1. 会議録本文
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000・会議録情報
○昭和四十一年三月二十二日(火曜日)
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議事日程 第十七号
昭和四十一年三月二十二日
午後二時開議
第一 機械類賦払信用保険臨時措置法の一部を
改正する法律案(内閣提出)
第二 交通安全施設等整備事業に関する緊急措
置法案(内閣提出)
第三 総理府設置法及び青少年問題協議会設置
法の一部を改正する法律案(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
日程第一 機械類賦払信用保険臨時措置法の一
部を改正する法律案(内閣提出)
日程第二 交通安全施設等整備事業に関する緊
急措置法案(内閣提出)
日程第三 総理府設置法及び青少年問題協議会
設置法の一部を改正する法律案(内閣提出)
入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関
する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑
午後二時七分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/0
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001・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) これより会議を開きます。
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日程第一 機械類賦払信用保険臨時措置法の
一部を改正する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/1
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002・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第一、機械類賦払信用保険臨時措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
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003・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。商工委員長天野公義君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔天野公義君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/3
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004・天野公義
○天野公義君 ただいま議題となりました機械類賦払信用保険臨時措置法の一部を改正する法律案につきまして、商工委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
現行法は、機械類の割賦販売取引に関する国営の信用保険制度を設けることにより、中小企業の設備の近代化並びに機械工業の振興に資することを目的として、昭和三十六年に制定されたものであります。
この保険制度は、五年間の臨時措置として発足し、本年六月末をもって期間が満了することになっておりますが、現在までの実績を見ましても、機械類の割賦販売の普及に伴って保険業務は順調な発展を示し、一方、中小企業の設備近代化を進めるにあたって、本保険制度の意義は一そう重要化する情勢にありますので、このまま失効することは適当でないと考えられるに至っております。
このような理由によりまして、本法を恒久法とするための本改正案が提出されたのであります。なお、恒久法化とともに、法律の題名を「機械類賦払信用保険法」に改めることにしております。
本案は、二月九日当委員会に付託され、十六日提案理由の説明を聴取し、三月十六日より質疑に入りました。その詳細は速記録を御参照願います。
かくして、三月十八日、質疑を終局して、引き続き採決を行ないましたところ、本案は多数をもって可決すべきものと決した次第であります。
なお、本案に対し、中小企業の設備近代化促進をより一そう重視した運用をはかること、及び対象機種を拡大する方向で検討することの二点に関する附帯決議を付しました。
右、御報告いたします。(拍手)
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005・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/5
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006・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日程第二 交通安全施設等整備事業に関する
緊急措置法案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/6
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007・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第二、交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法案を議題といたします。
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理 由
交通安全施設等の整備が著しく立ち遅れていることにより交通事故が多発している現状にかんがみ、緊急に交通の安全を確保する必要がある道路について、交通事故の防止を図るため、交通安全施設等整備事業三箇年計画の作成その他交通安全施設等整備事業の実施に関して必要な事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
