1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十一年五月三十一日(火曜日)
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議事日程 第三十五号
昭和四十一年五月三十一日
午後二時開議
第一 アジア開発銀行を設立する協定の締結に
ついて承認を求めるの件
第二 銃砲刀剣類所持等取締法及び火薬類取締
法の一部を改正する法律案(内閣提出、参議
院送付)
第三 港湾運送事業法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
第四 私立学校教職員共済組合法等の一部を改
正する法律案(内閣提出)
第五 農林省設置法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
第六 国民年金法の一部を改正する法律案(内
閣提出)
第七 児童扶養手当法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
第八 重度精神薄弱児扶養手当法の一部を改正
する法律案(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
日程第一 アジア開発銀行を設立する協定の締
結について承認を求めるの件
日程第二 銃砲刀剣類所持等取締法及び火薬類
取締法の一部を改正する法律案(内閣提出、
参議院送付)
日程第三 港湾運送事業法の一部を改正する法
律案(内閣提出)
日程第四 私立学校教職員共済組合法等の一部
を改正する法律案(内閣提出)
日程第五 農林省設置法の一部を改正する法律
案(内閣提出)
日程第六 国民年金法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
日程第七 児童扶養手当法の一部を改正する法
律案(内閣提出)
日程第八 重度精神薄弱児扶養手当法の一部を
改正する法律案(内閣提出)
臨時医療保険審議会法案(内閣提出)の趣旨説明
及び質疑
午後三時三十六分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/0
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001・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) これより会議を開きます。
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日程第一 アジア開発銀行を設立する協定の
締結について承認を求めるの件発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/1
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002・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第一、アジア開発銀行を設立する協定の締結について承認を求めるの件を議題といたします。
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003・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。外務委員長高瀬傳君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔高瀬傳君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/3
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004・高瀬傳
○高瀬傳君 ただいま議題となりましたアジア開発銀行を設立する協定の締結について承認を求めるの件につきまして、外務委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
アジア諸国の間には、かねてよりアジア地域の経済開発を促進するための金融機関を設立する要望がありましたが、一九六三年に開催されたエカフェ閣僚会議においてアジア開発銀行を設立する計画が具体化されて以来、協定案の作成について交渉が進められ、昨年十一月マニムにおいて開催されたエカフェ域内国の閣僚会議において協定案が採択され、引き続き同年十二月に開催された域外の関係国をも含めた全権会議において同一の協定案が採択されたのでありまして、わが国は十二月四日に本協定に署名いたしました。
本協定は、アジア及び極東地域の経済成長及び経済協力を助長し、地域内の開発途上にある加盟国の経済開発の促進に寄与する目的をもってアジア開発銀行を設立すること、加盟国は、エカフェの加盟国及び準加盟国、国連またはその専門機関に加盟しているその他の域内国並びに域外先進国とすること、銀行の授権資本は十億ドルとすること、及び銀行の業務の区分、銀行の組織及び運営の方法、銀行の免除及び特権等について規定しております。
本件は、二月十七日外務委員会に付託されましたので、政府から提案理由の説明を聞き、質疑を行ないましたが、詳細は会議録により御了承を願います。
かくて、五月二十七日、質疑を終了し、討論を行ないましたところ、日本社会党を代表して帆足計委員より反対の意見が述べられました。
次いで、採決を行ないましたところ、多数をもってこれを承認すべきものと議決いたしました。
右、御報告申し上げます。(拍手)
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005・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 討論の通告があります。順次これを許します。帆足計君。
〔帆足計君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/5
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006・帆足計
○帆足計君 私は、ただいま上程されましたアジア開発銀行を設立する協定に対しまして、日本社会党を代表して反対討論を行なわんとするものであります。(拍手)
周知のごとく、わが日本は、明治維新の大変革によりまして、アジアの他の国々に比し数十年を先んじて近代化の道を開き、アジアのただ一つの工業国、ただ一つの独立国たるの栄をかちえたのでございます。しかしながら、このような光栄にもかかわらず、わが旧指導者たちは、不幸にして、日本が植民地国たるの悲運を免れた幸運の限界を分析し見きわめる良識を欠き、ついには、自己の力を過信いたしまして、独善の道を追うて無謀にも独伊ファシズムと手を結び、隣邦中国を正面の敵に回し、さらに米、英、ソ連、ほとんどの世界を敵に回して、国民大衆をして有史未曾有の悲運を経験せしむるに至ったのでございます。
今日、幸いにして、わが国は、その有利な立地的諸条件に恵まれまして、経済復興は目ざましく、国民の勤勉と技術の優秀が相呼応いたしまして、鉄鋼年産額四千万トン、造船能力世界第一の工業生産力をかちうるに至りました。しかしながら、このような経済復興の成果の反面には、政治の貧困と総合施策の欠除のために、インフレーションによる物価の高騰、生活の不安、住宅難、交通地獄、一億国民のおよそ三割に近いボーダーライン層は呻吟し、生活の底は浅く、道義は地を払い、国の経済は豊富の中の貧困にあえいでおる状況でございます。(拍手)
外交のこともまた、これに劣らず不安定でありまして、敗戦のあとを受けまして、いわばマッカーサー占領政策の遺風が今日なお惰性となりまして、十年一日のごときアメリカ追従外交に国民の心はうみ疲れているというも過言ではないと思うのでございます。(拍手)
いま、アジア開発銀行に関し検討いたしますにあたりまして、少なくとも工業と技術面におきましては、アジア諸国民に大いに協力し、大いに貢献し得る能力と自信を有する日本国民の立場といたしましては、アジア諸国の開発への協力には大いに心を引かれ、かつ責任を感じますことは、党派を越えた日本国民共通の感情でありまして、このような観点から、本案に対する賛否につきましては、私どもは特に慎重な検討を重ねたのでございます。
しかしながら、私どもがこの構想に賛成いたしかねます理由は、以下、皆さまに申し上げまして、今後の御参考にもしていただきたいと思うのでありますが、まず第一の難点といたしましては、端的にこの構想の成立のいきさつ自体の中にその弱点が看取されるのでございます。
そもそも本案は、当初一九六一年以来、国連ベースのもとで、エカフェ、すなわち国際連合アジア極東委員会の席で検討されたのでありますけれども、当時は西欧において米英の利害の対立等の複雑な事情がからみ、しばらくは姿を消していたのでございます。
しかるに、昨一九六五年春、ジョンソン大統領が、かのジョンズホプキンズ大学で、十億ドルの東南アジア開発構想を発表するに至りまして、が然再び日程にのぼるに至りました。しかも、このジョンソン構想の発表そのものが、当時すでに米軍の極東戦略の失敗、特にベトナム戦争の行き詰まり打開策に直結していた等の事情は、世間周知のことでございます。
