1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十年五月十四日(金曜日)
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議事日程 第四十二号
昭和四十年五月十四日
午後二時開議
第一 国民年金法等の一部を改正する法律案
(内閣提出)
第二 農地被買収者等に対する給付金の支給に
関する法律案(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
安宅常彦君の故議員加藤精三君に対する追悼演
説
日程第一 国民年金法等の一部を改正する法律
案(内閣提出)
日程第二 農地被買収者等に対する給付金の支
給に関する法律案(内閣提出)
午後九時四十四分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/0
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001・船田中
○議長(船田中君) これより会議を開きます。
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002・船田中
○議長(船田中君) 御報告いたすことがあります。
議員加藤精三君は、去る三日逝去せられました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。
同君に対する弔詞は、議長において、去る九日贈呈いたしました。これを朗読いたします。
〔総員起立〕
衆議院は多年憲政のために尽力された法務委員長議員正四位勲二等加藤精三君の長逝を哀悼しつつしんで弔詞をささげます
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安宅常彦君の故議員加藤精三君に対する追悼
演説発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/2
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003・船田中
○議長(船田中君) この際、弔意を表するため、安宅常彦君から発言を求められております。これを許します。安宅常彦君。
〔安宅常彦君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/3
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004・安宅常彦
○安宅常彦君 ただいま議長から御報告がありましたとおり、本院議員加藤精三先生は、去る五月三日山形県鶴岡市の自宅においてにわかに逝去されました。まことに痛惜の念にたえません。
私は、ここに、諸君のお許しを得て、議員一同を代表し、つつしんで追悼のことばを申し上げます。(拍手)
加藤先生は、明治三十三年十一月山形県鶴岡市の旧家に生まれました。長じて庄内中学から第一高等学校を経て、大正十三年に東京帝国大学法学部を卒業し、内務省に入られました。茨城等各県の課長、文部省の課長、島根、鹿児島、青森各県の部長をつとめた後、昭和十九年に応召して中支に渡り、復員されたのは昭和二十一年でありました。
復員後間もなく、同年五月に鶴岡市長に就任し、二十二年、二十六年、両度の市長選挙に当選し、六年有余にわたって郷土の発展に尽くされました。烈々たる郷土愛に燃える先生は、よいと思ったことは直ちに実行に移し、万難を排して実現させるという決然たる態度と旺盛な行動力とをもって、戦後の困難な時代にあって市政の刷新に多大の貢献をいたされ、住民の生活に大きな希望を与えられたのでありました。(拍手)
市長在職中の手腕は郷党の高く評価するところとなり、推されて昭和二十七年十月の第二十五回衆議院議員総選挙に出馬し、みごと最高点をもって当選の栄をになわれたのであります。自来、当選すること前後五回、在職九年八カ月に及んでおります。
本院に議席を得るや、国政上、地方自治体の繁栄をもたらすことが重要であるという点に着目し、地方に山積する諸問題を解決することこそ自分に与えられた使命であるとの信念に立ち、終始一貫、地方自治の向上、地方財政の確立に尽くされたのでありました。本院地方行政委員会の委員、理事として、あるいは党の政務調査会地方行政部会の責任者として、あるいは内閣の地方制度調査会委員として、たゆみない活動を続けられました。
石橋内閣、第一次岸内閣において自治政務次官にあげられましたのは、先生にとってまことにふさわしい役柄でありました。多年、官界にあって全国各地方の実情に親しく接し、また、市長となって苦難と激動の途次にある地方行政に直接携わった先生の豊富な経験とすぐれた識見は、地方行政、地方財政関係法の立案審議に光彩を放ち、具体的な事実をよりどころとしたきめこまかな理論の展開は、独特の重みをもって真実の究明を訴えるものがありました。
また、先生は、かねてから地方文化の向上、社会教育の振興に深い関心を寄せ、公民館の重要性に思いをいたし、その普及に力を用いておられましたが、同憂の士と相はかり、これを国の施策として取り上げ、社会教育法の改正による国の援助の法文化、財政措置の強化に寄与し、山形県公民館連絡協議会会長、全国公民館連絡協議会副会長として重きをなしておられました。
