1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十一年三月一日(火曜日)
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議事日程 第十一号
昭和四十一年三月一日
午後二時開議
第一 千九百六十二年の国際小麦協定の有効期
間の延長に関する議定書の締結について承認
を求めるの件
第二 通行税法の一部を改正する法律案(内閣
提出)
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○本日の会議に付した案件
人事官任命につき同意を求めるの件
日程第一 千九百六十二年の国際小麦協定の有
効期間の延長に関する議定書の締結について
承認を求めるの件
日程第二 通行税法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
坂田農林大臣の農業基本法に基づく昭和四十年
度年次報告及び昭和四十一年度農業施策につ
いての発言及び質疑
健康保険法等の一部を改正する法律案(内閣提
出)の趣旨説明及び質疑
午後二時七分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/0
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001・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) これより会議を開きます。
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人事官任命につき同意を求めるの件発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/1
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002・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) おはかりいたします。
内閣から、人事官に佐藤正典君を任命したいので、本院の同意を得たいとの申し出があります。右申し出のとおり同意を与えるに御異議はありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/2
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003・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 御異議なしと認めます。よって、同意を与えるに決しました。
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日程第一 千九百六十二年の国際小麦協定の有効期間の延長に関する議定書の締結について承認を求めるの件発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/3
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004・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第一、千九百六十二年の国際小麦協定の有効期間の延長に関する議定書の締結について承認を求めるの件を議題といたします。
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005・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。外務委員長高瀬傳君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔高瀬傳君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/5
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006・高瀬傳
○高瀬傳君 ただいま議題となりました千九百六十二年の国際小麦協定の有効期間の延長に関する議定書の締結について承認を求めるの件につきまして、外務委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
昨年二月ロンドンで開催された国際小麦理事会において、千九百六十二年の国際小麦協定の有効期間を千九百六十六年七月三十一日まで一カ年延長することについて合意が成立し、本議定書が採択されました。
本議定書は、千九百六十五年三月二十二日から四月二十三日まで、協定の締約国の署名のため開放され、わが国は四月二十一日、本議定書に署名いたしました。
このたび延長されました千九百六十二年の国際小麦協定は、小麦の取引価格の安定と需給の調節を主目的として締結されたものであります。
本件は、二月十一日外務委員会に付託されましたので、政府から提案理由の説明を聞き、質疑を行ないましたが、詳細は会議録により御了承を願います。
かくて、二月二十五日、質疑を終了し、討論を省略して採決を行ないましたところ、全会一致をもって承認すべきものと議決いたしました。
右、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/6
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007・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本件は委員長報告のとおり承認するに賛成の諸君の起立を求めます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/7
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008・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本件は委員長報告のとおり承認するに決しました。
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日程第二 通行税法の一部を改正する法律案
(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/8
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009・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第二、通行税法の一部を改正する法律案を議題といたします。
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通行税法の一部を改正する法律案
右
国会に提出する。
昭和四十一年一月二十七日
内閣総理大臣 佐藤 榮作
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通行税法の一部を改正する法律
通行税法(昭和十五年法律第四十三号)の一部を次のように改正する。
第三条第一項中「千円」を「千四百円」に改める。
附 則1 この法律は、国有鉄道運賃法の一部を改正する法律(昭和四十一年法律第 号)の施行の日から施行する。2 改正後の通行税法第三条の規定は、この法律の施行の口以後に領収する旅客運賃等(同法第二条に規定する旅客運賃、特別急行料金、急行料金、準急行料金又は寝台料金をいう。以下同じ。)に係る通行税について適用し、同日前に領収した旅客運賃等に係る通行税については、なお従前の例による。
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理 由
日本国有鉄道の運賃及び料金の改定に伴い、鉄道等の二等の寝台料金等の課税最低限を引き上げる必要がある。これが、この法神業を提出する理由である。
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010・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。大蔵委員長三池信君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔三池信君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/10
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011・三池信
○三池信君 ただいま議題となりました通行税法の一部を改正する法律案につきまして、大蔵委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
御承知のとおり、現行通行税法では、主として一般大衆が利用する二等寝台料金につきましては、これを非課税とするため、課税最低限の金額が定められておりまして、一人一回につき千円以上の料金に対してのみ課税するたてまえとなっているのでありますが、今回、日本国有鉄道の運賃改定にあわせて、その二等寝台料金につきましても改定が行なわれる予定になっておりますため、現行の課税最低限のままでは二等寝台料金の一部が新たに課税される結果を生ずるのであります。
そこで、この法律案は、従来どおり、汽車等の二等寝台料金を非課税とするため、その課税最低限を一人一回につき千四百円に引き上げようとするものであります。
