1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和五十九年六月二十六日(火曜日)
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議事日程 第二十八号
昭和五十九年六月二十六日
午後一時開議
第一 港湾運送事業法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
日本ユネスコ国内委員会委員の選挙
公害等調整委員会委員長及び同委員任命につき
同意を求めるの件
土地鑑定委員会委員任命につき同意を求めるの
件
中央更生保護審査会委員長任命につき同意を求
めるの件
漁港審議会委員任命につき同意を求めるの件
日程第一 港湾運送事業法の一部を改正する法
律案(内閣提出)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇
の確保を促進するための労働省関係法律の整
備等に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明
及び質疑
午後一時三分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/0
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001・福永健司
○議長(福永健司君) これより会議を開きます。
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日本ユネスコ国内委員会委員の選挙発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/1
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002・福永健司
○議長(福永健司君) 日本ユネスコ国内委員会委員の選挙を行います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/2
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003・古賀誠
○古賀誠君 日本ユネスコ国内委員会委員の選挙は、その手続を省略して、議長において指名されんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/3
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004・福永健司
○議長(福永健司君) 古賀誠君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/4
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005・福永健司
○議長(福永健司君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。
議長は、日本ユネスコ国内委員会委員に井上普方君を指名いたします。
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公害等調整委員会委員長及び同委員任命につ
き同意を求めるの件
土地鑑定委員会委員任命につき同意を求める
の件
中央更生保護審査会委員長任命につき同意を
求めるの件
漁港審議会委員任命につき同意を求めるの件発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/5
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006・福永健司
○議長(福永健司君) お諮りいたします。
内閣から、
公害等調整委員会委員長に大塚正夫君を、
同委員に三ッ木正次君を、
土地鑑定委員会委員に青木茂男君、淺村廉君、幾代通君、大神三千雄君、久保田誠三君、中村友治君及び松尾英男君を、
中央更生保護審査会委員長に新谷正夫君を、
漁港審議会委員に岡部保君、神尾徹生君、倉武二君、戀塚新吾君、下門律義君、松田廣一君、宮原九一君、矢野照重君及び横山信立君を任命したいので、それぞれ本院の同意を得たいとの申し出があります。
まず、公害等調整委員会委員長及び同委員及び漁港審議会委員の任命について、申し出のとおり同意を与えるに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/6
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007・福永健司
○議長(福永健司君) 御異議なしと認めます。よって、いずれも同意を与えるに決しました。
次に、土地鑑定委員会委員及び中央更生保護審査会委員長の任命について、申し出のとおり同意を与えるに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/7
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008・福永健司
○議長(福永健司君) 起立多数。よって、いずれも同意を与えるに決しました。
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日程第一 港湾運送事業法の一部を改正する
法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/8
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009・福永健司
○議長(福永健司君) 日程第一、港湾運送事業法の一部を改正する法律案を議題といたします。
委員長の報告を求めます。運輸委員会理事鹿野道彦君。
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港湾運送事業法の一部を改正する法律案及び同
報告書
〔本号末尾に掲載〕
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〔鹿野道彦君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/9
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010・鹿野道彦
○鹿野道彦君 ただいま議題となりました港湾運送事業法の一部を改正する法律案につきまして、運輸委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
本案は、近年におけるコンテナ埠頭等の近代的な港湾施設の整備などによる港湾における物流合理化の進展の状況にかんがみ、効率的な港湾運送事業の実施が図られるよう改正しようとするものでありまして、
第一は、港湾運送事業の種類について、船内荷役事業と沿岸荷役事業を統合して港湾荷役事業とすること、
第二は、コンテナ埠頭等の施設においてみずからの統括管理のもとに一定量以上の港湾運送を行う場合にも関連事業者に下請をさせることを認めること、
第三は、その他、本法の施行に伴う経過措置等所要の規定を整備することであります。
本案は、四月五日本院に提出され、十七日本委員会に付託となり、五月九日細田運輸大臣から提案理由の説明を聴取した後、十一日から質疑に入り、十八日参考人から意見を聴取し、六月二十二日質疑を終了いたしました。
その間において行われました質疑の主な事項を申し上げますと、本案提出の理由及び本改正の港運業界に及ぼす影響、港湾運送事業法のあり方、認可料金の遵守及び港湾労働者に対する雇用対策等でありますが、その詳細は委員会議録によって御承知願いたいと存じます。
かくて、六月二十二日討論に入りましたところ、自由民主党・新自由国民連合の若林正俊君及び民社党・国民連合の河村勝君から、本案に賛成、日本社会党・護憲共同の関山信之君、公明党・国民会議の森田景一君及び日本共産党・革新共同の梅田勝君から、本案に対し反対の意見がそれぞれ述べられ、採決の結果、本案は多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
なお、本案に対し、政府は、本法施行に当たり、その運用に当たっては、過当競争、雇用不安等を生じさせないよう十分配慮すること、港湾運送事業の基盤の充実強化、港湾における職域の拡大方策についての対策の検討等につき、適切な措置を講ずべきである旨の附帯決議が全会一致をもって付されました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/10
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011・福永健司
○議長(福永健司君) 採決いたします。
本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/11
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012・福永健司
○議長(福永健司君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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雇用の分野における男女の均等な機会及び待
遇の確保を促進するための労働省関係法律
の整備等に関する法律案(内閣提出)の趣旨
説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/12
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013・福永健司
○議長(福永健司君) この際、内閣提出、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案について、趣旨の説明を求めます。労働大臣坂本三十次君。
〔国務大臣坂本三十次君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/13
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014・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
近年、我が国における女子労働者は着実に増加し、約千五百万人と全労働者の三分の一を超え、また、あらゆる産業、職業に進出し、我が国の経済、社会の発展は今や女子労働者を抜きにしては考えられなくなってきております。女子の職業に対する意識も高まり、その生涯における職業生活の比重も増大しております。しかしながら、我が国経済、社会の実態は、意欲と能力のある女子労働者がそれを十分に発揮し得る環境が整えられているとは必ずしも言えない状況にあり、そのような環境を整えることが大きな課題となってきております。
また、昭和五十年の国際婦人年を契機として、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保することが国際的潮流となっている中で、我が国は、国際連合総会において採択された婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約を昭和五十五年に署名したところであり、先進国の一員として、早期に関係国内法を整備し、条約の批准に備えることが要請されております。
