1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十年三月十八日(木曜日)
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議事日程 第十七号
昭和四十年三月十八日
午後二時開議
第一 高圧ガス取締法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
第二 治山治水緊急措置法の一部を改正する法
律案(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
日程第一 高圧ガス取締法の一部を改正する法
律案(内閣提出)
日程第二 治山治水緊急措置法の一部を改正す
る法律案(内閣提出)
精神衛生法の一部を改正する法律案(内閣提
出)
及び母子保健法案(内閣提出)の趣旨説明及
び質疑
午後二時七分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/0
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001・船田中
○議長(船田中君) これより会議を開きます。
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日程第一 高圧ガス取締法の一部を改正する
法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/1
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002・船田中
○議長(船田中君) 日程第一、高圧ガス取締法の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/2
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003・船田中
○議長(船田中君) 委員長の報告を求めます。商工委員長内田常雄君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔内田常雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/3
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004・内田常雄
○内田常雄君 ただいま議題となりました高圧ガス取締法の一部を改正する法律案につきまして、商工委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
従来、高圧ガスの取り締まりは、ガスの加圧、充てん等の製造行為に対してきびしく、その反面、減圧を伴う消費行為に対しましてはゆるやかでありましたが、最近、高圧ガスを大量に消費する工場が急増し、大規模な事故の発生を見ておりますので、これらの消費についても規制を強化する必要を生じ、この理由に基づいて本改正案が提出されたのでございます。
改正内容を要約いたしますと、
第一点は、特定の高圧ガスの大量消費者に対する規制の強化でありまして、そのために消費施設及び消費方法の届け出制をとるとともに、これらについては技術上の基準を定め、これを順守せしめること、取り扱い主任者を選任せしめること、定期自主検査を義務づけること等を新たに規定するものであります。
第二点は、大型容器の付属品について、従来のバルブのほか、特定の付属品にも規格を定めてこれを守らせることであります。
本改正案は、三月二日に当委員会に付託され、現地視察、参考人の意見聴取等をも行なって審査を重ね、三月十七日に至り、採決を行ないましたところ、全会一致をもって可決すべきものと決した次第であります。
なお、本案に対しましては、特に液化石油ガスの保安の万全を期するため、タンクの地下式統一、容器部品の改善と自動安全装置の開発、充てん所施設の配置と保安距離の検討、保安教育の徹底、高圧ガス保安協会の活動の活発化及び液化石油ガスの需給の安定についても政府において十分配慮すべき旨の附帯決議を付しました。
右、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/4
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005・船田中
○議長(船田中君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/5
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006・船田中
○議長(船田中君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日程第二 治山治水緊急措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/6
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007・船田中
○議長(船田中君) 日程第二、治山治水緊急措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/7
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008・船田中
○議長(船田中君) 委員長の報告を求めます。建設委員長森山欽司君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔森山欽司君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/8
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009・森山欽司
○森山欽司君 ただいま議題となりました治山治水緊急措置法の一部を改正する法律案につきまして、建設委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
現行の治山治水緊急措置法は、治山治水事業を緊急かつ計画的に実施するため、治山事業十カ年計画及び治水事業十カ年計画の決定に関する事項等を定めるために、昭和三十五年に制定されたものでありますが、近時におけるわが国経済の発展に対処するため、その一部の改正の要に迫られた次第であります。
その要点は次のとおりであります。
第一に、農林大臣は新たに昭和四十年度を初年度とする治山事業五カ年計画の案を、建設大臣は新たに昭和四十年度を初年度とする治水事業五カ年計画の案を、それぞれ作成し、閣議の決定を求めなければならないものとしたことであります。
