1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成六年三月四日(金曜日)
午前十時一分開議
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○議事日程 第五号
平成六年三月四日
午前十時開議
第一 常任委員長辞任の件
第二 公職選挙法の一部を改正する法律の一部
を改正する法律案(衆議院提出)
第三 衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一
部を改正する法律案(衆議院提出)
第四 政治資金規正法の一部を改正する法律の
一部を改正する法律案(衆議院提出)
第五 政党助成法の一部を改正する法律案(衆
議院提出)
第六 国務大臣の演説に関する件
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○本日の会議に付した案件
一、議員辞職の件
一、日程第一
一、常任委員長の選挙
以下 議事日程のとおり
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/0
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001・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) これより会議を開きます。
この際、お諮りいたします。
昨三日、石川弘君から議員辞職願が提出されました。
辞表を参事に朗読させます。
〔参事朗読〕
辞職願
この度一身上の都合により議員を辞職いたしたいので御許可下さるようお願い申し上げます
平成六年三月三日
参議院議員 石川 弘
参議院議長 原 文兵衛殿発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/1
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002・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 石川弘君の議員辞職を許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/2
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003・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 御異議ないと認めます。
よって、許可することに決しました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/3
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004・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 日程第一 常任委員長辞任の件
地方行政委員長小川仁一君から委員長を辞任いたしたいとの申し出がございました。
これを許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/4
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005・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 御異議ないと認めます。
よって、許可することに決しました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/5
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006・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) この際、欠員となりました地方行政委員長及び労働委員長の選挙を行います。
つきましては、常任委員長の選挙は、その手続を省略し、いずれも議長において指名することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/6
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007・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 御異議ないと認めます。
よって、議長は、
地方行政委員長に岩本久人君を指名いたします。
〔拍手〕
労働委員長に野村五男君を指名いたします。
〔拍手〕
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/7
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008・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 日程第二 公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案
日程第三 衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律案
日程第四 政治資金規正法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案
日程第五 政党助成法の一部を改正する法律案
(いずれも衆議院提出)
以上四案を一括して議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。政治改革に関する特別委員長上野雄文君。
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〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
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〔上野雄文君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/8
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009・上野雄文
○上野雄文君 ただいま議題となりました四法律案につきまして、政治改革に関する特別委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
政治改革関連法案につきましては、さきの第百二十八回国会において両院協議会成案を得て成立したところでありますが、両院協議会成案が得られるに至った経緯とその趣旨を踏まえて、関係各法律の改正案が提案されたものであります。
まず、公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案の主な内容は、第一に、衆議院議員の選挙制度について、衆議院議員の定数を小選挙区選出議員三百人、比例代表選出議員二百人に改めるとともに、比例代表選出議員の選挙については、全都道府県の区域を十一に分けた各選挙区において行うこととすること。また、候補者届出政党及び衆議院名簿届出政党等の得票率要件を百分の二以上であるものに改めるとともに、衆議院名簿届出政党等については、名簿登載者数が当該選挙区の定数の十分の二以上であるものに改めることとすること。なお、重複立候補は比例代表選出議員の選挙の選挙区の区域内の小選挙区に係る候補者についてできることとするとともに、比例代表選出議員の選挙について、いわゆる阻止条項は設けないこととすること。
第二に、戸別訪問について、何人も選挙に関し戸別訪問をすることができないこととすること。
第三に、あいさつ状の禁止について、公職の候補者等が選挙区内にある者に対して出してはならないあいさつ状は、答礼のための自筆によるものを除き、年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これに類するものとすること等であります。
次に、衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律案は、衆議院議員選挙区画定審議会設置法の施行期日を、公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律の公布の日から施行することとするものであります。
次に、政治資金規正法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案の主な内容は、第一に、政党要件の基準となる参議院議員の通常選挙の範囲を前回または前々回の通常選挙に改めるとともに、得票率要件を百分の二以上であるものに改めることとすること。
第二に、会社、労働組合その他の団体は、資金管理団体に対して年間五十万円を限度に寄附をすることができることとするとともに、施行日から五年を経過した場合にこれを禁止する措置を講ずることとすること等であります。
次に、政党助成法の一部を改正する法律案の主な内容は、第一に、政党交付金の対象となる政党要件の基準となる参議院議員の通常選挙の範囲を前回または前々回の通常選挙に改めるとともに、得票率要件を百分の二以上であるものに改めることとすること。
第二に、政党助成法の運用等について、政党は、政党交付金が国民から徴収された税金その他の貴重な財源で賄われるものであることに特に留意し、その責任を自覚し、その組織及び運営については民主的かつ公正なものとするとともに、国民の信頼にもとることのないよう政党交付金を適切に使用しなければならないものとすること。
第三に、政党の届け出について、政党交付金の交付を受けようとする政党は、当該政党の本部及び各支部の前年における収入の総額を合計した金額から政党交付金、借入金及び本部や各支部において重複計上された額を控除した前年の収入総額を計算書等を添付して自治大臣に届け出なければならないこととすること。
第四に、政党交付金の交付額について、その年分として各政党に交付すべき政党交付金の交付限度額は、その政党の前年の収入総額の三分の二に相当する額とするとともに、各政党に対する政党交付金の交付は毎年七月、十月及び十二月に行うこととすること等であります。
なお、以上の四法案の施行期日については、いずれも交付の日から施行することとしております。
委員会におきましては、四法律案を一括して議題とし、提出者衆議院政治改革に関する調査特別委員長石井一君から趣旨説明を聴取した後、細川総理大臣ほか関係大臣、提出者等に対し質疑を行いました。
質疑の主な内容を申し上げますと、衆議院議員選挙制度の改正に伴う参議院議員の選挙制度のあり方、衆議院議員比例選挙の執行体制、記号式投票制度の問題点、衆議院議員選挙区画定審議会委員の任命時期と人選方針、政党の法人格付与の必要性、政党の今後のあるべき姿、資金管理団体への企業・団体献金の五年後禁止の手法、供託金額の妥当性、政治活動の自由と政党ビラ、ポスターの禁止の妥当性、腐敗防止法制定の必要性、重複立候補制度のあり方、ブロック制導入と民意の反映、身体障害者、海外在住者の政治参加などでありますが、その詳細は会議録に譲ります。
質疑を終局し、討論に入りましたところ、日本共産党を代表して橋本敦委員より反対の意見が述べられました。
