1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十九年三月十九日(木曜日)
午前十一時十九分開会
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委員の異動
三月十九日
辞任 補欠選任
中上川アキ君 谷村 貞治君
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出席者は左のとおり。
委員長 中野 文門君
理事
北畠 教真君
二木 謙吾君
豊瀬 禎一君
委員
植木 光教君
久保 勘一君
斎藤 昇君
笹森 順造君
野本 品吉君
谷村 貞治君
加瀬 完君
秋山 長造君
柏原 ヤス君
赤松 常子君
国務大臣
文 部 大 臣 灘尾 弘吉君
政府委員
文部政務次官 八木 徹雄君
文部大臣官房長 蒲生 芳郎君
文部省大学学術
局長 小林 行雄君
文化財保護委員
会事務局長 宮地 茂君
事務局側
常任委員会専門
員 工楽 英司君
説明員
文部大臣官房人
事課長 安達 健二君
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本日の会議に付した案件
○理事の辞任及び補欠互選の件
○文化功労者年金法の一部を改正する
法律案(内閣提出、衆議院送付)
○国立学校設置法の一部を改正する法
律案(内閣提出、衆議院送付)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/0
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001・中野文門
○委員長(中野文門君) ただいまより文教委員会を開会いたします。
委員の異動について御報告いたします。
本日、中上川アキ君が辞任され、その補欠として谷村貞治君が選任されました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/1
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002・中野文門
○委員長(中野文門君) 次に、理事の辞任についておはかりいたします。
加瀬君から都合により理事を辞任したい旨の申し出がございましたが、これを許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/2
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003・中野文門
○委員長(中野文門君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/3
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004・中野文門
○委員長(中野文門君) 次に、理事の補欠互選についておはかりいたします。
ただいまの理事辞任に伴う補欠互選を直ちに行ないたいと存じます。
互選は投票の方法によらないで、委員長にその指名を御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/4
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005・中野文門
○委員長(中野文門君) 御異議ないと認めます。それでは、理事に豊瀬禎一君を指名いたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/5
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006・中野文門
○委員長(中野文門君) 次に、文化功労者年金法の一部を改正する法律案を議題といたします。
質疑を行ないます。御質疑のおありの方は順次御発言願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/6
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007・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 前回要求しておりました資料の点について質問しますが、委員部のほうに、大体、だれが来ておるかわかりませんか、関係者はだれがきておるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/7
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008・中野文門
○委員長(中野文門君) ただいま政府側の出席者は、八木政務次官、蒲生官房長、宮地文化財保護委員会事務局長、安達大臣官房人事課長が出席いたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/8
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009・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 宮地さんにお伺いしますが、工芸、芸能、それぞれに重要無形文化財保持者として指定されておるものが五十一名ありますが、これらの人の研究の維持あるいは進歩、そういったものに対する必要な措置について、概略、説明願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/9
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010・宮地茂
○政府委員(宮地茂君) 重要無形文化財の保持者につきまして、どのような措置を講じておるかというお尋ねでございますが、三十八年度までに講じておりますおおまかな考え方を申し上げますと、重要無形文化財保持者は、いわゆる文化功労者といったようなものと違いまして、法律的には、重要無形文化財そのもの、わざそのものが文化財として指定されております。そしてその人間は、そのわざを具現する手段ということで、その指定ではなくって認定という、法律的に厳密に申しますと、そういう形をとっております。したがいまして、保持者その人に対する措置というよりも、重要無形文化財そのものを保存するのにはどうしたらよいかという形で、いろいろな行政上、財政上の措置を講じておるわけでございます。重要無形文化財そのものの保存措置、それがその保持者にはね返っていくものもございます。主としてそういった点では、私どものほうといたしましては、そういう方々が永久にとだえないで続いていただくために、伝承者を養成していく必要がある。それに要する補助金といったようなものを、すべての分野ではございませんが、能楽とか、歌舞伎、舞踊とか、蒟醤、伊勢型紙、こういったような個人指定のもの、あるいは久留米がすり等、団体指定のもの、こういうものに若干ではございますが、伝承者養成の補助金を出しております。それから、こういうわざの保持者が、自分のわざを一般の方々に見てもらう、それは御本人の今後の研さんにも役立ちますし、また国民一般に、そのわざを見てもらうということは、わが国の文化の進歩にも役立つと、こういう意味で公開をやってもらっておりますが、公開の補助金等も出しております。それから作品の展覧会のようなもの、主としてこれは工芸関係ですが、そういう展覧会の助成金、そのほか文楽協会につきましては、御承知のような経過をたどりまして、ほうっておきますと、この伝統的な国民の宝ともいうべき文楽が滅んでなくなってしまいそうだというようなことから、特別の補助金を昨年から出しております。で、こういう実態でございましたが、いろいろ従来からも要望があったところでございますが、三十九年度からは保持者その人に助成をいたして、伝承者の養成並びに本人のわざの練摩向上に直接役立てていただくということで、来年度の予算には千五百万円の重要無形文化財保存特別助成金といったようなものが大蔵省で認められまして、現在、国会で御審議いただいておるのは御承知のところと存じます。大体が御質問に対しましてのお答えでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/10
