1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和五十九年四月十日(火曜日)
午前十時二分開議
出席委員
委員長 阿部 文男君
理事 上草 義輝君 理事 衛藤征士郎君
理事 田名部匡省君 理事 玉沢徳一郎君
理事 小川 国彦君 理事 日野 市朗君
理事 吉浦 忠治君
太田 誠一君 鍵田忠三郎君
鈴木 宗男君 田邉 國男君
野呂田芳成君 保利 耕輔君
三ッ林弥太郎君 山崎平八郎君
上西 和郎君 新村 源雄君
田中 恒利君 細谷 昭雄君
松沢 俊昭君 安井 吉典君
駒谷 明君 斎藤 実君
神田 厚君 津川 武一君
中林 佳子君
出席政府委員
林野庁長官 秋山 智英君
林野庁次長 後藤 康夫君
委員外の出席者
参 考 人
(愛知県稲武町
長)
(稲武町森林組
合長) 古橋 茂人君
参 考 人
(財団法人林政
総合調査研究所
理事、調査研究
部長) 森 巖夫君
参 考 人
(東京大学名誉
教授) 大内 力君
参 考 人
(北海道大学農
学部教授) 小関 隆祺君
参 考 人
(東京大学農学
部助手) 村尾 行一君
参 考 人
(日本林業労働
組合中央執行委
員長) 高畑 次穂君
農林水産委員会
調査室長 矢崎 市朗君
—————————————
委員の異動
四月五日
辞任 補欠選任
神田 厚君 小渕 正義君
同日
辞任 補欠選任
小渕 正義君 神田 厚君
—————————————
四月三日
土地改良法の一部を改正する法律案(内閣提出
第六五号)
同月四日
食糧の輸入依存反対に関する請願(森田景一君
紹介)第二一四一号)
同月九日
食糧の輸入依存反対に関する請願(森田景一君
紹介)(第二三九五号)
は本委員会に付託された。
—————————————
本日の会議に付した案件
保安林整備臨時措置法の一部を改正する法律案
(内閣提出第二六号)
国有林野法の一部を改正する法律案(内閣提出
第二八号)
国有林野事業改善特別措置法の一部を改正する
法律案(内閣提出第二七号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/0
-
001・阿部文男
○阿部委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、保安林整備臨時措置法の一部を改正する法律案、国有林野法の一部を改正する法律案及び国有林野事業改善特別措置法の一部を改正する法律案の各案を一括して議題とし、審査を進めます。
本日は、各案審査のため、参考人として愛知県稲武町長、稲武町森林組合長古橋茂人君、財団法人林政総合調査研究所理事、調査研究部長森厳夫君、東京大学名誉教授大内力君、北海道大学農学部教授小関隆祺君、東京大学農学部助手村尾行一君及び日本林業労働組合中央執行委員長高畑次穂君、以上の六名の方々に御出席をいただき、御意見を承ることにいたしております。
この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただきたいと存じます。
次に、議事の順序について申し上げますが、古橋参考人、森参考人、大内参考人、小関参考人、村尾参考人及び高畑参考人の順序で、お一人十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
それでは、古橋参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/1
-
002・古橋茂人
○古橋参考人 御紹介をいただきました古橋でございます。
私の町稲武町は、愛知県の東北端、境を長野、岐阜の両県に接します林野率八七%という山合いの町でございます。矢作川の上流にあり、父祖相受けて森林を守り、国土を保全し、水資源を涵養してまいりました。
私ごとにわたって恐縮に存じますが、私は、昭和二十一年三月、先代の遺贈によって創設されました一千余町愛の山林を基本財産とする財団の常務理事として基本財産林を経営し、これより上がる果実をもって、里に木を植え、社会の心をはぐくんでまいりました。二十年代から三十年代にかけて、名古屋市内に僻地の子女のために奨学施設を、郷土には公共鉱泉浴場、公民館、保育園、病院、歴史民俗資料館などを開設し、あるいは牛乳処理場を建設して奥三河の酪農を興し、名古屋大学の要請にこたえて農学部林学科の演習林の設置に協力支援するなど、公益事業を推し進めてまいりました。
一方、その背景をなします林業につきましては、経営の合理化と共存共栄の伝統的家憲に基づき、遠い長野県の天竜村や南信濃村にございます山林の大方は、昭和二十五年以来、地元森林組合あるいは村と部分林契約を締結し、直接管理の可能な県内山林は保育の万全と拡大造林の推進を図るとともに、一筆調査を実施して六十年輪伐の計を立て、当時としては、これで財団の経済的基盤は確立し得たものと自負いたしておりました。しかし、計画的皆伐によって年々拡大する下刈り面積に事業量は増大し、四十年代に入りますと、材価の低迷に反して賃金が高騰してまいります中で、山林より上がる果実の公益事業に回る比率は年々減少の一途をたどり始めました。
そこで、入るをはかって出るを制する経済の原則に思いをいたしつつ、何とか省力の方途はないものかと、機械化や薬剤使用、肥料のヘリコプター散布など、あれこれを講じてみましたが、いずれも期待外れに終わってしまいました。このままでは大変なことになってしまうという危機感の中で、名古屋大学農学部附属稲武演習林の北原教官と検討を重ねた結果、その結論が皆伐をしないという林業であり、これを基本財産林に導入してようやく愁眉を開くに至りました。その体験を通して、公益的役割を果たしつつ木材資源を不断に供給し得る施業はこの非皆伐施業、複層林経営であるとの自信を深め、林業不振の今日こそその技術体系を確立すべきものと試験研究を重ねておるところでございます。
一方、経営の体質改善に資するため年々記録し続けてまいりました作業日誌を分析してみますと、本来の林業にかかわる作業は三分の一程度にすぎません。私は立木の伐採、搬出、販売は一切森林組合に委託し、保育のみを直営で実施してまいりましたが、造林には造林、下刈りには下刈り、枝打ちには枝打ちのそれぞれ適期があり、しかも、林業は季節や天候に左右されますので、通年雇用となりますと、これが当然の結果でありましょう、私と二十数年来苦楽をともにしてまいりました職員は、こうした通年雇用に対応すろため、造林、保育や育種など林業にかかわる本業はもとより、林産加工や建築、土木などの職能を身につけておりましたので、非皆伐施業の導入によって労務に余力を生じてきたのを機会に、これら職員のために有限会社を創設し、財団法人の基本財産林の施業委託や、普通財産、主として建物の維持管理を初め建設事業などもこれに委託し、余力があれば一般の仕事も引き受けるなど、自分たちの会社として自立し得る道を開きました。職員の納得、代表取締役の互選など産みの苦しみはございましたが、その後の成長は極めて順調で、所期の成果を上げつつあるのであります。
以上申し上げましたようなみずからの林業経営改善の実践を通して、今国会に提出されております国有林野事業改善特別措置法の一部を改正する法律案、国有林野法の一部を改正する法律案は、国有林野事業の改善にとってやむを得ないものであり、喫緊の課題として、今回の法律改正はまさに当を得たものと存じます。
もとより、国有林が戦後の復興と列島の緑化、国土の保全と水資源の油養に果たしてこられました大きな役割に対しましては深甚なる敬意と感謝をささげつつも、我が国山林の七割を占める民有林が自助努力によって体質の改善を迫られつつある中で、ひとり国有林のこれ以上漫然とした赤字の累積は認められる現状ではないと存じます。
御参考までに、三河材産地形成推進協議会が調査をいたしました全国の平均的立木価格と伐出賃金の推移の一端を御披露申し上げますならば、昭和三十六年の全国平均山元立木価格、これは日本不動産研究所の資料によるものでありますが、杉一立方メートル当たり九千八十一円、伐出賃金、これは労働省の林業労働者職種別賃金調査報告書によるものでございますが、一人七百六十八円、すなわち杉一立方メートルの立木代で十一・八人を雇用できたのでございますが、四十年には七・七人、五十年には三・四人、そして五十七年にはついに二人となってしまったのでございます。
次に、保安林整備臨時措置法の一部を改正する法律案についてでありますが、冒頭に申し上げましたように、私の町は矢作川の水源地域にありますことなどから、全山林面積の三〇・五%が保安林に指定されており、私の町を含めた四カ町村の協力によって誕生いたしました矢作ダムとあわせ、豊田、岡崎を初め下流域の利用する水の安定的確保に寄与し、その発展もこの水資源に負うところ大であると自負しておるものでございます。このように重要な役割を果たしております保安林だけに、その整備を図ることは極めて緊要であり、今後とも必要な箇所については指定し、常時それが保安林として機能するよう整備してまいらねばならぬものと存じます。
保安林は適正な管理によって初めてその機能を発揮し得るものでありますが、近年の林業不振により当然実施されなければならない除間伐も実施されず、拡大造林も次第にその主体が公社や公団にゆだねられ、果ては林地すら農林家から離れて、所有権が区域外に流出するという傾向が生じつつあるのであります。幸いにも私の町は、先人の先見により五五%が財産区有林でありますために、所有権の町外に流出するものは全山林面積のわずか二・一七%にすぎませんが、三河林業のメッカであります私どもの北設楽郡の累積は二五%に及んでおります。これらは、山村の未来を林業に託し、戦後営々として造林を続け、水資源を酒養してまいりました山村の民も今や老齢化し、ようやく間伐期を迎えながら報いられず、相続税問題などとあわせ、後継者も得られないというやむを得ない仕儀と存じます。かくして保安林にも荒廃が見られるようになってまいりましたが、その解消を図りますことは急務であり、今回の法律改正はまことに当を得たものと存じます。
私は、森林、とりわけその象徴であります保安林が果たしております役割にかんがみ、その整備を推進することは国家的、国民的課題であると信じ、町政を推進いたしておりますが、財政力に乏しい林業地域の町村や零細な林業者にのみその負担をかけることにならないよう、今後保安林の整備を推進するに当たっては、次の事項について措置されますよう心からお願いを申し上げるものでございます。
その第一は、林業をめぐる情勢は年々厳しく、いまだ過疎に歯どめのかからぬ水源地域において、森林所有者や山村地域のみの負担で保安林の整備を進めてまいりますことは非常に困難になってまいっております。そこで、まず山村振興対策を含め林業全般にわたる施策を講じていく必要があろうかと存じます。
第二は、保安林はもともと受益者のために指定されておるものでありますだけに、その整備には受益者も協力参加してしかるべきものと考えます。我が愛知県におきましては、五十三年度以降、県及び流域市町村の資金拠出によって矢作川水源基金、豊川水源基金が設けられ、水源地域で行う造林、保育、作業路の開設に対し助成の道が開かれておりますが、このような費用分担方式は今後さらに拡充推進してまいる必要があろうかと存じます。
第三に、保安林は古い時代から国民の生活と密接なかかわり合いを有しているにもかかわらず、その役割、重要性等につきましては、国民に十分理解されておらない向きがございます。昭和五十二年、文部省が発表いたしました小学校学習指導要領の社会科から林業が削除され、五十五年度の教科書から林業の記述が消えてしまいましたことは、林業人としてまことに遺憾にたえないところでございます。保安林の整備について下流域の受益者の協力参加を促進するためにも、まず保安林を初め林業の重要性について広く国民の理解を得ることが先決であり、教育とPR活動に心してまいる必要があろうかと存じます。
以上を申し上げ、私の意見発表を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/2
-
003・阿部文男
○阿部委員長 ありがとうございました。
次に、森参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/3
-
004・森巖夫
○森参考人 森巌夫でございます。
常日ごろ、全国各地の山村林業地域や国有林野事業の現場を歩きながら、主としてその社会経済的な側面及び政策的な問題について調査研究している者として、目下上程されておりますいわゆる林野三法について私見を申し上げます。
御承知のように、最近緑資源に対する国民の関心がにわかに高まってきております。政府当局を初めとして民間団体やジャーナリズムなどにおきましても盛んにグリーンキャンペーンが展開されております。このような緑ブームは我が国だけのことではありません。言うならば全地球的規模で、しかも、ある種の危機感を持って緑問題が提起されているところに今日の特徴があると考えます。
ところで、森林は量的に言っても質的に言っても最大にして最良の緑資源であります。森林資源が健全で活力ある状態に維持されていることによって初めて国民が期待する緑資源としての役割が発揮され、確保されるのであります。そのためには、森林を守り育てる産業でありますところの林業が安定的に営まれていなければなりません。また、林業が営まれる場としての山村が若者の定住を保障できるように整備されていることが必要であります。
しかるに、我が国林業の現状はどうか。一口に申しまして、全く振るわないのであります。例えば、昨年度の林業白書はその「むすび」の中で次のように述べております。「森林に対する国民的な期待は著しく高まっているにもかかわらず、我が国の森林・林業をめぐる現下の情勢は厳しく、国内の林業生産活動は停滞しており、このような状態が今後とも続くならば、森林の健全性が低下し、森林の持つ多面的な機能の発揮に大きな影響を及ぼすことが懸念される。」以上は白書の文章の忠実な引用でありますけれども、恐らくこのような状況認識は、程度に差はあっても、立場のいかんを問わず多くの人に共通するのではないでしょうか。
今回の林野三法は、このような苦境の中にある我が国林業の現状を打開する上で必要かつ適切な政策であると考えます。したがいまして、その速やかな実現を期待したいのであります。
以下、各法案について個別に申し上げます。
まず、国有林野事業改善特園措置法の一部改正についてであります。国有林野に課せられております多面的な役割、使命は、今後我が国社会経済の高密度化、成熟化につれて一層重要視されることは改めて申し上げるまでもありません。しかるに、国有林野事業の現状は、人工林の齢級構成が未熟であるといった資源的な制約があり、また国有林野の所在地域が比較的奥地にあって、公益的な面からの要請が強いことに伴う施業上の制約があります。さらに、かつての増産志向時代に抱えた要員規模の膨張に起因しますところの経営費用の増大化、加えて事業運営の能率の低さなどによりまして、極めて厳しい状況に追い込まれております。
特にその財務状況におきましては、昭和五十年度以降、毎年多額の損失を計上せざるを得ないありさまであります。
こうした状況にかんがみ、五十三年以来、「国有林野事業の改善に関する計画」に即して各種の改善措置が講じられてきたことは御存じのとおりでございます。私も、この間、国有林野事業の現場を歩きながら、労使を問わず職員の一人一人が事態の厳しさを真剣に受けとめ、創意と工夫を凝らして難局を乗り切る努力を重ねている姿に接したことは再三であります。その成果は正当に評価されるべきであると考えます。
しかしながら、残念なことに、こうした努力にもかかわらず、国有林野の財務状況は逐年悪化の度を深めております。政府資料によりますと、五十七年度末の累積債務は七千六百五十四億円に達し、その支払い利子は一日当たり一億四千万円に及ぶとのことであります。しかも、今後を展望しましても、当分依然として資源的制約は続きますし、借入金の支払い利子と償還金が増加することは避けられません。加えて、今後推進されるであろう要員規模の縮減に伴って退職者が急増し、退職金負担の膨張が見通されます。したがいまして、国有林野事業の財務事情は一層逼迫することは必至です。いかに努力しましても、現行計画の残されたあと四年間、つまり六十二年度までの特別措置だけでもってしては、七十二年目標の収支均衡の回復を含めて、国有林野事業の健全性を回復するための基本的条件の整備は不可能であると言わざるを得ません。どうしても改善期間の延長が必要なのであります。
また、改善期間における国の財政措置として、現行の事業施設費のほかに職員の退職手当の財源及びそれらの借り入れに対する支払い利子についての特別の援助が必要であります。
現在上程されております法律案はこのような要請にこたえるものであり、それは現時点において必要最小限度の措置であると考えます。ここで必要最小限度と申しましたのは、今日の国有林野事業が抱えておる諸困難を解決するには、それらが法律事項であるかどうかはともかくとして、より広範な対策が講じられるべきであると考えるからであります。既に臨調答申及び林政審議会答申でも指摘されておりますように、森林資源の整備充実、森林施業の合理化と投資の効率化、業務運営の簡素化、合理化、自己収入の確保と増大など、各般の分野において国有林野事業の改善に向けて取り組むべき課題が存在するからであります。それらは、物によっては、言うはやすく行うはかたしというのがあるのかもしれません。しかし、今回の改善期間の延長と財政措置の強化を一つの呼び水として、国有林野事業関係者が一丸となって、自助努力を基礎に各般の分野における経営改善を着実に実行して、国民共有のかけがえのない財産としての国有林野の役割を果たしてくれることを期待したいのであります。
次に、国有林野法の一部改正案について申し上げます。
最近の緑資源の確保に対する国民的要請の高まりの中で、森林の造成にみずから参加しようとか、あるいは林業への投資を通じて森林造成に協力したいといった機運があらわれてきております。それを受けて、民有林におきましては既に分収育林制度が発足しております。私も、いわゆるふるさとの森の幾つかの事例について実態調査を行ったことがありますが、関係者の評価は極めてよろしいようであります。また、林野庁が実施しました国有林分収育林に関する意向調査の結果によりますと、これに参加したいというのが六一%にも達しているのであります。しかも、参加の理由として、将来の収入を期待するという経済的な理由よりは、国土の緑化に参加できるとか、自然に接したいとか、子供や孫に資産として残してやりたいとか、つまり自然や緑への欲求、ふるさと意識といったものに基づくものが圧倒的に多いのであります。こうした国民の要請にこたえることは、国有林野の一つの責務であると考えます。
一方、国有林野の資源状態に目を転じますと、人工林の大半は三十年生以下でありますし、今後相当期間にわたって育林に多額の費用を必要とする状態にあります。裏返しに言えば、分収育林の対象になり得る林分が多いのであります。また、国民参加のもとでの資金の確保、すなわち財務の改善に供し得る条件を備えているというわけであります。つまり、国有林野において分収育林が成立し得る客観的条件が整っており、その実現が社会的に要請されていることを意味します。したがいまして、このことを制度化するというのはまことに時宜にかなっているということができます。そのためには、現行の国有林野法に所要の改正措置が加えられなければなりません。特に、分収育林契約の安定性を確保するとともに、国有林野としての使命が損なわれないよう措置することが必要であります。今回の法律案におきましては、これらについて万全の配慮がなされているものと考えます。
最後に、保安林整備臨時措置法の一部改正案について申し上げます。
この法律はこれまでも相当有効に働いてきておると評価されますが、しかし、現在なお保安林の配備をさらに積極的に進める必要がある地域が存在しております。加えて、近年の林業をめぐる厳しい状況の中で、保安林が適切に施業管理されておらず、保安林としての機能が低下している場合があることはしばしば目にするところであります。所によっては、山地、山ろくの急激な開発によって山地災害発生の危険性が高まっているという事態も生じております。こうした事態に適切に、また早急に対応することが必要です。今回、新たに特定保安林を指定し、それの保安林としての機能を高めるべく一連の措置を講ずる道を開くとともに、有効期間をさらに十年間延長しようという法律案は、まさしく今日の保安林整備に対する国民の要請の高まりにこたえる政策的対応であると考えます。