さらに、先生の本院における活躍は、文教、社会労働、大蔵、農林水産等広く各般の分野にわたっております。特に、本年一月には選ばれて法務委員長の重責をにない、司法、検察行政の適正な運営、人権擁護の徹底に力を傾けておられました。先生の謹厳にしてしかも温厚な人柄のゆえに、委員会は真剣な気魄のうちにも、よきチームワークが保たれていたのでありまして、与野党委員は、ひとしく先生を敬慕してやまなかったのであります。(拍手)
党にあっては、政策通として、文教問題、酪農問題、国民年金問題、労働問題等々にすぐれた見識を示されました。また、総務、全国組織委員会副委員長、組織総局長の要職をも歴任されたのであります。
このように、加藤先生が国政審議のために尽くされた功績はまことに偉大なものがあります。
思うに、加藤先生は、辺幅を飾らず、清廉潔白にして、きわめてまじめで謙虚な方でありました。先生が最も好んだことば「真実一路」そのままに、みずからの功を誇ることなく、おのれをむなしゅうして、ひたすらに郷土のため、国のために東奔西走し、席のあたたまるいとまもなかったのでありました。(拍手)まさに議会人らしい議会人であったと申せましょう。
先生は、しかも涙もろい、すこぶる人情に厚い方でありました。だれしもが心から敬愛の念を抱いて先生のもとにつどい、先生もよくその期待にこたえて、鶴岡に精三会館を建てて若い人々の修養の場を設けるなど、実によく人々のめんどうを見られました。先生の突然の訃報に接し、郷党はあげて暗涙にむせんだのであります。
私ごとで恐縮でありますが、私が本院に初めて議席を得たころ、加藤先生が、「地方行政こそ国政の基本であるから、これをすみからすみまで勉強することが国民のための政治家の責任です。あなたのような経歴の人は特に地方行政を勉強されたらいいと思います。」と申されたことがあります。私が当初数年間地方行政委員会に所属していましたのも、この先生の教えに負うところがあったのであります。このことは、私の生涯にとって決して忘れることのできない思い出の一つとなるでありましょう。(拍手)
先生の古武士的な風貌のうちに温情のこもった、党派を越えたいつくしみの情をいまさらながら新たにし、惜別の念切々たるものがあります。
いまや、わが国内外の動きはきわめて重大の時期に際会し、また、先生が生涯を通じて努力を傾注された地方行政は幾多の問題を内包し、その前途はきわめてきびしいものがあります。ことに、ことしの異常な天候のもとに、先生の愛してやまなかった農村は危機に脅かされております。このときにあたり、実行力に富み、かつ、政策通である先生のような練達の士を失いましたことは、惜しみても余りあるものがあり、ひとり本院の損失であるばかりでなく、国家国民のため実に大きな不幸であると申さなければなりません。(拍手)
ここに、加藤先生生前の事績をたたえ、先生の人となりをしのび、心から御冥福をお祈りして、追悼のことばといたします。(拍手)
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日程第一 国民年金法等の一部を改正する法
律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/4
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005・船田中
○議長(船田中君) 日程第一、国民年金法等の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/5
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006・船田中
○議長(船田中君) 委員長の報告を求めます。社会労働委員会理事小宮山重四郎君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔小宮山重四郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/6
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007・小宮山重四郎
○小宮山重四郎君 ただいま議題となりました国民年金法等の一部を改正する法律案について、社会労働委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案は、国民年金法、児童扶養手当法及び重度精神薄弱児扶養手当法の内容の充実をはかりますため、年金額及び手当額の引き上げ等を行なおうとするものでありますが、国民年金法のおもなる改正要旨は、
第一に、老齢福祉年金額を月額千百円から千三百円に、障害福祉年金額を月額千八百円から二千円に、母子福祉年金及び準母子福祉年金額を月額千三百円から千五百円に、それぞれ引き上げることであります。
第二に、障害年金及び障害福祉年金の対象となる障害の範囲を精神薄弱にまで拡大するとともに、母子年金及び母子福祉年金について、障害のため所定の年齢をこえてもなお対象とされる場合の障害の範囲を精神薄弱にまで拡大することであります。