第二に、以上に伴い、国有林野事業特別会計法及び治水特別会計法の所要の改正を行なうものとしたことであります。
本法案は、去る二月十九日本委員会に付託され、二月二十四日提案理由の説明を聴取し、自来、農林水産委員会と連合審査会を開く等、慎重に審査を進めてまいったのでありますが、審査の詳細は会議録に譲ることといたします。
かくて、三月十七日、質疑を終了いたしましたが、日本社会党を代表して岡本隆一君より修正案が提出せられました。修正案の内容は、水害常襲地帯に関するものであります。修正案は採決の結果、少数をもって否決せられました。次いで、原案について採決いたしましたところ、多数をもって可決、よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決した次第であります。
なお、本法案には、自由民主党、日本社会党及び民主社会党を代表して正示啓次郎君より、附帯決議を付すべしとの動議が提出せられ、全会一致をもって可決せられました。
附帯決議の内容は、治山治水事業新五カ年計画の改定及び水害常襲地帯の治水対策に関するものでありますが、その詳細は会議録に譲ることといたします。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/9
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010・船田中
○議長(船田中君) 討論の通告があります。これを許します。岡本隆一君。
〔岡本隆一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/10
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011・岡本隆一
○岡本隆一君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました治山治水緊急措置法の一部を改正する法律案に対し、反対の態度を表明せんとするものであります。(拍手)
反対の第一の理由は、本法を裏づけるところの治山治水五カ年計画があまりにもお粗末しごくであるということであります。
由来、本法は、昭和二十八年の全国的な大水害以来、昭和三十四年の伊勢湾台風に至る相次ぐ災害の頻発にかんがみ、昭和三十五年、台風による災害を未然に防止せんがために制定されたものであります。しかるに、本法に基づく治山並びに治水前期五カ年計画は、いわゆる所得倍増計画による物価の値上がりとその後の相次ぐ災害の発生のために事業費を大きく食われ、当初の計画はいずれも十分に消化されていないのであります。
治山事業前期五カ年計画を見ましても、事業費は当初計画を上回りながらも、事業量は当初の計画のわずかに五八%を消化しておるにすぎません。治水事業前期五カ年計画にいたしましても、同じく事業費は約二割当初計画を上回っておりながら、事業量はやや下回っているのであります。しかも、この事業内容には伊勢湾台風や第二室戸台風による計画の繰り上げ実施なども含まれているのでありますから、当初計画はほとんど台風に食われてしまったといっても過言ではないのであります。
元来、治山事業も、治水事業も、ともに予防行政であります。しかるに、日本の治山治水事業は、災害のあとを迫って歩いているというのが現実の姿であります。前期五カ年計画は予防行政の実を全くあげておりません。政府は、かかる認識の上に立って、真の治山治水事業を日本に確立するために姿勢を正すべきであります。
一昨年、建設省は治水水系計画なるものを発表いたしました。十五カ年間に八兆三千億の投資を行なって、昭和五十五年にはアメリカ並みの治水効果をあげ、昭和六十年には水害なき日本をつくりたいというのであります。水害に悩む国民は目をみはってこれに大きな期待を寄せました。治水水系計画は、水害に悩む地域の住民にとっては、生きる希望をつなぐただ一筋の光となっているのであります。しかるに、今般発表されました新五カ年計画は、災害関連費等を含めて一兆一千億、本来の治水事業費はわずかに八千五百億であります。治水水系計画の一〇%にすぎません。十五カ年の治水水系計画を三期に分け、その第一期の五カ年に相当する新五カ年計画にわずかに一割より事業が消化されないということでは、この国民の期待は容易に実現しそうではございません。国民の夢はまさに砕かれたのであります。災害に苦しむ住民にとってはまことに非情の政治というのほかありません。
政府は、後期五カ年計画を新五カ年計画と改称するにあたりまして、これは新河川法の実施に適応し、災害の発生及び流域社会の経済の発展、水需要の増大など、新しい事態に即応するものであると説明いたしております。しかし、新五カ年計画の実体は、後期五カ年計画の手直しにすぎない程度のお粗末しごくのものであります。そうしてそのことは、昨日の建設委員会におきまして本案採決の際に議決されました与野党共同提案の附帯決議にも明らかに指摘されているのであります。
昭和三十五年策定されました本法に基づく治水事業後期五カ年計画は四千八百五十億であります。これを昭和四十年単価に物価補正をいたしますと、七千七十億となりまして、新五カ年計画は当初の計画に比しましてわずかに二〇%増しよりすぎません。いわば新五カ年計画は、後期五カ年計画に物価補正を行ない、そこへ二〇%弱の新規事業を盛り込んだ手直しにすぎないのであります。新事態に対処するものと喧伝するにいたしましては、あまりにもお粗末でありまして、羊頭狗肉、看板に偽りありとはまさにこのことであります。(拍手)
われわれの求めるものは、治水計画ではなくて、治水効果であります。いかにもそれが画期的なものであるかのごとく新五カ年計画と呼称することによる宣伝効果ではなく、どうして国民を水害から守るかという心のこもったあたたかい政治なのであります。治水水系計画に基づいた治水効果をあげるにはあまりにも貧弱な新五カ年計画を、私は断じて承認することはできません。これ私が本案に反対する第一の理由であります。
次に、新五カ年計画の内容をしさいに検討いたしますと、日本の治水事業のあり方に大きな誤りのあることを指摘せざるを得ないのであります。水を治めるには山を治めよとは、古来治水の鉄則とされております。さればこそ、治水水系計画でも八兆三千億の治水投資のうち、その三七%を砂防に充てているのであります。河川事業に五六%、ダムに七%、砂防に三七%というのが治水総投資の配分であります。しかるに、新五カ年計画にありましては、河川に六〇%、ダムに一九%、砂防に二一%の配分を行ないまして、総投資額では七と三七との配分にあるダムと砂防とが、ほぼ並行しているのであります。著しい砂防の軽視、ダムの偏重であります。近年わが国治水事業に行なわれつつあるこの偏向は、著しい弊害を招きつつあります。
