1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和五十九年八月一日(水曜日)
午前十時二分開議
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○議事日程 第二十六号
昭和五十九年八月一日
午前十時開議
第一 日本育英会法案(内閣提出、衆議院送付
)
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○本日の会議に付した案件
一、検察官適格審査会委員及び同予備委員の選
挙
一、雇用の分野における男女の均等な機会及び
待遇の確保を促進するための労働省関係法律
の整備等に関する法律案(趣旨説明)
以下 議事日程のとおり
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/0
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001・木村睦男
○議長(木村睦男君) これより会議を開きます。
この際、検察官適格審査会委員、同予備委員各一名の選挙を行います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/1
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002・名尾良孝
○名尾良孝君 検察官適格審査会委員及び同予備委員の選挙は、その手続を省略し、議長において指名することの動議を提出いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/2
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003・福間知之
○福間知之君 私は、ただいまの名尾君の動議に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/3
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004・木村睦男
○議長(木村睦男君) 名尾君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/4
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005・木村睦男
○議長(木村睦男君) 御異議ないと認めます。
よって、議長は、検察官適格審査会委員に安孫子藤吉君を、
同君の予備委員に杉山令肇君を指名いたします。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/5
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006・木村睦男
○議長(木村睦男君) この際、日程に追加して、
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案について、提出者の趣旨説明を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/6
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007・木村睦男
○議長(木村睦男君) 御異議ないと認めます。坂本労働大臣。
〔国務大臣坂本三十次君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/7
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008・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
近年、我が国における女子労働者は着実に増加し、約千五百万人と全労働者の三分の一を超え、また、あらゆる産業、職業に進出し、我が国の経済社会の発展は今や女子労働者を抜きにしては考えられなくなってきております。女子の職業に対する意識も高まり、その生涯における職業生活の比重も増大しております。しかしながら、我が国経済社会の実態は、意欲と能力のある女子労働者がそれを十分に発揮し得る環境が整えられているとほ必ずしも言えない状況にあり、そのような環境を整えることが大きな課題となってきております。
また、昭和五十年の国際婦人年を契機として、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保することが国際的潮流となっている中で、我が国は国際連合総会において採択された婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約を昭和五十五年に署名したところであり、先進国の一員として、早期に関係国内法を整備し、条約の批准に備えることが要請されております。
このような内外の情勢を考慮に入れますと、我が国においても、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇が確保されるよう、新たな立法措置を講ずる一方、労働基準法の女子保護規定については、女子の就業分野の拡大に資するとともに、時代の変化に即したものとなるよう見直すことが必要となっております。また、これらに加えて、既婚女子労働者の増加等に伴い、女子労働者自身の健康と福祉、さらには次代を担う国民の健全な育成という観点から、母性保護等についての施策の拡充が求められているところであります。
これらの問題については、昭和五十三年以来婦人少年問題審議会において御審議いただいてきておりましたが、本年三月末、六年余の長期にわたる御審議の結果を建議としていただいたところであります。政府といたしましては、世界の潮流を見通し、あるべき姿へ向かって着実に歩むべく歴史的な第一歩として、この建議を踏まえ、法律案を作成し、関係審議会にお諮りした上、ここに提出した次第であります。
もとより、雇用の分野において男女の均等な機会及び待遇が現実に確保されるためには、このような法制の整備と相まって、女子自身が労働に従事する者としての自覚のもとにその能力を発揮すると同時に、女子の就労についての国民全体の理解を深めることが必要でありますので、政府といたしましてはこれらの機運の醸成を図ってまいることといたしております。
次に、この法律案の内容の概要を御説明申し上げます。
第一は、勤労婦人福祉法の名称を雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律に改めるとともに、その内容を男女の均等な機会及び待遇の確保の促進を図るという観点から抜本的に改正することであります。
その内容の一は、男女の均等な機会及び待遇の確保のために必要な事業主の責務を新たに規定したことであります。すなわち、募集、採用、配置及び昇進については、事業主は女子と男子を均等に取り扱うよう努めなければならないこととするとともに、これらの事項について労働大臣が指針を定めることができることといたしております。また、労働省令で定める教育訓練及び福利厚生並びに定年、退職、解雇については、事業主は労働者が女子であることを理由として差別的取り扱いをしてはならないことといたしております。
その二は、男女の均等な取り扱いに関する紛争の解決のための措置であります。このような紛争については、事業主は、まず企業内で自主的な解決を図るように努めなければならないことといたしております。また、紛争の関係当事者から求められた場合には、都道府県婦人少年室長が必要な助言、指導または勧告を行うほか、都道府県ごとに機会均等調停委員会を設け、紛争の調停に当たらせることといたしております。
その三は、妊娠、出産または育児のため一たん退職し、再就職しようとする女子の就業の援助の措置等であります。すなわち、事業主は、これらの女子の再雇用について特別に配慮するように努めなければならないこととし、また、国は、その再雇用の促進に必要な援助を行うように努めるものといたしております。
第二は、労働基準法を改正し、妊娠及び出産にかかわる母性保護措置を拡充する一方、それ以外の女子保護措置について廃止または緩和すること
であります。
その一は、女子の時間外・休日労働の規制について、まず、命令で定める管理職及び専門職については、それを廃止することといたしております。また、工業的事業の女子については時間外労働に関する現行の一日二時間の制限を廃止することとし、非工業的事業の女子については、時間外・休日労働の規制を命令で定める範囲内において緩和することといたしております。
その二は、深夜業の規制について、命令で定める管理職及び専門職、業務の性質上深夜業が必要とされる業務に従事する命令で定める短時間労働者等については深夜業の禁止を解除することといたしております。
その三は、危険有害業務の就業制限、生理休暇及び坑内労働について、それぞれ現行規制を緩和するとともに、帰郷旅費の規制は廃止することといたしております。
その四は、妊娠及び出産に係る母性保護について、まず産前休業を多胎妊娠の場合十週間に延長するとともに、産後休業を八週間に延長することとしております。また、妊産婦が請求した場合には、時間外・休日労働及び深夜業を禁止することといたしております。
最後にこの法律の施行は、事前の周知を十分に図る必要があることを考慮し、一部の規定を除き、昭和六十一年四月一日からといたしております。
以上が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案の趣旨でございます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/8
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009・木村睦男
○議長(木村睦男君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。久保田真苗君。
〔久保田真苗君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/9
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010・久保田真苗
○久保田真苗君 私は、日本社会党を代表して、ただいま議題となりました雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案について、中曽根総理及び関係大臣に質問いたします。
初めに、この法案を立案した基本的姿勢について総理と労働大臣にお伺いします。
この十年間、私たちは「国連婦人の十年」の目標に向かって努力してまいりました。男女平等と社会生活への婦人の完全な融合を目指して、世界じゅうでこの十年間ほど大きなエネルギーが投入されたことはかってなかったことでした。政府は、総理のもとに婦人問題企画推進本部を設け、地方公共団体もこれに続き、国会議員は国連婦人の十年推進議員連盟をつくり、婦人団体は広範な連絡母体に結集して共同行動を推進してまいりました。このような中で、国連婦人の十年を締めくくるこの法案への期待が大きかったのは当然でした。しかし、労働大臣や婦人局の御苦労にもかかわらず、法案は難航に苦しんだ末、芽を摘み取られた苗木のように萎縮してしまったことを痛感せずにはいられません。
総理、婦人に対するあらゆる形態の差別撤廃条約は、その目標が完全な男女の平等を基礎とする婦人の権利の確立であり、あらゆる差別の撤廃であることを一歩も譲ってはおりません。この法案は条約の目標を受けるものなのでしょうか。この法案は、憲法十四条の性別によって差別を受けない基本的人権の原理に立脚するものなのでしょうか。どうぞお答えください。