第三に、福祉年金受給権者の所得による支給制限額を二十万円から二十二万円に引き上げますとともに、受給権者の扶養義務者の所得による支給制限額を扶養親族が五人の標準世帯では六十五万円を七十一万六千円に緩和することであります。
また、公務扶助料等の戦争公務に基づく公的年金と福祉年金との併給限度額を八万円から十万二千五百円に引き上げること等であります。
次に、児童扶養手当法及び重度精神薄弱児扶養手当法の改正要旨は、
第一に、児童扶養手当額を児童一人の場合は千円から千二百円に、二人の場合は千七百円から千九百円に引き上げますとともに、重度精神薄弱児扶養手当額を重度精神薄弱児一人につき月額千円から千二百円に引き上げることであります。
第二に、支給制限の緩和を国民年金法の改正の場合と同様の改正を行なうことであります。
なお、児童扶養手当法の場合は、手当の対象となる児童の障害の範囲に精神薄弱を加えることであります。
本案は、三月十一日本委員会に付託となり、五月十三日の委員会において、質疑を終了し、採決の結果、本案は原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
なお、本案に対し、附帯決議を付することに決しました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/7
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008・船田中
○議長(船田中君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/8
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009・船田中
○議長(船田中君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日程第二 農地被買収者等に対する給付金の
支給に関する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/9
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010・船田中
○議長(船田中君) 日程第二、農地被買収者等に対する給付金の支給に関する法律案を議題といたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/10
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011・船田中
○議長(船田中君) 委員長の報告を求めます。内閣委員長河本敏夫君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔河本敏夫君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/11
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012・河本敏夫
○河本敏夫君 ただいま議題となりました農地被買収者等に対する給付金の支給に関する法律案につきまして、内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案の要旨は、戦後の農地改革によって農地を一畝以上買収された者及びその遺族等に対し、買収された農地の面積をもとにして、十年以内に償還する無利子の国債をもって給付金を支給しようとするものであります。
本案は、三月四日本委員会に付託され、三月二十三日の本会議において趣旨説明及び質疑が行なわれたのでありますが、本委員会においては、四月十四日政府より提案理由の説明を聴取し、四月十六日より質疑に入り、自来、委員会を開くこと六回、この間、参考人から意見を聞き、また、大蔵委員会及び農林水産委員会と連合審査を行なうなど、審議を重ねてきたのでありますが、その詳細は会議録によって御承知をお願いいたします。
かくて、五月十三日、質疑を打ち切りましたところ、昭和四十年四月一日としている施行期日を公布の日に改め、本年四月一日から適用する旨の修正案が提出され、採決の結果、多数をもって修正案のとおり修正議決すべきものと決定いたしました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/12
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013・船田中
○議長(船田中君) 討論の通告があります。順次これを許します。稻村隆一君。
〔稻村隆一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/13
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014・稻村隆一
○稻村隆一君 私は、日本社会党を代表し、ただいま議題となりました農地被買収者等に対する給付金の支給に関する法律案に対し、反対の討論を行なわんとするものであります。(拍手)