本案は、去る一月二十七日本院に提出され、二月二十一日当委員会に付託されたものでありますが、審査の結果、去る二月二十五日、質疑を終了し、討論を行ないましたところ、日本社会党を代表して武藤山治君より反対、民主社会党を代表して永末英一君より賛成の旨の意見が、それぞれ述べられました。
次いで、採決いたしました結果、本案は多数をもって原案のとおり可決となりました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/11
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012・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の御起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/12
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013・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
農林大臣が参議院から参りますまで、このままちょっとお待ちを願います。
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坂田農林大臣の農業基本法に基づく昭和四十
年度年次報告及び昭和四十一年度農業施策についての発言発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/13
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014・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 農林大臣から、農業基本法に基づく昭和四十年度年次報告及び昭和四十一年度農業施策について発言を求められております。これを許します。農林大臣坂田英一君。
〔議長退席、副議長着席〕
〔国務大臣坂田英一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/14
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015・坂田英一
○国務大臣(坂田英一君) 先般国会に提出いたしました昭和四十年度農業の動向に関する年次報告及び昭和四十一年度において講じようとする農業施策につきまして、その概要を御説明申し上げます。
申すまでもなく、これらの報告及び文書は、農業基本法に基づいて政府が国会に提出いたすものであります。
まず、昭和四十年度農業の動向に関する年次報告について申し上げます。
この年次報告は、「第一部 農業の動向」と、「第二部 農業に関して講じた施策」に分かれております。「第一部 農業の動向」におきましては、農業基本法の趣旨に沿い、他産業と比較した農業の生産性及び他産業従事者と比較した農業従事者の生活水準の動向に焦点を置き、これに関連する農業の動向を、三十九年度を中心として、できる限り最近に及んで明らかにいたしております。
その概要を申し上げます。
三十九年度から四十年度にかけて、国内経済は景気調整の過程をたどりましたが、その農業に対する影響は、出かせぎの減少や農協系統金融などの部面にあらわれておりますものの、新規学卒者を中心とする農業労働力の流出は依然として続いており、食料消費や農家経済の面でも、四十年度上半期までのところ、ほとんど直接の影響は見られていないと考えられます。
このような状態の中で、三十九年度における農業の生産性及び農業従事者の生活水準の動向を見ますると、まず、就業者一人当たりの実質国民所得をもって農業と非農業の生産性を比較いたしますと、農業は非農業の三〇%で、前年度の二九%に比べて格差はわずかながら縮小を示しました。また、世帯員一人当たりの家計費をもって農家と勤労者世帯の生活水準を比較いたしますと、農家は全国勤労者世帯の七九%で、前年度の七七%に比べ、格差は改善を見ているのであります。
しかしながら、生産性の格差が縮小した要因としては、農業生産が三十八年度を五%上回る伸びを示し、農業の労働生産性が順調に向上したこともありますが、同時に、農産物価格が他物価に比べて有利に推移したことや、他産業の成長率が鈍化したこと等による面も大きいと見られるのでありまして、なお農業生産性の向上が強く要請される状況であります。
また、農家の生活水準につきましても、その向上が兼業化の進行に伴う農外所得の増加によるところが大きく、さらに、生活環境施設、教育、保健等の面で、農村と都市との間になお相当の隔たりがあることも見のがせないところであります。
農業生産は、三十九年、四十年と引き続き増加を示しました。しかしながら、その内容を見ますると、畜産物、果実等がおおむね順調な伸びを見せているのに対し、米をはじめとする穀類生産に停滞の傾向が見られ、また、野菜生産が依然不安定であるなど、生産が食糧需要の動向に必ずしも十分対応できない面も生じております。このため、飼料を含めて食糧農産物の輸入が増加する一方、生鮮食料品価格が上昇し、流通機構の不備等もあって、消費者物価高騰の一因となっております。
このような状況にかんがみ、今後、農業の生産性の一そうの向上をはかりながら、農業生産の維持、増大につとめてまいる必要があると考えられるのであります。
さらに、農業経営の動向について見ますると、農業就業人口は、三十五年度から三十九年度までの間に年率三・八%の減少を示し、農家戸数は、この間に年率一・三%の減少を見ております。このような傾向の中で、一町五反以上層の農家は増加し、それ未満の階層の戸数は減少を示しており、一方、第二種兼業農家が増加して、農家全体の四二%を占めております。他面、経営規模の拡大、資本装備の充実、経営の専門化につとめて、相当の農業所得をあげている農家も徐々にふえておりますが、こうした生産性の高い農業経営への発展を困難にしている種々の条件も見られるのであります。
したがって、今後、経済の発展に対応しつつ、農村の社会環境の整備をはかることと並行して、農業経営発展の基礎条件、すなわち、生産基盤の整備、経営規模拡大の促進、革新的技術体系の確立、農業従事者の資質の向上等の諸施策を総合的かつ積極的に推進することの必要性がますます高まっていると考えられるのであります。
以上が第一部の概要であります。
次に、「第二部農業に関して講じた施策」について申し上げます。
これは、第一部と同様、三十九年度を中心として、できる限り最近に及んで、政府が農業に関して講じた施策を、農業基本法第二条に掲げる施策の全般にわたり、農業の動向との関連及び施策の実績等にも言及して記述したものであります。
最後に、「昭和四十一年度において講じようとする農業施策」につきまして、その概要を申し上げます。
この文書は、年次報告にかかる農業の動向を考慮して、四十一年度において政府が講じようとする農業施策を明らかにしたものであります。
最近における農業の動向は、ただいま御説明したとおりでありますが、このような動向に対処いたしまして国民食糧の安定的供給の確保、農業の生産性と農業従事者の所得の向上並びに農業従事者の福祉の向上をはかることは、わが国経済の均衡のとれた発展をはかる上できわめて重要な課題であります。政府といたしましては、農業基本法の定めるところに従い、同法の定める施策を着実に具体化することを基本的な態度として農業施策を講ずることといたしております。
四十一年度において講じようとする農業施策の重点といたしまして、まず第一は、農業生産基盤の整備と農業技術の開発及び普及により、農業の生産性の向上と総生産の維持増大をはかることであります。
農業生産基盤の整備につきましては、農産物の需給の見通し、農業技術の発展、農業機械化の方向に即して土地改良事業の計画的な推進をはかるため、土地改良長期計画の趣旨に沿って、圃場条件の整備とその前提となる基幹かんがい排水施設の体系的整備、農道の整備、農地及び草地の造成等を拡充実施することといたしております。特に農道の整備については、農林漁業用揮発油税財源身がわり事業を中心として、一段と拡充推進することといたしております。また、農業技術の開発をはかるため、試験研究の拡充強化につとめるとともに、新技術の普及を促進するため、普及組織の整備と普及活動の効率化をはかることといたしております。
第二は、増大する農産物需要の動向に即応して農業出産の選択的拡大をはかることであります。
まず、畜産につきましては、飼料自給基盤の強化につとめるとともに、生産性の高い畜産経営を育成して、畜産物の安定的供給をはかるため、酪農振興のための諸施策を推進いたすほか、最近飼養頭数が減少しつつある肉牛について、肉牛資源の維持培養と飼養経営の改善のための施策を強化し、牛肉の安定的供給の確保をはかることとしております。
次に、野菜の供給の安定的増大をはかるため、価格補てん制度の拡充とあわせて指定産地制度を大幅に拡充して、集団産地の計画的な育成につとめ、また、果樹につきましては、広域的、集団的な産地の形成と合理的な果樹園経営の確立をはかることといたしております。
このほか、米麦その他の主要農作物につきまして、集団栽培方式の普及、高性能機械の算入等により、経営の近代化と生産性の向上をはかることといたしております。
第三は、農業経営規模の拡大等農業構造の改善を積極的に推進し、自立経営農家の育成に資するとともに、協業の助長を促進することであります。
農業構造の改善をはかるため、農地等の移動を農業経営規模の拡大へ方向づけるよう、農地等の取得のあっせん、取得に要する資金の融通等の業務を行なう農地管理事業団を発足させるとともに、農業構造改善事業が地域の実情に即して円滑に実施され、事業の成果が確保されるよう措置することといたしております。
このほか、次代の農業をになう優秀な後継者を育成するため、中央青年研修施設の新設等、農村青少年の研修の充実、農業後継者育成資金の拡充等の施策を講ずることとしております。