次いで四法律案を一括して採決の結果、四法律案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
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010・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) これより四案を一括して採決いたします。
四案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/10
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011・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 過半数と認めます。
よって、四案は可決されました。
これにて午後三時まで休憩いたします。
午前十時十四分休憩
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午後三時一分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/11
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012・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
日程第六 国務大臣の演説に関する件
内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、久保田国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。細川内閣総理大臣。
〔国務大臣細川護煕君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/12
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013・細川護煕
○国務大臣(細川護熙君) 昨年八月の政権発足以来、私は、「責任ある変革」を旗印に、政治改革、行政改革、経済改革の三つの改革の実現に取り組んでまいりました。
一つの時代が終わり、新たな時代の姿が必ずしも明らかになっていない中にあって、将来への展望を明るいものとするためには、みずからの力で新しい道を切り開いていく以外に方法はありません。政治、経済、社会の仕組みを根本的につくりかえるという変革の道を選択し、苦しくてもそれを歩み続けることがこの時代に政権を担当する者の歴史的な使命であります。
政治改革の実現は本政権にとって最優先の課題でありましたが、このたび、政治改革関連法の改正法が成立を見たことは新しい責任ある政治の実現に向けて大きな一歩を踏み出すものであります。まずは法の施行準備に万全を期すこととし、両議院の同意を得て、早期に衆議院議員選挙区画定審議会の委員を任命し、審議会の勧告があり次第、速やかにいわゆる区割り法案を国会に提出いたしたいと存じます。
もとより、政治腐敗を根絶し、政治への信頼を回復するためには、政治家一人一人の倫理観の確立がすべての基本であることは論をまちません。いわゆるゼネコン疑惑に見られるように、依然として政治と金にまつわる構造的な問題が取りざたされていることはまことに残念なことであります。今後ともより実効ある腐敗防止策を初め、制度の改善に向けた努力を怠ってはならないと考えております。
政治改革は、「責任ある変革」を実行するための土台であり、我々はやっと政治が主体的に取り組まなければならない本当の意味での変革の出発点に到達したにすぎません。二十一世紀まで余すところわずかな期間しかないことを考えれば、国際社会から信頼される「質の高い実のある社会」を目指して、着実に歩みを進めていかなければならないと思います。
新たな発展の基礎を築くためには、まずは時代の要請に合わなくなった制度や慣行を打破していくことが必要であります。政治改革が一つの節目を迎えた今、国際社会における責任を果たすためにも、これから経済改革と行政改革に本腰を入れて取り組んでいかなければなりません。
私は、改革政権としての本旨を忘れることたく、新たな変革に挑戦してまいりたいと思います。
何といっても、今、国民の皆様方が切実に願っておられるのは深刻な不況からの脱出であります。一部には明るい兆しが見られるものの、全体として見れば依然として先行きに対する不透明感、閉塞感がぬぐい切れず、我が国経済は予断を許さない状況にあります。特に雇用が厳しい情勢にあることは重く受けとめなければなりません。
こうした状況を克服するためには、時期を失することなく可能な限りの有効な施策を集中的に展開していくことが肝要であります。先般、大型の所得税・住民税減税や、第三次補正予算による追加措置を含む十五兆円を超える史上最大規模の総合経済対策を策定いたしました。これを平成六年度予算につなげることによって切れ目のない財政出動を実現し、できるだけ早い時期に景気を本格的な回復軌道に乗せなければならないと思います。
平成六年度予算では、景気に可能な限り配慮して公共事業関係費や地方単独事業の伸びを確保するとともに、住宅、上下水道、公園、環境関連施設の整備など国民生活の質の向上に資する分野に思い切って重点投資を行うなど、本格的な高齢化社会の到来を見据え、社会資本の整備等を着実に推進することといたしております。また、苦境にある農家や中小企業の皆様方を支援するための対策や雇用の安定を確保するための対策には最大限の配慮を尽くしております。
現下の経済の緊急状態にかんがみ、一日も早い来年度予算の成立を切に要望する次第であります。
今回の不況は、景気循環要因やバブル崩壊の影響に加え、これまで合理性を有してきた経済の仕組みが有効に機能しなくなっているという構造的な要因も大きく作用しているものと考えられます。これを解決し、長期的な発展を確実なものとするためには、日本経済の主役たる民間活力のダイナミックな展開が不可欠であります。私は、民間企業の方々が進んで困難に挑戦し、必ずやこれを克服されんことを確信いたします。こうした努力を勇気づけ後押しするためにも、中長期的な展望を明らかにしつつ、事業の再編や新規産業の創出、発展につながるような経済改革を確実に推し進めていかなければなりません。
中でも規制緩和については、経済的規制は原則自由・例外規制とし、社会的規制についても不断に見直しを行うという姿勢でこれに取り組み、ビジネスチャンスの拡大と消費者選択の多様化、内外価格差の縮小による購買力の向上などを図ってまいります。特に、土地の有効・適正利用や住宅建設の促進につながる分野や、情報通信など新規産業の創出を刺激する分野、流通、エネルギーなど内外価格差の縮小につながる分野、輸入促進関連の分野などに重点を置いて、思い切った措置を講じてまいります。さらに、内外価格差の原因となり、新規産業の創出や対日アクセスを阻害している競争制限的な行為の排除など独占禁止法の厳正な運用に努めてまいります。
我が国の経済社会の構造を新たな時代にふさわしいものに改革していくに当たり、行政改革は避けて通れない緊急の課題であります。戦後から今日に至る発展に我が国の行政組織、制度が有効に機能してきたことは大方の意見が一致するところでありましょうが、経済社会環境の著しい変化によって国民の行政に対するニーズが大きく変化しているにもかかわらず、行政は必ずしもこれに十分に対応できる態勢とはなっておりません。政治や経済が大きく変わる中にあって、ひとり行政だけが旧態依然としていられるはずがありません。
公正で透明な、そして何よりも国民の利益を第一とする行政の確立を目指して、今こそ行政のあり方に思い切ってメスを入れなければならないと思っております。私は、規制緩和といった官民の接点を初めとして、聖域を設けることなく、時代にそぐわなくなった制度や仕組みを洗い直し、幅広く官民の役割分担、中央と地方の関係、縦割り行政の弊害是正などについて改革を進めるとともに、行政情報の公開にも取り組んでまいりたいと思います。
これまで臨調や行革審などの場において膨大な議論が積み上げられてまいりましたが、行政改革の実効が十分に上がっていないとの批判があることも事実であります。今国会に行政改革委員会の設置法案を提出することとしておりますが、この際、いかに行政改革を実効あらしめるかが問われていることを肝に銘じ、目に見えるような形で行政改革を進めていくべく決意を新たにいたしているところでございます。
このたび、過去最大の所得税・住民税減税の実施を決定したことは、現下の経済状況から見て不可欠の、そして適切な措置であったと考えておりますが、平成六年度末の公債残高が二百兆円を超え、地方財政の負債も含め、まことに深刻な状況にある財政事情に無責任でいることは許されません。財政事情のさらなる悪化を放置し、後世代に大きな負担を残してはならないことをぜひとも国民の皆様方にも御理解をいただかなければなりません。
本格的な高齢化社会においても、経済社会の活力を損なうことなく、時代の要請に的確に対応していくためには、財政改革を推進し、引き続き健全な財政運営を確保しなければならず、公債残高が累増しないような財政体質をつくっていくため一層の努力を払っていく必要があります。また、地方財政についても、その円滑な運営を図っていかなければなりません。このため、行政改革とあわせて歳出の徹底した合理化、重点化を進めるこ大臣の演説に関する件とといたしております。
また、税制については、活力ある豊かな福祉社会の実現を目指し、所得・消費・資産等バランスのとれた税体系をつくるため、国民負担と税制のあり方、減税とその財源、税負担の適正公平の確保などといった幅広い諸問題について議論を深め、速やかに合意を得て、年内の国会において関係法律の成立が図られるよう努力を傾けてまいります。
「質の高い実のある社会」を実現するために、私は、第一に創造性にあふれた個性豊かな社会の構築、第二に豊かで質の高い生活基盤の構築、第一に高齢化が活力に結びつく社会の構築の三つの具体的な提案を行いたいと思います。
これからの世の中を展望いたしますと、多様な個性が豊かに伸びていくことにより新しい文化や経済活動が生まれ、新たな活力の源泉になるのだろうと思います。これは同時に、国際社会の責任ある一員として行動し、貢献していく上でも重要な基礎を築くものでもあります。今、私たちは、新たな発展を目指して、科学技術、教育、情報通信といった分野でのさらなる前進が求められております。
科学技術は経済社会の発展の原動力であり、未来の夢を与えるものであります。科学者や技術者が生き生きと創造的な活動ができる環境を整えていくことは将来へのかけがえのない投資であります。よく我が国は基礎的、先端的な研究に立ちおくれていると言われますが、私は、宇宙、生命、環境、エネルギーなど二十一世紀をにらんだ研究分野において、国際的協力も視野に入れつつ我が国として先導的な役割を果たしていくべきであると考えます。このため、研究施設や研究情報基盤の整備に加えて、創造性にあふれた人材の育成や人材・情報交流の円滑化などにも配慮しながら研究開発体制の整備を促進してまいります。
また私は、日本が世界に誇る豊かな個性ある文化を、個人から、地域から、また国レベルで発信し、相互の交流を通じて新たな文化創造を目指す「文化を発信できる社会」をつくり上げたいと思います。若手芸術家の育成や地域の特色ある文化活動の推進など文化、芸術、スポーツの振興に取り組んでまいります。さらに、諸外国との対話を通じて、お互いの多様性を理解し合える環境を築くために、留学生受け入れ十万人計画の推進や語学教育の一層の充実、開発援助に携わる人材の養成などの人づくりと国際的な文化交流を重点的に進めてまいる考えであります。
