1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十二年六月二十九日(木曜日)
午前十一時五分開議
出席委員
委員長 大坪 保雄君
理事 安倍晋太郎君 理事 高橋 英吉君
理事 中垣 國男君 理事 濱野 清吾君
理事 横山 利秋君 理事 岡沢 完治君
理事 田中 角榮君 理事 中村 梅吉君
馬場 元治君 村上 勇君
山下 元利君 太田 一夫君
加藤 勘十君 中谷 鉄也君
西宮 弘君 三宅 正一君
沖本 泰幸君 松本 善明君
出席国務大臣
法 務 大 臣 田中伊三次君
出席政府委員
法務政務次官 井原 岸高君
法務省刑事局長 川井 英良君
委員外の出席者
警察庁交通局交
通企画課長 片岡 誠君
法務省刑事局刑
事課長 石原 一彦君
厚生省医務局総
務課長 中村 一成君
運輸省自動車局
業務部旅客課長 横田不二夫君
運輸省自動車局
整備部車両課長 隅田 豊君
建設省道路局企
画課長 豊田 栄一君
専 門 員 高橋 勝好君
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六月二十八日
委員小沢貞孝君辞任につき、その補欠として佐
々木良作君が議長の指名で委員に選任された。
同月二十九日
委員神近市子君及び下平正一君辞任につき、そ
の補欠として中谷鉄也君及び太田一夫君が議長
の指名で委員に選任された。
同日
委員太田一夫君及び中谷鉄也君辞任につき、そ
の補欠として下平正一君及び神近市子君が議長
の指名で委員に選任された。
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六月二十八日
刑法の一部を改正する法律案等反対に関する請
願(松本善明君紹介)(第一九一七号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第九四
号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/0
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001・大坪保雄
○大坪委員長 これより会議を開きます。
刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。
前会に引き続き質疑を行ないます。岡沢完治君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/1
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002・岡沢完治
○岡沢委員 主として刑法の二百十一条の改正に関連してお尋ねをいたしたいと思います。
すでに御質問になりました大竹委員の質問と重なる点があるかもしれませんが、それだけ重要だと思ってお許し願いたいのであります。
最初にお尋ね申し上げたいのは、自動車以外のたとえば鉄道とか船舶、飛行機その他の交通関係の者が当事者である事件で、二百十一条の法定刑の最高限の禁錮三年の刑が科せられた例があるかどうか、またそれに近い例があるかどうかお尋ねします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/2
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003・川井英良
○川井政府委員 いままで調べた結果では、例の三河島事故で禁錮三年の第一審判決が出ております。その他では最高刑をいったという例はちょっと見当たりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/3
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004・岡沢完治
○岡沢委員 今度の二百十一条の改正の趣旨は、やはり一般予防ということも無視できないと思うのでございますが、かつて昭和三十九年に道交法の改正がございまして、例のひき逃げ等が一年から三年に加重された。ところが私の記憶ではあまり効果がなくて、事件は減少してないというふうに記憶しておるわけでございますが、刑を上げることによって一般予防の効果が期待されるかどうか、その辺についての御見解を聞きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/4
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005・川井英良
○川井政府委員 刑を安易に引き上げることによって直ちに犯罪が減少するということには、過去の実例に徴しましてもならないのではなかろうか、こういうふうに考えております。具体的な問題につきましては、三十九年に道交法の改正がございましてかなり刑が引き上げられたのでございますけれども、御承知のとおり、その間また自動車そのものの台数の増加も、非常なカーブでもって上昇しておりますので、勢い自動車の絶対数の増加というふうなこととにらみ合わして考えてみまして、三十九年の改正がどの程度犯罪防止に役立っているかということを検討してみなければならないと思います。
道交法違反は、一昨年約五百万件の事件を検察庁は受理しておりますけれども、これはここ二、三年の間大体横ばいの傾向をたどっております。三十九年をピークといたしまして非常に大きな急上昇をたどってまいりましたけれども、今日はやや高原状態と称するような状態になっております。それに自動車の絶対数の増加ということをからみ合わせてみますと、三十九年の刑の引き上げというのは、いま直ちに効果を断定的に申し上げることは適当でないと思いますけれども、それはそれなりにかなりの効果を実質的に持っているものではないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/5
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006・岡沢完治
○岡沢委員 ただいまの刑事局長のお答えの中にもあったのでございますけれども、いわゆる刑罰の罰則の強化は、必ずしも事故防止の対策にはならない、全く効果がないということは別といたしまして。それに関連しまして、御承知の昭和三十年四月十八日の東京高裁第一刑事部の破棄自判事件がございます。そこでうたわれていますのに、刑罰をもって威嚇するよりまず規律の周知徹底が先決であり、これに努力しないで処罰のみを期することは本末転倒であるというような裁判所の見解が明らかにされておるわけでございますが、同じような感じを一般の国民の中でも持つ人は少なくないと思います。一番金のかからない、刑を引き上げることによって、交通事故防止対策がすりかえられるというようなおそれはないかという疑念について、法務省の見解を聞きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/6
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007・川井英良
○川井政府委員 一つ申し上げておきたいのは、故意犯と過失犯の区別でございまして、御指摘の三十九年の改正は故意犯についての道交法の罰則の強化であります。これがそれなりの効果を持つものであるということについては、直ちに絶大な効果が出てくるかどうかということは別問題といたしまして、それなりの効果を持つということについては確信を持っているわけでございます。特に過失犯は、注意義務を高揚しようということでございますので、故意犯と違いまして、過失犯の刑を上げるということは、先ほど御指摘の一般予防の面、一般国民の交通道徳の高揚ということにつきましても、故意犯と違いまして、過失犯であるだけによけいにその効果が期待できるのではないかというのが、私どもの基本的な考え方の一つでございます。
それから、ただいま御指摘の高裁の判例、私もよく存じておりまして、そういうふうな説示があることは御指摘のとおりでございまして、これは御承知のとおり、その当時道路標識についての命令規定がまだできていない時分のことでございましたので、このような判決も一つの契機になりまして、そのころから道路の整備、特に交通標識についての整備の命令ができまして、それをもとにいたしまして予算的な裏づけもつくられまして、一般道路の標識というものが完備して今日に至っているというふうな状況になっておりますので、その判決の説示された基本的な精神というものは尊重しなければなりませんし、今日でもその精神は生きておると思いますけれども、その後今日までの数年間に道路の整備、並びに特に交通標識の整備ということは、法律と実態とがほとんど完全なまでにまず整備されてきておるということが言えると思いまするので、この判決の具体的な判断ということは、今日の状況においてはかなり変わったまた判断が可能になってくるんじゃなかろうかと思います。ただし、御指摘のような精神というものは、やはり私ども尊重してまいらなければならない、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/7
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008・岡沢完治
○岡沢委員 今度の改正法律案の提案理由の御説明の中に、特に二百十一条に関連いたしまして「最近における交通事故と、これに伴なう死傷者の数の増加の趨勢は、まことに著しいものがあり、」云々として、「近時の自動車運転に基因する業務上過失致死傷事件及び重過失致死傷事件の実情を見まするに、数において激増しつつあるのみならず、質的に見て、高度の社会的非難に値する悪質重大事犯が続出して、法定刑の最高限またはこれに近い刑が裁判において言い渡される例も次第に増加しつつある」云々とございまして、この説明によりますと、主として自動車事故ということが提案の御理由の基礎になっておるというふうに解するわけでございまして、もしそうだといたしますと、刑法の改正ではなしに、道交法の改正でまかなえるのではないかという意見がございます。私が申し上げるまでもなしに、刑法はもうすでに改正刑法の準備草案が発表されまして、審議会でも全面的に審議されている時期でもあり、基本法を軽率にいじるべきではないという有力な考え方もあろうかと思いますが、道交法の改正で済まされないで、あえて刑法の改正で今回御提案なさった事情を御説明願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/8
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009・川井英良
○川井政府委員 この改正の契機となりましたことが、自動車交通の最近の状況によるものであるということは、提案理由でも御説明申し上げたとおりであります。御承知のとおり、道交法に規定してありますのは、過失に基づくところの人の傷害行為ということではありませんで、自動車運転そのもの、それ自体に伴ういろいろな故意犯的な行為を罰則をもって規定しておるという体系になっておりまして、多分にこれは行政取り締まり的な色彩を持った法律であることは説明するまでもないと思うのであります。ところが、本件の改正は、過失義務の懈怠に対して刑罰を科そうという、刑法の二百十一条の業務上過失致死傷の基本的な問題につながるものでございまして、自動車の運転者だけを取り上げて、別な取り締まり法規に持っていって規定をするということは、その基本的なものが、この過失義務に違反したことに対する反社会性を統一的に評価するのだというような基本的な点に着目いたしますと、先ほど申しました故意犯的なものを主として行政取り締まり犯として規定しておる道交法とは、全く合わない体系の関係のものになってくるわけでございまして、人身に対して危険を及ぼす業務に従事しておる者の注意義務が、甲については三年でよろしい、しかし乙については五年でなければならないという理由は、どうしても理解できないのでございまして、同じく人身に対して危険を及ぼす業務に従事しておる者の注意義務は、法律上平等でなければならないというのが私は、やはり刑法のたてまえとして最も中心になる基本的なものではなかろうか、こう考えておるわけでございまして、非常にまれでございましょうけれども、自動車以外の交通機関につきましても、全く悪質なものがあり得ないというふうなことは、これは言えないと思うのです。やはり法律の前には、同じような業務に従事する者は、すべて平等の取り扱いを受けるというのがたてまえではなかろうかと思うわけでございます。したがいまして、さような趣旨から刑法に規定するのが最も妥当であろう、こういう考え方に立っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/9
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010・岡沢完治
○岡沢委員 おっしゃる意味もわかるような気がするのです。もちろん、最初にお聞きしましたときの例から申しましても、自動車以外で最高限を現在の刑法におきまして受けておるものが、一件しかないということを考えますと、実際の対策としては、道交法の改正でも済ませるのじゃないかという感じがするのでございますし、いま局長のお答えになりました基本理念、あるいは公平の原則、そういう点から言えば、やむを得ないということは私も了解したいと思います。
それからもう一点、いま提案理由を読ましていただきました中に、質的な、悪質な者がふえたということのほかに、量的なものがふえたということもうたわれているわけでございますが、量がふえたということと、今度の二百十一条の改正とは関連があるのかないのか、その点についての御見解をお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/10
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011・川井英良
○川井政府委員 違反の量がふえたということは、今度の改正に直接原因になっているわけではございませんで、悪質な者の量が著しく多くなった、こういうふうに御理解を賜わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/11
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012・岡沢完治
○岡沢委員 これはまあ意見的な面も入りまして、恐縮なんでございますけれども、私が一弁護士として扱いました事件、あるいは最近の交通事故に関連しての起訴事犯、あるいは判決等を見ますと、いわゆる刑法の大原則であります疑わしきは罰せずという原則が破られて、疑わしき者でも、場合によったら被害者を救済するに急の余り、起訴され、有罪判決になっておるというような例が多いような感じがするわけでございますが、この業務上過失事件につきましても、疑わしきは罰せず、あるいは起訴せずという原則について、私は、その原則は守られるべきだと存ずるわけでございます。法務省の御見解をお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/12
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013・川井英良
○川井政府委員 この種の事件につきましても、ただいま御指摘の大原則は貫かれておると信じておりまするし、またそうなければならないと思っております。この業務上過失事件というのは、御承知のとおり、警察官が捜査するには最もむずかしい事件の一つでございまして、それぞれ特殊な訓練をして、こういうふうな事件を専門的に取り扱わせておる部をつくっておるわけでございまして、裁判所の中にもこれにこたえて特殊な専門部でもって処理させるというような傾向も出てまいっておるわけでございます。なお、起訴猶予の率もかなりございますし、また審理の結果、無罪になった例も相当数出ているというところから見ましても、決してその被害の大きいために、ことさらに過失がないのに過失を認めたり、あるいは小さい過失を大きく認めて事件を処理しているというようなことは全くございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/13
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014・岡沢完治
○岡沢委員 いま刑事局長のお答えになりましたように、業務上過失事件というのは、非常に調べがむずかしいということはわかるわけでございますが、私の承知している範囲でも、この業務上過失事件は、特に自動車運転者の過失事件を取り扱っております検察官で、みずから運転の経験のない人もかなり多いと思います。自分で運転する経験、あるいは法規については理論的には知っているかもしれませんが、おそらくこまかい交通法規まですべての検察官が知っておるとは思いません。経験のない方がお調べになって起訴される、そこに私はかなり無理があるような感じがするわけでございますが、法務省として、交通事犯を取り調べる検察官には、運転免許を持っておられる方あるいは運転経験のある方を充てるというようなことに努力しようという御計画があるかどうか、お聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/14
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015・川井英良
○川井政府委員 確かに御指摘のとおり、そういうことに法律上通暁するばかりではなくて、実務の面においても経験を持つといことが、真相を明らかにする上において効果的であるし、また望ましいことであると思っておりますが、実際問題といたしまして、私ども部内検察事務官、検察官の中で相当数の者が運転免許を持ってその辺の勉強をしているということは事実でありますけれども、今日まだその数は必ずしも多くありませんで、すべてそういうふうな者については実地の経験を持たせるというところまでは、まだ制度としてはとっておりませんけれども、順次、実際上はそういうふうな者はふえておりまするし、またそういうふうな者に主としてこういうふうな事件を取り扱わせるという実際上の取り扱いをしておることは、そのとおりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/15
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016・岡沢完治
○岡沢委員 先ほどの疑わしきは罰せずの刑法の基本原理とも関連するわけでございますが、たとえば道路標識の不備、あるいは横断歩道等につきましても、設備の不備のために、あるいは死角その他のために、通常の運転者としてはその道路標識を見分けにくいというような例がかなりあるのに、現実にはそれを無視した事犯はやはり起訴されておるというふうな例が多いように私どもは一般的に感ずるわけでございますけれども、やはりこの種の事案につきましても、期待可能性の理論というのは適用されるというふうに、法務省としては原則として解しておられるかどうか、お聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/16
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017・川井英良
○川井政府委員 いわゆる責任阻却理論としての期待可能性の理論を、この種の事件に直ちに形式的に、また一般的に適用するかどうかということにつきましては、なお議論の余地があるように私どもは考えております。
先般、昨年だったと思いますが、最高裁で、大阪のバイクの事件でもって、道路標識のあり場所が必ずしも簡単に見えるようなところに置いてなかったということをたいへん重要視されまして、御承知のような破棄の事件が出ているというふうな実例もございまして、ああいうふうな事件を私ども部内でよく検討いたしまして、この判決の趣旨とされるところを十分に検討して、部内に周知徹底をはかりまして、御指摘のような事案につきまして慎重で適切な対策をとるようにということを指導してまいっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/17
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018・岡沢完治
○岡沢委員 これも私の意見的なことになって恐縮なわけでございますが、今回の刑法改正の提案理由にもありますように、悪質な違反者を厳罰に処するということは、現在の交通事故の実態からいたしましても、世論からいたしましても、これは人命尊重からいたしましても私は正しいと思うのでございますけれども、しかし、世論に流れ過ぎまして、期待できない注意義務を運転者に求めたり、また必要以上の、責任以上の刑、あるいは民事上の損害賠償責任を運転者に負わすということは、過酷ではないか、間違いではないかというような感じがするわけでございます。
それに関連いたしまして、実際に裁判所等で御判断される場合にも、事故がありました場合に、いわゆる加害者と被害者に分けまして、事故の原因を加害者、被害者がそれぞれ何%分担するということで、刑事責任も民事責任も判断されているようでありますが、実際の事案を見ました場合に、当事者であります被害者、加害者以外の第三者、たとえば道路の不備、あるいは安全標識の不備、あるいは安全設備の不備のために事故が起こっておるという例が、かなり多いと思うのでございますが、そういう点につきまして、事件を捜査される担当の検察官等に対し、先ほど申しましたのと同じような意味で、被害が大きいあまりに、あるいは世論に迎合するあまりに、第三者の原因による事故まで運転者の責任に帰するということのないようにしていただきたい。やはりそういう面につきましては、先ほどの東京高裁の判決に対して、刑事局長がお答えになりましたのと同じような意味で、刑を重くすることによって、あるいは運転者を罰することによって事足れりという風潮に対して、それも必要かもしれませんけれども、それ以上に大事なことは、事故を予防するようないろいろな行政上の、あるいは財政上の、あるいは教育上の措置ということについても、私は必要があると思うのでございますが、もしこの見解について法務省で何かお考えがありましたら、お答えいただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/18
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019・川井英良
○川井政府委員 全く同感でございまして、私ども取り締まり機関といたしましても、道路の整備その他の一般行政の施策の推進というものと十分にらみ合わせまして、罰則の運用について慎重にさらに適正を期してまいりたい、またそういうふうな趣旨を部内に徹底して指導してまいりたい、こういう考え方でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/19
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020・岡沢完治
○岡沢委員 終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/20
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021・大坪保雄
○大坪委員長 太田一夫君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/21
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022・太田一夫
○太田委員 刑法二百十一条の改正に関しまして、一言関係各省にお尋ねをいたしたいと思います。
私は特に道路交通の面からお尋ねをいたしたいと思うのですが、法務省の川井刑事局長さんにお尋ねをいたします。
今度の二百十一条の改正というのは、最近交通事故が多くて、交通事故の大半というのが自動車の運転者だ、だから運転者に対して上限を科すとしても禁錮三年しかないのだから、それじゃ刑が軽過ぎる。だから、この際五年くらいの懲役刑に処するのを妥当とする、こういう点から改正の発議が行なわれたように聞いておるのでございますけれども、三年の禁錮は軽いから五年の懲役に処するというのは、今日の交通事故の現況からかんがみて、これが妥当な方法であるというその確信の根拠ですね。どうしてそれが妥当であるのか、これをちょっとお尋ねいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/22
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023・川井英良
○川井政府委員 最近の、主として自動車による重大な、悪質な交通事故が増加しておるという現実の事態と、それからこれらの事件に対する裁判所の判決の動向と、それからこの最近の交通事故の多発についての国民的な感情というふうなもの、それから、さらに私ども扱っております刑罰法規の一般の反社会性ある行為に対する効果の観察というふうなもの、それからこの種の事件は過失犯でありますので、過失犯に対しましてはその注意義務を高揚するというふうな目的について、刑罰を上げるということが相当効果を持つものであるというふうな関係と、さらにまた刑罰の強化だけをもってこの事態がまかなえるものではありませんで、やはり一般交通規制に関する行政的な総合施策と相まって、この刑罰の改正ということが効果を持つものであるというふうな、いろいろな考え方のもとに、三年の刑罰をこの際五年くらいに上げるのが適当である、こういう確信に立つものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/23
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024・太田一夫
○太田委員 裁判の判決の最近の動向から、上限三年の禁錮を適用されるものがしばしば出てきておるということ、そういうことも一つの例で、もう頭打ちになってしまって、これではゆとりがなくなったというので、もう少しワクを広げようということでしょうが、国民の感情から見ると、それはあなたのおっしゃったように、事故を起こしたわが子を持った場合と、被害者になった家族を持った場合と、それぞれ感情が、方向が違うわけです。わが子が、かつて何年間全然事故を起こしたことがないが、たまたまその事故を起こしたら大きな事故に相なったというときに、これは結果が大きかったから罪も大きいというようなことから、五カ年の懲役刑に処せられるということにかりになったとしたならば、本人はあきらめるとしても、その親とか兄弟、親戚一同というのはあきらめきれないと思うのです。注意の上にも注意をしたあの子が、そしてまたそのような規則違反、道交法違反というようなことをしたとも思われない、ほかに何かの理由があったのじゃなかろうか、そう思うのであるが、できたことが大きい、残念だと思う。もし刑法がいまのままで、三年の禁錮刑ということならば、業務上過失ということから考えて、破廉恥罪じゃないから、まあ三年の禁錮やむを得ないなという気持ちがあるのに、五年の懲役の実刑となれば、何か強盗殺人罪のように思われて肩身が狭くなる。その運転手の側から見て、家族、、親戚が肩身が狭くなるということに対して何か御配慮になったことはありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/24