労働大臣、あなたはスロー・バット・ステディの漸進主義でいくとおっしゃっていますが、その目標は何ですか。漸進主義とは、百のものを二十でよしとすることではありますまい。スローでも百に達するまでステディに進むということではありませんか。この法案への不満は、現在の内容が不十分なばかりか、将来に向かっての原則と目標がまるで立っていないためではありませんか。
次に、私は具体的に三つの例を挙げたいと思います。
その第一は、法案の基本的理念についてで、総理と労働大臣にお尋ねします。
労働大臣は、この法案が勤労婦人福祉法の一部改正であるにもかかわらず、抜本的改正だと言っておられます。確かに法案の題名は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律案と改められたのですから、その意味での抜本的改正でなければならないのは当然です。しかし、それはこの法案の基本的理念に少しも反映されておりません。ここにある基本的理念は、古い勤労婦人福祉法のそれを一歩も出ることのない情けないもので、抜本改正などと称するには全く不適当なものであります。ここには衆議院で野党四党が対案に掲げた基本理念、すなわち「およそ性別を理由とする差別は、人間の尊厳と基本的人権を侵すものであり、かつ、経済及び社会の発展を阻害するものであることにかんがみ、すべて女子は、雇用における機会及び待遇について、性別を理由とする差別を受けることがあってはならない。」と、このように人権と差別撤廃の原則が明確に掲げられなければならないのであります。
労働大臣、あなたはこの原則が法案の基本的理念にこのように明記されたならば、それは法案の内容とそごを来すとお考えですか、それともそごを来すことはないとお考えですか。どうぞ明確にお答えください。もし、そごを来すというのならば、私たちはこの法案を拒否するほかありません。もし、そごを来さないのであれば、何ゆえにこれを明定しないのですか。
繰り返し申し上げます。私たちは、雇用における基本的人権と差別撤廃の原則をここに確立することを要求いたします。総理、ともしびは高く掲げなければ世を照らすことはできません。このことを願う女性国民とともに、総理もこの原則を高く掲げることをよしとされるのではありませんか。いかがですか。
第二に、総理、外務大臣、労働大臣に伺いたいのは、差別行為を規制する規定のあり方についてであります。
法案は、女子の差別的取り扱いに対して、定年、退職、解雇については禁止規定を定め、教育訓練及び福利厚生については限定された範囲のみを対象とし、さらに募集、採用及び配置、昇進については、これを単なる事業主の努力義務にとどめています。
総理、一つの法律の中で、平等に関する基本権にこのようなランクづけをすべきでしょうか。努力規定では司法救済にかえって悪影響を及ぼすのではないかという懸念が持たれています。あなたは責任を持ってそういうことはあり得ないとおっしゃれるのですか。
外務大臣、婦人差別撤廃条約の要請は、あくまですべての差別を禁止し、撤廃することにあります。拘束力のない努力規定では決して十分の措置にはなり得ず、ましてそれが無期限にだらだらと続くことが許されるとは到底考えられません。外務大臣の御認識を伺います。
総理、人の一生にとって、募集、採用は職業につけるかどうかの大問題であり、配置、昇進は、実は雇用の全ステージそのものです。これについては、まず差別を禁止する規則を明定し、もし必要ならば相当の猶予期間を設けて行政指導する方法をとるべきではありませんか。私はこれが漸進主義に許される唯一の、公正で、しかも実効のある方法だと考えます。総理及び労働大臣の御所見をお聞かせください。
この際、就職の機会に関連してお伺いしますが、我が国の職業安定機関においては、求人、求職、双方のカードを男女別に色分けして職業紹介が行われています。このため、女子に開かれる就職の機会は初めから著しく制限されたものとなり、条約の求める「同一の雇用機会についての権利」を真っ向から否定することとなっています。労働大臣、このようなことでどうして事業主への行政指導ができるでしょうか。これをいつ是正するのか、明確にお答えください。
外務大臣、国の機関がこのような方法をとっていることと条約の批准とはどういう関係になるのか、お聞かせください。
第三に、私は労働基準法の一部改正案のうち、出産休暇の改善は評価するものですが、女子の時間外労働規制緩和については問題が余りにも多いと思いますので、総理、外務大臣、労働大臣にお尋ねいたします。
労働大臣、あなたは我が国の労働基準法が一週四十八時間制を掲げながら、実は労使協定により無制限に時間延長ができるという重大な欠陥を持つことをどう見ておるのか伺います。
現行の女子保護と言われるものでさえ、ILOの四十八時間制条約の一般水準を下回るものでしかありません。その上、今回の改正案は、工業等について女子の残業一日二時間の枠を外したほか、商業、サービス業、金融、保険、医療等第三次産業について、女子の時間外労働の上限を、現行の一日二時間、一週六時間、一年百五十時間から四週四十八時間、一年三百時間へと一挙に拡大し、休日労働の制限も緩和しています。四週四十八時間という時間外労働は、これをもし一週間に集中させた場合、時間内の四十八時間に残業の四十八時間を加えて、一週実に九十六時間もの実労働時間を法的に認めることとなり、この改正案を成立させたなら、国会は不見識のそしりを免れることはできないのであります。
労働省は、現在労働時間制を全体的に見直し中で、来年度その結論が出ると聞いております。女子の時間外労働の拡大については、したがって今回は行わず、労働時間制全体の見直しの中で十分議論を尽くすよう私は主張いたします。大臣の御所見を伺います。
さらに、私が懸念いたしますのは、この女子の時間延長は、日本の国際競争力に脅かされている諸外国の注目を引き、海外の保護貿易主義を力づける材料になるのではないかということです。これに対して日本政府は何と言うのでしょうか。あなた方こそ週四十時間制と高い残業手当、週休二日制を反省すべきだと、そう言うのでしょうか。今回の改正案は、新たな経済摩擦の火種をまき散らすに十分な内容だと私は考えますが、労働大臣はそうではないとおっしゃれますか。
外務大臣は、今回の女子の時間外労働枠の拡大を本当に条約批准の要件と見ておられるのでしょうか。やがて条約の第十八条に従って、「この条約の実現のためにとった立法上の措置及びこの点についてもたらされた進歩に関する報告を差別撤廃委員会による検討のため、国連事務総長に提出する」のですから、当然このことを報告されると思いますが、一体どのような報告をされるのですか。
総理、マハトマ・ガンジーの記念碑には、原則なき政治を戒める言葉があるそうですが、木を見て森を見ないこの改正案こそ、その見本ではないでしょうか。もしこれが通るのであれば、直ちに私たちが要求しなければならないのは、子供を持つ男女労働者の残業を厳格に規制することです。さもなければ、日本の子供や家庭はどうなるのでしょうか。婦人差別撤廃条約の批准も、公正な労働時間制度の確立も、ともに日本が国際国家であるための最低の条件だと私は信じます。総理の御所見をお聞かせください。
以上、基本的な三点について質問いたしましたが、救済機関、深夜業等について指摘しなければならないことはまだ多くあります。多くのことが指針や省令に委任されていますが、その意図するところは少しも明らかでありません。白紙委任は不可能ですから、政府は十分の用意を持って今後の審議に臨まれるようお願いします。
最後に、一言強調しておきたいのは、関係者の御苦労にもかかわらず、この法案は行政府のものでもなく、また国会だけのものでもないということです。法が目指さなければならない雇用における男女平等の実現は、国民の権利と四千三百万の婦人有権者に由来し、千五百万の女子労働者と、今後職業につくべき幾千万の新しい世代に帰属すべきものであります。この重みにこたえるため、全般にわたって、原案にこだわることなく、審議は虚心に最善を尽くさなければなりません。このことに御協力をお願いいたしまして、私の代表質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/10
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011・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 久保田議員にお答えをいたします。
まず、本法案における基本的姿勢を問うという御質問でございます。
本法案は、婦人差別撤廃条約の批准のための条件整備の一環であるとともに、憲法第十四条の理念を踏まえて作成したものでございます。すなわち婦人における機会均等、母性保護、この両方を念頭に置きまして、日本の現状を踏まえ、また未来を踏まえつつつくられた法案であるのでございます。
次に、野党四党が対案に掲げた基本理念、すなわち「すべて女子は、雇用における機会及び待遇について、性別を理由とする差別を受けることがあってはならない」、この原則を法案にうたえという御質問でございますが、本法案の基本的理念におきまして、「性別により差別されることなく」と明記しておるのでございます。野党四党提出法案の基本理念の趣旨は既に規定しているものと考えております。
次に、本法案におきまして禁止規定と努力義務規定と両方を並べておるけれども、一つの法律の中で平等に関する基本権にこのようなランクづけをしていいのか、このような努力義務規定では司法救済にかえって悪影響を及ぼすのではないかという御質問でございますが、本法案は、先ほども申し上げましたように、日本の将来を見詰め、我が国の現状を十分に踏まえて、しかも婦人少年問題審議会の建議の考え方に基づきまして、募集、採用、配置、昇進につきましては、当面努力義務規定とすることが適当であると考えたものでございます。
本案における努力義務規定は、公序良俗等の一般法理を排除する趣旨ではございません。したがって、公序良俗違反等の理由で訴訟を提起することに特に悪影響を及ぼすものではございません。これらの訴訟を提起することは自由でございます。
さらに、募集、採用、配置、昇進について、まず禁止規定をつくって、そして必要に応じて猶予期間を設けて行政指導する方が適切ではないかという御質問でございます。
本法案につきましては、先ほど申し上げましたように、婦人少年問題審議会の建議の考え方に基づきまして作成したもので、募集、採用、配置、昇進につきましては、当面努力規定とすることが最も適当であると考えた次第でございます。現実を踏まえて、また将来を見詰めながら、日本の現段階に即した調和点はこの辺ではないか、こういうふうに考えておる次第でございます。御指摘の方法は、現在の我が国の法制度上から見て必ずしも適切であるとは考えておりません。
次に、労働基準法を改正して女子の労働時間を延長するという案であるけれども、公正な労働時間制度を確立することは日本が国際国家でいくための最低条件であると考える、所見いかんという御質問でございます。
婦人差別撤廃条約上、我が国においては、雇用における男女の機会均等及び待遇の確保につきまして適当な法的措置及び母性保護措置以外の労働基準法の女子に対する特別の保護規定の見直しが求められておるのでございまして、本法案は本条約の要請を満たすものであり、国際的に何ら遜色があるものであるとは考えておりません。
男子を含めた労働者全体の労働時間の短縮については、今後とも、まず第一には労使協調で行うべきものでございますが、政府としても努力してまいるつもりでございます。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/11
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012・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 私の申しておりまするスロー・バット・ステディは、その目標いかんということでございますが、これは、このたび提出いたしました均等法の題名や目的規定でも明示されているところだと思っております。雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るということが明示されております。私の言うスロー・バット・ステディの精神というのは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を我が国の現状を踏まえながら漸進的に実現をしょうというものでありまして、将来に向かっての原則と目標は、先ほど申し上げましたように明確にしてございます。