教育を通じて個性豊かな人間性を育てることは、創造的で文化の薫り高い国をつくっていくための基本であります。教育に関して、画一的であるとか主体性が育たないとかさまざまな意見がありますが、私は、幅広く初等中等教育から大学教育まで、より魅力的な開かれた教育を目指して教育改革を進めてまいりたいと考えております。
次代を切り開く創造性あふれる経済活動が期待されるものとして、情報通信分野があります。技術の急速な進歩によって、事、情報に関しては空間、時間の制約がなくなり、これまでの生活や経済活動を一変させるような社会が二十一世紀初頭にも実現できそうなところまで来ております。しかしながら、残念なことに我が国の情報化は期待どおりには進展していないのが現実であります。私は、目指すべき情報化社会に向けて、長期的な視点に立った新しいビジョンを早急に策定し、公共分野において情報化に積極的に取り組むほか、情報通信ネットワークの整備の促進、通信と放送の融合化、情報教育の推進など総合的な施策を展開してまいる考えであります。
なお、こうした情報通信分野を含めた新規産業の創出を支援するため、中小企業の新分野進出の支援や柔軟な構造を持った労働市場の形成、金融・証券市場の活性化、大胆な構造転換の促進なども着実に推進してまいります。
日本は世界第二位の経済大国にまでなりましたが、生活の真の豊かさを実感できずにいるというのが国民の皆様方の正直な気持ちではないかと思います。地方では、大都市と比べ働き場所が少ないとか、文化や教育へのアクセスなどの利便性が十分でないといった問題がある一方、都市部では、住宅問題や通勤地獄などに代表されるように生活にゆとりがないと感じている方も多いと思います。こうした問題の原因として、東京圏への諸機能の一極集中や生活関連の社会資本の不足の問題などがあり、早急に効果的な対策の実施に取り組んでいかなければなりません。
私は、何よりも、それぞれの地域が主体的に創意工夫しながら魅力ある地域づくりを進め、それが国土の均衡ある発展につながるような基盤を整備していくことが必要であると考えます。そのためには、まず住民に身近な問題は身近な自治体が担っていくことを基本として、地方税財源の充実を含め、地方分権を強力に推し進めていかなければなりません。法律の制定も視野に入れながら、基本理念や取り組むべき課題と手順を明らかにした大綱方針を年内を目途に策定したいと考えております。
さらに、多極分散型国土の形成に向けて、都市・産業機能の地方分散を促進するとともに、拠点都市を道路、鉄道、航空で結ぶ効率的な高速交通ネットワークの形成や過疎・山村地域の振興などを進めてまいります。また、国土保全対策や災害対策全般の一層の充実に努めるほか、北海道の総合開発と沖縄の振興開発にも引き続き積極的に取り組んでまいる考えであります。
地域を問わず国民の一人一人が豊かさを肌で実感できるようにするためには、生活の利便の向上に直結するような生活関連資本をより一層充実したものにしていかなければなりません。このため、例えば、もっと快適で余裕を持った広さの住宅に住めるよう住宅産業の思い切った構造改革や住宅輸入の促進などを通じて住宅コストの引き下げを図るとともに、計画的に土地の高度利用を進めてまいります。また、道路、公園、上下水道、廃棄物処理施設などの整備や通勤混雑の緩和のための都市鉄道の輸送力増強などの社会資本整備を着実に推進していくことが必要であります。
環境とエネルギーの問題は、今に生きる我々の問題であると同時に、将来の世代や地球全体のことも視野に入れて取り組まなければならない重要な課題であります。かけがえのない美しい自然を初め、恵み豊かな環境を我々の子供たちに引き継ぐことができるよう早急に環境基本計画を策定し、総合的な対策を実施したいと思います。また、省エネルギーの推進や代替エネルギーの開発導入の加速化とあわせて、安全性の確保を前提に原子力の平和利用を進めてまいります。
安全で安心な生活は日本が世界に誇るべき財産ともいうべきものであり、これを守っていくことは政府の重要な役割であります。暴力団犯罪の悪質・巧妙化、薬物・けん銃事犯の多発化に加え、犯罪が広域化、国際化するなど最近の治安情勢には極めて厳しいものがある一方、交通死亡事故も高水準で推移しております。私は、法秩序の維持や安全の確保に遺漏なきよう取り組んでまいる所存であります。
また、消費者重視の視点のもとに製品の安全性に関する消費者利益の増進を図るために、製造物責任制度の導入を初めとする総合的な消費者被害防止・救済対策の確立に向けた関係法律案を今国会に提出することといたしております。
日本が世界一の長寿国になり、世界でもいまだ経験したことのない本格的な高齢・少子社会を迎えることについて、国民の皆様方が不安を抱くとすればそれは政治の責任であります。二十一世紀を活力のある明るい福祉社会としていくために、年金、医療、福祉などの各分野のバランスのとれた総合的な高齢社会福祉ビジョンを早急に策定し、福祉社会の将来像と国民の負担のあり方についての国民的なコンセンサスを形成していくことが重要であります。
まず私は、二十一世紀初頭までに、本人が希望すれば少なくとも六十五歳までは働くことのできる社会の仕組みをつくり上げたいと思います。高齢者の雇用継続を援助するための給付を雇用保険制度に創設するほか、高齢者の再就職や能力開発を積極的に支援してまいります。また、国民の老後生活を支える柱である公的年金制度について−は、こうした高齢者雇用の促進と連携のとれた仕組みとするとともに、その長期的安定を図ることにより本格的な高齢化社会にふさわしいものへと改革してまいります。
次に、高齢期にも健康で安心できる社会を築くために、財源の確保に配慮しつつ、高齢者保健福祉推進十カ年戦略、いわゆるゴールドプランを抜本的に見直し、ホームヘルパーなど介護サービスの充実を図ってまいります。また、医療保険制度や老人保健制度については、付添看護に伴う患者負担の解消や保険給付の範囲、内容の見直しなどを行い、医療サービスの質の向上や患者ニーズの多様化に適切に対応できるようにしてまいりたいと思います。
また、障害者対策に関する新長期計画に基づいて、障害者に優しい町づくりの推進など積極的に障害者対策を進めてまいります。
豊かな人生を送るために何より大切なものは健康であり、がんを初めとする成人病や難病に対する総合的な対策を図ってまいります。特に、がん克服を目指し、新たに、がん克服新十カ年戦略を策定するとともに、エイズ対策については、拠点病院の整備や治療薬等の研究開発など医療体制の充実に努めるとともに、本年我が国で開催される国際エイズ会議の支援など世界のエイズ対策への貢献に努めてまいります。
出生率の低下や女性の社会進出など、子供や家庭を取り巻く環境は近年大きく変化してきております。今年はちょうど国際家族年でもありますが、これを契機として、保育対策の充実や児童環境基金の創設など安心して子供を産み育てる環境づくりに取り組んでまいります。さらに、仕事と家庭が両立できるように雇用保険における育児休業給付制度の創設や介護休業の法制化の検討を含めた介護休業制度の充実を図るとともに、パートタイム労働対策なども進めてまいりたいと思います。
また、女性が政治、経済、社会のあらゆる分野に男性と平等に参画する男女共同参画型社会の形成に向けて総合的な施策の推進とそのための体制整備に取り組んでまいります。
昨年十二月、七年以上にわたったウルグアイ・ラウンド交渉がついに妥結したことは、世界経済の未来に明るい希望の灯をともすものであります。交渉の妥結に当たり、米は関税化の特例措置が認められる一方、米以外の農産物については関税化するという内容の農業合意案を受け入れることとなりましたが、自由貿易体制の維持強化によってもたらされる幅広い国民的利益という観点からぎりぎりの検討を行い、私はまさに断腸の思いでこれを決断いたしました。
農林水産業は、国民生活に欠かせない食糧の安定供給を初め、伝統と地域文化に裏づけられたゆとりある生活空間の提供といった多面的な機能を保有しております。特に、米については、水をたたえた水田と豊かに実った稲穂はこの日本列島の象徴であり、国土や自然環境の保全のためにもかけがえのない役割を果たしてまいりました。
私は、このようなときであるからこそ、農業に携わる人々の不安感を払拭し、安心して営農にいそしむことができるよう政府として万全を期していかなければならないと考えております。昨年末に設置された緊急農業農村対策本部の陣頭に立つて、農業再生のビジョンづくりと国内対策に全力で取り組んでまいる決意であります。
また、林業、水産業につきましても、森林の整備、保全の推進、生命の源である豊かな海の恵みを生かした水産業の振興などに努めてまいります。
今、我が国は大幅な経常収支黒字を抱えており、依然として閉鎖的な市場であるとの声が根強く存在いたしております。このような批判の中には誤解に基づくものもありますが、これをむしろ日本に対する積極的な期待ととらえ、改善すべきは日本自身のために積極的に改善していかなければなりません。
現在進めている経済改革や行政改革は、こうした国際社会の期待にこたえるゆえんでもあります。内需主導型の経済運営とあわせて、規制緩和などによる対日アクセスの改善や内外価格差の是正、政府調達手続における透明性の確保、OTO機能の活用、輸入インフラの整備などを推進し、国際的な貿易ルールのもとに、外に向かって開かれた経済社会を実現していかなければならないと思います。
先般行われたクリントン大統領との会談で、日米包括経済協議におけるいわゆる目標値の設定をめぐって意見の一致を見なかったことはまことに残念なことでありました。今や、自由貿易原則を堅持しつつ、国際社会との調和のために我が国が果たすべき責任は従来にも増して重くなったと私は受けとめており、中期的な経常収支黒字の十分意味のある縮小に向けて効果的な手段を講じていかなければならないと考えております。
世界の平和と安定の実現への道のりは決して平たんなものではありませんが、世界は今、共通の目標を目指してその英知と努力を結集しており、その道筋が少しずつ浮かび上がってきております。カンボジア和平の実現や中東和平交渉の進展は、まさに国際社会の協調による問題解決の可能性を象徴するものであります。
言うまでもなく、国連は国際社会を挙げての努力を結集するかなめとなるものであり、新たな時代の要請にこたえることができるようその機能を強化していくことが重要であります。本年は、安保理改革が国際的に議論される年となりますが、我が国としてもこの議論に積極的に参画しつつ、国際社会の期待にこたえ得る形で責任を果たしてまいりたいと思います。
今後、経済的な支援はもちろんのこと、人的協力や知的協力など我が国が有する資産を十二分に活用し、また、それをうまく組み合わせることにより平和憲法を有する我が国ならではの多角的な国際貢献を展開し、多様性が尊重される、より平和で繁栄した世界の実現に取り組んでまいりたいと思います。
日本が一層の役割を果たすべき分野の一つに地域紛争の予防と解決への協力があります。私は、地域紛争を解決し安定をもたらすためには、和平のための外交努力、国連の平和維持活動、人道支援、暴力により引き裂かれた国の開発復興援助といった包括的アプローチをとることが有効であると考えております。カンボジア紛争を成功裏に終結させた過程は、このアプローチのよい例であると思います。我が国は現在、モザンビークの国連平和維持活動に参加しておりますが、今月中にエルサルバドルに選挙監視要員を派遣するほか、中東和平進展のかぎとなるパレスチナ人の民生安定のための支援実施や旧ユーゴにおける紛争被災地域に対する人道援助の拡充など、今後とも平和に向けた国際社会の努力を支援してまいります。