第四は、農産物の価格安定、流通改善及び農業所得の確保をはかるための施策を充実することであります。
米麦その他の重要農産物につきましては、引き続き食糧管理制度等の適切な運用につとむるほか、需要の伸びが著しい畜産物、青果物等について、流通の合理化と農業所得の安定のための施策を拡充強化することとしております。特に、牛乳につきましては、加工原料乳不足払い制度の円滑なる実施、生乳による学校給食の計画的拡大につとめ、また、野菜については指定産地における生産出荷の近代化事業の実施、指導体制の強化及び価格補てん制度の拡充をはかる等、施策を一そう強化することといたしております。また、繭糸につきましては、日本蚕糸事業団の生糸の買い入れ及び売り渡しの操作等により価格の安定につとめることといたしております。このほか、中央卸売市場の整備を推進する等、生鮮食料品の流通機構の整備をはかることといたしております。
第五は、農業金融を改善拡充するとともに、農業改良資金の拡充をはかることであります。
農業の近代化に必要な長期、低利資金の円滑かつ十分な供給を確保するため、農林漁業金融公庫資金及び農業近代化資金の融資ワクを拡大するとともに、特に、農業近代化資金につきまして、資金の融通を円滑にするため、融資対象の拡大、貸し付け金利の引き下げ、保証制度の拡充等をはかることとしております。また、無利子で貸し付けを行う農業改良資金につきましても、貸し付けワクをさらに拡大することといたしております。
第六は、農業従事者の福祉の向上と豊かな住みよい農村の実現を目標として、農村対策の充実をはかることであります。
農村における生活環境や社会環境の整備、改善をはかるため、農家生活の近代化の促進、農村住宅の改善、社会文化施設の整備、社会保障の充実等の施策を推進するとともに、山村振興法に基づき、山村における農林漁業等の産業基盤及び生活環境の整備をはかることといたしております。
なお、この文書におきましては、以上の基本方針のもとに、四十一年度において講じようとする農業施策について、農林省所管事項にとどまらず、各省所管事項を含めて記述しております。
以上、年次報告及び四十一年度農業施策について、その概要を御説明した次第であります。(拍手)
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農業基本法に基づく昭和四十年度年次報告及
び昭和四十一年度農業施策についての発言に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/15
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016・園田直
○副議長(園田直君) ただいまの発言に対して質疑の通告があります。これを許します。湯山勇君。
〔湯山勇君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/16
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017・湯山勇
○湯山勇君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま御説明のありました農業の年次報告並びに来年度施策について質問をいたします。
農業基本法が実施されまして五年になります。五回目の報告書を読んでみまして、感じましたことを率直に申し上げますならば、一つは、わが国の農業の危機がいよいよ深刻になってきていること、いま一つは、この五年間、政府は一体何をやってきたかという疑問を深めたことの二つでございます。
わが国の農業の基本的態度については、この講じようとする施策の劈頭に、「「農業基本法」の定めるところにより農業の生産性および農業従事者の生活水準の向上を図るため、同法の定める施策を着実に具体化することを基本的態度とする。」とありまして、過去四回も一貫して同じように書いてございます。はたして、生産性と生活水準が着実に向上したでしょうか。報告書についてこれを見ますと、まず、生産性については、「労働条件は悪くなっているけれども、水利や土地の整備、機械化等によって、他産業との格差は縮小しないけれども、生産性は三十一年から三十九年まで、年率六・二%程度順調に伸びている。」と書かれてあります。生活については、「景気停滞の影響を受けることなく、農家所得は三十九年には一四%伸びて、消費生活の向上、貯蓄の増加等、順調な足取りを示している。」と書かれてあります。これらは、現実のきびしさとはおよそかけ離れた楽観的な見方でございます。「わが国の食糧自給率は、年々低下して、すでに八〇%を割っている。中期経済計画に比べて、三年も早く赤信号になってしまっております。食糧の輸入は、年々増大し、三十九年で十七億九千万ドルに達しております。農業労働力は質、量ともに低下し、兼業農家が八割に達するという事態は、まさに農業の危機以外の何ものでもありません。
かつて、池田前総理が、「農業者が喜んで農業に専念できるよう、思い切った革命的な施策を講ずる。」と、ここで演説されまして、このことばが物議をかもしたのが、昭和三十八年の十月でございました。ことばは別としても、その心境はそのまま実感として理解することができると思います。池田内閣のひずみを是正することを公約された佐藤総理は、わが国農業の現状をどのように把握しておられるか、それに対処する御決意はどうなのか、まず明らかにしていただきたいのであります。
以下、内容について四点お尋ねをいたします。
第一は、生産性の問題であります。
今国会の劈頭、総理はじめ各大臣とも、口をそろえて、農業の生産性の向上を強調されました。しかし、農業は、他の産業と異なって、土地による大きな制約を受けております。この農業の特性を忘れた単なる生産性向上政策は、一歩誤れば農業を破壊に導くおそれがあります。報告書の稲作についてこれを見ますと、動力耕うん機が二・六戸に一台をはじめ、農薬の進歩等で、昭和三十五年には反当百八十五時間の労働力を要したものが、三十九年には百四十七・二時間、三十七時間の節約ができています。しかし、米の生産は、三十七年以後次第に低下し、反当収量も四百キロから三百九十キロと連続低下しています。この減収を計算に入れても、なお生産性は約二〇%向上したことになっておりまして、生産性は上がっていても、収量は減っているのが実情であります。生産性向上のための構造改善事業では、農道、水路が整備され、水田の区画も大きくなりますから、大型機械が使えるようになって、生産性は大幅に向上いたしますが、その反面、農道や水路の拡張によって七%程度の農地がつぶされることになっております。機械使用によるロスもありまして、その分は収量が減ることになっております。生産性の向上によって労働時間が減少した分は、生産者米価の算定にあたってそれだけ米価を引き下げることになっております。その上、機械の買い入れの費用、土地整備の費用等の負担が多くなってまいります。農民は農業の構造改善事業によってみずからがみずからを苦しめることになっているのであります。これで一体どうして稲作の構造改善が進められるでしょうか。土地基盤整備を主とする構造改善事業が進まぬ原因はここにあります。
畜産の伸びが一三・二%に対して、土地に依存する耕種部門の伸びがわずか五分の一の二・九%になっていることは、まさにその裏づけであります。農業の生産性の向上は、それによって生み出された労働力をそのまま農業に振り向けて、農業に活用されてこそ、生産増強、所得の向上に結びつくのであります。しかし、いまのやり方では経営規模の拡大がこれに伴っておりませんため、この生産性向上の技術、物財を活用すべき土地がありません。ここに大きな盲点があります。生産性向上によって余った労働力が農業で消化できないために、やむを得ず働く場所を農業の外に求めざるを得ない。こうして新たに十一万戸の兼業農家がふえております。今日兼業農家の数は全農家の七九%、八割に達してしまったのであります。他産業に職を求めるということになれば、需要の多い新卒業者がまず出ていくことになります。ここで農家は後継者を奪われます。次は若い男子、出かせぎをするのもまた主として男子であります。こうして農業のにない手は次第に女性化、老齢化し、男女の割合はついに女子六〇、男子四〇という最悪の事態に立ち至ったのであります。
労働力の流出に加えて、麦や菜種をつくるのは引き合わない。冬作放棄が次第にふえてまいりました。三十五年から四十年までに、冬作放棄は実に七十二万町歩に達しております。八郎潟の干拓には三百億円を投じ、一万五千町歩の農地の造成を行ないましたが、一方においてその五十倍の耕地で冬作放棄が行なわれているのでありますから、政府はまるで底の抜けたおけに水をくむのと同じようなことをやっているといわれてもいたし方がないのであります。この冬作放棄もまた引き合わない冬作を切り捨てる農民自身の生産性向上ともいえますけれども、しかしながら、経営規模の拡大が重要な課題であり、食糧の自給度が低下しつつあるとき、貴重な生産基盤を遊ばせておくことは放置できないことだと思うのでございます。
以上の見地から、あらたまってここで総理にお尋ねをいたします。
今日、日本の農業が直面している危機は、明らかに政府の見通しの誤りと、条件の整っていない生産性向上政策の矛盾に基づくものであります。この矛盾をどう克服するか、そのためにどのような施策を講ずるか、また、この原因となった農業基本法をこの際再検討する用意があるかどうか、お答えをいただきたいのであります。(拍手)
なお、このことに関連して農林大臣にお尋ねをいたします。
見通しと施策の誤りから、食糧の自給率は予想以上に悪化いたしております。まだまだこれが低下することは必至でありますが、最悪の場合、自給率はどれくらいになる見込みか、それに対する対策はどうなのか。