その第一は、ダムの埋没であります。せっかくつくったダムも、上流における砂防がないために、どんどん埋まっていくのであります。私はかつて恵那川で完全に土砂に埋もった落合ダムを見て驚かされたのでありますが、同様な傾向は全国至るところのダムに見られ、すでに半分近く埋もったダムが少なくないということであります。せっかく巨費を投じたダムが、治水、利水の機能を失いつつあるのであります。砂防を伴わぬダム工事は、半ば無効投資となるということであります。
第二には、河床の上昇であります。上流からどんどんと押し流されてくる土砂による河床の上昇は、河川工事をますます困難なものにしていきます。堤防は築いても築いても高くなってまいりまして、全国至るところに天井川がつくられつつあります。そしてこれはいつかは大きな破壊力を持つ大洪水となって、住民を押し流すのであります。
砂防の軽視は、河川工事を無効にし、ダムを無力化しつつあります。さいの川原に石を積むがごときが、わが国のいまの治水事業であります。(拍手)洪水として流れてくる水の四割は土砂であるといわれております。洪水は空からのみ降るものではなく、山地の崩壊により地上でもつくられるものであるということを忘れてはなりません。砂防を無視して治水は不可能であるにかかわらず、今日の治水行政はそれを忘れているのであります。そのことは、新五カ年計画における各事業別の進捗率を治水水系計画との比において見るときに、きわめて明らかになるのであります。すなわち、新五カ年計画における進捗率は、河川は一一%、ダムは二八%、砂防は五・五%ということになっておりまして、ダムのみ先行して、砂防事業は全く置き忘れられたかの感があるのであります。こうしてつくられた上流の砂防を忘れたダムは、やがて土砂に埋まってその機能を失い、ダムの残骸となるのであります。治水問題にうとい流域住民は、ややもすれば築堤やダム工事に大きな期待を寄せております。しかし、それには必ず上流における砂防が伴わなくてはなりません。砂防を忘れた治水事業は、いわゆる安物買いの銭失いということになるのであります。しかし、それが新五カ年計画の実体であります。きわめて非科学的であって、全くその場のがれの治水行政というのほかはありません。
十五年間で水害をなくしようという治水水系計画は、わが国治水行政のビジョンであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/11
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012・船田中
○議長(船田中君) 岡本君、申し合わせの時間が過ぎましたから、なるべく簡単に願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/12
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013・岡本隆一
○岡本隆一君(続) そのビジョンに照らしてあまりにも貧弱な新五カ年計画が、さらにこのように非科学的で、治水の本義をわきまえぬものとあっては、私はそれを承認することはできません。これ私が本案に反対する第二の理由であります。(拍手)
わが国の治水行政が災害待ち行政といわれるゆえんのものは、以上のごとき政府の非科学的にして、当面を糊塗すればよしとするその場のがれの態度に基づくものであります。災害日本と呼ばわるわが国の政府は、もっと抜本的な治水対策を早急に樹立すべきであります。いまこそ国会は、き然としてこの現実を認め、政府の姿勢を正さしめるため、本案を否決し、あらためて治水の本義に立って、科学的にして、万全の治水計画を樹立せしめるべきであります。
諸君の御賛同を期待して、反対討論を終わります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/13
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014・船田中
○議長(船田中君) これにて討論は終局いたしました。
採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/14
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015・船田中
○議長(船田中君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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精神衛生法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び母子保健法案(内閣提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/15
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016・船田中
○議長(船田中君) 議院運営委員会の決定により、内閣提出、精神衛生法の一部を改正する法律案、及び母子保健法案の趣旨の説明を求めます。厚生大臣神田博君。
〔国務大臣神田博君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/16
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017・神田博
○国務大臣(神田博君) 精神衛生法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
精神衛生施策は、近年とみにその重要性を加えてまいったのでありますが、最近における向精神薬の開発等精神医学の格段の発達とも相まって、必ずしも現行精神衛生法は新しい事態に即応し得なくなってまいったのであります。したがいまして、政府といたしましても、精神障害者に関する発生予防から社会復帰までの一貫した施策をその内容とする法改正をかねがね準備中のところ、その機運が熟してまいったため、今回精神衛生法の一部改正を行なおうとするものであります。
改正の第一点は、都道府県が精神衛生センターを設置することができることとした点であります。従前、都道府県等は、精神衛生に関する相談指導等を行なうための施設として、主として保健所に精神衛生相談所を併設していたのでありますが、この程度のものでは、とうてい現下の精神衛生施策の進展に即応するものとはいえませんので、今回これを廃止し、別に新たに都道府県における精神衛生に関する総合的技術センターたる精神衛生センターを設けて、知識の普及、調査研究を行なうとともに、保健所が行なう精神障害者に関する訪問指導について技術援助を行なおうとするものであります。
改正の第二点は、警察官、検察官等の精神障害者に関する申請通報制度を整備することにより、精神障害者の実態を把握し、都道府県知事が行なう入院措置に遺漏なからしめるとともに、その医療保護に万全を期することとした点であります。
