1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成八年一月二十二日(月曜日)
午前十時一分開議
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○議事日程 第一号
平成八年一月二十二日
午前十時開議
第一 議席の指定
第二 国務大臣の演説に関する件
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○本日の会議に付した案件
一、日程第一
一、常任委員長辞任の件
一、常任委員長の選挙
一、特別委員会設置の件
一、日程第二
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/0
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001・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) これより会議を開きます。
日程第一 議席の指定
議長は、本院規則第十四条の規定により、諸君の議席をただいまの仮議席のとおりに指定いたします。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/1
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002・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) この際、常任委員長の辞任についてお諮りいたします。
地方行政委員長竹山裕君、議院運営委員長志苫裕君から、それぞれ常任委員長を辞任いたしたいとの申し出がございました。
いずれも許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/2
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003・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 御異議ないと認めます。
よって、いずれも許可することに決しました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/3
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004・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) この際、欠員となりました地方行政委員長及び議院運営委員長の選挙を行います。
つきましては、常任委員長の選挙は、その手続を省略し、いずれも議長において指名することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/4
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005・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 御異議ないと認めます。
よって、議長は、
地方行政委員長に菅野寿君を指名いたします。
〔拍手〕
議院運営委員長に下稲葉耕吉君を指名いたします。
〔拍手〕
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/5
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006・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) この際、特別委員会の設置についてお諮りいたします。
科学技術振興に関する諸問題を調査し、その対策樹立に資するため、委員二十名から成る科学技術特別委員会を、
公害及び環境保全に関する諸問題を調査し、その対策樹立に資するため、委員二十名から成る環境特別委員会を、
災害に関する諸問題を調査し、その対策樹立に資するため、委員二十名から成る災害対策特別委員会を、
選挙制度に関する調査のため、委員二十名から成る選挙制度に関する特別委員会を、
沖縄及び北方問題に関する対策樹立に資するため、委員二十名から成る沖縄及び北方問題に関する特別委員会を、
地方分権の推進及び規制緩和に関する調査のため、委員二十名から成る地方分権及び規制緩和に関する特別委員会を、
中小企業に関する諸問題を調査し、その対策樹立に資するため、委員二十名から成る中小企業対策特別委員会を、
また、国会等の移転に関する調査のため、委員二十名から成る国会等の移転に関する特別委員会を、それぞれ設置いたしたいと存じます。
まず、科学技術特別委員会、環境特別委員会、災害対策特別委員会、選挙制度に関する特別委員会、沖縄及び北方問題に関する特別委員会並びに中小企業対策特別委員会を設置することについて採決をいたします。
以上の六特別委員会を設置することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/6
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007・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 御異議ないと認めます。
よって、科学技術特別委員会外五特別委員会を設置することに決しました。
次に、地方分権及び規制緩和に関する特別委員会並びに国会等の移転に関する特別委員会を設置することについて採決をいたします。
両特別委員会を設置することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/7
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008・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 過半数と認めます。
よって、両特別委員会を設置することに決しました。
本院規則第三十条の規定により、議長は、議席に配付いたしました氏名表のとおり特別委員を指名いたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/8
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009・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) これにて午後四時まで休憩いたします。
午前十時六分休憩
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午後五時二十四分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/9
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010・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
日程第二 国務大臣の演説に関する件
内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、田中国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。橋本内閣総理大臣。
〔国務大臣橋本龍太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/10
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011・橋本龍太郎
○国務大臣(橋本龍太郎君) 私は、さきの国会において、内閣総理大臣に指名されました。戦後五十年を経て、国内的にも国際的にも大きな転換点に差しかかっているこの時期に政権を預かることの重大さを痛感し、全力で国政に取り組んでまいります。
まず、昨年一月十七日の阪神・淡路大震災により亡くなられた犠牲者の方々とその御遺族に改めて深く哀悼の意を表するとともに、今なお不自由な生活を余儀なくされておられる方々に心からお見舞い申し上げます。政府としては、一日も早い被災地の復興と被災者の方々の生活再建に最大限の取り組みを行い、この教訓を踏まえ、今後の災害対策に全力を傾けてまいります。
私は、現在、この国に最も必要とされているものは、「変革」であると考えます。私が国会に議席をいただきました昭和三十八年には百五十三人にすぎなかった百歳以上人口は今や六千人を超え、その間に出生数は百六十五万人から約百二十万人に大幅に減少しております。来世紀初頭には国民の五人に一人が、そして間もなく四人に一人が六十五歳以上となる高齢社会を迎えるのであります。こうした世界にもそして歴史上も類を見ない速度での高齢化の進展の中で、「人生五十年」を前提とした社会は、「人生八十年」を前提にした社会へ大きく設計変更せざるを得ません。加えて、冷戦構造の崩壊と世界経済のボーダーレス化、国際社会における我が国の地位の上昇など国際環境の激変に対応するためにも、好むと好まざるとにかかわらず、我が国自身があらゆる面で大きな変革を遂げなければならないのであります。
私が目指すこの国の姿は、一人一人の国民が、みずからの将来に夢や目標を抱き、日本人に生まれたことに誇りと自信を持つことができ、そして世界の人々とともに分かち合える価値をつくり出すことのできる、そのような社会であり国家であります。
私に課せられた使命は、このような理想を胸に、次なる世紀を展望し、政治、行政、経済、社会の抜本的な変革を勇気を持って着実に実行し、二十一世紀にふさわしい新しいシステムを創出することにより、この国に活気と自信にあふれた社会を創造していくことであります。
私は、この内閣の使命を「変革」と「創造」とし、一層強固な三党連立の信頼関係のもと、強靱な日本経済の再建、長生きしてよかったと思える長寿社会の建設、平和と繁栄の創造のための自立的な外交の展開、これらを実現するための行財政改革の推進の四点をこの内閣の最重要課題と位置づけてまいります。
両世紀のかけ橋ともいえるこの時代において、政権を担う者の責任は重大であります。私は、ここに申し上げた政策課題について、「決断と責任」を政治信条に、みずからの政治生命をかけて全力で取り組んでいく決意であります。
この内閣に課せられた最も緊急の課題は、「強靱な日本経済の再建」であります。この国の経済を覆う不透明感を払拭し、将来に向けた明るい展望を開くためには、二十一世紀までに残された五年間を三段階に分け、第一段階において本格的な景気回復の実現、第二段階において抜本的な経済構造改革、第三段階として、創造的な二十一世紀型経済社会の基盤の整備を行うことが重要であります。これらの施策は、それぞれ一年後、三年後、五年後を目標としつつも、相互に密接に関連するものとして、直ちに着手、推進していかなければならないものであることは論をまちません。
我が国経済の最近の状況を見ますと、個人消費、設備投資等の回復に加え、生産にも明るい兆しがあらわれるなど、景気には緩やかながら足踏み状態を脱する動きが見られるものの、雇用や中小企業分野では、なお極めて厳しい状況が続いております。本年こそは、ようやく明るさの見え始めた景気の回復を確実なものとし、中長期的な我が国の経済の持続的発展につなげていく景気回復の年としなければなりません。このため、来年度予算においては、研究開発や情報通信など経済社会の構造改革の基盤となる分野を重点的に整備することとしたほか、特別減税の来年度継続実施、土地税制の総合的見直しなど、税制面でも格段の配慮を行うこととしたものであります。政府としては、引き続き為替動向を注視しつつ、切れ目のない適切な経済運営に努めてまいります。
