1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十二年六月二十一日(水曜日)
午前十時四十二分開議
出席委員
委員長 本名 武君
理事 仮谷 忠男君 理事 倉成 正君
理事 高見 三郎君 理事 長谷川四郎君
理事 森田重次郎君 理事 石田 宥全君
理事 東海林 稔君
小澤 太郎君 大野 市郎君
鹿野 彦吉君 金子 岩三君
熊谷 義雄君 小坂善太郎君
坂田 英一君 坂村 吉正君
田中 正巳君 丹羽 兵助君
藤田 義光君 兒玉 末男君
佐々栄三郎君 實川 清之君
柴田 健治君 芳賀 貢君
美濃 政市君 中野 明君
出席政府委員
農林政務次官 草野一郎平君
水産庁長官 久宗 高君
委員外の出席者
水産庁漁政部長 池田 俊也君
参 考 人
(全国漁業協同
組合連合会会長
理事) 安藤 孝俊君
参 考 人
(岩手県漁業共
済組合組合長) 伊藤佐十郎君
参 考 人
(東京水産大学
助教授) 清光 照夫君
専 門 員 松任谷健太郎君
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六月二十一日
森林病害虫等防除法の一部を改正する法律案(
内閣提出第九七号)(参議院送付)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
漁業災害補償法の一部を改正する法律案(内閣
提出第六八号)
漁業協同組合合併助成法案(内閣提出第二九
号)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/0
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001・本名武
○本名委員長 これより会議を開きます。
漁業災害補償法の一部を改正する法律案及び漁業協同組合合併助成法案の両案を一括議題といたします。
本日は、ただいま議題といたしました両案について、参考人から意見を聴取することにいたします。
本日御出席の参考人の方々を御紹介申し上げます。東京水産大学助教授清光照夫君、全国漁業協同組合連合会会長理事安藤孝俊君、岩手県漁業共済組合組合長伊藤佐十郎君の三名の方々であります。
参考人各位には、御多用にもかかわらず、本委員会に御出席くださいまして、まことにありがとうございました。
目下本委員会におきましては、漁業災害補償法の一部を改正する法律案及び漁業協同組合合併助成法案を審査いたしておりますが、両案について参考人の方々の忌憚のない御意見をお聞かせいただきたいと存じます。また、この際、水産業の振興に関する基本的な方策等についても、あわせて御意見をお述べいただければ幸甚に存じます。
議事の順序につきましては、まず参考人各位からお一人おおむね二十分程度御意見をお述べいただいた後、委員から参考人の御意見に対して質疑をしていただくことにいたします。
まず、清光参考人から御意見をお述べいただきたいと存じます。清光参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/1
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002・清光照夫
○清光参考人 私は、大きな立場から日本の水産の問題に対する日ごろの考え方を主として述べて、それとの関連においてこの二つの法案に対する若干の私の考え方をお聞き願いたく存ずるわけであります。
私は、ただいま水産大学に職を奉じているわけでありますが、若い学生諸君が目下学生大会において激しい討論を行なっている問題は、決してベトナム戦争でも中東問題でもなくて、実に日本水産業の現状と将来に関するものであります。彼らの水産界を見詰める目というのは不安と希望に満ちているわけでありますが、これは大多数の日本の漁民、特に沿岸漁民のそれと共通ではないかと考えるわけであります。
そのような背景といいますか、私の置かれている雰囲気をバックグラウンドとしまして考えますと、昭和四十一年の漁業総生産は七百七万トンで、御存じのように史上最高の水準を確保することができたわけであります。それはいまのところ中型底びき網の北転船が六二%の増、それから沿岸近海カツオ一本釣りなどが四四%増、そういったものに始まって、遠洋では北洋母船式底びき網の二五%増、また遠洋カツオ一本釣りが二八%増というわけで、マグロは御存じのように昭和三十七年以来停滞ないしは減少しているわけでありますが、そういうふうに伸びているわけでありまして、その他のマグロをはじめとする有力な漁業というものは伸び悩みもしくは減少であるわけであります。とりわけ、沿岸漁業というものは百八十六万トンで、依然停滞を続けていることは、私たちの重大な関心を持つところであるわけです。
一体、日本の漁業というものは、すでに大きなバイタルフォースというものが喪失しつつあるのでありましょうか、あるいは何らかの政策手段をとるということによってさらにそれを飛躍的に期待することができるのでありましょうか。
昭和三十年から三十七年に至る高度経済成長というものは、沿岸漁業の内部に経営的な意味で古い村張り的な共同経営体が崩壊していきまして、個人とか会社企業体の増大をもたらし、沿岸漁業そのもののものさしというものを、これまでの従事者五人以下の漁家漁業というものの通念から十トン未満の漁船漁業へ拡大し、さらにとる漁業からつくる漁業のそれへ移動させてきたわけであります。私は、あとで述べる法案と関係し、それを包んでいる背景というものをやはり見なければならないという意味で、こういう問題を皆さんにお考え願いたいと思うわけであります。
