1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成十年五月八日(金曜日)
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議事日程 第二十四号
平成十年五月八日
午後一時開議
第一 種苗法案(内閣提出)
第二 地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律案(内閣提出)
第三 中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律案(内閣提出)
第四 大規模小売店舗立地法案(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
日程第一 種苗法案(内閣提出)
日程第二 地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律案(内閣提出)
日程第三 中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律案(内閣提出)
日程第四 大規模小売店舗立地法案(内閣提出)
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案(内閣提出)、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案(内閣提出)及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑
午後一時四分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/0
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001・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) これより会議を開きます。
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日程第一 種苗法案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/1
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002・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 日程第一、種苗法案を議題といたします。
委員長の報告を求めます。農林水産委員長北村直人君。
〔北村直人君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/2
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003・北村直人
○北村直人君 ただいま議題となりました種苗法案につきまして、農林水産委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
本案は、種苗が農林水産物の生産に不可欠な基礎的生産資材であることにかんがみ、平成三年に改正された植物の新品種の保護に関する国際条約に対応し、国際的に調和のとれた形で育成者の権利を保護することにより、我が国における育種振興の基盤の強化を図ろうとするものであり、その主な内容は次のとおりであります。
第一に、品種登録制度の対象とする植物の範囲を拡大し、栽培される植物について広く保護の対象とすることとしております。
第二に、育成者の権利を法律上明確に育成者権として規定するとともに、育成者の許諾が必要な行為を、従来の種苗の有償譲渡等の行為から種苗の生産、譲渡、輸出入等の行為に拡大することとしております。
委員会におきましては、四月二十八日島村農林水産大臣から提案理由の説明を聴取し、五月七日に政府に対する質疑を行いました。
質疑を終局し、採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/3
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004・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 採決いたします。
本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/4
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005・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日程第二 地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/5
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006・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 日程第二、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律案を議題といたします。
委員長の報告を求めます。公職選挙法改正に関する調査特別委員長葉梨信行君。
〔葉梨信行君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/6
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007・葉梨信行
○葉梨信行君 ただいま議題となりました地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律案につきまして、公職選挙法改正に関する調査特別委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
本案は、全国多数の地方公共団体の議会の議員または長の任期が平成十一年三月から五月までの間に満了することとなりますので、国民の地方選挙に対する関心を高めるとともに、選挙の円滑な執行と執行経費の節減を図るため、これらの選挙の期日を統一しようとするものであります。
本案におきましては、統一地方選挙の期日を、都道府県及び指定都市の議会の議員及び長の選挙については平成十一年四月十一日、指定都市以外の市、特別区及び町村の議会の議員及び長の選挙については同年四月二十五日といたしております。
また、新たな措置として、平成十一年六月一日から同月十日までの間に任期が満了することとなる地方公共団体の議会の議員または長の任期満了による選挙につきましても、当該地方公共団体の選挙管理委員会の判断により、統一地方選挙の期日に行うことができることといたしております。
なお、公職選挙法第三十四条の二の、いわゆる九十日特例の規定に該当する地方公共団体におきましては、当該地方公共団体の議会の議員及び長の任期がともに平成十一年三月一日から五月三十一日までの間に満了する場合を除き、当該地方公共団体の選挙管理委員会の判断により、九十日特例の規定によって、統一地方選挙の期日以外の日に議員及び長の任期満了による選挙を同時に行うことができることといたしております。
以上のほか、同時選挙の手続、重複立候補の禁止、文書図画の掲示の禁止期間及び寄附等の禁止期間について、所要の規定を設けております。
本案は、去る五月六日本委員会に付託されました。
委員会におきましては、昨七日上杉自治大臣から提案理由の説明を聴取した後、質疑を行い、採決の結果、全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
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008・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 採決いたします。
本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/8
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009・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
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日程第三 中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律案(内閣提出)
日程第四 大規模小売店舗立地法案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/9
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010・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 日程第三、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律案、日程第四、大規模小売店舗立地法案、右両案を一括して議題といたします。
委員長の報告を求めます。商工委員長斉藤斗志二君。
〔斉藤斗志二君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/10
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011・斉藤斗志二
○斉藤斗志二君 ただいま議題となりました両法律案につきまして、商工委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
近年、小売商業をめぐる環境の変化によりまして、商店街の空洞化が進行し、町の顔ともいうべき中心市街地の衰退が懸念されております。
両法律案は、こうした状況に対処するため、中心市街地の活性化のための整備を商業の振興と一体として進めるとともに、大規模小売店舗の立地について地域社会との調和に配慮することにより、小売商業の健全な発達を図ろうとするものであります。
まず、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律案は、都市機能の増進及び経済活力の向上を図ることが必要な中心市街地について、国による基本方針の策定、市町村による基本計画の作成及び特定事業計画等の認定等を通じて、地域が、その創意工夫を生かしつつ、国の施策を活用し、市街地の整備改善と商業等の活性化を一体的に推進するための措置を講じようとするものであります。
次に、大規模小売店舗立地法案は、大規模小売店舗の立地に関し、その周辺地域の生活環境の保持のため、大規模小売店舗の設置者による施設の配置及び運営方法について適正な配慮を確保することにより、小売業の健全な発達を図る観点から、店舗の新増設に際し、都道府県等が生活環境の保持の見地から意見を述べるための手続等を定めるとともに、その意見を反映させるための措置を講じようとするものであります。
両案は、去る四月十六日の本会議において趣旨説明及び質疑が行われた後、同日本委員会に付託され、堀内通商産業大臣からそれぞれ提案理由の説明を聴取いたしました。
