1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和四十三年四月十八日(木曜日)
午前十時三十九分開議
出席委員
委員長 永田 亮一君
理事 大竹 太郎君 理事 田中伊三次君
理事 高橋 英吉君 理事 猪俣 浩三君
鍛冶 良作君 佐藤 孝行君
瀬戸山三男君 田中 角榮君
千葉 三郎君 中馬 辰猪君
中村 梅吉君 葉梨 信行君
馬場 元治君 成田 知巳君
山田 太郎君
出席政府委員
法務政務次官 進藤 一馬君
委員外の出席者
法務省刑事局総
務課長 伊藤 栄樹君
最高裁判所事務
総局刑事局長 佐藤 千速君
専 門 員 福山 忠義君
—————————————
四月十八日
委員綱島正興君、山手滿男君及び鈴切康雄君辞
任につき、その補欠として葉梨信行君、佐藤孝
行君及び山田太郎君が議長の指名で委員に選任
された。
同日
委員佐藤孝行君及び葉梨信行君辞任につき、そ
の補欠として山手滿男君及び綱島正興君が議長
の指名で委員に選任された。
—————————————
本日の会議に付した案件
刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提出
第九三号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/0
-
001・永田亮一
○永田委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。
質疑の申し出がありますので、これを許します。大竹太郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/1
-
002・大竹太郎
○大竹委員 刑事補償法の改正は補償金額の引き上げにあるわけでありますが、提案理由の説明を見ますと、「最近における経済事情等にかんがみ、」云々と、こうなっておるのでありますが、具体的にこの数字を見ますと、「四百円以上千円以下」を「六百円以上千三百円以下」というふうに改正し、また「百万円」を「三百万円」に死刑の場合においては改正するわけでありますが、これをこまかく見ますと、四百円を六百円ですから、これは五〇%引き上げている、千円を千三百円にしておることは、これは三〇%だけ引き上げている、百万円を三百万円ということになると、これは三倍に引き上げているというわけでありまして、それぞれこれも経済的事情、主として物価の上昇その他を言っておるのだろうと思いますけれども、こういうように、それぞれの金額を具体的に見ますと、相当差がある、はなはだしい差があると言ってもよろしいと思うのでありますが、これらについて何か具体的な根拠があったら、御説明をいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/2
-
003・伊藤栄樹
○伊藤説明員 御承知のように、刑事補償におきまして、死刑の場合をあと回しにいたしまして、抑留、拘禁に対する補償をまず申し上げますと、現行では昭和三十九年以来、一日四百円以上千円以下ということにされておるわけでございます。これは昭和三十九年の改正によりまして、それまで二百円以上四百円以下とされておりましたものをこのように改めていただいたわけでございます。当時のいきさつを見てみますと、本法が制定されました昭和二十五年当時に比べまして、昭和三十九年におきましては、賃金、物価の平均が約二倍になっておった。それからまた、そもそもこの法律ができますときに、基準日額を決定します際に、参考資料の一つとなりました刑事訴訟におきます際の日当の額が、昭和三十七年に千円に引き上げられておった。それらのことを考慮されまして、現行の四百円から千円という線が出てきたものでございます。ところで、一体刑事補償をいたします場合の基準日額というものは、必ずしも経済事情の変動に応じて引き上げなければならぬというものではないと言えると思います。しかしながら、何と申しましても金額に見積もって補償するわけでございますので、その後の経済の変動等を見ますと、この際ただいま申し上げました四百円ないし千円という額を引き上げまして、いわゆる冤罪者に対する補償の改善をはかる必要があろうということで、この改正案をお願いすることになったわけでございます。試みに昭和三十九年、前回の改正以後におきます賃金あるいは物価の変動を見てみますと、お手元に差し上げております参考資料、表題が「刑事補償法の一部改正に関する参考資料」でございますが、それを開いていただきました第一表にございますように、まず賃金について見ますと、昭和三十九年を一〇〇といたしまして、それぞれこの表にございますように一三六・二、一三一・七というような数値が出てまいります。さらに物価指数を見ますと、やはりここにございますように、それぞれ一〇五・一、一一六・九、一一〇・八、こんな数字が出てまいります。そこで、その下のワクの中に記載いたしましたように、賃金の平均指数、それと物価の平均指数を加えまして、これを二で割ります。そういう操作をいたしてみますと、一二二・五という数値が出てくるわけでございます。