次に、野党法案の中の基本的理念を本法案の基本的理念としたらどうかということでございます。
均等法第二条の基本的理念については、「性別により差別されることなく」と明記してございます。野党四党提出法案の基本的理念の趣旨は既に規定しておるところでございます。
なお、均等法は、男女の均等な機会及び待遇の確保に加えまして、労働者の就業に関する援助の措置も規定しております。ということでございますから、これらの措置について触れていない野党四党提出法案の基本的理念をそのままこの均等法の基本的理念とすることは適切ではないと思います。
次に、募集、採用、配置、昇進について禁止規定とした上、猶予期間を設けたらどうかという御提案でございますが、本法案は、婦人差別撤廃条約の理想とする姿を念頭に置きながらも、婦人少年問題審議会の建議にもございますように、我が国の社会経済状況を十分踏まえ、男女の均等取り扱いを漸進的に実現していくことといたしまして、募集、採用、配置、昇進については、当面努力規定の対象とすることが最も適切だろうと考えたわけでございます。
法律は、それが制定される時点における状況を踏まえるべきだと思います。施行を猶予することを前提に禁止規定を設けることは我が国の法制度にはなじまない、適当だとは言えないと思います。
次に、職業安定機関における男女別に色分けをした求人・求職カードによる職業紹介は是正すべきではないかというお尋ねでございました。
現在、公共職業安定所の窓口においては、企業が男女別に採用計画を立てていることに対応して、男女別の求人・求職票を使用しておりまするが、職業紹介に当たっては、職業安定法の趣旨にのっとりまして、性による差別をすることなく、求職者の能力、適性に応じた取り扱いを行っているところでございます。しかしながら、均等法案では、募集、採用について事業主は女子に対して男子と均等な機会を与えるよう努めなければならないとされておりまして、これについて今後、指針も定められることになりますので、その指針を考慮しながら、求人・求職票の取り扱いを含めて、公共職業安定所における職業紹介のあり方について法の施行までの間に結論を得るよう十分検討してまいりたいと思っております。
次に、労使協定の定めるところにより時間外労働を認める労働基準法の規定についての御質問がございました。
労働基準法は、時間外労働の限度については、労使が企業の実情を踏まえて労使協定により定めることといたしておりますが、この方式は、いわゆる我が国の終身雇用慣行のもとで時間外労働というものが雇用調整の機能を果たしている、この我が国の実情に合ったものと考えております。
なお、労使が時間外労働協定を締結するに当たりまして、それが適正に締結されるように、時間外労働の限度について指針を示して、これに基づき行政指導を行っているところでございます。
次に、女子の労働時間の改正は、労働時間制の全体的見直しの中で論議を尽くすべきではないかという御質問でございました。
労働時間法制のあり方については、労働基準法研究会において昭和六十年度を目途に調査研究をお願いしているところでありまするが、男子を含めた労働者全体の労働時間法制をどうすべきかは、我が国の経済社会の実情を踏まえて十分検討すべき問題であると考えております。
一方、女子に対する特別の規制については、婦人差別撤廃条約の批准のためには男女同一にする方向での国内法制の整備が必要とされておりまするが、本法案では、婦人少年問題審議会において六年余の長きにわたり審議された結果を踏まえて、現段階において男女の均等な機会及び待遇を確保していく上で特に必要なものについて廃止または緩和することとしたものでございます。
次に、女子労働時間の延長は新たな経済摩擦の火種にならないかという御質問でございました。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保するためには、時間外労働の規制など女子に対する特別の保護規定については、できるだけ早い機会に解消して、男女が同一の基盤で働けるようにすることが必要であります。現に、機会均等法が制定されている西欧先進国においても、このような考え方から女子保護規定を廃止または緩和しているところでございます。
加えて、今回の女子保護規定の改正は、女子が家庭責任を負っている状況など我が国の経済社会の現状を踏まえて、男女の均等な機会及び待遇を確保していく上で特に必要なものについて緩和することとしているところでございまして、改正の結果、実際に直ちに女子労働者の一般的な長時間労働を招くことはないと考えております。したがって、今回の女子の時間外労働の規制の緩和が新たな経済摩擦の火種になるとは考えておりません。(拍手)
〔国務大臣安倍晋太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/12
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013・安倍晋太郎
○国務大臣(安倍晋太郎君) 久保田議員のお尋ねは三点でございます。順次お答えをいたします。
まず第一の御質問は、婦人差別撤廃条約の要請は女子に対する差別の禁止、撤廃で、努力規定では差別が撤廃されず、条約上そういう状態が無期限に続くことが許されるとは考えられない、どう思うかということでございます。
本条約第十一条は、雇用の機会及び条件等につき、女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとることを求めております。しかしながら、具体的な措置の内容につきましては、差別を制裁を科して禁止するよう求めている規定のほかは、条約上は明示の規定は置かれておりません。したがって、女子に対する差別の撤廃に有効であれば、努力義務規定であっても条約上の問題が生ずるものではないと考えております。
本法案につきましては、募集等につき努力義務規定となっておりますが、同時に労働大臣の指針の策定等の附帯的措置をも規定することによって、全体として条約の内容を相当の実効性をもって実現し得るものと判断しております。
第二の御質問は、国の機関たる公共職業安定所では、求人、求職のカードが男女別となっている、条約批准との関係で見解を問うということでございます。
本条約上、男女別の募集、採用は一部を除き原則として認められず、したがって公共職業安定所における求人票、求職票の男女別取り扱いは、それが本条約に言う差別に該当することとなる場合には、条約上問題があると考えます。この点につきましては、均等法政府案要綱に対し中央職業安定審議会より「公共職業安定所においては、求人の受理、職業紹介に際し、男女の機会均等が確保されるように努めることが必要」という内容の答申が出されており、これを踏まえ労働省が検討していくものと承知をいたしております。
第三点は、外務大臣は今回の女子の労働時間延長案を条約批准の要件と見ているのか、やがて条約第十八条に基づく報告を国連事務総長に提出することとなるが、この点を含めどのような報告を
する考えかというお尋ねでございます。
本条約は、女子の採用、昇進等を阻害することにもなるいわゆる女子保護規定を見直し、基本的には労働条件を男女同一の扱いにしていくことを求めております。今般の労働基準法の改正は、これまで既に数年間にわたり行われた専門家等による検討を踏まえ、労働省が一部の女子保護についてはもはやこれを維持する合理的理由がなく、条約の要請する機会均等の観点から特に改廃が必要であると判断した結果であると承知をいたしております。外務省としては、このような女子保護規定を維持し続けることは条約の要請に沿っていないものと考えます。
次に、婦人差別撤廃委員会へ提出する報告書につきましては、条約実現のためとった立法上の措置等を記載することとなっており、御指摘の点につきましてもここに含めることとなります。
以上でございます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/13
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014・木村睦男
○議長(木村睦男君) 中西珠子君。
〔中西珠子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/14
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015・中西珠子
○中西珠子君 私は、公明党・国民会議を代表して、ただいま議題となっておりますいわゆる機会均等法案について、総理並びに関係大臣に対し質問をいたします。
我が国の女子雇用者は過去三十年間に四倍以上に増加し、現在約千五百万、雇用者総数の三五%を占めておりますが、女性の職場は依然として単純労務や補助労働に限定されがちであり、男女間の賃金格差はここ数年来拡大を続けております。雇用の入口から出口まで女性は差別的取り扱いを受けることが多く、特に募集、採用、配置、昇進の段階での女性差別は深刻であり、とりわけ四年制大学卒や中高年の女性にとっての雇用機会は極めて狭き門であります。職業、雇用上の差別をなくし、機会均等、待遇の平等を確保することは、日本の女性にとって長年にわたる悲願でありました。
現在、世界の多くの国で雇用上の平等を確保する法律や制度が確立しており、ILOの雇用、職業上の差別禁止条約を批准している国は既に百七カ国に達しています。また、雇用上の差別のみならず、婦人に対するあらゆる形態の差別を撤廃する国連条約、いわゆる婦人差別撤廃条約の批准国は既に五十七を数えていますが、日本はいまだ両条約とも批准していません。
今回、政府は、婦人差別撤廃条約批准のために必要な国内法整備の一環として本法案を提出されたわけですが、勤労婦人福祉法の改正という形をとり、まことに消極的で雇用上の性差別をなくすという目的からはほど遠く、また、これと抱き合わせになっている労働基準法の女子保護規定の改正案は、出産休暇の延長は評価しますが、それ以外はおおむね改悪であり、女性たちの期待を全く裏切るものであります。
人間の尊厳と基本的人権を守るため、あらゆる分野における差別を撤廃する国内的、国際的努力が今や世界的な潮流となっている時代です。国際国家日本を標傍されている総理は、国内における雇用上の性差別をなくすためにもっと積極的な政策をとり、真に実効性のある法律を制定することこそ日本の国際的地位を高めるためにも必要なのだとお考えにはならないのですか。総理にお伺いいたします。
多くの婦人たちは、この政府案では雇用上の平等は確保できない上、労働条件は現状よりも悪くなると、政府案に対し失望、落胆と憤りすら感じています。事実、政府案に抗議するため、陳情や傍聴に全国からやってくる婦人のグループは数え切れないほどであり、また政府案に反対してほしいと訴えてくるはがき、手紙、電報のたぐいはうずたかく山積しております。
私は、こういった婦人たちの声を代弁させていただき、次に法案の中身について質問したいと思います。
まず第一に、多くの婦人たちが不満としている点は、婦人少年問題審議会では単独立法としての雇用平等法が論議されていたのに、突如として今回、政府案が勤労婦人福祉法の改正という形をとってあらわれたことであります。まずその理由をお伺いいたします。
第二点は、この法案の第一条、目的と、第二条、基本理念に問題があるということです。
