1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成元年十二月十四日(木曜日)
午前十時三分開会
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出席者は左のとおり。
委員長 黒柳 明君
理 事
鈴木 省吾君
福田 宏一君
安永 英雄君
矢原 秀男君
委 員
斎藤 十朗君
下稲葉耕吉君
中西 一郎君
林田悠紀夫君
山本 富雄君
北村 哲男君
清水 澄子君
千葉 景子君
橋本 敦君
山田耕三郎君
紀平 悌子君
櫻井 規順君
国務大臣
法 務 大 臣 後藤 正夫君
政府委員
法務大臣官房長 井嶋 一友君
法務省民事局長 藤井 正雄君
最高裁判所長官代理者
最高裁判所事務
総局民事局長
兼最高裁判所事
務総局行政局長 泉 徳治君
事務局側
常任委員会専門
員 播磨 益夫君
説明員
法務大臣官房審
議官 濱崎 恭生君
法務大臣官房参
事官 山崎 潮君
参考人
一橋大学教授 竹下 守夫君
弁 護 士 東澤 靖君
弁 護 士 松井 繁明君
弁 護 士 千葉 一美君
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本日の会議に付した案件
○民事保全法案(第百十四回国会内閣提出、第百十六回国会衆議院送付)
○夫婦同氏・別氏の選択を可能にする民法等の改正に関する請願(第二〇二二号)
○民事保全法案反対に関する請願(第四三四〇号外三件)
○継続調査要求に関する件
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/0
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001・黒柳明
○委員長(黒柳明君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
民事保全法案を議題といたします。
本日は、本案につきまして御意見を伺うため、一橋大学教授竹下守夫先生、弁護士東澤靖先生、弁護士松井繁明先生、弁護士千葉一美先生、以上の四名の方に参考人として御出席をいただいております。
この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多忙の中、当委員会に御出席賜りまして、ありがとうございました。忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、本委員会の参考にさせていただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
次に、議事の進め方について申し上げます。
まず、お一人十五分程度順次御意見をお述べいただき、その後各委員の質疑に対してお答えいただきたいと考えております。
それでは、これより各参考人に順次御意見を述べていただきたいと思います。
初めに、竹下守夫参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/1
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002・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) 一橋大学の竹下でございます。
長年民事訴訟法の研究に携わり、また法制審議会における民事保全法案の審議に関与してまいりました者といたしまして、同法案についての私の意見を申し上げ、国会での御審議の御参考に供したいと存じます。
現代におきましては、我々の社会生活の多くの分野で仮差押え、仮処分手続が利用されております。これは一方において、技術革新等により以前と比べ個人にとっても企業にとっても大きな損害をもたらす危険が不可避的に多くなってきたこと、市場経済社会における競争原理の徹底により利害対立が厳しくなり、企業の内外を問わず緊急な解決を要する法的紛争が生じやすくなっていること、社会政策的配慮の必要性が普遍的に認識され、社会的弱者に対する適時の救済が強く求められるに至っていること。他方、社会的変化の速度が速まって、権利救済の迅速性への要求が以前にも増して高まってきたというような事情によるものであります。その意味で仮差押え、仮処分の利用範囲の拡大は先進自由主義諸国一般にとり必然的現象と言えるものと思われます。
我が国では、さらに訴訟係属中に係争不動産の譲渡や占有移転がなされた場合の訴訟上の処理に関する民事訴訟法の規定に不備な点がございますので、これを補うため不動産取引の分野で処分禁止仮処分、占有移転禁止仮処分が非常に多く利用されていることはよく知られているとおりでございます。
このような社会的背景を考えますと、現代の仮差押え、仮処分に期待される理念として次の四つのものを挙げることができると思われます。
第一は、言うまでもなく手続の迅速性であります。迅速性の理念は、決して債権者のための保全処分発令手続について認められるだけではありません。現在の社会経済状況では誤った仮差押え、仮処分は時として債務者に甚大な被害を与えますから、誤った保全処分に対する債務者の救済もまた迅速でなければなりません。
第二に、仮差押え、仮処分は、保全さるべき権利関係また仮処分を必要とする事情が多様化してきたことを受けて、これに対応できるよう柔軟なものでなければなりません。
さらに第三に、仮差押え、仮処分の手続も裁判上の手続の一つとして適正手続の要請を満たす必要があります。
そして第四に、迅速性の要求と調和を保った上での審理の充実、真実に即した裁判の保障であります。
しかし、現在の民事訴訟法上の仮差押え、仮処分に関する諸規定は明治二十三年つまり一八九〇年に制定されて以来、ほとんど改正らしい改正を経ることなく今日に至っているものであります。このちょうど百年の間における社会経済の変動を考えれば、もはや現行諸規定がこの変動を背景として生じたただいま述べたような諸理念を十分に満たすことが困難になってきているということは容易に推察されるところでございまして、ここに改正の必要が生じたわけでございます。
次に、民事保全法案における改正の眼目でございますが、この点につきましては次の二点に眼目があると申し上げることができると思います。
第一は、決定手続原則の導入であります。これは手続の迅速性、柔軟性の理念を実現するための改革と申すことができます。
現行法では御承知のとおり、仮差押え、仮処分の申請につき審理をする場合に、口頭弁論を開かず審尋等によって裁判する方式と口頭弁論を開いて裁判する方式とが認められておりますが、一たん口頭弁論を開いた場合にはそれはいわゆる必要的口頭弁論としての性質を持ち、口頭弁論にあらわれたものだけを裁判の資料とし、判決で裁判しなければなりません。このように、口頭弁論を開くと手続が硬直化いたしますので、実務では仮処分の場合でもほとんど口頭弁論を開かずに審理、裁判しているわけでございます。また、仮差押え、仮処分決定に異議申し立てがあった場合、仮差押え、仮処分の取り消しの申し立てがあった場合は、どんなに簡単な事件であっても必ず口頭弁論を開き判決で裁判しなければならず、手続の遅延を招いております。
これに対しまして法案では、仮差押え、仮処分申請に対する審理手続、保全異議後の手続、保全取り消し手続、さらに保全抗告手続のすべてを任意的口頭弁論に基づく決定手続といたしました。そこで裁判所はこれらすべての場合に、書面審理によっても当事者を審尋してもまた口頭弁論を開いてもよく、いずれの場合でも決定で裁判をすることになります。一たん口頭弁論を開きました場合でも、必要に応じて書面審理、審尋審理に切りかえることもできるわけでございます。そして、どのような審理方法をとるかはそれぞれの事件で保全されるべき権利関係の性質、緊急性の程度等を考慮し、裁判所が裁量によって決めることとしたのであります。そこで、簡単な事件は当事者の審尋のみで迅速に、しかし複雑困難な事件は現行法におけると同様に口頭弁論に基づいて慎重に審理、判断することが可能になるのであります。したがって、決定手続原則の導入が結果として複雑な事件を仮差押え、仮処分手続から排除することになるというようなことはあり得ないと確信しております。
改革の眼目の第二は、我が国の実務上極めて重要な役割を果たしております不動産の処分禁止仮処分、占有移転禁止仮処分の効力、またその前提としてその要件、執行方法につき明文の定めを置いて、長年にわたる判例、実務の混乱を立法的に解決しようとした点であります。
この二種類の仮処分が実務上いかに重要な役割を果たしているかは、本法案添付の統計資料によれば、昭和五十三年から同六十二年までの十年間における仮処分既済事件総数のうち、この二種類の仮処分事件数の占める割合が四九・六%、つまり約半数を占めるとの事実だけからでも容易に推察できると思われます。しかも、近年における異常とも言える地価の高騰により、不動産に関する争いは今後ますます増大し、かつ熾烈になるものと予想されます。したがいまして、この種の仮処分の要件、効力につき、本法案に示されているような合理的内容の立法的解決を与えることは極めて歓迎すべきことと言わなければなりません。
このように、民事保全法案の予定しております仮差押え、仮処分手続が迅速性、柔軟性の理念にかない、また実務上の意義が大きいといたしましても、これを積極的に評価するにはなおこの手続が適正手続、審理の充実の要請に反することはないかを吟味しなければなりません。
まず、適正手続の要請、言いかえますと当事者の手続権の保障の要請に反しないかでございます。
確かに、仮差押え、仮処分申請に対する審理手続つまり異議申し立て前の手続は、法案の予定いたしますところでは、必ず両当事者を審尋しもしくは口頭弁論を開き、主張、立証の機会を与えるという構造になってはおりません。その意味では、債務者にどの程度主張、立証の機会を与えるかは裁判所の裁量にゆだねられているわけであります。しかし、現行法につき最高裁判所は御承知のとおり昭和六十一年六月十一日のいわゆる北方ジャーナル事件に関する大法廷判決におきまして、一定の場合には債務者を審尋せずに仮処分決定をすることが憲法違反になるとして、裁判所の裁量にも限界のあることを明らかにしております。法案がこの判例の見解を変更する趣旨でないことはもちろんでありまして、それゆえ、この法案の予定する決定手続でも、事件の具体的事情によっては、口頭弁論を開かずまたは債務者を審尋せずして保全命令を発すれば憲法違反または少なくとも違法となり得るのであり、この意味で債務者の手続権は必要な限度において十分保障されていると言い得ると思います。
以上に対しまして、保全異議、保全取り消し、保全抗告の手続は対審的に構成されており、必ず口頭弁論または当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ決定をなし得ないとされております。したがいまして私は、法案の予定する手続は適正手続の要請にかなうものであると考えるのであります。
次に、審理の充実の点でありますが、保全異議、保全取り消し、保全抗告の手続では、本案不提起による取り消しの場合を除きまして、当事者以外の参考人をも審尋できるとされております。したがって、現行法のように必ず口頭弁論を開くというわけではございませんが、実質的には現行法と変わらない程度の充実した審理が保障されていると言い得るわけでございます。
これに対しまして、異議前の手続では参考人の審尋は認められておりません。これは審議の過程でも特に慎重に検討を加えた点の一つでありましたが、結局、手続の迅速性を確保しつつ事件の事実関係を解明するための方策として、一般的には当事者の事務を処理しまたは補助する者に釈明のための陳述をさせることができるものとし、純然たる第三者の陳述を求める必要がある場合には口頭弁論を開いて証人尋問の手続を踏むべきものとしたのであります。裁判所としては、これだけの手段を与えられれば具体的事情のもとで必要とされるだけの充実した審理を行い得るものと思うのでございます。
以上の次第で、私は、民事保全法案は適正手続、審理の充実の要請を満たしつつ、迅速かつ柔軟な仮差押え、仮処分手続を実現し、また長年の懸案でありました処分禁止仮処分、占有移転禁止仮処分の効力をめぐる問題に適切な立法的解決を与えるものとしてこれを積極的に支持したいと考えるものであります。これによりまして、現代社会の期待にこたえ得る権利保全制度が実現されるものと確信いたしております。
なお、この法案は実務上非常に重要なものでありますので、日本弁護士連合会推薦の委員の方々も法制審議会の審議の過程では特に入念な検討を加えられ、常に日本弁護士連合会の関係委員会等と連絡をとりつつ審議に参加され、最終案には全面的に賛意を表されたものであることをつけ加えさせていただきたいと存じます。
時間の関係で触れることのできませんでした個別の問題につきましては、御質問があれば私の意見を申し上げたいと思います。
以上で私の意見を終わらせていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/2
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003・黒柳明
○委員長(黒柳明君) どうもありがとうございました。
次に、東澤靖参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/3
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004・東澤靖
○参考人(東澤靖君) それでは、私、弁護士の東澤と申しますが、民事保全法案について私の意見を述べさせていただきたいと思います。
民事保全法案がその対象とする仮処分、仮差押えの手続にはさまざまな類型がありますが、私が本日この法案審議に当たって述べたいのは、この法案の実施によって多くの影響、まあ悪影響が多いわけですけれども、を受けることが懸念される労働争訟についてであります。
労働争訟といっても、労働組合など多数の当事者と使用者との争いから始まってあるいは支援のない労働者個人が労働条件の是正を求めて争う場合までさまざまな類型があるわけでありますけれども、現在仮処分手続も含めて裁判制度に判断がゆだねられることが多いのは何といっても解雇事件であります。この場合、労働者は本案の裁判手
続においては雇用関係の確認と賃金の支払いを求めることになりましょうし、保全処分におきましては労働契約上の地位の保全と賃金の仮払いを求めるという形になるのが通常であります。
このような労働争訟においては、通常の民事事件とは異なる幾つかの特殊性がございます。それは第一には、複雑な事実審理を必要とする場合が多いということであります。例えば解雇理由とされた事実があるかどうか、それが解雇理由に当たるのかどうか、解雇権の乱用となるのか、あるいは使用者に不当労働行為の意思があったかどうか、そういった問題を時によっては多数の当事者関係の中で、また日々大半の生活を共有する労使間で争うわけでありますから、審理の論点は非常に多岐にわたり、金銭だけでは割り切れない複雑な問題が生じます。労働争訟を指して、経済訴訟ではなくて人格訴訟だと指摘されるゆえんであります。
また第二に、訴訟の当事者となる使用者と労働者との間に事実上訴訟を維持するための経済的な力の差異がどうしても存在するということであります。特に労働者が労働組合の支援などを受けずに個人で訴訟を行っている場合などは、労使の力関係の差異は圧倒的なものでありますから、使用者はその労働者を解雇すれば賃金の支払い義務を免れるだけではなく、他の労働者を用いて事業を継続することが可能です。しかし労働者側は賃金という生活の前提条件を奪われ、解雇を撤回させるためには雇用保険あるいはアルバイト等によって最低限の生活を維持し、裁判を続けなければなりません。このような状況のもとで、労働者側は、事案が複雑なるがゆえに長期間を要する本案訴訟をやるのに先立ちまして、まず当面の生活と裁判を続ける前提を確保するために地位保全、賃金の仮払いなどを求める仮処分を申請するわけであります。
そこで、私が危惧いたしますのは、第一に、今回の民事保全法案がこのような複雑な労働争訟に対して十分配慮した枠組みになっているかどうかという点でございます。言いかえれば、今回の民事保全法案のもとで労働争訟のような複雑な事案が締め出されてしまう結果となりはしないだろうかということでございます。
法案の趣旨は、民事保全手続を命令を出しやすく取り消しやすいものにする、そのために審理の迅速化を図るということだと考えております。そのことは、多くの一般の民事保全の事件においては歓迎すべきであることは言うまでもありません。しかしながら審理を迅速化する手続の枠組みができればできるほど、簡易な審理では到底結論を出せないような類型の事件が保全制度の枠外に追いやられる可能性が大きくなってくるわけであります。後に述べます東京地方裁判所の労働部の取り扱いにおきましては、保全手続における審理の迅速化が進められる中で、労働争訟においては口頭弁論手続をそもそも開かず審尋手続だけで決定を下す、あるいは不当労働行為などが争点となるような複雑事案では、そもそも仮処分手続ではなくて本訴を出し直すようにというような裁判官からの勧告があるなどの事態が現実に生じております。それゆえ、審理の迅速化のための法の整備に際しても、複雑事案において例外的に慎重な審理手続を尽くせるような手当てがどうしても必要になってくるわけであります。
この点については衆議院の御審議の中で、「権利関係が複雑な民事保全事件の審理については、審理の迅速化とともにその充実化を図る法の趣旨にかんがみ、その運用に遺憾なきを期し、当事者の裁判を受ける権利を損なわないようにすること。」との附帯決議が付されました。このことは当然必要な配慮と言えますけれども、本来このことは法律の明文の中に記載されてしかるべきであるというふうに考えます。また、審理の迅速化を追求する法案の実際の運用、具体的な裁判所の運用において、このような配慮が今後ないがしろにされはしないかどうかを事後的に検証する機会がどうしても必要になってくるのではないかというふうに考えております。
次に述べたいのは、現在裁判所で行われている労働争訟仮処分実務の問題点であります。
その問題とは、第一に、労働争訟仮処分に対する裁判所の実務、特定の裁判所の実務が極めて短期間のうちに労働者に不利益な形で変遷しているということ、第二に、その変遷が自然な論争や国民の理解、そうしたものを得てではなくて、一部の裁判所の実務的な指導のもとになされている節があるということであります。その典型的な例は解雇事件ですが、通常、先ほども申しましたように地位保全と賃金仮払いの仮処分を申請して労働者側が争うわけであります。これに対して裁判所側は従来、被保全権利が存在する限り、言葉をかえますと解雇に理由がない、解雇が無効であるというふうに判断すれば、地位保全の仮処分並びに決定までに既に発生した賃金も含めての賃金全額を期限をつけずに、あるいは本案判決の確定まで支払えというような命令を出してまいりました。
大阪の弁護士が一九七八年から八六年までの労働者の申請が認容された百七十四件の決定例を調査したのですが、一九八一年までは六十二件中地位保全が却下されたのはわずか一件という形で、ほとんど地位保全が認められてまいりました。ところが一九八二年以降になって次第に地位保全を却下する決定が増加し、一九八六年に至っては認めたものが十一件、却下したものが八件というような状況になっております。しかも、却下例のうち一件を除いては、それはすべて八六年の場合は東京地裁の労働部で行われた決定であります。また、賃金についても過去分については認めない、あるいは将来分も全額ではなくその一部、期間も半年、一年などの限定を加えるといった例がふえております。
このような扱いをする理由として、一部の裁判所の見解としては次のような理由を述べております。つまり、地位保全の仮処分は使用者に任意の履行を期待する仮処分であり、使用者が命令に応じないと意味がない。しかるに、現在においては大半の使用者がこれに対して応じない。すなわち命令が出ても職場復帰させない。このようなもとでは地位保全命令を出しても意味はないから保全の必要性がないんだと。しかし、悪いことをした者が命令に従わないからそもそも命令を出さないというのは、これは本末転倒の議論と言わざるを得ません。加えて、たとえ使用者が守らなくても地位保全命令を出す意味、すなわち保全の必要性は存在します。例えば社宅を利用し社会保険を受けるという権利はもちろん、裁判所が雇用関係の存在という一つの規範を後見的に定めることは、労使の自主交渉においても非常に意味のあることだというふうに考えます。
一方、仮払いを命ずる賃金の内容についても、一部の裁判所におきましては、これまでもらっていた賃金が幾らであろうと、保全の必要性を極めて厳格に解釈し、実際に最低限の生活を維持するのに幾ら必要か、また再就職先を見つけるのにどのぐらいの期間が必要かという観点から、額と期間を制限しております。また、決定までの既に発生した賃金についても、もう既に実際に生活はできてきたではないかというような理由で、保全の必要性はないと仮払いを認めない例もふえております。このような見解がいかに常識に反した硬直的な考え方であるかは、解雇された労働者の身に置いてみれば極めて明らかだと言えます。解雇に理由があるというならともかく、解雇に理由がないと判断された事件で賃金が削られてしまうということは、これでは使用者の方の解雇のやり得ということになってしまい、不必要な解雇を横行させることになりはしないかという懸念を持ちます。
そもそも労働事件の中には、理由のない解雇に抗議して職場復帰を目指すため、再就職をしないでアルバイトや支援団体のカンパ等で裁判を続ける例も少なくありません。再就職してしまえば、後に裁判で勝っても現職復帰は事実上困難となるからであります。そのような場合に、再就職期間としてどのぐらいが妥当かというようなことを前提とした仮払い期間を定めるというのは、これは
全く現実を無視した判断だと言わざるを得ません。また、労働者の方は仮処分の裁判で賃金仮払い仮処分を得ても、半年なり一年の期間が経過した後には改めて仮処分を申請しなければならなくなるという点で非常に迂遠なものであります。このような裁判所の硬直した扱いは保全命令の必要性を厳しく解釈する結果生じたものでありますけれども、理論の当否以前に現実から余りに乖離したものと言わざるを得ません。
今回の民事保全法案二十三条二項におきましては、仮の地位を定める仮処分についての必要性の類型が現行法より限定的なものとなっております。そのような中で、今まで述べたような一部の裁判所の実務がより硬直的になるのではないかとの懸念は残念ながらぬぐい去れません。
さらに問題なのは、このような裁判実務の変遷が特定の時期以降、一部の裁判所機関の強力な実務指導のもとになされている節があるということです。先ほど一九八一年と翌八二年との間で裁判の傾向が一変したと述べましたけれども、この間の一九八一年十月に東京で裁判官中央協議会というものが開催されまして、この問題が議論されております。その設問としては、いわゆる任意の履行を期待する仮処分である地位保全の仮処分を発することの当否についてというもの、あるいは賃金仮払い等仮処分において仮払い額を定める場合、本人のアルバイト収入や妻の収入はどのように扱うべきかといった設問について議論されております。
そこでのまとめに当たります協議の結果という欄では、先ほど述べたような保全の必要性を厳格に解釈する立場に立って、この地位保全の仮処分についてはその扱いをもう一度考え直してみることが必要な時期に来ているのではないかと述べてあったり、あるいは解雇されたために収入の道を失った労働者が他で収入を得る道を探すまでの一定期間に限って、その生活に最低限必要な金銭上の救済を認めていくという扱いが最も純粋な形として考えられるといったような見解をまとめているわけであります。とりわけこの協議会におきましては、地位保全の問題について発言した八つの裁判所のうち四つの裁判所が実際に地位保全の仮処分は認めている、あるいは認めるべきだというような見解を表明しておるわけであります。にもかかわらず、協議の結果として今言ったような内容のものをまとめてしまうというのは、かなり強権的な誘導があると言わざるを得ません。
この中央協議会を受けて、一九八二年の六月から七月にかけて各高等裁判所管内において裁判官会同が開かれまして同様な議論が交わされております。また、時をほぼ同じくして、一九八二年一月には「新・実務民事訴訟講座十一巻労働訴訟」という本が刊行されまして、そこには裁判官が多数執筆しているのでありますけれども、保全の必要性に関する点につきまして同様の議論が展開されているわけであります。このような論調を先導し、実際にも保全の必要性について厳格な取り扱いを徹底させておりますのが、先ほど述べました東京地裁労働部であります。そこでは地位保全仮処分は原則として認めない、賃金仮払いも期間と額に限定をつけるという扱いが定着しております。その他の裁判所の実務も、先ほど述べましたように、こうした実務的な指導に沿うかのように扱いを変化させているという傾向があります。
このように、法律の明文とはかけ離れたところで短期間のうちに実務が変遷する、その変遷も自然な論争や国民の理解を得てではなくて特定の裁判機関の実務的指導のもとになされている、一般の民事保全における原則を特殊な利害関係を有する労働仮処分に硬直的に適用するという問題が現実に発生しているわけであります。それゆえ、新たな法律を定めるに当たりましても、このような弊害を可能な限り除去する手当てをとらない限り、問題は放置されるのみならず増大してしまうことは言うまでもありません。そこで労働仮処分のような特殊な保全事件におきましては、妥当な実務的取り扱いを確保するために、地位保全の必要性や賃金全額の仮払いの必要性を推定するなどの立法的な手当てがどうしても必要になってまいると思います。
今回の民事保全法案についてさまざま述べましたけれども、最後に審議に当たってお願いしたい点を述べさせていただきます。
一つには、この法律の運用に当たっては労働争訟事件を初めとして事件の性格、特徴に応じた柔軟かつ慎重な審理が確保されるよう、法案第一条の趣旨できちんと定めていただきたいということであります。
二つには、法案第二十三条の仮処分命令の必要性の項に、先ほど申しました解雇事件について地位保全の必要性、賃金仮払いの必要性を推定する旨の規定をぜひとも設けていただきたいという点であります。
三つ目には、法案二十四条の仮処分の方法の中に、債権者の地位を保全する処分の類型があること、それをきちんと明記していただいて、またその処分の効果として、命令が取り消されるまでは保全された地位が債権者にあるものとして取り扱うべきことを定めていただきたい。並びに賃金仮払いを命ずる仮処分においては、これまで受領していた賃金全額を本案訴訟の確定まで支払う必要があること等の推定規定を設けていただきたいということであります。推定規定であれば、労働者が他に高額の収入を得ているなどの例外的な事情があります場合にはそれは排除されるわけでありますから、実際の運用はより妥当なものになるというふうに考えます。
最後に、今回の法案が実務の運用との関係でこれまで述べたような問題が危惧倶されるという以上、法案はつくった後は勝手に運営をしてくださいというのではなくて、一定期間例えば三年間などを区切って運用状況をきちんと検証し、必要があれば適正な運用のために法律に再検討を加えるというようなことをこの審議の中でできれば定めていただきたいというふうに考えます。
以上、労働争訟という観点から幾つかの問題点と法制定に当たっての要望点を述べさせていただきました。審議の御参考になれば幸いであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/4
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005・黒柳明
○委員長(黒柳明君) どうもありがとうございました。
次に、松井繁明参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/5
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006・松井繁明
○参考人(松井繁明君) 衆議院における一部の修正と附帯決議は一定の積極性を持ったものだというふうに考えます。しかし、これらによっても私はこの法案には重大な欠陥が残っていると考えざるを得ません。問題は数多くありますが、ここでは私はとりわけ重大な、仮処分手続における口頭弁論の排除と審尋手続の硬直化の問題に絞って、私の意見を述べさせていただきたいと思います。
この問題に関連して、私は自分の経験した二つの仮処分事件、いずれも東京地裁でしたが、その事件を思い出します。
その一つは、御記憶がある方もあると思いますが、あるテレビ局の女性アナウンサーが容色が衰えたという不当な理由で職種を転換されてしまった、配転されてしまったという事件です。これは口頭弁論が開かれまして、申請人本人つまりそのアナウンサーに対する本人尋問が行われました。彼女は、放送局の特殊な雰囲気もあるんでしょうが、日ごろはもうラフなシャツにジーパンというような服装を好んでいる女性でしたけれども、その口頭弁論の本人尋問の日には髪もきれいにセットしまして、テレビ向けのメイクアップをしまして、ドレスも新調したかどうか知りませんが、きれいなのを着て証人台に立ちました。会社側はかなり厳しい反対尋問をしましたが、さすがに落ちついて余裕のある態度で、しかも的確な言葉を使って切り返すという堂々たる証人尋問の態度でした。これは聞く者すべてに感銘を与えたと思います。会社側が主張していた容色の衰えがあるのでアナウンサーとしては使えないんだというような主張は、そのことによって私は崩れたんじゃないかというふうにこの事件を見ています。
もう一つの事件も、ラジオ局の女性アナウンサーが職種配転されましてキーパンチャーのような仕事をさせられたという事件です。会社側の言
い分というのは、最近ラジオの話し手というのはもう素人でもできるんだ、アナウンサーの専門職性というものはもうなくなったのだから一般労働者と同じにどこへ配転しても構わないんだと、こういう主張でした。これも口頭弁論が開かれまして証人尋問が行われました。
会社側の証人の一人に、経歴三十年、ベテランのアナウンサーが立ちました。たしかアナウンス部長だったと思います。主尋問ではほぼ会社の主張に沿うような証言をされていましたが、反対尋問の最初に、アナウンサーの仕事というのは一定の才能の上に日ごろのたゆみない訓練と修養が必要なのではないかということを私は聞きました。すると、そのアナウンス部長である証人は我が意を得たとばかり、そのとおりですと答え、プロのアナウンサーとしての誇りを持ってその訓練とか修養の難しさあるいは大切さというものを詳しく証言をしました。素人でもできるんだという会社の主張は、この会社側の証人の証言によって崩されました。いずれも労働者側の勝訴に終わった事件です。
使用者側と労働者側が厳しい対立関係にある労働事件の場合は、一つしかないはずの事実をめぐっても全く相対立する意見が主張され、それぞれ書証、陳述書などを含めた書証だけではどちらとも決しかねる状況がしばしば生まれます。裁判官も大変だろうと思うんですね。その中で真実を見きわめるため、実務ではどうしてきたかというと口頭弁論を開いたり、審尋という手続の枠の中でも在廷証人を調べたりするさまざまな創意工夫が行われてきた。東澤参考人がいろいろと述べたとおりです。これは労使双方の代理人だけでなく、裁判官を含めたいわば実務家の英知だったと私は考えています。先ほど挙げた二つの事件も、その英知の結果真実を発見したという事件ではないでしょうか。
ところが、民事保全法案によりますと仮処分手続では口頭弁論を経なくてもいいということになります。法文上は口頭弁論を開いてもいいことになっていることはそのとおりだと思いますが、当事者の一方、つまり真実があらわにされるのを恐れる一方やあるいは裁判所が反対すれば、事実上開くことは難しい。ほとんどできなくなるんじゃないでしょうか。
そうなると、第一に、さっきの二つの事件のように証人調べの中で初めて珠玉の真実が浮かび上がるというような機会が奪われてしまう。労働事件ではその不利益は主に労働者側の負担になるのではないかと恐れます。なお、このような仮処分手続の中で口頭弁論を開いた場合でも、先ほどのテレビ局の事件、最初の事件が約一年弱だったと思います。それからラジオ局の事件が一年五カ月で判決が出ています。恐らく本案訴訟に持っていったら三年以上かかることは確実だと思いますので、口頭弁論に持っていった場合でも仮処分事件の方がはるかに迅速に問題が解決するというのが実態です。
第二に、現行の必要的な口頭弁論主義のもとで、仮に口頭弁論を開かないとしても、審尋手続の枠の中で先ほど言いましたように在廷証人の取り調べなどさまざまな工夫がなされてきました。しかし口頭弁論が必要でなくなるということになりますと、そうした創意工夫の契機といいますか、きっかけが失われることになるのではないでしょうか。これまた真実発見とは逆の作用に働くことにならざるを得ません。私は、複雑、重大な事件については必要的口頭弁論を原則とするように第三条を修正すべきものだと考えています。
次に重大なのは、衆議院の当初の審議の中で政府側委員が、保全異議段階での審尋方式を定めた法案第三十条の反対解釈として申請段階での参考人審尋はできないんだというふうに答弁していたことです。この答弁のとおりとするなら、民事保全法案はこれまで実務が積み重ねてきた創意工夫に満ちた柔軟な方式をすべて切り捨てることになります。せいぜい本人尋問しかできないという、審尋方式を恐ろしく硬直化するものになるということを言わざるを得ないわけです。私は到底認められません。これでは当事者双方も裁判所も何とか事情を知っている人の証言を得たいと望んでいる場合ですら、それを実現させられないということになってしまうからです。このような政府側の解釈は誤っていると私は考えています。
法案は、素直に読めば審尋の方式を特に定めていない。したがって裁判所の裁量によって柔軟に決めることができるのです。法案三十条は、とりわけ慎重を要する異議段階での参考人の審尋を注意的に定めたものと解することができると思います。一昨日の参議院での答弁では、法務省も最高裁も、慣行を尊重するとか審尋についての裁判官の訴訟指揮に任せるという趣旨の答弁をされています。これは私の法解釈に沿ったもので一歩前進だと評価できます。しかし、法案三十条から衆議院での政府答弁のような解釈を導く危険がなお残っているわけですから、この条文は例えば二十三条の中に取り込んでしまって申請段階、異議段階を通じた通則にしてしまうか、または全く削除して審尋方式については裁判所の裁量に任せるべきものだと私は考えます。
審尋の方式に関連してもう一つ大きな問題が残っています。
法案第九条の釈明処分の特例に言う「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」の範囲がどうなっているのかという問題です。例えば労働者の解雇事件において、会社側の労務担当重役や人事課長などがこれに該当することは異論がないところでしょう。ところが事務処理者とか補助者を狭く解釈しますと、労働組合の委員長だとか書記長などは解雇された当該労働者から見て事務処理者や補助者に当たらないとして除外されてしまう危険があります。団体交渉の状況がどうだったのかということについて、会社側は出席していた人事課長などによって説明できるのに、当該労働者は団交に出ていないということになりますと労働者側はこれに反論することができないということになってしまう。これではいかにも不公平だと思います。こうした危険を避けるために、法案第九条に、その他事案の解明のために必要な関係者を含めて、その範囲は裁判所が相当と認めるかどうかで裁量に任せるのが適切だと私は考えています。
以上述べてきたことと、その他私が修正を要するものと考える諸点、いろんな点は、私も討議に参加してつくられた自由法曹団の修正要求それから修正要求(追加)のとおりなので、御参照いただきたいと思います。この文書は先ほど事務局の方に配付していただくようにお願いいたしました。私は、こうした点の修正のない限り、民事保全法案は廃案にすべきものだと考えています。しかし、仮に廃案にしないというのであれば、なお多くの問題点を残している本法律案については、一層慎重な審議を継続していただきたい。
民事保全法というふうに名前は変わりますが、本来この法案は民事訴訟法の改正なのです。民事訴訟法のような基本法の改正は、慎重の上にも慎重を期して、後世の批判のないよう尽くすべきものだと考えます。衆議院法務委員会ではたった二回の審議で可決されました。本院での審議も始まったばかりだと思います。政府側は法制審議会で長期にわたって検討したんだということをしきりに強調しますが、これはあくまでも法案提案者である行政権内部の事情にすぎません。三権分立によって独立した立法権を持っている立法府がとりわけ基本法について特別に慎重な審議をなすべきことは、皆さんの責務だというふうに私は考えます。行政権内部で長期の検討がなされたからといって立法府のこの重大な責務が軽減されるという理由はないと思います。
この民事保全法案には、なお重大な欠陥あるいは問題点が含まれています。これらに対する大胆な修正を加えるか、少なくとも本件を継続審議にして審議を尽くすべきだというふうに私は考えますし、その点を改めて委員の皆さんにお願いして、参考人としての意見としたいと思います。どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/6
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007・黒柳明
○委員長(黒柳明君) どうもありがとうございま
した。
次に、千葉一美参考人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/7