特に特定保安林に関して申し上げますと、それの造林、保育、伐採などについて、地域森林計画と連携させてその実効性を高めること、そのために計画の遵守を勧告し、さらに、それに従わない場合には知事が要整備森林の所有権または使用収益権の移転または設定について協議すべき旨を勧告できるようにすることは、保安林機能の高度化を図る上で疑いもなく大きな一歩前進であると考えます。
なお、最近の特徴として、保安林所在地域の住民が保安林の適正な維持管理のためにさまざまな形態をとって参加している事例があらわれていることは注目されます。こうした状況から判断いたしまして、知事による協議の勧告という措置は実質的な効果を上げ得ることができるのではないかと考えます。
以上で私の意見開陳を終わります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/4
-
005・阿部文男
○阿部委員長 ありがとうございました。
次に、大内参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/5
-
006・大内力
○大内参考人 きょうは時間が大変限られておりますので、余り細かい法案の内容について一々申し上げることはできないと思います。また、私の専門とも多少ずれますので、むしろここでは基本的な物の考え方みたいなことを二つだけ申し上げまして御参考に供したいと思うわけでございます。
第一の点は、今森参考人からもお話がございましたが、森林というものの機能をどういうふうにこれから考えていったらいいかという点でございます。
従来からも森林というのは国土保全のために必要であるという考え方はございまして、木材の安定的供給のほかに、そういう国土保全という役割を背負わされてきていたわけでございますが、しかし、今日に至りましては、単なる国土保全ではなくて、むしろ緑の資源を維持するということがいわば全地球的な、あるいは全人類的な課題になっているというふうに私は考えております。御承知のとおり、世界的に今非常に急激に森林面積が減少していっているわけでございます。いろいろ説がございますが、一年間に日本の国土よりも広い面積の森林が消滅していると言われております。これによって生じます大気の汚染、炭酸ガス濃度の上昇というのが非常に大きな人類的な危機を引き起こすかもしれない。二十一世紀になっては大変な問題になるかもしれないということはアメリカあたりでも盛んに言われていることでございまして、そういう意味で、今日森林の緑を維持するということは、大気の状態を維持して人類の生存のための将来の確保を図る、こういう重要な意味を持っている。森林というものをまさにそういう観点からとらえ直して物事を考えるということが一番必要であろうというふうに思うわけでございます。
そういう意味で申しますと、やや極端な言い方をいたしますならば、これからの森林というのはむしろ山を切って木材の生産をするとかあるいはそれから収入を上げるということは二義的に考えるべきであって、できるだけ活力のある森林を日本の国土の中に広く確保をしていくということをまず第一に考えるべきではないだろうかというふうに思うわけでございます。
その点で、ただ誤解がないように申し上げておきますが、活力がある森林を維持するということは、言うまでもなく手入れをしないでほっておけばいい、あるいは自然下種で木が勝手に生えるのをそのままにしておけばいいということではございません。むしろ、森林は絶えず人間が手を加えまして一番適当な林相というものを備えるように調節をしてまいりませんと十分な活力を維持することができないということは言うまでもないことでございます。
時間がございませんから詳しいことは申し上げませんが、そういう意味で林相の整備という点から考えますならば、例えば針葉樹林につきましても樹齢のそろった大面積の山を植林するというのは望ましい方法ではございませんで、異なった樹齢の木を育てて択伐をしていく、こういう形で林相を整えていく必要があると思います。また、針葉樹だけではございませんで、それに濶葉樹をまぜまして地方を絶えず維持しながら森林の生産力を維持していくということが必要でございます。さらに、濶葉樹あるいは広葉樹につきましては品種改良を徹底いたしまして、そして良質の材木を供給できると同時に、十分な山林の活力を維持するような能力を持った広葉樹林を育成していくということが必要でございます。いずれにせよ、そういう森林の一番理想的な林相をこれから日本の中で整えていって日本の緑を豊かにしていくということが国の最大の責務であると同時に、また国民の責任でもあるというふうに思われます。
そこで、そのことに関連いたしまして今回の法改正との関連を二つだけ申し上げますと、一つは、そういう観点から考えますと、国有林の問題にいたしましても単なる採算とか収支均衡ということを優先して考えるべきではないというふうに私は考えております。もちろん、国有林の経営をできるだけ合理化し、むだが生じないようにするということは言うまでもないことでございますが、しかし、もともと林業というのは民間がやりましても六十年、七十年、その間の複利計算をいたしましてきちんと経済計算をすれば果たして採算がとれるものかどうか大変疑わしい。特に、最近のように貨幣価値が非常に大きく変動するような状況のもとでは、採算という言い方は民有林についてさえ甚だ疑問が多いわけでございまして、むしろ日本の民有林も大部分は財産保存という意味で今日まで温存されてきたわけでございまして、経営として成り立つという形をとっているものではないと思います。国有林につきましても、そういう意味でむしろ資源を国民のために保存する。そのためには国としては応分の負担をしなければならない、あるいは国民としても応分の負担をしなければならない、それは一種の公益事業であり公共的な費用である、こういう物の考え方をした上で林野特別会計のことも考えるべきではないかということでございます。
それからもう一つは、そういう観点から申しますと、私は、保安林というのも、従来の狭い意味の保安林という考え方、つまり治山治水を中心として考えるべきではなくて、広く山林全体の緑を維持するということによって国土及び人類の生活環境を保全する、そういう役割を果たすのが保安林だと思います。ですから、狭い意味の保安林というふうに考えるよりは、むしろ日本全体の林野を、先ほど申し上げましたように活力あるものに維持をしながら、極端に申しますと、全体を保安林的に考えていく必要があるということを申し上げたいわけでございます。
それから第二点は、国有林のこれからの役割ということでございますが、その点につきましては、私はむしろ今日、国有林よりは民有林の方がはるかに活力を失っていると言っていいと思います。もちろん限られた地域の例外はございますけれども、概して申しますと、山村は御承知のとおり労働力不足で、特に老齢化が非常に進み、過疎化が進んでおりまして、民間の山林というのはほとんど手入れができていない。間伐さえ満足にやっていないところが大部分でございますし、それから、特に従来薪炭、採草という形で利用されておりました里山につきましては荒れほうだいにされている。伐木されたところも、後、植林さえされないでほっておかれるということが非常に多いわけでございます。
そういう点から考えますと、これをただ民間の力によって緑を維持していくということは恐らく大変難しいことでございまして、むしろ国ができるだけそれに援助をして、もちろん県その他市町村と共同をしてできるだけこれを援助して民間の山林の活力を回復させていく、こういうやり方が必要であろうと思います。そういう意味で申しますならば、今回の法律に出ておりますような分収林というのもむしろ考え方は逆でございまして、国有林の中に民間の力を入れるというよりは民有林の中に国の力を入れて民有林をできるだけ代行造林し、あるいは代行で撫育をし、そして、先ほど申し上げましたような日本全体としての理想的な林相を整えていく、こういう方向でもって物を考えるべきではないだろうかと思うわけでございます。
以上二つが私の持っております一番基本的な考え方でございまして、今回の法改正は、そういう基本的な考え方に即して考えますと多くの不十分な点を持っておるというふうに判断しておりますので、御参考にしていただきたいと思います。
ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/6
-
007・阿部文男
○阿部委員長 ありがとうございました。
次に、小関参考人にお腰いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/7
-
008・小関隆祺
○小関参考人 時間が余りございませんので、私は、できるだけ私の考えでおります結論的な部分について端的な御意見を申し上げたいと思います。
三つの法律改正案が出ておりますが、私は、主として国有林野の改善の問題について御意見を申し上げたいと思います。
ただいま大内参考人から林業の考え方についていろいろ御意見がございまして、私も同感の点が多いのでございますが、私は、同時に、林業というものが国民の生活のために必要な基本的な資材、現在では主として木材でございますけれども、木材を生産しているということを非常に重要視したいと思うわけです。緑資源あるいは国土保全というようなことはもちろん大事ですし、それは森林がそういう機能を果たしていることも十分認めますけれども、しかし、同時に、そこで行われている生産は基本的な生活資材を我々に供給しているのだという事実を見逃してはいけないと思うのです。
かつて自然保護運動なんかが非常に盛んだった時期に、森林は木は一本も切るなというような主張が行われたことがありますが、それは、結局公益的機能とか森林の国土保全的機能というものを強調する余りに、木材生産の機能というものを軽視するような傾向を生んだという心配があるわけでございます。日本全体としてもあるいは世界全体としても、森林資源が持っている資源的な価値、世界じゅうの我々の生活のために使う資源というのはすべて自然から求めなければならないわけですけれども、私は、その中で木材資源、森林資源というものは非常に重要なウエートを持つものだろうと思います。これは再生産できる資源でございますので、将来枯渇する石油資源、化石資源等に比べると長もちのする、あるいは永続して使用できる資源でございまして、この資源培養ということを非常に重要視しなければいけないと私は思うわけでございます。
国内の林業について申し上げますと、戦後、日本の林業は世界に類例のない人工造林の高集積を果たしました。これは、木材を生産するという形で生産力が具体化するのにはまだ若干の時間がかかりますけれども、今後は非常に大きな供給力になっていくことは間違いないと思うのであります。それは、資本と労働を絶え間なく森林に投下してきた成果であるわけであります。
翻って現状を見ますと、この十年間ぐらい林業の生産活動は非常に低下しております。これはいろいろなところの資料もございますし、皆さん申し上げておりますから繰り返しませんけれども、大ざっぱに言いますと、林業の生産活動をあらわす指標として伐採と造林をとりますと、いずれもほぼ半分ぐらいになっていると言うことができると思います。こういう状況が長く続くということは非常に問題であろうと私は思うのです。現時点の問題もさることながら、二十年、三十年後というような長い将来を考えた場合に、現在続いております生産活動の不活発ということの結果、むしろ後世に非常に厳しい形であらわれてくるものと考えるわけでございます。そういう意味で、日本林業全体が大変苦況に陥っておりますけれども、ここのところを何とかして継続的な資本と労働の投下を続けていく必要がある、私は従来からその主張を繰り返しておるわけでございます。
そういう観点から、国有林野事業の、最近国有林野事業だけではないのですが、民有林全体を含めて問題でございますけれども、あるいはむしろ民有林の方がこの落ち込みが甚だしいと思いますので、重点を国有林だけに絞るわけにいかないわけですが、国有林だけを取り上げて考えましても、ちょうど国有林が減伐の方針をとった時期がございました。昭和四十六、七年ごろから減伐の方針をとりました。それはそれなりの理由がもちろんあったわけです。その前の時期に、高度成長の中で、高度成長のブレーキになるというような表現でもって木材価格が非常に高くなったことが批判されまして、それを緩和するために増伐をした、いわゆる社会の要請あるいは時代の要請というものにこたえた形で国有林は大増伐をしたわけでございます。
その結果が大変はね返って減伐という方向になったわけでございますけれども、しかし問題はそれだけではなくて、資源量が枯渇したから蓄積を回復するために伐採量を減少して、伐採量を減少すると造林の面積も減るということから全体としての投資を落としてしまったというところに問題があると私は思うのです。私は、その当時から国有林の減伐方針というものにかなり批判的でありましたし、それから現在の国有林野事業改善特別措置法が昭和五十三年にできたときには、その制定の前後を通じて、もっと国有林は生産力を重視する姿勢をとるべきである、つまり、事業規模を縮小することを前提にして赤字の収支のつり合いをとることだけを考える経営姿勢というものには問題があるだろうという立場からそういう指摘をしてまいったわけでございます。
私は、そういう観点で今日の状態を考えますと、ただいま上程されております国有林野事業改善特別措置法の改正条項を見ますと、要するに退職金の原資を確保してその利子補給をするということにむしろ尽きているのではないか。事業規模の縮減ということが、それは直接的に国有林野事業に従事している職員の要員の縮減というような格好で、いわば要員の縮減だけが今度の改正案に盛られているということは、ちょっときつい表現をいたしますと、要員縮減が自己目的化しているのではないか。それは要するに、事業規模を縮減することは当然であるという姿勢の中から出てきたものだろうと私は思うわけです。ですから、今回提案されたこの条項を私は要らないと言うわけではないので、これはこれで必要な措置だと思いますが、しかし、それだけではこの改正は大変不十分ではないかと私は考えているわけでございます。
林政審の答申の中にはいろいろなことがうたわれておりまして、言葉の上ではいろいろなことが言われております。その中で私が非常に重要視したいのは、「一般林政等の充実強化」という表現で項目が設けられておりまして、この点を本当に申しわけの作文に終わらせないで実質化していただきたい。それはもちろん、国有林野事業改善特別措置法の中に盛り込むことができないものもたくさんありますから、その他の法律等も改正し、あるいは行政上あるいは財政上の手当てをしながら、民有林を含めた全体の底上げを図るということが必要だろうと思います。そういうようなことから、私は、もっと総括的といいますか、包括的な姿勢を持って、その中で特に将来の生産力を見通した上で、現在の林業に対する資本と労働の投下を低下させない、あるいは少しでも増大させる、かなり落ち切っておりますから、少しでも、例えば一割でも、一〇%でも増加させるという努力が必要だろうと思うわけでございます。
国有林につきましては私はいろいろなところで論じておりますけれども、国有林は幾つかの目的を持っております。三つの目的に多くは分けられておりますが、その中で林産物の持続的な供給ということもございます。これは私が今まで申し上げたような観点からぜひ頑張ってやってもらいたいと思いますし、その場合に、国有林は非常に大きな潜在的な能力を持っているということなんです。私は、それは極論すれば国有林の存在理由のかなりの部分を占めると思うのです。国有林は全国の約三〇%の森林を管理しておりますが、その中で非常に優秀な組織力、技術力、それから労働力を持っている我が国唯一最大の事業体であります。この力を発揮しなければ国有林の存在理由がないというふうにむしろ考えておりまして、そのためには、要員縮減でつじつまを合わせるような方法ではなくて、その持っている生産力の中の技術力、労働力、組織力というものを満度に発揮するような方向で国有林の前進を考えていただきたい。
林政審の答申は国有林野事業の改革ということを言っておりますが、ここで退職金の手当てという程度のことであれば、国有林野事業の改革については何らの提言をしていないのと同じではないかと思うわけであります。その際に、臨調にもさかのぼるわけでありますけれども、私は特別会計制度あるいは経理の仕組みというようなものについてもっと根本的な検討を加えるべきだろう。財政再建、収支均衡、赤字処理というような観点だけで特別会計制度を見るのではなくて、もっと広い、長期的な観点で国有林野事業のまさに改革の名に値するような検討を深めていただきたいと考えるわけでございます。
大分時間もたちましたので、まだ申し上げたいことはたくさんございますが、一つだけお話ししておきたいことは、赤字処理のために資産の有効利用、活用ということで土地や林野の売り払いが計上されておるようでございます。予算の中にはっきり出ておるわけですけれども、この点につきましては、私は、林業という立場を離れた土地政策というものについて、つまり国が、あるいは地方公共団体も含めていいと思いますが、国あるいは公的な機関が土地を持つことの意味をもう一度考え直してもらいたい。つまり、国有地を一般の企業会計と同じような考え方で、赤字だから財産を売って穴埋めするんだというようなことでなくて、それは例えば一般会計から借り入れるという方法でも私はいいと思うのです。特別会計の立場を貫くためにはそれでいいと思いますが、国がなるべくたくさんの土地を保有していくべきではないか。もちろん必要以上に持つということも財政の負担が増しますから、問題はあるのですが、その辺のところを考え合わせて、非常に長い意味での土地政策を、これは政府全体あるいは国会ももちろんですが、そういう方向で、早急にはできないと思いますが、きちんと討議を重ねて皆さんの合意を得た上ではっきりした方向を出していただきたいと思います。国土利用計画法だけでは十分ではないというふうに考えております。
その他の法案につきましては、私は特別の感想はありませんが、一言だけ申しますと、国有林野法の中で分収育林の制度が新たに取り上げられる。これは、先ほどから参考人の方がもう何人かおっしゃっているように、国民が国有林に親しむという機会をつくる、緑を愛するというような考え方を浸透させるという意味で大変効果があるだろうと思います。ただしかし、これで国有林の財政に対して寄与を期待しているのであれば、大きな寄与は期待できないだろう。そっちに余り重点を置かない方がいいというふうに考えております。
以上でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/8
-
009・阿部文男
○阿部委員長 ありがとうございました。
次に、村尾参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/9
-
010・村尾行一
○村尾参考人 村尾でございます。
結論から先に申し上げますと、私は、今回の林野関係法案には三法とも賛成でございます。ただし、この三法の趣旨ないし法改正の趣旨を今後本当に生かしていく、現実化させていくためには、立法府並びに行政府、特に林野庁が現行の林野関係諸法令、諸制度、これまでの行政のあり方、国有林経営のあり方に対して大胆な見直しを行う必要があると私は考えております。
法案の名前は略称、俗称で申し上げるのをお許しいただきます。
最初に保安林法について申し上げますと、今回の法改正の趣旨は、さらにきめ細かな保安林の配備と森林所有者等に積極的に施業を行わせるための措置を講ずることの二点と考えますが、いずれも森林、林業の現状から見て必要なことと考えております。
私は、森林のいわゆる水源涵養機能、国土保全機能等の維持強化を図るには、施業に対する規制を強化するよりは、むしろ森林所有者等の生産技術、経営技術を向上させ、そして積極的に林業経営に取り組ませることこそ重要であると考えております。もちろん例外的なものはあるわけですが。ともあれ、このような意味で、今回の保安林機能の向上のための措置は、従来の言うならば規制中心の保安林行政から一歩も二歩も前進するものであり、高く評価できると思います。
