1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和五十九年四月十七日(火曜日)
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議事日程 第十六号
昭和五十九年四月十七日
午後一時開議
第一 水俣病の認定業務の促進に関する臨時措
置法の一部を改正する法律案(福島譲二
君外三名提出)
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○本日の会議に付した案件
日程第一 水俣病の認定業務の促進に関する臨
時措置法の一部を改正する法律案(福島譲二
君外三名提出)
日本原子力研究所法の一部を改正する法律案
(内閣提出)の趣旨説明及び質疑
国民年金法等の一部を改正する法律案(内閣提
出)の趣旨説明及び質疑
午後一時四分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/0
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001・福永健司
○議長(福永健司君) これより会議を開きます。
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日程第一 水俣病の認定業務の促進に関する
臨時措置法の一部を改正する法律案(福島
譲二君外三名提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/1
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002・福永健司
○議長(福永健司君) 日程第一、水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
委員長の報告を求めます。環境委員長竹内黎一君。
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水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法の
一部を改正する法律案及び同報告書
〔本号末尾に掲載〕
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〔竹内黎一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/2
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003・竹内黎一
○竹内黎一君 ただいま議題となりました水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法の一部を改正する法律案につきまして、環境委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案は、水俣病の認定業務の実施状況にかんがみ、旧公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法に基づいて熊本県知事等に対し、水俣病に係る認定の申請をした者で、いまだ認定に関する処分を受けていないものが、環境庁長官に対して認定の申請をすることができる期限を、昭和六十二年九月三十日まで延長するものであります。
本案は、去る三月五日本委員会に付託され、同月二十七日提出者福島譲二君から提案理由の説明を聴取し、四月十三日に質疑を終了した後、本案について内閣の意見を聴取しましたところ、上田国務大臣より異存はない旨の意見が述べられました。
次いで採決を行いましたところ、本案は多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決いたしました。
なお、本案に対し附帯決議が付されました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
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004・福永健司
○議長(福永健司君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/4
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005・福永健司
○議長(福永健司君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日本原子力研究所法の一部を改正する法律案
(内閣提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/5
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006・福永健司
○議長(福永健司君) この際、内閣提出、日本原子力研究所法の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。国務大臣岩動道行君。
〔国務大臣岩動道行君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/6
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007・岩動道行
○国務大臣(岩動道行君) 日本原子力研究所法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
我が国における原子力船研究開発につきましては、昭和三十八年日本原子力船開発事業団を設立し、同事業団を中心に進めてまいりましたが、昭和五十五年の第九十三回国会において、それまでの我が国の原子力船研究開発をめぐる諸情勢等を踏まえ、日本原子力船開発事業団法の一部を改正する法律案が審議、議決され、それによって、日本原子力船開発事業団は、原子力船の開発のために必要な研究を行う機能を付与され、日本原子力船研究開発事業団に改組されたところであります。その際、同事業団については、行政の各般にわたりその簡素化及び効率化を進める見地から、昭和六十年三月三十一日までに他の原子力関係機関と統合するものとし、このために必要な措置を講ずるものとされたところであります。
この日本原子力船研究開発事業団の統合につきましては、政府として慎重に検討を行ってまいりましたが、統合先としては、以下の理由により日本原子力研究所が適当であると判断いたしました。すなわち、
長期的な観点から我が国の将来を考えるとき、原子力船に関する技術を保有しておくことは重要であり、このため、今後段階的、着実に研究開発を進めることとし、この見地から、原子力分野において基礎から応用にわたる幅広い技術基盤を有する日本原子力研究所は、その総合的能力を原子力船技術に対しても十分に活用し得ると考えられること、
日本原子力研究所は、これまで日本原子力船研究開発事業団の業務に協力してきた実績があり、今後の原子力船に関する研究開発についても、このような実績をもとに、円滑に遂行し得ると考えられること
などであります。
なお、日本原子力船研究開発事業団が開発を進めてまいりました原子力船「むつ」の取り扱いにつきましては、各方面のお考えを踏まえつつ、検討を行うこととしておりますが、原子力船の開発のために必要な研究は、「むつ」の取り扱いに関する検討結果のいかんにかかわらず、どのような方法にせよ進めていく必要があると考えており、いずれにいたしましても、日本原子力船研究開発事業団を日本原子力研究所と統合することが適当であると判断いたしております。
本法律案は、以上の判断に基づき、日本原子力船研究開発事業団を日本原子力研究所と統合するものとし、このため同事業団を解散し、その権利義務の一切を日本原子力研究所に承継させるとともに、同研究所の業務として、原子力船の開発のために必要な研究を行うこと等を規定するなど所要の規定の整備を行うものであります。
以上が日本原子力研究所法の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)
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日本原子力研究所法の一部を改正する法律案
(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/7
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008・福永健司
○議長(福永健司君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。松前仰君。
〔松前仰君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/8
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009・松前仰
○松前仰君 私は、日本社会党・護憲共同を代表して、また科学技術者の立場から、ただいま議題となりました日本原子力研究所法の一部を改正する法律案について意見を申し上げ、総理並びに関係大臣の所見を問うものであります。
私は、この改正案が「むつ」のあり方について未検討のままに提出されましたことに対して、まず強い憤りを感じるものであります。また、この重要な問題について、「むつ」のあり方を今後政府・自民党で検討するということにしているなどと、総理、どこまで国民を無視するおつもりでしょうか。国会軽視も甚しいと言わざるを得ません。さらに、本改正案の提出は、我が国の行政の科学技術に対する認識の甘さと原子力船の我が国の技術レベルの低さを世界に披瀝するということをお感じになりませんでしょうか。
原子力船「むつ」の歴史を振り返ってみますると、そこには、いたずらに国民の不信を高め、莫大な国民の税金のむだ遣いに終始し、初めに意図した我が国の安全性の高い原子力平和利用への道をも妨げるような皮肉な結果になっているとしか見ることができないのであります。総理は、このような事態に陥れた行政の重大な責任について、いかがお考えでありましょうか。
低い技術レベルでの「むつ」の舶用炉の開発は、次のようなことでも明らかでございます。
すなわち、昭和三十八年原子力船開発事業団が発足するまでは、原子力の知識の薄い造船海運界及び運輸省が建設の準備をしていたのであります。その段階で炉は国産化という方向を打ち出し、三十九年に既に原子炉の型式を決定したのであります。そして、二年前の国産一号炉JRR3の臨界成功や、舶用炉は小型でよいという点だけを見て、「むつ」の舶用炉は技術的に容易であるという先入感をもって、原子力船開発事業団は、それまで一度も陸上の原子炉さえもつくったことのないメーカーに炉を発注したのであります。
米国のサバンナ号、西ドイツのオット・ハーン号、ソ連のレーニン号の開発実験航海に慌てて、海運国日本の権威と権益を急いで守らんとする性急さが、原子力研究所をも無視して、無経験のメーカーに開発、着工を急がせたのであります。加えて、「むつ」の炉は、陸上炉よりはるかに難しい技術を必要とするにもかかわらず、事業団の原子炉に対する認識の低さが、十分に研究成果を取り入れることなく、舶用炉の安易な設計、開発を行わせたのであります。