このような漁業経営体の減少と並んで老齢化、それとうらはらに若年労働力の流出というものは、確かにかつて見られなかったような漁民層の分解というものをきわ立ったものにしてまいりました。初め、沿岸漁業では、その成長過程において、特に倍増計画において見られましたように、無動力船よりは、三トン階層のようにより高い所得水準のものが今後生き残るであろうし、それを中核漁民とかあるいは中核的漁家経営というふうに名づけまして、沿岸の、あるいは日本漁業の到達すべき目標点であり、好ましいものと思わせ、また思われてきたのでありますが、現在のところ、それが必ずしも簡単なものではなく、むしろそれどころか、それは好ましい唯一の政策であるようなものではなくなってきたところに、重要な私たちの問題があるわけであります。つまり、所得水準で八十万円とか七けたの経営体とかの、ミクロで見た所得単位だけで見る漁業政策というものでは、とても今後五年後の九百万トンとかあるいは十年後の一千万トンとかの水産物需要を総体的に、マクロ的に押し出していくことは困難であるはずであります。まして、世界の国際漁業の中で日本が成長していく場合の態度としては問題であると考えなければならないわけであります。つまり、もうかる魅力ある漁業で競走するという観点からは、都市近郊の漁村のように、労働力が他産業に流出するとか、あるいは海の激しい公害で魚族資源が減少していくとかの悪条件が累積されまして衰退する一方、逆に漁場条件がよい地域あるいは地帯では、三ないし五トンから十トン階層というものが成長するというぐあいで、やはり明暗が出てくることをいなめません。したがって、最近では、また中核漁家経営の水準が三トンから一つ上のものへ飛んでいかなければならず、都市勤労者と同じ生活を営むことがそうでなければ困難になってきているように思われます。つまり、命がけの飛躍というものは、ここでは命をつなぐための飛躍と言えるでありましょう。都市近郊漁村の場合、この飛躍ができないほどその漁場条件が悪化しているところでは、若年労働力の払底もありまして、観光の釣り舟とか、土本日雇いとか、家内の旅館業の手伝いとか、そういった兼業所得がふえているわけであります。今度の白書が、漁船漁業の場合、専業化が全体として進んだといっておるのでありますが、そのあとで出ました昭和四十一年漁業就業者調査結果では、特に自営世帯の専業、兼業について、専業世帯というものが四・八%減少し、第二種兼業世帯は二・六%増加しまして、そこでは兼業化の傾向が見られると、注目すべき発言をしているのであります。
こういうような観点で考えながら、私は、漁業協同組合の基盤強化と、合併問題の重要性というものを次のように考えたいのであります。
高度成長経済以後、つまり、昭和三十年以後の漁業経営というものは、一つ一つの個別的な漁業、つまり漁家とか漁業経営というものが、激しい競争の中で所得水準を上げるために、省力技術、資本装備の近代化をおもな努力目標としてまいりました。これは一面確かに日本漁業の進歩でありましょう。しかし、その結果、競争から脱漁民化した経営階層の漁獲量というものは、ほかの場合変わらないとすれば、マイナスとなって、日本漁業全体の漁獲量というものは、普通はそれだけ減少することになるわけであります。つまり、これまでの所得中心で見た豊かな漁家なり日本漁村の企業経営というものが残っていくことはけっこうであるとしても、そのために沿岸なりわが国全体の漁業生産力というものが減退もしくは伸び悩んでは困るのではないでしょうか。しかしながら、幸いに日本の漁業では、歴史的に見ても漁民の協同組合がありますから、ある漁家が先端の進んだ技術を導入もしくは開発しますと、自分だけが抜けがけの功名を得てほかの者が脱落するとかいった個人主義的なことはなくて、たいていは漁協の中の青年研究会とか船主協会とかいうグループでもって、あるいは仲間でもって、お互いの技術革新の知識交流が行なわれるとか、または集団操業ないしは技術的な先達船というものが、水揚げがお互いに平均化し、レベルアップするという形で引き上げるのであります。すなわち、この場合は、全体の生産力水準を落とさないで、結果的には、それぞれの一つ一つの漁家の所得を高めることにもなるのであります。
したがって、漁業協同組合を考えるいまの場合に、漁家の所得、つまり、いうところの付加価値生産性を一つ一つ高めることと同時に、漁業の物的総生産力を拡充していくことの二つを進めることが、漁業発展の今後の課題でなくてはなりません。それがためには、一そう協同組合の生産力基盤の拡大と資本の充実が、漁業協同組合合併助成法案の提案理由にもございますように、必要であると私は考えるのであります。そして、その限りにおいて、漁協というものが規模の経済、つまり生産性を前向きに考えていくことは、総合農協の今日の状態と比較しても、ますます必要となってくるのではありませんか。すなわち、昭和三十九年、地区漁協の一組合平均員数百九十四人に対して農協は六百六十四人、職員数六・五人に対して二一・四人、販売高八千八百七十六万円に対して一億一千六百五十三万円と、非常な差があるわけであります。
このように、漁協を中心とする漁業生産力の培養には、私がさきに述べました集団操業とかあるいは協業化に対する政府の適切なガイドラインが必要であることは、言うまでもありません。それと同じような意味で、漁協の合併助成にも誘導政策というものが今後必要でありましょう。ただ、漁協には、歴史的に部落、つまり地先漁業権を基盤として存立してきた意義がございますから、臨時漁業センサスによっても、旧市町村区域未満のものは約五一%もあって、農協の一四%に比較しても著しく狭小でありますし、いわば農協というものが伝統的に町や村などの行政区域を基盤としている点から申しますと、行政組織と密着しやすいということが言えるのでありましょう。しかるに、漁協の場合には、伝統的な生活空間が、明治三十四年の漁業法以来、地先漁場をその生活空間としているだけに、彼ら独自の社会的な価値体系あるいは社会関係というものを持っている側面を決して過小評価することはできないでありましょう。
したがって、一片の時限立法によって上から新制度が到達されるなどということは容易なことではありますまい。問題は、この法案が現実に定着するかどうかは、現存の漁場制度、とりわけ漁業権制度の検討が重要な前提となるはずであります。そして、本来、協同組合というものが、階級的にも弱い立場のものの自主的な相互扶助の運動から生まれたものであってみれば、合併の推進というものは、やはり組合の自主性を尊重するという誘導政策、教育効果を中心とするものでなければなりません。また、合併が行なわれるためには、協業の場合でも一般にそうでありますが、部分的にも全面的にも、組合の合併が以前よりもずっと経済的合理性があって、組織化による費用が割り安となるものでなければ、合併もしょせんは寄せ集め人海戦術にたよる親方日の丸式のセンチメンタルなものになってしまうおそれがあります。それでありますから、これを推進していく場合の態度は、地域の漁業条件を慎重に考慮してやっていく必要があると私は考えるのであります。