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008・千葉一美
○参考人(千葉一美君) 弁護士の千葉でございます。
先に述べられた方々から労働仮処分についてはさまざまな問題の御指摘がありましたし、それから時間の関係もございますので、私の方からは二十七条の保全異議に伴う保全執行の停止、取り消しと、それから二十五条の仮処分解放金の問題点について、民事仮処分の立場から意見を述べさせていただきます。
まず、民事訴訟について私たち弁護士が受任するとまず何を考えるかといいますと、財産を押さえるわけですね。金銭なり不動産なり、とにかく相手方の財産を調査いたしまして押さえる財産を確保する、それがまず第一に弁護士が考えることなんです。なぜならば最終的に本案訴訟で勝訴いたしましても、要するに相手方に支払うべき財産のない場合にはこの勝訴は全く絵にかいたもちになるわけなので、そういうことになるわけです。
従来は、保全をかけて現状を固定いたしますと、一般の民事事件では異議申し立てはしないで本案訴訟に移るとか、または異議申し立てしましてもそのまま凍結いたしまして本案訴訟で審理をやる、そういった事態が一般だったわけです。なぜなら、現行制度ですと異議申し立てしてもその審理内容は本案訴訟と大体同じものになるわけでありますから本案訴訟を進行させた方が速いと、そういう判断に基づいているわけです。ところが本法案が成立いたしますと、一たん出た保全決定も異議申し立てに伴って停止または取り消しすることができるわけです。しかも、その手続が従来の口頭弁論それから判決という手続ではありませんで、審尋、決定という迅速な手続で行えることになります。そういたしますと、当然異議申し立てするケースは絶対ふえると思うんですね。
二十七条は、この停止、取り消しのできる要件を二つ定めております。一つは「保全命令の取消しの原因となるべき事情」、これは衆議院で修正されまして、「原因となることが明らかな事情」というふうに修正されました。それからもう一つは「保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があった」場合という、この二つの要件で限定しているわけですけれども、しかし、これにつきましては昭和六十一年に本法案の改正試案が発表された経緯がありまして、その発表された際にこの法案がこのようになったという説明もされたわけですけれども、その説明の中で書いてありますことは、一つは疎明で足るということなんですね。証明まで必要じゃなくて、この場合条文で疎明で足ると。しかも、その疎明というのは保全決定自体を取り消す程度までは不要だ、つまり執行停止等を相当とする程度でいいということなんですね。だから仮処分自体、本案訴訟に比べてかなり容易な方法によって取り消しの決定が出ると思うんですけれども、さらにそれより低い程度で保全の決定を取り消したり停止したりすることができると、そういうふうに言っているわけですね。
それから二十九条では、保全異議の審理については口頭弁論または当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ決定をすることができない旨定めておりますけれども、これは執行停止等の申し立てについての裁判については準用されないのではないかと思うんですね。つまり、保全異議の裁判自体と保全異議に伴う保全の処分の取り消し、停止の裁判とは別物になるわけです。その取り消し、停止についての裁判については双方の意見を聞くという条文は準用を多分されないと思いますので、そうしますと、当事者一方だけの言い分を聞いて、場合によっては書面審理だけでその決定が出るということになるわけですね。まさにこれは取り消し、停止というのは確実に出やすくなると思うんです。
そうなりますと、債権者の方でもうかうかしておれないんですね。従来は財産を固定したら本案解決まではもう固定したままということで安心して本案訴訟をやれたわけですけれども、これからは心配なしに本案訴訟をやっていられない。一体保全異議の方がどうなるかわからない。そうなりますと、本案訴訟に勝っても肝心の財産がなくなっていたのでは意味がないということから、結局、停止、取り消しをめぐって保全異議の段階で本格的に争う、そういう事態になるのではないかと私は考えております。
そうなると、一般民事事件のスタイル自体が従来のものから変わってしまうのではないかというふうに予想されます。つまり、本来なら公開の法廷、それから口頭弁論、さらに当事者主義によって訴訟は行われるべきなんですけれども、非公開、審尋方式、審尋つまり決定ですね、それから裁判官主導、この保全法案についてはかなり裁判官の裁量が強くて、裁判官のやはり主導ということがもう前面に打ち出されておりますので、そういうもとで訴訟を行ってしまうことにならないかという懸念を持っているわけです。しかも、裁判官の研修などが多々あるわけですけれども、そういうところで聞いておりますと裁判官は常々、適切なる時期に和解を勧めてできるだけ早い時期に訴訟というか紛争を解決しなさいと、そういうふうに指導されているらしいんですね。
ところが、例えば和解の勧告がありましても、すべての紛争について同じだと思うのですけれども、和解できる時期つまり和解の機が熟している時期とできない時期というものがあるわけです。例えばまだ双方の証明が不十分であるとか、まだ始まったばかりで当事者が納得していないと、あなたの方は余り勝ち目がないと言われてもわからないわけですね。そういうような事態であるのに、ある場合には本案訴訟であれば裁判官の和解の勧告に従わないこともこれはあります。その際にも、裁判官からは判決を出しますよ、あなたの方のこの程度では勝てるかどうかわかりませんよと、これは弁護士をやった方ならかなりそう言われた経験もあると思うんですけれども、一種のおどかしを受けるわけですが、それでも和解できないということであれば、けることは可能なわけですね。ところが保全手続の中では、保全が取り消し、停止されますと場合によっては財産を処分することも可能になってくるわけですから、そうすると財産がなくなっては元も子もないということを考えるものですから、裁判官の勧告に従わざるを得ない。和解しなさいと言われるとそれはけれない、そういう事態が生ずるのではないかと思います。これではその当事者は到底納得しないわけですね。
それから、これは昭和六十一年に東京弁護士会の研修会が行われたときの議事録なんですけれども、ここである裁判官が発言しているんですけれども、それを引用させていただきますと、要するに「つまり、今までは間違っていたということがわかっても一、二年は取り消すことができないという前提で考えるから、どうしたって発令のとき慎重にやらざるを得ない。保証金も高くせざるを得ないということがあるわけです。」。ここからなんですが、「ところが、これを書面審理で見直して取り消すべきものは迅速に取り消せるということになれば、むしろ発令するか、しないか迷うような事件で発令できるのがふえてくる。保証金を高く決めざるを得ないのが、ある程度低くすることも可能になってくる。」。要するに、裁判官は果たして出していいものか悪いものか迷うときには出すと。出すのはいいんですけれども、それがやがては取り消されるというそういう関係になってくるわけですね。
これでは、出す方としましては気楽にやれるわけでしょうけれども、出される、この裁判を受けている者たちにとってはたまらないわけです。結局その保全処分に翻弄されるというような事態になるわけですね。これではとても国民の裁判を受ける権利が保障されているとは言えないと思います。私はこのままでは到底賛成しがたいのですけれども、最低でも二十九条の準用を認めるか、あるいは二十五条と同じく「債権者の意見を聴いて、」というふうに入れるべきではないかと考えております。
それから、あと二十五条の仮処分解放金の問題について述べさせていただきますけれども、本条につきましては衆議院の審議過程で、要するに仮の地位を定める仮処分及び賃金仮払い仮処分については適用はありませんと、これはたびたび政府側から説明されているので心配ないのではないかと思いますけれども、私が言いたいのは、ここで適用される係争物に関する仮処分、つまり保全すべき権利についてもやはり本条の規定では不十分ではないかということを申し上げたいわけです。
ここで具体例を挙げますと、例えば遺留分を侵害された相続人が唯一の相続財産である係争土地に居住して、しかも家業を助けてきたような場合を想定してみます。その係争土地については処分禁止の仮処分決定をとったとした場合、その遺留分というのも寄与分というのも最終的には金銭の支払いを受ければその目的を達し得ますので、本条の対象とはなるんだろうと思うんですね、今の条文のままでいくと。しかし、寄与分の算定についてはどうするのかということです。本案訴訟でも寄与分の算定についてはかなり難しい。具体的ケースを考えて出さないとなかなか出ないというのに、保全処分では簡易迅速な審理によって行われるわけですから、そのような審理で適正な寄与分の評価ができるのか。また、仮に本案訴訟における解決額が解放金より高額になった場合はどうなるのか。債権者は事実上解放金より高くなったその不足分については取りはぐれるということにならないだろうかということですね。
それからさらに目的物の評価についても、本案訴訟の解決時に仮処分時より時価評価が上がっていた場合、そういう場合にはやはり解放金では担保し切れない部分が出てくるのではないかということなんです。つまり、保全時には一千万円の物件ということで考えてみますと、兄弟二人いた場合は二人の相続分が等しいとすれば五百万円ずつということですね。そうすると、解放金も五百万円ということになるかどうかははっきりわかりませんけれども、その傾向になるんではないかと思います。ところが本案訴訟の解決時に、今の狂乱物価ですともう二倍ぐらいにはなるわけですね。そうすると二千万円になった場合、兄弟二人だと一千万円ずつもらえることになるんですけれども、その差額分はどうするのか、これは事実上もう取れなくなってしまうのではいかという心配があります。
このような問題が起きるのは、結局二十五条が解放金適用の要件として被保全権利が金銭的補償で足りるという要件を掲げたのみで、何らその他適切な限定を行っていないところに原因があるのではないかと思います。
先ほど述べましたように、昭和六十一年の法務省側が発表した改正試案では、本条は次のようになっておりました。一応読み上げますと、「仮処分により保全すべき権利がその性質上金銭の支払をもってその目的を達することができることが明らかな場合」、まずこの「明らかな」という文言が入っております。それから「裁判所は、債権者の意見を聴いた上、仮処分の執行を停止するため又は既にされた仮処分の執行を取り消すために債務者が供託すべき仮処分の目的物に代わる金銭の額を仮処分決定に記載することができる。」というふうになっておりますね。つまり「仮処分の目的物に代わる金銭」というふうに限定しているわけです。
これについては法務省側は、こういう内容になった経過についてこう述べています。つまり、現行では仮差し押さえの規定の民訴法七百四十三条が類推適用されるわけですけれども、「しかし、現行の実務では、右要件を拡張し、仮の地位を定める仮処分についても、これを認めている扱いもあるようであり、」これでは「やや広がりすぎているように思われる。」と。これは法務省側が言っているんですね。
そこで、その要件を明確にする必要がある。そこから出てくるのは金銭の補償によりその目的を達することができる事情ということなんですけれども、しかし「この要件では、あらゆる権利は最終的には金銭的補償で足りることになってしまい、かえって要件が広がってしまう。」。そこで、「保全すべき権利がその性質上金銭の支払をもってその目的を達することが明らかな場合という限定をした。」と。つまり「明らかな場合」という文言を入れて限定したんだと。しかし、ここが重要なんですけれども、「これでも、解釈によっては、広がるおそれがあるので、解放金は、仮処分の目的物に代わるものであるとの要件を加えた。」ということなんですね。これによって初めて実質的に金銭債権に基礎を持つもの、例えば詐害行為取り消し請求権とか所有権留保売買による物の返還請求権とか、あと譲渡担保契約による担保物引き渡し請求権を保全するための仮処分という場合に限られることになるわけです。
ところが、本法案ではその「明らかな」というのとそれから「仮処分の目的物に代わる金銭」という条件を取り払っているわけです。取り払った経緯がどういう経緯でそうなったかは当然わからないわけですけれども、そうなるとやはり広く金銭的補償の可能性のある場合までを本条で取り込んでいくという趣旨なんだろうかというふうに考えざるを得ないんですね。そうなりますと、被保全債権が十分に担保されないケースというのが多く生じてくるのではないだろうか、そういう心配があるわけです。
また、本条の適用があるのかどうなのかとか、それから被保全債権の評価いかんですね、非常に裁判所の裁量に依存する程度がますます大になってくるのではないかと思うんです。やはりある程度枠をはめる必要があるのではないかというふうに考えておりまして、私としては改正試案の文言に戻すべきではないかと考えております。
以上が私の意見でございますので、よろしく御審議のほどをお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/8
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009・黒柳明
○委員長(黒柳明君) どうもありがとうございました。
以上で参考人の方々の御意見の陳述は終わりました。
これより参考人に対する質疑を行います。
質疑のある方は順次御発言願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/9
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010・北村哲男
○北村哲男君 私は日本社会党・護憲共同の北村でございますが、本日は四人の先生方、どうも御苦労さまでございました。若干の質疑をさせていただきたいと思いますが、まず竹下先生に御質問をいたします。
まず、今回の法改正は仮差押え、仮処分、特に仮処分についても係争物に関する仮処分について、そしてさらに処分禁止あるいは占有禁止の仮処分については大変細かく配慮されているというふうに見えます。しかし仮の地位に関する仮処分、特に今ほかの三人の参考人の方が言われましたように労働仮処分に関しての配慮というものが何か少ないような、あるいは積み残しているような印象を受けて、問題点が多く残っているように思いますけれども、その点についてどの程度、どの程度というかどのように気を使われたのかとか、あるいは配慮されたのかという御印象、法案審議そしてこの案ができたことについての御印象を聞きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/10
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011・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) それでは申し上げます。
ただいまの御質問は、今回の法案では係争物に関する仮処分、特に処分禁止仮処分、占有移転禁止仮処分については大変詳細な規定が設けられたけれども、仮の地位の仮処分、その中でも特に労働仮処分について具体的な規定がなく、十分な配慮がなされていないのではないかという御趣旨かと思います。
この法案では係争物に関する仮処分、特に占有移転禁止、処分禁止について詳細な規定を置いたと申しますのは、先ほど最初の意見陳述で私申し上げましたとおり、この二つの仮処分というのが我が国の実務において大変多く利用されている。ところが、それについては効力、要件とも判例、学説上争いがございまして極めて法律関係は不安定だと、前々からこの点についての立法的な解決というものが望まれておりましたので、これについては特に詳細な規定を置いたわけでございます。
それ以外の仮処分につきましては、確かに個別の規定というものが、法人の代表者の職務執行停止等について一条規定が置かれておりますけれども、それ以外については特に定めてございません。しかし、これは御承知のとおり仮処分の内容は非常に多種多様でございます。これも先ほど私が申しましたとおり、現在仮処分が使われるようになっている背景が非常に複雑でございまして、商事関係のものもあれば、あるいは特許関係のものもあり、それぞれその分野では重要なんでございますけれども、そういうものすべてについて個別に規定を置くということは困難である。また、それらの種類のものでもそれぞれ事件によりまして問題となるところがさまざまでございますために、個別に規定を設けるということをしなかったわけでございます。
しかし、審議の過程ではそれぞれ特にこういう仮処分の場合にはどうなるというようなことを個別に検討したわけではございませんけれども、審議に加わった委員各自といたしましては、それぞれの規定の審議をいたしますときに、こういうタイプの仮処分の場合にはどうなるか、あるいは御指摘の労働事件だったらどうなるかというようなことを考えながら審議をしたわけでございます。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/11
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012・北村哲男
○北村哲男君 もう一、二点ですが、先生のお言葉の中に、複雑事件を仮処分から排除することはもうあり得ないというお言葉がありました。大変心強いお言葉だと思いますけれども、しかし一方、東京地裁などでは、特に労働部では直接裁判官などが論文などで複雑事件はもう仮処分になじまないから本案の方に回すんだということを言っておられる方もいらっしゃるわけです。ジュリストなどの法律雑誌にもその旨が記載されておるんですけれども、そういうことが法案審議の段階で話題になったり、それに対してどういうふうに対処するかというふうなことがあったかどうか。また、その御印象はいかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/12
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013・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) ただいまの具体的な点につきましては、私の記憶する限り、特にどの裁判所のどこの部でどういう取り扱いをしているのが今回の法案との関係でどう考えられるべきかというようなことを議論したことはないと思います。
私の個人的な意見といたしましては、御指摘のような問題があるいは出てくるのかと思いますけれども、それは御承知のとおり、法律問題の場合にはどうしてもいろいろな解釈が出てまいりますので、一部の裁判所等についてそういう解釈が出てくることは、何というんですか、これはそれぞれの法律家が判断することでございますので、やむを得ないというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/13
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014・北村哲男
○北村哲男君 もう一点ですが、審議段階で法律の専門家団体である日弁連、日本弁護士連合会とも連絡をとって意見を聞いたとおっしゃいましたが、その御意見を聞く中で、仮処分の中でも労働仮処分というのはかなり特殊な地位を占めてきた歴史的な経過があるんですけれども、その労働事件の専門家の中のまた一つの分野を形成している専門家の御意見はお聞きになったんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/14
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015・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) いえ、私が先ほど申しましたのは、あるいは舌足らずで誤解を招いたのかもしれませんが、法制審議会では日弁連と連絡をとりながらと申しましたのは、これは日弁連から推薦されて法制審議会の委員になっておられる方が、個人的にいわば選出母体である日弁連の内部の関係委員会等と御連絡をとりながらということでございまして、法制審議会として特に日弁連のどういう方とか、あるいは御指摘のような特別の分野の専門家の弁護士の方の御意見を伺うというようなことはやっておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/15
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016・北村哲男
○北村哲男君 ありがとうございました。
次に、松井先生にお伺いしたいと思います。
松井先生は九条の問題を問題にされました。九条は確かにいろいろと問題にされている点だと思いますが、先生は九条については具体的に労働組合の役員というふうなお話があったんですけれども、それをもう少し具体的にどういう人が考えられるかということと、そうなると九条は事務処理あるいは補助する者ということで非常に当事者に準ずるというふうなことを意識したような法文だと思うんですけれども、しかしそれを外すと無限に広がって、無限というのはおかしいんですけれども歯どめがなくなって広くなるように考えられますが、どの辺に基準を置いて、必要な点は非常によくわかりますしそれが大事だと思うんですけれども、どの辺までをどういうイメージで考えられるか。ちょっとこの法案だけではわかりにくいのでもう少し詳しく御説明をお願いしたいと思うんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/16
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017・松井繁明
○参考人(松井繁明君) 典型的な例として、一般の組合員が解雇された。労働組合がその問題を取り上げて団体交渉その他争ったということが仮処分の場で問題になります。会社側が十分な手続を踏んだかどうかというのはかなり重要な論点になりますのでね。
その場合、「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」というのは、今までの典型的な法文の解釈でいいますと会社の社長じゃなくて重役、今の例で言えば労務担当重役だとか人事課長だとか詳しく知っている人の方がいい、社長を呼んできたって何もわからないじゃないかという場合のことを考えていると思うんですね。例えば事件が別の事件で、労働組合に対する組合事務所明け渡しの問題などでしたら、組合の委員長は詳しくは知らないから書記長に聞いてくれとか担当執行委員に聞いてくれという場合、これは完全に「事務を処理し、又は補助する者」に当たると思うんです。ところが一組合員が解雇された場合に、そのために闘っている労働組合の委員長とか書記長とかその他執行委員とかという者は、従来の狭い法解釈をしますとなかなかこれに当たりにくくなる。私は当たると解釈する余地はあると思いますよ。本人の解雇闘争を組合が一生懸命闘っているんだから、その本人ができないところを処理し補助するんだという解釈はあり得ると思いますけれども、なかなかそうならない。その場合に、私はさっき言ったように事案を知る者として少し広げた方がいいんじゃないか。北村先生のおっしゃるように、そうすると無限に広がるんじゃないかという点について私も懸念はしたんですが、それは結局「裁判所が相当と認めるもの」という限定がありますので、さほどむちゃくちゃなことにはならぬのじゃないかという私の考えです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/17
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018・北村哲男
○北村哲男君 どうもありがとうございました。
千葉先生に一点だけですが、先生の「法律新聞」の論文にも載っておりましたけれども、二十五条の「保全すべき権利」という中に仮の地位を定める仮処分も入るのではないかという御懸念を言っておられました。それは今までの審議の段階ではほぼ解明して、まず一〇〇%ないという言明を得ておりますし、一昨日のこちらの委員会でもそういうことをはっきり言っておられますが、ですから解釈上は確定しているんですけれども、条文の体裁として多くの法律家が仮地位仮処分がこの中に入るのじゃないかということを多く指摘されてこられましたけれども、体裁としてはそういうふうなおそれというのはやっぱりあったというふうにお考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/18
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019・千葉一美
○参考人(千葉一美君) それについてお答えいたしますと、例えば仮の地位を定める仮処分というのと賃金仮払い仮処分と、それはセットになっていた場合はまだ心配ないんです。ところが現在の裁判所の動向を見ますと、まず仮の地位を定める仮処分と賃金仮払い仮処分と両方併設して申し立てすると、裁判所は、仮の地位を定める仮処分というのの内容は何だねと聞くわけですね。例えば福利施設を利用する権利とかもあるわけですけれども、しかし仮の地位を定める仮処分で一番重要なのはやはり賃金仮払いということなんですね。そうしますと、じゃ仮の地位を定める仮処分は下げなさい、賃金仮払い仮処分だけにしなさいというふうにまず指導するわけです。
その指導した後で、現在の裁判所の動向を見ますと、月々の賃金を下げることもやっておりますけれども、まず支払い期間を一年なり二年なりにもう限定してくる。例えば一年しか払いませんよ
二年しか払いませんよとなった場合には、毎月々掛けることの何年分となるとこれは一つの一定の金銭債権と同一視できるのではないかと思うんです。要するにその金額、月々掛けるその期間の全額、それが保障されればもうそれは一定の金銭債権となって、文言からいっても保全すべき権利、そういうふうに解釈、全くできないことはないわけですね。そうなってきますと、やはり解放金のこの条文の中に取り込まれてしまうのではないかということで私も非常に心配しましたんですけれども、入りません入りませんという答弁になっているものですからそうかなとは思うんですけれども、できれば文言上もそういう心配がないような条文にしてほしいという希望があるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/19
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020・北村哲男
○北村哲男君 どうもありがとうございました。
東澤先生に御質問したいと思います。
まず、今回の民事保全法案について労働争訟との関係で幾つかの懸念があるということをかなり詳細に述べられましたけれども、具体的にどの条文に問題があるかという点をまず指摘していただきたいと思います。ざっと言ってもらうと大変ですから一つずつ聞いていきますが、まず三条と二十三条の二項、その関係について簡単にどういうふうな懸念があるかを言っていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/20
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021・東澤靖
○参考人(東澤靖君) ただいまの点につきましては、まず審理手続についての問題がございます。
三条で一応民事保全の手続は口頭弁論を経ないですることができるというふうなことになったわけでありますけれども、その点で口頭弁論を経ない場合にどれだけ債務者側あるいは債権者側の意見をきちんと聞く手続が可能になるだろうかというふうな点に問題があるわけです。この点、衆議院の修正事項で二十三条四項に「仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。」、こういうふうな形で入りました。その点では一点審理手続についての懸念というのはなくなったと思います。
しかし、これはあくまでも二十三条の四項は「第二項の仮処分命令」というふうになっておりまして、第二項といいますのは仮の地位を定める仮処分というものに限られております。他の満足的な仮処分、例えば労働組合が職場を占拠しているに際して、それに対して明け渡しの断行をするとか、そういった他の満足的な権利を本案を待たずに実現してしまうような一般の広い満足的仮処分については、このような手続的な歯どめはまだなされておりません。そういった意味でこの二十三条四項の衆議院の修正だけでは、なおまだ他の手続について十分な審理が尽くされないおそれがあるのではないかというような懸念がございます。そういった意味では三十条の異議申し立て手続での参考人または当事者本人の審尋というふうなものをきちんと通常の仮処分の審尋手続にも導入して、手続の保障を図るというような配慮が必要になってくるかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/21
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022・北村哲男
○北村哲男君 次に、十一条に尋問順序の変更という新しい項目がございますね、証人等の尋問の順序の変更。この点についてはどのような懸念をお持ちでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/22
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023・東澤靖
○参考人(東澤靖君) 十一条。これまでは民事保全手続につきましても、口頭弁論においては通常の民事訴訟法の手続のとおり、例えば債権者側が主尋問をしてそれに対して相手方が反対尋問をする、裁判所が釈明的にいろんな尋問をするというふうな手続でなされてきたわけですが、今回の十一条でそうした尋問の順序等を変更することができるというふうな規定が導入されております。これについて当初から懸念されておりますのは、やはり裁判所の職権的な介入が必要以上になされた場合、例えば主尋問の制限あるいは反対尋問の制限というふうな形で、当事者の方が十分聞きたい、この点について明らかにしたいという点が制約される懸念はないだろうかという問題であります。
衆議院の審議などでは、この十一条は、例えば審理の迅速を図るために債権者側に陳述書を出させる、反対尋問だけを債務者にやらせるという形のような簡易な手続のために利用するんだというような答弁もございましたけれども、それはもう既に現行法のもとで、現行の民事訴訟法を準用した尋問手続のもとで十分やっていることでありますから、何ら新しい規定は設ける必要はないわけであります。
そうした意味で、この十一条に、尋問権の原則を排して裁判所のその時々の裁量に応じたさまざまな尋問順序の変更というものを新たに設けたということが、たとえ今それによって当事者の尋問権は失われることはないんだというふうな答弁がなされましても、今後の運用次第でかなり問題になってくる可能性はあると思います。そうした意味で、なぜこの十一条がそもそも必要なんだろうかという点については非常に疑問を持っているところであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/23
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024・北村哲男
○北村哲男君 私の持ち時間があと五、六分しかありませんので、あと幾つか聞きたいと思います。
二十三条二項に仮の地位を定める仮処分の問題が出ておりますが、この必要性について問題点があれば御意見を聞きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/24
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025・東澤靖
○参考人(東澤靖君) これは先ほども意見陳述の中で述べましたけれども、これと同様な規定の旧民事訴訟法七百六十条におきましては、仮の地位を定める仮処分の必要性の場合として、この二十三条二項に定めるような場合以外に、「其他ノ理由ニ因リ之ヲ必要トスルトキ」というふうな場合も一応必要性が認められてまいりました。それが今回削られて、ここに掲げてあるような二つの類型になったわけでありますが、これ自体解釈の変遷をもたらすものではないという答弁もございますけれども、先ほど申しました労働争訟において保全の必要性が非常に問題となっている時期でもありますし、このような形でその他の理由に基づく必要性、それがなくなるということは、実務の解釈もさらに限定的な方向に向かうのではないかというような懸念がございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/25
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026・北村哲男
○北村哲男君 次に、三十三条に原状回復の裁判というのがございますね。これは衆議院の方で修正されて柔軟な規定とはなりましたが、なお懸念される点が残っているとすれば、その御意見をお聞かせいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/26
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027・東澤靖
○参考人(東澤靖君) 衆議院の修正で三十三条は裁量的な原状回復というふうな形になったわけでありますけれども、一応この仮処分命令について取り消し等があった場合に、その理由として被保全権人がそもそもない場合、それと保全の必要性がなくなった場合というような二つのものがあるわけであります。とりわけ保全の必要性がなくなるというような場合にどういった扱いをするのかというのが問題でございますけれども、例えば賃金仮払いなどで、後に再就職をしてその結果保全の必要性がなくなったというような場合に、一体いつまでの賃金を返還させるのかというのは非常に問題になっております。答弁等では将来にわたっての賃金の問題ではないというようなこともありますけれども、再就職する前の賃金、そういったものまで仮処分命令が取り消された場合に返還する可能性が出てくるんだろうかという点について、きちんとした手当てがなされておりません。
例えば、この件につきましては最高裁の六十三年の三月十五日、宝運輸事件という判決があるわけです。この判決では残念ながら再就職を理由として保全の仮処分が取り消されたわけですけれども、それに伴って不当利得として再就職する前の、つまり保全の必要性があった時期に支払われた仮払いの賃金についても返還すべきであるというような判断がなされておりまして、この点については、この法案を定めるに当たってはそのような運用がないんだということをきちんと手当てしていただかないと少々問題が生じるのではないかというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/27
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028・北村哲男
○北村哲男君 あと一点ですが、先生の御意見の中で、労働事件の実務の運用においてかつて裁判官会同あるいは協議会というのが開かれて、何か一つの流れのようなものができたということが指摘されました。さらに、それを踏まえて現在の東
京地裁の労働部の実務で幾つかの問題点が指摘されておるというふうなことも言われているやに聞きましたけれども、その点を簡単にどういうことなのか、今東京地裁でどういうことが問題になっているのかということについて御意見を聞かせていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/28
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029・東澤靖
○参考人(東澤靖君) まず裁判官会同等の問題ですけれども、先ほども申しましたように八六年前後を通じて裁判の実務がかなり変わってまいりました。あるいは先ほど述べた「新・実務民事訴訟講座」というような本を刊行されて、かなり裁判官の方が積極的に保全の必要性を厳格に解する論文を発表し始めました。
私ども、なぜこんな事態が起こってきたのかというようなことを疑問に思っていたわけでありますけれども、後になって、昭和五十九年二月付で最高裁判所事務総局の方が「労働訴訟の審理について」という会同あるいは協議会の結果をまとめている文書を発表していることがわかりました。これは部外秘ということで一般には入手できなかったものなんですけれども、そうした中で各協議会、会同で各裁判所の意見を表明させる、それに対して協議の結果ということで一つの特定の見解をまとめる。これを各裁判所に配付すれば、裁判所の方としてはあるいは各裁判官としてはそれを前提にして、最高裁なりの方がどういうふうに考えているのかということを前提にして審理をせざるを得ないというふうな事態になっているのではないかという問題でございます。そういったことをすること自体、さらにこれが非公開で国民の目に触れないで行われていること自体については、非常に問題だと考えます。
東京地裁の労働部の問題につきましては、時間がありませんので実際に東京地裁の労働部で裁判を行ってきた裁判官、納谷肇という方が書いた論文、これは「判例時報」の千二百七十号にありますけれども、それをいろいろ引用して簡単に申し上げます。
