1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十一年一月二十八日(金曜日)
午後三時九分開議
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○議事日程 第七号
昭和四十一年一月二十八日
午後三時開議
第一 国務大臣の演説に関する件
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○本日の会議に付した案件
一、請暇の件
一、常任委員長辞任の件
一、常任委員長の選挙
一、日程第一 国務大臣の演説に関する件
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001・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/1
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002・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) これより本日の会議を開きます。
この際、おはかりいたします。
館哲二君から、病気のため二十九日間請暇の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/2
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003・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 御異議ないと認めます。よって許可することに決しました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/3
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004・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) この際、常任委員長の辞任につき、おはかりいたします。
内閣委員長 柴田 栄君
地方行政委員長 天坊 裕彦君
大蔵委員長 西田 信一君
文教委員長 山下 春江君
社会労働委員長 小柳 勇君
農林水産委員長 仲原 善一君
商工委員長 豊田 雅孝君
運輸委員長 松平 勇雄君
予算委員長 平島 敏夫君から、それぞれ常任委員長を辞任いたしたいとの申し出がございました。
いずれも許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/4
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005・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 御異議ないと認めます。よっていずれも許可することに決しました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/5
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006・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) つきましてはこの際、日程に追加して、
常任委員長の選挙を行ないたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/6
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007・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 御異議ないと認めます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/7
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008・栗原祐幸
○栗原祐幸君 常任委員長の選挙は、その手続を省略し、いずれも議長において指名することの動議を提出いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/8
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009・柳岡秋夫
○柳岡秋夫君 私は、ただいまの栗原君の動議に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/9
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010・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 栗原君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/10
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011・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 御異議ないと認めます。
よって議長は、内閣委員長に熊谷太三郎君を指名いたします。
〔拍手〕
地方行政委員長に林田正治君を指名いたします。
〔拍手〕
大蔵委員長に徳永正利君を指名いたします。
〔拍手〕
文教委員長に二木謙吾君を指名いたします。
〔拍手〕
社会労働委員長に阿部竹松君を指名いたします。
〔拍手〕
農林水産委員長に山崎斉君を指名いたします。
〔拍手〕
商工委員長に村上春藏君を指名いたします。
〔拍手〕
運輸委員長に江藤智君を指名いたします。
〔拍手〕
予算委員長に石原幹市郎君を指名いたします。
〔拍手〕
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/11
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012・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 日程第一、国務大臣の演説に関する件。
内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、藤山国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。佐藤内閣総理大臣。
〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/12
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013・佐藤榮作
○国務大臣(佐藤榮作君) 第五十一回通常国会の再開に際し、昭和四十一年度予算その他の重要案件の審議を求めるにあたり、当面する内外の諸問題について政府の所信を明らかにいたしたいと存じます。
私は、本年こそ、不況を克服し、経済を立て直すべき年であるとかたく決意し、こん身の勇気をもってこの問題に対処してまいる覚悟であります。このため、本格的な公債政策を取り入れるとともに、大幅な減税を断行することといたしました。これは財政面から積極的に景気の回復をはかり、経済の均衡ある発展と国民生活の安定向上を実現するためであります。
昨年の夏以来強力に推進いたしました一連の景気対策は、現在ようやくその効果をあらわし始め、民間における生産や設備の調整、経営の合理化等の真剣な努力と相まって四十一年度予算の能率的な実施により、経済は本年には必ずや明るさを取り戻すものと確信し、また、何としてもそうしなければならないと強く決意しております。(拍手)
国民経済が安定的な成長を続けるためには、有効需要と供給能力とが均衡を保ちながら拡大していくことが必要であり、農業、中小企業等、生産性の低い部門の近代化も促進されねばなりません。かかる観点のもとに、政府は、不況の克服、物価の安定を最優先として総額四兆三千百億円の一般会計予算、二兆三百億円の財政投融資という大型積極の財政規模を設定し、さらに国税、地方税を通じ、平年度三千六百億円に及ぶ画期的な大幅減税を実施いたします。
今回の減税は、中小所得者の負担軽減のための所得税の減税と、企業の体質改善、特に中小企業の経営基盤の強化に資するための企業減税を最重点といたしました。この結果、ここ数年来二二%前後で推移した国民所得に対する租税負担率は、四十一年度においては二〇・二%と大幅に軽減され、昭和三十五年度以来の最低の負担となります。このことは国民生活の安定に貢献することはもとより、需要の拡大、企業の体質改善等を通じて景気の回復に大きく寄与するものと信じます。