国連の憲章や世界人権宣言、また日本が既に批准している国際人権規約などには男女平等の原則が明記され、婦人に対する差別は人間の尊厳を侵し、基本的人権を侵すものであるという理念が貫かれております。また国内的に見ても、憲法十三条の個人の尊重、十四条の法のもとの平等、二十二条の職業選択の自由、二十七条の勤労権の保障の実現には、雇用上の性差別をなくすことが絶対に必要なのであります。さらに、婦人差別撤廃条約はその十一条一項において、男女の平等を基礎として、「すべての人間の奪い得ない権利としての労働の権利」を確保するため、雇用の分野における婦人に対する差別を撤廃するすべての措置をとることを義務づけております。
ところが、政府案は、福祉を増進するための法律として、女子労働者は性別によって差別されることのないよう配慮されるものとする旨の、まことに恩恵的な規定を設けているのであります。女性の労働権と雇用上の均等な機会及び待遇を基本的人権として保障してはいません。政府は、この法案の中に、基本的人権としての女性の労働権の保障と、雇用上の平等実現を目的とする旨を明記するべきだと思いますが、この点について総理と労働大臣の見解を伺います。
第三点は、働く婦人が最も痛みを感じている募集、採用、配置、昇進に関する差別が禁止されていないことであります。
一九七〇年代から欧米の先進資本主義国は相次いで雇用平等法を制定し、性別等を理由とする差別を基本的人権の侵害として、雇用のあらゆる段階において禁止しています。しかるに日本政府は、募集、採用は使用者の自由であり、配置、昇進は評価の問題なんだから法の規制にはなじまないという使用者側の主張に屈して、これらを努力義務規定としているのであります。これは女性を短期回転型の補助的労働力とみなし、女性の長期勤続や昇進を忌避している経営の目先だけの効率至上主義に追随するものであります。雇用のあらゆる段階で性差別を禁止して、機会均等と待遇の平等を確保し、女性の能力の開発と活用を積極的に図ろうとしないことは、長期的に見れば、労働力の急速な高齢化に直面している日本の経済社会の発展にとって損失ではないかと考えますが、労働大臣の見解をお伺いします。
また、婦人差別撤廃条約第二条の(b)は、「婦人に対するすべての差別を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む。)をとる」べきだと規定しています。政府案の努力義務規定はこの条項に抵触するのではないかと懸念するものでありますが、外務大臣の見解を伺います。
働く婦人たちはまた、努力義務規定は民事訴訟による差別是正を困難にするのではないかと心配しています。今回、使用者の努力義務が法定化されると、使用者は努力義務を尽くしたということで免責されてしまい、差別は無効とならず、司法救済の道が閉ざされてしまうのではないでしょうか。また、本法案が雇用上のすべての差別を禁止し、少なくとも違反したら無効となる強制規定にしていないことは、憲法十四条の精神に反するのではないでしょうか。この二点に関して総理と労働大臣の見解を伺います。
第四点は、行政的救済措置についてであります。
働く婦人たちは、雇用のあらゆる段階における差別を迅速に是正する適切な救済措置を切望していました。ところが、政府案は、募集、採用に関する差別は除き、その他の雇用上の差別について苦情処理機関などによる自主的解決、行政指導、助言、勧告による紛争解決の援助、調停への委任
を規定しているだけです。これでは募集、採用に関する差別についてはどこへも持って行き場がないということになり、司法救済も努力義務規定のためにまた難しくなるとすれば、雇用の入り口での女性差別は救いがたいものになることは明らかです。
その上、本法案が設置することにしている機会均等調停委員会は、立入検査の権限もなく、関係当事者双方の合意がない限り調停を行うことができません。調停案を作成して関係当事者に調停案の受諾を勧告することはできますが、諾否の期限についての定めはなく、勧告に従わなかった場合の担保もない全く実効性に乏しいものであります。これでは雇用上の性差別に絡む紛争はいたずらに長期化し、解決が困難になるのではないでしょうか。もっと迅速適切な救済措置、立入検査権や調査権並びに雇用上のあらゆる差別に対する是正命令権を付与した、より強力な救済機関がなぜつくれないのでしょうか。その理由を総理と労働大臣から明確にお答え願います。
第五の問題点は、政府は、差別撤廃条約を批准するためには労働基準法の女子保護規定の改正が必要であるとし、特に時間外労働と休日労働の制限の緩和、深夜業禁止除外の範囲の拡大、妊産婦以外の女子労働者の危険有害業務就業制限の大幅な緩和を図っていることです。この改正案が通れば、女子労働者の健康と安全は脅かされ、特に家庭責任を負っているフルタイムの女子労働者の中には、家庭生活と職業生活の調和が図れなくなって、やめるか、パートタイマーにならざるを得ない人が続出するでしょう。
婦人差別撤廃条約は、その十一条第一項(f)において、生殖機能の保護を含む健康で安全に働ける労働条件についての権利を男女平等を基礎として確保することを義務づけています。また同条第三項において、「保護立法は、科学的及び技術的知識に照らして定期的に検討するものとし、必要に応じて修正し、廃止し又はその適用を拡大する」ものとすると規定しています。これから見ても、条約の批准のために女子保護規定を急いで改正し、女性の労働条件を引き下げ、かつ労働時間の上限を男性と同じに長くする必要はないと考えますが、どうですか。労働大臣と外務大臣にお伺いいたします。
日本の男性の世界に冠たる長時間労働は、確かに日本の経済成長に大きく貢献いたしましたが、現在は貿易摩擦の一因になっているばかりでなく、男性の肉体的、精神的健康をむしばみつつある一方、父親は常に不在もしくは子供とはすれ違いという家庭をふやし、父親の権威の失墜にもつながっています。両親がともに負うべき子供の養育の責任を母親だけに押しつけざるを得ない現状は、子供の家庭内暴力や非行化等さまざまな教育上の弊害を助長していることも否定できないと思います。労働基準法第一条の言う「人たるに値する生活を営むための必要」を満たすべく、男性の労働時間の短縮や労働条件の改善をまず図ることが先決であり、男女ともに職場の安全衛生、賃金、労働時間その他の労働条件を国際的水準に近づけることが条約の精神にもかない、また公正な国際競争上の要件でもあると考えます。この点に関し、総理、外務、文部、労働大臣の御見解をお伺いいたします。
最後に指摘したいのは、この法案の重要な箇所や微妙な点がほとんど省令に委任という形で先送りになっており、省令へのいわば白紙委任を求めている条項が多過ぎるということであります。
これは国会の審議権の軽視も甚だしいと言わざるを得ません。労働省は、省令は婦人少年問題審議会等に諮って決めると答弁していますが、七年間の審議の末、三論併記の建議しか出し得なかった審議会の力関係を見ても、省令の内容がどのようなところに落ちつくことになるのか懸念されるところであります。労働大臣の見解をお尋ねします。
かつて、行革特別委や予算委における私の質問に対して、総理は、世界に恥じない雇用平等法をつくって条約を批准するとの決意のほどを再三お示しくださいました。しかし、今回の法案の内容は総理の発言とは全く違ったものであります。総理はこれが世界に恥じない法律とお考えになっているのかどうか、お尋ねいたします。
最近、参議院無用論があちらこちらから聞こえてまいります。良識の府としての参議院の権威と有用性を示すためにも、婦人参政権獲得以来の歴史的重要法案であるこの法案を可能な限り時間をかけて慎重に審議を尽くし、修正するべき点は修正することを強く要望いたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/15
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016・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 中西議員にお答えをいたします。
第一問は、国際国家を標傍する以上は真に実効性のある法律を制定することこそ国際的地位向上のために必要ではないかという御質問でございます。
政府といたしましては、女子に対する差別を撤廃していくという基本的考え方のもとに、婦人差別撤廃条約には昭和五十五年に調印しておるわけでございます。そして、できるだけ早く条約を批准したいという念願に燃えておるものでございます。本法案は、雇用の分野における女子に対する差別を撤廃するとの条約の要請を相当の実効性を持って実現できているものと考え、国際的に見ても十分な内容であると考えております。
次に、女性の労働権の保障と雇用上の平等実現を目的とする旨を明記すべきではないかという御質問でございます。
勤労権は、憲法第二十七条により男女共通の基本的人権として既に保障し、政府としてもこれを遵守すべきものであると考え実行しておるところでございます。本法案は、その題名及び目的におきましても雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を明示しておりまして、御指摘の点は既に規定してあると考えておる次第でございます。
次に、今回の努力義務規定では司法救済がなくなるおそれはないかという御質問でございます。
本法案における努力規定は公序良俗等の一般法理を排除する趣旨でないと考えておりまして、公序良俗に違反する事案につきましては、努力したことの立証をもって免責されるものではない、訴訟提起について何ら影響を与えるものではないと考えております。
次に、雇用上のすべての差別を禁止する強行規定にしないのは憲法第十四条の精神に反しないかという御質問でございますが、本法案は、憲法第十四条の理念を踏まえて、婦人差別撤廃条約の批准のための国内法制の整備の一環として作成したものでありまして、憲法十四条の精神に合致しております。現段階における日本の現実に即した具体化の一環の措置である、このようにお考え願いたいと思うのでございます。
政府案の調停委員会では実効性がない、より強力な救済機関を設置しないかという御質問でございますが、この問題につきましては、労使間の個別紛争を解決する方法としては当事者の自主的な話し合いによる円滑な解決を図る調停によることが適当と考え、調停委員会を設置したものでございます。この調停に至るまでには労働省の指針の作成、あるいは各都道府県における婦人少年室長の助言、勧告、そういう手続が前にありまして、そうして調停委員会という形に入ってくるものでございまして、この調停というものはかなり力のあるものになり得るものと考えております。
次に、男性の労働時間の短縮や労働条件の改善を図ることが先決である、その上で男女とも労働条件を国際的水準に近づけることが条約の精神にもかない、公正な国際競争につながるという御質問でございますが、今回の労働基準法の改正は、現段階において男女の均等な機会及び待遇を確保していく上で特に必要なものについて廃止または
緩和することとしたものであり、婦人差別撤廃条約の趣旨に合うものと考えております。男女を含めた労働者全体の労働時間短縮等をどのように進めるかは、我が国の社会経済の実情に即して今後検討すべきものであると考えております。
次に、世界に恥じない雇用平等法をつくって条約を批准すると言った言葉に合致していないではないかという御質問でございますが、婦人差別撤廃条約上、我が国においては雇用における男女の機会の均等及び待遇の確保について適当な法的措置を講じることが求められていると理解しております。本法案の内容は本条約の要請を満たすものでありまして、国際的水準に合致している法案であり、何ら外国に対して遜色がないものであると考えております。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/16
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017・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 政府案が勤労婦人福祉法の改正という形をとったわけはどうだというお話であります。