次に、最近の漁業経営者というものは、漁業災害補償法に対してもやはり経済的観念で臨むようになっているわけでありますが、これはやはり一つの進歩であるかもしれません。支払う掛け金、すなわち現在の価値と、将来与えられるかもしれない不時の共済金、すなわち将来価値とを比較して、漁民の経済行動を決定しているわけであります。ですから、よほどのことがなければ、現在の価値を手放して不時の将来のために犠牲にすることはない場合が多いわけであります。そして、最近の水産物の生産地価格が年率七・三%も値上がりし、昭和三十八年のごとく対前年比が一五%、昭和三十九年も二%も値上がりしている条件のもとでは、養殖業のように、どちらかといいますと、コストをかけずに豊凶の変動がなお投機的性格を若干持っているものを除いては、漁災への加入率が漁業のように二ないし七%――採貝・採そうの二三%前後を除いて考えれば、二ないし七%のように低率であるのは、むしろ当然でありましょう。その意味で、共済限度額を引き上げて加入への誘因を強くし、初めて今度の改正によって政府が再保険する仕組みをとったことは、制度そのものの著しい前進であるわけであります。
問題は、ただ、掛け金収入と支払い共済金との間のロスレシオに関して、なるべくひずみを少なくするという保険数理の観点で制度改正の試行錯誤を慎重にやっていくということではなくて、今後さらに基本的に漁業災害補償制度の持つ意義ないし理念が深く検討されなければならないように私は考えるのであります。
最後に、一つの私の従来から持っている考え方を簡単に述べますと、資源の問題でありますが、最近のように漁業の技術革新や資本装備の近代化が進みますと、場合によっては、中小資本ないしは大資本と沿岸との間に、経済力の格差を通じて、社会緊張や資源の減少の問題が生じてくるようであります。たとえば、太平洋北部海域における八戸のイカ釣りとまき網との間の関係、銚子のサバとまき網との関係、あるいはまた北海道の沿岸刺し網と青森底びき業者との間の漁業調整問題がその一端でありましょう。
わが国のこれまでの漁業調整というものは、歴史的に見る限り、たとえば大正十年九月の機船底びき網漁業規則の制定によっても知られますように、沿岸漁業との対立、沿岸魚族乱獲を防止するための取り締まり、禁漁区の設定、そういった歴史であるとも考えられるのであります。それは主として社会の利害調整をもっぱら目的としていたようであります。したがって、それと直接的な隻数及びトン数制限がおもなやり方であります。しかし、今日もし技術革新と漁業生産力の拡充を日本漁業の重大な課題とするならば、社会の利害調整と技術生産力、漁労技術の進歩との調和は一体ないものでありましょうか。もしある漁場に技術進歩の高い漁種、漁法を導入することを認めたならば、そのような経営の生産費、そのような漁場に入ってくる経営体の生産費以上の超過収益、それはその漁場の生産力を最大に維持する最大持続的生産量部分、つまり、生産費以上の収益超過部分というものを漁場許可料なりの形で国家が徴収し、国家へ還元するとすれば、魚の資源を最大の持続生産力の水準に維持し、直接の漁業制限、許可と同じ効果を持たせることができるでありましょうし、場合によっては、徴収したファンドは他のおくれた漁業経営の構造改善なり、場合によっては国際漁業開発への社会的調整に利用もしくは配分すればよいのではありませんか。ここでは経済的な立場からの調整尺度が徐々にガイドラインとして導入されることになるでありましょう。さきに触れた社会緊張もこのようにして解きほぐすことができるでありましょうし、また海洋国際競争の観点において、漁場の開発も国、民間との協力によって進むこともできるでありましょう。
以上、私たちは、海というものをもはや単なる第一次産業の場としてあるいは農政の感覚でとらえることはできません。漁業は、明治以来、動力船や大謀網の改良にしても直ちに軽工業と結びついていましたし、今日の海洋開発は、漁業が制御と通信の工業そのものでありましょう。まして、流通などの関連部門を含んで考えればなおさらであると考えるのであります。
明治十三年、ドイツで行政裁判法を研究していた村田保は、その師たる行政裁判所長官グナイストに大いに啓発されて、海国日本の水産業は大いに振興せざるべからずと悟り、松原新之助と協力を誓ったことは有名な挿話であります。そして、今日の日本水産業は、ある意味で新生を迫られているのではありませんでしょうか。
長々と述べまして、御清聴を感謝いたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/2
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003・本名武
○本名委員長 次に、安藤参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/3
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004・安藤孝俊
○安藤参考人 私は、全漁連会長の安藤であります。
本日、全国漁民の強く要請いたしまする漁業災害補償法の一部改正法案並びに漁業協同組合合併助成法案の御審議にあたりまして、不肖私に参考人として私見を申し上げる機会を賜わりましたことは、まことに光栄のきわみでありまして、衷心より厚くお礼を申し上げます。
時間の御指定がありますので、私といたしましては、両法案が国会を通過し、施行されることによって、沿岸漁業は申すに及ばず、さらに、不可分の関係にある中小漁業の振興にもきわめて画期的な効果を与えるものであるという前提のもとに、まず、全漁連を中枢といたしまする漁協系統運動を通じまして、率直に私見を申し上げるつもりであります。ただ、非才な私として、この条件を十数分にして申し上げ得ますかどうか、勢いきわめて大筋を申し上げることになりますので、その点はあらかじめお許しをお願いいたします。
まず、前提とする根本的な重要案件としては、私が日ごろ念頭を去らないことがあるのでありますが、それは、近年、沿岸漁業の生産量が伸び悩んでおり、わずかに価格上昇によってささえられておるというこの事実に対しまして、これを関係向きが将来の対策樹立にあたりましてどのように認識してよいのか、この命題であります。つまり、これを別な角度から申し上げますと、わが国が平和国家として経済的大発展を目ざし、高度工業国として隆々たる伸展を見つつあります今日、国家百年の大計を立てる立場のビジョンの中に、このことがいかに扱われているかということが、沿岸漁村振興を夢みる私どもにきわめて重大なる利害の分かれるところとなることを案ずる原因となっていることを究明いたしたいのであります。