なお申しますと、私は、森林所有者等が森林生態系の生産力の保全等を十分考慮に入れて、立地条件等に適合した巧みな林業経営を実施するような段階に至れば、水源涵養保安林のような性質の保安林はもはや指定の要がなくしたがって、保安林制度には抜本的な見直しが必要になってくるだろうと考えております。しかしながら、現状はいまだそのような段階には至っておらず、必要な施業の実施を確保するため保安林に指定すべき箇所は、計画的に指定することが必要であると考えております。
次に、分収育林について申し上げます。
林木の販売を別といたしまして、一般国民が国有林を利用する現行の制度、方法、少なくともその根幹は、旧来の制度、慣行を受け継いだものと言ってよく、したがって今日ではその存在意義が希薄化していたり、利用できる人間が地域的等に甚だ限定されていると考えられます。そして、逆に現行利用制度を単に整とんしようとしますと、勢い国有林は国民に対して閉ざされたものになってしまうのではないかと思うわけです。
ところが、近時、森に接したい、森をいろいろ利用したいという欲求が、国民の間に、特に都市住民の間に大変高まっていることは各位のよく御存じのことであります。そして、欲求がとりわけ国有林に向けられるのは極めて当然、自然なことでありましょう。一般国民にとってみれば、国有林は、申さば国家の森林、ステートフォレストと呼びましょうか、であるよりは国民の森林、ナショナルフォレストであってほしいと思うからであります。
このように考えてみますと、今回の分収育林制度は実におもしろい制度だと思います。国有林を真に国民の森にする、国民が観念的、建前の次元ではなくて、具体的、日常的に生身の人間として国有林の造成、保全、増殖に参加する方途を切り開く突破口になり得ましょう。また、そうなるように先生方並びに行政府、特に林野庁で御検討、御努力を願いたいと思います。
例えばでございますが、この分収育林制度というのは投資制度の一つではあります。しかし、単なる投資だったらこれはおもしろくないわけです。林の保育もやってみる、見回りも自分でやってみる、伐木も造林もやってみる。なお申しますと、森林での農作業、農林複合、いわゆるアグロフォレストリーでございますが、これもやってみる。そうすることによって、この森はおれたちが、あるいはおじいちゃんたちが、汗と知恵と金を出して育てたんだと言えるようにする。つまり投資であり、レクリエーションであり、自然を学ぶことであり、健康づくりであり、喜びであるし、誇りでもあるような、そういう形での国有林経営への国民の具体的参加であってほしいわけであります。
そのためには、法令制度的には別個のものではありますけれども、この分収育林と分収造林、それから国有地の貸し地制度、それから体験林業制度、さらには施設設置制度等々を総合化して利用いたしまして、かつ、幾つかのメニューをつくってはどうでございましょうか。また、例えば宮崎県下のある国有林で分収育林をしている人は、北海道でもどこでも、国有林への特別入山証がもらえるといった方式もあり得るのではないか。まさにナショナルフォレストでございます。
最後になりましたが、国有林経営改善法も同様に国有林というものをナショナルフォレストとして健全化、強化するためのものととらえられそうでございます。
今回の法改正は、一つは一時的に急増する退職者のための財政的手当てであり、いま一つは新たな改善計画の策定とそのための法律の有効期間の延長であると承知しております。前者はここで云々する必要はございませんので、問題は後者でございます。
私は、国有林事業の現状とその改善について具体的に申し上げたいことがたくさんありますが、今は、時間の関係上一点に絞って申し上げます。つまり、一般会計等の資金つまりは国民の税金をつぎ込み続けても、国有林野事業は改善できる見込みがあるのかということでございます。
結論を申しますと、私は見込みはあると確信しております。では具体的にどうしたらいいのかということになりますと、これまた細かい、泥臭い、生々しいことをたくさん申し上げなければなりませんから、簡略に申し上げます。
収入面で言えば、要するに木材の伐採と販売が、国有林を全体として考えてみますと甚だしく下手なのであります。木材の価値を生かしていない。きつく申し上げれば‘木を殺すような生産、販売している。したがって、改善する気になれば簡単にできてしまうわけでございます。
例えば幾つかの営林署の実例でございますが、昨年の四月から十二月までという木材不況が冷え込んでいた時期の実績でございますが、造材寸法、つまり丸太を輪切りにする長さを変えただけで、また材の仕分けを変えただけで販売単価が四割強も五割強も上がったわけでございます。木材価格の低迷といった外的条件だけに国有林経営悪化の責任を押しつけてはいけないと思います。今小関先生からもお話がございましたように、国有林は不況にも耐え抜ける、すばらしい森林資源を持っているわけでございますから。
しかし、先生方にこれはぜひ御理解いただきたいと思いますのは、総体としての国有林が生産販売において下手なのは、決して国有林自体の、国有林だけの責任ではありません。ここで官業非能率を持ち出さないでいただきたいと思うわけでございます。
何で造材寸法を変えただけであれほど単価が上がったかと申しますと、要するに、日本の民間林業というものは一つの統合された市場を形成していないからでございます。大変すぐれた、しかし少数の林業地と、産業とかビジネスとかとはとても言えないほど粗雑、未熟な大多数の林業地とに日本林業は分裂しているのであります。前者では当然至極のことが後者では全然わかっていない。それほど地域間格差が大きく、なお言えば地域間が分裂しているわけでございます。人と物と情報が流通し合わず、一種の鎖国状態におのおののところが陥っている。特に人と情報においてそうでございます。だから、逆に言えば、そこにつけ込んでぼろもうけをする人間も出てくるわけでございますね。
国有林の目下の不幸は、四捨五入して申し上げますと、その多くが今申し上げたような後進林業地に所在していて、しかも、その地域林業に取り込まれているということでございます。言うならば、国有林とはいうものの、ローカルフォレストの単なる集まりになっておりまして、なかなかナショナルフォレストとは言いにくいというわけでございます。しかし、国有林は組織的にはあくまで全国組織でございますし、人事的にもこれは全国的であり得るわけですね。その強みを生かしてほしいわけでございます。国有林経営が経営改善を行えば、これは今のような事情から当該地域の林業も向上していく、そして日本林業が全国的に統合され、成熟化していくだろうと思います。要するに、国有林野事業の改善と日本林業の構造改善とは表裏の関係にあるものだと私は考えております。
さらに、先ほど収入で申し上げましたので経費面で言えば、例えば造林投資というものをアグロフォレストリーに肩がわりさせることによって軽減することもできると思いますし、こうした国有林の新しい先導的試行というものが民間林業と山村の活性化に資することにもなろうかと存じます。
ただ、国有林は種々の理由から一挙に方向転換をすることができにくいものでございますので、改善の実が上がるのには時間がかかります。ですから、その間のつなぎとして一般会計からの繰り入れ、つまり国民の税金の投入はやむを得ないと考えております。
しかも、今申しましたように、国有林の経営改善というのは日本林業、山村の成熟化、活性化と表裏の関係にございます。つまりは、国有林事業と民有林行政は、申さば車の両輪なのでございます。今までの参考人からお話がございましたように、特に今のような日本林業の状態においてはそうだと思います。そういう意味においては、当分の間の一般会計からの投入というのは、むしろ積極的に肯定してよいのではないかと考えております。
長時間御清聴ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/10
-
011・阿部文男
○阿部委員長 ありがとうございました。
次に、高畑参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/11
-
012・高畑次穂
○高畑参考人 御指名を受けました日本林業労働組合の高畑でございます。
最近とみに地球上の緑資源の危機が言われている中で、我が国の森林、林業においても厳しい状況のもとで停滞を続けまして、このままでは森林が持つ多面的な機能を発揮する上で重要な支障が生ずるのではないかというふうに懸念されております。
私は、国有林に働く者の立場から、林野三法の一部改正に異論を持つものでありませんけれども、そのうち特に国有林野事業改善特別措置法に関連をする基本的項目についての所感を述べさせていただきたいと思います。
国有林野事業の経営改善は昭和五十三年度からちょうど五年を経過したわけでありますが、御承知のとおり、木材価格が昭和五十年当初の水準まで落ち込みまして、企業の財務事情が予想以上に悪化をした、あるいは臨調そしてまた林政審議会の答申が出された、こういうことから改善措置を拡充強化するという方向で、改善期間を改めて昭和五十九年度から昭和六十八年度の十年間に変更するということでありますから、今日の現状からしてやむを得ないと考えている次第であります。
私たちも、行政の効率化を求める国民世論を背景といたしまして、これまでの五年間それなりに最大限の努力をしてきたところでございます。現に要員規模では約一万人の削減、現場第一線の事業所につきましては、実に二一形に及ぶ二百五十九の事業所の廃止統合、あるいは営林局のうち北海道四局の支局化、そしてまた全国で十六署の営林署の統廃合など、大幅な組織、要員の縮小がなされてきたところでございまして、このことは他の省庁に見られない改善の成果であり、これだけ国有林の労使が懸命に努力をした結果だと率直に受けとめていただきたいのであります。
この間、国有林野事業特別会計は、伐採量の減少、木材価格の低迷等に起因いたしまして収支悪化を余儀なくされまして、長期借入金への依存度が高まり、昭和五十九年度では累積債務が一兆円を超える、そしてまた支払い利息だけでも一日当たり二億二千万円にも及ぶという大変な事態になっているわけであります。
林政審議会は国有林経営の健全化のために多くの項目について提言されておりますが、ここでは時間の制約もありますので、主要な項目について述べさせていただきたいと思います。
第一は、財政、つまり金の点でございます。
私どもは、従前から、資源的制約を受ける中で、木材販売収入をもって企業目的のすべてを全うするということは不可能である、現行の単年度決算方式の会計制度は、そういう意味におきまして抜本的に見直す必要があることを繰り返し述べてきたところでございます。借入金利息の緩和、あるいは公益的機能部分や林道等生産基盤整備の経費は一般会計負担にするとか、あるいは応益負担制度の導入を図るべきではないかという提言をしてまいりました。一般会計財源の導入や新たな制度導入は、今日の情勢からしては大変難しいことかもしれませんけれども、このような点についてももっと各層の意見を聞くなど、真剣な検討が加えられてしかるべきだと思います。
財源導入という観点からすれば、今回の分収育林制度の導入は森林に対する国民の関心を集めるとともに、浄財を資源造成に向ける点においても大変結構なことだと思うわけであります。
ただ、ここで特にお断りしておきたいことは、私どもは決して現在の経営実態をこのままに放置いたしまして、自助努力を怠り、足りない部分には一般会計の財源をどしどし導入すればいいんだ、そういう無責任な考え方ではなくして、労使がともに血のにじむような努力をした上で、しかもそのことが地域社会にも、そしてまた国民の皆さんからも御理解を得た上で、これ以上どうにもならないという部分については御援助をいただくという考えだということを特に御刮目いただきたいわけであります。
第二は、組織、要員、つまり人の問題であります。
国土庁の三全総においては、西暦二〇〇〇年を見通した超長期的な展望を踏まえ、大都市への人口と産業の集中を抑制し、一方、地方を振興し、過密過疎問題に対応しながら全国土の利用の均衡を図り、生活環境も含めた山村の総合的整備が必要だといたしまして、森林管理、林業生産の担い手確保の重要性を強調しております。山村における担い手確保となれば、当然農業そしてまた林業を含めた総合的な施策は必要だと思うわけでありますが、しかしながら、現実は、例えば農業の場合、基幹的農業従事者の総数は今日約四百十三万人でございますけれども、そのうち六十歳以上の人たちが全体の三五%を占めておる、林業もそうですが、大変な老齢化の実態があります。
また、農家の子弟の農業への就業を見ましても、いわゆる新規学卒者のうち毎年農業に従事をするという人たちはわずかに六千ないし七千名である。高学歴化の傾向にあるとは言いながら、このようないわゆる学卒者六十万人のわずか一%程度しか農業に従事をしない、そういう実態であります。
一方、国有林の場合は基幹作業職員の新規採用は原則停止ということでございますから、林業高校あるいは大学林科の卒業生が毎年約四千名卒業してまいります。しかしながら、五十九年度の場合を見ますと、わずかに百八十八名の定員内職員の採用でありますから、全く定住構想とはおよそかけ離れた実態でございまして、これで果たして日本の農林業、とりわけ緑資源を守ることが本当にできるのかどうか、大変疑問に思っておるところでございます。財政的な理由だけをもって将来の担い手確保の道を閉ざすやり方というのは、私は大変な誤りではないかと思う次第でございます。
このことは民有林についても言えることでございまして、森林組合労務班の実態を見ましても、これまで植えてまいりましたいわゆる造林地、これが将来数十年か後には伐期を迎えるわけでありますけれども、そのときに木を切る人がいない、こういうことが断言できる地域すらあるわけでございまして、昭和五十五年五月に閣議決定を見ました「重要な林産物の需要及び供給に関する長期の見通し」そのものが、金と人の問題から大幅に変更せざるを得ないのではないかというふうにすら思うわけであります。
山は人づくりからと言われております。私どもは全国を数ブロックに分けまして、いわゆる林業短大を創設をして、管理技術そしてまた林業技術双方を備え合わせた林業マンの計画的な育成確保、これこそが今日衰退の一途をたどるわが国森林、林業立て直しの基本と考える次第でございます。
また、営林署等の統廃合、とれにつきましても政府がおっしゃっておりますように画一的な、あるいは数字合わせ的なやり方は農山村の振興策にそぐいません。本来、行政改革とは効率的行政サービスの向上あるいは国民生活擁護が旗印と認識している私どもにとりましては、もろ手を挙げて賛成することはできないわけでございまして、地方公共団体なりあるいは地域住民、そしてまた労働者等の意見ももっと十分聴取した上で、真に行政改革の名にふさわしい先行き見通しを示した上で計画的に実施されるべきだと考えるわけであります。
第三は、林業労働者の処遇問題であります。
御承知のとおり、山林労働は大変な肉体労働でありますとともに、生活環境も山間僻地に散在しておりまして、子弟の教育あるいは家族の医療、これらの生活条件は憲法で保障された健康で文化的な生活とはおよそほど遠いわけでございまして、特に民間林業労働者の所得水準の低さは際立っていると言うことができるのではないかと思います。また国有林の場合でも、一般職国家公務員あるいは他の公企体職員に比べ大変低い実態にございます。また労働災害の頻度も高く、社会問題化した振動障害認定者も国有林においては既に三千六百名を超えまして、民有林でも療養を継続中の人たちが既に六千人を超えるという実態にございまして、まさに過酷な労働環境にございます。
私たちは、こうした労働環境の中で、特に昭和五十三年度の経営改善以降、企業の改善合理化に取り組むとともに、企業の赤字財政を理由とした期末手当の削減あるいは賃金引き上げの差別取り扱い、こういう厳しい抑圧にこれまで耐え忍んでまいったつもりでございますけれども、国有林の職場にはもう我慢の限界だという不満の声が非常に強まっております。労働者の指導的立場にある私どもといたしましても、大変な事態に直面していると判断していろところであります。一体いつまで、どの程度経営改善に協力すれば果たして五年後そしてまた十年後はこういう明るい見通しがあるんだ、こういう具体的なものが示されないまま労使関係もぎりぎりのところまで来ておるという点を強調せざるを得ないのであります。
経営改善は労使の協力があってこそ初めて前進するものでございまして、労働意欲を喚起する具体的手だてを講じていただくとともに、労使協議制やあるいは業績評価制度を導入いたしまして、真に国民の重要な資産としての森林、林業を再建するために労使の協力、信頼関係が絶対的に必要でございますし、そして今こそ森林、林業への政治の熱意と力が求められているのではないかと考える次第でございます。
大変はしょって申し上げましたけれども、以上をもちまして私の意見発表を終わらせていただきますが、後ほどまた諸先生方から御質問いただきながら補足をさせて説明をさせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/12
-
013・阿部文男
○阿部委員長 ありがとうございました。
以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/13
-
014・阿部文男
○阿部委員長 この際、委員各位に申し上げます。
大内参考人は所用のため午後零時三十分に退席いたしますので、あらかじめ御了承のほどをお願いします。
これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。上草義輝君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/14
-
015・上草義輝
○上草委員 六名の参考人の皆さん、きょうは大変御苦労さまでございました。まず、心から感謝を申し上げたいと存じます。諸先生方からそれぞれ御意見を承ったわけでございますが、改めて幾つかの点について御意見をお伺いしたいと存じます。
まず大内参考人、森林の持つ公益的機能の維持増進の重視というのはよくわかるのでありますが、森林は経済的機能と公益的機能、これをあわせ持つものと思います。国有林野を経済林と非経済林あるいはまた不採算林、二つに明確に区分するという考え方があると思いますが、区分できるとすればどういった方法があるのか、その方法論、ございましたらお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/15
-
016・大内力
○大内参考人 経済林とか非経済林の区分はどういうふうに考えるかという御質問かと思います。
抽象的に申しますならば、もちろん保安林その他経済的な採算を主としない林地と、それから木材生産による経済的効果を主として考える林地というものを分けて考えるということは一応可能であろうかと思います。
ただ、先ほど申し上げましたように、現在の日本の林業の実情というものを前提といたしますと、私はこういう区別がすぐできるというふうには考えておりません。それは大変困難であろうというふうに思っております。
と申しますのは、先ほど申し上げましたときは言葉が足りなかったかもしれませんが、今の日本の山というのは、国有林もある意味で申しますと荒廃しておりますし、民有林に至ってはますます荒廃がひどいわけでございます。国有林につきましてもある一時期に過伐が非常に進みまして、その結果として林相が非常に悪くなっておりますし、それから民有林は、長年、特にいわゆる経済林とでも申しますか、針葉樹を中心といたしまして造林をやってまいりました地域は既に地方低下が相当著しくなっておりますし、先ほど申しましたように、長年手入れを怠ってまいりましたために林相が非常に悪くて生産力が下がっている、こういう状態になっておると思います。
ですから、当面の日本の林業の、林業政策の一番中心的な課題は、相当の時間をかけて日本の林相を先ほど申し上げましたような理想的な形にできるだけ近づけるように回復をさせていくということが必要だと思います。そのためには、林業の話でございますから恐らく五年とか十年ですぐに効果が上がるというわけにはいかないわけでして、少なくとも数十年というタームを考えまして、その中で国有林及び民有林全体を含めまして地域ごとの施業案をきちっとつくった上で理想的な林相へだんだんと近づけていく、こういう操作が必要でございます。