すなわち一般的に申しまして、経済変動の推移は三十九年を一〇〇といたしまして、昭和四十二年、昨年までの資料によりますと、一二二・五になっておるというようなことが感得できるわけでございます。これらを勘案いたしますと、この際経済変動等をも考慮して補償日額を改めるとすれば、一応千三百円が相当ではないかということが、まず考えられたわけでございます。このように上限を引き上げますに伴いまして、下限も引き上げる必要があろうということでございます。ただいま御説明申しましたようにして出ました千三百円という数字を見ますと、いわゆる千円に対して三割増しという形になるわけでございます。そこで試みに下限でございます四百円を三割増しにいたしてみますと、計算上五百二十円ということになる。しかしながら、五百二十円以上千三百円以下というような法律の定め方というものがたいへん常識的でないということは、御説明申し上げるまでもないと思います。それらを達観いたしまして、ただいま提出いたしました法案にありますように「六百円以上千三百円以下」、こういうふうにさしていただいたわけであります。
次に、死刑の関係について御説明申し上げますが、現在死刑の執行によります補償は、現行法では百万円以内で裁判所が相当と認める額の補償金を交付する。ただし、本人がなくなられたことによって生じました積極、消極の財産上の損害が証明されました場合には、その証明された損失額に百万円をプラスした範囲内で裁判所が補償金額を定める、こういうことにされているわけでございます。ところで、この財産上の損失額が証明されました場合には、これを踏んまえて、これに百万円をプラスして差し上げるというところから見ますと、この百万円という金額はいわゆる精神的な苦痛に対する慰謝料であるという性質を持っているものと考えられるわけでございます。さて、この金額はこれも御承知のとおり、この法律ができましたときには五十万円でございましたのが、昭和三十九年、前回の改正におきまして百万円に引き上げられたのでございます。その際の国会におきます御審議の経過を見ましても、なぜ五十万円でなければならないか、あるいはなぜ百万円に引き上げなければならないかという計数的な根拠は、率直に申し上げましてあまりなかったようでございます。もっぱらこの程度が相当であろうという常識的な判断によって決定されたというふうに考えられるのでございます。ところで、この百万円という額は、ただいま申し上げますように昭和三十九年に定められたものでございまして、今回の身体の拘束によります補償が引き上げられるということになりますと、死刑の執行によります補償の基準金額もまあ引き上げることが相当であろうと考えられるわけでございまして、最近のたとえば交通事故によります死亡を理由といたします損害賠償事件が各地で民事訴訟として起きておりますが、そんな事件におきます慰謝料、精神的な苦痛に対する慰謝料の額がおおむね三百万円以下の程度で認められておるというような点を勘案いたしまして、一応常識的に見まして三百万円とするのが相当であろうというふうに考えたわけでございます。なお、そういった考慮の中には、たとえばいわゆる自賠法におきます賠償金額が現在三百万円とされておるというようなことも、考慮の中に入れられておるわけでございます。以上のような次第で、百万円を死刑の場合につきましては三百万円に引き上げるというふうに考えたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/3
-
004・大竹太郎
○大竹委員 次にお伺いしたいと思いますが、最近における身柄拘束事案で、無罪の確定した人員と補償請求をした人員とのそれぞれ数字はどんなふうになっておりますか。この資料の中にはちょっとあるようでありますが、無罪確定人員のほうはどうもはっきりしていないような気がするのでありますが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/4
-
005・伊藤栄樹
○伊藤説明員 ただいま御指摘の、最近におきます無罪確定人員、それからこのうちの刑事補償の請求をしました人員等を御説明申し上げます。
昭和三十七年から昭和四十一年までの五年間、最も新しい統計が四十一年まででございますので、この五年間をとってみますと、無罪の確定しました人員は、年度によりまして多少の異同はございますが、おおむね一年間に四百人ないし五百人程度でございます。これに対しまして補償を請求いたしました人員は、五年間の平均を見ますと、七十六人でございます。したがいまして、単純に無罪の確定をしました人員に対する補償請求をしました人員をパーセンテージで出してみますと、一七・二%ということになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/5
-
006・大竹太郎
○大竹委員 この四百ないし五百というのは、無罪確定といいましても、身柄の拘束がなかった者は現在の法律では請求権がないわけでありますが、この四百ないし五百というのは、補償の請求をすればし得る無罪という意味ですか。それとも全体の無罪ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/6
-
007・佐藤千速
