1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六十三年十二月六日(火曜日)
午前十時開会
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委員の異動
十一月二十二日
辞任 補欠選任
高桑 栄松君 中野 鉄造君
十二月五日
辞任 補欠選任
中野 鉄造君 高桑 栄松君
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出席者は左のとおり。
委員長 前島英三郎君
理 事
佐々木 満君
宮崎 秀樹君
山本 正和君
中西 珠子君
委 員
石井 道子君
石本 茂君
関口 恵造君
曽根田郁夫君
田代由紀男君
田中 正巳君
対馬 孝且君
浜本 万三君
渡辺 四郎君
高桑 栄松君
沓脱タケ子君
藤井 恒男君
政府委員
厚生省保健医療
局長 北川 定謙君
事務局側
常任委員会専門
員 此村 友一君
参考人
順天堂大学名誉
教授 塩川 優一君
日本弁護士連合
会人権擁護委員
会第四部部会長 加藤 良夫君
日本赤十字看護
大学教授 芦澤 正見君
弁 護 士 鈴木 利廣君
東京都立大学教
授 西 三郎君
輸入血液製剤被
害者救援グルー
プ代表 石田 吉明君
全国ヘモフィリ
ア友の会元会長 北村千之進君
全国ヘモフィリ
ア友の会会長代
行 保田 行雄君
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本日の会議に付した案件
○後天性免疫不全症候群の予防に関する法律案(第百八回国会内閣提出、第百十三回国会衆議院送付)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/0
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001・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) ただいまから社会労働委員会を開会いたします。
後天性免疫不全症候群の予防に関する法律案を議題といたします。
本案審査のため、本日、参考人としてお手元に配付の名簿の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人の皆様に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。参考人の方々から忌憚のない御意見を承りまして、法案審査の参考にいたしたいと存じます。
これより参考人の方々から御意見をお述べ願うわけでございますが、議事の進行上、最初に参考人の方々からお一人十五分ずつ御意見をお述べいただきまして、その後委員の質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと思いますので、どうぞよろしく御協力のほどをお願い申し上げます。
それでは、まず塩川参考人からお願いいたします。塩川参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/1
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002・塩川優一
○参考人(塩川優一君) 私はエイズ対策専門家会議の座長をしております塩川でございます。
ただいま東京におきまして日米医学協力計画というのでエイズ部会という会合が行われております。これは、日本それからアメリカのエイズの専門家が集まってエイズの研究を進めるという会議でございます。そこで世界及び日本のエイズの状況について意見の交換が行われているわけでございます。
御承知のように、世界では現在エイズ患者が十二万人、またアメリカ合衆国だけでも七万人という患者がおりまして、しかも増加の一途をたどっております。特にエイズは、御承知のように患者の周辺に多数のエイズウイルスを持っていてしかも発症していない人たちがおりまして、その数はWHOの推定によりますと世界に五百万人から一千万人おるということでございます。そして、さらに現在、世界各国において患者の数が増加を続けているという状況でございます。特に、アメリカの学者の話によりますと、患者は今まで同性愛あるいは麻薬中毒というような人が多かったわけですけれども、これが特に麻薬中毒の患者がふえてきている。そしてまた、女性それから小児に患者がふえてきておりまして、アメリカの家庭の中に非常に悲惨なことが起こっているということが報告されておりました。
ところが一方、日本は、御承知のとおり患者の発生が非常に世界各国に比べておくれておりまして、昭和六十年の三月に第一例のエイズ患者が報告されたわけでございますけれども、その後だんだんふえてきているといいますけれども、世界各国の増加に比べますとはるかに遅いということでございます。御承知のように、今年八月三十一日の状況では患者数が九十人、それからさらにエイズウイルスに感染した人が千四十八人ということでございまして、その増加はそう著しいということは言えないと思います。
これもよく御承知のことでございますけれども、日本におきましては現在対策が着々と進められているというふうに私たちは承知しております。その中で特に大事なことは、やはり正しい知識、情報の普及ということでございまして、日本は幸いにして非常に知的水準が高い状況でありますので、こういうことが行われてきてかなり知識が普及してきているということでございますし、さらにこういう方策は非常に有効であるというふうに思っております。しかし、一たびエイズに感染した人に対しては、これは非常にお気の毒なことでございまして、世界的にも現在治療薬あるいはワクチンの開発ということが行われておりまして、今回の日米の協議でもそういう問題が討議されております。しかし、現在の見通しとしては、かなり年月がかかるんじゃないかということが一致した意見になっております。
そういう状況で現在できますことは、エイズのウイルスに感染した人あるいは患者さんにこれ以上このウイルスを広げないようにする、二次感染の防止といいますか、そういう手段が一番現在とり得ることだというふうに思っております。一方、もちろん患者さんのいろんな治療、それからこの方たちの救済ということも重要なことだということになっております。
現在、日本の状況から考えて、今後日本のエイズがどういうふうになるかということでございますけれども、御承知のように日本では血液製剤によって罹患した方が非常に多いわけでございまして、こういう方たちは本当にお気の毒だと私たちは思っている次第でございます。これに対しましては、現在血液製剤に対する対策が着々と進行しておりまして、今後新しい感染の方はもう絶対起こり得ないんじゃないかと私たちは大いにその点は期待しているわけでございます。
そこで、残る日本の患者の状況は何かといいますと、これは御承知のとおり性行為感染ということでございます。これにつきましては、現在既に日本でも男性同性愛それから異性間の感染ということで患者さんがふえてきておる現状でございますし、今後この方面の対策が特に重要と思います。これにつきましては、先ほどお話ししましたように、特にもう既に感染した人に対しては二次感染の防止という努力がさらに強力に進められなきゃいけないんじゃないかと私たちは思っているわけでございます。このような性行為感染症の中で母子感染というようなことも十分考えられるわけでございまして、これは現在日本では幸いにしてそういうことが非常に少ないわけでございますけれども、そういうことについても正しい情報あるいは知識の普及によって防止をしていかなきゃいけないというふうに思っております。
このエイズの現在の日本の状況を見ますと、確かに世界各国に比べると患者の増加は少ない。さらに日本のいろんな性行為感染症の状況を見ましても、これ以上非常に大きなエイズ患者の爆発的な発生はないんじゃないかという意見も聞いております。しかし一方、日本は単なる一つの国というよりも国際社会の中の国でございまして、昭和六十二年に日本に入国した外国人が二百十五万人、日本から外国に出国した人が六百八十万人というお話がありますけれども、恐らく今年はさらに多くの人たちが日本に入り、あるいは日本から出ていくということになると思います。
こういう状況ですと、私たちは相当な決意を持ってエイズ患者が特にこういう国際交流が盛んな中でどういうふうになっていくかということをいつも慎重に見守っていかなきゃいけないというふうに思っております。そういう点から、今後エイズの蔓延を防ぐ対策ということについて私たちは一層の努力が必要だというふうに思っておりますし、さらに五年十年たって、今後ヨーロッパ、アメリカあるいはアフリカのような非常なエイズの汚染ということが日本に起こらないように我々は責任を持って今対策を立てなければいけないというように考えているわけでございます。
本日はエイズの予防法案についての御審議があるわけでございますけれども、私たちはそういう日本の将来を考えて現在できることはやらなきゃいけないというふうに思っております。そのできることの中には、先ほどお話ししたような正しい知識、情報の普及あるいは研究の推進とかいういろんな方策があるわけですけれども、その一つの方法として、このエイズ予防法案というものはエイズの予防対策に役に立つということを私たちは信じております。そういうことで、日本の将来とさらに次代の日本の国民がどういうふうになるかということを我々は憂え、そしてそのために今全力を尽くす、そういうことでこのエイズ予防法というものに対して私たちはぜひこういうことをやっていただきたいというふうに考えておる次第でございます。
以上で私は一応終わりにいたします。どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/2
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003・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) どうもありがとうございました。
次に、加藤参考人にお願いいたします。加藤参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/3
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004・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 私は、日本弁護士連合会の第四部会というところで「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律案に対する意見書」を取りまとめた立場から意見を述べさせていただきます。
昭和六十二年七月に日弁連では意見書を取りまとめましたが、今日において一部修正が衆議院でなされましたけれども、基本的には日弁連がさきに出した意見書と変わらない、そういう見解を私は持っているものでございます。根本的には、この法案については抜本的見直しがなされなければならないという点が結論でございます。
まず、法案を考えるときには、第一に立法目的が正当なものであって、しかも各条項がその目的実現のために有効なものであるということが必要であると思います。第二に、立法の必要性が高いということが当然前提にならなければなりません。さらに、人権に対する制約は最小限度の事柄にとどめられており、かつそれが乱用されるおそれがないということが厳しく検討されなくてはならないというのが基本的な見方でございます。
そこで、法律実務家でございますので、法案の具体的な内容について見解を述べさせていただきますけれども、第七条のところには「医師の通報」ということで、感染者が医師の指示に従わない、かつ多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあると認めるときは、その感染者の氏名、居住地その他を知事に通報するという趣旨のことが記載されております。この具体的な医師の指示というのは、例えば感染者に対して一カ月ごとの定期的な健康診断を受けるようにというようなこと、あるいは風俗営業にかかわっている人に対してはそれにかかわらないようにするというようなことが基本的に想定されるわけでございますけれども、感染者がそうした指示に従わないということになりますと医師は通報するものとするという方向に関心を向けていく。そこで、かつ多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあるということを医師が認めるかどうかは、そうした患者さんの、つまり感染者がどういう生活をしているのかというようなことから憶測をするということにならざるを得ないだろうと考えられるわけです。
したがいまして、医師の通報というのが、指示に従わない、かつ多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあるというふうに、あたかも条文上は絞り込みがなされているように読めますけれども、現実の運用に当たっては医師自身の広範な裁量、医師自身がその感染者をどう見るかということで、ある意味では相当恣意的な運用がなされる危険性がこの条文上はあるだろうというふうに考えるわけであります。もし氏名等が知事に通報されますと、ほかの条文との関係でいきますと、十条の方で知事が職員にその感染者に対していろいろな質問をさせるということになってくるわけであります。つまり、行政が具体的な感染者のプライバシーに相当深くかかわるような内容でもって質問、調査に入っていくということになるわけでございます。
こうしたことが一たび起きますれば、感染者は一たび感染を受けた以上そこから離脱することができませんので、一生行政上マークされるということになりますので、この第七条の規定で通報されるかどうか、そこのところに対して不安を持つ感染者は、そもそも第五条で氏名等が特定されてない報告の義務が医師の義務として定められていますけれども、ここのところでも影響を受けてくるという構造になっています。すなわち、自分のプライバシーが侵害される危険ということを考えまして受診が抑制されるのではないかということが十分考えられるわけであります。
この受診が抑制されるということについては、衆議院の審議の過程で、都立駒込病院の根岸医師や帝京大学の大井医師によってかなり具体的な指摘がなされ、大きな危惧感が具体的なデータをもって示されております。すなわち、この法案が審議されるということが報道されるや、外来でエイズ検査を受けようという予約をしていた人たちが大量にその検査をキャンセルするという事態が現実に起きています。また、アメリカの州によってはいろいろな検査の守秘義務記名方式とか無記名検査方式等がなされていますけれども、ことしの八月十三日付ランセットによりますと、無記名検査とカウンセリングの導入によってたくさんの検査を受ける人が出てくるというようなデータが、守秘義務記名方式の検査よりも無記名検査とカウンセリングの導入の方がよりよい効果が得られるという論文が出ております。また、本年十月二十二日のランセットによりますと、大井医師がHIVキャリアの届け出義務について、エイズ検査、健診に及ぼす影響を論文として載せておりますけれども、結局法案が可決されますと、HIV感染の危険性を強く感ずるほどエイズ検査を受けようという意思が弱くなることを強く示唆するデータが指摘されております。したがって、この法案は潜在的なHIVキャリアのサーベイランスにとって逆効果をもたらすものと言えるという論文が発表されているわけでございます。
そういう点で、まず立法目的がエイズの蔓延の防止を図るということにありますけれども、その法が目的とする所期の効果が得られるかどうかについては、エイズの臨床に現実に当たっている医師やあるいは公衆衛生の学者等の見解というものが極めて重要な意味を持っているだろう、その意味で私どももそうした専門家の意見がより深く慎重に検討されるべきではないかというふうに考えるものであります。
第八条のところは、知事が健康診断の勧告等をなすことについて定めています。ここでは、第七条の二項のところで、医師が感染者からいろいろ事情を聞いているときに、その感染者にエイズの病原体を感染させたと認められる者がさらに多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあることを知り得たときは、その旨並びにその者の氏名等を知事に通報するということができるという規定でございます。それを受けて、期限を定めて感染者であるかどうかに関する医師の健康診断を受けるべきことを勧告することができるということになっておりますけれども、この医師が通報する内容というのは大変事実認定においてはあいまいなものになる危険性がございます。
例えば、風俗営業の幾つかの施設で複数性行為を行った感染者がいたとして、その感染者に病原体を感染させたのはどの施設のだれなのかというような話がどういう形で医師に察知されるのかということは非常に現実の場面を想定しますと難しいだろう。風俗営業のAさんがどうやら感染源らしいということになりますれば、その旨が医師から知事に通報されるということになります。そうしますと、知事は具体的にどういう手続を踏んでその健康診断を受けるべきことを勧告するのかという点について特段の定めがないまま第八条で健康診断を受けるべきことを勧告することになっていきます。
もし仮に、あるところの例えば御主人が同性愛の関係者であって、その人が感染源であるというようなことがお医者さんから通報されていますと、知事は健康診断をその人に受けろということになっていきます。もしそれがシロであったということになっても、大変そのことによる家庭的な影響、社会的な影響というのは大きなものであるだろう。また、そのことによってこうむるプライバシーの侵害ということは相当深刻なものであると同時に回復が極めて困難ということになります。したがいまして、その規定を受けて健康診断を受けるべきことを命ずることができるということに八条の第二項ではなりますけれども、ここでも罰則を設ける規定でございますので相当問題点が出てくる。つまり、市民生活において間違ったそうした命令がなされたときの救済ということは大変深刻な問題をはらんでいるというふうに、人権上ゆゆしき問題が出てくる危険性を指摘せざるを得ないわけであります。
あと、質問、調査の点でも、虚偽のことを言うということになりますれば罰金に処せられるというのが第十六条に定めてございます。ただ、この規定の全体を見ますと、一切質問に答えない、協力しないということについては何らの制裁もなく、虚偽の答弁をした者に対して罰金に処するという、非常にそういう意味ではこの質問、調査というのが実効性を持つのかどうなのかさえ疑問でありますが、その運用いかんによっては大変問題が出てくるであろうというようなことを考えるわけでございます。
こういう意味で、条文の個々のすべてを指摘することはできませんけれども、人権保障、殊にデュープロセスの観点から国民の人権を守るという立場で見ますと抜本的見直しを要する法案であるというふうに私どもは考えています。
御清聴ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/4
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005・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) どうもありがとうございました。
次に、芦澤参考人にお願いいたします。芦澤参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/5
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006・芦澤正見
○参考人(芦澤正見君) 芦澤でございます。
私は、この法案に対して賛成いたしかねるという見地から私の見解を述べたいと思います。
まず、今度のこの法案では、前の参考人が言われましたとおり、医師に広範な裁量権、いわば恣意的にわたるおそれが多分に考えられるような法案でございますが、そのような非常に広大な、法律上の用語を知りませんが、権限かどうかわかりませんが、それを与えているということでございますが、多忙の実地医家が十分な時間をとってそれに対するデータを出すということは非常にそれは無理があるのではないのか。しかも日本ではこのカウンセラーの制度が公的にはありませんし、まだ一般にも理解が得られてない、そのような状況においてはなおさらでありまして、そういうふうなこともしないままに性病予防法の条文というものを明らかに下敷きとしたと見られる法案を極めて拙速に政府提案で出されたということは、非常に私は理解に苦しむものでございます。
次に、血友病の関係の団体の方々の意見は徴されたようでございますが、これから一番リスクにさらされるホモの人たちの代表、そのような方々の団体等もあるやに聞いておりますが、そういう方々の意見を聞くことも民主主義の世の中ではまず考えなければならないことでないかと思います。
欧米の例に徴しますと、かなり知的水準の高い方々がホモ志向のようでありますが、このような人たちは、一たんその氏名とか社会的地位というものがわかりますと一生を棒に振る、あるいは家庭関係をも破壊する、こういう極めて重大な人権に対する侵害になるおそれが多分にあるのでございます。したがいまして、ホモの人たちが自由に意見を述べる機会とその場を国会は提供すべきではないかと考えるものの一人でございます。そして、そういうふうなことをしないまま法案を強行に通そうとするということは、明らかに最も危険にさらされている人たちに対する偏見、差別というものが背後にあるのではないのかと想定されても反論することはできないのではないでしょうか。
私は、このような法案がほとんど大多数を占める人の不安を単になくすために用意されている、そしてしかも政府は何もしないのではない、こういうふうなことはやっているんだということの体面のために出されていはしないかということを心配いたします。少数者のための、特にその一番の関係のある人たちは数でいえば少数ではありますけれども、基本的人権にかかわることに対してこのような法案の出し方で果たしてよいのでしょうか。
こういうふうな法案がもし通るとするならば、ますますそういうふうなこの法律に沿って報告をしない、通報をしないという医師をその人たちの情報によりましてセレクトして、そういう医者のところにだけ参ります。そうしますと、ますますこの法案はいわばざる法になってしまいます。形だけはある、しかし実際はざる法である。そういうことになりますと、売春防止法や現行の性病予防法の届け出の漏れがたくさんあるということは周知の事実でございますが、その二の舞三の舞を踏むことになることは火を見るよりも明らかと思います。