我が国経済の再建と構造改革を行うに当たっては、金融機関の不良債権問題の解決が必要不可欠であり、預金者保護、信用秩序の維持に最大限の努力を払いつつ、できるだけ早期に解決が図られるよう全力を挙げて取り組んでまいります。
特に、いわゆる住専問題は、不良債権問題における象徴的かつ緊急の課題であり、政府としては、我が国金融システムの安定性と内外の信頼を確保し、預金者保護に資するとともに、経済を本格的な回復軌道に乗せるため、慎重の上にも慎重な検討を重ね、財政資金の導入を含む具体的な処理方策を決定いたしました。先般、住専各社の財務状況等について資料を提出いたしましたが、今後も、衆参両院の御理解、御協力をいただきながら、情報開示に最大限の努力を払ってまいります。
また、預金保険機構の指導のもと、住専処理機構が法律上認められているあらゆる債権回収手段を迅速、的確に用いることにより、債権回収を強力に行う体制を整備いたします。本件に関連する違法行為に対しては、既に検察、警察において協議会や対策室を設置しておりますが、今後とも、借り手、貸し手に限らず、その他の関係者についても厳正に対処してまいります。このように住専問題に係る透明性の確保と原因と責任の明確化を図りつつ、本処理方策についての国民の御理解を得るべく全力を尽くしてまいります。
また、過去の金融政策や金融検査・監督のあり方を総点検し、今後、金融機関における自己責任原則の徹底を図るとともに、市場規律が十分に発揮される、透明性の高い、新しい金融システムを早急に構築していくよう努めてまいる所存であります。
国境を越えた経済活動の一層の活発化、アジア諸国の経済的台頭などにより、世界経済は、いわゆる大競争時代を迎え、企業が国を選ぶ時代となっている中で、内外価格差の存在など経済の高コスト構造を初めとする構造的課題が、経済活動の舞台としての日本の魅力を減退させつつあり、産業の空洞化の懸念が現実のものとなりつつあります。我が国経済の将来の展望を切り開くためにも、昨年決定した新経済計画に沿って大胆な構造改革に直ちに着手することが必要であります。
まず第一は、徹底的な規制の緩和であります。経済的規制については原則自由・例外規制、社会的規制については本来の目的に照らした最小限のものとするという基本的な考え方に立ち、規制が時を経て自己目的化したり、利権保護のとりでとなっているような事態が存在しないか、抜本的にその見直しを行ってまいります。特に、高コスト構造を是正するとともに、新たな成長分野の発展を阻む要因を取り払い、経済の活性化を促進するため、住宅・土地、情報・通信、流通・運輸、金融・証券、雇用・労働分野など消費者や企業の経済活動の基盤となる分野で重点的な規制緩和を断行いたします。
民間における公正かつ自由な競争は、ダイナミックな経済活動を促進するため、規制緩和とともに不可欠であります。公正取引委員会事務局の強化・拡充により、独占禁止法の厳正な運用など競争政策を積極的に展開するとともに、株式保有規制など企業関連法制の見直しや、参入、転出の容易な労働市場の整備に努めてまいります。
さらに、我が国経済を活力あふれたものとしていくためには、ベンチャー企業群の創出が不可欠であり、こうした企業が持ち前の機動性、創意工夫を遺憾なく発揮していけるよう、資金調達面での支援を充実するなど新規事業の展開への支援を行ってまいります。
経済、産業の改革に当たっては、農林水産業の果たす多面的役割や機能、農山漁村がもたらす安らぎや潤いを忘れてはならず、農林水産業と農山漁村の健全な発展は不可欠であります。ウルグアイ・ラウンド農業合意関連対策等の施策を総合的に実施し、農林水産業を誇りを持って携わることのできる魅力ある産業としてまいります。
二十一世紀にふさわしい創造性あふれた経済社会をつくっていくためには、我が国の最大の資源である人間の頭脳、英知を十二分に活用し、未来を支える有為な人材の育成や知的資産の創造を行い、経済フロンティアの拡大を図ることが必要であります。
科学技術の振興は、人類共通の夢を実現する未来への先行投資であります。「科学技術創造立国」を目指して、政府研究開発投資の倍増を早期に達成するよう努めるとともに、産学官連携による独創的、基礎的研究開発の推進、若手研究者の支援・活用や若者の科学技術離れ対策といった科学技術系人材の養成・確保など、科学技術の振興を積極的に図ってまいります。
この関連で、昨年十二月に発生した高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故は我々に大きな教訓を与えました。先端技術の開発、実用化に際し、予期せぬ困難な事態が発生することは避けて通れません。重要なことは、そうした事態を直視し、国民や専門家の前にその事実を明らかにし、原因究明と徹底した安全対策、さらなる技術開発に真摯に取り組むことであります。今後、安全確保に力を注ぎ、積極的な情報開示を通じ、地元の方々を初めとする国民の皆様の御理解と信頼を得るよう全力を尽くしてまいります。
時間的・空間的制約を大幅に取り払い、情報や物の流れを一変させることにより生産性の向上や新規市場の創造に大きく寄与し、豊かな国民生活や高度な産業活動を創出する高度情報通信社会の建設も、この国が二十一世紀に向けてその取り組みを加速させるべき重要な課題であります。産業分野・公的分野の情報化、ハード・ソフト両面にわたる情報通信インフラの整備、情報通信技術の開発などを積極的に推進してまいります。
第二は、長生きしてよかったと思える長寿社会の建設であります。現在、我が国は世界一の長寿国家となっております。これは我々が長年目指してきた目標が達成されたものであり、大いに誇るべき成果でありますが、これからの課題は、いかに社会全体として長寿を支え、一人一人が長生きしてよかったと実感できる社会を創出していくかにあります。
二十一世紀の超高齢社会において、中高年人口がさらに増大し、若年人口が減少する中で、いかにこの国の活力を維持・増進していくのか、女性や高齢者のより積極的な社会活動への参画をいかに実現するのか、そのためにもこれまで主として家庭で対応されてきた高齢者介護や子育ての問題をいかに社会が支援していくのか、その費用負担のあり方をどのように考えるのか、子供たちに家庭にかわるどのような環境を用意できるのか、これに対するシステムづくりが必要となっております。老若男女を問わず、社会のさまざまな構成員が自立しつつ、相互に支え合い、助け合い、ともに充実した人生を送ることのできる長寿社会の建設に向けて、福祉、教育、国民の社会参加のあり方を総合的にとらえ直すことが今まさに求められております。
特に、国民の老後生活の最大の不安要因である介護の問題については、高齢者や障害者が生きがいを持って幸せに暮らしていけるよう、新ゴールドプランや障害者プランを着実に推進し、介護サービスの基盤整備に努めるとともに、保健・医療・福祉にわたる高齢者介護サービスを総合的・一体的に提供する社会保険方式による新たな高齢者介護システムの制度化に向けて全力で取り組んでまいります。あわせて、高齢社会にふさわしい良質かつ効果的な医療を供給できるよう、医療保険制度の改革を進めるほか、エイズ問題については、和解による早期解決に全力を挙げるとともに、責任問題も含め、必要な調査を行い、医薬品による健康被害の再発防止に最大限の努力を尽くす所存です。
また、次代を担う子供が健やかに生まれ育つ環境づくりを進めるため、育児休業制度の定着や保育対策の充実など、エンゼルプランを着実に推進してまいります。さらに、社会のあらゆる分野に女性と男性がともに参画し、ともに社会を支える男女共同参画社会の形成に向け国内行動計画を見直し、施策の一層の充実を図るとともに、人権教育のための行動計画を早急に策定し、総合的な施策を推進するなど、人権が守られ、差別のない公正な社会を建設してまいります。
個性と創造力にあふれ、責任感と思いやりを持ち、将来の夢を生き生きと語ることのできる子供たちはこれからの日本の宝であり、また、我が国が国際化、情報化、技術革新といった変化に的確かつ柔軟に対応する上でも、教育の果たす役割は限りなく重要であります。最近問題となっている児童生徒のいじめの問題や、前途ある若者が社会的な役割を見出せず、非道な行動に走ってしまったオウム真理教関連事件が投げかけた問題に対応するためにも、二十一世紀を展望し九個性や創造性重視の方針を一層推し進め、与えられた問題の解答を見つける能力だけではなく、問題そのものを発見し、それを解決する能力を備えた人材を育てる教育を実践するために、教育改革を推進してまいります。
また、国民一人一人にとって生きるあかしや生きがいであるとともに、一国にとってもその最も重要な存立基盤の一つである文化や芸術、スポーツの振興も重要であります。これからの日本は、古来の伝統文化を継承しながらすぐれた芸術文化の創造・発展に取り組み、さらに世界への発信を図る新しい文化立国を目指してまいります。
我々は、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会活動や生活様式を問い直し、祖先から受け継いだ健全で恵み豊かな自然環境を将来に伝えていかなければなりません。このため、環境基本計画に基づき、人と環境との間に望ましい関係を築くための総合的施策の推進に全力を挙げるとともに、地球温暖化を初めとする地球環境問題について、我が国の国際的地位にふさわしい積極的な役割を果たしてまいります。
先般、村山内閣においてその解決を見ることができた水俣病問題については、誠意を持って必要な施策を推進するとともに、この悲劇を貴重な教訓として今後の環境行政に生かしていく所存です。
また、ふえ続ける廃棄物の処理対策については、消費者、事業者、市町村の協力のもとに、ごみの減量化やリサイクルを推進することにより、リサイクル型社会の実現に向け総合的な支援措置を講じてまいります。
昨年の大震災やオウム真理教関連事件などの凶悪事許を契機に我が国が誇る良好な治安に陰りが生じており、国民の安全を守る危機管理体制の強化が重要な課題となっております。「危機」自体の事前予測が困難である以上、危機管理にとって大切なことは、危機が生じた際の「人」と「システム」であるとの考え方に立ち、政府の安全対策、危機管理体制の強化に全力を傾けてまいります。
災害に強い国づくり、町づくりを進めることが安全に暮らせる社会づくりの基本であります。阪神・淡路大震災から一年が経過いたしましたが、引き続き本格的な復興に向けて政府一体となって取り組んでまいります。政府は、この大震災を貴重な教訓に、災害の予防に加え、災害時の情報収集・伝達・意思決定体制の強化など総合的な災害対策の充実、危機管理体制の強化に取り組む所存であります。
また、最近の極めて厳しい治安情勢に対応するため、各国との連携強化などの国際協力を含め、政府を挙げてテロ対策を推進するとともに、国内の銃器摘発や海外からの流入阻止などの総合的銃器対策、さらには覚せい剤、大麻等薬物対策に全力を挙げ、国民の不安解消と安全な社会環境づくりに努めてまいります。
多くの国民にとって現在最も切実な問題である住宅、通勤等の問題を早急に解決することも、ゆとりある国民生活を実現するために必要不可欠な課題であります。こうした問題の多くの根源となっている一極集中を是正し、国際化の進展や活力に満ちた地域社会の形成にも配慮しつつ、災害に強い国土づくりや国土の均衡ある発展を目指していかなければなりません。このため、住宅や交通基盤整備、職住近接の都市構造の実現を初め、生活者重視の視点に立って各種社会資本整備に努めてまいります。また、今後、国民各層との意見交換も行いつつ、複数の国土軸の形成を含め新しい国土計画の策定に積極的に取り組むほか、北海道や沖縄の開発、振興にも引き続き力を注いでまいります。
