1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成十一年五月十一日(火曜日)
午前九時開議
出席委員
委員長 岩田 順介君
理事 荒井 広幸君 理事 能勢 和子君
理事 森 英介君 理事 柳本 卓治君
理事 石橋 大吉君 理事 川端 達夫君
理事 前田 正君 理事 青山 丘君
井奥 貞雄君 稲垣 実男君
大村 秀章君 小林 興起君
坂本 剛二君 田中 昭一君
棚橋 泰文君 保利 耕輔君
城島 正光君 中桐 伸五君
松本 惟子君 河上 覃雄君
岩浅 嘉仁君 大森 猛君
寺前 巖君 濱田 健一君
土屋 品子君
委員外の出席者
参考人
(日本経営者団
体連盟常務理事
) 成瀬 健生君
参考人
(日本労働組合
総連合会総合労
働局長) 松浦 清春君
参考人
(財団法人社会
経済生産性本部
労働・福祉部長
) 北浦 正行君
参考人
(元日本経済新
聞社論説委員) 小井土有治君
参考人
(龍谷大学法学
部教授) 脇田 滋君
参考人
(弁護士
派遣労働ネット
ワーク代表) 中野 麻美君
労働委員会専門
員 渡辺 貞好君
委員の異動
五月十一日
辞任 補欠選任
畠山健治郎君 濱田 健一君
同日
辞任 補欠選任
濱田 健一君 畠山健治郎君
五月十一日
労働者派遣事業の対象業務の拡大反対、労働者派遣法の抜本的改正に関する請願(児玉健次君紹介)(第三一八七号)
同(松本善明君紹介)(第三一八八号)
同(木島日出夫君紹介)(第三二二九号)
同(中林よし子君紹介)(第三二三〇号)
同(平賀高成君紹介)(第三二三一号)
同(松本善明君紹介)(第三二三二号)
労働時間の男女共通の法的規制実現に関する請願(佐々木憲昭君紹介)(第三一八九号)
同(辻第一君紹介)(第三一九〇号)
同(寺前巖君紹介)(第三一九一号)
同(古堅実吉君紹介)(第三一九二号)
同(木島日出夫君紹介)(第三二三三号)
同(児玉健次君紹介)(第三二三四号)
同(佐々木憲昭君紹介)(第三二三五号)
同(春名直章君紹介)(第三二三六号)
は本委員会に付託された。
本日の会議に付した案件
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、第百四十三回国会閣法第一〇号)
職業安定法等の一部を改正する法律案(内閣提出第九〇号)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案(大森猛君外一名提出、衆法第一五号)
午前九時開議
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/0
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001・岩田順介
○岩田委員長 これより会議を開きます。
第百四十三回国会、内閣提出、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案、内閣提出、職業安定法等の一部を改正する法律案及び大森猛君外一名提出、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、各案審査のため、参考人として日本経営者団体連盟常務理事成瀬健生君、日本労働組合総連合会総合労働局長松浦清春君、財団法人社会経済生産性本部労働・福祉部長北浦正行君、元日本経済新聞社論説委員小井土有治君、龍谷大学法学部教授脇田滋君、弁護士、派遣労働ネットワーク代表中野麻美君、以上六名の方々に御出席をいただきました。
この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。各参考人におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。よろしくお願いを申し上げたいと存じます。
次に、議事の順序について申し上げます。
御意見は、成瀬参考人、松浦参考人、北浦参考人、小井土参考人、脇田参考人、中野参考人の順序で、お一人十五分以内でお述べいただき、その後、委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。
念のため申し上げますが、発言する際にはその都度委員長の許可を得ることになっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできませんので、あらかじめ御了承を願いたいと存じます。
それでは、成瀬参考人からお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/1
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002・成瀬健生
○成瀬参考人 成瀬でございます。
お時間がございませんので早速本題に入らせていただきたいと思います。
お手元に青いレジュメを御用意してございますけれども、それに入ります前に、日経連の基本的スタンスを申し上げてまいりたいと思います。
日経連の基本的スタンスにつきましては、前の日経連会長でありました鈴木永二が第三次行革審をやっておりましたが、その答申といいますか提言の中に、社会的規制につきましては基本的に重要なものは堅持しつつ、経済的規制につきましては原則自由にするというふうな基本的な考え方が述べられているわけでございます。こうした考え方に沿って日経連は論議をしておるという状況でございまして、これも、国民の自主、自立を促進するためにも、できるだけ国民の判断に任せて行動をさせるという範囲を徐々に広げていくということが日本経済社会のバイタリティーをつくり出すためにも大変重要ではないか、こんなふうな考え方に立っておるわけでございます。
最初の項目の厳しい雇用失業情勢に対する認識という点でございますけれども、今日の雇用の状況の改善というのはなかなか難しいと思っております。経済情勢におくれるのが雇用情勢でございまして、経済もなかなか難しい状況でございますが、雇用情勢はどうしてもそれの後追いになってしまうという点がございます。そんな意味で、雇用改善が容易でないときには、多様な可能性を労働者自身が探してその中から就業の適切な機会を求めるという多様なチャネルが必要ではないかというふうな考え方を持っております。
中長期的に見ましても、産業構造はかなり変化してまいると思います。例えば、今後、製造業の従業員というのは徐々に、やはり先進国家の中で、ないしは経済高度化の中で減っていくのではないか。ふえるのはやはりサービスを中心に第三次がふえていくのではないか。そうしますと、産業間の労働移動がどうしても起こる可能性がございます。こうしたものに対応するため、つまり労働需給のミスマッチを解消するためにも多様な労働移動のチャネルが用意される必要があるのではないか、そんなふうに考えておりまして、今回の政府提出の派遣法の改正、職安法の改正等につきましては、基本的にはメリットが大きいというふうに考えまして賛成をさせていただいているところであります。
二つ目の項目の労働市場の在り方というところでございますけれども、まず最初に、(1)の労働市場の柔軟性、適度な流動性と書いてございます。
日経連は、決して労働市場が流動化すればいいというふうに考えているわけではございません。基本的には長期雇用をベースにしながら、日経連のアンケート調査でも、会員企業の方々のお答えですと、約七割の従業員は長期安定雇用で雇用したい、残る三割ぐらいが徐々に流動化していくのではないかというのが、先行き十年ぐらいの見通しという中で、アンケートに答えていただいた実際の回答でございます。
そんな意味で、適度な流動化の必要性、これは産業構造の変化にも当然伴って起こっていく、こんなような考え方でございまして、そのためにも、従来の公共職安中心ではございませんで、できれば多様な民間の機関の活用をできるようにさせていただいて、そしてそれによるミスマッチの解消を図る、これがぜひ重要ではないかと思うわけでございます。
ただ、もちろん、職安につきましては大変重要な機能でございます、基本的な機能でございますので、労働流動化についてのセーフティーネットのベースの役割を職安には担っていただく必要があるだろうと思いますし、また場合によっては、アメリカなんかでも言われておりますが、民間の職業紹介機構と公共職安とが競争をしてお互いに切磋琢磨する、こういうふうな関係もできればよろしいのではないか、こんなふうに考えておるところでございます。
それから、(4)の常用雇用の代替防止についてでございますが、これは多くの場合、一年経過後の雇用の努力義務というふうなことで論議をされておりますけれども、代替防止という基本的なものは、七割ぐらいの従業員は何とか長期雇用スタイルでもって雇って、そしてそれを教育して、企業の中で育てて会社の発展を担ってもらいたいというふうな、やはり日本の経営者の基本的な考え方があってのことではないかというふうに思うわけでございます。もちろん、日経連といたしましては、一年経過後の雇用の努力義務につきましては、できれば早い機会にもう少し柔軟な御検討をいただければと思っておるわけでございますが、現状ではこれでもってよろしいのではないかと思っております。
例えばアメリカ、イギリスあたりは比較的こうした点が自由でございまして、したがって派遣労働が、例えばアメリカでも八年間で二倍以上にふえたというふうな数字がございます。また、派遣労働を導入して大変成功したと言われておりますオランダ・モデルというのがございます。つい四月の初旬の「ビジネスウイーク」でございますが、一年半経過したら雇用義務化をという法律が生まれたことによって登録者数が一万人減った、小さな国でございますが、こういうふうなことで労働組合サイドもショックを受けている、こんなふうな論評も出ておったりするわけでございまして、こうした他国の経験も大いに参考になるのではないか、こんなふうに考えておるところでございます。
それから、積極的な労働者派遣のメリット、三つ目の項目でございますけれども、具体的に幾つかのケースがあると思います。
例えば新規創業の場合には、ベンチャーが本当に成功するのかどうか、雇う方もまだ余り自信がございません。雇われる方も、あそこに入って大丈夫なのかなというふうなことでございますので、そういう場合には派遣労働のメリットというのは非常に大きいのではないかと考えております。また、中高年齢層につきましても、今中高年齢層の再雇用は大変でございますが、ある意味では、派遣のような形で短期で契約を結び、もしよければさらに長期に切りかえていくというふうなプロセスが可能になりますれば、雇う方も雇われる方も非常にうまくいくのではないか、こんなふうに考えておりますし、また、柔軟な仕事の仕方で仕事と家庭の両立も可能になるだろうと思います。
もう一つ、大変重要なことは、能力開発でございます。今までは、派遣が非常に限られておったものでございますから、多くパートで仕事をするということでございましたが、パートでございますと、どんなに高い能力を持っていても、これこれの仕事で時給八百円とか千円とかいうことになってしまうわけでございますが、派遣の場合には、派遣業界が既にそうでございますが、自社の抱える派遣要員、スタッフの能力を向上させてできるだけいい待遇で派遣をしようというふうな取り組みが実際に行われております。
そうした意味で、新しいそうした形の労働態様、メカニズム、社会の一つのマシーナリーとしてそういうものが出てきますれば、それによって雇用の場に入っていくというふうな新しい形も出てくるのではないか。これが、能力を磨きながらより高い仕事につくというプロセスがうまく活用できるようないい派遣労働マーケットというものがつくれれば、最もすばらしいのではないかなというふうに考えておるわけでございます。
最後に、労働者保護の問題でございますけれども、ILO条約に従いまして、特にプライバシーの保護につきましては、これはきっちり十分な対応をしていかなければならないと日経連も考えておるところでございます。
ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/2
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003・岩田順介
○岩田委員長 ありがとうございました。
次に、松浦参考人にお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/3
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004・松浦清春
○松浦参考人 御紹介いただきました日本労働組合総連合会の松浦と申します。
労働者の基本的な権利や雇用に大きな影響を持つこの労働者派遣法の改正に関連をいたしまして、参考人として意見を陳述する機会を与えていただきましたことに対しまして、まず御礼を申し上げます。
私の方からは、私どもがこの派遣法の改正に関連をいたしまして、この法制定の経過やその目的等、あわせて現在この派遣法が持っております労働実態における問題点などを集約した参考資料を提示いたしております。時間の関係で全部を説明することができませんので、ぜひひとつ御一読いただきたいということを冒頭お願いを申し上げておきたいと思います。
私ども労働組合は、現在の経済社会のグローバル化と、そして長期低迷をする不況の中で、日本の産業、企業が世界市場を舞台にして生き残るために各種の合理化努力をしているということについて、そしてまた、国民自体が、高学歴化もあるし、あるいは生活の豊かさといった実態もありまして、働き方に対する多様なニーズや意見を持っているということについても、十分承知をいたしております。
企業が雇用をしております労働者の雇用形態については、正規社員のみならず、パートやアルバイトや派遣労働者や季節工といった各種の雇用形態を持っていまして、非正規社員と言われる人はもう既に二〇%、一千万人を超えているという実態にあるわけでございます。その中でも、労働省が調査をいたしました結果、平成九年度の派遣労働者の数は八十六万人にも及ぶという実情にあって、現在、この労働者派遣法につきましては、二十九ページに書いておりますけれども、職安法四十四条で禁止をされております、労働者供給事業についてやってはならない、しかし片方で、グローバル化の中で企業が求めております競争力の強化、コスト削減という目的で、いわゆる下請専門分業化であるとか、部品メーカーへの委託であるとか作業の委託であるとか、そういった生産構造が二重、三重化をするという過程の中で請負という形態等も生まれてきて、労働者に一方的な犠牲を強いるということから、これを防止するために、昭和六十一年にかけて法が制定をされてこれが施行された、こういうものでございます。そのときに、労働者の基本的な権利や雇用の安定を図るということで、専門性の高い特定の業務にその対象が限定をされた、そして九六年の法改正によって、これに十一業務が追加をされて二十六業務になったというのが実情でございます。
しかしながら、こうした特定をしなければ労働者の雇用や労働条件を極めて不安定なものにするという危惧があってそういった制約がされているにもかかわらず、現在、この派遣労働あるいは雇用の多様化に関連をして発生いたしております問題につきましては、例えば労働基準法の違反という問題がいまだにたくさん見られるわけでありまして、特に、時間外就労の手続の問題、それから賃金の未払いという問題が発生をいたしています。これは何に起因をしているかといいますと、派遣労働というのは、雇用責任者と使用者とが、いわゆるその責任がこの法律は極めてあいまいになっているという問題に起因をしているものでございます。
さらに、解雇予告や解雇手当の不払いという問題なども起こっているわけであります。これは、現在の高失業が示しておりますように、労働力需給のアンバランスという問題に関連をいたしまして、買い手市場という、もともと労働力というふうに言っておりますけれども、私ども、労働力というのは、一般の商品とは違うという整理をしてきたわけであります。にもかかわらず、今は労働力の需給のバランスによってその力関係が大きく変化をしているということから、例えば特定をされております二十六業務以外の仕事を派遣先で言いつけられて、これを拒否するといった場合には直ちに翌日から来なくていいという問題などがたくさん発生をしているという事実を見逃してはならないわけでありますし、そうした場合に、予告手当等についても払われないという実態にあるというふうに私どもは把握をいたしております。
また、派遣元における就業条件の明示の問題、就業規則の提示の問題につきましても、派遣労働者八十六万人のうち約七十万人が登録型ということから、その派遣期間が非常に短いし、派遣期間だけ雇用契約を結ぶという特異的な性格を持っているために、常時十人以上の労働者を雇用する事業場で就業規則の提示が義務づけられておりますけれども、それが非常に大きく振れるということなどを理由にしてこの就業条件あるいは就業規則を提示しない、そういった実態なども多く見られるということであります。
また、派遣法違反の問題につきましても、紹介、派遣手続問題などにつきましては、労働者個人のプライバシーの侵害という問題で、してはならない、派遣を受けるに当たって採用もどきの面接をする、そういった実態もたくさん見られるということを見逃してはならないわけであります。
それから、現在では、対象外業務の派遣というものも非常に多く出ている。新聞に対象外業務の派遣の求人広告が出されても、これを労働省では十分に監督をし切れない実態にあるという、この監督行政の力不足ということについて、あるいは人員不足ということについても見逃してはならないというふうに判断をしているわけであります。
また、特に、臨時的、一時的労働力需要への対応策として、今回、ネガティブ化をするというふうに法の改正の趣旨が説明をされているわけでございますけれども、競争力の確保のみに目を奪われた現在の経営は、総額人件費を抑制するということに今血道を上げております。その結果、派遣対象業務がネガティブ化をされた場合には、常用雇用代替に匹敵するような、いわゆるコスト、人件費を削減するために常用雇用に取ってかわる、そういった運用が危惧をされているということでございまして、これに対する対応策も現在のところ十分とは言えないというふうに判断をするわけでございます。
それから、ネガティブ化という問題に関連をいたしまして、仕事、業務に対する評価が一般化されていないということ。今の特定の二十六業務ですと、大体その人の仕事をする価値というものについて世間相場が決まっておりますので、派遣事業主が派遣先で受ける報酬、労働者が受ける賃金の関係につきましても一般的に相場が決まっております。しかしながら、この対象業務をネガティブ化しますと、それぞれの仕事、現在は、社内人事制度、社内評価システムということで、社内ではそれぞれの評価基準を持っておりますけれども、これが社会的に評価するシステムがないために、いわゆるまさに労働力の需給バランスに押し流されて、供給量が多い現在ではその基本的な労働条件が大幅に低下をするということを危惧せざるを得ないわけでございます。
そして三つ目は、改正派遣法案に関連をする問題点でございますが、特に私どもが指摘をいたしておりますのは、今回の改正法案には不安定雇用対策が欠落をしているということでございます。特に短期、登録型にかかわる問題につきましては、現在の厚生年金法あるいは雇用保険法につきまして、その支給基準などについての制限がございます。例えば、厚生年金ですと、最低基準に到達するためには保険期間が二十五年間、そして最高四十年間、こういった基準がありますし、雇用保険につきましても、一年間に六カ月以上勤務を、あるいは被保険者期間でなければ失業保険は給付されないという実態にあります。
しかしながら、資料の四十五ページに載せておりますけれども、労働省が発表しました平成九年度の派遣労働者の実態につきましては、先ほども申し上げましたように八十六万人でありまして、そのうち約十六万人が常用雇用労働者、七十万人が登録型の労働者ということになっております。登録型の労働者を一般常用雇用労働者の労働時間で割り戻しをしますと約十九万五千人にしかならないということになっております。十九万五千人ということにつきまして、これを逆にまた割り戻しをして、それでは何カ月働いたのかといいますと、一人の登録型の労働者は年間三カ月強しか雇用期間がなかったということであります。平均三カ月程度の雇用期間でありますと、雇用保険にもあるいは厚生保険にも入れない、あるいは入っても年金が完全に給付できない、そういう問題などから、これに労働者自身が入りたくない、入ってもメリットがない、こういう問題が起こっているわけであります。