今日、一口に経済開発と申しましても、道路、港湾、橋梁の修築、電源の開発、飛行場の設営等、一つとして直接、間接の軍需と結びつかぬものはないのでございまして、しかもこの構想が、さらにより具体的には、米国の極東軍事戦略の中核であるところのSEATOと結び、先般開かれましたアジア経済閣僚会議、並びに近く反共の軍事拠点といわれるソウルで開催予定のアジア外相会議とも内的関連性のあることは、容易に看取されるところでございます。
そもそも、一国工業の振興は、まず民族の統一と国民的自覚、旺盛な独立自尊の政治力を前提としてのみ効果を得るものでございます。すなわち、必要なるものは、まず政治の安定とともに不可欠な社会の改革、さらには物価の安定、封建遺制の払拭、土地改革、民族教育の確立、国民道義の高揚等がその前提であるのでございまして、このことは明治維新という政治大革新あったればこそ、その後殖産興業、日本の工業化が世界に比して急速に実を結んだことを見ましても明らかでございます。かつて福沢諭吉翁は、「国民にして独立自尊の気象なくんば、国を思うこと深くかつ切ならず」と言いました。朝鮮が三十八度線に分断され、ベトナムが南北に分断され、一部の同胞が他国にそそのかされて国を思うこと深くかつ切ならず、兄弟かきにせめさいなむときに、李白のいわゆる「商女は知らず亡国の恨み」でありまして、このような条件のもとでは幾億、幾百億ドルの投資を注ぎましたところで、国民経済の健全な成長を期待することはとうてい望み得ないのでございます。
また、過去における多くの実績に徴しましても、いわれなき巨額の賠償金や恩恵的な経済援助にのみたよって成功した事例が幾つあるでありましょうか。韓国では李承晩政権以来、ベトナムではゴ・ジン・ジエム政権以来、タイ国ではサリット内閣以来、そして目前ではインドネシアの政局の不安が示しますように、汚職と腐敗政治に賠償と経済援助の役得がからんでおりますことは、世間周知のことでございます。
しかも、アジア経済開発銀行の目的並びに諸条件が、平和的な開発のみに徹底し、ひもつき融資の危険を断ち切るだけの保障ありやいなや、まことに疑わしいのでございます。メコン川の開発計画や、南ベトナムやタイへの開発援助等に米軍基地政策への軍事的配慮がからんでいることは、いまや公然たる事実でございます。
かつて、同じ構想の米州開発銀行の先例に徴しましても、同銀行は、アジア開発銀行と全く同様の趣旨のものであるにかかわらず、その融資には常に政治的、軍事的配慮がつきものでありました。その投資の対象は、道路、港湾、飛行場、上下水道、郵便、電力等、各般に及んでおりますけれども、たとえばベネズエラやコロンボは、キューバと断交するや直ちに多額の投資が与えられ、メキシコ、アルゼンチンは、米州外相会議でキューバに対する集団制裁に反対した際にはきわめて冷淡に取り扱われたにもかかわらず、その後アルゼンチンがキューバとの断交に踏み切った翌日には、早くも一億五千万ドルの融資が与えられておるのでございます。かくのごときは、その一例にすぎません。
政経分離をたてまえとするわが佐藤内閣のもとにおいてすら、政治と何のかかわりなきはずの輸銀の運営が、アメリカからの風向き次第で中国への融資を差しとめるというような現状と照合して考えますとき、思い半ばに過ぐる感がするのでございます。(拍手) しからば、アジア開発銀行への出資国はどこどこであり、その理事会はどういう性格のものであるかと申しますと、確かにアジア開発銀行の資本構成は、米州開発銀行のようにアメリカ側の投資が過半を占めるというほど露骨ではありません。しかし、依然としてアメリカの投資額が第一位であり、しかも欧米投資国の大部分は、かつて国連の植民地廃止宣言に反対投票をした国の代表が、あるいはまた決議の際にはトイレに隠れて棄権した国々の代表がその過半数を占めておるのでございます。
一方においては、アジアの民を卑しみ、植民地の維持または新植民地政策の維持にきゅうきゅうとしながら、他方では、低開発国への友情と援助を語る。偽善というよりも、むしろ鬼の念仏を聞くような思いすらするのでございます。(拍手)しかも、問題はこれにとどまらず、今日アメリカの極東政策は、冷静に見て昔日のアメリカの自由の火のそれではありません。もはやだれの目にも、理性を失い、常軌を逸しておるもののごとく思われる点が多いのでございます。
今日、アメリカの軍事予算は年額六百億ドル、円に換算して二十四兆円にも達し、アメリカ総予算額の実に六五%を占めておるのでございます。そのうち極東の戦備とベトナム戦争に使われる金額は約百二十億ドル、まさに百億ドルの血を吐きつつ、アジアの燎原を馳駆するすさまじき恐竜の姿、これぞ今日のアメリカ軍国主義の実体でございます。(拍手)
かくのごときは、個人の善意からも、アメリカの開拓者的精神やリンカーンの子たちの尊敬すべき人民の自由の伝統からも、別個の、いわば一個の厳粛なる客観的社会現象でありまして、すなわち、アメリカ資本主義の現段階は、かつて日本が満州事変から盧溝橋事件に、不拡大方針から拡大方針に向かったときそのままの、いわば臨軍費の膨張にまかせたころの日本軍国主義の姿さながらの様相を呈しておるのでございます。(拍手)まさにアメリカの肝臓は硬変し、心臓は肥大し、その全身の六割の部分は紫色に硬直し、まさにアメリカの今日の状況は病気のトラ、肝臓硬変症のトラとも評すべく、明らかに理性は喪失し、精神錯乱の病状すらそこに見られるのでございます。(拍手)
このように解せずして、今日テレビ、ニュース、週刊誌等に見られるような米軍のベトナム民衆に対する非人道的な残虐と非道をどうして解釈し穫るでありましょうか。まさに百億の軍事費でアジアの経済を破壊し、荒廃せしめつつ、さらにアジアの民衆を殺戮し、しかも口には十億ドルの援助で開発を叫ぶ、その矛盾と不均衡のあまりにはなはだしいのに、われらの理性は戸惑わざるを得ないのでございます。(拍手)
思えば、いまはなき悲劇の主人公近衛公をしのべば、若き理想家悲運のケネディ大統領の面影がほうふつとして眼に浮かぶのでありますけれども、さらに、たとえて申しますならば、アイゼンハワー元帥は、かつて粛軍を主張した宇垣陸相にもたとうべく、荘厳な表現をいたく愛好されたマッカーサー元帥は、かつての荒木将軍の独善的精神主義にさも似たりでありまして、東西歴史の悲劇のあまりにも相似たるに驚く次第でございます。(拍手)
かつてアイゼンハワー大統領が、CIAと軍部の陰謀によってU2機の恥ずべき責任を転嫁され、その職を辞したるときの告別の辞こそは、われらの胸を打つものがあるのでございます。すなわち、アイゼンハワー元帥はその大統領告別の辞におきまして、次のように述べておるのでございます。「今日アメリカ政府の軍事費は、すでに巨額な比率に達し、これが一面好況のささえともなっておることは事実であるが、この巨額の軍事予算の威力が軍需産業と結び、職業軍人と結んで一大圧力機構となるならば、もはや大統領府の政策は硬直して、その柔軟性を失うに至るであろうことを余は憂慮する。」この率直なことばこそは、今日のアメリカの直面しておる危機の深さを物語って余りあるものでありましょう。極東アジアをめぐるアメリカの圧力は、すでにかくのごとく強大でありまして、アジア開発銀行の背景をなす気圧と風圧とが上述のようなものであるとするならば、もはやアジアの真の平和を念願し、アジア諸国民の真実の友たらんことを念願する日本国民の代表といたしましては、本案に対して軽々しく賛同いたしかねるゆえんのものを各位も御了承くださることと思うのでございます。(拍手)
最後に、右に関し、アメリカの著名なる政策学者の口を通じて語らしめるならば、アメリカ大統領府の政策立案のブレーントラストと称せられる政治学者ハンス・モーゲンソー博士は、もとよりアメリカ独占資本の代表ではありますけれども、対外援助の問題につきまして次のように批判いたしておるのでございます。すなわち、「今日、アメリカの経済援助政策の第一の欠陥は、総じてこれが経済福祉以外の政治的軍事目的に優先して使用されでおることである。第二に、必ずしも被援助国が平等の取り扱いを受けていないことである。援助国の受け入れ態勢が整っていないことである、政治が不安定なことである。同時に、これと並んで貿易の振興を考慮せねばならぬ。」以上はアメリカ大統領府顧問のことばでありますけれども、アメリカ独占資本の合理主義派代表の発言として、敬愛する与党各位にも他山の石として認識にとめていただきたいと思うのでございます。(拍手)
しからば最後に、それでは野党は何でも反対するのか、あなた方の積極的要望はと問われるならば、大要次のごとくお答えいたしたいのでございます。
すなわち、本案は、上述の理由によりまして、時と所と目的と背景とにおきまして、アジア諸国民の真の要望に沿い得るものでなく、いわば新植民地主義への道を開く危険性を内包するものとして私どもは賛成できないのでございます。もしそれ代案はと問われるならば、
まず第一に、アジア開発協力機構の発足には、その前提として、諸国民の政治の安定と、朝鮮並びに南北ベトナムの統一並びに内戦の終息が前提たるべきものでありまして、アメリカ政府は、アジアの平和建設を叫ぶ前に、まずアジアへの侵略戦争と内政干渉を即時停止すべきであり、(拍手)日本政府もまた、直接にせよ間接にせよ、アメリカのかかる侵略政策に手を貸してはならぬのでございます。同時に、中国の国連加盟を実現し、国連憲章の公正な精神に従って、世界の主要の国々が全部平等に、私心なくこれに参加協力するような機構こそがわれらの第一の要求でございます。