外交面での私の基本方針は、「自立」であります。かつてのように世界の政治経済情勢を与えられた前提として行動する国家ではなく、今や我が国は、従来型の国際貢献からさらに歩を進め、国際社会に受け入れられる理念を打ち立て、世界の安定と発展のためみずからのイニシアチブで行動する国家であるべきであります。このことが、国際的に相互依存関係が高まる中、我が国の安全と繁栄を確保するためにも最良の道であると確信しております。
国際社会においては、依然として、地域紛争、大量破壊兵器の拡散、環境破壊や貧困など重要問題が山積しております。今年は我が国が国連に加盟して四十周年に当たりますが、これらの問題の解決に当たっては、国連が重要な役割を果たしていく必要があります。我が国としては、財政改革、経済・社会分野での改革及び安保理改革などについて、本年秋までにできる限り具体的な成果が得られるよう、他の国連加盟国と協力しつつ、引き続き努力してまいります。安保理常任理事国入りの問題については、我が国は、国連改革の進展状況やアジア近隣諸国を初め国際社会の支持と一層の国民的理解を踏まえ対処することといたします。
冷戦終結後の世界平和を脅かす脅威の一つに地域紛争があります。地域紛争は、その地域の問題であるのみならず、国際社会全体の枠組みの構築にかかわるグローバルな問題でもあります。我が国としては、その予防と解決のため、外交努力や人道・復興援助とともに、平和維持活動など国連の活動に人的な面や財政面で積極的に貢献してまいります。
特に、旧ユーゴにおける紛争は、新しい国際協力の実効性を問う試金石となっております。先般の包括和平合意による大きな進展を永続的な真の和平の確立につなげていくために、国際社会の和平・復興努力に積極的に参画してまいります。中東和平問題に関しては、昨年九月にイスラエルとPLOの間で暫定自治の拡大の合意が成立をいたしました。ラビン首相の暗殺は我々に大きな衝撃を与えましたが、平和への潮流は確固たるものがあります。我が国は、さきのパレスチナ評議会選挙に協力するため、国際監視団への参加や物資供与を行いましたが、二月には、ゴラン高原に展開している国連兵力引き離し監視隊に自衛隊部隊等を派遣するなど、今後とも積極的な貢献を行ってまいります。
核兵器を初めとする大量破壊兵器の軍縮と不拡散、通常兵器の移転抑制のための取り組みについても、その強化に努めてまいります。我が国は、唯一の被爆国として、核兵器の究極的な廃絶に向け、すべての核兵器国が核軍縮に真剣に取り組むよう訴えてきており、昨年の国連総会では、我が国提出の核軍縮決議及び核実験停止決議が採択されました。いまだに一部の国により核実験が繰り返されていることは極めて遺憾であり、核実験の停止を強く求めていくとともに、全面核実験禁止条約交渉が本年春に妥結され、秋には署名ができるよう最大限の努力を払ってまいります。
我が国を含むアジア太平洋地域の安全保障の確保は、世界平和の大前提であります。政府としては、日本国憲法のもと、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い、日米安保体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守ってまいります。また、昨年末に策定された新防衛大綱及び新中期防衛力整備計画に従い、現行の防衛力の合理化・効率化・コンパクト化を一層進めるとともに、必要な機能の充実と防衛力の質的な向上を図ることにより、多様な事態に対し有効に対応し得る防衛力の整備に努めてまいります。
我が国の国際社会における地位にかんがみ、特に重要であるのが世界経済の繁栄への新たな枠組みづくりであります。世界経済のさらなる発展のためには、WTOのもとで多角的自由貿易体制の一層の強化を通じ、貿易・投資の拡大均衡を図っていくことが重要であります。本年末の第一回閣僚会議を念頭に置き、地域統合の問題や貿易政策と投資、環境、競争政策との関係に関して新しいルールづくりに取り組むとともに、紛争処理機能の強化に努めてまいります。
途上国の開発への支援についても、我が国としては、国際社会の枠組みとなるべき新たな開発戦略の策定を国連等の場において提唱しており、引き続きこの作業に貢献してまいります。政府開発援助大綱を踏まえ、アジア地域を中心とする経済ダイナミズムの発展に貢献するため、援助と貿易・投資、マクロ経済政策等を有機的に連携させた「包括的アプローチ」により、総合的な経済協力を推進してまいります。また、市場経済化にどう取り組むかは世界的に重要な課題であります。途上国における民主化の促進、市場志向型経済導入の努力に十分注意を払いつつ、各国の経済の発展段階に即した形で最適な支援を行っていくことも我が国の大きな役割であります。
環境、人口、食糧、エネルギー、人権、難民、エイズなど、地球規模の問題の重要性はますます増大しております。我が国が世界に誇る技術や過去の経験をもって、引き続き国際社会の共通の認識や枠組みづくりに向けて全力で取り組んでまいります。さらに、世界的に環境調和型の経済社会の発展を促すため、新エネルギーの開発・導入、環境負荷の低減に資する研究開発、新産業創出などに精力的に取り組んでまいります。また、海洋の法的秩序に関し包括的に定めている国連海洋法条約の早期締結を目指し、あわせて我が国の海洋法制の整備を行うため、所要の準備を進めてまいります。
さらに、我が国の世界経済における役割を十分に自覚し、強靱な日本経済の再建に全力を尽くし、世界経済のさらなる活性化に貢献してまいります。また、内需を中心とした安定成長の確保や市場アクセスの改善などにより、引き続き経常収支黒字の意味のある縮小を図り、調和ある対外経済関係の形成に努めてまいります。
アジア太平洋地域は、我が国にとっても、世界経済全体にとっても年々その重要性を増しており、協力関係の一層の緊密化を図ってまいります。我が国は、昨年、APEC大阪会合を主催し、貿易・投資の自由化・円滑化、経済・技術協力の推進のための包括的な道筋を示す「行動指針」を採択し、APECは「ビジョン」の段階から「行動」の段階に移行しております。本年は、アジア太平洋協力にとって重要な試練の年であり、我が国としても、この協力の求心力を強めるような十分内容のある「行動計画」を策定し、この地域のさらなる発展に大きな役割を果たしていかなければなりません。安全保障面においても、この地域の発展の基盤となっている平和と安定を維持していくため、ASEAN地域フォーラム等における政治・安全保障対話への積極的な参画を通じて、域内の信頼の醸成に貢献してまいります。
各国との友好的な二国間協力関係の発展が外交の基本であることは言うまでもありません。私は、日米関係を基軸としつつ、地理的にも経済的にも密接な関係にあるアジア太平洋諸国を中核に、文明や文化の相違を衝突ととらえず、その共存を図るような、心の通い合う外交を展開してまいります。
日米関係は、我が国にとっても世界にとっても最も重要な二国間関係であり、アジア太平洋地域、そして世界の平和と安定のかなめであることを再認識し、クリントン大統領の訪日の機会もとらえ、幅広い協力関係を一層強化していく決意であります。特に日米安保体制は、日米協力関係の政治的基盤をなし、アジア太平洋地域の平和と繁栄にとって不可欠の役割を果たしており、これを堅持してまいります。
沖縄の米軍施設・区域の問題については、日米の信頼のきずなを一層深いものとするためにも、また、長年にわたる沖縄の方々の苦しみ、悲しみに最大限心を配った解決を得るためにも、先般設置された特別行動委員会等を通じ、日米安保条約の目的達成との調和を図りつつ、沖縄の米軍施設・区域の整理・統合・縮小を推進するとともに、騒音、安全、訓練などの問題の実質的な改善が図られるよう、誠心誠意努力を行ってまいる決意であります。
日米経済関係については、国際ルールにのっとり、日米包括経済協議の諸措置を日米双方において着実に実行することなどにより、引き続き適切な運営に努めてまいります。
日中関係については、安定した友好協力関係の発展に資するため、中国の改革・開放政策を引き続き支援していくとともに、核軍縮を含む国際社会の諸問題に関して対話を深めてまいります。
朝鮮半島政策に関しては、引き続き、韓国との友好協力関係を基本とし、日朝関係については、朝鮮半島の平和と安定に資するとの観点を踏まえつつ、韓国等との緊密な連携のもとに取り組んでいく考えであります。北朝鮮の核兵器開発問題については、今後とも、米国、韓国を初めとする諸国とともに、米朝合意の着実な実施のため、朝鮮半島エネルギー開発機構への積極的な協力を行ってまいります。
本年は、日ソ共同宣言による国交回復後四十周年に当たりますが、日ロ関係については、ロシアの政治情勢を注視しつつ、東京宣言に基づき、北方領土問題を解決し、両国間の完全な正常化を達成するために一層の努力を傾ける所存であり、ロシア政府もこの問題に真剣に取り組むことを強く希望いたします。
我が国として、アジア太平洋のみならず、世界のすべての地域の国々との積極的な協力関係を促進していく必要があることは当然です。特に、EUの拡大と深化により一体性を強め、国際社会における重みを増しつつある欧州との広範な協力関係の維持、発展は重要な課題であります。三月には、タイにおいて初のアジア欧州首脳会合が予定されており、この機会もとらえ、地域間の対話と協力の強化に貢献してまいります。
以上申し上げた内外政上の課題の解決を図るためには、まず行政みずからが、時代の潮流変化を踏まえ、大きな価値観の転換を遂げていかなければなりません。私は、二十一世紀にふさわしい政府とは、国民に対して開かれた民主的な存在であるとともに、緊急時には機敏に強いリーダーシップを発揮し得る存在であり、また、市場原理を最大限発揮させ、住民に身近な行政は地方にゆだねる簡素で効率的なものでありつつも、真に国民が必要とする施策に対しては十分な配慮を行い得るような存在でなければならないと考えております。こうした一見相反するような性格を持った政府、このような政府を目指した改革がその本質を見失わないためには、常に、何のための政府であるのか、だれのための改革であるのかを国民の視点に立って見直すことが必要であります。このことこそが、私が求める行政改革、すなわち、改革のための改革ではなく、根本的な問いかけに答える行政改革であります。
我々は、いま一たび初心に立ち返り、「主権在民」、「公務員は全体の奉仕者」という基本的な理念を胸に、内外の社会情勢の変化を踏まえて行政の制度・運営を根本にさかのぼって見直し、各界の意見を謙虚に受けとめ、そして尊重しつつ、行政の改革を推進していかなければなりません。
行政の改革の第一は、規制の思い切った緩和であります。まず、規制緩和推進計画に沿って計画的な規制の緩和を推進するとともに、本年度末までに同計画の第一回目の改定を行います。改定に当たっては、さきの行政改革委員会の意見を最大限に尊重し、内外の要望を踏まえながら、新たな規制緩和方策を積極的に盛り込むとともに、その実行を強力なリーダーシップにより確保してまいります。
国と地方との関係においては、住民に身近な行政は住民が直接選んだ首長の責任のもとに地方公共団体がその事務を行うという地方自治の大原則を名実ともに実現させなければなりません。政府としては、本年三月の地方分権推進委員会の中間報告とその後の具体的な勧告を受け、直ちに地方分権推進計画の策定に取りかかり、権限委譲や国の関与の緩和や廃止、機関委任事務の抜本的な見直し、地方税財源の充実強化、分権の受け皿たる地方行政体制の整備など地方分権の流れを思い切って加速化させてまいります。