現在のこの性病予防法の届け出制度によりまして、ちょうどこの法案の第七条の二というところに相当する条文が現行性病予防法にもございますが、梅毒血清反応を受けた人が全国で一年間にわずか三百人程度でございまして、そのほとんどが東京都と大阪市のみでございます。それから指示違反に当たりますものは昭和五十九年の統計でわずか七例でございまして、しかもその五例は東京都で、治療中断ということでございまして、感染源と思われる者というものは青森県の二例にすぎないのでございます。こういうふうなことを見ますと、今の性病予防法でさえこうであるにもかかわらず、なぜ厚生省が、よく御存じの技官が局長以下大勢いらっしゃるにもかかわらずこれを出されたということについてどうも私は理解に苦しむわけですね。
さらに、性病予防法の第六条による届け出の総数というのは九千四百六十五でございます、これは昭和六十二年でございますが。しかしこの数は、STD、性行為感染症のサーベイランスが昨年の一月から実施されておりますが、それによります数よりかぐっと少ないのでございます。サーベイランスの定点診療機関としてモニターをした診療機関は大体今五百八十ぐらいだと思われますが、その数が法律によるものよりか非常に多いということは、いかにこの性病予防法の届け出の漏れが多いかということがわかります。
例えば、一番少ないのは宮城県がゼロ、秋田、茨城、栃木が一件、三重、奈良、香川が四件、長崎が七件、静岡が八件、福井が十件でございまして、隣同士の県でも物すごく差があるということはおよそ考えにくいのでございまして、恐らく十倍前後の届け出漏れがあろうかと思います。また大阪府は、昭和四十年から十、十一月の二カ月に限りまして皮膚・泌尿器科、産婦人科の専門的な医療機関に診療を受けた患者の実態調査を無記名でやっております。それは一昨日第一回の性感染症学会が品川で開かれましたが、約四十幾つかの定点からの届け出がそれを六倍した一年間の届け出の何倍にも当たるのでございます。ということは、私の言いたいことは、このような届け出の義務、しかも中断とか指示違反とか非常に多くの感染のおそれがある者に対しては、氏名それから居住地等もわかるような、そのような通報はむしろ非常に効率が悪いということを言いたいのでございまして、現在のサーベイランスのシステムを質的、量的に拡充することによりまして十分それにこたえることができると思います。
厚生省は、全体の動向というものをいち早くキャッチするという統計的なデータ、解析データだけで十分でありまして、一人一人のアイデンティフィケーションというものは要らないはずでございます。そしてそれは主治医に任すべきである。したがいまして、今のサーベイランスの指定医療機関を内容を勘案しましてもっとふやす、そしてそのデータというのはその委員会の中だけである、ほかにはリークできないような仕掛けを考える、そういうことをした方が実際に困っている患者さんにはありがたいのではないのかと思います。
まだ発症する心配がある、あるいは感染をする心配がある、こういう人たちが進んで検査を受ける。そしてさらに行政として進めるならば、血友病の患者さんで感染した、発症したという人たちだけでなくて、すべての感染者、発症者に対して公費の医療を進めるべきであろうと思います。既に難病の研究班が厚生省でもう十年以上続いておりますが、治療費の公費負担という、治療研究という形で進められておりますが、これは私はプライバシーを秘匿する意味で非常に賢明な方法だと考えます。
そういうふうなわけで、私は今の法律というものが絶対必要で、これがなければだめであるという理由を何回読んでも見出せないのであります。むしろ現行の方法、サーベイランスあるいは難病の治療研究班、こういう形で進めることができるのではないでしょうか。現在でも塩川名誉教授を委員長といたしましたエイズの委員会がそれぞれのサブグループに分かれまして調査研究を進めていらっしゃいますが、それで数が把握されているのを見てもその効果は上がりつつあると思います。
一方、この法案によります報告ないしは通報という制度は、行政としては二重行政、こういうそしりを免れないと思います。そうして、一方においてサーベイランスの足を引っ張るような、感染者、通報者がそれを忌避するという点から足を引っ張るような効果がないとも限らないと思います。
先ほど加藤参考人がランセットを引用されましたが、私も資料を用意してまいりましたが、既にお述べになりましたので省略させていただきます。
それから八月末に厚生省、WHOの共催でしょうか、東京でエイズのカウセリングシステム、特に血友病の患者で感染、発症した人に対するシンポジウムが開かれたわけでございますが、そのときのWHOのドクターが本人のプライバシーというものを侵すようなそういう制度でエイズの感染率というものを調べようとするならば、むしろそれはネガティブなそういう効果を持つと、こういう言明を毎日新聞の記者にしております。
そういう点から考えまして、今回の法案に対しては私は賛成いたしかねますし、それに対する代案を申し述べた次第でございます。
以上で終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/6
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007・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) どうもありがとうございました。
次に、鈴木参考人にお願いいたします。鈴木参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/7
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008・鈴木利廣
○参考人(鈴木利廣君) 私は血友病患者に血液製剤輸注によってヒト免疫不全ウイルスの感染被害が生じたことについて、その製剤を扱った企業及び国、厚生大臣の法的な損害賠償責任に関して意見を陳述したいというふうに思います。
私はこれまで医療問題に深い関心を抱いてきた弁護士ですが、昨年の十二月から一年間、この問題について私どもの弁護士グループで研究を重ねてきました。これまで文献、新聞報道などを参考にして、研究者の助言を得、被害者の声に耳を傾けてまいりました。私ども弁護士グループでの損害賠償請求訴訟の準備の過程での議論を踏まえて、この問題についての私の意見を述べたいというふうに思います。
国及び製剤業者の責任の根拠については、まず企業について言えば民法の不法行為責任であり、そして国、厚生大臣の責任については国家賠償法の責任となりますが、その責任要件である過失につきましては、改正後の薬事法上の責任を中心としてこれを構成することが可能だというふうに考えております。
すなわち、企業責任に関しましては、薬事法五十六条が汚染されているおそれのある医薬品の製造、販売、輸入などを禁止しており、この五十六条に違反するというふうに考えますし、厚生大臣の責任に関しましては、医薬品の安全性確保責任に基づく薬事法の六十九条以下、第九章と題する監督権限の不行使であります。
これらの責任を論じるについては、血液製剤が「病原微生物により汚染され、又は汚染されているおそれがある医薬品」であるということについての予見可能性や、あるいはHIV感染の回避可能性を検討しなければなりません。
まず、その予見可能性について申し述べたいと思いますが、一九八一年、昭和五十六年六月のアメリカにおける症例報告以来、主としてアメリカ国内でのエイズ対策に目を向けますと、一九八二年、昭和五十七年から翌年の五十八年、一九八三年三月の段階までにかけて、次のような事実が明らかにされております。
すなわち、ウイルスによる感染症の疑いがあるということ、したがって血液を介して感染の危険があり得るということ、三番目には血液製剤輸注を受けている血友病患者に本疾患が発生しているということ、そしてアメリカの防疫センター(CDC)や全米血友病団体(NHF)、さらにはアメリカ連邦食品医薬品局(FDA)などでの検討が始まり、血液製剤使用に関する警告や勧告が相次いで出されていたということ、さらには血液凝固因子製剤の製造メーカーであるトラベノール社によって感染のリスクの低い加熱製剤の供給が可能になったということが明らかにされています。
これからの情報の一部は、我が国においても日本語で報道されているようであります。製剤企業や厚生大臣はこのような情報を知ることの可能な立場にあり、血液製剤による感染の予見は可能であったというふうに考えます。現に、一部の専門家たちはこのことを知っていたということが報道されているわけです。そして、我が国の予防対策にとってこの時期、すなわち一九八二年から八三年の三月までのこの時期での国の対応こそが決定的に重要であったというふうに考えます。しかし、現実の対策はすべて一九八三年、昭和五十八年六月に研究班が発足した以降の対策であり、しかも決して迅速とは言えない対応であったというふうに考えています。
次に、感染の回避可能性についてですが、この点の検討を要するところがこれまでの薬害との違いの一つであるとも言われています。すなわち、製剤を使用しなければ血友病の出血で死亡することもあり得るのではないかというふうに考える方がおられるからです。そこで、汚染されているおそれのある血液製剤について企業はみずから進んで、また国は薬事法上の監督権限を行使して使用を差しとめ、その上で血友病治療に関しては一方でクリオなどの国内血液の使用へ転換し、不必要な血液使用をやめるよう医師や患者に勧告し、他方でトラベノール社などの加熱製剤の輸入を早期に認可すれば、感染をこれほどまでに拡大せずに済んだと言えるのではないでしょうか。
現に、我が国でも一部の医療機関ではこの時期に輸入製剤の使用を禁止し、クリオなどに転換することで感染を食いとめながら血友病治療責任を果たしてきたと伝えられています。また、HIV感染の危険をとるか血友病の出血による危険をとるかの選択を迫られることが仮にあるとすれば、その決断は正しい情報や医師の助言に基づいて患者自身が決定する事柄であるというふうに考えます。したがって、企業は感染の危険性についての情報を収集し、患者、医師に知らせ、汚染のおそれのある製剤の使用中止を呼びかけ、これを回収すべきであるのに、これを怠った責任があるというふうに考えています。
また国は、アメリカにおいて血液による感染の疑いが生じた一九八二年、昭和五十七年の段階で研究班を設置して情報を収集し、感染防止対策を講じ、薬事法上の権限を行使して、一方で製剤の使用、販売差しとめ、回収命令などを行い、他方で国内血液への転換、加熱製剤の早期輸入認可などをすべきであったのに、これを怠った責任があるというふうに考えております。したがって、製剤企業や国に感染被害の法的賠償責任が存するというふうに考えている次第であります。
薬害の歴史は、サリドマイドが一九六一年、昭和三十六年に始まり、その後、主なものを挙げても、スモン、コラルジル、クロロキン、予防接種、筋短縮症など、そしてHIV感染と、後を絶ない状況にあります。
医薬品を扱う企業においては、患者の安全性に対し最大限に配慮するという基本的資質や社会的責任が欠如しているのではないかとの疑問を抱いています。そして、国においては具体的監督権限が薬事法によって付与されていなかった時代のスモンですらその法的責任を肯定されていますし、しかも改正薬事法によってさまざまな権限が付与され、これを行使できるにもかかわらず、これを怠った責任は極めて重大であるというふうに考えています。また、WHOが昭和五十年、一九七五年に行った勧告、すなわち血液は自国の自給体制をとるということ、この勧告を軽視するなど、血液行政の過ちを犯した責任も私どもは重要視しております。
最後に、今国会で審議されております二つの法案、すなわちエイズ予防法案と血友病患者に対する救済案について意見を述べたいと思います。
今国会で審議されておりますこの二法案については、まず救済法案についてですが、まず第一にその救済案の参考とされています医薬品副作用被害救済基金制度の運用についての問題点を無視してはならないというふうに思います。すなわち、この基金は入り口のないマンションに例えられ、制度が立派でも中に立ち入れないと言う人もいるように、要件が厳格で十分に機能していないと言われています。仮にHIV感染の救済の場合を考えてみますと、血液製剤の輸注を受け抗体検査が陽性であったとの主治医の診断書を添付しなければならないことになります。全国ヘモフィリア友の会のアンケート調査の結果によっても、血友病患者の約半数は検査結果を告げられていません。患者や家族が求めても告知されない人々も少なくありません。血友病治療の過程での感染であることを考えると、これからも世話になり続けなければいけない主治医にこのたぐいの診断書を求めることができる患者は、そう多くないかもしれません。
また、救済申請をすることでプライバシーが侵害されることを恐れる患者も少なくないことが指摘されています。輸入血液製剤被害者実態調査アンケートの中間報告でも明らかにされていますように、救済案が企業や国に賠償責任があることからしても極めて不十分であり、かかる不十分な救済を受けるためにプライバシーを侵される危険があるのであればあえて申請をしないと考えている患者もおられるようです。救済案は運用次第で絵にかいたもちになりかねないのであります。
次に予防法案についてでありますが、修正された予防法案ですが、これについては私も加藤参考人が述べましたように人権侵害の危険のある法案であり、廃案にすべきだというふうに考えております。予防法案を救済案とセットにしてこれを強行採決することで感染被害の法的責任をあいまいにし、また感染者の差別を助長することで被害者の訴訟提起を封じ込めようとしているのではないかというふうに推論する弁護士もおります。また、一般の方々の中にもそう思っておられる方がいることを知りました。
私たちに寄せられた相談ですが、匿名の人々がいることからすれば、また法案が昨年上程されてから駒込病院のエイズ外来の予約がキャンセルが増加したことから考えても、法案の成立によってこのようなことがあり得ないことではないかもしれません。しかし、私たちが被害者から聞いたことやじかに接して感じたことから申し上げれば、少なからぬ被害者や家族が無念を晴らしたいと考え、法案の成立によってかえって国に対する怒りを助長させ、訴訟による責任追及の決意を固め始めています。
最後に、今後の感染対策や薬害防止の観点から、今回の血友病患者に生じたこの感染被害という悲劇がなぜ起きたのか、防止することは果たして不可能であったのかについて徹底した解明がなされる必要があると考えます。今、国会に求められていることは、HIV感染者や発病者、そしてこれらの人々の家族の反対を押し切って予防法案を成立させることではないのではないでしょうか。一方で強制力を伴わないサーベイランス体制による予防対策を展開し、他方でこの感染被害という薬害の加害責任を明らかにすべく調査を開始することだと考えます。弱者や少数者を切り捨ててしまえば、私たちの社会のひずみは一層深刻になります。国民の政治的不信もさらに募ると思います。本委員会には賢明な御判断をお願いしたいというふうに申し上げます。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/8
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009・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) ありがとうございました。
次に、西参考人にお願いいたします。西参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/9
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010・西三郎
○参考人(西三郎君) 私は、現在、東京都立大学にて社会福祉行政論講座を担当しております。私の専門は、医学を学び、公衆衛生学を修め、特に衛生行政についての研究を行っております。
本日は、エイズ法案について賛成の立場から、最初にエイズ法案についての意見の基礎となる公衆衛生及び衛生行政における法律制定とその意義について簡単に述べたいと思います。その次にエイズ法案とその内容の意見について述べ、最後に補足的な事項について意見を述べたいと思っております。
公衆衛生及び衛生行政の歴史を見てみますと、伝染病の蔓延の防止のための社会防衛として施策が展開されました。その内容としては、伝染病の防止及び生活環境の整備という観点から規則、取り締まりということが中心であり、日本もその例外ではありません。しかし一方では、公衆衛生の最も重要な事項として衛生教育ということが言われております。先ほどの権力的な公衆衛生活動に関しては、公衆衛生の立場からいけば、当然ながら本人が納得し自発的に健康的な生活を過ごすように教育的な機能を併置しなければなりません。特に戦後の我が国の憲法に基づくことからいけば、この衛生教育ということは権力的な行政と不可欠な形で進められなければならないし、また行政当局もそのように努力しているものと考えております。それで、エイズを含めてすべての感染症対策については権力的な側面と教育的な側面、特に人権を擁護するということは不可欠なことと考えております。
衛生行政における法制定の必要性については、国は衛生行政を通じて国民の健康的な生活を確保する責任があります。その具体的な責任を果たすことの表現として法律を制定するということであります。逆に言えば、法なくして行政の展開ということは法治国家としては妥当なことではない、さらに言えば許されないことと考えております。
現在の福祉関連の行政は、現在のエイズもそうですけれども、要綱その他により予算措置において行われておりますけれども、本来感染症対策のように規制的要素を含むものに関しては、法律をいち早く制定することが妥当であると考えております。法律を制定することは、衛生行政を担当する者にとってその法律の中身にある人権の擁護、法の目的を達成することとあわせて人権の擁護に当然のこととして努めなければならないと考えております。逆に言えば、法がなければ行政の裁量権がさらに拡大される危険を持っていると言えましょう。そういう面で法の制定の必要性ということが特に高いと言えます。
特にエイズは、先ほど塩川参考人から御紹介がありましたように、国際的にも非常に急激に患者が増大し、現在の日本における発生の状況が多少少ないということを理由として国の責任としての法の制定を怠ることは許されない。国際的に急激に増加し、日本もその国際社会の中の一員として流行が蔓延することを阻止するためにも、エイズの流行防止のための法の制定が不可欠であると考えております。
法の制定を権力の象徴として見るか、民主的な国家として国民の権利を守るために制定するか、こういう面での区分を明快にする必要があると思います。先ほどから加藤参考人及び鈴木参考人から法の内容についての意見がありますが、法の運用の問題としての御意見かと承ります。私どもはこの法については、人権の尊重、プライバシーの保護を全うすることを含めて、法の制定の必要性を感じております。
この法の内容を見てみますと、衛生関係の法律では初めて患者等の人権の保護に関する規定を設けております。このことは、エイズ法案が特に人権の保護の重要性を示唆しているものかと思います。先ほど申し上げましたように、衛生行政が歴史的に社会的防衛ということからとかく規制を中心としておりますが、このエイズ法案に見られるように、人権の保護ということに関して今後他の衛生行政にもこの考えが普及することが必要かと思っております。
次に、この法案の中身にあります「医師の通報」に関しては、衛生行政としては通常医師の通報は保健所長を経由して都道府県知事にするという形をとっております。今回、らい予防法と同様に、保健所長ではなく都道府県知事としてあります。このことは、保健所の重要性を否定するものではありませんが、少なくとも経由する箇所を少なくすることによりプライバシーを守ろうという配慮があるかと思います。なお、都道府県知事に法律で委任をしても、保健所法第三条による職権委任、保健所長への委任の道が開かれております。しかし、ここでは行政の指導によって各都道府県が職権委任をされないことを私は期待し、らい予防法にあるように保健所長経由でなく知事直接とすることの必要性を感じております。
それからさらに通報の問題について、先ほどのお二人の参考人の御意見と多少違いますが、運用の問題と言われておりますように、私も運用の問題に関しては十分な配慮をすることを前提として、この法案に示されている医師の通報の内容とされる事項が非常に限定されているということ、このことで現行の制度の中では運用により十分生かせるし、施行令及び施行規則、行政指導、こういうものが十分に行われることを期待するものであります。それからなお、医師の裁量権が増すということに関しては、先ほど御紹介しましたが、私も医師としてその疑義がなくはございませんけれども、やはり医学界においても専門的な立場から医師の通報する事項に関する詰めをすることを期待するものであります。
それからさらに、行政の長の健康診断の勧告、命令及び行政の長による指示、質問権、さらには入国の拒否等の権力的な行政が規定されております。これは疾病予防、特に感染症の予防ということからいけば、最低限の事項としてこのことは欠かせない事項であると私は考えております。その意味から、エイズ法案の内容について運用に関しての十分な配慮をすることを前提として、法律としてはこの形態で私は十分ではないかと考えております。
その次に、追加の意見の補足として四つの事項について簡単に述べたいと思います。
公衆衛生として最も重要な衛生教育についてです。現在患者等への差別が言われておりますが、このことを解消させるためには衛生教育の方法によることが重要かと思っております。この法案の中にもありますが、特に今後衛生教育に重点を置いていただきたいと思っております。
それからさらに、患者の潜在化ないしは検査受診者の潜在化ということが言われております。このことも、法律を制定するから潜在化することから、法律を制定しなくてよろしいと言うには少し議論の飛躍があるかと思います。社会的な国としての責任を全うするという意味からも、その法を施行することによる潜在化及び受診者の潜在化ということを防止するためにも教育的側面がより重要であるかと思います。さらに、国民が必要以上に不安を持つことのないよう、教育的な事項を重ねて行政として進めることを期待しております。一部のマスコミにおいて特定の個人のプライバシーの侵害を疑われる行為が見られなくはない、また将来においてもそういうことの可能性がありますが、このことはエイズ法案の問題とは別に、プライバシー保護の観点から十分なマスコミその他に対するプライバシーを侵さないことの指導の必要性があるかと思います。