○佐藤最高裁判所長官代理者 ただいまの御質問の無罪確定という中には、身柄不拘束の者も含まれております。そこで、それでは無罪確定人員の中で未決の抑留、拘禁等身柄を拘束された上無罪になった者はどのくらいあるかということになるかと思いまするが、実態調査を一部いたしましたことに基づきまして推測いたしますると、拘束を受けていた人のパーセンテージは、二六、七%程度と思われます。したがいまして、不拘束の方の方が多いということでございます。
そこで、身柄を拘束されたという人が請求権があるわけでございまするから、その者がはたしてどのくらい請求しておるかということが次に問題になろうかと思いまするが、これを見ますると、約六五%が刑事補償の請求をいたしております。約六五%でございます。
さらに、それに対して補償はどのくらい行なわておるかという御質問があろうかと思いますので、この機会に申し上げさせていただきますると、補償を与えられた者は九五%、かようになっております。しかしながら、補償の請求をしない者もあり得るわけでございます。請求した者が六五%でございまするから。
それはなぜしないかという御疑問が当然出てくるかと思いまするので、この点についても付加して説明させていただきまするが、これも実態調査をしてみますると、心神喪失、責任無能力ということで無罪になる被告人も相当おるわけでございます。これは本法の施行後、昭和四十二年、昨年末までに調査いたしました私どもの知り得たところでは、そういう責任能力ということで無罪になって補償請求された事例が三件くらいにとどまりまして、おおむねしていないのではないか。この責任無能力ということで無罪になった場合のパーセンテージはしからばどのくらいかということを見ますると、無罪裁判の約一八%くらいがそれに当たるようでございます。こういう方については、補償の請求はあまりされないということがうかがわれるのでございます。
それからもう一つは、抑留、拘禁日数がごく短ったというような場合に、無罪裁判がありましても請求されない場合があるのではないかというふうに推測されるのでございまするが、これは推測の域を出ません。十五日以内勾留された、身柄の拘束を受けたという人について見ますると、それが約四〇くらいになります。もちろん十五日以内であるから請求しないというわけではないようでございまするが、比較的拘束の期間が短いという方にあっては、あえて請求までされないということもあるのではなかろうか、かように推測いたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/7
-
008・大竹太郎
○大竹委員 この請求すればし得る人間のうちの六五%しか、請求がいままでの統計ではされていないということについて御説明がございましたが、その中で、特に勾留の期間の短い人、したがって金額も少ない人が請求をしないという御説明で思い出したのでありますが、この間の参考人の御意見の中で、たしか大野弁護士だったと思うのであります。現在の補償請求の手続が非常にめんどうくさい、そして総体的に金額が少ないというようなことが、一口に言えばめんどくさいとでも申しますか、というようなことでとかく請求をしない人が多い、そこを何ぼか改善するべきじゃないかというような御意見があったのでありますが、そういたしますと、いまの比較的勾留期間の短い人は請求しないというようなこととあわせ考えまして、大野弁護士の御意見も当たっている点もあるというふうに考えられるのでありますが、それらについてどうお考えになっておるか、お伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/8
-
009・佐藤千速
○佐藤最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたのは、比較的短い抑留、拘禁の方が多い、相当あると申し上げましたが、それらの方が請求していないというふうに申し上げた趣旨ではございませんで、請求の事例はもちろん相当あるわけでございます。現在では、ほとんどの刑事被告人につきまして私選なり官選なりの弁護人がついております。約九二%は弁護人がついておる被告でございます。したがいまして、その点は弁護人の補佐ということで、まず第一義的に被告人のことを考えるべきお立場の弁護人というもののアドバイスによって行なうということは、期待されていいかと思います。
それから次に請求の手続でございますが、補償の請求をするにつきましては、請求の趣旨と簡単な理由を記載いたしました請求書を裁判所に提出をすれば足りるということになっておるわけでございまして、そして拘束の日数が幾日であったかというようなことは、裁判所記録に基づきましてこれを見るわけでございまして、手続が煩瑣なため請求が少ないというようなことはないのではなかろうかと、私は考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/9
-
010・大竹太郎
○大竹委員 次に、いままでは四百円以上千円以下ということになっておるのでありますが、この四百円以上千円以下という規定のもとで、最近における一日の補償金額の平均とでも申しますか、大体裁判所の決定はどのくらいになっておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/10