このような内外の情勢を考慮に入れますと、我が国においても、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇が確保されるよう、新たな立法措置を講ずる一方、労働基準法の女子保護規定については、女子の就業分野の拡大に資するとともに、時代の変化に即したものとなるよう見直すことが必要となっております。また、これらに加えて、既婚女子労働者の増加等に伴い、女子労働者自身の健康と福祉、さらには次代を担う国民の健全な育成という観点から、母性保護等についての施策の拡充が求められているところであります。
これらの問題については、昭和五十三年以来婦人少年問題審議会において御審議いただいてきておりましたが、本年三月末、六年余の長期にわたる御審議の結果を建議としていただいたところであります。政府といたしましては、世界の潮流を見通し、あるべき姿へ向かって着実に進むべく、歴史的な第一歩として、この建議を踏まえ法律案を作成し、関係審議会にお諮りした上、ここに提出した次第であります。
もとより、雇用の分野において男女の均等な機会及び待遇が現実に確保されるためには、このような法制の整備と相まって、女子自身が労働に従事する者としての自覚のもとにその能力を発揮すると同時に、女子の就労についての国民全体の理解を深めることが必要でありますので、政府といたしましてはこれらの機運の醸成を図ってまいることといたしております。
次に、この法律案の内容の概要を御説明申し上げます。
第一は、勤労婦人福祉法の名称を雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律に改めるとともに、その内容を男女の均等な機会及び待遇の確保の促進を図るという観点から抜本的に改正することであります。
その内容の一は、男女の均等な機会及び待遇の確保のために必要な事業主の責務を新たに規定したことであります。すなわち、募集、採用、配置及び昇進については事業主は女子と男子を均等に取り扱うよう努めなければならないこととするとともに、これらの事項について労働大臣が指針を定めることができることといたしております。また、労働省令で定める教育訓練及び福利厚生並びに定年、退職、解雇については、事業主は労働者が女子であることを理由として差別的取り扱いをしてはならないことといたしております。
その二は、男女の均等な取り扱いに関する紛争の解決のための措置であります。このような紛争については、事業主はまず、企業内で、自主的な解決を図るように努めなければならないことといたしております。また、紛争の関係当事者から求められた場合には、都道府県婦人少年室長が必要な助言指導または勧告を行うほか、都道府県ごとに機会均等調停委員会を設け、紛争の調停に当たらせることといたしております。
その三は、妊娠、出産または育児のため一たん退職し、再就職しようとする女子の就業の援助の措置等であります。すなわち、事業主は、これらの女子の再雇用について特別に配慮するように努めなければならないこととし、また、国は、その再雇用の促進に必要な援助を行うように努めるものといたしております。
第二は、労働基準法を改正し、妊娠及び出産にかかわる母性保護措置を拡充する一方、それ以外の女子保護措置について廃止または緩和することであります。
その一は、女子の時間外・休日労働の規制について、まず、命令で定める管理職及び専門職については、それを廃止することといたしております。また、工業的事業の女子については時間外労働に関する現行の一日二時間の制限を廃止することとし、非工業的事業の女子については、時間外・休日労働の規制を命令で定める範囲内において緩和することといたしております。
その二は、深夜業の規制について、命令で定める管理職及び専門職、業務の性質上深夜業が必要とされる業務に従事する命令で定める短時間労働者等については深夜業の禁止を解除することといたしております。
その三は、危険有害業務の就業制限、生理休暇及び坑内労働について、それぞれ現行規制を緩和するとともに、帰郷旅費の規制は廃止することといたしております。
その四は、妊娠及び出産に係る母性保護について、まず産前休業を多胎妊娠の場合十週間に延長するとともに、産後休業を八週間に延長することとしております。また、妊産婦が請求した場合には、時間外・休日労働及び深夜業を禁止することといたしております。
最後に、この法律の施行は、事前の周知を十分に図る必要があることを考慮し、一部の規定を除き、昭和六十一年四月一日からといたしております。
以上が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案の趣旨でございます。(拍手)
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雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/14
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015・福永健司
○議長(福永健司君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。土井たか子君。
〔土井たか子君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/15
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016・土井たか子
○土井たか子君 私は、日本社会党・護憲共同を代表して、ただいま議題となりました雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案について、総理並びに関係大臣に質問をいたします。(拍手)
質問の第一は、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約批准に対する政府の姿勢についてであります。
今回の法律の整備は、そもそもこの条約批准のために国内法を制定するものであります。この条約は、女性の労働権は奪うことのできない基本的権利であるとしています。我が党は、この条約を留保することなく完全批准すべきであると主張し、過去六回、男女雇用平等法案を国会に提出してきました。今回の政府法案は、女子の労働権を保障する雇用平等法ではなく、婦人少年問題審議会の法案要綱に対する答申ですら、女子差別撤廃条約の目指す方向に照らせば、なお多くの部分において不十分であると指摘されております。
総理、あなたは、さきのロンドン・サミットを大成功であったと大見えを切られ、抽象的な美辞麗句の羅列である民主主義宣言を採択されてこられました。しかしその第二項では、市民の権利と自由を公平に尊重かつ保護すると述べられておりますが、とても今回の法案がこの内容に合致するとも思われません。総理、あなたは、婦人問題企画推進本部長でもあります。このような法案で条約批准ができるとお考えですか。
私の質問の第二は、雇用における男女平等に関する法律の制定について政府がとられた方法、手段についてであります。
政府は、現行の勤労婦人福祉法の改正で雇用機会均等法を制定しようとされております。しかし、勤労婦人福祉法はあくまで福祉法でありまして、女子差別撤廃条約の批准のために求められております女子労働者の雇用に関する基本的権利を保障すべき法律とは本来異質のものであります。こうした筋違いの方法をとられた結果、雇用機会均等法の目的を結局は「女子労働者の福祉の増進と地位の向上を図ること」とし、その基本的理念も働く女性の権利として保障せず、関係者の責務を配慮と努力にとどめています。私は、この点大変気になりましたので、先日政府委員に説明を求めましたところ、果たせるかな、ここにいう「女子労働者の福祉」は権利として付与されているものではないと言われるのであります。
あるいは総理、あなたは、雇用における男女平等問題を、基本的権利の問題としてではなく、政策的に何か物を施してやるといったたぐいの問題としてお考えなのでありましょうか。これは見過ごすことのできない極めて重大な論点であります。総理、ひとつはっきりさせていただきたいと思います。
また、外務大臣、あなたはこの点どうお考えですか。このような立法のあり方が女子差別撤廃条約の趣旨に沿うものですか。聞かせていただきます。
私の質問の第三は、雇用における均等な機会及び待遇の確保に関する具体的な措置についてであります。
まず、募集及び採用は使用者の努力義務とされています。差別はまさにこの募集、採用、つまり雇用の入り口から始まっているのでありまして、これを使用者の単に努力義務としたのでは実効性に期待できません。
男女雇用平等法を持つ十八カ国のうち、西ドイツが募集について明記していないほかは、すべての国で募集、採用に差別を禁止しています。初めに入り口ありきです。この肝心の入り口のところで女性の雇用が差別されることは、そこですべてが決まってしまうと言ってよいでございましょう。
配置及び昇進についても、使用者の努力義務になっています。このことは、雇用において発生する性別を理由とするあらゆる差別禁止を定めている条約の趣旨に違反します。我が国の現状では、女性に全く役職への昇進の機会を与えていない企業が四五・一%もあり、はっきり規制の対象にしなければ平等確保は望めません。昇進が評価に係る問題であるとしても、その評価が性的差別なくなされたかどうかは、法律判断の対象となるべきものであります。単なる使用者の努力義務を定めた勤労婦人福祉法が制定以来十二年たっても見るべき成果が上がっていないことを見ても、わかるではありませんか。募集、採用、配置、昇進について、使用者の女子に対する差別的取り扱いを禁止する規定にすべきであります。総理、いかがでございますか。
さて、大切なことは、このような差別について、だれがどこでどのようにして是正するかということであります。
政府案は、差別の是正を労使の自主的解決にゆだねてしまい、有効な救済措置は何ら講じられていないという不当な内容になっております。
我が国の労使関係の実情に思いをいたせば、これで差別の解消は非常に困難であります。特に女子労働者の組織率は全体で二四・二%にすぎず、中小企業の場合はわずか数%、ほとんど組織されておりません。女性は、その中で、不当な結婚退職、若年定年の強制でさえ、大変な犠牲を払って裁判で争わなければならなかったという厳しい実態を、総理は直視されるべきではありませんか。それとも総理は、労働大臣が指針を定めれば大いに効果があるとでもお考えなのでしょうか。その程度の行政指導で大いに成果があった他の労働政策があるならば、ぜひともお聞かせいただきたいものであります。(拍手)
さて、労使間で解決できなかった場合は、都道府県婦人少年室長に援助を求めることができると政府は言いたいのでありましょう。しかし、婦人少年室長は、助言、指導または勧告をすることができるだけであって、命令権は与えられておりません。
女子労働者は、さらに雇用機会均等調停委員会に調停を求めることができると政府は言われるでありましょうが、それには使用者の同意が必要とされているわけですから、使用者の意向次第でこの委員会も有名無実であります。仮に使用者の同意が得られても、この委員会は単に調停案の受諾を勧告するのみで、使用者がこれを拒否した場合には全く無力だというのでは、総理、この委員会によって一体何びとが救済されるとお考えになっているのでしょうか。しかも、全く制裁規定抜きでは、使用者の違反を抑えることはできず、差別は是正されません。総理、労働大臣の御見解をひとつお聞かせいただきたいと存じます。(拍手)
私の質問の第四は、労働基準法の改正についてであります。