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025・川井英良
○川井政府委員 私ども日常もっぱら人を調べて、人を処罰するという業務に長年従事してきたものでございますけれども、常に考えますのは、やはり犯罪者を憎むということではなくて、犯罪を犯した人をどうしようかということに主眼が置かれておるわけでございまして、ただいま御指摘の被害者という感情だけではなくて、そういう事故を起こすに至ったむしろ加害者の立場につきましても、十分その調査をして、最も適当な処理をするということが事件の処理の実情でございます。
今回の改正で、禁錮三年を懲役五年ということに改正をお願いしておりますけれども、これはこの法案が通れば、いままで禁錮二年で済んだものがすぐに懲役四年になる、こういうような趣旨ではございません。これは禁錮三年ではまかなえないような事態、たとえば三十九年に禁錮三年が二十件、四十年にも二十件、四十一年には四十件をこえる現実の事態が起きております。御承知のとおり窃盗でも、それから詐欺でも懲役十年以下のあれになっておりますけれども、懲役十年の詐欺罪や窃盗罪というものは皆無であります。一番下の一年とか二年、三年くらいの下限でまかなっておるのが今日の裁判の実情でございますので、事故につきましては、この上限の数が非常にふえてきたということは、私はこの事故に対する、特に悪質な事故に対する最近の裁判所の動向というものを無視できないものがあろうかと思うわけでございます。上げましても直ちに懲役五年になるというものではございませんで、従来の三年でまかなえるものは、もちろん三年の範囲でまかなっていくわけでございまして、それでまかなえないようなごく特殊な悪質、重大なものについてそれ以上のものを考えようというのが、この改正の趣旨であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/25
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026・太田一夫
○太田委員 そういうあなたのお気持ちは、わからぬわけじゃないです。わからぬわけじゃないのですが、この改正案——これは新聞に出ておることであって、しかもけさの新聞でありますから、必ずしも正鵠を得ておるかどうか知りませんけれども、「この改正案作成は、悪質な交通事犯の取調べにあたる現場の検事たちの正義感が推進力になったといわれている。」私は、現場の検事の正義感が推進力に——そんな検事ならやめてもらいたいと思う。きょうここに建設省並びに交通局、運輸省とおいでになりますから、あとでそれぞれ関係方面にお尋ねをして、少し現状分析をしてみたいと思いますけれども、もしほんとうに現在の交通事情と、そこから発生する交通事故に対して、運転手を厳罰に処すれば社会的な正義だ、それが法を守る立場において最も的を射た正しい態度だというような考え方というものは、それは時代おくれも時代おくれ、大時代的なものと理解されてしようがない。これを見て私は驚いた。いままでは私は二百十一条を改正されるといったときに、ああ、自動車がこのごろふえて事故がふえた、たとえば私も愛知県ですから猿投の越戸の事故の際にダンプの運転手さんが禁錮三年の上限を適用された。この上限を適用されたことに対して、子供十人を含めて十一人の人を殺したのですから、これは三年を適用したときに、三年というのが妥当かどうかというそれは確かに村民の世論はありましたね。批判がありました。こういう特殊な例のときもありました。ありましたけれども、事情を聞いておるうちに、今度は運転手に同情する人があらわれてきた。朝三時、四時に起こされて、それで走り回らなければならぬというダンプ運転手の生活ということから考えたならば、だれが彼をそうさせたかという、そのだれという陰に隠れた者に対する憎しみが出てきたですね。ぼくは検事各位が世の中の実態というものを真に洞察されておるならば、今日の多発する交通事故を起こす真の犯人はだれか。だれがその運転手をしてかかる業務上過失致死傷罪に問われるような事故を起こさせたかという、そのだれかの探求を、もっと社会的な正義感から、もっと人道主義的な立場からやってもらいたいと私は思う。そう思うでしょう。(「それは違うよ」と呼ぶ者あり)隣でちょっと反対論があるけれども、大体罪を犯して罰が重ければ何もなくなるというならば、私はひとつ聞きたい。五年にしたら事故はなくなるか。もちろんなくならぬでしょう。そんなことでなくなるものじゃない。それは道が悪いから、労務管理も悪いから、人間のいまの運転に当たっている人たちの家庭の環境というものがいろいろ作用しておる。私はそういう点を考えて、かりに、現場の検事たちの正義感が推進力となったと言われているが、それはもう少し正鵠を得た観察をしてもらいたいものと思うのですよ。であるから、あなたのおっしゃる加害者の立場に立っても、十分考えるところは考え、対策を立てるところは対策を立てたいとおっしゃるその気持ちは私はわかる。わかりますから、その加害者の立場に立って考えれば、道の狭いというこの問題は重大問題でしょう。ですから交通事故が起きるということの原因探求についての、そのあなたたちの研究の結果どういうことだったですか、何が原因でこういう事故が起きると御結論に相なったのでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/26
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027・川井英良
○川井政府委員 新聞に現場の検事の正義感が推進力になっているという記事のあること、けさ私も見たわけでございますが、これはそれだけが推進力だということにはならないわけでございまして、私の手元には全国の知事会、市町村会から、この法定刑を上げて、そして自動車運転者の注意義務を高揚するような対策をなぜとらないのだという趣旨の決議がたくさんきております。私、まだ外には出しておりませんけれども、法務省がこれを考えましたのはもう三年ほど前のことでございまして、吹けば飛んでいくような一部の人の正義感からこのような大きな法改正を考えたものでは決してございません。道路交通の整備ないしは交通戦争とまで表現されて、日々の新聞に大きな事故が出てきており、今日こう議論しておりましても、三十八分間に一人ずつ交通事故で死亡しているわけでございます。この現状を、私どもこの二百十一条の観点からも、何らかこれに総合的に対処する方法はないものかと考えるのは、私どもの当然の責務であろう、こう考えるわけでございまして、法制審議会にかけまして、刑の幅についてもいろいろ議論をしていただきました。一部には五年では軽過ぎる、七年くらいの刑罰が相当だという強い意見も出ましたけれども、御指摘のような日本における道路の実情というふうなもの、それに対する行政的な総合施策の推進というようなことも勘案いたしまして、この際いろいろな角度から考えて、著しく急に上げるということは適当でないけれども、五年くらいに刑罰を上げて運転者の注意を高揚するということは、一般的な予防の意味におきましても、これは過失、注意義務の懈怠が原因になる行為でありますので、相当な効果が期待できるのではないかというふうなことが基本的な考え方でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/27
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028・太田一夫
○太田委員 かつては業務上過失致死罪の対象として、薬の調合を誤って人を死傷させるとか、あるいは食料品の腐敗したものを売って死亡させるようなことが対象になってつくられたものだといわれておる。しかし、今日になってくると、そういうような事例が少なくて、ほとんど、交通事故による運転手の過失致死傷罪というのが九九%、そこまでいっておるでしょうね。ですから、その中は、自動車が九九・九%だ、ほとんど道路交通に対象が局限されてきておるような気がするのです。あなたのほうでは、これはやはり道路交通が主体でございますか、自動車の運転手が主として対象として考えられたのですか。それとも肉屋さんや、コロッケ屋さんや、薬屋さんやその辺の料理屋さんの板前さんまで考えての改正でございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/28
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029・川井英良
○川井政府委員 御指摘のとおり、主として最近の自動車運転に起因する悪質な重大事故の発生を契機として考えたものでございますけれども、これはいろいろな面から、そのほかにも及ばなければならない、及ぶべきものだという考え方もそこにはあるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/29
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030・太田一夫
○太田委員 そうでしょうね、自動車の運転手が対象になって考えられたものと私どもも推測をいたしております。それが道交法のほうにいかずに刑法のほうにいったのだ、道交法のほうだってずいぶん高い懲役刑があるのですから、三年を五年に道交法に盛ったところで別にそうたいして変なことはありませんけれども、刑法の一つの法理論としてそういうことを言ったんだろうと思いますけれども、そうすると、自動車の交通事故というものが対象となり、自動車の運転手がその影響を受ける最たるものだ、こう考えていいわけですね。——そこで、先ほどのお話でありますが、交通戦争であるといわれる、五十万からの死傷事故が起きるのですから、事件にならなくてそれ以外のものがさらにそれに加わっておるわけですからたいへんなことだと思いますし、さらに最近の自動車の増加の傾向からまいりますと、月に十五万台も自動車がふえるということから考えて、交通戦争というものはますます激化の一路をたどっていく、こう思うのです。ですから、その際にどうして人間の命を守るかという重大問題、あなたのほうは人間の命を守るために刑法二百十一条を改正しようというねらいもありますけれども、法を守る立場とすれば、起きた事故に対していかなる量刑を立てようとするかということでしょうけれども、実際の現状の認識というものがあなたのほうに十分ありませんと、この法の適用が誤られて、せっかくのよき善意も非常な逆作用をするような気がするので、運転手を自暴自棄にさせてしまってもいかぬと思うのです。
そこで、交通戦争の実態ですが、五十何万も死傷者があるといわれておりますけれども、東京の環状七号線ですね、あそこに跨道橋をつくりまして非常に事故が減りました。自動車はふえる、スピードは高まっておるにかかわらず、死傷事故は減った。このところを考えますと、跨道橋というような——あるいは歩道橋と申しますか、安全施設の完備によって、どれほど死傷が減るかということはわれわれの想像以上にある、こう思うのです。ですから、できるならば交通の激しいところは、そういう地下道なりあるいは歩道橋をつくるなりいたしまして、人間と車とが直接対面しないようにすることが大事じゃないか。その原因のほうを除去しませんと、結果ばかり追うてもしようがない。ネコを追うよりはさらを引けということでしょう。自動車をなくすればいいが、そういうわけにいきません。
片岡さんいらっしゃいますが、跨道橋、歩道橋をつくりましてどれくらい事故が減りましたか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/30
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031・片岡誠
○片岡説明員 跨道橋のほうは建設省の所管になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/31
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032・豊田栄一
○豊田説明員 お答えいたします。
跨道橋につきましては、現在昭和四十一年を終わりまして、大体全国で約八百ございます。その効用は場所によります交通事故の統計解析、それによりまして若干変動をいたしておりますが、先生いま御指摘のケースでもって解析いたしましたものの事例で申し上げますと、指定区間内でもって現在跨道橋等を設置したことによりまして、もちろんこの場合は跨道橋だけということはありませんが、私どものほうでやっております安全施設、いろんな施設がございます。それはもちろん跨道橋そのほか分離帯、防護さく、そういうものが総合された形でございますが、そういうものでもって抽出した結果によりますと、指定区間内でもって、これは九点の平均値で約三〇%事故が減少しております。これはサンプル調査でございますので、全数ではございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/32
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033・太田一夫
○太田委員 それは三割かりに減ったとする、私は三割という数字は、豊田さん、小さいと思う。もっと大きくならなければうそだね。それはおそらく安全施設すべてですから、跨道橋をつくることによって減るというのは、環状七号線だけを例にとればほとんど七割から八割減っておるじゃありませんか。これは実に効果があるわけです。そういう点からいうと、ネコを追うよりさらを引けというところに問題があるわけでありまして、ネコをたたけば魚をとらぬであろうなんていうような考え方、あなた方専門家の方に私たちのようなしろうとの者が、そういう五年が当不当ということを申し上げることばいささか申しわけないような感じがしますが、まったくネコを追うよりさらを引け。安全施設の整備拡充ということは第一の課題だという点については、あなたも同意見だろうと思うのです。いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/33
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034・川井英良
○川井政府委員 刑罰、特に刑法、国民の最後の倫理的規範のぎりぎりの規範である刑法の法定刑の幅をいじるということは、私どもとしては異常な勇気と決意を有する事業であることをまず御理解賜りたいと思います。
そこで、私どもの認識は道交法違反の事件が量的にふえたとか、業務上過失致死傷の事件の数が非常に多くなってきているということに、実は今度の改正の主眼があるわけではございません。その量においてもふえつつありますけれども、業務上過失事件の一つ一つを検討いたしまして、あまりにもこれはひどい、国民のどなたがごらんになってもこれはひどいと思われるような、裁判官が説示の際にも、懲役、禁錮三年しかないからこれでやるんだけれども、これは一そう注意すべきだ、これは悪質だという事案が出てきた。そういうふうなきわめて悪質で重大で、何人が見てもこれはいけないと思うようなものがかなり出てまいりましたので、そういうようなものをまかなうまで当座緊急措置として一部改正ということで、今度の改正をお願いしたわけでございます。もし御指摘のように量がふえたから見せしめのためにすべてを上げていくんだというならば、これは罰金も上げなければいけません。私は罰金を上げることば筋が通らないと思うわけでございまして、上の悪いやつを上げるんだから、上を少し幅を広くしてもらえば、むしろ下のほうはいままでの態様でまかなえるんだ、またまかなっていくのが刑罰の運用として相当だ、こういう観点に基づくものでありまして、少し至らない点につきましてはお教えをいただかなければなりませんけれども、私どもとしては私どもなりの信念と調査に基づいてこの改正をお願いしている、こういうつもりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/34
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035・太田一夫
○太田委員 実際まじめに考えていらっしゃる川井さんあたりに、もろもろの有象無象の入りまじっておる実社会のことを一々申し上げてみても、はるかに何か立場が違うような感じがしてしようがない。上品な方と下品な方、それから善良な人と不良な人といろいろありまして、ここの辺のところの認識というものが一がいに私言えないと思いますが、まじめに考えてくださったあなたにはいまの話でいいと思います。五年にするけれども、いま五年を適用したのも、しようがなくてやったとおっしゃった。私はそれを信用して、そうなくてはおかしいと思います。
そこで、この際もう一つの実例を申し上げますが、これはおとといの晩です。あれは南海電車の通っております。あちらのほうに行く国道線は何というのですか、あの線で、警手つきの遮断機がある踏切がありますが、そこでおとといの、二十七日夜十時ごろ、トラックが参りましたところが、電車が来るのに遮断機がおりておらない。それでとめて運転手が、おおい、電車が来るのに何をぼやぼやしているのかと言ったところが、踏切警手が動かない。これは変だといっておりていって、おおいと言ったら初めて気がついて、あわてておろした。たまたまその電車は注意していて、踏切がおりておらないから、予告がないから変だといって、スピードをダウンしてきたから事故は起きなかったけれども、ひやひやものの事件がありました。これは排気ガスによる踏切警手失心事件として起こっておる。これなど、もしもバスと電車の衝突ないしは乗用車と電車の衝突というようなことによって、数人の人が死傷したということになりますと、これはまた業務上致死傷罪として大問題になる。警手ははたして失心しておったのか、業務上必要な注意を怠っておったか怠らなかったかで、たいへんな問題が起きると思うのです。しかも、結果が大きくなるとそう簡単に許せません。こういう公害と申しますか、排気ガスによる中毒失心症状なんというのは——国道の非常に自動車交通の稠密なところだそうでございますから、起きたときには一体どうなるのですか。一つの仮定ですから責任あるお話じゃなく大ざっぱのお話でよろしいから……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/35
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036・川井英良
○川井政府委員 設例の場合について当座の意見を申し上げますが、軌道の上を走っていく電車、汽車の場合の運転手の注意義務は、無軌道な道路を走っていく車両の運転者の注意義務とはおのずから量的にも質的にも違ったものがあることは当然のことでございますし、すでにこの点についてはたくさんの判例もございまして、その間の注意義務の態様についての研究は、ある程度なされているところでございます。そこで踏切のようなところを考えてみた場合に、まず踏切番がおるというふうな軌道の上を運転している電車の運転手の注意義務を考えてみますと、電車が来れば必ず踏切番が遮断機をおろして踏切の安全を確保してくれるんだ、こういうふうないわゆる踏切番に対する、また軌道の上の交通の安全に対する信頼をもって電車の運転手は運転がなされておりますし、またそのことをもってその運転者の注意義務としては法律上十分であろうと思うわけであります。
それからもう一つ、今度は肝心のトラックの運転者の注意義務でございますけれども、踏切を通行する際には、やはり専用軌道の上でございますから、これを優先的に電車が通るということはお互いがこれを認めておる現状でございますので、特に電車の往来がないということを確認の上で踏切を越すということが通常の注意義務の形態でありましょう。しかし、いま御設例の場合には、踏切番がおり、遮断機がある踏切だ、こういうことでございますと、その運転者の注意義務も、自動車が通る場合、当然踏切番がおって遮断機があるんだから遮断機がおりるだろう。したがって、遮断機がおりていない場合においては電車が通らないんだという一応の見通しと信頼を持ってその踏切を通過する、こういうことになっておりますので、またそのトラックの運転者の注意義務につきましては、通常の踏切番のおるところとおらないところはおのずから注意義務の態様が変わってくる、こう思うわけでございます。残りましたのは肝心の踏切番の注意義務でございますけれども、踏切番はおそらく会社の内規によりましても、あるいは刑法上の注意義務によりましても、電車が通り、また車が通るときには、危険を防止するために必ず遮断機をおろして注意を喚起し、安全を確保するということが法律上の義務でございますので、その場合に十分その義務を尽くしていないとして事故が起きたとするならば、仮定の理論でございますけれども、私はまず踏切番の注意義務を法律上は問題にしなければならない、こう思います。しかし、設例の場合に、また排気ガス云々ということで失心しておったというような事情がありますれば、失心が不可抗力に基づくものだということになりますれば、事故は事故といたしまして、三者三様の注意義務について、それぞれの注意義務が尽くされておったということになりますならば、事故は不可抗力として、いずれの過失にも基づかないものだ、あとは民事的ないろいろな方法によって事態をまかなっていく、こういうことに、大ざっぱでございますけれども大体なるんじゃなかろうかというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/36
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037・太田一夫
○太田委員 先ほどの国道の踏切は、国道二十六号線、南海電鉄の路線は高師浜線と言われておりますが、いま川井さんのおっしゃった問題は、開閉機が上がっておればでなくて下がっておればです。そこのところをちょっと……。
まあ排気ガスによる失心などという希有な事態が起きたということも、近代交通禍の時代におけるところの、交通戦争といわれるところの毒ガスでやられたわけですからね。これからはあるだろうと思うのです。たいへんなことだと思うのです。
そこで、建設省豊田課長さんにお尋ねをいたしますが、最近の交通安全施設の整備というのがどうもテンポがおそいですね。非常にテンポがおそいのでございますが、どうしてもうちょっと交通安全施設を急いで整備するということにお力をお入れにならないのか、かりに安全施設を総合した事故減パーセントを三〇%としましても、その三割の事故が減るということだけでも大きな問題だ。これはもう徹底的に、三年計画なんといわないで、一年なり二年なりというふうにテンポを急ぐということが必要でございますが、何かネックがあるのでございましょうか。それとも、どうしてなかなか急がれないのでしょうか。そういう点をちょっと……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/37
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038・豊田栄一
○豊田説明員 お答えいたします。
私ども、この交通事故に対する安全施設の考え方につきましては、昨年の五十一国会で安全法を成立さしていただきまして、それに基づいて現在三カ年計画の第二年目をやっておるところでございます。昨年の予算が、予算規模として百四億でございますが、本年はそれを倍加いたしまして二百四十六億というテンポで、通例の公共事業の中でのペースとしては、非常に、何と申しますか、ハイペースの予算の執行を現在やっておる段階でございます。なお、成立いたしましたのは昨年の七月十五日、そのときから始まったわけでございまして、その点からいきますと、第一線の現場に浸透するのに相当時間をかけまして、現在二百四十六億の予算の執行に万全を期しておるところでございます。したがいまして、先ほど例示的に申し上げましたが、歩道橋だけについてみますと、四十一年を終わりましての全国の歩道橋の数が八百でございます。四十二年にこれが大体九百九十五橋、まるめて千橋でございます。在来のものの倍以上のものが一年にでき上がる、そういう事業を考えて現在やっておるところでございます。なお、三カ年全体といたしましては、歩道橋につきましては、全体として千六百の規模でございます。したがいまして、三カ年の大体八割以上をこの第二年目でもって終わるような段階で、現在そういう進行率で推進しておるところでございます。もちろん、これだけでもって私ども安全施設を万全とは申しておりません。で、この安全法の対象は既存道路、すでに道路としての働きをいたしておるところ、既存道路に対する安全施設の足りないところをやっていくという姿勢でございまして、そのほか要するに、新しい道路をつくる場合には、改築事業そのものの中でこういうものを取り込んでやっていくという姿勢でございまして、昭和四十一年度の決算でもって分析いたしますと、これに相当するお金が、先ほど申し上げましたものにプラスされる金が、大体七十五億程度のお金が追加されておる段階でございます。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/38
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039・太田一夫
○太田委員 建設省で二百四十六億というのが予定された事業費予算、さらにこれがふえるであろうとおっしゃったのですが、二百四十六億といえども国費百三十七億、地方費が百八億というようなぐあいで、地方の住民そのもののほうにまで負担が回っておるわけでありまして、地方のほうはそれはたいへんだと思うのです。それであなた、よほど馬力かけておるようにおっしゃるが、これは四十年六月の統計でありますが、一級国道でも横断歩道橋というのは七十二キロで一カ所、歩道の延長というのは一一%、中央分離帯は六%くらい、防護さくは一キロメートルについて一・七本という程度、道路照明は一キロメートルについて三基だという程度でありまして、お茶を濁す安全施設——お茶は濁っておりますよ。確かにお茶は濁っておるが、それはお茶ではない。安全施設はあるが、安全でないというわけだ。こういうところに——あなたのほうは予算がないとか、にわかにできないとか、指定されたものがないとかあるとか、妙な議論ばかりが進んでおりますけれども、これを整備せずして、運転者が死傷事故を起こすのが五十何万件もあるんだから罰だけを強化する。罰だけを強化すればいいということは、先ほどのさらを引かずしてネコばかり追っておるということだと私は思う。どうしてもっとこれはできないのでしょう。新しい統計がありましたら御発表いただいてけっこうですが、どうも施設の普及度というものが少ないじゃありませんか。先ほど申し上げましたように、一級国道でも、いま私が申し上げたのが四十年の、ちょうど一年前のあれだったですね。少ないじゃありませんか、何か新しい統計でもお持ちですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/39
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040・豊田栄一
○豊田説明員 これは委員部のほうにも私たちのほうで提出いたしております資料で、先生御指摘の数字のとおりだと思います。そういう点確かに過去の道路投資の中で、安全施設の足りなさというものが認識されまして、昨年のその緊急三カ年計画が立案されたわけでございますので、そういう点では昨今の交通情勢あるいは自動車情勢によりますいろいろな勉強をいまいたしておるところであります。こういう点は、私どもこれから概算要求の時点に差しかかりますまでに、いろいろそういう意味の勉強を詰めて、そういう御指摘のような精神を生かすような努力をいたしたい、さように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/40
