1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和四十二年六月二十九日(木曜日)
—————————————
議事日程 第二十五号
昭和四十二年六月二十九日
午後二時開議
第一 宮古群島及び八重山群島におけるテレビ
ジョン放送に必要な設備の譲与に関する法律
案(内閣提出、参議院送付)
—————————————
○本日の会議に付した案件
議員請暇の件
最低賃金法の一部を改正する法律案(内閣提
出)及び最低賃金法案(多賀谷真稔君外十二
名提出)の趣旨説明及び質疑
日程第一 宮古群島及び八重山群島におけるテ
レビジョン放送に必要な設備の譲与に関する
法律案(内閣提出、参議院送付)
許可、認可等の整理に関する法律案(内閣提
出)
午後二時八分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/0
-
001・石井光次郎
○議長(石井光次郎君) これより会議を開きます。
————◇—————
議員請暇の件発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/1
-
002・石井光次郎
○議長(石井光次郎君) おはかりいたします。
議員川崎秀二君から、海外旅行のため、七月二日から本会期中請暇の申し出があります。これを許可するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/2
-
003・石井光次郎
○議長(石井光次郎君) 御異議なしと認めます。よって、許可するに決しました。
————◇—————
最低賃金法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び最低賃金法案(多賀谷真稔君外十二名提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/3
-
004・石井光次郎
○議長(石井光次郎君) 内閣提出、最低賃金法の一部を改正する法律案、及び多賀谷真稔君外十二名提出、最低賃金法案について、趣旨の説明を順次求めます。労働大臣早川崇君。
〔国務大臣早川崇君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/4
-
005・早川崇
○国務大臣(早川崇君) 最低賃金法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
最低賃金制につきましては、昭和三十四年の法施行以来今日までにその適用を受ける労働者は、中小企業を中心として約五百五十万人に達するとともに、その金額も逐次改善を見せ、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善と中小企業の近代化に役立ってまいりました。
この間、わが国経済の高度成長の過程において、若年労働者を中心とする労働力の逼迫等により、一般の賃金の上昇は著しいものがあり、このような中でなお改善から取り残される労働者に対し、より効果的な最低賃金制度を確立して、その生活の安定と労働力の質的向上をはかっていく必要はますます大きくなっていると考えます。
かかる事情にかんがみ、政府は、一昨年来中央最低賃金審議会に今後の最低賃金制のあり方の御検討をお願いしていたところでありますが、先般同審議会より答申が提出されました。その答申に基づきまして、最低賃金の決定方式については、業者間協定に基づく決定方式を廃止し、最低賃金審議会の調査審議に基づく決定方式を中心とすることに改めることが適当であり、また、このような措置を円滑に進めるためにはある程度の経過措置が必要と考え、ここに最低賃金法の一部を改正する法律案を提出いたした次第であります。
次に、この法律案の内容につきまして概略御説明申し上げます。
第一には、最低賃金制度をより効果的なものとするため、業者間協定に基づく最低賃金及び業者間協定に基づく地域的最低賃金の二つの最低賃金決定方式を廃止することといたしております。
このことに関連して、最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金につきましては、労働大臣または都道府県労働基準局長は、従来、その他の方式により最低賃金を決定することが困難または不適当と認めるときに限り、審議会の調査審議を求めることができることとされておりましたが、その要件を除き、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善をはかる必要があると認めるときは、調査審議を求めることができることといたしております。なお、最低賃金審議会が調査審議を行なう場合においては、関係労働者及び関係使用者の意見を聞くものとするとともに、労働大臣または都道府県労働基準局長の最低賃金の決定に先立ち、関係労働者及び関係使用者は異議の申し出をすることができることといたしております。
第二には、業者間協定に基づく最低賃金及び業者間協定に基づく地域的最低賃金の二つの決定方式の廃止に伴う必要な経過措置を定めることといたしております。
すなわち、現在まで業者間協定に基づく最低賃金決定方式が広く実施されている実情にかんがみ、その廃止に伴い無用な混乱を生ずることのないよう、法施行の際現に効力を有する業者間協定に基づく最低賃金及び業者間協定に基づく地域的最低賃金は、法施行後なお二年間はその効力を有することとし、その間においてはなお従前の例により改正または廃止することができることといたしております。しかしながら、その期間内に最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金が新たに設定または改正されたときは、その最低賃金の適用を受ける労働者については、業者間協定方式による最低賃金はその効力を失うものといたしております。
以上が最低賃金法の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/5
-
006・石井光次郎
○議長(石井光次郎君) 提出者川崎寛治君。
〔川崎寛治君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/6
-
007・川崎寛治
○川崎寛治君 私は、提案者を代表いたしまして、最低賃金法案につきまして、提案理由並びに内容について御説明申し上げます。
申すまでもなく、最低賃金制は、制度ができた初めのころは、欧米資本主義社会の中でも極度に窮乏化した一部の極貧層の労働者救済のための社会政策として、資本家の側からは、産業平和や社会緊張緩和のための手段として採用されてきたのであります。しかるに、第二次大戦後においては、最低賃金制は労働者の最低生活保障のための統一要求として掲げられるようになったのであります。
本来、最低賃金制の目的は、労働者の最低生活水準を保障することであります。現在労働者の最低生活費はほぼ全国同水準となっております。また、学卒労働者の初任給水準も労働市場の需給状況を反映して格差は縮小しつつあります。また、最低賃金水準については産業別、規模別の格差も縮小しつつあり、このような現状のもとでは原則的には全国全産業一律の最低賃金が設定されなければなりません。