今回の派遣法の改正に関連をいたしまして、その対象をネガティブ化するということにつきましては、こうした基本的な条件、インフラの整備をしなければ、いわゆる雇用保険にも年金保険にも加入できない労働者は基本的な条件を持った労働者とは言えない、そういった不安定雇用労働者を増大させる、こういった大きな問題を持っているということを指摘せざるを得ないわけでございます。
それから、労働者保護に関する実効性の担保の関係につきましても、労働者保護に関するルールにつきましては、中央職業安定審議会でも大議論がされたというふうに私どもお伺いをいたしておりますし、私どもも幾つかの意見を提示いたしましたが、まず、基本的な問題として、この需給バランスによって買い手市場であるこの労働市場の中で、一方的な中途解約が今非常にたくさん発生をしているということに対しまして、具体的な防止策、実効的な防止策がいまだ不十分であると言わざるを得ません。
個人情報の保護の関係につきましても、ある派遣会社の社長さんみずからが、私のところは営業力が大きい、履歴書を一カ月に何百枚も何千枚もまいているということがいわゆる営業力の大きさのバロメーターになっている、そういった業界実情であります。しかしながら、ニーズもないのに、個人のプライバシーを記載した、プライバシーに関する履歴書がふんだんに日常的に配られるという、配られることが競争力、営業力の大きさの証明だ、こういったゆがんだ事実について、これを大きく問題にして、この解消策を明確にしなければならないというふうに考えます。
さらに、私どもは労働組合でありますから、原則組合員は常用雇用労働者であります。だからといって、常用雇用労働者の権利を侵害されるということで指摘をしているのではなしに、常用雇用労働者の代替防止ということにつきましても、臨時的、一時的な労働需要に対応するという施策との関係でもう少し明確にしなければならないというふうに考えるわけであります。
もう一つ大事なことは、現在、派遣先の希望によりまして、派遣労働者のいわゆる年齢制限的な求職活動が行われております。我が社では、例えば三十歳以上は不要である、あるいは三十五歳以上は不要である、そういったいわゆる年齢差別がされているということについても重要視をしなければならない、このように考えているわけであります。
いずれにいたしましても、現在の雇用形態の多様化が先行的に進んでいます。したがって、今回のこの派遣法の改正が、いわゆる法違反で先行しておる雇用形態の多様化、違法派遣の追認をするということではなしに、労働者の基本的な権利をしっかりと守って、そして改正をした派遣法につきましては、これを経営者が派遣元も派遣先もきっちりと守る、そういう法律になるようにお願いを申し上げまして、私の意見とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/4
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005・岩田順介
○岩田委員長 ありがとうございました。
次に、北浦参考人にお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/5
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006・北浦正行
○北浦参考人 社会経済生産性本部の北浦でございます。
まず最初に、私どもの団体の性格を申し上げたいと思いますが、私どもの生産性本部は、企業の事業主の方と労働組合の方、両方を会員とする団体でございます。そういったいわば中立的な立場で今回このような場にお呼びいただいたものというふうに理解しておるわけでございます。
私の方から資料を用意してございませんが、三点、四点ほど申し上げさせていただきたいと思っております。
まず、この派遣法あるいは職安法の改正のその前提といたしましての労働市場の認識でございますが、やはり私どもも、これからの労働市場の姿として就業形態の多様化というのが一番大きな現象になるだろうというふうに考えているわけでございます。その要因としては、企業の側からの要因、労働者の側からの要因、両方あるわけでございますが、いずれにしましても、そういった就業形態の多様化というものを実現していく上でやはり留意しなければならないのは、その多様化がイコール不安定化になってはならない、こういった問題ではないかと思われます。そういった意味での労働市場の枠組みの整備という問題が重要であり、そういった観点の中で今回の法改正というものが位置づけられるというふうに私も理解はしているわけでございます。
そういった中で、労働市場の枠組みといった場合に考えなければならないのは、日本の特殊性でございます。
御案内のように、日本の労働市場というのは内部労働市場、企業の中での労働市場を中心としたわけでございます。そういった流れの中において、日本においては、よく言われておりますが、職種の概念というのがないとか、あるいは、仕事、業務の単位というのが規定の仕方が非常に幅広であるとか、いろいろな問題がございます。そういった中において、一つは、そういう業務や職種、それを軸に労働市場を動かしていくという仕組みがまだまだ十分練れていない面もあるわけでございます。それが、言いかえれば、そういったものに対する評価、それの社会的な横断の評価としての賃金相場みたいなものもなかなか形成されない、そういった事情があるわけでございます。
しかしながら、そういった流れの中においても、今回の労働者派遣事業を拡大していくということは、現に多くの派遣労働者の方がいて、そしてそういったものに対して携わっていくことにおいて、いわば企業の方、労働者の方、双方が満足を得る結果として出ているのではないかと思われます。
そういったときに、今回派遣法の適用対象業務が拡大したわけでございますが、それにつきまして、もとより業務というもので縛ることの難しさが現行法においてもあるわけでございます。そういった意味について、ネガティブがいいのかポジティブがいいのかという問題がございますが、申し上げる中においては、やはりそういう規定の仕方の難しさ、どのように切ってみてもなかなか難しいという意味でいえば、ある意味で本当になじまないものをネガティブにしていくという方法は、一つの次善的な結論としては私は至当ではないか、このように考えているわけでございます。
ただ、そういった拡大に当たっても、いわば労働者の不安定性というのを出してはいけないという意味での保護措置を同時に講じていく、これも必要なことではないかというふうに考えるわけでございます。そういった場合に、私考えておりますのは、とりわけこの問題を考えていく上において、派遣元の責務も重要でございますが、派遣先の責務というものもやはり重要ではないかなと思っております。
そういった意味で、派遣労働者が一体派遣先でどのように使われているのか、まだまだそういった意味での実態というのが完全にはないわけでございます。そういった中において、やはりこれからは、派遣先の中においてどのような形で派遣労働者を使っていくのか、いわば派遣労働者に対する雇用管理策というものがもう少しきちっと明定されていかなければならないだろうと思われます。
そういったような意味合いにおいて、今回、派遣元、派遣先のそれぞれの事業主に対しての責務ということが改正法の中にも論じられているわけでございますが、とりわけ、派遣先において派遣労働者をどのように使っていくのかといった視点がないといけない。それは、例えば、現実に臨時労働力であるとしても、パートやアルバイトというのがあるわけでございます。そういったものと派遣労働者との違いをどこでつけていくのか、そういったようなところを私は考えていかなければならないと思います。
もともと派遣労働法におきましては、いわゆる専門性のある業務というところから出発をしているわけでございます。そういったものから考えますと、派遣の特殊性、優位性というものは、やはりその業務においての一つの専門性を確立する。先ほど申し上げた、日本の労働市場の中において、業務というものに対してそれぞれの業務の中においての専門性を確立する、それによっていわばスペシャリスト的な形で優位性を発揮することが、やはり前提としては必要なんだろうと思われます。
そういったような意味合いから考えますと、私は、派遣労働法の中にも規定がございますけれども、やはり何よりも教育訓練といったような形において派遣されるサービスの中身というものの質を高めるという視点、これが非常に重要ではないかと思われます。
ですから、そういったような意味合いにおいて、一方においては、そういう質を高めるといったような形において結果としての適正な労働条件を見出していく、これが一つ。それから、使う立場においても、いろいろな種類の労働力がある中において、派遣ならではという分野においてこれを使っていく、そういう節度ある形の慣行ができ上がっていくことがやはり必要ではないかと思われます。法律は法律でございますが、法律に合わせてそういう実態整備というものをこれから各企業がやっていかなきゃいけない、これがやはり私は重要ではなかろうかというふうに考えているわけでございます。
それから、今回そういうことで、いわば常用雇用の代替を防止するということで、一年という制限を拡大業務についてはかけているわけでございますが、これはそれなりに私は意義のあることではないかと思っております。
一年ということだけで常用雇用の代替防止が可能なのかどうか、その辺についてはまだ議論があるようでございますが、こういうような形で臨時労働力というのが出てきた場合に、私が考えますのは、それがどのような種類の労働力として定着をするのか、この辺はやはり見定めなければならないと思います。
ただ、今回、職業安定法の中においても、有料職業紹介の分野が広がったわけでございます。そういったことから考えますと、こういった短期の労働力というのは、決して派遣だけの独占分野ではないわけでございます。そういった意味で、派遣になじむ部分、あるいは職業紹介になじむ部分、それ以外の部分、おのずとそういったところのすみ分けというものをつくっていく、そういった中での一年というものの意味を考えていかなければならないんだろう、このように考えるわけでございます。
そういったような意味で、やはり短期の労働力とはいうものの、例えば、一年の派遣期間が、逆に次への長期のステップとして使う、そういう一年だという位置づけ、これについても問題点はあるんだろうと思われますけれども、そういったような位置づけにするということは、派遣の持つ特殊性というものを一つ生かしていく道にもなるのかもしれないというふうに考えるわけでございます。
そういったように幾つか問題もあるわけでございますが、もう一つ申し上げたいのは、中途解約の問題でございます。
この問題についてもいろいろな措置が講じられているわけでございますが、やはりまずその前提としてありますのは、派遣においての派遣先と派遣元の関係が企業の間においての優位性の関係に立っているということを理解しなくてはならない。つまり、派遣先の企業に対して派遣元の企業がやはり弱い立場に立つ。
これは、もとより労働者派遣事業そのものが業務処理請負業というものに端を発してでき上がった経緯もあるように、もともと下請的な構造といったようなものを本来的な性質として持っているわけであります。そういった意味合いにおいては、やはり派遣先に対して派遣元が弱い立場に立たされる、そういった中において結果として派遣労働者に不安定な状態をもたらすということも懸念される、こういう関係であろうと思われます。
そういった意味で、労働法制的な観点の問題もありますけれども、やはり事業主と事業主との、企業と企業との間のいわば取引関係においての公正さというもの、そこのところも求めていく視点を同時に見出していかなきゃいけないだろうと思われます。労働法制という枠組みだけの問題、それも重要でございますけれども、あわせて、これを根本的に解決していく上には、そういう取引関係、業としての特殊性というものをにらんだ対応も同時に考えていく必要があるんではないかと思います。
ただ、そういったものの端を開くものとして、今回派遣法の中でこの問題に踏み込んでいることは私は評価されていい、このように考えているわけでございます。
最後にもう一つ申し上げたいと思っておりますのは、今後の労働力需給全体を見た場合に、今回の派遣法あるいは職業安定法、そういう職業紹介という分野あるいは労働者派遣という分野、それだけですべての労働力需給が成り立っているわけではない。現実に見てみますと、いわゆる直接的な形での結合というのが多いわけでございます。そのときに、やはり職業情報とか雇用情報というような形での媒体を通じて結合することが多いわけでございます。
したがいまして、今回の派遣法は、職業安定法に端を発して、公共職業安定機関の充実強化というのもうたわれておりますが、まさにそういったものをかなめとしまして、労働力需給全体をとらまえるような整理の仕方というのは今後考えられていかなければならないだろうと思われます。その意味において、一番問題点を持っているような分野についてまず手がけていくという意味で、今回の法改正について一定の評価を持ちたい、こういうふうに考えているわけでございます。
さらに、労働者保護の点ではいろいろな面が指摘されておりますが、私もやはり、一番大きな問題として、社会・労働保険の適用の問題というのがあろうかと思われます。
これについては、それぞれの制度の限界というのもあるようでございますが、派遣労働者として一生職業生涯を送られようというときには、やはり安定した形でのそういったセーフティーネットというのが必要であるわけでございます。
しかしながら、社会・労働保険だけではなくて、やはり民間ベースでもいろいろな派遣労働者のサポートの仕組みというのはつくられるべきであろうと思われます。そういった意味で、今、派遣業界というものがどれだけ結束力があるのかわかりませんが、そういう業界を中心にした形でのいろいろな民間での保険原理を使ったようなサービスなども含めて、やはり環境を整えていくということは重要ではないかというふうに考えております。
以上でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/6
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007・岩田順介
○岩田委員長 ありがとうございました。
次に、小井土参考人にお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/7
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008・小井土有治
○小井土参考人 御紹介いただきました小井土でございます。
私は、労働者派遣法制定当時の関係審議会に関与したこと、現に大学で労働問題を講義していること、さらに、労働評論を行っているという立場から、若干意見を述べさせていただきたいと思います。
まず最初に、日本の状況でありますが、私は、一九八五年以降、日本の社会、経済、政治を取り巻く状況が大変大きく変わってきているのではないかというふうに思います。その中でどのようにして日本社会が生き残っていくのかということが今問われている時代だろうと思います。
そして、労働者の問題でいいますと、いわゆる契約についての観念というものをもう少し理解し、契約の中身についても熟知し、それを交渉し、あるいは改善していくということが求められる時代になっているのではないだろうかというふうに思います。
ということは、雇用制度あるいは賃金制度などが改変されていく中で、その辺を、従来は単に企業におんぶにだっこというような態度でいたわけでありますけれども、これからは自衛しなければならない時代であるということから、契約を見直す必要がある、契約をもっと大事にする必要があるということをまず強調したいというふうに思うわけであります。
さて、労働者派遣法は、御存じのように、制定当時の法律に違反するような偽装請負と言われるような業務の適正化と、そこに働く労働者の権利保護ということをねらいとして制定されたわけであります。当時は、対象業務や使用者責任などについて、労使の間で大変大きな意見の違いというのがございました。しかし、その後の人材派遣業界の発展を見ますと、現に労働組合から多様な問題点の指摘もございますけれども、一応、企業と労働者、双方のニーズを踏まえまして、順調に制定の成果を上げてきつつあるのではないかというふうに思います。派遣業が定着、発展し、そこに働く多くの人がいるということは、このシステムが労働力需給システムとして重要な役割を果たしているということの証明ではないかと思います。
今回、ILO第百八十一号条約の採択によりまして、職業紹介及び労働者派遣について新しい国際基準が設定されたことに伴い、我が国でもこれに対応した法の改正、整備が行われるということは妥当なことであろうというふうに思います。慎重に御審議の上、申告制度あるいは一年間派遣した労働者の常用雇用に対する努力義務などを盛り込みましたこの法律改正が実現するよう、一応期待しているところでございます。
ここでまず強調したいのは、派遣先、派遣元とも、労働者派遣についての正しい認識を深め、社会保険の適用など、それぞれの責任を十分に果たす必要があるということであります。責任を果たさない企業名の公表などを行って社会的制裁を加えるということも必要ではないだろうかというふうに思います。
さて、今回の内閣提出の改正案の最大の眼目は、適用対象業務の原則の変更であります。ポジティブ方式からネガティブ方式への変更により、広く社外に通用する専門的な知識、経験、能力を持つ真の人材の活用が一層活発になるとともに、臨時的、一時的な労働力の適正、迅速な需給調整を行える幅が拡大するというふうに考えております。雇用情勢が深刻になっている折、この原則変更が就業機会の拡大につながることを強く期待したいと思います。
ただ、この原則変更により、人材派遣のありようが変化する可能性もあります。変化の方向としては二つの可能性があります。
一つは、経験、技術、能力などを重視してきた従来型派遣が縮小、崩壊し、最近の構造改革と連動した企業のリストラ、常用型雇用の削減に利用されるということであります。その延長線上で、経済の低迷の長期化も手伝って、派遣業界の過当競争が行われ、派遣労働者の賃金低下につながるおそれはないかということであります。
もう一つは、雇用システムが揺らぐ中で多様化している労働者の就業意識と、多様な人材を短期的に活用して発展を図りたいという企業の要請、つまり労使双方の要請に今回の原則変更がこたえられるのではないかということであります。そうなれば、労働力需給システムとしての役割が広がり、その中身が一段と充実するということになると考えます。
前者の可能性も完全には否定できないわけでありますが、後者の可能性を現実化するように労使が協力することが、雇用機会を拡大し、さらには日本経済の再生への道を開くものと考えております。
今回、労働者派遣事業適正運営協力員に関しては、事業主と労働者などの相談に応じ、専門的な助言をすることとされております。この制度は従前からあったわけでありますけれども、法改正を契機に、事業の適正な発展と労働者保護というその目的が達成されるような活動を強く期待しているところであります。
さて、臨時的、一時的な就労者については、ほかの参考人からも言及がございましたが、今回の改正により、幾つかのメリットが期待できると考えております。
現在、派遣労働者の賃金水準は、同一業務に従事するパートタイマーやアルバイトに比べて高くなっております。これは、労働者派遣事業においては、派遣労働者の専門性、経験、能力などが評価されている結果でありますが、派遣元が派遣先との間で派遣料金の引き上げ交渉を行い、それに応じて賃金改定が行われている結果でもあります。この派遣元と派遣先の交渉は経済情勢や両者の力関係なども大きな影響を与えることは否定できませんが、従来型派遣に加え、新規業務も、賃金固定的なパートタイマーとは異なって、定期的な賃上げと高賃金獲得の道が開けてくるというふうに思います。
ただし、懸念材料が皆無というわけではありません。景気低迷の影響を受けての派遣業界内での顧客獲得をめぐる過当競争の激化、あるいは悪質な業者による賃金抑制の可能性がないではないということであります。悪質な業者に対しては政府、労使の監視が必要であり、業界自体も自浄作用を強める必要があるのではないかというふうに考えます。