両案は、同月二十四日質疑に入り、五月六日に参考人から意見を聴取するとともに、同月七日には橋本内閣総理大臣に対して質疑を行う等慎重な審議を行いました。また、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律案については、特に四月二十八日に建設委員会との連合審査会を開き、堀内通商産業大臣及び瓦建設大臣に対して質疑を行いました。
両案は、五月七日質疑を終了し、討論に付された後、それぞれ採決の結果、賛成多数をもっていずれも原案のとおり可決すべきものと議決いたしました。
なお、両案に対しそれぞれ附帯決議が付されました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
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012・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 両案を一括して採決いたします。
両案の委員長の報告はいずれも可決であります。両案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/12
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013・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 起立多数。よって、両案とも委員長報告のとおり可決いたしました。
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組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案(内閣提出)、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案(内閣提出)及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/13
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014・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) この際、内閣提出、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。法務大臣下稲葉耕吉君。
〔国務大臣下稲葉耕吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/14
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015・下稲葉耕吉
○国務大臣(下稲葉耕吉君) 組織的な犯罪に対処するための法整備に関する三法案について、一括してその趣旨を御説明いたします。
近年、暴力団等による薬物、銃器等の取引や、これらの組織の不正な権益の獲得等を目的とした各種の犯罪のほか、宗教団体信者による大規模な凶悪事犯、法人組織を利用した詐欺商法等の経済犯罪など、組織的な犯罪が少なからず発生しており、我が国の平穏な市民生活を脅かすとともに、健全な社会、経済の維持発展に悪影響を及ぼす状況にあります。
一方、このような組織的な犯罪の問題については、最近における国際連合の会議や先進国首脳会議等においても最も重要な課題の一つとして継続的に取り上げられており、国際的にも協調した対応が求められ、主要国においては法制度の整備が進んでおります。
そこで、この三法案は、このような状況を踏まえ、これらの犯罪に適切に対処するため、必要な法整備を図ろうとするものであります。
まず、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案の要点を申し上げます。
第一は、組織的な犯罪に関する処罰を強化することであります。
これは、一定の類型に該当する組織的な殺人、詐欺等の処罰を強化するほか、組織的な殺人の予備罪の処罰の強化等に関する規定を設けるものであります。
第二は、いわゆるマネーロンダリングの規制等に関するものであります。
その一は、一定の犯罪行為により得られた犯罪収益等を用いて法人等の事業経営の支配を目的とする行為及びその隠匿等を処罰するほか、その没収及び追徴に関する制度を拡充整備するものであります。
その二は、疑わしい取引の届け出制度の拡充であり、銀行その他の金融機関等に対し、その取引において収受した財産が犯罪収益である疑いがある場合等に、その届け出を義務づける措置等を定めるものであります。
その三は、没収及び追徴に関する国際共助手続を整備するものであります。
次に、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案は、組織的、密行的に行われる殺人、薬物及び銃器の不正取引等の重大な犯罪において、犯人間の連絡等に用いられる電話等の傍受を行わなければ犯人の検挙及び事案の真相解明の目的を達成することが著しく困難な場合が増加する状況に対処するため、犯罪捜査のために強制処分として行う電気通信の傍受に関し、その要件、手続その他必要な事項を定めるものであります。
この法律案の要点を申し上げます。
第一は、通信傍受の要件等についてであります。通信の傍受は、その密行的かつ継続的に行われるものであることにかんがみ、対象とする犯罪を一定の重大な犯罪に限定し、他の方法によっては真相の解明が著しく困難な場合に限るなど、従来の強制処分よりさらに厳密な要件、裁判官に対する令状の請求及びその発付の手続等を定めることとしております。
第二は、傍受の実施に関する手続等についてであります。傍受の実施の適正の確保及び関係者の権利保護を図るため、令状の提示、傍受した通信の記録の取り扱い、通信の当事者に対する通知、不服申し立て等に関する規定を設けることとしております。
第三は、通信の秘密の尊重等についてであります。制度の運用状況を明らかにするため、これを国会に報告すること等を政府に義務づけるものとし、また、通信の秘密の保護の充実を図るため、捜査等の権限を有する公務員がその職務を行うに当たり犯した電気通信事業法等の通信の秘密侵害罪について、いわゆる付審判請求ができるものとしております。
次に、刑事訴訟法の一部を改正する法律案の要点を申し上げます。
第一は、電気通信の傍受に関するものであります。これは、犯罪捜査のために電気通信の傍受を行う強制の処分ができる旨の根拠規定を同法に設けるものであります。
第二は、証人等の保護に関するものであります。証人またはその親族に対して、脅迫、威迫等が行われることがしばしばあり、これに対する不安があることが証人等として刑事手続に協力することをためらわせ、刑事手続の円滑、適正な実施を妨げる一因となっていることから、証人等の身体または財産への加害行為等の防止を図り、証人等の不安を軽減、除去するため、これらの行為が行われるおそれがある場合に、証人等の住居等が特定される事項についての尋問を制限することができること等の措置を定めるものであります。
以上が、これらの法律案の趣旨であります。(拍手)
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組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案(内閣提出)、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案(内閣提出)及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/15
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016・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。枝野幸男君。
〔枝野幸男君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/16
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017・枝野幸男
○枝野幸男君 私は、民主党を代表し、ただいま議題となりました犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案、いわゆる盗聴法案外二案について、総理並びに法務大臣に質問をいたします。
近年、暴力団等による薬物あるいは銃器等の取引の事犯、あるいは大規模な組織的形態による凶悪犯罪、経済犯罪などが少なからず発生しており、こうした犯罪から国民生活の安全を確保する必要性が高まっていることは、私どもも同意見であります。こうした意味で、組織的な犯罪の処罰や犯罪収益の規制等について、あるいはその捜査に関して、社会的要請に基づいた立法を進めようとする今回の提案の目的については、これを支持するものであります。
しかしながら、このたび提案されました三法案の中身を見ますと、その本来の目的を大きく逸脱しており、事柄が刑事処分や通信の自由という基本的人権の根幹にかかわる問題である以上、これを見過ごすことはできません。
そこで、今回の三法案の問題点について、順次御質問をさせていただきます。
まず、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案についてお尋ねします。
私は、特定の犯罪捜査のために、一定の制約のもとで通信傍受を行う必要があることは否定をいたしません。現在の刑事訴訟法においても、いわゆる検証令状に基づいて通信傍受がなされており、これを、いわゆる解釈に基づいて行っている状況から明文の規定にしようということ自体は、一定の前進であると評価すべきであると考えています。
しかしながら、通信の傍受は、憲法第二十一条第二項で特に「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と規定されている、まさに基本中の基本の人権を制約するものであります。したがいまして、これが認められるとしましても、その範囲は当然のことながら必要不可欠、最小限な範囲に限られることは当然のことであります。
ところで、本法律案の提案理由では、「組織的な犯罪が少なからず発生」しているということをいわば立法事実として示されておられます。また、第一条では「殺人、身の代金目的略取、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪」と列挙をして、こうしたものへの対応を法の目的として掲げておられます。ところが、別表に示された通信傍受の対象となる犯罪には、こうした掲げられた中身、つまり、組織的に行われやすい犯罪にも該当せず、また、その犯罪の形態からして通信傍受が捜査方法として不可欠であるとは到底考えがたい犯罪まで含まれております。
そこで、まず第一に、提案理由に示された「組織的な犯罪が少なからず発生」という立法事実と、本法案の中身との関係をどのように考えておられるのか。また、別表に示された各犯罪ごとに、捜査方法として通信傍受が不可欠であるとお考えであるならば、その具体的な理由をお示しをいただきたいと思います。