改正の第三点は、新たに緊急の場合における措置入院制度を設けた点であります。精神障害者は、その疾病の特質上、間々自傷他害の著しい症状を呈することがあり、社会公安上及び本人の医療保護のためゆゆしい問題を生じますので、都道府県知事は、精神衛生鑑定医の診察を経た上で、四十八時間を限り、これを緊急入院させ得ることとしたのであります。
改正の第四点は、向精神薬の著しい開発等精神医学の発達により、精神障害の程度のいかんによっては必ずしも入院治療を要せず、かえって通院による医療を施すことがきわめて効果的となった事情にかんがみ、精神障害者につき、新たにその通院に要する医療費の二分の一を公費負担することとした点であります。
改正の第五点は、在宅精神障害者に関する訪問指導体制の充実をはかった点であります。そもそも在宅精神障害者の把握とその指導体制の整備は、精神衛生施策の展開をはかる上できわめて緊要なことでありまして、第四点の通院医療費の公費負担制度の新設と表裏一体の関係にあり、今回の法改正の主要点をなすものであります。この見地から、新たに保健所の業務として、地域における精神障害者の訪問指導等を加え、また、保健所にもっぱら精神衛生に関する相談、指導等に当たる職員を配属し、その実をあげることとしたのであります。
改正の第六点は、最近における施設の整備状況等にかんがみ、従来認められていた精神障害者の私宅監置制度たる保護拘束制度を廃止し、それらの患者はすべて精神病院に収容することとして、その医療保護に遺憾なきを期することとしたのであります。
以上をもって、この法律案の趣旨の説明を終わります。
次に、母子保健法案について、その趣旨を御説明申し上げます。
政府は、かねてより児童福祉行政の一環として妊産婦、乳幼児の保健指導等の母子保健対策を講ずることにより、その健康の保持増進につとめてまいったところでありますが、先進諸国に比べて、わが国の妊産婦死亡率はいまだに高率にとどまり、また、戦後著しく改善向上を見た乳幼児の死亡率、体位、栄養状態等についても、その地域格差が依然として縮小されない等、なお努力を要する課題が残されております。
このような状況にかんがみ、今後、母子保健の向上に関する対策を強力に推進してまいりますために、健全な児童の出生及び育成の基盤ともなるべき母性の保護のための措置を講ずるとともに、乳幼児が健全な成長を遂げる上で欠くことのできない保健に関する対策の充実強化をはかる必要があると考え、この法律案を提出した次第であります。
次に、母子保健法案の内容について、その概略を御説明申し上げます。
最初に、この法律案におきましては、母子保健に関する原理として、健全な児童の出生及び育成の基盤ともなるべき母性の保護及び尊重並びに心身ともに健全な人として成長してゆくための条件ともなるべき乳幼児の健康の保持増進がはかられるべきことを明らかにするとともに、国及び地方公共団体は、母性及び乳幼児の保護者とともに、母性及び乳幼児の健康の保持増進につとめるべきことを明確にいたしております。
次に、母子保健の向上に関する措置の第一として、母子保健に関する社会一般の知識の啓発及び従来児童福祉法において都道府県知事または保健所長の事務とされておりました妊産婦、乳幼児の保健指導、健康診査、新生児の訪問指導等につきましては、今回これを市町村長が行なうべき事務とすることにより、母子保健事業が住民により密着した行政として一そうその効果が期待できるように配意するとともに、いわゆる未熟児に対する訪問指導及び養育医療については、その事業の特殊性にかんがみ、都道府県知事または保健所長において行なうようにいたしております。
第二に、妊産婦及び乳幼児に対する栄養の摂取に関し、市町村が必要な援助につとめることを規定いたしております。
第三に、妊娠または出産に支障を及ぼすおそれのある疾病にかかる医療についての妊産婦に対する援助でありますが、これは妊娠中毒症対策を中心とする母体または胎児の保護のために必要な援助につき都道府県が努力すべきことを明らかにしたものであります。
最後に、母子保健施設に関する規定でありますが、これは、従来から、市町村における母子保健事業の拠点として重要な役割りを果たしております母子健康センターについて、市町村がその設置に努力すべきことといたしております。
以上が、母子保健法案の趣旨でございます。(拍手)
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精神衛生法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び母子保健法案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/17
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018・船田中
○議長(船田中君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。河野正君。
〔河野正君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/18
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019・河野正
○河野正君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま趣旨説明のありました精神衛生法の一部改正に対して、総理はじめ厚生大臣、その他関係各大臣に対し、若干の質疑を行ない、あわせて国民の疑問や不安に対し、率直に解明せられんことを要望するものであります。(拍手)
今日、佐藤内閣の最大の政治課題は、所得倍増計画の後半期におけるひずみ是正の施策をいかに具体化するかということにあったと思うのであります。しかるに、さきに編成されました四十年度予算を見ても明らかなように、その特徴は、第一に、ひずみ拡大予算であり、第二に、社会保障を独立採算のワク内に押し込もうとする事業化予算であったのであります。特に、急テンポの経済成長下における国民生活の立ちおくれを防ぐ方策は、まず憲法第二十五条の、いわゆる健康にして、文化的な生活を確立することでなければならぬのであります。しかるに、佐藤内閣は、いたずらに社会開発、人間尊重の新語をまき散らす、ひずみ拡大内閣に終始いたしたのであります。
すなわち、具体的なその一つのあらわれは、国民の健康を守る国民医療はだんだんと軽視され、いまや健康保険法の改悪等、人命尊重の基本である医療保障は、まさに崩壊の危機に立たされておるのであります。したがって、国民は、佐藤総理の社会開発、人間尊重の政策に、だんだん疑問を抱くに至っていると思うのであります。国民医療や医療保障の後退という現実に、総理は一体矛盾を感じられないのかどうか。