冷戦の終結は、軍備管理、軍縮に向けての好機をつくり出しました。私は、今後とも非核三原則を堅持するとともに、核兵器を含む大量破壊兵器やミサイルの拡散防止に積極的に取り組んでいくつもりであります。核兵器開発問題をめぐり、IAEAによる北朝鮮の申告済み原子力施設に対する査察実施が行われることとなりましたが、さらに北朝鮮の前向きな措置を引き出すことが重要であります。今後とも事態の推移があれば的確に対応していかなければならないと考えておりますが、我が国としては、引き続き韓国、米国を初めとする関係諸国と緊密に連携しつつ、この問題の平和裏な解決に努力してまいります。また、旧ソ連の核兵器廃棄への協力、通常兵器移転に関する国連軍備登録制度の効果的な実施などにも取り組んでまいります。
世界の平和と繁栄を図る上で、政府開発援助は重要な役割を果たします。日本は今や世界最大のODA供与国となっておりますが、政府開発援助大綱に照らし、被援助国の民主化や人権及び自由の保障、市場経済化、軍事支出の抑制の努力を支援することも念頭に置いて、これを有効に活用してまいります。
また、環境、人口、エイズ、麻薬、難民問題など地球的規模の問題についても、政府開発援助などを通じて積極的に貢献するとともに、国連の場を中心とする国際的取り組みのかじ取りを率先してまいりたいと思います。
過去半世紀にわたって、日米両国は強固で積極的な関係を維持してまいりました。今、両国の間には深刻な貿易・経済問題が横たわっておりますが、冷静に相互信頼の精神で協力してその解決に取り組んでいかなければならない問題であります。クリントン大統領とも、このために日米関係がゆがめられるようなことがあってはならないということを確認し合いました。今や日米関係は、それぞれの立場や見解を尊重しながらも協調の道を探るという新たな段階に至りつつあります。現在日米両国で進行中の改革努力は、こうした日米関係をより強化するものであります。引き続き日米両国が政治・安全保障、経済、地球的規模の協力の各分野について緊密な関係を維持し、日米パートナーシップをより安定したものにしていくことは、両国間のみならず、世界の平和と発展のためにも不可欠であります。
特に、冷戦終了後の世界にあって、依然として不安定要因を抱えるアジア・太平洋の安全と安定にとって、日米安全保障体制は一層重要性を増してきております。我が国は、みずから適切な規模の防衛力を保有するとともに、この日米安全保障体制を堅持することを引き続き防衛政策の基本としてまいりますが、防衛力整備の指針である防衛計画の大綱が策定されて約二十年の歳月が経過いたしました。私は、この間の国際情勢の劇的な変化や科学技術の目覚ましい進歩などを踏まえながら、改めて大綱の基本的な考え方について整理してみることが必要であると考えております。国民各層の御意見も聞きながら、できるだけ早くあるべき方向を見定めてまいりたいと思います。
来年は、第二次世界大戦終戦五十周年に当たります。かつて戦場であったアジア・太平洋は、今や世界で最も希望に満ちた地域に発展いたしました。この地域の首脳が一堂に会した昨年十一月のAPEC非公式首脳会議は、地域協力の新しい歴史を開く出来事でありました。その際私は、他の首脳との率直な意見交換を通じて、地域としての一体感が徐々に、しかし確実に醸成されつつあることを実感いたしました。この地域全体にわたる政治及び安全保障対話も本格化しつつあり、今年から中国、ロシアなども参加してASEAN地域フォーラムが開催される予定であります。この機運を逃すことなく、この地域における安定した開かれた協力関係の構築を目指してまいりたいと思います。
日中関係は、国交正常化二十周年、平和友好条約締結十五周年を経て大きく発展しております。私は、今月後半に訪中し、中国側指導者と率直な意見交換を行うこととしておりますが、両国間の協力関係が国際社会に一層貢献するものとなるよう努力してまいる考えであります。
韓国との間では、昨年の首脳会談で私が金泳三大統領との間で確認したように、人的・文化的交流をさらに拡大し、未来に向けた自然な形での関係発展のために努力してまいります。また、北朝鮮との国交正常化の問題については、今後とも核兵器開発問題等における動向を慎重に見守っていくことが必要であると考えております。
ロシアとの関係については、エリツィン大統領の訪日により今後の日ロ関係進展の新たな基礎がつくられました。昨年十二月の新議会選挙及び本年一月の内閣改造後、ロシア情勢は不透明さを増しておりますが、我が国としては、大統領訪日の際署名された東京宣言に従い領土問題を解決し、日ロ関係を完全に正常化するため最善の努力を払うとともに、改革に対し適切な支援を行ってまいる所存であります。
欧州では、昨年十一月に欧州連合が発足しました。これまでのECよりもさらに統合の度合いが強固なものとなり、この動きは北欧や中・東欧へも拡大しつつあります。このように一体性を強める欧州が国際社会において発言力を強め、ますます重要な役割を担っていくことは間違いありません。私は、我が国と価値観を共有する友人たる欧州との対話、政策協調をさらに広げ、深めてまいりたいと思います。
新たな日本に生まれ変わらなければならないという国民の皆様方の熱い思いが結実して、この連立政権が発足し、約半年が過ぎました。この短い期間の中でも幾つかの大きな課題に直面しましたが、これまでだれも踏み入れたことのない道を進むことを選んだ者にとって、これは当然の試練であります。私たちにとって国民の皆様方の声だけが唯一の道しるべであり、これにこたえながら大きな歴史的な変革を実現してまいりたいと思います。
ここに重ねて皆様の御理解と御協力を心よりお願いを申し上げる次第でございます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/13
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014・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 羽田外務大臣。
〔国務大臣羽田孜君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/14
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015・羽田孜
○国務大臣(羽田孜君) 第百二十九回国会が開かれるに当たり、我が国の外交の基本方針につきまして所信を申し上げさせていただきます。
東西冷戦という単純な座標軸が消滅した今日、世界は平和と繁栄の新しい枠組みを模索しています。しかし、その道のりは長く、平たんではありません。現在の国際社会は変革期の不透明さと不確実さに満ちており、多くの課題を抱えております。世界経済は、先進国では北米等で景気回復の足取りが力強くなっていますが、多くの国が景気の低迷と深刻な失業問題に悩んでいます。
地域紛争については、カンボジアでは永続的平和と復興の第一歩がしるされる一方で、旧ユーゴスラビアやソマリアの紛争は、国際社会の懸命の努力にもかかわらず解決の兆しが見えません。また、北朝鮮の核兵器開発疑惑や旧ソ連の解体等による大量破壊兵器の拡散の危険は世界の安寧をも脅かしております。
さらに、開発途上国の貧困や地球環境、人口、難民といった地球規模の問題は、むしろ深刻さか増しておると申し上げられます。
このように国際社会は、多難かっ目まぐるしい変革の波の中で海図なき航海を続けています。しかし、私は、その前途には航海の導となる灯がともり、我々が進むべき航路を照らし始めていると考えております。その灯とは国際社会が協調と協力によって目指すべき目標であり、より平和で繁栄した、より人間的な世界の実現であります。この目標に向かって、平和の中で今日の繁栄を築いてきた我が国に対する国際社会の期待はますます高くなっています。我が国は、この期待にこたえるべく、みずから世界の平和と安定の枠組みのつくり手、そして担い手となっていくべきであります。そのためにも日本外交には一層積極的で創造性豊かな役割が求められていると申せます。
次に、ただいま述べた基本的理念のもとで我が国として取り組むべき主要な政策課題について述べたいと思います。
景気の低迷や失業は保護主義的な動きを強め、経済摩擦を激化しがちであります。これを防ぎ、豊かで繁栄した世界を実現するためには各国の一層の政策協調が必要です。世界のGNPの約六分の一を占める我が国が大きな役割を果たす責務があることは改めて申し上げるまでもありません。
ウルグアイ・ラウンドが七年を超える困難な交渉を経て、昨年十二月に成功裏に妥結したことは、自由貿易主義、開放的多国間主義、そして国際協調の勝利であります。我が国もさまざまな困難のもとでぎりぎりの交渉を行い、米に関する我が国の立場を最大限主張してまいりました。包括的関税化の特例措置の設定等を内容とする農業合意案の受け入れば、ウルグアイ・ラウンド交渉成功のために応分の貢献を果たすことが我が国の国際的責務であるとの視点から、まさに断腸の思いで行ったものであります。最終文書署名のための閣僚会合は四月にモロッコで開催される予定でありますが、関連合意文書の締結に関し鋭意準備を進めますので、速やかに国会の御承認が得られるよう御協力をお願い申し上げます。今後ともウルグアイ・ラウンドの成果を着実に実施し、我が国のみならず世界経済全体の繁栄の基盤である多角的自由貿易体制の維持強化に努めてまいります。
翻って、我が国の経済状況は予断を許さず、依然大きな経常黒字を抱えております。こうした状況を念頭に、政府は先月、所得税減税を含む景気浮揚のための内需拡大や経済活力喚起のための規制緩和推進等を柱として、史上最大規模の十五兆一二千五百億円に上る総合経済対策を発表しました。この対策の着実な実施を通じ内需主導型の持続的成長を確保し構造改革を進めていくことは、調和ある対外経済関係の形成及び世界経済の安定的発展にも資するものであると信じます。特に、規制緩和に関しては、我が国国民生活の質的向上に直接つながるものであることから、今後一層の努力を傾注していく必要があろうかと考えます。
私は、外務大臣就任以来、世界中で平和の願望が高まっていることを痛感しております。このような平和への願望にこたえるべく、我が国としてもできる限りの努力を積極的に行ってまいります。
今日、北朝鮮の核兵器開発疑惑は、北東アジアの平和と安全の確保に対する脅威であり、核不拡散の努力に対する大きな挑戦であります。今般、国際原子力機関による北朝鮮の申告済みの施設に対する査察が行われることになりました。そのため、当面は米朝間の話し合いの進展がかぎとなりますが、我が国としては米国、韓国、中国などの関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し核兵器不拡散条約脱退の完全な撤回、国際原子力機関との保障措置協定の完全な履行及び南北非核化共同宣言の実施を通じて疑惑を払拭するよう粘り強く働きかけてまいります。
