1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四十三年四月十六日(火曜日)
午前十時三十分開議
出席委員
委員長 永田 亮一君
理事 大竹 太郎君 理事 田中伊三次君
理事 高橋 英吉君 理事 中垣 國男君
理事 濱野 清吾君 理事 神近 市子君
鍛冶 良作君 河本 敏夫君
千葉 三郎君 中馬 辰猪君
中村 梅吉君 馬場 元治君
成田 知巳君 横山 利秋君
岡沢 完治君 鈴切 康雄君
松本 善明君
出席国務大臣
法 務 大 臣 赤間 文三君
出席政府委員
法務政務次官 進藤 一馬君
法務大臣官房司
法法制調査部長 川島 一郎君
委員外の出席者
議 員 神近 市子君
法務省刑事局総
務課長 伊藤 栄樹君
最高裁判所事務
総局総務局長 寺田 治郎君
最高裁判所事務
総局民事局長 菅野 啓蔵君
専 門 員 福山 忠義君
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四月十二日
委員山田太郎君及び松本善明君辞任につき、そ
の補欠として矢野絢也君及び川上貫一君が議長
の指名で委員に選任された。
同月十五日
委員川上貫一君辞任につき、その補欠として松
本善明君が議長の指名で委員に選任された。
同月十六日
委員岡田春夫君、西村榮一君及び矢野絢也君辞
任につき、その補欠として横山利秋君、岡沢完
治君及び鈴切康雄君が議長の指名で委員に選任
された。
同日
委員横山利秋君、岡沢完治君及び松本善明君辞
任につき、その補欠として岡田春夫君、西村榮
一君及び川上貫一君が議長の指名で委員に選任
された。
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四月九日
下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の
一部を改正する法律案(内閣提出第一〇二号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
旧執達吏規則に基づく恩給の年額の改定に関す
る法律の一部を改正する法律案(内閣提出第八
六号)
死刑の確定判決を受けた者に対する再審の臨時
特例に関する法律案(神近市子君外七名提出、
衆法第三号)
下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の
一部を改正する法律案(内閣提出第一〇二号)
刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提出
第九三号)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/0
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001・永田亮一
○永田委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、旧執達吏規則に基づく恩給の年額の改定に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
質疑の申し出がありますので、これを許します。大竹太郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/1
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002・大竹太郎
○大竹委員 前回は同僚の山田委員のほうから詳細な質問がございましたので、私からはその質問で漏れていると思われる点、また御承知のように、この間は執行官の全国的組織である執行官連盟の会長さん、副会長さん、それから連盟の関東支部長さん等においでいただいていろいろ御意見を承りましたので、その御意見に基づいてお聞きをいたしたいこと等について、二、三お伺いをいたしたいと思います。
まず第一にお聞きいたしたいことは、御承知のように、この執行官法を施行いたしました第一の目的は、国家公務員と同じに俸給制、俸給まで国家が支給するというほんとうの意味の公務員でないにしても、少しでもそれに近づけて、執行官の質を上げるとともに、いままでいろいろ監督不行き届きのために不祥事件を起こしていたこともあわせて少なくしたいというような点からの改正であったと思うのであります。それで第一にお聞きいたしたいのは、この執行官法の施行に伴って、いままで執行吏であった者の大部分は、同時にこの執行官に移ったわけでありますけれども、この執行官法に基づいて新たに任命された執行官というものは、現在どれだけあるのか。現在の執行官はたしか三百五十人ほどだというふうにこの間お聞きしておったわけでありますが、その新法に基づいて新たに任用された執行官は、この三百五十人のうち何人か、まずそれからお聞きをいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/2
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003・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 御指摘のとおり、執行官法制定当時の執行官、当時執行吏と申しておりました者の数は三百三十七名、ただいま現在三百六十名になっております。二十数名の増員ということになっておるわけでございまして、その間、実質上の増員は二十数名でございますが、退職者がございました関係上、執行官法制定後の新しく任命せられた者は、六十五名であります。ただし、そのうち、いわゆる執行官法の附則で、旧法に基づきまして修習を命ぜられておった者が旧法の資格で任命せられた者がその中に入っておりまするので、新しい資格、すなわち四等級という資格で新しく執行官として任命された者は、その任命者のうち三十一名、残りの三十四名というものは、附則で前の資格で任命された者であります。なお、前の執行官であって新しい資格を認定をされた者が十名、したがいまして、新しい資格の者が三百六十人のうち四十一名あるという計算になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/3
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004・大竹太郎
○大竹委員 それではその四十一人のいわゆる前歴と申しますか、主として裁判所の書記官あるいは事務官等がおもじゃないかと思うわけでありますが、その四十一人の前歴と申しますか、出身と申しますか、その内訳はどういうようになっておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/4
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005・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 まず、新しく任命いたしました四等級の新執行官の前歴について申し上げますと、そのうち二十六名の前歴が裁判所書記官、それから家庭裁判所調査官が一名、検察事務官が一名、警察職員が一名、その他市町村吏員等であったものが二名、それから資格の引き上げをいたしました十名は、やはり前歴は裁判所書記官であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/5
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006・大竹太郎
○大竹委員 次に、これもこまかいことでありますが、平均年齢は大体どの程度になっておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/6
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007・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 ただいま現在三百六十人中、四十歳未満が三十七名、四十歳から五十歳までが四十五名、五十歳から六十歳までが九十五名、六十歳から七十歳の間が百三十一名、七十歳以上が五十二名でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/7
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008・大竹太郎
○大竹委員 いまの新たに採用した人の平均年齢は、どうなっておりますか。わずかですから、平均年齢でなくても、区分けだけでもよろしいです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/8
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009・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 ちょっとこまかい資料を持ってきておりませんけれども、五十七歳から五十八歳ぐらいの間だと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/9
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010・大竹太郎
○大竹委員 次にお聞きしたいのでありますが、たしかこの執行官法をここで審議しておったときに、将来、執行官の退職手当また退職後の年金等に関しては今後新たに考えていくということでございましたが、この執行官の退職手当及び退職後の年金に関する措置について、具体案ができておるでありましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/10
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011・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 ちょっといまその問題についてお答えする前に、先ほどの年齢の点につきまして間違いがございましたので、訂正させていただきます。新執行官の任命者の平均年齢は約五十歳、全体の執行官の平均年齢が先ほど申しました五十七歳から五十八歳ということでございます。