一つは、東京地裁労働部についてこの論文におきましては昭和六十年から六十三年までの二十件の解雇が無効とされて保全が認められた例を載せているわけですけれども、その中で二十件中十九件は地位保全自体が却下されている。一件だけ救済されたまれな例も、これは英語学校の教師で、その地位保全がなくなるとビザがなくなるというような特殊な場合にだけ認めているというような形で、地位保全はほとんど認められておりません。さらに、過去分の賃金の仮払いを却下したものも三件ほどあります。あるいは、将来についてはさまざまな形で限定をつけているものが結構多いという状況です。
こういった扱いがどういった発想から出ているかということでこの裁判官の論文自体を引用しますけれども、こういった考え方です。例えば、「賃金仮払仮処分は、」「債権者及びその家族の生活の困窮を避けるため、暫定的に発せられるものであって、従前の生活水準、生活様式を保障するものでも、会社の他の従業員と同等の生活水準、生活様式を保障するものでもない。」というふうなことを述べております。しかし、これは解雇が一たん無効とされた事件であります。そういった事件について最低限、つまり生活保護法ぎりぎりのような生活が保障されればいいんだ、それ以上ほかの社員と同じような生活水準は必要じゃないんだというのは、これは余りにも労働者に対して嫌悪感を抱いているような意見ではないか。
さらにもう一つ、賃金仮払いの終期が限定されないと、その労働者が生活に困らないため「何ら収入を得る努力をしないばかりか、本案訴訟の追行に熱意を欠き、時には引き延ばしを図っているのではないかと疑われるような事態を生ずることがある。」というようなことも述べております。
このような労働者への不信感と嫌悪感に基づいて保全の必要性を極めて厳格に解釈するという扱いは、これは到底一般の理解にたえるようなものではないというふうに考えます。保全の必要性、その議論自体は必要ですが、それは事件の性質に応じた、さらにその事件を申し立ててくる立場の人間の立場に応じた、そうした配慮の上になされてしかるべきだと思います。そうした意味合いで、このような東京地裁の労働部の扱いがあるもとで今の民事保全法案が通されることについては、非常に懸念を持つ点が少なくないということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/29
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030・北村哲男
○北村哲男君 四人の先生方、どうもありがとうございました。私の質問は終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/30
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031・矢原秀男
○矢原秀男君 参考人の皆さんには本当に御苦労さまでございます。十分の時間をいただいておりますので、その意を尽くせませんけれども、簡単に質問を申し上げたいと思います。
本法案の趣旨でありますけれども、保全命令に関する審理及び裁判はすべて決定手続によるという、こういう決定主義を採用されているようでございます。保全命令申し立て段階においてでありますけれども、現行法ではその審理方式は口頭弁論、審尋及び書面審理の三点とされ、そのいずれにするかは裁判所の裁量にゆだねられているように思います。しかし口頭弁論によった場合は必ず判決により、それ以外は決定による仕組みになっておるようでございますが、本法案ではその審理方式は現行法と変わりはないけれども、どの審理方式をとろうと裁判は常に決定でなされる点に違いがあります。そういうことで、保全命令に対する不服申し立ての審理については現行法ではすべて口頭弁論に基づき、判決をもって裁判が行われる。本法案では不服申し立ての審理方式を口頭弁論に限定せず、参考人尋問をなし得る双方立ち会い審尋を明文化しているものの、裁判理由については第十六条準用で要旨で足りるとしております。
そこで、まず竹下先生にお伺いをいたしたいわけでございますけれども、先生の論文、いろいろの書に出ております。昨夜も徹夜に近く読ませていただいておりまして、本当に御苦労さまでございます。先生に数点お伺いしたいと思うんですけれども、一つは裁判の実務から、口頭弁論を開き判決で裁判している例は極めて少ない。私、司法統計を見ておりますと、五十四年から五十八年の五年間で一・七%となっております。そういうわけで、判決までいった民事保全裁判は今までどういうふうな実態であったのか、もし実例がありましたら御紹介をいただきたいのが一点でございます。
もう一点は、本法案の提案趣旨は時代の要請で迅速性を図るためにと言われておりますけれども、現行法では裁判が非常におくれて時間がかかるのが欠点と言われておりますけれども、その実態と裁判のおくれの原因は何かを伺いたいと思います。
もう一点は、裁判の実務で皆さん、常に、諸先生方に御依頼をする債権者も債務者もすべて、やはり善というのか一生懸命生き抜いていきたい、そういう社会の中でやはり社会的な弱者、これは厳然として私はあると思うんですね。債権者もすべて善ではないと思うんです。私たちから見てもちょっとひどいな、何とかならないのかな、また反対の債務者にしても、悪いなと思うところもありますけれども、ああこの人は何とか助けてあげたい、こういうことを私も三十数年、専門家ではございませんけれども常に相談を受けてまいりました。しかし実務家ではございませんので皆さんにゆだねているわけでございますが、きのうは法務大臣が国民の信頼のためにこの問題はやはりやっていきたい、きょうは先生も、私はほっとする一面もあったんですけれども、社会的な弱者の救済、こういうこともきょうはおっしゃっておられました。そういう意味で、その点も含めて話を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/31
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032・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) まず第一点でございますが、御質問の御趣旨は現在の実務で口頭弁論を開いて判決によって裁判をしたような例がどういう場合にあるかということだったと思いますが、これは先ほど他の参考人の方からも御指摘ございましたように、労働仮処分などで全体的には最近東京や大阪でも口頭弁論を開かずに審尋という形でやられることが多いということでございますけれ
ども、複雑な事案で必要な場合には口頭弁論を開いて判決でやっておられるんだと思います。それから、特に債務者に与える損害が非常に大きい、例えばいわゆる家の明け渡し、最近はそれほど多くないと思いますが、いわゆる断行の仮処分と言われるようなものにつきましては、場合によっては口頭弁論を開いて判決で裁判をしているのではないかと承知しております。
第二点でございますが、仮差押え、仮処分のような本来迅速であるべき手続がおくれるというのはどういうところに理由があると考えられるかということであったかと思います。
これは、やはり現在では、口頭弁論を開きますと法廷の都合とかあるいは立ち会い書記官の都合等によって審理期日を短時日の間に続けて開くことが難しくなり、どうしても事件の処理がおくれているようでございます。もちろん口頭弁論を開くような事件というのはそれ自体もともと難しい事件が多いわけでございますので、すべて口頭弁論を開いた事件の審理期間がほかの事件よりも長いということは、口頭弁論を開いたがゆえというふうに断定することはできないわけでございますけれども、しかし統計で見ますと口頭弁論を開くか開かないかによって明らかに審理期間に大きな差があるということは間違いないと思いまして、この点が非常に大きな理由になっていると思います。それゆえに今回は決定主義を採用したわけでございます。
それから、とりわけ仮処分事件などで社会的弱者に対する保護あるいは社会的弱者の権利救済ということに十分配慮すべきではないかという御指摘でございましたが、これはもうまことにそのとおりだというふうに私も存じております。御指摘のように、きょう最初の意見陳述でも、最近仮差押え、仮処分というものが広い範囲で利用されるようになってきている一つの背景は、そういう社会的弱者に対する救済の必要性というものが広く認識されてきたところにあるというふうに申し上げたとおりでございます。これはその弱者の方が債権者側に回る場合もそうですし、それから債務者側に回る場合につきましても十分な配慮が必要だというふうに考えております。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/32
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033・矢原秀男
○矢原秀男君 時間も来たようでございますが、一点だけ千葉参考人にお伺いしたいと思います。
不服の申し立てに付随した保全決定の執行停止の規定が四十二条で新設されております。これは限定された例外的な措置として最高裁判例により認められていたものを明文化したもののようでありますけれども、この明文化に対しましてどのような御意見があるのか。先ほどもお話しございました二十七条とほぼ同じようなものかなとも思っておりますけれども、お伺いをしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/33
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034・千葉一美
○参考人(千葉一美君) やはり、本条も結局は保全の効果の不安定化を促進させている条文ではないかと思うんですね。条文上その「原因となるべき事情」というのを「原因となることが明らかな事情」ということで修正されておりますけれども、やはりこれは二十七条と同じく、一たん取り消す決定があった場合においてさらに取り消されるということですね。だから、先ほど私が言いましたように民事訴訟における仮処分の不安定化というのをますます増大させるということだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/34
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035・橋本敦
○橋本敦君 各参考人の皆さんからそれぞれ貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。残念ながら私の質問時間が極めて短いので、絞って松井参考人に御意見をお伺いしたいと思います。
お持ちいただいた自由法曹団労働問題委員会の皆さんの修正についての御意見を拝見いたしますと、第三条で「事案の性質、内容が複雑であり、もしくは執行により重大な結果をもたらす仮処分事件については、前項の規定にもかかわらず、口頭弁論を経なければならない。ただし、急迫な場合にはこの限りでない。」、この条項を追加したいという皆さんの御意見のようですが、この趣旨は簡単にどういうことか御説明いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/35
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036・松井繁明
○参考人(松井繁明君) 従来は必要的口頭弁論の規定があったわけですが、今回の法案によって任意的口頭弁論主義をとった。そのこと自体は一応尊重した上で、しかし複雑な事案あるいは重大な事案については改めて必要的口頭弁論を定める。しかし、そのような事件でも場合によっては審尋で足りるという場合もあり得ますので、従来の規定と同じように急迫な場合には口頭弁論をしなくてもいいということにすれば全体としておさまるのではないだろうかというのが私たちの考えです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/36
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037・橋本敦
○橋本敦君 第三条は基本的な考え方にかかわる大事な問題であるわけですが、先ほども述べられたように、従来の裁判所で事実上行われてきた審尋の一定の方式あるいは口頭弁論のやり方等いろんな工夫が関係当事者の英知としてあるわけですが、そういった現行の運用をこの法案は基本的に変えるものではないと法務当局も民事局長等御答弁いただいておるわけですが、にもかかわらず参考人が言われたように、任意的口頭弁論を要求してもあるいは審尋はこういうことでやろうと言っても、相手方が反対する、裁判官のお考えが、いやこの民事保全法案で今度は変わって決定手続ということになって、従来とは違ったということで採用されないと崩されていくという心配があるわけですね。そういった心配に歯どめをかける上でも今の第三条の修正というのは基本的にやっぱり大事だというようにお考えになっているんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/37
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038・松井繁明
○参考人(松井繁明君) そのとおりです。口頭弁論そのものを開くか開かないかという問題もありますが、口頭弁論を開くということが原則であった場合に、それを原則としながらもお互いの英知を集めて迅速でしかし真実が発見できる方法はないかということで、いろいろな工夫がされてきたというのが今までの実態だと思います。その支えがなくなってしまいますと、真実があらわれるのを怖がる人はなるべく簡単にやってくれと言い、裁判所もいろいろな事情があって早く終わった方がいいということになりますと、真実の発見が薄れてしまうのではないかということを大変懸念しているわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/38
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039・橋本敦
○橋本敦君 次は、いただきました修正要求に対する御意見の中で六十二条に関連をいたしまして、占有移転禁止の仮処分の効力の関係ですが、労働者の団結権に基づく職場の占有、こういった問題については基本的にはそもそも占有主体を転々とさせるという可能性だとかあるいは占有移転禁止仮処分の免脱行為となるようなことは本来的にないのだ、だから、したがってこれは六十二条を置いておくとしても労働争議、紛争等には適用除外にすべきだという御意見のようですが、これについて簡単に御説明いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/39
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040・松井繁明
○参考人(松井繁明君) 企業が倒産して労働者が全員解雇されるような事件がよくあります。その場合、企業の経営状態の悪化を労働者が逐次知っていればあらかじめ占有することもできるでしょうけれども、もうすっかり財産も銀行の方へ売られちゃったとか、ほかへ売られちゃったとかいう段階で初めて組合の方は知った、しかしそのときにはもう占有移転禁止がかけられてしまって労働者の占有は後発的に後からの占有になるということになると、これは適用されて何ら裁判を受ける機会もなく排除されてしまう、こういう危険があるわけです。
今、私どもの修正案は労働組合の占有については除外した方がいいと、これは大変大胆な修正のようにも見えるかもしれませんが、そもそも市民法と労働法との接点になるわけなんで、こういうやり方でやるより仕方がないんじゃないか。では会社側は全く手がないのかといえば、会社の方には従来から行われているような立入禁止の仮処分だとかその他会社側の主張が通れば労働組合を排除することは手段としてあり得るわけですから、何ら問題はないはずだというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/40
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041・橋本敦
○橋本敦君 時間が参りましたので終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/41
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042・山田耕三郎
○山田耕三郎君 甚だ失礼ですけれども、与えられた時間が五分でございますので、お三方に同じ問題をお尋ねさしていただいて御意見を御教示願いたいと思います。竹下先生、東澤先生、松井先生にお願いをいたします。
労働紛争に関する見解が真っ向から対立をしておりますように思いました。私は率直に言って、裁判を受けるのが怖くなりました。本来、法律とはそういうものなのかどうか。竹下先生は学究の方でございます。他のお二人の先生は裁判の現場でお仕事をなさる方でございます。単にそれだけの違いからの意見の違いではなさそうに思います。
私の所属をいたします連合参議院は、小さな世帯ですけれども、三分の一が弁護士でございます。けさ方、この法案にどう対応すべきかという相談をいたしました。程度の差こそありましたけれども一人もこの法律を評価する仲間がいませんでしたし、ぜひ反対をしてくれ、こういうきつい意見もございました。
そして、竹下先生におかれては、現行法ではどうしても裁判が硬直化するとおっしゃいました。ところが松井先生は、参考人の審尋すら認められないで本人の審尋に限る、こういったことではむしろこれこそ硬直化するのではないか、こういう意見でございましたのですけれども、意見の違いが出てくるというのは、本来法律はそういう性格を持っておるものなのかどうか、この法律にやっぱり危険な点があるからそういう意見の違いが出てくるのか、どのようにお考えになられますか、その点の御教示をお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/42
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043・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) 御質問の趣旨は、今回の法案の評価をめぐって参考人の間に異見があるが、それは本来法律というものがそういう性格を持っているのかあるいはほかに理由があるのかということかと思います。
本来、法律というものはどうしても適用に当たっては適用者の解釈というものが出てまいりますので、その点で場合により、殊に複雑な問題、困難な問題につきましては意見が分かれるということがあるのはやむを得ないことかと思います。
ただ、今回の法案につきましては、私といたしましては、現行法よりも、法の運用に当たる裁判所としてはいろいろな手段が与えられたので手続が柔軟になっているというふうに思うわけでございます。労働事件に御関係の弁護士の方々等が御心配になられるというのもそれなりに理解できるわけでございますけれども、私は、今度の法案によりましても御心配になるようなことはなく、現在の場合と同じように複雑な事件についても十分審理ができる、そういう手続になっているというふうに考えますのでこの法案を積極的に評価したい、こう思っているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/43
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044・東澤靖
○参考人(東澤靖君) 私どもが懸念しますのは、正確に分けますと法案自体の問題点と今の実務の運用の問題点という二つの問題があるわけであります。つまり、法案自体についてこれでうまくやってくれるだろうというふうに信頼しても、一方、実務の方で果たしてうまくやってくれるんだろうかというような心配と、これらが併存しているのが正直な気持ちであります。
もちろん、民事保全手続についてはいろんな手続がありますから、一般の手続、民事保全手続について今竹下先生の言われたようにかなり審理の迅速化が図れるような、柔軟化が図れるような諸規定があることはこれは事実だろうと思います。他方、これまで述べましたように、争いが出てきそうな労働事件について、これは法案自体もそうですけれども、それ以上に現実の運用、裁判所の運用が今どうなっているんだろうかということにいろいろ思いをいたすと、もしかしたらこの条文をこういうふうに使われるんじゃないだろうか、もしかしたらこの制度をこのように硬直的に使われるんじゃないだろうかとか、そういった心配がどうしても出てくるわけであります。
そうした意味では、法案自体に対する評価というよりも一部のそういった裁判の扱いに対する考え方というものがちょっと先行している嫌いもありますけれども、今回の民事保全法案の審議に当たっては、本来であればそうした実務上の懸念が生じる点についてそもそも法案を出す段階で十分尽くしていただきたかったし、さらにはこの審議で十分その手当てを尽くしていただきたいというのが私の率直な気持ちであります。そうした意味で、この法案をつくったというだけではなくて、さらにそれがどのような実務運用がされるのかという点については、この国会の場で監督できるような枠組みをできれば残していただきたいというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/44
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045・松井繁明
○参考人(松井繁明君) 労働事件というのは例えば解雇事件を挙げても、不当労働行為だとか思想信条に基づく差別だとか権利の乱用だとか、大変細かい複雑な立証をしないと労働者の権利が守れない事件が多いのです。それを非常に簡単な手続でやるということは実際できませんので本案訴訟に行かざるを得ない。頑張ってしまえばそこで却下されてしまうかもしれない。ところが本案訴訟になれば、複雑な事件を本案訴訟でやるわけですから、さらに長期化してしまって労働者の権利は容易に守れないということが予測されます。
それから、審尋手続その他いろいろなやり方で仮処分をかなりの時間、そんなに長くはありませんが、ある程度時間をかけてやるということは、決して何が何でもよくないことではないのです。労使がいろんな場でやり合って、敵ながらこうだとか相手の言い分はここにあるのかということがお互いにわかっていく。労働事件というのは最終的には解決しなきゃいけないんです、最後まで対決するわけにいかないんですから、もともと同じ職場で働いているわけですから。そういう信頼関係をつくる上でも今まで裁判所が行ってきたようなさまざまな審尋の、裁量の幅というものを残しておくことは私は大事なんじゃないか、そういう点でもこの法律は障害になるんじゃないかということを懸念しています。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/45
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046・紀平悌子
○紀平悌子君 伺っておりますと非常に問題が多いようで、全参考人にお伺いをしたいところでございますけれども、いただいた時間は五分でございますので、お一人に絞ってお伺いしたいと思います。
千葉先生にお伺いいたします。
先ほど御意見の中で時間の都合でお省きになりました点でございますが、民事保全法が成立し施行をされた場合、民事事件、特に労働争議事件について、働く者、国民の権利、その保護の観点からどんな問題が生じ得るとお思いになりますでしょうか。なるべくわかりやすくお話しをいただきたい、事例を挙げていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/46
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047・千葉一美
○参考人(千葉一美君) 労働仮処分についてはさまざまの問題点が指摘されましたけれども、その指摘以外に残っている点で一番大きなものは、やはり原状回復ではないかと思うんですね。「原状回復の裁判」については、最初は法定利息をつける、しかも必ず命じなければならないという、そういうかなり酷な規定だったわけですけれども、それを法定利息の点は削る、あと「返還を命じなければならない。」のを「命ずることができる。」というふうに一応緩和したわけですけれども、「命ずることができる」のであれば、やっぱりその原状回復を命ぜられる場合があるということなんですね。労働者からいたしますと、命ぜられないかもしれないけれども命ぜられるかもしれない。そうなりますと、やはり仮の保全命令が出まして賃金が例えば払われましても、これはうっかりと使えない。使えない点においては余りこの条文の修正は役に立っていないのではないか、そういう疑問をまだ持つわけです。そういうことを初めとしまして、従来指摘された点がありますように、非常にやはり今回の法案は労働事件について厳しい法案ではないかと思います。
そもそも実務に携わる者の感覚といたしましては、これは一般民事については決して遅滞しているとかそういう感覚は全くないんですね。大体、言われておりますように確かに日本の裁判は長くなります。一般裁判でも本案になりますと普通一年とか、複雑な事案になるとさらに十年単位とか、
そういうように長いわけですけれども、仮処分、保全手続だけはこれはまあまあ迅速にやっておる、これが一般の評価だろうと思うんですね。
一般民事に対してはそういう意味で遅滞していない、ある程度迅速にやっておるというのについて、三ケ月先生は衆議院の参考人として意見を述べられた際に、例えば今の民事保全手続だとアメリカなど外国から要請があって国際的関係の悪化になりかねないとか、国民、諸外国からも信頼を得ることができない、そういうふうに言われておるんですが、そういう懸念は全くないんじゃないかと思うんです、一般民事に関しては。
ですから、この保全法案については、やはり目的は労働事件を簡易簡便に処理したい、そういう趣旨から出ている法案ではないかということを考えざるを得ないんです。なぜかというと、一般事件については決して遅滞していない、これは実務に携わる者すべての実感ではないかと思うんですね。
ということで、労働事件は、やはり現在資本者と労働者とでは、その力の差のある弱者である労働者についてこの保全法案が成立した場合にはかなり酷な結果になる、そういう点を心配するわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/47
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048・紀平悌子
○紀平悌子君 少しお時間が余りましたので、今の点につきまして、先ほどちょっと申し上げておったことを撤回いたしまして、竹下先生に一言お伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/48
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049・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) 今千葉参考人の方から、一般民事事件につきましては仮差押え、仮処分の場合にはそれほど手続が遅延していないのではないか、したがってこの法案が主としてねらいにしておるのは労働事件仮処分ではないかという御指摘がございましたが、審議に関与してまいりました者といたしましてはそのようなことは全くないというふうに申し上げるほかないわけでございます。
一般民事事件については、確かに御指摘のように最初に仮差押え、仮処分の決定が出るまではそれほどおくれていないのではないかと思います。これはたびたび本日指摘されましたように、口頭弁論を開きますと非常に時間がかかりますので実務上はほとんど開かれていないということが一つあるわけでございます。しかし保全異議が、現行法で言いますと異議でございますが、異議が出た場合とかそれから仮差押え、仮処分の取り消し手続、これはもう必然的に口頭弁論を開いて判決で裁判をするということになっておりますので、こちらの方はやはり時間がかかる。この点は最初に千葉参考人御自身もおっしゃいましたように、異議が出た後はもう本案と同じぐらい時間がかかってしまうから、そちらをとめておいて本案の方をやるんだというようなお話がございましたところにも出ていると思いますが、しかし仮差押え、仮処分をかけられました債務者の方からいたしますと、もしそれが誤っているのであればやはり迅速に取り消してもらわなければ困るわけでございますので、仮差押え、仮処分の手続の迅速という場合にはやはり全体を考えないといけないのではないか、私はそう思っているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/49
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050・紀平悌子
○紀平悌子君 ありがとうございました。
終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/50
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051・櫻井規順
○櫻井規順君 大変参考になる御意見を聞かしていただきましてありがとうございます。
私は二つの質問がございます。
一つは竹下先生にお願いいたします。先生のお話の中で日弁連の意見等も御紹介がございましたので、三人の弁護士をおいて竹下先生にお聞きするのもどうかと思うわけですが、竹下先生にあえて聞かせていただきます。
私の手元に昭和六十二年五月の日本弁護士連合会の意見書があります。その意見書の中にこういう意見が、これは法制審議会になされたものだと思うんですがあります。「仮処分の本案化についても、その原因は制度の欠陥によるものではなく、むしろ」「裁判所の執務体制の強化を中心とした運用面での改善を行うよう提言したのである。」、こういう文言が一つはございます。それからもう一つは「試案のように」、この「試案」というのは法務省から出された試案だと思いますが、「試案のように決定主義を採用した場合、」「当事者権の保障が稀薄化し、」「拙速審理による裁判の質的低下を招く虞れがある。」、こういう御指摘がございますが、この法案がまとまる過程でこういう点は払拭されたものなのかどうなのか、先生御自身の見解を含めてお聞かせ願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/51
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052・竹下守夫
○参考人(竹下守夫君) 今、日本弁護士連合会の意見書でございますか、というふうにおっしゃられましたものは、初めに法務省から出されました改正試案に対する意見だと思います。
この段階では、御指摘のように日本弁護士連合会からいろいろな点で疑義が出されておりました。おっしゃるような運用面の改善がまず必要なのではないかとか、あるいは決定手続原則をとったのでは当事者の手続上の地位が十分保障されないんではないかというような御懸念があったわけでございます。しかし、私どもが日本弁護士連合会から推薦されて審議に参加をされた委員の方の御発言から伺っております限り、その委員の方たちが日本弁護士連合会の関係委員会と連絡をとられまして、審議の過程あるいは法案の趣旨等につきましていろいろ御説明になられて、結局は最終的な形での法案には賛成だということになったわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/52
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053・櫻井規順
○櫻井規順君 いま一つ、千葉先生と東澤先生に簡単にコメントいただければと思うんですが、限定した質問でございます。
仮処分解放金の関係でございますが、賃金仮払い仮処分決定が出されまして、過去分の賃金あるいは本審判決までの賃金保障という決定があるわけでございますが、これが仮処分解放金によって著しく受けた側の権利、金額が少なくなる危険性、可能性ありと私は見るわけですが、どういうふうに千葉先生、東澤先生、お考えでしょうか。どう読みますでしょうか。御意見を聞かしていただけたらと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/53
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054・千葉一美
○参考人(千葉一美君) 御質問の趣旨がちょっとよくわからないんですけれども、二十五条があるために出す金額自体が減るということですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/54
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055・櫻井規順
○櫻井規順君 そうですね。本審までの賃金支払い金額というのは相当な金額になると思うんですけれども、仮処分解放金という金額がそれに満たない場合が十分あり得ると思うんです。そういう意味ですけれども。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/55
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056・千葉一美
○参考人(千葉一美君) もし賃金仮払い仮処分について二十五条が適用されると、当然そういった心配が出てくると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/56
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057・東澤靖
○参考人(東澤靖君) 権利関係を労働仮処分のようなそういった賃金仮払い仮処分に適用されるということであれば、当然、債権がどんどんふえていくのに解放金は一定額のままという形で不都合がかなり出てくる事態が想定されます。そういった意味でも、衆議院段階でもこの規定は適用されない、賃金仮払い等のそういった関係には適用されないというふうな御答弁がありますけれども、それは実際上も非常に不当な結果を招きますので当然のこととして適用はされないというふうな解釈は定着させるべきだというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/57
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058・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 以上で参考人に対する質疑は終わりました。
参考人の先生方に一言御礼申し上げます。
本日は、本当に長時間、貴重な御意見をお述べいただきましてありがとうございました。委員会を代表しまして厚く御礼申し上げます。
午前の審査はこの程度にとどめ、午後一時に再開することとし、休憩いたします。
午後零時七分休憩
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午後一時一分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/58
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059・黒柳明
○委員長(黒柳明君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
午前に引き続き、民事保全法案を議題とし、質疑を行います。
質疑のある方は順次御発言願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/59
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060・北村哲男
○北村哲男君 私は、午前中の各参考人がいろいろと意見を述べられまして、その中で危惧する点として指摘された点をさらに解明すること、そして前回も私質問いたしましたけれども、その中で聞きそびれたというか、聞き残しておる点、さらに今まで問題にされていないいろんな条文がございますが、その中で今後この保全事件についての運用をする上で重要と思われる点について幾つか質問をしていきたいと存じます。
まず第一に、三十三条の問題であります。原状回復の裁判。
午前中さまざま議論されましたが、この条文について、まず一つは必要的なものから任意的なものに衆議院で修正されておりますが、この点については既に説明がございました。さらに、一般的な点については千葉議員あるいは私からも質問しておりますけれども、事情の変更によって仮処分の必要性が事後に消滅した場合についてはまだ聞いていなかったと思いますので、具体的に質問をして解釈の確定というか、解釈の方向を定めておきたいと存じます。
それは第一に、まず解雇事件で本案判決言い渡しまでの賃金仮払い仮処分が出されて、その一年後に再就職をしたと。そして異議が出され、安定した再就職先で就労して賃金を得ているということで必要性が事後的に消滅したとして賃金仮払い仮処分が取り消されたというふうな場合に、原状回復の対象となるのはどの部分の賃金なのか、最初からなのかあるいは再就職して必要性が事後的に消滅した以降なのか。また、その理由はどういうことなのかという点についてお答えをいただきたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/60