次に、派遣元が利益を上げるためには、優秀なスタッフをどれだけ抱えているかということが基本になります。優秀な人材を抱えていることが派遣元の信用力につながり、それに応じて高額の派遣料金を設定できるかどうかということが決まります。このため、派遣元では、スタッフの能力開発に真剣に取り組んでおり、優秀な人材、優秀なスタッフ確保のために福祉面での充実に力を入れているところもあるわけであります。これは、激しくなっている企業競争に勝ち抜く派遣事業としての自衛手段でもあります。
新規の追加業務につきましても、その対象業務は、営業分野など、高い収益の見込める一定の専門的な分野になるのではないかというふうに考えられます。このため、派遣元でも能力開発に相当に力を入れるものと思います。したがって、従来、パートやアルバイトなどが担当していた仕事のうち、専門的で高収益の分野が派遣に置きかわり、臨時的、一時的なスタッフでも、パート時代に比べて高い収入になるという効果も考えられます。一方、派遣労働者も、能力向上にふだんから努力する必要があるということは言うまでもないことだろうというふうに思います。
次に、派遣期間の一年という制限を厳格に行うことにより、派遣先には、臨時的、一時的な業務には労働者派遣で対応するものの、それ以外の業務には、仮に一時的に派遣労働者を受け入れても、最終的には直用の常用雇用労働者で対応させることが担保できるというふうに考えられます。これによりまして、派遣先の常用雇用労働者の派遣労働者への代替が防止され、常用雇用労働者を中心とした安定的な雇用あるいは安定的な労使関係を崩さないことができるのではないだろうかというふうに思います。ここにはまだいろいろな問題点があるでしょうけれども、ぜひ、労使あるいは政府などの協力によってそういう方向に行ってもらいたいというふうに思います。
臨時的、一時的な業務の派遣が可能になることによりまして、もう一つの効果というものが期待されます。一たん、派遣労働という形で就業場所、雇用の場を確保した上で、派遣先での常用雇用への転換も可能になると考えられます。こうした形で、就職困難な女子や中高年労働者の就業、雇用機会の拡大が図られれば、失業情勢の改善や安定した労使関係にも役立つ可能性があるのではないかというふうに考えます。
なお、欧米諸国では、派遣事業を活用した派遣先での雇用が現に多く実現しており、いわゆる固定的な派遣労働者もかなりいるものの、派遣労働者から派遣先の直用労働者、正規社員になる者もかなりの比重を占めるということを聞いたことがあります。大まかに言いますと、EU全体では三二%ぐらいの数字というものが出ているようであります。
さて、臨時的、一時的な人材の活用では、ベンチャー企業など中小企業でもそれを利用することが可能になるだろうと思います。ベンチャー企業の発展ということが今日大いに期待されているわけでありますけれども、多様な人材を多様な分野から短期的に集めて活用することによって経済、産業の基盤づくりをすることが可能になるのではないだろうかというふうに思います。こうした中小企業などで新規プロジェクトに携わったり、大企業で臨時的、一時的な業務につく場合でも、派遣労働者は、パートやアルバイトで働く場合に比べて、派遣元に属した方が雇用管理や職業能力開発への支援があるということから、安心できることになるのではないだろうかというふうに考えます。
次に、労働者派遣は、派遣期間を限定し、就業時間、業務範囲をあらかじめ明確にした上で行われます。今回の改正案は、派遣労働者のニーズ、願望、つまり、みずからのニーズに合った短期の仕事を的確迅速に探したい、二つ目、一つの会社に縛られず、会社の人間関係に煩わされずに働きたい、三つ目、あらかじめ決められた仕事や責任の範囲内で働きたい、四つ目、働く曜日、時間、期間を限って働きたい、最後に、残業、休日出勤のないところで働きたい、こうしたニーズ、願望にマッチするものではないだろうかというふうに思います。
さて、今回の改正案は企業にだけ有利なのではないかというような見方がないわけではありませんが、私は、これは派遣される労働者、あるいは受け入れ側の常用労働者、直用労働者にとってもメリットがあるのではないかというふうに考えます。つまり、欠員補充を会社が迅速に行うことができるようになることから、労働者は育児・介護休業を初めとする休業、休暇の取得が容易になります。さらには残業、休日出勤などの減少にもつながり、仕事と家庭責任を両立しやすくなるということも考えられるのではないかというふうに思います。
最後に、常用雇用労働者の代替防止を対象業務の限定に頼っているのは日本だけのようであります。ILO第百八十一号条約の内容を踏まえ、対象業務を拡大するとともに、ドイツ、フランスなどのように派遣期間を制限する方式を採用し、ドイツ、フランスとは違いますが、派遣期間を一年に制限して常用雇用労働者の代替を防止することで、ILO第百八十一号条約の批准が可能になるとともに、新たな国際基準に合致した事業運営を行うことができるようになります。これは、我が国全体の雇用の安定と活力ある社会経済の実現に貢献できるのではないかというふうに考えられます。
以上、意見表明を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/8
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009・岩田順介
○岩田委員長 ありがとうございました。
次に、脇田参考人にお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/9
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010・脇田滋
○脇田参考人 龍谷大学の脇田と申します。よろしくお願いします。
私は、労働法と社会保障法を専攻しております。八五年に労働者派遣法が制定されまして、そのときに非常に強い関心を持ったわけです。
その前後から職業安定法違反の労働者供給事業が非常に蔓延する。実際に労働者を使用している使用者が労働法上のすべての責任をとるというのが戦後の労働法の基本原則であったというふうに思います。これは現在でも世界の労働法の中で大きく変わってはいないというふうに私は思っております。ところが、こういう労働者供給事業は、実際に使用者として使っているのに使用者としての責任をとらない、こういう点で大きな問題があるというふうに考えていたわけです。
ところが、八五年に政府は、この労働者供給事業を一部合法化するということで、労働者派遣事業を制度化してしまったわけです。いわば違法状態を放置してそれを追認する、こういうのが当時の労働立法の態度であったというふうに思います。これでいきますと、違法状態を放置して、しっかりと法のルールを守るということをせずにそういう状態が広がった、これではやむを得ないということで新たなルールを設定していくということであれば、もう歯どめがないわけですね。そういう意味でこれは労働法の理念に反する立法ではないかということで、この派遣法に強い関心を持ったわけです。
十三年たちました。この間に労働者派遣法はできましたが、これについても十分な規制が行政のレベルで行われているとは言いがたいというふうに私は思います。
例えば労働基準監督、派遣労働者を特別に対象にした労働基準監督が行われたという報告を私は知りません。労働基準監督官の知り合いの人に聞きますと、もし派遣労働者について監督をすれば労働基準法違反がもう山のように出てくる、そうすると通常の監督業務ができない、だからいわば手を触れないでおくんだというふうなことを聞いているわけです。
そういう中で、今回の派遣法の対象業務の自由化という拡大の動きが出てきているわけです。これを実際に規制をしないまま放置しておいて、また現実に合わせてそれを緩める、こういう立法のやり方でいきますと、労働法自体が崩壊しかねないというふうに思います。ドイツやフランスの派遣法では、しっかりと規制をして、それを行政が支えるという中で弊害を抑えているというのが現実ではないかというふうに思います。そういう意味では、派遣労働者の現実をしっかり踏まえた労働者保護を図るべきだというのが私の意見です。
特に、この十三年間、派遣労働者からの労働相談に積極的に応じてきました。特に、九六年に派遣法が改正されましたが、それ以降、インターネットのホームページを開きまして、電子メールで派遣労働者から直接に相談を受けて、回答をしております。当初予想した以上に相談が殺到するわけです。派遣労働者は、必ずしもインターネットにアクセスできる状況にあるとは言えないと思うのですが、そういう状況にある労働者だけ、しかも思い切って見ず知らずの私に電子メールで相談をかけてくるという人は非常に少ないと思うのですが、それでもこの三年近くの間に千件の相談がありました。本日すべて紹介できませんので、お配りしました資料の六ページ以下にそれはまとめております。ぜひごらんください。
こうした経験も踏まえまして、今回の法改正について、四つの点に絞って指摘をしたいというふうに思います。
まず第一点です。職業安定法の改正も今回の法改正の中にありますが、その大きな柱は、求職・求人分野に民間企業の参入を自由化する、こういう発想ではないかというふうに思います。これはもう極めて弊害が大きいというふうに思います。特に、求職状態にある労働者、職を求めて非常にせっぱ詰まった段階です。非常に弱い立場にある労働者、そこに民間企業が営利目的で介入するということになれば、非常に弊害が多い。その資料の一ページに書いておりますが、少なくとも六つの弊害があるのではないかというふうに思います。
一つは、不公正で非民主的な労働関係の形成につながるのではないか。二つ目は、営利業者による中間搾取。三つ目は、劣悪な労働条件が強制されるのではないか。四つ目は、短期契約など不安定な雇用が広がるおそれがある。五番目に、性差別や障害者差別などの差別雇用に歯どめがかけられない。六つ目に、労働組合の弱体化につながる。これは私だけではなくて、世界的に、公共職業紹介の意義として、こういうものを許さないというのが指摘されてきたわけです。そういう意味では、今の日本の失業者が非常にふえている状況の中でこそ、公共職業紹介の役割がむしろ強調されるべきであるというふうに思います。
さらに、事後型規制に変える、行政の役割を下げて、問題があれば後から処理する、こういう考え方も出ておりますが、これも非常に実情を無視した改正の方向ではないかというふうに思います。特に、ILO百八十一号条約は、就職情報サービスについても規制をすべきであるということを言っているわけですね。ところが、日本の場合には、そういった就職情報サービスについての規制はほとんど野放しになっているということですので、今回の改正の方向というのは間違っているというふうに思います。
二番目、派遣法についてです。
派遣労働者の現実をぜひ踏まえてほしいというふうに思います。三月に東京都の労働経済局からも調査が出ました。この内容というのは私の感想と非常に近いものがあります。
派遣労働者の特徴ですが、まず第一に、雇用が非常に不安定であるということです。先ほどからも出ておりますが、非常に短期契約がふえているという中で、派遣先が労働者派遣契約を途中解除するということもありまして、派遣労働者が非常に雇用の点で不安定な状況にある。特に、派遣先は解雇の責任を直接に問われないということから、派遣契約の途中解除ということで、事実上、いわゆる痛みを伴わずに解雇ができるというのが派遣ではないかというふうに思います。
それから二番目は、雇用が不安定であるということから、非常に無権利になっているということです。次の仕事を紹介してもらうということのためには、例えば年次有給休暇を行使することがちゅうちょされる。年休を行使すれば次の仕事を紹介してもらえないのではないかというふうなおそれを抱いている派遣労働者が数多くおられます。それから最近の相談例では、妊娠をした、これが派遣元にばれたら次の紹介をしてもらえない、あるいは、契約期間が切られているわけですから次の更新をしてもらえない、そういうふうな訴えもあります。そういう意味では、雇用が非常に不安定であるという点から、労働基準法や育児休業法などの当然の権利も行使できないというのが登録型派遣労働者に共通した悩みではないかというふうに思っております。
三つ目は、派遣労働者は非常に孤立している。私のようなところに相談があるということにも象徴されておりますが、労働組合に加入をしていたり労働協約の適用を受けている派遣労働者というのは非常に少ないのではないか。さらに、先ほど言いましたように、労働行政は派遣労働者のために有効な援助をほとんどしていないという中で、頼るところがないというのが派遣労働者の現実ではないかというふうに思います。
少なくとも、派遣法を抜本的に改正するというのであれば、十三年間の同法の施行の結果、派遣労働者は非常に無権利であるという現実、これは東京都も指摘しているわけですが、そういうものを踏まえた調査が必要ではないかというふうに思います。
次に、ILOの百八十一号条約、それから百八十八号勧告が九七年に採択されているわけです。日本はILO条約の批准は非常におくれているわけですが、このILO百八十一号条約、百八十八号勧告の中では、派遣労働者の保護を図りなさいという非常に強い要請がされている。中でも、日本にはない派遣労働者の結社の自由、ないというか、事実上行使できていないそういう結社の自由、これを重視する。つまり、派遣労働者も集団的な権利を持って堂々と経営者と労働協約を結べるような団体交渉をする、それが保障されるべきだというのがILOの考え方であろうというふうに思います。ほかにも個人情報保護とか、具体的な権利を細かく定めているわけです。
今回の政府の法案には、労働者保護は一応ありますが、このILO条約の内容、さらに勧告の内容からはほど遠い規定しか盛り込まれていないというふうに思います。そういう意味では、国際労働基準に適合するように、日本の派遣法の不十分な内容を改善することが必要だというふうに考えます。
最後に四つ目ですが、この間、ドイツ、フランスなどのEU諸国、さらに九七年にはイタリア、さらに九八年、昨年お隣の韓国で派遣法が制定されました。これらの国の派遣法と比べたときに、日本の派遣法の内容は極めて不十分である。見るべきところは対象業務の限定くらいで、例えば、派遣期間を超えたときには派遣先で自動的に直用されるというのが、フランス、ドイツ、イタリアそして韓国という諸国には定められているわけです。
さらに、派遣先従業員と派遣労働者は同等の待遇にするべきであるというのも、フランス、イタリア、韓国にそれぞれ規定が盛り込まれております。日本にはこういった同等待遇という保障規定がありません。むしろ、派遣労働者は正規の従業員よりも格段に人件費が安くつくというのが派遣会社の宣伝文句であるわけですね。こんなことが宣伝される国はほかにはないのではないか。派遣労働者が派遣先従業員よりも格段に悪い労働条件であれば、当然に、そういった派遣労働者の雇用に経営者が関心を持つ、それを取り入れようとするのは当然である。常用雇用の破壊につながる、そういう状況がある。それが、ほかの国に比べて同等待遇保障を定めていない日本の派遣法の一つの大きな問題ではないかというふうに思います。
特に、ILO百八十一号条約が採択されまして以降、イタリアと韓国で派遣法が制定されました。これらの国に特徴的なことは、派遣労働を導入することで常用雇用を破壊してはいけないという考え方がはっきりと入っていることなんですね。例えばイタリアでは、過去十二カ月に整理解雇をした事業所では派遣労働を入れてはいけないということが法律上明確化されております。韓国の昨年の法律では、過去二年間に人員整理をした事業所では派遣労働を入れてはいけないということが書かれてあるわけです。もちろん、細かく見ていけば、業務とかそういうふうなことも問題があるかと思いますが、そういうふうに、リストラに派遣労働が使われるおそれがある、これに対して歯どめをかけることが必要であるというのが百八十一号条約以降の、イタリアや韓国の派遣法に共通した特徴であるというふうに思います。
そういうふうに考えていきますと、日本の派遣法は特に目立った内容がないわけです。そういう意味では、こういうふうに言うと言い過ぎかもしれませんが、労働者保護という点では日本の派遣法は世界で最も貧弱な内容である、最もおくれた派遣法ではないかというふうに思います。
時間が来ましたので、四点、指摘いたしましたが、派遣法の改正あるいは職安法の改正につきましては、現実を踏まえて、労働者の保護に欠けることがないように、また世界の水準に少しでも近づくような法改正をしていただくことをお願いしまして、私の発言といたします。どうもありがとうございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/10
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011・岩田順介
○岩田委員長 ありがとうございました。
次に、中野参考人にお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/11
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012・中野麻美
○中野参考人 派遣トラブルの解決に携わってまいりました者の立場から一言、意見を申し述べさせていただきます。
まず冒頭に、現状の改正案のままでは派遣及び職業紹介の自由化には賛成できないということを申し上げたいと思います。
なぜかという理由なんですけれども、まず第一に、自由化見直しという方向の論拠とされておりますILO百八十一号条約は、労働者保護を図りながら職業紹介の国家独占を改め、民営職業紹介機関を容認して、公共機関との連携のもとに労働市場における有効な機能を発揮することを可能にするということを目的とするものでありまして、自由化を促進するということを目的とするものではないということです。
私は、この間、三月の中旬に、ヨーロッパ、特にILO、ドイツ、フランス、イギリスを調査してまいりました。ILOの事務局と意見交換をした際に、事務局の方は、これは個人の見解ではあるけれどもという前提条件つきで、ILO百八十一号条約を批准するためには、日本の八六年派遣法のままで可能であるという意見を述べられました。自由化を促進するものではなく、むしろ労働者保護をどのように実施していくのかという視点から、私たちは、この派遣法改正に期待をかけてまいりました。
ヨーロッパは、最近急速に派遣労働が拡大しています。そして、再規制の動きが出てきているということも肌に感じてまいりました。例えばイギリスは、これに関する特別な法規制というものを持たない国として紹介されておりましたが、ブレア政権が誕生し、そしてその後の議論の中で、派遣労働者に対する保護のための規制を強めようという動きで国全体が動いているという状況にあります。そして、我が国よりも厳しい規制を置いてまいりましたフランスでも、この間急速に派遣が拡大いたしまして、さらなる規制が必要だという行政当局側の認識まで表明されております。
これらの国よりも緩い規制しか持たない我が国において、政府改正案のような、政府提案のような中身で自由化が促進されていくということになりますと、大変深刻な労働市場への影響が懸念されます。
また、理由の二番目に、実際に働いているスタッフの間にも、労働条件、これはとりわけ賃金でありますが、それらの低下やあるいは雇用の不安定化に対する懸念の声が強く、この改正には反対であるという意見が多く存在するということです。お手元の資料の東京都労働経済局の調査を見ますと、そのことがはっきりと浮き彫りになっております。
三番目に、働く側と企業の側のニーズの一致が自由化の論拠ともなっておりますが、今私が引用させていただきました東京都の調査によりますと、安定した通常の雇用、すなわち正社員雇用を望みながらも、市場の限られた現実から派遣就労以外に選択の道がなかったという人たちが極めて多く存在するということは注目すべきだと思います。安定的な就労継続を希望する労働者から職場や雇用機会を奪いながら常用雇用代替が促進されていること、したがって、ニーズの一致ということは必ずしも実態とは合致しない部分があるのだということも私たちは肝に銘じるべきだと考えております。