行政改革の中核の一つは中央官庁自身の改革であります。今後の規制緩和の進捗状況や地方分権推進計画に基づく行政事務の再配分のあり方も踏まえつつ、縦割り行政の弊害防止や抜本的な行政改革の実施の観点から、中央省庁のあり方についても真剣な検討を進めてまいります。また、内閣機能の強化の観点から、内閣総理大臣補佐官の設置等を内容とする内閣法改正案を今国会に提出いたします。
透明で効率的な行政の実現も極めて重要な課題であります。情報公開法の早期の制定に向けて、行政改革委員会の今年内の意見具申に向けての調査審議を促進するとともに、審議会等の透明化についても具体化を進めてまいります。行政の効率化、肥大化防止の観点からは、省庁間を結んだネットワークの計画的整備など行政の情報化を推進するとともに、国家公務員の定員の計画的削減を継続してまいります。特殊法人改革についても、同様の考え方に立ち、九法人の統廃合、民営化等を行うほか、財務内容等の積極的公開を含め継続的な改革を推進してまいります。
首都機能の移転については、我が国の政治、行政、経済、社会の改革を進める上でも極めて重要な課題であります。昨年十二月には国会等移転調査会の報告が取りまとめられたところであり、今後はこの報告を踏まえ、首都機能の移転の一層の具体化に向け、内閣の重要課題の一つとして取り組んでまいります。
行政改革の適切な実現のためには、今申し上げた規制緩和、地方分権、首都機能移転、中央省庁の改革などの諸課題が有機的に組み合わされ相乗効果を上げるよう調整を行うことが極めて重要であり、私としても、これらの取り組み相互の有機的な連携を図ることに意を払ってまいります。
行政改革と常に一体となって語られなければならないのが財政改革であります。
我が国財政は、公債残高が来年度末には約二百四十一兆円に増加する見込みであり、厳しい税収動向も相まって、もはや危機的状況と言っても過言ではありません。急速に進展する人口の高齢化や国際社会における我が国の責任の増大など今後の社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応し、真に必要とされる政策分野に財政資金を投入していくためにも、できるだけ速やかに健全な財政体質をつくり上げていくことが緊急課題であります。言うまでもなく、国の財政は国民のものであり、その受益者も国民であり、負担者も国民であります。政治家一人一人が国民の代表としての自覚を持って、一刻も早い財政の規律の回復に努めなければなりません。
税制については、活力ある高齢社会を目指し、公平・中立・簡素という租税の基本原則に基づき、不断の改革が必要であります。五%とすることが法定されている消費税率については、社会保障等に要する財源の確保や行財政改革の推進状況等を踏まえつつ、本年九月という法律上の期限に向け鋭意検討を進めてまいります。
行政改革を実現する上でしばしば問題となるのは、政と官の関係であります。私は、政と官とを対立構造でとらえるのではなく、政治家の強い意志と責任で大きな改革の方向づけを行い、行政官は専門的知識によりこれを補完するという協力関係をつくり上げねばならないし、その最終責任は、行政の最高責任者でもある我々政治家が持たなければならないと考えております。昨年の参議院議員選挙や統一地方選挙で示された国民の政治不信や政治への無関心は極めて深刻であります。このような状況を打開し、国民の政治への信頼と関心の回復を図るには、政治の浄化への不断の取り組みに努めるとともに、国会等の場で真に国家や国民本位の政策論争を国民の目に見える形で行わなければなりません。そのことこそが現在最も必要な政治改革であり、こうした政治の改革を通じてのみ真の行政の改革も実現し得るものと私は確信しております。
平成八年は、戦後五十年を終え、二十一世紀の礎を築き、次なる百年の展望を切り開く新たな「挑戦」の年であるべきであります。来るべき世紀は、規制と保護に対して自由と責任という理念が、量的拡大に対して質的充足という価値観が、企業や組織に対して地域社会や家庭という存在が、それぞれその重みを増していく時代となりましょうし、また、そうなさねばなりません。我々が目指す社会は、そこに息づく国民一人一人が心豊かに平和に暮らせる社会であり、そのことを通じて国民はこの国に対する自信や誇りを、将来に対する夢や目標を再び手にすることができるようになるものと私は確信しております。
しかし、これを実現することは言葉で語るほど容易ではありません。我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはいきません。改革は容易ではありませんし、痛みを伴います。しかし、私たちの次の世代に希望と誇りのある日本の未来を託するためには、今こそ、勇気を持って、時代の要請にこたえ、この国の政治のあり方を、行政の成り立ちを、そして経済のシステムを変革し、創造していかなければなりません。
私は、この変革のときに重要な国政を担う内閣総理大臣として、そして一人の政治家として、以上申し上げた課題に全力を傾けてまいる所存であります。
国民の皆様と議員各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/11
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012・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 池田外務大臣。
〔国務大臣池田行彦君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/12
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013・池田行彦
○国務大臣(池田行彦君) このたび、私は、外務大臣を拝命いたしました。重要な局面を迎えている日本外交のかじ取りという重責を任され、身の引き締まる思いであります。私は、外交の継続性を確保しつつ、橋本内閣の一員として創造的外交を展開し、村山内閣のもとでの外交の諸成果をさらに発展させていくべく全力を尽くす所存であります。
国際情勢は依然として流動的であり、その先行きは不透明でありますが、冷戦終結後数年がたち、国際社会の努力が、少しずつではありますが成果を上げてきております。旧ユーゴ、中東では、地域紛争の解決に向けて注目すべき前進が見られております。アジア太平洋地域においても、北朝鮮の核問題解決に向けた動きが出てきております。国際社会の課題は、こうした好ましい動きを確固とした流れに変え、冷戦後の新しい枠組みを確立していくことであります。
このような国際情勢のもとで我が国外交の進路を考えるとき、私は、まず、国家間の相互依存関係が深まる中、我が国の安全と繁栄は、国際社会の平和と繁栄があって初めて可能であることを改めて強調したいと思います。また、我が国の行動いかんが世界の平和と安定に大きな影響を持つことも認識しなければなりません。私は、こうした点を踏まえ、我が国が新たな国際秩序の構築に向け創造的役割を果たすべく、全力を傾注する決意であります。
次に、新たな国際秩序を構築していく上で重要な幾つかの政策課題と我が国の取り組みについて申し述べたいと思います。
国際社会の平和と安定を確保するためには、地域紛争の解決に努めるとともに、未然に防止する努力を行っていくことが重要であります。これらの紛争の中には、地理的には日本から遠い地域のものもありますが、国際社会全体の枠組みの構築にかかわるグローバルな問題でもあり、我が国はその解決に積極的に関与し、適切な協力を行っていく必要があります。その意味で、旧ユーゴや中東で生じている平和の機運を一層確実なものとすることに協力していきたいと考えます。
旧ユーゴ紛争について、我が国は、昨年十二月のロンドン和平履行会議において、和平合意の誠実な履行を当事者に対し強く求めるとともに、総額約二十億円の難民支援を初め、和平の履行に協力していく姿勢を表明いたしました。我が国としては、引き続き和平履行運営委員会の一員として国際社会の努力に積極的に参画していくとともに、予防外交の観点から、周辺国に対する支援も引き続き実施していく考えであります。
中東においては、ラビン首相の暗殺という悲劇的な事件にもかかわらず、当事者の平和への確固たる意志に基づく努力が続けられており、国際社会はこれを引き続き支援していく必要があります。我が国は、パレスチナ評議会選挙のための国際監視団への参加や物資供与を含め、引き続きパレスチナ暫定自治に対する支援に積極的に取り組むとともに、ゴラン高原における国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に対する自衛隊部隊等の派遣を行います。
我が国としては、地域紛争の解決のため、外交努力や人道・復興援助等の協力とともに、平和維持活動を含む国連の活動に人的な面や財政面で引き続き積極的に貢献してまいります。
第二に、核兵器を初めとする大量破壊兵器の軍縮と不拡散、通常兵器の移転抑制についての取り組みが重要であります。我が国は、昨年の国連総会において、軍縮に関する決議案のうち十五の決議案の共同提案国となりましたが、特に四本の決議案については実質的に主導して作成するなど、積極的にイニシアチブを発揮しております。
核軍縮に関しては、昨年五月の核不拡散条約無期限延長の決定を受け、我が国は、唯一の被爆国として、核兵器の究極的な廃絶に向けてすべての核兵器国が核軍縮に真剣に取り組むよう訴えてまいりました。国連で、我が国が共同提案国として提出した「核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮決議」及び「核実験の停止を求める決議」が多数の国の支持を得て採択されたことは、こうした外交努力の成果の一つであります。我が国は、すべての国がこの核実験停止決議に示された国際社会の意思を真摯に受けとめ、核実験を行わないよう引き続き強く求めていきます。また、全面核実験禁止条約(CTBT)交渉が本年の春に実質的に妥結され、秋には署名されるよう最大限の努力を行ってまいります。
通常兵器に関しては、同じく我が国が共同提案国として提出した「小火器に関する決議」が国連で採択され、小火器の過剰な蓄積と移転の防止に関する政府専門家による報告書が第五十二回総会に提出されることとなりました。また、昨年十二月には、通常兵器及び関連汎用品・技術についての新たな国際的輸出管理体制の設立が決定されました。我が国は、今後とも通常兵器の過度の移転と蓄積の防止のために積極的に取り組んでまいります。
第三に、我が国は世界経済の持続的発展の確保に主要な役割を果たさなければなりません。経済の相互依存の深化に伴い、我が国の経済の動向や政策は、各国の経済と強い相関関係にあります。こうした状況を踏まえ、我が国として世界経済の安定的運営に貢献するためにも、思い切った規制緩和を初めとした経済のさらなる活性化を図るとともに、国際社会と調和のとれた経済社会の実現を引き続き目指してまいります。
世界経済の持続的発展を確保するために、世界貿易機関(WTO)の発走を踏まえ、多角的自由貿易体制の強化にも一層の努力を払う所存であります。WTOにおいては、本年十二月に予定されているシンガポールでの第一回の閣僚会議に向け、ウルグアイ・ラウンド合意の着実な実施、サービス分野での継続交渉の期限内の妥結、いわゆる「ウルグアイ・ラウンド後の新しい課題」への取り組み、紛争解決手続の強化といった面で、実質的成果を達成すべく積極的役割を果たす所存であります。また、昨年秋以降、経済協力開発機構(OECD)において多数国間投資協定交渉が開始されましたが、その成功に向けて積極的に取り組んでまいります。
第四に、開発問題への取り組みであります。