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011・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 再度、宮地さんにお尋ねしますが、工芸の部に属する人については、ある程度扱いというものが変わってくることはわかりますが、芸能の部ですね、たとえば文化功労者の中に三浦五郎とか、その他歌舞伎等の功労者としての指定を受けておる人がありますね。芸能の部の中で重要文化財保持者として、同じように、たとえば歌舞伎の立役とか、新派の女形とか、いろいろやられておるわけですね。だから芸能そのものの保持ということと、そのことが日本の文化に与える貢献というものを、どういうふうに、あなたは主としてこちらのほうを保護していく立場にある人ですから、無形文化財の方、芸能に関して、文化に与える功労あるいは日本の文化の保持、こういった角度から芸能に属する人々と文化功労受賞者というものに対する扱いについて、いま説明のような差があるという、あるいは扱いが基本的に違うということが、正統なこういう文化を保持しておる人たちに対する措置だという考え方ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/11
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012・宮地茂
○政府委員(宮地茂君) 御説明するまでもないと思いますが、法律の規定では、「演劇、音学、工芸技術その他の無形の文化的所産でわが国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの」、これを無形文化財という、それからその中でも特に重要なものを重要無形文化財というような定義になっております。で、私どもが重要文化財を指定いたしますときは、人そのものではございません。先ほども申しましたように、わざそのものでございます。したがいまして、指定もその新派の女形ということが重要無形文化財であって、それを具現される花柳章太郎さんは、その重要無形文化財を持っておられるという、保持者として認定をするという形になっておるわけでございます。で、私どもとしましては、非常に重要であるし、同時に、ほうっておきますと、これは滅んでしまうであろう、若干、保存の緊急度といったようなことも加味いたしまして、これは芸能に限りませんで、工芸も指定をいたしておるわけでございます。で、これは非常に形式論でございますが、人間そのものではございませんで、わざそのものが重要無形文化財である。文化功労者というのは、御本人が従来からわが国の文化の振興に非常に御功績があったという、その人そのものをつかまえておやりになっておられる。しかも顕彰、御本人の従来の御功績をたたえる、まことにありがとうございましたといったような意味があるのであろうと思います。ただ私のほうは、非常に形式論を申しますと、実質的にはもちろん御功績もたたえ、ありがとうございましたという敬称の気持でありますが、形式的には、そのわざそのものをずっと永久に保存していきたいということで、そのわざをずっと保存してとだえないようにするには、どういう措置が必要であろうかという観点からやっておるわけでございまして、形式的には一応区別ができるのではないかというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/12
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013・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 現行法規のたてまえはそうなっておるが、それでよろしいと考えておるかと聞いているのですがね。柳生新陰流の秘伝書が文化財に指定されるなら、それは古典文書そのものでしょうが、女形にしたって、花柳さんが自分の体を通していろいろやっているから、それでその芸が指定されておるわけですね。花柳章太郎を除いてその芸が抽象的に存在するかというと、そうではないでしょう。そこに芸というか、わざというか、あるいは陶芸でいえば備前焼の淘陽の作品そのもの、そういう考え方の文化に対する功労という視野の広い立場から考えていく際に、いわゆる人間文化財の指定の場合と功労者の扱いが、いわゆる文化功労者の扱いが、私はいささか差別があり過ぎるという考え方を持っていろのです。まああなた方の資料によりすすと、昭和三十八年に指定されたのが太田照造さんですね、これは功労者にも指定されておる。同じ三代目の、古川さんかどうか知りませんけれども、能の部での指定も受けておる。一方芸のほうは芸だけ指定しているのですよ。一方はその人が文化に功労したのですよ。法律のたてまえからいうとそのとおり。しかし、いまも言いましたように、花柳章太郎を除いて女形の一つの口伝とか、あるいは文書による国技とか、そういうそのものが指定されるのではないですね。女形という一つの芸が指定される。そうすると、その人間は指定しない。芸ですよという言い方も現行法ではそのとおりですが、そこに問題がありゃしませんかと言っているのです。やはり女形の一つの伝統を自分の体を通して維持し、さらに進歩させてきた花柳章太郎そのものが、芸術院会員になっているかなっていないかは知りませんけれども、なっていなくとも、文化功労者には指定され得るのですから、だからたとえば、一方五十万を百万に上げるとすれば、文化功労者に指定しなさいという意味でなくして、芸そのもの、あるいは作品そのものという割り切り方に、その作品、あるいは芸、技術といったものを尊重し、保存していこうという角度からすると、文化功労者の年金を上げた措置から考えると、手落ちがある。保護の考え方が、保護したいという意欲に欠けておるのではないかという私の質問ですよ。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/13
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014・宮地茂
○政府委員(宮地茂君) 国会で御審議していただいております三十九年度からの重要無形文化財保存の特別助成金、この金額は千五百万円でございますし、御指摘のように、保持者は五十一名おられます。したがいまして、算術的に割り算をしますると、お一人三十万円前後ということになります。この金が多いか少ないかについてはいろいろ意見があるところと思います。私どもも必ずしもこれで満足をしておるものではございません。しかし、これを文化功労者との対比において云々するということは理論的には出てこたいのではなかろうかと思います。私どものほうの助成金は、もちろん保持者個人に交付する予定のものでございますが、優遇的なものではございません。要するに、わざそのものを末長く保存したい、そのためには御本人にわざをみがいてもらわなければいかぬ、それから伝承者もとだえないように養成していただかなければいかぬといったような、この助成金にはいろいろな意味があるわけでございます。ところが、文化功労者の年金は、これはまあ御本人が非常に文化に尽くされたという、そのことを顕彰するために、ありがとうということでしょうから、この私のほうの助成金とは意味が違うのではなかろうか。ですから今度つくりました助成金が多いと申し上げておるのじゃございません、これにはいろいろございます。しかし、それを文化功労者の年金と比較されて云々されるというのは理論的には出てこないのではなかろうか。ですからこの千五百万の増額は、今後も私どもも努力したいと思いますが、それはこの重要無形文化財保存という観点からこれの増額をはかるべきで、文化功労者の年金とか、芸術としての年金との対比の上で云々するというものとは違った性格のものではなかろうかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/14