そして、自由化によって拡大されるであろう雇用の質が一体どのようなものであるのかということも注目しなければならないと思います。スタッフはいろいろなトラブルに見舞われております。トラブルは特殊な事例であるというような声も耳にしますが、派遣労働ネットワークの相談結果でも、東京都の調査結果でも、決して特殊とは言えない現状が認識できます。そして、これらのトラブルが、三者間労働法律関係とそれにふさわしい労働者保護に手薄な法律の欠陥から構造的に発生しているということも、私たちは、以前の派遣法改正の際にも、また、ネットワークを結成してから毎年行います労働省との懇談の席上でも指摘してまいりました。
今回の法改正でスタッフが抱える問題点を改善して権利を保障する格段の措置が講じられない限り、自由化によって拡大される雇用は深刻な問題を抱えた雇用となります。例えばということで、現在スタッフが抱えている深刻な問題を紹介してみたいと思います。
第一に、企業が派遣で対応させようとしている仕事は継続してそこに現に存在するのに、契約期間は短期化し、雇用は従来以上に不安定になってきています。
また、三十五歳を過ぎたら仕事の紹介がない、年齢を理由に登録を断られるというケースもありまして、生活に深刻な影響をもたらされています。
そうした状況も反映して、スタッフの中には、みずからに仕事の紹介を受けるために、夏、冬のお中元、お歳暮としてつけ届けを営業マンに対して行う。バレンタインデーのチョコレート程度であればかわいいものだとは思いますが、そういったつけ届けで雇用を得たいというスタッフの行動がかなり広がってきているという現状にあります。
そして、容姿に基づいて選別をされる。若い人優先、容姿優先で発注書が出されるという市場の現実の中で、差別的な雇用の受け入れ、派遣の受け入れが進んできているということも無視できません。
不合理な中途契約解除であるとか、私たちが今まで指摘してきたような問題は後を絶たないのですが、派遣先によっては、責任を追及されないようにするために、一たん設定した派遣契約期間を一方的に切り詰めて短縮した上に、期間満了を口実にして打ちどめるという悪質なケースも出てきております。
そして何より、競争関係に敏感に影響されて、急速に賃金は下落してきております。ネットワークが四年前にとりましたアンケート調査結果では、時給の平均水準は千七百四円でした。去年とりましたアンケート調査によりますと千六百六十円、四十四円時給レベルで下落をしております。そして、ことしに入りましてトラブルホットラインを行いましたところ、何と時給は千四百円台に突入しております。派遣元の競争が厳しくて、料金がより安い方に発注書を提出する、場合によったら入札によって料金が安い方に仕事が流れていくという中で、スタッフの生活が割を食っているという状況が見え隠れしています。
そして、事前面接による選別、違法派遣受け入れなど、派遣先の権限乱用にも目に余るものがあります。
スタッフの雇用や労働条件は、市場における企業間競争関係から敏感に影響を受けて、専門性が確立された業務に限定している現在の法制度のもとでも、予想外の深刻な影響を受けているということです。
これらの問題に適正に対処し、将来にわたってトラブルを防止していくためには、次に述べますような法的措置を講じることが不可欠であるというふうに考えます。最低限これだけは国会の中で議論し、そして実現していただきたいというふうに考えるポイントを、以下述べたいと思います。
まず第一に、常用代替への歯どめと派遣先の雇用責任の確立をお願いしたいということです。
まずもって申し上げたいのは、派遣労働関係は、三者間労務供給関係、言ってみれば労働力リース関係でありまして、労務受け入れ企業が直接労働者を雇用するという直用関係が雇用の原則的な形態であるならば、それはあくまでも例外的な雇用の形態であるべきだ、そういう姿勢が法政策の中に貫かれるべきだということです。そして、制度を見直すというならば、臨時的、一時的な派遣の活用に限定するという趣旨を法制度の中にきちんと明文化すべきだと考えます。
改正案は、労働者派遣を一時的、臨時的な労働力需給調整のための制度として位置づけ直すということ、そのために派遣期間を上限一年で規制するという中身になっておりますが、期間による限定だけではしり抜けになってしまいます。規制したことにはならないのです。業務やポストが臨時的、一時的性格を持つ場合といった実質的な限定をかけて、その枠組みの中でなければ派遣は許容しないという方策を講じるべきでしょう。
こうした規制の方法は珍しい、諸外国では一国しかないという意見もありますが、有期雇用に関して、ILOの条約、勧告が明示しているような基準、西欧諸国の基準に実例が見受けられるわけでありまして、有期雇用に関する規制は、先立つ労働基準法改正に際して今後の検討課題とはされておりますが、私は、これを機会に、こういった法制度の見直しというものをなされてしかるべきではないかと考えます。
そして、派遣会社に移籍した上で派遣労働者として受け入れたり、解雇や配転によってあいたポストに派遣労働者を充当するということは、まさに常用代替であります。そういったことを明確に法律上禁止していくべきである。常用代替を促進しないということは派遣法制定の際にも国会の附帯決議で確認されているところでありますから、それを法の中に明定しないで自由化を行うことは、私は、到底容認できないということを申し上げたいと思います。
そうした枠組みの上に、法の枠組みを超えて派遣労働者を選別、活用、雇用打ち切りした派遣先に対する雇用責任を法律上明確化していただきたいと思います。
労働者派遣は、労働者供給事業と言われる関係性の中から、派遣先が雇用責任を負担しなくても労働者保護に遺漏はないというものを抽出して合法化したものであります。しかしながら、現実には、派遣先が雇用主としての権限を行使し、それでいながら労働者派遣関係であることを盾にとって雇用責任を免れるといった労働者派遣の偽装が後を絶たない現状にあります。そして、派遣先が圧倒的に強い力を持っております。こうした労働者派遣の偽装については、もはや派遣労働関係にはない、そしてもとの在籍出向類似の労働者供給関係にあるものとして派遣先が雇用責任を負担するものであるということを、理論的にも、また法律上も明確にすべきだと考えます。
そうした典型は、派遣先による事前面接、試験や試用、使い試しといったことを介して労働者を選別したり、あるいは労働者派遣契約に定められた業務や労働時間の枠組みを超えて派遣労働者を活用したり、法律による許容範囲を超えて労働者を活用する場合にも同様と考えるべきであります。
こうした派遣先の責任を問うていけるような制度というのは、労働者が労働者派遣法違反を告発したときに雇用を失わないで済むという枠組みをつくる上でも極めて重要な制度だということをつけ加えておきたいと思います。
第二番目に、法律が遵守されて労働者が安心して働けるようになるためには、派遣先規制に消極的な現在の立法姿勢を改め、派遣先に対する規制を抜本的に強めるべきだということを申し上げたいと思います。
改正法案では、依然として派遣先に対する規制はできないのだという立法姿勢が貫かれているように思われます。努力義務にとどめるということがその限界性をあらわしております。しかし、派遣先は、違法な派遣や派遣を偽装することによって利益を得ています。労働者派遣関係において最も強い影響力、支配力を持っているというのも派遣先です。こうした派遣先を規制しないで何が法律を遵守できるというのでしょうか。
私がドイツに参りましたときに、ドイツの雇用省の政策担当者が、盗品を買い取る人、盗んだ品物を買い取る人がいなければだれも盗人にはならないのだと言いまして、派遣先を規制する重要性を強調されました。こういった立法姿勢はぜひとも取り入れていただきたいものだというふうに申し上げておきます。
第三に、差別待遇の禁止をぜひとも立法化していただきたいと思います。
これにつきましては、新たな法律本文の見直しを行わないとされているようでありますが、私は問題だと思います。職業安定法三条は、派遣元、紹介元だけに適用され、派遣先、紹介先は対象外となっております。労働基準法三条は、派遣元、派遣先、双方に適用されますけれども、差別的な事由として性や年齢、障害の有無というものが含まれておりません。また、採用差別は射程の範囲外になっております。男女雇用機会均等法は大きく改善されましたけれども、解釈通達を見ましても、労働者派遣関係において派遣元のみを事業主として考えているようであります。そして、現行労働省令は、派遣元が行うべき派遣労働者の通知事項の中に、氏名のほかに性別と年齢を要求しております。
こういった制度は、現在、派遣労働者が置かれている極めて不利な立場、差別的な取り扱いというものを増長させることになっておりまして、次のような法改正というものを求めたいというふうに思います。
派遣元、紹介元に対する登録から派遣決定に至る差別の禁止と排除のための制度、そして派遣先に対する派遣受け入れ、業務指示、派遣関係終了に至る差別的な取扱禁止と排除、これは、派遣先に対して差別を禁止するという法制度を確立していただきたいということです。そして、派遣労働者に対する賃金等の均等待遇確保です。
最後に、時間がなくなりましたけれども、申し上げたいのは、ドイツに参りまして、派遣労働者に対する労働条件の明示の一環として、あなたにはこういう権利がありますという詳しい中身を「派遣労働者の手引き」として一人一人に配付するという制度になっているということを知りました。どのような手引であるのかということは、派遣労働ネットワークが作成いたしました資料の中に翻訳文として紹介しております。こういったものをぜひとも制度化していただきたいということを申し上げまして、私の意見陳述とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/12
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013・岩田順介
○岩田委員長 ありがとうございました。
以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/13
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014・岩田順介
○岩田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑者は、質疑の際に、御意見をお伺いする参考人の方を御指名願いたいと思います。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柳本卓治君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/14
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015・柳本卓治
○柳本委員 自由民主党の柳本卓治でございます。参考人の皆様には貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。
さて、今回の労働者派遣法の見直しにつきましては、私が労働政務次官在任中の昨年五月に中央職業安定審議会からの建議が出されて以来約一年を経て、このたび職業安定法とあわせて審議の運びとなったことは、大変喜ばしいところでございます。
さて、今回の労働者派遣法及び職業安定法の改正の意義は、労働力需給のミスマッチが拡大しつつある中で、労働力需給のきめ細かくかつ迅速な調整を図るため、ILO条約等の国際的な動向も反映しつつ、公共の機能の充実並びに民間による各種の需給調整システムの活性化により、公共及び民間が相まって労働市場の機能を高めるための新たな枠組みを構築することにあると考えております。
三月の失業率が御存じのように四・八%となりまして、過去最高を更新しておりますが、私は、我が国がこのまま高失業社会に向かうことは、経済的にも、また社会的にも、将来大きなコストを負担することにつながることになると考えておりますし、これを回避するために労働力需給調整機能の早急な整備が不可欠であると考えております。
さて、今回の法律案のうち、特に労働者派遣法の改正案につきましては、労働者派遣事業を新たに臨時的、一時的な労働力の需給調整システムとして位置づけて、我が国の雇用慣行との調和を図ることとされておりますが、こうした新しい制度に対する国民の不安感にどう対応すべきかという点、また、新たな労働者派遣事業制度を活用することによりどのようなメリットがあるのかという点を十分明らかにしていかなければならないと考えているわけであります。
私は、こうした観点から、成瀬、小井土両参考人の御意見をお伺いしてまいりたいと思います。
派遣法の適正運営に向けた日経連の役割について、まず成瀬参考人に伺います。
今回の派遣法審議におきまして最も焦点となっているのが、常用代替防止のための派遣労働者の受け入れ期間の制限を初めとした派遣先に対する規制をどう実効あるものとできるかという点であります。派遣先となるのは一般企業であります。派遣労働者を受け入れる以上は、労働者派遣制度についても十分な理解を求められることになります。派遣法の改正を推進されている日経連におきましても、いわば派遣のユーザー側の自主的な取り組みとして、派遣先がルールを的確に遵守できるようにするために積極的な役割を果たすことが期待されていると思いますけれども、いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/15
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016・成瀬健生
○成瀬参考人 大変重要な御質問、ありがとうございます。
日経連といたしましても、今先生おっしゃられましたような点につきましては、鋭意積極的な努力をしてまいらなければならないと思います。
もちろん、派遣先、受け入れ企業だけではございませんで、派遣元につきましても、恐らく今度法律が通りますれば、派遣業そのものの拡大ということでかなり広がってくるのではないか。そうした派遣業界というふうなものについての日経連としてのいろいろな協力といいますか、できれば我々のメンバーになっていただいて、その中でもっていろいろ協議もし、そして直接、以前から我々のメンバーでございます派遣受け入れ側の業界ともども、新しい、できるだけよいマーケットといいますか、そこに労働需給のシステムができるような努力をしてまいりたいと思っております。
特に常用代替という点でございますが、私どもは、企業の常用雇用者についての認識というのは、やはり一番基本でございますから、この人数を必要以上に減らすというふうなことはかなり無理でございます。例えば、それを派遣で代替しようとしましても、実際問題としてはやはり長期雇用でないと無理な仕事が多いわけでございます。そうしますと、逆に無理をすれば残業がふえてしまうというふうなことにもなるわけでございまして、結局、いろいろな面でコストが高くなるということが考えられます。
恐らくそれよりも先に進むのは、今常用とパートしかないわけでございますが、パートでは十分でない労働力につきまして、より高度な仕事のできる派遣を使う、パート代替というふうなことも逆に積極的に進むのではないかというふうな考えを持っておりまして、この派遣という労働力のあり方というものをできるだけいいものに育てていくように積極的に先生の御指摘のとおり努力をしてまいりたい、強い意思を持っておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/16
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017・柳本卓治
○柳本委員 次に、小井土参考人にお伺いをいたします。
今回の派遣法改正案では、常用代替防止のために新たな枠組みとして一年間という期間限定方式が用いられております。派遣法制定以来の業務限定方式から大きな転換が図られることとなっておるわけですが、本委員会におきましてもいろいろ議論があるところでございますが、この新たな方式の実効性について、期間限定方式により常用代替を防止する仕組みをどのように評価されておられるでしょうか。
それからもう一点、派遣法改正については、労働者を使う側の視点のみならず、働く側の視点からもいろいろメリットがあるものではないかと思っております。労働者の就業ニーズが多様化する中で、仕事と家庭の両立、能力開発、適職選択等のための魅力ある選択肢としての派遣を選ぶ労働者がふえていることも、これは現実であります。そこで、労働者派遣の活用により労働者にもたらされるメリットについてあわせて御質問させていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/17
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018・小井土有治
○小井土参考人 委員の基本認識をお伺いいたしましたが、私の認識とそれほど違わないだろうと思います。
御質問は二つお受けいたしました。一つは、期間限定方式による常用代替の防止であります。これについてお答えいたします。
労働者派遣法の制定当時におきましては、我が国の雇用慣行との調和を考慮いたしまして、業務限定方式を採用いたしました。たしか、労使の間でそれぞれの立場に沿った大変真摯な議論が展開されたと記憶しておりますが、結果として十一業務が対象業務とされました。その後、社会情勢の変化あるいは労使の話し合いの結果など、あるいは諸外国の趨勢などに伴ってその範囲が拡大され、現在二十六業務になったというふうに考えております。
さて、諸外国でこうした業務限定方式をとっている国というのは現在ないというふうに記憶しております。唯一残っていた韓国も昨年法律が改正されております。この期間限定方式というものは世界的な流れになっているというふうに考えられます。
さて、期間限定方式の趣旨は、派遣の活用で臨時的、一時的な労働需要、その他常用労働者では対応し得ない労働需要をカバーしようとするものであります。この考え方をきっちり守ることによって、業務限定方式に比べ常用代替防止の効果は高いのではないかというふうに考えております。ぜひ行政あるいは労使の方の法遵守ということを期待したいと思います。
もう一点の御質問は、派遣制度が労働者側にとってどういうメリットがあるかということだったと思います。
雇用は、昨今の経済改革あるいは世界的な競争の激化によって、我が国においては常用雇用においても大変革期に入りつつあると思います。今や大樹の陰ということはなくなって、大樹の陰にも暗い陰があるというふうになっているかと思いますが。
さて、この直接雇用に比べ派遣で働く方がみずからのニーズに合った仕事につきやすく、その能力を生かした働き方がしやすいというふうに思います。それによって、みずからの職業能力をみずからの希望に沿って伸ばしていくことも可能ではないかというふうに思います。自分の職業能力に対応した新しい職場に移りたいというニーズに対しても、迅速に対応ができる仕組みであります。これから適職の選択を行おうとする若者にとっては、特にメリットの大きいシステムである。
ただし、私は適者適職という言葉を使っているわけでありますけれども、そのためにはやはり能力開発ということが当然必要であろうと思います。従来の専門性がなくなる対象業務であっても、やはり能力を高める、要するに自分の価値を高めるということは最低限のことであるというふうに思います。
一方、我が国はこれまで臨時的、一時的ニーズへの対処は残業やパートタイム労働に頼ってきたわけでありますが、これに派遣を活用できるようになると、先ほども冒頭述べさせていただきましたが、残業時間の短縮、育児や介護といった家庭責任との両立も可能となり、常用労働者にとってもメリットが大きいだろうというふうに考えます。
以上、お答えいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/18
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019・柳本卓治
○柳本委員 最後に、成瀬参考人にお伺いをいたします。
今回の派遣法改正が折からの雇用失業情勢の悪化と時期を同じくして提案しており、また、経営者側の強く要請している改正であるということなどから、今回の改正が企業のリストラ支援をねらったものではないかという懸念も一部であるようであります。与党の立場といたしましても、こうした懸念や制度運用に対する心配については、これを可能な限り払拭していくことが派遣制度の円滑な活用のために重要なことであると考えております。
