1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成九年六月十七日(火曜日)
午前十時一分開議
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○議事日程 第三十七号
平成九年六月十七日
午前十時開議
第一 臓器の移植に関する法律案(衆議院提出
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○本日の会議に付した案件
一、日程第一
一、国際問題に関する調査の中間報告
一、国民生活・経済に関する調査の中間報告
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/0
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001・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) これより会議を開きます。
日程第一臓器の移植に関する法律案(衆議院提出)を議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。臓器の移植に関する特別委員長竹山裕君。
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〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
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〔竹山裕君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/1
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002・竹山裕
○竹山裕君 ただいま議題となりました法律案につきまして、臓器の移植に関する特別委員会における審査の経過と結果を御報告申し上げます。
本法律案は、第百三十九回国会に衆議院において中山太郎君外十三名から提出されたものであり、今国会に至り、同院で可決され、本院に提出されたものであります。
その内容は、移植医療の置かれている状況等にかんがみ、人道的見地に立って、臓器の移植が臓器の提供の意思を生かしつつ移植術を必要とする者に対して適切に行われるようにするため、臓器の移植について、本人の臓器提供に関する生前の意思の尊重、移植機会の公平性の確保等の基本的理念を定め、並びに国、地方公共団体及び医師の責務を明らかにするとともに、臓器の範囲、脳死体を含む死体からの臓器の摘出、臓器の移植に関する記録の作成、保存及び閲覧、臓器売買等の禁止、臓器あっせん機関に対する規制及び監督等について必要な事項を定め、もって移植医療の適正な実施を図ろうとするものであります。
これに対して、本院において猪熊重二君外四名から臓器の移植に関する法律案が提出されました。
両案の相違点は、いわゆる中山案が、脳死が人の死であることを前提にして移植術に使用されるための臓器を摘出することができるものとしているのに対し、いわゆる猪熊案が、脳死を人の死とせず、厳格な要件が遵守される限り臓器を摘出することができるとするものであります。
委員会においては、両案を一括議題とし、両法律案の発議者や政府に対して質疑を行うとともに、日本医科大学附属病院救命救急センターを視察し、また、大阪府及び新潟県に委員を派遣していわゆる地方公聴会を開催、さらに中央公聴会を実施するなど、精力的な審査を重ねてまいりました。
委員会における質疑の主な内容を申し上げますと、脳死を人の死と認めるかどうか、脳死を人の死とする社会的な合意は存在するか、法的に生きているとされる人から死に直結する臓器の摘出が許されるのか、そして違法性が阻却されるとする立法は可能か、脳死判定を拒否する権利は保障されるのか、脳死判定基準としての竹内基準は妥当か、本人による臓器提供の意思表示は何歳から有効か、臓器の摘出を承諾する遺族または家族の範囲をどう考えるか、公正で公平な臓器の分配をいかに確保するかなどでありますが、その詳細については会議録によって御承知願います。本法律案への質疑を終局しましたところ、関根理事から本法律案に対する修正案が提出されました。
修正案の要旨は、脳死を死として臓器の摘出ができるのは、臓器提供の意思に基づいて臓器が摘出されることとなる者が脳死に至ったと判定された場合のその身体に限定することとし、その脳死判定は、本人が臓器提供の意思表示にあわせて脳死判定に従う意思を表示している場合であって、かつ、その家族がこれを拒まないときに限り行われるものとする等であります。
続いて、修正案に対し質疑を行い、修正案提出の経緯と理由、脳死を人の死とする社会的合意があることを前提としていることと修正案との整合性、客観的であるべき死の基準が相対化することへの懸念等の点がただされましたが、その詳細は会議録によって御承知願います。
修正案に対する質疑の終局を諮りましたところ、日本共産党の西山理事から質疑打ち切りに反対する旨の動議が提出されました。採決の結果、本動議は賛成少数をもって否決されました。
次いで、討論に入り、民主党・新緑風会の川橋理事から修正案及び修正部分を除く原案に反対、自由民主党の石渡委員から修正案及び修正部分を除く原案に賛成、日本共産党の西山理事から修正案及び修正部分を除く原案に反対する旨の意見が述べられました。
討論を終局し、採決の結果、修正案及び修正部分を除く原案はいずれも多数をもって可決され、本法律案は修正議決すべきものと決定いたしました。
なお、本法律案に対し、附帯決議が付されております。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/2