残念ながら、しばらくの間はそのことを第一に考えるべきであって、木材の生産とか、いわんや経済的採算性というものは、むしろそういう林相がきちんと整う過程で、あるいはそれが整った上では考え得ると思いますが、木材生産はせいぜいのところそういう林相を整えていく過程の、いわば、やや極端に申しますと副産物を利用するというような考え方をするくらいにいたしませんと、将来にわたって日本の林業を、あるいは日本の山を本当に活力のある山にして、国民の永遠の財産として保持するということはできないのではないか、そういう危機感を持っているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/16
-
017・上草義輝
○上草委員 小関参考人、公益的機能の重視と企業的に運営される特別会計制度をとっていることの関係をどう考えるべきなのか、あるいは特別会計の見直しが必要であるということなのか、その点についてお聞きいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/17
-
018・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
森林の持っている公益的な機能と経済的な機能というのは、ただいまの大内参考人に対する御質問にもございましたけれども、特定の、ある面積の、ある場所の森林を考えまして、その森林が公益的な機能を主として果たしているか、あるいは経済的機能を主として果たしているかというようなことを簡単に区分することは非常に困難だろうというふうに私は考えているのです。それからまた、場合によっては区分することが間違いである場合も多いのではないかと思っているのですね。
それは、どの森林も、極端に高山の急傾斜の森林なんかは、これは経済的機能を果たさないわけですが、そういう部分はやはり限られておりまして、多くの森林では両方の機能を同時に果たしていると考えなければいけないと思うわけです。現に現在の保安林制度でも、保安林面積の七割ぐらいを占める水源涵養保安林なんかは、ごく普通の森林施業、林業行為、経済的な行為ができるような施業制限をしているわけでございまして、その辺を分けるわけにはいかないというふうに考えておるわけです。
企業的な運営と公益的な運営というようなものを、森林の取り扱い方についてもそんなに簡単にきちんと分けられるものではない。むしろ片方、例えば公益的な機能に重点を置いて施業するというような場合に、それができるだけ伐採しないとか自然の状態に放置するとかいうような状態になった場合にはかえって公益的機能をマイナスにするような場合も起こり得るし、公益的機能の方は非常にたくさんの機能を持っておりますが、例えば酸素生産の機能であるとか水量を調節する機能とかございますけれども、ある森林をつくった場合に、両方とも並行的にその目的を達せられる、その機能を十分果たすというわけにいかない場合もあるわけです。逆の場合もあるわけですね。水を強調すると空気の方は若干おろそかになる、空気を強調すると水が若干おろそかになるというようなことも起こり得るわけで、その辺の関係はわからない、科学的にはまだ究明できていないものもかなり多いというふうに思っているわけです。
したがいまして、国有林に限らず民有林に限らず、ある部分について企業的経営をする、ある部分について非企業的な、公益的な経営をするというふうな分け方はかなり難しいというふうに考えているわけです。
したがいまして、国有林野事業は独立採算制の特別会計制度でございますが、普通の私企業で行われているような単純な財務計算で処理できるかどうかということについて大きな疑問を持っているわけです。少なくとも単年度決算というような形で収支のつじつまを合わせるようなやり方は、林業ではほとんど不可能であろうというふうに考えているわけです。
特別会計制度の見直しをするということは、私は独立採算制そのものについても十分な検討をする必要があると思うのです。実は、独立採算制をとった経緯につきまして、あるいはその果たしてきた役割につきましては積極的に評価すべき点があったと思うのですけれども、最初からやはり非常に大きな危険も内包していたと思うわけです。つまり、昭和二十五年ごろから木材価格が一般物価に比べて非常に高くなったときには、特別会計制度というのは収入がたくさんありましたから、それに見合って、森林の育成のためにどんどん投資することができたわけです。ところが、一転して木材価格が停滞して、一般物価指数よりもぐんと低く推移するようになりますと、途端に赤字になって十分な森林への投下ができないというような状態が出てきた。そのために、財政投融資等をお借りして継続的な投資を中断させないように国有林当局はずっと努力してきた。それが累積赤字になってきたという結果だと思うのです。
その際、私自身は、その独立採算制という考え方を廃止すべきだ、一般会計化すべきだというふうな結論は現在持っておりません。持っておりませんが、そういう考え方をも含めた根本的な検討が必要だろうというふうに思っているわけです。こういう国家財政の厳しいときに一般会計から無制限に森林の中にお金を投入することは難しいし、その原資の配分については問題があるかと思いますが、国民所得の中で林業所得の占める割合は非常に小さいのですけれども、しかしその持っている効果、機能というものは非常に大きいと思います。質的には非常に大きいので、そういう所得計算から見た財源の配分、原資の配分というようなことにこだわらない投資が森林には必要であると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/18
-
019・上草義輝
○上草委員 村尾参考人、今お二人の参考人からお話もございましたが、公益的機能を重視する余り、厳しい国の財政の事情から考えますと、これ以上の財政負担の増加については今民有林の関係者を含めてとかくの批判もあるわけですが、国有林野事業の現状について簡単に先生のお考えを。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/19
-
020・村尾行一
○村尾参考人 お答えいたします。
先ほど申しましたように、現状までのところは、これは大内先生から私が学生時代に習った言葉でございますが、他人のための使用価値、つまり使う側が喜んで買っていこうというようなものをつくっているのだという感覚が、これはざっくばらんに申しまして現場に行けば行くほど希薄化していきます。これは決して管理職か一般職かという区分ではございません。ここでやはり使う身になって、こういうものがいいものなのだということを需要サイドが理解できるような生産の仕方、販売の仕方というものをやっていただきたい。逆に申せば、そこに今日の国有林の、さらに申せば民有林自体もそうでございますよ、これは全く同じと申し上げていいと思いますが、そこら辺にきょう特に申し上げたかった今日の日本林業の問題点と改善すべきターゲットがあるように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/20
-
021・上草義輝
○上草委員 古橋参考人、国有林野のみならず民有林経営も含めて、我が国の林業はかつてない厳しい時代を迎えているわけであります。先ほどももちろんお伺いいたしましたが、現場での御経験からして、今最も必要とされる林政上の施策について参考人の御意見を。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/21
-
022・古橋茂人
○古橋参考人 お答え申し上げたいと存じます。
基本的には、人が山間部に定住をするということが森林を守り、公益的機能を発揮するということで最も大切でありますけれども、その山村の基本産業であります林業が非常に衰退をしておる。加えまして、過疎がまだ下げどまらない。一番肝心の足でありますバスも、過疎バスは廃止されようとしております。私どもの奥三河も関係の私鉄から赤字路線の廃止の通知を受けまして、県のごあっせんによって何とか五十九年度いっぱいまでは延ばし得たわけでありますけれども、六十年度以降はこれからの問題でございます。山村に人が定住するということが第一次原則でありますならば、やはり明年度で切れます山村振興法をぜひ延長をいただきたい。
また、山村は農業と林業を定住の基盤として立っておるわけでありますけれども、農業につきましては生前贈与が認められたりしておりますが、林業はそういう道がございません。農と林がばらばらでございまして、例えば私どもの流域にありますあの大トヨタも自販と自工が大型合併をいたしておりますし、鉄もあるいは銀行も大型合併をいたしております中に、ささやかな山村で農業協同組合あるいは森林組合というものが二つある。これが一体的になりまして農・林の推進を図らなければ定住の条件は促進できない、このように思っております。
また、後継者対策を見てみますと、二、三年前に後継者を集めまして私が三十分ほど林業に関する話をして、後継者の意見を聞いてみました。ところが、異口同音に申すことは、おじいさんに権利があって、お父さんが後継者で、おじいさんは八十歳、お父さんは五十を過ぎておる、若い人たちはまるっきり林業に対する権限もないし、参加もできない。これはやはり税法によるものでありまして、所有権がない限り、五十歳のお父さんが自分の半生をささげて山の手入れをしてきましても、伐採をいたした場合におやじの収入にはならないわけでございまして、公益機能云々を言われるならば、生前贈与というものについても真に山を守る者について道が開けてしかるべきじゃないか。
木材引取税一つ見ましても、悪法悪法と言われながら、先ほど私が意見陳述で申し上げましたように、昭和三十六年代には十二人を雇用していたものが一立方当たり二人しか雇用できない今日でもこの木材引取税が徴収されておるわけでありますし、特に間伐につきましては、ほとんど労賃でありますけれども、そのささやかな収入についてもすべて税金が課せられる。こうした税金も撤廃をしていただきたい。こういうことを考えますと、この森林税法の改革というものが大きな問題でございます。
当面の課題として直接林業にかかわるものとしては、真の山の声は林道網の整備でございます。間伐材を金にするためにも、林道網が整備されて初めて金になりますし、先ほど私が提案申し上げました非皆伐施業、皆伐をしない施業こそが公益機能を果たしていくわけでありますけれども、これも林道網の整備なくしては実施はできないわけでございまして、もろもろの施策に加えて特に林道網の整備をお願い申し上げたい。
次には、間伐の流通改革でございます。公益的機能を果たしてまいります活力ある森林をつくるためには、やはり間伐を促進しなければなりません。先ほどお話がありましたいわゆる経済林と非経済林の問題がありますけれども、保安林といえども間伐を推進していくことによって活力ある森林によみがえっていく。その間伐の流通というものが十分でないわけであります。私は県段階でこれを強く主張いたしまして、愛知県国産材流通機構検討委員会というものを昭和五十六年に発起いたしまして、その座長を務めながら、ニカ年終わった経過を踏まえて、今、県が調査費をつけて調査が終わったところであります。まだ私の手元まで着いておりませんけれども、今までのような小流域の間伐材の流通では外材に対抗し得ないわけでありまして、オール三河材、地域を挙げての間伐材の流通ということで大量集荷してこれを厳密に選別をする、そこに外材志向型になっています軸組み工法、ツーバイフォー工法の軸部としても供給する体制ができるわけであります。
第三には、木材の利用促進であります。今のままでございますと、せっかく国産材の供給の時期が参りましても、実際何に利用するかという問題があるわけでございまして、ぜひともこの国産材の利用促進について格別の御高配をいただきたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/22
-
023・上草義輝
○上草委員 それぞれ貴重な御意見、ありがとうございました。
時間が参りましたので、最後に高畑参考人に。
先ほど参考人の陳述で、労使協調が何よりもということを強調されておられました。何かこれについていい方法がありましたら、一言簡単に。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/23
-
024・高畑次穂
○高畑参考人 お答えいたします。
私どもは、労使協議制を確立いたしまして、もっと国有林に働く労働者の意見が経営に反映できるものをつくるべきである。
もう一つ、基本的には、林野庁長官以下現場営林署の労務係長に至るまで、いわゆる管理者の皆さんが本当にやる気を持つことによって、私は今日いろいろ地域社会から御批判を受けております点については相当部分解消できるのではないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/24
-
025・上草義輝
○上草委員 ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/25
-
026・阿部文男
○阿部委員長 小川国彦君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/26
-
027・小川国彦
○小川(国)委員 参考人の皆さんには、それぞれ御多忙の中、また遠路まことに御苦労さまでございます。私ども、国政の中で、これから審議に入ってまいります林野関係の三法につきまして、先生方の御高見を承らせていただきたいと存じます。
最初に、森参考人、大内参考人、小関参考人、村尾参考人、四名の方にお尋ねをしたいのでありますが、御承知のように、国の林野事業の会計というものは大変厳しい赤字に遭遇しておりまして、五十八年度予算で債務残高、いわゆる借金の残高が九千五百九億円という状況に達している、そして五十九年度中には一兆円を突破する、こういう状況にありまして、この再建のための特別措置法を中心にして、今回林野三法の審議に臨んでいくわけでありますが、今財政再建という状況に置かれた国の財政の中で、防衛の問題は別としましても、教育についてもあるいは社会福祉についても、医療についても、農業についても、あらゆる分野について国の一般会計の中で行わなければならない仕事というものはたくさんあるわけでございます。
そういう中で、もちろん今諸先生方が述べられたような、国の森林資源といいますか、林野事業といいますか、これを大切に国の事業として守っていかなければならない、こういう観点は私どもひしひしと感ずるわけでありますが、特別会計での膨大な赤字を一般会計の中から補てんするということを考えてみましても、そこにはおのずから財政的な限度があるわけであります。我々は、この林野事業の重要性から考えて、その辺の許容限度といいますか、一般会計から繰り入れていく、あるいは国の負担で行っていく、そういう考え方を、一体どの程度をめどに考えたらいいのか、この点について、今お名前を申し上げた参考人の方からまず御意見をちょうだいしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/27
-
028・森巖夫
○森参考人 お答え申し上げます。
現在の厳しい財政状況の中で国有林の財政改善を図るということは、これは並み大抵のことではないと考えます。まして最近の木材需要の動向とか、それに伴いますところの木材価格の動きなどを見ますと、これまた深刻さがひしひしと考えられるわけであります。
しかしながら、中長期的に展望しますならば、現在国有林の状態は、言うならばどん底状態にあると言っていいのではないかと思います。そのどん底状態と申し上げますのは、例えば昭和三十年代の我が国経済の極めて高度な成長過程において増大しました木材需要に国有林が率先してといいましょうか、そういう国民的要請を受けて伐採して対応したことに伴いますところの現在の資源状態でございますね、これを悪化と評価するかどうかは別として。しかし、これはその後の懸命な造林の努力、そしてまた改善計画の中での森林整備への努力によって、将来伐採量の増加も期待されるような状況になってきている。そういう意味でどん底状態にある。
それからまた、木材の価格の動向などにつきましても、これまた短期的な見通しをやることは難しいわけでございますが、中長期的に見ますならば、先ほどから話が出ておりますように、世界的な規模での森林資源の不足状況あるいは国民の木造住宅に対する根強い欲求などを考えますならば、中長期的には今のような低迷が続くのではなくて、むしろ状況が改善される、こうなってきます。
そのほか、国有林自体の、先ほど申しましたように増伐志向期、増伐に対応しなければいけないときに抱えました要員、その影響を受けて現在いわば過剰な要員を抱えている。これも今後の経営努力によって、また現在従事しております職員の年齢構成から見ても当然退職になるわけでございますから、そういう面での合理化などを考えますと、将来、今政府が五十三年の改善計画でめどとしております七十二年度には収支の均衡が回復できるという見通しは、私は決して誤った見通してはない、単なる目標ではなくて、客観的な条件のある見通しであると考えます。
そういう状況、つまり先行きにそういう展望があるからこそ現在立て直しに努力しなければいけないわけでございますが、財政再建の厳しい中でどの程度の許容限度があるかとなりますと、これはまさに国の総予算の分析をしなければなりませんが、少なくとも国有林野事業の財政改善に向けて現在必要なのは、先ほども申し上げましたように、林道ですとか造林に対する繰り入れのみならず、合理化のためにも退職金の財源措置、そしてまたその退職金の財源措置に伴いますところの支払い利子に対する一般会計からの導入、これは現在時点で最小限に必要な措置である、このことは現在の財政事情の中でも許される限度である、こういうふうに考えております。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/28
-
029・大内力
○大内参考人 今の御質問の、一般会計から国有林野に対してどの程度の補給をすべきかということを具体的な数字として申し上げますことは大変困難でございまして、いろいろな条件にかかわることかと思います。
ただ、基本的な考え方といたしまして、これは国鉄でもそうでございますし、国有林野特別会計でもそうでございます。あるいはもっと一般的に申しますと、今の日本の財政全体の問題だと思いますけれども、一番困難を加えておりますのは、申すまでもなく、過去の借金が、累積債務が非常にかさんでおりまして、それの元利負担が非常に巨大化しているということであります。林野特別会計につきましても、先ほどからお話がしばしば出てまいりましたように、巨額の過去の累積債務をどう処理するかということによって非常に考え方は違ってくるのではないかというふうに思います。
たまたまここにいただきました参考資料の数字を見まして、五十八年度の予算について申しましても、八百五十六億という償還金利子が実は赤字の大部分でございまして、この計算によりますと、赤字は六百九十三億でございますから、もしこの償還金利子負担の問題さえ解決できれば、むしろ林野特別会計は黒字になるというふうに考えてもいいかと思います。
しかし、この問題は、林野特別会計だけを切り離してこの累積債務をどう処理するか、こういう考え方は、恐らく財政運営としては不適当だろうと私は思います。むしろこれも一種の公債でございますから、したがって、国の一般会計の公債と合わせまして、今十兆円を超えます巨額の公債をこれからの財政の中でどういうふうに処理していくのか、こういう問題ではないかというふうに思うわけでございますが、そこまで立ち入りますと予算委員会の問題になってしまいますので差し控えますけれども、林野特別会計として言えば、これは一種の会社更生法みたいな考え方が必要ではないか。つまり、過去の債務は何らかの形で一応切り離して別に経理をする、そして将来利益が上がるようになれば、長期にわたって少しずつ償還していくということは考えなければならないと思いますが、通常の方法で年々の林野の収益の中から償還金利子を払っていく、こういう考え方では到底処理し切れない問題ではないだろうかというふうに考えております。