さらに、いま提案せられました精神障害者対策につきましては、すでに御承知のごとく、一昨年のライシャワー刺傷事件以来、近くは、名古屋の猟銃乱射、東海道線の列車爆破未遂事件等、いずれも精神病患者の犯罪であることが明らかとなりまして、いわゆる野放し精神病患者対策は、が然重要視されるに至ったのであります。かりに、昭和三十八年における厚生省の調査を見ても明らかなように、広い意味での精神障害者の数は、実に百二十四万人の多きに達しているのであります。しかし、それら患者に対する施設は、全国に約九百カ所、十三万六千ベッドで、定員をこえて収容しながら、野放し精神障害者は、なお八十万人をこえているのであります。政府の無策にいまさら驚き入りますとともに、その抜本的な対策は焦眉の急となっているのであります。
ここに、私は、政府のその無定見ぶりを国民にかわって強く責めますると同時に、厚生大臣に、その抜本的な対策についての御見解を伺いたいと思うのであります。
また、その対策の万全を期するためには、困難な危険性の判断や、人権問題等、精神障害者の特殊性から、各界の衆知を集め、かつ慎重を期することがきわめて必要であると思うのであります。その意味で、各界の英知を集めた精神衛生審議会の意見はきわめて貴重なものであります。ところが、本改正案におきましては、その精神衛生審議会の貴重な意見がことごとく無視され、また、はなはだしきに至りましては、総理の諮問機関である社会保障制度審議会の意見のごときは全く一顧だに与えられておらぬのであります。この事実は、政府の誠意が疑われるのみならず、明らかに法違反の行為だと私どもは断ぜざるを得ないのであります。(拍手)さきには、医療費問題をめぐり、中央医療協議会の答申を尊重しなかったために、国民医療の混乱を招いたことは、御承知のとおりであります。このような諮問機関、審議会の貴重な意見や答申に対し、政府、特に総理がどのような責任を感じておられるのか、この際特にお尋ねを申し上げておきたいと思うのであります。
さらに具体的な点について論じてまいりたいと思います。
すなわち、われわれの承知する範囲においても、さきにも申し述べましたように、精神障害者の収容施設の不足は実に目に余るものがあります。たとえば、三重県では一万九千人の推計患者のうち八千五百人が要入院患者といっておりますのに、収容施設のほうは二十病院でベッドはわずか三千二百九十ベッドにすぎないのであります。また、愛知県では、要入院患者の推計が一万六千六百人に対しまして、ベッド数は実にその四割という寒々しい実情であります。したがって、その解決には大幅な財政措置がきわめて緊要であると思うのであります。
いま一つは、法第二十九条による都道府県知事の入院措置による経費が義務的なものであることは、法第三十条によって明らかであります。しかるに、政府は法を全く無視し、具体的にワクを示し、実質的に補助金の圧縮を行なうという暴挙をあえて行なっているのであります。したがって、そのために各都道府県におきましては患者入院費の支払いに事欠いている現状であります。たとえば、群馬県のごときは新規の強制収容を中止し、また、すでに収容中の患者三百四十人まで無理に退院させるという非常措置に出ておるのであります。このように、精神鑑定医が重症患者であると鑑定いたしましても入院させることができませんし、また、危険な患者が無理やり退院させられるなど、それが予算の都合というごときは、われわれの全く許すことのできない重大問題であります。(拍手)人命軽視もはなはだしいといわなければならぬのであります。法第三十条は、その法文の上からも明らかに義務的なものと考えるのでありますが、この点、大蔵大臣の率直な御意見を承りたいと思うのであります。
財政に次いで第二の問題点は、いわゆる患者の人権問題であります。特に昨年は、患者の通報制度の改革案が発表されまするや、たちまち重大な人権問題として学界その他世論の激しい反撃をこうむったのであります。このことはいまだ耳新しい問題であります。しかるに、今回の改正案を見てまいりましても、警察官からの通報に対しその職務執行の範囲が拡大されているのであります。精神障害者の犯罪防止は、治安の上からももちろん重要であります。しかし、さればといって、患者の人権もまたきわめて重要であります。今回の警察官の職務執行権の拡大は、患者の人権を侵すようなことにならないのかどうか、人権擁護の立場から、この点は国家公安委員長に対しまして、お尋ねを申し上げておきたいと思うのであります。
また、犯罪防止と刑法との関係でありますが、戦前の刑法では、拘束の点でややもいたしますると行き過ぎのきらいがあったと思うのであります。さきに法務大臣も新聞で談話を発表されておったようでございますが、今日精神障害者の犯罪防止に対していかなる御見解を持っておられますか。この点はひとつ法務大臣に率直な意見を承っておきたいと思います。
いま一点、犯罪防止の上で重大な点は、いわゆる精神障害者と正常な人間との間のボーダーライン層の問題であります。特にこのボーダーライン層の劣等感、孤独感といった異常心理の状態が、案外多くの問題をかかえていると思うのであります。東京工大の宮城教授のごときは、日本には異常心理学の伝統がない、かように喝破せられておるのであります。したがって、今日まで一部で盲点といわれてまいりましたこの分野の検討は、治安の上からも、学問の上からも、きわめて重要な点であろうと考えるのであります。この異常心理の問題につきましては、厚生大臣のほうからひとつ御見解を承っておきたいと思うのでございます。
最後に承っておきたいと思います点は、適正医療についてであります。今回の改正案によりますと、精神障害者の適正な医療の普及のため、通院医療にも六カ月に限り国がその二分の一の負担を行なうというものであります。しかし、現在でも仮退院の制度がございますし、しかも、それらに対しましてはすでに全額負担が実施せられておるのであります。したがって、今度のいわゆる適正医療こそは全く見せかけの適正医療であって、逆行の制度なりとわれわれはいわなければならないのであります。(拍手)特に重視しなければならぬ点は、今回あらためて都道府県の知事に対し、入院措置の解除の権限が付与せられておる点であります。すなわち、これらの改正や新しい権限は、直ちに経費削減と結びつく可能性が存するがゆえに、私どもはこの問題を非常に重要視するのであります。すなわち、この適正医療は、患者や家族、保護者にきわめて大きな影響を及ぼす重大問題というべきであります。この点は厚生大臣の率直な御見解を承っておきたいと思います。
以上、数点の問題を取り上げ、お答えを願うものでありますが、これを一言にして要約いたしますと、本改正案は、野放し精神病対策という美名に隠れ、あるいは精神病患者の犯罪防止という社会的要求に便乗して行なった、精神病安上がり政策なりと断ぜざるを得ないのであります。(拍手)したがって、私は国民にかわり、それぞれ関係各大臣から誠意あるお答えをいただくことを切に要望いたしまして、私の数点にわたります質問を終わらんとするものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/19