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003・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 本案に対し、討論の通告がございます。順次発言を許します。照屋寛徳君。
〔照屋寛徳君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/3
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004・照屋寛徳
○照屋寛徳君 ただいま議題となりました臓器の移植に関する法律案(第百三十九回国会衆第一二号)の修正案に反対の立場で討論を行います。
なお、私の反対討論は社会民主党・護憲連合を代表するものでないことをお断りしておきます。
本修正案は、臓器移植に限定したとはいえ、脳死を人の死と定める法律であります。私は、いかなる場合であれ、脳死を人の死とすることには賛成できません。だが、臓器移植医療に何らかの道を開くことにやみくもに反対するものでもございません。
本修正案は、臓器移植に際してのみ脳死が認められる場合を限定しているものの、衆議院で可決され、参議院に送付されたいわゆる中山案の「脳死体」を「脳死した者の身体」と表現を変えているものの、脳死を人の死とする法概念を創設するものであることは明白だろうと思います。
だが、本修正案に対する委員会審議において、修正案第六条の「脳死した者の身体」が新しい死の概念を創設したものか確認条項なのかについて、提案者からの明確な返答は得られませんでした。
ところで、いわゆる中山案は、脳死臨調答申に見る脳死を「「人の死」とすることについては概ね社会的に受容され合意されているといってよい」との考え方を前提にしております。他方、本修正案の提案者は、我が国において脳死を人の死とすることについては、いまだ社会的合意が存するとは考えない、だが修正案第六条に限定する範囲においては社会的合意が得られるものと考える旨表明されました。しかし、なぜそのように判断するのか、その根拠は必ずしも明白にされませんでした。中山案と修正案は、脳死を人の死とすることに社会的合意が存在するか否かで見解が異なっており、本来全く別の法案としか思えません。
脳死臨調の答申は平成四年一月であります。その後、臓器の移植に関する法律については、脳死を人の死と認めた上で臓器移植に道を開く中山案、脳死を人の死としないで臓器移植に道を開こうとする金田案、猪熊案が国会で論議されるに及んで、脳死を人の死とすることに反対の者がふえ、むしろ脳死を人の死と認める社会的合意は存在しないし、近い将来においても社会的合意が成立することは困難であることが明らかになったのではないでしょうか。
そもそも、中山案のように脳死を人の死と一元的に法律で定めた場合、脳死を人の死と認めない者にも適用される矛盾が生じます。一方、本修正案のように脳死の拒否権を認めた場合、死という客観的な現象が人によって左右されることとなって、法律的な不安定が避けられないとの批判を免れません。また、本修正案では、複数の者が同時に脳死になった場合、臓器移植の場合は死者とされ、そうでない場合は生者とされる事態が招来されるのであります。
現に、人の死にかかわる現行法規は多数あり、修正案では子供のいない夫婦が同時に脳死になった場合の相続問題や殺人罪、死体損壊罪の成否をめぐる法解釈などで法的紛争が発生する危険があり、法的公平を欠くおそれがあります。
一方、いわゆる猪熊案は、近代法のもとにおいて個人の自由意思・自己決定権は最大限に尊重されるべき自由の一内容であるとの前提で、脳死状態の判定後の身体も、死体ではなく生きている者とする考え方に立脚しております。かかる考え方を前提に、さらに厳格な要件のもとで脳死状態にある者からの臓器摘出を社会的相当行為と認め、法的に許容、承認することとしております。かかる場合の医者による臓器摘出行為を違法阻却事由とするか、あるいはまた加罰的違法性がないとするか、あるいは違法性及び責任の減少による加罰性の阻却理論で考えるかについては議論が分かれるところでありますが、法律家の多くが不加罰論で一致しているものと信じます。よって、猪熊案の法思想、立法論でもって臓器移植への道を開くべきものだと考えます。
私は、法案審議を通して、臓器を提供する意思表示ができる者の年齢について法文上明定すること、また、修正案第六条の遺族の範囲についても法文上明定すべきであると主張いたしました。残念ながら、修正案の提案者から納得できる答弁はありませんでした。
移植医療は、新鮮な臓器を取り出さんがために死の判定を早く行おうとし、だれもが疑わなかった従来の死を心臓死と呼び、新たに脳死なる概念を導入して、これをもって死としようとしている、これは元脳死臨調委員で哲学者の梅原猛さんの意見であります。
私は、日本医科大学附属病院の救命救急センターで、脳死直前の患者や脳死と判定された患者に接する機会を得ました。脳死による臓器移植を成功させようとすれば、脳死直前、切迫脳死の段階で救命治療を打ち切り、移植準備に入らなければならない要請と切迫脳死が現に救命されているという事実との間に矛盾、衝突が生ずることは必至であります。
主要な臓器供給源とされている交通事故被害者遺族の会は、この法案が通れば救命医療の整備にブレーキをかけ、脳挫傷などの治療法の開発を放棄することにつながると批判していることを忘れてはなりません。
我が国の移植医療に対する国民の不信が根強いことは確かであります。実際、臓器移植をめぐるさまざまな人権侵害が訴えられております。私は、修正案がゆだねている厚生省令を定めるについては、ドナー及びその家族の人権がいささかも侵害されることがないよう強く求めるものであります。
かりそめにも、臓器の移植に関する法律が立法化されることによって、臓器が単なる医療資源として扱われたり商品化されるようなことがあってはなりません。その上で、他者の死を必要とする移植治療はあくまでも過渡的なものであり、政府は人工臓器の開発、内科的・外科的医療技術の発展等に努めるべきであります。