今日、わが国の経済情勢を見ますとき、工業生産においては、造船は世界第一位、自動車と化学繊維は第二位、鉄鋼とセメントは第三位であり、その経済成長率は実に世界第一位であり、鉱工業生産では世界第四位の地位を占めるに至っています。しかるに、国民一人たりの所得は、国連統計によれば、驚くべし、何と世界第二十一位で、中南米のベネズエラ以下というみじめな状態であります。そして、今日なお月二万円以下の低賃金労働者が八百三万人存在し、このほか低い工賃のまま放置されている家内労働者は二百万世帯にも及んでいるのであります。
こうした著しい生産と所得の不均衡を是正し、健康で文化的な労働者の生活を維持するに足る賃金を法的に保障することこそ、最低賃金制を必要とするゆえんであります。
すでに現行法実施以来八年になりますが、適用労働者数は昨年六月現在で、中小企業労働者千三百万人のうち、四百六十万人にすぎず、しかもそのうち第九条の業者間協定方式による千九百九十七件の実に八八・一%は日額五百円以下なのであります。月額に換算すると一万三千円以下という賃金なのであります。しかもこの膨大な低賃金労働者の存在が、他の労働者の賃金にも決定的な悪影響を与え、今日のわが国労働者の生活を常に不安におとしいれているのみならず、法的最低賃金は、さらに米価の生産費と含まれる労働力の費用の基礎ともなり、農民の所得水準をも規制しているのであります。さらに生活保護基準、失業保険の最低額、失対賃金、国民年金とも関連、低い国民生活水準のおもしとなっているのであります。まさに、鉱工業生産世界第四位を誇り、経済成長率第一位を呼号するわが国の見せかけの繁栄を物語っていると申せましょう。現行最賃法が、資本にとっていかに有効な役割りを果たし、労働者並びに国民各層にとっては、その生活を圧迫する役割りしか果たしていないのは明らかであります。
政府もようやくその非を認め、今回改正に至ったわけでありますが、しかし、この業者間協定の汚名はわが国労働法規上最悪の法律として永久に消えることはないでありましょう。われわれが、現行法制定の際に鋭く指摘したように、現行制度によって、日本のあるべき最低賃金構造は少なくとも数年の立ちおくれを招いたと断ぜざるを得ません。政府の責任はきわめて重大であります。
今日、雇用情勢は逼迫の度を加え、人手不足の傾向は深まり、今後の企業の深刻な問題は労働力不足にあるとさえいわれています。いまや低賃金によって国際競争に立ち向かう時代は過ぎ去りました。東南アジアでは、繊維、造花等に見られるごとく、低賃金労働力に押しまくられているではありませんか。したがって、今後のわが国経済は、先進国の名にふさわしい高度の技術によってその発展を期すべきであり、それは労働者の最低生活水準を保障することによってのみ可能であります。今こそ真の最低賃金制を確立することは刻下の急務であります。下請の上に大企業がそびえ立っている経済の二重構造を解消する方向はこれをおいてありません。
以下、法案の内容について御説明申し上げます。
まず第一に、最低賃金の適用方式は全国一律制にいたしたのであります。このことは、特にわが国のように、産業別、業種別、地域別の賃金格差がはなはだしく、低賃金労働者が多数存在する状態のもとでは、それぞれの最低賃金を定めることは最低賃金制度の効果を半減せしめるからであります。なお、全国一律の最低賃金制の上に、労使の団体協約に基づいた産業別あるいは地域別に拘束力を持つ最低賃金の拡張適用の制度をも積み上げることにいたしました。
第二は、最低賃金の決定については、労働者の生計費、原則的には標準家族の必要生計費と一般賃金水準等を考慮してきめることといたしました。
第三に、最低賃金の決定及び改正は、行政委員会の性格を持つ最低賃金委員会に権限を持たせることとし、同委員会は、労使同数の委員とその三分の一の公益委員をもって構成することといたしました。
第四に、最低賃金委員会は六カ月に一回必要生計費及び一般賃金水準に関する調査を行ない、その結果を公表し、必要生計費が三%以上増減したときには最低賃金の改正を決定することといたしました。
以上、この法律案の提案理由及びその概要につきまして御説明申し上げました。
今日までのにせ最低賃金法に対する汚名をそそぐために、何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願いして提案理由の説明を終わります。(拍手)
————◇—————
最低賃金法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び最低賃金法案(多賀谷真稔君外十二名提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/7
-
008・石井光次郎
○議長(石井光次郎君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。増岡博之君。
〔増岡博之君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/8
-
009・増岡博之
○増岡博之君 私は、ただいま趣旨説明のありました社会党提案の最低賃金法案並びに政府提出の最低賃金法の一部を改正する法律案につきまして、自由民主党を代表して、社会党提出法案の提案者並びに政府に対し質問をいたすものであります。
まず、社会党提出の最低賃金法案につきましては、全国一律に最低賃金を設けるということがこの法案の中心でありますので、私はこの点に焦点を合わせて質問いたしたいと存じます。
御承知のごとく、わが国の経済は近年高度に成長し、賃金の水準は急速に上昇し、賃金格差も次第に縮小しているとはいえ、いまだにかなりの格差があり、現状では次のごとくであります。
企業の規模別の格差は、昭和四十一年においては、大規模事業所労働者の賃金を一〇〇といたしますと、中規模のそれは六九・八であり、小規模のそれは六一・六となっております。さらに地域別の格差は、製造業の定期給与で見ても、東京を一〇〇といたしますと、最低の鳥取県は五五・二でございます。もっとも平均化が進んだといわれる新規中学卒業者の昨年の初任給をとってみても、東京の一万四千九百七十円に対し、青森では一万百三十円でありまして、約四千八百円も差があるのでございます。また、産業別に見ても、製造業を一〇〇とした場合、繊維六八・二、木材七五・一、家具八〇・二となっており、産業により少なからぬ格差が存在するのであります。
このように、いまなお地域別あるいは産業別により格差が大きい現状において、全国全産業一律の最低賃金を決定しても、はたして実際の効果があるのでございましょうか。このような格差の存在を無視して、あえて一律の最低賃金をきめるとしても、もし低いほうを基準にしてきめれば、高いほうには何の役にも立たないのでございます。また、高いほうを基準として最低賃金をきめた場合には、低いほうでは企業がつぶれるか、最低賃金を守らないかのいずれかでございます。いずれにしても実際の効果ある賃金額を決定し得ないと思われるのでございます。社会党法案の提案者は、この点につきどのように考えられるのか、承りたいと存じます。(拍手)
そもそも、以上申し上げた規模別や地域別あるいは産業別にある賃金格差は、それぞれの企業の付加価値生産性の差がその原因をなしておるのであります。すなわち、通産省の工業統計によれば、企業の規模別の付加価値生産性の格差は、大企業一〇〇に対し、中小企業五〇、零細企業に至ってはわずかに二四にしかすぎないのであります。にもかかわらず、賃金の格差は、労働省の統計により、大企業一〇〇に対して、中小企業六九・八、零細企業は六一・六であり、賃金の格差は付加価値生産性の格差よりもかなり緩和され、改善された状況となっております。そのことは、中小零細企業が人手不足ということから、企業の計算に合わない、比較的高い賃金を支払っていることを示すものでございます。
