1. 会議録本文
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000・会議録情報
公 聽 会
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昭和二十三年四月二十七日(火曜日)
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本日の会議に付した事件
○軽犯罪法案(内閣提出、衆議院送
付)
○人身保護法(伊藤修君発議)
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午前十一時十七分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/0
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001・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 大変お待たせしました。これより司法委員会の公聽会を開会いたします、昨日に引続きまして軽犯罪法並びに人身保護法について國民の御意見をお伺いしたいという意味におきまして、本公聽会を開いた次第であります。輕犯罪法につきましては、この法案は、警察犯処罰令に代るべきものであるとか、過去の実績に徴して撤回すべし、或いは廃止すべし、修正すべしと、こういうような意見が多くある次第でありまして、且つ又これに対して公聽会を是非共開くべしという各團体よりの要望があつた次第でありまして、從つて委員会といたしましては、國民の御意見をお伺いし、而して本法案に対するところの審議の資料に供じたいと存ずる次第であります。かような意味合におきまして、本公聽会を開きました次第ですから、どうか公述人の方は、國民の御意思を代表して十分御意見をお述べ願わんことを切に希望して止まない次第です。ただ時間の都合上、各公述人の方の持時間は十五分以内にお願いいたしたいと存ずる次第であります。先ず竹中春吉君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/1
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002・竹中春吉
○公述人(竹中春吉君) 私は竹中春吉でございます。私は昨日四月の二十六日に東京へ着きまして、実は福岡縣の、北九州の方から参つた者ございます。
今般軽犯罪法が制定せらるるということにつきまして、九州方面におけるところのいろいろな事情を把握いたしましたところ、この軽犯罪法については、これは制定すべきであるというような御意見と、これは反対すべきだというような意見が巷間に流布せられておるわけであります。その中に特筆すべきものは、特に労働團体におきましては、若しこの軽犯罪法が制定せられましたならば是非この軽犯罪法の適用範囲は労働團体の運動を除外して貰わなければならないというふうな声が非常に多いのでございます。その根拠といたしましては労組法の第一條に関係がございまして、我々が最も民主的に運営する労働組合の行き方について、この軽犯罪法が若し適用さるるならば、いささかその目的が阻害されるというようなことがあるのではないかというような要望が非常に多数あるような状態であります。
併しながらこの法案が若し國会を通過するならば、而もその適用が労働團体にも適用せしめられるような結果が若し起るとするならば、次の諸点について特に考慮を願いたいと考える次第であります。即ち我々の労働組合の発展維持は一九四五年の十二月十六日に極東委員会で決定されました日本労働運動の十六原則、このこととポツダム宣言の第十項の末尾にありますところの言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は確立せらるべし。このことにつきまして、少くともこの労働運動に対する軽犯罪法の適用を若しさるるとするならば、この運営の衝に当られますところのそれぞれの諸機関におきましては、是非ともこの日本労働運動の十六原則の徹底を、即ち教育の徹底をして頂かなければならないということを考えるのであります。而もこの法律の運用に当りましては、特にその分掌規程、その他のいろいろな手続上にこの労働運動に対して遺憾のないように十分に留意すれんことを願うわけであります。
次に、この軽犯罪法のそもそも制定せられなければならないということは、今更喋々するまでもなく道徳の廃頽というようなことに起因するのではないかと思うのでありますが、道徳の廃頽というようなものは、凡そ政治力の貧困とか、或いは戰後の変態的経済の、変態的循環経済の結果に外ならなというようなことが考えられますので、少くともこの法を実施する上においては、下部諸機関に対するところの取締の徹底については、変則的取締を実施せられないように切望したいのであります。併しながらその行爲が概ね大衆の批判の決定に俟つてなされなければならないというような考えを持つている者であります。即ち下部諸機関の、末端機関が十分に國民の怨嗟の的にならないような取締をして頂かなければならないということを特に強調する者であります。
次に條文の訂正を要望いたしたい点が若干あるのでございますが、第一條の本文に「これを拘留又は科料に処する」とあるものを、次のように訂正されることを要望したいのであります。即ち「(前略)これを公安委員会又は民主的に組織運営される機関の決定により、特に悪質と思われる者に対しては、注意又は軽微の科料に処すること」というふうに訂正をして頂きたいと思うのでございます。それから第二條の本文の中に「又は拘留及び科料を併科する」ということを書いておられますが、これは必要ないと、こう考えるのでございます。理由といたしましては、一般公衆のいろいろな軽犯につきましては、その法の運用が最も民主的に施行せられることこそ立法精神ではないかと考えるのでございます。
從いまして、法は罰するのが目的でなく、その法の範囲内におけるところの種々の行爲を善導せしめるような方向にそれを運営して行くのが立法精神の最も肝要とするところではないかと考えるのでございます。
特に劈頭申上げましたように、労働運動に対するところのこの法の適用につきましては、更に第四條を左のごとく追加することを強く要望するものでございます。それは「第四條 この法律は、大多数の國民の利益を擁護する労働運動には、これを適用しない。」というふうに、第四條の追加を要請したいものでございます。
その他各條項につきまして、種々具体例を申上げたいと思うのでありますが、時間の関係もございますので結論を急ぎたいと思うのでございます。この軽犯罪法案に対しましては、第一番にこの法は労働運動に適用しないこと、第二には、この法の運用に当つては、特に人民の福利を増進せしめるような方向に向はしめなければならないこと、次に、立法精神は極めて嚴正に、苟くも下部機関において変則的な取締のないように強く要望したいことでございます。
以上三点を、委員の各諸公におかれましては御汲取り願いまして、最もこの法の運用の適正を期されんことをお願いして、公述を終る次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/2
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003・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 各公述人に対する質議は後に一括してこれを許可いたします。次に藤岡進君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/3
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004・藤岡進
○公述人(藤岡進君) 私は愛媛縣の松山の方からやつて來ました藤岡進と申します。私はこの度審議されておりますところの軽犯罪法の賛成論者として私の意見を述べて見たいと思います。
今まで警民一如とか、警民一体とかいうような言葉によりまして、民間人にいろいろ協力さして來たようでありますが、私の意見は少くとも民間人に多少なりとも法的な力を持たして取締ができるように、即ち警民合体となつて取締のできるような意見を述べさして貰いたいと思います。
私はこの法案がどんなものか全然内容は分らんのですが、いうまでもありませんけれども法というものは大体人を罰するのでなくて、その究極なるところの目的は犯罪を未然に防ぐとか、乃至は再び繰返してはいかんというふうなことを一つの罰則を設けて是正することが法の目的であると考えるのでありますが、併し軽犯罪法のようなものは他の法に比べて一層この点が廣汎に亘るものと考えます。又この法の取扱いは從來のように威嚇的でなく、注意を促し、指導的にやるところはいわゆる民主的な色彩を持たすという必要があると思うのであります。而してこういうことを前提としまして私の意見を述べさして貰います。
さすれば、どういうふうなことにするかといいますと、民間人を起用する、そうした名前を仮りに軽犯罪防犯委員と仮称して置きます。それで以下私が箇條書にしましてそれに説明を加えて見たいと思うのであります。以下單に委員と申します言葉はいわゆる軽犯罪防犯委員ということになります。そうして説明し順序もちよつとでたらめでありますが、御了承願いたいと思いますけれども、先ずこの委員の委員数でありますが、数をどれだけにすればいいか。委員の委員数は人口千人に対し一名とし、おのおの自治警察署において委員数を定める。人口千人に満たざるも五百名を超えるときは尚一名を置く。委員数は一警察署を單位として定員何名にするというふうなことも考えましたが、これでは管轄するところの地域の大小もあるし、人口の多寡もありますので右のように思い付いたわけであります。仮りに全國民が七千万人おるとしますと、七万の委員が生れる。現在警察官吏が全國で十万人くらいおるかと思いますが、そうしますとその約七割に当るものはこの軽犯罪の面におきまして協力するということになりますから、法の運営上相当な強みと成果が挙がるであろうと思うのであります。
二番といたしましては、委員をどういうふうにして選ぶかということにつきましては、自治警察署單位に選考委員会を置く。選考委員は公安委員、自治体警察署長市区町村長とする。民主主義でありますから何でもかんでも選挙がいいと一應思いますけれども、併しこの委員というものはいわゆる政治問題、又は我々の生活問題には先ず関係する点が少いという点におきましてこれを選挙にするということになりますと棄権率も大きい、尚且つ芳ばしかにらん人物が出ては困るというようなことの懸念がありますために、今申上げました方方を選考委員にするというふうなことを考えたわけであります。
その次に三としましては、委員の任免でありますが、それを三つに分けて申上げます。委員は選考委員会の推薦により、知事を経由これを具申して、法務廳総裁の名により委嘱する。その次が委員が任期中解職を申出たときは、選考委員会は知事経由総裁に報告すること。その次は委員が任期中刑罰に処せられるような行爲のあるときは選考委員会は直ちに知事経由総裁に報告をして指示を受けることにする。この防犯委員を法務廳総裁の名において委嘱するということは非常に仰山なように思われますが、委員の取締範囲を全國的に行い得るようにしてみたいというふうな考えを持ちましたために、いわゆる委嘱者の幅を持たして法務廳総裁とした所以であります。
四番目としましては、委員の資格年齢についてでありますが、委員は刑罰を受けない満三十歳以上六十歳までの男女とする。委員の資格は大体人物に重点を置いて、世に通じ、常識の豊富な者なら別段學歴などには関係なく、何人でも選考委員会が推薦のできるようにしたいと思います。
その次は五といたしまして、委員の自分及び任期についてでありますが、委員は……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/4
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005・伊藤修
○委員長(伊藤修君) ちよつと御注意申上げますが、時間がございませんのですから、結論に入るようにお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/5
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006・藤岡進
○公述人(藤岡進君) このところをちよつと入れさして貰いたいと思います。委員は嘱託とし、その委員は任期は二年とする。これは説明の要もなかろうと思います。
六番としまして、これをイ、ロ、ハに申上げますが、イとしまして、委員は必要に應じ違反者の住所、氏名、年齢、職業等を尋問することができる。ロとして委員は軽犯罪の発生する虞れありと認むるときは臨機の措置を講ずることができる。ハ、委員は違反者に対し訓戒するを旨とするも、その程度によりて現行犯として関係官に通告し又は身柄の引渡をすることができる。ニ、委員は特に年少者の違反につき必要と認むるときは学校又は保護者に連絡して訓論することができる。ホとして、委員が右條項の職務を行う場合妨害する者は、別に定めてある法律によつて処罰されることがある。ヘとしまして委員は違反者に対し法に定めある刑罰を科することはできない。
委員の権限を大体警察官と同等にして貰いたいという私の意見のためにこういうようなことを書いたのでありますが、もともと委員の生命とするところは、犯罪行爲に対して注意を促し、又は教導性を持たすという意味で、檢束してそれぞれ法の定むる刑罰を科するということは止めて、悪質と思われる者を発見した場合は、現行犯として同人を関係官、鉄道司法官、警察官又は進駐軍のMP、そういうものに連絡して引渡すという程度に止めたいと思います。又年少者のそうした違反については学校とか家庭に連絡してそういうふうな方法を講ずるとか、軽犯罪の起りそうな状態にある場合には、これを防ぐために事前に注意をする方法を考えるなども一法かと思うので、こういうふうに書いたわけであります。
委員の地区的取締の範囲につきまして、委員の取締には地区を設けず日本の一円とする。これは非常に地域が厖大なように思いますけれども、どうも警察方面にも繩張りがあるようなお話を聞いておりますし、警察官も從つてそういうふうな観念を持つておられるということになると、この犯罪が随時随所で行われるというふうな関係があるために、警察官を一々配置して取締をするということは、事実絶対不可能でありますから、その補助的乃至は協力的な立場にある委員を設ける趣旨からして、大体委員は警察官よりは移動性に優れておるとか、委員は一定の服装をした警察官と、異つて身なりも区々であるため、大衆から敬遠されることがなく、常に大衆の中にあり易いという点で、軽犯罪を容易に発見することもできるし、これらに注意を與える機会も多いわけであります。人間はえてして旅をすると一層他人の動作行爲に対して敏感になつて來るので、あんなことは誰か注意して貰えんかということを考えさせられることは、随所に珍しくない事業であります。道義の廃れている今日、全くその極に達しておる感がするのでありますが、故に委員は、随時随所で起り易いこうした軽犯に対し注意を促し、又犯罪の拡大を防ぐことを建前とする故に、取締の範囲を限定せずに、日本國内どこでもやれるという一円にしたいという私の意見であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/6
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007・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 次に橋本繁夫君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/7
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008・橋本繁夫
○公述人(橋本繁夫君) 私は大阪市内におる橋本繁夫という者であります。