最後に、中央公聴会において、ある公述人が、法律は社会の信頼の結果であって、社会の信頼の準備であってはならないと警告しておられました。この警告は当を得ており、すべての議員に問われているものと考えます。この問いに対する答えは本修正案に対する反対をもって国民に示されるべきであることを強調し、私の討論を終わります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/4
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005・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 成瀬守重君。
〔成瀬守重君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/5
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006・成瀬守重
○成瀬守重君 私は、ただいま議題となりました修正議決された中山案に対し、賛成の立場から討論を行います。
臓器移植問題は、人間の生と死が絡むものだけに、まさに厳粛で、かつ、重く難しい問題であります。人の死は、医学的、生物学的のみならず、社会学的、法的、さらには哲学、宗教にかかわる問題であり、本院において、良識の府の名に恥じないよう、中央・地方公聴会等で幅広く国民の意見を聞きつつ、衆議院を上回る濃密な審議を重ねてまいったところであります。
国連加盟国の中で現在臓器移植が行われていない国を見渡せば、パキスタン、ルーマニア、そして我が国の三カ国のみという状況の中にあって、重症な心臓病や肝臓病など臓器移植以外に生命が助かる道がなく、毎日死と向かい合って暮らし、臓器移植を待ち望んでいる患者や家族の苦しみ、一方では、身を献じて苦しむ人々の生命を救おうとする臓器提供者や家族の崇高な思い、さらにこの人々を見守り、生と死、人間の生命の尊厳さ、物質や肉体を超えて生き続ける魂の大切さを信念として生きる多くの宗教者や国民の思い、さらに科学と生命倫理のはざまにある医療関係者の思い、この大きな問題をしっかりと受けとめて、臓器移植の法の制定及び整備を行うことが、我々参議院に課せられた大きな使命であると思うのであります。
臓器移植問題の第一の問題は、脳死を人の死と認めるか否かということであります。
この問題は本院においても大きな焦点の一つとなりましたが、仮に脳死状態にある人は生きているのだという立場に立てば、脳死状態にある人から心臓等を摘出すればその人の生命を絶つことになり、これは幾ら違法性阻却の論理をもってしても立法にはなじまないばかりか、現場で医療に携わっている医師の立場からしても、一つの生命を救うために他の生命を犠牲にするという行為は、二つのとうとい生命を比べることになり、モラルとして許せないとの意見が出されているように、賛同しかねるものであります。
しかし、脳死を人の死とする中山案原案においても、臓器移植に関係のない人にまで一律に脳死が認められてしまうのではないか、法律で脳死を人の死と一律に決めるのは問題であるとの意見が審議の中で出されました。これが中山案を受け入れられないという慎重論の大きな根拠となっていたわけであります。また、脳死を認めない人に対して、脳死判定に対する拒否権というものは認められるのかということも論議の焦点となった次第であります。
修正議決された本件は、これらの審議の中で出された問題点に配慮し、かつ、国民の懸念を払拭させるものであり、評価できるものであります。
以下、修正議決された中山案に対し、順次賛成の理由を申し述べたいと存じます。
賛成の第一の理由は、脳死を人の死とする場合を限定していることであります。脳死を人の死としながらも、法律で一律に脳死体を死体とすることに慎重な意見があることに配慮して脳死を広く死として一般化せず、脳死判定を臓器移植のため臓器が摘出される者の身体に限定していることであります。そして、臓器提供者の尊厳と家族の感情に配慮して「脳死した者の身体」という温かい言葉で表現していることであります。
賛成の第二の理由は、臓器移植のため脳死判定を行う場合を限定していることであります。すなわち、臓器移植のための脳死判定は、臓器提供の意思表示にあわせて脳死判定に従う意思が書面により表示されており、かつ、家族がこれを拒まないときに限り行うことができることとしていることであります。これにより、脳死判定の拒否権を認めるべきとの主張が結果的に受け入れられ、また、人を救うために臓器提供を行いたいという本人と家族の崇高な意思をも尊重できるものとしたことであります。
賛成の第三の理由は、脳死判定手続の厳格化及び罰則の整備と強化を図っていることであります。
これは、中山案原案では条文に明記されていなかった部分をはっきり条文に明記するとともに、一方では猪熊案の利点をも取り入れていることであります。
以上が私の修正議決された中山案に対する賛成の理由であります。
最後に、臓器移植が一日も早く我が国に定着するためにも、国民の信頼と期待に沿うよう、さらなる医の倫理の確立とディスクロージャーに努められること、並びに臓器提供者の年齢、家族の範囲等について、政府において、国会の論議、公聴会の意見等についても、殊に附帯決議に込められた客観的かつ医学的な基準による公正公平なレシピエント選定が行われる適正な基準の設定、臓器移植ネットワークの体制整備等この法律の施行に当たって必要な移植に係る周辺整備及び事前の準備に万全を期し、いやしくも準備不足のもとに安易な移植が行われたとの批判を招くことのないようにすること、準備期間を十分なものにするために公布の日まで一カ月を置くものとすることなどということも申し添えて、十分な検討と皆様方の御賛同を賜りますことを切に願いまして、私の修正議決された中山案に対する賛成討論を終わります。
ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/6