次に、成長部門である畜産は、濃厚飼料の五二%を輸入にたよっております。その量は実に米の政府の買い上げの全量に匹敵いたしております。飼料自給の面から見ましても、冬作放棄が拡大することはほっておけない問題でありますが、その対策はどうなのか。ことに冬作の中心である麦については、二年前に米審からすみやかに麦の基本方針を示すよう宿題が出ております。まだお答えがありませんが、麦をどうするのか、これらをあわせて明らかにしていただきたいのであります。
第二の問題は、自立農家の育成でございます。
自立農家育成は農業基本法のおもな柱であります。毎年出されるこの施策のほうには、必ず自立農家の育成が強調されております。ところがふしぎなことには、一方の報告書には自立農家がどれだけふえたのかはもちろん、自立農家の数さえ出ていないのであります。こちらに出ておって報告で消えている。頭があって足がない。まさに自立農家育成は幽霊ではないでしょうか。(拍手)二町五反、年収百万の自立農家百万戸育成、この公約は一体どうしたのでしょう。いま経営規模で二町五反以上の農家は、三十五年が二十三万七千戸、四十年は二十五万六千戸と、五年間で約二万戸ふえております。このペースでまいりますと、自立農家百万戸育成には、今後実に百八十年から二百年かかることになっているのであります。さすがに報告書は、良心的にただの一言だけ、「自立経営への発展の胎動が見出される」と書いてあります。ところが、施政方針演説で、総理は、自立農家を育成すると演説され、大蔵大臣は、自立農家育成の施策を着実に実行すると演説されました。報告書の胎動というのはまだ生まれていないということです。生まれていないものをどうして育てていくのか、育成されるのか。総理大臣並びに大蔵大臣は、報告書と演説なさったこととの食い違いをどうお考えになられるかを承りたいのであります。(拍手)無責任を陳謝されるか、さもなくば、自立農家育成の具体策とその見通しを明らかにされたいのであります。(拍手)
総理は、農地管理事業団のことを言われるかもしれません。確かに、わが国の現状では農地の移動に依存する面が大きいことは理解できます。しかし、それにしても四十億円、二千ヘクタールが対象では全くお話になりません。一けたもしくは二けた食い違っておるのではございませんでしょうか。
それに、今回もまた、最も大切な離農対策が何も示されておりません。これでどうして安心して離農できるでしょうか。離農対策をどうするのか、それはいつ示されるのでしょうか、承りたいと思います。
なお、あわせて地価対策をどうするか。異常な土地の値上がりと耕作放棄が同居している、この変則状態の中でこれにどう対処されるか、これを明らかにしていただきたいのであります。いま御説明のあったせっかくの土地改良の長期計画も、農政の根幹がぐらついている今日の状態では、文字どおりどろ田に金を捨てることにもなりかねません。大蔵大臣の御所見を伺いたいのであります。
第三の問題は、所得についてであります。
報告書で所得が順調に伸びているというのは、実は農業所得ではなくて農家所得であります。三十九年、一農家平均六十六万七千円の年間所得のうち、五二%は農業以外の所得であって、その伸び率は年一七・五%にも達しております。これが実は農家の生活を向上させていると述べております。佐藤総理は、施政演説において、「兼業農家増加の傾向にかんがみ、その所得を増大するための施策を推進する。」と述べておられます。このお考えは明らかに農業基本法とは違っております。基本法には、農業従事者の所得と明記されております。総理の言われるのは、兼業農家の所得、すなわち農業よりも農外所得の増大に重きが置かれております。農業はうまくいかなくても、農外の兼業のほうで所得をふやせというのが総理の御趣旨でございますから、これではもはや農業政策ではありません。農民が農業軽視であるとして憤慨するのは当然でございます。(拍手)政策を誤ったために予期しなかったほど兼業がふえて、その所得が大きくなったという事実を見てから牛を馬に乗りかえる、こういう便宜主義は断じて許されないところであります。(拍手)総理は、なぜこのように基本方針を変更し、なぜこのようなお考えをお持ちになるに至ったか、この際明らかにしていただきたいのであります。兼業農家が生活をささえていくために、どれだけ大きな犠牲を払っているか、重労働で疾病が急増している農村婦人、出かせぎで行くえ不明になったたくさんの農民、最近も二月二十一日の朝日新聞の「今日の問題」にこう出ております。
もうすぐ春がくる、出かせぎのとうちゃんが 帰ってくる——その「もうすぐ」を前に、名古屋でタンカー火事が起きた。下請けの作業員十五人が死んだが、そのうち四人は出かせぎ農民だった。留守宅の四人の妻や母たちは、電報を手に「貧乏人はどうしてこういじめられるのか」と泣くばかり。大きな工場や事業場で大きな事故がある。死ぬのはきまって下請けの労務者である。冬だと、その中にかならずといってよいほど出かせぎ農民がいる。先月末本紙社会面に「母恋しさに三百キロ」という記事が載った。六年生の男の子が保護された。和歌山のみかん畑へ出かせぎに行った母親に会いたかった、という。公開調査で三年ぶりに帰ったトッチャを迎える三人のこどもの写真が、大きく載ったこともあれば「とうちゃんの消息を知っている」と留守宅でサギを働く男の記事も載る。二月もなかば過ぎた。かあちゃん農業できたえたかあちゃんだが、やっぱり一番うれしい時だ。「駅まで迎えにゆこう。その前にパーマをかけて……。」
総理並びに農林大臣は、こういう事実をどうごらんになられるのでしょうか。総理がほんとうに農業のことをお考えになっているのであれば、兼業農家の所得を増大する、こういうことをお取り消しになって、この際兼業や出かせぎをしなくてもいい、りっぱにやっていける農業を私は全力をあげて実現します、こう約束してそれを実行することではないでしょうか。総理の御所信を承りたいのであります。(拍手)
最後に、米価について簡単にお尋ねいたします。
昨年は冷害が予想され、その対策にたいへん努力をいたしました。労働時間、物財費は相当多くなっております。その上、物価や賃金が上がってまいりましたから、四十一年産米は、現在の生産者米価一万六千三百七十五円を大幅に上回ることは、これはもう農林大臣もお認めになられるところだと思います。消費者米価は、この四十年度の生産者米価に伴って生じた逆ざや、つまり消費者米価が生産者米価を下回っているその逆ざやを解消しなければ、食管制度の運営に支障がある、これが最大の理由で、一月一日から消費者米価を引き上げました。しかし、いまこの二つを比べてみますと、消費者米価と生産者米価との間に逆ざを生ずるまでのゆとりはわずかに百七十三円、生産者米価を本年、四十一年度百七十三円以上上げれば逆ざやが生じます。これはもう、生産者米価を今度きめれば逆ざやになることはきまっております。そこでその場合に、本年同様、逆ざや解消の名のもとに消費者米価を上げられるのか、上げられないのか。物価対策上、逆ざやになっても消費者米価は上げないと言われるのか。その他に方法がおありになるのか。これは具体的に数字をあげてお答えいただこうとは思いません。ただ、その方針を明らかにしていただきたいのであります、いま、消費者米価、生産者米価が、今日の公債発行を伴う国家財政でも、大きなウエートを持っております。いま全然見通しが立たないとは大蔵大臣も言われないと思います。もし、それができないようであれば、物価対策も、あるいは農業政策も公債政策も行き当たりばったりのそしりを免れないと思います。この米価について、農林大臣、大蔵大臣からはっきり御答弁いただくことをお願いいたしまして、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/17
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018・佐藤榮作
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) 湯山君にお答えいたします。
農業の現状につきましては、ただいま分析されたような状態が起きております。いわゆる兼業農家がふえておるとか、あるいは労働力がだんだん減っているとか、困難な実情にあること、これは私もそのとおりと認めます。
そこで、しばしば申し上げるのでございますが、農業基本法に基づいて、何とかしてその生産性を向上していこう、農業もまた国民経済の健全なる一環としてりっぱに成長することを心から望んでおる、そういう意味で、生産性の低い、あるいは農業、あるいは中小企業、こういうものと真剣に取り組むということをたびたびお約束いたしておるわけであります。
そこで、この生産性の向上は、しばしば言われますごとく、また、ただいまも御指摘になりましたように、労働力の生産性を高めることと同時に、お説にもありましたが、土地の生産性を高めること、これが同時に必要なことであります。土地、労働力、その生産性を高めて初めて農業基本法の目的とするような農業の構造改善もできるわけであります。したがいまして、施策の面におきましても、いわゆる農業構造の改善などは、ただいま申す土地の生産性を高める、そのための努力が払われておるわけであります。したがいまして、こういう点でただいまの基本法が不十分でありますなら、今後とも、実情に沿った、りっぱな成績をあげるような基本法にいたさなければならないのが政府のつとめでありますから、十分気をつけてまいるつもりであります。
そこで、農業といえば、何といっても自立農家を育成強化することがまず第一に必要だ、ただいまはたいへん遅々として進まない、その数量なども期待はずれだ、こういうような御指摘でありまして、叱咤鞭撻なさいますが、私は、この農業の自立農家を育成強化することは確かに非常にむずかしいことだ、これはぜひやらなければならぬことだが、むずかしいことだ、やはり時期をかしていただかなければ、とても実現するものではない、時期的に真剣に取り組むことが必要だ、かように私は思います。そして、農業の問題も、やはり地域的に特殊な事情がございますから、その特殊な事情を無視して自立農家をつくる、あるいは経営の拡大をはかる、ただそれだけではできないだろうと思います。実情に合った処置をとっていく、そのためには時圏的にも必要だ、かように申すのであります。