このことについては社会党もよく御承知でありまして、昨年の十月発行せられた「社会党の政策」という冊子の中で、中小企業の数多くの倒産の理由として、若年労働力が逼迫し、賃金の上昇と労働力の確保が困難であることを原因の一つにあげておられるのであります。その社会党が、いま直ちに全国全産業一律の最低賃金を決定すべく、新しい法案を提出されたのでございます。しかも社会党は、総選挙ハンドブックの中で、最低賃金額を月額一万八千円に決定しようと明記しておられるのであります。しかし、昭和四十一年の労働調査によれば、月平均の賃金が一万八千円以下の労働者は六百五十万人も存在するのでございます。したがって、もしこのような全国一律の最低賃金が決定されるならば、大多数の中小企業の支払い能力の限度を越えることは明白でございます。(拍手)そこで、社会党法案は、現行法の認める賃金決定の原則のうち、事業の支払い能力をわざわざ削除しておられるのでございます。
このようなことから推察いたしますと、社会党は最低賃金の名のもとに、法の拘束力により、数多くの中小企業者が倒産してもいたし方がないという考え方をお持ちであるように思えてならないのでございます。(拍手)
その反面、ふしぎにも社会党は、中小企業の重要性をも認めておられるのでございます。すなわち、「社会党の政策」という冊子の中で、中小企業は数において日本の九九%を、出荷額において五〇%を占め、千八百九十二万人が働いており、日本経済に果たす役割りは大であると明記しておられるのでございます。それほど重要な中小零細企業であるにもかかわらず、これらの企業の支払い能力を無視し、多数の企業が倒産し、そこに働く何百万人もの労働者が失業するおそれのあるような法案を提出されたことにつき、どのような責任を持とうとされるのか、提案者にお聞きしたいのであります。(拍手)
また、社会党は、中小企業対策については別途に法案をお考えのようでございます。かりにその法案が同時に承認されたといたしましても、中小零細企業の体質改善が瞬間的にできるものでないことは明白でありまして、依然として弱体なる体質はそのままに、全国一律の最低賃金の負担は即座にかかることになると思うのでございます。法律により、一瞬にして企業の体質改善を行なう方法があればお示しいただきたいとともに、それができるものとして全国一律の最低賃金を実施しようとしておられるのかどうか、お尋ねいたしたいのでございます。(拍手)
次に、諸外国の最低賃金制につき、提案者及び労働大臣にお尋ねいたしたいのでございます。
私が聞いておるところでは、ILO二十六号条約も全国一律の最低賃金を指示していないのみならず、わが国のような経済の二重構造が存在せず、賃金格差が少ない欧米先進国においても、イギリスでは業種ごとに賃金審議会を設け、地域別や性別をも加味した業種別の最低賃金をきめており、フランスの職業別最低保障賃金についても、農業は別建てとなっておるほか、六区分の地域差が設けられ、アメリカにおいても連邦の公正労働基準法による最低賃金が適用されるのは州をまたぐ産業だけで、その他の労働者はそれぞれの州法により別々の最低賃金の適用を受けておるのであります。いずれも社会党案のような全国一律最低賃金制はとっていないものと承知いたしております。もし、先進国の中で全国一律最低賃金制をとっている国があれば示していただきたいとともに、それらの先進国がそのような制度を採用していないことをどのようにお考えになるのか、お尋ねいたしたいと存ずるのでございます。(拍手)
他方、政府提出法案は、現在に至るも制度の適用を受けていない残された分野に対し、すみやかに最低賃金の設定普及を行ない、労働者の生活の安定をはかり、さらに日本経済の発展に寄与するため、業者間協定方式を廃止し、労使、公益、三者構成の審議会決定方式を中心とすることに改正するものであって、明らかに一歩前進でございます。ILO二十六号条約との関連においてもまことに時宜を得た提案であると思うのであります。
しかしながら、制度として前進であるだけに、その円滑な実施のために、中央審議会の答申も次のごとく述べておるのであります。すなわち「産業、企業の側においては、中小企業も含めてこのような情勢に対応できるよう経営の近代化、合理化を進め、その体質の強化改善をはかっていくことが要請されるのであって、最低賃金制の検討についてもこれらの事情を十分考慮する必要がある」としるしております。
そこで、この際、政府提出の改正案が、答申の趣旨に沿い一歩前進であり、さらには、中小零細企業に対する通産、大蔵両省の施策の万全を期するならば、それらの企業の付加価値生産性を向上し、経済界の混乱を招くことなく、低賃金労働者の安定向上に寄与し得るものと確信し、次の諸点をお尋ねいたしたいのでございます。
まず、総理大臣にお尋ねいたしたいと思います。
ただいままで申しましたように、中小零細企業者は、経済発展の谷間にあり、二重構造に悩みながらも低賃金解消に鋭意努力せざるを得なかったのであります。なお、この際、法の改正によりその適用範囲が拡大し、より零細な分野にも普及せられることと思われます。したがって、零細企業に対し、従来からなされておる政府の施策を大幅に拡充せられることが必要であるのではないかと思うのでございます。金融、税制等に加うるに、零細企業者の能力を向上せしめるためには政府のより積極的な指導が必要であり、それに対し、将来大幅な予算の増額が必要ではないかと思うのでありますが、この点、総理大臣から御見解を示していただきたく存ずるものであります。
次に、大蔵大臣にお尋ねしたいことは、中小零細企業並びにその団体に対する各種税制上の配慮をいただいておることは、中小零細企業者が深く喜んでおるところでございます。が、しかし、中小零細企業の個人経営の場合、税の申告の有無によって生ずる家族専従者控除の不公平があり、この際この点を是正していただきたいのでございます。また、現在、中小零細企業の法人の九〇%以上が税法の適用にあたって同族会社としての取り扱いを受けております。そのため、非同族である大企業との不公平、すなわち内部積み立て金に対する課税、行為計算の否認、配当分離課税の適用除外等の是正を行ない、最低賃金法改正の機会に事業の合理化を行ない得るような力を蓄積せしめることが、この制度改正を無理なく有効に活用し、労働者の賃金向上に役立つと思うのでございますが、大蔵大臣の御見解を承りたいのでございます。
労働大臣には、国際情勢を含めての諸般の情勢から、本提案をされたことは全く同感でありますが、まず、ILO二十六号条約の批准につき御所見をお伺いいたします。
次いで、社会党提案のごとく一挙に全国一律の最低賃金を決定することは、いたずらに数百万人の失業者をちまたにあふれしめ、社会不安の発生を見ると思うのでございますが、その間の御見解をお聞かせ願いたいのでございます。
さらに、政府改正案を適用するにあたり、労働省あるいは審議会が従来示されていた最低賃金の目安の指示があるのかないのか、もしあるとすれば、経済発展段階にふさわしい目安とし、逐次改正していただけるのかどうかお尋ねし、最後に最低賃金審議会の構成並びに運用に留意していただいて、公平に最低賃金を決定し、真に労働者の安定と経済の発展に寄与するよう、十分なる御指導をいただくべく御所見をお伺いいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)