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007・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 千葉景子君。
〔千葉景子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/7
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008・千葉景子
○千葉景子君 私は、修正議決されました臓器移植に関する法律案に反対の立場で討論を行います。
私は、脳死状態にある者の身体からの臓器の移植を全く否定しようというものではございません。医療技術の一環として脳死状態からの心臓や肝臓の移植が可能になっている現在、脳死状態という死につつある状態において、臓器提供によって救われる人がいるならば、みずからの臓器を提供しようと自己決定をする人々の存在を率直に受けとめ、一定の条件のもとに脳死状態からの臓器移植を社会が受け入れていくべきであると考えています。
すなわち、患者の自己決定権に根拠を置き、それを最大限に尊重し、脳死の厳格な定義、判定基準、判定方法のもとに脳死状態からの臓器摘出行為を社会的に正当な行為と認めようとするものです。
しかし、私は、脳死状態を法によって人の死とすることには現状において賛成することはできません。その意味では、本院に提案されているいわゆる猪熊案と基本的な立場を同じくするものです。
確かに、人の死の判定は医学的な判断が基礎になるものです。脳死状態は、脳幹を含む全脳の不可逆的機能停止という死の始まりと言うことができます。しかし、死が始まっているけれども完結はしていないとも言えるものです。
また、人の死とは、単に医学上の問題だけではなく、個人の生き方、倫理観、宗教観にもかかわる問題であり、さらに、法的にも権利や義務が生じたりなくなったりする重要な転機にもなるものであり、社会的にも重大な影響をもたらします。
このような重大な事柄について私たちは十分に論議を尽くしたのでしょうか、どれだけ真正面に向き合ってきたのでしょうか。今必要なことは、まず医療における患者の主体的な意思が尊重される体制、すなわちインフォームド・コンセントの原則を確立することです。これにより医療に対する信頼を醸成しながら、臓器移植に対する社会的関心を高め、健全な臓器移植を進めていくことが必要です。その中から、安心して臓器提供を承諾するドナーを社会全体でふやしていくことが可能になり、また、脳死の受けとめ方にも社会的コンセンサスが育っていくのではないでしょうか。
また、脳死を人の死とすることによって生ずる現行法規との整合性についての検討も十分なされておりません。
死や死亡という用語が使われている法律が、法律の数で六百三十三、法律の条項で四千五百以上とも言われています。死亡による遺産相続の開始、生命保険金請求権の発生など、市民の日常生活に関係することを含め、法律上の権利義務の発生、消滅の要件になっている法令も多数ございます。そのような法令の適用が、従来の心臓停止ではなく、脳死状態で行われることになるのか、それとも個別の新たな基準を設けることになるのか、不明確です。
また、現在は生体とされているために規制されている脳死体の医療資源としての利用や医学実験がどこまで許されることになるのか、死体解剖保存法で許される病理解剖が脳死段階でもできることになるのかなと、十分に検討されていない部分もございます。
私は、心臓死を人の死として法的にも社会的にも対処してきた我が国において、臓器移植という目的のために急いで脳死を人の死と法律で定めることは、現状では余りにも多くの問題点が残されており、強く反対するものです。
私はここであえて申し上げます。脳死が人の死か否かというのは、法的な評価の問題であって、脳死を人の死と評価することによってもちろん臓器摘出が殺人罪には該当しないことになりますが、客観的事実は脳死を人の死と評価しない場合と同じだということです。
心配されるのは、脳死が人の死であると法律が規定することによって死が急がされるのではないかということです。家族に死の受け入れを急がせたり脳死判定後の医療が粗末になってしまうのではないかという懸念です。それだけはあってはならないと思います。
次に、修正案は脳死を人の死とすることには変わりはなく、中山案に対する前述の問題点は依然として解消されておりません。むしろ、臓器提供と脳死判定に同意している場合に限って脳死判定を行うため、本来一元的であるべき死の概念が脳死と心臓死という二つの類型に分離されることになり、人の死にかかわる法律関係を中山案以上にますます複雑なものとしてしまいます。
例えば、家族が脳死判定に同意すれば死亡時期は早まり、これを拒否すれば死亡時期は先に延ばせることになり、相続等において法的紛争を発生させる危険性を内包しているなど、人の死が個人の意思によって左右されることにより、第三者の法的地位に極めて不安定な状態を生じさせます。修正案はこのような不合理性を伴う立法なのです。
また、脳死を人の死として扱うことは臓器移植の場面に限定されるのか、すなわち、臓器移植以外の場面では「脳死した者の身体」は生きていることになるのか死んでいることになるのかもいまだに不明確であり、将来、医療の現場に混乱を生じさせることになりかねません。
確かに、修正案は個人の自己決定権を尊重している点において理解すべきところはありますが、臓器移植の場面に限って脳死を人の死とする考え方については、平成四年の脳死臨調答申でも、本来客観的であるべき人の死の概念にはなじみにくく、不適当であるとしていました。それを今回、臓器移植の場面と臓器移植以外の場面との整合性を十分検討する時間もないままに修正案として持ち出したことは、政治的妥協以外の何物でもないと言わざるを得ません。