佐藤総理は、過日の本会議においてわが党の山内広議員の質問に答え、「旧地主は終戦後日本の民主化に大きな貢献をしたがゆえに、この法案によって報償するのである」と言っておられるのでありますが、事実は全く反対であって、旧地主は農地改革に対し終始一貫抵抗を試み、強制力によってやむなく農地を解放せざるを得なかったのであります。
そもそも、地主なる封建的遺物は、経済の発展の法則に従って、何らかのチャンスに必然に死滅すべき運命にあったのであります。地主は、近代的農業資本家にあらず、彼らは前時代的な搾取関係において小作料を収奪する以外、企業家としての責任を果たざず、農業経営費はすべて小作人にまかせていたのであります。たまたま農機具、肥料代を支出しても、それは高利により小作人に貸し付けるものであるから、資本家として経営費を負担しているのではない、だからアダム・スミス学説の最も忠実な継承者であるブルジョア経済学者のリカルドは、「地主なるものの存在は、生産力の発展を阻害し、富の増進を妨害するものであるから、撲滅しなければならない」とまで強調していたのであります。(拍手)
ヨーロッパ先進国において封建的地主制度は、宗教改革とフランス革命とイギリスの産業革命後、スペイン、ドイツを除いてはほとんど消滅し、多くの地主は近代的農業資本家に転化したのであります。
わが国の小作制度も、日本が近代的資本主義国家として成長する過程において、上からの改革か、下からの革命によって崩壊すべき必然性を有していたのであります。事実、大正の初期より昭和にかけてのわが国の農民組合運動は、「土地と自由」の旗のもとに、燎原の火のごとく発展し、その結果、全収穫の六割近くの小作料は、戦前すでに二割以下に引き下げられていたのであります。もっと具体的に述べますならば、いまから五十年前の大正元年の統計によれば、全国平均小作料は、上田、下田合わせて最低五一・一%、最高五八・二%であった。そのために、東北地方、新潟県のごとき大地主制の地帯においては、小作人は軒並みに娘を売って小作料を払っていた。彼ら小作人は、法律的には農奴ではないが、実際的には農奴のごとき悲惨な生活をしていたのであります。
かくのごとき小作人の生活の窮乏は、全国至るところに小作争議を激発せしめ、たとえば、大地主制のもとにあった新潟県木崎村の小作争議のごときは、数年間にわたり小作争議が続き、延べ五百人以上の人々が牢獄につながれるがごとき農民解放闘争が展開されたのであります。当時、小作争議調停法が成立し、国及び県は争議調停に狂奔したけれども、小作争議は一向下火にならなかったのであります。
自作農創設法が施行されたが、小作料が下がり、土地の価格が暴落した条件のもとにおいて、地主の土地を買う者は少なかったのであります。農民運動は戦争のために弾圧され、解体を強制されたけれども、一たん下がった小作料は決してもとのようにならなかったのであります。すなわち、第一次近衛内閣の時代、小作料の統制法ができ、地主による小作料の引き上げを不可能にしたのであります。したがって、昭和二十年、終戦直後の小作料は、地主米価は百五十キロ当たり五十五円の据え置きであった、生産者米価は同じ百五十キロ当たり三百円であったが、小作料は地主米価によるとされていたから、かりに反収三百キロで五割が小作料であっても、小作料は六百円のらち五十五円、一割以下の小作料を払うだけでよかったのであります。
かくのごとく、農地改革以前、すでに地主の優位は失われていたのであって、当時の解放価格は不当に安いものではなかったのであります。いま報償と称して再補償すべき理論的並びに実際的根拠は全くないのであります。(拍手)
しかも、昭和二十八年十二月二十三日の最高裁の判決は、正当な補償が行なわれたとして、地主側の違憲訴訟は敗訴になっているのであります。右の判決以来、歴代内閣は、最高裁の判決に従って、再補償しないと再三再四明言しているにもかかわらず、報償と称して千五百億円にのぼる血税を給付することは、自民党の選挙運動以外の何ものでもなく、党利党略もはなはだしい。われわれは断じて許すことができないと思うのであります。(拍手)
旧地主のみならず、あらゆる時代の犠牲者は、社会保障によって公正に救済さるべきものであります。報償として旧地主の再補償を特別実施するのであるならば、戦災によって多額の資産を失った多くの人々は、全額補償されなければなりません。また、一兆一千億円にのぼる在外資産を失った人々は、まっ先に補償されるべきであります。徹頭徹尾日本の民主化に反抗した旧地主に対し、民主主義発展に功績ありと強弁し、報償なる名のもとに、農林省で取り扱うべき法案を総理府扱いとして内閣委員会に提案したるがごときは、不条理きわまるやり方であり、しかも、内閣委員会において十分なる審議もせず強行採決するがごときは、言語道断であるといわなければなりません。(拍手)
最後に、私は、占領下において行なわれた農地改革について、ぜひ一言しなければならないのであります。
農地改革は、世界のすべての国における重大なる政治的、経済的な問題でありますが、わが国においては大化改新の土地改革以来の重大事件で、その政治的影響はきわめて甚大なるものがあるのであります。