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008・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。建設委員長田村元君。
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〔報告書は末尾に掲載〕
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〔田村元君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/8
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009・田村元
○田村元君 ただいま議題となりました交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法案につきまして、建設委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案は、最近における自動車の著しい増加にもかかわらず、交通安全施設の整備がこれに伴わないため、交通事故が多発している現状にかんがみまして、人命の尊重、国民の不安の解消という立場より、緊急に交通の安全を確保する必要がある道路について、交通安全施設等整備三カ年計画を樹立するとともに、これが実施に要する費用について特別の定めを行なう等、所要の事項を整備することにより、交通事故の防止をはかり、あわせて交通の円滑化に寄与しようとするものであります。
本案は、去る二月十七日本委員会に付託、同二十三日提案理由の説明を聴取した後、地方行政委員会との連合審査を行なう等、慎重に審議を進めたのでありますが、その詳細は会議録に譲ることといたします。
かくて、三月十八日、質疑を終了、討論を省略して直ちに採決の結果、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定した次第であります。
なお、本案には、自由民主党、日本社会党、民主社会党を代表して井原岸高君より附帯決議を付すべしとの動議が提出せられ、全会一致をもって可決されたのであります。
附帯決議の内容は、今後における道路整備事業と安全施設等の整備に関する基本的なあり方、及び本案による計画実施に際する地方財政への配慮等に関するものでありますが、その詳細は会議録に譲ることといたします。
以上、御報告いたします。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/9
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010・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/10
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011・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日程第三 総理府設置法及び青少年問題協議
会設置法の一部を改正する法律案(内閣提
出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/11
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012・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第三、総理府設置法及び青少年問題協議会設置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
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理 由
青少年問題の実状にかんがみ、その対策を強力に推進するため、総理府において青少年行政に関する各行政機関の施策及び事務の総合調整を行なうこととし、総理府本府に青少年局を置いてその事務をつかさどらせ、中央青少年問題協議会を諮問機関に改めるほか、総理府本府に、臨時に、恩給に関する重要事項を調査審議させるため恩給審議会を、同和対策に係る基本的事項を調査審議させるため同和対策協議会を置くこととする等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
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013・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。内閣委員会理事辻寛一君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔辻寛一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/13
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014・辻寛一
○辻寛一君 ただいま議題となりました総理府設置法及び青少年問題協議会設置法の一部を改正する法律案につきまして、内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案の要旨は、国の次代をになう青少年の指導、育成等に関する施策を強力に推進するため、本府の内部部局として新たに青少年局を設置すること、これに伴い、中央青少年問題協議会を青少年対策についての諮問機関とし、名称を青少年問題審議会に改めること、本府の附属機関として恩給審議会及び同和対策協議会を二年間設置すること等であります。
本案は、二月十七日本委員会に付託、二月十八日政府より提案理由の説明を聴取し、慎重審議を行ない、三月十八日、質疑を終了、討論もなく、直ちに採決の結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決定いたしました。
なお、自由民主党、日本社会党、民主社会党の三党共同提案により、全会一致をもって、在外財産問題の処理については、すみやかに結論を得るよう、政府は特段の努力を傾注すべきであるとの附帯決議が付されました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/14