最後に、私たちは、医学の進歩する新しい時代の中で、新しい人間の生き方、死に方について考えるスタートに立ったばかりなのです。それを忘れることなく、今後も脳死や臓器移植の問題に謙虚な姿勢で取り組むべきであると申し上げ、反対討論を終わります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/8
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009・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 橋本敦君。
〔橋本敦君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/9
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010・橋本敦
○橋本敦君 私は、日本共産党を代表して、臓器移植法案に対し、反対の討論を行います。反対理由の第一は、脳死を人の死とすることについて社会的・国民的合意がいまだ形成されていないことがこれまでの審議によって一層明白になったことであります。
そもそも人の死とは何か、それは医学的所見にとどまらず、それぞれの死生観、宗教観のみならず、国民の人格と生存権の尊重という憲法の理念にも深くかかわる重大な問題であります。したがって、社会的合意が存在しないもとで多数の反対する国民にも法の強制力で特定の死の概念を一般的規範として押しつけるなどは、道理も法的合理性も全くないと言わねばなりません。
衆議院での法案通過直後に行われた五月二十五日の朝日新聞世論調査でも、脳死を人の死と認める人はわずか四〇%であります。この問題について重い責任を持つ医学医療の専門家集団である医学会の中でも、脳死移植を進めようとする移植学会と慎重論に立つ精神神経学会との意見の相違があるなど、関連医学会全体で国民の信頼が得られるような一致した見解には到達していないのであります。さらに、ぬで島次郎公述人が指摘したとおり、臓器移植の先進国と言われるアメリカでも、最近に至って死の概念は心拍停止などの三徴候死に戻るべきだとする議論が始められているのであります。
こうして国民各層を初め多くの公述人からも慎重意見が相次ぐ中で、脳死について社会的合意があるとした中山案に対し、本院において「脳死に関して国民の間にさまざまな意見や懸念がある」として社会的合意がまだないことを認め、脳死を臓器移植に限定してのみ認めるとする修正案が提出されたこと自体、脳死についての国民的コンセンサスがいまだほど遠いことを明白に示しているものと言うべきであります。
反対理由の第二は、今日の急速な医学の進歩により、根本問題である脳死判定基準、厚生省のいわゆる竹内基準の見直しが差し迫った必要となっていることであります。
この竹内基準がつくられたのは一九八五年でありますが、脳死臨調の八〇年代に比べ、九〇年代に入ってから今日まで、脳低温療法の開発など救命救急医療は目覚ましい進歩を遂げています。この脳低温療法によって、瞳孔散大、対光反射消失、心停止が四十五分も続くなど脳幹障害が認められて、救命さえ困難と見られた患者でも、知能障害、運動障害を残すことなく社会復帰が可能となった症例が出ています。そのため、日本大学の林教授は、これまでの経験からでは予想しがたい治療成績が得られた結果、脳死状態の蘇生限界はさらに治療法の進歩によって変わるものと思われると述べられています。衆議院での参考人として同教授は、「脳死はこれまで、細胞レベルまで含んでいない概念でとらえられてきた歴史がありますが、脳の低温療法の治療成績とか、その前進の結果を見ますと、やはり医学の進歩とともに脳死も細胞レベルの点まで含めて考える時代に入ってきた」と思うわけですと陳述されていることは重大な今日的課題の提起であります。
今や急速な医療の進歩で脳蘇生の限界ゾーンが広がり、いわゆる蘇生不可逆点、ポイント・オブ・ノーリターンが後ろへずらされたという新しい医学的知見を踏まえて、脳死判定基準も脳幹を含む全脳の機能停止からさらに進んで、脳の神経細胞死、いわゆる器質死に至るまで検証する必要が示唆されるに至っているのであります。林教授が、医学の進歩によって、その時点で改めて脳死状態判定を見直す道を開いておくべきだと述べられているのは当然の指摘であります。
このような状況のもとで、最近の脳死判定例でも、竹内基準による脳死判定は五六%で、実際にも既に医療の現場では竹内基準以上の厳格な判定基準が補足されていることを厚生省も認めています。
言うまでもなく国民は、人間としての尊厳とその生存権により、だれしもその時代の最高水準の治療を受ける権利があります。そのために最善を尽くすことはまさに医療の本務であり、医の倫理の基本であります。
万一にも臓器移植のためにできるだけ新鮮な臓器を早く摘出しようとして脳死判定を急ぎ、新しい時代に入った目覚ましい医学の進歩を厳格に踏まえない基準のまま脳死判定が行われるようなことがあれば、それは地球よりも重いと言われるとうとい人命の侵害であり、医の倫理は崩壊し、臓器移植そのものが国民の信頼を失って、前途を断たれることになるでしょう。
そのためにも竹内基準の見直しは早急に検討すべきであります。この点の私の質問に対して厚生省の保健医療局長は、法案ができて省令を出すに当たり再検討すると答弁しました。しかし、いっ、どのように見直しをするのか、その具体的展望も保証もないまま、法の成立が急がれてよいのでしょうか。脳死判定基準の策定もその見直しも、今や薬害エイズ問題などで国民の信頼地に落ちたと言われる厚生省の省令のみにゆだねられてよいのか、そのこと自体、この臓器移植法案の法的欠陥の一つであることを厳しく指摘せざるを得ないのであります。
第三に、参議院での修正についてであります。この修正は、今私が指摘をした脳死判定基準の見直しという根本問題には全く手をつけていません。それだけでなく、修正それ自体の内容にも重大な問題があります。すなわち、修正は、法律で脳死を人の死と一般化して規定することに対する批判を避けた上で臓器移植を進めようとして、脳死を人の死とするかどうかの決定権を各個人の意思にゆだねる結果、同じ脳死状態にある人でも臓器提出と脳死判定に従う意思を表示している人は死とされ、それ以外の人は生きているとされるために、死の基準を二重化するという新たな矛盾が生じています。