「むつ」の舶用炉に加わる環境は、仕様によりますれば、陸上炉にはない〇・六Gの加速度の加わる揺れの中での運転だとか、短時間での急激な負荷の変動、例えばたった一秒間で一〇〇%から一八%に負荷が変動するという過酷な条件に、完全に原子炉が追従しなければいけない、そうされておるのであります。衝突時の安全性や遮へいの軽量化など、陸上炉に比べたらはるかに高度な技術が要求されるのであります。したがって、「むつ」の原子炉を開発、実装するまでには、舶用炉につき十分な研究の末に得られたデータを用いて設計、開発を行って実装炉が完成しても、それについての安全性、信頼性、性能を確かめるに十分な陸上実験を必要とするのであります。西ドイツのオット・ハーン号は、これらのステップに八年も費やしておるのであります。
「むつ」は、研究開発なしに、いきなり実装炉を未経験のメーカーにつくらせて、わずか五年で、実装のための本来のステップを全く無視して、外国の原子力船の完成された姿のみを見て性急に開発された、そういうことは、放射線漏れが起こるべくして起こったと言っても不思議ではないのであります。(拍手)
行政の原子力に対する甘さや行政のずさんさは、数え上げれば切りがないのです。「むつ」の原子炉は、船に載せるのだから船舶安全法を適用する、そういうことはまるで政府行政のセクショナリズムをあらわしたもので、全く目を覆いたくなるものでございます。(拍手)「むつ」の炉が、いまだに完成検査がなされていないという驚くべき事実を、だれが本当に認めてくれるでありましょうか。廃棄物処理や廃炉処理のめどもなくて開発を強行した行政にも、ただただ驚くばかりであります。
以上の点について、科学技術庁長官の御所見をお聞かせいただきたいと思います。
我が国は唯一の原爆被爆国であります。諸外国よりも原子力の危険を最もよく知る我が国におきまして、ずさんな官僚的な行政では、国民の合意を得られないのであります。昭和四十九年、地元漁民の反対を押し切って洋上実験を強行した森山科学技術庁長官の態度は、国民に原子力への不信を一層強める原因をつくったのであります。
追い打ちをかけた放射線漏れは、大湊母港をも失わせる結果となり、長期にわたる修理港探しの末、政治的にやっと決まった佐世保における修理の末、再び新母港を求められず、関根浜の母港化強行を図ろうとしておるのであります。地元民説得を急ぐ余り、その場その場で金を投じ、切り抜けようとして、莫大な出費となる結果を招いておるのであります。今回の関根浜漁業協同組合に対する補償も、積算の根拠を示せないままの現状は全く遺憾のきわみであります。
西ドイツのオット・ハーンは建造から廃船まで約百四十五億円しかかかっていないのに対し、「むつ」は五十八年度までに五百九十六億円、それに今回の関根浜新定係港建設費用として六百億円かかると見込まれております。「むつ」と大湊港建設に投じた金額は約百億円、そのほかは政治的解決の費用であるのであります。
国民的合意を無視する行政の態度が今日このような莫大な出費につながり行政上の重荷となっていることに対し、大蔵大臣、行政管理庁長官のお考えをお聞かせいただきたいと思います。(拍手)このような莫大な国民の税金の使い方をだれが納得してくれるでありましょうか。
また、これ以上国民の税金を浪費することは、自然環境を変えない莫大な太陽エネルギーの利用研究やバイオテクノロジーの研究、がん制圧の研究、海洋や宇宙利用の研究、農水産物の研究等々重要な研究開発の芽を摘むことになりはしませんか。オット・ハーン号が採算がとれずに廃船され、砕氷船や潜水艦など経済性を無視する船以外に使い道がない原子力船の実用化に、莫大な国民の税金を急いで投じなければならない理由は一体どこにあるのでありましょうか。科学技術庁長官の見解を問いたいと思います。(拍手)
今日、「むつ」が無用に金を食い行政上の重荷となっている根本的原因は、開発当時の原子力船行政の甘さと、その後の反省のない行政にあったと言っても過言ではないのであります。特に、初期段階の徹底したテクノロジー・アセスメント、すなわち技術評価と技術影響度評価がなかったからにほかなりません。新しい技術が真に国民に理解され、受け入れられるためには、初期段階における専門家を中心とした関係各層による徹底したテクノロジー・アセスメントが必要と考えますが、いかがでありましょうか。また、途中段階のアセスメントにおいても失敗を失敗と認める行政こそが、真に科学技術を国民のために発展させることになるのではないでしょうか。総理及び科学技術庁長官にテクノロジー・アセスメントを制度化するお気持ちはおありでしょうか。
最後に、総理にお伺いいたします。
事業団を原子力研究所に統合してから「むつ」をどうするか、方針のないままに本法案を通されようとするのは、今後強引な新定係港の建設や出力上昇試験を強行する考えを持っているからだと疑われても仕方がないとお思いになりませんでしょうか。もし本当にこのような事態を引き起こしたら、国民を欺くものと言わざるを得ません。さらに、今後の方針は政府・自民党で検討することにしているなど、国民軽視も甚だしいと言わざるを得ません。
私は、「むつ」をどうするかについての国民的検討による決定の後、本法案を審議するのが筋と考えます。したがって、本法案は審議の対象になり得ないと考え、撤回を求めるものであります。(拍手)
「むつ」の失敗を二度と繰り返さないように、国民的合意が得られるように、ひいては我が国の科学技術が国民のために発展できるように、今後の方針についての国民的検討を経た後、本法案を審議するという、だれにもわかる科学的な政治を求めるとともに、今後の「むつ」の方針については、その廃船と関根浜港新母港化の中止を前提とした原子力船研究開発事業団の解散を要求し、原子力船の必要性の再検討を含むテクノロジー・アセスメント及び基礎研究に立ち返り、科学的結論を得ることを求めるものであります。
総理の科学的頭脳で明快な御答弁をお願い申し上げまして、私の意見と質問を終わらしていただきます。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/9
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010・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 松前議員にお答えをいたします。
まず、「むつ」のあり方についての御質問でございます。
原子力船「むつ」による舶用炉の開発のあり方につきましては、いろいろな御議論がございまして、今後も十分に検討してまいりたいと思っております。特に舶用炉の研究開発は、非常に今後とも重大であると考えております。そういうような考えを一貫して今後も進めていくという点においては変わってはおらないのでございます。それを進める意味におきましても、このような本法案による統合は、行政簡素化の面から見ても必要であると考えております。
次に、「むつ」について科学技術に関する認識の甘さがあったのではないかという御質問でございます。
「むつ」の開発の開始に当たりましては、専門家を結集して調査研究やあるいは陸上における必要な諸実験等も実施をいたしまして、当時としては最善の配慮を行って自主技術の開発を行わんとしたものでございました。事業団を創設したのも、そのような考えに立ってやったのでございます。
しかし、遺憾ながら四十九年に、実験の初期段階におきまして、放射線漏れという事態が生じましてとんざをいたしましたことは、甚だ遺憾でございます。放射線遮へい改修あるいは安全性総点検あるいはそれに基づく補修工事等を行いまして、遺漏なきを今期しているのが現状でございます。
今までの行政責任いかんという御質問でございましたが、「むつ」の放射線につきましては、調査委員会を結成したり、あるいは原子力行政懇談会の開催やあるいは原子力安全委員会の設置等さまざまな対策も講じてきたところでございます。今後も、安全性の総点検を実施しつつ、「むつ」の実験に対しては遺漏なきを考えておるわけでございます。遺憾ながら開発のスケジュールが大幅に遅延をいたしまして、これはまことに申しわけない次第でございますが、政府としては、一日も早く原子力船開発の成果が得られるよう今後も最大限努力してまいるつもりでございます。
次に、テクノロジー・アセスメントを必要とするのではないかという御質問でございます。
我が国は科学技術立国を目指している以上は、やはり総合政策レベルから実施機関レベルに至るまでの各段階における総合的評価がますます重要になってきていると思いまして、そのような研究評価等につきましては、今後とも万全を期するように努力してまいりたいと思っております。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣岩動道行君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/10
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011・岩動道行
○国務大臣(岩動道行君) 松前議員にお答えいたします。
まず最初に、「むつ」の開発に当たって、原子力船の技術に対する認識の甘さや研究開発が不足していたのではないか等の趣旨の御質問がございましたが、これについては次のように考えております。
我が国における原子力船に関する調査研究は昭和三十年代に入って始まったものでありますが、米国、西独等における原子力船開発計画の具体化、我が国の民間における調査研究の進展等の内外情勢を踏まえ、原子力委員会において慎重に審議をし、我が国においても実際に原子力船を建造、運航することが適当であるとの判断に至り、官民の一致した協力のもとに、昭和三十八年日本原子力船開発事業団を設立し、国産技術により原子力船「むつ」の開発に着手したものであります。
また、「むつ」の原子炉の設計に当たっては、舶用炉は陸上炉に比べ過酷な条件を要求されることにかんがみまして、日本原子力研究所、運輸省船舶技術研究所等の協力のもとに行われた耐衝突構造、遮へい効果等に関する各種の陸上実験の成果を反映させるとともに、陸上実験では対応できない点については、安全裕度を十分とり、さらに舶用炉の設計、建造の経験のあるウェスチングハウス社のダブルチェックを受けるなど慎重な配慮を払ったところでございます。また、その原子炉の設計、建造は、ウェスチングハウス社と技術提携にあり、当時既に陸上炉の製造に着手しており、加圧水型の原子炉については我が国においても最も技術的能力を有する企業に発注したものであります。
次に、原子力船は経済性を無視する船以外に使い道がない、したがって「むつ」はむだであり、他の重要な科学技術分野の研究の芽を摘むのではないかとの御質問がございました。
原子力船は、在来船では困難と見込まれる商船の高速化、長期運航等の実現の可能性があり、経済性についても、長期的には石油価格の上昇が予想されることから、舶用炉プラントコストの低減化の努力と相まって、二十一世紀には実用化されるものと期待されております。したがって、資源小国、世界有数の造船海運国である我が国として、長い目でその将来を考えるとき、今後とも原子力船の開発のために必要な研究として、舶用炉の研究開発はどのような方法にせよ続けていくことが必要であると考えております。
「むつ」による舶用炉の研究開発については、今後の舶用炉研究開発の重要な柱として進めてきたものでありますが、予期せぬ放射線漏れにより当初の予定より開発スケジュールが大幅に遅延し、いまだに所期の目的を達成していないことについてはまことに遺憾であり、各方面から寄せられているさまざまな御議論を謙虚に受けとめております。このため、「むつ」による舶用炉の研究開発のあり方については検討を行うこととしており、当庁といたしましても、国会での御審議における貴重な御議論はもとより、関係各方面の広範な御意見を承りつつ、適切に対処してまいりたいと考えております。