幸いにして、将来、一般国民世論が、沿岸漁業振興は国民経済に寄与するところが大きく期待できるものとし、もし主管省だけにとどまらない総合国策として、確固たる沿岸漁業振興のビジョンが決定されまするならば、一方、今国会において御審議中の公害防止基本法の施行によりまして、当然公害が除かれ、海水の汚濁もなく、一部埋め立てを必要とする漁場喪失以外は自然の清澄さに戻ることを信じますので、私どもは、国の差し示す方向によって安心と確信を持ってそれぞれ分に応じた計画を立て、魚食国民であるという祖先以来の食生活を守り、かつ、あわせて魚貝・そう類の増産によりまして輸入を防ぐために、三百万漁民が総力を結集し、四面環海の利を活用し、国民経済に寄与しながら、漁村文化の建設に総力を結集することを期待することができるのであります。
このことは、遺憾なことでありますが、由来きわめて困難な条件にあるためか、多少言い過ぎかもしれませんが、国策としてのビジョンがなく、散発的に、当面緊急事業とするものを施行せられます関係から、沿岸漁業の産業としての価値づけができず、自然、大衆の悲観的な見方を続けられる結果となったのではないかと思量されるのであります。
試みに、過去幾十年の事実を顧みますると、終戦当時、当局は、沿岸が荒廃に瀕しておりました関係からか、安易な道を選ばれまして、主として漁業法の民主化を行なわれた以外は、沿岸漁業に特別の施策がなく、戦時中荒廃した沿岸漁場の復興方針も未解決のままに、沿岸から沖合いへ、沖合いから遠洋へとのスローガンをもちまして当面の方針とせられ、沿岸を顧みない、一応合理的と認められまする生産第一主義を推進し先進基地を失ったわが国が遠洋漁業として大きく飛躍いたしたのであります。しかし、その遠洋漁業も、国際漁業の先達として輝かしい実績を確保したことは大きいのでありますが、一面に、過当競争の弊害とか、あるいは国際漁場の紛争などの影響から、現に各国の漁業権益の主張等によって困難に直面することになりましたことは、一応の帰結でありますし、かつまた、沖合い漁業の過当競争も行き詰まりを来たし、一部転換あるいは減船を余儀なくされることになっておるのであります。しかし、この経過によって、沿岸も含めて漁業国として、これら当面の水産政策の更改期とも称せられる段階に達しておるものと思量するのであります。
幸い、われわれは、この長い幾年月にわたり沿岸漁業振興に微力を尽くしてきた立場といたしましては、むしろ水産政策の確立によって沿岸を見直さざるを得ない現実が、かえって不可避的に現代の科学技術の限りを尽くし、かつ、近年企業として成果をあげつつありまする増養殖事業を拡大推進し、魚礁の徹底的実施など、沿岸資源の培養にまで手を伸ばすことを要請されているわけでありまして、皮肉な現実ではありますが、まことに喜びにたえないものであります。
以上によりまして、私が一般の悲観論を排して振興が可能であるということを申し上げることは、あるいは軽率に過ぎるとのおしかりも受けるかもしれませんので、ここに空論にわたることを避けるために、周知の事実として、近年の沿海における増養殖の成果として、ノリ、ハマチ、ワカメ、エビ、真珠、ホタテなどの幾多の実績をあげ、これを証明することができるのであります。将来、永年つちかってきた漁協の力と、国の当然負担と認め得る強力なる支援がありますならば、長期年次計画のもとに、沿岸の広域にわたって増養殖事業が実施され、明らかに沿岸振興が期待できることを信ずるものであります。ただ、実施にあたっては、事があまりにも重大でありますから、きわめて慎重にも慎重な態度をとり、国民世論の支持を得て、国策の一環としての前提が必要であることは当然でありますから、この際、あらためて沿岸漁業の産業的価値の認識から出発することを切望いたします。
次に、このような恵まれない事情のうちに漁協が果たしてきた活動成果を申し添えますが、前述のような結果、沿岸は、原始産業である農業の行き届いた程度の国家的施策はほとんど貧困であり、漁港築設以外は、当面漁協の活動によるものを除いては特に見るべきものがない実情でありました。極言いたしますと、わずかに社会政策的施策が行なわれたにすぎなかったと存じますし、系統運動は、十数年の間ただ黙々として系統の自主運動を中心として漁村発展につとめ、その準備期間として過ごしたうらみがあったのであります。しかし、その間につちかわれた漁協系統運動の体験は、ようやく事業面の成績にあらわれ、系統組織活動の重要性を認識するに至りまして、いたずらに他力に依存する弊風から脱し、自主時代への好ましい傾向を見るに至りましたことは、この間の大いなる収穫と存じます。
次に、その事業を証するため、抽象的に流れませんよう、例を北海道にとりまして、簡単に申し上げます。
まず、道内の漁民は、組合中心に、従来みずから零細漁民と称し、他力本願に依存いたしました長い過去から抜け出して、みずからの姿勢を正し、自主独立の意欲を高揚し、十数年前と異なる自信を持つに至りました。このことは、多く信用事業を先行して、生活の科学化と経営の合理化ともいうべきくふうを盛んにし、現在まで、いたずらに生活を切り詰めることなく、明るく隣保相助け、むだを省き、資本の蓄積を開始し、一方、累年の負債整理をする方法によりまして、婦人、青年を含めた全村運動に発展せしめ、昭和二十四年には、連年横ばいといわれました漁獲状態のもとにおきまして約四億円であった漁協の貯金が、昨年末には、逐年上昇を続けて二百十五億円となり、一方、旧負債は、道の利子補給等の助成と相まちましてこれまた逐年整理され、現在、信漁連以下の系統を通ずる短期資金はこれを自まかないし、一部の中期資金についても自まかないが可能な程度に進み、信漁連の預金も員外約二十億円を含め平均二百二十億円余に達し、ただいま貸し付けは年間平均六回転で、累計一千八十億円と、悪質金融から免れるまでに至ったのであります。一方、金融事業確立によって、一時巨額の負債に苦しんだ道漁連も、九カ年で整促を完了いたしまして、生産物の共販は、漁協、道漁連と製品を無条件委託により、その成果をおさめつつあります。また、釧路、根室地方の市場経営を断行し、魚価安定の使命を果たすほか、あわせて物資の共同購買、冷凍、運搬などの一連の系統事業は、信連の信用事業を通して資金運用を円滑にし、ますます拡大し、広くこれらの共同施設を利用し、各地の組合員が脱落することなく、事業分量は、総取り扱いにおいて年間五百八十億円をこえ、信漁連、道漁連両々相まって漁家経済安定のため協同の成果をあげつつあります。これら協同組合の強化は、現在、政府施策の受け入れ態勢に欠くることのない程度に達しまして、進んで沿岸漁業振興のため、最近長期計画のもとに漁業基盤整備をもくろみつつ、漁業の近代化をめどにして努力中であります。