執行官の退職金、それから長期給付の年金の問題ですが、この点は、裁判所といたしましては、執行官の優遇措置、それによっていい人に来てもらいたいという気持ちから、執行官のためにこの合理的な制度ができるということを強く希望しているわけでございます。御承知のとおり、ただいまは執行官の恩給はございますが、退職手当や共済組合制度による給付がございません。そういう点を法務省にお願いして法律的に手当てをしていただきたいという希望を持っておるわけではございますが、何ぶんにも執行官は俸給という点におきましては一般の公務員と異なりまして、手数料制度という特異な制度がとられているわけでございますために、あるいはこの共済年金のための掛け金の制度がない、あるいは昇給がない、退職年金の基礎になるであろういわゆる仮定俸給額というものをきめるときに、いまの補助金の額、それが最近約七十万円に在りましたけれども、必ずしも高い額ではない、そういうものを基準にして計算していくとどういうようになるだろうかというむずかしい点、それから執行官が手数料制で、基準額が必ずしも高くないのにかかわらず執行官になってもらえるという一つの特色といたしまして、先ほど申しましたように、書記官等の前歴を有する人がそれを一応やめた形にして、したがいまして、その書記官としての共済年金なり恩給なりというものをもらいながら執行官として働いて手数料をもらえる、それで執行官をやめれば執行官の恩給をまたもらえるというような、ただいま複雑左関係にはなっておりますけれども、必ずしも不利でない点もあるというようなことから、これを手直しをするについて法務省におかれましても相当の技術的な困難さがあるということは、私ども十分承知しておりますので、その年金制度あるいは退職金制度というものを合理化して少しでも執行官の待遇がよりよくなるということを強く希望しておりますけれども、非常に技術的な困難があるということも承知しておりますので、法務省にせっかくその点についての御検討をお願いしている段階でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/11
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012・大竹太郎
○大竹委員 次に、執行官法の問題でありますが、新たに執行官法をつくった趣旨として、いままで執行吏が預かっていたいろいろの金銭というものを裁判所がこれを保管する。しかし、裁判所の人員その他の問題もあり、一時にはできないから、できるところからできるだけ早くこれをしていこうということで年々やってこられたと思うのでありますが、ことしの予算もいよいよ通って、人員等の増加もある程度その方面に向けられると思うわけでありますが、たとえばことしの予算の執行をしたと仮定しますと、いままでどおり執達吏が保管をするというような旧態依然たる裁判所は、全国にまだ相当残るのでありますか、具体的に数その他がおわかりになっておったら、お示しいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/12
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013・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 御承知のとおり、全国では地方裁判所が四十九庁ございまして、そのうち昨年度の予算で……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/13
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014・永田亮一
○永田委員長 ちょっと菅野君に申しますが、速記者が聞こえないそうですから、もう少し高い声で答えてください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/14
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015・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 昨年度の予算で二十名の増員が認められた関係で、全国の四十九庁のうち十カ庁につきまして、会計を裁判所に取り入れるという執行官法の制度の実施ができるようになりました。本年度また昨年と同じ程度の予算を認めていただきましたので、二十人の増員が可能になりました。したがいまして、本年はさらに十カ庁につきまして、昨年度と同じ程度の会計事務を裁判所に取り入れるということが可能になったわけでございます。四十九庁のうち二十カ庁が、執行官法に規定されているとおり、会計を裁判所で扱うということが可能になろうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/15
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016・大竹太郎
○大竹委員 次に、この間一番問題になりました執行官の不祥事件について若干お聞きしたいのでありますが、この間、参考人その他にいろいろお聞きしたのでありますが、執行官において組織しておられる連盟の仕事としては、研修の問題であるとかあるいは綱紀の維持の問題であるとかいうことについては、ほとんど自主的にはやっていらっしゃらぬ、一にかかって裁判所にまかしているというようなお答えであったと思うわけであります。もちろんこれは当然執行官法等の趣旨から言いましても、完全在る国家公務員ではないにしても、それに近づけたという趣旨は、一口に言って国の役人は国として当然責任を持って研修等をやり、そうして監督その他を国がやるべきであると思うわけでありまして、執行官法執行以来、これらの予算その他においては以前よりも相当力を入れているという実情にあるかどうかということをお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/16
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017・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 執行官の研修等につきまして、執行官連盟のような団体に裁判所を離れたところで研修をさせるということも、一つの方法であろうかと思います。御指摘のとおり、執行官法は執行官を外に出して育てるというたてまえをとりませんで、むしろ裁判所の中に取り入れてここで育てていく、それが日本の国情としてはむしろ適しておるのではなかろうかということで、そういう制度がとられたわけでございますが、研修につきましては裁判所が責任を持つべきものであろうというふうに考えておりまして、私どもといたしましては、執行官法制定以後毎年その点に関する予算を取りまして、とりあえず新任の執行官につきまして書記官研修所で全国的な研修を行なっているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/17
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018・大竹太郎
○大竹委員 そこで、この間、執行官連盟の役員の方あわせて裁判所の方にいろいろ同僚の山田委員から質問があった中で、私そのときに実はお聞きしたいと思って非常にふに落ちなかった点が一、二ありますので、いまお聞きいたしたいと思いますことは、たしかこの執行官法の施行に伴って、いままで執行吏役場が外部にあったためになかなか監督もできなかった面もあるけれども、今度は裁判所の中に取り入れたというようなことで、この執達吏役場のほうは非常に監督がやりやすくなり、また特に気をつけてやって、始終、何といいますか、見回りその他をやっておるが、外部で執行官が仕事をする場合、たとえば動産の競売の場合とかあるいは家屋の明け渡し等いろいろやるわけでございますが、そういうものについては、一口に言えば執行官を信用してまかせておくよりしようがないというお話、あわせて、どうも最近問題になっているような事件は、これはまあちょっと対策がないというようなお話だったと思うのでありますが、しかし、御承知のように、最近、私は新聞だけでしか知らないのでありますけれども、この新聞等で見ますと、たしか家屋の明け渡しに関係しての事犯であるように思うわけであります。むしろこういう不祥事件というものは、外部でやる場合にこそ私はよけい起こり得ると思うのでありまして、もちろん一から十まで同行してこれを取り締まり、監督するということは、これは人間の関係、予算の関係等で不可能なことでありましょうが、外部に出てやる仕事については一切監督の手が届かないんだということでは、私は、こういう事件というものはふえることがあっても減りはしないという気がしております。もちろん当然抜き出し検査と申しますか、取り締まりと申しますか、そういうようなことにはなるとは思いますけれども、もうそういうものは一切こっちは関知しないのだという立場は、私はおかしいと思うわけです。そういう面からここで何かお考えになるべきだと私は思いますし、ならなければならぬと思うのでありますが、それについてのお考えをお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/18
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019・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 執行吏役場が裁判所の中に入ることになりましたので、この点につきましての監督はしやすくなりました。ただ、外部で執行する場合、御指摘の動産の競売であるとかあるいは家屋の明け渡しというところにつきましては、これも御指摘のとおり一々ついていくことができないという意味で、監督としてはまあ不十分である、御指摘を受ければ、そういう点はやむを得ない。が、しかし、決してそれでいいというふうに申し上げたつもりはなかったのでございますが、ことばが足りなかったと思います。これも対策といたしましては、かなりそういう点まで、どういうことが行衣われたかということにつきましてはいろいろ情報を集める、場合によってはその執行のあとに行って、どうだった、この間の執行は何かぐあいが悪いことがなかったかというようなことを一これも全部が全部聞いて回るというわけにまいりませんが、そういうふうにしていろいろ情報を集めて、不都合な点があればこれを改めるということにしなければ、監督の実をあげることが困難である、私どもは前向きにそういう方法について検討をいたしますということを申し上げたわけでございます。
まあ新聞等にも、ほんとうのこともありますけれども、かなり誤解の点もあるように思われるのでございます。ついせんだっての新聞でございましたか、競売の執行であったかと思うのでございます。債務者が会社ということになっておって、会社を債務者として執行に当たった。ところが、債務者がこれは個人のものであるというふうに主張しておったのに、かまわず執行したというような記事がございました。しかし、そこではやはり執行官の判断というものが許されるわけでございます。債務者がこれは会社のものではないと言った一言だけで引き下がってくるということでございますと、いろいろ作為をされてしまうと、執行が不能に在るわけです。あの事件が作意があった事件かどうか、これは存じませんけれども、しかし、債務者がこれは自分のものじゃなくて他人のものであると言っただけで執行官としてはすぐ引き下がれないという、むしろ職務上の義務があるのではなかろうかというように考えておりまして、もし債務者のほうで作為があったとすれば、あえてその債務者の言に従わなかった執行官というものをそう一がいに非難するわけにいかぬのじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/19