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020・船田中
○議長(船田中君) 内閣総理大臣の答弁は適当な機会に願うことといたします。
〔国務大臣神田博君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/20
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021・神田博
○国務大臣(神田博君) 河野議員の第一点は、精神衛生に関する抜本的対策いかんというような趣旨にお聞きいたしました。精神衛生対策は、近来とみにその重要性を加えてまいっております。最近における向精神薬の開発等精神医学の発達により、今後は、精神障害の早期発見、早期治療、社会復帰の促進等について重点的な施策を講じてまいりたい、かように考えております。
第二は、異常心理に対する行政的態度いかんというような意味に承りました。異常心理につきましては、医学と心理学の境界領域にありまして、それぞれ独自の研究が進められているので、学問上の成果につきましては、そのつど行政面に反映させていきたい。具体的には、異常性格者あるいは精神病質者といわれる人たちについて、自傷他害のおそれがあれば措置入院させ、そのおそれがないものであれば、一般的な精神衛生対策の一環として適切な指導をとってまいりたい、かように考えております。
なおまた、通院医療費の公費負担制度は、措置費の節減をはかることを考えているのではないかというような意味のように承りましたが、御承知のように、通院医療については、最近における向精神薬の飛躍的開発等精神医学の発達によりまして通院医療の比重が高まったため、精神障害の早期治療、社会復帰の促進をはかるため実施しようとするものであります。
措置解除を法律に規定したのは、人権保障の立場から、いわゆる措置症状がなくなった場合にはすみやかに措置解除すべきことを規定しただけでございまして、通院医療を行なって措置費の節減をはかる、こういう趣旨ではございません。
以上、お答え申し上げます。(拍手)
〔国務大臣田中角榮君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/21
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022・田中角榮
○国務大臣(田中角榮君) 精神衛生対策の予算が不足であるということでございます。しかし、政府は、精神障害者対策の強化ということに対しては、四十年度予算編成にあたりましても最重点施策としてこれを取り上げたわけでございます。
一挙に施設を整備できないということにつきましては、財政上の理由だけではなく、御承知のとおり、人的、物的な設備の問題もございますので、財政の許す限りにおいて努力をいたしておるわけでございます。四十年度の予算を見ていただけばおわかりになるとおり、三十九年度に対しまして二二・八%増しの百六十四億円を計上しておる次第でございます。
第二の問題は、精神衛生法第三十条による問題でございます。新聞に報道せられた群馬県の事件を指摘せられて、国が補助をいたさないために入院患者を強制的に限院させるような事例があるということでございますが、本件につきましては、御指摘のとおり、予算の査定にあたりましては、実情に合った見積もりを行なっておるわけでございますが、実施の過程においていろいろ問題が起こることは間々あることでございます。しかし、御指摘のように、精算補助でございますので、本件に関しましては、国の法律の規定に従いまして不足額を精算して補助をするというたてまえになっておりますし、国もそのように法律義務を果たしておりますので、過程において予算がある意味において不足をするということはございますが、一時地方財政で立てかえをする等によってまかない得るものでございまして、最終的には法律の規定に従って精算補助をすることは御指摘のとおりでございます。(拍手)
〔国務大臣高橋等君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/22
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023・高橋等
○国務大臣(高橋等君) 精神障害者により残忍な犯罪があとを断たないことは、まことに遺憾にたえないところであります。その犯罪を未然に防止するためにいろいろと苦心をいたしておりますが、このことは単に治安当局に限らず、各関係機関、国民各層の協力により、保安上危険な精神障害者の早期発見、隔離、医療等の一貫した総合的施策が必要であります。今回の精神衛生法の改正はこの趣旨に沿ったものと考えます。
法務省におきましても、精神障害者対策を刑事政策上の重点目標の一つとして取り上げ、検察庁において、専門家による精神障害者の早期発見と事件処理の適正を期しており、また、矯正保護機関においても、精神障害者の隔離と治療の徹底について積極的な施策を講じつつあります。
また、精神病者の強制隔離の場合に、人権を擁護いたしまするために、現在の法制審議会におきまして、犯罪性精神障害者に対しまする保安制度の法制化について検討を行なっておる次第でございます。(拍手)
〔国務大臣吉武恵市君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/23
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024・吉武恵市
○国務大臣(吉武恵市君) お答えいたします。
このたびの精神衛生法の改正によって、警察官の職務執行にあたって権限が拡大されたが、行き過ぎのようなことはないかという御趣旨の御質問でございます。
今回の改正の第一点は、自傷他害のおそれのある精神障害者を発見した場合に、直ちに保健所等に通報する義務を課したのが一つでございます。もう一つは、精神病院に入院中の自傷他害のおそれのある患者が無断で退去した所在不明の場合に、精神病院の長から探索を求められました際に、警察官がこれを発見しました際、管理者にこれを通報し、引き取りが行なわれるまで二十四時間これを保護するという趣旨のものでございまして、いずれもその必要に応じての改正でございます。したがいまして、本件の施行にあたりましては、専門医等の意見を十分聞きまして、指導に遺憾なきを期する所存でございます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/24
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025・船田中
○議長(船田中君) 伊藤よし子君。
〔伊藤よし子君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/25