以上の活動中、特に効果の大なるものは、婦人、青年の十万人に近い組織のほか、信用事業の推進を表面の理由といたしまして、二十戸に一人の徳望ある貯蓄推進実行委員を互選させ、これらの人を委嘱して部落ぐるみ運動を繰り返し、漁村振興の中央施策の普及や道の施策の普及等をも話し合って、民主的協同の実をおさめるように努力いたしておるのであります。このため、信漁連は、年間予算約一千万円を茶菓料として交付し、組合員は全く奉仕に徹し、将来の漁村振興に期待をかけておるのであります。
以上はほんの一端でありますが、信用事業は、経済活動の前提をなす資本調達をになう関係から、農協発展の歴史を見ましても明らかなように、各種事業中、困難を排しましてぜひ先行することが得策と存じます。幸い、各県信連も全漁連を中心に団結し、それぞれ同様の努力を続けておりますので、近年著しく強化してまいりまして、昨年末までに全国漁協貯蓄一千億円を目標とし、活動いたしましたが、一千八十億円とみごとに目的を完遂し、目下三年間で二千億円を目標として第二次運動を展開しておりますので、一連の共同施設として、共販、購買、共同利用なども、北海道の前例のように必ずや拡大強化可能と信ずるものであります。しかし、共同販売高は、府県は鮮魚及びノリ等は明確に把握できますが、その他は製品の検査の行なわれない向きが多く、全国的視野に立って経済活動の資料として利用し得るものがはなはだ乏しいため、全漁連におきましては、計画と活動に直ちに利用し得ます統計資料を収集するため、目下計画をいたしております。ただ、全漁連は、わが国の系統三段階の中枢としては、まだ組織活動の初期を過ぎた程度でありまして、系統三段階制の完成に至らず、現在のところ全国運動としては、石油を中心とする購買事業、ノリの調整保管を主とする初期の共販の段階にありますので、その事業分量も、取り扱い高わずかに百五十八億円にすぎません。したがって、均衡のとれた三段階制の強化を目ざし、今後、まず県連以下の各種共同事業を拡大伸長し、そのうち共通的種類のものを全漁連に集結して協同の実をあげ、さらにその効果を通して一段と漁協の強化をはかるべきであります。
このように、困難の中にそれぞれ漁協強化を進め得ましたが、もちろんその過程において、漁業法の一部改正、中小漁業融資保証法、農林漁連整促法、漁協整促法、沿振法、漁災法の制定など、相次いで国会並びに政府御当局の絶大なる御支援がありまして、協同運動推進を勇気づけ、きわめて重大な役割りを果たしつつありますことを見のがすものではありません。その効果が協同運動の自主的活動受け入れ体制の活用と相まちまして、今後加速度的に漁村振興の事業が促進されますことを信じまして、この場合、あらためて国会並びに政府御当局に深く感謝申し上げるものであります。
以上、きわめて意を尽くしませんが、率直に、沿岸漁業振興の観点から、その使命をになう漁協の歩んでまいりました経過とその強化について私見を申し述べました。このことは、沿岸漁業関係法案の特に大きな前提となるものでありまして、冒頭に私見を申し上げましたので、御了承をお願いいたします。
次に、ただいま御審議中の漁協合併助成法案について、少しく私見を申し上げます。
御高承のとおり、現在の漁協は、古く漁村地先の専用漁業権またはその他の免許漁業権を享有し、これを組合員に行使せしめることを主たる目的として設立されまして、漁業組合の名によって出発いたしたのであります。昭和の初期、農漁村の恐慌を克服する必要から、これに経済活動の機能を与えるために、関係法令を改正し、当時の産業組合の協同精神を取り入れまして、漁業協同組合の名のもとに積極的な活動を期待しました結果、当時一応の成果をあげた組合がありましたが、戦時統制機関に移行して、ほとんど協同組合としての機能が停止されたのであります。
さらに、戦後占領下におきまして、再び水協法による協同組合に組織がえがせられたのでありますが、その変更のおもなる点は、連合会の組織中に信用事業を分離して、信用事業の本質を明確にしたことでありまして、漁村の中核となる協同組合の組織の発達を促進し、漁業者の経済的、社会的地位の向上と水産業の生産力の増進とをはかりまして、国民経済の発展に寄与することを目的とする組織でありまして、民主的運営を重視せられた以外は、事変前の制度とほとんど大差のないものであります。
しかしながら、水協法は占領下の立法でありますので、設立の際は全く漁民の自由意思によって立案されました。したがって、指導の徹底を欠き、長年つちかわれました旧漁業組合時代の影響を免れず、勢い、旧市町村区域以下の区域をもって設立認可を受けた向きがきわめて多く、経済活動に適する基盤としては狭小に過ぎますし、ひいて本来の目的とする事業が不振の原因となっておる組合が少なくないことの現実があります。したがって、これらの組合は、事業分量も僅少で、経営基盤の弱体を免れません。管理運営はもちろん、各種事業も均衡のとれた経営が不可能でありまして、勢い機能の発揮に差しつかえ、制度の目的に沿わぬ結果となっておる実情であります。このことは、一方、他の適正なる基盤に立つ漁協が経済活動に多大の効果をおさめておりまする事実に徴しまして、まことに遺憾に存ずる次第であります。この際、一般経済界の躍進の波にほんろうされ、苦難することのないよう、自然的条件や経済的、社会的表面に周到なる考慮をめぐらしまして、適正規模を目標とした合併強化をすることが肝要と存じます。
したがいまして、今回当局におかれまして、わが国沿岸漁村の振興を期せられるために、そのにない手である漁協のすべてが最近の経済情勢に対応できるよう、弱小漁協の経営基盤を強化することを目的とした漁業協同組合合併助成法案を提出せられ、今国会において成立を期しておられますことは、まことに適切なる御施策と存じまして、感銘を深くいたしております。
承りますと、本法施行後四ヵ年間におきまして、合併対象組合は千三百六十八、計画達成後の残存総組合は千六百二十二となる目標と承っております。本法案の成立によりまして、近代漁協にふさわしく、沿岸漁業振興に寄与する飛躍的な活動が期待できますので、まことに喜びにたえません。何とぞすみやかに本法案が成立いたしますよう懇願いたします。
次に、漁業災害補償法の一部改正法案について、私見を申し上げます。
顧みまするに、漁民永年の要望でありました漁災制度は、去る昭和三十九年十月に発足いたしまして以来、約二ヵ年有余経過いたしたわけでありますが、私は、全国段階における実施団体の責任者といたしまして、制度改善のためにじみちな実績づくりに微力を尽くしてまいったのであります。その結果、本年三月末までに、制度発足以来加入実績の総合計は、加入した経営体数で三十三万五千、共済金額で二百九十一億円に達しました。このことは、去る昭和三十二年から七年間にわたって行なわれました試験実施時代の実績総計と比べますと、まず、共済金額におきましてはほぼひとしいのでありますが、加入者の数は飛躍的に増加いたしまして、約八倍となっております。また、最近年次の、すなわち昭和四十一年度の加入率は、全国経営体数の実に半ばに達しておりまして、本制度普及の成果を物語るものであります。
