1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成十年九月十八日(金曜日)
午前十時十九分開会
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委員の異動
九月十七日
辞任 補欠選任
森下 博之君 山崎 正昭君
九月十八日
辞任 補欠選任
佐藤 昭郎君 大島 慶久君
吉川 春子君 市田 忠義君
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出席者は左のとおり。
委員長 吉岡 吉典君
理 事
末広まきこ君
田浦 直君
溝手 顕正君
笹野 貞子君
長谷川 清君
委 員
大島 慶久君
斉藤 滋宣君
鈴木 政二君
今泉 昭君
小宮山洋子君
但馬 久美君
山本 保君
市田 忠義君
大脇 雅子君
鶴保 庸介君
田名部匡省君
高橋紀世子君
事務局側
常任委員会専門
員 山岸 完治君
参考人
日本労働組合総
連合会総合労働
局長 松浦 清春君
明治大学法学部
講師 松岡 二郎君
弁 護 士 坂本 修君
中央大学法学部
教授 角田 邦重君
財団法人日本I
LO協会常務理
事 工藤 幸男君
凸版印刷株式会
社ヒューマン事
業推薦本部労政
部長 河野 通剛君
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本日の会議に付した案件
○労働基準法の一部を改正する法律案(第百四十
二回国会内閣提出、第百四十三回国会衆議院送
付)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/0
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001・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) ただいまから労働・社会政策委員会を開会いたします。
委員の異動について御報告いたします。
昨十七日、森下博之君が委員を辞任され、その補欠として山崎正昭君が選任されました。
また、本日、吉川春子君及び佐藤昭郎君が委員を辞任され、その補欠として市田忠義君及び大島慶久君がそれぞれ選任されました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/1
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002・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) 労働基準法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、日本労働組合総連合会総合労働局長松浦清春君、明治大学法学部講師松岡二郎君、弁護士坂本修君、中央大学法学部教授角田邦重君、財団法人日本ILO協会常務理事工藤幸男君、凸版印刷株式会社ヒューマン事業推進本部労政部長河野通剛君、以上六名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多忙のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。参考人の方々から忌憚のない御意見を賜りまして、法案審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。
本日の議事の進め方でございますが、松浦参考人、松岡参考人、坂本参考人、角田参考人、工藤参考人、河野参考人の順にお一人十分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
なお、御発言の際は、その都度委員長の許可を得ることになっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。
それでは、まず松浦参考人からお願いいたします。松浦参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/2
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003・松浦清春
○参考人(松浦清春君) おはようございます。
御紹介をいただきました日本労働組合総連合会の総合労働局長を仰せつかっております松浦でございます。
本日は、五千七百万人にも及ぶ雇用労働者の健康と生活に直結する労働基準法の一部改正問題に関する委員会に参考人としてお招きいただきまして、発言の機会を得ましたことにつきましてまず御礼申し上げる次第であります。
もとより、今回の労働基準法の改正に当たりましては、公労使三者の構成によります中央労働基準審議会で一年余にわたってその内容を審議し、法案の要綱までを労働大臣に諮問するという、そういう手続を経てきたものでございまして、私ども自身が今回の労働基準法の改正問題につきましては、雇用労働環境が著しく変化をするという実情の中で早急に改善、解決をしなければならない、そのための法改正が必要であるというふうに主張した重要な項目も含まれておりますし、逆に、規制緩和の流れの中で労働基準についても緩和をされ、未組織の、特に中小企業分野に働く労働者の労働条件が非常に低下をするという危険を持った改正の内容もあるという指摘をしてきたわけでございます。
そういう意味で、この機会に幾つかの点について、衆議院の審議経緯も踏まえて御意見を参考として申し上げたいと思います。
まず、何としても今回の労働基準法の改正につきましてはぜひこの国会において成立をさせていただきたいと思うわけでありますが、その理由につきましては、一千万人を超えました非正規社員が現在雇用契約を結ぶ際に極めて厳しい口頭による契約という問題が起こっておりまして、これに関連する個別労使紛争が非常に増加をしているということであります。
今回の改正の中の一番の目玉とも言えます、賃金以外の労働条件の関係について雇用契約を締結する際に文書で提示をするという問題につきましては、そういった一千万人を超える非正規社員の労働条件の締結にかかわる極めて大きな要件を満たしてやるということになるというふうに考えているわけであります。
逆に、規制緩和の流れの中で一部押し流されつつあります新たな裁量労働制の導入の問題でありますとか、一年単位の変形労働時間制の問題でありますとか、男女共生社会をつくるに不可欠な条件となっております時間外労働、深夜労働、休日労働の上限の規制という問題などにつきましては、それぞれ衆議院の審議を経た中で一定の補足部分の形づくりはされたと思っておりますものの、いま一つ明確になっていない部分があるわけでございまして、特にそうした点についてこの参議院労働・社会政策委員会の中で十分な審議をお願いしたいということでございます。
具体的には、まず新たな裁量労働制の導入問題についてでありますが、私どもがこの法案が国会に提案をされる段階から具体的に指摘をしてまいりましたように、本来、裁量労働制というのは時間管理が外されてみなし労働時間の範囲の中で本人の労働裁量権によって始業、終業を決定するものであります。したがいまして、この裁量労働の対象になるものについて、だれが見てもその当該労働者に裁量権がある、判断権があるということでなければならないという指摘をしてきたわけでございますけれども、この範囲の決め方、そしてその決めるに当たっての考え方についていま一つ明確になっていないという指摘をしてきたわけでございます。
そうした過程で、衆議院においてこれに関連する部分で幾つかの点で修正がされたということについては高く評価をしているわけでございますけれども、なおかつこれに関連をする問題として一つだけ特に残っている部分があるというふうに判断をしているわけであります。
それは、それぞれの重要事項、いわゆる本社部門等というふうに解釈していいと思いますけれども、この分野において裁量労働制を導入する場合には労使委員会を設置し、労使委員の全員の合意によって設定をするというものでありますけれども、この労使委員会につきましては労働時間や賃金に関しても調査審議をすることができるということになっております。
しかしながら、決議する事項については決められておりますものの、労働時間や賃金等について調査審議をするということになりますと、これに関連をいたします労働者代表の承諾を得て監督署に届け出る幾つかのその他の裁量労働以外の部分があるわけでございますけれども、これらについても労使委員会が権限を持つということがないように、特にこの労使委員会については裁量労働制の導入の可否に関連をして設定をされるものでございますので、いかに当該事業場の賃金や労働時間について調査審議をしたとしても裁量労働にかかわるものにその権限を限定すべきである、こういうふうに私どもは考えておりまして、こうした考え方についていま一明確になっていないというふうに判断をいたしておりますので、この点についてぜひひとつ明確にしていただきたいということでございます。
二つ目は、一年単位の変形労働時間制の問題でございます。
これはもとより、週四十八時間から四十時間への労働時間短縮をする際に、産業の特性から一年間あるいは一カ月単位でも作業はピーク時、非ピーク時というものがあるということから、これに対応して使用者側の負担を若干なりとも軽減する、そういう趣旨で導入されたものでございます。しかしながら、これは運用のいかんによりましては当該労働者にとりまして過重な労働負荷を呼びますし、また逆に家庭生活にも大きな影響を与えるものでございます。したがいまして、この関係につきましても、週最高五十二時間ということになったとしても、それの連続回数の制限であるとか頻度であるとか、そういうものについても明確にしていただかなければならないということで、これについても確認をいただきたい。
最後に、男女共生社会づくりに関連をします時間外労働の上限の問題等につきましても、今の扱いでは罰則つきとはなっていませんけれども、労働大臣が定める労働時間を守る、あるいは守らない場合の取り扱いとその権限の明確化という問題については、この参議院の場においてぜひ明確にしていただきたいということをお願い申し上げたいと思います。
以上であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/3
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004・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) ありがとうございました。
次に、松岡参考人にお願いいたします。松岡参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/4
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005・松岡二郎
○参考人(松岡二郎君) 私は、結構毎日のように経営者とか労働者に講演を通じてお会いしているんですけれども、今度の労働基準法改正について非常に見えないというんでしょうか、経営側も、私の場合は中小零細が多いようですけれども、余り関心がない。労働側は結構反対しているということで、非常に感じたのは、一体だれ、何のための改正なのかなと。
政府等では規制緩和というようなことで進めているのかもしれませんけれども、もともと規制緩和というのは財やサービスを流しやすくするということであって、労働の世界ではむしろ労働の移動が終わった後の労働秩序をどうするということですので、それがどうして労働基準法の改正につながるのかよくわからない。そういう意味合いがあってなかなか世間では労働基準法改正の中身を含めて浸透しないんじゃないだろうか。
私は、実は労働基準法改正の必要はあるだろうと思っているんです。それは何かといいますと、特に大企業なんですけれども、私はちょうど昭和二十二年生まれですから団塊の世代。団塊の世代は今後どうなるのかというと、今の調子でいくと五十五歳で企業からほうり出される。そういう中で、日本の労働のシステムは一体どうなつちやうんだろうか。そうすると、それに合わせるか改正するかのような形で労働基準法の改正は必要なんじゃないだろうか、そういう点で今度の改正を見ているわけです。
そう見ますと、例えば一年間を三年間に改正する。結構労働側に有利でしょうという御意見もあるんだけれども、おおよそ今の一年間でも、パートさんについては、期間の定めがある場合で一年間の。パートさんは一体どれぐらいいるんだろうかというと、まず多くはない。一カ月とか二カ月をジャンプしていっている。そうすると三年にしたからといってだれがどういうふうに使うんだろうか。例えば契約社員で三年ですというんであれば、明確にあなたは三回更新以外にはもうジャンプしませんと言えば、裁判所でも認めるわけですよね。
そうすると、一体何のための三年間の改正なんだろうと考えますと、私はこれはもしかすると三年後から始まる団塊の世代への適用かなと。正社員、五十五で君やめろと、いたければ三年契約にしてやる、できればあと二年は考えてあげるという形になるのかなと。
もともと私が一番心配したのは、派遣法などの世界とオーバーラップするんです。派遣法は今二十六業種決められているけれども、実際の実務の世界では業務委託という名の違法な派遣がまかり通っている。実務の世界というのはそんなに学者じゃないんですから、こういうことができるよ、派遣できるんだよと言ったらああそうかいということでまかり通る。今度は労働契約三年になったんだよと言うと、ああそうかい、じゃ三年なら正社員を五十五から企業内失業者にするか、三年契約ということでまともに働くか選択せよと言えば、まじめな従業員は、じゃ働かせてもらえるんなら三年ということになるんじゃないか。この使い方、政府が意図した、いや国会が意図した使い方と本当に一致するんだろうかというような疑問がわいてくるんですよね。
あるいは、年休が二日ごとにふえて労働者に有利でしょうと。でもよく見てみると、これが適用になるのは若年労働者が恩恵をこうむるだけで、ほとんどの長期雇用労働者ははなから関係ない法案ですよね。
そうすると、一体今度の労基法改正というのは、労働側にしてみればどんなメリットがあるのかな、経営側にしてみるとどんなメリットがあるのかなと考えると、一応労使でギブ・アンド・テークという法案が多少妥当と言えば妥当かもしれないけれども、今回の場合には余りそれがないんじゃないのかなという気がしてならないんです。
さらに、裁量労働の点について言うと、実は今度衆議院で本人の同意を導入した、これは画期的なことで非常に高く評価すべきだとは思うけれども、ただ私なんかが連合傘下や何かの単組に行ってみると、今何が一番問題になっているかというと、頭ごなしに個別の同意を得るということで柔軟な労働力の企業内移動を行う、企業間移動を行う。どうしよう。組合が後から気づいて、どうして言ってくれないんですかと企業に言うと、企業は言う、本人が同意しているんだから何をがたがた言っているんだ、本人が同意すればいいじゃないかと。
そうすると、裁量労働、特に今度労働時間や何かについて雇うときに明示するようになった。それは何を意味するかというと、日本人が非常にシャイで、なかなか権力というんですか、会社側に物を言えないから、国で物を言えるように、言わなくても経営者に義務づけて労働時間なんかもはっきりさせましょうということを容認しているわけですよね。
だったら、裁量労働、本当に同意だけでバランスがとれるんだろうか。そういう点なんかも考えると、今度の件は裁量労働などはむしろ労働組合があるところだけ認める、ちょうど労基法二十四条の現物給与みたいなものです。なおかつ、労働組合が本人にかわって交渉できる、これは当然団体交渉できるんですけれども、個別企業ではなかなか認めない。そういうような形をとることも、ただ同意だけでは同意の形骸化が実際の実務では行われていく。さらなるハードルが必要なんじゃないだろうか。
もう一つは、裁量労働というのは、一日のはかり方で時計ではかることが原則のところを、みなしというはかりを使うわけですね。そうすると、憲法二十七条第二項、労働条件、勤労条件は法律で定めると言っているのに、さあ本当にこれに合致するんだろうか。一番大事な労働条件を労使にゆだねて、法律にゆだねない。さあ、それが憲法上妥当なことなんだろうか。良識の府の参議院の方々にはぜひ議論していただきたいと思います。
さらに、法案についても、こういう大きないろいろな問題を抱えている裁量労働、ある意味じゃ世界に逆行するかもしれない、そういうような制度を導入するのでありますから、一年後じゃなくて三年後に施行するような形で三年間の検討が必要だろうと私は思うんです。そういうような点などを考えていただきたい。
それから、時間外労働、休日労働、深夜労働、これらについても、よく考えてみると女性労働者から時間外労働を外す、これは働きたい女性の意思を尊重したわけですよね。もしそうだとすると、それらの、家庭責任があるから保護する、家庭責任がないから保護しなくていいというんであれば、家庭責任を担っていた女性たちが家庭から外れるんだから、逆に言うと男性に家庭責任を負わせるわけですから、であるなら家庭責任を考慮した共通した時間外労働の共通基準をぜひ刑事罰を背景につくっていただきたいと思います。
一応時間になりましたので。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/5
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006・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) ありがとうございました。
次に、坂本参考人にお願いします。坂本参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/6
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007・坂本修
○参考人(坂本修君) 弁護士の坂本です。
私は、日本労働弁護団、自由法曹団に所属をし、弁護士を四十年間、主に働く人たちの権利を守る裁判その他に携わってきました。この二年間は、労働法制問題、女子保護規定の撤廃問題で全国各地を百数十カ所歩いて、恐らく万を超える労働者の人たちと話をしてきました。その知識と経験に基づいて、法案について意見を申し上げます。
法案の問題点は大きぐ言って三つあるんだと思います。一つは、二日八時間労働の原則をがたがたにしてしまう新裁量労働制と変形労働の拡大をどうするかという問題です。第二の問題は、安定雇用を破壊する短期雇用契約の新設の問題です。そして第三の問題は、いわば法案のサボタージュと言っていいと思いますが、男女共通の労働時間の規制ということをしない、罰則つきの法的規制はしないとしていることであります。
この点について衆議院でも議論が沸騰し、継続審議になったにもかかわらず、今回は一回の、わずか一日の審議で修正可決されて当院に法案が送られてきました。修正はそれでは修正になっているのでしょうか。たくさんのことを申し上げたいし、私は結論としては抜本修正以外に道はない、その点では日本共産党が、一昨日ですか、提案された中身を支持するものですが、きょうは時間が限られているのと、その幾つかの問題の中でも最小限これだけはという絶対に修正すべき問題、しかも参議院の良識をもってすれば全党がこれならば一致できるはずだと思う問題に限定をして意見を申し上げます。
第一は、新裁量制の問題です。裁量制は時間のけじめがなくなります。みなしてしまうわけですから、現実に幾ら働いているかが問題になりません。
私は日本テレビ労働組合の長い間の顧問です。日本テレビに持ち込まれようとしたときには、月間百時間、二百時間、ごく少数ですが月三百時間の残業者がいるという中で、会社が提起してきたのは一日七時間とみなすという提起でした。これが裁量労働の持っている怖さです。こういうことをどうして認められるのかという問題であります。結局これを認めますと、企業の課す明示または黙示のノルマ、あるいは仕事の必要ということで自由自在に労働者は働かされ、結果が明確でない企業が評価する業績査定に追われて労働者はコマネズミのように働かされることになります。