〔川崎寛治君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/9
-
010・川崎寛治
○川崎寛治君 増岡君にお答えいたします。
現行法が実施をされて八年、業者間協定で賃金が上昇していないということ、それから産業別、地域別の格差がたいへん多くあるということは、御指摘のとおりであります。そして、それゆえ、この現行法の業者間協定方式によります現行最低賃金なるものが、ただいまの法律の第一条の目的であります「賃金の最低額を保障し、労働条件の改善を図り、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」という、その目的を達成していないことをみずからお認めになったと思うのであります。(拍手)
今日、取り残されております低賃金労働者の層、それは特に婦人労働者、年少労働者、臨時工、社外工、日雇い労働者、小零細企業労働者であり、商業労働者等であります。日本の全労働者の過半数を占めておりますこれらの労働者が、いま、先ほど御指摘のとおり低い賃金に停滞いたしておるのであります。現行最賃法が有力に作用していないということは、先ほど指摘したとおりであります。増岡君は最低賃金制について御理解がないといわざるを得ません。(拍手)
なるほど、特定の者だけが一万八千円以上で、他が一万八千円以下ということであれば、倒産等の問題も出てくるかもわかりません。しかし、それ以下の労働者がいないということになれば、下請代金の算定の基礎、これは変わってまいるのであります。公正な下請代金にならざるを得ません。そしてそのことが底辺の零細企業、下請労働者の下請賃金を公正にいたしてまいるのであります。今日、日本の下請の上に大企業がそびえ立っておるという二重構造を解消していく方向に行くのであります。(拍手)全国一律の最低賃金制がいまこそ必要なゆえんであります。
第二には、支払い能力の問題でありますが、そもそも一九二八年、すなわち三十九年前、ILOの二十六号条約が採択されます際にも、支払い能力の問題はたいへん議論になりました。しかし、支払い能力を入れるということ、このことは、これを理由にして低賃金にくぎづけをしようとする経営者の意図が露骨であるという理由で、このILOの二十六号条約から支払い能力のことばが削除されておる歴史的経過があるのであります。(拍手)このILO二十六号条約は、もともと低開発国に適用されるようなラフな形で仕組まれております。全く最低の基準を示しておるのにすぎません。これに抵触しなければよいのだ、そういう考え方は、みずからが低開発国水準であるということを暴露しておるといえます。(拍手)
また、アメリカ州際の最低賃金決定に際して、アメリカの経営者も支払い能力の問題もやかましく論じました。しかし、最低賃金実施によって倒産がない、その例がないということは、アメリカの文献にも明らかなところであります。今日倒産の最大の原因は何か、それは労務不足であります。まさに最低賃金制をしくから倒産するのではなくて、安定した労働力確保のためにも最低賃金制が今日必要なのであります。支払い能力論をもって、労働者を低賃金あるいは無権利の状態に置いておこうという資本家にとっての、ありしよかりし日をいつまでも夢みておるということは、時代錯誤もはなはだしいといわざるを得ません。(拍手)
一律最低賃金制を実施するとともに、わが日本社会党が中小企業対策として中小企業省設置の法案あるいは中小企業事業分野確保の法案等、あわせ準備をいたしておることは御承知のとおりであります。また、社会保障制度の拡充が必要であることも申すまでもありません。
支払い能力に関してこの際つけ加えておきたいと思いますが、一九三三年、すなわち三十四年前にアメリカのルーズベルト大統領は、最低賃金の決定については生活賃金の原則を強調いたしておるのであります。そして産業復興法の法案署名に際しまして、労働者に生活賃金よりも低く支払うことによって存在を続けている企業は、この国、すなわちアメリカでありますが、アメリカでは存在する権利を持たない。生活賃金とは、私には最低生活水準以上のものを意味しているのだ、こう言い切っておるのであります。私は、この際、佐藤総理に、ルーズベルト大統領のステーツマンとしての聡明さと勇気を、あわせて要望しておきたいのであります。(拍手)第三には、先進国の例はどうかというお尋ねでありますが、世界で最初に最低賃金制が設けられましたのは、ニュージーランドで一八九四年、七十三年前であります。イギリスの賃金局法案は、いまから五十八年前の一九〇九年に成立をいたしております。フランスにおいては、婦人の家内労働者を対象にした家内労働法が……(発言するあり)歴史の経過を説明しておるのだからよく聞きなさい。家内労働法が一九一五年、いまから五十二年前に成立しました。そして、これが後に拡張され、他の産業にも拡大され、今日の最低賃金制に発展いたしてまいっておるのであります。アメリカにおいて最初に最低賃金法が成立をいたしましたのは五十五年前、一九一二年マサチューセッツ州においてであります。増岡君も御承知のとおりに、アメリカはユナイテッドステートであります。連邦国家であります。でありますから、先ほど御指摘の法律、公正労働基準法は州際産業のみだ、こういう御指摘をされておりますが、そのことは、アメリカが連邦国家であり、連邦議会における法律制定の過程というものを御存じないからであります。(拍手)一九一二年のマサチューセッツ州にできました第一回のもの、各州におけるその州最賃法、それらが積み上げられ、さらに公正労働基準法が州際通商に関係のある労働問題に適用されてまいることになったわけであります。それゆえ、アメリカにおいては全国一律でございます。そして連邦労働法は、時代の進展とともに拡張され、他の産業に広く適用されるようになってまいっておるのであります。
以上の例に見られるごとく、欧米の最低賃金制は、本来苦汗労働を救い、家内労働者を救うということから始まり、それを解消することに重点が置かれてまいったのであります。そして職業別、産業別最低賃金の形をとってきたのでありますが、まさに数十年の歴史の積み上げであります。今日、日本で家内労働法が制定されずに、労働力の需要者側だけできめられます業者間協定方式などは、世界どこにもその例を見ないのであります。(拍手)
増岡君にここであらためて特にお答えいたしたいと思いますが、先ほど歴史の経過を申し上げましたように、各国が今日新しい最低賃金制を定めるといたしましたならば、ただいま私が提案いたしましたこの全国一律制をとるであろうことを、私は断言いたしたいのであります。
中央最低賃金審議会が過去二回にわたって一律最賃制がよいと指摘いたしております。あるいは大橋、石田元労働大臣も再三にわたって全国一律制がよい、また、可能であるということを言明いたしてまいっておるのでありますが、今日こそ、すみやかに全国一律制の最低賃金制を制定すべき時期であります。
以上、お答えをいたします。(拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/10
-
011・佐藤榮作
○国務大臣(佐藤榮作君) 増岡君にお答えいたします。