公債の発行が国の財政を不健全にし、インフレーションに発展するとして反対を唱える向きも一部にはありますが、物資が極度に欠乏していた戦時中及び戦後の当時と、経済力の充実した今日においては、条件は全く異なっております。公債政策は、有効需要の調整を通じて経済の安定に最も効果をあげるものであり、インフレーションを押え、デフレーションを回避しつつ、各般の財政需要に安定的にこたえていくものであります。財政がそのときどきの経済情勢に応じて適正規模に維持されれば、決してインフレーションになる心配はありません。私は、今後も健全な財政の確立につとめ、絶対にインフレーションを招来しないことを、国民諸君にかたく約束いたします。(拍手)
なお、昨今の不況下にかかわらず、幸いにして輸出貿易は大幅に増進し、国際収支は好調に推移しております。国民経済の安定と発展のためには、経済規模の拡大に応じて外貨準備の漸増をはかることが何よりも必要であります。このため、国内的には、国際競争力を強化するための輸出振興策を講ずるとともに、対外的には世界貿易拡大のための国際的努力に対し、協調を保ちつつ、貿易環境の改善をはかり、もって輸出の拡大のため最善を尽くしてまいります。
現在、わが国経済は、きわめて苦しい事態に当面しておりますが、幸いに、若い体質に恵まれ、強い底力を蔵しております。国民各位の理解と協力のもとに、適正な経済政策を行なうことによってわが国経済は、今日の事態を早期に克服し得るばかりでなく、近い将来、必ずや栄光に満ちた繁栄の道が約束されるであろうことを、私はかたく信ずるものであります。(拍手)
私は、平和に徹することを外交の基本的方針としてまいりましたが、真の平和への道は困難、かつ、きびしいものがあります。世界の諸国が、基本的には、自国の主張のみに固執することなく、話し合いによって問題の解決をはかる姿勢を保ち、そのための根強い努力を続けることが、真の平和達成への道であります。
この意味におきまして最も緊急を要する問題はベトナム紛争の平和的解決であります。
私は、昨年末ハンフリー米副大統領の、また本年初頭ハリマン米特使の来訪を受け、米国がクリスマス休戦を契機として北爆を一時停止しながら進めてきた平和工作について詳細説明を受ける機会を得ましたが、その際、米国が問題の解決について柔軟な考え方をとり、真剣に平和を求めていることを確かめることができたのであります。国際世論の大勢も、非同盟諸国を含め、ベトナム問題の平和的解決のためここに一つの好機が到来したものと判断し、北ベトナム政権や、いわゆる民族解放戦線に属する人々が、この平和への機会をのがすことなく、平和への歩み寄りを示すことを強く望んでいるのであります。
政府は、北ベトナムなど関係者がこの強い世界の世論に背を向けることなく、和平のための話し合いの呼びかけに対し、早急に積極的な反応を示すよう訴えてまいりましたが、今日に至るまで、好ましい徴候もあらわれていないことはまことに残念であります。私は、ここに重ねて関係国の自重を促すとともに、今後、事態がいかに推移するにせよ、ベトナム問題の解決のため、最善の努力を傾け続ける決意を有することを明らかにいたします。(拍手)
世界の平和、特にアジアの平和と安定は、直接わが国の国家利益につながるばかりでなく、イデオロギーをこえた人類共通の願望であります。わが国としては、第二十回国連総会において安全保障理事会の理事国に選出されたことにより、その国際的役割りが一段と重要性を増したことを考えますと、平和への責任は、まことに重いものといわざるを得ません。
他方、戦後の世界情勢のもとにおいて 一国の安全を一国のみで確保することができないことは明らかであります。一部に主張されるごとく、わが国が日米安全保障条約を一方的に破棄し、中立を宣言すれば、わが国の安全が確保されるという考えは、あまりにも幻想にすぎるのであります。(拍手)日米安全保障条約がわが国の安全を守り、平和的発展を助けたことは、事実がこれを証明するところであります。私は現下の国際情勢においてわが国の国家的利益を考える場合、みずから国の安全を守る努力をするとともに、日米安全保障体制を維持していくことが、わが国の平和と安全を確保するために最も現実的な政策であると信ずるものであります。(拍手)
日米安全保障体制の維持はイデオロギーや政治体制を異にする国々との平和共存を否定し、これを不可能にするものではありません。このことは、最近わが国とソ連との間に、各方面にわたって善隣関係が積み上げられており、このほど椎名外務大臣が、日ソ国交回復後わが国外務大臣として初めて訪ソしたことによっても実証されるところであります。相互の立場の尊重と内政不干渉の原則にのっとる限り、あらゆる国と平和的に共存することが可能であり、また、わが国もそのために努力を惜しむものではありません。
近時の国際情勢のもとにおいて中国問題は、単にアジアのみならず世界の平和と安定に密接につながる問題としてますます重要性を加えております。古来より中国民族と密接な関係を有するわが国にとって長期的な国家利益から見て世界の緊張が緩和され、中国民族全体との間に共存の関係が樹立されることが望ましいことは、あらためて申すまでもありません。しかし、中共が現在のごとくかたくなな態度をとり、みずから国際社会復帰への門戸を閉ざしかねない政策をとり続ける限り、事態の前進にはなお幾多の困難があることを認めざるを得ないのであります。政府は、中華民国との間に従来の友好親善関係を維持するとともに、中共とは、相互に内政に干渉しないことを前提として国家利益の存するところを見きわめつつ、慎重に対処していく所存であります。
戦後アジアに芽ばえた民族主義は、多くの国において社会経済基盤の後進性に制約されて苦難の道を歩んでおります。また、アジア諸国の中には今日、深刻な食糧危機や経済危機に直面しているものもあります。アジアの一員としてのわが国は、世界の先進国に率先し、最も身近にあるこれら諸国に対し、あたたかい理解を示すと同時に、この現状の改善に資する協力と援助を積極的に進めるべき立場にあります。昨年末、わが国がアジア開発銀行の設立に進んで参加し、また、四月に東京において東南アジア開発閣僚会議を開催いたしますのも、かかる精神に基づくものであります。また、早急に救援を必要とするアジア諸国に対しては、その窮状打開のため、他の先進諸国の理解と協調を求めつつ、緊急の援助を検討し、実効のある施策を進めてまいりたいと思います。
アジアの発展は、アジア諸国の相互信頼と理解に基づく協力関係なしには達成しがたいのであります。この意味においてさきに韓国との国交正常化が実現されたことはわれわれに明るい希望を与えるものであります。私は、今後ともアジアの友邦に対し、相互の立場を尊重しつつ、互譲の精神に立って一そう協調することこそ、発展と繁栄への道であることを呼びかけてまいる考えであります。
国民の生活を守り、これを向上させることは国民に奉仕する政府の任務であり、政治の眼目であります。すべての国民が希望に満ちた明るい生活を営むことができる豊かな社会をつくり出すことは私のかねてからの強い念願であります。戦後二十年にしてアジア第一の高度の経済と文化を築き上げたわれわれはさらに勇を鼓して疾病と貧乏を追放し、旺盛な発展力に満ちた文明社会の建設に向かって邁進いたしたいと存じます。
消費者物価の大幅な上昇は経済の健全な発展を阻害するとともに、国民生活にとって切実な問題であります。政府は、昨年末、物価問題懇談会を設け、広く国民的基盤に立って真に効果のある物価対策を推し進める体制を整えており、また、四十一年度予算におきましては物価の安定を最も重要な政策目標とし、生鮮食料品の生産体制の近代化、流通経費の節減をはかるための流通機構の合理化、公正な価格を形成するための公正取引委員会の機構の拡充など、各般にわたる物価安定対策を財政面から強力に推し進めることといたしております。特に生鮮食料品につきましては、安定した供給の確保につとめてまいります。
このたび、国鉄運賃、郵便料金等について最小限度の値上げを認めることといたしますが、これはそれぞれの分野における健全な運営を確保するためのやむを得ない措置であり、今後公共料金の取り扱いについては経営の合理化を強力に進め、その上昇要因をできるだけ吸収する措置をとり、値上げを極力押えることはもちろん、便乗値上げのごときは絶対に許しません。
農業は、自然的、社会的に種々制約を受けることが多く、内外の経済の変動に即応していくことが困難なため、他産業との間に格差を生じております。政府は、このような事情を十分に考慮し、自立経営農家を育成するため、農地管理事業団をすみやかに発足させ、農業経営規模の拡大を促進する施策を進める一方、兼業農家の増加の傾向にかんがみ、その所得の増大をはかるための施策を推進いたします。さらに、豊かな住みよい農村を実現するため、後継者の養成確保、生活環境の整備等の施策についても十分意を用いてまいります。
中小企業は不況のしわ寄せを最も受けやすく、昨年の倒産件数が従来になく多数にのぼったことはまことに心痛にたえません。このような倒産を防止するためには、何よりも不況の克服が第一でありますが、当面、政府関係中小企業金融機関の資金量の増大、信用保険制度の改善等をはかって中小企業金融が円滑に行なわれるようにするとともに、受注のあっせん等、苦境にある中小企業に対する指導体制を整えることといたします。一方、中小企業の体質を改善するためには、事業の共同化を進め、老朽化した設備を更新することが最も必要でありますので、中小企業高度化資金貸し付け制度の拡充改善等、思い切った施策を講じてまいります。特に中小企業の体質強化のため、専従者控除の限度額の引き上げ、中小法人に対する税率の特別な引き下げなど、税制面について格別の配慮をいたします。