こうした観点からすれば、労働者派遣を活用する企業側としても、労働者が派遣制度のメリットを十分実感できるような活用の仕方をすることにより、労使双方から評価される制度として発展させていくという姿勢が求められていると考えておりますけれども、その点につきまして最後にお伺いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/19
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020・成瀬健生
○成瀬参考人 大変重要な御指摘をいただきまして、ありがとうございます。
日経連といたしましては、今の雇用情勢が派遣法の導入によって必ずよくなるというふうに考えております。
日本の場合、今、失業率は確かに四・八%という史上最悪でございますが、アメリカは史上ベストでも四%を超えておりますし、ヨーロッパに至りましては一〇%を超えております。こういう点は、従来の労使関係の中でもって培ってきた安定雇用への労使の努力というふうなものが積み重なっている結果だと思うわけでございますが、その上にさらに新しい雇用形態としての派遣がつけ加わることによりまして、さらに、より労使の話し合いの場が広がり、より雇用の場が広がるというふうに確信しておりまして、この点につきましては日経連も及ばずながら最大限の努力をしてまいるつもりでございます。ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/20
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021・柳本卓治
○柳本委員 時間が来ましたので、終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/21
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022・岩田順介
○岩田委員長 次に、石橋大吉君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/22
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023・石橋大吉
○石橋委員 民主党の石橋大吉でございます。
今、六人の参考人の皆さんから貴重な意見を拝聴しましたが、成瀬さん、北浦さん、小井土さんはこの改正に賛成の立場でありましたし、連合の松浦さん、龍谷大学の脇田さん、弁護士の中野さんの意見は、派遣労働をめぐる非常にたくさんの問題点を指摘されまして、この改正案にはどちらかといえば賛成できない、こういうような感じの意見のように受けとめました。
しかし同時に、非常に広範多岐にわたる問題点の指摘を聞いておりますと、とても今度の改正案では間に合わぬ問題というか、かなり抜本的かつ広範な法律改正が必要とされる問題かな、こういう感じもして、非常にたくさんの難しい問題を抱えているんだなということを改めて痛感したところであります。
そこで、そういうことを念頭に置きながら幾つか質問をさせていただきたいと思うのです。
まず最初に連合の松浦さんにちょっとお聞きをしたいのですが、先ほどの話では、連合はこの労働者派遣について登録型については禁止をする、こういう要求を出されておるわけですが、なるほどその理由はそういうところにあるのかというようなことをかなり広範にわたって聞かせていただきました。
そこで、連合の松浦さんだけじゃなくてほかの参考人の方の意見も聞いて改めて痛感することは、結局は登録型派遣というものを、一年なら一年、臨時的、期間的に非常に限定をしている。そのことについて、派遣元、派遣先はちゃんとそれを守る、そういうことが大前提になっておる。しかし、派遣されている労働者、スタッフの側からすると、先ほど中野さんからもありましたように、そこに仕事があるんだから引き続き仕事をさせたらどうだ、こういうような話もあったわけです。
それにしても、私は、やはり根本的なところで、派遣元や派遣先も期間限定をされている派遣労働を前提にしてやっているわけですから、働く方の側でも短期の働き方、期間を限定した働き方というものを選択している、こういうような関係があると思うのですね。
そういう意味で、非常に期間を限定して働いておられる労働者の皆さんと、常用型で一般的な雇用労働者として働いている皆さんとの間、いわば権利保障や生活保障の関係が全部一緒でなければいかぬのかどうかということになると、やはりどこかで線引きが必要だし、線引きされることになるだろうと思うのですね。その辺をごっちゃにして議論をしていると整理がつかない。
まあ、もちろんそれをしたからといって問題が全部解決するわけじゃないですよ。根本的なところでは、何かその辺の線引きをどうするかということがあるような感じがするのですね。その辺をどういうふうに考えられるのか。これはむしろ参考人の皆さん全部に関係する話かもしれませんが、特に連合の松浦さんにその辺を改めてひとつ聞いておきたい。
それからもう一つは、先ほど脇田先生からもちょっと話がありましたが、労働組合のこの問題に対する関与の仕方というか、フランスなんかは、御承知のとおり、かなり労働協約が法律の前提にあるというのか、労働協約の果たしている役割が非常に大きい、こういうふうに思うのですね。特に、一つの会社に雇われていなくても、ある事業所なら事業所で労働協約が結ばれると、それが他の事業所にも全部波及するような関係の仕組みになっているように、私もまだ十分勉強しているわけじゃないのですが、そういう仕組みが根底にあって法律による規制がやはり生きているとか、そういう関係がかなりあると思うのですね。
そういう意味で、労働協約の問題を含めて、労働組合としてのこの派遣労働に対する関与の仕方というものがもっと考えられていいのじゃないかな、こういう感じもするのですが、その辺、連合の方の考え方をちょっと聞いておきたいと思います。
〔委員長退席、前田(正)委員長代理着席〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/23
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024・松浦清春
○松浦参考人 御指摘いただきましたように、国民の高学歴化という問題、それから生活が豊かになったということから労働観、価値観というものについても非常に多様化をしていて、派遣労働を求めているという人が少なくないということについては十分承知をいたしております。
しかしながら、労働者保護の視点で設定をされております労働基準法であるとかあるいは職業安定法であるとか、これに関連する、今回改正を議論されております労働者派遣法の関係につきましては、そういった多様なニーズの、特異な技術を持った人に焦点を当ててその基準を設定するということではなしに、派遣労働を余儀なくされていて、しかもその派遣労働を余儀なくされた結果によって取り返しのつかない損害を受けている、不利益を受けている人をどう防ぐか、そういった視点がこの法律改正には極めて重要だというふうに判断をいたしているところでございます。
したがいまして、結論といたしましては、そうしたいろいろのニーズにこたえる必要はあるけれども、今回の改正問題につきましては最低限の基準を決めるということで、労使の力関係が現在明らかに大きな差がある以上は、弱い立場の労働者保護という政策の視点でこれを制定しなければならないということを考えているということであります。
それから、労働協約の役割とその労働協約の拡張適用の問題だというふうにお受けとめをいたしましたが、日本の場合には残念ながら企業内労働組合でありまして、企業内における労働協約は極めて高いレベルのものであります。アメリカ、ヨーロッパのように産業別の労働組合で、産業別であるいは業務別で労働協約を締結して、組合に加入していない人にもその労働協約が拡張適用されるという制度が充実している国もありますけれども、日本ではそうした制度がありませんし、拡張適用の範囲についても極めて制約的なものになっているという実態を踏まえなければならない、このように考えるわけであります。
例えば、派遣先に労働組合があって労使協定を持っていて、そしてその労使協定に基づく就業規則を派遣労働者にも適用するということが保障されるということであれば、これは極めて前進的な対応になると思いますけれども、日本ではそうした条件を満たすということについては非常に難しいと判断をしているというふうにお答えをしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/24
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025・石橋大吉
○石橋委員 非常に限られた時間ですので余り大した質問はできませんが、ここで成瀬さんに一言私の方からお聞きしておきたいんです。
一つは、アメリカなどでは法律的な規制はほとんどない、ほとんど自由に労働者派遣ができる、こういうふうになっている。しかし、いろいろ学者の皆さんの意見などを聞いてみると、確かに派遣労働法のようなものはないかもしらぬけれども、アメリカにはアメリカの国情があって、例えば人種差別の問題なんかを、とにかくあそこは非常に多民族国家というか、たくさんの人種と言ってはなんですが、おるわけですから、そういうことについて、使用者や雇用主の側が差別をしているという感じはなくても、労働者の側がとにかくこれは差別されたと受けとめたときには非常に難しい法律問題に発展する。そういう点では、多民族国家ですから非常にそういう問題が起こってくる。そういうようなことで、派遣労働法というような形で直接的な規制はないかもしらぬけれども、自由かもしらぬけれども、しかし、逆にそういう国情だとか国の内部のいろいろな問題点があって、結構厳しい派遣労働に対する歯どめになっている、こういう話も聞くわけですね。
御承知のように、労働研究機構の研究結果などを見ても、アメリカだって、完全自由化といったって、派遣労働者の総雇用労働者に占める比率というのは一%前後になっていたかどうか知りませんが、ごくわずかなものですね。その辺のことをどういうふうに考えておられるかということが一つ。
もう一つは、さっき脇田先生でしたか、ありましたように、派遣労働者を使った方が安いよ安いよという事業主の側の宣伝、こういう問題について経営のいわば総司令塔にある日経連は一体どういうふうに考えておられるのか。かなり厳しく規制してもらわないとしり抜けになってしまう、こういうふうに考えますので、この点どういうふうに考えておられるか、ちょっと聞いておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/25
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026・成瀬健生
○成瀬参考人 アメリカの状況につきましては、私もそれほど詳しいわけではございませんが、昨年たまたまアメリカの派遣業界の調査にちょっと行ってまいったこともございます。
アメリカは、派遣業と別にいたしまして、今おっしゃられましたようないわゆる均等法につきましてはいろいろな意味での機会均等が大変うるさい国でございまして、日本と基本的に違うのは年齢差別禁止法まである、こういうふうな状況でございます。
この点につきましては、訴訟社会であるというふうなこともございまして、トラブルはたくさんあるし、日本の企業も巻き込まれている面もあるわけでございまして、ある意味では、そういうことに抵触しないようにきちんと行動を律することが最も企業にとってペイするといいますか、トラブルはペイしないというふうな面から、大変気をつけなきゃならないこともあるかと思います。
ただ、ちょっと余計なことになるのかもしれませんが、アメリカの派遣業は、たしか日本よりもかなり進んでいるといいますか、今一%とおっしゃいましたけれども、この八年間で約二%になってきております。その意味では急速にふえていると指摘しておりましたけれども。
そうしたことが起こりますのも、派遣労働者についての教育訓練でございますとか、どういう職歴のある人はどういう仕事に実は適するんだというふうな研究を派遣業界そのものがおやりになっていまして、何でそういうのは適するんですかというと、いや、経験的にこういう仕事をしていた人は新しいこういう仕事に適するというふうなことでございますとか、また派遣業の方が、正規の雇用に派遣スタッフを引っこ抜かれてしまう、それについては非常にプラスの評価でございまして、大いに引っこ抜いていただいて結構である、そうすれば我が社の評価が高くなる、こういうふうなことで非常に前向きに対応しているのが印象的でございました。
そういう意味で、先ほどから、できれば日本でもいいマーケットを育てたいというふうに考えているわけでございます。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/26
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027・石橋大吉
○石橋委員 すぐ時間が来てしまいますが、三つ目に、これは連合の方にも弁護士の中野先生にもちょっとお聞きしたいのですが、時間がありませんのでごく簡単にお答えをしていただきたい、こう思います。
今度の法律改正によって派遣労働が常用労働の代替にならないようにする、その歯どめは、期間を一年に限定をしたということ、そして一年の期間制限を超えた場合には派遣先に雇用の努力義務を課す、それから、一年の期間制限を超える場合には派遣先を勧告、公表の対象とする。こういうような、規制と言えるかどうか、さっきの話を聞いていると、それじゃだめだ、こういうことになると思うのですが。要するに、期間の限定がどこまで実効性を持つか、期間の限定と同時に同一業務の内容の問題などがあるわけですが、この辺についてどういうふうに歯どめをすべきだというか、そういうことについてちょっと簡単にお答えをいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/27
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028・中野麻美
○中野参考人 先ほど申し上げましたように、期間を付して派遣で活用するという実質的な場合を限定すべきだというのが私どもの考え方です。
それから、雇用義務については努力義務ではだめである、自動的に、オートマチカリーに雇用責任を問えるような労働者の権利を認める必要があるということと、もう一つは、派遣先が派遣関係を口実にしてそのコストをダウンさせるということを許さないような、働く人を人間としてみずからの職場で受け入れて働いてもらうということにはコストがかかるのだということを前提とするきちんとしたシステムが必要だと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/28
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029・石橋大吉
○石橋委員 連合、いいですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/29
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030・松浦清春
○松浦参考人 もともと今回の法改正につきましては、臨時的、一時的な労働力需要に対応する、そのために対象業務をネガティブ化するというものであります。
日本で通常常識的に考えられますのは、臨時的、一時的な労働力需要に対応するというのは、大体三カ月ないし半年というのが臨時的、一時的です。それが二年も三年もになる、そういうことにつきましては、特別な研究開発であるとかそういった特殊な需要だ、こういうふうに私どもは考えるわけであります。
したがいまして、常用代替になるということを危惧をいたしておりますのは、そういった今回の改正の目的、趣旨に反してあくまでも総額労務費を安く上げたいとする経営者、そして雇用責任、使用責任をあいまいにして労働者を不当に使う、そういった経営者が存在をするということを一番危惧しているわけでございまして、私どもは、そうしたいわゆる労働条件の引き下げ、そして労働者の使い捨て、そういった目的のために今回の法改正が使われるということについて何としても防止措置をとってもらいたいというふうに考えている。
私ども、常用雇用労働者を中心として、派遣労働者はごくわずか、数万人しか連合には加盟をいたしておりませんけれども、全労働者的な立場で今回の派遣法の改正問題に真正面から取り組んでいるということについても申し上げておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/30
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031・石橋大吉
○石橋委員 質問の時間が来ましたが、最初に質問された方の時間がちょっと残っていますので、もう一言だけ中野先生に聞きたいのですが、今度、かなり派遣労働のシェアが広がる、苦情が物すごくたくさんふえる、こう思うのです。今の苦情システムでは非常に不十分じゃないかという気がするのですが、その辺についてどういうふうに考えておるか、ちょっとお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/31
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032・中野麻美
○中野参考人 御指摘のとおりでありまして、迅速に、しかも派遣で働いている人たちの労働法上の権利を確保するという視点から、紛争を処理するための制度というものを確立していく必要があると思います。
その場合に、やはり公共機関の中にこういったシステムを確立するということを私どもは要求しておりますし、解決のポイントとしては、権利をどのようにして確保していくかという視点と同時に、この種の非常に早く回転していく労働形態でありますので、解決を短期間で適正に行うことができる、そういった制度の担保というものがぜひとも必要だというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/32
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033・石橋大吉
○石橋委員 時間を少しオーバーしましたが、ありがとうございました。終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/33
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034・前田正
○前田(正)委員長代理 次に、河上覃雄君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/34
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035・河上覃雄
○河上委員 公明党・改革クラブの河上でございます。
きょうは、参考人の皆さん方には大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございます。
十五分ですから、早速質問に入らせていただきたいのですが、まず、北浦参考人にお伺いをいたします。
二十六業務に限定されております現行の派遣労働制度は、創設以来、現在八十六万人の派遣労働者を数えるに至りました。そして、一万六千の事業所、売上高も一兆三千三百億円と大きな市場に成長してきたわけでございます。
そこで、今回、雇用労働分野の規制緩和の一環といたしまして、派遣労働の対象業務を原則自由、いわゆるネガティブ化をするという改正案を提出されているわけでございますが、仮にこのネガティブ化が実現した場合、派遣業界も大きく変化をすることになると思います。また、派遣労働者の方の質的な変化も含めていろいろと拡大が予想されます。
一昨日あたりの新聞報道でもありました、業界第三位のキャリアスタッフとスイスの人材サービス会社の業界八位のアリコジャパンが八月に合併するというお話も、ある意味での生き残り戦略が派遣業界の方でも既に行われ始めている。これを実態として受けとめるならば、さまざまな変化が今後予想されるわけでございます。