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015・加瀬完
○加瀬完君 私も豊瀬委員の御指摘の点をやはり伺いたいのでありますが、今の御説明は、形式的には確かに整っております。しかしながら、文化財の保持者というものを優遇をし、保護をしなければ、おっしゃるような目的を達するわけにはいかないわけですね。無形文化財がどう保護をされておるかということになりますと、私は現状ははなはだ不満足の状態ではないかと思うのです。そうであるならば、一面、文化功労者等の年金が上がるということならば、当然、無形文化財の保持者に対しても、それは確かに形といいますか、技術に対する保護ですけれども、これは人を通じて、豊瀬委員の指摘するように、技術なり形なりが生まれてくるわけですから、それを伝承させるためにも、発展させるためにも、やはり人そのものにもっと援助の手というものが十二分に差し伸べられてしかるべきものじゃないか。そういう点からいままであまり、一応形の上では認められましたけれども、実質的にはまだ不満足な状態にある無形文化財の保護というものに、この際さらに積極的な態度というものをお示ししていただいてもよろしいのではないか、こういう疑念を持つわけでございます。これは形といいますか、それぞれの技術の保護であるとおっしゃいますけれども、あまり文化功労者の人に対する保護というものと、文化財保持者の形に対する保護というものを区別をする必要はないじゃないか、またそう区別できるものではないじゃないか、こういう疑念もあるわけです。この点どうも御説明では納得がまいりませんので、重ねてお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/15
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016・宮地茂
○政府委員(宮地茂君) 先ほども申しましたように、重要無形文化財保存特別助成金として御審議いただいております千五百万円、これは私も必ずしも十分であるとは思いません。したがいまして、今後これが増額にも大いに努力いたしたいと思います。ただ先ほど来申しておりますように、これと文化功労年金と対比するのには、実質的にもいかがかと思われる点を補足いたしますと、今度の千五百万円だけでございませんで、たとえば先ほど申しましたように、文楽そのものの保存のために千五百万円の補助金を文楽協会に助成いたしております。そのほか伝承者養成補助金、公開補助金、こういったように別途の補助金も出しておるわけでございます。したがいまして、まことに私どもの努力が足りませんで、まだまだほんとうにわが国の重要な無形文化財の将来の保存に遺憾なきことを期するためには、もっともっと財政的にも努力しなければならぬということは深く身にしみて感じておる次第でございます。ただ直接に文化功労年金とこの千五百万円を比較されて云々ということではなくて、いろいろな方法で重要無形文化財の保存の財政措置を私どもとしては将来充実していきたい、こういうふうに考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/16
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017・加瀬完
○加瀬完君 関連ですからこれ一つで終わりますけれども、いまの御説明を承りますと、文化功労者の年金というものと、私どものいま指摘したような問題を対比して考えべきものではない、なぜかというならば、文化財の技術その他の保護については別途予算を組んで保護をしているのだ、こういうことでございますね。私が言いたいのは、確かにそういう形で文化財なり、あるいはいろいろの技術なりというものを保護をしていかなければ伝承をされないような結果にもなると思うわけでございます。そういう保護とともに、文化功労者にはなれないけれども、文化財の保持者としてこれに準ずべきものだというような方に対しましては、その人に対してもやっぱり文化功労者に対する年金と同様に、ある程度の、いまよりも引き上げた待遇というものを与えてやるということも、文化財そのものを顕彰し、あるいは技術そのものに熱心にまた入っていく人たちをも集め得る奨励にもなるじゃないか、そういう意味合いで、文化財の保護にいまのような別途の予算でおやりになるのもけっこうだけれども、文化財の保持者そのものにももう少し待遇といいますか、顕彰の実というものを備えてあげたほうがよろしいのではないかと思うのでございますが、この点を伺っておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/17
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018・宮地茂
○政府委員(宮地茂君) 先ほど来、豊瀬委員、加瀬委員のおっしゃいました点、まことにごもっともな点もございます。ただ、先ほど来申しておりますように、私どもといたしましては、形式的にも、実質的にも文化功労年金そのものと、今度の助成金そのものとを対比すべきではないという考えでおりますが、非常に参考になる御意見もお聞きいたしましたので、今後その点も十分検討さして、改めるべき点がございますれば今後努力いたしてまいりたい、このように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/18
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019・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 宮地文化財保護委員会事務局長、私は日ごろかなり尊敬をしておるのですが、きょうの答弁はきわめて不満ですね。私に言わせると、これは国会の議事録に載って、個人の名前を示しては本人に対しては気の毒ですが、あなたの理解を早めるために当該者の失礼は許してもらって、たとえば功労者に田中耕太郎とか、天野貞祐が指定されておりますね、田中耕太郎の学説、天野貞祐の学説よりすぐれた学者が続出するといえば大げさだけれども、これはどんどん出てくる可能性は、文化の発展という歴史の方向を肯定すれば期待し得ることですよ。ところが工芸の部にしても蒟醤が指定されているかどうかしりませんけれども、陶古さんにしても、金重さんにしても、あるいは花柳章太郎にしても、こういう至芸、妙技というものを後世に期待することはなかなかむずかしいことだと思う。あなた方が普遍性があるほどたくさん金を功労として認めて出すんだ、こういうかまえならば、あなたの言っておることはわからぬではない、文化功労の普遍性ですね。私は無形文化財の保持者の指定にしても、功労者の指定にしても、普遍性だけで芸術というもの、文化というものを考えることに間違いがあると思っているんですよ。なるほど何万円もするような備前焼きは全国民が茶わんにしたり、おさらにしたりすることはできません。哲学というものはかなり多くの人がその思恵に浴することができる。しかし、少なくとも文化の発展という広い視野に立った場合には、あるいは文化の保持、伝統の維持という角度に立った場合には、必ずしも普遍性ということが全体を律する大きな、あるいは最大の基準であってはならないと思うんです。その意味で、わざとか技術とか、それを保持するという、それは理論でなくて政策ですよ、私に言わせると。私はこれは文化に対する政策の問題であって理論の問題じゃない。もっとその技術が保持され、しかもそれが高度化していくような手当てというものが、たとえば哲学で貢献したと私が指定した人々に対する国の手当てと、文化財保持者に対する援助あるいは助成の政策にへんぱがあり過ぎると、こう言っているんですね。文化財保護委員会の事務局長としては、千五百万円ではまことに申しわけないと思っています、もっとたくさん金を出して、できることならば、その技術というものが深められ、高められ、保持されていくことが望ましいことだ、せめてこのくらいなことは答弁しないと五十一人から恨まれますよ、どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/19