その次に、かようなことを申せばきっと農地管理事業団の話が出るだろう、かように御指摘でありますが、確かに、この意味において農地管理事業団は必要であります。もしもこれが一年早くできていたら、ことしなどは、一年間本格的に働いて、実績をあげただろうと思います。今日御審議をいただいておりますが、ぜひとも早急に農地管理事業団が発足できるように御協力を賜わりたいと思います。(拍手)
次に、農業問題を理解するためには、ただいまもお話しいたしましたように、地域の実情と営農の実態に即してこれを理解することが最も大事だと思います。これが、国内におきましては、なかなか地域的にずいぶん実情が違うし、営農の実態も違うわけであります。ここに兼業農家というものも出てくる素地があるわけであります。だから、専業農家、自立経営の農家をつくることに私ももちろん熱心であり、また、それに力をいたしますが、経営の実態あるいは営農の実態等が、ただいま申し上げるように、兼業のほうがつくりやすい状態にある、どういうことも農村においては忘れてはならないのであります。そういう意味で、私は、農村においての農業所得をふやすことに力をいたすと同時に、農家収入がいかにしたらふえるか、こういうことを考えていきたい、こういうことを印しておるのであります。そうして、私が説明するまでもなく、農業基本法の指向するところのものは、農業従事者の所得をふやすことであり、同時に農家の生活水準を向上さすことなんです。この農家の生活水準を向上さす、こういう意味におきまして、私は、今日とっておる政策が誤りでないということをはっきり申し上げたいのであります。(拍手)
次に、お尋ねがありました、兼業やあるいは出かせぎ等の必要のない農業、そういうものができればたいへん望ましい形であります。しかしながら、現状におきましては、さような状態にまでは立ち至っておりません。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/18
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019・坂田英一
○国務大臣(坂田英一君) お答え申し上げます。
総理から全般的なことが大体お話がありましたのでございまするが、なお追加して申し上げます。
農業基本法施行以来五年もたつが、今回の年次報告を見ておると、自給率の低下、それから労働力の質の低下、兼業化の進行などがあって、さっぱりじゃないか、こういう一つの御質問でございます。
私は、かねがね、わが国の農業の当面する問題は、第一に、国民食糧の安定的供給をいかにして確保するかということであり、第二は、農業の生産性と農業従事者の所得をいかにして向上させるかということであり、第三は、どのようにして農村の環境を整備し、農業従事者の福祉の向上をはかるかということであると存じております。今回の年次報告でも明らかなように、最近の農業の動向は、ますますその感を深うするものでございます。これらの問題に対処するために、農業生産基盤の整備、農業構造の改善、農業技術の開発及び普及等の諸施策を拡充することによって、農業の生産性の向上をはからなければならない、農業生産の維持増大につとめるということ等は言うまでもございません。なお、農村対策の一そうの充実により、立ちおくれた農村環境の整備をはかってまいる所存でございます。なお、土地生産力は、私は世界に類例がないと見ておるのです。
第二は、政府は生産性の向上を労働生産性向上一本やりで考えているようだが、これが生産増強、農業所得の増大に結びついておらない、兼業化や冬作の耕作放棄などが進んでいる、このことは政府の見通しの誤りを示すものであって、農業基本法路線の再検討を必要とするのではないか、こういう御質問であります。
しかしながら、私は、農業基本法は絶対間違っていないと確信を持っております。(拍手)ただし、この基本法によって行なわれておる事柄については、地方的に間違っておる例もあります。人間のやることだから……。それは、たとえば構造改善にしても、ことしの八月に入って、私もすぐ構造改善のやり方を調査したわけです。ところが、大部分のやり方は非常によくいっております。心配をしたわりあいによくいっております。しかし、中にはやはり悪いのもございました。それは、その基盤整備がなく、農道がないのに、大きな機械を持ち込めば、うまくいかぬのはあたりまえなんです。また、地方の実情に即しない、たとえば兼業が非常に多いという地帯に対しては、やはり共同とか協業とか、それが寄っていろいろなことがやれる仕組みでなければならぬのに、その仕組みに反したことをやっておるような実例があると間違いがあるのです。農業基本法はそういうことを書いてないのでありまして、農業基本法の趣旨は絶対間違いはないと確信をしておるのでありますが、やり方に間違いがあるやつは、これから直していきたい、こういうのでございます。(拍手)
それから、農業労働力が引き続いて減少しておる現在のもとでは、農業生産性の向上と農業所得の増大をはかるためには労働生産性を高めることが重要なことは印すまでもなく、土地の生産性その他のことも考えないとだめじゃないか、こういうことのようでございまして、これは総理からもお答えを申し上げたとおりでございまするので、つけ加えて申しませんが、確かに、日本の民族の一つの欠点は、一つのことをやろうとすると一つをやらいでもいい、黒か白か、こういうことです。それは間違いである。黒も白も必要ならば二つとも一緒にやるということが大事なのであって、労働生産性向上は、現在の日本としては特に重要であると思うけれども、やはり土地の生産性も特別に重要であると思います。特に、米作のごときは、この土壌の手入れ、あるいは土壌保全の問題とか、なかなか大事な問題がございますから、それは繰り返して申すまでもない、こう存じます。
次は、食糧自給率が低下しておるが、今後の見通しはどうかというのでございます。
現在の食糧、自給率は確かに八〇%程度でございます。しかしながら、よく考えてみますと、その中には熱帯のバナナとか、コーヒーとかココアなんかも入っておるのであります。それから畜産をうんと発展させるために、その飼料がうんと入っております。こういうものが入っておるために、全体の自給率が下がるわけです。しかし、米にしてみると、現在停滞しておるとはいえ、米だけで言えば九六%の自給率を保っておるのであります。そこで、畜産のごときは、牛のように草を食うものについては、草地の造成は、これはどうしても自給しなければならぬから、いわゆる長期計画によって四十万町歩の草地をさらに造成していこうという考え方であることは言うまでもございません。しかし、人間の食糧さえなかなか——この狭い土地で一億の人間が食っていくのでありまするからして、そういうときにまた家畜の濃厚飼料も急激にふえる、そういうものまでも一緒にやろうというのは欲深いです。
それから次は、自立経営農家の育成の問題であるのでございますが、これは総理からお話がありましたので、別に私がつけ加える必要もなかろうと思いますが、ただ一言申し上げまするならば、兼業農家は非常にふえております。兼業農家は現在すでに平均二一%ぐらいになっておると思います。特に第二種兼業農家は四二%になっておる。北陸地帯は、専業農家は一〇%もないくらいなんです。これはまた、生活が苦しいから兼業農家になったというんじゃなしに、単作地帯において文化が発達して、つまり生産性が高まっていくとそういうことになることがある。これらについては詳しく申し上げると時間がありませんが、そこで、北陸のごときは一〇%の自立経営しかないということになっておるけれども、農家の生活及び農民的精神の旺盛なことは、他の地帯よりもはるかに大きいのです。それだけつけ加えて申し上げます。
それから、兼業農家の問題についてさらに申し上げたいことは、もちろん私どもは自立経営をでき得る限り増強いたしたいという考え方をもって進んでおることは、湯山議員も十分に御了承のはずでございます。ただし、兼業農家がこれだけおるのに、農業政策であろうと何政策であろうと、そのたくさんおる兼業農家に対して所得をふやしてやるという政策は、これは政治として当然やるべきことであります。それが農業的にやれればわれわれは満足でありまするけれども、そうもいかぬときには、ほっておけというわけにいきません。やはり、これらは、所得をふやすということについては十分考えていくことは当然であると思うのでございます。
それから、最後に、米価の問題についてでございます。
四十一年産の政府買い入れ価格は、昨年同様、生産費及び所得補償の考え方に基づき、米の再生産を確保することを旨として定めたいと考えておるのでございます。算定諸要素が未確定でありますので、その額がどの程度になるかということは、現在何とも申し上げるときではございませんが、方向だけは生産費及び所得補償方式によっていきたい、こういう考え方でございます。生産者米価の決定いかんによっては、消費者米価の問題が免ずることは考えられるのでありますが、何ぶんにも将来のことでありまするので、本年消費者米価をどうするかということについては、申し上げられる段階ではございませんのでございます。ただし、消費者米価は、家計費の範囲内において、家計の安定をはかることを旨としてきめるという方針をはっきり申し上げます。(拍手)
〔国務大臣福田赳夫君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/19