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041・太田一夫
○太田委員 これは運輸省の方に、特に車両課長おいでになりますから、ちょっとお尋ねをいたします。
昨年の四十一年度、死者が一万四千人をこえたという。確かによく死んでいます。しかも、その一万四千人というのは、ある限定された時間内に死んだのですから、あと重傷と記録されて後死んだ人を加えれば、それ以上。たいへんな死者でございますが、自動車にぶつかれば必ず死ぬものですか。車両課長さん、道路運送車両法、車両制限令なんというものがあるのですが、車両課長さんとしてその点、車から見た場合、車が走っていたら必ず死ぬものでしょうか、どんなものでしょうね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/41
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042・隅田豊
○隅田説明員 自動車と人間の衝突の問題であります。これは実は研究のほうは警察の科学技術の研究所のほうでやっておるわけでございますが、私、車両課長として考えてみますと、問題は当たり方の問題とも思いますが、当たっただけで死ぬケースと、それから飛ばされて道路などへ頭を打ったり何かして死ぬケース、両方あるだろうと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/42
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043・太田一夫
○太田委員 それじゃ、警視庁にちょっとお尋ねいたしますが、自動車にぶつかっても死なぬという何か線がありますか。どういう条件です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/43
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044・片岡誠
○片岡説明員 歩行者が、自動車にぶつかっても死なない一つの条件は、スピードがゆるい。これはけがをしただけで死なないということもあろうと思います。それからあとやはりいま車両課長が申しましたように、第一次衝突で死ぬ場合は、歩行者の場合比較的少なくて、飛ばされて第二次衝突と申しますか、その辺の道路の端の縁石へ頭を打ったり、電柱に頭を打ったりして死ぬ場合が、案外多いんじゃないかと私は思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/44
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045・太田一夫
○太田委員 さすがによくいろいろと研究されておる。スピードというところまでは当たりましたが、まだ金的を射ておりませんね。これは四十キロというスピードです。片岡さん、あなたそれをおっしゃれば二重まる、四十キロのスピードの場合には、人と車の場合、人間はぶつかっても死なないのですよ。この四十キロまでは死なぬということは世界の定説だ。これは日本だけの話じゃない。アメリカ人も、イギリス人も、ベトナム人も、朝鮮人も、全部定説なんだ。四十キロです。私はそのことを片岡さんにお尋ねするわけじゃない。これは交通科学警察かなんか、一生懸命やっていらっしゃることだろう。なぜそんなことがもっと明らかにならないか、行政上取り上げておらないかということを申し上げているわけで、運輸省の隅田車両課長さん、四十キロ以上のスピードは出ないということが、人間の命を尊重する絶対最後のぎりぎりの線だとしたら、普通の場合——ハイウエーに行けば別として、人家の連檐する場所においては自動車は四十キロしか出ないという、そういう構造に車両をする。どうしても、人間を尊重する意味においてもっと走ろうとしても走れない、こうお考えになったことありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/45
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046・隅田豊
○隅田説明員 自動車の性能の中で、最高速度、それからほかの加速の性能だとか、そういうほかの関連する性能との関係を一応別といたしまして、確かにいま先生のおっしゃったとおりの四十キロ未満であれば必ず死なぬ、四十キロ以上では必ず死ぬというはっきりしたものがございますれば、四十キロ以上出ない、しかもほかの自動車の性能に差しつかえないという装置を研究して完成いたすということは考えられます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/46
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047・太田一夫
○太田委員 川井刑事局長さん、そういうことをお考えになったことありますか。四十キロまでのスピードで普通の人間に——普通の人間というのはおとなです、子供の場合はちょっと違うのですが、普通の人間にぶつかった場合においては死なない、けがするだけだ、ここのところがぎりぎり一ぱいの線になっておるわけですね。これはもう科学的に追究されておるわけです。そういう点からいって、スピードがあまり出るということは非常に死傷事故を起こすわけです。いま死傷事故が都会から周辺へ周辺へと移っているのは、都会のまん中では動けないからなんです。だから、別のことばで言えば、自動車をじゃんじゃんつくって、東京の道を全部埋めてしまうことだ。きょうも建設省の豊田企画課長さんおいでになっていたが、そうむやみに安全施設をつくらなくてもいい。二百四十六億でよろしい。車が一ぱいになってしまえば走れませんから事故は起きませんよ。そういうことにあなたのお手数をかけることは万々ない、私はそういうことだと思うのです。
そこで、あなたのほうがいま一番心配していらっしゃるのは、自動車はこれからもじゃんじゃん走るであろう、そして死傷事故はふえるだろう。特に、死者の場合は問題だろうと思いますが、死者の五二%は自動車対人によって起きておる。半分以上は自動車が人にぶつかって、自動車対人の関係で起きているのですから、自動車は凶器といわれ、交通戦争といわれ、そしてどんどん死傷事故がふえることによって事案はふえていくだろうと御想像なさっているわけですけれども、自動車はふえればふえるほどこの事故は減るわけです。ですから、スピードと事故ということを考えますと、日本の国の運輸行政においてもそうむやみに、道路交通法では六十キロまでということになっておりますが、車両のほうのことも、もう少し殺人凶器にならぬ車という、いろいろな条件を考えてもらわなければいかぬと思う。ブレーキがちょっと何かできかなくなったから谷底へ落ちましたとか、追突いたしましたというような、そんな構造をつくらしておる運輸省にそもそもの問題がある、こう思うんです。そういう点からいって、何もかも運転手の責任であるということには相ならぬような気がするわけです。実は四十キロの線というのは、私もほんとうは知らなかったのです、はっきり言ってね。けさのNHKのテレビのスタジオ一〇二で出たのでわかったのです。これはアメリカ空軍の研究から端を発しまして、それの結論が出ておるそうですけれども、こういうようなことから考えまして、交通安全施設、自動車そのものの構造、あるいは道路交通におけるところの道交法上のスピード制限ないしは諸規制のやり方、ここに手ぬかりがあるならば、死傷事故はどんどんふえますよ。これをどんどん充実していただくことだと思いますね。そういう考え方はいいんでしょうね。川井さんどうお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/47
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048・川井英良
○川井政府委員 一般交通道徳の高揚、それから車両並びに道路の整備というふうな、いろいろな総合施策が相まってこの事態に対処しなければならないということは、全く私も同感でございます。くどいようでございますけれども、酒に酔って無免許で、横に女の子を乗っけて、三台も五台も車をはね飛ばして、三人も四人も死傷しているというふうな事故が、実は今日はなはだ多いわけでございます。こういうふうなものは、そういうふうないわゆる道徳の高揚とか、あるいは常識の涵養とか、教育の徹底とかというふうなことによって、基本的にはまかなうものでありましょうけれども、これにもおのずから時間的な問題と限度があると思うわけでございまして、その限度のある間隙のところを埋めるのが、この刑法の規定によるところの刑罰をもってする事故の規制と、事前の一般的な予防の措置ではなかろうかというふうにも考えておりますので、今度の改正は、御指摘のような事情を私どもとしては私どもなりに十二分に認識した上、なおかつまかなえないような部門について、幾らかの手当てを刑罰の上でしていこう、またそれが適当だ、こういうふうな考え方に立っておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/48
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049・太田一夫
○太田委員 川井刑事局長さん、ちょっと妙な話になりますが、先ほど、鉄道の場合は、鉄道は専用道路ですから、どちらかというと電車なり汽車なりのほうが優先をするのであって、人とか車のほうは、一歩下がって安全を確認してから通らなければならぬというような義務があるんだというお話がありました。これはそういうことになっておりますね。鉄道営業法等で規制をされておりまして、長年そういうことで一向にわれわれはふしぎに思わないが、かつては人間が通ったところを汽車が通りまして、踏切というものができて、人間は一歩うしろへ下がりました。今度は、線路以外のところの道路は、人間が大手を振って歩けるところかと思っていたら、自動車が来て、そして交通戦争といわれるような凶器となってここを疾駆することになった。その際に、鉄道の場合とちょっと違って、自動車の場合になると、何でも歩く人間のほうがよくて、自動車が悪い、自動車が悪い、こうなってきた。明治から大正、昭和にかけて、交通機関というものの位置というものが変わってきたんじゃないですかね。鉄道の時代には早く走らなければならぬ、鉄道というものは、人に、あなた一歩下がりなさいと言って、排除して走った。排除されるのは人間であった。いまの道交法のたてまえは、歩行者を大事にする。いいことです。悪いとは言いませんよ、いまの常識から言えば。けれども、その鉄道の理論を持ってくれば、自動車の通るところは人は注意して通らなければならない、たとえばそういうことですね。そういうことになってもふしぎじゃないじゃないですか。ふしぎじゃないと思いますが、そういう点はいがなものですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/49
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050・川井英良
○川井政府委員 汽車、電車の場合におきましても、優先的に専用の軌道を走っていくんだから、みだりにこの中に入ってきた歩行者のほうが悪いんであって、汽車、電車の運転手のほうには注意義務といいますか、過失がないんだというふうな考え方は、理論的には成り立っておりましたけれども、私の記憶によりますと、たしか大正三年か八年だったと思いますけれども、大審院の判例が出まして、その当時、そうはいっておりましても、なおかつレールの上で事故が起きた場合には、運転者の過失を追及し、有罪の判決がずっと出てきたわけでございます。明治四十一年以来、それからいまの、たしか大正三年だったと思いますけれども、判決のあたりからこれは違うのじゃないか、やはり交通機関がスピードを増して、経済のあるいは国民の交通の円滑をはかっていくということのためにこういう設備、施設が設けられているのであって、みだりにここに入ってはいけないという歩行者の側の過失というものを大いに重要視すべきだというふうなことから、実際の運用の面におきましては、昭和の時代に入りましてからその辺のところが、判例の解釈が大きく変わってきているのが今日の現状でございます。
ただいま御指摘の道路における自動車の非常にひんぱんな交通ということと、それから道路は、多くレールの上と違いまして、一般の歩行者が大いにこれを利用しなければならないものでもありますので、その歩行者の道路の利用と、自動車による道路の利用というものを、時代の進運とともに、また経済との関係、国民全体との関係においてどういうふうに勘案していくかということが、またこの自動車の運転者の過失ないしは歩行者の歩行道徳というふうなものの法律上の評価ということにも、大きな変革を与えてきているのじゃないかと思うわけでございまして、当初におきましては、とにかくひいたら悪いんだという考え方が先立っておりましたけれども、今日におきましては、歩行者につきましても、道交法におきましてかなりな注意義務の規制が、法律上の明文をもって行なわれてきているというふうなこと。それから実際の面におきましても、歩行者が横断していいところといけないところと区別をいたしまして、歩行者につきましても違反があった場合においてはこれに処罰を加える、それを規制することができるというふうな状態に今日はだんだんと進んでまいっておるというふうな状況にありますので、いまここで直ちにどうこうといってはっきりしたことをお答えすることはできませんけれども、先ほど御指摘のように、ひょっとすれば道路が、東京の道路なんかはいっぱいになってしまうかもしれぬぞ、そうなったら道が通れないから事故なんか起きることがないかもしれませんが、そういうことは笑い話じゃありませんで、確かにそういうことも考えられるのじゃないか。しかし、これが経済なり交通の発達ということを考えまして、そういうことにしないのが政治であり、行政の責任であろう、こういうふうに考えますので、そこにやはりもう一つ交通規制というふうなことが入ってまいる、こんなことを考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/50
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051・太田一夫
○太田委員 そこですね。そこで警察庁にお尋ねしますが、最近の統計でよろしいが、人が自動車とぶつかって死傷する原因の内訳を、たとえば直前、直後横断が一番多いとか少ないとか、五大原因について、わかっていましたらちょっと教えていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/51
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052・片岡誠
○片岡説明員 昨年の、歩行者が第一当事者となった場合の違反種別原因でございますが、一番多いのが飛び出し、車の直前に飛び出してくる、これは約五六%でございます。それから飛び出しはしないが、車の直前なり直後を横断したというのが一六%ばかりでございます。あとはもうほとんどわずかなものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/52
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053・太田一夫
○太田委員 そこで川井刑事局長さん、法務省当局にお尋ねをいたしますが、人と車がぶつかって死傷事故を起こしたのが一番多いが、その原因というのは、人が飛び出したのが五六%、直前直後を横断するという危険な軽わざが一六%、これを両方とも絶滅することができれば七割以上の減となるわけですね。このあぶないことをなぜ人間がやるかという点から考えましても、自動車の運転手に課せられる注意義務というのは不当に大き過ぎやしませんか。重過ぎやしませんか。飛び出しをどうして予測することができますか。電波探知機を持っていてもそれはわからないですよ。こういう点からいって、人を殺せば必ず業務上過失致死傷罪、死んだ場合においてはどうもそれから免れるわけにはまいりませんけれども、いささか過酷の場合が多いような気がしますね。御所見はいかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/53
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054・川井英良
○川井政府委員 二百十一条は、注意義務に違反して死傷の結果を生じたということが犯罪の要件になっておりますので、この起訴、不起訴をきめる場合に、有罪、無罪を判断する場合、刑の幅を量定する場合におきましても、一番重要なのは過失があったかなかったか、あったとすればその過失の程度はどのくらいで、過失の質はいいものか悪いものかということが、まさに六〇%、七〇%を占める状況でございますので、あとはその前後の状況とか、あるいは事故の大小とかいうふうなことが情状として二、三〇%のウエートをもって上がってくるということでございますので、私どもは事故の結果の大小で幻惑されることなしに、あくまで運転者の過失の有無ということに力点を置いて検察官を指導し、処理をしているつもりでございます。御承知のとおり、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、軌道事故でも、三河島の事故は何百人と死にましたけれども、これは過失ありということで起訴いたしまして、禁錮三年の一審判決が出ております。しかしながら、同じような事故でありますけれども、鶴見事故におきましては、どう考えても過失は認められない、これは不可抗力ということで、検察官は嫌疑なしの判断で不起訴にいたしております。ほかにもいろいろ事故がありますけれども、たくさん事故がありますので、一々例をあげて万全だということはできませんけれども、根本的な原因をあげて過失の有無、過失の質ということにあくまでも重点を置いている。したがいまして、飛び出したということで、飛び出した歩行者に絶対的な過失がある。運転者は何らの過失がなかったということでありますれば、かりに不幸にして死亡事故でありましてもこれは有罪にはなりませんし、起訴はしていないつもりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/54
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055・太田一夫
○太田委員 それでちょっとお願いしたいのですが、四十年なり四十一年度におきまして起訴された、されない、処罰された、されない、それのパーセントを御存じでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/55
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056・石原一彦
○石原説明員 御説明申し上げます。
ただいまの自動車以外の事故、特に軌道上の事故につきましての受理人員、起訴及び不起訴の件でありますが、実は受理人員の件ははっきりいたしておりません。一応軌道上の事故関係につきまして最高裁判所が調査した結果で申し上げますと、たとえば昭和四十年におきましては、終局事件を集約いたしました数字が二十八でございます。そのうち禁錮刑になりましたのが二十六件で、禁錮三年が一件でございます。これがただいま刑事局長から説明申し上げました三河島の事故でございます。二年以上が三件というような結果になっております。
自動車の場合に比べますと非常に数並びに量刑の内容におきまして低い、かようなことが言えると思います。
自動車の点につきましては、お手元に配付いたしました二百十一条関係の統計資料の第九表以下でございますが、実はこれは先ほど申し上げましたように、自動車とそれ以外と区別しておりませんが、大体におきまして自動車の事故が多いということを前提といたしまして数字を申し上げますと、昭和三十九年までの数字がはっきりしているわけでございますが、業務上過失致死傷罪の総数でいきますと、昭和三十九年におきまして有罪になりましたのが六千七十八件でございます。人間でありますから六千七十八人になりますが、六千七十八人中禁錮刑になりました総数が四千六百六十九人でございます。そのうち三年以上の刑になりましたのが二十名、二年以上が二十九名、かようになっております。
なお、罰金の点について申し上げますと、罰金刑の総計は千四百九人でございますが、そのうち五万円という最高限になりましたのが百二名、一万円以上が一千三名になっております。なお、ただいまの統計で申し上げました数字は、第一審が地方裁判所の場合でございまして、そのほか略式命令で簡易裁判所で確定した分がございますが、この分につきましては詳しく内容を分けておりませんので、ちょっと数字的には申し上げることはできないような状況でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/56
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057・太田一夫
○太田委員 たとえば千四百九とかいうのは、地裁においての罰金刑でしょうが、そういうきちっとした数字でなくて、略式命令を含めましてどれくらいあったか。起訴されたものはおよそどれだけ……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/57
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058・石原一彦
○石原説明員 裁判所の統計に、二百十一条関係でその分はどれだけだという統計がございませんので、ちょっとただいまわかりかねる状態でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/58
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059・太田一夫
○太田委員 川井局長さん、そうすると、わからなければわからないでいいんですが、腹づもりで御返事をいただきたいのですが、いまあなたのお話で言いますと、何も五年にするから五年だとか、三年上限があるから三年をなるべく適用したいということではなかったようでありますし、情状——いわゆるその過失の有無という点について、十分な注意をしても何ともならぬものは罪にはしないというようなことをおっしゃったと思うのです。そうすると、たとえば警察庁のおっしゃったような、七二%が飛び出しないしは直前、直後横断という危険きわまることをなしたとするならば、それに対して運転手を過酷に扱う、処罰するということは、どうしても私は過酷だという気がするんです。こういうようなのは防ぎようがない場合が非常に多いわけです。そうすれば七二%というのが、車と人との関係がそういうものであるとするならば、残された三割近くのものが業務上過失致死傷罪に該当するものであろうか、こう思われるのですが、そんな程度ですかね、大ざっぱに。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/59
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060・川井英良
○川井政府委員 昭和四十年度に、業務上過失致死傷ということで全国検察庁が受理いたしました件数は、三十八万件余りでございます。その中で大体——私ども起訴率と呼んでおりますが、公判請求をしたりあるいは略式請求をしたりするというものは、大体数年間の平均で、四割ないし五割五分程度のところが起訴率になっております。したがいまして、およそ半分ないしちょっとそれ以下が起訴される率で、残りは不起訴、起訴猶予もありましょうし、それから嫌疑なしの裁定もあるわけであります。なお、警察官は事故が起きた場合に、おそらく全部検察庁に事件を送致されておることと思いますけれども、明らかに故意過失も何もないというようなものにつきましては、おそらくまた送致になってないものも若干あろうか、こう思いますので、御指摘のように必要以上に過酷になっているというわけではございません。やはり、その中から十分悪質なものをセレクトして処理しているというふうに御理解いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/60
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061・太田一夫
○太田委員 私どもちょっとほかの委員会の関係がありまして、長くこれでお尋ねすることができなくなったんですけれども、たとえば道らしい道がない。安全施設らしい安全施設がないというときに、司法当局に人間対人間の温情がないということになれば、逆なし、安全施設なし、温情なし、これはたまったものじゃないわけです、運転者はね。そういうことから考えまして、私はできるだけこの交通戦争という現代の特徴ある現象に対して、司法、立法、行政のそれぞれの機関は、最もその適時適切な対策を総合的にとらなければならないと思います。司法だけが先に行ってしまうということでも問題だと思うのです。安全施設はどんどんつくりなさい。なお、それでも不注意な者があったときにということでなければうそだ、こう思うのです。東京がこんな過密都市になって、公害が多くても、東京に住んでいたいという気持ちは、これは内閣の広報室の調べによっても、七五%の人はこの東京に住んでおりたいという。それだけの人間には、社会生活の必要性があるわけです。交通戦争が、逃げようとしても逃げられない、こう思うのですね。加害者のほうでも、おとうさんがそんな大きな事故をやって、苦しめたが、自動車賠償保険は百五十万限度で何ともならない。気の毒であるということで、娘が、私が死ぬからおとうさんを許してあげてくださいといって、高校生が自殺したというような悲惨な物語さえ世の中に生まれておる。私たちは、そういう交通戦争の加害者を運転手というふうに一がいに見るべきではなくて、場合によっては被害者を運転手と見なければならない場合もあるかと思うのです。この点は、自動車がやがて一千万台に近づこうとするところのこの事態に対処して、ひとつ大いに川井さん——あなたがおっしゃったのは、私の気持ちには、よくわかる点があちこちに出てきている。いいところはひとつ極力伸ばしていただきまして、過酷な扱いでないように、運用を誤らないことを特に私はあなたにお願いして、期待しておきたいと思うのですね。
私が申し上げるのは、運転手は加害者じゃなくて、そのまま裏を返せば被害者である場合が非常に多いということです。この点は私はどうしてももう少し申し上げていかなければならぬと思うのですが、ちょっと時間がないのではなはだ恐縮でございますが、やがて一千万台になる。四年にして自動車は倍になる。月に十五万台ふえていくという現実の事態、それに対して、建設省は、先ほどおっしゃったような二百四十六億円の交通安全施設の事業費というようなことでは、どこも必要なところに歩道橋ができ、必要なところにガードレールができ、必要なところに照明灯ができるということにはならぬ。警察庁の予算十三億五千六百万円、これではまだ警察庁として、信号機を至るところにつくるわけにはいかぬ。もっとどんどんつくればよろしい。そんな必要なことは、全部がそのくらいのことだと思いますが、そういうことが出おくれになっている。その間にたくさんの方がなくなられる。これは一日も早く全力をあげて克服していかなければならぬと思うのですね。厳罰主義と言われて、どうも法務省は厳罰が好きらしい。しかも、運転手の中には、ほとんどが労働者的なものだから、どうも労働者というのはすぐ何だかんだと隊伍を組んで、それデモだ、ストライキだといって気にくわぬ。もっと静かにしていればいいのに、何かくどくど言うからといって、この際業務上過失でぼいんとやってやろうかというようなことでは世の中はおさまりませんわね。その点についても十分ひとつ御配慮がいただきたいと思うわけです。