まず第一に、現行勤労婦人福祉法には、既にその理念に雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の必要性が盛り込まれておりますこと、第二番目には、我が国においては、実質的に均等な機会及び待遇を確保するためには、女子労働者の就業に関する援助の措置など女子労働者に対する各種の施策を盛り込む総合的な立法とすることがより効果的であると考えられたことなどの理由から、勤労婦人福祉法を抜本的に改正することが適切であると判断をしたからでございます。
次に、女性の労働権の保障及び雇用上の平等実現を目的として明記することについてお尋ねがございました。
勤労権は、憲法第二十七条によって「すべて国民は、勤労の権利を有し、」云々と規定されております。男女共通の基本的人権としては既に保障されているところであります。
男女の均等取り扱いを実現することは女子労働者の福祉の最も重要な柱であることでありますから、均等法では、その主要な目的が男女の均等取り扱いの確保である旨を題名、目的において明示しております。御指摘の雇用上の平等実現については、既に規定してあるところでございます。
次に、募集、採用、配置、昇進を努力規定としたことの日本経済社会の発展に与える影響についてお尋ねがございました。
本法案は、婦人差別撤廃条約の理想とする姿を念頭に置きながらも、婦人少年問題審議会の建議にもございますように、我が国の経済社会状況を十分踏まえて男女の均等取り扱いを漸進的に実現していくこととし、募集、採用、配置、昇進については当面努力規定の対象とすることが適切であると考えたからであります。
本法案は、努力規定の実効を確保するため、努力目標を明らかにする指針の策定、婦人少年室長の助言、指導、勧告等を行うことといたしておりまして、これらにより雇用の分野での男女の均等な機会と待遇の実現が着実に進み、女性の能力の開発、活用が図られるものと期待をいたしております。
次に、努力義務規定の司法救済に与える影響についてでございますが、均等法において努力義務規定を設ける趣旨は、具体的な努力目標として指針を設けて事業主の自主的努力を促すことによりまして男女の均等を実現しようというものでございます。努力義務規定は直接これを根拠として民事訴訟による救済を可能とするものではありませんが、公序良俗等の一般法理を排除する趣旨ではないので、公序良俗違反等の理由で訴訟を提起することについて何ら影響を与えるものではないと考えております。したがって、公序良俗に違反する事案については、努力したことの立証をもって当然免責されるわけではないと考えております。
次に、すべての差別を強行規定で禁止しなければ憲法第十四条の精神に反しないかというお尋ねでございます。
均等法案は、憲法第十四条の理念を踏まえて、婦人差別撤廃条約の批准のための国内法制の整備の一環として作成したものであります。我が国の現状を踏まえ一部努力規定としているのは、男女の均等取り扱いを漸進的に進めることが適当であると判断したことによるものでありまして、憲法第十四条の精神に合致するものであると考えております。
次に、強力な権限を有する救済機関についてお尋ねがございました。
雇用における男女の均等取り扱いに関する労使間の個別紛争を解決する方法として、是正命令権等を伴う強力な行政機関を新設せよとの意見は、婦人少年問題審議会では少数意見でありました。このような措置の必要性、妥当性についてコンセンサスが得られているとは考えられません。むしろ、調停等により労使の自主的な話し合いによる円満な解決を図ることの方がより適当であると考え、調停委員会を新設することとしたものでございます。
次に、婦人差別撤廃条約の批准のため女子保護規定を改正する必要はないということについてのお尋ねでございましたが、婦人差別撤廃条約上、母性保護措置以外の労働基準法の女子に対する特別の保護規定については、究極的には廃止することが必要とされており、婦人少年問題審議会の建議においてもそれらを見直すことが必要であると指摘をされております。本条約は漸進的実施を認めておりまするが、本条約を批准するに当たっては、女子に対する特別の保護規定を改廃するとの基本的方針に基づいて各規定を検討し、機会均等の観点から特に必要なものについてはその改廃を行うことが必要であると考えております。
次に、男性の労働時間短縮等の労働条件の改善を図った上で男女とも労働条件を国際水準に近づけるべきであるという御意見でございました。
女子に対する特別の規制については、婦人差別撤廃条約の批准のためには労働条件を男女同一にする方向での国内法制の整備を行うことが必要とされていることでありまして、本法案では、婦人少年問題審議会において六年余の長きにわたり審議された結果を踏まえて、現段階において男女の均等な機会及び待遇を確保していく上で特に必要なものについて廃止または緩和をすることといたしたものでございます。
男子を含めた労働者全体の労働時間短縮などをどのように進めるかということにつきましては、我が国の社会経済の実情に応じて十分慎重に検討すべきものであると考えております。
次に、政府案では重要な点、微妙な点が省令委任となっており、国会審議権の軽視ではないか云々というお尋ねでございました。
今回の改正により労働省令で定めることとしている事項としては、規制の対象となる教育訓練、福利厚生の範囲、非工業的業種の事業の時間外・休日労働の規制、いわゆる管理職、専門職の範囲、妊産婦の危険有害業務の就業制限等があります。これらは企業の雇用管理の実態、事業や労働の態様を踏まえて、具体的に細かい内容を定めることが適当と考えられるものでありますから、労働省令に委任するとしたものでございます。労働省令に委任している事項については、いずれもその範囲は法律上明らかにされておりまして、また関係審議会の意見を聞いて定めることとされておりまするので、御指摘のような懸念はないと考えております。(拍手)
〔国務大臣安倍晋太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/17
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018・安倍晋太郎
○国務大臣(安倍晋太郎君) 中西議員にお答えをいたします。
まず第一に、努力義務規定は婦人差別撤廃条約第二条に抵触するのではないかというお尋ねでございます。
この条約の第二条は、条約の目的を達成するための主要な政策実施手段を一般的に列挙したものであり、同条は女子に対するすべての差別、すなわち総体としてとらえた差別を撤廃するための手段として、適当な立法とその他の措置とがあるこ
とを規定したものにすぎないのであります。他方、均等法案は、一部について努力義務規定となっておりますが、同時に、労働大臣による指針の策定等附帯規定を置くことによって、全体として本条約の目的を相当程度の実効性を持って実現し得ると考えられますので、条約の要請を充足していると判断をいたしております。
次に、批准のために女子保護規定を改正する必要はないと思うがどうかというお尋ねでございます。
本条約は、女子の採用、昇進等を阻害することになるいわゆる女子保護措置を見直し、基本的には労働条件を男女同一の扱いにしていくことを求めております。今般の労働基準法の改正は、これまで既に数年間にわたり行われた専門家等による検討を踏まえ、労働省が一部の女子保護についてはもはやこれを維持する合理的根拠がなく、条約の要請する機会均等の観点から、特に改廃が必要であると判断した結果であると承知をいたしております。外務省としては、このような女子保護規定を維持し続けることは、条約の要請に沿っていないものと考えます。
最後に、日本の男子労働者の長時間労働の弊害にかんがみ、男性の労働時間短縮と労働条件改善が先決と思うがどうかというお尋ねでございますが、労働時間の短縮につきましては、従来から労働省が種々の施策を講じてきているところと承知しております。他方、今般の労基法上の女子保護措置の見直しについては、これまで既に数年間にわたり行われた専門家等による検討を踏まえ、労働省が一部の女子保護についてはこれを維持する合理的根拠がなく、機会均等の観点から特に改廃が必要であると判断したものと承知をいたしております。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣森喜朗君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/18
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019・森喜朗
○国務大臣(森喜朗君) 中西さんお尋ねの点は、男子労働者の長時間労働が子供の養育責任を母親だけに押しつけ、このことが家庭内暴力や非行等の原因になっているのではないかということでございますが、家庭においては親と子の触れ合いの中で基本的な生活習慣の形成、情緒の安定などにより子供の人格形成が行われるものでございますから、心身ともに健全な子供を育てる上において家庭の持つ意義は極めて重要であると考えております。
青少年の非行や家庭内暴力等の要因はさまざまでございまして、一概に論ずることは困難でございますが、心身ともに健全な子供を育てる上で家庭の持つ意義は極めて重要であるということは御指摘のとおりでございます。世の父親も家庭の持つこのような教育的意義を十分に認識することが大切であると考えております。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/19
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020・木村睦男
○議長(木村睦男君) 山中郁子君。
〔山中郁子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/20
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021・山中郁子
○山中郁子君 私は、日本共産党を代表して、男女雇用機会均等法案について総理並びに関係大臣に質問いたします。
我が党は、既にこの法案の最大の問題点が、雇用の機会均等の確保を理由として母性保護の権利を大幅に切り捨てる労働基準法の改悪案を盛り込んでいることにあると再三指摘し、その全面的削除を要求してきたところであります。もともと婦人労働者にかかわる労働基準法の改悪は、かねてから財界が新たな搾取強化を図るために、政府に対し執拗に働きかけていたものであります。本法案は、まさにこの財界の労働力政策に追随したものではありませんか。
一方、最も肝心な婦人労働者を中心とする広範な婦人たちからは、本法案に対して強い反対の意思が表明され、政府にも多くの意見が寄せられているのです。私は、まず総理がこれらの婦人たちの反対の声をどのように理解し、受けとめておられるのか、伺います。
次に、婦人差別撤廃条約の批准との関連についてお伺いいたします。
同条約は、その前文で、婦人差別が人間の尊厳に反し、社会と家族の繁栄を妨げるものであることを指摘するとともに、雇用の分野での平等の達成のために立法や制裁を含む必要な措置をとるよう各国政府に義務づけております。ところが、本法案は、募集、採用、配置、昇進という肝心かなめの部分を単なる努力義務にとどめている上に、罰則もなく、極めて実効性の乏しいものになっています。これが、雇用労働者の三分の一以上を婦人が占め、資本主義社会で第二位の生産力を誇る日本が婦人差別撤廃条約を批准するために行う条件整備にふさわしい内容だと言えるのでしょうか。余りにも貧弱にすぎると言わなければなりません。
総理並びに外務大臣に伺いますが、あなた方は、婦人に対するあらゆる差別を撤廃するという条約の理念と目的に照らして、本法案が国際的にも誇りを持って披瀝できる内容であると確信しておられるのですか、見解をお示しください。
また、政府は、婦人労働者に対する保護を解消しなければ婦人差別撤廃条約の批准ができないということを強調しております。しかし、差別撤廃条約では、どこにもそのようなことはうたわれておりません。逆に、同条約の四条二項は、「母性保護を目的とする特別措置を締約国がとること−は、差別とみなしてはならない。」と明記しておりますし、十一条(f)項では、母性保護の立場に立って、「作業条件に係る健康の保護及び安全についての権利」をもはっきりうたっているのです。