社会開発のうち、第一の急務は経済の発展に著しく立ちおくれている生活の場の改善であり、特に住宅対策の拡充であります。住宅は申すまでもなく、国民のいこいの場、家族の親睦の場であり、青少年の人間形成の場であります。よい住宅は、単に個人や家族にとって必要であるばかりでなく、健全な社会の基礎をなすものであり、住生活の安定なくして国民生活の安定はありません。私は、住宅の整備を国民生活安定の基本と考え、これを強力に推進する決意であります。このため、昭和四十五年度までに一世帯一住宅の目標を実現すべく、新たに住宅建設五カ年計画を定め、政府、民間合わせて六百七十万戸の建設を予定し、住宅問題の徹底的な改善をはかります。政府施策住宅としては、五年間に二百七十万戸を建設することとし、社会開発の見地に立って住みよい住宅とするため、公団住宅の大部分を三寝室住宅といたします。さらに、勤労者を中心とする持ち家住宅の建設を推進し、また、宅地の供給につきましても、その拡充をはかることといたします。
すぐれた国民を育成する基礎は、教育にあります。祖国を愛する心情を養い、時代の進運に必要な知識と技術を身につけ、民族の繁栄と国家の発展に寄与し得るりっぱな青少年をつくり上げることこそ、教育の目的と言わなければなりません。近時、青少年の非行が増加していることはまことに憂慮にたえないところであり、私は、学校教育、社会教育を通じて道徳倫理の向上につとめる決意であります。さらに、科学技術の振興、文教施設の充実、育英奨学の強化を推進し、また、恵まれない学童のための特殊教育を改善するなどの配慮をいたします。
国民の中には、経済社会の発展から取り残され、減税の利益に浴さない階層の人々も少なくありません。これら貧困に苦しみ、老齢や病気や心身の障害に悩んでいる、いわば社会の谷間にある人々に対してあたたかい充実した援助の手を差し伸べることが肝要であると考えます。政府はこの見地に立って生活保護階層に対する生活扶助基準の大幅な引き上げ、夫婦一万円年金の実現を中心とする国民年金の改善、重症心身障害児対策、ガン対策の強化など、社会保障関係施策の充実をはかってまいります。国民生活の向上、老人人口の増加、家族構造の変化など、社会、経済の変動に即応しつつ、国民の幸福を守るため、今後、社会保障の一そうの充実をはかる決意であります。
労働問題のあり方が、経済、社会に及ぼす影響は、きわめて大きいものがあります。私は使用者と労働者の双方が、わが国経済の健全な発展と国民生活の安定のため、良識と相互の信頼を基調とする合理的な解決をはかる機運が醸成されることを期待してやみません。現在、雇用は伸び悩みの状態にありますので、離職者が再就職できるようにつとめることはもとより、広域職業紹介体制の整備、職業訓練の拡充等の雇用対策を積極的に進めてまいりたいと存じます。
健全な地方自治の確立は、民主主義の基盤であります。政府は最近における地方財政の窮状が地方自治に与える影響を考慮し、地方交付税率の大幅引き上げ、地方債の充実等、地方財源の増強のため格段の措置を講ずることといたしました。地方自治体にあっても、地方財政の健全な運営をはかるとともに、行政水準の向上のため、一そう努力するよう強く要請いたします。
最少の行政費による最高の能率こそ、国民の最も希望するところであります。このため、私は明年度におきましては、公庫、公団の設立を認めず、各省部局の新設、人員の増加を最小限度にとどめた次第であります。国家の秩序を保持し、国民の福祉の増進をはかるためには政府がみずからその姿勢を正す必要があります。公務員諸君は一そう厳正な規律の保持と行政の能率的運営につとめ、国民に対する義務を忠実に果たさなければなりません。
沖縄につきましては四十一年度の援助費を画期的に増強し、本土復帰の日に備えて教育、社会福祉等の各分野における本土との格差を解消し、住民の福祉向上を積極的にはかることといたします。
戦後、新憲法のもとに議会民主政治が発足してから早くも二十年になりますが、その間、国会の権威を高め、議会民主政治を確立するための真剣な努力が続けられてまいりました。しかるに、昨年末の国会運営の混乱は、国民の間につちかわれてきた議会民主政治に対する信頼感を低下せしめ、一部に議会不信の念を芽ばえさせるに至ったことはまことに憂慮にたえません。この際、与野党の別を越えて率直に反省し、再びこのようなことを繰り返さないよう努力いたしたいと存じます。(拍手)
議会民主政治における政見の相違は秩序と規律を保ちつつ解決されねばなりません。政党が、いたずらにみずからの主義主張のみに固執し、建設的な話し合いを忘れ、対立を事とするならば、国政の円滑な運営が阻害されるのみならず、議会民主政治に対する国民の信頼を失い、ひいては、民主主義の危機を招くおそれなしとしないのであります。議会民主政治は、国民多数の意思を背景とする多数決原理に基づく調和と前進の政治であります。国会における審議が健全な世論を正しく反映し、審議の過程を通じておのずから国論の統一が醸成されることこそ、議会民主政治の真髄にほかなりません。国会が良識と寛容の精神に立脚する充実した言論の府となり、常に国家のための論議に終始するならば、政治に対する国民の信頼を必ず確保し得ると信ずるものであります。同僚議員各位の党派を越えた協力を切に期待してやみません。(拍手)
私は最後に青少年諸君に訴えたいと思います。今日の青少年諸君が自由と平和に恵まれつつ、はつらつと成長できることは、まことに幸福であります。しかし、真の平和を長く享受するためには何よりも青少年諸君が深い自覚と強い意思を持ち、常により高く向上を目ざして努力することが必要であります。明治維新の改革を成就し、近代国家としてのわが国の黎明期を築き上げたのは新しい日本の建設のため知恵と情熱を傾けたすぐれた青年の力にほかなりません。青少年こそ国家興隆の原動力であり、民族の盛衰を左右するものであります。国の未来はあげて青少年諸君の双肩にあります。すでに、二十世紀も半ばを過ぎ、歴史は、宇宙時代にその歩みを進めております。今日の青少年諸君は、二十一世紀に連なる新しい世代であります。青少年諸君が、未来に向かって輝かしい理想を求め、真理と平和を愛し、公共に奉仕する豊かな人間性を備えた明日の国民としてすこやかに成長することを、心から期待するものであります。(拍手)
以上、所信の一端を述べ、国民諸君の御理解と御協力を切望するものであります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/13
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014・重宗雄三
○議長(重宗雄三君) 椎名外務大臣。
〔国務大臣椎名悦三郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/14
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015・椎名悦三郎
○国務大臣(椎名悦三郎君) 現下の国際情勢を概観し、わが国外交の当面する重要問題につき、所信を申し述べたいと存じます。
〔議長退席、副議長着席〕
近時主たる国際的対立の舞台はアジアに移り、また、東西それぞれの側においてその勢力関係が多元化の様相を呈し、国際関係はますます複雑になってきております。これに伴ってわが国の国際政治の場における責任はいよいよ重大となってまいりますとともに、わが国がその国力に相応した責任を果たすよう要望する声が内外に高まっております。昨年、国連第二十回総会においてわが国が多数の国連加盟国の支持を得て安全保障理事会の非常任理事国に選ばれましたのはこのような事実の帰結にほかなりません。世界の安全と平和の維持に最も大きな責任を負っている安全保障理事会の理事国として今後わが国は平和と安全に関するすべての問題について 一そう積極的にわが国の見解を表明し、その解決のための措置に協力するよう努力してまいりたいと存じます。
わが国とアジア諸国との関係を見まするに、私はアジアにおける不安の解消とアジアの人々の福祉の向上が、とりもなおさず、わが国の安全と繁栄に連なり、ひいては世界の平和に寄与することを確信するものであります。
昨年十二月十八日、日韓諸条約批准書の交換が行なわれ、多年にわたりわが国外交の主要な懸案となっていた日韓国交の正常化が実現されるに至ったことは、慶賀にたえません。すでに漁業協定をはじめ諸協定は、円満かつ順調に実施に移されておりまして、この短い期間に達成された成果から見ましても、両国の関係がいまや急速に緊密化していくことは疑問の余地のないところであります。
さらに、カシミールをめぐるインド、パキスタン間の紛争についてタシケント会談の結果、平和解決の曙光が見えてきたことは、アジアの平和と安定のためにまことに喜ばしい次第であります。
中華民国との友好親善関係は近時ますます増進されつつあり、また、中共との間においては、従来どおり、政経分離の原則に基づき民間レベルでの交流が進展しておりますが、私は今後とも国際情勢の推移を慎重に勘案しつつ、施策を推進していく考えであります。