加えてその矛盾は、相続問題など国民の個別的及び社会的諸権利関係に一層の法的不安をもたらすものであります。
修正は臓器提供に限ると言っておりますが、そもそも脳死判定に従う意思には、脳死を死と受け入れる認識が必要であり、その意思表示が真正に成立するためには、やはり脳死について社会的合意が形成されていることが必要であります。さらに、岩田研二郎公述人も法律家として指摘しているのでありますが、脳死判定を拒否すれば、たとえ脳死状態でも自然死に至るまで生存できるのに、脳死判定に従う意思の表示はそれより早く脳死による自己の死を宣告されてもよいことを承諾するという意味で、このような自己決定は自殺の承認に等しい法的手続となるおそれがあることも重大な問題なのであります。
以上述べたとおり、国民の生と死、我が国医療のあり方の根本にかかわる重大な本法案は性急に立法化を急ぐべきではありません。国民に開かれた慎重な審議を深めることこそ、議会制民主主義を守り、参議院が熟慮の府、良識の府であることのあかしてはありませんか。
そのために、日本共産党はさらなる慎重審議と本法案の次期国会への継続審議を強く要求したのであります。しかるに、与野党の多数で審議が終局され、本法案の採決が強行されるに至ったことは極めて遺憾であります。改めてここに厳しく抗議の意を表明して、私の反対討論を終わります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/10
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011・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) これにて討論は終局いたしました。
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012・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) これより採決をいたします。
本案の委員長報告は修正議決報告でございます。
表決は記名投票をもって行います。本案を委員長報告のとおり修正議決することに賛成の諸君は白色票を、反対の諸君は青色票を、御登壇の上、御投票を願います。
議場の閉鎖を命じます。氏名点呼を行います。
〔議場閉鎖〕
〔参事氏名を点呼〕
〔投票執行〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/12
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013・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 投票漏れはございませんか。——投票漏れはないと認めます。投票箱閉鎖。
〔投票箱閉鎖〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/13
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014・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) これより開票いたします。投票を参事に計算させます。議場の開鎖を命じます。
〔議場開鎖〕
〔参事投票を計算〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/14
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015・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 投票の結果を報告いたします。
投票総数 二百四十三票
白色票 百八十一票
青色票 六十二票
よって、本案は委員長報告のとおり修正議決されました。(拍手)
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〔参照〕
賛成者(白色票)氏名 百八十一名
阿部 正俊君 青木 幹雄君
井上 吉夫君 井上 孝君
井上 裕君 石井 道子君
石川 弘君 石渡 清元君
板垣 正君 岩井 國臣君
岩崎 純三君 岩永 浩美君
上杉 光弘君 上野 公成君
浦田 勝君 海老原義彦君
遠藤 要君 小野 清子君
尾辻 秀久君 大河原太一郎君
大木 浩君 大島 慶久君
大野つや子君 太田 豊秋君
岡 利定君 岡野 裕君
岡部 三郎君 加藤 紀文君
狩野 安君 鹿熊 安正君
景山俊太郎君 笠原 潤一君
片山虎之助君 金田 勝年君
釜本 邦茂君 鎌田 要人君
上吉原一天君 亀谷 博昭君
河本 英典君 木宮 和彦君
北岡 秀二君 久世 公堯君
沓掛 哲男君 倉田 寛之君
小山 孝雄君 佐々木 満君
佐藤 静雄君 佐藤 泰三君
斎藤 文夫君 坂野 重信君
志村 哲良君 清水嘉与子君
清水 達雄君 塩崎 恭久君
下稲葉耕吉君 陣内 孝雄君
須藤良太郎君 鈴木 栄治君
鈴木 省吾君 鈴木 政二君
鈴木 貞敏君 関根 則之君
田浦 直君 田沢 智治君
高木 正明君 竹山 裕君
武見 敬三君 谷川 秀善君
坪井 一宇君 中島 眞人君
中曽根弘文君 中原 爽君
永田 良雄君 長尾 立子君
長峯 基君 楢崎 泰昌君
成瀬 守重君 西田 吉宏君
野沢 太三君 野間 赳君
野村 五男君 南野知惠子君
橋本 聖子君 馳 浩君
畑 恵君 服部三男雄君
林 芳正君 林田悠紀夫君
平田 耕一君 二木 秀夫君
保坂 三蔵君 真島 一男君
真鍋 賢二君 前田 勲男君
松浦 功君 松浦 孝治君
松谷蒼一郎君 松村 龍二君
三浦 一水君 溝手 顕正君
宮崎 秀樹君 宮澤 弘君