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020・大竹太郎
○大竹委員 質問を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/20
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021・永田亮一
○永田委員長 岡沢完治君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/21
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022・岡沢完治
○岡沢委員 私がこれから質問する問題につきましては、分科会等でも質問させてもらった問題と関連するわけでございますけれども、御承知のとおり、執行官汚職が全国的に続発をいたしております。私が分科会で質問した以後においても、新しい汚職も報ぜられております。私が申し上げるまでもなしに、ほかの汚職以上に、裁判所に関連する汚職というのは、法の番人であるだけに、与える影響はあまりにも大きいのではないか。どんな汚職でもいい汚職はありませんし、影響の少ない汚職はないとは思いますけれども、しかし、事裁判所に関する汚職となりますと、一般人に与える影響、あるいは法の権威に対する国民の失望、その他はかり知れ互い影響があるのではないか。たびたびこの委員会でも指摘さしていただいておりますように、われわれの新しい憲法の一つの大きな基礎は、力にかわるに法の支配ということが根本的な課題であり、また大事主点だ。そういたしますと、やはり私は、最近の執行官汚職の統発については、単におざなりの論議とか善処では済まされないものがあるのではないか。この際、法務省と最高裁判所の両方の責任者のお二人に対しまして、執行官汚職を絶滅する抜本策というものについて、いかがお考えであるか、検討中でもけっこうでございますけれども、具体的にどういう方向で考えておられるのか。一般に言われますように、今度の改正案とも若干結びつきますけれども、執行官の身分の問題とか、報酬制度の問題とか、あるいは民事訴訟法そのものの改正問題とか考えられると思いますけれども、ぜひこの際抜本策の方向についての所見を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/22
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023・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 抜本策ということに相なりますと、あるいは制度の改革、法律改正ということにもなろうかと思いますので、法務省のほうからお答えするのが至当かとも思われますけれども、現実に執行官制度というものを動かしておりますものの立場から、今度のような不祥事件に際会いたしまして、私どもが考えておる点をまず先に申し上げさしていただきたいと思います。
まず、このような汚職をなくすためには、制度的な面とそれから人の面と、二つの面があろうかと思います。制度的な面といたしましては、執行官法につきましていろいろ御議論もあったところでございまして、すなわち、公務員制度として中途はんぱではないか。しかしながら、私ども一応執行官法というものが制定されました段階におきましては、これを完全に実施していくという方向でまず進むべきであろうというふうに考えておるわけでございます。と申しますのは、執行官法が制定されましたけれども、それにはいろいろ経過的な措置がなされているわけでございまして、たとえば会計事務の裁判所に取り入れということも、予算の関係上、先ほど大竹委員の御質問に対してお答え申し上げましたとおり、昨年度、本年度ということで、だんだんに予算的な手当てをいたしまして進めているわけでございます。これを完全に実施するためには、さらに一、二年、予算的な努力をしなければならない。これでまずそういう方面の執行官法の実施を完全にやってまいる。あるいは執行官室の執務環境等につきましても、ある程度、ここの委員会で御説明申し上げましたけれども、まだ完全で十分であるというところまでは申し上げられないというのでございまして、これをさらに予算的な努力を続けまして、完全実施に入りたいと思っておるわけであります。さらにはまた、これも先ほど大竹委員からの御指摘がありましたとおりに、これは人を得るということによってこういうような汚職を防止したいという方向になるわけでございますけれども、待遇の改善ということに予算的な努力をいたしまして、それによって現在よりもよりすぐれた、より人格等におきましても優良な人に来てもらいまして、このような不祥事件が起きないようにいたしたい、こう思っているわけでございます。何と申しましても、制度を幾らつくりましても、そこにいる人がよくなければ、こういう汚職のような不正事件というものは妨げないと思うのでございまして、制度の面、監督の面等を厳重にいたしますと同時に、人を得るということにつとめたい、かように思っておるわけでございます。
さらにはまた、競売等におけるブローカーあるいは道具屋といったような人とのつながりから汚職というような問題が起きておるようでございますので、競売手続等を改正いたしまして、そうしてブローカーでなくても買えるような競売の制度ということにして、しろうとでも買えるというような制度に改めていきまして、そして俗なことばで申しますれば、ブローカーとか道具屋がはびこっているような競売の姿というものを是正するように、手続等を改正するよう法務省にお願いしたい、かように思っておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/23
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024・川島一郎
○川島(一)政府委員 執行官の汚職が頻発いたしますことは、仰せのとおり、非常に遺憾なことでございます。これを抜本的に絶滅するにはどうしたらいいかということは、非常にむずかしい問題でございまして、私どもとしては十分に研究しなければならないと考えております。さしあたり考えておりますことは、ただいま裁判所のほうからお話しになりましたことと大体同様でございますので、簡単に要点だけを申し上げますと、まず執行官の監督を強化すること、それから執行官の資質の向上をはかること、これはきわめて重要であると存じますが、法務省といたしましては、もっぱら制度的な面を担当しておりますので、制度的な面から申しますと、まず第一に、一昨年制定されました執行官法でございますが、この完全実施をはかるということでございます。現在は、ただいま裁判所からもお話しになりましたように、過渡期でございまして、会計事務が十分にまだ新しい体制に移されていないということ、それから先ほど大竹委員の御質問に対して裁判所からお答えになりましたように、現在執行官の大部分は昔の執行吏が経過的に執行官に任命されたものであるというふうな事情もございまして、新法の制定による成果というものは、現在の段階ではまだ十分にあらわれていないのではないか、かように考えます。したがって、この点につきましては、もう少し長い目で成果を見きわめていただきたい、かように考えるわけでございます。
それからもう一つは、執行方法についての問題でございますが、これは強制執行法の改正において十分検討しなければならない問題であると思っております。たとえば、現在では財産の換価方法として競売しか認められておりません。しかし、この競売につきましてはいろいろの弊害が指摘されておりますので、それ以外の方法を検討してみるというようなことも、一策であろうかと思います。要するに、競売の手続におきまして、現在では特殊な人間だけがそれに参加するのですが、こういう仕組みを改めて、一般の人、それから商人もこの財産の換価に参与できるような仕組みを考えることが必要ではないか、かように考えております。簡単でございますが、以上お答え申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/24
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025・岡沢完治
○岡沢委員 裁判所のほうも、法務省のほうも、抽象的に人の問題と制度の問題をおあげになったのですが、これは当然のことなんです。私は、もっと具体策を聞きたかったわけです。いまのお話で、たとえば一番最後の、競売に対して特殊な人でなしに一般人を参加させる方法を考える――具体的にはどういうふうな点を考えるかということを私は聞かしていただきたかった。それでは、この前の分科会の議論からちっとも進んでないわけです。裁判の最終段階においての執行というものが、あまりにも軽視されているんじゃないか。また、菅野局長にしても、川島部長にしても、競売の実態を御存じないのじゃないか。おそらく競売の現場にお立ち会いになったこともないのじゃないかと思います。私たちの経験からしましても、優秀な裁判官は、裁判には興味を持たれますけれども、執行にはほとんど無関心だ。御答弁にありましたように、裁判官が監督不十分というのは、無関心だから、当然なのであります。私は、一件偶発的に起こったのなら問題にする必要はありませんけれども、全国各地で続発をしておる。ある執行吏役場なんかは、全員が汚職に関係している。こういう事態を、私は、やはりもう少し真剣に、あるいはもっと重大なものとしてお考えいただく必要がほんとうにあるのではないか。単に人の問題では済まされない。むしろ制度的なほうが多い。これだけ各地で続発的に起こっていることを考えますと、制度自体に欠陥があるというふうに考えるべきではないか。そういたしますと、まだ執行官法ができて日が浅いから、過渡的な問題だと見てくれという御答弁では、私は納得できない。毎日裁判が行なわれ、毎日執行が行なわれております。しかも、執行官法の制定自体が、こういう汚職をなくするということが一つのねらいであったはずであります。しかも、むしろ執行官法になってからのほうが一それは理屈は昔の執達吏が多いんだとおっしゃるかもしれないけれども、世間はそうとらない。執行官法になったら、むしろ執行官の汚職がふえているではないか、何のための改正だということになりますし、現在国民感情として、もう民事訴訟は役に立たぬ、むしろこの執行までいくこと自体が裁判の意味をなくするという感覚を法曹人ですら持つ傾向にあるということは、否定できないのじゃないか。だから、私は、これは最終的にはもちろん国会も参与させていただいて、あるいは制度調査会等もございますけれども、しかし、当面の責任者の菅野局長なりあるいは川島部長のほうで、やはり具体的な用意をなさって、それを世論にも訴えて、しかるべき筋にも提案されるという必要があるのではないかと思います。委員会で質問をかわせばいいといったようなお気持ちで済まされるような問題ではない。私は、この執行官汚職に関連した裁判所の涜職事件には、重大性を感ずるのです。ぜひ御検討をいただきたい。また私の質問の趣旨を御理解いただいて、具体的な改正の方向に向かっての一歩を踏み出してもらいたい。ことに先ほどの答弁の中で私としては不満足なのは、執行官法ができて日が浅いということをおっしゃるのですけれども、執行官法を施行する段階において、当然旧執達吏その他に対して、現実に仕事に携わる立場に立つわけでございますから、執行官法にふさわしい資格と能力を備えた再教育がなされてから執行さるべきであった、単に日が浅いから汚職が出てもしかたがないのだというお考えは、少し国民に対して無責任ではないかという感じを、私は禁じ得ないわけであります。