アフリカ諸国を初め多くの開発途上国は、依然として貧困と飢餓に悩み、アジア太平洋や中南米の諸国も経済成長過程に伴う新たな課題を抱えております。また、旧ソ連諸国や中東欧諸国は市場経済への移行の途上でさまざまな困難に直面しております。これらの諸国の個々の状況に応じて、その経済的・社会的発展を促し、民主的制度づくりに協力し、国際社会に組み込んでいくことは、国際秩序の安定を導くものであります。
その一方で、多くの援助国においては、いわゆる「援助疲れ」が見られております。こうした状況にかんがみ、我が国は、新たに長期的な開発戦略を策定する必要性を強調し、国連における「開発のための課題」に関する議論に積極的に貢献する姿勢を明らかにしてまいりました。我が国としては、今後とも、政府開発援助大綱に基づき、政府開発援助の効果的・効率的な実施及びその拡充に努めてまいる所存でありますが、同時に、開発戦略が早期にまとまるよう積極的に知恵を出し、議論を促進してまいりたいと考えます。
第五に、環境、人口、人権、難民、麻薬、テロなどの問題は、国際社会が一致して取り組むべき地球規模の問題であり、我が国の国際貢献の最も重要な柱の一つであります。今後とも、我が国の知識や経験を生かし、国際社会と協力して問題解決に取り組んでまいります。
我が国は、第四回世界女性会議において諸国の関心の高かった女性に対する暴力の問題に関する決議案を、昨年十二月、国連総会に提出し採択されました。
また、我が国は、海洋国家として、新たな海洋の法的秩序の確立に積極的に貢献していくことが期待されています。国連海洋法条約は海洋の法的秩序に関し包括的に定めておりますが、政府としては、この条約を早期に締結したいと考えており、今次国会に提出することを目指して準備を進めているところであります。
これらの諸課題に取り組んでいくに当たっては、国際協調の強化が不可欠であります。その際、二国間の協力関係、アジア太平洋地域における協力、国連やWTOを軸とするグローバルな協力をそれぞれ強化していくとともに、三つの同心円として相互に関連づけながら発展させていくことが重要であると考えます。
各国と良好な二国間関係を築き上げていくことは、我が国外交の基礎であるとともに、グローバルな協力、地域協力を進める上でも重要であります。
二国間関係の中で日米関係は、日本外交の基軸であり、日米間の幅広い分野における協力関係を引き続き強化していく必要があります。特に、日米安保体制は我が国の安全保障政策の主要な柱の一つであり、日米協力関係の政治的基盤をなしているのみならず、アジア太平洋の平和と繁栄を維持する上で重要であります。このため、我が国としては、日米安保体制を堅持するとともに、引き続きその円滑かつ効果的運用に努めてまいります。
他方、沖縄県においては、米軍の施設・区域が集中していることから種々の問題が生じております。私は、沖縄県の方々のこれまでの御苦労に思いをいたしながら、関係者のお気持ちにもできるだけ配慮してまいる考えです。その意味で、沖縄における米軍施設・区域の整理・統合・縮小及び関連する諸問題については、日米安保条約の目的達成との調和を図りつつ、昨年十一月設置された「沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会」において一年以内を目途に目に見える具体的な成果を上げるよう米側と協力して努力してまいる所存であります。
日米経済関係については、まず、日米包括経済協議のもとでの決着内容を日米双方が着実に実施していくことが重要であります。同時に、日米両国が地球規模問題へ共同して取り組む枠組みであるコモン・アジェンダの拡大・深化を図ることなどにより、日米間の協力を推進していく必要があると考えます。本年四月にはクリントン大統領が訪日されますが、我が国としては、この訪日を、新たな時代における日米関係の意義を確認し、以上のような幅広い分野における日米協力を総括する機会として重視しており、今後、米国政府と協力して、大統領訪日を成功させるべく準備を進めてまいります。
以上のような考えのもと、私は十八日より訪米し、クリントン大統領、ゴア副大統領、クリストファー国務長官、ペリー国防長官に対し、日米関係を最重視するとの橋本内閣の考え方を伝え、日米関係をさらに発展させていくことについて意見の一致を見たところであります。
共通の価値観を有し安全保障上等の利害をともにする韓国との友好協力関係は、両国のみならず北東アジアの平和と安定のために重要であり、またアジア太平洋やグローバルな問題にも一層協力して取り組むべく、引き続き関係を強化していく考えであります。
北朝鮮情勢については、今後ともその動向を注視していく必要がありますが、日朝関係については、第二次世界大戦後の日朝間の不正常な関係を正すとともに、朝鮮半島の平和と安定に資するとの二つの観点を踏まえ、韓国等と緊密に連携しながら対応してまいります。
北朝鮮の核兵器開発問題については、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)と北朝鮮との間で軽水炉供与のための供給取り決めが締結されたことを受け、今後とも米国及び韓国と緊密に協力し、KEDOに対する積極的な貢献を行ってまいります。
中国との間では、友好協力関係を維持・発展させ、また国際社会においてともに協力していくことが重要であります。我が国としては、今後、新しい未来志向の日中協力の時代を築いていく考えであり、中国の改革・開放政策を引き続き支援するとともに、さまざまな分野において協力関係を一層深めてまいります。
また、旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の問題については、政府として、先般批准した化学兵器禁止条約の精神を踏まえつつ、誠実に対応していく所存であります。
ロシアとの関係では、本年六月に大統領選挙が予定されており、引き続きその内政動向を注視していく必要があります。我が国としては、ロシアの改革が後退することなく継続されることを強く支持するものであります。
日ロ関係は、本年は日ソ共同宣言による国交回復四十周年を迎える節目の年であり、北方領土問題の解決が最重要課題であります。種々の分野における両国間の実務関係を着実に進めるとともに、東京宣言に基づき領土問題を解決し、両国関係の完全な正常化を達成するためになお一層の努力を傾けてまいります。
欧州との関係についても、統合を進める欧州連合(EU)を初め、各国との間で幅広い分野において対話・協力を進めており、今後とも日欧関係の一層の強化に努めてまいります。
アジア・太平洋地域は政治的安定を背景にダイナミックな経済発展が進み、域内の相互依存関係が深化し、世界の成長センターとなっております。この地域の安定と繁栄は日本の安全と繁栄を確保するために重要であり、我が国としては、北米、アジア、中南米、大洋州諸国等との協力関係を基礎として、政治・経済両面でアジア太平洋の地域協力の強化に努めてまいります。
アジア太平洋経済協力(APEC)については、我が国は、昨年十一月、議長国として大阪で閣僚会議及び非公式首脳会議を開催しましたが、我が国のリーダーシップのもと、貿易・投資の自由化・円滑化及び経済・技術協力の推進のための包括的な道筋を示す「行動指針」が採択されました。これにより、APECは「ビジョン」の段階から「行動」の段階に移行したと言えます。本年のフィリピン会合には、各メンバーが「行動指針」を実施するための「行動計画」等を提出することとなっております。我が国としても、内容のある前向きな「行動計画」の策定を含め、APECのさらなる進展に引き続き積極的に貢献してまいります。
ASEAN地域フォーラム(ARF)については、昨年の第二回外務大臣会合で、まずもって信頼醸成措置を重視しつつ漸進的に具体的協力を進めていくことが合意されましたが、去る十八、十九両日、我が国が東京においてインドネシアと共催した信頼醸成措置に関する政府間会合は、その第一歩として有意義なものでありました。我が国は、今後ともアジア太平洋地域における政治・安全保障対話の場であるARFに積極的に関与し、域内諸国間の信頼醸成の促進に努めてまいります。
我が国は、地域協力を国連やWTO等グローバルな枠組みと整合的な「開かれた協力」として実行していくとともに、グローバルな枠組みの一層の強化に努める必要があります。
国連は、グローバルな枠組みの重要な柱であります。創設五十周年を迎えた国連が時代の要請に適合した役割を果たすためには、国連の機能強化のための改革を推進していく必要があります。我が国は、昨年九月の国連総会における演説で、財政改革、経済・社会分野での改革及び安保理改革が必要であることを強調するとともに、憲法が禁ずる武力の行使は行わないという点を含む我が国の国際貢献に関する基本的な考え方のもとで、多くの国々の賛同を得て安保理常任理事国としての責任を果たす用意があることを改めて表明いたしました。また、昨年十二月には、旧敵国条項の削除のための憲章改正手続を将来の最も至近の適当な会期において開始する旨の総会決議が採択されました。我が国は、今後とも他の国連加盟国と協力しつつ、国連改革に率先して取り組んでまいります。
共通の価値を分かち合っている日米欧の主要各国間の密接な協力と政策協調は、国際社会の諸課題への取り組みに当たって不可欠になっており、主要国首脳会議(サミット)等を通じての協力・政策協調を強化してまいります。本年は六月のリヨン・サミットに先立ち、四月に原子力安全等に関するモスクワ・サミットが開かれますが、我が国はこれらの会合に積極的に取り組んでまいります。
また、本年三月には、タイにおいて、初の首脳レベルのアジア欧州会合(ASEM)が予定されております。我が国としては、この機会に、相互の地域情勢についての理解を深めるとともに、アジアと欧州の間で幅広い分野についてグローバルな視点に立った対話と協力の強化に努めてまいる所存であります。
各国との協力を強化していくためには、お互いの文化に触れることを通じて、異なる社会的文化的背景を持つ者同士が尊敬し合える基礎をつくっていくことが必要であります。我が国としては、従来にも増して文化交流、文化協力に積極的に取り組んでまいりたいと思います。科学技術分野での国際協力についても、我が国の国際社会における役割を積極的に果たすとの観点から一層強化してまいります。また、海外広報活動に積極的に取り組んでまいります。
また、近年、日本人の海外渡航者が増加しており、海外邦人の安全対策の強化が一層重要になっております。政府としては、今後とも邦人保護体制及び危機管理能力の一層の強化に努めるとともに、機動的かつ的確な外交を推進するため、外交実施体制の強化にも取り組んでまいります。
外交の根本にあるのは、各国との相互理解と相互信頼のきずなであります。昨年は戦後五十周年という節目の年でありましたが、次の五十年の始まりを迎え、今後ともアジア近隣諸国等との間の過去の歴史を直視し、将来に向け各国との相互理解や相互信頼を促進すべく積極的に取り組んでいく所存であり、このため昨年開始した平和友好交流計画の推進を初めとする諸課題に着実に取り組んでまいります。私は、こうして培われる各国との信頼関係を基礎として国際協調を進め、さまざまな外交課題に対処してまいる決意であります。
また、我が国の国際化の進展とともに、内政と外交は一体となってきております。私は、世論に十分耳を傾けて、国民の皆様のより一層の御理解と御支持を得て外交を推進していく所存であります。
何とぞ、議員各位、国民の皆様の一層の御支援と御協力をお願い申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/13
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014・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 久保大蔵大臣。