よく残業代がなくなるということを言われています。そのとおりであります。しかし、重大なのは残業代がなくなるということだけではありません。命と健康と家庭が危ないんだと思います。
ここに私は判決文を持参しておりますが、日本最大の広告会社電通で、事実上の潜り裁量、八カ月間で午前二時以降の深夜退社が七十回、自殺する直前の七、八月は四日に一遍の徹夜という非人間的な、裁判所も厳しく糾弾している労働で、入社わずか一年六カ月の青年が自殺過労死し、東京地裁は一億二千六百万円の支払いを命じています。ここに裁量労働の本当の恐ろしさがあるんです。失うのは金だけではない。もちろん家庭がどうなるかということは諸先生方に言うまでもありません。修正で歯どめがかかったんでしょうか。
衆議院の修正で言われていることは二つです。一つは、本人の同意が入ったからいいじゃないかということです。私は四十年の自分の弁護士生活を通じて確信を持って申します、会社全体が裁量労働制に入る、何百何千という労働者がその仕組みを労使協定で導入されたときに、一人ないし二人の労働者が自分だけはノーと言って自分の生活と権利を守ることは絶対にできないんだということを。できないけれども労働者は我慢しろというならまだいいです。できないことをできることだとして法案を認めるということについてはどうにも納得いきません。
もう一つの歯どめの問題は、したがってこの歯どめは同意かどうかではなくて、やっぱり業種指定を明確にすることだと思います。
私たち弁護士は現在裁量労働の対象であります。これについて文句言いません。結構厳しい労働なんですが、しかしこれについては裁量性あると思います。けれども、法案が言うようなあの茫漠とした労働要件で裁量労働を認め、実際には全ホワイトカラーに広がるということについては、とてもその職場に裁量労働があるとは思いません。
修正法案では適用対象の拡大に歯どめがかかっていません。修正されているのは、法案成立後に専門委員会を持って、そこでもいろいろ相談をして、中基審で労働大臣が定める指針の中身について答申をするということになっていることであります。これは朝日新聞が法案の中身で決めないでどこかに任すということでいいのかと社説に書いていますが、それはそのとおりだと思います。私は、国会の審議権の放棄であり、国会の自殺だと思います。白地刑法という言葉があります。何でも処罰できるように刑法をつくっておいて、中身は警察や検察のやりたいように任す。これは人権保障上許されない。労働者の命と健康にかかわるこんな重大な問題について、どんな中身なのかということを法案で決めないで別のところにお任せします、これは許されるところではないと思います。
もう一つ、余り言われていないことを申します。
これで決めるものは、実は労働大臣の指針の中身を決めるために中基審が答申するというんですね。じゃ、その決めた指針に違反したらどうなるとか、その法的効力は全くないでしょう。刑罰があるわけでも何でもありません。これをもって歯どめがかかったというわけにはどうしてもいかないんだということであります。
第二の大問題は、時間外・休日・深夜労働について男女共通の労働時間の上限規制がないことであります。
法案は、御承知のとおり、労働大臣の定める基準に適合したものとなるようにしなければならないとしております。この条文は、実は労働基準法の現行法に有給休暇をとったことに対して不利益な待遇をしてはならないという、百三十四条だったと思いますが、ただ一条ございます。それについては、私ここに三省堂の模範六法を持ってきていますが、そのことについての最高裁判所の判例が最も重要な判例として引用されています。最高裁は、これは努力義務であって私法的にも拘束力がないということを明言しております。三権の長であり最終裁判所である最高裁が決めている判例を、それと違った解釈で大丈夫だということは許されないことだと私は思います。
これについてはどうしたらいいんだと。やっぱり業務制限をびしつとしなければいけない。それならば、今行われている十一業種で弊害が起きているのか起きていないか調べなければいけない。そして、客観的に特定する、同意したかどうかを調べて決めなければいけない。したがって、本法案からは新裁量制の提起を削除し、そしてちゃんと衆知を集めてもう一遍練り直すべきだと思います。これは連合の要求及び学識経験者をもってつくられております連合要求応援団の要求もそうでした。日弁連含め我々法曹界、全労働界がそのことを望んでいます。ぜひ当院でそうしていただきたいというふうに思います。
最もすぐれた解決案は、私は、男女共通に労働時間の上限を罰則つきで規定することだと思います。そのことがどうしても間に合わないならば、女子保護規定の撤廃の施行について整備法の附則を変えて、そして施行を延期したらいい、男女共通の労働時間の規制が実現するまで延期なさったらいいと思います。立法技術的には極めて簡単であります。一部に誤解がありまして、そういうことをやるとせっかく改正した均等法の改正部分が延びちゃうんだ、それも流れちゃうんだということを説明なさっている方がいらっしゃいますが、これは全く違います。その部分だけ変えるということは立法技術上簡単明瞭であり、最もわかりやすいというふうに思います。
最後に、参考人としてお願いがございます。
私たち弁護士は、労働者がこれ以上過労死にならないように、家庭が破壊されて少年非行がこれ以上ふえないように日夜全力を尽くしています。でも、どんなに頑張っても、職場ががたがたに変わっていったときに裁判で救えることというのは余りにも限られております。
参議院選挙で劇的な形で国民の審判がありました。国民は、財界本位ではなく、国民がもう少し人間らしく生きる社会を願って一票を投じたのです。その結果として諸先生方がこの場におられるのだと思います。諸先生方の日ごろの言動を見、そして女子の保護、そのために頑張られること、人間らしく生きる権利を守るために努力されること、そのことを信じて私たちは一票を投じました。これがこのままで法案が通ることは、結論として申しますが、五千四百万の労働者にとって悲劇であるだけではなくて、自分の一票で自分の幸せを実現したい、それが議会制民主主義だということを信じて行動したすべての国民にとって悲劇であります。
参議院が良識の府として、衆議院のカーボンコピーではなく、今私が言った程度の是正はぜひ是正してほしい。各党が今まで言ってこられた中での基本的な考え方と私が言っていることは矛盾するとは思いません。あるいは自民党だけは矛盾すると言われるかもしれません。しかし、自民党の選挙政策は参議院のときに人間を大切にする政治でした。家庭が崩壊し、女性が働けなくなり、労働者一万人もが過労死で死んでいく、そのことがさらに拡大するような政治が人間を大切にする政治だとは思いません。自民党を含めて一致されることを願って、私の意見を終えるものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/7
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008・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) ありがとうございました。
次に、角田参考人にお願いいたします。角田参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/8
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009・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 御紹介にあずかりました中央大学の角田でございます。
最初、若干今度の労働基準法改正案がどういう課題にどういう形でこたえようとしているのか、その基本的な特徴というものをコメントいたしまして、それから若干の各論的問題を述べさせていただきたいと思います。
今回の労働基準法改正はさまざまな性格を持っていると思います。一部分だけをつかまえてこれが全体だというふうに言えないようなそういう性格を持っていると思います。
一つには、労働基準法が制定をされてちょうど昨年で五十年になりますけれども、この基準法の、あるいは基準法を取り巻くさまざまな平成立法と申しますか、そういう立法改正がここ十年あるいは十五年進んでまいりました。国際的基準を追いかけようという動きもありました。それが労働基準法の本体に及んで改正されようとしている、これが第一点でございます。
一九九一年に労働基準法研究会の中に労働契約等法制部会というものが設置されておりまして、そこで基準法の中の労働契約や就業規則に関する法規制のあり方が提案をされておりました。その部分が今回の基準法の中に、もっと改善すべきであるという提案がありましたけれども、いろんな薄められた形で入っている。労働契約に当たって書面を渡さなければならないとか、退職に当たって退職の事由を提示しなければならないとか、こういういろんな部分がありますけれども、これは明らかに契約法部分に及ぶ改善提案が受け入れられていると言っていいと思います。
二つ目は、先ほどから話が出ております規制緩和の動きでございます。九五年の三月の閣議決定で今回の基準法の中に盛り込まれておりますような規制緩和の提案が既に決められておりまして、閣議決定を受けてそれから中基審におりてくるという通常の立法手続と違った方式で行われました。これが第二点目でございます。
第三点は、昨年の六月に既に成立をして来年の四月から施行が予定されております雇用機会均等法と同時に改正をされました基準法の女子保護規定の廃止、この施行に合わせて基準法の今度は男女共通の時間外労働規制に進まなければならない、こういう問題が受け継がれていたわけでございます。
最後に、これが非常に重要だと思いますけれども、こういったさまざまな課題にこたえる形で二十一世紀、もうあとわずかでございますけれども、これをにらんだ働き方のルール、雇用のルール、これが今回の法制の中に姿をあらわしている。今度の労働基準法が新しい時代のワークルールにどう対応しようとしているの史この点が忘れられてはならないと思います。
私は今回の基準法の改正の改善部分を見ますと、労働契約の中身に立ち至って規制した部分、これは有給休暇の三年半日から勤続一年を二日に延ばす、六年半で二十日になるという、この部分を除けば、あとはありません。
中基審の会長を務められました方の中基審答申が終わった後のインタビュー記事が日本労働研究機構から出されている週刊労働ニュースに載っております。これを見ますと、もう労働基準を行政、法律で定めるという時代ではないんだ、むしろ労使の話し合いのルールを定めるということにこれからの法律のあり方は限定すべきである、特に三六協定の男女共通規制が組合や労働者代表を対象にするような変な規定になったのは、これは組合が行政に甘えるという姿勢をとったためにあんな変な規定ができたんだと、こういう非常に率直な本音を語っていらっしゃいます。
これは、これまで労働法というのは、労使の構造的な力の不均衡、これを契約の自由にゆだねておったのでは労働契約は現実的に一方的決定を押しつけられるに等しい、したがって労働者の健康や生命や安全をという観点から最低基準を法律で定める、こういう考え方をとってまいりました。力の不均衡モデルというふうに言ってよろしいかと思いますが、これを二十一世紀の労基法規制の理念、ニューモデルというふうに言うとしますと、むしろ情報は提供しよう、契約の締結に当たって労働条件の明示、これはちゃんと示そう、しかしそれをどう選択するかはこれはもう法律としては介入をしない。情報モデルというふうに言ったらいいかもしれません。個人の選択の自由が強調されておりますが、これは言うまでもなく自己責任ということが背景にあります。余り語られませんけれども、自己責任。そして、自己責任をした以上は法律でそれ以上の救済はしませんよということを意味しているわけでございます。
こういった社会化原理に基づくこれまでの労働法規制が後退をしている、そしてむしろ労使の交渉機構を整えるということに限定をする法理念が前面に出ている、これが今回の労基法の底を流れるものではないかというふうに思っております。
各論の問題は幾つかありますが、重要な問題は男女共通規制と新裁量労働制だと思います。あとの二つ、三年の有期雇用契約を認めること、変形一年制の上限を弾力化すること、これも問題だと思いますけれども、時間に限定がありますから、二つに絞らせていただきます。
一つは、三十六条の新しくつけ加えられます二項、三項、四項の規定でございます。この規定は先ほど申しました規制理念の変質、転換というものを如実にあらわしておりまして、これまでの労基法の置き方と違いまして、いわば労基法の中にはなかった、これまで福祉法の中で多様化されてきた行政指導の根拠規定を置く、これが目新しい点でございます。
二つ目、この規制の名あて人が力の不均衡モデル、社会国家モデルのものですと使用者、当然のことでございました。しかし、今度は過半数組合あるいは労働者代表。同じように三六協定を締結するに当たって労働大臣の定める基準に適合するようにしなければならない。名あて人が労使同等に予定をされております。これは、国は話し合いの場を設定するけれどもそれ以上には立ち入らないということの明確な表明だと思います。その効果が定かではありません。これはまたいろいろ議論もあるでしょうからこれ以上触れませんが、その効果は定かではありません。私法上の効果が出てくるのかどうか、これがポイントだと思いますけれども、非常に不明確なままでございます。
二つ目、新裁量労働制の問題。私は問題は四つあると思います。
一つは、一体新裁量労働制の対象になる労働者の範囲をどう限定するのか。衆議院の議論を読んでみましてもよくわかりません。これはよくわからないのは、客観的に限定するというよりも労使委員会の決定に任せるというニューモデルの考え方がそこで貫かれているからではないか。
それから二つ目、労働時間と実際のみなし労働時間の間に乖離が出てきた場合にそれをどう戻すのか、この保障がございません。
それから三つ目、重要な権限を与えられている労使委員会の選び方、権限、こういうものについてまだ明確になっておりません。
四つ目、それにもかかわらず、労使委員会には、条文を見ておりますと、三十八条の四の文言は、重要な決定が行われる事業場に、賃金、労働時間その他労働条件について審議し、意見を述べる労使委員会が置かれている場合にはというふうに書いてありまして、これは下手をしますと労使懇談会あるいは従業員懇談会、こういうものの意見を聞いた上で、あとは恐らく使用者が決めることになると思うんですけれども、そういうことによって労働条件全体、組合がない職場が多うございますので、そういうものについて決めていく。組合はなくてもいい、要らない、従業員代表制の意見を聞きながら決めていけばそれで集団的な決定システムは整備をされていく。こういう裏口から入った従業員の懇談会の権限拡大につながりかねない。この四点が問題だというふうに思っております。
以上、時間でございますので終わらせていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/9
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010・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) ありがとうございました。
次に、工藤参考人にお願いいたします。工藤参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/10
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011・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) ただいま委員長から御紹介いただきました工藤でございます。
最初に、労働基準法の一部を改正する法律案につきまして、この委員会におきまして真摯な討議が続けられておりますことに心から敬意を表したいと思います。
私は日本ILO協会の常務理事をいたしておりますが、その日本ILO協会、必ずしも余りまだポピュラーではございませんので、最初にちょっと紹介をさせていただきます。
一九四九年に設立されて以来、我が国におきましてILOに対する協力民間団体としてILOの諸活動に対する協力事業等を行っております財団法人でございます。
申し上げるまでもなく、ILO自体はこれは国際労働機関でございますが、国連の専門機関の一つで、世界の労働問題を扱う国際政府間機関でございます。ただ、政府間機関であるにもかかわらず、その特色といたしまして、政府の代表とともに労働者の代表、使用者の代表が独立、対等な立場でこのILOの意思決定及び運営に参画をするということが特色になっております。その中心的な機能は、いわゆるILO条約あるいは勧告と言われております国際的な公文書にあらわれます国際労働基準の設定、そして、現在百七十四カ国でございますが、ILOの加盟国にその実施を促進するということが最大の機能でございます。
したがいまして、日本ILO協会といたしましても、この国際労働基準そしてその背景にあります海外各国の労働基準等につきましての情報等を普及、紹介をする、あるいは調査研究をするという努力を積み重ねておるところでございます。そういう活動の一環として当然に今回の我が国の労働基準法の改正につきましても強い関心を持たざるを得ません。また私自身、一九四八年のILO協会設立準備活動以来この問題に身を置いてきました立場から、この五十年間大きな改正のなかった労働基準法が改正をされるということで個人的にも非常な感慨を感ずる次第でございます。
ILOは、第一次世界大戦のあの悲惨な惨禍を経まして、この世界の恒久平和を確立するためには社会正義、私はこれは具体的には公正な労働基準と読みかえることができると思いますが、社会正義の上にのみ世界の恒久平和は築くことができるという非常に高い理念に基づいて一九一九年に創設されました。
当時の我が国は、連合国側の一員として、いわば第一次世界大戦の場合には勝者の立場からこのILOの創設にも参画をしたわけでございます。しかしながら、当時の日本の社会政治情勢からしまして、このILOの創設によりまして初めて我が国は国際労働基準、国際的な労働基準ということを意識することになったと思います。
例えば一九二二年には、当時ございました内務省に社会局というものが設けられました。それまで農商務省が扱っておりました労働問題その他はこの社会局に移されました。あるいは一九一九年第一回ILO総会以来、いわゆる官選労働代表と呼ばれております政府が一方的に決めた労働代表が総会に出席をしておりましたが、一九二四年からはILO憲章に規定されておりますとおり代表的な労働団体、当時は日本労働総同盟、友愛会でございましたが、そこと相談をして労働代表を選ぶというようなことになったのもまさにそのあらわれだと思います。
その後、第二次世界大戦を人類は再び経験することになりました。ILOはスイスのジュネーブからカナダのモントリオールにしばらくの間本部を移しまして戦火を避けたわけでございますが、一九四四年にはフィラデルフィアで第二十六回のILO総会が開かれております。この総会でILOの目的に関する宣言、いわゆる有名なフィラデルフィア宣言と呼ばれておりますものが採択をされました。このフィラデルフィア宣言におきまして、従来のILOの理念の上にさらに、例えば労働は商品ではない、あるいは表現及び結社の自由は不断の進歩のために欠くことができない、あるいは一部の貧困は全体の繁栄にとって脅威であるというような新しい理念がつけ加えられたわけでございます。
我が国の労働基準法も、このような国際労働基準をめぐる動きを背景にいたしまして一九四七年に制定をされました。そのことは当時の国会審議の記録とか、あるいは戦前ILOの東京支局長をされ、戦後は初代の中労委の事務局長などをされました故鮎沢巌先生からお聞きした言葉などにも明らかでございますが、労働基準法の策定に当たっては、八時間労働制の確立あるいは強制労働の排除というような国際労働基準の導入によって我が国社会の近代化を促進しようということが大きな課題となっていたと思われます。