まず、女子の時間外及び休日労働について制限を大幅に緩和または廃止することとしている点であります。この点について、私は総理並びに関係閣僚にぜひともILO第一号条約に御注意を喚起したいと思います。工業一日八時間、一週四十八時間労働制を定め、原則として時間外労働を禁止したこの条約は、今から六十五年も前、一九一九年、大正八年に採択されております。ところが、何と驚くべきことに、我が国はこれをいまだに批准しておりません。その後、さらに進んで欧米諸国の現状を見ますと、既に週四十時間制さえ過去のものとなり、週三十五時間制が焦点となっているのであります。労働時間について定めたILO条約をただの一つも批准していない我が国は、年間総労働時間を見ますと、欧米諸国の千六百ないし千八百時間台に対し、実に二千百時間程度と大変なおくれがあります。
こうした日本の長時間労働、女性差別が国際的に批判され、貿易摩擦の要因となっているのは御承知のとおりであります。したがって、男子の労働条件についても早急に改善しなければならない現状でありますのに、男女平等の歯車を逆方向に持っていって、より悪い方に合わせようとなさるとは一体何たることでありましょうか。総理、労働大臣、お答えください。
外務大臣としては、条約の命ずる健康の保護及び安全についての権利を批准するのにこんなことでいいとお思いですか。
通産大臣、貿易摩擦問題を抱えているお立場ではいかがお考えか、はっきりお答えいただきたいと思います。
また、女子の深夜業禁止について適用除外の道を大きく開いていることは条約違反です。この重大な問題を法律でなく省令に任せ、使用者の必要に応じて決めていこうとすることは、使用者擁護法でなくて何でありましょう。人権保障の法律制定主義に沿わず、近代的法治主義を骨抜きにするものであります。現代社会において、こんなことを総理はお許しになるのでしょうか。
私の質問の第五は、政府が労働基準法の改悪と勤労婦人福祉法の改正とをワンセット、不可分のものとして提案していることについてであります。
労働基準法の改悪は、この女子差別撤廃条約以前に経営者が要求してきたものであります。ところが、この条約を経営者の要求を実現せんがための口実にしていることは許すことができません。ここで求められているのは男女差別の撤廃であり、女子の労働権の保障であり、平等を名目に女性に対する保護を外すことではないからであります。政府案の内容は経営者側の不当な要求、圧力に屈したものと断ぜざるを得ません。
以上、私は政府案についての問題点を指摘してまいりましたが、このように政府案は問題だらけです。政府はこのような法案を速やかに撤回し、女子差別撤廃条約に沿い、実効ある新規男女雇用平等法を早急に提出し直すべきであると考えます。総理の決意を求め、最後に、「女は家庭に」という言葉がありますが、総理、あなたの女性観をぜひお伺いして、この質問を終えたいと思います。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/16
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017・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 土井議員にお答えいたします。
まず、婦人差別撤廃条約を一切留保することなく完全に批准を目指すべきであるという御質問でございます。
政府といたしましては、条約批准に必要な措置につき鋭意検討を進めてきておるところであり、今回の法案提出も国内法制整備等準備のために行っておるものでございます。我々はこれらの法制整備を行いまして、批准につきましては着々その手順を進め、慎重に検討の上批准してまいりたいと思っております。
次に、本法案の内容で条約の批准が可能であるかという御質問でございますが、本法案の内容で雇用の分野に関して本条約の批准は可能であると考えております。
次に、勤労婦人福祉法の一部改正でこのような法律をつくったということは解せられない、そういう御質問でございます。
均等な機会及び待遇の確保を図ることは、やはり女子労働者の福祉であるとも理解しております。また、勤労婦人福祉法の今回の抜本的改正によりまして、ほとんど想を改める程度の大きな改革を行いまして機会均等の名称を付したということでありますので、適切であると考えております。
次に、募集、採用、配置、昇進が努力義務であるのを禁止規定にすべきであるという御質問でございます。
今回の法案は、法律の制定、改廃を行う場合にはその内容は将来を見通しつつ、しかも現状を十分踏まえた上で行う必要がある、そういう意味において婦人少年問題審議会の建議を踏まえて作成いたしたものでございます。努力義務規定につきましてもその実効を確保するための種々の措置を講じておるところであり、これにより十分効果を上げ得るものと判断をいたしております。
次に、調停委員会の権限あるいはそのほかの措置があるようであるけれども、不十分であるという御質問でございますが、これらの紛争は最終的には裁判所にかかるものであると考えております。しかし、本法案では、簡易迅速に労使の話し合いによって解決を図ることが望ましい、そういう意味におきまして、婦人少年室長による助言、指導、勧告あるいは機会均等調停委員会による調停を実施する、このような弾力的措置を講じておるのでありまして、本法の施行については、これらの機関を十分活用することによって万全を期しておる次第なのでございます。
次に、調停案が受け入れられなかった場合、それに対する制裁規定抜きでは実効を上げることはできないではないかという御質問でございますが、諸外国におきましても雇用の分野における男女の機会均等取り扱いに関する調停を制裁をもって担保しておる国があるとは承知しておりません。直罰制度になっているフランスやイタリーでは調停という方法はとられておりませんし、英国や米国やドイツにおいては調停という方法はとられていますが制裁は付されていないと聞いております。我が国においても、これに罰則を設けるべきであるという共通認識が必ずしもできているとは限らないと思います。
次に、労働時間、休日に関する労働基準法の改正は結局労働基準法の改悪ではないかという御質問になると思います。しかし、母性保護規定を除く女子の保護規定をできるだけ早い機会に解消して、男女平等の基盤をつくり上げるというのがこの趣旨であります。したがって、機会均等が制定されている西欧諸外国におきましても、女子保護規定を廃止または緩和いたしておりまして、労働時間については、また週休二日制の普及等も全体的に考慮して短縮に努力しておるものなのでございます。
深夜業を女子に認めることについての御質問でございますが、欧米におきましては、その実情に即して女子の深夜業の規制の緩和または廃止をいたしております。婦人差別撤廃条約の要請にこたえ、我が国におきましても、社会経済の実情を踏まえて、女子の深夜業の規制の一部を緩和しておるということであります。
管理職やあるいは専門職につきましては、前からこれは外国におきましても外しておりますが、我が国におきましても、工業を除いて、サービスとか流通の一部につきましてこのような緩和を今回行ったのは、社会の実態に即して行っておるものであります。
次に、この法案は経営者側の意見に顔を向けた法案ではないかという御質問でございますが、この法案をつくるにつきましては、審議会の御審議も願いまして、十分各方面の御意見を尊重して適切な案をつくり上げたものでございまして、決して経営者の顔のみを見てつくったものではございません。現在の我が国の情勢から見まして、健全、現実的な案としてこれを御提案申し上げているものなのでございます。
次に、今回の法案は婦人差別撤廃条約の趣旨に沿ったものではない、留保なしに条約を批准できる実効ある内容に改めた上で法案を出し直しなさいという御意見でございますが、現下の状況におきましては最も適切な法案であると考えまして、これを撤回する考えはございません。
最後に、私の女性観についてお尋ねがありましたが、私は、天の半分は婦人が支えている、また、よき妻であると同時によき母親であってくれというのが私の念願であります。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/17
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018・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 土井議員にお答えをいたします。
総理からもお答えがありましたので、重複する部分もあるかもしれませんが、担当大臣としてお答えをいたします。
募集、採用、配置、昇進を禁止規定とすべきではないかという御質問についてであります。
本法案は、将来のあるべき姿を見通して、そして我が国の現状も十分踏まえながら考えていくべきものだという婦人少年問題審議会の建議に基づいたものでございます。つまり、我が国の終身雇用慣行を前提といたしまして、企業の雇用管理においては、募集、採用、配置、昇進では特に勤続年数が重要な要素でございますので、その平均的な男女差を無視することはできないことから、当面、努力規定として出発する方が適当であると考えたからであります。本法案では、努力規定の実効を担保するための種々の措置を講じておりますので、これによって効果は上がるものと考えております。
それから次は、指針による行政指導の実効性についてであります。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保については、指針に基づく行政指導、紛争の解決の援助、機会均等調停委員会による調停等の措置によりまして、実効を上げていくことができると考えております。なお、労働省といたしましては、従来から、例えば高齢化社会に対応するための六十歳定年の一般化も今や主流となってきつつありますが、また、雇用における男女の均等取り扱いを進めるための男女別定年制の解消等のための行政指導を進めてきておりましたが、それぞれ所期の目的を達成してきております。
次に、罰則なしで実効を上げることができるかどうかという質問であります。
総理からもお答えになりましたが、禁止規定に罰則を付することは、婦人少年問題審議会において罰則を付すべきであるとの意見は少数意見にすぎなかったのが実情であります。我が国におきましては終身雇用が原則的でありまして、欧米諸国のように、不景気になれば簡単にレイオフをするというような、そういう慣行はございません。よき労使慣行もございます。そういう我が国におきましては、性による差別が刑罰をもって禁止さるべきであるとの共通認識があるとは認められません。また諸外国におきましても、罰則があるのはフランス、イタリー等の少数の国だけであることから、罰則を付することが適当でないと考えたものであります。
次は、労働時間、休日に関する労働基準法の改正が、男子の基準に女子を合わせようとするものであって問題ではないかという御質問であります。
婦人差別撤廃条約は、究極的には母性保護を除く女子のみの保護規定の解消を求めるものでありますが、同条約は漸進的な実施を認めておりまするので、本法案では、女子がより重く負っている家庭責任の状況など我が国の社会経済の現状にかんがみまして、従来の女子に対する特別保護のうち、現段階において男女の均等な機会及び待遇を確保していく上で、その廃止または緩和が特に必要なものについて廃止または緩和することとしたものであります。
なお、男子を含めた労働者全体の労働時間短縮の問題につきましては、我が国の経済、社会の実情に即しまして検討すべき問題でありまして、現在、まず週休二日制の普及、次いで年次有給休暇の消化促進等を柱に労働時間短縮の推進に努めており、今後も努力をしていきたいと思っております。