また、バイオテクノロジー、がん研究、宇宙開発等の科学技術分野の研究開発は、我が国の発展を築く極めて重要なものであると認識しております。科学技術会議等の示す基本的方向に沿って十分に政策調整を図りつつ、厳しい財政事情にはありますが、今後ともその計画的な遂行を図るよう最善の努力をしてまいる所存であります。
なお、「むつ」開発に投じた経費が、「むつ」建造と大湊港定係港に要した約百億円以外は政治的解決の費用であるとの御指摘がございましたが、日本原子力船開発事業団が発足した昭和三十八年度から決算の済んでいる昭和五十七年度までの二十年間にわたる総経費は四百八十六億円でありまして、このうち魚価安定基金等地元関係経費は三十九億円であります。その他は、「むつ」建造費及び大湊港建設費九十八億円、遮蔽改修・安全性総点検補修工事費百二十五億円、研究開発及び乗員養成訓練費四十億円、関根浜新港建設関係費二十億円のほか、人件費等一般管理費など事業団の運営に必要な経費百六十四億円であり、いずれも事業遂行上必要最小限度のものとなるよう努力してきたところでございます。
また、「むつ」の取り扱いが固まっていないので、今回の法案は撤回すべきであるとの趣旨の御指摘及び「むつ」は廃船とし関根浜港の建設を中止するとの前提で日本原子力船研究開発事業団も解散すべきであるとの御意見がございましたが、これらについては次のように考えております。
先ほど御説明いたしましたように、「むつ」による舶用炉の研究開発のあり方については、各方面からさまざまな御議論が寄せられていることにかんがみ、政府としても各界の御意見を伺いつつ検討しているところであります。しかしながら、この検討結果のいかんにかかわらず、どのような方法にせよ、原子力船の開発のために必要な研究として舶用炉の研究開発を進めていく必要があり、これを円滑かつ着実に進めていくためには、法案の趣旨説明でも御説明したように、原子力に関する総合的な研究基盤を有する日本原子力研究所に日本原子力船研究開発事業団を統合することが適当であると考えております。
また、日本原子力船研究開発事業団法附則第二条においては、行政の各般にわたりその簡素化及び効率化を進める見地から、昭和六十年三月三十一日までに他の原子力関係機関と統合するものとされており、この期限までに統合を実施するためには、必要な準備期間等を考慮して、今国会において統合のための法案を御審議いただく必要があると考えているところでございます。
なお、「むつ」のような新技術の開発については、今後、初期段階における専門家の徹底したテクノロジー・アセスメントを制度化する必要があるのではないかとの御指摘がございました。
科学技術を振興するためには、適切な研究評価を実施することにより時代の要請に的確に対応した研究開発を効率的に推進していく必要があります。研究評価を実施するに当たっては、従来から第三者によって構成される評価委員会を設ける等、研究所内、行政レベル、審議会レベル等種々の機関で実施してきているところであります。今後も、研究開発の着手及び推進に当たっては、一つには研究開発の技術的可能性、二つには研究開発の経済、社会への影響、効果、三つには研究開発の資金、人材等の資源量等について、研究開発の各段階において必要な評価を行うことが重要であります。
科学技術庁といたしましては、今後とも、我が国の国情に適した研究評価を通じ、時代の要請に的確に対応した研究開発が実施されるよう努めてまいる所存であります。
以上、御質問にお答えをいたしましたが、今回の法案提出の趣旨を御理解をいただき、よろしく御審議をお願いいたす次第でございます。(拍手)
〔国務大臣竹下登君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/11
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012・竹下登
○国務大臣(竹下登君) お答えいたします。
原子力船「むつ」のあり方につきましては、いま御指摘がございましたように、各方面からさまざまな御意見、御批判が寄せられておるところであります。したがって、この際抜本的に検討する必要があるとの見地から、本年八月をめどに検討を行うこととしたところであります。財政当局といたしましては、その検討の成り行きを関心を持って注視しているところであります。(拍手)
〔国務大臣後藤田正晴君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/12
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013・後藤田正晴
○国務大臣(後藤田正晴君) お答えを申し上げます。
「むつ」をめぐりましていろいろな御意見があることはわかっており、また、その御意見の中に、松前議員がおっしゃったような御意見があることも十分承知をいたしております。私どもとしては、謙虚にこういった声に耳を傾けるということは当然のことである、かように考えておるわけでございます。そこで政府としては、八月の末までに舶用炉の研究開発について検討するということになっておりますから、その検討の過程を注視をしてまいりたい。ただ、今回のこの改正案は、これは現行の事業団法の中に来年の三月末までに他の機関に統合するという規定があり、しかも行管庁の立場としましては、行政の簡素合理化を進めるという意味合いから見まして、本統合法案は必要なものである、かように考えているわけでございます。
以上でお答えといたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/13
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014・福永健司
○議長(福永健司君) これにて質疑は終了いたしました。
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国民年金法等の一部を改正する法律案(内閣
提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/14
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015・福永健司
○議長(福永健司君) この際、内閣提出、国民年金法等の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。厚生大臣渡部恒三君。
〔議長退席、副議長着席〕
〔国務大臣渡部恒三君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/15
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016・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) 国民年金法等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
我が国の公的年金制度は、国民皆年全体制のもとで着実な発展を遂げ、社会保障の中心的な制度として国民生活において重要な役割を占めるに至っております。しかしながら、近時、我が国の社会経済は、人口構造の高齢化の進行、産業構造、就業構造の変化等により大きく変動しつつあります。これに伴い、年金制度のよって立つ基盤そのものにも重大な変化が生じております。
年金制度は、国民が安心して老後生活を営んでいく上で最も重要な柱であり、このような社会経済情勢の変化に的確に対応しつつ、長期的に安定した制度運営が維持されなければなりません。とりわけ、我が国社会が高齢化のピークを迎える二十一世紀前半においても、健全で安定した年金制度の運営が図られるよう長期的展望に立った制度全般にわたる見直しが迫られております。
今回提出いたしました改正案は、このような趣旨にかんがみ、年金制度改革に関する各方面の御意見をも踏まえつつ取りまとめたものであります。その主眼は、本格的な高齢化社会の到来に備え、公的年金制度の長期的な安定と整合性ある発展を図るため、国民共通の基礎年金を導入するとともに、給付と負担の均衡を長期的に確保するための措置を計画的に講ずることであります。
こうした見地に立って、今回の改正案においては、まずその第一段階として、国民年金、厚生年金保険及び船員保険の再編成を図る等所要の改正を行うこととしております。
また、基礎年金の導入に伴い、障害者の所得保障の大幅な改善を図ることとしております。具体的には、二十歳前に生じた障害につきましても基礎年金を支給することとするとともに、成人障害者が自立生活を営む基盤を形成する観点から、特別児童扶養手当等の支給に関する法律を改正し、二十歳以上の在宅の重度障害者に対し、新たに特別障害者手当を支給することとしております。
さらに、昨今の社会経済情勢にかんがみ、昭和五十九年度において年金額等の改定を実施することとし、そのための規定の整備を行うこととしております。
以上が改正案の主な内容でございますが、以下、改正案の具体的内容につきまして、順次御説明申し上げます。
まず、基礎年金の導入等年金制度の基本的な改正の内容について申し上げます。
第一点は、制度体系の再編成であります。基本的には社会保険方式を維持し、現行制度の独自性を尊重しながら、一方で国民共通の基礎年金給付を導入することにより、公的年金制度全体の整合性を確保することを目標としております。このために、国民年金制度を基礎年金を支給する制度として位置づけ、国民年金の適用を厚生年金保険の被保険者及びその配偶者にも拡大することとしております。基礎年金の給付は、老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金の三種類としております。
一方、厚生年金保険制度は、原則として基礎年金に上乗せする報酬比例の給付としての老齢厚生年金、障害厚生年金及び遺族厚生年金を支給する制度に改めることとしており、この結果、いわゆる二階建ての年金体系となるわけであります。また厚生年金保険においては、被用者独自に必要な給付として、三級障害についての障害厚生年金及び子のない寡婦等従来の遺族年金の支給対象とされていた遺族に対する遺族厚生年金を支給するほか、当分の間、六十歳から六十四歳までの老齢厚生年金を支給することとし、全体として従来の給付要件は維持することとしております。
なお、外国在住の日本人にも新たに任意加入の道を開くとともに、任意加入しなかった場合でも、いわゆる資格期間には算入することとし、無年金者の発生を防止することとしております。
第二点は、将来に向けての給付水準の適正化であります。現行制度のままといたしますと、受給者の平均加入年数の伸びに応じて給付水準が上昇し続け、将来の保険料負担が過大となり、世代間の公平が失われ、制度の円滑な運営が損なわれることが確実に予測されます。そこで、本格的な高齢化社会を迎える二十一世紀に向けて、今後発生する年金給付については所要の見直しを行い、給付と負担の均衡を図ることとしております。
すなわち、年金水準につきましては、将来に向けて現在の水準を維持することとしました。具体的には、今後生じる基礎年金の水準を昭和五十九年度価格で月額五万円の定額としております。また、厚生年金保険の報酬比例の年金の乗率につきましては、施行日における年齢別に、二十年の経過期間中段階的に逓減することとしております。この結果、被用者につきましては、夫の報酬比例の年金と夫婦の老齢基礎年金とを合わせた年金額は、ほぼ現行の厚生年金保険のモデル年金の水準を維持することになります。なお、施行日において既に六十歳に達している者及び既発生の給付については、原則として従来どおりといたしております。