私は、増岡君の御意見を私の席から謹聴いたしておりましたが、久しぶりに現実に即した建設的な意見を聞きまして、たいへんうれしく思いました。(拍手)
増岡君はすでに御承知のことだと思いますが、わが国で最低賃金法を制定いたしましたのが三十四年、それ以来今日までに、国内の賃金はほぼ倍額になっております。私は、この点でただいまの最低賃金法もずいぶん大きな役割りを果たしておると思います。また、賃金ばかりではありません。労働条件等の改善につきましても非常な貢献があったと思います。しかし、御指摘にありましたように、わが国で一番困っておる問題は、いわゆる産業の二重構造の問題であります。また、お述べになりましたように、地域的あるいは職業別の賃金格差があることでございます。これらの現実を十分見きわめて、そうしてわが国の賃金制度を考えなければならない。中央最低賃金審議会が今回とりました現段階における最低賃金制のあり方というか取り扱い方として答申をしたのがただいまの改正案に盛り込まれておるのであります。この点は増岡君が御承知のとおりでありますから、また重ねて申し上げる必要はないと思います。
そこで、お尋ねになりましたように、在来の政府の施策、これをさらに拡充し、内容を整備していくことが必要だ、かように私も考えるのでございます。これは申し上げるまでもなく、税制の面におき、あるいは資金の面におき、それぞれ政府が援助するばかりではありません。同時にまた、零細企業における労働条件と取り組むための共済制度、これをつくるとか、その他改善すべきものが幾つもあると思います。それぞれ政府は手がけておりますので、これを御指摘になりましたように、この上とも拡充整備していくつもりでございます。お答えをいたします。(拍手)
〔国務大臣早川崇君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/11
-
012・早川崇
○国務大臣(早川崇君) 全国全産業一律の最賃法を適用している先進国があるかという実例の御質問でございますが、ヨーロッパ、アメリカをはじめといたしまして、現在先進国といわれる国にはございません。ただ、その中でフィリピンは、五人未満のサービス業を除きました分に全国一律全産業一律の最賃法が実施されております。また、これは国家ではございませんが、沖繩では全産業一律全地域一律賃金でございますが、これは例外でございます。
二番目に、政府提案の改正法によってILO二十六号条約を批准する条件が整ったかどうかという御質問でございます。いままで二十六号条約が批准に疑義がございましたのは、業者間協定というやり方でございました。今回の改正ではっきり業者間協定を二年間で廃止するということになっておりますので、この法案が通り、業者間協定が二年間になくなりますと、当然ILO二十六号条約を批准する国内的条件が整ったものと考えるわけでございます。
三番目に、全国一律全産業一律を採用すると、中小企業の倒産その他いろいろな障害が出るが、どういう考えかということでございます。欧米諸国が全産業全国一律方式をとっておらないのは、一にも二にも、地域的あるいは産業的、あるいは熟練工と非熟練工というようないろいろな差が現実にございますので、全国一律方式をとっておらないのでございまして、このことは、日本におきましても同じような事情があるわけであります。したがって、しいてこれを全国一律全産業一律にいたしますと、あるいは実効性のあがらない、一番低いところの最賃になるか、あるいは高いのに標準を合わせますと、御指摘のように、中小企業がどんどん倒産をするというようなおそれも確かに私はあると考えるのでございます。
第四番目に、審議会の運用を公正にやってもらいたい。今度の法案で御承知のように、労使平等に審議会に参加することができることになりましたので、公正な、実情に合いました最低賃金というものが設定されるものと考えておる次第でございます。
以上、お答えいたします。(拍手)
〔国務大臣水田三喜男君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/12
-
013・水田三喜男
○国務大臣(水田三喜男君) お答えいたします。
中小企業者の専従者控除につきましては、税制改正をやるたびごとに合理化をはかってまいりましたが、本年の改正におきまして、いわゆる完全給与制の採用に踏み切ったことは御承知のとおりでございます。私は、この機会に、青色申告の普及奨励をはかって、申告の有無による不公平をなくするという方向に努力をしていきたいと考えております。
また、中小同族法人につきましては、軽減税率の適用とか、あるいは割り増し償却の適用というようなことで基盤の強化をはかっておりますが、御指摘のような、行為計算否認の制度とか、あるいは留保所得課税、配当分離課税の適用除外というようなことにつきましては、個人企業と法人企業とのバランスの関係、あるいは税の回避、乱用等の考慮から、一挙にこれを廃止するということは非常にむずかしいと思いますが、しかし、この内容を是正していくということは必要だと存じますので、今後十分研究したいと思います。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/13
-
014・石井光次郎
○議長(石井光次郎君) 加藤万吉君。
〔加藤万吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/14
-
015・加藤万吉
○加藤万吉君 私は、日本社会党を代表して、最低賃金法の一部を改正する法律案について、質問を行なわんとするものであります。
申し上げるまでもなく、業者間協定を中心とする現行最賃法は、かねてよりわが党が指摘をしてきましたとおり、賃金の決定機構に労使の代表が直接参加し得ない方式は、ILO二十六号条約を引き合いに出すまでもなく、およそ最低賃金決定制度の名に値しないものとして、国際的にも強い非難を浴びてきたところであります。
〔議長退席、副議長着席〕
政府は、この業者間協定によって、その適用労働者が五百三十万人をこえ、賃金水準の低い労働者の労働条件の改善に役立ってきたと述べておりますが、これは今日までの事実経過を著しく歪曲し、国民を愚弄するもはなはだしいといわなければなりません。(拍手)すなわち、今日の賃金水準の上昇は、現行最賃法の普及によってもたらされたものではなく、高度経済成長期における若年労働力の不足と物価上昇に追いつこうとする労働者の経済的要求力がこの結果を生んだにすぎないのであって、むしろ現行法は、これらの労働者の賃金水準向上に足かせの役割りを果たし、大手企業の下請加工賃規制の役割りを業者間に押しつけてきたのであります。
そもそも、最低賃金の決定制度と賃金率の決定は、企業別に賃金を決定しようとする機構を越えた横断的決定機構であり、諸外国にあっては、産業別全国組合の団体協約締結を全産業労働者に一般拡張し、適用することにその源を発したものであり、各国の実情に基づいた方法と手段によって法制化するよう求めたものがILO二十六号条約及び勧告三十号なのであります。したがいまして、産業別周の団体交渉及び団体協約の締結を否認し、企業組合育成を目ざしているわが国の使用者に対して、ILO二十六号条約の精神に沿てっ最低賃金法を確立することこそが、近代的労使関係をつちかうための政府のとるべき指導的政策であったはずであります。しかるに、政府みずからもまた企業内に労働者を封じ込めようとする労働行政を積極的に推進し、近代社会における基本的労使慣行の樹立に逆行し、そのためにこそ今日のにせ最賃法といわれる現行法を施行したといわざるを得ないのであります。(拍手)