ILO条約で禁止している深夜業を女子に認めることはどうかという質問でございます。
アメリカ、フランス、イタリー等の機会均等法制が制定されておる欧米先進国でも、女子の深夜業規制は廃止または緩和されておりまして、その他の国でも深夜業規制の緩和が検討をされております。なお、婦人差別撤廃条約の要請にこたえ、本法案では、我が国の経済、社会の現状を十分踏まえて、経過的に一般的な深夜業規制を存続させ、雇用における男女の均等な取り扱いを確保する観点から必要とされるものについては、一部その規制を緩和することといたしております。
本法案の立法形式につきましての御質問でございますが、婦人差別撤廃条約の批准のためには、雇用の分野に関する国内法制の整備の一環として、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保するための立法措置並びに母性保護規定を除く女子保護規定の改正が必要であります。
このように、趣旨、目的が同じであり、しかも時期が同じであることが必要である立法措置につきましては、可能な限り形式的にも一本化することが必要でありまして、このような形式は政策の意図を周知するという観点からも望ましいことでありまして、今回の立法形式をとった次第であります。
まあ総じて申し上げれば、そこに山があるから一緒に登ろうではありませんか。まず、歴史的な一歩をスタートしましょう。そして、スローバットステディーでやっていきましょう。これは歴史的な事業であります。どうぞひとつそういう意味で、まずスタート、スローバットステディー、この三S主義でひとつ歴史的事業に挑戦をしていきたいと思うわけであります。賢明な土井議員のことでございます。将来のあるべき姿を見通して、ひとつ御協力を賜りまするようにお願いを申し上げます。(拍手)
〔国務大臣安倍晋太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/18
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019・安倍晋太郎
○国務大臣(安倍晋太郎君) 土井議員の御質問は三点にわたっております。順次お答えをいたします。
まず、婦人差別撤廃条約は留保なしに完全批准すべきであるとの御質問でございますが、既に総理大臣から十分御答弁をいたしております。所要の国内法制の整備等の準備を十分に行った上で批准したいと考えております。
次に、男女雇用機会均等法案が条約の要請に合致するものであるかどうかとの御質問でございますが、均等法は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保が女子労働者の福祉の主要な要素であるとの考え方に立脚したものと承知しております。したがって、本法案は条約の要請に合致しておるものと考えております。
三番目に、均等法案は、女子の労働条件を男子の悪い労働条件に合わせることとなるのではないかとの御指摘でございますが、この条約は、女子の就業機会を狭めることにもなる女子保護措置を見直し、労働条件を男女同一にすることを求めておりますが、労働条件の水準については各国の立法政策にゆだねられておるわけでございます。今回の改正法についても、このような条約の要請を我が国の国情においていかに満たしていくのが適当かという見地より策定されたものと理解をしておるものでございます。(拍手)
〔国務大臣小此木彦三郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/19
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020・小此木彦三郎
○国務大臣(小此木彦三郎君) お答えいたします。
今回の法律案は、婦人差別撤廃条約の趣旨に則して男女の雇用の分野における均等な機会及び待遇の確保を促進するためのものであり、国際的要請に適合したものであります。したがって、本法案によって貿易摩擦が助長されるとは思われません。
なお、御指摘の労働時間等の労働条件の改善につきましては、通産省としてその重要性を認識しておりますが、現実の労働条件は、労使の自主的な話し合いに任せらるべきものと考えております。
以上であります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/20
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021・福永健司
○議長(福永健司君) 中村巖君。
〔中村巖君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/21
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022・中村巖
○中村巖君 私は、公明党・国民会議を代表して、ただいま議題となっております雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案について、総理並びに関係大臣に対して質問をいたします。
この法案は大変長い名称となっていますが、主として勤労婦人福祉法と労働基準法の一部を改正しようとするものであり、昭和五十五年に政府が署名した国連のいわゆる婦人差別撤廃条約を批准するため国内法を整備する必要があり、その一環として勤労婦人福祉法を改正し、あわせて労働基準法の一部をも改正しなければならないというのであります。
私は、もちろん、既に署名のなされた婦人差別撤廃条約を政府が早期に批准することについては賛成であります。しかしながら、条約批准のための国内法整備に名をかりて、男女の雇用の平等に関して勤労婦人福祉法の改正という方法により、しかも改正の内容が本法案のようなものであること、及びこの際、条約批准に籍口して労働基準法を規制緩和の方向で改正してしまうことは許しがたいものだと考えます。
すなわち、政府は、本来男女雇用平等法を新たに単独で制定して、雇用に関して、募集、採用という入り口から教育訓練、配置、昇進、さらには出口である定年、退職、解雇に至るまでの各段階の男女の差別を基本的人権を侵害するものとして禁止し、差別を根絶せしめるための有効な措置を定めるべきなのであります。
ところが本法案は、このような立場と異なり、女子労働者の福祉を増進させるための当面の手段として、勤労婦人福祉法の一部を手直しし、教育訓練、福利厚生、定年、退職、解雇などに関してのみ男女差別を禁ずることとし、この禁止にも罰則はおろか救済機関の設置などの実効性ある措置を設けず、一方、募集、採用、配置、昇進等の差別については、これをなさないように「努めなければならない。」とするにとどめています。私としては、本法案は全く不十分なものと断ぜざるを得ず、根本的に修正されない限りこれに賛成することはできないのであります。
日本国憲法第十四条は、すべての国民は性別により差別されてはならないと定めており、男女平等のあり方は一国の民主主義の水遊を反映すると言われております。しかし、残念ながら、現在我が国では女性の地位が低く、依然として男性中心社会、男子管理社会という実態が続いております。
従来、身分制社会のもとで、あるいは婦人は家庭にとどまるべきであるとの考え方のもとで、いずれの国においても女性の差別が行われてきました。しかし近年、特に一九六〇年代に入って、世界的に男女平等を実現するための力強い歩みが始まり、多くの国際的な宣言や勧告あるいは条約がつくられ、婦人に対する差別は基本的に不正であって、人間の尊厳に対する侵犯であるとの原則が確立されるようになってきました。二十一世紀に向かって革命的な変化が生じようとしているのであります。
人間の半数であるところの女性が、子を産む性としての特殊性にまつわる部分を除いて男性と全く同等の地位に置かれるべきは当然であって、雇用の分野においても平等の原則は確立されなくてはなりません。
〔議長退席、副議長着席〕
最近では、全雇用者中の女性労働者の割合は世界的に見て三分の一を超えており、我が国においても全雇用者の三五%、数にして一千五百万人弱の女子労働者がおります。
このような状況のもと、憲法第十四条、さらにはすべての国民に勤労の権利義務を保障した憲法第二十七条にもかかわらず、我が国は今日まで雇用の分野における男女平等を実現する基本法を持っていませんでした。今、多くの働く女性たちは、実効性のある男女雇用平等法の制定を心から求めております。欧米先進諸国においては、昭和四十年代後半から昭和五十六年の婦人差別撤廃条約の発効の前後にかけて、次々と男女雇用平等のための法律が制定されてきています。この点で、今や先進国としての我が国は欧米に顔向けができないような状況であります。
そこで、まず第一に、中曽根総理及び労働大臣にお尋ねをいたします。
今回、政府は婦人差別撤廃条約の批准に向けて本法案を提出してきたのでありますが、基本的人権の尊重という立場に立つならば、この条約を待たずとも、政府は雇用の分野において男女の差別を禁止し、積極的に差別のない状況をつくり出す施策を講ずべきものであったはずであります。にもかかわらず、今日までこの種施策は極めて不十分でありました。このことは、政府に、男女差別を基本的人権の侵害と認識してこれを強権的に是正する姿勢が欠けていた結果であります。今日までのこの問題に対する取り組みについてどう考えているのか、あわせて、欧米先進諸国に比べて我が国の姿勢が消極的であったことについてどう考えておられるのかを明らかにしていただきたいのであります。
また、外務大臣にお伺いをいたします。
現在、婦人差別撤廃条約について各国の批准の状況はどうなっているのか、何カ国ぐらいが批准をし、どのような国が批准をしているのかをお答えいただきたいのであります。
次に、文部大臣にお尋ねをいたしますが、従来の我が国における教育にあっては、男女の役割に関して、旧来の観念を固定的に教えてきた傾きがあったと思われます。最近の婦人差別撤廃条約、ILO百五十六号条約は、家庭責任を女性労働者のみならず男子労働者にも広げる新しい視点を示しています。文部省としては、男女平等の基盤をつくり出す男女の役割についての教育、家庭科教育のあり方、さらには教科書等における男性中心の物の考え方の見直しをどうしていかれるおつもりか、明確にされたいのであります。
さらに、本法案について総理及び労働大臣にお尋ねをいたします。
婦人差別撤廃条約第十一条は、その第一項aないしfに規定された権利を確保するため、差別撤廃のためのすべての適当な措置をとらなければならないとされております。そして、この適当な措置というのは、単に法に努力義務を規定するだけでは足りず、少なくとも強行規定を設けることが最低条件になっていると思われます。ところが、本法案は、募集、採用、配置、昇進について努力義務とし、違反した行為を無効とするという強行規定としていないのであります。これでは、婦人差別撤廃条約の要請を満たしていないのではないかと思われますが、この点をどうお考えになりますか。
また、雇用のあらゆる段階において差別をなくそうとするのであるならば、各段階の差別行為について強行法規をもって禁止するのみならず、違反した状態を是正するために雇用平等監督官を置くとか、紛争を行政的に解決するための審議機関を設けるとかの措置が必要であり、それなしには平等実現の実が上がらないことが明らかであります。
本法案は、全面的に差別の禁止をなすものではないとともに、禁止された事項についての苦情、紛争は当事者において自主的に解決すべきものとし、場合によっては都道府県労働局長による助言、指導、勧告、機会均等調停委員会の調停を求め得るものとしているものの、この勧告等に違反しても制裁がなく、調停は当事者双方が同意したときにのみ行われることとなっております。これでは全く実効性のある措置とは言いがたいので、なぜもっと実効性のある措置を規定しないのか、その真意を伺いたいのであります。(拍手)