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015・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/15
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016・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/16
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017・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 内閣提出、入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律案について、議院運営委員会の決定により、趣旨の説明を求めます。農林大臣坂田英一君。
〔国務大臣坂田英一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/17
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018・坂田英一
○国務大臣(坂田英一君) 入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。
わが国の農山村におきましては、古くから入会林野等の利用が行なわれてきたのでありますが、今日なお、その面積は二百万ヘクタールをこえ、全国の民有林野面積の一三%に及んでいるのであります。これらの林野の利用状況は、一般に粗放であり、農林業経営の発展及び農山村民の所得の向上に十分寄与しているとは言いがたい現状でありまして、これによる国民経済上の損失も少なくないと思われるのであります。
入会林野等の利用が低位にとどまり、その開発がおくれている原因は、いろいろあると思われるのでありますが、その最も基本的なものは、これらの林野に入会権等の権利が存在していることであります。これらの権利に基づく利用は、今日に至りましても依然として旧来の慣習に制約されておりますため、時代の新たな要請に応じて利用の高度化をはかろうといたしましても、容易にその転換ができないのであります。
したがって、入会林野等についてその利用を増進し、農林業経営の健全な発展に役立たせるため、このような権利関係を近代化すること、すなわち、入会権等の旧慣による権利を消滅させ、これらを所有権、地上権等の近代的な権利に切りかえることが強く要請されるに至っているのであります。
しかしながら、現状におきましては、このような権利関係の近代化をはかりますためには、かなり煩瑣な手続や、多額の経費負担を必要とし、農山村民が独力でこれを実行することはきわめて困難でありまして、そのことが、これまでに権利関係の近代化を進める上の大きな障害となっていたのであります。したがいまして、入会林野等の農林業上の利用の増進をはかってまいりますためには、このような障害を排除いたしまして、農山村民が自主的かつ円満に近代化を実現し得るよう助長する措置を講ずることが緊急に必要であると考えるものであります。
以上のような理由からいたしまして、この法律案におきましては、入会林野等の権利関係の近代化を行なうに必要な手続を定めますとともに、関連する登記手続の簡素化、租税の減免、経費の補助等各種の援助措置を定めたのであります。
以上がこの法律案を提出する理由でありますが、次に、法律案のおもな内容について御説明申し上げます。
第一は、入会林野における権利関係の近代化、すなわち入会林野整備の実施手続等に関する規定であります。
入会林野整備を行なうにあたりましては、まず入会権者全員の合意によってその整備計画を定め、その計画について土地所有者その他の関係権利者の同意を得る等の手続を経た上で、都道府県知事の認可を受けることとしております。
次に、都道府県知事がこの計画について認可をした場合には、その旨を公告することとし、その公告があったときは入会権及びその他の権利が消滅し、入会権者が所有権、地上権等の権利を取得することとしております。入会権者が取得した権利の登記につきましては、都道府県知事が一括して登記を嘱託することといたしております。また、この場合、入会権消滅後の土地の効率的利用をはかるため、協業化の方向を助長する趣旨から、入会権者が生産森林組合等に権利の出資を行なう場合の登記につきましても、都道府県知事がこれを嘱託することといたしております。
第二は、市町村及び財産区の所有する林野で旧慣の存しておりますもの、すなわち旧慣使用林野の整備の実施手続に関する規定であります。
この場合におきましては、農業または林業構造改善事業等の効率的な実施を促進するために必要な場合に行なうことができるものといたしております。また、この整備計画の作成については、市町村長が、あらかじめ旧慣使用権者の意見を聞き、市町村の議会等の議決を経ることといたしております。
なお、旧慣使用林野整備計画の認可の公告による権利変動及びその後の登記等については、入会林野整備の場合に準ずることといたしております。
第三は、入会林野整備等が円滑に行なわれるように援助措置についての規定を設けております。
まず、登記手続につきましては、政令で不動産登記法の特例を定めることができることとしてその簡素化をはかるほか、税制上の特例といたしましては、入会林野整備等により権利を取得した者の経済的な利益については課税しないものとするほか、不動産取得税及び登録税の減免措置を講ずることといたしております。
以上がこの法律案の趣旨でございます。
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入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/18
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019・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。森義視君。
〔森義視君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/19
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020・森義視