この法案は社会道義の頽廃した現在において必要なものとは思いますが、この警察犯処罰令の改造のごとき軽犯罪法案の実施は、一般大衆、特に私たちの経驗しておる全國の小賣商人の立場から申上げますと、これが取締に当る官憲、警察陣は、外面的には良く又優秀な公正な人たちもおるようでありますが、自治警察になつてから、特にその國家警察の昔によくいうた威嚴とかいうものがなくなつたように、相当商賣人あたりを苦しめておるものでありまして、この法案は警察の最も利用するものとなると思います。それは善良なる商人又は一般の弱い大衆をいじめる手段にこの法案を利用することを虞れるのであります。実際この自治制度になつてからの各警察署あたりのことは、私たちがいろいろの團体から聞いたりして、実例をよく知つておりますが、今は省いて置きます。
さてこの法案は罰則に拘留又は科料に処するとありますが、このデリケートな犯罪に入るか入らないかというような、警察が注意をして済ますというようなときにおいて、いわゆる始末書というようなものをよく取られております。そういうときにおいても警察はそういうものを利用して、例えば誤りを犯したのを処罰まで行かないで、いわゆる記録書として残すために書くその書類についても、実際その憎まれておる者の多くは弱い眞正直な人間に多いのですが、こういう人間に対して警察はその警察の中のいわゆる惡質の人、比較的質の惡いような人も実際各警察におることは私たちは十分知つております。実際商賣をやつておる者は誰でも一人二人は知つておるものであります。そういう人間はこの法案のできたということについては、どれだけ力があるか。そういう意味から私は社会秩序のために、社会正義、正しい弱い人間を助ける。そういうようなことを全面的にやるためにはこの法案にある十六号、「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」、こういうことも実際は正直な話をしても、内々で済ます、世間に表沙汰にしないとか、そういう不正な人があることを通知したために怒られたということは、戰爭時代には実際ありました。この社会秩序を保つための軽犯罪法案は、いわゆる憲法の人権の尊重、そういう意味からこの法案を実施する前に特に警察官吏に対して新らしい官吏服務規則のごとき法律を、徹底したものを設けて欲しいと思います。私たち小賣商人はこの法案にあるごとく微妙な、例えば著しく粗野若しくは乱暴な言動で迷惑をかけたもの、こういうような実際にこれからこれを実施するときに、商人は非常にその商賣の状態上お客とかその他いろいろのことで心配するのであります。
さて、この法案の中で、第八、「公務員から援助を求められたのにかかわらずこれに應じなかつた者」、この処罰であります。これは多くは一般の習慣として惡人を押えることのために民間が協力することはそれは正しいことであります。だがそれを見ているということが、これが應じなかつたものとされるならば、國民の中には今までのおとなしいとか、いろいろな、一般に言挙げせずというような主義から、ただ手出しをしないで見ているのが罪になるということは、心からその惡意がない一般の習慣、又人間の性質によつてそういうことになればこの項は適用されないものと考えます。二十、「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん惡の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」、例えばこのフラダンス或いはジルバ踊り、映画でもあるようなことで、都会では多くやつていることでありますが、そういうようなのが触れるというようなことは、私たちは近來の外國の娯樂を採入れるときの日本の文化人においては希望いたしません。
さて最後に、この法案が社会の秩序を保つためにしたものとするならば、旧刑法の安寧秩序、これが廃止になる、新刑法によつて廃止になつたことであります。この社會秩序ということも、この軽犯罪法案のごとき細かい点にまで触れる、いわゆる機微な犯罪になるかならないかというような機微な場面のごときようなところは取去つて欲しいと思います。
それから人声、樂器、ラジオなどの音を異常に大きく出して靜穩を害するということ、こういうことも一般小賣商人は特にそれが当局の或る人間が、特に或る商人を苦しめるがごときことをすることもあり得ると思います。
要するに現在官吏の中でも、特に警察官吏の中にはそれが全部正しい人間ばかりでなく、若い警察官の中には、大阪の新聞紙上にあつたことでありますが、何がために國家の警察官吏になつたかというときに、過ちを犯して警察練習所から罷めさせられたことが府警察部から出ておりました。それはなぜかといいますと、それは入つて警察行政に携わる目的が最初から惡いのであります。こういうように非常に商人が苦しめられておることは事実であります。それがこの法案ができることによつて惡質なるものが全くないと言われません。こういうように細かい法案が全部実施されるとなりますと、或る程度商人はびくびくしながら商賣せんければならん。それは何故かというと、正しい人間はそういうことを注意されることがいやであるためであります。
それでこの法案をもう少し縮めて欲しいと思います。そしてやはり道徳の低下した時、この法案を少し縮めて実施されることに賛成いたします。以上私の経驗しておることを話した次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/8
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009・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 土橋一吉君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/9
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010・土橋一吉
○公述人(土橋一吉君) 私は土橋一吉であります。只今から、國家が軽犯罪法を制定せんとしておりまするので、これに対する意見を述べたいと思うのであります。
私はこの軽犯罪法に対しましては全面的に反対の意見を表明する者であります。その理由といたしましては、國家社会がその道徳規律を中心としまして、社会生活において人の行爲を処罰するというような場合には、その刑法或いは刑罰法規は、常に民主主義の原則の下におきましては縮小されなければならんと思うのであります。即ち人の行爲が罰せられるということは、元の封建的な時代とか、或いは天皇制の時代のような時におきましては、その権力主体を擁護し、又そういう社会に対する反撃に対しましては刑罰法令で臨んだのであります。從つてそういうような一般私生活におきまして、自分の基本的な権利を擁護し、自分の財産を擁護し、自分の名誉を擁護するというような、あらゆる立場から見た場合には、刑罰法令といういものは、常に多数の刑罰法令を以て社会の進展或いは私生活を圧縮するものではなくして、常に刑罰法令は先ず縮小しなければならない、かように考えておるのであります。特に現今のように、昭和憲法が規定しておりますような基本的な人権を認めて、更に一般大衆の権利が逐止擁護される段階におきましては、刑罰法規というようなものは努めてこれを圧縮し、これを縮小しなければならんと思うのであります。かかる観点から第一点といたしましては軽犯罪法に反対をいたします。
次には第二点としまして、現在極めて不完全ではありますけれども、刑法が存在しておるのであります。この刑法はやはり社会の公の秩序或いは善良なる風俗に反する場合に、社会一般の通念と道徳規律から処罰せられるので刑法の建前であります。にも拘わらず、更にその濃度が薄いというようなことで、更に軽犯罪法を作るということは極めて遺憾であります。なぜかならば、一般刑法というものは、國家に対する罪とか、或いは財産に対する罪とか、或いは諸般の風俗に対する罪というようなものを最大限、而も最小限度のものを規定しておるのであります。その外に更に濃度の薄いような社会道徳規範というものがあるならば、それは民主主義の國家形体においては常に社会一般の道徳規律として、社会一般の社会通念としてさような行爲が規約せられ、社会から爪彈きに遇うという程度においてこの問題が処理せらるべきものでありまして、これが刑罰法規でさような行爲に対して処罰をするというような建前は、飽くまでも民主主義の原則に從いまして、一般各人の取扱上の問題に対しましても、或いはその他の一切の行爲に対しましても、こういう行爲を制限するがごとき規定は遺憾であると思うのであります。
次は現在、例えば昭和憲法が前文として掲げておりまするような、少くとも基本的な人権を擁護し、更にこの昭和憲法は一般社会生活におけるところの隷属とか、或いは圧迫とか、或いはいろいろなものに対しても、飽くまでも排除するということを昭和憲法の前文は明記しておるのであります。從つてこういう昭和憲法の精神から申しましても、軽犯罪法をここで処罰を以て臨むというようなことは極めて不穩当でありまするので、私は反対をしておるのであります。
次は、私は只今の國家形体、社会機構というものは、資本主義経済を採つておるのであります。從つて現在の犯罪の大部分は経済関係から起つて來るのであります。從つて資本主義経済が現在のように、先程もどなたかおつしやつたように、道義は非常に頽廃しておるということは、経済的な各人の生活が十分でないということを証明しておるのであります。從つてこの資本主義経済そのものが十分檢討されまして、特に勤労大衆はこの制度に対しましては非常に批判の目と、そうして又非常に嫌惡を感じておるのであります。從つてこういう制度下において考えられておるところの犯罪というものも、常にその持てる者、金を持てる者、土地を持てる者、更に権力を持てる者、かような諸君の利益のために、一切の行爲が特に刑罰等の行爲が行使せられるのであります。從つてこういう観点から見まするならば、経済関係から生ずるところの問題、特にこの資本主義経済組織に対する思想的な動搖も非常にあるのであります。從つてこういう面から生ずるところの一切の行爲に対しまして、現在の勢力を維持するために、現在の社会機構なり経済機構を温存するために、これを民主主義的な方向からいうならば、努めて推し進めまして、憲法が保障しておりまするように、人の思想の自由なり、表現の自由なり、或いは挙動の自由なり、更に労働組合等におきましては、少くともポツダム宣言が規定しておりまするし、又一九四六年の十二月の八日のワシントンにおける極東委員会が宣言しておりますような、こういう労働組合運動が、而も正当に、例えば罷業権を断行するとか、或いは團体交渉権を行うとか、或いは正当なる團体統一権を行使するということが阻害せられるところの一切の日本の從來の警察機構なり、或いは政府機構というものはこれは直ちに廃止すべきものであるということを極東原則は謳つておるのであります。更に日本の現在の労働組合法の第一條を御覧になりましても、第二項において、労働組合の團体交渉なり、或いはその他の正当なる労働組合運動は、只今の刑法の第三十五條の規定を排除しておるのであります。この三十五條の規定は皆さん御承知のように、法令又はその他正当なる業務による行爲は罰しないというのであります。從いまして少くとも我々労働組合、或いは勤労大衆、或いは農民組合、更に民主主義的な諸團体を形成しておる我々といたしましては、こういうような極めて民主主義的な、而も現在の思想を最も有利に、又日本におきましても、恐らく金を持てる者、物を持てる者、土地を持てる者よりは、一般その日の勤勞によつて自分の生活を営む大衆が私は断然多いと思うのであります。そういう諸君が自分の生活擁護のために、又自分の産業を確保するために、又祖國の生産を増強するために行うところの一切の行爲というものは、從來の資本主義的な法律の範囲においてこれを処断したり、この法律によつて枠を決めたり、かようなことは絶対我々としては承服できないのであります。若し現在の政局を担当しておる諸君が、現在のような政府であるならば、常にこういう法案をより以上解釈を拡大いたしまして、勤労大衆或いは農民組合諸君、或いは一般市民の諸君が心から希つておるところの政治の運行なり、自分の生活の保障ということを常に裏切るような方向に來ておるのであります。これは賢明なる各位はすでに皆御承知の通りであります。從つてこういうような法規を制定することは、さような意味からも私は反対をしておるのであります。
次は第四点といたしましては、從來日本の警察犯処罰令というものは、常に國家権力というような極めて抽象的な、而も天皇制の下におけるところの旧憲法におきましては、第八條というような非常に大権事項を持つておるのであります。そういうものを日本の從來の警察は擁護しておつたのであります。民衆の一般の利益のために政治が行われ、民衆によつて政治が敢行せられ、全人民の要求に從つて政治は行われなければならない。それが一部権力者の利益擁護のために大権が行使せられておつたのであります。
かような点はもうすでに打倒されておるのでありますけれども、それと同じような意味合において、現在のような政府であり、現在のような官僚の諸君であり、現在のような政府といわゆる物を持てる諸君と直結しておるような状態においては、こういう法律を作るならば、常に勤労大衆を圧迫いたしまして、勤労意欲を低下させ、日本の産業をより低下させ、更に生活の保障すら奪うのであります。かような点からも、從來の警察犯処罰令の生れ代り、或いはタブロイド版のようなこういう軽犯罪法に対しましては、第四点として反対するのであります。
次は、私はこの條文をここに見まして、先ずどういうわけで私反対申上げるかというならば、各條文を私は申上げたいと思うのであります。それは例えば第一條の第一号の規定を見ますと、「人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物又は船舶の内に正当な理由がなくてひそんでいた者」とありますが、これは何を意味しておるのか。少くとも現在住宅がなくて非常に困つておるのであります。そういうところで人も住んでいないで、看守していないような邸宅なり建物なりその他の船舶というものがあるならば、なぜ直ちに戰災者の諸君なり、住宅に困る諸君に開放しないのでありましようか。そういう手を打つべきが國家の使命でありながら、そういう者に対してここに書いてある正当なる理由なくしてとは何を言つているか。正当なる理由ということは、こういう法律を作つた場合に、この正当なる理由ということを書いて置かなければ刑法の違法性を阻却しないのであります。少くとも犯罪というものは刑罰法規に列挙せられたところの有責の違法の行爲であつて、少くとも國家が刑罰を以て臨むということは、從來の法律観念からいうならば、先ず刑罰法規に列挙された有責の行爲が犯罪というのであります。ところが、この正当ということを書くこと自身が、その條文自体がいわゆる違法性がないものであるけれども、正当なる理由なくしてという、そういう文句を附け加えることによつて違法性をここに認めようとしております。この違法性というものはどういうことかというならば、常に物を持てる諸君、金を持てる諸君、土地を持てる諸君、先程のように政権を持つている諸君の利益のためにこの正当性が解釈せられるのであります。