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061・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 賃金仮払いのように継続的給付を命ずる仮処分につきまして、その命令が発令されました後に保全の必要性が消滅した場合に、その保全異議の裁判において一体仮処分命令のどの範囲を取り消すのか、つまり全部を取り消すのか、あるいは保全の必要性が消滅した時点以降の給付を命ずる部分だけを取り消すのかという点がまず問題になるわけでございます。
現行法におきましてはその仮処分の手続内で、後に仮処分が取り消されたときに原状回復を命ずるという制度がございません。そのような関係で、仮処分命令の取り消しの範囲いかんによって原状回復をする金額がどれだけであるのかという問題自体が仮処分手続の中では起こらないわけでありまして、結局その場合には別の訴え、不当利得返還請求のような別の訴えを起こしまして、その訴訟の中で、仮処分命令の取り消しがされたその実質は何であるかということを考慮いたしまして返還すべき金額を定めるということになっていたわけであります。ところで、この法案におきましては、仮処分命令の取り消しとともに原状回復として仮に支払ったものの返還を命ずることができるということになりますので、この新しい法案のもとにおきましては返還すべき仮払い金の額は仮処分命令の取り消しの範囲と一致すべきことになります。
そこで、一体返還すべき金額はどれだけであるのか、その範囲に見合う部分について仮処分命令を取り消すべきものである、こういう解釈にならなければならないわけでございます。返還すべき仮払い金額の範囲を超えて仮処分命令を取り消すことはできないということになります。そういう意味では、この法案のもとにおきましては、原状回復の裁判の規定を設けたことによりましておのずから仮処分命令を取り消す範囲についても暗に定めたということになろうかと思います。これは実質の問題といたしましても被保全権利は一応認められている。保全の必要性が発令後一定期間たってから消滅をしたというのでありますならば、これが消滅した時点以降の仮払いを命ずる部分のみを取り消すということになるのではないかというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/61
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062・北村哲男
○北村哲男君 その場合、つまり必要性が事後的になくなった場合の異議の決定ということになりますと、これは技術的になりますが主文というのは一体どういうふうになるのか。単に仮処分決定が取り消されるという主文になるのか、あるいは何年何月何日、必要性のなくなった日以降の仮払い仮処分を取り消すというふうな主文になるのか、その点はどうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/62
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063・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) ただいまお話のありました後者のような考え方だと思います。つまり、何年何月何日以降の仮払いを命ずる部分につきこれを取り消すということになるのではなかろうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/63
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064・北村哲男
○北村哲男君 それでは次に、同じ例で順序が変わった場合、つまり解雇され、途中再就職したがなお必要性ありとして本案判決があるまでの賃金仮払いが命ぜられた、すなわち過去の分を含めて命ぜられた場合。ところが異議が出され、裁判所が再就職したから必要性がそれ以降なくなったとして仮処分命令を取り消したとすると、この場合不当利得となり得るのはいつからの仮払い賃金なのか、また原状回復の対象となるのはいつからの仮払い賃金なのでしょうか。この点についてはいかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/64
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065・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 異議の手続におきまして、再就職以後は仮払いの必要性がなくなった、こういうように判断されたのだといたしますと、そのとき以後の部分が取り消されることになると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/65
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066・北村哲男
○北村哲男君 結論は同じだということでございますね。
それではもう一つ。これは午前中も出ておりましたけれども、宝運輸の事件が最高裁でございました。これも同じような例なんですが、順序はまず解雇があって再就職され、そしてその次に賃金仮払い仮処分があって、異議で仮処分が取り消された。そしてその後使用者が不当利得返還請求権の救済を求めたという場合、その場合はやはり同じように考えてよろしいのでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/66
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067・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) これは現行法のもとにおいてでございますので、仮処分を取り消すに当たりまして、どの範囲を取り消すのかということがこれまでは余り意識をされていなかったと思います。その点について特に議論がされているようにも伺っておりませんし、したがって余りその点に問題意識が持たれていなかったのではないかと思います。
先ほども申し上げたところでございますけれども、そのような事実経過を踏まえまして、別訴でもって既に払った部分を不当利得返還請求をする際にどのような判断をするのかとか、仮処分の内容をどういうふうに解釈するのかという問題になろうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/67
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068・北村哲男
○北村哲男君 ただいまの問題はそれで結構ですが、次の質問に移ります。
解雇事件で賃金の仮払い仮処分が命じられて従業員が賃金の対価である労務の提供をした場合、しかも使用者が就労を受け入れた場合には、その後に仮処分が取り消された場合は労働者の受領した仮払いの賃金は不当利得になるというふうに考えられますか、あるいはならないというふうにお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/68
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069・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) これは不当利得にならないと考えられます。
午前中の参考人が挙げられました最高裁の六十三年三月十五日の判決におきましても、そのような趣旨が述べられています。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/69
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070・北村哲男
○北村哲男君 もう一つ重要な点なんですが、それでは逆の場合、使用者が就労を拒否した場合、現実に拒否して仮処分命令を守らなかった場合その場合はいかがでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/70
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071・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 地位保全の仮処分が出ております場合に、その仮処分債権者である労働者が会社に対していわゆる就労請求権を持つことになるのかどうかという点は考え方に争いがございまして、必ずしも就労請求権自体を有するものだとは考えられていない、そういう見解が有力であろうかと思います。つまり、地位保全の仮処分というのは任意の履行を期待するものにすぎないんだと、これを前提としましてさらに裁判上請求できるような賃金請求権その他を発生させるものとは直ちには考えられない、そういう効果を持つ
ものではないんだというふうに言えるのではないか。しかしこの点は考え方に争いがあるところでございますけれども、ただいま申し上げたような考え方になるのではなかろうかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/71
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072・北村哲男
○北村哲男君 ちょっとはっきりしないんですが、そうすると不当利得になるかどうかはっきりしないということになるんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/72
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073・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 両様の考え方があり得ると思いますが、不当利得になり得る、不当利得が成立するという考え方が有力に主張されておる、そういう考え方の方が有力なのではなかろうかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/73
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074・北村哲男
○北村哲男君 次の質問に移ります。
午前中でも問題にされました九条の問題であります。
九条では、当事者以外に釈明処分を求める例として幾つか、どういうものが考えられるかということを参考人も言っておられましたけれども、今までの説明の中では労働仮処分の場合で会社の労務担当の人というふうなことは言われておるんですけれども、法務省のお考えで、会社側の人では一応大体わかるんですが、逆に組合の場合にどの程度まで認められるのか、あるいはどの辺が限界であるのか、どういうことを予定しておられるのかということを大体のイメージといいますか、あるいはそこの限界はどの辺にあるのかという点を御説明願いたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/74
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075・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) これは労働者が解雇されたというような例を考えてみました場合に、労働組合の役員などがここにいう「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」に当たるかどうかという問題でございまして、これは結局は具体的な個別事案いかんによることになろうかと思います。その具体的な労使の紛争にその役員がかかわっている、その解雇の問題をめぐりまして例えば団体交渉が行われてその所属組合の役員がそれを専ら行っているというような場合でございますと、これはここの九条にいう「事務を処理し、又は補助する者」に当たり得るであろう、当たると考えてよろしいのではないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/75
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076・北村哲男
○北村哲男君 ところで、この異議訴訟では三十条の第三者の審尋が認められておりますけれども、申請段階ではこれは認められておらないわけです。しかし、立法の審議の段階では密行性のない地位保全の仮処分の場合に第三者審問を認めてはどうだろうかという検討が行われたやに聞いておりますけれども、その経過とそれを否定した理由というものについて御説明を願いたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/76
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077・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) この発令段階で第三者審尋を認めるかどうかということは一つのテーマでございまして、両方の意見があったわけでございます。ただ、仮差押え、仮処分一般について見ますと、大体において密行性のある事件が多いわけでございまして、そのような場合に相手方に知らせずして、つまり相手方当事者の理解の機会を与えずして第三者の審尋をするということはこれはどうも不適切であろう、一般的にそのように言えるのではないかということでございました。
これに対しまして一つの考え方は、この保全命令の申し立て事件におきましてもできるだけ第三者審尋を導入いたしまして、全体として迅速に審理をやる方がよろしいんじゃないかという考え方でございます。反対のもう一つの考え方は、簡易な証拠調べとしての第三者審尋を認めますと安易に次から次へと第三者審尋を行うという実務になって審理の遅延を招くことになりはしないか。結局、迅速性というものを生命といたします民事保全の手続において、どちらがこの手続構造により適しているかという考え方の違いであったと思われます。そのような審議を経まして、結局後者の考え方が取り入れられ、しかしそれを幾分補うものとして九条のような釈明処分の特例という規定が導入をされたという経過でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/77
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078・北村哲男
○北村哲男君 そうすると、今のような第三者審尋の問題は今後もさらに議論の対象となって固定的なものでないというふうに考えて、さらに検討を加えて法改正もあり得る、そういう方向も考えられるというふうにお伺いしてよろしゅうございますか、今後の方向としまして。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/78
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079・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 今回、民事保全法という新たな法案にまとめ上げて、決定主義を全面的に取り入れて、これから新たな法律のもとに全体として民事保全事件の適正迅速化を図っていこうというわけでございますので、今直ちにこれをいずれ改正するとかなんとかということはちょっと申し上げられる段階にはございません。
むしろ、現行法の適切な運用を図りまして民事保全手続全体の迅速化を図っていくことがこれまた法的安定性に資するゆえんではなかろうかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/79
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080・北村哲男
○北村哲男君 次の質問にします。
六十二条の問題につきましても、一応の質問はしておるんですがやや言いそびれている問題がございます。というのは、仮処分決定後に占有した場合について聞いておらなかったと思います。それでちょっと事例的に考えていきたいと思うんですけれども、このような場合はどうかというふうにお聞きします。
まず第一番目に、使用者と労働組合が職場占拠の協定を結んだけれども、とりあえずは実行しないままであった。次に、使用者がその問題となっている土地建物を売却した。三番目に、使用者とその土地建物の買い主がなれ合って紛争をつくり上げた。その次に、四番目に、買い主が占有移転禁止の仮処分をかけてきた。五番目に、その執行の時点ではまだ職場占拠はない。六番目に、買い主が使用者を相手に土地建物の明け渡しまたは引き渡しの本案訴訟をして、これを両者合意の上で買い主勝訴の判決をとった。そして今の訴訟中に労働組合が最初の協定に基づいて職場占拠をした。
そういうような場合で、組合はこの六十二条一項、二項の適用を受けて労働組合の意見を聞く機会を保障されないままに判決の効力を受けることになるのか。もしならないとすると、それではこの場合労働組合はどうすればいいのか、どういう方法で救済されるのかという点について御説明をしていただきたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/80
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081・山崎潮
○説明員(山崎潮君) お答え申し上げます。
一昨日、既に労働組合が職場を占拠している場合のことを申し上げました。本日は、占有移転禁止の仮処分が行われた後に占有した、そういう事例になるかと思います。
私どもも一般に職場占拠協定というのがそれほど多いのかどうか十分には承知していないところではございますが、仮にあるといたしまして、その場合を前提にして申し上げますが、その場合に問題は、まず権原が買い主に対抗できるかどうかという問題がまず一点ございます。権原が買い主に対抗できないということでありますればそこを占有することを主張できない形になりますので、最終的には明け渡さざるを得ないということになりますが、今のような事例で、仮になれ合いでそういうことをやったというような場合でありますと、対抗し得るということがあり得るかと思います。
そういうことを前提にして申し上げますと、占有移転禁止仮処分の執行が行われます場合にはこれは執行官保管ということになります。ですから、執行官はこの職場を保管しているのであるということを公示するのは今一〇〇%やっているようでございます。そうなりますと、労働組合が職場占拠協定に基づいてその職場を占拠する場合には、通常の場合はその公示があることがわかるわけでございます。そうなりますと、労働組合としましては、その会社いかんにかかわらず独自の占有権原を持っているということを主張する必要があるわけでございます。そうなりますと、現在使用者側と買い主で訴訟が行われておりますが、その仮処分の執行力を受けるいわれはないわけでございますので、その事態がわかりましたら民事執行法三十八条の第三者異議の訴え、これを提起することができるわけでございまして、これで仮の処分といたしまして執行停止あるいは執行取り消しもできますし、その判決の中で、最終的に組合には
その執行力が及ばないということで判決をもらえばそれで執行がされることがない、こういう法律関係になるかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/81
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082・北村哲男
○北村哲男君 それでは、次の場合、これもしばしば世間で問題になっている。土地問題。今、特に地上げ屋とかそれから土地に絡んだいろんな犯罪に近いものが行われているんですけれども、こういう場合についてどういうふうにお考えか聞きたいと思います。
まず、例えばひとり暮らしの老人がいたとしまして、これを追い出して高く売却しようとする売り主が地上げ屋さんと結託をして次のような方法をとったとします。
一番最初に、家主と買い主が土地建物の売買契約をまずします。二番目に、買い主が家主を相手に占有移転禁止の仮処分を申請したとします。三番目に、その執行の日までに賃借人、すなわち今ひとり暮らしの老人を例にとったんですが、この人を何とかうまいことを言ってよそに、温泉か何かにしばらく行かせます。四番目に、執行の日にはそこに老人がいないような格好にして、例えば中にある物を隠したりして外形をだれもいないような格好にして占有移転禁止の仮処分の執行を受ける。裁判所をだますことになります。五番目に、買い主、地上げ屋が売り主を相手にその土地建物の引き渡しの本訳を提起して、さっき言ったなれ合い裁判によって買い主が勝ったとします、その時点ではもうその老人は家へ帰ってきたとしますけれども。
その場合に、本案判決に基づいて執行する場合にやはりこの老人は六十二条一項、二項の適用を受けるのかどうか。あるいは受けないとすると、その救済方法はどういうふうにするのかという点について御説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/82
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083・山崎潮
○説明員(山崎潮君) ただいまの事例で、その老人の方は当然この建物を使用する権原があるという前提でよろしゅうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/83
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084・北村哲男
○北村哲男君 はい、そうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/84
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085・山崎潮
○説明員(山崎潮君) それで申し上げますと、一時いろいろな家財を隠されてどこかへ行っていても占有自体は続いておりますので、その仮処分を行う当時からその占有があるということになるわけでございます。仮に後から入ったものというふうにいいましても、それはもともとの権原によるものでございますので、一昨日お話し申し上げたような形になるか、あるいは第三者異議をもって執行力を排除していくという関係では全く同じになるだろうと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/85
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086・北村哲男
○北村哲男君 わかりました。ただいまの質問はそれでほぼ終わりたいと思います。
次に、最高裁の方にお伺いしたいんですが、前回の答弁で、複雑事案について裁判所の方から取り下げ勧告をしているのではないかという質問に対して、知らないというふうなことをお答えになったと思うんですけれども、午前中も申しましたんですが、参考人も示された納谷論文では、本案訴訟の提起を勧めて仮処分申請は取り下げるということをしたことが多いというふうなことを言っておられるわけですね、東京地裁の裁判官なんですが。それを見て私どもは、裁判所の裁判官が論文なんかでそういうことを言われているということについては、やはり一般的な傾向があるんじゃないかというふうに思うんですけれども、その辺についてもう一度御意見というか、あるいはそういうことを裁判官が公に発表されるということについてどうお考えになるかという点についてお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/86
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087・泉徳治
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 私どもは、実務で個々の裁判官がどういう指揮をなさっておられるのかは必ずしもつまびらかにいたしておりません。ただ、ただいま御指摘のような納谷判事補の論文の中にそういう指摘があることは私も承知をいたしましたので、あるいは一部にそういうことがあるのかと思います。
そういうことについてどういうふうに思うかという点でございますけれども、現在の特に複雑な労働仮処分などの事件におきまして長時間を要するような場合には本訴とほぼ並行して行われるということが、まれにはそういうことがあるのかと思います。そういった場合に紛争の一回的な解決といいますか、仮処分ですと決して既判力もございませんので本訴の方で紛争の一回的解決を図るという、そういった趣旨からそういう勧告があったのかと思いますけれども、ただ今回の民事保全法案のもとにおきましては、複雑事案につきましても任意的口頭弁論という新しい制度を設けまして、そこで証人も取り調べが可能でございますし、証人が終わりましたら審尋に移りまして、裁判書も決定で行うということができますので、そういう複雑な事案につきましても機動的な対応ができることになりますので、そういった複雑事案には今回の法案は十分機能し得るものと思います。こういう新しい法律をつくっていただきました暁におきましては、複雑な事案につきましても仮処分として十分におこたえすべきものというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/87
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088・北村哲男
○北村哲男君 大変心強いお答えだと思います。私ども、国会で審議し論議されたことについては実務の面でもぜひ、ここで論議されたことを踏まえて実務運用をしていただきたいと思うんですが、ここにかつて民事執行法、これは昭和五十四年ですけれども、八十七回の国会の衆議院における議事録を持っておるんです。ここでは、既に亡くなられた横山委員が同じような質問をされまして、今後法務省及び最高裁が法運用の中で労働者の要望が十分生かされるような措置をとってほしい、どういうふうにしてとられるんだろうかという質問に対して当時の最高裁の西山俊彦長官代理はこのように言っておられるんです。
「私どもといたしましては、この法案が成立いたしました暁は、民事執行法についての裁判官用の執務資料を作成して、その中に国会における質疑応答の内容も掲載する予定でおります。それから、この民事執行法の解釈、運用について裁判官協議会を開催して、新法の運用に遺憾なきを期するという予定でおります」、こういうふうに言っておられます。このときに言っておられた裁判官用の執務資料は具体的に作成されておるんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/88
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089・泉徳治
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 民事執行法につきまして当時の西山局長が仰せのような発言をしていることは私ども承知いたしております。そしてまた、私どもの方で国会の質疑応答のそのものずばりを掲載いたしました裁判資料をつくっていないのも事実でございます。しかしながら、私どもは実質的にそれと同様な措置を講じまして、国会の審議模様が現場の裁判官に伝わるように措置をとっております。
それを若干例を挙げて述べさせていただきますが、民事執行法は五十四年の三月三十日に公布になったわけでございますが、その翌月の五十四年四月には当時の立案に参画いたしまして現在名古屋地方裁判所の判事をしておられる方が、雑誌におきまして、今国会における民事執行法案の審議の概要、こういうものを掲載しておられまして、この雑誌が現場に配付されたわけでございます。それから、同じ判事が「逐条概説民事執行法」というものを書かれまして、これが五十四年の六月でございますが、その中でも民事執行法案の国会における審議と経過というものが詳しく書かれているわけでございます。
さらに翌年の五十五年の十月におきましては、私どもの最高裁の民事局の課長と当時の担当者が加わりまして民事執行法案につきましての座談会をいたしております。この中でも国会の審議模様を紹介しております。そういったことを踏まえまして、五十四年の十二月には私どもの執務資料を発行しておりますが、その執務資料の中でただいま述べましたような文献を逐一掲げて、これを現場に配付しているわけでございます。
そのほかに、その後になりまして「注釈民事執行法」でありますとか「注解民事執行法」、こういったものが発行されておりますが、この中にも国会の質疑応答が重要な部分はそのまま載っているわけでございます。
それが一つの措置でございますが、そのほかに参議院法務委員会、衆議院法務委員会の議事録と
いうものは高裁所在地の資料室にはすべて配付されております。そこで現場の裁判官は見ることができるわけでございます。
さらに会同のことでございますが、これは五十五年、五十六年だけでも三回ほど裁判官の会同を開催しておりまして、その中で審議模様をお伝えしております。特に問題になりましたのが民事執行法の八十三条の引き渡し命令かと思いますが、その中で国会においてかなりの議論のもとに修正がなされております。その修正が非常に解釈に重要なポイントになっておりますので、その点についても十分伝えてあるわけでございます。
そういった措置をとらしていただいております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/89
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090・北村哲男
○北村哲男君 今回長々とまた細かく審議された内容についても、ぜひ今後の運用に生かしていただきたいという要望を言っておきます。
次に、実務運用上問題になりそうな条文についての質問を行っていきたいと思います。
まず十条に関連してでございますが、十条は受命裁判官に審尋を行わせることができるというふうな新しい条文をつくっておられますが、この必要性について御質問をしたいと思います。また、これは事実上現在やっておる、現行でもやっておるものかどうかということを含めてお願いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/90
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091・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 現行の民事訴訟法のもとで合議体で裁判をいたします場合に、受命裁判官が行うことができるとされております手続は、裁判所外において証人尋問をする場合、これは民事訴訟法二百六十五条でございます。それから和解手続という民事訴訟法百三十六条でございますが、それが規定されているだけでございまして、そのほか準備手続につきましては、準備手続裁判官が単独で行うという手当てがございますけれども、そのほかに合議体で決定で裁判をいたします場合にその審尋を受命裁判官がすることができるという規定はないわけでございます。したがって、条文上はそれをすることができないということになっているわけでございます。
保全命令に関する事件、これは一般には単独裁判体で行われるのが通例でございますが、これも合議体で行われる場合がございます。例えば保全命令を却下する裁判に対して即時抗告がされる、あるいは保全異議、保全取り消しの裁判に対して保全抗告がされる。その場合の一審の裁判所が地方裁判所でございますと、高等裁判所でその即時抗告審、保全抗告審の裁判が行われるわけでございますが、高等裁判所では必要的に合議体で審理をするということになります。また、それ以外におきましても複雑な事件については合議体で審理をするという場合があり得るわけでございます。
こういう場合に、現行法のもとでは審尋手続も合議体で行うということになるわけでございますが、保全命令事件、保全命令に関する事件の審理につきましては特に迅速な処理を要するということにかんがみまして、裁判所が事件の内容でございますとか経緯等にかんがみ、審尋を行うべきこと、その内容を決定した上で、その個別の審尋の手続は受命裁判官、単独の受命裁判官をして行わせることができるということにするのが適当であろうということでこの規定を設けることにいたしたわけでございまして、要するに迅速処理の要請を満たしながら、その中で実質においてできるだけ充実した審理をすることができるようにという考慮からこういう規定を設けたところでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/91
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092・北村哲男
○北村哲男君 次に、十二条の管轄の問題についても聞いておきたいんですが、現行法を改正しておられますけれども、改正の目的について御説明をください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/92
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093・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 管轄の点につきましては、改正がございます。仮差押えの命令事件につきましては、これは現行法の民事訴訟法七百三十九条に規定がございまして、係争物所在地の地方裁判所または本案管轄裁判所ということで、どちらでもいいということになっております。この実質はこの改正法でも変わっておりません。変わりましたのは仮処分事件でございます。仮処分事件につきましては現行法の七百五十七条一項という規定がございまして、原則としまして本案の管轄裁判所が管轄をする、こういうふうに決まっておりますが、急迫な事情があるというような場合におきましては、七百六十一条一項という規定がございまして、係争物所在地の地方裁判所でも審理を行える、こういうふうになっているわけでございます。
仮処分の場合には原則と例外というのがはっきり決まっているわけでございますが、この原則と例外を取り外しまして、どちらも並列的な管轄にするというところが一番大きな点でございます。現行法におきまして、なぜ仮処分命令事件につきましてこういうようなシステムをとっているかということでございますが、これは現行法の七百五十七条二項という規定がございまして仮処分事件につきましては原則として判決手続で行うという考え方をとっているわけでございます。
しかしながら、どうしても緊急を要する場合には係争物所在地の裁判所でも行われることがあります。この場合にはすべて決定手続で行われることになっております。そこで、仮に係争物所在地で命令を発しましても、本来判決でやるのが原則でございますから、もう一度原則である本案管轄裁判所に戻しまして、命令で定められました一定の期間内に債権者がもう一度再審査を願うという申し立てをすれば、これは現在異議の手続がございますが、それと類似の判決手続でもう一度再審理をする、こういうような非常に複雑な審理手続になっております。これはドイツの制度をそのまま持ってきたということでございまして、非常に理論的には精緻ではございますが、再審査をしなければならないという点で非常に複雑な、また余りにも手厚過ぎる形になっているわけでございます。
今回の法案におきましては、判決手続を廃止いたしましてすべて決定手続にするわけでございますので、そういう意味におきまして再審理をするという必要はなくなるわけでございます。そういうことからこの非常に複雑である七百六十一条の二項、三項という規定は全部廃止をいたしまして、制度としてまずすっきりさせまして、その上で管轄につきましても緊急性の要請から債権者がどちらかを選んで申し立てをすることができるというふうにしたわけでございまして、いわば債権者の側から見ましたら非常に使いやすくなったと、こういう実質にならう、こういうふうに考えているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/93
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094・北村哲男
○北村哲男君 管轄に関しては第六条で専属管轄と、それから十二条、管轄の規定があって、いかにも厳格にあるんですけれども、普通世間での契約、クレジット契約や保険約款のような一つの会社対多くの消費者あるいは相手の契約の場合には、管轄に対する合意、合意管轄がほとんど非常に多く使われておるわけですね。そういう場合には、もう大抵契約書の後ろの方には、本契約に関する裁判管轄は東京地方裁判所にするというのが多く入っている、非常にそれが多いはずなんですけれども、そういう場合はもう六条も十二条も関係なしに全部東京というふうに考えていいわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/94
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095・山崎潮
○説明員(山崎潮君) ただいまの約款の問題は、多分本案管轄裁判所、要するに本訴の、本案につきましての管轄の合意というふうに理解できると思いますが、その合意がありました場合には東京地方裁判所に仮処分を申し立てることもできるわけでございます。