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020・福田赳夫
○国務大臣(福田赳夫君) お答えいたします。
自立農家は実際減少しつつあるではないか、それなのに報告書ではそういう趨勢が胎動しておるといっているが、それは矛盾ではないか、こういうお話のようでありまするが、ただいま農林大臣が御報告申し上げましたように、自立農家はだんだんとふえていく傾向にあります。なお、この傾向は、先ほど総理大臣から、管理事業団の運用によりまして大いに積極化されるであろうということでありまするが、まさに積極的に胎動する、さように考えるのであります。
さらに、土地改良長期計画についてのお話でございますが、私は、農村に対しましては、これは保護政策が必要である、そういうふうに考えるものであります。しかし、この保護が所得保障的な保護であってはならない、どこまでも農村の生産性を向上するという方向によってこれを保護していくということでなければならないと思うのであります。それにはやはり、農家のよって立つ農業基盤の助成、これが重大でありまするが、その中心となる土地改良計画につきまして長期計画を持つ、これは非常に大事なことである。私は、今回これがきめられて御審議をいただいておるということは、農政の上の一大前進である、かように考えております。
また、米価につきましては、ただいま農林大臣からお話がありましたように、生産者米価は、これは所得補償方式によってきめられます。その方式に適用すべき数字は、その時点における最近の数字を採用いたしますので、今日これを予見することは不可能かと存じます。消費者米価につきましては、これからの物価の状況、また国民の家計の状況、あるいは経済の趨勢、さようなものを総合的に見て決定すべきものである。今日これをまだ申し上げる段階ではございません。(拍手)
〔国務大臣坂田英一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/20
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021・坂田英一
○国務大臣(坂田英一君) 湯山議員からの御質問の中で、麦対策をどうするかという問題を漏らしましたので、つけ加えて申し上げたいと思います。
麦対策については、米価審議会の際においても、これを何とか方法を講じなければならないということの強い要請を受けておりまして、目下省内において対策本部を置いて、きめてやっておるわけでございます。そこで、結局、ビール麦の需要が非常にふえておるという問題、それから、うどんのものは日本の麦が非常に適しておりまする関係があり、それら特有の用途というものにつきましては、でき得る限りその増産を進めていきたい、こういう問題もございます。そういうことでありまするけれども、とにかく非常に生産が減っておることは御存じのとおりでございまして、特に、畑作以上に水田の裏作が減っておるわけであります。農家のいろいろの状態を聞きましても、むしろ飼料を植えたいという考え方の人が非常に多いという実態でもありまするので、したがって、麦につきましては、やはり生産性を高める、非常に労力のかかるやり方でございまするので、生産性を高める、そういうことは従来ともパイロット的にやっておりまするが、そういう施策を増強することも一つであります。
それからして、今度は一面飼料を非常にふやしていきたいと思っておるのでありまして、現在草地のほかに飼料作物の栽培面積が五十二万町歩くらいでございまするが、将来の畜産物から見まして、さらに四十万町歩の草地を造成しただけでは足らないので、飼料作物をやはり五十万町歩くらいつくる必要がありまするので、そういう意味から、飼料作物というものに重点も置くということをいろいろ考えまして麦作の対策を進めていきたい、こう観念しておるわけでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/21
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022・園田直
○副議長(園田直君) これにて質疑は終了いたしました。
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健康保険法等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/22
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023・園田直
○副議長(園田直君) 議院運営委員会の決定により、内閣提出、健康保険法等の一部を改正する法律案の趣旨の説明を求めます。厚生大臣鈴木善幸君。
〔国務大臣鈴木善幸君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/23
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024・鈴木善幸
○国務大臣(鈴木善幸君) 健康保険法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。
政府管掌健康保険、船員保険等の医療保険につきましては、近年受診率の上昇、給付内容の改善等により多額の赤字を生じ、保険財政はきわめて逼迫した事態に立ち、至っております。
政府は、このような事態に対処すべく健康保険制度等の改正案要綱を策定し、社会保障制度審議会及び社会保険審議会に諮問したのでありますが、両審議会からは、保険財政が逼迫している現状にかんがみ、とりあえず応急対策として保険料の改定及び国庫負担の増額を行なうべきであるとの答申を受けたのであります。政府といたしましては、限られた国の財政事情の中で、これらの答申の趣旨を極力尊重することといたしまして、当面応急対策として昭和四十一年度において政府管掌健康保険に対し百五十億円、船員保険について四億円の国庫補助を行なうこととし、あわせて標準報酬等級区分の改定及び保険料率の引き上げを行なうこととした次第であります。なお、これらの審議会の答申にも述べられておりますように、医療保険財政を将来にわたって健全化するためには、医療保険制度の基本的な問題について検討する必要がありますので、政府といたしましても今後早急に抜本的な検討を行なう所存であります。
またこの際、さきに行なわれました労働者災害補償保険法等の改正に見合って船員保険の職務上の事由による年金給付につき、また、さきに行なわれた厚生年金保険法と船員保険法との改正に伴い厚生年金保険及び船員保険交渉法について、それぞれ所要の改正を行なう必要がありますので、今回あわせてこれを改正することといたした次第であります。
以上がこの法律案を提出いたしました理由でありますが、次に、この法律案の概要を御説明いたしをます。
まず、健康保険関係につきましては、
第一に、標準報酬月額の最高額現行五万二千円を十万四千円に改め、等級区分、現行二十五等級を三十六等級とすることといたしております。
第二、政府管掌健康保険の保険料率、現行千分の六十三を千分の七十に改めることといたしております。
次に、船員保険関係につきましては、
第一に、標準報酬月額の最高額、現行七万六千円を十万四千円に改め、等級区分、現行二十五等級を三十等級とすることといたしております。
第二に、疾病部門にかかわる保険料率について、一般給付分、現行千分の五十一を千分の五十四に、災害補償分、現行千分の四十を千分の四十六に引き上げることといたしております。
第三に、職務上年金部門に関しましては、さきに行なわれた労働者災害補償保険法等の改正に見合って、職務上の障害年金及び遺族年金の額を引き上げる等の改正を行なうことといたしております。
次に、厚生年金保険及び船員保険交渉法の関係につきましては、さきの厚生年金保険法及び船員保険法の改正における老齢年金等の年金額の引き上げ、高齢者在職老齢年金の支給、厚生年金基金の創設等に伴い、老齢年金の高齢受給権者または厚生年金基金加入員であって、両制度に加入したことがあるものの取り扱い等について必要な調整を行なうことといたしております。
以上が健康保険法等の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)
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健康保険法等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/24
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025・園田直
○副議長(園田直君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。河野正君。
〔河野正君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/25
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026・河野正
○河野正君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま提案せられましたいわゆる健康保険等関係三法について、総理並びに関係閣僚に対しまして若干の質疑を行ない、国民の疑問に対し解明を行なわんとするものであります。(拍手)
佐藤総理は、今日まで常に社会開発に対する構想を強調せられ、また、本年初頭における施政演説の中においても、社会開発に関する施策を協力に推進することを述べられているのであります。また一方、今日国民の重大な関心事は物価の安定と生活の安定、そしてその向上方策についてであります。したがって、大蔵大臣も、さきには日本じゅうの家庭が健全で豊かな消費生活ができる福祉国家の建設をはかっていくことがきわめて急務であることを強調せられているのであります。