次の條項を見ますと、「正当な理由がなくて刄物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隱して携帶していた者」、何を言つている……。例えば鉛筆を削る小刀を持つているというような者でも、これを正当なる理由という文句の中に、直ちにそのときの権力を持てる者、そのときの社会情勢を支配している諸君、そういう者の利益のために正当性が解釈せられるのであります。從つて以下の條文を皆見ましても、例えば「正当なる理由なくして合かぎ、のみ、ガラス切りその他を持つて」云々とありますが、合かぎを持つていようと、ガラス切りを持つていようと、「のみ」を持つていようとその人の勝手である。そういう者を正当な理由なくして持つておつたというために常に処罰せられるのであります。持つていること自身、自分の私有物を自分が持つておつて誰憚らない筈であります。さようなことが正当性がないといつて違法性をここに惹起しまして犯罪を構成する。かような法律を作ることが日本の一般勤労大衆といわず、全人民諸君の犯罪をこの法律が作り上げて行こうというものであります。況んや今日の檢察当局や司法警察の諸君が、この社會常識というものと、犯罪というものとを、國家が向うところの一般の権力行使というものは、或いは裁判をする場合も同様でありますが、警察権の行使は全勤労大衆のものであるのであります。何も警視総監の権力でもなければ天皇の権力でもないのであります。かような権利を行使する場合に、全人民の立場において、その人の個々の権利を保障してやるのが警察の立場であるのであります。でありますから、從來の明治憲法のような、或る権力の擁護のために人民を圧縮するというような方向において司法警察が運用され、或いは司直等の権力によつて運用された時代はいざ知らず、少くとも國の政治一切は全人民の権利を擁護するために行われなければならないのに、この條文等は極めて不当であるのであります。例えば五号でありますが、「公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯樂場において、入場者に対して、又は汽車、電車、乘合自動車、船舶、飛行機その他公共の乘物の中で乘客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者」、こういうような場合にも、乱暴という限度はどういうものを以て乱暴と言うのか、これは必ずや警察官なり檢事の諸君が立会つたときに、自分の主観的な認定によつて乱暴だとか粗野であるというようなことを認定するのであります。さようなことによつて正当なる組合運動なり或いは他の民主的な諸團体の運動等が妨げられるようなそういう意図が当然織り込まれているのであります。從つて私はそういうような條文を沢山見るのでありまして、この條文が全部そうである。この二号、三号、四号、五号或いは八号に至りましては、殆んど問題にならない。十三号、十四号、十五号、或いは例えば十六号の場合を申上げれば、「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」、こういうことを言つている。これは何かというならば摘発鬪爭においてこれは大阪等においても例がありましたが、その会社が隱匿物資を沢山持つておるというような場合に、それを通告したところが一方では直ぐに警察官の方の連絡によつてその大事な物は電話によつて賣却してしまつた。これは日本の只今の刑法において賣買契約が成立したときに、これはもうそうしたものは私のところでただ保管するものであるというようなことを言つて、而も摘発の正しい全人民的な鬪爭が裏切られてしまうということを直ちに想定できるのであります。その次の二十四号におきましても同樣でありますが、二十五号……、特に例えば二十八号に至りましては「他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者」、こういうようなことが今日の社会状態にありましようか、これは恐らく何かの間違いで婦人に酒を飮んだ人がたわむれたという場合の以外には、労働組合の正当なる團体交渉を否認する意図を十分持つておるのであります。次の條文を見ましても例えば「他人の業務に対して惡戯などでこれを妨害した者」、こういうような場合においても、この内容が直ちに現在の労働組合運動に影響して來るのであります。例えば「入ることを禁じた場所又は他業の田畑に正当な理由がなくて入つた者」、こういうような場合には直ちに日本の農民運動を阻害するのであります。又現在我々が各労働組合が行なつておる生産管理なり、或いはストライキのような場合には直ちにこういうことが適用されるのであります。從つてこの規定も同樣でありますが、以下挙げて來るならば全部そうであります。
特にこの法律がおかしい法律であることを申上げれば、例えば第二條でありますが、この罰則として拘留と科料というのを掲げてあります。この科料というのは刑法の十七條にあります。十銭から二十円までの金額であります。こういう十銭から二十円というようなものと大切な人が三十日も拘留をされるということは如何に不権衡であるか、不法であるか、これはもう立法者がこの法律に対する認識がないから十銭から二十円までの罰則と、肝腎な一家の主人が三十日も拘留されてしまつたらその経済的な價値が如何程であるかというようなことを立法者は考えてこの法律を作つたか。例えば私は第二條にこういうようなでたらめな法案を作つておりますので、私は指摘したいと思う。何かこれは非常に曖昧なことで、大衆運動には適用せんという條文を衆議院かどこかで附け加えたいということを聞いております。そういうことを書くくらいならば、思い切つて労働組合の第一條の第二項が規定しておつたように、又労働組合に関する……、憲法第二十八條の規定が保障しておる特権、或いはポツダム宣言の第三條でありますか、或いは極東十六原則の十三條に規定しておるような内容によつてこういう法律は明かに大衆運動には適用しないというようなことを明記しても尚私は不十分であると思うのであります。それは冒頭に申上げましたように、現在の國家機構と経済組織というものと更に現在の政治思想が極めて変轉をしておることと、民主主義という基本的な原則は飽くまでも人権の擁護のためにあるのであります。こういう立場から法律の刑罰法規というものは努めて圧縮しよう。努めてこういう法規はなくすることによつて、社会の健全なる社会道徳といいましようか、社会の安寧秩序は維持されるのであります。こういうようなことを運営するあの警察官或いは檢察官、或いは簡易裁判所というものが果して全人民擁護のために、現行犯はこれを押え、これを起訴し、これを裁判するかというならば、現在のこういう権力を担当し、これを断行している諸君は元の天皇制のままの状態において全人民的な要望なり、考え方なりを常に圧縮しよう、圧迫しよう、彈圧しようというような考えで行われているのであります。從つてこれは運用する者はそういう輩でありますので、私は運用する人についても反對するが、この中に書いてある條文が、先程申上げましたように、現在の経済状態から見れば極めて不十分であつて、況んや刑法の原則から申しましても、刑法そのものに勿論かようなものが包含されて行くものであるが、その外にこういうものを拾い上げてここで処罰することを設ける意思が奈辺にあるか、或いは現在これを立案した諸君はどういうものを作らんとしているかということを考えて私は根本的に反対をしておるのであります。
最後に私は皆樣に申上げたいことは、こういう法律を幾ら作りましても社会は明るく平和にはならないのであります。望むことは全勤労大衆なり、眞面目に働く諸君なり、眞面目に働く市民諸君に対する生活の保障をするという一点に盡きるのであります。こういうようなものを幾ら作つても社会は明るく平和には断じてなりません。從つて昭和憲法が文化國家或いは平和國家を熱望しておるならば、こういうものは先ず政治力によつて全勤労大衆の生活を保障し、職を安定させ、失業を出さないような方途を講ずることが、この軽犯罪法を百ヶ條、或いは千ヶ條の條文を作るよりは正しいのであります。これを政府の諸君がやらないで置いて、こんなものを幾ら作りましたところで、却つてこれによつて犯罪が殖え、現在の刑務所はより以上拡張しなければならん。現在の警察の豚箱はより以上廣くしなければならんというような悲劇が生れるのであります。從つてこの法案は現在我々が見た場合にはナンセンスであれ、社会の安寧秩序をよくし、平和を確立するところのものではないということを私は申上げて終りたいと思うのであります。
從つてかような軽犯罪法が、警察犯処罰令の蒸し返しをして置かなければ社会秩序が保てなく思うような諸君が今日政権を担当しておるほど、日本はまだ民主的でないということが言えるのであります。でありますからどうぞ賢明な各位に、こういう誤れる法律は制定しないように、こんな法案が議会を通過しないように、賢明な各議員の皆樣に私は特に切望いたしまして、かようなものは社会道徳なり社会規律において十分制裁なり或いは効果が挙がるのでありますから、こういう法律は通過させないようにくれぐれもお願いをして、私はこの反対の趣旨としたいと思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/10
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011・伊藤修
○委員長(伊藤修君) これを以て休憩をいたします。午後は一時半より開会いたします。
午後零時二十二分休憩
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午後一時五十一分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/11
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012・伊藤修
○委員長(伊藤修君) では午前に引続き開会いたします。先づ井伊義勇君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/12
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013・井伊義勇
○公述人(井伊義勇君) 私は井伊義勇、東京に住居しております。私はこの法案が誤りなく本当の意味に正しく嚴密に行われるものでありますならば賛成いたします。けれども現在の國家機構、社会情勢にありましてこれが誤りなく行われるということが考えられないのであります。で、これは趣旨は誠に結構でありますが、根本的な修正を必要とするものと考えます。例えて申しますならば、私の申上げますことは想像ではございません。聞いたことでもございません。実際の体驗でございます。配給物の行列に割り込むというようなことが処罰されるとしますならば、これは行列しておる者が摘発するなり、官憲が摘発するなり、さようなことが誤りなくできない実際を知つておるのであります。例えば行列の一人がそれを摘発するといたします。行列を乱し、行列に割り込むような輩はその界隈におけるボス共でありまして、割り込むときにはすでに何人かの手下を持つて、固い結束をもつてやつておるのでありますから、若しも何人かこれを摘発するといたしますならば、それを打消すところの証人数人又は十数人を以てこれに当ります。これを若しも派出所の警官その他のところにもつて行きましても、問題にされずにあべこべに摘発した者が恥を掻き、叱責される実際の状態にあるのであります。一銭の利益にもならない、時間を潰し嫌な思いをするこの摘発を誰もする者がないということであります。若しも派出所に向つてそれを摘発する、それは直ちに揉み消されてしまいます。揉み消されるばかりでなく、あべこべに反対の証人をボス共によつて立てられて、今度は逆捻じを喰わされる。そうして派出所に何日か呼び出され、警察に何回か呼び出され、その後は又ボス共によつていろいろな形で迫害を受ける結果となるのであります。若しそこに多少腕つ節の強い者がありまして、派出所と警察とを飛び超えて檢事局にいたしましても、檢事局が又派出所と警察と同じような態度をとるのであります。警察でそれを問題にしようとする場合にはこれは論外であります。檢事局に持つて行つてどんな扱いを受けるか。言葉を換えて言いますならば、加害者であるならば敬意を以て迎えられ、摘発した人は「おいこら、お前」でやられる、これは聞いた話ではないのであります。新聞記事で読んだり噂話で聞いた話ではないのであります。而も何回か何回か呼び出されて、今日も都合があつて止める。明後日來い、その明後日に行けば、又二時間も三時間も待たせておいて、又次の日に來い、そういうようなことを繰返される。相手方の人間がそこでこれは一体起訴になりますか、不起訴になるでしようか、こんなことが問題になるか、告訴があつたからやつたようなものだけれども、こんなことは問題にならん。それよりも帝銀事件やら何やらもつと大きな事件がある。そういうふうな態度をとられるのであります。警官も檢事も追放された人間は何人かあります。ありますが、大体の勢力というものは旧勢力であります。そういう結果はどうなりますか。こういう法規ができておるのに、我々何人かが組んでやれば、奴らは何もすることはできない。そういうことを思わせて、彼らの勢力をますます増大させるのに過ぎないのであります。痰唾を吐くことにしろ、合鍵を持つておることにしろ、その外の問題にしろ、皆このような扱いを受けるのであります。でこの場合一銭の利益にもならないことに弁護士を頼む人間が果してあるかどうか、弁護士を頼まずに自分からできるような人間は何万人に一人もあるかないか分らないのであります。こういうものが法案として、法規として成立するということは、いよいよ以て反民主主義の社会を助長させ、強固なものにするだけのことにしかならないのであります。
曾ての警察犯処罰令の場合におきましても、或る場合にはそれが摘発され、或る場合には摘発されなかつたのであります。この公述人として出席していらつしやる何人かの考はよく御存じでありましようけれども、午前二時、三時という時刻に他人の家へピストルを持つて土足で踏み込んで、その人間を引き立てて行つて、それが浮浪罪で成立しておつた世の中と、現在とがどれだけ変つておるかということであります。先程大阪の橋本さんからも縷々お話がありました。橋本さんのお話の樣式が余り勇敢でありませんためにせせら笑つておる二、三の人も見受けました。けれども、それは話術ではなしに、事実を橋本さんはお述べになつたのであります。時間のようでありますから、これだけにして置きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/13
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014・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 今井嘉助君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/14
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015・今井嘉助
○公述人(今井嘉助君) 私は労働法規改惡反対鬪爭委員会を代表しまして、今般の提案された軽犯罪法案につきまして、撤回すべきであるという、絶対反対の立場から意見を述ベさして頂きます。もともと労働者出身の関係もありますし、御存じのように、過去長い間、我々の階級が圧迫され、搾取された関係上、言葉は非常に粗野であり乱雜でありますが、予め失礼な点がありましたら御了承願いたいと思います。
共同鬪爭委員会といたしましては、この法案につきまして、非常に関心を持ち、衆議院或いは参議院に対しまして、單に司法委員会だけで問題にせずに、これは労働委員会においても問題にして頂きたいと同時に、この法案の提案理由の中に、明らかに「廣く各界の意見を徴し」、こういう文句があるわけでありますが、それで衆議院の司法委員の方々に対しましては、あなた達は、この法案の中にある「各界の意見を徴し」、こういうわけだから、これは國民のいろいろな問題にも関係するのだし、特に我々労働運動に携わつておる者の意見を聞いて貰いたいという意見を申上げたのであります。ところが衆議院では、我々のこの申出でに対しまして、單に労働委員会と二回懇談会が行われたのでありますが、公聽会は実はせずして、再三我々が足を運んだにも拘わらず、拔打的に去る十三日通過さしてしまつたのであります。ところが、本院におきましては、特に伊藤委員長初め、各司法委員の方々の御理解ある態度によりまして、昨日、本日の両日に亘りまして、この公聽会を持つて頂きましたことにつきまして、深く本席を借りまして御礼を申上げます。
ただ私の考えからいたしますれば、尚慾を申上げますれば、これは單に労働運動或いは農民運動、その他の民主的な運動に関係するばかりでなくて、全國民の憲法によつて保障された基本的人権、これを蹂躙する危險が非常にある。だからもつと大々的に、而も長時間を掛けて輿論を聞くべきである、こういう考えを持つております。済んだことは致し方ないわけなんですが、今後國民の代表者といたしましても、我々の先輩は少くともそういう心構えで対処して頂きたい。このことを労働階級を代表いたしまして、特にお願いして置きます。