○森義視君 ただいま農林大臣から趣旨説明の行なわれました入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律案について、私は、日本社会党を代表して所要の質問を行ない、政府の所信をただしたいと考えます。(拍手)
去る一月二十八日、最高裁の判決で入会権者の敗訴に終わった小繋事件は、親子三代、五十年に及ぶ入会権をめぐる争いとして、あまりにも有名であり、この判決を契機に、さらに世人の関心を一そう高めたところでありますが、この小繋事件が端的に示しておりますことは、入会権の問題は法律的にも異論の多い問題であり、単に法律問題一本では解決できない複雑な要素を持っているということであります。
すなわち、昭和十四年に一たん大審院で上告を棄却され、入会権者が敗訴しているにかかわらず、依然として入会利用は続けられ、ついに刑事事件にまで発展し、しかも刑事事件の一構では、一転して部落民に入会権が存在することを認める等、裁判所自体の中にも、下級審と上級審の間に意見の相違が見られるばかりではなく、最高裁の判決に立ち会った小繋部落の人々が一様に語っているように、すなわち「そこに山がある限り、そしてわれわれが小繋に住んでいる限り、この問題は、最高裁がいかなる判決を下そうとも終わるものではない」と言い切っていることは、入会権者と入会林野の関係は法律以前の慣行として、また直接生活につながった問題として、切り離すことのできないものであることを物語っておると思います。
明治三十一年に施行されましたわが国の民法が、明治二十二年の市制、町村制施行に伴い実施されました入会山を市町村の公有財産として、その使用権だけを旧慣使用権として認めるという、いわゆる公権論的立場をくつがえして、入会権を民法上の物権たる私権として認めるという、私権論的立場を取り入れたことは、入会権がいかに地域住民の生活と密着しているかということを法制上立証するものでありまして、さらに民法上入会権については、各地方の慣習に従うという表現をしたことは、歴史的慣習というものの存在を法制上尊重したものであって、今日入会権の問題は、地域住民の生活と歴史的慣習を離れて考えることはできないと思います。
政府は、今回、このような入会林野の複雑、困難な現状認識の上に立ちながらも、なおかつ農林業上の利用を増進するという名目のもとに、二百万町歩以上にのぼる入会林野を解体して、個別私権化を推し進め、協業化の方向に行政指導を行なうことに踏み切られたわけでありますが、わが国農林業の致命的な欠陥として指摘されている規模の零細性を克服するという、いわゆる構造改善的見地と、個別私権化による細分化とは相矛盾するものでありまして、個別私権化はあくまでも共同化への道程として考えられていることを、まず最初に明らかにする必要があると思います。(拍手)
私は、そのような視点を前提として、以下、総理並びに関係各大臣に所要の質問を行ないます。
まず最初に、入会林野の近代化に対する基本的指導理念について、総理にお伺いいたします。
明治以降、わが国政府によってとられてきた入会林野の整備は、一貫して国または市町村の公共目的にいかにして対応せしめるかということであり、入会林野が持つ本来の立場、すなわち、農山村民側に立ったものでなかったことがその特徴でありますが、このたびの法律案では、農林業上の利用を増進することを目的に権利の近代化を行なおうとするもので、従来の整理の方向とは違ってきているとは考えますけれども、国及び都道府県がこれらを指導する場合、近代化の方向とは、農村山民の経済的基盤の確立でなければならないと考えますけれども、総理の基本的指導理念をこの際明確にしていただきたいと思います。
次に、この法律案を提出する理由の中で、入会林野及び旧慣使用林野の開発が進展しないのは、権利関係の複雑さ、特に登記上の混乱にあったと指摘しておられますけれども、政府は、今日まで入会林野の近代化のために、具体的にどのような施策を講じてこられたのか。また、その施策が具体的な成果をあげ得なかった理由について、この際明らかにするとともに、今回このような法律を提出するに踏み切られた経緯並びにその背景を、農林大臣から要領よく説明していただきたいと思います。
政府が今日までとってきた入会林野の近代化に対する施策は、山を取り巻く社会的経済的変化によって自動的にその利用形態が変化していくという原則を離れて、いわゆる上からの政策として推し進めようとしたところに問題があったのではないかと思います。現に、入会林の今日的利用形態を見てみますと、いわゆる入会による古典的な共同利用は全体の二三%に減少し、集団的直轄利用あるいは個人的分割利用等による林業的活用がふえ、国が直接手を加えなくとも、経済的環境の変化に伴って近代化していく傾向にあります。もし国が何らかの形で手を加えようとすれば、近代化の障害となっておるところの技術的な条件、たとえば不動産の登記あるいは税金等を排除することで足りるのであって、それよりもむしろ先んじて国が考えなければならないことは、農山村を取り巻く経済的環境を総合的に整備充実することであり、国の山村あるいは林業対策の基本的構想を明らかにする中で、入会問題をどう位置づけるかという点に立って考えなければならないと思いますが、この点についても、あわせて農林大臣の所信を承りたいと思います。
次に、この法律案によると、入会林の整備計画を作成するには、入会権者全員の同意を必要とすることになっておりますけれども、同じ入会権から分かれた旧慣使用権の場合は、市町村議会の議決が優先し、旧慣使用権者に対しては、単に意見を聞くにとどめていることは、公権論的な立場をとったことからくる当然の帰結とは申しましても、旧慣使用権者の権利保護の観点からすると、はなはだ不十分であります。もし、旧慣使用権者がその整備の過程において、みずからの意思と違ったからというので、入会権を主張する訴訟を提起した場合においては、この法律はどのように対処するのか、自治並びに法務両大臣の見解をお聞かせ願いたいと思います。
次に、入会林野等から得る収入の六一・九%は、今日部落費や部落の公共事業費に使用しているのが現状であり、このように入会林野からの収入は、貧しい農山村地帯の公共的費用をまかなう重大な財源となっておりますが、この法律によって、個別的私権化あるいは協業化がされて、その収入が今後期待し得なくなった場合、これらの経費はどのようにして調達されるのか、農山村地帯の財政状態から、他にこれを求めることは困難で、公共事業等の推進に支障を来たし、ひいては農山村の開発をおくれさす結果を招来すると思われるが、これに対してどのような対策を考えておられるのか、自治、大蔵両大臣から御見解を承りたいと思います。