最後に、以下数点について労働大臣にお伺いをいたします。
第一に、本法案においては、労働基準法のうち、女子労働者の労働時間、休日労働、深夜業について、例えば時間外労働にあっては四週間を超えない週について十二時間に当該週数を掛けた時間内でこれを許容するといった現行法の規制の緩和を図っております。しかしながら、これら労働基準法の改正は、当面の婦人差別撤廃条約の批准にとって必須のものとは考えられません。婦人差別撤廃条約が母性保護、すなわち妊娠から出産までの保護のみを許される差別とする基調に立っていることは事実であるとしても、本法案に見られるような緩和された形での女子保護規定が条約のもとで許容されるものであるならば、現行労働基準法の保護規定もまた許容されるはずだからであります。本法案のごとき労働基準法改正は、条約批准のために欠くべからざるものなのでしょうか。
第二に、このような労働基準法の改正がなされるのは、労働省が使用者団体の圧力に屈した結果であると考えられます。男女雇用平等に関する立法が取りざたされるようになって以来、日本経営者団体連盟を初めとする経営者団体は、雇用保護規定の撤廃が先決であり、雇用の平等は我が国の労働慣行を根底から覆すなどの見解を明らかにし、使用者側は、婦人少年問題審議会婦人労働部会でも企業の負担増を理由に雇用平等法の実質的形骸化を図ってきたと言われています。そして今回の法案は、事実上このような使用者側の意見を大幅に取り入れたものと評されているのであります。法案の内容が使用者側に傾き過ぎていることについてどうお考えでしょうか。
第三に、本法案では、募集、採用、配置、昇進については努力義務とされています。そうなると、これらの行為について差別があった場合、その経営者の行為は、憲法第十四条の法のもとの平等の規定にかかわらず、努力をしたことによって免責され、私法上無効とならないということが考えられます。その結果、民事訴訟による差別是正の道が閉ざされたとしたら大変問題でありますが、この点はどうお考えでしょうか。
最後、第四に、今日女子のパート労働者が著しく増加していることは周知のとおりであります。これらのパート労働者の労働条件は極めて劣悪であり、このこともまた実質的な男女雇用の平等を妨げていると考えられ、緊急にパート労働者の権利を保護するパート労働法を制定する必要があると思われます。労働省は、このようなパート労働法を制定するために早急に作業を開始すべきだと考えますが、いかがでしょうか。
以上をもって私の質問を終わりますが、総理並びに関係大臣の真摯にして明快なる答弁を期待いたします。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/22
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023・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 中村議員にお答えをいたします。
男女の雇用の平等は、差別撤廃条約の批准に迫られずとも実現すべきものであって、今までの取り組みが不十分ではなかったかという御質問でございますが、女子労働者の増加及び職業意識の向上に対応して、その能力の有効発揮を図るため、従来から、差別的制度、慣行の改善については努力し、法的整備もやってきたところでございます。今後とも、本法案をもとに雇用の分野における男女の均等な機会と待遇の改善に向けて積極的に努力する所存でございます。
次に、婦人差別撤廃条約は「すべての適当な措置」と言っておって、本法案による募集、採用、配置、昇進、これを強行規定にしてないということは条約の要請を満たしていないのではないかという御質問でございますが、これらの採用や昇進につきまして、これは努力義務規定とはなっておりますが、指針の作成、婦人少年室長の行政指導等をも規定しておりまして、本条約の要請を相当の実効性をもって充足し得るものと判断をし、条約の要請を満たしていると理解をいたしております。
次に、男女の雇用の平等を実現するためには、強行規定を制定するとともに、権限ある監督機関等を設置する必要があるという御質問でございますが、今回の法案は、雇用における男女の機会均等等を確保するため、法的整備を行うことによって、将来を見通しつつも現状を十分踏まえたものとする必要があるとの婦人少年問題審議会の建議を踏まえて作成いたしたものであります。努力義務規定につきましても、労働大臣の指針の作成を初め、その他、実効を担保するための種々の措置を講じておりまして、これらによりまして十分効果を上げ得るように努力する所存でございます。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/23
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024・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 中村議員にお答えをいたします。
まず第一に、男女の雇用平等実現に対する今日までの政府の取り組みについて御批判がございました。
近年、女子の職場進出は著しいけれども、企業の雇用管理のさまざまな面で男女異なる取り扱いが見られるということから、従来から男女別定年制の解消など差別的な制度、慣行の改善に努めてきましたが、婦人少年問題審議会に雇用における男女の機会均等実現のための法的整備について審議をお願いをしてきたわけでございます。
しかしながら、この問題は単に企業の雇用管理の問題ではとどまらないで、女子の就業のあり方や家庭のあり方、子供の養育の問題等々、日本の社会全体にかかわる大きな問題を含んでおると思います。労使初め各界各層においてさまざまな意見がありまして、労働省におきましてもこれまでコンセンサス形成に努めてきたわけでございますが、婦人少年問題審議会では昭和五十三年以来六年の長きにわたってこの問題を審議し、本年三月建議が提出されましたので、労働省ではこれを受けて直ちに法案の作成に入ったわけでございまして、現在国会の御審議をいただいておるところでございます。なるほど、六年といえば大分おくれておるではないかという御指摘はございましょう。しかし、長年の審議を続けてきておりました審議会の御苦労をも考えなければなりませんし、日本には日本的な社会慣行や特性があることもまた事実でありますので、これらの現実を踏まえながら、着実にあるべき姿に一歩を踏み出すという点では、今は内外の情勢から見て一つの潮どきではなかろうかという気持ちがいたしております。
次に、努力義務規定では本条約の要請を満たさないかどうかにつきましてでございますが、本条約上、我が国においては雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保について適当な法的措置を講ずることが求められていると解されておりまするが、本法案においては、この要請を受けて、募集、採用、配置、昇進について努力義務規定を設けることといたしております。また、本法案は、努力義務規定に加え、指針の作成、婦人少年室長の助言、指導、勧告及び機会均等調停委員会における調停等の措置をも規定しておりますることから、本条約の要請する適当な措置の要件を十分満たすものであると考えております。
本法案で一部を努力義務としたこと及び行政機関の措置が弱いのではないかという御質問でございます。
本法案は、将来のあるべき姿を見通しまして、我が国の現状を十分しっかり踏まえまして、そして婦人少年問題審議会の建議に基づいてつくられたものであることは先ほど申し上げたとおりでございまして、したがって、終身雇用などを前提といたしておりまする我が国の企業の雇用管理におきましては、募集、採用、配置、昇進では特に勤続年数が重要な要素として考慮されておりますることから、今日までの平均的な男女差を無視するということはできませんので、当面努力義務規定としてスタートすることが適当であると考えたものであります。
本法案では、努力規定の実効を担保するため、指針を定めるとともに、労働大臣または婦人少年室長が必要あると認めたときは適切な行政指導を行うことといたしております。我が国の行政指導は世界的にも定評があるかと私は思っております。さらに、女子労働者と事業主との間の紛争については、事業主の自主的な解決を促進し、さらには婦人少年室長の助言、指導、勧告を行うとともに、必要に応じ機会均等調停委員会の調停を行うことといたしております。本法の施行については、これらの措置、機関を十分活用することによって万全を期してまいりたいと思っております。
次は、労働基準法の女子保護規定の改正は婦人差別撤廃条約批准の必要条件がどうかというお尋ねでございました。
婦人差別撤廃条約では、母性保護措置以外の労働基準法の女子保護規定につきましては、究極的には廃止することが求められております。しかしながら、本条約は漸進的に実施することを認めておりまして、したがって、批准時までにすべての女子保護規定を改正していなくても、漸進的に改正していくことが許容されると考えております。
次に、労働基準法の改正に当たっての基本的な考え方でございます。
経営者団体の圧力に屈したものではないかなどというような御質問でございますが、さようなことはございません。婦人差別撤廃条約は、母性保護を除き、女子に対する特別の保護は差別に該当するので究極的には解消することが必要であるとされております。婦人少年問題審議会の建議においても、それらを見直すことが必要とされておりました。
しかしながら、本条約も漸進的実施を認めておりまして、また、同建議も指摘するように、これらを直ちに廃止することは困難でありますので、本法案は、女子がより重く負っている家庭責任の状況等を踏まえて、現段階において、男女の均等な取り扱いを確保していく上で、その廃止または緩和が特に必要とされる保護規定については、廃止または緩和をすることといたしたものでございます。決して経営者団体の一方的な意見に従ったものではございません。労使双方の主張の中で、取り入れるべきものは取り入れてやったものでございます。大局的判断に立って、そして女子の能力活用を図ろう、そして我が国社会の発展を望みたいという、さような大局的見地から判断をいたしたものでございます。(拍手)
〔国務大臣森喜朗君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/24
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025・森喜朗
○国務大臣(森喜朗君) 中村議員にお答えを申し上げます。
私への御質問の第一点は、家庭科教育について改めるべきではないかとのお尋ねでございます。
現在、高等学校「家庭一般」の女子のみ必修につきまして、婦人差別撤廃条約との関連で問題があるという御指摘がございます。このため、文部省といたしましては、この六月に設けました家庭科教育に関する検討会議におきまして、今日の家庭を取り巻く環境の変化や条約との関連をも考慮いたしながら、幅広い視点に立ちまして、高等学校「家庭一般」等の今後のあり方等につきましての基本的な考え方を取りまとめていただくことを考えております。
第二の御質問に、男女の役割について教科書の差別的記述を改めるべきではないかとのお尋ねでございますが、教科書の内容には、社会の現実が反映される面もありますので、将来のあるべき姿を考慮しつつ、男女の異なった状況や場面が記述されている場面もあり得ますが、これらの記述は男女差別の観点で記述されているとは考えておりません。