それから、その次に独立立法の必要性について意見を述べたいと思います。この法律を独立立法にするか既存の伝染病予防法ないし性病予防法の枠の中に入れるかということについては、先ほど芦澤参考人が申されたように、性病予防法の不備、それから伝染病予防法は御承知のように片仮名の法律という形で、非常に不備な状況が多数ございます。このエイズに関する法を含めるとなると、伝染病予防法及び性病予防法の基本的な改正をしなければならないと私は考えております。そういう面で、国際的にも社会的にもエイズ法案の制定の必要性が急務であるということから独立法をとらざるを得ないというふうに考えております。この独立法によることのマイナスを私は否定するものではありませんけれども、社会的に国際的に、国家として法をつくり、法をつくることによってエイズ対策を進めるために、独立法をつくることに賛成するものであります。
それから、その次に三番目として、臨床の医師の中にエイズ法制定に反対する意見が見られております。この人たちの意見については個別に私は当たっているわけではありませんけれども、最終的にどこまで法なくして、行政の介入なくして臨床医師が主治医と患者関係の中だけで流行を阻止できるかということについては、行政を勉強している者にとってはいささか懸念のあるものであります。
さらには、公衆衛生の同僚においても同じように法制定についての反対意見があります。先ほど申し上げましたように、法律をつくるということは国の責任として行政を行うことを明示するものであり、逆に行政における裁量、恣意、医師の裁量、恣意、こういうものを制約するものと私は考えております。公衆衛生を専門とする立場からいけば、法をつくり法を通じて、このエイズの流行を阻止するための阻害要因に対しては積極的に衛生教育その他の方法によりこの法の目的を達成することが必要かと思っております。
先ほどありました難病患者の研究に関する公費負担制度に関しては、私もそれにかかわっておりますけれども、これは患者としては権利として難病の医療費を請求することはできません。研究という形でしか対応されておりません。サーベイランスにおいても、サーベイランスに協力する医師の好意に依存しております。やはり安定した行政としてエイズ予防を進めることが私は必要と考えて法案に賛成いたします。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/10
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011・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) どうもありがとうございました。
以上で午前の参考人からの意見聴取は終わりました。
これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑のある方は順次御発言願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/11
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012・対馬孝且
○対馬孝且君 参考人の皆さん方の陳述を聞きまして非常に参考になりました。感謝を申し上げたいと思います。
各党割り当てが短かい時間なものですから、同僚議員の質問もございますので一点だけ私お伺いしたいと思います。塩川先生と西先生にぜひお伺いしたいと思います。
私は、この法案を私なりに検討いたしてみましたし、また今お伺いいたしましたが、一口に申し上げまして今出ている法案の内容というのは社会防衛的な色彩が非常に強いのではないかと感ずる点がございます。しかし、私は率直に申し上げまして取り締まり的なニュアンスが非常に強い、一般に与える恐怖感もこれまた非常に強い。そしてまた率直に申し上げますが、どうもこの法律をつくってみてもその目的がこれは達成されるということには逆にならないんではないか、こういう感を実は深くいたしているわけであります。
そこで、先ほど加藤参考人からも言われましたが、例の衆議院段階における根岸参考人の陳述の中にございましたが、私なりにこれちょっと調べてみました。当時、一九八六年の十一月に松本市のエイズに感染したじゃぱゆきさんの報道が新聞で一斉に報道されました。このときのキャンセル率の比率を見ますと二〇・六%でございます。私なりに調べました。ところが、このエイズ法案が三月六日この国会に提案されると発表されたこの時点、その後のあれを見ますと四三・二%の方がこれはキャンセルされているんですね。これは数字はうそを言わないのでありまして、そういったことをもってしても明らかに、いかに恐怖感であり、差別、偏見、人権という問題に異常な関心を持っているかということを私証明していると思うのであります。
そういたしますと、端的にお伺いしますが、むしろ法律をつくってみたが、逆にそういうエイズ感染の方々あるいは血友病の方々全体を含めて言えると思うのでありますが、むしろ地下にどんどん潜っていくということになる。それでは何のための法律か。むしろ病気を蔓延させるためにつくった法律になってしまうじゃないか。素人的な考えでありますが、むしろこれは病原体をなくし絶滅するということでなくて、逆に病原体を蔓延、広めるという法律になっているのではないかという懸念を強く持つわけであります。
この点につきまして率直な感想なり御意見をお伺いしたい。お願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/12
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013・塩川優一
○参考人(塩川優一君) ただいま法律をつくっても意味がないじゃないかという御意見を伺ったわけでございますけれども、エイズの防衛ということはこれは個人ではとてもできないことでございます。やはり国家を挙げてこの世界を脅かしている病気に立ち向かわなきゃいけないということでございまして、そういう意味で、この法律によって国を守る、国民の健康を守るということが私は必要だというふうに思っております。
ですから、ただいまお話がありましたように、いろいろキャンセルがあるというお話もございましたけれども、これはやはりこの法律の内容、それから法の趣旨が十分社会に徹底していない。若干マスコミの一部などでもかなりこれは危険な法律だというふうな報道がされているということにもよっていると思います。
この法案を私も読ませていただきましたけれども、これは内容は、ただ二次感染の防止あるいは先ほどお話のあったような患者の通報ということでなくて、さらに研究の推進その他、これが正しく施行されますと今度は患者さんあるいは被害者が非常に利益を得る法律というふうになっていると思います。ですから、この法案の趣旨、特にこれは結局社会を防衛し、そして今かかっていない人たちが皆今後既にかかった人のような悲しい思いをしないで済む、さらにこの法律を根拠として日本のエイズ対策が行われて、現在かかった方も結局は幸福になるという目的であるということを正しく教育し、報道していくということが必要だと思いますし、この法案が議院で御審議をいただいて通過いたしました暁にはそういう努力を一層していかなきゃいけないんだろうというふうに私は考えています。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/13
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014・西三郎
○参考人(西三郎君) 先ほど私も申し上げましたように、法律を制定するということの必要性については、やはり国際社会の中の一員として、国際的に大きな伝染病であり、日本の中でも数としては多くはないけれども増加しているという中で法律を制定する必要性が私はあると考えております。
この法案が出ただけでも現実にキャンセルしている人がふえているという事実は私は否定しておりませんし、今後もこのような事実があらわれるかと思います。そういう面で、法律の趣旨を十分国民にも周知し、関係者にも周知し、法律を制定することによりマイナスの効果にならないように法の運用及び衛生教育をさらに強化することの必要性があると思っております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/14
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015・渡辺四郎
○渡辺四郎君 私は三十四分までしか時間がないものですから、参考人の先生方にお聞きしたいことたくさんありますが、特に私は加藤参考人に中心的にお尋ねをしてみたいと思うのです。
参考人は日本弁護士連合会の人権擁護委員会の第四部の部会長というふうに、公報を見ましたところそういうふうに公示されておりましたが、お尋ねしたいのは、人権擁護委員会の第四部会とは主としてどのような法律の部分の検討なり研究をなさっておる部会なのか。同時に、今いただきましたこの日弁連が六十二年の七月に出されました後天性免疫不全症候群の予防に関する法律案に対する意見書、この作成段階で参考人がどういうふうなかかわり合いを持っておられたか、簡単にひとつお尋ねしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/15
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016・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 日本弁護士連合会の人権擁護委員会というのは、大変歴史の古い中心的な委員会の一つでございます。部会が六つほどございまして、第四部会は医療と人権にかかわる部会でございまして、精神障害者の人権の問題や、最近では脳死と臓器移植に関する人権問題、あるいはこのエイズ法案に関する意見の取りまとめ等、さまざまな人権にかかわる医療の場面での問題を研究、検討している、そういう部会でございます。
私は、この日弁連の意見書の取りまとめの主査として、エイズに関するさまざまな文献等をその当時から読みましてそして起案をさしていただきました。ただ、私だけの意見というんじゃなくて、まず第四部会で意見が検討されまして、第四部会が決定をいたします。そういたしますと、次は人権擁護委員会にその日弁連の意見が上がりまして、そこでもまたさまざまな意見が出て討議されます。さらに日弁連の理事会というところで検討されまして、最終的に日弁連の意見書というものができ上がっていくということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/16
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017・渡辺四郎
○渡辺四郎君 そうしますと、日本の法律の専門家の皆さんたちが集中して議論をなさって、そうしてかなりな時間をかけてこの意見書ができ上がったと、こういうふうに受け取っていいわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/17
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018・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) はい、そのとおりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/18
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019・渡辺四郎
○渡辺四郎君 参考人の皆様もあれですが、私ら委員全体としても、私自身も立法府の一員でありますが、エイズの感染をどう防止をするかということについては全く一緒になって防止をしなきゃいけない、この方向には変わりがないわけですが、さっきから加藤参考人からたくさんの実は法律上の問題点も出されました。私自身法律問題はずぶの素人でありまして、一生懸命今勉強さしていただいておるところでございますけれども、特にこういう人権問題を含めた法律を審議する段階では、やはり立法府の私ら自身が全体的にその環境なりあるいは情勢なり、その法律の目的、運用の方法等について十分な意思統一をして、その上で審議にかかっていくというのが私は基本ではないかと思うんですが、加藤参考人いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/19
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020・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) おっしゃるとおりだと思います。
基本的に法ができ上がった場合に、その具体的な運用というものは条文の体裁等によって相当の幅を持つ運命を持っております。したがいまして、運用上うまくいけばいいというふうに考えながらこの条文を見ていく見方もありましょうけれども、場合によればその条文の中で間違った運用がなされていったときの人権侵害の問題ということ、あるいはこの法が現実に機能した場合に、本当にエイズの蔓延を防止するという当初の目的を達することになるのかどうなのかということについては、専門家等の幅広い意見を聞いて十分に慎重に検討されるべきことだというふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/20
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021・渡辺四郎
○渡辺四郎君 そうしますと、日弁連が出されましたこの意見書の三ページの二行目から、「したがって」からが今私がお尋ねした基本的な視点といいますか、立法に当たっての視点はこういうところに置くべきだというふうに考えていいわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/21
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022・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 基本的にそのように理解していただいて結構でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/22
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023・渡辺四郎
○渡辺四郎君 実は、私自身法律に弱いということを先ほど申し上げたわけですが、その弱い私自身がこの十六条までの法律案を見てみまして、どうしてもやはりわからないといいますか、あるいは非常に実は矛盾を感じておりましたところ、先ほどから加藤参考人からかなりの問題提起がなされました。もう時間が余りないものですから参考人も非常に早口でおっしゃられたと思うんですが、私やっぱりこの法案全体を見て、四条までは目的なりでございますからこれは別といたしまして、衆議院で確かに若干の修正はされてまいりましたが、五条以下ですね、特に十条までの問題点といいますか、ここらが非常にわかりにくいといいますか、あるいは大変実は問題を持っておるんじゃないか。
先ほど参考人がおっしゃったように、第五条でいわゆる「医師の指示及び報告」という内容ですけれども、こういう中で例えばこの五条そのものをよく読んでみますと、これは五条だけでなく後の条文にすべて関連してくる、そして十六条の罰則までこれはやっぱり関連してくる内容を持っておる。そうしますと、先ほどから各参考人もおっしゃっておりましたが、医師の判断といいますか裁量権といいますか、ここらが実は非常に大きく働くわけです。
例えば今非常に致死率が高いがんの問題については国際的な問題になっておりますが、患者には症状については、あるいはがんということについてはなるべく知らせない方がいいんじゃないか、その方が人権を守る立場からもいいんじゃないかという国際的な議論もあります。感染の強弱の違い、もちろんがんは感染はありませんが、エイズの場合は非常に感染度が弱いというふうに言われておりますし、正常な家庭生活を行っておれば感染をするおそれはないんだと。しかし、一たん感染し発病すれば実は大変危険な病気だというふうに言われております。そういう点で、がんとこのエイズの問題で、このエイズだけは医師の方から当該感染者や保護者に対していわゆる伝染の予防に関する必要な指示を行う。ここらがどうしても私自身理解できないわけですが、人権を守る立場から参考人はどういうふうにお考えでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/23
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024・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 第五条のところの医師が感染者に対して伝染の防止に関し必要な指示を行うということは、前提としてエイズの病原体に感染しているという事実をその方あるいはその保護者に知らせるということが大前提になっています。これは伝染病の防止ということを前提にして、もし本人自身が気をつけようということであるならば知らせなければならないということになろうかと思います。その趣旨は衆議院で政府委員が答弁をしているとおりでございます。
ただ、ここで問題になるのは、多くの日本における感染者の中に子供さんがいるというようなこと、ですから大変いろんな意味で気の毒な問題がございます。こうした具体的な指示がなされて、次にその指示に従っていないということになりますと「医師の通報」、第七条の方につながっていく、そういう道筋に立つ第五条の指示であるというふうに読んでいるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/24
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025・渡辺四郎
○渡辺四郎君 大変単純にお聞きしますが、では例えば第六条の「感染者の遵守事項」の中に「感染者は、人にエイズの病原体を感染させるおそれが著しい行為をしてはならない。」と。例えばある御婦人の方が妊娠されておると。分娩前に実は感染をしておる、医師が出産をやめなさいと。その母上はその医師の指示に従わずに赤ちゃんを産んだと。そうすると、法律的に見た場合にはこれはやっぱり医師の指示に従わなかったということになるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/25
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026・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 条文そのものを厳密に読めば、「著しい行為」の中に垂直感染も含まれる余地はあろうと思います。ただ、衆議院の検討の中で北川政府委員が、「出産の問題ですとかあるいは夫婦間の問題ですとか、いろいろと一般の家庭の中でも考えられなければならない問題があるわけでございますけれども、法律はそこのところまでは細かに考えてはいないわけであります。」と、ややぼかした形で表現されていますが、今後どういうふうにこの条文の具体的な中身がなってくるかということは、おっしゃるように母児間の垂直感染の問題も「著しい行為」というふうに読む余地が全くないわけではないというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/26
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027・渡辺四郎
○渡辺四郎君 一項一項お聞きするようなことになりますが、ではその第七条の特に二項なんですね。私はこの二項はなお医師の通報そのものが非常に困難になってきはしないかと。これは感染者の相手のその氏名だけでなくて、その人の生活の実態とか、それから家族状況等々綿密に調査をしなければ実は医師そのものが通報できない。というのは、もし事実と間違っておった場合は一体どうするのか。ところが、これについては別に救済措置も何も今のところ明らかでないわけですけれども、そういう点から見て、法律家としてこういう法律のあり方そのものについてのひとつお考えがあったらお聞きしたいと思うんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/27
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028・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 社会がエイズを恐れるという、その状況いかんによっては、この七条二項というのはかなり幅広く、Aさん、Bさん、Cさんと具体的な名前が通報されるというふうな運用になっていく危険性というものは十分にあるだろう。なぜならば、A、B、Cという人が果たして既に感染しているかどうかわからない、「感染させたと認められる者」ということで、ある程度多数の者と性的な関係を持っているというようなことが何らかの形で入ってくれば、この条文によって通報されるということになるわけでございます。したがいまして、いろいろ調べてみたらシロであったというようなことが現実にはいっぱい出てくるであろうというふうに思います。
ちょっと関連で申し述べますけれども、この法案に賛成する人の意見の中で、エイズのキャリアであってしかも売春類似行為をするというような場合にだけ罰則を科するというふうになっているのではないかというふうに考えているという、そういう人たちが結構おるということを衆議院の参考人の意見陳述の中で見ましてびっくりしたわけでございます。この法案は、そうした医師の指示に従わない、売春類似行為を盛んにやっているという人たちに対して、条文上明らかなとおり、第十六条には何ら規定がございません。そういう者に対して規制する権限をこの予防法案が持っているというふうに甚だ誤解をしている向きがあることについては、正しく事実を見ていただきたいというふうに思うわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/28