次に、本法案の第三条第一項の二号及び三号は、引き続き罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合という場合について通信傍受を認めています。すなわち、既に犯された犯罪捜査という名目のもとで、いまだ犯されていない犯罪捜査を認めようとしています。これは、犯罪捜査が犯罪発生後に行われることを当然の前提とした刑事訴訟法の基本概念を根本的に変更し、拡大することになってしまいます。いまだ犯されていない犯罪の捜査を認めるならば、それは、犯罪捜査を目的とした司法警察機能と治安維持等を目的とした行政警察機能とを混同するものであり、こうした混同の結果、警察権限の乱用にもつながりかねない重大な問題であると考えます。
そこで、本法案第三条第一項の二号及び三号の解釈について、これがいまだ犯されていない犯罪捜査を認めることにならないのかどうかをお示しをいただきたい。また、同項第一号のほかにあえて第二号及び第三号を設けなければならない理由について、法務大臣にお尋ねをいたします。
さらに、本法律案第七条は、傍受が許される期間を最大三十日まで認めております。しかし、第三条で規定された傍受の要件、ここには、特定された電話番号等について犯罪関連通信が行われると疑うに足りる状況ということを要件として示しています。
しかし、こうした状況が三十日間も続くというようなケースをどのように考えているのでありましょうか。例えば、少なくとも十日間以上犯罪関連通信がなされなかったというような場合には、そのこと自体で、この電話番号で犯罪関連通信がなされると疑うに足りる状況がなかった、あるいはなくなったということを示してはいないでしょうか。十日も二十日も犯罪関連通信がない状況でも、これが行われると疑うに足りる状況というケースというのはどのような状況をお考えになっているのか、法務大臣の見解をお尋ねいたします。
さらに、本法案第十四条は、令状に記載された被疑事実以外の犯罪についても通信の傍受を認めています。これは、いわゆる別件傍受であります。明らかに令状主義から逸脱したものとして、許容することはできません。特に、実行したことや実行していることにとどまらず、実行することを内容とする通信を傍受できるとすることは、まさに将来の犯罪の証拠を事前に幅広く確保することを認めることになってしまいます。
確かに、現に犯罪が行われている場合やその謀議がなされている場合などにそれを見過ごしてよいのかという議論には、一見説得力があるように聞こえます。しかしながら、適法な捜査方法としてその証拠能力を認めるという話と捜査の端緒としてそれを認めるというのとでは、全く意味が違います。あくまでも捜査の端緒として認めれば、適法な捜査方法としての証拠能力を認めることなく、区別をすることができる、そして区別をすれば令状主義の逸脱を免れると考えますが、法務大臣の御見解をお尋ねいたします。
本法案では、医師や弁護士などとの業務に関する通信の傍受については、第十五条で禁止をされています。このことについては一定の評価をすることができると考えます。しかし、この対象から証言拒絶権のある近親者が除かれているのはどうした理由でありましょうか。また、報道関係者の業務上の通信について、その秘密が考慮されていないのはなぜでありましょうか。特に報道関係者に対する通信傍受については、乱用された場合の影響が大きく、特段の配慮をすべきと考えますが、いかがでしょうか。
盗聴法案については、最後に、そもそもこうした法案が、いわゆる違法盗聴に対する対応よりも先に、あるいは違法盗聴に対する対応が不十分な状況のままで提案をされていることを最大の問題として指摘をしなければなりません。
確かに、電気通信事業法などでは通信の秘密を侵した者に対する処罰を規定していますが、わずかに一年以下の懲役または罰金にとどまります。この法律で一方で令状による通信傍受を認めるというならば、捜査機関などが無令状で違法に傍受をした場合について刑の加重をすべきであると考えます。特に、通信の秘密が重大な基本的人権にかかわる以上、公権力がこれを侵した場合には重罰を科すべきと考えますが、いかがでしょうか。
さらに、いわゆる共産党幹部宅電話盗聴事件では、東京高等裁判所でも、その電話盗聴の事実を認定し、これを違法であると判決をしています。これに対して政府がしっかりとした対応を示しておられないという状況は、甚だ遺憾であります。この問題への対応をあいまいにしたままで、盗聴を認める本法案を優先させるという神経は、私には理解できません。総理並びに法務大臣の見解をお伺いいたします。
次に、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案についてお尋ねをいたします。
まず、本法律案では、組織的な犯罪について法定刑の加重をしていますが、私にはその意味が全くわかりません。従来の法定刑では、刑の言い渡しが例えば法定刑の上限の方に集中をしてきてしまっているなど、従来の法定刑では対応できないというような具体的な問題があるのでありましょうか。また、そもそも組織的な犯罪の方がそうでない場合よりも罪状が悪質であるということを本当に類型化できるのでしょうか。本法案で対象にしている組織犯罪とそれ以外の犯罪とで、例えば現行法上現実に言い渡されている刑についてその大きな差があるのか、そうした統計などが存在をしているのでしょうか、具体的にお答えをください。
またさらに、仮に現在の法定刑に問題があるとしても、組織的犯罪のみについて別の法定刑を設ける理由にはなりません。現行刑法は、犯罪を包括的に規定をし、幅広い法定刑を定めて、罪状に応じて具体的に適正な刑罰を裁判官に選択させる形態をとってきております。そうした法体系の中で仮に法定刑に問題が生じているならば、刑法の本則そのものの法定刑を改正するのが筋だと思いますが、いかがでしょうか。
さらに、本法律案の組織犯罪の定義については、その対象が余りにも広がり過ぎ、またあいまいであって、到底容認することはできません。第二条第一項で定めているこの対象となる団体というものには、政党や市民団体、労働組合等も当然のことながら該当してしまうと考えますが、いかがでしょうか。
また、こうした団体について刑を加重する理由というものが本当に認められるのでありましょうか。例えば、政党や労働組合などが、その活動としてデモや労働争議などの場合に威力業務妨害や建造物損壊などの構成要件に該当するケースも少なからずあると思いますが、こうした場合でも暴力団やオウム真理教などと横並びで扱っていいとお考えなのでしょうか。自民党は本法案の提出を了解したようでありますが、自民党を暴力団やオウム真理教と横並びで扱うというような、このような法律を了解した真意はどこにあるのか。横並びでいいとお考えになっているとは思いませんが、自民党総裁でもある総理にお尋ねをいたします。
重ねて、団体の定義について、より限定をすべき、あるいは刑の加重をする犯罪を限定すべきという見解について、法務大臣の御意見をお伺いしたいと思います。
いわゆるマネーロンダリングの規制については、その必要性が大きいと理解をしています。しかし、本法案第十一条で規定するいわゆる知情収受については、弁護人選任権との関係で重大な問題があると考えます。同条に規定する知情は、通常、未必的認識で足りると解するのが一般的でありますが、そうだとすれば、例えば暴力団、過激派、オウム真理教のようなカルト集団、こうした団体に属する者については、私選弁護人を選任することが事実上不可能になります。特に、被疑者国選弁護人制度が存在しない現状では、起訴前弁護の道が完全にふさがれることになり、問題は深刻であります。この点についての法務大臣の見解をお伺いいたします。
最後に、第五章で規定する金融機関等による疑わしい取引の届け出についてお尋ねをいたします。
こうした手続がマネーロンダリングなどの規制に有効であることは認めますが、一方で、これがプライバシーを侵害する重大な問題であり、その対象は必要不可欠な範囲に明確に限定されるべきであると考えます。しかし、本法律案では、単に、疑いがあると認められる場合、「政令で定めるところにより、」届け出なければならないとされているにとどまります。具体的などんな場合に届け出をするのかという要件は、政令にゆだねられてしまっています。プライバシーという基本的な人権にかかわる問題である以上、その要件を可能な限り法律に明記するのが当然であると考えますが、法務大臣、いかがでございましょうか。
以上、本法律案の問題点を幾つか指摘をしてまいりましたが、細かな問題点まで挙げれば、これにとどまるものではありません。そして、こうした問題点はいずれも基本的人権にかかわり、かつ、刑事訴訟法や刑法の基本理念にも関係をする重大問題であることを考えると、本問題について安易に結論を急ぐべきでないことは当然であります。慎重な審議を重ね、かつ、問題点について柔軟かつ大胆に修正をし、この法の本来の目的を実現しつつ、基本的人権の侵害が起こらないような配慮が十分になされるよう求めまして、質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
〔内閣総理大臣橋本龍太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/17
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018・橋本龍太郎
○内閣総理大臣(橋本龍太郎君) 枝野議員にお答えを申し上げます。
まず、いわゆる共産党幹部電話盗聴事件に関するお尋ねがありました。
警察におきましては、この事件についての民事訴訟の判決を厳粛に受けとめ、適正な職務執行に努めているところであると承知をいたしております。御指摘のように、この問題への対応があいまいにされたままで本法案を優先させているといったようなことはないと考えております。
また、本法律案における団体についてお尋ねがありました。
よく御理解をしておられるとおり、この法律案は団体に対する規制を目的としているものではありません。一定の犯罪行為が団体の活動としてこれを実行するための組織により行われる場合等に限定して刑の加重等を行うものでありまして、正当な目的で行われる政党等の活動が該当することは考えられず、政党等が暴力団などと同様に扱われているものではございません。
残余の質問につきましては、関係大臣から御答弁を申し上げます。(拍手)
〔国務大臣下稲葉耕吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/18
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019・下稲葉耕吉
○国務大臣(下稲葉耕吉君) 枝野議員にお答え申し上げます。
通信傍受の対象とすることができる犯罪についてのお尋ねがまずございました。
傍受の対象とすることができる犯罪は、先ほども趣旨説明のところで申し上げましたが、暴力団等、あるいはまた「宗教団体信者による」と申し上げましたが、これはオウム真理教のことを指しているわけでございまして、このような団体が組織的な犯罪として行われることが多いものを選択したものでありまして、適用に当たっては、厳しい要件などから、およそ組織的な犯罪とは言えないような犯罪についてまで傍受が行われるおそれはないものと考えております。
また、通信傍受が不可欠とは考えられない犯罪まで含まれているとの点につきましては、傍受の必要性は犯罪の種類のみによって類型的に決まるものではないことを御理解願いたいとともに、「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難である」ことを要件とし、個別の事案においてやむを得ない場合に限定することとしております。
これから行われる犯罪に関してのお尋ねがございました。
本法案は、既に犯罪行為が行われ、それと密接に関連する犯罪行為が近接して行われることについての十分な嫌疑がある場合に、一連の犯罪行為を全体として傍受の対象とすることができるものとするものであり、現行法の捜査の枠組みを超えるものではないと考えております。