大体すでにもういろいろお話を承りますれば、撤回の段階でない、これは幾らか修正しなければいけない、こういう点も承つておるのでありますが、併し我々國民としましては、そこまでいろいろな關係で承ておつても、やはりこの法案に対する基本的な見解を明らかにすべきである。こういう考えから、あとの財政の節約とか、そういうことは、昨日当りから、我々の同士とか先輩から意見が述べられておりますし、本日も述べられるでありましようから、そういう観点から反対の理由を述べさして頂くわけであります。
第一に今朝程、私大森に丁度家を借りておりますですが、非常に電車が混雜した。軽犯罪法の中で、十三号のところを御覧になりますれば、行列を乱したら何とかと書いてあります。そうすれば、昨今の交通状況から見まして、すべて朝早く、それぞれ職場に駈け付けて、生産の増強に携わるわけなんですが、こういう方々は全部実は豚箱へ行くか、或いは罰金を取られる。そういうために簡易裁判所へ連れて行かれるのか、或いはどうか知りませんですが、そういうこととなるわけなんです。そのため、完全な法としてこれができますれば、その取締を完全にしなければ、これはやはり非常に遵法というような建前から変だから、警察官を、少くとも、大森の駅では、朝千人ぐらいの人が溜つておりました。千人ぐらいの警官を直ぐ動員しなければならんという事態が発生する。こういうことが、実際問題としてやり得ることかどうか。この一事を考えましても、日本で当面生産復興ということが、いろいろな立場から言われておりますが、生産復興を非常に阻害するのであります。その他の條項を見ましても、そういう例が、取締られる立場から、それから取締る方の立場からしても、非常に無駄な精力と時間を割かれる。軽犯罪法のために、日本のあらゆる人民の活動、或いはその他いろいろな國家活動が、全部総動員しなくてはいけない。法として設けた以上は、これは完全に実施しなければ、法治國家の建前が立たないわけであります。そういう点からいつても、もう少しこれは考える余地があるのではないか。いろいろ例がありますが、結局日本の生産復興をもう非常に阻害する。この法を実施すればですね、これが第一点。これは嘘と思われるか知れませんが、実際実施して見れば分るだろうと思います。
それから第二番目としましては、戰爭が済みましてから、日本の民主化ということが、いろいろな合言葉になりまして叫ばれております。日本の民主革命を推進すると、或いはいろいろなものを民主化するという建前からいつて、これが大きなブレーキになる。そういう点から申しますと、これは、私そういう方面は明るくありませんですが、先程からもいろいろ引用されたように、ポツダム宣言、これによつて、はつきり日本は早く民主的な方向に持つて行かなくてはいけない。或いは民主化を阻害するような勢力は、皆撃退しなくてはいけない。進んでそれを推進するような運動とか、或いは團体を助成強化しなければならんというようなことが大原則として立てられている。にも拘らず、この軽犯罪法に盛られている條項は、一見すれば、そういうことに牴触しないかのように見えますが、これが運用された曉は、事実上今申しましたような大原則に背反するというような点が、多々事実として惹起して來るだろう。單に形式的に物を整えればいいというわけでない。やはり民主主義の我々國民として生まれた限りは、もつと物を実質的に、本質的に考えて行きたい。特に國民の代表者としての我々並びに先輩は、このことをもつともつと本質的に正しい基準によつて処理すべきじやないかと考えます。
それからこれは、労働組合に関することでありますが、先般から再々例に挙げられたように、十六原則、この中には、労働組合に関する十六原則の関係上、非常に労働組合を助成しなければならん、それから発達させなければならんという点が強調されておるわでけあります。ところが、これは運用の問題にもよるのですが、これが内容を一々点檢して見ますれば、現在労働運動の段階としまして、單に職場において賃金をこれだけやつて下さいといつて社長と或いは労働組合の幹部が話をするような段階ではないのです。すべての経済問題が政治的な問題に繋つている。こういう観点から勢い労働者もやはりものの本質を見極めて、幅廣く動かなくちや効果が挙がらないという点で、人民鬪爭がいろんな点において大きく展開されている。そういう場合にこの條項をいろいろ引つ掛けて見ようと思いますれば、片つ端から引つ掛かる。人民鬪爭ということは、言葉は何だが共産党の專賣特許のような響きがしますが、これはやはり人民の生活、幸福を本当に守る、そのための最良の手段です。そうしてそれが單に労働者だけでなくて、いろんな具体的な切実な問題なんで、労働者も関係がある。農民も関係がある、小市民も関係がある。そうしてその反対側に立つている勢力は、依然としてやはり一部の大資本家、大地主、こういう勢力を中心としてそれに附纏うところの、或いは寄生するところの、そういう保守的、或いは反動的というような一部のもののための利益とか、或いは権力の保持、こういうものに係つているわけです。これは抽象的な言葉で申上げても分りませんのですが、現に腐敗した官僚あたりがどういうことをしているか。私電氣事業に從事している者ですが、電氣事業経営者がですね、組合としては、あなた達は官僚統制にはいやいや倦きているのだ。そのために電氣事業の復興もできないのだ。だから一つ酒を飮ますことを止めさせたらどうだろう。一事務官ぐらい來たらとて、ぺこぺこ頭を下げたり、料理屋へ連れて行つて、又その晩は別室に連れて行くということを止めたらどうだ。そのことによつて当然、ここを復興しなければならんという点が全然おろそかになつてしまう。これでは電氣事業の復興も何もない。それを見て下さいと非常な慇懃な態度で申入れた。そのときははあはあと言つているが………。これは私の方の例ですが、すでに今夜商工省のあの氣力局長、それから各課長ですね、それを或る所に集めて、やはり或る問題について一献献じようということがはつきりしております。こういう官僚は單に商工省の電力関係の官僚だけではありません。現在の國家機構に巣食う全部の官僚がこうなんです。
問題をもう少し具体的に結び付けまして、軽犯罪法、これを実施した場合に、これを運用するのはやはり我々と同じように貧乏な階層から出ている巡査です。この人達も生活が安定されていない。從つていろいろな、今まで過去二年間においてみたような、あの誠に我々の同士といつてもいいわけですが、同輩の巡査諸君に対してはお氣の毒な言葉ですが、余り感心した態度をとつておらない。それはやはり食えないからである。そういうところへこれを持つて行つたらどうなるか。今日は三つ事件を挙げたからこれだけの褒美を上げる、今日は五つ事件があれば今月の賞與はこんだけやる、こういう政策も過去において採られている。それからやはり官僚機構の建前として、手柄を少しでも挙げようと思う、ここへ全部精力が集注するわけです。だから大きな事件は皆お留守になつてしまう。而も警察官諸君の質或いは量の点から考えてみましても、ほぼその結果はどういう形になるか、堕落の上塗りをするばかりなんです。こういう点で、この運用の面におきまして。これは完全に実施されない。むしろ警察官の表情を惡くする。それから國民自身がまだまだ民主化されておらないというのは、別に國民が惡いわけではないのです。その責任は全部過去の、むつかしい言葉はいろいろありますですが、要するに一部のつまり惡い支配階級ですか、そういう方がいじめつけた。私なんかも貧乏の生まれですから、やはり表情は立派でありません。物の言い方もまずい、粗野だ。やはり金持の坊つちやんで大學でも出ている人は、物事もよく知つておる、お上品だ。これはやはり國民全般に一致するのでないかと思う。だから、ここへこれを持つて行けば、実際問題として食えない、或いは実際問題として自分たちの感覚が鈍いという建前から、これくらいのことはやはり犯し易い條件だとか、そういう制約の中にある。法律が出れば、やはり犯せば惡い。びくびくびくびくして、國民の表情がこの二年の間に非常に惡くなつたわけなんですが、ますますとんがらなかつたような表情になつてしまう。これを連合軍当局あたりが見られれば、日本人というのはもつと立派だつた。ところがどうだ、ますます惡くなる。だからもつとこういう形でやらなければいけないという見方も或いは生まれるかも分らないわけなんです。皆さんも自分のお子さんを持つておられますが、叱つては、或いはいじめては、決して子供はうまく成長するもんでないのです。本当に愛を以て、寛容な態度で、そうして自分もお妾さんを持つたり、或いはいろいろなことをせずして、本当にその家をうまく持つて行こうという心構えであれば、おのずから家運も整つて來る。別にがんがん叱り付けなくても、子供はすくすく美しい明るい表情になつて來る。それと同じように、問題の本質はそういうところにあるんだろうと思うのです。そういう意味合から私はやはり、平和國家或いは文化國家というようなことを言われておりますが、それを推進する点から見ても、この実施はどうかと思う。
尚これは警察犯処罰令の裁判ですか、それに代るべきものとしてこれを出したのだという説明になつておりますが、我々の先輩が警察犯処罰令によつてどれだけ、日本を明るくする或いは正しく延ばすという努力とか、そういう心が無残に踏みにじられたか。丁度御存じのように、やはり今から三十年ですか、一九二九年ですから、昭和四年になります。昭和四年のあの二月十八日の第五十六議会ですが、ここで労働者、農民の代表者としての輝かしい鬪爭をやられた山本宣治代議士、この方が檢束され警察犯処罰令によつて非常にいじめられたその例を挙げております。それは昨日も平野さんがおつしやつておられましたが、あれとよく似通つた形なんで、法の上でははつきり誰が見ても可なり正しく書いてあるし、これは濫用されないような形に見えますが、あの当時どういう方法をやつたか。今から我々が見れば、誠にこれは兒戯に類するような、又その本質においては非常に老獪獰猛極まる態度であつた。山本さんが言われる言葉としましては、私がこの檢束で非常に不当な待遇を受けた。その例はこうだ——自分のお父さんの葬式で郷里の宇治へ帰つた。そうして葬式を済まされて約二週間目に、宇治の警察から、ちよつと來て貰いたい、要件は、丁度山本さんがインターナシヨナルという雜誌の発行……印刷物でしたか、そういう関係上、ちよつと聽きたいことがあるから、來てくれというので、引つ張られた。ところがそういう要務で引つ張られたのだと思つたら、全然そういう要務でなくて、直ぐブタ箱に入れちやつた。それからのやり方が、六日間入れて置いたらしい。第一日目はこれは後で分つたわけです。六日目に出るときに自分の所持品を返されますから、そのときにたまたま図らずも檢束文の内容を見ることができた。第一日目は山本宣治は宇治町の公園を徘徊しておつた、その廉によつて檢束した。第二日目はやはり宇治町の或る神社を徘徊しておつた。第三日目は宇治町の非常に風光明媚な所をうろついていた。こういうわけで六日の間豚箱に入つておつて、宇治の風光明媚な名所旧跡を全部廻つたことになる。これを帳面ずらを合わすためにどういうことをやつたかといいますと、その係部長が朝ちよつと出して、「まあ帰つてくれ」、少し歩かして又「戻つてくれ」と言つて、直ぐ豚箱に入れる、同じことをやつておる。部長もちよつと調書を書くことを忘れて、その措置を忘れた場合には、全然その措置を取らずして、やはり同じことを書いておる。見方によれば非常に可愛らしい、子供らしい。これがあの立派な警察行政かと思われるくらいなやり方なんですが、これは先程も申しましたように、非常に惡どい、その狙うところは、我々としましては非常に何と申していいか、恐しい仕打であるということが分るわけであります。これは代議士だけではない。このためにこういう方法によりまして、どれだけ日本の解放運動を進めた人たちがやられたか。大正八年には一万何千人。それから昭和元年には五万人が警視廳管内だけで、治安をちよつと乱したという、こういう関係でやられた人がある。先程の井伊さんも言われましたように、情勢は成る程幾らか民主的な形で進んでおりますが、昨今の階級対立の激化した情勢から申して、これが実施されれば、やはり運用の面においてこういうことがないとは、絶対保証できないと思うのであります。
要するに、時間が参りましたので結論を申上げますが、衆議院では先程申しましたように、ああいう形で、非常に非民主的の態度で我々の申入を取扱つた、と同時に、中には労働運動に適用しないことを入れてくれと言うたら、或る議員でしたが、言葉ははつきり分りませんが、これはいいじやないか、これによつて彈圧すれば尚いいじやないかという量見の人が、我々の選良の中に一人でもいる限り、運用の面においてどうなるか、この面においても、我々としましても愼重に扱つて、撤回できれば撤回して頂きたい。特にそういう点につきましては、衆議院の方々よりずつと進歩的な、而も我々が尊敬する当司法委員の方に特にお願いしたわけなのであります。單にこの軽犯罪法の軽い條文を審議するということが、曾て過去の警察犯処罰令が日本の大きな民主化をうんと後退さした、そうして悲惨な帝國主義を惹起さしたという役目を持つておると同じようにこの軽犯罪法案に対して我々の尊敬する先輩方が若し眞劍にこれを取扱い下さいませんでしたならば、將來これによつて日本の民主化が如何に多く、どれ程多く後退させられるだろうかうといたことを心配しております。そういう点から申しましても、ここで一つ特に当委員会の委員長初め委員の方々、それから廣く参議院の我々の代表としましての委員の皆樣に、我々労働者としてこの法案に対する革命的、英雄的な態度を懇望して、私の共同鬪爭委員会の方の代表の公述といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/15
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016・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 今井陽一君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/16
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017・今井陽一
○公述人(今井陽一君) 自分は今井陽一と言います。新潟長岡の工專の学生です。自分が今度の法案に賛成するというわけは、新潟という土地柄が保守的であるからそれの影響とか、又別に財産家の息でもないわけです。賛成の理由としては、今まで行われておる多くの犯罪の大部分が、その前に或る小さい犯罪を犯した者が、多く犯し勝ちである。こういうことが自分の頭にぴんと來たわけです。その小さい犯罪が無意識にしろ、意識的にしろ、そういう小さい犯罪が行われた後で、好奇心或いはそのようなことから大きな犯罪が起るとしたなら、この犯罪を防止するために小さい犯罪から防止して行きたいというのが私の願いであります。そうしてこの小さい犯罪を犯す者、こういう人は多くは自分の行動に対して責任を持てる人が大部分なのです。例えば行列を乱すにしろ、道路に唾を吐くにしろ、大部分の人は青年であり、年寄りであり、自分の行動に確信を持てる人ばかりなのです。意識的に行われるそういう小さい犯罪が、どうして防止できないのでしようか。
今まで多くの方々から、労働運動に関してのことから反対意見が数々述べられました。私は労働運動ということに関して殆んど存じませんが、資本家も人間であるということを忘れてはなりません。労働者諸君から結成されておる大部分の労働組合というものは、資本家のことは全然考えていません。自分たちだけが解放されれば資本家はどうでもいいということです。成る程今まで資本家は有り余つた財産を殆んど自分一人で独占しました。成る程これは惡いことかも知れません。併しその惡いことを越して、その資本家の基本的人権までも奪うということは幾ら労働者が團結して、そういうことを行なつても資本家の基本的人権まで奪うことはできないと思います。先程私生活にまで干渉するわけには行かないという話がありましたが、少しでも惡いことをそれを放つて置いていいことでしようか。信賞必罰ということがあります。惡いことは絶対に是正しなければなりません。惡は絶対に是正しなければなりません。これが若い者の考えです。子供を見て下さい。惡いことは絶対にしません。しても矯正すれば直ぐ直ります。そういうことを考えて見て下さい。