それから第二番目の点、もう一つだけ申し上げますと、先ほども申し上げましたように、将来の問題として、国有林野の林相が整ってまいりまして十分活力のある山林というものが形成されてまいりますならば、これはそのときの景気の事情とか木材価格とか、さまざまな条件によって動きますので今から何とも申し上げられませんが、ある程度の採算はとれるものではないだろうかと思っております。
ただ、その場合に一つ考えておかなければなりませんことは、今の国有林野特別会計がやっておりますように、投資の部分をまた長期の借入金という形でやってまいりますと、十年か二十年先にだんだん林相がよくなってきて収入がふえてくるというときに、またもや利子と償還金に食いつぶされてしまうということを繰り返さざるを得なくなってくるのではないかと思います。したがって、まずこれからの考え方といたしましては、確かにおっしゃるとおり一般会計の非常に困難なときでございますが、その一般会計の資金をどこへどういうふうに配分するかというのはまさに政治の問題でございまして、機械的に何%林野に向けるべきだというようなことは申し上げられないことでございますけれども、基本的な考え方としては、長期借り入れではなくていわば一般会計からの財政投資のようなものをできるだけ導入をいたしまして、利子負担を負わない形で国有林野の蓄積を増大し林相の改善を図っていく、それがある程度できたところでは恐らくは一応の採算がとれるようになるのではないだろうかと思います。
ただ、最初の発言で申し上げましたように、民間の林業におきましても、明治この方のことを考えてみますと、例えば銀行から借入金をして投資をして、そして年々利子を払って六十年も七十年もにわたって林業を経営すろ、それに対して複利で利子をつけていく、こういう形で林業経営が成り立っているという例は恐らくないと考えております。もともと民間の林業でも、主として申しますと農地改革前は田畑の地主が日本では大山林所有者だったわけでございまして、この連中はむしろ田畑の小作料の上がりでもうけたものを林業につき込んでいくということであったわけです。あるいはもっと小規模の農家林業なり家族林業というものは、自分の小さな蓄積と自分の労力で築き上げていったものでございまして、そもそも林業は、決して企業のように大量の借入金をしてその上に利子を払って、それで計算が成り立つというような性質のものではないのではないか。だから、国有林についてだけそういう全く合理的な企業会計のようなものを適用しよう、こういう考え方そのものに私は大変疑問を持っているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/29
-
030・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
大変難しい問題でございまして、財政の原資をどの分野にどの程度配分するかというのは必ずしも論理的に割り切れる問題ではないと思います。ほかの参考人からも御意見がありましたように、ある意味では政治的な力関係というようなものもあるかと思いますが、私は、国有林財政の財政処理という観点に立ちますと、大内先生のおっしゃったことと少し違うかもしれませんが、あるいは財務の小細工みたいなものですけれども、政府出資金として借入金を扱えば利子の負担がないのが会計学上の原則ですから、そういう扱いができないか。これはもちろん国有林野事業だけでそういうことはできないので、他の特別会計との関連もありますけれども、そういうようなことも検討してみる必要があるのではないかと思います。ただ、今のような改善措置をとり続けていくことによって七十二年度なら七十二年度に収支が均衡するかどうかということについては、非常にたくさんのわからない要素があると私は思うのです。政府の説明資料を見ましても、必ずしも説得的な説明をしていないと思います。
その中で一つ二つ私が考えておることを、抽象的ですが申し上げますと、一つは、国際的な関係の影響は非常に大きいわけでございまして、これは木材価格に直接間接にはね返ってきますし、その他の物の価格にもはね返ってくるし、需要供給にもはね返ってまいります。国際関係を政府の努力でできるだけ安定する、経済的な意味でも安定することが非常に重要なことになるのではないか。
それからもう一つは、これは会計制度とは直接かかわりはありませんが、従来、国有林はいつも時代の要請とか社会の要請とかというものにいわば振り回されてきたツケが、全部今集積しているのだというふうに考えてもいい面があるわけです。それだけだとは思いませんが、そういう点もあるわけでございまして、その点については、私は経営方針といいますか、国の林業政策の方向を余り変えない、十分議論を尽くして長期的な方針を持つということ、これはその範囲内で国有林が主体性を持てるということでございますので、そういうふうにできる方法をみんなで考える必要があるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/30
-
031・村尾行一
○村尾参考人 お答えいたします。
今までの諸先生方がおっしゃったことと重複する部分は避けて申し上げます。
まず第一点に限度の問題ですが、私はいわば外枠と申しますか、天井と申しますか、つまりGNPの何%まで許せるとか、総予算あるいは一般会計総額のどのぐらいが限度なのかという議論というのは、これはひっきょう国民が、ひいては国権の最高機関であります国会が、国有林というものの存続を認めるかどうかによって実は決まってくる。こういうものは要らないのであるというふうに御判断になりましたら、これはもう仕方ないということになろうかと思うわけでございます。言うならば、すぐれてこれはハイレベルの政治的判断に属する問題だと思っております。
次に、じゃ今度内側から見たらどうだということになりますと、はなはだ僭越でございますが、国有林経営の中身についての検討の、例えばワーキンググループに私なんかも入れていただいて検討させていたださましたら、さしあたりこのぐらいのところを一般会計から繰り入れしてもらいたいというような議論は出てくるだろうと思うのでございます。
これにつながりまして、最後に一つと申しますか、あるいは二つと申しますか、申し上げますと、これは大内先生がおっしゃったこととほぼ同じことかと存じますが、私は、単年度の収支均衡というのは比較的短い時間に達成することができると思っております。問題は、今日までの累積赤字でございます。だから、それに伴う金利負担の問題でございます。これをどうしていただけるかということを、質疑は禁止されておりますので、ひとり言で申し上げますけれども、先生方に御検討をいただきたいと思っております。そして、この単年度の収支均衡というものを一年でも早く達成することが、実は累積赤字及びそれに伴う金利負担というものを軽減することであることは申し上げるまでもないと思います。
ですから、先ほど申しました収支均衡を達成するまでの諸改善、それは運用面及び財政面での諸改善というものを、繰り返しになりますけれども、しっかりしたワーキンググループをつくって具体的に議論をしていくというような作業というものが必要である、それが今回の国有林経営改善特別措置法で新しい経営改善計画を立てていくということに盛り込まれたものではないだろうかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/31
-
032・小川国彦
○小川(国)委員 一人二十分という限られた質問時間でございまして、もう一問しかお伺いできないと思いますが、私ども、これから保安林整備の問題、それから国有林としての分収育林によって増収を図っていくというような問題を提起されているわけでありまして、保安林の整備はなおまた充実強化しなければならないという、内面的にはいろいろな問題を抱えている。そういう中で、特別措置法のまた財政状況がある。国有林野法の一部改正では、国が分収育林をやるわけでございますが、先ほど先生方のお話しになった、これによって財政救済の方途にしようというのは無理ではないかという御意見もあったわけでございますが、この点について大内先生、小関先生から、分収育林によっての収入増が果たして財政的な救済策になるというふうにお考えになられるかどうか、ひとつ伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/32
-
033・大内力
○大内参考人 これも的確にお答えするのは大変難しい御質問でございまして、やってみなければわからないと申し上げるしかないことかと思います。先ほどいろいろな参考人からお話がありましたように、私は、国民に国有林野というものを理解してもらうとか、あるいは山林に国民を親しませるという意味で分収育林をやるのだ、こういうことについては必ずしも反対ではございません。ただ、この場合にも第一に考えていただかなければなりませんことは、先ほど申し上げましたように、国有林全体の施業案をきちっと守って、その中で国有林の経営が一番能力が高まるような形で運営されていかなければならないわけでございまして、それの障害になるような形でいろいろ一般の人が入ってくるということはぜひ避けなければならない。特に、分収の民間人の方が収入を得たいからといって早期に伐採するというような問題にぶつかるときには、これは甚だかえって害になるわけでございまして、その点は十分考えた上で運営されなければならないと思いますが、勘で言えば、私も、先ほどどなたかがおっしゃったように、そういう公益的な、あるいは国民のレクリエーションとしては役に立つかもしれませんが、収入増というところにそれほどつながるほどの意味があるというふうには考えておりません。
と申しますのは、先ほど申しましたように、むしろ今問題は、民間の山林さえほとんど人手不足でもって手抜きが行われていって満足に経営ができていないわけでございますから、今国有林の一部にそれでは民間が参加するといっても、それは都会の人がごく狭い面積を楽しみのために受け持つというようなことはあり得るかもしれませんけれども、かなりの面積にわたって民間の力でもって経営できるというような能力を持っているところはほとんどないだろうと思いますので、いずれにせよ、収入については余り期待をするという感じは持てないわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/33
-
034・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
収入については余り大きな期待を持てないということを先ほど申し上げたのは私でございますが、私も厳密な計算をしてみたわけではございませんし、十分な検討をしていないのですけれども、恐らく収支均衡を図るためにはいろいろなことを考えなければならないということで林野当局が大変苦労されてお考えになった幾つかの方法のうちの一つだろうというふうに理解しております。
先ほど申し上げましたように、分収育林に参加した民間の人たちが国有林に対して親しみを持つ、あるいは緑に対して理解を深めるという点での効果は期待できると私は申しましたが、これが現在では都市の住民と山を、国有林を結びつけるというような発想が非常に強いようでございます。私は、これも悪くないと思いますが、最も重要なのは地元だと思うのです。地元なくして国有林はないのであって、そういう意味では地元対策が、先ほど一番最初の参考人の方が自分の村のことについてお話しになりましたように、地元の生活環境というものを非常に重要視した一般林政の充実というのがまず一つの問題になるだろうというふうに考えるわけです。
それからまた、国有林について見ますと、国有林が限りなく要員を縮減して職員数を減らしていって、そしてそのバックには事業規模の縮小ということが当分続くわけでございまして、これが農山村地域の振興に寄与するという国有林の三つの目的のうちの一つをむしろ阻害するのではないか。国有林の地元振興というのは、国有林が地元で事業をすること、地元で人を雇用すること、それを拡大していかなければ地元との関係は成立しないというふうに私は考えております。そういう意味で、当分続くであろう事業規模の縮小あるいは要員の削減というのは、地元の農山村にとって大変大きなダメージを与えるというふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/34
-
035・小川国彦
○小川(国)委員 終わります。
どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/35
-
036・阿部文男
○阿部委員長 田中恒利君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/36
-
037・田中恒利
○田中(恒)委員 参考人の皆さん、御苦労さんでございます。私どもは、林業三法、それぞれの個別法案の内容もさることながら、今日当面しておる我が国の山村林業問題をいろいろな角度から取り上げて審議をいたしてまいりたいと思っておりますが、きょうはそれぞれ貴重な御意見をいただきましたが、なお二、三追加の意味も込めまして質問をさせていただきたいと思います。
最初に古橋参考人にお尋ねをいたしますが、私の理解がこういう理解でよろしいのかどうか、その辺も含ませてお聞きをいたしたいわけですが、結局、この林業の問題は山づくり、森林づくり、もっと大きく言えば町づくり、地域づくり、そういう視点がなければ今日のこの事態を切り抜けることはなかなか難しいのではないか、一口で言えば私はこういう意味に承ったわけであります。つまり、有限会社をつくられて、お話を聞くと、造林から育種から保育から、あるいは木材の加工あるいは土木工事、あるいはその他のいろいろな面にまでこの会社が入って、地域全体の組み合わせをしていらっしゃるということであります。
それから、皆伐を非皆伐にして、そして複層林にする。これは日本の林業で比較的おくれておるところだと思いますが、この複層林につきましては、なかなか技術も要りましょうし、それから人もそんなに少なくするようなことでできるのかどうか。私はその辺もお聞きをいたしたいわけでありますが、そういう複層林経営で、しかもいろいろな面をやられていく。そういう意味で、町づくりとか地域づくりとかいう視点でこの林業、山問題を取り扱わなければいけない、こういうふうにお示しをいただいたものと私は理解しておるわけでありますが、それでよろしいかどうか。その場合に、今日の我が国の林業政策、もっと端的に言えば、林野庁を通して流されているさまざまな補助金を中心とした政策というものがそういうものに対応し切れておるのかどうか、このことをお尋ねをいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/37
-
038・古橋茂人
○古橋参考人 まさに先生の御指摘のとおりでございまして、山村の振興なくして林業の振興はあり得ないと存じます。林野庁の御高配をいただいております数々の施策につきましては、私ども心から感謝を申し上げておるわけでございますが、先刻も御指摘申し上げましたように農・林一体の策が相まっていただきたい。農と林が別々でございましても、実際生活する住民にとりましては農と林を営んでおるわけでございまして、その方向に御高配をいただきたいと思うわけであります。
非皆伐施業につきましては、まだ施業体系が確立しておるわけではありません。これだというものはまだございませんけれども、ともかくも皆伐をやめる、そしてその更新というものにいかに対応するかということに今努力をしつつあるわけでございまして、それらの基盤になります林道網の整備というものがなくしてはこうした高度技術の施業というものは推進し得ないわけでありまして、これらにつきましてもそういう温かい御高配とあわせて進めてまいらねばならぬものと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/38
-
039・田中恒利
○田中(恒)委員 そこで、私は大内先生にお尋ねをいたしたいと思いますが、私自体も実は大槻研修所で先生の御講義をしばらく受けた一人でありまして、先生は日本の農業経済学の一方の旗頭という理解を私どもさせていただいておるわけでございますが、農業というものと林業というものはどうしても組み合わせなければいけない、こういうことを私どもも山村へ行きますとよく聞かされるわけであります。そういう意味で、農と林の結合というものを考える場合に、どういうところに問題を絞っていけばいいのか。土地制度の問題もございましょうし、通常、畜産との関係で山の採草地を中心とした組み合わせなどが大きく問題として投げかけられてきたわけでありますが、その辺についての先生の御意見。
それから、問題は、そういうものをだれが、どこが中心になってやっていくかという問題であります。先ほども古橋さんの方から森林組合等協同組合の団体の問題もございました。我が国の団体も、農林行政も縦が非常に強うございますが、団体もまことにさまざまであります。団体問題もあると思います。しかし、私どもは、今日の山村の町というものが一体どれだけこういう山問題に対応しておるのかということに実は焦点を置いておるわけでありますが、あるいは最近は、そうは言っても、山づくりに全生命をかけておる林家というもの、あるいは若いグループがたくさんございます。山に働いていらっしゃる労働者の皆さんもいらっしゃるわけでありますが、こういうものもくるませて、山づくりの主体というものを今日のこの情勢の中ではどの辺に焦点を置いて進めるのがよろしいのか。我が国の林政なり農政全般の流れをこの際根本から組みかえていかなければいけないような問題を含んでおるのではなかろうかと思うわけでありますが、この辺についての大内先生の御高見をひとつ承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/39
-
040・大内力
○大内参考人 大変広範な問題でございまして、限られた時間で十分お答えできないかと思いますが、山村の農業をどうするかというのは大変大きな問題でございます。もちろん今各地の山村でいろいろな工夫が行われているわけでございまして、例えば林産物と結合いたしまして、シイタケとか、あるいは山陰の地域なんかでは御承知のとおり山ワサビをつくっているところもございますし、その他果樹等を考える、果樹でも特にクリとかあるいはクルミとか、そういう堅果類を中心に考えるというようなさまざまな考え方がございます。もちろんそういうことも大変結構な試みでございまして、これから大いに発展させる必要があると考えておりますが、基本的には山というのはやはり畜産と結びつけるべきものだろうと私は思います。
特に、今大変大きな問題になっております牛肉生産について申しますならば、従来の日本のような濃厚飼料を中心といたしまして比較的少頭数を舎飼いをするというような方式、しかもかなり長年月、二年以上かけてサシの入った牛肉をつくる、こういうような方向の牛肉生産というものは、もちろんある一種の嗜好品と申しますか、あるいはぜいたく品の生産としては意味があると思いますけれども、国民全体の大衆的な必要に応じるという意味では極めて欠陥が大きいわけです。ですから、むしろできるだけ草を中心といたしまして、放牧を主体といたしまして、省力的なもので、そして脂肪の少ない赤身肉を中心とした牛肉生産をコストを下げながら展開をしていく、こういう方向を将来の畜産の一つの方向として考えますと、このためにはどうしても主として山地を利用いたしまして、これの放牧及び草資源の利用というものと結合して考えるということが必要だろうと思います。
今日、御承知のとおり、先ほどもちょっと申しましたが、従来の薪炭採草林として使われておりました里山というのは、ほとんど荒れ果てておりまして何も使われていないというところが大部分でございまして、これが何百万ヘクタールあるとかいういろいろな計算はございますが、単なる放牧のためでございますならば、少なくとも傾斜度十度から十五度ぐらい、場合によっては二十度ぐらいまで使えますから、かなり活用する余地は大きいわけであります。
ただ、その場合に、林業との関係について申しますと、私は従来農林省がやってこられましたいわゆる草地造成というのには反対でございまして、これは二つの大きな欠陥を持っていたと思います。