以上のことは、もとより国会はじめ関係御当局の手厚い御指導と関係機関の積極的な協力のおかげによるものでありますが、要するに、全国漁業者の側における本制度に対する関心と期待がいかに強いか、かつまた、いかに幅広いかを物語るものであります。とりわけ、本制度は、その当初から改善すべき問題点を多数残しておりましたばかりでなく、試験実施時代の内容に比しまして、はるかに魅力に乏しかったという事実を考え合わせますと、この実績をおさめ得ましたことは、漁業者の側において、まず、制度を利用し、その積み上げによって改善を得ようとする真剣ないわゆる開拓者的精神があふれておった証在であります。
ところで、発足以来の事業収支につきまして申し上げますと、本年三月末までの期間において支払われましたもの及び支払い確実のものを合わせますと、約十六億三千万円でありまして、その結果、五億一千万円の支払い超過となって収支均衡を欠いておりますが、一面、いささか漁業者のための経営安定に寄与することがあったと自負するものであります。かつまた、この収支均衡を欠くに至りました原因の大部分が、異常災害の多発したノリの養殖共済金の支払いによるものであることを思いますと、異常事態に対処する政府の保険事業が創設されるならば、本制度の事業運営はいささかも懸念なく、基礎は十分確立し得るものと確信を深めるものであります。
なお、本改正案につきましては、その所見を申し上げますならば、制度発足以来の懸案となっておりまする事項が、現時点におきまして可能な限りほとんど大部分が取り上げられておりますので、事業上の赤字処理の問題、掛け金の増加の問題、その他義務加入の問題など、近い将来に解決を希望する点がありますが、その他のことにつきましては伊藤参考人に譲りまして、本改正法案がすみやかに成立、公布せられますよう懇願いたす次第であります。
時間の関係で意を尽くさず、かつ非礼なことを申し上げましたが、私の所懐の一端を申し上げ、諸先生方の特別な御賢察を仰ぎ、本法案が早急に通過いたしますようお願い申し上げる次第であります。
御清聴まことにありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/4
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005・本名武
○本名委員長 次に、伊藤参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/5
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006・伊藤佐十郎
○伊藤参考人 お二人から詳細な御意見がございましたが、私は地方におりまして、現在岩手県の漁連の会長と共済組合の組合長を兼務いたしております。そういう地方の関係団体の理事者の立場から、ただいま御審査中の二つの法案に関連いたしまして、若干管見を開陳させていただきたいと思います。
まず第一には、漁業災害補償法の一部を改正する法律案についてでございますが、今回の改正案の第一点は、政府保険の新設ということでございます。これは私どもとしてはかねがね非常に念願いたしておったことでございますし、心から歓迎いたします。考え方といたしましては、通常生ずべき漁業災害については、政府の保険をまつまでもなく、共済事業でもってほぼまかなえるではないか。ただ、予期しない異常災害が生じた場合の問題については、とうてい共済事業だけではまかない切れない。それを補完するために、農業災害補償法あるいは漁船保険等の例もあることであるから、すみやかに政府の保険を新設していただきたいということをお願いしてまいりました。昭和三十九年に漁業災害補償法が制定になりましたときに、中身を拝見いたしましたら、共済事業のことだけうたってございまして、政府の保険が欠けておりました。これでは漁業災害補償法ではなく、漁業災害共済法ではないだろうかという疑問を持ったわけでございます。今回の政府保険の新設によりまして、初めて名実ともに漁業災害補償法の体をなし、いわば三十九年に制定された現行法にやっと画竜点睛を見たというような感じを私どもはいたしまして、この政府保険の新設ということについては、関係者一同非常に喜んで御期待を申し上げている次第でございます。
ただ、この法律事項として御決定をいただくもののほかに、政省令によって保険会計の仕組みについていろいろおきまりになると思いますが、もし保険会計の短期均衡を心配するあまり、コンピューターだけに依存するようなバランス中心の計算をいたしますと、直ちに掛け金率に影響いたしてまいります。このことが漁民の負担能力の限界とどうにらまれるかということが重大な問題でございますが、これについては、おそらく御如才なく、単にそういう保険数理だけではなく、政策的御配慮をいただけることを期待している次第でございます。
改正の第二点でございますが、これは漁獲共済及び養殖共済についての改正点でございます。そのうち、漁獲共済につきましては、従来この制度の第一号漁業と称して、採貝・採そう、磯つきのもの等に対して、漁業法でいうところの第一種共同漁業権に属する水産物の採捕、この漁業権に関連いたしますが、従来、共有あるいは入漁権の設定等によりまして、一定水域に二以上の組合の組合員が入り会い操業をするような場合、その全部が合意しなければ共済の加入契約ができないという制約がございました。これを、今回の改正案によりますと、単位漁業協同組合ごとの集団で加入ができるというような改善が行なわれるようでございますので、そうなりますと、この一号漁業の共済加入促進に相当のてこ入れの効果が期待できるわけでございます。少なくとも私の所管しております岩手県の管内におきましては、従来このために非常な支障がございましたが、これを解消することによって非常にありがたい結果が生まれるのではないか、かように存ずる次第でございます。