〔国務大臣久保亘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/14
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015・久保亘
○国務大臣(久保亘君) 私は、平成八年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。
まず、昨年の阪神・淡路大震災の発生より一年がたちましたが、今なお多くの困難に立ち向かっておられる被災者の方々にお見舞いを申し上げます。震災の復興が一日も早く進むことをお祈りしますとともに、政府としても、引き続き諸施策の実施に万全を期してまいりたいと考えております。
我が国経済は、これまで、国民のたゆまぬ努力と研さんにより幾多の困難を克服し、世界経済が持続的に成長する中で目覚ましい発展を遂げてまいりました。
しかしながら、戦後五十年という一つの区切りを終えた我が国は、現在、成熟化社会への移行、少子・高齢化の進展、あるいは情報通信の高度化などの避けては通れない構造的な変化に直面しており、今こそ国民一人一人が豊かに暮らせる自由で活力ある社会の創造に向けて経済構造の改革を強力に推進していく必要があります。
一方、対外的には、経済活動の国際化が一層進展する状況のもと、世界経済の繁栄と健全な発展に向けた新たな枠組みづくりに積極的に参画していくことが求められております。
まず、最近の内外経済情勢について申し上げます。
我が国経済の現状を見ますと、個人消費、設備投資及び住宅投資などに明るい動きが見られ、景気には緩やかながら足踏み状態を脱する動きが見られるところであります。
一方、国際経済情勢を見ますと、先進諸国ではこのところ景気減速の動きがあるものの、旧計画経済諸国では回復の兆しが見られ、また、開発途上国ではアジアを中心に景気は拡大を続けており、世界経済は全体として拡大基調を維持しております。
私は、今後の財政金融政策の運営に当たり、このような最近の内外経済情勢を踏まえ、以下に申し述べる諸課題に全力を挙げて取り組んでまいる所存であります。
第一の課題は、景気回復を一日も早く確実なものとすることであります。
政府としては、昨年九月の経済対策の策定や年末の住専問題の具体的な処理方策の取りまとめなど、これまで経済運営には万全を期してきたところでありますが、これら諸施策の着実な実施により、このところ見られている明るい芽を育てていくなど、引き続き適切かつ機動的な経済運営に努めてまいります。
八年度予算編成においても、我が国の現下の経済情勢を踏まえ、異例に厳しい財政事情のもとではありますが、公共投資の着実な推進を図るとともに、我が国経済の中長期的な安定成長に向けて経済の構造改革の実現のための措置を実施することとしております。さらに、八年度税制改正において、七年度と同規模の所得税・個人住民税の特別減税を継続して実施するほか、土地税制、証券税制等についても適切な対応を図ることとしております。
金融面では、昨年九月の公定歩合の引き下げを含めた累次にわたる金融緩和措置の実施により、各種金利は依然として低い水準にあり、今後ともその効果を見守ってまいる所存であります。
最近の為替相場の動向につきましては、一連のG7蔵相・中央銀行総裁会議における合意に基づいた各国の協調等により、円高是正が進んできております。今後とも、為替市場において関係各国と緊密に協力してまいりたいと考えております。
第二の課題は、財政改革の推進であります。
我が国財政は、昭和五十年度以降十五年間にわたり多額の特例公債の発行を余儀なくされてきましたが、連年の歳出削減等の努力に加え、いわゆるバブル経済による高い税収の伸びにも恵まれ、平成二年度予算において特例公債の発行を回避することができました。その後、バブル経済の崩壊とともに税収が減少し続けるという、かつてない状況となりましたが、各年度の予算編成においては、財源対策としてさまざまな工夫を講ずることにより、何とか償還財源の手当てのない特例公債の発行を回避してまいりました。
しかしながら、八年度予算編成に当たっては、税収が七年度当初予算で見込んだ水準をさらに二兆円以上も下回る見込みとなる一方、さまざまな工夫も限界に突き当たり、多額の特例公債を発行せざるを得ない容易ならざる事態に立ち至りました。
他方、経済情勢の変動に対しては、財政として可能な限りの対応をしてきた結果、近年公債残高は急増し、八年度末には約二百四十一兆円に達する見込みであります。単年度で見ましても、八年度予算の公債発行額は二十一兆円にも上り、公債依存度は二八%と極めて高いものとなっております。こうした事態が今後も続くようなこととなれば、高齢化の進展や国際的責任の増大など社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応することは困難となり、我が国経済社会の発展にとって重大な支障となりかねません。
先進各国は、長期の持続的成長に資するために中期的にさらに大幅な財政赤字削減が不可欠であることを、一連のG7蔵相・中央銀行総裁会議の場等で強調してきているところであります。
今後の財政運営においては、容易ならざる財政事情を厳しく受けとめ、できるだけ速やかに健全な財政体質をつくり上げていくことが基本的課題であります。そのためには、中長期的観点から行財政が果たすべき役割や守備範囲を見直していくことが必要となりますが、その過程で国民に痛みを分かち合っていただくことをお願いせざるを得ないことも考えられます。八年度予算は、特例公債を含む多額の公債発行という財政の厳しい実情を直蔵にお示しする姿となりましたが、これを地ならしとして、各位の一層の御理解と御協力を仰ぎつつ、新たな財政改革への歩みを進めてまいりたいと考えております。
第三の課題は、税制上の諸課題に適切に対応することであります。
平成六年十一月に成立した税制改革関連法においては、消費税と地方消費税を合わせた税率は、既に先行して実施している所得税・個人住民税の負担軽減とおおむね見合う形で九年四月一日から五%とすることが法定されているほか、いわゆる「検討条項」が盛り込まれております。今後、本年九月末という法律上の期限を勘案して、この税率について新たに法改正を要するかどうか検討を進めていく必要があります。さらに、法人課税などの諸課題についても、その検討に引き続き取り組んでまいりたいと考えております。
税制は、経済社会構造を支える基盤であります。政府としては、今後とも、我が国経済社会の構造変化等を踏まえつつ、公平・中立・簡素という租税の基本原則に基づいて、より望ましい姿を実現するよう不断の取り組みを行ってまいる所存であります。
第四の課題は、調和ある対外経済関係の形成と世界経済発展への貢献に努めることであります。
我が国としては、世界経済のインフレなき持続的成長の強化を目指して、G7蔵相・中央銀行総裁会議等を通じた政策協調を進めてまいります。また、我が国は、WTO、APEC等の場を通じ、多角的自由貿易体制の維持・強化に積極的に取り組んでおります。このような観点から、本年三月には議長国として京都において第三回APEC蔵相会議を開催し、マクロ経済や資金フローの問題等につき協議を行うこととしております。
関税制度につきましては、一層の市場アクセスの改善を図る等の観点から、ウルグアイ・ラウンド関税引き下げの前倒しなどの関税率等の改正を行うこととしております。
第五の課題は、金融システムの安定性の確保と証券市場の活性化を図ることであります。
金融は、経済活動に必要な資金の供給という、経済全体にとっていわば動脈ともいえる役割を担っており、健全で活力ある金融システムは、我が国経済の持続的発展のための不可欠の前提であります。こうした観点から、金融機関の不良債権問題につきましては、預金者保護、信用秩序の維持に最大限の努力を払いつつ、引き続き果断に対応し、できるだけ早期に本問題の解決が図られるよう全力を挙げて取り組んでまいります。
住宅金融専門会社をめぐる問題は、金融機関の不良債権問題における象徴的かつ喫緊の課題であります。この問題の処理に当たっては、住専からの資産等を引き継ぐために設立する「住専処理機構」に資金援助等を行う預金保険機構に設ける「住専勘定」に対して、財政資金六千八百五十億円を支出することといたしました。また、住専処理機構において引き継いだ資産に係る損失が生じた場合には、適切な財政措置を講ずることとしております。これらの財政措置は、住専問題の早期処理により、我が国金融システムの安定性とそれに対する内外からの信頼を確保し、預金者保護に資するとともに、我が国経済を本格的な回復軌道に乗せるため不可欠であり、やむを得ないものと決断したところであります。
住専問題の処理に当たっては、透明性の確保とともに、住専の経営責任を初め種々の責任の明確化等を図り、国民各位の御理解を得るよう全力を尽くしてまいります。このため、先般、住専各社のこれまでの経営状況の推移、不良債権の状況等、その経営内容に関する情報開示を行ったところでありますが、今後とも、本問題をめぐる情報開示について、衆参各院の御理解、御協力をいただきながら最大限の努力を払ってまいります。借り手の返済責任につきましては、預金保険機構の指導のもと、住専処理機構が過去の取引経緯、関係者の利害等にとらわれることなく、法律上認められているあらゆる回収手段を迅速かつ的確に用いることにより、債権回収を強力に行う体制を整備いたします。また、住専処理機構に資産等が引き継がれるまでの間、円滑な移行の準備及び債権の保全・回収に必要な措置を講ずるよう住専各社及び母体行に対し要請し、適切なフォローアップを行ってまいります。なお、借り手、貸し手に限らず、その他の関係者についでも、違法行為に対しては厳正に対処していく必要があると考えます。
さらに、過去の金融政策や金融検査・監督のあり方を総点検し、今後、金融機関における自己責任原則の徹底を図るとともに、市場規律が十分に発揮される透明性の高い新しい金融システムを早急に構築していく必要があり、ディスクロージャーの促進、早期是正措置の導入や検査・モニタリングの充実を図るほか、破綻処理手続の整備、預金保険制度の拡充等を進めてまいります。
以上の不良債権問題の早期解決と新しい金融システムの構築については、昨年十二月の金融制度調査会答申も踏まえ、所要の法律案を今国会に提出することといたしております。
次に、証券市場の活性化につきましては、市場が本来の機能を発揮する上で必要な環境整備を図ることが責務であるとの考えに立ち、昨年末には証券界からのヒアリングを踏まえた規制緩和措置を公表いたしました。また、八年度税制改正において有価証券取引税の軽減措置等を講ずることとし、本年一月からは社債の適債基準の撤廃等を行いました。引き続き一層の証券市場の活性化に努めてまいる所存であります。
次に、平成八年度予算の大要について御説明いたします。
八年度予算は、徹底した歳出の洗い直しに取り組む一方、限られた財源の中で資金の重点的・効率的な配分に努め、質的な充実に配慮することとし、厳しい財政事情の中にあって豊かで活力ある経済社会の構築等のために真に必要な経費の確保に努めたものとなっております。
歳出面につきましては、一般歳出の規模は四十三兆一千四百九億円、前年度当初予算に対し二・四%の増加と、抑制されたものとなっております。国債費は定率繰り入れの実施などの結果、十六兆三千七百五十二億円となっております。これらに地方交付税交付金、緊急金融安定化資金等を加えた一般会計予算規模は七十五兆一千四十九億円となっております。
国家公務員の定員につきましては、第八次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、二千百八人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。