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020・宮地茂
○政府委員(宮地茂君) おことばを返すようではなはだ恐縮でございますが、私ども普遍性であるものは金が高く、特殊的なものは金が低いというような考え方は全然持っておりませんで、先ほど来申し上げましたように、わざそのものという点に着目して、重要無形文化財のほうはいろいろ措置をいたしておるのでございますという趣旨のことを申し上げたわけでございますが、いずれにしましても、先ほど来申しておりますように、千五百万円の今回の助成金のほかに、その他にもいろいろ補助金は出しておりますが、しかし、まだまだこれで十分であるとは決して思っておりません。こういう重要無形文化財の保持者の方々のことなどを考えますと、これしきの金ではまことは申しわけないというふうな感じも持っております。したがいまして、初めて三十九年度から予算を定めた次第でもございますので、今後とも、将来、先生方のお力もお借りいたしまして、こういう保持者に対する財政的援助、結局は重要無形文化財の保存という点について努力いたしたい、このように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/20
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021・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 次官に見解をお尋ねしますが、久留米がすりの指定者の久保山さんだったと思いますが、指定はされた、いろいろ人から見解とか制約とかきた、しかし、その技術を維持していくには、当時としては久留米がすりそのものの中から上がる利潤では生活ができていかないということで、福岡県で奥さんが自殺したのは御承知のとおりですね。これは一つの例ですが、いまここに指定されている人々の中では、かなり多くの人々がそれを買い上げていることによって、いわゆる自分の技術を商品化して、それによる利潤でますます研究を深めていっている人も具体的には何人もいると思う。しかし、そうではなくて、その技術を維持していくのに、いまの国の助成の措置では非常に経済的に苦労している人がいると思う。そうして、先ほど指摘いたしましたように、学問、学説というものは、現在指定されている人よりもはるかにすぐれた人が中堅あるいは若手、あるいはもっと年配の方も次々に出ておる、これは工芸にしても、あるいは芸能にしても、あるいはその人がなくなると伝承することができなくなる場合もあることを考えていくと、やはり今回、文化功労賞を倍額に上げられるとすれば、従来なかった三十万円程度、一律にやられるかどうかわかりませんけれども、新たに措置をされたということについては、一歩前進だということについては首肯できます。しかし、年間三十万円の助成では、やはりわざわざ指定をした人々の技術の、極端にいえば評価として金を出されるわけではなく、助成という名目ですから、意味はわかりますけれども、少なきに失すると思うのです。だから普遍性から論じていけば、なるほど先ほどからたびたび指摘しておりますように、花柳さんのあれを見る人は少ない、金重さんの備前焼を目に見、手にする人は少ないかもしれませんけれども、こういう特殊な技術というものは、もっと国がある意味では文化功労者以上に優遇をすることによって、その技術というもの、わざというものを保存し、高めていくという政策が必要ではなかろうかと思うのです。見解を承わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/21
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022・八木徹雄
○政府委員(八木徹雄君) 先ほど来お答え申し上げておるのでございますが、問題は、今回措置された千五百万円の金額では、いわゆるその助成にしても実効を上げないではないかということに尽きると思うのでございます。われわれもこの千五百万円が十分な金額でないことは十分に承知いたしております。ただ、この金を出そうという意図の中に、その技術というものを後世に伝承さしていくための助成措置だということで、率直に申し上げて、かなり大蔵省側の抵抗のあったものを、ようやくここまで道を開いたというところでございまして、これは団体でもらうものと、個人でもらうものとあるわけで、一律に支給するということでもないわけでございまして、それらの点につきましては、実態に即して、できるだけ適正な配分をするように、とりあえず、まず措置をしていく、同時に、せっかくできた窓口でございますから、この千五百万円をさらに次年度においては増額させて、おっしゃるとおり、民族が誇りとする技術というものの伝承ができるような、そういう絶対額を確保するように、これから努力してまいらなければならぬ、このように考えているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/22
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023・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 大体のかまえがわかりましたが、やはり先ほどから指摘いたしておりますように、何といいますか、尊重するという基本的な態度はあっても、それに対する手当てというか、施策が行き届き方が足らないと思うのです。だからこそ、国会議員の中で芸術振興会という、私は無用の長物だと思うのですが、そういう議員連盟等ができて、わっさわっさ始める、国会議員は芸術を振興するのは当然の責務である。そういうものをつくる必要はさらさらないと思う。むしろ文部省がそういうものからハッパかけられなくても、いま次官がいわれたような趣旨に立って、もっと手当を千分にしていただきたい。
もう一つお尋ねしますが、たとえば、これは否定的な質問ではないのですが、松田権六さんが功労者に指定されると同時に、その工芸の部としての技術も指定されているわけですね。まだほかにもあると思うのです。こういう功労と技術の指定というものは、どういうふうにあなた方としては、使い分けといったらことばが悪いのですが、措置しているのですか。私にいわせると、少なくとも文化財に指定されるくらいの方は、文化功労者としてどしどし何といいますか、保護し、あるいは指定をし、慫慂をしていってよろしいのじゃないか、こういう気を持っているのです。だから、重なることはけっこうなことだが、特定の人だけこう重なっているというところに若干疑義があるのです。たとえば、松田さんなら松田さんだけを特定すれば、功労者の指定と文化財保持者としての指定というものは、どういう考え方から一部の人だけがそういう措置がされているのですか。これは事務局長でもその他の人でも、どちらでもけっこうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/23