-
011・佐藤千速
○佐藤最高裁判所長官代理者 これも支給の状況でございますので裁判所から答えさせていただきますが、昭和三十九年の改正、つまり四百円から千円になったときの改正以降の一人当たりの平均金額は十万六千五百二十三円、こうなりまして、一日当たりの平均金額は七百五円でございます。ところで、この一日当たりの補償金額でございまするが、改正が行なわれました昭和三十九年には七百円以下というものが過半数であったのでございますが、その後逐次年を重ねるに従いまして高額支給ということに相なりまして、昭和四十二年において見ますると、その半数が最高額でございますところの千円によりまして、千円の補償を受ける、こういう実情になっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/11
-
012・大竹太郎
○大竹委員 そういたしますと、今度は六百円から千三百円ということになって予算の請求その他もしておられると思うのですが、この積算の基礎はどういうようにしておられますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/12
-
013・佐藤千速
○佐藤最高裁判所長官代理者 これは従前の取り扱いを申し上げますと、従前の支給実績というものに、事件が伸びる傾向がございますれば、その伸び率をかけるというようなことで事件数の割り出しをいたしまして、今回の増額の案、これは約四割アップということでございまするので、それをかけまして予算額を出しているということでございます。それで額を申し上げますると、この案に対しまするところの予算上の措置といたしましては、六百二十一万六千円ということに相なっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/13
-
014・大竹太郎
○大竹委員 次に、死刑のことについて若干お聞きしたいのですが、まず第一に、この死刑の執行によって補償の適用された事例がいままであったのですか、ないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/14
-
015・伊藤栄樹
○伊藤説明員 現在まで全くございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/15
-
016・大竹太郎
○大竹委員 そういたしますと、これはあまり議論するということは実益のない問題だというようなことにもなりかねないわけでありますが、まあ条文の上のことでございますのでお聞きしたいと思いますが、まず第四条三項のただし書きの中の「補償金の額は、その損失額に百万円を加算した額の範囲内とする。」こうなっておるのでありますが、この範囲内とするということは、範囲内で裁判所が適当と認める額を加算する、こういう意味に読んでよろしいのですか、どうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/16
-
017・伊藤栄樹
○伊藤説明員 ただいま御指摘の刑事補償法第四条第三項をそのまま文意に即して読んでまいりますと、たとえば死刑の執行によって生じました財産上の損失額が五百万円であったと仮定いたします。そういたしますと、現行法のもとでは、これに百万円を加算した六百万円の範囲内で裁判所が決定できる。すなわち一万円にも決定できるのではないか、あるいは百万円にも決定できるのではないか、そういう読み方が一応できるような形になっております。しかしながら、現に本人の死亡によって生じました財産上の損失額が証明されておるわけでございますので、法律の精神から申しまして、当然具体的な補償金額は、証明されました損失額を下るわけにはまいらない、こういうふうに解釈すべきである。また、現にそのように解釈されておるでございます。すなわち、ただいまの例で申しますと、五百万円と六百万円の間できめるべきだ、こういうふうに解釈されておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/17
-
018・大竹太郎
○大竹委員 いや、私はそういう意味の質問ではないので、補償額はその損失額に百万円を加算した範囲内とする、こうなっているでしょう。これを決定するのは、裁判所がその範囲内で決定するという趣旨に解釈してよろしいかというのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/18
-
019・伊藤栄樹
○伊藤説明員 そのとおりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/19
-
020・大竹太郎