我が国は、大量破壊兵器の拡散を防止するための国際的枠組みや体制の整備強化を図るとの観点から、核兵器不拡散条約の無期限延長を支持し、核兵器国による一層の核軍縮促進を目指し、全面核実験禁止条約に関する交渉に積極的に参加しております。さらに、我が国は引き続き旧ソ連の核兵器廃棄のための協力を行ってまいります。なお、昨年署名した化学兵器禁止条約についても、できるだけ早期に締結できるよう努めてまいります。加えて、ウクライナの非核化に向けての働きかけも強化していく考えであります。
また、最近の大量破壊兵器や通常兵器の拡散の懸念に対処すべく国際的な輸出管理体制を見直し強化する必要があり、我が国もこの検討に積極的に参加しています。
なお、このような我が国の努力にもかかわらず、最近一部の外国報道等におきましては我が国の非核政策に対し根拠のない疑問が投げかけられております。我が国は、唯一の被爆国として非核三原則を堅持するとともに、我が国の原子力利用は平和目的に限定しており、核兵器開発を行うことはあり得ないことをこの場で改めて強調したいと考えます。
旧ユーゴスラビアやソマリアの地域紛争は民族的、部族的、宗教的対立に根差しており、その解決は容易ではありませんが、国際社会は粘り強い取り組みを行っています。
特に、世界の新たな悲劇の象徴であるボスニア・ヘルツェゴビナにおいては依然として流血が続いておりますが、我が国は今後とも関係諸国及び国連と協力しつつ和平の実現に努力してまいります。また、二月には、人道支援の一層の強化、マケドニアの安定維持のための協力、我が国関係在外公館の体制再構築等を内容とする施策を決定したところであります。
このほか、我が国は、これまでも地域紛争解決のため外交面での努力、財政面での協力のみならず、アンゴラ、カンボジア及びモザンビークにおける国連平和維持活動に参加するなど人的貢献も行ってまいりました。特に、カンボジアにおける国連平和維持活動への参加は痛ましい犠牲を伴うものでありましたが、和平の実現に大きく貢献したものと考えます。ここに改めて、とうとい犠牲となられた方々に心から哀悼の意を表します。今月には中米和平に対する支援の一環としてエルサルバドルに選挙監視要員を派遣すべく準備を進めております。さらに、民族的、部族的対立や宗教的対立に根差す紛争が増加している今日、知恵を出すことこそ重要であり、我が国にふさわしい貢献に努めてまいりたいと考えます。
より人間的な世界とは、自由、民主主義、人権の尊重が確保され、繁栄を享受できる世界であります。現在、世界各地で民主化、市場経済化に向けた改革努力が進められています。これは大きな歴史の潮流であり、我が国は引き続き支援して養いります。
また、一部の開発途上国の目覚ましい発展の陰で、多くの開発途上国にあっては人々が依然貧困と飢餓に苦しんでいます。これらの開発途上国が困難を克服し、経済と社会開発に取り組むことは世界の平和と繁栄に不可欠と確信しております。そのためには、援助とともに貿易、投資の促進を含む包括的な取り組みが重要と考えます。
開発途上国に対する援助は、我が国がこれまでの発展の過程で得てきた経験を生かせる国際貢献の最も重要な柱であります。我が国は、昨年六月、平成五年から五年間で七百億ドルから七百五十億ドルを目途とする政府開発援助の第五次中期目標を策定いたしました。また、厳しい経済情勢のもとではありますが、我が国が果たすべき役割を深く認識し、平成六年度予算案では一兆六百三十四億円の政府開発援助にかかわる予算の審議をお願いしております。私は、政府開発援助大綱のもと、国民の皆様に納得いただける援助、そして開発途上国の人々に真に感謝されるような平和と発展につながる援助の実施に引き続き努めていきたいと考えます。
さらに、我が国は、昨年秋から冬にかけて、カンボジア、モンゴル、インドシナ地域及びアフリカの復興、開発問題についての国際会議の議長国や主催国を務める等開発途上国の発展や民主化、市場経済化を支援するための多国間協調の枠組みづくりに主導的な役割を果たしております。今後ともこのような取り組みの先頭に立っていきたいと考えます。
環境、人口、エイズ、麻薬や難民といった地球規模の問題は、人類全体にとり深刻な問題であり、先進国と開発途上国が一体となった取り組みの推進が急務であります。このため、開発途上国に対する積極的な環境援助に加え、二月の総理訪米の際、七年間で三十億ドル、およそ三千億円以上を人口、エイズ分野での途上国援助に向けることを表明いたしました。本年九月にはカイロで国際人口・開発会議が開催されます。特に、人口問題は環境や開発と密接な関係を有する問題であり、我が国は、この会議に貢献するために去る一月に人口と開発に関する賢人会議を主催するなど積極的に対応しているところであります。
国際社会の相互依存関係がかつてないほどに深まっている現在、ただいま述べた諸課題への取り組みに当たっては国際協調の強化が不可欠であります。
国際情勢が厳しい局面にある現在、日米欧が率先して政策協調を進め、世界の諸課題に取り組むことが不可欠であり、我が国としても、引き続きサミットを初めとする場において日米欧間の政策協調の強化に努めてまいります。
新たな国際情勢のもとにおいても日米安保条約を基礎とする日米間の緊密な協力関係を維持していくことが我が国の外交の基軸をなすことにはいささかの変わりもありません。むしろ、日米基軸外交はアジア・太平洋地域の平和と安定を確保するためますます重要であります。
去る二月、細川総理が訪米し、三度目の日米首脳会談が開催されました。首脳会談では、包括経済協議についての意見の不一致はあったものの、政治・安全保障面や地球規模の問題の解決に向けた日米間の協調は、経済面での意見の不一致によって損なわれてはならないとの認識で一致したところであります。
包括経済協議については、客観的基準と数値目標をめぐる意見の調整のため私自身予定を一日繰り上げてワシントンを訪問し、ゴア副大統領、クリストファー国務長官、ベンツェン財務長官、カンター通商代表と会談し、合意を目指して懸命の折衝を行いました。しかし、残念ながらこの問題をめぐる両国の立場が収束せず、しばらく冷却期間を置くこととなりました。他方、首脳会談では、北朝鮮、中国、ロシア等の国際情勢について、今日の日米関係の幅と深みを反映した協議が行われました。また、環境、人口、エイズといった地球的規模の問題に関する協力推進のための行動計画を作成したところであります。さらに、私は、今回の訪米中ペリー新国防長官とも会談し、日米安保体制の重要性について意見の一致を見たところであります。
経済問題をめぐり日米関係は厳しい局面を迎えておりますが、私としては、日米協力関係全体の維持強化に努めるとともに、経済・貿易面で一刻も早く打開の糸口を見出して懸案の解決を図り、日米間のパートナーシップを一層強固なものとすべく全力を傾注していく決意であります。
欧州連合条約の発効によって統合が新たな段階を迎えた欧州との関係についても、これを一層確固たる基盤の上に構築していくことが今まで以上に必要であります。平成三年の日・EC共同宣言に基づき、基本的価値を共有するパートナーとしての関係をさらに深め、経済・貿易中心の関係にとどまらず、国際社会に共通するさまざまな課題についても対話と協力を促進してまいります。
国際社会の急激な変化の中にあって、アジア・太平洋地域は比較的安定した政治情勢のもとで目覚ましい経済成長を遂げており、明るい要素が多い地域であります。このような好ましい環境の中で、現在この地域ではさまざまな形の域内協力が進められております。
近年、政治・安全保障の分野では、従来からの我が国の提案に沿った形で全域的な対話を行おうとする機運が急速に高まっています。特に本年は、ASEAN拡大外相会議の参加国に加え、中国やロシア等の参加も得て、外相間で地域全体にわたる政治、安全保障問題についての意見交換を行うというASEAN地域フォーラムが初めて開催される予定であります。このような場を通じ、各国の政策についての透明性を増すことによって域内各国の安心感を醸成していくことが重要であります。
経済面における域内協力の枠組みといたしましては、アジア・太平洋経済協力、APECが存在します。昨年十一月に初めて開催されたAPEC経済非公式首脳会議においては、アジア・太平洋地域における域内協力についての将来の展望と今後の協力について方向が示されるという大きな成果を生み出すことができたのであります。
我が国は、このような政治・安全保障、経済面等にわたる域内協力が国際社会全体の平和と繁栄につながるものであるとの認識のもと、今後ともその促進に主導的な役割を果たし、この地域をまさしく平和の湖にしていきたい、このように考えます。
アジア・太平洋地域のみならず、国際社会においてますます大きな存在となることが予想されろ中国と我が国との関係は良好に発展しておりすす。私自身、一月に中国を訪問し、江沢民国家主席、李鵬総理、銭基シン副総理兼外交部長と会談し、二国間関係に加え双方が関心を有する国際問題について率直かつ有意義な意見交換を行うことができました。また、先般、朱鎔基副総理が訪日された際にも、私の訪中を踏まえた意義ある意見交換の機会を持つことができました。我が国としては、未来志向の日中関係、世界に貢献する日中関係を築いていくとともに、両国の協力をさらに深めていく考えであります。また、引き続き中国の改革・開放政策に協力してまいります。
朝鮮半島は、北朝鮮の核兵器開発疑惑によりアジア・太平洋地域の不安定要因となっています。我が国と北朝鮮との国交正常化交渉も中断していますが、政府としては、今後の北朝鮮の動向を慎重に見守りながら国交正常化の問題に取り組んでいきたいと考えます。こうした状況のもと、自由・民主主義という共通の基盤に立つ隣国の韓国との関係は、我が国にとってますます重要となりつつあります。三月下旬には金泳三大統領が国賓として訪日される予定でありますが、両国の協力関係を未来に向けた幅広いものとするため、政府としても努力してまいります。
インドシナ地域では、カンボジアに自由な選挙による新政府が誕生じ、ベトナム、ラオスでは開放的な経済改革が進んでいます。我が国は、この地域全体を視野に入れた開発のためインドシナ総合開発フォーラムの設置を提唱し、本年後半にはその開催を予定していますが、今後ともこのフォーラムの場等を通じ国際協力を推進していきます。
南西アジア地域でも民主化や経済自由化が進んでおり、我が国としてはこうした努力を支援するとともに、この地域における核不拡散の確保に取り組んでまいりたいと思います。
世界の平和と安定のため国連は極めて重要な役割を期待されており、国連の機能を一層強化することが急務であります。本年は、特に安全保障理事会の改組に関する作業部会が開かれ、内外で幅広い議論が活発に行われることが予想されます。我が国は、過去二年間安保理非常任理事国としてより平和な世界の構築に向け真摯な努力を行ってまいりました。今日、我が国が国連においてより大きな役割を一層積極的に果たすべしとの国際世論が高まっており、我が国としてもこのような期待にこたえ、なし得る限りの責任を果たしてまいりたいと考えます。
もとより、我が国が国際協調を推進していくに当たっては、その他の主要諸国及び地域との関係も重要であります。
昨年十月のエリツィン大統領の訪日は、新生ロシアと我が国との関係の進展のための新たな基礎をつくった極めて重要な訪問でありました。それ以降、昨年十二月には議会の選挙が行われ、本年一月には内閣改造がありましたが、ロシアの情勢は不透明さを増しており、今後の内政動向を注視していく必要があります。
日ロ関係につきましては、我が国は、ロシアの議会選挙に際し監視団を派遣したほか、二月には日ロ事務レベル協議及び平和条約作業部会を開催するなど、政治対話を活発に行っております。さらに、民間レベルでは東京で第一回の日米ロ三極会議が開催されるなど、日ロ間の対話は幅を広げております。