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024・蒲生芳郎
○政府委員(蒲生芳郎君) 文化功労者の選考につきましては、申し上げるまでもなく、文化の向上発達に特に功績の顕著である方につきまして、文部大臣が任命いたしました選考審査会におきまして、それぞれの分野から代表して出られました委員が候補者を出されまして、そこで選考がされるわけでございまして、いま豊瀬先生のおっしゃいましたように、重要無形文化財の保持者の中でも、六人でございますか、現在六人の方が文化功労者になっておられますが、これはやはり選考審査会のそうした候補が出てまいりまして、そして公正な審査の結果、そうした二重と申しますか、保持者であり、かつ功労者というふうになっている次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/24
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025・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 それは公正に判断してきめられたんでしょう。まさか不公平にきめましたというわけにいかぬでしょうが、こういう人の特定の名前をあげるのはちょっといささかはばかると思うのですが、話しやすいから松田さんをとると、まき絵ですね、名称としてはまき絵で指定されたわけでしょう。高野松山さんもまき絵で指定された。ところが、松田さんだけがまき絵では同時に文化功労者としての指定も受けている。こういう場合に、端的に割り切って、そのわざについてはどちらも指定されているから甲乙ない、一番平らにいうと甲乙ないとみていいと思うのです。ところが、一方は文化に対する功労としてまき絵そのものの功労が認められた。それはどういう使い分けですか、あなたがおっしゃるように、候補者に出てこないから指定しない。それはたてまえとしてはあたりまえです。私の言わんとするところは、指定されるほどの人は、文化に対する功労者とみなして一律に扱ってよろしいのじゃないかと、基本的にこういう考え方なんです。全員そのものにしなさいという意味ではない。ところが、同じわざについて、一方はわざの指定も受け、功労の指定も受ける、そうすると、松田さんの場合は文化に対する功労というものが高野さんよりも、どちらも私は知りませんから、どちらかの肩を持つわけではないのですが、高野さんよりも功労が大きい、功労があったとみなければいかぬわけです。そういうものは、同じまき絵というものについて、どういう基準で、わざとしては平等に評価しながら、功労としては認めないという基準は何で設定するのか。こういうところに前回、秋山委員が指摘された芸術院の内部の動きなり、あるいはいろいろな問題に対する世論の批判というのも一つは、そういうところに根拠があるのではなかろうかという気がするのです。その使いわけの基準を言ってください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/25
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026・蒲生芳郎
○政府委員(蒲生芳郎君) 選考審査会におきます選考の基準というものは、具体的な基準というものはございません。先ほど申しましたように、それぞれの分野を代表された選考審査会委員によって、先ほど申し上げましたとおりでございまして、その候補者を出されて、そして決定されるということでございまして、いま先生がおっしゃいます、たとえば松田先生と高野先生の同じまき絵でありながら、一方が功労者になっておるというと、そうすれば、そこに何かわざにおける優劣というようなものはないにもかかわらず、おかしいではないかというお尋ねでございますけれども、功労者の選考は、先ほど申し上げましたとおりでございますし、また、この前も申し上げたと思いますけれども、一応、大体一年間のその年の功労者の定員と申してはおかしいのですが、人数が予算的にも限られておりますので、あるいは次に名前をあげて失礼でございますが、高野先生が、また候補者として出てくるかもわかりませんけれども、定員の関係もございますので、おっしゃるように、できれば、全部功労者になっていただきたいかとも思いますけれども、そういう意味合いで制限せざるを得ないというふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/26
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027・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 再度官房長に尋ねますがたとえば文化功労者に指定する際には、指定者の内訳をすると、各分野にわたっていますけれども、これは当然のことだと思うのです。工芸の部で毎年何人程度とか、あるいは文芸評論とか、あるいは学問原理とか、そういう一つの分野を分けて、それに対する定員を定めておるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/27
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028・安達健二
○説明員(安達健二君) 毎年十名ずつ、功労者の指定を行なっておるわけでございますが、これにつきましては、特にどの分野からというような一定した、その分野別の定員があるわけではございません。ただ、委員の方々に、各方面を代表していただく意味におきまして、いろいろな方面の方をお願いいたしますので、ある程度、そういう意味におきましての定員の割合が出てくる。こういうことだろうと思います。
なお、先ほど官房長から御説明しましたとおり、文化功労者の選考は、審査会の審査で行なわれるわけでございますが、先ほど出ました松田権六先生のまき絵の指定の文化財の面と文化功労者の面は、選考審査会の、こういう気持ではなかろうかということを私どもの推測でございますが、若干補足さしていただきますと、まき絵という伝統技術でございますが、そういうものを伝承しておられるという意味におきましては、松田先生と高野松山先生と、全く同じであろうと思うわけでございます。
ただ、松田先生の場合は、その伝統の芸術を伝統の技術を伝えながら、同時に独自な創作的なものをつくって、この時代の新流に対して、新しいものを創造していく、こういうような面が特に顕著であるというようなことが、あるいは考えられると思うわけでございますが、同時に、松田先生は芸術大学に長年、三十年以上にわたりまして教べんをとっておられまして、いわゆる後進の育成という面におきまして、あるいはまた、日光の解体修理とか、あるいは金色堂をいまやっておられますけれども、そういった面での、いわゆる一般的な文化の向上発達に関し功績顕著だ、こういうような面に着目をしておられるのではなかろうか。こういうふうに私ども推察するわけでございまして、先ほど文化財の局長からもお話がございましたように、無形文化財のほうは、芸そのものを保持する、その保持するという面に強調いたすわけでございます。
で、文化功労者のほうは、むしろ文化の向上発達というような面に着目して、その功労に報いる、こういうような面でございまして、したがいまして、同じ人が、同時にある場合もございますし、一方だけの者もあり得る、こういうようなふうに私どもは了解いたしておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/28