そういうこと等を踏まえながら、今回の改正に基づくネガティブ化、これによって雇用の創出効果はどういうふうになっていくんだろう。さらに、経済効果についても、これは変化をしていくと私は考えておるわけでありますが、雇用創出効果並びに経済効果について、もし数字を示して研究されたこと等があれば、お示しいただければ幸いでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/35
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036・北浦正行
○北浦参考人 雇用創出効果なり経済効果というお尋ねでございますが、残念ながら明確な試算をしたものはございません。したがいまして、定性的な形でお答えいたしますことをお許しいただければと思っております。
雇用創出効果が一体どのくらいあるのかという問題、これはなかなか難しい問題でございますが、単純に考えれば、業務の範囲が拡大するわけですので、それに応じて、もし全労働者の例えば一%、二%というような水準であれば、当然にそれがふえていく、こういうふうに考えるわけでございます。
ただ、実態的に見てみますと、やはり派遣事業になじむ分野、なじまない分野というのがかなりある。そういった意味で考えますと、必ずしもこれから広がる分野がすべて派遣事業になっていくのかどうか、これが一つございます。それからもう一点は、やはり有料職業紹介の問題もございますが、職業紹介の分野、あるいはインターネットなどによる雇用職業情報の流通、こういったようなことから結合している場合もございまして、そういったようなものの中での位置づけということになりますから、派遣だけをとらまえて、これが雇用創出効果をどれだけ生み出すかと論ずるのはなかなか難しい。それらとの関係もあろうかと思っております。
しかしながら、個々に見てまいりますと、これまでも、かなり専門性があることから、派遣という事業が認められればそれによってそういった業を拡大できるという分野もあることは事実でございまして、こういったようなところはふえていくということが一つございます。現実にそういった分野は既に業務処理請負というような形で事業という形になっておりますが、これが派遣という形でなっていくというようなことは一つ考えられるところでございます。
それから、雇用創出というような観点で考えますと、例えば、先ほどもございましたが、中高年齢者のような方々に対しまして、いわば一定期間は派遣として見て、その中で、先ほどアメリカの引き抜きの例もございましたけれども、優秀な労働者としてそれを常用雇用に変えていく、そういうような形で雇用拡大につながっていく。
そういったようなことで申し上げれば、今の雇用への入り口のところ、そこに対する選択肢を広げることで、先ほど来出ておりますが、いわゆるミスマッチ対策、そういったようなものになっていくということはあろうかと思われます。
それから中小零細、そういったようなところにおきましての人材の確保は依然として難しい面がございます。全体の雇用情勢が厳しい中でも、そういったところではなお必要な人材をなかなか得がたい。そういったときに、この派遣労働者を、専門的な人材をそういうところで使うことによって、いわばそういったところでの雇用需要が発掘される、こういったような側面もあろうかと思われます。
そういったような意味合いにおいて、数の問題もございますけれども、数というよりは一つのそういう選択の機会が働く側にもございますし、また企業の側からもふえる、その辺の効果が非常に大きいし、それは雇用に対してのプラスの効果を十分持っているんだ、私はこのように考えたいと思っております。
経済効果につきましても、おのずとそういった雇用がふえることで事業を拡大させていく要素というのがあるわけでございまして、これも多分にそれなりの効果を発揮していく、このように考えてございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/36
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037・河上覃雄
○河上委員 ありがとうございました。
やや具体的になりますが、これまで二十六業務に限定されました現行制度でもいろいろな問題がありました。これは既に意見陳述の際に御指摘をされている側面もございますが、一方的な中途解約あるいは個人情報の保護の問題、対象業務以外の就労など、これらの問題は現行制度の中でも指摘をされてきているわけでございます。事前面接等々の問題もございます。
しかし、ネガティブ化になりますと、これらの問題を放置したまま出発することには私は懸念を感じているわけでございまして、やはりきちっとした対処、対応が必要であろう、基本的な認識はこう思っております。
これらの状況等を踏まえまして、今後、今御説明もありましたように、ある意味では拡大が予想される派遣業界等と派遣業務、この制度の中で派遣労働者にはどんな保護措置が必要だとお考えになられるか、これも北浦参考人にあわせてもう一点御質問をいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/37
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038・北浦正行
○北浦参考人 労働者保護措置について、さらにどういったものを必要とするか、こういうお尋ねであったと思います。
今回の改正法案の中においてもいろいろな形での規定が盛り込まれているわけでございますが、私が一番考えておりますのは、保護という観点で申し上げれば、先ほど申し上げました社会・労働保険の適用の問題、こういったようなところにつきまして、やはりもう少しきちんと明確化していくということは必要なんだろうと思われます。雇用労働者においての一つの安心感を与えているのは、そういったような保険制度であるわけでございます。
また、それに付随したような形でいろいろ民間の業界レベルで、例えば自主的に何かそういう保険制度をつくるとか、そういったようなことで保障措置をつくっていくというようなことも今後は必要なのではないかなというふうに考えております。特に、そういったような社会保障的なセーフティーネットの問題、既にいろいろな問題点も指摘されておりますが、これが一つあろうかと思われます。
それからもう一つは、保護措置という観点とはやや違うんですけれども、雇用労働者である限り、その労働者の質を高めるということが、事業主から、これは責務としての認識がもっとあっていいのかな、こういうふうに思っております。それは、派遣元として、まず派遣労働者の質を高めることがサービスの向上であり、それがひいては派遣料金の向上にもつながっていくわけです。つまり、労働条件の安定性の基礎をつくっていく意味で、これは労働者ですので品質と言ったら申しわけないのですが、労働者のそういった能力の質を高めていく、そういったようなものがないと単に使うだけということになってしまうのではないか、そういったような問題もございます。
それからあと、期間制限の問題がございました。そういったような中において、一年を超えた場合においての常用労働というような問題もございます。そういったような道がきちっと開かれているということも、これも一つの安心のルールだろうと思われます。
いずれにしても、自分がどういったような形で働かされているのかという条件をきちっと明示されて、それを納得した上で働けるような環境をつくっていくということが重要ではないか、こう思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/38
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039・河上覃雄
○河上委員 ありがとうございました。
こういう今の御見解にあわせまして、今回、常用代替の防止の観点から、期間制限一年という枠組みが設定されているわけでありますが、北浦さんとしては、この期間制限だけで十分な歯どめになるとお考えになられますか。あるいは、それ以外にもう少し強化すべき措置というのは考えられるのか。十分であるか、あるいはまだなお必要なものはあるのか、これらの認識と見解をお話しいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/39
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040・北浦正行
○北浦参考人 今回の一つの大きな焦点であるというふうに理解しておりますが、初めて導入されるものでございますので、なかなか予想するということは難しい面がございます。いずれにしましても、一年という限定をきちっと守っていく、そういう履行を担保する措置が十分であるかどうか、そういった面で考えていかなければならないと思っております。
そういったときに、行政の方として、これは単に両者の、派遣元と派遣先だけの当事者間だけではなかなかその履行を担保するのは難しいわけで、行政の関与というのが可能な限りある程度強く働くことで守っていく、こういう形をつくっていくことが必要であろうかと思っております。
それから、もう一つは派遣先でございます。
何よりも、一年というものについて、そういうような労働者であるという位置づけをきちっとするということが派遣先の方の意識として高まらなければならない。これは派遣元としては当然でございますけれども、派遣先の方として、使用関係にある間に、他の労働者とだんだん混在化していってしまう、その意識が薄らいでいってしまう、そういうことのないように、派遣先の方できちっとそういう受け入れの認識を持つような措置をとっていくということが重要ではないかと思っております。
あと、事由制限とかいろいろな手だてもあろうかと思われます。そういったものについても、いろいろな履行担保という角度で、必要な限りで今後その辺は考えていかなきゃいけない面もあるのかもしれません。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/40
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041・河上覃雄
○河上委員 ありがとうございます。
もう一点、やや議論が出ておりましたが、現行は派遣元、これは雇用関係を要するわけですから、さまざまな権利義務をきちっと精査しなくちゃいけないことは当然でございますが、派遣先の責任や責務という問題も、ネガティブ化に伴って必然的に考えなけりゃいけないのかなという感想を私も実は持っております。この一点につきましても、派遣先の責務という観点を何らかの形で具体化しなければならないのかなという考え方を持つわけでありますが、これについての御見解はいかがでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/41
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042・北浦正行
○北浦参考人 派遣先の方の意識改革なり、あるいはそういった責務を明定していくこと、これは非常に重要であろうと私も考えております。
とりわけ、このように業務が拡大していく中においては、本来、派遣労働者を派遣労働者の特性を生かしたような形で使うためには、何よりも派遣先の方の意識の問題が一つは重要であろうと思われます。もちろん、派遣元の方としてもそういうことを意識するのは当然でございますけれども、やはり派遣先があっての派遣元ということでございますので、両者が同じ共通認識に立たないといけない。そういった意味でいいますと、現行法の中においては、派遣先に対しての目配りというのがまだ弱い面があることは否めないと思われます。
そういったような意味で考えますと、派遣先自体の実態についての把握というものが余りされていない点も多いんではないかなと思います。まずは、どのような雇用関係にあるのか、こういったものは行政庁がやるべきなのかもしれませんが、そういったようなものをつかまえてやっていく。
つまり、派遣元は業界があるわけでございますが、派遣先は逆に言うと業界がないわけでございまして、これは全部、オールインダストリー、こういうことになってしまいますので、自主規制という論理は働かないわけでございます。それだけに、そういったような派遣先に対して何かしらの責務というものも十分認識させるなり、あるいは必要に応じて強化をしていくということは、私としては、重要なことではないか、こう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/42
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043・河上覃雄
○河上委員 最後になります。
先ほど、参考人の皆さんの中からも派遣労働者の能力開発のお話が出てまいりました。私も非常に大事だと思っております。北浦参考人も、能力開発の重要性については言及をされておりました。
派遣労働者は今後ますます職能向上のための投資、これは労働者自身にとっても大切な視点だと思っておりますし、不可欠になるだろう、私はこう考えますが、これだけじゃ完結しないわけでありまして、自己投資を後押し、サポートするような公的な仕組みももっと強化する必要があるんじゃないのか、私はこう思っておりますが、この公的仕組みのサポート体制はどうあるべきとお考えになっていらっしゃいますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/43
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044・北浦正行
○北浦参考人 能力開発を進めていく上で、私、重要だと思っておりますのは、まずは、能力開発においてどういうような能力をつけていくのかの情報がきちんと与えられること、それから、その能力についての評価システムがきちんとできること、この二点だろうと思っております。
そういったような観点で申し上げますと、派遣業の中において実際の能力開発というのがなかなか派遣元ではやり切れていない面がございまして、あっても、非常に簡単なものになっているという面がございます。
それからもう一つは、派遣の労働者というのは、日本の場合の職業訓練の一つの特質として、いわゆるOJTという形での訓練効果があるわけですが、本来、一時的、臨時的ということであれば、そういうOJT的な形での能力開発というのはなかなか期待し得ない部分がある。だから、それだけに一層能力開発を補っていくことをしていかないと、なかなか派遣労働者としての派遣のサービスというものも維持できませんし、さらにそれを高くしていくということも難しくなっていくわけでございます。
そういったような観点から申し上げますと、派遣元における能力開発の重要性というのはございますし、派遣先においてもそういう適当な機会があれば受けられるというように、まずは能力開発の機会を多くしていくということが一つあると思われます。
しかし、やはり基本には自己啓発という問題もございます。個人個人でどういったものを努力していくかということで、そこに対してのサポートというものを、これは派遣元の企業がやるのか、あるいは業界という単位でもっと力を出していくのか、あるいはそれに政府というものがもう少し関与していくのか、そういったような、何か一つ、やや公的な形での、社会的な形でのサポートシステムをつくってやりませんと、完全にそれは派遣労働者の方の自己責任である、そういうふうに押しつけてしまうのは、これはなかなか危険なことではないかな、私はこのように思っているわけでございます。
それからもう一つは、そうやって身につけた能力を、今派遣元の会社でもいろいろ評価システムはございますが、会社の格付がかなり違いがあるわけでございます。先ほどのように、安心した賃金を得ていくためには、社会的な相場形成を図っていく、そういったような意味合いも重要でございまして、例えば派遣労働者の方々の能力というものがきちっと第三者的な形で測定される、いわば認定試験みたいなものが必要な分野もあろうかと思います。そういったような形で評価されることで、それが逆に高い労働条件につながっていくという環境をつくる、これも重要ではないかなというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/44
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045・河上覃雄
○河上委員 ありがとうございました。終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/45
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046・前田正
○前田(正)委員長代理 次に、岩浅嘉仁君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/46
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047・岩浅嘉仁
○岩浅委員 自由党の岩浅でございます。長時間御苦労さまでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
まず最初に、小井土参考人に数点お伺いをいたしたいと思います。
私自身は、派遣事業を積極的に評価して、労働市場のシステムに組み込んでいくことは世界的な流れだと考えております。このため、我が国の制度を考える場合、主要国の派遣制度の状況も十分考慮する必要があると思っております。参考人の方によりますと、大変厳しい御意見を開陳された参考人の方もおいでになりますが、特に、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにおける労働派遣制度との比較において、今回の法改正案をどのように評価されておられるのか、お伺いをいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/47
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048・小井土有治
○小井土参考人 まず、アメリカとイギリスについては、許可・届け出制を含めまして労働者派遣事業にかかわる規制はほとんどなく、原則として自由に事業を行える状況にあることは、委員御承知のとおりでございます。
また、ドイツは許可制を採用しておりますが、派遣期間の制限は一年間で、同一契約で同一労働者が派遣されている場合にだけ適用され、派遣期間制限を超えた場合においても、派遣先が雇用したものとの民事上の推定が働くのみであります。派遣労働者をかえたり派遣元事業主をかえたりすれば該当しない、こういうことであります。
フランスは、届け出制を採用しておりまして、派遣元を通していろいろな業者が自由に参入することとなる関係で、派遣先の責任がやや重くなっているようであります。派遣期間は十八カ月間であり、ドイツと同様、同一契約で同一労働者が派遣されている場合にのみ適用されるということです。派遣期間を超える期間の派遣契約を締結した場合の罰則はございますが、派遣契約期間を結果として超えた場合の罰則はなく、みなし雇用制度は設けられているものの、民事上の効力のみで、これを担保する行政的措置はないようであります。
今回の改正法案は、対象業務の限定を製造業務を含め大幅に残しつつ、派遣先の業務単位での期間制限や、期間経過の場合の派遣先による雇用の努力義務を設けるものでありまして、各国の制度と比べて規制色がかなり強い制度である、こういう評価ができるのではないかというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/48
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049・岩浅嘉仁
○岩浅委員 ありがとうございました。
引き続きまして伺いたいと思いますが、ジョブサーチ型の派遣の取り扱いについてでございますが、この派遣制度は諸外国では当たり前のように活用が図られ、多くの労働者がこれによって常用の雇用の場を得ていると伺っております。現在我が国では禁止をされておりますが、これを早期に認めていく必要があるという見解もございまして、この考えについてどういう御意見をお持ちでございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/49