そこで、外務大臣に伺いますが、婦人差別撤廃条約のどこに、婦人労働者の時間外・休日・深夜労働などの規制や禁止を緩和したり撤廃したりする必要を述べた項目がありますか。あると言うのならば、具体的に条文の項目を挙げて明確にお答えください。
次に、労働大臣に伺いますが、かつて政府自身が意見を求めた専門家会議の報告でも、長時間労働や深夜業が健康や母性に悪影響を与えることが医学的に明らかにされています。それを承知の上であえて改悪を行おうとするのですか、答弁を求めます。
また、日本の長時間労働が現在でも厳しい国際的批判にさらされているのに、その上さらに婦人の労働時間の規制が緩和されるとすれば、男性を含む労働者全体の長時間労働に一層拍車をかけることになるのは火を見るよりも明らかではありませんか。そうならないという根拠が示せますか、労働大臣の見解を求めます。
さらに、本法案の中で、使用者に申し出た者は深夜業に従事することができる旨盛り込まれていることも極めて重大であります。労働基準法は、言うまでもなく労働者全体の最低の労働条件を定めたものであり、たとえ本人の申し出があろうとも、この最低限度以下の条件のもとにおける労働を認めてはならないという性格を持つ強行規定であります。労働大臣は、この本人の申し出規定が労働基準法の精神と法の性格に照らして何の疑問もないとされるのかどうか、見解をお伺いいたします。
次に、私は、職場の根強い男女差別が、直接の不利益だけでなく、婦人労働者の人格的尊厳を著しく傷つけている事実に真剣に目を向けるべきであるということを強く訴えるものであります。
まじめに働き、仕事の上でもだれが見てもベテランになっているにもかかわらず、女であるというだけの理由で昇進できないまま、何人もの上司を迎え、イロハのイから彼らに仕事を教え、また送り出していくという精神的屈辱に、どれほど多くの女性たちが耐え忍んできていることでしょうか。賃金格差も年々広がるばかりなのです。総理並びに労働大臣に率直に伺いますが、あなた方に働く女性のこの心の痛みと悔しさがわかりますか、誠意ある見解をお聞かせください。
私自身もこのような屈辱をなめて働いてきた経験を持つ者の一人でありますが、制定されるべき
法律は、これらの女性たちの切実な思いを真剣に受けとめ、それにこたえ、働く女性の人格的尊厳の確立に資するとともに、不当な差別をなくしていく道を現実に保障するものでなければならないはずであります。だからこそ、日本の婦人たちはこの法律に大きな期待と夢をかけてきたのです。しかし、政府提出の本法案は、その夢と期待を無残に打ち砕きました。
労働大臣に単刀直入に伺いますが、この法案で現在の男女賃金格差や昇任昇格の差別がどれほど有効に解決される見通しがたちますか、責任ある年次改善計画を明確にお示し願いたい。
以上、ごく要点のみ指摘いたしましたが、本法案が日本における雇用分野での婦人差別をなくしていく役割を果たし得ないばかりか、婦人の労働条件にかかわる現状を大きく後退させる内容を持つものであるがゆえに、我が党は本法案の撤回を強く求めてきたところであります。
今、国会の会期末を控え、我が党は、いかなる意味においても本法案は断じて認めがたいものであることを改めてここに表明するとともに、政府が、保護と平等を両立させ、真に婦人労働者の願いにこたえる実効ある男女雇用平等法案を次期国会に提出し直すことを強く求めるものであります。
最後に、私は、人口の半数を占める婦人の能力が公正に評価され、有効に発揮されてこそ、真の社会進歩と歴史の発展に貢献し得るものであることを確信しつつ、日本共産党が今後とも母性保護の充実を前提とした実効ある男女雇用平等法の実現を目指し、全力を尽くして努力する決意であることを表明いたしまして、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/21
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022・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 山中議員にお答えをいたします。
まず、本法案は、母性保護の権利を切り捨てる労働基準法の改悪を盛り込んでおり、反対であるという御質問でございますが、婦人差別撤廃条約の趣旨に照らせば、女子に対する特別の保護規定は、妊娠、出産に直接係る保護規定を除き、究極的には廃止すべきであると考えられております。また、婦人少年問題審議会の建議におきましても、それらは原則として解消することが求められるが、母性保護規定については存続ないし充実することが必要であると指摘されておるのであります。今回の法改正は、この考え方を踏まえて行ったものでありまして、母性保護を切り捨てるものではございません。
次に、本法案は募集、採用、配置、昇進などは努力義務にとどめて、罰則もなく実効性に乏しい、そういう御質問でございますが、本条約が明示的に差別を制裁を科して禁止するよう求めている事項を除けば、努力義務規定でも女子に対する差別の撤廃に有効であれば、条約上の問題はないと思料いたします。本法は、募集等につき努力義務規定を設け、かつ、同時に労働大臣の指針の策定等附帯的規定を設けておりまして、全体として条約の要請を相当程度実効性を持って実現することは可能であります。したがって、本法案は条約を批准する条件整備として十分なものであり、国際的にも問題ではございません。
条約におきましては、妊娠、それから母性休暇、婚姻、これらの理由によって差別、解雇をしないように制裁、禁止をしておるのでありまして、それ以外の問題については制裁、禁止というところには至っておらない。明示的に規定しておるのはこれだけでございます。
次に、多くの有能な婦人労働者が差別を受けて人格的尊厳を踏みにじられている実態をどうするかという御質問でございますが、我が国の社会経済の発展に重要な役割を果たしている有能な女性が、女性であるということだけで差別的取り扱いを受けることは不合理なことでありまして、我々は憲法を遵守して、もしそのようなことがあれば改善に努力をしてまいるつもりでございます。
次に、雇用における男女平等の実現を保障しないばかりか、労働基準法の改悪で婦人の労働条件を後退させるような本法案は認めがたい、新しい法案を提出せよと、こういう御質問でございますが、本法案は、婦人差別撤廃条約批准の条件及び婦人少年問題審議会の建議を踏まえて作成したものであり、適切であると考えておりまして、撤回する考えはございません。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/22
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023・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 山中議員にお答えをいたします。
長時間労働や深夜業が母性や健康に悪影響を与えないか、専門家の報告もあるのにこれらの規制や禁止を緩和しようとするということはいけないのではないかという御趣旨の質問でございました。
婦人差別撤廃条約上は、女子に対する特別の保護規定は、母性保護規定を除き基本的には差別に該当するので、究極的には解消することが必要とされております。本法案は、まず母性保護の充実の観点から、妊産婦の時間外・休日労働、深夜業を新たに禁止することといたしました。また、一般女子については、女子がより重く家庭責任を負っている現状を十分考慮して、一定の範囲内で女子保護規定を緩和することとしておりまして、これによって女子労働者の健康を損なう事態が現実に生ずるとほ考えられません。
女子の労働時間等の規制の緩和が全体の長時間労働に拍車をかけることにはならないという根拠についてという御質問がありました。
婦人差別撤廃条約に照らせば、母性保護規定を除く女子に対する特別の保護規定は究極的には廃止することが求められておりますが、本条約は漸進的な実施を認めているので、我が国の実情を考慮して、女子の時間外・休日労働等の規制の緩和は男女の均等な機会及び待遇の確保のため現段階において必要な範囲について行ったものでございます。したがって、この改正により労働者全体の長時間労働に一層拍車をかけるようなことにはならないと考えております。
次は、本人の申し出により深夜業に従事できることとする改正は、強行規定たる労働基準法の性格上疑問であるという御質問でございました。
女子に対する深夜業の禁止は、婦人差別撤廃条約上、究極的には廃止することが求められていますが、今回の改正においては、女子がより重く負担している家庭責任等を考慮して、暫定的な措置として部分的な緩和にとどめることとしたものであります。しかし、労働者本人が希望しているのに、あくまで深夜業に従事することを認めないということは条約の趣旨に反する結果ともなりますので、タクシーの運転者のような特別の事情のある者については、本人の申し出の場合、行政官庁の承認を条件に深夜業に従事することを認めることとしたものでありまして、労働基準法の趣旨に反することはないと考えております。
多くの有能な婦人労働者が差別的扱いに耐えなければならない実態をどう考えるかという御質問でございましたが、意欲と能力のある有能な女性が、女性であるということで差別的取り扱いを受けるような状況は解消さるべきである、そのためにこの法案を提出をいたした、こういうことでございます。今後とも企業の雇用管理が改善されるようにまた努力もしてまいります。
次に、男女賃金格差、昇任昇格の差別の解決についての法案の有効性及び改善の年次計画ということについてお尋ねがございました。
本法案では、企業の雇用管理における男女の異なる取り扱いのうち、性による不合理な差別的取り扱いの改善を図るための種々の措置を講じておりまして、したがって本法が成立、施行されれば、雇用の分野での男女の均等な機会と待遇の実現が着実に進んでいくものと考えます。
なお、年次計画については特に作成する必要はないと考えております。
保護と平等を両立させた法案を提出し直すべきではないかという御質問でございました。
婦人差別撤廃条約の批准のためには、雇用の分野に関する国内法制の整備の一環として、まず第一に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保するための立法措置、次いで第二番目に、母性保護規定を除く女子保護規定の改正が必要であります。本法案は、この問題を六年余にわたって審議してきた婦人少年問題審議会の建議を踏まえまして、同条約批准のための条件整備の一環として作成をしたものでありまして、現時点における最も適切な措置であると考えております。したがって、法案を提出し直す考えはございません。(拍手)
〔国務大臣安倍晋太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/23
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024・安倍晋太郎
○国務大臣(安倍晋太郎君) 山中議員にお答えをいたします。
婦人差別撤廃条約は雇用の分野における平等達成のため立法や制裁等の措置を義務づけているが、本法案は募集、採用、配置、昇進等は努力義務にとどめ、罰則もなく実効性に乏しい、これでも条約を批准する条件として国際的に誇れると思うかと、こういうお尋ねでございます。
本条約第十一条において、雇用の機会及び条件等につき、女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるととを求めております。すなわち、ここで求められているのは、各国一律の措置ではなく、女子に対する差別の撤廃に向けて実効的な措置をとることであります。したがって、そのような措置であれば、明示的に差別を制裁を科して禁止するよう求めている事項を除けば、条約上の問題が生ずるものではないと考えております。