本法案三条一項一号に加えて二号及び三号を設け、これから行われる犯罪についても傍受ができることとしたのは、これを傍受令状に係る被疑事実とすることが、令状主義の趣旨からして適当であると考えたものであります。
傍受ができる期間に関する御質問がございました。
毎日のように行われている継続的な覚せい剤密売における購入者からの覚せい剤購入申し込みのための通信を傍受するのであれば、数日程度傍受を実施すれば通常目的を達することができますが、そのような事案に限らず、大量の覚せい剤の密輸入の打ち合わせのように、ある程度の期間を置いて数回にわたり犯罪関連通信が行われる事案においても、これらの通信を傍受できることとするのが適当と考えたものであります。その一方で、余りに長期間にわたり傍受ができることとするのは権利保護の観点から適当ではないため、諸外国の例よりも限定して、延長を含めた傍受ができる期間を、通じて三十日以内とすることとしたものであります。
本法案十四条の他の犯罪に関する傍受についてのお尋ねがございました。
これは、傍受令状による傍受の実施をしている間に他の犯罪の実行を内容とする通信が行われた場合、当該通信の傍受ができるものとするものであります。ここに言う「他の犯罪」は、死刑または無期もしくは長期三年以上の懲役もしくは禁錮に当たる犯罪という一定の重大な犯罪に限定され、傍受することができる通信も、犯罪の実行を内容とする通信であることが明白である場合に限られております。
さらに、このような通信については、その場で保全しなければ保全の機会が失われることから保全する必要性が大きく、その傍受の可否について裁判官の判断をまつまでもないことから、裁判官の令状によらないでその傍受を行うことは、憲法上許容されるものと考えております。
本法案第十五条の医師等の業務に関する通信傍受の禁止に関する御質問がございました。
この規定は、依頼者との個人的な信頼関係に基づいて個人の秘密を委託されるという社会生活上不可欠な職業に対する社会的な信頼の保護を図るものであって、刑事訴訟法上の押収拒絶権と同じ趣旨の規定でありますから、対象とする業務の範囲もこれと同じようにするのが適当と考えた次第であります。
いわゆる共産党幹部宅電話盗聴事件に関する御質問がありました。
この事件につきましては、東京地方検察庁において、所要の捜査を遂げた上、法と証拠に基づいて適正な処分を行ったものと承知しており、また警察においては、この事件についての検察庁の処分や民事訴訟の判決を厳粛に受けとめ、適正な職務執行に努めているところであると承知しており、この問題への対応をあいまいにしたまま本法案を提出しているものではありません。
組織的な犯罪の刑の加重に関する御質問がございましたが、本法案に基づく刑の加重は、犯罪に当たる行為が団体の活動としてこれを実行するための組織として行われる場合は、その継続性や計画性等から、通常悪質な状況として評価され、一般に違法性、反社会性が高いと認められることから、その違法評価を明示し、適切な量刑をなし得るようにしつつ、かかる犯罪の抑止に資することを目的とするものであります。したがって、この法案が刑の加重の対象としている犯罪の中には、法定刑の上限に近い量刑がしばしば行われるものも含まれておりますが、そのことを直接の理由とするものではありません。
なお、このような事情は、現在、情状の問題として扱われていることもあり、本法案第三条の要件に該当するか否かに着目して行われた統計等はございません。
現行法の法定刑に問題があるとしても、組織的な犯罪についての刑の加重を行うのではなく、刑法の法定刑の引き上げによるべきではないかとの御質問がございました。
法定刑が犯罪の違法性の評価を示す機能を有していることにかんがみれば、法定刑を一般的に引き上げずに、特定の類型の行為の違法性、悪質性に着目してその加重類型を設けることは適切なことであり、そのような例はこれまで多数存在していると承知しております。
次に、本法律案において団体との関連を刑の加重等の要件とした趣旨は、一定の犯罪行為が、継続性、組織性を持った集団の活動として、これを実行するための組織により行われる場合等について、その結果の重大性等から、一般に違法性が高いと考えられるからであります。したがって、正当な目的で行われる労働組合や市民団体などの団体の活動がこれに該当することは考えられません。
団体の定義及び刑の加重対象の犯罪をより限定すべきではないかとのお尋ねですが、本法律案における団体、すなわち組織により活動を行う継続的結合体の活動として犯罪が行われる場合、その目的実現の確実性、重大な被害や莫大な不正の利益を生ずる蓋然性が高いなど、社会に与える害悪は重大となると考えられます。本法律案においては、このような点に着目して、これを組織的な犯罪として刑の加重を行う前提要件としているものでありまして、これをさらに限定する必要はないものと考えております。
また、本法律案は、一律にすべての犯罪を対象として刑の加重を行うものではなく、組織的な犯罪として行われることが現実に考えられ、その場合に重大な結果が生ずるか否かなどを考慮して、犯罪ごとに検討して刑の加重をする犯罪を選定したものでありますので、これをさらに限定する必要もないと考えております。
本法律案第十一条に関し、暴力団等について私選弁護人を選任することが事実上不可能となるのではないかとのお尋ねですが、弁護人となろうとする者が、被疑者、被告人と弁護契約を締結するときに、弁護料が犯罪収益等によって支払われることを知っていた場合でなければ、本条の罪は成立しません。単に、被疑者、被告人が暴力団員等であることを知っていたということだけで収受罪になることはありませんから、暴力団員等が私選弁護人を選任することが事実上不可能となるとは考えられません。
疑わしい取引の届け出制度についてのお尋ねがありました。
本法律案は、金融機関等が一定の業務において収受した財産が犯罪収益等である疑いがあると認められる場合等に、金融機関等に届け出義務を課することを定めるものでありますが、いかなる取引が届け出すべき取引に該当するかは具体的な事案ごとに個別に判断されるべきものであり、疑わしい取引を類型化して法律で定めることは困難であります。現行のいわゆる麻薬特例法上の同様の制度においても、届け出すべき取引を法律上個別に類型化することはなされておりません。
しかしながら、この制度の運用に当たっては、顧客等のプライバシーを不当に侵害することのないよう、関係行政機関と協力してまいりたいと思います。
以上でございます。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/19
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020・伊藤宗一郎
○議長(伊藤宗一郎君) 漆原良夫君。
〔漆原良夫君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/20
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021・漆原良夫
○漆原良夫君 新党平和の漆原良夫でございます。
私は、平和・改革を代表いたしまして、ただいま議題となりました三法案のうち、特に犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案につきまして、総理並びに法務大臣に質問をさせていただきます。
ベター テン ギルティー エスケープ ザン ワン イノセント サファー、これは「十人の罪人を逃すとも一人の罪なき者を苦しめず」というイギリスの法諺でございます。この法諺は、日本国憲法における適正手続保障の精神を最も端的に表現している言葉でございます。
明治憲法から日本国憲法への転換は、刑事手続においては、実体的真実主義から適正手続主義への一大変革として認識されております。
実体的真実主義とは、刑事手続は可及的に客観的真実に迫るものでなければならず、犯人は一人残らず有罪として処罰すべきであるという考え方でございます。このような考え方からすれば、刑事手続は犯人の発見、処罰のための手続であると認識されて、捜査においては職権主義、糾問主義が必然となり、また裁判も犯人の発見、処罰のための手段として処罰機能が強化されることになります。したがって、そこには被疑者、被告人の人権は軽視され、犯人の発見、処罰がいわゆる錦の御旗となり、そのためにあらゆる便宜が考慮されるという結果になります。
これに対して日本国憲法は、国民の基本的人権として適正手続を保障し、訴訟は、ひたすら犯人の処罰を求めて真実を探求するのではなくて、真実の探求は公正な手続に従って行われなければならないとして、発想の一大転換をしたわけでございます。そして、この考え方からは、刑事手続規定は、犯人の発見、処罰のためだけの規定ではなく、市民が間違って有罪とされないための保障規定であると認識され、すべての市民には無罪の推定がなされ、刑事手続においても人権は最大限に尊重されなければならないとされるわけでございます。
本法案を俯瞰した場合、本法案は、次のとおり、捜査の必要性の視点のみが強調され、人権に対する配慮がいささか欠けていることは明白でございます。すなわち、一、通信傍受捜査の対象となる犯罪が広く一般的な犯罪にまで拡張されていること、二、犯罪発生前の通信傍受が認められていること、三、別件傍受が認められていること、四、厳格な違法収集証拠排除の法則が適用されていないこと、五、傍受令状発付の要件が従来裁判所が行ってきた検証令状発付の要件に比べ大幅に緩和されていることなどであります。
以上の理由によりまして、私は、本法案は、日本国憲法が排斥した犯人必罰の思想に奉仕するものであると考えざるを得ないのでございます。総理の御所見をお伺いしたいと思います。
憲法は、通信の秘密の不可侵を国民の基本的人権として保障しております。これは、個人の生活の秘密、プライバシーの保護、思想の自由、言論の自由の保障という観点から定められたものであり、健全な民主主義社会を形成する上で最も基本的かつ重要な権利とされています。
現代の情報化社会では、国家からのぞき見されない自由、これは十分に保障されなくてはならないと思います。捜査上の盗聴も、会話、通信内容をひそかに収集し、これを証拠としようとするものでありますから、公安警察の盗聴とその本質は同じでございます。捜査機関が行う盗聴は、思想の自由、言論の自由との厳しい緊張関係をもたらすものであります。したがって、仮に捜査機関による通信傍受が認められるとしても、それは憲法で保障されている通信の秘密に対する例外として、必要にして最小限度の措置として限定されるべきだと思いますが、総理の御所見をお伺いしたいと思います。
次に、捜査機関による捜査には、それを意図すると否とを問わず、その性格上、常に暴走の危険性をはらんでおります。そして、国民の中には、このような捜査機関に対する抜きがたい不信感があることもまた事実でございます。
本法案に対する国民の最大の不安は、このような捜査機関に通信傍受の権限を付与した場合に、国民の人権が不当に侵害される危険性はないのかということでございます。私は、通信傍受による捜査は必要最小限度において限定するとともに、捜査機関の暴走を未然に防ぐための法的措置を講じ、万一違法な手続があった場合には、厳正にこれに対処するという必要があると思います。
以下、この観点に立って、本法案に対する各論的な質問をさせていただきたいと思います。