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026・伊藤よし子
○伊藤よし子君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま御提案になりました母子保健法案について御質問をいたしたいと存じます。(拍手)
かねて、私ども社会党におきましては、母子保健の重要性にかんがみ、数年前に母子栄養法案を国会に提出し、また昨年の第四十六回国会には、母性の保健及び母子世帯の福祉に関する法律案を提出いたしております。残念ながら、これらの法案は今日まで審議されずに廃案になっておりますが、今回政府におかれましても、おくればせながら母子保健の重要性にお気がつかれ、今回単独法としてこの母子保健法を提出されましたことについては、その限りにおきまして私も一歩前進と思いますが、問題はその内容についてでございます。
この法案の目的は、ただいま御説明がございましたように、母性及び乳幼児の健康の保持、増進をはかるため、母子保健に関する原理を明らかにするとともに、母性並びに乳幼児に対する保健指導、健康診査、栄養補給、医療その他の措置を講じ、もって国民保健の向上に寄与することだとうたってございます。この目的はけっこうでございますが、さてそのために具体的にどのような施策をされるのかといいますと、率直に申しまして、取り立てて見るべきものはございません。また、法案全体を拝見しましても、まことにお粗末でございまして、この点は、総理の諮問機関でございます社会保障制度審議会の答申にも、本案は、母子の健康確保の方向にわずかに一歩を踏み出したにすぎないものであって、各部面に未熟、不備、不徹底な点が多く、特に優生保護法との関係その他医学的に検討すべきものがある云々とございますが、私もまさにそのとおりと思うのございます。(拍手)総理はこの答申をごらんになりましたでしょうか。また、ある社会保障専門の週刊誌によりますと、ないよりはあったほうがいい程度で、未熟児問題を取り上げているこの法案自体が未熟児の状態で誕生しなければならないことは、何とも皮肉なことだと批評をいたしておりますが、そう言われてもしかたないような内容であると思うのでございます。(拍手)
そこで、私は、まず総理大臣にお伺いしたいのでございますが、佐藤総理が、日ごろから人間尊重ということを政治的信条として強く打ち出しておられることは天下周知のところでございます。その人間の生命を生み出す基盤である母体、母性を尊重し、未来の社会をになう健全な子供を生み育てるため、国が率先して母と子の健康を守ることは、人間尊重の基本的な第一歩でございまして、最もこれは重要なことではないかと考えます。(拍手)ところが、今回お出しになりましたこの母子保健法案は、ただいまも申し上げましたように、まさに未熟そのものでございまして、佐藤総理の人間尊重というお考えにはほど遠いものと考えます。これでは、昨年出された母子福祉法、一昨年出された老人福祉法などと同様、一連の名前はりっぱであっても実の伴わない宣伝的な法案にすぎず、参議院選挙対策などと疑われても弁明の余地のないものではないかと考えますが、この点、佐藤総理はどのようにお考えになっておりますか、御所見が承りたいと存じます。(拍手)
次に、厚生大臣にお伺いしたいのでございますが、この法案はことしの一月に出された中央児童審議会の母子保健対策部会の中間報告をもとに作成されたと伺っておりますが、この中間報告の中で最も重要な部分として、分べん対策というものがあげられており、健全な母体は児童の健全育成の基盤であり、健康で文化的な家庭生活のかなめである、したがって、諸外国でも妊娠、分べんを全く個人のできごととしてとらえている国は少なく、国家が母性に対して特別の保護を与えているということを指摘し、わが国におきましても妊娠、分べんに対する社会的責任を明らかにすることが必要であるといっておりますが、私もまさに同じ考えを持つものでございまして、母性の保健を考える場合、分べんの給付、また出産、育児手当制度の整備をすることは根本的に重要な問題と考えますが、この問題について触れておられないのはどのような理由か、厚生大臣にお伺いしたいと存じます。
なお、現在、社会保険各法には、被保険者及び扶養者に対する分べん費、出産手当費、育児手当等の規定はございますけれども、その給付は非常にまちまちであります。これを実情に応じて増額すると同時に、格差をなくすることと、また一般婦人を対象といたしました国民健康保険法では助産費及び助産の給付が任意規定になっていますのを、必ず給付の対象にできるように国として助成をすることは当面緊急を要する問題と考えますが、この点、厚生大臣はいかにお考えでございますか、お伺いしたいと存じます。(拍手)
次に、最近は初回妊娠を人工中絶する若い女性の増加と、適正を欠く妊娠中絶等によって母体をそこなう婦人が多数に出ております。この点、結婚前の教育と同時に、強力な家族計画の指導が必要と考えますが、この点はどのような扱いをされているかお伺いしたいと存じます。
次に、最近は働く婦人の数がふえ、共かせぎの婦人も年々多くなっております。ここで妊産婦、特に就業中の妊産婦については産前産後おのおの六週間休養及び保障が、単に紙の上の規定でなく、完全にとれるように、またしばしば流産の原因ともなるつわりについてはつわり休暇がとれるような、必要なる施策を講ずることが大切と考えますが、これら働く婦人に対する対策をどのようにお考えになっているか、お伺いしたいと存じます。また、これと関連いたしまして、ILOの三号と百三号の母性保護に関する条約は、母子保健法制定のたてまえから申しましても、これと並行してこれらの条約の批准を促進すべきと考えますが、この点いかにお考えか、あわせてお伺いしたいと存じます。
次に、この母子保健法案の一つの大きな柱といたしまして、従来保健所を中心に行なってきた母子保健事業を市町村に移譲することによって、住民に密着し、地域の実情に応じた援助等ができるとしておられますが、はたしてそのようにまいりますかどうか、私は大きな疑問を持つものでございます。本来、国民の保健行政は、母子保健も含めて保健所を中心に行なうべきでありまして、現在の保健所が一般的な保健、環境衛生等のため手一ぱいで、その上医師等の衛生技術者の充足ができず、十分に行なえないとすれば、この法案の制定を機会に、新たに母子保健についての専門の医師の充足はもちろんのこと、保健婦、助産婦等も思い切った増員を行ない、まず保健所の充実強化をはかるべきではないかと考えます。そうしてその統括と指導のもとに地域の市町村の協力を得て母子保健業務を進めることが本筋ではないかと考えます。そうでないと、ただでさえ弱体な保健所が一そう弱体になるのみか、保健行政の一貫性を欠き、混乱を招くことにもなりかねないと考えるのでございますが、この点、厚生大臣はいかにお考えでございますか。また、母子保健センターと保健所の関係はどのようになるのでございましょうか、この点あわせてお伺いしたいと存じます。