このような中、私は今月ロシアを訪問し、ロシア指導部に対し、領土問題を解決し、日ロ関係を完全に正常化することが、日ロ二国間においてのみならず、アジア・太平洋地域の平和と安全のために重要であることを改めて強調する考えであります。また、その際、ロシアの民主化、市場経済化及び法と正義に基づく協調外交という改革路線が引き続き堅持されることの重要性を指摘し、そのような改革が維持される限り、我が国としてこれを積極的に支持していく方針であることを再確認する考えであります。
昨年九月にイスラエル・PLO間で暫定自治に関する原貝宣言が合意され、私自身、ワシントン
での歴史的な署名式典に立ち会いました。その後、原則宣言実施のための努力がイスラエルとパレスチナ人との間で行われるとともに、米国の努力により、イスラエルとシリアとの間などで他の和平交渉も真剣に続けられています。我が国は、パレスチナ人の民生安定のため、二年間で二億ドルの支援を約束し、とのうち約五千万ドルの具体的支援を既に発表しております。中東地域の平和と安定の促進には国際社会の支援が不可欠であり、我が国としても、域内関係者との政治対話の強化、中東和平多国間協議への参画、対パレスチナ支援等に今後とも努めてまいります。中南米諸国では、総じて民主化と市場経済化が着実に進展しつつある一方、構造的貧困等取り組むべき課題も残っております。我が国は、引き続きこの地域における改革努力を支援していく考えであります。
アフリカ諸国では、昨年十数カ国で大統領選挙や議会選挙が行われるなど政治改革が進んでいる反面、国内情勢が混乱している国も多くあり、経済的困難の克服も難しくなっております。我が国は、引き続きこの地域における政治面、経済面での改革努力を勧奨するとともに二国間及び多国間の枠組みを通じた支援を行ってまいります。
世界の平和と安定を実現するためには、国家間の相互理解と信頼関係の構築が必要です。
したがって、我が国に対する諸外国の理解を深めるための広報活動の強化とともに国際文化交流促進の努力を行ってまいります。また、昨年アンコール遺跡救済国際会議を主催しましたように、人類共通の遺産である有形、無形の文化財、遺産の保存や開発途上国の教育、文化振興等、文化の面でも積極的に協力しなければならないと思います。さらに、科学技術は未来を開くかぎであります。可能な限りその英知を分かち合うべく国際協力を着実に促進していくことが重要であろうと思います。
国際情勢の流動化や海外で活動する邦人の増加に伴い、海外で事故や犯罪に巻き込まれる例が増加しています。海外の邦人の安全をよりよく確保するための対策強化とともに、各地における内乱、クーデター等緊急事態に際し、政府として迅速かつ的確な邦人保護のための対応が行えるよう在外公館の危機管理能力も一層高めるよう努力してまいります。
以上申し述べましたような外交の課題を実現していくためには、目まぐるしく移り変わる国際情勢に的確に対応し、先を見据えた機動的な外交活動を展開しなければなりません。私は、その足腰とでもいうべき外交実施体制と諸機能の強化に一層努めてまいります。しかし、外交は国民の皆様の後ろ盾があって初めて可能となります。私は、我が国の外交に対する国民各位の一層の御理解が得られるよう引き続き努力していきたいと思います。
国際社会の将来にとり極めて大切な時期に我が国の外交のかじ取りを任せていただいた者として、私はその重責に身の引き締まる思いでおります。何とぞ議員の皆様と国民皆様の一層の御支援と御協力をお願いいたします。
以上であります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/15
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016・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 藤井大蔵大臣。
〔国務大臣藤井裕久君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/16
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017・藤井裕久
○国務大臣(藤井裕久君) 平成六年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。
我が国経済は現在、循環的な要因にバブル経済の崩壊の影響等も加わって、厳しい状況が続いております。同時に、本格的な高齢化社会を迎える二十一世紀に向けて豊かで活力のある経済社会を構築していくとともに、国際社会において我が国の地位にふさわしい役割を果たしていくことが求められております。
我々は、まず当面の厳しい経済状況を一日も早く克服しなければなりません。同時に、今後、経済社会の改革を実行することにより、国民一人一人が豊かさを実感でき、国際的にも開かれた活力にあふれる経済社会を構築していくとともに、世界経済の安定的発展のために我が国にふさわしい貢献をしていくことが必要であると考えます。
まず、最近の内外経済情勢について申し上げます。
我が国経済は現在、個人消費や設備投資が低迷し、雇用情勢にも厳しさが見られるなど、依然として厳しい状況が続いております。
国際経済情勢を見ますと、世界経済は地域によって明暗が分かれる展開となっており、回復への兆しは見られるものの、いまだ力強い成長を示すには至っておりません。先進諸国は大幅な財政赤字や高失業などの構造問題を抱え、経済構造改革に向けた努力が必要とされており、また、開発途上国の一部や旧ソ連、中・東欧諸国では、依然として厳しい経済状況が続いております。
私は、今後の財政金融政策の運営に当たり、このような最近の内外経済情勢を踏まえ、二十一世紀に向けて我が国が進むべき道を展望しながら、以下に申し述べる諸課題に全力を挙げて取り組んでまいる所存であります。
第一の課題は、本格的な景気回復の実現を図ることであります。
さきに申し上げましたように、経済は個人消費や設備投資の面で激しい状況が続いておりますが、公共投資や住宅建設が景気を支える中、在庫調整や資本ストック調整が進展しているほか、耐久消費財の買いかえ需要の到来が見込まれるなど、回復の機運は着実に熟しつつあります。
こうした回復の芽を大きく膨らませ、我が国経済を平成六年度中のできるだけ早い時期に本格的な回復に移行させ、七年度以降の安定成長を確実なものとするため、先般、十五兆円を上回る史上最大規模の総合経済対策を決定いたしました。本対策は、五兆八千五百億円規模の所得減税の実施等や公共投資等の拡大などの内需拡大策のほか、課題を抱える分野における重点的な対応などを盛り込んだ、質量ともに充実した文字どおり総合的な経済対策であります。こうした幅広い諸施策を一体として実施しつつ、平成五年度第三次補正予算及び平成六年度予算を通じて可能な限り景気に配慮するよう努めてまいる所存であり、これが先行きに対する不透明感を払拭するとともに、個人消費を初めとする内需の盛り上がりにつながり、我が国経済の本格的な回復に大きく資するものと確信をいたしております。
金融面では、七次にわたる公定歩合の引き下げの効果などにより各種金利は大幅に低下してきており、今後ともこうした政策効果が一層浸透していくことを期待しております。
また、最近、為替市場において思惑的な動きが見られましたが、我が国としては、為替相場が経済の基礎的諸条件を反映して安定的に推移することが望ましいと考えており、今後とも為替相場の動向を十分注視し、適宜適切に対処し、為替相場の安定を図ってまいる所存であります。
第二の課題は、財政改革を引き続き強力に推進することであります。
政府は、厳しい経済状況に対し、累次にわたる経済対策を策定してまいりましたが、これに盛り込まれた公共事業関係費の追加等については、やむを得ざる措置として、建設公債の追加発行により賄うこととしたところであります。
さらに、平成六年度予算におきましても、現下の厳しい財政事情のもとで、平成五年度第三次補正予算とあわせ可能な限り景気に配慮するよう努めるとの観点等から、建設公債の発行により公共事業等の財源を確保するとともに、所得税減税等に伴う税収減に対処するものに限って特例公債の発行によることといたしました。
この結果、公債依存度は一八・七%と当初予算としては昭和六十二年度以来の水準となり、公債残高も平成六年度末にはついに二百兆円を超える見込みである等、我が国財政をめぐる事情は構造的にますます厳しさを増しております。このような公債残高の累増を放置すれば、既に歳出予算の二割程度を占めている国債費の増嵩につながり、政策的経費をさらに圧迫するなど財政の一層の硬直化を招くこととなります。これまで厳しい経済状況のもとで景気浮揚に向け大きな役割を担ってきた我が国財政は、今やまことに深刻な状況に立ち至っております。
一方、本格的な高齢化社会の到来に備え、福祉の充実、着実な社会資本の整備、国際社会への貢献等さまざまな財政需要に適切にこたえていく必要があります。これら新たな時代のニーズに的確に対応し、豊かで活力ある経済社会の建設を進めていくためには、何よりもまず財政の対応力の回復に努めていかなければなりません。
このため、まことに深刻な状況にある今とそ、引き続き健全な財政運営を確保し、公債残高が累増しないような財政体質をつくり上げていくという財政運営の基本的方向に沿って一層の努力を払っていくことが重要であり、今後とも財政改革を強力に推進していく覚悟であります。
第三の課題は、年内に税制改革の実現を図ることであります。
本格的な高齢化社会を活力ある豊かなものとするためには、所得・消費・資産等のバランスのとれた税体系を構築し、国民合意の税制改革を実現することが極めて重要な課題であります。
税制調査会には、このような観点から精力的に御審議いただき、昨年十一月に公正で活力ある高齢化社会の実現を目指した税制改革の基本的考え方をお示しいただきました。
その後、政府・与党間の論議の積み重ねを経て、税制改革については年内の国会において関係の法律を成立させるものとするとの与党合意が成立したところであり、政府としては、このような与党合意に沿って、引き続き検討を進め、国民各界各層の御意見に十分耳を傾けながら、年内に税制改革の実現を図るべく一丸となって取り組んでまいる所存であります。
第四の課題は、調和ある対外経済関係の形成と世界経済発展への貢献に努めることであります。
世界経済は、貿易や直接投資の拡大とともに相互依存関係をさらに深めつつありますが、その中にあって我が国は調和ある対外経済関係の形成に努めるとともに、世界経済の発展のために積極的に貢献していく必要があると考えます。
我が国としては、世界経済のインフレなき持続的成長の強化を目指して、G7蔵相・中央銀行総裁会議を通じた経済政策協調プロセスにおいて各国と協力していくとともに、APEC蔵相会合等におげる各国との対話に努めてまいります。
七年余にわたり交渉が続けられてきたガット・ウルグアイ・ラウンド交渉が昨年十二月十五日に実質合意に達したことは、何よりも国際経済秩序に対する信認が確保されたことを示すものであります。我が国としては、ウルグアイ・ラウンドの成果を踏まえ、今後とも多角的貿易体制の維持強化を図り、我が国経済及び世界経済の発展に努力してまいりたいと考えております。
関税制度につきましては、市場アクセスの一層の改善を図る等の観点から、粗糖の関税引き下げ、自動車部品の関税撤廃等の改正を行うことといたしております。