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029・渡辺四郎
○渡辺四郎君 今特に一番最後におっしゃった十六条一項、二項の問題で、本当にエイズ感染そのものを防止するためというふうに言われておった部分が、いわゆる医師の指示あるいは行政の指示なんかに従わなかった者ばかりが処罰の対象になっておる。言葉は悪いわけですが、一番ウイルスをまき散らして回るそういう人についてのいわゆる罰則そのものは全くないんだというふうに私たち自身がやっぱり理解をして、そして議論をすべきだというふうにとっていいんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/29
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030・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 多分この法案ができていく過程では、そうした行為を処罰するということを真剣に厚生省の方は考えたかと思いますが、そうしたことがありますれば感染者等が現実に受診行動をとらなくなる、つまり潜ってしまうということで、有効なエイズ蔓延防止対策がとれないということから削られたんではないか。そういう意味では今のこの法案の中で、そうした危険性というのはその条文を削ることによってにわかに雲散霧消したのか。なおかつ大変蔓延防止にとって好ましからざる事態が発生するというふうに見るべきであると私は考えますけれども、そういった点が慎重に審議されるべきであろうというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/30
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031・宮崎秀樹
○宮崎秀樹君 きょうは参考人の皆様方から大変ためになる御意見を御開陳いただきまして、まずもって厚く御礼申し上げます。
私は、ただいま同僚委員からのお話を伺っておりまして皆さんの大体の御意向がわかったわけでございますが、今度の法案は、白い紙の一つのところに黒い点がある、黒い点はいみじくも今加藤参考人のおっしゃったようにエイズのウイルスをまき散らすというような人、これ対して焦点を当てるのか、パブリックエデュケーションをもって、この白い人たちのいわゆる知識と申しますかそういうことを涵養してこの黒点を外へほっぽり出すのかという、そこに私は焦点があろうかと思っておる次第でございます。
私、昨年二月に西ドイツへ行ってまいりまして、西ドイツのフランクフルトの娼婦の組合、ギルド制度みたいなものがあるんだそうでございますが、そういうところで、同僚の娼婦がエイズの感染者であってさらに感染をさせているというときは、内部告発によってこれを国が法で規制するというようなことを見てまいりました。果たしてそういうことがいいか悪いかは別でございますが、今加藤参考人のおっしゃったこういうはっきりしたものに対する法律なり具体的なものを仮にここで設定しますと、それは運用の問題でしょうけれども、それによって逆にまた地下に感染者が潜るおそれは出てこないかなということも考えるわけでこざいます、これは表裏一体で二面性がございますので。
そういう点に関して、加藤参考人、芦澤参考人、鈴木参考人から、こういう場合には具体的にどう対応したらいいかという御意見ございましたらお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/31
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032・加藤良夫
○参考人(加藤良夫君) 神戸、大阪では風俗営業にかかわる方がエイズに感染した、あるいは発病したというようなことで大変な問題になったわけでございます。そのときに身に覚えのあるたくさんの人々が抗体検査に訪れたわけですが、現実にそこで抗体陽性者は発見されなかったというデータがございます。神戸の場合は九千五百名中ゼロ、大阪では四千百名中ゼロというデータが出ております。したがいまして、果たしてそうした異性間接触においてどのぐらいの感染可能性があるのかということについて、専門家は〇・一%ぐらいの指摘をされている例もございます。そしてまた、我が国ではさまざまな事情から蔓延がドイツやイギリス等に比して非常に小さいものであるというようなことが指摘されています。
御質問の趣旨は、そうした現実に蔓延を起こすような状況にある人に対して、お医者さんがいろいろと話をしても言うことを聞かないときに一体どういう対策がとれるであろうかということかと思いますけれども、これについては法はきちっとした対応が準備されているわけでないことは宮崎議員も十分御承知かと思います。そういたしますと、やはり医師と患者の関係において十分なカウンセリング体制をとっていくということによって、その生活行動をきちっと対処する方向でやっていく努力というものが中心になるのではないかというふうに思います。
現実にアメリカで起きた例で、ホモの方が盛んに自分の生活のためから性行為を重ね伝染を蔓延させていたという事実がございまして、そのときにその方のそうした行為がどうやってとまったかといいますれば、そのゲイのグループのリーダーがその人の生活を全部丸抱えに見るということでもってその行為がとまったわけでありまして、法的、行政的な強制権限でとまったわけではないという例も指摘されております。そういったことから、カウンセリングというものが大変貴重であるというふうに私は考えるものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/32
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033・芦澤正見
○参考人(芦澤正見君) お言葉を返すようでございますが、白紙の中の隅の方に黒い点がありまして、それに焦点を当ててその人たちを外に出す、排除といいますか、ほっぽり出すというふうな表現があったように私聞こえましたんでございますが、そのような考え方はもう既に前世紀末の伝染病予防法にあらわれました、いわゆる社会防衛の非常にラディカルな表現ではないかと思われます。
御承知のように、エイズは普通の生活をしておれば全くうつらない感染症でありますので、そういうふうな方たちと共存をする社会である、こう私は思っております。そして、性行為ということに対してはいかなる権利、いかなる法律をもっても踏み込むべきものではないということもこれは既に定立した概念であると思います。
しからば、この感染というのをどういうふうにしてうまく食いとめるのか。国際的国際的ということをよく申されますのでございますが、また法律がないと根拠がないというふうなことを西参考人も言われましたようですが、もし法律という後ろ盾が必要であると、また法律があった方が恒常的な予算措置もとれるというのでありますならば、感染症防止サーベイランス基本法というものを制定された方がよろしかろうと思います。私はあくまでもすべて法律に反対するものではございません。そして、私が今参考人として陳述いたしましたような要項を踏まえまして、特定の人を行政権が知り得ないような仕掛けを一種の行政委員会のような形で担保するというふうな方策はあり得ると思います。
また、これまででも法律の上に載ってない、伝染病予防法の届け出義務がないにもかかわらず、肝炎あるいはATLというものに対して伝染病予防法の中にそれを加えようというふうな提案はどこからも起きない。一方、このサーベイランス委員会を組織されまして、そして非常にその人たちをカバーしてやっております。したがって、私は、個々の医師にそのような義務を課すのは過酷である。しかも診断の精度等にもばらつきが非常にあるわけでございまして、特定の医療機関というものの質を学会あるいは委員会等で決めて、オートノミーにゆだねる方が賢明であると私は考えております。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/33
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034・鈴木利廣
○参考人(鈴木利廣君) 感染症の防止を、強制力をもってこの目的を達するという考え方が正しいかどうかということにかかっていると思いますが、もしこういう強制力をもって感染防止対策、その目的を達するということであれば、最終的に患者、感染者の強制隔離権限までなければその目的は達しないというふうに考えています。そして、このやり方は極めて人権侵害のおそれの高い立法になります。これは予防拘禁が許されない罪刑法定主義のもとに立っては当然のことだというふうに考えますし、さらにこのやり方が感染防止に何ら役立ってこなかったという歴史的事実を踏まえる必要があると思います。
結局、感染者に対する法的強制力ではないやり方で、感染防止を国家の施策として打ち立てる必要があるというふうに私も感じております。したがって、その意味で立法が必要であるということについては、私もその必要性を感じております。ですが、そうであるならば、それはいわば行政府の任意的権限にとどめるもので十分であるというふうに感じております。
この立法がつくられ上程される過程で、厚生省の感染症の担当者はこのように言っております。エイズに感染している売春婦が医師の指導にもかかわらず次々と不特定多数の男性と性交渉を持っていることが判明した場合、行政省が責任を持って対処すると。これは強制隔離権限がなければできないことなわけです。しかし、その強制隔離権限は出せない、かといって中途半端な強制権限を持つことは、さらにこの施策を混乱させる原因になるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/34
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035・高桑栄松
○高桑栄松君 各参考人、どうも貴重な御意見ありがとうございました。時間の都合もありますので最初に、時間があればその後という意味ですが、三人のドクターの参考人にまずお伺いしたいと思います。
最初に塩川先生にお伺いしたいんですが、先ほど来サーベイランスが大面重要なことだということが出ておりまして、私も本当にそう思っておりますが、ことしの八月末日のエイズ陽性者の数が千四十八と、これはキャッチした数であって、実際はその数倍であろう、数千人だろうとだれでもそう思うわけでございますが、そのサーベイランスの対象となるクリニック、それはどういうのが対象であるのか。
もう一つは、これは先ほど芦澤参考人が触れられたと思いますけれども、もしこの法ができて届け出という制度ができたらサーベイランスの使命は終わるのか、それとも両立するのか、この二つをお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/35
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036・塩川優一
○参考人(塩川優一君) 現在、サーベイランスシステムは全国の主要病院の協力を得て行われているわけでございます。
それから第二の、この法律ができたらサーベイランス委員会は要らなくなるかという御質問でございますけれども、現在私たちサーベイランスの事業のお手伝いをしておりますけれども、先ほどもちょっとお話がありましたように、これは医師の非常な協力のもとに現在行われているわけでございます。こういう点につきまして、この法案が通りますと医師の協力ということがより容易になるんじゃないか。そしてサーベイランスがより徹底して行われるというふうに私たちは考えております。
それからなお、先ほどお話がありました、現在のサーベイランスでは千四十八人で、これは全部を把握してないじゃないかという御質問がございましたけれども、私たちはかなりの数がもうこの報告の中に含まれているというふうに思っておりますけれども、今後日本にさらにエイズのウイルスが蔓延いたしましたときに、現在のサーベイランスの任意の医療機関の協力では十分でないというときも来るんじゃないかと、そういう心配もしておりまして、法律という一つの根拠によって医師あるいは医療機関の協力がより容易になるようにしていただきたいというふうに思っている次第でございます。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/36
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037・高桑栄松
○高桑栄松君 時間の都合もございますが、今先生のお話でやっぱり私ちょっと腑に落ちないのは、法律によって届け出が促進されるとおっしゃいましたか、そんなふうに聞こえたんですが、性病予防法がざる法であるというのはもうだれでも言ってるし、厚生省も認めている。実数の十分の一ぐらいしか届けてない。これは届け出義務があるんですね。そして、エイズを除いた性病とエイズとの大きな違いは、届け出た場合のメリットあるいは医者のところに行ったときのメリットは、エイズは治療薬、治療法がない、片一方はあるわけです。したがいまして、ないものを届け出ていってどういうメリットがあるかという患者側の考えがあるわけで、先生は法律によって潜行者が出る、陽性者、不安者がドクターのところに来ないんじゃないかというふうなことについてはどうお考えでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/37
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038・塩川優一
○参考人(塩川優一君) 確かに現在エイズは性行為感染症ということで、従来の性病に非常によく似てはおります。しかし、感染の後に非常に長い潜伏期を持っているというようなことで、いろんな点で差異があるわけでございます。それで、この法案によって、法律が通りましたときに二次感染の防止ということが達成されるわけでございますし、さらに患者のいろんな救済、それからさらに治療方法の研究が行われますと、その治療が優先的に行われるというような可能性も含まれているというふうに思っております。法律によってまず社会が防衛されるということは一つ大きなことでございますし、それはひいてはやはり患者の利益の方に回っていく、またそういうふうにこの法律が運営されることを私たちは願っている次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/38
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039・高桑栄松
○高桑栄松君 まだ聞きたいんですけれども、次にそれでは芦澤参考人にお伺いしたいと思いますが、今の塩川先生は、日本医師会雑誌の今年の十月号でありますけれども、「今後日本で最も注意すべきは、性行為を通じてのAIDS感染である。」と書いておられます。
そこで、先ほど来芦澤先生が言っておられたわけですが、このエイズ予防法案というのは、届け出、通報、すべての責任は医師を通じてのみというところが非常に重要なポイントだと私は思うんです。そして医師は、感染症ですから、本人が陽性であるということを発見すればいいというのは全く疫学を知らない人の言でありまして、疫学というのは、陽性者があったらそれがどう感染していくか、二次感染、あるいはだれからうつったか、どうしてもこのコンタクトを調査していかなければ感染予防にはならぬわけです。しかも数干、数万という潜在キャリアがいるわけでありますから、そういう意味で医師にゆだねられても医師はその機能を持っていない、これはだれでも言っていることであります。そういう意味で、さてこの法律というのは、ないよりあった方がいいと言う人と、あるいはあればむしろ逆に働くのではないかというふうに言う人がいるわけで、これはこの法律についての議論のある意味の分かれ目だと思うんです。
私は、疫学を少しは勉強している人間の一人でございますが、先ほど来、帝京大学の大井教授、それから芦澤教授もすべて否定的な御意見、法律はない方がいいとおっしゃったように私は承ったわけですが、そういうことで芦澤先生にもう一度そのことをお伺いしたいと思います。法律はあった方がいいのか、むしろある方がないより悪いのかというようなことであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/39
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040・芦澤正見
○参考人(芦澤正見君) 時間もないようでございますので、端的にお答えいたしますが、私が申し述べましたように、この法案でありましたらない方がはるかによろしいと。そして、どうしても法律の後ろ盾が必要というならば、感染症、特にエイズだけの単独立法にとどめず、性行為によって感染をするATLとか肝炎のB等も含めました感染症防止サーベイランス法案というものの方が私ははるかにいいと考えます。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/40
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041・高桑栄松
○高桑栄松君 大変参考にさせていただく御意見かと存じます。
次に西参考人にお伺いしたいと思いますが、私ちょっと気になりましたのは、法なくして行政はないとおっしゃったことが非常に私は気になったのです。それは、厚生行政というのは指導するということが根幹になっているんですね。ですから、これは非常に認識の違いじゃないかなと。先生あるいは言葉が足りなくてそうおっしゃったのかもしれませんが、つまり衛生教育を先生は主張されましたが、教育の理念と法で規制するという理念とは全く違うものだと私は思うんです。したがって、衛生教育ということを重要視されるとすれば、法なくして行政はないということではないのではないかと、こう私は思います。
それから、先ほど芦澤参考人も触れられたと思いますけれども、法とエイズ予防のことについての効果の問題でありますけれども、新聞に出ておったんですね、「エイズカウンセリング国際会議(WHO、厚生省共催)」と書いてあります、八月二十六日終了したと。そのときのWHO側責任者マニュェル・キャルバロ博士が記者会見して、厚生省が進めているエイズ予防法案について、「そうした法律の制定が(エイズ阻止の)回答になるとは信じない。」と。私、この信じないという言葉は好きでないんです、科学的な表現じゃないと思います。信ずる信じないなんというのは論争になりませんからね。訂正させてもらえば、これは新聞記者が書いたんで、新聞記者さんがいるとしかられるといけませんが、ひょっとしたら間違ったんじゃないかと思いますが、法律の制定が回答にならないと言ったんじゃないかと思うんです。
その次です。「法律によって患者が地下に潜れば、エイズに対する戦いは敗北する」と否定的な見解を示したと。これに対して西参考人の御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/41
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042・西三郎
○参考人(西三郎君) 法律に対して規制をするというふうにお考えになっているようにちょっとお見受けいたしましたんですけれども、法律には授益的な行為がございます。給付行政という言葉もございます。それから最近では計画行政という言葉もあります。下山瑛二先生の御著書の中には、行政法の中では比較的批判的な意見を述べられている先生の御著書の中にも、法律の留保の原則の適用除外とされていた授益的行政活動も、国民の権利性の保障の観点から法による行政とする考え方が重要視されるということを述べられております。私もその考えに従った立場におります。
衛生教育をするということは、権力的に衛生教育を行うものではありません。衛生教育を受けた人がこれは教育とか指導というのはそれに基づいて行動するかどうかは各自の判断によって行うわけです。
衛生行政としては、法がなくて恣意的に教育活動をするという分野を私は否定しておりませんけれども、これは予算措置によっているわけです。私の考えている予算措置というのは、広く考えれば国会ないしは自治体の議会において承認されているもので、法という概念を広げればその中に含まれるわけです。エイズの場合に関しては、衛生教育の重要性ということから、予算措置だけで衛生教育が行われること以上に、国の責任として衛生教育をさらに進めるという意味から、エイズ法案の中で第一条から第二条及び第四条の規制がされることは私は妥当であると考えております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/42
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043・高桑栄松
○高桑栄松君 WHOの方の……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/43
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044・西三郎
○参考人(西三郎君) WHOに関しても、今私がお答えしたことの中でWHOのマニュエルの見解と私は異なっておりまして、法を制定することでマイナスにならないための行政の運用を我々は期待しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/44
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045・沓脱タケ子
○沓脱タケ子君 それでは、大変限られた時間でございますので、まず最初に鈴木参考人にお伺いいたしたいと思います。
日本のエイズというのは、御案内のように、患者九十人中五十一人がいわゆる血友病患者であるとか、あるいはキャリアの感染者の中の九二%以上が血友病患者であるとかというふうな状況からいいまして、大変外国の様相とは違うという状況になっておるわけでございます。そういう点で、私どもがエイズ予防法案を扱うに当たりまして、血友病患者の方々の感染者の問題を度外視して考えられないという点があるわけです。
そこで、鈴木参考人にお伺いいたしたいと思いますのは、衆議院では法案が修正されまして血友病を除くということになっているわけでございます。そういうことになって法律から血友病を除くということになったとしても、結果として役に立つのだろうか。現に、血友病患者の皆さん方からエイズ予防法案を廃案にしてほしいと強い御要望が出ております。その点をひとつお伺いをしたいと思います。