次に、私は特に厚生大臣、自治大臣にお伺いしたいのでございますが、この法案にあるように、市町村において住民に密着した母子保健事業を実施しようとするには、当然のことながらその財政的な裏づけと保健担当職員の増員がされなければ、ただでさえ国からの仕事でお手あげの市町村の職員の過労にもなり、せっかくの法制定の実効もあがらないと考えるのでございます。この点、特に申し上げましたように、自治大臣の御所信を伺いたいと存ずる次第でございます。
最後に、先日私が予算の分科会で御質問をし、明らかになりましたところでは、四十年度の予算において新規に低所得世帯の妊産婦及び乳幼児に牛乳一日一本九カ月支給するために一億八千余万円を計上してございます。この点、私も具体的な一歩前進の措置と考えますが、この法案によりますと、市町村は妊産婦及び乳幼児に対して栄養の摂取につき必要な援助につとめるものとするとあるのみで、その法的な根拠がまことに不徹底であり、その財政的な裏づけについても規定がございません。この点、法律上積極的な規定を設ける必要があると考えますが、いかがでございましょうか。また、膨大なる本年の国の予算の中で、少なくとも所得税非課税の世帯の妊産婦、乳幼児にまでこの際対象を広げることは、もし総理がおやりになる気があればいまからでも不可能ではないと考えますが、この点、総理大臣のお答えを特にお願いいたしたいと存じます。
以上で私の質問を終わりたいと存じますが、終わりに臨み、先ほど厚生大臣もおっしゃいましたように、妊産婦の死亡率は最近十年間に諸外国では二分の一くらいに減ってきておりますのに、日本ではわずかに三〇%しか減っておりません。諸外国に比べ非常に高いのでございます。この一点から考えましても母子保健の重要性を痛感する次第でございますが、せっかく時宜に適した母子保健法案をお出しになることでございますから、わずかに一歩前進ではなくて、母子保健について二歩でも三歩でも力強い前進をさせるために、いまからでもおそくございません、ただいま私が御指摘申し上げましたような諸点について修正をされることを強く要望いたしまして、私の質問を終わりたいと存じます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/26
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027・船田中
○議長(船田中君) 内閣総理大臣の答弁は適当な機会に願うことといたします。
〔国務大臣神田博君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/27
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028・神田博
○国務大臣(神田博君) 伊藤議員のお尋ねにお答えいたします。
第一点は、母子保健の向上をはかるため、分べん、出生等に関する給付内容等を改善すべきではないかということでございます。たいへんごもっともなことでございますが、これは全般的な社会保障制度の内容改善と相まって逐次改善してまいりたい、かような考えでございます。
第二の、母子保健の見地から、人工妊娠中絶につき対策を講ずべきではないかということでございます。これはごもっともなことでございます。受胎調節の指導その他保健指導事業を積極的に行なうことによりまして、事前の予防施策を十分講じてまいりたい所存でございます。
それから、妊産婦、乳幼児の栄養強化について国の費用負担等積極的な規定を設けるべきではないかということでございます。これは昭和四十年度からの新規事業でありますので、事業実績等を十分把握した上で今後検討して、御趣旨に沿うようにいたしたいと思っております。
次は、母子保健事業の市町村移譲と保健所との関係及び市町村の財政的能力等について万遺漏なきを期せという御趣旨に承っております。保健所は、保健衛生について全般的な責務を有するほか、市町村に対し必要な協力を行なうものであることは御承知のとおりでございます。市町村に対する国の財政措置としては、地方交付税によりましてできるだけの配慮をいたしたい、かように考えております。
また、ILOの勧告についてでございますが、これは労働省と今後十分協議してまいりたい、かように考えております。
母子保健センターの問題でございますが、保健所は市町村に協力していくことになっておりますが、母子保健センターも市町村を中心機関として考えてまいりたい、十分整備してまいりたいと思っております。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣吉武恵市君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/28
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029・吉武恵市
○国務大臣(吉武恵市君) 今回の母子保健事業の市町村移管に伴って市町村に対しどのような財政的の裏づけをしたかというお尋ねでございますが、本件につきましては、昭和四十年度の地方交付税におきまして約十億円の経費が基準財政需要において増額算入をされておるのでございます。
なお、事務職員につきましては、現在の職員を配置転換等によりまして処理させることにいたしております。今後その事務の処理によりまして検討を加えていきたいと存じております。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/29
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030・船田中
○議長(船田中君) これにて質疑は終了いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/30
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031・船田中
○議長(船田中君) 本日は、これにて散会いたします。
午後三時十四分散会
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出席国務大臣
法 務 大 臣 高橋 等君
大 蔵 大 臣 田中 角榮君
厚 生 大 臣 神田 博君
通商産業大臣 櫻内 義雄君
建 設 大 臣 小山 長規君
自 治 大 臣 吉武 恵市君
出席政府委員
厚生省公衆衛生
局長 若松 栄一君
厚生省児童家庭
局長 竹下 精紀君
農林政務次官 舘林三喜男君
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X01919650318/31
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