私は、かつて一九五六年、インド旅行の帰途、南ベトナムに立ち寄ったことがあります。そのとき、ゴ・ジンジエム大統領の農業顧問として農地改革の仕事に携わっていたラデジンスキーなるアメリカ人に会いました。彼はマッカーサー司令部にあって、日本の農地改革を推進した人物であります。彼の語るところによれば、彼は帝政時代のロシアの大地主の子供であった。一九一七年の革命のとき、両親に連れられてアメリカに亡命し、少年時代の衝撃から、地主制度、特にアジア及び日本の農地問題に興味を持って研究した。アメリカ農務省の官吏になり、戦後マッカーサー司令部の一員として来日し、農業問題の仕事に従事したのであります。彼は、日本の社会主義化と共産主義化を阻止するために、先手を打って日本の農地改革を断行し、共産主義の侵入を防ぐべきであるとマッカーサー元帥に進言して、そのいるるところとなったと言っておりました。当時は幣原内閣であり、農林大臣は松村謙三氏、農務局長は和田博雄氏でありました。彼は、和田農政局長と協力して農地改革の大事業に着手することができたという話をしておりました。しかしながら、マッカーシー旋風は、純粋な自由主義者である彼を赤として農務省より追放したのでありました。彼はある高官に拾われて、南ベトナムにおける農地改革の仕事を担当することになった。しかしながら、地主の圧力によって彼の南ベトナムにおける農地改革は失敗し、アジアにおいて共産党が農地改革を徹底的に遂行しておるとき、南ベトナムの現状は、彼の予言どおりベトコンに支配されるに至ったのであります。(拍手)
農地改革は純然たるブルジョア民主主義改革であって、決して社会主義改革ではありません。一九一七年のロシア革命においてケレンスキー一派が土地改革を遂行しなかったがために、ボルシェビキがブルジョア民主主義革命である土地改革を断行し、封建的大地主の土地を没収して、貧農に与えることにより政権を獲得したのであります。蒋介石が高利貸しを兼ねる過重な小作料を搾取する野蛮な地主の擁護者であったから、土地革命の過程より中国共産党が勝利を獲得したのであります。南ベトナムにおいてもまたしかりであります。しかして、ラデジンスキーなるアメリカの一自由主義者の悲劇は、今日はアメリカ自由主義全体の悲劇となっているのであります。すなわち、国際資本主義は、その初期時代、封建主義と戦って、これを倒すため、自由主義とデモクラシーを武器として戦ったが、最後の段階たる帝国主義時代に入った今日、彼らがかつて敵として戦った封建君主と同様に、反動的、独裁的となり、自由主義とデモクラシーを投げ捨てたのであります。すなわち、独占資本は、非近代的なる大土地所有制度に反抗して戦いつつある農民の民主主義的要求を共産主義として、至るところにおいて弾圧しつつあるのであります。
日本の資本主義並びに保守勢力も、農地改革によってきわめて利益を得たにもかかわらず、これを正当に評価するあたわず、農地解放をもって憲法違反なりとして抗争する旧地主勢力と結合し、その復活をはかるがごときは、歴史を逆流せしめんとする行動であります、(拍手)実に農地報償法案こそは、日本の反動化、独裁化、憲法改悪と再軍備と戦争に通ずる最も危険なる方向への示唆であります。
保守党の心ある方々は、真にリベラリズムとデモクラシーを守らんとするならば、かかる反動的な農地報償法案に対し、大局的立場においてわれわれとともに断固反対されんことを切望して、私の討論を終わる次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/14
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015・船田中
○議長(船田中君) 八田貞義君。
〔八田貞義君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/15
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016・八田貞義
○八田貞義君 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました農地被買収者等に対する給付金の支給に関する法律案につきまして、賛成の討論を行ないます。(拍手)
本法律案は、農地改革により農地を買収ざれた者に対し給付金を支給しようとするものでありますが、農地改革が農村、農業はもとより、わが国全体の経済の発展、民主化に大きな役割りを果たしましたことは、いまさら申し上げるまでもございません。もちろん、今日の経済発展、民主化は、全国民のたゆまぬ努力によるものではありますが、かりにこの農地改革が、あのような奉仕的な形で、しかも円滑に実施できなかったといろ事態を想定いたしてみますならば、諸外国の例に徴しましても、それによる社会、経済の混乱は相当なものであったろうということは、容易に想像されるところであります。(拍手)