時間がありませんから御質問だけ先に申し上げておきます。
芦澤参考人にお伺いいたしたいと思いますが、非常に明快な御見解をお伺いいたしまして感銘を深くしているところでございます。先ほどから参考人の方々の御意見を伺っておりますと、法律ができれば二次感染を防ぐに役立つという御意見などを塩川参考人からもお伺いいたしました。しかし、私は性行為感染の問題等については極めて不案内でございまして、いろいろな機会にいろいろな人の御意見を聞くことにしておるわけですが、先日ある方々と話をしておりましたら、社会的な立場を持つ男性とエイズの話を雑談でやっておったんですが、こう言われるんですね。今日のように治療が確立していないという段階で法律ができて住所も氏名も通報されるということになるならば、これは恥を忍んで医療機関を訪ねることはしない。いよいよだめになるまでないしょで自分で我慢をして頑張っていく、こう言われました。私はそういう点は非常に大事だと思うんですね。治療が確立していない、だから恥を忍んでとおっしゃったのは、社会的な差別あるいは社会的な条件を失墜するような人権侵害、そういったものがプライバシーが侵されるということによって起こる、それだったら恥を忍んで死ぬまで頑張ると、こうおっしゃる。そうなったら法律が果たして役に立つんだろうかという点で大変疑問を感じておったわけでございます。
そういう点で芦澤参考人は、カウンセリングの制度等が未確立のままで本法案を出されたのは極めて拙速だとおっしゃられましたが、そういった点で本当に二次感染を予防をしていく、いわゆる性行為感染の中で予防していくというためには何が一番大事なのかという点を簡潔に同わしていただきたいと思うんです。
この法律ができました場合にプライバシーが果たして守れるか。私も医療に携わる一人でございまして感じますのは、芦澤参考人が公費負担でやるということが大事だとおっしゃられましたが、今の社会保険で診療が受けられるということになりますと、これはもうプライバシー守れないということは自明の理でございますし、そういった点についてこの法律ではプライバシーが守れるんだろうかという点もあわせて御見解を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/45
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046・鈴木利廣
○参考人(鈴木利廣君) 衆議院での修正案を拝見しますと、いわゆる血友病患者について除外されている条項は、第五条の都道府県知事への医師の報告義務の点だけだというふうにお伺いをしております。これだけを除外してみたところで、いわゆるエイズ予防法案と言われているこの法案全体から血友病患者である感染者が対象除外されているわけではないわけです。
したがって、この法案について血友病患者の感染被害者が恐れていることを、この条項から除外しただけでその恐れを完全に取り除いたということではないわけです。そしてさらには、このサーベイランス体制の中である程度の血友病患者の感染者は把握をされているわけですから、殊さらに都道府県知事への報告を医師から求めなくても、いわばこの予防法案での網をかぶせることは可能だというふうに考えているのではないかというふうに推論する考え方もあるわけです。したがって、この修正では十分とは言えないというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/46
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047・芦澤正見
○参考人(芦澤正見君) ただいまおっしゃられましたように、治療がない場合に振り分け検査、スクリーニング検査というのはやるべきではないということは、既にWHOのエキスパートとなっておられますイギリスのJ・M・G・ウィルソンの本にも、「疾病スクリーニングの原理と実際」という本の中の初めの方に書いてあるのでございまして、いたずらに検査の結果陽性であるとわかった場合に、その人たちに与える苦悩ということを考えますならば、それはやるべきではないというのはもっともだと私は思っております。
それから、法律というものに過大の期待を寄せておられる向きが、衆議院の政府・与党でございますが、参議院は別でございますが、あるようだと承知しております。
性病予防法にしても届け出ということがどうも振るわないということで、昭和四十一年七月に大幅な改正をいたしまして、その際に現在の姿であります、初めての患者を診た場合には名前と住所というものを削る、そして届け出の期間も二十四時間から一カ月以内というふうに変えたわけですね。そうしましたら、翌年だけちょこっとふえましたんですが、その後またもとのペースに戻ってしまっております。ということで、そのような氏名とかそれをなくしたからプライバシーを守るんだというのは、そういう保証は現実の性病予防法の改正の後の様子を見ればわかる。世界の大勢はまだまだ流行が続いておる、その最中にそうであるということは明らかに一過性のものであるというしか言えないんですね。
それから、医療費の問題でございますが、社会保険の適用をされた場合に、被扶養者になります学生とか若い人たちというのは非常に困るわけでございます。その点につきまして、もう二十年も前になりますか、私はWHOのフェローとして若年者の性病の実態とその対策ということでヨーロッパとアジアを回ったわけでございますが、その際に感銘しましたのは、スウェーデンのクラトール、つまりカウンセラーですが、その人は、もしそのようなヤングの患者が来た場合には親にも知らせない、学校の教師にも知らせないということを申しておりました。そして、どのような手段かちょっと覚えておりませんけれども、もちろん全額公費の治療を治るまでやっているというわけであります。ですから、そのような手だてを現実に北欧の国々ではもう大分前からやっておるということでありまして、決して不可能とは私は考えておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/47
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048・藤井恒男
○藤井恒男君 時間の関係で西先生に一問だけお伺いいたします。
先生は公衆衛生、衛生行政が御専門と承っておるんですが、先ほど来ここで大勢の先生方の御意見お聞きになっておわかりのように、また衆議院での本法案の審議の経過もごらんになっておわかりのように、二つの問題が実はあるわけで、一つは、端的に申し上げて人から人へ感染する病というのはエイズだけじゃないじゃないか。例えば肝がんのもとになると言われる肝炎ウイルスだってあるじゃないか。そうだとすれば、人から人へうつるいわゆる伝染病、感染症ですね、こういったものと整合性を持ってひとつ考えてみたらどうなんだと。そういったときにエイズだけを引っ張り出していくから不安感、あるいはそのことによる恐れ、そして差別というものをつくるんじゃないか。だからこの法律というのはよくないんだという意見が一つですね。そういった中で、しかし独立法として今エイズの予防法案は必要なんだと。これは二つに分かれるわけだ。
それからいま一つは、これも先ほど来話が出ていますように、潜在化する、メリット・デメリットの関係で潜在化するぞ、そうすると予防法が蔓延法に変わるのと違うか。それだったらない方がいいんじゃないかということ。しかしやはり行政が教育を含めてきちっと対応しなければむしろ後々に憂いを残すことになるんだと。この二つに分かれているのが実態です。
我々もこれからこの論議を深めていくわけですが、大変潜越な言い方をすれば、この中の委員の各位も詰めればその二つに分かれていって、それを補完するためにどうしたらいいかということになるんだろうと私は思うんです。そういった二つの点を考えて、先生どう対応したらいいのか。また、そういった中で先ほども同僚議員から、対馬議員だったと思うんですが、今の時点における独立立法としての法制定の意義等についてひとつお話しいただきたい。重ねたことになるかもわかりませんけれども、よろしくお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/48
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049・西三郎
○参考人(西三郎君) 最初の意見を述べた中にも触れておきましたけれども、独立立法のことは、必ずしも私は独立立法でなければいけないというふうに述べているわけではございませんけれども、現在の事態において性病予防法を性行為感染症予防法という形で改定していくには、多大の性病予防法の中には問題点が含まれております。そういう面で、性病予防法を廃案にして新しい法律をつくるにはさらに長時間の審議が必要であるというふうに考えております。そういう点で、エイズに関して単独立法で早急に法を制定することを私は賛成する立場です。それはエイズの先ほどから言われておりますように社会的な必要性、国際的な必要性、それから現在日本では患者が少ないんですけれども将来多くなる可能性もある。それから衛生教育に関して強い法的権限も与える、こういう面からエイズに関して単独立法を私は策定することを進める立場にあります。
それから潜在化の問題ですが、病気に関して非常に誤ったエイズに関する知識が普及しております。治療法がないという形でこの病気になったらという意見が多々見られております。私は現在難病患者の方々と医師側と両方におつき合いをしております。全く治療法のない患者さんたちが私たちの医療のもとで生活をしております。ということは、治療法がないという考え方の中には、根本的な治療法がなくてもそれなりの治療法がございます。エイズに関して私は専門ではございませんけれども、エイズウイルスを体内から早急に排除するという薬剤がまだ発見されておりませんけれども、それに近い薬剤が近々出る可能性は否定されておりません。
それから、合併症に関する対策もとられているように聞いております。病気が治療法がないという形で、何かエイズにかかれば非常にあきらめるという形が否定できない。私は神経難病その他の難病の患者さんたちにかかわっていく中で、治療法がないという形で一刀両断にすることなくその生活を保障していくことの必要性は多々あるし、エイズに関しては特にその点の衛生教育の必要性が高いんではないか。何か非常にエイズにかかるかからないということで格段の違いと差別というものが現在の社会で私は蔓延していると思います。そういう面からも、潜在化するから法をつくらないんではなくて、潜在化させていく背景の中に、エイズに対する正しい知識、医師を含めてそういうものの早急に普及することによって潜在化を防止することも可能である、また可能にしていかなければならないと私は考えております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/49
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050・藤井恒男
○藤井恒男君 どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/50
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051・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) 以上で午前の参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の方々には、長時間にわたり御出席を願い、貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
それでは、午後一時二十分から再開することとし、休憩いたします。
午後零時十六分休憩
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午後一時二十分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/51
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052・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) ただいまから社会労働委員会を再開いたします。
後天性免疫不全症候群の予防に関する法律案を議題といたします。
本案審査のため、午前に引き続き、参考人としてお手元に配付の名簿の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。参考人の方々から忌憚のない御意見を承りまして、本案審査の参考にいたしたいと存じます。
これより参考人の方々から御意見をお述べ願うわけでございますが、議事の進行上、最初に参考人の方々からお一人十五分ずつ御意見をお述べいただきまして、その後委員の質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。なお、座ったままで結構でございます。
それでは、まず石田参考人からお願いいたします。石田参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/52
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053・石田吉明
○参考人(石田吉明君) ただいま御紹介にあずかりました輸入血液製剤被害者救援グループの石田吉明と申します。
本日は、私たちのために発言の機会をいただきましてまことにありがとうございます。私は、血友病患者の感染被害者という立場から大筋五つに分けまして発言させていただきます。
せんだって、私どものグループでは感染被害者の実態調査というものを実施いたしました。十一月二十日にその集計をまとめまして、これがその集計用紙なんですけれども。これを行ったきっかけと申しますと、一つは、エイズ法案の廃案の問題、ついてはそのHIVの感染被害者の救済をどうするかということをこれから展開していく上に、患者の被害実態というものをもう一度しっかりつかんだ上でいろいろ展開していきたいということが趣旨でございました。
それで、全国各地のヘモフィリア患者、家族の皆様の御協力をいただきまして、今までに約三百通余りの回収を得ております。それを土台にいたしまして具体的に私たちの希望といいますか、そういうものを述べさせていただきます。
一番私たちが今回のアンケート結果につきまして衝撃的な点は、いわゆるエイズパニックという過程におきまして、今日まで医療の現場からいわゆる血友病ということにより三・五人に一人ぐらいが医療忌避の経験をお持ちでしたということがショッキングな内容でございました。その具体的な例と申しますと、血友病患者と名乗ったからとか、HIVの感染者というふうに告知したからとか、それと凝固因子製剤の薬価差益が少ないからとかいうのが大体大筋の医療忌避の病院、医院側からの答えであったという、極めて深刻な状況がことで浮かび上がってきた。それで、その方たちはそれ以後どういう対処をされたかといいますと、ほかの受け入れ可能な病院をまた探して、友の会に相談したり先生に相談したりしまして移られておる方がほとんどなんですけれども、中にはいまだに極めて厳しい状況下の中で治療を受けているということも浮かび上がってまいりました。
ここで私が訴えたいことは、こういうエイズ法案というものがまだ成立といいますか施行されていないのにかかわらず、現実にこういう血友病患者たちに対しまして、特にそのよりどころといたします病院、医院からこういう忌避的なことが起こっているということは、もしその法案が通った暁にはどういう結果になっていくのかということを一層私どもは危惧するわけなんです。だから、せんだって先生方にもこういうアンケートを実際にお配りいたしまして、少しでもその被害実態に沿った施策をやっていただきたいということがお願いしたい重要な点なんです。
それと、いわゆる衆議院の方で血友病患者除外についていろいろ論議されておりました。これについては、私の考えといたしますと、血友病というものはおよそ六割が遺伝病でございまして、遺伝病なるがゆえにプライバシーの保護、人権保護を基本として、医師も患者もそういうものが暴露しないような形で治療を続けてきたということが基本で、そういう歴史というものは二十年を経過いたしまして、ますますその両者の間には緊密な関係が続いておる。そういうさなかに不幸にもこういうHIVという、これは感染症ということなんですけれども、病気の性質上いわゆる世間から忌避されやすいといいますかそういうイメージの病気ということですね。一方では遺伝病、一方ではこういう感染症という重複した病気になってしまったということで、私たちがこれからHIVに対応していく上でこのエイズというものに対してどう取り組んでいくかということを考えますと、やっぱり基本をなすものは医師と患者の間の相談窓口、そういうものを充実していくことが基本だと僕は思います。
それには、そういう遺伝病というものに長年苦しんできた患者たちが、あわせてこういう感染症というものに罹患してしまったという、そこで医師との間に太いパイプがあった。それが全国津々浦々そういうネットワークができておるということで、そういう医療忌避的なものを何とか乗り越えまして、そういうその他の血友病以外の感染者の人たちもプライバシーを保護して匿名で検査を受け、もし陽性とわかったら匿名で発症予防、治療を受け、匿名でずっと治療を続けていけるような体制を私たちがみずからそういう基盤を整備していくといいますか、そういうものには我々がうってつけじゃないか。だから、そういう我々を法のもとで一般の感染者と分け隔てて、血友病は特別なんだというようなことをされてしまいますと、せっかく僕らが積極的に能動的に問題点の解決を医療関係の方たちと一緒にやっていこうという出ばなをくじかれてしまうんじゃないかという危惧を私は持っております。
だから、私たちこそ感染者自身みずからがやっぱり蔓延を防止したいというふうに人一倍願っているわけですから、そういう気持ちをしっかり受けとめていただいて、こういう法案はぜひとも原点に返って白紙撤回してくださって、何かこれにかわるような例えば方策とか施策とか、それを与野党の合意の上で、強行採決とかそういうものではなくて、みんなが合意できるような形でぜひとも何とか前進をしていただきたいと思うわけです。
それと三つ目に、せんだっての朝日新聞の「声」欄に、私たち支援グループの支援者であります、ある血友病患者をごらんになってくださっているドクターが投稿されております。ごらんになった方も多いと思います。この先生は現行のエイズ予防法案は感染を防止するどころか逆に拡大していくエイズ蔓延法であると言い切っていらっしゃいます。そして、感染者を知事等に報告するということは、プライバシーが保護されない現状では、私は一切しないであろうとまで勇気を持って訴えてくださいました。こういう先生のもとにやはり我々は受診なり健診に行きますし、やがてやっぱり一般の感染者もこういう先生のもとに僕は行くであろうというふうに思うわけです。だから、こういう先生を強権立法のもとで苦悩させたりするようなことのないように、もう一度原点に返っていただきたいというのが筋なんです。
九月から全国各地、九ブロックでHIVの治療研究ネットワークというものができつつあると聞いております。こういうことをもっときっちりと時間かけてやっていく、その上で僕は感染の防止策というものはできると思うんです。だから、そういうきっちりとまじめに取り組んでくださっている先生を、強権立法を押しつけまして苦悩させるようなことは絶対やめていただきたいということが三番目の申し述べたい点です。
それと四つ目では、少しアメリカの動向は今どうなっているかということを申し述べますと、せんだって京都の方でインターフェロンの学会がありました際に、米国のエイズ研究財団のクリム理事長という方がいらっしゃいまして、新聞記事が載っておりました。その方は日本の今の法案についてかなり危惧を持たれていまして、感染者のリストをつくったりいたしますと逆に患者は名前が出ることを恐れて潜在化していくんじゃないかということで、今の日本のエイズ予防法案を批判しておられます。
次いで、せんだって大統領選挙のさなかに行われましたカリフォルニアの現状というものは、HIVの感染者が今約五十万、エイズ患者は一万四千人、そして既に八千人が亡くなっている。こういう状況下において、感染者の氏名を州当局に報告させる義務を課したプロポジション一〇二という法案が審議されたんですけれども、結果はこれに反対する票が約五百八十票、賛成の方が三百票、対比は六六対三四%の圧倒的な多数で否決されました。いわゆる例え話によく言われますように、アメリカはHIVの問題に関しては大火事と言われている。そういう国においてすら感染者のプライバシーを保護する。逆に感染者の氏名を暴露するというような法案は見事に否決された。いわゆるパニックの状況が終わって、本当の蔓延防止対策がアメリカにおいてもいよいよ進み出したんじゃないかというふうに思うわけです。ぜひとも、こういうことをやはり日本ももう一度原点に返って見直していただきたいと思うわけです。
そして五番目に、いわゆる私どもはHIV感染者の被害救済というものをお願いしてまいりました。こういうことは今回のエイズ予防法案が提出される前からずっとお願いしていたことでございまして、何も今始まったことではありません。それで、エイズ法案が提出されてまいりますと、これをあめとむちとか、法案と救済は一対であるとか、または救済だけ取って食い逃げは許さないとかというような我々から見れば余りにも現場を見ない勝手故題な論議が交わされるようになりました。まことに残念でたまらない日々を送っておりました。しかし今回、額と範囲は不満ながらも医薬品副作用被害救済基金の準用という形でようやく救済の方のレールが引かれようとしております。
それで、今現実に私の方の事務所に電話がかかってくるのは、いつからそういうものがいただけるかどうかというお電話、問い合わせが今入っております。これは私、きっちりプライバシーを保護して先生との間のパイプ役となるように頑張っていきたいと思うんですけれども、とにかく法案が通らなければ救済は行わないとかいうようなたぐいの話では、撲ちの望んでいた救済策とは全く違ったものになるわけなんです。法案と救済というのは全く別個のことでありまして、そういうふうな取引の問題では一切ないということを強調したいと思うんです。