時間の関係がございますので次に進ましていただきますが、いま申し上げた点とも関連いたしますけれども、日本の裁判制度で、いわゆる執行確保の問題、あるいは執行の敏速性の問題について、非常に国民の間にも、あるいは法曹実務家の間にも不満があることは、私が指摘する必要もないかと思います。民事訴訟自体がきわめて時間的に長くかかって役に立たないという批判も、いま私が言うまでもなしに、一般的であります。せっかく判決が確定しても、執行の段階でまたじゃまが入り、時間がかかり、結局実効性を失うということで、国民の裁判に対する信頼性、あるいはまた実際の裁判の実益というものがきわめて力を失っておるということは、指摘するまでもないかと思います。そういう点と関連いたしまして、民事訴訟法の執行関係法規の改正について、いかなる御見解をお持ちであるか。これも最後は国会がきめることだというふうにお逃げにならないで、やはり当事者であるお立場の方が、具体的な提案あるいは手続の改正をなさらないことには一歩も進まない。長い間問題点として指摘された問題でございますけれども、だからといって、単に次へ申し送って責任を逃げようという立場でなしに、むしろこういう難問にこそ、民事局長なり調査部長は取り組んでいただきたい。そういう意味からも、個人的な見解でもけっこうでございますから、執行に関連した、あるいは競売に関連した民事訴訟法の改正の方向について、いかがお考えであるか。私は、ある程度勇気が必要だと思うのです。単に、こういうことを発言すると大きな影響を与え過ぎるとか、ほかにそういう機関があるというようなことをおっしゃらないで、やはり個人的な見解としてでもけっこうでございますけれども、その衝に当たられるお立場の方々が、勇敢に、こういう点に問題がある、改正の方向はこういうふうに持っていくべきだという意見をお持ちになるのが、むしろ責任を果たされる道ではないかということを感じますので、ぜひ勇気をもって発言をしていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/25
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026・菅野啓蔵
○菅野最高裁判所長官代理者 法律改正の問題は、究極的には法務省のほうでおやりになることでございますけれども、私どもの希望といたしまして、御指摘のとおり、裁判の執行というものが効果的になされるためには、競売手続というものが合理的に、かつ、敏速に行なわれなければならない。そして先ほど申しましたような、ブローカー等でなければ買えないような制度では困るということでございまするので、その具体的な対策といたしまして、私どもはこういうふうな法律をつくっていただきたいという、現段階において考えているところを申し上げますと、要するに、いまブローカーでなければ買えない、しろうとではなかなか競売物件を買いにくいということは、競落人の地位というものが現行制度では非常に不安定であるということでございます。これをもう少し強化する。逆に言いますれば、債務者の権利保護の要件は、現在よりかもう少し狭まって制限されてくるような形になるかもしれませんけれども、しかし、ただいまの現状を見ておりまして、執行が効果的になるためにはそれもやむを得ないので、むしろ競落人の地位を強化させなければならないのではないかということを考えておるわけでございます。いろいろその方法としてはありましょうけれども、まず第一に競落人の地位が不安定であるということは、御承知のとおり、引き渡し命令につきまして、競落人というものの地位が必ずしも強いものではございません。せっかく競落いたしましても、そこに現実に人がいる場合に、これを排除して現物の引き渡しを受けるためには引き渡し命令を受けなければならないわけですけれども、引き渡し命令が得られればまだ幸いのことなんでありますが、債務者と関係のない、すなわち債務者の承継人でないような人たちに対しましては、引き渡し命令がすぐ出せない。そのためには新しい訴えを起こさなければならない。債務者保護のためには非常にいいかもしれませんけれども、そういう点では競落人が非常に不安定な地位にありまして、うっかり買えないというような気持ちになることは、もっともであろうと思います。それから賃貸借等も取り調べて報告いたしますけれども、ただいまの現行法の解釈とすれば、対抗力のある賃貸借のみを報告しておるような実情でございまして、しかしながら、対抗力がなくても、現実にそこに賃借人と称しておれば、競落人が競落した場合に、その人を追い出すというためにはなかなか一筋なわのことではいかないというようなこともございます。
それから強制執行の場合は別でございますが、任意競売でございますと、任意競売の手続の中で実体関係が争われるという制度になっておりますので、実体的に抵当権がないということになれば、手続自体も無効になってしまう、競落人の地位というものはひっくり返されてしまうというようなこともございますので、この点も実体的な事由で手続をひっくり返すということができないような制度にして、あとは不当利得の返還請求でまかなうとか、そういうふうなことにしなければ、しろうとは買えないのじゃないかと思うのでございます。
動産競売にいたしましても、いま動産の競売に出されている品物というものは、多くの場合家財道具で、がらくたでございます。こういうものは、特殊な利害関係のある者でなければそれを競落するということにならないわけでございます。したがいまして、道具屋というような種類の人が出てくる。そこにまた執行官と若干のつながりが出てくるというようなことになりますので、動産の差し押え物件の制限というものを、もう少し実際に売れるものに制限してみてはどうかというような考えも一つあるわけでございます。
それからさらにはまた、債務者のほうでもいろいろものを隠してしまうというような実情もございますので、開示宣誓の制度というようなものを採用してみてはどうか。まあいろいろ考えておって、法務省のほうにも意見を申し上げておるというような次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/26
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027・川島一郎
○川島(一)政府委員 あるいはおしかりをこうむるかもしれませんが、強制執行法の改正につきましては、現在法務省といたしましては法制審議会で審議中でございます。この改正作業の所管の局は民事局でございまして、したがいまして、私責任のあるお答えができないわけでございますが、ただ、いろいろ問題になっております項目といたしましては、ただいま菅野局長がお答えになったよう主点があげられておるのでございます。要するに、現在の強制執行というものは、債務者はなるべく強制執行を免れようとする、これに対して債権者はそういった債務者の術策におちいらないように強行的に強制執行を行なおうとする、そのために非常に無理な執行が行なわれるという関係になっておりますので、それをもっと、何と申しますか、正常な形に戻すにはどうしたらいいかという方向でいろいろな方策が検討されておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/27
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028・岡沢完治
○岡沢委員 御自分のところからおしかりを受けるかもしれぬという前提をなさいましたので言いにくいのですけれども、川島さんがやはり司法法制調査部長というお立場であれば、これは法務省民事局の所管だというようなことでお逃げにならないで、もっと意欲的に、名前からいえば少なくとも司法法制調査部長で、この法改正については民事、刑事を問わず、最高の権威と意見をお持ちに在ることを私は希望したい。
それから私は、いま聞いても、やはりお二人ともどちらかといえば抽象的なんです。これは先ほど申し上げましたように、一般に裁判官も検察官も弁護士も、執行段階のときはあまり興味は薄いし、実態を知らな過ぎるのではないか。これはまた一つは、最高裁判所がもちろんその執行吏の監督関係にあるわけでございましょうけれども、法改正については法務省の所管で、最高裁には提案権がないというような制度自体の問題もあろうかと思います。しかし、その制度の欠陥について実際に被害をこうむるのは、具体的な国民かもしれませんけれども、当事者かもしれませんけれども、一般には国の法治主義そのものがいわば挑戦を受けるということになるわけなので、大きな問題であると私は思いますので、ぜひこの執行制度全体について――執行官制度だけではなしに、執行制度全体について、民事訴訟法あるいは競売法の改正も含めて検討をしていただきたい。その前には、おそらく実態調査が必要ではないか。おそらく予算等についても、この委員会で超党派的にもっと最高裁判所や法務省の予算をふやせということを言っているのに、御遠慮なさって――実際は遠慮じゃなしに、責任を果たしておられない。私は、ぜひこの執行制度についても具体的な実態調査を全国的になさった上で、単に法制審議会にまかしてあるというような逃げを打たれないように、やはり主導権を最高裁、法務省がおとりになって、結局それは国民の権利保護に通ずるわけでございますから、もっと積極的な態度をお願いいたしたい。
それから最後に資料を要求いたしたいのでございますけれども、それは私はアメリカに行きましたときに、アメリカの強制執行というのは非常に早くなされている。私が下宿しておった隣が強制執行された例があって、びっくりしました。家賃の滞納で強制執行だ。日本の裁判制度と比較いたしまして、日本の場合は民事裁判一、二審、最高裁までいって確定しても、まだなかなか執行できない。ところが、家賃の滞納で簡単に執行されてしまう。これはもちろんおのおの長所、短所はありますけれども、私は理屈を抜きにして、日本の執行制度があまりにも時間がかかり過ぎるということは、やはり欠点として言わざるを得雇いのじゃないか。それだけに、欧米先進国の代表的な執行法規の概要について、特にその特徴的なものだけでけっこうでございますから、もちろんきょうでなくてけっこうですが、できるだけ早い機会にわれわれ委員にもわかる程度に、こまかいことはけっこうですから、特徴を、法規、条文をあげてお知らせいただきたい。委員全員にお配りいただきたい。その資料要求を申し上げて、私の質問を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/28
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029・永田亮一
○永田委員長 これにて本案に対する質疑を終了するに御異議ありませんか。