このような農地改革が、協力的かつ円滑に行なわれましたことは、いろいろな事情、経緯があったにいたしましても、これに対する旧地主の方々の協力に負うところまことに大なるものがあり、また一方、先祖代々の農地という、所有者にとっては精神的にも財産的にも欠くことのできないものを強制的に買収されたということは、それが法律に基づき、正当な対価を支払って行なわれたものでありましても、旧地主の方々にははかり知れない心理的衝撃、経済的な影響を与えたであろうことは何人も否定できないのであります。(拍手)しかも、その後の経済発展等に伴います土地価格の騰貴、創設農地の転用、転売、生活状況の大きな変化等によりまして、もしこの土地を所持し、保有しておったならばという、暗く、しかもやり場のない心理的影響は、このことにより一そう強められ、拍車をかけられたであろうことは、あらためてここに申し上げるまでもないと存じます。
このようなことから、旧地主問題は、社会的問題として一種の社会的緊張をさえかもし出しまして、長い間の議論となってきた次第であります。国政に携わる者といたしまして、このような問題をいたずらにいつまでも放置しておきますことは、決して適当ではなく、愛情のある政治的姿勢であると申すことはできません。(拍手)この際、この問題につき最終的解決をはかることは、政治家の責務として当然のことであり、社会的にも政治的にも正しいことであると申すべきでありましょう。かくすることによって、無血革命ともいうべき偉大なる農地改革に有終の美をもたらし、かつ、農業生産面の向上に一段と資することになるものと深く信ずるものであります。(拍手)
以上をもちまして、本法案の成立に心からなる賛意を表しまして、賛成討論を終わります(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/16
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017・船田中
○議長(船田中君) 稲富稜人君。
〔稲富稜人君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/17
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018・稲富稜人
○稲富稜人君 私は、民主社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました農地被買収者等に対する給付金の支給に関する法律案、いわゆる農地報償法案に対し、反対の意見を表明せんとするものでございます。(拍手)
わが党が本法案に反対する第一の理由は、この農地報償法案は、歴代自民党政府が実施してまいりました農業政策の失敗にさらに恥の上塗りをするものであり、実に与党自民党の党利党略の法案であるという点であります。
すなわち、戦後行なわれた農地改革は、第二次世界大戦の大きな犠牲の上に行なわれたわが国民主化の一環として実施されたものであり、この農地改革はわが国の方向を定める基本政策の一つであったのであります。しかるに、歴代自民党政府は、この農地改革という大偉業による農村の民主化という理想を生かそうとせず、ただいたずらに従来の保守的な農政を継続してきたのでありまして、この失敗は、いまやわが国の農業にはその農業の後継者さえもないという、いわゆる三ちゃん農業となり、旧地主の不信を招来したということができるのであります。私は、この際、農地報償法案そのWJのが、歴代自民党政府の農政の失敗を物語るものであると断ずるものであります。(拍手)
さらに、自民党は、この農地改革とともに農村において革新勢力が伸長しつつあることに対抗するため、旧地主と連携して、農村における保守勢力の温存をはからんとしたのであります。(拍手)この意味において、農地報償法案は、国民のための法案というよりも、むしろ自民党の党利党略の法案なりということができるのであります。(拍手)極言すれば、来たるべき参議院選挙に対する自民党の選挙対策ともいえる法案であると思うのであります。(拍手)われわれは、実質総額千五百億円に達せんとする血税を使うこのような法案には断じて賛成するわけにはまいらないのであります。(拍手)
私は、本法案に反対する第二の理由といたしまして、この農地報償法案の不当性と違憲性を明らかにしたいと存ずるのであります。
すなわち、農地改革は昭和二十一年に成立いたしました旧自作農創設特別措置法に基づいて行なわれたものであり、農地改革の合憲性については、すでに昭和二十八年十二月の最高裁の判決で合憲性が確認されているのであります。このように農地改革の合憲性が実証されているにもかかわらず、いまここで旧地主に追加補償を行なうことは、それがいかなる名目でもってこれを行なおうとも、これは明らかに最高裁の判決を無視した不当な行為であり、しかも違法の措置であるといわざるを得ないのであります。(拍手)
さらに、この報償が支払われることによって生ずる社会的効果と、国民の血税によって支払われるという社会的犠牲とは、あまりにも均衡せず、これは明らかに国費の乱費であり、国民に対する不当課税ともいうことができるのであります。(拍手)また、旧地主に対する報償は、あたかも旧地主たる地位ないし身分を理由とする差別待遇、または差別取り扱いにも該当する結果ともいい得るのでありまして、これは法のもとでの平等の原則という憲法の精神にも反する措置であるといわざるを得ないのであります。(拍手)