それから、養殖共済につきましても、一番問題になっておりますノリの養殖共済などは、零細な経営体が多数おりまして、これを個人加入形式で事務処理をするということは、加入経費の増高を来たしますのと、きわめて非能率でございました。これを組織的に団体で契約することが可能になるとすれば、管理経費の節減になり、保険としてのコストもそのために相当ダウンする可能性もございますし、それと、われわれがいわゆる足切りと称しておりましたが、共済責任期間の通算によって、一漁期通算により、損益の分岐点から、どの程度のところから共済金を支払う出発点とするかということについて、今度経験に徴した相当思い切った改正が行なわれるようでございます。これは従来累積赤字の主因となっておりました養殖共済の改善のためにはどうしても必要なことであり、私どもも機会あるごとにお願いしておった問題でございますが、これもたいへんありがたい改正案であるというふうに感じている次第でございます。
それから、そのほかに、十トン未満の漁船漁業を中心といたしまして、限度額率の問題でありますとか、掛け金補助の問題でありますとか、そういう政省令事項も含めまして、加入要件を緩和する方向で改正を御用意なさっていただいたようでございます。実績ですでに御承知かと思いますけれども、私どものただいませいぜい努力いたしました共済契約の中では、二号漁業の姿というのはほとんどあらわれておりません。ところが、二号漁業というのは、十トン内外の小型動力つき漁船の、自家労力を中心とした漁業でございますので、沿岸漁民のうちではこの階層が一番多いわけでございますが、それがいままで加入が進まなかったというところには、やはり仕組みの上の難点があったかと思います。それを今回改正していただくことによって、二号漁業あるいはそれに準ずる階層の加入というものを勧奨することが相当できるであろうと、これも期待しているわけでございます。
そのほかに、政府の特別会計に関する改正点、あるいは施行期日等に対する点もあらわれておりますけれども、漁船保険特別会計と一緒にしてなさろうとする改正については、特に御意見を申し上げる筋のものではなかろうと存じます。
施行期日の点につきましては、原則的には、いろいろ御苦労を願い、今後もかりにすみやかに法案の成立をお願いしたとしても、手続上諸般の段階を経る必要がありましょうから、すべてが即日施行というわけにもまいらないかと思いますが、事実上、ノリ養殖共済の実施がまるまる一漁期間たな上げになるという形のように拝見いたしました。昭和四十三年の秋にならなければ、改正法案では契約ができないという実態がございますのと、それから予期に反しまして、漁具共済が政府の再保険から全然はずされているようでございます。これは、養殖の実施延期につきましても、漁具共済がはずされたことにつきましても、それぞれ理由のあることでございまして、その点につきましては私どもも了承いたしておりますが、ただ、これがこのままの姿で長く放置されることは困ると思います。保険の御専門の立場からいろいろなデータも必要かもしれませんし、御検討の余地もございましょうが、一時保留された分、はずされた分、これらはなるたけすみやかに手直しをしていただくように、今後に期待申し上げたいと存ずる次第でございます。
以上、改正の要点について簡単に触れましたが、総括して申し上げますと、先刻安藤参考人も申し上げましたように、かねがね私どもの要望してまいりました改正点については、ほぼ全面的に採択になっておりますので、そういう意味において本法案には賛成でございます。すみやかにこの法案の成立することを御期待申し上げたいと思います。
しかし、いままで試験実施段階における赤字処理につきましては、国会並びに政府の格別の御配慮によりまして、きめていただきましたようでございますが、法律施行以来今日まで、先刻お話のありました五億以上にわたる連合会の赤字、それに対して今度は各県の共済組合も軒並みの赤字でございます。この改正によって、しからばその従来の累積赤字が解消するかどうかということを考えてみましたけれども、この改正案では過去の累積赤字を解消する要因は発見できません。これはよほど超長期的バランスの上において考えれば不可能ではないかもしれませんが、少なくとも当分考えられる範囲では、過去の累積赤字は別途の処理をしなければ始末がつかないのではないか、かように存じます。つきましては、これも重ね重ね御無理なことでございまして、国会の先生方としても、政府の関係御当局としても、また無理を言うかというようなおしかりがあるかもしれませんが、この分につきましては、ひとつ元利ともに政府の財政措置をもって御処理をお願いいたしたいというのが、私ども一同の希望でございます。
その他、限度額率の問題あるいは掛け金補助の問題等、いろいろ欲ばった注文がたくさんございますけれども、ここでこまかい計数等に触れるということは、私も準備不十分な点もございますので、これ以上は申し上げませんが、何ぶんよろしくお願い申し上げたいと思う次第でございます。
幸いにして法案が通過いたしまして、施行されることとなりますれば、私どもも従来から地方におりまして、県当局の援助を受けるばかりでなく、民間団体に共済育成のためのPTAのような組織をつくりまして、財源的にはきわめてりょうりょうたるものでございますけれども、気持ちだけでも結集してこれを育成しなければならないというので、若干の財源を積み立てて援助をいたしております。今後はさらにこれに倍する努力を重ねまして、すみやかに共済事業の安定的成長のために全力を尽くしたいと思います。何ぶんよろしくお願い申し上げます。
次に、漁業協同組合合併助成法案について、若干申し上げたいと思います。
これは新しい法律でございますので、法案の各条項等について一々触れることは避けたいと思いますが、従来なぜ漁業協同組合の合併が進まなかったかというようなことについては、私どもも深く反省するところがなければならないと思います。最近のことといたしまして、昭和三十五年でしたか、漁業協同組合の整備促進法という時限法が制定されまして、それによって今日まで、負債整理あるいは経営内容の改善等につきましては、かなり各県ともに見るべき成果があがってまいったかと思います。私の岩手県等におきましても、おかげさまをもちまして、わずかではございますが、相当の大合併が成功した地域もございます。それから、大合併とまではいきませんけれども、二、三そのほかにも合併もございましたし、赤字の整理につきましては、ほとんど予期以上の成果をおさめてまいりました。ところが、これが時限立法で、もう時間切れになるというまぎわに今度合併助成法をつくられたということは、まさにタイミングとしては非常によろしかったというふうに感じとっている次第でございます。
いままで合併が促進されなかった理由を素朴に考えてみますと、まず第一は、漁業権の処理の問題でひっかかっております。先刻も御意見があったようでございますが、今回の法律案によりますと、現存する第一種共同漁業権の存続期間に限り特例を設けるというような法文のように拝見いたしました。しからば、その漁業権が期間が切れて、そして新しい漁業権に置きかえられたときにどうなるかという問題は、関係部落民としては関心の深いところであろうかと思います。