その一つは、山を全部切ってしまいまして、そしてかなり広面積の草地をつくってしまうというやり方でございます。これは、緑の資源の維持という点から申しましても、土砂崩壊その他の点から申しましても、大変被害の大きいやり方でございますし、また家畜の方から申しましても、木陰がないために非常にいろいろな障害が生ずるやり方でございまして、したがって、どうしてもここで開発しなければならない技術はいわゆる混牧林でございまして、林業をある程度残しながら林間放牧を結合していく、こういう形かと思います。
それからもう一つは、何でも牧草に頼るという傾向が日本の畜産政策には非常に強かったわけでございます。もちろん、乳牛の場合にはある程度牧草が必要であろうかと思いますけれども、特に肉を中心とする場合には野草の改良という問題が非常に重要でございまして、改良野草を高度に利用していくという技術を開発しなければならないわけでございます。私の知っている限りにおきましては、この混牧林及び改良野草の研究というのは日本では甚だ立ちおくれておりまして、これから大いに力を入れなければならないところかと思いますけれども、そういう方向で一つ考える。
それからさらに、混牧林ということで考えますと、牛だけではなくて、将来の肉資源として大変重要なもの、これは前からの持論なんですが、私は実は羊だと思っております。羊の場合には木を傷めることも少ないわけでございますし、それから下刈りの労力を省くためにも、羊はいわゆる掃除食いをしてくれると言われるほどでございまして、大変有効な生物でございます。しかも、これは肉資源になると同時に、ムートンとして皮も使えるわけでございまして、ただ、日本の場合には御承知のとおり野犬の被害が非常に大きいということから、羊というのはほとんど伸びない、入れてみましてもほとんど野犬にやられてしまうという事実がございます。この野犬の対策というのは、もう何年か前に三木総理大臣のときに、国民農業会議というのか何とかいうのがございまして、私は進言したのですが、いまだにちっとも野犬対策というものはできておりませんで、そういうところからまず手をつけて、羊というのを一つの肉資源として考えるということが大切ではないだろうかと考えております。
それから、後の方の山村の振興というのをどういう組織でやるかということでございますが、これは恐らく一概に申し上げることはできないのではないかと思います。市町村が中心になってやるというところもあり得ましょうし、それからその他の団体がやるというところもございましょう。あるいは、先ほどのお話のように農協と森林組合をうまく合併をいたしまして、そしてそういう団体、協同組合が担当するのが一番適当だというところもあり得ると思います。これは、その地域の状況なり住民の意欲なりあるいはかつての歴史的な背景なり、さまざまな条件がございまして、山村の振興の問題だけではなくて、今、例えば農地の管理という問題一つ取り上げましても、これもさまざまなやり方がございまして、農協がやっている場合もあれば市町村がやっている場合もある、農業委員会がやっている場合もある、あるいは一種の土地バンクというような組織がやっている場合もございますが、どれが一番成功しているとかどれが失敗しているというふうには一概には申せませんで、むしろその地域で一番適した形を考える必要がありはしないかと思います。
ただ、この場合に、山村の場合には、もちろん最近は若い人が少しずつUターンで戻ってきておりまして、この若い人たちをぜひ確保して、そしてこの人たちが意欲を失わないような施策を考えてやるということが一つの中心課題かと思います。特に、山村に戻ってきている若い人たちにとって一番悩みは、御承知のとおりお嫁さんがないということでございまして、二、三年前に山陰の山奥へ参りましたらば、三十歳台、四十歳台でuターンしてきた連中の大半がまだ独身でございまして、お嫁さんがいない。そういう意味で、お嫁さんをどうやって確保するかということが実は大変大きな問題になっております。
しかし、それだけではございませんで、やはり山村には老人対策というのが大変大きな問題でありまして、特に林業との関連について申しますならば、もちろん伐木とか運材というような重労働は老人に適しないといたしましても、下刈りとか枝打ちとか、あるいは小規模の間伐とか、日常的な手入れはかなり高齢の人でも、健康でさえあれば、そして長時間労働にしなければ、十分やれることでございます。したがって、山村の老人対策として、また老人の生きがいの問題といたしまして林地のそういう手入れ、これは国有林あるいは民有林を問わず、先ほど申しましたような、地域でつくりました施業案に基づいた合理的な手入れを地元の老人対策とどういうふうにうまく結びつけていくかということがこれから一つ考えられるべき施策ではないかと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/40
-
041・田中恒利
○田中(恒)委員 どうもありがとうございます。
それでは、時間が余りありませんので、皆さん方に全部お聞きいたしたいわけですが、どうもできないようですので、お二方だけ、それぞれ質問は違いますが、お答えをいただきたいと思います。
森先生には、今こういう調子で、材木というか林業が余りぱっとしていないわけですが、やがて国産材時代がやってくるということがよく言われておるわけであります。外国の状況なども考えなければいけないわけでありますが、今は伐期じゃなくて日本の山は生育期でありますから、切らなければいけない時代が来るわけでありますが、そういう意味だけじゃなく、果たして国産材中心の時代というのはやってくる傾向にあるのかどうか、この点が一つ。
それから、小関先生、林政審答申の中で請負化を進めよ、特に国有林は立木販売程度にとどめてあとは請負にしたらいいじゃないか、こういう指摘があるわけでありますが、このことについてどういうふうにお考えをお持ちか。
二つだけお聞きをいたしまして、終わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/41
-
042・森巖夫
○森参考人 お答え申し上げます。
国産材時代という意味でございますが、あえて申し上げますならば、現在三分の二弱が外材に占められている、これを外材時代というならば、国産材が我が国木材需給の主流を占める時代、こういうふうに理解できるかと思います。それは、戦後一千万ヘクタールを抱えるまでやってきました拡大造林の進展ですとか、あるいは同時にまた外材の輸入の見通し、これは非常に難しいわけでございます。南洋材の問題あるいは米材の問題、そしてまたソ連材、それぞれ問題が違うかと思いますが、大まかに時間の制約をならして申し上げますならば、外材輸入に長期安定的に依存するという体質は許されませんし、むしろ国内の再生産資源である国内の木材を使う体制に切りかえるべきである、そういう観点から、国産材時代は自然に黙ってやってくるというばかりではなくて、そうせざるを得ない、そう来すべき国産材時代でもあると思うわけです。
しかし、それはこれからの努力によって不可能な見通しではなくて、今世紀の終わりないし二十一世紀の初めになりますと、全国的規模で国産材時代と言われるものがやってくる。しかし、それはバラ色の時代ではないと私は思います。むしろ我が国林業相互の、戦後拡大造林に努めてきたそれぞれの地域が主伐期を迎えて、相互に厳しい競争関係にある時代でありますから、そのためにもそれぞれの地域地域が国産材時代に対応できる体質を今から整えておく必要がある。つまり地域林業の振興ということでございますが、それを怠るならば、黙って自然現象のように国産材時代が来るとは言えない。そのために、現時点で林政の一層の強化が必要だと考えております。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/42
-
043・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
請負化の問題につきましては、私は、皆さんのお手元に私の書いた論文の写しがお配りされているようでございますが、その中で非常に批判的に意見を述べております。ただ、私は、請負ということ自体がすべて悪いんだというふうには決して言っておりませんし、また、そう考えていない。場合によっては適正な請負というものがぜひ必要な場合もありますし、あるいはまたそれが適当な場合もあろうかと思います。ただ、現時点で言われているところの請負事業体の育成というようなことは非常に問題を含んでいると思うわけです。一方において要員の縮減という、五万五千人を四万人に減らすという政策を実行する中で、同時に従来直用労働者がやっていた仕事を請負事業体にやらせて国有林の仕事を消化しようという発想から出てくると思うのですけれども、今後育成すべき林業事業体というものが大変資本力の弱い、脆弱な経営基盤しか持たないものである、そういうことは林政審の答申の中でもそういう表現を使って認めているわけでありますが、そういうところへ仕事をおろしていくということについて、いわばそこは労働条件も当然非常に悪いわけでありまして、国有林の直用労働者と民間の林業事業体との賃金格差は非常に大きい、それがまた国有林の労働者に対する攻撃の的にもなっているわけでございますけれども、そういう賃金水準の低い、労働条件の悪いところへ仕事をおろしていくということについて、私は非常に大きな疑問を持っているわけであります。
それは、社会的にどの程度が妥当かということは問題があるかと思いますが、ある一定の水準の労働条件というものがあるわけでありまして、その一定の水準の労働条件のもとで林業労働者も雇用しなければ労働者を確保することはできないわけであります。それを、国有林の整備された労働力、比較的高い賃金水準、これがやっと私は社会的な水準に達した唯一の林業労働者の集団だと思うのですけれども、基幹作業職員と言われているものでございますが、これは非常に長い歴史の中で、労働側も使用者側も大変長い苦しみの中から生み出した成果でありまして、林業の部門ではやっと社会的水準の労働条件を確保した集団でございます。これは、当然高い技術力も組織力も持っている集団でございまして、これを減らしていこうということでございますから、そして低い方の水準に切り下げられて、民間の事業体に請負に回された事業は低い賃金水準のものでその仕事をしていくということになるわけでございまして、当面はそうならざるを得ないだろうと思うのです。その辺が非常に大きな問題だろうと私は思っているわけです。
そこで、御承知の方が多いかと思いますが、北海道では北海道有林、北海道有林というのは地方公共団体の中では最も大きな面積を持った大きな事業体で、国有林とほぼ等しい経営をしているわけですけれども、ここでは伐採についても、立木処分も多いのですが、伐採の直営生産についても、造林その他の作業についても非常に高度の比率で請負化を達成しております。しかし、これは、この状態に達するまでには三十年近い非常な苦労の末に地元に請負事業体を育成していったという歴史があるわけでございます。そういう点で、もしも国有林で将来道有林のようなそういう請負事業体の育成というものを考えるならば、これは相当長い期間がやはり必要であろう、またそういうものを育成するいろいろな手段も必要であろうと思います。
しかし、当面しばらくの間は、やはり低い労働条件のところへしわ寄せされると私は見ているわけでございます。それで、国有林に組織された基幹作業職員等の労働条件というものは、いろいろな問題はもちろんありますけれども、地域における民間の林業労働者の賃金水準というものをある程度支える役割を今まで果たしてきたと見ているわけです。もちろん、地元で事業をやっている、労働者を雇用する事業体の人たちは、国有林の賃金が高過ぎるから我々の賃金も高い要求が出てくるという見方をしている人が多いわけですけれども、それは、長期的に長い目で社会的な水準というものを考えていくと、自分のところで雇用する労働力の賃金水準を社会的水準に引き上げていくというのは、いわば使用者の社会的責任ではないかというふうに思っているわけです。そういう意味で、この請負化は相当慎重に、段階的にやる必要があると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/43
-
044・阿部文男
○阿部委員長 大内参考人には、貴重な御意見をお述べいただき、厚く御礼申し上げます。退席願っても結構でございます。
吉浦忠治君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/44
-
045・吉浦忠治
○吉浦委員 参考人の先生方、大変お忙しいところ、この委員会に貴重な御意見等をいただきまして、厚く感謝を申し上げる次第でございます。
時間の関係で全部の参考人の先生の御意見を伺えないのが残念でございますが、まず最初に、森参考人、小関参考人、村尾参考人の三人の先生に、今森林が抱えております問題でございますけれども、いわゆる公益的な機能についての恩恵をどのように負担するかという、恩恵を受けている者に森林造林に必要な経費等の負担をさせてはどうかという声があるわけでございますが、この論理からいたしますと、まず保安林にこの制度を真っ先に導入しなければならないのじゃないかというふうに考えるわけでございます。
そこで、受益者負担ということについてどのようにお考えなのか、この点をお尋ねいたしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/45
-
046・森巖夫
○森参考人 お答えいたします。
先生のお話のように、森林の公益的機能を確保するためには、当然のことながら、その森林に対して適正な人間労働が加えられたり、費用が投下されなければいけません。現在のところ、一般の森林に関しましては、森林所有者、林業経営者のいわば善意に期待しつつ、効率的な施業を行うことによって公益的な森林が確保されることを期待しているわけでございますが、今日のような厳しい状況になってまいりますと、それに依存するだけでは公益的な機能が確保し得ない心配すらある。したがいまして、当然のことながら、受益者によって森林の維持造成に必要な費用の一部について負担する制度について検討すべきであると考えます。
ただ、その場合の負担の仕方についてはさまざまな措置があると思いまして、これを一概に、例えばその受益者を限定して金を出せと、過剰な負担を国民一般に強要するような形でいいかどうかという点については問題があると思いますが、原則的には森林の維持管理に必要な費用の一部について、国民の、受益者の中から負担する制度について検討すべきであると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/46
-
047・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
森参考人とほぼ同じような見解を持っておりますが、受益の程度といいますか、それを例えば金額に換算してどうこうするというようなことは非常に難しいだろうと思っております。ですから、受益者負担という形はさまざまな形態が考えられるわけですが、その流域に住んでいる直接受益者が当然負担すべきだという思想も一方においてはあるわけですけれども、もう一つは、国民全体が受益者であるという観点からいえば、それは税金を納めて一般会計が負担するという形になり、私はそれも広い意味の受益者負担だろうと思っておりますが、そういうようなものをいろいろ組み合わせざるを得ないのではないか。
ただ、かつて林野庁が公益的機能の計量化ということでいろいろな機能を金額に換算して計算したことがありますし、現在もそれを再計算したりなんかして発表されておりますけれども、ああいう金額表示ということについては私は大変疑問に思っております。ましてや、かかった費用をどうやって算定するかということについては、全くまだまだわからない、方法が確立してないと思いますので、これは相当時間がかかると思いますが、いろいろなケース、いろいろな負担の仕方というものを考えながら、具体的に、試行錯誤的にやっていかざるを得ないのではないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/47
-
048・村尾行一
○村尾参考人 結論から先に申し上げますと、私は受益者負担論というのには反対でございます。
これは幾つか理由がございますが、まず、森林のいわゆる公益的機能の受益者はだれかというのは特定することが甚だ困難、ほとんど不可能に近いわけでございます。いま一つは、受益の程度というものを押さえ込むことは、これもまた不可能でございます。言うならば、制度をつくっていく手続の基本的なところで、この受益者負担というものには賛成しかねます。
さらに申し上げますと、特定はできなくても、ある程度の広がりで申しますと、実は受益者とされているものは、意外に一般に考えられているような人々ではなくて、逆に、私ごとで恐縮ですが、こういうしがないサラリーマンとか、それから農民とかいうのが結構受益者になってくる。そういうことを踏まえまして、今小関先生の方からもお話がございましたが、ある意味で、森林の維持造成、なかんずく保安林関係におきましては、補助金等の、言うならば税金を財源としましたところの受益者負担というものが既に行われておりますので、その上であえて屋上屋を重ねるような受益者負担というものを持ち出すのはおかしいのではないかと思います。
そういうふうな、言うならば否定的見解を述べました上で、逆に積極的に申しますと、先ほどの国有林の分収育林制度、さらには分収造林制度で申し上げたのと同じような考えで、おまえたちはそういう利益を受けているんだから金を払えというような、言うならば後ろ向きといいますか、税金的発想ではなくて、一緒に山を育てていこうではないか、そういうような、逆手にとりましたと言うと表現は悪うございますが、山をつくっていくということに価値を見出した人々が、何らかの形で、今申しましたように分収制度等を新しくまた導入するなり、現行制度を活用するなりしてつくっていかれる方がいいのではないか。やはりここにおいても、森をつくり維持していくということは、国民全体が具体的に参加していくという、その方法をとりたいと思います。
そこで、私、面識のある方ではないのでございますが、愛知県知事が豊川、矢作川の水源基金を設立するに当たって、受益があるとかないとかという議論じゃなくて、お互いに協力し合ってやっていこうじゃないか、たしか旅は道連れ世は情けと言われたとか記憶しておりますが、そういう形で公益的機能の経済的負担というものを処理していくように発想を切りかえられた方がいいのではないかと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/48
-
049・吉浦忠治
○吉浦委員 村尾参考人に引き続いてお尋ねをいたしますが、先ほど御説明がございました、このたびの国民参加による国有林野の整備促進のための国有林野の分収育林制度の導入についてでございます。
この場合に、国民参加というふうに言われておりますけれども、これは先ほど御説明もありましたように、単に赤字解消のための、いわゆる不足財源のための措置であるというふうなことでなくて、今もおっしゃいましたが、これを広く一般に国民に負担をしてもらうというふうないわゆる国民参加のあり方ということについて、こんな形による国民参加というものがいいものかどうか、また別な意味の国民参加というものもありますかどうか、村尾参考人の御意見をお尋ねいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/49
-
050・村尾行一
○村尾参考人 お答えいたします。
全くの私見でございますし、思いつきでございますので、お許しください。
具体例でちょっと申し上げておきますと、私がヨーロッパの中におりまして思いましたのは、ヨーロッパの人たちは森というものに対して、自分たちがそこの中で何かをするということに大変な喜びと誇りを持っております。それがひいては私どものような林学を学んでいる者がヨーロッパにおいて言うならば株が高いということになっているわけでございますが、今のような御指摘で、これは例えばで申し上げさせていただきますと、私は分収育林というのは大変味な制度だと思いますのは、森林を育てていく最初の段階というのは資金的にも大変つらいところでございます。ところが、その段階を通り越したものを、いわば育児の段階から小学校、中学校ぐらいになってきた時期に、それを一緒に育てていくというのは、これはなかなか楽しみのある仕事でございます。