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029・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 あなたの説明で、一そう態度があいまいであるということがわかった、その意味で補足答弁は非常に親切でした。なぜかといいますと、一方は文化の向上に貢献した、そうすると、新しいものを何かつけ加えておるというような、あなたの、これは補足説明ですから取り上げませんけれども、たとえば官房長に聞きますが、松田さんの場合には、一番卑俗なことばで言えば、松田さんの品物がじゃんじゃん売れている、だから、より国民に、その松田さんの技術のよさが目に見、あるいは手にし、その恩恵を受けることができている、だから指定しました、こう端的に割り切るなら、もっと簡単です。ところが、必ずしもその品物が、国民大衆により広く受恵されておるということだけではなかろうと思う。だから文化功労者の指定というものについて、とかくの疑義が出てくるし、必ずしも、これが学問や技術を指定するのですから、尺度がないから、むずかしい問題です。これはむずかしいというようなことはよくわかります。しかし、そこの候補者になる過程、そうして決定をしていく際のむずかしさはあろうと思うのです。
で、やはり文化功労者を指定していくという、点については、現在、日本の中で該当する人が何十人、何百人おるのか知りませんが、昭和三十九年度では、わずかに亡くなった尾崎士郎さんだけが、亡くなる前の日にきめられたと思うのですね、日付としては、そうなっておりますが、出ていますが、いままでのたとえば、哲学で天野貞祐と、ここに哲学がありますね、Bという人と、どちらがすぐれておるのかということになりますと、なかなかむずかしい問題でしょうが、過去において文化功労者に指定された人の一応の功労あるいは業績というものが、実質的な基準になろうと思う。一つの判断、一つの基準になろうと思う。そういう観点であれば、わずかに、一人に年間百万円くらいの金しか出さないのですから、いま安達さんが言ったような、ごまかな理屈をつけてふるい落とすという角度ではなくて、文化財に指定されるほどの人は、文化の功労者として、一応判断していくことが正しかろうと思う。
そういう意味において、無制限に功労者の指定を行なっていっては、安売りになってしまいましょうが、過去の具体的な功労者指定の範疇から考えて、少なくとも無形文化財保持者として、その技術を指定されたならば、むしろ進んで文化功労者のほうにも、同時に指定していくことによって、研究の助成を行ない、わざを高めてもらいたい——していくことがよろしいんじゃないか、こう思うのです。日本に千人の文化功労者がいるということは、日本の、いまの日本の予算の中には、決して負担ではないし、それはむしろ誇りにこそすれ、決して否定する事柄ではなかろうと思う。どう思いますか、官房長。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/29
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030・蒲生芳郎
○政府委員(蒲生芳郎君) 先ほど安達課長が申しましたことは、やはり一つの技術もございましょうし、なお、本人は推測だということを申しまして、説明をしたわけでございます。私が考えますのは、無形文化財の保持者である方は、やはり大きな文化の向上発達に貢献のある方だと思っております。ただ、先ほど申しましたように、その方を全部功労者にするということは、先生もおっしゃいますように、それが安売り的になるかどうか。それから端的に理由を申し上げますならば、先ほど申しましたように、予算的な制約もございます。そういうことからいたしまして、無形文化財の保持者の方は、やはり文化功労者の候補に上がり得る方であろうかと、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/30
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031・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 大臣が見えましたので、ぼつぼつ質問を終わりたいと思いますが、先ほどから指摘しておりますように、一人の優秀な哲学者が、新しい一つの理論を生み出す、これも非常にありがたいことである。また、すぐれた絵画が出て、人間の精神を高めていくような絵をかくということは、これまた、文化に対する功労とみなしてよろしいと思います。指定されておる人を見ましても、経済学士であるとか、あるいは文学であるとか、あるいは日本画とか、それぞれが指定されている。学問原理だけを文化功労者と認めていくと、割り切ってしまえば、私はその適否は別にして、すっきりするのです。ところが、そうじゃなくて、すばらしい絵も、やはり文化に対する功労者として指定されておる。だから宮地事務局長は、普遍性だけが問題でない、基準ではないというのだと思うのです。というのは、あなた方は、中村さんの絵にしても、国民全体が、それの受恵者だということは考えられない。ずいぶん高価な絵ですから。工芸についても芸能についても、必ずしも国民の多くが、その恩恵に浴するという観点からだけで、文化功労者というのが指定されていないと思うのです。結局は、文化の向上、発展に対して功労顕者なものという言葉の解釈というか、それの運用が問題だと思うのです。
こういう観点からすると、わざは文化財保持者として指定するほどりっぱであるけれども、文化に対する功労顕著ではありませんということですね。逆から言うと、功労者に指定するほどの顕著なものはないということ、功労者年金法からすると。そういう考え方が、現行法からいって、一つは功労顕著なものを指定するのですよ。一つは、わざの指定ですよ。こういう割り切り方が、重要無形文化財保持者に対する国の助成というか、その評価、それを一そう高めていくという施策としては、若干の手落ちがある、こういうふうに私は判断するのです。
そこで大臣に、ほかの人たちには聞いてきたのですが、重ねて大臣の見解を承りたいのは、やはり文化財保持者として指定を受けるほどの優秀な技術を持っておれば、そうして、その中から何人かが功労者として指定を受けている、これを派閥が違ってみたり、学問、工芸、芸能の伝統ある人たちの一つの陣営に属する人たちが選考委員になってみたり、あるいは会員になってみたりしておるため、功労顕著であっても落ちるということは、少なくとも排除されなければなりません。これが一点でございます。同時に、国のかまえとしては、かりに文化功労顕著なものとして、文化功労者に指定することができなければ、最小限度これらの人々に対しては、もっと大きな財政的な援助を与えていくことによって、その技術の保持、さらにそれを高めていくということに対して助成をしていくべき問題である。若干文化功労者に対する国の報い方、また、無形文化財保持者に対する報い方については、均衡を失するのではないかというのが、私の質問の骨子なんですが、大臣の所見を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/31
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032・灘尾弘吉
○国務大臣(灘尾弘吉君) なかなかむずかしいのですが、私がお答えしましても間違っておったら、また訂正をいたします。
私はこの文化功労者年金法の制定の趣旨と、それから重要無形文化財保持者としての指定とは、若干趣旨が違っているのではないかと思います。重要無形文化財の保持者として指定いたしますのは、その重要無形文化財を日本の大事なものとして保持し、したがって、その方々に対しまして、一そうわざの練摩をお願いしたいと思いますし、また、子弟を養成いたしまして、それを日本の伝統のものとして残していく、こういうふう点に、指定の主たる目的があるのではないかと思うのであります。今度の特別助成ということも、金額については、いろいろ御意見もあろうと思いますが、心持ちは、やはりわざの練摩、後継者の養成、こういうことの一助にでもなればということでやっておりますので、若干趣旨が違っていると思います。