そこで、私は総理に質問をいたします。今回の中間答申を求める際、政府はILO二十六号条約を批准できる内容のものを答申するよう求められたことは、現行最賃法がILO二十六号条約に合致しないことを政府みずからが認めたことになるわけであります。しからば、しばしば現行法が最低賃金決定制度として有効であるという国民へのこれまでの欺瞞に対し、どのような政治責任を感じておられますか。その所信をお伺いをいたしたいと思います。(拍手)
第二に、今回政府が提案された一部改正は、ガットやOECDの加盟、さらには貿易の自由化等からくる国際的な非難に対して、かろうじてこれを批准しようとするごまかしの最小限度の改正であり、その基本は依然として日本の低賃金の二重構造を維持しようとするものにほかなりません。
本来、最低賃金の法制化は、労働時間、就業年齢制度、休日休暇の法制化と同様、労働基準の三つの柱の一つであり、すでに述べたとおり、国際的なプロセスの上に立って一九二八年に条約化され、最低賃金制度及び最低賃金率については、労使協議の上に制度化することを取りきめたものであり、各国にILOはその原則に立って批准を求め、一九六七年の今日においては、この条約の批准はいかなる後進国においても可能な条件を持つに至っております。
言うまでもなく、わが国の鉱工業生産はすでに世界第四位の地位を占め、先進国同様に高い工業水準の上に立って国際競争力に対応する時期にあると思います。このような条件にあるにもかかわらず、なお世界七十数カ国が批准しているこの条約に批准できないわが国の条件は、どこに存在すると思いますか。また、本改正案が先進工業国にふさわしい内容を整えた最低賃金決定法とお考えになりますか。
第三に、今回の法改正は中央最低賃金審議会の中間答申に基づいて提案をされております。しかるに、その答申においても、いまだ審議を尽くしていない面や、委員間の意見の相違、諸外国の最低賃金制の実態について、なお検討すべき問題も残っていると述べているとおり、本答申を行なう経過の中でも、最も意見を聴取し、尊重しなければならない日本の最大なナショナルセンター総評の欠席と中立労連代表の反対、すなわち、日本の組織された労働者の過半数をこえる代表の反対の中で出されたものを、法律案として早急に提案した真意はどこにあるのでしょうか。また、この事実の経過から、わが国の労使の間でさらに綿密な協議が行なわれ、その上に新たな最低賃金法案を提案することこそが議会政治に必要な審議のルールと思いますが、総理並びに労働大臣にその所信を伺いたいと思います。
第四に、わが国の最低賃金法について、全国一律の最低賃金制度確立を強く要求する声があることは御承知のところと思います。今日、全国一律の最低賃金制の確立について、その反対論者は、賃金格差や地域格差、そして大企業と中小企業との二重構造からくる企業間格差のあることをその理由にあげ、全国一律制によって、支払い能力が伴わない企業は倒産するかのごとき幻影を与えておりますが、はたしてそうでございましょうか。戦後、労働基準法は労働時間として実働八時間制を法制化し、地域、企業の格差のいかんにかかわらずこれを実施いたしております。一体、実働八時間労働制が理由で戦後倒産した民間企業があるでございましょうか。今日、地域格差は労働力の流動化によって徐々にその差を縮小し、大橋、石田の前労働大臣が、一部の地域的条件を除けば全国一律は望ましい形であると言明し、問題は実施の方法にあると述べたことによって、本問題は議論の余地のないところとなったのであります。一体、この言明について責任ある政党内閣としての答弁はいつどこで雲散霧消してしまったものでしょうか。
また、賃金格差は、今日政府統計でも明らかなとおり、五百人以上の製造事業場の賃金を一〇〇とすれば、三十人未満の事業場のそれは六一・一%であります。本来、最低賃金額は企業の支払い能力によって決定されるごときものではなく、その国における労働者の最低生活水準を保障する横断的賃金額であらねばなりません。問題は、その賃金額がその国における経済力に可能かいなかにあるといわなければなりません。
ちなみに、アメリカにおける一人当たりの国民所得はわが国の五倍に当たります。アメリカ連邦法に基づく最低賃金率は一九六七年で一時間一ドル四十セント、これをわが国に引き直しますと、一カ月九万七千百九十二円になります。わが党が要求している一万八千円は、このアメリカの最低賃金率の五分の一であり、アメリカの国民所得に対して五分の一を有するわが国の最低賃金額としてはきわめて控え目な額の制定といわざるを得ません。また、この一万八千円の額は、イギリスのボタン、かばん製造の最低賃金率の二分の一、フランスのパリ地区の三分の二であります。
かかる条件を見た場合、わが国における全国一律最低賃金制度と一万八千円の最低賃金額は、地域的にも経済的にもその基盤があると思いますが、それでもなお低額な業者間協定による目安賃金を制定していたところに、各国のソシアルダンピングの非難があったと思いますが、総理並びに大蔵大臣にその見解をお伺いいたしたいと思います。
また、本件については、全国一律による最低賃金制を提案されている提案者に対しても、その所信をお伺いいたしたいと思います。
要するに、全国一律の最低賃金制反対論者の真意は、その額や技術的手段にあるのではなく、最低賃金を決定する制度そのものにあるといわざるを得ません。これからの日本の経済は、先進国の名にふさわしい高度の技術を伴った近代的生産体制と、それにふさわしい労働条件の向上を基礎とした経済構造に脱皮しない限り、日本の国際的地位の向上も断じてなし得ないのであります。真の民主的なルールに沿った最低賃金制度の確立はその重要な柱であり、国家のなさなければならぬ最低限度の義務でもあります。いまこそ政府はこの著しく立ちおくれた日本の労使関係を根本から改善し、労働者の労働条件を向上させるためにも真の最低賃金制度の確立をはかり、もって旧来の汚名をそそぎ、日本経済の正常化に寄与されるべきと考えますが、総理の所信をお伺いをいたしたいと思います。(拍手)
最後に、第十六条について質問をいたします。
本条は、中央最低賃金審議会においても多くの議論のあったところであります。本条適用にあたって最低賃金をきめようとする事業、職業または地域の発議権が、労働大臣または各都道府県労働基準局長のみにあり、最も必要とする労働団体にその権利を認めていないことは、明らかにILO二十六号に抵触し、本法をもってしては、この条約の批准を行なうことはできません。また、本条における公益委員の地位と役割りは何を示しているのでしょう。勧告三十号は、労使双方が同数の意見に分かれた場合、中立委員は双方が有効なる決定に至るための橋渡しの役であると述べております。今日わが国の労働委員会における公益委員の役割りは、この条件を阻害しているといわざるを得ません。すなわち、本十六条は、団体協約締結権者である労働者の基本権及び発議権を封鎖し、政府の思いのままの産業、地域をみずから選別し、それらに対し、政府の所得政策に似合う目安賃金を最低賃金額として決定するという意図を内包しているといわざるを得ません。すなわち、このことは、新たなる装いをこらした政府の統制賃金ということができるのであります。
以上の諸点に対する労働大臣の見解を求め、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)