本法案には、通信傍受の一般的禁止規定と、それから捜査機関による無令状傍受、これを特に重く罰する規定は設けておりません。通信傍受が人権の保障に対する例外として認められるものである以上、法律中に通信傍受の一般的な禁止規定をまず置くべきであると考えます。また、捜査機関には例外的措置として令状による通信傍受が認められているのでありますから、令状なしの通信傍受に対しては特に重い処罰が科せられて当然だと考えますが、法務大臣の御所見をお伺いしたい思います。(拍手)
法務大臣の法制審議会に対する諮問は、最近における組織的な犯罪の実情にかんがみ、組織的犯罪に対処するための刑事の実体法及び手続法の整備を求めるというものであります。しかるに、本法案は、団体性も組織性もその要件とはされず、名称も犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案として、暴力団などの組織的犯罪への対処だけではなく、一般的な犯罪捜査法としてこの通信傍受捜査が位置づけられておるわけであります。
法制審議会刑事法部会の議論の中でも、捜査上通信傍受の必要性が強調されたのは、麻薬、薬物事犯だけであったと聞いております。法務大臣の諮問と本法案とでは、質的な差異があるというべきであります。私は、対象を組織犯罪に限定し、かつ、通信傍受がその捜査に必要不可欠と考えられるものに限り絞り込むべきであると考えます。法務大臣の御見解をお伺いしたいと思います。
現行刑事訴訟法によれば、そもそも捜査は、犯罪があると思料するときに開始されると規定されております。しかるに、本法案では、一定の場合には、将来発生する犯罪に対しても通信の傍受を認めようとするものであります。このように、犯罪発生前の通信傍受を認めることは、現行法の捜査の枠組みを超えて到底許されないというふうに考えますが、法務大臣の見解をお尋ねしたいと思います。
次に、我が国の法体系は、行政警察と司法警察の活動を峻別して、行政警察の行う犯罪の予防活動は犯罪の捜査と明確に区別されてまいりました。司法警察活動として将来の犯罪に対する通信の傍受を認めるということは、予防的通信の傍受を認めることになります。そして行政警察活動と司法警察活動との法的境界があいまいになり、ひいては警察権限の乱用につながりかねないという危険性をはらんでおります。警察国家の再来は、国民の断じて認めるところではございません。総理の御所見をお伺いしたいと思います。
次に、本法案においては、傍受令状発付の要件が、従来裁判所が行ってきた検証令状の要件に比べて大幅に緩和されていることでございます。
これまで検証令状で傍受が許された最長期間は五日間でございました。本法案では、原則十日以内とし、必要があると認められれば三十日の延長が可能とされております。また、検証令状では、捜査官の手続の適正を担保するために、立会人の常時立ち会いを要件とするとともに、立会人による傍受捜査の切断権が認められていたのであります。しかし、本法案では、いずれもこれを不要としております。
通信傍受令状の要件としては、裁判所がこれまで人権と捜査の兼ね合いで積み上げてきた検証令状発付の要件に戻すべきだと考えますが、法務大臣の御所見を承りたいと思います。
最後に、本法案では、通信の傍受に関して手続違背があったとしても、一定の場合を除き、消去を命ずることが相当でないと認めるときは消去しなくてもよい、すなわち、違法に収集した資料を証拠として使用してもよろしいということになっております。
令状による通信の傍受は、憲法で保障されている通信の秘密に対する例外として認められたものであります。したがって、その手続は厳格に守られなければならず、決められた手続に違反した場合には、その手続違背の重要度やあるいは証拠の重要性にかかわりなく、違法に収集された資料はすべて証拠とすることは許されないと解釈すべきであると思います。また、捜査機関による捜査には、前にも述べましたように、その性格上、行き過ぎはつきものでございます。捜査機関の暴走を防ぎ、国民に対する基本的人権の侵害を防ぐ最も有効な手段は、違法収集証拠排除の原則を厳格に適用することであると思います。
以上、総理の御所見をお伺いいたしまして、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
〔内閣総理大臣橋本龍太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/21
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022・橋本龍太郎
○内閣総理大臣(橋本龍太郎君) 漆原議員にお答えを申し上げます。
まず、通信傍受法案における人権への配慮等についてのお尋ねがございました。
この法案におきましては、傍受の要件を厳格に定め、裁判官による事前の審査に服させることとしているほかに、実施の手続等に関しましても関係者の人権に十分な配慮をした内容になっておりますとともに、重大な犯罪の犯人の的確な検挙が多数の善良な市民の人権を守ることに必要だ、そのような考えをとっております。
次に、その傍受の許容範囲についてもお尋ねをいただきました。
通信の傍受は、憲法の保障する通信の秘密や国民の私生活上の自由を制約するもので、犯罪捜査のため必要最小限の範囲でなければならないというのは、これは私は議員の御指摘のとおりだと思います。本法案におきましても、傍受の要件を厳格に定めることなどにより、必要最小限の範囲に限定されていると考えております。
また、警察国家の再来は国民の断じて認めるところではないというお尋ねをいただきました。
これは、犯罪が既に行われ、それと密接に関連する犯罪行為が近接して行われることについての十分な嫌疑があるとき、これら一連の犯罪行為を全体として傍受の対象とすることができるものとするものでありまして、私は、議員の御懸念のようなおそれにはならない、そのように考えております。
また、違法収集証拠排除についてもお尋ねをいただきました。
証拠とすることができるかどうかについて、違法収集証拠排除に関する最高裁の判例の一般原則が適用されることは当然であります。その上で、傍受の記録の消去につきましては、再度の差し押さえができる物の場合と異なりまして、再度同一の通信を傍受することができないため、手続の違法性の程度等を考慮することとしたものでございます。
残余の御質問につきましては、関係大臣から御答弁を申し上げます。(拍手)
〔国務大臣下稲葉耕吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/22
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023・下稲葉耕吉
○国務大臣(下稲葉耕吉君) 漆原議員にお答え申し上げます。
まず、通信傍受の一般的禁止規定等についてお答えいたします。
通信傍受の一般的禁止、処罰規定は、電気通信事業法、有線電気通信法において既に設けられているところであります。また、捜査機関による通信の秘密の侵害に関する加重処罰規定については、法制審議会においても、そのような規定を設けるのが適当である旨の意見やそもそも現行法の法定刑が全般に軽きに失するとの意見もありましたが、電気通信事業法との関係について検討が必要であることなどから、今回、この点についての結論を出すことは困難であるとされたものでございます。
次に、傍受の対象となる犯罪についてお答えいたします。
通信傍受法案においては組織的な犯罪であることを要件としておりませんが、これは、組織的な犯罪にはさまざまな形態のものがあり、これから事案を解明するという捜査の過程においては、共犯関係や背後関係が必ずしも明らかとなっていないことから、そのような場合に通信の傍受を許さないこととすると、組織的な犯罪に対処するための有効な手がかりになり得ないと考えたものであります。
また、対象とする犯罪は、組織的な犯罪として行われることが多いものを選択したものであり、適用に当たっての厳しい要件などから、およそ組織的な犯罪とは言えないような犯罪についてまで傍受が行われるようなおそれはないものと考えております。
通信傍受がその捜査に必要不可欠と考えられる罪に絞り込むべきであるとの点については、傍受の必要性は犯罪の種類のみによって類型的に決まるものでないことは御理解願いたいとともに、他の方法によっては、犯人を特定し、または犯行の状況もしくは内容を明らかにすることが著しく困難であることを要件とし、個別の事案においてやむを得ない場合に限定することとしております。
これから行われる犯罪についてのお尋ねがありました。
本法案は、既に犯罪行為が行われ、それと密接に関連する犯罪行為が近接して行われることについての十分な嫌疑がある場合に、一連の犯罪行為を全体として傍受の対象とすることができるものとするものであり、現行法の捜査の枠組みを超えるものではないと考えております。
検証許可状による電話の傍受に関する裁判例についてお尋ねがありましたが、それらの事例は、主として覚せい剤の密売に用いられている電話であることが実質的に要件の一つとされていることなどの理由から、その背後にいる首謀者の特定等は困難であり、犯罪の全容を解明する観点からは十分な効果を期待することができません。
また、傍受の要件、手続が、刑事訴訟法の検証に関する規定の解釈によっているわけであり、通信の傍受については、関係者の権利保護等につき従来の強制処分とは異なる配慮が必要であるので、対象犯罪その他の要件を限定するとともに、所要の権利保護の手続を設ける必要もあります。
これらのことを考慮し、傍受の実効性と関係者の権利保護の要請との適正な調和を図るためには、本法案のような要件、手続とするのが適当であると考えたものであります。
以上でございます。(拍手)
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〔議長退席、副議長着席〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/23
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024・渡部恒三
○副議長(渡部恒三君) 佐藤茂樹君。
〔佐藤茂樹君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/24
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025・佐藤茂樹
○佐藤茂樹君 私は、自由党を代表して、ただいま御提案のありました組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、総理並びに関係大臣に対して質問を行います。
我が国は、世界で最も安全な国の一つと言われておりました。しかし、近年の事件に見られるように、犯罪の残忍さ、凶悪化及び広域化が進み、暴力団絡みの一般人を巻き込んだ犯罪、オウム真理教による地下鉄サリン事件のような凶悪事犯が発生し、日本の安全神話は揺らいでおります。
そこで、最初に、サミット参加を前にして、橋本総理にお尋ねします。
日本が世界に誇ってきたさまざまな神話、安全神話、経済の成長神話、銀行はつぶれないなどの神話が次々に崩れ去っていく中で、日本として、今、サミットの場においても誇れるものは何かあるのか、まず総理の御所見を伺います。
次に、特にオウム真理教についてお聞きしますが、マスコミ等で報道されているように、オウム真理教は公然と活動を再開しております。一体オウム真理教の今の実態、活動状況、逃亡している容疑者の捜索状況はどうなっているのか、国家公安委員長にお聞きします。