ILOの方は、戦後五十年間、世界の社会経済の大きな変化を踏まえまして新しい労働基準を次々と策定いたしてまいりました。一九四七年から今日までに九十七のILO条約が策定をされております。一方、我が国の労働基準法は、四十時間労働制あるいは労働安全衛生法の独立、これを除いて抜本的な改正が行われないで今日に至っておるわけであります。
今回、このような改正があるに当たりまして、以上国際労働基準と我が国のかかわりを踏まえまして、三つ、四つの点について私の意見を述べたいと思います。
一つは、法改正の基本理念に関してであります。
今回の改正の課題は、二十一世紀を展望し、国際労働基準を踏まえつつ、我が国の勤労者に新しい働くルールを確立することであると考えております。これに関しまして、先ほど述べたILOの基本理念、公正な労働基準なくしては世界の平和はあり得ない、あるいは労働は商品でないというような理念はこの基準法の改正にも引き続きやはり理念として引き継がれるべきであるというふうに考えます。これらの理念は、経済競争のみに目を奪われることにより、産業や国家の間に過酷な競争が生まれ、労働条件の低下や労働者の健康の悪化をもたらし、それが経済全体を結局は損ない、ひいては平和を脅かしてきたという世界のこれまでの苦い経験を踏まえたものであるからであります。
今回の改正に即して言えば、労働の規制緩和の問題であります。私は、経済活動が自由化され、企業の競争が激しくなる場合には、それに対応する労働基準などの社会的ルールを確立することが国際労働基準の理念に沿うものであることを信じて疑いません。今回の改正原案については、労働界を初め各界から規制緩和の行き過ぎが指摘されており、私も大いに懸念するところでございました。しかし、幸いに衆議院段階で一定の修正が行われておりますが、なお後に憂いの残らないものになるよう、参議院でさらに万全の点検を行われるように期待をいたしたいと思います。
二つ目は、労働時間管理の新たな確立の問題であります。
ILOがこれまで世界で果たしてきた役割の中で最大のものは八時間労働制を国際労働基準として定着させたことにあると思います。もちろんILOはこれまで労働時間に関する十三の国際労働基準を採択しております。しかし、その基本は、業種とかあるいは就業形態にかかわらず八時間労働制を確立することにありました。そして同時に、国際基準では労働時間の上限を定める方向が示されております。この点、今回の改正で、時間外労働について、労使協定による場合でも年間三百六十時間を上限とすることが規定されたことは前進であると思います。これは国際労働基準に沿うものであり、これを基本に今後の検討や施策を強め、労働時間のより一層の削減、適切なコントロールを推し進めていただきたいと思います。
一方、労働時間管理の柔軟化に関しましては、これまで審議会並びに衆議院で大きな議論があったと聞いております。特に、新しい裁量労働制の導入と一年単位の変形労働時間制の要件緩和につきましては、労働の規制緩和との関係で労働法の研究者の間からも心配する声が上がっておりました。これについても衆議院において、制度の乱用を防止するため、本人同意の確認や労使委員会の運営の適正化など、幾つかの措置が新たに加えられております。しかしながら、新しいこの裁量労働制は、極端に言えば世界に例を見ないものであると思います。国際的にもテストケースとして注目されるわけであります。それだけに、仮にも労働条件の低下に結びついたなどと言われることのないよう、十分に慎重な運用と、監督、点検の徹底、そして制度に関する不断の検討が必要であると思います。
三つ目は、男女差別の撤廃並びに家庭的、家族的責任など、労働者の多様なニーズへの配慮であります。
職場における男女の平等はILOの基本理念の一つであります。この理念の具体化のために、一九五〇年代には男女同一労働同一賃金、第百号条約が、そしてまた差別待遇の百十一号条約が策定されております。そして、一九七五年には女性労働者の機会及び待遇の平等に関する宣言と行動計画が採択され、七九年の国連の男女差別撤廃条約に至ったわけであります。
また、これに合わせて、家族的責任を持つ勤労者に関する労働基準が前進をいたしました。一九八一年には家族的責任を有する労働者条約、百五十六号が採択されたのであります。これは、家族的責任を有する労働者の問題が国家の方針において考慮されるべき一層広範な問題の諸局面であることを認識するというようなことが明らかにされておりますが、家族的責任の問題を国際条約として確定した画期的な条約でございます。
私は、今回の労働基準法改正において最も配慮されるべき点の一つは、国際水準の男女平等と家族的責任に対する対応ではないかと思っております。戦後五十年、労働基準法は、女性の夜間労働を原則禁止、また残業時間については上限が定められておりまして、これが我が国の産業を支える勤労者の家庭を支えるために果たした役割は非常に大きいと思います。今度は来年の四月にはこれらは撤廃されるわけでございます。したがって、これに伴い家族的責任への対応は、これまでのような女性労働のみの規制によるものから、国際基準を踏まえた男女共通のルールへの転換を図る必要があると思います。
今メモが回ってまいりましたので少しはしょりますが、いずれにいたしましても、児童労働の問題もございますし、衆議院における附帯決議の中にも、百三十八号条約をできるだけ早く批准をしようと、こういう附帯決議があったように聞いております。願わくば、この条約が一日も早く批准され、今世界的に展開されております国際児童労働撲滅運動に日本がそれなりの貢献をされるようになることを心から念願をいたしたいと思います。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/11
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012・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) ありがとうございました。
次に、河野参考人にお願いいたします。河野参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/12
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013・河野通剛
○参考人(河野通剛君) ただいま御紹介いただきました凸版印刷株式会社労政部長の河野でございます。本日、労働基準法の一部を改正する法律案の審議に参考人として意見を述べさせていただく機会をいただき、光栄に存じます。
私は、今回の法改正審議の参考にしていただくべく、今までの五名の方の参考人とはちょっと違った立場になるかもしれませんが、現実の事業経営の中から、この法改正の中心的位置を占めております裁量労働制について、当社が既に導入しております裁量労働制の中身について御説明申し上げ、それを通しまして今回の新たな裁量労働制に対する意見とさせていただきたく存じます。
それでは、早速現行の裁量労働制について御説明申し上げます。
まず一番最初に、導入の経緯を御説明したいと思います。当社の裁量労働制は平成二年八月に導入いたしましたが、まず最初にその背景、目的を御説明します。
目的の第一は、労働時間の短縮にあります。
当社は、受注産業の特徴といたしまして、以前から長時間労働体質を有しておりまして、この問題の解決が労使共通の重要課題となっております。従業員の視点から見ますと、昨今特に若年層を中心としまして、収入より時間という意識が高まる傾向がございます。当然労働組合からの時短に対する要求も強まっております。一方、会社といたしましては、社会の趨勢として時短が進む中で、このような体質を放置しておきますと、従業員のモラールが低下することは無論のこと、従業員の定着率が低下しまして、新規採用においても障害となりかねないと、このように考えておりました。
したがいまして、当社におきましては、この平成二年八月の裁量労働制導入に先立ちまして、昭和六十年に営業部門、平成元年に事務部門のフレックスを導入いたしました。それから、平成二年五月には、所定労働時間の短縮でございます週四十時間制、完全週休二日制を導入しました。その後、製造部門の勤務体制の改善を平成四年から五年にかけて行いまして、また年次有給休暇の増加等、あらゆる時短策を講じてまいりましたが、裁量労働制の導入もその施策の一環として実施したものであることを御理解いただきたいと思います。
目的の第二は、社員の意識改革にございます。
当社は約一万四千名の従業員を有しておりますが、企業規模が大きくなりますとどうしましても自分がやらなくてもだれかがやってくれるだろうという意識、これはいわゆる大企業病と呼ばれておりますが、こういったものが蔓延する傾向がございます。一方、印刷産業は他産業と同様に成熟化しております。既存の事業領域における量的な拡大による業績の伸びはもはや期待できない状況にございます。したがいまして、会社としましては、いかにして既存の商品に付加価値を加えるかとか、いかにして新たな事業領域に進出するか、こういったものが重要な課題となっております。このような状況下におきまして、管理職を含めた全従業員、特にホワイトカラーと言われる人たちが自己の業績貢献度を意識することが重要と考えました。その意味から、当社では技術研究職を中心とした従業員に裁量労働制を導入する必要がある、このように考えたわけでございます。
具体的な現行の裁量労働制の中身でございますが、簡単に述べさせていただきます。
まず実施対象者、これは法で定める業務のうち、新商品、新技術の研究開発及び情報処理システムの分析、設計にかかわる従業員を対象としております。具体的には、技術研究職を中心とした自己裁量性の高い業務に従事する者であり、かつその仕事がいかにそういった自己裁量性の高い業務に従事する者であっても、自己の業務を自主的、自律的に遂行し得る者を対象としております。したがいまして、新入社員とかいわゆる経験年数の短い方は対象といたしておりません。今現在の実施人員は五百十四名でございます。
勤務の取り扱いでございますが、一所定労働日におきましては、実働一時間以上の業務を行うことにより一労働日勤務したこと、このようにしております。コアタイムはございません。休憩時間は正午から一時の一時間をとっております。昼から出てくるような方の場合は六時から七時が休憩時間でございます。一カ月間の勤務は、出勤日数が、所定労働日数というのが決められておりまして、大体平均すると月二十日でございますが、その二十日を満たせばよいということになっております。
その次に手当でございますが、勤務体制手当として、この裁量労働制の適用を受けている方には毎月各人の本俸、役付手当、住宅手当の合算額の二五%を支給しております。これは残業手当にかわるものでございまして、当社におきましては一労働日の労働時間を九・五時間、すなわち所定が八時間で残業が一・五時間とみなしておるためでございます。それ以外に奨励金というものを六カ月ごとに支給しておりますが、これは各人の業績評価に基づきまして、先ほどの勤務体制手当と同様に、本俸、住宅手当、役付手当の合算額の何%というふうにして支給しております。四段階に評価されることになっておりますが、特別というのがありまして、それは一五〇%、Sという評価を得ますと一三〇%、Aという評価を得ますと一〇〇%、Bという考課がなされますと七〇%が支給されることになっております。一番直近の考課分布がどうであったかということを参考までに申し上げますと、平成九年の十月から本年の三月まで六カ月間の業績を見まして、特別という評価をされた人はいませんでした。ゼロでございます。Sは七%、Aは三九%、Bは五四%の人員分布でございました。
その次に、評価制度について御説明いたします。奨励金は評価によって支給額が大きく変化しますものでございますから、これは裁量労働制を有効に運用していく上で重要な地位を占めております。したがいまして、当社では評価を行う管理職に対する教育に力を入れております。奨励金の評価制度ぱ、簡単に申し上げますと、目標管理と部門ごとに定められた絶対評価基準により実施しております。
非常に簡単に申し上げましたが、以上が当社における裁量労働制の実施状況でございます。なお、今説明いたしました裁量労働制は現行のものであり、平成二年八月の導入以降四年たった平成六年四月に一度見直しをしております。
説明を終わらせていただくに当たりまして、裁量労働制導入に当たり留意すべきことを若干申し述べたいと思います。
裁量労働制に限ったことではございませんが、すべての人事・労政施策を導入するに当たり必要なことは、第一に従業員を信頼することだと我々は考えております。二つ目に、おのおのの企業の業務実態でございますとか風土を勘案の上、自前の制度をつくり上げること、第三に、目的を組合、従業員に明確に示し、理解を得ること、この三点が重要ではないかと私は考えております。
私は、今回の労働基準法が実現されますと、裁量労働制の対象者が広がることによりまして時間短縮と意識改革が当社におきましてより進行することを期待しております。ただ、今回の改正により、現行制度と新たな裁量労働制の調和を図る必要がございます。改正されたならば、法の趣旨を尊重いたしまして、労働組合との十分な協議を経て現行制度の見直しを行いたいと考えております。なお、見直しに当たっての目的は、現行制度の導入時と何ら変わるものでないことを申し上げて、私の意見とさせていただきます。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/13
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014・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) ありがとうございました。
以上で参考人の御意見の陳述は終わりました。
これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑のある方は順次御発言願います。
質疑、答弁とも座ったままでお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/14
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015・末広まきこ
○末広まきこ君 私は、さきの委員会で裁量労働制に関する問題を中心として労働省に質問させていただきましたが、本日は実務に携わっている方や労働者を代表する方からもこの裁量労働制に関しての御意見をお伺いしたいと思います。
新たな裁量労働制については、制度導入による労働者への影響を心配する声が上がっていたことは事実でございますが、衆議院における修正も加わって、労働者側にとっても納得できる内容になったのではないかと思います。この衆議院修正では、新たな裁量労働制の導入の前に新制度の内容を十分議論するために施行時期が一年延期されることになりました。この間十分な審議が尽くされ、その趣旨である、労働者が生き生きと働き、その能力を十分発揮できるような制度に練り上げられることを私としても願ってやみません。
そこで、松浦参考人にお尋ねしますが、参考人としてはこの一年間にぜひ審議されなくてはならない課題としてどのようなものがあるとお考えでしょうか。その理由を含めてお聞かせください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/15
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016・松浦清春
○参考人(松浦清春君) 裁量労働制につきましては、何人かの参考人からも意見がございましたように、日々の時間管理からみなし労働制になるわけでございます。したがいまして、このみなし労働制になる、させるということを含めて労使委員会がその是非について決議をするわけでございますので、三十八条の四に定めてあります一から五までの部分、これらについての責任を労使委員会が負うということでございます。したがって、当然のことながら労使委員会の任務と権限というものについてこれから十分な議論が必要だと。
特に最も重要視すべきことにつきましては、例えば当該労働者の労働時間に関するみなし労働時間を設定するということになっておりますので、この制度が導入された後、みなし労働時間と実労働時間が乖離をしていないかどうかということについて労使委員会が責任を持って一定期間ごとにチェックをし、大きな乖離がある場合にはこれを改善するという権限を付与しなければ実際の運営はできない、このように考えておりますので、特にこの労使委員会の持つ任務と権限等の関係について明確にしていただきたいということを考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/16
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017・末広まきこ
○末広まきこ君 ありがとうございます。
確かにみなし労働時間と実労働時間との時間差というものが大変問題になるかなと思います。
次に、裁量労働制を実際に導入している企業の方から制度の導入や運用状況に関して具体的にお伺いするきょうはとてもいい機会だと思っておりますので、河野参考人、どうぞよろしくお願いいたします。
今回の裁量労働制の導入ポイントは、松浦参考人からも今お話がございましたように労使の話し合いであるというふうに私は考えますが、御経験を御披露いただきたいんですが、御社では裁量労働制を導入するに当たりまして労働者側とどのような話し合いをなされたのでしょうか。その際、労働者側は裁量労働制のどのような点を懸念したといいますか心配なさって、これに対して経営者側はどのような配慮をなさっていらしたのか。スタート、立ち上がり時点においての様子をお聞かせいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/17
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018・河野通剛
○参考人(河野通剛君) 当社におきましては、平成二年の導入に当たりまして、労使時短委員会というのが常設機関として設けられておりまして、その中で話し合われたわけでございますが、計四回で合意に達したと。非常に短期間に合意ができましたのは、実は昭和六十年に、先ほどちょっと御説明いたしましたが、営業フレックス制度の導入でございますとか、平成元年の事務、研究開発部門のフレックス制度、それから平成二年五月の完全週休二日制の導入等の時短施策もこの労使時短委員会という中で既に議論を経ておったわけでございます。そういう意味でいわばこの裁量労働制導入に関するインフラができておった、そういう状況がありましたので、四回の労使時短委員会で合意に達したということでございます。
そのときに、裁量労働制というのは今までにない制度でございますから、労働組合から一番強く要求されたということが、いわゆる時間管理をする責任ある立場の管理職、これに対する教育をきちっとやりなさいということで、具体的にどういうふうにやるのかということを問われて、我々としましては管理職用のマニュアルというものを作成しまして、それに基づいてその対象職場の管理職に対する教育を徹底いたしました。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/18
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019・末広まきこ
○末広まきこ君 裁量労働適用者を指導していく立場の管理職教育が最も重要であると感じた、そして合意形成に対しては会社としては下地があったと、こういうようなことかと思います。
制度導入者は先ほど五百十四名とたしかお述べになっていらっしゃいましたが、それは全体のうちの何割なんでしょうか。女性が含まれているのかどうかという点。それから、平成二年以来導入なさっているということですが、制度適用者はふえてきているのか、減ってきているのか、そのあたりもお教えください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/19
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020・河野通剛