それからこの法案の中の「正当な理由なく」ということでさつきいろいろお話がありました。正当な理由なく、これはどういうことですか、正当な理由なくとは、やはり本当に正当な理由なくてであります。それをよく考えて下さい。一部の人は、この正当な理由なくということを曲解しておるようであります。そうじやないでしようか。これがある故に労働運動が阻害されるという、ただそれだけのことで、この正当な理由ということをいい加減な口実にかこつけて、この法案を撤回させようという野心からなんです。そうじやないでしようか。
それからこの法案が若し通過したら、資本家に惡用される虞れがあるということをよく申されます。風行機が落る虞れがあるから乘れないということは言われないと思います。それなら飛行機は造らない方がいいと思ます。その運用上惡用されるかされないかは、その運営者によつて決まるものであつて、法律そのものに関しては左右されるものでないと思います。この法律の内容の一部々々がどうこうというのではありません。法律の趣旨をよく考えて見て下さい。それが言いたいのです。惡は犯すべからず、如何に小さいことでも犯してはなりません。この法案がどういう考えから出たか分りませんが、要するに小さい犯罪も大きい犯罪も同じであります。それは絶対に是正されなければなりません。そういうことが根本になると思います。いろいろ実例を挙げて申された方がありました。成る程今までそういう数多くの聞きにくい実例はありました。併しそれはすべて過去のことです。この法律はこれから行われるものです。そういう惡いことが行われないようにするのがこれからの我々の義務です。過去のことにこだわつてはなりません。將來を明るく見ることです。
それからこの法案の中に罪を犯した者は科料に処すとか、拘留に処すとかあります。成る程、例えば電車に乘るときに列を乱したとか、そういう小さいことから、或いはいろいろな兇器を持つていた、そのことから將來人を殺すようなことになる、そういう大きいことまでいろいろあります。意識的にされるこういう小さい罪は、断じて罰しなければなりません。無意識的にされたこういう小さい罪、それは殆んど問題にならないと思います。そこが大きな違いだと思います。要するに自分自身省ることです。それが問題です。以上。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/17
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018・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 岡田榮君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/18
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019・岡田榮
○公述人(岡田榮君) 私日本発送電株式会社の社員でありまして、電産の中央鬪爭委員であります岡田と申します。今般政府がこの軽犯罪法案なるものを必要と認めて、そうしてこれを議会に上程され、衆議院は一部修正されて通過したということなんでありますが、この政府がなぜ必要と認めたかと申します理由を、私は私なりに、現在の道義の頽廃からして必要と認めたのじやないかと思うのでありますが、この道義の頽廃ということの根本的な原因は何か。結局さつきも土橋さんが言われましたような、國民生活の不安定、それから民主主義の履き違えというものから來ておるのじやないかと、私はかように思うわけであります。それでかかる法案によつて消極的に取締ろうとするのではなくして、根本的な治療として現在の生活不安というものを除去する、そうして民主主義の徹底化に努むべきだと、私はかように思うわけであります。
次に、先程橋本さん、井伊さんの言われましたように、現在の政治機構並びに経済情勢の中においては、これを嚴正に完全に実施することは困難であるとおつしやられましたが、私もその通りだと思います。現在私は労働組合の代表であります関係からかも知れませんが、現在資本攻勢が非常に激化していまして、そうして毎日の新聞で御覽になれば分りますように、各所において労働運動の彈圧、特に生産管理の彈圧ということが行われておるのですが、これらのことから考えまして、現在の支配権力というものがどこにあるかということを考えますときに、この法案によつて、さつきも土橋さんが言われましたように、濫用せられる。即ち組合運動の彈圧というものに利用される危險性は十分あるのじやないと、私はかように思うわけであります。
そうして更に現在の警察の量と質とを以てしては、兇惡犯罪人の沢山出ています現在におきまして、これはもう兇惡犯罪の方で恐らく手一杯じやないかと思うのであります。そうして易きに流れるで、結局弱い者いじめになり、曾つての警察犯処罰令によつて警察が横暴を極めるようなことになるのではないか。そうして日本の民主革命の阻害を來すのじやないか。かように思うわけです。
先に土橋さんからこの各條につきまして反対の御意見がありましたが、私は一つの例を挙げまして終りたい、かように思うのです。
第一條の三十四なんですが、「公衆に対して物を販賣し、」というところなんですが、この号におきましても、惡用すれば結局我々が爭議をやる場合に、資本家から給料を貰うことができないで、街頭に立つて資金カンパをやり、或いは物品の販賣をやることができなくなる。そうしてそれをやればその販賣している者は勿論のこと、第三條の條項によりまして組合の幹部すらも引つ張られて行くのじくないか、そういう危險性が多分にある。私は以上の観点からしまして、この法案に対しまして全面的に反対いたすものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/19
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020・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 風早八十二君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/20
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021・風早八十二
○公述人(風早八十二君) 私は風早八十二であります。今日はこの公聽会の催しに対しまして、私は一個の刑法學者として自分の意見を述べさせて頂きたいと思います。但しこの刑法学者は同時に現在の警察犯処罰令の被害者、犠牲者でありまして、この立場も中に入つておることを御承知願いたいと思います。
私はこの法案に対しては絶対に反対でありまして、参議院の方々におかれまして十分に愼重に御審議を願い、院議を以てこの法案を否決して頂きたい、こういう願いを持つ者であります。大体この法案は明治六年七月十九日の太政官布告におきまして違式かい違條例という非常に面白い條令があります。これに出発しておるのであります。大体この頃から日本の特に明治時代の警察政治というものが始まるのであります。この違式かい違條例の中には笞罪というようなものもありまして、つまりこれを犯した者に笞で臀をひつ叩く、こういう刑罰も含まれております。それでだんだん内容は少しずつ時代に應じて変つて参りまして、明治十三年には旧刑法というのが出、更に旧刑法の中に違警罪として丁度今日問題になつておるような條文が挙つております。更に明治四十何年でありましたか、四十一年でありましたか、この現在の警察犯処罰令というものができた。來る五月三日に目出たくこの古い警察法令というものが廃止になると思つた途端に、今日ここに挙つておりますこの軽犯罪法というのが出て來た。併しながら内容を深く檢討して見ますと、この警察犯処罰令とちつとも変らない。ただ言葉が易しくなつておるだけであります。而もこれにはまだまだいろいろおまけが附いておる。こういつたようなものでありまして、これは遡れば結局明治六年の太政官布告違式かい違條例にまで遡る。こういう代物であるということを先ず知つて置かなければならないと思います。
私は反対の理由といたしまして、先ずどういう内容であるか。又これはどういうふうに適用せられるものであるか。そうしてこれを適用する人は誰であるか。こういう三つの点から申述べてみたいと思うのであります。
先程から土橋さん初め詳細な御公述かありまして、大体この法案はその文面に拘わらず、明らかに労働運動に対する彈圧の武器になるのだということが逐次明らかにされたのであります。この点については私はもうこれ以上ここに蛇足を加える必要もないのであります。ただ念のために相照合します條文を御参考までに挙げて置きたいと思うのであります。先ず第一條の一号といたしまして、これには労働者だけではありませんが、集会、集合などが彈圧せられるという危險が多分にある。第四号におきましては、職業的な社会運動家或いは組織活動家などがこれで以てやられるという危險が多分にある。第五号及び第十四号におきましては、街頭演説が禁止せられる危險が多分にある。第二十八号におきましては、いわゆる團体交渉等の労働運動の実踐に伴ういろいろな行爲についてこれが適用せられる危險が多分にある。第三十一号については、爭議行爲、これはもう可なり全般に亘つて彈圧せらるべき危險が多分にある。更に第三十二号につきましては、やはり爭議行爲もそうでありますが、殊に農民につきましては共同耕作その他いわゆる立入禁止の問題ですね、こういうものがすべてこれで以てやられる。或いは又隱退藏物資の摘発というようなことをやります場合に、これがやはりこの箇條で挙げられる虞れがある。最後に三十三号であります。宣傳活動、特にビラ貼りというようなものは明らかにこれでやられる危險がある。又第三條でありますが、これは非常に曖昧なものでありまして、これによつて廣く労働運動の指導者、組織者、こういうような者が、或いは教唆罪或いは幇助罪というような名目で逮捕せられるという危險が多分にあるのであります。結局労働運動についての適用ということはもう目に見えてこの危險が見えるのでありまして、その点が恐らく今日もありました反対意見の主要なものをなすと思うのであります。私も又この点につきましては全く同感でありまして、どこまでもこの法律の危險性をこの点から主張したいと思うのであります。
併しながらただ私の反対論拠は、これが労働運動に適用せられる、若し労働運動にこれが適用せられなければ、それならばこの法律はよろしいか。私はそうは思わない。これは労働運動に適用されることは勿論言語同断でありますが、これは労働運動に適用せられないとしても今日の情勢を以てみますれば、こういう法律が出ることは明らかな人権蹂躙である。この点から私は反対したのであります。これはいろいろ例はありますが、先程からもいろいろ出ておりましたが、まあ極端なことを心配する人もあるのであります。例えば満員電車なんかに今日乘ろうとして皆押し合い、へし合いやつておる。これは皆第一條の第十三号で以て汽車、電車その他乘合自動車、こういうふうなもので以て非常に騒がしく行爲したというふうなもので皆やられるというふうになつておる。又立小便でありますが、これなんかも今日のように便所は殆んどないというふうなこの都会の街頭におきましては、進駐軍だつて最近立小便をやつているのを見たことがある。こういうふうな場合にこれが一体どういうことになつて來るか。併しながらまあこれらはまだまだそこまで私は警察官が非常識だとも思いませんが、併しながらこの第一條の第二号或いは第三号というふうな……ここにいろいろな刄物であるとか、そのほか面白からん器具を隱して携帶しておる者、こういう者は引張つて行くということになつております。併しながら隱してあるというのでありますから、表には現われておらない。でありますから警察官がその人間を捕まえて、お前は何か隱しておるだろう、いや隱しておらない、じや見せろというので、先ずポケットを開ける。次にはチョッキを探ぐる。終いには裸かにしないとも限らない。この器具を携帶した者に対する規定というのは、これは明らかに身体捜査の、そういうことを濫用させる大きな危險がある非常な有害な規定であるのであります。で、まあこういうふうないろいろの規定が非常に抽象的でありまして、そのために又解釈も甚しくこれは濫用される危險がある。大体この立法者の側におきましてはフランス刑法などを盛んに援用される。フランスにもある。ドイツにもある。或いはカリフォルニアの法律にもあるというふうなことを言われるのであります。併しながらこれは決して同じように比較することはできないのであります。というのは大体フランス刑法を取つてみましても、これは御承知のようにナポレオン法典なんです。今から何百年前のナポレオンが作つたものがそのまま今日まで残つておる。非常にこれは古いものです。ただ併しながらこれが実際に行われておるかと申しますと、これは問題なんです。全然行われておらないといつても過言ではない。日本におきましては警察犯処罰令はすでに昭和十一年から二十一年までの十年間に約九十五万七千八百三十六件、こういうふうな殆んど百万に近い件数を以て数えられる、そういうふうな適用を見ておるのであります。滅多やたらに適用せられておる。これに反してフランスでは殆んどその例を見ないのです。私共が調べても、判例のようなものはとつくにこの違警罪については殆んどなくなつている。大体又その解釈などもこれは非常に妥当に常識を以て解釈せられておりまして、これは今迄の判例を見ても分る。この議会から出しておられます資料などにも、よく見て頂けば、如何にフランスの刑法におきましてはこの規定が具体的に細かく挙げられておるかということが分る。正当な理由なくしてというそういう抽象的な、どうにでもこれは警察官の頭或いは裁判官の頭によつて解釈できるような曖昧な規定ではない。これは今時間もありませんから省いて置きますが、こういう曖昧なところから又問題が起つて來るというのであります。まあ例えば第一條の第二十二号などは滑稽でありまして、乞食をする者、若しくは乞食をさせる者、この乞食をさせる者も、これを拘留になるというわけですが、今日乞食をさせる者は誰である。これは今日の政府であり、資本家であるのではないでしようか。結局こういう法律が若し嚴格に適用せられるとすれば、政府も資本家も皆挙げられなければならない。まあそういつたようなわけでありまして、これは結局どういうふうにこれが適用せられるか。その適用をする者は誰であるか。この点に問題が掛つて來ておる。
で、私は次にこの適用の仕方について若干今までまだ出ておらないことを申して置きたいと思います。その一つは、大体この終戰後の立法におきまして、二つの種類があると思うのであります。一つは終戰後の新らしい民主革命を推進して行く、押し進めて行くために作られたいろいろの法律であります。労働組合法は勿論そうであります。憲法も大体においてそうであります。こういつた新らしい立法に対して、もう一つ古い立法がまだ残つている。例えばこの警察犯処罰令はもとよりでありますが、官吏服務紀律というような、そういう行政規則もある。そこで問題はこの二つがお互いに矛盾するという場合が起る。で、例えば労働組合法におきましては爭議権を認めておる。然るに官吏服務紀律におきましてはこれを否定しておる。官廳の労働組合の諸君がさていづれを取るべきか。勿論労働組合法の原則に從いまして、爭議をやる。そうした場合に官廳当局はやはりこの官吏服務紀律の方に優位を認める。こういうことは勿論正しくない法律理論でありまして、我々から見ますれば、当然これは今新らしく日本を推進して行こうとするこの法律に、法理上の優位性を認めるということが正しいと思います。若し二つが矛盾するならば、明らかに労働組合法の原則を認める。これが正しい法理論と認めるのであります。然るに実際にはそうは行かないのであります。実際にはやはり官吏服務紀律を取つて、これを以て爭議権を彈圧されることになる。こういう実情を見ますならば、どうしてもこの古い法律を新らしく又作り直すということは時代錯誤も甚だしい。日本民主革命を阻害するも甚だしいのであります。