第二には、融資の目的は、厳に平和目的のみに限定すべきでありましょう。
第三には、融資の前提として、まず融資を受けるアジアの国々の民族の統一、主権の独立を尊重することが必要となるでしょう。
第四に、一部の強国の圧力やひもつき融資によってこれを束縛すべからざる厳重なる保障がなくてはなりません。
最後に、これらの融資につきましては、わが国としては特に技術面に意を用い、技術学習教育の面で日本の技師たちの協力並びに日本政府の財政援助をも含むアジアの青年たちの技術留学生の優遇に心を用いていただきたいのでございます。
以上がわれわれの積極的な提案でありまして、かくして日本国民のアジア諸国民に対してになうべき義務と役割りを果たし得ると思うのでございます。このような条件が充足されてこそ、この案の上程が、アジア諸国民からも、また全国民から超党派的に万雷の拍手をもって迎えられるでありましょう。
もしそれ、このような私どもの提案をもってあまりにも理想に走るものであると皆さまが批評せられるならば、私は最後に、次のごとくお答えいたしたいと思うのでございます。
申すまでもなく、今日は原子力と人工衛星の時代であり、もはや人類の歴史にとって世界平和の夜明け前ともいうべき重大な時代であります。人の理性はすでに火星に届き、月世界に至らんとしつつあるのでございます。
いまから百五十年ほど前、幕末の学者佐藤信淵は、鎖国の鎖を破り、万国通商の必然性を直観し、一書をあらわし、これを「混同秘策」と名づけました。幕吏の摘発することをおそれ筐底深く隠されたこの書物を、そのおいの子は、おじの志の大なるに感嘆し、「書を抱いて連日悲泣してやまず」と歴史は語っておるのでございます。(拍手)やがて明治の夜は明け、万国通商の旗は、日本民族の象徴たる日の丸の旗とともに新生日本の至るところの島々、港々でひるがえるに至ったのでございます。
今日、あれは単細胞ではあるまいかと疑われるような愚昧なアメリカの極東政策の、その片棒をかつぐのがこの本案の構想であります以上は、かかる軽薄なる内容では、とうてい目ざめつつあるアジア諸民族の期待にこたえることは困難なのであります。
多少時間が延びてまことに恐縮ですが、しかし、かくのごときにわめき立てるような皆さまではないことを信じまして——それはともあれ、アメリカの今日の状況は、やがては「よしあしのわかる日が来るセミしぐれ」、アメリカのベトナム干渉戦争に黒白のつくその日まで「いまに見よ棒食らわせんソバの花」でありまして、現段階におきまして本案はまずまず見送ることが賢明であり、この際は批准お取りやめのほど切望いたしまして、反対討論の結びといたす次第でございます。(拍手)
時間がありませんで、早口でたいへん失礼申し上げました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/6
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007・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 鯨岡兵輔君。
〔鯨岡兵輔君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/7
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008・鯨岡兵輔
○鯨岡兵輔君 私は、自由民主党を代表して、ただいま議題となっているアジア開発銀行を設立する協定に対して、賛成の討論を行ないたいと思います。
委員長から報告のあったとおり、この件に関しましては過般来外務委員会においてきわめて慎重な討議が重ねられてまいったのであります。したがって、私どもは、社会党の方々がどういう理由でこの協定に反対なさるのか、やや詳細に承知いたしておるつもりであります。また、いま重ねてこの議場において反対理由の御開陳がありましたので、さらに詳しく社会党がこの問題について考えておられる点を知り得たのであります。しかしながら、承れば承るほど、社会党のこの問題に対する考え方は、政策というよりはむしろ単なる感情論といったほうがよいのではないかとの感を深くするものであります。(拍手)
幾たびか社会党の方々も言われるように、世界動乱の目はアジアに集中せられておるのであります。アジア全域は流動ただならぬものがあります。その原因の一つは、確かにアジアの貧困にあると、これは断言できることであります。アジアがもしもっと経済的に豊かであったならば、アジアの政治的な不安は起こらずに済んだであろうと私どもは思うのであります。このことは社会党の方々も十分認めることのできるところであろうと確信いたします。何とかしてアジアをその宿命とも見える貧困から救いたいと、われわれ自由民主党は真剣にそれを考えておるのであります。(拍手)そしてこのこともまた社会党の方々だって同じであろうと私どもは思います。
もう再び戦争はしたくない、これは全世界、全人類の念願であります。もし社会主義者だけが平和を求めるものであって、他はしからずといえば、それははなはだしく僣越であるとのそしりを免れないと思うのであります。(拍手)平和を念願する世界の諸国民は、その英知を集めてその念願の達成に努力いたしておるのでございます。その最大の機構が、たとえ不満足な要素が現状にたくさんあるとしても、国際連合であることを私どもは認識しなければなりません。それなればこそ、わが国は、歴代内閣が国際連合中心の外交方針をとり、これをさらに強力なものに育てていこうと力を尽くしておるわけでございます。世界に永遠の平和を念願する諸国民もまたわれわれと同じであります。
アジア開発銀行を設立する協定を審議するにあたって、私どもが忘れてならないことは、協定の第三条に明らかなごとく、「銀行の加盟国の地位は、(i)国際連合アジア極東経済委員会の加盟国及び準加盟国並びに(ii)その他の域内国及び域外先進国で国際連合又はそのいずれかの専門機関の加盟国であるものに対して開放される。」と規定されていることによっても明白なように、国際連合の崇高な目的に合致するものでございます。前にも申し述べましたように、国際連合を中心とし、これを拡大強化し、もって世界の平和と繁栄をはからんとするわが国としては、むしろ率先してこの協定に参画することが当然のことであると申さなければなりません。(拍手)
さらに、これもまた前に申し述べましたように、独立後日いまだ浅く、経済的貧困の状態からアジアの諸国はいかにして抜け出そうかと、真剣に努力と苦悩を続けているのでございます。アジアの中の先進工業国として、日本が真にアジアの平和と繁栄を願い、そのアジアの平和と繁栄の中から自国の平和と繁栄を求めようとするのであるならば、この後進のアジアの諸国の涙ぐましい努力と苦悩に対して、正しくこれを理解し、これに対し、できるだけの援助を惜しまないという度量と行動がないならば、日本一国の繁栄いかに盛んなりといえども、日本はその意味からアジアの孤児にならざるを得ないと思うのであります。(拍手)これがわれわれ自由民主党の基本の考え方であります。そして私どもは、社会党の諸君もまたこの基本の考え方に同調してくださるであろうことを疑わないのであります。(拍手)
ただ社会党の方々は、この協定がアメリカの慫慂により、あるいはアメリカのイニシアチブによって行なわれるものであるから反対であると言われますけれども、それはまた、はなはだしくお気持ちの小さいお考えではないかと、私どもは残念に思います。(拍手)それによって起こる心配のないように、加盟諸国は、この協定各条にわたって研究し、審議を尽くしてまいったのであります。すでにして成文化された協定でその心配がないならば、たとえ後日において、その運営上アメリカの行動に非難さるべきものありとすれば、それはその時点において問題になるべきことであって、そのときこそ、わが国がイニシアチブをとって、その行動の先頭に立てばよろしい。何も遠慮することはありません。私どもはそのように思うのであります。それが独立国の権威であり、それが独立国の行動であろうと思うのでございます。(拍手)いまからとかくの心配をして、だれが言い出したことだからいやだとか、あの国が入るのならば将来が心配だからとかいうような理由で、せっかくのりっぱな目的の協定に反対なさるとは、心の狭い考え方であって、日本の名誉ある野党第一党たる社会党のとるべき態度とは思えないのでございます。(拍手)
中国に古くから、「君子は坦らかに蕩々たり、小人は長えに戚々たり。」ということばがあります。われわれは貧困と不安とで流動ただならないアジアの中で、唯一の工業先進国として、これらアジアの諸国に対してはもちろん、西欧先進諸国と交わるにも、その態度は蕩々たる、すなわち坦らかで伸び伸びとしたものであってほしいと考えます。これに反して、こせこせと小事にこだわって大道を見誤るがごとき、すなわち戚々たる態度をもって事に処することは、わが国のとるべき態度ではないと、切にそれを自戒したい気持ちでございます。
この協定の細部にわたっては、すでに詳細な審議が尽くされておりますので、あえてその内容に触れることを控えますけれども、この際、明らかに申し上げておきたいことは、アジア開発銀行を設立する協定にわれわれが賛成するのは、アジアの貧困に大きな理解を持つ日本人の総意であり、日本の責任において行なうのでありまして、どこの国にも遠慮していることではない。また、どこの国からもとやかく言われる筋合いのものではないということでございます。