○参考人(河野通剛君) まず、この制度は平成二年に導入したわけでございますが、そのときも、まず実施人員から申し上げますと五百名強でございまして、現在も五百十四名でございます。この間ほとんど同水準で維持してきたという感じをいたしております。
パーセンテージにしますと、全従業員から管理職を除きましていわゆる組合員ベースで考えますと、導入当時が約五%、その五百名強というのは五%でございまして、現在は五%を切って四%台に落ちております。これは平成二年におきます全従業員数と、現在の従業員数が約二千名ぐらいふえてございますので、その関連がございましてパーセンテージは減っておりますが、いわゆる実施絶対人員は大体同水準で推移している、このようにお考えいただきたいと思います。
それから、女子の参加でございますが、その約五百名のうちの一割ありません。たしか私の記憶では現在でも四十名弱ではなかったかと思っています。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/20
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021・末広まきこ
○末広まきこ君 九年の実績を既にお持ちになつていらっしゃるとお聞きしておりますが、制度導入以降の適用労働者の方からの評判というのはいかがなものでございましょうか。何か苦情とかそういうものが出ているのでしょうか。その辺もお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/21
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022・河野通剛
○参考人(河野通剛君) 私どももこの導入に当たりましては非常に神経を使いまして、導入後半年後、ですから平成三年の二月に一回、それから導入後一年半たちました平成四年の三月、この二回にわたりまして実施者とその所属長、管理職に対するアンケート調査というのを二回やってございます。それを集計しまして、その結果を踏まえて今日までやってきたというわけでございます。
その二回の調査におけるアンケートの結果から、労働時間がどうなったかという観点とそれからこの制度を継続したいかどうかという観点からの二項目、十数項目あったのでございますが、この二項目が重要だと思いますので、この二項目から御説明いたします。
まず、労働時間がどうなったかという質問に対しまして、これは当然実施者に対する質問でございますが、かなり減ったというのが四・七%、それからやや減ったというのが三六・六%、変わらないという人が四一・一%、ややふえた七・四%、かなりふえた三・〇%、それから比較できない、その他、無回答が七・二%ございました。この結果からおわかりになりますように、労働時間短縮の一定の役割を果たしたと私どもは判断いたしました。
それから、制度の継続、このまま継続すべきかどうかを問いました。これは管理職と実施者に対して両方に問うたわけでございますが、まず実施者に対する集計結果は、現状のままで継続した方がよいという人が四四・三%、改善が必要だが継続すべきだという人が五二・〇%、継続すべきでない、ほか三・七%でございました。これを管理職百三十名を対象にやりましたところ、現状のまま継続すべきだという人が三三・六%、改善が必要だが継続すべきだというのが六〇・四%、継続すべきでないというのが六・O%でございました。実施者それから管理職者、いずれも九〇%を超える方が継続すべきだという意見でございましたので、当社としましてはそのまま継続いたしました。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/22
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023・末広まきこ
○末広まきこ君 裁量労働適用者と管理職双方とにアンケートをとっていらっしゃいまして、非常に適用者からは良好な評価を得ているとアンケート調査のもとのお答えでございますが、裁量労働制について、導入企業としてこれですべてオーケーだということでもないのかなと推察するわけでございますが、今後の課題としていらっしゃる点について何かございましたら参考までにお聞かせください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/23
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024・河野通剛
○参考人(河野通剛君) この裁量労働制の一番のポイントは、先ほどもちょっと私の意見のところで申し述べましたが、いわゆる評価制度、これをいかにいわゆる公平性ですとか納得性を高めるかということが重要なポイントでございます。
そういう意味で、私どもの裁量労働制におきましても、奨励金については評価制度を入れておりますが、今までも何回か改善を繰り返してございますけれども、やはり対象者の方からは、目標設定のあり方でございますとか、例えば数値化し得ない貢献度はどのように評価してくれるのかとか、それから所属長からのフィードバック、要するに君の結果はこうだったよというフィードバックが十分でなかったとか、そういった多岐にわたる不満とか改善要望というのがございます。我々は、これはなかなか一〇〇%これを解消することは無理かとは思いますが、一定期間ごとに見直すことによりまして、少しでも公平性、客観性を高める努力はする必要があるかと思います。
当社では、実を言いますと奨励金だけではございませんで、人事評価制度全般にわたる労使の評価制度改定についての話し合いに間もなく入る予定にしております。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/24
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025・末広まきこ
○末広まきこ君 確かに評価制度における公平性とか納得性、あるいは透明性というものが非常に大事で、労働者にとっては、自分の働いた成果、それに対する評価がどのようなものなのかというのは実に知りたいところですし、意欲にもかかわりますし、賃金にもはね返ってくるという大変重要な点だと思うんです。
管理者とそれから当事者とが、今フィードバックという言葉をお使いになりましたが、それはどのような場所でどのような形で。向き合うわけですよね、日本人というのは余りそういう習慣を今まで文化としては持っておりませんよね。自分の仕事に対してあなたはどう評価しているかとか、それで賃金はどうなっているかとかというのは、それはどのようになさっているんですか。立ち入った質問ですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/25
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026・河野通剛
○参考人(河野通剛君) 対象になっておられる方が研究開発職が中心でございまして、大卒以上の方がほとんどでございまして、そういう意味で管理職と実施者の間が、通常の会議室の隅っこなんかでやっているんだと思いますけれども、具体的に、私も見たことはございますが、結構率直な意見の交換をして、なぜということを管理職にかみ
ついたりしている人もいます。
そのあたりのところは、部下と上司というのはやっぱり信頼関係がないとうまくやっていけないものですから、はっきり自分の部下というものに対して、君はこういうところが足りないよとか、こういうところは立派だったよということを評価もしくは指導するというんでしょうか、そういうことをやっておりますので、特段そこに問題点は現時点では考えておりませんが、それを時々サボる管理職がおりますので、これはいかぬということで、我々は管理職に対してきちっとやりなさいということを申し上げているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/26
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027・末広まきこ
○末広まきこ君 今伺っていますと、裁量労働適用者もさりながら、それを管理監督していく立場の管理職というお立場がとても重要であるというのがひしひしと伝わってまいりまして、その中でも人間と人間のことですからコミュニケーションが大事だなということを感じた次第でございます。
次に、制度の具体的運用についても、新しい試みでございますのでいろいろと御苦心なさっていらっしゃることと思いますが、時間の許す限り伺ってまいりたいと思います。
改正案では本人同意を要件としているわけでございますが、本人が不同意、つまり裁量労働制の適用から自分としては外れたいと、このように希望した場合が過去九年の間におありになったのかどうか、もしあったとすればそれに対してはどのような対応をなさったのか、そこら辺をお聞かせください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/27
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028・河野通剛
○参考人(河野通剛君) 自分から適用しないでくれという申し入れがあったのは私は記憶しておりません。逆に、なぜ入れてくれないのということで管理職を突き上げたということは聞いてございます。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/28
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029・末広まきこ
○末広まきこ君 次の質問に入りますと時間がオーバーいたしますのでここら辺でやめさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/29
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030・今泉昭
○今泉昭君 民主党・新緑風会の今泉と申します。
きょうは、六人の参考人の皆さん方、大変お忙しいところ本委員会に出席していただきまして、大変参考になる御意見をいただきまして大変ありがとうございました。
私に与えられました時間は答弁を含めまして往復二十分ということでございますので、具体的な細かいことを聞く時間がないというふうに思います。したがいまして、前もってちょっとお断りを申し上げておきたいと思うんですが、全員の皆さん方ではなくして一部の参考人の皆さん方にしか質問できません。あわせまして、少し大ざっぱな質問になると思いますけれども、その点の御了解も賜りたいと思いますし、私自身、弁護士とかあるいは学者とかという立場でございませんから、専門的な細かい言葉の使い方、多少問題が出てくるかもしれませんけれども、その点もひとつあらかじめ御了解を賜りたいというふうに思います。
まず最初に、この労働基準法というものは、これは私は、皆さん方が十分説明されておりますように、働く人たちの日本国民として、人間として最低の職場環境であるとか労働条件であるとか、生活を側面的に支えるいろいろな条件を規定する法律であろう、こういうふうに考えているわけでありまして、今我が国でいわゆる就業労働者というのは六千万人を上回っておりますけれども、直接的に法律の下支えを受けている雇用労働者というのは約五千五百万人程度にあるのではないだろうかというふうに思います。
そういう中におきまして、我が国には、戦後労働組合というのが法制化をされまして、五千五百万雇用労働者の中で約一千二百万弱の方々が労働組合をつくっているわけでございまして、労働組合ができているところにおきましては、労働基準法に安住するのではなくして、労働基準法に比べて少しでもいい条件を労使の話し合いによって積み上げていく、またそういうことをしなければ労働組合の存在価値がない、何のために組合費を払っているんだ、こういうこともございまして、五千五百万雇用労働者の中の少なくとも一千二百万組織労働者の方々はこの基準法以上の少なくとも条件を持っていらっしゃる、また持とうと努力をされているのではないかというふうに私は思っているわけであります。
きょうは、一千二百万組織労働者の中の大多数を組織化されている、約八百万を組織されている連合の代表の方々も見えておりますが、少なくとも連合という組織労働者を大多数カバーするところにおきましては、そういうような考え方で日常の労使関係を見、基準法に頼らないで独自にそれ以上の条件をつくり上げていこうという努力をされてきているのではないかと思うわけであります。したがいまして、基準法の問題を考えます際には、一番大きな影響を持つのは組織労働者以外の四千数百万人に上る組織をされていない、労働組合のないところで働いている皆さん方にどのようにこの労働基準法の改正というものが影響していくかということを一義的に考える必要が私はあるのではないだろうかというふうに思っているわけであります。
この基準法の改正につきましては、いろいろなことが言われております。特に今取り上げられているのは、裁量労働あるいは変形労働、そしてまた雇用機会均等法の関係で女子の残業規制の撤廃、深夜労働の撤廃等に伴う問題が中心になって、国民の間から、あるいは有識者の皆さん方からもいろんな批判が出ているということは重々承知しておりますが、基準法の中には批判されるものだけではなくして、この改正によって大変恩恵を受けていくのではないかというふうに思われる条項も実はないわけではないわけです。
この基準法を改正するに当たりまして、審議会でいろいろ論議をいただきましたけれども、審議をしていただくに際しましては、それぞれ基準法に直接関与しなければならない労働組合の立場、経営側の立場からいろいろな注文が出て、この基準法の改正が完全ではないけれどもこういう形になって出てきていると思うのです。
例えば今回のこの基準法の改正の中で労働条件の明示という一つの条項がございますが、実はこのことを一つとってみましても、労働条件の明示は当たり前のことなんですが、これは労働組合があるところにはほとんどできているはずでございますが、四千数百万の雇用労働者は必ずしも労働条件の明示というのは義務づけされていないわけであります。どこでどういう形で口約束されたのか、あるいはそんなことを言ったことはないよという形で労働条件を勝手に変えられるというようなことが日常茶飯事に起こってきたものが、こういう労働条件、この基準法の中でこれが明文化されることによって四千数百万人の雇用労働者は大変な影響を受ける、恩恵を受けるということも事実でありまして、これはこの基準法の改正という面におきましては明るい面の一つであることも事実だろうと思うわけであります。
そのほかにも、例えば退職事由の明示などということも、今さら何だと思われるかもしれないけれども、実際上世の中でそういう明示も行われないで解雇されてきた方々が大変多いわけでありまして、幾つか見てみますと、この基準法の改正の中のいい点もある。しかし、今論議になっていますような裁量労働制を問題として、大変問題点があるという点も実はあるわけであります。
そこで、我々としてやっぱり考えておかなきゃならないのは、問題点として出されているこの新しい改正に対して、その改正によって生ずる被害、問題、そういうものをいかに最小限にしていくか、そういう問題を生じさせないようにすることが大変必要ではないだろうかというふうに思うわけであります。
というのは、いろいろ問題点があるから全部廃案にしろとかこの国会で通過させるのは問題だということで、もしこの法案が成立しなかった場合には、私が先ほど申し上げましたように、この改正が生ずることによって大変恩恵を受けていくであろう四千数百万人の雇用労働者にとっても大変な実はマイナスになるわけでありまして、そういう点について組織労働者を代表する立場で連合の松浦参考人はどのように考えていらっしゃるか、ちょっとお聞きしたいというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/30
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031・松浦清春
○参考人(松浦清春君) 私どもは、特に御指摘ありましたように、裁量労働制につきましては審議会で審議をする段階から、対象業務の特定をする考え方について客観性に乏しい、こういうふうに指摘をしてまいりました。そして、その客観的な対象職場、業務の特定の仕方を本文の中に挿入すべきであるという主張をしてきたわけでございます。この考え方につきましては、それができていないということから、今回の労働基準法の改正項目からこれを外してもらいたい、こういう要求もしてまいりました。
衆議院の審議の段階で、こうした私どもの主張を解して、実施時期を一年間延長するということと、その対象業務の特定の方法等については審議会に差し戻して審議会の諮問を労働大臣は受けるということ、さらに審議会に回すまでに専門的な委員会を設置して具体的な考え方の整理をするということ等が明確になりました。したがいまして、不十分な審議のまま法律化をされるという部分については、この時点でどのように明確になったかということについてはまだ十分に明らかにされていないものの、審議会にもう一度戻して十分な審議をする、そのための施行時期をおくらすということまで修正がされたわけであります。
したがいまして、これにつきましては私どもの要求に準じる答えが出てきたものというふうに判断をいたしているわけでありますが、本当にそうした回答になるためには、今後、労働大臣が諮問をすることになりますいわゆる指針の策定に当たっての審議についてこれが十分なものにならなければならない、このように考えているわけであります。
特に私どもが大事に審議をしていかなければならないというふうに考えております点は二つございまして、一つは、この三十八条の四に書いてありますように、事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議するということになっておりますし、そして裁量労働に関連するものについては意見を申し述べ、そして決議をするという、こういうことになっているわけであります。
したがいまして、裁量労働に関連をする労使委員会に付託された権限についてはおおむね明らかになっていると思いますが、この権限を裏づける部分について不明確でありまして、私どもは何らかの形で本文の中にこの労使委員会が付与される権限について明確にしてもらいたいという要求を持っているわけであります。
冒頭申し上げましたように、今回の労働基準法の改正には、また今委員の方からも言われましたが、非常に多くの労働者にいい結果をもたらす項目も入っておりますので、今回のこの国会審議においてぜひ通過をさせていただきたいと思いますが、時間が許せば法案の修正をしてもらってでもこの労使委員会が持つ権限について大きくもしないし小さくもしないと。しかし、少なくとも裁量労働制の実施にかかわる決議の権限とその後のフォローの権限をきっちり裏づける修正をしてもらいたいという気持ちは今でも変わらないわけでございますけれども、そうしたことになりますと、この国会の開会中にこれが成立をしないということも危惧をされますので、ぜひこの参議院の審議の中でその権限を裏づけるそうした手続といいますか審議とその確認をお願いしたいと、こういうふうに申し上げておきたいと思います。
以上であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/31
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032・今泉昭
○今泉昭君 裁量労働にせよ、変形労働時間にしろ、女性の深夜労働の規制撤廃にしろ、それに伴ういろいろな弊害をなくすための立法措置、あるいは立法措置がもしできない場合はそれに準ずる一つの保護策をいろいろな大臣答弁を中心とした今後の実際上の行政の中でこれを補てんできるような体制を当然とっていかなきゃならないというふうに思っているわけですが、今参考人が言われましたそういう問題を解決するための一つのツールとして労使委員会というのがこの法文に出てきているわけであります。