余談ながら、大内先生ちょっとおっしゃいました下刈りというのはなかなかつらい仕事で、年寄りには無理じゃないかと思っておりますが、それはともかくとして、そういう時期がやってくる。そのときに除伐なり間伐なり枝打ちなりという仕事を単にお金を出してやっていくだけじゃなくて、これをともにやっていくという制度をまず考えていただいていいのではないか。これは物を育てながら、かつ、それ自身が広い意味でのレクリエーションないしスポーツということになるわけでございまして、皆さん御案内のように、多くのスポーツというのは出発点を農漁業、狩猟の労働作業から発しているわけでございまして、そろそろ林業もそういうふうな目で見たらどうであろうかと思っております。
これも私ごとでございますが、私は自分の子供を山の中にはうり込みまして、木を切らせたり枝打ちをやらせたりしますと大変喜びます。そうすることによって山というものを、抽象的にではなく、具体的に大事にしなければいけないのだなということがわかってきますと、これは逆に、経済効果云々ということがございましたが、やってみようという方は意外に今我々が考えている以上にたくさん出てくるのではないかということが一つでございます。そうしますと、今度おれたちもここででき上がった木を育てていこうというだけではなくて、造林もしょうじゃないかという話になるわけでございます。そうしますと、先ほどから多くの参考人がおっしゃいました、言うならば複層林をつくり上げる。だから、上の方は分収育林である、下の方は従来言うところの部分林、今度は分収造林でございますが、こういう形でおれたちはやっていこうという話に次は進んでいくだろう。
さらに申し上げれば、先ほどちょっと申しましたアグロフォレストリーでございます。つまり、林地において林業と農業を組み合わせることによって、林業において一番つらい仕事であります下刈りを、ちょうど雑草のかわりに各種有用植生というものをそこに置きかえることによって、生態学的には全く同じような関係にありながら、経営的にはそれは単なる雑草ではなくて、それ自身もまた生産物であるというような形をさらにとっていくというような広範な森林の使い方というものを、この分収育林というものの確立を機会に国有林で御検討いただきたいと私は考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/50
-
051・吉浦忠治
○吉浦委員 村尾先生ばかりで大変失礼でございますけれども、関連しましてもう一点だけ先生にお尋ねします。
このたびの特措法に関連しましてお尋ねしますが、これは国有林に限ったことではありませんけれども、いわゆる民有林についても言えることでありますが、日本の林業経営には改善すべき課題が多いと先ほど村尾参考人おっしゃいました。早く成熟化させるべきだというふうな考えをお持ちのようでありますけれども、そのためには必要な木材需要の開発、木材の流通販売のあり方、こういう問題で、地域格差の問題等も含めまして、その他いろいろお話もお持ちのようでございますが、この際、時間内にひとつまとめて御意見をお聞かせいただければと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/51
-
052・村尾行一
○村尾参考人 お答えさせていただきます。
まず、需要拡大という方から少し話をさせていただきますと、これは特に立法府に籍を置かれておる先生方に私はお願いしたいわけでございますが、木材を中心といたしました林野産物というものは大変多くの用途を持っております。恐らく石油、鉄鋼が占めております分野のほとんど全部をごの林野産物によって代替していくことがこれからはできていくだろうと思っているわけでございます。さしあたり今私が先生方にお願い申し上げたいのは、実はそうでありながら、現実にはなかなか木材等が利用されないことの理由には、単に経済的な要因があるだけではなくて、木材を使うことを禁止ないし制限している法令、諸制度があるというわけでございます。
例えば、私の思いつくまま申しますと、建築基準法しかり、消防法しかり、さらには飲食店で木のまないたを使うことさえ禁止しているようでございます。ですから、木材というものの本当の価値というものについて、もちろんこれは我々サイドもPRしなければいけないわけでございますが、先生方その点十分御理解いただきまして、その上に立って、繰り返しになりますが、木材需要を制約している、あるいは禁止さえしている法令制度についての再検討をまずお願いしたいと思います。これが第一点でございます。
第二点につきましては、簡単に申し上げます。
先ほど申し上げたことの繰り返しになるかと思いますが、日本の林業というのは、生物体としての森林は決して荒れてはおりません。むしろ経営体としての林業経営というものが脆弱であるわけでございます。これはなぜかと申しますと、昭和二十五年以降初めて林業経営らしいものに首を突っ込んできた甚だ未経験な経営体が大部分でございます。でございますから、自分の材木がどう売れるのかということを売ったことがないから知らない。なお申し上げれば、日本の林業の大部分というものは間伐を今まで経験したことがないわけでございます。これは、有名な天竜林業でさえそうであったわけでございます。そうしますと、こういうふうに売り方がわからない、どこへ売っていいのかわからないという人たちに需要というものをわからせる、あるいは逆のことを言えば供給と需要というものを円滑に対応させる、結びつき合わせるものとして、ぜひ私どもがお願いしたり、あるいは私自身もいささか努力をしておりますのは、実は流通業の評価である。その視点がどうも今日までの林業問題あるいは林業政策問題が議論されるときに欠落していたことではないかと考えております。
以上であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/52
-
053・吉浦忠治
○吉浦委員 時間になりましたので、ほかのお聞きできなかった参考人の方、どうも申しわけございません。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/53
-
054・阿部文男
○阿部委員長 神田厚君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/54
-
055・神田厚
○神田委員 参考人の皆さん方には、大変貴重な御意見をありがとうございました。時間が限られておりますので、簡単に二、三質問をさせていただきます。
まず最初に古橋参考人にお尋ねをしたいのでありますが、林野率八七%という地域におきまして、特に人件費と材価の関係等についてお話がありましたが、林業労働力の確保というような問題についてはどんなふうな形でなされておるのか、ひとつお話をいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/55
-
056・古橋茂人
○古橋参考人 お答え申し上げたいと存じます。
私どもの林業労力の中心は森林組合に置きたい、そういうことで呼びかけておるわけでございまして、最近ようやく高等学校を卒業した若い諸君が就職をしてまいっておるわけであります。従来は現場に出ることを嫌いまして内勤のみを志向してまいったわけでありますけれども、最近は現場に出ることを進んで入ってまいっておりまして、これらにつきましては職員としての待遇をしてまいりまして、将来とも給与体系を内勤と同じようにしてまいるわけでありますが、既に老齢化しております日雇いといいますか、日給月給の者につきましては、月給体制にすることはなかなか難しいものがございます。先刻申し上げましたように、季節や降り照り等にかかわってくる問題でございますので、今後につきましては、そうした若い諸君に門戸を開いて将来の担い手として育ててまいりたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/56
-
057・神田厚
○神田委員 それでは、森、小関、村尾、高畑参考人に、国有林野事業改善特別措置法、現在これが審議が始まるわけでありますが、審議の過程でいろいろ問題が出てくると思うのでありますが、改善特別措置法が成立をしたという仮定に立ちまして、七十二年度収支均衡ということが目標になっておりますが、一体そういう形になれるのかどうか、その辺のところの御意見をお聞かせいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/57
-
058・森巖夫
○森参考人 せっかくの御質問でございます。先ほどもそのような観点から同じような趣旨の答弁をいたしましたので、私は、木材価格の動向あるいは企業努力の進展によって七十二年度目標で収支均衡を回復すべきであるし、今のところ今度のこの措置が講じられるならばその可能性はある、こう見ております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/58
-
059・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
この点につきましては、私先ほども申し上げましたけれども、収支均衡が七十二年度に十分とれるという資料的な裏づけは現在ないのではないかと思っております。我々が予測つかないいろいろなことが起こりますし、木材価格一つとりましても、どういうふうに変化していくかということも恐らくわからないと言った方がいいのではないかと思うのです。そういうようなことを考えますと、将来起こることを予想できないということも含めまして、現在時点で仮に現在水準の木材価格なり賃金水準なりで移行していった場合に、そういう条件をつけた場合に収支均衡できるかということであれば、私、実は正直申し上げて自分で計算しておりませんのでわからないと申し上げるより仕方がないのですが、勘で言うと難しいのではないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/59
-
060・村尾行一
○村尾参考人 お答えいたします。
私人でございますので、トータルな数字ではなくて具体例で申し上げさせていただきますと、私は、先ほども申し上げましたように、収支均衡というのは意外に早く達成できるのではないかという見込みをしております。問題は、国有林野事業にかかわる方々、これは業界の方も含めてですが、やる気を出すか出さないかということになるわけでございます。
なぜそのように申し上げるかと申しますと、これから数十年たったらこれだけの資源になるという議論からではなくて、言うならば木材市況が冷え込んでいる今日、資源的なことを考えてみましたら、実は日本有数の森林資源は国有林にある。その国有林の日本有数の資源が有効には利用されていないということです。
一つ例を挙げますと、明治三十年代から大正の初めにかけて、いわゆる国有林の特別経営事業というのをやりました。これは今ではひょっとしたら悪い評価を受けるかもしれませんが、大々的な人工造林をやったわけです。今日実は我々がその恩恵に浴して木材を利用していると言って間違いではないと思うのですが、これは大体七、八十年生から若くて六十年生ぐらいの木でございます。この木が既に昭和四十年代ぐらいからどういうふうな売られ方をしておったかと申しますと、ちょっと専門になって恐縮でございますが、現地では羽柄物といいまして決して高くはない。しかも、それは東京出しの材にしかならないような切り方、売り方をしていた。恐らく現在の市況においては、東京での販売価格で一立方当たり四万円を切っているのではないかと推定されます。ところが、これを、私に言わせれば当たり前の方法と申しますか、柱材だとか敷居、かもい、なげしたとか、このようなものに合うような切り方、売り方をして出しますと、何と、例えば熊本県で一番山間僻地と言ってもいいような球磨川の上流、例の免田事件のありました免田、多良木とか、こういうところへ丸太のまま送り込まれて、しかもこの製品が場合によっては吉野杉というような名前で商品化しているという事実が、昭和四十年代、少なくとも私が承知しておりますのは四十五年ぐらいからあるし、現にこれはなお続いているわけでございます。
そうしますと、この場合、東京という、これは某産地としか今申し上げておきませんが、某産地から距離的に近いところにあって、かつ、一般的に申しまして需要力の最も旺盛なところにおいて四万円ぐらいの値段でしかない。ところが、運送手段も甚だ不便な九州へ持っていきましてこれが数十万、物によっては百五十万ぐらいに売れている、こういう現実を考えてみますと、私が申し上げているのは決して高く売ればいいということではございませんで、現在の国有林が抱えている資源の価値が正当に評価されるような生産販売の仕方をしてもらえれば、まず収入面においても相当早い時期に収支均衡というのは達成できるのではないか。
問題は、こういう事実を国有林の職員全員が必ずしも知っていないということでございます。ですから、ましてやそういう国有林の経営のあり方に、言葉としては悪いですが、ぶら下がっていらっしゃる業者の方々も、言うならば自分の地元にある資源が安くというよりは価値以下に処理されてしまっていることを御存じない、ここら辺を知っていただく必要というものが国有林の経営改善、具体的に申しましたら収支均衡を回復する第一の突破口ではないかと考えております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/60
-
061・高畑次穂
○高畑参考人 お答えいたします。
ただいまの先生の質問にお答えする前に、今村尾参考人から、意外に早く国有林の収支均衡を図れる時代が来るという御発言がございましたけれども、私どももそういうことが今簡単に申し上げることができれば、先ほど私が申し上げたようなことはないわけでございまして、今いろいろ木材価格を、例えば二%にしたらどうか、四%にしたらどうかということを試算いたしましても、七十二年で収支均衡をとるということは非常に困難だというふうに考えております。
ただ、現在の国有林の労働力がもし仮に今のまま、新規補充が低位のまま推移いたしますと、その時代になれば約二万人という規模に落ちていく。ということになりますれば、現在よりさらに収穫量が漸増してまいるわけでありますから、そういった意味では収支均衡はとれるかもしらぬけれども、しかしながら問題は価格でございまして、今のように保育が適切に実施できない、人手も金もないという情勢が続くとすれば、その時点になって伐期に至った林分が、相当価値の高い、高く売れる材が果たして生産できるのかどうかというふうな懸念もございまして、そういったことから、ずばり申し上げることはできませんけれども、非常に難しい情勢ではないかというふうにしか考えられないと思います。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/61
-
062・神田厚
○神田委員 高畑参考人は労働組合の立場もお持ちでありますが、引き続いて高畑参考人に御質問を申し上げます。
生産性向上等々の問題から、いわゆる職員の労働意欲等の問題をどういうふうにして喚起していくかというようなことも非常に大事になってまいりますが、その辺のところはどういうふうにお考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/62
-
063・高畑次穂
○高畑参考人 お答えいたします。
先ほどもほかの先生から若干質問がございましたけれども、要すれば、今国有林はこういう時代になっておりまして、ごく一部を除けば、ほとんどの労働者は本当に真剣にやらなければならないというふうな立場に立っております。ところが、例えば、今やっと終わった時点でありますけれども、この年度末手当の問題にいたしましても、改善期間の五年間のうちの三年間は期末手当のたびごとに、いわゆる国鉄、林野という並びの中で赤字財政ということで手当が削減をされるということが続きますと、むしろ従前よりも今の国有林の現場労働は大変な過重な労働を強いられておりまして、何としても地域から批判を受けないような仕事をしょうじゃないか、仕事ぶりをもっとよくしようじゃないかという努力をしているわけであります。ところが、やってもなかなかそういう手当面あるいは処遇面での改善がないということに対する不満がございますので、そういった面については少なくとも人並みの保障をしていただくということがまず第一だと思うのです。
先ほど私は意見具申の中で、分収育林制度が国民の森林に対する関心を高める、あるいは浄財が入ってくるという点だけを申し上げましたけれども、もう一つ、我々自身が今まで国有林内で仕事をしておったのでありますが、またこれからも国有林内で仕事をしますけれども、そういった部分に民間の浄財が入ってくる、それだけ財政が厳しくなったんだというふうな意味においては、我々自身も仲間の労働者に対してもっと一生懸命やろうじゃないかという声がかけられるというような情勢が生まれてくる。
問題は、先ほどもお答えしましたけれども、当局の体制が、本当に死ぬ気でやれるのかどうかというぐらいまできちっと体制を確立しなければ意欲の喚起はできないのではないか。御承知だと思いますが、国有林の内部の問題といたしましては、いわゆる管理職と組合員との関係でありますけれども、営林署に参りますと課長は確かに管理職でありますが、栄転をして局に係長で参りますと組合員に加入することができる。営林署長さんが林野庁へ転勤になりますと、これもまた組合員に加入することができる。そういったいわゆる管理職になったり組合員の対象になったりします関係かもしれませんけれども、管理者の皆さんが管理者意識に徹するということに欠けているのではないかというふうなこともありますので、やはり職場は何としても管理職がきちっとした、率先垂範した姿勢の中で職員あるいは労働者を引っ張っていくというものがなければならないというふうに考えているわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/63
-
064・神田厚
○神田委員 もう一問、高畑参考人に御質問申し上げます。
経営改善を進めるに当たりまして、今後、特にどういう点に留意をすべきだとお考えでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/64
-
065・高畑次穂
○高畑参考人 今申し上げたことを含めて、先ほど私も意見具申の最後で、まさに今の森林、林業の問題の解決には政治の力こそ最も必要じゃないか。もちろん我々自身努力はするわけでありますけれども、例えば今木材需要が非常に落ち込んでいるというふうな問題、特に木材需要の中心であります住宅建設がここ連年約百十万戸ぐらいで推移をいたしておるわけでございまして、そのことは、いわゆる土地価格が高い、あるいはお金を借りましても金利が高い、あるいは税制の面でも余り優遇措置がない、そういったいわゆる政治絡みの問題の中で勤労者が住宅建設ができないということから、木材需要の落ち込みという現象を来しております。
もう一つは、国有林あるいは森林、林野ということになりますとすべて林野庁ということを言われるわけでありますけれども、今の木材需要の問題、例えば木造住宅ということになりますと建設省所管ということになるわけでございまして、あるいは人の問題、要員の問題になりますと行政管理庁が実権を握る。したがって、今私ども残念なことは、例えば来年何人新しい労働力を補てんできるのかということについては林野庁に全く当事者能力がない。行管なり財務当局が一切それを決めていく。大変失礼かと思いますけれども、林業政策がそっちにのけられておって要員問題が決められていくというような、いわゆる官庁間の問題。あるいは治山治水。上流と下流というふうな関係になりますと、上流の治山問題は確かに農林水産省、林野庁でありますけれども、下流の治水という問題は建設省。あるいは外材の問題をとらえてみましても、これは通産ベースで、農林省にはそれをどうするこうするという実権が全くない。
こういうように、いわゆる森林、林業を取り巻く行政面での各省庁間の、組織の問題に触れると大変大きな問題になりますからそれは別にいたしましても、そういう関連した行政機関でのもっと腹を割った打ち合わせなり中期あるいは長期に至る計画を立てることによって、経営改善を進める目標が、そこにある程度、はっきりしたものでなくても一つの方向が示されるのではないかというふうに考えております。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/65