経済協力につきましては、特に開発途上国における人づくりに対する二国間技術協力に重点を置き、さらに国際開発金融機関を通じた一層の協力も進めつつ、引き続き開発途上国への支援の促進に努めてまいるとともに、旧計画経済諸国についても市場経済への円滑な移行のため、他の主要先進国とも協調しつつ適切な支援を行ってまいる所存であります。
第五の課題は、金融・証券市場の活性化であります。
我が国経済の今後の発展を確保するためには、経済活動に必要な資金の円滑な供給を図ることが不可欠であります。こうした観点から、先般の総合経済対策におきましても、金融・証券市場に関する施策を他の施策と一体として実施することといたしました。
金融に関する施策としては、資金の円滑な供給、不良資産の処理促進及び金利減免債権の流動化の検討を盛り込むとともに、金融機関の不良資産問題についての取り組みの基本的な考え方を「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」として取りまとめ、公表いたしました。
証券市場の活性化のための施策につきましては、自己株式の取得に関する規制緩和に対応した証券取引制度の整備を図るため、所要の法律案を今国会に提出すべく準備を進めているところであります。また、時価発行公募増資の再開など証券市場、証券取引に係る手続の簡素化、規制の緩和等を引き続き推進してまいります。さらに、今後の株式市場の状況等をも見きわめつつ、企業の新規公開の一層の促進についても早急に検討を行ってまいる所存であります。
政府としては、これらの施策を今後一体として推進することにより、金融システムの安定性を確保しつつ、金融・証券市場が期待される役割を十分に発揮できるようにするための環境整備を図ってまいる所存であります。
次に、平成六年度予算の大要について御説明いたします。
平成六年度予算は、現下のまことに深刻な財政事情と厳しい経済状況にかんがみ、平成五年度第三次補正予算とあわせ可能な限り景気に配慮するよう努めるとともに、財政体質の歯どめなき悪化につながりかねない特例公債の発行を抑制するため、従来にも増して徹底した歳出の洗い直しに取り組む一方、限られた資金の重点的、効率的配分に努め、質的な充実に配慮することとして編成いたしました。
歳出面につきましては、既存の制度、施策について見直しを行うなど、経費の節減合理化に努めることとし、一般歳出の規模は四十兆八千五百四十八億円、前年度当初予算に対し二・三%の増加と抑制されたものとなっております。
国家公務員の定員につきましては、第八次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、二千三十三人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。
補助金等につきましては、地方行政の自主性の尊重、財政資金の効率的使用の観点から、その整理合理化を積極的に推進することといたしております。
また、現下の財政事情にかんがみ、特例的な措置として、平成五年度第二次補正予算に引き続き国債整理基金特別会計に対する定率繰り入れ等三兆八百四十九億円を停止する等の措置を講ずることといたしております。これらの措置につきましては、税外収入の確保のための特別措置とあわせ、別途、平成六年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰入れの特例等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。なお、定率繰り入れ等の停止に伴い国債整理基金の運営に支障が生じることのないようNTT株式の売却収入に係る無利子貸し付けについて繰り上げ償還を行うこととし、このため必要な措置を講ずることといたしております。
また、平成四年度の決算上の不足に係る決算調整資金を通じた国債整理基金からの繰り入れ相当額一兆五千四百四十八億円につきましては、法律の規定に従い、同基金に繰り戻すことといたしております。
これらの結果、一般会計予算規模は七十三兆八百十七億円、前年度当初予算に対し一・〇%の増加となっております。
次に、歳入面について申し述べます。
税制につきましては、当面の経済社会状況等を踏まえた政策的要請にこたえるため、所得税減税、相続税減税等を実施するとともに、土地税制等について適切な対応を図る一方、公益法人等に対する課税の適正化、租税特別措置の整理合理化その他所要の措置を講ずることといたしておりすす。
税の執行につきましては、今後とも国民の信頼と協力を得て、一層適正公平に実施するよう努力してまいる所存であります。
また、税外収入につきましては、まことに深刻な財政事情のもと、自動車損害賠償責任再保険特別会計からの一般会計への繰り入れの特別措置を講ずる等格段の増収努力を払っております。
公債につきましては、公共事業等の財源を確保するとともに、いわゆるNTT事業償還時補助の財源に充てるため、建設公債十兆五千九十二億円を発行することといたしております。また、所得税減税等に伴う税収減に対処するものに限って、特例公債三兆一千三百三十八億円を発行することといたしております。この特例公債については、年内に実施が図られる税制改革の中でその償還財源の問題についても適切に対処されるべきものと考えており、歯どめのない財政体質の悪化につながりかねない特例公債とは異なるものになり得ると考えております。この特例公債の発行につきましては、別途、平成六年分所得税の特別減税の実施等のための公債の発行の特例に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。なお、借換債を含めた公債の総発行予定額は三十六兆五千三百十億円となっております。
財政投融資計画につきましては、景気に配慮するとともに、国民生活の質の向上等各般の政策的諸要請に的確に対応していくとの考え方に立ち、住宅建設、中小企業支援、地域の活性化等の分野を中心に重点的、効率的な資金配分を図ったところであります。
この結果、財政投融資計画の規模は四十七兆八千五百八十二億円、前年度当初計画に対し四・六%の増加となっております。また、資金運用事業を除いた一般財投の規模は三十九兆四千八十二億円、七・七%の増加となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
公共事業関係費につきましては、本格的な高齢化社会が到来する前に着実に社会資本整備を推進するとともに、可能な限り景気に配慮するよう努めるとの観点から高い伸びを確保することとし、また、住宅、下水道、環境衛生等の国民生活の質の向上に結びつく分野に思い切った重点投資を行うなど、重点的、効率的な配分に特段の努力を払っております。また、住宅金融公庫における融資の拡充、公共賃貸住宅の供給の促進など住宅対策の拡充を図っております。なお、平成五年度末に期限の到来する漁港整備及び沿岸漁場整備開発の二分野の長期計画につきましては、おのおの新たな計画を適切に策定することといたしております。
社会保障関係費につきましては、医療保険制度等の改正、年金制度の改正を行うほか、児童家庭対策や高齢者保健福祉推進十カ年戦略の推進を図るとともに、がん対策、エイズ対策等の諸施策についてきめ細かく配慮しております。雇用対策につきましては、雇用の安定に万全を期するため、雇用支援トータルプログラムに基づく総合的な雇用対策等を推進することといたしております。
文教及び科学振興費につきましては、教育行政に係る国と地方の費用負担のあり方等の見直しを進めつつ、高等教育、学術研究の改善充実、文化の振興等を図るとともに、科学技術振興のため、各般の施策推進に努めております。
中小企業対策費につきましては、中小企業を取り巻く厳しい経営環境に配慮し、中小企業の構造調整支援策など特に緊要な課題に重点を置いて、施策の充実を図っております。
農林水産関係予算につきましては、ウルグアイ・ラウンド農業合意の成立等我が国農業、農村を取り巻く内外の諸情勢を踏まえ、経営感覚にすぐれた効率的、安定的な経営体が生産の大半を相う農業構造を実現していくための施策に重点を置いてその推進に努めております。
経済協力費につきましては、開発途上国における人づくりを支援する観点から、技術協力に重点を置くとともに、環境、人口と、つた地球的規模の問題や、人権、難民支援といった今日的課題にも積極的に対処することといたしております。
防衛関係費につきましては、国際情勢の変化等を受けて修正された中期防衛力整備計画のもと、まことに深刻な財政事情等を踏まえ、極力その抑制を図るとともに、防衛力全体として均衡がとれた態勢の維持整備に努めております。
エネルギー対策費につきましては、我が国の脆弱なエネルギー供給構造に配慮するとともに、地球環境保全の重要性を踏まえ、総合的なエネルギー対策の着実な推進に努めております。
地方財政につきましては、近年になく極めて厳しい状況になっておりますが、円滑な地方財政の運営に支障を生じることのないよう所要の措置を講ずることとし、所得税減税、住民税減税等の影響について交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金や減税補てん債の発行により補てんするとともに、一般会計からの加算や同特別会計の借入金を活用すること等により、所要の地方交付税総額を確保することといたしております。地方公共団体におかれましても、このような厳しい財政事情のもと、従来にも増して歳出の節減合理化を推進し、より一層効率的な財源配分を行うよう要請するものであります。
以上、平成六年度予算の大要について御説明いたしました。本予算が現下の諸情勢に果たす役割に御理解を賜り、何とぞ関係の法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。
私は、ただいま申し述べました諸課題に正面から取り組み、これを一つずつ着実に解決すべく、今後とも精いっぱいの努力を続けてまいる所存であります。
国民の皆様、議員の皆様の一層の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/17
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018・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 久保田国務大臣。
〔国務大臣久保田真苗君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/18
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019・久保田真苗
○国務大臣(久保田真苗君) 我が国経済の当面する課題と経済運営の基本的考え方について、所信を申し述べたいと思います。
我が国は、今までに経験したことのないバブル崩壊の影響などもありまして景気の低迷が長期化する中で、これまで我が国を支えてきました生産者重視の経済社会構造の見直しを求められております。それは、生活者・消費者重視へと我が国経済社会の基本的理念の転換を促すものであり、私たちは、この新しい時代の流れに沿った経済社会の構造的な改革を今後大きく加速させていかなくてはなりません。
国際面におきましても、世界のGNPの一六%を占めるに至っている我が国は、その経済規模にふさわしい積極的役割を果たしていくことが求められております。それはとりもなおさず、新たに世界経済秩序の構築に向けて我が国の主体的な取り組みを積極化させることであり、また国内にあっては、我が国経済社会の透明性を高め、国際社会と調和した社会の構築を推進していくことであります。