ただ、これに関しましてはいろいろな解釈もございまして、例文解釈をする場合もございますし、その事案事案によって決められることになろうというふうに考えられます。
また、それによっていろいろな審理の遅延とかあるいは債務者側に重大な損害を生ずるおそれがあるというような場合におきましては、民事訴訟法の三十一条の裁量移送の規定をもって、その本案管轄裁判所は複数ございますので、それに適したところへ移送をするということも可能であるわ
けでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/95
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096・北村哲男
○北村哲男君 次に、十八条並びに三十五条の関係です。
これは申し立ての取り下げの関係なんですけれども、保全命令の申し立てそして保全異議の申し立てを取り下げるには、相手方の同意を得ることを要しないというふうに規定してありますけれども、それはどういう理由からでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/96
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097・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 現行法におきましては仮差押え、仮処分の制度につきまして特段の規定がございません。そこから民事訴訟法の二百三十六条の二項、これは一般に訴えを取り下げる場合には相手方の同意を要するという規定でございますが、これが類推適用されるのかされないのかという点につきましていろいろ争いがございます。
訴えを取り下げる場合は、これは判決手続で最終的な権利の確定をもたらす手続でございますから、これはせっかく事件が裁判になった場合にはいずれか勝ち負けをはっきりさせてほしいという利益は相手方にもあるはずでございます。そういうことから相手方の同意を要するという規定を置いているわけでございます。
一方、仮差押え、仮処分につきましてはどうかということでございますが、現行の解釈の大きく分かれるところは、異議の申し立てがあった以後に取り下げられるかどうかという点でございまして、それがない段階では取り下げは自由と普通には解されているわけでございます。これにつきましては判例、学説いろいろ分かれておりまして、どれが主流かよくわからないという状態であるわけでございます。これを我々としては統一しようというふうに考えたわけでございます。
仮差押え、仮処分の場合に、今回は同意を要しないとしたわけでございますが、これは本案の裁判と異なりまして、最終的に権利を確定するという効力はございません。そういう意味におきまして、債権者がやめたいということであれば、債務者は何の不利益もないということでございますので、同意を要しないとしたわけでございます。
また、保全異議の申し立てを取り下げる点について、同意を要するか要しないかという点でございますが、これにつきましても判例、学説上いろいろな意見がございます。現在は判決構造をとっておりますので、どうしても二百三十六条二項の解釈を持ち込むという考え方と、仮差押え、仮処分の性質に応じてそれは適用がないんだという説が真っ向から分かれているわけでございます。これにつきましても私どもは統一をしたわけでございますが、やはりこの関係も同じようでございまして、最終的な権利の確定を伴わないということから同意を要しないとしたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/97
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098・北村哲男
○北村哲男君 この点につきましては、何か今後の実務の運用が、保全異議あたりが本案化していくというか、そこらで権利の確定になっていくような感じもするということが午前中の参考人なんかの意見にもありましたけれども、特に議論するつもりもありませんけれども、やや問題を残すのではないかという気もします。
次に移ります。
保全命令の申し立てを却下する裁判に対する不服の申し立ての方法がありますけれども、これを現行法では「抗告」というふうに民訴四百十条ですかで決まっておるんですけれども、それを今回の改正では「即時抗告」として期限を区切って、即時抗告の制度にして変えておられますが、その理由はどういうところにあるんでしょうか。十九条の問題です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/98
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099・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 委員御指摘のとおり、現行法では特に条文には書いてございませんが、申し立てを却下した場合には一般的に抗告をすることができるという四百十条の規定の適用を受けているわけでございます。したがいまして、この抗告は利益のある限りいつでもできるということになるわけでございます。私が雑誌で見た例としましては、三年後に抗告が行われたという例もあるわけでございます。
しかしながら、これはよく考えますと、もともと保全命令の申し立てをするということは権利の迅速な保全を図るという目的で行われているわけでございますから、それが却下されたという場合にもその不服申し立ては速やかに行うべきであります。また、その決定から長期間時間がたちますと権利内容等に変動を生ずることもございますし、また保全の必要性という点にも変更を生ずる場合もございます。こういうものにつきましては、その実態に合わせて新たに保全命令の申し立てをしていただきまして、そこで判断するのが妥当だということを考えまして、期間を二週間という不変期間に限ったわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/99
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100・北村哲男
○北村哲男君 次に、二十一条の問題についてお伺いしますが、二十一条は「仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。ただし、動産の仮差押命令は、目的物を特定しないで発することができる。」というふうに言っておられますが、これは「特定の物」ということに、まあイメージとしてはわかる、そうであろうと思うんですけれども、特にここでそういうふうに規定したという意味と、それから動産を例外としたという意味ですね。それからもう一つ、その「特定の物」というのは法律的な概念だと思うんだけれども、不動産ならわかるんですが、無体財産権とか船舶とかいろんなものがあると思うんですけれども、具体的にはどういうものを指しておられるのか、あるいは物に当てはまらないよというものはどういうものがあるかという点についての解説というか、説明をお願いしたいと思うんですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/100
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101・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 今御質問の点は三点にわたると思いますが、まず第一点は、なぜこういう規定を置いたかということでございますが、一般に仮差押えの場合には、命令を発する段階ではその仮に差し押さえておく物の特定は必要がないというのが一般の理論であるわけでございます。
これはこういう理屈になろうかと思います。本案の裁判を考えていただきますと、仮差押えですから金銭債権でございます。したがいまして判決を出すときには金幾らを支払えということになるわけでございます。その後強制執行が行われるわけですが、その強制執行の段階で物を特定していく、こういうふうになります。仮差押えは民事訴訟法あるいは民事執行法の前提手続、いわばミニチュア版でございます。それで同じように考えていきますと、仮差押えの命令を出すところは判決を出す手続と同じでございますので、その段階では物を特定する必要がない、執行の段階で特定をすれば足りる、こういうふうに考えているのが今の一般的な考え方ではございます。これはドイツの考え方をそのまま持ってきているということでございます。
しかしながら、現実の実務におきましてはやはり何を仮に差し押さえるのかということがわかりませんと、それによってどれだけの損害が生ずるかわからないという点がございますので皆特定をさせているわけでございます。それによって、担保を幾ら提供するかという問題にも影響がございます。また、過剰に仮に差し押さえるということはこれは厳に避けるべきことでございますので、その目的を特定してもらわないと過剰かどうかがわからない、こういう点もございまして現在の実務ではすべて特定をしているわけでございます。
ただし動産につきましては、例えば家財道具を仮に差し押さえるといいましても、そこの家がどれだけの家財を持っているかということは債権者側にはわからないわけでございますし、また動産は動きます。そういうことから、一般的に物を特定することは困難であるということから特定をしなくてもいいということでございまして、これも現在の実務でもそのように行われているわけでございます。
ただし、これはその特定をしないでも足りると言っているだけでございますので、例えばある商品を売りましてそれを仮差押えする、あるいは特定の機械を仮に差し押さえる、こういう場合にはもう特定ができるわけでございますから、それは特定しても構わない、こういう趣旨になるわけでございます。
それから、「物」と言っているわけでございまし
て、確かにわかりにくい点がございます。民法では「物トハ有体物ヲ謂フ」というふうに決まっているわけでございますが、ここで申し上げている「物」というのは民事執行法上の「物」を指しているわけでございます。民事執行法ではいろいろな財産権を指す場合に「物」と言っております。それは、民事執行法三十八条に「第三者異議の訴え」というのがございますが、そこで「目的物」という文言を用いております。その「物」にはもちろん動産、不動産、船舶とかそういうものはすべて含まれますが、それ以外に債権も含まれます。それから特許等のいわば無体財産権でございますが、これも一応「物」と観念して執行法上の世界では扱っているわけでございます。そういう意味からすべての財産権についてここに含まれる、こういうことになろうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/101
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102・北村哲男
○北村哲男君 次の質問に移りますが、三十四条を見ていただきたいと思いますが、これは保全命令を取り消す決定の効力を裁判所の裁量により一定期間が経過するまで生ぜしめないとしておりますけれども、これはどういう目的、意図でこのようなことを規定されたんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/102
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103・山崎潮
○説明員(山崎潮君) これにつきましては、現行法では七百五十六条の二という規定がございます。民事訴訟法の一般の原則といたしましては財産的な請求につきましては仮執行宣言をつけることができるということになっておりますが、仮処分の場合にはそういうものがない場合もあるわけでございます。そこで七百五十六条の二で、そういうものであっても仮執行宣言をつけることができる、こういうふうになっているわけでございます。これはもともと判決の手続が確定しなければ執行力は出てこないわけですが、それを仮執行宣言を付すことによってそこで執行力を生じさせる、こういう構造になっているわけでございます。
現実の実務につきまして詳しい統計をとったわけではございませんが、八割から九割ぐらいの事件は取り消しの判決に仮執行宣言が付されているというように聞いております。ですから、実際上は即時に効力が生ずるというのが大部分だというふうに聞いているわけでございます。
こういう規定があるわけでございますが、今回の法案改正におきまして判決手続がなくなります。すべて決定になるわけでございます。取り消しも決定になるわけでございます。その関係からこの法案の七条で民事訴訟法の二百四条一項という規定が準用されるわけでございます。すなわち、決定は即時に効力が生ずる、こういう原則がかぶってくるわけでございます。そこで何も手当てをいたしませんと取り消しの決定も即時に効力が生ずるということになるわけでございます。したがいまして、その決定がなされましたら直ちに執行の停止あるいは取り消しをしまして執行を解放するということが可能になるわけでございます。ところが、これですべて効力を生じさせてしまいますと、その後に執行停止とかを求めたりあるいは保全抗告を求めて争おうとしましても、その段階では既にもうとまらないということになりまして、結局その財産が処分されてしまうおそれもあるわけでございます。
そういうことに備えまして、今回の法案におきましては第四十二条におきまして取り消し決定の効力停止という規定を設けているわけでございます。そういうような不都合がない、もちろんこれは厳格な要件がございますから、そう認められるものではございませんけれども、この要件に当たるような場合に、保全抗告をして執行停止をしなければ二度と財産が戻らないという場合もあり得るわけでございます。即時に効力を生じさせてしまうとそういう不都合な場合も起こり得るわけでございます。
そこで、私どもとしましては、原則は即時に効力は生じますけれども、その事案事案に応じて裁判所が定める二週間以内、二週間を超えない範囲で定めます一定期間効力が生じないという宣言をすることができることにいたしまして、もしその間に執行停止が行われたらそれで不都合な点は是正していく、こういうことから現在は仮執行宣言ということでございますが、これは俗に言えば不執行宣言というような形になるわけでございまして裏返しの状態になるわけでございます。
この二週間に限りましたのは、保全抗告の申し立て期間が二週間でございますから、それを超えるのは幾ら何でもやり過ぎだということでその範囲内ということで決めたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/103
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104・北村哲男
○北村哲男君 不執行期間を設けられたということですが、何か不都合な事態が生じた場合というふうなことを今言われましたけれども、例えばわかりやすい例としてどういう不都合が生ずることがあり得るんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/104
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105・山崎潮
○説明員(山崎潮君) これは二十七条の執行停止のところでも申し上げたわけでございますが、ある物件について処分禁止の仮処分をしているといたしまして、保全異議の段階までで債権者が負けましたが実は債務者の出してきた文書等が明らかに偽造であることがわかるような文書が新たに発見されたとか、あるいは一番重要な証人が外国へ行っていたのが帰ってきて、その証言を聞けば明らかにその結論がひっくり返るというような場合とかいろいろあるわけでございます。
そういうような事情の変更があり得るわけでございまして、即時に効力を生じさせまして、処分禁止の仮処分の登記がされるわけですが、その登記を抹消してしまいますと第三者に売却されてしまいます。それで幾ら不服申し立てをしましてもその財産は戻らない、こういうようなことがあるわけでございまして、こういう不都合をなくそうというふうに考えているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/105
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106・北村哲男
○北村哲男君 次に、二十八条の問題についてお伺いしておきたいんですが、これは移送の問題なんですが、保全異議事件について損害または遅滞を避けるための移送を認めておりますけれども、これはどういう理由なのでしょうか。あるいはさらに取り消し裁判にはこれは準用されるのかどうかを含めて御説明をお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/106
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107・山崎潮
○説明員(山崎潮君) この規定は今回初めてつくったものでございます。現行法にはございません。
先ほども申し上げましたように、十二条におきまして保全命令の申し立て事項につきまして管轄を定めたわけでございます。本案管轄裁判所または係争物存置の地方裁判所ということで、いずれも任意に債権者に選択させる、こういう形をとったわけでございます。
しかしながら保全命令の事件につきましては、緊急性があったりあるいは密行性がありまして債務者の意見を聞かないで発せられることも少なくないわけでございます。これにつきまして異議が申し立てられたという場合に、例えばそこの裁判所でやるのでは余りにも証人が別のところに多く固まっていて審理が遅滞するとかそういうような状況もあるわけでございます。これは債権者には広い選択の余地を認めたわけでございますが、債務者側としては全くその意見を聞かれないままやっているわけでございますので、審理の遅延とかそういう公益上の問題が生じたような場合にも管轄を固定しなければならないというのは、これは公益上の観点からも問題でございますし、また重大な損害を生ずるおそれがあるというような場合についてまで裁判所を固定しなければならないというふうになりますと、これは公平を欠くことになるわけでございます。そういう意味から、公平性を保つためにこの規定を置いたわけでございます。
それから、この点は確かに四十条という規定で準用されております。この保全取り消しの申し立てにつきましては三十八条とそれから三十九条に規定が置かれているわけでございますが、この管轄裁判所は二つございます。これは保全命令を発した裁判所または本案の裁判所でございます。現行法では保全命令を発した裁判所が原則でございまして、仮に本案がもう現実に係属しているというような場合にはそちらが優先する、こういうような考え方をとっているわけでございます。しかしながら本案が係属している裁判所、いわばその裁判体が必ずしも保全命令の取り消しにつきまし
て審理をするとは限りませんので、どちらかを優先するというのは若干酷な場合もございますので今回の法案ではそれを選択制にしたわけでございます。この選択もこれは債務者ができるわけでございますが、その場合の審理におきまして債権者側の方でいろいろな損害を生ずるとかあるいは遅滞を生ずるおそれがあるような場合にもこの二つの裁判所の中で移送をすることができる、こういうふうにして両者の公平を図ったということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/107
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108・北村哲男
○北村哲男君 次に三十七条の問題について伺います。
「本案の訴えの不提起等による保全取消し」について、現行法とそれから本法案との主な違いはどのような点にあるのかということについてお伺いしたいと思います。
それからあわせて、この五項の中に「家庭裁判所に対する調停の申立て」というのがございます。これが新設であることは間違いないんですけれども、実務上の扱いに変更があるのかどうか、これらを含めて現実の実務がどうなっているのか、そして今回の法案によってどのように変わったのか、変わったとすると現行の不都合な点はどういうふうなところにあったのかという点を含めて御説明を願いたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/108
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109・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 時間もございませんので簡略に申し上げますが、現行法では起訴命令と言っているわけでございますが、これにつきましてはまず最初に起訴命令を裁判所が発しまして、一定期間内に訴えを提起せよというふうに命ずるわけでございますが、その間に訴えを提起しなかったような場合には債務者側から取り消しを申し立てることができるというふうになっております。これでずっと訴えを提起しませんと裁判で取り消されるということになりますが、これは控訴ができます。その控訴審の口頭弁論終結時までに訴えを提起すれば結果としては取り消されなくなる、こういう解釈が一般的でございます。しかしながら、その命令に応じないような債権者をそれほど保護する必要はないわけでございまして、過度な保護をしているということからこれは相当でないという批判がございました。
そこで、このようなことにならないようにまず第一点の改善を加えたわけでございます。それは最初の起訴を命ずるところで、訴えを提起するだけではなく、その一定の期間内に訴えを提起したことと、提起しかつそれをしたことの証明書を裁判所に送付せよ、こういう規定を設けたわけでございます。これは書面を提出するという非常に形式的な要件をかけたわけでございますので、一定期間内にその書面の提出がなければ一切取り消すということを前提に設けたものでございます。この点で不都合は是正されるということでございます。
もう一点は、家庭裁判所に対する調停の申し立てあるいは仲裁手続等の点で規定を設けたということでございます。現在はこれをどのように解釈するかというのは必ずしも明らかではないわけでございます。この点で、例えば調停前置主義をとっております人事訴訟事件等につきましては、法律上調停を前置することが要請されているわけでございまして、これをいきなり訴えへ持っていけというのはやはり家事事件に対する軽視になるわけでございまして、制度上はおかしいということになるわけでございます。そこで、このような家事事件を守ろうという観点から調停でいいということを言っているわけでございます。
また、仲裁手続に関しましては、そもそも仲裁契約がございますと訴えを提起することが封じられるわけでございまして、とにかく訴えを提起しようとしましてもできないわけでございます。しましても裁判所で却下されてしまうということでございますので、これも今後仲裁契約というのは非常に多くなるだろうということから、こういう点につきまして規定を置いて明確にしたという点でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/109
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110・北村哲男
○北村哲男君 次に、三十八条の「事情の変更による保全取消し」の問題ですが、現行の民事訴訟法七百四十七条一項後段では担保の提供による仮差押えの取り消しがありますけれども、この制度は本法案においては設けられていないのかどうか。その辺の説明をお願いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/110
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111・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 確かに委員御指摘のとおり、現行法の七百四十七条一項後段におきましては、仮差押えの場合には担保を提供すればその取り消しを求めることができるという規定がございます。この場合は特段の事由が必要ございません。とにかく担保物を提供すればいいということになっております。しかしながら、これは現実には余り使われていないという実態もございます。また理論的にも問題がございます。
同じように、金銭を提供すれば取り消しを得るという方法に「仮差押解放金」という規定がございます。仮差押解放金の場合におきまして、金銭を供託いたしましても債権者はその金銭に対して優先権は持たない、いわば一般の債権者の立場で平等配当をしていくということになっておるわけでございますが、これも特段の事由は必要ないわけでございます。同じような制度でこの七百四十七条一項後段の場合には、金銭を供託いたしますとそれは債権者が優先権を持つというような考え方が一般でございまして、全く理由も要らないでとにかく供託をするという制度で、片や優先権、片や一般の債権、これは非常にバランスを欠くわけでございます。
そういうような点で少し理論的にも整理をしよう、それから実際上の実務でも余り行われてないことであるから差し支えはないということから削除したわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/111
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112・北村哲男
○北村哲男君 三十九条にも「特別の事情による保全取消し」という規定がありますが、三十八条と三十九条の違いというか、あるいは実務、どの辺が違うのかという点を簡単に御説明ください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/112
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113・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 三十八条の規定は事情変更でございますので、例えば権利関係がその後に消滅したとかあるいは保全の必要性が消滅した、こういうようなもともと発令をする要件それ自体が変更を生じたということを指しているわけでございます。三十九条の方につきましては、これは仮処分だけに特有な制度でございますが、本来的な権利関係はそのままでありましても、そのままの状態では償うことができない損害を生ずるおそれがあり得る場合、例えばそのままでは倒産をしてしまうとかそういうようなおそれとか、そういう場合に担保を積みましてその取り消しをする、こういうような機能を果たしているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/113
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114・北村哲男
○北村哲男君 飛びますが、四十五条を開いていただきたいと思いますが、「高等裁判所が保全執行裁判所としてした保全執行に対する第三者異議の訴え」を管轄する裁判所はどこかという問題ですけれども、これはどういうことを意味するのかという点について、特にこれは民事執行法三十八条との関係があるかとも思うんですが、その点についての関連とその意味を御説明ください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/114
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115・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 民事執行法の規定によりますと、ただいま委員御指摘の三十八条の規定も含めまして執行に対する第三者異議の訴えの管轄裁判所は執行裁判所であるということになっておりますから、この執行裁判所というのは、民事執行法三条の規定によりますと執行処分を行うべき裁判所が執行裁判所ということになります。したがいまして、これを形式的にこのまま準用するということにいたしますと、高等裁判所が執行処分を行う場合の保全執行に対する第三者異議の訴えは高等裁判所が管轄するということになります。そうしますと、第三者異議の訴えについての審級の利益を害されるということになって不都合でございますので、現行法の解釈といたしましても執行行為が行われた地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所であるという解釈が通説になっておるようでございます。
したがいまして、この通説に従いまして本法案におきましては、高等裁判所が執行裁判所としてした保全執行につきましても、第三者異議の訴えの管轄は地方裁判所であるということをまず定め
たわけでございます。その上で、どの地方裁判所にするかということでございますが、これも現行法の解釈にできるだけ合わせるという考え方で、仮に差し押さえるべき物または係争物の所在地を管轄する地方裁判所というふうに定めたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/115
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116・北村哲男
○北村哲男君 五十三条の、問題についてお伺いします。
「不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行」及びその効力は、現在どのような解釈で行われているのか、そしてどういう問題があったので今回のこの法案になったのかという点の御説明をお願いしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/116
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117・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 現行法におきましては、不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分が発令された場合には、その登記請求権の種類、態様がどういうものであるかを問いませんで一律に仮処分の登記がされるということになっております。この場合に、仮処分命令におきましても仮処分の登記におきましても、保全すべき権利が何であるかということは記載されないという取り扱いでございます。
この仮処分の効力がどういうことになるかという問題、これは現行法では専ら解釈、運用にゆだねられているわけでございますけれども、現在の実務の運用におきましては委員御案内のとおり、仮処分の登記の後においても第三者の登記は受理される。しかしながら、仮処分の本案の債務名義に基づく申請によって、あるいは共同申請によっても、仮処分債務者を登記義務者とする登記の申請がされる場合には、その申請と同時にされる限りにおきましては、仮処分債権者の単独申請で仮処分の登記に抵触する第三者の登記を抹消する、そういう取り扱いがされております。しかもこの場合には、抹消されたということは当該抹消される第三者に対して何らの連絡もないという取り扱いが定着しているわけでございまして、この運用は現在定着した解釈、運用であり、かつ最高裁の判例によっても承認されているところでございます。
今回の改正はこの実務の努力によります解釈、運用、これを基本的には是認するという形で明文化するということがまず第一点でございますが、そのほかに、現在の運用ではやはり解釈によっているために、若干の場面におきまして本来の仮処分の目的を達するためには行き過ぎた効力が与えられるという場面がございます。これは典型的には抵当権の設定登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の場合に見られるわけでございますが、その仮処分の場合には、その後にされた登記を今申しましたように抹消するということまでは必要がないわけでございまして、その後にされた登記に当該仮処分の被保全権利たる登記請求権が優先するという効力さえ与えられればそれでいいはずであります。
ところが、現在の実務におきましては、被保全権利が何であるかということを区分することなく一律に仮処分後にされた第三者の登記を抹消するという取り扱いがされておりまして、こういう種類の仮処分につきましてはその仮処分の目的に適した制度を構築するという必要があるということがかねてから強く要請されていたところでございます。この点についていわゆる保全仮登記という制度を導入して改善を加えたということが第一点でございます。
いま一つは、今申しましたように抹消される第三者、これが不当に抹消されるということもあり得るわけでございます。実務上極めてまれではございますが、そういうことも考えられる。しかし、そういう第三者が知らない間に登記が抹消されるということでは、やはり第三者がみずからの権利を行使するという機会を確保するという見地から妥当ではないのではないかという問題点がございました。そういう問題に対応するために、第三者の登記を抹消する場合には事前に当該第三者に通知をするということ、これを確保して第三者が速やかに不当な抹消を回復することができる機会を与えるという手当てをした点が第二点でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/117
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118・北村哲男
○北村哲男君 保全仮登記という制度は今回初めてつくられたことでありますが、五十三条の二項においては所有権以外の権利の設定登記請求権などを保全する処分禁止の仮処分については保全仮登記をするものとしておりますけれども、この保全仮登記は通常の仮登記と一体どこが違うのか、その点の御説明をお願いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/118
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119・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 保全仮登記の制度につきましては、ただいま若干申し上げましたけれども、不動産に関する所有権以外の権利、具体的には担保権または用益権でございますが、その設定等の登記請求権を保全する処分禁止の仮処分におきましては、その後にされた登記を抹消する必要は必ずしもない、その後に登記したものにその被保全権利に係る担保権あるいは用益権をもって対抗することができるという状態をつくれば足りる。すなわち、その被保全権利の登記の順位が確保されればいいということでございますので、そのため、それを登記上実現する手法といたしまして不動産登記法上認められております仮登記という手法をかりて、その仮処分の効力の適正な実現を図ろうとしたものであります。
この保全仮登記はそういうことでございますので、処分禁止の登記、これとあわせて保全仮登記がされるわけでございますが、この両者が一体となって処分禁止の仮処分による処分制限を公示するものでございます。したがいまして、この保全仮登記はあくまでも処分制限の登記でございまして不動産登記法上の仮登記とは性質を異にするものであるということでございます。そういうことでございますので、処分制限の登記たる保全仮登記に係る権利を移転したり、あるいはそれを差し押さえるということはできないわけでございますし、また破産手続等の関係におきましても、破産宣告によりまして効力を失うということになるわけでございます。
これに対しまして一般の不動産登記法上の仮登記というものは、これは基本的に共同申請に基づいてされる、そのほか承諾書の添付ですとか、あるいは仮登記、仮処分によって行われるという場合もございますけれども、これは背後に実体上の権利があるということを前提とした登記でございまして、本登記がされた場合と同じように財産権として扱われますし、これを移転したり差し押さえたりすることもできる。また破産法との関係におきましても、仮処分、破産宣告がありましても仮登記の効力は失われることはないという独自の財産的な地位を占めるということでございます。
なお、この保全仮登記という制度を導入したことによりまして、この種の仮処分の登記がされました場合にも、その保全仮登記に公示されております担保権の場合でございますと、被保全債権の範囲を超える財産価値についてはなおそれだけの財産価値があるということが明確になるわけでございますので、さらにそれを超える部分については担保権の設定をすることができる、担保権の設定を受ける者にとってはその債権の範囲を超える限度においては安心して担保権の設定を受けるというようなことになりますので、取引の幅がこれによって拡大されるという効果があるものと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/119
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120・北村哲男
○北村哲男君 あと三条分ぐらい聞いておきたいので時間の関係で簡単にお願いしたいのですが、五十八条の一項、二項あるいは五十八条全体の問題なんですが、処分禁止の仮処分の効力について一般的規定を設けるのはどういうわけなのかということと、処分禁止の登記における第三者の登記の抹消について本法案で規定したのはなぜかという問題について簡単な御説明をお願いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/120