ところが、実際には、総理や大蔵大臣の今日までの公約に反し、昨年に引き続き消費米価、私鉄運賃、国鉄運賃、郵便料金等と、公共料金は軒並みに値上げされんとし、あまつさえ御念入りに今回の健康保険料の大幅引き上げまで強行しようと企図し、不況の克服も、物価安定も、社会開発も、単に国民に淡い幻想を与えたのみで、国民生活を一そう圧迫し、社会保障は大きく後退せしめられ、政府の公約はいまや一片のから手形に終わっているのであります。(拍手)すなわち、政府の公約ははげ頭の毛はえ薬のようなものであって、国民はだれ一人として信頼するものはいないと思うのであります。
特に、社会保障の問題は低所得者層に重大な影響を持つものでありますから、社会保障を中心とする厚生行政に対しては、今日国民の期待と関心は異常なものがあると思うのであります。しかし、これまた現実には厚生大臣のポストが敬遠され、あるいは自民党の大臣病患者にいやがられる、こういう事実が暗示いたしまするように、政府の意欲と姿勢は、全く国民の期待を裏切っているのであります。特に、今回の健康保険法等の改正は、その意味で国民を愚弄する最も悪質な改悪案と断ぜざるを得ないのであります。(拍手)
御承知のとおり、今度の保険料大幅引き上げについても、各審議会の答申を無視した点に対しまして国民の激しい憤りがあったと思うのであります。ところが、すでに医療問題をめぐっての紛争は一昨年以来のことであります。もちろん医療費問題の紛争には幾多の要因があったのでありますが、なかんずく、中央社会保険医療協議会をはじめとして、各審議会の答申を無視した点は、各界より強く指摘せられたところであります。したがって、国会においても、その責任が追及されたつど、総理、厚生大臣は、今後それぞれ関係審議会の意見や答申を全面的に尊重することによって、再び紛争の起こることがないよう、大いにつとめることを確約せられてまいったのであります。
また、現に法的にもその一例をあげまするならば、社会保障制度審議会設置法第二条第二項には、総理、関係各大臣は、社会保障の企画、立法、運営の大綱については、あらかじめ審議会の意見を求めねばならぬことが、明確に規定されておるのであります。しかるに、政府は、本年初頭より、国民の健康と医療を守る懇談会の構想を公表し、また、最近に至っては、深刻化する医療保険の財政危機に対処し、同制度の根本的改善に取り組むため、今度は、厚生大臣の諮問機関として、臨時医療保険制度審議会を設置する方針を固めたとも新聞は報道いたしておるのであります。深刻化いたしまする保険財政の危機に対処することは、これはいいといたしましても、すでに尊重すべきはずの各審議会があるにもかかわらず、さらに屋上屋を重ねるごとき諮問機関を新設いたしますることは、今日までの総理の発言と明らかに矛盾するものと考えるのでございますが、この点、いかがお考えでございますか、率直にひとつお聞かせをいただきたいと思います。
私は、要はむしろ医師会、支払い側団体の相互の根深い不信感をすみやかに解消せしめることにあると信ずるものであります。もし、単にその審議会の新設というその理由が、審議機関の御用化や、あるいはまた御都合主義にあるとするなら、これは国会審議尊重の上からも、断じて許しがたいと思うのであります。これが総理大臣にお尋ねしたい第一の問題点であります。
次は、今日の医療保障のあり方についてであります。
すでに社会保障制度審議会は、全国民に対し、その職域、地域の別なく、最高水準の医療を保障し、生活と健康を守る医療保障を緊急に確立せしめる必要のあることを答申いたしておるのであります。もちろん憲法第二十五条におきましても、その基本的なあり方については明らかにいたしておるところであります。ところが、現在の政府の方針は、この答申が示しております医療保障の理想像をむしろ逆用していると私は思うのであります。すなわち、政府・自民党の企図するところは、終始一貫医療保障をことごとく被保険者が拠出する保険料のワク内でまかなおうとする安上がり社会保障であり、給付水準をできるだけ低く押えようとする低医療政策にほかならないのであります。このような事実は、むしろ医療保障の後退であり、破壊であり、佐藤総理みずからが憲法第二十五条の精神を踏みにじっておられると思うのであります。この憲法でいいますところの医療保障についてのあり方、これが私が総理にお尋ねしたい第二の問題点であります。
次いでお尋ねしたいと思いまする点は、今後、日本の医療保障の展開についてであります。
医療には最高度の技術が必要でありまして、また、その医学、医術の進歩は保険医療にも極力取り入れられなければならぬと思うのであります。しかも、今日疾病構造の変化等がありまして、医療保険の費用、経費が漸増する傾向にあることは当然の理であります。さらに、近年はその傾向が異例的に激しくなり、経済高度成長のテンポを大きくこえるに至っておるのであります、したがって、国民総医療費の国民所得に占める比率も、すでに五%に達するに至ったのであります。ところが、政府はこのような背景を全く無視して、依然として腰だめ式の医療費の引き上げと、保険財政の収支のつじつまを合わせるといった方策のみに終始いたしてまいりましたことは、まさしく政府・自民党の無為無策ぶりを暴露したものと断ぜざるを得ないのでございます。(拍手)
今後、日本の医療保障をどう展開していくべきか、いまや抜本的に再検討を加えるべき時期が訪れておるものと私は信ずるのでありますが、この点は、総理の御見解を率直にひとつ承っておきたいと思います。これが総理にお尋ねをしたい第三の問題点であります。
次いで、改正案の中で、具体的な点について若干お尋ねしたいと思うのであります。
その一つは、厚生省は、四十一年度の保険財政の赤字は七百二十億円と見込んでおるのでございます。しかして、その赤字を補てんする方策といたしましては、今度の改正により標準報酬の上限引き上げで百三十八億円、保険料率の引き上げで二百九十億円の増収を見込んでおるのであります。このことは、一例をあげて説明をいたしますならば、月収十万円の人の保険料は、現在千六百三十八円であったものが三千五百円というぐあいに、その二倍増というふうにきわめて大幅な負担増となるのであります。しかるに、大蔵大臣は、この国民の加重負担には全く目をおおい、依然として三者三泣きを主張しておられるのであります。
ところが一方、各審議会は、今日の保険財政の赤字は全く政府の責任であり、特に、精神、結核医療等の他の制度の負担のしわ寄せもあることであるから、平年度二百億円の国庫負担と、他は借り入れ金で処置すべきであることを、強く強調いたしておるのであります。また、さきの自民、社会両党の国対委員長会談における取りきめの内容も、わが党の主張する定率補助にあったということは御承知のとおりであります。
たとえ、当面の赤字対策に限ったといたしましても、あくまで国庫負担の大幅増額が行なわれなければならぬと考えるのであります。ところが、今回の予算措置はわずか百五十億円にとどまっているのであります。このことは、保険財政が漸増するおりからでございますから、再び保険料引き上げが行なわれるということがこのままでは必至の状況でございます。
そこで、今回予算措置をされました百五十億円の根拠と、いま申し上げまするような理由によって今後この財政処置を大幅に増額する用意があるものかどうか、この点はひとつ大蔵大臣のほうからお答えをいただきたいと思うのであります。
この国庫負担に関連いたしまして、いま一言お伺いいたしたいと思いまする点は、赤字財政と医療機関に対しまする支払い遅延の問題についてであります。
医学、医術の進歩は人道上からもまた当然保険医療に取り入れられなければならぬと思いまするし、さらに疾病構造の変化もございますので、今後医療保険の費用が逐次漸増の一途をたどりますことは、いま申し上げたとおりでございます。したがって、赤字財政の問題は、好むと好まざるとにかかわらず、大幅国庫負担を中心とする抜本的改善が行なわれぬ限り、悪循環はさらに繰り返す問題であるということを私は強く指摘いたさなければならぬと思います。今日すでに残念ながら結核、精神医療の措置費は、支払い遅延という深刻な事態を引き起こしておるのであります。この医師、医療機関に対する支払い遅延という攻撃こそは、政府独占の資金計画の本質を暴露し、健保、医療破壊の野望なりと私どもは糾弾せざるを得ないのでございます。(拍手)
国民健康保険におきましては、国民健康保険法の中で支払い遅延を防止するため、その支払い期日を明確に規定いたしておるのであります。そこで、いま申し上げましたように、一般健康保険におきましても、国民健康保険の例もあることでございますので、この健保医療の不安を除去するためにも、支払い遅延という深刻な事態を防止するためにも、私は、そのような支払い遅延を防止するための措置、具体的には法制化というものが必要になってまいるであろう、こういうことを考えるわけでございますが、この点は厚生大臣のほうから、さらには財政上等の問題もございますから大蔵大臣からもお答えいただければ非常にけっこうだと思います。
一方政府は、赤字財政克服の一環として行政努力によって九十八億円の節減をはかろうと言っておるのであります。四十年度におきましては五十八億円、本年は実にその二倍の節減であります。しかし、私は、元来行政努力というものは、赤字の有無にかかわらず行なわるべき筋合いのものであって、いまさらあらためてここに一挙にばく大な節減を行なうことは、常識的にも全く納得のできぬ点でございます。すなわち、このばく大な額の節減は、不当なる審査、不当なる監査、あるいはまた不当なる減点といった適正医療の運営をはばむ政府の収奪行為なりと指摘せざるを得ないと思うのであります。(拍手)このような納得いかぬ行政努力について、厚生大臣はどのようにお考えになっておるのか、率直にひとつお答えをいただきたいと思うのでございます。