-
066・神田厚
○神田委員 終わります。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/66
-
067・阿部文男
○阿部委員長 津川武一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/67
-
068・津川武一
○津川委員 参考人の皆さんには貴重なお話を聞かしていただきました。本当にありがとうございます。皆さんの御所見を大事に抱き締めて私たちも頑張りたいと思っております。
大分議論も尽きたようですが、せっかくおいでになりましたので、私からも若干お尋ねさしていただきます。
一つは、林野庁の役割でございます。どうしたらいいかということです。
広い土地を持っているし、広い林野も持っているし、この点では日本一の組織だと思います。そして、かなりの組織力を持っているし、かなりの労働力も持っております。かなりの技術も持っております。技術で言えば、技術の集団だろうと思うのです。臨調が林野庁の役割をだんだん狭めていく、土地を売らせる、こういうふうになったときに、林野庁があの広大な土地を持っている意味合い、こういうものもひとつお聞かせいただければと思います。集団的な労働力と技術的な集団を持っているところに、立木で売らせる、処理をさせる、下請に出す、直用をやめさせるなどとなったならば、林野庁のこうしたいい力が、宝がどうなるのでしょうかという心配を正直に持っているわけであります。
その点で、参考人の皆さんの御意見を承りたいのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/68
-
069・古橋茂人
○古橋参考人 緑行政の一本化の核を林野庁にお願いをしたいと思うわけであります。
例えばカモシカ対策にいたしましても、林野庁、環境庁、文化庁になっておるわけでありますけれども、それらの対策についても林野庁で御処断をいただけるということを私どもは期待するものであります。
また、山村の緑化とあわせて近時都市緑化の問題が大きくなってまいっておりますけれども、これらは建設省の所管でありますが、山村あるいは都市を問わず、林野庁が日本列島の緑化の軸になっていただくことを期待するものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/69
-
070・森巖夫
○森参考人 お答え申し上げます。
先ほど申し上げましたように、最近のいわゆる緑ブームの中で、ともすれば森林や林業、あるいはそれを支えております山村を忘れた議論があり過ぎるように私の立場からも考えられるわけであります。この際に、真に緑を守り、国民の要請するさまざまな機能にこたえ得るのは、その森林を健全に育てる林業であり、山村が健全な状態でなければならない。そういう観点から、林野庁はますます役割が重要になりますし、いわば出番になっていると思われるわけであります。ですから、今回の林野三法についても先生方の真剣な御討議に大いに期待しているわけでございます。
そこで、林野庁の役割に関してでございますが、申し上げるまでもなく、林野庁は、一般民有林行政と同時に、国有林野事業特別会計で行われております国有林野事業のいわば担い手でございます。ただいま先生からは、国有林野事業については、組織体であり、技術集団であり、また広大な土地を持っている土地所有者という観点から御指摘があったわけでありますが、この際、民間の民有林行政とあわせて国有林野の一層の発展を図らなければならない。その場合に、臨調あるいは林政審議会答申などのいわば縮小方向についてどう思うかという問題の指摘が先ほどあったわけでございますが、私の理解しておりますところでは、国有林野の使命をいわば縮小しろということを言っておるわけではなくて、国有林野が真に国民の期待に、信託にこたえ得る事業体として成り立つために、遊休資産の整理ですとか、あるいは官業非能率などと言われておりますところの能率性の低さの改善ですとか、あるいは地域の民間林業のいわば中核体になり得る、そういう役割が期待されている、私はこのように理解しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/70
-
071・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
私先ほどから何回かお答えしたことの中にも今の問題は含まれておりますし、ほかの参考人の方の御意見の中にも私と同じ意見がありますので、なるべく簡単に申し上げますが、特に国有林について申し上げたいと思います。
日本の国有林の成立の過程というものを考えますと、これは大変歴史的な沿革によって現在の国有林が成立しておるのでございまして、初めから全国土を見回して、どこにどれだけの国有林を配置すればよいかというような計画的配置があったわけではないわけです。いわば全くの偶然で現在の国有林が残っているというのが歴史的沿革だと思います。
その証拠に、国有林の所在は大変偏在しております。例えば近畿地方なんかでは、森林面積の中で国有林の占める面積は数多にしかすぎないはずですし、北海道、東北、あるいは九州の南の方なんかは数十%、あるいは村なんかを単位にとると、九〇%ぐらい国有林だというような村もあるわけでございまして、そういうことからいうと、国有林の現在の構成というのは、特に地域的配置というのは多分に歴史的な所産だと思います。それはしかし、明治以降の百年を超す歴史の中でそれぞれ地元との関係が密着して成立してきたわけでございますから、現在になってみますと、国有林の意味は、国有林の所在地にとっては非常に大きなものになっているはずでございます。
そこで、その中で、御質問の趣旨の中にもございましたけれども、国有林と民有林を通して森林の公益的機能、経済的機能というのは、いずれの所有にかかわらずある程度は公益的機能を発揮し、ある程度は経済的機能を発揮しているわけです。ただ国有林が山間僻地にあるということで、公益的機能のウエートが高いということは言えると思いますが、民有林といえども同じような使命を持っているわけですね。そういう観点からいうと、国有林の存在理由というのはむしろ歴史的な成立事情の中にある。その中で、私は、国有林が持っている、先ほどから申し上げております組織力、技術力、労働力というものを高く評価するわけです。それこそがいわば国有林の存在理由であって、それをフルに駆使して国有林業を再建していく、あるいはその力をまた民有林業にまで及ぼしていくというのが国有林の使命だと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/71
-
072・村尾行一
○村尾参考人 先生には本当にありがたい御質問をいただきまして、感謝しております。
結論を申しますと、私は、国有林は明治以来今日に至るまで日本の林業の発展にとって言うならば先導的役割を果たし続けてきたし、今日もなおそうである、今後一層そういう役割が期待されると思っております。
これが結論でございますが、やや申しますと、日本は確かに森林国ではございました。しかし、果たして林業国であったかどうかというのは、これは大いに疑問でございます。ましてや、木の文化の国とはとても言えない国であったわけでございます。そういう状態が実は明治期にまず赤裸々にあらわれてまいりました。先生も御案内と存じますが、今国有林が大きく所在しておりますところの名前で申しますと、例えば秋田杉にいたしましても、木曽にいたしましても、それから四国の魚梁瀬にいたしましても、あるいは最近急に脚光を浴びております九州の屋久杉にいたしましても、これはそれまではほとんど価値として認められていなかったわけでございます。それが近代になりまして国有林制度ができましたときに、初めてこれだけの資源というものは有効に使わなければいけないんだということで、どういう切り方をする、どういう製材をする、そしてそれをどこに売ればいいんだというようなことを国有林がまさに率先垂範してやってきたわけでございます。
私、飲んべえですからちょっと申しますと、秋田杉が酒だるとしてすぐれているということが実証できたのは何と昭和九年でございまして、これは秋田営林局の実に絶大なる努力のたまものであるわけです。これが一事が万事でございます。そして、先ほど申しましたように、この事情自身は今日もなお変わっておりません。もっと言えば、当時においては現にあるものをうまく利用するということで済んだかもしれませんが、現在は育てていく山までも国有林がまさに自分自身で実物見本を見せながら引っ張っていくというわけでございますから、これは申さば、国有林はというか、林野庁はみずから経営を行いながら行政をしている。その意味で、私は、直営行政なんだと申していいのではないか、そういう直営行政としての責務は明治期あるいは大正期に比べて今日の方がなお特段に多くなったのではないかとまず考えております。
それからさらに、別の参考人からも御指摘がございましたが、事はもはや山村だけではなくなった。都市そのものも、ガーデンシティーとか田園都市とかいうことがヨーロッパでは大体百年ぐらい前から言われておりましたが、言うならばこういうコンクリートジャングルをもう一遍田舎化するということも大事になってきます。そうしますと、都市緑化の重要な担い手として、やはり林野庁というものをそういうものの役割を分担するものとして位置づけていただきたい。これは私の方から先生方にお願いするわけでございます。
そして最後の、販売方法の立木販売云々ということになりますが、これは実は、先ほど申しました、国有林が直営行政という、自分で実物見本を示していかなければいけないという事情がより強いか、より少ないかという選択の問題でございます。ですから、例えば製材工場まで国有林は持っていたことがございます。つまり、現地の製材工場では木の価値を生かし切れない場合には、国有林はみずから製材工場を設置しました。ところが、民間製材業が発達してきますと、国有林としてはそこまではやることはないといって、言うならば手を引いていったわけでございます。
ですから、例えば民間の業界が木を見て、その立ち木から一番いい利用方法で材木をとっていく、採材と申しますが、そういうことができる能力があるところは、国有林が直接伐採をするよりはむしろ立木で売った方がいいし、しかもこれは立木で売るのとそれから丸太で売るのとの中間形態でございますが、私ども、オーダーカットと申しております、あるいは自由採材と申しておりますが、民間の方がこの木はこういうふうに切ってください、肉屋がやっている方式と一緒でございますが、そういうふうなやり方をした方がいい。それから、同じことが直用、請負についても言えます。これは両方とも直営でございますが、同じ直営でも国有林の直用作業員でやる方が技術水準として高い場合はそちらをとられた方がいいでしょうし、あるいは請負の方がいい場合には請負を採用された方がいいと思います。
ですから、林業について外部の方がよく言われる議論でございますが、皆伐がいいのか択伐がいいのかというような二者択一の議論ができないのと同じように、私どもは、国有林がみずからの森林資源を販売する方法は立木がいいのか丸太がいいのか、それから同じ直営でも直用がいいのか請負がいいのかという二者択一の議論はできなくて、まさにその相手とする木と地域社会の林業に対する成熟度というものによっておのずから国有林が政策として考えていくべきことだと思います。言いかえれば、近畿地方に国有林が少ないというのは、ある意味では近畿地方というのが民間林業が発達していたということの証左の一つだと私は思います。
以上で終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/72
-
073・高畑次穂
○高畑参考人 お答えします。
既に御三方からお話がありましたので、私もそう大差のない意見でございますけれども、林野庁の役割は今後さらに重要になっていくだろう。もう一つは、社会の変革に対応した林業サイドの取り組みが今後もっと重要になるのではないか。例えば、近年、森林浴という形で大変国民の関心が寄せられているわけでありますけれども、そういった面に対してもっと短期間に大規模な対応をするとか、あるいは今教育問題が大変重要な国家的な問題になっているわけでありますが、特に校内暴力あるいは家庭内暴力、そういった青少年の非行問題は極めて重要な問題でありますけれども、こういった問題も、例えば図工教育といった中で木材に親しませる、あるいは農林業のとうとさというものを体験林業で経験させる中で精神的に豊かな人間づくりをするという面においては林業サイドの取り組みは重要ではないかといった面からいえば、一時期木材生産中心になってきた国有林が、その後国民が公益的な機能に多くを期待すろということからだんだん保安林の構成も多くなってきたわけでありますが、ただいま申し上げた方向を含めて取り組んでいく必要がある。
最後に、いわゆる組織力が非常に大きいということを今言われましたけれども、率直に申し上げて、実際に今国有林の林業労働に、現場労働に従事しているのは約二万人そこそこでございます。こういった人たちは、大変苦労しておりますけれども、残念ながら大変高齢化いたしております。そういう意味においては、果たしてこれまですげらしい林業技術を持っておられる方がどんどん中年制の施行によって退職していくというものの傍継ぎをどうするかということが今非常に重要だと思うのです。
そういった意味で、私先ほど申し上げましたように、やはり国家サイドでこの林業教育問題を、林業短大なりあるいは全国一本の林業大学を創設するとか、そういった中で歴史的な学んだ技術を踏襲するとかあるいは新たな林業機械の開発、そういったものに向けて、いわゆる技術面での中心になるという意味でも国有林は非常に重要な位置を占めるというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/73
-
074・津川武一
○津川委員 時間が来てしまいましたので、特定の方一人だけ、小関参考人に。
今林野庁が非常に苦しんでいるのは財政が赤字だから。臨調はこれに押しかぶさってきている。そこで、赤字の原因としていろいろある中で、外材の輸入をどう考えたらいいのか。木材の消費拡大をどのようにしたらいいのか。例えば、この机はいいあんばいに木なんです。ところが、林野庁に行きますと職員の机はこれじゃないのです。スチールなんです。だから、ここいらに消費拡大の問題があると思いますが、時間がないので小関参考人にこの二点を教えていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/74
-
075・小関隆祺
○小関参考人 お答えいたします。
私がお答えするのに適当かどうかちょっとわからないのですけれども、外材の問題につきましては、国内の自給力というものに一定の限界がございまして、増大する需要に対応し切れないという面がございます。文化水準が上がっていくに従って紙の消費量も木材の消費量もふえていくわけでございまして、それに対して国内資源だけでそれに対応できないということから外材の輸入というのはどんどんふえていったわけですし、そのきっかけになったのは、国内の供給力が不足のために国内の木材価格が非常に高くなって、高い運賃をかけて太平洋を渡ってきても日本国内で売れるような値段で外材が入ってきたというのがきっかけだったと思います。
今後の問題からいいますと、国産材時代ということが言われて先ほども話題になりましたけれども、今のところ一年間の木材の消費量というのは一億立方メーターを前後するというようなことで横ばいに推移しておりますが、長期的に言うともっともっとふえるだろうと私は思っております。半分は建築材で三分の一は紙パルプになっているわけですけれども、そういう国産材時代というのは、主として国内で消費される建築材の特定の部材、柱ですが、そういうものについてかなり豊富に供給されるようになる、あるいは部分的には過剰になるというようなことから国産材時代ということが言われているわけですけれども、木材需給全体からいうと、国産材で大部分の木材需要を賄うという状態にはならないだろうと私は思います。外国、アメリカ、ソ連、それから南洋は非常に供給力が衰えてきておりますけれども、アメリカやソ連の木材供給力はなお当分の間は続く、かなり高い供給力を維持することができるわけです。
そういう国際関係からいっても、国内の資源状態からいっても、それから価格の問題からいっても当分は外材がかなり大きなウエートを占める。それは、私どもはどうもいつも生産者の立場で物を考えがちでありますけれども、一方大多数の消費者の立場で物を考えますと、なるべく安い、いいものがたくさん供給されるのが望ましいわけであります。そういう意味で、価格関係で外材がたくさん入ってくるということは消費者の立場からいうと一概に否定できないという面があるわけでございます。この辺のバランスが非常に問題だと思っているわけでございます。
それから木材の消費を拡大するということは、これはもちろん林業で生産されるものほとんどが、木材について言いますと原料材であって、さらに加工されて使われるもの、そういうものでございますから、価格はほかの代替材等もございまして、鉄鋼とかコンクリートとかその他そのかわりになるものがたくさんありまして、それとの競争も一つある、外材との競争も一つあるということで、どうしても消費者の立場に立つと安いものに志向するということがあるわけでございます。その際、やはり木材でなければならないよさというものがありまして、これを認めてもらうようなことを、PR等も含めて私どもはやらなければなりませんし、実際に使ってみるとそのよさがわかるということで、消費の拡大ということは望ましいことだと思います。その方法はいろいろな方法でやらなければなりませんが、しかし、それはやはり余り高くては消費されないわけです。使ってもらうためにはある程度の値段でなければならぬという一種の矛盾みたいなこともございますし、生産者の立場からいうと、料金を原価で決めるという料金原価主義というのが特別会計の原則になっておりますけれども、原価を必ずしも完全に回収できるような要求ができないというような問題が国内林業を困難にしているわけでございますから、使ってもらうにしてもやはりある値段というのがあるだろうと思うわけです。どうもあいまいな話で大変申しわけないのですが……。
私、最近、これはちょっと横道にそれますが、北海道大学である建築の先生に用事があってお話をしましたら、その先生がこういうことを言われたのですね。木材というのは腐るし、燃える、こんなすばらしい材料はないということを言われました。腐るし、燃えるし、つまらぬ材料だと言われるかと思ったら、こんなすばらしい材料はないんだと言うのですね。そういう観点で木材を見直すべきだ、たくさん家を建ててみてしみじみそれを感じているということを言っておられました。そういう意味で、木材の消費を盛んにするということは林野庁が中心になっていろいろ宣伝活動していただけると思いますけれども、一人一人の消費者がこれを認識していく必要があるというふうに思っております。
どうも御質問の趣旨に沿わないお答えかと思いますが、これで失礼いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/75
-
076・津川武一
○津川委員 ありがとうございました。
終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/76
-
077・阿部文男
○阿部委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。
参考人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げる次第でございます。
この際、暫時休憩いたします。
午後一時三十二分休憩
————◇—————
〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105007X00619840410/77
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。