そういう意味におきまして、私はこの警察犯処罰令の再版であるところのこの軽犯罪法を見ますと、これは甚だ危險なんである。この労働組合法とこの二つを取つた場合に、これが矛盾するという場合が起つて來る。その場合にどつちを取るか。必ずこれは軽犯罪法を取る。その危險が多分にある。先程それはやつて見なければ分らないというお話がありました。これはやらなくたつて明らかに分つておる。こういう意味におきまして、私は非常に危險であるということを言いたい。
而も最後に、誰が使うか。誰がこの法律を使うかということであります。これはやはり勿論我々の法律の正しい理論からいいますれば、もう明らかである。即ち先程から出ております極東委員会の労働運動十六原則、それの第十三條には、明らかにこの警察官或いは官廳の組織というものが、團体交渉や或いはその他の労働運動に伴う行爲に対して、その自分の職権を使うことができないということがはつきり書いてある。これは労働組合法にも況して、今日の最高の憲法といつてもいいようなものであります。これにはつきり書いてある。その意味においては、本当は解釈上はもう問題なく、警察官がこの法律を労働運動に使うというようなことはできない筈である。然るに実際はどうである。これはもう最近の東宝のストであるとか、或いは日本タイプのストライキであるとか、こういうものによつてどういうふうな今事態が生ずるかということは、皆樣が新聞で御覧になつても十分に分ると思う。結局警察官に刄物を持たせる。これは丁度氣狂いに刄物を持たせるようなものでありまして、甚だこれは危險千万である。どんなにでたらめにこれを振廻されるか分らない。それを考えますれば、私共断じてこれに賛成はできない。併しながら警察官が必ずしも——警察にのみに責任があるというわけではありません。この警察官を使つて、いわば正当なものの判断のできない人達を使つて、そうしてそこに権利の濫用をやらせる、これが非常に利益であるという人達があるのであります。その背後を考えるならば、尚更この法律の危險性はもう推して知るべしと断じなければならないと思うのであります。大体我々はこの警察官というものに労働組合が認められていないというところに注意しなければならない。警察官に今後是非共労働組合を與えなければならない。そうして警察官が本当に民衆の公僕になる。そういうふうな民主的な訓練を労働組合の中でやつて行く、こういう仕組になつて行かない限りは、この警察官に今この法律を委せるということは甚だ危官であると繰返して言いたいと思う。
ところで最後に、もう時間もありませんから、私は参議院の方々にも特にお願いしたいのであります。いろいろな修正意見が出ておりますし、これはそのものとしては勿論異議がないところでありますが、よくよく考えて頂きたいと思うのは、この修正意見によつては、本当はこの法律の適用から生ずる害惡は取除かれないということです。これは例えば社会党の大野君などが非常にいい修正意見を出しておられます。労働運動には適用しないということははつきりしなければならない。衆議院の修正意見では、あれはただ本來の目的に反した適用ができないというふうな漠然たるものですが、これをはつきり労働運動には適用できないというふうに規定しなければならない、こういう主張が出ておりまして、これは甚だ同感であります。併しながらそれだけによつて、この法律の今申上げましたようないろいろな危險性というものは尚取除かれない。これはでき得るならば、願わくばこの法律案を全面的に否決して頂きたい。今日まで参議院は、衆議院と比較しますれば、とにもかくにも我々から見て非常に大きな功績を残しておるのであります。私は特に参議院に対して今日もまだ尚期待を持つておる。で参議院の諸公が十分にこの法案の困つて來る危險性というものを改めて審議せられまして、この法案に対する否決を院議で決定して頂きたいと、私はお願いして止まない次第であります。どうしても現在の参議院の方々のその内部の情報によりまして、この絶対否決ということができないというふうな場合におきまして、我我が先程から申上げました二点、即ち労働運動に対するこれが適用は絶対にいけないということ、第二には労働運動が適用されなくても、これが人権蹂躙になる虞れが十分にあるから、この点については格段のはつきりした具体的な條項を附加して、そうして修正せられる。これによつて少くもこの線で参議院がこの法案の問題を喰い止めて頂くということは、我々日本の全人民大衆の一人といたしまして、肚の底からお願いして止まない点でありまして、大変時間を超過いたしまして長らく御清聽を煩わしました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/21
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022・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 質疑は尚後のお二方をお願いしてからにいたします。ここで軽犯罪法に対する公述はこれを以て終りまして、続いて人身保護法案について公述をお願いすることにいたします。緒方英三郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/22
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023・緒方英三郎
○公述人(緒方英三郎君) 私は緒方英三部と申します。御覺の通り浅学菲才の者でありますが、弁護士という特殊な職業に携わる一人といたしまして、そういう方面からいろいろ人身保護法に関する意見を述べるということを御承知願いたいと思うのであります。
この法律案は伊藤修氏の発議によるものであります。その提案理由に次のように書いてあります。「日本國憲法が保障する身体の自由を、不法に奪われた者に対して、應急的措置によつて、簡便且つ迅速に、これを救済する必要がある。これが、この法律を提出する理由である。」、このように書いてあります。併しながら私は遺憾ながらこの提案理由そのものに対して先ず反対であります。それはその提案理由の、不法に身体の自由を奪われた者というこの言葉に現われておる根本思想が不満足であると思うのであります。日本國憲法におきましては、御承知の通り三十四條「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を與へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず……」、ここにある言葉でありますが、何人も正当な理由がなければ拘禁されないという原則があります。それから三十七條に「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」というこれに関連した原則があります。更に三十八條に「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」、この二ヶ條の日本國憲法の條文は、それぞれ重要な密接な関係があると私は考えるのであります。今読み上げた通り日本國憲法におきましては正当な理由がなく拘禁された場合を保障しておるのであります。にも拘わらずこの法律案においては、不法に身体の自由を奪われた者に対してその救済を保障しておるのであります。この法律案第一條に「法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されておる者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。」、こうなつております。そうすれば法律上正当な手続によつたならば、換言すれば形式的な手続さえ履んだならば、不当なその身体の自由を拘束することもできるわけであります。元來官尊民卑思想といいますか、事大思想の強い我が國におきましては、官憲による身体の自由の拘束があらゆる点において利用されて來たということは御承知のことであります。いわゆる四大疑獄はその適例でありますが、なかんずく帝人事件のごとき今更私から言うまでもないのであります。拘禁当初におきましては御承知のように拘禁性精神異常というものがあります。ただ拘禁されたということによつてすでに被告人は不眠症に陷つて、一種の強烈なる精神異常に陷る。そのために虚僞の自由を強いられて、一時の保釈を希望する余り、易々としてありもせんことを自白するという、自白というよりはむしろ虚僞の陳述でありますが、そういうことをする。そのために從來幾多の不祥事件が惹起されたのであります。然るに今回の法律案におきましてはかかる点を全然無視して、手続さえ備わつておれば不当なる勾留をしてもよいというふうに受取ることができるのであります。この正当な手続によらないで身体の自由を拘束されておるものというふうに規定するならば、それは例を挙げていえば、例えば令状がなくて拘禁せられた、或いは権限なき司法官の、或いは私人によつて作成せられた令状によつて拘禁せられた、或いは令状が法律要件を欠いておつた、こういう形式的な面のみが問題となると思うのであります。
然るにこれは細かな実例を挙げて御説明をするのでありますが、例えば最近の判例においては、憲法第三十八條に違反したる例でありますが、これは最高裁判所昭和二十二年令第九十号、強盗住居侵入被告事件でありますが、昭和二十二年二月二十九日に勾留を開始されて、二十二年七月三十一日まで、満五ヶ月間未決を続けられ、その間全然取調べはなかつた。ただ一回の公判も開廷せられなかつたのであります。而して五ヶ月後に開始せられた第一回の公判においては被告人は自白をした。それを証拠として取つたのであります。それについて最高裁判所の判決においては、かかるものは不当に長い勾留とはいうことができないという裁判官全員の一致したる見解であります。今ここでその外に幾多の例を挙げることはいささか適当でないと思うのでありますが、起訴せられて未決勾留半年以上に及び、未だに一回の公判も開かれないという実例は幾らでもあります。現に私の知つている限りでも十指に余るものがあります。かかる現象を一体司法委員各位は如何にお考えになるか。凡そ人身保護法というものはアンシアン・レヂームに対する不信の念に発したるものと考えることができる。そうするならば、そういう形式的な手続を潜つて、合法的なる手段により不当に人身を抑圧することを防ぐことが重要なる点である。こういうふうに考えることができるのであります。刑事訴訟法に関する應急措置法その他によりまして、すでに捜査官憲の勾留期間というものは一應限定をせられている。然るに起訴後の勾留につきましては、まだ何ら限定的なるものはない。從つて二ヶ月、一ヶ月々々々でどんどん更新さえすれば、半年、一年或いはそれ以上の未決勾留を続けることは易々たるものであります。かかる点に思いをいたしますと、この人身保護法第一條の「法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者」、この一句が如何に不当なる言語であり、又提案理由の「日本國憲法が保障する身体の自由を、不法に奪われた者」、この「不法に奪われた」という一句は現われている提案の根本思想がいけないかは十分にお分り願えると思うのであります。
以上の私の意見を参酌せられまして、適当に立案せられんことを心から希望する者であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/23
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024・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 次に三村泰敏君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/24
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025・三村泰敏
○公述人(三村泰敏君) 私は大阪府豐中市に住んでおります三村泰敏と申します一会社員でございます。念のために申上げて置きますが、私は労働組合にもその他の政治的な團体にも、経済的な團体にも何ら関係はしておらない。全く白紙の一個人であります。今回特に公述人といたしまして、この委員会の席上に出まして、各委員諸公に、自己の意見を述べるということを申し出たのは、実は一國民としまして、新憲法の規定に基く画期的な法律と云われるこの人身保護法が制定されるということについて重大な関心を持つております。そうしてよりよき、より完全な自由保障の法律ができるということを衷心から希望する自分の熱意の現われであります。
然るにこの憲法の定めた自由の保障を実現する手段たるこの人身保護法に対しまして、一般的な関心はどうでありましようか。誠に薄いのであります。これは國民の法律に対する熱意が乏しくて、相当な有識者でも無関心であるということに原因するのであります。これは識者におかれましては十分考えて貰わなければならない点じやないかと私は思うのであります。そうした身体の自由の保障ということは決して新憲法が初めてこれを認めたものではありません。旧憲法におきましてもこの点は明らかに認めておつたのでありますが、然るに過去においては幾多の人権蹂躙が半ば公然と行われたということは何を意味するのでありましようか。又刑事訴訟法その他の法律が声を大にして権利の保護とか、人権の尊重とかを唱えていたに拘わらず、事実は決してそうではなかつたということは一体原因は何であつたかということはよく考えなければならん問題じやないかと思うのであります。例えば刑事訴訟法では現行犯である場合を除きまして令状の執行によらない逮捕拘禁を許されていなかつたのでありますが、事実は任意出頭とか、或いは同行を求めるとか、行政執行法に基く保護檢束とか、警察犯処罰令による拘留とか、実際は殆んど令状等がなくして被疑者が拘禁されて不当にひどい非人道的な取扱いを受けた。國民は又これを当り前としておつたのであります。このことは國民の自由への関心が薄いことと、官権万能主義、封建主義の現われでありまして、現在の民主主義的な我が國においては決して許されない行爲だと私は思うのであります。自由に対する侵害に対しましては、或いは刑事上の訴追による制裁とか、或いは民事上の損害賠償請求の方法があるとかいうことが現に法律の上ではあるに拘わらず、殆んど行われていなかつた。官吏の不法行爲に対する民事上、刑事上の救済がどれだけ行われたかということを考えますれば明らかであります。幾ら金銭を以てしても侵された、身体の自由を奪われたということは償い得ないのであります。この法案がとにかく自由の拘束を速かに回復するというところに重要性があるのではないか。そう思います。憲法も施行されましてはや一年を迎えるのに、このような重要な法律がまだ制定されていないということは、國民の自由に対する関心の不十分な点もありましようが、一面政府或いは議会の怠慢ということをいわれても私は差支ないのじやないかと思うのであります。重要な法律であればある程、政府も議会もこれを愼重に檢討する。又現在の法律諸制度の改廃によりまして相当多忙であるという点は私も万々承知しておりますが、一日も早くこの憲法が自由を保障し、これを実現する画期的な救済方法であるところのこの人身保護法を一日も早く制定さして頂きたいのであります。
英國においてはすでにこの人身保護法は三百年前からも早く行われていたということを私は聞いておるのであります。我が國においては只今これが問題になつておるというようでありますが、早くこのような自由保障の人身保護法ができるということによつて文化國民の列に列するのであると私はそう考えます。人身保護法の趣旨には私は全く賛成であります。但しその細部の点に至つては、幾多研究する余地が存すると思いますが、時間の都合によりまして、二三の問題を取上げたいと思います。