第三点は、婦人の年金権の確立であります。被用者の妻につきましても国民年金を適用することといたしますので、改正後は、夫、妻それぞれに基礎年金が支給されることとなります。これにより、従来からの課題であった単身世帯と夫婦世帯の給付水準の分化と妻の年金権の確立を図ることができることとなります。なお、当面は、被用者の妻にあっては、国民年金への加入期間が十分でないことを考慮し、経過的に加算を行い、一定の水準を確保することとしております。
第四点は、給付の改善に関する事項であります。
物価スライド制につきましては、実施時期を四月に繰り上げるほか、新たに障害基礎年金や遺族基礎年金の加算及び厚生年金保険の加給年金もその対象とすることとしております。
障害者の所得保障については、大幅な改善を図ることとしております。一つは、二十歳前の障害につきましても障害基礎年金を支給することとし、拠出者の場合との給付水準の格差を解消することであります。その二は、資格期間でありますが、初診日前の被保険者期間中に三分の一以上の滞納がない限り年金を支給することとしております。その三は、障害基礎年金の受給権者に子がある場合に相当の額の加算を新たに行うこととしたことであります。その四は、厚生年金保険の事後重症の制限期間を撤廃することとしたことであります。
遺族年金につきましては、子のある妻、高齢の妻に手厚い給付となるよう重点化を図ることとしております。
なお、厚生年金保険の各種の特例措置については今回見直すこととしております。第四種被保険者制度いわゆる中高齢十五年加入の特例、第三種被保険者の期間計算の特例及び脱退手当金は、将来に向かって廃止するほか、女子の支給開始年齢につきましては、男子と同じ六十歳に引き上げることとしております。これらについては、例えば女子の支給開始年齢の引き上げについて、十五年かけて段階的に行うなど、それぞれ所要の経過措置を講ずることとしております。
第五点は、費用負担についてであります。
基礎年金の給付に要する費用は、国民年金の保険料、厚生年金保険の拠出金及び国庫負担で賄うこととしております。
すなわち、自営業者世帯等については、国民年金の保険料及び国庫負担がその財源になりますが、被用者世帯につきましては、被用者及びその被扶養配偶者に関して厚生年金保険が拠出金としてまとめて負担するという考え方であります。したがって、厚生年金保険の被保険者及びその被扶養配偶者は、国民年金の保険料を負担する必要はないという扱いになります。この拠出金の金額は、厚生年金保険の被保険者数と被扶養配偶者数の合計数の国民年金の総被保険者数に占める割合に応じて政令で定めるところにより計算することといたしております。いわば被保険者数の頭割りで両制度が公平に負担するということになるのであります。
国庫負担は、基礎年金に要する費用に一元化するという考え方であり、負担率は三分の一であります。厚生年金保険では、拠出金額の三分の一ということになります。なお、これとは別に、経過的な国庫負担等が行われることとなっております。
保険料は、自営業者等についてはこれまでどおり定額としておりますが、昭和六十一年四月から昭和五十九年度価格で月額六千八百円とし、その後も毎年度段階的に引き上げることとしております。被用者については、昭和六十年十月から保険料率を千分の十八引き上げることといたしておりますが、女子については、男子との格差を解消するため、引き上げ幅を千分の二十とし、その後も毎年千分の二ずつ引き上げることとしております。
第六点は、その他の事項についてであります。
まず、今回基礎年金が導入されることに伴い、通算年金通則法は廃止することとしております。
次に、厚生年金保険については、常時従業員を使用する法人の事業所または事務所について、段階的にその適用事業所とすることとしております。さらに、標準報酬については、六万八千円から四十七万円までの三十一等級に改めることとしております。
また、厚生年金基金については、年金数理に係る業務等の受託機関の範囲を拡大する等の改正を行うこととしております。
第七点は、船員保険についてであります。
船員保険の職務外年金部門については、年金一元化の趣旨等にかんがみ、制度的に同一の内容を有する厚生年金保険に統合することとしております。すなわち、船員は、厚生年金保険の第三種被保険者として適用することとし、過去の被保険者期間についても第三種被保険者並みに扱うこととするほか、職務上の年金について所要の改正を行うこととしております。
以上の年金制度の基本的な改正の施行期日につきましては、業務処理面なども考慮し、昭和六十一年四月一日としております。
ただし、障害年金の事後重症制度の改善につきましては昭和五十九年八月一日から実施することとし、厚生年金保険の標準報酬の上下限及び保険料率の改定については、前回改定時から五年目の昭和六十年十月一日からとしております。
続きまして、第二の大項目であります特別障害者手当の創設について申し上げます。
二十歳以上であって、精神または身体の重度の障害により日常生活において常時特別の介護を必要とする状態にある在宅の重度障害者に対し、月額二万円の特別障害者手当を支給することとしております。
また、特別障害者手当の支給は、重度障害者の住所を所管する福祉事務所を管理する都道府県知事及び市町村長が行うこととし、特別障害者手当の支給に要する費用は、国がその十分の八を、都道府県または市町村がその十分の二を負担することとしております。
その他、二十歳未満の重度障害児については、従来どおり福祉手当を支給することとしております。また、二十歳以上の従来の福祉手当受給資格者については、所要の経過措置を講ずることとしております。
以上の改正については、昭和六十一年四月一日から実施することとしております。
最後に、昭和五十九年度におきます年金額等の改定について申し上げます。
まず、拠出制年金については、公務員給与の改定及びこれに連動した共済年金の額の改定等を考慮し、昭和五十九年度において特例スライドを実施することとしております。改定率は共済年金と同じく二%であり、また実施時期は、厚生年金保険、船員保険については四月、国民年金については五月としております。なお、昭和五十七、五十八両年度の物価上昇率のうち、今回実施の二%分を控除した部分については、次回スライドの際あわせて引き上げる扱いとしております。
福祉年金につきましては、拠出制年金の改善にあわせて年金額の改定をすることとしており、老齢福祉年金で申し上げますと、月額二万五千百円を月額二万五千六百円に引き上げることとしております。実施時期については本年六月といたしております。
また、特別児童扶養手当の額につきましては、福祉年金に準じて本年六月から改定を行うこととしており、福祉手当の額につきましても、本年六月より所要の改定を行うこととしております。
以上がこの法律案の趣旨でございます。どうぞよろしくお願いします。(拍手)
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国民年金法等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/16
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017・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。河野正君。
〔河野正君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/17
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018・河野正
○河野正君 私は、日本社会党・護憲共同を代表いたしまして、ただいま提案されました国民年金法の一部改正法案に対しまして、中曽根総理初め関係閣僚に対しましてそれぞれ若干の質問を行わんとするものであります。
年金制度というものは、国民が安心をして老後生活を営んでいく上で極めて重要な柱であります。特に人口構造の高齢化が進むにつれまして、さらに国民の重大な関心事となってまいっておるのであります。国民は今や年金改革に対しまして極めて大きな関心を持っておるというべきであります。したがって、私の質問に対しては、どうか総理も関係閣僚もそのことを十分踏まえていただきまして、的確な御答弁をお願い申し上げたいと思います。
今回の年金に関する政府案は我が国の公的年金制度の姿を一変させるものでありまして、特に二十一世紀にまたがる課題の提言でもあります。日本は低成長下で高齢化社会を迎えるに至りましたが、そのために、高齢化対策の一環としてのこの問題は極めて緊急性を持っておることは当然でございます。その意味で、政府が今日までこの問題に長い間手をつけなかった、いわゆる着手しなかったことはまことに私は遺憾でございまして、その意味では政治責任を問われましても、私はいたし方ないものと思います。
しかるに、西ドイツのごときは、戦後インフレを経て経済復興の軌道に乗った一九五七年には積立方式を賦課方式に転換させるという大改革を実現いたしたのであります。そのことと比較すれば、これまさしく月とスッポンの相違であろうと思うわけでございます。
第一次石油ショック後我が国は経済が低成長時代に入り、高齢化社会が足元に迫ってくると、政府・自民党は、年金財政の破綻を叫び、国民の老後不安をあおり、保険料の大幅アップ、年金給付の大幅ダウンの改悪を含む年金改革案を押しつけようといたしてまいったのであります。我々は、このような無責任な態度は断じて許せないと思うのであります。このような政治的背景にもかかわらず、年金財政の収支悪化が現実のものとなってきたからには、老後不安の解消、国民生活安定の観点から、好むと好まざるとにかかわらず、前向きの制度の改革に踏み切らざるを得なくなったのであります。
今回の政府年金案は、遅きに失したとはいいながら、基礎年金の導入を図ったことは一応評価いたします。しかし、四十年加入で五万円あるいはそれ以下の年金給付では、憲法での最低生活権すら保障し得ないのであります。御承知のように、憲法第二十五条では、すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障しておるのであります。その憲法で言う最低生活、生命権すら保障し得ない年金改革、これではまさに羊頭狗肉の策と断ぜざるを得ないのであります。
そこで私は、まず第一に総理にお尋ねをいたします。
今日日本が厳しい高齢化社会を迎える中で、今日まで長い間年金改革に着手することを放棄してまいったこの政治責任は重大ではございませんか。この点。
いま一点は、せっかく基礎年金制の導入をしながら、憲法で言う最低生活権すら保障するに至らなかった点、特に今日日本の福祉がだんだん後退する中で、これまた極めて重大な問題であろうと思うのであります。
この際、総理の福祉、社会保障に取り組む姿勢、この二点について率直な見解を伺いたいのであります。
一方、今回の政府年金案は、臨調答申に沿って国庫負担を極力縮減するため、年金給付水準や給付条件の大幅ダウン、負担の限界を超える保険料の大幅アップ、雇用失業不安と婦人の老齢年金受給開始年齢の繰り延べなど、多くの改悪部分を持っているのでありまして、その面からも今回の年金制度の改悪は、私は絶対に許せないと思うのであります。
したがって、私は、以下我が社会党の方針を若干申し述べながら、政府年金改正案の欠陥を明らかにし、それぞれ政府の御見解を承りたいと思うのであります。(拍手)