ここに、この問題に対するわが党の基本的な態度を申し上げ、社会党のそれに対し若干の批判を試み、願わくは、社会党の方々がその考えを改められて、真にアジアの貧困を打開するために、この協定に進んで賛成してくださることを期待して、私の賛成討論を終わりたいと思います。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/8
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009・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) これにて討論は終局いたしました。
採決いたします。
本件は委員長報告のとおり承認するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/9
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010・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本件は委員長報告のとおり承認するに決しました。
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日程第二 銃砲刀剣類所持等取締法及び火薬類取締法の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/10
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011・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第二、銃砲刀剣類所持等取締法及び火薬類取締法の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/11
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012・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。地方行政委員長岡崎英城君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔岡崎英城君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/12
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013・岡崎英城
○岡崎英城君 ただいま議題となりました銃砲刀剣数所持等取締法及び火薬類取締法の一部を改正する法律案につきまして、地方行政委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案は、銃砲刀剣熱による危害を未然に防止しようとするものでありまして、その要旨は、猟銃及び空気銃の所持に関する講習会及び所持許可の更新制度を設けるとともに、銃砲の所持許可についての基準を整備する等、その所持、使用及び保管に関する規制を強化するほか、猟銃等に使用される実包、空包等に関する取り締まりの実効を確保するため、その譲渡、譲り受け、輸入及び消費の許可に関する権限を都道府県知事から都道府県公安委員会に移そうとするものであります。
本案は、参議院先議のため当委員会に予備付託され、四月二十日本付託となり、同二十一日永山国務大臣より提案理由の説明を聴取し、自来熱心に審査を続けてまいりましたが、その詳細は会議録に譲りたいと存じます。
五月二十七日、質疑を終了し、討論の通告もなく、採決の結果、全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決定いたしました。
右、御報告申し上げます。(拍手)
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014・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本案は委員長報告のとおり決するに御異議はありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/14
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015・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日程第三 港湾運送事業法の一部を改正する
法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/15
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016・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第三、港湾運送事業法の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/16
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017・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。運輸委員長古川丈吉君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔古川丈吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/17
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018・古川丈吉
○古川丈吉君 ただいま議題となりました港湾運送事業法の一部を改正する法律案について、運輸委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
まず、本案の趣旨を簡単に御説明申し上げます。
近年、わが国経済の高度成長に伴い、港湾における取り扱い貨物は激増しており、これに対応して、港湾荷役の機械化、能率化が各方面から強く要請されているのであります。
本案は、このような情勢にかんがみまして、港湾運送事業の近代化並びに合理化をはかろうとするものでありまして、改正の要点を申し上げますと、 第一点は、免許基準を整備すること。すなわち、施設及び労働者については、事業の種類及び港湾ごとに一定規模以上のものとすること。
第二点は、港湾運送事業者に対し、港湾運送の種別ごとに一定率以上の作業の直営を義務づけるとともに、一定の要件のもとに下請制度を認め、また、再下請を禁止すること。
第三点は、船積み貨物の位置の固定、警備等の行為を行なう事業を港湾運送関連事業として、新たに港湾運送事業法の規制の対象とすること。の三点であります。
本案は、三月十四日本委員会に付託され、同十六日政府より提案理由の説明を聴取し、七回にわたって慎重審議を行ない、その間、自由民主党、日本社会党、民主社会党を代表して、自由民主党砂田重民君より、港湾運送関連事業に船倉の清掃を加えるとともに、関連事業の料金を実施前に届け出る等の修正案が提出されました。
かくて、五月二十七日、質疑を終了し、討論を省略、採決の結果、修正案及び修正案を除く原案は起立総員をもって可決され、よって、本案は修正議決すべきものと決しました。
なお、本案に対して、政府は、港湾運送の新秩序の確立にあたっては、各港の実情に沿って育成し、その能力の活用をはかり、また、省令の制定にあたっては、幅広い考慮を払うとともに、港湾運送関連事業の実態にかんがみ、近い将来、これを本来の港湾運送事業として規制を強化すべき旨の附帯決議が付されました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/18
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019・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/19
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020・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり決しました。
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日程第四 私立学校教職員共済組合法等の一
部を改正する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/20
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021・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第四、私立学校教職員共済組合法等の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/21