いかに現実、医療関連費用とか大黒柱が倒れた後の生活費の問題がどうであるかとかということは、プライバシーの保護ということで余り外に出ないんですね。しかし、僕らの周りにはそういう人たちがたくさんいらっしゃいます。そういう人たちは、そういう救済が実施される日を一日干秋の思いで持っていらっしゃいます。しかしながら、常にこういうエイズ予防法案と救済措置というのが一緒になって論議される。
ついては、きょうもこういう形で私、衆議院に引き続き参考人として発言の場をいただいたんですけれども、もしこれが便宜的といいますか、一応患者の声を聞いてあとはまた強行採決であるということにもしなったら、何のために京都から松葉づえついてこういう発言の場で僕は渾身込めまして先生方に訴えたのかわからないんです。だからきょうを機会に、我々三名の話をお聞きくださって、衆議院のあのような強行採決は絶対やめていただきたい。そして、アメリカのような原点に返った、パニック対策ではなくて本当のエイズ蔓延対策というものをもう一度原点に返っていろんな英知を結集して実施していただきますように、ひたすらお願いいたします。
改めまして、現行のエイズ予防法案は白紙撤回していただきますようによろしくお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/53
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054・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) ありがとうございました。
次に、北村参考人にお願いいたします。北村参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/54
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055・北村千之進
○参考人(北村千之進君) 私、元全国ヘモフィリア友の会の会長、それから現在の愛知県の鶴友会という血友病の友の会の会長をしております北村でございます。本日は参議院社会労働委員会におきまして、エイズ予防法案に対する参考人として出頭する機会をいただきまして本当にありがとうございます。
時間も制限がございますので、早速本論に入ります。
私、去る八月九日、衆議院の社会労働委員会におきましてやはり参考人として私の意見は申し上げたわけでございますが、あれから三カ月ほどたちました今日、さらにこのエイズ予防法案に対しまして補足的ではありますが強く要望するところがございますので、その件につきまして申し述べたいと存じます。
私の友の会設立以来の経歴は、既に衆議院の社労委員会の席で御披露申し上げましたので、当委員会では割愛をいたします。
私の血友病患者との出会いは、既に二十有余年にわたる長いつき合いでございます。その体験から判断をいたしますと、現在エイズ予防法案に対する賛成あるいは反対の論議を戦わせていらっしゃる先生方には、この患者さんたちの真の苦しみというものは理解されていないんじゃないかと、これは断言してはばかりません。先生方の御家庭にお一人でも血友病患者をお持ちの方がいらっしゃいましょうか。もしいらっしゃいましたら、その先生から親として、あるいは兄弟としての真のお声を拝聴できますれば、本法案の成果に大いなる影響力を持つことができるでありましょう。
さて、ここ数年以来血友病対症療法の進歩と、これに加えて昭和五十九年十月一日より医療費の国庫負担も大幅に上げていただき、まさに血友病患者は精神的にもまた肉体的にも、さらに経済的にもその負担は軽減されてまいりました。そして、政治、行政及び医療の面で大いなる福祉の恩恵をこうむってまいったのでございます。今後は患者の就学、就職、結婚等の教育問題とか、あるいは社会的な面に重点を置いての友の会活動を痛感しておりましたやさきに、思いも寄らない今日のエイズ問題が勃発したのでございます。これが世界的に波及して、特に私ども日本の患者の頼みとしておりますアメリカにおいてもその血液製剤を通じて驚異的なエイズ患者の発生を見たのであります。
折も折、当時我が国の血友病患者のほとんどがこの輸入された高単位の血液製剤の恩恵を受け、しかも時を同じゅうして自己注射の承認をもちょうだいをいたしたのでありますが、患者はもちろん、その家族も、また医師団もその自己注射のためにほっと胸をなでおろしたことでございます。ところが、そのころには既にアメリカにおきましてはエイズ禍が広く発生しつつあったわけでございます。それを知ってか知らずか、日本ではその製剤を自己注射の認可のもとに簡便に打ち続けていたことは、今にしてみれば知らぬが仏のことわざのとおりで、しかもその製剤へのエイズウイルス混入が知れ渡ってからでも、なお一年余り輸入、使用してきたこの事実は、今考えてみますると身の毛がぞっとする思いがいたすのでございます。
そこで、ようやくみこしを上げられた厚生省が急遽準備をされ、国会の場で一挙にエイズ予防法案の成立に踏み切ろうとして、各関係方面からの意見、状況等を取り入れまして、最善の方策で法案の成立に精力的に活動されたと思います。ところが、政治面でも、専門医師団、殊に最も大きな被害者である血友病患者の大半が、この法案に反対するどころか廃案に持ち込む勢いが盛り上がってまいりました。
そこで、ただ一つ私の考えは、このエイズ予防法案は、いましばらく静観しつつ、各界各層で十二分に英知を絞って協議をする時間を持っていただきたい。その間に、日本のエイズ患者の発生状況を厳密に把握した上で、法案の必要性があるのかあるいはないのかの確認をつかむまで慎重審議を重ねて、悔いのない結論を出していただきたいと熱望しておるものでございます。
もし仮に法案成立の場合を考えるとき、果たして法案賛成の諸先生方がお考えになっていらっしゃるような成果が上がるかとの質問を受ければ、私はノーとお答えをするでしょう。その理由は、本法案の活性化は非常に困難でございます。すなわち、エイズ患者中の血友病患者だけを別個にするということは、先般衆議院社会労働委員会でも申し上げましたが、水と油を分けることはいとやすいが、水の中で水を分けることは非常に難しい、この一語に尽きると思います。ですから、一般のいわゆるエイズ患者と血友病患者のエイズ患者を別にしてというようなことは夢のような話ではないでしょうか。
ですから、本法案は廃案にまで持っていくのが妥当と思われますが、もう少し時間をかけて各界の代表の方々が英知に英知を絞ってよりよい方策を検討していただきたい。そうでないと、かえって陽性感梁者までが地下に潜って二次、三次感染を生ずる場合も起こりやすく、かつまたエイズ患者救済の手を差し伸べましても、これに応じないあるいは喜ばない血友病患者やその家族が多くなるのではないでしょうか。それこそ仏つくって魂入れずの例えが現実化すると思います。
不幸中にも幸い日本では御承知のとおり数少ない患者数でありますので、現状では法案の必要は急を要しない。これがさきに述べたとおり今国会で結論を求めず次期国会まで継続審議をお願いするゆえんであります。その間、一方におきまして、国を挙げてエイズに対する正しい知識の教育を徹底さすべきであります。
また、例の第五条では、厚生省並びに先生方の御配慮によりまして「血友病」の三字は抹消されましたが、「血液凝固因子製剤」云々と記されていることは、血友病を除くとの意味が表現されるために問題が残ると思われます。
最後にもう一つ、もし先生方の御賢明なる御理解によりまして本法案が継続審議として次期国会に持ち越されたとしても、血友病患者の人権擁護の立場からも、またHIV感染者に対する先ほど石田君が申しました救済問題、この救済問題及び現在一カ月一万円の自己負担の解消、これは本件とは全く次元の異なる問題でありますので、この点は早期に実施をされますよう心より念願するものでございます。
御聡明なる先生方におかれましては、憲法に規定する国民の平等、基本的人権の尊重と擁護のために、このエイズ予防法案に対しまして何とぞ何とぞ真剣に取り組んでくださいますように重ねて衷心より懇願申し上げる次第でございます。
さて、ここで思いを新たにいたしまして、当エイズ予防法案反対についての主な三つの理由を挙げて参考に供したいと思います。
一九八一年の報告以来、非常に多くの研究成果が公表されてきましたが、中でもその感染の問題については、一つ性行為、二つ濃厚な血液での接触の二通りのルート以外の感染は考えられません。したがって、その対策もこの二点にのみ考慮するだけで十分であることが明白となりました。しかし、現実の日本の社会の対応はといいますと、最近の米国のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという世界で最も権威ある臨床系の雑誌における次のような報告によってもわかります。
すなわち、世界の先進国である米、英、カナダ、西独、日本と発展途上国の二カ国の国民へのアンケート調査による、あなたの職場でそのそばにいる同僚がもし患者であったらどうしますかとの内容であります。このお答えは、驚くべきことに日本の七〇%の人がその患者を拒否し、一緒に働きたくないと答えた。また一方、英国、カナダでは二〇%の方が拒否をし、九カ国のうち日本は最高であった。そこでその報告者はいわく、日本では全く十分の教育がなされていないと皮肉を込めて述べられたそうでございます。この例でもわかるように、最も必要な性教育を含めたエイズ本態に対する徹底した教育が絶対必要かつ急務であると思われます。
その二は、本法案がもたらすであろう人権侵害が第二の反対点であります。現在までに、テレビ、ラジオ、新聞、週刊誌を初めほとんどのマスコミが無責任かつセンセーション的にエイズ問題を取り上げた、かの松本、神戸あるいは高知、大阪等の発生の報道。なおその上、不幸にもエイズによる死亡診断書にはやはりエイズによる死と明白に記されると思います。その場合、残された家族は肉親を失った不幸に加えて、さらにエイズによる死というプライバシーまで侵され、心配しつつ生きていかねばなりません。一人の人権は百人、否一万人の生命以上に大切なものであることを知るべきでありましょう。
その三は、本年九月までのエイズ患者の九三%は汚染された輸入血液製剤による血友病患者であると言われております。既にWHO、国際輸血学会等では、自国に必要な血液は自国で賄うようにとの提言がなされております。我が日本の実情は、厚生省、日本赤十字社ともどもその準備に懸命に努力中と聞いてはおりますが、果たしてそれだけの血液を集得することが可能でありましょうか。ここにもまた国民総献血の正しい教育が必要とされてきます。先人の教えに、善は急げと言われ、また一方には急げば事をし損ずるとの戒めの名言がございます。
以上、重ねて重ねて訴えます。御賢明なる先生方には、憲法に規定する国民平等、基本的人権の尊重と擁護のために、このエイズ予防法案は今国会において決着を見ることなく、さらにさらに綿密に研究、検討されて、一応次期国会へ継続審議とされますよう衷心より切望するものであります。古人いわく、馬はせいても与市はせかぬとのせりふがございます。本件の場合、馬はすなわち衆議院の立場であり、与市は参議院社会労働委員の先生方のお立場になりましょう。すなわち、夕暮れになり、帰りを急ぐ愛馬青がけがでもしたら大変と気をつけながらゆっくりと帰途につくという意味でありましょう。決着を急ぐ衆議院の決定を、常識と教養の府参議院の諸先生方の決議によりまして審議延長の上、悔いなき結論を賜りまするよう最後のお願いを申し上げる次第であります。
以上、参考人としての私の意見発表を終わります。
御清聴深く感謝いたします。ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/55
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056・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) どうもありがとうございました。
次に、保田参考人にお願いいたします。保田参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/56
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057・保田行雄
○参考人(保田行雄君) 私は、全国ヘモフィリア友の会を代表しまして、エイズ予防法案に対する意見を述べさしていただきます。
エイズ予防法案は、去る十月二十七日、衆議院社会労働委員会において可決されました。当日、全国各地から法案の可決を心配し駆けつけた血友病の患者、家族は傍聴席から茫然とただ見守るだけでした。そして、可決された後、親たちは涙するほかありませんでした。
思えば六年前、私たちの血液製剤からのエイズの不安は全く無視され、感染のおそれはないとして、ただ治療を受けて感染させられるほかなかった我が国の血友病の患者、家族は、今また厚生省による法案によるプライバシーや人権侵害のおそれがないとの無責任な答弁により、患者、家族の社会生活が将来にわたって奪われようとされているのです。私たちはもう二度と同じ誤りを繰り返すことを許すことはできないという心情です。
法案が衆議院の社会労働委員会で可決されまして、私たちのところには全国から、国を許すことはできないという強い調子の声が各地から寄せられています。全国の血友病の患者、家族、しかも被害を受けた患者、家族の半数は、まだこういった場で声も出せない子供たちです。しかし私は、法案を廃案にしてほしいという願いは皆患者、家族一致した心情であるというふうに確信をしております。
衆議院では血友病の感染者に配慮をして修正したということです。しかし、私はこの修正について意見を求められたことも、またこれを支持する血友病の患者、家族がいることも知りません。私たちの意向も聴取せず、私たちに配慮をするとはどういうことでしょうか。もうそういったやり方をやめていただきたいのです。
事実、修正案の目玉であります第五条は、ただし書きで感染原因等の疫学事項の報告の除外を定めています。その文言はこうです。「当該感染者が血液凝固因子製剤の投与により感染したと認められる場合には、当該感染者について報告することを要しない。」と定めています。
疫学的報告の例外とすることが当該感染者のプライバシーの確保にとっていかほどの意義を持つのかそもそも私は知りませんが、このただし書きについてある感染症の専門医は、これは社会的に血友病患者をエイズのハイリスクグループであると明確化する以外の何の役割もしないだろうというふうに断言をしました。
血液凝固因子製剤の投与を受ける者とは、すなわち血友病以外にはないのです。輸血やアルブミン等のその他の血液製剤の投与が疾病の種類を問わないのと全く異なっています。血友病の患者、家族であれば、このように法案にいわば差別の上塗りをするような病気を特定するようなただし書きを入れることを認める人はいないでしょう。このような愚かなやり方を認めることはできないのです。法案の是非以前の問題として、このような除外は絶対にやめていただきたいと思います。本当に困ったことが将来にわたり起こることになります。このことをぜひお願いをしたいと思います。
私たちが政府のエイズ予防法案に反対し、その修正ではなくあくまでも廃案を求める理由は大きく二つあります。
一つは、エイズは世界的に見ても新しい感染症です。国のこの疾病に対する施策が将来にわたり感染者の社会的運命を左右するのです。一たん誤った施策が実施された場合、取り返しのつかない被害を関係者にもたらすからです。
特に考えていただきたいことは、我が国には薬害による二千人とも推定される被害者がおり、その者は血友病という社会的にハンディを持った弱者であり、しかもその半数は未成年者であり、幼い子供たちも多いのです。
他方、エイズは社会でさまざまに議論をされますが、社会的に安定した認識が確立されているとは到底言えない状態です。
一例として、この十月に千葉県の教育委員会が教職員向けに発行した「エイズ・B型肝炎に関する知識と予防」と題する小冊子の一例を紹介いたします。
冒頭でエイズについて、「発病すれば死に至る病として恐れられ「現代の黒死病(ペスト)」と呼ばれている」「血液の接触や性行為で感染し、キャリアの血液が体に付着すると、特に傷のある場合、感染する危険があります。」と、こういうふうにいわば衛生行政、教育行政の頂点に立つ人たちがつくるパンフレットに今なお書かれております。
私たち血友病の患者、家族は、我が国だけでなく世界的に数干という患者が感染をしています。私たち患者は、家族のいわば温かい支えで各国で暮らしているわけです。そういう中で、血友病の患者本人から配偶者への感染例は報告がありますけれども、感染した血友病の子供から親、他の兄弟へ、あるいは血友病の感染した親から子供への感染というのはいまだ一例も報告されていないのです。血友病の患者が感染したのは既にもう五、六年前になると思われます。五、六年にもなるのにまだ一例もないのです。この事実をきちんと踏まえた上でエイズに対する議論はなされるべきなんです。ところが、先ほど紹介しましたように、今なお血液の接触であたかも感染が起こるかのように、あるいは死亡率が高いからといってペストに例える、こういうやり方が社会において行われているのです。だから私たちは大変この法案の役割を恐れるわけです。
昨年、法案が作成されました。私たちは法案の作成される以前から厚生省に対してたびたび行き、意見を申し上げました。当時の厚生省の意見は全くこれと同じで、エイズは現代のペストである、広く社会にこの病気が蔓延するのを防止しなければならないということを非常に強調しておられました。そして、社会にエイズに対する恐怖心を植えつけて予防しようというのがその基本的なお考えであったというふうに私たちは理解しております。いわばエイズに対する防疫の姿勢が強く、その政策によって幾度となくパニックがつくられ、そしてこの法案が最終的に準備されたというふうに理解をしております。
私たちがなぜ本当に反対をするかといいますと、この病気に対する恐怖心が社会に定着したとき、植えつけられたとき、感染をした患者やその家族は社会生活をやっていけないのです。生きていけないのです。そういう社会で今その感染したことすら知らず学校に通い、そして非常に心細い思いをしている血友病の幼い子供たちはどうやって生きていけるのでしょうか。法案にはこの被害者の、とりわけこれから影響を受けるであろう子供たちのことが全く考慮されていません。全く考えの視野にすら入れられなかったと言っても過言ではありません。私たちはたびたび厚生省に対してもそのことを訴えてまいりました。しかし、一つとして聞き入れるれることはありませんでした。
いろいろ法案についての問題点は指摘できますが、やはり私たちはこの社会で責任ある一員として生きていきたいし、これから社会に巣立っていく子供たちにも、社会に貢献できる責任ある一人として生きていってもらいたいというふうに思っています。そういうとき、病気を怖いんだということで予防しようとするこの法案はやはり有害なのです。そのことを私は強く指摘しておきたいというふうに思います。
衆議院での修正の際、法案そのものの見直し条項をさらに修正して加えるということが議論になったというふうに聞いております。しかし、それは参議院での修正にとっておこうということになったというふうに聞いております。しかし、私たちはそのような見直しではなく、この法案はきっぱりと廃案にしていただきたいのです。誤った法律による社会的害悪が一たん社会に植けつけられたとき、もう取り返しのつく問題ではないのです。引き返すことはできないのです。そういう意味で、重ねてきっぱりと廃案にしていただきたいというふうにお願いをいたします。
私たちがこの法案の提出の経緯について納得できないもう一つの理由は、厚生省はこの法案を反対する私たちに対して、薬害と法案は別の問題であるというふうにきっぱりと言い切りました。しかし、そうでしょうか。
私たち血友病の患者の多くは、法案を提案している国、この同じ国の血液行政の過誤から患者の四割もが感染をしたのです。そのことを同じ国はどのように考えるのでしょうか。国は、この薬害に対して本当に真から誠意ある態度をとるべきです。しかし、いまだ患者、家族に対する一片の謝罪もありません。私は、全国の血友病の患者、家族、とりわけ被害をこうむった患者、家族を代表して、国に対して謝罪するように要求したいと思います。すべての施策はそこから始まると確信しています。エイズに感染したことすら知らず、ただひたすら耐えて生きている子供たちに謝罪してほしいのです。そして希望を与えてほしいのです。
厚生省が本当にエイズに対して信頼できる政策を進めるとすれば、まず薬害に対する真摯な反省と謝罪から出発すべきです。
私たちは昭和五十八年に要望を出しました。全国ヘモフィリア友の会として要望を出しましたが、このときに私たちですら初めて気づいたことは、当時、ミドリ十字や化血研といった国内のメーカー、こういった国内のメーカーの血液製剤であっても、すべてその原料はアメリカ合衆国から輸入をされているという事実でした。だから私たちは、日本の血友病患者はすべてエイズの感染の危険があるとして要望書を出したのです。安全な血液製剤を使いたいという要望を出したのです。ところが、何らそれにこたえることはありませんでした。
ある発病したエイズ患者は次のように述べました。危ないと言ってくれれば自分は使わなかったんだ、なぜ教えてくれなかったのか。そういう無念な思いを語ってくれましたが、恐らくこれが被害者の共通の思いでしょう。私たちは加熱の承認がおくれたということだけを言っているのではないのです。感染の危険のある製剤を何の予防策もとらずに最後まで使わせ続けた国や製薬会社の責任をきちんと追及したいと思います。
私たちの要望の一年前、五十七年には、アメリカでは既に八人もの血友病患者がエイズの犠牲となっており、その二人は十歳以下の幼児でした。そして、血液製剤に対する安全性の検討がアメリカでは始まっていたのです。自国の血液が汚染されているアメリカと異なり、我が国の血液はエイズの感染からすべてクリアであったわけです。したがって、被害を回避するための抜本的な施策はとれたし、とるべきであったのです。
ところが、厚生省は、外国で感染の危険が警告された昭和五十七年から六十年末まで約四年間にわたり感染の危険は予想できなかったというのでしょうか。本当に感染の危険がないと断言できるんでしょうか、今なお。私は聞いてみたいと思います。加熱製剤の供給だけがその対策であったというふうに厚生省は言うのでしょうか。私たち血友病の患者、家族にはそのようなうそは通用しません。この間、私たちはたびたび危険ではないかということで安全な製剤を要求してきたのです。それが安全だということで使わされ続けたのです。だから、私は国やメーカーに薬害としてその責任をきちっと認めさせ、被害の完全救済を要求しているのです。