現在の世界情勢、なかんずくアジアの情勢においてベトナムの紛争は、アジアの安全に対する大きな脅威であり、その帰趨に深甚なる関心を有するものであります。昨年末以来、米国が活発な和平推進の動きを示していることは、ベトナムにおける平和招来のため、新たな機運をもたらすものとしてこれに注目した次第であります。加えて、昨年末から本年初頭にかけて、米国ハンフリー副大統領及びハリマン特使が来日いたしまして日米首脳間において率直なる意見の交換を行ない、これはより米国のベトナム問題の解決に対する真摯な意図をあらためて確認したのであります。わが国は、かねてからベトナム問題解決のため、すみやかに話し合いを開始するよう関係国に呼びかけてまいりましたが、新たな事態の進展にかんがみ、話し合い実現のため一そう積極的に協力すべく、今般私のソ連訪問の機会にベトナム問題の解決がいかに必要かつ可能があるかにつき、ソ連指導者に強調いたし、ソ連側の協力を要請したのであります。
以上のごとき一連の動きはたとえ直ちに効果をもたらし得なくとも、その意義はきわめて大なるものがあり、私は、かかる動きを契機としてベトナム紛争の平和解決への努力が次第に勢いを増していくことを期待するものであります。現在の国際社会において政治的信条と社会体制を異にする諸国間の平和共存の意義が広く理解されつつあるとき、アジアの一角で激しい戦火が続いていることは、きわめて不幸というほかなく、北ベトナム側がベトナムの平和を熱望する世界諸国民の声に耳を傾けて平和裏に話し合いに応ずることを強く希望するものであります。
インドネシアの情勢は流動的であり、経済的困難は一そう深まっているものと見られますが、わが国といたしましては、同国民がこれらの困難を克服して国づくりを進めていくことに対し、今後とも協力を惜しまないものであります。
国の安全を確保することはあらゆる内政外交の根幹をなすものであります。われわれは、国際連合が真に世界平和維持機構としての機能と役割りを果たし得る日が一日も早く到来することを願っており、国連強化のための協力を惜しまないものであります。しかしながら、現段階では、わが国の安全保障をあげて国際連合に託することはできないのが実情であります。わが国は国の安全をはかるために、戦後、独立回復の際、自由と民主主義の擁護を共通の信条とする米国と安全保障条約を結ぶ道を選んだのであります。以来十数年間の長きにわたり、わが国民は国の安全について何らの不安を抱くことなく、経済の安定と繁栄をなし遂げることができました。このことを承知しているわが国民の大多数は、今後も日米安保体制が維持されることを強く望んでいるものと確信するものであります。(拍手)
他国と共同して自国の安全保障をはかるためには相手国との相互信頼関係を維持することが不可欠であります。わが国は、米国が安全保障条約に基づく日本防衛の義務を果たすことを期待し、またそれを確信しております。それと同時に、わが国も条約上の義務を誠実に果たす用意がなければならないことは当然であります。条約上の義務を忠実に履行することによってこそ、米国に対しても真のパートナーシップに基づく発言力を確保し、広く世界の問題についても、わが国が積極的役割りを果たし得ると信ずるものであります。
わが国の安全を確保するという観点のみにとどまらず、経済、文化その他国際関係の全般にわたり、米国との良好な関係を維持することが、わが国にとっていかに重要であるかは多言を要しないところであります。米国もわが国との友好関係の発展に多大の関心を寄せております。昨年末、日米航空協定につき新たな合意が成立し、わが国はニューヨーク及び以遠へ就航する権利を獲得し、世界でも数多ない世界一周航空路を持つ国となったのであります。両国政府がこの長年の懸案の解決に成功したことは、日米両国が相互関係の発展に共通の利益を見出し、それに対する障害を取り除くことに大きな熱意を有することのあらわれであると考えます。
私は、このたびソ連政府の招待により、日ソ国交回復後、日本の外務大臣として初めてソ連を訪問して帰国いたしたところであります。同国滞在中、日ソ航空協定及び貿易協定に署名したほか、コスイギン首相、グロムイコ外相をはじめとするソ連政府首脳と会談し、日ソ間の諸問題及び重要な国際問題について意見の交換を行ないました。
まず、航空協定の締結により、シベリア上空を経由して東京−モスクワの直通航空路線を開設することとなり、これから二年以内には、自国機、自国乗員による相互乗り入れが行なわれ、東京と西ヨーロッパ間の最短路線の実現が期待されることとなった次第であります。また、貿易関係も今後五カ年間にわたる長期貿易協定が結ばれ、その将来の見通しはまことに明るいものがあります。さらに今回の会談において日ソ領事条約をすみやかに結び、領事館を相互に開設することが望ましいことに意見の一致を見たほか、ソ連側は、安全操業の問題及び、邦人の帰国、募参の問題についても、今後とも協力を約したのであります。私は北方領土問題についてわが国の立場を重ねて強く主張いたしましたが、ソ連側が従来の態度を変えることなく、同問題は解決済みであるとの主張を固執したことは、私の深く遺憾とするところであります。政府としてはこの問題については国民的願望を背景として将来とも機会あるごとにわが国の立場を強く主張し続けていく所存であります。(拍手)また、国際問題につきましては、さきに申し述べましたとおり、ベトナム紛争の問題を中心に意見の交換を行ない、ベトナム紛争が関係諸国のみならず世界平和全般にとって危険であることについて意見の一致を見ました。しかし残念ながら、紛争解決の方途については双方の立場の一致を見るに至らなかったのであります。
このたびのソ連訪問を通じ、立場を異にする幾つかの問題はありましたが、私は、両国間の政治社会体制の相違にもかかわらず、双方が誠意を持って話し合えば、長年の懸案も少しずつでも解決を見得るものであり、このような両国の善隣関係の発展は、アジアにおける緊張緩和、ひいては世界の平和に寄与するものであるとの信念を、ますますかたくした次第であります。
現下の流動する国際情勢下においてわが国として自由陣営の重要な構成員たる西欧諸国との間に十分な意思の疎通をはかる必要はますます増大しております。このような観点から、私は西欧諸国との友好関係を一そう緊密化するため、英、仏、伊政府首脳と定期協議を行なっており、今回はソ連訪問の後、かかる定期協議の一環としてエアハルト首相ほかドイツ政府首脳とも有益かつ忌憚なき意見の交換を行なってまいりました。
最近、中近東及びアフリカ諸国の国際的発言力の強化は著しいものがあります。これら諸国とわが国との関係は、日ごとに発展しつつありますが、一方これら諸国においては、政治情勢が大きく動いております。わが国としては、これら新興諸国が困難を克服し国づくりを進めるための応分の協力をしつつ、相互理解と友好関係の強化に一そう努力していく考えであります。このため、近く中近東に特派使節を派遣することといたしました。
中南米諸国とは伝統的に友好関係にありますが、近時この関係は一そう緊密の度を加えますとともに、経済的、文化的にも、これら諸国とわが国との交流の分野は、ますます広がりを見せております。また、これら地域に対する移住は順調に進んでおり、このほか、カナダ、米国等も技術と能力を備えた移住者を求めているのでありまして、政府といたしましても、海外移住の促進に努力してまいる所存であります。
国際経済の面におきましては、世界貿易史上画期的な試みといわれるガット関税一括引き下げ交渉は、EEC内部の対立もあり、難航を続けており、本年中に大きな山場に差しかかるものと考えられます。わが国としてもこの交渉を成功させ、世界貿易を画期的に伸長せしめるため、一そうの努力を払う所存であります。
また、わが国の一方的な大幅出超となっている低開発国に対しては、これら諸国との友好関係、経済的互恵の確保増進のため、これら諸国の開発を支援し、わが国の輸入拡大に資するような協力を行なう方針で、協力の具体化につき着々話し合いを進めております。
世界貿易の伸長と国際社会の繁栄を希求するものとして、ここに強調しなければならないのは、低開発諸国に対する経済協力の問題であります。低開発国の経済開発の問題は、二十世紀後半において世界に課せられた最大の問題の一つであると思います。これらの諸国の開発にあたっては、先進国の援助が不可欠でありますが、これについては、すでに一昨年の国連貿易開発会議、昨年のOECD開発援助委員会等において、援助の規模を増大し、同時に援助条件を緩和するよう、強く要請されました。わが国も、先進工業国の一員として、あらゆる困難を克服して、この重大責務を果たすべく、低開発国援助を飛躍的に拡充いたす所存であります。
特にアジアにおいては、わが国は唯一の先進工業国であり、アジアの平和と繁栄に貢献することはわが国に課せられた使命であります。アジアの一部に紛争や貧困が存在している今日、この地域に対するわが国の経済協力をできる限りの分野で強化することは、われわれの責務であり、また、長期的に見てわが国自身の国益にも資するゆえんと信じます。わが国としては、すでに、アジア開発銀行への出資、メコン河開発計画の一環をなすナム・グム・ダム建設援助費の拠出等を約束しておりますが、今後アジア各国の実情と希望に応じて、効果的に援助の責任を果たして行く所存であり、本年をアジア地域に対する協力の強化拡大の第一年としたい考えであります。