補助金等につきましては、地方行政の自主性の尊重、財政資金の効率的使用の観点から、その整理合理化を積極的に推進することとしております。
次に、歳入面について申し述べます。
税制につきましては、当面の経済状況等を踏まえ、平成八年においても所得税の特別減税を継続して実施するとともに、土地税制等について適切な対応を図る一方、公益法人等に対する課税の適正化、租税特別措置の整理合理化その他所要の措置を講ずることとしております。
税の執行につきましては、今後とも、国民の信頼と協力を得て、一層適正かつ公平に実施するよう努力してまいる所存であります。
また、税外収入につきましては、外国為替資金特別会計からの一般会計への繰り入れの特別措置を講ずる等格段の増収努力を払っております。
公債につきましては、発行予定額を二十一兆二百九十億円としております。その内訳は、建設公債が九兆三百十億円、特例公債が十一兆九千九百八十億円となっております。
既に発行の授権をいただいております減税特例公債を除く特例公債の発行等につきましては、別途「平成八年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案」を提出し、御審議をお願いすることとしております。なお、借換債を含めた公債の総発行予定額は四十七兆五千九百億円となっております。
財政投融資計画につきましては、対象機関の事業内容等を厳しく見直すとともに、国民生活の質の向上等各般の政策的要請に的確に対応していくとの考え方に立ち、住宅建設、地域の活性化等の分野を中心に一層の重点的・効率的な資金配分を図っております。
この結果、一般財投の規模は四十兆五千三百三十七億円、前年度に対し〇・七%の増加となっております。また、資金運用事業を加えた財政投融資計画の総額は四十九兆一千二百四十七億円、前年度に対し一・九%の増加となっております。
なお、国債の円滑な消化に資するため、その引き受けについて資金運用部資金を積極的に活用することとしております。
次に、主要な経費について申し述べます。
公共事業関係費につきましては、社会資本整備を着実に推進しつつ、あわせて景気の着実な回復に資するため、所要の伸びを確保することとしております。
なお、その配分に当たりましては、「公共投資基本計画」等の考え方、国民のニーズ等を踏まえつつ、住宅、下水道、環境衛生等の国民生活の質の向上に直結する分野への配分の重点化を基本としながら、この中で、次世代の発展基盤となる分野、防災対策の充実等の諸課題にも適切に対処しております。
特に、住宅対策につきましては、住宅金融公庫融資の着実な推進、公共賃貸住宅の供給の促進など施策の拡充を図っております。
また、七年度末に期限の到来する八分野の五カ年計画につきましては、おのおの新たな計画を適切に策定することとしております。
社会保障関係費につきましては、障害者施策を総合的、計画的に実施するための障害者プランを新規に策定したほか、新ゴールドプラン及び緊急保育対策等を着実に推進するなど、国民生活に身近な福祉等の分野できめ細かな配慮を行っております。
雇用対策につきましては、新分野展開を担う人材育成、失業なき労働移動と新規雇用創出、新卒者等就職支援に重点を置いた「新総合的雇用対策」を充実・強化することとしております。
文教及び科学振興費につきましては、教育環境の整備、高等教育・学術研究の推進、文化の振興等を図るとともに、基礎研究の充実、若手研究者の支援・活用など科学技術の振興を図るため、各般の施策の推進に努めております。
中小企業対策費につきましては、中小企業の置かれている厳しい経営環境に配慮し、中小企業の技術開発及び新規創業等に対する支援措置を初め、各般の施策の充実を図っております。
農林水産関係予算につきましては、いわゆる新食糧法の施行等我が国農業・農村を取り巻く諸情勢を踏まえ、経営感覚にすぐれた効率的・安定的な経営体が生産の大半を担う農業構造の実現に重点を置くこととし、所要の施策の着実な推進に努めております。
経済協力費につきましては、NGOとの連携の強化等を通じてきめ細かな援助の実施に努めるほか、途上国における人づくり支援策の充実や、開発における女性の役割の重視などの新しい側面に十分配慮することにより、援助の一層の質の向上を目指しております。
防衛関係費につきましては、先般策定された「平成八年度以降に係る防衛計画の大綱」及び「中期防衛力整備計画」に沿って、効率的で節度ある防衛力の整備を図ることとしております。
エネルギー対策費につきましては、地球環境保全の重要性等も踏まえ、総合的なエネルギー対策の着実な推進に努めております。
地方財政につきましては、引き続き大幅な財源不足が見込まれますが、一方、国の財政事情は極めて厳しく、国と地方という公経済の車の両輪がバランスのとれた財政運営を行う必要があるという基本的考え方を踏まえつつ、地方財政の運営に支障を生じることのないよう所要の措置を講じ、地方交付税総額を適切に確保することとしております。地方公共団体におかれましても、従来にも増して歳出の節減合理化を推進し、より一層効率的な財源配分を行うよう要請するものであります。
緊急金融安定化資金につきましては、前述の住専問題の処理方策に基づき、預金保険機構に対する補助金等を計上しております。
この機会に、平成七年度補正予算(第3号)について一言申し述べます。
七年度一般会計補正予算(第3号)につきましては、歳入面では、最近までの収入実績等を勘案して租税及び印紙収入の減収を見込む一方、特例公債の発行等を行うとともに、歳出面では、地方交付税交付金の減額等を行うこととしております。なお、特例公債の発行につきましては、別途「平成七年度における租税収入の減少を補うための公債の発行の特例に関する法律案」を提出し、御審議をお願いすることとしております。
以上によりまして、七年度一般会計第三次補正後予算の総額は、第二次補正後予算に対し、歳入歳出とも一兆四十四億円減少し、七十八兆三百四十億円となっております。
以上、平成八年度予算及び平成七年度補正予算(第3号)の大要について御説明いたしました。
何とぞ、関係の法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。
私たちは、これから二十一世紀に向けて、多様性に富み豊かで活気にあふれた経済社会を力を合わせて構築していかなければなりません。
このためにも、もはや危機的状況にある財政の構造改革を図り、社会経済情勢の変化に弾力的に対応し得る健全な財政を一刻も早く確立するとともに、安定的な金融システムの構築に向けて自己責任原則の徹底と透明性の高い行政の推進が不可欠であります。
私は、前途に横たわる財政・金融上の幾多の諸課題に真正面から取り組み、課せられた責任を精いっぱい果たしてまいりたいと考えております。
国民各位の一層の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/15
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016・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 田中国務大臣。
〔国務大臣田中秀征君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/16
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017・田中秀征
○国務大臣(田中秀征君) 我が国経済の当面する課題と経済運営の基本的考え方について、所信を申し述べます。
現在、私たちは内外ともに歴史的な転換期に立っております。まず、我が国経済はようやく長引いた景気の足踏み状況から脱却し、新しい持続的安定成長に移行する転換期にあります。また、世界経済も戦後半世紀にわたる「冷戦体制」の枠内での競争から、名実ともに一元的な「世界経済」の大きな枠組みの中での自由で激しい競争の時代への転換期にあります。さらには、工業化社会をつくり出した二十世紀から情報化と知的生産に一層重きが置かれる二十一世紀へと、いわば文明史的な転換点に立っております。このような歴史の流れに的確に対応し新たな展望を切り開くためには、現在の経済社会の構造を抜本的に点検し改革していかなければなりません。
「改革なくして前進なし」、「構造改革なくして新たな発展なし」との認識のもと、すべての人が痛みを分かち合い、総力を挙げてこの時代の困難を克服していかなければなりません。そのためには、「隗より始めよ」の言葉のとおり、まず行政が率先して身を正し、痛みを引き受けることが何よりも必要であります。
初めに、内外の経済の状況について申し述べたいと思います。
世界経済は、社会主義国を含めて多くの国で市場経済が拡大・深化しております。最近のAPECの貿易・投資の自由化の動きが示すように、特にアジア太平洋地域において市場経済化が顕著に進んでおります。このような経済潮流の基本的変化は、従来の競争の範囲と厳しさを世界的規模に変え、いわゆる「大競争」の時代をもたらしつつあります。その結果、我が国経済は、一方で先端技術を持つ先進国経済と競い、他方で労働コストの面で圧倒的に優位にある途上国経済と競わざるを得なくなっております。言ってみれば、厳しい「二正面作戦」を強いられているこうした状況に対応するためには、果断でちゅうちょなき経済改革が求められているのであります。
他方、我が国経済は平成五年十月に景気の底を打ちましたが、いわゆるバブルの崩壊が個人や企業の経済活動を抑制し、金融機関の不良債権問題を深刻化させたため、その後の回復は緩やかなものにとどまっておりました。こうした景気の動きは、一年前の阪神・淡路大震災、昨年三月以降の急激な円高等により、一層緩やかなものとなりました。そして、年半ばからは足踏み状況となり、経済の先行きに不安感が生じるなど、厳しい状況が続きました。そのため、政府は、昨年九月に、内需拡大、バブル崩壊の影響への対応、規制緩和の一層の促進を柱とする経済対策を取りまとめるなど、これまで切れ目なく施策を講じてまいりました。その結果、雇用面や中小企業分野ではなお厳しい状況にあるものの、このところ個人消費、設備投資等の回復に加え、生産にも明るい兆しがあらわれるなど、景気には緩やかながら足踏み状態を脱する動きが見られます。
以上のような状況を踏まえ、私は、平成八年度の経済運営に当たりましては、景気回復と経済構造改革を中心として、次の四点の基本的考え方に沿って対応してまいりたいと考えております。
基本的考え方の第一は、このところ見られている明るい芽を育て、民間需要主導の自律的景気回復への移行を速やかかつ円滑に実現することであります。
このため、政府は、深刻な財政事情のもと、平成八年度予算において引き続き景気に配慮することとし、公共投資の着実な推進や住宅投資の促進など内需拡大を図ったところであります。また、科学技術振興や高度情報化のための施策を推進することとしております。
さらに、平成七年度と同規模の所得減税を引き続き実施するほか、土地税制の見直しを図るとともに、証券市場活性化のために税制措置を講ずることとしております。
金融政策につきましては、内外の経済動向や国際通貨情勢を注視しつつ、適切かつ機動的な運営を図ることが基本であると考えておりますが、住専問題などの不良債権問題については、景気を本格的な回復軌道に乗せ、金融システムの安定性とそれに対する内外からの信用を確保するため、その処理方針を明らかにしたところであります。今後、国民の皆様の御理解をいただくためにも、一層厳しく情報の公開、それぞれの責任の明確化等に努め、不良債権の早期処理に取り組んでまいらなければなりません。
雇用面では、新分野を担う人材の育成、新規雇用の創出と失業なき労働移動、新規学卒者への情報提供などの対策を積極的に推進することにより、雇用の安定に万全を期してまいります。