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121・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) まず、五十八条第一項の規定を置きました意味でありますが、この第一項の規定の趣旨は、不動産登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分がされた場合に、その仮処分の後にされた第三者の登記に対しまして、その仮処分がいかなる効力を有するかということにつきまして実体法上の基本的な効力を規定したもの
でございます。登記手続的な面におきましてどういう効力を有するかということは、五十八条の第二項ないし第四項に具体的に規定されているわけでございますけれども、こういう登記手続的な効力が認められるということを支える基本的な効力を宣言したものでございます。
少し具体的に申しますと、例えば仮処分の登記後にされた登記でございましても必ずしもその仮処分の登記に劣後するものばかりではないわけでございまして、例えばその仮処分の登記より前に抵当権の設定登記がされておる、その抵当権に基づいて仮処分の登記後に競売開始決定がされ、その開始の登記がされるという場合を考えますと、これは競売開始の登記は実体上当該仮処分に優先する効力を持っているはずでございます。そういうものは抹消されるいわれがないわけでございます。そういった解釈はこの五十八条第一項の規定から導かれる。そういう具体的な効力の範囲を画するという目的のために基本的な効力についての規定を置いたものでございます。
次に、登記を抹消する場合の第三者の地位の一定限度での保護のための規定でございますが、これにつきましては先ほど若干触れましたけれども、現在の運用におきましては被保全権利に係る登記をする場合には、おくれる第三者の登記は仮処分債権者の単独申請によってかつ当該第三者に通知するまでもなく抹消するという取り扱いをしておりますが、これによって現在特段の問題が生じているということは聞いておりません。要するに第三者といたしましては仮処分の登記がされていることを承知の上で権利の取得の登記をするわけでございますから、一般的にはそれを承知しているということであろうと思います。
しかしながら、実体的に申しますと、被保全権利はもともとなかったとかあるいは被保全権利たる登記請求権とは別の登記請求権に基づいて仮処分債権者と仮処分債務者の間で登記をしたとか、そういう場合には第三者としては自分の登記を抹消されるいわれはないはずでございます。そういう場合も考えられますので、少なくとも登記を抹消するについては第三者に事前に通知をして、実体上いち早くその抹消の回復の手続をとれるように、それだけの手当ては必要ではないかということで第三者に対する通知の規定を設けたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/121
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122・北村哲男
○北村哲男君 五十五条とそれから六十四条の関係についてお伺いしますけれども、「建物収去土地明渡請求権を保全するための建物の処分禁止の仮処分」は許されるとありますが、その理由と効力について御説明をお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/122
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123・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 建物収去土地明渡請求権を保全する場合には、土地明渡請求権ということでございますから本来は占有移転禁止の仮処分をすればいいということになるわけでございますが、しかしながら建物の収去ということを執行いたしますためには、建物の所有権が第三者に移転されますとその占有移転禁止の仮処分だけでは目的を達しないということになります。建物が占めている土地につきましては、建物が存する限りその土地の占有を解くことができない。したがいまして、土地明け渡しの執行を保全して当事者を恒定するためには結局、建物の処分禁止の仮処分をしておく必要があるということになります。そういうことでございますので、現行法のもとにおきましても、実務上そういう場合につきましては建物の処分禁止の仮処分ということが一般的に使われているということは委員御案内のとおりと思います。
また、その仮処分の効力につきましても、今回六十四条におきまして規定しているような効力、これが解釈上も認められてきているわけでございます。そこで今回、この種の仮処分についてもその執行方法を五十五条で、その効力を六十四条で明確にしたというのが今回の改正の趣旨でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/123
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124・北村哲男
○北村哲男君 時間も参りましたので、私は最後に法務大臣に御質問をして、私の質問を終わりたいと思います。
法務大臣、長時間にわたる法案審議をお聞きになった御感想をお聞きいたしたいと思いますが、裁判手続の中でこの保全手続というのは最も難しい分野でありまして、恐らくまるでパズルを解くような感じがするという点もあると思います。しかしながら、労働事件に関する仮処分が我が国の戦後の混乱期から今日の繁栄期にかけて果たしてきた役割は極めて大きいものがあると思っております。そして、今日まで築き上げられたこの労働仮処分の分野における体系は今後も引き継がれ、我が国が完成された民主国家に発展するためにも必要なものだと私は確信しておりますが、法務大臣の御感想をお伺いして質問を終わりたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/124
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125・後藤正夫
○国務大臣(後藤正夫君) お答えいたします。
私、もともと法律専門でございませんでしたのできょうの今までの御質疑を伺いながら、やはりこの法律は法律の中でもかなり私ども素人にとっては難解なものだということを痛切に感じますとともに、こういう問題と取り組んでおられる日常のお仕事の重要性ということを非常に強く感じさせていただいております。
民事保全法のこの案につきましての国会での御審議をいろいろ伺いながら、民事保全事件が非常に重要な役割を果たしているということについていろいろとお教えをいただいたような感じがいたしております。このうち、労働仮処分の審理につきましては一般の仮処分とはかなり違ったところがあるということも勉強させていただきました。今後も労働仮処分を含みます仮処分事件の審理がどのように運営されていくかと関心を持って見守ってまいりたいと思います。
またなお、民事保全法案がさまざまな慣行を阻害することの要因になることはないものということを確信しているということも申し添えたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/125
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126・矢原秀男
○矢原秀男君 今回の改正における基本方針を読ませていただいておりますと、戦後特に仮処分の利用が著しく高まり、かつ複雑な事案が増加したため生じた仮処分の本案化現象並びに不服申し立て手続の慢性的遅延に対処するためという問題と、また具体的には審理及び裁判の方式の合理化並びに処分禁止仮処分及び占有移転禁止仮処分の要件及び効力の明確化、これが改正における最重点事項と明示をされております。これにのっとりまして質疑をさせていただきたいと思いますけれども、もしまた重複をいたしましたらお許しをいただきたいと思います。
処分禁止の仮処分については、現行法では処分禁止の登記をして仮処分債権者が本案判決で勝訴した場合には処分禁止の登記におくれる登記をすべて抹消する扱いとなっておりますけれども、この法案では保全仮登記の制度を新設しております。第五十三条第二項でございますけれども、この点についての理由を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/126
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127・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 委員御指摘のとおり、現行法のもとにおきましては不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の効力を実現いたしますために、仮処分債権者が本案判決で勝訴した場合にはその仮処分の登記におくれる第三者の登記はすべて抹消するという取り扱いとなっております。これは現在この仮処分の効力について具体的な規定はございませんけれども、この仮処分が不動産登記請求権の本案の権利を実現するための訴訟におきまして、その手続中に所有権が第三者に移転されるということになりますと、せっかくその者を相手にして訴訟をしておりましても途中で所有権の移転登記をされますとまたその移転先の第三者を相手に訴訟しなければならないということになる。そういうことでは本案の権利の実現を図ることができない。そのために当事者を最初の登記名義人に固定しておく、そういう効力を有すべきものとしてこの仮処分がされるわけでございまして、これを当事者恒定効というふうに呼んでおります。その当事者恒定の効力を実現するために、解釈に基づきます運用といたしましてそういう取り扱いがされているわけでございます。
この取り扱いは不動産登記請求権を保全するための仮処分一般の場合には極めて適切な運用でございます。典型的には所有権の移転登記請求権を保全するという場合に最もよくこの仮処分が使われるわけでございますが、仮処分債権者の移転登記請求権を実現するという観点からいいますと、仮処分後にされた第三者の登記を抹消しなければその所有権移転登記を実現することはできないわけでございますから、そういう場合には極めて適切な運用であるわけでございます。しかしながら所有権以外の権利の設定等、典型的には抵当権の設定登記請求権の場合でございますが、この場合を考えますと今のような取り扱いは本来その仮処分に期待されている効力以上の効力を与えているということになるわけでございます。
すなわち、抵当権設定登記請求権を保全するという観点から申しますと、例えばその処分禁止の登記の後に所有名義が第三者に移されたという場合でございましても、その移された第三者の所有権の上にその抵当権が乗っかっていけばいい。そうすれば仮処分債権者としては目的を達するわけでございまして、言いかえますと抵当権設定登記の順位が確保されればそれで目的を達するということになります。後の登記を抹消してしまうまでの必要性はないわけでございます。現在はそれに対応する手続が設けられておりませんがために一般の処分禁止の仮処分と同じように第三者の登記を抹消するという取り扱いをせざるを得ないわけでございますが、何とかそういう場合にはそれに適合した仮処分の執行方法がないものかということがかねてから実務界から強く要請されていたわけでございます。
そういう目的を実現する手法につきまして、いろいろ法制審議会におきまして検討いたしました結果、不動産登記上認められております仮登記、これはまさに順位を保全するための登記でございます。この仮登記の手法を利用いたしまして保全仮登記という仕組みを設けて、そして処分禁止の登記とあわせてこの保全のための仮登記をいたしまして、その仮登記のところに余白をつくっておく。そして被保全権利たる抵当権設定登記を実現する場合にはその余白にその登記をする。そして仮処分の登記におくれる第三者の登記を抹消する必要はない、こういう制度を導入するということにいたしたわけでございます。これによりまして抵当権設定登記請求権等の場合にその仮処分の目的に適合した執行が確保されるということになるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/127
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128・矢原秀男
○矢原秀男君 では、処分禁止の仮処分については登記が抹消されることとなるわけですけれども、第三者に対する手続保障についてこの法案は非常に配慮している、こういうことでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/128
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129・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) ただいま御説明しましたように、抵当権設定登記請求権等の場合を除きまして、一般的に不動産登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分におくれる登記は、その被保全権利たる登記を実現する場合には抹消するという取り扱いがこれまでも定着しておりまして、この法案におきましてはそれを明確にしたわけでございます。第三者といたしましては処分禁止の登記がされているということを承知の上でその物件について権利を取得し登記をするわけでございますから、一般的に申しますと、その仮処分に基づきまして被保全権利が実行される場合には自分の登記は抹消されても仕方がないということを覚悟して権利を取得し登記を得ているものと考えられるわけでございます。
そういうことでございますので、これまでも実務の運用で今申しましたような取り扱いが行われておりましたが、それによって第三者の権利が不当に害されるからいかぬというような実際上の要請というものはそれほどなかったわけでございますが、しかしながら第三者保護ということをあわせて考えようとしているこの民事保全法のもとにおきましては、やはりそういう取り扱いによって不当に第三者の登記が抹消されるという場合も考えればないわけではないわけでございます。例えば仮処分債権者と仮処分債務者がなれ合ってそういう仮処分をし、その後にその仮処分に係る被保全権利の登記をする、それによって第三者の登記を害しようというような場合も考えられないわけではないわけでございます。そういう場合にはやはり第三者としてはいち早くその不当を主張して、抹消された登記を回復するための手続をとる必要があるわけでございます。
これは、実体上当然そういう不当に抹消されたものは回復する権利があるわけでございますが、現在の運用のもとにおきましては通知もされないまま抹消されてしまいますので、その手続をとる機会が必ずしも確保されないという問題がございます。そういうことを考慮いたしましてこの法案では、仮処分債権者が第三者の登記を抹消するためにはあらかじめその第三者に対しましてその旨を通知しなければならない、その通知をしたということを証する書面を添付しなければその登記の抹消を申請することができないというような手当てをいたしまして、不法な登記の抹消を抑止するとともに、第三者の早期の権利行使を可能にするということにしたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/129
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130・矢原秀男
○矢原秀男君 第六十三条にも関係するかと思いますが、占有移転の禁止の仮処分で、いわゆる占有屋を排除することが可能となる点はよいといたしましても、権原を有する第三者を排除することにならないように配慮されているのかどうか、この点もお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/130
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131・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 占有移転禁止の仮処分というのも、これは物の引き渡しあるいは不動産の明け渡し等の請求権を被保全権利といたしましていわゆる訴訟の相手方を恒定するための当事者恒定の仮処分といたしまして、極めて頻繁に利用されている仮処分でございます。これにつきましても、その仮処分の効力がどうなるかということは、これも現在解釈に基づく運用で処理されているところでございます。その解釈によりますと、この仮処分の執行、これは執行官が保管しその旨を公示するという方法で行うわけでございますが、仮処分が執行された後にその仮処分の債務者から占有を承継した者、任意に仮処分債務者から引き渡しを受けた者ということでございますが、そういう者に対してはこの仮処分の効力が及ぶ、すなわち最初の占有者を相手にする明け渡し、引き渡しの勝訴判決をもってその占有を承継した第三者に対しても明け渡し、引き渡しの強制執行をすることができるという解釈になっております。
しかしながら、占有の承継、仮処分債務者から占有を受けるという形以外の方法で、例えば空き家になっているところに勝手に入り込むとかあるいは場合によっては強制的に追い出すとか、そういうふうに承継という形によらないで占有を開始した者に対しては、この仮処分の効力は及ばないという解釈が定着しております。そういたしますと、いわゆる明け渡しに伴う示談金を目当てにする目的で占有を開始するといういわゆる占有屋というふうに呼んでおりますが、そういった者が不法占拠をする、そういう場合に的確にこれを排除して仮処分の効力を実効あるものにすることが必ずしも十分でないという指摘が従来からあったところでございます。そういうことに対応いたしますために今回、そういう仮処分がされているということを知って占有した者につきましては、仮処分債務者から占有を承継した者でない場合であってもこの仮処分の効力を及ぼすということにいたしたわけでございまして、その限度でこの仮処分の効力を拡張をするという改正をすることとしているわけでございます。
ただ、他方で、これまでの審議でもいろいろ問題が提起されましたけれども、そういうことによって、例えばなれ合い仮処分というようなことによって本来占有する権原を有する第三者が不利益をこうむるということも考えられないではないわけでございまして、このための手当ても同時に考えているわけでございます。
こういう場合におきましては、先ほど来御説明申し上げておりますように、仮処分債権者に対抗することのできる権原を有する第三者は、その仮
処分の執行そのものに対していわゆる第三者異議という訴えを提起してその執行を排除するということもてきるわけでございますが、そういうことをいたしませんで仮処分の本案判決に基づく当該第三者に対する強制執行がされようという場合におきましても、その強制執行を排除する手法をできるだけ簡易にすることができるようにすることが必要であろう。そういう考慮から六十三条に規定を設けまして、本来仮処分の効力を受けるべき者でない者に対して執行文が付与されて強制執行が開始されようとしているときには、執行文の付与に対する異議の申し立てという簡易な手続で、この裁判は迅速にすることができるわけですが、そういう簡易な手続でその執行を排除することができるという手当てを特別に設けて同時に第三者の権利の保護のための配慮もしたということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/131
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132・矢原秀男
○矢原秀男君 法務大臣、答弁は結構でございますが、きょう午前中、参考人として一橋大学の竹下先生とか、またよりすぐっていらっしゃる弁護士の三人の諸先生方のお話、質疑をいろいろ伺っておりまして、この民事保全法について我々国民の立場から見てもこれだけ研ぎ澄まされた専門家の方々がお互いの立場で、意見の違う中で一生懸命やはり研究、努力をされていらっしゃるな、こういうことで非常に敬意を表した午前中でございました。
そういう観点から、これは当局にお伺いをしたいと思うんですけれども、法制定後約百年を経た現在、今国会に提出されました経緯を、きょうの午前中のお話を伺って私もわかっておりますけれども、もう一回当局からこういう経緯についての説明も改めて確認をしておきたい。
それから二点目には、五十四年のいわゆる民事執行法成立の際、仮差押え、仮処分の命令手続については、いろんな理由があって着手もされなかった。こういうふうなことも含めて、さらにこれももう皆さんも御承知でございますけれども、この民事保全法という名称のいろいろの経緯についても法務省の御見解を改めて伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/132
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133・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 民事訴訟法は明治二十三年に制定されておりまして、この民事訴訟法の中に狭い意味での民事訴訟、つまり判決の手続とそれからそれを強制的に実現する強制執行の手続、この両者が包含をされておりました。前者の部分につきましては大正十五年に大きな改正がありましたが、後者につきましてはほとんど手がつけられないままに戦後に至ったわけでありまして、この強制執行に関する規定の部分の改正を急ぎまして、それを実現したのが昭和五十四年の民事執行法でございます。
ところで、今回御審議をお願いいたしております仮差押え、仮処分という手続は、その仮差押え、仮処分という裁判をする手続と、それからその裁判によってでき上がった仮差押え命令、仮処分命令を執行する手続とにさらに分けることができるわけでございまして、昭和五十四年の民事執行法制定の際には、仮差押え、仮処分の手続全部について十分な検討を遂げて民事執行法の中に取り込む余裕がありませんでしたので、仮差押え、仮処分の執行手続だけを取り出しまして民事執行法の中に取り込んだわけでございます。その結果、仮差押え、仮処分は裁判の手続きと執行の手続とが別々の法律に分断されるという結果になりました。
これは、この仮差押え、仮処分という一連の手続はもともと連続したものとして一体として扱われるべきものである、そういう性格を持っている関係からいたしますと大変都合の悪いことでございまして、そこで今回、民事訴訟法の中に残っておりました仮差押え、仮処分の裁判の手続の部分と、それから民事執行法の中に移りました仮差押え、仮処分の執行の手続に関する部分と、両方を取り出しましてこれを一本に合体し、さらに、特に問題のあります仮処分の効力に関する部分を明文化いたしまして、この三つを合わせて今回の民事保全法案の中に取り込んだわけでございます。
この法案の名称についてのお尋ねがございましたが、講学上この仮差押え、仮処分は保全処分と呼ばれることが多いわけでございます。したがって法律の名前に保全処分という文言を入れるということも一つ考えられるわけでございますけれども、いろいろな法律の中には、この民事保全法で取り上げております仮差押え、仮処分以外の暫定的裁判につきましてやはり保全処分という名前を用いているものがございます。これは家事審判法とか破産法あるいは会社更生法などにあるわけでございまして、それとの区別を明らかにする必要があるということがございまして、民事訴訟法、民事執行法と並ぶ民事手続に関する基本法であるという意味で民事保全法という命名が最も適当であると考えられたものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/133
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134・矢原秀男
○矢原秀男君 今回の改正案によります、これはすべてもう質疑が交わされておりますけれども、決定主義のもとで保全異議及び保全取り消しの申し立て裁判に対する不服申し立て方法として現行法の控訴の代案として保全抗告の制度が採用されていると思います。ところで、かかる保全抗告には一般の抗告に関する民訴法第四百十六条第二項及び第四百十七条の再度の考案の規定が準用されないことになったこの審議経過について、簡単で結構でございますけれども御説明をいただきたいと思います。
また、関連してもう一つは「保全命令を取り消す決定の効力停止」の規定、法律案第四十二条が採用されておりますけれども、これは現行法の仮執行の宣言で、取り消し決定に対するいわゆる控訴に付随した執行停止、民訴法第五百十二条に相当するものと理解をいたしておりますけれども、そのとおりであるかどうか。二点伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/134
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135・山崎潮
○説明員(山崎潮君) 二つございますが、再度の考案の点でございます。これは決定に対しまして抗告があった場合には、一般的には再度の考案ということになろうかと思います。しかしながら、この保全抗告は現行法では控訴に当たるものでございます。そういう実質から決定手続に変えたことにより保全抗告となったわけでございますが、しかし現在の実質を考えますと、審級をまたいで重要な内容についてやるわけでございますので、そこで再度の考案というようなことをもう一度やるというのは不自然でございまして、これは保全抗告の裁判所で判断をしてもらえばいいということになります。いわば現行法の制度が判決から決定になっただけでございまして、その性質を変える必要がないということから適用を排除しているわけでございます。
それから第二の点でございますが、委員御指摘のとおり、現行法におきましては仮執行宣言が付されますと、それに対しまして控訴に伴って民事訴訟法五百十二条の執行停止ということになるわけでございます。しかしながら、この執行停止の規定は何も要件が書かれておりません。本案の裁判についてはまさにこれが適用されるわけでございますが、やはり仮差押え、仮処分の制度につきましてはそこが非常に限定的にいろいろ解釈がされているわけでございます。
その要件につきましてはさまざまな説がございますが、これといって確定的な説がないという状況であったわけでございます。執行停止の制度は、二十七条の問題もこの四十二条の問題も同じでございますが、もともとこの仮差押え、仮処分の制度は暫定的な裁判でございます。暫定的な裁判にまた暫定的なものを加えるということはいわば屋上屋を架すというようなおそれがあるわけでございます。しかしながらこれを全く設けないということになりますと、やはり不服を申し立てる意味がなくなってしまうという場合もあるわけでございます。そこで、厳格な要件のもとに認めるべきではないかということになるわけでございます。
現在の解釈ではいろいろな要件がございますし、場合によっては非常に拡大解釈されるおそれもございます。そこで、要件を非常に厳格にいたしまして明文化をして、それで余り乱用がないように制度を統一した、こういうことであるわけで
ございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/135
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136・矢原秀男
○矢原秀男君 高等裁判所が発令裁判所として保全執行裁判所となった場合における第三者異議の訴えの管轄裁判所に関する特則を新たに採用した経緯についてお伺いをしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/136
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137・濱崎恭生
○説明員(濱崎恭生君) 現在の民事執行法の規定によりますと、保全執行に対します第三者異議の訴えの管轄裁判所は執行裁判所であるということになっております。
民事執行法三条によりますと執行処分を行うべき裁判所が執行裁判所ということになりますから、これを形式的に適用いたしますと高等裁判所が執行処分を行うという場合の保全執行に対する第三者異議の訴え、これは高等裁判所が管轄するということになります。
第三者異議の訴えと申しますのは、これは独立した一つの訴えとして構成されておりますから、したがって三審級の審級の利益が確保されるべき必要があるわけでございますが、高等裁判所が第一審裁判所ということになりますとその審級の利益が害されるということになって、適当ではございません。そういうことで、現在の解釈におきましてもこの場合には執行行為が行われた地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所であるという考え方が通説になっております。
この法律案におきましては、現在のこの通説に従いましてこのことを明らかにしたわけでございまして、高等裁判所が保全執行裁判所として保全執行をした場合の第三者異議の訴えの管轄裁判所は地方裁判所であるということの特則を設けたわけでございます。
それと同時に、どの地方裁判所が管轄を有するかということにつきましては、これも現在の通説的な考え方に合わせまして、仮に差し押さえるべき物または係争物、その所在地を管轄する地方裁判所をもって管轄裁判所とするということを定めたものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/137
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138・矢原秀男
○矢原秀男君 時間がございませんので簡単に質疑いたします。
労働仮処分手続の形成、これは歴史的な経過があると思うんですが、その説明を一つ求めます。
それからもう一つは、労働仮処分の運用の現状についてでございます。
まとめて質問いたしますけれども、最後の一点は、労働の仮処分手続において口頭弁論手続をどう運用するのか。また審尋手続をどう整備するのか。具体的に検討される事件は特殊仮処分だと思いますけれども、今回の改正案がこれらの事件処理にどのような影響が出てくるのか。法制審で審議経過についていろいろとあったと思うんですけれども、まとめて具体的な説明をお願いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/138
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139・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 労働仮処分についてでございますが、法律としての労働法とかあるいは裁判手続上における労働事件というものが盛んになりましたのは戦後のことでございまして、したがってほかの分野に比べますと歴史は浅いものでございます。この労働紛争を裁判手続上解決する手法として在来からございました民事訴訟法の中の仮処分の手続が非常に多用されるようになりまして、これが現在の裁判所における労働訴訟の中心的な分野を形成してまいりました。いわゆる特殊仮処分の一つといたしまして独自の発展を遂げつつあるということが言えるかと思います。
その手続は、民事訴訟法の中にございます仮処分の裁判手続を用いてやるわけでございますので、現行法のもとでは口頭弁論かあるいは審尋か、そういった手続を駆使し、各地の裁判所においていろいろな手続慣行も生まれてこの審理が円滑に行われてきている。しかしながら、どうしても口頭弁論を主体にいたしますと判決をもって審理しなければならないことになりますので、手続に要する期間が非常に長くかかる。これは経験的にそのように言われておるようでございまして、これをできるだけ迅速化するということが仮処分手続全体にとっても極めて重要であるというところから今回の改正法案における決定主義が生まれてまいりましたわけでありまして、この決定主義のもとにおきましても、任意的口頭弁論をとることも可能でございますし、いろいろな審理方式を多種多様な類型の事件に、その事件に合ったように適用していただきまして、審理が迅速にかつ柔軟に行われ、事案の適正迅速な解決に役に立つのではないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/139
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140・橋本敦
○橋本敦君 前回に続きまして、労働仮処分を中心に質問をしたいと思っております。
前回までの質問、答弁で明白になってきた具体的な到達点の一つとしては、この法案によって保全命令は決定で出されるけれども、その審理手続は任意的口頭弁論、審尋、書面審理も含めてそういった多様なメニューの選択、これを裁判官の関係当事者の意見を聞いて行う訴訟指揮権の裁量にゆだねて合理的に進めていく、こういう方向だということが答弁でも言われてまいりました。そういう方向として、これまで運用されてきた実態を根本的にこの法案によって変えるものではないということも民事局長の答弁でも出ておりますけれども、そういうことの一つとして審尋というこれまで労働仮処分で大阪方式その他で裁判所がいろいろと積み重ねてこられた慣行、これも守っていくということもこの法案が実施をされた後でも可能だ、こういったことが明らかにされてまいりました。大体以上の議論がなされた点については、民事局長、間違いございませんね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/140
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141・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) そのとおりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/141
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142・橋本敦
○橋本敦君 だから、したがってこの法律が通りましても、申し立て段階におきまして、つまり発令段階におきまして審尋という手続がとられた場合、その場合に当事者あるいは「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」という九条が言っている釈明処分の特例に関するそういった人たちも含めて、第三者と言われる利害関係人を相当かつ合理的な範囲で裁判所がお調べになることも、これも可能であるということも明らかになっているはずであります。間違いありませんね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/142
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143・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 委員のおっしゃる大阪地裁の審理方式でそのようなやり方がとられておると伺っておりまして、それは当事者双方の了解のもとに双方が立ち会った上で第三者の尋問を行って、しかしそれについて調書をつくることはしないで、その供述内容を録音して反訳して陳述録取書というものをつくる、これは書証として裁判所に出されてくる、こういう手続であるというふうに承知をしているわけでございまして、これは当事者双方が書証としてこういうものを提出する、そういう一連の行為である。それは当事者が了解の上でなされておる審理方式でありまして、それはそれで一つの慣行としてあり得るものであると申し上げておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/143
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144・橋本敦
○橋本敦君 したがって、形式的には審尋によって関係者を公開の法廷で尋問をした結果を書面につくって、疎明方法としては書面を出すわけですが、実態的には口頭弁論に近い慎重な手続として審尋の証拠調べ的性格を活用していくという方法であることは間違いない。
そのことで私は確認をしておきたいのは、先ほど北村委員の質問に対して民事局長は、この保全法案の申し立て段階の手続では第三者に対する審尋はできないんだということをあなたははっきりおっしゃったように私は記憶するんですが、そこまではっきり言ってしまうということは、きのうまで議論をしてきたこと、今も私の質問に対して答弁されたことと実質的に矛盾する答弁をなさっているのか、そうではないのか、そこのところをはっきりしていただきたいということであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/144
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145・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 審尋という審理の方式は、当事者が合意しなければやれないものではないわけでありまして、裁判所が審尋方式をとることが相当であると認めたときにとり得る法定の審理方式でございまして、その審尋の結果につきましては原則として調書をつくる。これはしたがって書証ではございませんで供述証拠である。審尋が簡易な証拠調べ手続という位置づけがされるといたしますと、まさに供述として証拠になるもの