さらに、地下鉄サリン事件から三年余りたちますが、まだ同事件の被害者の中には、今なお具体的な後遺症や精神的障害に悩む人も数多くあります。さらに、被害者有志によるアンケート調査によると、健康が回復しないことを理由に退職に追い込まれた方もいるなど、同事件の被害者の方々が厳しい状況下に置かれていることは明白であります。確かに、国としても、国がオウム真理教に対して持つ債権を放棄し、その分が少しでも一般の被害者の救済に回るような措置をとりました。しかし、まだ不十分であり、補償や健康管理に関するシステムを構築するなど、被害者救済のための一層の施策をとるべきであると考えますが、総理及び法務大臣の見解を伺います。
次に、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案について、具体的にお伺いします。
一点目に、今回の法案では、組織的な犯罪に対し、刑の加重、犯罪収益等による事業経営の支配及びマネーロンダリングの処罰等の規制を設けております。
しかし、この法律で対象としている暴力団や総会屋等による経済活動への介入についても、本来は、総会屋への利益供与やインサイダー取引などを禁止した商法などの現行法で十分対処でき、問題は、銀行や証券会社等の姿勢や監督官庁の怠慢にあると指摘する声もあります。同様に、オウム真理教を例にとると、この団体の起こしたさまざまな事件についても、犯罪行為に対する刑罰法規が不十分だったのではなく、犯罪の嫌疑がありながらも、実質的に犯罪が起こるまで動き得なかった警察にも反省すべき点があると主張する向きもあります。
すなわち、特段法律を策定しなくても、現行法規をまず十分に活用した上で、本当に不十分な点についてのみ法律を策定すべきではないかとの意見も強いわけですが、なぜ早急にこの法律を制定しなくてはならないのか、法務大臣の見解をお聞きします。
二点目に、今回の法律案では、犯罪によって得た利益のやりとりであることが疑われる取引を金融機関が見つけた場合、その情報を届け出るよう義務づけられました。
この第五十四条、疑わしい取引の届け出については、法務省は、暴力団関係者や関連企業など活動が疑わしい人物や団体の取引に対する警戒に限ると説明していますが、これは、犯罪の立件の可能性の有無に限らず監視することになります。さらに、捜査当局と金融機関の協議で疑わしい取引が決まるのであれば、本来の趣旨を逸脱し、一般市民や企業までが監視対象になり、個人のプライバシーの侵害になる可能性もあります。この点について明確な基準を設定するべきであると考えますが、法務大臣の見解をお伺いします。
三点目に、国家公安委員長は、ゴールデンウイーク中に中国を訪問した際、五月四日に中国の公安部長と会談し、薬物等の国際的な組織犯罪の取り締まりについて意見を交換されたと聞いておりますが、その具体的な内容及び今後とるべき対策について報告を求めます。
次に、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案について、具体的にお伺いします。
一点目に、憲法二十一条には、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」といういわゆる通信の秘密の不可侵について規定されています。しかし、今回の法律案による通信の傍受、すなわち盗聴を行うと、その結果が犯罪に関係なかった場合、この権利を侵害することになりかねません。
また、憲法三十三条及び三十五条には、「現行犯として逮捕される場合を除いては、」「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」と明記されています。すなわち、現行犯以外では、被疑者への令状提示か被疑者の立ち会いがなければ住居や所持品等についての捜索、押収は行えないと憲法に保障されているのですが、通信の傍受は、その性格上、被疑者への令状提示や被疑者の立ち会いはあり得ません。
そこで、総理及び法務大臣にお伺いしますが、各論に入る前に、そもそもこの犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案は、憲法二十一条及び憲法三十五条に抵触するおそれはないのか。抵触しないとお考えならば、その理由を明確にお答えください。
二点目に、近年のオウム真理教によるサリン事件、暴力団による覚せい剤売買、銃器密売、対立抗争による一般市民の巻き添え等の犯罪など、市民生活の安全にとって脅威となる犯罪が頻発している現状を考慮すると、通信傍受を法律に明記し、事件の抑制と犯罪組織の壊滅を図ることは必要と思われます。ただ、通信の傍受を行う以上、通信の秘密を無原則に侵さない歯どめ規定、通信傍受の乱用防止のための担保を万全にする必要があります。
今回の法案では、通信傍受が認められる犯罪は、組織的に行われることが多い犯罪か組織的に行われることが現実に想定し得る犯罪となっていますが、罪名で見ると百件余りもあり、しかも、これらの犯罪の準備行為と疑われれば、たとえ軽微な犯罪容疑でも通信傍受される可能性があり、通信傍受が対象とする犯罪が際限なく広がる危険性があります。
この点について、一般市民の通常の通信までが盗聴の対象となる危険性もあり、法律で通信傍受を行う要件としている、特定の通信手段で犯罪の実行に関連する通信が行われると疑うに足りる状況等の三要件だけでは歯どめ規定にならない可能性もありますが、法務大臣の見解をお伺いします。
三点目に、今回の法律案では、通信傍受を行うためには、令状の請求権者は、検事総長が指定した検察官、国家公安委員会か都道府県公安委員会が指定する警部以上の警察官、厚生大臣が指定する麻薬取締官、海上保安庁長官が指定する海上保安官に限られておりますが、慎重を期して、令状の請求権者は検事総長が指定した検察官に限定すべきとの意見もあります。同様に、通信を傍受する行為は、確かに緊急に必要性に迫られ、緊急に実施しなければ意味がないとしても、事の重大性と令状実務の現状から判断し、今回の法律案のように簡易裁判所裁判官に発付権を認めるのではなく、令状の発付権者は地方裁判所裁判官に限るべきとの意見もあります。
このように、令状請求権者に司法警察官を認め、令状の発付権者に簡易裁判所の裁判官を加えたことは、令状の発付を厳格にし、限定する姿勢に欠けているとの指摘もありますが、この点について法務大臣の見解を伺います。
四点目に、通信を傍受する際には、傍受を実施する検察官、警察官だけでは執行することが困難なことが多く、また、通信の秘密を保護するためにも、通信事業者の立ち会いが不可欠であります。そのため、法律においても、第十二条一項で、通信手段の傍受を実施する部分を管理する者またはこれにかわるべき者を立ち会わせなければならず、これらの者を立ち会わせることができない場合は、地方公共団体の職員を立ち会わせなければならないと規定していますが、その一方で、同条二項で、立会人を常時得ることができない場合も考えられるため、やむを得ない事情があるときは立会人なしでもこれを認めるとしています。
現行法でも、覚せい剤事件で通信傍受を実施するときには、検証令状では、立会人が常時監視し、無関係な一般通話についての切断権を認めることが傍受要件となっているにもかかわらず、今回の法律案では、通信傍受の際に立会人が常時監視することを要件とせず、切断権も明記しておりません。これでは立会人制度が恣意的に運用される可能性もあると懸念する声もありますが、法務大臣の見解をお聞きします。
五点目に、通信傍受を行う際に立会人を必要とする以上、プライバシーの保護の観点からも、立会人に対し、罰則を持った守秘義務を課すことが必要であります。確かに、この法律には、第二十八条で、通信の傍受に関与し、その状況もしくは傍受をした通信の内容を職務上知り得た者は、通信の秘密を不当に害さないよう注意しなければならないとか、第三十条で、捜査または調査の権限を有する者がその職務を行うに当たり犯した電気通信事業法及び有線電気通信法の通信の秘密の侵害罪を準起訴手続の対象犯罪とするとしていますが、果たしてこれだけで十分なのか疑問であります。守秘義務を守らなかった者に対してはさらなる罰則を科すなどの対策をとり、プライバシーの保護を一層確実にする必要もあると考えますが、総理及び法務大臣の見解を伺います。
最後に、総理にお伺いします。
橋本総理が六つの改革を掲げられてから約一年半がたちました。しかし、あなたは、総理になられてから、何かをやり遂げたと自信を持って言えることはあるのでしょうか。先ほど発表になった総理府の世論調査によると、日本は悪い方向に向かっていると考える人が七割を超え、過去最悪となっています。国民としては、生活がよくなった、日本がよくなったと感じることは何一つありません。総理が行われたのは、消費税率アップを初めとする国民負担の大幅な増加、景気対策の失敗の連続による日本経済の崩壊等々の失政の連続、大蔵省腐敗に端的に象徴されるように、国民に行政、政治への不信を植えつけただけであります。
本日議題になっているこれらの法案も、犯罪の現状を考え、国民の生活を守るためには本来は必要とされるはずです。しかし、反対意見が出る主な理由は、犯罪から国民生活が守られるよりも、これらの法案が恣意的に運用され、国民生活が国によって管理されるおそれの方が強いと感じる人が多く存在するからではないでしょうか。神奈川県警の電話盗聴事件や警視庁警部による証券会社幹部からの収賄事件及び警察官OBが数多く天下りしている日本交通管制技術グループ企業が起こした脱税事件などが国民に与えた不信感は想像にかたくありません。国民の生活を守るための法案が、政府、行政の都合によって恣意的に運用されるのではないかと危惧されるほど、政治、行政に対する不信が強まっているのであります。
橋本総理に、日本は悪い方向に向かっていると考える人が七割を超すという世論調査に対する見解及び今述べましたような政治、行政に対する不信を招いたことに対する責任の弁をお伺いして、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣橋本龍太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/25
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026・橋本龍太郎
○内閣総理大臣(橋本龍太郎君) 佐藤議員にお答えを申し上げます。
私は、こういう御質問を受けるとも思っておりませんでしたが、我が国がサミットにおいて誇れるものは、私は、なお数多くの問題を挙げることができると思います、今さまざまな課題は抱えておりますけれども、我が国の治安も、我が国の経済も、なお世界に誇り得るものであります。あるいは国民の教育水準も、またその結果として生まれるわが国の文化的な伝統も、こうしたものを誇り得ないとお考えでありますか。私は誇り得るものだと思います。(拍手)そしてなお、我々は解決しなければならない課題は多数持っておりますが、社会保障や環境問題への取り組みについても、我々は高い水準を誇っているはずであります。
同時に、少子・高齢社会というものを踏まえ、私どもが将来を考えるとき、さまざまな改革を必要とすることも当然でありますし、組織犯罪への断固たる対処も当然求められることであります。今年のサミットにおいても、雇用あるいは国際組織犯罪、さまざまな課題が議論をされるわけでありますから、我が国の経験を踏まえて十分な貢献をしていきたいと考えております。
また、オウム真理教関連事件の被害の救済に関してお尋ねがございました。