このような拡大された協力のためには、アジア諸国の考えをも十分に聞かなければなりません。そのための真摯な努力の第一歩として、来たる四月上旬、東京において東南アジア開発閣僚会議を開き、東南アジア諸国の経済開発に責任を有する閣僚から腹蔵のない意見を求め、また、わが国の考えをも述べる機会を持ちたいと考えております。
経済面における外交と並んで、近時ますます重要性を増してきましたのが、文化面における外交であります。平和を愛好し、高度な文化を有する民主的な近代工業国家としてのわが国の実情を世界各国国民に十分認識させ、また、わが国民も正しく諸外国の実情を把握することにより相互理解を深めることは、わが国の外交を進めていく上に必要欠くべからざるものであります。政府としては、この面における施策をさらに積極的に推進する所存であります。
現下の世界情勢を考えますとぎ、国際社会の一員としてわが国の果たすべき責務と役割りは、きわめて重かつ大なるものがあります。私は、かかる世界の期待にそむかざるよう、また、わが国の国益増進のため、わが国の充実した国力と向上した国際的地位を背景として、積極的に諸般の施策を推進していく所存であります。私は、この点につき、国民各位の理解ある御協力と御支援を切に期待してやまないものであります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/15
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016・河野謙三
○副議長(河野謙三君) 福田大蔵大臣。
〔国務大臣福田赳夫君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/16
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017・福田赳夫
○国務大臣(福田赳夫君) 昭和四十一年度予算の御審議をお願いするにあたりまして、その大綱を御説明申し上げますとともに、今後における財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べたいと存じます。
わが国経済は、いま、二つの問題に当面しております。それは、不況の打開と経済の安定成長路線の確立、この二つであります。この二つの問題を同時に解決していくことが、佐藤内閣の今日の課題であると存じます。そして、この二つの問題と取り組み、これを解決し、国民の期待にこたえることこそが、私の責務であると信じます。
私は、政治の理想は、充実した経済力の基盤の上に、国民みな富み、平和で希望に満ちた日々を送り得る、明るい社会を築き上げることにあると信じます。財政金融政策の使命もまた、このような福祉社会の実現に奉仕することにあると考えるのであります。
当面の不況を打開しながら、その過程を通じて、このような使命を遂行するにあたり、財政金融政策の指針とすべき原則は何か。私は、それは、次の三つであると考えます。すなわち、財政金融政策の運営を通じて、第一は、経済の安定的な成長を確保することであり、第二は、経済各部門の均衡のとれた発展を期することであり、第三は、家庭と企業を通ずる蓄積の強化に資することであります。そして、物価の安定と国際収支の均衡の二つが、経済の成長を進めるにあたって、守らなければならない基本的な条件でもることは申すまでもないところであります。
私は、この原則、目標を実現するため、ここに財政の基調を転換して、公債政策を取り入れることを決意いたしたのであります。財政の経済に対する働きを、より積極的かつ効果的ならしめ、公債政策を主軸として、財政金融政策の新たな展開をはかるためであります。
まず第一に、経済の安定的な成長を確保するための財政金融のあり方について申し述べます。
わが国経済は、これまで目ざましい発展を遂げてまいりましたが、その成長があまりにも急速であったため、幾たびか激しい景気の変動に見舞われ、また経済社会の多くの面にひずみを生じたのであります。今後における政策の目標が、景気変動の振幅をできるだけ小さくし、経済社会の均衡を確保し得る範囲内で、高い成長を達成することに置かれるべきことは、申すまでもないところであります。
しかしながら、今日のような供給力超過の経済の基調のもとにおきまして、経済成長の要因を企業の投資活動の盛り上がりに期待することは困難と思います。当面の不況脱出のためにはもとよりでありますが、その後におきましても、しばらくは、経済の望ましい成長を確保していくためには、財政面から有効需要の拡大をはかっていくことが必要であると考えます。このことは、民間設備投資に主導された経済成長の姿が、より財政に比重を置いた成長の姿に移っていくことを意味するものでありまして、わが国経済の成長をより安定化することに役立つことと考えるのであります。
もとより、今後の成長の過程におきまして、経済活動の行き過ぎにより、景気が過熱することも考えられないところではないのであります。このため、財政の運営にあたりましては、国民経済全体としての均衡を維持し、その規模及び内容を経済の動向に応じた適正なものとすることを基本としなければならないところであります。民間の経済活動が活発化し、全体としての需給に変化があらわれるような場合におきましては、公債の発行額を圧縮すること等によりまして、財政面からこれに対処する措置をとるべきであります。また、年度の途中におきましても、経済情勢の推移に応じまして、予算の弾力的執行をはかるとともに、公債の発行を調節していくことが必要であると考えます。かくして、はじめて、民間経済活動と財政活動との総和、すなわち全体としての日本経済のなだらかな成長発展を期待し得ると思うのであります。
経済の安定的な成長を確保していくためには、金融がその機能を十分発揮していくことが必要であると考えます。今日のような経済環境のもとにおける金融政策の眼目は、金融の緩和基調を堅持することにあると考えます。公債発行という新しい事態に対処し、その市中消化の円滑化をはかりながら、経済活動の順調な拡大を実現するためであります。また、今後、企業の活動が活発化し、経済全体の行き過ぎが生ずるおそれのある場合には、これを未然に防止するため、金融は財政と一体となって、弾力的な調整機能を発揮していかなければならないと考えます。
第二は、経済各部門の均衡のとれた発展を実現するための財政金融のあり方についてであります。
今日までの経済発展の過程におきましては、国民経済の限られた資源は、まず民間企業の設備投資に優先的に振り向けられてまいりました。これによって目ざましい経済の成長が実現されたのでありますが、この間、経済社会の各部門・各分野に、多くの不均衡が生まれたのもまた事実であります。私は、わが国経済の新たな発展を期するためには、この際、このような経済社会の不均衡を是正していくことに、政策の重点が置かれなければならないと考えます。
すなわち、その一は、民間設備投資の規模を適正な水準に維持する一方、立ちおくれの著しい道路、港湾等の社会資本を充実し、住宅を建設し、生活環境施設を整えていくことであります。そうして、これらの施策は、単に円滑な産業活動の基盤となるだけでなく、豊かな国民生活を実現し、経済発展の成果を、より直接的に国民の福祉に結びつけるゆえんであると考えます。
その二は、農林漁業や中小企業などの近代化をはかり、あるいは後進地域の開発を進めるなどによって、わが国経済の中の格差を解消していくことであります。それは、経済全体の効率を高める上においても、緊急な課題であり、今後引き続き、着実にこれらの施策を推進していく必要があると考えます。
第三は、家庭と企業の蓄積を強化するための財政金融のあり方についてであります。
私は、経済の安定は、それをささえる家庭と企業の安定があってこそ、初めて実現されるものと考えます。豊かな蓄積を持った家庭と企業にささえられた日本経済の姿こそ、われわれの目ざすべき目標であります。家庭と企業の蓄積は、経済の持続的な成長の過程において、その成果を享受しながら、着実な努力を積み重ねることによって、初めて実り得るものであります。財政金融政策は、そのための条件を整えることを通じて、これが実現に寄与すべきものであると考えます。
国民の生活水準の絶えざる向上と家庭の蓄積、すなわちゆとりのある家庭を築くための施策は、経済の安定的な成長の上に、所得水準の着実な上昇をはかることが基本であると考えます。このため、租税負担の軽減合理化に不断の努力を傾け、また社会保障制度の充実を進めることが肝要と考えます。同時に、住宅建設や生活環境施設の整備等を通じて、国民の生活の場を改善していくことも、今後の重要な課題であります。
企業の蓄積を強化するための施策は、生産効率を高め、収益力を向上させることが基本でなければなりません。すなわち、企業の投資水準を適正に維持するとともに、社会資本を充実し、労働力の流動化をはかり、あるいは企業の合併統合を促進する等の施策を、総合的かつ着実に推進していくべきであると考えます。同時に、資本市場、特に公社債市場を育成整備して、安定した資金導入の道を広げ、また、企業の税負担の軽減合理化を行なっていくことも、企業体質の改善強化をはかる上において必要であると考えます。