私は、労使委員会という名前は大変いいんですけれども、果たしてこの労使委員会というものが実質的に機能するかどうかということを大変するわけであります。と申しますのは、労働組合が組織化されているところにおきましては労使委員会をつくらなくても実質的に労働組合が肩がわりをしてやっているわけでございますし、全くある意味ではよっぽど労働組合がしっかりしていない労働組合は別といたしまして、そういうところ以外では心配ないと思うんですが、問題は労働組合ができていないところ、ここで労使委員会ということが本当に機能するかどうかということを大変危惧いたします。
例えば、今我が国には六百万事業所がございます。この中でいわゆる雇用労働者を取り扱っている事業所というのは四百五十万事業所ぐらいあると思うわけであります。この中で、我が国の場合は大変中小零細企業が多いわけでありまして、大体労働組合の組織率を見ましても百名未満の組織率なんて一・一%、一・五%ぐらいの組織率であるというふうに思いますが、要するに中小零細企業のところにはほとんど労働組合がないと。ここにおいて労使委員会というのを機能させなきゃならないということが大変実態に合っているかどうかという心配を実はしております。
御存じのように、十名ぐらいあるいは十五名ぐらいの中小零細企業になりますと、大体そこに働く労働者は、ある意味ではホワイトカラーの仕事もし、ブルーカラーの仕事もし、多能工で多職種工であることは事実なのでありまして、この人間はこの仕事をやっているだけということではないのであります。そうしますと、そこにおけるところの企業の代表者、社長も、社長であり労務部長であり技術部長であり販売部長であり、何でもかんでもやっているという中での実は企業の実態というのが存在しているわけでございまして、そういう中において労務問題だけを取り扱う労使委員会ということができるということは、まずこれは一〇〇%無理ではないだろうかと思うわけであります。
したがって、労働者の間において投票をして労使委員会で役員を選ぶなんということは、これはとてもできてこない。なあなあの家族的な形での企業ですから、おいおまえがやっていてくれよという社長からの依頼があればやるかもしれないというような状態の中において、私自身も実態をずつと見てまいりましたけれども、中小零細企業において一番必要な、この弊害を防がなきゃならない中小零細企業において、これは立派な名前をつくっていただいても実行不可能な架空の委員会にならざるを得ないんではないかと思うわけです。
しかしながら、こういうものの一つのチェック機能なり、あるいは弊害をなくすための機構をつくらなきゃならないというふうに私は思っているわけでありまして、そういう意味では、中小零細の場合におきましては、一企業単位だけではなくして、例えば地域ぐるみにおいてこれを監視する、あるいはこれを指導するという政労使の機関をつくって、そこでのチェック、指導という体制をむしろ我が国にはつくる必要があるんではないだろうか、こういうふうに思っているわけです。これはいろんな意味でのほかの法律にも波及をしていくんではないかと思いますが。
かつて私も労働界にいたときには、昭和四十年代でありましたけれども、我が国の労使関係の中に労使協議制を法律において義務づけよと、そのための労働法の改正なり、中小零細におけるところの労使関係を円滑に行うためのシステム、マシンが必要だということを主張してきたわけですが、それはいろいろな抵抗もあって実現してまいりませんでした。私は、ここに書いてある労使委員会の実効を上げるためにもそういう組織をむしろつくる必要があるんではないだろうかというふうに思うわけでございますが、松浦参考人、いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/32
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033・松浦清春
○参考人(松浦清春君) 御指摘のように、中小企業が日本は多いと。そして、十人以上の事業場では就業規則を制定してこれを届け出なければならないというふうに現在なっているわけでありますが、その中では、私どもが労働者から見れば管理職と言われる工場長であるとかあるいは勤労部長であるとか勤労課長であるとかいう人が従業員代表、労働者代表の欄に署名をして届け出ているという実態等があります。そういう意味で、労使委員会をつくれと言っても、これが容易にできるかどうかということについて同じような心配を持ったわけであります。
したがいまして、衆議院の議論の段階で、質疑の中で、事務局の答弁で、労使委員会における労働者の代表の選出の方法について選挙もしくは挙手と、こういうふうに答弁をされたことを私どもは極めて重要視をいたしまして、今回のそれ以降の審議の中で、これについては任期を定めて指名をされた者がさらに労働者の過半数の信任を得なければならないと、その信任の方法についても投票ということが明確にされたということで、一つの問題の解決はできたというふうに思っておりますが。
そうしたものに関連をして、今回の基準法の改正の中にも織り込まれております個別労使紛争の解決策の問題でございます。今回の解決、改善策につきましては、基準監督署長のもとにベテランの相談員を配置して相談をするというふうになっておりますが、これでは現在の行政改革で機構を縮小するというこういった流れの中で本当に多くの中小企業労働者の問題を解決できるような手だてはできないというふうに私ども考えております。この問題につきましては、別途地域単位で、現在あります労働委員会制度を改変して、地域に労使それぞれの労務経験者を配置して相談をする、そうした個別労使紛争の解決手段については別途確立をすべき必要があるというふうに判断をいたしておりまして、この問題については私ども別途提起をさせていただきたいと思いますが、御指摘のとおり、地域でこうしたものが実行されるかどうかという、いわゆる制度導入後のフォローの手段の関係についてもさらに広く議論をしてこれを確立していただきたいというふうに考えております。
以上であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/33
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034・今泉昭
○今泉昭君 ありがとうございました。時間が参りましたので終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/34
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035・山本保
○山本保君 公明の山本保でございます。
私も、全員の参考人にお話を伺うのが筋だと思いますけれども、時間のこともございますので、限られた方になるかと思います。御了承いただきたいと思います。
今泉委員と連合の松浦参考人のやりとりを今聞いておりまして、この問題の持つ問題とこの改正の意義と、またそれにもかかわらず残された問題と、それに対して労働組合を中心としていかなる選択をしなければならないのかということが図らずもといいますか、よく理解できたなというふうに思っております。
私どもの党は、そういう組合を中心とした労働者の多くの方々の動きを支援したいと思っておりますけれども、加えまして、先ほどからお話も出ておりますように、特に小さな会社を中心とする組合のないようなところで働いておられる方、また女性を中心とする、育児でありますとか介護でありますとか家事などで大変なパート労働を中心とするような方、こういう方のことを忘れてはならないなという立場で仕事をしておるものですから、ぜひまた今度の審議、これ以後の審議においても、その辺についてはもっと確実な内容がとれるような、了解をとれるようなことをしたいと思っております。
その点で少しお聞きしたいと思うわけでございますけれども、松岡先生にお伺いいたしますが、質問の仕方が余りうまくないかもしれませんので、今の二人の議論にも絡めて、多分御意見があるんじゃないかと思いますから、お話ししていただいていいと思います。
私の方から一つお聞きしますのは、組合がないようなところもある、また、あったとしても、実際にはワンマンのといいますか、一生懸命やられた、御自身の何十年で築き上げてきた社長さんの意向を全く無視できないといいますか、そのとおりになっているような組合もたくさんあると思います。また、組合がないところもあると。こういうようなところで、今回の理念というか、労働者と使用者側の対等の話し合いでという、これはすばらしい理念だと思うんですけれども、先生のお話の中にもなかなか難しいのではないかという御指摘があったと思いますけれども、どうされればよろしいのか。
今泉委員の方からは今非常におもしろい、また御提案のようなお話もあったわけでございますけれども、私は、教育を専門でやっていた立場から言えば、一つやはり原則といえば、労働者一人一人がもっと能力を高めるような、それをその人だけの責任に負わせるのではない、こういう判断ができるような方になっていただくための行政的な支援が必要ではないかという気もするわけでございますけれども、その辺、全体的で結構でございますが、お考えをお話しください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/35
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036・松岡二郎
○参考人(松岡二郎君) 今のお話なんですけれども、一点はどう行政したらいいかと。
私は期待するのは監督署なんです。もし経営側に大きな自由裁量を与えるのであれば、行政指導から摘発行政へもう一度戻ってもらいたいという期待。ですから、予算も倍ぐらいにして、金融検査じゃないですけれども、労働検査で国民の生存権を守るような形にしてもらいたいということです。
先ほどの改正案の件なんですけれども、未組織労働者という方も、今度の労働契約締結に当たっての明示なんですけれども、これは労働基準法施行規則第五条で、三十万円以下の罰金で、今でも明示しないと刑事罰を加えることができるわけですよね。ですから、さほどの効果はないと。要は、賃金と同じように、文章化して出しなさいと。
じゃ、どうなんだろうというと、今参考人の方もお話しになったように、十人以上の場合には就業規則をつくらないとやはり三十万円以下の罰金が待っている。形式かどうかわかりませんけれども、十人以上のところはちゃんと労働時間を明示することがもう既に五十年前から決められているわけですね。
そうすると、十人未満の事業所の人たちは何人いるんだということですよ。もちろんこの人たちを本来は保護するのが最大の目的だとは思いますけれども、さあこの法律の改正で守れるんだろうかなという話。もともと十人以上だったら就業規則に刑事罰を背景にもう定まっているわけですよね。ただ、じゃ書かなくていいのか、改正しなくていいのかと言ったら、もちろん私は大賛成ですよ、その明示することは大事だと。
特にパートさんやなんかについては、明示義務がここで根拠が出てきますので、本来労働契約は一方的に改定できないんだけれども、ちまたでは来週から八時間のところを六時間にしてもらいますよで終わっちゃう世界が、文章で明示せよと言ったら、大きな力は発揮するだろうとは思います。そういう点では、ないよりいいと言っちゃ失礼だけれども、いいんじゃないだろうかと。
もう一つは、先ほどの裁量労働のお話で、議員の方から、地域云々をどうだろうかというお話なんだけれども、ある意味じゃ私のあれに合っているのかなと。もし使うんなら労政事務所でしょうか。もともと現場の労働行政というのは、監督行政と職安行政と労政事務所の行政で賄うというのが労働省の基本方針だったわけですよね。ところが、各県の予算を含めて、なかなか実際に労政事務所が機能しているのはそう多くない。
ただ、労働委員会というのは一県に一カ所しかないんですよ。個別労働紛争というのは、近くに欲しいんですよ、近くに欲しい。だからこの前の均等法のときにも私は、女性少年室に車ぐらい与えてやったらどうかと。女性だから一台も与えないんだろうか。地方で車なくしてどうやって行政を実行できるんだろうか。そうすると、労働委員会も一カ所です、本当に個別で苦労して。また経営者だって、おっしゃるように、社長兼工場長兼工員なんですよ、ほとんどのところは。それが従業員に言われたからといって、県庁まで出ていって仕事がクリアできるんだろうか。
そういう意味では、大きな都市の労政事務所はしっかりしているからそれで賄えるかもしれないけれども、他に地方の今言った何が該当するんだろうかと。ほぼ実現不可能に近いんじゃないのかなというふうに考えているんです。
ですから、私は、これはもう労働組合があるところだけにもし適用する。もっと極端に言うんなら、この事業所千人以上の労働組合があるところに、本人の同意で、なおかつ、今参考人の方が言われたけれども、だれ一人反対者はいない、嫌だと言った人はいない。ということは、逆に異常なことなのかもしれない。
そうすると、企業内弁護士というわけじゃないですけれども、企業内代理人みたいなもの、日本人というのは自分のことは一番言いづらい、他人に言ってもらうと言いやすい、そういうような制度を考えるべきなんじゃないだろうかと私は今思っているわけです。
以上。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/36
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037・山本保
○山本保君 ありがとうございます。
私も福祉の方をやってきまして、福祉型の後見人のようなものがやっぱり非常に必要であって、そんなことを考えておりましたので、今最後のお話は非常に私もよくわかるところなんでございますが、今の具体的な提案につきましてはまたいろいろほかの委員とも相談してやらせていただきたいと思っておりますので、この問題はそれだけにいたします。
もう一つ、松岡先生にお聞きしたいんですが、これはほかの参考人の方もおっしゃられたことでございますが、まさに家庭的な責任を考慮したものが、共通基準をつくるべきではないかと、いろんなお言葉でお話がありましたが、松岡先生にその辺について少しお話を伺いたいと思うんです。
私も、実はきのうの審議で、これははっきり言って詭弁なんですが、しかしちょうど新しい百三十三条が非常に整理の悪い文章になっておりますので、逆にあれを利用して、あそこにある「命令で定める期間」というのを、平成十年から十三年という期間ではなくて、労働者が育児や介護に必要となった期間その特例を認めるという、こういう解釈ができるんではないかというふうなこと、これはなかなか実際には難しいんですが、しかしそういう考え方ですら必要ではないかということを申し上げたわけなんです。
この辺の介護、育児を中心とする現実に女性労働者が特に大変な苦労をしていることについて、少し配慮が足らないんじゃないかなという気もするわけでございますけれども、先生その辺いかがでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/37
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038・松岡二郎
○参考人(松岡二郎君) 今の問題は私は、このまま三百六十時間、百五十時間とやっておりますけれども、もともと女性の働きたい人を働けるようにするという反面、働けないといいますか、働きたくないというわけじゃないが家庭責任を負わされて働けない、例えば深夜のケースでしたけれども働けない女性、こういう人の保護が全く外れちゃった。アメリカなんかは実残業協定を自主残業協定によってカバーしている。
でも、そう考えますと、男は家庭責任をやってなかったんだ、女は全部家庭責任を負わされていたんだ、今度は男も家庭責任を負えということなんだから、男も今までどおりであってはいけないことは理屈上当然の原理なわけですよね。そうしたら、男が家庭責任を負わない状態が三百六十時間だった、今度は男も負えと言っている、これは自民党さんや各野党さんも皆さん家庭は大事である、そして家庭責任も男は負わなきゃいけないと言っているんであれば、当然その家庭責任を負う時間というものが確保されていないといけないわけですよね。
それが今度の改正では、今労働大臣の告示というんだけれども、確かに告示とそれから法律を、どっちだって行政実務じゃ一緒だというかもしれない。だったら、一緒なら法律でやればいいじゃないですか、憲法にかなうんだから。効果が同じであればなぜ法律でやらないんだろうか。なぜ告示なんだろうか。憲法二十七条の趣旨からいけば、効果が同じなら法律ですよ。そう考えるのが普通だろうと思うんですよね。さらに一週間とか一カ月とか、細かい点は以下同文で告示でもいいのかもしれない。私は今回の改正で不思議に思ったのは、やたらとそういう告示が多いな、何か派遣法と同じになっちゃったのかなと。結局、行政が決まらないとこちらは中身が全くわからないということになっているのかなという点。特に、国民一人一人がかかわる法律、時間外労働規定、休日労働、これらはやはり国会の責任で法律で明記すべきだろうと思いますよ。
ただ、難しいのは、男の残業手当は生活給になっている。三百六十時間でも足りないという不況産業下の労働者。私はある労働組合に言われた、今度の法案は反対ですと。ふうん、そうかな、何で反対なのと言ったら、女と一緒になって百五十時間じゃ食っていけませんと。だから反対ですというようなところもあるわけです。ですから、賃金というものが必ずタイアップするような形で何か審議していただきたい。
裁量労働も一緒です。裁量労働も、これは労働時間はサボれるだけサボれるから労働者に有利だといったら大間違いで、必ず企業は今おっしゃったように年俸制や業績給をタイアップさせる。ということは、ノルマを、ノルマというのはきつい言葉かもしれないけれども、実質的には圧迫感を与える。そういう意味では、その点を利用できないという点。
それから、今企業で裁量労働でやっているのは、逆に言うと差別を図って導入しているんですよ。あなたは裁量労働で働くからエリートなんです、その次はフレックスタイムなんです、一番だめなのは普通の労働時間ですよ、だから皆さん、一生懸命働いて早くランキングを上げてくださいと。こういう労務管理が実態だろうと私は見ているんです。
そういう点を考えると、今廃止とは言わないですけれども、もうちょっと裁量労働の点なんかも、一年先じゃなくて、三年程度議論して、施行日を三年ぐらい延ばしてやっていただきたいし、それから、先ほど平成十三年というような話がありましたけれども、私もそうできることならそういう方向で行ってもらいたいとは思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/38
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039・山本保
○山本保君 ありがとうございます。
先ほどからの議論で、なかなかオール・オア・ナッシングといかないところがあるということでございますので、我々も苦労はするわけでございます。当然のことですけれども、ぜひその辺は参考にしたいと思っております。
それでは、松浦参考人に済みませんがちょっと。
先ほどもお話が出ておりましたので、この労使委員会の権限について、ちょっとお話になられたかと思ったんですが、お話し足りないところがあったんじゃないかと思うので、もしありましたらお願いしたいし、もう一つ私の方からお願いしたいのは、先ほどお話の中で、今度罰則がなくなってしまうことについて、時間外労働等についてのこの問題を提起されたと思うんですが、これはどのように解決していったらいいか、お考えがありましたらお話をお願いしたいんですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/39
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040・松浦清春
○参考人(松浦清春君) 裁量労働問題についてでありますけれども、裁量労働問題の権限問題に特に私どもはこだわってきたわけでございますが、いわゆる裁量労働を導入するに関して設けられた労使委員会ですから、その労使委員会が付託された権限についてはきっちりと裏づけがあって、そして使用者側をもとがめて修正ができるという、そういう権限を付与してもらいたいと。