○大竹委員 それではこの条文について多少お聞きしたいのでありますが、先ほどもちょっと御説明になったと思うのでありますが、最初の百万円についてはいわゆる慰謝料であって、今度は三百万円になるわけでありますが、次の三百万円については財産上の損害である、こういうお話であります。そういたしますと、精神上の損害だけということになると、いわゆる差異をつけるような、「以内」ということがある意味においておかしくなるのじゃないか。それから拘束の場合においては、いろいろな精神上の損害もあわせて具体的な損害、または得べかりし利益の喪失とか、その他条文を見ますと、いわゆる民事法なんかの損害賠償の場合におけるあらゆる条件が入っているわけでありますが、死刑の場合においてはいわゆる慰謝料だ、こういう先ほども御説明があったかと思いますが、そういたしますと、これはもちろん民事上の裁判における慰謝料と範囲が同じ額ということはあり得ないのでありますが、その標準というようなものはどこに置かれますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/20
-
021・伊藤栄樹
○伊藤説明員 御指摘のように、拘禁についての補償の場合におきましては、第四条の第二項で裁判所が金額を定める場合にこういうことを考慮しろということがいろいろ書いてあります。それを見ますと、当然の帰結として、この補償金については、財産上の損害も精神的な損害も、それらをひっくるめて定型的に一定金額を給付するということがわかるわけでございます。これに対しまして、死刑の執行におきます百万円、四条三項の本文の百万円あるいはただし書きにおきます加算額の百万円、これらは、その次の第四項に、これをきめるときにはこういうことを裁判所は考慮しろと書いてありますのを見てまいりますと、やはり慰謝料の性格が非常に強いものであるということが言われるわけでございます。
さて、それではどういう標準で慰謝料的なその額をきめるかと申しますと、ただいま申しました第四項にございます本人の年齢、健康状態、収入能力、その他の事情を考慮して定めることとされております。これらを考慮しまして裁判所が健全な常識でおきめになるものであろう、こうお答えせざるを得ないと思いますが、現実の運用としては、かようなことはあってはならないことでございますが、不幸にしてございましたような場合には、おそらく最高額あるいはそれに近いところで額が決定されるのではないか、かように思うわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/21
-
022・大竹太郎
○大竹委員 それにいたしましても、身柄拘束の場合は下限がきまっておるわけでありますが、死刑については上限しかないわけですが、これについては何か特別な理由がありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/22
-
023・伊藤栄樹
○伊藤説明員 ただいまも申し上げましたように、死刑の場合の補償金は慰謝料的な性格を持っおりますので、したがいまして、一体どの程度の額が適当であるかということをきめるのは、もともと非常に困難なものであろうと思うわけでございますが、結局、刑事補償制度の精神に立脚して、もっぱらこの程度が適当ではないかという常識的な判断によりまして、現行法で百万円、改正法は三百万円ということになるわけでございます。したがいまして、この金額に下限を設けるといたしましても一体幾らが下限であればいいかという基準は、きわめて明らかではございません。また、かりに下限を設けるといたしますと、かえってそれが死刑の執行による慰謝として一応必要かつ相当な金額ではないかというような誤解も生じはしないかということが危惧されるのでございます。そのような不必要なおそれを避ける意味におきましても、下限を設けることは適当でないのではないか、かように考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/23
-
024・大竹太郎
○大竹委員 それではあわせてお聞きしておきたいのでありますが、これはもちろん法律ではございませんけれども、いわゆる起訴前の被疑者の補償規定でありますが、これによりますと、たしか下限を設けてなくて、上限が千円以下ということになっておるのでありますが、いまの理論からいいますとそれが問題であることと、それからこれはやはり刑事補償法が改正になると同時に改正するべきものだと思いますが、法務省としてそういうことを考えていらっしゃるのかどうか、あわせてお聞きしたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/24
-
025・伊藤栄樹
○伊藤説明員 御指摘のように、捜査の過程におきまして身柄を拘束されたが結局起訴に至らなかった者の中で、罪を犯さなかったと認めるに足る十分な事由がある者につきましては、法務大臣訓令によりまして被疑者補償ということを行なっておるわけでございます。御指摘のとおり、現在一日につきまして千円以下の割合で補償金を交付するということにいたしておりますが、この場合下限を切っておりませんのは、もともと被疑者補償につきましては、補償するかどうかということを検察官の裁量にゆだねまして、なるべく弾力性のある円滑な運用をはかっていきたいということを考えておりますので、特にこの分につきましては下限を切り上げるというような特別の必要はないのではないか。いわば検察官の健全な裁量によりまして円滑に運用していけばいいのではないかということで、下限が設けられておらないわけでございます。現実の運用を見てみましても、昭和四十一年度におきまして、被疑者補償をいたしましたものを見ますと、一日当たり九百四十円という額で補償いたしております。また、昭和四十二年におきましてはすべて千円で補償をいたしておるわけでございまして、結果的ではございますが、適正な運用が額の点におきましてはされておるのではないかと思います。なお、今回御審議の結果、刑事補償における日額が千三百円を上限とするというふうに改められましたならば、これにならいまして、被疑者補償の規定も同時に上限を千三百円に引き上げたい、かように考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/25