委員長、きょうの質問はこれで終わらしていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/61
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062・大坪保雄
○大坪委員長 松本善明君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/62
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063・松本善明
○松本(善)委員 交通事故をなくすということについては、私たちもその熱意においては人後に落ちるものでないし、これはいま問題になっている一番大きな問題であるというふうに思いますけれども、この総合的な交通事故をなくすという中で、この刑法の改正案がどういう役割りを果たすかということ、これまた非常に重要だと思いますが、この提案理由によりますと、「質的に見て高度の社会的非難に値する悪質重大事犯が続出」している、こういうことが言われております。昭和四十二年二月二日に法務省刑事局がつくりました「自動車運転による重大な人身事故の具体的事例」ということであげられたものを見ますと、これはほとんどがめいてい運転ということであり、禁錮三年とか禁錮二年六月ということになっておるのは、ほとんどがめいてい運転ということになっております。こういうめいてい運転ということが交通事故の一つの原因になっているでしょうけれども、このことを基礎にして業務上過失致死傷ということになりますと、このめいてい運転だけに限らず、非常に広範な人たちに影響が及ぶわけであります。国鉄の労働者あるいは私鉄の労働者、それからタクシー、それからトラックの労働者、それから航空機関係の労働者、それからちょっと質が違いますけれどもお医者さんから、非常に広範な人たちにこの影響が及ぶわけであります。これは単にめいてい運転だけの資料でこういうふうに刑法を変えるということを考えてきている問題について、法務省のほうではどういう考えであったのか聞きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/63
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064・川井英良
○川井政府委員 この改正の直接の動機、契機になりましたのは、御指摘のように酒酔い運転を中心とする、最近の自動車運転の無謀な繰縦による悪質な事故の多発に対処していこうということでございます。ただ、この表をごらんいただきましてもわかりますように、たとえば無免許運転でありますとか、あるいは非常に過度のスピード違反の運転でありますとか、いろいろ過失の態様は千差万別でございます。ただ基本的な、ないし間接的な原因になったものが、当時飲酒をしておったという事例が比較的多いことはごらんいただけばわかるとおりでございます。したがいまして、酒酔い運転ですとか、ないしはそれを原因とし、ないしはそれを背景としてその他の過失がそれに加わりまして人身事故が起きたというふうなものが典型的な事例でございますけれども、要は酒を飲んでこの交通頻繁なときに非常に危険な自動車を運転する、そういうふうな時代の精神に合わないような無謀な車両の運転、それに基因するところの悪質な事故というふうなものについて対処していこうというのが基本的な考え方であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/64
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065・松本善明
○松本(善)委員 この法務省のつくりました事例によりますと1もそうです。2、3、それから5、6、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、ほとんど酒飲みの運転ですね。めいてい運転ですね。ほかのものと言われるけれども、法務省が出しておる資料によれば、これがすべてと言っていいくらい、ほんとうにほかのはごく一例です。そうでないものは三つですからね。二十四出しました事例のうち三つ、それ以外、二十一は酒飲み運転だ。これに対処するということのために、これだけ大問題になる刑法の改悪を——私は改悪だと思いますけれどもしなければならないでしょうか。それ以外に方法はないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/65
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066・川井英良
○川井政府委員 酒を飲んで車を運転したということだけが過失になるわけではございませんで、飲酒をしたということが間接の原因になり、ないしは道交法その他できめられておるいろいろな体系の注意義務に違反してくるという一つの遠因的なものになったということは事実ございますけれども、酒を飲んで運転して事故を起こしたから直ちに二百十一条の業務上過失致死傷罪になるんだということには、これは御承知のとおりならないわけでございまして、酒を飲んで車を運転したということだけで処罰をするんでしたら、これは道交法のほうの規定でもってまかなえると思いますけれども、要するに、危険なものを運転して、それには相当な注意義務が必要なんだ。ところが、その注意義務を怠って、たまたま人身事故を起こした。さらに運転者はそのとき調べてみたら、たまたまそれが飲酒をしておったんだというような事例が非常に多いわけでございますので、これらの悪質な事故を法律的、特に刑法的にまかなうということのためには、やはり刑法の改正でもってまかなうのが最も妥当な道だ、こう思っているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/66
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067・松本善明
○松本(善)委員 私の聞きますことは、もちろん酒飲み運転だけでは過失の問題はありませんけれども、この提案をしている、要するに禁錮刑の最上限まで行っている問題が非常に多いので、だから改正をしてもらいたいというこういう提案理由ですね。しかし、その事件は全部酒飲み運転でしょう。めいてい運転です。だから私の聞きますのは、この上限を上げるということ以外に、実際に私たちの望みますことは、こういう事故の起こらないように、酒飲み運転の問題について、この刑法の罰条を変えるということ以外には方法がないのか。この酒飲み運転の問題で起こる事故をなくすということのために、ほかの努力をしたことがあるのかどうか、あるいは討論をしたことがあるのかどうかということをお聞きしておるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/67
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068・川井英良
○川井政府委員 要するに、刑法の刑を三年から五年に上げるということだけでもって、今日の事態が完全にまかなえるというような思い上がった考え方はさらさらないわけでございまして、先ほどからの議論の対象になっておりますように、このためにはいろいろな総合的な対策というものが一致して実ってこないと、ほんとうの効果はあがってこないということは、私も十分それを認識しているつもりであります。特に、先ほど交通道徳とか何とかいうようなことをちょっとしゃべりましたけれども、それは歩行者の側におきましても、あるいは運転者の側におきましても、そういう危険なものを運転するというふうな場合には、酒を飲んで運転するというふうなことは、もう道義の問題としてもやめるべきだということだと思いますのが、いわばむしろ法律以前の問題であって、教育とかあるいは社会道徳の高揚、そういう交通道徳の高揚というふうなことと相まって、そういうふうなものを絶滅していくということが必要だろうと思います。したがいまして、私どもといたしましては総理府を中心としての、この交通戦争に対処するための総合的ないろいろの機関もできておりますし、そして私どものほうからも人を派しまして、常時罰則の運用の面から見た行政面のあり方というふうなものについて意見の具申をいたしております。したがって、そういうふうな場合にも、いま御指摘のような飲酒して運転をするというふうなことをやめさせる、防ぐための措置としては、どういうふうな措置が適当であろうかというようなことについて、いろいろ議論をしたことももちろんあるわけでございます。ただ、私どもといたしましては、そういう総合的な施策を待って、そしてわれわれの面から何ら措置をとらなくていいものかどうか。単に行政機関に若干の意見を具申することだけでいいのかどうかというふうなことを、また私どもの立場からいろいろ反省をしてみたわけでございます。その結果、一方において総合的な施策がどんどん進行していく、またそれを進行させるということが私どもの側面の義務であり職務でありますけれども、またそれをただ漫然と待っているだけではなくて、刑罰の面におきましても、その道徳の高揚のため、いわば一般的な予防のため、そういうふうなもののためにも、この際若干の刑罰を上げる。特に問題は、故意犯ではなくて過失犯でありますので、その注意義務を高揚することによって、かなり悪質な事故というものは防げるのではないか、こういうふうな観点に立っての私どもの立場からの一つの総合的な施策の一環として、刑法の改正というふうなことを考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/68
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069・松本善明
○松本(善)委員 もう一面の、私が先ほど申しましたように、刑法を変えますと、これは影響するところが非常に多くて、これについての反対運動もうんとあるわけです。いま申しましたように、航空機関係から始まりまして、あらゆる交通関係の労働組合、みな反対です。それはその労働組合の人たちが、交通安全の問題に無関心なのかというと、決してそうではない。各組合も自分たちの命、それからからだの問題ですから、交通安全の対策を立ててこれを要求するというのは、みなやっているわけです。そういうような大きな影響を与える逆の面がある。一面では酒飲み運転で一つの問題があるでしょう。あるでしょうけれども、一面ではそういうような、今度はそれと比較にならぬほどの大きな影響を全体に与えるわけですね、その点についての検討はどうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/69
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070・川井英良
○川井政府委員 漫然と刑を上げることによって、いままで軽く済んでいたものを、同じような過失の程度、それから結果というものに対して、刑が上がったから、にわかにいままでの禁錮一年で済んでいたものを、この際禁錮二年を求刑し、また刑罰の量刑を求めていくというふうな考え方ではないのでありまして、三年ではまかなえないような、この事例をごらんくださってもおわかりのとおり、こういうふうな事例のものに対して、どういうふうな措置が一体考えられるのだろうか。いろいろ考えてみました案につきましても、五や十ではございませんで、いろいろな案を考えてみた結果、最後の案といたしまして、やはり二百十一条の刑法の改正でまかなうよりほかに方法はないのだというのが、私どもの結論であるわけでありまして、一部の、特に交通労働者の組織の中に、この法律案についての強い反対があるということも、これはもう三年越しの法案でございますので、私どももよく知っております。しかし、また一面におきましては、先ほどもちょっと申し上げましたとおり、道路の整備もさることながら、刑があまりにも軽過ぎるのじゃないか、もう少し刑を上げて一般の注意を喚起してもらうということが、今日の交通不安を解除するに最も適当な方法だと、私、これは素朴な国民感情だと思いますけれども、いろいろな方面から、また私どもの手元にたくさんの陳情なり抗議なりが殺到してきております。そういうふうなものを、私、無視できないのではないかと思うわけでございまして、反対も一部にございますけれども、また一部には、早く何とかしてこれをやるべきだという促進の声も非常に大きなものがあるということも、私ども行政の一端をになう者といたしましては、彼此勘案いたしまして、いろいろの面から考えまして、いま最初に申し上げましたとおり、上げればいままで軽く済んでいたものがすぐ重くなるのだ、こういうふうな運用、ないしはそういうふうなたてまえに決して立っておるものではございませんで、先ほどからも太田委員の御質問に対してお答え申し上げましたように、それならば罰金も上げなきゃいけません。全体を上げるのならば。罰金は上げてないわけでございます。それは下のものを重くしようという趣旨がないからでございます。三年でまかなえないような、ここに申し上げたようなだれが見てもこれはいけないのじゃないか、こういうふうなものについてのみこれをまかなっていきたいというのが、緊急当座の立法趣旨でございますので、罰金はそのままに据え置きまして、いままでの事態については、いままでどおりの量刑をもって臨んでいく、こういうふうな考え方でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/70
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071・松本善明
○松本(善)委員 刑が重くなったからといって、法定刑が重くなったからといって、すべての処理が、量刑を重くして求刑していくのだというものでないということはそうでしょう。しかし一般的に、法定刑が懲役刑になって、三年が五年になるということになれば、一般的に業務上致死傷事件について、処理として、法律ができますればそれは一人歩きをする、それに影響を及ぼし、先ほど言いましたような、交通労働者全体に影響を及ぼすことになるだろうということは、見やすい道理ではないかと思いますけれども、その辺は法務省のほうではそういう影響はないのだというお考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/71
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072・川井英良
○川井政府委員 結論といたしまして、そういうことはないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/72
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073・松本善明
○松本(善)委員 それはちょっと、とても理解できない。この法律が変われば全体に影響するということは、だれもが理解できることではないかと思います。もう一度その点を聞きますが、先ほど刑事局長の答弁の中で、酒を飲んで運転をするというようなことは、これはもう道義の問題であり、そういうようなことをなくさなければいかぬということを言われましたが、この提案理由の逐条説明でも言われたけれども、これは未必の故意の事案と紙一重の差なんだということを言われた。刑事局長の話では、ここにあがったようなのは、酒を飲んで運転するというようなことは、場合によっては故意に当たるようなことになるのじゃないか、そういう趣旨のようにも受け取れますが、実務の上では、これはどういうふうに考えて処理をしておるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/73
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074・川井英良
○川井政府委員 いろいろケースに類型と、また態様の相違がございますので一がいには言えませんけれども、御承知のとおり、過去におきまして、事故について、殺人罪、ないしは殺人未遂、あるいは傷害というふうな故意犯をもって起訴して、またその趣旨の判決が出た事例も、数は少ないのでありますけれども、現実にあるわけでございます。したがいまして、私ども具体的なケースについて捜査を遂げた結果、過失犯でなくて故意犯だという証拠がはっきり、明確なものにつきましては、もちろん二百十一条ではありませんで、ほかの法条を適用して、これを処理しているという実例もございまするし、また今後もそういう方針でいくつもりでございます。ただ、酒を飲んで運転したからということで、もちろん多くのものが故意犯になるわけではございませんで、やはり当時の状況を具体的に調べてみますというと、それはしょせん過失犯の範疇にとどまるものだというものも非常に多いわけでございますので、故意犯になるものについては故意犯として処理をするという態度は、今後も変えないつもりでおります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/74
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075・松本善明
○松本(善)委員 酒を飲んでも過失犯にとどまるものは過失犯だ、通り一ぺんに聞けば、これはもっともな話なんですが、しかし、問題は酒を飲んで特にめいていをして運転をするというようなことが悪質な違反だということで、その処理に困っているということで問題になってきておるわけでしょう。それは故意犯として処理のできるものが相当あるのじゃないか、またそういうものとしてはっきり処断をしていくということのほうが、正道ではないだろうか。これは故意なんだ、過失とはいえないのだ、あなた方のおつくりになった資料から見ますと、これはそれのほうが正道なんではないかというふうに思いますけれども、その点についてのお考えはいかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/75
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076・川井英良
○川井政府委員 酒を飲んでこの交通ひんぱんなときに車を運転するということは、確かに故意犯に結びつく要因を持っておりますけれども、酒を飲むことは故意でありましょうけれども、その結果、あるいはそのことを原因として、人をひいたり、けがさしたりというふうな結果について、故意が認められるかどうか。また飲酒とその殺傷との原因間に、なだらかに因果関係が証明できるかどうか、いわゆる故意としての因果関係が証明できるかどうかということにつきましては、これは御存じのとおり、非常に証拠的にはむずかしいものがあるわけでございまして、たとえば同じような前科が何回も重なっているとか、あるいは複数の人が運転台に乗っておって、それらの人の供述の中から、いろいろ故意に結びつくような、事故に対する故意が出てくるような証言というようなものがあれば、また別問題ですけれども、単独で、飲酒をして運転をしておったというようなことで、たまたま事故が起きたというふうなケースを、あらゆる角度から取り調べをしてみました場合に、その多くがこの故意に結びつくということは、今日の証拠保持の面では非常に困難だ、また実態もはたして結果の重大なるがゆえに、すべて故意犯として律することは、法律上適当であるかどうかということにつきましても、いろいろ問題があろうかと思うわけでございまして、今日の実情といたしましては、いま非常に特異な、わずかなものについてのみ故意犯として処理がなされておる。大部分の多くのものにつきましては、過失犯として処理するよりほかに手がないというのが実情でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/76
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077・松本善明
○松本(善)委員 過失であるものは過失としてやはり処理をしなければならないと思います。先ほど来刑事局長の答えている悪質なものというのは、そして三年ではどうにもがまんができぬというのは、故意というふうに見るべきじゃないのか。そういう事案のことをあなたは言っているのではないのかということを私は聞いておるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/77
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078・川井英良
○川井政府委員 そういう事案につきましては、故意と認められるものも若干はあろうかと思うのでございますけれども、そういうふうなものにつきましてもすべて故意犯として律することが、先ほど申し上げましたとおり非常に困難な実情にあるということで、やはり過失犯としてまかなう分野が、いま申し上げました非常な悪質重大犯につきましても非常に多いのではないか、こういう見解であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/78
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079・松本善明
○松本(善)委員 過失犯はやはり過失犯として処理しなければならない。ただ実務上の裁判での立証が困難だとか、そういうようなことによって、過失であるものを、故意と同じように処理するというようなことは許されない。やはり悪質かどうか、ここでは悪質といわれているけれども、それは故意といっていいのかどうかというような問題ですよ。そういうものは当然に故意犯として処理するのが正道ではないかと思う。そういうふうに刑事処罰というものは考えるべきじゃないか。これはどうもぐあいが悪い。取り締まりの上であるいは検察庁が裁判の上で都合が悪い、そういうふうなことによって刑法の罰条を左右するというようなことがあっては、とうてい許されないことではないか、そういうふうに考えているのです。そういう意味で故意犯として処理するのが正道なのではないかということを聞いている。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/79
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080・川井英良
○川井政府委員 故意犯は故意犯として処罰すべきであり、故意犯を過失犯として処罰することは妥当でないという御指摘は、理論としてまさにそのとおりでありまして、私も全く同じ考え方でございます。ただ具体的なケースを処理する場合に、本人の故意に基づく行為であるか、過失に基づく行為であるかということは、私、これは事実問題だろうと思います。事実問題であるといたしますれば、故意の証拠が十分であるならば故意犯が成立するわけです。故意犯として処理すべきであります。ところが、証拠関係によってこれは過失犯であるということが認定されるならば、これは過失犯として処理すべきものである、こういうことじゃないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/80
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081・松本善明
○松本(善)委員 証拠の集まり方いかんで、そういう取り締まりの便宜によって刑法の罰条を左右するという考え方は正しくないのじゃないかということを再々言っておるわけです。その点について非常に不十分であると思いますが、別の機会に法務大臣にも聞こうと思いますので、これはその程度にしますが、めいていによる事故というのは、一体全体の事故のどのくらいのパーセントになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/81
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082・片岡誠
○片岡説明員 死傷事故全体を含めましてパーセンテージは六%でございます。それからこれはいわゆる道交法の酒酔い、酒気帯びも含めての数字でございます。それから死亡事故を取り上げますと、一一・八%でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/82
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083・松本善明
○松本(善)委員 運転者の心身の状態が正常であって交通事故を起こしたものというのは、これはどのくらいになりましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/83
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084・片岡誠
○片岡説明員 いまの全事故で、酒酔いで六%でございますし、それから過労運転が一・一四%くらいでございます。酒酔い、過労、これは大体正常でない場合の典型的な例でありますが、あとは大体正常な運転であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/84
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085・松本善明
○松本(善)委員 正常な状態でもかなり事故が起こっているという実情があるわけです。特に自動車の運転をする労働者の中で、私、調査をいたしますと、警察につかまったことがないという人はほとんどないという状況です。こういう実情にあるということを警察は知っておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/85
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086・片岡誠
○片岡説明員 現在、全体のドライバー数を、私ども二千二百万人と推定しております。免許件数は四千万ございますけれども、一人で二つの免許を持っておる者がございますので二千二百万、それで年間の人身事故の発生件数が約五十三万でございます。それから道路交通法違反で送致された人の数が約五百万、それで大体見当がつくのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/86
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087・松本善明
○松本(善)委員 そうすると、二千二百万のうちの五百万以上、約四分の一の人たちが道交法違反か、それとも業務上過失致死傷かということになっているわけです。免許を持っておる人たちの中でも、実際上は運転をしないという人も相当ある。それはどのくらいというふうに思われますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/87