物価の安定と国際収支の均衡は、経済成長を進める際に、常に留意されるべき基本的な条件と考えます。それは、以上三つの原則を達成することによって実現されるものでありますが、同時に、その三つの原則は、この二つの条件を確保して、初めて達成されるものであると考えます。
わが国の卸売り物価は、長期にわたって安定いたし、わが国経済の競争力の維持強化に貢献してまいりましたが、消費者物価の上昇は、今日の最も大きな問題であります。私は、この際、決意を新たにして、物価問題と真剣に取り組む覚悟でございます。
次に、今後のわが国の国際収支の目標は、貿易収支の黒字によって貿易外収支と資本収支の赤字を埋めながら、経済規模の拡大に応じた外貨準備の漸増をはかるということでなければならないと考えます。
わが国といたしましては、今後とも、進んで国際流動性の強化につとめるとともに、輸出の拡大に一そうの努力を傾注する必要があると考えます。これがためには、海外市場の開拓、企業体質の改善強化、科学技術の開発向上等につとめていくことが大切でありますが、同時に、国際分業に適応した産業構造への移行を着実に進め、わが国経済全体としての輸出力を高めていくことも、今後の経済政策の大きな方向でなければならないと考えます。
今回の予算の編成におきましては、以上に申し述べました財政金融政策運営の基本的な考え方にのっとり、その健全性を確保しながら、積極的に有効需要の拡大をはかることを主眼といたしております。
その特色は、次の諸点であります。
第一の特色は、戦後初めて本格的な公債政策を導入したことであります。七千三百億円の公債の発行は、財政法の原則に基づき、その対象を公共事業費等に限定するとともに、市中消化によることといたしております。
第二の特色は、有効需要の喚起をはかるため、財政規模を積極的に拡大したことであります。一般会計予算及び財政投融資計画の伸びは、昭和四十年度に比し、それぞれ一七・九%および二五・一%となっております。また、国民総生産に対する政府の財貨サービス購入の割合は、二三・二%と見込まれ、戦後における最高となっております。
第三は、画期的な大幅減税の断行であります。減税額は、国税、地方税を通じまして平年度三千六百億円に達し、これまた、戦後最大の規模のものであります。
第四は、財源の重点的配分であります。すなわち、予算及び財政投融資計画を通じまして、住宅、生活環境施設等の飛躍的な拡充をはじめ、物価対策の強化、社会資本の整備、社会保障の充実、低生産性部門の近代化等の重要諸施策を積極的に展開いたしております。その反面、一般行政費の節減合理化につとめ、機構の拡大や定員の増加を抑制する等、財政体質の改善を推進することにいたしました。特に、各省、各庁の部局、公庫、公団、事業団等の新設を一切認めなかったのでありますが、これも戦後初めてのことであります。
かくして、今回提出いたしました昭和四十一年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも四兆三千百四十三億円でありまして、昭和四十年度予算に対し六千五百六十二億円の増加となっております。また、財政投融資計画の総額は二兆二百七十三億円でありまして、昭和四十年度当初計画に対し四千六十七億円の増加となっております。
以下、重点施策について、その概略を申し述べます。
まず、減税を中心とする税制改正についてであります。
所得税におきましては、中小所得者の負担軽減に重点を置き、平年度総額一千五百億円に及ぶ減税を行なうことといたしました。すなわち、給与所得者の標準世帯で年収六十三万円程度までは所得税がかからないように、諸控除の引き上げを行なうとともに、中堅所得層以下に適用される税率を大幅に緩和することといたしております。
次に、企業に対する課税につきましては、その体質改善を促進するための措置を講ずることといたしております。すなわち、法人の留保所得に対する税率を二%引き下げ、建物の耐用年数を短縮することにより、企業の内部留保充実に資することといたしましたほか、資本構成改善の促進、合併の助成、スクラップ化の促進等の諸措置を講じておるのであります。
さらに、今回の企業減税の特色は、中小企業の体質強化に特段の配慮を加え、専従者控除の大幅な引き上げ、中小法人の税率の特別な引き下げ、同族会社の留保所得課税の軽減等、中小企業の実情に即した大幅な軽減措置を実施することといたしたことであります。
このほか、相続税、物品税につきましても、国民の適正な財産形成と健全な消費需要の喚起に資するため、負担の軽減合理化をはかることといたしております。
地方税につきましても、住民負担の軽減をはかるため、住民税及び料理飲食等消費税の減税を行なうことといたしております。また、固定資産税及び都市計画税の課税につき、負担の均衡化、合理化を進めることといたしております。
次に、歳出の面について申し上げます。
第一は、当面の急務である住宅対策であります。
住宅建設につきましては、一世帯一住宅の目標を実現するため、新たに五カ年計画を定め、この期間内に六百七十万戸の住宅を建設することといたしております。昭和四十一年度は、その初年度として、予算及び財政投融資計画を通じて、一千億円にのぼる大幅な増額を行ない、政府施策住宅の戸数の増加と質の向上につとめることといたしております。特に、勤労者持家住宅の建設を推進することとし、従来の分譲住宅制度に新機軸を開くこととしましたほか、宅地の供給につきましても、その大幅な拡充をはかることといたしております。
また、生活環境を整備するため、上下水道、終末処理施設、ごみ処理施設等に重点を置いて、その建設を促進するとともに、公害防止対策にも特に配意をいたしております。さらに、工場跡地の利用等により、大都市再開発を推進するため、都市開発資金融資制度を創設することといたしました。
第二は、社会保障関係の充実であります。
わが国の社会保障制度は、経済の発展と国民生活の向上に応じ、年々充実の一途をたどってまいったのでありますが、昭和四十一年度におきましても、生活扶助基準の大幅な引き上げ、夫婦一万円年金の実現を中心とする国民年金の改善、ガン対策及び心身障害児対策の強化等、社会保障関係の諸施策について、さらに改善充実をはかることといたしております。
特に、低所得階層に対しましては、さきに申し述べました生活扶助基準の大幅な引き上げをはじめとし、福祉年金、児童扶養手当の改善、母子に対するミルクの無償給付の範囲の拡大を行なうことといたしております。また、文教関係予算におきましても、児童生徒に対する就学援助の充実、僻地の児童生徒に対する無償給食の実施や、僻地学校に対する学校ぶろの設置等、きめこまかい措置を講ずることといたしております。
また、医療保険につきましては、政府管掌健康保険等について、臨時の財政措置として特別の国庫補助を行なうとともに、国民健康保険の国庫補助体系を整備することといたしております。
第三は、公共投資の拡大であります。
道路整備につきましては、五カ年計画の第三年度として、計画の繰り上げ促進を行なうこととし、主要な国道、地方道、東名高速道路、国土開発縦貫自動車道等の整備を中心として、事業量の増加をはかることといたしております。また、最近の交通事情にかんがみ、交通安全対策の強化に配慮しております。
港湾整備につきましては、港湾貨物量の増大、地域開発の進展等に即応して、予算の大幅な増額をはかることとしております。また、日本国有鉄道につきまして、安全輸送の確保と輸送力の増強をはかるため、工事規模を大幅に拡充するとともに、特に昭和四十一年度から山陽新幹線に着工することといたしましたほか、日本鉄道建設公団の事業規模を拡大して、新線建設を促進することといたしております。日本電信電話公社につきましても、加入電話百二十三万個の増設等、電信電話施設の整備を進めることといたしております。
治山治水事業につきましては、既定計画の推進をはかるとともに、一級水系の指定を拡大し、災害復旧事業の促進と相まって、国土保全に万全を期しておるのであります。
第四は、農林漁業及び中小企業等の低生産性部門の近代化であります。
まず、農林漁業につきましては、新たに土地改良長期計画を定め、農業基盤の整備を計画的に推進することといたしましたほか、農林水産業の構造改善対策の拡充、畜産及び園芸の振興、自立経営農家の育成等の施策を着実に実施することといたしております。また、金融面におきましても、農林漁業金融公庫及び農業近代化資金の融資ワクの拡大等の措置を講じますとともに、農業近代化資金の融通の円滑化を期するため、農業信用保険制度を創設することといたしておるのであります。
中小企業につきましては、その近代化、高度化を強力に推進するため、中小企業高度化資金の資金量を大幅に増加するとともに、共同工場の建設、小売り商業連鎖化の促進等の新しい施策を導入することといたしました。また、設備近代化補助、小規模事業対策、中小企業の指導育成等につきましても、一そうの充実をはかっておるのであります。税制面におきましても、国税、地方税を通じまして平年度七百億円をこえる大幅減税を行ない、負担の軽減をはかることといたしております。