これにつきましては、犯罪被害給付制度等諸制度の適切な運用を行うとともに、先ごろ制定されましたオウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する特例に関する法律の精神も踏まえ、被害に遭われた方々への適切な対応に努めてまいりたいと考えております。
次に、通信傍受法案の合憲性についてお尋ねがございました。
この法案におきましては、傍受の要件を厳格に定めるなど、憲法の保障する通信の秘密や国民の私生活上の自由の制約を必要やむを得ない場合に限定しております上に、憲法が定める適正手続の要請や令状主義の趣旨も満たしておりまして、憲法に反するものではないと考えております。
また、傍受の立会人の守秘義務についてお尋ねをいただきました。
本法案では、通信の秘密の保障の重要性にかんがみ御指摘の規定を設けたものでありますが、差し押さえ等の立会人との均衡を図る必要、関係者のプライバシー保護等のために立会人は通信内容には立ち入らないこととしたこと、こうした点を考慮して、罰則のある守秘義務を課すことはいたしませんでした。
次に、私自身の責任というものについての御質問がありました。世論調査の結果を踏まえてであります。
私の責任は、一刻も早く行政に対する国民の信頼を回復していく、国政を停滞させずに構造改革を進めながら景気回復に努める、その努力を払っていくことにあると考え、国民の声を重く受けとめながら全力を尽くしてまいります。
残余の質問につきましては、関係大臣からお答えを申し上げます。(拍手)
〔国務大臣下稲葉耕吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/26
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027・下稲葉耕吉
○国務大臣(下稲葉耕吉君) 佐藤議員にお答え申し上げます。
まず、オウム真理教に対する破産手続の問題でございますが、ただいま総理から御答弁がございましたとおりでございまして、破産手続が今後とも円滑かつ適正に進行してまいりますよう、法務省といたしましても協力してまいりたいと考えております。
なお、一般に犯罪被害者の救済の充実については、現在、法務省関係部局において、種々の角度から検討を重ねているところでございます。
組織的な犯罪に関して刑の加重類型や犯罪収益規制等を新たに設ける必要性についてお尋ねがございました。
刑法の一部の罪については、組織的な形態または不正権益の獲得等の目的で行われることが多く、その違法性が高いと認められるにもかかわらず、現行の法定刑ではその違法性が十分に評価されていないものがあり、また犯罪収益の規制についても、現行法では犯罪収益の利用を規制するための刑事法上の措置が十分ではなく、これが将来の犯罪に再投資されたり犯罪組織の維持拡大に利用されること及び事業活動に投資されて合法的な経済活動に悪影響を与えることを防止することが困難であります。
加えて、主要国においては組織的犯罪対策に関する法整備が急速に進められているところでありまして、犯罪の国際化が顕著に進行している状況の中で、我が国がその対策を怠ることは国際的な協力による組織的犯罪の防圧の面からも許されない状況にあります。そこで本法律案において、組織的な犯罪に適切に対処するため、必要な法整備を図ろうとするものであります。
次に、疑わしい取引の届け出制度についてのお尋ねがございました。
本法律案における疑わしい取引の届け出制度は、届け出られた情報をもとに、マネーロンダリングに関する犯罪捜査に役立てることを主たる目的とするとともに、犯罪者が金融機関等を利用することを防止し、金融機関等及び金融システムに対する国民の信頼を確保しようとするものであります。この制度の運用に当たっては、法務省としても、届け出等に関する基準のあり方等の検討を含め、関係行政機関とも相互に協力してまいりたいと思います。
通信傍受法案の合憲性についてのお尋ねがありましたが、同法案においては、傍受の要件を厳格に定めるなどすることによって、憲法の保障する通信の秘密や国民の私生活上の自由の制約を必要やむを得ない範囲に限定している上、憲法が定める適正手続の要請や令状主義の趣旨をも満たしており、憲法に反するものではないと考えております。
一般市民の通信が傍受される危険性についてお尋ねがございました。
本法案における通信傍受の対象となる犯罪については、組織的に行われる可能性に加え、犯罪の重大性、傍受の有用性等を考慮して選択したものであり、諸外国に比べて限定的なものとなっております。また、重大な犯罪の準備のために犯された犯罪については、禁錮以上の刑が定められている罪であり、軽微な犯罪は除かれているとともに、目的とする重大な犯罪が近接して行われる十分な疑いがあることを要件としております。
このような対象犯罪や傍受の要件の限定に加え、傍受が適正に実施されるように、その手続についても詳細な規定を設けていることから、犯罪と関係のない一般市民の通信まで広く傍受されることはありません。
傍受令状の請求権者及び発付権者についてお答えいたします。
傍受令状の請求権者については、刑事訴訟法において、司法警察員が第一次捜査機関とされていることから、これを請求権者とすることが必要かつ適当と考えたものであります。
発付権者については、地方裁判所の裁判官を原則とするものの、緊急に傍受を必要とし、地理的な条件等から地方裁判所の裁判官に令状を請求することができない場合も考えられることから、そのような場合に限り、簡易裁判所の裁判官も令状を発付することができるものとしたものであります。
立会人についてのお尋ねがありました。
立会人は常時立ち会わせるのが原則であります。立会人を常時立ち会わせることができないやむを得ない事情がある場合もあることから、そのような事情がある場合に立会人を立ち会わせることを要しないということとしたものであります。
また、立会人が通信内容の判断をしないこととしたのは、捜査対象の事件について細部にわたり把握していない立会人には関連性の判断が困難であること、かえって関係者のプライバシーの保護上問題があること等を考慮したものであります。
傍受の立会人の守秘義務についてお尋ねがありました。
本法案では、通信の秘密の保障の重要性にかんがみ御指摘の規定を設けたものでありますが、差し押さえ等の立会人との均衡を図る必要があること、立会人は通信内容には立ち入らないこととしたこと等を考慮して、罰則のある守秘義務を課することはしなかったものであります。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣上杉光弘君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/27
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028・上杉光弘
○国務大臣(上杉光弘君) 佐藤議員にお答えいたします。
オウム真理教の実態、活動状況及び逃亡被疑者の捜査状況についてお尋ねでございますが、オウム真理教は、依然として麻原彰晃こと松本智津夫の確立した反社会的教義を維持しつつ、教団を運営いたしております。
また、オウム真理教は、破防法の解散指定の請求棄却後、説法開催時の布施集めや教団関連企業の業務拡大等によりまして財政基盤の充実強化に努めるなど、組織の再建を図っております。最近では、インターネットの教団ホームページで脱会信者等に対して教団復帰の呼びかけを行っているほか、ゴールデンウイーク中には神奈川県下で全国規模の集中修行を開催いたしております。
警察といたしましては、教団による組織的違法事案の再発防止を図るため、引き続き教団の動向把握に努めているところでございます。
オウム真理教関係特別手配被疑者につきましては、これまでに十九名中十六名を検挙したところでございますが、今なお三名が逃走中であり、全国警察を挙げた強力な追跡捜査を引き続き行っているところでございます。これらの特別手配被疑者の検挙は警察の当面の最重要課題でございまして、オウム真理教関連事件の全容を解明するため、引き続き強力な追跡捜査を推進し、早期検挙を図るよう督励してまいる所存でございます。
私と賈中国公安部長とが五月五日に北京で行った協議についてのお尋ねでございますが、この中身についてお答えいたします。
薬物犯罪、集団密航及び銃器犯罪等の国際組織犯罪の現状と対策に関する初めての警察担当閣僚レベル級での協議をいたしました。これらの問題に対処するため、私と賈部長は日中警察の協力を合意し、今後、実務レベルでの協議を進めていくことを相互に確認をいたしました。
この協力関係を具体化する方策といたしましては、昨年から実務レベルで進んでおります日中警察間次長級協議を基本的枠組みといたしまして、これを継続し、さらに充実したものとすることといたしております。
さらに、犯罪の国際化に伴い国際的協力が不可欠であるとの観点から、今後とるべき対策といたしましては、閣僚級の定期協議を提案したところ、賈部長からは前向きに検討するとの御回答をいただいたところであります。
今後とも、我が国が誇る財産ともいうべき良好な治安を維持向上させるため、全力を尽くして国民の皆様の期待と信頼にこたえてまいる所存であります。(拍手)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/28
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029・渡部恒三
○副議長(渡部恒三君) 木島日出夫君。
〔木島日出夫君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/29
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030・木島日出夫
○木島日出夫君 私は、日本共産党を代表して、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案外二法案について、国民の基本的人権への影響が最も大きく、「通信の秘密は、これを侵してはならない。」とする憲法第二十一条の明文の規定に抵触する、違憲立法の疑いの極めて大きい犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案、いわゆる盗聴捜査法案を中心に、総理大臣に質問をいたします。
まず、本法案の違憲性についてであります。
本法案は、捜査当局が、数人の共謀によって実行される犯罪の捜査のために、裁判官の発する令状を得て、市民間の電話等の通信の傍受、いわゆる盗聴を認めようというものであります。
今日、我が国社会で電話の普及は目覚ましく、加入電話は約六千万台、携帯電話だけでも三千百五十三万台に及び、電話のない生活は考えられません。この電話の内容が全部知られてしまうなら、個人の主な生活実態は丸裸にされてしまうと言っても過言ではありません。
日本国憲法は、「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と明示しています。これは、憲法第十三条の個人の尊重、幸福追求権などの規定によって国民の社会生活でのプライバシーを基本的人権として守っている上に、さらに、具体的に電話や郵便などによる通信が他人によって侵されてはならないことを特に強調したものであります。これを受けて、電気通信事業法や有線電気通信法は傍受する行為を刑罰をもって禁止しているほか、電波法も傍受した事項を他に漏らすことを禁止しているのです。
このように、国民の基本的人権にかかわる盗聴という行為を、事もあろうに政府の行為として、捜査のために行うということを法律で合法化するなどということは、どのような理由をつけようとも、憲法の基本的人権尊重の理念から認められるはずはありません。総理の基本的な認識についての答弁を求めます。