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050・小井土有治
○小井土参考人 先ほどの意見の表明でも若干触れさせていただいたわけでありますが、EU諸国やアメリカでは、派遣労働者の約三割が常用雇用に移行をしている、そういう調査結果がございます。労働者派遣を利用して常用雇用の機会を得ることも求職活動の有効な手段となっていると思われるわけであります。
今回の改正案の中にも派遣先事業主の雇用の努力義務など派遣から直接雇用への移行を促す仕組みが組み込まれているにもかかわらず、その一方で、派遣から常用雇用への円滑な移行を進める効果を持つ職業紹介目的の派遣を禁止し続けることは、一貫性を欠く対応と言わざるを得ないのではないかというふうに考えます。常用雇用を基本とする我が国の雇用慣行と労働者派遣制度の調和を図る意味でも、職業紹介目的の派遣を認めていくべきではないだろうかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/50
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051・岩浅嘉仁
○岩浅委員 小井土参考人にまたお伺いいたしたいと思いますが、派遣事由限定方式への評価についてでございます。
常用雇用代替を防ぐための方策として、派遣事由を限定すべきという意見があります。フランスがこうした方式を採用しているそうですが、我が国においてこの考えをとることについてどうお考えか、伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/51
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052・小井土有治
○小井土参考人 私としては余り賛成できないというふうに考えております。新しい改正法案の中での時期限定という対処の方が望ましいのではないだろうかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/52
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053・岩浅嘉仁
○岩浅委員 次に、成瀬参考人に二点ほどお伺いいたしたいと思います。
経済は厳しい状況でございますが、雇用の場を提供するものとして、新規創業支援というものが当然非常に重要になってきております。創業時における人材の確保というのは、現在でも必ずしも容易ではないと伺っております。こうした場面におきまして、この労働者派遣というものが人材確保に極めて有効に機能するのではないか、こういう思いがいたしますが、いかがでしょうか。
さらにもう一点です。中高年齢者の雇用ですね。これは非常に厳しい状況にあるわけですが、この労働者派遣が中高年齢者の雇用機会の確保に果たす役割、こういう観点からこの法案をどういうふうに考えておられるのか、お伺いをいたしたいと思います。
〔前田(正)委員長代理退席、委員長着席〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/53
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054・成瀬健生
○成瀬参考人 大変重要な点だと考えております。
特に、新規創業につきましては、経営者の方も、必ずしも一〇〇%自信があってというわけでないベンチャービジネスなどの場合もたくさんございます。当然、雇われる方にいたしましても、本当にこの企業は長続きするのかなというふうな危険性を感じつつ、やはり仕事に魅力があればというふうなことになるのかと思うわけでございます。
現実に、ベンチャー型の中小企業では、いい人材を採用しようと思ってもなかなか来てくれないというふうなお話を結構聞くわけでございます。学卒でも中小企業を志せばかなりいいところがあると私ども言うのでございますが、なかなかそういう点、お互いに自信が持てないといいますか、特に働く側で自信が持てないというケースが多いかと思います。
そういう点では、派遣を利用するのが最も適切ではないか。そして、成り行きを見つつ、その経験の積み上げの中で適切な雇用形態ないしは企業の発展にうまくつながっていくというふうな組み合わせが可能になるということがありますれば最も望ましいと思っておりまして、これは私ども、今回の派遣を考えております場合の一つの大きな目玉というふうに考えておるところでございます。
それから、御指摘の中高年齢者の場合でございますが、今、中高年齢者、特にホワイトカラーの就職が最も深刻でございまして、労働省も試雇用というふうな制度を導入して何とか雇用につなげたいというふうなことを考えているところでございます。
この場合も、確かに中高年のホワイトカラーというのは主として管理職でございまして、管理職の経験はあるのではございますがというふうな話がよくされるわけでございます。こういう方々も、派遣でございますと気軽に応募し、また気軽に判断できるというふうな点で、もしそれがうまくマッチすれば非常にいい雇用につながるというふうなことでございますので、まずは、お見合いではございませんが、きっかけがございませんとなかなか、お互いに遠慮をしてしまうといいますか、警戒するという面もございますので、できるだけそうした派遣というふうな形での状況をベースにしてよりよい雇用につなげていく。特に、おっしゃるように中高年齢層が今大変厳しい中で、これも私どもが期待しておる目玉でございます。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/54
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055・岩浅嘉仁
○岩浅委員 北浦参考人にちょっとお伺いしたい。ごく簡潔に御答弁いただいたら結構です。
先ほど意見開陳の中で北浦参考人から中途解約の問題を披瀝されましたが、その中で、派遣元の立場が弱い、あるいは企業と企業との取引関係等々お話がございました。これはやはり大きな注意をしておかなければならない問題だと思いますが、中途解約の際の適切な取り扱いの確保について特に踏み込んだ御意見、お考えがあれば、この際伺っておきたいと思います。
それと、もう時間がありませんので、この法案と直接関係ないのですが、この際でございますので、成瀬参考人と松浦参考人に。
最近、ワークシェアリングの問題がいろいろ俎上に上ってきております。雇用対策予算の関係でワークシェアリングというのが大きな柱になるという意見と、まだ時期が早いという意見、いろいろな御意見が出ておるわけでございますが、北浦参考人の御答弁の後に、ごく簡単で結構でございますからお考えをいただけたらと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/55
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056・北浦正行
○北浦参考人 中途解約に対してのいわば保護措置をどうしていくか、これは重要な問題であろうと思っております。そういった意味で、ちょっと私自身、今具体的なことは思いつかないのですが、やはり損害賠償の問題が出てくる、そういったものの責任というものをやはり何かしらの形で、これは法的なものなのかどうかわかりませんが、明定をしていくということが重要なんだろうと思われます。
ただ、その場合にも、重要なのは、取引関係の中にありますので、現実的には、結構派遣元の事業主の方が泣き寝入りをするような形で終わってしまうというようなことも事実でございまして、損賠のルールがあっても、現実的にはすべて派遣元で負ってしまう、こういう問題もあろうかと思っております。そういったような意味で、これにつきましては、業界に対する一つの指導というような観点もあわせて、労働者保護と一緒にやっていかないと実効が図れないと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/56
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057・成瀬健生
○成瀬参考人 ワークシェアリングにつきましては、日経連としては、あくまでも緊急避難的な措置として、企業の労使の話し合いによって活用できる場合には活用することも考えられるというふうなことでございまして、ヨーロッパの例などを見ますと、制度化した場合はほとんどうまくいっていないというふうなこともございますので、慎重に考えつつ、緊急避難というベースで考えさせていただいております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/57
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058・松浦清春
○松浦参考人 労働者の責任なしにこうした高失業状況が続いておりますし、失業期間の長期化という問題も発生をしています。そういった実態を踏まえますと、新しいワークシェアリングというものについて検討を必要とする時期に来ているというふうに判断をいたしております。
しかしながら、日本の場合には、企業別の労使が経営状況に応じて労働条件を設定してきております。したがいまして、一部経営側の方には日本の春闘は横並び春闘だと言われておりますけれども、私どもがことしの春季生活改善闘争で提示をいたしました要求、そしてその実態といたしましては、三十五歳、高卒、勤続十七年の標準労働者で二十一万円から五十万円という基準内賃金で、それほど大きな幅があるわけであります。したがいまして、労働時間を短縮し、それに見合う労働条件を切り下げるストレートなワークシェアリングということについては、生活が維持できない、そういった産業分野あるいは中小企業に働く労働者も多いということから、直接的な導入は難しいというふうに考えているわけであります。
したがいまして、私どもは、今時間外労働を削減をすることによるワークシェアリングであるとか、あるいは雇用保険制度を活用する新しい日本型のワークシェアリングであるとかということについて検討をして、早急に社会的なセーフティーネットをしかなければならない。そういう視点で今後検討する必要がもう迫っているというふうに判断をしているということをお答えしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/58
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059・岩浅嘉仁
○岩浅委員 ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/59
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060・岩田順介
○岩田委員長 次に、大森猛君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/60
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061・大森猛
○大森委員 日本共産党の大森猛でございます。
私ども日本共産党は、職安法の改正案については、これは憲法の理念や諸権利に裏づけされた本来の目的や性格を根本から変える、こういう立場で、これについては反対であります。
そして、派遣法につきましては、今必要なことは、対象業務の全面的な拡大ではなくて派遣労働者の保護ではないか、そういう立場で、私どもとして、独自に派遣労働者保護法案ともいうべき政府に対する対案を出しているところでございます。
労働者保護という点について、脇田参考人にまずお伺いをしたいのです。
先ほど御意見の陳述の中で、労働者保護という点で、EU諸国や韓国の派遣法と比べて際立って乏しいという御指摘がありました。また、世界で最も貧弱な内容という御指摘もあったわけですが、とりわけどういう点でこの点を強く感じられるのかということが一点。それから、これは陳述のレジュメの中にありますけれども、労働者保護という点で世界の水準に少しでも近づけるために何が必要なのか。この点、先ほど陳述の中で御説明できなかった部分も含めて御意見をお聞かせいただければと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/61
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062・脇田滋
○脇田参考人 世界の派遣法の中で、日本の派遣法が労働者保護という点で最もおくれた内容の、レベルの低い派遣法であるという点については確信を持っております。
どういう点がそうかといいますと、先ほどから短期の派遣、一年の派遣で常用雇用の代替を防ぐというお話が進められておりますし、派遣から正社員への紹介が各国では三割ほどもあるという紹介もあったのですけれども、それは大きな前提を見ていないのではないかというふうに思います。
各国の派遣法の特徴としまして、確かに、派遣はテンポラリーということで、短期に限るという点は共通して言える点であります。しかし、それと密接不可分に三つの点があるというふうに思うのですね。
一つは、先ほど紹介しましたように、派遣労働というものは弊害が多い。これはできるだけ限定していかないといけないというのが各国の法律の立場なのです。ドイツにしろフランスにしろ、派遣労働者というのは決してふえていない。日本のようにどんどんふえているということはないわけですね。これは、派遣労働というのは弊害があるという点で、できるだけ制限しよう、こういう行政の態度が明確であるという点が一つです。
それからもう一つは派遣先の責任ということで、派遣先の労働者と派遣労働者の待遇を同等にするという点でほぼ共通しているのですね。ドイツやフランス、先ほどのお話でもありますように、全国的な労働協約が派遣労働者にも適用されておりまして、労働条件をしっかりと守っております。特にフランスの場合は、法律上、派遣先の従業員と派遣労働者の待遇を同じにしないといけないということが明確に定められているのです。イタリアの九七年の法律、韓国の法律にもその趣旨が盛り込まれております。韓国では明確な同等義務ということではありませんが、不当な差別がないように努めなければいけないということがわざわざ書かれてあるわけですね。
ところが、日本の場合には、先ほどの話でちょっと言ったのですが、例えば高梨昌という方が、これは労働省に非常に近い方だと思いますが、東洋経済から「人材派遣の活用法」という本を出されておりまして、その中に派遣と正社員の経費比較ということを書かれているのです。そうしますと、正社員であれば、健康保険とか福利厚生、通勤費を入れて月六十四万六千二百円かかる。ところが、派遣スタッフであればそれが三十万八千円で済む。つまり、半分以下で派遣労働者の人件費は済むんだ。これは派遣労働者にとっては労働条件につながるわけですね。こうなると、経営者から見れば、同じ仕事をしても派遣であれば半分以下であるということになれば、そちらにいくのは当たり前なんですね。
先ほど派遣から正社員に職業紹介的にいくというふうな話もありましたけれども、それは、フランスにしてもドイツにしても、アメリカも恐らくそうだと思うのですが、派遣労働者と正社員の待遇がほとんど同じである。その中で派遣から正社員になるという例が三割あるということで、日本では逆に正社員の人たちを系列の派遣会社に移籍、出向させて、そこから派遣で受け入れる。つまり、正社員が派遣になるというのが日本の方向でして、ドイツのように三割も派遣労働者が正社員になるというふうなことは現実離れした意見ではないかというふうに思います。
それから、期間を超えた場合、あるいは違法な派遣の場合には派遣先が派遣労働者を直用するという点でも、ドイツやイタリア、韓国、そういったことを明確に定めているわけですね。今回の法案では自動直用というふうになっておりませんで、直用の努力義務というふうになっているということですから、これは本当に世界で最もおくれた派遣法で、労働者保護の内容がない。そういう派遣を一層拡大する。
私は、水槽の例えでいきますと、外国の場合は、確かに正社員の雇用の水槽がある、派遣の労働者の水槽を横につくって、その水面ができるだけ違わないようにする、多様な雇用形態といいましても違わないようにしようということで努力をしているというふうに思うのですね。ところが、日本の場合には、雇用の水槽の下の方に線をつけまして、派遣労働者の雇用を低くして、そこに流し込む。今度の派遣法の改正というのは、その線を低いままもっと大きくするということですから、常用雇用が破壊されていくという点では非常に心配があるということです。
共産党の対案は、その限りでは、外国の法律に比べましてまだまだ内容的には言いたいこともあるのですが、世界の水準に近づこうという姿勢を持っておられるということでは評価しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/62
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063・大森猛
○大森委員 今回の政府の改正案によって常用雇用が破壊される、恐らく代替が大々的に進んでいくのではないかということであるわけなのですが、そのこと自体は、これはもうお話がありましたけれども、ILO百八十一号条約にも反するものになるんじゃないか。この点で、これまで二回、この労働委員会で派遣法についての質疑をしてきたわけですが、政府側の答弁は、事あらばこの百八十一号条約にいわば逃げ込むというような答弁が目立っているわけなんですが、九十六号条約から百八十度変わったんだというような答弁もこれまでありました。
そこで、既にお話がありましたけれども、百八十一号条約の本来の性格、目的、これについて簡潔に脇田参考人にお聞かせいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/63
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064・脇田滋
○脇田参考人 百八十一号条約は、規制緩和という一面でとらえるというのは明らかに誤っているというふうに考えております。
確かに、この間、各国で多様な雇用形態がふえてきたということは事実なんですね。だけれども、ILOは、そういう現実を本来は望ましくないんだけれども一歩下がって認めて、それなりの現実にふさわしい規制を加えよう、こういう態度であるというふうに考えております。
例えばパートタイマーの条約というのを百七十五号で最近採択しておりますし、百七十七号ではホームワーカー、家内労働者の保護の条約も採択しております。百八十一号条約というのは、その流れの中で言えば派遣労働者の保護という点で、これだけ広がってきた派遣についてILOも国際的な基準を設定するという、派遣労働者保護ということを議論の中でも明確にしているわけです。労働省が言うような規制緩和という面でとらえるというのは誤りであるというふうに私は思います。
特に、派遣労働者の保護の点では、労働組合を派遣労働者が結成してみずからの集団的な力で労働条件を改善するということが、百八十一号条約の一番最初の結社の自由の保障にあらわれているというふうに思うのですね。ところが、日本の派遣法はどこを探しても労働組合という言葉がありません。
イタリアや韓国の百八十一号条約以降の派遣法には、労働組合が派遣の対象を労働協約で決めるとか、あるいは韓国の場合には、派遣を受け入れる場合には労働組合との事前の協議を義務づけるというふうに、労働組合を派遣労働規制にかかわらせているわけですね。これは明らかにILO条約の趣旨に沿うものである。
ところが、日本の場合には、派遣法の条文のどこを見ても労働組合の影さえないわけですね。こんな派遣法をもってILO百八十一号条約の趣旨に沿うものだというのは、誤りであるというかすりかえであるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/64
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065・大森猛
○大森委員 次に、中野参考人にお伺いしたいのですが、先ほど、実際にヨーロッパに出かけられて調査された陳述を大変興味深く聞かせていただきました。