金融対策といたしましては、信用補完制度について、昨年十二月、制度の大幅な改善を行なったところでありますが、今回さらに、この制度の着実な推進をはかるため、中小企業信用保険公庫の融資基金を増額することといたしております。また、政府関係金融機関の貸し付けワクの拡大、貸し出し利率の再度の引き下げ等により、中小企業金融の一そうの強化をはかることといたしております。
第五は、物価対策についてであります。
昭和四十一年度におきましては、予算及び財政投融資計画を通じ、長期的、総合的観点から、消費者物価の安定をはかるための施策を積極的に推進することといたしております。まず、農林漁業、中小企業等の低生産性部門の生産性の向上につきましては、ただいま申し上げましたとおり、農林漁業、中小企業関係の予算及び財政投融資を大幅に増額して、その近代化、高度化を促進することといたしましたが、これは消費者物価の長期的な安定の基盤を培養するものであります。さらに、労働力移動の円滑化をはかるため、広域職業紹介体制の整備、職業転換給付制度の拡充、移転就職者のための宿舎の増設等、雇用対策の強化を行なうことといたしております。当面重要な農林水産物の価格安定につきましては、野菜の集団産地の育成、食肉供給の増大、中央卸売り市場の整備、水産物の冷凍化の普及などの施策を推進することといたしております。さらに、小売り商業の連鎖化、協業化等の推進により、卸・小売りを通ずる流通機関の整備をはかるほか、環境衛生関係の業種に対しても国民金融公庫よりの融資を大幅に増額し、その合理化、近代化に配意することにいたしております。これらの施策は、消費者物価の安定に大きく寄与するものであると信じます。
次は、文教対策の充実と科学技術の振興についてであります。
昭和四十一年度におきましては、引き続き、教育水準の向上と教育環境の整備を推進するとともに、国立大学の学生の増募、義務教育教科書無償給与の範囲の拡大、育英奨学の強化、私学の助成等について、積極的な施策を進めておるのであります。科学技術の振興につきましても、大型重要技術の研究開発、原子力の平和利用、宇宙開発、防災技術の開発等の重要研究を推進することにいたしております。
次に、輸出の振興と国際経済協力の推進であります。
昭和四十一年度におきましては、大幅な企業減税により、企業の国際競争力の強化をはかるほか、日本輸出入銀行の輸出金融を積極的に拡充する等、輸出振興対策を推進して、輸出の一そうの伸長を期することといたしました。また、海外経済協力基金に対する財政資金の大幅な増額、アジア開発銀行に対する出資等を行ないまして、国際経済協力体制を一段と強化することといたしました。さらに、外航船舶建造量の拡充、国際航空事業の育成強化等により、貿易外収支の改善に資することといたしております。
最後に、地方財政対策について申し上げます。
昭和四十一年度の地方財政は、地方税収入等の伸びの鈍化、人件費の増加等により、非常に困難な財政事情にあると思われます。これが対策として、国におきましては、地方交付税の率を二・五%引き上げて三二%とするとともに、臨時地方特例交付金を交付することにより、合わせて一千億円、地方債の特別対策によりまして一千二百億円、総額二千二百億円を手当てすることにいたしております。地方公共団体における経費の合理化等の努力と相まちまして、地方財政の健全な運営の確保に遺憾なきを期した次第であります。これにより、地方の行政水準と住民福祉の一そうの向上が期待されると信じます。
以上、昭和四十一年度予算の大綱について御説明いたしました。
政府は、ここに、七千三百億円の公債を発行し、一方において、国税、地方税を通じて平年度三千六百億円に達する大幅減税を断行するとともに、他方において、社会資本の充実をはじめ、今日緊要な財政需要を、積極的に充足していこうといたしているのであります。所得税と物品税の減税は、個人の購買力を増加させ、法人税の減税は、合理化努力を続けてきた企業に、将来への意欲を与えるものと考えます。また、財政支出の大幅な増加も、直接の有効需要の増大となってあらわれるばかりでなく、広く国民経済のすみずみまで波及して、なお沈滞を脱し切れないわが国経済に活力をもたらすものと考えます。昨年の夏以来、政府は、財政面から景気回復の歩みを促進するため、一連の景気対策を講じ、さらに年末には、公債発行を含む補正予算の成立を見たのであります。これらの施策は、これから、まさにその実効をあらわそうとしております。こうした局面において登場する昭和四十一年度予算は、わが国経済に大きな浮揚力を与えるものと考えます。この予算の執行にあたりましては、できるだけこれを上半期に繰り上げて実施し、これが、景気の回復に、より効果的に機能するよう、全力を傾ける所存であります。他方、金融面におきましても、引き続き、金融政策の適切な運用を通じて、緩和基調を維持し、景気の順調な回復に支障のないようつとめてまいる所存であります。私は、このような財政金融政策の運営によって、わが国経済は、昭和四十一年度を通じて、着実な回復過程を歩み、新たな発展への一歩を踏み出すに会上るものと確信いたしております。
わが国財政の前には、新しい時代が開けようとしております。過去十年間の高度成長の過程において、いわば民間経済の成長を十分に発揮せしめるための役割りを果たしてきた財政は、いま、新たな政策手段を装備しまして、今後の経済発展のため、より能動的な役割りを果たそうとしております。私は、ここに、安定、均衡、蓄積の三つの目標を掲げて、金融政策との緊密な連係のもとに、今日財政に課せられた使命を遺憾なく果たし、国民の期待と国家の要請にこたえる決意であります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/17
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018・河野謙三
○副議長(河野謙三君) 藤山国務大臣。
〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/18
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019・藤山愛一郎
○国務大臣(藤山愛一郎君) 私は、当面する経済情勢と、これに対処する所信を明らかにいたしまして、国民各位の御理解と御協力とを得たいと存じます。
顧みますと、昨年は、従来にない深刻な不況に終始し、しかも、その中にあって依然消費者物価は上昇を続け、企業にとっても、また家計の面でも、まことに苦しい一年でありました。しかし、本年の経済は、昨年の暗い経済の延長であってはなりません。私は、昭和四十一年の経済運営の目標を、次の三点に置き、これに積極的に取り組んでまいる所存であります。
第一は、不況を一刻も早く克服し、第二は、消費者物価をすみやかに安定させ、第三には、わが国経済が長期にわたり、均衡がとれ安定した成長を続け、豊かな社会を実現するための基盤を築いていくことであります。
政府は、昨年来、公共事業の促進、財政投融資の拡大など、一連の景気対策を実施してまいりましたが、現在、ようやくその効果をあらわし始める時期に差しかかっております。さらに、昭和四十一年度予算においては、本格的な公債政策を導入し、財政支出を大幅に増加するとともに、画期的な大幅減税を実施して、有効需要の積極的な拡大をはかることにいたしました。また、予算の実施にあたっても、公共投資関係事業の早期施行を促進すること等により、でき得る限りすみやかに不況を克服する決意であります。このような政府の決意と対策に、民間経済界の景気対応策が相まつならば、わが国経済は徐々に明るさを取り戻し、本年下期までには、景気の順調な上昇局面を迎え得るものと考えます。この結実、昭和四十一年度のわが国経済は、実質七・五%程度の堅実な成長を実現するものと期待しております。
今日、不況下にありながら、消費者物価は依然根強い上昇を続けており、まことに憂慮すべき状態にあります。近年における消費者物価の高騰は、生産性格差の存在する中で急速な経済の成長が行なわれた結果農業、中小企業、サービス業など生産性の低い部門において、賃金、所得が上昇したことに基因する面が大きいと考えます。これらの部門における賃金、所得が上昇し、そこに働く人々の生活水準が向上していくことは、好ましい現象であり、それによって消費者物価がある程度上昇することには、やむを得ない面もあります。しかし、今日のように消費者物価が年々大幅な上昇を続けることは、国民生活にとって重大な問題であるばかりでなく、経済の健全な発展を阻害する要因ともなります。政府は、今日まで、諸般の物価対策を実施してまいりました。しかし、消費者物価の上昇が構造的要因による面が大きいだけに、その解決は決して容易ではありません。困難な道ではありますが、一つ一つ問題を解決して進む以外に方法はないと考えます。国民各位におかれても、経営者、勤労者、農業者、すべて消費者であるという自覚の上に立って、政府の施策に理解と協力をいただきたいと存じます。賃金問題についても、労使ともに、国民経済的視野に立ち、良識ある態度で、この問題に対処されんことを望むものであります。
この際、私は、国民の皆さまとともに喜べる日の一日も早からんことを期し、新たな決意をもって、物価問題と取り組んでまいる所存であります。