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088・片岡誠
○片岡説明員 ペーパードライバーにつきましては、私ども発見する手段がございませんので、わかりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/88
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089・松本善明
○松本(善)委員 実情はつかめないようですけれども、しかし、これも相当あるわけなんで、実際に運転をしている人たちの中で、ほとんどの人が警察につかまっている。ことに交通労働者のように毎日のように動いている人は必ず、それが処罰をされるかどうかはともかくとして、つかまっているという状態にあるわけなんです。過失犯というのは、特別にその人は注意能力が悪いのだ、注意義務が懈怠しているのだ、正常な人なら、そういうような過失は起こさない。にもかかわらず、その特別の人が、これは非常に注意をすべきであるにもかかわらず注意をしないので処罰をするのが過失犯のたてまえだ。ほとんどの人が犯罪人として前科者になっている、あるいは警察につかまっている、こういう実情の場合に、これは犯罪というにはだんだんふさわしくなくなってきている。こういう実情ではないかと思いますけれども、これについて法務省の考えを聞きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/89
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090・川井英良
○川井政府委員 道交法違反の、いわゆるルール違反を犯した者が、最近では年間おおむね五百万、それから人身事故を起こした者が年間三十八万から四十万、これが今日の大ざっぱな数字であるわけでございます。
そこで、いわゆる軽微なルール違反というふうなものが今日道交法で犯罪とされておりますけれども、これを依然として犯罪としておくか、あるいはまた別の考え方で対処していくかというふうなことについては、これは行政取り締まり法規である道交法という法律の性格から考えましても、政策の問題として今日いろいろな意見があろうかと思います。しかしながら、人身に影響のあるような業務に従事する者が、当然守らなければならない注意義務を怠ることによって、人の生命、身体に侵害を与えたというふうな人身事故を起こした事案につきまして、これを今日犯罪の類型にしないというふうな考え方であるといたしますと、それにつきましては、簡単に私賛成ができないわけでございまして、やはり人身事故につきましては、これを依然として犯罪の類型に残し、しかも、刑法の中に残しておくということが、いろいろの面から見て相当ではなかろうかと思うわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/90
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091・松本善明
○松本(善)委員 私の言いますのは、こういうように数多くの、運転免許を持っている人たちはほとんどといっていいくらいのたくさんな人たちが、何らかの形で犯罪人になっているということになると、これは犯罪類型として残すとか残さぬとかいうことでなくて、ほかに原因があるのだ——交通事故あるいは交通事犯として問題になっているけれども、これは人間の注意能力という問題から離れて、いまの交通犯罪というものの原因がほかにあるんだということを考えなくてはならぬのじゃないか。法務省という立場から見ますと、これはたいへん狭くなるのじゃないか。交通政策全体について考えが及ばなくて、非常に狭くて、処罰ということだけを考えがちになると思いますけれども、そういう実情にあるということについて、ほかに原因があるというふうには考えないのかということなんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/91
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092・川井英良
○川井政府委員 今日の交通事情の悪化した状態についていろいろな原因があるということについては、私もいささか考えておるものでございます。
なお、昨年十一月総理府の中に設けられた交通安全対策の機関がございますけれども、その対策会議におきましていろいろ議論された結果が発表された中にも、総合的にいろいろな政策が数多く、しかも広範、強力にうたわれておりますけれども、その中の一環として、やはりこの交通道徳の高揚に資するためにも、現在の二百十一条の刑罰について補正をすべきだという項がうたわれておるところから見ましても、この二百十一条の刑罰の引き上げをひとり法務省のみが独自の立場で狭い視野から考えたものだと、こういうふうに御理解をいただくのは私としてはたいへん残念なところでございまして、私どもとしては私どもなりの立場から、できるだけ視野を広げまして、そしてこの辺のところが今日の事態としては適当だと思われるところのそういう確信に立って、この法の改正を打ち出したわけでございますので、その辺のところはひとつ御了解をいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/92
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093・松本善明
○松本(善)委員 ちょっと念を押しておきますが、結果的に全体を考えたと言われるけれども、そういうふうに犯罪者が全体に及んでくるような事態について、これは法務省としては率直に言って犯罪として考えることについてやはり問題を感ずるのが当然ではないかと私は思うのでありますけれども、その点について、そういう事態になっていることについては別に結論のようなものはないわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/93
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094・川井英良
○川井政府委員 人身事故につきましては、刑罰としてやっていくべきだという確信でございますが、道交法違反のルール違反につきましては、私どもといたしましても抜本的な対策が必要ではないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/94
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095・松本善明
○松本(善)委員 しかし、この交通反則金の問題にしても、本人が承諾をしなければ刑罰に処せられるということになるわけですね。基本のたてまえからすれば、やはり刑罰というたてまえで事柄が進んでいるのではありませんか。あなたのいま言われた払本的な対策というのは、交通反則金のことを言われているわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/95
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096・川井英良
○川井政府委員 抜本的対策に至るまでの一つの過程として、この道交法についての一部改正、具体的には反則金の通告制度というふうなものを考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/96
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097・松本善明
○松本(善)委員 私たちは、この交通事故をなくすための一番大事な問題は、やはり安全施設の拡充と、それから交通労働者の労働条件の向上、これなしには幾ら刑罰を処してもだれも、なるほど気の毒だということにはならぬのです。なるほど運転している人が悪いのだということにはならないのです。事実そういうような例が幾つもあるのです。たとえば東中野で国鉄の電車が追突をした事故があります。その被害者でけがをした人が八人ばかりおりますが、その人たちは運転士さんを処罰してもらいたくない、当然にいまの国鉄の状況では事故が起こるのだ、こういうことを被害者のけがをした人が言っておるのです。法務省ではそういうようなことを知っておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/97
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098・川井英良
○川井政府委員 具体的なケースについて、いまのようなお話が、そういうようなあれから出たということは私は知りませんでした。知りませんでしたが、何といいますか、警察から送致された道交法違反ないしは業務上過失犯の事件が、すべて体刑ないしは罰金になっているというわけではありませんで、検察庁でもう一回調べ直しまして、そして公訴を提起するに足る事件だと思われるものだけを選んで裁判を請求していることは、御承知のとおりでありますけれども、そういうふうな実情に相なっておるわけでございまして、しかも、この種の事件を扱うものについては、先ほども申し上げましたようになるべくこういうことに通暁した、実務に明るい者を当てて、慎重さを期しておるというふうな実情でございまして、年間何十万件もある事件でありますので、個々の一つ一つのすみずみまで、全く完全無欠の配慮が行き届いた処理であったというようなことを、中央におる私といたしまして、自信を持って言い切るだけのあれはございませんけれども、少なくとも大綱におきましては、また原則においては、今日この種の事故の処理について非常に慎重に、しかも、間違いのないように処理をするように、強力に検察庁の指導協力につとめておるところでありますし、今日、最近の事態から見ましても、著しく妥当でない処理があったというふうなことは、私まだ報告を受けていないわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/98
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099・松本善明
○松本(善)委員 私は個々の事件を、もちろん刑事局長が全部知っているとも思いませんし、それはいいわけですけれども、問題は、私が言いましたように被害者の人が運転士さんを処罰してもらってもしょうがないのだ、むしろ処罰をしてもらいたくないのだということを言っている事例が出ておるということです。そういう状態の中で、刑を重くするというようなことで事が解決すると思うかどうかということなのですよ。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/99
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100・川井英良
○川井政府委員 そういうふうなケースがなかったとは申しませんけれども、たまたまそういうふうなケースが一つ二つあるからといいまして全部の事件について、そういうような事態であるというふうに認定するのは少し早計のような気がするわけであります。逆に、私どもたくさんの事件の処理の報告なり、あるいは法の改正についての各方面からいろいろな意見も手元に参っておりますけれども、そういうふうなものを総合して言うならば、私どもの耳に入る限度におきましては、むしろ今日のこの事態に対処するために、今回の法改正についてはこれを促進してくれという声のほうが私は強いように思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/100
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101・松本善明
○松本(善)委員 それは、個々の事例は全部を上げ切ることができないから上げておらないのであって、それは、ほかにないのでは決してないのです。
あなた方のほうへお聞きしますが、最近の交通事故、幾つも起こっている。航空機から、国鉄から、私鉄から、トラックから、あらゆるところから起こっている。そういう大きな交通事故について一体どこに原因があるのか。どういうふうにしたらいいのかというようなことを総合的に考えて、そうして刑法の問題が出てきたのですか。典型的な鶴見だとか、三河島だとか、松山沖での墜落とか、あるいは羽田の事件とか、あるいは富士山ろくのBOACの事件であるとか、典型的な世間の耳目を聳動させたような交通問題については、何とかしなければならぬという世論が起こっている原因になっているような大きな事件について検討した上で、これが出てきたのかどうかということを聞いておるのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/101
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102・川井英良
○川井政府委員 御承知のとおり、刑法の改正は基本法でございますので、法務省設置法によりまして法務省に設置されている法制審議会の議決がないと法律上提案ができない実際上の仕組みになっておるわけでございます。法制審議会は、御承知のとおり今日日本の法律界並びに学識経験の最高水準を網羅した委員会であるわけでございまして、この委員会にこの法案をかけて議決を得るためには、実は私どもとしてはもうなみなみならぬ資料と、またいろいろな内外の資料も集めまして、あらゆる角度から検討いたしましてこの審議会の議決を得たわけでございます。今日その詳細を申し上げる時間もないと思いますけれども、外形的な一つの手続をとってみていただきましても、私は私なりに、できるだけのあらゆる過去に起きたいろいろな具体的な、いまあげられましたような——もっとも、いまあげましたBOACの事件とか、それからカナダ太平洋航空の事件は、三年前にこの法案が出ておりますので、この法案が提案された後に起きた事件でありますけれども、今日あらためて、これを提案するにつきましては、その種のいろいろな事件のケースによりましても、それをそれぞれ検討して、また類型化をはかり、その原因なりというふうなことを法務省は法務省なりの立場から考えております。もちろん、いま御指摘のように、法務省という一介の法律実務家としての、かたい頭の狭い視野からの見解にすぎない、こうおっしゃられれば、これはもう頭を下げざるを得ませんけれども、私どもは私どもなりに、中央に勤務しておる法律実務家の一人といたしまして、警察庁あるいは内閣総理府、検察庁その他の行政面にタッチされておる方々と密接に連絡をとり、それらの人々の意見も十分に聞き、また協議をいたしまして、今日のこの交通情勢に対処するための一環として、こういうふうな措置があらゆる観点から見て適当だ、こういうふうな大方の賛成と支援を得て提案したわけでございますので、御満足のいけるほどの万全の措置かどうかわかりませんけれども、私どもは私どもなりの立場で、万全を尽くしていろいろな資料を集め、また検討の結果、この提案をするに至った、こういう事情でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/102
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103・松本善明
○松本(善)委員 結局、法務省の範囲でやっておるということであって、私たちは、法務省は法務省なりに、ほかのことは一切考えてなかったというようなことを言っておるつもりはないのですけれども、法務省の範囲で考えたにすぎない。全体のほんとうに、いま申しましたように交通事故全般についての政策を政府として総合的に検討して、その結果、この刑法という問題が出てきたということではないわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/103
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104・川井英良
○川井政府委員 少し遠慮して申し上げましたけれども、もう少し積極的に申し上げることをお許しいただけるならば、これは先ほども申し上げましたけれども、総理府に総理を会長として交通対策についての非常に大がかりな、しかも広範な会議が結成されておるわけでございます。この会議のまたさらにその下に幹事の会議がつくられておりまして、あらゆる角度からこの交通事情に対処する抜本的な、しかも総合的な施策を推進すべきだということで、たびたびこの国民会議的なものを開いて政府の所信を披瀝するとともに、また一般国民各界からの意見を聴取して、早急に、迅速に総合対策を実施するというような活動が強力に行なわれております。その会議の中に、そういうふうな総合対策の一環として、二百十一条の妥当な刑の引き上げをはかることが必要だという一項目が厳然と盛られておりまして、その点につきましても各方面から支持、支援があり、それについての担当は法務省の担当だからというので、私どものほうがこの二百十一条の改正について総合施策の一環としてこの改正案を立案し、また審議をお願いをしておる、こういうふうな関係になっておりますので、何か一般の総合行政施策とはひとり飛び離れまして、私どもだけが別個にこういうふうなことを考えておるのだ、こういうふうにおっしゃられるというと、非常に残念でございますが、そうでございませんで、やはり総合対策の一環として考えられておるのだというふうに御理解を賜りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/104
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105・松本善明
○松本(善)委員 それはまた、あらためて大臣が来ましたときに聞きたいと思いますが、さらに一つ聞いておきたいのですが、最近では車の一台当たりの事故は減っておる。車はうんと増加しておるけれども、その自動車台数の増加に比較しますと、死傷者は減っておるというふうに私は統計で見ておるのですけれども、その点についてはどうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/105
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106・片岡誠
○片岡説明員 自動車一万台当たりの死者数、負傷者数について申し上げますと、昭和二十一年には死者が二六四・六、負傷者が七五九・四という数でございました。それから昭和三十一年には、それが死者の場合に三九・三、負傷者が五九三・八、四十一年には死者が一四・九、負傷者が五五四・四という数でございます。一万台当たりの死者、負傷者とも減ってまいっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/106
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107・松本善明
○松本(善)委員 そうすると、結局事故がふえておるけれども、自動車の急激な増加というものがやはり自動車事故については非常に大きな原因になっておるということになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/107
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108・片岡誠
○片岡説明員 大体負傷者につきましては、自動車台数の伸び、厳密に申せば走行キロ数だと思いますが、それに大体比例するような動きをしております。ところが死者につきましては、最近昭和三十五年ごろまでは、そういう傾向でございましたが、三十六年のころから、大体横ばい状態になっておる、そういうことでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/108
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109・松本善明
○松本(善)委員 横ばいですか、少し減っているんじゃないですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/109
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110・片岡誠
○片岡説明員 私、申しましたのは、絶対数について、死者のほうは横ばい状態になってきたということです。したがいまして、台数比で言いますと急速に減ってきた、そういうことでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/110
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111・松本善明
○松本(善)委員 そうしますと、一台当たりの死者が減っているということになると、その一人一人の個人の注意というよりは、自動車の台数の増加というのが全体としては交通事故の原因の中に占める比率が大きくなっているんじゃないか、こういうことを言っているのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/111
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112・片岡誠
○片岡説明員 私が昭和三十五年と六年ごろが一つの転機だと申しましたのは、昭和三十五年の暮れに、御承知のように道路交通法の全面的な改正がございまして、その道路交通法の改正と、それから三十七年の御承知のような新聞マスコミの非常なキャンペーンがございまして、そのちょうど三十六年から七年ごろが国民全体としても、あるいは政府としても、あるいは国会の先生方も含めまして、交通事故に対する一つの決意なり、あるいはその施策の推進が急激にはかられ出した非常に画期的な年ではなかろうか、そのように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/112
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113・松本善明
○松本(善)委員 いま話されたことの中で、新聞のキャンペーンというのは、いわゆる神風タクシーということでやった、あれですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/113
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114・片岡誠
○片岡説明員 例の朝日新聞その他を中心にいたしました神風タクシーのキャンペーンです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/114
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115・大坪保雄
○大坪委員長 本会議終了後再開することとし、暫時休憩いたします。
午後一時三十四分休憩
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午後三時四十一分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/115
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116・大坪保雄
○大坪委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
刑法の一部を改正する法律案の質疑を続行いたします。中谷鉄也君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/116
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117・中谷鉄也
○中谷委員 刑事局長に質問をする前提となる一、二の事実関係を明白にするためにお尋ねをしておきたいと思います。
本改正案は、いわゆる外国の立法例との比較においてということが、一つの配慮ないしは考慮の事情になっておりますが、配付されました「過失致死傷罪に関する主要外国立法例一覧」というのがございますが、これらの外国刑法は、いわゆる戦後といわれているその時期から今日に至るまでの間において、改正の関係はどのように相なっているのか。たとえばドイツ刑法については、その二百二十二条において「過失により人を死亡させた者は、軽懲役」さらに三百十五条のaにおいては「次の者は、軽懲役。」として、その第一項に、「アルコール飲料若しくはその他の酩酊性物質を用いたため」云々、こういうような記載がありますけれども、これらの法規定は戦後どのような経過をたどって、法務省資料として四十二年二月に配付されたのかどうか、この点を最初に明白にしていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/117
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118・川井英良
○川井政府委員 外国の立法例、特にドイツ刑法についてのお尋ねでございますが、これは現行のドイツ刑法からの抜粋でございます。御承知のとおり、ドイツ刑法は過去数年にわたりまして国会にその改正案がかけられておりますが、ここに摘記いたしましたのは現行のドイツ刑法でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/118
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119・中谷鉄也
○中谷委員 午前中から論議されましたとおり、またそのような論議を待たずしても、刑法という基本法の改正なんだ、こういうことなんです。したがいまして、この基本法の改正が、はたして現時点において適切かどうかということを論議するということで、しかもその例として、外国の法定刑はこういうことなんだということが提示された以上は、外国のいわゆる刑法規定が、たとえば交通事故の増加というふうな事情において、それと見合うような形において改正をされて現行法に相なっているのか、それともすでにこの刑法制定当時から軽懲役——軽懲役というのは短期が一日、長期が五年ですが、そういうことになっているのかどうかというようなことは、私はやはり本改正が適切かどうかということの、法務省のお立場からしても一つの資料であろうと思います。したがいまして、その点については、1ないし19というふうに——特に19のイリノイ州の刑法、あるいは17のアルゼンチンの刑法というように、そのような経過についてお調べになるのは、たいへんだろうと思われるようなものもありますけれども、主要なものについてはひとつ資料をお出しいただきたい。この点について、まず最初にお約束いただけるかどうか、お尋ねをいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/119
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120・川井英良
○川井政府委員 すでに調べはしてありますけれども、さらに一そう検討いたしまして、資料の形において提出をいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/120
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121・中谷鉄也
