る順序でありますが、別に討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/71
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072・濱野清吾
○濱野委員長 起立総員。よって、本案は全会一致をもって、原案のとおり可決することに決しました。
おはかりいたします。ただいま可決せられました本案に対する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/72
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073・濱野清吾
○濱野委員長 では、さよう決しました。
〔報告書は附録に掲載〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/73
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074・濱野清吾
○濱野委員長 本日の議事はこの程度にとどめ、次会は明十五日午前十時より開会することとし、これにて散会いたします。
午後零時一分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104605206X03419640514/74
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