〔川崎寛治君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/15
-
016・川崎寛治
○川崎寛治君 加藤君にお答えいたします。
先ほど来、増岡君に御答弁いたしましたように、支払い能力論、あるいはヨーロッパにおける歴史的な経過、そういうものを踏まえてみまして、ヨーロッパにおいて今日新しい制度を設けるとするならば、提案をいたしております全国一律の最低賃金制をとるであろうことは、申すまでもありません。そして、今日、日本における経済の二重構造があるがゆえに、一律制はできないのだ、この経済の二重構造を解消してから、一律制に持っていこう、こういうことであるならば、百年河清を待つにひとしいといわざるを得ません。今日の経済の高度成長の中で、工業力の成長、あるいは労働力の不足、そしてまたこういう賃金格差が依然としてある、そういう状況の中で、そうした格差が存在することを解消するには、今日が最もいい時期であります。それゆえ、御質問のとおり、今日こそ、全国一律の最低賃金制を早急に決定すべきであると私は考えます。お答えといたします。(拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/16
-
017・佐藤榮作
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。二十六号条約の問題でございますが、政府は、現行法でもこれは適合しておる、かように実は考えているのであります。しかし、これは二十六号の精神に反しておるという御議論もございます。したがいまして、賛否両論があるというのが、現打法のもとにおける二十六号批准問題であります。これを今度は改正いたしますと、最も問題のありました業者間協定、そういうものは、今度は一年後にはなくなるのであります。そうすると、いままで議論しておった二十六号条約批准をめぐる問題点は、実はなくなるのではないだろうか、かように思っております。したがいまして、今回この改正案の成立を見ましたら、その後において、二十六号条約の批准の問題を検討する、これと取り組むということでございます。この点で、ただいまの現行法の改正案は、先ほどもお答えいたしましたように、審議会の中間答申、これによってつくったのであります。これをあえて私は中間答申と申しますのは、この答申の際にも、「現段階における」という、そういうようなことばがついております。したがって、これは中間答申だ、かように思っておりますが、急いでこういう点を整備して、二十六号条約を批准すべきではないか、政府はかように考えておりますので、ただいま改正案として取り上げたわけであります。いろいろ心配していらっしゃるようでございますが、これが最終案というのでは絶対にございません。したがいまして、審議会においては、今後引き続いて、今後のあり方等について、りっぱな答申を出されることだと思います。これらの点では、政府はその答申を待って、それぞれ決定をしていくということにいたしたいと思っております。
そこで、ただいま御議論になりましたが、この審議会の経過を見ますと、一部の委員の方々が欠席をされた。もともと審議会は、全体の方が全部出席して、そうして堂々と議論を述べて、その上で、その審議会が取りまとめをするというのが望ましい姿であるし、また、かくなければならないのであります。したがって、一部欠席された、そういう事実が起こりましたので、審議会の会長は、極力その席に出てこられるようあらゆるあっせんをしたようでございますが、ついに、全部ではありませんが、その功を奏することができなかった。これは会長としてもまことに残念に思っておられます。しかし、この中間答申を出すに至りました最終の際は、出ておられた委員諸君、労使関係の委員並びに公益委員全部が一致して実はこの中間答申をつくったのでありまして、これは私は、ILOの精神にりっぱに沿うものだと思っております。一部最後まで実は欠席をされ、そうして意見を述べられなかった総評の方については、私も、今後ともこの審議会はぜひ続けていきたいし、りっぱな成果をあげたいと思いますので、ぜひ出ていただけるように、この上とも政府もあっせんをいたしますが、皆さま方のお力もかりたい。どうかひとつよろしくお願いをいたします。(拍手)
次に、全国一律の最低賃金の問題であります。これは、たいへん議論が存するようでありますし、先ほど来、社会党の提案にいたしましても、全国一律のものである。また増岡君も、特にこの点について提案者にお尋ねをしておるようであります。しかし、私は、この問題も将来の問題としてはともかくも、現段階においては審議会の答申を尊重することが最も望ましい姿だ、かように思いますので、私は、多くを申さない、あまり議論はしないつもりでございます。どこまでもこの審議会の答申を尊重していく、それが現実に即した案だと、かように理解しておるわけであります。
また、大橋元労相の言を引かれまして、一体、政党としての責任ある回答は何だ、こういうようなお尋ねでございます。私は、大橋君の申しましたことは、これは一つの理想案、あるいはまた一つの考え方として、かような考え方も非常に進んだものだ、かように思っております。しかし、現段階においては、何と申しましても格差のあること、また二重構造の経済状態であること等々を考えまして、審議会の答申に沿うことが最もいい結果をもたらす、かように思っております。
そこで、今後の問題でございますが、今後とも近代産業国家にふさわしいような賃金のあり方、労働条件のあり方等々で改善すべきものはどんどん改善して、そうして理想的なものに近づくように、これを実現するように、この上とも努力するつもりでございます。そういう際におきましては、審議会が一そう働いてくださることだと思いますので、先ほど申しますように、せっかく選ばれた審議会の委員の方々は、どうかこの会議に参加、出席されるように、この上ともお骨折りを願いたいと思います。(拍手)
〔国務大臣水田三喜男君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/17
-
018・水田三喜男
○国務大臣(水田三喜男君) 最低賃金制は、やはりその国の経済事情、労働事情の実情に即したものであるべきであると考えます。そうしますと、現在のわが国のように、まだ二重構造が残っており、地域格差も加わって、広範な賃金格差が存在しているときに、先進国にも見られないような全国一律制を実施しようとすること、しかもお尋ねのように、これを財政資金の補給によって実現しようとすることは、私はきわめて無理なことであるというふうに考えます。(拍手)
〔国務大臣早川崇君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/18
-
019・早川崇
○国務大臣(早川崇君) 私に対する一問でございますが、十六条方式による審議会が、労働大臣と労働基準局長にのみ発議権があるのは、いかがなものだろうかという御疑問でございます。しかし、今度の改正におきましては、審議会に労使とも平等の条件で参加していくという、いわゆるILO二十六号の線に沿った改正でございますし、労のほうも使も、まずこの最低賃金制に対する建議権も与えられておりますし、そうしてさらに、大臣並びに労働基準局長決定の案に対しましても、一定期間を限りまして異議をさしはさむ権限も与えておるわけでございますから、御指摘のように、非常に不公平な審議会、また最賃の決定方式ではないと私は確信いたしておる次第でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/19