本法案につきましては、募集、採用等につき努力義務規定となっておりますが、労働大臣の指針の策定等の規定を置いており、全体として条約の要請を相当程度の実効性を持って実現し得ると考えます。したがって、本法案は、条約批准の条件整備として十分なものであり、国際的観点から見ても問題はないと考えております。
次に第二問は、政府は婦人労働者に対する保護を解消しなければ婦人差別撤廃条約を批准できないと言うが、この条約のどこに時間外・休日・深夜労働などの規制や禁止の緩和、撤廃の必要を述べた項目があるのか、具体的にどの項目なのか示せと、こういうお尋ねでございますが、本条約は、第一条に言う女子に対する差別に該当するいわゆる女子保護規定については、第十一条一項等に基づきこれを見直し、基本的には労働条件を男女同一にすることを求めております。ただし、母性保護措置を維持することは、本条約第四条二項により認められております。したがって、このような女子保護規定に該当する労働基準法の規定については、これを見直し、男女同一の扱いにしていくことが本条約上求められております。
以上でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/24
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025・木村睦男
○議長(木村睦男君) 答弁の補足があります。中曽根内閣総理大臣。
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/25
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026・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 答弁の補足をいたします。
婦人の間に批判や反対の声があることを承知しているか、どうするかという御質問がございました。
本撤廃条約の趣旨と我が国の現状との調和点を求めてつくったのが本法案でございまして、現時点においては妥当な法案であると考えております。本法案は差別撤廃条約への大きな前進を意味するものでございまして、この条約にも十分合致していると考えます。したがいまして、御理解いただけるものと確信しておる次第であります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/26
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027・木村睦男
○議長(木村睦男君) 抜山映子君。
〔抜山映子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/27
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028・抜山映子
○抜山映子君 私は、民社党・国民連合を代表して、ただいま提案となりましたいわゆる男女雇用機会均等法案に関し、総理並びに関係大臣に対し質問をさせていただきたいと存じます。
周知のごとく、一九四五年に効力が発生した国際連合憲章は、つとに男女同権を前文にうたっております。また、戦後の民主化の中で、日本国憲法は男女平等の原理をうたい、教育の平等、婦人参政権の獲得など、女性史にとって第一次革命とも言うべき大きな変革がもたらされました。一九八〇年、婦人差別撤廃条約に署名した日本は、今、批准期限を来年に控え、民主主義国家として諸外国に引けをとらない男女平等の制度を確立することが急務とされております。特に、今回の男女雇用平等を目指す立法化は、女性史にとっていわば第二次革命を目指すものとして国民の熱い期待を寄せられております。
そこで、まず、総理にお伺いいたします。
政治には理想を求める姿勢と先見性がなくてはなりません。いたずらに現状を追認し、固定し、時代の潮流に背を向けるのでは、政治家としての資質に欠けると申せましょう。本案は、当初我々が期待していた男女雇用平等とは似ても似つかぬものであり、従来、実のない法律としてとかくの批判があった勤労婦人福祉法に接ぎ木をした形で、女子労働者は職業生活と家庭生活の調和を図ることができるように配慮されるものとするとあります。これでは従来の婦人労働の視点を延長させたものにすぎません。やはりここには、女子の労働権は人間としての尊厳を確保するために欠くことのできない基本的人権であるという理念を高らかにうたっていただきたいと思いますが、総理、お約束いただけないでしょうか。
本案は、募集、採用、昇進、配置について、男子と均等な取り扱いにするよう「努めなければならない」との努力規定になっております。先進諸外国では、これらについて禁止規定となっており、さらに国によっては違反した場合の罰則すら設けております。せめて我が国でも、これらの箇所を禁止規定にしていただけないでしょうか。このままでは、女性を採用の段階で門前払いにしておけば雇用の場の男女平等問題はすべて回避されることになります。もし御回答がノーであるならば、努力義務でいかに実効性を確保するのか、総理並びに労働大臣の御所見をお伺いしたいと存じます。
次に、労働基準法の改正について伺います。
労働基準法の改正については、母性保護を除いて、平等が実現すれば保護は外すのが当然ということが一部で言われております。しかし、本案を見ますと、平等の方は実がなく、保護の方はごっそり抜けております。しかも問題は、日本の社会は欧米諸国に比し、労働時間、労働条件、産業構造、社会環境すべてにおいて格段に劣悪であることを忘れてはならないと思うのです。
労働時間は、欧米では年間千七百ないし千人百時間であるのに比し、日本は二千時間を超えております。また労働条件については、我が国の国内法が未整備のままILO条約で未批准のものが多数あるという情けないありさまです。おまけに産業構造は、欧米に比して中小企業に勤務する者が多く、特に女性の場合は中小企業の中でも零細企業に働く者が圧倒的に多く、過半数の女性が組合もないような零細企業で働いています。また我が国では、保育所の数は公私立を合わせて二万二千八百五十四、うち延長保育所がわずか二百五カ所、夜間保育所が何と十二カ所です。また特別養護老人ホームは極度に不足しており、増設が急務とされています。その結果、育児も老人の介護もすべて婦人の肩にかかっている現状です。
まず、これらの社会的条件を欧米並みに整備し、育児休業制度も確立し、しかる後、保護を緩和すべきと思いますが、総理及び労働大臣はいかがお考えでしょうか。
本案の中には、省令によって定めるというのが二十以上もございます。省令委任は本来例外でなければならず、手続的事項に限るのが普通です。と
ころが、今回は、労働基準法を緩和するという重要な内容を省令によって定める箇所が余りにも多うございます。国会審議の中での追及を免れるために省令でなし崩しにすることは、国会審議の軽視にほかならないと存じますが、この点についての労働大臣、法制局長官の御所見をお聞かせください。
このような省令委任の箇所を縮減することはできませんか。この点について労働大臣の御回答をお願いします。
また、そもそも労基法女子保護規定の緩和については国民的合意がなされていないと存じますが、この点について総理及び労働大臣はいかがお考えでしょうか。
なお、外務大臣に伺いますが、女子保護規定を留保したままの条約批准は法的に差し支えないと存じますが、いかがですか。
次いで、救済機関としての機会均等調停委員会について、法律上の権限が極めて弱いことを指摘したいと存じます。
特に、相手方当事者の同意がない限りは調停を行うことができないとなっていますが、これでは全く実効がありません。多くの場合は差別した使用者になろうと存じますが、一方が同意しないことにより調停手続を封じることができるというのでは大問題です。民事調停でも家事調停でも相手方の同意を調停開始の要件にしておりません。調停はもちろん互譲の合意が必要ですが、互譲の意思は多くの場合調停中に形成されるのであって、スタートの時点で互譲の意思がなければ調停に付さないというのでは本末転倒です。ぜひこの不合理きわまる、同意を必要とする旨の部分を削除されるよう総理の英断を迫るものです。
さらに、本案には、調停等を申し立てたことによる不利益取り扱いの禁止条項がございません。これなくしては女性労働者は安んじて申し立てをすることができません。この条項を設けていただくことについて総理のお約束をいただけないでしょうか。
本案は、婦人少年問題審議会で使用者委員、労働者委員、公益委員が三論併記するという異例の建議を行った中での、妥協の産物としてでき上がったものであろうことは容易に想像がつきます。しかし、海の向こうから見た場合、国際社会の先進国たる日本が、いまだに男女の雇用の面では後進国であるとの印象を与えるものであることは明白であります。男女雇用問題が国際的非難の対象となり、新たな経済摩擦の火種となることも憂慮されるところです。
したがって、本案は、でき得る限りの修正を行うとともに、施行後適当な期間内に関係規定の施行状況を調査、検討し、これを見直す旨の規定を本案に明記することが必要だと存じます。この点に関する総理の御所見をお伺いして、私の質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/28
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029・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 抜山議員にお答えをいたします。
まず、女子の労働権は人間としての尊厳を確保するために欠くことのできない基本的人権である、その理念をうたうべきでないか、約束せよ、そういう御質問でございます。
勤労権は憲法第二十七条により男女共通の基本的人権として既に保障をされ、我々はこれを遵守すると申し上げておるものでございます。本法は雇用の分野における男女の均等取り扱いの実現を目指すものでございまして、その理念も明示しておるところでございます。したがって、御指摘の理念を本法案に規定するととは必ずしも必要ではないと考えておる次第です。
次に、募集、採用、昇進、配置について努力義務規定になっておるけれども、禁止規定にしないかという御質問でございます。
本法案は、将来を見通しつつ、我が国の現状を十分に踏まえたものとすべきとの婦人少年問題審議会の建議の考え方に基づき作成をいたしました。募集、採用、配置、昇進につきましては、当面努力規定とすることが適当であると判断をしておるものなのであります。
努力規定につきましても、その実効を確保するために種々の措置を講じております。労働省による方針の明示、あるいは婦人少年室長による指導あるいは助言、それから調停、こういうような諸般の措置を講じておりまして、これらにより十分効果を上げ得るものと考えております。
次に、女性の雇用改善、保育所、老人ホームの増設等社会的条件を欧米並みに整備して、育児休業制度を確立した後に保護規定を緩和すべきであると思うが、考えいかんという御質問でございます。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保するためには、母性保護規定を除き、女子に対する特別の保護規定はできるだけ早い機会に解消して、男女が同一の基盤で働けるようにするということが条約上からも必要であると考えております。今回の女子保護規定の改正は、我が国の経済社会の現状を踏まえて、無理のない範囲内で規制を緩和するものであり、妥当であると考えております。
次に、本法案の労働基準法女子保護規定の緩和については国民的合意がないではないかという御質問でございます。
婦人差別撤廃条約の趣旨に照らせば、女子に対する特別の保護規定は、母性保護規定を除いては究極的には廃止すべきものと理解しておるわけです。婦人少年問題審議会の建議におきましても、それらの改廃を行うことが必要であると指摘しております。今回の法改正は、この建議を踏まえて行ったものでありまして、国民的合意は得られているものと判断をいたしております。