○中谷委員 そこで次に、論議の一番土台の一つとなる次のような点についても明白にしていただきたいと思います。
すなわち、同じく昭和四十二年二月法務省刑事局配付の「自動車運転による重大な人身事故の具体的事例」という資料がございます。1ないし24の事案の具体的事例がその書類には記載されているわけでございますけれども、この二十四の事例は、いつどこで起こった事案なのか。すなわち、別のことばで申しますならば、どの裁判所でいつ判決された事例なのか。この点については、これまた事例の明確化をはかっていただきたい。これが一つです。
なお、この機会にお答えをいただきたいと思いますけれども、1ないし24の事例のうち、いわゆる頭打ちだということの論議との関係において指摘をいたしますならば、1ないし6が禁錮三年の事案であることは明白であります。そういたしますと、1ないし6以外に禁錮三年の判決を受けた事例というものについても、この際あくまで交通事故防止という観点から論議をいたしたい、こういうように私のほうは考えます。したがいまして、1ないし6と同じような禁錮三年というふうな事例については、あとにどの程度あるのか、この点についてひとつこの機会にお答えをいただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/121
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122・川井英良
○川井政府委員 お手元に提出いたしました具体的な事例は、それぞれその事件の記録ないしは報告書類に基づきましてここに掲記いたしたものでございますので、日時、それから言い渡しの裁判所、その他この事実を特定するに足るような事項は、即刻適当な形の資料にしてお手元に提出いたしたいと思います。
なお後段の、禁錮三年の一ぱいの刑を受けた事案につきましては、午前中も申し上げましたように、三十九年で二十件、四十年にも二十件、四十一年におきましては四十件近い数字があるということが裁判所の統計の中に出ておりますが、これらにつきましても、さらにできる限り明確な形の資料にして早い機会にお手元に提出したい、こう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/122
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123・中谷鉄也
○中谷委員 早急にその資料を御提出いただきたいと思いますが、そういたしますと、1ないし6のこの事案というのは、おおむね、お答えいただきたいと思いまするけれども、何年の事例なのか、そうして1ないし6あるいは7ないし24という事例を、ことに禁錮二年六カ月というふうな事例については、それ以上の事例があろうかと思う。この際に特に1ないし24の事例について、それらの中からお選び出しになってそうして配付されたその選択の基準というものは、何か特定の基準に基づいて具体的事例を摘出されたのかどうか、その点についてはいかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/123
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124・川井英良
○川井政府委員 この種の事件は、全部が検察庁から本省に対する報告事件にはしておりませんで、特異、重大な事件については、その他の事件の参考になると思われるようなもの、ないしは立法の参考になると思われるものについて報告を大臣命令でいたしておりますので、その趣旨において報告があったものの中から、この立法の参考になると思われるような事件を選び出したわけでございますので、この未報告の分につきましても、もとよりかなりな重い刑罰がいった事件も、統計の面でいうならば相当数があるわけでございますから、でき得る限りそういうふうなものをしさいに調べて資料にしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/124
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125・中谷鉄也
○中谷委員 ちょっと、質問についてのお答えを明確にしていただきたいと思います。すでに報告を受けておられる事例が何十件かある。その中で禁錮三年の上限にきている、そういう量刑があったものについて、六件具体的事例をお出しになっている。それがはたしてそのような上回るべきものであるかどうか、あるいはまた、それが全体の中においてどのような位置を占めるかというような問題になるわけです。私はそのような事例について、たとえば政府委員の方と、本件事故発生に至る直接的な原因、あるいはその社会的な原因ないしは社会的な背景というふうなものを論議することによって、刑の上限を上げる以外の方法によって交通事故は防止できるのではないか、まさにその点に力点を置くべきだということを論議したいと思っている。したがって、この1ないし6という事例の出し方の中に、法務省としての、この1ないし6をお出しになった特別な選択基準というものがあれば、その基準というものをお答えいただきたい。それに基づいて、はたして上限を上げなければならないのか、それともそれ以外の方法によって、むしろより一そう適切な方法によって交通事故の防止はできるのじゃないかということを、事実と素材に基づいて論議をしたいという気持ちを持っているから、その選択の基準が明確なものがあってお出しになったかどうかということをお尋ねしているわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/125
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126・川井英良
○川井政府委員 特別な明確な基準なりあるいは特別な意図に基づいて選び出したものではございませんで、すでに各庁から報告をした事例の中から、比較的重いものを選び出したというにとどまる表でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/126
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127・中谷鉄也
○中谷委員 では、重ねてお尋ねをいたしますけれども、私も若干実務的に、こういうふうな事例については自分自身が存じておるわけなんです。ただ、そうすると、この種の事例は、どのような直接的な原因、さらに私の表現をもってすれば、社会的な原因あるいは条件、背景の中から生まれてきたかということについて、全体としての傾向をはかるために、さらに具体的な事例についての追加の資料を私は配付していただきたい、こういうふうに思いますが、この点いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/127
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128・川井英良
○川井政府委員 御趣旨のような形の資料に最も沿う形のものとしては、おそらくここにあげられた事件の判決において認定された罪となるべき事実、これが最も的確な、また最も正確なものではなかろうか、こう思いますので、私の腹づもりは、これらの事件の判決が認定した罪となるべき事実、そのもの自体の写しをお手元に提出したらいかがなものだろうか、こう思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/128
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129・中谷鉄也
○中谷委員 そこで次に、私は次のような点について論議をする上に、ぜひとも資料をいただきたいと思う。
その前に、ひとつお尋ねをしておきますけれども、未必の故意と紙一重と思われるような悪質な業務上過失致死傷、こういうふうな事件が多くなってきたという趣旨の説明があったわけなんです。そこで、この提案趣旨にお書きになっているそういうふうな御説明について、私、この機会にお尋ねをしておきたいと思いますけれども、未必の故意と紙一重であるところの業務上過失、要するにその業務上過失というものと未必の故意というものは、質的に違う観念であり、概念だというようにわれわれは一応素朴に理解している。そうすると、その紙一重ということは一体どういうことなんだろう。未必の故意はあくまで未必の故意なんだ、業務上過失はあくまで業務上過失なんだというように私は理解するけれども、紙一重という表現をおとりになっているのは、それは結果においてという意味ではないとするならば、その業務上過失の何が一体未必の故意と紙一重なのか、業務上過失というものが量的に未必の故意に近づくような、過失の程度が高くなれば、紙一重ということになれば、別に質的な転換じゃなしに、量的に何か業務上過失の過失の程度がふえていけば未必の故意になるというようなことでは、これは考え方として私は非常に危険な考え方だと思う。紙一重ということにしぼって、一体どういうふうなお立場で、どういうふうなお考えでそういうふうな表現がなされているのか、私はこの点をまずお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/129
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130・川井英良
○川井政府委員 御承知のとおり、刑法でいわれております未必の故意と認識ある過失というなものにつきましては、学問上いろいろな説明がなされておりますけれども、理論的にはまさに御指摘のとおり故意はあくまで故意でありまするし、過失はあくまで過失でありまして、故意と過失とは刑法の理論として明確に区別ができるものでありまするし、また区別をしなければならないものであることは、まさにお説のとおりだと思います。問題は、具体的な事件が発生した場合、その事件が故意に基づく事件であるか、あるいは過失による事件であるかというふうなことは、その故意を証明する証拠、それから過失を証明する証拠というふうなものの証拠関係、ないしはこの故意か過失かということは、しょせんは具体的な事件の処理においては事実関係の問題になるのじゃなかろうか、こう思うわけでございまして、特にこの未必の故意というものは、非常に微妙な内容を持った行為であること御承知のとおりだ、こう思うわけでございますし、具体的事件の処理にあたりましては、未必の故意が認められるかどうか、あるいは単なる過失の程度にとどまるものかどうかということの認定は、非常にデリケートであるわけでございます。その辺のところを一応勘案いたしまして、理論的には故意と過失は明確に区別すべきものでありますけれども、具体的なケースにこれを当てはめてみた場合におきましては、ケース、ケースで、まさにこの未必の故意が常識的には認められてしかるべきものではなかろうか、おそらく故意に基づいた事件だ、こう認定しても常識的に差しつかえないと思われるような事件に、私ども事件を扱っておりまして、再三ならず出会うわけでありまして、そういうふうなところを一応とらえまして、未必の故意と紙一重の事案が起きておるというふうなことを説明しようとして、申し上げておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/130
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131・中谷鉄也
○中谷委員 大臣がおいでになりましたので、刑事局長に対する質問は、いまの質問だけ続けさせていただきますが、そうすると、未必の故意と紙一重というふうな悪質犯、業務上過失の事案がふえてきた。これは私、決してあげ足をとってものを言うわけじゃないのですよ。そうすると、未必の故意と紙一重というふうなことであれば、たとえば先ほど、あとで資料をいただくことになりますけれども、昭和三十九年、四十年、四十一年の、上限にまできてしまったところの量刑を受けたような事案、悪質な事案といわれているその事案があるとすれば、それと同じ数だけの未必の故意の事案というふうなものがあってしかるべきじゃないか、紙一重なんだから。要するに、紙というのは厚さがありませんから、こちらへ来れば業務上過失、ずっと離れたところに未必の故意の事案があるというのではない。紙一重ということになれば、ちょうど同じだけの数になってこなければおかしいじゃないかということになってくると思う。なぜ、そのようなことを申し上げるかというと、先ほど刑法という基本法を改正することについて、政府委員としても非常な勇気が要った。非常な決意を持ってとにかく改正をせられた。そういうふうにおっしゃった。そのような勇気と決意がある。それは私、だから一応了承します。それなら未必の故意について、一体あまり起訴されたということを聞かない。そのような立証面においての勇気と決意をなぜお持ちにならないのか。安易に流れる、そうして無罪の出ることをおそれるというふうなお気持ちがあって、本来未必の故意なら未必の故意で起訴したらいい。それを起訴せずに、それは立証技術上むずかしいんだということで、今日まであまり未必の故意で起訴なさらないということは、いわゆる刑法の改正をもって、そして上限を懲役五年というところまで上げてしまう。そして未必の故意で本来まかなうべきもの、それが社会的正義に合致すべきものを起訴せずに、安易な立証の中において、その問題を処理していこうということではないかというふうに指摘せられてもやむを得ないのじゃないか、こう思う。したがいまして、昭和三十九年、四十年、四十一年の、未必の故意で起訴された事案というものが、どの程度あるか。無罪になった例でもけっこうです。訴因の変更された例でもけっこうです。そういうものがあるなら、その件数をお示しいただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/131
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132・川井英良
○川井政府委員 未必の故意と紙一重という提案理由の説明は、要するに故意が認められないということであります。しかしながら、情状の面においては、まさに未必の故意があった事案、ほんとうに紙一重というか、情状の面においては変わりのないような悪質な事案が出てきた。これをどう始末していくかということにおいて、情状の面で懲役刑という刑罰を考えるということが妥当だ、こういう見解であるわけであります。
なお、未必の故意というのは御承知のとおり学問上は大いに利用され、また議論のあるところでありますけれども、私ども実務家の立場として、たやすく未必の故意を認めて、もろもろの事件をはでに起訴するというようなことは、従来あまりやっておりません。これはまた、あまりやるべき事柄ではないと思います。非常にデリケートな認定になるわけでございます。ですから、およそ刑罰法規の事件について、書物に説かれているような未必の故意というものを、縦横に使って事件を処理するということになるというと、これは相当な影響が出てくるのではなかろうか、こう思うわけでありまして、決して勇気がないとか、腹がないとかいうことではありませんで、やはり未必の故意の認定というものは、私は運用の面では慎重でなければならない、こう思います。しかし、御指摘の三十九年から三カ年間にわたる、この種の事件についての未必の故意を認めて起訴した事案は、調べがついておりますので、後刻また表にして差し上げたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/132
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133・中谷鉄也
○中谷委員 表をいただいてから論議すべきことだと思いますし、大臣がおいでになっているので、局長さんに対する質問は、この未必の故意についてはこの程度にしておきたいと思いますけれども、私、やはり納得しません。というのは、未必の故意で起訴するということは、はでなことなんだ、こうおっしゃる。そういうおことばがあったので少し申し上げるのですが、それなら法的安定性を最もたっとぶというお立場なんですね。刑法の業務上過失の規定を、基本的にこのように変えてしまう。何か別の会議録を拝見しますと、とにかく刑の上限が七〇%上がるのだということを、だれかが質問しておられました。禁錮三年だから七〇%上がる。三年と五年を七〇%という表現は適切でないと思いますけれども、そういうふうな受け取り方をする方もあるのです。それほどはでなことをされる。私ははでだと思う。それを個々具体的な事案について、未必の故意と認定されたら、なぜ未必の故意として起訴されないのか。やはりそこには、刑法を改正することによって、そこにとにかくそのことを引きずり込んでいこうという一つの考え方がある。これはやはり上限論だけではなしに、全体として量刑の引き上げ論につながってくるという、不安と危惧というものをぬぐい去ることはできないと思うのです。
そこで、重ねてお尋ねをいたしますけれども、未必の故意で起訴したという事案について、具体的な事例はいただきますけれども、きわめて少ないのだというふうにお伺いしてよろしいかどうか、いかがでございましょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/133
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134・川井英良
○川井政府委員 少ないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/134
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135・中谷鉄也
○中谷委員 そこで、お尋ねいたしますが、未必の故意でということを私申し上げましたけれども、これは傷害致死でということでございますね。——刑事局長さん、そこで一体量刑についてはこういうことに——具体的事例をいただいてから、詳細論議をいたしますけれども、この点について一応決着をきょうつけておきたいので申していただきたいと思いますが、量刑については大体どの辺までいっておりますか。傷害致死として起訴されたもので、有罪となったものですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/135
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136・川井英良
○川井政府委員 正確な数字はございませんけれども、傷害致死でありませんで、殺人未遂で起訴した事件もあるはずでございます。相当な刑をやっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/136
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137・中谷鉄也
○中谷委員 相当な刑でなければ困るのですよ。不相当な刑であれば、検察官の公益の代表者としての立場も困るでしょうし裁判所もたいへんなことなのです。その傷害致死は、結局どの程度の量刑があるのか。要するに今度上限論の中で、法定刑の長期のところを上げるということの関係においてお尋ねをするわけなんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/137
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138・川井英良
○川井政府委員 たいへんまずいことですが、いま資料を持ってきていないそうですので、帰ってすぐまた資料を整備して差し上げたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/138
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139・中谷鉄也
○中谷委員 刑法の改正については、私なりにこれを勉強したわけなんです。これはまさに審議をさせていただくに、さらにいろいろな資料をいただいて質問をいたしたいという心がまえで、きょうは最初の質問に立ったわけなんですけれども、非常にごめんどうですが、次のような資料をひとつお願いしたいと思います。と申しますのは一つの論点は、二百十一条は、自動車に伴うところの交通事故の激増に対処する、それが提案趣旨説明の一つの柱になっていたと思うのです。ところが、二百十一条というものが、法そのもののたてまえは自動車運転者だけを取り締まる法律でないことははっきりしておる。そこで、いただきました資料、すなわち昭和四十一年二月「刑法第二百十一条関係統計資料」等を拝見をいたしまして、お教えをいただきたいと思いますけれども、第九表以下の「業務上過失致死傷事件の処理人員累年比較」の中の業務上過失致死傷、いただいているこの中でいわゆる自動車による業務上過失致死傷以外の業務上過失というものをここで類別をしていただきたいと思うのです。この点はすぐしていただけるかどうか、していただいた上で資料をいただきたいと思いますが、いかがでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/139
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140・石原一彦
○石原説明員 ただいまの件でございますが、お手元に配付いたしました資料は二百十一条関係全部でございますので、自動車もそれ以外も全部入っているわけでございます。この点は私ども特に調査をいたしまして、その上で調べることになりますので、少し時間をいただきたいと思いますが、概略申し上げますと、やはり九九%くらいまで大体自動車の運転が多いわけでございます。それ以外が電車あるいは土木工事、炭鉱、プロパンガスの爆発、船舶その他ということになっておるかと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/140
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141・中谷鉄也
○中谷委員 要するにいただける資料というのは、第九表ないし第十二表に見合うところのこれらの表について、自動車に基づくところの業務上過失致死傷、それ以外のものを仕分けていただく、こういう趣旨にお伺いいたしたいと思いますがよろしうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/141
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142・石原一彦
○石原説明員 午前中の御質問にもございましたが、裁判結果につきましては裁判所のほうでも量刑別及びその業態別といいますか、被告人の職業別等の統計をとっていないようでございます。しかしながら、別途とってある統計があるかもしれませんので、裁判所にも照会いたしましてできるだけ御要望に沿う資料は集めたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/142
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143・中谷鉄也
○中谷委員 特にそのようなごめんどうな、端的に申しましてごめんどうな資料をお願いするのは、次のような理由です。資料要求が適当であるという点で私申し上げておきますけれども、要するに上を上げることはあっても下は上がらないんだというのが一つの論点である。説明の柱になっている。ところが少なくとも昭和二十五年ころから昭和四十二年ごろまでの実務的な感覚をもっていたしますると、下も上がってきている。これは私はいなめない事実だとして感覚的にそう思う。そういうような統計を仕上げていただく中で、私はそのことを論証できると思います。おそらくこの法が改正されたということになれば、上だけでなしに、全体としての科刑が大幅に上がってくるだろうということをからだで感ずる。しかし、それはからだで感じただけでは水かけ論になりますので、そのような自動車事故、そうして一般の業務上過失致死傷についての資料を仕分けした中で、その点を論証いたしたい、こういうふうに考えるのです。ごめんどうですが、その資料をいただきたいと思います。もう一度確認をさせていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/143
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144・石原一彦
○石原説明員 御趣旨よくわかりました。できるだけ御要望に沿うようなことで検討いたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/144
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145・中谷鉄也
○中谷委員 そこで次にいただきたい資料がございます。道路無防備率であるとか道路の整備状況であるとか、いろんなことについてその論議がある。それからすでに警察庁のほうにおいては死亡者一人当たりに対する自動車台数の比較であるとか、いろいろそういうふうな資料が出てきているわけなんです。そこで要するに交通事故の原因は一体何か。どの点を押えたら交通事故が防止できるのか。そうしてそれは刑法の改正を待たずして防止できるんではないかという点に問題の基本をしぼって、私は刑法改正という法案を審議したいと思う。
そこで先ほどお願いいたしました各外国立法例というのが出ております。その主要な外国におけるところの重大事故と思われるような事故例というのはどの程度あるんだろう。逆に申しますると、フランス刑法においては上限については今度の改正案より異常に下回ったところの法定刑であることを立法例によって知りました。そういうフランス刑法において、フランスにおいて上限にまで来てしまったようなところの判決を受けたという例がはたしてあるのかないのか、こういうような点についてもひとつ早急に、またそれほど労力を要せずにわかるということであれば、その資料を御提出していただきたいと思います。何か法制審議会に対しては並々ならぬ資料を提出された、膨大なる資料を出されたということで、資料の中にそういうものがございましたらぜひともいただきたい、こういうふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/145
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146・川井英良
○川井政府委員 刑法の全面改正も長年にわたってやっておりまして、諸外国の立法例も相当資料が集まっております。ただ問題はその法律だけでは、具体的な実例なり法の適用の運用なりがどうなっているかということは、これは外国の事情というのは行ってみましても必ずしもよくわからないというのがいままでの実情でございますけれども、私どもたいへんいいといいますか的確な着眼だと考えますので、でき得る限り早急に、全部はとても無理だと思いますけれども、ドイツとかいまあげられましたフランスとかその他の国について、でき得る限り具体的な資料というふうなものを検討してみたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/146
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147・中谷鉄也