先ず第一に人身保護法において最高裁判所の專属管轄にせよという意見があるようでありますが、これには私は絶対に反対であります。私の承知しております法案におきましては、最高裁判所又は高等裁判所又は地方裁判所となつていると思つております。その点においては私は賛成であります。何となれば日本にとにかく一つしかない最高裁判所で一体何人が效済されますか。実際に司法官憲により若しくは行政官憲により、國民の自由の侵害があつた場合に、一々東京へ持つて來て、而も弁護士に依頼してその救済を求めるということは、言うは易いのでありますが実際には絶対にできないのであります。私は法律の民衆化とか、大衆化という点を平生から強調しているものであります。從來の法律の規定におきましてはとにかく法律上は立派な制度であります。完備されております。然るに一般の民衆に殆んど縁遠い、活用されていない存在である法律が多々あるのであります。先程述べた官吏の人権蹂躙の場合、司法権行政権の権利侵害の場合でも、法律は刑事上の救済を求めるとか、民事上の損害賠償を求めることができるということは実際には行われていないのであります。それは相当な費用が掛かるし、又長時日を要するし、或いは法律の知識に暗いために弁護士を頼むということで相当な費用が掛かる。結局泣く子と兒童には勝てないという思想からしまして、結局泣寢入りになるのであります。この法案におきましては例えば申請人の代理人は弁護士でなければならないと規定してありますが、一体これは何でありましようか。弁護士に依頼して自由の拘束をとにかく解いて貰うということは、できる人はそれは非常に結構なことであります。併し一部の財力のある人、権力のある人が保護されまして、一般大衆が法律に暗い一國民が自由の侵害を受けるということが許されて果していいでありましようか。私は、法律の手続の問題とか或いは理論の問題とかいろいろあるにしても、とにかく法律というものは國民の大衆と共に生きなければならない。大衆に活用されない、國民に利用されない法律というものは死文であるという確信を平生抱いているものであります。過去におきまして司法官憲とか或いは行政官憲によりまして、幾多の國民の自由の侵害が公然と行われたに拘わらず、これが救済されなかつたということはその手続がむづかしい点にあるのであります。この法案は相当重要なものでありますから、弁護士を代理人にするという趣旨も結構であります。併し只今私が申述べたことをよく了解して頂きまして、この人身保護法の規定の趣旨とか、或いは人体の自由の侵害があつた場合にはどうしたらいいかというような手続とか理論とかいうものを、國民に普く普及徹底して頂くことを、政府も議会も又あらゆる言論機関がこれを行うように希望するものであります。
若干用語の問題になりますが、人身保護法は私は刑事法ではないと思います。然るに人身保護法の中には刑事訴訟法の用語がそのまま散見されるということは不適当でないかと思います。できるだけ刑事訴訟法と関係のない用語を使われるのが、この人身保護法の趣旨から言い適当なことではないのじやないか、そう思われます。
縷々と述べましたが、要は私の述べますところは、とにかく法律の大衆化、民衆化という点であります。終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/25
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026・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 公述人に対して御質疑の方はお申出を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/26
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027・星野芳樹
○星野芳樹君 最初に竹中さんにお伺しますが、竹中さんは軽犯罰法が労働組合の正当なる発達を阻害する虞れがあるという理由を以て、大多数の國民の利益を擁護する労働組合運動には適用しないという條項を入れられたいというように述べられましたが、この正当な発達をこれによつて阻害する虞れがあるのは労働運動のみならず、農民運動もありましようし、又その時々の特殊の情勢に対する大衆運動があると思うのであります。例えば現在の引揚運動、こういうようなものがあるのですが、單に労働組合運動のみのおつもりですか、その点を伺います。
それからもう一つ藤岡進さんに伺います。藤岡先生は御高見を述べられ、非常に独創的の御意見で面白かつたのですけれども、我々議員に当面迫まられておることは、この通過して來た法案を今日の情勢下において通すか通さないか、或いはどの程度修正するかという問題なのであります。その意味において御趣旨がちよつと判断に苦しむ点があつたのですが、一番初めには軽犯罪法には賛成するというようなことを言われたようですが、同時に軽い犯罪に対しては威嚇的ではいけないということを言われたように思います。そうしてこの法案の一條を見ますと、一、二の例を引きますと「公務員の制止をきかずに……」というように謳つておりまして相当の威嚇的のところがあるように思います。こういう点は結論は如何なるものであるか、簡單に伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/27
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028・藤岡進
○公述人(藤岡進君) 私は内容も全然知りませんし、意見を述べろと言われて出した私の考えというものが、取締の面についていわゆる民間人を今までは協力させたが、少しでもみずから取締の上においてやつたらどうだろう。取締面において民間人を起用したいという意見を開陳したつもりでした。ちよつと皆さんの聽かんとするところと外れたかも知れません。あなたの言われましたように私は内容を知りませんから、威嚇的なところが多々あるとおつしやいますが、それは私としては何とも言い兼ねます。あるとするならば、成るべく字句というものを考慮されて、とにかく余りにそうした氣持を相手に起させないように考慮願いたい、そう私は思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/28
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029・竹中春吉
○公述人(竹中春吉君) この席からお答えを申上げます。只今の御質問は、第一條の條文改正の点について触れられておるように私聞いたのですが、さようでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/29
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030・星野芳樹
○星野芳樹君 そうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/30
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031・竹中春吉
○公述人(竹中春吉君) 第一條の條文の訂正につきましては、現在のところではこれを拘留又は科料に処すると、こういう曖昧なことではなくして、もう少しこの刑罰に対しては一般民衆の輿論の決定によつてなさなければならんということを申上げたのでありまして、その輿論の決定を如何に取運ぶかという運用の面におきましては、例えば公安委員の構成を以てこれを決定するとか、或いは民主的に組織されたところのいわゆる決定機関が最も惡質と認めるような者については、拘留ではなくて、特に惡質な者については注意又は非常に軽微な科料というようなふうに訂正しては如何か、こういうような意見を述べたわけでございます。
それから最初の御質問の、内容の中にこれに対する反対のいろいろな事例を私は申上げたのでございますが、その場合に、特に九州地方においては労働團体からこの法案について強い要望が巷間に流布されておるわけであります。從いまして只今の御質問の中にありますように、農民運動とか、或いは引揚者の引揚促進の問題とかいうようなことについては、余り知識を持つておりません関係でございますので、私の申上げました要点は、こういう法案が施行された場合においては、この法案を労働運動、大衆運動に適用しないというように要望する要点は、労働法の第一條にどうも矛盾があるように感ずるわけでございます。でございますから、そんなことのないように、労働運動についてはこの軽犯罪法は特に適用しないように要望いたしたわけでございます。そういうように私申上げておると記憶しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/31
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032・小川友三
○小川友三君 土橋さんに伺いますが、本案に対して全面的に反対されておりますが、これは警察官が正当にこの法律を理解しないで濫用する危險が多いのと、又これを惡用して不当な彈圧を加える点が多いというような考えがおありでございましようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/32
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033・土橋一吉
○公述人(土橋一吉君) 只今の御質問でありますが、先ず刑罰規定というものは、社会の安寧秩序を阻害するというような立場において規定されておるのであります。ところが、最近の基本的な考え方から見るならば、主に経済問題を中心として社会の一切の機構の運用が行われておるのであります。從つて只今のようなこういう逼迫した、特に経済的にも、思想的にも、更に政治的にも、現在日本が非常な変動期にあるのであります。そういう中において、本來ならば刑法という規定があるのでありまして、この刑法の規定で十分であつて、かような社会の規範に濃度を附けるというようなことについては、むしろ犯罪をより構成するという立場であります。でありますから、基本的に社会秩序を紊す範疇というものが、刑法の範疇とこの軽犯罪法の範疇というものがない、こういうように私は考えておるのであります。從つて基本的にはこういう規定を設けることが自身が、官憲なり或いは現在の支配階級の諸君がこれを利用する、過去において利用しておりましたが、今日において、より特にあらゆる面から……私が申上げるまでもなく、外國資本が入つて來るのであります。從いましてこれが日本の法律において保護されるというような場合においても、常にその外國資本を日本の法律で保護して上げるのでありますが、そのために政局なり或いは財界というものが労働者に対する低賃金を強要しましたり、或いは過重労働を強要しましたり、かような面が明らかに考えられるのであります。從つて我が國の、特に日本民族の將來の発展を考える場合には、こういうような法律が作られて來るというこは、先程風早さんがおつしやつたように、極めて私は不当であると思います。從つてこういう法律は先ず作るべきではないということを考えて、若しかようなものについて疑義があるならば、それは一般の社会秩序という面において批判或いは反対され、或いは排斥せられて十分効果があるのであります。こういうものを作ることによつて、決して社会は明朗にならない、こう思うのであります。從つて特にこの刑罰の内容の拘留、科料というようなものについても非常に疑いがあるのであります。
更に根本的なことを申上げるならば、この法律は從來のいわゆる刑法自身の観念からいうならば、犯意あり、行爲あり、結果ありという場合において刑法は罰しておるのであります。この行爲の中には、必ずしもいわゆる刑法に掲げられておりますような犯意、罪を犯す意思というようなものが果して嚴格にあるというならば、これは刑法の問題であります。極めて不十分であるが、現在の明治四十一年にできた刑法の問題として取扱うべきであります。若し犯意というようなものについて考慮しないというならば、これは問題ではない。犯意を認めないような行爲は、少くとも世界の法律の原則から見ますならば、罰することができません。從つて過失あるもの以外には罰することがない。そういう法律の基本的な考えからいうても、軽犯罪法というものは作るべきではないという立場でございます。
只今もいろいろお話を聞きますれば、衆議院はすでに通過して、参議院において只今公廳会を開いており、我我の精神を酌み取つて頂いて、この法案についても労働運動なり農民組合運動なり、更に民主的な大衆運動にはこの問題をどう制限しようかというような御意見もあるように聞いておりますが、でき得るならばこれは採上げないで、院議として否決をして頂きたいと思います。若し万止むを得ずして各委員の方々のお考え、或いはこの法案に対する熱意等によりまして、さつき申上げましたように、労働組合運動、農民組合運動、更に民主的な諸運動に対しましてはこれを適用しないというような第一原則を掲げて頂きまして、次には日本の憲法の第十一條が規定しておりまする國民の基本的な人権は阻害しないというような内容を盛つて頂きたい。これは或る程度は皆さんの御決定される関係もあるじやないかと思いますが、私個人といたしましては、かような法案はむしろ現在の警察官吏、或いは檢事諸君、裁判官の諸君を殖やし、同時に豚箱なり或いは刑務所を殖やすというだけで、犯罪を作り上げるだけで、実際に効果が現われないということを申上げたいと思うのであります。御質問にお答えしたかどうか分りませんが、さように私、考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/33
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034・來馬琢道
○來馬琢道君 岡田さんなりそれから風早さんなりの御意見でしたが、労働運動に対しては大層この法案が惡いように、惡用せられることに対して心配しておられるようでありますが、我々一般市民、國民といたしましては、このくらいなことでは、只今御意見にあつたように、刑法にまで訴えてする程の事件ではないけれども、随分迷惑を被つておることが相当にある。過日共産党の人が本会議において、警察官の立小便は生理上の止むを得ないものであるから、これを認容する云々と言つて、労働運動に対して警察官が取締をすることはいかんという意味で軽犯罪法に対して演説をされたが、國務大臣に対する質疑のときにそれを言われたから、私は議席におりましてどうしてもいかん。警察官が立小便をするということを國会議員が本会議の議場で以て認容するというようなことを発言するというようなことはどうしてもいかんと飽くまで私は反対いたしました。遂にその共産党の人は私に向つて立小便はいかんですと、こう取消して次の論旨に移つたのであります。私は今東京市民として燒け爛れたこの東京市に住んでおる市民の一人として國民の一人としてここに書いてありますような、幾らも書いてありますところの事例が毎日私共の身辺に迫つて來るので、本当に苦しむことが多い。立小便のごときでも、只今進駐軍の人も立小便したということを言われましたが、それは誠に珍しいものを御覚になつたので、私は相当市中を歩きいておりますけれども、進駐軍の人々が立小便をしておりますのは滅多にいないと、先だつて中から我々の知合いと話をしておるくらいで、彼らは進駐軍として相当に秩序を重んじておることを我々はむしろ敬服しておる。日本人の立小便に至りましては、戰後東京都民といたしまして本当に情ないくらいに目撃するのであります。何か人が立つておるのを見ると立小便しておるのであります。この辺のことは都会に住んだ人でないと分らないのでありますかどうか分りませんが、私はそれを刑法に訴えてどうするということはできないことだと思います。つまり日本國民が反省しなければならないことをこの軽犯罪法によつて規定して置く方がいいだろうと思つておる。私共は労働運動に対して云云という考えを今ここで述べる必要はありませんが、このくらいな軽微なことを刑法によつて云々せよという御意見と、それから我々が現在小さな平穩なる一都民としての生活における圧迫を感じておりますこととを、官憲の圧迫でなしに第三國人だか何だか知りませんけれども、多数の人々に我々は嚇かされて、電車の中で煙草を喫む。それが如何にも民主主義であるといつたようなことを言つてみたり、酒を飲んで電車に乘つて我々に暴言を吐いて、或いは婦女子に暴言を吐いて、それを以て國民の権利が伸長したというように考えておる者に対しましては、涙を以て私共毎日見ておる。そういう状況に接しております我々にとりましては、只今の御意見のように労働運動に対する圧迫がこわいから、これを撤回しろ、否決しろという御要求がありますことは、司法委員としては誠に判断に苦しむところであります。その点について我々の蒙を啓かれることを。