我が国の人口構造の急テンポな高齢化で年金財政が深刻な状況にあることは客観的な事実であります。しかしこの問題は、自然現象と違って、自民党政府が年金制度の問題に今日まで怠慢をしてまいった結果であります。しかるに、我が国では最近急速に政府、財界が音頭取りを行い、財政難や行政改革の一大キャンペーンを張り、勤労国民が到底負担し切れない高い保険料負担を押しつけようといたしておるのであります。一方におきましては、六十歳定年制も実現しておらないのに、老齢年金支給開始年齢を六十五歳に繰り延べようとすらいたしておるのであります。年金財政の健全化のためには勤労国民の生活を犠牲にしてもやむなしというのは、まことに本末転倒の議論であろうと思います。
我々社会党は、年金財源を保険料負担に求める社会保険主義ではなく、年金の基本部分は社会保障主義の立場に立った税方式をとるべきだと主張しておるのでありますが、厚生大臣、あなたは、この年金財源というものを社会保険主義ではなくて税方式である社会保障主義によることが望ましいことであるとお考えになりませんか、お尋ねをいたします。
さらに、厚生大臣にお尋ねいたします。年金給付水準の低下、負担の限界を超えてアップする保険料についてであります。
政府は、六十五歳から支給の月五万円の基礎年金を導入して年金制度を改革すると宣伝にこれ努めているところでありますが、しかし、年金給付の水準や条件は現行よりも大幅にダウンをするのであります。
厚生年金の老齢年金は、現在三十二年加入で夫婦二人のモデル年金が月十七万三千百円、政府案は四十年加入で夫婦おのおの老齢基礎年金五万円ブラス報酬比例七万六千二百円、月にして十七万六千二百円で、結局加入期間の多い分だけ給付水準というものが切り下げられるのであります。また、保険料も段階的に上がります。
国民年金の老齢年金は、現在いまだ未成熟でありますが、四十年加入で月七万五千四百円、政府案では四十年加入で基礎年金最高五万円ということで、三〇%以上ダウンをするのであります。保険料も段階的に引き上げられ、将来は所得のいかんにかかわらず定額保険料で月一万三千円と、国民の負担にたえがたい状況に立ち至るのであります。
これで果たして年金制度改革と言えるのかどうか、率直に厚生大臣の見解を承りたいのであります。
次いで、婦人の年金権確立についてお尋ねをいたします。
政府は、基礎年金の導入によって婦人の年金権が確立されると言っておるのであります。しかし、四十年も掛けて最高五万円という低水準であり、掛金の徴収方法についても独立性に欠けておるのであります。さらに、一九八三年三月末で厚生年金の老齢年金は、男子平均月十二万七千八百八十八円に対しまして、女子の年金平均額は七万六千五百五十四円で、実に男子の六割にすぎないのであります。つまるところ、政府案は看板だけの婦人年金権で、真の婦人年金権確立と言えるものかどうか、私はこの点を率直にお聞かせいただきたいと思うのであります。
さらに、厚生大臣にお尋ねいたします。それは児童福祉、児童扶養手当に関する問題であります。この問題は別途審議の機会がございますから、この場では簡潔にお尋ねを申し上げたいと思います。
改正案では、従来所得制限が三百六十一万円であったのでありますが、今日はその所得制限がさらに三百万円と引き下げられ、そしてまた七カ年で打ち切るという、そういう制限強化を実施しようといたしておるのであります。元来、日本の児童福祉の問題に対する制度というものは、国際水準と比較いたしまして極めて水準が低いのであります。民族の活力のためにも、今回の改正はむしろ児童扶養手当の後退に通ずると思うのでありますが、この点、厚生大臣、いかがお考えでございましょうか。
さらに、雇用失業問題と年金制度改正について、労働大臣にお尋ねをいたします。
政府の方針も雇用保障の重要性については強調をいたしておるところでありますけれども、現実には年金改革と労働省の雇用保障には大きな隔たりがございます。これは縦割り行政の欠陥を露呈しておるのでございます。我々社会党は、年金改革と雇用保障の改革は常に一体的計画のもとに進めなければならぬと確信をいたしておるわけですが、この点はいかがでしょうか。
政府案の全体の仕組みは、六十五歳を基準に組み立てられているのであります。現実には六十歳以上の定年制をとっている企業が全体の半分しかない現況のもとで、老齢年金の支給開始年齢を六十五歳に繰り延べようとしていることは、多数の労働者、サラリーマンを雇用失業の不安と生活困窮に追いやる暴挙ではありませんか。この点、特にお尋ねをしておきたいと思います。
現実の雇用、生活実態を考えるならば、雇用と年金の接続ということを我々は第一義的に考えるべきだと思うわけでございますが、この点いかがお考えでしょうか、労働大臣にお尋ねをするところでございます。
次いで、大蔵大臣にお尋ねをいたします。それは共済年金統合についての問題であります。
私がお尋ねするゆえんのものは、共済年金の統合は政府の基礎年金構想によっても極めて困難だと考えるわけであります。すなわち、共済年金は他の制度と比較して歴史も性格も大いに異なるものであります。しかし、国民年金と厚生年金を統合しておいて、共済年金だけを現状のまま放置するわけにはまいらぬのでございます。したがって、いわゆる共済内部のもろもろの調整、そして一、二階の再編成等多くの問題を抱えての事情のもとで、果たしてこの共済の統合というものが可能であるかどうか、この点について大蔵大臣から率直な御見解を承りたいと思います。
最後になりましたが、いま一点大蔵大臣にお尋ねをいたしたいと思うわけでございますが、それは年金積立金の運用の問題についてであります。
元来、年金積立金というものは大蔵省が握り、官僚の縄張りと財界の利益のため財界主導の形で今日まで運用されてまいったのであります。しかし、むしろ我々は労働者の利益のために自主、有利の運用によるべきと考えておるわけでございますが、この点、大蔵大臣、いかがでございましょうか。
今や高齢化の中で、国民はよりよい年金制度の改革を強く期待しておるのであります。私は、何点かの改悪に値する問題点を指摘したところでございますが、総理以下関係閣僚がこの問題の前進的な処理のため一層の誠意を示されますことを心から期待をして、私の質疑を終わらせていただきたいと思います。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/18
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019・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 河野議員にお答えをいたします。
社会保障のあり方及び今次の改革は遅かったのではないかという二点でございます。
社会保障制度のあり方につきましては、公平でしかも普遍性を持って、そして長期にわたって安定的な制度を維持していく、こういうような形の社会保障制度が望ましい、そういう意味におきまして今回このような改革も考えたわけでございます。
今の時期に行ったということは、一つは臨時行政調査会から来ておる行革、行政改革への要請と、もう一つは、非常に高齢化社会になりまして年金の給付を受ける老人の層は非常に膨大に膨れ上がってきておりますが、働いて掛金を掛ける方の若い層は次第に比率が落ちてきております。このままにしておきますと、若い世代の人たちが年金を受けるころになると今よりもっと悪い条件の年金給付になる危険性がございます。そういう面から、この若い層と老人の層とのバランスをとりながら、公平にして持続的な年金給付制度をつくっていこう、そういう考えに立ちまして、しかもそれを全国民的に公平に行うという意味から、年金制度の大統合を考えたわけでございます。
すなわち、国家公務員あるいは政府関係機関あるいは厚生年金あるいは国民年金、官と民とを問わず網羅的に大統合を考えて、それを大体七十年を目途に一歩ずつ前進を開始しよう、そういう意味におきまして昨年の秋からいわゆる公的年金の統合を始めまして、今回国民年金やあるいは厚生年金等について手をつけて、そして七十年の大統合へ向かっていこう、そういう意味で進めてきておるのでありまして、このようなタイムスケジュールのもとに行っていることは適当であると考えておる次第であります。(拍手)
〔国務大臣渡部恒三君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/19
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020・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) 基礎年金を税方式で運営せよとの御指摘でございますが、我が国の公的年金制度はこれまで社会保険方式で運営されており、今や我が国社会にもこれが定着しておるものと考えます。この体系に新たに税方式の給付を導入することについては、保険料を拠出した者と拠出しない者とを同一に扱うことが果たして公平であるかどうか、新たに巨額の税負担を課することについて国民の合意が得られるかどうかなどの問題があり、引き続き社会保険方式を維持することが妥当であると考えております。
なお、今回の改正案では、基礎年金に三分の一の国費を導入することといたしておりますので、御了承願います。
次に、今回の改正案における給付と負担についてのお尋ねでありますが、公的年金制度の長期安定のためには、給付と負担のバランスの確保が重要であります。ところが、現行制度の仕組みを放置しておけば、将来の給付水準は現役勤労者の平均賃金とのバランスを失するほど高くなるとともに、将来の負担は過重なものとならざるを得ないのです。今回の改正案は、二十一世紀におきましても公的年金が十分にその機能を発揮できるよう、計画的に給付と負担の両面にわたってその適正化を図るものであり、制度の長期安定のためには不可欠なものと考えております。
第三に、婦人の年金保障の問題については、先生から幾つかの点についての御批判を承りましたが、今回の改正案は、サラリーマンの妻を含むすべての婦人に国民年金を適用することとし、その年金権の確立を図ることを主眼としたものであります。これにより、長年の懸案でありました婦人の年金保障に大きな前進が図られるものと確信をいたしております。
第四に、児童扶養手当の改正についてでありますが、今回の改正は、離婚の急増等の母子家庭をめぐる状況の著しい変化を踏まえて、年金の補完的制度から福祉制度に改むるものであります。
この改正においては、離別に伴う生活の激変緩和の趣旨から支給期間を七年間とするほか、普通の生活程度以上の収入のある母子家庭の皆さん方には、全部税金でやることでございますから、その手当を御遠慮いただくことといたしました。しかし、所得が低く、真に手当を必要とする母子家庭には手当額を引き上げる等の配慮をしており、決して制度の改悪ではございませんので、御了承をいただきたいと思います。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/20
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021・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 高齢者の雇用対策と年金政策とは、これはまさにおっしゃるとおり、車の両輪、表裏一体の関係にあるべきものだと私は考えております。そのことによって高齢者の生活の不安を招くことのないようにという配慮ができるわけであります。
年金の支給年齢の引き上げにつきましては、これは、今後の定年延長とか雇用延長、その動向とタイミングを合わせて実行さるべきようにこれから検討をさるべきものだと思っております。労働省といたしましても一生懸命やっておりまして、現在、高年齢者の雇用を確保するための六十歳定年の一般化を早期実現するように頑張っております。大分この傾向は今や主流となりつつありますので、一層努力をいたしたいと思います。