したがってまた、重要無形文化財の保持者の中からも、文化功労者として顕著な人が出てくる、こういうふうなことになっておりますので、現在も、ただいまの取り扱いの仕方が適当であるかどうか、あるいは十分であるかどうかということについては御意見もあろうかと思うのでありますが、この制度上の問題といたしましては、いまの制度というもので、格別支障かないのではないか、このように考えているわけであります。金額の問題につきましては、決して、これが十分だというほどの自信もございませんが、漸次、こういう方向につきましても、充実には努力をしてみたいと存じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/32
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033・豊瀬禎一
○豊瀬禎一君 大体、考え方はわかりましたが、功労者の決定は、文部大臣の権限として法に定められておるところですが、選考審査会が選考した者のうちから私はこの法律をすなおに解釈するところでは、選考した人というのは、文部大臣が決定した数よりも多いだろうと思うのですね。ここで二つの問題があると思う。一つは、審査会が選考したいわゆる候補者、これの選び方に一つの問題があろうと思うのです。
そこで、具体的な選考の仕方について追及するのではないのですが、従前の文化功労者の指定の傾向を見ますと、やはり選考審査会のメンバー、無形文化財保持者の工芸、芸能の人々に対する十分な理解と調査が、若干欠けて、従前の指定されたものに、ある程度基準を置いて、そこに重点を置いた候補者の選考が行なわれておるのではなかろうか。そのために、特殊技術を持っておる人たちは、功労者としての恩恵に浴していないのではなかろうか、こういう気がするわけです。審査会のメンバーの選定の問題も、一つの重要な問題であります。その中から大臣が決定をされる際の態度というものも、十分考えていただかなければならない問題があると思いますが、私としては、やはり重要文化財保持者と功労者は、なるほど現行法では、趣旨の違った形で組織をされております。
しかし、現行法を抜きにして、もう少し広い視野から、文化に対する功労というものを考えてみますと、こういう特殊な技術を保持しておるということは、当然文化に対する功労顕著と一般的に判断すべきだと思います。選考審査会のメンバーの構成によって、あるいは大臣の決定が過去の功労者の大体の類型ということに重点を置いて、文化功労者の決定が行なわれないように配慮願いたい。逆に言いますと、文化財保持者のごときは、積極的に文化功労者として指定されていくような配慮を願いたい、こういう気持ちを持っておるわけですが、いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/33
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034・灘尾弘吉
○国務大臣(灘尾弘吉君) お気持ちは、よく私もわかりました。ただ、この実際の取り扱いの上におきまして、重要無形文化財保持者を軽んずる、そういうような心持ちは、もちろんないわけであります。それぞれの権威のある方々によりまして功労者の選考が行なわれるわけでございます。従来も、すでに重要無形文化財保持者の方々が、文化功労者として指定されておる例もあるわけで、これによって、御了承いただきたいと思うのであります。
ただ、その選考の範囲が広いか狭いか、こういうふうな問題につきましては、私ども十分、今後気をつけてまいらなければなりませんし、また、一方に片寄っておるとか、偏するとかというようなことについては、広く御検討願わなければならない問題だと思います。なお、この問題の取扱いにつきましては、実は法律上から申しましても、選考せられた者のうちから、文部大臣が顕彰をする、こういうようなことになっておりますから、現実問題といたしましては、私はあくまでも権威のある方々の選考というものは尊重しなければならない。したがって、御選考を願いました人については、文部大臣は、文句を言わずに顕彰をする、こういうようなことがよろしいのじゃないか、かように考えております。
同時に、まあ御承知のように、実は予算的な制約もないわけではありません。自然、現実に毎年々々選ばれてまいります人の数は、おのずから制約され、ことしいけなければ、また来年の選考委員会では問題にして、いろいろ御選考願った結果、ことしはいけなかったが、来年は入るという方々もあり得ることであります。そういうふうなことが実際の状況でございます。文化功労者、年金功労者というものの価値というものは、大いに高いものでなければならないと思いますが、同時に、現在の予算は、これでいいのか、いまの十人程度でいいのかということについては、また御意見があろうと思います。そのような点については、私ども十分ひとつ考究していきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/34
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035・加瀬完
○加瀬完君 この文化功労者の選考でございますが、先ほどから御説明を承っておりましても、社会的といいますか、全国的といいますか、著名な者でなければ、とにかく選考の候補には上がらないというひとつのしきたりがあると思うわけでございますが、しかし文化功労者というものは、何も著名人ばかりではなくて、たとえば一生を僻地の教育にささげた教師でありますとか、あるいは一生を何か特殊な社会公共のためにささげた宗教家でありますとか、こういったような埋もれております、しかし、社会国家としては、なくてはならないような功労者という者も基準の線にのぼせてこそ、私は文化功労者の選考というものが、国家的な見地から公平だと言われると思うのですけれども、そういう点は、何か学界でございますとか、あるいは芸能界でございますとか、あるいは芸術の社会でございますとか、そういう中で候補にのぼる者が、ある程度順番がきまっておるような形で持ち出されて選考会できまるというように、どうも受け取れるのでございますが、埋もれておる者も、あるいは全国的に著名でない者であっても、文化功労の価値があるという者は、むしろ掘り出して顕彰をするということも若干加わっているように思いますけれども、候補の選考の前提というものが片寄っておると思いますが、これはいかがでしょう。局長でけっこうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/35
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036・蒲生芳郎
○政府委員(蒲生芳郎君) 繰り返しお答えいたしますけれども、現在の選考審査会におきましては、たとえば人文科学、自然科学、芸術その他の一般文化、各分野に分かれておりますが、それぞれの部門をさらにこまかく分けまして、そうして、その一分野に偏しないように配慮をして、その分野に精通いたしました権威者と申しますか——方を選考して、公平な立場で選考を行なっていただいておりますが、まあ、いま先生のおっしゃいますように、あまり一般には知られなくても、地道な研究をなさって、あるいは業績をあげられまして、功労者として顕彰するということは、もちろんこれも必要なことであろうと思います。
名前をあげて、はなはだ恐縮でございますけれども、これは私の私見でございますが、たとえば文化勲章を受章され、同時に文化功労者になられました岡潔先生、これはまあ、たいへん失礼な言い分でございますけれども、私なども、岡潔先生が文化勲章をいただかれるまでは全く知らなかったのでございますが、そういう、おそらく一般の方も岡先生の業績なり御存在をあまり熟知していなかっただろうと思いますが、これは、まれな例でございますけれども、そういう例もございますし、先生のおっしゃるような、やはり趣旨を体して選考していただければ幸いだとかように思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/36