こうした状況を踏まえれば、今後、私たちが筆き上げていくべき新しい枠組みは、生活者たる個人がみずからの選択により豊かさとゆとりを享受できるような経済社会であり、また、市場機能が活性化され産業の活力が遺憾なく発揮される、国際的にも開かれた透明性のある経済社会であります。またそれは、我が国社会をこれらの方向に向けて変革していくことによって実現できるものであります。
その道筋は決して平たんではないかもしれません。これを成功させるためには、政府、個人、企業のそれぞれが変革を避けて通れない道であると認識し、みずからの責任と力で実行していかなければなりません。今こそ、我が国の経済と国民生活のより高い目標の実現に向かって果敢に挑戦すべきときであります。
本年は、まず何よりも景気の速やかな本格的回復を確固たるものとし、この変革を成功に導くための新たな出発の年としなければなりません。
ここで、内外の経済の状況について申し述べたいと思います。
世界経済の動向を見ますと、アメリカの景気拡大は本格化しつつありますが、西欧諸国の景気は総じて低迷を続けております。市場経済への移行を進めるロシア等では、総じて経済の混迷が続いております。一方、東アジア地域は自立的な成長力を強めながら堅調な経済発展を続けております。こうした中で、アメリカの財政赤字削減など、各国で始まっている構造改革への取り組みが大きな課題となっております。一方、ガット・ウルグアイ・ラウンドの成功は世界経済の将来に明るい展望を与えるものです。
我が国経済を見ますと、引き続き個人消費が低迷し、民間設備投資も減少するなど、総じて低迷が続いておりまして、雇用情勢にも製造業を中心に厳しさが見られます。
こうした状況に対処するため、政府は、昨年九月の緊急経済対策を初めとして累次にわたる経済対策を策定し、その効果の速やかな浸透を目指して万全の努力を傾けてまいりました。これに加えて、去る二月には大規模な所得減税を含む十五兆円を超える史上最大規模の総合経済対策を決定いたしました。
これらの対策の効果もあって、住宅建設や公共投資が経済活動を下支えする中、耐久消費財や企業設備のストック調整も相当程度進展し、景気回復への素地が整いつつありますが、平成五年度につきましては、民間需要の本格的な回復を見ることなく、国内総生産の実質成長率は〇・二%程度にとどまるものと見込まれます。
以上のような状況を踏まえ、私は、平成六年度の経済運営に当たりまして、特に次の諸点を基本に対応してまいりたいと考えます。
第一は、我が国経済をできるだけ早い時期に本格的な回復軌道に乗せ、平成七年度以降の安定成長を確実なものとすることです。
このため、平成六年度末までの間に、できる限りの施策を展開してまいります。
まず、年度がわりのこの春先に向けて、経済に切れ目のない刺激を与えるため、平成五年度の第三次補正予算において追加した公共事業の円滑な執行を図るなど、総合経済対策を速やかに実施してまいります。
加えて、平成六年度予算におきましても、近年になく深刻な財政事情のもとではありますが、国民生活の質の向上に重点を置いた分野に配慮しつつ、公共事業の積極的な拡大を図ったところであり、年度を通じて高い水準の公共投資が確保されるものと考えます。
税制面におきましても、景気に最大限配慮して所得減税や土地の有効利用促進策などを実施することとしており、特に大規模な所得減税によって個人消費が刺激され、経済全体に好ましい影響を与えるものと期待しております。
また住宅につきましては、予算、税制の両面からその建設や住宅リフォームの促進を図ることとしております。
金融政策につきましては、内外の経済動向や国際通貨情勢を注視しつつ、今後とも適切かつ機動的な運営を図る必要があると考えております。また、金融機関による資金の円滑な供給や不良資産の処理を促進するための措置なども引き続き講じてまいります。
雇用面では、雇用支援トータルプログラムの速やかな実施など、雇用の安定に万全を期するための総合的な対策を積極的に推進してまいります。中小企業に対しましては、経営安定や新たな事業展開を図るための支援策を推進してまいります。
物価の安定は国民生活安定の基礎であり、経済運営の基盤となるものです。今後とも、その維持に努めてまいります。
以上のような政府の経済運営と、経済活動の主体である民間部門の自律的な回復に向けての力強い努力が相まって、我が国経済は平成六年度中に本格的な景気回復軌道に乗るものと期待され、同年度の国内総生産の実質成長率は二・四%程度になるものと見込まれます。
第二は、創造的で活力を備えた経済社会を実現するため、構造的な改革を着実に進めるなど、将来的な発展環境を整備することであります。
このため、まず原則自由・例外規制を基本として、国民に与える影響にもきめ細かく配慮しつつ、経済的規制の緩和を着実に推進し、自己責任の原則と市場原理に立った経済社会の構築と、民間活力が一層発揮される環境の整備に向けて努力してまいります。その際、競争制限的な慣行を改め市場機能の一層の活用を図るため、競争政策の積極的展開を進めることも重要と考えます。
さらに、創造的な研究開発の推進、高度情報化に向けた環境の整備などを推進し、企業の事業再編を支援するほか、新規産業の発展や創造的な事業展開を促してまいります。
また、産業構造の転換に伴う就業構造の変化に対応するため、教育訓練の充実など、労働移動を円滑化するための環境整備を進めてまいります。
税制につきましても、我が国社会の急速な高齢化も視野に入れながら、公正で活力ある社会を実現するため、税制調査会答申を踏まえ、所得・消費・資産などの間でバランスのとれた税体系の構築を目指して、引き続き検討を進め、年内に税制改革の実現を図るよう最大限の努力を傾けてまいります。
さらに、国土の特色ある発展に向けて、東京一極集中の是正と地域の活性化を図るとともに、持続的成長が可能となるよう環境と調和した経済社会を築いていくための施策を推進してまいります。
第三は、政策の重点を生活者・消費者重視の視点へ移し、国民経済の目標をより直接的に生活の質の向上に結びつけ、国民一人一人の生活を豊かにしていくことであります。
このため、平成六年度予算におきまして、住宅、下水道や廃棄物処理施設等の事業に公共事業関係費の重点的投資を行ったところであり、今後とも生活関連分野への公共投資の重点的、効率的な配分を図ってまいります。美しい町並みづくりや、安全快適で文化の薫り高い生活づくりにこたえるための社会資本、高齢者等に配慮した人に優しい社会資本の整備も進めてまいります。
また、快適でゆとりのある住まいづくりや良好な居住環境の整備を進めるため、年収の五倍程度で良質な住宅の取得が可能となること等を目指した土地対策や住宅対策の充実を図ってまいります。さらに年間総労働時間千八百時間への短縮を図るため、週四十時間労働制への移行のための取り組みへの支援など各般の施策を進めてまいります。
国民が生活の豊かさを実感できない要因の一つとなっている内外価格差問題につきましては、その原因となっている規制や商慣行などの構造的側面にも先を当て、その是正、縮小を図ってまいります。
また、女性が男性とともに多様な選択肢のもとで、職場でも家庭でも十分に自己実現ができるような社会を築き上げるため、育児や介護に関する休業制度の充実など、働きやすい環境の整備を進めるとともに、男女の固定的な役割分担を前提とした制度の改革を進めてまいります。
安全で豊かな生活を実現するためには、生活者みずからが主体的な役割を果たしていくことが重要であります。このため、個人の自己実現や生きがいにつながる社会参加活動などを促進するとともに、国民生活センター等を通じた情報提供の充実など、消費者保護会議で決定した諸施策を積極的、総合的に推進してまいります。
製造物責任制度を初めとした総合的な消費者被害の防止や救済策につきましては、国民生活審議会意見などを踏まえ、本国会への関係法律案の提出を含め、所要の措置について早急に具体化を図ってまいります。
第四は、調和ある対外経済関係の形成と世界経済活性化への積極的貢献を行うとともに、自由貿易体制の維持強化に向け率先して努力することであります。
このため、まず規制緩和を中心とする構造改革を積極的に推進し、透明なルールのもとで内外の企業や個人が経済活動に従事できるような開かれた経済社会の実現を図ってまいります。
また、今般体制の強化を図った市場開放問題苦情処理体制、OTOの活動や政府調達手続の改善などを通じて、諸外国から我が国への市場アクセスの一層の改善を図るとともに、輸入や対日直接投資の促進を図ってまいります。
どのような我が国の市場開放努力と景気の回復が相まって、平成六年度の経常収支黒字は前年度に比べて減少するものと見込まれます。
ウルグアイ・ラウンドの実質的な妥結は、多角的自由貿易体制の維持強化に対する各国の強い意志を示すものであり、我が国は今後とも本交渉の成果の着実な実施に努めてまいります。
さらに、開発途上国の安定と持続的発展のため、ODA大綱の理念、原則を踏まえっつ、政府開発援助の第五次中期目標に基づき途上国援助の充実を図ってまいります。また、旧計画経済諸国の市場経済への円滑な移行に資する技術支援等適切な知的支援を進めてまいります。
以上、我が国経済が直面する主な課題と経済運営の基本的考え方について所信を申し上げました。
二十一世紀までに残された七年間、この間に、世界経済は経済活動のグローバル化の一層の進展、地域的な結びつきの強まり、旧計画経済諸国の市場経済化という動きの中で、市場経済システムを軸に新たな秩序に向かっていくものと考えます。この過程で、アジア諸国の経済成長も一段と進み、世界経済の枠組みが我が国をも巻き込んで大きく塗りかえられようとしております。
このような変貌を適切に乗り切り、二十一世紀の新しい座標軸のもとにおいても、我が国経済社会が明るく希望に満ちたものとなるよう備えることが私たちの果たすべき責任であると考えます。
私たちは、これまで蓄積してきた資本力、高い教育水準に支えられた人的資源、また高度な技術基盤やそれを支える文化的基盤などを有しております。これらの財産を新しい時代に合わせて遺憾なく活用しようという創造的な意思と果敢な実行力が今必要とされております。変革は、まさにこうした国民の努力を将来に向けてより有益なものとするための道でもあるわけでございます。
私は、変革に対する国民の選択と実行が大きな果実を生み出すよう精いっぱい努力していくつもりでございます。
国民の皆様の御支援と御協力を切にお願い申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/19
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020・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) ただいまの演説に対する質疑は次会に譲りたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/20
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021・原文兵衛
○議長(原文兵衛君) 御異議ないと認めます。
本日はこれにて散会いたします。
午後四時三十九分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112915254X00619940304/21
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