もう少し只今の反対論者に向つて尋ねて見たい。若し労働運動に適用せんという條文を入れることによつて、これが救われるということになりますならば、これも又考えなければならんと思いますが、但し政治上の必要によつてこれを認容するといつたようなことまで議論をされては困ると思います。我々は相当苦しいことがあつても必ず便所に行つて用便を足すということにしなければならないと思つておるのであります。その点の國民の心掛けを道義的に解釈するという考えはどうでしようか。伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/34
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035・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 便宜上土橋さんにお答えを願いますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/35
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036・土橋一吉
○公述人(土橋一吉君) 只今の御意見は全く御尤もであります。私もさような点については同感であります。併しながらこういう点だけを一つ御了解願いたいと思います。日本の民主主義革命が、どういう段階において、誰が今推進しておるかということをお尋ねになるならば、私は現在最も勇敢に戰つておるのは、労働組合なり或いは農民組合なり、その他の民主的な團体であろうと思うのであります。勿論院内においても皆さんの非常な御努力によつて日本の政治なり財政なりが極めて民主的に運営をされておるという点は、我々敬服いたしております。併しながら野にありまして実際にやつておるのは、先程どなたかお話がありましたように、権力に日本人は脆いのであります、從つて警察権力なり、司法権力なりというものに対しては、極めて日本人は脆いのであります。それは長い封建制によりまして日本人の心理状態というものが、権力というものの前には何となしに服從しておるという関係であります。そういうことを利用して、そういう立場において自分の地位なり、或いは自分の財力なり、自分の企業というものが、自分自身のためにのみ温存され、それが自分の権利伸長のために運行されておつたのが從來の日本の政治であります。從いまして、私たちは、少くとも日本においては働く人が断然多いと思うのであります。そういう働く人たちは労働組合を作るなり、或いはあらゆる組合運動を通じまして、そうして日本の正しい、働く者が馬鹿を見ない社会を作つて行つておるという段階であります。その前衞になり尖端に立つておるのが労働組合運動であることを私は確信しておるのであります。例えば関係方面に参りましても、日本の政府の諸君は、関係方面の御意向には殆んど逆つておりません。我々は正しいと考えた場合には、関係方面でどういうことを言われましても、所信を曲げることができない程主張する場合があるのであります。こういう点を考えて見まして、私は只今のような御意見は御尤もでありますが、どうか労働組合運動が、如何に今日新憲法の内容に即應するような、而も日本の生産復興なり産業復興なり経済復興の推進力であるかということを御了解願いまして、そういう大切な日本の百年の計の基礎をなすところの、只今の民主的な諸運動、こういうものの行手を阻むものが少くとも軽犯罪法の内容に載つておるのであります。むしろさように申上げるならば、あなたとしてはいろいろ御意見があると思いますが、これを運行する現在の警察官の方なり、或いは檢察当局の方が、極めて從來の封建的な権力行使というような観念でおやりになる場合が多いのであります。特に只今の政府においても、過去の政府においても同樣でありますが、本当に働く者が住みいい社会を作るというような信念で担当しておられる方は少いのであります。先程どなたか申されましたが、資本家の利益も守らなければならんという御意見御尤もでありますが、國の政治の中心は、やはり大衆が中心でありまして、少数の方の利益よりは大衆自身の生活を樂にするということが私は基本であろうと思います。從つてそれならば勤労大衆自身が日本には多いのでありますから、外國のことは知りませんが、日本においては少くとも働いて食うという人が多いと思います。從つてそういう諸君の尖端に立つて行くものは、労働組合なり農民組合なり、その他の民主的團体であると確信しております。そういう團体運動が正常に発展をしないような組織なり、或いは運行に対しましては、飽くまでも私たちは皆さんにお願するのは、そういう法律なり、そういうものが通らないようにお願いしたい、こういうのでありますので、立小便の例は、私の申上げた例はまずいのでありますが、労働組合運動は立小便を禁止する、止めて貰いたいといつておるのではないのでありまして、ここに書いてある條文を御覽になると分りますが、過去においても相当そういうことを行なつて來ておつたのであります。現在でも行われております。從つてこういうことをやることは、この法案を作成して國会に上程せんとすることは、労働組合の正当なる罷業権を妨げるものであり、労働組合の正当なる團結権を阻害せんとする分裂主義的な結果を招來するのであります。又労働組合が基本的に持つております團体交渉権を否認するような方向にこの法律が運用されるのであります。
その人は現在の政権なり或いは運行する人及びその背後におる人というものが、すでに現在の労働階級には好しくない人たちであると思うのであります。特に日本の現下の敗戰の現状を考えて見るならば、先程若干触れたのでありますが、とにかく日本の労働條件というものは極めて低劣に置かれようとしております。ところが他の方面の生活の諸條件、例えば日常品の購入にいたしましても、住宅にいたしましても、被服にいたしましても、或いは現在の企業整備なり行政整理が断行されるならば、この人たちは何処へ持つて行つて誰が救済するのでありましよう。お前は貧乏人であることは勝手だということには参りますまい。やはり國家が失業救済なり、その他の職を與えるような方向に全力を挙げるでありましよう。挙げましても救われないのは誰の責任でありましよう。やはり國の政策の貧困だと思います。そういうような人たちは、例えば居住人のない所、或いは看守も立つてない所の住宅に入つておつたというだけで、二ヶ月も三ヶ月も拘留せられるというような結果を招來するならば由々しき結果であると思うのであります。從つてこういうような軽犯罪は、常に過去においてもそうでありますが、將來においても、私今申上げたような、現在の政権の担当者、これを運行するところの諸君が、眞に大衆的でない限りは、常にそういう方向にこれを利用されて過去に來ておりますが、將來も歴史が示す通り必ず全勤労大衆の眞面目にやつて行こうという諸君が、これによつて制約を受けるであろうということを申上げておるのであります。
全勤労大衆を苦しめるようなところの法律、或いはこれを運行される者については、賢明なる参議院諸君の良心に愬えまして、これを取上げて下さらないことをお願い申上げるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/36
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037・來馬琢道
○來馬琢道君 ちよつと簡單に申上げます。先程の公述の中にも大分詭弁がありましたね。例えば第一條の二十二に対してこじきをし、又は「こじきをさせた者」という、これは勿論旧の警察犯処罰令の第二條第二号にあるものであります。大分むずかしい字が使つてあります。乞丐という字が使つてありますが、このこじきをしたという方は分つておるが、こじきをさせたのは政府がこじきをしなければならないようなことにしたのだから、政府が責任を取るのだ、というで第二十二号の「こじきをさせた者」は政府であるというようなことを言われた方がありましたが、そういう解釈の仕方では、我々司法委員は誠に困るのであります。そういう言葉まで用いられて、こんなものはいけないというような御非難では、私共は誠に詭弁を以て我々を脅す……といつては済まないけれども、我々に迫つて來るものがありますので、これは私共冷靜に審議する者に対しまして、甚だ苦痛を感ぜしめるものであります。だから労働運動云々ということも考えますけれども、警察官も我々はこれから改良して行こうとしておる際に、こういうものは絶対にいけないという御議論は、私共は直ちに受入れることができないのであります。惡い警察官がまだなかなか直らないからという杞憂の下に、只今の反対論をさせるということは、我々眞面目に考えておる者には、只今申したように東京都民といたしましてのみでも、相当この軽犯罪法案にあるようなことをされて困つておる我々にとりましては、もう少し考えねばならんところだと思うのです。この点、勿論御答弁を要しませんが、そういう希望を持つて、無理にこの軽犯罪法案に対して反対するような態度は、私共甚だ受取りにくいものだということを申上げて置きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/37
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038・小川友三
○小川友三君 今井嘉助さんおりますね。先刻本法案を法律化する場合、生産復興を阻害するということも申されましたが、それをどういう場面において阻害するかという点を、具体的に話して貰いたいのです。それからこの人民鬪爭は非常に幅廣く行くからということが、あなたのお言葉の中にもありましたが、その幅はどういう角度で行きますかということを、その運用面において同じ勤労大衆の警察官であるが、それでも運用が惡い場合に非常に困るからという引例をされましたのですが、その点をちよつと最も短い範囲で具体的にぱつと分るように御答弁願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/38
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039・今井嘉助
○公述人(今井嘉助君) 軽犯罪法を実施すれば、生産活動を幾らか阻害すると、その論拠といたしまして、今朝ほど私電車に乘つて來ました、そのときに非常に満員であつた。これははつきり軽犯罪法の、汽車、電車に乘る場合に行列を乱すというこれに該当するわけです。法が制定されれば、これは遵法さすべきだ、片手落に、一方においては取締り、或る時には取締らない、これでは法の権威がなくなる。だからできた法は完全にこれは実行させる建前から行けば、そういう場合には全部檢挙して、やはり何とか処分しなくちやいけない。そういう意味合から申しますれば、朝生産活動にでもいそしむ人達を、君は軽犯罪法に引掛かつておると、それが一人や二人でなくて、相当の方々、これは先程詭弁だというお話がありましたが、これは一つの例なんですが、これは檢挙する警官も相当なければならん。交通も整理しなければならん。こういう関係の意味におきましても、生産復興を阻害するんじやないか。
次に人民鬪爭について、これは私達が本日この公聽会に参りまして、切実に我々の立場を訴える、こういう姿が、もうすでに現在の日本の経済情務その他の階級々々の関係から行きましても、單に会社の中で資本実と團体交渉する域を越えて、直にあなた達に交渉しなければいけないくらいまでに、我我の問題は切実に進展している。それからあらゆる問題が、我々労働階級だけでない、全國民大衆が協同して、やはりそれぞれの権力に向いまして、お願いしなくちやいけない、訴えなくちやいけないという段階にある。権利の本質が本当に民主主義の形で——民主化されて、人民の全生活が安定できる形になるということであればいいんですけれども、今の場合は我々は首肯できない。これはお存じだろうと思います。而も過去の封建性を多分に残しておる権力は、まだまだ紊れておる、墮落しておる、最も根本的ないろいろな角度からやらなくちやいけない、過渡的な今の段階においてこれが実施されれば、そういう実害が非常に起きる場合がある。だからむしろ政治家としては、根本的に、拔本塞源的に対策を立てて、そうして文化國家の体面上、日本の現在のこの瞬間において、かような小さな日常の道徳律に関するようなことを、その当時の選良が通過させたということは、歴史に汚点を下すものだという見解から、我々文化國民は、文化國家の一員としてでも、こういうように日本の文化性が低かつたかという印象を將來において取られたくないという高い感覺からいつても、私は反対するのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/39
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040・伊藤修
○委員長(伊藤修君) それじやどうも公述人の方々におきましては、全國からお集り願いまして、又各界を代表せられ、或いは職場を代表せられ、地域を代表せられ、年齢を代表せられまして、ここにお集まり願いまして、貴重なる御意見を拜聽いたし、法案審議の上に資するところ大いなるものがあると堅く信ずる次第であります。皆樣の御意見が、この法案審議の結果に相当影響あることと信ずる次第でありますが、この点に対しましては、尚委員会において愼重審議の上、これが取扱いを決定いたす次第であります。
本日はお忙しいところをお集まり願いまして、長時間法案審議に寄與して頂いたことに対して篤く御礼申上げます。
それから只今來馬委員から、「我々は」と、こういう複数の言葉を用いられました。決して複数ではない。來馬委員の御意見であることを改めて御注意申上げて置きます。
それから先程緒方さんでありましたか、人身保護法案の第一條につきまして、御指摘のような事例の場合におきまして、この法案が救済の用をなさないというお立場でお話がありましたが、この法案の第一條の「法律上正当な手続によらないで、」という場合は、形式的に整つておりましても、いわゆる正当な法律上の手続によらない、「正当な法律上」、ここに意味があるのであります。これは関係方面との関係上具体的にはつきりこれを表現できなかつたのでありますけれども、この持つところの意義は、その点において救済せられることになるように私は信じておるのであります。長期に亘つて勾留され、そうして裁判を受けることを得ないということは、憲法上それは禁止せられておることでありまして、正にその場合に人身保護法によつて救済せられるものであると、こう考えておる次第でありまして、この法案はさような場合においても運用せられることを一言申上げて置く次第であります。
本日はいろいろと有難うございました。これを以て散会いたします。
午後四時二分散会
出席者は左の通り。
委員長 伊藤 修君
理事
鈴木 安孝君
岡部 常君
委員
中村 正雄君
奧 主一郎君
來馬 琢道君
松井 道夫君
松村眞一郎君
星野 芳樹君
小川 友三君
公述人
読賣新聞記者 井伊 義勇君
会 社 員 今井 嘉助君
逓信事務官 竹中 春吉君
会 社 員 岡田 榮君
藤岡 進君
学 生 今井 陽一君
会 社 員 橋本 繁夫君
著 述 業 風早八十二君
全逓職組執行委
員長 土橋 一吉君
弁 護 士 緒方英三郎君
会 社 員 三村 泰敏君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X01719480427/40
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