エイズの感染を受けた被害者たちは今なお深刻です。これから本当に深刻な被害に見舞われます。本当にその被害を償うにふさわしい施策をとられるよう要望しまして、私の意見を終わりたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/57
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058・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) どうもありがとうございました。
以上で参考人からの意見聴取は終わりました。
これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑のある方は順次御発言願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/58
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059・渡辺四郎
○渡辺四郎君 どうも三人の参考人の方たちから、本当に血友病のために厚生省なり製薬会社の犠牲になって大変な御苦労をなさっておるという実態等も含めてお聞かせいただきまして、大変ありがとうございました。
そこで、まず私はお聞きしたいわけですが、冒頭石田参考人にお聞きしたいと思うんですが、先ほどからお話がありましたように、皆さんからいただいた十一月二十日作成の実態調査のアンケートを見せていただきました。先ほど参考人の方からも若干の説明がありましたが、特にこの中で血友病治療の臨床医の訴えのことが先ほどから御説明がありましたが、やはりエイズを撲滅したいと心から望んでいるのはほかならぬ感染者自身であり、医療現場の私たちですと。非常に私たち自身の胸を打ちました。
そこで、まず第一点お尋ねしたいのは、このアンケートで回収された分で二百名の集計結果が出ておりますが、この中の全体の四五・五%、九十一人の方が感染の有無について告げられていないという結果の報告が出ております。これについて石田参考人の方で、何が原因なのか、何が理由なのか、そこらについて考えられる点があればひとつお教え願いたい。このことはひとつぜひ保田参考人の方にもお尋ねしてみたいと思うんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/59
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060・石田吉明
○参考人(石田吉明君) 感染告知の問題につきましては、せんだってもある関西の大学病院の担当の内科医と助教授と我々患者会がミーティングいたしました。
そこの内容をちょっと具体例を出しますと、内科医と小児科医との間では考え方がちょっと違う。どちらかといいますと内科医の方が感染の告知をしやすい。逆に小児科の先生の方は、感染告知をする対象が患者本人よりも母親なり父親ということもあって、より以上に直接的でないといいますか、ということで、過去において何かかなり告知を迫って、私は気丈な人間ですから大丈夫、だから言ってくださいというふうに言って、それで大丈夫かなと思って言ったらその後の動揺というのがかなり深刻な状況になった。それで、一人のドクターが対応し切れるかどうかということで、燃え尽き症候群という言葉が今アメリカのドクターの間でも言われているそうなんですけれども、今のカウンセリング体制というものが不備であって、だからできにくいというのが大筋の小児科医の意見なんですね。
しかし、内科医の方は告知という対象が患者本人になりますから、血友病の痛みとあわせて今度の病気の苦しさというものを耐えて耐えて耐え抜いてきたといいますか、それでも気が狂わんばかりの恐怖感に襲われるのですけれども、母親などよりも本人の方が受けとめやすいということです。しかし患者側からしますと、この間もあったように、三十代ぐらいの方の御意見では、告知をされて陰性、腸性、これが分かれ目なんですよ。これがその方の人生をも左右することなのに、そういう請求権といいますか、そういうものがなぜ患者側の方になくてドクターに握られっ放しか、こういうことはまさに不条理であってというような形で迫られたことがあります。
しかし、ドクターの方は告知をした後の体制の不備ということがあって、それとあとは治療の手段といいますか選択肢といいますか、有効な治療法がないとかいうことも理由の一つとおっしゃったけれども、我々にすれば、その方がおっしゃったように、まさに陰性と陽性ではもう格段の相違があって、これから生きていく上でのやっぱり根本的な姿勢が問われてくる。
ですから、たかだか私は感染の告知の回数という意味で言えば二千回という、それも一人のドクターが二千回言う必要はなくて、全国に専門医がたくさんいらっしゃるわけです。それを割ればたかだか三十回か四十回程度、それからそういう検査キットなんかができて以後既にかなり経過しております。だから、やっぱりドクターというものは、感染告知をした後のフォローといいますか援護体制も細めるようなドクターでなければ僕は本当の医師ではないと思うんですね。そこの部分を放棄して、いたずらにああでもないこうでもないというような患者に不安を助長させていくようでは、いつまでたっても霧が晴れない。
我々の方はそういうものを乗り越えまして、この間十一月二十八日に、NHKの「おはようジャーナル」に「あたりまえに生きたい・エイズと闘う血友病患者たち」というタイトルで放映されたのをごらんになった先生方も多いと思うんですけれども、我々自身が何もかもかなぐり捨てまして人間として生きたいというものを、我々自身がそういう土壌をつくっていくといいますか、そういうことをやった。
そういう努力をする一方では、ドクターたちもやっぱり一歩乗り越えて、告知の後もきっちり対応していくというところにもう踏み切るべきであって、例えば一番肝心なことは、AZTという薬がありますね。これは唯一のHIVの薬と聞いているんですが、なかなか副作用が強くて処方できない。しかし、最終的ある時期において一定期間使うとか、ほかの治療薬とあわせて使うとかということもなされております。だから、黙ってこのAZTを使われるようなことがあれば、僕はとんでもないことになると思います。それは、ドクターはいつもこれを使う際にはきっちり報告して、患者、家族と語り合って使うかどうかを決めてほしいということすらも、前段として告知という問題があるわけですから、やっぱりこの先どういう薬が、もっとすごい立派ないい薬が出てくるかもわからない。そういうときに、きょうから君は感染者だよ、これ飲みなさいと言われても、それは待ってくださいということになりますから、できるだけ僕はヘルシーキャリア、健康な状態のうちにきっちり告知をして、あとは先生だけじゃなくて我々仲間もついておるわけです。何も一人が援護するということでなくて、みんなが守っていくといいますか、そういう方向づけもできると思うんですね。
だから、団体で医者に告知を迫るとかというたぐいの問題ではこれはないと思いますので、一人一人そういう勉強の機会をとらえて、我々は我々自身が歩んできた経過をじっくり話し合うことをこれからも続けていきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/60
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061・保田行雄
○参考人(保田行雄君) 告知の問題は、非常に不幸なことなんですが、我が国では感染症の専門医あるいは血友病の非専門的な内科医や小児科医は告知をしております。そういう一般的な学会に、告知をしないという議論はないわけです。一部の血友病の専門医が非常に頑強に告知を反対されている。
昭和六十年から私ども幾つかアンケートをとっていますが、告知をしてほしいというのは一貫した患者、家族の願いです。いわゆる告知をしないというのは、告知をしてほしいと言っても告知をしないというケースなんです、そこに出ているのは。それは、幾つかその要因が指摘できると思いますが、大きい原因とすれば、やはり自分で処方した製剤から感染したと、そのことをやはり当事者として言いづらいというところが最大の動機だろうと思います。担当の医師が、やっぱり自分で安全だと思って処方した製剤から感染をしたということを告げるわけですから、大変なそれはきちんとした責任感がなければできないわけですけれども、そこがかなり告知についてちゅうちょさせる大きい原因だろうと思います。
私たちは、告知の問題というのは、やはりこの法案をつくろうかと国会で問題になるぐらいの大きい個人にとっての決定的な事情なわけですから、本人ないし本人が子供であれば家族にきちんとお話をして、そして本当に最良の医療機会を受ける。そのことはやはり患者、家族が選択する余地がなければできないわけですから、それを保障するのが一つと、それとやっぱり知らされないことによる悲劇は回避しなくちゃいけないということです。限られた者とはいえ配偶者等に感染をしますし、血友病の例でも幾つかありますが、それはそういった告知をされない間の悲劇です。そういう意味の回避をきちんとする必要があるだろうということで、私たちはやはりお医者さんたちが考え方を改められてきちんと告知をしてほしいなということは本当にこの問題が起こってからずっと一貫した願いで、そのことを今も要望しています。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/61
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062・渡辺四郎
○渡辺四郎君 私の方の持ち時間が三十三分までですから非常に短時間なんですが、先ほど石田参考人の方からもちょっとお話がありましたアンケートの結果ですけれども、医療で忌避をされたということで、私もずっと見せていただきましたけれども、「血友病患者と名乗ったから」というのが一番トップで二十四名、それから「因子製剤の薬価差益が少ないから」という先生が六人いらっしゃった。そのほかいろいろありますが、三十項目忌避の理由が挙がっておりますね。
そういう中では、本当に自分はどうだろうか、検査をしてもらおうかといったって、こんなに多くの恐らく個人開業医の先生方、大学病院もありますけれども、そういう状態では本当に安心して病院にもかかれないという患者の皆さん方あるいは血友病の患者の皆さん方のお気持ちがわかるわけです。
もう時間がないものですから、大変失礼ですがそれぞれ三人の方にお聞きしたいわけです。北村参考人にはちょっとほかのことをお聞きしたいと思うんですけれども、お二人には、今国なり厚生省に具体的に何を求めたら一番皆さん方が精神面を含めて救われるか。私らは、この法案と救済対策の問題は全く関係がなく、救済は当然やっぱり国の責任でしてあげなきゃいけない、こういう気持ちで議論に入っておりますから、そういう点でそういうお考えをひとつ最後にお聞きしたい。
それから北村さんにお尋ねをいたしますが、先ほどの御意見の中で、今の法案では、これがこのまま通過すれば、成果はノーと言わざるを得ぬと。だから、このままいけばやっぱりエイズのウイルスを持った患者も地下に潜っていくんじゃないか。だから仏つくって魂入れずというようなお話もありましたけれども、継続審議にしてほしいというお話で十分静観をし、十分な意見を聞いて、それで英知に英知をひとつ絞って判断をしてくださいというお話もありました。
そこで端的にお尋ねしたいのは、いわゆる例えば次の国会まで継続審議にする。その場合に、どういう方たちの御意見をいわゆる立法府である私らがお聞きをして、あるいは厚生省がお聞きをして法案の中に盛り込むような、そういう方たちについてひとつお考えがあれば出してもらいたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/62
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063・石田吉明
○参考人(石田吉明君) 私は、一番何をしてほしいかと問われれば、やはり一番前提となるのは法案の白紙撤回、廃案であって、その根拠となるものは、やはり血友病・HIV治療にかかわる主治医を守ってほしい、そういう医療機関を守ってくれということです。
今の現実を申しますと、血友病患者の主治医たちは、上は理事長、医院長、下は医療スタッフといいますか医療組合、それからまた出入り業者とかというものにサンドイッチされておるわけなんですね。上からは経営の問題、血友病患者が来ているからイメージダワンでほかの利用客が減ると。下の方は、シーツ交換で血がついた、うつるかもわからないというようなたぐいの投書とかいうものが上に来て、今はもう主治医たちが苦悩しております。こういうものは余り出てこないんですけれども、我々が十一月二十日に第二回全国集会を京都でやった際には、そういう話が殺到しておりました。それはある一定の病院だけじゃなく、国立病院でもそういうお話がありました。
だから、HIV治療ネットワークというものが滑り出しておるんですけれども、現実というものはそんなものじゃなくて、上滑りであると僕は断言できると思うんです。もっと深く突っ込んでそういう主治医たちを守る態勢にすることが、法案を云々するよりも可及的速やかに——蔓延を防止するためには、やっぱり土台をきっちりつくっていかなければ僕はできないと思うんです。だから、主治医を守っていただくためにも法案をまず廃案にしてください。それをもう切望いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/63
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064・保田行雄
○参考人(保田行雄君) 私が一番訴えたい点は、やはり医療機関の感染者等の受け入れといいますかケアといいますか、これをきっちりと教育していただきたいというととです。
それと、そういった医療機関に対する行政的なバックアップをするということが大事だろうと思うんです。私たちが幾つか知っている中でも、やはりHIV感染者が入ると非常に過剰反応される。例えば小児科病棟に入院をしても、そこでその子だけが使い捨ての食器を使われて、自分で御飯を食べて、それをポリ袋に入れて捨てなくちゃいけないというふうなそういうことが行われるわけですけれども、そうであれば、これは幾ら社会に対する啓蒙を説いても無理です。やはり社会の啓蒙の先頭に立つべき医師、医療機関がしっかりと感染者を守る、その医療を守るということで頑張るし、厚生省もそのために全力をささげていただきたい、これが一つです。
それともう一つは、やはりHIV感染者というのはその感染原因を問わず非常に大変な状態に置かれています。エイズを発病した患者さんはそうです。これは血液凝固因子製剤によって感染した人、輸血あるいはその他の性的な感染原因で感染した人たちも同じです。しかし、本当にエイズの感染者が安心して医療を受けられるためには、やはりすべての感染者が医療費や介護手当その他の生活上の支援を共通に受けられる、これが一番のエイズに対する理解を進める上でのポイントです。血友病患者もその他も問わずやはり最低の医療を受ける、社会保障を受ける、そういう視点でこの病気を見ていただければ、世の理解も本当に根本的に変わるんではないか。この二点を強く要望しておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/64
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065・北村千之進
○参考人(北村千之進君) 先ほど私が申しました審議延長という問題ですね。これはパニック状態が多少静かになった、これはアメリカでも一緒なんですけれども。そこでお願いしたいということは、さらにこの状態がこのまま続くかあるいは急激に患者がふえてくるかという問題なんですけれども、その間に、仮にこれを審議延長しているうちにその患者の数が膨大に急激にふえるというような場合には即刻入れず先生方の御判断によって適当な方法をとっていただくという考えはあるんですけれども、まず今の状態では、アメリカでもそうですけれども、少しパニック状態が済んだ。ですからこの辺でしばらく情勢を見ていただいて、そうしてその上で、いわゆる審議の延長というのはそこにあるわけなんですが、その結果先生方の英知によって新しい方向づけをしていただきたい、こういうふうに考えておるわけなんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/65
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066・宮崎秀樹
○宮崎秀樹君 本日は、大変血友病患者さん並びにその御家族の立場から切実な御意見をお伺いさしていただきまして、ありがとうございました。
私、先ほど来渡辺委員から質問がございましたことでございますが、ことしの八月三十一日の厚生省のエイズサーベイランス委員会の報告にありますように、血友病患者さんの血液凝固因子製剤による感染者の数が九百六十九人というふうに報告されております。実態は概算で五千人の患者さんが日本にはいらっしゃる。そして、不幸にしてそのうちの大体四割の方が、約二千人の方が既に感染しているであろうという推定でございます。そうしますと干人以上の方が把握されていない。
先ほど来の御議論にありましたように、医師の告知の問題がございます。しかし、この中で今度医薬品副作用被害救済・研究振興基金という法律を準用いたしましてこの救済策をとる、これは大変皆様方にとってはまだ不本意なものであると存じますけれども、しかしこれが実際動くことになりますると、その千人以上の方々にこれが適用できないということも考えられるわけでございます。そういう面で一刻も早くその掌握ということを考えなきゃいけないと思うんですが、それにつきまして、参考人の皆様方から具体的にどういう方法でプライバシーを守りながらこれをやっていったらいいかという御意見があったらお聞かせ願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/66
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067・石田吉明
○参考人(石田吉明君) 実際そういう救済策が進み出すと、今回のアンケートの声にもそういうものを申請することによって自分のプライバシーが暴露されないかどうかという懸念の声もございます。一方では、ある程度のプライバシーというものも暴露されても仕方がないんじゃないか、つまりまるっきり名前とか住所とか出さずに十年間も振り込みとかいうことができるかどうかという懸念もあります。
だから、今我々もこういう施策をしてもらっても、既に始まっても申請者がゼロであればなきに等しい施策になりますので、衆議院の社労委員会の方でも僕申し述べましたように、とにかくこういう議論が同時進行してしまうといいますか、まだ救済の手続等もひな形も決まってないうちにこういうエイズ法案の論議がされていくと、これ神経が逆なでされているような感じがするんですね、僕は。もっと落ちついてなぜできないか。まずその感染者なり患者が主治医を通してでも医薬品副作用基金の方に申し出る、私は感染者ですよと言うことだけでも大変なことなんですよね、そういうプライバシーが外へ出ていくわけですから。これだけでももう大変なことなのに、それと同時進行してエイズ法案というものがまさに成立されようとしている。本気で僕は感染者、患者救済ということを考えたら、やはりストップすべきだと思うんですね。
そこで、やはりそういう一つの救済システムというものは僕はきっちりやらなければすべてが崩壊してしまうというおそれを抱いていますので、そこにもいろいろとやっぱりサーベイランスの本質といいますか、血友病は二十年前も五千人です、今日も五千人と言われています。実際のその正確な疫学調査ということはできないですね。なぜかというと遺伝病なんです。だから、感染症と言われる今度の病気についても完璧なサーベイランスというのは僕はしてはいけないと思うんですね。ある程度の大づかみで僕はいいと思う、それは予算を立てるためでいいわけですから。シラミつぶしに探したら大変なことになるんです。そっちの方の国民を縛りつけるんですね。
そういうことの方が僕は恐ろしい結果になると思いますので、一つの感染症に対して一つの法律をつくっていくということの愚かしさが今僕は問われていると思うんです。だから救済システムをきっちりまずやることによって、サーベイランスの本当の意義といいますか、そういうことが僕は出てくると思うんです。だから時間を十分こちらの方にかけていただきたいと思うんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/67
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068・北村千之進
○参考人(北村千之進君) ただいまの救済問題、これについてまたちょっと御意見申し上げますが、救済ということは、やはり今石田君がおっしゃいましたけれども、私も同感で、それ以上に私が考えたいことは、やはり患者の救済の方法といたしまして複雑化するとプライバシーというものが守れなくなる。ですから、これは私、衆議院の社労委員会でも申したんですけれども、もう少し簡単に、ということは、例えば交通問題で私例を出しましたが、交通事故の場合は、事故を起こす、先生に診ていただく、そうしてそれによって書類を書いてすぐ保険の方で請求したものが出してもらえるということなんですね。その間に行政も他の関係者も入っておりません。至極簡単にお金が出るわけなんです。したがって知るものは、患者さんと医者とそれからそのお金を出してくれる今度の場合は救済基金ですか、そういうところだけですね。これで事が済んでいくんじゃないか。
その間に行政とかいうようなものが入ってきますと意外にプライバシーが守れない場合が僕は多いんじゃないか、こう思いますし、かつまた非常に簡潔に事が運べるんじゃないか、こういうふうに私思っております。ですから、やはり交通事故問題のときの処理をもう一度検討していただいて、それに似通った簡潔な方法をもってやっていただきたい。これが患者のプライバシーを守っていくという一つの方法になるんじゃないか、かように思っております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/68
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069・保田行雄