であるというふうに考えるわけでございます。
でありますから、大阪地裁で行われておりますいわゆる審尋という方式でやられておりますものは、実質は確かにそうであるかもしれませんけれども、裁判所に出てくる形式は書証という形で出てくるわけでございますので、そういう意味合いからしますと、ぴったりこれは審尋であるというのとはちょっとニュアンスが異なるものではなかろうか。したがいまして、今私が申し上げておりますのは、法律で定めております審尋というのは民事訴訟法の百二十五条にあるわけでございまして、それとはややニュアンスを異にした実務慣行として当事者の合意のもとにそういう手続が形成されているものであるというふうに理解をしているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/145
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146・橋本敦
○橋本敦君 しかし民訴で定めている審尋というのも、これは法で方式が特定されているものではありませんよね。あなたがおっしゃった大阪方式も、なるほど疎明方法としては書面で出しますが、実際は関係者を当事者の代理人を中心にして尋問をするということでの事実上の取り調べで裁判所が心証をおとりになるということに役立っている面もありますね。首を振っていらっしゃいますが間違いないでしょう。
だから、そういう意味ではこれは証拠調べ的性格を持つ実質的な審尋ということにも一つは当たっているわけです。そういうことがこの保全法ができた後でも許されるということを答弁なさっておるということは、それはもうそれとしてはっきりしているんですけれども、先ほど北村委員におっしゃった発令段階で第三者審尋がこれは規定上はできないという趣旨は、そういう大阪方式は許さないという意味じゃなくて、裁判所の審尋方式として供述調書もつくるというような形のものはこれはできないという、こういう関係であるというように理解してよろしいわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/146
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147・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) そのとおりでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/147
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148・橋本敦
○橋本敦君 しかしながら、そういう今あなたがおっしゃった狭い厳格な意味での第三者審尋でなくても、実質的な第三者審尋ということが工夫によって行われるということが一つは重大な問題として私は重ねて確認をしておくわけですが、そういたしますと法三十条との関係で、法三十条がなぜこの段階で第三者の参考人ということをここに規定したのかといえば、その趣旨は、これはまさにその三十条で行われる保全異議の審理を手続的にも内容的にも慎重にかつ十分、迅速性だけではなくて慎重に行って正しい判断をしようという趣旨からこれは必要だということで設けられた規定だと解してよろしいわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/148
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149・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) そう理解していただいて結構でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/149
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150・橋本敦
○橋本敦君 だから、したがってその趣旨は、保全命令手続において要するに慎重な判断を、当事者の権利を不当に損なわないようにしようという趣旨から設けられた規定ですから、そういう趣旨からいえば、本来はこの三十条は単に保全異議の審理だけではなくて保全命令の審理の総則的な部分として位置づけて、全体に通ずるものとしてそういうように解釈をしていくのが一つは慎重な裁判ということでの解釈の仕方として私はあり得ると思うのですが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/150
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151・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 仮差押え、仮処分にはいろいろな態様なものがございまして、その多くは相手方に知られることなく財産の保全をする必要があるときに用いられる、つまり性質上密行性があるものが多いわけでございまして、ということは債務者に知らせないで仮処分の裁判をするということでございますので、その知らせない手続において第三者を呼んで審尋をするというのは必ずしも適当でないという考え方の方が有力であったわけでございます。
そこで、発令段階におきましては正面からこれを認めることまではしない。しかし保全異議の段階になりますとこれはもう完全に密行性が外れて、当事者双方に知られた、当事者双方が手続関与できる状態でもって審理がなされる必要がありますので、そういう手続においては第三者審尋をすることを正面から認めてもよろしいであろう。そうでない発令段階においては、そこまでは正面からは認められないけれども、しかし可能な範囲として第九条のような規定を設けまして、これで多くの部分は賄えるのではなかろうかと。さらに、任意的口頭弁論でございますから、任意的口頭弁論を開けば証人尋問という形で第三者を調べることも可能でございます。
いずれの方法をとってもよろしいし、しかしまた、その両者のはざまにある部分につきましてこれまで慣行的にでき上がってきたやり方というものを何もあえて否定するまでの必要はないのではなかろうかと思う次第です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/151
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152・橋本敦
○橋本敦君 私があなたに言ってほしかったのは、そのはざまの部分であります。まさにおっしゃるとおりだと私は思うんですね。だから、そもそも二十三条で行われる地位保全の仮処分命令などというのは局長がおっしゃった密行性というのは頭からないという建前で審理が行われていくわけですから、そういう意味で一般的な密行性をベースとして考えてこられて、その結果としての異議段階での三十条というのはそれは一般論としてわかりましたが、もとへ戻せば、密行性のない事件については三十条の反対解釈を厳格にやる必要はなくて、むしろおっしゃった九条の問題がありあるいははざまの問題があり、合理的に慎重な審理として運用していく、そのことが法の合理的な運用だと私は思うわけですね。そういう観点で今質問をしたわけです。
そうはいっても、やはりこの三十条の関係、それから第三条で決定手続を主眼とするという関係で今おっしゃったはざまの問題、慣行の問題がどれだけ生かされるかということは今後の運用にとって私どもは重大な危惧と関心を持たざるを得ない点であります。
そういう点からいえば、きょう午前の松井参考人も申しましたけれども、この三条で重要な事件については口頭弁論をやっぱり経なければならないということを原則にした規定を設けておくことも運用上の歯どめとして重要な課題だということを依然として思うわけであります。
時間がありませんので次の問題に質問を移していきますが、二十七条の執行停止の関係であります。
労働者が不当に解雇されたことが認められて賃金仮払いを含む仮処分命令を得た、こういう事件で、その後異議が出て、その異議の申し立てがあった場合に保全執行の停止ということで賃金の仮払いは停止をするということが出される可能性がこの二十七条であるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/152
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153・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 保全命令に対して異議の申し立てがあったときに暫定的措置として執行停止の裁判ができるかということは、御承知のように最高裁判所の判例によって一定の要件のもとにこれができるという解釈を打ち出されて、それが現在通用しているわけでありますけれども、そこで提示されました要件というのは、保全命令の内容が債権者に終局的満足を得せしめる、またはその執行により債務者に回復することができない損害を生じさせるおそれがあるときである、こういうことになっております。
これは、このまま文字どおり見ますと満足的仮処分である。例えば賃金仮払いの仮処分はまさに満足的仮処分でありますが、満足的仮処分であれば執行停止がすぐできるというふうに解釈され得るわけでございまして、回復することができない損害を生じさせるおそれがあるときというときもまさに裸でそういう要件があるだけでございます。これでは仮処分そのものが一つの暫定的、仮定的な処分であるということからいたしますと、それをさらにもう一つ暫定的に停止をすることが容易であるというのは、これはおかしいのではないか。
そこで、この停止ができる要件をもっと厳格に絞る必要があるという、そういう問題意識からこの規定が生まれたわけでございまして、現在の民事訴訟法あるいは民事執行法を通じて見ました場
合に、民事訴訟法の五百条とか五百十二条の二とか民事執行法の三十六条などにおきましては、不服の理由として主張したことが理由がありそうだということを執行停止の要件にいたしております。それから五百十一条は償うことのできない損害が生ずるおそれがあるということを要件にいたしております。この二十七条におきましてはその両方の要件を重ねまして、両方ともないと保全執行の裁判は停止することができないということを規定したものでございます。したがって、現行法上存在する執行停止の裁判の中では最も要件の厳しいものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/153
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154・橋本敦
○橋本敦君 局長がおっしゃった最高裁判例は私もよく知っておりますが、これは基本的には執行停止というものを最高裁は認めないという立場の判例のはずですよね。だから、この要件があれば裸でできるんだというように解釈することは私は判例の解釈として即時正しいというようには思いません。
もしも二十七条がこの最高裁判例の要件をさらに厳しいものにしてここで書いたんだとすると、例えば賃金仮払い命令が執行停止される場合というのは、ほとんど確定的に被保全権利あるいは権利関係がない、まさに保全命令の取り消しの原因となる状況が極めて明白だと、こういう場合だというように解釈するならば、それはまさにその異議の申し立てがあった裁判の終局的判断に近いわけですよ。だから、そういう意味では仮処分命令のそれを執行停止という形で取り消すんじゃなくて、終局的な異議の裁判の結果としての問題ということにすればよいわけであるという一つの問題がある。
それからもう一つは、この二十七条でおっしゃるけれども、この停止自体はどういう審理手続でなされるかと言えば、これは停止自体は異議の申し立ての中で書面審理あるいは簡単な審尋でなされる可能性もある。つまり慎重な審理ということはあり得ない。そしてまた、二十九条でいうまさに口頭弁論または審尋の期日を経なければできないというこの規定の直接の縁由もないから、今局長が慎重な要件とおっしゃっても裁判官の判断として一体どれだけそれが担保されるか疑問がある。しかも労働者にとっては、賃金支払いの仮処分が停止されれば裁判を続行していくどころか生活の基盤それ自体が失われるという重大な事態になるわけですから、これが二十七条で軽々になされるなんということはこれは重大な問題になりかねない。
しかも、ここで「担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として」とこう言うけれども、労働者の賃金の仮払いをとめるのに担保を立てて一体どういう意味があるのか。後で請求してもしもその停止がだめだったら取れるようにと言うけれども、使用者側はそんな担保を立てなくたって財産も資産もありますよ。むしろ逆に、まさに労働者が生活の糧として裁判所の命令でもらい得るその生活の糧を目の前に積んでやらせないという残酷な仕打ちにもなりかねないということも起こり得る。
だから、したがってこの二十七条は、こういった執行停止は労働仮処分における従業員の地位保全あるいは賃金仮払いのそういったケースには基本的にはなじまない、あるいは適用除外にすべきだ。それぐらい厳しく私はこの問題は指摘する必要がある。こう考えておるのですが、局長いかがですか。簡単で結構です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/154
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155・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 仮差押え、仮処分の裁判に簡単に執行停止がなされていいとは毛頭思っていないわけでございまして、あくまでもここに書いてございますような厳格な要件が疎明された場合にそのような執行停止がなされることがあり得るということを決めたものでございます。それは数多くある仮差押え、仮処分につきましてはどのような極めて明白な誤りがなされているかもわかりませんので、そのような場合の救済措置というものは一応の歯どめとしてやはり必要であろう。しかし運用は厳格になされるべきであると思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/155
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156・橋本敦
○橋本敦君 もう時間がありませんから最後にお聞きをしますが、基本的にはまだまだ聞きたいことがいっぱいあるんですが私の質問時間が前回、今回と極めて少ないのでまことに残念であります。
一つは証人に対する尋問順序の変更、この問題が十一条にあります。そしてこの十一条も含め、それから決定について理由は詳しく書かなくてもよいという、この問題も議論をされました。それからさらに二十九条で裁判所は口頭弁論または審尋の期日を経なければ異議の申し立てについての決定をすることができないとこうあるけれども、実際これは最後に審尋の期日を一回やればできるというような、そういった形式的運用に堕してはならない。いずれにしても裁判所の職権主義的傾向が強くなるのではないか、そのことによって国民の権利が侵害されるのではないかという心配があるわけですが、そういったことについて局長の見解をお伺いして質問を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/156
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157・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 十一条の尋問順序の変更というのは、この種事件の審理におきましては陳述書が出されているということが多い、そういう実態を踏まえまして、それならば重ねて主尋問をなぞってやるということをしなくても、反対尋問から入ることによって審理を簡素化することができるのではないか、そういう考え方で設けられたものでございまして、決して職権主義的な発想ではございません。
二十九条につきましても、これは保全異議の手続に入りましたからにはもはや密行性はなくなっている、したがって当事者双方に対等の地位を保障する必要があるからこういう審理をしなければならないんだということを規定しているものでございまして、この法案全体を通じまして裁判所の職権主義的な傾向を強化するようなそういう色彩があるものとは、私は全く考えていないところでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/157
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158・山田耕三郎
○山田耕三郎君 私は、一昨日の質問におきまして、本法案は特に仮処分の迅速化の名のもとに労働者などの社会的弱者が救済を求める声が届かなくなってしまうという、問題のある法案であると述べてきました。そのような心配が起こりますのは、次のような事情にもよるように思われます。
さきに昭和五十四年、民事訴訟法から民事執行法が分離をし、今また民事保全法の独立が提案をされております。この法律が成立をいたしますと民事に関する紛争を解決するための手続法として民事訴訟法、民事執行法、それに今回の民事保全法という三基本法が並立することになります。この民事保全法は一般民事事件つまり市民法の原理が妥当とする領域の事件への適用を念頭に置かれて立案されているとも聞いております。そうだといたしますと、これを社会的原理が妥当とする領域の事件、例えば労働関係事件に対して適用をした場合には不合理な結果を招くおそれがないのだろうかと素人の私にも直観的に疑問が生じますが、このことが原因で審議中の民事保全法に対する労働者側の不安が大きいのだと思います。労働関係事件に伴う仮処分命令等については別に定める方がよいのではないかと思います。さきにも委員の質問に答えておられるように記憶をいたしますのですが、重ねて法務省の見解をお伺いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/158
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159・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) この法案では、第一条の「趣旨」というところで法案が対象としている仮差押え、仮処分の範囲を明確にしているつもりでございます。
それで、この範囲といいますのは民事訴訟法の規定によって本案訴訟の裁判が行われるもの、その範囲、つまり通常民事訴訟事件についての仮差押え、仮処分を対象とするものでございます。ここで通常民事事件と申しますのは、いわゆる一般の民事事件のほかに労働事件であるとか商事事件であるとか特許事件であるとか、そういったような特殊な実体法を実現する分野のものも含んでおるわけでありまして、これらすべてに共通する基本手続としてこの民事保全法を定めているものでございます。それで、破産とか会社更生とか家事
審判とかというような通常の民事訴訟手続に乗らない手続に関する保全処分はこの対象から除かれている。
労働事件にしろ特許事件にしろ、これは通常の民事訴訟法に基づいて民事訴訟事件として処理されるものですから、やはり民事保全事件もこの民事保全法によって処理をするということになるわけでありまして、これはそれぞれの実体法規は、例えば労働法でございますとかそういうふうな実体法規につきましては一般市民法とは異なった指導原理に基づく法体系が成立しているわけでありますけれども、これを実現する審理の手続につきましてはこれはすべてに共通をする一般法としてこの民事保全法を制定いたしまして、この中に非常に幅広い多種多様の審理方式を用意することによりましてどのような特殊な事件についても対応できるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/159
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160・山田耕三郎
○山田耕三郎君 以上、一連の質問を申し上げ、答弁もいただいてまいりましたが、得心のいかないものの中から時間の関係で次の二点だけ再度お尋ねを申し上げます。
まず第一点は、第三条であります。
これももうたびたびお尋ねをされております「民事保全の手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないでする」ことについてであります。一般的に複雑な内容を持つ労働問題等においては、知識や経験において格段の差のある労働者と使用者とを対象に、単に審尋だけでは審理の公正を期することができないことは明らかであります。財産等の場合と異なり、特段密行性のものではないので、社会的弱者の声を切り捨てられるようなことのないよう、急迫の事情のない限りは口頭弁論を経ることを原則として柔軟な審理方法を期すべきであると思います。
けさからの参考人四名のうち三名の方が労働紛争に関する見解を述べられました。まず、学者であります竹下教授と弁護士でおいでになります東澤、松井両弁護士の意見が真っ向から対立をしており、私は次のようなことについてお尋ねをいたしました。同じ法律がこれだけ反対から意見が出ておりますということについて、私はもう率直に言って裁判を受けるのは大変恐ろしいことだ、本来法律とはそのようなものなのか、あるいはその法律案が特に危険を含んでいるからこのような相反する意見となっておりますのか。竹下先生は現行法では裁判の硬直化を招くと発言をされておいでになり、松井弁護士は衆議院審議の結果を例に、第三十条の反対解釈で参考人審尋はできず本八審尋だけしか認められない、これこそ硬直化した審理ではないか、審尋方法は裁判所の裁量に任すべきだと申されましたが、同じ法律に対する見解がこれだけ分かれるのは何に原因がありますのかをお尋ねをいたしました。
東澤弁護士は、法律自体の問題点に対する心配よりも実務の点での心配が大きい、実務上任意的口頭弁論では運用の心配が出てくるとの意見でありました。松井弁護士は、要約すれば労働事件は一般的に複雑で口頭弁論を経ないとその労働者を守ることができないとの意見でありました。裁判の実務段階での心配が大きいようであります。このようなこともあわせ、強者の論理が通りやすい今日の世相の中では、むしろ法律は弱者保護の立場にあってこそ社会の円満な発展が期されると思う立場から、私はこの第三条「民事保全の手続に関する裁判は」口頭弁論を経ることを原則とするよう修正すべきだと考えますが、所見を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/160
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161・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 現行法のもとでは仮処分は判決手続でもよろしいし、また決定手続でもよろしいわけですが、非常に大事な点は、決定手続で審理を始めましても一度口頭弁論を開きますとそれから後は再び決定手続に戻ることができない、そういう意味では必要的口頭弁論になるわけであります。しかしここで言う必要的口頭弁論は必ず仮処分では口頭弁論を開けという意味ではないわけでございまして、決定手続でやるか口頭弁論を開いて判決手続でやるかは裁判所の訴訟指揮に任されていることであります。現実の裁判における運用を見てみますと、この合本資料の一番終わりにあります司法統計につきまして先般お話し申し上げたことがございますが、これからもわかりますようにもう現実には口頭弁論を開いて審理がされる例は微々たるものになっております。これは、そうすることによってどうしても審理が遅延するという弊害があるから、実務上の知恵としてそういう運用になってきたものと思われます。
今度の改正法におきましては、第三条の規定を置きまして「口頭弁論を経ないですることができる。」、これは口頭弁論を開いて証人尋問をやることもできるわけでございまして、これは任意的口頭弁論と呼んでおります。口頭弁論を開きましても、必要な手続が終わりましたならば再び決定手続に戻すことができるという点に根本的な違いがあるわけでございます。ですから、今後の裁判手続の運用の問題といたしまして口頭弁論を開くか開かないか、これはやはり裁判所の訴訟指揮にゆだねられていることでありますけれども、現行法に比べますとはるかに口頭弁論を開きやすくなったということは言えると思います。そういう手続を駆使することによりまして社会的弱者の保護を要する手続の公正な運営というものも可能になってくるのではなかろうかと思います。
いろいろな事件ですべて当事者の利害は対立するわけでありますけれども、最も労働事件においては利害の対立が先鋭なところでございまして、この裁判の運営あるいは法律制度につきまして評価はさまざまに分かれるとは思いますが、そのようないろんな御批判にたえ得る新しい民事保全手続となり得るのではないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/161
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162・山田耕三郎
○山田耕三郎君 御答弁ではありますけれども、実務経験者の皆さんがあれだけ懸念を表明しておいでになります。私の仲間たちは、小さな世帯ですけれども三分の一が弁護士です。けさからもこの法案にどう対応するかということを相談いたしました。そのうちの一人として積極的賛成者はありませんでした。実務を体験しておられます方々はいろいろの場面に遭遇をしておいでになりますから、大変敏感に危険を悟り取っているのだと思います。そのことをえぐり出すことができない私自身の能力に対してもどかしさを感じながらこんな質問をいたしておりますけれども、まずその点について私はそう考えております。しかしこれ以上はお尋ねはいたしません。
第二点は、法第九条釈明処分の特例についてお尋ねをいたします。
本文中に「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」、その他事案の解明のために必要な関係者で「裁判所が相当と認めるものに陳述をさせることができる。」とありますが、この「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」という表現はどの範囲をお指しになっておいでになるのか。さらに、例えば建築紛争で住民側を援助しておる建築の専門家でありますとか、労働事件で解雇されました労働者を支援している労働組合の役員や協力者はその範疇に入りますのかどうか。
なお、これの選定によっては、企業側と被害を受ける住民や解雇された労働者など社会的弱者との間に極めて不公正を生ずる手続となります。すなわち弱者の方については経験も乏しいと思います。対応していくための知識も少ないと思います。それは既に初めから余儀なくされたハンディであります。それが不平正を生んでいきかねません。不公正な結果を生じないよう法文上も明らかにすべきだと思いますけれども、この辺はいかがでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/162
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163・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 民事保全事件の当事者というのはさまざまでございまして、その人自身にいろいろ尋ねて事実関係を明らかにすることができる場合もありますけれども、むしろその人と密接に関係をしている準当事者とでも呼ぶべきような人に事実関係についてお尋ねをする方がむしろ明瞭にすることができるという場合もあると考えられます。
そこで、この第九条におきまして、単に狭く当事者というのではなくて、もう少し幅広く認めていいのではないかということから、この「事務を
処理し、又は補助する者」に「陳述をさせることができる。」、こういう規定を置いたわけでございまして、この中にどのような人が当たるかということはその個々の具体的な事案事案に応じまして違いが出てこようと思います。要は裁判所がこれに当たる人として陳述を求めるかどうかという裁判所の判断になってこようかと思います。ただいまお話のございました労働紛争をめぐりまして労働者の地位が問題になっているときに、その交渉にかかわりを持った労働組合の役員ということになりますと、おおむねこの範疇に属することになるのではなかろうかと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/163
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164・紀平悌子
○紀平悌子君 まず、法務省にお伺いをしたいと思います。
率直に申し上げまして、この民事保全法は、多くの資料をいただき、また御説明も伺いましたけれども、非常に私にとって難しいというのが一言でございます。また、御専門の方々にとりましても、全ての法律家がこの問題によく通じておられるということでもないように承ります。
〔委員長退席、理事矢原秀男君着席〕
ましてや、この法案成立によって影響を受ける、またこれから受けるであろう主体である国民、労働者は、今ここで審議されているということすらも知らない人が多いのではないかというふうに感じているわけであります。
そこで、一昨日の審議にも私の一身上の都合で参加できずまことに申しわけないと思いますが、不勉強でございますので、基本的な点で恐縮ですが、いま一度この法案におきまして使われております用語の意味をできるだけわかりやすく簡単にお答えをいただきたく存じます。
初めに、判決と決定ということの違いです。二番目は口頭弁論と審尋という言葉の差異でございます。それぞれどういう性格のもので、どういう点について共通であり、どういう点において異なっているのかお答えいただき、教えていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/164
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165・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 初めに判決と決定でございますが、これは裁判所の判断の表現形式上の分類でございまして、広い意味では裁判という中に属するものでございますが、「判決」は必ず口頭弁論を開いて裁判をすべきものということになっております。これに対しまして「決定」は口頭弁論を必ずしも開く必要がないものというものであります。「判決」は国民の権利関係を最終的に確定をする訴訟に用いられる裁判でありますが、他方、「決定」は緊急な事件とかあるいは付随的な事件について用いられる裁判の形式でございます。
それから、口頭弁論と審尋でございますけれども、これは裁判の審理のやり方でございまして、「口頭弁論」は当事者双方が立ち会うことができるよう、その機会を保障した上で公開の法廷でされる審理でございます。これに対しまして「審尋」はいわば無方式の審理のやり方でありまして、裁判所の裁量によりまして方式を定めることができるというものであります。したがいまして、国民の権利関係を最終的に確定すべき訴訟におきましては、必ず口頭弁論を経なければならない、そうでないものにつきましては必ずしも口頭弁論を経なくてよろしい、審尋という無方式の調べ方をしてよろしいということてあります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/165
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166・紀平悌子
○紀平悌子君 現在、司法統計上、保全事件の実態についてお聞きしたいと思います。これは最高裁にお伺いいたします。
第一に、地裁で口頭弁論を開いた場合の件数、第二は、昭和六十一年、六十二年、六十三年度のこの三年間につきお答えをいただきたいと思います。それらの件について、特に他の事案と比較して処理が著しく長期化しているという具体的なデータ、できたら事件の性質の内訳をお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/166
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167・泉徳治
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 地方裁判所に係っております仮処分事件につきましてお尋ねの状況を御説明したいと思います。
昭和六十一年度に全国の地方裁判所で処理しました仮処分事件は一万五千五百四十三件でございますが、そのうち口頭弁論を開きましたものが百八十二件でございます。それから、六十二年度は一万五千九百四十三件でございますが、このうち口頭弁論を開きましたものが百二十八件でございます。それから、昭和六十三年度におきまして一万五千八十二件が処理されましたが、そのうち口頭弁論が開かれましたものが九十件でございます。
そこで、これらの事件がどの程度の期間で処理されているかということでございますけれども、適宜六十三年度だけ申し上げますと、六十三年度におきまして仮処分事件全体で申しますと、六カ月以内に九四・三%の事件が処理されております。一年以内でございますと九七・四%が処理されております。ところが、口頭弁論を開かれますと六カ月以内に処理されましたものが三〇%でございまして、一年以内に処理されたものが五五・六%ということになっておりまして、二年を経過するものが三〇%もある、こういうことでございますので、口頭弁論を開きました途端に審理期間が長くなる、こういう状況でございます。
それから、どういう事件が長くなっているのかということでございますが、これはやはり不作為を求める仮処分と申しますか、例えば建築禁止を求めますとか妨害排除でありますとか、そういった事件が一つの類型でございまして、あとの一つは賃金の仮払いでありますとか地位保全の仮処分といいますか、仮処分といえども相手方に満足的な効果をもたらすといった類型の事件がどうしても長くなっているという、こういう状況でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/167
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168・紀平悌子
○紀平悌子君 今回の法制定で決定手続による審理が民事保全手続の原則となるわけです。これによって審理が迅速化するというお話でございますけれども、審理の迅速化と引きかえに裁判所において公正あるいは慎重な審理、判断が犠牲にされるのではないかという危惧が、国民の権利擁護という立場からこれまでの参考人の御意見等でもたくさん述べられてまいりました。この点につきまして、特に異議、取り消しの申し立てについて当事者の権利を守るためどのような配慮が払われていらっしゃるか、繰り返しお伺いしたいと思います。法務省にお伺いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/168
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169・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 一たん仮差押え、仮処分の命令が出ました後の異議、取り消しなどの不服申し立て手続におきましては、もう仮処分の執行がなされておりますからいわゆる密行性の要請というものがなくなっておりまして、この段階では相手方の主張も踏まえて不服の審理をすべきことになります。したがって当事者双方に対等に主張、立証の機会を与える必要がある。口頭弁論でやるのに近いようなそういう手続を導入すべきであります。ただ、必ず口頭弁論をやれという今の法律のような制度をとりますと、これは裁判所の都合、法廷の空きぐあいの都合それから申立人と相手方のそれぞれ弁護士さんの期日の都合等が合わなくてどうしても延び延びになるというような傾向があるわけであります。そこら辺が大変難しいところでありますが、いろいろそういう兼ね合いがございますけれども、少なくとも口頭弁論かまたは双方が立ち会うことのできる審尋期日を経ることが必要である。
二十九条にその趣旨の規定を置きまして、審理の基本はやはり当事者双方が対等な立場に立った手続の運営であるということであります。また、三十条で参考人審尋の規定を置き、三十一条で審理を終えるに当たっては必ずその審理を終結する日を予告いたしまして不意打ちにならないように配慮するといったようなことでもって審理の充実を図って、当事者の手続上の地位を保障するという配慮をしているわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/169
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170・紀平悌子
○紀平悌子君 最高裁にお伺いしたいと思います。
裁判所のお立場として、この運用の指針と申しますか、いかにこの法律のもとで当事者の公平と権利保護を図っていかれますでしょうか。指針を具体的にお聞かせいただきたいと思います。
訴訟指揮上の指針ということは非常に大事であろうかと思います。先ほど橋本委員の御意見、御質問の中にも既にございましたけれども、大阪地