しかしながら、その労使委員会が裁量労働に直接関係しない分野にまで労働者の代表になって労使の協定をするとか、そういうような権限についてはきっちりと限定をしてもらいたい、こういうことをぜひ重ねて申し上げておきたいと思います。
時間外労働の関係につきましては、私どもとしては、男女共生社会において、これまでの男の働き過ぎを削減して、そして男女がともに家庭責任を担えるという、そういう条件については、やはり労働時間を制限する、その労働時間については時間外労働を含めて制限する必要があるという判断をしたからこれを要求した、こういうことでございます。
しかも、残念ながら現在、労働基準法が制定されて五十年になるわけでございますけれども、労働基準法が指導型になっているからということ、罰則が、極めて罰金が少ないということがあるということもさることながら、労働基準法について経営者がほとんど認識していないまま違法行為を繰り返している、行政側がそれを具体的に摘発、指導し切れない、今そういう行政力しかないということが極めて大きな問題であります。
したがいまして、私どもは、罰則を適用するということの第一義は、万一そういった事実が、あるいはそういう法律を知りながら故意に違反をして労働者に不当な労働を強いている場合には、これを適切に処罰することができる裏づけをつくるという意味で罰則というものを求めてきたわけでございますけれども、少なくともそうした措置が今の法律改正案ではできていないわけでありますから、少なくとも故意にしかも指導を受けてもなおかつ違反をするというものに対する適切な処罰の手だてというものについて担保をこの段階ではしていただきたいということを申し上げておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/40
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041・山本保
○山本保君 ありがとうございます。
まだちょっとだけありますか。じゃ一問だけ簡単にお答えを、時間がありませんので。
それでは、角田参考人にちょっとお伺いしたいんですが、先ほど非常に明快に情報モデルへの転換というようなお話を伺いました。もっとお聞きしたいところなんですが、時間がございませんので一つだけお聞きしたいんです。こういうものは憲法二十七条で法で定めると、こうあるものに違反はしないのかどうか、先生はどういうふうにお考えでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/41
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042・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 情報モデルへの転換の前提にあるのは、労働者像が非常に多様化している、そして個人の同意にゆだねてもそのことによって労働条件の低下に危険性のないような人たちが出てきている。こういう集団的、一律的規定から、個別的労働者の自由な判断能力を持っているそれだけの基盤もある、そういう転換というものが主張されているんだと思うんですね。ですから、本当にそうなのか、そういう人たちがどこにいるのかということをまずしっかりと検証すること、これが非常に重要なことで、私は今回の一連の経過を見ていますと、それが行われていないところに問題があると思います。
憲法二十七条の法律で定めるということに違反するかしないかという問題ですけれども、これは若干いろいろな議論をしなければいけませんので、直ちに違憲だというふうには言えないだろう、これだけ申し上げます。本当はもう少し議論しなきゃいけません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/42
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043・山本保
○山本保君 ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/43
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044・市田忠義
○市田忠義君 日本共産党の市田です。
参考人の皆さん、きょうはお忙しい中を貴重な御意見を述べていただきましてありがとうございます。
早速ですが、まず坂本参考人にお伺いをいたします。
坂本参考人は、先ほど新しい裁量労働制の問題について、ほとんどすべてのホワイトカラーに拡大できる仕組みになっているという問題や、労使委員会や本人同意がほとんど歯どめにならないと大変厳しい御意見を述べられました。
そこでお聞きしたいんですが、裁量労働制の実際の弊害について、職場の実態を含めて御意見をお伺いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/44
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045・坂本修
○参考人(坂本修君) 最初に原理的な問題をちょっと言わせていただけますでしょうか。労働条件を国の法律で決める、最低条件はきっちりさせる、そして人間らしく働けるようにする、これは憲法の原点です。大企業だろうが小企業だろうがみんな共通なんだ、人間は働いているんですから。そこのところをがたがたにして、しかも中心である八時間労働制ではなくなることは裁量労働制ではもう明瞭ですから、重大な問題なんだと私は思います。
世界の変化といろいろ言われますけれども、むしろ最低労働条件をきっちりするというのはILOの立場は一貫してそうでございますし、それから私の調べた限りで言うならば、世界の百五十一カ国中九十六カ国は一日当たりの労働時間の上限を設けております。そして、この中でさらに約四十カ国は一日の上限を二時間、男女共通に認めております。これがグローバルスタンダードです。だから、そういうのを前提にした上で、日本がこう変わっているからここは直そうとかこうしたらどうでしょうかという話ならまた議論の余地があると思います。そういうところを全部しり抜けにしたままで裁量労働を導入したらどうなるかということであります。
私は、大組合でも大変なんだということを申し上げておきたいと思います。これは連合の主要単産であります自動車総連の調査されたことが、これは衆議院でも問題になっておりますが、アンケートがございます。
仕事の面での裁量度が増して仕事がやりやすくなったのかどうか、余りそうは思わない、そうは思わないというのが六二・九%。仕事の成果が正当に評価されているか、そう思う、どちらかといえばそう思うというのはわずかに八・一%。その逆が五七・二%。時間の自由度が増して自分の時間が持てると思うか、そう思う、どちらかといえばそう思うというのは二六・九%しかなく、その逆が五九・八%です。この実態が証明している。
日本の代表的な出版社の労働者の相談を私は受けたことがありますが、これは裁量労働制を導入しましたけれども、労働の密度とか量は少しも減りません。仕事は枠があって人員はふやさないで少しも減りません。ただ、手当が減っていく。しかもこれは日本テレビの労働者が反対したときに大きな問題になったことですが、これで過労死したら過労死の証明ができない。これは私の推理ではありません。
先ほどの悲惨な電通の青年の自殺事件で、高等裁判所は一億二千何百万という賠償金を八千数百万に減額しました。その減額した理由は、自分で裁量できる余地があったんだから自分でもっと裁量して働かなければよかったんだという理由です。これが裁量労働制が入った結果起きることだというふうに思います。本人の同意がだめだということはもう繰り返しません。
ただ、一点だけ、法律で不利益な処遇をしてはならないとするからいいではないかと。実務家として申します。四十年弁護士をやってきて、同僚のものを含めたらおよそ千件を超える差別事件や解雇事件を私は見ています。しかし、その中で、経営の方々が差別をしたんだ、女だから差別をした、ある思想だから差別をした、少数組合だから差別したということを裁判所や労働委員会で言った例は一件もありません。この不同意したことによる差別が差別だということをどうやって弁護士は証明したらいいのでしょうか。労働者はどうやって証明したらいいのでしょうか。
なお、女性の議員の方々はぜひ聞いてほしいんですが、女性にとっては大変なことになると。二つだけ申します。
裁量労働ですから時間のけじめがないのですね。もちろん深夜、休日の問題は残りますけれども。そうなりますと、男が裁量労働で夜討ち朝駆けで働いて、男女平等に同じように業績査定をされるとなると、女性はどうしたらいいでしょうか。この場合は上限規制は全く働かないのです、時間のけじめがないのですから。女の人は働けなくなるんですね、この競争の中では。
もう一つ、差別がどんどん広がると思います。私は芝信用金庫の女性の十三人の原告の代理人です。一生かかっても平で、男性に比べて年収で少ない場合で三百万、トップで出世した男性に比べると七百万、生涯の年金においても年数百万の差が出るという悲惨な差別を争って一審で勝ちました。けれども、高裁でまだもめていて、十年かかります、まだ答えが出ていません。でも、こんな裁量型になったときにどうやって男性と女性との間の賃金格差を証明することができるでしょうか。私は今のところ本当に悲しい話ですが弁護士として策がありません。
だから、女性の方は働けなくなるというだけじゃなくて、裁量労働下の差別が拡大し、そのことを救済する道がなくなるんだということをぜひ当院でリアルに見て、やっぱり裁量労働はそういう問題が解決するところまで、いろんな今意見が出ておりますけれども、どんな業種ならばその被害が少ないのか、どういう仕組みならそういう被害を防げるのかということをじっくり審議されるということが私は物すごく大事だと思っています。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/45
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046・市田忠義
○市田忠義君 坂本参考人にもう一問質問いたします。
来年四月一日から女性保護規定が撤廃をされます。世界でも例を見ないような長時間過密労働に女性も追いやられると。過労死を選ぶかそれとも仕事をやめるか、そういう状況になるかと思うんですが、そういう中で労働時間の男女共通規制がどうしても必要だと、これは多くの参考人の方もお述べになりました。
それで、今度の政府案を見ますと、労働大臣の定める基準に適合したものとなるようにしなければならない、こう書かれています。これが果たして実効性が期待できるのかどうかという問題について私は委員会でも質問をいたしましたが、私たち日本共産党は少なくとも年間百五十時間の上限規制を法律で明記する、このことが必要だというふうに思いますが、もしそれ以外にも実効性を確保する方法があれば、坂本参考人の御意見をお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/46
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047・坂本修
○参考人(坂本修君) やり方が二つあるというふうに思っています。きょう、各議員のところに私の資料を、ワープロで打ったものをお渡ししたつもりですが、行っていますでしょうか、修正についての提案というやつです。
一つは、この方法です。しなければならないものとするのでは努力規定にすぎません。これを幾ら政府が遵守するといっても、遵守するということは、遵守しなかった場合に無効になるとか処罰されるということがあって法律上遵守というのが生きるんです。そうでなければ、お守りなさいというだけで、これでは女性のお守りにはなりません。
だから、ここのところを明確に改正法案の三十六条三項を前項の基準を超えてはならないというふうにすれば、超えてはならないわけですから明確です。これに刑罰をするのが一番いいと思います。しかしながら、本当の男女共通の労働時間の規制を何時間にするのか、三百六十時間なのか百五十時間なのか、いろいろ意見もあるし、また討議をしなきゃならぬところもあるのだと思います。ですから、それが合意ができるまでのごく短期間だと思いますけれども、短期間の過渡的な措置としてこの違反に対しては罰則をつけない、これは条文上は簡単であります、それはいいと思います。
なお、政府委員の方はそれは労働基準法の体系を崩すからだめだと言っておられます。しかし、既に労基法の百三十四条には同趣旨の条文があるのですから、初めてのことではございません。しかも、短期の場合だからそれは認められると思います。もっと言えば、罰則つきという一番効く薬はだめだと。ねばならないという努力義務で、効かない薬で保護を外してしまうという猛毒を女性に飲ます。じゃ二番目に効く薬としてすべて民事上、行政上無効とすればいいではないかというと、それは体系に反するからだめだと。これは医者の言うことじゃありません。労働者の権利を守るべき労働省当局の言うべきことだと思いません。今言ったのを一つやることです。
もう一つは、それと重なる部分とずれる面があるんですけれども、やはり施行を延期するというのは非常に単純明快に当面の女性の救済にはなります。男女共通の規制ではありませんが、女性の救済にはなります。先ほど申しましたが、このことによって均等法の改正部分の施行そのものが飛ぶという仕組みにはなりません。法律上確実にこれはできるんです。
かつて当院で女子保護規定の削除の問題があったときに、私は随分各党の議員にお会いしてそれは困るということを言いました。しかし、ほとんどの議員の方々は男女共通の規制を九九年の四月一日までに実行するんだ、それについて全力を挙げるんだということで、だから認めるんだというお話でした。私は、そうなるのかなと心配していました。なってないですね、この条文では。だから、今言った施行を延ばすというのは僕は非常にいいと思うんです。最近、いろんな法律を無理につくって後から凍結する、施行を延ばすというのが随分国会でもトレンドになっているように思います。それは実態が違うんだからそうしていいんだというふうに思います。そのことによって、その二つによって解決できるというふうに思いますし、解決すべきだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/47
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048・市田忠義
○市田忠義君 松岡参考人にお伺いいたします。
先ほど参考人がお述べになった御意見、ほとんど全面的に私賛成で同感であります。
それで、参考人がおっしゃった中で、新しい裁量労働制について、労働時間を時計ではかることをやめる、要するに労働時間管理はもうやらない、これは憲法二十七条の精神に反するじゃないかと。全く同感であります。それと、本人同意の修正があったことを高く評価されながら、さらなるハードルが必要じゃないかと。頭越しに本人同意をさせて本人が同意しているからいいんだということになる危険性があるということもおっしゃいました。また、三年ぐらい施行を延期したらどうかということもおっしゃいましたが、そうしますと、法律としては極めて不備で、検討が十分でないというふうに理解してよろしいかというのが一問。
それから、世界に逆行する制度だということもおっしゃいました。工藤参考人も世界でこういう例はない、初めてだということもおっしゃいましたが、私も同じ意見で、もう少しそこを詳しく、時間は五十三分までぐらいかと思うんですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/48
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049・松岡二郎
○参考人(松岡二郎君) 後半の部分は、むしろどの党もお考えになっているように、裁量労働を導入すればやっぱり長時間と。逆に短時間になるんなら絶対企業は導入しないわけですから。導入するというのは長時間やるから導入するわけですから。私が経営者でもそうやるわけですから。
そうすると、今言ったように、例えばEU指令や何かでいくと時間外を含めて週四十八時間でしょう。そうすると、一体日本というのは、税金はグローバルスタンダードとおっしゃるのであれば、これは労働法もグローバルスタンダードじゃなきゃいけないんじゃないだろうか。そのときに、長時間やった場合にどうやって戻すんだろうと非常に不安を抱いている。もちろん今の企業というのはもうぜい肉は落ちちゃってかなり厳しい状況下にあることは重々わかっているわけですよね。
ただ、それとこれから特に私心配するのは、高齢化社会における我々団塊の世代を逆に言うと皆さんどうやって食わせていってくれるんだろうか、どういうシステムを用意してくれるんだろうか。大企業の場合には五十五で出て行けと言われている。今までは面倒を見てくれた、企業の高いモラルで。ところが、そのぜい肉が落ちた、なかなかモラルも維持できない。そのときに、じゃ国は一体五十五歳、あと五年です、どうやって我々を食わそうとするんだろうか。私はその労働法が欲しいんですよ。・そういう労働法が欲しいんです。ですからそういう観点から今ちょっとお話ししたと。
前半は何でしたか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/49
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050・市田忠義
○市田忠義君 前半は、今の新しい裁量労働制が法律としても欠陥があるんじゃないかと。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/50
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051・松岡二郎
○参考人(松岡二郎君) 裁量労働は、これはやはり不備ですよ。不備というか、はっきり言うと全労働者に適用になるということですから、実はみなし労働時間というのは法技術から生まれたものなんですよ、理念とか実態からじゃなくて。それを原則に入れるということはかなり危険だから重々議論しなきゃいけないと思っているんです。
そういうことです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/51
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052・市田忠義
○市田忠義君 最後にすべての参考人の方に簡潔にお答えいただきたいんですが、きのう付の朝日新聞の社説で、今回の労基法の改正が八時間労働の概念を突き崩す契機となりかねない、したがって徹底的な審議を求めるという、そういう社説を掲げました。また、きょう皆さん方の意見陳述を聞いていましても、今度の法案が法案に対する態度の違いを超えてさまざまな問題点がある、慎重に議論すべきだということをおっしゃいましたが、参議院にふさわしく徹底審議が求められているというふうに思うんですが、その問題に関して一言ずつすべての参考人にお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/52
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053・松浦清春
○参考人(松浦清春君) 当然のことながら、徹底的に審議をしていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/53
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054・松岡二郎
○参考人(松岡二郎君) 私は、ですから施行を附則や何かで十月に監督官のあれをやるといろんならそこだけやって、あとはそれぞれ施行を延ばすとかという形でもうちょっと審議していただきたいなというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/54
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055・坂本修