なお、検定に当たりましては、今後とも、男女の平等、相互の協力、理解について留意してまいりたいと考えております。(拍手)
〔国務大臣安倍晋太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/25
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026・安倍晋太郎
○国務大臣(安倍晋太郎君) 婦人差別撤廃条約について現在まで何カ国が批准しているのか、また主要な批准国はどこかというお尋ねでございますが、現在までに本条約を批准した国は五十一カ国であります。また加入した国は五カ国でありまして、締約国は合わせて五十六カ国となっております。また本条約の主要な批准国は、スウェーデン、ポルトガル、ノルウェー、カナダ、オーストリア、デンマーク、ギリシャ、オーストラリア、フランス、スペイン等でございます。
以上でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/26
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027・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) 労働大臣から、答弁を補足したいとのことであります。これを許します。労働大臣坂本三十次君。
〔国務大臣坂本三十次君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/27
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028・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 中村議員に答弁漏れがございまして、おわびをいたします。
まず、募集、採用、配置、昇進について努力義務規定とすることにより、民事訴訟が行えなくなるのではないかということについてでございます。
努力義務規定を設ける趣旨は、具体的な努力目標として指針を設けて事業主の自主的努力を促すことにより、男女の均等を実現しようというものであります。努力義務規定は、直接これを根拠として民事訴訟による救済を可能とするものではありませんが、本法案において公序良俗等の一般法理を排除する趣旨でこれらの規定を設けるものではないので、公序良俗違反等の理由で訴訟を提起することについて何ら影響を与えるものでないと考えております。また、公序良俗に違反する事案については、努力したことの立証のみをもって当然に免責されるわけではないと考えております。
次に、パート労働法の制定についてでございます。
パートタイマーの雇用の安定と労働条件の確保の問題は、当面の労働行政の重要課題であると考えております。このため、今年度においては、これまでの施策の一層の充実を図るほか、パートタイマーの実態に即した総合的な対策を樹立したいと考えておりまして、現在鋭意検討を行っているところであります。なるべく早くこの検討結果をパートタイム労働対策要綱としてまとめまして、これに基づき労使に対する啓発指導を進めてまいりたいと考えております。パートタイマーの保護のための法制化の問題につきましては、このような行政指導を進める中で、関係者の合意が形成されるのを待ちたいと考えております。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/28
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029・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) 塚田延充君。
〔塚田延充君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/29
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030・塚田延充
○塚田延充君 私は、民社党・国民連合を代表して、ただいま提案となりました雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法規の整備等に関する法律案に関し、総理並びに関係大臣に対し質問を行うものであります。
国際連合は、一九四五年、それまで二度にわたって言語に絶する苦しみと破壊を人類に与えた戦争の悲惨さから将来の世代を救う目的で、国連憲章を採択いたしました。その基本理念は、個人の尊厳を平等に保障する基本的人権と男女及び大小各国の同権に関する信念を改めて確認することにあったのであります。
しかしながら、それにもかかわらず、婦人に対する広範な差別が依然として存在することを憂慮した国連は、一九七九年、婦人に対する差別の撤廃に関する宣言に掲げられている諸原則を実施すること、並びにこのために婦人に対するあらゆる形態の差別を撤廃するために必要な処置をとることを決意して、婦人差別撤廃条約を採択したのであります。
もとより、基本的人権は、人類の侵すことのできない永久の権利として現在及び将来の国民に与えられているものでありますが、それを現実のものとして享受するために、世界のあらゆる国々で、その国民が血と汗をもって闘い取り、守り続けてきたものであります。
我が国におきましても、女性の人身売買及び売春からの搾取の禁止、政治に参加する権利や配偶者を自由に選び婚姻する権利の獲得など、基本的人権を保障するための男女平等確立の歴史があったことを想起しなければなりません。
我が民社党は、立党以来、党の理念として、「一切の抑圧と搾取から社会の全員を解放して、個人の尊厳が重んぜられ、人格の自由な発展ができるような社会の建設」を綱領に掲げ、その実現を目指してまいりました。今、国連において採択された婦人差別撤廃条約の批准期限を来年に控え、私は、日本が世界に冠たる憲法を持つ民主主義国家として、どの国にも引けをとらない男女平等の制度を確立し、条約批准の条件を整えることが何よりの急務であると考えるのであります。
そこで、まず総理にお伺いいたします。
国連婦人の十年最終年に当たる来年のナイロビでの世界会議の前に、政府において示された国内行動計画をすべて実行し、婦人差別撤廃条約を批准案件として国会に提出することを約束できるかどうか。また、ただいま提案となりました法案も含め、批准案件として政府が考えておられる整備すべき国内法令とは何か。それをどのような手順で整備したいと考えているのか。総理の明確なる御答弁をいただきたいのであります。(拍手)
さて、我が国の憲法第十四条は男女の平等の原則を規定しており、これを受けて労働基準法第四条は男女の賃金差別を禁じております。しかし、残念ながら今日の雇用における女子を取り巻く状況は、憲法上の要請からはほど遠いところにあると言わざるを得ません。募集、採用においては広範な男女の差別的取り扱いが行われており、また採用の資格、技能についても同様となっております。採用に際しては、女子を特定の職種、職場、職務に配置し、初任給に格差がつけられ、教育訓練についても、女子には訓練の機会が少ないとか、または男女で内容が異なる訓練が行われております。配置転換についても、男子に対しては計画的に行われていることが多いのに、女子にはこのような慣行が少ないのが現状であります。
このような男女の差別的取り扱いの結果として、女子の賃金は、労働基準法第四条が男女の賃金差別を禁じているにもかかわらず男子の約半分にすぎず、昇進、昇格の機会も少ないという状況にあります。もちろん、女子の雇用上の差別は、我が国の広範にわたっている社会的差別、家庭内の男女の伝統的な役割分担の問題等々歴史的に培われた男女差別を背景に持っており、雇用上の男女平等をこれらの問題と切り離して実現することは極めて困難であり、この点では、全般的な性差別禁止に向けての条件づくりが現状に照らしつつ並行的に行われなければなりませんし、公共及び企業内保育施設の整備、育児休業制度の普及など女子労働者への基盤整備が必要であることは、我が党が常々訴えてきたところであります。
我が民社党は、以上のような状況から、募集、採用について男女差別を禁止し、女子に男子と均等な機会を保障するとともに、雇用条件、労働条件、教育訓練等について男女差別を禁止し、法に違反する男女差別を速やかに是正するための措置を講ずるため、男女雇用平等法の制定を提唱してまいりました。私は、政府が、水と油ほどにも異なる労使双方の意見の調整を図り、さまざまな障害を乗り越えて本案を提出してこられた御努力には率直に敬意を表するものでありますが、我が党がかねてより提唱してまいりました政策と比較しつつ、労働大臣にお尋ねしたいと思います。
まず、禁止される差別に罰則がありませんが、その理由をお聞かせいただきたいのであります。
第二に、募集、採用、配置、昇進について事業主の努力義務規定としておりますが、その実効性をどう担保されるおつもりなのか、労働大臣は事業主に対してどのような指針を示すおつもりなのか、具体的に明らかにしていただきたい。
第三に、本案は、事業場における配置、昇進、教育訓練、福利厚生、定年、退職、解雇に関する女子労働者と事業主の紛争につき、その自主的解決を図るべく規定していながら、具体的やり方が明らかではありませんが、これで十分機能するとお考えなのか。
第四に、救済機関としての都道府県婦人少年室長並びに機会均等調停委員会は各県一カ所であり、かつ罰則の裏づけもないのに、労使間の紛争に関するすべての申請に対し迅速適切、効果的な救済を行っていくことができるのか。
以上の諸点につき、御見解を承りたいのであります。
次に、労働基準法の改正に関しお伺いいたします。
現在、労働基準法制定以来三十七年を経、この間女子労働者の実態は大きく変わっております。我が国の女子就業者数は、経済の高度成長期を通じて増加を続け、現在二千二百万人、全就業者の約四〇%に達しており、その就業分野も自営業の補助的家族従業者から雇用労働者中心に変化し、その数は約千四百万人を超えております。さらに、従来、単身未婚者が繊維産業や商業に従事していた時代から、現在は、既婚者を含み、あらゆる産業、職業に従事するに至っております。
このような現状の中で、労働基準法の女子保護規定がむしろ制約となる現象が出てきているのも否めない事実であります。このような事態に対処するためには、男子を含めた労働条件の改善、母性保護規定の強化とあわせて、労働基準法の女子保護規定の一部見直しは必要でありましょう。
ただし、現行のこれらの措置はそれぞれ歴史的な背景を持っております。したがって、私は、科学的根拠が認められず男女平等の支障となることが明らかである場合を除き、その解消には広範な合意が必要であり、男女平等の実効を着実に上げるために実情に応じた方法で漸進的になされなければならないと考えるのでありますが、政府はどういう御認識のもとに本案を提出されたのか、さらに、これによって女子の労働環境にどのような影響が及ぶと考えておられるのか、労働大臣にお聞きしたいのであります。
また、本案では、国の育児休業に関する援助について努力義務規定を設けておりますが、我が党は、育児休業制度が西ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン等各国で既に法制化されている現状にかんがみ、乳幼児を有する勤労婦人が子供を健やかに育てつつ職業が継続できるようにするため、我が国でも育児休業法を制定すべきだと考えますが、総理のお考えはいかがでありましょうか。
最後に、本案の見直しに関する政府の御見解をお尋ねいたします。