そこで、今の脇田参考人のお話も含めてなんですが、私自身もいろいろ調査する中でこの派遣労働にかかわって、むしろ今世界の流れというのは規制の方向が主流じゃないだろうか、そして、政府の改正案というのはそういう世界の流れにむしろ逆行するものじゃないだろうか、こう私は思っているわけなんですが、その点、参考人の御意見をお聞かせいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/65
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066・中野麻美
○中野参考人 適切な規制と保護、これがやはり百八十一号条約を批准するための条件であるというふうに考えます。
先ほど来、社会保障の権利であるとかさまざまな意見が出ておりますけれども、日本は終身雇用というふうに言われていますように、定年までの比較的長期の雇用をモデルとしてさまざまな制度が組み立てられてきております。例えば育児・介護休業法に基づく休業の権利は、雇用期間が設定された労働者には認められない。そして、社会・労働保険はなかなか適用されづらいといったような問題を抱えております。
臨時的、一時的な派遣を容認するという場合に、ILO百八十一号条約との関係で問題になると思われますのは、労働者に対する社会保障や親としての権利など、労働者としての保障を十分に行うように求められているという条項がありまして、これらが我が国の制度全体の中では自動的に臨時的、一時的な派遣で働く人たちが排除されていきかねない、そういった制度上の欠陥を持っているということにも注目されなければならないと思います。これらの全体的な法制度の整備というものも含めて考え直されなければならない、そういった問題であろうというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/66
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067・大森猛
○大森委員 最後に、松浦参考人にお伺いしたいのですが、私ども、先ほど申し上げました政府案への対案としての派遣労働者保護法案、これは連合の方で発表された七項目の派遣法についての要求あるいは御意見を大いに参考にさせていただきまして、基本的にはその七項目すべてを私どもの法案の中には盛り込んだつもりでいるわけなんです。
その中で、連合の七項目の要求の最後に、登録型の派遣については廃止をする、こういう項目を出されているわけなんです。私も、今さまざま言われている派遣労働者をめぐる非常に悲惨な状況、その多くは登録型の派遣労働者においてあらわれている、そういう意味で廃止がやはり望ましいのではないかと思うわけなんですが、この点、この登録型廃止について出された経緯やらあるいはその理由等をお聞かせいただけたらと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/67
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068・松浦清春
○松浦参考人 登録型派遣労働が持っております問題点について、先ほども少し申し上げましたけれども、これは、派遣労働の中でも極めて不安定雇用という状況に置かれているということであります。まして、今回、対象がネガティブ化をされて、しかもその派遣の目的が臨時的、一時的な労働力需要、ニーズに対応する、こういうことになりますと、いやが上にも短期間の派遣ということになるわけであります。
派遣労働者の一番大きな問題は、先ほどから何人からも出ておりますように、一方的な中途解約の問題があります。私どもが登録型を禁止する、今回のネガティブ化の対象となる業務については登録型は認めないという理由は、例えば派遣事業主が派遣労働者を常時雇用するという責任を持ちますと、中途解約をなぜするのかという、派遣元の方が派遣先にしっかりと使用責任を求めていく、そういったことをしなければ、自分のところで雇用している派遣労働者が職がないということで休業補償を払わなければならない、こういうことになるから、ぜひ登録型については対象としないようにしてくれというふうに言っているわけであります。
もちろん、登録型が持っている問題が他の方法で解消されるということになりますと、これはまたそれなりの道はあるというふうに判断をいたしておりますが、冒頭から申し上げましたように、厚生年金保険制度であるとか雇用保険制度であるとかにつきまして、これを直ちに改正をして、そしてこれを適用するということについては、時間的にも非常に制約があるというふうに考えます。
それからもう一つ大事なことは、直接雇用労働者に比べて極めて不明瞭となっております雇用者、使用者の責任の明確化とその責任の実効担保保障措置というものについても、これは極めて重要な課題だというふうに考えております。
特に派遣元事業主の責任の関係につきましては、現在の派遣法の三十条から三十一条、三十六条、三十七条の中で明確にされておりますけれども、実は罰則がついていない、努力義務になっている部分も、あるいは努力義務というよりもむしろ配慮義務というふうになっている部分もあるわけでございまして、これらについては強行規定にして罰則をつけるということが最低必要だというふうに考えるわけであります。
あわせて、派遣先事業主の責任の関係につきましても、四十条以降幾つかうたってあるわけでございますけれども、これにつきましても、例えば派遣先で起こりました、直接作業の指示、命令をしている問題に関連をする苦情についても、適切かつ迅速な処理をする、そういったことがうたわれていますし、派遣就業が適切に行われるように努めなければならないというふうに、これも努力義務になっているわけであります。
したがいまして、これにつきましても、さらに明確にして、罰則をつけるなどの措置がとられるならば、登録型派遣をしても登録派遣労働者の保護措置が担保される、こういうことになればまた話は別だと思いますけれども、今の政府が提案しておりますような改正法案では納得ができない、そういうことであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/68
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069・大森猛
○大森委員 終わります。ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/69
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070・岩田順介
○岩田委員長 次に、濱田健一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/70
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071・濱田健一
○濱田(健)委員 社会民主党の濱田健一でございます。
六名の参考人の皆さん方、長時間本当に御苦労さまでございます。貴重な御意見を本当にありがとうございました。時間がございませんので、端的に三点お尋ねをしたいと思います。
まず、全員にお尋ねをしたいのですが、中野先生からきょう資料として出されました「派遣法改悪NO!資料集」、派遣ネットワークが出されております資料集の六ページの中に——今回の派遣法の法改正の主たる趣旨といいますか、いわゆる日本型長期雇用というものを追求する労働者だけでなくて、短期的に自分の能力をいろいろなところで高めながら使っていこうという働く側のニーズもある。そして、今のこの厳しい経済状況、雇用状況の中で、労働力のミスマッチを防いでいくために一時的、短期的に能力のある労働者を使っていこうという企業の側の要請もある。そういうところをカバーしていくために、この労働者派遣法の改正が必要なんだということが盛んに言われているわけでございます。
この六ページの東京都の労働経済局の実態調査というものを、私、前回の質疑の中でも取り上げさせていただいたわけでございますが、確かに、一九八六年に派遣労働法が施行された直後といいますか、二年後の八八年の調査によりますと、派遣先がそのメリットとして、一時的な欠員の補充というもので五二・二%、または仕事量の変動への即応という形で五一・六%。これは二つまで回答できるということで、足し算しても一〇〇%にはならないわけでございますけれども、そういう高率で、現在の二十六業務、専門的な技能、知識という皆さんを使うメリットで回答しているわけでございます。
調査が一九九五年、一九九八年と二回、十年間の中で行われているわけですが、一九九八年の調査では、今日的な意義を見出そうとしている、一時的欠員の補充とか仕事量の変動への即応というものが減ってきているという数字が出ていて、三番目の自社従業員数の抑制、常用雇用の抑制というふうに置きかえることもできるかもしれませんが、これが一九八八年では一八・二、九八年では三〇・九、四番目の賃金や福利厚生費の減少のためにメリットがあるんだというのが、十年前は一一・二で、去年は二四・七というふうに倍増している。養成困難な労働力の確保、まさに一時的に、三年なら三年という現行法の中で特別な能力や技能を持っている皆さん方を雇っていくんだというのも一〇ポイントぐらい減っているという数字が、ここで公的な機関の数字として示されています。
この数字を見たときに、今回の法改正の趣旨が本当に生かされようとしているのか、そうではなくて、いろいろな方がおっしゃる、常用雇用の代替、さまざまな労働者に対する福利厚生費の減少に使っていくんだという方向に進んでいくのではないか、そういう懸念が私はあるのですが、成瀬参考人以下六名の皆さん方、簡単にその辺の御感想をお聞かせいただければ幸いでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/71
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072・成瀬健生
○成瀬参考人 お答え申し上げます。
統計資料でございますので、読み方がいろいろあるかと思いますが、八八年バブルの絶頂期、九八年バブル崩壊、どん底というふうな経済情勢がかなり影響があるということは、ぜひ御検討いただきたいと思います。
それからもう一つ、やはりこれは同じ状況のもとなのでございますけれども、今後、派遣のマーケットそれから派遣の活用の仕方というふうなものがさらに広がることによってより高度なものに発展していく過程では、また違った結果が出てくるのではないかと思っておりまして、これだけを一義的に私どもが見て結果を判断するのはちょっと危険かなというふうに感じております。
以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/72
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073・松浦清春
○松浦参考人 現在の国民の需要、ニーズの変化の速さあるいは技術革新のテンポの速さからいいますと、対象業務がネガティブ化された場合には、それなりのいわゆる臨時的、一時的な所要というものに対して有効に機能するというふうには考えます。これはあくまでも経営側の立場で、経営のいわゆるもうける、利益を増大するという立場で有効に機能をしますけれども、労働者の立場からいいますと、極めて不合理な、不安定な雇用労働者を生み出すというふうに判断をいたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/73
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074・北浦正行
○北浦参考人 これはやはり、私の統計の読み方としまして、この八八年と九八年の状況の差は十分認識した上で理解する必要があるということが一点でございます。
ただ、そういった中においてもやはりコスト要因的なことがふえているというのは分析のとおりでございまして、そういったところにこの派遣全体が広がる中においてそういう動機づけも多様化している、そういうあらわれではないかと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/74
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075・小井土有治
○小井土参考人 私は、先ほども申し上げましたが、やはり、一九八五年以来の世界経済情勢の変化、それの日本への影響がこの数字に出ているのだろうと思います。そして、改正法によって、一時的欠員の補充あるいは仕事量の変動への即応というような需要というものはこれからも続いていくだろうというふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/75
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076・脇田滋
○脇田参考人 先ほど指摘しましたように、派遣労働者の方が人件費、特に賃金、福利厚生費で安くつくということは、企業が非常に強く認識してきたということだというふうに思うのです。
特に、派遣の相談を受けましても、最近は、直接面接とか派遣先による直接解雇という例が多いわけですね。つまり、正社員のかわりに同じような仕事を派遣にやらせる。そうなると、派遣先はこれまでの正社員と同じような感覚で派遣労働者を扱うということで、最近は直接面接や直接解雇がふえている。
八八年当時はまだ銀行等でキャリアを積んだ女性が専門的業務ということで派遣労働者の層としてあったわけですけれども、この十年間に、正社員が派遣に切りかえられてきたために、そういう層もある意味で枯渇したというか、初めから新規に学卒者を派遣で雇うというようなことが出てきておりまして、そういうことがこういう数字であらわれているのではないかというふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/76
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077・中野麻美
○中野参考人 この労働経済局のデータは、現場で派遣先による選別が非常に厳しいものとして進んでいる、そして優秀な労働者をより安く派遣でコスト削減して使おうという実態と非常にマッチした傾向であるというふうに思います。
こういった傾向に歯どめをかけるためにも、先ほど申し上げたように、事由を限定して実質的な派遣を制約していく、実質的な根拠に基づいて派遣を制約し、派遣先に対してきちんとした雇用責任をとらせるということとあわせて、通常の労働者と同じような権利を保障していくという均等待遇の保障が不可欠だということを痛感させられるデータであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/77
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078・濱田健一
○濱田(健)委員 中野先生にお尋ねしたいのですが、今回の改正法案は一年間という期間で派遣労働をくくっていく。今の二十六業務についても、一年更新を二回許して三年まではいいのだ、専門的な知識と技能があるからということで現行法はなっていますが、そこの中身を見たときも、果たしてそうかなというのは幾つかあると思うのです。ですから、今回のネガティブリスト化という中においても、期間の限定だけではなくて、事由や業務で一つ一つ丁寧に拾っていって、本当にこれはいいのですかということをやった方がいいように私は思っているわけなのです。
ヨーロッパの仕組みなどでは、有期雇用に関して何らかの歯どめをかけていくために雇用の事由というものなどを法律、条約とかそういうもので縛っていこう、それも世界に広げていこうというような考え方があるようにお聞きしたのですが、その辺、わかっていらしたら披瀝いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/78
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079・中野麻美
○中野参考人 まず、ILOの使用者の発意に基づく雇用終了に関する勧告というのがあるのですが、その勧告の中では、有期で活用するという場合に、事由を限定して、ごく限られた有期であるという実質的な理由が通った場合でしかこういった形態を許容しないというような方向性が示されているということです。
それから、EUのレベルでも、そういった基本的な考え方に基づいて指令を策定すべく現在動きがあるというふうに聞いておりますし、各国の法制度がそういった考え方に基づいて有期契約を制限しているという現状にあるということを聞いております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/79
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080・濱田健一
○濱田(健)委員 それぞれの参考人が日本型の雇用形態を変えてはいけないということは大体基本的に持っていらっしゃる御発言だったとは思うわけですが、中野先生にお尋ねしたいのですが、原則直用であって常用であるということを大きく日本の雇用形態の中でも意識し、発言をし、仕組みとして残す、そして、それ以外がきちっとした生活保障と法制的な部分の保障もある派遣なら派遣という形で誘導されていく、こういう形がヨーロッパで再び規制の道に入っているというふうに認識をしたいわけでございますが、それにおくれて日本は規制緩和という形がこういうことで出ている、ここについての御認識はどのようにお持ちでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/80
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081・中野麻美
○中野参考人 もともと日本の派遣法というのは専門性が確立された業務に限って容認していく。この趣旨は、そういった業務については市場原理にゆだねたとしても一定の雇用の安定あるいは労働条件が確保されるという信頼のもとにこの制度がつくられたのだと思います。その枠組みをつくる際にもやはりヨーロッパの制度というのは参考にされるべきであったとは思うのですけれども、とりあえずこれでやってみようということになって、十数年間さまざまな矛盾が出てきたわけです。
ヨーロッパの動きを見てみますと、先ほど先生から御指摘がありましたような枠組み、直用で無期の雇用が通常の形態、原則的な形態であって、派遣というのは、しかも臨時的、一時的な派遣ということになりますと、ごくごく例外的にしか社会の中で許容されるべきではないのだ、こういう考え方に基づいて規制を積み上げて、さらにそれを深化させようとしている社会があるわけです。日本の場合に、自由化に一歩踏み出すということであれば、こういった動きを漏らすことなくやはり法の中に反映させていくという努力が必要なのだろうというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/81
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082・濱田健一
○濱田(健)委員 終わります。ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/82
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083・岩田順介
○岩田委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、一言お礼を申し上げます。
参考人各位におかれましては、貴重な御意見をちょうだいいたしまして、ありがとうございました。本委員会を代表して、心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。
次回は、明十二日水曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後零時六分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/114505289X01119990511/83
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