-
020・園田直
○副議長(園田直君) これにて質疑は終了いたしました。
————◇—————
日程第一 宮古群島及び八重山群島における
テレビジョン放送に必要な設備の譲与に関
する法律案(内閣提出、参議院送付)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/20
-
021・園田直
○副議長(園田直君) 日程第一、宮古群島及び八重山群島におけるテレビジョン放送に必要な設備の譲与に関する法律案を議題といたします。
宮古群島及び八重山群島におけるテレビジョ
ン放送に必要な設備の譲与に関する法律案右の内閣提出案は本院において可決した。よって国会法第八十三条により送付する。
昭和四十二年六月九日
参議院議長 重宗 雄三
衆議院議長 石井光次郎殿
—————————————
宮古群島及び八重山群島におけるテレビジョン放送に必要な設備の譲与に関する法律政府は、琉球政府に対し、宮古群島及び八重山群島におけるテレビジョン放送に必要な設備であって、昭和四十一年度及び昭和四十二年度の一般会計予算に基づきこれらの地域に設置するものを譲与することができる。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/21
-
022・園田直
○副議長(園田直君) 委員長の報告を求めます。沖繩問題等に関する特別委員長臼井莊一君。
—————————————
〔報告書は本号末尾に掲載〕
—————————————
〔臼井莊一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/22
-
023・臼井莊一
○臼井莊一君 ただいま議題となりました宮古群島及び八重山群島におけるテレビジョン放送に必要な設備の譲与に関する法律案につきまして、沖繩問題等に関する特別委員会における審査の経過及び結果について御報告申し上げます。
沖繩の宮古群島及び八重山群島においては、ラジオ放送の聴取は一応可能でありますが、テレビジョン放送は、放送設備がないために視聴することができない状態であります。
このため、これらの地域にテレビジョン放送局を設置することについては、現地の住民はもとより、琉球政府の強い要望があり、本案は、これらの要請にこたえるため、財政法の定めるところに従い制定されるものでありまして、政府は、沖繩援助対策の一環として、昭和四十一年度一般会計予算及び昭和四十二年度一般会計予算合計七億一千四百七十六万二千円をもって、宮古群島及び八重山群島におけるテレビジョン放送に必要な設備を設置することとし、この設置は、完成後これを琉球政府に対し譲与することといたしております。
本案は、去る六月九日参議院より送付され、同月十三日より質疑に入り、沖繩放送法並びに放送界の実情、琉球政府の受け入れ体制等について質疑が行なわれましたが、その詳細につきましては会議録に譲ることといたします。
去る二十日質疑を終了し、二十七日、自由民主党、日本社会党、民主社会党及び公明党からそれぞれ賛成の討論があり、採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決した次第であります。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/23
-
024・園田直
○副議長(園田直君) 採決いたします。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/24
-
025・園田直
○副議長(園田直君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
————◇—————
許可、認可等の整理に関する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/25
-
026・竹内黎一
○竹内黎一君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。
すなわち、この際、内閣提出、許可、認可等の整理に関する法律案を議題となし、委員長の報告を求め、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/26
-
027・園田直
○副議長(園田直君) 竹内黎一君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/27
-
028・園田直
○副議長(園田直君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加せられました。
許可、認可等の整理に関する法律案を議題といたします。
—————————————
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/28
-
029・園田直
○副議長(園田直君) 委員長の報告を求めます。内閣委員長關谷勝利君。
—————————————
〔報告書は本号末尾に掲載〕
—————————————
〔關谷勝利君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/29
-
030・關谷勝利
○關谷勝利君 ただいま議題となりました許可、認可等の整理に関する法律案につきまして、内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案は、臨時行政調査会の許認可等の改革に関する答申の趣旨にかんがみ、行政の簡素化及び合理化を促進するため、各行政機関を通じて合計二十、関係法律二十八の許可、認可等の整理を行なおうとするものであります。
本案は、五月二十四日本委員会に付託、六月十三日政府より提案理由の説明を聴取し、慎重審議を行ない、六月二十七日質疑を終了し、本二十九日、討論もなく、採決の結果、全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決定いたしました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/30
-
031・園田直
○副議長(園田直君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/31
-
032・園田直
○副議長(園田直君) 起立多数。よって、委員長報告のとおり可決いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/32
-
033・園田直
○副議長(園田直君) 本日は、これにて散会いたします。
午後三時二十八分散会
————◇—————
出席国務大臣
内閣総理大臣 佐藤 榮作君
大 蔵 大 臣 水田三喜男君
労 働 大 臣 早川 崇君
国 務 大 臣 塚原 俊郎君
国 務 大 臣 松平 勇雄君
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105505254X03119670629/33
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。