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022・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。文教委員長八田貞義君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔八田貞義君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/22
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023・八田貞義
○八田貞義君 ただいま議題となりました法律案について、文教委員会における審査の経過とその結果を御報告申し上げます。
本案の要旨は、私立学校教職員共済組合の行なう給付の充実、改善をはかるため、長期給付に要する費用に対する国の補助率を引き上げるとともに、旧長期組合員期間に対する給付額算定の基礎となる平均標準給与の月額の算定方法を改め、組合員期間が二十年以上の者にかかる既裁定の低額年金の是正をはかる等、所要の改正を行なおうとするものであります。
本案は、去る四月二日当委員長に付託となり、同六日政府より提案理由の説明を聴取いたしました。四月二十七日には、私立学校教職員共済組合理事長佐々木良吉君外一名の参考人から本案について意見を聴取するなど、慎重に審査をいたしましたが、その詳細は会議録によって御承知を願います。
かくて、五月二十七日、本案に対する質疑を終了、次いで、自由民主党谷川和穗君外八名から、本案に対し、私立学校教職員共済組合が業務を行なうに要する経費について、財源調整のため必要があるときは国が補助することができることとするとともに、既裁定の廃疾年金については、組合員期間のいかんにかかわらず、その最低額を保障する旨の、自由民主党、日本社会党、民主社会党共同提案にかかる修正案が提出されました。
本修正案及び原案については、討論の通告がないため、直ちに採決に入りましたところ、本修正案及び修正部分を除く原案は起立総員をもって可決されました。
次いで、日本社会党高橋重信君外九名から、本案に対し、本法が全私立学校に適用されるよう措置すること、高齢組合員に対し長期給付支給の措置を講ずること、旧長期組合員期間にかかる給付または既裁定年金額について新法を適用すること、いわゆる年金スライド原則規定の実施基準を明確にすること、整理資源を確保するため必要な国庫補助を行なうこと、私立学校教職員の給与改善、給与体系の整備等をはかるため適切な指導助言を行なうこと、及び短期給付事業の費用に対する国の助成と長期給付事業の費用に対する国庫補助率の引き上げにつとめることを趣旨とする自由民主党、日本社会党、民主社会党共同提案にかかる附帯決議案が提出され、採決の結果、異議なく可決されました。
かくて、本案は附帯決議を付して修正議決されました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/23
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024・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は修正であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議はありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/24
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025・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり決しました。
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日程第五 農林省設置法の一部を改正する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/25
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026・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第五、農林省設置法の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/26
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027・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。内閣委員長木村武雄君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔木村武雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/27
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028・木村武雄
○木村武雄君 ただいま議題となりました農林省設置法の一部を改正する法律案につきまして、内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案の要旨は、水産試験研究体制の再編整備をはかるため、水産庁の附属機関として遠洋水産研究所及び南西海区研究所を設置し、南海区水産研究所及び内海区水産研究所を廃止することとするほか、八郎潟新農村建設事業団への事業委託に伴う減員等により、職員の定員を差し引き二百人減員しようとするものであります。
本案は、二月二十一日本委員会に付託、二月二十二日政府より提案理由の説明を聴取し、慎重審議を行ない、五月二十七日、質疑を終了いたしましたところ、伊能委員より、施行期日を「公布の日」に改める旨の修正案が提出され、趣旨説明の後、討論に入り、日本社会党を代表して田口誠治委員より反対の意見が述べられ、採決の結果、多数をもって修正案のとおり修正議決すべきものと決定いたしました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/28
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029・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/29
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030・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり決しました。
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日程第六 国民年金法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第七 児童扶養手当法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第八 重度精神薄弱児扶養手当法の一部を改正する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/30
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031・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 日程第六、国民年金法の一部を改正する法律案、日程第七、児童扶養手当法の一部を改正する法律案、日程第八、重度精神薄弱児扶養手当法の一部を改正する法律案、右三案を一括して議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/31
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032・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 委員長の報告を求めます。社会労働委員長田中正巳君。
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〔報告書は本号末尾に掲載〕
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〔田中正巳君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/32
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033・田中正巳
○田中正巳君 ただいま議題となりました三法案について、社会労働委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
まず、国民年金法の一部を改正する法律案について申し上げます。