最後に、一点お尋ねいたしたいと思いまする点は、診療報酬体系の適正化の問題であります。
いずれにいたしましても、医療保険の赤字の病根は、実に根深いものがございます。しかし、その制度については国民の福祉の面からも、その健全化をはかっていかなければならぬことはきわめて緊要な事柄でございます。なかんずく、国民医療向上のたてまえからの技術尊重の診療報酬体系の適正化は、早急に検討をし、早急に解決をしなければならぬ重要な問題であろうと考えます。中央社会保険医療協議会もすでに審議すべき議題の決定を行なったようでございます。今日の国民医療の向上を前提とする医療保険問題の早急な解決というたてまえから、診療報酬体系適正化と、さらに議題を決定いたしました中央社会保険医療協議会が今後どのような方向で進展するものか、この点につきましては国民の前に明らかに解明をしていただく必要があろうかと考えます。
以上の点を厚生大臣より率直にお答えを願いまして、鈴木善幸厚生大臣の行政が、文字どおり善幸であることを心から私どもは期待して、そうして私の質問を終わらんとするものであります。(拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/26
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027・佐藤榮作
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) 健康と医療を守る懇談会についてお尋ねがありました。すでに法に基づく社会保険審議会あるいは社会保障制度審議会、あるいはまた中央医療協議会等々があるにかかわらず、その上この種のものを設けるということは、法律に基づくものを軽視するものであり、また屋上屋を重ねるようなことにならないか、こういうような御意見だったと思います。
今回つくりました懇談会は、申すまでもなくこれは法律に基づかない懇談会でございますが、この懇談会を通じまして大所高所からの意見を十分聞いて、そうして行政の円滑なる遂行をいたしたい、かように私は考えておるのであります。私が申し上げるまでもなく、社会保障制度は今日の政治の大きな課題であります。これから福祉国家を建設しようとする場合に、これをりっぱになし遂げること、これが政治の課題でもあります。そういう意味におきまして、この種の懇談会まで設けて、そうして政府もいろいろ検討しておる、この点を了とされんことをお願いをいたします。
次に、憲法二十五条の関係でありますが、これはもちろん違反はいたしておりません。御承知のように、社会保障制度と申しましても、その中の医療保険制度、これは名前が示しますように保険制度であります。したがいまして、政府自身が助成を出すという前に、やはり組合員の負担料率等の改正の問題のあることは私が指摘しなくてもおわかりだと思います。今回の改正もそういう意味で、政府の助成金もいたしますが、料率の改正もいたそうとするものであります。別に憲法二十五条とは抵触するものではありません。しかし、御指摘にもありましたように、最近の医学あるいは薬学等の進歩等から見まして、今後医療費は非常に増高する傾向にあります。そういう意味で、この種の保険制度はいかにあるべきか、また保険料率はいかにあるべきか、こういうような基本的な問題は私どもも真剣に取り組まなければならないと思います。そういう意味で、在来から厚生省におきまして、また各種審議会等を通じまして真剣に検討を願っておりますが、さらにそのまま続けてまいるつもりでございます。(拍手)
〔国務大臣福田赳夫君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/27
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028・福田赳夫
○国務大臣(福田赳夫君) お答えいたします。
政府から昭和四十一年度において健康保険組合に百五十億円を繰り入れるが、その根拠いかん、こういうお尋ねでありますが、御承知のとおり、政府管掌健康保険組合では、非常な赤字である。昭和四十一年度におきましては、七百二十億円の赤字が想像されるのであります。これに対しまして、標準報酬の上限を引き上げるという措置、また保険料率を引き上げるという措置、なお自己努力等もいたすという前提をとりましても、なお生ずる赤字が百五十億円となるのであります。これが百五十億円ときめました根拠でございます。昭利四十年度におきましては、繰り入れ額が三十億円でありまするが、五倍の繰り入れ額に相当するものであります。
なお、河野さんの話を全体として承っておりまして、赤字は生ずるが、それをみんな政府の財政で埋めたらどうだというような響きがあります。しかし、今日、保険財政は非常なむずかしい段階に立ち至っておりまするが、それは給付の額が、医療費の額が、二〇%ずつ毎年増加する趨勢にあるのです。それに対しまして、収入がわずかに一〇%しかふえていない。これでは、ますます財政は窮迫するばかりでありまして、この根源をきわめるということが非常に大事である。政府におきましては、昭和四十一年度中に、この根源を解剖し、これが対策を根本的に立て直すというふうに考えておるのでありまするが、さしあたり、四十一年度予算におきましては、ただいま申し上げましたような政府管掌健康保険組合に対しましては、百五十億円というので経過しようという考えであります。
なお、一般的に政府支出で保険をやっていけというようなお話でございまするけれども、これは保険の先進国であるフランスにおきましても、国費の負担というのは三%です。また、西ドイツにおきましても二%くらいです。わが日本におきましては、これは一三%……。(「イギリスはどうだ」と呼ぶ者あり)イギリスは国営でありまするから、これは別であります。そういうような状態でありまするが、私は、国庫の負担と保険との関係は、弱小組合、つまり低所得者のみを対象とするような組合につきましては、政府は積極的にこれが援助をするべきであるけれども、その他健康保険のごとき、その財政の基盤の強化されておる組合に対しましては、なるべくこれは自己責任においてやるべきものである、さように考えております。そういう努力に努力を尽くしましてもなお生ずる欠損につきまして、政府は援助する、これが正しい行き力ではないか、かように私は考えておる次第でございます。(拍手)
〔国務大臣鈴木善幸君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/28
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029・鈴木善幸
○国務大臣(鈴木善幸君) 御質問の第一点は、医療機関に対する診療報酬の支払い期限を法律で定めたらどうか、こういうお尋ねでございますが、現在、健康保険法におきましては、法令上別段の規定がございません。しかし、国民健康保険と同様に、おそくも診療の翌々月の月末までには支払いを完了するというたてまえでやっておりまして、四十年の実績を見ましても、おおむね翌々月の二十四、五日ころまでに支払いを完了いたしております。最もおくれました月におきましても、二十九日には支払いを完了いたしておるのでございます。このように、医療機関に対する支払いは、一般に順調に行なわれておりますけれども、今後とも支払い資金を十分準備するとか、支払いの遅延を起こさないように、万全を期してまいりたいと考えております。
また、河野さんの御提案の法定の問題につきましても、国民健康保険法との均衡の問題もございますから、今後十分研究をいたしたいと存じます。
第二の点は、四十一年度に予定しておる行政努力九十八億円についてでございますが、これは、標準報酬の適正な把握、それから収納率の向上による保険収入の確保、レセプトの点検調査の励行、現金給付の適正化、こういうことをやりまして、そうして保険給付費の節減をはかる等のことを私ども考えておるのでございまして、御指摘のような不当審査とか、あるいは不当監査とか、そういうようなことによって、減点ということが起こらないように、起こるおそれがないようにやっている所存でございます。
第三の点は、診療報酬体系の適正化をはかるべきであるという御提案でございますが、今後制度の根本的な改正をいたしますためには、どうしても診療報酬体系を再検討しなければならないのでありまして、その際には、医療担当者の技術の適正な評価ということが主眼にならなければならないと考えるのでありまして、そういう方向で今後中央社会保険医療協議会等で御審議をいただいて、その御意見を尊重して改正をしていきたいと存じます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/29
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030・園田直
○副議長(園田直君) これにて質疑は終了いたしました。
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031・園田直
○副議長(園田直君) 本日は、これにて散会いたします。
午後三時五十七分散会
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出席国務大臣
内閣総理大臣 佐藤 榮作君
外 務 大 臣 椎名悦三郎君
大 蔵 大 臣 福田 赳夫君
厚 生 大 臣 鈴木 善幸君
農 林 大 臣 坂田 英一君
出席政府委員
内閣法制局長官 高辻 正巳君
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X02019660301/31
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