もとより我が党は、この種の法律が国家の存立の源泉である労働に関する具体的な権利と義務を規定するものであり、現実に多くの矛盾と問題を抱えた我が国経済の中にあって、理想は理想であるにしても、初めからすべて完全無欠のものとして制定できるものとは考えておりません。それは、六年の長きにわたりこの問題を論議してきた婦人少年問題審議会が、主要論点について使用者委員、労働者委員、公益委員の三論を併記するという異例の建議を行ったということにおいても明らかであります。また、まだ法制定の経験のない我が国においてこの法律を施行した場合に、現実社会の波の中でどう進んでいくのか予測しがたく、社会自身もまた同様に動いていくわけであります。
したがって、改正後適当な期間内に関係規定の遂行の状況を調査検討し、必要がある場合にはこれを見直す旨の規定を本案に明記することが、責任ある提案者の態度ではなかろうかと考えるのでありますが、この点に関する総理の御所見をお願いして、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/30
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031・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 塚田議員にお答えをいたします。
まず、国連婦人の十年の国内行動計画を実行して、さらに婦人差別撤廃条約を批准案件として国会に提出することを約束するかという第一問でございます。
婦人に関する施策の推進のための国内行動計画につきましては鋭意努力しておるところで、今後とも懸命に努力してまいりたいと思っております。差別撤廃条約につきましては、昭和五十五年六月の内閣総理大臣を長とする婦人問題企画推進本部の申し合わせを踏まえ、可能な限り昭和六十年までに批准したい所存でございます。批准承諾案件の国会提出もそれに間に合うように努力してまいる所存でございます。
なお、同条約を批准するために整備すべき国内法令及びその手順いかんという御質問でございますが、国内法令の整備等につきましては、既に国籍法は改正済みでございます。あるいは相続法の改正もこれに関係いたしまして既に済んでおります。雇用の分野について提出した関係法案も今国会での成立を期待しております。その他の分野につきましては、具体的にいかなる措置を講ずるかについて、同条約批准時期を念頭に置き、さらに検討を進めてまいりたいと思います。
次に、育児休業法を我が国でも制定すべきではないかという御質問でございます。
この問題も、長年検討されました婦人少年問題審議会の建議における多数意思から、育児休業請求権の法制化については社会的コンセンサスは得られていないと理解をしております。したがいまして、本法案では請求権の法制化は行わないとしておりますが、国の事業主に対する助言、指導、その他の援助を行うよう努めるべき旨の規定を新設しておりますし、また休業の期間を延長しておる次第でございます。なお一層育児休業の普及の促進を図ってまいるつもりでございます。
次に、この機会均等法成立後、調査検討して、必要ある場合にはこれを見直す旨の規定を本法案に明記すべきではないかという御質問でございますが、政府は、この条約の理想とする姿を念頭に置きつつも、我が国の社会経済状況を十分踏まえて、当面最も適切な現実的な措置として本法案を作成いたしました。関係審議会の答申にもありますように、今後、社会経済状態の変化に即応して見直すことは必要であるとは考えますが、あえて法律に見直しを規定する必要はないと考えておる次第でございます。
残余の答弁は労働大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/31
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032・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 塚田議員にお答えをいたします。
本法案の禁止規定に罰則がついていないことについての御質問でございました。
禁止規定に罰則を付することにつきましては、婦人少年問題審議会において罰則をつけるべきであるとの意見は少数意見にすぎませんでした。我が国におきましては、性による差別が刑罰をもって禁止さるべきであるというのが共通認識であるとは認められてはおりません。また、諸外国でも罰則があるのはフランス、イタリア等少数でございます。
次に、努力義務規定の実効担保及び指針の具体的内容についての御質問でございました。
本法案では、努力規定の実効を担保するため、努力目標を具体的に明示する指針を定めるとともに、労働大臣または婦人少年室長は、必要があると認めるときは適切な行政指導を行うことといたしております。さらに、女子労働者と事業主との間の個別具体的な紛争については、事業主の自主的な解決、婦人少年室長の助言、指導、勧告を行うとともに、必要に応じ機会均等調停委員会の調停を行うことといたしております。なお、指針の具体的内容については、今後関係審議会に諮ってこれを定めるつもりでございます。
次に、女子労働者と事業主の紛争の自主的解決の方法及び機能についての御質問でございました。
女子労働者と事業主との紛争の自主的解決の具体的方法としては、労使で構成される苦情処理機関に苦情の処理をゆだねることのほか、企業の人事担当者による相談等の方法をも含むものであります。男女の均等取り扱いに関する問題は基本的には労使の問題であるので、苦情処理機関等の仕組みを活用してその解決を図ることが適当であると判断をしたものでありまして、私は効果が上がると思っております。
次に、都道府県婦人少年室及び機会均等調停委員会が各県一カ所という状況で効果的な救済が行われるかとのことでありまするが、男女雇用機会均等法に係る紛争については、最終的には裁判所による救済にゆだねられる性格のものではありまするが、本法案では、簡易迅速に労使の話し合いによって解決されることが最も望ましいと考えまして、まず事業主の自主的解決の努力を促すとともに、婦人少年室長による助言、指導、勧告を行いまして、必要な場合には、都道府県ごとに新設する機会均等調停委員会による調停を行うことといたしております。本法の施行につきましては、これらの措置、機関を十分活用することによって万全を期してまいりたいと思っております。
次に、労働基準法の女子保護規定の解消は漸進的に行わるべきではないかというお尋ねでありました。
婦人差別撤廃条約は、母性保護を除き、女子に対する特別の保護は差別に該当するので究極的には解消することが必要とされておりまして、婦人少年問題審議会の建議においても、これらを見直すことが必要であるとされております。しかしながら、本条約も漸進的実施を認めておりまして、また同建議も指摘するように、これらを直ちに廃止することは困難でありますので、本法案は、条約の目指す姿に漸進的に近づくように、労働時間を初めとした労働条件等労働環境、女子が家事、育児等のいわゆる家庭責任を負っている状況、女子の就業と家庭生活との両立を可能にするための条件整備等の現状を考慮して作成をいたしたものでございます。
次に、今回の労働基準法の改正による女子の労働環境に対する影響についてのお尋ねがございました。
今回の法改正は、婦人少年問題審議会の建議を踏まえ、女子がより重く家庭責任を負っている現状等を十分考慮して一定の範囲内で緩和するにとどめたので、これにより女子の労働環境に特別の影響を与えるとは考えられません。一方、時間外・休日労働、深夜業、危険有害業務等への就業に関する規制の緩和により、女子の就業にとっての支障が除去されるために、一般的には女子の職業能力の発揮の機会が増大することと考えております。
議員御指摘のように大変な難事業でありまして、しっかり漸進的に、しかも確実にやれという御指摘には心から私賛意を表するものでありまして、その意味におきましてまずスタートをやって、次はスローバットステディーでお願いをいたしますと申し上げたわけであります。なるほど三論併記でありまして、普通の役所でありましたならば、三論併記は法律にするということはちょっと例はございませんでしょう。しかし、あえて私どもが決断をいたしましたのは、明治以来我が国がおくれておりました婦人の能力開発という点、それは男性主導で立派に前進をやってきたということは事実であります。しかしながら、一面婦人の能力をやはり開発をするやり方がおくれておったということも事実でありますので、この点はこの際に、婦人差別撤廃条約批准を契機にいたしまして、大いに能力の開発に前進をいたしたいという意味でこの法案を提出をいたしたわけであります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/32
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033・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) 藤田スミ君。
〔藤田スミ君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/33
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034・藤田スミ
○藤田スミ君 私は、日本共産党・革新共同を代表して、いわゆる男女雇用機会均等法案に対し質問いたします。
本法案は、婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の批准のために提出されたものでありますが、同条約はその前文において、「婦人に対する差別は、権利の平等の原則及び人聞の尊厳の尊重の原則に違反するもの」であると、婦人に対するすべての差別を撤廃するよう高らかに宣言し、立法や制裁を含む必要な措置をとることを各国政府に求めました。高度に発達した資本主義国の中で、とりわけ厳しい男女差別に苦しめられている我が国の婦人は、この条約の国連での採択を心から歓迎いたしました。我が党も、同条約の早期批准と実効ある国内法の整備を政府に強く要求し続けてまいりました。
ところが、今回提出された本法案では、雇用の入り口である募集、採用や職場配置、昇進に至るまで、事業主の単なる努力義務とするにとどまり、差別を法的に禁止しないばかりか、罰則も設けないものであり、職場の男女差別を是正する法制度としては余りにも実効性のないものとなっております。何よりも重大なことは、このいわゆる雇用の機会均等措置と抱き合わせに労働基準法の改悪を行い、婦人労働者の時間外・休日・深夜労働の規制緩和や解除など母性保護の大幅な後退を図り、女性の就業を一層困難にしようとしていることであります。これでは機会均等どころか、男女平等に逆行するものと言わざるを得ません。(拍手)
今日、我が国における婦人労働者は、男子の賃金一〇〇に対し五二・八という格差に端的に示されているように、極めて深刻な状況にあり、さまざまな差別によって人間としての尊厳が著しく傷つけられています。差別撤廃は緊急かつ重大な政治課題であり、その解決は一日も早く実現されなければなりません。ところが、この法案は、財界、大企業の新たな搾取強化を図る労働力政策と女子保護規定の執拗な削除要求を積極的に受け入れ、財界の要求にこたえていても、働く多くの婦人の願いには全く背を向けたものと言わざるを得ません。
総理、あなたは、一体だれの立場に立って、何のためにこの法案を提出されたのか、まず明らかにしていただきたいのであります。(拍手)