本案は、最近における国民生活水準の著しい向上と人口構造の急速な老齢化傾向等にかんがみ、拠出制年金額を大幅に引き上げるほか、制度全般にわたる改善を行ない、国民の老後の生活保障を充実強化しようとするもので、そのおもな内容は、
第一に、拠出制年金額の引き上げについてでありますが、老齢年金額は、保険料納付期間一年につき二千四百円、保険料免除期間一年につき八百円で計算することとし、これによって、二十五年拠出の標準的な老齢年金額は現行の二万四千円から六万円に、月額にして二千円から五千円に引き上げ、夫婦で一万円年金を実現しようとするものであります。
また、障害年金及び子二人を扶養する場合の母子年金、準母子年金の最低保障額を二万四千円から六万円に、遺児年金の最低保障額を一万二千円から三万円に引き上げ、一級障害年金の加算額も六千円から一万二千円に引き上げることであります。
第二に、障害年金等の支給要件の緩和でありますが、その第一点は、障害年金の支給対象となる障害の範囲を、すべての内部疾患による障害にまで拡大するとともに、母子年金等の支給対象となる子の障害の範囲も、同様にすべての障害を対象とすること、第二点は、従来対象外とされておりました事後重症につきましても、障害年金の支給対象とすることであります。
第三に、保険料の額の改定でありますが、その額はさしあたり百円の引き上げにとどめ、昭和四十二年一月から、三十五歳以上の者は月額二百五十円、三十五歳未満の者は月額二百円とし、以後段階的に引き上げることであります。
次に、福祉年金についてでありますが、老齢福祉年金額は、現行の一万五千六百円から一万八千円に、障害福祉年金額は二万四千円から二万六千四百円に、母子福祉年金及び準母子福祉年金額は一万八千円から二万四百円に、それぞれ二千四百円、月額にして二百円引き上げることであります。
また、障害福祉年金等の支給要件の緩和については、拠出制年金の場合と同様の取り扱いをするものであります。
次に、支給制限の緩和でありますが、その第一点は、受給権者本人の所得による支給制限の限度額を二十二万円から二十四万円に引き上げること、第二点は、障害福祉年金受給権者の配偶者の所得による支給制限を廃止し、扶養義務者の所得による支給制限に吸収すること、第三点は、受給権者の扶養義務者の所得による支給制限の基準額を七十一万六千四百円から八十一万七千五百円に引き上げること、第四点は、夫婦で老齢福祉年金と障害福祉年金とを受ける場合の老齢福祉年金の支給停止を廃止すること等であります。
本案は、三月二十四日本会議において趣旨の説明が行なわれ、同日本委員会に付託となり、自来熱心なる質疑応答が行なわれたのでありますが、その詳細は会議録にて御承知願います。
かくて、昨日の委員会において質疑を終了いたしましたところ、自民、社会、民主三党共同提出にかかる福祉年金における配偶者の所得制限の緩和についての修正案が提出され、粟山秀委員より趣旨説明のあった後、採決の結果、本案は修正議決すべきものと議決した次第であります。
なお、本案に対し附帯決議を付することに決しました。
次に、児童扶養手当法の一部を改正する法律案について申し上げます。
本案は、児童扶養手当制度についてその内容の充実をはかるため、手当額を引き上げ、支給制限の緩和等を行なわんとするもので、改正案の要点は、一、手当の額を月額二百円引き上げること。
二、受給資格者本人の所得による手当の支給制限の限度額二十二万円を二十四万円に引き上げ、配偶者の所得による制限を受給資格者の扶養義務者の所得による支給制限に吸収すること。三、受給資格者本人と生計を同じくする扶養義務者の所得による手当の支給制限の基準額をその扶養親族数に応じて緩和し、扶養親族が五人である場合の基準額を七十一万六千四百円から八十一万七千五百円に引き上げること。等であります。
次に、重度精神薄弱児扶養手当法の一部を改正する法律案について申し上げます。
本案は、身体に重度の障害を有する児童の福祉の増進をはかるため、これらの児童についても新たに手当を支給するとともに、手当の名称を特別児童扶養手当と改め、支給制限の緩和については、児童扶養手当法の改正案と同趣旨の改正を行なわんとするものであります。
両法案は、去る三月十日本会議において趣旨の説明が行なわれた後、同日本委員会に付託され、昨三十日の委員会において質疑を終了し、採決の結果、児童扶養手当法の一部を改正する法律案は原案のとおり、また、重度精神薄弱児扶養手当法の一部を改正する法律案については、自民、社会、民社三党共同提出にかかる支給金額の引き上げについての修正案が伊藤よし子委員より提案され、その結果、本案は修正議決すべきものと議決した次第であります。
なお、両法案に対しても附帯決議を付することに決しました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/33
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034・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 三案を一括して採決いたします。
日程第六及び第八の委員長の報告はいずれも修正、第七の委員長の報告は可決であります。三案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/34
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035・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 起立多数。よって、三案とも委員長報告のとおり決しました。
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臨時医療保険審議会法案(内閣提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/35
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036・山口喜久一郎
○議長(山口喜久一郎君) 内閣提出、臨時医療保険審議会法案について、趣旨の説明を求めます。厚生大臣鈴木善幸君。
〔議長退席、副議長着席〕
〔国務大臣鈴木善幸君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/36
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037・鈴木善幸
○国務大臣(鈴木善幸君) 臨時医療保険審議会法案について、その趣旨を御説明いたします。
医療保険各制度は、政府管掌健康保険をはじめとして、財政収支が悪化しており、また、各制度の給付水準の格差是正、負担の均衡等の、国民皆保険実施後における諸問題が山積しておりますが、それらの諸問題に対し根本的な検討を早急に行なう必要があることは、すでに関係各審議会や関係者からも強く指摘されているところであります。
政府は、さきに健康保険及び船員保険の疾病部門に関する当面の財政対策を講じたのでありますが、これはあくまで応急的な措置にとどまるものでありまして、国会における御審議に際しても明らかにいたしましたように、医療保険制度の将来にわたる安定と健全な発展を期するため、医療保険制度の全般にわたる基本的な諸問題について総合的かつ抜本的な検討を進め、早急にその具体策を樹立いたしたいと考えるものであります。しかるに、現状においては、医療保険制度の全般にわたりこれを審議し早急に結論をまとめていくための適当な総合的かつ専門的な審議機関がないのでありまして、この問題が国民の健康及び国民生活に関するところきわめて大きいものがあることにかんがみ、広く国民的な立場に立って識者の御意見を十分お聞きいたしたく、この際、厚生省に臨時の機関として臨時医療審議会を設置することといたした次第であります。
以上がこの法律案を提出いたしました理由でありますが、次に、この法律案の概要を御説明いたします。
まず、審議会の所掌事務は、厚生大臣の諮問に応じて医療保険制度の改善に関する基本的事項について調査審議し、またはみずから調査審議して関係各大臣に意見を申し出ることといたしております。
次に、組織につきましては、委員を十二人以内とし、この方面に学識経験のある方々の中から厚生大臣が任命することといたしました。
さらに、本審議会の調査審議に関し、関係行政機関、地方公共団体及び関係団体から資料の提出等の協力を求めることができる旨を規定いたしております。
なお、附則で、厚生大臣は、この審議会で調査審議する事項については、健康保険法等の規定にかかわらず、社会保険審議会に諮問することを要しないものとし、さらに、この審議会の設置期間を昭和四十二年三月三十一日までとしておりますが、その趣旨は、審議の重複を避けつつ、医療保険制度につき総合的かつ抜本的に検討を進めていただき、かつ、できる限り早期に結論を出していただくことを期待している次第であります。
以上が臨時医療保険審議会法案の趣旨でございます。(拍手)
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臨時医療保険審議会法案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/37