政府は、本法案が国民の基本的人権の侵害には当たらない理由として、本法案には幾つもの配慮がなされていることを挙げています。いわく、盗聴できる犯罪の範囲を限定している、証拠に基づいて裁判所の許可令状を得た後に行う、立会人をつける、事後に盗聴を受けた人にその旨伝える等々であります。
そこで、以下、このような政府の弁解について、法案に即して順次質問いたします。
第一は、盗聴できる対象の範囲が極めて広範囲、事実上、無限定という問題です。
法案は、盗聴できる犯罪の対象として、最高刑が死刑、無期となる犯罪の大部分と、逮捕・監禁、誘拐、麻薬・覚せい剤、銃器にかかわる犯罪など十種の刑法犯、十九種の特別法に係る犯罪を挙げ、極めて広範囲の犯罪について盗聴捜査ができる仕組みとなっています。
その上で、法案は、盗聴できる場合を三つに分けて法定しています。
その第一の要件は、盗聴できる対象の犯罪がなされた疑いがあり、それが数人の共謀による場合であります。要するに、二人以上の共謀で犯罪が行われた疑いがあれば、被疑者が特定できないときなどでも盗聴できるというものです。この場合、盗聴できる対象の電話等については特に限定されておりませんから、犯罪が行われた可能性が高いとき、犯人が電話をかけてくる可能性があるところは軒並みに盗聴の対象とされるおそれがあるのではありませんか。犯行声明があったときの相手先の新聞社やテレビ会社の電話に盗聴器がセットされるおそれも十分にあるということになりませんか。答弁を求めます。
盗聴できる第二の要件は、盗聴できる対象の犯罪が犯され、かつ、引き続きこれと同種の犯罪が犯されるおそれがある場合です。殊さらに継続して罪が犯されようとしている場合を挙げているということは、盗聴捜査は、既になされた犯罪について被疑者を検挙して犯罪を防止するというよりも、さらに次の犯罪が行われるのを待って検挙しようという考えに基づくものであり、これは、国民の生命と生活を守るという警察、検察本来の使命とは違うのではありませんか。答弁を求めます。
盗聴できる第三の要件は、禁錮以上の刑が定められている罪が盗聴できる犯罪の準備のために犯され、引き続いて盗聴できる犯罪が犯されるおそれがある場合です。禁錮以上の刑が定められている罪といえば、ほとんどすべての犯罪がこれに該当してしまいます。これはまさに予備的盗聴、事前盗聴、別件盗聴の合法化ではありませんか。これでは、犯罪捜査は犯罪発生後行われるという刑事訴訟法と刑事司法警察の大原則を逸脱して、犯罪の予防や情報収集を目的とする行政警察への道、警察の治安、行政権限の強化につながるのではありませんか。日弁連意見書でも、行政警察活動と司法警察活動の区別を法的にあいまいにする、警察権限の乱用につながりかねない危険性を増すものと言わざるを得ないと指摘していますが、これらの批判に総理はどうこたえるのか、明確な答弁を求めます。(拍手)
第二は、裁判官による令状が人権侵害をチェックできるかという問題であります。
法案では、「別表に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由」とか、「数人」、二人も可でありますが、「数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況」など極めてあいまいであるばかりでなく、代替捜査手段がないことの要件も抽象的であり、乱用のおそれが高いのであります。裁判官による令状発付を条件にしておりますが、現在、我が国の裁判所における令状請求に対する却下率は、九六年で〇・〇八%というように、ほとんどフリーパスと言わざるを得ません。司法による抑制もほとんど期待できないばかりか、違法、不当な盗聴に免罪符を与えることになるおそれが強いのであります。先日、この問題を指摘した寺西和史判事補に対して、事もあろうに仙台地方裁判所は懲戒の申し立てを行うというまことに異常な態度さえとっているのが、我が国の司法部の現状であります。このような状況のもとで、令状の発付によって乱用が防止できるはずなどないではありませんか。総理の答弁を求めます。
第三は、立会人が人権侵害の歯どめになるかという問題であります。
法案では、傍受の実施について、立ち会いは必ずしも常時必要でないとされ、人権侵害に対する歯どめがきいているとは到底言えません。とりわけ、立会人は犯罪捜査に全く無関係な市民同士の会話についての盗聴を中断させるべき、いわゆる切断権が認められておりません。盗聴できる必要最小限度の範囲の判断は警察に任されているのであって、結局、聞いてみなければ判断できないとして、会話のすべてを盗聴する結果となってしまうのではないでしょうか。これでは、警察の警備公安情報集めのための法律として機能する恐るべき治安立法に転化すると危惧するものですが、総理の答弁を求めます。
第四に、事後措置に関する問題です。
法案では、盗聴が終了した後三十日以内に当事者に書面で通知することになっているのですが、それは、傍受した通信の中に被疑事実が含まれている場合などに限定されているのです。そうでないときは、当事者に事後通知はなされないことになっているのです。すなわち、大部分の善良な国民の通話は、傍受の原記録には残るが、盗聴されたことすら知らないままになるという事態が多く発生することになってしまいます。まさに、重大なプライバシーの侵害が警察によってひそかに行われることになってしまうのではないでしょうか。アメリカなどの例では、裁判所の許可を得て盗聴捜査をしたうちの九五%までが刑事事件とは何の関係もない通信だけだったということが報告されています。事後通知するから人権侵害には当たらないと、とても言えるものではないと考えますが、総理の答弁を求めます。
第五に、盗聴捜査の実質上の担い手である我が国警察の体質の問題についてです。
我が党の参議院議員緒方靖夫前国際部長宅の盗聴事件に見られるように、警察は、裁判で盗聴の事実が明確に認定されているにもかかわらず、今なお、その事実を認めようとしておりません。このような体質を持っている我が国の警察に、以上指摘してきたような、人権侵害に対してほとんど歯どめのかからない電話盗聴捜査権限を与えたときに、我が国社会全体がどんなに自由と人権保障のない警察国家になってしまうか、考えるだけで鳥肌が立つのは私だけではありますまい。総理は、このような二十一世紀を展望しているのですか。総理の答弁を求めます。
政府は、本盗聴捜査法を初めいわゆる組織犯罪対策三法案は、最近の我が国における暴力団等による薬物、銃器等にかかわる犯罪、オウム真理教幹部による無差別大量殺人事件等のゆゆしき一連の組織的犯罪から国民の安全を守ることを立法の理由にしています。しかし、麻薬や銃器犯罪に対しては、憲法違反の盗聴ではなく、その他の手段で取り締まりを強化することが必要であり、また可能でもあります。
そのためにも、現在の我が国の警察に見られる暴力団との癒着などをきっぱりと断ち切り、国民に奉仕する警察、検察を確立する真の意味の行政改革が求められていることを指摘し、我が党は、そのために全力を尽くすこと、そして、何よりも違憲の盗聴捜査法案の廃案のために全力を尽くすことを表明して、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣橋本龍太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/30
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031・橋本龍太郎
○内閣総理大臣(橋本龍太郎君) 木島議員にお答えを申し上げます。
議員からは盗聴捜査法案についての御質問でありますが、私の方からは通信傍受法案の合憲性について御答弁をいたします。
この法案におきましては、傍受の要件を厳格に定めるなどにより、憲法の保障する通信の秘密や国民の私生活上の自由の制約を必要やむを得ない範囲に限定している上、憲法が定める適正手続の要請や令状主義の趣旨をも満たしており、憲法に反するものではないと考えております。
また、傍受が許される通信手段の範囲が広過ぎるという御指摘もございました。
法案は、被疑者が契約して利用している電話などの通信手段、その他具体的な証拠に基づいて犯人により犯罪に関連する通信に用いられる合理的な疑いが認められるものに限って傍受を行うことができるとしておりまして、その範囲が広過ぎるということはないと思います。
また、警察、検察の使命に対してのお尋ねもございました。
薬物の電話による密売のように、犯罪があることは明らかでも、逮捕ができるまでに犯人を特定することが困難な事件もあります。また、末端の者が特定されましても、その背後にある者を検挙することが困難な事件も少なくはなく、このような場合に、犯行の全容を解明し、本当に責任ある者を検挙するのは、警察、検察の使命に沿うものだと私は思います。
また、これから行われる犯罪についてというお尋ねがありました。
法案は、既に一定の犯罪行為が行われ、これに密接に関連する犯罪行為が近接して行われることについて十分な嫌疑がある場合、これら一連の犯罪行為を全体として傍受の対象にできることとするものであり、御懸念のようなおそれはないと考えております。
また、令状制度についてもお尋ねがありました。
現在、令状請求を受けた裁判官は、独立した立場から慎重に審査を行って発付の可否を判断しております。令状発付の手続は適正に行われているものと承知しておりますので、通信傍受についても、令状制度によってその適正を図ることができる、そのように考えます。
また、立会人についてのお尋ねがございました。
立会人は常時立ち会わせるのが原則であり、傍受した通信の記録、立会人による封印などとともに、通信の傍受の適正を図ることに資すると考えております。立会人が通信内容の判断をしないこととしたのは、捜査に関与しない立会人には関連性の判断が困難なこと、プライバシー保護上問題があることなどを考慮したものであります。
また、通信の当事者に対する通知についてもお尋ねがありました。
傍受をした通信でありましても、犯罪との関連性がないものについて通知のために当事者を特定しなければならないこととすると、かえってそのプライバシーを侵害するおそれのあることから、これを捜査機関のもとに残さないこととした上で、その通知を要しないとしたところであります。
最後に、いわゆる共産党幹部宅電話盗聴事件に関するお尋ねがありました。
警察においては、御指摘の事件についての一連の関係訴訟の結果を厳粛に受けとめ、適正な職務執行に努めているところであると承知をしておりまして、議員御懸念のようなことはないと確信しております。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/31
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032・渡部恒三
○副議長(渡部恒三君) これにて質疑は終了いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/32
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033・渡部恒三
○副議長(渡部恒三君) 本日は、これにて散会いたします。
午後二時五十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114205254X03619980508/33
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