〔「異議存し」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/29
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030・永田亮一
○永田委員長 御異議なしと認めます。よって、本案に対する質疑は終了いたしました。
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/30
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031・永田亮一
○永田委員長 これより討論に入るのでありますが、別に対論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。
旧執達吏規則に基づく恩給の年額の改定に関する法律の一部を改正する法律案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/31
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032・永田亮一
○永田委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決いたしました。
ただいま可決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/32
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033・永田亮一
○永田委員長 御異議なしと認めます。よって、さように決しました。
―――――――――――――
〔報告書は附録に掲載〕
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/33
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034・永田亮一
○永田委員長 次に、神近市子君外七名提出の死刑の確定判決を受けた者に対する再審の臨時特例に関する法律案、及び去る九日付託になりました内閣提出、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案の両法案を議題といたします。
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/34
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035・永田亮一
○永田委員長 まず、提出者及び政府に順次提案理由の説明を求めます。神近市子君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/35
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036・神近市子
○神近議員 私は、死刑の確定判決を受けた者に対する再審の臨時特例に関する法律案の提案理由説明をいたしたいと思います。
ただいま議題となりました死刑の確定判決を受けた者に対する再審の臨時特例に関する法律案につき、提案者を代表いたしまして、提案の理由を説明させていただきます。
まず、この再審特例法案を提案いたしました動機が、純粋に人道主義的かつ超党派的なものであることを強調させていただきたいと存じます。在るほど、形式的、事務的には、この法案は社会党による提案となっておりますが、それは、提案の技術的経緯によるものでございまして、提案者の本心は、広く超党派的、人道主義的な御賛同を得て、国民全体の心から在る祝福のうちに、この法案の国会通過をはかりたいというところにございます。
私たちは、わが国民の心の中に静かに燃え上がっている、よりよい再審制度への強い願いを無視することができません。わが国における良識ある弁護士、学者、宗教家等を中核とする人道主義的な再審運動は、こうした国民的な願望にささえられ、一人の同胞の生命をもゆえなく失わせてはならないという、強い信念に裏づけられたものでありますが、私たちが、ここに死刑確定者再審臨時特例法案を提案いたしますゆえんのものは、このような国民的運動にこたえ、その健全在る願いを実現させることによって、国民の代表者としての責務の一つを果たしたいという、純粋かつ理想主義的な動機に基づくものであることを御理解いただきたいのであります。
次に、この法案のねらいといたします点を簡単に申し上げます。この法案は、生命の尊厳性及び戦後占領下における刑事訴訟法の適用の実情にかんがみ、昭和二十年九月二日から昭和二十七年四月二十八日までに公訴を提起された者で、本法施行前に死刑の判決が確定し、いまだその刑を執行されていない者に対し、再審理由を緩和し、生命の保全をはかり、かつ審理の公正と民主性とを確保することにより、これらの死刑確定囚にもう一度審判を受けられる機会を得やすくさせようとするものでございます。ただここで御注意をいただきたいことは、再審の機会を得やすくさせるということは、必ずしも直ちに無罪放免や減刑の機会を得やすくさせることを意味しないということであります。裁判のやり直しを受けても、やはり証拠が十分であれば、死刑の判決を免れるとはさまっておりません。それはこの法律の保証する限りではありません。この法律の保証するのは、占領下であるがために公正で民主的な裁判を心ゆくまで受けることができず、そのために死刑に処せられたと感じている不幸な死刑囚たちに、いま一度心ゆくまで公正で民主的な審判を受けさせてやることであります。
またこの法案が、その適用の対象を、一定期間、すなわち占領下に起訴された死刑確定囚に限り、かつ本法に基づく再審請求の期間を、本法施行後等一年以内に限定して、本法に限時法的性格を付与した点にも御留意いただきたいのであります。
本法の効力をこのように、対人的、対時間的に限定したのは、再審特例法の適用範囲をできる限り小範囲に押えて、確定判決の持つ法的安定性の動揺を最小限度に食いとめようとする趣意にほかならないのであります。
それならば、確定判決の効果を動かしてまでも、あえてこれらの死刑囚たちに再審の道を開いてやらねばならない理由はどこにあるのでありましょうか。以下この法案を提出しなければならない法的、社会的な必要性について一言させていただきます。
再審は、誤判の確定裁判を受けた者を救うただ一筋の黄金の橋であるといわれております。しかし、現実において、刑事再審は、はたして無実を救うかけ橋として正しく適用されているでありましょうか。たとえば、日本の岩窟王と言われたかの吉田石松翁の人生の大半を占める五十年間は、冤罪をそそぐための悪戦苦闘の連続でございました。そして翁の非凡なる意志と体力、及び協力者たちの献身的努力をもって、かろうじて再審のとびらを開くことができたといわれております。したがいまして、凡庸な大多数の有罪囚にとっては、再審制度は絵にかいたもちにすぎない、とすら嘆かれてきたのであります。事実再審によって救われる者の数は、真犯人発見の場合のような特異事例を除けば、暁の星のごとくわずかであります。
そもそも刑事手続における再審の思想は、遠くフランス革命の人権宣言にその源を発し、ヨーロッパにおける改革された刑事訴訟法を経由してわが国の治罪法(昭和十三年)に受け継がれたといわれております。その後、わが国の再審制度は旧憲法下の旧刑事訴訟法から新憲法下の現行刑事訴訟法への立法の移り変わりに応じまして、幾ぶん人権尊重の理想に近づきつつあることがうかがわれるのでありますが、いまだ旧刑事訴訟法における権威主義のからを完全に抜け切ったわけではなく、そこには実体的真実の犠牲において司法の形式的権威や法的安定性の要請を守ろうとする古い考え方が残っているようであります。このような制度上の不備は、官僚法曹の法適用における偏狭な形式主義と相まって、冤罪者に対して不当に雪寃の道を閉ざす結果を招いております。このようにして、わが国の再審制度は、本来無実を救う黄金の橋であるべきにもかかわらず、現実においては雪寃をはばむ鉄のとびらと化しつつあるとさえいわれて来たのであります。
このような情勢のもとにおいて、良識ある弁護士、学者、宗教家等を中心とする再審制度改正運動が国民の間からわき起こったのは当然でありました。このような国民の声に応じて、先年衆議院法務委員会は再審制度調査小委員会を設けて現行再審制度の欠陥を究明しようと試み、またこれに呼応して、日本弁護士連合会は、刑事訴訟法第四編(再審)中改正要綱を発表して、再審制度の全面的改正を提案したのでありますが、再審制度の全面改正は刑事訴訟法の根幹を左右する大問題であり、かつその影響するところも多大でありますために、再審に関する全面的法改正の機運はいまだ必ずしも熟したとは申されません。
そこで法の全面的改正をまつことなく、とりあえず、焦眉の急を告げている一部の死刑確定者に対してのみ期間を限って再審の門戸を広げようとするのが、この再審特例法案の趣旨でございます。もし幸いにして本法が制定法として成立いたしますならば、かねて無実を叫んできた七名の死刑確定囚が、本法の恩恵に浴することとなるのでありますが、これらの死刑囚のうちには、死刑確定後実に十数年にわたって刑を執行されないまま無実を叫び続けているという悲惨なケースもございまして、本法のもたらす人道的効果はまことに深くかつ大きいものがございましょう。
すでに述べましたように、本法はその適用対象を昭和二十年九月二日から昭和二十七年四月二十八日まで、すなわち占領下において起訴せられた死刑囚のみに限るわけでございますが、このような限定を施しました理由は、次に述べる三つの理由によって、これらの死刑囚については、一般的に見て特に誤判による冤罪の可能性が濃厚であると見られるからでございます。
第一に、これらの死刑囚は、終戦直後の混乱した社会情勢及び占領下という特殊の雰囲気のさなかで捜査訴追されたために、捜査の段階においてすでに冷静慎重を欠くものがあったばかりでなく、起訴及び公訴維持の段階におきましても、連合国に対する配慮や占領軍の政治的影響力により、手続の公正が一〇〇%保証されていたとは限りません。
第二に、これらの死刑囚は、旧刑訴時代もしくは新刑事訴訟法施行後日が浅くして訴追されましたため、捜査当局におきましても、いまだ人権軽視、自白偏重の弊習を抜け切れず、裁判官、弁護人においても人権擁護の手続の運用に習熟していなかったため、訴追、審判、及び弁護のそれぞれの面において、人権尊重上に完ぺきを期することができなかったうらみがございます。
第三に、これら死刑囚が訴追を受けましたのは、いずれも黒白相半ばして、決定的、物的証拠を欠く疑わしい事件でありまして、しかもそこにおける有罪証拠の主要な部分は、強制もしくは誘導によってつくられた自白であるといわれております。これら死刑囚の多くは、一審の公判以来強く無実を主張しており、中には数回にわたって再審を求めている例もございます。