次に、救済機関としての機会均等調停委員会の権限については極めて弱く、特に相手の当事者の同意がない限り調停を行うことができないことになっておる、この不合理な部分は削除さるべきであるという御意見でございますが、調停というものの性格自体が、紛争の当事者間に第三者が関与して、当事者の互譲、妥協により解決を図るものなのであります。したがって、実際上調停を行うことについて双方の同意がなければ調停そのものが始まらないという性格を持っております。本法案では、このような調停の性格を踏まえまして、双方の合意を調停開始要件として規定したものでありまして、当該部分を削除することは適当でないと考えております。
次に、調停等を申し立てたことによる不利益取り扱いの禁止条項がないが、設ける意思はないかという御質問でございます。
強制的手段でない調停等について、その申し立てを理由とする不利益取り扱いの禁止を規定することは必ずしも適当ではないと思います。しかしながら、調停の申し立てを理由として事業主が不利益取り扱いをすることは厳に慎しむべきことでありまして、そのようなことがないように適切な指導をしていく必要があると思います。
次に、本法施行後、適当な期間に関係規定の施行状況を調査、検討して見直す旨の規定を明記すべきであると思うがいかんという御質問でございます。
政府は、婦人差別撤廃条約の理想とする姿を念頭に置きつつ、我が国の社会経済状況を十分踏まえて、当面最も適切な措置として本法案を作成いたしました。関係審議会の答申にもあるように、今後社会経済状況の変化に対応し見直すことは必要と考えておりますが、あえて法律に見直し規定を設けることまでは必要ではないと、このように考えております。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣坂本三十次君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/29
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030・坂本三十次
○国務大臣(坂本三十次君) 抜山議員にお答えをいたします。
募集、採用、昇進、配置について禁止規定としない理由及び努力規定の実効確保の措置いかんと
いうことでございます。
本法案は、将来を見通しながらも、我が国の現状を十分に踏まえたものとすべきであるという婦人少年問題審議会の建議の考え方に基づいて作成したものでございます。すなわち、終身雇用慣行を前提といたします我が国の企業の雇用管理におきましては、募集、採用、配置、昇進では特に勤続年数が重要な要素でありますので、その平均的な男女差を無視することができないことから、当面、禁止規定ではなく努力規定とすることが適当であると考えたわけでございます。
本法案では、努力規定の実効を確保するため、努力目標を具体的に明示する指針の作成、婦人少年室長の助言、指導、勧告、機会均等調停委員会の調停等の措置をも規定しておりまして、これらにより本法の施行に万全を期してまいりたいと思っております。
次に、労働条件、社会的条件等を欧米並みに整備した後で女子保護規定を緩和すべきであると思うという御意見でございましたが、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保するためには、母性保護規定を除き、女子に対する特別の保護規定はできるだけ早い機会に解消して、男女が同一の基盤で働けるようにすることが必要であると思っております。本法案は、婦人少年問題審議会の建議も指摘するように、現実には女子がより重く家庭責任を負っておる現状、女子の就業と家庭生活との両立を可能にするための条件整備の現状など、我が国の経済社会の現況を十分踏まえて、現行の女子保護規定のうち、男女の均等な機会及び待遇を確保する上で現段階において特に必要なものについて緩和することとしたわけでございます。
次に、労働基準法の緩和に関する重要部分の省令委任は国会軽視ではないかという御質問でございました。
今回の改正により労働省令で定めることとしておる事項としては、非工業的業種の事業の時間外・休日労働の規制、いわゆる管理職、専門職の範囲、妊産婦の危険有害業務の就業制限等があります。これらは事業や労働の態様等に応じて、中央労働基準審議会等の関係審議会の意見を聞いて具体的に細かい内容を定めることが適当と考えられますので労働省令に委任することとしたものであります。労働省令に委任している事項については、その範囲などは法律上明らかにされておりますので、御指摘のような問題はないと考えております。
それから、労基法女子保護規定の緩和についての国民的合意はあるかというお尋ねでございました。
婦人差別撤廃条約の趣旨に照らせば、女子に対する特別の保護規定は、母性保護を除き究極的には廃止すべきであるという考えであります。また、婦人少年問題審議会の建議においても、それらは原則として解消することが求められておりますが、女子がより重く家庭責任を負っていることなど我が国の現状を十分考慮することが必要であると指摘をしております。そこで、今回の法改正はこの考え方を踏まえて行ったものでありまして、国民的合意は得られるのではないかと思っております。(拍手)
〔国務大臣安倍晋太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/30
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031・安倍晋太郎
○国務大臣(安倍晋太郎君) 抜山議員にお答えをいたします。
女子保護規定を留保したままで条約を批准することについての御質問でございましたが、政府としては、この条約をできる限りその要請を満たした上で批准したいと考えております。
今般の労働基準法の改正は、これまで既に数年間にわたり行われた専門家等による検討を踏まえ、労働省が一部の女子保護についてはもはやこれを維持する合理的理由がなく、条約の要請する機会均等の観点から特に改廃が必要であると判断した結果であると承知しております。したがって、外務省としては、このような女子保護規定を維持し続けることは条約の要請に沿うものではないと考えておる次第であります。(拍手)
〔政府委員茂串俊君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/31
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032・茂串俊
○政府委員(茂串俊君) 私からは、本法案中の労働基準法の改正条文に含まれております省令への委任の問題につきまして、労働大臣の御答弁を補足する見地に立って御答弁を申し上げます。
まず、一般論として申し上げますと、法律が一定の事項を下位の法令に委任するといういわゆる委任立法は、一般的に申しまして、例えば手続に関する事項とか、専門的、技術的な事項あるいは事態の推移に応じて臨機に措置する必要があると認められる事項などにつきまして、なるべく具体的に行われるべきであるものと考えております。
ところで、御指摘のように、本法案の中の労働基準法の改正条文には、命令に委任する事項が幾つかございますが、これらの事項はいずれも手続に関する事項のほか、専門的、技術的事項など、ただいま申し上げた命令委任になじむ事項でありまして、それぞれ合理的な必要に基づきまして、できるだけ個別的、具体的に委任することとしておるわけでございます。
なおまた、先ほど労働大臣からも御答弁がありましたように、労働省におかれましては、これらの委任事項の内容につきまして、関係審議会の意見を聞いて慎重に決定するとのことでありまして、本法案における命令委任の問題につきましては特段の問題はないものと考えております。
以上でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/32
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033・木村睦男
○議長(木村睦男君) これにて質疑は終了いたしました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/33
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034・木村睦男
○議長(木村睦男君) 日程第一 日本育英会法案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。文教委員長長谷川信君。
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〔長谷川信君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/34
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035・長谷川信
○長谷川信君 ただいま議題となりました法律案につきまして、文教委員会における審査の経過と結果を御報告申し上げます。
本法律案は、最近における社会経済情勢の変化にかんがみ、国家社会に有為な人材の育成と教育の機会均等に資するため、日本育英会の学資貸与事業に関し、無利子貸与制度を整備するとともに、新たに有利子貸与制度を創設するほか、日本育英会の組織、財務会計等の全般にわたる規定の整備を行うなど、日本育英会法の全部を改正しようとするものであります。
なお、衆議院において、本法の施行期日を公布の日に改めるとともに、学資金の貸与に関する規定は昭和五十九年四月一日から適用する旨の修正が行われております。
委員会におきましては、本法施行に至るまでの奨学生の救済措置の当否と本法案提出の仕方、奨学事業の基本理念と育英会の名称の妥当性、有利子貸与制度の是非と今後の運営方針、奨学生選考基準のあり方、奨学生採用率の国公立と私立との格差の是正、民間や地方公共団体が行う育英奨学事業の奨励策、大蔵大臣との協議を要する業務等の範囲の適否などについて熱心な質疑を行うとともに、参考人の意見を聴取いたしましたが、その詳細は会議録によって御承知願いたいと存じます。
次いで、質疑を終局することを決定し、討論に入りましたところ、日本社会党を代表して粕谷委員より、日本共産党を代表して吉川委員より、それぞれ反対の討論が行われました。
討論の後、採決の結果、本法律案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
なお、田沢委員より、無利子貸与制度を育英奨学事業の根幹とし、その充実改善に努めるとともに、有利子貸与制度は補完措置とし、財政が好転した場合には廃止等を含めて検討することなどを内容とする自由民主党・自由国民会議、日本社会党、公明党・国民会議、民社党・国民連合の四党共同提案による附帯決議案が提出され、多数をもって委員会の決議とすることに決定いたしました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/35
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036・木村睦男
○議長(木村睦男君) これより採決をいたします。
本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/36
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037・木村睦男
○議長(木村睦男君) 過半数と認めます。
よって、本案は可決されました。
本日はこれにて散会いたします。
午後零時十一分散会
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02619840801/37
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