村上 正邦君 守住 有信君
矢野 哲朗君 山崎 正昭君
山本 一太君 依田 智治君
吉川 芳男君 吉村剛太郎君
足立 良平君 阿曽田 清君
荒木 清寛君 石井 一二君
石田 美栄君 泉 信也君
市川 一朗君 今泉 昭君
岩瀬 良三君 魚住裕一郎君
牛嶋 正君 及川 順郎君
大久保直彦君 風間 昶君
片上 公人君 勝木 健司君
小林 元君 木暮 山人君
木庭健太郎君 白浜 一良君
菅川 健二君 鈴木 正孝君
田村 秀昭君 高橋 令則君
武田 節子君 続 訓弘君
鶴岡 洋君 寺崎 昭久君
寺澤 芳男君 戸田 邦司君
直嶋 正行君 永野 茂門君
西川 玲子君 長谷 川清君
浜四津敏子君 林 寛子君
平井 卓志君 平野 貞夫君
広中和歌子君 星野 朋市君
益田 洋介君 水島 裕君
山崎 力君 山本 保君
横尾 和伸君 吉田 之久君
和田 洋子君 渡辺 孝男君
青木 薪次君 梶原 敬義君
菅野 壽君 鈴木 和美君
瀬谷 英行君 三重野栄子君
村沢 牧君 伊藤 基隆君
一井 淳治君 今井 澄君
久保 亘君 国井 正幸君
菅野 久光君 松前 達郎君
本岡 昭次君 椎名 素夫君
奥村 展三君 水野 誠一君
釘宮 磐君 芦尾 長司君
常田 享詳君 長谷川道郎君
松尾 官平君
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反対者(青色票)氏名 六十二名
鴻池 祥肇君 海野 義孝君
大森 礼子君 加藤 修一君
高野 博師君 都築 譲君
林 久美子君 平田 健二君
福本 潤一君 山崎 順子君
山下 栄一君 大渕 絹子君
大脇 雅子君 上山 和人君
日下部禧代子君 清水 澄子君
谷本 巍君 角田 義一君
照屋 寛徳君 田 英夫君
渕上 貞雄君 渡辺 四郎君
朝日 俊弘君 小川 勝也君
萱野 茂君 川橋 幸子君
齋藤 勁君 笹野 貞子君
竹村 泰子君 武田邦太郎君
千葉 景子君 中尾 則幸君
前川 忠夫君 峰崎 直樹君
藁科 滿治君 阿部 幸代君
有働 正治君 上田耕一郎君
緒方 靖夫君 笠井 亮君
聴濤 弘君 須藤美也子君
立木 洋君 西山登紀子君
橋本 敦君 筆坂 秀世君
山下 芳生君 吉岡 吉典君
吉川 春子君 佐藤 道夫君
島袋 宗康君 西川 潔君
山田 俊昭君 江本 孟紀君
末広真樹子君 田村 公平君
堂本 暁子君 栗原 君子君
矢田部 理君 山口 哲夫君
北澤 俊美君 小山 峰男君
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/15
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016・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) この際、国際問題に関する調査会長から、国際問題に関する調査の中間報告を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/16
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017・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 御異議ないと認めます。国際問題に関する調査会長林田悠紀夫君。
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〔調査報告書は本号(その二)に掲載〕
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〔林田悠紀夫君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/17
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018・林田悠紀夫
○林田悠紀夫君 国際問題に関する調査会における調査の中間報告につきまして、その概要を御報告申し上げます。
本調査会は、国際問題に関し長期的かつ総合的な調査を行うため平成七年八月に設置されて以来、三年間にわたる調査活動のテーマとして設定した「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のもと、鋭意調査を進めてきております。
去る十一日、第二年目の調査について中間報告を取りまとめ、議長に提出いたしました。
その主な内容は、次のとおりであります。
第二年目におきましては、アジア太平洋地域における安全保障及びアジア太平洋地域の経済と経済協力について、委員間の活発な意見の交換を中心に調査を行いました。アジア太平洋地域における安全保障につきましては、アジア太平洋地域の情勢認識、我が国の安全保障のあり方、アジア太平洋地域における信頼醸成の推進などについて調査を進めました。
委員からは、日米安保共同宣言による新しい位置づけの中で、日米同盟関係を基軸とし、節度ある防衛体制をとることは意義があるとの意見、日米防衛協力のための指針の見直しにおいて、グレーゾーンに踏み込んだ具体的取り決めができることが我が国の決意を示す姿勢につながるとの意見、日本としては同盟関係の維持発展とアジア諸国から軍事的役割の拡張と見られない配慮が同時になされなければならないとの意見が表明されたほか、日米防衛協力のための指針の見直しに反対であり、日本は非核非同盟の道を進むべきであるとの意見も述べられました。
アジア太平洋地域の経済と経済協力につきましては、アジア太平洋地域の経済情勢についての認識、アジア太平洋地域の安定的な経済発展のための我が国の役割、我が国の今後の経済協力などについて調査を行いました。
委員からは、援助は日本の顔が見えるものにしていくべきであるとの意見、援助を実効あるものとするため精密な国別援助計画が立てられるべきであるなどの意見が示されました。