それからもう一つ、これは私は不勉強で、あるいは錯覚であるかもしれませんが、総有的な部落財産的漁業権のほかに区画漁業権等、組合が合併することによって数個の漁業権が一本化する可能性もございます。そうなりますと、その水域の全部が同じ生産力を維持しているわけじゃございませんから、従来でさえ小部落の漁業権でも輪番制をとっているような場合、その大型化した区画漁業権の行使方法については、やはり利害関係が組合員相互に対立する場合がございます。こういう問題についても若干の検討が必要なのではないかと思いますけれども、これは思いつき程度でございまして、そのために条章の修正というようなことまで強く私は主張しようとするものではございません。ひとつ関係事項として申し上げておきたいと思う次第でございます。ただ、こういうことをよく考えてやりませんと、いままでにも組合員間の格差あるいは組合間の格差、それによる地域の格差というものがだんだん開いてきている傾向もございますので、慎重にこの点は実施面で考えなければならないと思っております。
第二の点でございますが、第二の点は、合併によっていかなる利益があるか、どういうものになるのかということが、しばしば座談会等を開いてやりました場合に、なかなか納得のいくような説得力を持てないということでございます。この点につきましては、今回の法律案で、関係組合の間で合議して計画を立てる、それを県に出して、県のほうから、今度は学識経験者の意見も聞いた上で認定なり承認なりをするという、非常に濃密な指導をなさるようなふうになっておりますので、いままでよりははるかに進むかと思いますが、何といっても漁業権問題の次にまとまらなかった一つの要因じゃないかと思われるのは人事関係でございます。役員の問題は、町村合併の場合でも同様のきらいがあったかと思いますが、小組合をたくさん集めて一本にするということになれば、役員人事というものが当然生じてまいります。これが漁業権管理団体と経済団体とを兼ね備えた半ば宿命的な部落団体の中でございますから、人事関係というのは、非常に歴史的に古い因縁もございますし、容易じゃございません。この問題がおそらく農協あたりでも相当問題になったのじゃないかと思いますが、これが大きな障害の一つのように感じております。この点は、私どもがみずから反省し自覚いたしまして、みんなの心がまえを変える以外にきめ手はございませんから、法律が成立いたしましたならば、なるたけひざ詰め談判で懇談の機会を重ねるということが必要かと思います。しかし、それよりも、やはり権威ある行政の指導力というものに大きな期待を持つべきでございますが、いままでのところでは、地方庁の団体係というものはきわめて人数も少ないし、なかなか手が行き届きません。ところが、今度合併して組合の数が少なくなりますと、団体係の定員をふやさなくても濃密指導ができることになります。その辺たいへんプラスになるのじゃないかと思って期待しているわけでございますが、ただ、整備促進法の場合は、合併の勧告ができるようになっていたのじゃなかろうかと思います。今回の発想は、計画を自主的に出してきたものに対して承認を与え、これに助成をするという発想でございますから、勧告でこれを進めるという要素はないようでございますし、それから、本来ならば、勧告などを受けるまでもなく、自発的に推進すべきことは当然でございますけれども、漁村の意識の現状から言いますと、行政庁の勧告権というものも適当に使われるならば相当の効果があるのじゃないか。ただ、千編一律に何組合かを合わせて一組合にするというような機械的勧告をされたのでは迷惑する向きもあろうかと思いますけれども、この点は法律にうたうかどうかは別として、実質的には行政の指導力、これを言いかえれば勧告、そういうものがあったほうがはるかに促進になるのではないか。水協法のたてまえからいけば、始末のつかないものについては解散命令権も留保してあるはずでございますから、それと比べますならば、勧告くらいはしていただいてもいいのではないかというのは、これは私の個人的見解でございます。これについては、先進団体のこういう整備促進とか合併助成の前例もございますので、それらを勘案しながら、実際面においては進められることになろうかと思います。いずれにいたしましても、私どもの地方の実態を申し上げますと、次々と漁業政策を中央・地方で立てていただきましても、その政策を受け入れるにはあまりに漁協が貧弱過ぎるのであります。つまり、幼稚といいますか、粒が小さいといいますか、どうしてもこの際は適正経営規模に漁協の粒をそろえるということは、最小限度急いでいたさなければなりません。おかげさまで私どもは構造改善事業で、いままで三年前までゼロであったものが、岩手県の沿岸で養殖ワカメだけで十億円を突破するような生産がプラスになりました。このためには、漁協があらゆる資材を一括購買いたしまして、これを施設する漁業者に配分し、そうして生産物でもってこれを振りかえるという方法をとっておりますが、多いところでは一戸で百六十万円くらいの粗生産をあげまして、可処分所得にいたしまして、養殖業者の一世帯平均二十数万円、大体三十万円くらいがプラスになっております。こういう仕事をいたしますのにも、信用力のない貧弱なものはなかなか思うように漁場管理もできません。この経験に徴しましても、すみやかに漁協は適正規模に合併すべきである、こう考えますので、本法案に対しても全面的に賛成の意を表する次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/6
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007・本名武
○本名委員長 これにて参考人の意見の開陳は終わりました。
この際、参考人各位に一言申し上げます。
長時間にわたり貴重なる御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。
この際、暫時休憩いたします。
午前十一時五十七分休憩
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〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505007X02419670621/7
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