○参考人(坂本修君) 裁量労働の実態がどういうものかということについても調査は行き届いていないと思います。ですから徹底して審議をしていただきたいと。朝日新聞の言っておられる、参議院は徹底した審議をというのは全く賛成であります。
一点だけ補足させてください。労働基準監督行政で賄うんだということが政府答弁に随分あるんですね。今度の規定でいうといろんなのが絡んでくる。だけれども、昭和三十年の基準監督監査実施率は二五・七%です。ところが、平成八年にはこれはわずかに四・四%です。つまり、基準監督行政は人手も不足でやっていない。それから、監督官一人当たりに適用される事業所は、昭和三十年には三百九十七事業所です。平成元年には千百三十三になっています。ですから、こんな複雑な労働条件になるわけですから、政府がもし責任を持って提案するなら、基準監督行政を人材的にもどう補強するかなども含めて、やっぱり徹底して審議をしていただきたいというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/55
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056・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 神奈川県の労働基準監督局の出している毎勤統計を前提とした昨年の労働時間統計というのがあるんです。所定内労働時間千六百時間台、残業時間を含めて千八百時間。諸外国にこれだけ見ますと遜色のない労働時間に来ているということですね。しかし、本当かなと思って見ると、実はパートタイマーがふえている。その分だけ一緒に込みにして平均を出すと千六百時間台というふうに短くなっている。裁量労働制が入れられれば、一番働いている部分の層が恐らく八時間、四十時間というふうに計算をされて、だからもっと労働時間は短くなるだろう。この実態が制度導入に当たって十分検討されてないということが私は衆議院で一年間施行を延期しようという最大の根拠になったんだろうと。ある意味では国会自身がそのことを認めたということではな
いかと、こういうふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/56
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057・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) 衆議院で与野党が修正、妥協、一致したようでございますが、改善すべき点は参議院の審議でよりよいものにしていただき、私としてはできるだけ今国会で上げるべきだというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/57
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058・河野通剛
○参考人(河野通剛君) 私も今国会でこの法律を通していただきたいという観点から考えを持っておりますが、審議することは私は大切なことだと思いますけれども、裁量労働制を導入したら必ず時間がふえるんだというふうな観念的な考え方でやるんではなくて、事実に基づいた審議がなされるなら私は結構なことだと思います。以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/58
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059・市田忠義
○市田忠義君 終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/59
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060・大脇雅子
○大脇雅子君 参考人の方々には、貴重な御意見をさまぎまに提起していただきましてありがとうございました。
まず、角田参考人に一つお尋ねをいたしたいと思います。
参考人は、今回の労基法改正が今どういう課題にこたえようとしているかという点で、二十一世紀をにらんだ働き方とか雇用のルールというものが姿をあらわしてきているんだという点で貴重な示唆をいただきました。
まずお伺いいたしたいのは、いわゆる三十六条の二項、三項、四項というところで、時間外労働の上限基準に関する規制がその視点から見ますと非常に今までの規定の仕方と異なっているわけであります。その点についてもう少し詳しく御説明いただけないでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/60
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061・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 時間外労働の男女共通規制というのは、二十一世紀に向けて家庭生活と労働というものを男女ともに担える社会をつくれるかどうか、そういう点で言うと非常に戦略的な意味を持っている重要なポイントだというふうに思っております。
この二項、三項、四項の規定は、二項で労働大臣が基準を定める、これは上限基準のことだと思います。それで、三項で使用者だけではなくて組合並びに過半数組合や労働組合代表に対しても同じように「適合したものとなるようにしなければならない。」と、わかったようなわからないような言葉が書いてありますが、これは坂本参考人の御意見にもありましたように、現在の百三十四条、改正によって百三十六条に変わるようになっておりますけれども、「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」、これと全く文言は同じでございます。
有給休暇ですから、もともとこういう内容は三十九条にあるのが普通なんですけれども、これを百三十四条、改正によって百三十六条、これに持ってきたというのは、これは労基法の本体から外そうという。もともとこういう不利益な取り扱い、特に多かったのは精・皆勤手当を有給休暇を取得したらカットするというケースが何件か出ておりました。それで、法改正になりましてから下級審では、これは法改正によって許されなくなったんだからという趣旨の判例が出たこともございます。
ところが、先ほど坂本参考人の御意見にも出ておりましたように、最高裁の平成五年六月二十五日の沼津交通事件の判決というのがございまして、これは努力義務規定である、この精・皆勤手当のカットが有給休暇の取得の抑制効果をどれだけ持つかが問題である、この程度ならばこれは公序良俗には反しないと、こう言って結局カットを認めたわけです。この判決をにらんだ文言になっているんだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/61
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062・大脇雅子
○大脇雅子君 そうしますと、適合するようにしなければならないという規定ぶりについて、先回の質疑の中では、それは努力義務ではなくて遵守義務だという労働省からの答弁はございましたけれども、私法的な効果が今のままの規定ぶりであるかどうかということについてお尋ねをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/62
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063・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 刑罰規定を設けることに非常に大きな抵抗があって、それはだめだと。ならば、せめて私法的な効果を生じるような規定に改めるのが望ましい。これは坂本参考人も非常に柔軟な考え方をお示しになりました。私も、残業命令は私法的な効果を持たないというふうに、せめてそれぐらいは書いていただきたい。参議院は衆議院と違って女性の議員の方たちが非常に多い特徴を持っております。ぜひそう変えていただきたいと思うんですが。
ところで、努力義務から遵守義務に変わったのではないかという、答弁があったというお話でしたけれども、私はその文脈を聞いておりませんのでよくわかりませんが、一般的に法令の遵守義務というのはこれは国民に課せられた義務であると思います。その点で言いますと、遵守義務の中にさまざまな段階のものがある。遵守義務という概念はもう少し広い上位置念ではないか。遵守義務を行政指導によって徹底させる、これが一番軽いものです。私法上の効果を与える、これがその次です。刑罰を与える。どういうサンクションによってそれを担保しようとするのかということによって中身に違いが出てくる。したがって、遵守義務という言葉によって直ちに私法上の効果がありますというふうに受け取ることはできないのではないか、そう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/63
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064・大脇雅子
○大脇雅子君 そういたしますと、罰則適用というものが難しければ、せめて私法的な効果を持つような形できちっと法文に書き込むとすれば、角田参考人はどのような形で書くべきだというふうに思われるでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/64
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065・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 私法上の効果を導き出す場合に幾つかのルートがございます。
一つは、労基法の十三条と結びつけて、労基法の基準に違反する契約は無効である。強行法的な私法上の効果を与えてやります。これが一つです。
それを除きますと、民法九十条というルートを通ることができます。これは、先ほど百三十四条の年休の不利益取り扱いをしないようにしなければならないというのがこれに乗せられなかったという判断を示したわけですが、このためにはもう少し文言を変えなければならない。
それから三つ目は、基準を超える協定に基づく残業命令が一体労働者に私法上の拘束力を持つか、こういう議論になります。協定それ自体に基づいて残業命令が私法上の効果を持たないことについては、判例、学説、労働省の見解も全く一致しております。問題は、どこでそれを受けるかとなりますと、多くは就業規則の中に三六協定が締結されたら残業をしなければならないという一般的な条項が設けられておりまして、就業規則に基づく命令という形になるわけです。就業規則は合理的内容であれば契約の内容になるというのが最高裁の見解でございます。そうすると、一体合理性があるのかどうかということになります。基準を超える三六協定は合理性を欠く。したがって、就業規則の論として言えば拘束力はない、こういう導き方をすることもできるでしょう。
それから、一番弱いものは、これは拘束力はあるけれども、諸般の事情を考えて、不利益を課すようなことは権利乱用になるという、こういう言い方もあるでしょう。これはしかし、私法上の効果を認めた上での議論になります。
私は、少なくとも「適合したものとなるように」という部分を若干変えて、最小限の修正で済まそうというならば、適合するものとしなければならない、こうすれば少なくとも私は、合理性を欠く就業規則は、残業命令は拘束力がないという結果を導き出すことはできるのではないか、せめてそれくらいはと、こう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/65
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066・大脇雅子
○大脇雅子君 そういたしますと、そのように修文をした場合は罰則との関係はどのように解されますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/66
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067・角田邦重
○参考人(角田邦重君) これは新しく設けられます第三項が使用者及び組合、過半数代表、三者を名あて人にしております。ほかの規定は全部使用者です。これは交渉力において優位に立つ使用者。労働者が仮に個人的に同意をしても処罰をする、こうなっておりますが、この規定はそうではありません。その点から考えますと、罰則は出てこない、生じない、こう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/67
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068・大脇雅子
○大脇雅子君 そうしますと、松浦参考人にお尋ねしたいんですが、松浦参考人としてはこの時間外労働に関して最低限どういう機能を持たせるべきだというふうにお考えでしょうか。先ほどは故意の場合に何らかの形の行政罰のような御発言もあり、時間外労働の上限については特に使用者が守らない場合というのはやはり非常に何らかの形で担保しないと不安だというお考えでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/68
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069・松浦清春
○参考人(松浦清春君) 先ほども申し上げましたように、労働大臣が基準を定めてこれを超える協定をするということが実際に発生するのかどうかということは、私どもの常識的な判断ではそうした協定が結ばれるということは基本的にはない、知っていて結ぶということについては基本的にはないというふうに判断をいたしておりますが、先ほども申し上げましたように、これが故意に、承知の上でその基準を破って協定をする、さらにその上に業務命令でこれにつかせるということになりますと、当然のことながらそうした故意の違反に対する罰というものについては付与されなければならない、このように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/69
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070・大脇雅子
○大脇雅子君 角田参考人にもう一問お尋ねをいたしたいんですが、裁量労働に関しましてはさまざまな危惧を言われました。とりわけ私どもも一番問題としておりますところは、実労働とみなし労働時間の乖離というものをどのようにして防ぐか、それを制度的にどういうふうな手当てをしたら法案として一番いいのかという点ですが、その点について御意見ありましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/70
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071・角田邦重
○参考人(角田邦重君) これはガイドラインで何らか示されるんでしょうけれども、それを参考にして労使委員会で決議をしてくれないかという、そこまでの意味しかありません。そういう点では、労使委員会の決議それ自体が実態に沿ったものでなければならないという法的な効果というのは出てこないと思います。
制度的にどうずればいいのかという、これは非常に難しい問題です、一年間議論なさるんでしょうけれども。例えば、私については適用しないでもらいたいという、個人の同意というのもこんなに違うんだということを白日のものにする一つの契機になり得るでしょう。個人の同意というのは、導入されるときの同意だけではなくて継続の要件だというふうに理解をしなければその場合には危ない、こういうふうに思います。
それから二つ目は、その決議の有効期間を例えば一年というふうに限るとか、そうしますと、実績に応じて、いや実際に働いたのは月に二百時間働いている、協定は百六十時間になっている、あとは裁量労働手当でちょうど営業手当と同じように処理されている、これは実態にそぐわないと、こういう実情はわかりますので、決議の有効期間というものを実態に合わせることができるように初めから限定すること。
それから三つ目、これも非常に重要なことだと思いますが、労働時間の管理義務、現在の賃金台帳に労働時間を何時間働いたかを書くことになっておりますけれども、裁量労働制が導入されますと協定労働時間を書き込めばいいということになるのではないか。これはみなし労働時間ですから、深夜労働、休日労働あるいは休憩時間、こういうものについては適用除外になりません。そうしますと、十時以降にわたるような場合はこれはちゃんと把握する義務がある。休日に働く場合も把握する義務がある。しかし、これ以外の場合には恐らく協定労働時間を書くだけでいいということになるのではないか、少なくとも法文からは。そうしますと、一体それが実態と乖離しているかどうかを把握しようがない。
電通事件の場合もそうでしたが、システムコンサルタントという一種の疑似裁量労働制がありまして、それも年間三千時間ぐらい何年か続けているうちにクモ膜下で亡くなったという人のケースがございますけれども、この労働時間の把握義務というものを外してしまいますとその立証が非常に難しくなる。この点をやっぱり外さないようにしなければならない。
制度的には考えられるのはこのぐらいではないかというふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/71
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072・大脇雅子
○大脇雅子君 それから、新裁量労働制の導入に伴いまして、角田参考人はいわゆる労使懇談会とか従業員懇談会によって労働条件全体を決めるような傾向というのが出てくるんではないかということに警鐘を鳴らされました。確かに、労使委員会の権限の担保といいますか、非常にあやふやだということで、裏口から権限拡大の危惧を言われましたが、それに対してはどういう形の規定が必要だというふうに思われるでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/72
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073・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 労使懇談会で事業所の労働条件全般を事実上決めていくというシステム、工藤参考人が先ほど戦前のILOの話をなさっておりましたが、戦前協調会というところが、外部にある組合が企業内に浸透してくるのほかなわない、そこで労働委員会というものをつくって労使同数の企業の中の委員をつくってそこで話し合いをすることで組合の浸透を妨げられるのではないか、防止できるのではないか、こういう法案がつくられたことがあるんです。
私はその歴史的な由来を念頭に浮かべながらこの条文を読んでおったんですが、三十八条の四というところに置かれているということは初めから裁量労働だけのための労使委員会である、こういう位置づけもできないわけではありません。しかし、条文をよく読んでおりますと、もっと一般的な問題を調査審議し、事業主に意見を述べる委員会が設けられている場合にはと、こう書いてあります。そして、三十八条の四の第四項ですか、これを見ますと、今まで労働時間に関して労使協定で締結をしておった事項はこの決議で全部かえられることになっておりまして、裁量労働の導入がなくても労使委員会の決議で労使協定を事実上決めてしまうためにも運用できるのではないか、こういうふうに思われます。
組合がない無組合の職場がふえている。そして、ある調査によりますと、従業員懇談会が発言型活動をするところも多い。したがって、これをむしろ積極的に進めていくべきではないかというような政策的な合意というのもないではありません。私はそれを危惧しておりまして、もし従業員代表制の機関を設けるのならばもっと本格的な設け方があります。私は一般的にいいますと、その必要性をむしろ感じておりますけれども、こういう形で裏口から設けるのにはこれは制度としてもあいまいであり、そして選び方も問題である、もっと本格的な議論をすべきである、こういうふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/73