-
026・大竹太郎
○大竹委員 最後にお聞きしたいのでありますが、この間の参考人にもいろいろその点をお聞きしたのでありますし、また社会党のほうからもやがて改正案が今国会に出されるかもしれないのでありますが、身柄を拘束しない者についても、金額その他の点は別問題として、何とか国家としてしかるべき補償の道を講ずべきではないかという意見があるわけであります。これは弁護士会のほうでも考えていらっしゃるようでありますが、この間、参考人の弁護士の大野さんは積極的な御意見だったのですが、ほかの大学の先生方もある程度これに賛意を表されたことがあったやにお伺いしたわけでありますが、法務省といたしましては、これについていままでお考えになったことがあるか、また今回の社会党の意見、またはこの間の参考人の意見等を十分徴して、現在何かお考えになっておるかどうか、お聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/26
-
027・伊藤栄樹
○伊藤説明員 前回の三人の参考人の方の仰せになりましたことを私も伺っておったわけでありますが、現在問題になっておりますのは、一般的な非拘禁者に対する補償、それから無罪になった人に対する費用の補償という二つのことが問題になっておるようでございますが、私伺っておりまして、前者の点については必ずしも皆さん一致してこの時点でやるべきだということではなかったと存じますが、後者の費用補償の点については、相当積極的な御意見が出ておったように伺ったわけでありますが、この際、私どもとして非拘禁者補償、さらには費用補償について考えておりますことを、御説明させていただきたいと思います。
先生御指摘の非拘禁者に対する補償、費用補償の問題につきましては、かねてから私ども検討を行なっておりまして、その間最高裁の事務総局とも協議を重ねておるわけであります。しかしながら、非拘禁者補償一般につきましては、次のようないろいろな問題点があるわけでございます。
その一つは、刑事訴訟法におきましては、被告人は有罪判決があるまで無罪の推定を受けるとされておるのでございまして、身体の拘束を受けている場合を別といたしますと、被告人が訴追されたことによって特別の不利益をこうむらせないようにするというたてまえが貫かれておるのでございます。そこで、刑事手続によって無罪の裁判を受けた者に対して、無罪の裁判を受けたというだけの理由で一律に補償を行なうということは、ただいま申します無罪の推定とどういう関係になるか、現行の刑事訴訟手続の基本的な考え方とどういう関係になるかという理論的な問題を、まず慎重に検討、解決しなければならぬのではないかと思っております。
それから第二に、刑事補償は国に無過失責任を認めた特別の制度でございます。諸外国の立法例を見ても、刑事補償制度を設けている国自体もそれほど多くないのでありますが、制度を設けておりますものも、そのほとんどが補償の範囲を身体拘束に対する補償に限っております。一方、国内法を見てみましても、刑事補償は、国の公権力の行使によって国民に損害を与えた場合の国家補償の一種であるというふうに考えられるわけでございますが、たとえば、国民の権利義務に重大な関係がございます海難審判、あるいは特許の審判、さらには許認可の取り消し、こういった行政処分によって国民に不当な損害をこうむらせました場合につきましても、直ちに国が損失を補償するというような制度が設けられておらないわけでございまして、公務員に故意、過失がある場合に限って国家賠償が認められておるわけでございます。これらの諸外国の立法実例の状況、あるいは国内における他の行政分野におけるバランス、こういうものを考えてみますと、起訴がおよそ適法に行なわれました事件につきまして、裁判の結果無罪になったというだけの理由で、直ちに当該公務員の故意、過失を問題にしないで国が補償するということにいたしますのは、これらの場合に比して権衡を失するおそれがないか。かりにこういった問題が解決されたといたしましても、それじゃ身体の拘束を受けなかった者に対する補償の範囲はどの程度にするのが適当かというようなことにつきましては、相当慎重な検討を要するのではないかと考えておるわけでございます。