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038・園田直
○副議長(園田直君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。淡谷悠藏君。
〔淡谷悠藏君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/38
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039・淡谷悠藏
○淡谷悠藏君 ただいま政府から提案されました臨時医療保険審議会法案について、日本社会党を代表し、質問をいたします。(拍手)
本案の説明で鈴木厚生大臣は、医療保険各制度に多くの問題が山積していることをみずから認めております。政府管掌健康保険をはじめとして財政収支が悪化しており、各制度の給付水準の格差是正、負担の均衡等、国民皆保険実施後の諸問題はもちろん、医業経営実態調査と医療費決定組織の問題、医療費体系の合理化、医薬分業の推進、医療機関の規制、機能分化及び要員の確保、保険医制度と支払い方式の改善、プール制、薬の対策等、解決を急ぐべき問題としては、すでに、昭和四十年九月十五日、社会保障制度審議会の「医療費問題に関する意見および保険三法改正案に対する答申」の中にも述べられております。特に、政府が最も気にしている保険財政の赤字に関して、答申案は、「確かにいまの赤字状態は放置を許さないものがある。しかしながら、その合理化適正化の実現は、まず政府の決意にかかっている。」といっているのであります。この促された決意が、今回の臨時医療保険審議会法案の提出としてあらわれたとしますれば、まことにたよりない決意といわざるを得ないのであります。(拍手)社会保障制度審議会の、「政府は総力をあげ、両三年を目途として、真剣にその検討に取組むべきである。」といっておるのは、新たに審議会をつくれということではなく、政府みずから決意を持って真剣にその検討に取り組むべきことを要求しておるものと考えるのでありますが、政府はこれをどう受けとめたのか。一つの審議会の答申による要求に、別な審議会の設置をもってこたえるということは、明らかにこれまでの審議会に対して不信を表明したものと思うが、どうか。(拍手) 社会保障制度審議会は、社会保障制度を総合的な見地から審議する上級審的役割りを果たす機関であるから、臨時医療保険審議会とは競合しない、なお、臨時医療保険審議会の答申に基づく成案については当然社会保障制度審議会に諮問する、また、社会保険審議会は、政府管掌健康保険、日雇い健康保険、船員保険に関する審議会であり、組合健康保険、共済組合短期、国民健康保険を含めて総合的に審議する役割りはない、したがって、社会保険審議会に対し重複して諮問する必要はないと言っておりますが、上級審的役割りを果たす機関であるからといって、臨時医療保険審議会の答申に基づく成案をまた社会保障制度審議会に重複諮問せねばならないということでは、提案されている臨時医療保険審議会の権威なさをみずから証拠立てているではありませんか。もし二つの審議会の答申が違った場合はどうなさいます。社会保障制度審議会を最高裁判所として最高答申とするつもりなのか。どんな理由をつけようとも、これは審議会の乱造であり、屋上さらに屋を架するものであります。しかも屋根の上に屋根をつくって、かえって雨漏りをひどくしているようなものであります。(拍手)
一体、政府は審議会や調査会があまりにもお好きであります。広く意見を求め、調査に協力を求めることは、決して悪いことではありません。だが、せっかくそうして求めた答申を尊重し、実行したためしのほとんどないのが悪いのであります。今国会の審議を通じても明らかなように、厚生省事務当局の見解として、国民健康保険の給付改善は今後十年間は行なわず、他の健康保険の十割給付こそ再検討すべきだと言い、鈴木厚生大臣は、国民健康保険の給付改善は考えておらず、各健康保険の総合調整を行なったあと再検討したいと答弁し、福田大蔵大臣は、医療費増高の歯どめには患者の一部負担しかないと答えるなど、政府の基本的な考えは、給付水準の引き下げ、患者負担の増徴、保険料引き上げなどにより、保険主義を貫くことがはっきりしているのであります。
決意がないのではない。決意は制度改悪にあり、その決意に、臨時医療保険審議会という新しい隠れみの、民主主義のベールをかぶせて、みずからの責任を免れようとする意図があまりにも明瞭であります。(拍手)
これまでも、各種審議会の構成委員に骨があって、正しい答申を行ない、たとえ困難ではあっても将来のため政府の真剣な決意を促し、その決意の実行を迫りでもすれば、すぐその審議会はたな上げにして、別な、政府の考えどおりの答申の出るような人選で新しい審議会をつくろうとする、これは昔からの政府の手であります。政府は、審議会を骨抜きにすることは知っておりますが、骨まで愛することは知らないのであります。
本審議会の委員構成についても、政府はこれまでの癖を露骨に出しています。委員構成には、これまでの審議会の構成とは違って、被保険者、事業主、公益の三者構成とせず、学識経験者十二名以内をもって組織することになっており、厚生大臣の任命によるものとなっております。これまでの審議会に比べて、一そう政府の御用審議会的色彩を濃くしたこの方針に対していち早く抵抗が示されたために、鈴木厚生大臣は、なまの形の三者構成はとらないが、ふさわしい推薦には耳を傾けると言っているが、このことばはどういう意味なのか。その推薦者にはどういう団体を選ぶのか。皆保険である限り、国民は被保険者か、事業主か、公益側か、いずれかに入っているはずだが、ことさらになまの形の三者構成はとらない理由は何か、納得のいく御答弁がほしいのであります。これは被保険者代表の意向を封じ込めるものといわれてもしかたがないと思うのですが、事実上の三者構成もやむを得ないが、なまの形の三者構成はとらないなどという回りくどいことではなく、ずばりほんとうの腹を打ち割って答えてほしいのであります。どだい、社会保障制度審議会でさえ政府に促したのは、こんな小手先の審議会の機構いじりではなかったはずであります。
国民の総医療費は本年度実に一兆三千億円をこす見込みであります。「政府はこれまで、腰だめ式な医療費の引上げと、保険財政の収支のつじつまをあわせることのみに腐心してきたきらいがあり、今回もまたその例にもれない。しかし、問題はもはや好むと好まないにかかわらず、そういう取組み方をゆるされないところまできてしまっているのである。」という、これまた社会保障制度審議会の答申中のことばでありますが、事態は全くせっぱ詰まった段階に達し、文字どおり医療保険制度の将来にわたる安定と健全な発展を期するため、医療保険制度の全般にわたる基本的な諸問題について、総合的かつ抜本的な検討を進め、早急にその具体策を立てねばならぬことは、この法案の提案理由に言われたとおりであります。言われたとおりではありますが、それがまた新しい審議会をつくることで済むことでないのは、政府も十分にわかっているはずであります。大きな財政赤字をかかえていることも、これまで政府が制度の根本的な検討を怠っていたためで、特に医療費その他の急激な増加に至っては、高度経済成長政策によるところが大きく、それが行き詰まった今日、さまざまな矛盾と混乱を招いているのであります。
昭和三十八年の厚生省の医療保険調整基金構想も、その意図を探れば、国民健康保険の低い給付水準をそのままに据え置く一方、国庫負担を行なわずに、被用者健康保険被保険者の負担を増すことで財政プールを行ない、離職者、老齢退職者、家族の給付水準を手直ししようとするものであり、結果として、高い給付水準における制度の統合一元化をはかるどころか、低い給付水準をそのままにして、さらに制度を複雑化させるものにすぎず、この構想もむなしく消え去りました。
昭和四十年二月の、総報酬制の採用と薬剤費の半額負担を骨子とする、いわゆる保険三法改正案も、これまた、国民の激しい抵抗にあって敗れ去り、この国会に提案した健康保険法等の一部改正案が、これも大幅修正を受けざるを得なかったのもそのためであります。
医療保険の赤字の原因は、国の財政経済政策にも関連して根深く、制度の健全化をはかるためには、保険主義に固執し、その原則を貫こうとするだけではとうていだめであることに政府は気づいているでしょうか。いや、気づいていないとは言わせません。
「社会保障の医療部門には、母子保健、肢体不自由児等要保護児童対策、心身障害者対策、精神衛生、成人病対策、救急医療等主として公共的社会的に処理されるものと、社会保険のごとく関係者によって個別的に処理されるものがある。社会保障の医療部門はわが国において著しく立ちおくれている。また、この両分野の間における調整も十分でない。今後、社会保障全体を推進し、その水準を先進諸国のそれに近づけるとともに、各制度間の不均衡をもたださなければならない。そのためには、いまやより高い次元に立って医療保障をどう展開させるべきか、その見通しにつき根本的に再検討すべき時機にある。医療保険だけを取上げてみても、政府はみずから管掌する三つの保険の赤字には大きな関心をもつが、医療保険を全体としてどう総合的に発展させるかの着眼にとぼしい。こういう姿勢は強く批判されなければならない。」と、社会保障制度審議会は、すでに昨年九月、医療費問題に関して政府に意見を述べておるのであります。これを見ていないというならば、不勉強もはなはだしく、見ていて何ら成案を持たないとせば、怠慢この上はございません。このような態度では、医療保険審議会を百つくっても同じこと、何の得るところもないのであります。