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037・加瀬完
○加瀬完君 たとえば、いまで言えば芸術大学、旧音楽学校ならば音楽学校を、首席とか二番とかいう優秀な成績でもって出られて——むしろ在校時代、あるいは素質そのものから言えば劣っている者が、一流の音楽家として世に出ておるにもかかわらず、——一つの県ならば県に参りまして、三十年なり四十年なりというものを音楽界としては、全く何と言いますか、程度の低いところの音楽教育に一生をささげた、こういう人と、一流の音楽界にデビューした人と、音楽というものに対して、どっちが功労が大きいかということは、なかなかこれは、きめかねると思うのですよ。
そういう自分の才能をささげて地域の音楽の開発などにつとめたといったような者は、どんなに功労が地域では認められておっても、文化功労者とか、あるいは文化勲章というような候補にはあがってまいりませんよね。しかし、そういう者を、国の一つの行事でざいますから、掘り出すような形にしていってこそ、ほんとうの意味の文化の貢献者というのが顕彰されるということになるのではないかと私は日ごろ思っているわけでございます。岡先生のお話も出ましたけれども、もっといま、岡先生のようにわりあいに社会的には、いわゆる著名でない、しかしながら真の意味の顕彰をすべき方々といったようなものを選考の線にある程度浮かび上がらせるというくふうといいますか、お骨折りをしていただかなければ、大体、もう順番がきまっておるような顕彰のしかたということになりましては、やはり問題が残るのではないかと思うわけで、たとえば学界にいたしましても、必ずしも学界において一流な者も顕彰されるとばかりとは限りません。芸術の社会におきましても、わりあいに、ことばが悪いんですけれども、野党的な立場で、在野芸術家として一生を過ごすというような方々は、顕彰されるにしても非常におくれてくるというように、どうも背景というものに、強力な推薦の団体がない者が、おくれがちになるということはいなめないと思うのです。
そういう点、ひとつことしの文化勲章、あるいはことしの文化功労者は、偉い人を掘り出したというような顕彰の仕方をお願いを申し上げたい。これは希望でございますから、御所見をいただければ、大臣にお答えいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/37
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038・灘尾弘吉
○国務大臣(灘尾弘吉君) お話の御趣旨は、十分了解ができるものと思います。ただ、まあ現実の問題としますと、人がやるのでありますから、きめられた人について、やはり見る人によって、いろいろの意見もあろうかと思うので、私どもとしましては、この顕彰の方法、表彰の方法等は、まあいろいろまだほかにもあるわけでございます。その中でも、文化勲章あるいは文化功労者ということになりますれば、最も最高級と申しますか、そういう人を選ばなければならぬと思います。自然、人数も制限せられる、まだ、どなたからごらんになりましても、問題のない人を選ぶということになってこようかと思います。ただ、その取り扱いが、あまりにも片寄っておる、あまりにもマンネリズムであるというような非難は、選考に当たる方々についても、十分御考慮願いたいことでございます。あまり世間的に有名でなくても、ほんとうに大きな業績をあげておられる方を顕彰することこそ、目的に合うのではないかと思います。御趣旨は、十分伺わしていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/38
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039・中野文門
○委員長(中野文門君) 速記とめて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/39
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040・中野文門
○委員長(中野文門君) 速記起こして。
他に御発言もなければ、質疑は尽きたものと認めて御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/40
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041・中野文門
○委員長(中野文門君) 御異議ないと認めます。
それではこれより討論に入ります。御意見のおありの方は、賛否を明らかにしてお述べを願います。——別に御意見もないようでございますが、討論は終局したものと認めて御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/41
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042・中野文門
○委員長(中野文門君) 御異議がないと認めます。
それではこれより採決に入ります。文化功労者年金法の一部を改正する法律案を問題に供します。本案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/42
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043・中野文門
○委員長(中野文門君) 全会一致と認めます。よって本案は、全会一致をもって、原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
なお、議長に提出すべき報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/43
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044・中野文門
○委員長(中野文門君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
ちょっと速記とめて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/44
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045・中野文門
○委員長(中野文門君) 速記起こして。
委員会は、午後一時半まで休憩いたします。
午後零時三十分休憩
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午後一時五十六分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/45
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046・中野文門
○委員長(中野文門君) ただいまから、午前中に引き続きまして、委員会を開会いたします。
国立学校設置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
都合により、これをもって散会いたします。
午後一時五十七分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104615077X01619640319/46
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