その第一歩として、広く国民的基盤に立ち、物価問題を各面から深く掘り下げて検討するため、先般、経済企画庁に物価問題懇談会を設けました。この懇談会は、すでにその活動を開始いたしておりますが、ここで得た結論につきましては、臨時物価対策関係閣僚協議会の議に付し、必要な措置は直ちに実行に移してまいる所存でございます。
また、昭和四十一年度の予算においては、物価の安定を特に重要な政策目標として、各般の施策を財政面から積極的に推進することといたしております。特に、家計に直接つながる生活必需品については、野菜の集団産地の育成価格安定制度の拡充、鮮魚の冷凍形態の普及、食肉の増産、商品の流通機構の改善など、諸対策の拡充強化をはかることといたしました。さらに、物価上昇による家計への影響を考慮し、所得税などの大幅減税や社会保障の充実についても、十分配慮いたしております。
なお、不況対策と物価問題との関連について見ますと、今日の消費者物価の上昇は経済構造に根ざす面が大きく、財政規模が拡大いたしましても、低生産性部門や社会資本に多く振り向けられる限り、長期的に見て、消費者物価の安定に寄与するものと考えるのでございます。
以上のように、政府は、消費者物価の安定をはかるため、今後あらゆる努力を傾注してまいりますが、昭和四十一年度は、その上昇を五・五%程度にとどめたいと考えております。
ここで、公共料金の問題について申し述べ、国民各位の御理解と御協力を得たいと存じます。政府は、このたび、米価、国鉄運賃、私鉄運賃、郵便料金などについて、その値上げを認めることにいたしました。私は、この点について、国民各位が強い関心を示され、家計の立場から政府の措置に不満を示されていることは、十分に承知しております。政府としても、今回のように、ほぼ同じ時期に集中して値上げを行なわざるを得なくなった事態について、反省すべき点があると考えております。しかし、経済全般の立場から考えた場合、これらの公共料金を据え置くことについては、きわめて大きい無理があります。経済の発展に伴って、これら関係事業がその社会公共の責務を遂行するためには、その施設の整備拡充等が急務であり、他面、政府ができるだけの財政負担を考慮するにいたしましても、そこには、おのずから限度があることは、いまさら申し上げるまでもございません。政府としては、これら各面の事情を慎重に検討し、国民生活に与える影響も十分勘案の上、最低限度の幅に限って、料金の値上げを認めることにした次第でございます。しかし、国鉄運賃、私鉄運賃、郵便料金などについては、経営の合理化に徹し、コスト増加要因を吸収して、今回の値上げに伴い、今後数年間は値上げをしないで済むよう措置してまいる所存でございます。
経済運営にあたっては、当面する課題の解決をはかりつつも、常に長期的観点から経済社会のあるべき姿を求め、それを実現する基盤をつくっていくことが肝要でございます。さきに政府が策定いたしました中期経済計画につきましては、財政の新たな展開、消費者物価の予想を越える上昇など、その後の経済情勢の変転から、その改訂が要請されており、近く新しい長期計画の検討に着手することとしておりますが、私は、さしあたり、今後三年程度の経済運営を、次のような考え方に立って行なってまいる所存でございます。
まず第一に、基本的な問題として、経済発展の姿は、あくまで均衡がとれ、安定した成長でなければなりません。均衡なき成長は、いたずらに経済社会の各面に混乱とひずみを生じ、かえって、その発展を永続させないという現実の教訓を十分に生かす必要があります。
いまさら申し上げるまでもなく、現在、わが国経済は、設備の過剰、農業や中小企業における生産性の立ちおくれ、社会資本の不足など、各種の不均衡を生じております。
私は、今後三年程度の間に、わが国経済の課題は、政府民間相協力して、この問題の解決に真剣に取り組んでいくことにあると考えます。
それにつきましても、経営者各位に特に要望いたしたいことは、その経営態度の一そうの健全化であります。すなわち、景気が回復し、経済活動が活発化した後においても、過度の競争意識から行き過ぎた設備拡張に走ることは厳に慎しみ、いたずらに政府にたよることなく、自主的な立場から、秩序ある競争と協調によって、常に適正な操業状態を確保し、生産性の向上につとめていくことが何よりも必要であります。同時に、資本構成の是正につとめ、過度の企業間信用を解きほぐすなど、企業体質の根底からの強化に意を用いなければならず、また、国際競争に対処するためにも、経営規模の適正化をはかり、技術の開発に力を注いでいかなければなりません。金融機関においても、企業基盤の健全化のため、適正な融資態度を堅持するよう、期待するものでございます。
さらに、経済全体の効率を高めるため、農業、中小企業など、生産性の低い部門においては、設備の近代化はもとより、農業構造の改善や事業の協業化などを積極的に推進していくことが急務であります。その際、中小企業の近代化については、大企業の側においても、その経営合理化の一環として、親身になって、これを支援されんことを望むものであります。
政府としては、このような企業体質の強化、産業体制の整備のため、諸般の施策を今後とも強力に実施してまいります。他方、立ちおくれている住宅、道路などの社会資本については、計画的に、より一そうの充実をはかってまいる所存でございます。
今後、財政がわが国経済に果たす役割りは、公債発行という新たな展開と相まちまして、一段と重要なものとなってまいります。すなわち、以上のような財政需要に応ずるとともに、他面、財政と金融が相互に相補い、積極的かつ弾力的に景気調整機能を働かしていくことが肝要であります。
このように、経済社会の各分野の均衡をとり、景気の変動を最小限にとどめ、かつ、できるだけ高い成長を確保するという考え方に立って、今後の経済運営を行なっていくならば、この三年程度の間、わが国経済は、おおむね実質七ないし八%程度の成長となることが見込まれるのであります。
第二の問題として、開放経済体制のもと、わが国経済の運営にあたりましては、常に世界経済の動向を見守りながら、競争と協調を通じ、国際経済社会に貢献してまいらなければなりません。
今日、わが国の国際収支は、世界経済の順調な拡大を背景に、きわめて好調に推移いたしております。しかしながら、今日までのような国際経済の好調がいつまでも続くと期待することは問題であり、また、開発途上国における外貨不足や、先進諸国における合理化投資の進展などを考え合わせますと、輸出競争は今後ますます激化するものと予想されます。さらに、国際金融の面でも、幾多の問題をはらんでおり、予断を許さない状況にあります。したがって、今後とも、経済の質的強化をはかって、輸出の振興に一そうの努力を払わなければなりません。
また、南北問題は、今日、世界経済における重要な課題であります。開発途上国の発展がなければ、世界全体の平和と繁栄が望めないという認識のもとに、わが国としても、国力に応じて、国際経済協力を積極的に推進していくことが必要でございます。
第三の問題として、経済発展の成果が国民生活の向上に結びつくよう、社会開発をより一そう積極的に推進してまいらなければなりません。このため、国民生活の実質的な向上を阻害している消費者物価の問題については、政府各部門のあらゆる施策を傾注して、今後三年以内に三%台までに落ちつかせたいと考えております。また、国民の生活の基盤をなす住宅及び生活環境施設の整備拡充に特に力をいたすとともに、社会保障のより一そうの充実をはかってまいらなければなりません。
さらに、地域格差を是正し、過密都市の弊害を除去するため、都市及び農村を通じ、地域の特性を生かした地域開発を進めて、恵まれた自然と産業の発展との調和をはかりながら、美しく住みよい国土を築いてまいりたいと考えております。
政府は、以上申し述べたことについて、これを積極的に実行に移してまいります。
わが国経済は、今日、ゆれ動く国際政治経済情勢の中にありまして、きびしい試練に直面しております。われわれは、この事実を直視しながら、戦後の苦難を乗り切った経験をもう一度思い起こし、政府民間相協力してこの難局を乗り越え、あすへの躍進と繁栄をかちとりたいと考えております。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/19
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020・河野謙三
○副議長(河野謙三君) ただいまの演説に対し、質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/20
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021・河野謙三
○副議長(河野謙三君) 御異議ないと認めます。
本日は、これにて散会いたします。
午後四時五十七分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105115254X00819660128/21
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