○中谷委員 その点については、もう私、重ねて要望することはないわけですけれども、要する上限で頭打ちになってしまった。そうするとそれがいわゆる正義感の上から耐えられないんだ、そういうことは不適当だと思う、こうおっしゃるわけですから、かりにフランスにしろ、イギリスにしろ、アメリカにしろ、そのような上限のところの頭打ちになったところの量刑をしておる事例がたくさんある。とにかくどんな国であっても法定刑を上回るところの判決ができないことははっきりしているわけですから、そのようなものがたくさんあるけれども、刑法改正の動きがないということになれば、わが国だけ飛び越えて刑法改正によってということに相なるんだろうと思うのです。だから私は、外国の立法例をお引きになった以上は、その点は実際面の資料がなければ論議の土俵の上にのぼってこないと思う。したがって、そういう資料をいただきたい。できれば外国の量刑の9ないし12のような資料がいただければそれにこしたことはない。非常に論議がしやすくなるということを、ひとつこの機会に要望いたしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/147
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148・川井英良
○川井政府委員 私も二、三回にわたって欧米を回って歩きまして、いろいろな調査をした経験がございますけれども、日本ほど統計なり数字なりを完備し、またこれに対する意欲を燃やしている国は非常に少ないんではないか、こう思うわけでございまして、いわゆる先進国と思われるようなところを回りまして、いろいろな統計なり資料なりというふうなものを要求いたしましてもたいていは古い資料で、最近の新しい資料というのが完備しているのは、それは例外はございますけれども、一般的に言って非常に少ないような気がしているわけでございますので、御趣旨を体して、でき得る限りの新しいもので、しかも御趣旨のような検討の資料になるような方向でもって探してみたいというふうな気持ちはございますけれども、全面的にすべてのものについて完全にそろうかどうかということについては、ちょっと自信がないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/148
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149・中谷鉄也
○中谷委員 そこで、大臣にお尋ねをいたしたいと思います。私がお尋ねをいたしたいことは次のような点でございます。要するに交通事故を防止しなければならない。これはもう国民の悲願だと思うのです。そこで、午前中の質疑の中でも出てまいりましたけれども、政府は交通安全国民会議というものの中で、交通事故防止対策に対する総合的な施策を行なっておられる。これは私、総理府の長官とか、あるいは総理にもお聞きをしたいと思いますけれども、そういうことが強く午前中の答弁の中に出てまいりました。ところが私がこの機会に指摘をいたしたいのは「陸上における交通事故、その現状と対策」総理府編のいわゆる年次報告、あるいはまた交通事故防止対策と言われておるところの、交通安全国民会議の主宰しているところの防止対策というものが、総合施策として出てきているわけなんです。ただ私は次のようなことをお尋ねし次のようなことについての所信をお伺いすることははたして無理なのかどうか。しかし私は、そういうことをお答えいただかなければ非常に困ったことだと思うのです。と申しますのは、死亡者総数が昭和三十九年におきまして、もうここで私が指摘するのは、むしろ胸が痛むような非常な死亡者数になっておる。あるいは業務上過失傷害によって負傷された人の数というものも、非常な数に相なっておる。さらにまた、これは後遺症が残るという問題ではありませんけれども、道交法の違反の方の数というものも非常にふえてきておる。こういうふうな中で、一体政策目標として、このような交通事故防止施策を行なうのだということが列挙されて、その中で交通秩序確立ということで、刑法の改正をするのだということがうたわれておる。そのとおりなんですが、私は、やはりこの刑法改正是か非か、はたして刑法改正というものが交通事故防止対策に有効なのかどうかということを論議するにあたっては、閣僚であるところの法務大臣からお答えいただきたいのは、少なくとも、そのような国民会議が提唱して、現に施策しておるところの交通防止対策を行なうことによって、一体何年度には死亡者の数はこれだけになるのだ、現在死亡者の数はこれだけあるけれども、どれだけまで減っていくのだというふうな、具体的なマスタープランというか、あるいは計画というものを持っておるのだということがやはり出てこなければいけないと思うのです。いろいろな施策をする、その理想は、一人も死ななくなることが目標であるというようなことを言ってしまえば、これは現実の問題じゃないと思うのです。したがって、大臣からお答えをいただきたいのは、いろんな施策をする、そのことによって、昭和四十二年度は昭和四十一年度よりも負傷者数において、一体何%減ずるのだ、あるいは死亡者において何%減ずるのだ、昭和四十五年度においてはかくありなん、経済社会発展計画の最終年度にはこういうふうになるのだということの御答弁がなければ、ただこのような施策をするのだというだけでは、はたして全体としての施策の中において、特に刑法改正というものはどの程度有効であろうかということについての疑問を生じます。そのようなことについて、どの対策を見ましても、どの資料を見ましても、そのようなことについての記載がない。これは、そのようなことについては見通し不可能なんだというふうなことであれば、ただもう目の前の交通事故防止ということに追われている、長期計画はないじゃないかということにも相なるだろうと思うのです。この点について、はなはだ数量的であらわしにくいというふうにお答えいただいてしまえばそれまでだと思いますけれども、この点についてのお答えをいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/149
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150・田中伊三次
○田中国務大臣 中谷さんね、それは御質問が御無理ですね。そういうぐあいにパーセンテージをもって減少していったり、悪質な事故の現象がパーセンテージで示され得る筋のものではございません。それで、逃げるわけではないのでありますが、局長からも御説明申し上げたことと存じますが、未必の故意ということばを使って問題があったようでございますが、自動車という凶器を振りかぶって人を殺傷したのに近いような、故意の殺人、故意の傷害というものに近いような悪質なものが最近たくさんあらわれてきております。こういうことでは、禁錮——懲役のない単なる心細い禁錮、三年以下という禁固、罰金をもってしてはとうていまかないきれない。こういうことからこのたびの改正をお願い申し上げているのであります。このたびの改正をしたからこの事故が撃滅できるものでもない。しかし、刑罰を厳重にして、刑罰の量の値上げをしたからといって、交通違反が根絶されるのだということは私は考えていないのでありますが、大いに効果があるだろう。厳罰主義をとることによって大いに効果があるだろう。いままでの禁錮三年のものを、禁錮五年に引き上げると同時に、悪質のものについては懲役もこれを入れるのだという、懲役刑も五年以下ということにやっていきますことによって大いに効果があるだろう。これは、大いに効果があることは間違いはない。厳罰にすることが、このまま捨て置くよりは大いに効果があるということから、本件のお願いをしておるのでございます。
たいへん残念でありますけれども、御質問に答えまして、何年になれば何十何%が何十何%に下がるであろうという計算はいたしておりません。それはすることが無理である、こういうところからできないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/150
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151・中谷鉄也
○中谷委員 刑法改正という、刑の上限を上げることが、交通事故防止に対してどの程度有効にそれがあとで働くかということについては、残念ながら私は大臣と見解を異にするわけなんです。刑の威嚇力というようなことでこれは説明はつかないし、防止に対して有効ではなかろうという前提に立っているわけなんですが、ただしかし、全体としての交通事故の防止総合対策の中に、交通秩序の確立ということで、刑法改正の問題が特記されている。
そこでお尋ねをいたします。局長にお尋ねをいたします。局長自身は、法務省というお立場ではあるけれども、交通事故防止ということについて、交通秩序確立の観点から問題を提起し、他官庁の責任者ともいろいろの話をしてきたのだということが午前中の答弁の中にありました。
そうすると、まずお尋ねをいたしまするけれども、たとえば第十表の「業務上過失致死傷罪及び重過失致死傷罪の受理処理状況」というような表を拝見をする。あるいはまた「自動車事故死亡者等の推移」という、非常に痛ましい表も拝見をする。その中で、全体としての総合施策の一環としての刑法改正施策であるならば、全体としての総合施策が国民会議なるものの施策の推進の中において、どの程度死亡者総数は減少してくるのか、あるいは横ばいなのか、それとも単にそれは——さらにふえていくのだけれども、このような施策をしなければ激増するであろうということを、表の上ではあらわれていないけれども、それを抑止することに相なるのだという意味の少なくとも局長自身のいろいろな説明がなければならない。そういうことが少なくとも局長の御答弁の中から数字として説明されない限りは、まして、全体としての総合施策が昭和何年にはこのような効果を発するということの御答弁がない限りは——これは総理大臣にお聞きし、あるいは総理府の長官か何か、総合的にそういう問題を主宰している方にお聞きしなければいけないことだと思いますが、そういうことがなければ、その一環であり、一つの小さな柱でしかないところの刑法改正というものには、法務省のお立場からしても、交通事故防止に有効だということの論証はできないと私は思うのです。したがいまして、局長のほうも、大臣と同じように、数字では説明できません、交通事故防止という、その痛ましい死亡者の数が、たとえば経済社会発展計画の終了年度においては、何%減少するという目標を持っておりますというようなことが御答弁いただけないものかどうか。いただけないという前提で、刑法改正についての論議をわれわれがしているということに相なるのか、この点をお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/151
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152・川井英良
○川井政府委員 結論は、大臣がおっしゃったとおりに、私も同じ考え方でございますけれども、罰則というものは、普通の行政の施策とたいへん趣が違うものじゃないか、私はこう思うわけでございまして、第一義的には、本件について言えば、事故を起こしてしまった、そのあと始末の問題、これがこの罰則の持つ使命の第一だ、こう思うわけでございまして、第二には、刑法典という基本法典の中に、こういうふうな行為については、これだけの刑罰を持った行為として、その反社会性が法律上評価されますよということを一般国民に告知いたしまして、そして皆に注意をしていただく、こういういわゆる私どものいうところの、一般予防的な効果というのは第二の使命だろう、こう思うわけでございますので、第二の使命のほうからいきますと、特に過失犯でございますから、故意犯と違いまして、ある程度刑罰を上げるということは、私、こういう業務に従事する人たちについては相当大きな、心理的な、一般予防的な効果を発揮するものであることを疑わないわけであります。そうかといって、これができたからといって、それじゃ来年度にどの程度死亡者、負傷者が減るだろうかということについては、これはどうも算数的に割り出すことは無理であるし、またそういうことをするのはたいへんおかしいことじゃないか。しかしながら牢固としてこの措置をとることによって、その他の一般的な総合施策と相まって、今日の交通事情に対しては絶大な効果がある、こういうことを一応確信しているわけでございます。第一の使命でありますところの、過去の行為に対して、そのあと始末としてその責任を追及するということが第一の使命だと思いますけれども、そういう意味から申しますると、そのこと自体から、そうすることによって、また直ちに来年度、再来年度にどのくらい死傷数が減ってくるかということを算出することは、なおさら無理なことではなかろうか、こう思うわけでございまして、事柄の性質上、これは算数的にその効果を算出することは困難であるし、事柄の性質上、そうすることが、むしろ妥当ではない。しかし、絶対件数の事故の防止ないしはその激減のために、ほかの政策と相まって非常に効果があるものだ、こういう確信はゆるがないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/152
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153・中谷鉄也
○中谷委員 午前中の局長の非常にまじめな答弁の中に、法務省という狭いところからのぞいておるかもしれないけれども、という御答弁があったわけです。私、決してそういうふうな局長のお考え、そういうふうに思いませんけれども、私、そういうことをお尋ねしたのじゃないわけなんです。私がお尋ねした前提は、刑法の上限を上げたからといって、そういう威嚇力、一般的予防についての効果というものは、私はあまり信用いたしません。ただしかし、政府のお立場において、総合施策の一環としてそれが組み入れられている以上、総合施策というものを推進する以上、総合施策の効果がどのようにあらわれてくるかということが算数的に予測できないようなことでは、刑法の威嚇力というものについて算数的な説明を、なんということは、私はどだい無理だと思う。まず私は、そういうものはないと思っているのだし、そういうことは私お尋ねするはずもありません。総合的な施策としての交通事故防止対策というもの、それがどのような効果を発するのですかということをお尋ねしている。そして私は、総合施策の一環として、お答えがあった交通秩序の確立ということを打ち出しておられるわけですけれども、これは総合施策の一環としてのものではない。私はむしろこれは別個の観点から論議さるべき問題だ、交通事故防止という観点からは、刑法の改正というものは必ずしも有効ではないのだという、私の論議を展開していこうと思っている。だからまず、総合施策というものがどのような効果を発するのかということについて、やはり局長は総合施策の一環の一つの立案者として、総合施策はどのような効果を発するかということについては算数的にはわかりません、——これは決しておかしなことじゃないですよ、総合施策ですからね。刑法の改正がどのような効果を発するかというふうなことは、これはあるいはおかしなことだ、予測不可能なことかもしれない、とは私は思いませんけれども、しかし少なくとも、そういう答弁はあり得ると思うのです。しかし、総合施策が予測不可能だ、算数的には言えませんということは、私はおかしいと思う。この点いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/153
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154・川井英良
○川井政府委員 二つ問題があったように思いますけれども、刑罰を上げることによって、一般予防の効果があまり期待できないという御指摘ですけれども、これは見解の相違でございますけれども、私のほうはそうは思っておりません。
それから総合施策としてどれだけの効果があるかということについて、法務省の立場からもいろいろ考えているだろう、考えないのはおかしいぞという、こういう御指摘だと思います。まさにそのとおりだと思います。しかし、総合施策と申しましても、ほかの施策と違いまして、この種の施策というものは、私は実証的に実証する前に、算数的に何%減るとかなんとかいうふうなことは、いろいろな条件がからみ合ってきますので、これは非常に困難なことじゃないかと思います。しかしながら、この総合的な施策を実施することによって、いまの事態に対処していくということ、その効果は私期して待つべきものがあるのじゃないか、抽象的な言い方ですけれども、そういうふうなお答えしかできないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/154
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155・中谷鉄也
○中谷委員 交通事故防止という、どうしてもやらなければならないこと。それで一体どこに交通事故防止の力点を置くべきか、どこにその施策の重点を置くべきかということ、それがどこをポイントとして押えればどのような効果を発するのかということは、私は論証され、その点が説明されなければならないと思うのです。抽象的に、交通事故防止施策をしているのだということでは、これはお話にならないと思うのです。実際にお金も使っているわけですから。だから、見通しとしてこういう結果を生ずる、要するに交通事故の防止ということは、逆に言うと、死ぬ人を少なくするということでございましょう、けがをする人を少なくするということでございましょう。それ以外に交通事故の防止ということは私はあり得ないと思うのです。なくなる人の数をこの程度まで減らすのだ、それがためにこういう有効な施策があるのだ、これが施策なんだということが言えなければ、私ははなはだ交通総合施策というものがおかしなものになってくると思う。
警察庁の方にお尋ねいたしますけれども、警察庁も関係閣僚会議の中に、国家公安委員長あるいは自治大臣がお入りになっているのですけれども、警察庁として、そんなことはわかりません、要するに、逆に非常に失礼な言い方をすれば、死亡者がふえるか、死亡者が減るかわかりません。とにかく一生懸命交通事故防止対策をやっております。そうしてその一環として刑法の改正をお願いしているのだというふうなことで、私たちがこれに真剣に取り組んでおるというかっこうは私はあまりいいものではないと思うのです。ひとつ警察庁のお考えをお述べいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/155
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156・片岡誠
○片岡説明員 私ども交通事故の推移と申しますか、それを調査するのに、一つは御承知のように絶対数で見ます死者幾ら、負傷者幾ら、と同時に歴年的に、あるいは国際的に比較する場合に、一つの手法としていまインターナショナルに使っておりますのは、自動車一台当たりの死者、これは大体世界各国共通に使っております。それから本来自動車台数よりも正確にするとすれば、自動車の走行キロ数、これを間接的にあらわすものとしてガソリン・軽油の消費量を分母にとる、この二つのとり方をしております。
それで最近の傾向を見ますと、昭和三十二年を基準年度といたしますと、自動車一万台当たりの死者数が三十七・五名でございます。それが昭和四十一年度には十四・九人、半分以下に減っております。それからガソリン・軽油一万リットル当たりの死傷者数を見ましても、昭和三十二年度二百九十・九が現在の四十一年度において二百九十、これはちょうど三十二年と四十一年が大体同じ数でございます。その間に、昭和三十五年にはそのガソリン・軽油一万リットル当たりの死傷者数が四百一に上がってピークを示しております。したがいまして、午前中も申しましたように、昭和三十六年の道交法の大改正以後特に昭和三十七年の大きなマスコミのキャンペーン以後、またずっと下がってきておるということで、少なくとも昭和三十六年以降国の各般の施策が、交通事故防止のために相当地についてきたということが立証されるのではなかろうか。私どもの見通しとしましたら、目標としておりますのは、この予測をすること自身はなかなかこれはいろいろな要因があろうと思いますから、困難があろうとは存じます。しかしながら、大体現在までの平均伸び率を見ますと、死傷者の伸びが過去十年で一七・四%、年平均伸び率死者が七・五%、それからその間に自動車そのものがどれだけ伸びておるかというと、台数にして一八・七%も伸びております。私ども現在目標にしておりますのは、アメリカは自動車一万台当たりの死者数が大体五名であります。欧州は大体十名前後の国が多うございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/156
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157・中谷鉄也
○中谷委員 あなたのほうの資料の六ページに一・一人と書いてございますが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/157
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158・片岡誠
○片岡説明員 それは歩行者じゃございませんでしょうか。——全体で歩行者以外も入れまして、一万台当たり五名でございます。わが国は一万台当たり約十五名でございますから、このままの死者数で押えていって、車が三倍になったらアメリカ並みというようなことが予想されるんじゃないか。したがって、私どもとしては死者数を一人もふやさない、そして車が三倍になるのを待っておれば、アメリカ並みというめどがつくのではなかろうか、ただ負傷者につきましては、午前中も申しましたように、車の走行キロに大体比例しまして少しカーブはゆるうございますが、これはふえていくというのがいわば自然の勢いで、相当力を入れて押えてもその程度ふえていく可能性があるのではないか、よほどいろいろな面で総合的な対策を打たなければ、死者並みに負傷者を押えていくということは困難なことではないだろうか、そのような見通しを持っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/158
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159・中谷鉄也
○中谷委員 警察庁の御答弁は、一つの目標としてかなり理解できるものの御答弁があったと思うのです。
局長さんに重ねてお尋ねをいたしますが、総合施策について、要するに一万台当たりの死者ということで警察庁は御答弁になったわけですけれども、そういう御答弁でもけっこうですし、あるいは走行キロとの関係において御答弁いただいてもけっこうですし、あるいはまたその他の適切なあるものとの比較においてこれだけの目標を立てたいということでお答えいただいてもけっこうだけれども、法務省としては、独自にどういうことをお考えになっておられるか、しかもそれは、刑法改正がどういうふうな影響を及ぼすのだということについて、私さいぜんその点についてお尋ねをいたしておりますから、ひとつ法務省として、先ほどの御答弁どおりでございますか、そういうことは算数的に目標を立てることがそもそも不可能なんだということでございますか、重ねてお尋ねをしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/159
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160・川井英良
○川井政府委員 警察庁のいまのお見込みなり御答弁について、私別に異議を述べておるわけではございませんけれども、私どもの立場といたしましては、私どものほうの施策を総合施策の一環として実施することによって、ただいま警察庁からお述べになりましたような目的に大いに資するところがあろうと思っておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/160
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161・中谷鉄也
○中谷委員 もう一度お尋ねいたしますが、大いに資するところあるわけなんですけれども、要するに、法務省独自として、あるいはまた法務省から見られた総合施策の効果、こういうふうなビジョンを持っておるんだということについてのお見通しというものは——どうもしつこいことを何度も聞きますけれども、結局、あまりその点には、そういうお見込みはお持ちになってないんだ、また、そういうものを持つべきものでもないし、持ち得るものでもないんだというお立場なのかどうかを重ねてお尋ねいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/161
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162・田中伊三次
○田中国務大臣 法務省は、この法律を改正したときに、どういう効果があるかということについて、何の見通しもなしに、ただ刑罰を重くすればよいのかというふうに聞こえますと、たいへんその点は残念でございますから申し上げますが、先ほどから申し上げておりますように、交通対策の総合施策の一環としてこれをやれば大いに効果がある。その大いに効果があるということを具体的に言えば、一万台について五名という、世界一といわれるアメリカ程度にまで直ちにいくものかいかぬものか、数字的な根拠をここに示して説明することはでたらめなことを言うことになるわけで、そういうことは根拠をもって言うことはできない。しかし、総合施策としては大いに効果を発揮すること間違いない、こういう確信を持ってこの法案をお願いしておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/162
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163・中谷鉄也
○中谷委員 本日は、運輸省の方にも来ていただきました、それから警察庁の方にも来ていただきまして、自動車運転免許の試験制度、それから、いわゆるトラック事業の免許基準、あるいはまた車両の保安、道交法の一般的な問題等、特に刑法改正と関係あると思われる反則金の問題、あるいは教習所の問題、精神病者の問題などについてお尋ねすることを試みんとして参ったわけであります。なお、同時に具体的な事例——私は愛知県の事例が適当だと思います。いたいけな子供さんがなくなった事例、その事例を私はたたき台にして、しかも直接的な原因以上の社会的な原因というものがある。その社会的な原因というものを押えることによって、刑法の改正を待たずに交通事故は押えることができるのではないかということを論議していきたいという希望を持っているわけですけれども、どうも本日は一番最初の入り口のところの論議が進展しませんでしたが、何か沖本君のほうから関連質問があるようでございまして、本日はこの程度で私の質問は一応終わっておきたい、このように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/163
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164・大坪保雄
○大坪委員長 沖本泰幸君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/164