雇用における真の男女平等とは、まず社会的機能たる母性の保護を当然の前提としなければなりません。その上で、あらゆる労働条件と職業生活のすべての面で男子と同等の機会と権利を保障することであります。総理、あなたは、政府の婦人問題企画推進本部長という最高責任者として、この点でどういう認識をお持ちですか、お伺いをいたします。
次に、我が国は、広く知られておりますように、先進国中最も労働時間の長い国であり、歴代自民党政治のもとで、ILOの労働時間関係条約はいまだ一本も批准されておりません。また、政府が決めた年間労働時間は二千時間以内とする短縮目標の達成もなおほど遠く、さらに本法案によって女子の労働時間が延長されれば、この目標の達成がいよいよ不可能になることは余りにも明らかであります。総理は、この矛盾をどう説明されるのか、明確にお答えいただきたいと思います。
次に、労働大臣にお伺いいたします。
法案は、時間外労働については、これまでの制限の二倍に当たる年間三百時間もの残業を多くの婦人に行わせることができるようにするものであり、また、深夜業の禁止規定を解除する女子の管理職、専門職の範囲は法定されず、著しく拡大されるおそれがあります。かつて政府が発表した専門家による報告書によっても、長時間労働、深夜労働は、女性の健康破壊を進めると指摘しています。このような改悪では、婦人労働者は、本人の意思に反して退職を余儀なくされることは必至であります。結局、これは婦人の就労の機会を奪うものではありませんか。労働大臣の御見解を伺います。
次に、均等法の問題について、五点に絞ってお尋ねいたします。
その第一は、この法案が、雇用における男女平等の実現にとって不可欠な男女差別の禁止や差別を受けた婦人への迅速な救済を行うという最低限の目的さえ定めていないのは、一体どういう理由によるものでしょうか。本法の目的として明確にうたうべきであると考えますが、いかがでしょうか。
第二は、募集、採用での機会均等が事業主の努力義務となっている点であります。雇用関係成立後の配置、昇進はもちろんのこと、募集、採用を含めて禁止規定にするべきであると関係者が一致して求めております。なぜ努力規定にとどめられるのでしょうか。これでは就職する段階から婦人が差別、排除されている現状が一向に改善されないことになると考えますが、いかがでしょうか。
第三は、いわゆる紛争の解決の援助についてであります。本法案は、教育訓練、福利厚生、定年、退職及び解雇については差別を禁止しながら、実際に差別事案が発生した場合、差別をなくするのではなく、双方の互譲で解決するという調停制度にゆだねています。これでは禁止規定を形骸化してしまうだけではありませんか。罰則を設けて差別禁止を徹底すべきだと思いますが、いかがでしょうか。
第四は、男女雇用平等確保のための行政体制が余りにも貧弱過ぎることであります。この法律の執行に当たる労働省婦人局職員は、地方出先機関を含め、わずか二百名余りです。しかも、司法上の捜査権のないのはもちろん、企業への立ち入りなど行政調査権さえ与えられておりません。このような人員と権限で全国三百五十万事業場の男女差別を実際になくしていけると大臣は本当に思っているのですか。率直にお聞きいたします。私は、労働者が差別に対し事業主から報復を受けずに被害を申告できる制度をつくり、担当職員の増強と調査権限等を強化することを求めます。また、労働基準監督行政や職業安定行政との組織的な協力を法律上も確立すべきだと考えますが、御見解を求めます。
第五は、公務員の適用除外の問題です。女子公務員にもさまざまな差別が加えられていることは、現に裁判まで争われていることからも周知の事実であります。この法案の差別への規制力を強化することを前提として、公務員への適用を図られるように要求いたします。
以上の理由から、我が党は本法案の撤回を強く求めます。
同時に、今こそ日本の働く婦人たちが長年にわたって切望し続けてきた歴史的な婦人差別撤廃条約の批准にふさわしい国内法を確立するため、労働基準法改悪反対、実効ある男女雇用平等法制定の国民の声にこたえて最後まで奮闘する決意を述べて、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/34
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035・中曽根康弘
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 藤田議員にお答えをいたします。
第一問は、総理は、だれの立場に立って、何のために本法案を提出したかという御質問でございますが、私は、国民の立場に立って、主として女性のために本法案を提出した、こういうことであります。
次に、母性保護の立場をいかに認識するかということでございますが、母性保護のための措置は、女子そのもののほかに、子供にとっても必要であるのみならず、健全な社会を育成するという面からも大事でありまして、婦人差別撤廃条約上も同様の考えに立っておると思います。産前、産後の休業の延長など、労働基準法の母性保護規定も今回はさらに充実しているものであります。
次に、婦人の残業時間の規制が緩和されるということによって、年間約二千時間の労働時間達成は不可能になるのではないかという御質問でございますが、条約によれば、母性保護措置を除く女子の保護規定は、この条約においては究極的には廃止することが求められておるのであります。言いかえれば、母性保護だけを特に頭に置いておられるようで、あとは男と女は完全に平等にせよというのが条約の趣旨のようであります。しかし、本条約は漸進的に実施されることが許容されておりますので、女子の時間外・休日労働の制限等も緩和することにしたものであります。
労働時間につきましては、週休二日制の普及等を重点に、全体としてこの短縮に今後も努力してまいります。この対策の進め方につきましては、公労使三者構成の中央労働基準審議会において検討中でございます。
残余の答弁は労働大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/35
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036・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 藤田議員にお答えをいたします。
労働基準法の女子保護規定の見直しによる時間外労働の制限の緩和や深夜業の規制の緩和が婦人労働者の労働条件の劣悪化、健康の破壊を招き、婦人の就労機会を奪うことにはならないかという御質問でございました。
婦人差別撤廃条約の趣旨に照らせば、母性保護規定を除く女子保護規定は究極的には廃止すべきではありまするが、今回の法改正に当たっては、女子がより重く家庭責任を負っていることなど経済、社会の現状を十分考慮して、一定の範囲内で緩和するにとどめております。これにより、女子の労働条件の悪化や就労機会の減少を招くことにはならないと考えております。今回の改正によって、男女の均等な取り扱いを一層促進し、女子の職域を拡大することになると思われます。
次は、本法案の目的に男女差別の禁止や迅速な救済について規定することにつきまして御質問がございました。
御指摘の男女差別の禁止や救済措置は、本法案の目的規定に規定している雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の促進を図るための具体的な措置として第二章に規定しておるものでありまして、この規定方法で十分適切なものと思っております。
三番目の御質問は、募集、採用について努力義務規定としたことについての御意見でありました。
本法案は、あるべき将来を見通しながらも、我が国の現状を十分踏まえたものにすべきであるとの審議会の建議を採用したものであります。すなわち、終身雇用慣行を前提とする我が国の企業の雇用管理においては、募集、採用は特に勤続年数が重要な要素でありますので、その平均的な男女差を無視することはできないことから、当面、努力規定とすることが適当であると考えたものであります。
次に、禁止規定に罰則を設けよという御趣旨の御質問でありました。
禁止規定に罰則を付することは、婦人少年問題審議会において、罰則を付すべきであるとの意見は少数意見にすぎなかったようであります。我が国においては、性による差別が刑罰をもって禁止さるべきであるとの共通認識があるとは認められてはおりませず、また諸外国でも、罰則があるのは少数であります。
次に、男女雇用平等確保のための行政体制について、現在の体制で男女差別を実際になくせると思っているのかとの御質問でありました。
従来から、労働省婦人少年局、婦人少年室は、男女別定年制の解消などに努めて、一応の成果をおさめてきたところでございます。今回の法案では、婦人少年室長の権限を強化し、機会均等調停委員会を新設して、本法の円滑な施行を図ることといたしておりますが、今後とも行政体制の充実強化に努めつつ、本法を施行することにより、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を着実に進めることができると考えております。
次の御質問は、労働者が男女差別に対して事業主から報復を受けずに被害を申告できる制度をつくれとの御意見でありました。
雇用の分野における男女の均等な取り扱いの確保のための婦人少年室長の助言、指導または勧告や機会均等調停委員会の調停は、女子労働者からの申し出、申請に基づいて行われる場合がありますが、この申し出を理由に事業主が不利益な取り扱いをすることは厳に慎むべきであり、労働省としても、このようなことがないよう適切に指導をしていく考えであります。
次に、担当職員の増強、司法上の捜査権、行政調査権の付与等についての御質問でありました。
雇用の分野における男女の均等な取り扱いの確保については、婦人少年問題審議会の建議を踏まえて、罰則や行政命令ではなく、指針の策定、婦人少年室長の行政指導等により実効を確保することとしているので、司法上の捜査権等は付与する必要はないと考えております。しかしながら、労働大臣は必要があると認めるときには事業主に報告を求めることができるようにしておりまして、これにより本法を効果的に施行できるものと考えております。また、婦人少年室については、その体制を充実するとともに、労働基準監督機関及び職業安定機関と密接な連携をとりながら、本法案の円滑な施行に努めていく所存であります。
最後に、公務員に対して本法案の差別への規制力を強化して適用すべきではないかということについてでありまするが、国及び地方公共団体については憲法第十四条が直接適用されるので、公務員については雇用の分野における男女の均等な取り扱いに関する法的枠組みが既に存在をしております。加えて、各公務員法でも具体的な規定を盛り込んでおります。したがって、公務員については均等法第二章を適用する必要はないと考えております。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/36
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037・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) これにて質疑は終了いたしました。
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038・勝間田清一
○副議長(勝間田清一君) 本日は、これにて散会いたします。
午後三時七分散会
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110105254X03219840626/38
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