政府は、依然として自助、相互扶助の保険主義を固執し、かつ、低い給付水準における総合調整を企図するだけで、国庫負担の定率化、給付水準の大幅引き上げ等、名実ともに保障主義に徹した医療制度を確立することの決意を持ってこの法案に臨んでいるのか。危機に立つわが国の社会保険、社会保障の将来をどう構想しているのか。危機は、負担を国民に押しつけるだけでは切り抜けられるものではございません。
現行の医療保険制度は、たとえ不十分なものであるとしても、国民の権利として確立されたものであります。したがって、その運営は、被保険者の権利と利益を最も尊重して、民主的に行なわれなければならない。まさにその第一歩において民主主義を否定し、国民大衆の利益を踏みにじる臨時医療保険審議会の設置などでごまかしたり、隠れたりせずに、制度の抜本的改正の構想を示されたい。
国庫負担の定率化をどうするのか、給付水準の大幅引き上げをどうするのか、名実ともに保障主義に徹した医療保障制度を確立する勇気があるのかないのか。これは鈴木厚生大臣の御答弁だけでは心もとない。佐藤総理大臣並びに福田大蔵大臣の責任ある答弁を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/39
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040・佐藤榮作
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
医療保険の現状から見まして、これに将来の安定、発展のためにこの際抜本的な、総合的な検討を必要とする、これは淡谷君もおっしゃるとおりでありまして、私どももそのとおりに考えておりますから、今回審議会をつくろうといたしたのであります。
御承知のように、いままであります社会保障制度審議会あるいは社会保険審議会は、これはただいまのような総合的、抜本的検討をいたしますのにはその権限、権能等必ずしも適当ではない、かように私は思いますので、この際審議会をつくって、そうしていまあります二つの審議会と十分調整をはかって、いわゆる屋上屋をつくるようなことなしに、この新しくつくる、臨時に設ける審議会で専門的にただいまのような検討をしていこう、こういうのでございます。この点は、審議会をつくるだけがもちろん能ではありません。したがいまして、審議会でりっぱな答申、国民的視野に立っての答申をいただいて、それで医療制度について真剣に取り組んでまいるつもりであります。
また、政府は、かような審議会を設けますが、決して審議会に責任を転嫁するような考えは持っておりません。具体的な施策の遂行、それこそは政府の責任でありますし、また、私が申し上げるまでもなく、あらゆる機会に申し上げておりますように、国民生活、これを安定、向上させ、同時に福祉を増進することは、これは政治の目標であり、政府の責任でもあります。かような意味におきまして、政府は医療保険だけではなく、所得保障につきましても、十分社会保障の充実をはかるように、今後とも責任を持って遂行していくつもりでございます。ただいまのように審議会を設けて、これで事足りた、かような考えでないことをはっきり申し上げておきます。(拍手)
〔国務大臣福田赳夫君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/40
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041・福田赳夫
○国務大臣(福田赳夫君) 医療保険制度が財政的に非常な重大な危機に来ておることは、淡谷さんもおっしゃるとおりであります。それに対して一体どうするか。いまあなたの全体のお話を聞いておりますと、国庫負担を増せばいいんだというようなお考えのようでありますが、国庫負担を増しますれば、それは一応は解決になります。しかし、国民の税負担を一体どうするか、こういう大きな問題がまた起こってくるわけであります。それだけにたよることはできない。やはりその前に問題があると思うのであります。
いま医療費がだんだんふえて、国民総所得の五%も占めるというような状態になり、しかもその増加の割合が二〇%、二〇%とふえてくる。しかも財源はどうだというと、わずかに一〇%しかふえない。これじゃいずれは行き詰まってしまうのであります。そういう状態に対処しまして、私は、これは個人でありますけれども、どうしてもこれは各種保険の統合、整備という問題に手をつけなければいかぬ、こういうふうに考えます。同時に、それだけ医療費がふえる、その一つの原因は、これは医療のいわゆる乱診乱療というようなものもいわれます。それに対する自動的歯どめの装置というものが整っていない。それをどういうふうに整えていくかという問題もあると思うのであります。
そういう国庫負担の前提、以前の問題としての重要なる諸問題を新しい角度から検討する、鈴木厚生大臣がそういう構想を持たれたことは、私はまことに時宜を得たものである、全面的に協力をいたしたい、かように考えております。(拍手)
〔国務大臣鈴木善幸君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/41
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042・鈴木善幸
○国務大臣(鈴木善幸君) お答えいたします。
今国会で、さきに国民健康保険法の改正、また、政府管掌の健康保険法の改正等を御審議を願ったのでありますが、この改正は、応急、当面の対策を立てたものでございまして、医療保険制度は、いまや財政の面からいたしましても、制度の面からいたしましても、根本的な改善を要する時期にきておると思うのでございます。わが国の医療保険制度が、あるいは国民健康保険、政府管掌の健康保険、あるいは組合健保、日雇い健保、船員保険、それに国家公務員共済保険、地方公務員共済保険等各種の医療保険制度が成立をいたしておるのでありますが、その給付の内容におきましても、また被保険者の負担の面からいたしましても、きわめて不均衡でございます。これらを是正いたしまして、国民皆保険のもとにおきまする医療制度を確立するということが当面の急務と私ども感じておるのであります。
しかるに、この各種医療保険制度全体を審議いたしますところの審議機関が、現在のところ遺憾ながらございません。社会保障制度審議会はございますが、これはただに医療保険だけでなしに、所得保障も含めて、わが国の社会保障全体を審議する機関でございます。また、社会保障審議会は政府が直接やっておりまする医療保険だけを対象とするものでございまして、ただいま申し上げた医療保険制度全体を総合的かつ専門的に審議する機関といたしまして、このたび臨時医療保険審議会をつくろうと考えた次第でございます。この審議会を通じまして、私ども広く国民各層の御意見を十分に拝聴いたしまして、しかる後、政府の責任においてこれに対する抜本策を立て、そして国会の御審議を願う所存でございます。
また次に、この審議会をつくることが政府の政治責任を回避するものではないか、こういう御指摘でございますが、決してさようではございません。今回は具体的な政府の案を審議会にかけまして、明四十二年度までにこれが具体化をはかろうと考えておる次第でございます。
さらに、委員の構成につきまして、従来のような三者構成を避けて学識経験者だけの委員を選ぶということはいかがか、こういう御質問であるのでありますが、利害関係団体の代表者をもって構成する三者構成、こういう立場でなしに、広く国民的な視野に立ったところの学識経験者の御意見を十分聞きまして、そして利害関係者にとらわれない立場で、全国民的な立場で成案を得たい、こういう考え方に基づくものであります。もとより、あるいは医師会でありますとか、あるいは支払い団体等の御意見を反映させるために、その人選にあたりましては十分配慮をいたす所存でございます。
社会保障制度全般についての政府の姿勢につきましては、先ほど総理からお答えがあったとおりでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105105254X05719660531/42
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043・園田直
○副議長(園田直君) これにて質疑は終了いたしました。
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044・園田直
○副議長(園田直君) 本日は、これにて散会いたします。
午後五時四分散会
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出席国務大臣
内閣総理大臣 佐藤 榮作君
外 務 大 臣 椎名悦三郎君
大 蔵 大 臣 福田 赳夫君
厚 生 大 臣 鈴木 善幸君
農 林 大 臣 坂田 英一君
運輸大臣臨時
代理
国 務 大 臣 永山 忠則君
出席政府委員
内閣法制局長官 高辻 正巳君
文部政務次官 中野 文門君
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