また、この法律が施行されて、入会林が個人に分割されてしまうと、私権確定後、その権利を村のボスが安い価格で買い集めて、山全体を少数の者が独占するような事態も考えられますが、この点をあらかじめ考慮して、私権設定後の当該権利の他人への譲渡を、行政庁の認可事項にすべきであると考えるがどうか。さらに、最近の開発ブームに乗って、都市近郊の山林はきわめて貨幣的に重要視されておりますが、この種のものについては、農林業用の利用外として、認可の段階でチェックできるように、あらかじめ措置しておく必要があると思いますし、また国では、地方公共団体の開発計画の対象とされている山林については認可をしないことを明記すべきであると考えるが、自治、法務両大臣の見解を承りたいと思います。
次に、入会林野が解体され、個別私有権が確立した段階で、これを生産森林組合に再編するにしろ、あるいは個人で林業的経営を行なうにしろ、従来全く資本の蓄積がないところへ、かなり大きな資本と、長期にわたる運営資金の調達ということが要求されてくると思いますが、この面に対する資金的準備についてどのような考慮を払っておられるのか、農林、大蔵両大臣から見解を承りたいと思います。
以上、私はそれぞれの関係大臣に所要の質問を行なってまいりましたが、冒頭に申し述べましたとおり、この法律案は、政府にただすべき多くの問題点がありますので、他は委員会に譲ることにいたしまして、質問を終わらしていただきます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/20
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021・佐藤榮作
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) 森君にお答えいたします。
ただいまの入会権、御指摘のとおり、むずかしい法律問題でもありますが、同時にこれが経済問題である。地域的な住民にとりましても、たいへんな関心の深い問題でございます。しかし、やはりこの入会権を近代化していく、入会林野を近代化していくということも、農業基本法や、林業基本法の示しておるところの、いわゆる農林業の構造改善上、これは必要なことのように私ども考えます。この観点に立ちまして、今回の法律においては、すでにありまする権利者の入会権を近代化し、また土地の利用を増進しよう、こういうことをねらいとしておるものであります。私は、農林業の経営発展上、必ずこの法律はたいへん役立つものだ、かように確信しておる次第でありまして、皆さんの御審議を心からお願いいたします。(拍手)
〔国務大臣坂田英一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/21
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022・坂田英一
○国務大臣(坂田英一君) お答え申し上げます。
まず、この近代化のためにどのような施策を講じてきたか、この法律案の提出に踏み切ったいきさつは、また背景はどういうことであったかという御質問が一つであります。明治以来、戦前までにおける入会林野等に関する施策は、主として森林資源の培養等、市町村基本財産の確立を目的として、公有林野整備開発事業に伴う公有林野造林の奨励と部落有林統一を行ない、また、公有林野官行造林事業をあわせて実施してまいりました。戦後におきましては、公有林野宮行造林法を改正いたしまして、部落有林野を国の造林の対象といたしました。
以上の諸施策は一応の成果をあげたと思っておるのでございますが、入会林野等の利用関係が、先ほど総理も申しましたとおり、複雑多岐にわたっているため、なお現在のごとく、粗放利用のまま放置されている広大な面積を残存しておると考えられまするので、従来の施策の考え方から一歩前進いたしまして、この権利関係を近代的な権利関係に改めることによって、入会林野等を農林業者自身の経営基盤の拡充強化に資するようにする必要があると考えたものでございます。これがこの法案を提出することにいたした背景及び経緯の一端でございます。
次に御質問にありました、国としては近代化の障害となる登記や税金等の障害を排除すれば足りるのである、何よりも先に必要なのは農山村を取り巻く経済環境を統合整備する、農山村民の側から入会林野利用高度化への意欲を起こさせるようなことが大切ではないかという意味の御質問であったように私は了解したのでありますが、農林業構造改善事業その他各種施策の実施に伴いまして、近代化に対する農山村民の意欲も現在高まってきておりまするし、この法案においても、農山村民の側で自発的に計画を立てて近代化を行なおうとする場合に、登記の特例あるいは租税の減免、経費の補助等各種の助成措置を講ずることによって、その円滑な実施を助長するということにいたしたいのでございまして、御趣旨のとおりであるとも申し上げることができるかと思うのでございます。
それから、入会林野等の近代化後に、個別林業経営を行なうようになったり、いろいろ協業を行なったりするような場合に、これらについては資金が非常に多く要るではないかということに対し、大蔵大臣並びに私に御質問があったのでございまするが、入会林野等の近代化後においては、造林補助、林業構造改善事業における機械導入等に関する補助等を行なうようにつとめることはもちろんでありまするし、あわせて農林漁業金融公庫資金による長期低利資金の融通を円滑に行なうよう十分配慮してまいる所存でございます。
それからなお、入会林野の権利関係の近代化は協業経営の推進等農林業の構造改善の前提となるものであると考えるが、そういうことを必要とするのではないかという意味の御質問であったように思うのです。入会林野の権利関係の近代化を行なうにあたりましては、個別の権利の近代化をはかる必要がありますが、土地の具体的な利用の方向といたしましては、なるべく生産森林組合による等協業化の方向を指導して、小さく細分されていくことを防いでいく所存でございます。
それから、入会林野の権利を個別的なものとした場合には、土地の集中が起こるおそれがあるから、近代化の規制を考えるべきではないかという点については、自治大臣からお答えがあるはずでありまするが、知事の認可の際、そのようなことのないように詳細な審査を行なうとともに、なるべく利用は協業経営の方向をとるように指導して、いたずらに土地の集中、分散が起こらないようにしてまいりたい所存でございます。(拍手)