それから第三に、以上の基本的な問題を別にしましても、非拘禁者に対する刑事補償を認めるにつきましては、この補償の内容を定型化することが必要だろうと思われるのでございます。ひとしく無罪の裁判を受けました場合でも、たとえばきわめて軽微な犯罪で訴追された者と、相当重大な犯罪嫌疑で訴追された者、あるいは一回の審理で無罪になった者、あるいは何回も審理を重ねてようやく無罪になった者、こういうようにいろいろなニュアンスがございます。また被告人の年齢、境遇その他からも、いろいろなニュアンスが出てまいります。これらのすべてを満足させるような定型化した金額というものを考えていかなければならないわけでございまして、それらも相当慎重に検討しなければならないのじゃないか。
それから第四の問題としては、さらに刑事法の分野において補償を行なうことが一応適当なように思われる結論が出たにいたしましても、はたして各種の国の諸施策、たとえば公害対策あるいは社会福祉上の諸施策、これらの進みぐあいがどうなっておるか、それとはたして立法しようとする補償の範囲がバランスがとれておるかどうか、こういったことは、十分慎重に政府全体として検討しなければならないことじゃないかと存ずるわけでございます。もちろん財政当局と十分協議を遂げる必要があることは、申し上げるまでもないことでございます。
そういう各般の問題がございますので、一般論として、非拘禁者に対する補償につきましては、先ほど申しますように、最高裁の事務総局さらにはその他関係諸機関と連絡をとりながら、鋭意検討を進めてまいりたいと思っておるわけでございます。
なお、費用補償の点について一言付加させていただきますと、各参考人が指摘しておられましたように、現在刑事訴訟法の三百六十八条以下におきまして、検事だけが上訴をいたしました場合に上訴が棄却されましたときには、上訴審において生じました費用を補償することとされております。その補償の範囲は、被告人であった者あるいは弁護人であった方が公判期日等に出頭するに要した旅費、日当、それと弁護人の報酬、これを刑事訴訟費用法の定めるところによって補償するということにされております。この趣旨は、思いますのに、下級審とはいいながら、第一審ですでに裁判の言い渡しがあって、被告人はその裁判に承服して上訴をしておらないというのにかかわらず、検察官だけが国家、公益の立場からその裁判を不当だということで上訴をした場合におきましては、被告人としては不本意ながらどうしても上訴審で防御活動をせざるを得ない。しかもその上訴が理由がないということで棄却されたということになりますと、あるいは検察官が途中で上訴を取り下げてしまったというような場合におきましては、被告人にとりましては、検察官の上訴のために無用な費用の支出をしいられたということになりますので、国がこれを補償いたすのは、けだし公平の原則から当然のことということができると思うのでございます。しかしながら、およそ無罪になったすべての者に対して費用を補償するということは、ただいま申します上訴費用の補償という考え方をただ一段と推し進めただけだというふうに一応見えるようでございますけれども、よく見ますと、両者はその性格において相当異なっておるのではないか、なお検討すべきものがあるのではないかと思われるわけでございます。すなわち、現在の刑訴三百六十八条の場合は、下級審とはいえ、すでに裁判所の裁判があった場合、検察官が上訴しなければ裁判がそのまま確定するというところを、検察官の上訴によって無用の出費を余儀なくされるという事情があるわけでございます。しかしながら、起訴された人が一審で無罪の裁判を受けてその裁判がそのまま確定した場合を考えますと、起訴自体は適法に行なわれており、かつ裁判所が身柄不拘束の状態で裁判を行なったという場合に、この費用を補償するということにつきましては、ただいまの上訴の場合と比べてやはり性格的に異なったものがある、やはり他の国全体の諸施策、これとのバランスを考えるべき分野になってくるのではないかというふうに考えられるのでございます。それが、先ほど申しましたが、一般の行政処分の場合に役所に出頭するに費用を要する、あるいはいろいろな手続をするに費用を要したというような場合に、それの補償をするのかしないのかという問題と同じレベルのことになるのではないかというように考えられるのでございます。
ただ、かような点はございますけれども、やはり費用補償は、どちらかというと非拘禁者に対する補償よりは、国の各種の諸施策に対比いたしまして立法政策として考えます場合には、ややとりやすいものの一つではあろうというふうに考えておりますので、この点につきましては、特に関係当局と連絡協議いたしまして、十分検討をさしていただきたい、かように思っておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/27
-
028・大竹太郎
○大竹委員 質問を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/28
-
029・永田亮一
○永田委員長 次回は、明日、十九日午前十時より委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十一時二十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/105805206X02219680418/29
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。