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165・沖本泰幸
○沖本委員 たいへん押し詰まった時間で申しわけありませんが、飛び飛びになりますけれども二、三点について大臣並びに関係の方にお伺いしたいと思います。
まず、大臣はせんだって反則金のことについてはすべて勉強し尽くして知らぬところはない、こういうお答えであったと思うわけです。その中で、通告制度に関してですけれども、この通告制度の中で、酒税法違反の被告事件で判決文があるわけなんです。これは二十八年に棄却になった事件ですが、第二審は東京高裁であります。
その要旨の中に「当該犯則について訴を受けることなからしめることとする手続であって、かような手続が認められた所以のものは、間接国税の犯則のごとき財政犯の犯則者に対しては、先ず財産的負担を通告し、これを任意に履行したならば敢えて刑罰をもってこれに臨まないこととすることが、間接国税の納税義務を履行させその徴収を確保するという財務行政上の目的を達成する上から見て、適当であるという理由に基いているのである。しかし、通告処分は、これを行うことが財務行政上、刑事政策上その他の理由によって適当でないと認められる場合には、これによらないこともあるのであって、取締法一三条、一四条は、まさにその場合に関する規定に外ならない。」云々があるのですが、飛ばしまして、「通告処分は犯則者に対し財産上の負担を通告し、これが履行を期待するものであるから、犯則者がその通告の内容たる財産上の負担を履行しうる能力を持っていることが前提であって、(所論のような現に財産のない者でも借金をしてでも通告の旨を履行しうると認められる者であれば、それは借金をなし得る信用という能力があるのであるから、右規定の適用については、履行するの資力ある者に該当すると解しうる。)これを欠いていると認められる場合にも、なお、これに対し通告処分を行うことは、無意味であり、右取締法一四条二項前段の規定は、そのような無意味なことは、これを行わないとする趣旨の下に定められた規定と解すべく、所論のように財産の有無又は貧富の程度によって、国民を差別して取扱う趣旨の規定と解すべきではない。それ故取締法一四条は憲法一四条に違反するものであるということはできない。」こういうふうな判例があるわけなんです。これに対しまして、大臣はどういう御見解でしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/165
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166・田中伊三次
○田中国務大臣 いまお読み聞けの判決の内容だけでは、ちょっとにわかに私はものが言いにくいので、一応局長からお答えをいたさせます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/166
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167・川井英良
○川井政府委員 私は、相当な判決だと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/167
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168・沖本泰幸
○沖本委員 そうしますと、この通告制度は、貧富の差によって定めてはならないということになりますから、反則金制度において通告を行なって、支払い能力のない者が結局刑罰に処せられるという段階に最終的にはならざるを得ないわけです。そうすると、これに反することになるわけで、貧富の差をつけてはならないという原則に反しますけれども、これはどういうふうにお考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/168
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169・川井英良
○川井政府委員 国税犯則取締法の通告処分と、今度の道交法の通告制度とは、やや趣旨が異なるものがあると思います。片方は税金関係の金銭的な、経済的な問題についての通告処分という制度でありますし、今回のこの道交法の改正によるところの通告制度は、交通秩序という、どちらかというと秩序罰に該当する、そういう社会の秩序に反する行為を反則金という財政的な負担といいますか、いわゆる罰金にかわる、そういうふうな金銭による制裁的な意味を持った一つの制裁金的な制度を設ける、こういうような趣旨で、考え方におきましては国税犯則取締法の精神あるいはその類型をモデルにしたものではありますけれども、この通告制度の内容、あるいはこの目的、したがいまして、反則金の性格ないしは通告制度の法律上の性格は、ややこの国犯法の考え方と違うものではないか、こういうふうに私は理解しているものでございまして、たとえば御指摘の罰金刑というものを考えてみた場合には、この罰金刑は、貧富のいかんにかかわらず、すべて刑罰として何人にも公平に課されるものであって、その公平に課されることに対して、しかもその罰金刑の執行を、強制力をもって執行することができるというところに、刑罰としての本質的な効果が認められているわけでございます。そこで、今度のこの社会の交通秩序を維持するというふうな一つの秩序維持の大きな目的のために設けられて、しかも罰金にかわる、あるいはその罰金の前的な行為としての、広い意味の制裁金としての性格を持った反則金というふうなものを考えてみました場合に、罰金がすでにそういうふうな性格を持ったものであるといたしますならば、それにかわるべき性格を持った反則金というふうなものは、やはり罰金と同じような趣旨またはそういうふうな性格において理解されなければならないものではなかろうか、こういうふうに考えておりますので、お示しの判例に示された国税犯則取締法の解釈といたしましては、私の判例の見解は相当であろうと思います。ただ、その判例の考え方を、そのままそっくり今回の道交法の改正の反則金、ないしは通告制度の性格に当てはめて考えることが適当かどうかということになりますと、ややニュアンスの相違があるのではなかろうか、こう思っておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/169
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170・沖本泰幸
○沖本委員 この問題は、またあとでいろいろお伺いすることにいたしますけれども、そういう問題がありましたので、いわゆるやや、ということでなくて、この際国民にはっきりしていただきたい、そういうふうに考えておるわけです。
時間がありませんのでほかへ移りますけれども、せんだっての質問で交通課長のほうのお答えなんですが、運転免許を得る場合に精神鑑定の診断書が要るという点で、いいかげんだということはよくわかる。わかるけれども、やはりその中の何分の一でもはっきりすればということになるのですけれども、どうしても納得できないものですから、この点についてお伺いするわけです。たとえて言うなら、お医者さんが診断書を書くのに、この者は精神異常者であります、と書いたものを本人に渡せますかという問題なんです。その辺が全然お考えがないじゃないか。本人が免許証を受けるのに提出する添付書類の中に、精神鑑定の診断書が入るわけです。ですから、この者は精神異常ありと認めるから不適格者であるということが、よしんばあったにしても、書けますかということになる。事実上、そういうこと、できるわけはないと思うのです。そういうふうに本人に精神鑑定なんかする場合であれば、むしろ医師のほうから封筒に入れて、厳封して持たすとか、あるいは別にそのものを別送していくとかという方法があってこそ、初めて精神鑑定の問題もわかると思うわけであります。
それからその次の問題ですけれども、これは暴力団員が保釈を延期する場合に、これは神戸の拘置所の中で医務課長さんがにせの診断書をつくって汚職したという事件なんですけれども、意味合いは違いますけれども、一方では、いわゆるお医者さんが自分の意思に反する診断書を書いて、それを何かの証明書にした場合、これは刑法に触れるのでしょうか、触れないのでしょうか、その点、刑事局長さん。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/170
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171・川井英良
○川井政府委員 想定の事例につきましては、刑法に触れる場合があると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/171
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172・沖本泰幸
○沖本委員 この刑法に触れるというものを、一般の国民である私たちが発見しまして警察のほうに、この人が取得したところの診断書は違法性を認められる、適格な医師の診断に基づいていないという点について、われわれが警察のほうへ告訴した場合には、警察並びに検察庁のほうはそれを取り上げるのでしょうか、どちらでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/172
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173・片岡誠
○片岡説明員 いまの前の御質問の中で、医師が書けないじゃないか、精神病者だということを書いて本人に渡せないじゃないかという御質問でございますが、私は良心的な医者であれば、問診の結果精神病でないと判断すれば、ないという診断書というものを出しますし、問診の結果、どうもおかしいということであれば、専門医のほうに行くことを勧めるなり、あるいはみずから権威の精神鑑定医のほうに通報して、その精神病者の保護をはかるのが本来の医師の職務ではないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/173
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174・川井英良
○川井政府委員 あとのほうの問題で、医者が公務所に提出すべき診断書について、虚偽の記載をした場合には、刑法の中にその処罰の規定がありますので、公務所に提出すべき診断書であるということを認識した上で、しかも内容虚偽のものを作成して提出したということになると、これは明らかに刑法に違反する犯罪になるわけでありますので、そのような事案について申告なり告訴なりがありますれば、当然これを取り上げて処理すべきであることはあたりまえのことだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/174
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175・沖本泰幸
○沖本委員 そうすると、実際に裸になるなり、いろいろな観点から直接医師の診察を受けずに、医師の申請に基づいて、ただ当人は精神的な異常がない、こういうふうな診断書を書きまして、それが後に、たとえば免許証を例にとりますけれども、免許証を取得した上で何らかの事故があって、この者はもとから精神異常者であったということがわかってきて、それでいざこういう者に免許証を渡したという点についての責任を追及された場合に、最終責任はどこにくるのでしょう、両方からお答え願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/175
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176・片岡誠
○片岡説明員 先ほども申しましたように、五百円なり六百円の問診の診断料で診断した範囲においての良心的な判定であれば、その医師に責任は私はないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/176
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177・川井英良
○川井政府委員 先ほど申し上げました刑法の罰則は、医師が公務所に提出する診断書であるということを認識した上で、しかもその作成の当時、これは内容が虚偽である。典型的な場合を申し上げますと、明らかに精神異常であるということをそのとき認めたのにもかかわらず、それをあえて秘して、異常はない、こういうふうな内容のものを作成して出した、こういう事実関係でありますれば、これは医師について先ほど申し上げた刑法の違反が成立するのではないかと思いますけれども、いまお話のように、診断を求めに来た。そこで簡単な問診をした結果、これは異常がない、こういうふうに医師の立場から技術的に認定をいたしまして、そしてそういうふうな趣旨の診断書を出した、こういうような事実関係でありますというと、それがあとになりましてから、実はその当時すでに精神病の状況があったのだということになりましても、先ほど申し上げました刑法上の違反としてその犯罪が成立するということは、そういう事実関係ならばやや困難になるのじゃなかろうか。ただ問題は、医師法なんかにまたこまかい規定がございますので、そういうふうなものについては、精神異常の診断についてはこれこれこういうふうな方法をとることが適当であるのに、その医師として課せられた通常の診察の方法をとらないで、たやすく相手方の申し立てだけを信用してやったのだということになりますと、これは刑法の違反にはならないといたしましても、特別法その他何らかの責任を負うような問題になってくるのじゃなかろうかと思いますので、問題は診察をして、診断書をつくったときの事実関係で結論が変わってくるのじゃないか、こういうふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/177
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178・沖本泰幸
○沖本委員 先日の委員会でも、いわゆる神戸大学の先生方は、実際に一カ月ないし二カ月通院していただいて十分な診察をしないと、診断書を書く責任が持てない、こういうことをはっきり医師会のほうでは言っておられるわけです。それを一方では、どんどん本人の申し出によって証明書が発行されているわけです。そうすると、警察庁にしましても、検察庁にしても、事、法律に関しては、違法性であるか適法性であるかということを論議されるところでもありますし、一つ間違えばそのお医者さんは身分を失ってしまうし、刑罰に問われる法律内容を含んでいるわけです。そういう観点に立って、大臣こういうふうな制度があるわけですけれども、これは違法性が多分にあるとお思いでしょうか、これは適法だとお考えでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/178
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179・田中伊三次
○田中国務大臣 仰せのような場合に、判断をいたしますにはたいへんむずかしい問題で、いまおっしゃるような事柄だけを材料といたしまして、即刻ここで判断をするということがなかなか容易なことでないと思います。なかなかむずかしいのじゃないかと思います。はっきりした結論をここで判断して申し上げるということはなかなか困難かと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/179
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180・沖本泰幸
○沖本委員 もう少しでやめますけれども、いまの問題ですが、実際に内容的には何らの価値のないものなんです。この前の委員会でも御答弁がありましたけれども、そういう点の間違いがあるだろうという点を予測して、免許証を交付するときにも担当者がよく本人を確かめておる、こういう御答弁があったわけです。そうしますと、その段階で、極端に言えばすでにそういう診断書はあてにならないというような扱いになるんじゃないか、こうも考えられるわけです。そうすると、率直に、大臣がよくおっしゃる素朴な筋論からいきますと、五百円だけよけい出させている何らかの裏づけのために、あるいは法律上の取り扱いという点だけを形式的にくぐらすために、精神鑑定の診断書をつけさせておる、そういうことになってきますと、警察庁自体がお医者さんに法律違反を犯さすおそれのあることをやらしておる。また、検察庁のほうも違法性になってくるんじゃないかと思われるような内容についても、何らかの形で何とか大目に見て通してしまっている、こういうふうに反対側から考えると考えられるわけです。そうしますと、形式的にこういう無意味なものであるのであれば、ないほうがいいんじゃないかと思うのです。よけいなことをして、お医者さんのところに行って、はっきりもしない診断書をもらってきてつけて、ついておるということできりきり舞いさせておるということ自体が私は形式だ、こう考えるわけです。どうしてもその点が納得できないのです。むしろ、はずしていくべきではないか、こう考えるわけですけれども、どうしてもそれをつけなければならない根拠はどこにあるのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/180
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181・片岡誠
○片岡説明員 せんだっての委員会でもお話しましたように、従来は診断書を添付させていなかった。したがいまして、専門家でもない、医師でもない試験場の係官が、わずかに精神病者ではないであろうかというチェックをしておったにすぎなかった。しかしながら、精神病者の運転者による事故も相当多くなり、社会的な問題にもなったので、従来から精神病が欠格要件になっておる法律が十数ございます。そのいずれの法律も、医師の診断書を添付さすという制度をとっております。医師法自体がそうでございます。それと法で同じやり方をしておるということであります。ただ、仰せのように、従来十九ぐらいの法律がございますけれども、たまたま適用される対象の数が比較的少なかったということで、さほど問題にはなっていなかったと思います。今度の場合確かに人数が多いということによって問題が生じておるということは、私もよく存じております。しかし、いまの医学のレベルで、そして少しでも精神病者に免許証を与えない、チェックするという仕組みをとるとすれば、この方法以外にはないんではないかということで、私ども踏み切ったわけでございます。ただ、お説のようなお話もございますし、それから神戸大学その他各地でそういう御意見を持っておられる先生方もおられます。先般もそういう神経科の専門医の方々と、定例的に私ども役所で会合を持って、一番いい方法、さらにいい方法はないものだろうかということを協議し始めておるという段階でございますので、さらにいい方法が開発されれば、その方法に切りかえていきたい、そのように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/181
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182・沖本泰幸
○沖本委員 逆の面から考えますと、警察庁のほうは免許証下付にあたって、何かの事故が起きたときに、その責任を自分のほうに持ってこられるのをゆるめたい、あるいは逃げる一つの手段としてそういう方法をおとりじゃないか、こういうふうに考えざるを得ないわけなんです。ですから、きょうここでどうしてくださいというお答えを求めるわけにはいきませんけれども、この点は厳重に考えていただいて、まるきりお医者さんに自分の良心に反するようなことをやらせもし、またそういうことを見込んで免許証を取得する人もそこをたずねていって、五百円のことでさっさといわゆる代書にものを書いてもらうような形になること自体が、調べなければならない、鑑定しなければならない内容の重大さというものとはずいぶんかけ離れた問題になっているわけです。この点は、ほんとうに真剣にお考えになって改正していただきたい、こういうふうに考えるわけでございます。
それからもう一点だけ、せっかくお越しになりましたので、厚生省の方にお伺いするわけですけれども、数字的な問題はこの次にお伺いすることにしまして、第二次佐藤内閣で鈴木厚生大臣がお答えになっていらっしゃるわけですけれども、「脳神経外科など専門的に取り扱う交通救急センターを、人口一〇〇万人に一カ所の割り合いで全国主要都市に配置し、中小都市には救急医療に必要な機械器具を、共同で利用できるよう、医療器具の供給センターをつくりたい」、こういうふうにお述べになっているわけなんです。この点に関して、はたしてこうおっしゃったとおりのことが、どの程度実現されたのか、その点についてお答え願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/182
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183・中村一成
○中村説明員 厚生省といたしましては、大臣が考えておりました構想を、本年から実現すべく、各都道府県と連絡をとりまして実施に入っておりまして、全国で百十一の病院につきまして、救急医療センターという性格を持たせるために整備すると同時に、その他専門職員の獲得につとめるようにただいま指導をいたしておりまして、大体私どもの見通しといたしましては、昭和四十四年までには完成することができる、こういうふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/183
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184・沖本泰幸
○沖本委員 きのう電話でちょっと受け答えした中には、全国の公立病院ではほとんど全科を備えていらっしゃる病院がたくさんあるわけですけれども、その中でいわゆる脳外科ではなくて、緊急に事態が生じて、交通事故の患者を運び込んだ場合、当直の方が、眼科の先生であったり、そのほかの先生であって、全然処置ができなくて、ほかの町医者のほうに持っていかなければならない。そのために、第一次の救急処置ができなかったために死んでしまったという例がたくさんあるわけです。そういう点について、現在の厚生省の指導要綱はどの程度になっておるのでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/184
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185・中村一成
○中村説明員 厚生省の省令では、救急医療機関としての告示を受けますにつきましては、いかなる場合におきましても必要な医療が行なわれるような医師、看護婦等が配置されておるということを前提の条件といたしておるわけでございます。したがいまして、いわゆるたらい回しといったようなことはないたてまえになっておるのでございますが、ただ先生の御指摘のございましたように、医師の少ない病院の場合におきまして、たとえば眼科の医師が当直しているために、非常に重傷の外科患者が来ました場合に、ほかの病院に回したということはこれはあり得るわけでございまして、すべての病院に、必ず専門の外科医ならぬ外科医が毎晩いるということは、これは現実の問題としてはなかなかむずかしいわけでございますので、冒頭、先生のお話しになりましたような、特に脳外科等の医師というもの、あるいは麻酔医、一般外科医、整形外科医というものが常時待機をしますところの救急センターというものは、数は少のうございますが、重点的な整備をはかる、こういうことで指導いたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/185
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186・沖本泰幸
○沖本委員 もう一点だけで質問を保留させていただきますけれども、東大の統計によりますと頭部外傷の四分の一から二分の一は何らかの後遺症を残しておる、こういうことになるわけですから、たとえば人身事故が、先ほど刑事局長さんのお話ですと四十万はいるということになると、その二分の一、四分の一ということになればたいへんなことになっていくわけです。そうすると、この間中近東でたいへんな戦争がありましたけれども、その数よりもたいへんな数にのぼっておるわけです。そういう観点から、先ほど脳外科に対する救急センターはあと何年かでできる、こういう御答弁がありましたけれども、それでは現在脳外科医がどれくらいいらっしゃって、その脳外科医はどれくらい足りなくて、その救急センターに見合うだけの養成がいまできるかできないかという点について、これだけお答えしていただいて私質問をこの次まで留保させていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/186
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187・中村一成
○中村説明員 頭部の外傷に対しましては、御指摘の脳神経外科医のほかに、一般の外科医の中でも、頭部の外科に習熟した者であれば治療に当たることができるわけでございます。先生の御指摘の脳神経外科医という点につきましては、私どもの百十一の救急センターというものができますれば、一つの病院で、できましたならば脳神経外科医が九名おることを希望いたします。またそれが脳神経学会の、要望でもあるわけでございます。そういたしますと、そのセンターだけでも約一千名近い専門医を必要とするわけでございます。しかし、現在日本におきましては、そういうような程度におきますところの医師数は、これは学会のお話によりますと、大体四百名ないし五百名ぐらいであろう、したがいまして、そのほとんどの先生方が大学の病院に、あるいは大学の教室に残っておられるわけでありますので、私どもといたしましては、そういう専門医の養成には、今後相当努力をしないと十分ではない。したがいまして、そういう養成を大学等においてやっていただきますと同時に、そういう専門医の方々というものを、私どもといたしましては大事に活用すると申しますか、この先生方につきましては合理的に働いていただけるような組織づくりをしなければいけない、こういうふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/187
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188・沖本泰幸
○沖本委員 委員長、どうもありがとうございました。これで終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/188
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189・大坪保雄
○大坪委員長 本日の議事はこの程度にとどめます。
次会は、明三十日午前十時より理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後五時二十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505206X02719670629/189
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