右のような次第でありますので、もしも確定判決による法的安定性に固執して、これらの死刑囚に対して現行刑事訴訟法のきびしい再審規定、特に法第四百三十五条第六項の条文をそのまま適用いたしますなら、これらの死刑囚に対しては永久に雪冤の道を閉ざすことになり、ひいては新憲法の精神にそむくことになりかねないのであります。いまや世界の大勢は、人道と刑事政策の立場から、死刑廃止への一途をたどりつつあるのでございます。このような情勢のもとに、万一にも国家が誤判のために善良な一市民の生命を奪うようなことがありますなららば、これこそ日本民族にとって大い在る汚辱であり、世界の文明社会から激しい非難を受けることにもなりかね互いのであります。二十一世紀はもうすぐそこに近づいております。私どもはこの再審特例法を通過させずには、二十一世紀の文明社会への入場券を手にするわけにはいかないでしょう。
以上をもちまして、本法案の総体的な提案理由の説明を終わらせていただきます。
次に、この特例法案の趣旨を逐条的に御説明申し上げます。
第一条は、本法の適用対象を、占領下に起訴せられた未執行の死刑確定囚に限定する趣意であります。なぜ占領下に起訴せられた死刑囚に限って本法特典を与える必要があるかについては、すでに総論の部において御説明申し上げたとおりであります。適用範囲の制限にあたって公訴提起時を基準とし、確定時を基準としなかったのは、手続の遅速という偶然の事情に、特典の有無をかからしめる不合理を避けるためであります。
第二条は、いわゆる新証拠の発見による再審事由において、要求される証拠の証明度を緩和し、「明白な」証拠が発見されなくても「相当な」証拠の発見があれば再審を開始し得ることとしたものであります。これは英米法における実質的証拠主義を導入したものであり、新証拠が原判決に影響を及ぼすプロバピリテーが、一般的な裁判官の再考慮を実質的に促す程度に高度であることを要するが、その蓋然性が圧倒的に高いことまでは必要でないという趣旨であります。
第三条は、本法の適用を受けるべき死刑囚が、過去においてたまたま新証拠の発見を事由として再審を請求して棄却されたという一事により、法第四百四十七条等、同一理由による再度の再審請求禁止規定の適用を受け、あたら本法の恩恵をはばまれる結果となることを防ごうとした趣旨であります。
第四条は、本法によって再審請求をなし得る期間を、本法施行の日から一年以内と限定することによって、本法に限時法的性格を与え、それによって本法の施行による法的安定性の動揺を最少限度に食いとめ、なお、本法施行の日において古い再審請求事件が係属中であるような場合には、附則第三項の規定によりまして、「再審の請求を棄却する決定が確定した日又は当該再審の請求の取下げがあった日から一年内」に再審請求をすればよいこととなっております。
第五条は、いわゆる必要的刑執行停止の原則を導入し、手続進行中、再審請求死刑囚の生命の保全をはかろうとしたものであります。
第六条は、従来、原裁判所がややもすれば過去の判断に固執する傾向を有することにかんがみ、再審の請求に関する審判については、原審の管轄を奪い、フランス法における中央上級審(破毀院)集中主義を加味いたしまして、これを東京高等裁判所の専属管轄とする趣旨であります。
第七条は、いわゆる参審制度、審判手続にしろうと裁判官を参加させる方式を導入することによりまして、再審請求に関する審判手続に民主的色彩を加えようとするものであります。
第八条は、従来多くの再審請求が表面審理によりやみからやみへと葬り去られた苦い経験にかんがみ、口頭弁論主義を再審手続に導入し、これによって手続の公正を担保しようとするものであります。
第九条は、再審問題の決定に対する国の不利益不服申し立てを禁止しようとするものであります。これは法が不利益再審を禁じ、憲法が二重危険禁止の原則を取り入れていることの当然の帰結でありましょう。
第十条は、再審の請求を棄却する決定に対する異議の申し立てが棄却された場合における不服申し立ての手段として、著しく正義に反する重大な事実の誤認を理由とする特別抗告の道を新たに開こうとするものであります。これは再審がその本質上非常上告とは異なり、事実誤認を理由とするものであることにかんがみ、特別抗告の理由を憲法違反、判例違反に限定することは狭きに失し、正義に反するからにほかなりません。
第十一条は、旧法事件にかかる再審の請求が棄却された場合の不服申し立ての制度を、新法の手続に準じて整備拡充しようとするものであります。
第十二条は、再審開始決定が確定した場合において、東京高等裁判所は事件を原裁判所に移送すべきことを定めたものであります。
第十三条は、本法が刑事訴訟法(旧法事件については旧法及び応急措置法)に対して特例法の地位にあることを注意的に規定したものであります。
以上をもちまして再審特例法の提案理由の説明を終わります。繰り返して申し上げますが、この法案は、純粋な人道主義的動機から提案いたしたものでございます。
何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/36
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037・永田亮一
○永田委員長 御苦労さんでした。
次に、赤間法務大臣。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/37
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038・赤間文三
○赤間国務大臣 下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
この法律案の改正点の第一は、相川簡易裁判所の名称及び所在地を変更しようとすることであります。相川簡易裁判所の庁舎は、近年著しく老朽し、改築を要する時期となっておりますところ、その所在地である新潟県佐渡郡相川町は、同裁判所が管轄する佐渡の西端部に位しておりますため、この際他の適当表地に庁舎を新営することが検討されていたのであります。ところが、このほど佐渡のほぼ中央部に当たる佐渡郡佐和田町に適当な敷地が確保され、昭和四十三年度中に新庁舎の開設が可能となりましたので、相川簡易裁判所の所在地を変更し、これと同時に、その名称を佐渡簡易裁判所に改めようとするものであります。
改正点の第二は、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の別表の整理でありまして、市町村の廃置分合、名称変更等に伴い、簡易裁判所の管轄区域を定めております同法の別表に所要の整理を行なおうとするものであります。
以上が、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案の趣旨であります。
何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決くださいますようお願い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/38
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039・永田亮一
○永田委員長 これにて両法案の提案理由の説明は終わりました。
両法案に対する質疑は、後日に譲ることといたします。
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/39
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040・永田亮一
○永田委員長 次に、内閣提出、刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。
質疑の申し出がありますので、これを許します。松本善明君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/40
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041・松本善明
○松本(善)委員 刑事補償法の改正について、法務大臣に若干質問したいと思います。
本来、この刑事補償というような、起訴された者が無罪になって、そのために損害を受ける、こういうようなことがあってはならない。本来、起訴というものは、疑わしい者は起訴しないということで、いやしくも無実の者が長く裁判を受けるというようなことがないようにしなければならない。本来刑事補償というのは、もちろん法律としては必要ですけれども、こういうようなことが起こらないようにしなければならないものではないかと思いますが、法務大臣の見解を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/41
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042・赤間文三
○赤間国務大臣 こういうことがなるべく起こらぬようにやることにつきましては、あなたと同じ考えでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/42
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043・松本善明
○松本(善)委員 最近十五年間も問題になっておりました青梅事件が、無罪になりました。戦後の列車転覆事件といわれた大きなものが四つ、三鷹事件、松川事件、青梅事件、芦別事件とありまして、三鷹事件はなくなりました竹内氏を除いて全員無罪になり、松川、青梅、芦別、全部無罪になりました。こういうような戦後非常に騒がれた事件が全部無罪になった、こういうことについて、法務省としてはどういう責任といいますか、刑事補償と同じような意味においてどういう責任を感じ、どういうふうにしようとしておられるかという方針を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/43
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044・赤間文三
○赤間国務大臣 こういう事件につきましては、法務当局としましては、関係被告人の有罪を信じて事案の真相を解明するに全力を尽くしてきたのであります。このたび裁判所の最終の判断が確定するに至った以上、何人もこれを尊重すべきであるということについては申すまでもありません。この際、あらためてその捜査及び公判活動の全般を省みて、進んでこの判決から学ぶべきものを学び取り、将来検察の運営に資してまいりたい、かように私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/44
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045・松本善明
○松本(善)委員 青梅事件では十五年、松川事件も十五年かかっております。その青梅事件でも、裁判関係の費用だけで約一億円ということがいわれております。松川事件では二億円の国家賠償が提起をされて、いま争われております。いずれにいたしましても、拘禁抑留中以外の損害というものが、こういう場合に発生するわけであります。こういう刑事補償法で補償をされない被害については、法務省としてはどう考えているのか。これは被告が運が悪かったといって泣き寝入りをしなければいかぬ、こういうふうに考えているのか、それともやはりこういうことが起こった場合には、何らかの形で国家として補償しなくてはいかぬというふうに考えているのか、その根本的な考え方について、刑事補償法で補償されないものをどうするのかということについての考えをお伺いをいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/45