また、今後高齢化の波は六十歳台前半層に移ってまいりまするので、この六十歳台前半層はいろいろなニーズを持っておりまして、特に短時間労働勤務などを含めて、あらゆる形態の雇用延長の問題につきましても、新しい助成制度をこのたび設けることといたしたようなわけでございまして、今後とも一層総合的な高齢化対策のために一生懸命やっていきたいと思っております。(拍手)
〔国務大臣竹下登君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/21
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022・竹下登
○国務大臣(竹下登君) お答えいたします。
共済年金制度はその歴史的性格が異なる、そのお説のとおりであります。現在、共済年金は、国共済、地共済、私学共済、農林共済、この四つに分かれております。共済年金制度の改革につきましては、去る二月二十四日の閣議決定におきまして、昭和六十年に国民年金、厚生年金等の基礎年金の導入を図るなどの改革の趣旨に沿いました制度改正を行うこととされております。制度改正へ向けて、関係各省による連絡検討の場を設け、鋭意検討を進めておるところであります。
次に、政府としては、今申しましたように、二月二十四日の閣議決定、七十年をめどに公的年金制度全体の一元化を完了させることをまた決定いたしております。したがいまして、六十一年度以降については、公的年金制度全体を通じ給付と負担の両面において制度間調整を進めることとされております。したがって、共済年金制度と国民年金、厚生年金等の公的年金の一元化につきましては、その閣議決定に従ってこれからも対処してまいりたい、このように考えます。
次の私に対する御質問は、いわゆる年金の積立金の運用問題であります。
年金資金など国の制度、信用を通じて集められる各種の資金は、資金運用部資金として統合一元的に管理運営をいたしております。このような統合運用の原則は、一つには、政策的重要性に応じてバランスのとれた資金配分が行われること、二番目は、財政金融政策との整合性が確保されること、三番目には、効率的、機動的な資金運用を行うために最も合理的な運用の仕組みであること等がございます。また、臨調最終答申におきましても「統合運用の現状は維持されるべきである。」このように書かれてあります。したがって、資金運用部資金による現行の一元的な管理運用の仕組みにつきましては、これを堅持する必要があると考えておるところであります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/22
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023・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) 森本晃司君。
〔森本晃司君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/23
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024・森本晃司
○森本晃司君 私は、公明党・国民会議を代表いたしまして、ただいま提案説明のありました国民年金法等の一部を改正する法律案について、総理並びに関係の各大臣に質疑を行うものであります。
我が国の年金制度は、昭和三十六年国民年金の発足以来、一応国民皆年金と言われ、その後水準的にも前進が図られてまいりました。しかし、それはおおむね制度の局部的改善と補修に終始するのみでありました。したがって、婦人の年金権を初め、国民が真に要望する制度間格差の解消、無年金者や経過的年金の解消あるいは重複過剰給付の解消等々の問題は、今日まで未解決のままとなっていたのであります。これらの問題に加えて、急速に迫りくる高齢社会においては、現行年金制度における給付と負担との不均衡がクローズアップされ、また世代間の公平の上からも今や制度の抜本的改革は急を要する問題となってきたのであります。
こうした中で、我が公明党は、真に平等な国民皆年金を目指して、既に昭和五十一年に国民基本年金、いわゆる基礎的年金の導入による二階建て年金制度の創設を提唱してきたところであります。このたび、政府が同様趣旨の国民年金法等の一部を改正する法律案として国会に提案し、基礎年金導入による年金改革を意図されたことに対し評価するものではありますが、なお幾多の疑問の点について質問を行うものであります。
社会保険審議会答申においては、政府諮問案について基本的に了承するとしながらも、制度体系のあり方については「基礎年金は、全国民を対象にしてこそ、その真価を発揮できるものである。」と指摘しているのであります。言うまでもなく、基礎年金の構想は全国民によって年金ミニマムを支えようとする考え方であります。今回の改正案は、基礎年金の導入を意図しながらも、公務員等の加入する共済組合員が包括されていない点に国民は不満と疑問を抱いているのであります。(拍手)基礎年金を真に国民のものとして機能させるためには、公務員等共済組合員の参加は必須の条件であります。
そこで、総理にお尋ねいたします。
本法案によって基礎年金の導入が図られる昭和六十一年四月一日に間に合うよう、各共済組合の年金統合へのプロセス及び官民格差の是正を目指し、共済組合関係者の合意と手続を完了し、所要の改正案を国会に提出することをこの場で確約いただきたいのでありますが、いかがでしょうか。(拍手)
また、政府は、公的年金制度の統合一元化を円滑に推進するため、既に年金問題担当大臣を任命していますが、各年金制度は長い伝統と歴史を持ってそれぞれ所管大臣が個別に管理運営し、統合一元化は言うべくして容易でないと思うのであります。何ら権限のない担当大臣の事実上の調整を期待しても、かえって混乱するのではないでしょうか。特別権限を付与した上で調整事務を行うのが適当と考えますが、総理の所見をお伺いしたいのであります。
さらに、共済組合年金の所管大臣として、大蔵大臣、自治大臣は、国民年金への統合一元化に対してどのように考えているのか、また、今後の公務員に対する年金水準のあり方及び統合一元化への改正手順に関してどのように考えておられるのか、公務員年金の改革の方向をもあわせて御答弁いただきたいのであります。
次に、厚生大臣にお尋ねします。
その第一は、五年年金、十年年金及び老齢福祉年金等経過的年金の今後における取り扱いの問題であります。
本案によりますと、老齢福祉年金は従前のとおりとされておりますが、国民の年金改革の要望の眼目の一つが経過的年金の解消の問題でありました。幸い障害、母子、準母子の各福祉年金は今回の改正により大幅に引き上げられることになりましたが、五年年金等加入期間の短い年金を含めて老齢を理由とする年金だけが従前のとおりとされているのであります。老齢福祉年金受給者は毎年減少し、これに伴って給付に要する費用も減少しております。これに要する費用は一般会計に依存しているとはいえ、老齢福祉年金のみが改善されないことは多くの国民の納得し得ないところであります。厚生大臣はこの点いかなる改善案を用意しておられるのか、お示しいただきたいのであります。(拍手)
第二には、給付水準についてでありますが、改革案では老齢基礎年金を五十九年度価格で一人五万円、夫婦で十万円としておりますが、これでは五十九年度における標準的な老人夫婦世帯の生活保護基準をも下回る水準であり、保険料を負担する国民の側からすれば釈然としないものがあるのであります。しかも、保険料納付期間によっては老齢基礎年金は減額されることになっており、この給付水準について国民の理解が得られるかどうか、極めて疑問であります。
さらに、給付水準の見直しに伴う既得権、期待権の尊重ということについて、既裁定年金については従前どおり給付水準を維持するとしているものの、現在の加入者については今後の加入期間にかかわる給付水準の見直しだけでなく、法改正前の過去の加入期間についてまで給付水準の見直し、すなわち給付の引き下げを行うことは既得権、期待権の侵害であり、国民の賛同は得がたいと思うのでありますが、いかがでございましょうか。制度設計に当たり、この点にどのように配慮したのか。また、法改正前の加入期間まで給付の見直しを行わなければ収支の均衡、財政健全化が得られなかったのかどうか、あわせて御答弁いただきます。
第三に、支給開始年齢についてであります。
厚生年金の支給開始年齢を原則として六十五歳とし、六十歳から六十四歳までの間は特別給付とし、経過措置を設け、昭和六十一年四月実施としておりますが、二十一世紀の高齢社会においては、雇用と年金は緊密に連動するものでなければなりません。高齢者の雇用機会の確保と労働環境の整備が十分とは言いがたい現状で、六十五歳支給を原則とすることは、いかに経過措置によって実害なしといっても、特別給付という不安定なものであることには変わりなく、なお時期尚早と言わなければなりませんが、これらの点について御答弁いただきたいのであります。(拍手)
第四点は、保険料の負担の方法等についてであります。
厚生年金被保険者の負担する保険料は、独身であると否とを問わず、基礎年金の保険料を含めて一二・四%とされており、一方、自営業者等の基礎年金保険料は六千八百円となっております。公平負担の原則から見ても国民に理解しにくいものとなっております。サラリーマンと自営業者等との基礎年金に対する保険料負担がすべての国民に公平であり、しかもわかりやすい制度にすべきだと思うのでありますが、御見解を承りたいのであります。(拍手)
同時に、基礎年金の保険料が六千二百二十円は、給付水準見直し後においても、年金成熟段階において五十九年度価格で一万三千円に達すると言われております。現在の国民年金の定額保険料でさえ負担し切れず、保険料免除手続を怠って結局無年金者となる人が年間五、六十万に達する現状では、すべての国民に保障される基礎年金としての役割が果たせないことになります。
そこで、今後ふえていかざるを得ない保険料負担を考えるならば、所得に応じた負担方式を取り入れ、定額保険料はできるだけ低くし、低所得者でも負担しやすい保険料として基礎年金からの脱落を防止するとともに、所得比例の保険料導入によってより一層の所得再配分機能の促進を図るべきと考えますが、また、保険料負担のあり方、国民の負担の限界についてどのように考えておられるかも含めて御答弁いただきたいのであります。(拍手)
第五点は、現行国民年金における自営業者等の付加年金の取り扱いについてであります。
これについては、サラリーマンの年齢水準との均衡も考慮し、現行国民年金の付加年金の制度を発展的に改善し給付水準の向上に資するべきであると思うのでありますが、御所見を賜りたいのであります。
第六点は、学生の任意加入の問題点であります。
二十歳未満で障害者となった場合には障害基礎年金が支給されるのに対し、任意加入しなかった学生が障害者となった場合には障害年金が受給できないこととなることが問題であります。これに対する対応が必要であると思いますが、いかがでございますか。
最後に、婦人の年金権に関してであります。
基礎年金の導入で婦人の無年金者が解消され、年金権が確立したことは評価いたしますが、加入期間によっては実質的に低額年金が予想され、今後に大きな問題を残すことになると思うが、政府はどのように対処するのか、御答弁いただきたいのであります。
また、妻の年金権の確立のために、離婚後の遺族年金の受給権について結婚年数を配慮した相当額の年金額を保障すべきであると考えますが、御見解を賜りたいのであります。