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074・大脇雅子
○大脇雅子君 そうすると、真正面から従業員の代表の選任とかについて議論をするという場合に、先生の御提言はどんなものがあるでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/74
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075・角田邦重
○参考人(角田邦重君) 今回の改正案の直接の対象になっておりませんが、労使委員会の委員をどうやって選ぶのか。過半数組合があれば、その組合が指名をする。組合がない場合には、現在の労使協定と同じように何らかの方法で労働者代表を選びますと、その人が指名をする。そして、その労使委員会の労働者メンバーについては従業員の信任投票をやる、こういうふうになっております。
最終的な信任投票が入っているから安心ではないかというふうに何となく思われがちですけれども、だれが指名をするかということが非常に重要です。組合がないところで、じゃ労働者代表をどうやって選んでいるのか。現在は通達がありまして、民主的な方法で投票ないし挙手というふうになっております。あるいは回覧、推薦というのも恐らくやられているところがあるのではないかと思います。
私ここに判例を一件持っておりますが、トーコロ事件という、東京高裁平成九年十一月十七日の判決です。これは、親睦会の「友の会」の代表者がそのまま三六協定を締結している、残業命令で拒否した、そうしたら懲戒になったというケースなんですが、恐らくこういうのが出てきましたのは初めての判決で、これは民主的な方法で選ばれていないからこういう三六協定に基づく残業命令は無効である、効力を持たない、こう言っております。事件は平成三年に起こっておりますが、これは既に三六協定の届け出用紙の中にどうやって労働者代表を選んだかということを書き込むことになっておりまして、これがあるからちゃんと民主的に守られていると労働省は言っておる時期のケースでございます。氷山の一角だと思います。
私が危惧しておるのは、こういうものが出てくる、朝礼会で、だれか出る人いますか、はいと手を挙げたらそれで終わりということになるのではないか。組合がない場合の労働者代表については少なくとも投票にすべきである、この点をぜひ御留意いただきたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/75
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076・大脇雅子
○大脇雅子君 ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/76
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077・鶴保庸介
○鶴保庸介君 参考人の皆様、貴重な御意見を本当にありがとうございます。良識の府といいますか、十分な審議を図る上でも我々は本当にその意見を聞きたくてあれさせてもらっているんですが、私もこの問題に初めて携わりまして、決断に迷うといいますか、結局価値判断になってくるのかなというふうなところが多々場面としてありました。そんな中で、視点を変えて言いますと、国際的に基準が今雇用慣行、雇用環境がどうなっていて、今我々がまさに改正をしようとしている基準法が見られているかというようなことにすごく興味を持ちました。
工藤参考人にその点についてお伺いをしたいんですが、参考人はその道の権威でございます。そしてまた我が国の労働法の研究者として教鞭をおとりでもあった方であります。そういった工藤参考人の知識と経験からお伺いをしたいんですが、まず冒頭、今回の基準法改正案、この内容について率直な感想を、国際的な労働基準の動向の中でどういうような感想をお持ちか、お伺いしたいと思いますが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/77
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078・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) 率直にということでございますので、率直に申し上げます。
最近景気が非常に悪くなったとはいえ、我が日本経済、アメリカに継ぐ大きな世界第二のGNP、世界の経済大国、したがってその日本の労働基準が果たしてどうなるのかということは世界各国からも注目されると思いますし、それはまた当然のことだと思います。
今、我が国も含めてそうでありますが、非常に経済構造が変化をし、しかもそれに伴って就業構造も大分変わってきておりますし、勤労者の勤労意識も非常に多様化しているという状態ですから、やはり労働基準法も当然それに合わせた変化、改正が必要だと思います。ほとんど五十年いじられていなかったわけでありますから。
そういう意味におきまして、今度の今いろいろ問題になっております裁量労働制なども、ある意味においては労働時間管理の柔軟性を強めようという意味もあると思うんですが、もちろんこれは非常に先進的なことだともある意味からいえば言えると思いますので、それだけに実施に当たっては相当慎重な注意が必要ですし、またその監視体制といいますか監督体制といいますか、そういうこともぜひ十分に気をつけていただく必要があるんではないかというふうに思います。
また、児童の就労最低年齢につきましても、これは国際的な水準からいっても問題のないことになっておりますが、ILOの条約あるいは勧告というのは決して水準の高いものを示しているわけではないので、最低の基準ですから、だからそれをクリアしたからといって別にそんなに威張れることではないと思います。であるが、もし政治勢力の変化があって、また労働条件を悪化しようというような場合には、条約を批准しておくことによって低下することを防ぐことはできまずから、ぜひこの機会に条約を一日も早く批准してほしい。今アジアでは、ネパールとマレーシアとフィリピンですか、この百三十八号条約ですね。日本は批准しておりませんから、やっぱり相当アジアでいろいろ会議の際には問題が出ているように聞いております。そういう観点からも、ぜひひとつ早く批准をしていただきたいというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/78
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079・鶴保庸介
○鶴保庸介君 先ほど二点ほど具体的なお話がありましたが、その中で、女性の保護規定撤廃とそれから家族的責任に関する労働基準といったようなものは非常に日本的な要素もあると思うんですね。国際的に見て、日本の雇用環境、日本の特殊性といったものもあると思うんですが、その辺のことも含めて改正法案の内容をどうお考えか、少しお伺いしたいんですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/79
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080・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) 男女平等というのは、これはILO創立以来の一つの原則的なことでありまして、これまでも長い間ILO総会で議論が行われてまいりました。ただ、一九五〇年代から六〇年代、七〇年代というふうになってくるに従って、要するに保護の段階からむしろ男女平等というものを求める段階に来ているのではないかというふうに思われます。ですから、初めは、これは労働問題がそもそもそうでありますように、年少者、女子の深夜労働の禁止とか、そういういわゆる保護ということから出発したわけでありますが、その後、特に女性の社会参加が非常に進んできておりますし、労働力人口の中でも、実際に働いている人たちの中における女性の占める率が非常に高まってきておるというようなことも相まって、むしろ保護よりも男と同じにすべて扱えと。そのかわり給与もその他も同じだという、一言で言えばそういう方向に来ておるわけであります。
ILOの条約を見ましてもそういう方向が明らかにわかります。ですから、そういう意味からいうと、今回のある意味における男女共通のルールを形成していこうという努力は私はやっぱり認められるんではないかと。
ただ、その場合に、男女共通の一種の国際的なルールということになりますと、これもやはりILO条約ということになるので、現在同一労働同一賃金の百号条約は日本は批准しております。しかし、百十一号の条約は、いわゆる差別待遇の禁止の条約ですが、これはまだ批准をしておりません。したがいまして、これはもう世界で百三十カ国も批准しておるので、日本はまだ批准しておりませんので、ぜひこの面の御検討もお願いをいたしたいというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/80
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081・鶴保庸介
○鶴保庸介君 新たな裁量労働制について少しお伺いをしたいんです。
先ほど工藤参考人もおっしゃられました、世界でも例を見ない制度であるというようなお話でございました。そうしましたら、まずこの新たな裁量労働制、私は個人的には、日本のように終身雇用制を前提としているというか、労働大臣も冒頭の答弁の中にもありましたが、前提としているというような雇用慣行がある中で、そもそも一つの企業に、嫌になってやめてしまうというようなことが主にまだまだできない、そういう状況の中で、日本にそもそも裁量労働制を導入するような素地というふうなものがあるんでしょうか。その辺、国際的な基準から、そういう視点からちょっとお話をお伺いしたいんですが、工藤参考人お願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/81
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082・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) 私、先ほど申し上げたように、この裁量労働制、率直に言って世界的にはどうもまだないんですね。ですから、基準というものを、いい方向で考えれば日本がそのモデルをこれからつくっていこうという一つの知恵のあらわれというふうによく言えば言えるわけなんで、私は日本国民の一人としてはぜひそういうふうにしてほしいわけです。
要するに、今日の非常にいろいろ複雑な産業社会において、できるだけ労働時間についても柔軟性を増して、勤労者が生産勤労意欲を持って働き、そして十分な報酬を獲得することができるし、企業の方は生産性が上がる、それでうまくいくというような方向にもしなれば、これほど僕はいいことはないと思うんです。ですから、そういうものにするためにひとつ政労使は頑張ってもらわなければならないと思います。だから、その意味においては、これはむしろこれから見本をつくっていくということになるんじゃないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/82
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083・鶴保庸介
○鶴保庸介君 これは例として比較にならないかもしれませんが、いわゆるアメリカでのイグゼンプションと言われるようなものについて、その辺のことをお伺いしたがったんですが、いかがでしょうか。アメリカのイグゼンプションという制度、労働基準法そのものの適用を除外すると言っているような、アメリカの場合は、一部のエリートに対しては裁量労働的なものを目標にして労働基準法適用そのものをあれをするというようなことについての制度をモデルとして、どうでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/83
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084・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) その具体的なことは私よくわかりませんが、ただ私は基本的に経済的な発展というのはそれに対応する社会的な進歩が伴わなければ意味がないというふうに思うんです。ですから、経済発展するために働く人たちの基本的な権利とか物が失われる、あるいは生命、健康に危険をもたらすというようなことはこれはあってはならないわけなんで、そういう意味においては、私は経済的な規制は緩和しても社会的な規制はむしろ強化すべきだと、そういうふうに考えておりますし、ILOの考え方も私はそうだと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/84
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085・鶴保庸介
○鶴保庸介君 そうしましたら、三十八条の四にもありますようないわゆる労使委員会といったようなものについても、これはもう全く前例のないような話ということになるんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/85
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086・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) これは例えばドイツにベトリープスラートという、日本では経営協議会と訳しておりますが、実態的には私は経営協議会ではないと思うんですが、これはあそこの経営組織法で、たしか従業員五名以上の企業には、これは任意設置ですが、いずれにしてももう一九二〇年代以降からの長い歴史を持つそういう従業員代表協議会というのがあるわけですね。このドイツの労使関係をやっぱり前提に考えないといかぬと思うんです。御案内のとおり、労使関係には国民経済レベル、産業レベル、あるいは企業レベル、そして現場レベル、最近はそれにプラスして国際レベルということが言われておりますが、それぞれのレベルに応じた労使関係が形成されるわけですが、ドイツの場合には御案内のとおり産業別レベルの労使関係が確立されておりますから、ですから産業別労働組合と産業別な経営者団体とで基本的な賃金なり労働時間のあれは決まるわけです。
しかし、その産業に属している企業の中には、非常に経営がうまくいっているところもあれば、うまくいっていないところもある。そうすると、企業によって若干違ってきまずから、そこでいわゆる従業員代表制と言われているものが経営側とその企業におけるあるいはその現場における労働条件についていろいろと協議をする、こういう形になっておるわけです。しかも、これは建前上は労働組合の組織ではないんです。あくまで労働組合は日本と違って企業の外にあって、横断的な組織ですから。ですから、そういう労使関係の違いというものをまず念頭に置いておかなきゃいかぬと思うんです。
日本の場合は企業別労働組合ですから、ドイツのベトリープスラートの機能を日本の労働組合は現在これまでももう既に果たしつつあると、私はそう思っております。
ただ、ドイツの場合はそれを従業員で選ぶわけですが、その選挙のときにDGBは非常な精力を使うんです。要するに、労働組合のDGBの運動方針をできるだけ支持している従業員がそれになるために非常に努力をするわけです。
これはフランスでは工場委員会あるいは企業委員会と呼んでおりますが、あそこも御案内のとおり労働組合は企業の外にありますから。そこで選挙のときに、ドイツはDGB一本だからいいですけれども、フランスはCGTとかFOとかCFDTとか、いろいろナショナルセンターがいっぱいありますから、それぞれのナショナルセンターがその工場委員の労働者、従業員代表の選挙のときに選挙運動をやるわけです。それで全国的に全企業にその委員が決まるわけですが、それによって各ナショナルセンターのいわゆる勢力分布というものがある程度わかるというふうに言われているほどフランスの労働運動は企業委員会の委員の労働者側委員、従業員委員の選挙に力を入れておる。これは日本と労使関係が違いますから、労働運動の組織が違いますから、同一には論ぜられませんが。
日本は企業別組合で、組合のあるところは非常にいいと思うんです。ですから、これから、組合のないところが日本は四分の三以上なんですから、そこで労使委員会の労働側の委員を選定するに当たっては、これはもう相当厳しいチェックをしないと、使用者側のいわゆる意を通す存在になる可能性、危険性があるんではないかという意味で、僕は連合を初め各労働組合がこの労使委員会の労働側の委員の選定についてはもっともっと積極的に対応する必要があるんではないか、そういうふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/86
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087・鶴保庸介
○鶴保庸介君 詳しくお話しいただいて本当に恐縮です。
最後に、我が国の労働法制というのは大体アジアの各国が追随するぐらいの傾向にあるというふうに私は聞き及んでおりますが、この改正法案を含めて、この法案に対してアジアの動き、これからの本当に率直な、主観的な意見で結構ですから、お聞かせ願えますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/87
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088・工藤幸男
○参考人(工藤幸男君) 果たして今度の労働基準法の改正について、もちろん関心を持って見守っていると思いますが、具体的にどうなのか、まだ私何もわかっておりません。
ただ、例えば産業安全の分野では、日本の基準法から分離した労働安全衛生法、これについては非常にアジア各国は興味を示し、かっそういう制度を法制化しようという動きがあることはこれはもう間違いのない事実であります。したがって、恐らく安全衛生の関係ばかりじゃなくてそれ以外の関係についても相当アジア各国から注目されるんではないか。そういう面から見てもひとつ審議には十分に御留意していただきたい、こういうことです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/88
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089・鶴保庸介
○鶴保庸介君 我々が最後に申し上げたかったことを言ってくださいましてありがとうございました。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/89
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090・吉岡吉典
○委員長(吉岡吉典君) 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。
本日は長時間にわたり、大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。
本案に対する本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
午後一時三十四分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114315285X00519980918/90
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