裁の民事部の仮処分においても口頭弁論的な双方審尋という方法でおやりになって、実質的には当事者の意見をよく聞くというふうにおやりになっていらっしゃる。そういうような裁判実務というものを縮小したりする方向はぜひお避けいただきたいと思いますので、大変くどくなりますけれども、この点もあわせお答えいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/170
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171・泉徳治
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 今度の民事保全法案のもとにおきましては、書面審理、審尋手続、それから任意的口頭弁論手続、この三つの手段が設けられまして、これを随時組み合わせまた選択することによって機動的な処理をしなければならないということになったわけでございます。したがいまして裁判所の運用というものがかなり重要なことになっていくことと思います。
私どもはこの運用に遺憾なきを期さなければならないと思います。午前中の参考人の御意見の中にも運用が大事だという御指摘もございました。
〔理事矢原秀男君退席、委員長着席〕
私どもは、この指針と申しますか、訴訟指揮の問題でございますので統一的なものを出すというわけにはまいりませんけれども、この法案が通りましたら、来年、全国の高等裁判所所在地に各地の裁判官に集まってもらいまして、国会での審議状況を踏まえてこの法案の勉強会を開きまして運営に遺憾のないようにしていきたいと思います。
それから、第三者審尋をぜひ保持していくようにという御指摘もございましたが、これは一昨日もお答えいたしましたように、中心になっております大阪地方裁判所保全部におきましては今後ともこれを続けていきたいという意向を持っているわけでございますので、これまで長年の間実務の慣行で培われてきました運用というものは今後とも続けられていくものと、このように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/171
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172・紀平悌子
○紀平悌子君 法務省からも一言お願いいたします、今の点につきまして。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/172
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173・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) この法案が成立いたしました際には、私どもの所管の法務局に関する重要な事務も盛り込まれておりますので、この法律案に関する解説とかあるいは国会の審議の審議録、さらにこれから制定されるでありましょう最高裁判所規則など、そういった関係資料を全部一本に取りまとめまして配付することによりましてこの内容の周知を図ってまいりたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/173
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174・紀平悌子
○紀平悌子君 恐れ入ります、申し上げ損ないましたけれども国民に対してはどのようにサービスをなさいますでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/174
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175・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 私どもの所管する行政に関しましては、この中に例えば処分禁止の登記及び保全仮登記という方法による仮処分の登記という重要な制度が盛り込まれておりますし、さらに供託事務にも関係するところもございます。そういったところを国民に対して十分周知を図る必要がございます。これなどはいろいろな広報手段を用いることが考えられるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/175
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176・紀平悌子
○紀平悌子君 初めにお尋ねいたしました審尋でございますけれども、いま一度お聞きいたします。
不服申し立て手続上の審尋は一般の審尋と比べて、迅速な手続とのバランスをとりながら債務者側からの慎重な審理の要請、こういうものに対してどの程度満たし得るものであるかを、重複するかもしれませんが、いま一度お願いいたします。法務省にお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/176
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177・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 一般に審尋と申します審理方式は、民事訴訟法百二十五条第二項に規定されておりまして、これは当事者から主張、言い分を聞く手続きでございますが、この法案で三十条において規定されております審尋はいささか性質を異にいたしまして、いわば簡易な証拠調べの手続といってよろしいかと思います。この方式によりまして迅速性を損なわない形でもって証拠調べ、証拠資料の収集を機動的に行い得る、それが保全事件の審理の促進にも役立ち得るものであると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/177
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178・紀平悌子
○紀平悌子君 最高裁にお伺いいたしますけれども、労働争議事件など一定の審理公開と人証に対する当事者の尋問権を保障すべき場合があり得ると思います。そのような社会的な要請について本法のもと、裁判所はどう対応していくべきか、これも一定の御指針がおありになればお答えいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/178
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179・泉徳治
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) ただいまの問題も、個々の事件に応じまして個々の裁判官が判断すべき事柄でございますので、一般的な抽象的なことはなかなか申し上げにくいわけでございますけれども、今回の法律案のもとにおきましても任意的口頭弁論という制度がございます。口頭弁論になりますと当然公開の法廷で証人尋問等が行われるわけでございます。事案に応じまして、そういったことが必要になるものにつきましては任意的口頭弁論が選択されるわけでございます。
それから、先ほど御指摘になられました大阪の地方裁判所でやっております第三者審尋というものは、これは法廷で開かれまして関係の方々の傍聴も認めているわけでございますが、それも保持されてまいりますので、事案に応じまして当然公開の必要なものあるいは関係者の傍聴の必要なもの、それについて適切に対応していくことになろうか、このように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/179
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180・紀平悌子
○紀平悌子君 本法につきまして、これが成立いたしました場合、国民の裁判を受ける権利が少しでも損なわれることがないようにぜひ運用していただきたいというふうにお願いをしたいと思います。この場合、伺っておりまして、やはり裁判所の責務というか、負うところが非常に大きいというふうに思います。その点につきまして、国民自身が自分の権利が何なのか、どこまでどう権利があるのか、どうしたらいいかということの国民への周知徹底ということを、これは消費税法の周知徹底同様、政府としてしっかりやっていただきたいと思います。
やっぱり裁判所でその主体となる権利者というのは国民、労働者自身だと思いますので、その点もしお差し支えなかったら大臣に一言お言葉をいただきたいと思いますけれども、いかがでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/180
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181・後藤正夫
○国務大臣(後藤正夫君) ただいまの紀平委員の御懸念と申しますか、また徹底を図るべきだということにつきましては、法務省におきましてはもちろんそれについての最善の努力を尽くしたいと思いますし、また実際にこの法律の運用に当たられます裁判所の方につきましては、最高裁の方にも私どもからもよくお伝えをすることにいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/181
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182・櫻井規順
○櫻井規順君 参考人の皆さんから意見を聞いた関連で最初に二、三質問をさせていただきたいと思います。
最初に、私の方から参考人にお聞きしたことで、昭和六十二年五月に日本弁護士連合会が「仮差押及び仮処分制度に関する改正試案に対する意見書」なるものを発表されているわけでございますが、その中で参考人の皆さんにも読んだところで繰り返しになって恐縮ですが、さわりの部分を少々読ましていただきます。まだこの民事保全法案が試案の段階でございますので、こうなっております。
試案の指摘する仮処分の本案化についても、その原因は制度の欠陥によるものではなく、むしろ制度の運用上の問題にあるとして、裁判所の執務体制の強化を中心とした運用面での改善を行うように提言する。試案のように決定主義を採用した場合、当事者権の保障が希薄化し、拙速審理による裁判の質的低下を招くおそれがある。試案ではこの点に対する配慮が欠けており、保全処分の迅速化のために判決手続を排除し、決定手続で一切を統一しようとすることについては無条件には賛成することができない。こういうふうな御指摘があります。
やや日弁連も批判的な立場といいますか、素案に対しては見解の異なる面が指摘をされておるわけでございますが、日弁連からも法制審議会に出ていて、この民事保全法の審議に参加されていて、きょうの参考人のお話でもおおむねこの民事保全
法の法案でよろしいという返事を与えたというふうに感触として承っているわけですが、素案からこの保全法案になるには今御指摘の点がかなり改善されてきているのかどうかということをお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/182
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183・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 日本弁護士連合会からは、試案に対しましてただいま御指摘のありましたような指摘がなされたわけでございます。特に日本弁護士連合会が決定主義をとるについて条件として挙げられたことが三つございます。一つは当事者の手続保障と申しますか、審理の充実化のための方策ということが一つでございます。それからもう一つは決定書における理由の記載のあり方ということでございます。三つ目は権限を有しない判事補が不服手続において裁判ができるのかという問題でございます。
第一番目の問題点につきまして、日弁連のそのような御意向を踏まえまして第九条の釈明処分の特例というようなものを設けまして、発令段階において一定範囲で当事者に準ずる者の陳述を聞くことができるという手当てをいたしたことであります。
二番目の点でございますけれども、これは法案の十六条でございまして、理由を付する、口頭弁論を経ないで決定する場合には理由の要旨を示す、こういう規定を設けました。もともと決定書の記載につきましては、民事訴訟法の規定それ自体が一般的に判決の規定を性質に反しない限り準用するとしているだけでありまして、中身がいささかあいまいでございましたので、必ず理由を付する、少なくとも理由の要旨は示す、こういう形での規定がなされたわけでございます。
三つ目は法案の三十六条でございまして、これまでは異議、取り消しの手続は判決手続でありましたから判事補は裁判ができなかったのに、決定手続になりますと民事訴訟法上はできるということになる、これではいささか問題であるという御指摘がございまして、それは判事補はできない、こういう規定を設けることにいたしました。
以上三点についての手当てがなされまして、これを踏まえまして日弁連は全面的に賛成をなさるということに至ったわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/183
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184・櫻井規順
○櫻井規順君 もう一遍後で触れますが、この民事保全法の提案、これは言うまでもなく仮処分、仮差押えについて決定手続の全面的採用ということになるわけですが、こうした内容の民事保全法を提案する根拠として、いろいろな事案はあると思うんですが労働事件あるいは労働分野の仮処分という問題がかなり大きなウエートを持ってきたのではないかと思うんです。けれども、発意のウエートの問題ですけれども、いかがでしょうか。時間がないので関連してお聞きしますが、お答えは必ずしもそうじゃない、仮処分全体についてというお話になろうかと思いますが、いずれにせよ労働事件のウエートについて、もっと言うと労働事件についてたくさんの仮処分が行われ、わずかな取り消しが行われているわけです。そういう特異な分野の労働事件について法をつくる上においてどんな配慮が特にされたか。特段の配慮がなされるべき性質のものだと思うのですが、その辺のことをお聞かせ願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/184
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185・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 仮処分事件の中でも、労働仮処分とか特許の仮処分とか商事仮処分というのはそれぞれ特殊な分野を形成しております。したがいまして、それらの分野におけるそれぞれの固有な問題というものは十分意識はいたしております。しかしながら、それらを含めまして仮処分全体を通ずる一般的通則を定めるという観点から今回の法案の作成に至ったものでございまして、どれにウエートを置いたということはないわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/185
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186・櫻井規順
○櫻井規順君 ウエートを置いたかどうかというよりも、聞き直しますけれども、労働事件の比重というのは非常に高いわけでして、労働事件についての配慮がこの法作成上なされたかどうかということをお聞きしたいわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/186
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187・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 六十二年の統計資料によりますと、仮処分既済事件一万五千九百件ほどでありますが、そのうち口頭弁論が開かれたのが百二十八件ある。さらにその中で労働仮処分が四十四件でありまして、口頭弁論が開かれた中での割合は三四%である。確かに口頭弁論が開かれたものの中ではこれだけのウエートを持っているということは十分意識をしておりまして、それらを通じて全体として仮処分一般についての検討を行ったわけであります。労働仮処分を非常に強く念頭に置いたというわけではございません。このような審理構造をとることによりまして、この種の複雑困難な仮処分事件にも十分対応できるというふうに考えたわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/187
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188・櫻井規順
○櫻井規順君 法律全体を見まして、充実迅速化というわけですが、充実という面では非常に何といいますか、同意しかねる面が強いわけでございます。むしろ簡素化、迅速化と言った方がよろしいではないかと前回の質問でも触れたところでございます。
ただ、あえてお聞きしたい点として、この充実の中身として答弁の中で感ぜられるのは、審尋といいますか、今度の法律で進めていく場合に、任意的口頭弁論あるいは審尋と。審尋の中での書面審理というものがある。そうしてそれを選択をし、組み合わせてやっていく、こういう御指摘でございます。また審尋の中身を見ましても非常に問題がありまして、口頭弁論に近い双方立ち会いの審尋という御答弁もあるわけでございますが、非常に希薄である。専ら債権者のみの審尋あるいは書面審査という点にウエートがかかっているように思います。
問題は、この任意的口頭弁論あるいは審尋の中も多様なものが選択できるかと思います、書面審理もあるわけですが、こうした選択、組み合わせということがしきりに強調されるわけでございますが、その主な条文を御指摘いただきたいと思うんです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/188
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189・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) これは裁判所がみずからの仮処分事件を処理するに当たりまして最も適当と思われる審理方式を選択する、これこそ裁判所の専権に属することでございまして、このようなケースについてはこういうやり方をしなければならないというような、そういう審理方式の定めをしているわけではございません。ただ衆議院において、二十三条の仮の地位を定める仮処分につきましては口頭弁論または債務者が立ち会うことのできる審尋の期日を経なければ発することができないという修正の手当てがなされました。これは仮の地位を定める仮処分における一つの審理方式についての重要な規定ということになるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/189
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190・櫻井規順
○櫻井規順君 そうしますと、法律がそうなっているわけですが、仮の地位を定める仮処分申請に基づく以外のものはもう文字どおり審尋そして債権者本位の書面審査を含めた審査が進められるというふうに判断せざるを得ないわけですが、問題は余りにも裁判官の主観による選択、組み合わせであってはいけないわけでありまして、全体の審尋を通じまして債務者側あるいは第三者の代理人、弁護人が仮処分決定の段階あるいはその異議申請の過程におきましても、仮の地位を定める仮処分以外の審尋において債務者側なり第三者の入れる余地というものは、弁護士の要請に基づいてそれは可能であるというよりも、それを原則とすることができないかどうか、その点をお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/190
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191・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 仮差押えとか係争物に関する仮処分におきましては、将来の執行を保全するために現在の債務者の財産状態をいわば凍結をしておく手段としてそのような保全措置をとることが認められるわけでございまして、これはその性質上極めて多くの場合は相手方に知られないでまず手を打つということが必要になってくるわけでございます。ですから、現行法のもとにおきましても仮差押えあるいは係争物に関する仮処分におきましては専ら債権者の主張を聞き、そして債権者の提出した証拠に基づきまして保全命令を発するかどうかということを決めている。つまり性質上当然に債権者優位の手続であるということ
になっております。そうであるからこそ、これが異議申し立てによりまして保全異議の段階に入りました後は債務者に対等の地位を与え、誤った保全命令は速やかに取り消せるようにそれだけの法律上の手段を与える必要があるわけでありまして、その点に配慮することがぜひとも必要であると思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/191
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192・櫻井規順
○櫻井規順君 仮処分解放金の関係ですが、衆議院の法務委員会の審議等の答弁を見まして、仮処分解放金の実際の適用の問題ですが、賃金仮払い仮処分決定が出されて本審まで支払えという命令が出た場合、私はその仮処分解放金の金額の方が少ないじゃないかということをしきりに主張しているわけですが、これは賃金支払いの仮処分決定に対しては仮処分解放金の適用はないという理解でよろしいですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/192
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193・藤井正雄
○政府委員(藤井正雄君) 賃金仮払いの仮処分につきましては仮処分解放金はつけられないものと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/193
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194・櫻井規順
○櫻井規順君 最後に、最高裁の判例と今度の民事保全法の関連の問題で最高裁にお伺いしたいと思います。
前回も触れた点なんですが、最高裁から意見をお聞きできなかったものですからお聞きするわけですが、御案内のように仮処分のこの意味について最高裁の判例が幾つかあると存じます。私の手元にあるのも昭和二十三年三月三日、昭和二十五年九月二十五日の判例があるわけでございますが、仮処分決定というのは、これを執行停止するのは極めて例外的な場合に限る、原則として執行停止というものは否定する立場に立つという論旨で展開されているわけでございます。仮処分というものに非常に重きを置いているわけでございます。それに比べますと、きょうの参考人のお話にもありましたように一九八一年、二年という過程で最高裁が、裁判官の会同というんですか、そういう協議の中身の確認やそれからこの民事保全法の中身というものは大分相違点があるわけでございますが、その辺をどういうふうにごらんになっているか。それから最高裁の判例の重みについてちょっと御見解を聞かせていただけたらと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/194
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195・泉徳治
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) ただいま最高裁判所の判例について二つの判例、二十三年、二十五年の判例を御紹介になられました。同じく関連の判例といたしまして昭和四十四年九月二十日の決定があるわけでございますが、これも仮処分決定に対する異議の申し立てまたは仮処分判決に対する上訴に伴う執行停止について触れたものでございますが、この執行停止は「当該仮処分の内容が権利保全の範囲にとどまらず、その終局的満足を得させ、もしくはその執行により仮処分債務者に対し回復することのできない損害を蒙らせる虜れのあるような例外的場合にのみ許される」、こういうふうに言っておりまして、例外的場合ということを特に挿入しております。また実務におきましてもこの執行停止というのはごくごくまれなといいますか、例外的に運用されているわけでございます。それがこの民事保全法案のもとにおきましては、先ほどの御説明にもありましたようにさらに要件が厳しくなっておりますので、軽々に発動されるものではなく、さらに厳格な運用がなされるものと、このように考えている次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/195
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196・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 他に御発言もなければ、質疑は終局したものと認めて御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/196
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197・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 御異議ないと認めます。
それでは、これより討論に入ります。
御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/197
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198・橋本敦
○橋本敦君 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました民事保全法案に対する反対討論を行います。
まず、この法案は、既に衆参の委員会の審議で明らかになっておりますように多くの問題点を含む重要法案でありますので、もっと時間をかけ慎重審議を続ける必要があり、このような短時間に慌ただしく審議を終わることには賛成できないということを申し上げておきます。
現行仮処分制度において、労働者の権利救済のための特別な裁判手続を欠いた現行民事訴訟法の不備を補うため、実務上は幾つかの工夫が積み重ねられ、労働仮処分などにおいては解釈と運用によって裁判所と関係当事者が努力をして慣行をつくり上げ、重要な機能を果たしています。ところが、この民事保全法案はこの労働仮処分事件の運用と労働者の権利に重大な影響を及ぼすものであります。本法案は審理の迅速化を言っておりますが、しかし仮処分の審理に手間取るのは現代の社会生活における権利関係の複雑化、価値観の変化を反映した判断の困難さなどさまざまな要因があります。したがって保全処分の迅速化を図るというなら、負担過重にあえぐ裁判官や裁判所職員を増員するなど、裁判の充実強化の方向で解決を図ることが司法行政としても本来的な重要な課題であります。
また、本法案改正の背景において、最近最高裁判所が労働訴訟の審理についての裁判官協議会などで進めている労働者の権利行使に制限を加えようとするかのような方向と軌を一にするものがあることは重大な問題であります。
次に、反対の理由を具体的に述べます。
第一に、保全処分の適性迅速化を理由に、現行法では口頭弁論を原則とし判決手続で処理されているのをすべて決定手続にゆだねようとしていることであります。不当解雇など労働仮処分事件において、いわゆる大阪方式に見られるように公開の法廷で口頭弁論に近い審尋が開かれ、厳しい双方のやりとりの中で初めて事案の真相が解明されたケースはこれまでも多々あったのでありますが、決定手続でこうした機会が奪われるのではないかというおそれがあるのであります。この点、いわゆる大阪方式や第三者に対する審尋もこの法のもとで裁判官の訴訟指揮により行われ得ることは答弁として明白になりましたが、しかし、この点を客観的に法の仕組みとしてこそその保障があるのでありまして、第三条でこの点の規定がないことは依然として重大な問題であります。
第二に、法案が証人尋問について尋問の順序を変更できることとした点であります。これは手続の職権主義を強め、裁判官主導の審理に道を開くおそれがあります。とりわけ労働事件においては、労働者側がみずからの主張を立証するためにこれまでも証人尋問に全力を注いでおりますが、労働者の立証方針や尋問権を阻害するおそれがなしとは言えないのであります。
第三に、口頭弁論を開かずに決定をする場合には、決定の理由は要旨だけでよいとしたことも問題であります。裁判に理由が必要とされるのは結論の正当性、正確性を担保するためであります。また、債務者から保全異議の申し立てがあった場合に裁判所は保全執行の停止または既にした執行処分の取り消しを決定で命ずることができますが、これに対し不服申し立てができないとしている点も問題であります。これらは権利保全を極めて不安定なものとし、労働者の地位を脅かしかねません。特に、不当解雇事件などで受領した仮払い賃金の返還を求められた場合、労働者は生活を根底から覆されるとともに、解雇撤回裁判闘争それ自体も挫折されかねないのであります。
第四に、占有移転禁止の仮処分の効力を第三者に及ぼすこととした点も労働争議との関係でその影響は深刻であります。職場を占拠して闘う労働者がこの改正により闘争と生活の拠点を失い、労働者とその家族が生存権を脅かされることも出てくる事態が心配されるのであります。労働争議に関してはこの第六十二条の適用は除外を明言すべきであったと思うのであります。
以上、日本共産党の立場からこの法案について以上の理由を申し上げました。衆議院で加えられた若干の修正が一定の改善となっている点はあるとしましても、以上のような反対の基本的見地を変えることはできませんので、反対の討論をした次第であります。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/198
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199・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 他に御意見もなければ、討論は終局したものと認めて御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/199
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200・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 御異議ないと認めます。
それでは、これより採決に入ります。
民事保全法案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/200
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201・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
矢原秀男君から発言を求められておりますので、これを許します。矢原君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/201
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202・矢原秀男
○矢原秀男君 私は、ただいま可決されました民事保全法案に対し、自由民主党、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議、連合参議院、税金党平和の会の各派並びに各派に属しない議買紀平悌子君及び櫻井規順君の共同提案による附帯決議案を提出いたします。
案文を朗読いたします。
民事保全法案に対する附帯決議(案)
一 保全命令に関する審理及び裁判については、事件の種類及び内容に応じた柔軟な対処を図る法の趣旨にかんがみ、画一的処理に偏ることなく適正な運用がされるように配慮されたい。
二 保全命令の申立てについての決定に付する理由の要旨については、事案の性質に応じた適切な運用を期し、当事者の訴訟上の利益を損なうことのないように配慮されたい。
三 原状回復の裁判については、事件の実情に応じて裁量的に行うこととした法の趣旨にかんがみ、その適正な運用を期するように配慮されたい。
四 占有移転禁止の仮処分の執行後に占有を取得した者に対する強制執行については、当事者の利益の適正な調整を図る法の趣旨にかんがみ、その運用に遺憾なきを期し、正当な権原を有する占有取得者の権利を損なうことのないように配慮されたい。
右決議する。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/202
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203・黒柳明
○委員長(黒柳明君) ただいま矢原秀男君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/203
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204・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 全会一致と認めます。よって、矢原秀男君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
ただいまの決議に対し、後藤法務大臣から発言を求められておりますので、この際、これを許します。後藤法務大臣。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/204
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205・後藤正夫
○国務大臣(後藤正夫君) ただいま可決されました附帯決議につきましては、最高裁判所にも十分その趣旨をお伝えいたしまして、運用上遺憾のないように配慮いたしたいと存じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/205
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206・黒柳明
○委員長(黒柳明君) なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/206
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207・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/207
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208・黒柳明
○委員長(黒柳明君) これより請願の審査を行います。
第二〇二二号夫婦同氏・別氏の選択を可能にする民法等の改正に関する請願外四件を議題といたします。
今国会中、本委員会に付託されております請願は、お手元に配付の付託請願一覧表のとおりでございます。
これらの請願につきましては、理事会において協議の結果、いずれも保留とすることに意見が一致いたしました。
以上のとおり決定することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/208
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209・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/209
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210・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 継続調査要求に関する件についてお諮りいたします。
検察及び裁判の運営等に関する調査につきましては、閉会中もなお調査を継続することとし、本件の継続調査要求書を議長に提出いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/210
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211・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
なお、要求書の作成につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/211
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212・黒柳明
○委員長(黒柳明君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午後四時五十一分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/111615206X00519891214/212
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