以上、数点にわたり年金改革についてお尋ねいたしましたが、今我が国の人口構造の高齢化現象は着実に進行しており、高齢者比率の高まり、稼働人口の低下傾向は、後世代の負担によって支えられ運営される年金制度にとって黙過し得ない事態であります。このような背景と将来を展望して、二十一世紀の高齢社会での安定した年金制度の維持存続を図るため、小手先だけの改革ではなくして、真に国民の側に立ったきめ細かな制度改革が今最も肝要であると言わざるを得ません。
その意味で、政府の責任は極めて重大であります。政府の誠意ある答弁を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/24
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025・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 森本議員にお答えをいたします。
共済組合について、昭和六十一年四月一日に間に合うように所要の改正案を提出することを約束できるかということが第一問でございます。
この点につきましては、昭和六十年におきまして、国民年金、厚生年金等の基礎年金の導入を図る等の改革の趣旨に沿った制度改正を行い、昭和六十一年度から実施する旨を去る二月二十四日に閣議決定をいたしました。そのため、各方面の意見を聴取しながら、鋭憲法案の作成に今後とも努力する所存でございます。
年金問題担当大臣に対して特別権限を付与すべきであると思うかどうかという御質問でございますが、現在の年金問題担当の大臣のもとで鋭意調整整理を行いまして、割合円滑に進捗しておるのでございます。与党の自由民主党と協力しまして、与党の自由民主党の政調会も非常にうまくこれを運営しておられまして、政府・与党両方相まってこの調整が行われておりまして、円滑に行われておるのでございますから、特に権限を付与する必要は現在のところないと考えております。(拍手)
〔国務大臣竹下登君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/25
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026・竹下登
○国務大臣(竹下登君) 私に対する御質問は、特に国家公務員等共済組合の担当大臣であるという意味もございましての御質問であると理解いたしております。
政府といたしましては、二月二十四日の閣議決定、これにおいて、共済年金については昭和六十年に基礎年金の導入を図る等の制度改正を行うこととしておりまして、制度改正に向けて鋭意検討を進めておるところであります。
そこで、いわゆる公務員に対する年金水準、こういうことになるわけでありますが、六十年において、先ほど申し上げましたように共済年金について国民年金、厚生年金等の基礎年金の導入を図る等の改革の趣旨に沿った制度改正を行って、六十一年度からこれを実施する。したがって、共済年金の水準については、公的年金制度全体の一元化を展望しつつ、公務員制度の一環としての共済年金制度の特殊性をも踏まえながら、そのあり方について検討を行っておるところでございます。
改正手順に関してでございますが、これは、したがって昭和七十年度を目途に公的年金制度全体の一元化を完了させるということが決定しておりますので、この閣議決定の線に沿いまして今後対処してまいりたい、このように考えております。(拍手)
〔国務大臣田川誠一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/26
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027・田川誠一
○国務大臣(田川誠一君) 共済年金制度に関するお尋ねについてお答えをいたします。
公的年金制度の改革につきましては、去る二月二十四日の閣議決定によりまして政府の方針を明らかにしたところでありまして、共済年金につきましては、昭和六十年に基礎年金の導入を図る等の今回の改革の趣旨に沿った制度改正を行うことにしております。
地方公務員共済年金につきましても、この閣議決定の趣旨に沿った改正を行うために、給付水準のあり方など制度の具体的な内容につきまして、関係省庁とともに学識経験者の意見も聞きながら検討を進めているところでございます。(拍手)
〔国務大臣渡部恒三君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/27
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028・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) まず、当面する年金改革の重要性、緊急性について深い御理解を賜りましたことを心から感謝いたします。
九つの点について、重要な問題についてお尋ねをいただきましたので、順次お答えをさせていただきます。
老齢福祉年金等経過的年金の取り扱いについてでありますが、今回の改正案においては、基礎年金を含め社会保険方式を維持していくこととしており、老齢給付については、保険料拠出の有無及び拠出期間の長短によって年金額にある程度の差を設けることはやむを得ないものと考え、従前どおりといたしましたので、御了承願います。
老齢基礎年金の給付水準についての御指摘でございますが、老後生活の基礎的部分を保障する水準としては、高齢者の現実の生計費等を総合的に勘案すると月額五万円は妥当なものと判断しております。また、今回の改正案は社会保険方式をとっておりますので、保険料納付の期間に不足がある場合に年金額が減額されるのはやむを得ないのでございます。
法改正前の加入期間の取り扱いについてのお尋ねでありますが、今回の改正に当たりましては、既得権は保護し期待権は尊重することを基本的な考え方としております。このような観点から、老後の生活設計に当たっては、受給年齢に近い方ほど年金への期待も大きいことを考慮して、生年月日ごとに段階的に給付水準の適正化を図ることとしております。これにより、適正給付、適正負担が実現されるものと考えておりますので、御期待をいただきます。
老齢年金の支給開始年齢の問題についてのお尋ねでありますが、今後の高齢化社会の到来を展望いたしますと、厚生年金保険の支給開始年齢の問題は、これは避けて通れない課題でありますので、今回の改正案においては、六十歳から六十四歳までの間は厚生年金保険から独自に特別支給を行うこととして整理いたしたのであります。今後のこの問題への取り組みとしては、先生御指摘のとおり、高齢者の雇用の動向を勘案しつつ総合的に検討していくべき問題であると考えております。
保険料負担の方法等についてのお尋ねでありますが、自営業者の保険料は定額、サラリーマンの保険料は定率という差異があるのは御指摘のとおりでございます。しかしながら、基礎年金の給付に要する費用については、自営業者やサラリーマンの区別なく加入者全体が頭割りで負担するという公平な負担方式をとることとしておりますので、御了承ください。
次に、国民年金における所得比例の保険料の導入につきましては、自営業者の所得の把握の問題等基本的な問題がありますが、今後とも検討してまいりたいと考えております。また、国民年金の保険料負担の限界の問題につきましては、年金保険料以外の種々の負担もあわせ考える必要があり、一概には論じられないのであります。なお、今回の改正案におきましては、保険料引き上げ幅を従来より緩和する等の措置を講じ、できる限りの配慮をいたしたいと存じております。
次に、付加年金の取り扱いについては、自営業者等に対する基礎年金の上乗せとしての所得保障のあり方の一環として大変重要な問題であり、今後の課題として検討してまいりたいと存じます。
次に、任意加入してない学生に対する障害基礎年金の支給の問題については、それ以外の同年齢の者との均衡等難しい問題がありますが、これも今後引き続き検討してまいりたいと考えております。
次に、婦人の基礎年金の水準につきましては、当面、これまでの加入期間の短い方もおられることを考慮し、厚生年金保険の加給年金の対象となっていた妻については一定の加算を行うこととしております。また、離婚後の遺族年金についてのお尋ねでありますが、年金制度以外の分野にもかかわる問題でありますので、今後とも研究させていただきたいと考えております。
以上でございます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/28
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029・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) 佐藤祐弘君。
〔佐藤祐弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/29
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030・佐藤祐弘
○佐藤祐弘君 私は、日本共産党・革新共同を代表しまして、国民年金法等の一部を改正する法律案について、総理並びに関係大臣に質問をいたします。
総理、あなたは老後市場という言葉を御存じでしょうか。生命保険会社や損害保険会社は、今の時期を老後市場開拓の絶好のチャンスと見て、「あんしん」「新長寿」などの商品名で年金保険や医療保険の契約獲得の大号令をかけております。なぜ保険会社にとって絶好のチャンスなのか。それは、あなたの内閣の手によって社会保障の諸制度が次々と攻撃にさらされ、国民の間に老後や病気治療に対する不安と社会保障制度に対する不信が広がっているからにほかなりません。
今国会冒頭の所信表明演説で総理は、「迫りくる高齢社会に備え、老後の医療保障や所得保障を一層確実かつ安定したものとするため、諸制度の抜本的改革に着手する」と述べました。
しかし総理、総理が実際に打ち出してきた施策は何だったか。老人医療の有料化に続く健康保険本人二割自己負担の導入であり、お年寄りを失業保険の対象からも排除する雇用保険法の改悪であり、さらに本法案による年金制度の改悪であります。これでどうして、確実でかつ安定した老後保障などと言えるでしょうか。全く逆行するものではありませんか。政府のお年寄りいじめの施策が生み出している不安につけ込んで、それを老後市場などと呼び、新たなもうけのチャンスとして恥じない資本の非情さに、私は心が寒くなるのを覚えるのですが、中曽根総理、あなたはこれをどう考えるのか、明確な答弁をまず求めるものであります。(拍手)
人は皆年をとります。我が国の人口構成からいって、近い将来、高齢化社会は確実にやってきます。問題は、これをどう見るかであります。不老長寿は昔から人類の夢でした。私は、日本国民の平均寿命が世界のトップレベルに位置するまでに伸びてきたことを心から喜ぶものであります。そして、長年いろいろな形で社会に尽くしてこられた方々が、心から長生きしてよかったと言えるように、健やかに生活の不安なく過ごせるようにすることこそが政治の務めであると考えるものであります。(拍手)いや、それは国家の義務ではないでしょうか。
ところが、今回の政府案は、老後を温かく保障するどころか、さまざまな口実のもとに、その水準を低く抑え込もうとするものであります。そのため自民党政府が持ち出しているのが、国民を欺く三重四重の偽りであります。
その第一は、我が国の年金給付水準が欧米諸国に比して遜色のない水準になったという宣伝であります。事実はどうか。ヨーロッパでもアメリカでも、年金受給者の全平均は月額十万円水準であります。ところが我が国の場合、平均十万円に達しているのは厚生年金、共済年金だけであって、受給者の七割以上を占める国民年金は、平均でわずか月二万四千円にとどまっているのであります。これでどうして遜色がないのか、厚生大臣の納得のいく説明をお聞きしたいのであります。