○参考人(保田行雄君) 今回の救済案は、御存じのようにほぼ発病した患者ということに限られておりますので、発病した患者といいますと対象者五十一人ですね、今厚生省で報告されているもので。だから、そういう人たちはあえて申請をするだろうというふうに思っています。
一般的な患者把握の問題ですが、疫学的な把握をされるということについては私たちは反対ではありません。厚生省に今血友病の感染者の数が上がっておりますけれども、これは知事を経由してのサーベイランスシステムが一つと、もう一つは発病予防の研究班を通じて、その研究に上がってきた疫学的事項の報告を集計したものです。それは六十一年の途中から始まりまして、私たち全国友の会の方でも協力してまいりました。恐らく今年度の研究報告がまとまってくれば宮崎先生のおっしゃった全体がほぼ把握できるんじゃないかと思っております。
それで、私たちが考えるのは、任意的なサーベイランスそのものは非常にすぐれているし、それはやはり私たち自身もそういう条項は知っておいて必要な注意はしなければなりませんし、国全体としても感染の動向とかあるいは今後の予防、救済とか、そういうことについて僕は必要だろうというふうな意見です。ところが法案は、その疫学的な事項の報告から一歩踏み出しています。これは守秘義務を本来負っている医師に、その守秘義務を解除して行政に対する通報を求めるものです。いわば医師はその守秘義務を本来であれば知事等に通報すれば処罰をされるところが、法案ができることによって処罰から免れるわけです。医師にかかっていて守られるというふうに思っていた人たちが、いつ通報されるかもしれない、そういう絶えざる恐怖感にさらされていくというところでさまざまな問題が出てきます。エイズそのものがやはり暴かれることによって社会的にかなりダメージを受けますから、そういう意味では、やはり感染者そのものの全体に救済を及ぼしていくというふうなときは、こういった法律ができていくということになると、これはもう現実的に社会生活を選択するか、こういう救済を選択するかというジレンマに陥るだろうというふうに思います。
そういう意味で、把握というのは厚生省としてはやはり疫学的事項の把握で十分ですから、それは任意的な現在のサーベイランスシステムで十分機能していけるし、血友病の実数もほぼ全体が把握できるだろうと思います。そのことによって血友病患者の人権が侵されるということはありません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/69
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070・中西珠子
○中西珠子君 本日は、参考人の皆様方お忙しい中をわざわざお越しいただきまして、本当に貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。
日本のエイズの特殊性というのは、五千人の血友病患者の四割が輸入された血液凝固因子製剤によって感染されており、その半数が子供を含む未成年者だという深刻な状況である。それで、いろいろお話を伺いまして私はもう本当に涙が出てきたのでございますが、国とか関係の製薬会社の責任は非常に重大であると考えます。
現在参議院で審議中のエイズ防止法案は、基本的人権やプライバシーの尊重が十分確保されていない、非常に取り締まり的な強権的な法案だという印象を持っておりまして、また非常に弱い立場にある感染者や患者の保護という側面が足りない、欠如しているという考え方を私は素人ながら持っていたのでございますが、本日参考人の皆様方からの御発言をお聞きしまして、本当にその考え方、印象というものを深めたわけでございます。今、治療法も確立していない中で、エイズに対する一般人の恐怖心を高めることには役立つかもしれない。また自分がもしかして感染したのではないかなと思っても、この法案が成立したときには人権とかプライバシーが侵されてしまうというおそれがあってお医者さんに診てもらいに行かなくなる、抗体検査もしに行かなくなってしまう人がふえてしまって、かえって感染者が潜在化していくのではないか、また発病者もふえていくのではないか。こういうことを考えますとこの法案に反対せざるを得ないわけでございますが、私はきょうせっかくお越しになりました参考人の皆様方から、やはり御意見をもう少し伺うために質問させていただきたいと思います。
北村さんが、第五条のただし書きですね、血液凝固因子製剤の投与によって感染した者については報告しなくていい云々というこのただし書きにつきまして、やはりこれは問題があるとおっしゃいましたが、これについてもう少し敷衍しておっしゃっていただきたいと思います。
時間が限られておりますので、引き続き質問をさせていただきます。
北村さんには今の点をもう一度御説明をいただきたいと思うわけでございます。
保田さんには、やはり五条のただし書きにつきましては、これは血友病患者がハイリスクグループだということを指し示すようなものだということをおっしゃったのには全く同感なんでございますけれども、プライバシーの確保とそれから救済という問題というのは非常に難しい関係にある問題だというふうに考えるわけでございます。私はエイズ防止法案と救済の問題はこれは分離して取り扱わなければならないと考えているわけでございますけれども、救済策も非常に十分ではないけれども、その救済策を適用するに当たってはやはりプライバシーというものは侵されるのではないかということも心配しているわけでございまして、その点につきまして北村さんと石田さんのお考え、また保田さんのお考えをお聞きしたいと思います。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/70
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071・北村千之進
○参考人(北村千之進君) 第五条の問題につきましては、やはりこれは根本的には血友病患者に対する一つの何と申しますか、血友病とエイズというものを同じように見ているというような感じを受けるわけなんですね。そういうような意味合いから私が先ほど申し上げたような内容で御説明をさせていただいたわけなんです。それ以外にこれという深い意味はございませんが、いずれにしても血友病とエイズというものを同じように見てもらうということが非常に立場上困るというところに帰するわけなんです。それに尽きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/71
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072・保田行雄
○参考人(保田行雄君) プライバシーの確保の問題と救済の関係ですけれども、救済と言うからにはいかなる公的な給付あるいは薬害的な損害賠償にしろ給付を受けるためには個人の名前をきちんと特定して申請をする、あるいは請求をするという形になるだろうと思います。
私たちは社会の理解という面ではなかなか難しい側面はあるけれども、今一番大事なのは何かといいますと、法律上の守秘義務を持っている人たちが本当にエイズの感染者のさまざまなプライバシーの事項についてこれをきっちりと守るということが一番大事なことだと思っています。例えば感染事項について情報収集した県や国がやはり自由勝手に記者会見をして発表をする。あるいは私たちの事例でもありましたけれども、医師が自己の診ている患者が感染しているということがわかりまして、びっくりしまして市の当局に報告をした例とか、そういうことがさまざまありました。
そういうことではなくて、そういう意味ではきちんと行政や医療に従事する人たちが、法律上もともと守秘義務を持っているそういう人たちがきちっとエイズもほかの秘密と同じようにプライバシーを確保しなくちゃいけないということで守るということが一番大事なことだと思っております。その上に立って、やはり法案は守秘義務を解除するから私たちは問題だというふうに言っているわけです。そうすれば、だんだんとやはり社会的な理解というものは進んでいくし、周りの理解が進むにつれて、患者、家族もそのことについての生きがい感といいますか、素直に疎外感が薄れていくという関係になるだろうと思います。私たちは、やはり守秘義務を持っている人たちがそれを守れないというようなところに救済を困難にしている最大の要因があるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/72
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073・石田吉明
○参考人(石田吉明君) 私どものアンケートで実際返ってくる声においても、やはり先生御懸念のような声がいろいろございました。
それで、やはりそこに出ている声を集約しますと、まずその患者というものはやはり主治医を信頼する以外にないということに尽きると思うんですね。主治医を信頼して、主治医を代理人として厚生省薬務局のそういう選定委員会ですか、そういうところにも報告していくとかいう形がだんだん固まってきつつあるようなんですけれども、それにしてもまだこれ全然動いてない議論ですから、どこでどう間違って、例えば田舎の方で考えると、診療所とかホームドクターといいますかそういう町医者とか、そういうたぐいの方も主治医なわけで、そういうところは小さいころから近所の人のは全部わかっているという中での申請という問題が起こりますので、大都会で、大きな病院でということがすべていいのかどうか、さまざまな問題点はあるんです。
だから、こういうものをきっちりと時間かけてプライバシーを十分に守りながら進めないと、一つ間違ったら御破算になってしまう危険性がありますので、そういう議論ができる時間といいますか環境といいますか、そういうものをとにかく与えていただきたい。
それはエイズ予防法が今現在全くなくてもこういう申請というものを論議するということは、既にプライバシーの暴露ということを懸念するような声が法律がなくてもあるわけですから、その辺の兼ね合いをきっちりと守るには、やっぱりこれはこれとして分離して、同時進行という形は絶対僕は認められないと思うんですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/73
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074・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) 時間になりました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/74
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075・中西珠子
○中西珠子君 どうもありがとうございました。
私の時間はもうオーバーしてしまいましたが、皆様方の御要望の線に沿いましてできるだけの努力をいたしますので、本当に皆様方も体に気をつけて頑張ってくださいませ。ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/75
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076・沓脱タケ子
○沓脱タケ子君 限られた時間でございますが、参考人の皆さん方本当に御苦労さまでございます。
日本のエイズを論ずる場合に、これは国際的なエイズとは全く違いまして、もう既に言われておりますようにキャリアの九二%が血友病患者の方々である、発病者の六割が血友病患者の方々であると。血友病以外の中には日本人でなくて外国人も含まれているという点から言いますと、日本人だけで言えば発病者がこれは六割以上になるというふうな状況になっておるわけでございます。したがって、日本のエイズを論ずる場合に、血友病の被害者の皆さん方の問題を度外視して語ることはできないと私は思っておるわけでございます。
本来、血友病といういわば難病、遺伝病ですが、そういう病気の治療のために安心して使っていた薬のおかげで命の危険にさらされるというふうな、エイズのキャリアあるいは発病者というものが出されてきた。一人一人の本人にとっては我慢のならない問題ではなかろうかと思うわけです。
したがって、私は前回の委員会でも実は論議の中で問題を提起したんですけれども、果たしてこれを防ぐことができなかったのか。そうではなくて、既に危険が明らかになっていたときにおいてさえ、私が示した資料によりますと、ミドリ十字では安全だからどんどん使えということで薬を販売をしていたというふうな事例が明らかにされております。そういった点を見ますと、国と製薬会社の責任というのは極めて重大だということを痛切に感じるわけです。そういう点で、本法案の論議の中でこの問題というのは非常に大きなウエートを占めていると思うのでございますが、この国と製薬企業に対する責任についてお三方の御見解をまずお伺いしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/76
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077・石田吉明
○参考人(石田吉明君) 先生御案内のように、僕たち自身もやるせない思いといいますか、海の向こうのアメリカでは既に一九八三年の春に肝炎防止のためとはいえ加熱処理をした薬がもう出ておりました。西ドイツでも同じような状況でした。本来ならば、緊急輸入で速やかにその夏ぐらいにでも輸入しておれば、まだ感染の拡大は防げたんじゃないかという悔しい思いが当時私もあって、衆議院の社労委の方でも御案内しましたように、一九八三年の夏、八月十五日に厚生省に参りまして陳情したこともございます。
だから、そういう短いレンジで申し上げれば、例えば二年四カ月という数字がいろいろ論議されますように、速やかにもっと緊急輸入的に入れて感染拡大といいますか、被害者を未然に防ぐということをまずとっていただきたかったし、ついては、もっと大きな日本の国の血液行政の根幹からこれは僕はいまだに間違っていると思います。
献血率というのは日本はベストテンぐらいに入るなかなか立派な国民の善意があるというふうに言われております。しかし、それを精製する技術が追いつかなかったといいますか、そういうやる気がなかったといいますか、ということで今回の長い尺度で見れば僕は根幹的な間違いがあったと思うのです。一方では、今御案内のような会社が国内市場を確保するために、外資のメーカーが申請を出しておるのにストップかけたとかいう事実も聞いております。だから、国と製薬メーカーの責任というものを追及するという声は、今回アンケート調査をやった結果でも、感染被害者の中の六十九人中の十六人が将来的に法廷の場においてきっちり追及していきたいということを書かれておりました。
一方ではプライバシーの問題といいますか、訴訟に入ったらプライバシーの問題も起こるでしょう。そういうことが今解決されるかどうか。しかし、プライバシーといっても、私どもがこの間NHKの「おはようジャーナル」でやりましたように、社会そのものからこういうエイズのイメージを、汚らわしいといいますか、イメージを払拭していく行動によってプライバシーの問題というものを我々の側からも徐々に打ち消していけば、そういう問題もやがて克服されるんじゃないか。だから、再び三たびこういう薬害の問題で苦しむ人たちをふやさないためにも、やっぱり可及的速やかな行政というものをきっちり僕はこれからも推進していく運動を展開していきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/77
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078・北村千之進
○参考人(北村千之進君) 一九八一年ごろには既にもうこのエイズ問題は起こっておったわけですね。ところが、日本の方ではそのニュースが入っておったか入っていなかったかはわかりませんが、日本では八三年に実は自己注射が許可になっておるんです。これは、お医者さんの方で打ってもらわずに自分たちで勝手に打てるというような形になっておるわけなんですが、その辺のところにも何か一つの大きなずれがあるような気がするわけなんですね。ですから、当時もし政府なり行政なりがはっきりとそういうことを認識しておれば、恐らく自己注射というものは二年、三年、あるいは安心した薬ができるまでは自己注射というものは認められなかったんじゃないかなという私は気がするわけなんです。そういうところにも何か大きな行政のミスというんですか、あるいは政治的なものといいますか、あるいは医者の方のいわゆる研究が足りなかったといいますか、またアメリカの方のニュースそのものを知らずにおったのか、こういうところに今いろいろな疑問が持てるわけなんですね。
ですからもしも、私のこれ想像ですけれども、自己注射が三年おくれておったらまだ多少陽性者というものが減っておったんじゃないかな、こういうようなふうに私は考えておるわけなんです。そのために私わざわざアメリカまで行って、自己注射の運動をした一人なんです。ですから、非常にそこに私自身が責任を感じております。私が行ったために何か陽性患者がふえたんじゃないかなという、そういう気もいたしておりますが、しかしその当時の空気としては、やはり一刻も早くというのが患者さんの声でもあったわけなんですから、私自費でアメリカまで行ってきた。そして現状を見てきたわけなんですけれども、そのときにはまだ向こうでエイズ問題は私の耳には入っていなかったものですから、一生懸命に努力して、そして日本の厚生省で許可をとるべく準備をして帰ってきたわけなんです。
ですから、この責任というのは私は那辺にあるかということになってくると実に難しい問題じゃないかなと。まあ、本家本元と言えばアメリカさんでしょう。それを知らずにおった日本の国、政府、それから専門的なお医者さんあたりも知らずにおった。もし知っておったらこれはまた大変な問題ですけれども、善意に解釈して、先生方も知らずにおったんじゃないかと。そうすると、私の考えではちょうど手をたたく、これはどちらの手が鳴ったかというのと同じような形になってしまって、両方が鳴ったんだという形をとらざるを得ぬじゃないかなという、私はそういう気持ちを持っておるわけなんです。非常にこれは説明が難しいんですけれども、実態はそういうことだと私は思っています。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/78
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079・保田行雄
○参考人(保田行雄君) 今、北村参考人が自己注射があたかも感染を拡大したかのようにおっしゃっていますけれども、そういう事実はありません。安全な注射をしていればだれ一人感染をしなかったわけです、自己注射だろうが医師による注射だろうが。自明のことです。
五十八年の二月に自己注射が認可をされまして、問題なのは、私たちは濃縮製剤をアメリカから輸入する以前、国内で全部生産をしていた時代、クリオの時代からきちっと自己注射はできるからと自己注射を要求していました。昭和四十七、八年ごろから私たちはずっと運動してまいりましたので、別にこの濃縮製剤の認可あるいはその使用の拡大とは一切関係ありません。これは患者や家族の名誉のためにはっきりと申し上げておきます。
それともう一つは、やはり国やメーカーには責任があると思います。私自身患者でして、その五十八年の要望書を実際つくった者としてこれは断言できます。国に対してやはり本当に危ないと、私たちは製薬会社やいろんな学者を回って、危ないんじゃないかと。それとやっぱり、ミドリ十字や化血研の製剤は日本製だと思っていたけれども、これは違うと初めて私たちも知ったわけです。これは大変だということで国に要望を出したんです。ここにおられる北村さんはその要望を、私たちは八月に決議しましたけれども、それを出すことを渋りまして、製薬会社に聞いてみないとわからないというようなことをおっしゃいまして、それが九月に一カ月おくれました。しかし、私たちも粘り強く、東京の友の会を中心にして厚生省に要望を出したわけです。
それを出したんですけれども、それ以降逆に、この前ミドリ十字の文書が出ておりましたけれども、医師や製薬会社や厚生省なりが安全だということをしきりに強調するようになりました。私たちは同じ説明をそれから六十年の十月まで聞かされておりました。だから、全国で危ないと思って打った人はだれもおりません。危ないのは打ちません。何で一年に一回や二回しか注射を打つ必要のないような軽症の患者までが、そんな危ない製剤をよりによって打って感染しますか。日本でつくられた製剤もあれば、低単位製剤もあれば輸血もあったんです。私は、私の人生のうちのまだ半分も濃縮製剤では治療は受けておりません。家族や周りの人が輸血で支え、そして一生懸命に先生方が支えてきたわけです。濃縮製剤がなければ生きれないということもありません。それは非常に限られた、大量に必要な手術をする場合なんか非常に便利ですけれども、そういうことではありません。
だから、私たちは必要な情報がきちんと患者や医師に伝えられておれば、医療現場ではいろんな選択ができました。現にきちんと日本製に切りかえて、あるいはクリオに切りかえて感染を回避したという病院があります。そういうことが全国でできなかったという保証はないと思います。私たちの友の会も非常にメーカー等との癒着が激しくて、きちんと患者や家族の意見を厚生省なりに申し述べていけなかったのが非常に残念です。そのことが私たち患者会としての一番の痛恨事です。そのことも私たちは考えますが、やはり国やメーカーの責任はどう弁解しようとも免れることはできないというふうに私は思っています。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/79
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080・前島英三郎
○委員長(前島英三郎君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の方々には、長時間にわたりまして御出席を願い、貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。
本日はこれにて散会いたします。
午後三時八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111314410X00419881206/80
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