中小企業につきましては、技術開発や新規事業・新分野進出などに対する支援を中心とする総合的な対策を推進してまいります。
物価は、世界的な市場経済の拡大と深化、流通部門の競争の活発化などを背景に、現在非常に安定しておりますが、今後ともその基調を維持してまいります。しかしながら、内外価格差の存在は国民が生活の豊かさを実感できない大きな要因となっております。今後とも、規制緩和、競争政策の推進や公共料金政策の適切な実施を通じてその是正・縮小を図ってまいります。
これらの施策や次に申し上げる経済構造改革の推進等により、民間部門の自主的な努力のもと、平成八年度における我が国経済は、公共投資主導の回復から次第に民間需要が力を増し、自律的回復に移行すると見込まれます。すなわち、政府が景気回復の機関車となっている段階から民間が景気回復の機関車となる段階へと移行する、この移行過程を慎重に見守りつつ、今後とも適切な経済運営を行ってまいります。
来年度の経済の姿を具体的に申し述べますと、まず個人消費は、雇用者所得の回復と消費者物価の安定によって、緩やかながら回復を続けてまいります。
次に、民間設備投資については、大企業・製造業を中心に既に始まった回復が中小企業や非製造業に徐々に広がってまいります。
また、住宅投資や公共投資は高水準を維持いたします。
貿易については、製品輸入の増加等により輸出を上回る輸入の拡大が見込まれ、その結果、貿易・サービス収支及び経常収支の黒字は引き続き縮小いたします。
雇用情勢は厳しさが続きますが、景気の回復につれ徐々に改善していくことが期待されます。
こうした経済の推移により、平成八年度の実質経済成長率は、平成七年度の一・二%程度から、内需中心の二・五%程度に上昇するものと見込んでおります。
基本的考え方の第二は、経済構造改革の推進であります。
政府は、昨年十二月に西暦二〇〇〇年度までの新しい経済計画、「構造改革のための経済社会計画」を決定いたしました。現在の内需中心の景気回復を中期的な安定成長につなげていくために、経済計画に掲げられた物流・エネルギーなど十分野の「高コスト構造是正・活性化のための行動計画」の実施を初めとする構造的な改革を着実にかつ積極的に進めてまいります。その柱となる規制緩和については、規制緩和推進計画に従って何よりも政府がまず真剣に取り組むとともに、行政と民間の役割分担の見直しなど行政改革を推進してまいります。それと同時に、民間においても、既得権益を守ることにとらわれることなく、積極的に「規制から自立する」意気込みで取り組んでいただきたいと願っております。国民的な努力が一体となって初めて、自己責任の原則と市場原理にのっとって経済の潜在的な活力が発揮され、二十一世紀に向けての「新しい経済社会」の実現が可能となります。
その際、競争政策の積極的な展開と事業革新、新規事業の育成等への支援により産業の活性化を促していく必要があります。特に、今後は、情報通信関連、人材関連、医療保健・福祉関連、環境関連などの分野の成長が期待されます。
情報化、知的生産に一層重きが置かれるようになる二十一世紀に向けて我が国経済の発展基盤を整備することが求められます。このため、個人の能力が発揮され正当に評価される「能力開花型社会」、新たな成長を切り開く「科学技術創造立国」、情報化の進展に対応した「高度情報通信社会」の構築を進めてまいります。
こうした未来を志向した経済活性化の努力により、新たなフロンティアを開拓し、構造改革に伴う痛みを和らげ、雇用の確保を図ってまいります。
基本的考え方の第三は、安心して暮らせる経済社会の創造であります。
国民は、今や、所得や物財の豊かさのみならず、心の豊かさやゆとり、安全で安心して住める経済社会を求めております。
こうした国民の価値観の変化に対応し、まず生活者みずからがその能力と意欲に応じて主体的な役割を果たすことができる環境を整備することが重要であります。このため、女性の一層の社会進出や高齢化に対応した雇用環境の整備、障害者の雇用機会の確保、ボランティア活動促進のための支援などを行ってまいります。
さらに、消費者が自己責任に基づき主体的に行動できるよう、消費者保護・支援のための諸施策を積極的・総合的に推進してまいります。
また、少子・高齢化が進展する中で、人々が安心して暮らせるようにするために、各人がみずから問題に取り組む「自助」、社会的に助け合う「共助」、公的なサービスによる「公助」を適切に組み合わせた新しい社会的支援システムを構築してまいります。
ゆとりある暮らしの実現のため、年間労働時間千八百時間の達成に向けた労働時間短縮のための取り組みを支援するとともに、「狭い、高い、遠い」といった住宅の問題に対処するため、一戸当たりの平均床面積百平方メートル、住宅建設コストの三分の二ヘの低減、通勤時間おおむね一時間程度を目指すなど、ゆとりある住宅・都市構造の形成を図ってまいります。また、地域のイニシアチブにより、豊かな自然や景観、個性的な伝統文化を生かしたゆとりある暮らしの実現を図るとともに、環境と調和し、持続的発展が可能となる経済社会を築いていくための施策を推進してまいります。
震災後一年が過ぎましたが、引き続き阪神・淡路地域の復興に全力を挙げてまいることは当然でありますが、大震災の経験を生かして、災害に強い国土づくり、町づくりを推進するとともに、公共投資基本計画を推進し、生活関連分野等への重点的・効率的配分を図ってまいります。
基本的考え方の第四は、市場経済化・一体化が進んでいる世界経済への貢献であります。
我が国経済が世界経済とともに繁栄するためには、対外的にも開かれた経済社会を形成することにより、我が国が市場経済のメリットを最大限享受するとともに、国際的な問題への取り組みに積極的に参画することにより、世界経済の持続的発展に貢献することが求められております。
まず、制度・仕組みの国際的調和を確保する必要があります。規制緩和に加え、市場開放問題や政府調達に関する苦情処理体制などの活動を通じて諸外国から我が国への市場アクセスの改善を図ってまいります。
さらに、WTOを中心とする制度的枠組みの中で、多角的自由貿易体制の一層の強化に貢献するとともに、ウルグアイ・ラウンド後の新たな課題として既に国際的な論議が始まっている貿易・投資の枠組みづくり、APECにおける貿易・投資の自由化・円滑化のための我が国としての「行動計画」の策定などに参加してまいります。
また、民主化・市場経済化支援、途上国の女性支援などのODAの新たな課題に取り組んでまいります。さらに、二十一世紀に向けた地球社会の経済発展に関しては、人口、食糧、資源、そして環境をいかにバランスさせながら持続的な発展を可能としていくかが大きな課題となっております。資源は有限でありますが、技術・知識はその有限性を超えるものであります。こうした問題についても、我が国が有している経済力・技術力・科学的知見を活用し貢献してまいります。
今、来るべき二十一世紀を前に日本経済の先行きを悲観する向きもあります。しかし、五十年前の終戦直後の総悲観論、二十年前の石油危機後のゼロ成長論を思い起こしてみると、この資源の乏しい国土の狭い国家が、逆境に立ち、困難に遭うたびに、国民的英知とエネルギーを結集してそれらを乗り越え、ついには世界で有数の経済社会を築き上げたのであります。
財政の窮状、医療・年金給付の行く末など、どれ一つをとっても、日本経済は現状のまま手をこまねいていることはできない難しい問題に直面しております。こうした課題を解決するためにも、新しい成長軌道を構築することが求められております。
そのためには、行政改革、財政改革、経済改革を初め、経済社会の構造改革の断行が急務となっております。新しい経済計画においては、構造改革に積極的な成果を上げることによって、平成八年度以降五年間の実質経済成長率は三%程度になると見込んでおります。構造改革を怠るならば、成長率の鈍化や失業率の上昇などが懸念され、日本経済の展望を切り開くことはできません。
みずからの力でみずからの痛みを克服することができるのか、それともこのまま時流の変化に身をゆだねるのか、今、日本経済はかつてなくその真価が試されております。この試練を乗り越えて明るく希望に満ちた経済社会を建設するため、私は、微力ながら精いっぱい努力してまいります。
国民の皆さん、議員各位の御支援と御協力を切にお願い申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/17
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018・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) ただいまの演説に対する質疑は次会に譲りたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/18
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019・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 御異議ないと認めます。
本日はこれにて散会いたします。
午後七時十一分散会
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平成八年一月二十二日(月曜日)
開 会 式
午後零時五十九分 参議院議長、衆議院参議院の副議長、常任委員長、特別委員長、参議院の調査会長、衆議院参議院の議員、内閣総理大臣その他の国務大臣、最高裁判所長官及び会計検査院長は、式場に入り、所定の位置に着いた。
午後一時 天皇陛下は衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。
〔一同敬礼〕
午後一時一分 衆議院議長土井たか子君は式場の中央に進み、次の式辞を述べた。
式 辞
天皇陛下の御臨席をいただき、第百三十六回国会の開会式を行うにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。
わが国をめぐる内外の諸情勢は、まことにきびしく、すみやかに解決すべき幾多の問題があります。
ことのときにあたり、われわれは、国民の信頼に基づく国会の責任を十分に自覚して、国民生活にかかわる諸問題について審議をつくし、適切な施策を強力に推進しなければなりません。また、わが国の国際社会における立場を深く認識し、諸外国との相互理解と協力を更に深め、世界の平和と繁栄に一層寄与すべきであります。
ここに、開会式にあたり、われわれに課せられた重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくして国民の委託にこたえ、その職責を全うする決意であります。
次いで、天皇陛下から次のおことばを賜わった。
おことば
本日、第百三十六回国会の開会式に臨み、全国民を代表する皆さんと一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。
ここに、国会が、内外の諸情勢に対処するに当たり、国民生活の安定と向上、世界の平和と繁栄のため、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。
〔一同敬礼〕
衆議院議長はおことば書をお受けした。
午後一時六分 天皇陛下は参議院議長の前行で式場を出られた。
次いで、一同は式場を出た。
午後一時七分式を終わる発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/113615254X00119960122/19
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