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046・伊藤栄樹
○伊藤説明員 御指摘の拘禁されない被告人で無罪になりました方に対する実質的な補償の問題につきましては、考え方が二通りあろうかと思います。一つは、刑事補償のワク内で何とか考えるという考え方、それからもう一つは、それ以外の方途が何かあり得るか、こういうことになろうかと存じます。
前者の刑事補償のワク内でやってはどうかという御意見、これは先般来当委員会等におきましても、一部の委員の方から御提案等もあるわけでございますが、これにつきましては、私どもといたしましても、かねてから検討を行なっておりまして、最高裁事務当局とも協議をして検討を続けておるわけでございます。もちろんまだ結論に達するには至っておりませんが、検討を進めておる段階でございます。
さて、その刑事補償のワクの外で何かないかということになりますと、当面わが国におきます法制からいたしますと、先ほど先生御指摘の国家賠償の問題になろうと思います。故意あるいは過失が捜査官それから裁判官あるいはその他刑事手続に関与しました者の間に認められます場合には、国家賠償として所定の賠償をいたすということになろうかと思います。
そこで、そのほかにどういう方法があり得るかというふうにお尋ねをいただきましても、現在の法制ではちょっと考えられる方法は考えにくいと言わざるを得ないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/46
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047・松本善明
○松本(善)委員 そこで、法務大臣にお聞きしたいのでありますが、法制上は確かにいま説明員の答えたとおりでありますが、この松川事件につきましても、法務省の考えでいけば、これは補償をすべきではない、国家賠償では補償をすべきでないということで法務省はいっておるのであります。もし法務省の考えどおりでいくならば、これは国家賠償の対象にはならぬということになる。そうすると、いずれにしても損害を受けているわけです。法務省の主張としては国家賠償の補償をすべきでない、しかし損害は残っている、こういうようなことというのは、起こり得るわけですね。そういう被害を受けた者が不幸だったんだということであきらめろ、泣き寝入りをしろということになるかどうかという問題なんです。これは何らかの形で、やはり矛盾だから、何とかしなくちゃいかぬのじゃないか、こういうふうに法務大臣は考えないかどうかということをお聞きしたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/47
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048・赤間文三
○赤間国務大臣 そういう方につきましては、まことに気の毒に考えます。しかしながら、やはり賠償というものは法律によらなければこれはなかなかむずかしいのではなかろうか、私はかように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/48
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049・松本善明
○松本(善)委員 この刑事補償についても、日弁連では抑留拘禁中以外の補償をしろというような意見も出、この委員会でも審議をされておりますが、それと同じように、現行法制以外でやはり考える必要はないかという問題なんです。この国家賠償の問題にいたしましても、いまは法務省側、国の側で故意、過失があった場合に損害賠償をするということになっておるのです。これは個々の事件を離れて、一般的に考えますと、相当やりにくいことであります、被害を受けたほうの側からいえば。この補償をほんとうに確実にするというようなことであれば、たとえば国家賠償でいいますならば、国家権力の側で故意、過失がないということを証明をしない限り、補償しなくちゃいかぬ、こういうふうにしていかないと、結局無実の罪で泣く人が非常に多くなるということになるのではないかと思います。そういうような場合に、国家賠償法の適用をもっと緩和をするというようなことについてもお考えはないかどうかということをお聞きしたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/49
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050・赤間文三
○赤間国務大臣 私は、いまのところ、そういう考えを持っておりません。ただ、私が裁判についてこの賠償と最も関係の深いことを考えまするのは、裁判が迅速に行なわれるということが非常に重要なことであると私は考えます。一つの裁判が非常に長くかかるために、いろいろな迷惑があらゆる面にあらわれてくる。われわれとしましては、裁判が迅速に行なわれるということが、こういう方面において最もわれわれの研究せにゃならぬことではないか、かように考えております。また、研究し、あまり長くかからぬような方向に努力をしていきたい、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/50
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051・松本善明
○松本(善)委員 裁判が早くいくことは大いにけっこうでありますが、たとえば松川事件にいたしましても、検察側が上告いたしまして、結局最高裁で二回やるというようなこともあるわけです。問題は、先ほど来申しましたように、国家賠償でも補償されない、刑事補償の範囲にも入らない、こういう損害について、いま法務大臣は、私は国家賠償について変える考えはないと言うけれども、その損害というのは、結局被害を受けた者は不幸だったのだ、運が悪かったのだ、泣き寝入りをしなさいという結果になるわけです、現在では。それもまたやむを得ない、こういう考えで法務大臣はおられるのかということをお聞きしたいわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/51
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052・赤間文三
○赤間国務大臣 非常に同情は申し上げますが、現在の法制ではしようがない、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/52
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053・松本善明
○松本(善)委員 それではほかのことでちょっとお聞きしますが、この刑事補償の金額にいたしましても、今度の改正案は日額にして六百円から千三百円ということであります。これは月にいたしますと、概算一万八千円から三万九千円ですね。これは拘禁された者の補償といたしましても――現在三万九千円以上の収入の人というのは、非常にたくさんあると思うのです。拘禁をされた場合の補償としても、これはもちろんきわめて少ないものであります。そうすると、国家権力が間違って起訴をしたけれども、やはり無罪になってしまった。本来、先ほど来一番最初に法務大臣が言われたように、あってはならぬことであります、こういうことはなるべくないようにしなければならぬ問題だ、そういう問題で受けた被害が、拘禁中の場合でも補償されないのです。現行法制では、いま法務大臣が言われたとおり、確かにそれ以上にないのです。しかし、ここでは立法の問題としてわれわれは論議をしておるわけであります。法務大臣として、やはりそういうものは完全に補償をされるようにしていくというふうに考えるのが当然ではないかと思いますが、これは現行法制のままでやむを得ない、こういう意向をいま表明されたのかどうかということをお聞きしたいわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/53
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054・赤間文三
○赤間国務大臣 ただこれだけを私はどうとかこうとか言うよりも、やはり国家賠償なりいろいろな問題については、バランスがいろいろな点においてとれておるということが、われわれの一番心得べきことに考えております。たとえば他の公害の問題あたりも、やはりバランスがとれていなければならぬ、それから社会福祉の措置、こういうものともやはりバランスがとれておらなければならぬ。こういうものとのバランスも十分研究をして、なおまた国家財政等もあわせて参考にしてきめるべきものである、かように私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/54
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055・松本善明
○松本(善)委員 バランスでありますとか、それから国家財政とかいう話は、一応説明としてはわかります。けれども、本来の考え方として、検察庁が起訴をした、しかし無罪になった、そしてその受けた被害というものが国民にある、国家権力で与えた被害があるという場合に、これはやはり完全に補償されるという方向にいくべきではないか。現実にいまいろいろいかない事情があるという話は先ほどちょっとされたわけですけれども、基本的な方向として、それは完全に補償されるという方向にならなければならないのじゃないか、この考え方をお聞きしたいわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/55
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056・伊藤栄樹
○伊藤説明員 およそ裁判で被告人になりまして有形無形のいろいろな損害を受けられた方、その結果無罪になった、こういう方々に対してどんな補償をしたらいいかということにつきましては、先ほどもちょっと申し上げましたが、また別個の観点でその方法を考えてみますと考えられます一つは、先生御指摘のように、およそ実際に生じた損害を一銭一厘の端まで計算をいたしまして、全部補償してあげるという考え方であります。しかしながら、こういう考えをしてまいりますと、いま大臣が答弁されましたように、国家の諸般の福祉施策あるいは公害対策、そういうものとの関連においてバランスをどの辺でとるのが適当かというのが、一つの問題になってくるであろう。