かく考えてまいりますと、本法案が不当であり、違法であるという点に、一点の疑いもないのでありまして、将来に大きな禍根を残すものであることは言をまたざるところであります。
私たちが本法案に反対する第三の理由は、他の戦争犠牲者との均衡の問題であります。
この農地報償法案制定の動きは、すでに十数年の歳月を経過いたしておるのでありますが、この問題が生じました一つの原因は、戦後のインフレ、さらにその後の物価の高騰であります。これは旧地主には、確かにその主張のとおり、あまりにも苛酷な経済現象ではあったでありましょう。しかし、このインフレ、物価高騰も、客観的に見ますならば、これは不可抗力的なものであり、その影響はひとしく国民一般に及んだものでありまして、決して旧地主にのみ起こった現象ではないのであります。(拍手)もちろん旧地主の中には、現実にその日の生活に追われている生活困窮者もありましょう。しかし、それは地主報償によって救済するのではなく、現行の社会保障制度のワク内において救済さるべきものでありまして、生活困窮者をその職業、身分によって救済するということになれば、わが国の社会保障制度は根本から瓦解するといわざるを得ないのであります。(拍手)
さらに、ここで最も重要なことは、旧地主に報償を行なった場合、現在まで放置されている戦争犠牲者に対する救済措置をどうずるかという問題が惹起してくるということであります。すなわち、引き揚げ者の在外資産に対する補償、戦災者に対する補償、軍需会社に対する補償金、陸海軍納入物資の代金、土木請負業者等の工事代金、沈没した船舶に対する保険金、さらに個人や法人の企業整備の補償金などがそれであります。
かくのごとく、他との均衡上よりいっても、または法体系の上からいっても、本法案は実に多くの矛盾に富むものでありまして、私たちは断じて納得いたすことのできないものであるのであります。(拍手)
以上、私は農地報償法案に対する民社党の反対の理由を明らかにいたした次第でありますが、私が最後に申し上げたいことは、政府は、この際、このようなうしろ向きの報償を行なうことをやめ、総額千五百億円に達せんとするこの予算を、農業近代化などのもっと前向きの施策にこれを投入すべきであるということであります。(拍手)
いまや、わが国の農業は、迫まり来たる国際農業の圧迫のもとに、いかにしてこれを守るかという重大なる時期に当面しておるのであります。せっかく制定された農業基本法の実施にあたっても、国の財政的措置が不十分なるために、その立法の精神さえ生かし得ない現状であるのであります。(拍手)この政府の貧困なる農業対策に対して、将来の農業経営に希望を持っていた農村の青年さえも、将来の農村をあきらめて、次から次へと先祖代々住みなれしふるさとを離れて、さびしく去り行くこの農村の若人のうしろ姿を、総理はいかなる目でこれを見ておられますか。
いまこそ政府は、かくのごとき農村の青年に大きなる希望を与えなければならないときであります。それは、あたかも先人が農村民主化という大理想のもとに農地改革の大偉業をなし遂げたときのような大英断をもって、近代的農村建設の抜本的改革をあえて断行しなければならないときであります。かようなときに及んで、かくのごとき先人の行なった農地改革の大偉業にあえて汚点を申しさせようとするこの農地補償法案には、わが党は断固として反対せざるを得ないのであります。
この際、佐藤内閣の農政に対し猛省を促しまして、私はこれに対する反対の討論を終わらんとするものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/18
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019・船田中
○議長(船田中君) これにて討論は終局いたしました。
採決いたします。
本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/19
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020・船田中
○議長(船田中君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり決しました。(拍手)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/20
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021・船田中
○議長(船田中君) 本日は、これにて散会いたします。
午後十時三十五分散会
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出席国務大臣
厚 生 大 臣 神田 博君
農 林 大 臣 赤城 宗徳君
出席政府委員
内閣官房長官 橋本登美三郎君
総理府総務長官 臼井 莊一君
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104805254X04419650514/21
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