以上の調査を踏まえ、早期に施策の具体化を求める五項目の提言を行いました。その第一は、我が国が経済協力を進めるに当たっては、その質的向上を図るため、政策支援、人材の育成等に重きを置く援助のソフト化を推進していくこと。
第二は、留学生に対する奨学金制度、宿舎の確保事業を初めとする関係経費の拡充等、留学生受け入れ施策の充実に努めること。
第三は、アジア太平洋大学の創設を検討するなど、アジア太平洋地域における長期的視点に立った人的交流、知的交流の拡充を図ること。
第四は、援助ニーズの多様化に対応し、きめ細かく息の長い援助を推進していくため、専門家として国際協力に携わる人材の計画的な育成を行うこと。
第五は、アジア地域における食糧増産技術及び造林技術について共同研究開発をより一層拡充することであります。
政府並びに関係各方面におかれましては、本報告書の趣旨を体し、今後の施策に反映されるよう強く要望するものであります。
本調査会は、最終年に向けて、東アジア地域における安全保障のあり方、ODAを軸とする経済協力のあり方、ODAに関する基本法の立法化などについて充実した調査を進めることといたしております。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/18
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019・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) この際、国民生活・経済に関する調査会長から、国民生活・経済に関する調査の中間報告を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/19
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020・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 御異議ないと認めます。国民生活・経済に関する調査会長鶴岡洋君。
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〔調査報告書は本号(その二)に掲載〕
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〔鶴岡洋君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/20
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021・鶴岡洋
○鶴岡洋君 国民生活・経済に関する調査について中間報告を申し上げます。
今日、我が国の経済社会を取り巻く状況には、少子・高齢化、国際化、情報化等の変化が見られ、その変化は二十一世紀に向けてより一層拡大するものと思われます。
本調査会は、今期の調査項目を「二十一世紀の経済社会に対応するための経済運営の在り方」と決定し、公正で活力がある経済社会と豊かで安心して暮らせる国民生活の実現を目指して、少子・高齢化、国際化、情報化等に適切に対応するための経済運営のあり方について検討を進めてまいりました。
二年度目に当たる本年は、社会資本整備及び社会保障のあり方を中心に調査を行うこととし、政府からの説明聴取、参考人からの意見聴取、委員派遣による実情調査、さらに委員の意見表明等を行い、調査を進めてまいりました。
これらの調査を踏まえ、このたび各会派の意見の一致を見て中間報告がまとまり、これを議長に提出いたしました。
以下、その概要について申し上げます。
今後の社会資本の整備に当たっては、国民生活の視点に立った実施が求められますが、同時に、現下の厳しい財政状況におきましては、むだのない効果的、効率的な公共投資を行うことが必要であります。
このため、経済社会の変化に応じて公共投資の配分を見直し、住宅・生活環境分野への重点化を図っていかなければなりません。また、公共投資における国と地方の役割分担等についても不断に見直しを行うとともに、民間事業者の活用、費用便益分析の手法の確立、公共事業のコスト低減等の課題にも取り組み、公共投資の効率性を高めていくことが必要であります。
一方、近年の急速な少子・高齢化がこのまま推移すれば、将来の我が国の社会保障のあり方に深刻な影響を与えることが懸念されております。
社会保障は、その時々の経済社会の構造によって国民のニーズが変化することから、長期的視点を踏まえ、そのあり方を早急に検討する必要があります。中でも、高齢者や障害者に対する介護や福祉サービス、あるいは保育等の児童福祉や育児支援に重点を置いた施策の展開が必要であります。
このため、子供を持ちたい人が安心して産み育てることができるよう、子育てと仕事の両立支援、子育ての経済的負担の軽減、地域における子育て支援等の環境整備や、長期化した高齢期を安心して豊かに暮らすことができるよう、経済生活の安定、社会参加機会の確保、医療・介護基盤の充実等の環境整備が必要であります。
こうした点を踏まえ、特に重要と考えられる事項について、社会資本整備に関しては十項目、社会保障に関しては十二項目の提言を行っております。
政府を初め関係各方面の一層の努力を要請するとともに、本調査会におきましても引き続き調査を進めてまいる所存であります。
なお、詳細につきましては、報告書で御承知願います。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/21
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022・斎藤十朗
○議長(斎藤十朗君) 本日はこれにて散会いたします。
午前十一時十分散会
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114015254X03719970617/22
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