〔国務大臣永山忠則君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/22
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023・永山忠則
○国務大臣(永山忠則君) 旧慣使用権の場合は、これは所有権が市町村にございますので、やはり市町村議会が優位に立って、そうして旧慣使用権者の意見を聞くということになるのが適当であると考えるのでございます。この場合、訴訟になったらどうかという問題でございますが、旧慣使用権か入会権かという事実認定の問題は、やはり訴訟の判決の結果を待たなければならぬ場合があると思うのでございます。この法案自体に対しては問題はないと考えておる次第でございます。
また、この旧慣使用林野等の収入で部落の公共事業をしたり、その他部落のいろいろの関係の仕事をしておる財源を失う場合はどうするかという問題についてでございますが、自治省といたしましては、公共事業の関係におきまして、財源を失った場合におきましては、市町村が責任を持ってその公共事業をやるように十分指導をいたし、また、やるべきであると考えるのでございます。いろいろの団体の費用を出しておる場合はどうするかという問題については、各個人に、あるいは協業関係でそれが帰属いたしますから、したがいまして、その団体もしくは各個人は収入が増大をいたすのでございますので、それらの費用は各自が出して差しさわりないものであると考えるのでございます。
ボスが支配して、ついにまた土地を合併するような結果にならないかということに対しましては、農林大臣が申しましたとおり、これは第二十六条におきまして、農林業上の利用を効率的に行なうようにつとめねばならぬという規定がございますので、知事が認可する場合におきましては、できる限り協業化という線に指導していくものであると考えるのでございまして、この精神を生かして、さような結果にならないような行政的措置を十分いたすものであると確信をいたしておる次第でございます。
なお、これが公共事業に供せねばならぬ場合において、農林業の関係だけへ協業化で持っていった場合には、公共事業というものの中心を失うのではないかということを言われるのでございますが、これは現在の自治法を否定しておらぬのでございます。現在、町村長が農林漁業以外の公共事業にやりたいという場合におきましては、現在の自治法ではこれを公共事業に供することができることになっておるのでございますから、決して公共事業を阻害するものではないと考えておる次第でございます。(拍手)
〔国務大臣福田赳夫君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/23
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024・福田赳夫
○国務大臣(福田赳夫君) お答えいたします。
今回の法律案は、前近代的な入会法律関係を近代的に直そう、こういう趣旨でございまして、部落住民に対しまして、その生活程度を引き下げるというようなことはございません。むしろ、これが改善向上に役立つ、かように考えております。しかしながら、山村の振興につきましては、特別の配意をする必要がありますので、この機会に、この整備をとり行なう部落に対しましては、造林補助あるいは林業構造改善補助等を行なうほか、農林漁業金融公庫の融資を拡大する、さような方法で助成をいたしていきたい、かような方針でございます。(拍手)
〔政府委員山本利壽君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/24
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025・山本利壽
○政府委員(山本利壽君) ただいまの御質問の中で、法務省関係のことをお答え申し上げます。
旧慣使用権は、地方自治法第二百三十八条の六第一項に定められておる公法上の権利でございまして、同項によれば、この権利の廃止・変更を議会の議決のみによらせており、その他に何らの要件を定めてはおらないのでございます。したがいまして、裁判所がいかように解釈するかは別といたしまして、法務省としては、整備計画の認可により旧慣使用権を侵害されたとして訴えを提起することはできないのではないかと存じます。しかし、認可自体の取り消し、変更の訴えの提起は可能であるように考えます。もっとも、現実には、市町村議会の議決にあたりましても、また整備計画の認可にあたりましても、この法案の第二十条にも示してありますように、旧来の使用権を尊重するよう配慮されておるように考えるものでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/25
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026・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) これにて質疑は終了いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/26
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027・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 本日は、これにて散会いたします。
午後二時五十三分散会
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出席国務大臣
内閣総理大臣 佐藤 榮作君
大 蔵 大 臣 福田 赳夫君
農 林 大 臣 坂田 英一君
建 設 大 臣 瀬戸山三男君
自 治 大 臣 永山 忠則君
国 務 大 臣 安井 謙君
出席政府委員
内閣法制局長官 高辻 正巳君
法務政務次官 山本 利壽君
自治省行政局長 佐久間 彊君
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X03019660322/27
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