年金改革を言うならば、まず何よりもこの劣悪な給付水準を大幅に引き上げるべきであります。政府案は一千万人を超える現受給者への改善対策を欠いており、物価スライドも半分以下に値切っているのは国民の願いに背くものと言わなければなりません。厚生大臣はこの点いかがお考えか、誠意ある答弁を求めます。
第二の偽りは、高齢化社会になると年金財政は破綻するという宣伝であります。厚生省は当初、国民所得に占める年金給付費の割合が一九八〇年の三・九%から高齢化社会のピークを迎える三十年後二〇一〇年には一六・一%に増大し、日本経済はその負担にたえられないと言っておりました。
ここにもごまかしがあります。年金はふえるが、一人当たりの国民所得の伸びは今後三十年間ゼロというあり得ないことが計算の前提にされていたのであります。昨年十月、我が党の小沢議員がこの点を追及したのに対して、当時の林厚生大臣も「削除する」とその非を認めたところであります。いわば財政破綻論の大きな前提が崩れたのであります。国民所得の伸びを政府見通しに従って年率四%と見るならば、三十年後の年金給付費の比率は、厚生省当初数字の半分、八・八%になるにすぎず、ヨーロッパやアメリカの現在の水準にも達しないのが真実であります。祝福さるべき老後の生活保障に対するこの程度の配分が、資本主義国第二位の経済力を誇る我が国でどうして確保できないのでしょうか。国栄えて老後細るであってはならないのであります。総理の明快な答弁を求めるものであります。(拍手)
最近、政府が強調している、現役世代と年金世代のバランス崩壊論についてもただしておかなければなりません。
厚生省の宣伝パンフレットによれば、現在の仕組みのままでは、二十年後、夫婦と子二人の現役世代の収入が月二十五万四千円なのに、老夫婦二人だけの年金世代の給付が二十一万円を超え、バランスを崩すというのであります。
厚生大臣に伺いたい。政府がつくった二十一万円というモデル年金額は、四十年の加入期間があり、加入期間の平均賃金が二十五万四千円の妻のある勤労者の場合という実態とかけ離れたものであります。大臣、二十年後二十一万円の厚生年金を受け取れる人が一体何人いるのですか。また厚生省発表に基づいて計算すれば、受給者の平均では月十三万八千円にとどまるのではありませんか。平均賃金の五割強にすぎない水準でどうして年金のもらい過ぎなどと言えるのでしょうか。明快な答弁を求めます。(拍手)
政府の年金改革案なるものは、こうした数々の偽りの上に組み立てられたものであり、いわば国民を恫喝することによって給付水準を抑え込み、負担は引き上げようとするものであります。加えて、すべての国民に五万円の基礎年金という実体を伴わない宣伝によって改悪案を改善案に見せようとするやり方についても、強く指摘しないわけにはいきません。五万円を受け取れるのは、四十年間ただの一カ月の休みもなく保険料を払い続けた加入者のみであります。二十年後の制度完熟時にこの五万円を受け取れる人が一体どれだけいるのか、その根拠も含め、厚生大臣の明確な答弁を求めるものであります。(拍手)
また、たとえ四十年加入したとしても、政府がこれまで約束してきた国民年金七万五千四百円は、最高で五万円に切り下げられる。実に三割のダウンであります。厚生年金も四分の一を上回る大幅カットであります。そればかりか、基礎年金は資格期間が二十五年に満たなければ一切もらえないのです。他方、保険料は、国民年金、厚生年金ともに直ちに一七%も大幅アップし、将来は実に二倍以上に引き上げるというのでありますから、国民はまさに二重の痛苦を強いられるのであります。
二十一世紀を展望してという名のもとに、このような改悪をあえて行おうとする重要なねらいの一つが国庫負担の軽減にあることははっきりしております。国庫負担の対象を基礎年金の三分の一だけに限ることによって、国は制度発足初年度で四千億円、二十年後には政府の財政試算で七兆二千億円の負担を免れようというのではありませんか。これは老後保障に対する国の責任を薄めようとするものであり、公的年金の理念に逆行するものと言わなければなりません。
婦人の年金権についても問題があります。「奥様、もう安心ですね」という政府のキャッチフレーズとは裏腹に、今回案によって多少とも改善になるのは、サラリーマンのいわゆる専業主婦が離婚した場合と障害を受けた場合だけであります。逆に、多くの働く婦人にとっては、他人の妻の保険料まで負担させられ負担率も一九九一年には男子と同じまでに引き上げられる反面、自身の受給開始は五十五歳から六十歳へとおくらされるのであります。働く婦人の年金額は今でも男子の半分にすぎません。その根底には婦人の劣悪な労働条件、収入の低さがあります。これらの諸点の改善なしに、どうして安心して老後が送れるというのですか。厚生大臣の答弁を求めます。(拍手)
最後に私が強調したいのは、すべての国民が六十歳以上になれば、国と企業の十分な負担によって一律五万円、夫婦で十万円の年金を最低限保障する、真の意味での基礎年金、我が党の言う最低保障年金制度の実現こそ急務であるという点であります。こうしてこそ、現在劣悪な水準に置かれている国民年金の給付を引き上げ、三百万人を超える無年金者をなくすことができ、婦人の年金権や障害年金の改善もまた確かなものとなるのであります。
昨年六月のアメリカ国防総省報告は、同盟国に対して、軍備拡張を進めるためにどこからかそこに回す金を持ってこなければならない、そして社会保障分野こそまさにその源であると露骨に福祉切り捨てを要求したのであります。一方、一昨年ウィーンで開かれた国連主催の高齢者問題世界会議は、高齢者の多様な問題は軍拡競争の停止及び軍事目的に使われる資源の経済社会開発のニーズへの転用という状況のもとで真に解決され得ると決議しております。まさに命を削るのか軍備を削るのかが問われているのであります。
総理、あなたはどちらを選択されるのか。このことを最後に伺い、この悪法の撤回を強く要求して、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/30
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031・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 佐藤議員にお答えをいたします。
老後市場開拓という言葉はどうかということでございますが、普通の自由主義社会におきましては、公的年金と同時に民間の私的年金が競争的共存をしておるのであります。このように国民の自助努力にこたえることを目的とする新しい数々の商品が出てきているということは、老人のためにはプラスでございまして、私たちは、このようなことを自由主義社会の一員として原則的に歓迎するものであります。
次に、年金財政の破綻は必至だというお話でございますが、今回の措置は給付と負担のバランスを図ろうという考えで行っておるものでございます。給付水準、これを支える現役勤労者の平均賃金とのバランスを失するほど将来高くならないようにするという意味で、世代的な公平を維持しようという考えでございます。これは、高齢者群が急激に出てまいりました。これはまた、日本人の平均年齢が非常に高くなったということでございまして、これはまた、日本の保健衛生政策の成功を物語るものではないかと考えております。
次に、軍事費との関係の御質問でございますが、防衛費も、また年金関係の費用も、ともに重要な、別の次元の国務であると考えております。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣渡部恒三君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/31
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032・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) 年金給付水準の国際比較の問題でございますが、国民年金については、制度発足以来日が浅く、すべて期間の短い経過的な年金であることなどにより、平均年金額が低くなっておることは事実でございます。しかし、自営業者に対する年金制度の態様は各国ごとにさまざまであり、比較は困難でありますので、各国の被用者年金と我が国の厚生年金保険の平均年金額をもって国際比較を行っております。厚生年金保険の老齢年金の平均年金額は、現役勤労者の平均総報酬の四四%程度であり、これは欧米諸国と比べても決して遜色のないものでございます。
次に、物価スライドについてのお尋ねでありますが、厚生年金、国民年金等の年金額の自動物価スライドは、法律上は消費者物価上昇率が五%を上回ったときに行われることになっております。今年度はこれに該当いたしませんが、公務員給与の改定に伴う共済年金の改定との均衡等を考慮し、二%の特例的なスライドを行ったのであります。
なお、昭和五十七、五十八両年度の物価上昇率のうち今回実施の二%分を控除した部分については、次回スライドの際あわせて引き上げる扱いとしております。
二十年後に二十一万円の年金を受け取る方の数についてのお尋ねでありますが、二十一万円というのは、現行制度で四十年加入期間のある男子の標準的な年金額でございます。今後加入期間が延びることから見て、二十年後には四十年が標準的な加入期間になると見込まれますので、新たに年金を受ける男子の大多数の方が二十一万円前後の年金を受給するものと推計されます。
制度完熟時における基礎年金五万円の受給者数についてのお尋ねでありますが、新制度に完全に移行した時点では、保険料の免除または未納の期間がある者を除いて月額五万円の年金がすべて支給されることになります。
婦人の年金水準についてのお尋ねでありますが、従来厚生年金保険では、婦人の被用者については、一般的に就業期間が短く年金受給に結びつきにくかったこと等を考慮して、支給開始年齢を初め各種の優遇措置を講じてまいりました。しかしながら、婦人の雇用環境の改善や皆年金体制の定着等の事情の変化から、今日ではこれらの取り扱いは必ずしも合理的とは言えなくなっております。この点については、関係審議会より公平性の確保の観点から見直しを求められておるところであり、今回経過措置に十分配慮しつつ是正を図ることといたしております。
以上、お答えいたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/32
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033・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) これにて質疑は終了いたしました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/33
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034・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) 本日は、これにて散会いたします。
午後三時十三分散会
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X01819840417/34
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