それからもう一つの方法としては、もう当該官憲に故意があったとか過失があったとかそういうことを言わないで、客観的に無罪になった方には、拘禁中お気の毒であったということで一律にとにかく補償を差し上げようという考え方があろうかと思います。現在の刑事補償法は、後者の考え方に立っております。そこで取り扱いました官憲の、あるいは当局の故意、過失を全く要件といたしませんかわりに、数額的には定型化しておる。一日の拘禁に対して御指摘のように六百円から千三百円に今度改正されればなるわけでございますが、定型化しておる。そういうことにいたしまして、故意、過失を論じない、そして補償の請求があれば、裁判所がその範囲内ですみやかに決定をして、すみやかに補償をしてあげるということでやっておるわけでございます。現在のところ、後者の、すなわち現行刑事補償法のようなやり方が、一応相当なものであるという判断に基づいておるわけでございまして、先ほど来大臣が答弁しておられます趣旨も、そこから出ておるというふうに御理解願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/56
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057・松本善明
○松本(善)委員 たとえば青梅事件の場合で言いますならば、この拘禁中に気が狂ってしまったという人があります。週刊誌あたりにも非常に大きくいろいろ取り上げられ始めておるのですけれども、気が狂って――人の名前を申しますと、岩井金太郎という人は気が狂ってしまったわけです。それからその妹さんまで気が狂ってしまったわけです。本人だけでなくて、家族に至るまで気が狂ってしまう、こういう被害が実際に起こっておるのです。こういうような問題が、いまの御説明でいけば、いろいろバランスの問題なんだ、現状では泣き寝入りをしてもらわなければならぬ問題があるのだ、確かに全体は完全に補償されてないけれども、バランス上やむを得ないのだ、結論的にいえばこういうことになりますか。要するに、確かに被害を受けておる人がおる、拘禁中のものでも低い、あるけれども、全体のバランスでいえば、いまでもがまんをしてもらわなければしようがないのだ、こういう結論になるんでしょうか。これは大臣にお聞きしたいのです。これは政策上の問題だと思います。それを基本的に完全に補償するという方向でいくのか、それともこれはもうやむを得ないのだ、そういう被害を受けた人が現状ではがまんをしてもらうよりしようがない、泣き寝入りしてください、そういう方向でいくのか、刑事政策上の問題、その点についての大臣のお考え方をお聞きしたいと思うわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/57
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058・赤間文三
○赤間国務大臣 とにかく、さきに申し上げましたように、故意とか過失とかいうことを論ぜず、一律に千三百円なら千三百円ときめるという政策をとっておるので、故意があったとか過失があったとか、個々別々にそういうことをやらぬで、一律の方針を私は刑事政策上においてとりたいというように考えておる。ただ、やはりそういうお述べになりましたようなものは実に気の毒な至りであるということは、もうこれは申し上げるまでもなく、非常に気の毒に思います。われわれのやる仕事は、やはり法律、規則に基づいて公平にやるということも、また考えなければならない。個々別々のものを全部そのものに合うように、たとえば収入でもそのものが働けばという千差万別、ことごとく違うものを違うような処置をとるということは、あるいは合理的かもしれませんが、実際の運用においては私は困難な場合があるんではなかろうか、そういう点からいたして、故意、過失を論ぜず、一様の方策をとっておる、かように私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/58
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059・松本善明
○松本(善)委員 法務大臣、おわかりのことと思いますけれども、あらためて申し上げたいと思うのは、故意、過失を論じないで支給されるものは、非常に限られておるわけです。拘禁中の場合で、しかも今度の改正案でも千三百円ということになると、これはもっとたくさんの収入のある人というような場合には、これは補償されないわけです。それからいま病気になった問題だとか、あるいは拘禁を解かれたあとの問題だとか、そういうことは補償されないでおるわけです。この問題をいま私は申し上げておるわけです。もちろん、裁判官でありますとかがやる場合には、現行法制の中でやる以外にはありません。しかし、ここで立法上の問題としてわれわれ論議をしておるので、全体としての方向は完全に補償するという方向にいかなくちゃいかぬのじゃないか、われわれ目ざす方向はそういうことじゃないか、こういうことを伺っておるのですが、そういうことを目ざすというのは間違っておるということになるのかどうか、ここをお聞きしたいわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/59
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060・赤間文三
○赤間国務大臣 やはり公平で可能なということをわれわれは考えなければいけないと思う。各人みんな収入が違うから、その収入を測定して収入どおりやるということが、理論上においては正しいかもしれませんけれども、やはり私は公平に、しかも可能であるということが、一つの行政のもとをなすものと思う。そういう意味からいたしまして、将来の立法論については、これは各人各様
いろいろお考えがあると思います。現行の法律、規則の範囲内において処置せられるよりほかには方法がないのじゃないか、かように考えております。ただ、将来の理想ということになれば、各人各様いろいろな理想があるだろう、かように私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/60
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061・松本善明
○松本(善)委員 私たちの議員の中の立法論についてだけであれば、法務大臣にこれをお聞きする必要はないわけであります。可能ということになりますと、結局いまの経済上の問題があるので、いまむずかしい、しかしそういう方向に行くのがいいんだということを前提にした議論のように思うわけで、そういうふうに伺っていいのかどうかということなんです。その点まずお聞きしたいと思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/61
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062・赤間文三
○赤間国務大臣 そういう点は、十分重要なことでありますから、さきに言いましたバランスの問題もありましょうし、国家財政の問題もありましょうし、いろいろな人の意見も総合して取り入れなければなりませず、私は私個人の意見をここで申し上げることは差し控えたいと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/62
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063・松本善明
○松本(善)委員 そうすると、きょうは十分その問題についての法務大臣のお考えとしては固まっていないということのようでございますから、詳しくこれ以上は申し上げませんけれども、将来この審議はまだ続きますので、別の機会にあらためてこの刑事補償、国家賠償全体について、戦後あれだけ大きな事件がみんな無罪になったこの際、あらためて考えて質疑をしたいと思います。
その問題とちょっと離れまして、ついでにもう一つお聞きしておきたいのは、いま申しました青梅事件の岩井君というのと石田君というもう一人、二人が病気になりまして、これは公判手続が停止になっております。この二人はまだ無罪になっていないわけです。一審でそのままになっている。ほかの人は全部無罪になったわけでありますので、これは当然に公訴を取り消さなければならないというふうに思うのですけれども、これについて法務省のお考えをお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/63
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064・赤間文三
○赤間国務大臣 病気のために公判停止中の者が二人いることは、いまお述べになったとおりであります。この他の被告人に対して無罪の判決が確定した現在、右の二名に対しどのような態度をとるべきかということは、検察当局においていま検討中であると私ども聞いております。まだその結果は報告を受けておりません。右の二名に対しましては、将来無罪あるいは公訴棄却等の裁判があれば、刑事補償法に基づく補償が行なわれることになると、私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/64
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065・松本善明
○松本(善)委員 そうすると、あるいは法務大臣の手元に報告が来てないのかもしれませんが、公訴を取り消すという方向での検討ではなくて、裁判所に公訴棄却ないしは無罪判決を待つ、こういう方針で法務省はいるというふうに伺ってよろしいでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/65
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066・赤間文三
○赤間国務大臣 そういう個々の問題は、法務省で一々どうせいとかこうせいとかいうような指示をいたしませんで、検察当局にまかせております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/66
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067・松本善明
○松本(善)委員 そうすると、結局まだ検察庁のほうでどうするかということの報告は法務省に来てない、こういうふうに伺っていいわけですね。――それでは、先ほど来申しました刑事補償法、それから国家賠償法についての根本的な考え方の問題についての質問を後日に留保いたしまして、きょうの質問はこれで終わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/67
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068・永田亮一
○永田委員長 次回は、明後日十八日午前十時より理事会、理事会散会後委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後零時二十四分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02119680416/68
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